もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 後編 (618)

このスレは『真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」(真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420381422/))』及び、
その関連スレで他のSSと同時進行で書いていたSS、『もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~』を色々修正してまとめて貼り付けていこうという目的のスレです。

前スレ『もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 前編(もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 前編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464010883/))』があるのでそちらから先に読んでください。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1465307848

今日は7話からになります 前がアレだったのであらすじすら超長い

前回のもしライブ!(声:矢澤にこ)デン


ハロウィンライブ当日、アイドル応援部のみんなでA-RISEのライブを見に行くことに。

沸き立つ会場の中、あることに気づいた真姫ちゃんは、次の日の夜に私のもとへ訪ねてきて…。



真姫「A-RISEのバックダンサーのはずのあなたが、どうして」

真姫「昨日のハロウィンライブに、いなかったの?」



体力不足が原因でバックダンサーを下ろされた私を助けようとアイドル応援部に頼み込む真姫ちゃん。

アイドル応援部のみんなも快く了承してくれたけど、私を助ける方法というのが…。



真姫「…パジャマパーティ、するんですって」

にこ「…え」

にこ「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?!」



私の不調の原因が孤独によるストレスと見抜いていた希さんによって、私のストレスは払拭されて。

念願のバックダンサーにも復帰!これで夢のA-RISEにも再度腕が届いた!

と、思っていたけど、でも現実はそう甘くなくて…。



『小さいものは、踏まれて潰されてぺしゃんこにされて』

『それで、死ぬの』



突如として謎の幻覚と幻聴に襲われ、バックダンサーとしての練習を断念せざるを得なくなる私。

原因を突き止めに希さんの家にもう一度来訪し、得られた答え。それは、私の心が折れてしまったということだった。

孤独のストレスは更なるストレスからの防護策だったと判明して、苦悩する私と、そして真姫ちゃん。

半狂乱になりながらも助けを求める私を見て、真姫ちゃんはついにアイドル活動を犠牲にしてでも私を助けようと決意する。

一度は反対されるも覚悟を認められアイドル応援部みんなで私を救おうとし、そして、ついに私を苦しめていたものが判明する。



真姫「…おそらくだけど、にこちゃん、あなたは…」

真姫「身長に、コンプレックスを抱えているのね」



幼い頃からの悩みが積もり積もってにこの心を蝕んでいたことがわかった。

だけどそれを打開する答えを持っていないと一度は諦めかけた真姫ちゃん。しかし、考えた末にたどり着いた一つの切り札があった!



ツバサ「こんにちは、矢澤にこさん」



トップレベルのダンサーでありつつもダンスが苦手だと明かした綺羅ツバサ。

嫌いな自分を嫌いなまま、強さとして見せつけていくという考えを教わり、私はそれに救われた。

アイドル応援部のみんなにも手をかけさせちゃって、感謝をしてもしきれないけど…。

でも、夢のトップアイドル、A-RISEに向けて、にこはこれからも全力で駆け抜けるの!



希の家


真姫(もう11月も半ば。にこちゃん復帰のために時間を要したとはいえ…)

真姫(私たちの活動を疎かにするわけにもいかない。今月も変わらず新曲を発表しないと)

真姫(部費も入って、今回の曲こそが全力のC☆cuteの曲となる)

真姫(衣装やダンスの打ち合わせもいつもより入念になるというわけね)


真姫「…そうね、その部分はもう少し派手に動いたほうがいいと思うわ」

海未『わかりました。ではそのように…ふわぁぁぁ…』

ことり『あれ、海未ちゃん…今のあくび?』

花陽『珍しいです…!』

海未『す、すみません…。そろそろ眠気が…』

真姫「でも最近は夜中の打ち合わせも連続しているし、みんなの疲労も溜まっているのは確かでしょうね」

真姫「眠たくて授業が疎かになるのも避けたいし、今日はこのくらいにしておきましょうか」

海未『了解です…。では、私はこれで…』

真姫「あ!でもまだ話したいこともあるし、明日の朝部室に…」

ことり『あれ?明日部室って…』

花陽『あ、そっか…。部屋、変わるんだったっけ』

真姫「あ…」


真姫(私たちの活動が認可され、部費も入ってきた結果)

真姫(今の小さい部室は改善され、多少大きめの部室が用意されることになった)

真姫(でもそのために明日の朝から業者の方がお引越しのために出入りしてて…)

真姫(両部室とも使えない状態なんだったわ)


真姫「…じゃあ仕方ないわね。明日は私の教室…E組に集合ってことで」

海未『わかりました。真姫の教室ですか…。ふふ、クラスメイトにどんな扱いを受けているのか、少し興味がありますね』

真姫「な、なによそれ…」

ことり『真姫ちゃんクラスじゃ浮いてたり~?』

花陽『そ、そんなことないですよ!意外とクラスではみんなの人気者で…』

真姫「意外ってどういうこと?…もう、早く寝る!じゃあね!」

花陽『あ、バイバイ!また明日!』

ことり『バイちゃ~』

海未『おやすみな…ふわわぁぁぁぁ~…』

真姫「さて…私も寝ないとね…」



リビング


希「お、真姫ちゃん。お話終わった?」

真姫「えぇ。終わったというより中断。続きは明日の朝ね」

希「毎日毎日大変やねー…。全部自分たちでやるっていうのは」

真姫「A-RISEには衣装や曲を作ってくれる人がいるものね」

希「スクールアイドル多しといえども曲から衣装から振り付けからステージまでぜーんぶ自分たちで作ってるグループもそうそういないんと違う?」

真姫「そうなの?」

希「うん。普通は曲やダンスを提供してくれるサポートがいるもんやけどね」

希「もちろんそれも全部学生が行うのが普通なんやけど」

真姫「サポートね…。でも作詞作曲衣装ができる子がアイドルならそれはそれで問題ないし」

真姫「振り付けも考えながら練習したほうが理解も早いし、ステージは私たちだけじゃなく手伝ってくれる人もいるし…」

真姫「それにサポートなら希、あなたがいるじゃない。私たちの体調管理もしてくれて」

希「ん?んー…、まぁ、うちにできることなんてみんなに比べれば安いものだけどね」

真姫「そう?…だったら、希もアイドル、やってみたらいいのに」

希「え、うちが?」

真姫「うん。今からでも大歓迎よ。むしろやりなさい!」

希「うちか…。うちが、アイドルね…」

希「んー…、ちょっと気になるところもある」

真姫「おっ」

希「でもナシっ!」

真姫「え!なんでよ…」

希「うちみたいなインドア派がアイドルなんて似合わへんよ~」

真姫「室内弓道場で部活をしている海未も含めてC☆cuteはみんなインドア派だと思うけど…」

希「そういえばそうかも。あ、でもでも!」

希「カードもうちに語りかけてるんよ。このグループには後ろで見守ってくれる人が必要や、って」

希「いわば縁の下の力持ち?それがないとC☆cuteはダメになってしまう言うてるし~」

希「だからうちはみんなを見守るオカン的ポジションがいいな~、なんて言ってみたり」

真姫「結局動きたくないだけでしょ。…はぁ」


真姫(本音を言えば無理やりにでも希をアイドルにしたいところだけど)

真姫(彼女にはまだ、本気でアイドルをやろうという心構えがない)

真姫(これまでの高校生活で、誰かを支えるだけだった希が、自分から動こうとするきっかけ…)

真姫(それがない限り、希をアイドルにするのは難しいのかも)


真姫「…いつかは来てくれると思うんだけどね」

希「ん?何か言った?」

真姫「なんでも。…もう寝るわ。歯磨いたらね」

希「はいは~い。真姫ちゃん疲れてるみたいやし、よーくおやすみね」

いよいよ、この日が来てしまった。


何日ぶりだろうか。


こんなにきっちりとした身なりになるのは。


新品の服に身を包み、髪も整えて。


外見の清潔な格好とは裏腹に、私の心はとても億劫だった。


できればこのまま二度と、外に出たくなかったけど。


だけど、せめて高校は卒業しろって両親がうるさいから。



「…はぁ」



重いため息が宙に舞う。


少し早いけど、そろそろ行こうかな。


いつまでも家にいるほうが、かえって憂鬱な気分になりそう。


一度行ってしまえば、きっと拍子抜けするほどなんてことないはず。


自分の部屋の扉を開けて、足早に階段を駆け下りて。


両親には顔も見せず、朝食も食べずに革靴に履き替える。


二人が嫌いなわけじゃないけど、もう気まずくてまともに会話もできない。


学校に言っても、誰かと話をするなんて出来やしない。


…いいんだ。私にとって、学校なんてもう…。


ドアノブに手をかけ、もう一度ため息。…もとい、深呼吸。


心の中で唱える。せーのっ…。


ガチャッ、という音を立ててドアが開き、外へと出る。


久しぶりに、外で青空を見たような気がする。


後ろでドアの閉まる音が聞こえる。


両親には、何も言えなかったけど、せめて。


私をずっと匿ってくれた、この家にだけでも出発の挨拶を。



「いってきます」

ジリリリリリ…



真姫「凛!急患よ!」

凛「え!?一体なにがあったの!?」

真姫「穂乃果が暴行にあって大怪我なの!」

凛「ぼ、暴行!?それはマジで大事だよ!病院に連れてったほうがいいって!」

真姫「ダメよ!こういう時でないと外科の真似事なんてできないわ!」

凛「なんて血も涙もないこと言うんだ!!凛もやる!」

真姫「えぇ、それでこそ我が右腕ナース凛ね!」

凛「それで、穂乃果ちゃんはどこ?」

真姫「えぇそこに…」



穂乃果「ぎゃああああ痛いよぉぉぉぉぉお!!やめてええええええ」

絵里「おーっほっほほ!あぁ、穂乃果を殴るのってなんて楽しいのかしら!もうやめられないとまらなぁい!」バッキバッキ



凛「うわぁぁぁぁ!!犯人までついてきた!!」

真姫「絵里!あなたが穂乃果をボッコボコにした犯人だったのね!酷い!」

絵里「なによ!文句言うならあなたもボッコボコにするわよ!」

真姫「ふん!やれるものならやってみるがいいわ!」

絵里「じゃあお言葉に甘えて。くらえ大型スレッジハンマー!」ブオンッ

真姫「ならばこちらは!スタースカイシールド!」ササッ

凛「え、凛の身体を掴んで何を」


ズゴォォッ!!


凛「ぐぎゃあああああ!!頭蓋骨が陥没した!?これは死んだわ」バタリッ

真姫「りいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃんん!!よ、よくも凛を…!」

絵里「やべぇやっちまったわ…。殺すつもりはなかったのに」

真姫「あんなゴリラも殺せそうなハンマー持ち出してよく言えたわね!もう許せない!」

真姫「あなたはこのスタースカイソードでズッコンバッコンに退治してやるわ!」

凛「それ凛の体なんですけどー」

絵里「そ、それは伝説の剣!スタースカイソード!そんなん持ち出されたらもう勝ち目はないチカ…」

絵里「でも女には負けると分かっていてもやらねばならぬ時がある!うおおぉぉぉぉ!!穂乃果のアキレス剣!」

穂乃果「あ、足がぁぁぁぁぁぁ!!」

真姫「負けるかああああああああああああ!!!」




ジリリリリリリ…

早朝 UTX学院 1階

正門改札前



穂乃果「…」

穂乃果「…眠い」


穂乃果(生徒会長としての仕事に、朝の挨拶がある)

穂乃果(こうして毎日毎日、正門改札前で登校してくる生徒に対して挨拶をしなければならない)

穂乃果(中には軟弱な精神の、挨拶も返さない弱い心の人間もいるけど…仕事だし仕方ない)

穂乃果(けれど、連日のハードな練習のせいで最近少し日々の生活バランスが崩れかけているかもしれない)

穂乃果(今日は珍しく瞼が重くて…)


「…会長?」


穂乃果「…え」

生徒会役員A「会長…、寝てました?」

穂乃果「…寝てない」

生徒会役員B「ホントですかー?目、瞑ってましたけど」

穂乃果「寝てないから。無駄口挟まない」


穂乃果(…横でヒソヒソと、「顔赤くなってる」「意外と可愛いところあるんだ」なんて声が聞こえる)

穂乃果(ちょっと殴りたくなったけど、正直意識飛んでたところもあったし…私に過失がある。反省しよう)


穂乃果「おはようございます!」

女生徒「おはようございまーす」


穂乃果(眠気を払いのけるように大きな声で挨拶をする。すると…)


ビーッ!!

「えっ…、あれ…。うそ…」


穂乃果(けたたましい…ってほどじゃない警告音が正門に鳴り響く)

穂乃果(まさか不審者?と思いそちらを見ると、そうではなく、生徒が一人改札を通れないでいた)

穂乃果(時折電子生徒手帳のエラーや機器の不調などで改札を通れなくなる生徒がいるので、こういう時のためにも私たちはいる)

穂乃果(常に予備の外部者用の電子生徒手帳を携帯しているのだ)

穂乃果(すぐさま回り込んで外から声を掛けよう。もしこれが生徒の皮を被った不審者なら即刻退場願わなければいけない)


穂乃果「…どうしたの?」


穂乃果(何度も改札に生徒手帳をかざし、その度警告音を鳴らしあたふたする彼女の後ろから声をかける)

穂乃果(うつむきがちにこちらを振り向いた彼女の顔を見て私は…)



穂乃果「…ふぇ?」


穂乃果(長らく出していなかった、とても間抜けな声を出してしまった)

一年E組


花陽「むふふふふ…真姫ちゃんの椅子…真姫ちゃんの机~…」

花陽「すりすり、すりすり…」


ガチャッ

ことり「おはよー」


花陽「ふわぁぁあっ!!」

ことり「…あれ、花陽ちゃんだけ?」

花陽「う、うん…!まだ真姫ちゃん来てないみたい…!」

ことり「…今なんかしてなかった?」

花陽「何もしてないよ!?べべべ、別に真姫ちゃんの机や椅子に頬ずりなんて…」

ことり「…」


海未「おはようございます。…おや、花陽とことりだけですか?」


ことり「うん。まだ真姫ちゃん来てないみたーい」

花陽「な、なにしてるのかなぁ…」

ことり「私としては花陽ちゃんが何してたのかななんだけど」

海未「なにかしてたんですか?」

花陽「何もしてないしっ!」

海未「…必死感がひしひしと伝わってきますね」

ことり「えっ…!海未ちゃん今のダジャレ…!?」

海未「は?」

ことり「ひっし感が、ひしひし…ぷぷっ…!85点…!」

海未「…ことりのハードルは低いのですね」

花陽「こんな実りのない会話するより、早く昨日の続きがしたいなぁ」

ことり「は、花陽ちゃん結構辛辣…!」

海未「まぁ、私も同意見ですが…いつもは一番乗りしていてもおかしくないのですが…遅いですね、真姫」

花陽「何か厄介事に巻き込まれて、とかじゃなければいいけど…」

なんということだ。


まさか、こんなことになるなんて。


長らく使っていなかったせいで、壊れていたのだろうか。


生徒手帳が反応せず、立ちぼうけになってしまうなんて予想していなかった。


おかげで周囲の視線が痛い。痛すぎる。


初日から、こんな目に逢う、なんて…。



「どうしたの?」



急に背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がる。


喉が狭まって、全身の筋肉がこわばる。


こんな大勢が見ている前で、誰かに話しかけられるなんて体験は。


もう何年もご無沙汰だと思う。


自分の鼓動が耳に痛い。誰かに脳天をライフルで狙われているかのような緊張ぶり。


ともかく、ずっとこうして固まってはいられない。何を言うかも決まらず、後ろを振り返る。


何を言われるのか、どう言い訳すればいいのか、脳内を様々なことがよぎる中。


向き合った相手が発した言葉が…



「…ふぇ?」



そんな素っ頓狂な声だったのだから、私も拍子抜けだった。


かと言って緊張が休まることはないけど。



「…あなた」



すぐに二の句が継げられる。何を言われるのか、不安でしょうがなかった。


たぶん何を言われても、まともに返せる気がしな…



「…何なの、そのメガネ」



べっ…!

「別に誰がメガネかけてようが勝手でしょ!?」



…反射的に、声が出てしまった。

絵里「ぐわあああああああああ!!!」

真姫「やったわ!暴行犯絵里を死闘の末やっつけた!」

絵里「ぐ、ぐぅぅうぅ…!けれど私を倒したとしてもすぐに第二第三の私がお前を倒す…!」

真姫「え、絵里ってばそんな魔王みたいに分裂する仕様だったの…?!」

絵里「ゴメン嘘付いた。後継者なんていないわ!いつでもぼっちよ!」

真姫「絵里…」

絵里「今回のこれだってあまりに寂しすぎてついつい手が出ちゃった系アイドルなの」

絵里「孤独が私を変えてしまったのよ。人ごみに流されて変わっちゃったのよ」

真姫「そうだったのね…絵里…。私ってばあなたって人を誤解していたみたい」

絵里「ま、真姫…!」

真姫「絵里…!これからは手を取り合って」


ズバッ!!


絵里「ごぴゅっ」


真姫「え、り…?」


ゴロンッ…


真姫「え、絵里の…生首が…!きゃあぁぁぁっ!」

希「…」

真姫「希…!あ、あんたがやったの…!?」

希「…真姫ちゃん」

真姫「許さないっ…!許さないわ希!彼女はやり直せたはずなのに…!」

希「真姫ちゃんっ…!」

真姫「彼女を殺した罪!贖ってもらうわよ!!」

希「真姫ちゃんっ!!」

希「早く起きてっ!!」




希の家 寝室


真姫「…んぇ?」

希「もうとっくに朝やよ!!ほら起き!!」

真姫「…あれ、さっきまでのは…もしかして…夢…?」

真姫「って!希!?今何時!?」

希「はい時計!」

真姫「…え、やばっ…!完全に打ち合わせに遅刻じゃないっ!?なんで起こしてくれなかったのよ!?」

希「さんざん起こしたっちゅうに!思ってたより疲れがたまってたんやね…」

真姫「や、や、や…!」

真姫「やらかしたあああああああああああああああああああああ!!!!!」

「…はぁ」



まさかメガネのことを言われるとは思ってなかった。初対面の人に。


相当おかしいのかな、私のメガネって…。


かなり高級なフレームなのに。デザイン気に入ってるのに。


レンズだってPCから発せられるブルーライトを遮断する目に優しい作りになって…どうでもいいわそんなの。


ともかくあのあと、あの声をかけてきた人は事務的な手続きで私に電子生徒手帳の予備を貸してくれた。


帰りまでに学内のオフィスで再登録をしないといけないらしい。


私に対して特に何も質問してこなかったのはありがたいけど、あっちもなぜか急ぐように説明して、すぐに持ち場に戻っちゃった。


変な声を聞かれたのが恥ずかしかったのかな。



「…っと」



先ほどの出来事を追想していたら、教室の前にたどり着いてしまった。


ここで、合ってるわよね…?


早めに来たけれどもう既に何人かが教室に集まっている。


もし何か言われたらどうしよう。


そんなことないはず、とわかってはいるのだけど、不安でならない。



「大丈夫…。大丈夫…」



顔を伏せて入れば、誰も私になんか気づかない。


顔も、きっと名前すら覚えている人なんていないだろう。


だから、大丈夫。


勇気を出して、教室のドアを開いて…。


そして、最初に出会った人とは目も呉れず、一目散に私の席へ…。



「あっ!おはよう!!」

「…はい?」



そ、そんないきなり元気よく挨拶されるなんて…予想外だった。


そして今更気づく。


私の席って、どこだ。

1年E組


海未「…遅い、ですね」

ことり「完全に遅刻ですなぁ~。これはキツいお仕置きが必要かも」

花陽「や、やっぱり前みたいに何か事故か事件に巻き込まれて…!わわわ…!」

海未「流石にそれはないと思いますが…」

花陽「でももう教室に人も集まってきたしそろそろ来ても…」

ことり「電話してみる?」

海未「そうですね…。一度真姫の電話に…」


「あっ!おはよう!」

「おっはよー!西木野さん!」


ことり「…ん?あ、来た!真姫ちゃんだ!」

花陽「え…、あ、ホントだ。おはよー!真姫ちゃん!」

海未「…こちらに気づきませんが」

ことり「何やってんだろう、真姫ちゃん。おーい、こっちだよー!」

海未「遅刻しているから気が引けているのでは?」

ことり「む!その可能性や高し!無理やり連れてくるしかないね!」

花陽「もー!真姫ちゃん!こっちこっち!」


真姫「…あ、あの」

海未「遅いですよ、真姫。どうしたんですか?」

真姫「えっと…ご、ごめんなさい」

花陽「ごめんなさいじゃわかんないよ。何かあったの?また事故に巻き込まれたとか」

真姫「え…その…あの…、な、何も…ない、です…」

ことり「…なんかいつもと様子が違うね。やっぱり何か隠してるー?」

海未「…はぁ。今更遅刻の理由など聞いていても仕方ありません。とにかく、早く昨日の続きと行きましょう」

真姫「…昨日?」

花陽「で、どこまで話してたっけ?」

ことり「たしかダンスの振り付けを変えてみようって話で…」

海未「あとは衣装の最終案でしたね。まだ私と真姫の分が未定で…」

海未「真姫はたしかことりの考えた衣装案をアレンジして今日までに持ってくるという話でしたが」

ことり「そうそう。早く出して?」

真姫「え…?な、なんの…話、ですか…」

花陽「いや、なんの話、って…だから衣装の話だって!もしかして、忘れちゃった?」

真姫「あ、あのぉ…衣装って…、なんの?」

海未「はぁ?ふざけているのですか?もう時間がないんですから早く!」

真姫「ほ、本当にわからなくて…」

海未「おふざけに付き合う余裕はありません!というかなんなんですかそのメガネは…」

真姫「だからメガネは関係ないでしょぉっ!?」

海未「っ!?」

ことり「…急に元気になったね」

花陽「やっぱり…、なんか変?」

何っ!?何!?なにぃっ!?


私の目の前で、私の知らない言葉で、私の知らない人達が私に向けて何かを話しかけてくる。


どうしてこんなことになった。


意味がわからない。


日本語なのか何かわからない会話で、私に振らないで。


そして私のメガネはそんなに変か。そんなにおかしいかよ。


まさか初日にいきなり二回も突っ込まれるなんて思ってなかったわ。


というかなんでみんな私を知っているの?


私は…春から休学していたのに。


半年ぶりに学校に来たはずなのに、多くの人が私の顔と名前を知っていて。


私を友達のように扱って…。


昔、そんな映画を見たことがある気がする。


自分の知らぬ間にクローンに存在を乗っ取られて、家に帰ろうとしたら自分が自分の家族と団欒してた、みたいな。


私はいつの間に映画の登場人物になったんだ。


でも、そんなことありえない。ここは映画じゃない。


もうひとりの私なんて、存在するはずがない。




ガタンッ!!


大きな音を立てて、教室のドアが開いた。


誰かが大急ぎで、教室に入ってきたようだった。



「ご、ごめんなさいっ!花陽、ことり、海未っ!ね、寝坊しちゃって…!」



誰かに向かって謝罪する、そのたった今教室に入ってきた、誰かは。



私だった。



「えっ…」



もうひとりの私が、そこには存在していた。

真姫「はぁっ…!はぁっ…!!」


真姫(学校には間に合うけど…、打ち合わせには完全遅刻だわ…!)

真姫(3人とも怒ってるだろうな…)



改札前


ピッ


真姫「あ、穂乃果…」

真姫「おはようございます!!」タッタッタッ…


穂乃果「おはようございます。あ!廊下は走ったら…」

穂乃果「…に、西木野、さんっ…!?」


真姫「ごめんっ!今急いでるからっ!!」タッタッタッ…



穂乃果「どうして…西木野さんが…」

穂乃果「もう一回…登校してきたの…?」



1年E組前


真姫「はぁっ…はぁっ…!」ガチャッ 

真姫「ご、ごめんなさいっ!!」ガタンッ!!


真姫(ドアを開くか開かないかというところから謝罪に入る。事情を知らぬ人はビックリでしょうね)


真姫「花陽、ことり、海未っ!ね、寝坊しちゃって…」


真姫(すかさず遅刻理由を述べる。ごまかすよりこうした方が早く済んで…)

真姫(と、何やら私を見る顔がおかしい。怒っているというより…驚いている?それも、相当)

真姫(何を驚くことがあるのか、と思いつつ、視線を少し逸らす。…すると、そこには)


真姫「えっ…」


真姫「…わ、私…?」


真姫(…私だ)

真姫(私が…、花陽たちに囲まれて、私の席に座っていた)

真姫(色々考えることはあっただろうが、私の脳裏によぎった言葉は、たった一つ)


花陽「ま、真姫ちゃんがっ…!?」

ことり「真姫ちゃんが…」

海未「真姫が…!」


「「「ふ、二人ぃぃっ!!!?」」」



真姫(…これは、ヤバいことになった)

しばらく呆気に取られて、動けなかった。


今起きている事象に頭が追いつかない。理解の埒外の更に外を行っている。


知らない人に訳のわからないことを問い詰められただけでも相当に混乱してたのに。


それに加えて。


まさか、自分と同じ顔の人間が登校してくるなんて、誰が考える?


もしかして、私が引きこもりを続けているうちに、世間ではそういうことが一般的になってたりして。


…なんて、現実味のないことを一瞬本気で考えもしたが、どうやらそういうわけでもないみたい。


周りの人も、私と同様に、開いた口がふさがらないようだった。


じゃあやっぱり、これはおかしい事態なんだろうな。


馬鹿に冷静に事を分析できている自分を少し滑稽に思いつつ、やはり目の前の不思議への理解は出来ないでいると。



「あ、あーーーーーっ!!!」



目の前の私…と同じ顔の誰かが叫んだ。



「もー!!来るなら来るって事前に言っておいてよー!…えーっと、み、みんなビックリしてるじゃん!」



は?


何を言い出しているのか、こいつは…、って!?



「ち、ちょっと来なさい!!」


「えぇっ!?なんでっ…」



き、急にそいつに腕を引っ張られて、教室の外へ連れ出される。


私を引っ張るそいつはカバンで顔を隠し、往来の中を私を引っ張りながら突き進む。


なんなのよ一体。


どうして復学初日から、こんな目にあわなくちゃ…



「「…いけないのよーっ!!!」」

1年E組


真姫「だ、誰…?私…、なの…?」


真姫(…や、ヤバい…!)

真姫(まさか…、まさか私が…この世界の私が復学してくるなんて…)

真姫(想像してなかったわけじゃないけど、いつか来るかも、なんて思ってもいたけど)

真姫(いざ本当に来るとなると、心の準備なんて一切してない…!)

真姫(ど、どどどどうしよう…!あ、ちなみに↑で喋ってるのはこの世界の私だから)

真姫(ちょっとの間私かあっちの私か区別付きづらいかもしれないけどなんとなく察して!…って誰に言ってるの私)



花陽「ま、ま…真姫ちゃんん…!?」

ことり「え、そ、そっくりさん…?」

海未「そっくりにもほどが、あるでしょう…ふ、双子…?」



真姫(花陽たちも相当に混乱してる。そりゃそうでしょうね。事情が分かる私すら混乱してるんだし)

真姫(だけど、どうすればいいか…それは少し思いついてきたかも)

真姫(こういうのは、思い切りが肝心っ…!!)



真姫「あ、あーーーーーっ!!!」


「!!!?」



真姫(私に向かって人差し指を突きつけ大声で叫ぶ)

真姫(そして、あたかも知っている人物のように…)



真姫「もー!!来るなら来るって事前に言っておいてよー!…えーっと、み、みんなビックリしてるじゃん!」



真姫(当の本人は何言ってんだコイツみたいな顔してるけどそんなの気にしてられるか)

真姫(間髪入れず…)



真姫「ち、ちょっと来なさい!!」

真姫「えぇっ!?なんでっ…」



真姫(引っ張って外へ連れ出す!)

真姫(みんなになにが起こったのか理解させる間を与えず…、とにかく二人きりになれる場所に…!)

真姫(って言っても…部室は今使えないし…!)

真姫(顔を隠しながら、登校してくる人ごみの中をもうひとりの自分を引っ張って歩く)

真姫(忙しい時期だってのに…なんで私がこんな目にあわないと…)



真姫「「…いけないのよーっ!!!」」


真姫(…なんでハモるのよ)

音楽室


真姫「はぁっ…、はぁっ…。ここなら誰もいないはず…」

真姫「…っていうか最初からここで待ち合わせしてればこんな急に鉢会うことも…」


真姫「な、なんなのよ…。っていうか、あなた誰なの?」

真姫「どうして、私と同じ顔…っていうか、声も同じだし…。い、意味わかんない…」


真姫「えっと、それは…あーっと、ちょっと待って。…よいしょ」ペタリ

真姫☆「これでよし、っと」

真姫☆(今名前欄に貼り付けたのは星型のステッカーよ。これでこの世界の私との見分けが付きやすくなるでしょ)

真姫☆(…自分でも名前欄ってなんだよって思うのだけどこうすべきだと私のファントムが囁くんだからしょうがないわ)

真姫「…?なにしたの?」

真姫☆「あー、気にしないで。あなたには関係ない事だから」

真姫☆「…で、どこから話せばいいかしらね…」

真姫「だから!まずあなたが何者なのか説明して!」

真姫「まさか…、私に化けた幽霊や妖怪?それとも怪盗とか…」

真姫「もしくはクローン人間で私の存在を乗っ取ろうとしてるなんて…!」

真姫☆「いやいや、クローンなんてありえないでしょ…」

真姫☆(…ありえなくない世界もあったけど、それを言うと拗れるし)

真姫☆「いい?落ち着いて聞いて。端的に説明すると私は…」

真姫☆「…別の世界の、あなた自身なのよ」

真姫「別の、世界…?」

真姫☆「そう、この世界とは並行にある世界…つまり、パラレルワールド」

真姫☆「星の数以上に存在するそんな世界の一つから時空を超えてやってきた…」

真姫「…へ?」

真姫「ふ、ふざけてるの!?なにがパラレルワールドよ!?映画の話なんて聞きたくないわ!」

真姫☆「ちょっ…、だから落ち着いてって言ったのに!ていうか幽霊や妖怪やクローンを前提に出しておいて平行世界は否定っておかしくない?!」

真姫「だ、だって、いざ真面目な話するって時に本当にそんなこと言われたらそうなるわよ…!」

真姫☆「あー…、そうよね…。普通は信じられないでしょうけど…」

真姫☆「でも、真実なのよ。今こうしてあなた…西木野真姫と同じ顔で同じ声の私がここにいる事実で納得してもらいたいものだけど」

真姫「うっ…。し、信じられそうにないけどでも…あなたはどう見ても…わ、私…」

真姫「普通の事態では考えられそうに、ない…わよね」

真姫☆「そういうこと。まだ理解が早いほうで助かるわ」

真姫「で、でも!?なんで並行世界の私がこの学校にいて、そしてこの学校の制服を着ているのよ!?」

真姫「…あっ!も、もしかして…クローゼットにあったあのどこかの制服って…」

真姫☆「あ、あれ私の」

真姫「やっぱり…!いつの間に私の制服と交換して…。おかげでこの制服を買うハメになっちゃったじゃない」

真姫☆「ご、ごめんなさい…。あ、っと、それで、私の制服は?」

真姫「ママが懐かしい、って言ってたからあげたわ。母校の制服と同じだったからって。…不思議がってはいたけど」

真姫「それより!どうしてあなたがここにいるのか、説明してもらうから!」

真姫☆「あ、あぁ…そうね。わかった。手短に話すから…」

真姫☆(私は彼女に私がこの学校にいる理由を簡単に説明した)

真姫☆(誤ってこの世界に落ちてきてしまったこと。迎えが来るまで帰れないこと)

真姫☆(最初はただ興味本位で制服を借りて学校に忍び込んだこと。けれども生徒会長に捕まってその次の日も登校させられたこと)

真姫☆(そしてなにより重要なこと)

真姫☆(私がこの学校で…スクールアイドルをやっていることを、彼女に伝えた)


真姫「アイドル…?」

真姫☆「…えぇ。同級生の花陽の夢を…実現させてあげたくて」

真姫☆「だからなんだか勢いで、スクールアイドルを立ち上げちゃって」

真姫☆「思ってたより順調なのよ?…なんて」

真姫「…そう、アイドル…」

真姫「衣装とか、歌詞とか…そういう意味だったのね…」

真姫☆「え、っと…ご、ごめんなさい。あなたの存在を勝手に使わせてもらってその上アイドルだなんて…」

真姫「…いえ、それに関しては別にいいわ」

真姫「とにかく、あなたの素性は大体理解できた…。9月頃から出席してくれたのはかなりありがたいけど」

真姫「でも、ずっとこのまま私の代わりに出席してくれるわけじゃないんでしょ」

真姫☆「えぇ、まぁ…。いずれは迎えがくる…と思うんだけど」

真姫「よね。…本当ならあなたがずっと私の代わりに出席してくれると、助かるんだけど」

真姫「そうもいかないなら、やっぱり私が出席しないといけない」

真姫☆「えぇ…そう、なるけど」

真姫「でも!私はあなたの役を引き継ぐつもりはないわ!」

真姫「そもそもアイドルなんてできるわけないし!」

真姫「勝手にアイドルをやってたことに関しては何かを言うつもりはないけど、でも私の存在を返してもらった後ならそうはいかないわよ」

真姫「私は、そのスクールアイドルをやめるから」

真姫☆「…」

真姫「なに。何か文句があるなら今のうちに…」

真姫☆「いえ、文句はないのだけど」

真姫☆「…けど、西木野真姫がC☆cuteを脱退するのはダメ」

真姫「はぁ?じゃあ文句があるってことじゃ…」

真姫☆「だから。私にいい考えがあるの」

真姫☆「今日から私は、この世界の西木野真姫を演じるのをやめるから、あなたは代わりに…」



真姫「…なるほどね。それなら確かに…少し無理がある気もするけれど」

真姫☆「でもいい考えでしょ?というわけだから…」

真姫「待って」

真姫☆「え?」

真姫「…あなただけ提案するのは面白くないわ」

真姫「私からも、条件をつけさせて。あなたの案に乗る代わりに、私の提案も聞きなさい」

真姫☆「…何?」

真姫「それは…」

1年E組


ざわざわ…  ざわざわ…


ことり「うわー…すごい。教室中が真姫ちゃんの話題で持ちきりだよ…」

海未「当たり前でしょう…。まさか真姫が、二人いた、なんて…」

花陽「ど、どうしよう…。もし真姫ちゃんが二人なら…」

花陽「ダンスのフォーメーションを変えないと…!?」

海未「言ってる場合ですか!?真姫が二人共アイドルをやる必要はないでしょうに…」

ことり「うーん、って言っても、騒ぎが大きくなるとややこしいのは間違いないし…」

ことり「早く静まってくれないかなぁ…」


ガチャッ


真姫「…」



花陽「あっ!ま、真姫ちゃん!」

ことり「帰ってきた!」

海未「せ、説明をお願いします!どうしてあなたが二人いたのかを!」


ざわざわ…  ざわざわ…


真姫「…あ、えっと…その…」

真姫「ぅ…」ゴクリッ

真姫「じ、実はっ…!!」


花陽「じ…」

ことり「じぃ…?」

海未「実は…?」


真姫「い、今まで…9月から、が、学校に通ってた、わ、私は…」

真姫「本当は、私じゃなくて…」


真姫「私の、お、お姉ちゃんだったの!!」




シーン…


花陽「お…」

ことり「お姉ちゃん…?」

海未「真姫に…、お姉さん、が…?」

真姫「う、うん…今まで学校に通ってたのは、じ、実は私のお姉ちゃんで…」

真姫「私に驚く程そっくりなんだけど、年齢は3歳も離れてて、ね…?」

真姫「だ、大学にもいかず職にもつかずのニートだったから、って…」

真姫「ま、ママに…その…休学してる私の代わりに、が、学校に行け、って言われて、通ってたの」


クラスメイト共「…」


真姫「う、うぅ…!」

真姫(やっぱり、メチャクチャよぉ…!信じてくれるはずない…!!)



(真姫☆「存在をそのまま入れ替えるんじゃなくて、今まで通ってたのは別人…そう、あなたのお姉さんという設定にすればいいの」)

(真姫☆「もちろん、担任や他のクラスの生徒には内緒にして、ね」)

(真姫☆「そうすれば、アイドルとして私はこのまま活動でき、あなたは今までの私を演じる必要もない」)

(真姫☆「完璧な作戦よね!」)



真姫(…って言ってたけど、こんな与太話、そうそう簡単に信じてもらえるわけ…)


クラスメイト共「なーんだ、そうだったんだー」


真姫(信じた!?)


「確かになんか西木野さんって大人びた感じあったもんねー」 「3歳も年上だったんだ…」

「こっちの西木野さんの方が年相応っぽいし、納得ー」 「妹さんのために代わりに学校に行くなんて優しいお姉さんなんだなぁ…」


真姫「ま、マジで…?」



ことり「なるほどねー。だから今まで私たちのこと、一つ上なのに呼び捨てにしてたんだー」

海未「あれだけ偉そうだったのも年上だったからなのですね…。となると、これから真姫のことは真姫さんと呼んだほうが…?」

花陽「えぇっ!?い、今更真姫ちゃんから真姫さんになんて変えられないよぉ…」



真姫(…驚く程すんなり受け入れてるわね…。ビビるわ…)

真姫「え、えっと!それで、このことは先生や他のクラスの人たちには絶対に内緒にしてて、…ってお姉ちゃんが」

真姫「本当はいけないことだから先生に知られるとマズいし、あんまり周りに知られると噂が広がってマズいから…」


「わかったー」「任せといてー」「絶対言わないからー」


真姫(…かなり不安だわ)

真姫「あ、と…それからその…あなたたちも」

花陽「わ、私たち…?」

真姫「こ、これからもお姉ちゃんは私の名前を借りてアイドル、やるって言ってたから…その…心配しないで、って」

ことり「そう、なんだ…。う、うん…わかった。ありがとう、伝えてくれて」

海未「それはそれとして…その、お姉さんの方は今どこに…?」

真姫「えっと…今は…」

秋葉原


真姫☆「…はぁ」

真姫☆(本来の私が復学してきた以上、私はUTX学院にいられなくなった)

真姫☆(放課後の練習だけなら入れ替わりでなんとかなるけど…)

真姫☆「日中の行き場はなくなっちゃったわね…」

真姫☆「だからこうして、秋葉原を散策しているわけだけど…」

真姫☆「特にやることがない…とてつもなく暇ね」

真姫☆「そろそろポケットマネーも底が近づいてきたから無駄遣いするわけにもいかないし…」

真姫☆「スクールアイドル専門店にでも行って他のアイドルの研究しておこうかしら…」





スタスタ…

真姫☆「…うっ」

真姫☆「なにこれ…なんか、気持ち悪…」

真姫☆(街中を歩いていると、急に吐き気を催してきた)

真姫☆(慣れない雑踏に久々に出てきたせいかしら)

真姫☆「頭をシェイクされたような気持ち悪さ…うぇぷっ…」

真姫☆「…まさか、想像妊娠なんかじゃないでしょうね。つわり…」

真姫☆「ハハハ、まさかね」

真姫☆「…ふぅ、っと。あ、そうだ…」

真姫☆「今日の夜の件について、せめて…彼女だけにでも話しておきましょう」

真姫☆「あいつなら、もうほとんど気づいてるようなものだし…」ポピパ…

休み時間 1年E組


親衛隊D「へー、西木野さんの妹ねー…」


真姫「…え」


親衛隊E「す、すごくそっくりです…!見分けが付かないよ…」

親衛隊F「真姫ちゃんに妹…。ビックリだわ…」


真姫「あの…あなたたち…」

真姫「…このクラスの生徒じゃない、のよね…?なんで、そのこと…」

花陽「あ、それは私が」

真姫「えっ…、えっと、小泉さん…?だったっけ…」

花陽「うん!小泉花陽!」

真姫「ど、どうしてあなたが別のクラスの人たちにそのこと…。内緒にして、って言っておいたのに…」

親衛隊D「ふふっ!それは私たちが小泉花陽親衛隊だからさ!」

真姫「は…?し、親衛隊…?」

親衛隊E「こ、小泉さんを愛して愛してやまない人たちで構成された小泉さんを愛でるための部隊なの!」

親衛隊F「まぁ、私たちはC☆cuteのお手伝いもやるからいつか必然的にわかっちゃうでしょ、ってことで、花陽ちゃんがね」

真姫「はぁ…そうなんですか…。まぁ、3人くらいなら…」

親衛隊D「ん?親衛隊構成員は全員で26人いるよ?」

真姫「んなっ…!?」

親衛隊E「そ、そして全てのクラスに満遍なく…!」

親衛隊F「芸能科じゃない生徒までいるからねー。ホント花陽ちゃんの可愛さは恐ろしいわー」

花陽「も、もー、恥ずかしいよー」

真姫「そ、それじゃあいつか全クラスに噂が広がっちゃって…!」

花陽「うぅん!大丈夫!親衛隊のみんなは信頼のおける人たちばかりだから!」

花陽「絶対に言っちゃダメだよ!絶対だからね!って何度も念を押したから、大丈夫だよ!」

真姫「不安要素が増したわ…」



真姫(…というか、あまり私に話しかけてこないで欲しい)

真姫(緊張して、口が回らないから)

真姫(私は、あの『私』とは違うんだから)

真姫(馴れ馴れしく、しないでよね…)

昼休み

廊下


グギュルルルルルル…


女生徒A「…え、何今の音…」

女生徒B「か、雷…?こんな晴れてるのに…」


絵里「…どいて、そこ」


女生徒A「あ、あぁごめんなさい…あ!絢瀬さん…」

女生徒B「…いつ見てもクールでカッコいいよねー…」


スタスタ…


グギュルルルルルルル…


絵里「…お腹すいた」

絵里(…昨日の夜から何も食べてなかったのよね)

絵里(A-RISE候補生のスケジューリングに忙しくて何かを食べるのすら忘れていたわ)

絵里(…にこが落ちなかったのは想定外だったけど、でも…それなら彼女も利用するだけ)

絵里(私の理想を達成するまでは…)


グギュルルルルルルルルルル…


絵里「ふひぃぃぃぃぃ…」

絵里「ひ、ひもじい…。早くご飯食べたい…」



食堂


絵里「ふふふ…!今日は奮発してグラタンうどんチーズ大盛りにしたわ…!」

絵里「あぁヨダレが止まらない…!さてと、どこに座って…おや?」


穂乃果「…」ポケー…


絵里「…穂乃果?おーい、穂乃果ー」

穂乃果「…」ポケー…

絵里「死んでる…?」

穂乃果「…ハッ!え、絵里ちゃん!?な、何?私どうかしてた?」

絵里「絵里…ちゃん?」

穂乃果「あっ…!す、すみません、絵里さん…。その、ぼーっとしてて」

絵里「うん、いいんだけど…。生徒会長かつ次期A-RISEのあなたがそんなんじゃみんな幻滅するわよ?あ、ここ座ってもいい?」

穂乃果「えぇ、どうぞ…」

絵里「じゃあお言葉に甘えて、っと…」スワリッ

絵里「いただきまーす。…もぐもぐ」

穂乃果「…」ポケー…

絵里「…」

絵里「…穂乃果」

穂乃果「…」ポケー

絵里「ハノケチェン!!ボーっとしてるとご飯抜きですよ!」

穂乃果「はわぁっ!!ご、ごめんことりちゃん許して!」

穂乃果「…はっ!」

絵里「…穂乃果。マルゲリータ丼、冷めちゃうわよ」

穂乃果「そ、そうですね…。すみません…もぐもぐ」

絵里「ぼーっとしてるのには訳があるんでしょう?言ってみなさい」

穂乃果「…もぐもぐ、…ごくんっ。…訳、ですか」

絵里「溜め込んでるとメンタルの上で練習の負担になりかねないわ」

絵里「あなたには万全の状態で練習してもらわなきゃいけないんだから、何か気になることがあるならすぐ相談なさい」

穂乃果「…でも」

絵里「でも、じゃない。口答えしたらほっぺたをつねるわよ」

穂乃果「…わかりました。実は…」



穂乃果「…ということがあって」

絵里「…ふぅん」

穂乃果「多分、何かの見間違えだと思うんですけど…」

絵里「…真姫が二人、ね…」

穂乃果「それもありますし、後この間のにこちゃんの件…」

穂乃果「あれにも、西木野さんが何か関わってるんじゃないかって…」

穂乃果「…もし、私たちの妨げになるようなら…」

絵里「壊しておく、…っていうのもアリなんだけど」

絵里「直接的にやっちゃうと、私が殺されちゃうし」

穂乃果「殺され…?」

絵里「…それに、私は真姫が欲しいの」

絵里「下手に誰かに任せて壊したとして、使い物にならなくなったらどうしようもないし…」

絵里「…」

絵里「…ふふっ」

穂乃果「…なんですか、その笑いは」

絵里「ねぇ、穂乃果。もし、真姫が二人いるんだとしたら…」

絵里「…そのうちの一人くらい、貰っちゃってもいいわよねぇ?」

穂乃果「…はい?」

同じく昼休み

正門前


真姫☆「さてと、連絡通りならそろそろ…」

真姫☆「…あ、来たわね」


希「んふっ、どーしたん真姫ちゃん。わざわざこんなところまで呼び出したりして」


真姫☆「今は迂闊にそっちに入れないのよ。…というか、あなたはどこまで知ってるの?」

希「どこまで…ってどういうことかな?」

真姫☆「その…今日の朝の出来事…なんだけど」

希「んふふ、真姫ちゃんが二人事件のことかな?」

真姫☆「…知ってるんじゃない。もしかして、結構噂、広まってる?」

希「安心して。少なくとも3年生のクラスまでは届いてないみたいやから」

希「うちが知ってるんは…ほら、スピリチュアルやし」

真姫☆「…そうね」

希「で、うちをここまで呼び出した理由は何かな?」

真姫☆「そろそろ、あなたに話してもいい頃かな、と思って」

真姫☆「私の、正体について」



希「…そっか。異世界人、ってことやね」

真姫☆「って言っても、薄々気づいてたんでしょ?」

希「消去法で考えていったら最終的にありえないものが候補になって…まさか、それが正解になるとはね」

希「予想はしてたけど、いざそうや、って確定すると結構驚くもんよ」

真姫☆「って言って、そんなに驚いてないじゃない」

希「んふっ、真姫ちゃんはうちが驚いたとこ、見てみたいん?」

希「うわー!真姫ちゃん異世界人やったんかー!!びっくりびっくり!」

真姫☆「…最大級にイラッときたわ」

希「でしょ?真姫ちゃんの精神の平穏のためやよ」

真姫☆「まぁ…そんなわけだから、これからもそっちに厄介になるわよ、ってこと、言いたかったの」

希「うんうん。それに関しては前々から言ってるとおり、全然構わへんから!真姫ちゃんが元の世界に帰るまでずっといてくれていいのだ!」

真姫☆「うん、ありがと。…で、もう一つ」

希「ん?まだあるの?もしかして、実は花陽ちゃんも…?それは予想外すぎるんやけど」

真姫☆「私もびっくりよそれなら。…そうじゃなくて、今日の夜のこと、なんだけど」

真姫☆「こっちの世界の私から、提案されたことでね」

希「なになに?」



真姫☆「…今日、この世界の私が、あなたのうちにお邪魔するから」

真姫☆「代わりに、私がこの世界の私の家に帰る」

真姫☆「いわゆる…スワッピングよ」


希「…それはなんか違うと思う」

~回想~


真姫☆「夜だけ入れ替わる…?」

真姫「うん。それが私の提案よ」

真姫☆「ど、どうして…?なんの理由があって」

真姫「その…、私が引きこもってたこと、あなたも知ってるのよね?」

真姫☆「えぇ…まぁ」

真姫「そのせいでパパやママとちょっと…気まずい感じになっちゃって」

真姫「多分今日も帰ったら色々と聞かれると思う…」

真姫「私…パパやママと話すのが怖いのよ。引きこもりのことに触れられるのが」

真姫「でも!パパもママもきっと私のこと本気で心配して、ってことはわかってるの。私も、パパのこともママのことも嫌いじゃない」

真姫「だけど、同じ場所に居たくない、っていうか…」

真姫☆「…まぁ、なんとなくだけどわかるわ。自分の弱いところに触れられるのは嫌だものね」

真姫「そう。だから!今日はあなたが家に帰ってパパとママとお話して」

真姫「今までの心境とか、これからどうするのとか、色々尋ねられることはあると思うけど…なんとか凌いで」

真姫☆「つまり、あなたが家に帰って両親と話すのが億劫だから、その代わりを私にして欲しい、ってことなのね」

真姫「えぇ、そういうこと!できれば関係を良好にしてくれれば尚の事グッドよ!」

真姫☆「…はぁ。まぁいいけど。でも私が住んでるのはその…先輩の家、なんだけど」

真姫「え?」

真姫☆「部活の部長の家に居候させてもらってるってこと。それでもいいならいいけど」

真姫「…う。知らない人か…」

真姫「い、いいわ。それで」

真姫☆「わかった。一応あっちにも訳を話しておくから。彼女、もう私のことほとんど気づいてるみたいだし」

真姫「へぇ…」

真姫☆「じゃあ今日の夕方、部活が終わる頃にUTX近くの公園に来て。そこに彼女も来させるから」

真姫「うん。わかったわ」



~回想おわり~



真姫☆「…ということ」

希「ふーん、真姫ちゃんも面倒なこと引き受けたねー。平気なん?」

真姫☆「まぁ…、大丈夫でしょ。これからもアイドルを続けるために私の妹って設定を彼女も引き受けてくれたんだし、まぁ…」

希「真姫ちゃんがいいならいいんやけど。…そっか、こっちの真姫ちゃんがね…」

真姫☆「人見知りみたいだから、扱いには気をつけてね?」

希「ふふ、うちの生徒会長時代のコミュ力を舐めたらいかんよ。すーぐに友達になっちゃうんやからね」

真姫☆「じゃあ事情は話したから。私はこれで…」

希「あ、待って真姫ちゃん。今真姫ちゃんの生徒手帳はどうしてるん?」

真姫☆「え?私が持ってるけど…」

希「多分…こっちの世界の真姫ちゃんの生徒手帳は使えない状態のはず」

真姫☆「あ、そういえばこの生徒手帳を作ったときにそんなこと言ってたわね。再登録の際に前の手帳は使えなくなるって」

希「うん。だから今多分こっちの世界の真姫ちゃんが使ってる生徒手帳は予備の分やと思うんやけど…」

希「これを返却する前に使用不可になった自分の生徒手帳を再登録する必要があるんよ」

真姫☆「あっ!そっか…。こっちの私が再登録しちゃったらこの手帳は使えなくなっちゃうのよね…」

希「せやね」

真姫☆「でも…再登録しないとあっちの私がUTXから出られないし…かと言ってされたら私が…」

真姫☆「どちらか片方しか持てないこの状況…ヤバくない…?」

希「ふふふ、そんな時のためにうちがおるんよ!」

真姫☆「え?」

希「あんまり多用しちゃいけないんやけどー…」

希「生徒手帳を改造すれば、他の手帳を再登録してもデータが抹消されずそのまま使えるという裏ワザがあるのだ!」

真姫☆「な、なんですってー!?」

希「これを利用してムダに二台持ちなんかしている子もいるんよ」

真姫☆「なんのために…。ま、まぁそれが使えるならお願いするわ。改造はどれくらいかかるの?」

希「まぁ…今日の放課後までには。放課後にまたここに来てくれたら改造済の手帳を渡したげるね」

真姫☆「ありがとう。じゃあ預けておけばいいのね。はい」

希「ん、確かに。じゃ、また放課後にね」

歌手専攻授業

音楽室


真姫「…」


花陽「わわわわー♪」


親衛隊ズ「「キャー!花陽様ーっ!!」」



先生「…はい。お上手ね。さすがスクールアイドルといったところでしょうか」

花陽「え、えへへ…」

先生「ではお手本にもうひとり…そうね、同じスクールアイドルの西木野さん」

真姫「は、はいっ!?」

先生「今小泉さんが歌った曲、あなたも歌ってもらえる?」

真姫「え、えっと…は、はい…」


親衛隊B「あっちの西木野さんって妹なんだよね?どうなんだろ…」ボソボソ

親衛隊A「お姉さんがあんだけ上手いんだからちょっと期待しちゃうかも…」ボソボソ

親衛隊C「どうなんでしょう…」


真姫「…ぅ」ゴクリッ

真姫「い、行きます…」




真姫「…あ~~」

真姫「…」


「…」


先生「…えー…、西木野さん…」

先生「今日は、調子が悪いんですか…?」

真姫「…すみません」



親衛隊ズ(す、すごい下手…!!)


花陽「ま、真姫ちゃん…」



真姫(う、歌なんてここ半年全く歌ったことないんだもん!仕方ないでしょ…!)

真姫(中学までは、少しは歌ったりしてたけど…)

真姫(…もう、自分から歌う、なんて…)

放課後

UTX裏


真姫「…おまたせ」

真姫☆「うぅん、平気。じゃ、ここからは私と交代ね」

真姫「あっ…そういえば生徒手帳…もう再登録しちゃったけど」

真姫☆「あーいいのいいの。さっき改造したの貰ったから」

真姫「改造?」

真姫☆「居候させてもらってる先輩にね。これでいちいち生徒手帳の受け渡しとかせずに済むから」

真姫「そ、そう…?ならいいけど」

真姫☆「練習終わりにその先輩が公園まで迎えに来るから、それまで適当に時間潰してて」

真姫「あなたは、私の家に帰る…のよね。場所はわかる…?」

真姫☆「当たり前でしょ。同じ私なんだから」

真姫「あ、あぁ…そうだったわね。よ、よろしく頼んだわよ!」タッタッタッ

真姫☆「え、えぇ…」

真姫☆「…パパとママ、かぁ」

真姫☆(私も活発になった方ではあるけど、面と向かって話すとなるとあまり自信はない)

真姫☆(しかも引きこもりから卒業してすぐ、だ。きっと長々とお話することになるんでしょうね…)

真姫☆「考えてみれば結構なこと押し付けられちゃった気がするわ…」



UTX学院 

アイドル応援部 新部室


花陽「わ、わぁぁぁ…!!大きい…!」

ことり「かたぁい…///」

海未「なにが固いんですか…」


希「どや!新しくなった我らが部室は!」


花陽「いつもの狭い部室に比べるとすごく広い感じがします!」

海未「これでも普通サイズなんですけどね…。前が狭すぎました」

ことり「でもかなり綺麗だし言うことないよー」

花陽「うん!これで心機一転…」


ガチャッ

真姫「おまたせ。…あ、みんなもう揃ってるわね」


ことり「あっ…」

海未「えっと…」

花陽「あのー…」


真姫「…ど、どうしたのよ。なんか歯切れ悪いわね」

花陽「あの、真姫ちゃんは…」

海未「どっちの真姫、ですか…?」

真姫「…アイドルの方です」

音楽室


花陽「うぅん…!」

真姫「な、何?そんなまじまじ見て…」

花陽「や、やっぱりすごく似てる…!」

ことり「本当に姉妹なの?しかも大学生くらいの年齢って…」

海未「あまりに似過ぎて区別がつきません…」

真姫「ほ、ほら!私はメガネしてないでしょ!それで区別しなさい!」

ことり「メガネの有無だけで区別しろってそれ今までどうしてたの?」

真姫「え、えっと…こうしてたの!」ペタリ

真姫☆「これなら見分けがつくでしょ!」

花陽「はっ!本当だ!」

海未「な、なぜでしょう…。外見的には何も変わっていないふうに見えるのですが…」

真姫☆「…常にこれでいた方が良さそうね」

ことり「でも真姫ちゃんは年上、なんだよね?」

花陽「あ、今までと接し方は同じ、でいいのかな、ってみんなで相談してて…」

真姫☆「なによ。今更接し方を変えるつもり?今まで通りで構わないわよ」

海未「しかし…せめて本名は教えてくれませんか?」

真姫☆「へ?」

ことり「そうそう!ホントの名前はなんていうの?」

花陽「真姫ちゃん、は妹の名前なんだよね?」

真姫☆「え、えっと…本名…?」

真姫☆(そんな急に言われても…。本名も何もこれが本名だし…)

真姫☆「え、えっと…!」

真姫☆「本名も…真姫なの!」

ことり「えっ!?い、妹と同じ名前なの!?」

真姫☆「そ、そうなのよ…。えっと、字だけは違うんだけど…」

真姫☆「私の本当の名前は、『摩季』なの」

海未「そ、そうだったのですか…姉妹揃って同じ発音の名前とは珍しい」

花陽「なんだか真姫ちゃんの本当の名前は大きくて黒そうだよね」

ことり「大きくて…黒い…///」

真姫☆「何頬染めてんのよ。…だから今までどおり、真姫でいいわ」

花陽「うん!わかった!」

真姫☆「じゃ、朝できなかった打ち合わせとそれから練習!やっていきましょう!」

夕方

公園


真姫「はぁ…、暇ね」


真姫(放課後に家に帰れないというのは、かなり時間を持て余す)

真姫(誰か友達でもいれば、一緒にどこかに寄ることもできただろうけど)


真姫「友達なんて、出来るわけない…」


真姫(不登校児が復学したら、基本的に卒業まではぼっちルートに入るというのが一般的)

真姫(コミュ力がある人なら例外もあるかもしれないけど、私には無理…)


真姫「…友達、か」


真姫(もし私が不登校なんかにならなければ、友達のひとりやふたり、できてたのかな)

真姫(休み時間には話し合ったり、お昼ご飯を一緒に食べたりする…そんな友達が)

真姫(どういう繋がりの友達だろうか。FPS?…でも私がFPSをやり始めたのは引きこもった後からだし)

真姫(やっぱり、音楽…かな。好きな歌の話で盛り上がって…、ピアノとか、ギターとか、弾いたりして…)

真姫(もしかしたら、あの子達みたいに、勝手にスクールアイドルなんか始めたりして…)


真姫「…何、考えてるんだろ、私」

真姫「そんなの、ありえないのに…」

真姫「…」

真姫「アイ、ドル…」



真姫(ひとりの公園で、そんなことを延々と考え続けていた)

真姫(いつの間にか時間は過ぎ、そして…)



「…真姫ちゃん。おまたせ」


真姫(うつむいている私に、誰かが声をかけた)

真姫(『私』が言っていた先輩、だろうか。顔をあげて返事をしようとした)

真姫(けど…)

アイドル応援部部室


真姫☆「ふぅ…今日もお疲れ様。そろそろ新曲も形になってきたわね」

ことり「うん!衣装作り、頑張るよ!」

海未「真姫がふたりでどうなることか、とヒヤヒヤしましたが、なんとかなりそうですね」

花陽「そうだねー…。ってあれ?希さんは…?」

海未「そういえば…もう帰ったのでしょうか」

真姫☆「あー…そうなのかしら」

真姫☆(あっちの私を迎えに早めに帰ったのかな。というか、あいつも放課後はこの部室にいるくらいで他に何もしてないんだから…)

真姫☆(もっと早めに帰ってもよかったのに。あっちの私を無駄に待たせちゃったかも)

ことり「じゃ、私たちも帰ろっか。戸締り、キチンとしてね」

海未「えぇ、そうしましょう」

真姫☆(…希。あっちの私に手を焼いてないといいけど)



公園


希「…真姫ちゃん。おまたせ」


真姫「…あ、はい…」

真姫「えっ…!あ…」


希「んふ、久しぶり、やね」


真姫「の、希…先輩…!」

真姫「『私』の言っていた先輩って…あなた、だったのね…」

希「ん。数少ない知り合いでびっくりした?今日はあっちの真姫ちゃんの代わりにうちに来るんやんね?」

真姫「は、はい…。そういうことになってます…」

希「…そっか」

希「これで、二度目、やね。うちに来るのは…」

真姫「…」

西木野家前


真姫☆「…」ゴクリッ


真姫☆(何日ぶりかな、家に帰るのは…)

真姫☆(この世界に来て初めに忍び…堂々と入ったのは除くとして)

真姫☆(となるとこの世界に来る前…でもその頃はクリニックで寝泊りが多かったから…)

真姫☆(…とにかくすごく久しぶり。なんでクリニックで寝泊ってるんだよとか野暮なツッコミは許さない)

真姫☆(じゃあ私も家族と話すのとかかなりご無沙汰じゃない…。安請け合いなんかするんじゃなかったかも…)


真姫☆「…って言っても、私がスクールアイドルを続ける交換条件としてはまぁ…仕方ないわね」

真姫☆「ウダウダ言ってても仕方ない…!覚悟を決めて…!!」


真姫☆(ドアノブに手をかけ…引いた)

ガチャッ


真姫☆「た、ただいま…」


真姫☆(見慣れた我が家。数ヶ月帰ってなくても、その風貌は忘れない)

真姫☆(懐かしくて少し涙が出そう。ホームシックってやつなのかしら)

真姫☆(靴を脱いでそのままダイニングへ。この時間ならもう晩ご飯を食べていてもおかしくない)



ダイニング


真姫ママ「あ、真姫。お帰りなさい」

真姫☆「ただいま。ママ」


真姫☆(これまた久しぶりな母親。ちょっと抱きつきそうになったがこらえる)

真姫☆(昨日まで引きこもってた娘がいきなり抱きついてきたら色々な意味でびっくりしそう)


真姫ママ「どうしたの、こんな時間まで。もうご飯できてるわよ?」

真姫☆「あ、あぁ…ごめんなさい。色々あって…あれ、パパは?」

真姫☆(父親の姿はダイニングには見当たらない。自室か、そうでなければ…)

真姫ママ「パパは病院の方。今日は夜まで帰ってこれないんですって」

真姫☆「…そう」

真姫☆(数少ないパパに会えるタイミングで会えなかったのは少し寂しいが、同時に安堵した)

真姫☆(パパはこういう機会になると話が長くなるから、あっちの私には悪いけど今日話すことがなくてよかった)

真姫ママ「だから今日は私とふたりで食事ね。冷めないうちに食べちゃいましょう。手、洗ってきなさい」

真姫「う、うん…」

真姫☆「…もぐもぐ」


真姫☆(私にとっても、そしてママにとっても多分、すごく久しぶりであろう、母娘での食事)

真姫☆(家族と話すのが怖いと言っていたあっちの私のことだ、きっとご飯だってひとりで食べていたんでしょう)

真姫☆(しばらく、咀嚼音と食器の擦れる音だけが食卓を支配した)

真姫☆(沈黙を破ったのは、ママから)


真姫ママ「…真姫」

真姫☆「な、何?」

真姫ママ「学校は、どうだった?」

真姫☆「が、学校?そうね…」

真姫☆(ここで『友達とたくさん遊んだわ!』って言ったらママも喜ぶだろうけど)

真姫☆(嘘をつくとこの世界の私が後々大変だし…ここは無難に)

真姫☆「普通だったわ…。うん、意外と普通…」

真姫ママ「そう…、よかった。友達はできそう?」

真姫☆「え、えぇ…。仲良くしてくれる子も、いたはいたわ」

真姫ママ「そっか…。うん、それならママも安心」

真姫ママ「明日も、学校行く?」

真姫☆「えぇ…もちろん。明日こそは友達を作ってみせるわ」

真姫ママ「ふふ…、そう…。頑張ってね」

真姫☆「う、うん…」

真姫ママ「意外と真姫が元気そうでホッとした。私、あなたがあの人に行けって言われたから嫌々行ってるのかって心配で…」

真姫☆「そ、そんなことないわよ…。しっかり自分の意思で…」


真姫☆(…そういえば私はどうして復学しようとしたんだろう)

真姫☆(本当はパパに行けって言われたから嫌々、だったんだろうか。それだとママの心配は的中していることになってしまう)

真姫☆(そう思うと心苦しいこともあるけど…気になるのはもう一つ)

真姫☆(私はどうして、不登校になってしまったんだろう)

真姫☆(FPSにドハマリして堕落…?ありえなくもないけど…)

真姫☆(…今度あったらそれとなく聞いてみよう)


真姫ママ「…ママね」

真姫☆「はい?」

真姫ママ「私…、あなたとこうしてもう一度ご飯が食べられるようになって…本当に嬉しい…」

真姫ママ「もしかしたらもう二度と…ここで顔を合わせることはないんじゃないかって…!」

真姫ママ「そう思ったら怖くて…怖くてっ…!う、だからっ…!うぅっ…!!」

真姫☆「ちょっ…!ま、ママ…!?」


真姫☆(ママが泣き出した…。それは私も見たことがない、ママの顔で…)

真姫☆(その顔は私をとても切ない気持ちにさせて…)

真姫☆(私まで、泣きそうになってしまった)

真姫☆(今、入れ替われるならアイツと入れ替わってやりたい。この気持ちを感じるべきは、あっちの私のほうなのだから)

真姫ママ「ぐすっ…うぅ…」

真姫☆「ママ…。へ、平気よ…。ほら、私はもうこうしてここにいるんだから」

真姫☆「これからいつだって一緒に晩ご飯、食べられるわ。だから、ね?笑顔になって、ママ」

真姫ママ「ずずっ…、えぇ…ありがとう、真姫。優しいのね…」

真姫ママ「ママったら娘に泣き顔を見せちゃうなんて…母親失格ね…。ダメダメだわ…」

真姫☆「そ、そんなことないって!ほら、ママの泣き顔なんて前から見てるもの!えっと、感動的な映画を見てる時とか…」

真姫ママ「もう…そういう涙じゃないわよ…。ふふっ…」

真姫☆「あはは…、そうよね…」

真姫ママ「…うん、でも、もう笑えるわ…。はぁ…よかった…。本当に、よかったわ、真姫…」

真姫☆「うん…。私も、ママが笑顔になってくれて嬉しいわ」

真姫ママ「えぇ…。ふふ、真姫ちゃんってば、私を励まそうとまでしてくれるのね…」

真姫ママ「それならすぐに、お友達も作れるわ。とても優しい子だから…」

真姫☆「う、うん…。大丈夫大丈夫…」

真姫ママ「…ごめんなさい。変な空気にさせちゃって…まだご飯、食べきってないのにね」

真姫ママ「さ、頂きましょう。真姫も…あら?」

真姫☆「ん?どうしたのママ…」

真姫ママ「…この匂い…汗?」

真姫ママ「真姫、汗かいたの?もしかして、体育…じゃないわよね。体操服持って行ってないんだし…」

真姫☆「えっ…あ…」


真姫☆(練習でかいた汗だ。いつもはご飯前にお風呂に入るのだけど、帰ってきた時間が時間だけに今日はご飯が先になってしまった)

真姫☆(しかしどう説明したものか…)


真姫☆「えーっと…」

真姫ママ「遅くなったのって何か汗かくようなこと、したからかしら?なにしてきたの?」

真姫☆(ここぞとばかりに質問攻めを食らう。そりゃあ引きこもりの娘がスポーツか何かをやったなら喜ばしいことではあるけど…)

真姫☆(でも私がやってるのはスクールアイドルの練習であって…)

真姫☆(そんなものを復学初日目からやり始めるのはいくらなんでも不自然だろう…。どうしよう…)

真姫☆「あのね…その…えー…」

真姫☆「あ、アイドルなの!」

真姫ママ「アイドル…?」

真姫☆(結局口をついてでたのはその言葉だった。それしか思いつかなかった)

真姫☆「あの…う、うちってアイドルが有名じゃない?A-RISE」

真姫☆「ほら、私も…その、学校に行ってA-RISEを見て、アイドルになってみたくなったの!」

真姫☆「だからひとりで誰も見てないところでダンスの練習してて汗をかいちゃったっていうか…そんな感じ!」

真姫ママ「あなたが…そう、そうだったの…」


真姫☆(即興で考えた少し無理のある言い訳だったが、なんとかママを納得させることができたらしい)

真姫☆(よかったよかった、と胸をなでおろす)

真姫☆(…と、その時だった)

真姫ママ「…でも、まさかアイドルなんてね」

真姫☆「え、まさか?」

真姫ママ「真姫ちゃんがアイドルになりたいなんて言い出すなんて…驚いたわ」

真姫☆「そ、そんなにおかしい?いいじゃない、私だって…」

真姫ママ「え…、だってあなた…言ってたじゃない」

真姫☆「言ってた?何を…」

真姫ママ「学校に行かなくなる前の春頃よ。あの時はあんなに、アイドル嫌ってたのに」

真姫☆「…アイドルを、嫌ってた…?」

真姫ママ「えぇ…、夜遅く帰ってきて…泣きながら…」


真姫ママ「『アイドルなんか大嫌い。もう、やりたくない』って…」



真姫☆「っ!!」

真姫ママ「だからまたやりたくなったのかなってママ驚いちゃって…」

真姫ママ「でも応援するわよ。ママだって若い頃は…」

真姫☆「そ、それって…!」

真姫ママ「え?あぁ…若い頃って言ってもほら…中学生の…」

真姫☆「…」

真姫☆(ママの話はもう、耳には届かなかった)

真姫☆(私の頭の中には、さっきのママの言葉がこべりついて離れない)



『アイドルなんか大嫌い。もう、やりたくない』



真姫☆(…もう…?)

真姫☆(もう、ということは、つまり私は…それまでは、やってた、ということだ)

真姫☆(何を?…決まってる)

真姫☆(アイドルが大嫌いになる理由なんて…UTX学院にひとつしかありえない)

真姫☆(私が…この世界の私が不登校になった理由って、まさかっ…!!)


真姫☆「私も…アイドル専攻だった…!?」

希の家前


ガチャッ

希「…はい、入って」

真姫「お、おじゃま…します」


バタンッ



真姫「…ぅ」

希「どう?半年ぶりの生徒会長のお家は」

希「あの頃とは見えるものも変わってるんと違う?」

真姫「そう…ですね」

真姫「あの時は、周りなんて見ようともしなかったから」

真姫「…こんな、家だったんだ」

希「うちがどれだけ話しかけても、一言も話してくれなくて」

希「結局、次の日からずっと学校に来なくなっちゃって」

希「…ダメだったかと思った。また、心に傷を負った子を助けられなかったって、ひどく落ち込んで」

希「でも、それじゃダメだから…うち、くよくよしないためにすっぱり忘れちゃっててね」

希「考えるとずっと引きずっちゃうタイプやし…他にも助けを必要としている子もたくさんいるし、悪いことやとおもいつつも…」

希「だから新学期始まってすぐ、真姫ちゃん…西木野さんが学校に来てくれたときも、最初は気づかんかってんよ」

希「けどすぐ思い出して…ふふ、あの時は一度も話してくれなかった西木野さんが、今度はあんなにうちを頼ってくれて、すごい嬉しくて…」

希「…でもあれは、ホントは西木野さんじゃ、なかったんよね」

真姫「…」

希「今は、どう?少しは元気、出た?」

真姫「…うん。あの時ほどじゃ、ない」

真姫「4月頃の私は、本当に、何もかもが嫌になって…アイドルどころか、学校すらなくなればいいのに、って思ってた」

真姫「だけど引きこもってる間、あなたのことだけは…私に手を差し伸べてくれたあなたに何も応えられなかったことだけは、とても悔やんでて…」

真姫「一度、家まで行って謝りたいって思って…住所を調べようとしたんだけど」

真姫「調べ方がよくわからなくて。生徒会長だってことは知ってたから、学校のHPで名前だけは知れたんだけど」

希「あ、やっぱりうちの名前、覚えててくれんかったんや。家に誘った時に何度か自己紹介したんだけどね」

希「今日顔見て覚えててくれてちょっとびっくりしたけど、そういうことやってんね」

真姫「え、えぇ…。あの頃のことは本当に…何一つ思い出せないし…思い出したくもないから」

希「んで。知りたがってた住所が知れたけど…どうかな?」

真姫「…あ。あ、えっと…」

真姫「ご、ごめんなさい…。あの時は、何一つ相談できなくて。あんなに、私のこと心配してくれたのに」

真姫「そして…ありがとうございます。こんな私を心配してくれて」

真姫「立ち直れたきっかけの一つに、間違いなくあなたがいるから」

希「…お礼を言われるほどのことでもないよ。うちはうちで、親切心というより…義務感でやってたことやから」

真姫「…それでも」

希「…うん。せやね。ここは素直に受け取っといたほうが、西木野さんにとっても嬉しいことかな」

希「さてと。それじゃ、積もる話はこれくらいにして…せっかく我が家に来たことやし、ゆったりしていってね」

真姫「あ…、はい。ありがとうございます」

真姫「…」


真姫(…懐かしい。あの出来事から、もう半年…まだ半年、って言ったほうが、正しいのかな)

真姫(あの時は、何も感じなかったけど)

真姫(一人きりの暗い部屋に閉じこもってから、この家を訪れた夜のことを、度々思い出していた)

真姫(血のつながりのない、他人…友達の温かみ、というものが、人恋しくなっていた)

真姫(私が復学してもいいと思った理由の大半が、彼女…東條希先輩に、もう一度会いたいから、というものだった)

真姫(UTX学院において数少ない外部との繋がり…。まだ喋ることに抵抗の少ない人物ではあるから)

真姫(友達ができないであろうこれからの学園生活の拠り所に、できるかもしれないって思って…)

真姫(…そして、もう一人…。彼女にも、もう一度…)


希「真姫ちゃん?」

真姫「は、はいっ?」

希「さっきから何度も名前呼んでるのに返事ないから…。あ、もしかして真姫ちゃん、やと馴れ馴れしすぎるかな?」

希「まだ一回しか会ってないし、あの頃も西木野さん、で通してた…はず?やから。西木野さん、でいい?」

真姫「え、あ…はい。ど、どっちでも…いいです」

希「じゃ、あっちの方と区別付けるために、西木野さん、で。西木野さん、うち、料理作ってるから」

希「何かあったら、遠慮なく呼んでね?暇やったら勝手にテレビ付けてもいいから」

真姫「あ、あぁ…お気遣いありがとうございます」

希「ん」


真姫「…ふ」

真姫(やはり、彼女となら、心なしか他の人より緊張せずに話せているような気がする)

真姫(…でも、『あっちの方』…。自称異世界人の…)

真姫(彼女は、希先輩の、どこまでを知っているのかしら…)


希「ねぇ、西木野さん。西木野さんは、あっちの真姫ちゃん…9月からUTXに来た真姫ちゃんのこと、どれくらい知ってるん?」

真姫「えっ、どれくらい…どれくらい、って言われても…」

希「スクールアイドルを始めた、ってことくらいは知ってるんよね?」

真姫「…え、えぇ」

希「んふふ、そっかそっか。やーね?真姫ちゃんが来た9月からのUTXの激動具合と言ったらねー…」

真姫「…」

希「西木野さんも、これから学校に来るんやったら、ちょっとは今のスクールアイドル事情を知っておいたほうが流行に流されんで済むと思うんよ」

希「西木野さんも一度はA-RISEを志した…あっ、ごめん。やっぱまだ…嫌、かな?そういう話…」

真姫「そ、そんなことは…」


真姫(…ない、とまでは言い切れない。あの時ほどではないというだけで)

真姫(アイドルに対して、そしてUTXに対してもまだ多少の…恨み、というものが残存している気がする)

真姫(といっても、ほんの少し、胸の奥に小さいトゲのように残っているだけで、触られるとチクリとする、程度なんだけど)


真姫「…希先輩の話なら、私はなんでも…」

希「ん、そう?じゃあねー…どこから話そっかなー…」

西木野家 食卓


真姫ママ「…真姫ちゃん?」

真姫☆「へっ?」

真姫ママ「どうしたの、さっきから虚空を見つめて」

真姫ママ「もしかして…幽霊でも見える!?暗い部屋でずっと過ごしてたからそういう目に…」

真姫☆「ち、ちち…違うわよーっ!ただ考え事してただけ!」

真姫ママ「うふふ、そう。ならいいのよ。ほぉら、早くご飯食べないと冷えちゃうわよ?」

真姫☆「はぁい…」


真姫☆(さっきの泣き顔はどこ吹く風で、すっかり茶目っ気たっぷりのママに逆戻りね)

真姫☆(彼女としては娘とこうして話せるだけでも相当にテンションが上がって仕方ないのでしょうけど…)

真姫☆(…私としても嬉しいんだけど、今はそれどころじゃない)

真姫☆(そう、この世界の私も、アイドル専攻に通っていたという事実)

真姫☆(過去の私の言葉から推測できるその事実に、私の脳内は埋め尽くされていた)

真姫☆(彼女が心に傷を負い、学院生活の6分の1ほどを無駄に消耗してしまった理由も、もはやお馴染みのアイドル専攻…)

真姫☆(改めてこの世界でもUTX学院というものの存在の闇に、衝撃を受けざるを得ない)

真姫☆(…いえ、UTX学院そのものというよりやはり、元凶は…)

真姫☆(絢瀬絵里…なんでしょうね。全く、この世界ではよからぬことばかりしでかしてくれるものだわ)

真姫☆(音ノ木坂の制服を着た彼女が恋しい。あっちなら程よくアホで見ていてとても癒され…)


真姫☆「あ、そうだ!ママ、あの…」

真姫ママ「ん?なにかしら」

真姫☆「私のクローゼットに入っていた、えーっと…謎の制服、なんだけど」

真姫ママ「あぁ…あれのこと?」

真姫☆「そう、多分アレ。アレ…どうしたかな、って」

真姫ママ「ふふ、あの服はね、私の通ってた学校の制服にとてもよく似てたから、今は私のタンスで大切に保管してあるわ」

真姫ママ「って、前も言ったわね、これ。どこで手に入れたの、って言っても、知らない、ばかりだったけど」

真姫☆「え、えぇ…。いつの間にかあって、代わりにUTXの制服がなくなってて…そ、そう。まだあるのならいいんだけど」


真姫☆(勝手に処分されても困る…ってほどでもないけど)

真姫☆(捨てられると少し複雑な気分になってしまう。私物だし)

真姫☆(…というか今は制服のこととかどうでもよくて…あぁ、ママといるとなんだか集中できないわね)

真姫☆(やはり私には、根っからの引きこもり体質なのかも。集中するなら、自室でひとりきりが一番だと思える)

真姫☆(ママにももう少し、娘との団欒を提供してあげたいけど、ここは私の事情が一番大事だから…)


真姫☆「もぐもぐもぐっ…ごくんっ!」

真姫☆「ごちそうさま!お風呂、後で入るから、ママ先に入ってて!」タッタッタッ…

真姫ママ「え、あ、…なんなのかしら。昨日とは全然違うわね、あの子」

真姫ママ「でも、あれくらい元気なほうが、見ていて楽しいかも」

バダンッ



真姫の部屋


真姫☆「…ふぅ」


真姫☆(というわけで、およそ3ヶ月ぶりの、この世界の私の部屋)

真姫☆(整然としたこの私の部屋とは違い…コードやら何やらでとてもグチャグチャしてる)

真姫☆(こんな部屋で寝たくない…。よく過ごせてたわね、アイツ)


真姫☆「ま、でもどっちみち…」


真姫☆(部屋を漁るのだから、片付けついでにちょうどいい)

真姫☆(この世界の私が、どのようにして心を病んでしまったか。その原因がこの部屋にあるといいんだけど)

真姫☆(もしかしたら、絵里に対抗する術…とか、見つけられるかもしれないし。多分ないけど)

真姫☆(それに、ヤブでも便宜上ドクターを名乗っている者だから、いずれこの世界を去るのなら…)

真姫☆(この世界の全てを正常に戻してから、スッキリして帰りたい。立つ真姫ちゃんは後を濁さないどころか綺麗に掃除して帰るのよ)


真姫☆「まだアイドル専攻には謎も多いし…特に絵里のこととか…」ゴソゴソ…

真姫☆「…あんなに人を傷つけてまで、実力主義を突き通す…。異常だわ」ゴソゴソ…

真姫☆「いくら音ノ木坂とUTXの環境が違っていたとしても、あそこまで考え方が変わるとは思えない…」ゴソゴソ…

真姫☆「もしかしたら、何か他に事情が…おや?」

真姫☆(一枚の印刷紙をコードの束の底からサルベージする。これは…)

真姫☆「UTX学院のホームページ…?」

真姫☆「現在の生徒会長近影…。穂乃果じゃなくて希が写ってるってことは、9月以前に印刷したものかしら」

真姫☆「名前欄に赤ペンまで入ってるけど…なんなのこれ」


真姫☆(よくわからないけど、彼女のトラウマに関するものではなさそうだった)

真姫☆(とにかく今は、時間が許すまでこの部屋を漁り尽くそう)

真姫☆(この世界の私に、『アイドルなんて大嫌い』とまで言わせた原因が何か…)

真姫☆(それが見つかるまで、ひたすらに)

真姫☆(…でも、彼女はもう学校に復帰してるんだし、その必要もないのかもしれないけど)

真姫☆(一度気になると動かざるを得なくなるのが、私の性分だからね)

希の家


希「ん、でねー。そこでまさかのっ…!」

真姫「ふふっ…」


真姫(希先輩の話は、『私』から簡潔に聞いた話とそれほど大差はなかったけど)

真姫(一部、私でもわかるような大袈裟な脚色がしてあって、これまた大袈裟な語り口調で説明してくれるため)

真姫(否応無しにも、口元が緩んでしまう。笑顔になってしまう)

真姫(…こうして過ごす短い時間の中で、私は確信し始めていた)

真姫(あぁ、この人といると…とても安心する)

真姫(長い間口角の上がることのなかった顔面すらも弛緩してしまうほど、安らぎを感じている)

真姫(まるで母親のように…などというと、本当のママに失礼かもしれないけど)

真姫(暖かく包んでくれる心地よい抱擁感は、特別なものがあった)


希「…そして、今のC☆cuteがあったのでした。めでたしめでたし」

真姫「へー…」

希「今じゃ結構な人気で、今度のライブは対外に向けたものにしよう、って言っててねー…」

希「ついにA-RISEを超える時が来たか!?なーんて、真姫ちゃんは言ってるけど…どうなることやら」

真姫「…」

希「しかし学内でもそこそこの支持率も出てきて、UTX内部でも対立が徐々に起き始めているくらいではあるのかなー…」

希「いつか人気が完全に二分して…ってそうなると更に争いが増えるんか…。どうしたらいいんかな」

真姫「…」

真姫(彼女の話は、とても楽しい…のだけど)

真姫(時折、胸の中で渦巻く、この感情は何…?)

真姫(そう…、それは決まって、『私』の名前が出てきた時に、モヤモヤと心を覆うような、感情)

真姫(…よく、わからない)

希「…と、ご飯できたから持ってくね。ととと…」

希「よいしょっ。どや!特性親子丼やよ!デデーン!」

真姫「あ、美味しそう…。料理も上手、なんですね…」

希「ふふふ、まぁ一人暮らしも長いと、嫌でも料理のバリエーションは増えてくもんやよ。ささ、お食べ」

真姫「ありがとうございます。いただきます…もぐっ」

真姫「…うん。美味しい」

希「せやよねー。ふふ、ありがとー。何度聞いても嬉しい言葉やんっ」

真姫「…ふふふ」


真姫(彼女の無邪気な、子供のような笑みがなんだか可笑しくて)

真姫(でもそれでいて、なんだかとても彼女らしい笑顔で、私も釣られて笑ってしまう)

真姫(こんなに顔の筋肉を動かしたのは、いつぶりだろうか)

真姫(明日の顔面の筋肉痛が本気で心配になるほどの、幸せな時間だった)

真姫(彼女の親子丼は実際にとても美味しくて、ともすれば何杯でも食べてしまいそうなほどだったけど)

真姫(「学食の味に頑張って近づけてみたけど、まだまだや」とのことらしい。学食の親子丼、どれほど美味しいものだというのか)


希「…って言っても、最近うちは学食食べてないんやけどね」

真姫「え?」

希「いっつも部室でひとりでお弁当。なるべく生活費を浮かせるためー…って、一人養ってる時点でどうなん、って話やけど」

真姫「…『私』のことですか?」

希「うん。ま、真姫ちゃんのために、って考えればそれくらい、やけどね」

真姫「真姫の、ため…か」

希「ん?何か気に障るようなこと、言ったかな?」

真姫「え?あ、いや…何でもないです」

真姫「えっと、それより…じゃあどうして、学食の味を?食べてないのに…」

希「あぁ、それはね…」

希「去年までは、学食でも食べてたんよ。これも時折、やけど」

真姫「へぇ…、どうして?」

希「友達に誘われて、かな」

真姫「…友達」

希「うん。前はね、めっちゃ友達いたんよ」

希「それこそ、うちは人気者やった。クラスの中心人物、って言えるくらい」

希「毎日毎日、賑やかでね。中学までは一人ぼっちが常やったのが嘘だと思えるほど」

真姫「そうだったん、ですか?」

希「んふ。まぁ昔のことやけど」

希「そう、昔の話。一人ぼっちだったのも…、そして、友達がいたことも」

真姫「え…」

希「うちが人気だったんは、うちの人望があったからじゃなくて…うちがA-RISEに深く関われたからだって気づいたのは…結構後のことやったかな」

希「気づいたら周りには誰もいなくて、それからうちは…騒がしい場所があまり好きじゃなくなってしまった」

希「今は部員のみんなもいるけど、学年は違うし、集まるまでのラグがあって…」

希「なにより、部室でお弁当を食べていると、なんだか昔のことを思い出せて…なんて、バカみたいな感傷に浸ってたりなんかして…」

希「あ、でもでも!仲間はやっぱり大切やよ!愚痴もこぼし合うと、絆が深くなるための潤滑剤になるし!」

希「だから西木野さんも、早く友達を作るべきやよ!きっとクラスにも、いい子たくさんいるでしょ?」

真姫「えっ…あ…」

真姫「…友、達。仲間…」

真姫(友達)

真姫(復学するにあたり、私はそれを半ば諦めていた)

真姫(…うぅん、半ば、じゃない。今はもう、完全に捨てていた)

真姫(友達が欲しくないわけじゃない。他人との触れ合いはむしろ、歓迎したいくらい)

真姫(けどそれは、誰でもいいわけじゃない。話していて、充足感に満たされる人物でないと、嫌)

真姫(長時間の引きこもり生活のせいで他人と喋るときに緊張してしまう体質になってしまったのも一因だ)

真姫(今日一日クラスで過ごして、一度たりとも誰かと目線を合わせられたことなどない)

真姫(メガネのレンズを曇らせて、視線を逸らして、人の集まる教室で孤独に徹していた)

真姫(私だって、もしかしたら…そう、もしかしたら、心の許せる他人がいるかもしれない、なんて考えた)

真姫(…でも、その可能性は潰えたと、今日の経験でわかった)

真姫(『私』…、異世界の西木野真姫のせいで、完全に)

真姫(私に話しかけてくれる人はたくさんいたけれど、それは全て、『私』との差異が可笑しくて、興味本位で近づいただけ)

真姫(まるで檻の中の珍獣を見るかのように。それが私にとって、堪えようもなく嫌で、嫌で堪らなかった)

真姫(だからもう、私には…)


真姫「…友達は、いらない」

希「えっ…」

真姫「少なくとも、同じクラスの人間は…いい、です」

真姫「…友達には、誰もなりたくない」

希「そ、そんなことないって。うちも真姫ちゃんの教室、何度か行ったけど、みんないい子だったけど…」

真姫「…そんなの、感じ方なんて人に依る、でしょ」

希「…まぁ、そうかもしれないけど」

真姫「わ、私は…えっと、その…」

希「ん?」

真姫「わ、私、には…そのぉ…」


真姫(変なタイミングで言い淀んでいるせいか、希先輩が訝しんでいる)

真姫(言うのは正直メチャクチャ恥ずかしい。どうしよう、言ってしまおうか)

真姫(いいや、きっと大丈夫。言ってしまおう)


真姫「…私には、あなたが、いればいいから…」

希「え…?」

真姫「あ、あなたがいれば、寂しくない、って…言ったの!」

希「う、うち…?なんでうち…」

真姫「…なんだって、いいじゃない…ですか」

希「あ、ま、まぁ…そうやけど!そっかー、うちかー…」

真姫「…」


真姫(ヤバい。彼女にとっても結構予想外の返しだったらしく、目が泳いでいる)

真姫(でも、本心なのだから仕方がない)

真姫(今の私にとって、頼れるのは…希先輩しかいないのだから)

希「うちのこと…、信頼してくれている、ってことかな?」

真姫「…」コクリ

真姫(いざ口に出そうとすると、顔から火が出るほど恥ずかしくて、頷くくらいしかできない)

真姫(私が一緒にいたいと、そう思えるのは今のところ、あなたしかいない)

希「…そう、か。そうね…」

希「んふ、ありがと。うちのことそんな風に思ってくれてる、っていうんは、予想外やったけど…」

希「でも西木野さんに頼られてるんはめっちゃ嬉しい!生徒会長冥利に尽きるわー、もう生徒会長じゃないけど」

真姫「…そう、ですか」

真姫(生徒会長じゃなくて、あなたが)

真姫(…私はあなたが、いいのだけど)

希「けど、ずっとうちだけ、だとそれはちょっと困るなー」

真姫「え…」

希「だってうちは、数ヶ月後には卒業しちゃうからね。西木野さんが二年生になる頃にはいなくなっちゃう」

真姫「…ぁ」

希「西木野さんの学園生活が今年で終わるなら、うちだけを頼ってくれてもいいけど、そうじゃないでしょ?」

希「いつかは頼れる仲間、見つける必要があると思うな、うちは」

真姫「…」

希「もちろん!それまではうちは全力で西木野さんのサポートはするつもりだけどね!」

真姫「…わかりました。それでも、私は…平気です」

希「そっか。そう考えてくれたら嬉しいわ」

希「あ、それと…お友達だけじゃなくて、お父さんお母さんとも、仲良くすべきやよ」

真姫「はい…?」

希「今日、真姫ちゃんと立場を交換したのは、両親と話したくないから、なんよね?」

希「面倒な親子の会話を、真姫ちゃんにしてもらうために」

希「けど、それじゃいつまで経っても本当の意味で、親と子の関係が治ったとは言えないんよ」

真姫「え、ぁ…」

希「仮に、明日も真姫ちゃんにあっちへ行ってもらおうって思っているなら…考え直してほしい」

希「真姫ちゃんなら上手くやってくれるかもしれないけど、…それは西木野さんのためにならないし」

真姫「…」

希「親子っていうんは、この親子丼みたいに、心身溶け合って…って、親子丼例に挙げるんはちょっと残酷かな」

希「ま、とにかく!明日は一度帰るんよ?せめて入れ替わるんは交互に。それが最低条件やよ」

真姫「…わかり、ました」


真姫(確かに、私は明日も、『私』と入れ替わるつもりでいた)

真姫(でもそれは家族と会話したくなかったからだけではなくて…)

真姫(…)

真姫の部屋


カチャカチャ…

真姫☆「…」

真姫☆「…チッ」

真姫☆「…」

真姫☆「…っし」

真姫☆「…」

真姫☆「あーっ!ウザッ!芋消えろ!ったく…」


「…真姫ちゃーん、お風呂空いたわよー」


真姫☆「…あ、はーい!」

真姫☆「ふぅ、部屋の物色をしていたと思ったらいつの間にかFPSに熱中していたわ」

真姫☆「特に私の思っていたものは出てこなかったし…しかし、結構面白いのね、FPSって」

真姫☆「これならあっちの私がハマるのもわかる気がするわ。全然活躍できなかったけど」

真姫☆「さてと…じゃあそろそろお風呂に…、ん」


真姫☆(そういえば、ママにもわかるくらい汗の匂いを漂わせているのよね、今の私って…)

真姫☆(…汗かぁ)


真姫☆「…すぅ…、くんくん…」

真姫☆「うーん…、そんなに匂う感じしないけど…くんくん…」

真姫☆「…っは!わ、私ってば何を…」

真姫☆「これじゃあまるで匂いフェチじゃない!しかも自分の匂いを嗅ごうとするなんて…」

真姫☆「やめやめ。とっとと汗を流してフローラルな香り漂わせる真姫ちゃんになりましょう」


ガチャッ バタンッ

希の家


真姫「…ふぅ」

真姫(家主より先にお風呂をお借りして、今はほんのり湯気の上がる身体を借り物のパジャマで着飾っている)

真姫(希先輩との体格差から、すこし大きめのものが出てくるかと思っていたけど、サイズは私にぴったりだった)

真姫(…これ、希先輩も着たのかしら)

真姫「…すんすん」

真姫「洗剤の匂いしかしないわね」

真姫「…」


(希「じゃ、うちもお風呂入るわー。少しの間一人で退屈かもしれんけど、我慢しててねー」)

(希「常識の範疇ならそこらへんのものいじっててもかまへんよー」)


真姫「…いじる、って、何を」


真姫(自分が今いるところはダイニングで、あるものといえば食器棚や花瓶や、その他特に変哲のないもの)

真姫(退屈ならテレビを見てればいい、とも思ったけど、別に見たい番組もないし)


真姫「そこらへん、って言ってたけど…」

真姫「…こ、この部屋でなくてもいいのかな」


真姫(自分の気持ちを誤魔化し、鼓動が少し高まるのを抑え、家の中を散策する)

真姫(そして見つけた、お目当ての部屋)



希の部屋


真姫「…ぅ」ドキドキ…

真姫「か、勝手に入っても、怒られたりしない、わよね…?」

真姫「そ、そう。退屈なんだし、少しくらい…」


真姫(部屋に入った瞬間、リビングやダイニングとは違う、甘い香りが鼻腔を刺激する)

真姫(シャンプーや化粧品や香水や…希先輩本人の匂いが入り混じった香り)

真姫(脳を焦がすような官能的なその匂いに、一瞬目眩を感じ、倒れそうになる)

真姫(悪いことなんて何もしていないはずなのに…ヤバいくらいに緊張してる…!)


真姫「た、他人の家にお呼ばれしてるんだから、べ、別に…部屋に入ったって、いいわよね…!」

真姫「へぇ…、希先輩、こんな趣味なんだ…。意外と…可愛らしいものが好きなのね」

真姫(机の上の筆記用具類やアクセサリー、壁に貼られたアイドルのポスターや飾られたたぬきのぬいぐるみは、私の思っていた彼女のイメージとは、少し違ったものを感じた)

真姫「ここまでくると…ふふ、天蓋付きのベッドとかあってもおかしくないけど、普通のベッドね」

真姫「ただ毛布はふかふかしてて、気持ちよさそう…」

真姫「…」ゴクリッ

真姫「ふ、ふかふか感がどれほどのものか、確かめるだけ…ただそれだけ、なんだから…」

真姫(誰もいない空間に、強いて言えば自分に、言い訳をしつつ…)

真姫(フレームの形が崩れないように、あらかじめメガネを外してから…)

真姫(思いっきり、毛布に顔を埋めた)

真姫「ん、んんっ…すぅっ…んはぁぁぁ…」


真姫(顔を埋めながら、盛大に深呼吸)

真姫(濃厚な女性の香りが、体内に侵入して、神経を痺れさせる)

真姫(へその下のところがジンジンと疼き、指先はピリピリと仄かな痛みが)

真姫(身体が裂けて血が噴出するかと思うほどに、心臓が血液を激しく送り出す)

真姫(胸の中心でミニガンを全力稼働するような衝撃でも、不思議と心地よく感じてしまう)


真姫「はぁっ…、ん、ふぅっ…」

真姫「これが…、希先輩の…匂い…」

真姫「んくっ…、すぅぅぅぅっ…、あ、っはぁぁぁぁぁ…」

真姫「はーっ…、はーっ…。ふ、ふふふふ…ヤバ…」

真姫「こんなこと、変態のすること、なのに…」

真姫「でもっ…、んんっ…!すぅぅっ…」


真姫(肺の中の空気を全て入れ替えるかのように、只管に鼻呼吸する)

真姫(満たしたい、満たされたい)

真姫(この匂いに包まれた全身のように、心までも、彼女に)

真姫(暗澹とした絶望の淵に沈む私を助けようとしてくれた人)

真姫(あの時は少しウザったいとすら思っていたけれど)

真姫(日を経るにつれ、次第に膨れ上がる、恋しさ)

真姫(彼女なら私を認めてくれるんじゃないかって…こんな、どうしようもない私でも)

真姫(自身の矮小さをさらけ出した上で、それでも私を愛してくれる人なのかもしれない、って)

真姫(部屋を離れ、独りでなくなってしまった今は、とても心細いから)

真姫(満たされたくて、満たしたくて)

真姫(彼女だけに、私の全てを捧げて)

真姫(彼女を、私だけのものにしたくて)

真姫(そんな、独善的で、独占的な考えを抱いてしまう)



真姫「ふすぅっ…ぷ、はぁぁっ…」

真姫「布団もいいけど…ま、枕はどうなのかしら」

真姫「あの艶やかな長髪が直に敷かれた…、むふっ…、想像しただけで鼻から汁が…」

真姫「ごめんなさいごめんなさい…!でも抑えられないからぁっ…!」

真姫「じゅるっ…!希先輩の頭の匂い…!い、いただきっ…」


真姫(そう言ってまた鼻を近づけようとしたとき)

真姫(枕元に置かれた写真立てが目に入った)


真姫「…これ、は…」

真姫(メガネをかけ直して確かめる)

真姫(希先輩が写った写真)

真姫(それは二枚あって、一枚は古いものと、もう一枚は最近のもの)

真姫(どちらの希先輩も、人に囲まれている)

真姫(古い方は多分、夕食時に話していた、昔の友人なのだろう)


真姫「…本当に、いっぱいの人に囲まれてる」

真姫「人気者、だったのね」


真姫(その友人は全て離れていき、今は部室で一人昼食を食べている、とも言っていた)

真姫(彼女も孤独なんだって、そこで少し思っていたんだけど)

真姫(…でも、そうじゃないのよね)

真姫(新しめの写真の方に目を向ける)


真姫「私…」

真姫「…いえ、『私』が、写ってる」


真姫(それは『私』と、そして今日の朝出会った、おそらく『私』と同じスクールアイドルの仲間が写った写真だった)

真姫(こちらは前の写真よりも当然のように人は少ないし、希先輩も古い写真ほど中心にいるわけでもない)

真姫(けど…)


真姫「こっちの先輩は、すごく楽しそう」

真姫「周りの人たちもみんな…すごい笑顔」


真姫(穢しようもないほどの純粋すぎる喜び)

真姫(写真からは今にも動き出しそうなくらいの躍動感すら伝わってくる)

真姫(簡潔に表現すれば、これが青春ってもの、なのかしら)

真姫(私が嗅いだものとは、違う種類の汗を流す…かけがえのない大切な宝物)

真姫(経験したことない私でも、それが解る)

真姫(わかってしまう。この笑顔を見れば)


真姫「…」

真姫「私には…」

真姫「私は、これ以上の笑顔を…希先輩に与えられそうにない」

真姫「全てをさらけ出しても…彼女を…」


真姫(…独占なんて、できるわけがなかったのよ)

真姫(それが赦されるのは、赤子が親に求める時だけ)

真姫(誰もこんなわがままを、赦しはしない…のだから)

真姫(そう思うと途端に虚しさが身体に満ちる)

真姫(勝手に期待して、勝手に裏切られて、人知れず道化を演じていたかのような馬鹿馬鹿しさで)

真姫(寂しさで、ほんのちょっぴり涙が出た)

希「西木野さーん?」

真姫「ひぃっ!!」ビクゥッ


真姫(涙ぐんでいると急に後ろから声をかけられ、心臓が跳ね上がる)

真姫(そのまま口から飛び出すかと思った)


真姫「のののの、希せんぱいっ!!あの、これは、え、その…!」

希「西木野さん、もしかして…」

真姫「ちがちがちが、いやそうじゃ、えっとだからこれはそうでなくてあれがこれでうんたらかんたらししゃごにゅう…」

希「…もうおねむなん?」

真姫「あだだだだだだだ……、は?」

希「いや、ベッドにいるから…眠たいの?そこ、うちのベッドなんやけど」

真姫「あ、え、そのっ…、眠たいっていうか…」

希「西木野さんがベッドの方がいいって言うんやったらそこでもいいけどね。どうする?」

真姫「えっ…、あ、じゃあ…」

真姫「…お、お願いします」



希「じゃ、電気消すねー」パチリ


真姫「…ぅ」

真姫(まだ眠たくないのに寝る羽目になってしまったわ)

真姫(引きこもり時代は夜中までFPSは当然だったからこんな早くに部屋を暗くしても寝られる気がしない)

真姫(しかもよりにもよって希先輩のベッドで寝る、だなんて…!)

真姫(先ほど全身に満ちた虚しさが更なる興奮によって塗り替えられる)

真姫(鼻からの流血で枕を汚してしまわないか心配だった)


希「…西木野さん」

真姫「は、はい。ナンデスカ」

真姫(ベッドの近くで布団を敷いて、希先輩も隣で寝ている)

真姫(よくよく考えれば、これだけでも相当レアでアレな体験ね…)

希「ん、何でもないんやけど…ごめんね、眠たいのに話しかけて」

真姫「ベツニダイジョウブデス」

希「そか。あ、そのパジャマ着心地はどう?うちの古着で…」

真姫「っ!」

真姫(や、やはりこの服は先輩の古着だったのね!ってことはこれにも先輩の汗が染み込んでいたりなんか…)

希「今は真姫ちゃんが着てる奴なんやけど」

真姫「…」

真姫(…自分と同じ顔のヤツの汗なんて嗅ぎたくもなかった)

希「…着づらい?」

真姫「あ、いや…ぴったりでちょうどいい感じ…です」

希「うん、それならよかった。キツくて寝苦しかったりしたらちょっと心配だったからね」

真姫「…」

真姫(それは、『私』よりも体格が太っている心配をされた、ということだろうか)

真姫(考え過ぎかもしれないけど、ちょっと悲しかった)

希「…なんか、こうしてると9月の頃、思い出すなぁ」

真姫「9月…?」

希「うん、真姫ちゃんがここに来た時のこと」

希「あの時はまだ真姫ちゃんのことを、西木野さんやと思ってて」

希「スクールアイドル始めた時なんか、えらくアグレッシブに生まれ変わったんやな~、なんて思ってたんよ」

真姫「…へぇ」

希「西木野さんは、明日も学校行くよね?」

真姫「え?あ…行きますけど。親にも、迷惑かけられないし」

希「学校に行く理由って、親に迷惑かけたくないからってだけ、なん?」

真姫「そ、それは…」

真姫(…あなたに会いたかったから、なんてクサイ台詞、演劇やってても言える気がしない)

真姫「…それだけです。他に理由なんて…ない」

希「そっか…。それなら仕方ないけど…でも、これから学校に通い続けるなら、楽しみを見つけたほうがいいよ、ゼッタイ」

希「ほんの小さな、どんなくだらないことでもいいから、学校が楽しみになるような。そしたら、毎日行けるようになる」

真姫「…楽しみ」

希「うん。どうしても見出せないって思ったら、いつでもうちを頼ってくれていいから。お昼休みと放課後はアイドル応援部にいるし」

希「いつかうちだけじゃなくて、他にも頼れる仲間、友達が西木野さんにも出来てくれたら、うちも、とっても嬉しいんよ」

真姫「…」

希「生徒会長になってから、心に傷を負った子を何人も見てきて、その子達が次第に元気になっていって、忘れた頃に友達連れてお礼にいいに来てくれた時なんか…」

希「うち、涙が出るほど嬉しかったんよ。生徒会長やっててよかった、って、心から思える瞬間やった」

希「9月に真姫ちゃんを泊めてからこれが最後の生徒会長の仕事やね、なんて思って、ほんの少し寂しかったりもしたけど、まだうちを頼ってくれる人がいて」

希「もう高校生活も終わりってときに、ここまで幸せな気持ちになれるなんて…うちはめっちゃ恵まれてるんやと思うんよ、なんて…ふふ」

希「こんなこと、西木野さんに言ってもしょうがないよね。…もう、寝ちゃったかな?」

希「それじゃ、うちもおやすみするね。明日、また一緒に学校行こうね」

希「…おやすみなさい」

真姫「…」


真姫(…寝ては、いなかった)

真姫(彼女が淡々と語るその言葉を、ずっと聞いていた)

真姫(希先輩の喋り方がまるで、我が子をあやす様な、慈愛に満ちたものであるせいで)

真姫(諦めかけた独占欲がまたもや湧き出てくる)

真姫(彼女の声が、笑顔が、何もかもが愛おしくて)

真姫(…信じがたいことだけど、もしかしたら私は)

真姫(西木野真姫は)

真姫(東條希に)

真姫(…恋を、しているのかもしれないなんて)


真姫「…バカバカしい」


真姫(そんな愚かな考えを、小声で呟いて否定して)

真姫(不貞腐れるかのように忘れるかのように、無理やり目を閉じて、寝床についた)

翌朝

西木野家


真姫☆「おはよ…あれ、ママ…」

真姫☆「…そっか。まだ寝て…」

真姫☆「こっちは朝練があるから早起きに慣れてるけど、ママはそうじゃないものね」

真姫☆「いってきます、を言いたかったんだけど、起こすわけにもいかないし…」

真姫☆「…メモを残して先に家を出ましょう。いってきます、ママ、あと…いれば、パパもね」



希の家


真姫「…ん、んんっ…んぁ…」

真姫「んっ…ふわぁぁぁぁぁ…、今、何時…」

希「あ、おはよ。意外と早起きやね」

真姫「え、あぁ…希せんぱ…ほわぁぁぁぁっ!!?!?」

希「え、あっ…ごめんごめん。着替え中やった…」

真姫「な、何も見てないからっ!布団かぶってるから、早く着替えてくださいっ!!」

希「わ、わかった…。ごめんね、気ぃ使わせて…」



ダイニング


真姫(いつもより早寝だったせいで、起きるのも早かった)

真姫(こんなに早く起きても、することなんてないのに)


真姫「…もぐもぐ」

希「西木野さん、いつ出る?うち、そろそろ出ようかと思うんやけど」

真姫「え…、どうして?まだ一時間目には全然時間が…」

希「スクールアイドルの朝練があるんよ。だから早めに行かんとね」

真姫「あぁ…、そうなんですか。大変ですね。希先輩も踊るんですか?」

希「えっ…、あ、うちはアイドルじゃないから…。部室を開けるために部長が行かんといけないからね」

真姫「そのためだけに?…なおさら大変ね…」

希「…うん。ま、だから…後から出るなら、西木野さん、戸締りしてくれる?鍵置いていくから」

真姫「わかりました。任せてください」

希「ありがとっ!登校したらアイドル応援部部室まで来てくれればいいから。ほな、お願いね」


ガチャッ… バタンッ


真姫「…わざわざ部室を開けるためだけにこんな早起きするなんて」

真姫「殊勝な人なのね…もぐもぐ」

真姫「…あ」

真姫「やっぱり一緒に学校、行けばよかったかな」


真姫(…昨日の彼女の、寝る前の言葉を思い出して)

真姫(あれは彼女自身の願望だったのかな、なんて少し思った)

UTX学院

アイドル応援部 部室


真姫☆「おはよー…」ガチャッ


花陽「あ!おはよ、真姫ちゃん!」

希「おはようさん。眠そうやね」

ことり「おはよー」

海未「おはようございます。今日はメガネかけていないのですね」

真姫☆「…それは違う方だって」

海未「わかっていますよ。と、さて…今日は朝練の前に」

ことり「次のライブ!だよね!!」

真姫☆「そうね。もうあとは衣装とステージさえ揃えば問題ないし…」

真姫☆「ハイペースで行けば来週末には披露できるかも知れないわね」

花陽「11月ギリギリだね…大丈夫かなぁ」

希「やっぱり一ヶ月に一回の新曲リリース、&ライブ、なんて無茶な設定やと思うけどねー」

真姫☆「そのくらいしないとトップは取れないの!できるできる!!」

真姫☆(μ'sなんて10月中に2回新曲リリース&ライブしたしね。トラブルもあったくせに)

真姫☆(…考えてみればどこにそんな余裕があったのかすら不明だわ。私たちって相当すごいことやってたのね)

海未「で、肝心の場所ですが…」

花陽「つ、次こそ大々的に、みんなの見ている前でのライブ、なんだよね…!?」

ことり「そのつもりなんでしょ?うっわー、ドキドキするねー」

真姫☆「外部の方にも見てもらえる場所でいいところとなると…」

希「前にも提案したUTX前が一番やと思うな、うちは」

海未「そう、ですね…。人の集まれるスペースもありますし、休日に登校する生徒の邪魔にならないようにすればいいかと」

海未「できれば大型モニターも使いたいところですが…学校に許していただけるかどうか」

ことり「学校としてはA-RISEを推していきたいんだもんね。貸してくれないって可能性も…」

花陽「でもでも!もう私たちだって結構人気だよね…?前のライブのおかげで知名度もグンと増したし」

希「せやね。もはやUTXの顔の二代目、って言えるくらいまでには近づいてるかも」

真姫☆「だったら認めさせるほかないでしょ!むしろここから始まるのよ、A-RISE一強の体制を崩すための革命は!」

海未「そうですね。では今日にでもお願いしに行きましょう。来週の休日にモニターを貸してもらえるようにと」

ことり「よぉし!決まりだね!顔面ドアップで撮されても恥じないようなパフォーマンスにしなきゃ!」

花陽「ど、どあっぷ…!恐ろしいです…!」


希「…ふふ」

希「みんな、頑張ってな…」

真姫(そろそろといったところで、希先輩の家を出る)

真姫(ちゃんと忘れないように、鍵を閉めて…これを忘れてしまうと非常に危ないからね)

真姫(…さてと)

真姫(やっぱり、学校へ向かうのはすこし億劫)

真姫(希先輩からは友達を作れ、と言われたけど…私には出来そうにもない)

真姫(今の私が学校から求められる楽しみ、といえば、やはり希先輩の存在くらいしかありえないのだ)

真姫(…というわけで今日も、誰からも話しかけられないように、顔を伏せて登校する)

真姫(流石に今日も、昨日みたいに改札で引っかかるようなことはない…はず)



アイドル応援部 部室


ことり「はふー…、本番も近いから練習も朝からハードだねー…」

花陽「だけど歌もダンスも、前回以上にクオリティの高いものにはなってきていると思う!…多分!!」

海未「元気のよい自信のない発言ですね…。っと、ではそろそろ予鈴もなりそうですし、私はこれで」

ことり「あ、じゃあ私も!またお昼ねー」

花陽「私も戻ってるね。また放課後にね、真姫ちゃん!」


ガチャッ バタンッ


真姫☆「…と、じゃあ私は始業のベルがなるまで待機ね」

真姫☆「誰かに出て行くの見られるのも困るし」

希「今は生徒会の子たちが挨拶してるからねー」

真姫☆「ん?希は教室戻らないの?あ、そっか、戸締りあるものね…。部室以外の場所で待機しておいたほうがいいかしら…」

希「ん、まぁそれもあるんやけど…」


ガチャッ

真姫「…先輩、鍵…あっ」

真姫☆「あ、私」

真姫「…ま、まだ慣れないわ。同じ顔がいるって事実…」

希「あー、ありがと。家の鍵持ってきてくれたんやね」

真姫「は、はい…。戸締りもしておきました、ちゃんと」

真姫☆「あぁ…、家の鍵を待ってたのね」

希「うんうん、ありがとうね。そろそろ授業も始まるし、うちらも部室出よか」

真姫☆「そうね。…あ、そういえば今日も入れ替えるの?」

真姫「え、えぇと、それは…」

希「今日はダメ。もし西木野さんがまた来たい、って言うんなら、明日やね」

希「せめて交互にでも、親に顔見せないと解決には至らないからね!」

真姫☆「あぁ、そうね。あ、昨日はママとしか話してないわ。パパ、帰ってこなかったから」

真姫「そう、なの…」

真姫☆「だから、今日パパが帰ってきたらちゃんと話すのよ?ママにも心配かけちゃダメだからね」

真姫「わ、わかってるわよ。あなたに言われなくても…わかってるから」

希「まぁまぁ、話はまた後でね?さ、西木野さんも教室戻ろっか」

真姫「…うん」

1年E組


真姫「…」


女生徒「あ、真姫ちゃんおはよー」

真姫「…おはよう」

女生徒「…あ、ご、ごめん。いつもみたいに挨拶しちゃって…」

真姫「…」


真姫(項垂れながら自分の席へと座る)

真姫(朝から気分は最悪だった)

真姫(あわよくば、希先輩とまた二人きりになれる、なんて思いながら学校に来たら)

真姫(…一番見たくないヤツの顔を見てしまった)

真姫(学校に来ても、私はまだ『私』に間違われる)

真姫(やはりずっと、あっちに学校に来てもらったほうが良かった気がしてきた)

真姫(ただ、こうしてアイツの妹とという設定にするには、やっぱりこのタイミング以外難しいところだし、仕方ない…)

真姫(いつかアイツも、元いた世界に帰ってしまう事情もあるんだし)

真姫(…でも、それなら帰るまではここにいてくれてもよかったかも)

真姫(まだ、私は学校に楽しさを見出せそうにない)

真姫(ただ無心に、時が過ぎ行くのを、願うだけ)




放課後


キリーツ、レーイ…


真姫「…ありがとうございました」


真姫(終わった…)

真姫(長い長い一日だった。ゲームをしている時の数十倍の体感時間を過ごした)

真姫(無心なんて出来る訳もなく、妄想と苛立ちに心を弄ばれて一々時間を気にしていたせいで、さらに長く感じていたのかも)

真姫(…誰にも話しかけられないように、空気に徹していたのも、却って寂しさを加速させただけだった)

真姫(もういい。帰ろう。帰ってゲームしよう。FPSの中なら私を認めてくれる人もいる)

真姫(そう思い、席を離れたとき…)


「…西木野真姫、さん?」


真姫「…っ!」

真姫(…話しかけられた。だ、誰?)


「私、2年の~~って言うんだけど」


真姫(聞いたことのない名前だった。当たり前だ。私は昨日この学校に戻ってきたばかりなんだし)

真姫(じゃあ、『私』の知り合い?…でも、彼女の方も私と始めて会ったような口ぶりだし)


「…ちょっと用事があって、付いてきてくれる?すぐ済むから」


真姫「え…あ、はぁ…」

真姫(…ここで断れるような度胸とコミュ力は持ち合わせていない。今の私なら容易くキャッチセールスに引っかかりそうだった)

真姫(でも、すぐ済む、っていうなら…なんて軽い気持ちで、その知らない誰かの後ろをトボトボとついていくことにした)

真姫(でも)


真姫(彼女に付いていった先で、私は)


真姫(激しく心を揺さぶられることとなる)




真姫(胸の奥にひっそりと眠る、小さな小さなトゲの種子が)


真姫(…ほんの少し、芽吹いたような気がした)




真姫「はっ…はっ…!!」タッタッタッタッ…

真姫「はぁぁっ…!!はぁぁっ…!!」タッタッタッタッ…



西木野家


ガチャッ


真姫「ただいまっ…!!」



真姫ママ「あぁ、お帰りなさい。今日は早かったのね」

真姫ママ「ね、今日はパパ、早めに帰って…」


真姫「ごめん、今日ご飯、いらないからっ…!!」タッタッタッ…


真姫ママ「…え?」



真姫(大慌てで自分の部屋に飛び込み、ドアに鍵をかける)

真姫(今誰かと話ができる精神状態じゃなかった)

真姫(落ち着ける独りの部屋で、心を落ち着けなければ)

真姫(私は、どうなるかもわからない)


真姫「はーっ…!はーっ…!!」

真姫「ケホッ…!!コホッ…、が、はぁっ…!はぁっ…!!」


真姫(慣れない運動をして、心臓が悲鳴をあげている)

真姫(だけど今はそれどころじゃない。心臓なんてどうでもいい)

真姫(もう、何が何だかわからなくて、変な涙が溢れて止まらない)

真姫(私は…ねぇ、私は一体どうしたら…)



真姫「どうしたら…どうしたら…」

真姫「どうすれば、いいのよぉぉぉ…!!?」



真姫(頭を抱えて、塞ぎ込む)

真姫(人生最大の葛藤に答えが出るのは、その翌日だったけど)

真姫(その時の私に、それを知る由もなかった)

放課後

UTX学院前


真姫☆「…そろそろ、授業も終わって部活が始まる時間よね」

真姫☆「授業中はほとんど会話はないとは言え、休み時間やお昼ご飯時にも皆と会えないのは寂しいわね」

真姫☆「まぁ元々私はこの世界の住人ではないんだから、贅沢は言ってられないわよね」

真姫☆「もうあっちの私、学校抜けたかな?じゃあ私も…」


グワンッ…


真姫☆「…うっ」

真姫☆「ま、また…吐き気…?うぇっ…、気持ち、悪い…」

真姫☆「今度は、か、かなり、キツい…!う、ぐぅっ…!」

真姫☆(この感覚…どこかで…)

真姫☆「…はぁっ、はぁっ…。や、やっと収まった…」

真姫☆「もしかして、何か病気…?そんな…こんな時期に」

真姫☆「でも、吐き気はあっても弱音を吐いてる場合じゃない…!笑顔のトップアイドルまで、あと少し、なんだから…!」

真姫☆「練習に、行きましょう」



アイドル応援部 部室


ガチャッ

真姫☆「…あれ」


希「ん、真姫ちゃん。遅かったね」

真姫☆「…みんなは?」

希「先音楽室向かったよ。真姫ちゃんなら後からでも大丈夫だろう、って」

真姫☆「はぁ…、薄情ね。待っててくれてもいいじゃない」

真姫☆「で…、あっちの私はもう帰った?」

希「いやぁ…、うちに聞かれても。多分帰ったん違うかな?」

真姫☆「…そう。ま、ここまで来てから聞いても仕方のないことよね」

真姫☆「じゃあ、着替えてから練習に…」

真姫☆「…うっ」クラッ

希「…真姫ちゃん?」

真姫☆「な、なんでもない…なんでも」

希「調子、悪いん?」

真姫☆「…少しね。平気よ、これくらい」

希「…自分だけでの判断は危険やよ。体調の変化を見過ごしてると取り返しのつかないことになるかもしれんし」

真姫☆「…はぁ、そうね。そのとおりだわ」

希「今日はうちも、練習行くわ。見学だけやけどね」

真姫☆「…お願い」

音楽室


ガチャッ

真姫☆「…遅れたわ、ごめんなさい」


花陽「あ、真姫ちゃ…あれ、部長…?」

ことり「希ちゃん先輩まで…。練習?」

希「いや、ちょっとね。真姫ちゃんの調子が悪いかも知れないから、練習中に何かあってもすぐに対応できるようにって」

海未「体調不良ですか…?気分が優れないのでしたら無理に練習するべきでは…」

真姫☆「大丈夫。考えすぎよ。ほんのちょっぴり吐き気があるだけで、身体には異常はないはずだから」

真姫☆「マジでダメそうなら素直に引き下がるわ。…そんなことはないでしょうけど」

ことり「なんか素直そうじゃない応対だなぁ…。ホント、無理しないでよ?」

真姫☆「わかってるって」

花陽「心配だよ…」

海未「真姫が平気だというのならば仕方ありません。では準備運動から…」



数十分後…


希「…」


海未「ではもう一度、ダンスのおさらいに行きましょう。部長、手拍子お願いします」

希「ん。了解」


希「ほな、行くよー?いっせーのーで…」

希「ワンツースリーフォー…」パンパン…


花陽「よっ…ほ、はっ…」

ことり「花陽ちゃん、立ち位置もう少し左…!」

花陽「はいっ…!」

海未「と、ふっ…やっ!」

真姫☆「うん、いい感じ…!もうほとんど完璧…とっ…!あとは最後の決めポーズさえ…」


グワンッ…!!


真姫☆「…っ!!」

真姫☆(ま、マズっ…!最大級の…!)

真姫☆(身体が…頭が…揺れっ…)


バタンッ!!


海未「っ!!」

ことり「真姫ちゃんっ!!」

花陽「だだだ、大丈夫!?真姫ちゃんっ!!」

真姫☆「…大丈夫、こけた、だけ…だから」

希「…」

真姫☆「の、希…」

希「…今日は、おやすみ、やね」

真姫☆「…わかったわよ」

真姫☆(そのあとの今日の練習を、私は全て見学した)

真姫☆(こんなこと、スクールアイドル始まって以来の不覚だけど…)


希「真姫ちゃんは何でもかんでも自分ひとりで頑張りすぎ」

真姫☆「…そんなことないわよ。みんなだって…」

希「人一倍、背負い込んでるってことよ。それが祟って疲労でそうなったん違うん?」

真姫☆「…そうかもしれないけど」

希「…経験者やからって、調子乗ってるんと違う?」ボソッ

真姫☆「ぅ…」

希「なんてね。今はとにかく身体を休めて、明日からまた頑張ろね」

真姫☆「…はい」


真姫☆(希がいてくれたおかげで歯止めが効いた)

真姫☆(もし支えてくれる人が誰もいなかったら、私はもしかしたら、無茶していたかもしれないから)

真姫☆(一昨日の夜に希が言っていた、『このグループには後ろで見守ってくれる人が必要』っていうのは…)

真姫☆(…あながち、まちがってないのかも)





希の家


ガチャッ

希「ただいまー」

真姫☆「ただいま。久しぶりね、我が家。一日帰ってないだけだけど」

希「おかえりー。我が家ちゃうけどなー」

真姫☆「いいの。もうここはこの世界での我が家って決めたわ」

希「ふふ、そこまで思ってくれてたら逆に嬉しいかも。じゃ、我が家で二人、今日もゆったりしよな~」

真姫☆「そうね…。あぁ…、希の手料理が恋しいわ。はよ。はよはよ」

希「わーかってるって。今日は元気の出るもの、作ってあげないとね」

真姫☆「よろしくお願いするわ」

真姫☆(…今日の晩ご飯は牛や豚の臓物を甘辛く煮たり焼いたりしてかつニンニクやネギやその他諸々たっぷりのよくわからない丼だった)

真姫☆(よくわからないけど味だけは抜群に美味しかったわ。…明日の口臭が気になるけれど)


真姫☆「げぷっ…。ふぅ、相変わらずのお肉メニューね…」

希「安売りしてたからねー。たっぷり買い込んだから明日も何らかのホルモンかなー」

真姫☆「…なんで賞味期限の短いものをたっぷり買い込むのよ…」

希「まぁまぁ…。あ、そういえば」

希「昨日、真姫ちゃんはどんな感じのこと、ご両親と話したん?あ、お母さんだけやったっけ」

真姫☆「何を話したか…?えっと…限りなく無難な会話ね」

真姫☆「日頃の会話が少なすぎたせいか逆にそこまで踏み込んだ会話はなかったわ。パパがいなかったのもあるけどね」

希「ふぅん、そっか。じゃあ今日の西木野さんが却って大変かも?」

真姫☆「…かもね。それで言ったら、そっちはどうなのよ?」

希「そっち?」

真姫☆「昨日。あっちの私とどんな会話したの?」

希「あー…そっか」

真姫☆「それと、アイツが春から不登校になった理由…、アイドル専攻が関わってるのよね」

希「…知ってるん?」

真姫☆「えぇ。ママとの会話からほんのちょっぴりだけ、だけどね」

真姫☆「そのことも含めて、知っている限りアイツに関しての事情を聞いておきたいわ」

希「なんでよ。真姫ちゃん関係ないやん」

真姫☆「知りたいの。考えてみれば、私はアイドル専攻の内部事情をほとんど知らないし」

真姫☆「絵里や穂乃果たちの行動原理を知れたら、彼女たちと敵対する上で有利に働くかも知れないじゃない」

希「知りたいだけなのをそれっぽく言い繕ってる風に聞こえるなぁ~」

真姫☆「…もうそれでいいから、教えてって」

希「いいけど…うちが西木野さんに関して知ってることはほとんどないよ」

希「会話も、春時点ではゼロに等しかったし」

希「それに、彼女について知っても、えりちや穂乃果ちゃんの対策にはならないと思うけどね」

真姫☆「どうしてそう言い切れるのよ」

希「別に、えりちや穂乃果ちゃんにいじめられてた、とか、そういうんじゃないから」

真姫☆「え、じゃあどういう…?」

希「あんまよく知らないけど…多分、自分の限界、違うかな」

希「アイドル専攻のキツい練習量についていけなくなって、ギブアップ…とかやったと思う」

真姫☆「まぁ、そうでしょうね。春時点での私がいきなりハードな練習なんてしたら…」

真姫☆「…っていうか、まずどうしてアイドルを始めよう、なんて思ったのかが謎なんだけど」

希「それはうちも知らんわ…。なんで、なんやろうね?」

真姫☆「…さぁ、皆目見当も付かないわね」

希「…じゃあ真姫ちゃんは、なんでアイドル始めよう、って思ったの?」

真姫☆「え…?」

希「もしかしたら、西木野さんも真姫ちゃんと同じ理由かもしれないから、参考までにね」

真姫☆「私がアイドルを始めるきっかけ?そうね…」

真姫☆「…危なっかしいやつに誘われたから、かしら」

希「ふんふん」

真姫☆「何も考えてないように見えて、実は考えてて…と思ったら本当に何も考えてない、楽観的な子にね」

真姫☆「私も最初は乗り気じゃなかったんだけど、最終的に言いくるめられて、…後、お友達に勇気をあげた付き添いで、成り行きってのもあったかな」

真姫☆「気づいたらやってて、気づいたら好きになってた、みたいな感じかしら…」

希「へー…」

真姫☆「…って!私のことはどうでもいいのよ!そっちはどうなのって私が聞いてるんだから!」

真姫☆「昨日あっちの私とアイドル専攻のことについて何か話したの?」

希「いや、そのことはデリケートな問題かな、って思って触れなかったわ」

希「なんてったって、西木野さんは一度はアイドルが大嫌い、って言ってた子やから」

真姫☆「あぁ…そういえばそうだったらしいわね。…でも、練習がハードだからって、アイドルまで嫌いになる?」

真姫☆「やっぱり、実はいじめられてたからじゃ…」

希「…うーん、でも春頃にうちの家に泊まったときに、うつむきながら延々と自分を責めている感じ、あったしねぇ…」

真姫☆「責めている…?」

希「なんか『練習についていけない私とか死んじゃえ』みたいなことをブツブツ…。ちょっと怖かったわ」

希「誰かからの嫌がらせならそのことについてもなんか言いそうなものやけど、それは特になかった気がするし…」

真姫☆「…うーん、じゃあやっぱり単純に練習のハードさに嫌気がさしたから、なのかしらね」

希「かもね。…で、昨日話したことは…えっと、あれやね。友達の話」

真姫☆「友達…あぁ、何となく想像がつくわ」

希「久しぶりに登校してきたなら、とにかく友達作ろうね、的なことを言ったんよ」

真姫☆「でしょうね。あなたが言いそうなことだわ」

希「で、そしたら…えー…」

真姫☆「どうしたのよ、そこで言い淀んで」

希「…なんか、ちょっと恥ずかしいんやけど」

希「うちが友達作ったら?って言ったら、西木野さんは…」

希「友達はいらない、…って言って、そのあとに…」

希「あなたさえいればいい…って」

真姫☆「えっ」

希「うちびっくりして、目がこの時期に寒中水泳始めてたわ…」

真姫☆「それは私も驚きね…。あっちの私って、そんなに希のことを?なにかしたの?」

希「いや…うちは一回この家に泊めただけやけど。まさかそこまで信頼されてるなんてね…」

真姫☆「そうね…。どうしてそこまで…」

希「…うちも、かなり謎やったけど」

希「でも、今真姫ちゃんと話して、ちょっとだけ理由がわかったかもしれんよ」

真姫☆「え?」

希「真姫ちゃんは多分…染まりやすい子、なんじゃないかな」

真姫☆「ど、どういう意味よ、それ…」

希「真姫ちゃんがアイドルを始めたきっかけも、誰かに誘われたから、なんでしょ?元々アイドルに興味があったとかではなく」

真姫☆「ま、まぁね。音楽には興味はあったけど」

希「多分、真姫ちゃんは誰かがその方向に引っ張ってくれれば、すぐにそっちに寄っていっちゃうタイプなんやと思うわ」

希「好きでもなかったアイドルを、好きになれる程度には」

真姫☆「…なんか納得いかないけど、まぁ…そうかもね」

希「で、おそらく西木野さんも真姫ちゃんと同じ。アイドルが好きになった理由も似てるん違うかな」

真姫☆「誰かに誘われたから…、ってこと?」

希「多分ね。で、うちを頼ってくれるのも…」

希「春、うちが西木野さんを家に泊めてあげたから。その時の経験に、心が引っ張られているんよ」

真姫☆「…あぁ。なんとなくわかるわ」

真姫☆「引きこもり暮らししてたら、他に頼るもの、無くなっていっちゃうでしょうし」

真姫☆「孤独な日々が重なるごとに、あの時のあの人は優しかった、って心の中で思い出が増幅していっちゃうのかも」

真姫☆「そっか、だからあのプリント…」

希「まぁ、うちの推論やから、正しいとは言い切れないけど…」

希「だから、今の西木野さんはきっと、とても誰かに染まりやすい状態、って言ってもいいと思う」

希「…いや、違うかな。心を許している人に染まりやすい、って感じかな」

真姫☆「そして、その心を許している数少ない人物が…」

希「うち、か…。喜んでいいやら困っていいやら…」

真姫☆「いいんじゃないの?あなたが根気よく友達作れって言ってたらあの子も友達作ろうって気になれるってことだし」

希「…せや、ね。そっか…」

希「…」

真姫☆「多分花陽だったらあっちの私でもすぐ仲良くなれるだろうし、親衛隊のみんなだって…」

希「ねぇ、真姫ちゃん」

真姫☆「はい?な、なによ」

希「…真姫ちゃんってさ、いつか…帰る日がくるんよね」

真姫☆「え、えぇ…。そうね、そう、なるわね…」

希「その時、C☆cuteはどうするつもりなん?」

真姫☆「えっ…」

希「…真姫ちゃんが抜けて、それでおしまい?」

真姫☆「…そうは、させたくないけど」

希「そうやんね。うん、そう…。UTXでこれからもC☆cuteは続けていくべきやと思う」

希「…だったら、真姫ちゃんが抜けたあとのことも、考えておかないと」

真姫☆「の、希…まさか、あなた…」



希「…西木野さんを、C☆cuteに勧誘するべきや」

真姫☆「はぁっ…!?え、あ、ちょっ…はぁ!?」

真姫☆「の、希…それマジで言ってるの?」

希「大マジや。西木野さんを、今からでもC☆cuteに入れてあげよ」

真姫☆「ち、ちょっと待ってよ!アイツは…アイツは、アイドルを一度は大嫌いになってるってのに…」

真姫☆「そんな彼女がまた、アイドルを始める、なんて…」

希「心の傷が深ければ難しいとは思う。でも、西木野さんの傷は今ではほんの小さなものになってるはず」

希「彼女自身が興味を持ってくれさえすれば、精神面でアイドルに抵抗を持つことはないと思うよ」

真姫☆「そうかもしれないけど…っていうか!今から、って…」

真姫☆「今アイツにC☆cuteに入られたら西木野真姫が二人になっちゃうわよ!?」

真姫☆「人類史上どんなアイドルグループにも同一人物が二人いたなんてことはないわよ!どうするつもり!?」

希「…それはほら、適材適所?」

真姫☆「どういう意味よ…」

希「うん、まぁ…だから…」

真姫☆「もしかして…私には引退しろ、って言うんじゃないでしょうね」

希「…」

真姫☆「ちょっとぉ!?希、あなたそこまで薄情な人間だったなんて…!」

希「そ、そういうこと言ってる訳違うって!」

希「真姫ちゃんの意思に関わらず、いつか真姫ちゃんはC☆cuteを脱退することになるはずやん?」

真姫☆「…それは、そうだけど」

希「真姫ちゃんが抜けてから真姫ちゃんに替わる誰かを探してたんじゃ活動のペースが落ちちゃうし」

希「真姫ちゃんがいるうちは、慣れるまで真姫ちゃんと西木野さんでシフト制にするとかで、着々と育てていく…みたいな」

真姫☆「バイトじゃないんだから…」

希「…それに、真姫ちゃん…今日、フラフラしてたやん」

希「あれがもしずっと続いたら、真姫ちゃんは到底アイドルが務まるとも思えないし」

真姫☆「い、一時的なものよ、それに関しては!…でも、確かに、そうね…」

真姫☆「私が作ったとは言え、C☆cuteはこの世界のスクールアイドル…」

真姫☆「いつまでも私が仕切るわけにもいかない、ってわけね…」

希「…どうかな?」

真姫☆「…ふぅ、わかったわ。私はそれに賛成」

真姫☆「明日にでも、この世界の西木野真姫をC☆cuteに入隊させるように図りましょう」

希「うん!…あ、でも一応みんなの意見も聞いておいたほうがいい…、かな?」

希「それに、彼女を急に誘っても多分…拒否されると思うわ」

希「まずはゆっくり、ゆっくりと打ち解けていくところから始めないと」

真姫☆「…そっか。じゃあ明日はみんなに意見を聞くだけに留めておきましょうかね」

希「そうしよっか。よぉし、決定や!」

希「西木野さん、これで学校に前向きになってくれるといいけどなぁ…」

真姫☆「スクールアイドルが好きになれると、いいわね」

希「…うん」

西木野家


真姫「…」


真姫(…脳内で放課後の出来事がいつまでもいつまでも、ループし続ける)

真姫(不安と、驚きと、喜びと、畏れと、迷いと…様々な感情が胸中を彷徨って、廻り捩れる)

真姫(何を考えても、『私はどうすればいいのか』という問いから、一向に思考が前に進みそうにない)

真姫(ただわかるのは、一つ)

真姫(私は、選択しなければならないということ)

真姫(今までの変化のない生活から、いきなり変化をもたらす選択を余儀なくされている)

真姫(どちらを選んでも、私の中の大切なものが何か、抜け落ちてしまいそうで)

真姫(そのことを思えば思うほど、考えがまとまらなくて…)



チュン… チュンチュン…


真姫「…ぅ」

真姫「外が…明るい…?」



真姫(体操座りで、部屋の隅で思考を巡らせて)

真姫(気づいたら、朝になっていた)



UTX学院

1年E組 授業中


真姫(…昔から、悪い癖だった)

真姫(考え始めると、時間が過ぎることすら忘れてしまう)

真姫(これが自分の好きなことでも、ってことなら、暇潰しに使えるのだけど)

真姫(…残念だけど、私の頭を惑わすことでしか、時は早く進んでくれない)

真姫(そして今日に限っては…時間は早く進んで欲しくなかった)

真姫(もっと考える時間、考える時間が欲しくて…)

真姫(でもいくら考えたところで、何も、わからなくって…)

真姫(わからなくて、わからなくて…)



教師「えー…じゃあここを…西木野」

真姫「…わかりません」

教師「また即答…!?」



真姫(今の私には、何もわからなかった)

真姫(脳みそが思考を放棄している)

真姫(澱んだ微温い空気に圧し潰され、窒息している)

真姫(寝不足のように…実際に寝不足なのだけど)

真姫(判断力の欠けた足で、トボトボと無意味に廊下を歩く)

真姫(私は、何をしに廊下へ出たのだったか)

真姫(それすらももう、覚束無い)

真姫(思考を放棄した脳細胞であっても、考えるという行動から開放されることはなく)

真姫(もはや自分でも何を考えているか理解できないのに、考えることをやめることはできなかった)

真姫(かろうじて読み取れる思考の端々からは、数式のようなものを感じた気がする)

真姫(x=y^2+3zがどうのこうの…多分さっきの数学の授業が混ざってしまっているんだ)

真姫(言うことを聞かない脳は、その機能を失ってまだ、暴走を続ける)

真姫(私の精神をすり減らすことだけを目的に、熱烈稼働を終わらせない)

真姫(あぁ、しんどい)

真姫(頭が割れるように痛い…。考えすぎで頭脳がオーバーヒートを起こしているに違いない)

真姫(そうだ。寝よう)

真姫(寝てしまえば、何も考えなくて済む)

真姫(よろめく足で、私は保健室をただ目指した)

真姫(ユラユラと揺らめく風景…。世界が轟いている?いえ、私がふらついている)

真姫(今にもぶっ倒れそうな状態で、ようやく白いシーツのベッドのある部屋にたどり着いた)

真姫(あぁ、これで楽になれる…)

真姫(数分前まで、考える時間が欲しくてたまらなかった私は)

真姫(思考する時間、数時間分を)

真姫(あっさり手放して、私を包んでくれる天使に、身体を投げ出した)



ドサッ

放課後

アイドル応援部 部室



希「…」



(希「…あなたが、西木野さん?」)

(希「どうして、そんなに自分を責めるん?」)

(希「いいんよ、楽にして。西木野さんが悪いんじゃ、ないんやから」)

(希「…うん、うん…。せやね、そう…そうやね…」)

(希「大丈夫…、うちが…うちが守ってあげるから」)



希「…西木野さん」

希「うちが、西木野さんのためにできることは…」


ガチャッ

海未「…おや、部長だけ、ですか?」

ことり「花陽ちゃん、まだなのかな?」


希「ん?あぁ…せやね。あと、真姫ちゃんもまだみたい」

海未「そうですか…。では今日も先に着替えて、音楽室で…」

希「あ、ちょいまち」

海未「はい?」

希「今日はちょっと…、待ってもらえるかな?話したいことがあるんよ」

ことり「話したいこと、ですか?」

希「うん。みんな揃ってから言いたいこと」

ことり「何か大切なことなのかな?」

海未「そのようですね…。わかりました、でしたら着替えだけ済ませてあとの二人を待ちましょうか」

ことり「うん、そうだね」


ガチャッ

花陽「あ、海未さん、ことりちゃん、希部長…。遅れました…?」

ことり「まだ何も始まってないから遅れてないよー」

花陽「みんな揃ってたから…。あ、でも真姫ちゃんがまだだね…」

海未「残りは真姫、ですか…。学外から駆けつけるせいか最近はここに集まるのが遅いですね」

希「…まぁ、真姫ちゃんはいいか。じゃ、ここにいる3人に話しておきたいことがあるんよ」

花陽「話…?」

ことり「なんだかみんなに言いたいことがあるんだって。真姫ちゃんは知ってる、のかな?」

希「うん。結構大事なことだから、よく聞いてね。実は昨日、うちと真姫ちゃんで考えたことなんやけど…」



真姫(白いシーツに包まっている)

真姫(誰かに抱かれている)

真姫(私は小さな存在で、声を上げて泣いている)

真姫(そんな私を、包容してくれている人がいる)

真姫(だれが、私を…?)

真姫(こんな、私に、誰が…慈愛を向けてくれているのだろうか…)

真姫(そっと目を開ける)


真姫「あっ…」


真姫(東條希が、そこにはいた)

真姫(しかも、ただいるわけじゃなくて…)

真姫(大きな胸をはだけさせて、それを私に押し付けるように)

真姫(そこで初めて気がついた)

真姫(私は…私は赤子なんだと)

真姫(考える力も、判断する力も、何も持たない無力な赤子であると)

真姫(そしてそれ故に、力あるものに頼り、全てを授けられうる対象であると)

真姫(そう。私は赤ん坊なのよ)

真姫(あらゆるわがままが赦される、唯一無二の存在)

真姫(だから私は、心の限り望んだ)

真姫(彼女が、欲しい)

真姫(今、私の目の前で豊満な胸をさらけ出している彼女…希が)

真姫(彼女の全てを、我がものとしたい…!)

真姫(私は希の胸を乱暴に掴み、その乳首をおもむろに咥えた)

真姫(希が小さく喘ぐ。だけど私は気にしない)

真姫(彼女の中の何もかもを吸い尽くすように、ちゅぱちゅぱと音を立てて、仄赤くとんがった乳首をしゃぶる)

真姫(口の中に溢れる芳醇な甘さのミルク。これほどの美味を私は知らない…)

真姫(甘くて、美味しくて…唇や舌を巧みに動かし、搾乳器のように搾り取ろうとする)

真姫(その度希が快楽に震える声を発して…)

真姫(その声で私の支配欲は堪らなく満たされる…!)

真姫(もっと聞かせて、そしてもっと味わわせて。あなたの味を、あなたの…)



キーンコーンカーンコーン…



真姫「…はぁっ!?」

真姫「…あ、あれ…」


真姫(聞き慣れた鐘の音で、目が覚める)

真姫(気づけばそこは、何ら変哲のないただの保健室で)

真姫(ひどく唾液に塗れたシーツだけが、普段とは違う点だった)

真姫(すぐに状況を理解した私は、トマトのように顔を真っ赤に染めた)


真姫「…わ、わたっ…、私、ったら…!」

真姫「なんっ、て、夢をぉぉぉぉっ…!!!!!」


真姫(誰もいない静かな保健室に、毛布に顔を沈めてバタバタと手足を悶える音だけが、しばらく響いた)

真姫「はぁっ…、はぁっ…!!」

真姫「なんてバカな夢…、見てるのよ、私はぁ…!!」


真姫(恥ずかしさに打ち震えながらも、口は夢の感覚を覚えている)

真姫(無意識に何かを吸うように唇が動いて…)


真姫「…っ!ば、ばかっ…!」

真姫「どうしたのよ、私は…、なんで…」

真姫「あっ…!じ、時間っ…!そうよ、今日は…!」


真姫(『彼女』から与えられた期限は、今日までだった)



(『…明日、一日、ゆっくりと考えなさい』)

(『その気になったら、また明日も、この時間に、この場所に』)

(『それが、あなたを愛してあげる条件』)



真姫(愛してあげる…)

真姫(…『彼女』は、このUTXにおける、もうひとりの信頼できる人)

真姫(私に、喜びと、楽しさを教えてくれた人)

真姫(そんな人に、そんなことを言われた日には跳ねるほどに心躍るというものだけど…)

真姫(でも、ただそれだけじゃなくて、そのためには条件があって…)

真姫(そうなると…)


真姫「…えっ!!?ウソ…!」

真姫「もう、放課後…!?」

真姫(記憶が正しければ、私がこの保健室で身をゆだねたのは、2時間目の終わりの休み時間だったはず)

真姫(それが見事に熟睡して、そして…約束の時間まで、あと十数分しかない)

真姫「なん、てこと…!」

真姫(もう自分で考えている余裕はない。せめて、最後に誰かに判断を仰ぎたいところだけど…)

真姫「だ、誰に…あっ!」



(希「いつでもうちを頼ってくれていいから。お昼休みと放課後はアイドル応援部にいるし」)



真姫「希、先輩っ…!」

真姫(もはや、彼女しかいない)

真姫(この残されたわずかな時間、彼女に相談を持ちかけるほかなかった)

真姫(すぐ立ち上がり、私は彼女のいる部室に向かうため、駆け出した)

アイドル応援部 部室


希「…という、ことなんやけど」


海未「…あの真姫を、C☆cuteへ、ですか…」

ことり「なるほどなぁ~…」

花陽「でもそうなると、真姫ちゃんは…?」

希「真姫ちゃんはその…ほら、正確にはここの生徒じゃないんやから」

希「いつか、C☆cuteを離れることになるやん」

希「真姫ちゃんもそれを了承して、後継として西木野さんをC☆cuteに入れるべきや、ってことでね」

ことり「そっか…、そうだよね。真姫ちゃん、年齢的には大学生だったんだもんね」

海未「明らかに同年代のように見えますが…、本人が言うのだからそうなのでしょうね」

花陽「あの真姫ちゃんが、いつかいなくなっちゃうん、だよね…」

花陽「…」

希「…うん。せやね。でも、その代わりとして、とは思って欲しくない」

希「同じ見た目の真姫ちゃんでも、新しいメンバーとして…そして、新しい友達、仲間として関わって欲しいんよ」

希「C☆cuteの主戦力である真姫ちゃんが半分抜けて、ほぼ初心者の西木野さんが入ってくるんは、この大切な時期的にもかなりキツいかもしれない」

希「けど将来性も加味して、そして復学した西木野さんのことも考えて…うちは西木野さんをC☆cuteの新メンバーとして推したい」

希「まだ彼女自身の意思は確かめてないけど…みんなの意見を先に聞かせて欲しくて。どう、かな…?」


一同「…」


希「…」

ことり「…えっと、喋っていい空気?」

希「え?う、うん…」

ことり「じゃあ、私は賛成!」

希「ほ、ホント!?」

ことり「うん。希ちゃん先輩がそんなに推してるんだから、断れないよ~」

希「い、いや、うちのことはいいんやけど、ことりちゃん自身が…」

ことり「私も、新しいお友達が増えるのは大歓迎かな!いずれ真姫ちゃんが抜けちゃうなら、人数合わせにもちょうどいいし!」

海未「人数合わせって…。し、しかし、私も、いいと思います」

海未「この時期に新メンバーともなると確かに大変ですが…しかし、それを乗り越えてこそのC☆cuteではないでしょうか」

海未「誰もがいつでも、トップアイドルを目指すことができる。それが真姫と…そして、花陽の目指した夢のスクールアイドル、なのでしょう?」

花陽「…うん。選ばれた人しかなれない、それ以外の人は泣くしかできない…そんな現実を壊してくれるような」

花陽「応援してくれる人、うぅん、世界中だれもが笑顔になれるスクールアイドル。それが私の夢だから!」

花陽「どんな初心者でも一から手を取り合って、ともに成長していければ…それこそ、私の理想なんだもん!当然、オッケーです!」

希「み、みんな…!」

海未「ふふ、蓋を開けてみれば、簡単なことですね」

ことり「気持ちは全員一緒なんだよね~。聞くまでもなかったかも?」

花陽「ちょっと時間、勿体無かった?」

希「かも、しれんね…!ふ、ふふふっ…」

希「あははははははははは!」

一同「あはははははは…」


希「よかった…!これで、うちは…!」

希「最後の最後で、誰かを救うことが、できるのかもしれない…!」

タッタッタッ…


真姫「はぁっ…はぁっ…」


真姫(もう時間もわずかしか残されていない)

真姫(自然と気も急いてしまい、呼吸も整わず)

真姫(大した距離ではないのに、かなり疲弊してしまった)


真姫「はぁっ…、はぁっ…」

真姫「希先輩に、相談を…!」


真姫(最初からそうしていれば、こんなに悩まずに済んだのに)

真姫(複雑に絡まった思考では、そんな単純なことすらも思いつかなかった)

真姫(けれど、もうそういった煩雑な思考に囚われることはなくなるはず)

真姫(希先輩なら…彼女ならきっと助けてくれる…!)


真姫「希、せんぱいっ…!」


真姫(精一杯の嘆願を込めつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開こうとした)

真姫(そのときだった)



「あはははははははは…」



真姫(ドアの内側から、笑い声)

真姫(希先輩と、そして…数人の声が、一緒に聞こえる)

真姫(それだけで私の手は、惑ってしまった)


真姫「希先輩だけじゃ、ない…」

真姫「…誰か、いる…」


真姫(今度はそっと、ほんの少しドアを開いて、中を覗き見る)

真姫(そこにいたのは、希先輩を含んだ4人)

真姫(『私』は、いなかった)

真姫(何か楽しいことでもあったのか、希先輩と他の部員の人たちは、嬉しそうに笑っている)

真姫(なぜ笑っているのかは、私にはわからない)

真姫(希先輩の気持ちが、私には、わからない)



真姫「ほんとうに…嬉しそう…」



真姫(私に、彼女をあんな笑顔にすることは、できるだろうか)

真姫(考えるまでもなく、わたしにはできない)

真姫(頼るだけで、与えることのできないわたしには)

真姫(彼女の、あんな笑顔を見ることなんか――)



真姫「…っ!ぶ…!!」

真姫(また、涙が出てきた)

真姫(けど、今度は解る。なぜ私が泣いているのか)

真姫(悲しいから。悲しくて、辛いから)

真姫(彼女の全てを望む私が、決して彼女の全てを手に入れられないという事実に)

真姫(あの楽しそうな輪の中に…)

真姫(…私の入り込む余地なんて、ない)


真姫「…」


カチャッ…


真姫(静かに、扉を閉める)

真姫(眩い笑顔に照らされたせいで、涙も枯れたみたい)

真姫(今はもう、なんだって…いい)

真姫(…希先輩を手に入れられないなら)

真姫(ならいっそ…全て…)



真姫☆「…あれ、あなた…」


真姫「あっ…」

真姫☆「どうしたの?応援部に用?」

真姫「え、いや…」

真姫☆「あっ、もしかして希から例の話…」

真姫「ご、ごめんなさいっ…!!」ダダッ

真姫☆「えっ…、あ、行っちゃった…」ガチャッ


希「…ん?あ、真姫ちゃん。遅かったね」


真姫☆「さっき、そこであっちの…もとい、妹に会ったんだけど」

花陽「え?真姫ちゃん…いたの?」

真姫☆「えぇ、ドアの前に。すぐ走って逃げちゃったけど」

ことり「いたのなら入れば良かったのにー。今ちょうど話してたところだったんだけどなぁ」

真姫☆「話…?あ、もしかして例の…」

海未「えぇ、みんな、乗り気ですよ。あとは、彼女の意思次第ですね」

真姫☆「そう…。うん、よかった。そろそろ私の役目も終わりそうね」

花陽「えぇっ…!ま、真姫ちゃんはまだ居てくれていいんだよ…?」

真姫☆「ふふ、わかってる。まだアイツの勧誘もしてないしね」

真姫☆「とにかく今は、次のライブ!遅れたちゃったし、私が言う権利ないかもだけど…」

真姫☆「とっとと練習に行くわよ!」

真姫(…返事は決まった)

真姫(私は希先輩の全てを手に入れることはできない)

真姫(ならもう、それでいい…)

真姫(わたしには、もう一人大切な人がいるから…)

真姫(彼女なら、私を愛してくれる…)

真姫(そのための条件ならば、全て飲もう)

真姫(私は、昨日と同じ場所に、同じ時間に着くように向かった)


真姫「…」スタスタスタ…

真姫「…」ピタリ


真姫(…着いた)

真姫(思えば、懐かしい)

真姫(彼女と初めて出会ったのも、この場所だった)

真姫(私がピアノを引いていて、許可がなければ使ってはいけないと注意を受けて…)

真姫(そしてそのあと、私は…)

真姫(アイドルを、教わった)



「…来たのね」

真姫「えぇ…」

「返事を、聞かせてもらえる?」



真姫(この音楽室で、二人きり)

真姫(今日は、昨日の二年生もいない)

真姫(私を呼び出すために彼女が遣わしただけなのだから、当たり前だけど)

真姫(この部屋に微かに漂う青春の香りを払うかのように)

真姫(私は、選択する)

真姫(その選択は胸のトゲを、大きく成長させる肥料となって)

真姫(過去の遺物を掘り起こす、引き金と化した)


真姫「…私は、あなたの…」



真姫(…もう、引き返せない)

真姫(あとはただひたすら)

真姫(壊す、だけ)

十数分後

音楽室


真姫☆「さてと…、準備運動も済んだことだし今日は何から始めましょうか」

ことり「やっぱり、昨日の復習かな?」

花陽「真姫ちゃん、昨日は来てすぐに倒れちゃったからね…」

真姫☆「わ、悪かったわね。今日は大丈夫よ、多分」

海未「…そういえば、昨日は真姫、到着が遅れたのでしたね」

真姫☆「え、えぇ…。そうだけど。何、今日になって責められるの?」

海未「あ、いえ…、そうではなく。なら昨日、彼女とは出会っていないのだな、と思って」

真姫☆「彼女…?」

ことり「あっ、そういえば…」

花陽「突然だったから身構えちゃったよね…。意外と優しかったけど…」

真姫☆「え、な、何の話…?いったい誰と出会ったっていうのよ」

海未「…絢瀬絵里先輩です」

真姫☆「え、絵里!?」

ことり「うん、音楽室に向かう途中でバッタリ…。向こうも音楽室に寄ってた、のかな…?」

海未「向かう経路さえ変えていれば出会うこともなかったのに…、と一瞬悔やみましたが…」

花陽「にこやかに挨拶してくれて拍子抜けしちゃったよね。もしかしたら優しい人なのかな?」

真姫☆「そんなバカな…。絵里がクズなのは私が身をもって知ってるけど…」

真姫☆「…でも、なんで音楽室に…?」


ガチャッ

女生徒「た、大変っ!!」



ことり「きゃっ!?な、何…?」

花陽「あ、あなた、私のクラスの…」

真姫☆「どうしたのよ、急に…」

女生徒「そ、それが…!西木野さんが…って西木野さんっ!?どうしてここに…」

海未「え…真姫がここにいることが何か…」

真姫☆「…っ!ま、まさかっ…!ねぇ、何があったの!?」

女生徒「いや、でも…西木野さんがここにいるなら…違う、のかな…?」

花陽「あっ…!もしかして…!!」

真姫☆「なんでもいいから言いなさい!!言おうとしたこと、そのまま全て!!」

女生徒「う、うん…。わかった…」

女生徒「あの、アイドル専攻の手伝いしてる友達から、さっき聞いた話なんだ、けど…」




海未「なぁっ…!?」

ことり「嘘…!」

花陽「そんな…っ!」

女生徒「いや、でも…西木野さんがここにいるなら…これってデマなんじゃ…」

真姫☆「…」

真姫☆「…ぎぃっ!!」

真姫☆「最、悪ッ…!!」

多目的ホール


絵里「みんな、一旦手を止めて、集まってくれる?」


絵里「今日はみんなに大事な話があるの」



にこ「…大事?」

凛「何かな何かな?なんだと思う?」

にこ「私に聞かないでよ…」

穂乃果「何を…」



絵里「私はこの1年間、あなたたちを育てるために尽力してきました」


絵里「けれど、時間というものは残酷なもの。いずれ、別れの時は来るのよね」


絵里「私もそろそろ、卒業というタイムリミットが迫ってきている。悲しいことだわ」


絵里「けれどこのまま、何も残さずにあなたたちとお別れするのは…忍びないわよね」


絵里「だから私は…私の後継者を残すことにしました」



穂乃果「後継者…?」



絵里「…彼女なら、このアイドル専攻を…そして、次世代のA-RISEを導いてくれる存在となるでしょう」


絵里「なにせ、彼女自身もアイドルなのだから」



にこ「え、どゆこと?」

凛「さー」



絵里「じゃあ、紹介するわね。入ってきて」


スタスタスタ…



にこ「えっ…!?」

凛「にゃ?」

穂乃果「っ…!あなた…!」



絵里「…必要ないかもしれないけど一応。自己紹介、お願い」



「今日から、あなたたちの指導補佐を任されました」


真姫「…西木野、真姫です」






もしライブ! 第7話

おわり

7話でした この世界の真姫ちゃんはちょっとクセっ毛で赤い眼鏡をしてるって設定です
真姫ちゃんが二人でややこしいけど付いてきてね それではまた次回 ほなな

なんでわざわざ2スレに分けたんだ?

2スレに分けた理由ですが全部合わせても1000レスは行かない見立てだったのですが番外編とかも書きたかったのと
外野レスの如何でギリギリ1000超える可能性も考慮して余裕持って2スレに分けました 杞憂だったみたいだけれどもう前編って書いちゃったし後編も建てないとね
それじゃあ8話やっていきますよ 今回はあらすじなし

衝撃の知らせがC☆cuteに舞い込んだ前日…


放課後 


スタスタスタ…

二年の先輩「…」

真姫「…」


真姫(…結構歩いてきたけど…どこまで連れて行くつもりなのかしら。この人…)

真姫(話があるのならすぐ近くでいいと思うんだけど…)

真姫(そんなことを考えていたら、二年の先輩はとある教室の前で立ち止まった)


二年の先輩「…ここよ」

真姫「ここって…」

真姫「音楽室…?」

二年の先輩「ここで待っている人がいるわ。入って」

真姫「え、あ…はい…」


真姫(この人の用事ってわけじゃなくて、呼び出すために遣われた人だったのね)

真姫(…なんでわざわざ第三者に呼び出しに行かせたのかしら)

真姫(そもそも私に用事って言われても、私は『私』じゃないのだから…何を言われてもわからない)

真姫(さすがに私自身に用事のある人間が、この学校にいるとも思えないし…)

真姫(…適当にあしらって帰ろう、もしくは『私』に責任を押し付ければいいことだ)

真姫(そう考えつつ、ドアを開ける)


ガチャッ


真姫「…あの、用事って…」

真姫「っ…!!」

真姫「あ、あなたは…!」


真姫(…窓から差し込む低い太陽の光を背に立つ女性の姿)

真姫(その姿を、私は見たことがある)

真姫(前も、ここで出会ったことがある)

真姫(あの時は、全くの反対側だったけれど)



絵里「…こんにちは、真姫」

真姫「えっ…、ぁ…」



真姫(夕焼けに染まる音楽室、一人ぼっちでピアノを弾いていて)

真姫(音楽室は許可がないと使えないと教えてくれた人)

真姫(そして…その後、私に…アイドルを教えてくれた人)

真姫(この学校で、もうひとり…信頼できると思える人)

真姫(名前は確か…絢瀬絵里、先輩だった)

絵里「ふふ…」

真姫「…ぁ、その…」


真姫(数少ない、私が覚えている人物の一人だったけど…)

真姫(…でも、彼女が私に用事があるとは限らない)

真姫(だって、春に数度顔を合わせて話し合った私よりも、秋から来た、明らかに目立つ『私』への用事である確率の方がはるかに高い)

真姫(だから私は、彼女にどう返事を返すべきか迷っていた)

真姫(『お久しぶりです』…?いえ、それよりも『お疲れ様です』かも…)

真姫(というよりも『私』と絢瀬先輩の関係性を私は全く知らないのだから、正しい返事が返せるわけ…)


絵里「真姫」

真姫「えっ…ふぁぁぁっ!!?」


真姫(考え事をしていて全く気づけなかった)

真姫(いつの間にか目と鼻の先に絢瀬先輩の顔が近づいていたということに)

真姫(私の頬に手を当て、艶やかな眼差しでこちらを舐めるように見てくる)

真姫(どうしていいか分からずに、蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまう)


真姫「ぇ、あ、あの…!?その…!?」

絵里「…」スッ…

真姫「ふひゅぅっ!!」


真姫(唇に指を当てられる)

真姫(カサカサの私の唇を弾くように、ちょんっ、と)

真姫(ほんのり指の脂の味を感じた気がして、ますます縮こまる私)


真姫「あ、あのぉっ…!?」

絵里「…やっぱり」

真姫「は、はい…?」

絵里「やっぱりあなたは…」

真姫「ぇ…?」


真姫(得心がいった、とのように顎に手を当てて思慮を巡らせる絢瀬先輩)

真姫(対する私は、全く何も分かっていないのだけど…)


絵里「…いえ、ごめんなさい。いきなり変なことをして…」

真姫「ぁ…いえ、その…」

絵里「じゃあ、改めて…こんにちは、真姫」

絵里「…春に出会ってぶり、ね」

真姫「っ…!も、もしかして…!」

絵里「あなたと初めてであったのも、ここだったわよね。真姫」

真姫「お、覚えていてくれたん、ですか…!?」

絵里「えぇ、もちろんよ。あなたのような人を忘れるものですか」

真姫「…!」

絵里「あなたは私の出会った子の中で、最も才能に溢れていたわ」

絵里「だからこそあなたに、アイドルという道を示したんだもの」

真姫「ぁっ…!」

絵里「秋から来ている彼女とは…別人、なのよね?どういう理由かは知らないけど」

真姫「え、あっ…!そ、その…!」

絵里「うぅん、いいの。そのことに関してとやかく言うつもりはないから」

絵里「今日はただ、あなたと話がしたくて、ここに呼び出したんだもの」

絵里「それともやはり…私のことを恨んでいるかしら?」

真姫「えっ…!!?」


真姫(恨むなんて、とんでもなかった)

真姫(彼女は、没頭できるものが何もなかった私に、アイドルを一から教えてくれた人だったから)

真姫(私がアイドル専攻の授業についていけなかった時も、何度も励ましてくれて…)

真姫(でも結局、諦めてしまって…心から申し訳ないと思っていた)

真姫(アイドルの事は嫌いになってしまったけれど…彼女のことを嫌いになる理由なんてない)

真姫(彼女は私の、もうひとりの恩人なんだから)


真姫「い、いえ…そんなこと!むしろ、私の方こそ謝りたくてっ…!」

真姫「せっかく、私を誘ってくれたのに…私の体力不足で諦めてしまって…」

絵里「あら、殊勝ね。春はもっとぶっきらぼうな子だったのに」

真姫「そ、その時は…ちょっと、鬱陶しいかも、って思ってたけど…」

真姫「でも話していくにつれてアイドルってものがどういうものかってよくわかって…」

真姫「少なくともっ…!あなたとアイドルの話をしているときはとても楽しかった!」

真姫「そのことは、とても感謝しているの…!」

絵里「…そう」

絵里「じゃあ…今は?」

真姫「え…」

絵里「私のことじゃなくて、アイドルのこと」

絵里「…今は、嫌い?」

真姫「え、えと…今は…嫌い、ってほどじゃ、ない…」

真姫「そんな、好きってわけでも、ないけど…」

絵里「…」

真姫「ぇ、あっ…!ごめんなさい!アイドル専攻を指導しているあなたにこんなこというなんて…」

絵里「うぅん。それでいいの」

真姫「…え?」

絵里「…今は、どっちつかずの状態、ってことよね」

絵里「過去に、嫌いになったという事実がある…」

絵里「今はなりを潜めて、胸の奥深くで眠っている…」

絵里「そして、才能に溢れている…」

絵里「…そんなあなただからこそ、いいのよ」

真姫「どういう…こと?」

現在

アイドル応援部部室


バダンッ!!


真姫☆「希っ!!」



希「…真姫ちゃん」


真姫☆「あ、アイツが…!あっちのわた…いや、妹が…!」

希「…知ってる。さっき一年生の子が来て教えてくれた」

希「真姫ちゃんたちにも早急に知らせたほうがいい、って思ってうちが音楽室に知らせに行かせたんよ」

花陽「あっ…そういうことだったんだ」

ことり「そ、それで…本当なの!?えっと…真姫ちゃんが…アイドル専攻の指導補佐、って…」

海未「なにかの冗談ではないのですか!?」

希「うちもそう思ってさっきまで調べてて…」

希「…どうやら、本当のことみたいよ」

花陽「そんなっ…!」

海未「い、一体どうして…!?彼女がアイドル専攻の指導をする理由、なんて…」

ことり「そもそも、真姫ちゃんにアイドル専攻の指導ができるツテなんて…」

真姫☆「…あっ!まさかっ…」

希「どうしたん?真姫ちゃん」

真姫☆「そういえば昨日…音楽室に向かう途中に絵里と会ったって話してたわよね?」

ことり「ん?あぁ、そういえば…」

真姫☆「…もしかしたら彼女は、そこで妹と話をしていたのかも」

花陽「えっ!?」

真姫☆「そこで何らかの理由で妹を勧誘して…アイドル専攻の指導補佐、つまり、絵里の跡取りへと指名した」

真姫☆「でなければ、いつもはホールで専攻の指導をしている時間にアイツが音楽室にわざわざ出向く理由なんて他に考えられないわ」

希「確かに…一理あるね」

海未「ですが、どうして真姫を…?つまり彼女は、真姫を普段の違う真姫だと認識していたのですよね…?」

海未「そうでなければライバルである真姫を勧誘するなんてありえませんし…」

真姫☆「…そういうことになるわね」

花陽「なんでわざわざ真姫ちゃんを選んだんだろうね…?別人なら尚更、あっちの真姫ちゃんにはアイドル経験なんてないはずなのに…」

希「春にほんの少し、経験はしてたんやけどね」

ことり「え!?そうなの!?」

希「うん。すぐやめっちゃった子のうちの一人やよ」

ことり「…そう、なんだ」

真姫☆「絵里が妹を選んだ理由は私にもわからない。けど彼女のことだから…きっと理由があるには間違いないと思うけど」

花陽「なんの理由があるにせよ、これで真姫ちゃんをC☆cuteに勧誘するのは難しくなっちゃったね…」

海未「そうですね…。しかし、めげていても仕方がありません」

海未「いずれ彼女を説得してアイドル専攻の指導をやめさせることも念頭に置きつつ、今は来週の私たちのライブのために練習をするべきです」

ことり「そ、そうだね…!ぼーっとしてたらそれこそA-RISEに置いてかれちゃうもんね…!よし、今からまた…」


真姫「…それは、できないわ」

ことり「…え?」

花陽「できない、って…?」

海未「練習ができない、ということですか…?」

真姫☆「ごめんなさい。言葉不足だったわね」

真姫☆「練習自体ができないってことじゃなくて…私はその練習に参加できない、って言いたいの」

ことり「どうして…?」

真姫☆「私が…西木野真姫がアイドル専攻の指導補佐になったってことはきっと明日にでも知れ渡る」

真姫☆「そんな状態で、音楽室でも西木野真姫がアイドルの練習をしていたらどうなるかしら?」

花陽「あっ…!」

真姫☆「…全校生徒に、西木野真姫は二人いると認識される」

真姫☆「当然学校側にもその情報は伝わるでしょうね。不測の事態にきっと両親に呼び出しがかかるでしょう」

真姫☆「…そこで、私が妹の代わりに代返していた、なんて事実が浮き彫りになれば…」

希「退学は免れない…ね」

海未「そんな…っ」


真姫☆(実際は、親なんか呼ばれたら退学よりも大変なことになりそうだけどね…)

真姫☆(いるはずのない姉が、存在しているのだから)


真姫☆「だから、今は私は練習には出られない…。うぅん、おそらく、このままだと二度とC☆cuteに戻れない」

真姫☆「アイドル専攻にいるってことは、私はC☆cuteを脱退したと巷に認知されるでしょうし」

真姫☆「だから来週のライブも…参加できないかもしれないわね」

ことり「そ、それって…もう、終わり、ってこと…!?」

花陽「だ、ダメだよっ!今真姫ちゃんに抜けられたら…!」

花陽「A-RISEに対抗するなんて…できないよ…!」

真姫☆「…そう、ね。私もまだ脱退なんてしたくない」

真姫☆「ならば、今現在何よりも優先すべきことは…」

希「…西木野さんをアイドル専攻から引き抜くこと」

真姫☆「そういうことね」

海未「し、しかしっ…!かと言ってそれに全力を注いでしまっては…」

ことり「来週のライブ、万全の状態で臨めるとは言えないよね…」

花陽「ライブが行えるかどうかも怪しくなってくるよね…どうしよう…」

真姫☆「あなたたちは今までどおりライブの練習に集中してくれればいいわ」

真姫☆「…妹を引き戻す係は」

真姫☆「希」


希「っ…!」


真姫☆「…あなたしかいない」

希「せや、ね…。うちが一番暇を持て余してるんやし、順当かな」

花陽「ひとりで…!大丈夫なんですか…?」

希「…まぁ、むしろあの子はうち一人で説得したほうがいいと思う。他の子に心を許してないみたいやし」

希「だから、西木野さんの件はうちに全て任せて。みんなはいつもどおり、練習しておいて」

海未「…わかり、ました。花陽、ことり、行きましょう」

花陽「う、うん…」

ことり「わかった…」

真姫☆「…」

ガチャッ… バタンッ



希「…ふぅ」

希「真姫ちゃんはどうするん?」

真姫☆「…ん、私?そうね…どうしようかな…」

真姫☆「今は学校にいられないしね…。顔を見られただけで生存の危機よ」

真姫☆「花陽のクラスメイト一人に知られるだけなら口止めでなんとかなるけど、複数人に知られるとなるどどうしようもないし」

真姫☆「今はとにかく、こっそり学校を抜け出して…そこで出来うる限りのことをするしかないわね」

希「…そっか。そうやね」

希「えりち…どうしてこんなことを」

真姫☆「さぁね。アイツの考えることなんて私には1ミリたりとも理解できそうにないわ」

真姫☆「あなたの方が、彼女を知ってるんでしょう?何か思い当たる理由、ないの?」

希「…確かに、えりちは西木野さんの才能を強く買ってた」

希「寵愛していた…って言ってもいいくらい。その頃はほとんどえりちに関わらなかったうちでも、西木野さんへの入れ込みは噂で聞くくらいだったし」

真姫☆「へぇ…珍しいのね…」

希「でも…西木野さんに限界が来てからのえりちは…冷たかったな」

希「西木野さんが不登校になってからえりちに問い詰めたら、『才能があっても花開かなければ、そこらの雑草と変わらないわ』なんて…」

希「たぶん、数日もしないうちに西木野さんの存在すら忘れてたと思う。真姫ちゃんも、えりちに初めて会った時…初対面みたいな反応されたと思うわ」

真姫☆「あ、あぁ…確かに…」


(絵里「…1年生?見ない顔ね」)


真姫☆「…顔どころか、存在すら全く記憶になかったみたいね。その後、思い出してた素振りはあったけど」

希「うん、まぁだから…今更、西木野さんを後継者として指名する理由がうちにはわからない…」

希「もしかして、アイドルじゃなくて指導者としての才能なら花開くのかも、って考えたのかもしれんけど…」

希「彼女のやり方を理解してる2年生以下の子ならたくさんいるのに…わざわざ経験の乏しい西木野さんを選ぶ理由、か…」

真姫☆「絵里のやり方…。真の強さを欲するには他人の才能を踏み台にする…ってことね」

真姫☆「確かにそうよね…。アイツがこんな…高度って言っていいのかわからないけど、普通じゃない指導方法を理解して正しく指導できるなんて…私は思えないわ」

希「そこらへんもしっかり調べる必要がありそうやね…」

希「…うち、直接アイドル専攻に行ってみる」

真姫☆「えっ…!」

希「そんで指導の仕方とか、その他もろもろちょっとだけでも覗いてきて…西木野さんの様子も調べておきたい」

希「機会があれば、直接西木野さんや、えりちに話をつける」

真姫☆「で、でも…部外者が勝手にホールに入って…」

希「…うちを誰やと思ってるん?」

希「アイドル応援部部長やよ。もろ、アイドル専攻に関わりのある人間やん!」

真姫☆「…まぁ、そうかもしれないけども」

希「まぁ、えりち以外から注意を受けることはないと思うわ。別に目立とうってわけでもないし」

希「でも、真姫ちゃんは逆に絶対に目立ったらいかんよ?バレたら一瞬で命取りになるんやし」

真姫☆「…そうね。そろそろ私も外に出ていったほうが良さそう。希、頑張ってね」

希「了解や」

秋葉原


真姫☆「…はぁ」


真姫☆(外に出てきたはいいものの、何をすればいいのかしら)

真姫☆(出来うる限りのこと…といってもこの状況、私にできることなんて何も思いつかない)

真姫☆(せいぜい変装してC☆cuteの宣伝でもして…って、そんなことしても意味ないわよね)


真姫☆「…いつか離れる時が来る…か」

真姫☆「確かに、いつかは私は帰らなきゃいけないけど…」

真姫☆「今こんな時に…帰れるわけ無いわよ」

真姫☆「…まだ、花陽と、ことりと、海未と、希と…私たちに協力してくれる、いろんな人たちのためにも…」

真姫☆「UTXの革命の時まで…私は終われない」

真姫☆「笑顔のスクールアイドルを実現するのが」


バッ

ガシッ!!


真姫☆「っ!!?」


真姫☆(独り言をつぶやいていて、完全に油断していた)

真姫☆(突如路地脇から現れた小さな影)

真姫☆(それが誰かすら認識する前に、私は口を押さえられ、後ろ手を極められた)

真姫☆(悲鳴の欠片もあげる隙なく、私は路地の奥へと連れ去られ…)

真姫☆(…そこで、私の意識は消滅した)





多目的ホール前


希「…」

希「ここに来るのは…何日ぶりかな」

希「もう二度と、直接関わることはない、って思ってたんやけど」

希「…いや、真姫ちゃんに関わってから、こうなることは決まってたんやろうね」

希「いつかうちも、えりちと決着つけないけない時が来るんやろうし…」

希「今日はそのための前調べってことで…いざ、入らせてもら…」


ガチャッ!!


希「えっ…」

希(うちがドアノブを掴む前に、ホールのドアが勢いよく開いて…)


女生徒「うああぁぁぁぁぁぁっ!!!」ダダダッ!!


希(…一人の女の子が、叫びながら走って出て行った)

希(床には数雫…汗と一緒に、涙も落として)


希「…嘘やん」

希(指導初日から…これ?)

多目的ホール


絵里「ワンツースリーフォー…」


女生徒A「ふっ…!だ、っ…はぁっ…」タンタンッ…

女生徒B「やっ…たっ…!よっ…」タンタタンッ…


真姫「…」テクテク…


女生徒C「くっ…とっ…、んんっ…!」タタタンタッ…


真姫「…不細工ね」


女生徒C「えっ…!?」


真姫「誰が動きを止めていいっていったの?続けなさい」

女生徒C「ぁ、うっ…!」タタンッ…

真姫「…あぁ、別にあなたの顔のことを言ったわけじゃないの」

真姫「動きが…不細工だと思って」

真姫「今まで練習してきてその程度だなんて、よっぽど才能に恵まれていないのね」

真姫「可哀想だとは思うけど、アイドル専攻は各人の自由だし、いいんじゃないかしら」

真姫「結局ここで培ったダンスと歌の技術は永劫活かせぬまま朽ちていくんでしょうけど」

真姫「楽しいダイエットが出来たと思えば時間を無駄にしなくていいんじゃない?」

女生徒C「っ…!あんたねぇっ!!」


ざわっ…


絵里「…そこ、静かに」



女生徒C「い、言わせておけばズケズケとっ!!何様のつもりっ!?」

女生徒C「わっ…私は、二年生なのよ!?それを年下のあんたがっ…ふざけないでよっ!!」

女生徒C「指導補佐か何か知らないけどいい気になってんじゃ…」


真姫「黙りなさい」


女生徒C「っ…!!」

真姫「…誰が口を開いていいと言ったのかしら」

真姫「ダンスしか脳がないんだからただ無心で踊っていればいいのよ、あなたは」

女生徒C「ぎっ…!何をっ…!」

真姫「口答えしないで。ここでは私の言葉は絢瀬先輩の言葉と思いなさい」

真姫「私に歯向かえば…どうなるかわかっているわよね?」

女生徒C「…っ!は、はい…」

真姫「返事の前と後ろには『教官殿』とつけなさい」

女生徒C「は…?」

真姫「口でクソ垂れる前と後に『教官殿』とつけろと言ったの。…理解できた?」

女生徒「…き、教官殿…わかりました、教官殿…」

真姫「…よろしい」



にこ「…なにあれ」

凛「お、おっそろしいにゃぁ…。アレが指導ってやつ?」

にこ「アメリカの軍隊かなにかじゃないんだから…あれじゃあの子の評判落とすだけよ…」

にこ「…なんで真姫ちゃんがアイドル専攻の指導補佐になったのかは知らないけど…もしかしたら専攻生を蹴落とすため、だったりするのかしら」

凛「げー…やり方がえげつないにゃ…。そろそろあっちのスクールアイドルもホンキになってきたってことかな?」

にこ「…どう、なんでしょうね。でも…」

にこ「私の知ってるあの子は、あんなこと…」

穂乃果「…」



穂乃果(…私の知っているあの子も、あんな風じゃない)

穂乃果(アイドル専攻を直接叩くなんて乱暴なことはしそうにないし…仮にしようとしたとしても)

穂乃果(…あんな暴言、吐くなんて思えない)

穂乃果(やっぱり…)



穂乃果「西木野さん…二人、いるの…?」





希「…う、うわぁ…」


希(ホール入口近くで事の成り行きを見守ってたけど…)

希(に、西木野さん…どうしたんや、あれ…)

希(昨日までとは雰囲気がまるで違うというか…)

希(あんな人に対して強く当たれる子やったっけ?)

希(真姫ちゃんとも、昨日までの西木野さんとも違う…もしや3人目の!?…なんて一瞬思ったりしたけど)

希(でも、アレは間違いなく…西木野さんやね。真姫ちゃんよりも筋肉がしぼんだ体つき…無造作な髪…)

希(それと、血のように赤いメガネがそれを物語ってくれている)

希(何のために西木野さんがあんなことをしているのか…それをまず突き止めないと、彼女をここから引き戻すのは難しそうやね…)

希(その鍵を握るのは…やはり)


希「…えりち、か」

希「あんまり、顔を突き合わせたくはないんやけど…仕方ないな」

希「…ひとまず、キリのいいところまで見学させてもらおか、…な」

絵里「では、私はバックダンサー…いえ、次期A-RISEのレッスンへ行くので…」

絵里「…後のことは真姫、あなたに任せたわ」

真姫「…ぅ、うん…。わかった…」



真姫「…」


専攻生ズ「…」ジー…


真姫「…ぅ」

真姫「ん、んんっ…!!…ふぅ」

真姫「えー、それでは…アイドル専攻、授業を始めます」

真姫「…それにあたりまず第一に…皆さんに伝えておきます」

真姫「私から話しかけられたとき以外口を開かないこと」

真姫「返事をするときは腹の底から大きな声を出すこと」

真姫「そして、言葉の前と後ろに『教官殿』とつけること」

真姫「…いいわね?」


専攻生ズ「…」シーン…


真姫「…返事は?」

専攻生ズ「…」

真姫「…そう。わかったわ」

真姫「今日はもうおしまい。帰っていいわよ」

女生徒A「えっ…!?」

真姫「何のプライドか知らないけれど、指導補佐の私の言うことに従えないのなら仕方ないわ」

真姫「もうあなたたちを指導する気も起きない」

真姫「だから、帰っていいって言ったの。そして、もう明日から来なくていいわ」


「そ、そんな…!」「なによそれ!!」「ふざけんな!」


真姫「ふざけるなと言いたいのはこっちのほうよ」

真姫「やる気のない人は即刻切り捨てる。…それがこの、アイドル専攻の掟よ」

真姫「少なくとも私がいた頃はそうだったわ。今はもうやる気のない人しかいないの?」


「…っ」


真姫「上に登りたければ従いなさい。ここでは安っぽいプライドなんか捨てること」

真姫「屈辱に塗れた戦場を生き抜いた者のみ、その先に待つ栄光のステージへとたどり着ける」

真姫「アイドルって、そういうものよ」

真姫「もう一度聞かせてもらうわ。…あなたたち、やる気はあるの?」


「…き、教官殿!あります!教官殿!」


真姫「…ふふ、よろしい」

穂乃果「…」



真姫「…じゃあ聞くわ。あなたは何?」

A「わ、私はっ…」

真姫「違う」

A「教官殿!私はダンスしか取り柄のないブタです!教官殿!」

真姫「えぇ、そう。その口は今は返事するのと水分補給のみに使われるだけの穴よ」

真姫「ここで歌えるのは、頂点に立ったものだけ。そうでしょう?」

A「教官殿!はい!教官殿!」

真姫「はい、よろしい。…じゃあ次。あなたは何?」

B「教官殿!わたしは…」




穂乃果「…」


絵里「…穂乃果。話聞いてる?」

穂乃果「はい。聞いてます」

絵里「じゃあなんて言ってたか説明して」

穂乃果「…今年度のA-RISEの活動も最終段階に差し迫ってきており、ラストライブに向けての準備を着々と進める必要有り」

穂乃果「それと同時に来年度、次期A-RISE…私たちのための新譜の準備も行う必要もあるのでこれから多忙になると」

穂乃果「それに向けアイドルショップで販売される私たちのグッズのデザインやブロマイド撮影などによる…」

絵里「…あぁわかったわ。ありがとう。今度からちゃんとこっち向いて話聞いてね」

穂乃果「わかりました」


凛「うひゃー。相変わらず穂乃果センパイはハイスペックだねー。凛なんかもう忘れちゃったにゃ」

にこ「それはどうかと思うわよ」


穂乃果「…ついでに、一つ訪ねてもいいでしょうか」

絵里「何?」

穂乃果「今専攻生を指導している彼女…西木野さんのことなんですけど」

穂乃果「あれは、あなたの指示で?」

絵里「あれ、とは?彼女が指導していることかしら」

穂乃果「指導の仕方です。あれではまるで戦前の軍隊です」

穂乃果「…育成の上で効率のいい方法だとは思えません」

絵里「へぇ…穂乃果。あなたはいつから私のやり方に口出しできるほど偉くなったの?」

穂乃果「…っ。じゃあ、あれはやっぱり、あなたの指示なんですね」

絵里「私がああしろ、といったわけではないわ。でも、彼女の指導の権利は私と同等のものよ」

絵里「だから、アレは私のやり方、って言っても差し支えはないわね」

絵里「それともあなたは、私が信用できないの?…あなたをここまで育て上げた私のことを」

穂乃果「…そういうことじゃ、ない、です」

絵里「なら安心して。来年、私がいなくなっても…A-RISEは立派に強くなってくれるわ。…えぇ、強く、立派にね」

穂乃果「…」

穂乃果(絵里先輩は偉大な人だと、私は信じてきた)

穂乃果(彼女の幼い頃のバレエの経歴は、素晴らしいの一言に尽きるほどで)

穂乃果(あらゆるコンクールの金賞を総嘗めにしてきたその実力は、本物としか言いようがない)

穂乃果(だから私はスクールアイドルになるため、強くなるために、彼女のやり方に賛同して)

穂乃果(どんなことがあれども、彼女に従ってきた)

穂乃果(けれど…)

穂乃果(私は最近、揺らいできている)

穂乃果(彼女の今までのやり方が間違っていたとは思わない。確かにこれで、私は強くなれた。数々の人を、心を犠牲にして)

穂乃果(でも最近は…彼女の意思が、何か純粋でないと感じるように、なってきていた)

穂乃果(ただ、『強さ』を求めているだけとは…思えなくなってきていた)

穂乃果(にこちゃんを犠牲に私達を育成しようと考えていたことはまだ、理解できた)

穂乃果(きっとにこちゃんがダメになっていたら、私たちは更なる躍進…恐怖によるブーストで、成長できていたかも知れない)

穂乃果(けれど今回の…西木野さんの起用は、理解できない)

穂乃果(あの方法がA-RISEに…UTXに有益をもたらすとは、思えなくて…)

穂乃果(『何か理由があるんじゃない?』って、凛ちゃんもにこちゃんも言うけど)

穂乃果(その理由が…『強さ』ならいいのだけど)

穂乃果(…もし、私の感じている『強さ』以外の何かのためだとしたら…)

穂乃果(そう思うと、猜疑心が胸を塞いで止まない)

穂乃果(その何かは、私にはまだ、分かりそうにないけれど)



絵里「…じゃあ、今日はここまでにしましょう」

にこ「えっ…、もう終わり?」

絵里「えぇ、話し合いに結構時間を割いてしまったし…今から練習しても中途半端に終わっちゃうでしょうし」

穂乃果「居残りですればいいのでは?」

絵里「それがいいと思うのなら、あなたたちが自主的に行って。とりあえず、私の仕事はここまで」

絵里「これ以降のスケジュール管理の追い込みが忙しいから、帰って整理しないと。…まぁ、私のためってことよ」

凛「うーん、それなら仕方ないにゃー。じゃあ穂乃果先輩とにこちゃんは後で一緒に練習ね!歌も合わせよう!」

にこ「そうしましょうか。先輩も忙しいでしょうし、頑張ってね」

絵里「えぇ、あなたたちもね。それじゃ私はお先に着替えてくるわ」

凛「お疲れ様ですー。よーし、じゃあ発声練習、いっくにゃー!」タタタタッ…

にこ「あ、もう…発声練習にどうして走る必要があるのよ…」

穂乃果「…余裕があるなら、一度生徒会の方に戻っていいかな。あっちも来年度の予算の方で慌ただしくなってるし、確認しておきたくて」

にこ「いいんじゃない?アンタも忙しいわねー…」

穂乃果「もう、来年も近いからね。…じゃ、また後で。遅くなりそうだったら先に始めておいてね」

にこ「わかったわ。凛にも言っとく」



穂乃果「…」スタスタ…


希「…おや、もう終わりなん?」


穂乃果「ひゃあっ!?の、希せんぱっ…」

穂乃果「…どうしてここに」


希「まぁ、いいやん。それより…」

希「ちょっとお話、いいかな」

多目的ホール前


穂乃果「…絵里先輩と、西木野さんのこと、ですか」


希「うん。えりち、何か言ってなかった?西木野さんのこと」

穂乃果「いえ、何も。…あれでいい、とくらい、ですね」

希「そっか…。やっぱり、直接本人に理由を問い詰めるしかない、かな…」

希「穂乃果ちゃん自身はどう思う?西木野さんのこと」

穂乃果「…別に。絵里先輩がいい、と思っているのなら…いいんじゃないでしょうか」

穂乃果「私は彼女のやり方を支持している派なので」

希「ふふっ…、せやったね。穂乃果ちゃん、えりち派やもんねー」

穂乃果「…何がおかしいんですか」

希「あぁ、うん…別に何でもないよ。ごめんね、呼び止めちゃって」

希「もうえりち帰るんやろ?うちそれまで待っとくわ。ありがと、穂乃果ちゃ…」

穂乃果「その前に」

希「ん?」

穂乃果「…あなたに聞いておきたいんですけど」

穂乃果「あの西木野さんは…私の知ってる西木野さんとは別人ですね?」

希「…なんで、そう思うん?」

穂乃果「昨日の朝、西木野さんに二回、出会ったのもありますけど」

穂乃果「…あなたが彼女のことを、『真姫ちゃん』ではなく『西木野さん』と呼んでいることも、起因して」

希「…鋭いなぁ。結論から言えば…まぁ、その通りやね」

穂乃果「そんな簡単にバラしてしまっていいんですか?…結構、重大なことだと思うんですけど」

希「ん?…うーん、穂乃果ちゃんなら、大丈夫かな、って」

穂乃果「…私、なら?何故…ですか」

穂乃果「あなたは、私のこと…好きじゃないんでしょう?」

希「なにそれー?どこ情報?うち穂乃果ちゃんの事嫌ってはおらんよ?」

希「嫌いなんは…やり方、やね。えりちから教わった、その思想が、うちは嫌い」

穂乃果「…」

希「ねぇ、穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんが生徒会に就任した日のこと、覚えてる?」

穂乃果「えっ…。いや…」

希「穂乃果ちゃんに…結構キツいこと言われちゃって、うちかなり凹んだんよ?」

穂乃果「…すみません。そこまでいちいち覚えていられません」

希「せやろね。穂乃果ちゃんにとってはなんでもない言葉やったんやろうけど」

希「うちの今までを全て否定された気がして…随分落ち込んだわ。あの日」

穂乃果「…なんて、言ったんですか。私」

希「…えっとね」




「生徒を救うなんて、おこがましいこと、もうやめてください」

「あなたのしているその行為は、慰められた方を更に惨めにするだけの行為です」

「あなたが慰めているのは傷ついた人間ではなく…あなた自身だと言うことに、まだ気づかないんですか」

穂乃果「そんなことを、私が…?」

希「…うん。生徒会長を辞めたなら、もう一切しないで、って」

希「それ聞いて、うち今まで…孤独な自分を慰めたかったから、傷ついた誰かを家に呼んでたんかな、って…」

希「ホントは、自分より悲しんでいる人を眺めて、自分の傷を癒したかったんかな。…そう思ったら」

希「卑しいな、なんて…柄にもなく落ち込んでたんよ」

穂乃果「…でも、それは事実だと思いますよ」

穂乃果「あなたは、誰ひとり救うことができなかった」

穂乃果「それは、あなたに救う気がなかったからです」

穂乃果「本当に誰かの心を癒したいと思っている人は…諦めない人だから」

希「…せや、ね。うちも、そう思う」

希「うちはずっと、諦めてばかりだった。西木野さんが不登校になってしまっても…」

希「次の傷ついた子のために、自分が傷つかないために、って…存在すら忘れてしまったんやもん」

希「本当に誰かを助けたい人は…どうあっても諦めない人や、って気づいたのは…あの子が来てから」

希「真に心の強い子。…真姫ちゃんが、家に来てから」

穂乃果「それが…私の知っている西木野さん、ですか」

希「あの子は…どんな時も諦めなかった」

希「自分がどれだけの無茶をやらかそうとしてても、決して諦めはしなかった」

希「あの子のおかげで救われた子を、うちは何人も見てきた。…うちが一年かかっても、一人も救えなかったのに」

希「うちも、そのうちのひとり、かもね」

穂乃果「…」

希「真姫ちゃんは、強い子やよ。それは、穂乃果ちゃんも知ってるんじゃない?」

穂乃果「私、が…?」

希「にこっちのこと、もう気づいてるんと違う?あの子が立ち直れた原因が…」

穂乃果「…やっぱり、そう、だったんですか」

希「うん。真姫ちゃんのおかげ。あの子が躍起になってにこっちの崩れた心の支えを見つけてくれたから、今のにこっちがある」

穂乃果「…彼女が、にこちゃんに何かしたわけじゃ、なかったんですね」

穂乃果「その可能性も少しは考えてましたけど…じゃあ…」

希「…うちがね、穂乃果ちゃんのこと、嫌いじゃないのは」

希「穂乃果ちゃんは、えりちじゃないから」

穂乃果「えっ…?」

希「えりちの考え方を受け継いではいるけど、染まりきってはいない」

希「芯は、強い穂乃果ちゃんの意思が貫いてる。純粋な、穂乃果ちゃんの気持ち」

希「『努力している子を、応援したい』って感情。違う?」

穂乃果「…そうでしょうか。自分でもよく、わかりません」

希「だからうちは穂乃果ちゃんになら、真姫ちゃんの秘密を明かしてもいい、って思えたんよ」

希「まだえりちに染まりきってないなら、この秘密も、穂乃果ちゃんはうまく扱ってくれるかもしれないって」

穂乃果「…買いかぶりすぎですよ。学校に、言うかも知れないのに」

希「うん、でも…うちは穂乃果ちゃんを信じたかった」

希「いつか、穂乃果ちゃんは真姫ちゃんの味方になってくれるかもしれない」

希「そして…、真姫ちゃんが、穂乃果ちゃんの味方になってくれるかもしれないから」

希「努力している子を純粋に応援してくれる、本当の穂乃果ちゃんへの…ちょっとした投資みたいなもの、かな」

穂乃果「…バカバカしい」

希「ま、前生徒会長から現生徒会長へのエールやよ。これをどう扱うかは…穂乃果ちゃん次第だから」

希「でも…遅かれ早かれ、気づかれてたのは変わらないと思うけどね」

穂乃果「…長話に付き合わされ損ってことですか」

希「穂乃果ちゃんが退屈してたなら、そうなるかも」

穂乃果「…はぁ」

穂乃果「もう、いいです。西木野さんが二人いる事実が確認できたなら、私はこれで」

希「ん。じゃあね、生徒会、頑張って」

穂乃果「…はい」

穂乃果「いえ、やっぱり…」

希「うん?」

穂乃果「最後に、もうひとつだけ」

穂乃果「どうして…まだ西木野さんに手を差し伸べようとするんですか?」

穂乃果「この一年、誰も救うことができなかったのに…なぜまだ、諦めないんですか?」

希「あぁ…気づかれてたか。でも、せやね…。理解しがたいかもね」

希「だけど、簡単な理由」



希「きっと今度こそ…初めて、心から誰かを救いたい、って思ったから」

希「そしてもう…絶対に諦めないって、決めたから」




生徒会室


ガチャッ


生徒会役員「…あ、会長。お疲れ様です。アイドルのほうは大丈夫なんですか?」


穂乃果「…」


生徒会役員「会長?」

穂乃果「…ごめん、なんでもない」

生徒会役員「そう…、ですか。あの、失礼ですが、何かありました?」

穂乃果「…え?」

生徒会役員「いえ、いつもは考え事をしていても意識を分散させている会長が、何か考え込んでいるようなので…」

生徒会役員「もしや重大な事件でも抱え込んでいるのかと…!?」

穂乃果「あ、あはは…そんな…」

穂乃果「…ぁ」


穂乃果(役員の子が冗談めかして言った、重大な事件という言葉に)

穂乃果(西木野真姫が、二人いるという事実が、頭をよぎる)


穂乃果「…」


穂乃果(けれど)


穂乃果「…うぅん。なんでもない。それより、来年度の予算の件についてなんだけど…」



穂乃果(そんなことは些細なことだと思い返し、今日も私は…生徒会長としての職務を全うする)

絵里「長話は終わった?」


希「っ…!」




多目的ホール前



絵里「…そんなに深い話されてたら、出るに出られないじゃない」

希「えり、ち…」

希「どこから?」

絵里「最初から、…って言いたいところだけど、安心して」

絵里「真姫が二人いる…とかどうとか、穂乃果が言ってたところくらいからしか聞いてないわ」

希「そう、…よかった」

絵里「聞かれたくない話?ふふ、つれないわね」

絵里「私にも、聞かせてくれたらいいのに」

希「…じゃ、うちの長話、付き合ってくれる?」

絵里「話にもよるわ。なんなら今からパフェ食べに行く?」

希「そこまで長くはならんよ。すぐ、済む」

希「…単刀直入に聞くわ」

希「どうして、西木野さんを指導補佐なんかにしたんや」

絵里「長くなりそうだわ。パフェ食べに行きましょう」

希「答えて!」

絵里「…」

希「やっぱり…、ただならぬ事情があるんじゃないの!?」

絵里「そんなわけ、あるわけないじゃない」

絵里「私はただ、真姫の才能を買っただけよ」

絵里「あの子なら、私がいないA-RISEを強くしてくれるって、思ったから」

希「そんな、歯の浮くようなっ…!」

絵里「でも、事実だもの」

絵里「そうよね?真姫」

希「…えっ」



真姫「…希、先輩…」


希「西木野さん…」


真姫「どうして、ここに…」

希「西木野さんこそどうして…。まだ指導の途中なんじゃ…」

真姫「…今、休憩中だから…」

希「…ちょうどいい。西木野さんにも聞きたいことがあるんよ」

希「なんで、あんな乱暴な指導の仕方してるんや…」

希「普段の西木野さんは、あんなこと言わないはずやん」

真姫「それは…」


絵里「…真姫。おいで」

絵里「ご褒美をあげるわ」

希「えっ…?」

真姫「あっ…!はい!」タタタタッ…


絵里「…偉いわね。初めてなのにあんなにできて」

真姫「うん…。緊張したけど…頑張ったわ」

真姫「ああいうロールプレイならオンラインゲームで何度か演じたことがあったし…。余裕よ」

絵里「あなたならやればできる、って思ってたの。私が見込んだだけのことはあるわね。よしよし」ナデナデ

真姫「はぁぁぁぁ…!」



希「…あの。なんでいきなりイチャイチャし始めたん?」


絵里「なによ。希もナデナデされたいの?いいわよ、おいで」

希「いらんわ」

希「そうじゃなくって…!」

絵里「報酬よ。これが、真姫への報酬」

希「報酬…?」

絵里「私の後継者になってくれるための条件よ」

絵里「ただ、真姫を愛する。彼女が欲した時はいつでも…とまでは言えないけど、可能な限り愛してあげる」

絵里「それが私が真姫に提示した、条件」

希「なんやっ…、それっ…!?」

真姫「え、絵里…。もっと…もっと撫でて」

真姫「希先輩と話してないで…私だけを見てよ…」

絵里「もう、仕方ないわね…。よしよし、真姫…可愛い子ね」ナデナデ

真姫「うん、ありがと…。はふぅっ…」

希「えぇ…いや、うちの話も…」

希「というか西木野さん、昨日はうちのことも信頼してくれてるって言ってたのに…」

真姫「…」

希「西木野さんっ!」

絵里「…ふふ、馬鹿ね」

希「え…?」

絵里「あなたは、彼女が求めるものも何も分かっていなかった」

絵里「この子に必要なのは仲間じゃない」

絵里「ただひとりの…愛よ」

希「なっ…」

絵里「…昔からそう。あなたは心の機微に疎い」

絵里「それだから誰も救えないのよ。元生徒会長さん」

絵里「代わりにあなたは肉体の変化や疲労に敏感だったわね。触診や汗の匂いで体調を管理するのが上手だった」

絵里「あなたが身体、私が心。そうやってアイドル応援部は様々な状況に対応し、地位を確固としたものにしていったんじゃない」

絵里「…でも今は、その名誉も全て、私の手の内なのだけどね」

希「…っく」

絵里「結局、疲労も自分でコントロールできないアイドルなんて…必要ないってことなのよ」

絵里「才能が全て。言うことを聞かないなら…ふふっ、あとはわかるでしょう?」

希(えりちが人心掌握術に長けているのは、事実だった)

希(だからこそこんな無茶なやり方でも、アイドル専攻は破綻せず続けていられる)

希(心傷つき、病んでいってしまう人たちが、アイドルを嫌うことはあっても…)

希(…えりちを嫌うことは、ほとんど、ない)



絵里「この子は飢えていたのよ。他人の愛に」

絵里「欲すれば手に入る。当然の権利」

絵里「そんな誰でも持ってそうで…なかなか与えられない、いつでも愛される、ってことを」

絵里「あなたにもそれを求めていた。けど…あなたははぐらかしたそうじゃない」

希「えっ…あ、いや…」

絵里「…そうよね。無条件の愛なんてそんな、誰にでも与えられるものじゃないものね」

絵里「でも、それがあなたの限界」

絵里「彼女の欲しているものも与えられない愚かなあなたの、終着点よ」


希「っ…!ち、違うっ!!」


絵里「…」

希「西木野さんが欲しているものと、彼女に必要なものは別や!」

希「今の西木野さんに必要なんは…仲間やよ!」

希「えりちはすぐに卒業してしまう!そしたらその後、西木野さんはひとりぼっちやん!」

希「西木野さんが充実した毎日を送るためには、今仲間を作っておくことが大事なんよ!」

希「だ、だからうちは…うちらは!西木野さんを…」

真姫「…いいの」

希「えっ…?」

真姫「学校なんて、楽しくなくていい」

真姫「絵里は、卒業しても私を愛してくれるって言ったわ」

真姫「これからの一生、私に尽くしてくれるって言ってくれたもの」

真姫「だから、こんな生活、充実しなくて構わない」

真姫「大嫌いな学校で、大嫌いなアイドルを育てる」

真姫「ただ、絵里に愛される。それだけのために」

希「大、嫌い…?そんな…西木野さん、もう、嫌いやないって…言ってたのに…」

真姫「嫌いよ。心からアイドルが憎い」

真姫「大好きな絵里を悩ませて…、大好きだったあなたを独り占めにできなかった理由のアイドルが…嫌い」

真姫「嫌いなまま、強くする。それが私の思想よ」

真姫「…もう、これ以上あなたと話すこともないわ。さようなら、大嫌いなアイドルを応援する人」

真姫「あなたも、嫌い」

希「待って!西木野さんっ!!うちはっ…!」

希「西木野さんもっ!仲間にっ…!!」


ガチャンッ


希「…ぅ、あ…」

絵里「…もうあなたは部外者なの。アイドル専攻にとっても、私にとっても、そして、彼女にとっても」

絵里「もう来ないで頂戴。ふふ…、私だけに用事があるなら、内密に来てもいいけどね」

絵里「それじゃ、さようなら。…希」

希(目の前で閉じてしまった…そして、もう開くことのないホールのドアを、眺めて)

希(ただただ呆然と、立ち尽くすことしかできなかった)


希「…ぐ、ぅっ…!」


希(もう既に、西木野さんはえりちにかなり心酔している)

希(もはや、うちの言葉では西木野さんの心を開かせることは…難しいのかもしれない)

希(でもっ…)



希「こんな、絶望的な状況でもっ…」ギリィッ…!!

希「今度こそ、絶対に諦めないんやっ…!」



希(何度無理な状況に陥っても、何度無茶なことを挑戦することになっても)

希(必ず、その全てに打ち克ってきた、あの子のように)

希(拳を握り、奥歯を噛み締め、決意する)

希(今度は、そう)

希(うちが、無茶をする番やもの)


希「…もし、西木野さんの心を開かせ、目を覚まさせるものがあるとするならば」

希「それは…」



希(えりちの言葉自身)

希(はぐらかされて聞き出すことの出来なかった、彼女の本心を、西木野さんに聞かせられたなら)

希(うちの言葉でなく、えりちの口から発せられた言葉で)

希(…それがどれほど無理難題なのかは、うちも承知しているけど)

希(これが、生徒会長として成せなかった、…いや、成す気がなかったうちの)

希(最初で最後の、全力投球…!誰かを、孤独の闇から救い出すっ…!!)




希「絶対にっ…!負けへんからなぁぁっ…!!」




希(そう唸り、まずすべきことを確認する)

希(とにかく…悩んだらひとりで悩むな。カッコ悪くても、誰かを頼る)

希(うちの知っていることで、真姫ちゃんに教わったことでもある)

希(今うちが頼れるのは、真姫ちゃんしかおらんから)

希(音楽室で練習しているあの子達に頼るのは後回しにして、まずは真姫ちゃんに連絡を取ろう)

希(彼女の電話番号に向けてコールする)


希「…無茶するんはうち自身でいいから、せめてアドバイスだけでも…」

希「お願い、真姫ちゃんっ…!」


プルルルルッ… プルルルルルッ…


ピッ


希「あ、もしもし真姫ちゃん?実は…」






『おかけになった電話は電源が入っていないか電波の届かない場所にいるためお繋ぎできません』





希「…あれ?」

音楽室


ことり「よーしっ!もうワンセットー!」

海未「ふっ、はっ…」

花陽「よととと…」


海未「ふー…、そろそろいい時間でしょうか」

ことり「そだね。じゃあ最後に…うーん、どうしよっかなぁ…」

花陽「なんか…やっぱり真姫ちゃんがいないと締まらないね…」

海未「そうですね…。3人だとどうしてもバランスが悪くなってしまいますし」

ことり「こうしてここに集めてくれた子がいないって考えると、なんか寂しい気分もあるよね」

花陽「また、一緒に練習できるようになるといいね…」

海未「はい…、一刻も早くその時が来ることを願って…」

ことり「明日休みなんだし神田明神で練習する分には真姫ちゃん来てもいいんじゃないかな?」

花陽「…」

海未「…」

海未「そういえばそうですね!」

花陽「だねー!あははははは…」


ブルルルル… ブルルルル…


ことり「…あれ?携帯のバイブ音…誰のだろう」バッグガサゴソ…

海未「私ではありませんね」

花陽「あ…私だ。えーっと…、希部長からだね」

ことり「何かな?」

花陽「うん。…はい、もしもし。花陽です」

花陽「…え?うぅん、来てない、ですけど…」

花陽「はい…。はい、わかりました。じゃあ…」ピッ

海未「部長はなんと?」

花陽「…真姫ちゃんに連絡がつかなくて、こっちに来てないか、って」

ことり「連絡が?」

花陽「うん。何回かけても電源が入っていないか電波の届かない場所にいるか、って…」

海未「どうしたんでしょうか…。何かあったのか…」

ことり「ま、ま、まさかっ…!また誰かに襲われちゃった、なんて…!」

海未「いや、そんな…。そんなことないと思いますが…」

花陽「でも、前にも一度同じようなことがあったし…」

花陽「ま、真姫ちゃんっ…!大丈夫かな、心配だよ…」

花陽「もし、明日の練習にも来ない、なんてなったら…っ!!」

海未「か、考えすぎですよ…。きっと真姫は明日、練習に来てくれます」

ことり「…そう、だといいけど」

その夜

希の家


希「…真姫ちゃん」


希(家に帰っても当たり前のように真姫ちゃんの姿はなくて)

希(もう夜も夜やというのに、未だ帰って来ない)

希(最悪、警察に通報しようかとも考えたけど…)

希(…真姫ちゃんの出自じゃ、却って厄介なことになるだけ、やよねぇ…)

希(二つの意味で、うちに頼れるものはなくなってしもた)

希(真姫ちゃんの心配と、…そして西木野さんの心配で頭がいっぱいで)

希(考えなきゃ、って思っていたことも、考える余裕がない)

希(ただ時間だけが無意味に過ぎてゆく…)



希「…はぁ」

希「せっかく二つ作ったんやから、食べて欲しかったなぁ…」


希(真姫ちゃんがいつ帰ってきてもいいようにちゃんと、晩ご飯は真姫ちゃんの分も作っておいたんやよ)

希(すっかり冷えてもて…明日の朝ごはんはこれをチンしたやつやからね?)

希(…もし明日も帰ってこなかったら、明後日で、明後日もダメだったら…)

希(ダメ、だったら…)



希(…ずっと、帰ってこなかったら)




希「…そんなん、やめてよ」

希「いつか、いなくなるってわかってるけど…、いなくなるんやったら…いなくなるいうてからいなくなってよっ…!」

希「黙って帰っちゃうなんて…そんなん許さへんからね…!」

希「食費だって、生活費だって…うちが全部負担してあげててんからっ…!」

希「返さないで帰るとか、最低やんっ…!!」

希「返してくれるまで、延々と呪い続けたるんやから…」

希「だからっ…、はよぉ…はよ、帰ってきてよ…」

希「…真姫ちゃん」


ピンポーン


希「っ!誰か来たっ…!もしかして…」デンワガチャ

希「…はい、どちら様?」


『…私よ、希。西木野さんじゃない方の、真姫ちゃん』

『入っていい?』


希「ま、真姫ちゃんっ!!今まで何を…いや、うぅん、入っていいよ!」


『…わかったわ。ちょっと、驚くかもしれないけど…まぁ、気にしないでね』

ガチャッ


希「真姫ちゃんっ!おかえりっ!もー、どうしてこんな遅くまで…って、え…?」

数時間前


真姫☆「…ん、ぅ…」

真姫☆「あれ、ここ…」


真姫☆(意識が混濁している…)

真姫☆(私は今まで、一体何を…)

真姫☆(どうして、こんなところで寝て…)

真姫☆(…確か、秋葉原を歩いている途中に…)

真姫☆(そう、誰かに急に捕まえられて)

真姫☆(そのまま路地裏に引っ張りこまれたのまでは覚えてるんだけど…)

真姫☆(そこから意識を失って…)

真姫☆(…でも、どうして。前、絵里の派閥に捕まった時は変なクスリを嗅がされたみたいだったけど…)

真姫☆(今回は何にも嗅がされた感じはなかったし…それに確か…)

真姫☆(気を失う寸前に…あの目眩が…)

真姫☆(…そんなことより、絵里たちに捕まったのだとしたら…)

真姫☆(早く逃げないと…!また良からぬ目に…)


真姫☆「…って、あれ?」

真姫☆「特に縛られていない…」


真姫☆(私は小さなベッドに寝かされていて、身体を拘束されている様子もなかった)

真姫☆(っ…!じゃあまさか、この部屋自体に私を捕まえる仕掛けがっ…!?)

真姫☆(くっ、なんて卑劣な…!こんな薄汚いどことも知らない密室に私を閉じ込めるなんて…!)

真姫☆(こんな…見知らぬ…部、屋…に…)


真姫☆「…いや」

真姫☆「ここ…知ってる…?」

真姫☆「なんだか随分と…見覚えのある、部屋…の気が、する…」

真姫☆「長い間見なかったけど、長い間過ごしていた…」

真姫☆「…まさか、ここって」



「…あ、目、覚めた?」


真姫☆「っ…!」


「もー、急に気を失っちゃうんだもん。びっくりしたよー。もう平気?気分悪いとことかない?」


真姫☆「あ、あなたはっ…!」

真姫☆「凛…」


凛「…ん?凛だけど、何かにゃ?」

真姫☆「や、やっぱりっ…!」

真姫☆「私を捕まえたのはあなただったのね!」

凛「えっ、いや、捕まえた…うん、まぁ捕まえたけどさ」

真姫☆「このっ…、卑怯よ!」

凛「え、何が!?」

真姫☆「言いなさい!何が目的なの!私を捕まえてどうする気!」

凛「え、いや…その、あの…」

真姫☆「あなた一人でどうこうできるとは思えない…!絵里になんて指示されたの!?」

真姫☆「もし花陽たちに手を出す気なら私、あなたにも容赦はしないっ…!」

凛「えぇっ!?か、かよちんに手を出す…、なんて、アハハ、そんなぁ…///」

凛「んー、まぁ?法と世界が許すなら別に凛はかよちんに手を出してもいいんですけどー…ってそんなつもりは更々ないからねっ!?」

真姫☆「何をわけのわからないことをっ…!」

凛「わけわかんないのはそっちのほうだよ!どうしちゃったの真姫ちゃん!?」

凛「やっぱなんか変なモノでも食べた!?変な蟲に寄生された!?変なベルで催眠をかけられた!?」

真姫☆「あなたこそ何を…、あれ」

真姫☆「凛、その服…」

凛「へ?服?いつものナース衣装だけど…」

真姫☆「いつもの…」

凛「ん?」

真姫☆「…」

真姫☆「今日の西木野☆星空クリニックはここまで!」

凛「次にヤバい病気にかかっちゃうのはあなたかもね?」

真姫☆・凛「「まじ☆えんじぇー!!」」



真姫☆「りぃぃぃんんっ!!!!?あなたっ…、凛ねっ!?」

凛「どぅぁからさっきから凛は凛だって言ってるでしょぉぉっ!!?」

真姫☆「じゃあ、じゃあここはっ…」

真姫☆「この薄汚い、嫌になるほど見覚えのある部屋はっ…!!」

凛「クリニックだよ?」

真姫☆「っ!!」

真姫☆「わ、私…」



真姫☆「帰ってきちゃった…?」

凛「…真姫ちゃんがクリニックから転落したと知って一ヶ月…」

凛「凛は真姫ちゃんを探しに探し続けたにゃ」

凛「様々な世界に行っては帰り、また行ってはちょっと観光してすぐ帰り…」

凛「…時々数日間異世界で遊んだりもしたけど」

凛「そんなこんなでようやっと真姫ちゃん…凛の真姫ちゃんが見つかって、心の底から叫びだしたいほど嬉しかったんだけどー…」

凛「同時に不注意で転落しやがったおかげでこんなにも必死で探させられる苦労も味わせてもらったって考えるとちょっぴりイラッ☆ってしちゃったから…」

凛「少し驚かせたろーと思ってお得意の異次元CQCで真姫ちゃんの身柄を拘束させてもらったら…」

凛「…なんか知らんけど気を失っちゃってこちとら大パニックだよ」

凛「もし凛のおふざけが真姫ちゃんを死へと追いやったなら後追い自殺する気マンマンだったりしたんだけど」

凛「どうやら心臓は動いてるみたいだったから一安心。寝てる間にクリニックに運んでこの世界へと戻ってきたってわけにゃ」

凛「どぅゆぅあんだすたん?」

真姫☆「…理解したわ」

真姫☆「私が気を失ったのは薬のせいなんかじゃなく、あの目眩に襲われたから、…で」

真姫☆「ついでに凛の感覚ではまだ世界は1ヶ月しか時間経過していない…ということなのね」

凛「世界…ってか凛は、だね。世界自体はたぶん一日も経過してないんじゃないかな」

凛「真姫ちゃんはどれくらい?」

真姫☆「私は…3ヶ月弱ね。前の経験も含めたらそろそろ二年生に年齢が追いつきそうだわ」

凛「海未ちゃんあたりはゆうに追い越してるね」

真姫☆「…そうね」

凛「いやー、でも見つかってホントに良かったよー。経過した時間も数ヶ月程度で済んで!」

凛「もし時空壁が数年後の時点にあったら大変なことになってたし、不幸中の幸いだね!」

真姫☆「時空壁…?」

凛「とにかくこれで万事解決!やっと真姫ちゃんとの平穏な暮らしが戻ってきたって考えると一安心にゃー」

真姫☆「…そう、ね…」

真姫☆「万事解決…よね…」

真姫☆「…」

真姫☆「…ってぇっ!そうはいかないのよぉっ!!」ダダッ

凛「えぇっ!!?真姫ちゃんどこ行くの!?」



西木野☆星空クリニック パイロットルーム


真姫☆「えっと…、確か世界線は…っと…。あぁもうっ!久々過ぎて操作忘れた!」

凛「ちょっとちょっと!?真姫ちゃん帰ってきて早々に何をっ…」

真姫☆「…えぇいっ!今はとにかくっ…!」

真姫☆「西木野☆星空クリニック…改め!西木野☆星空スターゲイザー!発進よっ!!」


ガコンッ ボシュゥゥゥッ!!

グニュワンッ


凛「ぬおわっ…!?ま、真姫ちゃんっ!いきなり時空ワープ!?どこ行く気にゃあぁぁっ!?」

真姫☆「決まってるでしょっ…!」



真姫☆「帰るのよっ…!あの世界へ!」

真姫☆「私はまだ、あの世界でやり残したことがあるんだからっ…!」

グラングランッ…


凛「えぇっ…、ちょっ…うぇっぷっ…!ま、真姫ちゃん、運転荒すぎ…酔うにゃっ…」

真姫☆「おぇっ…ご、ごめんなさい…。一旦止めるわ…」


凛「はぁっ…、足掴まれてぶん回されたみたいだにゃ…」

真姫☆「…この感覚…うぷっ…、あの、目眩と似てる…」

凛「目眩?」

真姫☆「最近、急に目眩を感じることがあるのよ。足元が覚束なくなるような、キツイの」

凛「真姫ちゃんがいた世界で、ってこと?」

真姫☆「えぇ…。つい最近からね」

凛「…じゃあたぶんそれ、時空壁の生成の影響かも」

真姫☆「時空…なにそれ」

凛「…その前に、真姫ちゃんはあっちの世界に戻って何をする気なのか説明してほしいにゃ」

凛「急にこんなことされても、凛戸惑っちゃうよ」

真姫☆「…わかった。説明するわ。私があの世界で体験した、3ヶ月の出来事も全て」











凛「…な、なんてことを…。真姫ちゃん、ガッツリ別世界と絡んじゃったの…?」

真姫☆「まぁ…そうね。私も最初はそんなつもりじゃなかったんだけど。興味本位からUTXに行ったら成り行きで大変なことになっちゃって」

凛「だから、あれほどの時空壁が…。それで、真姫ちゃんはこれから帰ってどうする気?」

真姫☆「もちろん、あっちの世界の私をアイドル専攻から連れ戻す。それがまずすべきことよ」

真姫☆「そのあとは…とにかく!花陽と約束した、笑顔のスクールアイドルを実現させるまでは…帰れない」

真姫☆「私のC☆cuteで、UTXの頂点を獲るまではね」

凛「…なるほど、にゃ。大体わかった」

凛「でも…凛はそれ、オススメできないにゃ」

真姫☆「えっ…!な、なんでよ!」

真姫☆「これ以上別世界に干渉することは許されない、なんて言わないでしょうね!そんな綺麗事、凛らしくもないわ!」

凛「…割と本心で、そう思ってもいるよ。眺めるだけならまだしも、そんなに深く関わるのはホントはやっちゃいけないことだもん」

真姫☆「でもっ…!もう関わっちゃったんだから仕方ないでしょ!」

真姫☆「もう、あの世界に…私の居場所ができてしまったのよ!」

真姫☆「ダメだから、って…それを放棄して帰るなんて、私にはできないわ。約束だって、したんだから」

凛「…うん。その気持ちは凛にも理解できるよ。だから、そのことは問題じゃないの」

凛「凛は…、真姫ちゃんのこと、心配してるんだよ」

真姫☆「え…?」

凛「…もし、真姫ちゃんがあの世界で、これからもアイドルを続けちゃったら…」


凛「もう、真姫ちゃんはアイドルができない身体になっちゃうかも、しれないんだよ」

真姫☆「ど、どういう意味よ、それ…」

凛「真姫ちゃんが最近感じてる目眩のこと」

凛「あれは、時空壁があの世界に生成されたことによる時空振動によって、真姫ちゃんの身体が揺り動かされたことによって起こされる現象なの」

真姫☆「え、えっとー…?いきなり難しい単語が…」

真姫☆「さっきから言ってる時空壁、ってなんのことよ…。時空振動は歴史の改変が行われた時に感じる身体の揺れ…のことよね?」

凛「うん。大体それでいいよ。時空壁、っていうのは、その歴史の改変を行われないように、世界が取る防護策、だにゃ」

真姫☆「世界…?世界自身が、歴史の改変を防ぐ、ってこと?」

凛「そう。…あのさ。真姫ちゃんがあの世界にいるって分かったなら、真姫ちゃんがあの世界に落ちた3ヶ月前に行って、その時の真姫ちゃんを拾ってくればいいと思わない?」

真姫☆「え?あぁ…そうね。それなら凛が1ヶ月私を探し回っただけで済むんだから」

凛「でも、それはできないの。なぜなら、時空壁が邪魔をしているからだにゃ」

凛「時空壁が生成されると、それ以前の時間へは戻ることができなくなる」

凛「まさしく、時間を遡る上で立ちはだかる壁、みたいなもの」

凛「凛があの世界でたどり着ける最も経過の少ない時間が…真姫ちゃんが今まで過ごした3ヶ月のラインだった、ってこと」

真姫☆「そう、だったの…。でも、どうしてその3ヶ月の時点で、時空壁が生成されたの?」

凛「それは、真姫ちゃんがあの世界の真姫ちゃんと接触したことが原因…なんだと思う」

真姫☆「えっ…でもあの世界にたどり着いた初日にも、あっちの私と出会ったけど…」

凛「…うん、じゃあちょっと違うかな…。正確には、『あっちの真姫ちゃんが、異世界の真姫ちゃんを認識してしまった』ことが原因」

凛「その時点で、世界はパラドクスを起こしてしまったにゃ。本来はあり得なかった、あり得る筈のない歴史を」

凛「世界が拒絶反応を起こしてるの。真姫ちゃんに対して。その結果が、時空壁の生成」

凛「そして、その際に起こる時空振動の波、だにゃ」

真姫☆「…つまり何。私が目眩を起こすのは京都で言うところのぶぶ漬けを出されている状態ってこと?」

凛「うん、そんな感じにゃ」

真姫☆「じゃあ私はそのぶぶ漬けを喰らい尽くしてやるわ。その程度の催促で帰るわけにはいかないの」

真姫☆「目眩が辛かろうが、私はっ…!」

凛「でもっ!…そんな状態で、真姫ちゃんにアイドルが務まると思う?」

真姫☆「…」

凛「このままあの世界に真姫ちゃんが居続けたら、更に大きな目眩だって引き起こすかもしれない」

凛「その目眩が練習中や、ライブ中に起こってしまったら…大怪我するかもしれないんだよ」

凛「そうなったら真姫ちゃんは…最悪、もう動けなくなっちゃうかも知れないんだよ」

凛「そうでなくても本番中にぶっ倒れでもしたらどうなるか…知らない真姫ちゃんじゃないでしょ」

凛「…どっちみち、これ以上あの世界で真姫ちゃんにアイドルは無理、だよ」

凛「諦めてよ。真姫ちゃん…」

真姫☆「…」

真姫☆「…っは」

凛「にゃ?」

真姫☆「ははは…あははははっ!なによ…なによ、そんなこと?」

真姫☆「…なら、なんの問題もないわ」

真姫☆「アイドルできないってんなら…しなきゃいいのよ」

真姫☆「しなくても、夢は叶えられる。とっくに私の代替を用意する計画だって…考えてあるんだからっ…!」

真姫☆「だからあなたが何を言おうと、私はっ…!」グイィィッ…!!


ガコンッ…!!

凛「ひぃぃっ!!ま、真姫ちゃんっ!!」

真姫☆「あの世界へ帰る!私の、花陽の…みんなの夢を叶えるために!」

グワングワンッ…!!


凛「待ってよ真姫ちゃんっ!!い、いくらアイドルはやらないからって…!」

真姫☆「っ…」

凛「目眩はあの世界に居続ける限りいつ襲ってくるかわからないんだよ!」

凛「身体を揺らされる目眩と吐き気…真姫ちゃんも体験して…ううぇっ…こ、こんな感じだよぉっ!!」

凛「これがぁっ…、ほ、発作的に襲って来るのに…!真姫ちゃんにこんな苦痛、凛、見過ごせな…」

真姫☆「うっさいわねぇっ!!」

凛「まっ…」

真姫☆「…私だって、そのくらいわかってる…!」

真姫☆「けど、諦めるわけにはいかない…うぅん、諦めたくないっ!」

真姫☆「これが今私の、やりたいことなんだから!」

真姫☆「苦痛がなによっ…!あっちの世界でだって、それを耐えて、耐え抜いて…今頂点目指して頑張ってるにこちゃんもいるのよっ…!」

真姫☆「それを考えれば、この程度の揺れっ…!屁でもないわ!!」

凛「…真姫ちゃん」

真姫☆「お願い、凛…。行かせて」

真姫☆「あなたは…い、一ヶ月に一回くらい様子見に来てくれればいいから。あなたにとっては時空跳躍ですぐなんだし」

凛「…はぁ。わかったにゃ。そこまで言うなら…もう止めないよ」

凛「でも、約束」

凛「決して、無茶はしないで。真姫ちゃんが倒れるところなんて、想像したくないよ」

真姫☆「…ごめん、凛。それは約束できない」

真姫☆「もう今までだって、無茶しかして来なかったんだもの」

真姫☆「だから…ぶっ倒れそうな時は誰かを頼るわ」

真姫☆「幸運にも、私の周りには…私を、支えてくれる人がたくさんいるもの」

凛「…ふふ、羨ましいこというね!」

凛「よぉしっ!このままあっちの世界へレッツゴーだよ!」

真姫☆「えぇ、そのつもりよ!」



凛「うぅっ…、も、もう少し…もう少しで到着だよ…」

真姫☆「うん…。そろそろっ…見えた!時空の出口…!」


シュバァッ!!


凛「ふぅっ…よ、ようやく着いたにゃ…。どこにクリニックを着陸させよっか…」

真姫☆「ここからなら、そうね…。やっぱり近いところで音ノ木坂学院跡地が一番…」


グワンッ…!!

真姫☆(うっ…!!?)


真姫☆(この世界に着いた途端、身体を大きな揺れが襲った)

真姫☆(でもそれは、クリニックでワープしている時なんか比べ物にならないほど、激しい揺れで…)


真姫☆「あ、うぐっ…!!」ガクッ

凛「え、ま、真姫ちゃっ…!!」


真姫☆(思わず、倒れこむ)

真姫☆(その時、無意識に身体を支えようとハンドルに体重をかけてしまい…そのまま…)

グリュルンッ…!!



凛「ま、ま、ま真姫ちゃぁんっ!!クリニックが傾いてるっ!!」

真姫☆「り、凛っ…ごめ…んっ」

凛「あぁもうだから言わんこっちゃないにゃ!くっ、このままじゃ二人まとめて墜落してお陀仏だよ!」

凛「なんとか…今から体勢を立て直っ…すっ…!!」グググッ…!!


真姫☆「…ごめん、なさい…凛…」

真姫☆「私の…せい、で…」


凛「バカっ!何泣き言言ってるの!?」

凛「真姫ちゃんは今から無茶するんでしょ!」

凛「こんなとこでへこたれてちゃっ…、聞いて呆れるよっ!!」

凛「こんくらいのヘマ…凛に任せておいてっ!」

凛「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」グググググッ…!!


ユラユラユラッ…


凛「く、なんとか墜落コースからは外れた、けどっ…!」

凛「安定着陸は無理っぽいぃっ…!く、仕方ないにゃっ…」

凛「多少機体が削れることは覚悟の上でっ…胴体着陸するしかないっ…!!」

凛「真姫ちゃん!なんでもいいからどこかに掴まってて!めっちゃ揺れるよ!」

真姫☆「わ、わかった…」ガシィッ!!

凛「うおぉっ!?ま、真姫ちゃん胸があたってまんがな!?なんで凛掴むの!?クリニック掴まないと意味ないって!」

真姫☆「アンタも…支えてあげないとっ…着陸の衝撃で吹っ飛ぶかもしんないでしょっ…!」

真姫☆「身体の固定は私に任せて…、アンタは着陸に集中しなさいっ…!」

凛「…っ!わ、わかった!ってもう地面が目の前っ!!」

凛「ぬ、ぬあああぁぁぁぁっ!!!」



ドッサァァァァァッ!!



シュゥゥゥッ…


凛「…」

真姫☆「…」

凛「…真姫ちゃぁん…」

真姫☆「なにぃ…?」

凛「…生きてる?」

真姫☆「…割と」

凛「そっか…良かったにゃ…」

凛「全っ然良くないよ!?」



音ノ木坂学院跡地


真姫☆「…動力部がイカレてるわね…。これじゃ飛行できそうにないわ」

凛「こ、これでクリニックが壊れるの何回目だよぉぉぉぉ…」

真姫☆「幸い時空転移装置は無事だったんだし、動力部さえこの世界で賄えばなんとかなるわよ」

凛「それまでどうするの…。クリニックも中グッチャグチャで到底衣食住に満足できるとは言い難いよ」

真姫☆「それは…」

真姫☆「…仕方ない。彼女に…厄介になるしかないわね」

凛「彼女…?」

真姫☆「とにかく、クリニックの中から使えるものを手当たり次第持って行くわよ。そんでステルスモードで外部の人間からは見えないようにしておいて」

凛「わかったにゃ…。で、どこに行くの?」

真姫☆「…ついてきたらわかるわよ」





希の家


希「…そんで、そんなボロボロなんやね」

真姫☆「えぇ、驚いたでしょ。あと、養うヤツもひとり増えたわ」

凛「えーっと…は、初めまして。星空凛といいます。希ちゃん…だよね?これからお世話になります…」

希「うん、初めまして。この凛ちゃんはあっちの凛ちゃんより可愛げがあっていいね」

真姫☆「そうでしょ?私の自慢の凛なんだから」

凛「…今はそれより、この荷物と衣服をどうにかしたいよ」



シャー…

凛「ふひー…、いちちっ…。お湯が傷に染みるにゃぁ…」


真姫☆「…希。これ」

希「え?これ…封筒?なによこれ…」

真姫☆「いいから」

希「…あっ!これ…お金やん!どうしたんよこれ!」

真姫☆「今までの生活費、賄ってもらってた分、返しておかないとと思って。お金も用意できたしね」

希「え、でも…」

希「…」

希「…いらんよ。うちは…真姫ちゃんさえ戻ってきてくれればいいんやしっ。はい、返す」

真姫☆「残念ながらクーリングオフは受け付けていないわ」

希「せやけど…明らかに真姫ちゃんの生活費より多いし…。こんなたくさん受け取れへんよ」

真姫☆「いいのよ、それで。…だって」

真姫☆「これからも、ちょっとの間厄介になるんだから。そのお金で、たっぷり美味しいもの、食べさせてちょうだいよ?」

希「っ…!ふふっ…」

希「…わかった。頂いとくわ。真姫ちゃん、ご飯は?」

真姫☆「まだよ」

希「じゃあ今からっ…、ホッカホカの美味しいご飯作るから、ちょっと待っててね!」

真姫☆「…えぇ、ありがとう。希」

凛「はぐはぐはぐ…っ!んんーっ!おいしいにゃー!」

希「ゆ、ゆっくり食べな?凛ちゃん、見ていて気持ちがいい食べっぷりやね」

凛「だって…がつがつ…こんな美味しいご飯食べたの久しぶりだよーっ!もぐもぐ…晩飯パクパクにゃ!」

真姫☆「あなただってお料理上手じゃない」

凛「それは二人暮らしする上で真姫ちゃんがあまりにも料理下手なせいで上手にならざるを得なかったの!命の危機すらあるからね!」

希「そうなん?」

真姫☆「…私の得意料理はもっぱらトーストだわ」

凛「でも凛は自炊するの好きってわけじゃないしー、最近はコンビニご飯や安い外食で済ましてたのー」

凛「だから希ちゃんのご飯は五臓六腑に染み渡るほど美味しいよー!凛よりずっとずっと上手だね!」

希「そこまでストレートに褒められると照れてまうなーえへへ…」

真姫☆「けどもう少し静かに食べなさいよ。ほら、机にこんなにご飯のくず零して…バカ」

凛「うぅ…!真姫ちゃんの優しい罵倒も久々にゃ…。けど言うことは聞かない」ガツガツ

真姫☆「…はぁ」

希「いいよいいよ。うちが後片付けしといたげるし」

真姫☆「…甘やかすのはいけないと思うわ」



凛「ふひー…けぷっ…。食った食った…。もう食べられないにゃ…ぐてー」

真姫☆「食ってすぐ寝ない。はぁ…だらしないわね」

凛「ごめんにゃー」

希「…ふふふ」

真姫☆「何笑ってんのよ」

希「ん?あ、いや…仲がいいんやな、って思って」

凛「凛と真姫ちゃんが?そりゃまー…親友だもんね!」

真姫☆「今のやり取りで仲が良さそうに見えるのもどうかと…まぁ、仲は悪くはないわね」

凛「素直じゃないんだから真姫ちゃんはーこのー」プニプニ

真姫☆「ほっぺたつつくな」

希「…いやぁ、羨ましいわ。うちにもそんなことできる友達がいればなぁ…」

凛「え、希ちゃん友達いないの?意外だね」

希「んふっ、昔はおってんよ?今は…」

真姫☆「今もいるでしょ。私たちが。ほれ、ぷにぷによ」プニプニ

希「やーん。…ふふふ、そ、やね…。あははは…」

凛「凛もぷにぷににゃ!うりゃうりゃ」プニプニ

希「もー、凛ちゃんまでっ。それっ、しかえしや!」

凛「むにーっ!ほっぺ挟むのにゃしだにゃぁぁぁ…」

真姫☆「んふふふっ…」


凛「ふわぁぁぁ~…なんだか眠たくなってきたにゃ…」

真姫☆「あなたが?珍しいわね…いつもは夜ふかししまくってるのに」

凛「最近は真姫ちゃん探しで疲れが溜まってたからねぇ…。安心したらどっと眠く…」

希「じゃ、うちの部屋に布団、用意しといたから。眠たかったらいつでも使ってくれていいよ」

凛「ありがとうございます…。ほんじゃ、お先にねんねするね…。おやすみぃぃ…」

真姫☆「えぇ、おやすみ」

希「おやすみな」

真姫☆「…希」

希「ん?」

真姫☆「話したいこと、何かあったんでしょ?」

希「えっ…どうして?」

真姫☆「そんな顔してる。相談したいことがあるってツラよ」

希「へぇ…真姫ちゃんも相当洞察力高いね。次のアイドル応援部部長は真姫ちゃんで決まりかな?」

真姫☆「残念だけど…あなたが卒業する前にこの世界からはいなくなる予定よ。…本当に、残念だけど」

希「そっか…。うん、それは仕方ないことやけどね…」

希「…せやね、悩み事…相談したいことあったんよ。西木野さんのことについて」

真姫☆「まぁそうでしょうね。今日アイドル専攻に行ってきたんでしょう?何があったの?」

希「…何が、うーんと、色々なことがあったね…」

希「何から話せばいいか…」


希(うちは思いつく限りの、今日うちが見たこと、聞いた話を真姫ちゃんに話した)

希(西木野さんが乱暴な指導の仕方をしていたこと、それがえりちの指示だということ)

希(えりちは西木野さんを愛するという条件で西木野さんを指導補佐に仕立て上げたこと)

希(西木野さんの収まりかけていた、アイドルと学校が嫌いという感情が、再び芽生えてしまったということ)

希(それと後…穂乃果ちゃんにも、真姫ちゃんが二人いると知られたことも、ついでに)


真姫☆「…穂乃果に?だ、大丈夫なの…?学校にチクられたりしたら…」

希「穂乃果ちゃんはそんなことしないと思うから平気やよ」

真姫☆「そ、そうかしら…生徒会長就任演説を聞いてたらかなり厳しそうだったけど」

真姫☆「少しの異常も見逃さないような…」

希「サボりや規則違反には厳しいかもしれないけど、事情があるなら穂乃果ちゃんはそこらへん寛容やよ」

希「あの子にはちゃんとした、優しさも兼ね備えているから」

真姫☆「あの穂乃果に、優しさ…?私には理解できそうにないわね…」

希「…ま、穂乃果ちゃんとの付き合いはそこそこ長いからね、うちは」

真姫☆「…それはいいとして、あっちの私…、絵里にいいように使われちゃってるわね」

真姫☆「希の言っていた、誰かに染まりやすい状態っていうのをまんまと利用されちゃったって感じね」

希「そう…えりちの真姫ちゃんへの入れ込み具合から察するべきやったのかもしれない。…彼女が、真姫ちゃんにアイドルを教えた張本人だったってことに」

希「そして、人の心を操るのが得意なえりちなら、西木野さんの信頼を勝ち取るくらい楽勝だなんて、わかりきってたことやったのに…」

希「…そのことまで、頭が回らなかったうちの失態や…。もっと注意するように言っておくべきだった…」

真姫☆「行っても無駄よ。絵里はそんな猜疑心を煽る言葉も忘れされるでしょう」

真姫☆「きっとあっちの私にとって、誰かに愛されるということは何事にも代え難いほどの充足を得られる行為なのでしょうし」

真姫☆「あなたからちょっとの注意を受けたところで、その誘惑に勝てるとは思えないわ」

希「…せやね。じゃあうちがずっと付き添って…いや、現実的に無理か、それは」

真姫☆「そう。そして今考えるべきは、あの時こうしていればよかった、なんかじゃない」

真姫☆「これから、どうするべきか。それだけよ」

希「…うん」

真姫☆「あなたには何か、考えていることはないの?あっちの私をアイドル専攻から抜け出させる方法」

希「ひとつだけあるとすれば…、えりちの本心の言葉を、西木野さんに聞かせる…かな」

希「えりちは西木野さんのことを信頼して…なんて言ってたけど、そんなはずない」

希「自分が都合よく動かせられるから…西木野さんを選んだにほかならないはずや」

希「愛するなんて、形だけ。西木野さんは騙されているだけに過ぎないんだって、彼女に気づかせれば…」

真姫☆「…それで、本当にいけると思う?」

希「えっ…」

真姫☆「私は…それじゃダメだと思うわ」

希「そ、そんな…。なんでそう思うん?」

真姫☆「きっと私なら…騙されていてもいい、って考えるもの」

希「騙されていても…?」

真姫☆「形だけでも…愛されていたい、って」

真姫☆「相思相愛でなくても、愛されるという行為を受けてじぶんが満ち足りていればただそれでいい」

真姫☆「そういう考えなはずよ。アイツは」

希「そうなん…?」

真姫☆「…まぁ、私だとしたらそう思うかも、って想像だけど。でも私とアイツは一応同一人物だし」

真姫☆「アレはアレで、引っ込み思案っぽく見えて…意外と我が強いヤツよ」

真姫☆「自分が正しいと思うことは正しい…そう思いこんで止まないタイプ」

真姫☆「彼女に考えを変えさせるなら…もっと根本から叩き直すべきね」

希「叩き直す…、具体的に言うと、どうするべき?」

真姫☆「つまり、愛されることが幸せでないと考えさせる」

真姫☆「あなたの言うように、仲間を持つことが大事なのだと考えさせることが必要だと、私は考えるわ」

希「西木野さんに、仲間を大事に思わせる…」

希「…でもそれは、無理やよ」

希「今の西木野さんに…えりち以外の言葉は届かない」

希「そうするならやっぱりまずはえりちの本心を聞かせて信頼を緩める方が…」

真姫☆「そうしても、愛されることが幸せだと考えているうちは、彼女の本心を語っても信頼は揺るがないわ」

真姫☆「信頼といっても、一方的に依存しているだけだもの。絵里が必要でないと思わせることの方が優先されるわ」

希「でも説得しようとしても…」

真姫☆「彼女は話を聞かない、でしょうね…」

希「これじゃあいつまでたってもイタチごっこやん…。どうしようもない…」

真姫☆「…私だけの考えじゃ、どうしようもならないわね」

真姫☆「もう夜も遅いし、明日…、休日だし、神田明神でみんなの考えも聞いてみましょう」

希「そっか…、明日は学校じゃないから真姫ちゃんも一緒に練習、できるんよね。ふふ、みんな喜ぶやん」

真姫☆「…、それがね…」

希「ん…?」

西木野家

真姫の部屋


真姫「…」


コンコン


真姫「…はい?」


『…真姫ちゃん?起きてる、かしら…』


真姫「ママ…」


『あの…、今日帰ってくるのが遅かったけど…何、してるのかなー、って』

『もしかしたら、お友達ができて遊んでて遅くなったのならママ…』


真姫「…いいじゃない、別に」

真姫「私がなにしてたって…ママには関係ないことよ」

真姫「もう、寝るから…ママも部屋に帰ってよ」


『…』

『…うん、ごめんね。あ、明日お休みだし、久しぶりに一緒にショッピングなんて…』


真姫「明日は朝から学校へ行くの。用事で」

真姫「だからいかない。明後日も」


『…そう。そうなの…。わかった、おやすみなさい、真姫…』


真姫「…」




真姫「明日も、学校…」

真姫「…面倒くさい、けど…」

真姫「あの人に、愛されるため、だもの…」

真姫「希先輩を敵に回してでも…」

真姫「…っ」

真姫「なに弱気になってるの…、自分で選んだ道なのに…」

真姫「また、昨日みたいになっちゃう…揺らいでちゃ、ダメ…!」

真姫「…そう、昨日…。絵里から…あんなこと告げられた、後みたいに…」

~回想~


昨日の夕方 音楽室


絵里「…ってことなんだけど…どう?」

真姫「えっ…」


真姫(彼女の話した内容が複雑過ぎて、私には理解の埒外だった)

真姫(かろうじて理解できたのが…、私に彼女の担当している、アイドル専攻の指導補佐を務めてほしいとと言われていることと…)

真姫(そうしてくれたら…、彼女は私のことを…愛してくれる、と言ったことくらいだった)


絵里「なんて…急に言われても、難しいわよね」

絵里「ふふ、でも私はあなたならできるって考えてのことなのよ。あなたの才能を枯らせるなんて勿体ないって思って」

絵里「難しいことをするわけじゃないわ。ただ私の言うとおりに動いてくれればいいだけ」

絵里「たったそれだけのことで、私はあなたに報酬を与えられる」

真姫「報酬…」

絵里「…あなたを、愛してあげる」

絵里「あなたが愛に飢えているのは見てすぐにわかったわ。誰かに愛されたくて、しょうがないんでしょう?」

絵里「それも親からではない…他人からの愛情。自分のために尽くしてくれる、誰かからの愛」

真姫「…ぅ、どう、して…」

絵里「ふふ、そういうの感じるの、得意なのよ」

絵里「でもあなたも…贅沢よね。そんな愛情、そうそう手に入るものじゃないわよ?」

絵里「よっぽどの美貌を持つ大金持ちとかか…もしくは、赤ん坊とか」

絵里「普通はそんな大それた愛情を求めるのは、おこがましいと考えるわ」

絵里「でも…私はそれを与えてあげられる。いつでも、ってわけではないけど…出来うる限りずっとね」

真姫「ずっと…?」

絵里「えぇ…。私が卒業しても、ずっと。休日はあなたと一緒にいてあげてもいい」

絵里「なんなら…私が一人暮らしを始めたら、あなたもそこに住んだって構わないわ」

真姫「ホント、に…?」

絵里「えぇ…本当に」

真姫「だ、だったら私っ…!!やるっ!やりますっ…!」

真姫「あなたに愛されるなら、それで…」

絵里「…でも、ほんの少し覚悟して欲しいことがあるわ」

真姫「えっ…」

絵里「指導って結構大変なのよ。難しくはないけど、休日は日中全て埋め尽くされるし」

絵里「休日のプライベートの時間はあまり用意されない、って考えてちょうだい」

真姫「…それくらいなら、大丈夫です。休日、誰かと遊んだりなんて…しないし」

絵里「そう。それならいいわ。…そして、あともう一つ」

真姫「もうひとつ…?」

絵里「…アイドル専攻の指導になる上で」

絵里「必ず…この学校のもう一つのスクールアイドルと敵対することになる」

真姫「あ、そ、それって…」

絵里「もちろん、そんなところに属している人たちや…それに与する人たちとも仲良くしてもらうと困るのよ」

絵里「だから…」


絵里「…東條希とは、決別しなさい」

真姫「ぇっ…!」

絵里「彼女と今後一切関わりを持たないこと。それが指導補佐になるために必要なことよ」

真姫「わっ…、私、それはっ…!」

絵里「…できないって言うの?なんで?」

絵里「彼女が、あなたに優しくしてくれたから?」

真姫「ぁ、うっ…」

絵里「ふふ…、あの子のことを好きになっちゃう気持ちはよーくわかるわ。でもね…」

絵里「あなたが希のことを好きでも…希はあなたのこと、好きなのかしら?」

真姫「え…」

絵里「あなたが欲しているほどの愛情を、彼女が与えてくれると思う?」

絵里「さっきも言ったけど、そんなの…なかなかもらえないわよ」

絵里「今の希は既に恵まれている…。あの子の欲しているもの、ほとんどをあの子は与えられている」

絵里「そんな満ち足りている彼女が、あなたまで欲するなんて…思えないでしょう?」

真姫「…それ、は…」

絵里「でも、私は違う」

絵里「私は…あなたが欲しいの。今はただ…あなた一人が欲しい」

絵里「だから私はあなたを愛してあげられる。あなただけを」

絵里「ね?どっちがいいか、なんて…子供でもわかるでしょ?」

真姫「…」

絵里「まだ、私を信用できない?」

絵里「それも仕方ないわよね。…うん、いいの」

絵里「まだ混乱して正常な判断ができないのはわかるわ。だから…考える時間をあげる」

絵里「そうね…明日、までってどうかしら」

真姫「あし、た…」

絵里「そんなに待ってられないのよ。私の後継になりたいって思う人はいっぱいいるから」

絵里「私が特別に、あなたのために与えた一日のチャンス…。これでも最大限頑張って用意してあげたんだから」

絵里「指導補佐、やりたいか、やりたくないか」

絵里「私か、希か」

絵里「…明日、一日、ゆっくりと考えなさい」

絵里「その気になったら、また明日も、この時間に、この場所に」

絵里「それが、あなたを愛してあげる条件」

真姫「…っ」

絵里「それじゃあ、私今からアイドル専攻の方に行かなきゃいけないから。あなたも、帰って検討していて」

絵里「…さよなら、また逢いましょう。真姫」



ガチャッ… バタン


~回想終わり~



真姫「…もう、選んだから」

真姫「希先輩は、いらないんだ、って…。彼女に愛されることだけ、欲したんだから…」

真姫「…」

翌朝

園田家


海未「…ふ、ぅぅ…はわぁぁぁああぁぁ…」

海未「…あぁ…、今日も、練習…」

海未「しんどいです…」



街角


ことり「おはよー」

海未「おはようございますことり!今日も張り切っていきましょうね!」

ことり「げ、元気だね…」

海未「内部事情が複雑な現在、少しでも元気を出して勢いをカバーしなければいけません!」

海未「真姫のいない分も、頑張るぞー!おぉー!!」

ことり「…」

海未「何ボーっとつっ立っているんですかことり!あなたもほら…、おぉー!」

ことり「お、おぉぉ…」

海未「はい、元気出ましたね!では神田明神へ向かいましょう!」スタスタ

ことり「…元気なのはいいけど朝からそんなに大声だとご近所に迷惑だと…」


ドンッ


ことり「あいたっ…!?う、海未ちゃん!?急に止まらないでよー…、頭に鼻打っちゃった…」

海未「…」

ことり「…海未ちゃん?」

ことり「…ぁ」



穂乃果「…」



海未「…ほ、穂乃果…」

ことり「ぐ、偶然…だね…。こんな時間に…」

海未「…っ!」ソソクサ

ことり「あっ…、う、海未ちゃん…!なんで私の後ろに隠れ…」

海未「ソンナコトイワレテモー」

ことり「声ちっさ!さっきまでの元気どこいったの!?」

海未「シリマセンヨソンナノー」



穂乃果「…ふふ」



ことり「え…?」



穂乃果「…おはよう」スタスタ…



海未「…」ポカーン

ことり「…」ポカーン

神田明神


海未「…」ポケー…


花陽「…海未さん?」

ことり「今日の朝かくかくしかじかなことがあってから、こうなっちゃって…」

花陽「穂乃果さんに挨拶を?へぇ…」

ことり「海未ちゃん、去年の秋からまともに穂乃果ちゃんと話してなかったから…ああやって挨拶をしてくれたことがかなり衝撃だったみたい」

花陽「ほとんど一年ぶり…だもんね。びっくりするよ…」

ことり「どうして…穂乃果ちゃん、挨拶してくれたんだろう…」

花陽「え?」

ことり「…穂乃果ちゃん、海未ちゃんのこと、嫌ってたはずなのに」

ことり「それに、去年から滅多なことじゃ笑わなくなっちゃった穂乃果ちゃんが…笑ってた」

ことり「何か、あったのかなぁ…」

花陽「何か、ですか?」

ことり「…うん。もしかしたら穂乃果ちゃん…少しずつ変わっていってるのかな」

ことり「元の優しい穂乃果ちゃんに…ちょっとだけ」

花陽「もしくは…海未さんのこと、認めてくれたとか」

花陽「私たちも、もうA-RISEに肩を並べる…とまでは言い過ぎだけど、知名度も増してきたし」

花陽「だから穂乃果さんも少し心を許してくれたのかも」

ことり「ふふ、そうかもね。なんにせよ、悪い変化じゃないと思う」

ことり「このアイドルがきっかけで、穂乃果ちゃんの心も変わってきてくれたのなら…本当に、やってよかったって思えるよ」

花陽「うん…!」

ことり「…なのに当の海未ちゃんったら」


海未「ぽけー…」


ことり「あんなに不抜けちゃって…。それじゃ穂乃果ちゃんにまた貶されちゃいますよ?」

海未「…うぅ、ごめんなさい…。はぁ…録音しておけばよかった…」

花陽「え、そこまで?」

ことり「…それにしても、真姫ちゃん来ないね。やっぱり誰かに目撃されるのを恐れて…」

花陽「そんな…。今日くらい一緒に練習…」

海未「…って言ってたら来ましたよ」

花陽「えっ」


真姫☆「…ごめんなさい。少し遅れちゃったわね」

海未「もう!遅刻ですよ!」

真姫「希が、起こしてくれなかったから…」

ことり「そっか。今日はバイトで早朝からここのお掃除してるんだよね」

海未「自分で目覚められないって…その年齢で恥ずかしくないんですか?」

真姫☆「…お恥ずかしい話よ。凛に顔見せできないわ…アイツも多分まだ寝てるけど」

花陽「え?凛…?」

真姫☆「あぁ、こっちの話よ。えっと、それで…」

ことり「うん、練習だよね!遅れた分取り戻そう!」

真姫☆「…違うの。それが、私もう…」

真姫☆「練習に参加できない。…うぅん。もう…アイドルが、できない」




花陽「えっ…?」




海未「…ど、どういう…ことですか。アイドルができないとは…」

ことり「C☆cute…やめちゃうの?」

真姫☆「そういうことになるわね…」

花陽「どっ、どうして!?ま、真姫ちゃんがどうしてやめないといけないの!?」

花陽「誰かに…何か言われて、脅されて…!?それで、仕方なくっ…」

真姫☆「違うのっ…!そうじゃ、なくてぇっ…」

花陽「じゃあなんでなのっ!?真姫ちゃんっ、真姫ちゃんが…アイドルを辞めるなんてぇっ…!」

ことり「お、落ち着いて花陽ちゃんっ…!真姫ちゃんの肩、強く掴みすぎ…」

海未「…指、食い込んでますよ」

花陽「あっ…」

真姫☆「…痛いわよ」

花陽「ご、ごめん…。でも…」

真姫☆「わかってる。理由もなしにやめるわけじゃないわ」

真姫☆「あなたたちにも…もう、全部話すから」

真姫☆「C☆cuteを辞める理由も…そして、私が何者であるのかも」










ことり「…嘘」

真姫☆「…本当。今話したこと、全てね」

真姫☆「西木野真姫に、姉なんて存在しない」

真姫☆「今アイドル専攻で指導補佐しているのも西木野真姫で」

真姫☆「ここにこうして立っている私も…同じ西木野真姫」

真姫☆「違うのは、ただ暮らす世界ってだけ」

真姫☆「私は…異世界人なのよ」

海未「…変な映画でも見たんですか?」

真姫☆「全部ガチよ!信じて!」

真姫☆「別の世界の違うスクールアイドルをしていた私が時空を超えてこの世界にやってきた」

真姫☆「それが紛れもない真実なの!…って言っても」

真姫☆「信用されないってことはわかってるわ。…でもとにかく、そういうことなのよ」

花陽「真姫、ちゃん…」

真姫☆「さっき言ったとおり、なんか…意味不明の目眩がこれから度々、発作的に私に襲いかかってくる」

真姫☆「いつ、どこで目眩に襲われるかは私もわからない…。練習中、ライブ中に倒れでもしたら、私の命が危ないの」

真姫☆「メンバーの一人がライブ中に倒れた、なんてなったら、学校側からも何らかの処置が下されるかもしれない、からね」

真姫☆「そういった可能性を危険視して…私はもう、これから…C☆cuteを脱退する」

真姫☆「納得できないかもしれないけど、納得して。お願い」

ぱなことうみ「…」


真姫☆(…まぁ、こんなことを言えば困惑されるのも当然ね)

真姫☆(今はともかく…私が脱退するという事実を受け止めてくれれば、それでいいわ)

真姫☆(それ以外はこれから、ゆっくりと理解してくれたら…)


「…ぅ、だったんだ…」


真姫☆「ん?」


花陽「そう、だったんだ…!真姫ちゃんが異世界人…、だったなんて…!」

花陽「カッコイイ…!!」



真姫☆「え」

真姫☆「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!?!!」



海未「そ、そういう反応なんですか!?」

花陽「え、カッコよくない?異世界人だよ!別の世界なんだよ!?」

花陽「一度そういう人と会ってみたいなぁ…って子供の頃から妄想してたの!」

花陽「そ、それがまさか真姫ちゃんがそうだったなんて!ゆ、ゆ、夢みたいっ!!」

ことり「あ、あははは…ま、まぁ…花陽ちゃんがいいなら、いいんじゃない…?」

真姫☆「い、いいの?私がもうアイドルできないって言った時はあんなに取り乱してたのに…」

花陽「あっ…うん。それは残念だけど、でも…できない理由があるなら仕方ないかなって。真姫ちゃんに怪我して欲しくないし…」

花陽「それに、今すぐいなくなっちゃうとかそういうわけじゃないなら…真姫ちゃんの考えを尊重しようって思ったんだ」

海未「はぁ…、まぁいいでしょう、私も半信半疑ですが…今はそれでいいとします。問題は…」

ことり「真姫ちゃんが抜けた穴を、どうするか…だよね」

真姫☆「私の考えは当然…アイツよ」

ことり「アイツって…」

花陽「真姫ちゃんで言うところの…この世界の真姫ちゃん、ってこと?」

真姫☆「…えぇ。私の抜けた穴を埋めるには、私が一番でしょう」

海未「し、しかし…あなたの言葉を信用するならば、彼女のアイドル経験はあなたの数十分の一ほどでしょう…」

海未「なにせ、あなたは今年の春からずっとアイドルをしているのに対して彼女は…ほんの数日なのでしょう?」

ことり「本当なら真姫ちゃんと時々交代させてじっくり育てていくつもりだったんだもんね…」

真姫☆「…そうね。ダンスの技術も、歌の技術も、私とあの子は随分と離れているでしょう」

花陽「確かにあの真姫ちゃんは…歌、ヘタだったなぁ…。驚くくらい」

真姫☆「…でも、そんなの関係ないわ。だって私たちが目指しているアイドルは…」

真姫☆「どんな女の子でも、なろうと思えばなれる…夢に溢れたスクールアイドルなんだもん」

真姫☆「シロウトの技術でも、数日でアマチュア程度には仕上げてみせるわ」

ことり「ふふっ…、相変わらずムチャクチャだなぁ…」

花陽「そんなムチャでも…真姫ちゃんなら無理じゃないかもって思わせられるのが、不思議だよね」

海未「…しかし、彼女は今、アイドル専攻の指導補佐、なのですよ。いわば、私たちの敵中の敵。親玉のようなものです。それをいきなり引き抜くなんて無理なのでは…」

真姫☆「そうね。…無理な可能性の方が高いと思うわ」

海未「えぇ…認めてしまうのですか」

真姫☆「…だから、その時のためにもちゃんと、保険は用意してあるわ」

真姫☆「そうでしょ?…希」

ことり「えっ…?」

花陽「希、って…」

海未「部長っ…!?」



希「…」



ことり「い、いつからそこに…」

花陽「あれ…?でも、その服…私服?」

海未「まだバイトの時間、なのでは…」


希「…やめてきた」


はなことうみ「っ!!」


希「神主さんに言って、今日限りで、ってことで…」

希「急なお願いやったけど、快く了承してくれたわ。ほんま、ありがたいな…」


花陽「なんで…部長がやめなきゃいけないんですか…。バイト…」


希「…うち、今日から…スクールアイドルになる」

希「それに集中するために、休日の時間を開けるために…バイトを辞めた」

希「昨日の夜、真姫ちゃんがもうアイドルできない、って聞いてから…二人で話し合った結果やよ」


海未「アイドル、って…今からですか!?もう、部長には…」

ことり「卒業まで、半年も、もうないのに…」


希「ふふ…4ヶ月もあれば充分やん」

希「卒業後の進路はもう決まってるから、自分の時間は自由に決められるし」

希「学生生活の最後に、大きな花、咲かせたろっかな、なんてね」

希「真姫ちゃんの言ってたとおり…C☆cuteって言うんは、どんな女の子でもなろうと思えばなれる夢のスクールアイドルなんやから」

希「それが、卒業間近だろうと、変わらないよね?」



ぱなことうみ「…」



真姫☆「…希は、こう言ってたわ」

真姫☆「タロットカードで占ったら、このグループには後ろで見守ってくれる人が必要なんだ、って」

真姫☆「だから今まで、C☆cuteの縁の下の力持ちとして、希はいてくれた」

真姫☆「今日からは…交代よ。私が、その後ろから見守る役となる」

真姫☆「今まで支えるだけだった希が…今度は表舞台に立つの」

真姫☆「彼女が、どうしても救いたい…一人のために」

花陽「その、一人、って」


希「西木野さん」

希「えりちの誘惑のために、孤独の闇に絡め取られようとしている彼女を…どうしても救いたいんよ」

希「ひとりぼっちは、寂しいもん」

希「去年の秋から一年間、ずっと一人やったうちだから、わかる」

希「他の人たちの話し声を聞くと、胸を締め付けられるような孤独感に襲われる」

希「口が、話し相手を求めて勝手に動いたりする。うちの周りには誰もおらんのにね」

希「生徒会長として人助けしようとしたのも、話し相手が欲しかっただけ、なのかもしれんね」

希「…そんな孤独の怖さを、西木野さんには味わって欲しくない」

希「いつかにこっちみたいに…身体に悪影響だって及ぼしかねない」

希「うちは西木野さんに、うちのホンキを見せつけるために…アイドルを始めるんよ」


ことり「ホンキって…」

真姫☆「…昨日、考えてみたの」

真姫☆「この世界の私を絵里の誘惑から…アイドル専攻から助け出すにはどうすればいいのかって」

真姫☆「私の意見と希の意見、どちらも決め手に欠けるからって水掛け論で…結論は出なかったけど」

希「真姫ちゃんがスクールアイドル辞めるって聞いてから、思い直した」

希「…やっぱり、貫き通すべきなんや、って」

希「西木野さんがえりちに魅了されている時点では、うちの声は届かへんから…まずえりちをどうにかしないと、って考えてた」

希「でもっ、それじゃダメなんよっ…!ダメ、って諦めている時点で、うちはホンキやないっ…!」

希「本当に心から、誰かを救いたい人間はっ…」

希「絶対に、諦めない人だって、知ってるからっ…!!」

希「だからうちは、うちの声が届くまで…西木野さんに話し続けることに決めたんよ」

希「うちの全身全霊を持って、西木野さんの未来に光を灯してあげたい」

希「うちの、アイドルとして『夢』は…それ、なんよ」

花陽「夢…」

花陽「私が、凛ちゃんの心を取り戻したいと思うのと、同じように…」

ことり「私と海未ちゃんが、穂乃果ちゃんとやり直したいって思うのと同じように…」

海未「部長…希さんには希さんの、大きな夢を…」

真姫☆「にこちゃんのときとは違って、今度は根気の勝負よ」

真姫☆「アイツの心が傾くのが先か、私たちが折れるのが先か…」

真姫☆「そのために…希に、私たちの全てをつぎ込んであげましょう!」

真姫☆「私たち全員の想いで…、あの子を救ってあげるためにっ…!」

真姫☆「希の夢を、叶えるために…!!」

花陽「…うんっ!」

ことり「そう言われたらもう…やるしかないよっ!!」

海未「部長…いえ、希さん!これからは同じ…スクールアイドルの仲間として…よろしくお願いしますっ!!」

希「…うんっ、よろしくね!」

真姫☆「でも、もう時間はないからねっ!私たちも全力でビシビシ鍛えてあげちゃうんだから!」

希「ふふっ…、とっくに覚悟はできてるんよ!さぁっ…やろう!!」

嫌い。




UTX学院

多目的ホール



女生徒D「はぁっ…!はぁっ…!!」


バタンッ!!


女生徒D「う、っぐっ…!」

真姫「…なにやってるの。立ちなさい」

女生徒D「あ、うぐっ…」




大嫌い。




真姫「返事がないわね」

女生徒D「…っ、あっ…!き、教官、殿…」

真姫「二度はないわ」

真姫「…帰って」

女生徒D「そ、そんなっ…!!」

女生徒D「…」




どうして、そんな顔をするの。


一瞬、悲しそうな顔をして。


でも、そのすぐ後。


とっても、解放されたような顔になるのは、何故?




ガチャッ… バタンッ



「…今日でもう5人目よ」「これじゃあ…来月頃には何人…」


真姫「…」




嫌い。大嫌い。


身体を縛っていた鎖が砕けたような、吹っ切れた表情。


大嫌い。

嫌い。



真姫「…答えなさい。あなたはどうしてここにいるのか」


女生徒E「教官殿!私はA-RISEのようなスクールアイドルになりたくてここにいます!教官殿!」

真姫「そのためにはどんなことでもする覚悟はある?」

女生徒E「教官殿!いかなる厳しい試練であっても、血反吐を吐いたとしてもやり遂げる覚悟であります!教官殿!」

真姫「よろしい。じゃあ次…」



大嫌い。


与えられた役割を愚直に演じるその姿。


滑稽を通り越して、不気味。




女生徒G「教官殿!私は口からクソ垂れることしか能のない役立たずであります!教官殿!」

女生徒G「教官殿!この能無し豚をどうぞ導いてください!教官殿!」




気持ち悪い。


それが、あなたたちのやりたかったアイドルなの?


この役割を演じることに、なんの疑問も抱かないの?


気持ち悪い。気持ち悪い。


だから、アイドルは嫌いなのよ。


自身の栄光のためならば、裏でどんな屈辱を受けようとも耐える。


優越感に浸りたくて、無様に悔しがる誰かを見下したくて、


欲望の器を満たすその時まで、汚水すら喜んで口にする、下劣な生き物。


それが…、アイドル


嫌い…、大嫌い。



アイドルなんて、消えてしまえばいい。

好き。




真姫「…ん、っはぁっ…。絵里の…匂い…。甘い、香り…」

絵里「ふふっ…、もう、そんなに首筋に鼻を近づけないの。誰かに見られたら…勘違いされちゃわよ?」

真姫「いいのっ…。勘違い、されたいっ…!」

絵里「もう…おバカさんね」




大好き。


こんなゴミ溜めの中にいても尚、私に安らぎを与えてくれる絵里が好き。


甘い香り…。ずっと嗅いでいたい…。



真姫「でもっ…本当にこれでいいの?絵里…」

絵里「いいの…あなたの思うまま、してちょうだい」

絵里「あぁすることが、彼女たちにとっての起爆剤となるのだから」

真姫「…へぇ、そうなの。やっぱり、気持ちわるいのね、アイドルって」

絵里「そうかもね…」




私に無上の愛を捧げてくれる絵里。


今の私にとって、これ以上は考えられない。


彼女に抱きしめられて、耳元で囁かれることが、何よりも安らぎをもたらしてくれる。


大好き。絵里…大好きよ。


あなたしか、私はいらない。



真姫「…絵里」

絵里「なぁに?」

真姫「…キス、して」

絵里「…」

真姫「お願い…」

絵里「…今は、ダメ」

真姫「え…?」

絵里「今は休憩中だし…、それに」

絵里「キスは本当に大切な時にしかしちゃダメなのよ。こんな時にしたら、ありがたみがなくなるでしょう?」

真姫「…そ、そうね。ごめんなさい…」

絵里「うぅん…いいの。あなたが私を満足させてくれたら…いくらでもしてあげるわ」



優しい、絵里…。


大好き。

真姫「…はぁ」



練習の時間が終わってしまった。


絵里とは、もう一緒にいられない。


もっと彼女と一緒にいたいのに、彼女は規定時間を過ぎたらすぐに帰ってしまう。


アイドル専攻から逃げるように。


そうよね。


あんな汚物に塗れた空間に、いつまでも居たくないわよね。


けれど、私は練習の時間が待ち遠しい。


絵里の体温を感じられない時間がもどかしくて仕方がない。


彼女は実家暮らしだから、学校にいる時と練習の時でしか、愛してもらえない。


もっと…もっと愛してもらいたいのに。


でも、我慢、我慢。


彼女が卒業すれば、一人暮らししてくれるから。


毎日、アイドル専攻が終われば彼女の家に遊びに行ける。


もっと長いあいだ、愛してくれる。


だから、それまでは我慢の時。


けどやっぱり、帰り道は憂鬱で。


薄紅に染まる静かな街道を、トボトボと重い足を引きずるようにして歩く。


俯き伏せた目に、影が映った。



真姫「えっ…?」



いつもは誰もいないはずの、私の家の前。


誰かが立っている。


その人は、私を見つけるなり笑顔を浮かべ、


優しく、こちらに手を振って。




希「おかえり」


真姫「希…、先輩…っ」




どうして。

希「おかえり」


真姫「…希、先輩」

真姫「どうして、私の家に…」


希「うちはまだ、西木野さんを諦めたわけやないから」

希「お願い、西木野さん。うちの話を…」


真姫「…っ」


スタスタ…


ガチャッ… バタンッ



希「…」

希「…ふぅ」



西木野家 玄関


真姫「…なんでよ」

真姫「私はもう、絵里だけを選んだんだからっ…!」

真姫「来ないでよっ…!!」



あなたのことは、もう嫌いになったんだから。


だから…。


私の心をこれ以上、揺さぶるのは、やめて。


胸の奥の悪の芽が、彼女のことを思うたびに疼きだす。


東條希のことは、忘れろ、と。


絢瀬絵里だけを、求めろ、と。


人を人とも思わない鬼畜に成り果ててまで、今の道を選んだんだから…。


私にとって、今が一番の幸せなんだから…!

翌日

夕方 西木野家前


真姫「…」



希「おかえり、西木野さん」



いた。


また、彼女が、私の家の前に。




希「指導、お疲れ様やね。朝から大変やん?」

希「でも実はうちもね。今日一日中練習しててんよ」

希「アイドルの…」


真姫「…っ!!」スタスタ…



ガチャンッ!!



希「…ぁ」






西木野家 玄関



真姫「何がっ…、アイドルよ…!」

真姫「嫌い、嫌い、嫌いっ…!」

真姫「鬱陶しいのよっ…!来ないで欲しいのに…!」

真姫「どうして分かってくれないの…!?」



トゲがチクチクと、心を締め付ける。


わかってる。


わかってるからっ!!



だからっ…、これ以上、私を苦しめるのは、やめてよっ…!

翌日 月曜日




テクテク…


真姫「…はぁ」



もうめっきり寒くなってきた。


今日は平日だったから、アイドル専攻は夜まで続いて。


こんな夜中ともなれば、外気温は真冬のようなものだ。


だから、今日はいないはず。


寒空の下、外で待ちぼうけなんて…するわけ、ない。




希「…おかえり」


真姫「…」


希「はー…。ふふっ、さぶいね。もう息が白くなるくらいやん」

希「でも最近は慣れない運動してて、身体がよく火照ってるからね」

希「さぶくてもへっちゃらやん」


真姫「…運動、って…」

真姫「アイドル、ですか」


希「ん?…うん、せやよ」

希「うち、アイドル始めてんよ。もう卒業間近やってのにね、えへへ」

希「けど、楽しいんよ。みんなでわいわい、あれこれ考えて、歌って、踊って…」

希「きっと…、西木野さんもやってみたら楽しい、って思ってくれると思う」

希「だからね…、西木野さん…」


真姫「…っ!興味、ないですっ…」


希「西木野さんっ…!」

真姫「お断りしますっ!!」


タタタタッ…


ガチャンッ!!



西木野家 玄関


真姫「…」

真姫「…く、うぅっ…!」



嫌い。


大、嫌い…!

翌日 火曜日

UTX学院 多目的ホール




ザー… ザー…


にこ「…っくちんっ!!ずずっ…」

凛「にこセンパイ、風邪?うつさないでよー?」

にこ「かもしれないわね…。っくちんっ!!」

にこ「でも、まだ大丈夫だから…、行けるわ」

凛「そう?ま、せいぜい頑張りなよー。んじゃねー」

にこ「うん、バイバイ。…と、じゃあ私もそろそろ…ん?」


真姫「…」


にこ「…あんた」

真姫「へっ…?あ、にこ…ちゃん」

にこ「帰らないの?もう規定時間は過ぎたんだし…」

真姫「い、いいの…。今日は…居残って練習を見ていくわ」

真姫「雨だって、降ってるし」

にこ「…あっそう。好きにすればいいんじゃない」

にこ「じゃあね。…真姫」



真姫「…」




今日は…帰りたく、なかった。


絵里の家に泊めて、ってお願いしたけど、両親も妹も居るからお泊りはダメ、だって…。


休日の夜に、食事に来るくらいなら、いつでもいいわ、って言ってくれたけど…。


私は今日、帰りたくないの。


また、希先輩の顔を、見てしまうかも知れないから。


だから、特に見たくもない練習を見てから…、


外が、真っ暗の真っ暗になってから…、帰る。


今日はあいにくの雨だし、…いえ、絶好の雨日和だし。


夜遅くまで、寒い中雨に打たれるなんて…まずありえない。


そう、確信していた。


でも…、どうしてだろうか。


胸の奥、トゲじゃない、何かが。


高まっている感覚が、あるのは…。

学校の電気も全て消えた頃。


ようやく校門を出る。


まだ外には、雨が降っていた。




真姫「…あ」



しまった。


傘を、上に忘れてきてしまった。


取りに戻ろうかとも思ったが、教室へ続く道は閉じられているだろう。


仕方ない…。走って帰ろう。




真姫「…っ」ピチャピチャッ…




雨に顔を打たれながら、靴を水に濡らしながら走る。


ソックスにも水が染みて、足元がなんとも気持ち悪い。


息を切らせながら、全力で走っているのに。


冷たい雨は私の体温を無情にも奪ってゆく。




真姫「さっぶっ…!」



足が氷の彫像のようだ。


もはや、走る体力もなくなって、濡れることも気にせずにトボトボと歩く。


温かいお風呂に入って、今日はもう寝よう。


私の頭の中はもう、それしか考えていなかった。


いなかった、から。


もしかして有り得たかもしれない考えすら、忘れていた。






希「…おかえり」



真姫「…どうして」



東條希が、私の家の前に…いるかもしれないということを。

真姫「どうして…ここに…」

希「西木野さん、ずぶ濡れやん。傘は?」

真姫「わ、私の話を聞いてっ…」

希「身体濡らすと、風邪引くよ。ほら、うちの傘使い」サッ

真姫「…もう、家そこだから」

希「うん、そうやね。…ごめん、じゃあ今日はもう、うちは帰るわ」

希「温かくして、寝るんやよ?それじゃ…」


真姫「待って!!」


希「…」

真姫「なんでっ…、なんでなのっ…!!」

真姫「どうしてそこまで、するのよっ!!」

真姫「意味、わかんないわよぉっ…!」

真姫「寒いでしょ…。雨降ってるし…濡れるし…」

真姫「家の前、だし…なに、やってるの…」

真姫「もう…、なんなの…?」

真姫「何がっ…、なんでっ!?」



もう、言葉にならなかった。


彼女は私をどうしたいのだろうか。


彼女も、私を愛してくれるのだろうか。


けどそれは、同時に絵里から愛されなくなってしまうということで。


それを思うと、とても、嫌。嫌、なのに…。



ギュッ


真姫「っ…!」


希「…うちは、西木野さんに…」

希「西木野さんに、わかってほしいから」

希「誰か一人に、大きな愛をもらえることは…、幸せやない、ってことを」

希「そりゃまぁ…考え方によっては、それもアリかもしれないけどね」

希「でも、西木野さんに今、必要なのは…小さな小さな、愛なんよ」

希「みんなからの小さな愛を、大切な仲間からたっぷり貰う」

希「空っぽになった心の器を、最初に満たすやり方は…そうじゃないといけないんよ」

希「えりちからだけの愛情に頼ってたら…西木野さんはいつか、ダメになってしまう」

希「気づいてほしい。仲間と共に、愛を育む事の楽しさを。喜びを」

希「そんで、学校をね…アイドルを…好きになって欲しいんよ」

希「そのほうが…嫌いより、ずっと…いいやん」

温かい。


両の手で抱きしめられて。


全身が、彼女にすっぽりと収まって。


傘は道端に転げて、二人共冷たい雨に打たれているのに。


温かい…身体が、心が。


彼女の言葉は、姿は、途中から意識できなくなっていたけど。


何かが瓦解するように、目から大粒の雫がとめどなく溢れ出ていたから。


声を殺して、彼女の胸元を涙で濡らしてしまう。


こんな姿、見られたくなかった。


恥ずかしくて、みっともなくて。


アイドルが嫌になった春でさえ、誰かに涙は見せなかったのに。


だけど、不思議と、心地いい。


幼い頃を、思い出していた。


昔もこうして、ママの胸の中でよく、大泣きしていたっけ。


ママの胸が、優しく、温かく、私を包んでくれた。


その度に、強くなれた。


私の大粒の涙は、雨にかき消され。


彼女の服に、その跡が残ることは、なかった。




希「…西木野さん」

真姫「…ぅ、ぇ?」


急に声を掛けられ、驚く。

声がかすれて上手く返事ができなかった。


希「明日、またうちに会ってもいい、って思ってくれたなら…専攻の指導が終わったら、すぐ帰ってきて欲しい」

希「西木野さんに見せたいもの、あるから」

真姫「…」


声をだして、返事したかったけど。

なんか言えば、今度こそ泣き喘いでしまいそうだったし。

ただ、頷くことしかできず。

彼女に肩を抱えられたまま、私は自分の家の、玄関を開けた。

翌日 放課後

多目的ホール


真姫「くちっ!…ふぇ」


絵里「…大丈夫?風邪?」

真姫「平気…っくち!!」



流石に堪えた。


家までの道を雨に濡れながら走っていれば、風邪もひくというものだ。


でも不幸中の幸いというべきか、その風邪は鼻づまりとくしゃみくらいのもので、特にダルさがあるわけでもなく。


多分、明日には治っていることだろう。



真姫「…私より…、あっち、かな…」

絵里「あぁ…」



にこ「は、は…っ!」

にこ「はっくちゅんっ!!!」

凛「うわぁっ!!?飛沫かかった!」

にこ「うぇー…ごべんなざい…」

凛「センパイ…、休んだほうがいいよ…。凛たちにもうつされると困るし、ね?」

にこ「でも…」

穂乃果「…にこちゃん。今日は…もう帰ろ」

穂乃果「絵里さんだって、もうにこちゃんをそう簡単に下ろしたりできないし」

凛「そうそう!なんてったって凛たちはもはや次期A-RISEに決定しちゃったんだから!」

凛「撮影もレコーディングも始まってきてるのに、にこセンパイが数日休んだくらいじゃ何も変わらないって!」

にこ「そう、かしら…」

凛「うんうん!だから…お大事にしたほうがいいよ。さ、帰ろ?なんなら凛が付き合ってあげるにゃ」

にこ「…わかった。だけど一人で十分…、帰るわ…。ってアンタ…やけに今日は優しいじゃない…。気味悪い…」

凛「凛だって…センパイが体調悪かったら心配するよ…。…尊敬する先輩だもん」

にこ「へへ…言ってくれるじゃない…。ありがとね、凛…じゃあ、お先に失礼するわ…」トボトボ…

凛「風邪でなきゃこんなこと言わないんだからねー!ばいばいー!」



絵里「…はぁ。にこは風邪で欠席、か…。長くなりそうね」

真姫「そう、ね…」

絵里「体調不良は仕方ないとはいえ…あー、もう…これじゃあスケジュールが…」

真姫「…」

絵里「ごめんなさい真姫。私、穂乃果と凛とで明日以降の予定について話し合いたいから、今日はこれで…ね?」

真姫「…うん。お疲れ様…頑張ってね」

絵里「うん…」スタスタ…

彼女が忙しそうで、助かった。


この胸の内を、知られずに済みそうだから。


って、なに考えているんだろう、私…。


希先輩と会えるから、って…ワクワクしてちゃいけない…のに。



真姫「…ふふ」




…帰り道。


未だ乾ききっていない道路を、普段より軽い足並みで歩く。


心のトゲは、もう疼かない。


心の雨を流した際に、一緒に流れ落ちていってしまったのかもね。



希「…おかえり」


真姫「…ただいま」



いた。


今日も…、いてくれた。


いつもはもふもふしたダウンジャケットを羽織っている彼女だけど、今日はひざ下まであるコートだった。


あれじゃちょっと寒そう…、大丈夫かな。



真姫「…それで、見せたいもの…って?」

希「うん。それはね…」



そう言うと彼女はコートのボタンを一つずつ外してゆく。


…えぇっ!!?



真姫「え、ちょっ…!ま、まさかぁっ…!!」



希先輩はそういうプレイがお好み…!?


それを、私に見て欲しくてっ…!!?



真姫「あの、ちょっと…!私としてはやぶさかでもないんだけどでも心の準備というものがぁっ…!」



構わず彼女はコートを脱ぎ捨てる。



希「そりゃぁぁっ!!」バッ

真姫「ひゃあああぁぁあぁっ!!」

真姫「…え?」



コートの下から現れたのは、彼女の裸体などではなく。


可愛らしく、絢爛な、アイドルの衣装だった。



希「…ふふ。どう?似合ってるかな」

真姫「ぇ…あ、…そのっ…」



一瞬で、目を奪われた。


スラっと伸びた脚に、艶やかに括れた腰に。赤く火照った腕に、白く陶器のような首筋に。


そして、無邪気に笑う、彼女の笑顔に。


心すら、全てを持って行かれた気分だった。



真姫「…似合ってます。すごく」

希「ふふふっ…よかった。これ、無理言って大急ぎで作ってもらったんよ」

希「まだ完成品やないんやけど、どうしても西木野さんに見せたくて」

希「うちの初めてのアイドル着、かわいいでしょ?」

真姫「可愛いけど…ふふ、それが見せたくて、こんな夜にコート一枚でいたんですか?」

真姫「寒い…でしょ」

希「うん、さぶい。風邪引きそう」

真姫「最近風邪、流行ってるんだから、気をつけてくださいよ。…で、それだけですか?」

希「ん?…ふふ、実は…もう一つ」

真姫「もう一つ?」

希「おいで!」

真姫「えっ…」


ことり「どーんっ!!」

真姫「ふぁぁぁっ!!?」

花陽「捕まえた!」

真姫「ちょっ…!」

海未「今度は逃がしませんよ!」

真姫「えぇっ!?」


真姫☆「…アイドル応援部の前まで来て、逃げ出してもらったら」

真姫☆「みんなの応援部の名が廃るからね!」


真姫「あなた…」

希「今日はみんなで、西木野さんを誘いに来たんよ」

真姫「誘いに…って」

希「当然、アイドルにね」

花陽「C☆cute、入ろう!大歓迎だよ!!」

ことり「すっごく楽しいから!めっちゃくちゃ楽しいから!」

海未「練習は厳しいですけどね!」

真姫「あ、アイドルに…」

希「最悪…西木野さんがどうしても嫌、というのなら、アイドルでなくてもいい」

希「せやけど…みんなと友達になって欲しいんよ」

希「そんでね。もう二度と、学校が嫌い、アイドルが嫌い、なんて言って欲しくない」

希「西木野さんには、これからの人生を大いに楽しんでほしいんよ」

真姫「っ…」

真姫☆「あなたがアイドル専攻で何を見させられて、そしてどんな指導をさせられているか、私は興味もないけど」

真姫☆「でも、私たちの…笑顔のスクールアイドルを見ないまま、アイドルを嫌いだなんて言って欲しくないわ」

真姫☆「本物のアイドルっていうのはね、笑顔でいっぱいになれるアイドルなんだから」

真姫☆「笑顔、嫌いじゃないでしょ?」

真姫「ぁ…」



心奪われた、希先輩の笑顔。


それを嫌いだと言えるほど…、私の心は錆び付いてはいなかったみたいだ。



希「…アイドルでなくてもいい、って言ったけど」

花陽「今ならC☆cuteに加入するとこんないいことが!」

ことり「じゃじゃーん!これ見てこれ!!」バッ

真姫「これは…?」

真姫☆「私の…もとい、あなたの衣装よ。次のライブのための、ね」

海未「これを着て、踊れる権利を差し上げます!」

真姫「これを着て、踊る…」

花陽「さらに!ふふっ…、希さんと同じダンスを踊れる権利も!」

ことり「希ちゃんと同じステージに立てる権利も!」

海未「超のつく特等席で、希さんのライブを共に感じられる権利まで!」

真姫☆「…そのおまけとして、私たちがもれなくついてくるわ。もういいことばかりじゃない」

真姫☆「嫌とは、言わせないわよ?」

真姫「私が…アイ、ドル…?」

希「西木野さんが憧れた、アイドル」

希「ここに、あるんよ」

真姫「っ…!!」

真姫「わ、わたしで…いい、の…?」

真姫「わたしっ…なんか、でっ…!」

真姫☆「もちろん」

真姫☆「あなただからこそ、いいのよ」

真姫「っ!」

でもっ…。


心に一欠片、残ったトゲが、疼き始める。


私にアイドルを教えてくれた、彼女。


絢瀬、絵里。


彼女たちのスクールアイドルに入るということは、つまりアイドル専攻を裏切るということだ。


絵里の信頼を、裏切るということだ。


それは…。




真姫「…できない」


花陽「えっ…」

ことり「どうして…?」

真姫「絵里が…絵里先輩が、私を信じてくれているから」

海未「まだ、そんなことを…。彼女はあなたを利用しているだけなんですよ!」

真姫「そんなこと言って欲しくない!」

真姫「たとえ、あの愛情は偽物だったとしても…」

真姫「アイドルを私に教えてくれた優しさと、指導を私に任せてくれた想いは…信じてるから」

真姫「だから、私…まだ…」

希「…西木野さん…」

真姫☆「まぁ…、そうでしょうね。例えここで私たちが、彼女の思惑を語ったところであなたは信じられないでしょう」

真姫☆「絵里自身の口から、あなたに対する本心を聞き出すまでは」

真姫「そんなこと…できるの?」

真姫☆「できるわ」

真姫「えっ…!?」

希「…明日の、放課後。うちらに作戦がある」

希「その時に、えりちの本心を聞き出すつもりや」

真姫☆「その時間、アイドル専攻に訪れる前に…応援部に来て欲しい」

真姫☆「そこで…、作戦を決行するから」

真姫「…」ゴクリッ

翌日 朝

UTX学院ロッカー前


絵里「…」


絵里「なにこれ…」

絵里「ロッカー開けたら手紙入ってた…」

絵里「…ら、ラブレター?まさかこんな前時代的な…」

絵里「ま、まぁ嫌いじゃないけどね…。っと、誰にも見つからないように…」コソコソ

絵里「えーっと、なになに…」

絵里「『今日の放課後、話したいことがあります。音楽室の前で待ってます。一人で来てください』」

絵里「…『東條希』」

絵里「…」


ポチポチ

プルルルル…


希『はい、もしもし』

絵里「この手紙を入れたのはあなた?」

希『あ、読んでくれたんやね。読まずに捨てられるかと思ってちょっと心配やったけど』

絵里「…ラブレター、ではないのよね?」

希『当たり前やん。真剣な話し合い…やよ』

絵里「…はぁ」

絵里「ちょっぴりガッカリだわ。でも、今度はそっちから話したい、なんてね…」

絵里「ふふ、いいわよ。今日の放課後…アイドル専攻が始まる前、でいいのかしら?」

希『…うん。一人で来てね』

絵里「わかった。遅れずに来るのよ」

希『わかってる』


プツッ… ツーツー


絵里「…何を考えてるのかしらね」

~回想~


4日前 日曜日 夜

希の家


ガチャッ


希「…ただいま」


真姫☆「お帰りなさい、希」

凛「おかえりにゃ。ささ、お風呂温めてるよ!」

希「ん、ありがとう凛ちゃん。早速…入らせてもらうわ」



希「…ふー。あったまるねー…」

真姫☆「もう冷え込んできているってのに、よく外で人の帰りを待つ、なんてできるわね」

凛「風邪ひいちゃうよ?」

希「うん、ちょっと心配やけど…大丈夫大丈夫!いうてまだ11月やし、厚着もしてるんやもん!」

真姫☆「でも…、他に方法はないわけ?家の前で待ち伏せ、なんて、一歩間違えば逆に嫌われるわよ」

希「あー…、かもね」

凛「もし凛の家の前に知らない人が毎日いるって考えたら…、うぅっ…鳥肌ものだよ」

希「でも、うちは西木野さんにとって知らない人やないし…それにうち、不器用やから」

希「顔を突き合わせて話し合うことしか、今までやって来なかった」

希「それで今までダメ、やってんけど…けど、この方法が間違ってるとは思ってないもん」

希「足りなかったのは、うちのホンキ。ダメだって諦めずに、やり抜き通す心」

希「本心で向き合えば、いつか西木野さんの心も、開いてくれるって信じてるから」

凛「家の前以外はないの?ちょっと怖いにゃ」

希「うーん…、うちがどこそこに来て、なんて言っても聞いてもらえないやろうし」

希「唯一二人きりで話せる場所って考えると、自然とね」

真姫☆「…希が正しいと思っていることを私たちがとやかく口出しすべきじゃないわ」

真姫☆「これは、希の夢なんだもの」

希「…うん。ありがと、真姫ちゃん」

真姫☆「えぇ。…問題は、あっちの私が心開いてからよ」

真姫☆「絵里に対しての依存心。これをどうにかしないと…、完全にあっちの私を勧誘するのは難しいでしょう」

真姫☆「これの対策も、考えておかないと」

希「対策、かぁ…。うちが考えてるのは、えりちが西木野さんをアイドル専攻に誘った本当の気持ちを、直接本人に言ってくれればいいんやけど…」

凛「そっちの絵里ちゃんがどんな人かは知らないけど、後ろめたい気持ちがあるならそんなこと本人に言ったりなんてしないじゃないかなぁ…?」

希「せや、よね…。まさか本当に西木野さんをただただ信頼してくれて、なんてこと…」

真姫☆「…絵里に限って、それはないわよね。彼女、バックダンサーズのことすら自分の夢を叶える道具、くらいにしか思ってなさそう」

真姫☆「人を信じる、って心を完全に無くしちゃってるのよ、アイツは」

希「…そう、やね。多分えりちは、西木野さんが自分にとって都合がいいから指導補佐、っていう役職に就かせたはず…」

希「何とかしてそれを吐かせられたら…、あれ?凛ちゃん、どこいったん?いつの間にか消えてるけど…」

真姫☆「アイツならさっき自分の部屋で飛行エンジンの製作に戻ってたわ。なんかいいアイデアが浮かんだんですって」

希「えぇ…なにそれ。凛ちゃんそんなんまで自作してるん…?すごいね…」

希「…アイデア、かぁ。うちにもいいアイデアが浮かべば、なぁ…」

現在

UTX学院 食堂


絵里「…話、ねぇ」

絵里「もぐもぐ…」


絵里(…まぁ、なんの話、かなんて大方見当がついている)

絵里(西木野真姫のことでしょうね)

絵里(彼女のことを…私の口から色々と聞き出したいのでしょう)

絵里(でも、希は二人きりで、って言っていた)

絵里(私と二人きりで話して、何かを聞き出したとして)

絵里(それを口頭で真姫に話しても、それは伝聞でしかない)

絵里(彼女に伝聞での情報を聞かせて、それで信用させられるならわざわざ私に話を聞きに来るなんて真似…しないはず)

絵里(だとしたら希はどうして…)


ポンッ


絵里「…ん?」


穂乃果「どうしたんですか。珍しく難しそうな顔して」

絵里「あぁ…穂乃果。あなたに肩なんて叩かれたの、初めてじゃない?ビックリしたわ」

穂乃果「私だって、フランクな接し方くらいしますよ。…で、何かあったんですか?」

絵里「ん?うぅん…、なんでも。少し考え事をね」

穂乃果「あぁ…最近忙しいですもんね。スケジュール、こっちも大変ですけど、絵里さんだって大変でしょ?」

絵里「えぇ…。ホント、多忙だわ。卒業後もあなたたちの力を保つ必要があるしね」

絵里「そのための引き継ぎにも手を焼いて…、忙しくて堪らないわ」

絵里「…むしろ、私がいなくなったあとからが、本番なんだから」

穂乃果「はい?」

絵里「うん?あぁ…A-RISEのこと。いなくなった後でも変わらない体制でいてくれないとね」

絵里「誰よりも強いスクールアイドルが、私のモットーなんだから」

穂乃果「誰よりも、強い…。絵里さんはA-RISEにそれを求めている、と?」

絵里「えぇ。それ以外は考えられない。…昔から、そう言われて育てられてきたから」

穂乃果「…」

絵里「…あぁっと、ごめんなさい。ちょっと語りすぎちゃったかしら」

絵里「じゃあ私はこれで失礼するわね」

穂乃果「あぁ…もう行っちゃうんですか?まだ私ご飯に一口も手をつけてないのに…」

絵里「一人の方が集中できるから」

穂乃果「…そうですか。でも、何か大事そうな話ならもっと話してくれても良かったのに」

穂乃果「そうすれば携帯で録音して、いつかの切り札にでもできたんですけどね」

絵里「ふふ…、怖いこと言うわね。けど、そんな簡単に尻尾は出さないわ」

絵里「別に聞かれて困る話でもないし…。それじゃ、また放課後にね」

穂乃果「…はい、また。…」モグモグ



絵里「…」

絵里「…ふふふ、あぁ、そういうこと…」

~回想~



3日前 月曜日 夜

希の家


ガチャッ


希「…ただいま」


真姫☆「おかえり。もう…、こんな夜にまで…」

凛「明日、雨って天気予報で言ってたよ?一日だけだけど、結構激しいらしいにゃ」

凛「それでも…明日も行く気なの?」

希「もちろんやよ。明日だって、明後日だって…西木野さんがうちに心を開いてくれるまで…」

希「うぅっ…!」ブルルッ

真姫☆「やっぱり寒いんじゃない。さ、今日もお風呂沸かしてあるから、ちゃっちゃと入っちゃいなさい」

希「うん…」



希「…ふぃー…。あったまるなぁ…」


真姫☆「あぁ、希。お風呂上がったのね」

希「うん…。それはいいとして…」

希「凛ちゃん、その…机の上に置かれたたっぷりのゴミの山は?」

凛「ゴミなんて失礼だよ!これは宝の山なんだから!」

希「た、宝…?」

凛「今日のお昼に秋葉原まで行って買い込んできたジャンクパーツ!」

凛「これらを組み合わせてなんとか飛行エンジンを組み立てようと必死なのにゃ」

希「ジャンクパーツって…パソコンとかの部品でしょ?そんなんで…え、エンジンができるものなん?」

真姫☆「…まぁ、この子はやろうと思えばなんだって作れる天才っ子だから。いつの間にか」

凛「ふふふ…、ヤバいお薬だって市販の薬剤で作れるのだよ…。流石にチートすぎるからこの世界じゃ作らないけどね!」

希「ヤバ…?あぁ…、まぁいいけど。ちゃんと片付けるんやよ?」

凛「わかってるにゃー。えーっと、これとこれをくっつけると…うん、いい感じにゃ!」

希「…」

真姫☆「しかし買い込むって…、ジャンクパーツといえどもお金がかかるんだからね?無駄遣いはしちゃダメよ」

凛「わかってるって!凛の脳内にはちゃんとした設計図が…」

希「ねぇ凛ちゃん」

凛「にゃ?どうしたの?」

希「凛ちゃんは…作ろうと思えばなんでも作れる、って言ったよね…?」

凛「ま、まぁ…時を超える機械は凛でも結構難しいんだけど、大抵の物なら割とできるよ」

真姫☆「それでも十分チートよね」

希「じゃあさ、例えば…」



希「…盗聴器、って、作れる?」

凛「と、盗聴器…?何に使うの?」

希「いいから。作れるかどうか、聞いてるんよ」

凛「え…、つ、作れるにゃ。現に真姫ちゃんの部屋には…おっと、内緒だったわこれ」

真姫☆「いやもう知ってるけどね。…って、もしかして希…」

希「…うん」

希「えりちが直接西木野さんに本心を語る必要はない」

希「肉声であれば、十分な証拠足り得るはず。だから…」

希「うちが一対一で話し合って、えりちの本心を聞き出す」

希「うちの身体に、盗聴器をつけて…!」

真姫☆「っ…!」

凛「な、なるほどなー!それをあっちの真姫ちゃんに聞かせて、絵里ちゃんへの信頼を払う作戦ってことかにゃ!?」

希「…うん。一回携帯電話や無線機で、って言うんも考えたりはしたけど…肉声を鮮明に聞き取らせるには相当声を近くにしないといけない」

希「それに、大きさだってそこそこあるから、バレやすいはず…」

希「でも、小型の盗聴器を身体に仕込んでおいたら、外見じゃわからへんと思うんよ!」

真姫☆「確かに…。私たちに用意できそうな無線機器じゃ、大きさに限界があるけど…。凛が作る盗聴器なら…」

希「どんくらいちっさくできる?」

凛「え?えーっとねー…そうだねー…」

凛「最小で100円玉くらい?」

希「ちっさ!」

真姫☆「そのサイズなら身体に仕込んでおいてもバレはしないでしょうね」

希「それって、遠くの距離でも聞き取ることできる?」

凛「実験してみた中だと、ぬいぐるみやお布団の中に仕込んでいても数メートル範囲の物音ならハッキリ拾うことが可能なはず…にゃ」

真姫☆「どこで実験されたか非常に不安ね…」

希「で、でもっ…それなら身体の外に出しておく必要もない!服の中や鞄の中に入れておいて盗聴することだってできるやん!」

希「これや!これしかないっ…!これならえりちの声を盗むことが…できるっ…!」

真姫☆「…」

希「凛ちゃんお願い!この作戦を決行に移すことができるのがいつになるかはわからんけど…」

希「その盗聴器…エンジンの合間でいいから作っといてくれる?」

凛「うん!合間とは言わず集中して作ってみるね!」

凛「凛に任せてくれれば盗聴器なんてあっとゆう間の朝飯パクパクにゃ!」

真姫☆「最近好きねそれ」

希「よぉしっ!断然燃えてきたやんっ!」

希「雨やろうが槍やろうが…、今のうちならなんでも跳ね返せる気がする!」

凛「お、おぉ…、希ちゃんがすごいオーラに包まれているにゃ…」

真姫☆「でも体調は気をつけて欲しいところね…

二日前 火曜日 放課後

UTX学院 音楽室


ザー… ザー…


海未「…雨、止みませんね」

花陽「こんな日にも、真姫ちゃんを待ち伏せする気なんですか…?」

希「…うん、そのつもり」

ことり「自分の身体も、大切にしてね…?」

ことり「ほら、希ちゃん部長の衣装、超大急ぎで仕上げてるんだもん!」

ことり「明日までには完成できるかもしれないし、それで身体壊しちゃったら着れないんですよ?」

希「ふふ…ありがと、ことりちゃん。海未ちゃんも、花陽ちゃんも心配してくれて」

希「けどうち、今は燃えてるから!だから雨の冷たさもへっちゃらやん!」

ぱなことうみ「…」

希「もう…、そんな目で見んといてよ」

希「大丈夫。濡れないように傘も用意してるし。寒さ対策にカイロだってあるし」

希「みんなに迷惑かけないようには、心がけてるつもりやよ」

海未「…わかりました。希さんの覚悟も相当なものなのでしょう」

海未「今からは素直に、応援します。私たちの気持ちも、あっちの真姫にぶつけてきてくださいね」

希「…うん」

花陽「もうひとりの真姫ちゃんとも、私お友達になりたいから…部長!」

花陽「お願いしますっ!」

希「任せて!」

ことり「明日、この服…真姫ちゃんに見せてあげよう?」

ことり「そしたら、希ちゃん部長の可愛さに胸キュンで、真姫ちゃんもコロッとC☆cuteに入りたくなっちゃうよ!」

希「かもしれんね!…うん、明日、見せたげられるように…頑張ってくる!」



練習終わり

帰り道


花陽「今頃希さん、家の前で待ってるの、かな…」

海未「もう真姫と話している頃でしょうか…。うまくいけば良いのですが」

ことり「…でも、ふふ、無茶で無鉄砲なこの感じ、真姫ちゃんっぽいよね」

花陽「そうだねー…。希さんも真姫ちゃんに影響されちゃったのかな?」

海未「真姫でももう少し自分の身体に気を遣いそうなものですけどね。むしろこの感じは…」

ことり「…中学までの穂乃果ちゃんっぽい?」

海未「…かも、しれませんね」

花陽「穂乃果さん、こんな感じ、だったんですね。想像もつかないや…」

海未「今の私ですら、ちょっと想像がつきません。穂乃果が、今更こんなふうになってくれるか、なんて…」

ことり「…でも、それが私の夢なんだよ。穂乃果ちゃんと…やり直すんだ。あの頃を」

ことり「また…友達になるんだよ」

海未「…えぇ、それもいつか…叶えたい夢ですね」

その夜

希の家


真姫☆「…」

凛「…」


真姫☆「…」ススッ

凛「ダメだよ、真姫ちゃん」

真姫☆「…わかってるわ。連絡はダメ…。希を信じてるんだから」

真姫☆「それにしたって、今日は遅すぎ…」


ガチャッ


真姫☆「っ!の、希っ!!」


希「…」


真姫☆「び、ビショビショじゃないっ!それにっ…」

真姫☆「うっ、身体冷たい…。一体どれくらい外で待ちぼうけてたのよ…ホント、バカなんだから…!」

凛「け、結局真姫ちゃんと話せなかった、とかじゃない…よね?」

希「うぅん…それは、大丈夫…。西木野さん、帰るん遅かったけど…今度こそ、ちゃんと話せた」

希「多分…西木野さんの心を…こじ開けられた、気がする…」

希「だから、あとは…あとは…」

真姫☆「絵里からの、解放、よね」

真姫☆「安心して。盗聴器は完成したわ。これを身につけて絵里の本心を聞き出せれば…」

希「うん、ようやっと…うちは…」

希「うっ…」ガクッ

凛「の、希ちゃんっ!!」

真姫☆「…大丈夫、気を失ってるだけみたい。熱もないみたいだし…」

真姫☆「相当疲れが溜まってたのね。凛、服脱がせるの手伝って」

凛「おぉ…寝入りを襲うってやつですか…」

真姫☆「こんな時までふざけんじゃないの。着替えさせるのよ」

凛「わかってるわかってる。じゃ、まずは奥まで運んで…っと」



希「…すぅ、すぅ」


真姫☆「本当なら、お風呂に入れてあげないとなんだけど、もう今日は起きそうにないわね」

凛「…だね。お布団はいい感じに温めておいたから寒いってことはないと思うんだけど」

真姫☆「彼女もホンキだして、ここまでやったんだから…」

凛「凛たちも、だよね」

真姫☆「…えぇ。この作戦を、失敗させるわけにはいかないんだから」

真姫☆「希、今は…静かに眠っていてね」

現在

木曜日 放課後

UTX学院 音楽室前


希「…」ゴクリッ


希(盗聴器はちゃんと仕掛けた。今、西木野さんは応援部の部室にいるはず…)

希(ここからのうちとえりちの会話を、聞いてくれる予定や…)

希(もしえりちの会話にやましい要素が見受けられなかった場合…西木野さんがうちらに加わることはない)

希(…最悪、それでもいい。今の西木野さんなら、花陽ちゃんたちとも、ちゃんと友達になってくれるはずやから)

希(けど…えりちがただ信頼して、ってだけなはずない。いつか西木野さんに…)

希(それだけは避けたい。だから、ここでえりちの本心をなんとしても聞き出すんや)

希(絶対に…!)


スタスタ…


希「っ!足音…」

希(来たっ…!!)



絵里「…」


希「えりちっ…、えっ…!」



取り巻きA「…」

取り巻きB「…」

絵里「…ふふ、待たせちゃったかしら?」


希「…うちは、一人で来て、って言ったはずやけど」

希「誰なん、その後ろの二人は」

絵里「私の信頼できる後輩たちよ、可愛いでしょう?」

希「そんなん聞いてないよ!約束を破る気!?」

絵里「…そんなこと、言っていいのかしら?」

希「ど、どういう意味やよ…。約束違反はそっち…」

絵里「違うわ」

絵里「あなたこそ、反則よ」

希「えっ…」



絵里「盗聴器を、外しなさい」

希「っ…!!」

希「な、何をっ…!」


絵里「ふふ、あなたってば本当にわかりやすい」

絵里「心のうちが、手に取るようにわかる」

絵里「今だって、焦りが顔に浮かびすぎよ。心臓の音だって、聞こえてきそうなくらい」

希「…っ、盗聴器、なんて、うちは…」

絵里「行って」

取り巻きA・B「はい」

希「きゃっ…!なにす…」ゴソゴソ…

取り巻きA「…これかな」

取り巻きB「ありました」スッ

絵里「…ふぅん、これが…」

希「っ…!そ、それは違っ…」

絵里「…知らない」グシャッ

希「っ…!」

絵里「ひとつだけとも限らないわ。くまなく捜しなさい」

取り巻きA・B「了解しました」


ゴソゴソ…


希「んんっ…!ん、あぁっ…!そこはっ…!」



絵里「あなたが私を話し合いに誘い出したことに、なんの疑問も持たないと思った?」

絵里「あなたが今更、私の心境を聞いたところで…思い出したくもない記憶を引きずるくらいにしかならない」

絵里「じゃあやはり、あなたには何かしらの秘策があるんでしょう、と」

絵里「誰もが考えそうなことよね。盗聴、なんて」

絵里「私なんかには、お見通し。まさかこんな…精密なものを用意してくるとは驚きだけど」



取り巻きA「もう一つ、ありました」

希「っ…くそぉっ…!」

取り巻きB「これは…?」

希「そ、それはただのキーホルダーやからっ…」



絵里「…もう面倒だわ。希、衣服を全て脱ぎなさい」

希「なっ…!」

絵里「別に、全裸で話し合いをしましょうなんて考えてないわ」

絵里「こっちで用意したジャージと下着に着替えてくれればいい」

絵里「鞄も、話し合いが終わるまでこちらで預からせてもらうわ」

絵里「この音楽室で、っていうのも怪しいわね。もしかしたらこの部屋の壁にも仕掛けられてるかも」

絵里「普段使用されてない教室の鍵を借りてきたわ。ここなら…誰にも邪魔されない。盗聴器にも、ね」

絵里「あぁ…真姫?まだ聞こえているなら…早くアイドル専攻に戻ることね。無音の盗聴器に耳をすませるなんて、時間の無駄だから」


希「…っ」

希(…終わった)

空き教室


希「…」


絵里「…流石に、身体の中までは調べてないけど、大丈夫よね?」

絵里「そこまではしてない、って勝手に信じてるけど…やっていい?」

希「…やらなくていい」

絵里「えぇ、いいわ。信用してあげる」

希「…」

絵里「さぁ希。早速お話しましょう」

絵里「何からする?私、今日この時間をずっと楽しみにしていたのよ」

絵里「久しぶりに希と二人きりで色々なことをお喋りできる、って」

希「…」

絵里「去年の冬頃…、アイドル応援部が崩壊するちょっと前から、仲違いしちゃったものね」

絵里「私は私の本心とやり方を語っただけだったのに、思いっきりビンタされちゃって…」

絵里「私、とてもショックだった。希とは仲良くしたかったのに…」

絵里「うぅん、今でも仲良くしたい。だから希。話しましょう」

絵里「そうね、まずは…今、どんな気持ち?」

希「っ…!」

絵里「悔しい?うまくいく、って思っていた作戦を見破られてしまって」

絵里「居たくもない人とこれから無駄におしゃべりに興じないといけなくなって」

絵里「でも呼び出したのはあなたなのよ?真剣な話があるから、だなんて」

絵里「私はアイドル専攻の指導を押してでもあなたに会いに来たっていうのに…」

絵里「なのにあなたは何も話さないの?…ふふ、でも、それでも構わないわ」

絵里「そういえば…盗聴器なんて持ち込んだことに対する謝罪をまだしてもらってないわね」

絵里「そうねぇ…。希、あなたが私の靴に口づけでもしてくれたら、許してあげてもいいけど」

希「なっ…、え、えりちっ…!!」

絵里「…さぁ、するの?しないのなら、あの盗聴器…学校側に提出してもいいんだけど」

絵里「もう片方はまだ壊さずに取っておいてあるし…立場がどうなるか、あなたでもわかるわよね?」

希「…」

希「…わかった。やる…」

絵里「…えぇ、どうぞ」スッ…

希「う、うっ…!」

希「…っ!!」ソーッ…


絵里「…なんてね、冗談よ」サッ

希「えっ…」

絵里「私があなたに対して、そんなことするわけないじゃない。提出もしない」

絵里「ふふ、驚いた?」

希「…軽蔑しそうになったわ」

絵里「そう。…まだ、してなかったんだ」

希「いや、もっと…しそうにね」

絵里「ふふ…、されなくてよかった」

絵里「ねぇ、希」

希「…何」

絵里「もう一度…お友達にならない?」

希「えっ…」

絵里「もう私だってあなただって、卒業するんだし、一度過去のことは清算して、…ね?」

絵里「正直ね。こんなことになってしまったのは、私も少し反省してたりするの」

絵里「あの頃は一番正しいと思ったやり方をやったけど、でも…多くの人に対して悪いこと、しちゃったな、とも思ってる」

絵里「でも、結果を残したかった…!誰もが憧れるアイドルを…、私の…うぅん、私たちアイドル応援部の手で成し遂げたかったの!」

絵里「いい方法とは言えなかったかもしれない…。結果的に、仲違いしてしまったわけだし、ね…」

絵里「けど、私の気持ちもわかって…。私だって、必死だったんだもの…」

絵里「こんなやり方を今まで続けてしまったのも、他に方法が思いつかなかったから…」

絵里「こうしないと強くなれないなら、やり方を維持するしかないじゃない…」

希「えり、ち…」

絵里「…今は許してくれなくてもいいわ。ひどい女だって思ってくれても、構わない」

絵里「だけど…せめて卒業したら…もう一度、お友達になりたいのよ」

絵里「私…希のこと、好きだから…」

希「…」

絵里「希…」スッ

希「…ぁ」

絵里「握手、してくれる?」

絵里「今は…それだけでも嬉しい、から」

希「…えりち」


希(…えりちと、もう一度友達に…)

希(卒業したら、うちは…)

希(…アイドル応援部のみんなと、C☆cuteとお別れすることになる)

希(でも…えりちなら…)

希(卒業後も…)

希(とも、だち、に…)

希(ひとりぼっちじゃ…ない…)



希「…」スッ…

絵里「ふふっ…」




(本当に誰かの心を癒したいと思っている人は…諦めない人だから)




希「っ!」


パシィィンッ!!



絵里「…これは、どういうことかしら」


希「…うちは、諦めない」

希「そんな甘い誘惑に、乗るわけには…いかんのよっ!!」

希「…そうやって、数々の人の心を騙してきたんやね、えりちは」

絵里「騙してなんかいないわ。本心よ」

絵里「少なくとも、あなたと友達になりたいのは…ね」

希「じゃあ他は嘘、ってことやね…!」

絵里「…ふんっ。可愛げがないのね、希」

希「結構や!」

希「…うちにだけでも教えてもらおうか。西木野さんをアイドル専攻に誘った理由を」

絵里「まだ言ってるの?あなただけが知ったところで無駄でしょうに…」

希「それでもや!えりちの…どす黒い本性を…、表に出しておきたいんよ」

希「もう誰も、騙されたりしないように…!」

絵里「ひどい言われようね。言うに事欠いて、どす黒いだなんて」

絵里「私が真姫を誘った理由?あの子に才能があったからに決まってるじゃない」

希「…あぁ、そうやろうね」

絵里「あら、意外とすんなり納得するのね」

希「でも、それだけなはずがない」

絵里「…」

希「えりちは才能を…才能が枯渇し、燃え尽きる様を見させて、他の才能を育てようとしている」

希「にこっちの時やって、そうやったやん!!」

絵里「…そんなつもりじゃなかったんだけど」

希「…自分が、昔そう言ったんやないか」

希「忘れたとは、言わさんよ」

絵里「…」

絵里「…はぁ。いいわよ。仮に、仮ににこのそれが私のやり方の一環だったとして」

絵里「真姫は指導役なのよ?特に厳しい練習なんてしていない。誰かに追いつかないと、なんて焦りもない」

絵里「どうしてそれで才能が枯れる、って言うのよ」

希「…焦りがない?それは、違う」

絵里「えっ…」

希「えりちが卒業した後…西木野さんはえりちの後を継ぐことになる」

希「そこで、えりちと同じ働きを、期待されることになる」

希「えりちに追いつかなければ、っていう焦りは、絶対的に持つことになるっ…!!」

希「今えりちが言った、焦りを持つこと…!それが、才能の枯渇に繋がると認めるのならばっ…!」

希「やはり西木野さんは、えりちの…非道な教育の…、教材として取り入れられたんと、違うんかっ!!」

絵里「…っ、のぞ、み…」

絵里「…ふ」

絵里「ふふふふふっ…あはははははっ…」

絵里「アハハハハハハハハ!!」

希「なっ…、何がおかしいんよ!」

絵里「…ふふ、希…」

絵里「あなたも…わかってきたじゃない」

希「ッ!なら、やっぱりっ…」

絵里「…そう。真姫は…更なる才能を伸ばすための、起爆剤に過ぎないわ」

絵里「そうね…爆薬に例えるならば…さしずめ時限爆弾といったところかしらね」

希「時限、爆弾…?」



絵里「真姫の才能は確かなもの。私から直々に指導を任されたという責任も、大きい」

絵里「けれど、今のやり方をずっと続けていたら…いつか、反感を持つ人が現れるわ」

絵里「こんな方法で、アイドルになれるはずがないと気づく人間が出てくる」

絵里「そうなると真姫は焦っちゃう。自分に歯向かう人間に対する術を持ち合わせていないから」

絵里「今は私という権力を振りかざすことだけでなんとかなるけれど、私が卒業してからはそうはいかない」

絵里「十数人がアイドル専攻からの反逆を考えれば、真姫の体制はあっという間に崩壊する」

絵里「そして、真に私の思想を受け継いだ誰かが、また私のやり方でアイドル専攻を始めてくれる」

絵里「見せかけの改革。その中で本当に強いものと弱いものが、振り分けられることでしょう」

絵里「体制に疑問を持ち、新たな場所を築こうとするものが強者。専攻が絶対のものだと思い込み、変わることを拒むものが弱者」

絵里「真姫には、その振り分けのための傀儡になってもらうのよ。…そして、体制とともに、彼女にも崩壊してもらう」

絵里「そうすることで、真姫の才能を糧として、新たな才能が育ってゆく…」

絵里「私のいないところで、私の指導が進んでゆく。だからこその、時限爆弾」

絵里「それが、私の計画」

希「…っ」

絵里「…はい、話してあげたわ」

絵里「どう?面白いでしょ」

希「お、お前っ…!!」

絵里「…ひどいわ、お前、だなんて。あなたが知りたかったから教えてあげたのに」

絵里「でも、あなたには何もできない。これから真姫に…もっと深い愛情を与えないとね」

絵里「私、ちょっと真姫のこと、遠慮しちゃってたから。今度は奥深くまで…侵略してあげるの」

絵里「私以外のこと、信じられないくらいにね」

希「まっ…、待てっ!!!」

絵里「無駄。あなたの声は誰にも届かない」

絵里「この計画を知るのは、私とあなただけ」

絵里「真姫には、あなたの声すら聞きたくなくなるくらい、滅茶苦茶にしてあげないと」

絵里「ふふ…、全部あなたのせいなんだからね?」

絵里「あなたが知らなければ、真姫も壊れずに済んだのに…」

希「ちょっ、何をっ…!!やめてっ!!西木野さんにっ…手を出すなぁっ!!」


ガッ!!


絵里「う、ぐぅっ…!!がっ…の、希っ…!!」

希「そんなこと、うちがさせへんっ!!力ずくでもえりちを止めてっ…!」グググ…!!

絵里「た、助けっ…!がっ…、ぁ…!!」ポチッ…


ブー!!


ガララッ!!


取り巻きA「え、絵里さんっ!」

取り巻きB「貴様、何をっ!!」


ガシッ!!


希「は、離せっ…!!こらぁっ!!えりちっ…!えりちぃぃっ!!」

絵里「が、はぁっ…!はぁっ…!ふぅ…いざという時のために外部に知らせられるブザーを用意しておいて良かったわね…」

絵里「…本当にあなたに、殺されるかと思ったわよ」

絵里「無様ね、希。諦めが悪い女は嫌いよ。…それじゃあね」

希「待っ…!おいっ!!やめっ…」

絵里「やめない、待たない」

絵里「さようなら、希」

絵里「もうあなたと友達になれないのは寂しいけど、それも仕方ないわね」

絵里「哀れな、負け犬さん」


ガチャッ… バタンッ


希「…っ」

希「く、そっ…」

音楽室前


取り巻きA「これ、衣服と鞄です。どうぞ」

希「…ありがと」


希「…」キガエキガエ…


希(えりちの本心は聞き出せた。うちの思っていたより、ずっと汚いものだった)

希(でも…、ただただ虚しいだけ)

希(こんなこと知ったとて、うちの心が痛ましいだけ、だった)

希(盗聴がバレた時点で、西木野さんがアイドル専攻に戻っていることだろう)

希(盗聴器が取り外された時の命令で、えりちへの依存心を揺り動かされた可能性も高い)

希(信頼関係を守ろうとするならば当然…西木野さんはもう、部室には…)

希(今からこのことを西木野さんに伝えようとしたとて、…何もかも遅すぎる)

希(もう、えりちに…何をされているかすら…考えたくない)

希(せっかく出来たアイドル応援部の友達の声すらも、届かなくなるよう、侵されてしまうかもしれない)

希(…うちは結局、誰も…誰も救えないまま、終わってしまった)

希(もう…うちに…アイドルをやる資格すら…)


ブルルル… ブルルル…


希「…ん?携帯が震えてる…電話かな…?」

希「誰から、やろうか…。あ、真姫ちゃん…」


希(…何も聞こえないことを心配してかけてきたのだろうか)

希(鞄を取られて、今まで返事できなかったから)

希(あまり出たい気分ではなかったけど…そうもいかないし)


ピッ

希「…もしもし」


『もしもし、希?あの…』


希「ゴメン真姫ちゃんっ!!うち、うち…もう、そっちに西木野さん、おらんよね…?」

希「うちのせいや…うちが、甘かったから…だからっ…」


『落ち着いて聞いて、希』




『作戦は、成功したわ』



希「…えっ?」






多目的ホール前


絵里「…ふぅ、えらく遅れてしまったわね」

絵里「もう真姫が始めてる頃かしら?私も早く行かないと…」


真姫「…」


絵里「…あら?真姫…、どうしたの?指導は?」

絵里「それとも、もう休憩…」




真姫「今まで、ありがとうございました」

真姫「…私、指導補佐…やめます。さよならっ…!!」ダダッ




絵里「…」

絵里「…え?」

絵里「…どう、して」

絵里「まさかっ…、まだ、盗聴器が…?」

絵里「そんなはずはっ…!だって希の衣服は全て取り払った!鞄も、場所だって変えた…!」

絵里「本当に体内に…?いえ、そこまでするわけっ…」

絵里「じゃあどこに…?」

絵里「希じゃ、ないなら…教室でもないなら…」

絵里「…」



絵里「…私?」



絵里「そ、そんなっ…!だって、私、今日…アイドル応援部の子たちに会ったりなんて…」

絵里「鞄だって、衣服だって、彼女たちに何かを仕掛けられるタイミングなんてなかったはずっ…!」

絵里「誰かに身体を触られたことだって…」


絵里「っ!!!」

絵里「…ある」

絵里「一度、だけ…。応援部でも…一年生でも、ないけど」

絵里「あの、時…」



(「あなたに肩なんて叩かれたの、初めてじゃない?ビックリしたわ」)



絵里「あの時っ…、私の肩に触れた、のはっ…!!」



(穂乃果「私だって、フランクな接し方くらいしますよ」)




絵里「穂乃、果っ…!!!」








真姫☆「絵里、あなたは人の心を読むのが得意なようね」

真姫☆「それが希でも、あっちの私でも」

真姫☆「だとするなら…あなたが道具のようにしか考えていない人なら?」

真姫☆「あなたが、あなたに従順だと思い込んでいる人間なら?」

真姫☆「一手、遅かったわね。絵里」

真姫☆「哀れな、負け犬さん」

~回想~



作戦決行の2日前 火曜日 夜

希の家


ザー…


真姫☆「…希、遅いわね」

凛「もういつもなら帰ってきててもいい時間、なのにね…」

真姫☆「こんな雨の中いつまでも外に居たら…希のほうが参っちゃうわよ」

凛「そだね…。迎えに行く?」

真姫☆「…そうしたいのはやまやまなんだけど」

真姫☆「けど、希がしたい、って思ってることを私たちの判断で止めてしまうのは避けたいのよね」

真姫☆「案外、捨て鉢になりかけてる時のがいい結果を残せたりするものよ」

凛「捨て鉢になっちゃいけないんじゃ…。希ちゃんこれからもアイドルやるんでしょ?」

真姫☆「…そうなんだけどね。まぁ、今はまだ、ってことよ。それより…」

真姫☆「私にはもう一つ、不安要素があるの」

凛「不安要素?なんの話?」

真姫☆「昨日の盗聴云々の話よ。凛、盗聴器はもう出来たの?」

凛「うん、ちゃっちゃと完成させたにゃ」

真姫☆「見せて」

凛「ほい」

真姫☆「…本当に小型ね。これ自体の性能はいいんでしょうけど」

真姫☆「でもこれじゃ…」

凛「え?何かこれにいけないことでもあるの?…あ、実は…」

真姫☆「いえ、盗聴器がいけない、ってことじゃないの。倫理的な問題も考えてないわけでもないけど、そうじゃなくて…」

真姫☆「希は以前、絵里は人の心を感じ取るのが得意、的なことを言っていたわ」

真姫☆「その特技でアイドル専攻の人たちの心を物にしてきた、とか」

真姫☆「だとするならば、もしかしたら…希が盗聴器を仕掛けている、ってことすら、読まれてしまうかもしれない」

凛「えっ…、そ、そこまで?」

真姫☆「可能性は十分に考えられるわ。アイドル専攻生全員の心を掌握できるくらいなんだもの、そのくらい…」

真姫☆「もし絵里に見破られて盗聴器を外されでもしたら、この作戦はオジャンよ。そうね…」

真姫☆「…希も知らない別の作戦を、裏で実行するべきだと思う。絵里にもバレない何かを…」

凛「何か、って…なに?」

真姫☆「…そうよね。彼女の話を間接的に聞く方法…うーん…盗聴器以外に…」

真姫☆「ん?そういえば凛、さっきあなた、『実は…』って何か言いかけてなかった?」

凛「え、あぁ…そうだった」

真姫☆「何言おうとしたのよ。もしかして盗聴器に欠点でもあるんじゃ」

凛「違うよ!凛の作る機械は完璧だよ!言いたかったのは…」

凛「実は希ちゃんに言った盗聴器のサイズ…あれは最小のものじゃないんだ」

真姫☆「最小じゃない…?」

凛「うん。ホントはもっと小さくできるの。落ちたら探すのに苦労するレベルで」

真姫☆「へぇ…なんで言わなかったのよ。紛失されるかもしれないから?」

凛「それもあるんだけどさ。集音機能に難があるんだよね、そこまで小さくしちゃうと」

凛「半径1~2メートルくらいの音しか拾ってくれないんだ。だからあらかじめ省いちゃったってこと」

真姫☆「あぁ…そうだったの。うん、まぁそれなら…」

真姫☆「…」


真姫☆「あっ…!」


凛「にゃ?どうしたの?」

真姫☆「…それだわ!」

真姫☆「小さくて発見が困難で、それでいて周囲1,2メートルの音が拾える…!」

真姫☆「確かにそれだと、第三者が所持していちゃ誰かの会話を拾うことは困難だけど…」

真姫☆「じゃあそれを、話す本人にくっつければ…!」

凛「おぉ!」

凛「…ん?だけどよくよく考えたら、絵里ちゃんが盗聴器に気づいてたら意味ないんじゃ?」

凛「気づいた上で盗聴器を外させずに、心にもない綺麗事を並べてこの世界の真姫ちゃんにさらに気に入られようとするかも!」

真姫☆「…その可能性もなくはないけれど、でも…あの絵里の性格から察するに、彼女は希の心も折りにくると思ってる」

真姫☆「自信満々だった希の作戦を看破することで希を絶望させて愉悦に浸ろうって考えそうなやつよ、アイツは」

凛「うぇ…凛の知ってる絵里ちゃんとはかけ離れた感じの思考だにゃ…」

真姫☆「私もあまり信じたくはないけど、こういう考え方するやつなのよ、この世界の絵里は」

真姫☆「…だからきっと、盗聴器に気づいたならそれを外させるように言ってくると思う」

真姫☆「そこに思いもよらないところからもう一つの盗聴器を仕掛ければ…」

凛「流石にそこまでは気が回らないって寸法だね!」

真姫☆「あえて希に知らせないことで、絵里の心を読む力にも対応できる。…これならうまくいくはずよ」

凛「…んー、でも自然に絵里ちゃんに近づいて、尚且つ違和感なく身体に盗聴器くっつけられる人、なんている?」

真姫☆「私たちの中にはいないかもしれないけど…」

真姫☆「…バックダンサーズなら」

真姫☆「そうね…、にこちゃんなら、なんとか協力してくれるかも知れない」

真姫☆「貸しを作ったとは思ってないけど、絵里のやり方には反感も持ってるかもしれないし」

凛「なるほど…!協力してくれる人もいる、ってことだね!」

真姫☆「えぇ、よし!凛、今から作れる?身体にひっつけて傍目からは視認が難しい感じの超小型盗聴器!」

凛「任せておいて!明日には完成させたるにゃ!」

真姫☆「…ふふっ、見てなさい、絵里。あなたがいくら裏を読もうと…」

真姫☆「私はその裏の裏を行ってみせるんだからっ…!」

作戦決行当日 木曜日 朝

アイドル応援部


希「それじゃ、手紙出しに行ってくる。…来てくれるかは、ちょっと不安やけど」


ガチャッ バタン


真姫☆「…」

花陽「うぅ…心配だね」

ことり「でも、いつまでも心配なままじゃこっちの練習にも身が入らないしね」

海未「うまくいくと信じて、今は…私たちだけでも練習に行きましょう」

真姫☆「待って」

海未「はい?」

花陽「真姫ちゃん?って、早く学校でないと怪しまれるんじゃ…」

真姫☆「その前に話があるの。希には言えない、大事な話…」



ことり「え、絵里さんの身体にも、盗聴器をっ…!?」

真姫☆「えぇ。これなら、万が一希の方の盗聴器がバレても、安全に盗聴できるはず」

花陽「た、確かに…めっちゃ小さいね」

真姫☆「制服に紛れるように作ったからね。一度くっつけたら凝視しない限りは見えないわ」

海未「しかし、どうやって本人にそれを付けるつもりですか?」

真姫☆「ここはやっぱり…絵里に不審がられず近づけるにこちゃんに依頼して…」

ことり「えっ…、にこちゃん?」

海未「ま、真姫っ…。にこは…」

真姫☆「えっ?」

ことり「…にこちゃん、昨日すごい風邪で、多分今日は…来てないと思う」

真姫☆「んなっ!?」

海未「昨日、アイドル専攻を早退したとも聞きました。おそらく…来ないでしょうね」

真姫☆「う、嘘っ!?病欠!?聞いてないわよ!」

花陽「真姫ちゃん、今は学校情報に疎いから…」

真姫☆「そんなっ…、にこちゃんが休むなんて考えてなかった…。どどど、どうしよう…」

真姫☆「誰かがこっそり近づいて貼り付けてくる…?で、でももし気づかれたら一巻の終わりだし…」

真姫☆「他に彼女に警戒されずに近づいて、尚且つこんなこと頼める人、なんて…」

真姫☆「ま、マズい…!詰んだかも…!!」

花陽「そ、そんなっ…!!」

ことり「…ね、ねぇ、海未ちゃん…」

海未「はい?なんでしょう…」

ことり「…もしかしたら……ちゃん、なら…」

海未「えっ…!そ、それは…」

真姫☆「な、なんて?ことり…今なんて言ったの?」

海未「…無理、ですよ。彼女が、そんな…」

ことり「…私、もしかしたら…彼女なら引き受けてくれるかもしれないって思うの」


ことり「今の、穂乃果ちゃんなら」

真姫☆「穂乃果…?」

海未「ことり、それはありえません。だって、穂乃果は…」

ことり「…ぅ」

海未「穂乃果は、絵里先輩のやり方に同調しているのでしょう?」

海未「…そんな、絵里先輩を裏切るような真似に、協力してくれるとは…」

真姫☆「…」

花陽「作戦に協力して欲しい、ってなると、事情の説明もあるだろうし…」

花陽「生徒会長に真姫ちゃんが二人いる、なんて知られちゃったら一巻の終わり…」

真姫☆「…いえ」

花陽「え?」

真姫☆「穂乃果…、アリ、かもしれないわね」

海未「なっ…!ど、どうして!?」

真姫☆「さっき、花陽の言ったこと…私が二人いるという事実だけど」

真姫☆「実は…穂乃果はもう知っているの」

ことり「えぇっ!?そ、そうな…の?」

真姫☆「うん。穂乃果に怪しまれちゃったから希がバラしちゃったんだって。…おかしな話よね」

真姫☆「でも、一週間ほど前の話だというのに、未だ学校側に私たちのことは把握されていない」

真姫☆「生徒会長が、一言報告すれば、すぐ明るみに出るはずのことなのに」

真姫☆「…これって、どういうことなのかしらね」

海未「つまり…穂乃果は、真姫が二人いるという事実を知ってなお、黙っている…ってことですか?」

花陽「あ、あの厳しそうな生徒会長が…!?」

真姫☆「希が言うには…穂乃果は、ちゃんとした優しさも兼ね備えている、だそうよ。寛容な心、っていうのかな」

ことり「…やっぱり、穂乃果ちゃん」

ことり「変わってきているのかも、しれない」

ことり「うぅん…、変わってるんじゃなくて…」

真姫☆「戻ってきている。昔の穂乃果が、…って言いたいのかしら」

ことり「うん。昔の、優しくて…交わした約束は何が何でも守る、そんな…私の知ってる穂乃果ちゃんに」

海未「そんな…。彼女に、変わるきっかけか何か、あったのでしょうか…」

真姫☆「…それは、私にもわからない」

真姫☆「だけど希も言ってたわ。変わりたいと思えば、知らず知らずのうちに変わっていゆくものだって」

ことり「あっ…!」

真姫☆「きっと彼女も、変化を求めている。今のままじゃいけないって思い始めているんだわ」

真姫☆「だから、今の穂乃果なら…もしかしたら、協力してくれるかも知れない」

花陽「そ、そうだねっ…!一瞬ダメかと思ったけど、それがうまくいけば…!」

海未「…っ」ゴクリッ

ことり「それで…穂乃果ちゃんへ話をつけに行くのは、いつ?あ、でも真姫ちゃんが行くのなら…この朝でないといけないし…」

真姫☆「…」

真姫☆「私はいかない」

ことり「えっ」

真姫☆「この話は…」

真姫☆「ことり。あなたが穂乃果と交渉するべきよ」

3時間目 授業終わり

穂乃果の教室


キリーツレーイアリガトゴザイマシター


穂乃果「…ふぅ」

穂乃果「…ん?」


海未「こ、コトリー、ガンバッテクダサイー」

ことり「海未ちゃんも行くの!ほら、しがみついてないで!!」

海未「むりですー!」

穂乃果「…もしかして、私に用事?」

海未「っ!」

海未「」

ことり「う、海未ちゃんが固まっちゃった!」

穂乃果「…」



穂乃果「…ここなら、誰も来ないと思うけど」

ことり「…うん」

海未「ハァ…、ハァ…!」

穂乃果「…それで、なんの話?」

ことり「えと…実は…」



~回想~


真姫☆「ことり。あなたが穂乃果と交渉するべきよ」

ことり「え…えぇぇっ!!?」

真姫☆「…驚く程のことでもないでしょ」

真姫☆「今のこの時間、穂乃果はアイドル専攻で練習中だし。朝の予鈴がなる前に私はここを抜け出さなきゃいけない」

真姫☆「私が穂乃果と交渉する時間はないわ。だとするなら…」

ことり「わ、私…ってこと?」

真姫☆「花陽が穂乃果と交渉するのは無理があるしね」

海未「が、頑張ってください!応援してます!」

真姫☆「…当然、海未も行くのよ?」

海未「ホワイッ!?わたひもれすか!?」

花陽「舌回ってないよ、海未さん…」

真姫☆「一人より二人の方がいいに決まってるでしょ。それに…」

真姫☆「これは、チャンスだわ。あなたたちの、夢を叶えるための」

ことり「私たちの…」

海未「…夢」

真姫☆「戻りたいのでしょう?あの頃に。なら…」



ことり(…なら、私が…、私たちが行動を起こさなきゃ!)

ことり「…ということなの。だから…、協力して欲しくて」

穂乃果「…」

乃果「…えっと」


穂乃果(急に教室を訪ねられたときも驚いたけど)

穂乃果(いわば敵、とも言える私に…彼女たちがこんなお願いをするなんて)


穂乃果「…誰に話してるか、分かってる?」


ことり「ぇ、それは…」

海未「わ、わかっていますとも!!」

ことり「海未ちゃん、落ち着いて…」

穂乃果「…はぁ」


穂乃果(頭が痛くなる)

穂乃果(私に頼み事をする時点でどうかしている)

穂乃果(しかもそれが、絵里さんに…盗聴器を付ける、なんて…)


穂乃果「…ごめんだけど、その依頼には応じることはできないよ。アイドル専攻としても、生徒会長としても」

穂乃果「じゃあ、私はこれで…」

ことり「まっ…、穂乃果ちゃんっ!!」

穂乃果「…」スタスタ…

海未「待ってください、穂乃果っ!!」

穂乃果「…」ピタリ

海未「わ、わわっ…私たちも、ホンキなのですっ!!」

海未「それはスクールアイドルを…C☆cuteを存続させるため、もありますがっ…!ですがそれ以上に…」

海未「一人の人生が変わってしまうかも知れない瀬戸際なのですっ!」

海未「このままではもしかしたらっ…彼女まで、わ、私のようになってしまうかもしれない…!」

海未「それは嫌なんですっ!だから…、お願いしますっ!お力を…力を貸してくださいっ!」

穂乃果「…」

海未「穂乃果ぁぁっ!!」

ことり「海未ちゃん…」


穂乃果(…彼女から名前を叫ばれたのは、いつぶりだろう)

穂乃果(あの日、彼女と別れを告げた日、から…)

穂乃果(…あの時、私は)



(穂乃果「私は…、私はスクールアイドルでトップを獲らなきゃいけないの…!それ以外は何の意味もない…、屑同然なの…!」)

(穂乃果「誰よりも上へ登って、頂点を獲って…輝かしいステージに立つのが、私の夢なのっ!!」)

(穂乃果「それを、そんなもの呼ばわり…!?あなたに何がわかるの!?」)

(穂乃果「アイドルのことなんて、何も知らないくせにっ!!!」)



穂乃果(今の…今の『海未ちゃん』は)

穂乃果(アイドルのことを、何も知らない海未ちゃんだろうか)

穂乃果(私が、強さを求めるために切り捨てたものが)

穂乃果(今、私に並ぶくらい強くなって、ここにいる)

穂乃果(…強さって、一体何なんだろう)

穂乃果(私が求める、強さって…なんなの、かな)

穂乃果(私が知っている強くなる方法)

穂乃果(…それは全て)

穂乃果(絢瀬絵里から学んだもの、だった)

穂乃果(そして、現在私は)

穂乃果(その絢瀬絵里すら、わからなくなってきている)

穂乃果(なら、私は…)

穂乃果(私が、求めるべき、は…)



穂乃果「…貸して」


海未「はい?」

穂乃果「その…、盗聴器とやら」

ことり「穂乃果ちゃん…?」

穂乃果「今はないの?」

ことり「う、うぅんっ!あるけど…ってことは、つまり…!」

海未「き、協力してくれる気になったんですか!?」

穂乃果「…協力、じゃない。ただ…」

穂乃果「私もそろそろ…自分のやり方を見つけるべき、なのかなって思って」

ことり「ほ、穂乃果、ちゃぁんっ…!」

海未「穂乃果っ…!」

穂乃果「っ…!だから勘違いしないで!」

穂乃果「私とあなたたちは…敵同士だから」

穂乃果「友達になる気は…ない、から」

海未「穂乃果…」

ことり「…うん、今はそれでも、いい」

ことり「協力して…うぅん、穂乃果ちゃんのやりたいことが見つかって、よかった」

ことり「ありがとう。穂乃果ちゃん」

穂乃果「…」




穂乃果の教室


穂乃果「…」



(希「いつか、穂乃果ちゃんは真姫ちゃんの味方になってくれるかもしれない」)

(希「そして…、真姫ちゃんが、穂乃果ちゃんの味方になってくれるかもしれないから」)

(希「努力している子を純粋に応援してくれる、本当の穂乃果ちゃんへの…ちょっとした投資みたいなもの、かな」)



穂乃果「…ふっ」

穂乃果「ホント、バカバカしいよ…」

穂乃果「…これが、私の…やりたい、ことか…」

放課後

アイドル応援部



真姫「…」ガチャッ


真姫☆「…あぁ、来たわね。ここ、座って」

真姫「本当に…いなきゃ、ダメ?」

真姫☆「ダメよ。希があなたのために必死で繋いだ、最後の道なんだもん」

真姫☆「応えてあげなさい。…あなたにとって、辛い思いになるかもしれないけど」

真姫「…」

真姫☆「花陽、状況は?」

花陽「うん、今のところ三つとも聞こえてる…」

海未「穂乃果は、バレずに絵里先輩に盗聴器を仕掛けることに成功したよう、ですね…」

ことり「よかったぁっ…!」

真姫「盗聴…!?」

真姫☆「まぁまぁ落ち着いて。…こうするしか彼女の本心を聞き出すことはできないでしょ」

花陽「穂乃果さん…、協力してくれたんだ…」

真姫☆「…えぇ。上手くいってよかった」

海未「私も、行ってよかったと思います…。彼女の中の何かも、変えられることができたようなので」

ことり「…その話もいいけど、そろそろ…」

花陽「きたっ!」

真姫「っ…!」



真姫☆(…私の予想通り、最初の盗聴器は見破られていた)

真姫☆(予備に持たせた二つ目の盗聴器すら発見され)

真姫☆(衣服に持ち物、全て別のものと変えられ、万端に万端を期した準備を絵里はしてきた)

真姫☆(…なればこそ、気づかない)

真姫☆(二つあったから、もうあるはずないと、タカをくくっている。その油断こそ…)

真姫☆(私たちが、付け入る隙。あとは、失敗したと思い込み、希が作戦を諦めることも不安要素ではあるけど…)

真姫☆(…いえ、彼女に限ってそれはない。もう彼女は…諦めない人間なのだもの)

真姫☆(そして、私たちの作戦は成功した)

真姫☆(悲痛に歪む心を観察することが好きな絵里のおかげで、彼女の醜い本心を余ることなく堪能させてもらえた)

真姫☆(…ありがとう、絵里。あなたが完璧な人間だったら、私たちに勝利はあり得なかった)

真姫☆(そして…)



真姫「…ぅ、うぅっ…!!」

花陽「ま、真姫…ちゃんっ…」

真姫☆「わかったでしょう。これが…絵里の本当の狙い」

真姫☆「あなたは…生贄だったのよ。強いアイドルを育てるための」

真姫「っ!!」ダダッ

ことり「あっ、真姫ちゃんっ!!?」

真姫☆「…行かせてあげて。きっと彼女にも…もう、わかったはずだから」

真姫「今まで、ありがとうございました」

真姫「…私、指導補佐…やめます。さよならっ…!!」ダダッ




絵里「…っ!ほ、穂乃果ぁぁぁ!!」



多目的ホール


ガチャンッ!!

女生徒「あっ、絵里さ…きゃぁっ!!?」


絵里「穂乃果ああぁぁぁぁっ!!!」ダダッ


凛「ひぃっ…!?」

穂乃果「…っ!」


パシィィンッ!!

絵里「はぁーっ…!はぁー…!!」

穂乃果「…」


凛「え、え…?い、一体何が…」


絵里「裏切ったわね、穂乃果っ…!」

絵里「あなたが、私に…盗聴器を…!!」

絵里「ふざけたマネ、してくれたわねっ…!!即刻…」

穂乃果「下位落ち、ですか?」

絵里「当たり前よっ!!この私に逆らって…!」

穂乃果「…私は、裏切ってませんよ」

絵里「はぁっ!?シラを切るつもりっ!?舐めないでっ!今日私に触れたのは…」

穂乃果「私は、何もしていない」

穂乃果「ただ…あなたの声が少し大きかっただけだよ」

絵里「なっ…」

穂乃果「全て、あなたが招いた結果だよ」

穂乃果「本当に強さを求めるのなら…あなたが本当に強さを求めているのなら」

穂乃果「心の奥なんて、誰にも明かすべきじゃなかった」

穂乃果「あなたは自分の愉悦を求め、純粋に強さだけを求めていなかったから」

穂乃果「負けたんだ」

絵里「…っ!!このぉっ…!!」ヒュッ…!!


ガシィッ!!

絵里「っ!」

穂乃果「今まで私は、あなたの強さに憧れてきた」

穂乃果「あなたに従えば、あなたのように強くなれるって思って」

穂乃果「…でも、今はもう、違う」

穂乃果「あなたの強さだけを信じていたら…本当に強いアイドルにはなれないっ…」

穂乃果「私は…っ、私のやり方を信じますっ!!」

絵里「ほっ…の、か…!」

絵里「何がっ…!強いアイドル…よっ…!!」

絵里「ここで私に逆らって、生きていけると思っているの!?」

絵里「もう、あなたはっ…!」

穂乃果「…いや、あなたに私は殺せない」

絵里「なっ…!」

穂乃果「私が…強いから」

穂乃果「今、A-RISEから私がいなくなれば、あなたにとっても相当な損失になる」

穂乃果「あなたの夢から、遠ざかる」

絵里「っ…!!」

穂乃果「仮に私を切り捨てても…私は新たに別のスクールアイドルを始めます。一人でも」

穂乃果「私にとっての強いアイドルは…もはや、A-RISEだけじゃない」

穂乃果「C☆cute、彼女たちだって、十分に…強いアイドルであるから」

絵里「く、ぁっ…!!ぁ、ぁぁぁああぁぁっ…!!!」



(絵里「体制に疑問を持ち、新たな場所を築こうとするものが強者。専攻が絶対のものだと思い込み、変わることを拒むものが弱者」)



絵里「私がっ…私の、計画がっ…!!」

絵里「私に、牙をォォッ…!!」

穂乃果「…行こう、凛ちゃん」

穂乃果「練習の、続き」

凛「えっ…あ、うん…」


絵里「…ぐ、ぐぅぅっ…!!」



(「強くなるの。それ以外に…価値はないわ」)



私、強くなった。



(「ほら、見て…。また私、コンクールで優勝して…」)



誰にも、負けないくらい強く。



(「…ストレスが原因だって医者は…」「ひどくやつれていたからねぇ…」)



強く、なって…周りを見渡せば。



(「…ねぇ、だから…起きてよ。目を、覚ましてよぉぉ…!!」)



もう、誰も、いなかった。






絵里「ぐぅっ…、うぐあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

音楽室


希「えー…それじゃあ…何が何だかよくわからんけど、うちの…いや、真姫ちゃんの計画が無事成功した、ということなので…」

希「改めて、紹介…うぅん、自己紹介といこか!さ、西木野さん」

真姫「…ぐずっ、は、はいぃ…」

真姫☆「まだ泣いてるの?」

海未「…仕方ありませんよ。信頼していたものの口からあんな言葉を聞かされては…」

花陽「真姫ちゃん、い、行ける…?」

真姫「へ、平気っ…!んんっ!じ、じゃあ…」

真姫「に、西木野、真姫ですっ…!春から、半年くらい休学してたけど…ついに学校に戻ってきました!」

真姫「だから、わ、私とっ…友達になってください!」

花陽「うんっ!友達だよ!」

ことり「先輩だけど、遠慮なーく、ことりちゃん、って呼んでいいんだよ」

海未「え、では私のことは海未と…」

真姫「わ、わかったわ!ことりちゃん!海未!」

真姫☆「わぁ、ちょっと違和感」

希「…で、西木野さんは…C☆cuteに入るつもりはあるん?」

真姫「…正直、ちょっと、迷ってます」

真姫「だけど、打算目的でも…絵里が、私にアイドルを教えてくれた、ってことは、紛れもない真実だから」

真姫「彼女には裏切られたけど、でも…この自分の好きな気持ちを、もう裏切りたくないから…」

真姫「私、もう一回…アイドル、やってみる!やってみたいのよ!!」

希「うん!その意気や!」

花陽「ってことは、真姫ちゃんはC☆cuteに正式加入、だよね!?」

真姫☆「私が抜けて、こっちの私と希が追加、計6人のメンバーね」

ことり「…でも、今週末のライブ、間に合わないよね。どう考えても」

海未「その件に関しては…繰り上げ、だそうですよ。12月の最初の週末になるそうです」

真姫「え、そのライブ、私も出る、ってこと…?」

真姫☆「もちろんでしょ!今から一週間、私と遜色ないレベルまで踊れるようになるまで、みっちり特訓させてもらうんだからね!!」

花陽「あと歌も!こっちの真姫ちゃんは歌、すごくヘタになってたし…いっぱい歌わないと!」

ことり「髪の毛のボサボサも整えて!こっちの真姫ちゃんには身だしなみが足りてません!」

海未「あとダンスの時に危なくないようにこっちの真姫もメガネをやめて…」

真姫「って!さっきからこっちの真姫こっちの真姫って、それで定着するの!?」

希「うーん、せやけど同じ名前やとどうもね…。みんなも西木野さん、って呼ぶ?」

花陽「それだとなんか他人行儀っぽいイメージで…うーん、そうだなぁ…」

ことり「あ!名案です!」

ことり「西木野さんじゃなくて、西木野ちゃん、って呼ぼう!で、それだとあんまり可愛くないから…」

ことり「略して…キノちゃん!こっちの真姫ちゃんのことは、今度からキノちゃんって呼ぼう!」

真姫「き、キノちゃん…?」

真姫☆「なんかモーターバイク(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)に乗って旅をしそうね…」

花陽「でもかわいい響き!いいと思う!ね、キノちゃん!」

真姫「キノちゃ…、ま、まぁいいわよ!好きに呼べば!?」

海未「ふふっ、こういうところ、やはり同一人物ですね」

真姫☆「…私こんなふうなのね」

真姫☆(希と、この世界の私…あだ名は、キノで定着しちゃった、西木野真姫を加え)

真姫☆(新生C☆cuteは動き出した)

真姫☆(一週間のライブの延期期間のあいだに、ほぼ初心者の希とキノをみんなと同じくらいに動かさせる)

真姫☆(オマケに二人共歌がめっきりで…想像以上に慌ただしい一週間になってしまったけれど)

真姫☆(でも、その一週間は、みんなが笑顔で)

真姫☆(まさか…学校が楽しくないなんて人が、この中に紛れているなんてこと、あるはずもなかった)

真姫☆(楽しくて楽しくて、仕方がない)

真姫☆(その楽しさを、見てくれる人、みんなに伝えてあげる)

真姫☆(それが、私の知っているスクールアイドル。μ'sと…そしてC☆cute)

真姫☆(C☆cuteは…私の見せたかった風景に、限りなく近づいたといっても、言い過ぎじゃないでしょう)

真姫☆(もう、この世界でやり残したことは、私には…)



真姫☆「だーかーらっ!!そうじゃないって!」

真姫「いえっ!私はこれでいいと思うわ!」

真姫☆「そんなリズムの曲が万人受けするわけ無いでしょっ!あなたが作ってるのは歌じゃなくてゲームミュージックよこのバカっ!!」

真姫「ばっ、バカですって!?バカはそっちよバカーッ!!」


花陽「…なにで言い争ってるの?あの二人」

ことり「真姫ちゃんの作曲のセンスをキノちゃんに受け継ごうとして…」

希「同じ人でも環境が違うと曲の好みも変わってくるもんなんやね…」

海未「ふふ…、またまた、騒がしくなりそうですね」



真姫☆(…どうやら、このスクールアイドルには…まだ私の居場所があるらしい)

真姫☆(仕方ないわね…。もう少しだけなら、いてあげてもいいわよ?…なんてね)




ライブ当日

舞台裏


ことり「うっ、わー…!こ、こんなに人がっ…!」

海未「初めての対外ライブで、こんなに集まる、なんて…!」


真姫「っ…!」ゴクリッ

希「西木野さん、緊張してる?」

真姫「うっ…、ま、まぁ…」

花陽「当然だよね。初めてのライブが…こんな大規模なやつじゃ…」

真姫☆「しっかりする!あなたには私と同じ働きをしてもらわないといけないんだからね!」

真姫「…わかってるわ!今度こそ…、私の選んだ道だもの!」

ことり「よしっ!じゃあ…」

海未「いつものやつ、ですね!」

真姫「いつもの…?」

真姫☆「はい、指をこう!」ビシッ


一同「こうっ!」ビシッ


真姫「こ、こう…」ビシッ

真姫☆「…私のいないC☆cute。でも、これが本当の姿よ!今日みんなを、一番の笑顔にしてきなさい!」

真姫☆「1!」 花陽「2!」 ことり「3!」 海未「4!」 希「5!」

真姫「えっ…、あっ!6っ!!」

真姫☆「…それで良し!さぁ…お客さんが待ってるわ!行ってきなさい!」

希「…行こう!西木野さん!」

真姫「…っ!うんっ!!」





すっかりよれよれになった制服に着替え、食卓に座る。


もうそろそろクリーニングかな、なんて、ママと会話。


パパは相変わらず寡黙だけど、気持ちは伝わってる。


いけない、そろそろ朝練習の時間。


食べる手を早め、かつ汚くない程度に。


ごちそうさまも、忘れずに。


鞄は持った。ハンカチも。


そして、練習着に、白い五線譜。


ドアノブに手をかけ、深呼吸。


ガチャッ、という音を立ててドアが開き、外へと出る。


もう見飽きたくらいの、青空が待っていた。


まだ、ドアノブには手をかけたまま。


私を出迎えてくれる、この家と。


食卓にいる、パパとママに、聞こえるくらいの大声で。





「いってきますっ!!」






もしライブ! 第8話

おわり

以上8話でした 一応希回だったのでちょうど希の誕生日に貼れていい感じでした ハッピーバースデーのんたん
まだ9話はまとめきれてないので日があく可能性もありますがなるべく開けないよう頑張ります それでは次回もお楽しみに ほなな

乙です
あまりの面白さに一気読みしてしまいました

続きを楽しみにしています


この世界の真姫ちゃんはあの指導やったあげくに他ユニットでアイドル活動って
ひどい反感買いそうで大変だな……

おつおつ

一日空いたけれど9話やっていきます 6話よりも長いお話なのでまたも2分割
あと後半オリジナル歌詞の曲が出てきます 稚拙ですが物語上必要だったので仕方ない

前回のもしライブ!(声:西木野真姫(キノ))


絵里から誘われたことでアイドル専攻の指導補佐となってしまった私。

西木野真姫が二人いると知られる危険性から、真姫の練習への参加すら危ぶまれるC☆cuteが取った行動は…。



真姫☆「…妹を引き戻す係は」

真姫☆「希…あなたしかいない」



指導補佐から私を下ろすためにアイドル専攻へ向かう希先輩だったけど、そう簡単にはいかず。

諦めない希先輩だったけど次の行動へ映るための相談を真姫にしようとするも繋がらず、悪い未来を想像してしまう。

その時、真姫は別世界の星空凛によって、元の世界へと連れ戻されていたのだった!



真姫☆「わ、私…」

真姫☆「帰ってきちゃった…?」



約束を果たさないまま帰れないと、またこの世界へと戻ろうとする真姫を凛は止めようとするけれど。

自分の身に降りかかる目眩をも恐れず、今度は凛と一緒に、再度希先輩への家に舞い戻った。

そして、私を絵里の呪縛から解き放つため、真姫と希先輩がたどり着いた一つの答えは…!



希「…うち、今日から…スクールアイドルになる」



アイドルの楽しさを伝えるため、自らもアイドルになった希先輩。

幾度もの説得の末、私の心はこじ開けられた、けれど…。

まだ絵里を信じたかった私に、アイドル応援部が決行した最後の作戦。それは発案者の希先輩すらも驚かせた!



絵里「希じゃ、ないなら…教室でもないなら…」

絵里「…私?」



高坂穂乃果からの反逆によって絵里の計画が露呈した結果、私はアイドル専攻の指導補佐を辞退。

そして改めて、C☆cuteの最初にして最後のメンバー、西木野真姫として加入することとなったの!

初めてライブは緊張したけれど、アイドルのことを好きになれたのは、仲間のおかげ。

引きこもりだった私にも、すっかり外の風景が見慣れたものになれたのだった。


ぱしん。ぱしん。



上がって、下がって。いったり、きたり。



ぱしん。ぱしん。



一定のリズムで刻まれる、地面を叩く音。



ぱしん。ぱしん。



閉じて開いてを繰り返す、一筋の細いトビラのむこう。



土煙の幕で薄くぼやけた、誰かが見える。



ぱしん。ぱしん。



それはとっても近くのようで、とっても遠くて。



それはとっても遠くのようで、とっても近い。



むこうのあの子は、どんな顔をしているのだろう。



煙に隠れて、よく見えない。



ぱしん。ぱしん。



会いに行きたい。



よし、会いに行こう。



少しためらったけど、でもすぐに。



トビラに向かって、大きな一歩を踏み出した。

休み時間

花陽の教室


「「こ、小泉さんっ!!」」



花陽「…はい?」

女生徒A「さ、サインくださいっ!」

花陽「サイン…?なんの?」

女生徒B「決まってるじゃない!C☆cuteとしての…!」

「「キャー!」」

花陽「えっ…、私のサイン…!?それってアイドルとしてのってこと!?」

女生徒A「そうだよー!」

花陽「わ、私のサインが欲しいって…えぇぇぇっ!!?」

女生徒B「私たちだけじゃないんだよ!えっと…ほら、こんなに!」

女生徒A「小泉さんとあまり親しくない子からも頼まれちゃって。ね、お願い!」

花陽「え、え、そのぉ…!」


真姫「今、プライベートなんで」


女生徒A「あ、西木野さん…」

真姫「プライベートだから、サインだめ」

花陽「キノちゃ…じゃない、真姫ちゃん…」

真姫「…なによ」

花陽「人と話すときはちゃんとこっち向いて話そ?」

真姫「わ、分かってるわよっ!」

真姫「あ、あのね!わ、わわ…私たちは、その…アイ、ドルトハイエドモ…」

女生徒B「え?なんて?」

真姫「…///」

花陽「ひ、人見知りだから。まぁ、真姫ちゃんが言いたいこともわかったけど…」

花陽「私のサインで良ければ書けるだけ書いてみる!私も…ちょっと憧れてた節あるし」

女生徒A「いいのっ!?」

花陽「うんっ」

女生徒A・B「「やったー!」」


カキカキ…


花陽(…サイン、かぁ)

花陽(なんだか、信じられないや…)

昼休み

アイドル応援部


海未「…サイン、ですか」


ことり「ふふ、私何枚か書いちゃった!子供の頃に考えていたサイン、試したかったし!」

海未「…恥ずかしながら私も、幾度か応えてしまいました」

希「ええんやない?羨ましいわー。うちはまだお声がかからんのよ?」

花陽「ま、まぁ…希さんはつい最近入ったばかりだし」

ことり「キノちゃんは?」

花陽「き、キノちゃんは…」

真姫「…」ブスッ

花陽「アイドルでも身分は学生だから、って頑なに拒否…」

花陽「…したいみたいなんですけど、言い寄られると断れないとかで…何枚か」

花陽「しかも結構可愛らしい…」

真姫「も、もうっ!そこまで言わなくていいじゃない!」

海未「誰かと話すのがイヤでしたら背中に『サインお断り!』と書かれた張り紙などしてはどうでしょうか…」

ことり「さ、流石にそれは…」

真姫「ナイスアイデアだわ!」

ことり「いいの!?」

希「誰かと話すのをいつまでも怖がってたら人見知りは治らんよ~?」

真姫「…う、うぅ…」


真姫☆「しかしこれは、いい兆候ね」


海未「…うわぁっ!!?ま、真姫っ…!いたんですか!?」

真姫☆「いたわよずっと」

ことり「えっ…見えなかったんだけど」

真姫☆「ふふふ…うちの世界の技術担当に作らせたのよ。ジャジャーン!透明マント」ガバッ

真姫「わ…、すごい。首が浮いているみたい…」

真姫☆「なんでも金曜ナントカショーでのナントカポッターを見てて思いついたらしいわ」

花陽「思いつきで作れる品じゃないよね…」

真姫☆「これさえあれば学校から出て行く手間も省けるし、昼休みに集まって会議もできるしね」

真姫☆「これからは私がC☆cuteのプロデュースをしていくんだから」

希「…それはいいとして真姫ちゃん。いい兆候って言うんは?」

海未「サインをねだられるのがいい兆候なのですか?」

真姫☆「えぇ、なにせ…UTXがC☆cuteに傾いてきている証拠だから」

真姫☆「まぁ、まだ実情の人気はまだわからないけどね。A-RISEはファンからのふれあいを一切禁じられているから」

真姫☆「代わりにC☆cuteにその…うっぷんっていうのかしら、A-RISEに関われない分、積極的にふれあいを求めてきているんでしょう」

ことり「でもそれ、A-RISEの代替ってことは…結局はA-RISEありきってことじゃないの?」

真姫☆「ふふ…甘いわね。今やC☆cuteはA-RISEの代替になりうる、って考えるの」

真姫☆「トップスターへのサインの代わりに道端のミュージシャンで済ませて満足する人はいないでしょう?」

真姫☆「もうC☆cuteは、A-RISEと並ぶ存在にまで上り詰めた、って言っても過言ではないわ」

ことり「そ、そっか…!」

希「ま、並んだかどうかはまだわからないけど、それでも人気なのは間違いないよね」

真姫「そうよね…!このまま平穏無事にこの人気を上手いこと維持していければ…!」

真姫☆「何言ってるのよ!」

真姫「えっ…」

真姫☆「そんな考えでいいわけ無いでしょ!」

ことり「いい兆候なのに、いいわけないの?」

海未「精神分裂病ですか?」

真姫☆「違うわ!そーゆーこと言ってるんじゃなくて…」

真姫☆「C☆cuteの人気が絶頂期の今こそ、A-RISEを…アイドル専攻をひっくり返すチャンスだってことよ!」

真姫☆「今の人気をただ保っているだけじゃ、UTX学院に革命は起こせないわ。動くなら今、ってこと」

真姫「か、革命…。物騒な単語ね」

花陽「真姫ちゃんが言っているのは、アイドル専攻が原因で悲しみの涙を流す人を無くしたい、ってことなんだよね?」

真姫☆「…えぇ、今のアイドル専攻の体制をぶっ壊す。そうしなくちゃ、これから先、また誰かがアイドルを嫌いになっていっちゃうかも知れないからね」

希「…えりちのやり方を変える、ってことかな」

海未「もしくはアイドル専攻自体を無くすか、ってところでしょうか」

海未「…これは少し乱暴すぎる気はしますが」

花陽「アイドル専攻がなくなったらA-RISEはどうなっちゃうんだろう…」

ことり「また別の方法で決めることになるとは思うけど…真姫ちゃんが言ってるやり方はそう…じゃないんだよね?」

真姫☆「…うん。絵里のやり方を変える必要も、アイドル専攻を無くす必要もない」

真姫☆「みんなの、アイドルに対する意識を変えればそれでいい」

真姫「意識を変える…」

ことり「今まではみんな、A-RISEが一番で、A-RISEっていう栄光だけを求めてアイドルを続けてきていた」

海未「…頂点、それ以外は意味のないものだと、アイドル専攻で教え込まれてきていたようですからね」

花陽「でもそうじゃない。一人でも、二人からだって始められる!涙なんかなくたって、トップスターになれるんだ、って気付ければ!」

希「泣いたっていい、また笑顔になれるアイドルもある、ってみんなが分かってくれれば…!」

真姫☆「…今のアイドル専攻は大きく変わるわ。頂点への希望。それを私たちが示すことができれば」

真姫☆「人間の希望の強さは凄まじいものだから、絵里一人ではどうすることもできないはずよ」

希「…つまるところいよいよ、A-RISEとの決着、ってことかな?」

真姫「け、決着って…!戦うってことなの!?」

海未「そうしなければスクールアイドルの頂点の座を獲ることはできませんからね」

花陽「ついに、ってところまでやってきちゃった…!でも、どうやって優劣を決めるつもり?」

真姫☆「計画は考えてある。彼女たちに…いえ、絵里にとって、どうしても予断の許さない状態へ持っていく」

真姫☆「絵里がこだわっているA-RISE一強を妨げるような状況を作るの」

ことり「どんな風に?」

真姫☆「それはっ…!」

放課後

3年の教室前 廊下


カツカツ…


絵里「…」ツメカリカリ




「ほらこれ見てー!」「わぁ…!C☆cuteのグッズじゃん!羨ましいー!」

「前のC☆cuteのライブ映像なんだけどー…!」「可愛かったよねー!」




絵里「…ッ!!」


絵里(面白くない)

絵里(私のUTXから、私のA-RISE以外の話題が挙がることが)

絵里(手塩にかけて育て上げたアイドル専攻の環境に、彼女たちが徐々に侵食してきていることが)

絵里(腹立たしいぃっ…!!)



凛「…うわっ」


絵里「…あんっ?」ギロッ

凛「ひぃっ!!」

絵里「…なんだ、凛。どうしたの?珍しいわね、3年の教室前まで」

凛「や、やー…練習前に明日のスケジュールが聞きたくて…」

凛「最近別のアイドルの話題が多くなってきたから、ちょっと悔しくてって思って、早めに…にゃぁ…」

絵里「…そう。あなたも同じ気持ちなのね」

凛「は、はい!…でもライブは正直かっこよかったかななんて…」

絵里「何か言ったかしら…?」

凛「な、何でもないです!」

絵里「…そう。ならいいけど」

絵里「そうね。年末も近いことだし、今日は次のA-RISEのライブのー…」

凛「うんうん…!」

絵里「…ふふ、どうしたのよそんなに目を血走らせて。もしかしてにこや穂乃果が一度下位落ちしかけたから不安なの?」

凛「えっ…」

絵里「もしかしたら次は自分かも…なんて思ってるんじゃない?」

凛「そ、そんなことない…です。興奮してたのは単に練習が楽しみだっただけで…」

絵里「そう。ならいいけどね。…安心して、凛。あなたは特別よ」

凛「へ?特別…?」

絵里「あなたほどの逸材はそうそういないわ。私にとってもあなたを手放すのは夢の成就から遠ざかることだし」

凛「ほ、ほわぁぁっ…!そんな風に思われてたんですかー!?わ、わぁい、嬉しいにゃぁっ!!」

絵里「…ふふ、えぇ。これは…私にとっても本心よ」

凛「よぉーしっ!テンション上がるにゃー!」

凛「今日は早めに行って歌のレッスンだにゃー!」ピョンピョコピョンピョコ


絵里「あっ…、明日のスケジュールまだ言ってないのに…」

絵里「まぁいいわ。練習後に伝えてあげましょう」


絵里(凛が手放せない、っていうのは彼女にも伝えたとおり、私の本心)

絵里(彼女の才能は目を見張るものがある。…それ以外にも、持っているものも、あるのだけど)

絵里(でも今の状況を鑑みて、凛だけじゃない…穂乃果も、にこも、もう手放すわけには行かなくなってきた)

絵里(彼女たちの替えととなる才能なんて、今のアイドル専攻には育っていない)

絵里(私の夢を…野望を達成するためには、もはや誰ひとり欠けてはいけない)

絵里(そして目障りなC☆cute…希に、真姫…!)

絵里(彼女たちをどうにかしないことには…!!)



「…ねぇ、さっきさぁ…」

「C☆cuteが……に入っていくところを見かけて」



絵里「っ!!」

絵里(…なっ、なんですって…!?)


絵里「ど、どこって…!今どこでC☆cuteを見かけたって言ったの!?」

女生徒「うわっ!!?え、絵里ちゃん…?」

絵里「早く教えて!!」

女生徒「え、だから…」




理事長室



ガチャッ


真姫☆「…失礼します」

花陽「ししし、失礼しますっ…!」

ことり「おじゃましまーす」

海未「こ、ことりっ…!もっと恭しく…」

希「大所帯でごめんなさい」

真姫「…」←透明マント着用


バタン


理事長「あ、あらぁ…?あなたたちは…」



真姫☆「ご相談したいことが、ありまして」

理事長「えと…スクールアイドルの子、だったかしらぁ…?どうしてここに…?」


真姫☆(UTX学院理事長。ことりの母親ではなく、おっとり目の美人なお姉さん…って言うには年齢を重ねてはいるけど)

真姫☆(UTXが様々な学科を内包し、様々な部活で溢れかえっているのは、ひとえに彼女の…おっとりさが原因なのかも)

真姫☆(聞くところによると、優柔不断な欲張りさんなようで、とにかくいいと思ったものは取り入れていくスタイルだそう)

真姫☆(こんな人がトップでいいのかと思うけど…決めるところは決めてくれる人、だとも聞く)

真姫☆(…生徒会長就任式で一回見たきりだけど、そのときは堂々とした喋り口だったし)

真姫☆(正直ここに来て見かけて、その喋り方にちょっと驚いたくらい)


理事長「こ、こんな大勢で来てくれるなんて…、お茶とお菓子、用意したほうがいいかしら…?」

希「お、お構いなく」

花陽「わ、私たち、お頼みしたいことがあって此度参った次第でごじゃりましてぇぇぇっ…!!」

海未「テンパりすぎです!もっと落ち着いて…」

ことり「うわ、高そうな食器が置いてる…。すごーい」

海未「あなたは落ち着きすぎですっ!」

真姫「…(バレないか心配だわ)」ドキドキ


理事長「頼みたいこと…?私に?なにかしら…」

真姫☆「それが…これの件について、なんです」スッ…

理事長「ん?これ…」

理事長「うちの…UTX学院の、パンフレット…?」

真姫☆「はい、去年の」

真姫☆「UTX学院のパンフレットでは色々な学科を紹介されていますよね。数が多いので一部を抜粋してますが」

真姫☆「芸能科では歌手専攻やモデル専攻の人たちを写真とともに紹介しています」

真姫☆「その横…一際大きく紹介されている、この学校唯一、だった、スクールアイドル…A-RISE」

理事長「えぇ…。あぁ、これね。去年の…あ、東條さん。えっと…東條さんと同じ部活だった…」

希「絢瀬絵里…ですね」

理事長「そうそう。絢瀬さんに勧められて、大々的にパンフレットで紹介することにしたの。グッズも、近くで公式で販売しているし…ってこともあって」

真姫☆「はい、そうですね。そこで私たちが相談したいこと、なんですけど…」

真姫☆「来年度のパンフレット、もう既に作っていますか?」

理事長「え?えぇ…そうねぇ…。入学希望者へのものは…」

真姫☆「なら新入生へのパンフレットは?」

理事長「それはまだ…」

真姫☆「でしたら!」

真姫☆「その新入生向けパンフレットに!」

真姫☆「私たち…C☆cuteも紹介していただけませんか!」

理事長「はぁ…、…え?」

理事長「あなたたちを紹介…?」

真姫☆「はい!どうでしょう!」

理事長「え、えと…」

理事長「難しいお願いね…。うぅん…、そうね…」

花陽「お願いしますっ!その…A-RISEだけがスクールアイドルじゃないんだ、って新入生にもわかってもらいたいんです!」

理事長「でも…、あなたたちがやってるのはその…部活動、のようなものでしょう?」

理事長「一応、学校公認であるA-RISEと並べるのは…ちょっと…」

ことり「並べなくて結構です!A-RISEの横に小さく、非公式でこういうアイドルもいます!って写真を載せてくれるだけでいいんで!」

海未「部活動の写真でしたら他のページに数箇所ありますし、スクールアイドルとしてA-RISEと比較するように並べる程度なら許されると思います!」

理事長「う、うん…?確かにそう言われれば…そうかもしれないわね…」

希「それに、今のうちらの人気、知ってます~?もう学内でもそこそこの噂になってるんですよ~?」

希「…この期に乗じて、非公式でも推していけば、学校の人気上昇にも繋がる、かもかも~…?」

理事長「人気、上昇…!それなら…!」

真姫「…!(思いよ届けっ…!!)」ビビビビ

理事長「そうねっ…!一考してみる余地はあるかも…!」

真姫☆「っ…!!」



真姫☆(来たっ…!)

真姫☆(ここでA-RISE以外にもスクールアイドルがいると、新入生に知れ渡ってしまえば)

真姫☆(来年以降のアイドル専攻の体制は、大きく崩れることになる)

真姫☆(甘い考えは持ってほしくはないけど、『アイドル専攻が向いてないなら、アイドルを自分たちで始めればいい』という精神的な逃げ道を確保できる)

真姫☆(それに来年までに知名度をもっともっと上げてしまえば、非公式のUTXのスクールアイドル、ってだけでC☆cuteってわかってもらえるかも知れない)

真姫☆(そうなれば私たちに憧れて、アイドル専攻にすら入らずに、初めから自分たちだけの力で、って子も中にはいるかも知れない)

真姫☆(どちらにしろ、絵里の野望を妨げるには十分すぎるわ)

真姫☆(そして更に、このことが公になったら…!!)



「「お願いしますっ!!」」


理事長「わかったわ。今すぐ決定、ってわけには行かないけれど、職員と話し合って…」



バンッ!!


「待ってくださいっ!!」



海未「な、何事…!?」

真姫「ひっ…!」

理事長「あれ今変なところから声が」

ことり「き、気のせい気のせい」

花陽「あなたは…!」

希「…えりち」



絵里「…そんな提案、認められないわ」

真姫☆「絵里っ…!どうして…」

真姫☆(このことが公になれば、必ず絵里が抗議しに来る…と思っていたんだけど)

真姫☆(まさか公になる前に来るなんて…早すぎでしょ)


絵里「理事長っ!そのお考えは即刻取りやめてくださいっ!」

理事長「え…でも…」

絵里「学校公認のアイドルはA-RISEただ一つのみです!パンフレットで紹介してしまえばそれは認めたということになるでしょう!」

理事長「あ、あぁ…確かに…」

希「その言い分は違うんやない?」

絵里「あぁんっ…!?」

希「A-RISEにはUTXの大型モニター…オーロラビジョンを独占できる権利があるはずや」

希「それに学校に認められているからこそ、一般のアイドル雑誌からの取材、取り上げも許される」

希「それに比べればパンフレットの一部で紹介されるくらい、些細なことやないかなぁ?」

理事長「そ、そうよね…。わかるわかる…」

絵里「くっ…!しかしUTX所属スクールアイドルの人気が二分すれば、提携しているグッズの売上にも響きます!」

絵里「非公式であるがゆえに彼女たちのグッズは作られてもUTXに利益を与えません!その件に関してはいかがお考えですか!」

理事長「うぅん…それも言えてるような…」

花陽「待ってください!私たちが人気になったとしても、A-RISEの公式グッズには独自の優位性があります!!」

花陽「公式ゆえに他の同人グッズでは得られないクオリティの高さや、本人たちのデザイン…」

花陽「UTXやA-RISE自身が関わっていなければ存在し得ないレア度の高いものが揃っています!」

花陽「それゆえグッズの売上はスクールアイドル界隈で他の追随を許しません…!」

花陽「なので!グッズの売上それ自体と私たちの知名度は関係ないものだと思われます!!」

真姫☆「さすが花陽…こういう時の頼もしさがハンパないわ…」

海未「それに、A-RISEもスクールアイドルとしての活動が第一です。グッズの売上は二の次でしょう」

海未「本分に関わることでもないことで他の生徒の活動を抑制する権利は、いくらあなたといえども持ち合わせてはいないはずでは?」

絵里「ぐ、うっ…!…キッ!」

絵里「理事長!!彼女らの言葉に耳を傾けてはいけません!何せこの真姫はっ…!」

真姫「えっ…」←透明マント着用

絵里「9月から彼女の姉を替え玉に代返を行っていたのですからっ!!」

真姫「っ!!」ビクゥッ!!

理事長「え…そうなの?」

希「どこでそんなこと…」

絵里「ハッ…!私を舐めないことね…!!一年とは言えども私の息がかかった子はたくさんいる…!」

絵里「その程度の情報くらい、簡単に…」

真姫☆「…ハァ?姉ぇ…?何言ってるのかしら」

絵里「何…?」

真姫☆「私に、お姉ちゃんなんかいないんですけどぉ」

絵里「なぁっ…!」

真姫☆「調べてもらったらわかるわ。私の家族に姉は存在しない」

理事長「そ、そうね…。西木野さん…?は確か、一人っ子だったと…」

絵里「えっ…!?」

真姫「…そんな異議…、ミトメラレナイワァ?」

絵里「ッ…!!」イラッ

希「おぉ…煽りよる煽りよる」

希(えりちも真姫ちゃん…西木野さんの家庭にまでは詳しくない)

希(同じ姿をした真姫ちゃんが二人いるという自体は理解していたみたいやけど…)

希(まさか、別次元から同一人物が来た、とまでは把握できんかったんやろうね…)

希(そして一年生から得た情報を鵜呑みにして…今の事態に)


絵里「そんなっ…!何かの間違いよっ!!私は、彼女が二人いるって事実を知っている!!」

真姫☆「何言ってるのよ」

真姫☆「…同じ人物が二人いるなんて、ありえないでしょう?」

絵里「ぐっ…!!ま、真姫ィィッ…!!」

真姫☆「変な夢でも見たんじゃないの?それか…」


グワンッ…


真姫☆「…っ!!?う、うあぁっ…!!」ヨロッ…

ガクンッ…

絵里「えっ…ど、どうしたの…?」

希「あっ…真姫ちゃん!もしかして、またっ…!!」ガシィッ

ことり「例の目眩…?」

真姫☆「へ、平気…。急に来るから、怖いわよね…」

絵里「…こ、こんな状態の彼女にアイドルを任せていいんですかっ!ライブ中に倒れでもしたら…」

理事長「落ち着いて、絢瀬さん」

絵里「UTXの評判は地に落ちっ!!安全性を考慮した上でも…」

理事長「落ち着きなさいっ!!」

絵里「っ!!」

理事長「…あなたの話もわかるけど、ここは会議室じゃないのよ」

理事長「私の意見を言わせてもらえば、私自身は彼女たちの提案を受け入れることに異議はありません」

絵里「そ、そんなっ…」

理事長「…だから、あなたがどうしても受け入れられないというのであれば…当事者で解決して」

理事長「大声を聞きすぎて…耳がキーンってなっちゃうから、ね?お願い」

絵里「う、うぅっ…!」タラッ…


真姫☆(絵里の額から一筋の汗が流れ落ちる)

真姫☆(先程までのなりふり構わない抗議を見ればわかるように、彼女はかなり焦っている)

真姫☆(自らの手中から、夢がこぼれ落ちていきそうなことに)

真姫☆(…その瞬間が、絶好のチャンス)

真姫☆(こちらからの提案を、すかさず挟み込むっ…!!)


真姫☆「…絵里。あなたの言いたいことも分かるわ。あなたの焦りも、手に取るように分かる」

絵里「真姫…?」

真姫☆「でもあなたと私たちの意見はどこまで行っても平行線、決して交わることはないわ」

真姫☆「ならもういっそ…決着をつけましょう」

絵里「…なにを、するつもり」



真姫☆「ライブよ」

理事長室前


希「うるさいからって追い出されちゃったね」

花陽「でも、理事長先生はパンフレットのこと、前向きに検討してくれてるみたいだし…」

海未「しかし…」


絵里「…詳しく聞かせてもらおうかしら、ライブのこと」

真姫☆「えぇ」


ことり「…大変なことにならないといいけど」

真姫「…」コクリ


真姫☆「この学校の終業式は12月24日、その日は午前までに下校となるわ」

真姫☆「それからすぐ、となると下校時の生徒の邪魔になるから…」

真姫☆「終業式の日の午後3時から、UTX前、オーロラビジョンが見える場所でC☆cuteとA-RISEの合同ライブを行いたいの」

絵里「…」

真姫☆「流石に外部も、となるとパニックになると思うから、UTX生限定で」

真姫☆「ライブ終了時点でライブを見に来てくれたUTX生に投票をお願いする」

真姫☆「票数が多い方が、勝者となる」

真姫☆「私たちが勝った場合、来年度の新入生パンフレットに私たちのことを紹介してもらう。あなたたちもそれに対して口出しはしない」

真姫☆「けれどあなたたちが勝った場合は…素直に引き下がるわ」

絵里「…正気?」

絵里「まだ活動を初めて数ヶ月のあなたたちが…ハッ。A-RISEを相手取るなんて…」

絵里「無謀にも程がある、とは思わないのかしら」

絵里「それにね。A-RISEは既に年末にイベントで…」

真姫☆「話は最後まで聞いて」

絵里「…なんですって?」

真姫☆「A-RISEと言ったけど、私たちが相手したいのは、今のA-RISEじゃ、ない」

真姫☆「未来の、A-RISEよ」

絵里「それは、つまり…」

絵里「…穂乃果、にこ、凛の3人で、…ということ?」

真姫☆「えぇ。今のバックダンサーズ。もうすでに来期のA-RISEであることは決まっているんでしょう?」

真姫☆「私たちと決着をつけるなら、彼女たちが相応しいわ」

真姫☆「A-RISEという誉れある看板を背負って1年間練習してきた彼女たちと、無名からここまで上り詰めた私たち」

真姫☆「どちらが優っているか…あなたも興味あるんじゃないの?」

絵里「…」

真姫☆「今からの猶予は約2週間…スケジュール的にはキツいところもあるかもしれないけど」

真姫☆「UTX生へのクリスマスプレゼント、って考えると趣があるでしょう?」

真姫☆「さぁ、どうかしら?一緒にライブ…してくれるわよね?」

絵里「…」

真姫☆「…」ゴクリッ




絵里「…断らせてもらうわ」

真姫☆「なっ…!」

希「どうして?」

絵里「…フッ」

絵里「そんなライブなんかやらなくても…私のA-RISEが優っていることなんて明らかだもの…」

絵里「今更不必要だわ!あなたたちに構っているヒマもないしね」

花陽「で、でもっ…!そうなる来年度のパンフレットにC☆cuteが載ることは順調に決まっちゃうんじゃ…」

海未「理事長は前向きに検討してくださっていましたし…」

絵里「…ふふ、別にいいわよ?理事長がなんと言おうと…」

絵里「来年までに、あなたたちが…居なくなれば問題ないんだもの…!!」


「っ!!」


ことり「そ、それ、どういう意味ですかっ…!!」

絵里「…真姫、あなたにも言ったはずよ?どんな手を使ってでも私は私のA-RISEを一番にしなくちゃけないんだって」

絵里「そのためにはどんな汚い手だって使う。あなたたちがこれ以上、スクールアイドルができなくなるようなことだって、簡単に…!」

希「え、えりちっ…!!またそんなことっ…!!」

真姫「…」プルプル…

真姫☆「…させないわよ。そんなこと」

真姫☆「もしそんなことがあったら…私が身を呈してでもあなたを…」

絵里「アハッ…、別にいいわよ?私が仮に瀕死になっても…私に忠実な子はたくさんいるのだから」

絵里「あなた一人じゃ私は止められない…!!フフフフッ…アハハハハッ!!」

ことり「な、なんだか怖い…」

海未「…完全に、目がイってしまってます」

花陽「絵里先輩…」

真姫☆「…」


真姫☆(…確かに彼女の瞳孔は開いて、顔は青ざめているように見える)

真姫☆(けれど、その眼光の奥に…)

真姫☆(隙あらば獲物を噛み砕こうとする、獣の如き鋭さが、垣間見えている)

真姫☆(まさか、絵里は…)


絵里「…それじゃ、困るでしょう?あなたたちも…」

真姫☆「それはまぁ…困るわね」

希「えりちが本気でうちらを潰しにかかれば…容易いことやもしれんからね」

絵里「だから、折衷案を考えてあげる」

真姫☆「…折衷案?」

絵里「ライブよ」

絵里「参加してあげてもいい」

希「え…?でも…」

絵里「その代わり…私たちがあなたたちに勝利したその時…」

絵里「あなたたち、C☆cuteの…」


絵里「解散を約束しなさい」

ことり「っ…!!?」

海未「なぁっ…!!」

希「解散…!!?」

真姫「っ!」ビクッ

花陽「解、散…」


真姫☆「…」タラッ

絵里「ふふふ…、焦っているようね、真姫…」

絵里「攻めていたのは自分だと思っていたら、気づけば喉元に牙を当てられていた」

絵里「気分はどう…?」

真姫☆「…ふ、ふふ…、心臓が縮みそう」

希「か、解散なんて…そんなん認められへんよっ!」

絵里「認められない…?あぁそう、じゃあ…」

絵里「…まずは、部室が荒れ放題、なんてどう?」

海未「っ…!脅迫、ですか…!!」

ことり「ライブでの条件追加を飲まなければ…私たちを潰す…ってこと」

絵里「うん、そういうことよ。だってあなたたちが提示した条件は私たちに利益を与えてくれないもの」

絵里「仮に負けたとしても、また頑張ればいい。いくらでも立ち直れる方法はある」

絵里「それじゃ…王者たるA-RISEを動かさせる条件には程遠いわ」

絵里「自分たちの居場所を賭けるくらいしてもらわないと、釣り合わないのよ」

花陽「そんな…」

絵里「さぁ、どうする?解散が怖くて逃げ出す?それとも私と心中する?」

絵里「フフフフフフ…!」

真姫☆「…」ゴクリッ…

希「ま、真姫ちゃ…」


真姫☆「…」

真姫☆「…いいでしょう。その条件、飲むわ」


「「「「「っ!!」」」」」


絵里「…いいのね?敗北すれば解散、再結成は許されないわよ?」

真姫☆「えぇ。でもこちらが勝った場合、あなたも二度とC☆cuteに手は出さないと約束しなさい」

絵里「…ハラショー。約束しましょう。これ以上ゴネても話が長引くだけだし」

真姫☆「約束を破ればその時こそ、あなたの命はないものと思いなさい」

絵里「わかってるってば。じゃあ…決戦の日、クリスマスイブ。その日まで…ダスヴィダーニャ」スタスタ…


花陽「ま、真姫ちゃぁぁぁん…!!」

海未「あなた、なんてことを…」

真姫☆「…自分でも分かってる。今はとにかく、部室に戻りましょう」

真姫☆「これからのこと、色々と話し合う必要があるわ」

アイドル応援部部室


ことり「と、とんでもない約束しちゃった…!」

真姫「ど、どうするのよぉっ!!?私アイドルになって1ヶ月で引退させられるハメになるの!?」

真姫☆「お、落ち着きなさい。負けたら、の話でしょ」

海未「…しかし、相手はバックダンサーと言えども、約一年間あのアイドル専攻で技術を磨いてきたA-RISEです…」

花陽「しかも相手は凛ちゃんやにこさん…穂乃果さん」

希「…負ける可能性は十分あるよね」

海未「ど、どうして受けてしまったのですか!もう少し交渉しても…!」

真姫☆「…いえ、絵里は譲らないでしょう」

ことり「どうしてそんなことが言えるの?」

真姫☆「彼女の目的は、最初から私たちをライブで負かせて、潰すこと、だからよ」

花陽「えっ…?」

真姫「ど、どういうことよ」

真姫☆「絵里は折衷案、なんて言ってたけど、彼女の本当の狙いは最初から自分の意見を通すことだった」

真姫☆「しかし私たちのパンフレットの件は理事長にも認められてるし、絵里が彼女の意見を通すには状況が不利過ぎた」

真姫☆「だから彼女は、自分の持てる最大限の力を行使する…フリを見せたのよ」

ことり「フリ?」

海未「な、なるほど…!つまり彼女は元から部下に私たちを攻撃させるつもりはなかった、ということですね」

真姫☆「うん。いくら絵里と言えども、私に抵抗されて大怪我を負ったりするのはイヤなはずだし」

真姫☆「私が何もしなくても、もしかすれば下級生にそういうことさせてる証拠が見つかって、退学になる可能性だってありうる」

真姫☆「そんな諸刃の剣を通すのは彼女にとっても危険。けれど私たちだって相当な痛手を負う」

花陽「絵里先輩は私たちに自分の条件を飲まざるを得ない状況に無理やり持っていった…ってことかな」

海未「あの不気味な薄ら笑いは、半分演技…といったところだったのでしょうか…」

希「追い込まれてヤケクソになったと思い込ませて、実は心の奥で自分の戦略を練っていた…」

希「さすが、えりちと言わざるを得ないね…。あんな状況でも冷静に自分の有利な条件を飲ませるなんて」

真姫「絵里…」

ことり「…?よ、よくわかんないや。とりあえず私たち、もし負けちゃったらおしまい、って考えていいんだよね…?」

真姫☆「そうね。次期A-RISEに負ければその時点でゲームオーバー。コンティニューは許されない、ってところね」

真姫「…リスポーンされないFPSなんか、ただの戦場じゃない。死にたくないわよ、私…」

花陽「し、死ぬ…!うぅっ…」

真姫☆「…ごめんなさい、花陽。あなたにとってはこの勝負、余りにもリスクが高すぎるわよね」

海未「そうですね…。花陽以外の我々にとっては最悪、解散しても夢を叶えることはできますが…」

希「花陽ちゃんは、笑顔のスクールアイドルをみんなに見せつけるってことが夢、なんやものね」

ことり「ここでのゲームオーバーが、まさしく花陽ちゃんの夢のゲームオーバー…なんだね…」

花陽「…っ!」

真姫☆「花陽…」

花陽「…大丈夫。大丈夫だよ」

花陽「私の夢を叶えるには、どちらにしろここで負けるわけにはいかないんだから」

花陽「勝って、凛ちゃんに悔しい顔させてあげるんだもんっ…!絶対に、勝つんだもんっ…!!」

真姫☆「っ…。花陽…!」

真姫☆「…ふふっ、そうね。勝ちましょう」

真姫☆「これが正真正銘、夢への最後の戦い…になるかもしれないんだからね」

真姫「さ、最後、って…演技でもないこと言わないでよ…」

真姫☆「そういうつもりじゃないわ。最後は最後でも、最後の戦い」

真姫☆「この戦いに勝利し、UTXに…アイドル専攻に、A-RISEだけが絶対じゃないって分からせれば」

真姫☆「もう私たちが争う必要はない。今まで泣いていた人たちだって、笑顔にできるんだから」

真姫☆「そういう意味での、最後の戦いなのよ」

花陽「…その戦いが終われば、真姫ちゃんは…」

花陽「帰っちゃうの?元の世界に…」

ことり「…」

海未「…」

希「…」

真姫「…」


真姫☆「…」

真姫☆「…かも、しれないわね」


花陽「…そう、なっちゃうんだ」

真姫☆「元々、私は花陽の夢を叶えてあげるためにこの世界に残ったんだし」

真姫☆「UTXで、花陽の夢見た世界を現実のものにできれば、私はこれ以上この世界に居座る必要はないわよ」

真姫☆「…いずれ、別れが来るのは必然なんだから」

花陽「…」

真姫☆「それにほら!この立派なパンフレットにあなたたちのことが紹介されるのよ!?」ババンッ

真姫☆「それが私が…私たちが頑張った成果だって考えたら、誇らしいことじゃない」

花陽「…ふふ、そう…だね。真姫ちゃんがいてくれたおかげで、ここまで来られたんだし」

ことり「真姫ちゃんがいなければアイドルなんかしてなかったかも!」

海未「あなたが去ったとしても、パンフレットに私たちが紹介された、という功績は永遠に残りますからね」

希「そのためには、勝たないといけない…!真姫ちゃんのために、なによりうちら自身のために、頑張らんとね!!」

真姫「そうですね…。私もまだ、アイドル活動に満足してないもの!負けられないわよ!」

真姫☆「えぇ、その調子その調子。頑張りましょう」

真姫☆「…それにしても凝ってるわよね、UTXのパンフ…。さすが人気校なだけ…ん?」

海未「えぇ、ここに入学する前も一際目を引く学校案内だったと記憶して…」

真姫☆「ねぇちょっとまって。こ、このUTXって…~~年に設立されたの?」

ことり「え?うん、今から大体~~年前くらい?だよね」

花陽「はい。私たちが生まれる前…だよね?」

希「それがどうしたん?」

真姫☆「…私の世界のUTXと違う」

真姫☆「私の世界じゃUTX学院はつい最近…私たちが中学か小学生の頃にできたものなのに…そんな前に」

真姫「へぇ…そうなのね」

真姫☆「…そっか」

真姫☆(だから音ノ木坂はもう、廃校になっていたのね)

真姫☆(十数年も前からUTXに生徒を横取りされていたせいで、学校の維持ができなくなって)

真姫☆(こんなところの違いが、結果的に今の歪みを生んでるんだと思うと…)

真姫☆「バタフライ・エフェクトって怖いわね…」

ことり「エビフライ?」

真姫☆「…なんでもない。さぁ、次はこれからのことについての話し合い!ちゃっちゃとやるわよ!」

多目的ホール


凛「遅いねー…絵里先輩」

にこ「何してるのかしら…よっ、と…」グググ…

凛「イタタタタ!いたいにゃー!」

にこ「えぇ…。この程度で痛がる?身体固くなったんじゃない?凛」

凛「そんなことないよ!にこ先輩の押し方が悪いんだにゃ!ほら」グイッ

にこ「あらホント。柔らかいじゃない。おかしいわねー…」

凛「凛は一人でも柔軟できるから、穂乃果先輩の方に行ってきたら?」

にこ「はいはい、わかったわよ」


穂乃果「…っしょ」グググ…

にこ「柔軟、手伝おうか?」

穂乃果「あ、にこちゃん。お願いしようかな」

にこ「はい、よいしょっ…」グググ…

穂乃果「よ、ととと…」

にこ「…そういえばアンタ、絵里にケンカ売っといてよく平気で来られるわね」

にこ「私なら怖くて不登校になるわよ」

穂乃果「…別に、ケンカ売ったとは思ってないよ」

穂乃果「私は自分の考えを正直に言っただけ。私の思う強さを求めたい、って思ったから」

穂乃果「その結果、彼女の反感を買ったとしても…私に後悔はないよ」

にこ「…すごいわね、アンタ」

穂乃果「にこちゃんも、絵里先輩のこと、呼び捨てにしていいの?先輩だよ」

にこ「…いいのよ。私、アイツのこと気に入らないし。実際は同じ年齢だし、見てないところで呼び捨てくらいいいじゃない」

穂乃果「…同じ、年齢…なの?」

にこ「あっ…そっか。まだ言ってなかったっけ。私、浪人してるのよ。ここ入るために」

穂乃果「…そう、だったんだ。噂で少しは聞いたことあったけど本当に…。言っていいの?そんなこと…」

にこ「同じA-RISEのメンバーになるんだから、これくらい知り合っておかないとファンに笑われるわよ」

にこ「メンバーの年齢も知らないアイドルグループがあるらしい、ってね」

穂乃果「そう…だね。思えば私たち、お互いのこと何も知らないのかも…」

穂乃果「…そういうところも、直していった方が、いいのかな」

にこ「ん?何か言った?」

穂乃果「うぅん、なんでも…」


ガチャッ


絵里「…」スタスタ…


凛「あ、やっと来たにゃー!もー先輩!まだ明日のスケジュ…ぎょっ」


にこ「…ぎょっ?なんて声…うげっ!」

穂乃果「にこちゃんまでどんな反応…うわ」

穂乃果(顔すごい怖い)


絵里「…話があるの。聞いて」

にこ「は、はぁ…」

穂乃果「ライブ…」

にこ「ライブ…っ!?」

凛「ライブーっ!?や、やったあああっ!!」

にこ「え、えぇっ…!そうね!つ、ついに私たちがライブ、できるのよねっ…!?」

凛「いえーいっ!ハイタッチだにゃ!」

にこ「う、うんっ…!」パシンッ


絵里「…はしゃがない。ただのライブじゃ、ないわ」

絵里「明確に勝ち負けが決まるライブ。そして、絶対に負けの許されないライブよ」


にこ「…っ!そ、そう、なのよね…。でも、勝ったら…」

穂乃果「C☆cuteは解散…」

凛「えへへーっ!知ったことじゃないにゃ!凛たちにとってはどっちでもいいことだよ!」

穂乃果「そう、だね…。その条件を飲んだ、彼女たちに責任があるよ」

にこ「…解散、ね。何もそこまで…」

絵里「にこ。生半可な気持ちじゃ、足元を掬われるわよ?」

にこ「うっ…」

絵里「C☆cuteはすでに最強のA-RISEにとって脅威になりつつある」

絵里「ここで彼女らを葬っておくことが、将来のA-RISEのためなのよ」

絵里「…理解できたかしら?」

にこ「…わかり、ました」

絵里「そして、そのためには」

絵里「穂乃果。にこ。凛」

絵里「あなたたち一人たりとも、欠けることは許されない」

絵里「もう、後には引けない状況まで来ている」

絵里「穂乃果。あなたが私のやり方に納得できないということは理解したわ」

絵里「にこ。あなたを犠牲にしようとしたこと、恨まれても仕方がないことよ」

絵里「凛。あなたがへこたれないことを逆手に、ハードな練習を強要してきたかもしれない」

絵里「…でも、それでも。ここまで来たからには、私に従って…」

絵里「いいえ、私に、ついてきて欲しい。命令じゃなく、お願いよ」

絵里「私の悲願を達成するために、ここは…絶対に負けることの許されない戦い」

絵里「だからこそ、こんな私に…あなたたちの意思で、私についてきて欲しいの」

絵里「お願い…っ!」



「「「…」」」

「…」

「分かりました」


絵里「…っ」

穂乃果「元々、そのつもりでしたし」

絵里「穂乃果…」

にこ「意外ね、アンタが最初に返事するなんて」

穂乃果「…今の先輩は、純粋に勝利を願っているように見えたので」

穂乃果「いつもその調子だと、私も信頼できるんですけどね」

絵里「…ふふ、そう…。精進するわ」

凛「凛も!先輩の悔しさ、十二分に凛も理解できるにゃ!」

凛「…小泉さんなんかに、絶対に負けない。コテンパンにして泣かせてやるんだから」

絵里「頼もしいわね…凛」

にこ「…仕方ないから、私も。いえ、生半可じゃダメ、なのよね」

にこ「勝負になるなら、絶対に勝つ。あっちが負けたら解散だろうと、貪欲に獲りに行くわ」

絵里「えぇ…、そうよ。勝ちましょう」

絵里「ありがとう3人とも。私に応えてくれて」

絵里「決戦は2週間後、これからはひたすらライブのための練習を続けていきましょう」

絵里「今までよりも更に過酷なものになるかもしれないわ。下位組のように、遅くまで居残りもあるでしょう」

絵里「…それでも、付いてきてくれるのね」

穂乃果「えぇ」

凛「もちろん!」

にこ「そのつもり」

絵里「わかった。覚悟は出来てるのね」

絵里「…だったら、走り続けましょう。…私の、夢のためにも」



凛「にゃー…、ライブかぁ…。楽しみだなぁ…!」

にこ「ついに、って感じよね。うぅ…、今から緊張してきたぁ…!」

凛「やっと歌えるって思うと胸が高鳴って仕方ないよっ!わーいっ!!」ブンブンッ!!

にこ「おわぁっ!!?ちょっと!?腕が強く降りすぎぃぃ!!」

穂乃果「…」

凛「にゃ?どうしたの穂乃果先輩。今から練習なのにぼーっとしちゃって」

穂乃果「…うぅん、なんでも」

穂乃果「行こっか」

凛「うん!楽しみですなぁ…!」トットコトー

にこ「…あいつだけは毎日毎日楽しそうね」

穂乃果「…そうだね」


穂乃果(…夢)

穂乃果(夢、か…)

音楽室


希「そんじゃ、ひとまず解散のことは置いておいて、クリスマスライブのことを考えよう」

海未「置いておいて、と言われても…やはり心のどこかでは重荷になりますよ…」

海未「…負ければ終了、だなんて」

ことり「もう海未ちゃん!今からそんなに弱気でどうするの~!?」

ことり「穂乃果ちゃんだって少しずつ変わってきてる…。それにもう海未ちゃんは昔の海未ちゃんじゃないって証明しちゃうんだよ!」

ことり「そしたら穂乃果ちゃん、海未ちゃんに教えを乞うてきたりして…!」

海未「あの穂乃果が…?ぷふっ、ありえませんよ」

ことり「そのくらい、穂乃果ちゃんがビックリするくらいカッコイイライブができるようになって、そして勝てばいいんだよ」

ことり「それが私たちの願い…だからね」

海未「…ことり」

海未「そう、ですね…。不安になっていても夢は叶いませんものね」

希「うんうん。勝って当然、みたいな感じで気楽に行こう!」

真姫☆「どうせ今からどうしようと私たちが劇的に変われるわけでもないしね」

花陽「え…」

真姫☆「私たちはいつも通り。いつも通り、心の底から笑顔で」

真姫☆「そうやって勝ってこその、私たち、でしょう?」

花陽「あ…!うんっ!そうだよね!!」

希「よし、心の整理もついたところで…歌う曲についてやけど」

海未「そうですね…。やはりここは最も自信のある…キノも踊ることですし、前回のライブで使った…」

真姫「新曲で行きましょう」

海未「えぇ、新曲で…」

海未「…ええぇぇぇっ!!!?」

ことり「し、新曲っ!?」

真姫「…ダメなの?」

花陽「だ、ダメじゃない、けど…2週間後、なんだよ!?」

希「流石に練習できる期間が短すぎるんじゃ…。今から1から、ってことでしょ?」

真姫☆「…もしかしてアナタ、何か…」

真姫「…えぇ」

真姫☆「っ…!」


真姫☆(…やはり、腐ってもこの世界の私)

真姫☆(突拍子のない提案に思えても、何か考えを巡らせている、ってことなのね)

真姫☆(さすがだわ…!)


真姫「…だって」



真姫「もし負けちゃったら私一回も作曲できずに終わっちゃうじゃない!!」

「………」

「…は?」


真姫「私だって…さ、作曲したいわよ」

真姫「み、みんなと…仲間?になったんだし…。でも、もし負けちゃったら、解散しちゃうし…」

真姫「だから…せめて最低でも一回は、私の作った歌を残しておきたいって思って…」

海未「そ、それが理由…ですかぁ…?」

真姫「ナニヨ!!…いい、でしょぉ…?」

ことり「ち、ちょっとワガママ、じゃないかなぁ…?」

希「勝てばそれからいくらでも作れるんやし、ここは前の曲で行こ?」

真姫「あう…、そ、そう…よね。ごめんなさい…私…」


花陽「…うぅん」

花陽「私、いいと思う。キノちゃんの新曲」


真姫☆「え…」

ことり「花陽ちゃん…?」

花陽「C☆cuteに入って、何かを残したいって気持ち、よくわかるもん」

花陽「真姫ちゃんは作曲、ことりちゃんは衣装、海未さんは作詞。ダンスはみんなで考えて、だったけど…」

花陽「ずっと近くで見てて、私も自分だけのなにかが出来たら、って思ってたんだ」

花陽「…でも私は、やっぱりこうしてアイドルとして踊れることが一番の喜びだから、それだけでも十分なのかな、って思ってた」

花陽「けど、キノちゃんが作曲をしたい、って思ってるなら、やったほうがいい」

花陽「やりたいと思ったらやってみる。…でしょ?」

真姫☆「は、花陽…」

真姫「花陽ぉぉ…!!うぅぅぅぅ…!ありがとぉぉ…!」ギュゥッ

花陽「や、やぁっ…、恥ずかしいよキノちゃん…」

海未「し、しかし…作詞は頑張ればなんとかなるでしょうが、衣装はどうするんです?」

希「練習しながら二週間で新しい衣装を仕立てるんはスケジュールが辛いし…」

ことり「着まわしで頑張る?」

花陽「うーん…やっぱりこういう時は…」

真姫☆「よし、誰かに頼りましょう。花陽親衛隊とか」

海未「い、いいんですか…?他力本願ではありませんか?」

真姫☆「いいのよ。だって私たちはスクールアイドルなんだもの」

真姫☆「私たちだけの力で成り立ってるんじゃない。応援してくれるみんなが支えてくれているから成り立っているの」

真姫☆「もちろん、彼女たちの都合が悪ければ新曲は取り下げることになるけど…でも」

真姫☆「クリスマスイブのプレゼント、どうせなら魔法のように新しい曲を引き連れて、驚かせてあげましょうよ」

ことり「サプライズっ!そうだよね、つい2週間前に新曲出したのに、クリスマスにも新曲だったら…」

希「それもダンスも衣装も新調…まるで魔法で作り出したかのよう、やね」

真姫「魔法…」

海未「…みんなの驚く顔、ですか…。それを聞いてしまうと、自分の中の謎のメイドが騒ぎ出してしまいそうです」

真姫☆「でしょう?こんな楽しいこと、しでかしちゃったら最高にクールじゃない!」

花陽「うんっ!そ、そのためにはみんなの協力は不可欠、だよね…!流石に今日は無理かなぁ…」

真姫☆「話が付きそうな子だけでも連絡してみたら?」

花陽「あ、そっか!そうしてみるね!」ピピピ…

花陽「あ、もしもし…私…」


真姫☆「…花陽」

真姫☆(本当なら私も、キノの意見には反対するつもりだった)

真姫☆(負ければ後のない状況で、新しい曲は無謀すぎる、って)

真姫☆(…でも、そうよね)

真姫☆(花陽の言うとおり。やりたいと思ったことを、やる)

真姫☆(今までもずっとそうやってきたじゃない)

真姫☆(無茶だろうとなんだろうと、突っ走ってきた。道を逸れそうな時は仲間が支えてくれた)

真姫☆(だからこれからも、それでいいのよ…ね)

真姫☆(私の世界の穂乃果から教わった、頂点へ導く方法)

真姫☆(まさか私より先に、花陽に言われちゃう、なんて…)

真姫☆「…ふふっ」



海未「協力していただける人員の確保は花陽に任せるとして…キノ。どういう曲を作る気、なのですか?」

真姫「作る気…っていうか、実はもう…作ってあるのよ」

ことり「え…本当?」

真姫「えぇ…『私』に作曲の方法を習いながら、家で一人でね」

希「そうなんや…。で、どういう曲にしたの?」

真姫「どういう…と言われると難しいんだけど…」

真姫「…そうね。その時の気持ちを素直に曲にした…かしら」

真姫☆「その時の、気持ち…?」

真姫「こんな私を、C☆cuteに誘ってくれたあなたたちへの感謝…」

真姫「そして、嫌いだった学校を、大好きにしてくれた喜びを、そのまま詰め込んだ」

真姫「だから…うん、言うなれば…『学校に来たくなる』曲ね」

ことり「あははは、それいいね。サボり学生には最高だ!」

海未「しかしなにげに、その命題は今のこの状況にピッタリ、当てはまっているかもしれませんね」

希「アイドル専攻のせいで学校に…UTX学院に行きたくない、って子は、今でもたくさん生まれてるからね」

希「その曲を聞いてUTXが好きになってくれるなら…それはまさに夢のような曲やよ。うちにとって」

真姫「そ、そう…?そんなに言われると照れちゃうわね…」

真姫「自分ではいいものができた、って思ってるけど…拙かったらごめんなさい」スッ

真姫☆「そしたら私がちょこっと直してあげるわよ。もちろん、直さないでいい出来を期待しているけどね」

海未「ではまずはじめに…ここは希さんが行くべきでしょうね」

希「あ、うち?」

ことり「キノちゃんがそういう気持ちになれたのは希ちゃんのおかげが大半だもん!一番最初に聞くべきだよ!」

真姫「うん…私もそうしてほしい。お願いします、希先輩」

希「わかった…。よいしょ」スポッ

希「…」~♪

真姫「…」ドキドキ

希「…ふふっ」

真姫「っ…!その笑みはどっちの…!?」

ことり「ぷふっ…!キノちゃんの顔、おもしろーい」

真姫☆「凝視しすぎよ…ふふ」

希「…」

真姫「ど、どうだった…?」

海未「判定は…?」

希「…うん」

希「すごいいいやん!うち、この曲好きや!」

真姫「っ!!ほ、本当に…!?」

希「うんうんっ!なんだか聞いててワクワクする…!」

真姫☆「どれどれ?」スポッ

ことり「わ、私も…!」スポッ

海未「あぁっ…、ことり…!私にも聞かせて…」



花陽「聞いて!親衛隊の子達で協力してくれるって子が今の連絡だけでなんと…!」

花陽「…って、アレ?」

ことり「はわぁぁぁぁ…!こ、これ…!真姫ちゃんの曲より好きかも…!」

海未「なんでしょう…。子供の頃の無邪気さを思い出させてくれるような…」

真姫☆「むっ…!ち、ちょーっと甘めの作りだけどね!ほんの少し直せばもっと良くなるわ!」

真姫「そ、そう?…あ、花陽!これ、私の曲!聞いて聞いて!」

花陽「わ、私の話も聞いて欲しいなぁ…ま、いいけどね」



真姫☆(案の定キノの曲は花陽にも大好評)

真姫☆(この曲を活かさないのはもったいない、ということで、めでたくクリスマスライブ、キノの作った新曲を採用することに)

真姫☆(私はちょっとジェラシー抱いちゃうけど…うん、これでいいのよね)

真姫☆(花陽の呼びかけで集まってくれる子も、すでに2桁を突破してるようで)

真姫☆(新曲を使ったライブには、かろうじて間に合いそうな勢い)

真姫☆(今日は基礎的なダンス練習と、振り付けの案をみんなで出し合ったところで、下校時刻となった)




キーンコーンカーンコーン…


真姫「ふぅっ…はぁ…。つ、疲れるわ…」

海未「まだ基礎連で疲れているのですか…?それじゃダメ、ですよ」

ことり「この程度は汗ひとつかかないくらいでなきゃ!」

真姫「は、はぁい…」

花陽「ま、まぁ…キノちゃんはまだ始めたばっかりだし…」

真姫☆「じゃあ、今日はここまでね。海未、歌詞…お願いね」

海未「あ、そのことなんですが…」

希「ん?どしたん?」

海未「…今回の曲の歌詞は」

海未「花陽と一緒に考えたいのですが、どうでしょうか」

花陽「へぇー…」

花陽「…」

花陽「えぇぇぇっ!!?」

多目的ホール


キュッ… タタタタンッ…!!

ダッ ガシィッ!!


ピタッ…


穂乃果「ハァッ…!ハァッ…!!」

にこ「ぜぇぇっ…!はぁぁぁっ…!!」

凛「ふぅっ…」



絵里「…まだよ。全然揃ってない」

絵里「この曲はもっと機械のように完全に揃えてこそ映えるもの」

絵里「あと表情も。無表情と笑顔を使い分けなさい」

絵里「もう一回…は、休憩後ね」


キーンコーンカーンコーン…


にこ「い、いつもならこのチャイムで帰ってるのに…ハァッ…まだ、帰れない…!」

穂乃果「…頑張ろう…。もっと、完璧に揃う、まで…!」

凛「ごくごく…ぷはーっ。凛、歌が歌いたいにゃー」

にこ「あ、アンタ…はぁっ…つ、疲れないのぉ…?」

穂乃果「あんなに激しいダンスして…い、息一つ切れてないなんてっ…はぁっ…すごいね…」

凛「うん。このくらいは平気。なんだかここに入ってから疲れづらい体質になったの!」

凛「最初の頃はゲロ吐くくらい辛かったけど、今はどれだけ練習してもケロッとしてるにゃー!」

にこ「は、ハハ…まさにバケモノね…。私、今がそのゲロ吐きそ…うえっ…」

穂乃果「…トイレ、一緒に行こう…」


スタスタ…


凛「大変だねー、ふたりとも。…ごくごく」

凛「ぷふっ…、あ、絵里先輩!明日はなにするんですか?」

絵里「明日?そう…ね。はっきりは決まってないんだけど…」

絵里「凛がとても歌いたそうだし、明日は歌の練習を重点的にしましょうか」

凛「ホントっ!?わーい!やったー!」

絵里「ふふふ…そんなに歌いたいの?凛はダンスの方が好きそうに見えるのに」

凛「ん?まぁ、ダンスも好きですけど、歌は…」

凛「歌、は…」

絵里「…どうしたの?凛」

凛「…どうして凛、歌が好きなんだったっけ」

絵里「え?」

凛「うーん、よくわかんないや…。でも、歌うと気分が明るくなって楽しいから!」

凛「うん、だから好きなんです!ダンスは授業でも散々やってるから飽きてきちゃうしー」

絵里「そう…。まぁ、好きな理由なんてどうでもいいんだけど」

絵里「…さ、そろそろ二人も戻ってくる頃だし、ダンス練習再開の準備、お願いね」

凛「わかったにゃ!」

2時間後…



タタタンッ… ピタッ



絵里「…」

絵里「…もうこれ以上は無理そうね」


バターンッ!!


穂乃果「はぁーっ…!!はぁーっ…!!」

にこ「ごほっ!!が、はぁっ…!はぁっ…はぁっ…!」

凛「ふひぃ…疲れたぁ…」


絵里「これ以上の練習でパフォーマンスの向上は望めないわね」

絵里「今日は帰っていいわ。明日、穂乃果以外は朝一でね」

にこ「な、なんで穂乃果…あぁ、生徒会…」

穂乃果「…ごめん、にこちゃん」

凛「じゃあ歌にしましょうよ!3人じゃなくても揃えやすいし!」

絵里「そうね。明日は朝から歌のレッスン。…って言っても、音程を外さず発声できるかの特訓だけど」

にこ「う…苦手なやつじゃない…」

穂乃果「避けてても上手くはならないよ。…きっとあっちも、頑張ってることだし」

にこ「…そうよね」

凛「あっち?小泉さんのほう?」

凛「どうかなぁ?どうせヌルい練習で満足して帰ってるんだよ」

凛「…ホント、イラつくなぁ。絶対に解散させてやるんだもん」

絵里「凛のやる気は十分のようね。…じゃ、解散。着替えて速やかに休息をとること」

絵里「…そこの…あなたたちも。学校が閉まるまでには下校するのよ」

絵里「…あと、吐瀉物は片付けるように」




UTX学院 正門前


にこ「うわ…久しぶりの真っ暗だわ」

凛「星空が綺麗~!」

穂乃果「…私、帰るね」

凛「あ、一緒に帰らないんですかー?友達もう帰っちゃったから寂しいにゃー」

穂乃果「家族が、心配してるかもしれないから」

にこ「…そっか。そうね、私も…」

凛「ふーん、そう…。じゃあ凛は寂しく一人で帰るにゃー」

にこ「夜道には気をつけなさいよ」

穂乃果「じゃ、バイバイ。また明日、放課後にね」

凛「バイバーイ」

穂むら


ガララッ…


穂乃果「…ただいま」


雪穂「あ、おかえりー。遅かったね、今日」

穂乃果「うん。クリスマスイブにバックダンサー3人でのライブが決まってね。その練習で」

雪穂「へー、すごいじゃん!それってA-RISEとしての初ライブ?」

穂乃果「そう…なるかな」

雪穂「ねぇねぇ!私も見に行っていいの?それ」

穂乃果「…残念だけど、UTX生限定なんだって」

雪穂「そっかぁ…。おねえちゃんの晴れ舞台なのになー」

雪穂「あ、お風呂、温め直しとくね。ご飯、キッチンに用意してあるから食べておいて」

穂乃果「…うん。ありがと、雪穂」



穂乃果「…ふぅ。お風呂、上がったよ」

雪穂「私もう入ったー」

穂乃果「そっか。じゃあ閉めとくね」

雪穂「いいよ。お姉ちゃんはどっしり構えてて。私が閉めとくから」

穂乃果「…雪穂ばっかりに任せちゃ、悪いよ」

雪穂「いいから。あ、身体凝ってるでしょ?そこ、寝転がって」

雪穂「いつものマッサージ~♪」

穂乃果「…お風呂は?」

雪穂「寝て準備しててってこと!」タタタッ…

穂乃果「ふぅ…、全く」


雪穂「よっ…」グググ…

雪穂「…はぁっ。凝ってるねー、すごい筋肉」

穂乃果「いちち…雪穂が、毎晩こうしてくれるおかげで…うぎゅっ…なんとか保ててるんだよ…」

穂乃果「そうじゃなきゃとっくに、倒れてた、かも…」

雪穂「へー。じゃあお姉ちゃんにとって私が、心の支え?」

穂乃果「…そう、だね…あたたたっ!!痛いよっ!」

雪穂「へへ、小っ恥ずかしいこと言ってるから」

穂乃果「もー…」

雪穂「…でも、今こうしてお姉ちゃんの役に立てるのは、嬉しいよ」

雪穂「去年の今頃なんか…荒れに荒れてたじゃん。お姉ちゃん」

穂乃果「…」

雪穂「トップ争いに必死でさ。海未さんやことりさんとも絶交しちゃって…」

雪穂「…毎晩寝言でうなされてたじゃん。『海未ちゃん、ことりちゃん、ごめんね』ってさ」

穂乃果「…もう、いいじゃん」

穂乃果「おかげで、こうしてA-RISEになれたんだし」

雪穂「でもさ、ホントにそれで…」

雪穂「…うぅん、なんでもない。お姉ちゃん、頑張ったんだもんね」

穂乃果「…」

雪穂「で、念願のA-RISEはどう?楽しい?」

穂乃果「…アイドルは楽しむものじゃないよ。楽しませるもの」

雪穂「でもやりたかったことなんでしょ?やりたいことやってれば楽しいと思うけどなぁ」

穂乃果「それは…多分ライブをやってからでないと」

雪穂「そっか。まだ実際にライブやったわけじゃないもんね」

雪穂「うぅ…見に行きたいなぁ…。こっそり忍び込めばバレないんじゃ…」

穂乃果「…ダメだよ?」

雪穂「はいはい。分かっております生徒会長どの」

穂乃果「ふふ…来年、雪穂がUTX生になったら…いくらでも見せてあげるから」

雪穂「…あ」

穂乃果「ん?どうしたの?」

雪穂「…そのこと、なんだけどさ」


雪穂「私…、UTX、行かない」


穂乃果「…」

穂乃果「…どうして?」

雪穂「え、えっと…仲のいい友達がどうしてもUTXに行きたくない、って言ってて」

雪穂「私もその子と同じ学校に行きたいから、だから…都内の別の高校を選んでるんだ」

穂乃果「…そう、なんだ」

雪穂「…ごめん。お姉ちゃん」

穂乃果「別に、いいよ。雪穂とはこうして、夜会えれば」

穂乃果「…けど、雪穂自体はどう思ってるの?」

雪穂「え?」

穂乃果「…いや、いいや。こんなの、どうでもいい…」

雪穂「…っ」

雪穂「わ、私もっ…!」

雪穂「…私も、今のUTXは、行きたくない…かな」

穂乃果「…」

雪穂「今のA-RISEも好きだし、お姉ちゃんだって、バックダンサーだって大好きだけど…」

雪穂「…でも、それでUTXに行きたいか、って言われると…行きたくない」

雪穂「なんか、怖いから…。今のUTXって」

穂乃果「…怖い、か」

雪穂「あ、でもさ、UTXって今…あ、やっぱいいや…」

穂乃果「言いなさい」

雪穂「…今、新しいスクールアイドル、いるんでしょ?」

雪穂「しーきゅーと…?だっけ」

雪穂「ライブ見たよ。…すごかった」

穂乃果「A-RISEと、どっちがすごい?」

雪穂「それは…A-RISEだよ。絶対」

穂乃果「…そう」

雪穂「…けど」

雪穂「なんか、楽しかった」

穂乃果「…楽しい?」

雪穂「A-RISEを見るとさ、すげー、とか、かっけー、とか…感嘆符ばっかり出てくるんだけど」

雪穂「C☆cuteはそれより、楽しそう、だったり、やってみたい、だったり…そう思わせてくれたの」

雪穂「私ね、…C☆cuteを見るためなら、…うぅん、C☆cuteになるためなら、UTX入ってもいいかな、って、ちょっとだけ思った」

雪穂「夢に溢れてた、から…」

穂乃果「…夢」

穂乃果「夢、って…なに?」

雪穂「え?」

穂乃果「ねぇ、雪穂の夢は?」

雪穂「ど、どうしたの突然…」

穂乃果「おしえて」

雪穂「…え、えっと…そうだなぁ…」

雪穂「お、お嫁さん!…なんちて」

穂乃果「ふふっ…あははははっ!雪穂っぽい!いいんじゃないのー?お嫁さん」

雪穂「お、おぉ…!お姉ちゃん笑った!」

穂乃果「えっ…、あっ…」

雪穂「…なんだ、まだ笑えるんじゃん」

穂乃果「…バカ。ごめん、もう寝るね」

雪穂「ん。おやすみ。明日も…頑張ってね」



穂乃果の部屋


ガチャッ

穂乃果「…ふぅ」

穂乃果「お嫁さん、か…。ふふっ…、ふふふふっ…」

穂乃果「…夢」

穂乃果「妹の夢すら、知らなかった」

穂乃果「…ましてや、他人の夢なんて」


穂乃果(絵里先輩が度々語る、夢)

穂乃果(何度も耳にした言葉。夢のために、夢を実現するために)

穂乃果(彼女はそのために、あらゆる手段を使ってA-RISEを強くしてきた)

穂乃果(でも私は、その夢の内容を一度も聞いたことはない)

穂乃果(彼女の夢って…何なんだろう)

穂乃果(彼女はA-RISEを強くして、どうしたいんだろう)

穂乃果(…強くなって、行き着く先は、どこ?)

穂乃果(私が欲しかった頂点って…)


穂乃果「…やめよう」

穂乃果「考えても…無駄なことだよ」

穂乃果「今はただ…目指すんだ。迷いなく、突き進む」

穂乃果「トップアイドルに…なる」

穂乃果「…だから今日はもう…おやすみ

小泉家


花陽「えと、そうだなぁ…ここはー…」

海未『あまり気負わないように、思ったままの言葉がいいと真姫も言っていましたよ』

花陽「そっか…うーんと、じゃあ…」



~回想~


海未「今回の曲の歌詞は、花陽と一緒に考えたいのですが、どうでしょうか」


花陽「えぇぇぇっ!!?」

ことり「花陽ちゃんと?」

真姫☆「ど、どうしてよ…?どういう風の吹き回しなの?」

海未「先ほど、花陽が言っていたじゃないですか」

海未「私も自分だけのなにかが出来たら、と」

花陽「い、言ってたけど…」

海未「けれど、アイドルとして活動できることで十分だと、自分では納得していたのでしょう?」

海未「しかし、私にはそれは、自分を無理やり納得させているように思えてならなくて」

希「海未ちゃんは花陽ちゃんがまだそういったこと、したがってるって思うん?」

海未「まだ…というより、一度でもしたい、って感情があったのならやるべきです」

海未「あなたがそう言ったんでしょう?花陽」

花陽「うっ…!い、言ったけど…!」

真姫「んふふ、いいじゃない。花陽、初挑戦同士、一つの曲を作り上げましょうよ」

ことり「うん、キノちゃんと花陽ちゃんの曲…今までとは毛色の違った、面白い曲になるかも!」

真姫☆「まぁ…たまにはそういうのも悪くないかもね」

希「うち賛成~!」

花陽「ひえぇぇぇぇぇっ!!?」


~回想おわり~



花陽「…はぁ。作詞かぁ…」

海未『作曲や衣装作りはさておき、作詞などその気になれば誰でも出来ることです』

海未『そもそも脚本専攻だからといって私に作詞を頼む方がおかしいと思います。…中学の頃には似たようなことはしてましたが』

花陽「え?なんて…?」

海未『なんでもありません!ですから初挑戦であろうとも難しいことなんて何一つありません!』

海未『ちょっとかっこよくて可愛らしい詩的な文章を綴ってしまえば、ほら、出来上がりです』

花陽「そんな簡単に出来たら苦労しないよぉぉ…」

海未『簡単だと思うのですが…』

花陽(…やっぱり海未さん、作詞の才能があるんだなぁ…)

花陽(…でも)


花陽「少し、懐かしいなぁ…」

海未『…懐かしい?』

花陽「あのね、実は…初挑戦、って決めつけられてたけど」

花陽「私、昔自分の曲を作ったことがあったの」

海未『そう、なんですか…?』

花陽「うん。作詞だけじゃなくて、作曲も」

花陽「って言っても、本当に簡単な、誰でも作れそうな曲なんだけど」

海未『どんな歌、だったんですか?聞かせて頂けませんか?』

花陽「えっ…、うーん…もう忘れちゃったよ」

花陽「頭の中で考えたメロディに、感謝の思いをそのまま乗せた歌詞だったから」

花陽「歌ったのも、多分…一度きりだったと思う」

海未『そうですか。残念ですね…』

海未『…感謝の思い、とは?誰かに向けて歌ったものなんですか?』

花陽「うん。泣いてた私に、手を差し伸べてくれた人に向けて歌った曲」

花陽「それが私の…生まれて初めての誰かに見せたライブ、だったのかも…」

海未『…ライブ。ただ歌っただけではなく…?』

花陽「えっ…、あぁ、ほとんど歌だけだったよ。ただ身体をゆらゆらさせて、ちっさな砂場のお立ち台でのライブ」

花陽「それだけでもとても緊張して、歌いきった後はちょっぴり泣いちゃったけど」

花陽「…あの時のたった一人だけの拍手が、今も胸に残り続けて…歌うための原動力になっているのかも」

海未『…いい話ですね。その話を歌詞にしてみては?』

花陽「えぇっ!?だ、ダメだよ…キノちゃんはこの歌を学校に行きたくなる曲として書いたんだから…」

花陽「私の勝手な思い出を乗せたら別の曲になっちゃうよ。それはダメでしょ?」

海未『ふふ、そうですね。わかっていました』

海未『メロディと言葉がチグハグでは良い物語は生まれませんからね』

花陽「おぉ…!海未さん、さすが…!脚本家って感じです!」

海未『…つい最近授業で似たような言葉を聞いただけですよ。受け売りです』

海未『しかしまぁ…感謝という意味では共通する点もあることですし、その時の気持ちを参考にするのも悪い方法ではないと思います』

花陽「はい、分かりました。それも一緒に考えてみるね」

海未『よろしい。…っと、そろそろ夜も更けてきた頃ですね。明日も朝から大変でしょうし…』

花陽「うん、おやすみなさい」

海未『えぇ、また明日』

翌日 早朝

多目的ホール



凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」



ガチャッ

にこ「よしっ、一番のり…って、凛…」

凛「あ!おはよう!」

にこ「あ、アンタ…いつからいたのよ?」

凛「んー?昨日のおさらいとー、発声練習してたから~…」

凛「1時間前くらい?」

にこ「うぇっ…!学校が開いて直後くらいじゃないの、それ…?」

凛「開く前から来てたよ?」

にこ「えぇ…どんだけ練習が楽しみなのよ…。昨日もアンタだって倒れるくらい疲れてたのに…」

にこ「休息は十分…なんでしょうね?」

凛「全然ピンピンしてるよ!一睡すれば全快!ほらほらっ!」ピョンコピョンコッ

にこ「し、信じらんない…。私だって今日は歌の練習だから早起きできたようなものなのに…」

にこ「…ホントに、平気なの?」

凛「もー、しつこいなぁにこ先輩!先輩とは身体の作りが違うの~!」

凛「さぁさぁ、絵里先輩が来る前に発声練習、やっちゃおうよ!」

にこ「わ、わかった…」



音楽室


真姫☆「…」

ことり「…」

海未「…」

希「…」

真姫「…」


真姫☆「…花陽が、来ない…」


ことり「ま、まさかっ…!またなにか事件に…!?」

真姫☆「流石にそれは、ないと思うけど…」

希「…電話、してみよか」

海未「まさか…」



花陽「お、遅れましたぁぁっ!!」ガタンッ!!


真姫「は、花陽…、何してたのよ」

海未「もしかして、花陽…あなた、作詞のことを考えて…」

花陽「…はい。ずっと眠れなくて…」

海未「や、やっぱりですか…」

ことり「よくあることなの?」

海未「えぇ…作詞を始めた頃は考え出すと夜も眠れなくて」

海未「あの頃は私はアイドルをしていませんでしたから、まだ良かったのですが…」

希「花陽ちゃん、疲れてる上に作詞で眠れないとなると…」

真姫「体力が回復しないわよ?大丈夫なの?」

花陽「だ、大丈夫ぅぅ…!」

真姫☆「…寝坊してくる人が言えたことじゃないわね」

花陽「うぅ…ごめん真姫ちゃん…」

真姫☆「仕方ない。今日は練習メニューを急遽変更ね」

ことり「変更?」

真姫☆「振り付けの考案とダンスの基礎をやるつもりだったけど…」

真姫☆「花陽の心配事をなくすために、作詞を全員で手伝いましょう」

花陽「て、手伝う…って、こ、これは私が任されたことだし…」

真姫☆「別に、直接歌詞を考える、とかじゃなくて」

真姫☆「アイデアの手助けになりそうなワードをみんなで考えましょう、ってこと」

海未「歌の世界観を皆で語り合えば、自ずとそれに見合った歌詞が浮かんでくるものです」

花陽「は、はぁ…」

希「世界観…。西木野さんはこの歌を学校に来たくなる、って思いで書いてたんよね?」

真姫「うーん…、私のそのままの気持ちをあえて言葉にすればそう、ってわけだから、正確にはそうじゃないのだけど…」

真姫「でも大体はそんな感じね…です」

ことり「キノちゃんまだ希ちゃんには敬語が抜けないねーえへへ」

希「うちも西木野さんのままやからねー…人のこと言えないわ」

真姫☆「…というわけだから、みんなで学校…つまりUTXのことについて語りましょう」

海未「UTX…ですか。しかし…」

花陽「前も同じようなことしたような…。取材の時だったっけ」

ことり「あの時も、UTXは混然一体とした異世界みたいなところ、ってイメージでステージを作ったんだよね」

真姫「異世界…。そうね…、そうとも言えるかもしれないけど…」

真姫「…けど、私にとってUTXは…過ごしやすい場所にはなったけれど、異世界とは思えないわ」

真姫「だって私が過ごしているのは教室と歌手専攻のクラスと、アイドル応援部だけだもの」

希「一日中歌と触れ合ってる西木野さんにとってUTXは異世界ってほどカオスな空間じゃない…もんね」

真姫☆「だけどUTXがカオスな空間だっていうのは間違いないことよ。それは個人にとってはそういう見方もあるけれど…」

真姫「でも!この歌は私の感情で作ったものよ!事実はそうだとしても私にとってはそうじゃないわ!」

海未「…ふむ、なるほど。つまり…」

海未「前の曲の場合は、客観的なUTXを、外部に紹介する、…そういうコンセプトであったのに対して」

海未「今回は…そう、主観的。個人がそれぞれ抱く、UTXの魅力…それを前面に出していく方針…でしょうか」

花陽「主観的な…UTX…」

真姫「思わず学校に行きたくなるような魅力…。なるほどね!」

希「それは西木野さんにとってのうちら、みたいな感じ?」

ことり「そうなる…かも?」

花陽「そ、それだったら私にとっても身近なものですし、いけそう…!よし、C☆cuteを題材に…」

真姫☆「待って!」

花陽「え?」

真姫☆「…あなたねぇ、それはキノと、そしてあなたにとっての魅力でしょ?」

花陽「え…そうだけど…それがいけないの?」

真姫☆「確かにそれは主観での魅力かもしれないけど、それが他人にとっての魅力とは限らないでしょ」

花陽「え?え?ど、どういうこと…?」

海未「…真姫が言いたいのはこういうことです」

海未「主観的な、とは言いましたが、そもそもUTXの魅力が歌を聴いてくれている人にも伝わらなければ意味がない」

海未「誰かの経験をそのまま歌にしても、その魅力が十分に伝わるとは考えにくいでしょう」

海未「はっきりと、誰しもに共通する…UTXでの日々を過ごせば、確かに伝わってくる魅力」

海未「そんな客観的な、主観的魅力を文章にするべきだ、ということです」

花陽「き、客観的で、主観的ぃぃ…!?」

ことり「い、意味がわからないよ…」

希「…誰もが感じ方が違っていても、その中で共通する想いがある」

希「それを抜き出せ…って言いたいのかな?」

真姫☆「えぇ、そういうこと」

花陽「む、無茶だよ…。だって私は私の感じたことしかわからないんだもん…」

花陽「誰かの感じ方と比較する、なんて…」

真姫「初心者に対して、注文がキツすぎるんじゃない?もっと気楽に…」

真姫☆「ダメよ!」 海未「ダメです!」

真姫「ひっ…!ゴメンナサイ」

希「流れるような謝罪やね」

海未「作詞に妥協は許されません!キノの感じた思いを全ての人に、限りなく平等に伝えられるような…そんな歌詞を考えるべきです!」

真姫☆「ベストを尽くさなければA-RISEに打ち勝つなんて到底無理…!舐めてかかったら私たちの命はないのよ!」

花陽「そ、そうなんだよね…うぅん…思った以上に大変だなぁ…」

ことり「作詞って難しいんだねー…。私がやらなくてよかった」

真姫☆(…あなたも別世界ではやってたんだけど)

真姫☆「だから、そのノルマを達成するためにこれからみんなで…」


ガタンッ!!


親衛隊A「は、花陽っ!!」


真姫「あ、あなたは…」

花陽「こんな朝早くにどうしたの?あ、そっか!昨日手伝ってくれるって言ってたからそれの…」

親衛隊A「そ、そのつもりだったんだけど…!それがねっ…!!」

花陽「…ん?」

廊下


花陽「こ、これはっ…!」


『決戦!A-RISEvsC☆cute!勝つのはどちらのスクールアイドルか!』

『クリスマスイブに火花散る!運命の女神が微笑むのは果たして…!?』


ことり「校内新聞…」

希「…が、掲示してあるね」

海未「って、昨日の今日ですよ…?まだ誰にも言ってないはずなのに…」

親衛隊A「ってことはこれ、ガセネタじゃない、ってことだよね…?」

親衛隊F「い、いったい誰がこんな…」

親衛隊C「…謎ですわ」

親衛隊E「そ、そうですね…」

真姫「ていうかあなたたち…朝からこんな集まって…」

親衛隊B「昨日小泉さんに衣装作りを手伝って欲しい、って言われたから、とりあえず自分だけでも行って話を聞こう…って思ってたら」

親衛隊C「みんな、考えることは同じだったようですわね…」

親衛隊E「え、えへへ…」

真姫☆「花陽の人徳には毎回驚かされるわね。…まぁ、それはいいとしてこれは…」


写真部部長「…おのれ…」ヌッ…


真姫☆「ひゃわぁっ!!?」ガバッ←透明マント装備

写真部部長「…あれ?西木野さん…消えた?」

真姫「え、わ、私ならここにいるけど…?」

写真部部長「ホントだー…。じゃあ今のはー…?」

希「そ、それは置いといて…これ、あなたがやったんやないん?」

写真部部長「…当たり前っすわー。うちは、写真部ですしー…」

海未「ということは、これを貼ったのは…」

写真部部長「…UTXのハイエナ…こと、新聞部の連中だねー。ハァ…手の早いことで…」

ことり「そうなんだ…。って、部長さんはどうしてこんなに早く学校に?」

写真部部長「…これを、うちが先にやろうとして…、追い抜かされちったー…」

真姫「あ、アナタも人のこと言えないじゃない…」

親衛隊B「…新聞部って前のステージ製作のときは…」

親衛隊D「来てなかったよねぇ…?」

写真部部長「アイツらはー…、注目集めないようなことはー…やらない主義だかんね…」

写真部部長「あんときはまだあなたたち無名だったしー…手伝うなんてことはしなかったけどー…」

写真部部長「最近知名度が出てきたわけでー…格好のネタとして食らいついてきたってわけだわー…」

海未「にしても耳が早すぎませんか…」

希「あなたもすでに知ってたんよね?うちらがA-RISEとライブ対決するって」

写真部部長「うん、独自のルートで…。アイツらはそれ以上に目ざといってことー…」

花陽「へぇ…」

親衛隊E「あ、あの…その、西木野さん、のお姉さん…今、消えなかった…?」ヒソヒソ…

親衛隊A「ま、まぁ彼女のことだし消えるくらいアリなんじゃないの…?」ヒソヒソ…

親衛隊F「真姫ちゃん、多分もっとヤバい秘密抱えてそうだしね…」ヒソヒソ…



真姫☆「…」


真姫☆(…新聞部、ねぇ)

真姫☆(おそらく既に学校中の掲示板に同じ新聞が掲示されてるはず)

真姫☆(今日、みんなが登校してくる頃には大きな噂になってくるでしょう…)

真姫☆(A-RISEとC☆cuteが対決する…、UTX始まって史上、これほどエキサイティングなイベントもないでしょうから)

真姫☆(…ふむ)


チョンチョン

真姫「ひゃぁっ!?な、なに…?」

真姫☆「…私よ」ヒソヒソ

真姫「え、な、どうしたの…?」

真姫☆「みんなに提案したいことがあるから、あなた私の代わりに口パクして」

真姫「へっ?」

真姫☆「コ○ン君がア○サ博士がいるときに変声機でやるやつよ。お願い」

真姫「え、あ、そのっ…」


「みんな、聞いて」



親衛隊C「ん?西木野さん、どうしましたの?」


真姫「へっ…、あ、え、あっと…」

真姫☆「これは、あなたたちにも話してなかったわよね。A-RISEとの対決」

真姫「…!」パクパク

親衛隊B「う、うん…新しい曲を使ったライブ、としか聞いてなかった…」

親衛隊D「てか、A-RISEとの勝負って…ホンキ!?」

真姫☆「えぇ。…A-RISEと言っても、来年のA-RISE、今のバックダンサーと、だけどね」

写真部部長「へー…だけどそれでも無謀だと思うなー…」

真姫☆「…かもしれない。まぁ、いいのよ。勝負って言っても結局はライブだし」

真姫☆「勝ち負けなんて大した問題じゃない。要はどちらが観客を沸かせられるか、の問題だからね」


花陽「…えっ?」


真姫☆「ライブ自体は、いつもどおりやるだけのことよ。それはいいんだけど…」

真姫☆「こんな新聞を貼り付けられたら、きっとUTXは大騒ぎになるわよね」

親衛隊A「そ、そうだよ!あなたたちとA-RISEだなんて…大事になるよ!?」

親衛隊E「い、いいの西木野さん…!?いまっ…、今すぐ取り下げてもらったほうがいいんじゃ…」

真姫☆「逆よ」

一同「…え?」


真姫☆「もっとこのことを、新聞部には取り上げてもらいましょう」

真姫☆「このUTXを…熱狂の渦に巻き込むほどに!」

アイドル応援部 部室


海未「な、なにを考えているのですっ!新聞部のスクープをさらに大きなものにするだなんて!」

真姫「わ、私が言ったんじゃないわよ!!」

希「…どういうことかわかってるん?真姫ちゃん」

ことり「騒ぎが大きくなればそれだけ、真姫ちゃんの存在も…」

真姫☆「…知られるかもしれない。それはわかっているわ」

真姫☆「でもそれ以上に、こちらに有利な状況を作れるかもしれないのよ」

花陽「有利な状況…?」

真姫☆「これまでのUTXは、限りなく近い存在としてA-RISEがいたにも関わらず、規律によって一定以上の熱狂を封じられていた」

希「生徒とA-RISEは会話をすることはできない…そういう決まりがあるんよね。アイドル専攻が、えりちがそう…決めてたはず」

海未「学生は学生として、アイドルとは別のものという考え方からプライベートでの触れ合いは禁じられているのでしたね」

真姫「え、そうなんだ…。知らなかったわ」

花陽「もちろん生徒としての身分で、なら大丈夫なんだけど、アイドル活動に関わる会話は一切しちゃいけないんだ」

真姫☆「そう。彼女らの内面を知ることができるのは彼女たち自身かアイドル専攻生のほんの一部…そして絵里くらいね」

真姫☆「あとは雑誌の取材とか…触れ合える機会が少ないせいで普段はどうしても盛り上がりに欠けちゃうのよね」

花陽「それをプロ級のパフォーマンスで補う…そうしてA-RISEは人気を不動のものにしてるんだよね」

ことり「そう考えるとA-RISEってすごいね…」

真姫☆「けど今回のライブ対決、大々的に宣伝することでUTX生にライブまでの時間の熱狂を味わってもらうのよ」

真姫☆「新聞部の取材を受け、一般の生徒にも手伝ってもらったり、なんにせよ多くの人と関わる」

真姫☆「それまで抑圧されてきた、『日常での盛り上がり』を、UTX全体に感じてもらえれば」

真姫☆「アイドル専攻の暗闇も吹き飛ばすほどの、明るいスクールアイドル…そういうのが存在するんだって、みんなもわかってくれると思うの」

ことり「明るい…、花陽ちゃんの夢見た笑顔のスクールアイドルを見せつけるっ…!」

希「それを、このタイミングで成し遂げるってこと?」

真姫☆「…そういうこと」

花陽「ま、真姫ちゃんっ…!」

真姫☆「私たちの活動をみんなに奥深くまで知ってもらえれば、もしも私たちが負けて、解散してしまっても」

真姫☆「私たちの意思を継いでくれる人も出てくるかもしれない。そういう意味でも、今は盛り上げることを重視したほうがいいと…」

真姫「待ってよ!」

花陽「…キノ、ちゃん…?」

真姫「本当に、大丈夫なの…?その、新聞部に頼って」

真姫「盛り上げるより前に、彼女らがA-RISEの肩を持ったらどうするのよ…」

海未「…そうですね。あることないことを記事にされて、逆効果になる可能性だって考えられうる」

海未「それは考慮していないのですか?」

真姫☆「…」

花陽「それは…」

ことり「そっか…。悪評を書かれたとして、いざこざが起こってしまえばそれだけで時間が奪われちゃう…」

希「今でもギリギリなうちらにとってそれは致命的やね…。…真姫ちゃん」

真姫☆「…」

真姫☆「…それは」

真姫☆「たぶん、大丈夫…だと思う」

海未「…大丈夫?」

真姫「なんでそう言えるのよ」

真姫☆「…あの新聞記事、全部読んだ?」

ことり「全部…はまだかなぁ…?色々話してて意識がバラけてたし」

希「あぁ…、真姫ちゃんは会話に参加してなかったから新聞全部読めたんか」

海未「それが、なにか…?」

真姫☆「…あの新聞、私たちの会話を盗み聞きしてたかのような正確な内容だったわ」

真姫☆「多分、盗み聞きしていたのでしょうね」

真姫「や、やり口が狡猾じゃない…!やっぱり信用できないわ!」

希「…盗聴は、いかんよね…うん、せやよね…」

真姫「あ、えっと…先輩のことを言ったわけじゃ…」

真姫☆「…でもそれにしては、重要な要素が書かれていなかった」

ことり「なにそれ?」

花陽「あっ…!もしかしてっ…」

真姫☆「…そう。勝利した際の条件。私たちならばパンフレットへの掲載。彼女たちならばC☆cuteの解散」

真姫☆「あの会話を聞いていたならば確実に耳を引くはずのその情報をあの新聞は書いていなかった」

花陽「だから真姫ちゃん、親衛隊の子たちに『勝ち負けなんて大した問題じゃない』って言ってたんだ…!」

海未「しかし、それはなぜ…?そんなマスコミならば真っ先に食いつきそうなネタを…」

真姫☆「…きっと新聞部は、そんな誰かが不利になるような情報は書かない。そういうポリシーを持っているのよ、多分」

真姫☆「私たちが理事長にパンフレットへの掲載を直訴しに行ったなんて知れたら、他の部からの反感を買うかもしれない」

真姫☆「絵里が私たちの解散を提示したのが知れたら、私たちのファンや良識を持った人々の反感を買うかもしれない」

真姫☆「あの記事はそういう誰かが嫌な思いをしそうな内容を排除した上で書かれていた」

真姫☆「…きょうび、珍しいくらい誠実な新聞記事だったわ」

ことり「ってことはっ…!あの新聞を書いた新聞部のこと…!」

真姫☆「私は、信用してもいいと思う」

真姫☆「彼女たちはきっと、このUTXを盛り上げるのに一役買ってくれる…私たちの味方になってくれる」

海未「そうですか…。わかりました。そこまで言われては私も賛同せざるを得ませんね」

真姫「顔も見たことない人たちを信頼…。私には考えられないけれど…」

花陽「…それでいいと思う。私たちだってそうだもん」

花陽「私たちが見たこともないような人に、どこかで応援されているかもしれないんだし」

花陽「私たちも、応援してくれるその人たちを信頼したい。だってスクールアイドルなんだから」

希「色々な人に支えられて大きくなっていく…花陽ちゃんの夢が本当に実現しつつあるんやもんね」

花陽「はいっ!」


真姫☆「…」

真姫☆(…『ファンの熱狂』っていうのは人気を保つ上でとても大事なことのはず)

真姫☆(絵里はそれをあえて切り捨て、実力だけでA-RISEを頂点へと誘おうとしている)

真姫☆(アイドル専攻を絶望で染めて、数少ない強い才能を見つけ出すのならばわかるけど…)

真姫☆(わざわざファンとの触れ合いの一切を禁止にして、UTX全体の熱狂を抑えた理由は何…?)

真姫☆(前は『憧れ』を大きくして人気に繋げようとしてるのかとも思ったけど、熱狂に勝るほどのものじゃないのは絵里だってわかってるはず)

真姫☆(やはり、そうしてこそA-RISEが真の強さにたどり着けると信じてのもの…なのかしら)

海未「ふぅ…今日は話し合いだけで貴重な朝の時間を消費してしまいましたね」

ことり「でも有意義な時間だったと思う!」

花陽「はいっ…!それにほんの少し、作詞にも役立ちそうな感じが…!」

真姫「ホント?よかったじゃない!」

希「意外と順調に来てるんと違う?」


真姫☆「…さてと」バサッ←透明マント装備


海未「真姫?どうしたのですか、いきなり透明になって…」

真姫☆「そろそろ、ってところかしらね…」

真姫☆「あなたたちも、覚悟しといたほうがいいわよ」

希「へ?」


ダダダダッ…!!


ことり「な、何…?地面が揺れて…地震?」

花陽「この音はっ…!?」


ガチャンッ!!


「あのっ!C☆cuteがA-RISEと対戦するってホントですか!!?」「A-RISEと一緒にライブするんですか!?」

「それとも別々の場所で!?」「あ、海未ちゃん!ファンなのサイン頂戴!」「あぁ~!花陽ちゃん近くで見るとすっごいかわいい!」

「A-RISEと交流があるって噂ホントですか!?」「明日の空いてる時間教えてください!!」「希先輩は卒業してもC☆cuteに在籍する予定は!?」



ことり「ひぃぃっ!!?雪崩のように人が流れ込んできたっ!?」

海未「ちょっ…わぷっ!登校してきた人々があの記事を読んでっ…!」

希「覚悟しろ、って…このことかいなぁぁぁっ!!」

真姫「あ、あ、あ、ひ、人…人がぁぁあぁぁぁ…!!あわわわわわ…ガクリ」

花陽「き、キノちゃああぁぁんっ!キノちゃんが意識を失っちゃった!!」


ガヤガヤ…



ノソノソ…


プルルルル… プルルルル… ピッ


真姫☆「はい、もしもし」

親衛隊F『こちら親衛隊。真姫ちゃん、だよね?』

真姫☆「えぇ、姉の方のね。…で、そっちは?」

親衛隊F『うん、それが…って、なんか騒がしくない?』

真姫☆「気にしないで。ちゃんと聞こえてるから」

親衛隊F『あ、あぁ…それならいいんだけど。新聞部との取材の件だけど』

親衛隊F『あちらは是非、だってさ。時間の許す限り、いつでも頼みたいって』

真姫☆「…オッケー。じゃあ今日の昼。早速取材を取り付けて欲しいの」

親衛隊F『了解。ふふっ…楽しいことになってきちゃったね』

真姫☆「えぇ。…最高に楽しいパーティよ。パーティ会場は、UTX学院全ての、ね」

昼休み

アイドル応援部 部室


花陽「…」 ことり「…」 海未「…」 希「…」 真姫「…」

ドキドキ…


真姫☆「じゃ、あとは頼んだわよ」バサッ


海未「ちょっと!?どうしてあなたが透明になるのですか!」

真姫「そうよ!私に貸しなさい!渉外に私がいたって役に立たないんだから!」

真姫☆「胸張って言わないの!あなたが緊張する気持ちもわかるけど」

真姫☆「いつまでも私に頼りっきりじゃダメよ。そろそろ、私がいない時の立ち振る舞いも身につけないと」

真姫「うぅ…」

ことり「うーんと、じゃあ真姫ちゃんは新聞部の取材には参加しない、ってことかな?」

真姫☆「そうね。あなたたちだけで頑張って」

海未「真姫が新聞部の取材を受けようと言い出したのではありませんか…」

希「でも遅かれ早かれ、新聞部の取材には応じてたと思うし…。今までリーダー張ってた真姫ちゃんもいつかは帰っちゃうんだもんね」

希「今のうちからリーダーのいない状況に慣れておくのも手かも」

花陽「それで…、そのリーダーがいない状況での主な受け答えって誰が…?」

真姫「やっぱり希先輩かしら。部長だし」

希「うち?んー、うちでもいいんやけど…」

ことり「いずれ真姫ちゃんがいなくなったときの練習だよ?もうすぐ卒業しちゃう希ちゃんに任せても意味ないよ」

真姫「あぁ、そっか…」

海未「となると…」

ことり「しっかりものの海未ちゃん!…って言いたいところだけど」

ことり「海未ちゃんは意外なところでしっかりしてませんからなぁ。穂乃果ちゃんの話が出ただけでパニクって泡吹いて失神しちゃうかも」

海未「そこまではありえませんよ!?…しかし、私がこういう場面であがり症であるのは否定できません」

海未「そこで…、私は花陽を次のリーダーとして推薦したいと思います」

花陽「ハァァッ!?」

真姫☆「うん、散水…じゃなくて、私も賛成」

花陽「ままま、待ってぇっ!?なんで私!?私だってあがり症だし!初対面の人と堂々と話すなんてみゅりぃぃぃぃっ!!」

真姫「…でもねぇ、それで言えばみんな似たような…」

希「せやねー」

真姫☆「花陽。考えても見なさい。私がいなくなったら一番初めにこのスクールアイドルを作ったのは誰になるのか」

真姫☆「アイドルを、そしてC☆cuteを最も愛しているのは花陽、あなたでしかありえない。だから私は、あなたがリーダーになるのが適任だと思う」

花陽「真姫、ちゃん…」

海未「ふふ、全て言われてしまいましたね。自信を持ってください花陽。あなたには真姫にも持ち得ない唯一無二の力だって持ち合わせているんですから」

花陽「な、なんですかそれ…」

海未「テキトーです」

花陽「ふえぇぇっ!!?」

ことり「まー、なんやかんやいって花陽ちゃんがリーダーになるのが一番だよ!」

真姫「いいじゃない。十分頼もしいわよ、新リーダー」

花陽「そんなぁ…」

希「来年のアイドル応援部の部長もやってみる?」

花陽「それは絶対にダメですぅっ!!」

真姫☆「そんなわけだから、あとはよろしくね」バサッ


花陽「け、結局私が真姫ちゃんの代わり…!?」

希「がんばりよー」

海未「真姫ほどグイグイ行く必要はありません。いざとなればこちらも助け舟を出しますので安心していてください」

花陽「わ、分かりました…」

ことり「で、でも…取材だよ…!?前は私たちがする側だったのに、今度はされる側になるなんて…!」

真姫「き、緊張する…!うまく話せるかしら…!!」

真姫☆「…あなたはC☆cuteについてそんなに詳しくないんだから無理して喋る必要はないわよ。ボロが出るかもしれないし」

真姫「…あ、そうね」


コツッ コツッ


希「…そんな話をしてたら外から足音が…!」

ことり「つ、ついにくるっ…!」


ガチャッ


一同「…!」


ダラララララッ!!

シュバッ!!


花陽「ひぃっ!?」

海未「なっ…!こんなに大勢!?しかも一糸乱れぬ整列…!」

真姫「軍隊を思わせるほどの統率された動きね…」

希「…さっき、外から聞こえてきた足音は一つ思ってたんやけど…」

ことり「やけに響くと思ったら、大勢がまったく同じ歩調で歩いてたからなんだ…!」

真姫☆(何この人たち…)


パチパチ…

「うん、よろしい。記者たるもの礼儀正しく、規律を以て事に当たるべし」



花陽「あなたは…?」


新聞部部長「ふふ、この度はお忙しいところお伺いして申し訳ありません」

新聞部部長「ボクはこの新聞部の部長です。以後お見知りおきを」


海未「とても、礼儀がなっています…。素晴らしい…」

ことり「ホントにいたんだ…!ぼ、ボクっ娘…!ほわぁぁぁぁぁ…///」

希「え、そこなん…?」


新聞部部長「えー…、ごほん。それでは少し楽にさせていただいて…」

新聞部部長「今回のA-RISE対C☆cuteの件と、それからあなたたちC☆cute自体について何点か…」

花陽「あ、あのっ!」

新聞部部長「…はい?」


花陽「その前に、聞いておきたいことが…!」

新聞部部長「聞いておきたいこと…」


真姫☆(おおっ!やるじゃない花陽!)

真姫☆(流れに圧倒されたままなし崩しで取材に持って行かれそうになったのをすかさず食い止めた…!あとは…)



花陽「あの、あのっ…そのぉっ…!!」

新聞部部長「…」

花陽「えっと、ですねっ…、それが、あれで、うーんと、お、お…」

花陽「お胸が、大きいですねっ!!」



シーン…


新聞部部員一同「…」

新聞部部長「…それは」

新聞部部長「ボクに対する嫌味、かな?」

花陽「ち、違うんですっ!そういうつもりじゃなくて!!」

ことり「…どう見ても花陽ちゃんの方が大きいからねー…」

新聞部部長「あなたも一言余計じゃない…?」

真姫☆(…花陽ぉ…)

海未「…んんっ!すみません、彼女は緊張していまして。突拍子もない失言をしてしまいました」

海未「おそらく彼女が聞きたいのは、あなた方がどこまで知っていらっしゃるのか、ということだと思います」

新聞部部長「…どういう意味でしょう?」

希「今日、掲示されてた新聞、あれは理事長室でのうちらの会話を聞いてないと知ることのできないことやけど」

希「そのうちのどこまでを聞いたのか、ってことやよ」

新聞部部長「…あぁ、そういうことですか」

新聞部部長「それはもちろん、全て。新聞部の耳は地獄耳ですから」

真姫「って、ことはっ…!絵里との…!」

新聞部部長「はい。勝てばパンフレットに掲載、負ければ解散…でしたよね」

花陽「知っていたのなら、どうしてそのことを新聞に書かなかったのか…教えてもらえますか?」


真姫☆(そうそう…。私は信頼できる証左の一つだと思ってるんだけど…)

真姫☆(…実際のところ、彼女らはどういう思いで記事にそのことを載せなかったのかは気になる…)

真姫☆(私たちの肩を持つわけでも、絵里の肩を持つわけでもない、新聞部の真意はいったい…)


新聞部部長「それは…」

新聞部部長「…そうですね。難しいな…」

新聞部部長「いつもはこちらが聞く側に回るものだから、こうして聞かれるのは新鮮でハッキリと言葉にするのは難しい…」

新聞部部長「ただ…、納得されるかはわかりませんが、理由の一つとしては…」

新聞部部長「私たちが、プロではないから…ですか、ね」


花陽「…プロじゃないから?」

希「それは新聞のプロじゃない…マスコミではないってことかな?」

新聞部部長「はい、その解釈であってます」

ことり「それと今回の話とどう関係が…?」

新聞部部長「えー…、そうですね。つまり、だから…」

新聞部部員A「…部長、落ち着いてください」

新聞部部員B「予定にないこと尋ねられるとすぐパニクっちゃうんだもんね…」

新聞部部長「そこ、余計なことを口にしない」

海未「す、すみません…大丈夫ですか?」

新聞部部長「平気です。…ありがとう、意見が固まりました」

新聞部部長「そう、プロの…プロの報道記者、マスコミであれば、その人の人生がかかっていますから」

新聞部部長「どのような手段を用いても人々の興味を引くことが重要になってきます」

新聞部部長「それが楽しいことであれ、悲しいことであれ」

新聞部部長「しかしボクたちはプロではありません。あくまで全て自分たちの趣味の範囲内…となりますから」

新聞部部長「わざわざ、人が不快になるようなことを記事にしても…面白くないでしょう?」

花陽「今回の勝敗の条件は、誰かが不快になりそうなことだって判断して…ってこと?」

新聞部部長「そうです。いわば賭けのようなものですから。それに条件が解散は、ネガティブなイメージをどうしても持ちかねません」

新聞部部長「そうなると…この戦いでの投票が片方の解散を招くものだと知ってしまえば、純粋に楽しめなくなる…と、ボクたちは考えたのです」

新聞部部長「あ、今回の取材であなた方がその情報を開示して構わないとのことでしたら、一方的に勝利条件のみを公開、ということは可能ですが」

新聞部部長「敗北条件の方はA-RISE側の印象が悪くなる可能性もありますからね」

ことり「そ、そんなことまで考えて記事を作ってるの…!?すごい…」

新聞部部長「はい。楽しい学校生活にさらなる彩りを。嫌な話は見なかったことに。それが我が…我らが新聞部の伝統ある誇りですから」

新聞部部長「きっとボクたちは…新聞部なんてやってますけど、マスコミにはなれないでしょうね」

希「いやいや…、理事長室の会話を盗み聞きするんはかなりレベルの高い技術やと思うよ?どうやって…」

新聞部部長「それは、秘密。新聞部は情報に飢えたハイエナですので」

新聞部部長「何か盛り上がりそうなネタさえ嗅ぎつければ、それがどこであろうと食いつくのみ、です」

真姫「この人…、優しそうに見えて強かね…」

ことり「でも私、部長さんの考え方…好きかな。つまり、知る必要のないことは知らなくていい…ってことだよね」

海未「いいのですか…?あまりいい印象のない言葉なのですがそれは…」

希「楽しむことに必要のない情報はいらないってことやん?うちらにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際であっても…」

希「その緊張感を見ている子たちにまで与える必要はない。ただ楽しかったな、で終わらせられたら、それが一番やん」

新聞部部長「わかっていただけますか?信用して頂けたなら取材に移らさせても…」

花陽「あ、じゃああと…ほんの一つだけ、質問…いいですか?」

新聞部部長「はい、なんですか?」

花陽「…あなたは、この学校が…UTXが、好きですか?」

新聞部部長「…ふふっ」

新聞部部長「うんっ!すごくっ…大好きっ!!」


真姫☆(そう語る彼女の笑顔に、嘘なんて微塵も感じられなかった)

真姫☆(やはり私の見込みどおりね。新聞部はきっと…この学校に革命を起こす火付け役になってくれる!)

真姫☆(そして彼女の言葉を聞いた花陽の笑顔も、私にはとても印象的で)

真姫☆(以前の、UTXが…アイドル専攻が嫌いだと言っていた花陽が、今ではUTXを好きになってくれたのには)

真姫☆(なんだか私も…嬉しくなった)

真姫☆(そんなこんなでやっぱり最終的に新聞部を信じることとなったC☆cuteは、そのまま取材を受けた)

真姫☆(対決の内容やら、C☆cuteの成り立ちやら。時にはこちらからの質問も交えつつ)


カキカキカキ…

新聞部部長「…ではその時の決意…気持ちをお聞かせ願いますか?」

希「うん、そのときは…」


カキカキカキ… カキカキカキ… カキカキカキ…


希「…えー、あの、さっきから気になってたんやけど…たった5人への取材でどうしてそんなにずらりとメモ取る人が必要なん?」

新聞部部長「あ、気になります?」

真姫「そりゃあね…なんだか落ち着かないわよ」

新聞部部長「これもボクたち独自の方法でして…、活字は感情を持ちませんから」

新聞部部長「なるべく取材対象の話すとき、聞くときの一挙手一投足を事細かに書き記して、あたかも生きているかのように文章を書き上げる技法…です」

海未「そんなことやってる新聞部、他の学校にはいないでしょうに…」

新聞部部長「あははは…、そうでしょうね。私も入部時はバカバカしいと思っていましたが…今は面白い方法だと思っています」

新聞部部長「確かに労力は必要ですが、UTXで最もイベントに富んだアイドル専攻には一切の取材が禁じられていますし…」

新聞部部長「この学校には文化祭もありませんからね。たまのイベントにたっぷりと労力が掛けられます」

新聞部部長「おかげで観察力と速筆は身に付きますが…将来的に役に立つかは怪しいところですね」

希「そんなことはないと思うけどねー…。相変わらずUTX学院の生徒は専門性の高い子ばっかりやね…」

新聞部部長「みんなそうですね。だからこそ、このUTXは面白い。全く違う分野のプロフェッショナルが入り組んだ学校。芸能科もボクたちにとっては別次元の話、みたいなものですよ」

花陽「UTXは、異世界…」

新聞部部長「けれどそんな別次元の話からも、とても魅力的な情報が飛び出してくることがある。それらを取り込んで成長できる…。素晴らしいところだと思います。UTXは」

花陽「っ…!わ、私もそう思いますっ!」ガタンッ

真姫「ち、ちょっと花陽…身体のり出しすぎ…」

新聞部部長「あはは…えっと、では先ほどの…あっ…、ふむ、そろそろ休み時間も終わりですね」

新聞部部長「ではこれまで取材させていただいた話を基に、C☆cuteのこととクリスマスライブに向けた特集記事を組みたいと思います」

ことり「あ、よろしくお願いしますっ!どうか…盛り上げてくださいね!」

新聞部部長「はい。あなた方も負けないよう頑張ってください。応援しています」

希「…あ、最後にうちからも質問、いいかな?」

新聞部部長「はい…?」

希「理事長室の会話を事細かに聞き取れるくらいや。取材が禁じられてるって言っても知ってるんでしょ?アイドル専攻の実情」

希「絢瀬絵里が、生徒たちにどんなことをしているのかってこと。それを糾弾したり…って考えたりしないん?」

希「いくら誰かが悲しい気持ちになる記事はダメだって言っても、多くの証拠を以てえりちを追い詰めればこれ以上心が壊される子だって…!」

真姫「希…先輩…」

新聞部部長「…その気持ちはわかりますが、ボクの一存で記事が決定するわけではないので。新聞部の伝統ある掟も感情で破るわけにはいきませんし」

新聞部部長「それに…情報を集めていると、知りすぎてしまうことも多々あります。ですから…」

新聞部部長「…いえ、何でもありません。では、本当にこれで…」

ことり「あ!最後の最後に私からも!!」

海未「な、なんですかことりまで…」

ことり「部長さんはA-RISEか私たち、どっち派ですか?」

新聞部部長「えっ!え、えーっと…そうですね…その…、応援してますと言っておいてなんですが、A-RISE…ですね。正直に言えば」

花陽「そ、そうですか…」

新聞部部長「…ふふ、まぁでも…『今は』、ですけどね」

真姫☆(新聞部の取材の成果は翌日には既に出来上がっていて)

真姫☆(クリスマスライブの詳細と、C☆cuteの詳しい成り立ちについての記事が全校に貼り巡らされた)

真姫☆(その熱狂はたちまちUTXを包み込み、今までにない興奮の坩堝と化した)

真姫☆(アイドルに対して閉鎖的だったUTXが盛り上がってきている。それだけで私たちの希望は大きくなってゆく)

真姫☆(もう二度と、アイドルが嫌いだなんて誰も言わなくていい学校になれば、希も後腐れなくこの学校を卒業できるしね)

真姫☆(ただ盛り上がってくるとやっぱり…)



数日後 放課後

音楽室


真姫☆「えーっと…、じゃあその振り付けを今度はー…」


花陽「…あの、真姫ちゃん」

真姫☆「ナニヨ」

ことり「透明マントから顔だけ出してるの、余りにもシュールだなぁ…って」

花陽「練習に集中できなくて…」

真姫☆「仕方ないでしょ…。いつ来るかわかんないんだし」

海未「…まぁ、そうですね…。先程も演劇部の…」


ガチャッ

「ういーっす!やってるー?」


真姫☆「はふぶっ!」バサッ

真姫「…突然の来訪者に対応するためにはこうでもしないとね…」

希「あ、キミは…」

花陽「パーツモデル部の部長さん!お久しぶりです!」

パモ部部長「あー、もう長いからパモ部でいいよ。うちもそう改名したしね」

海未「えらく思い切った改名をしましたね…。初見じゃ意味がわかりませんよ」

パモ部部長「まぁそれはいいんだけど、ステージってどうなってる?」

ことり「ステージ…ですか?」

パモ部部長「いやねー?またうちの木材が役に立つかなーって、いやむしろなんか手伝いたいなって!手伝わせろって!」

希「暇なん?」

パモ部部長「そんなことないわよー!ただ学校中熱気で包まれてんじゃない!?なんかしたくてそわそわしてるのよー!」

海未「…その気持ちはありがたいのですが、ステージ製作は全てアイドル専攻の指示のもと有志が既に集められて制作されておりまして…」

真姫「意見があるなら言っておいて、こっちで賄うから、ってことなのよね…」

花陽「だからごめんなさい。ステージ製作は手伝ってもらえないかも…です」

パモ部部長「そっか…、残念…」

パモ部部長「…って逃げ出すようなガラじゃないのよね!アタシ!」

花陽「へ…?」

パモ部部長「ステージは手を出すなってんなら、それ以外ならオッケーでしょ!」

パモ部部長「アタシC☆cute応援するなんか作る!そういうの好きな友達いるんだ!いいでしょ!?」

ことり「え、えっとぉ…」

希「先生に言って許可貰ったなら、いいん違う?うちらは文句はないけど」

パモ部部長「オッケー!!よっしゃテンション上がってきたフー!らんららんららーん!」ガチャッ バタンッ

真姫☆「…テンション高いわね、あの人」

真姫☆(私たちを応援してくれる人たちが、自主的にそういったものを作ってくれるようにもなった)

真姫☆(もちろんのこと、C☆cuteだけではなく、A-RISE派も対抗して)

真姫☆(ありがたいことに学校側も容認してくれて、まるで季節はずれの文化祭のように学校中が楽しげで)

真姫☆(そういえばどうしてこの学校にはこんなにも多数の部活や学科が存在しているのに文化祭がないのか、聞いてみたところによると…)


海未「本当の話かどうかは不確かですが、余りにも部活が多いせいでUTX校内で文化祭を行うととてもややこしいことになると聞いたことがあります」

ことり「学生の数も多いし、その上来賓の方まで含めちゃうと学校中わちゃわちゃしちゃいそうだしねー」

真姫「あぁ…確かにそうね。学生の家族が来ただけでも大変なことになりそう…」

希「今回のライブは学生だけでの、って条件付きやったから、学校もちょっとは寛容になってくれてるんかな?」

花陽「あ、でも一部の専攻や部活は別の場所で合同研究ってやったりするらしいね」

海未「あぁ、ありましたね!演劇学科全体による演劇大会というのが少し前にありました」

海未「あれは面白かったですね…。しかしあれだけでもたくさんの方が来られていましたし…やはり人数が多いと催し物が行いにくくなるのは確かかもしれません」

真姫☆「混乱を避けた判断は正しかったわけね!よぉし…!ならこのままもっと巻き込んでいきましょう!」


真姫☆(基本真面目な生徒が多い故に、はっちゃけるときはそのテンションも凄まじく)

真姫☆(多数の学科、部活の入り混じる…非常にカオスな空間を形成していたのだった)

真姫☆(まさに、UTXの形そのものね…なんて、私は思ってたんだけど)

真姫☆(…でもその中に、別のものを感じた子も、いたみたい)




ガヤガヤ… ガヤガヤ…


ことり「はわぁぁ…!すごいね…、10分の休み時間だっていうのに、始まった途端にみんなライブのことで話し始めてる…!」

海未「自主制作でオリジナルグッズや応援アイテムを用意している人々も多いと聞きます」

希「みんな自分の持てる技能を最大限に発揮してくれてるね…。もう毎日目まぐるしいくらい」

真姫「こ、こう見てるとやっぱり…混然一体…いえ、混沌そのものよね。UTX…」

真姫☆「まぁ、そうね…。誰もがみんな別の世界の住人みたいなもんなんだから、合わさるとそうなって…」←透明


花陽「…うぅん。違うよっ!」


ことり「うん?花陽ちゃん…?」

花陽「違う、違うんだっ…!これは、混沌じゃないんです!」

真姫「ど、どうしたのよ、花陽」

海未「…もしかして、見つかったんですか?作詞の決め手となるUTXの魅力が」

花陽「はいっ!!確かに、傍目から…客観的に見ればUTXのこの現状は混沌とした、まるで異世界がグチャグチャと混ざり込んでるように見えるかもしれない…!」

花陽「でも、あの人たち一人一人の観点からすれば、それは異世界じゃないんですっ…!」

花陽「みんな、自分たちの世界を…楽しいって思える情報を、他のいろんな世界から少しずつ貰ってゆく…!」

希「新聞部の部長さんも言ってたこと…やね」

花陽「そう、それは…新聞部だけじゃなくて、みんなみんな、同じこと…だったんです」

花陽「みんな自分だけの世界を…、しかも、他の学校じゃ絶対に作り得ない、様々な楽しいことが詰まった、特別な世界…!!」

花陽「そんな、自分だけの理想の空間を成していける…!無限の可能性の中で!!」

花陽「UTXって…UTXの魅力って、そう言うところだと思うんですっ!!」

真姫「自分だけの、理想…」

海未「確かに、このC☆cuteも、ただ芸能科が集まっただけでは形成されなかったかもしれませんね」

ことり「歌を作る人がいて、詩を書く人がいて、洋服を作る人がいて、ダンスを考える人がいて、それらを纏める人がいて…」

希「そうしてやっと作ることができた。それはうちらだけやなくて、A-RISEだって同じこと」

希「うぅん、きっと他の部活も、いろんな学科から人が集まって、その学科特有の観点から発展を遂げていったのかもしれない」

真姫☆「…プロじゃないから、型にはまらず、楽しいと思ったことなら貪欲に取り入れていく」

真姫☆「そういえば、それがスクールアイドルってもの…だったのかもね」

花陽「そして、UTXにはそれが詰まってるって思うの!多分…他のどんな学校よりも、たくさん!」

花陽「誰もが何かしら一つの、理想の世界を持っているっ…、最高の場所だって!」

真姫「理想の世界ね…。カッコイイ言い方をすれば、理想郷…ってところかしら」

海未「理想郷…ですか。少し壮大な感じもありますが…花陽の考え方にはピッタリ当てはまるかもしれませんね」

海未「どこにも存在しない場所…。あるのは、それぞれの胸の内に。決して外からは覗けず、けれど確かに感じられる、暖かい居場所」

花陽「おぉ!詩的です!カッコイイ!!」

海未「て、照れます…」

ことり「でも理想郷…理想郷ってちょっと固いよねー。もっと別の言い方にできない?」

希「理想郷を別の言い方…そうやね…」

希「…ユートピア?」

ことり「あっ…!ユートピア!それそれ!」

真姫☆「…utopia。UTopiaね…ふふっ、UTXに相応しいじゃない。決定ね」

海未「花陽。今のその感情、そのまま書きなぐってしまいましょう!さぁ今から、授業中でもお構いなく!」

花陽「えっ…わ、分かりましたっ!!ノートがすり減るまで書きます!」

真姫「そこまではしなくていいから…」

ことり「授業も聞かないとダメだよー」



真姫☆(曲のイメージを掴んだ花陽。ついにC☆cuteの全ての想いが、目標から夢へと向かって走り出した)

真姫☆(既に手を伸ばせば届くところまで来ている。あとは…)

真姫☆(来る日まで、全力を出し尽くすのみ…!!)

放課後

一年教室前廊下


ザワザワ… ガヤガヤ…


凛「…」スタスタ

凛「…みんな、楽しそうだなぁ」



凛(こんなふうに、ライブを楽しみにしてくれる生徒、今まで見たことあったっけ)

凛(凛にアイドル関係のお話をする人は少ないし、いても嫌味か励ましの言葉くらいだった)

凛(今はみんなの情熱が一つの方向に向いている)

凛(きっとライブ本番の時、その方向が凛たちに向けられるものになるんだ)

凛(そのことを考えるだけで、胸がはちきれそうなほど興奮する)

凛(ワクワクする)

凛(やっと…やっと歓声の中で歌えるんだ)

凛(踊りと歌で、ステージを魅了して)

凛(雷のような拍手と喝采を浴びるんだ)

凛(もう何百回も、何万回も夢に見た光景)

凛(今度こそ、実現する)



凛「ふ、ふふっ…あははははは…」

凛「あはははははははっ!!わーいわーいっ!!あははははははははははははっ!!」


テッテケテー


凛「あはっ!あははははっ!!もう練習が待ちきれないにゃーっ!!」

凛「穂乃果先輩、にこ先輩っ!今日の凛に追いつけるかにゃーっ?」

凛「あはははははははっ!!わーっはっははははははははははははっ!!」



凛(心の奥底から笑いが止まらない)

凛(凛の血反吐を吐くような努力が…いや途中から吐かなくはなったけど!)

凛(それがついに成就する!)

凛(最高のパフォーマンスで小泉さんたちのエセアイドルなんかけちょんけちょんにのしてやるんだ!)

凛(今の凛を止められるものなんか…)



凛「誰もいなーいっ!!あははははははははははっ!!!!」

3年教室前廊下


ザワザワ… ガヤガヤ…


絵里「…」カリカリ… パキィッ

絵里「…痛っ。チッ…!!」



絵里(爪の噛みすぎで深爪になってしまった)

絵里(この喧騒は、それだけ私に苛立ちを与えてくれる)

絵里(今まで私が成してきた理想の国が、とんだ外様に崩壊させられようとしている)

絵里(それが、何よりも許せない)



絵里「…絶対にさせない」

絵里「私の夢を…、野望を叶えるために…!」

絵里「西木野真姫ィィィ…!!」



絵里(だけどもう、彼女をどうこうしただけでは私の夢は叶わない)

絵里(私の野望は、私のA-RISEが最強でなければ成し遂げられないのだから…!!)

絵里(どんなことにも屈しないよう育ててきた私のかわいいA-RISE…)

絵里(彼女たちには完膚なきまでに、実力差を見せつけてもらわないと困るの)

絵里(圧倒的な力の差で、C☆cuteもその取り巻きも黙らせる)

絵里(そして解散に追い込めば、もう誰もA-RISEに歯向かおうとする人間はいなくなるはず)

絵里(…そのための、一心不乱な猛練習)

絵里(一切の乱れを許さない、今までで最もハードな練習)

絵里(その程度ではもう、彼女たちの心は折れはしない)

絵里(私がそう、育てたのだから)



絵里「…にこは少し、予想外ではあったけど」

絵里「でも、もう少し…あと少しなのよ」

絵里「手が、届きそうなところまで来ているのよ…!」

絵里「私の夢…そう…」

絵里「『復讐』の達成まで…!!」

多目的ホール


「はぁっ…!!はぁぁっ…!!が、はぁっ…!げほっ!ごほっごほっ!!」


穂乃果「はぁっ…、うぶっ…。はぁぁっ…!」

にこ「ひぃっ…、ひぃっ…けふっ…ごがぁっ…」

凛「ふぅ…」



絵里「…一旦休憩。10分の水分補給のうち、またダンスに戻りなさい」

凛「歌はー?」

絵里「歌の練習は規定時間が過ぎてからよ。どんな体力でも腹の底から声を出せなきゃ意味がないわ」

絵里「そして明日からはいよいよライブの形式での練習になる」

絵里「この程度で息を上げてることを後悔するから、そのことも鑑みるようにね」



にこ「ごくごくごく…っく、はぁっ…!し、死ぬ…!」

穂乃果「流石にこれは…やりすぎ、だと思う…」

穂乃果「本番前に倒れたりしたらっ…台無し…だよ…」

凛「えー、先輩たちそんなヤワなんですかー?」

にこ「アンタねぇっ…。みんながみんな、アンタみたいに疲れ知らずじゃ…げっほっ!ごほはぁっ…!」

穂乃果「大声出すと…肺が驚くからやめよう…。ゆっくり、慣らしていかないと…」

凛「ふーん、大変なんだねぇ…」

凛「凛はこの休憩時間で歌の練習でもするにゃー。ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」

穂乃果「…?何その歌…A-RISEの曲じゃない…よね…」

凛「ん?テキトーにゃ。発声練習だよー」

にこ「鼻歌が発声練習になるの…?はぁ、別にいいけど…」

にこ「私も…あんたみたいに底なしの元気だったら…楽なんだけどねぇ…。羨ましいわ…」

凛「まぁまぁ!にこ先輩程度じゃ凛には追いつけないにゃ!せいぜい可愛さくらいかなー?」

穂乃果「可愛さは認めてるんだね…」

凛「でも凛が元気でもこの部屋が元気なくなってきちゃうと困るよねー。いつか床抜けちゃうんじゃない?」

にこ「はぁ…?どういう意味よ」

凛「だってさー。練習ずっとここでやってたからか、ダンスしてる時床ミシミシ言ってるじゃん」

凛「老朽化かなんか知らないけど、少しテンポ崩されるから何とかして欲しいにゃ。そう思うでしょ?」

にこ「え、えっと…凛…。気のせいじゃない?私、踊ってて床が軋む音なんて聞かないけど…」

凛「え…?そんなはず…」

穂乃果「…このホールは床も特別丈夫に作られてるはずだよ。大勢が激しい運動しても下の階まで響かないように」

穂乃果「経年劣化の心配も、比較的新しく建てられたホールなはずだからありえないと思う。それなら他のほとんどの教室が傷んでることになるし」

にこ「アンタがダンスに気合入れすぎて床が痛がってる声か、それか神経質になりすぎて幻聴でも聞こえてるんじゃないの?」

凛「えぇ…」

穂乃果「身体が疲れない分、聴覚がノイズも敏感に拾ってるんじゃないかな。落ち着けば聞こえなくなると思うよ」

にこ「そうそう。逆にちょっとくらい疲れなさいって話よ!」

凛「うん…」


凛「…でも、確かに聞こえるんだよなぁ…。ミシミシって音…」

別の日


ガヤガヤ…


英玲奈「…相変わらず、休み時間の声は収まることがないな」

あんじゅ「それだけクリスマスライブを楽しみにしてるってことでしょう?」

あんじゅ「…私たちは出ないっていうのに。失礼しちゃうわ。ぷんぷん」

ツバサ「まぁまぁ、いいじゃない。最近のどことなく暗かったUTXの雰囲気が、一気に払拭された感じで」

あんじゅ「うん…、それはいいんだけどね…」

英玲奈「我々がそれをなすことができなかった、というのは複雑な気持ちだな」

あんじゅ「この空気…、すごく羨ましいって思うの。あーあ、私たちも今からお願いしてライブに参加させてもらう?」

ツバサ「あはは、それもいいかも…って言いたいけど、私たちは私たちで年末のライブの練習で忙しいでしょ?」

ツバサ「この盛り上がりは彼女たちの努力の結果なんだし、私たちが邪魔するのもおかしいじゃない」

あんじゅ「そうね…。はぁ、やっぱり羨ましい」

英玲奈「どれだけ羨ましがってるんだお前は…。私たちのライブだって相当に盛り上がっているのに不満なの?」

あんじゅ「そうじゃないの。不満って言うのも少しはあるんだけど…」

あんじゅ「競い合えるライバルが、身近にいるっていうのは…私たちにはなかったことじゃない」

英玲奈「…あぁ」

あんじゅ「必死で頑張ってA-RISEになって、血反吐を吐くほど努力して日本一のスクールアイドルになった」

あんじゅ「でもそれって、全て私たちの中で完結してるお話。主役の私たちだけが目立つ…面白くないお話よ」

英玲奈「…私たちにも私たちの物語はあっただろう?あんじゅ」

あんじゅ「そうだけど!…でも、もっと…他のスクールアイドルの子たちとも知り合いになりたかったわ」

ツバサ「他のスクールアイドルとは会えたとしても、ラブライブでの会場だけ…だったからね」

ツバサ「研鑽し会える…切磋琢磨できるライバル…。そういう存在と出会える前に私たちは」

ツバサ「日本一になってしまった…のよね」

あんじゅ「…なんだか、一等賞って孤独なのね」

英玲奈「場合にもよるんじゃないか?私たちは出会えなかった…というだけだ」

あんじゅ「あぁんっ!だから羨ましいっ!もう一回入学しちゃおうかなぁ…」

ツバサ「バカ言わないの。…きっと、これからいつか出会えるわよ」

ツバサ「プロの世界に出れば、私たちはもう日本一じゃなくなる。また挫折の日々の連続でしょうけど」

ツバサ「そうなれば足りないものを補わせてくれるライバルに、どこかで会えるわ」

英玲奈「…あぁ」

あんじゅ「私は高校時代に会っておきたかったのー!そうすれば…別の大学はどうこうってお話ができたじゃなーい!」

あんじゅ「あ、希ちゃんがいるわ!あぁでも彼女は卒業したらもうアイドルじゃなくなるのかしら…うーん…」

英玲奈「悩ましいのはいいが…そろそろ場所を移動しようか」

ツバサ「…囲まれちゃったわね」


ワイワイガヤガヤ…


英玲奈「ははっ、こうしてみれば、私たちの人気も捨てたものじゃ…ないよなっ!」ガシッ ダダッ

あんじゅ「きゃっ!急に掴まないでよ英玲奈っ!」タッタッタッ…

ツバサ「ふふふっ…、日本一はこうでなくちゃ!追われる気分っていいわよねっ!あはははっ!!」

放課後 音楽室


真姫☆(ほんの少し海未による修正は入ったものの、花陽は見事作詩を成し遂げた)

真姫☆(海未の歌詞にも負けず劣らず…明るさに満ち溢れたいい歌詞だって思うわ)

真姫☆(花陽独特の、ほんわかした温かみも感じられる、いつもとはまたひと味違う歌に仕上がったわね)

真姫☆(そしてついに…本当にやっと、本格的なライブの練習)

真姫☆(ダンスはまだ未完成。探り探り、こうしたらいいんじゃないかなんて、親衛隊の子たちにもアドバイスを貰いながら)

真姫☆(衣装はデザインは既にできているけど、製作が本番ギリギリになりそうでヒヤッとする)

真姫☆(綱渡りにも程があるスケジュールだけど…、これが私たちなんだもの)

真姫☆(無理でもなんでもやればできる。その意志の塊が、C☆cuteなんだから)



真姫☆「ワンツースリーフォー…」パンパン…

タンタタンタッ… 


親衛隊A「…しかし今でもまだ信じられないよね」

親衛隊B「こっちの西木野さんが、異世界の住人だなんて」

親衛隊C「いきなり打ち明けられた時は何言ってるんですの?って感じでしたけど…」

親衛隊D「こうして生首浮いてるところを見せられちゃ…ねぇ?」

親衛隊E「べ、別の世界って…こんな魔法みたいなグッズが売ってるんですね…!私も少し欲しい…かも」

親衛隊F「いや、なんでも真姫ちゃんの相棒がこの世界にあるものだけで作ったって話だよ?」

親衛隊G「うぇっ!?ってことは私たちも頑張れば作れるってこと!?なにそれ夢広がりすぎ!」

親衛隊H「透明マントなんてあったら…むふふふ…色々し放題だよねぇ…」

親衛隊I「何か不純なこと考えてませんか?あなた…」


真姫☆「こらそこぉっ!!見学はいいけど声大きいっての!」

真姫☆「練習の邪魔するのなら出て行ってよね!」


親衛隊ズ「…ご、ごめんなさい」


花陽「あははは…私たちは大丈夫だけどね。集中してるから」

ことり「それに、私たちの活動を見てくれたらアイドルってこういうものだってわかってくれる子も口伝えで増えて…」

真姫☆「いや、あの子たち私の話しかしてなかったわよ」

ことり「あ、そうなんだ…」

海未「確かに、あまり騒がしくされては集中が乱されるのは事実ですね。リズムに狂いも生じるでしょうし」

海未「あと少しだけ、声のボリュームは下げてもらえませんか?」

親衛隊ズ「ワカリマシター…」

真姫「…っていうか、あの子たちがいる意味あるの?もうことりちゃんとの衣装の打ち合わせは終わったんでしょう?」

希「んー、まぁいて悪いってことはないし、それにいざってとき…」


ガララッ

パモ部部長「ういーっすっ!」


ババババッ!!

パモ部部長「おわっ!?何!?急に整列して!」

親衛隊ズ「なんでもありません!!」


希「…真姫ちゃん隠しに使えるし」

花陽「ぱ、パモ部の部長さんくらいならいいと思うけどね…」

真姫☆(…身近にいない人までにバラしちゃ何が原因で漏洩するかわからないでしょうが)

花陽「そ、そっか…」


海未「…あの、どうされました?何か御用でしょうか」

パモ部部長「ん?あ、そうそうそう!言っておきたいことがあってさ!」

真姫「言っておきたいこと?」

パモ部部長「この間さー、アタシも仲間と一緒になんか作るって話してたじゃない?」

ことり「あー、そういえば…」

パモ部部長「最初は立て看板みたいなものにしようかなー、なんて思ってたんだけど…」

パモ部部長「ステージ周りはアイドル専攻が管理してて迂闊にそういうの置けないらしいのよ!」

希「あ、そうなんや。…でもステージ近くに何も作れないんやったら他に場所なくない?」

花陽「学校前の限られたスペースですもんね…。客席も含めればかなり狭いほうだし…」

パモ部部長「そう!悲観に暮れたアタシたちだったけど…ここで妙案が思いついたの!」

パモ部部長「それが…これだっ!」ババンッ

ことり「なにこれ?」

海未「見取り図…?UTXとステージがあって…あれ、UTXに貼り付けられたようなこれは…?」

パモ部部長「これこそアタシたちの考えた計画!屋上から垂れ幕をかけるっ!」

真姫・真姫☆「「た、垂れ幕ぅっ!?」」

パモ部部長「あれ、今真姫ちゃんの声二重じゃなかった?」

希「き、気のせい気のせい…。でも垂れ幕って…あのデパート開店した時とかにかけるでっかいやつよね?」

花陽「今から作るんですか…?もう本番まで一週間と少し程度なのに…」

パモ部部長「アタシの人脈の広さを舐めないでよ!そういうのはプロに任せればちゃちゃっと完成さ!」

パモ部部長「ま、ギリギリなんだけどねー…。前日の23日に屋上に運び込まれる予定」

海未「その…学校側に許可は取ったんですか?」

パモ部部長「モチのロン!理事長に直訴しに行ったら『うーん…いいんじゃ、ない…?多分。始まる直前くらいにかけるなら』みたいな曖昧な許可をもらったわよ!」

ことり「もう理事長も何が良くて何がダメなのかわからなくなってきてそうだね…」

パモ部部長「てなわけで、本番当日を楽しみにしててよね!どでかく応援幕垂れ流してあげるからさっ!ほなな!」ガチャッ バタンッ


真姫☆「…嵐のような人ね…」

海未「提案もハチャメチャでしたし…しかし垂れ幕ですか…。カッコイイですね」

花陽「え、海未さん…?」

海未「え?かっこよくありませんか?大きな文字がババンッって。まさか実現できるとは思いませんでしたが…」

ことり「海未ちゃんこういうところもある子だから」

真姫「…未だに海未をわかりかねてるわ」

希「安心して。うちもやから」

夕方

UTX学院校門前


海未「…はぁ」

ことり「うん?どうしたの海未ちゃん」

海未「こんな時間に下校していて、穂乃果たちに太刀打ちできるのでしょうか…」

真姫☆「仕方ないでしょ。アイドル専攻以外は下校時間には絶対に下校しなきゃいけないんだから」

真姫「…よくよく考えると不気味よね。アイドル専攻って」

希「学校の決まりごとから尽く逸脱しているからね。…それだけえりちに権力があるってことよ」

花陽「ま、まぁ!こうやって夕日を見ながら帰れるって思えば!ね?」

海未「…ふふ、そうですね。っと、そういえば…」

海未「本番は、この校門前でライブするのでしたね」

希「UTXのオーロラビジョンが眺められるこの場所で、やね」

ことり「で、この大きな校舎の屋上から…垂れ幕がだばーって降りるんだよね」

真姫「ちょうどステージ上から見上げる形で…って、ライブ中は誰も眺められないんじゃない?」

花陽「あ、ホントだ…。近すぎて下の方しかわかんないよね…」

真姫☆「どこに向けて私たちのライブを宣伝する気なのよ…。対外向けじゃないっていうのに」

希「あははは、いいやんっ。どうせ完全に封鎖するわけでもないんやし」

希「あのモニターを通してならそこそこ遠くの場所にもライブは届く。広い立ち見席なら、他のお客さんも見れるやん!」

真姫☆「…そうかもね。どれだけのお客さんが集まるのかしら?」

海未「うぅ…混乱が起こって中止などにならなければ良いのですが…あ、いえ!それならばノーコンテストで我々が解散する必要がなくなるのでは…!?」

ことり「もう海未ちゃんっ!ライブ前から不吉なこと言わないのっ!」

海未「ご、ごめんなさい…」

真姫☆「勝つ気でいかないと勝てる勝負も勝てないわ。負けることなんか今から考えていてもしょうがないでしょ」

真姫「そうそう。負けたとは負けてから考えればいいのよ。芋砂にやられたら回り込んで…」

希「何の話…?」

花陽「とにかくがんばろーってことだよね!よぉし、これからダンスの練習だー!」

真姫「え、今からまだ…?」

真姫☆「神田明神なら空いてそうだし、自主練習をしたいならすればいいんじゃない?」

海未「そうですね。行きましょう」

真姫「うぅ…もう疲れた…」

神田明神


真姫「ハァ…ハァ…。この階段…いつ登っても辛い…」

海未「まだ言ってるんですか?ほら、行きますよ!」

真姫「ま、待ってぇ…」

ことり「海未ちゃん、元気だねー」

花陽「それだけ負けたくない…うぅん、勝ちたいんだよ。勝って取り戻したいんだよね」

ことり「穂乃果ちゃんとの日々を…か。うん、私も…取り戻したい」

真姫☆「…」


タッタッタッ…

海未「よし、一番乗りっ!…あれ?」

真姫「はぁ…はぁ…な、なんなのよー?」

希「ありゃりゃ…先客やん」


ことり「どうしたの?」

海未「既に境内前のスペースを使われていました…。これではダンスの練習は難しそうですね…」

真姫☆「珍しい…いったい誰が?」


パシンッ パシンッ


真姫「…?何してるのあれ…。縄跳びをくぐって…」

希「あれはダブルダッチやね。ダンスの一種みたいなもんかな」

真姫☆「現代版バンブーダンスみたいなものよ。参加させてもらったら?」

真姫「い、いいわよ」

海未「使われていたなら仕方ありませんね…。今日は解散しますか」

ことり「そうだねー…」

真姫「はぁ…よかった」



花陽「…なわとび」



真姫☆「…ん?花陽…どうしたの?」

花陽「…」

真姫☆「花陽っ、みんな行っちゃうわよ?」

花陽「えっ?あ、あぁ…うん、わかった。今行くね」



海未「では、私たちはこちらなので」

ことり「また明日ね」

真姫「うん、バイバイ。私は…こっちね。さようなら」

希「うん、ほなぁ。じゃ、うちらは一緒に…あ」

花陽「うん?どうしたんですか?」

希「…ごめん、今日スーパーに買い出しに行く予定やったんや。忘れてた」

希「真姫ちゃん、先帰ってて。り…同居人ちゃんには晩ご飯少し遅れるって伝えておいてね。じゃ!」タッタッタッ…

真姫☆「あっ…、言ってくれたら私も付き合ったのに…。まぁいいわ。花陽、久しぶりの二人きりね」

花陽「あ、…そうだねー」

スタスタ…


花陽「…」

真姫☆「…」

真姫☆「…花陽」

花陽「…」

真姫☆「花陽っ」

花陽「ふえっ?な、何かな…?」

真姫☆「さっきからぼーっとしてどうしたのよ?病気?」

花陽「あ、うぅん…違うの。えっと…」

花陽「…思い出してたの。昔のこと」

真姫☆「昔の…?」

花陽「うん」

花陽「あの…なわとびを見て、思い出したんだ」

真姫☆「ダブルダッチのアレ?」

花陽「そう。昔…大なわとびってあったじゃない。グルグル回して、一人ずつくぐっていくの。体育の授業でよくある」

真姫☆「あぁ…あるわね」

花陽「私、あれが怖くて…。ムチで叩かれるような怖さで。みんなが飛んだあと、ずっと立ち尽くして、震えてて…」

花陽「涙をボロボロ流して、あわやおもらしする直前で、逃げ出そうとも思った時…」

花陽「そんな私を見かねて、大なわとびを逆から飛んで、私に手を差し伸べてくれた子がいたの」

花陽「『こわくないよ。簡単だよ。いっしょに飛ぼう?』って」

花陽「『いやだよ。あたったら痛いもん』って私がダダをこねても、諦めず私を励ましてくれて」

花陽「ついに私は、その子と一緒に大縄跳びを飛んで。…思ったよりずっと簡単で、怖いものなんてなくて」

花陽「『ね、簡単だったでしょ?』って笑って言ってくれて。私も『うん、簡単だね』って返して」

花陽「でも心の中では、こう付け足して。『あなたがいてくれたから、簡単だったんだよ』って」

花陽「それから私とその子は、とても仲良しになって…遊びに行くときも、トイレに行く時も一緒の、大の仲良しに、親友になれた」

真姫☆「…それが」

花陽「星空凛ちゃん」

真姫☆「…」

花陽「思い出したんだ。あれがあったから私…、凛ちゃんと仲良しになれたんだって」

花陽「私がどんくさい子じゃなかったら。凛ちゃんが私を励ましてくれなかったら」

花陽「あんな仲良しには、なれてなかったのかもしれないなぁって」

真姫☆「そう…」

花陽「なんて、もしかしたらまた別のところで出会ってたのかもしれないけどね」

花陽「けれど、私にとってなわとびは…出会いの一つだったから」

花陽「凛ちゃんに出会わせてくれた、細い扉」

花陽「…あ」

真姫☆「うん?」

花陽「もう一つ、思い出した」

花陽「私を助けてくれた凛ちゃんに送った、お礼の歌」

花陽「私が…漢字もろくに書けない私が、言葉もほとんど知らない私が、知ってる言葉を紡いで作った」

花陽「生まれて初めての、ライブの…歌」

花陽「…すぅっ」



「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  夢が 少しずつ 近づいて  」


「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  ありがとう  」


「  嬉しくて 嬉しくて 幸せすぎると  」


「  泣けちゃうの ごめんね  」



花陽「…」

真姫☆「…ふふ」パチパチパチ…

花陽「わっ…!は、恥ずかしい…」

真姫☆「何よ。いい曲じゃない」

花陽「…そう、かな?ふふ、ありがと」

花陽「凛ちゃんもお歌が終わったあとに大きな拍手をくれて、すごく嬉しかった」

花陽「ただ『最後にごめんね、っていうのはかよちんっぽいね』って言われたの、すごく覚えてるかも」

真姫☆「ふふ、ホントね。最後までありがとうでいいのに」

花陽「だって、怖くても泣いて、幸せでも泣いて…泣いてばっかりできっと凛ちゃんもうろたえちゃうだろうなって思いで」

花陽「こんなに泣いてごめんね、って気持ちで書いたんだったと思う」

花陽「ふふ…変なの」

真姫☆「ん?何が変なの?」

花陽「だってね、私…この歌のこと、ほとんど覚えてなかったんだ」

花陽「メロディも、歌詞も何もかも忘れてて。なのに今は、どんな気持ちで作っていたのかも思い出せる」

花陽「だから可笑しいな、って思って」

真姫☆「それは、あなたの気持ちが過去に戻ってるから…じゃないかしら」

花陽「過去に?」

真姫☆「えぇ。なわとびを見て、あの頃の気持ちを思い出して」

真姫☆「その時と全く同じ思いをしているから、忘れていたことも鮮明に思い出せるようになったのよ」

花陽「…そっか」

真姫☆「だから…凛にも思い出させてあげて。その頃の純粋な気持ち」

真姫☆「あなたと、友達になりたいって思っていた頃の凛の気持ちに、あなたの歌で戻してあげるのよ」

花陽「…うんっ!私たちのライブで…凛ちゃんともう一度…お友達になるんだっ…!!」

真姫☆「凛には敗北の悔し涙を浮かべさせるより、感動の涙を流させてあげたいわね」

真姫☆「そうすればきっと悲しみの連鎖も…終わりを告げるはずよ」

花陽「そう、だね…。あぁぁ…、ドキドキしてきた!」

花陽「ごめん真姫ちゃん!私先帰るね!お風呂の中で歌の練習してくる!」

真姫☆「え、あ…頑張って」

花陽「うおおぉぉっ!凛ちゃああぁぁぁんっ!!」ダダダダッ…!!

真姫☆「…」

真姫☆「…まぁ、元気なのは大切よね」





真姫☆(花陽の決意も新たに、決戦へと歩みを進み続ける私たち)


真姫☆(それぞれの思惑を胸に、C☆cuteもA-RISEも、勝利を求めて練習に励む)


真姫☆(ダンスも完成して、C☆cuteの衣装も一つ、また一つと出来上がり)


真姫☆(ほどよい緊張と、日が近づくにつれてなお増し続けるUTXの熱狂に包まれ)


真姫☆(きっとこのライブは、勝っても負けても素晴らしいものになるに違いないと)


真姫☆(私たちの誰もがそう思っていた)


真姫☆(そんな、ライブ本番4日前の、放課後)




真姫☆(事件は、起きた)


真姫☆(起こるべくして、起こってしまった)




12月20日 土曜日

朝 神田明神


真姫☆「…」←透明マント


花陽「あぁ…」

海未「うぅっ…」

ことり「あはは…」

希「これは…」

真姫「ちょっと…」



野次馬ズ「「「わあぁぁぁぁ…!」」」ガヤガヤ…



希「朝からこんなに人が集まるなんて…」

ことり「最近音楽室の前に見学者が来ることは度々あったけど…」

海未「休日であることと、神田明神という開けた場所であるがゆえに、たくさん人が来たようですね…」

真姫「に、人気があるのがわかっていいんじゃない?」

花陽「でも神社の人に迷惑じゃないかなぁ…?」

希「うーん、神主さんはおおらかな人やし、お正月に比べれば全然少ないほうやからそこはいいやろうけど…」

ことり「…これじゃ真姫ちゃん、顔出しできないよね」

海未「今ここで真姫が二人いることが知られてしまえば学校側にも伝わるでしょうしね」

真姫「それは困るわね…」

花陽「どうする…?人払いしたほうがいいかなぁ…」

真姫☆「…今日は土曜日よ。休日だからどれだけの人がいつ来るかわかんないし、人が来るたび人払いなんてしている余裕もないわ」

真姫☆「練習を見学されるのはまぁ…別に悪いことじゃないと思うわよ。これを参考に自分もアイドルはじめよう、って思ってくれればありがたいしね」

希「でも真姫ちゃんはどうするん?ずっと透明?」

真姫☆「マントの中から手拍子してもほとんど聞こえないわ、音楽室ならまだしも開けた場所じゃあね…」

真姫☆「…はぁ、仕方ないわ」

海未「どうするつもりですか?」

真姫☆「今日はコーチはナシよ。あなたたちで練習して頂戴」

ことり「えっ…」

真姫☆「できるでしょ?もうあとは追い込みだけなんだし」

真姫☆「私はここにいるよりどこか別の場所にいたほうが安全よ」

花陽「そ、そっか…。そうだね」

真姫☆「それじゃ、あとはよろしくね。また夕方頃に会いに来るわ」

花陽「うん、頑張るね。よーしっ、じゃあ練習だ!」

「おーっ!」



スタスタ…

真姫☆「…とはいったものの」

真姫☆「どこで暇を潰しておこうかしら」

UTX

多目的ホール



絵里「…」


穂乃果「はっ…!せいっ、やっ…」

にこ「よっ…、とっ…」

凛「へっ…、ほっ…」



絵里「…うん」

絵里「なかなか仕上がってきたわね。完璧にはまだ至っていないけれど」


穂乃果「はぁっ…はぁっ…、そう、ですか…」

絵里「あと、疲れがたたって笑顔がおざなりになっているわね。もっと笑うこと」

にこ「はい…」

絵里「じゃ、次はライブ本番と同じ体で…」

凛「あ、ちょっと待って…」

凛「ととと…」プシュー

穂乃果「…そんなに酷いの?筋肉痛」

凛「うん、ここ最近足が痛くて…」

にこ「さっきから何回目よ、クールダウン」

凛「ご、ごめんなさい…」

絵里「…今日は休む?練習に支障が出るなら…」

凛「や、やれますっ!足手まといにはなりませんからっ!」

穂乃果「明日にも痛みが治まらなかったら、本番に備えて明日は休もうね」

凛「うん…でも、今日は行けるにゃっ!さ、さぁ!ライブライブ!」

にこ「…ホントに平気なのかな」


凛(こんなところでへこたれてられないよ…!)

凛(痛みくらいガマンすれば平気!)

凛(もう4日後にはライブなんだ…!ここで休んでちゃ二人に遅れを取っちゃうよ…!)

凛(夢の舞台へはもう後一歩…!後一歩でたどり着くんだからっ…!!)




絵里「…足が、痛い…?」

絵里「いえ、まさか…まさかね」


絵里「…まだ、大丈夫なはず」

秋葉原


真姫☆「凛ー…?凛はどこー?」

真姫☆「…はぁ。いないわよね」


真姫☆(凛の最近の楽しみは朝からアキバに繰り出してジャンクパーツを漁ることなんだけど)

真姫☆(広い秋葉原から凛を探すのは無謀だったわね…)

真姫☆(見つけられたら二人でショッピングでも…と思ってたんだけど)

真姫☆(凛の携帯は着陸時の衝撃でぶっ壊れちゃって連絡の方法がない…)

真姫☆(…そもそも別世界の携帯がなんで使用できるのかは…考えないでおきましょう)


真姫☆「このままアキバをうろついていても仕方ないわよね…」

グゥゥゥ…

真姫☆「…う。お腹すいた」

真姫☆「もうそんな時間…。どこか適当な場所でお昼にでもしましょうか」



喫茶店


真姫☆「…もぐもぐ」

真姫☆「ふぅ、おいしかった。最近外食してなかったから新鮮ね」

真姫☆「さてと、…やることがなくなっちゃったわ」

真姫☆「あぁ…、どうしよう…」

真姫☆「…あ、そうだわ!いいこと思いついちゃった」

真姫☆「透明マントがあればA-RISEの練習にこっそり忍び込めるんじゃないかしら…!」

真姫☆「そして敵情視察…!してどうなるってわけでもないけど」

真姫☆「…まぁ、どんな曲をやるのか知っておいて損はないでしょ」

真姫☆「よし、決まりね。目標はUTXよ!」



UTX 多目的ホール



絵里「…それじゃ、一旦1時間ほどの休憩を取るわね。その間に昼食と水分補給。よろしくね」


穂乃果「はぁっ…、ふぅ…。疲れた…」

にこ「…身体に疲れが溜まってきてるわね…。少しの運動でかなり疲れるようになってきてる…」

穂乃果「その分気合を入れないと…、んぐっ…んぐっ…」

にこ「ご飯もいっぱい食べなきゃね!むふふ~…」カパッ

穂乃果「…うわ、多いね。よくそんなに入るなぁ…」

にこ「ご飯は栄養あるものをたっぷり食べないと身体が持たないって学んだのよ!あ、凛!凛も一緒に…」


凛「ふっ…く、うぅっ…」ギュッ ギュッ…


にこ「…凛。足、そんなに痛む?」

凛「へ、平気っ…!筋肉痛くらい我慢すれば大丈夫だもん!」

凛「マッサージで凝り固まった筋肉をほぐしてあげればすぐに…!」グイグイ…

穂乃果「…力任せにマッサージしても凝りはほぐれないよ」

穂乃果「手伝おうか?」

凛「い、いい…です。ちゃんとケータイで調べてやってるから平気だもん…!」

凛「よっ…たっ…」クニクニ…

穂乃果「…」

にこ「…凛がいいって言ってるならいいんじゃないの。大丈夫よ、あの凛だもん」

にこ「その代わり、明日は絶対休むのよ?一日休めばタフな凛のことだからすぐ良くなるわ!」

凛「えへへ…、ごめんね。そうするにゃ」


穂乃果「…本当に」

穂乃果「本当に筋肉痛なの…?凛ちゃん…」

穂乃果「…嫌な、予感がする」




絵里「はい、ワンツースリーフォー…」パンパン…


凛「ららら~…!」タンタタンッ


凛(痛いっ…、痛いっ…!!)

凛(でもこのくらいどうってことない!!前はもっと辛い思いだってしたんだから…!)

凛(そうだ…!忘れちゃえ…!忘れちゃうんだ…!!)

凛(疲れを忘れたように、この痛みだって忘れちゃえばなんてことないよっ…!!)

凛(そうすれば…立ち止まることなく前に進めるっ…!!)

凛(後一歩を、踏み出せるっ…!!!)

凛(一歩を…こうやって!!)


凛「はぁっ!」ダンッ




パキンッ

UTX学院


真姫☆「ふふふ~、さてさて…」

真姫☆「休日に学校に忍び込む…なんだか趣があるわよね」

真姫☆「さてと…アイドル専攻が練習しているホールまで行きましょうか」



多目的ホール前


真姫☆「よし、たどり着いたわ」

真姫☆「中ではどんな鬼畜なことが…」


グワンッ…!!


真姫☆「ッ…!!?」

真姫☆「あ、ぐぅっ…!!揺れがっ…!」

真姫☆「こんな、時に時空の揺れ…!う、ぐっ…立っていられない…」ヨロッ…


パサッ…


真姫☆「あ、マントが…。く、ぅっ…」

真姫☆「ううぅ…か、はぁっ…」

真姫☆「はぁ…はぁ…。だいぶ収まって、きた…」

真姫☆「全く…厄介すぎるわ…。しかし、こんな…ホールの前で寄りかかってるところなんて目撃されたら…」

真姫☆「また出待ちか何かと勘違いされるんじゃ…あの時優木あんじゅに出会ったみたいに今度はまた…」



英玲奈「…何、している?」



真姫☆「…」

真姫☆「…会っちゃったし」

英玲奈「お前は確か…西木野真姫?練習はどうした?そもそも今日は休日なのにどうしてここにいる?」

真姫☆「あ、その…実は…あ、うぅっ…」ヨロッ

英玲奈「っ…、大丈夫か?気分が悪いのか?」

真姫☆「…ごめんなさい。一過性のものだから気にしないで…」

英玲奈「そうか、ならいいが…いや良くない!なんでここにいるのか説明してもら…あ、いや今気分が悪いなら後ででも…」

真姫☆「色々と気を遣ってもらって申し訳ないわね…」

真姫☆(でもここにいる理由…どう説明したものかしら…)



「うぅっ…、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」



真姫☆・英玲奈「「っ!!?」」


英玲奈「何だっ…今の声…!?ホールの中から…!?」

真姫☆「今のっ…凛!?凛に何かあったんじゃ…!!」

真姫☆「凛っ!!」ダダッ

英玲奈「あ、おいお前…くっ、今は仕方ないか…」タタッ

多目的ホール


凛「ぎぃっ…!!?」


穂乃果「…何、今の音…」

にこ「なんか、パキンって聞こえなかった…?」


凛「うぅっ…」

凛「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


穂乃果・にこ・絵里「「「っ…!?」」」


凛「痛いっ…!!痛い痛いぃぃっ!!あああああぁぁぁっ!!!」

凛「ぐぎぃぃっ…、うぎゅううぅぅっ!!あ、ああぁぁぁぁっ…足があぁぁっ…」


にこ「り、凛っ…!?」

穂乃果「凛ちゃん…、ど、どうし…」


真姫☆「凛っ!!」バダンッ


絵里「ま、真姫っ…!?あなた、どうしてここに…」

真姫☆「話は後よ!凛…凛、どうしたの!?」

凛「痛いっ…!!いたいいぃぃぃ!!!」

穂乃果「わからない…急に足を押さえて痛がり出して…」

にこ「あ、足をくじいたんじゃ…!凛、保健室行きましょう!」

絵里「そうね…肩貸してあげるから、ひどくならないうちに…」


真姫☆「動かさないでっ!!」


絵里「っ…、どうして」

真姫☆「…捻挫かどうかまだわからないわ」

凛「ひぃっ…、ふひいぃぃぃっ…!!」

真姫☆「凛の痛がりようが尋常じゃない…。もしかしたら…」

真姫☆「凛、聞こえる?返事、できる?」

凛「西木野…さん?う、ぐぅっ…」

真姫☆「足のどこが痛いの?どっちの足?」

凛「ぎぃっ…、み、右足の…すねの、とこぉぉ…はぁっ…!はぁぁぁっ…」

穂乃果「脛…って、じゃあくじいたわけじゃない…?」

真姫☆「…足が赤黒く変色してる。内出血を起こしているんだわ」

真姫☆「と、なるとこれは…っく、なんて、こと…!」

にこ「ど、どうしたの…?凛、どうなったの…?」

真姫☆「にこちゃん!すぐに棒みたいなもの、持ってきて!なかったら傘でもいいから!」

にこ「えっ…?」

真姫☆「早くっ!!」

にこ「わ、わかったわ…」タタタッ…

穂乃果「…棒?どうするつもり…?」

真姫☆「足を固定するために使うの。凛は…」


真姫☆「…骨折しているわ」

絵里「っ…、嘘っ…!」

穂乃果「骨折っ…!?」

真姫☆「…多分、間違いない」


凛「う、うぅぅっ…!!」


穂乃果「そんな、どうして…?ただ普通に練習してただけなのに…」

絵里「…」

穂乃果「…でもそういえば、倒れる直前にパキンって音が聞こえたけど…あれが…?」

真姫☆「間違いないわね。凛の足の骨が折れる音…」

真姫☆「…折れた骨が中の肉を傷つけて内出血を起こしている…。何か冷やすものない?」

穂乃果「冷やすもの…。あっ、凛ちゃんが筋肉痛のために持ってきてたコールドスプレーが…」

真姫☆「それでいい。…あとガムテープとかもあると助かるんだけど」

穂乃果「さ、探してくるっ…!」タタッ…

真姫☆「…あとは…」ピポパッ

真姫☆「…あ、私。うん…え?あぁ…と、友達の携帯電話貸してもらったのよ。だから…」

真姫☆「それより…友達が骨折したの。病院に運びたいから救急車、学校まで送って欲しい」

真姫☆「…お願い。ありがとうパパ、愛してるわ。それじゃ…」ピッ

真姫☆「…電話番号も違ってるなんてね。流石に想定してなかったわ」

絵里「…凛を、どうするつもり」

真姫☆「聞いててわからなかったの?病院に…」


絵里「ダメよっ!!」


真姫☆「…なんですって?」

にこ「真姫ちゃん、傘っ…え、何…?」

絵里「ダメっ…絶対にダメッ!!」

絵里「凛を連れて行かないで!!今…今凛に抜けられたら困るのよっ!!」

真姫☆「なっ…何を言ってるのあなた!?」

絵里「怪我だろうが骨折だろうが関係ないわ…!凛が居なくなればA-RISEは…!A-RISEはっ…!!」

絵里「凛はどこにも行かせないッ…!誰にも渡さないんだからっ!!離れてっ!凛から離れなさいっ!!」ガッ

真姫☆「な、やめてっ…!動かしたら凛がっ…」

絵里「凛っ…!!凛ッ!!!」



スパシィィンッ!!



絵里「ぶっ…!」

ドテーンッ…!!


にこ「なっ…」


真姫☆「…」

真姫☆「…英玲奈、さん」



英玲奈「少し落ち着け、絢瀬」

絵里「え、れ、な…」

英玲奈「…」

絵里「え、英玲奈あぁぁぁっ!!」ガシィッ

英玲奈「落ち着けと言っているんだっ!!」

絵里「っ…」

英玲奈「今は西木野の判断に任せよう。本当に骨折なら…お前がどうこうできる問題じゃない」

絵里「でもっ…、でもぉっ…!!」

英玲奈「…少なくともこの痛がりようじゃ、…もうクリスマスのライブは無理だ」

絵里「っ…!」

英玲奈「今はおとなしく引け。…わかったな?」

絵里「…わかったわ」



にこ「…か、カッコイイ…。あの絵里をあんなふうにおとなしくさせるなんて…」

真姫☆「そうね…」

穂乃果「真姫ちゃん、ガムテープ…、…何かあったの?」

真姫☆「…いえ。じゃあとにかく、応急処置…」


真姫☆(傘を凛の足に固定させ、ガムテープでガチガチに縛り付ける)

真姫☆(むやみに足を動かせば骨が筋肉をどう傷つけるかわからない)

真姫☆(出血したところにはコールドスプレーを吹きかける。これでひとまずは…)


真姫☆「…凛、どう?痛い?」

凛「痛い…けど、さっきよりかは、マシかも…」

真姫☆「そう。よかった…」

真姫☆「…凛、筋肉痛だって言ってたけど…本当に筋肉痛なの?」

穂乃果「えっ…、わかんない…。凛ちゃんが自分で筋肉痛だって言ってただけだから…」

真姫☆「…じゃあ多分、そうじゃないんだわ。傷んでいたのは筋肉じゃなく、骨だったのよ」

にこ「えっ…それじゃあ…」

真姫☆「前々から兆候は出ていた…。多分骨に細かいヒビが入っていて…何かの衝撃で折れてしまったのね」

真姫☆「原因はおそらく、疲労の蓄積。それによる…疲労骨折」

凛「疲労、骨折…」

にこ「ど、どうなのそれ…?凛、どうなっちゃうの…?」

真姫☆「…そこまでは私もわからない。軽度か重度か…それによるわね」

穂乃果「…」

真姫☆「…そろそろ救急車が来る頃ね。私は凛についていくつもりだけど」

真姫☆「あなたたちは、どうする?」

穂乃果「えっ…」

にこ「…私は」

にこ「私もついていくわ!凛っ…、いいわよね?」

凛「せんぱ、い…」

穂乃果「…私も、行く。大切な仲間が怪我をしたんだもの…行くに決まってるよ」

真姫☆「…わかったわ」

絵里「なっ…あなたたちまでっ…!」

絵里「ふざけないでっ!残りなさいっ!!まだ昼なのよ!?練習はっ…!」

真姫☆「っ…あなたねぇっ!!どこまでっ…」

英玲奈「…絢瀬。大切な仲間の安否を心配するのは当然のことだ」

英玲奈「今から練習したところで、練習に身が入ると思うか?」

絵里「当たり前でしょうっ!誰かが散っていったところで気にしていたら、一番にはなれないっ!頂点には立てないのよ!!」

英玲奈「怪我と挫折は違う。それに、お前の目指しているものは…それでは頂点ではない」

英玲奈「ただの、孤独だよ」

絵里「ッ…!うる、さいぃっ…!!」

英玲奈「うるさくて結構。専攻生の健康の管理もできないお前に、頂点を獲るなど言えたことではない」

英玲奈「…この責任は、後々響いてくるぞ。覚悟しておけ」

絵里「…っ、ぐ、うぅっ…」

真姫☆「…ありがとう、英玲奈さん。絵里を宥めてくれて」

英玲奈「当然のことだ。あとは…私に任せてくれ。先生には事情を説明しておく。コイツのことも、含めてな」

絵里「…」

真姫☆「…えぇ。お願い」



救急車


真姫☆(救急車に3人も同乗するのはありえないんだけど、どうしてもとお願いしたらなんとか乗せてくれた)

真姫☆(事故時の状況説明や普段の素行を聞くためには一人くらいは必要だけど、普通はそんなにいらないしね)

真姫☆(心配そうに見守る穂乃果に、涙ながらに凛の手を握り締めるにこちゃん)

真姫☆(凛は汗ばんだ額でにこの必死な問いかけに答えていたけど、疲れが祟ったのか、やがて静かに眠りについた)

真姫☆(…私があのタイミングでUTXに来ていて助かった。絵里に任せていたらどうなってたことか…)

真姫☆(とにかく今私ができることは、凛の家族に連絡することと、そして…)

真姫☆(…花陽にも、知らせておかないと)



西木野総合病院


真姫☆「…ってこと、らしいです。お願いします」


穂乃果「…あ、西木野さん」

真姫☆「どうだった?そっちは」

にこ「色々と聞かれたわ。普段はどんなことをしてたのか、って…」

にこ「明らかに過労…ですって。知ってるわよ、そのくらい…」

真姫☆「…そうね」

穂乃果「凛ちゃん、治療にどれくらい…かかるのかな」

穂乃果「…ねぇ、西木野さん…。私たち…凛ちゃんと一緒に、スクールアイドル…できるの、かな…?」

にこ「穂乃果…」

穂乃果「嫌だよ…、あんなに頑張ってた凛ちゃんが…」

穂乃果「歌うことを楽しみにしていた凛ちゃんが、A-RISEになれないなんて…ここまできて、そんなの…」

穂乃果「嫌だよ…嫌だよ…う、うぅうぅっ…!!凛ちゃんっ…!!」

真姫☆「…私の口からは、何も言えないわ」

真姫☆「治療と診断をして、結果が出てから。…それまでは、どうとも」

穂乃果「うぅっ…、うぅぅぅっ…」

真姫☆(それから時間が過ぎて)

真姫☆(夕方頃になってから、凛の家族が駆けつけた。仕事を切り上げてやっと来られたらしい)

真姫☆(足にギプスと包帯を巻かれた凛は、病室で家族たちと話していた)

真姫☆(思ったより元気で、退院したら美味しいもの食べたい、だとか…そんな話をしていた)

真姫☆(家族が帰ったあとは、穂乃果とにこが)

真姫☆(これからのことと、クリスマスのライブのことについて)

真姫☆(…A-RISEは、二人でもライブを行うと結論が出たみたい。凛は不服だったけれど…それは仕方のないことでしょう)

真姫☆(あとはほんの少し会話をして…それから、帰り際に二人に凛のことを告げた)

真姫☆(二人にとっても凛にとっても残酷なことだったが、告げなければいけないことだった)

真姫☆(にこちゃんは目を伏せて、穂乃果は声を殺すように嗚咽をあげ、帰っていった)

真姫☆(…そして、面会時間が終わるほんの少し前に)

真姫☆(花陽が来た)



凛の病室


コンコン


凛「…どうぞ」


ガチャッ

花陽「…は、入るね」

真姫☆「…」


凛「なんだ、小泉さん。来たんだ」

花陽「そ、そりゃ…くるよ…。怪我したんだもん」

凛「…ただの骨折だよ。運動を抑えたらすぐ治るにゃ」

花陽「そ、そうだよね。あ、これ…お見舞い。大したものは買えなかったけど…」

凛「あ、凛の好きなカップラーメン!へぇ~…覚えてたんだ…」

花陽「うん!小さい頃、二人でよく食べたよね。覚えてるよ~」

凛「そっかー…。凛は覚えてないなぁ…」

花陽「そう?」

凛「うん…。忘れちゃったよもう…昔のことなんて」

花陽「…そう、なんだ」

凛「…、っ…!む、昔はもういいでしょ!重要なのはこれから、だにゃ!」

凛「ら、ライブは…ライブは出られなくなっちゃったけどでもっ…来年はっ…絶対に小泉さんを泣かせてやるんだもん!」

凛「だからその時まで覚悟しておくんだね!ふんっ!」

花陽「うん…待ってるから、だから凛ちゃんも…」


真姫☆「…ごめんなさい。花陽、その後は言わないで」


花陽「え…?」

真姫☆「凛、あなたに言わなくちゃいけないことがある。どうしても」

凛「…え、何?」

真姫☆「これ以上長引かせても、あなたが傷つくだけだから、だから…言うわね」



真姫☆「凛、あなたは…A-RISEにはなれない」

凛「へ…?」


真姫☆「…疲労骨折はただの骨折じゃないの。骨に小さいヒビが徐々に入って、ある日ほんの衝撃で砕ける骨折」

真姫☆「あなたの場合、それが…かなりひどい」

真姫☆「レントゲンで、あなたの骨に無数のヒビがあることがわかったわ。骨折した右足だけでなく、左足にも」

真姫☆「これら全てを完治するにはかなりの日数が必要になる」

花陽「かなりの日数って…どれくらいの…?」

真姫☆「…多分、全治に…3ヶ月くらい」

凛「3、ヶ月…。さ、3ヶ月なんでしょ…!?それじゃ治るのは3月じゃんっ…!」

凛「それからなら、まだA-RISEはやれるっ…!!全然大丈夫じゃんっ…」

真姫☆「…そして」

真姫☆「リハビリに半年以上」

凛「え…?」

真姫☆「知ってる?動かさない筋肉がどうなってしまうか」

真姫☆「3ヶ月も歩くことをしなければ…筋肉はやせ衰える。ダンスはもちろんのこと、走ることも飛ぶことも…歩くことすらできない」

真姫☆「その足を動かせるようになるまでの時間が、半年いるってことよ」

凛「…ウソ」

真姫☆「嘘じゃない」

真姫☆「半年のリハビリを終えたとして、それは普通に過ごすことのできる身体になるだけ」

真姫☆「今の…常人をはるかに凌駕するほどの運動能力は、もう宿っていないでしょう」

真姫☆「きっと、来年の1年生のダンサー専攻にすら、劣る運動能力になってると思う」

真姫☆「…それじゃもう、A-RISEは…できないわ」

凛「…ウソだ」

真姫☆「嘘じゃ、ない」

凛「ウソ…だよ」

凛「ウソって…言ってよ」

凛「だったら…だったら何のために凛は…いままで…」

凛「いままで…バカみたいに頑張ってきたの…?」

凛「ウソ、なんじゃないの…?ねぇ、ウソだって…ウソでしょう…?」

真姫☆「…嘘じゃ、ないのよ」

凛「…そう」

凛「そう、なんだ」

凛「…」

花陽「凛、ちゃん…」

真姫☆「…8時。もう面会時間が終わるわ」

真姫☆「帰るわよ、花陽。…お見舞いはまた、明日」

花陽「…う、うん…。凛ちゃん…あの、か、帰るね…」

花陽「バイバイ…」

凛「…」



凛「…そう、なんだ」

凛「アイドル…なれないん、だ…」

凛「は、はは…ははっ…ふ…、うぅぅっ…!!うぅぅぅぅぅぅぅっ…」

凛「く、くぅぅっ…!!う、ぐ、ぐぅぅっ…うああぁぁぁあぁ…、ああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁ…!!」

今日はここまで 大体ここまでで半分
明日はもう少し早めにできますように ほなな

おつです!

PV見てたら遅れたけど続き

帰り道


トコトコ…

花陽「…」

真姫☆「…」

花陽「…」

真姫☆「…花陽」

花陽「んっ…?な、何?」

真姫☆「…ごめんなさいね。せっかくお見舞いに来てくれたのに、凛の怪我の話で時間を消費してしまって」

真姫☆「本当はもっと話したいこともあったと思うのに…、気が利かなくて」

花陽「えっ…、あぁ…、うぅん。いいの…」

花陽「…凛ちゃんがもう…スクールアイドルできないって知らずに、色々余計なこと言っちゃう前に止めてくれて良かったと思う」

花陽「言ってたら、それが凛ちゃんの重荷になってたかもしれないから…ありがとう」

真姫☆「…うん」

花陽「…」

真姫☆「…」

真姫☆「…凛はね」

花陽「ん?」

真姫☆「凛は多分…いずれああなってしまう運命だったと思うの」

花陽「運命…?どういうこと?」

真姫☆「凛がアイドル専攻でバケモノ呼ばわりされてるって…知ってる?」

花陽「あ、あぁ…うん。一年生で二年生のすべての子を凌ぐほどのすごい体力の持ち主だから、って…」

真姫☆「うん。にこちゃんもそんな風に言ってた。それで…こうも言ってた」

真姫☆「いつか壊れてしまうんじゃないか、って」

花陽「…いつか、壊れて…」

真姫☆「これは私の推測に過ぎないんだけど」

真姫☆「…凛は特別体力に満ち溢れていたわけじゃなかった」

花陽「えっ…?でも…」

真姫☆「確かに常人以上ではあったかもしれないけど、それでも超人並みの体力は持ってなかった」

真姫☆「凛はおそらく…疲れを忘れたのよ」

花陽「忘れた…?」

真姫☆「えぇ。疲れという肉体からの抑制を、無視して運動し続けた」

真姫☆「アイドル専攻の厳しい練習体制に打ち勝つ為に、凛は…どこかでそういうリミッターを外してしまったの」

花陽「そ、そんな…そんなこと、できるの…?」

真姫☆「…わからない。でも、ランナーズハイのように肉体が限界を突破すれば普段以上の力を出すことができる、って事例もある」

真姫☆「凛はそれの常時型だった…と言えるかもしれないの。今回の検査で、なんとなくそう感じた」

真姫☆「…でなければ、あの肉体にかかった疲労…、既に倒れていてもおかしくない」

真姫☆「疲労は無視…忘れることができても、肉体は覚えている。限界を超えた疲労は徐々に凛の体を蝕んでいく」

真姫☆「そして今日ついに…骨を砕くほどの疲れが累積して、凛を襲ったってわけ」

花陽「…」

真姫☆「…凛の肉体の疲れは足だけじゃなくて、全身にまで及んでいる」

真姫☆「あともう少し運動を続けていれば凛は最悪…」

真姫☆「…っ」

花陽「…」

真姫☆「…まぁ、だからある意味では…今凛の足の骨が折れてくれたのは幸いでもあったってことよ」

花陽「そう…なの、かな…」

真姫☆「えぇ、そう。間違いないわ」

真姫☆「人間…生きてさえいればいずれやり直せるんだもの」

花陽「…やり直す」

真姫☆「そのために…花陽。あなたが支えになってあげて欲しい」

花陽「えっ…?」

真姫☆「今の凛は…とてつもなく深い傷を心に負ってしまっている」

真姫☆「今まで必死に紡いできた努力の成果を、一夜にして失ってしまったわけだから」

真姫☆「凛も…アイドル専攻で夢に破れた子のように…ダメになってしまうかもしれない」

花陽「…っ。そ、そう…だよね…!」

真姫☆「だから…そんな凛を救って。花陽」

花陽「わ、私が…?」

真姫☆「そう。あなたしかいない」

真姫☆「凛を誰よりも知っているのは…あなたでしょう?」

花陽「…う、うん…」

花陽「でも私は…今の凛ちゃんを…どれだけ理解できるか…」

真姫☆「…やる前から諦めちゃダメ。そんなに不安にならないで」

真姫☆「きっと…凛は昔の凛を忘れきってはいないわ」

花陽「え、ホント…?凛ちゃん、昔のことはもう忘れたって…」

真姫☆「人間ね、そう簡単に忘れられないものもあるのよ」

真姫☆「誰にも負けないために、疲れを忘れられたとしても」

真姫☆「大切な思い出を、そうそう忘れることなんてできない」

真姫☆「凛との思い出を一番持っているあなたなら…彼女の眠っている思い出を引き出して、思い出させることだってできるはず」

真姫☆「凛を助けてあげて。…花陽」

花陽「…」

花陽「…私が、凛ちゃんを…助ける…」

花陽「…っ!わかった…!」

花陽「凛ちゃんを深い闇から救い出して、前に進む希望を与える…!」

花陽「それは私にしかできないこと…なんだよね!だったら…やるっ!」

花陽「どれだけ拒絶されても、今度こそ…逃げたりしないから!」

真姫☆「…うん。その調子。あ、それにね…」

真姫☆「凛は…A-RISEができなくなったのは確かだけど」

真姫☆「…スクールアイドルができなくなった、までは言ってないわよ?」

花陽「え…、あっ!」

真姫☆「リハビリが終わって、動けるようになれば」

真姫☆「いつだってスクールアイドルを目指せる。それが…」

花陽「私の夢っ!私の…スクールアイドル!」

真姫☆「…そう」

花陽「そうだよっ…!凛ちゃんはまだアイドルになれるんだ…!」

花陽「絶対に諦めさせたりなんて…させないっ!」

希の家


ガチャッ


真姫☆「…ただいま」


希「おかえり。…お疲れ様」

凛「おかえりー」

真姫☆「…あなたは元気ね。凛」

凛「ぶー、何よー。元気じゃダメ?」

真姫☆「そういうこと言ってるわけじゃないわ。…ごめんなさい」

凛「うぇ…、真姫ちゃんいつもよりしおらしいにゃ…」

希「凛ちゃん、大怪我しちゃったわけやもんね。あ、こっちの世界のね」

真姫☆「…自分が情けないわ。これでも医者の娘で、多少は医療についてもかじってるはずなのに」

真姫☆「凛の身体に気づくことができなかったなんて。…もう少し私が早く気づけていれば」

真姫☆「絵里を、止めることができたなら…」

希「…えりちを止めたとしても、凛ちゃんは止まらんかったと思うよ」

希「強くなるために、必死で練習してそして…壊れていたと思う」

希「凛ちゃんの不調に気づけなかったのは…もう仕方のないことやん。自分を責めても詮無いことよ」

真姫☆「…」

凛「そ、そうだよー…。元気だしてよ真姫ちゃん…」

凛「真姫ちゃんが元気ないとみーんなしょんぼりしちゃうにゃ…。お願い…」

凛「あ!そうだ!クリニックが治ったら凛が怪我する前まで戻ればいいんじゃない?」

凛「そうすれば怪我を未然に防げるはず!うわー凛賢い」

真姫☆「できるの…?そんなこと…」

凛「うん!できるよ!…ただ時空壁がなければの話だけど」

真姫☆「…じゃあダメね。凛が怪我する直前に、時空振動の揺れを感じたわ。あれが時空壁生成の余波なんでしょ?」

凛「あぁ…そだね。真姫ちゃんが観測しちゃった時点でそれ以前の過去にはいけないにゃ…。残念」

真姫☆「…それがなくてもどちらにしろ、11月時点に戻ったところで凛の身体はボロボロ…。説得の仕方もわからないんじゃ意味がないわね…」

希「…よ、よくわからん話やね…。時空がどうとかとか…」

希「まぁ、今考えてもどうにもならないことならとりあえず置いておいて…真姫ちゃんも精神的に疲れきってるならご飯にしよう」

希「いざって時に動かせる身体を作っておかないと、それこそ後悔しちゃうからね!」

真姫☆「…そうね。うん、そういえばお腹もすいてるし…いただくわ、ご飯」

凛「うんうん!お腹すいたにゃー!」

真姫☆「…あ、それと凛」

凛「うん?何?」

真姫☆「携帯、直しておいてよ。連絡が取れないと不便だわ」

凛「あー…携帯ね。わかったにゃ。でもまだいじったことないからいつ直るか…」

真姫☆「なるべく早く。お願いね」

凛「了解にゃー」

翌日

12月21日 日曜日




UTX学院 多目的ホール前ロッカールーム


穂乃果「…」キガエキガエ


にこ「…おはよ」

穂乃果「おはよう、にこちゃん」

にこ「…もう、平気なの?」

穂乃果「…何が?」

にこ「昨日…ずっと泣いてたじゃない」

にこ「凛がもう…A-RISEできないって真姫ちゃんから聞いてから」

にこ「相当へこんでるって思ってたんだけど…もう大丈夫なのかなって」

穂乃果「…うん。もう心配ないよ。ごめんね、不安にさせて」

にこ「い、いや別に…不安とかじゃなくてただの…気遣いだし」

穂乃果「大丈夫。涙は全部昨日で出し尽くしたから」

穂乃果「こんなところで…立ち止まるわけにはいかない」

穂乃果「『たかがメンバーが一人欠けたくらい』で、私までダメになってたら…」

穂乃果「…凛ちゃんに、怒られるよ」

にこ「…えぇ、そうよね」

穂乃果「クリスマスのライブは二人でやろう。来年のA-RISEは、まだどうなるかはわからないけど」

穂乃果「とにかく今を全力でやり抜く。それが…アイドルだもん」

にこ「ふふ…かっこいいこと言うじゃない。さすがA-RISEのリーダーね」

穂乃果「…いつの間にリーダーに」

にこ「にこよりずっと相応しいわよ。…それにしても」

にこ「今日…絵里、来てないのよね」

穂乃果「…あぁ、そういえば」

にこ「凛の一件、英玲奈さんが学校に報告しておく、って言ってたからもしかして…」

穂乃果「…そうかもしれないね。だとすると…指導は誰がするんだろう」

にこ「今までは絵里と、絵里のお抱えの2年生がやってたけど…」

穂乃果「絵里先輩が指導から外されたら、その2年生も指導の権利は失われるはずだし…」

にこ「今日は自主練習…?」

多目的ホール


にこ「な、な…なぁぁぁっ…!!」

穂乃果「…まさか、そんな…」



「…えー、ゴホン」

「今日より、指導係代行としてあなたたちの世話をすることになりましたー…」

ツバサ「…現、A-RISEよ。よろしくね」



「「っ…!」」

「「わああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」」



英玲奈「…静かに!」


シーン…


ツバサ「…ふぅ。急にそうなったらまぁ…驚くわよね」

あんじゅ「疑問質問もあるだろうけど、今はおとなしくしててねー」

英玲奈「…皆も知っていると思うが、昨日ここで怪我をした生徒がいる」

英玲奈「原因はその生徒の不注意…ではなく、明らかに監督不行届の結果と言える」

英玲奈「私たちはこの結果を受け入れ、…現在の指導方法は誤りであったと結論を出し、先生とも話し合った結果…」

あんじゅ「今までの指導を行っていた絢瀬さんには、一度お休みを取ってもらうことになりました」

英玲奈「教師たちも良い結果さえ出せれば過程を見過ごす、というスタンスで今までアイドル専攻を甘く見ていたようだが」

英玲奈「それを続けていたゆえに、ついに大怪我を負う生徒まで出てしまった」

ツバサ「一度抜本的にアイドル専攻を変えていかなきゃいけない…ってことになったんだけど」

あんじゅ「それをするのは誰か…ってなった挙句、それが見つかるまで私たちがあなたたちの指導をすることになっちゃったの」

ツバサ「まぁ、こっちも忙しいから交代制ではあるけどね。これからよろしく、有望なアイドル専攻の子たち」



にこ「…す、すごい…!嘘みたい…!まさか、A-RISEが私たちに指導を…!?」

穂乃果「私たちじゃなくて、多分…A-RISE候補生を重点的に教育するんだろうけどね」

にこ「う、うぅっ…!今なら下位落ちしてもいい…!」

穂乃果「変なこと言わないの…」


ツバサ「…おはよう、穂乃果、にこ」


穂乃果「あっ…ツバサさん!おはようございます!」

にこ「おお、お、おはようございますっ!!こんなところで話せるなんて…!!感激ぃぃっ…!」

ツバサ「もう、何言ってるの。いつもライブ前は気合入れ合ってたじゃない」

にこ「そ、そうですけど」

穂乃果「…でも、どうしてわざわざA-RISEの皆さんが直接指導を…?」

ツバサ「昨日あれから、私たちと…絵里も含めて話し合ったのよ」

ツバサ「無理な練習が祟って大怪我人を出したことについて、色々とね」

ツバサ「特に英玲奈が…今までのストレスを晴らすかのように絵里に強く当たってたけど」

ツバサ「でもその状況に今まで不干渉すぎた私たちにも責任があるんじゃないか、ってことになって」

ツバサ「とりあえず、適任者を探し出せるまで、私たちが交代制でやろうってなったの。…まぁ、一種の罰ね」

穂乃果「そうだったんですか…」

ツバサ「中には…この状況を楽しんでる子もいるみたいだけど」



あんじゅ「んー…全然ダメダメね。なってない!」

専攻生A「ご、ごめんなさいぃぃ…えへへ…」

あんじゅ「もう、笑顔だけは合格ね!もう少し引き締まったら満点だけど!」



にこ「あぁ…」

穂乃果「あんじゅさん、後輩のお友達を欲しがってましたもんね…」

ツバサ「後は…英玲奈も英玲奈で、意外と…」



英玲奈「もっとシャキっとする!気の抜けた姿勢はだらしなく見えるだけだ!」

専攻生B「わかりましたぁぁっ…!!」ピシッ

英玲奈「うん、やればできるな。偉いぞ」

専攻生「あ、ありがとうございますぅぅぅ…」ヘナッ

英玲奈「気を緩めるなぁぁぁっ!!」ビシッ



ツバサ「…楽しそうだけど」

にこ「指導される側もとっても嬉しそうだし」

穂乃果「それはまぁ…このアイドル専攻でA-RISEのファンじゃない子なんていないし」

穂乃果「その憧れの現A-RISEに直接指導される、なんて…まさしく夢のような出来事だろうからね」

ツバサ「今日は初日ってこともあるし、私たち全員でお相手しようと思うの」

にこ「ってことは、ツバサ様は私たちを…!!」

ツバサ「うん。見させてもらうわね」

にこ「い、いやったああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

穂乃果「ありがとうございます。ツバサさんの技術を吸収できれば、心強いです」

ツバサ「ふふふ、私なんて大したことないわよ。…あ、それより」

ツバサ「絵里が指導を外されたことで、あなたたちと彼女たち…C☆cuteとの契約も破棄されたわ」

穂乃果「…こちらが勝てば、彼女らの解散…ですか」

ツバサ「えぇ。もうそれはナシってこと。これは決定事項よ。あちらにも伝えておいた」

ツバサ「…だから今度こそ、心おきなく…C☆cuteを叩き潰してあげてちょうだい」

ツバサ「代々受け継がれてきたA-RISEの称号を超えるなんて、簡単には許されないってことを教えてあげるの。いい?」

にこ「…っ!はいっ!!」

穂乃果「凛ちゃんの想いも受け継いで…絶対に勝ちますっ!!」

ツバサ「ふふっ、よろしい」

ツバサ「さぁ、行くわよ…練習開始!!」

神田明神


希「…ふぅん。そっか…」


海未「…希さん?どうしたんですか、携帯を眺めて…」

真姫「メール?だれから?」


希「…うぅん、なんでもない。ただのメルマガやよ」サッ

希「さ、練習練習!油断してたらA-RISEに足元すくわれちゃうよ?」

ことり「そ、そうだよ…!いくら凛ちゃんが怪我して出られないからって…」

海未「負けたら解散、は変わりませんからね…。引き締まっていきましょう!」

花陽「う、うんっ…!!」



希「…今はこれでいい。適度な緊張感も必要やからね」

希「それより、あっちは…大丈夫かな」





西木野総合病院 凛の病室



凛「…」


コンコン


凛「…」


真姫☆「…凛、入るわよ」ガチャッ


凛「…西木野、さん…」


真姫☆「聞いたんだけど、昨日の夜から何も食べてないらしいじゃない」

真姫☆「…食べないと、動ける身体もすぐ動かなくなるわ。復帰に時間もかかる」

真姫☆「美味しくないかもしれないけど、病院食は栄養も豊富で…」


凛「…るさい…」

真姫☆「え?」

凛「うるさいなぁぁっ!!西木野さんは関係ないでしょっ!?」

凛「凛の身体がどうなろうと、凛の勝手じゃないっ!!」

真姫☆「…そうじゃない。このままだとあなたは死ぬのよ?死んでもらっちゃ困るの」

凛「死んだからなんなの!?動かなくなるから何っ!?動いたってA-RISEはできやしないのにっ!動く意味なんてない!!」

凛「復帰って…A-RISEにはもうなれないのに、関係ないよっ!!」

真姫☆「関係なくない!まだA-RISEじゃない、他のスクールアイドルって道も残されてるのよっ!?生きてさえいれば…」

凛「一番以外意味なんかないんだよぉぉっ!!それ以外は…クズなんだからっ…!!」

真姫☆「その考え方は捨てなさいっ!あなたを悪いようにしかしないから!!」

凛「うるさいっ…!うるさぁぁぁいっ!!出てってよ!凛の病室から出てって!!」

真姫☆「っ…、わかったわ。ただご飯だけはちゃんと食べて。いざって時に動ける身体を作るためにね」


ガチャッ… バタン


凛「…どうだっていいんだ…。もう…どうだって…」

凛の病室の前


真姫☆「…」

真姫☆「…やっぱり私じゃ、ダメかもね」

真姫☆「諦めるな、って人に言っておいてアレだけど…あまり刺激するより、ここは…」

真姫☆「…花陽に任せるのが、得策かも知れない」

真姫☆「今は私にできることをしておくべき…かしらね」


ピピピ… プルルルル…

ガチャッ

真姫☆「あ、もしもし…」

親衛隊A『ん?あ、西木野さん?どうしたの?』

真姫☆「いえ、そちらの進捗はどうなのかな、って思って」

真姫☆「滞ってるようなら手伝いに…」

親衛隊A『それがねーっ!衣装、やっと全員分できたの!』

親衛隊A『今からみんなで打ち上げに行こうって話してたんだけど、西木野さんも来る?』

真姫☆「…うぅん、忙しくないのならいいわ。衣装作り、手伝ってくれてありがとうね」

親衛隊A『これくらい簡単だって!来ないのは残念だけど…ま、忙しいもんね!』

親衛隊A『それじゃ、花陽にもよろしく言っておいて!またね~』

ピッ

真姫☆「…」

真姫☆「…パモ部はどうかしら」ペポパ…

ガチャッ

パモ部部長『ういっす!ん?真姫ちゃんかしらー?』

真姫☆「うん。そっちの状況はどうかな、って」

パモ部部長『状況?あ、もしかして垂れ幕のこと?』

パモ部部長『あれは業者に発注してて今やれることは特にないよー?明後日間に合うことをただ祈るだけですわ』

真姫☆「…あぁ、そうなのね。そういえば明後日屋上に…って言ってたけど、いつもは屋上、閉鎖されてるはずじゃ…」

パモ部部長『あー、それに関しては大丈夫!ちゃんと先生に行ってその日は開放してもらうことにしたから』

パモ部部長『ただいつ来るかはっきりとはわからないから、ずっと開けっ放しになってるんだよね。ま、どうでもいいけど』

真姫☆「あぁ…開放されてるんだ。えっと…私がその日手伝えることとかって、ない?」

パモ部部長『んー?垂れ幕は業者の人とウチの若い衆…ってアタシが一番若いんだけど、まぁ、その人たちに運んでもらうから』

パモ部部長『真姫ちゃんは本番前日なんだし、練習か身体休めるのに集中してたら?』

真姫☆「…あ、あぁ…そうね。ありがと、そうさせてもらうわ」

パモ部部長『要件はそれだけー?』

真姫☆「あ、えっと…えぇ、それだけ」

パモ部部長『おっけ。真姫ちゃんも練習ガンバッテねー。ほななー』ピッ

真姫☆「…」

真姫☆「…やることがない」

真姫☆「また手持ち無沙汰…!ぬおぉぉぉぉ…!」

真姫☆「…一人で作曲でもしてましょう」

夕方

神田明神


希「…ふぅ。ダンスはもうほぼ完璧、違うかな?」

ことり「うん!後は歌…だけど」

海未「神田明神で大声は出せませんし、休日に学校は使えませんから…」

真姫「…今からカラオケでも行く?」

花陽「い、今から…」

海未「そうですね。歌の方はカラオケに行って合わせて…」

花陽「ごめんなさい!私…それには行けない」

ことり「えっ…?あ…」

真姫「星空凛さん…のことよね?」

花陽「…うん。今は私が、凛ちゃんの支えになってあげないといけないから」

花陽「歌の練習は、家でなんとか頑張るから今は…」

希「うん、行ってき。誰も文句は言わんよ」

ことり「今から行っても1、2時間しか喋られないんだもんね…。悩む前にさっさと行っちゃえ!」

海未「となるとライブを合わせられるのは明日が最後…少々キツいですが、…まぁ、なんとかなるでしょう」

真姫「頑張ってね、花陽」

花陽「…うんっ!!」



西木野総合病院 凛の病室


コンコン

凛「…」ペラ…ペラ…


花陽「凛ちゃん…?いる?入るよ…?」ガチャッ

花陽「あ、いた…。読書中?ごめんね、邪魔して…」


凛「…」パタンッ… スッ


花陽「…あの、凛ちゃん?き、聞こえてる?」


凛「…なんで、来たの」

花陽「えっ…、なんで、って…」

凛「凛をバカにしに来たの…!?」

凛「こんな身体になってアイドルができなくなった凛を嘲笑いに来たの!?」

凛「あはっ…さすがはクズの小泉さんだ!嫌がらせに容赦ないよね!」

凛「クズは帰ってよ!目障りだからさぁぁっ!!帰ってってば!!」

花陽「っ…!!」

花陽「…」

凛「…帰ってよ」

花陽「…」


(花陽「わかった…今日は、帰るね…」)


花陽「…ッ!うぅん…違うっ!」

花陽「帰らないっ…!凛ちゃんに、前に進む勇気を与えるまでは…!」

凛「はぁ…?」

花陽「り、凛ちゃんっ!お腹すいてるでしょ!ほら、カップラーメン!」ヌッ

凛「…なにそれ、いらない」

花陽「いらなくないよ!あ、昨日渡したやつもまだ食べてない…」

花陽「ね、一緒に食べよ?私も練習でクタクタでお腹すいてるから」

凛「すいてないから、いらない」

花陽「…じゃあ、私がお腹すいたから、食べるね」

花陽「あ、ちょうどいいところに電子ケトル。お水ついでこよ」テコテコ…

凛「…」


花陽「ふんふんふ~ん…」コポコポ…

凛「…」

花陽「はぁぁ~…いい匂い…。この塩とんこつラーメン、ついついお米が食べたくなる味だよね~」

凛「…ウザい。どっかいってよっ…!」

凛「食べるんならここじゃなくてもできるでしょ!とっとと帰ってってば!」

花陽「私は、凛ちゃんと一緒にラーメンが食べたいの。凛ちゃんも食べたいよね?」

凛「ば、バカ言わないでよっ!食べたくなんてっ…」


グギュルルルルルル~…


凛「ー…ッ!!」

花陽「…ぷふっ」

凛「笑うなっ!!」

花陽「ご、ごめんごめんっ…。ほら、お湯、ふたり分あるから」

花陽「凛ちゃんも、食べよ?」

凛「…」

凛「…食べる」

花陽「うんっ」


凛「ずるるるっ…もぐもぐ…」

花陽「はぁぁぁぁ~…美味しいねぇ…」

凛「…うん、美味しい」

花陽「ご飯が欲しくなっちゃうよねぇ…」

凛「…ご飯なら、もう少しで病院食が来るから」

花陽「えっ!あ、そっか…。ご飯前なのに凛ちゃん、ラーメン食べちゃマズかったかな…」

凛「いらないから、ご飯食べていいよ」

花陽「え、ダメだよ~…。ちゃんとご飯食べないと、骨がくっつかないんだよ…」

凛「もう、いいんだ…。くっつかなくても…」

花陽「ど、どうして…」

凛「…治っても、もうA-RISEにはなれない。それじゃ、やる意味なんて…ないよ」

花陽「そんな…」

凛「…ずるずる…もぐもぐ…」

花陽「…」

花陽「…意味、ない…って」

花陽「じゃあ凛ちゃんは、何のためにアイドル、やろうとしてたの…?」

凛「…何のために?フンッ、一番になるために決まってるじゃん」

花陽「本当に、それだけ?」

凛「え…」

花陽「一番になるためだけに、アイドルをやってたの?」

花陽「違うよ…、それなら凛ちゃんの得意な陸上競技の方が、ずっと簡単に一番になれてたかもしれないのに」

花陽「凛ちゃんは、もっと他にやりたいこと、あったんじゃないの…?」

凛「凛の、やりたいこと…?」

花陽「うん…。アイドルでないと、いけなかったこと」

凛「…」

凛「やりたい、こと…」


凛「歌…」


花陽「うん?」

凛「…歌いたかった。歌を」

凛「ライブで、凛の歌を披露して…拍手をもらいたかった」

花陽「それが、凛ちゃんのやりたかったこと…?」

凛「…わからない」

花陽「わからない?」

凛「だって、どうしてっ…どうしてそう思ったかわからないんだもん…っ」

凛「でも確かに、歌を歌いたいって気持ちがあって…それで、アイドルをやりたくて…」

凛「一番になって、いっぱいの人から、大きな拍手をもらいたいって思ってて…」

凛「…それが、凛の夢だった」

花陽「凛ちゃん…」

凛「っ…!ど、どうしてこんなこと小泉さんに話さないといけないのっ!!?」

凛「もう、関係ないんだっ…!A-RISEになれない今は、もう…万雷の拍手なんて、夢のまた夢…!」

凛「凛の足の骨と同時に、壊れちゃったんだからっ…!」

花陽「…」

花陽「…そんなこと、ないよ」

凛「へ…?」

花陽「それが、凛ちゃんの本当の気持ちなら…凛ちゃんはもう一度、スクールアイドルになれる」

花陽「絶対に、…絶対に」

凛「なっ…」

凛「何いい加減なこと言ってるの!もう無理なんだって!できっこないっ!!やりたくもないっ!!」

凛「一番になって、一番大きな拍手をもらえないと…結局、侘しいだけじゃんっ…!」

凛「惨めな気持ちに、なるだけ…!それなら、そんな拍手なら、いらなっ…」

花陽「凛ちゃんっ!!」

凛「っ…」

花陽「…私、知ってるんだ」

花陽「一生懸命、心を込めて歌った歌なら、たった一人の拍手であっても」

花陽「すごく、すごく…嬉しいってこと」

凛「え…」

凛「何を根拠にそんなこと…」

花陽「私がそうだったから」

花陽「…私が、アイドルを本気で目指す原動力になったのが、たった一人の拍手、だったから」

凛「…」

花陽「凛ちゃんも知ってるでしょ…?小学校の頃の私」

花陽「運動も満足に出来なくて、みんなからおいてけぼりのどんくさい子だった私…」

花陽「そんな私でも、こうして…凛ちゃんに追いつけるほどのアイドルになれたんだよっ!」

花陽「凛ちゃんなら、ちょっとくらい動けなくたって…すぐにみんなを追い抜けるほどのすごいアイドルになれるよ!」

花陽「凛ちゃん、私よりずっとずっと頑張ってたじゃない!」

花陽「だからっ…こんなところで諦めちゃ、ダメだよっ…!!」

凛「…」

花陽「凛ちゃん…」


花陽(必死に説得をしてみても、凛ちゃんの沈んだ顔が明るくなることはありません…)

花陽(でも、お願い…気づいて凛ちゃん)

花陽(何度挫折したって、いくらだってやり直せるんだってこと…!)


花陽「ほ、ほら…リハビリが完了して、動けるようになるのは来年の9月くらいでしょ?」

花陽「それなら今年の私たちと状況は同じだよ!十分スクールアイドルの頂点は目指せるんだよ!」

花陽「そのために…少しでも早く動ける身体を作らないと!」

凛「…動ける、身体…」

花陽「そう!一歩前に踏み出せる身体…!今は辛いかもしれないけど、でも諦めるなんて勿体ないから…!」

花陽「だからたくさん栄養のあるもの食べて、早く骨がくっつくように努力して…それから、未来の夢をイメージするの!」

花陽「私にはわかるよっ…!来年の今頃、凛ちゃんは…私たちと同じステージで、一緒に踊ってるって!」

凛「一緒に…踊る…」

花陽「ねぇ…、やり直そう!一からのスタートだって、凛ちゃんなら…絶対にできるはずだよっ!とってもすごいアイドル!」

花陽「一人の拍手が、大勢の拍手に変わるまで…私も凛ちゃんに付き添うから…だから…、ねぇ…」

凛「…」

花陽「凛ちゃんっ…!!」

凛「…」


花陽(やっぱり、私の説得じゃ、ダメだったのかなぁ…?)

花陽(私の想いは、凛ちゃんには届かなかったのかな…)

花陽(…うぅんっ…!私も、諦めちゃダメなんだ…!)

花陽(届いてっ…!届けっ!私の…心っ…!!)



凛「…ふ」

花陽「え…?」

花陽(凛ちゃんの口元が、微かに動いたような…)

花陽(もしかして…笑った…?)

凛「…そう、だね」

凛「何もしなければ…始まらない、か…」

花陽「り、凛ちゃんっ…!」

凛「…凛も、このままはイヤだ」

凛「動けないまま…成り行きを見守るだけなんて…イヤ」

凛「…小泉さんの言うとおりだね。ただ諦めて、全てを投げ出してちゃ…ダメなんだって」

凛「ありがと。ちょっと、希望が見えたかも」

花陽「ほ、ホント…っ!?凛、ちゃんっ…!!」

凛「うん。少なくとも、ここで塞ぎ込んでるよりかは…前向きな選択だと思う」

花陽「じ、じゃあ…!」

凛「…約束だよ?」

花陽「え、約束…って?」

凛「同じステージで、一緒に踊る約束」

凛「凛も、イメージしたから」

凛「…かよちんも、約束ね」

花陽「…っ!」

花陽「う、うんっ!!約束っ!絶対に一緒にライブしよう!指きりげんまんだよっ!!」ギュッギュッ

凛「あははっ…痛いよかよちーんっ!あはははははっ!」

花陽「あはっ…、あははははっ…!!うぅっ…凛ちゃぁぁんっ…!」

凛「えへへ…」


花陽(届いてくれた)

花陽(私の、必死な気持ち)

花陽(少しだけでも、凛ちゃんに夢を、希望を…笑顔を与えられたのかな)

花陽(今まで、別の世界で生きてきた凛ちゃんに、私の世界から、明るい光を分け与えることができたのかな)

花陽(これから作る、新しい凛ちゃんの居場所を、…凛ちゃんにとっての、理想郷にすることが…)

花陽(…これからの、私の夢になりそうです)



花陽「はい、あーん」

凛「あーん…もぐっ…。もぐもぐ…って手は怪我してないんだから、一人でも食べられるって!」

花陽「あ、ごめん…」

凛「うぅん。これもかよちんの気遣いなんだねー。ちょっぴり昔のこと、思い出したよ」

凛「かよちん、ずっと、ごめんごめんばっかりだったのも、思い出したにゃー」

花陽「あぅ…」

凛「でもそんなかよちんだったから…凛も、友達になれたのかも」

花陽「凛、ちゃん…」

凛「…」

凛「ねぇ、かよちん…。今まで、ひどいこと、いっぱいいっぱい言ってきて、こんなこと言うのも…変な話だけど」

凛「ちょっとだけでも…凛と、友達になってくれる?」

花陽「っ…!も、もちろんだよっ!ちょっとなんて言わず、ずーっと友達だよっ!!うぅん、私の中ではずっと友達だったもん!」

凛「ホント?えへ…勇気を出して言ってみるものだねー…」

凛「これもかよちんの与えてくれた一歩前へ踏み出せる勇気のおかげだにゃ!」

花陽「うんっ…!うんっ!」

花陽(それから凛ちゃんと、面会時間が過ぎるまでいろんな、他愛もない話を続けた)

花陽(それは途方もなく久しぶりの出来事で、話しているうちに何度も涙が出そうになって)

花陽(でも、我慢した)

花陽(こんなところで泣いたら、また凛ちゃんがうろたえちゃうかも知れないもんね)

花陽(また、「ごめんね」って口をついて出そうになっちゃうもん)

花陽(今は、そう…ごめんね、より)


花陽「…ありがとう。凛ちゃん」

凛「…ん?何が?」

花陽「うぅん、なんでも♪…あ、そろそろ帰らないと」

凛「えー、もうそんな時間!?もっと話したーいー!」

花陽「えへへ…ダメだよ。明日も来るから、今日はまたね」

凛「ぶーぶー!…て、あはは…今日の凛、ちょっと変かも」

凛「怪我しちゃって切なくて甘えんぼさんになってるのかな?」

凛「色々吹っ切れちゃってかよちんにべったりしちゃってるんだー…。えへへ…」

花陽「そうかも知れないね。あ、でも…明日は学校終わりだから、ちょっと遅くなっちゃうかも…」

凛「…そっか。でも仕方ないよね」

凛「少しでも会えたら凛はそれでいいよ。バイバイ、かよちん」

花陽「うん、バイバイ」

凛「…あ、その前に」

花陽「ん、何?」

凛「おしっこ付き合って」

花陽「…え」



凛「よいしょっ…よいしょっ…」

花陽「まだ松葉杖で移動するの、慣れてないもんね…」

凛「明日…暇な時間練習しとかないと…」

花陽「ま、まだそんなに動いちゃダメなんじゃない…?」

凛「平気平気!っと…、着いた。じゃあしてくるにゃー。ありがと、先帰ってていいよ」

花陽「え、ダメだよ。帰りどうするの?」

凛「でも、もう面会時間…」

花陽「少しくらい看護師さんも許してくれるって。凛ちゃんの用が終わるまで、待ってるから」

凛「へへ…、じゃあお言葉に甘えて。かよちんは優しいねー」

花陽「ふふ、どういたしまして」



凛「…う、っと…」ドサッ

凛「ふぅ…疲れた。ほんの少しの距離を移動するだけで疲れるねー…」

花陽「少しずつ慣れていこ。私も練習、付き合うから」

凛「うん、そうするね。…じゃ、今度こそバイバイ」

花陽「うん、またね。凛ちゃん」

凛「またねー!」

西木野総合病院前


花陽「ふふふ…」

花陽「凛ちゃん、元気になってくれてよかった…!」

花陽「あ、ここから凛ちゃんの病室が見える…おーい、凛ちゃーん!」


凛「…あ!かよちーん!また明日ー!」


花陽「うん、また明日ねー!…ふふ」

花陽「ふ…ふぇっくちゅっ!!…うぅ…外は寒い…。早く帰ろう…」トボトボ…




凛「…また、明日」

凛「一緒に、ステージで踊る…イメージか」

凛「夢みたいな話だけど、でも…きっと叶うよね…」

凛「今のままなんて、イヤだから…」

凛「…」

凛「…よし!今からちょっとでも歌う練習しておこ!でも夜だから、小さい声で…」

凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」




翌日 12月22日 月曜日


早朝

多目的ホール


ダンッ ダダンッ ピタッ


にこ「…はぁ。寂しいわね…」

にこ「凛はいないし、穂乃果は生徒会長の仕事だし…」

にこ「…!集中集中!昨日ツバサ様から教わったダンスのノウハウ!活かしきるんだから!」

にこ「後は…嫌いな自分を嫌いで居続けるコツもね!」

にこ「ッハ!ちびっちょい身体して!そんなミニサイズのボディを人様に晒して恥ずかしくないわけ!?」ビシィッ

にこ「そうよね!恥ずかしいに決まってるわ!でも、そんな恥ずかしい身体を可愛いって思ってもらえるように頑張るのよ!私!」

にこ「…ふっ、一人のホールでアホみたい…」

あんじゅ「聞いてたわよー?」

にこ「あんぎゃああぁぁぁぁっ!!?あ、あ、あんじゅぅっ…!?」

あんじゅ「むふふふ…にこちゃんってばツバサちゃんみたいな真似して…。可愛いんだから!」モギュッ

にこ「ふひええぇぇぇぇぇっ!!そっちも練習中じゃ…あはぁぁぁでも幸せぇぇぇぇ…!」

あんじゅ「今日は英玲奈もツバサちゃんも用事で朝来れないのー。だからヒマー」

にこ「こ、こっちと状況が似てるわね…」

あんじゅ「だからこうして後輩を弄って遊ぶことに決めたの。もにゅもにゅ」

にこ「ひょっ…ひゃめ…ほっぺはふにふにやめぇぇ…」




校門前


「おはようございまーす!」「おはようございます!」



穂乃果「おはようございます」

生徒会役員B「もう、会長。明後日はライブ本番なんでしょ?会長職なんてサボって練習行ったほうがいいんじゃないの?」

生徒会役員A「せ、先輩の言うとおりです!律儀なのはいいことですが、こんな日にまで貴重な時間を…」

穂乃果「…いいの。規律には従わないといけないし。私が生徒会長である以上、健康であれば職務を放棄することはできないよ」

穂乃果「それに…」

生徒会役員A「それに?」

穂乃果「…うぅん、なんでもない。ほら、無駄口叩いてないで、挨拶挨拶。おはようございます!」

生徒会役員B「はぁ…会長がいいって言うならいいんだけど。真面目っていうか、融通が利かないっていうか」

生徒会役員A「それが会長のいいところですよ、ね、会長?」

穂乃果「…無駄口」

生徒会役員A・B「「おはようございます!!」」

穂乃果「…ふぅ」


穂乃果(…それに、今日ここへ来たのは)

穂乃果(彼女が、学校へ来るか…それを確かめるためでもある)

穂乃果(彼女の持てる権力の全てを奪われた、絵里さん)

穂乃果(…どういう心境なんだろう)

穂乃果「おはようございます」

女生徒「おはようございます!」


キャー!! ホノカサントアイサツシター!!



穂乃果「…」

生徒会役員A「あはは…最近は前にも増して人気ですね…」

生徒会役員B「あっちのスクールアイドルのおかげで学校中賑わってるからねー」

穂乃果「…こう挨拶するたびに盛り上がられるのも、少し疲れるよ」

生徒会役員A「いいじゃないですかー。人気な証拠ですしー」

穂乃果「まぁ悪い気は…、…っ!」ダッ

生徒会役員B「えっ…どこ行くんだよ!?」

穂乃果「ごめん、ちょっと…!」


タッタッタッ…

穂乃果「…おはようございますっ…!」

穂乃果「…絵里さん」


絵里「…」


穂乃果「…えっと」

穂乃果「元気…ですか?その…昨日は…」

絵里「…」

穂乃果「絵里、さん…。…指導の件は、色々あったとは言え…人間の限界を鑑みなかったあなたの…」

絵里「…」

穂乃果「…絵里さん?」

絵里「…ごめんなさい」

穂乃果「え…?」

絵里「ごめんなさい…ごめんなさい…」ブツブツ…

絵里「…ごめん、なさい…」トボトボ…

穂乃果「え、ちょっと…」

絵里「ごめんなさい、ごめんなさい…」

絵里「私は成し得なかった…私にはできなかった…」

絵里「何もかもが狂ってしまった…すべて、終わってしまった…」

絵里「あぁ…ごめんなさい…何もできなくて…ごめんなさい…ごめんなさい…」

絵里「私の3年間は…無意味、だった…」トボトボ…

穂乃果「…ぁ」

穂乃果「…」



穂乃果(どこか遠くを見るような、精気の抜けた瞳で)

穂乃果(目の下にドス黒い隈を蓄えた、やつれた面持ちで)

穂乃果(うわ言のように謝罪の言葉を呟く、かつての憧れを)

穂乃果(ただ黙って見送るしか、私にはできなかった)

昼休み 食堂


希「それホント?」

花陽「…はい。凛ちゃん、少しは元気になってくれて…」

ことり「よ、よかったねぇぇ…!うぅぅ…!」

海未「何も泣くことは…しかし、花陽の熱い説得が星空さんに伝わった、ということでしょう」

海未「さすが、リーダー…ですね」

花陽「り、リーダーはやめてよぉぉ…」

真姫「一緒に踊る…それって星空さんを、将来的にC☆cuteのメンバーにするってこと?」

花陽「ん?んー…それでもいいし、あえて別のアイドルになって…共演する、っていうのも夢があっていいよね」

花陽「まだそこまでは考えてないや。凛ちゃんの考えにもよるし」

希「凛ちゃんなら、あるいは自力でA-RISEに舞い戻る、なんてこともありうるかもしれんしね」

真姫「…そうなるといよいよバケモノじみてるけど」

海未「しかし、星空さんは1年であるがゆえにその可能性も無きにしも非ず…」

ことり「燃える展開ではあるよね!」

ことり「『あの時の約束をー…、果たす時が来たようだにゃぁぁ…!』みたいな!」

花陽「ぷっ…、なんですかその喋り方…!」

海未「誰の真似なんですか…星空さんはそんな喋り方でもない気が…」

希「…でも、来年の今のA-RISEがどういう在り方になっているかは、まだ…」

真姫「うん?」

希「あ、いや…独り言。うーん、いやぁしかし…久しぶりに食堂に来てみたけど、賑やかやね…」

花陽「あぁ、いつも部室で一人、なんでしたっけ…」

希「うん。賑やかなところでご飯食べるのが少し怖かったんやけど…まぁそのトラウマも克服しないとね」

希「でも思ってたよりなんてことないかも。こんだけ大勢でいれば当たり前やけど」

海未「逆に…置いてきた彼女が気にかかりますね…」

ことり「いつもは希ちゃんと一緒にご飯食べてたけど…今は一人ぼっちか」

真姫「…どういう気持ちなのかしら」



アイドル応援部 部室


真姫☆「…もぐもぐ」

真姫☆「…なんてことないわ。去年の春も私はこうして…もぐもぐ…」

真姫☆「…はぁ」

真姫☆「うぅ…寂しい…。流石にマントしながらご飯は食べられないもんね…ぐすん」

真姫☆「けど、アイドル専攻の指導から絵里が外れ、それにより彼女の権威も地に落ち…」

真姫☆「これからアイドル専攻もまた変化するのだとしたら」

真姫☆「…もうそろそろ、私の役目も…おしまいってところかしらね」

真姫☆「あとはあの子達だけで、なんとかしてくれる」

真姫☆「楽しい夢のスクールアイドル…これからは、あなたたちが作り上げていってね」

真姫☆「もぐもぐ…ごくんっ」

真姫☆「…ごちそうさま」

放課後 音楽室


ザワザワ…


ことり「うわっ…、今日も人でいっぱい…」

海未「A-RISEと差をつけるために出待ち、見学等は禁止していないとは言え…」

真姫「こ、こう注目されちゃ落ち着かないわね…」

希「せっかくならライブは新鮮な気持ちで見て欲しいっていうのもあるしね」

花陽「今日は学校で練習できる最終日…本格的にライブを合わせられるのは今日が最後だし…」

真姫「今日だけは人払いする?」

海未「それも考えましたが、それでも限度がありますし…仕方ありません。奥の手です」

ことり「奥の手…?」



講堂


花陽「はわわぁぁぁぁ…!広ぉぉい…!」

希「ホントにここ、使っていいの?」

海未「はい。演劇部の先輩の方に頼み込んで、今日一日だけ稽古場所を変えていただきました」

ことり「海未ちゃん、いつの間にそんな人脈が…!」

真姫「ここなら出来上がった衣装で踊れるわね。スペースも十分だし、本番と同じ感じでライブができる…!」

花陽「観客ゼロのライブ…。寂しいけど、面白そうかも」

真姫「『私』…真姫がいれば観客は一人いるはずだけど…あれ、そういえばいないわね」

花陽「あ、真姫ちゃんなら先に病院に行ったんだって。いても仕方ないからって」

希「音楽室じゃなくて講堂でやる、って言ってたら人に見られる心配もなかったし、残ってくれてたのにね…」

海未「仕方ありません。講堂を使うと決めたのはつい先ほどですし…なんなら呼び戻しますか?」

花陽「そ、そこまではしなくてもいいんじゃない?」

ことり「新衣装でのライブは真姫ちゃんにも本番まで内緒にしちゃおう!」

真姫「ふふ…そうね。これまでC☆cuteを支えてきてくれた彼女への、ほんの少しのサプライズになるかも」

海未「…分かりました。では控え室がありますので、そちらで衣装に着替えましょう!」

希「見返す用に、カメラも設置して…よし、いいやん!」

花陽「C☆cuteの命運が決まるライブ…!でも、最後まで笑顔で頑張ろう!」

一同「うんっ!」

数時間後…



~♪

一同「…」ジー…


希「…うん、今度こそ完璧やん!」

ことり「やったあぁぁぁっ!!」

真姫「これが…私たち…!」

海未「泣いても笑っても、これで決着、ですね…!」

花陽「ライブはこれでいいとして、うん…明日は細かい部分の調整だけに…あっ!」

真姫「どうしたの?」

花陽「ご、ごめん…もう行かなきゃ!」

希「病院?」

花陽「うん…、今からだと凛ちゃんと話せるのがほんの少しになっちゃう…!もうちょっと早めに行くつもりだったのに…」

海未「明日、たくさん話せばいいのでは?」

花陽「そ、そうですけど…でも、今日もいっぱい喋りたいから!じゃ、着替えてきます!お疲れ様でした!」ダダッ

ことり「あ、行っちゃった…」

真姫「大切な友達だものね。少しでも多く話したいって気持ちは…ちょっとは理解できるわ」

希「…せやね」



UTX学院 校門前


花陽「はぁっ…はぁっ…!」タッタッタッ…


プップー!!


花陽「ひゃっ…!?な、何…?」


ウィーン…

真姫☆「花陽、こっち」


花陽「真姫ちゃん…?そのタクシーは…?」

真姫☆「歩いて行くよりこっちのが早いでしょ?乗りなさい」

花陽「待っててくれたの…?」

真姫☆「今の私にできるのはこれくらいしかないからね。さ、早く」

花陽「う、うんっ…!ありがとう!」

西木野総合病院 凛の病室


ガチャッ


花陽「凛ちゃんっ!」


凛「うわっ…!こ、小泉さ…じゃなかった、かよちん。どうしたのそんなに慌てて…?」

花陽「お、遅れちゃってごめん…!もっと早くに来ればよかったんだけど…」

凛「え?あはは、そんなこと?気にしなくていいよ」

花陽「そ、そう…?」

凛「ね、聞いて聞いて!松葉杖で歩くの、上手になったんだよ!よいしょっ…」


カッツカッツ…


花陽「わぁ…!ホントだ!」

凛「えへへ、今日練習してたんだ!これでもうトイレに一人で行けるね!」

花陽「うんうん!あ、でもまだ激しく動いたら骨が…」

凛「ゆ、ゆっくりだから大丈夫にゃ…多分」

花陽「ホントー?ふふ…」

凛「えへへへ…」



凛「…でねー?凛の友達ってば一人もお見舞いに来てくれないんだ」

凛「来てくれるのはかよちんだけ!うぅ…、やっぱりかよちんは友達だよぉぉ~!」

花陽「もう、最初からそう言ってるでしょ。凛ちゃんとはずっとずっと、友達」

凛「…うん。あ、あとね…」




花陽「…あははは!そっかー…」

凛「うん!だから…」

花陽「…あ」

凛「うん?」

花陽「もう、8時だ…。あと10分くらいで…」

凛「え、もうそんな?」

花陽「話し込んでると時間、忘れちゃうもんね…」

凛「そだねー…」

花陽「今日はもう、帰るね。あ、それと…」

花陽「…明後日って、外出許可、降りるかな」

凛「明後日…ライブの日、かにゃ…?」

花陽「…うん。凛ちゃんには少し、辛いことかもしれないけど」

花陽「でも、私たちのライブ…見に来て欲しい」

凛「…」

花陽「今回の曲…実はね、新曲なんだけど。『学校に来たくなる』ってテーマなの」

花陽「きっと凛ちゃんの身体にもよく作用して、治りがよくなるかも…って、これはバカバカしいけど」

花陽「でも…見て欲しいな。ダメ…?」

凛「…うーん、どうだろう…。多分、難しいかなぁ…」

花陽「そっか…」

凛「で、でもっ…!」

凛「…きっと、見に行けると思う。かよちんに一番近い場所で、一緒に感じられるよ」

花陽「ん?…そっか、そうだと、いいね…」

凛「そうだよ!どんな曲かな?楽しみにゃ!」

花陽「ふふ、私が作詞した曲なんだよ~。あ、そういえば…」

花陽「凛ちゃん、覚えてるかな?私が昔作った…」

凛「うん?」

花陽「…」

花陽「…うぅん。やっぱりいい!」

凛「え、なんでなんで?気になる~!」

花陽「これは、また今度ね。じゃあ、私はこれで…」

凛「あっ…」


ギュッ


花陽「…っとと…。ど、どうしたの、凛ちゃん…。袖掴んだら帰れないよ」

凛「…」

花陽「凛ちゃん?」

凛「…やっぱり、もう少し一緒にいて」

花陽「な、なんで?もう面会時間過ぎちゃう…」

凛「お願いっ!」

花陽「…凛、ちゃん…」

花陽「もう少し、って、どれくらい?」

凛「…消灯時間くらい」

花陽「え…そ、そこまでは無理だよ…」

凛「だ、だって!だって…その…」

凛「…」プルプル…

花陽「どうしたの…?震えてるよ?」

凛「…怖いの」

花陽「怖い…?」

凛「…うん」

花陽「何が怖いの…?」

凛「このまま、一人になるのが怖くて…」

凛「…だって、だってぇっ…!」

凛「…っ」ゴクリッ

凛「…ゆ」

凛「幽霊が、出るかもしれないから…!」

花陽「…はぇ?」

花陽「幽霊…?あ、あははは!凛ちゃん、そういうの怖い子だったっけ?」

凛「わ、笑わないでよぉぉ…。昨日の夜もすっごい怖かったんだからー…」

凛「お母さんが持ってきてくれた本の中に幽霊に関するお話が乗ってて、それで…」

花陽「あぁ、昨日読んでたアレ?」

凛「うん。…かよちん、地縛霊って知ってる?」

花陽「じばくれい?…爆発する幽霊?」

凛「そうじゃないよ!なんでも、死んじゃったらその土地に縛られちゃうって幽霊なの」

凛「ずっとずっと、未来永劫そこに居続けるんだって。だから病院は地縛霊が溜まりやすい場所なの…!」

凛「暗い夜、トイレに行きたくなって廊下を歩いていると…向こう側から青白い顔のお化けがぁあぁぁぁぁっ…!」

花陽「ひぃっ…!」

凛「…ってことはなかったんだけど。でも、地縛霊ってホントにいそうじゃない?」

凛「凛は、いると思うんだ」

花陽「そ、そうなの…?でも、だからって消灯時間まで一緒に…っていうのは無理だよ。明日も、絶対にお見舞いに来るから。だから、ね?」

凛「うーん…わかったよ。なるべく目をキツく瞑って寝るにゃ」

花陽「うん。それじゃ、バイバイ、また明日」

凛「…」

花陽「凛ちゃん?」

凛「え、あっ…うん。バイバイ、かよちん」

花陽「うん。バイバイ、凛ちゃん」



西木野総合病院前


花陽「ふぅ…今日も話し込んじゃったなぁ…凛ちゃん、ライブに来られるといいな…」


真姫☆「終わったわね。タクシー、待たせてあるわ」

花陽「あ、真姫ちゃん…。帰りまで…ありがとう」

真姫☆「早く。寒いし、風邪ひいたら元も子もないわよ」

花陽「うん。あ、その前に…凛ちゃーん!また明日ねー!」

花陽「…あれ、聞こえてないのかな?」

真姫☆「あ、気づいた」


凛「あ、かーよちーん!さよならー!ライブ、楽しみにしてるー!」


花陽「さよならー!また明日ー!来られるといいねー!」

真姫☆「挨拶は済んだ?」

花陽「うん。じゃ、帰ろっか」

真姫☆「…えぇ」



タクシー内


花陽「…」

真姫☆「…どうしたの?さっきから、口数少ない気がするけど」

花陽「え?そう、かな…。あ、ただね…」

花陽「やっぱり、もう少し一緒にいればよかったかな、って思ってたの」

真姫☆「明日また、会えるじゃない。少しの辛抱でしょ」

花陽「…うん、そうだね」

12月22日 夜

西木野総合病院 凛の病室


凛「…」

凛「…さよなら、かよちん」

凛「ライブ…一緒に頑張ろうね…」







12月23日 朝

神田明神


ザワザワ…


ことり「うわぁ…相変わらず人が多い…」

海未「休日の上、多くの人にここで練習していることが知られてしまったようですからね…」

真姫「…ったく、他にやることないのかしら」

花陽「あはは…」

希「でも人が多いせいで真姫ちゃんのコーチがつけられないのは…ちょっと」

花陽「あー…そうですね…。今何してるのかな…」

真姫「またうちの病院かしら…。パパにバレなきゃいいけど。もうひとりの私だってこと」

海未「…今真姫のことを気にしても仕方ありません。今の曲に関しては、既に彼女のコーチを必要としないレベルで完成してると思います」

海未「ですから今日はとりあえず、細かいところの調整のみを行い、明日に備えて休息…でしたよね?」

花陽「あ、はい!」

ことり「じゃあ、どこからする?あっ、すいませーん!そこ使うので空けてくださーい!」

花陽「えっと…って、私が決めるんですか!?」

希「花陽ちゃんがリーダーやもん。当たり前やん!」

真姫「早く決めて。リーダー」

花陽「だからリーダーはやめてって…うぅん、そうだなぁ…じゃあサビ前の…」


ピリリリリ… ピリリリリ…


花陽「…んっ?電話…」

海未「こんな時にだれから?」

花陽「あ…真姫ちゃんだ…。なんだろう…」ポチリッ

花陽「はい、もしもし?真姫ちゃ…」

真姫☆『…花陽、落ち着いて聞いて』

花陽「え?あ…うん、何?」



真姫☆『…凛が、病室からいなくなった』

花陽「…え?」


真姫☆『ついさっき、凛の病室を覗きに病院へ来たのだけど』

真姫☆『…ベッドがもぬけの殻だった』


花陽「え、ど、どういう…こと…?」

希「どうしたん?真姫ちゃんなんて?」

花陽「り、凛ちゃんがっ…凛ちゃんが病院からいなく、なったって…」

ことり「えっ…!?」

花陽「と、トイレ、とか…!?」


真姫☆『…今院内を探し回っている。凛の病室から一番近くのトイレは既に探したけど、いなかった』

真姫☆『彼女が使ってた松葉づえも一緒になくなってるから、もしかしたら遠くへ行ってる可能性も高い』

真姫☆『病院の職員総出で彼女の行方を追ってる…。親御さんにも既に連絡して…一緒に探してもらっている』

真姫☆『あなたたちにまで探して…とは言わないわ。明日はライブだし。きっとすぐ見つかる…はずだから』

真姫☆『…でももし、凛を見つけたのなら、連絡して。嫌な予感が…するの』


花陽「…うん」ピッ

海未「星空さん…どうなったんですか?見つかっては…」

花陽「まだ見つかってない…。もしかしたら病院を出て遠くにきてるかもしれないから、見つけたら教えて、って…」

真姫「な、何やってるのよ凛って子…!足の骨が折れて重症だっていうのに、外出歩くなんて…バカじゃないの?」

花陽「…」

真姫「あっ…ご、ごめんなさい。友達だったのよね…」

花陽「あ、うぅん。…いいの」

ことり「でも、仮に病院の外にいるのだとしたら、どうして…?何をしたくて外に出たのかなぁ…?」

海未「松葉づえではそう遠くへはいけないと思いますが…」

希「…花陽ちゃん、平気?凛ちゃん、うちらも一緒に探そうか…?」

花陽「い、いえ…!大丈夫です!きっと真姫ちゃんが見つけてくれると思うから…」

花陽「今はライブのことを一番に考えましょう!」

西木野総合病院


ピッ…

真姫☆「…」

真姫☆「凛…」

真姫☆「くっ…今彼女達に負担をかけさせるわけにはいかない…けどっ…!」

真姫☆「どこほっつき歩いてるのよ…!あのバカっ…!」

真姫☆「とにかく、凛が行きそうなところに目星をつけて、当たってみるしかない…!」

真姫☆「…あの凛が行きそうなところ…。…やっぱり最初は…」



ピリリリリ… ピリリリリ…

真姫☆「…」イライラ…

ピッ

『…はい、もしもし?』

真姫☆「あ、やっと出た!もしもし!にこちゃんっ!?」

にこ『ま、真姫ちゃんっ!?なんなのよ…こんな朝から…。まだ休憩入ってないんだけど?』

真姫☆「そんなことどうでもよくて!」 にこ『ど、どうでもいいって…』

真姫☆「そっちに、凛がいない!?」

にこ『…はぁ?』



UTX 多目的ホール


穂乃果「…なんて?」

にこ「り、凛がいないか、ですって…」

ツバサ「…凛?どうして…?」

真姫☆『いるの!?いないの!?』

にこ「い、いるわけないでしょ!凛は大怪我してるのよ!?来られるわけないじゃない!」

真姫☆『…っ、そう、よね…。もし、凛がそっちに来たら私に連絡して。すぐに行くから』

にこ「えっ…ちょ、ちょっとどういうこと!?凛…何かあったの!?」

真姫☆『…病院からいなくなったの。病院内を探したけど見つからなくて、身一つでどこかに出て行っている可能性が高い』

にこ「り、凛がいなくなった!?」

穂乃果「っ…!にこちゃん、貸してっ…!」

穂乃果「凛ちゃんがいなくなったって…!西木野さん!?」

真姫☆『穂乃果っ…。ねぇ、もしかして、絵里のしわざってことは…』

穂乃果「それは…」

穂乃果「…それはないよ。多分」

穂乃果「絵里さんは…昨日見た絵里さんは、抜け殻のような状態だったから…凛ちゃんに何かできる…とは思えない」

穂乃果「多分、凛ちゃんの意志で…」

真姫☆『…そう。ありがとう、少しは参考になったわ。もし凛を見つけたら連絡してね』

穂乃果「わかった。…お願い、凛ちゃんを…探し出して」

真姫☆『言われなくても、そのつもりよ。それじゃ…心配かけたわね』ピッ

穂乃果「…」

にこ「…凛。病院を脱走したって…ことかしら」

ツバサ「でも、ここじゃないとしたら…どこに?凛は何をしに病院を抜け出したのかしら…」

西木野総合病院


真姫☆「…A-RISEでもない、とするなら…。あぁもうっ…!親族の人に聞くべきかしら…!」

真姫☆「…いや、アテになるとは思えないわ。こうなったら…」

ダダッ!!


真姫☆「…足で探すしかないっ…!!」

真姫☆「パジャマ姿に松葉づえなんてすぐに見つかるでしょっ…!って言っても凛の行きそうな場所なんて…」

真姫☆「そうだ!本人に聞けばいいのよ!」

真姫☆「…流石にそろそろ携帯治ってる頃でしょ…!凛っ!!」ピポパッ…


『おかけになった電話は、電源が入っていないか電波の届かない…』


真姫☆「ぬあーっ!もうっ!!こんな時に役に立たないわねぇぇっ!!」

真姫☆「…仕方ないっ!アイツが行きそうな場所…!アキバとかぁ…!?」

真姫☆「もうどこでもいいっ…!とりあえず走って見つけるわよ!」

真姫☆「なんて手間かけさせやがるのよアイツは…!どこの世界でも厄介ねっ…!」



UTX 多目的ホール


穂乃果「…」

にこ「凛…」

ツバサ「…どうする?早めの休憩?」

にこ「そ、そんなわけっ…」

穂乃果「そうさせてください」

にこ「えっ…!?ちょっ…」

ツバサ「ふぅん…心配なんだ」

穂乃果「…はい。もう、彼女はA-RISEではないですけど…」

穂乃果「大事な、友達だから」

ツバサ「…そうよね。わかった。少し早いけど休憩ね」

にこ「い、いいの…!?本番は明日なのよ…っ!?」

穂乃果「にこちゃんこそ、凛ちゃんを放っておけるの…!?私にはできないよっ!」

にこ「っ…穂乃果…!」

穂乃果「とにかく、なんでもいいから居場所を探ろう…!まずは凛ちゃんに直接電話して…」ポチポチ…

穂乃果「あっ!これ私の携帯じゃないじゃん!ロックかかってる…にこちゃん!ロック解除して!」

にこ「え、あ…うん…」ポチポチ…

穂乃果「凛ちゃんっ…凛ちゃんはっ…あれ!?凛ちゃんの番号ない…」

にこ「あっ…そっか…、凛とはアプリ通話しかしてなかったから…」

穂乃果「何やってるのバカーっ!じ、自分のとってこなきゃっ…!!」ダダッ…

にこ「…」

ツバサ「…あんな子だっけ?穂乃果」

にこ「わ、私も驚いてます…」

穂乃果「…繋がらない」

穂乃果「凛ちゃんっ…!どこにいるの…!?」

にこ「ほ、ほっといても夜には帰ってくるって…。今はライブに集中しましょうよ…」

穂乃果「…っ」

穂乃果「そうっ…だよ、ね…。私が焦っても、どうしようも…ないん、だもん…」

にこ「穂乃果…。ここ最近、色々あって不安なのはわかるけど…」

にこ「強く、なるんでしょう?凛はひとまず、真姫ちゃんに任せよう…?」

穂乃果「…」

穂乃果「強く、か…。難しい、ね…強いって…」

ツバサ「…そうね」

にこ「さ、練習練習!もう休憩も終わりに…」

穂乃果「その前にっ!」

にこ「ガクッ…な、なによ…」

穂乃果「最後にもうひとり…かけたい人がいるの」

にこ「だ、誰?」

穂乃果「…絵里さん」

プルルルル… プルルルル…


穂乃果(真姫ちゃんには、絵里さんの仕業ではないって伝えたけれど)

穂乃果(私の判断であり、確信の持てる情報ではない)

穂乃果(トチ狂った絵里さんが、凛ちゃんを何らかの方法で外に連れ出した…って可能性も、考えられなくはないから)

穂乃果(その可能性を、潰しておきたくて、彼女に連絡を…している、はず)

穂乃果(…彼女が、心配だからでは…ないと、思う)



穂乃果「…出ない」

にこ「もう諦めたら?」

穂乃果「うぅん…、もう少し…」

ピッ

『はい、もしもし…』

穂乃果「あ、もしもし絵里さんっ!?今どこに…」

『きゃっ…!?だ、誰ですか…?』

穂乃果「…絵里さんじゃ、ない…?あなた…誰?」

『あ、えっと…すみません。姉は今電話に出られない状況で…代わりに私が』

穂乃果「ということは…あなたは絵里さんの妹さん…?」

『はい!えっと…、姉に何か御用でしょうか?お聞きします』

穂乃果「…絵里さんは、そこにいるんですか?そこはどこでしょうか?」

『え?あ、はい…姉はいます。ここは家です』

穂乃果「あ、そう、ですか…。分かりました。高坂穂乃果から電話がかかってきた、とでも絵里さんには伝えて…」

『こ、高坂穂乃果ぁぁっ!?』

穂乃果「ほぇっ!?」


にこ「ど、どうしたのよ…」

ツバサ「いきなり電話から飛び退いて…」


穂乃果「な、何…?」

『こ、高坂穂乃果って…あのA-RISEのバックダンサーの高坂穂乃果さんですか!?』

穂乃果「は、はぁ…」

『だ、だ、だ…』

『大ファンっ、ですっ!!』

穂乃果「え、あ…そうなんだ…。ありがとう…」

『えっと、えっと…!ど、どうしよう…!あの、お姉ちゃんの指導で、その…なんですよね!?』

穂乃果「な、何が?」

『ご、ごめんなさい…うまく話せなくて…。あっ、その、雪穂からお噂はかねがね!』

穂乃果「えっ…?雪穂を知ってるの?」

『はいっ!一番仲のいい友人です!多分、来年進学する高校も同じ高校にする予定で…』

『な、何度かそちらへお伺いしたのですが、タイミングが悪くて一度も会えなくて残念でしたけどっ…!』

『こうして直接お話ができて…う、嬉しいですっ!』

穂乃果「そ、そう…」

穂乃果「…ん?」

穂乃果(一番仲のいい友人…確か雪穂も前、そんなこと…)



(雪穂「え、えっと…仲のいい友達がどうしてもUTXに行きたくない、って言ってて」)

(雪穂「私もその子と同じ学校に行きたいから、だから…都内の別の高校を選んでるんだ」)



穂乃果(…そっか。多分この子が、UTXに行きたくないって言ってる子…まさか、絵里さんの妹だったなんて)

穂乃果(でもどうして、絵里さんの妹が…UTXに行きたがらないの?)

穂乃果(A-RISEに憧れてくれているなら、来たがってもおかしくないはず…なのに)

穂乃果「ねぇ、一つ質問…いいかな?」

『は、はい…?なんですか?』

穂乃果「キミ…UTX学院に行きたくない、って言ってた子?」

『えっなんで…あ、雪穂からですか?』

穂乃果「…うん。どうしてなのかな、って…A-RISEが好き、なんでしょ?」

穂乃果「どうしてもUTX学院に来たくない理由があるのかなって疑問に思って」

にこ「何聞いてるのよ…もう凛と絵里は関係ないってわかったんじゃ…」

穂乃果「…ごめん、少しだけだから」

『い、いえ…確かにA-RISEは好きなんですけど…』

ツバサ「絵里が怖いからとか?」

穂乃果「な、何を…」

『はい?お姉ちゃんは優しくていいお姉ちゃんですけど…』

穂乃果「そ、そうなんだ…。じゃあ、どうして?」

『…その、私に理由があるわけじゃなくて…』

『お姉ちゃんが言うんです。「絶対に、UTX学院へは入学するな」って…だから』

穂乃果「絵里さんが…っ?どうして…」

『わかりません。でも、どうしてもって』

穂乃果「…」

穂乃果「…わかった。ありがとう…絵里さん、元気になるといいね」

『あ、はいっ…。言っておきます!それでは!』

ピッ…


穂乃果「…どういう、ことなの…?」

穂乃果「まさか…」

アキバ


真姫☆「はぁっ…!はぁっ…!!」

真姫☆「パジャマで、松葉づえ…!いないっ…!!」

真姫☆「多くの人に聞きまわっても誰も見てないって…そもそも凛はそこそこ顔も売れてるはずだから、道行く人なら気づいてもいいはず…」

真姫☆「じゃあやっぱりこっちには来てないってこと…!?だったらどこに…!」

真姫☆「っ…!アイツが行く場所なんてわかるわけないじゃないっ…!何か、他に方法は…」


プルルルル… プルルルル…

真姫☆「…電話?あ、こっちの凛からっ…!」ピッ

真姫☆「もしもしっ…」

凛『もしもし真姫ちゃーん?携帯やっと直せたの!でねー…えへへー朗報だよ朗報!なんとっ…』

真姫☆「今はどうでもいい!凛っ!あなた、凛の居場所わかる!?」

凛『は?ど、どうでもいいって…凛は今クリニックだけど…』

真姫☆「あなたじゃなくて、この世界の凛よ!同じ存在の凛ならちょっとは居場所の見当がつくんじゃないの?」

凛『えぇ…?そんなこと言われても…っていうか、こっちの世界の凛って今骨折してるはずじゃ…』

真姫☆「いなくなったのよ!それで必死になって探してるの!」

凛『え、マジで?そかー…大変だね』

真姫☆「た、他人行儀なんだからっ…」

真姫☆「…というか、どうして凛もクリニックにいるのよ。今更壊れたクリニックに何の用が…」

凛『ん?それ聞いちゃう?んふふーなんとねー…じゃじゃーん!飛行エンジンが完成しましたー!』

真姫☆「…っ!そうなの!?」

凛『うん!って言っても取り付けてもいないし、クリニックの修復にも時間がかかるから動かせるのは明日以降になりそうだけど…』

真姫☆「明日ぁ…!?それじゃクリニックで空を飛んで凛を探すのは…」

真姫☆「っ…!!で、できるじゃないっ!」

凛『え?』

真姫☆「モニターよ!そのクリニックにはその世界のμ'sメンバーを即座に発見できるモニターが備え付けられているはずだわ!」

凛『あ、そういえば!長らく使ってなかったから忘れてた!』

真姫☆「空を飛んでいない状態でも使える?」

凛『カメラに捉えることはできないけど、場所ならわかるはず!冴えてるね、真姫ちゃん!』

真姫☆「…今まで思い出せなかった自分がバカらしいわ」

凛『じゃあ早速、この世界の凛の居場所を…検索にゃー!』

凛『んん?ここって…』

真姫☆「ど、どこにいるの?凛…」

凛『え、えっと、それが…』

凛『UTX学院の、屋上にゃ』

真姫☆「屋上…!?まさか、そんな…あそこは締め切られて…」

真姫☆「あっ!そうか、垂れ幕で今日は…!一日中開けっ放し…!」

真姫☆「まさか…、凛の病室の前でパモ部部長と話してたから…ドア越しに聞かれてたのかしら…」

凛『屋上へ行ってどうする気なんだろ…』

真姫☆「屋上へ行って…ッ!ま、まさかっ…!!」

真姫☆「嘘、でしょっ…!?凛っ!!」ダダッ

凛『え、あ、ちょっ…真姫ちゃんっ!?真姫ちゃんっ!』ピッ


真姫☆「急がないとっ…凛がっ…!!」

タッタッタッタッタッ…


真姫☆「はぁっ…!!はぁぁっ…!!」

真姫☆「凛っ…!凛っ…!早まっちゃ…ダメぇぇっ…!!」



UTX学院


真姫☆「え、エレベーターで、屋上に…っ!」ポチリッ


ウィーンッ…


真姫☆「お願いっ…!お願い、間に合ってっ…!!」



UTX学院

屋上



真姫☆「凛っ!!」ダッ!!



凛「…あ」

凛「見つかっちゃった」



真姫☆「り、ん…!!」



真姫☆(おどけた顔で、かくれんぼでもしていたかのように呟く凛は)

真姫☆(UTX学院、屋上の縁で)

真姫☆(申し訳程度に建てられた、胸元あたりまである柵の)

真姫☆(外側に立って、微笑んでいた)



真姫☆「凛、まさか…」

真姫☆「そこから、飛び降りる、気じゃ」


凛「そうだよ」


真姫☆「っ…!」




凛「もう、A-RISEができないのなら」

凛「生きていたって仕方ないから」

凛「今日、ここから飛び降りて」


凛「凛は、死ぬんだ」

真姫☆「どう、してっ…」

真姫☆「なんでなのよっ!?あなたはっ…!!」ジリッ


凛「それ以上、近づかないで」


真姫☆「なっ…」


凛「それ以上近づいたら、凛はここからすぐに飛び降りる」

凛「だから、それ以上近づくのはやめて」


真姫☆「…どういう意味よ。近づかなければ、飛び降りを思いとどまってくれるの?」


凛「…うぅん。そうじゃないけど」

凛「最後に、ここに来てくれた人が…凛の知ってる人だったら」

凛「少し、お話がしたいって考えてたんだ」

凛「穂乃果先輩やにこ先輩や…かよちんなら、よかったんだけど…まぁ、西木野さんでもいいよ」


真姫☆「あなた…」


凛「…それに、もしかしたら西木野さんの説得で、思いとどまるかも?」

凛「だから、最後にお話しよう?さ、西木野さんから話していいよ」

凛「そこは、絶対に動かないようにね」


真姫☆「…」

真姫☆「…わかったわ」

真姫☆「じゃあ聞くけど…あなたは、花陽と仲良く話していたじゃない。ここ最近…」

真姫☆「あれは…なんだったの?前向きに生きよう、って…決めたのじゃなかったわけ?」


凛「うん?前向き、だったよ。…あぁ、でも」

凛「前向きに、死のう…って考えたんだったね」

凛「このまま惨めに、夢のステージを眺めるしかできないなら死んじゃおうって」

凛「そう考えたら、不意に頭がスッキリしたんだ。今まで見下してきた小泉さんも…どうでもよくなるくらい」

凛「もう凛には強さなんていらない。好きなように振舞おう、せめて、死ぬまでは…ってね」


真姫☆「好きなようにって…花陽と話す時間を楽しみにしてたんじゃないの!?どうして、わざわざ死ぬことを選ぶのよ!?」

真姫☆「そんなことが前向きだなんて…ふざけてる…っ!!」


凛「…かよちんと話すのは、楽しかったよ。かよちん…思ってたよりずっといい子だった」

凛「でも…A-RISEの栄光と比べると、それのどれほど小さいことか。くだらない…ただ楽しいだけの日々…」

凛「…そんなモノのために、凛は今まで血反吐を吐いて、疲れを忘れて、骨を砕いてきたんじゃない」

凛「それにね、前向きなのは間違いないよ?だって…」

凛「凛は、明日…かよちんと一緒に、ライブをするって決めてるんだもん」


真姫☆「えっ…?」



凛「西木野さん、地縛霊、って知ってる?」

真姫☆「地縛霊…」


凛「うん。土地に縛られた幽霊…」

凛「この世に未練を遺して死んでいく人が、なってしまうとされている霊」


真姫☆「知ってるけど…それが、なんだって言うのよ…?」


凛「…凛は、この世に未練しかない」

凛「A-RISEになれないまま、死にたくないし…そもそも普通に死にたくない」


真姫☆「ハァ…!?じゃあ、死ななきゃいいじゃないっ!!」

真姫☆「なんで…屋上から飛び降りるなんて道を選んでるのよっ…!!」


凛「だって、このまま生きていてもA-RISEにはなれないから」

凛「だからね…凛は地縛霊になっちゃう道を選んだの」

凛「ここから落ちれば…どうなると思う?」


真姫☆「どうなる、って…それは…あなたが…死ぬ…ってこと、だけど…」


凛「…うん。そして、死んだ土地に縛られる」

凛「その死んだ土地、明日はどうなってるかな?ここまで言えばわかる?」


真姫☆「…っ!ここから、落ちれば…」

真姫☆「この真下は…明日、ステージがある場所っ…!まさか、凛、あなたっ…!!」


凛「うん」

凛「…凛は幽霊になってね。かよちんの横で踊るんだ」

凛「もちろん、A-RISEとしても」

凛「そして、みんなに喝采をもらうの」

凛「かよちんの隣で。A-RISEの隣で」

凛「こんなの、生きていたら絶対に味わえないエンターテインメントだよ」

凛「そうは思わないかにゃぁ?」

凛「ね?前向きでしょ?」



真姫☆「っ…!!」


真姫☆(凛の発想は私の想像の遥か斜め上を行っていた)

真姫☆(彼女は自分の夢を叶えるために…地縛霊になる道を選択しようという)

真姫☆(馬鹿げている。地縛霊なんて存在しない)

真姫☆(死んでも…何も変わらない。何も残らない)

真姫☆(その言葉を口に出そうとしても、出なかった)

真姫☆(あまりのことに、唖然としすぎて。そして)

真姫☆(凛の顔が…希望に満ち溢れていたから)



凛「…西木野さんは、これ以上の喜びを凛に与えてくれる人?」

凛「動けない凛を、A-RISEと…かよちんと一緒に踊らせてくれる人?」

凛「答えてよ」

真姫☆「っ…」



真姫☆(…先程から私は)

真姫☆(後ろ手に携帯電話を弄っていた)

真姫☆(スマートフォンのせいで、イマイチ感覚は掴めないけど)

真姫☆(日頃から行っている行為だから、感じられなくても体に染み付いた動き)

真姫☆(おそらく、C☆cuteの誰かに電話をかけている…はず)

真姫☆(本当にかけているかどうかの確信はない…けど…でも、お願い…!誰かに伝わって…今の状況…!!)

真姫☆(私はなるべく、凛との会話を長引かせる…!それしか、凛を生存させる道を考えられない…!)



真姫☆「…私は…」

真姫☆「凛、なら…凛なら、また、やり直せるって…」


凛「あはっ」

凛「あははははははははっ!!そればっかりっ!かよちんも同じこと言ってたよ!」

凛「やり直せるって保証は!?こんな大怪我で、半年以上もまともに動けないのに!」

凛「一から始めるなんて、出来るわけないっ!もう二度と…こんな辛い思いなんか、したくないのにっ…!!」


真姫☆「もうそんな辛い思いをする必要はないわっ!もう既にUTXはっ…アイドル専攻は変わりつつあるのだからっ!」

真姫☆「あなたが体験したような…血反吐を吐くような地獄を、味わう必要なんてなくなるっ!」


凛「ハンッ、そんな生ぬるい環境で得られるものなんて、たかがしれてるよっ!」

凛「アイドルは頂点以外意味はないんだって…西木野さんだって知ってるはずでしょっ…!!」


真姫☆「そんなことないっ!!アイドルは…それ自体が最高に楽しくてっ…頂点なんか、どうでもいいことなのよっ!!」

真姫☆「結果的に認めてもらえて、一番になれるなら…それはとっても嬉しいことだわっ!!でもっ…」

真姫☆「最初から一番だけを目指すなんて…そんなの…本当のアイドルじゃないっ…!アイドルは、誰かを楽しませてこその…」


凛「…ふぅん」

凛「凛は違う…。誰かを楽しませるのは手段でしかない」

凛「一番の栄光を掴むまでの…多くの人から注目されて、喝采を浴びるためのもの」

凛「凛はアイドルに憧れてからずっと、そう教わったもん」

凛「やっぱり、西木野さんとは…相容れなかったね」

凛「…お話は、もうおしまいにしようか」


真姫☆「待っ…!まだ…!!」


凛「んー?ぷっ…あはははは!慌てっぷりおもしろ!あははははは!」

凛「安心してー。まだ死なないよ」

凛「…最後に、肝心の…ライブが残ってるから」


真姫☆「ライ、ブ…?」


凛「…うん。ライブ」

凛「観客ひとりのライブ」

凛「本当にそんなので、アイドルを目指す原動力になるのか」

凛「最後の最後に、試すんだ」

真姫☆「観客ひとりの、ライブ…!?」

真姫☆「それはっ…」


凛「ん?ふふ…おかしいでしょ?観客ひとりでライブ、なんて」

凛「かよちんが凛を元気づけるためにいった、戯言だよ」

凛「可笑しくって笑っちゃった。ありえないもん」

凛「ただ惨めなだけのそんな行為が、慰めになると思ったのかな?ふふふっ…」

凛「…でも、もしかしたら」

凛「本当に希望を貰えるのかも、ってほんの少しだけ、思っちゃった」

凛「だから、最後に試して、それで…」

凛「…うまくいったら、やめよっかなって。自殺」


真姫☆「り、凛っ!聞いてっ…その、観客っていうのはっ…!!」


凛「あぁもううるさいなぁっ!!こっちが今から歌おうとしてるところなんだよ!?」

凛「凛の人生で最初で最後のソロライブなの!そんなのも黙って聞けないワケ!?」

凛「いいじゃん…自殺、辞めるかもしれないって言ってんだから」

凛「西木野さんにとっては、凛がここから落ちたら、明日のライブに響くから嫌なんだよね?」

凛「そのためなんだから、ちょっとくらい我慢して」


真姫☆「ねぇっ…!凛…そういうことじゃ、なくてぇっ…!!お願いっ…!」


凛「黙れって言ってるのっ!!」

凛「次喋ったら、死ぬから」


真姫☆「ッ…!く、ぅぅっ…!!」


凛「うん、黙ったね」

凛「じゃあはじまりはじまり~。凛の人生最後?のソロライブ!にゃはは~ん」

凛「んーと、じゃあまずはね~…凛の大好きな、Shocking Partyからかにゃ!アカペラだと滑稽だけど…ごほんっ」

凛「それじゃいくねー…だんしんだんしんどんすとっぱだんしん…」



真姫☆(そうして奇妙な二人きりのライブが始まった)

真姫☆(このまま歌が続けば、携帯の通話で気づいた誰かがこちらに来てくれる時間が稼げる…)

真姫☆(せめて、あと10分…どうやったら助けられるかは、私でも思いつかないけどっ…でも、とにかく誰か…!!)

真姫☆(そして、凛にどうしても伝えたい…!)

真姫☆(花陽の心を強く支え続けた、観客ひとりのライブ)

真姫☆(その観客というのが誰なのか…きっと凛は気づいていないんだっ…!!)

真姫☆(だから伝えたいのにっ…下手に声を出せないっ…!!)

真姫☆(凛っ…死ぬなんて、選んじゃ、ダメっ…!!)

真姫☆(きっと、あなたにはっ…!)

真姫☆(曲の中盤あたり、急に凛が歌を止めた)


凛「…」


真姫☆「…?」


凛「…やっぱり、違うなぁ」

凛「ライブっていうのは、踊ってこそだもん…」

凛「歌だけじゃ、全然面白くない…。A-RISEの曲はアップテンポでダンサブルな曲ばかりだし…」

凛「アカペラで歌ったって…ライブじゃないよ、こんなの…」

凛「つまらない…」


真姫☆「り、凛っ…」


凛「喋るなって言ってるでしょっ!!!」


真姫☆「…っ」


凛「…まぁ、いいや」

凛「観客がひとりのライブなんて、こんなものだったって、それだけ」

凛「そろそろ、終わりにしよっか」


真姫☆(そ、そんなっ…!まだ時間が…!!)


凛「あ、最後にもう一曲だけ」

凛「曲名も歌詞も、何もわからないけど」

凛「凛の、心に残ってる…大好きな歌」

凛「聞いてください。…すぅっ」



凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」



真姫☆「ッ…!!!」

真姫☆「その、曲、はっ…!!」



凛「これなら、アカペラでも多少は様になったかな…」

凛「…さよなら、西木野さん」

凛「明日また、ステージで会おうね」



真姫☆(そう言って凛は、手すりからゆっくりと手を放し)

真姫☆(後ろ側に倒れこむように)



真姫☆「ッ…り、りぃぃぃぃぃぃんっ!!!!!」ダダッ


真姫☆(その瞬間を見逃さず、駆け出すっ…!)

真姫☆(後ろ手に握った携帯なんか、放り出して)

真姫☆(彼女が歌っている間、気づかれない程度にジリジリと近づいて)

真姫☆(この距離なら…全力で走って、全力で掴みにかかれば)

真姫☆(間に合う自信がある。そう予感していた)



真姫☆(けれど)

真姫☆(世界はよそ者の私に、容赦はしてくれなくて)



グワンッ…!!



真姫☆「く、あぁっ…!!?」

真姫☆「こんな、とき、にっ…!!!!!!」


真姫☆(強烈なめまいが私を襲う)

真姫☆(もはや前がどちらか、上下すら認識できないほどの、激しい頭の揺れ)

真姫☆(時空振動が、私に猛威を振るった)

真姫☆(まっすぐ伸びた私の腕は、すぐに勢いを失い)

真姫☆(足はもつれ、フラフラと行き場を無くす)

真姫☆(あとほんの少しの距離なのに、後一歩、歩くことができれば、掴める距離ってところで)

真姫☆(最後の一歩が、踏み出せない)

真姫☆(時空壁が生成されたということは)

真姫☆(もうタイムマシンで、この時間に戻ることも許されない)

真姫☆(死んでしまった凛を救い出すことは、できなくなる)

真姫☆(だからここで、彼女に触れられないと)

真姫☆(終わってしまう。全てが)

真姫☆(踏み出せ。最後の一歩をっ…!)

真姫☆(スローモーションのように倒れていく彼女の体を)

真姫☆(この手で引っ張り上げるためにっ!!)

真姫☆(踏み出せっ!届けっ!!踏み出せぇぇっ!!届けェええっぇぇぇっ!!!!)



真姫☆「届けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!」



真姫☆(骨が軋むほどの意地と根性を持って)


真姫☆(私は、一歩を踏み出した)


真姫☆(己が全力を右足と右腕に込め)


真姫☆(後ろに倒れこむ凛の首元を)



真姫☆(私の腕が、掴んだ)

真姫☆(…と、錯覚した)


真姫☆(私の腕が掴んだと感じたのは、一瞬前の、凛の幻影で)


真姫☆(実際はただ虚しく、私の手は空を切るのみ)


真姫☆(後ろに倒れこむ凛を止めることは叶わず)


真姫☆(地についた凛の左足は)


真姫☆(空へ、投げ出された)



真姫☆「ぁっ…!!!」



真姫☆(私の差し出した腕は、無力にも…届かなかった)


真姫☆(凛を救うことは)


真姫☆(私には)


真姫☆(できな、かった)





















無限のように感じられる、一瞬の時間。


ふわり、と空中へ投げ出される、凛の身体。


もう一段あると思っていた階段が、なかったかのような。


寝ぼけて、ベッドから落ちたときのような。


ジェットコースターで急降下しているような。


そんな浮遊感を、全身で感じてる。


気持ちいい、って思った。


それから、あぁ、死ぬんだ、って思った。


ちょっと怖いけど、明日が楽しみ。


幽霊になって、喝采を浴びることができる。


そのあとは…UTX学院の七不思議の一つになろう。


夜、遅くまで居残ってると幽霊に襲われる、みたいな。


ふふ、それも面白いかも。


なんて考えながら、目を瞑る。


忘れたと思っていた、過去の出来事が次々と瞼の裏に浮かぶ。


おぉ!これがそうまとー?ってやつかにゃ!?


アイドル専攻での数々の出来事。辛かったたくさんのことと、楽しかった少しのこと。


中学での陸上部の経験も、休日に友達と出かけた思い出も。


みんな浮かんでは消えてゆく。


凛が見る、最後の風景ってなんなのかな。


凛だけが見えるシアターで、凛だけの幕引きを心待ちにする。


ふと、声が聞こえた。


うぅん、違う。


歌…聞いたことのある、歌。


そう。凛が歌っていた、あの…鼻歌。


思い出した。あの曲の、歌詞は…。




「ありが、とう…って…あふれ、だして…くる…」

凛「あれ…?」



気がつくと、知らない場所に、凛は立っていた。


知らない場所?…違う、ここ、知ってる。


見たことのある、運動場だ。


でも、おかしい。


運動場しか…ない。


凛の知ってる場所なら、すぐ後ろに小学校があったはずなのに。


もしかしてこれは…。



凛「凛の記憶の中…?」



ぱしんっ。ぱしんっ。


地面に鞭を打つような音が、どこからか聞こえてくる。


ぱしんっ。ぱしんっ。


すぐ近く。振り返ると…。



凛「あ…」



いた。


大縄跳びを飛んでる、何人かの子供たち。


でも今は、誰も飛んでない。


縄跳びを順番に飛んで、8の字を描くように循環するはずが、一箇所で止まっている。


一人が、立ち止まってるんだ。


震えて縮こまって、泣いて、しゃがみこんでいる。


子供がみんな、迷惑そうにその子を睨んでいる。


このままじゃいけない。


凛が、その子を助けようとしたとき。



その縄跳びの逆の方から。


細いトビラをくぐって、ひとりの女の子が、飛び出してきた。


泣いてるその少女に向かって、手を差し出して、



「こわくないよ。簡単だよ。いっしょに飛ぼう?」

凛「…あれっ?」



瞬間、風景が変わる。


小学校のときの、凛の教室。


何年生の、頃だったっけ。


不親切な夢だ。何の脈絡もなく場面が入れ替わる。


まぁ、夢ってそんなものだよね。



「…これ、なんて読むの?」



横から声が聞こえた。


さっきの女の子の声だ。



「か、と……たいようの、よう…?」


「はなよ、だよ」


「かよう…?かようび?」


「は、はなよっ…だよぉ…!」


「かよー?」


「はーなーよっ!」


「あはは、おおきな声!きれいで、かわいいこえ!」


「あ、…ごめん、なさい…」


「?…どうしてあやまるにゃ?」


「…え、その…ごめん」



とりとめのない、よくわからない会話。


どこかぼんやりとして凛の耳を通り、内容を理解することができない。


でも、どこか懐かしいって感じる。


当たり前か。


凛の、記憶なんだから。

また場面が変わる。


次は近所の公園だ。


何人かの子供たちが、遊具で遊んでいるのが見える。



「どけよ!」



ナマイキそうな、少年の声。


高い滑り台の方。子供たちが集まる、特に人気の遊具だった。



「え、でもっ…」


「ここはおれたちが使うんだ!!」

「どっか別のところいけ!」


「だけど、さ、先に…使おうと…」


「どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!」

「どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!」


「う、うぅぅぅぅ…!!」



縄跳びの前でしゃがんでいた、眼鏡の女の子が、今にも泣き出しそうだった。


すると、やはりといった感じで。



「こらー!かよちんをいじめるなーっ!!!」


「げっ!ガキ大将のりんだ!」

「ころされる!にげろー!!」



「かよちん、大丈夫?あいつらにひどいこと、されてないかにゃ?」


「うん、うん…ごめん、ね…」


「あやまらなくていいの!そういうときは、ありがとう、だよ?」


「うん、でも…ごめん」


「うーん…。まぁいいや!遊ぼう!」



元気な女の子が、眼鏡の女の子の手を取って滑り台へ引っ張る。


高い高い、空へも届きそうな滑り台。


そう思ってたのに…。



凛「…こんなに、小さかったんだ」

また、別の場所。


ここは、秋葉原かな?


お母さんたちに連れてきてもらって。


色々なお店を回って。


帰りは疲れて、車の中でぐっすり。


また、別の場所。


ここは、凛の家。


ゲームしたり、歌を歌ったり。


庭を走り回って、汗かいて。


一緒にお風呂に入ったりも、したよね。


楽しいことを語らいながら、同じ布団で寄り添いあって。


また、別の場所。


ここは――。


何かを思う前に、風景が変わる。


また変わり、次も、次も、色々な風景が凛だけを取り残して目まぐるしく入れ替わる。


どんな場面にも、二人の少女がいて。


どんな場面でも、そのふたりは笑っていて。


楽しいルーレットに入れられて、回されているみたいに。


凛も自然に、笑顔になっていた。


楽しい。


こんな気分になったのは、いつぶりだろうか。


もう、思い出せないかもしれない。


それだけ、貴重なものだった。


ありふれているようで、かけがえのない、大切な思い出だった。


手放すことのできない――。



手放す、ことの――。

メリーゴーランドのように回転していた風景が、ピタリと止まった。


また、公園。


今度は、あまり人気のなかった、小さな砂場。


その砂場に、やっぱり二人の女の子。


ひとりは砂場の前で小さく体育座りをして。


もうひとりは、みかん箱の上に立って、おもちゃのマイクを手にして。


これから何が始まるんだろう?


どうせだから凛も、その子の隣に体育座り、してみることにした。



「あれ?お姉ちゃん、誰にゃ?」


「まぁまぁ、いいからいいから。始まっちゃうよ?」



眼鏡の女の子はみかん箱の上で、ぷるぷると震えている。


緊張、しているのかな?


数秒待ったあとで、万を持して彼女が口を開く。



「あ、あのっ…凛ちゃんっ!」

「今まで…り、凛ちゃんと…いっぱい、いっぱい遊んできた、よね…」

「でもあの時…なわとびのところで、凛ちゃんがたすけてくれなかったら…もしかしたら、そうじゃなかったかもしれないって思って」

「だから、今こうしていっしょに遊んでくれる凛ちゃんに、思いをつたえるライブがしたいの!」

「あのときの、なわとびがとべなかったことを歌にして、アイドルみたいに…歌いたいの」

「それともうひとつ。いままで『ごめんね』ばかりで、あんまりいえなかった『ありがとう』を…伝えたくて」

「だから、歌うね。きいてください」


「うんっ!たのしみだにゃ~…」


凛「…うん。楽しみだにゃ」



そっか、ライブか…。


こんな小さな会場で、観客もふたりだけ。


子供なら、それでも楽しいんだろうな。


だけど、今の凛も、ワクワクしていた。


子供の頃の純粋な気持ちを、思い出して。



「歌いますっ…『なわとび』」

「  出会いが私を 変えたみたい  」


「  なりたい自分を 見つけたの  」



眼鏡の女の子が身体を揺らして歌う。


ただリズムをとっているだけでなく、小さな仕草も随所に入れて。


動きが小さすぎて、何をやっているかよくわからない、拙い動き。


ダンスと言えるものでは到底ない、その動きが、なんだか。


凛の心を、激しく揺さぶる。



「  子供みたい ためらいながら  」


「  いつも待っていたの 君を  」



子供みたい、と子供が言うと、少し滑稽だ。


凛は苦笑する。


でも、どこか懐かしいな、この歌。どこで、聞いたんだっけ。


あれ?でも、確かこの歌は…。


この子が…。



「  あきらめかけた時 ささえてくれた  」


「  優しい手の そのぬくもり  」


「  好きだよ  」



凛「あっ…!」



「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  夢が 少しずつ 近づいて  」


「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「…ありがとう」


「  嬉しくて 嬉しくて 幸せすぎると  」


「  泣けちゃうの ごめんね  」



この、歌、だった。


凛の、心に、いつまでも残っていた…歌。


こんな、ところで…。

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」


ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!


隣の少女が大きく拍手をする。


目を輝かせて、満面の笑みで。


その少女は、凛だった。


そうだ。凛が、かよちんに向かって、大きく拍手をしたんだった。


そう、それで…。



「かっわいいっ!かよちん!可愛いよ!!」


「あ、ありがとう…」


「えへへ、でも最後にごめんね、っていうのはかよちんっぽいね」


「あ、あうぅ…あ、ありがとう…」


「そこはごめんねでいいんだよー!あはははは!」


「う、ごめん…ぷっ、あはははは…あはははははっ!」


「あははは…かわいったよ、かよちん…!いいなぁ…」



「凛も、あんなふうに歌えたら、いいのになぁ…」



「え?凛ちゃんだって歌えるよー!」


「ダメダメ!凛は歌、下手っぴだし、アイドルはかわいいかっこして歌うんだよね?」

「そんなのできないにゃー!凛がもーっとかよちんみたいにかわいかったらいいのに!って思ったの!」


「えー!?凛ちゃん、かわいいよ!凛ちゃんならできるよ!」


「無理無理!ぜったいに、ムリー!」タタタタッ…


「あー!凛ちゃんっ!待ってー!」タタタタッ…



凛「…」



ここだ。


凛は、ここで…「歌いたい」って、思ったんだ。


かよちんが、たったひとりの拍手で、アイドルをやりたいと強く思ったように。


私は…凛はっ…たったひとりのために向けた歌を聞いて、歌いたいって思ったんだっ…!


凛も、こんなふうに歌いたいって思ったんだ!!


たったひとりのための歌をっ…歌いたかったんだっ!!!

目を覚ます。


凛は、空中にいて。


運動場も、公園も、アキバも、家も…そこには地面も何もない場所で。


二人の少女は、そこにはいなくて。


笑顔の少女たちは、いなくて。


忘れていたことなんてもう、何もなくて。


疲れも、痛みも。


夢も、はじまりも。


恐怖も、後悔も。


仲間も。


友達も。


生きたいって気持ちも。


大切な、歌も。


全て、思い出した。



「たすけてっ…」



その声は宙に浮いて、誰にも届かない。


ただ、無残に落ちるのを待つのみ。



そんなの、いやだ。



「たすけてぇぇっ!!!」




不意に、息が詰まる。



浮遊感が、止んだ。

真姫☆(私の差し出した腕は、無力にも…届かなかった)


真姫☆(凛を救うことは)


真姫☆(私には)


真姫☆(できな、かった)




真姫☆(…私、には)




真姫☆(光を蹴散らすような速さで屋上を駆け)


真姫☆(弾丸をも上回る勢いで凛に手を伸ばし)


真姫☆(柵から身を乗り出し、凛の首元を掴んだ彼女)


真姫☆(凛が掴む腕は、私じゃない)


真姫☆(そう、よね…)



真姫☆「…花、陽っ…!!」




花陽「はぁっ…!!はぁっ…!!」


凛「ごがっ…か、よちっ…!」


花陽「凛ちゃんっ!!」




花陽「掴んでっ!!」




凛「あ…!う、ぅ…!!」


花陽「早くっ…!!お願いぃぃっ…!!もう、これ以上…!!」


凛「う、ん…!!」ガシィッ…!!



ズルッ…

花陽「ひっ…!!落ちっ…!!?」


真姫☆「ふっ…!!」ガシッ


花陽「あ、真姫ちゃっ…!!」

真姫☆「体は…私に任せて…!凛を、絶対に離しちゃダメ、だからねっ…!!!」

花陽「…っ!うんっ…!!!」

凛「はぁっ…!!はぁっ…!!」


花陽「はぁっ…、ま、間に合った…」

真姫☆「花陽…どうして、ここが…」

花陽「…真姫ちゃんが電話をくれた、とき…」

花陽「真姫ちゃんの声が、して…屋上から、飛び降りる、って…」

花陽「そこから私、神田明神から走って…」

真姫☆「でも、そんな時間…」

花陽「わからない…夢中でかけてたから…どうして間に合ったのか…」

花陽「…私が屋上についたのも、凛ちゃんが落ちそうな寸前、で…」

花陽「私が屋上の端から端まで…あんな一瞬で駆け抜けたの…?」

真姫☆「…どうやら、事実だけを見ればそう、みたいね…」

真姫☆「凛のことを予感して…火事場の馬鹿力が働いたのかしら。…凛が疲れを忘れたように、花陽は限界を一時的に忘れたのね」

真姫☆「片腕だけで、一瞬でも凛を支えられたのも多分…そのおかげだと思う」

花陽「なんだかわからないけど、よかっ…痛っ…!」

真姫☆「っ…花陽、肩を…!」

花陽「うん、さっきの凛ちゃんを支えた時に…」

真姫☆「そんなっ…!あなたまで怪我を…!?」

花陽「…平気。そんな激しい痛みじゃないから…後で病院には、行くけど」

花陽「でも、その前に…」

真姫☆「…」


凛「…かよ、ちん…」

花陽「…」

凛「あの、ね…凛…凛…」


パシィンンッ!!


凛「っ…」


真姫☆「は、花陽っ…」


花陽「…」

凛「かよちん…?」

花陽「うっ…うぅっ…!!うぅぅぅっ…!!」

花陽「なんで、あんなバカなことっ…!バカッ…!!バカだよ凛ちゃんはっ!!」

花陽「自分が何をしたか、わかってるのっ!!?」

凛「…ぅ。っ…!!」

凛「よ、余計なことだよっ!!あのまま落ちたら…明日、幽霊になってかよちんと…」

花陽「ばかぁぁぁっ!!」

凛「っ…!」

花陽「たすけてって…言ってたよ…。凛ちゃん…!」

凛「えっ…?」

花陽「こっちを見て、たすけてって言ったんだよ…!」

花陽「本当は…死にたく、ないんでしょ…?」

凛「…」

凛「…おもい、だしたんだっ…」

凛「凛がどうして、アイドルになりたかったのか…。歌を、歌いたかったのか…」

凛「それは…かよちんが凛のために歌ってくれた歌がきっかけだったって…」

花陽「それ…なわとびのうた?」

凛「…うん。あんなふうに歌いたいって…思ってた」

凛「でも、そのことを忘れて、一番になることしか次第に考えられなくなって…」

凛「そのせいで凛は…手放すことのできないはずの大切な思い出を…命を…」

凛「手放そうとしちゃったんだ…!!」

凛「でも、おぼえてた、からっ…だから、たすけてって…!」

凛「落ちる寸前に、思い出せたっ…!」

花陽「…」

花陽「…うぅん、違うよ」

凛「えっ…?」

花陽「凛ちゃん…昨日、私を呼び止めたよね?」

凛「うん…」

花陽「もっと話したいからって。…あれは」

花陽「きっと凛ちゃんが、助けを求めてたんだよ。私に」

花陽「怖いから、たすけて、って」

花陽「私がまた明日、って言っても凛ちゃんは『また明日』って返してくれなかった。バイバイ、や、さよなら、しか、返してくれなかった」

花陽「明日はもう会えないって、私に教えてくれていたんだ」

花陽「…でもそれは、きっと凛ちゃんの心の叫びだっだんだよ」

花陽「死にたくないって思いが、凛ちゃんの中にはちゃんと残ってたんだよ」

花陽「凛ちゃんの叫びが、私に不安を残してくれた」

花陽「だから、ここまでたどり着けた」

花陽「…ありがとう。凛ちゃんっ…」ギュゥッ…!!

凛「っ…!!うっ…うぅ…」

凛「う、うぅぅぅっ…!!うああああああぁぁぁぁぁっ…!!うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

凛「ごめんなさいっ…!ごめん、ごめんねかよちいぃぃんんっ!!いっ、いままでひどいこといって…!!」

凛「ともだぢだっだのにっ…じゅっとともだちだったのに…!!りん、ばかだからっ…だがらっ…!!」

凛「たいせつなともだちも、うたもっ…あったのにっ…!!しんじゃおうなんてしてっ…!!じにだぐながっだのにぃぃっ…!!」

凛「とびおりようなんがしでっ…ずずっ…!ううぇえぇえぇぇぇんっ…!!ええぇぇぇぇぇんっ…!!ごめんっ…!ごべんねぇぇぇえぇぇぇっ…!!」

凛「ごめん、なさいぃぃぃっ…!!」

花陽「…うん、うん…、怖かったね。でも、そうじゃないでしょ、凛ちゃん」

凛「え…?」

花陽「助けられて、嬉しいなら…」


花陽「…こういう時は、『ありがとう』って言うんだよ。…でしょ?」


凛「…うんっ…!!ありがどっ…かよ、ちんっ…!!」

花陽「うんっ…帰ろう。いっしょに…」


真姫☆「…ふふ」


真姫☆(その日は、突き抜けるような青一色の空で)

真姫☆(ホワイトクリスマスにはなりようのない、晴れた一日だった)

12月24日 水曜日

終業式

UTX学院 講堂



理事長「…そして、残された時間を自分のために有意義に使っていってください」

理事長「では、次に会うのは年明け…、ちょっと成長したあなたたちを、見れることを期待していましゅ…いますっ」


『え、えー…理事長からのお言葉でした』



ことり「…今、噛んだよね」

海未「しっかりしているようで…あの理事長ですね、やはり」



『では次に、生徒会長から生徒へ向けての挨拶を』



穂乃果「…はい」

穂乃果「UTX学院生徒会長、高坂穂乃果です。本日は室内ながらも晴天に恵まれ、春の陽気を感じさせる…」


穂乃果(…)

穂乃果(口では今朝覚え込んだ文章を語らいながら、思考は全く別のことを)

穂乃果(三年生の席あたり…、一人一人を、目で確認する)

穂乃果(…意識の分散、か…)



穂乃果「意識の分散…ですか?」

絵里「えぇ、アイドルにとって、なくてはならないもの」

絵里「歌とダンスを同時に完璧にこなすには、どちらか片方をほぼ無意識状態でこなすくらいでなければいけない」

絵里「それに加え、その場に沿った表情でのパフォーマンス、ステージ上を確認し即座に状況に対応する判断…」

絵里「何より、観客を見据えること。全てを同時にこなしてこそ、真のアイドルとなれる」

にこ「…そんなのできる気がしないんですが」

凛「せ、先輩はできるんですかー!?」

絵里「えぇ、もちろん。片手でけん玉しながらもう片手で皿回し、それをホッピングで玉乗りして早口言葉を言いつつ天体観測ができるくらい」

にこ「それもう大道芸人じゃない!?」

絵里「ふふ…まぁ、これはさすがに言い過ぎたけど。でも、それを目標くらいには頑張ってもらうわよ?」

絵里「あなたたちはこれから、A-RISEのバックダンサーとしての道を歩むことになるんだから」

穂乃果「…はい」



穂乃果(…いない)

穂乃果(やはり…彼女は、もう…)


穂乃果「…以上、私からの言葉として締めさせて頂きます」


『はい、ありがとうございました!では次に…』



穂乃果(…そういえば、この意識の分散、って…)

穂乃果(海未ちゃん、得意だったな)

花陽の教室


親衛隊C「明日から冬休み…ですわね。私、冬休みは実家に帰ることにしているので、年明けまでお会いできませんが…」

花陽「うん、そうだったね。あ、年賀状、書くから!」

親衛隊F「無理しなくていいよ~?花陽ちゃんが年賀状書いたら大変じゃん!」

親衛隊E「た、たくさん書く事になっちゃう…。親衛隊の子、み、みんなの分は辛いんじゃ…」

花陽「平気平気!もう年賀状いっぱい買い込んでるんだから!気合入れて書いちゃうよ~!」

親衛隊A「ははは…私らはそんなに多くないんだけどねー…」

親衛隊D「親衛隊の中でもそんなに親しくない子もいるしね…」

親衛隊X「そうっちゅね。あんまりお話しない子も結構いるっちゅ」

親衛隊B「いやアンタ誰!?」

花陽「あははは…、あ…」


真姫「…」



教室前廊下


花陽「どうしたの?キノちゃん…用事?」

真姫「え、あぁ…ごめんね、会話の邪魔してしまって」

花陽「あぁ…うぅん、大丈夫」

真姫「それで…、右肩…、いけそうなの?」

花陽「…そのこと」

真姫「昨日痛めたって聞いてから、その後どうなったか聞いてなかったから…」

花陽「今日のライブのことなら大丈夫!一日くらい動かす程度なら、許容範囲内だってお医者さんも言ってくれたし」

花陽「ただ、明日からは安静…だから、今年はもう一緒に練習はできなさそう…かな」

真姫「…そう。よかった、あなたまでその…アイドルができないなんてことになったら、私…」

花陽「そ、そんなにひどくないってちゃんと言ったでしょ!もぅ…キノちゃんは心配性なんだから…」

真姫「…えぇ、そうね。ごめんなさい、余計な心配だったわね。今日のライブ、頑張りましょう!」

花陽「うんっ!もちろん…!絶対にA-RISEには負けないっ…!」

真姫「それじゃ、そろそろ自分の教室に戻るわ!また、後でね!」

花陽「うん、バイバイ」

花陽「…」



花陽(…右肩を痛めてしまったことより)

花陽(昨日の凛ちゃんの、飛び降り自殺未遂の件のせいで、今日凛ちゃんには外出許可が下りなかった)

花陽(そのことが、とても悔やまれる)

花陽(せめて、A-RISEのライブだけでも、凛ちゃんには見させてあげたかった…)

花陽(…そして願わくば、私たちの歌も、聞いて欲しかった)


花陽「凛ちゃん…」

花陽「…っ!」グッ…

花陽「よしっ…!」

西木野総合病院

凛の病室


凛「…」


真姫☆「…おはよう。凛」


凛「あ…西木野、さん…」

真姫☆「ご飯、ちゃんと食べてる?」

凛「うん…、美味しかったよ。西木野さんは、どうして…?」

真姫☆「…まぁ、色々あるのよ。今の時間はその…ね」

凛「ふぅん…まぁ、いいけど」

凛「…」

真姫☆「…気になる?花陽のこと」

凛「…うん」

真姫☆「やけに素直ね。悪いものでも食べた?」

凛「自分の家族が経営する病院の病院食を悪いもの扱いするのはどうかと思うにゃ」

真姫☆「そういえばそうね…。お見舞いはラーメンしか口にしてないみたいだし…」

凛「…別に、今更斜に振舞ったところで意味ないことだしね。ちょっとくらい素直にもなるよ」

真姫☆「へぇ…でもまぁ…憎たらしさは抜けきってないみたいね」

真姫☆「もっとフレンドリーに明るい性格になったら、花陽も喜んでくれるわよ?」

凛「ハッ…なにそれ。どしてそこまでしてかよちんに喜ばれなきゃいけないの?」

真姫☆「あなたねぇ…、友達なんだから…」

凛「…友達なんだったら、自然にするのが一番だよ」

凛「自然に接して、ゆっくりと打ち解けていくほうが…きっといいと思うんだ」

真姫☆「…」

真姫☆「…そうね。私から言うことは、あなたたちの間では何もないのかもしれないわね」

真姫☆「フフ、でも私は明るい凛が好きだからもっと明るく振舞って欲しいなー?」

凛「ハァ?どうして凛が西木野さんの好みに合わせないといけないの…」

真姫☆「いいじゃない。凛~♪」

凛「…うっざ。かよちんとは友達になったけど、アナタと友達になった覚えはないんですけど」

凛「そもそもいきなり呼び捨てとか馴れ馴れしすぎるよ!何様なの!?」

真姫☆「そ、そんなに嫌…?仕方ないわね…、ほ、星空…さん…」

凛「…」

真姫☆「…」

凛「…なんか気持ち悪いからやっぱり凛でいい」

真姫☆「そう、ね…私も凛がいい」



UTX学院


キーンコーンカーンコーン…


真姫「お待たせ、花陽」

花陽「うぅん。それじゃ、行こっか」



アイドル応援部 部室


ガチャッ

花陽「こんにちは~」


海未「おや、花陽にキノ…これで全員、でしょうか」

花陽「あれ、真姫ちゃんは…?」

希「真姫ちゃんはまだ病院のほう、違うかな?始まる直前くらいにはくる、って言ってたよ」

ことり「じゃあそれまでは来ないんだよね。…どうしよっか」

真姫「…今からリハーサルを兼ねて練習…する?」

花陽「さすがに今更過ぎるよ…。昨日練習できなかった分はあるけど、きっと大丈夫!」

ことり「うーん、だったら…」


グウゥゥゥゥゥゥ…


海未「…誰ですか」

希「ごめんうち」

花陽「…ご飯、食べに行きましょうか」

真姫「…賛成」



食堂


海未「おや、今日はそんなに人がいませんね…」

希「いるといえばいるけど、まばらやね。昼までで学校終わりやから、わざわざ学食で食べていく人が少ないから違うかな?」

真姫「…美味しいのに、もったいないわね」

ことり「でも日頃は埋まってて使えない大きなテーブルでお昼ご飯、食べられるよ!」

花陽「ホントだ…。今日はあそこでご飯を…」


「…ちょっと、いいかしら?」


花陽「はい?なんでしょ…はわぁぁぁっ!!!?」

海未「なんですか突然、大きな声を…のわぁぁぁっ!!!?」

ことり「う、海未ちゃんまで何を…えぇっ!!?」

希「…ツバサちゃんに、れなっち…あんじゅちゃんまで…」

あんじゅ「はろ~。元気?」

英玲奈「…れなっちはやめろ」

真姫「…な、なんのよう、ですか…?」

ツバサ「うふ、こんな日だし、提案なんだけど…」


ツバサ「今日くらい、一緒にご飯、食べない?」

にこ「うふふふ~…まさかA-RISEとお昼ご飯ご一緒できるなんて夢のようだわ…!」

穂乃果「…そうだね。有意義な話ができるといいね」


ツバサ「あ、穂乃果、にこ!こっちこっち!」


にこ「ツバサさーん!今行きま…うぇっ!!?」

穂乃果「こ、これは…」



数分後…


ツバサ「じゃあみんな、お昼ご飯は揃ったわね?」

ツバサ「じゃ、手を合わせて…せーのっ」


「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」


あんじゅ「ふふ、ツバサちゃん、学校の先生みたいね」

英玲奈「こんな大所帯でお昼ご飯を食べるのは久々だな」


花陽「え、えっと…」

にこ「…何見てるのよ」

ことり「見てる、というか…」

穂乃果「…」

海未「見ざるを得ないというか…」

真姫「…どんな状況よ、これ」

希「ツバサちゃん、説明してくれへん?なんでここにうちらと穂乃果ちゃんたちを集めたん?」

希「わざわざA-RISEまで勢ぞろいして…」

ツバサ「説明も何も…気まぐれよ、気まぐれ」

ツバサ「もしあなたたちも食堂に来てたら、一緒にご飯食べられたら楽しいかも、って思ってただけ」

海未「無茶苦茶ですね…」

花陽「いいんですか…?私たちとご飯食べる、なんて…」

あんじゅ「うーん、いいんじゃない?もう誰が怒るってわけでもないし…」

英玲奈「私たちはツバサのやりたいことに従うだけだよ」

にこ「そ、それでいいの…?」

ツバサ「こうしてA-RISEとバックダンサー…それに、C☆cuteの面々が揃って話し合うなんて機会、そうそうないじゃない」

ツバサ「いえ、話し合うつもりはないけれど。ただ和気藹々にご飯を食べようってことで…ずるずるっ…うん、美味しい」

ことり「ご、強引だね…」

あんじゅ「そこがうちのリーダーの魅力なのよー」

希「…ま、いいんやないかな。そういうことなら」

花陽「そうですね。せっかく大きなテーブルが空いているんだし、みんなで使わないともったいないよ!」

花陽「じゃあ改めて…いただきます!もぐもぐもぐ…」

穂乃果「…いただきます。あむっ…もぐもぐ…」

海未「い、いいんのでしょうか、食べ始めてしまって…」

ことり「もうこの空気に乗るしかないよ…はむっ…もぐもぐ…」

真姫「…シラナイヒトコワイ…モグモグ…」

にこ「…そういえば、真姫ちゃん、いないのね」

花陽「えっ…?」

真姫「わ、私ならいるけど…!?」

にこ「あぁ…そうね。いたわ、ごめんなさい。…真姫」

真姫「はぁ…?」

希「…くすっ」

英玲奈「なんだ東條…変な笑みを浮かべて。気持ちわるいぞ」

希「なんでもー?あ、れなっち、その海老天ちょうだいっ!」

英玲奈「はぁっ!?おい待てっ!天丼の主役だぞバカっ!」

あんじゅ「あー、英玲奈ばっかり希ちゃんとずるーい!うぅん、でもここは新規開拓?」

あんじゅ「じゃ、ことりちゃん、あーんしましょ?」

ことり「へっ…!?」

穂乃果「…あんじゅさん」

あんじゅ「なにー?嫉妬かしらー?」

穂乃果「…別に。ただ、あまり食事中にふざけるのも良くないかと」

あんじゅ「そう?ふざけてなんかいないんだけどなー」

海未「あの、穂乃果…」

穂乃果「…ごめん。食事中は話さない主義なんだ。後でね」

海未「はぁ…」

ツバサ「…あ、そうだ。あなたたち、穂乃果の幼馴染なんですってね?幼い頃の穂乃果ってどんな感じだったの?」

穂乃果「ぶっ…!つ、ツバサさっ…」

希「お、それうちも知りたい!」

ことり「ちっちゃい頃の穂乃果ちゃん…?うーん、そうだなぁ…」

海未「よくおねしょして泣きべそかいてましたね」

ことり「あーそうそう!お泊りしてて隣の布団までしみちゃうくらいのいっぱいの…」

穂乃果「ど、どれだけ昔の話してるのっ!!ツバサさんもっ…!!」

ツバサ「へぇ~…穂乃果がねぇ…ふふふ…」

英玲奈「うわ…ツバサの目がいやらしいこと考えているときの目になっているな…」

にこ「あんまりファンに見せられる顔じゃないわね…」


花陽「…ふふふっ」

真姫「花陽…?どうしたの?」

花陽「え?あ、うぅん…なんだか楽しくなってきちゃって」

花陽「こんなふうに、A-RISEとC☆cuteが会話することが…ホントに夢みたいで」

花陽「私の夢が、叶ったような気がして…」

ツバサ「夢じゃないわ、小泉花陽さん」

花陽「は、は、はいっ!?」

ツバサ「これは現実。れっきとした、ね」

ツバサ「そしてこれから、夢にしていくのよ。いがみ合いなんて存在しない、そんなUTXに」

花陽「あ…」

ツバサ「まだ叶った気でいられたら、困るわよ?」

花陽「は、はいっ!頑張りますっ!!」

数分後…


あんじゅ「ふー…、お腹いっぱい」

ことり「ごちそうさまー」

英玲奈「…今頃、ステージが作られているのだろうか」

希「あ、それやん!えりちがその…アレやのに、ステージ作る子はいてくれてるん?」

海未「アレ…?」

希「あぁ、まぁまぁ…」

ツバサ「確かにステージの作成は絵里の呼びかけによって集まった有志の子たちだけど…」

ツバサ「大丈夫。任せられたことを途中で投げ出すような子達ではないわ」

希「…そう。それなら良かった」

ツバサ「…さてと、みんなもう食べ終えた頃ね。じゃあそろそろ…」

穂乃果「解散、ですか?」

ツバサ「あなたたちに話しておきたいことを言おうと思って」

にこ「い、今から本題…?」

ツバサ「軽い激励みたいなものよ。…それじゃあ」

ツバサ「新A-RISE、並びに、C☆cuteの皆さん」

ツバサ「今日のライブ、全力で臨んでいってね」

あんじゅ「なんなら私たちをゲスト出演…もがっ」

英玲奈「余計なことを言うな」

ツバサ「そして、最高に楽しいライブを。どちらが勝っても悔いのない勝負を。お客さんに今日一番の喜びを」

ツバサ「あなたたちはライバルで、…そして、同じUTXのスクールアイドルでもある」

ツバサ「敵であり、仲間でもある。…覚えていてね」

穂乃果「…はい」

花陽「わ、わかりましたっ…!!」

あんじゅ「そう!私たちはこの丼の元に一つ!」

英玲奈「何言ってるんだお前…」

あんじゅ「同じ釜の飯を食べた仲って言うじゃない?それみたいなものよ~」

にこ「…そうね。ご飯を一緒に食べればみんな仲良しよ!」

真姫「な、仲良し…。まぁ…悪くない響きだけど」

希「それじゃ、今度はうちが締めようかな?いい?」

ツバサ「えぇ。あの頃みたいに、お願いね?」

希「任せといて。…それじゃ、手を合わせて。ぱしんっ!せーのっ…」



「「「「「「「「「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」」」」」」」」」

UTX学院 屋上


パモ部部長「やーやー!今日は私のために集まってくれてどうもありがとう!」

親衛隊A「別にあなたのためってわけじゃ…」

パモ部部長「一人じゃこのどでかい垂れ幕は下ろせないからねー!…仲間がいたのに…、あいつら先にご飯食べに行っちゃって…ぐすん」

親衛隊E「か、帰ってきてから垂らせばいいのでは…?」

パモ部部長「1時過ぎたら垂らしていいって言われたんだもん!早く見たいじゃん!」

パモ部部長「じゃ、指示するから屋上の手すりに引っかかるようにフックかけてねー。あ、そこの君はそれを…」

親衛隊D「あなたが動くんじゃないんですね…」

パモ部部長「…高所恐怖症なんだアタシ」

親衛隊C「そ、それなら仕方ないですわね。みなさん、して差し上げましょう!」

親衛隊F「仕方ないなー。C☆cuteの応援垂れ幕だもんね!いっちょやっちゃいますか!」

パモ部部長「うぅっ…!持つべきものは後輩だなぁぁ…!アタシ感激だよ!」


ガチャッ…


真姫☆「…」チラッ


パモ部部長「ありゃぁ?真姫ちゃん、どうしたの?みんなは?」

真姫☆「え、あぁ…まぁ。あなたたちの様子を見にちょっとね」

パモ部部長「ふぅーん。あ、そこもうちょい左で!」

真姫☆「あれが垂れ幕?…えらく巨大なロールね…」

パモ部部長「このでっかいUTXに垂らすくらいだからね!あれくらい長くないと!」

親衛隊B「用意できました!」

パモ部部長「よっしゃぁっ!それじゃみんなで持ち上げて落とすよっ!」


グググッ…

親衛隊ズ「お、重っ…!!」

パモ部部長「頑張れー!がんばれー!!もう少しだぁぁぁぁっ!」

親衛隊ズ「ふんぬー!!」グオンッ…!!


バサァァッ!!


親衛隊ズ「おおぉー!!」

パモ部部長「行ったぁぁっ!垂れ幕大成功!!」

真姫☆「…なんて書いてあるの?」

パモ部部長「えーっと、『ライブ対決!A-RISEvsC☆cute!果たして勝利を手にするのは!?どっちも頑張れ☆』だったと思う」

真姫☆「私たちを応援してくれるんじゃなかったの!?」

パモ部部長「な、なんか大きな垂れ幕一つにC☆cuteのことだけ書くのはもったいない気がして…てへぺろにゃん」

真姫☆「まぁいいけど…」

パモ部部長「しかしたっかいねー…!よく作ったもんだなぁ…。下まで届きそうなくらいじゃーん…」

親衛隊C「ぶ、部長…?高所恐怖症だったのでは?」

パモ部部長「あ」

親衛隊A「コイツ嘘ついてやがったなぁぁぁっ!!コンチクショー!!」

パモ部部長「うひぃっ!!ごめんって!アタシの美しい腕に重労働は似合わないからさあぁぁぁぁっ!!」

ガヤガヤ… ワイワイ…


真姫☆「…ふふ」


ガチャッ… バタンッ



親衛隊A「こいつっ…!突き落としてやろうかっ!!」

パモ部部長「ひーっ!ご勘弁をー!!」

親衛隊F「…あれ、真姫ちゃんは?」

親衛隊D「そういえば…いなくなってる…?」



UTX学院 廊下


プルルルル… プルルルル… ピッ

真姫☆「…もしもし、私」

凛『あ、真姫ちゃん…どったの?』

真姫☆「クリニックの方は順調?」

凛『うん。もうほぼ直ったにゃ。あと2、3時間くらいで完成』

真姫☆「…そう」

凛『いいの?ホントに…今日、帰るって』

真姫☆「いいの。クリニックの修理が終わったならいつまでもここに居座る理由はないわ」

真姫☆「もうこのUTXは、私がいなくても…回っていけるから」

凛『ふふーん、自意識過剰だにゃー。凛は別にどっちでもいいけどね』

凛『でも、やり残したことが本当にないか、最後まで考えてから、帰ろうね』

真姫☆「あなたに言われなくてもわかってる。…わかっているわ」

真姫☆「じゃ、修理頑張ってね。…バイバイ」ピッ

真姫☆「…」

真姫☆「…やり残したこと、か」

真姫☆「考えれば考えるほど、…彼女たちとやりたいことは、尽きないけれど」

真姫☆「でも、ここは私の居場所ではないから。…だから」

真姫☆「そろそろ、お別れね。…UTX」

花陽(数々の人の思いが、今日という日に交錯していて。緊張と楽しみで、私も胸がはちきれそうで…!)

花陽(そして、やると決めたことを…ちゃんとなせるかどうか。それも胸の高鳴りを増長させていて…)

花陽(ついに、いよいよ…!)



控え室


ガヤガヤ…


真姫「ついにライブ直前…」

海未「客席も騒がしくなってきましたね…」

希「ステージを囲っていた柵の外からも見学人がわっさわっさ…。ちょっとした混乱やね…」

ことり「やっぱり野外でするべきじゃなかったかもね…」

花陽「うぅんっ…!私は屋外でよかったと思うっ…!」

真姫「え…?」

花陽「室内と違って、絶対に声が届かない…ってことはないから」

ことり「どういうこと?」

希「…まぁ、今はいいやん。それより…真姫ちゃん来ないね」

海未「そういえば…どうしたのでしょうか」


ガチャッ

穂乃果「…今、いい?」


海未「っ…!穂乃果っ…」

ことり「何?」

穂乃果「いや、あのっ…その…」

希「?珍しくうろたえて…」

にこ「ほら、あなたがやろう、って言ったんでしょ。…はい」

穂乃果「…うん。海未ちゃん、ことりちゃん」

海未「は、はいっ…!」

穂乃果「お互いに、みんなを笑顔にできるライブをしよう。観客だけでなく…私たちも心からの笑顔になれるライブを」

ことり「穂乃果、ちゃんっ…」

にこ「全く…口下手なんだから」

海未「穂乃果っ…!はいっ!やりましょう!!」

ことり「もちろんっ、私たちのライブで穂乃果ちゃんも笑顔にさせてあげるんだからっ!覚悟しててよね!」

穂乃果「うん、期待してる。…あと花陽ちゃん」

花陽「は、はいっ…?」

穂乃果「凛ちゃんの分まで…頑張ろう」

花陽「っ…!はいっ!!」

穂乃果「それじゃ、私たちはこれで…」

にこ「下手なライブ見せたら承知しないんだからね!わかった!?」

希「言われんでもっ。にこっちも頑張りね!」


真姫「…いいわね」

希「ん?何が?」

真姫「こういう励まし合ったり、憎まれ口叩けるライバルが、そばにいるのって…すごい、嬉しいことだと思うわ」

希「…うん。そう、やね…」

真姫☆「…ふぅ、間に合ったわね」


花陽「あ、真姫ちゃんっ…」

海未「どこ行っていたんですか?直前も直前過ぎるのでは…」

真姫☆「まぁ、ちょっとね。…あら、それが衣装?」

ことり「うんっ!可愛いでしょ~?」

真姫☆「えぇ、羨ましい。私も着たかったわ」

真姫「い、今から交代する?私、まだ足が震えて…」

真姫☆「しないわよ。ダンスも踊れるかわかんないし」

真姫☆「私からできるのは、ただ最後に声をかけることだけ。…ことり」

ことり「うん?」

真姫☆「衣装は完璧だから、あとは最大限自分を可愛く見せてあげましょう」

ことり「おっけー!わかってますって!」

真姫☆「…海未。あなたの言葉ではない初めての歌よ。ある意味貴重だから、存分に堪能してきてね」

海未「えぇ。ちゃんとキノと花陽の感情も理解したつもりです」

真姫☆「希。きっと、あなたが慰めてあげた子たちもこれを見てる。…今度こそ、最高の元気を与えてあげるのよ」

希「任せといて!うちのパワーをみんなにたっぷり注入してあげるんや!」

真姫☆「キノ。…対外ライブばっかりで緊張しっぱなしでしょうけど、自分を信じて。あなたは、可愛いんだから」

真姫「っ…わ、わかってるわよ!歌だってダンスだって…みんなに負けないよう必死で練習したんだから!」

真姫☆「…花陽」

花陽「…うん」

真姫☆「あなたの見たかった景色。私の見せたかった景色」

真姫☆「…これで、見せられたかな?」

花陽「…うん。これが…真姫ちゃんが見てた世界、なんだね」

花陽「真姫ちゃんの世界が、私の世界と溶け合って混じり合って」

花陽「…私だけの理想郷になってくれた。真姫ちゃんがいてくれたおかげ、だよ」

真姫☆「そう言ってくれると、嬉しいわ。…それじゃ、私はマント被って客席にいるから」

真姫☆「最高のライブ、お願いするわね」

花陽「うんっ!」


海未「なんだか、真姫には似合いませんでしたね。こんなしんみりした空気にさせるなんて」

ことり「真姫ちゃんにも思うところがあるんだよ。今までやってきて」

真姫「3ヶ月でここまで来たんだものね…。ホント、すごいと思うわ」

希「…せやね」

花陽「よしっ!じゃあ気合入れるために…、アレやろう!」

花陽「行くよっ…!1っ!」

ことり「2っ!」

海未「3っ!」

希「4っ!」

真姫「5っ!」

花陽「C☆cute…、ミュージック~…!」


「「「「「スタートっ!!」」」」」

西木野総合病院

凛の病室


凛「…」

凛「…今頃、ライブ、やってるのかな」

凛「ここからじゃ、何も見えないし、聞こえない」

凛「…少し、寂しいな」



UTX学院前

即席ライブ会場


『え~…それでは…』


キャアアアアアアアァァァァッ!!


『しっ、お静かに!今日の主役は私たちじゃないんだから…。えっと、今日司会を務めるはずだった絢瀬絵里さんが欠席ということで』


ツバサ『私がライブの司会を務めることになりましたー。今は、ただのUTX学院3年生の綺羅ツバサです』


キャアアアアアアアァァァァッ!!


ツバサ「…うぅ、やっぱり引き受けたのは間違いだったわ…。こんな盛り上がってて大丈夫かしら」

ツバサ『ごほんっ。では、早速ライブを始めましょう!』

ツバサ『まず一番手は…わずか3ヶ月の活動でA-RISEに匹敵するほどの人気を持つ、新進気鋭のシンデレラたち!』

ツバサ『UTX学院第二のスクールアイドル、C☆cuteよ!』


パチパチパチパチパチパチ!!

マキチャーン!!ハナヨチャーン!!コトリサーン!!ウミチャー!!ノゾミサーン!!


花陽「っ…」ゴクリッ

ことり「ふぅっ…」

海未「ぅ…!」

希「っし…!」

真姫「あわわわわ…」


ツバサ『それでは早速行きましょう!ミュージック~…』


花陽「っ…!ま、待ってくださいっ!!」


ツバサ『っと…な、何かしら?』


花陽「わ、私っ…ライブが始まる前に言いたいことがあるんですっ!」

海未「花陽…?」

真姫「き、聞いてないんだけど…?希さん?」

希「…うちも」

ことり「何を…」


ツバサ『…いいでしょう。どうぞ?』


花陽「はいっ…じゃあ…!」

花陽「…っ」ゴクリッ…


花陽(き、緊張する…!)

花陽(なんの打ち合わせもしてない、私の言葉を発信するのは初めてだから…!)

花陽(ライブよりも怖い…けど…!)

花陽(…言うんだ、私っ…!!)

花陽(凛ちゃんにも、歌が届くようにっ…!)



真姫☆「…花陽」



花陽「…えっと、今から歌う曲は…」

花陽「『学校に来たくなる曲』をテーマに作った曲です!」

花陽「私はこのUTX学院が大好きですっ…!C☆cuteのみんなも、UTX学院が好き、だと思います…!」

花陽「でも、今私が好きでいられるのは、そうさせてくれた人がいたから」

花陽「…もし、私がこうしてスクールアイドルになっていなかったら、私は今でもUTX学院を嫌いだったかもしれません」

花陽「そして、これを聞いてくれている人の中にももしかしたら…UTX学院のことを、そんなに好きじゃない…って人も、いるかもしれない」

花陽「学校なんか行きたくない…アイドルなんか嫌い…そう思っていた人も、いるかもしれない」

花陽「私の…私のお友達も、心に大きな傷を負ってしまった一人でした」

花陽「大怪我を負って、必死で追いかけていた夢をあきらめざるを得なくなって」

花陽「一時は…命まで投げ出そうとして、なんとか助かりましたが…でも、多分…まだその子の心の傷は、癒えきっていないと思うんです」

花陽「私はその子にこそ、この歌を聴いて欲しくて…でも今、その子はここにはいませんっ…!!」

花陽「だからっ!!」


花陽「お願いしますっ!!私たちの歌っ…!その子にも届くようにっ!」

花陽「観客の皆さんも全力でっ…も、盛り上がってくださいっ!!!」


「…っ」

「…っいぇええええええええええええええええええええええいっ!!!!!」

ヒューヒュー!! ガンバレー!! 


花陽「っ…!あ、ありがとうっ!」

花陽「その子だけじゃなくてっ…、ここにいるみんなにも、そして世界中のしょんぼりしたみんなにも届くような、とびっきりの元気をっ!」


ことり「花陽、ちゃん…」

海未「いつもオドオドしていた花陽が…こんなにも観客を沸かせているなんて…」

真姫「リーダー任されて、いつも以上に気合入ってるって感じかしら?」

希「…いや、あれが…あの花陽ちゃんが、本当の花陽ちゃんなんよ。きっと」


花陽「それじゃ行くよ、みんなっ!!」

花陽「ミュージックッ…、スタートっ!!」


ツバサ「あ、私のセリフ…」

~♪


「あれ、これっ…」「新曲!?」「嘘っ…ちょっと前に曲出してたのに…すごっ」



真姫☆(…始まった)

真姫☆(私の曲じゃないC☆cuteの歌が)

真姫☆(見せてちょうだい。あなたたちの全力をっ…!)



花陽「すぅっ…!」



『  透明な心の キャンバスに描いた  』

『  自分だけの楽しい物語(ユメ)を みんな持ってる  』


『  隠したい気持ち 誰もが抱くけれど  』

『  重ねてみようよ 今だけと言わずに さぁ  』



真姫☆「…っ」

真姫☆(…花陽の右腕が上がりきってない…。やっぱり、昨日の怪我が響いて…)



『  夕やけ滲んだ「ごめんね」だって  』

『  泥んこまみれの「ありがとう」だって  』

『  全部全部色褪せない そうさ 君と僕の世界なんだよ  』



花陽(ッ…痛い、けどっ…!でも、全力でっ!!)

花陽(凛ちゃんにっ!!)


花陽「…だからっ!」バッ!!



『  こっちおいで へこんでないで  』

『  手を伸ばせば 届く距離さ  』


『  顔上げて 涙拭いて  』

『  一緒に歩もう いつも隣で  』


『  笑って泣いて 歌って踊って  』

『  君の全てが輝くピースになる  』


『  新しい場所 来たれ理想郷(ユートピア)  』

花陽「…ふぅっ…!」


ザワッ…

ウオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!


パチパチパチパチ…!!


花陽「あっ…、ありがとうございましたっ!C☆cute、でしたっ!!」



穂乃果「…」

にこ「…すごい盛り上がり、ね…。飲み込まれてない?大丈夫?」

穂乃果「当たり前、だよ…。私たちはただ、私たちの全力を出し切るだけっ…!」

にこ「えぇ、そのとおり!…行くわよ」

穂乃果「…うん」



控え室


真姫「よ、よしっ!なんとかやりきったわ!!」

ことり「特に目立ったミスもなかったし…いけるかなっ!?」

海未「彼女らのライブがどうなるかが問題ですっ…!お願いです、勝っていますように…!」

海未「まだこんなところで、解散なんてしたく、ありませんっ…!!」

ことり「私もっ…!もっといっぱいいっぱいライブがしたいよっ…!」

希「せ、せやねー…」

希(いつ言い出そうか…解散の話はなくなったって)

花陽「A-RISEのライブ、もうすぐ始まるよ!舞台袖で見に行こう?」

真姫「わ、私パス…。もう一歩も動けない…」

希「西木野さんとうちは控え室で待っとくから、花陽ちゃんたち行ってき?」

海未「わ、分かりましたっ…!うぅ、ドキドキしますっ…」



ライブ会場


ツバサ『ふふっ!すごいステージでもう会場は割れんばかりの大声援!近所の人が何事かと詰めかけそう!』

ツバサ『でもでもっ?まだライブは終わりじゃないわよ!』

ツバサ『多くの精鋭の中から勝ち残ったほんの一粒のダイヤモンド!その輝きはまさしく一級品!』

ツバサ『A-RISEバックダンサー…いえ、次期A-RISE!登場よっ!!』


あんじゅ「ツバサちゃんノリノリだねー」

英玲奈「アイツも初めての司会でテンション上がってるんだろうな」



穂乃果「…」

にこ「…っし!」


ツバサ『あなたたちは何も言うことはないわねっ!?なら今度こそ行くわよっ!』

ツバサ『ミュージック~…スタートっ!!』

~♪


真姫☆(…!すごいっ…!!)

真姫☆(ダンスの完成度、歌唱力、パフォーマンス…どれをとってもホントにプロ並み…!)

真姫☆(言い方は失礼だけど…私の世界の穂乃果とにこちゃんを遥かに上回る精度…)

真姫☆(これがアイドル専攻を勝ち抜き、そして耐え抜いてきた二人の真の実力っ…!)



ことり「ひえぇっ…!か、カッコイイ…!!」

海未「人間ってあんな動き、できるんですね…」

花陽「っ…!」



真姫☆(曲は既存曲ではあるもののダンスは二人用にアレンジが加えられている…)

真姫☆(凛が抜けてから数日でここまで完成度の高いアレンジに仕上げるなんて…これは)

真姫☆(…本当に勝てるのかしら。あの二人にっ…!!)



穂乃果「…ふっ!!」ビシッ!!

にこ「はっ!」ビシッ!!


デーン…


キャアアアアァァァァァァァァァァッ!!

パチパチパチパチパチパチ!!



穂乃果「…ありがとうみんなっ!次期A-RISE…、これからも応援よろしくね!」

にこ「それじゃっ…にっこにっこにー!!」


ツバサ『はい、ありがとっ!両者、ライブを終えました!』

ツバサ『短いけれど、これにてライブは終了よ!手元の投票券を、出口のところにある投票BOXに投入してね!』

ツバサ『集計に時間がかかりそうなので、発表はまた後日!というわけでこれにて解散!』


エッ… ザワザワ…



海未「え、この場で発表しないんですか…?」

ことり「うーん、まぁ見に来てくれている人はライブ目的で、優劣付けるためじゃないからいい…のかな?」

花陽「今日中に会場を片付けないといけないから早めに終わらせないといけないって理由もあるみたいです…」

海未「しかし、私たちにとってはここからも重要っ…!」

花陽「っ…!ど、どうなるんだろうっ…!!」

数十分後…

UTX学院 一室


ツバサ「…集計結果が出たみたい」


花陽「っ…!」

ことり「う…!」

海未「…っ」ドキドキ

真姫「はわわわわ…!」

希「あ、あー…っと…えーっと」


穂乃果「…」

にこ「ま、負けてませんようにっ…!!」



ツバサ「票数差…わずか3票」

ツバサ「勝者っ…!!」


一同「ッ…!!」ザワッ




「…A-RISE」





にこ「っ…いぃ、やったああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

穂乃果「か、勝ったっ…!良かった…」



海未「ま、負け…負けた…!?」

真姫「3票…だなんて…」

ことり「うぅっ…!そんなっ…」

花陽「こ、これでっ…解散、か…」

花陽「でも、…いいの。私はもう、見たかった世界が見れたから…」

花陽「きっと、これからのUTXも…笑顔のスクールアイドルが…うぅっ…ぐすっ…」

海未「泣いてはいけませんっ…!!泣いてはっ…!!」

ことり「でもぉっ…ううぇええぇぇぇぇぇぇぇんっ…!!」

真姫「よくやったわよっ…私たち…!3票差まで、行ったんだもんっ…!うぅっ…!」

希「あ、あのー…」


ツバサ「…解散?あの話はなくなったって…希の携帯に連絡したはずだけど?」



ぱなことうみまき「え?」

希「あははははは…」

アイドル応援部 部室


真姫☆「あははは…3票差で敗北、ね。さすがだわ、A-RISE」

花陽「うん、やっぱりすごいよ。A-RISEは…。凛ちゃんもいなかったのに…」

真姫☆「あなただって、右腕が上がらないハンデ抱えてたじゃない。あれがなければもしかしたら…」

花陽「そう、かもしれないけど…でももう済んだことだし。それに…」


海未「私がどれだけ心を痛めたと思っているんですかぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

希「ごご、ごめんて!言うタイミング逃してもてんもん!」

ことり「許しません!キノちゃん!」

真姫「はいっ!」ササッ

希「な、何をする気なん…!?」

海未「…このアイドル応援部に未来永劫、メンバーの寿命を縮めた大戦犯として…」

海未「マジックで落書きをした希さんの写真を飾ることとします」キュポッ

希「えぇっ!?ちょっ…堪忍して!ひぃぃっ!!うぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」



数分後…


花陽「えー、では…ごほんっ!」

花陽「ライブが無事に終わったことを祝してっ…かんぱーい!」


「かんぱーいっ!!」



ことり「…じゃあ、パンフレットの件も?」

希「うん、大丈夫みたい。えりちのアイドル専攻に関する権利の全てが失効した、みたいなもんやから…」

希「今回の勝ち負けでの処遇も、なかったことになったんやって」

真姫「へぇ、それはよかっ…ぶふぉっ!!」

希「…いつまで笑ってんねんよ」

海未「ぷふっ…!我ながら…最高の落書きですっ…!あははははははははっ!!」

真姫☆「確かにまぁ…センスあるわね」

花陽「こ、これを部室に飾るの?」

海未「えぇ!」

希「…末代までの大恥になりそうや」

真姫☆「まぁいいじゃない。アイドル応援部創立者の肖像画にはピッタリよ?」

ことり「うんうん!ぷふふふふっ…あはははは!」

希「こんな顔いややーっ!」

花陽(ライブでの勝負には負けてしまったけれど)



ことり「はいポテチ!あーんっ!」

海未「あ、あーん…」

ことり「ダメー!あむっ!」

海未「こ、このぉっ!!」



花陽(私たちの笑顔は、何一つ曇っていません)



真姫「の、希先輩っ!ひとりでポップコーン食べ過ぎ!」

希「んふふ、うちこのポップコーン好きなんよ!はぁぁ~おいし…」

海未「ずるいですっ!私も!」

ことり「このバター醤油の香りがクセになるよね~…」



花陽(そうだよ。アイドルは勝ち負けなんかじゃない)



真姫「…そういえば緊張してサビ前の足、逆に出しちゃったのよね」

海未「それですね。負けた原因は」

希「西木野さんの足さえ合ってれば勝ってたのになー」

ことり「これは戦犯かな?」

真姫「落書きだけはやめてーっ!!」

「あははははははは…」



花陽(最初から最後まで、ずっと笑顔でいられる、そんな…夢のような)




真姫「…花陽?はーなーよっ」

花陽「え?何…?」

真姫「みんなで最後に記念撮影しよう、って」

花陽「あ、そうなんだ…。うん、わかった!」


海未「リーダーは真ん中で!」

ことり「さぁさ、おいでおいで!」

希「ここやよここ!」

花陽「え、いいんですか?じゃあ…えへへへ…」


真姫「じゃ、タイマーセットするわねー…っと」タタタタッ…

花陽「あれ?そういえば…」


花陽(…真姫ちゃんは?)


真姫「はい、チーズっ!」


パシャッ

ガチャッ… バタンッ


真姫☆「…」

真姫☆「お待たせ」





西木野総合病院


花陽(…結局真姫ちゃんは、部室には戻ってこず)

花陽(行方が少し心配だったけど、…まぁ真姫ちゃんだから大丈夫だと思って)

花陽(打ち上げが終わった直後に、凛ちゃんのお見舞いに)



花陽「…ふふ、これ見たらどんな顔するかな。凛ちゃん…」

花陽「ん?…えっ…!?」


ツバサ「…あら。こんなところでも出会うなんて…偶然ね」

英玲奈「小泉か…。いいライブだったぞ」

あんじゅ「あ、花陽ちゃんっ!残念だったわね~」


花陽「あ、A-RISEのみなさんっ…!?どうしてここに…!」


英玲奈「お見舞いだ」

あんじゅ「凛ちゃんのね」

ツバサ「今回のライブの指導が忙しくて、直接彼女のお見舞いをしてなくて」

ツバサ「時間ができたし、今更だけど…ね」


花陽「あ、ありがとうございますっ!凛ちゃん、喜んでましたか!?」


あんじゅ「えぇ、もちろん。なんてったってA-RISEだものね」

英玲奈「自分で言うな。…でも、思っていたより明るかった」

英玲奈「きっと、君のおかげだ。…小泉花陽」

花陽「あ、ど、どうもっ…!」

ツバサ「それじゃ、私たちはこれで。凛のこと、よろしくね」

花陽「は、はいっ!」



凛の病室


ガララッ

花陽「…お邪魔します」


凛「あ、かよちん!」

花陽「ごめんね、遅くなって」

凛「ホントだよ!ライブ終わったの結構前でしょー?もっと早く来てくれても良かったのに!」

花陽「み、みんなと打ち上げしてて…。お詫びと言ってはなんだけど、これ」

凛「にゃ?これって…?」

花陽「…今日、クリスマスイブでしょ?だから、私から凛ちゃんへのクリスマスプレゼント」

花陽「昨日、あれから考えて、買ってきたんだ。…開けてみて」

凛「お、おぉぉぉぉおっ!かよちんからのクリスマスプレゼント!嬉しいにゃ!!」

凛「えへへ~、何かな何かな~?」ガサゴソ…

凛「…にゃ?これって…」

花陽「アンクレット。今はギプスがあって付けられないけど」

花陽「外れた後、なるべく怪我の治りが早くなるように、っておまじないを込めて」

花陽「どうかな?」

凛「綺麗な色…。二色の透明な石で作られてて…なんだか凛とかよちんみたいだね」

凛「うん!すごく嬉しい!ありがとっ!!」ギュッ

花陽「はわわわわぁぁっ!!り、凛ちゃんっ…!急に抱きしめられたら照れるよぉぉっ…」

凛「ふふ…いつかこれをつけて…かよちんの隣で踊りたいなぁ…」

花陽「…うん。私も、凛ちゃんと一緒に踊りたい」

凛「歌もね!」

花陽「うん、歌も」

凛「あ、そうだ!今日ライブだったよね!どっちが勝ったの!?」

花陽「え…あー…A-RISEだよ」

凛「わー、やっぱりかー。さすが先輩たち!」

花陽「ツバサさんたちには聞かなかったの?お見舞い、先に来てたんでしょ?」

凛「ん?あぁ…A-RISEの人たちとは、ちょっと別のことをね」

花陽「そう…?でも、惜しかったんだよ!ほんの少しの差だったの!」

凛「そうなんだ…。じゃあね!だったら!」

花陽「うんっ?」

凛「凛は、C☆cuteに一票入れるにゃ!」

花陽「えっ…」

凛「そしたらどう?勝てた?」

花陽「…2票差になるかな」

凛「あー、惜しい。でも3票差かー…すごいじゃんかよちん!!」

凛「やっぱり、かよちんも努力してたんだよね…。すごいなぁ…」

花陽「うん、私も…必死だったよ。A-RISEに追いつくために」

花陽「ギリギリで、追い越すことはできなかったけど、でも…3票差っていうのは、誇りだよ」

凛「うんうん!あ、2票差だからね!」

花陽「あはは、そうだったね。…でも、どうしてC☆cuteに入れたの?」

花陽「凛ちゃんなら、A-RISEに入れそうだし…なにより、私たちのライブだって…」

凛「…うぅん」

花陽「えっ?」



凛「聞こえたよ。かよちんの声」

凛「ちゃんと、凛にも」

凛「…すぅっ」


凛「だからこっちおいでへこんでないでーてをのばせばーとどくーきょりさー」

凛「顔上げて涙拭いてー…えっと、なんだったっけ」



花陽「そ、それ…私たちの歌っ…!?どうして…」

凛「だから、聞こえたんだもん」

凛「不思議だけど、この病院にも届いたんだ。C☆cuteの歌声、そして、それを見ている人たちの歓声が」

凛「凛も、病院の窓から応援してたよ。だから、凛だってライブに参加してたんだ」

凛「これなら、凛にも投票権あったっていいよね?」

花陽「ホントに…届いた…?」

凛「うんっ」

花陽「私たちの、歌が…」

凛「…これで、二つだね」

花陽「え、何が…?」

凛「凛の、大切な歌」

凛「なわとびの歌と、今日の歌」

花陽「あ…」

凛「…凛、学校、嫌いにならないよ」

凛「アイドルだって、ずっと好きなままでいる」

凛「怪我が治ったら、また学校に行ってね、それで…」


凛「…やりたいことも、見つかったから」


花陽「やりたいこと…?凛ちゃんのやりたいことって、何?」

凛「怪我が治って、リハビリしながらでもできること」

凛「凛の夢と…かよちんの夢のお手伝いができる、とっても素敵なこと」

花陽「それは…?」

凛「それはねっ…」









もしライブ! 第9話

おわり

以上9話でした 挿入歌タイトルは『来たれ理想郷』と書いて『きたれユートピア』と読みます お恥ずかしや
では次回、最終回 って言ってもまた2分割 お楽しみにね ほなな

おつおつ
一気に投下してくれてありがたい上に面白い

>>1のss全部読むつもりなんだがどれから読めばいいんだ?

ついさっきクリニックとシアターを読み終わった

やっぱ楽しいわ

前に言ってたオーズのssってやるんですか?

前に言ってたオーズのssってやるんですか?

オーズのはまだやる予定ないです 予告してたやつは今のところ全部断念中です
で、遅れたけど今日は最終回前半です あらすじ書こうとしたけど長すぎてまとめきれなさそうなので諦めました じゃやっていくよ

1月1日 早朝



スタスタ…


ことり「ふわあぁぁ~~…」

海未「大きな欠伸ですね、ことり」

ことり「うーん…、だって眠たいんだもん…。いつもは寝てる時間だし…」

海未「これから初詣に行くというのに、そんな緩んだ気ではいけませんよ?」

海未「これからの一年を占う重要な一日なのですから」

ことり「そんなこと言われても出ちゃうものは…ふわぁぁぁぁ…」

海未「全く…」



スタスタ…


ことり「…あ」

海未「ここは…」

ことり「毎年の癖でつい…」

海未「…穂むらに来てしまいましたね」

ことり「電気、点いてるね。起きてるのかな?」

海未「どう、でしょうか…」

ことり「…誘ってみる?」

海未「えっ…」

ことり「穂乃果ちゃん。初詣、一緒にいかないかって」

海未「っ…、それは…」

ことり「どうする?」

海未「…」

海未「…やめておきましょう」

海未「今は穂乃果にも、穂乃果の友人がいるのですから」

ことり「…そっか」

海未「さ、行きましょう」

ことり「…海未ちゃんのいくじなし」ボソッ

海未「何か言いましたか?」

ことり「なんでもない~」

海未「…気になりますが、きっと皆も神社の前で待っているはずです。急ぎましょう」

ことり「うん、そうだね」

神田明神前


スタスタ…


海未「毎年のことですが…人がいっぱいですね」

ことり「そだね~…うぅ寒っ…。離れないようにくっつかなきゃ~」ギュッ

海未「うぅっ…!は、恥ずかしいからやめてください!」バッ

ことり「むぅ~、ノリが悪いですなぁ~」

海未「この人ごみの中から花陽たちを探すだけでも一苦労だというのに…」

ことり「…あ!いたよ!花陽ちゃん!」

海未「え、ホントですか?」



花陽「おーいっ!ことりちゃーんっ!海未さーんっ!!」


ことり「花陽ちゃんっ!」

花陽「えへへ、久しぶりだね」

海未「クリスマスライブ以来、でしょうか。お久しぶりです。あけましておめでとうございます」

花陽「あ、あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」

ことり「あけおめだよ!あれ、花陽ちゃんはひとり?」

花陽「あ、えっと…私は真姫ちゃんと…」

花陽「…じゃなかった、キノちゃんと、一緒」

海未「しかしキノの姿が見当たりませんが…」

花陽「あ、あそこ…」

ことり「うん?」


真姫「ひ、ひぃぃぃぃ~…!花陽、タスケテ…!!」


花陽「人ごみが怖くて震えてるみたい…」

海未「いつまで対人恐怖症続くのですか…」

ことり「キノちゃん!こっちこっち!」

真姫「…こ、ことりちゃん…。海未も。よ、良かった…やっと知ってる人に会えた…」

花陽「私と二人じゃ心細かった?」

真姫「だって花陽、歩くのはやい…」

花陽「えー、普通に歩いてたよ…?真姫ちゃんの歩幅が極端に狭まってたんじゃ…」

海未「知らない人にもっと慣れる練習をしましょうね」

真姫「…分かりました」

ことり「んーと…じゃああとは…」

ことり「…希ちゃんかな?」

花陽「そろそろ来る頃だと…」

真姫「あ、来た!の、希先輩っ!!」

希「ん…?」


タッタッタッ…

真姫「希せんぱぁぁぁぁ~~~いっ!!」ダダッ

ダキッ

希「おっわっ!?真姫ちゃっ…じゃない、西木野さんっ!急に抱きついてきて何…?」

真姫「あぅぅ…人ごみ怖い…」

希「あぁ…、そうね。頑張った頑張った」ナデナデ

真姫「えへへ…」

花陽「希さん、あけましておめでとうございます」

希「うん、あけましておめでと、花陽ちゃん」

ことり「わっ…、希ちゃんその服…!」

希「えへ、どうどう?成人式兼用で今から振袖、買ってもらったんよ!」

海未「か、可愛いです…!」

真姫「素敵…。わ、私も着てこようか迷ったけど、良かった…着てこなくて」

花陽「今までは振袖、着たことなかったんですか?」

希「うーん…いつもは毎年神田明神でバイトしてたんやけどね。今年はやめちゃってたから」

海未「あぁ…そういえばそうでしたね」

希「まぁ、年末年始だけ手伝う、って言うんもアリやってんけど、どうせやし参拝客側の気分も久々に味わおう思って!」

希「んふっ。これで世の男性のハートをわしわしMAXかな?」

真姫「な、なにそれ…」

ことり「んーと、じゃあこれで…」


ことり「全員、揃ったかな」


花陽「…」

海未「…えぇ、そうですね」

希「そろそろ、行こか」

真姫「そう、ね…」

花陽「…うん」



花陽「真姫、ちゃん…」

神田明神


花陽「…」

花陽「…っ」

花陽「…ぷ、ふっ…!」

花陽「あははははははっ!!か、可愛いっ!」


真姫☆「…」

凛☆「うん、良く似合ってるにゃ。巫女服」


海未「えぇ、とてもよく似合っていますよ、真姫」

ことり「真姫ちゃん世界の凛ちゃんも、可愛い!」

凛☆「でしょでしょ~?ほら、真姫ちゃん!もっとしゃんとする!」

真姫☆「…まさか1年で二回も初詣に行くことになるとは思わなかったわ」

真姫☆「しかも今度は巫女さんで…なんてね」

希「うちが巫女の手伝いしに行く、って言ってたんを止めたんは真姫ちゃんやん?」

真姫「希先輩が参拝客として参加できるように、って計らってね」

真姫☆「…でも、その代わりとしてバイトをさせられるとは思ってなかったのよ…」

希「手伝いがいないと大変やん?」

花陽「ふふふっ…、私、真姫ちゃんの巫女姿すっごい楽しみにしてきてたんだよ~!来てよかった~!」

花陽「あと…凛ちゃんも」

凛☆「お、ありがとかよちん!…こっちの世界の凛も来られたら良かったのにね」

海未「仕方ありません。けが人をこんな朝早くから人の多い中で引っ張り回すわけには行きませんからね」

花陽「凛ちゃんの分まで今年の願掛け、たっくさんお願いしないと!ふんっ!」

ことり「お、花陽ちゃん気合入ってる~。じゃ、いつまでもここにいるとほかのお客さんに迷惑だからそろそろ…」

真姫☆「えぇ、また後でね」


真姫☆「…ふぅ」

凛☆「あ、真姫ちゃーん!この荷物、そっちに運んどいてだって!」

真姫☆「はいはい…。はぁ…、ホントはもういなくなる予定、だったのに…」

凛☆「まだまだやりたいこととやるべきことが残ってるんでしょ~?そうそう簡単に帰しちゃくれないってことですにゃ~」

真姫☆「チッ…ったく、よいしょっ…」


グワンッ…!!


真姫☆「ッ…!!が、く、ぅっ…!!」

凛☆「ま、真姫ちゃんっ!!はい、お薬!!」

真姫☆「あ、りがと…!ごくっ…く、はぁっ…!はぁっ…!」

真姫☆「…対時空振動用の吐き気止め、即効性があって助かるわ…。ふぅっ…」

凛☆「…凛もできることなら、早く真姫ちゃんを帰してあげたいにゃ。それに、凛だってもしかしたらいつか…」

真姫☆「世界は、こんなにも私を拒絶しているのに…ね」

真姫☆「…大勢の想いって、そう簡単にはいかないものだわ」

ガヤガヤ…


希「卒業してもご縁がありますよう…にっ!」ヒュンッ

チャリンッ

希「おぉ!ナイッシュー!」

海未「そういう競技ではありません…」

花陽「お賽銭箱まで結構遠いのに…」

ことり「お、じゃあ私もやりますかな~?ていっ!!」ヒュンッ


コンッ


「いっ…!?痛~~!!??誰よっ!?私の頭に小銭ぶつけたやつは!」


海未「こ、ことり!別の参拝客に当たってしまいましたよ!?」

ことり「う、海未ちゃんダメなんだぁ~~!!小銭投げちゃぁ~~!」

真姫「まさかの責任転嫁!?」

花陽「ち、ちゃんと謝らないとダメだよ…」


「…?あんたら…」


希「あ、すいません!危ないことして…って」

希「にこっち…?それに…」


にこ「希…」

穂乃果「…希さん。海未ちゃんに、ことり、ちゃん…。C☆cuteのみんなで…」

花陽「穂乃果さん!」

海未「穂乃果…来て、いたのですか…」

穂乃果「あっ…。ごめん、もしかして…誘おうとしてくれてた?」

ことり「うぅん。海未ちゃんはやめておこうって。私は誘おうとしたのに」

海未「け、結局はにこと一緒に来ていたのだから正解だったではないですか!」

にこ「…私だけじゃないわよ」

真姫「え…?」


ツバサ「あらあら、楽しそうじゃない」

あんじゅ「大声出したら周りに迷惑よぉ?」

英玲奈「ただでさえ私たちは声の大きい方なのだからな」


花陽「げ、現A-RISEまで…!」

希「クリスマスイブの食堂再現やね…」

ツバサ「私たちはちょうど参拝終えて帰るところ、だけどね」

あんじゅ「2年生組とはお別れね~」

英玲奈「まぁ、私たちといるより新鮮だろう。あとは任せた」

にこ「え、ちょっ…」


スタスタ…


真姫「行っちゃったわね…」

にこ「これは…仲良くC☆cuteと参拝しろ、ってことかしら」

穂乃果「そう…みたいだね」

チャリンチャリンチャリン…

パンッパンッ…


「…」


希「ふぅ、おしまい…っと」

希「ね、花陽ちゃんは何お願いしたん?」

花陽「あ、私は…」

花陽「…凛ちゃんの足が早く良くなって、アイドルがもう一度できるようになりますように、って」

ことり「そっか…。わ、私もそうしてあげたら良かったかな!?」

花陽「えっ…ことりちゃんは何お願いしたの?」

ことり「わ、私は…えへへ、これからも可愛いお洋服を作れますように…って」

ことり「ちょっと自己中だったかなぁ…?」

真姫「そんなことないんじゃない?つまりそれ、ずっとC☆cuteを続けたい、ってことでしょ」

真姫「きっとみんなも、そう思ってるはずだわ」

海未「そういう真姫は、何を?」

真姫「私は…人見知りが少しでも改善しますように、と…あと、もっとダンスと歌が上手になりますようにって」

希「あー…西木野さん、まだ少しみんなに比べたら遅れているところ、あるもんね」

にこ「…十分上手だったわよ。私が見る限りじゃ」

真姫「えっ…、あ、そ、そう…?」

海未「私もアイドルを続けられるようにと、いずれ大会などで結果を残せるように、と願っておきました」

海未「にこは、何を願いましたか?」

にこ「え、私に振るの…?まぁいいけど…」

にこ「私は、A-RISEの名に恥じないような活躍ができますように、って」

にこ「他にも色々、思うところはあったけど…あんまり多く願っちゃっても叶わないかもしれないしね」

希「んふふー、にこっちは貧乏性やねー。どうせならいっぱいお願いしちゃえばいいのに!」

にこ「い、いいでしょ別に!私はこれが一番のお願いなんだからっ…で、穂乃果は?」

穂乃果「え…?」

にこ「何お願いしたかって聞いてるの」

穂乃果「私は…」

穂乃果「…」

穂乃果「…私も、A-RISEとして活躍できますように、って」

花陽「じ、上昇志向ですね…!見習わないと…」

海未「では、そろそろ帰りましょうか」

ことり「うん、そうだねー」



穂乃果「…」

穂乃果「…絵里、さん」

スタスタ…


希「そんでねー、あの時のにこっちが傑作で…」

にこ「ちょっ…それは内緒にしてって…!!」

ことり「ほほぉ…!応援部時代のにこちゃんにそんな…」


穂乃果「…」スタスタ…

穂乃果「ん…?あ…っ!」


にこ「…ん、どうしたの?穂乃…」


穂乃果「にこちゃん、あと皆さん…先、帰ってて」


海未「えっ…何を…」

穂乃果「用事ができたから。…それじゃあ」タッタッタッ…

真姫「彼女まで行っちゃったわね」

ことり「久しぶりに一緒に帰れると思ったのに…」

花陽「用事、って…何なんだろう…」



タッタッタッ…

穂乃果「…西木野さん、いたんだ」


真姫☆「あ、穂乃果…」

凛☆「穂乃果ちゃん?」

穂乃果「り、凛ちゃっ…!?」

真姫☆「あぁっ…!えっと、彼女は…私と同じような感じよ」

穂乃果「…もうひとりの、凛ちゃんってこと?」

凛☆「そういうことにゃ。驚かせてごめんね」

真姫☆「目立たないようになるべく裏方で働いてはいるんだけど…それより、何のようかしら?」

穂乃果「…例の件、進捗具合を聞いておこうと思って」

凛☆「例の…あぁ、アレ?」

真姫☆「えぇ、あなたにも頼んでおいたやつよ」

凛☆「へぇ…穂乃果ちゃんからの『依頼』だったんだ」

真姫☆「色々調べてはいるけど…まだ完全にわかってはいないわ」

穂乃果「…そう」

真姫☆「…これのせいで、帰れなくて困ってるんだからね」

~回想~


12月24日 ライブ後

UTX学院 一室



ガチャッ バタン…


真姫☆「…」

真姫☆「おまたせ」



穂乃果「…遅いよ」


真姫☆「打ち上げ、してたのよ。それでね」

穂乃果「学校で飲食?まぁ…ほどほどにね」

真姫☆「それで、…私を呼び出してどういうつもりかしら?」

真姫☆「ライブ前にC☆cuteの控え室前でばったり出会った瞬間に、話があるから後で会おう、…なんて」

真姫☆「今までのあなたには考えられないんだけど…」

穂乃果「…」

真姫☆「…何か、よほど手に余ることがあるのかしら?」

穂乃果「まぁ…ね」

穂乃果「…こればっかりは、私一人じゃどうしようもない、から」

穂乃果「西木野さんなら、もしかして…って思ったんだ」

真姫☆「それは何?」


穂乃果「…私から、西木野さんへ…依頼したい」

穂乃果「絵里さんを、救って欲しい」


真姫☆「…絵里を、救う…?」

穂乃果「今、絵里さんは…学校に来ていない」

穂乃果「それどころか、電話にすら出られないような精神状態…なんだ」

穂乃果「自らの根城が奪われて、持っていた権力全てを剥ぎ取られて…」

穂乃果「そして、自身の夢が音を立てて崩壊していっていることに、とてつもないダメージを受けている」

穂乃果「放っておけば彼女は…彼女が他のアイドル専攻生にしていたのと同じように…」

穂乃果「自分の才能に焼かれて…死んでいく。精神が…ね」

真姫☆「…だから、私に絵里を救え…って?」

真姫☆「…笑わせるわ。私は絵里に顔面の筋肉を麻痺させられかけたのよ?強力なスタンガンでね」

真姫☆「C☆cute自体への損害は結果的には少なかったものの、UTXの生徒を何人も傷つけてきた事…」

真姫☆「生徒の夢を肥やし程度に食いつぶして来た事を…知らないわけじゃない」

真姫☆「正直なところ私は…この世界の絵里に、情けなんてかけたくない」

真姫☆「…死ぬんなら、勝手に死ねばいいわ」

穂乃果「っ…!!…」

穂乃果「…そう、だよね…。確かに、そう…思われても仕方がない」

穂乃果「彼女はどこか…歪んでいたから…。ただ、強さを求めるだけの人間では、なかった…」

穂乃果「でもっ…!それでも、私にとってはっ!!」

穂乃果「…憧れ、だったんだよ…」

真姫☆「…」

穂乃果「彼女の強さに憧れて…、目標に向かってひたむきな姿に憧れて…」

穂乃果「絵里さんみたいになりたい、って…思ったこともあった」

穂乃果「彼女は許されないことをしたかもしれない。…だけど」

穂乃果「だからって私は…見捨てたくないの!」

穂乃果「他の誰もが見向きすらしなくても、夢を奪われた誰かに、恨まれていようとも…」

穂乃果「そんなの、関係ないっ!!私はっ…絵里さんを救ってあげたいって…思うからっ…!!」

真姫☆「…理屈じゃ、ないのね?」

穂乃果「うん。理屈じゃない」

穂乃果「心が、魂が…そうしたいって叫んでるんだ」

真姫☆「ふふっ…魂、ね」

真姫☆「…訂正するわ」

穂乃果「え?」

真姫☆「やっぱりあなたは…私のよく知ってる穂乃果、だった」

穂乃果「は…?」

真姫☆「…何でもない。いいわ、その依頼…引き受けましょう」

穂乃果「ホントっ…!?」

真姫☆「ただしっ!」

真姫☆「…条件があるわ」

穂乃果「条件…?」

真姫☆「今後、アイドル専攻をまた…絵里の指導のような体制にさせないことを約束して」

真姫☆「夢を追う誰かが、泣くような事態がもう二度とないように、計らいなさい」

穂乃果「…わかった。絶対に…そうする」

真姫☆「後…、C☆cuteのみんなと、ちょっとは仲良くしてあげて」

真姫☆「一応私たちは、UTX学院のスクールアイドル同士なんだから…仲間、みたいなものでしょう?」

穂乃果「仲間…。あははっ…」

真姫☆「な、なによ」

穂乃果「…それ、ツバサさんも同じこと言ってたよ」

真姫☆「き、綺羅ツバサが…?」

穂乃果「わかった。仲良く…してみる」

穂乃果「…私、不器用だから、時間はかかるかもしれないけど」

穂乃果「やってみるよ…。また、海未ちゃんやことりちゃんと…友達になれるよう、に」

真姫☆「…えぇ。そうしてくれると、私も嬉しいわ」



~回想終わり~

真姫☆「…簡単に引き受けてしまったけど、ヒト一人を救うことがどれだけ大変かは…」

真姫☆「にこちゃんとキノで十分身に染みているのよね…」

凛☆「計画性ないにゃー。絵里ちゃんを救えなかったらどうするの?救えるまでこの世界にいるつもり?」

真姫☆「だからなるべく早く帰れるように今奮闘しているんでしょうが!」

穂乃果「具体的に、どうすれば救えるか…明確なビジョンはあるの?」

真姫☆「明確、ってほどじゃないけど…でも穂乃果の話を聞くに重要なのは…」

真姫☆「彼女を縛り付けていた『夢』…ね」

穂乃果「絵里さんは、事あるごとに『私の夢のため』…って言っていた」

穂乃果「前まではそれが、『A-RISEを最強のスクールアイドルにすること』、だと思っていたんだけど」

穂乃果「でも絵里さんは、ただ強さを求めているわけじゃない…。どこか、何か別の目的があるように感じられる」

真姫☆「人の精神を積極的にボッキボキに折りに来ているしね…。それも夢のため、なのかしら」

穂乃果「わからないけど…ただ」

穂乃果「絵里さんは中学生の妹に『UTX学院には絶対に入学するな』って言っていた…っていう事実もある」

凛☆「亜里沙ちゃん、絵里ちゃんには悪いイメージは持ってなかったみたい、なんだよね?」

真姫☆「だからこそその言いつけも忠実に守ろうとして、UTXへの入学を拒否した…」

真姫☆「…でも、不自然な気もする。自分の行っていた高校に、絶対に、までつけて入学させないことに」

凛☆「UTX学院には絵里ちゃんの最大の功績であるA-RISEがいるわけだもんね?まだその頃は凛も怪我してなかったわけだし」

穂乃果「妹さんをアイドル専攻の熾烈な争いに参加させたくなかった、と考えれば辻褄は合うけど…」

真姫☆「でもそれだけじゃ…絵里の夢が何かはわからないわね」

真姫☆「ったく…本人に直接聞ければ早いのに」

凛☆「今電話に出るのも難しいんでしょー?直接聞くなんてムリに決まってるにゃ!」

穂乃果「そもそも、今絵里さんはロシアにいるだろうからね。物理的にも無理なんじゃないかな」

真姫☆「…ロシアに、ね。憔悴しきった絵里を見て家族はどう思うのかしらね」

穂乃果「少しでも気分転換になれば、と思ってロシアに帰ったんじゃないかな…。幼い頃はロシアでバレエをしていたらしいから」

穂乃果「その頃の武勇伝、いくつか聞かされてね。いくつものコンクールで金賞をいくつも受賞したって…」

凛☆「へー、すごいにゃー」

真姫☆「…え?待って…金賞?」

穂乃果「え、うん…。そう聞いたけど。写真も見せてもらったことあるし…」

真姫☆「…私の知っている絵里は、確かにバレエをしていた経験はあるみたいだけれど」

真姫☆「そんな結果を残せた、とまでは聞いてないわ…。金賞も少しは取っていたみたいだけど、大体は惜しいところって」

凛☆「あ、そういえばそうだよ!少し歴史が変わってる?」

穂乃果「…君たち、薄々感づいてはいたけど…異世界人なんだ。さっきから世界がどうこう言ってるし」

真姫☆「あ、ま、まぁね…。しかし…歴史の差異…これが絵里の夢の動機と何か関係があるの…かしら」

穂乃果「まだよくわからないけど…そろそろ、仕事の邪魔するのも悪いから、これで」

穂乃果「また何か気づいたら、連絡するよ。そっちも何かあったら教えてね。…それじゃあ」

凛☆「うん、バイバーイ!」

真姫☆「…差異。私たちの世界との…」

真姫☆「前にも、こんなことあったような…?」

凛☆「真姫ちゃん?考え事かにゃ?」

真姫☆「…いえ、今はいいわ。そういえば」

真姫☆「穂乃果から依頼された絵里のこともあるんだけど…」

真姫☆「…もう一つ、やらなきゃいけないこと、あるのよね」

凛☆「あー…かよちんの?」



~回想~


クリスマスライブ後の12月某日

希の家


真姫☆「凛、絵里の事、何か収穫は?」

凛「色々調べてはいるんだけど…特に何もなしにゃ」

真姫☆「まぁ、そうよね…。人の夢、なんてそう簡単に探れるものでもないし…」

真姫☆「その上ふさぎこんでいる絵里を立ち直らせるなんて…ホントにできるの?」

凛「真姫ちゃんまた安請け合いしちゃって~。悪い癖だよ?」

真姫☆「…わかってる。でも性格だから仕方ないでしょ」

真姫☆「なんとか限られた時間の中で精一杯…」


プルルルル… プルルルル…


凛「あ、電話だにゃ」

真姫☆「私…?誰から…あ、花陽だ」ピッ

真姫☆「もしもし?花陽、何か用?」

花陽『うぅん…ただ暇だったから』

真姫☆「あぁ…そっか。花陽も練習できないんだったわね」

花陽『怪我しちゃって冬休み中は練習に参加、できなさそうだから』

花陽『時間を持て余しちゃってるの…誰か助けて~…』

真姫☆「ちょっと待ってて~…いや、何もする気はないんだけどね」

花陽『真姫ちゃんは何かしてた?』

真姫☆「え?…あぁ、まぁ特に何も」

花陽『そっかー。真姫ちゃんも最近は他の人に顔見られちゃうと危ないから練習に参加できないんだもんね』

真姫☆「うん、それもあるけど…もう私がいなくても何とかできるでしょ。C☆cuteは」

花陽『んー、そんなことないよ。真姫ちゃんがいてくれた方が助かるよ?』

真姫☆「助かる、程度でしょ。もういなくても十分やっていける。支える人は…もう必要ないわ」

花陽『…真姫ちゃん、帰っちゃうの?』

真姫☆「…」

真姫☆「…まだ、帰らないわよ。ただ…近い未来には、ね」

花陽『…そっか』


「「…」」


花陽『ね、真姫ちゃん。覚えてる?』

真姫☆「ん、何?」

花陽『にこ先輩が希さんの家に泊まりに来た日のこと』

真姫☆「にこちゃんが…?」

花陽『あの日、一緒にお風呂入ったりしたよね』

真姫☆「あぁ、そうね…。お風呂の中で身を寄せ合って…」

凛「えっ!?真姫ちゃんかよちんとお風呂で身を寄せ合ったの!?なんて羨ましい…」

花陽『あれっ!?今凛ちゃんの声…』

真姫☆「あ、その…今のは」

凛「真姫ちゃんの世界の凛です。初めまして」

花陽『あ、あぁ…!真姫ちゃんと同じ世界の子って凛ちゃんだったのぉっ!?』

真姫☆「えぇ、まだ紹介してなくてごめんなさい。前まではこの世界の凛との関係があまり良好じゃなかったし、知らせるべきじゃないかも、って思ってて」

真姫☆「今度、みんなにも紹介しておくわ」

凛「凛も☆のステッカー貼っておこ…ぺたりっと」

凛☆「よし、これでオッケー!」

花陽『あ、なんか区別つく気がする…。同じ声なのに』

真姫☆「…それより、話の続きは?」

花陽『あ、そうそう。で、お風呂に入ったとき…いつか旅行に行こうね、って話したの覚えてる?』

真姫☆「え?そ、そんなこと言ってた?」

花陽『言ってた、って真姫ちゃんが言ったんだよ?必ず行きましょう、って』

真姫☆「そういえば言ってた気がする…」

花陽『もう帰る時が近いのなら、せっかくの冬休みなんだし…どこか旅行、行かない?』

花陽『きっともう、最後の機会だよ』

真姫☆「…」

花陽『真姫ちゃん?』

真姫☆「…うん。そうね、行きましょう。えーっと…いつにする?」

花陽『んーと…確かUTX学院って終業式が遅い代わりに始業式も少し遅めで…、学校が始まるのが第二月曜日からだったと思う』

花陽『その日までならいつでも。まだ私たちだけの予定だから、みんなにも聞いてから決めようね』

真姫☆「うん。わかった。そうするわ。…」


真姫☆(それから、少しのあいだ会話をして、電話を切った)


真姫☆「…旅行、ね」

凛☆「どうするのー?穂乃果ちゃんの依頼もやらなきゃいけないんでしょ?」

真姫☆「わかってる。わかってるわよ…」

真姫☆「…はぁ」



~回想終わり~


凛☆「そしてただでさえ忙しいのに巫女のバイトまで入れちゃってまぁ」

真姫☆「し、仕方ないでしょそれは!…希にみんなと一緒に参拝してほしかったから」

凛☆「その心遣いは立派だと思うけどねー。もっとスケジュール、考えるべきだと思うよー?」

真姫☆「凛に言われるまでもないわよ…ったく。さ、無駄話が長くなっちゃったし…バイト、再開しましょ」

凛☆「うい。精力的にお守りを押し売りまくるにゃ!」

真姫☆「そんなことはしなくていいから」

明神前


にこ「…穂乃果、遅いわね」

海未「何しているのでしょうか…」

希「先帰ってて、って言ってたんやし、行ってていいん違う?」

ことり「うーん…。海未ちゃん、待ってても気まずい空気流れるけどいいの?」

海未「う…、ま、待ちます!せめて帰りだけでも一緒に…!」

花陽「海未さん…」

にこ「…仕方ないわねー。海未とことりだけ待ってればいいんじゃないの?私、もう帰るわ」

希「あ、にこっち…」

花陽「そうですね…。私たちは先、帰ろっか。キノちゃんは?」

真姫「私も帰る。穂乃果先輩はちょっとなんか…怖いし」

希「…というわけやから、あとはお二人さんで頑張ってね」

スタスタ…


ことり「気、遣われちゃったのかな?」

海未「…待ってて余計なことを、などと思われないでしょうか…。や、やはり帰った方が…」

ことり「もう、せっかく勇気出したんだから最後まで頑張ろう?」

海未「…はい」



スタスタ…

希「ふんふふん~…あ、にこっち、さっきの話の続き…」

にこ「い、いいからもう!」

真姫「えぇ?私聞きたいな」

にこ「いいんだってば!あ、わ、私ここでお別れね…」

希「えー?にこっちのうちはもっと向こうやったような~?」

にこ「いいって言ってるでしょぉぉぉぉっ!!」ダダッ

花陽「あ、行っちゃった…」

真姫「そんなに知られたくない過去なのね…アイドル応援部時代…」

希「可愛いんやけどね~…ん?」


ツバサ「待ってたわよ、希」


希「ツバサちゃん…?」

花陽「A-RISEの皆さん…?こんなところで何を…?」

英玲奈「東條に話があって」

あんじゅ「私たちと、希ちゃんだけでね~?だからお二人にはちょっと外してもらいたんだけど…いいかしら?」

花陽「私は別に…キノちゃんは?」

真姫「えぇ…希先輩と一緒に帰れると思っていたのに…」

ツバサ「ごめんなさいね。邪魔しちゃって」

希「…なんか大事そうな話やし、ごめんね西木野さん。また今度、一緒に帰ろうね?」

真姫「…わかったわよ」

英玲奈「了承も取れたことだし…行こうか」


花陽「…なんの話、なのかな?」

真姫「さぁ…」

喫茶店


希「そんで、話って?」

ツバサ「卒業後のことよ」

希「…アイドルを続けるかどうか…みたいな?」

英玲奈「それはもう決まっている。…ツバサは、辞めたくないと」

あんじゅ「綺麗な終わり、っていうのも悪くないんだけど、ツバサちゃんのいつものワガママでね」

ツバサ「悪かったわね、ワガママで。あなたたちが言ってくれたんじゃない。『あなたについていく』って」

あんじゅ「うん。リーダーですもの」

希「じゃあうちに何を…」

英玲奈「これ」スッ…

希「これは…?」

あんじゅ「卒業後に私たちをマネージメントしてくれるチームよ。既に契約を交わしているの」

ツバサ「これからはプロとして、学業の合間に活動していくことになるからね。これまでよりも厳しい世界に足を踏み入れることになるわ」

英玲奈「…そこで相談なのだが、東條。お前も…来てくれないか?」

希「え、うちに…?」

英玲奈「卒業後、お前にアイドルを続けるつもりがないのなら、是非私たちのマネージメントの一端を担ってもらいたい」

あんじゅ「チームの一員として加わって欲しい…ってこと」

希「どうしてうち…?」

ツバサ「私たちがA-RISEとなる前から、最も信頼の置ける友人は…希、あなただった」

ツバサ「あなたの専攻生への管理能力は目を見張るものがあった。…結果的には権力は失ってしまったけれど」

ツバサ「でも、今でもあるんでしょう?誰かの役に立ちたい、って気持ち…」

希「…」

あんじゅ「無理に、とは言わないわ。もちろんね」

あんじゅ「けれど私個人としては…希ちゃんとはこれからも繋がりを持っていたいの。友達として、仲間として」

英玲奈「あらかじめ言っておくが…UTX学院内で声をかけている人間はお前だけだ」

英玲奈「東條の力を信頼してのことなんだ。既にチームとの話もつけてある。いつでも歓迎する。…どうかな?」

希「…えっと、うち、は…」

あんじゅ「嫌?かしら…」

希「い、嫌ってことはない!すごい…とっても嬉しいんよ…。うちの力が認められた、ってことを思うと」

希「でも、今のうちには…」

ツバサ「…」

ツバサ「いきなり言われても、戸惑うわよね。仕方ないわ」

ツバサ「だから、時間を置きましょう。せめて、卒業までには決めておいて」

ツバサ「私たちについてきてくれるか、こないか。お願い、希」

希「…わかった」

英玲奈「頼んだぞ東條。いい答えを期待している」

あんじゅ「それじゃ、またね~。バーイ♪」


希「…」

希「マネージメント、か…」

希「…どうしよっか」

スタスタ…

花陽「こうして二人だけで帰るの、なんか新鮮だね」

真姫「そ、そうね…」

花陽「ねぇ、キノちゃんは…」

真姫「…二人きりの時くらい、それ、やめてよ」

花陽「え?」

真姫「『キノ』ってあだ名!なんだか…あっちの私に真姫って名前を取られてる感じで…」

真姫「区別をつけるためのあだ名なんでしょう?二人きりなら…真姫でいいじゃない」

花陽「そ、そう?私はキノちゃんってあだ名気に入ってるんだけどなぁ…」

花陽「でも、…真姫ちゃんがそっちのほうがいい、っていうならそうする。真姫ちゃん」

真姫「っ…///」

花陽「え、どうしたの…?」

真姫「あ、改めて名前で呼ばれるのも恥ずかしいな、って…別にいいんだけどね!」

花陽「ふふふ、照れてるんだ。可愛いね、真姫ちゃん」

真姫「も、もぅ…。…」

真姫「…でも、い、いつまで経っても人見知りが治せないのって、どうなのかしらね…」

花陽「え、いきなり何…?」

真姫「む、昔はこうじゃなかったのよ!こんな、人に名前呼ばれて照れるような私じゃなかったのに…」

真姫「半年間の引きこもりで、すっかり人に対する恐怖心が強まっちゃって…」

真姫「今でも、あなたたち以外の子と話すのは…少し疲れるわ」

花陽「真姫ちゃん…でも、アイドルはきちんとこなせてるし…」

真姫「アイドルのそれとは別。頭のスイッチの入り方が違うのよ…」

真姫「いつまでもこんなじゃ、…希先輩に申し訳が立たないわ」

真姫「あの人は私に救いの手を差し伸べてくれたのに、まだ私は抜けきっていないんだもの」

真姫「…人と接することの恐怖から」

花陽「…」

真姫「花陽!友人と見込んであなたに頼みがあるのっ…!」

花陽「ふぇっ!?」

真姫「ひ、人見知りを治すやり方…一緒に考えてくれない!?みんなには内緒で…」

花陽「え、い、いいけど…どうしてみんなに内緒なの?みんなで話せば…」

真姫「大勢で私のこと構われるのが…なんだか気恥ずかしいの!友達である花陽だけなら、大丈夫だし…」

花陽「そ、そういうところをなんとか治していけばいいんじゃ…」

真姫「人見知りは私のウィークポイントなのよっ!そんなところをみんなに曝け出して治療法を探してもらうのは…ちょっとランクが高いわ!」

真姫「もっと低ランクなところから徐々に治していきたいから…ダメかしら…」

花陽「わ、わかるはわかるよ…。真姫ちゃんがそういう気持ちなら私も協力したいと思うけど…」

花陽「…人見知りの治し方…。うぅん…、具体的な方法は思いつかないかも…」

真姫「うぇ…」

花陽「そういえば…人に接することに恐怖している、といえば…海未さんもだよね」

花陽「海未さんとことりちゃん…穂乃果さんと合流できたのかな…?」

神田明神前


スタスタ…

穂乃果「…」


海未「あ、穂乃果っ…!」

ことり「穂乃果ちゃんっ!」


穂乃果「…二人共…」

穂乃果「先帰ってて、って言ったのに」

海未「いいではないですか。せめて帰りくらい一緒でも」

ことり「何してたの?」

穂乃果「西木野さんがいたから、少し話をね」

海未「なんの話でしょうか…?」

穂乃果「…別に。二人には関係ない話、だよ」

穂乃果「じゃあ、行こう」

ことり「えっ…」

穂乃果「帰るんでしょ?」

海未「あ、あぁ…そうですね」


スタスタ…

穂乃果「…」

海未「…ぅ」

ことり「海未ちゃん、何か喋って」

海未「ど、どうして私に振るんですか…ことりも何か…」

穂乃果「そういえば」

海未「ひっ…!なんでしょう…?」

穂乃果「…この道を3人で帰るのは、何日ぶりだろう」

ことり「あ、そうだね…。神社から穂むらまでの帰り道…」

ことり「子供の頃はよく通った道だね」

海未「…えぇ、そうですね。神社までかけっこで競争したり、境内ではしゃいで神主様に怒られてしまったり…」

穂乃果「懐かしいね」

海未「は、はい…懐かしいです、ね…」

穂乃果「…うん」

海未「…」

穂乃果「…」

ことり「ど、どうしてそこで会話が終わっちゃうの…?もっと何かあるでしょ!」

穂乃果「…ごめん、私こういう時…上手く喋れなくて」

ことり「穂乃果ちゃんはこういう時上手に喋れる穂乃果ちゃんだったでしょ!?」

穂乃果「…もう、昔のことだよ」

海未「昔…。そう、かもしれませんね。あれから随分と時間も経ってしまいましたし…」

海未「今の距離感はこれで…自然なのかもしれません」

ことり「えっ…」

海未「無理やりに過去をやり直さずとも、今を続けていくという選択も…それはそれで…」


ことり「い、嫌だよっ!!」

穂乃果「っ…、ことりちゃ…」

海未「ことり…」


ことり「っ…!そんなの、私嫌だ…!」

ことり「だって、私は穂乃果ちゃんと海未ちゃんと…子供の時みたいに笑い合いたいもん!」

ことり「穂乃果ちゃんが無茶して私たちを引っ張って、私と海未ちゃんがそれに困らせられて…!」

ことり「だけど最後は、それでもよかったって思える…そんな昔をやり直したいって…!!」

ことり「それが私の夢だからっ…!」

穂乃果「…」

ことり「穂乃果ちゃんはもう、昔みたいに笑えないのっ…?」

海未「…」

ことり「海未ちゃんはもう、穂乃果ちゃんと仲良くしたくないのっ…!?」

海未「な、仲良くはこれからもしていきたいですが…、また一から関係を築いていくというのも…」

ことり「それじゃダメなのっ!!」

穂乃果「…どうして、ダメなの?」

ことり「だってそれじゃ…穂乃果ちゃんと海未ちゃんが傷ついたって事実が残っちゃうよ…」

ことり「去年の出来事なんて、もう思い出したくないのに…」

海未「…っ」

穂乃果「私は傷ついてなんか…」

ことり「あんな暗い思い出なんか、なかったことにしたいっ…!だから私は『変わる』じゃなくて『やり直す』ことを選んだの!」

ことり「辛さを抱えたまま、先に進みたくないから…」

海未「ことり…」

穂乃果「…」


ガララッ…


雪穂「な、なんの声…?あ、おねえちゃ…海未さんっ!?ことりさんっ!?」


穂乃果「雪穂…、いつの間にか穂むらの前まで帰ってきてたんだ…」

雪穂「雪穂、じゃないよ!海未さんとことりさんと仲直りしたの!?」

海未「え、えっと…それは」

ことり「仲直りは…した、のかな…?」

穂乃果「…少なくとも、前より険悪ではなくなったと思う」

雪穂「よ、よかったぁぁっ…!!よかったねお姉ちゃんっ!!本当に…!」

穂乃果「…」

雪穂「あ、じゃあ…二人共中へどうぞ!おぜんざい、用意しますね!」

海未「え、いやっ…お気遣いなく…」

雪穂「海未さんとことりさんがうちに来るの久々だ~!!やははー!」タタタッ…

ことり「聞こえてないね…」

穂乃果「雪穂…」

穂乃果「…仕方ないや。二人共、上がっていって」

穂乃果「お茶、用意するね」

海未「あ…、はぁ…」

穂むら


ことり「なんだか変な空気のままお邪魔することになっちゃったね…」

海未「こ、ことりのせいですよ…!私は今の穂乃果とまた関係を築く選択をしようとしたのに…」

ことり「…ご、ごめんね。でも嫌だったから…あの時を引きずるのは…」

海未「…う。そう、ですよね…。きっとあの時、一番嫌な思いをしたのは…ことりですものね…」

海未「私と穂乃果に挟まれて、気の休まる時間が微塵もなかったことでしょうし…忘れたいと思うのも自然かもしれません」

ことり「なんだか…わからなくなってきちゃった。どっちが正しい選択なのかな…」

ことり「やり直すのと、やり直さないの…」

海未「…私には、わかりかねます」

ことり「だよ、ね…」




穂乃果「…ねぇ、雪穂」


雪穂「ん、何ー?あ、お客さん用の湯のみは棚の奥だよー」

穂乃果「うん、わかってる。…聞きたいことがあって」

雪穂「聞きたいこと?」

穂乃果「…強さって、なんなのかな」

雪穂「へ?」

穂乃果「ずっと信じてた強さを、…最近、めっきり信用できなくなってきちゃって」

穂乃果「私を支えてきた何かが、ポッカリ抜け落ちちゃってる気がするんだ」

穂乃果「このまま私は…あの二人と仲良くしていいのかな…?」

穂乃果「仲良くしたら…私は弱くなってしまうんじゃないかって、少し怖いよ」

雪穂「お姉、ちゃん…」

穂乃果「今まで強くなるために自分を殺して、悪夢にうなされながらも甘さを捨ててここまできて…」

穂乃果「そこから信じるものを失ってどっちつかずで…どうすればいいのかわからなくなってきてる」

穂乃果「自分だけを信じて突き進めるほど私は…強い人間じゃなかった…!」

穂乃果「ねぇ教えてよ雪穂ぉっ…!私は…」

雪穂「お姉ちゃん!」

穂乃果「っ…な、何…?」

雪穂「そんな暗い話、あとにしてよ!今は二人が来てるんだから、パーっと行こう!」

穂乃果「パーっと…って」

雪穂「というわけでそんなお姉ちゃんに朗報です!じゃじゃん!」

穂乃果「朗報…?」

雪穂「私ね…」


雪穂「…UTX、受験してみることにした」

穂乃果「え…?」

雪穂「元々さ、入るつもりはなかったけど志望校には一応入れてて…」

雪穂「まぁ、もしもって時のためにね」

穂乃果「どうして入る気になったの…?前は…」

雪穂「亜里沙が行きたくない、っていうから私も、だったんだけどね」

雪穂「この間のクリスマスライブね、私…見に行ったんだ」

穂乃果「えっ…?聞いてないよ?」

雪穂「言ってないからね。こっそり、せっかくのお姉ちゃんの晴れ舞台なんだし、ってことで」

雪穂「もちろん、忍び込んだりはせずに、柵の外からモニター越しだったけどね」

雪穂「亜里沙も誘って、一緒にライブ、見に行ったんだ。そしたらね…」

雪穂「すごかった。こういうのがスクールアイドルなんだ、って思った」

穂乃果「そう…?ありがとう」

雪穂「…A-RISEじゃないよ。C☆cuteが」

穂乃果「えっ…」

雪穂「私がもし、投票権を持ってたら…C☆cuteに1票あげたい」

雪穂「それまでは直接見たことなかったC☆cuteのライブ…肌で直接感じたとき」

雪穂「胸の奥からこみ上げてくる、キラキラした感情を…確かに受け取った」

雪穂「ほんの数分間に夢中になって、虜になって…あの人達がいるUTX学院に入ってみたいって、そう思ったんだ」

穂乃果「…」

雪穂「お姉ちゃん、私はさ。強さって…ああいうことだと思う」

雪穂「完璧じゃなくて、完全じゃなくて…どこか危なっかしいところがあるけど」

雪穂「みんなを笑顔にしてくれる。キラキラしたものを振りまいてくれる」

雪穂「一緒に頑張ってみようって気持ちにさせてくれる。多くの人の心を動かしてくれる」

雪穂「終わりじゃなくて、続きを見させてくれる。…そんな強さ」

雪穂「お姉ちゃんが目指してた強さは、誰にも到達できないほどの高み、だったわけじゃん」

雪穂「それはすごいよ。すごいけど…そんなに高いところ、誰も行こうと思えない」

雪穂「みんなと手を繋げば登れるかもしれない、そんな高さが…私にとってのC☆cuteだった」

穂乃果「それは…強さなの?」

雪穂「そうだよ。強いってことと、強さは別物だよ」

雪穂「私はお姉ちゃんに、誰かの心を引き寄せるスクールアイドルになって欲しいな」

雪穂「楽しいスクールアイドル。そんなお姉ちゃんも見てみたい」

穂乃果「楽しい…私は、楽しませてなかった…?」

雪穂「楽しかったよ!A-RISEのライブは最高だった!凄いって思えた!」

雪穂「…だけど、肝心のお姉ちゃんが心の底から楽しんでなかった気がする」

雪穂「その場にいるすべての人が楽しむほうが、もっと素晴らしいライブになれるよ。きっと」

穂乃果「…心の底から、か。自分では楽しんでたつもりだったんだけどな…」

雪穂「うん、素人の言うことだからそんなに気にしないでいいけど。少しでもお姉ちゃんの参考になればいいなって」

雪穂「じゃ、ぜんざいもできたし、持っていこう!」タタタッ…


「お待たせしましたー!!」


穂乃果「…楽しい、スクールアイドル…」

昼過ぎ

希の家


凛☆「ふへー…、早朝からのバイトは疲れるにゃー…」

真姫☆「そういえば…希はまだ帰ってないのね。どこをほっつき歩いてるのかしら」

凛☆「さぁねー…、凛たちも歩いて絵里ちゃんの情報探すー?」

真姫☆「そこら辺に落ちてるものじゃないしわざわざ歩く必要もないでしょ…」

真姫☆「…糸口も、少し見つかったしね」

凛☆「糸口?」

真姫☆「私たちの世界と、この世界との差異よ」

真姫☆「絵里のコンクールの成績が私たちが知っているよりも優秀になっていたこと…これはかなりの手がかりだと思う」

凛☆「そ、そうなの?」

真姫☆「えぇ。そもそもこの世界の絵里は私たちの世界の絵里と性格も大幅に異なっているわ」

凛☆「それは穂乃果ちゃんや凛だって一緒でしょ?」

真姫☆「まぁ、そうね。海未やことりも、多少私たちの知っている彼女らの性格よりかは変わっているし」

真姫☆「でもそれらの原因はわかっている。穂乃果と凛は厳しいアイドル専攻の体制から性格が変化した、って考えられるし」

真姫☆「海未やことりは穂乃果の性格が変化したことの影響に依るものでしょう」

真姫☆「けれど絵里は…絵里はどうしてああなってしまったのか、まだ私たちは知らない」

真姫☆「当初は私たちの世界でも穂乃果たちに反感を持っていた絵里なら…とは考えていたけど」

真姫☆「さすがにいくらなんでも、夢を持った才能ある人材を、より強い者を強くするための糧へ、なんて考え方するような人間じゃなかった」

真姫☆「彼女がそうなってしまった原因は?去年から?中学以前?…それとも、もっと前?」

真姫☆「おそらく絵里が変わってしまった原因、そのルーツに、絵里の夢が…あるのだと私は思うわ」

凛☆「はぁ…よくわかんないにゃ」

真姫☆「ここまで喋らせておいてその反応は物悲しいものがあるわね」

凛☆「勝手に喋ってただけじゃん…。それより、神社でもなんか前に差異があったとかどうとか、つぶやいてなかった?」

凛☆「あれはなんだったの?」

真姫☆「あぁ、そういえばそうね…。えっと、そうなの。前にも私たちの世界とは歴史が食い違った何かがあって…」

真姫☆「…あ!思い出した!」

凛☆「にゃ?なになに?」

真姫☆「UTX学院の創立年が私たちの世界より10数年ほど早くなっていたのよ」

凛☆「へぇ…。それが?」

真姫☆「それが…どう絡むかはわかんないけど」

凛☆「むー、イマイチ決め手に欠けるね…。結局どうすればいいの?」

真姫☆「とりあえず今できるのは、過去を探ることよ。絵里の過去…それを少しでも知りたい」

真姫☆「凛、調べられる?」

凛☆「過去…?うぅん…できないことはないかもだけど、時空壁のせいでクリニックの力に頼るのは無理そうだし…どうかなぁ」

凛☆「でも、とにかく頑張ってみるよ!絵里ちゃんの過去を調べればいいんだね!了解にゃ!」

真姫☆「あ、あとは…UTXの創立年の頃、何があったかについても調べて!よろしくね!」

凛☆「はいはーい!じゃ、ちょっくら足で稼いでくるねー!にゃはーんっ!」タタタッ…

真姫☆「結構元気じゃない。…ふぅ、それにしても、希…ホント、どこにいるのかしら」

真姫☆「帰ってくれば応援部の頃のこととかも詳しく聞けるのに…」

秋葉原


トボトボ…

希「…」

希(マネージメントのチーム…A-RISEの…)

希(確かに嬉しい。嬉しいけど…)

希(素直にはい、って答えられなかったのは、なんでかな)

希(アイドル応援部で部長やって、A-RISEの役に立つために色々勉強して)

希(自分でも驚く程のマネージメント力が身について、それがやっと、誰かに認められて…)

希(うちにとってはこれ以上ないほどの居場所だと、思うんだけど)

希(…やっぱり、今はC☆cuteって別のスクールアイドルだから、なんだか違うところに行っちゃうみたいで、気が引けてるからかな)

希(マネージメントのチームに行ったとしても、C☆cuteのみんなとは友達で、仲間でいられるってわかってるのに)

希(それとも他に、なんか引っかかる理由があるのかな…)

希(自分でもそれがわからなくて)

希(その辺りをぶらついてみたけど、答えは見つからず)

希(結局、家まで帰ることに)



希の家前


トボトボ…

希「はぁ…。なんなんかな、この気持ち…」


ガチャッ ダッ

凛☆「行っくにゃー!!」

希「うわっ!凛ちゃん…!?」

凛☆「あ、希ちゃん!やっと帰ってきた!なにしてたの?」

希「ん?まぁ…ちょっと考え事をね。凛ちゃんこそ、どこ行くの?」

凛☆「過去を探しに行くんだにゃー!じゃ、いってきまーす!」タタタタッ…

希「過去を探す…?これまた意味深な発言を…」

ガチャッ

希「ただいまー」


真姫☆「あら、希。遅かったじゃない」

希「考え事しながらフラフラしてたらこんな時間になっちゃってね。ごめんごめん」

希「お昼ご飯、作ろうか?」

真姫☆「いいわ。先に頂いたから。…私はてっきり福袋でも買いに行ってるのかと思ってたわよ」

希「あ!それもあったなぁ…。忘れてた。今から行く?」

真姫☆「いえ、それより…希に聞きたいことがあるのよ」

希「聞きたいこと?」

真姫☆「アイドル応援部時代の、絵里について」

希「えりち…?」

希「どうして真姫ちゃんがえりちのことを知りたがるん?」

真姫☆「まぁ、ちょっとこっちも色々あって。彼女の過去が知りたいのよ」

希「む、そういえば凛ちゃんも過去を探しに行くとかどうとか…またなんかやってるんやね」

真姫☆「…えぇ」

希「ま、それで真姫ちゃんの力になれるのならいいけどね。えりちの過去、って言っても、うちは去年一昨年くらいのことしか知らんよ?」

真姫☆「それでもいいわ。絵里と最初に出会ったときから、教えて」

希「うちが最初にえりちと出会ったとき…か。確か、高校1年生のとき、同じクラスでね」

希「最初は無愛想で元気がなくて、ちょっと怖い雰囲気があった子、やったね」

真姫☆「…根暗だった、ってこと?」

希「んー…根暗、ってほどではなかったよ。ただ常にイライラしている…みたいな感じかなぁ」

真姫☆(常にイライラ…この時点で私の知ってる絵里とは大分異なってる気がする)

真姫☆(やはり中学生以前に何かあった、と見ていいわね)

希「でね、うちがA-RISEを応援する部活、作ろうって友達と会話してる時に、えりちが話しかけてきて」

希「『それ、私も参加していい?』って。その時初めて喋ったからうちビックリしたわ~」

希「結局、えりちはアイドル応援部の創立メンバーの一人で、その頃から精力的にアイドル専攻への手伝いを頑張ってたね」

希「最初は元気なかったけど、応援部を続けるうちに活発になっていって、うちやうちの友達とも、よく話すようになって…」

希「2年の夏が過ぎる頃には、親友、って言ってもおかしくないくらいの仲やったんよ、うちら」

希「…今じゃ、考えられないけど」

真姫☆「そう、ね…」

真姫☆「その…、2年生までは、アイドル専攻に対する厳しい仕打ちとかはなかったの?」

希「ん?うん、至って真面目で、うちの考えた通りのことをやってくれてたね。えりちの提案も過激なことは一切なかったし…」

希「だからどうして、2年の終わり頃にあんな凶行に走ったのか、今でもわからないんよ」

希「…本当に、そんなことする子じゃない、って信じてたのに」

真姫☆「希…」

希「…どうして…」

真姫☆「希は、絵里のこと…今はどう思ってるの?」

希「え?」

真姫☆「これまで非道なことをしてきた絵里のこと、もう友達とは思ってない?」

希「えりちの、ことを…?」

真姫☆「…それとも。まだ…絵里のこと…」

希「…それは、ないと思う」

希「少し前までは、あの頃の優しいえりちに戻ってきてほしかった。できることならもう一度…って思ってたけど」

希「えりちが専攻生にしたことや、西木野さんにしようとしたこと、もう…なかったことにすることなんてできない」

希「前に一度、西木野さんを救う作戦のときに、一度手を差し伸べられたけれど」

希「…うちは二度と、えりちの腕を掴むことは、しないよ。絶対に」

真姫☆「…そう。まぁ…そうでしょうね。私だって、絵里のしたことを許すことはできないわ」

真姫☆「…」


真姫☆(でも、希。気づいてる?あなたは…)

西木野総合病院

凛の病室


凛「ふわぁぁ~…お正月、家族と一緒に初詣…」

凛「…行きたかったにゃぁ…。うぅっ…ぐすんっ…」


ガララッ…

花陽「凛ちゃん、あけましておめでとう」


凛「あ、かよちん!あけおめ!…来てくれたの?」

花陽「うん。やっぱり、凛ちゃんと年明けの挨拶しておきたくて」

花陽「毎年言ってたのに、今年は言えなかった…なんて悲しい思い出には、したくないしね」

凛「うん…。そうだよね。もしかしたらかよちんと、こうして一緒にいることすら、できなかったかもしれない、からね…」

凛「…へへ。なんだかそう思うと、怪我してよかった気がするにゃ」

花陽「えぇっ!?そう、なの…?」

凛「やりたいことが決まってからね。色々なものが違って見え始めたんだ」

凛「あれだけ死に物狂いで目指してたA-RISEも、いっぱいあるうちの一つのスクールアイドルでしかないんだな、って思ったら…」

凛「きっと凛もいつか、掴めるんじゃないかな、って、前向きに考えることができるようになって」

凛「でね、一番嬉しいのが…」

凛「こうやってかよちんがそばにいてくれる、ってことが、何よりも尊いタカラモノだって気づけた」

凛「大好きだよ、かよちん。本当に…ありがとう」

花陽「っ!?!?!?!!?!」

花陽「だ、だだだだ、大好きっ…!?凛、ちゃんがだ、だいすきってわ、わた私に…!」

凛「えへへー、かよちん顔真っ赤にゃー。かわいいよ、愛おしいよかよちん」

凛「凛の大切な大切な友達…。ずっと、一緒にいてね…」ギュッ…

花陽「っ…と、友達…」

花陽「そ、そうだよね…。うん、友達…。友達友達…」

凛「にゃ?どうしたの?」

花陽「な、なんでもない!ちょっとよこしまな想像しちゃったとかそんなことないから!」

凛「よこしまって?」

花陽「えっ!?あ、え、その…り、凛ちゃんと…ち、ちゅぅ…とかする…関係に、なんて…」

花陽「ってぇっ!!違うよ!?そんなこと微塵も思ったりなんかしてないというか私は至って健全であって何も」

凛「ちゅーして欲しいの?いいよ」

花陽「え」

凛「んー…ちゅっ」

花陽「ふぇっ」

凛「えへへ、おでこちゅー。大好きの証にゃ」

花陽「」

凛「かよちん?」


フラッ… バターンッ


凛「うわぁっ!!?かよちんがぶっ倒れたにゃ!?」

花陽「…ご、ごめんね。急に倒れちゃって」

凛「どこか調子悪いの?あ、怪我のせいかな…。帰ったほうがいいんじゃ…」

花陽「い、いいの!私は元気だから!むしろさっきのちゅーでいっぱい元気もらえたから!」

凛「そう?あ、じゃあもう一回…」

花陽「それはいいから!」

凛「む、そうなの?かよちんがそう言うならまぁ…」

花陽「え、えっと…それより、そう。ちょっと聞きたいことがあって」

凛「聞きたいこと?」

花陽「うん。えっと…凛ちゃんって、人見知りってどう治せばいいかわかるかな…?」

凛「え?人見知り?」

花陽「その…私の友達が人見知りを気にしてて。もっと誰とも分け隔てなく喋れるようになりたい、って」

花陽「凛ちゃんはアイドル専攻の子いっぱいととても仲良しだったじゃない。だから、人と仲良くなる秘訣とか知ってるのかな、って思って」

凛「仲良し…かぁ。そんなことないよ、たぶん」

花陽「え…?」

凛「アイドル専攻の子たちは、友達じゃない。お見舞いに来てくれた子は、誰ひとりいないし」

凛「たぶんきっと、凛の空いた席を今から奪おうと必死なんだよ。だからお見舞いに来る暇なんてなくて」

凛「…凛も、凛が元気で、誰かが怪我したとしたら、お見舞いなんか絶対に行かなかったと思う」

凛「そんな関係、友達とは言えないでしょ」

花陽「う、うん…そうかも、しれない…」

凛「だから凛に聞いても、仕方ないと思うにゃ。それならまだ、かよちんの方が友達たくさんで羨ましいな」

凛「凛はひとりぼっち…。うぅん、穂乃果先輩と、にこ先輩だけが友達で、仲間だった」

凛「A-RISEの人たちはあこがれで、仲間ってわけじゃ…ないかな」

花陽「そっか…ごめん、変なこと聞いちゃって…」

凛「うぅん、いいの。でも…一番になるって、大変なこと、だよね」

凛「誰かを蹴落として、倒れてる人を踏んづけて。そんなことしてたら、友達なんか出来っこないよ」

凛「いつか誰も寄ってこなくなって、ずっとひとりぼっちのまま、死んじゃう…のかな」

花陽「えぇっ…、ま、またネガティブな方向に思考が…」

凛「あ、ごめん。でもかよちんは違うよね!まだ一番ってわけじゃないけど、そんな誰かを踏みにじるようなことなんてせずにてっぺんを目指して…」

凛「ついに、ってところまで来ちゃったんだもん!絵里先輩のやり方を上回る勢いだにゃ!」

花陽「うん…。私もびっくりしてる。ここまで来られるなんて、夢みたい…。うぅん、夢だったんだ」

花陽「夢が、叶った。真姫ちゃんが、いてくれたから」

花陽「…真姫ちゃんがもし、この世界にいなかったら。何も…変わってなかったのかも」

花陽「真姫、ちゃん…」

凛「かよちん…?」

花陽「え、なに?」

凛「…さっきから真姫ちゃん真姫ちゃん、なんか妬けちゃうにゃ」

凛「せめて凛といるときだけでも凛のことだけを見てー!」

花陽「あ、あはは…そうだねー。凛ちゃん大好きだよー」ギュー

凛「わーい!凛もかよちん大好きだにゃー!!」ギュー

メイドカフェ


真姫「…ぅ」

にこ「…」


にこ「…なんで、ここにいんのよ」

真姫「そ、そっちこそなんで…」

にこ「いいでしょ!新年早々メイドカフェに来てても!悪い!?」

真姫「わ、悪いなんて言ってないじゃない…」

にこ「そっちこそ、どうしているのよ。ここに」

真姫「わた、私は…その…」

真姫「…ブツブツ…」

にこ「聞こえないんだけど」

真姫「こ、こういうと、ところなら、えっと…気があう人とか、見つけられるかも、って思って…」

真姫「め、メイドさんとかと、話す練習にも、なれるかな、なんて…」

にこ「話す練習…?どういうことよ」

真姫「…うぅ、それは…」



にこ「…なるほど、人見知り、ね」

真姫「…///」

にこ「別に恥じることじゃないわよ。人と話すのが怖い、なんて誰でも一度は抱く感情だわ」

にこ「私なんて自分と話すのが怖いからね。笑えるでしょ」

真姫「自分と…?」

にこ「そういう心の病気、みたいなもんよ。…ったく、同じ顔してるのに私のこと、なんにも知らないから笑えるわ」

真姫「え…?同じ顔…って、気づいてたの?」

にこ「ハァ?当たり前でしょ!?気づかないとでも思ってたの?」

にこ「あっちの真姫ちゃんとはまるで性格が違うじゃない。だからずっとアンタのことは『真姫』って呼んで区別してたのよ」

真姫「真姫…私のこと、名前で…」

にこ「ん?そうね、真姫って呼んで…」

真姫「…っ」ササッ

にこ「ど、どうしたのよ。顔隠して」

真姫「…恥ずかしいのよ…。下の名前ってなんだかこそばゆくて…」

真姫「ずっと仲間にはキノ、って呼ばれてて…それも『私』に『真姫』って名前が奪われたみたいで嫌だったんだけど」

真姫「改めて名前で呼ばれるのも…なんだか照れちゃうのよ。はぁ…どうしたらいいの…」

にこ「知らない」

真姫「なっ…」

にこ「誰かに答えなんて求めるものじゃないわよ、人見知りなんて特にね」

にこ「一気に治る病気なんてないもの。徐々に慣らしていくことが私は先決だと思う」

にこ「手始めに慣れない誰かと仲良くなってみるとかすればいいんじゃないの?それで治るかはわかんないけどね」

真姫「な、慣れない誰かと…」

真姫「じゃあ…手始めに…あなたと仲良くなってみるとか…?」

にこ「は?」

にこ「そ、そっちのジュースはどう…?ま、真姫…」

真姫「お、おいしいわよ…にこ先輩…」

にこ「よ、よかったわねー…おほほほ…」

真姫「うん…」

にこ「…」

真姫「…」

にこ「全っ然話進まないんだけど!」

真姫「こういう時何話せばいいのよ!?ジュースの味を事細かに伝えればいいの?」

にこ「私にもわかんないわよっ!仲良くなるってこういうことじゃないからぁっ!」

真姫「じ、じゃあどうすれば…」

にこ「だから知らないって…。ん~と…アレよ。私と真姫なら共通の話題があるじゃない」

真姫「共通の?」

にこ「アイドルよ、アイドル。アンタだって好きでしょ?」

真姫「好き、って言えば好きだけど…そこまで知らないし」

にこ「アイドルに対する情熱さえ持っていれば誰でもすぐ友達になれるのよ!」

真姫「そういうものなの?」

にこ「そういうものなの!」

にこ(…なのになんでにこは一人ぼっちなのかな)

にこ「いい?…実はね、私がこんなお正月にこんなメイドカフェにきているのには理由があってね…」

真姫「友達を作るため?」

にこ「違うわよ!聞いた噂で、冬休み期間のほぼ毎日、昼過ぎの時間にライブをやっているメイドがいるらしいの」

真姫「ライブ?」

にこ「えぇ、グラサンをして顔はよくわからないんだけどかなり可愛いらしくてね…。一度は見ておきたいと思って、練習のないこの日に来たのよ」

にこ「正月まで開店しているこの店もこの店だけど、まさかこんな日にまでライブをするなんてその子も熱心よね」

真姫「というか…ホントに来るの?そんな子…」

にこ「まぁ、それはまだわかんないんだけど。冬休みは大体毎日出てるっていうらしいからいると思う…」

にこ「で、そう!だから、その子のライブを見て感情を共有する!そうすれば自然と誰かとお話が出来て、人見知りも治るってワケよ!」

真姫「な、なるほどね…。知らないって割には詳しい解決方法を教えてくれるのね…」

にこ「べ、別にこれで治るかどうかは知らないってこと!結局はアンタの心持ち次第なのよ」

真姫「心の問題…ね。そうよね…」

真姫「ありがとう、にこ先輩。なんだか励まされちゃったわね」

にこ「別にそんなんじゃ…ん?お、なんだか店内の雰囲気が変わってきたみたいね…」

にこ「これは、来るんじゃないかしら!?」

真姫「え、ホントに…」

にこ「言ってたら来た!」


『みなさん、こんにちはー!』

『謎のメイドといいます!突然でびっくりされている人もいるかもしれませんが…今からライブをします!』

『ライブって言っても歌と小さなダンス程度ですけど…よければ、見ていってくださいねー!』


にこ「か、可愛い…!高校生…?いや、もしかして中学生かしら!?」

真姫「ホント…綺麗ね。あの髪…」

穂むら


海未「すみません、長居してしまって…」

雪穂「いえいえ、全然!また遊びに来てくださいねー!」

ことり「うん、じゃ、またね。バイバイ」

穂乃果「…うん、バイバイ」


穂乃果「…ふぅ」

雪穂「もー!お姉ちゃん全然喋ってなかったじゃん…。もっと話そうよ」

穂乃果「ご、ごめん…でも海未ちゃんもそんなに喋ってなかったし…」

穂乃果「ほとんどことりちゃんと雪穂ばかり話してたね」

雪穂「…やっぱまだ、去年のこと気にしてるのかな」

穂乃果「…」

雪穂「ま、まぁでも絶交ってわけじゃなくなったんだし…いいんじゃない?」

雪穂「時間が解決してくれるよ、うん」

穂乃果「時間が…ね」



穂乃果の部屋


穂乃果「わかんないな…」

穂乃果「私の求める強さも、ことりちゃんや海未ちゃんと、どう接していいのかも…全然わからない」

穂乃果「私って…こんなだっけ…」

穂乃果「昔の私は…こんなことで悩んだりする穂乃果だったかなぁ…」


(穂乃果「行こう!海未ちゃん、ことりちゃん!あの夕日が沈む場所まで!」)

(海未「む、無理です~!」)

(ことり「たどり着く前に日が暮れちゃうよ~…」)


穂乃果「なんにも考えないで、自分の思ったこと、思ったとおりにやっちゃうお調子者で…」

穂乃果「でも悩んだりなんか、したことなかった…」

穂乃果「したとしても、誰かに相談してすぐに解決して…」

穂乃果「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「私は…弱くなっちゃったのかな…?」

穂乃果「…」

穂乃果「…過去の自分に問いかけても、返ってくるはずもないよね」

穂乃果「私は…」


(真姫☆「やっぱりあなたは…私のよく知ってる穂乃果、だった」)


穂乃果「違う世界の西木野さんが知っている私…」

穂乃果「彼女が目指したスクールアイドル…笑顔で満ち溢れた…そんなアイドル…」


(雪穂「楽しいスクールアイドル。そんなお姉ちゃんも見てみたい」)


穂乃果「…違う、私」

穂乃果「…うぅん、そうじゃない」

穂乃果「何も違わない…私は私。ただ、時間が過ぎてしまっただけなんだ…」


(ことり「穂乃果ちゃんはもう、昔みたいに笑えないのっ…?」)


穂乃果「昔みたいに…笑う」

穂乃果「…そうだ、そうだよ」

穂乃果「昔持っていて、今持っていないものがあるのなら…取り戻せばいいんだ」

穂乃果「自分の全てを貪欲に引き出して、全部吸い上げて」

穂乃果「私の生きてきた人生に、無駄なものなんて何一つない」

穂乃果「全部私の強さだったんだ…」

穂乃果「…無駄だと思って捨ててきた強さ、それを拾いに戻ろう」

穂乃果「以前希さんも言ってたし。進むべき道がわからないとき、振り向いてみればいい…」

穂乃果「そこには、今まで自分の歩んできた道がある。様々な分かれ道のあった人生が」

穂乃果「多くの取捨選択をしてきた人生…。全部取り戻すんだ…!」

穂乃果「…っ、よしっ!!」


ガララッ…

穂乃果「すぅっ…」

穂乃果「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


ビリビリ…


雪穂「お、お姉ちゃんっ!?」

ほのママ「穂乃果!?ちょっと、何大声出して…」


穂乃果「お母さん、雪穂!ちょっと…今から走ってくる!」


ほのママ「えぇ…?」


穂乃果「体が疼いて仕方ないんだ!うおおぉぉぉぉぉっ!!!」ダダダッ


ほのママ「…ど、どうしちゃったのかな。穂乃果…」

雪穂「んー…、でも、元気出たみたいだし」




穂乃果「はぁっ…はぁっ…!」タタタタッ…

穂乃果(細く鋭く、磨き上げてきた高坂穂乃果という強いつるぎ)

穂乃果(でももうその剣は、自分すらも傷つけてしまうほどに鋭くて)

穂乃果(だから今は…くっつける!これまで生きてきた私を、捨ててきた私をくっつけてくっつけて…!)

穂乃果(丸く!大きく!!太陽のように!)

穂乃果「はあああぁぁぁぁぁぁっ…!!」タタタタッ…!!

ダッ!!


穂乃果(高く飛んで、太陽だって掴める!無理なんて、1ミリたりとも思わないっ!)

穂乃果(それがっ…!)

穂乃果「それがっ!!」

穂乃果「私なんだ―――!!」

真姫☆(みんながそれぞれに抱く思い、悩み)

真姫☆(各々が抱く夢が叶う寸前に、それを阻むように湧き出てくる)

真姫☆(叶いそうだからこそ、新たに悩む)

真姫☆(夢を叶えるということは、世界を変えると言うことだから)

真姫☆(自分にとっての理想郷を、新しく構築することなのだから)

真姫☆(未知の体験に、悩みは付き物であるのだから)

真姫☆(初めはみんな、ひとりで抱え込む悩み)

真姫☆(でも私は、私たちは、どんな時でもそれを解決してきた)

真姫☆(やり方はいつだって一緒)

真姫☆(…そうよね?)



数日後


希の家


真姫☆「…むむむ」


真姫☆(穂乃果から依頼された、絵里を助けるためのピース)

真姫☆(未だ一向に、集まる気配がなかった)

真姫☆(凛は外に出向いて過去のことを色々と探してきてくれているけど…収穫は乏しいわね)

真姫☆(とにかく、私は今までの絵里の行動を思い出し、そこから彼女の夢を探ろうと考えていた)


真姫☆「…今まで絵里がしてきたことは」

真姫☆「次代のA-RISEを強くする…、そのために弱者を餌にする…、その計画に邪魔になりそうなスクールアイドルが居れば排除する…」

真姫☆「何度考えても絵里は過激な方法でA-RISEを頂点に導くため、だとしか思えない…」

真姫☆「うーん…、うーん…」

真姫☆「…私ってば、また一人で悩んで…。困ったときは誰かを頼る、って散々言ってきたことなのに」

真姫☆「頼る…か。思えば穂乃果も、私を頼ってくれたのよね」

真姫☆「今まで誰も頼ることなく、一人の力で頂までのし上がってきた穂乃果が、初めて誰かに頼った」

真姫☆「それが…絵里を助ける、か…」

真姫☆「…それは、穂乃果が特別優しいからなのか。絵里の人心掌握が上手だったのか」

真姫☆「はたまた…本当に絵里は、穂乃果から尊敬されていたのか」

真姫☆「どれにしろ、深刻に考えてくれる誰かがいる、っていうのは…崖っぷちの中の唯一の希望よね…」

真姫☆「穂乃果。あなたも今、絵里を救おうとしているのかしら」

真姫☆「…それとも、別のことで悩んでいたりして」

穂むら


にこ「なんで…なんで今日は穂乃果の実家なわけ…?」


穂乃果「にこちゃん、今日はうちで話したいことがあって」

にこ「練習は…まぁ、いいけど。適度に休日を入れるのも、ある意味新鮮よね」

穂乃果「そうかもね。あ、雪穂ー、お茶」

雪穂「はいはーい。もー、人使い荒いんだからー」

にこ「…で、話って?」

穂乃果「あのね、私…絵里さんを今の状況から救ってあげたいって思ってるの」

にこ「え…絵里を、今の状況からって…」

穂乃果「彼女の夢が破れて、暗い深い闇の底に閉じ込められている…そこから救い出したい」

穂乃果「そのために、にこちゃんにも知恵を貸して欲しいんだ。お願い」

にこ「…絵里を、救うの…?」

にこ「ば、バカげてるわ…。絵里のことなんか放っておきなさいよ。確かに、アイツの指導のおかげで私たちは強くなれたかもしれない…」

にこ「でもっ…、それ以上に大事なものまで失いかけたのよ…。私を食い物にされかけたの、穂乃果だって知ってるでしょ…?」

にこ「…絵里のための力なんて、貸したくない」

穂乃果「…」

穂乃果「…にこちゃんがそう言うって、わかってた」

穂乃果「わかった上で、お願いなのっ…!」

穂乃果「にこちゃんが絵里さんのことを憎んでいるのは私にだってわかる、私だって…彼女が正しいだなんてもう思ってない!」

穂乃果「でもっ…、私が助けたいって思ってるから!」

穂乃果「にこちゃんが絵里さんのために力を貸してくれなくてもいい…だから」

穂乃果「仲間のために…私のために、力を貸して欲しい。な、なんだってするから…」

穂乃果「お願いしますっ…」グイッ

にこ「…」

にこ「…驚いたわね。あの穂乃果が、私に対して…頭を下げるなんて」

にこ「なんだか穂乃果に…別の人の影を重ねちゃったわよ。一瞬」

穂乃果「…」

にこ「…頭、あげなさい。仕方ないから協力してやるわよ」

穂乃果「にこちゃん…ありがとう」

にこ「だけど、なんだってするって言ったからには、なんだってしてもらうわよ?」

穂乃果「…う、うん。できるだけ頑張る」

神田明神


パンパン…


希「…よっ、っと…」

海未「希、足のタイミングがずれていますよ」

希「あ、ごめっ…あわったったっ…!」

真姫「きゃっ!希せんぱっ…ごめんなさい!私がぶつかったせいで…」

海未「二人共…先ほどから上の空では?やる気がないのなら…」

ことり「そう言う海未ちゃんも、手拍子ずれてるよ」

海未「あっ…」

ことり「…みんな、上の空、だね。私も全然集中できてなくて」

真姫「せっかく、A-RISEに後一歩、ってところまでたどり着いたのに…これじゃあ…」

海未「…」

希「…悩んでる時は…」



花陽「あ、みんなー!練習頑張ってる~?」



ことり「花陽ちゃん!」

真姫「それに…」

凛「えへへ、こんにちは」

希「凛ちゃん!?いいの…?病院から出てきて」

花陽「はい。今日やっと外出許可が付き人ありの条件で下りて。こうして車椅子で凛ちゃんを外に連れ出してるんです」

海未「あの神田明神の階段を車椅子押して上がってきたんですか…?無茶しますね…」

真姫「肩は…大丈夫なの?」

花陽「うん?あぁ…、もうほとんど平気。明日から練習、再開しようかなって考えてて」

凛「凛もかよちんの練習してるところ見たいにゃー!」

花陽「うん、だから凛ちゃんも毎日連れてきてから練習…」

花陽「…ん?なんかみんな…元気ない?」

ことり「え、えっ…?どうして?そんなことないけど…」

花陽「なんだか…どんよりした空気だった気がしたから。気のせいならいいけど…」

真姫「そうそう。気のせいよ。私たちはいつも通り元気なんだし!」

海未「練習、明日から再開するのでしたら、ちゃんと見学に…」


希「…待って」


花陽「希さん…?」

希「やっぱり…、無理はいけないよ」

希「みんなそれぞれに悩み事があるなら、こういう時、いつもどうしてたん?」

ことり「いつも…」

真姫「だ、だから悩み事なんてっ…」

花陽「やっぱり、あるんだ。うん、だったら一人で抱え込んじゃダメ」

花陽「困ったときは、みんなに相談する。私が学んだことでもあるよね」

海未「…そうでしたね」

花陽「でも、でもさ…いつだってそうだったよね」

ことり「いつだって?」

花陽「私たちみんな、同じだった」

花陽「誰もが、みんな最初は、一人で悩んでて」

花陽「自分ひとりで、なんとかしなきゃって…そう思い込んでた」

ことり「あ…」

希「…自分ができる範囲じゃないって、わかってたはずなのにね」

海未「恥ずかしかったのでしょうね…。悩みを人に打ち明けるというのが」

花陽「でもね、解決するときも…いつも同じ」

花陽「ガマンできなくなって、誰かを頼ったら…びっくりするくらい上手くいく」

真姫「たった一人で背負い込んでた悩みが、嘘みたいに消えていく…」

ことり「まるで、きっちりとはめ込まれた歯車のように噛み合って」

花陽「私たちみんな、そうだったよね」


(花陽「私が夢見たアイドルは…どこにも、いない、のかなぁ…?」)


ことり「…うん」


(ことり「じゃあやっぱり…、このまま…変わり続けない方が、いいってことですか」)


海未「まるで誰かさんに導かれたかのように」


(海未「…決まってます!恥ずかしいからです!!」)


希「実際、導かれててんけどね」


(希「…せやね、悩み事…相談したいことあったんよ。西木野さんのことについて」)


真姫「…腹立たしいくらい、私たちのこと、心配してくれるおせっかい焼きだものね」


(真姫「わ、わたしで…いい、の…?わたしっ…なんか、でっ…!」)



凛「…?むー、なんかみんなだけいい雰囲気共有しててズルいにゃー」

花陽「あ、ごめん凛ちゃん…。あ、でも凛ちゃんも、その誰かさんのおかげで助かったんだよ?」

凛「お、そうだったの?へー、その人すごいね」

ことり「うん、すごい子だよ」

海未「そして、無茶しすぎる子でもあります」

希「そういえば…また何か厄介事、抱えてた気もするなぁ~ふふふ…」

真姫「…そうね。今度は私たちが」

花陽「導いてあげよう!」

凛「にゃ?どうするの?」

真姫「今から行くのよ!」

希「ほな、行くよーっ!目標は勿論っ…!」

希の家


真姫☆「くぅっ…あぁ、もう…どうすれば…」


ガチャッ!!


希「ただいまー!」

ことり「お邪魔しますっ!」

海未「あがらせていただきますよ」

真姫「あぁ、希先輩の家の匂い…。芳しいわね」

花陽「えへへ、久しぶりだね。この家も」

凛「あ、お邪魔します…」


真姫☆「」

希「んふ、ただいま」

真姫☆「あぁ、おかえり…じゃないわよ!?何この大所帯っ!」

海未「何、ではありません。聞きましたよ?なにか悩んでいることがあると」

真姫☆「なっ…、なぜそれを」

真姫「希先輩よ」

真姫☆「あぁ…。で、でもそれは私の問題でっ…!」

ことり「あぁもうダメダメ!悩みは共有するのが私たちのルール、そうでしょ!」

真姫☆「いつ決めたの…」

花陽「暗黙の了解だよ、ね?」

真姫☆「…まぁ、そうね」

凛「わ!よく見たら西木野さん二人いる!?」

真姫☆「…それは後でね。はぁ…仕方ないわね!」

真姫☆「そうよ!クリスマスから私悩みっぱなしよ!だから…」

真姫☆「助けて、みんな!」

ことり「うんっ!」 海未「いいでしょう!」 希「あたりまえやんっ!」 真姫「やってあげるわ」 凛「お?…んー、じゃあオッケー!」

花陽「…もちろん」

真姫☆「…ふふっ。ありがとう、みんな」

真姫☆「じゃあ、この問題について…私たちみんなで考えましょう」

真姫☆「一人では思いつかないことも、みんなでなら考えつくわ!」

穂むら


にこ「絵里の夢…?」

穂乃果「私はそれが、絵里さんを救う鍵になるんじゃないかと思ってるんだ」

にこ「…確かに、度々口に出してはいたけど、それがなにか具体的には知らないわよね。私たち」

穂乃果「うん。だから」

にこ「って言われても…アイツの考えてることなんて何一つわかんないわよ」

穂乃果「…にこちゃんにもムリ、かな…」

にこ「絵里は所詮、人の痛みがわからない人間なのよ。そんなヤツの夢なんて私たちの考えつかないことに決まってるわ」

にこ「A-RISEを強くして世界征服とか…、A-RISEで東京を火の海に沈めるとか…そんなテロリストまがいのことでも考えてたんじゃない?」

穂乃果「さすがに発想が飛躍しすぎだよ…。絵里さんだってそこまでじゃ…」

穂乃果「…」

にこ「…ん?どうしたの?」

穂乃果「…そこまでじゃない。絵里さんは…」

穂乃果「人の痛みがわからない…?本当にそこまでの…人間なの?」

にこ「は?何言ってるの…」

穂乃果「彼女はアイドル応援部に過去所属し、かつてのA-RISEメンバーに信頼されうるほどの実績を挙げていた」

穂乃果「そんな人が、人の痛みがわからない人?」

にこ「で、でないとあんな指導はしないでしょ!人を使い捨てるような真似…」

穂乃果「…その指導も、全てわかった上でだとしたら」

にこ「わかった上…?」

穂乃果「切り捨てられた彼女たちの痛み、思い…それらが最強のA-RISEを生み出すための致し方ない犠牲」

穂乃果「そうじゃなくて、それも彼女の夢の一部だったとしたら…」

にこ「穂乃果…?」

穂乃果「そもそも、絵里さんを…絵里さんを指導できるようにしたのは誰…?」

穂乃果「誰が絵里さんを指導して、多くのコンクールを受賞できるほどの強さを…」

にこ「おーい、ちょっと…?」

穂乃果「…」

穂乃果「もう少しで、何かが繋がりそう」

穂乃果「なにか、橋渡しをしてくれる何かがあれば…」

にこ「ひ、人の話を聞きなさいよ…」

穂乃果「…」ブツブツ…

にこ「にこを呼んでおいてこの扱い!?いいわよ!だったら一人で喋ってるから!」

にこ「あのね、この間なんと元日によ!?元日にメイドカフェに行ったらねー、そのメイドカフェですごいことがあって…」

穂乃果「…」ブツブツ…


雪穂「あ、お茶煎れたよー…。ってお姉ちゃん?にこさん…?なんか異様な雰囲気…」


にこ「実はそのメイドカフェでメイドがライブをしてたのよ!見るからに中学生っぽい風貌の…」

雪穂「え?」

にこ「え、何?」

希の家


花陽「絵里さんを救う…」

海未「これはまた、予想外な…」

ことり「穂乃果ちゃんから頼まれた…か」

希「えりちを…ねぇ」

真姫☆「今は彼女の夢が何かを掴むために色々脳内で模索してはいるんだけど…あまりピンと来なくて」

真姫☆「彼女、やることは過激だけど…絵里のしていた行動には『A-RISEを強くする』というハッキリとした芯があった」

真姫☆「だから、それ以外に考えられないのだけど…」

希「今までのやり方からするにしっくりこない、か…。うーん、確かにね」

海未「大体、強いというのであれば今でも十分に強いですし…」

花陽「指導の権力を奪われたからといって、A-RISE自体は続いていくんだし…もうさほど期間が残ってたわけでもないのに」


一同「…」


「…あの」


真姫☆「ん?」

真姫「いいかしら。意見なんだけど…」

希「何かな?」

真姫「さっき…あなたは、絵里の行動に『A-RISEを強くする』という芯がある、って言ってたけど…」

真姫「…私にはそうは思えないわ」

ことり「そうなの?どうして?」

真姫「だって、彼女が…絵里が私に指導補佐を任せようとしたときに言われたことは…」

真姫「…A-RISEを目指す少女たちを、まるで憎んでいるかのような言葉だったから」

海未「指導補佐…そういえばそうでしたね」

真姫☆「確かにそのときのこと…まだ聞いてなかったわね。なんて、言われたの?」

真姫「私が絵里に、アイドル専攻生にして欲しいと言われた指導は…」



~回想~




……


絵里「…今は、どっちつかずの状態、ってことよね」

絵里「過去に、嫌いになったという事実がある…」

絵里「今はなりを潜めて、胸の奥深くで眠っている…」

絵里「そして、才能に溢れている…」

絵里「…そんなあなただからこそ、いいのよ」

真姫「どういう…こと?」


絵里「アイドルが嫌いだったのなら…いっそ壊して」

真姫「…え?」

真姫「壊す…?」

絵里「えぇ、アイドル専攻でA-RISEを目指す少女たち。彼女らを…散々いたぶって欲しいのよ」

絵里「肉体的なやり方は…多少はまぁいいけど、傷が残っちゃダメだから」

絵里「精神的に、もうアイドルが大嫌い、ってなっちゃうくらい、キツい仕打ちをお願い」

真姫「はぁ…?」

絵里「…安心して。これはアイドル専攻に必要なことなのよ。A-RISEが最強であるために必要な…ね」

絵里「非道な教官になりきって、彼女ら自身から汚泥に塗れてもいいと思えるような地獄を味わわせて欲しい」

絵里「そうすれば彼女らは強くなれる。そして…あなたが私の言うことを聞いてくれるなら…あなたの渇きを癒してあげるわ」

真姫「渇き…?」

絵里「誰かに、愛されたいって気持ち」

真姫「っ…!」

絵里「アイドルを、アイドル専攻を嫌いになればなるほど、私のことを好きになってくれればいいの」

絵里「そうすれば私もあなたを愛してあげる。あなたの欲するように…ね」

真姫「…」

絵里「…ってことなんだけど…どう?」

真姫「えっ…」



~回想終わり~


真姫☆「アイドル専攻生を…壊すっ…!?」

真姫「最初はそれが指導の一環となるんだ、って思ってたんだけど…」

海未「…明らかにやり方としてはおかしいですね」

希「えりちは、やり方は過激であれども…練習という体は崩さずに指導していたはず、なのに…」

希「西木野さんに頼んだことは、明らかに…アイドル専攻生の心を直接折りに来るような行為…」

真姫☆「以前絵里が言ってた、キノから反逆する誰かが現れるための布石…にしても…」

花陽「ちょっと…やりすぎな気がする。反逆する前に、アイドルする気をなくしちゃったら元も子もないよ…」

ことり「来年のA-RISEは決まっているとしても、再来年、どうなるかわかんないんだもんね…」

凛「絵里先輩はアイドル専攻をやめる子に対しても、最後まで優しく接する人だって聞いてた」

凛「そうやって絵里先輩の指導じゃなくて、アイドル専攻自体や、指導についてこれなかった自分に憎しみが集まるように…って」

希「えりち自身にヘイトが溜まらないようにする処置やね。けど…」

真姫☆「さっきの話を聞くと…まるで生徒にキノを、そしてアイドル専攻を嫌いにさせようとしているみたいね…」

ことり「ねぇ、真姫ちゃん…。やっぱり絵里さんのやり方は、『強いA-RISE』を作るだけじゃない…んだよね?」

真姫☆「えぇ、そのようね」

ことり「だったら、考え方を変えてみよう?」

海未「変える?」

ことり「今までやってきた絵里さんのやり方のうち、『強いA-RISE』を求めるにあたって反してる行動…それを思い出してみたらどうかな?」

真姫「A-RISEを強くするために必要でない行動ってこと…?」

花陽「もしくは、必要なのにしてこなかった事…?」

真姫☆「…それって…」

穂むら


にこ「実はそのメイドカフェでメイドがライブをしてたのよ!見るからに中学生っぽい風貌の…」

雪穂「え?」

にこ「え、何?」

雪穂「メイドカフェって…アキバのキュアメイドカフェですか?」

にこ「え、まぁ…そうだけど」

穂乃果「…ん?雪穂…知ってるの?」

雪穂「う、うん…、もしかしたらなんだけど…。そ、その子って…」

雪穂「…金髪ですか?」

にこ「え?あぁ…そうね、すごい綺麗な色の薄い金髪で、あれは長年染めないとでない色なんじゃ…」

雪穂「じゃあ知ってます!その子、私の知り合いなんです!」

にこ「あ、そうなんだ。じゃあ…」

穂乃果「ま、待って雪穂っ!それって…」

雪穂「うん、亜里沙だよ。実はさ~…、亜里沙も私と一緒にクリスマスライブ、見に行ったんだけどね」

雪穂「お姉ちゃん達とC☆cuteのライブに心奪われてなんと!UTXでスクールアイドルをやりたい!って言い出して!」

雪穂「なんか冬休みは返上してひたすらアイドルの特訓!って張り切っちゃってさぁ…。私も誘われそうでちょっと怖い…」

雪穂「そのメイドカフェでのライブもスクールアイドルの特訓の一環とかで…」

穂乃果「なっ…!そ、そんなっ…!!」

にこ「へ…?どうしてそんなに驚いてるのよ…。ビビるほどのこと?」

穂乃果「驚くに決まってるよ!だって…亜里沙ちゃんは絵里さんの妹なのに…」

穂乃果「なのになんでロシアにいないのっ!?」

にこ「あっ…!そういえば…。絵里は今帰郷してるのよね…」

雪穂「え、そうなの?…でも、ホンキで今からスクールアイドルやりたい、って張り切ってたから…」

雪穂「もしかしたら一人残ってメイドカフェでバイトしてる、的な…」

にこ「そんなむちゃくちゃな…」

穂乃果「でも、亜里沙ちゃんは今日本にいるってこと…だよね!?」

雪穂「ま、まぁそういうことになるかな…?」

穂乃果「今日も、メイドカフェでバイト…!?」

にこ「ま、毎日やってるらしいから…そうなんじゃない?」

穂乃果「いつから!?」

にこ「たぶん…もう少しくらいで…」

穂乃果「行こう!!」

にこ「へっ!?」

雪穂「行くって…メイドカフェに!?どうして…」

穂乃果「亜里沙ちゃんならっ…もしかしたら!!」

穂乃果「このつながりかけた切れ端に…答えをくれそうだと思ったから!!」

メイドカフェ


『こんにちは~!私は謎のメイドと申します!』

『今日はこれから、もはや冬休み恒例となった…』



穂乃果「ホントに亜里沙ちゃん…実際に会ったのは初めてだけど…」

雪穂「なんでも前にもこのメイドカフェで度々ライブをしてた通称謎のメイドって人の噂を聞きつけて、それを踏襲する形でバイトすることになったみたい…」

にこ「あ、その謎のメイドの噂は聞いたことあるわ!グラサンしてるけどパフォーマンスはなかなかで、結構な人気だったらしいわね!」

穂乃果「へぇ…どんな人だったんだろう。その謎のメイドさん…」

雪穂「今はそれより、亜里沙に話を聞きたいんでしょ?どうするの?」

穂乃果「…ライブの邪魔するのもアレだし…少し待って落ち着いてから聞きに行こう」

にこ「そうね…。いや、それにしても亜里沙ちゃん…いいじゃない。すぐにでもスクールアイドル目指せるんじゃない?」

穂乃果「…それは、どうだろうね」

にこ「へ?」



数十分後…



亜里沙「ほ、穂乃果さぁんっ!!?それに、にこさんまで!雪穂、どういうことなの…?」

雪穂「お姉ちゃん達が聞きたいことがあるんだって」

亜里沙「聞きたいこと…?は、ハラショー…」

穂乃果「…その前に、亜里沙ちゃん」

亜里沙「はい?なんですか?」

穂乃果「サングラスで目線は隠れてるけど…ライブ中はちゃんとお客さんの目を見ようね」

穂乃果「それがスクールアイドルとして欠かせないことだから」

亜里沙「そ、そんなことまでわかるんですかっ…!?すみません、まだ緊張してて!次から参考にして気をつけます!」

にこ(全然気付かなかったわ…)

穂乃果「それで、聞きたいことなんだけど…どうして日本に?絵里さんはロシアに帰郷したって聞いたけど」

亜里沙「はい、お姉ちゃんはロシアへママと行きました。亜里沙はこのバイトをどうしてもやりたかったので、パパと残ることにしたんです」

にこ「ふぅん…よくオッケーが出たわね。いいの?そういうことして」

亜里沙「本当は毎年、亜里沙もロシアに帰っているんですけど…今年はお姉ちゃん、一人きりにしてあげたくて」

亜里沙「亜里沙がそばにいると、無理に元気を出そうとして…痛々しくて見てられないんです…」

穂乃果「…絵里さん、やっぱり…亜里沙ちゃんの前では…」

亜里沙「元旦には毎回ロシアでお墓参りもしているので、本当は行かなきゃいけなかったんですけど…今年だけはワガママを言って」

にこ「ふぅん…」

亜里沙「あの、聞きたいことってこのことですか?」

穂乃果「うぅん、もう一つ…。絵里さんは昔、小学生位の頃にバレエをやっていたらしいけど」

穂乃果「その指導をしていたのは誰なのかなって」

にこ「バレエ…?なんで今更その話を…」

亜里沙「お姉ちゃんのバレエの指導は…おばあさまがしていました。亜里沙は小さかったので、あまり覚えてませんが」

雪穂「へぇー…、おばあさまってロシアの人?」

亜里沙「うん。私たちがクォーターだから…おばあさまが純血のロシア人…ってことになると思う」

穂乃果「…絵里さんは、そのおばあさまに会いにロシアへ?」

亜里沙「えっ、あ…その…、はい。…ただ…」

希の家


真姫☆「A-RISEを強くするために必要だったにも関わらず、しなかったこと…それは…」

真姫☆「『熱狂』よ」


花陽「熱狂…?」

凛「盛り上がるってこと?」

海未「どういう意味ですか…?」

真姫☆「A-RISEに関して、アイドル専攻はガチガチに報道規制を敷いているわ」

真姫☆「A-RISEと廊下で出会っても決してアイドルとして関わってはいけない」

真姫☆「A-RISEが行動しているところに、会話をしてはいけない」

真姫☆「A-RISEが活動するホール内に、アイドル専攻生やその関係者以外が入ってはいけない。出待ちも禁止」

真姫☆「そのアイドル専攻生ですら、会話ができない者がほとんど」

真姫☆「アイドル応援部も、希や絵里のような上層部は会話できても、一年生のにこちゃんみたいなひよっこは一度も会話できてなかった」

真姫☆「『A-RISEというアイドルに憧れさせる』という名目にしては、彼女らに対する扱いが厳しすぎるとは思わない?」

真姫「確かにそうね…。でもA-RISEへの憧れが強くなれば人気も上がるものじゃない?加減が効かなかっただけじゃ…」

真姫☆「甘いわね。私たちの世界では、スクールアイドルがどうして人気になったのか…その理由が明確なのよ」

希「どうしてなん?」

真姫☆「…プロじゃないからよ。もっと言えば、身近な存在だから」

真姫☆「アイドルになりたいと考える女の子達から身近な存在である現役の高校生がアイドルをするから、スクールアイドルは人気となった」

真姫☆「今のA-RISEの扱いは明らかに…プロ級のものだわ。高校生でありながら、全く身近な存在となりきれていない」

真姫☆「だから、日頃の熱狂が起こらない。UTXの生徒が騒ぎ出すのは、ライブがある時か新曲の発表の時だけ」

真姫☆「それはUTX生にとって唯一、A-RISEがアイドルでいてくれる日だからよ」

真姫☆「でもそんなの…余りにもおかしいわ。もっと日頃から多く触れ合う方が、人気出るに決まってるもの」

海未「しかしそれは、アイドルと学業の両立を目的とした規制なのでは…」

真姫☆「だとしても極端すぎるわ。ファンとのふれあいが大事だなんて、アイドル応援部に所属していた絵里ならわかって当然のはずなのに」

真姫☆「クリスマスライブの直前まで、私たちは私たちを宣伝しまくって、学内を熱狂に包み込んだことで、C☆cuteへの熱意を増幅させた」

真姫☆「ある意味ではそのおかげで、C☆cuteはギリギリのところまでA-RISEに近づけたと言えるかもしれない」

真姫☆「つまり今のA-RISEは、完全にパフォーマンスのクオリティだけで人を惹きつける存在になっているの」

凛「…いいことじゃないの?」

真姫☆「良くないわよ。パフォーマンスのクオリティを追求しすぎた結果が、あなたなんだから」

凛「あ、そっか…」

真姫☆「このように、簡単に人気を集めることのできる要素を捨て置いて、絵里はA-RISEを強くしようとした」

真姫☆「このことから絵里は…『A-RISEに人気になって欲しくなかった』と考えられるわ」

海未「ど、どういうことですか!?A-RISEを人気にしたくて、あれほど頑張っていたのでは…」

真姫☆「絵里が求めていたのは、A-RISEをスクールアイドルの頂点に立たせることよ。そして、かつ…UTX生からの人気を最低のものとしたかった」

ことり「強いけど、人気がない…。よくわかんないなぁ…」

真姫「で、そうなると…A-RISEはどうなるの…?」

真姫☆「…以上から鑑みると、このままが続けばどうなるかはわかるのだけど」

真姫☆「でも、肝心の、それをする動機が…」


ピリリリリ… ピリリリリ…

花陽「うん?電話の音?だれの…」

希「うちちゃうよ?」

真姫☆「…私だわ。ったく、人が調子よく喋ってるのに…」ピッ

真姫☆「もしもし…」

凛☆『あ、もしもしー。凛だにゃ』

真姫☆「あ、凛じゃない。どう?絵里に関して収穫はあった?」

凛「え、凛はここにいるんだけど…」

花陽「ま、まぁ色々あるから…」

凛☆『絵里ちゃんに関して調べることはできなかったんだけどねー、一応この世界の過去のことについては収穫ありだよ!』

真姫☆「へぇ、やるじゃない!でかしたわ!」

凛☆『って言っても、役に立つ情報かどうかはわかんないんだけど…』

真姫☆「いいから早く言いなさい」

凛☆『はいはい。…この世界ってさ、UTX学院が凛たちの世界より10年以上も早く設立された世界って言ってたよね』

真姫☆「えぇ、そうらしいわね」

凛☆『それでね、その影響かどうか知らないけど実は…』

真姫☆「実は…?」

凛☆『実は…』


凛☆『音ノ木坂学院が廃校になってたのが、UTXが設立した数年後らしいんだ!』


真姫☆「…はぁ」

凛☆『これってなにかの役に立たない?』

真姫☆「うーん、調べてくれたところ悪いけど大体の予想は付いてたのよね。それ」

凛☆『あ、そうなんすか…』

真姫☆「でも音ノ木坂学院が十数年前に廃校になっても、絵里の何かが変わるとは思えないわ…」

凛「音ノ木坂?なんの話?」

真姫☆「え、だから…って、そっちか。電話の方からとこっちからとで凛の声がしたらこんがらがるじゃない」

凛「知らんし…」

ことり「真姫ちゃん、音ノ木坂の話してるの?また懐かしい名前だね」

希「知ってるん?ことりちゃん」

ことり「うん。実はお母さんの前職が音ノ木坂学院の理事長だったの」

花陽「そ、そうなんだ…!」

海未「あぁ、そういえばそんな話を聞いたことがあります。実は私の母も音ノ木坂のOGらしく…」

真姫「えっ!海未ちゃんもなの?私のママも…」

花陽「実は私のお母さんも…」

希「音ノ木坂のOG、多くない…?」

真姫☆「仕方ないわよ、昔このあたりで高校と言えば音ノ木坂って感じだったらしいし」

ことり「お母さん、廃校が決定したときは普段通りだったらしいけど、いざ取り壊しになったときひどく寝込んだみたい…」

海未「私の母も落ち込んでいたと聞きました。母校が無くなるのはショックだったのでしょうね」

真姫「もし今もまだ音ノ木坂があったらどうなってたんでしょうね」

花陽「私たちも、音ノ木坂に行ってたのかなぁ?」

真姫☆「ふふっ…、そういう世界が私たちの世界で…」

メイドカフェ


亜里沙「…――なので」



穂乃果「…ッ!!!」

にこ「えっ…そう、なんだ…。なんだかいけないこと聞いちゃったみたいね…」

雪穂「あ、だから亜里沙…、ん?お姉ちゃん…?」

穂乃果「…」

穂乃果「『その理由』が…、もし、……だったとしたなら」

穂乃果「…絵里さんの目的が…繋がる…!」




希の家


真姫☆「ふふっ…、そういう世界が私たちの世界で…」

真姫☆「…」


真姫☆「…あ?」


花陽「うん?どうし…」

真姫☆「あ…」

真姫☆「ああぁぁぁぁぁっ…!!」

真姫☆「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

ことり「うわっ!?どうしたの…?」

真姫☆「嘘…、嘘よっ…!!でも、でももしかしたら…そう、なの…?」

真姫☆「廃校によって過去が変わったのだとしたら、つまり…つまりそれって…!」

希「な、何…?」

真姫☆「希っ!!絵里の過去について…この間話した以上のことは、本当に知らないのね!?」

希「う、うん…。うちの知ってるえりちは高校2年間のことくらいで…」

真姫☆「じゃあ、私のこの推測を知ってる人は…」

真姫☆「…もしかしたら、穂乃果は?」

真姫☆「絵里のことを調べている穂乃果は、もしかしたら…っ!」

真姫☆「凛っ!電話、切るわよっ!!」

凛☆『え、あ、ちょっ…』ピッ

真姫☆「穂乃果…穂乃果ぁっ!!」ポピピ…



穂乃果「…っ、西木野さん…!!」ピッ

にこ「な、なんなのよ…!?なにか、今ので分かったの…?」





真姫☆・穂乃果「「もしもしっ!!」」

真姫☆「穂乃果っ…!その声、もしかして何か掴んだのね…!?」



穂乃果「西木野さんこそ…聞きたいことに応えてよね…!!」



真姫☆「もしかして、絵里のっ――……」


穂乃果「ひょっとして、絵里さんにとって――……」





メイドカフェ


ピッ

穂乃果「…」


にこ「穂乃果…?」

雪穂「お、お姉ちゃん…」

亜里沙「穂乃果さん…?」



穂乃果「…繋がった」

穂乃果「彼女がしたかったこと…!全部、わかった…!!」

にこ「そ、そうなのね…?」

穂乃果「にこちゃん」

にこ「な、なによ…?」

穂乃果「私、言ったよね。なんでもするって」

にこ「は?あ、あぁ…確かに言ってたわね…」

穂乃果「私、今から…」

穂乃果「なんでもする。何をしても…絵里さんのところへ行くっ!だから…」

穂乃果「にこちゃんも付き合って!」

にこ「はああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?!!?!」





希の家



真姫☆「…ふ、ふふ…ふふふ…!」

真姫☆「なんて、ことなの…!」


海未「ま、真姫…?何が、あったのですか…」

希「さっき、穂乃果ちゃんに聞いてたこと、って…それ…」


真姫☆「…ねぇ、花陽」

花陽「え?わ、私…?ここで…?」

真姫☆「あなた、旅行へ行きたい、って言ってたわよね」

花陽「う、うん…。冬休み中に行こうって…」



真姫☆「今から、行きましょう」

同日 朝

ロシア 絵里の実家



絵里「…」


コンコン

「…エリー、今日も部屋に篭もりきり?せっかくロシアまで来たのに…」


絵里「…放っておいて…。もう、いいから…」


「…わかったわ。でも、今日の夕方には日本に帰るから、荷物の支度だけはしておいてね」


絵里「わかってる。…母さん」

絵里「…」



絵里(…私は)

絵里(私は何をしているのだろう)

絵里(いや、何もなすことができなかったんだ)

絵里(私が幼き頃から胸に刻んだ強い思い)

絵里(強い『憎しみ』を原動力として、成そうとした私の『夢』)

絵里(それは…儚く露と消えた)

絵里(結局、私は何もしてこなかったのと同じだ)

絵里(思えば馬鹿なことをしたものだった)

絵里(夢のための手段だったはずが、いつしかそれが私の愉しみとなってしまっていた)

絵里(私は弱者を…アイドルを夢見る少女たちをいたぶって遊んでいたんだ)

絵里(憎しみのはずが知らぬ間に、愉悦を原動力として動いていた)

絵里(だから…そんなだから成せなかった。後一歩のところで、選択を誤った)

絵里(何もかもを無くしてしまおうとした私)

絵里(無くなってしまったのは、私自身だった)



(亜里沙「お姉ちゃん、私ね…昨日のクリスマスライブ、見に行ったんだ」)

(亜里沙「すごかった!A-RISEも、C☆cuteも、…アイドルってあんなに、素晴らしいものなんだ…!」)

(亜里沙「亜里沙ね、急だけど、これからスクールアイドル目指してみようかな、なんて思ってるの」)

(亜里沙「それで、お姉ちゃんは嫌だってたけど…亜里沙、UTX学院に行きたいな。A-RISEやC☆cuteのようになりたくて…」)

(亜里沙「お姉ちゃんが指導していた学校だもん!きっと、いい学校なんだよね?だから…」)



絵里「…違う。違うのよ…」

絵里「私は…あなたに行って欲しくない…」

絵里「UTXなんかに…絶対に…っ!!」

絵里「あそこは…」

絵里(…言えるはずもなかった。家では善良な姉を装ってきたから)

絵里(まさか姉が…こんなとんでもない夢を抱えているなんて、亜里沙は夢にも思っていないでしょう)

絵里(結果的に、私の嘘が…私から亜里沙まで連れ去ってしまった)

絵里(もう私に残されているものは…何も…ない…)

亜里沙「お姉ちゃん」


絵里「…」


絵里(亜里沙の声が聞こえる)

絵里(きっと夢か幻聴か何か。そうなるまで私は…亜里沙を欲しているのかしら)

絵里(なんて烏滸がましい。私への信頼すら、スクールアイドルに奪われた私が…)



亜里沙「…お姉ちゃん。私…私ね」

亜里沙「スクールアイドルになりたい」


絵里「…やめて。スクールアイドルなんて…」

絵里「あんなの…もうたくさんよ…」


亜里沙「スクールアイドルって、見ていてとっても楽しい気持ちになれるんだって気づいたの」

亜里沙「お姉ちゃんは、楽しくない…?」


絵里「…ない。楽しくなんか…ないわ」

絵里「スクールアイドルは…A-RISEは…手段に過ぎないの…!!」

絵里「私が目指していたのは…」

絵里「復讐なんだから…!!」


亜里沙「…」

亜里沙「顔をあげて、お姉ちゃん」


絵里「え…」

絵里「…え?」


絵里(頭を上げると、亜里沙がいた)

絵里(幻覚…違う。間違いなく、亜里沙)

絵里(どうして…?どうして。だって亜里沙は、東京に残ったはず)

絵里(一人でロシアまで…?もしくは父さんと一緒に…)


亜里沙「私、A-RISEも、C☆cuteも大好き。だけど、この前のクリスマスライブで票を入れるとしたら…」

亜里沙「亜里沙はC☆cuteに入れたい」

亜里沙「きっと、お姉ちゃんを元気にしてくれる力の源を、C☆cuteは持ってると思うから」

亜里沙「復讐にばかり…縛られちゃダメだよ」


絵里「…」

絵里「…何が」

絵里「私の気持ちも知らないで…、元気に…なんて…!!」

絵里「あなたの一票がなんだというのっ…!そんなのあったところで、何も変わらない…!!」

絵里「人の心も、現実も…そう易易と動かせるものではないのよっ…!!」



「…いえ、変わったわ」

「ついに、追いついたのだから」

「この世界の凛。雪穂ちゃん。そして、亜里沙ちゃん」

「この3人の票で、C☆cuteはついにA-RISEに追いついたわ」

「変わらないものなんてない。現実も…そして、人の心ですら」



絵里「…この声…!まさか…」



真姫☆「…おはよう、絵里。ロシアは6時間前なのね」



絵里「…西木野、真姫…!?」

絵里「真姫っ…、あなたが、どうしてここに…」


穂乃果「…西木野さんだけじゃないよ」

にこ「私たちも、C☆cuteもいるわ」


絵里「なんっ…で…!どうして…?」


凛☆「にゃはーん!ま、軽くクリニックでお空を飛んでね!ちょっとした不法入国ってやつ?」

花陽「堂々と言うのはどうなの…」

海未「この歳で私たち大犯罪者ですよ…」

真姫☆「…まぁ、誰にも知られなければ問題ないのよ」

絵里「不法入国だかなんだか知らないけど、何しに来たのよ…!今更、もうあなたたちと話すことなんて何もないわ…!!」

希「うぅん。何もなくないことない。今まで多くの人を傷つけて、夢の芽を摘んできたえりちだから」

希「…しっかりと、えりち自身の夢も摘む。それが、報いってやつよ」

絵里「私の…夢を…?」

穂乃果「あなたには、あなたの夢の全てを諦めてもらいます。そして…」

穂乃果「諦めた上で、立ち直ってください。新しく夢を見つけてください」

凛「絵里先輩、強いんだから…そんなとこでへばってちゃ笑われるよ?」

絵里「私の夢…私が、強い…?何を、知ったふうな口を…ッ!!」

絵里「あなたたちに私の何がわかるというのっ!!私が、どんな思いで…っ!どんな気持ちで指導をしていたかも知らないくせに!!」

絵里「あなたたちにはわからないっ!わかるはずがないわっ!!」

ことり「…うん。わからないよ。わかりたく、ない」

ことり「人の夢を、道具のように使い捨てる人の気持ち、なんか…!」

真姫「でも、気持ちはわからなくても…あなたの夢は、わかったみたいよ」

絵里「ぇ…?」

真姫☆「今から看破してあげるわ。あなたの夢、野望…幼い頃からの、異様とも思える執念」

真姫☆「そして、それを粉々に打ち砕く。あなたを救うには、その方法しかないからね」

真姫☆「さぁ、これが…この世界での、私の…最後の戦いよ」

真姫☆「この世界の絵里を雁字搦めに縛り付けた、夢…いえ、呪いから」

真姫☆「解放する、戦い」

凛☆「で、絵里ちゃんの夢ってなんなのかにゃ?まだ聞いてないんだけど」

にこ「そうね…。結局聞かされないままここまで来ちゃったし…」

海未「今のところわかっているのが、穂乃果と真姫だけですか…」

希「早く説明してくれる?」

真姫☆「えぇ、わかったわ」

真姫☆「まずは、絵里の幼少時代から遡りましょう」

絵里「…」

凛「幼少…絵里先輩がバレエをやってたっていう?」

穂乃果「うん。絵里さんはロシアのコンクールで数々の輝かしい賞を獲得している」

穂乃果「私たちがアイドル専攻に入ったとき、その賞の写真と、絵里さんの美しいダンスを見せてもらったこと、深く覚えている」

真姫「…そうだったわね。一度見たら忘れられないような、華麗な…っと。また惚けそうになっちゃったわ…」

ことり「それが、夢と関係あるの…?」

真姫☆「えぇ。…その前に、私が異世界人であるのは周知の事実でしょうけど」

凛「え、異世界人だったんだ!?」

にこ「はぁ…。そうだったのね…。双子か何かだと思ってたんだけど…」

花陽「周知の事実じゃなかったね…」

真姫☆「…まぁ、そうなのよ。で、当然のこと、私の世界にも絵里がいるの」

真姫☆「この絵里は、あなたとは違って優しくて少し抜けている頼れる先輩よ」

絵里「…あぁ、そう」

真姫☆「どうして私の知る絵里とあなたがここまで違うのか。その原因はあなたの過去の差異にあると感じた」

真姫☆「私の世界の絵里は、多くのコンクールを駆けては来たけれど、それなりの成績しか残せなかった」

真姫☆「頂点へと輝いたことは、ほとんどなかったって言っていたわ」

真姫☆「でも、あなたは違うでしょう?絵里」

真姫☆「あなたは多くの頂点を獲っている。この差はどういうことか。…何もなかったら、こんな差は生まれない」

花陽「…何が、あったの?」

真姫☆「彼女の幼少期、ほぼ同時期に…あなたたちの通っているUTX学院が創立された。私の世界より10年ほど早くにね」

にこ「な、なによいきなり…」

穂乃果「…関係ある話だよ。聞いて」

真姫☆「これも、私の世界との差。これに関しての理由はわからなかったけれど…でも、この差が生まれたことで、また新たなる差が生まれてしまった」

海未「それが…音ノ木坂学院の廃校…ということですか?」

真姫☆「えぇ、そう。私の通う音ノ木坂が、既に十数年前に廃校になってしまっていて、今は大きな空き地を残すのみとなっている」

真姫☆「長く伝統のある、由緒正しき女子校。それだけに愛着を持っている人も多いわ。自分の親のように感じている人もいるんじゃないかしら」

ことり「うん。お母さんも存外にショック受けてたな…」

真姫☆「…えぇ。そこに通うOGに、多かれ少なかれ、衝撃と悲しみを与えてしまった」

真姫☆「そして、変わってしまった人も、いたのよ」

希「変わってしまった人…?」

穂乃果「…絵里さん。あなたに見せてもらった写真。賞を獲得した年数…よく調べてみました」

穂乃果「初めて金賞を受賞したのは……年。これは…」

真姫☆「音ノ木坂が廃校になったのと、同じ年よね」

絵里「…っ」

真姫☆「音ノ木坂が廃校になって変わってしまった人。それは…あなたの指導をしていた人でしょう?」

真姫☆「あなたが敬愛して止まなかった、そして、音ノ木坂をこよなく愛していた」

真姫☆「あなたの、祖母」

凛☆「聞いた話だと、絵里ちゃんのおばあさまって優しい人だって聞いたにゃ」

凛☆「コンクールに入賞できずに泣いていても、励ましてくれたおばあさまだったって」

凛☆「結構なおばあちゃんっ子で、毎年数度は会いに帰ってるって聞いて…」

絵里「っ…!!?なぁっ…」

亜里沙「え…?会いに…?」

穂乃果「…」

凛☆「え、なんか変なこと言った?」

真姫☆「…凛。少し黙っていて」

真姫☆「きっと、あなたの祖母も、とても優しい人だったのでしょう。…音ノ木坂が廃校となるまでは」

真姫☆「ねぇ…教えてくれないかしら。あなたの祖母が変わったと、あなたが感じているのなら」

真姫☆「どう変わってしまったのか。…そこまでは、私も知らないから」

絵里「…」

絵里「…おばあさまは、本当に優しい人だったわ。彼女のバレエの写真を見て、私はバレリーナを志したのだもの」

絵里「でも、彼女の母校が廃校になったと聞いてから、性格が一変してしまったわ」

絵里「全ては、他校に生徒を取られてしまうような弱さがいけないのだと…弱さなんて存在してはいけないのだと」

絵里「半ば八つ当たりのように、私にきつい指導を行うようになった」

絵里「毎日毎日、新品の靴がボロボロになるまでバレエの練習を行って」

絵里「食事の仕方や、生活態度の端々に至るまで…全てを矯正された」

絵里「強くあれと。それ以外に…意味はないのだと。身体の隅々に染み込まされて」

絵里「おかげで私は強くなれたわ。多くの賞も頂けた」

絵里「だけど…」



穂乃果「…おばあさまは、亡くなってしまった」



絵里「…」

海未「っ…!え…っ!」

真姫「亡くなったって…でもさっき凛は!」

亜里沙「…おばあさまは、亜里沙が本当に小さい頃に、お亡くなりになっています。私は顔も知らないほどに…」

凛☆「ウソ…」

真姫☆「これも、私の世界との差。絵里の祖母は…もう遠く昔に、逝ってしまっていた」

真姫☆「きっと音ノ木坂が廃校になったことがかなりのストレスになったかして…私の世界との差を生んだのね」

にこ「…ねぇ、もしかして…!私…気づいちゃったんだけど…」

にこ「復讐って…まさか、そういう…ことなの…!!?」

希「…うちも、わかった。えりちが今までやってきたことは…」

真姫☆「そう。全て復讐だった」

真姫☆「祖母を殺した原因…UTX学院そのものへの、復讐」

真姫☆「絵里、あなたの夢…それは」

真姫☆「UTX学院を、廃校に追い込むことだったのね」

花陽「えっ…!?ど、どういうこと!?」

凛「い、意味わかんないよ…。だって絵里先輩はA-RISEを最強のスクールアイドルにしようとしてたんでしょ…?」

凛「現にA-RISEは…強いアイドルになってるよ。そしたら学校に来る人も多くなるんじゃ…」

穂乃果「そうかもしれないね。A-RISEに憧れて入学してくる人は、きっと今年は多くなると思う」

穂乃果「でも、…来年までそうとは限らない」

ことり「それって…」

真姫☆「絵里の計画は、彼女が卒業してからが本番だったのよ」

真姫☆「彼女の計画が思い通りに行った場合の、来年度のUTX学院について考えてみましょう」

真姫☆「凛の足はまだ骨折せず、穂乃果たちのA-RISEは最強に君臨し続けたままとして」

真姫☆「アイドル専攻に多くの新入生が参加するでしょう。けれど、…そうね、キノ。そこではあなたが指導しているのよ」

真姫「え?あ、あぁ…そうなるのね…」

真姫☆「あなたの、指導とも言えないような、ただ心を痛めつけ壊す試練が執り行われている」

真姫☆「この時点で相当数のアイドルを夢見る少女はA-RISEを諦める」

真姫☆「数少ない耐えた生徒も、厳しすぎる指導の末身体を壊し諦めざるを得ない人が多数となるわね」

真姫☆「そんな中、誰かがこの環境を変えようとキノを陥れる。アイドル専攻はかなりの混乱の渦と化す」

真姫☆「新しく作られた環境でも、絵里と変わらないような指導が続いて。その中でほんのひと握り、耐え切った生徒が来年度のA-RISEとなれる」

真姫☆「そんな彼女らがもはや、誰かを笑顔にできると思う?」

希「…もう、絶望的やろうね」

穂乃果「UTX内部は、今以上の混沌となってしまう」

穂乃果「そして、そのうちのいつかに…凛ちゃんの足が耐え切れず負傷する」

海未「…ここで、そうなるのですね」

穂乃果「でも凛ちゃんが負傷した責任と言える人はもう…UTXにはいない。体制は、何も変わらず続けられると思う」

凛「…凛の自己責任、ってことで済まされちゃうのかな…」

真姫☆「もう驚く程の地獄絵図しか浮かんでこない。でも、A-RISEは頂点に君臨し続けるわ」

真姫☆「それほどの苦痛を耐えてきたんだもの。そんじょそこらのスクールアイドルには想像もつかない世界でしょう」

真姫☆「誰かを笑顔にすることができなくても、多くの人に驚きと感嘆を与えるアイドル。…A-RISEはそんな存在となる」

真姫☆「だけどそれはもう…遠すぎる存在なのよ。誰かがなりたいと、憧れることすら無くなる最強」

にこ「そこから先は私でもわかるわ。そこまであからさまにきつい指導が続けばアイドル専攻に近寄る人も少なくなるでしょ」

にこ「アイドル専攻だけじゃなくて…UTX自体を敬遠する人も多くなる」

希「今以上に、学院中がピリピリムードになるなら…そうなるかもね」

真姫☆「そして、UTXの評判は地に落ち、高い学費を払ってまで行くような人はいなくなり廃校…」

真姫☆「それが絵里、あなたの思い描いた最良のストーリーなのでしょうね」

絵里「…」

海未「しかし、そこまで上手く事が運ぶでしょうか…。UTX学院はアイドルだけの学校ではないのですし…」

穂乃果「飽くまで最良のルートを辿れば、ってことなんだろうね…。たどり着くのは最悪の未来なんだけどさ…」

穂乃果「けれど、そこまでと行かなくても…遠くない将来、アイドル専攻はUTXの評判を著しく下げる要因になっていたと思う。絵里さんのやり方のままなら」

花陽「少なからず、傷跡は残せる…」

真姫☆「…これが、私と穂乃果が考えた、あなたの復讐計画の全貌よ。…当たっていたかしら」

絵里「…」

亜里沙「お姉、ちゃん…」

絵里「…ふ」

絵里「ふふふふふふ…すごい、のね…」

絵里「…正解よ。泣きたくなるほど、全部正解…」

にこ「…まさか本当に、そんなテロリスト紛いのことしでかそうとしてたなんて…」

凛「他の子達だけじゃなくて、凛たちも…A-RISEも所詮は駒に過ぎなかったってこと…?」

希「そういうことなんやろうね…。最初からえりちは…復讐だけを目的に動いていたんやし」

希「…アイドルなんて、ホントはどうでも良かったんやね…!」

絵里「…えぇ」

絵里「ただそれだけを目標に動いてきた…。A-RISEをひたすらに強くして強くして…」

絵里「行き着く先は孤独なんだと、誰にも悟られぬように…」

穂乃果「…『お前の目指しているものは…それでは頂点ではない。ただの、孤独だよ』」

穂乃果「英玲奈さんの言葉…。本当に目指していたのは、孤独だったんですね」

絵里「アイドル専攻は私のものになっていた…。学校からの信頼すら得ていて…絶対に上手くと思っていたのに」

絵里「なのにっ…!」

真姫☆「私たちが現れた。アイドル専攻ではない、スクールアイドル」

真姫☆「今まであなたが執拗に避けてきた、学内のスクールアイドルに対する熱気」

真姫☆「それを誘発させるような存在が現れたのね」

海未「UTXの生徒がスクールアイドルの楽しさを覚えてしまえば、計画は崩れ去ってしまうワケですからね…」

絵里「あの時に…!あの時に潰しておけばっ…!!」

絵里「真姫の殺気の篭った目に怯えてしまったせいで…、全てが水泡に帰してしまうなんて…」

絵里「もっと早くにっ…!!」

亜里沙「…どうして、そこまで…」

亜里沙「なんでそんなに、執着できるの…?お姉ちゃんにとって…、復讐はそんなに大切なものだったの…?」

絵里「…っ!!そうよっ!!私はっ…、UTX学院が憎くて憎くて堪らなかった!」

絵里「あんなに優しかったおばあさまを変えてしまったUTXが…!!」

絵里「地獄のような特訓を強いられた苦しみが…!」

絵里「ようやく得られた勲章も、もう褒めてくれる人すらいない悲しみが…!」

絵里「死ぬ気で掴んだ頂点という座が、ただの孤独の別称だった時の寂しさが…!」

絵里「そして…、そんなに頑張ったのに、もう私は…」

絵里「五分以上、踊ることができない体になってしまった悔しさが…!」

にこ「え…」

穂乃果「…絵里さん、確かに…ダンスを披露してくれたときも、ほんの2,3分だけだった…」

凛「…そう、だったんだ」

絵里「…全てが憎らしくて堪らない」

絵里「愛する家族も、友人も、地位も、名誉も、夢も…何もかも私から離れていった」

絵里「だったら、私をこんな目に合わせたヤツにも、同じ目にあってもらおうって考えたら…おかしいかしら…?」

絵里「UTX学院のA-RISEには、強く、強く強く、誰にも負けないほど強くなってもらって…」

絵里「得られた名誉が、絶望だったときの衝撃を味わわせてあげたいって思ったらダメなのかしら?」

絵里「夢を求めて努力して、たどり着けずにボロ雑巾のように朽ちてゆく様を見るのはとても滑稽で面白かったわ…!」

絵里「まるで昔の自分を見ていたようだったから…!強くて、強いだけの…弱い私のよう」

絵里「穂乃果…にこ…あなたたちはまだいい方じゃない。友人もいる。人気もある」

絵里「少なくとも来年までは、A-RISEは人気もあるスクールアイドルであれたのだから…」

絵里「…いえ、きっともうこの先ずっとそうなんでしょうね…。A-RISEがUTXを自滅に追い込むことなんて…」

絵里「未来永劫…訪れないのでしょうね…」

絵里「ねぇ…凛」

凛「え…?な、なん…ですか」

絵里「どうして…どうしてもっと長く耐えてくれなかったの…?」

凛「耐え…何?」

絵里「本来なら、あなたの骨は…来年の夏頃に折れるはず、だったのに…」

凛「えっ…!?」

花陽「気づいて、たの…!?」

絵里「凛は最高の逸材だった。ダンスが上手で、人を惹きつけられて…」

絵里「そして、起爆剤になってくれる。あなたがもっと耐えてくれたら、私もこんな思いしなくて済んだのに…」

花陽「き、気づいてたのならどうしてっ…!!どうして止めてくれなかったんですかぁっ…!!どうし…」

真姫☆「それを絵里に言っても無駄なことよ。絵里は凛を最初から怪我に追い込むつもりだったのだから」

凛「ぅ…。そんな…」

真姫☆「きっと、凛の怪我が予想より早く爆発したのは…私たちの存在のせいでしょうね」

真姫☆「拮抗するライバルの登場で、想定以上の練習量が重なったせいで」

真姫☆「凛の足の骨は早々に限界を迎えてしまったのよ」

絵里「…そう。あなたたちの…せいなのね」

絵里「何もかも…あなたたちが…あなたたちさえいなければ…」

絵里「…どうして、あなたたちがいるの?」

絵里「なんで、ここに来てしまったの…?どうしてよ…なんで…ふざけないでよ…」

真姫☆「…どうして、なんでしょうね」

真姫☆「私はどうして、この世界に来てしまったのか…」

真姫☆「きっと私がいなかったら、こんなことは起こり得なかった…。うぅん」

真姫☆「アイドルという夢に裏切られながらも、それでも理想を貫き通そうとした少女が」

花陽「真姫、ちゃん…」

真姫☆「友人の笑顔を取り戻すためなら、どれだけの気苦労も厭わない不屈の少女が」

ことり「…私のことかな」

真姫☆「アイドルを理解するためにアイドルを超えた、不器用で一本気で、意志の強い少女が」

海未「…恥ずかしいですよ」

真姫☆「困っている人を見かけたら放っておけない、優しいおせっかい焼きの少女が」

希「…うちも少女扱いしてくれるん?」

真姫☆「誰かに染まりやすくて、気難しくて…でも、やるときはやれる気丈な少女が」

真姫「…そんなかしら」

真姫☆「私たちのうちの誰かが一人でも欠けていたなら、こんな結果にはならなかったのかもしれない」

真姫☆「A-RISEの3人だってそう。穂乃果が、にこちゃんが、凛がいなければ…あなたを追い詰めることはできなかったかもしれない」

真姫☆「今私がここにいる理由。それを答えるとしたら」

真姫☆「そうなる運命だったのよ。絵里、あなたの復讐を阻止しろって、誰かからの命令だったのね」

絵里「誰から…?」

真姫☆「そんなことは知らないわ。でも、こうなってしまったならもう観念して」

真姫☆「あなたの復讐は…成されない。UTX学院は、A-RISEは、C☆cuteは…この世界のスクールアイドルはこれからも続いてゆく」

真姫☆「誰もが笑顔になれる、夢に向かってね」

絵里「…」

絵里「…ふ、ふふ…夢…」

絵里「私の夢がなくなった世界で…笑顔の…ふ、ふふふふ…」

絵里「…ふざけ、ないでよ…」

絵里「う、うぅぅぅっ…。く、ぅぅ…」



真姫☆(…復讐が成せなかった現実を絵里に突きつけたことで、絵里の心は最後の支えを失ってしまった)

真姫☆(現実から逃避することで、辛うじて耐えていた柔い心)

真姫☆(それが今、砕けた)

真姫☆(…そして…その心をガチガチに縛るギプスが今は必要なのよ)

真姫☆(ここからは、私の出番じゃない。でしょ…穂乃果)



穂乃果「ふざけていません」

絵里「え…?」

穂乃果「だってあなたの夢は…まだ何も始まっていないから」

穂乃果「あなたが叶えようとしていたのは復讐です。それは…夢じゃないです」

穂乃果「夢って言うのはもっと…キラキラしてて、みんなが笑顔になれる…そんな素敵なものであると思うんです」

穂乃果「まだあなたは、そんなもの、見つけていない」

穂乃果「…と、思ってたんですけど」

絵里「はぁ…?」

穂乃果「これ、見覚えあります?」サッ

絵里「これは…?」

希「えっ…、そ、それ…。うちの写真やん。いつの間に」

真姫☆「私が持ち出しておいたのよ。必要かもって思って」

穂乃果「あなたがアイドル応援部にいた頃の写真。去年のA-RISEとあなたと希さんが、共に笑顔で写っている写真です」

穂乃果「…この笑顔は、偽物ですか?」

絵里「…」

穂乃果「希さんから聞きました。去年の絵里さんは、こんなことをするような人じゃなかった、って」

穂乃果「それは、本心を隠していたからではなくて、心の底から…アイドルを応援することに喜びを覚えていたから…そうじゃないんですか?」

真姫「…盗聴したときに言っていたじゃない。今でも希さんと友達でいたい、って…」

ことり「それは…アイドル応援部の頃が楽しかったから…ってことなのかな?」

にこ「確かに、アイドル応援部の頃の絵里先輩は…頼れる優しい先輩だったわよ」

にこ「あのままじゃ、ダメだったの…?」

絵里「あの、まま…」

希「…きっとあの時のえりちは、うちらと応援部することに本当に喜びを見出してたんやろうね…」

希「でも、UTXに対する憎しみが勝って…アイドル応援部を捨て、復讐に走った…」

希「あのままが続けば…憎しみを忘れられたかもしれないのに」

絵里「…忘、れ」

絵里「そん、なこと…できな、かった…」

絵里「だって…おばあさまは、私にとって…大切な人で…」

絵里「おばあさまを、ころした…ヤツを、私は…許せ、なくて…だから…だから…」

穂乃果「…過去は大切なものです。人を形成する大きな要素だといってもいい」

穂乃果「あなたのおばあさまに対する想いは、並々ならぬものがあるんでしょう」

穂乃果「でもそれは…楽しい今を捨ててしまうほど、大切なものなんですか?」

絵里「な、にを…」

穂乃果「私は、…私個人の見解ですけど、復讐っていうのは、それでしか心の満たされない人がする行為だと考えています」

穂乃果「けれどあなたは、復讐に頼らなくても心を満たすことができたはずなのに」

穂乃果「それを捨ててしまって、復讐に全てを費やし…数々の人の心を傷つけて」

穂乃果「身体すら傷つけて、今こうして…何も満たされずに座っている」

穂乃果「これが、あなたの望んだ未来ですか?」

絵里「私はっ…!こんなの望んでいないわ…!私の思い通りに事が進めば、私は満たされていたはずよ…!私の夢は…!」

穂乃果「人を傷つけて叶う夢なんて…夢じゃありません」

穂乃果「仮にあなたの計画が叶って、卒業しても…あなたは一人のままだったじゃないですか」

穂乃果「誰も信頼できる人がいない地獄に、ただ孤独に佇むだけ、だったじゃないですか」

穂乃果「…それが、あなたの望んだ未来ですか?」

絵里「…」

穂乃果「あなたは、数々の人を苦しめ、夢を奪ってきた」

穂乃果「その償いは、しなければいけない。こんなところで、座っていちゃいけないんです」

穂乃果「立ち上がりましょう。立って、自分の行いを悔いて、そして…新しい夢を見つけましょうよ」

穂乃果「本当に心が満たされる夢を」

絵里「…わ、たしは…でも、おばあさまの、復讐を…」

真姫☆「復讐なんて残された人の自己満足でしかないわ。あなたがあなたのおばあさまのためにしていると思っているのなら考えを改めなさい」

真姫☆「その復讐で、あなたの心が満たされないと気づいたのなら…そろそろ目を覚ましてもいいんじゃないの?」

絵里「…っ」

亜里沙「…お姉ちゃん」

絵里「亜里、沙…」

亜里沙「…わ、私ね」

亜里沙「スクールアイドルになりたい」

絵里「アイ、ドルに…」

亜里沙「お姉ちゃんの目的が復讐だったとしても…お姉ちゃんが育てた穂乃果さんとにこさん…A-RISEはとっても素晴らしいものだよ」

亜里沙「亜里沙も、お姉ちゃんにアイドルの仕方、教わりたい。そして…みんなを笑顔にするスクールアイドルに、私もなりたいの」

亜里沙「これが亜里沙の、夢なんだよ」

絵里「…夢」

絵里「…」

絵里「ふ、本当ね…。夢って…キラキラしてる…」

絵里「…こんな夢を、叶えることなんて…もう、私には…」

穂乃果「…難しいかもしれません。過ちを悔いながら、新たな夢を探し求めるのは」

穂乃果「一人で、なら、ね」

絵里「…ぇ?」

穂乃果「…絵里さん。うぅん、絵里ちゃん」

穂乃果「あなたが立ち上がってくれるのなら…私は、あなたの隣を歩いてあげたい」

穂乃果「だから、私と友達になってください」

海未「穂乃果…っ」

ことり「穂乃果ちゃん…」


絵里「と、友達…」

絵里「私と…?どう、して…」

穂乃果「理由なんていらない。私が、友達になりたいって思ったから友達になるんです」

穂乃果「友達になるのなんて、それで十分だから」

絵里「…」

穂乃果「さぁ、手をとって。立ち上がってください」

穂乃果「一緒に、歩き出そう。一緒に、探そうよ。新しい夢」


スッ…


絵里「…!ほ、のか…!!」

絵里「こんな、私が…夢を、探しても…いいの…?本当に、いいのね…?」

穂乃果「えぇ、ちゃんと償いながら、ですけどね。…ね、凛ちゃん?」

凛「うん!凛の足の怪我、謝ってくれたら許してあげる!」

絵里「…っ!」

にこ「私はまだアンタのこと気に入らないけど…だからってこのままの方がいいとも思わないわ」

にこ「誰であろうと、一人でもにこみたいな目にあわずに済むのなら、それで越したことはないしね」

絵里「…うん。ありがとう…穂乃果、凛、にこ…」

絵里「そして、亜里沙…真姫、希…C☆cute…」

絵里「今更…気づけたみたい。復讐を成した未来にも、私には何も残されていなかったことが」

絵里「既のところで私は…本当の深淵に嵌ってしまうところだった」

絵里「…多くの人を傷つけてしまった私ですら、助けようとしてくれて…本当にありがとう…」

絵里「私…やり直してみるわ。夢を壊してしまった人たちに、ちゃんとごめんなさいと言うために」

絵里「そして…私も救うことのできる…夢を探すために…」

絵里「…穂乃果」


グッ…!


絵里「よい、しょっ…」スクッ…

亜里沙「お、お姉ちゃんっ…!!お姉ちゃんっ!!」ギュッ!!

絵里「ごめんなさい、亜里沙…。心配、かけてしまって」

絵里「もう、こんなことしないから…本当に、優しいお姉ちゃんでいるからね…。亜里沙…」ギュッ…



真姫☆「…終わった、わね」

凛☆「これで、一件落着…ってことかな?」

真姫☆「そうであってほしい、ところね。もうこれ以上は…私も持たな…うぅっ…」ヨロッ

凛☆「…っと。そだね。少し、クリニックでおやすみしよっか。真姫ちゃん」



絵里「…そういえば穂乃果…その手のひら、どうしたの?包帯巻いて…」

穂乃果「あぁ…これですか?ふふ、これはですね…」

穂乃果「太陽を掴んでしまったとき、ヤケドしちゃったんです」

絵里「…はぁ?」

穂乃果「ふふ、冗談ですよ。…うん、冗談です」

西木野☆星空クリニック内


真姫☆「長くに続いた絵里との因縁もこれでおしまい…かしらね」

花陽「絵里さんの心が復讐とは違う理由でいつか満たされるようになるといいね…」

海未「…ところで、そろそろ帰らないのですか?いつまでもロシアにいるのは、その…」

真姫☆「ん?」

海未「ふ、不法入国なのですよ!?これ以上こちらにいてはいつか私たち、逮捕されて牢獄に…」

凛☆「平気平気!バレやしないにゃー!ステルス機能のおかげでロシアの誰も凛たちが不法入国したなんて気づいてないしー」

ことり「き、気づかれなければいいって問題でも…」

真姫☆「なんなら、ちょっと観光に行く、って言うのもアリかもね」

真姫「か、観光…!?いいの…?」

凛☆「んー、いいんじゃない?悪いことするわけじゃないんだし、ロシアに半日いた程度で誰も咎めはしないにゃ」

真姫☆「花陽も、この程度じゃ旅行と言えないでしょ?ちょっとそこいら、回ってきたら?」

花陽「え、あ…うん。そうしよっか、凛ちゃん」

凛「わーい!かよちんと新年にロシア!すごいにゃー」

海未「うぅ…、いけませんいけません。不法入国なんて…うぅぅ…」

にこ「ま、まぁ…どうしても嫌ならここで待機していればいいんじゃないの?」

ことり「うん、そうするね。海未ちゃんはここで私と一緒にいよう?」

海未「わ、分かりました…」

真姫「に、にこ先輩は外へ行くの?」

にこ「まぁね。せっかくここまで来たなら楽しまなきゃ損だし。アンタも一緒に来る?」

真姫「え…うぅん…どうしよう…。一人じゃ不安だし…でもにこ先輩と二人きりっていうのも…」

にこ「なによ、はっきりしなさいよ」

真姫「えっと…あれ、希先輩は…?」

真姫☆「…希は、少し考え事があるからって今は一人よ。そっとしておいたほうがいいかも」

凛☆「もー、いいじゃんいいじゃん!にこちゃんと一緒に行きなよ!ね?」

真姫「わ、わかったわよ…行きましょう」

にこ「はいはい」


真姫☆「さてと、じゃあ私も行く場所があるから、後でね。凛」

凛☆「え、どこに…?」

真姫☆「ま、ちょっとね。あなたもどこかうろついてきたら?」

真姫☆「…それぞれ、話したいことがある人もいるみたいだし」

凛☆「はぁ…」

ロシアの街


凛「わぁ…こうして見てみるとすごい雪…」

花陽「そうだねぇ…」

凛「うぇ…ぶぇっくしゅ!!ふいぃ~…、さぶいにゃあぁぁ…。やっぱり外に来ないほうが良かったかなぁ?」

花陽「1月のロシアだもんねー。そりゃ寒いよ。天気が良くて助かったね」

花陽「でも、こんな綺麗な雪景色、私初めて見たかも…」

花陽「こうやって凛ちゃんとこの景色が見れたなら、寒くても外に来た甲斐があったと思うよ」

凛「そう?かよちんがそう思うなら、凛もそれでいいかなー」

凛「あ、かよちん。車椅子押すの大変でしょ?凛、自分で立つよ。松葉杖も持ってきてるし…」

花陽「いいよ、座ってて。雪の上で歩くのは危ないよ」

凛「でもかよちんもキツいんじゃ…」

花陽「私はいい。凛ちゃんの車椅子を押しながらゆっくり歩くのは楽しいよ」

花陽「今まで、…本当に大変な中で過ごしてきた私にとって」

花陽「こんなにゆっくりな歩みは、やっと…平穏が戻ってきたんだなぁって思えてね」

凛「かよちん…」

花陽「今は腕にかかる重さも心地よいくらい。朝のロシアの静けさをこうして、凛ちゃんと感じていたい」

花陽「だから。凛ちゃんは無理せず座ってて。ね?」

凛「んー…、わかった。歩いたら逆にかよちんに心配かけちゃうもんね。じゃ、行こっか」

花陽「うん。ゆっくりゆったり、昔のことや今のことや、未来のことを話しながら、ゆっくり…」



クリニック前


希「…」


真姫☆「こんにちは」

希「あぁ…真姫ちゃんか。どうしたん?」

真姫☆「こっちこそどうしたん?よ。何か悩んでるんでしょ?」

希「んー…まぁ、ね」

真姫☆「話したくないこと?」

希「…真姫ちゃんにならいいか。一人で悩んでても仕方ないって、わかりきってることやもんね」

希「実は…」


真姫☆「へぇ…A-RISEにね」

希「サポートメンバーに誘われたっていうんはすごく嬉しいんよ。嬉しいんやけど…」

希「なんだかしっくりこない。本当にそれでいいのかな、ってモヤモヤして、決めかねてるんよ」

真姫☆「ふぅん…」

希「それに、なんだかC☆cuteのみんなを、少し裏切るような感じがして…相談できずにいたんだけど」

希「自分で進めないときは誰かを頼る。ずっとやってきたこと、だから」

真姫☆「だから…もうC☆cuteじゃない私に、相談ね」

希「そういうこと、かな。真姫ちゃんはどう?なうちはどうしたらいいと思う…?」

真姫☆「…そうね」

真姫☆「どう思うか…と聞かれれば、あなたの好きにすればいいと思うわ」

希「う…その『うちの好き』が何かわからへんから悩んでるんやけど…」

真姫☆「まぁ、そういうことでしょうね」

真姫☆「…悩むほどのことじゃないわよ、希」

希「え?」

真姫☆「あなたのやりたいことをすればいい。たったそれだけ」

希「うちのやりたいこと、って…だからそれが…」

真姫☆「思い出して、希」

真姫☆「あなたのやってきたことを。あなたは、何をしたかったのかを」

真姫☆「それをたどってゆけば、自ずと答えは見つかるはずよ」

希「うちの…やってきた、こと…」

真姫☆「右か、左か、道に迷ったなら…」

希「…後ろを振り返れ、か」

希「ありがとう、真姫ちゃん。考えてみる」

希「考えて…答えを出してみるよ。相談に乗ってくれておおきにね」

真姫☆「お礼は結構よ。…相談に乗ることが、ドクター真姫のお仕事みたいなものだもの」



ロシアの商店街


にこ「うぃぃ…さぶぅ…。ロシアってこんなに寒いのね…想定外…」

真姫「いつもの服じゃ…風邪ひいちゃうわね…」

にこ「な、なんか服…買っていく?」

真姫「って言っても、ロシアのお金なんか…あ!そういえば…」

にこ「な、なになに…?」

真姫「…いざという時のために外貨を少しは持ち歩いているんだったわ」

にこ「どんな時のために普段から外国のお金持ってるのよ!?」

真姫「って言ってもほんの少しよ?ロシアで使えるお金は」

真姫「服なんて1着買えるか買えないかの微妙な…」

にこ「それじゃあ片方しか暖まれないじゃない…」

真姫「そ、そうだけど」

にこ「…そうだわ。私にいい考えがある」

真姫「い、いい考え…?」

にこ「少ないお金で二人共暖まれるとっておきの手段よ」



『お買い上げありがとうございましたー』



真姫「…」

にこ「どう?暖かくない?」

真姫「…顔だけは、熱くて死にそうよ」

にこ「なら効果的じゃなーい♪さ、もっと近寄って近寄って」

真姫「ヤダ!」グイッ

にこ「ぐえぇぇっ!首が絞まる首が絞まる!!」

絵里の部屋


絵里「…穂乃果」

穂乃果「はい?」

絵里「私はね…正直」

絵里「あなたはもう、友達の作ることのできない子になったんだと思っていたわ」

穂乃果「…え」

絵里「私の徹底した練習環境のせいで、心まで凍てついて…」

絵里「誰もに心を閉ざした、未来のUTXの破滅の象徴…そんな存在になると私は思っていたの」

穂乃果「…ひどく、嫌なものと考えられてたんですね」

絵里「ねぇ、教えてくれないかしら。どうしてあなたは…そうなれたの?」

絵里「言い方は悪いけど…あなたは私の同類になってしまったと感じていたのに」

絵里「何があなたを…?やっぱり、真姫…?」

穂乃果「西木野さんは…直接は関係ありませんよ。間接的には関わっているのかもしれませんけど」

穂乃果「そもそも私は…心を閉ざすことなんて出来ませんでした」

穂乃果「あなたのように強くありたいと思って、無駄なものを全て削ぎ取って、冷静で、冷酷でいよう、なんて…去年は思ってましたけど」

穂乃果「…結局、そうはなれなかった。上辺だけ…ただ他人と自分を傷つけた、それこそ無駄な、冷たさでした」

穂乃果「何かを捨てるたびに泣いて、悪夢を見て。妹だけに本音を吐いて、慰められて」

穂乃果「そうして、外では強くて冷たい高坂穂乃果を演じてきました。だから本当は私は…弱い人間のままだったのかもしれません」

絵里「…そう。そう、なのね…」

絵里「だとすれば、私も…まだまだね」

絵里「人の心を完全に掌握した気でいたつもりが、まさか…一番似ていると思ったあなたの心を、一度も読むことができなかったのだもの」

絵里「もう、完全に凍てついたものだと思っていたのに…そうなのね。だからあなたは…」

絵里「…そんなに、優しくなれるのね」

穂乃果「優しい…?」

絵里「えぇ。冷たくなんかない…本当のあなたは、温かくてとても優しい子」

絵里「こんな、どうしようもなく落ちぶれた私にまで、手を差し伸べてくれるのだもの」

絵里「でも、だったらね。…私なんかに構っていちゃダメよ、穂乃果」

穂乃果「どういう、ことですか…」

絵里「あなたが手を差し伸べるべきは、あなたが冷たい人間を演じることで傷つけてきた人」

絵里「私には勿体無いわ。あなたの手のひらは温かすぎて、火傷しそうだもの」

絵里「行ってあげて。あなたを本当に必要としている子たちの元へ」

穂乃果「絵里、さん…。でも…」

絵里「平気よ。あなたの言葉で気づかされたから。一人でも、もう夢は探せる」

絵里「あなたと共に歩むのは…きっと私じゃない」

絵里「…これが、最初で最後の…真の指導者としての私の言葉」

絵里「友達はこれで、おしまい。さぁ、…行きなさい。高坂穂乃果」

穂乃果「…っ!わ、分かりましたっ…!!」ダダッ…



絵里「…」

絵里「…これで、いい」

絵里「あの子の手のひらの温かさだけで…私は十分に救われたもの」

絵里「寂しくなんて、ない…」

西木野☆星空クリニック 一室


雪穂「亜里沙、どうだった…?」

亜里沙「あ、雪穂。うん、もう大丈夫。お姉ちゃん、元気になったよ」

雪穂「そ、そっかぁ、よかったね!」

亜里沙「雪穂も一緒に来たら良かったのに。穂乃果さん、すごくかっこよかったよ!」

雪穂「私はほら…そういう空気ニガテだったから…。うん、でも亜里沙のお姉ちゃんが元気になったのならロシアまで来てよかったよね」

亜里沙「うん!それに、空飛ぶクリニックに乗ったのも初めて!日本ってすごいハラショーなのね!」

雪穂「…いや、こんなものはこの世界の日本には存在しないと思うよ…。ワープまでしてたし…」

亜里沙「そうなんだ…。あ、それより…お姉ちゃんがもっと元気になったら、私のダンスのレッスンしてもらうの!」

亜里沙「それでね、私もA-RISEみたいな…C☆cuteみたいなスクールアイドルを目指すんだ!」

雪穂「へぇ…」

亜里沙「楽しみだなぁ…」

雪穂「ね、ねぇ亜里沙…。スクールアイドルって…一人でやるの?」

亜里沙「え?うーん、どうだろ。UTXで一緒にできる友達が居れば、一緒にやってみたいって思ってるけど…」

雪穂「あの、さ…その、亜里沙がイヤじゃなければ…なんだけど」

亜里沙「うん?」

雪穂「わ、私も…UTXさ、受けるから。その、スクールアイドル…やってもいいよ」

亜里沙「えっ!?」

雪穂「や、やってもいいっていうか、やりたい!亜里沙と!ダメ!?」

亜里沙「は、はっ…!ハラショーっ!雪穂、ハラショーだよ!」

雪穂「お、おぉっ…!」

亜里沙「やろう!一緒に、私たちのスクールアイドル!!」

雪穂「う、うんっ…!!」

西木野☆星空クリニック


海未「はぁ…。帰るのはいつごろになるでしょうか」

ことり「観光もしてるみたいだから、もう少しかかるんじゃないかな?」

海未「うぅ…。いつ地元の警察官が乗り込んで来ないか心配です…」

ことり「まぁ、傍目からは全く見えないようになってるんだし、誰も来ることはないんじゃないかな…」

海未「というかそれも謎技術過ぎます…。一体何をどうしたら建物が完全に透明になるというのですか…」

ことり「さぁ…?」


「あ、あれ…?どこにあったっけ…」


ことり「…ん?外から声が…」

海未「この声…穂乃果?」



ガチャッ

海未「穂乃果…?」


穂乃果「うわっ!急に何もないところからドアが…」

ことり「あはは、びっくりするよね、これ…」

海未「ここに用事ですか?」

穂乃果「まぁ…、うん。ここにっていうか…海未ちゃんとことりちゃんに」

ことり「私たちに…?」

穂乃果「…話が、あるの」



海未「それで、話とは…」

ことり「…」

穂乃果「あの…えっと…」

穂乃果「…いざ言おうとすると、なんだか気恥ずかしくて言いづらいな…」

ことり「頑張って、いくらでも待ってるから」

海未「ことり、なんだかそれでは小さな子供に言うようですよ」

穂乃果「…小さな」

穂乃果「うん、そっか…。思い出そう…その頃を」

海未「はい…?」

穂乃果「ん、んんっ…!行くよ…」

穂乃果「ことりちゃんっ!海未ちゃんっ!!」

ことり「はぇっ…!?」

海未「急に大声…!?」

穂乃果「あのっ…わ、私と…!」

穂乃果「私ともう一度、友達になって!」



海未「っ…!!」

ことり「友達…」

海未「穂乃果…それは…!」


穂乃果「…絵里さんから言われたの。私が差し伸べる手は他にある、って…」

穂乃果「今までずっとずっと無駄だと思って押し殺してきた私の気持ち…もう、削ぎ落とす必要もないって分かったの」

穂乃果「もう一度、友達に…なろう」

穂乃果「もう一回、あの時みたいに…笑い合いたい!海未ちゃん、ことりちゃんと一緒に!」

穂乃果「お願いしますっ…!友達に…なってください…!」

海未「ほ、穂乃果っ…!!」

ことり「…」

海未「もちろんですっ!!穂乃果っ…穂乃果あぁっ…!!」ギュッ

穂乃果「っ…、海未ちゃん…!」

海未「その言葉を…どれだけ待ちわびたと思っているのですか…!」

海未「断る理由なんてありません…!もうこれから、私たちはずっと友達です…!!」

穂乃果「海未ちゃん…うん、うんっ…!!」

海未「ことりも、そうですよね?」

ことり「…私は」

海未「…ことり?」

穂乃果「…もしかして…嫌?」

ことり「うぅんっ…!嫌じゃない…そうじゃないけど」

ことり「でも、友達になるなら、私は…」

ことり「この一年間は、なかったことにしたい…」

ことり「決別も諍いも、全部全部忘れた上でなら…友達になりたいよ」

海未「ことり…。この一年…本当にことりにとっては、重い一年だったのですね…」

ことり「…ねぇ、それじゃ、ダメかな」

穂乃果「…」

穂乃果「…ダメ、だよ」

ことり「えっ…、どうして…?」

穂乃果「ことりちゃんにとっては、思い出したくもない一年だったかもしれない」

穂乃果「私が強さを求めたことが海未ちゃんを苦しめて、そして…海未ちゃんの苦しみと私が、さらにことりちゃんを傷つけていたのかもしれない」

穂乃果「それは…ごめんなさい。辛い思いを強いてしまって、ことりちゃんには謝っても足りないくらい」

穂乃果「…でも私には、この一年をなかったことにはできない」

穂乃果「私はこの一年で…多くのことを学んだから」

穂乃果「A-RISEとして誰かを喜ばせるための強さ、人を想う気持ちの強さ、誰かを助けたいと願う強さ」

穂乃果「色んな強さを知った。そしてそれが…全部正しい、無駄じゃない強さだった」

穂乃果「もう私は、何かを捨てるなんてできない。全部吸収して、それを自分の強さにしていくって決めたから」

穂乃果「だから…私には忘れるなんてできないよ。ごめん、ことりちゃん…」

ことり「…そう」

海未「ことり…」

穂乃果「…でも、でもね。ことりちゃんにとってこの一年は…辛いだけの一年だった?」

ことり「え…?」

穂乃果「秋までは、辛い思いばかりだったかもしれないけど、でもさ」

穂乃果「西木野さん…真姫ちゃんが来てからのことりちゃんは、素敵な笑顔だったよ」

穂乃果「私と同じラインに立つためにアイドルを始めて、けれど私とは違う道を走っていたことりちゃん」

穂乃果「その道は…ただ辛いだけの道だったかな?」

ことり「…それは」

海未「そうですよ。この一年を忘れるということは…真姫たちとの思い出も忘れるということです」

海未「涙も、笑顔も…とても貴重なものだったではありませんか」

海未「はじめから、を選択してしまえば…それも消えてしまうのですよ?」

ことり「う…」

穂乃果「ことりちゃん、やり直そう。でもそのやり直しは、はじめからのやりなおしじゃない」

穂乃果「辛いこと悲しいこと、全部背負った上で、それ全部を塗り替えるくらい楽しい思い出を積み上げていくために」

穂乃果「続きからの、やり直し。ことりちゃん…それじゃ、ダメ?」

海未「…ことり」

ことり「…」

ことり「…だ、ダメ、だよっ…!」

穂乃果「えっ…」

海未「な、なぜですか…。やはり、全部なかったことに…」

ことり「うぅんっ…うぅん、違うのっ…うぅっ…違う…!」

ことり「そう、だよね…!私、楽しかったもんね…!!アイドル、海未ちゃんやみんなとやってきて…!」

ことり「すごく、楽しかった…!なのに、それもなかったことにしようなんて…私って、バカだなぁ…」

ことり「続きから…うん、続きからがいい…!!ぐすっ…、やり直したい、私っ…!!穂乃果ちゃぁんっ…!!」

穂乃果「うん…。あれ、でもだったらなんで…」

ことり「だ、だって…うぅ…約束、だったから…」

海未「約束…?」

ことり「…今度は、今度は私から、友達になろうって言うんだって…。だから、穂乃果ちゃんから言うのは…ダメなんです…!」

穂乃果「ぷっ…あはは…。なんだ、そんなこと…」

ことり「私にとっては大切なことなの…っ!大切な…、友達になるための、方法なんだから…」

海未「…なら、最初で最後。忘れてあげましょう。穂乃果から友達になろう、と言ったことくらい」

穂乃果「うん?…あぁ。うん、そうする。はい、忘れたよ。さーて、ことりちゃんは何を穂乃果に言ってくれるのかなー?」

ことり「ぶ、ふふっ…。なにそれ…。変だよ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「変でもいいもん。さ、ことりちゃん」

海未「ことり」

ことり「…うん。穂乃果ちゃん…、私と、友達になってください」

穂乃果「うん。勿論…友達だよ、これからもずっと」

ことり「っ…!うんっ…!!ずっと、ずっとずっとずっと友達だよ、穂乃果ちゃんっ!!」

ロシアの商店街


花陽・凛「「あ」」


にこ・真姫「「あ…」」



真姫「ぐ、偶然…ね」

花陽「うん、こんなところでバッタリ会うなんて…」

凛「何そのマフラー」

にこ「うぐっ…」

凛「二人で一つのマフラー巻いて…恋人?」

真姫「ち、ち、違う違う、違うわよっ!!寒いからなるべく二人共暖まれる方法をねぇっ…!!」

にこ「そこまで否定されるとなんだか悲しいわね…」

真姫「どうしてそんな反応なのよぉっ!?なんで私がにこ先輩とこ、こっ…恋人…なんてっ…!」

花陽「ぷふっ…」

真姫「は、花陽ォ!?ナニヨ…、まさか花陽まで私とにこ先輩を…」

花陽「あははは、うぅん違うよ。キノ…真姫ちゃん。人見知り、してないなって」

真姫「えっ…」

にこ「あぁ、そうね。もう十分仲良くなったんじゃない?私とは」

真姫「あ…そういえば普通に会話できてる…」

凛「ふーん…、かよちんが言ってた人見知りの友達ってこっちの西木野さんのことだったんだ」

花陽「うん。自分の弱点だから克服したいって」

凛「弱点かぁ…。そんなに気にすることでもないと思うけどなー」

真姫「ほ、星空さんにはこの気持ちがわからないだけよ!結構辛いんだから…」

凛「む!だから星空さんはやめてって…」

真姫「え?」

凛「あそっか…。これを言ったのはあっちの…むふ、じゃあじゃあ!」

凛「まーきーちゃんっ!」

真姫「うぐっ…!!」

凛「真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃーんっ!」

真姫「は、恥ずかしいからやめてよっ!そんな大声で…」

凛「あははははっ!!もう顔真っ赤っか!たのしー!!真姫ちゃーん!かわいいにゃぁ~!!」

真姫「ば、ばかぁっ!!だったら私も…凛!凛凛凛っ!!りーんっ!!」

凛「全然痛くも痒くもないにゃー!あはははははは!」

花陽「ふふふふ…」

にこ「なんだ。もう人見知り、平気そうね」

花陽「…はい、そうですね。ふふ…」



凛「真姫ちゃんっ!」

真姫「だから…あー、もぉぉーっ!!やめてったらあぁぁっ!!」

絵里の部屋


絵里「…これで、いい」

絵里「あの子の手のひらの温かさだけで…私は十分に救われたもの」

絵里「寂しくなんて、ない…」


希「ホントに?」


絵里「…希」

希「えりちほど心を見抜くのに長けてないうちでもわかるよ」

希「…ホントは、寂しくて仕方がないって思ってるんやって」

絵里「何…?私を笑いに来たの?…まぁ、別にいいけどね」

絵里「あなたにもひどいこと、たくさんしてきて…見下されているのは重々承知よ」

絵里「だからあなたにどれだけの報復をされようと…」

希「うちはね」

希「今まで自分のやってきたこと振り返ってみて…うちは本当は何がしたかったのかって考えてみてんよ」

希「この3年間、アイドル応援部や生徒会長や、スクールアイドルまでやったりして…」

希「結局その根幹にあるものは何か、って」

絵里「希…?」

希「簡単だった」

希「うちは、誰かの役に立ちたかったんよ。特に、困っている誰かの」

希「友達が欲しくて困っている自分自身を助けるためにアイドル応援部を始めて」

希「アイドル専攻の厳しさに心折れてしまった子たちを助けようと生徒会長になって」

希「えりちに篭絡されようとしていた西木野さんの勇気となるために、スクールアイドルを決意した」

希「うちはそんな…どうしようもないおせっかい焼きなんやって、気づいたんよ」

希「だから、ね」


スッ…


絵里「えっ…」


希「うちは、今困ってるえりちの役に立ちたい」

希「強がり言って、穂乃果ちゃんを遠ざけたえりちの…そばにいることが、今のうちのやりたいこと…なんよ」

絵里「希…、どうして…。あなた、私のことを恨んでいたんじゃ…」

絵里「私は、あなたから全てを奪った人間なのに…!そんな私にどうして、手を…」

希「もちろん、うちは穂乃果ちゃんほど優しくないよ。えりちのこと、全部を許せるなんて思ってない」

希「だからえりちのこと、友達とは言いたくない。ただ…そばにいるだけで、えりちの役に立てるなら」

希「たったそれだけの関係でなら…えりち。あなたと共に、いられる」

絵里「っ…!!の、ぞみ…!」

希「…なんてね。結局うちは、ずっとえりちのこと…諦めきれなかったんかも」

希「こんな関係になってもまだ、えりちのこと、『えりち』って呼び続けちゃうんだもん」

希「…さぁ、寂しがり屋で困ったさん。うちの手のひらなら、火傷しないよ?」スッ

絵里「えぇ、希…。あなたの手のひらが、私には…」

絵里「…ちょうどいい、温かさだわ」


ギュッ…

西木野☆星空クリニック モニター室


凛☆「休日はインドア派な凛に外をうろつくなんて面倒にゃ。モニターでみんなを監視するのがお似合い」

凛☆「おーおー、皆青春してるねー」

凛☆「…っと、そろそろ帰る時間だにゃ。帰ってくる頃合かな~」

凛☆「凛も帰る準備…」ゴソゴソ

凛☆「ん?あ、これ…この映像、こんなところにも置いてたんだ。懐かしいにゃぁ…」

凛☆「ま、いいや。哀愁に浸ってる暇はないし…よいしょ…」ゴソゴソ…



夕方


真姫☆「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね」

絵里「えぇ、また東京で…。会えるかどうかは、わからないけどね」

にこ「もう立ち直ったんだから、明日から練習、指導しに来なさいよ」

絵里「え、でも…」

穂乃果「前のような権限はなくても、A-RISEの指導のお手伝いくらいなら許可されると思いますよ」

穂乃果「だから、絵里さんの元気な姿…アイドル専攻のみんなにも見せてあげてください」

凛「絵里先輩を尊敬してる人、結構多いんだもんねー!」

絵里「私を…、そう、そうだったわね…。復讐のことしか考えていなかった私でも、尊敬してくれる子は、いたんだもんね…」

亜里沙「ふふ、そうだよ!お姉ちゃんはやっぱり亜里沙の尊敬するお姉ちゃんだもん!」

絵里「…うん。ありがとう。また、アイドル専攻…行ってみるわ」

花陽「私も時々、見に行ってもいいですか?凛ちゃんと一緒に…」

絵里「ん?…えぇ、私にどうこうできるわけではないけど、もういいんじゃないかしら。アイドル専攻を閉鎖的にする必要性はなくなったのだし…」

凛「凛も見学に行きたいにゃ!将来のやりたいことのために~…」

花陽「うん、そうだね」

真姫「やりたいこと?なにそれ」

凛「真姫ちゃんには内緒~。かよちんとA-RISEの人たちにしか伝えてないことだもん」

真姫「ふぅん…。って!真姫ちゃんはやめてってば!」

希「ふふ、西木野さん。凛ちゃんとも仲良くなってるやん」

真姫「そういうんじゃ…」

海未「こほん。長話もなんですからそろそろ…」

ことり「そうだね。絵里先輩、さようなら」

絵里「えぇ、…穂乃果と、仲良くね」

穂乃果「…っ!絵里さ…」

ことり「はい!言われなくてもずっと仲良くしてあげます!」

海未「今度こそ、もう過ちは起こさないように…ね?」

穂乃果「…うん」

凛☆「よーし、じゃあみんな西木野☆星空クリニックに乗り込むにゃー!」

真姫☆「目標、日本東京秋葉原!一瞬でたどり着くから覚悟しなさいよ!」

花陽「またあの酔うのは勘弁して欲しいよ…」



ヒュゥゥゥンッ…!!



絵里「…不思議な子だったわね。異世界の…真姫か」

今日はここまで 続きは明日 ほなな

とりあえず此処まで読んだ感想は面白いと思いますけど、気になる点が何個があります。

まずは穂乃果、はっきリ言って穂乃果の行動は最低でした、トップになる為に海未とことりの縁を切りましたよね。

そのせいで海未はかなり傷ついて引きこもりになり、精神的にもかなり追い込まれたはずなのに『もう一度、ことりちゃんと海未ちゃんと友達になりたい』というのは都合が良いと思います、というより拒絶されてもおかしくない事を穂乃果はやってしまったというのに海未とことりとあっさり仲直りするのは何かなぁって思いました。

しかも如何にも最悪感に蝕まれ、悪夢も見ています、と言っていましたけど、穂乃果は加害者です、海未達を傷つけてしまった張本人なのに穂乃果も苦しんていたというのおかしいじゃないんですか、そしてそう言っている割には反省や後悔している印象がありませんし、『今まで捨ててきた物を拾い上げる』『それが私なんだ』と口先だけ耳障りの言い言葉を言っていると感じました。

それに普通は絵里みたいな『もう友達になれない』という態度を取られてもおかしくない事をやっていたのに穂乃果は許され、絵里は許されないというのは違和感がありました、凛は絶望のドン底に落ち、自殺未遂までなってようやく自分のしてきた事に気づき、大泣きして謝罪したのに対して穂乃果はそれすらなくないの其処はどうなんでしょうか?

長文すいませんでした。

ご指摘ありがとうございます 自分は一方向的にしか物語を捉えることができないのでこういった感想は大変助かります

結論から言わせてもらえれば指摘していただいたところは概ねその通りです… 
穂乃果も海未ちゃんやことりの心を傷つけてるんだからせめて仲直りする際に「ごめんね」の一言は入れるべきだったかと反省させていただきました

ただ、すんなり仲直りした件は、海未ちゃんもことりも、穂乃果が友達になりたい、と言ってくれればそれで許せる、くらいの心持ちだったということでなんとか
あれだけ変わってしまった穂乃果が自分から仲直りしようと言ってくれたことで、二人には言外に反省が伝わってるということにしていただけると助かります

自分も未熟なのでここどうなん?というツッコミは多々あると思われるので、まだツッコミ足りないのであれば最終回終了後に再度書き込んでいただければ
答えられる限りで応えさせてもらいますのでもうちょっと待ってていただけると助かります

こにゃにゃちわ
じゃ、これで最後のもしライブ! やっていきます

それから時は過ぎ…


新学期

UTX学院 講堂


『それでは、次に生徒会長の挨拶です。高坂生徒会長、どうぞ』


穂乃果「はい」


スタスタ…



穂乃果「…えー、ごほん」

穂乃果「皆さん、こんにちは。生徒会長の高坂穂乃果です」

穂乃果「冬休みは誰とどう過ごしましたか?家族とでしょうか、友達と過ごした方もいるでしょう」

穂乃果「夏休みほど長い休暇ではないので、盛大な旅行の計画は建てられなかった人も多いでしょうが…」

穂乃果「今年の冬休みは一度きり、そして、そこで体験した出来事も、一期一会の貴重な思い出になるんです」

穂乃果「…って、ふふ、何言ってるんでしょうかね、私…」



ザワザワ…

「穂乃果さん…?」「生徒会長、なんか雰囲気変わった?」「まさか冬休みに…!?」「いやそんなまさかー…」



穂乃果「…お静かに」


シーン…


穂乃果「話は少々ずれますが、私自身も…この冬休みに、貴重な体験をした一人になります」

穂乃果「それは規律も規範もなく、奔放でやや危ない体験でした」

穂乃果「けれど何にも縛られない…とても自由な、そんな思い出です」

穂乃果「以前、生徒会長に就任した際に言った言葉とは異なりますが…」

穂乃果「ルールからはみ出す、というのも…存外悪くないことなのかも、しれませんね」

穂乃果「あ、ただし、本分に悪影響を及ぼさない程度に、ということですが」

穂乃果「えー…、とまぁ、長くなってしまいましたが要するに…」

穂乃果「素敵な家族と、素敵な友達と…良い時間を過ごせたのなら、最高だよね、ってことで」

穂乃果「以上を持って、私の挨拶とさせていただきます。ご清聴、ありがとうございました」スッ…


パチパチパチ…


『え、えー…、はい、生徒会長挨拶、ありがとうございました。それでは、以上を持ちまして始業式を終了とさせていただきます。生徒は…』





海未「…ふふ。穂乃果、少し柔らかくなってましたね」

ことり「むしろ、ちょっと不器用になっちゃったかも?」

にこ「いいじゃない。ちょっとくらい欠点があったほうが可愛げがあるってものよ。…私みたいにね」

花陽の教室


花陽「…」ポチポチ…


親衛隊A「花陽、メール?」


花陽「あ、うん。凛ちゃんに、そろそろ病院の方へ行こうかなって…」

親衛隊B「あれ、今日からアイドル再開するんじゃ…」

花陽「その前に寄ってから。凛ちゃんも学校に連れてきてあげたいの」

花陽「凛ちゃんにめいっぱい、アイドルの練習の仕方、覚え込ませなきゃだから」

親衛隊C「へ?なんでですの…?」

花陽「…まぁ、色々とね。それで…」


ガララッ


真姫「花陽、いる?」


親衛隊A「あ、西木野さん。花陽ならここだよ」

真姫「あぁ、ありがと。花陽、今日放課後すぐに部室に来て欲しいんだけど…」

花陽「え、すぐに…?」

真姫「うん。次の曲のことで相談があって」

花陽「えーっと…今日は凛ちゃんをお迎えに行かなきゃだから…」

真姫「えっ、あ!そうだったわ…。忘れてた…」

花陽「ごめんね。凛ちゃんを病院に迎えに行ったらすぐに部室行くから」

真姫「…あぁ、うん。別にいいのよ。いつぐらいに部室に来る?」

花陽「うーんと…1時くらい、かなぁ?学校終わったらすぐに行こうと思ってるから」

真姫「わかった。1時ね」

花陽「うん」

真姫「遅れちゃダメよ?」

花陽「うん…?わ、わかってるよ…」


親衛隊B「なんだか西木野さんも明るくなったよねー。私たちとも普通に話すようになったし」

花陽「そうだね。随分みんなとも打ち解けることができて…学校が楽しそうでよかった」

親衛隊C「…あ、西木野さんといえば」モゾモゾ…

親衛隊C「これ」スッ

花陽「え、これ…」

親衛隊A「こないだのプリクラよ。渡しそびれちゃってて」

親衛隊C「彼女、学校には来ないんですのよね?小泉さんから渡して頂ければと思って」

花陽「あ…」

花陽「…」

親衛隊B「…小泉さん?」

花陽「…う、うん。わかった。預かっておくね」

花陽「渡して…おくから」

UTX学院 食堂


ガヤガヤ…


希「うわぁ…」



モブA「あの!次のライブはいつごろになるんですか!」

ツバサ「そうねー、予定しているうちでは今月中に一回はしようかなって」

モブB「プロになったらファンクラブとか作るご予定は!?」

あんじゅ「うーん、考え中かしら?マネージメントのチームとの兼ね合いでおいおい決めていくわ」

モブC「私もそのチームに参加させてください!」

英玲奈「残念だがその件に関しては全面的に却下させてもらっている。すまないな」

あんじゅ「でーもぉ…、人手が足りなくなったら優先的にUTXの後輩を採用する…って言うのはあるかもぉ?」

モブズ「「「本当ですか!?」」」

ツバサ「えぇ。何もかも未定だけれどね。御用命の際はここにメールか連絡を頂戴。はい、名刺。はい、名刺」サッサッ



希「放課後ならファンとのふれあいオッケーになってからここまで囲まれるとは…」

希「A-RISEも大変やね…っと、席はどうしようかな…」


絵里「希っ!こっちこっち!」


希「あ、えりち!」

絵里「ここ、空いてるわよ!座りましょう!」

希「うん、そうしようか」



絵里「A-RISEもあと数ヶ月で卒業…、プロになるのね」

希「スクールアイドルの世界以上に厳しいやろうけど、最後まで王座を守りきったツバサちゃんたちならきっと…行けるよ」

絵里「えぇ。…希、よかったの?」

希「何が?」

絵里「…チームへのお誘い」

希「あぁ…。うん、いいんよ」

希「うちは気楽なポジションの方がお似合いよ。あっちも納得してくれたしね」

絵里「そう。なら、いいのだけど」

希「さ、親子丼が冷めちゃう。はよ食べよ。こう賑やかな場所で食べるのも、なかなか乙なものやね」

絵里「ふふ、そうかもね。それじゃ…いただきます」

多目的ホール


にこ「行くわよー!はい、にっこにっこにー!!」


専攻生ズ「「「「にっこにっこにー!!」」」」


にこ「声が小さい!もっと笑顔で!はい、にっこにっこにー!!」


専攻生ズ「「「「にっこにっこにー!!!」」」」


にこ「やればできるじゃない!」



穂乃果「…楽しそうでなにより」

穂乃果「私は私で、にこちゃんが指導している間に何かできることは…」


ガチャッ

海未「こんにちは、穂乃果」

ことり「やってるー?」


穂乃果「あ、海未ちゃん、ことりちゃん。どうしたの?」

海未「いえ、特に用事はないのですが。花陽が少し遅れて来るので、その間お邪魔させていただこうかと」

ことり「ダメだったかな?」

穂乃果「うぅん。存分に見ていって。…ふふ、あれ、どう思う?」



にこ「じゃ、お次はー!にこにーって覚えてラブニコ!はい!」

専攻生ズ「「「「にこにーって覚えてラブニコ!!」」」」

にこ「んー!なかなかできるわねー!」



ことり「…あれが指導?」

海未「ま、まぁ…いいのではないでしょうか。にこのにこらしさが受け継がれるなら…」

穂乃果「にこちゃんみたいな子、あんまりいないから、ちょうどいいのかもね」

穂乃果「にこちゃん自身も、とっても嬉しそうだし…」

海未「にこの全力が存分に発揮できてにこもテンション上がりっぱなしなんでしょう。わ、私も体が疼いて…!!ら、ラブアロ…」

ことり「抑えて抑えて。…でも、A-RISEと交代で穂乃果ちゃんとにこちゃん、それに絵里さんが指導することになったのはいいけど…そのあとはどうするの?」

穂乃果「…もう、次の指導役は決まってるって、ツバサさんが言ってた」

ことり「え?誰?」

穂乃果「それは、教えてくれなかったけど。まぁでも…」



海未「それではまだ足りませんっ!いきますよー!ラブアローシュート!ばぁんっ!!」

にこ「ちょっ、いきなり割り込んでこな…ゔっ!ばたりっ」

専攻生ズ「「「にこ先輩がやられた!?」」」

海未「これがコールアンドレスポンスというものです!」

にこ「…なんかちょっと違う…」



穂乃果「…あのままでも、あれはあれで面白そうだけどね」

ことり「あははは…抑えてって言ったのに…」

1年教室


親衛隊B「それじゃ私らは、そろそろ帰りますか」

親衛隊C「えぇ、そうですわね」

親衛隊B「おーい、帰るよー?」

親衛隊A「うん?あぁ…ごめん、ちょっと…呼び出されてるんだ。先輩に」

親衛隊C「先輩?誰ですの?」

親衛隊A「…ちょっと、ヒミツかな」

親衛隊B「ふぅん…、わかった。校門前で待っとくよ!」

親衛隊C「せっかく早く帰るんですから、この前見つけた穴場のお店によるんですのよ!」

親衛隊A「わかってるよ!すぐ済む…と思う」



親衛隊A「…お待たせしました。それで、話って…」


絵里「…」


親衛隊A「今更あなたが私に、なんの話があるって言うんですか。…先輩」

絵里「…」

希「…えりち、頑張って」

絵里「えぇ、大丈夫。その…、秋山さん。私…あなたに酷いことを言ってしまったから」

絵里「夢を持ってアイドル専攻に入ってきたのに、才能がないと切り捨てて、夢を断ち切ってしまって…ごめんなさいっ!」

親衛隊A「えっ…」

希「えりち、今こうして…専攻生だった子一人一人に謝って回ってるん。えりち自身の為にもね」

絵里「どう罵ってもらっても構わない。全て私の欲望のままの行為だったから…」

絵里「他人の夢を蔑ろにした最低な行為だった。…ごめんなさい」

親衛隊A「…確かに、あなたに才能がないって切り捨てられた時は、とても悲しかったし悔しかった」

親衛隊A「あの時はあなたが憎らしくて堪らなかったけど…でも、今はそれでも良かったと思います」

絵里「え…?」

親衛隊A「頭を上げてください。そんな姿、あなたに憧れてる専攻生に見られたら幻滅されちゃいますよ」

親衛隊A「…私には結局、才能はなかった。もっと才能のある子がそばにいて、痛感しましたもん」

親衛隊A「だから、あなたが酷いことしたって思っても、私にとっては正しい評価だったってことです」

絵里「私を、許すというの…?」

親衛隊A「許すっていうか…多分、まっとうな方法でも落ちてたと思うし!今となっては恨む要素ないですよ!それに…」

親衛隊A「落とされて泣いてる時、親身になって励ましてくれる友人にも出会えたし。…今日も、一緒に遊びに行くくらいの」

親衛隊A「というわけで、私は大丈夫です!全然気にしてないです!えっと…恨んでる人ももしかしたらいるかもなんで、が、頑張ってください!」

絵里「…えぇ、ありがとう。頑張ってみるわ」

親衛隊A「はい、じゃあ私はこれで。…あ、でも!」

親衛隊A「一日しか会ってない私の名前、覚えてるような人だし…あなたを尊敬してる人、やめちゃった人でも結構いると思いますよ!」

絵里「…うん。ありがとう。バイバイ、秋山さん」


希「まさか、励まされちゃうなんてね」

絵里「えぇ、びっくりね。それじゃあ次は、D組の佐伯さんかな…」

希「よく名前、覚えてるね」

絵里「勿論よ。それくらい、指導をするものとしては当然だもの」

街道


カラカラ…


花陽「…でね、今日からアイドル専攻も、練習に迷惑をかけないのなら一般の生徒も出入りが自由になったって」

花陽「それに、A-RISEへの会話も放課後の時間に本人の許可があるなら、好きにしていい…ってことになったみたい」

凛「ほぇ~…いきなり随分と緩くなったものだね~…」

花陽「うん…。UTXに仕切られていた、学生とアイドルとの壁が取り払われて…」

花陽「やっと、本当の意味でやっと…スクールアイドルとしての夢が始まったんだなぁって」

花陽「この幸せな現実を…誰かの夢にできるようになったんだなぁ、って…」

凛「UTX学院が、アイドルを志す子の夢の舞台になることができるように…だね!」

花陽「ふふ、そうだね。現実と夢との差に傷つく人も、もう誰もいないようになれば最高だよ」

凛「うーーん…でも甘すぎるのも良くないと思うな~…」

凛「必死で食らいついてこそ、見える世界もあるんだし!」

花陽「うん、それも…あるよね。C☆cuteも、A-RISEという強大な存在に追いつく…って目標があったからこそ、折れないで頑張ってこられたんだし」

花陽「だからこれからも、A-RISEはA-RISEとして、最強のアイドル…って存在は貫いていって貰いたいとも思ってるんだ」

花陽「伝説のA-RISEに並ぶようなスクールアイドルになる…そんな具体的な目標さえあれば、みんな夢に向かって本気になれると思う」

凛「ふんふん…かよちん、意外と考えてるんだね。これからのスクールアイドルのこと」

花陽「えっ…ふふふ。だってそれが、私の夢だから」

花陽「私にとっての理想が、アイドルを目指す誰かの夢になれるようなUTX学院になれるように…」

凛「そうだったんだ…。ただA-RISEに追いつくだけのスクールアイドルじゃ満足できないってことだね、かよちんは」

花陽「ちょっと欲張りかな?」

凛「うぅん!もっと欲張ってもいいくらい!だってかよちんはそのくらい…すごいアイドルなんだもん!!」

凛「凛もいる病室に、声を届けられるくらい…すごい、アイドルだよ…」

花陽「そっか…。じゃあもっと欲張っちゃおうかな?」

凛「それがいいにゃ!」

花陽「でも…欲張るって具体的には何をすればいいのかな…?」

凛「うーん…ま、おいおい考えればいいことだよ!」

花陽「そだね。じゃ、みんなも待ってるし…早くアイドル応援部に行かなきゃ」

凛「おー!こんなゆっくりだと迷惑かけちゃうぞー!」

花陽「あ、あわわ…そういえばそうだ…。話してる場合じゃなかったね…急ごう!」


タタタタッ…

アイドル応援部前


花陽「凛ちゃん、ここに来るのは初めてだったよね」

凛「うん。C☆cuteのみんながいるんだよね」

花陽「そうだよー。改めて、みんなも紹介しよっかな。じゃ、中に…」

ガチャッ


パンッ!! パパパンッ!!


「「「「新部長就任、おめでとう~!!」」」」



花陽「…はぇ?」

凛「びびび、びっくりした!?何?」


希「おぉ、凛ちゃんも一緒かー。驚かせちゃった?」

ことり「ふふ、サプライズパーティちゅん」

海未「花陽の新部長就任を祝うための、ね」

真姫「さぁさ、今日の主役はここに座って。新部長?」

花陽「え…えぇーっ!!?」


凛「かよちん…新部長なの?」

花陽「き、聞いてないんだけど…」

真姫「まぁ、言ってないからね」

花陽「もしかして、今日早く来て、って言ってたの…」

真姫「そういうこと。花陽が来年からの部長になるってこと、ここで発表しようってみんなで決めて」

花陽「で、でもどうして私が…」

ことり「希さんに、来年の部長をそろそろ決めないと、って尋ねられて」

海未「そうしたら、全員一致だったので。これはもう花陽に決定でしょうということで」

希「まぁ、どうしても嫌だって言うならまた考えるけどね」

花陽「えと…私が、ぶ、部長だなんて…ちょっと荷が重…」

凛「いいじゃんいいじゃん!もっと欲張っていこうってさっき言ったばかりでしょ!」

花陽「あ、あぅぅ…。そういえばそうだね…。うー…、っよし!決めた!」

花陽「やります!是非、やらせてください!アイドル応援部の次期部長!!」デデーン

真姫「よく言った!いえいっ!」

希「それでは襲名の儀式として…アイドル応援部に代々伝わる…!」

花陽「な、何かあるんですか…!?」

希「…特に何もないけど。その代わり…これ!」

花陽「こ、これは…!?」

ことり「部長の証としてのブローチ!手作りです!」

希「ま、二代目部長としてこれから受け継がれていってくれることを願ってるわ」

花陽「おぉ…ありがとうございます!来年も、再来年も…これからの応援部の部長の証として残していきます!」

海未「変顔の写真と一緒に」

希「それは…破棄してもらってもいいかなぁ…」

花陽「あ…!そうだ、どうせだからこの際に…ね?」

凛「ん?…あぁ!そうだね!」

真姫「うん?どうしたの?」

花陽「ふふ…実は私からも重大な発表がありまして!」

ことり「おぉ!なんだろ?」

花陽「今日からなんと…凛ちゃんもアイドル応援部の仲間入りです!」

凛「にゃーっ!!」

海未「そ、それはつまり…凛が入部するということですか!?」

凛「そういうことです!」

希「へぇ~…それはいいけど…どうして入部する気に?」

凛「もう凛はA-RISEにはなれないし、それにアイドル専攻にも長らく参加はできそうにないし」

凛「だったら応援する立場になって、またアイドルをやるときのために色々勉強しようってかよちんと話し合って決めたの!」

凛「自分の思ってる強さだけが強さじゃないって穂乃果先輩も言ってたし…今度こそもっともっと強くなって!」

凛「かよちんをギャフンって言わせてやるんだ!…あ、無理しない程度にね」

希「おやおや、前向き志向なのはいいことやね」

真姫「花陽に対する敵対意識はまだ少し残ってるのね…」

凛「もちろん、今度は仲良く…隣に立ってともに踊れるような…そんなライバルになれるようにね」

花陽「…うん」

ことり「親友に負けないって気持ち…非常にグッドだよ!歓迎するよ、凛ちゃん!」

海未「えぇ。ギャフンと言わせてあげましょう。応援しますよ、凛」

凛「おぉー!心強い味方にゃ!海未先輩、ことり先輩、これからもよろしく!」

真姫「わ、私も凛が入ってきてくれるのは嬉しいわ…。…と、友達だもんね」

凛「むふっ…!真姫ちゃんはやっぱり可愛いにゃー!目を逸らさずに言えるようになれば及第点だね!」

真姫「むぅっ…、ばか…」

希「うちは…もう一緒に過ごすことのできる時間は少ないけど、その分濃密な時間が過ごせるよう、みっちり応援部のワザ、叩き込んだげるね!」

凛「はいっ!希先輩のこと密かに尊敬してます!ご指導ご鞭撻のほどお願いします!」

希「あはは…、そこまでかしこまらんでもいいけどね」

花陽「それじゃ改めて…これからもよろしくね、新入部員の凛ちゃん」

凛「うんっ!…あ、あと!…あの時の悔しさも、晴らしたいの!」

真姫「あの時の悔しさ…?」

凛「…うん。昨日のライブ。あのライブ…凛もしたかったから」

花陽「あ…」

凛「もう一度…凛もあのみんなと、一緒に踊ってみたい。絶対に…絶対!」

ことり「もう一度…か。できるかなぁ…?」

海未「どうでしょう。もう二度とないものと考えていましたが」

希「うちもえりちも、関わることのできる時間、少ないやろうし…」

凛「う、無理かな…」

花陽「…うぅん。できるよ。いつの日か、もう一度同じ夢を…今度は、もっと多くの人の前で」

花陽「彼女にも、恥じることのない…最高のライブを披露しよう」



花陽「異世界の、真姫ちゃん。彼女との、最後の一週間。最後の…ライブ」

一週間前

絵里の家から帰るときでの出来事…


西木野☆星空クリニック内


真姫☆「…ふぅ、一瞬って言ったはいいものの…やっぱり少しは時間かかるわよね…」

凛☆「酔わない程度にワープの速度も調整してるからね」

真姫☆「あまり動き回るとひどく酔っちゃうし微妙に時間を持て余すわね…」


海未「…そういえば帰ったらもう真夜中なのでしょうか…」

花陽「確かロシアとの時差は6時間って真姫ちゃん言ってたし…結構な夜ではあるかも」

亜里沙「あう…!お父さんに怒られちゃう…」

雪穂「うちも両親に怒られるかも…」

穂乃果「雪穂は私と一緒にいたって言っておけば…」

凛「…というか凛は外出時間派手にオーバーしてるんじゃ…」

花陽「あ、忘れてた…」

真姫「あらら…」


真姫☆「なんだか話も怒られる云々になってきちゃったわ。なんとか話を入れ替えたい…」

凛☆「お、そんな時に最適のものがここに!ばばーん!!」サッ

真姫☆「…なにそれ」

凛☆「さっき帰ろうとしてた時に見つけたDVDにゃ!ふふ、懐かしの一枚だね」

真姫☆「映画か何か…?今から見てもほんの十分程度しか…」

凛☆「まぁまぁ見てのお楽しみ!それじゃ、みんなこのスクリーンに注目~!」


ギュイーン…



ことり「なになに?何か始まるの?」

希「修学旅行の帰りのバスを思い出すなぁ~」

にこ「あぁ…いいところで切られちゃうやつね」


凛☆「みんな見たねー?それじゃ…挿入!」ズニュッ

凛☆「再生ボタン…ぽちっ!」


~♪

『これからやる曲は、私たちが9人になって初めて出来た曲です!私たちの、スタートの曲です!』


真姫☆「っ…!こ、これって…」



穂乃果「私が、喋ってる…?」

~♪


にこ「わ、わぁっ…!?穂乃果と私と凛が…!」

海未「A-RISEとC☆cuteが、共に歌っている…!?」

真姫「ななな、なによこれ!?」


真姫☆「凛、これ…」

凛☆「うん、オープンキャンパスの時の映像。DVDに焼いて置いてたやつが偶然ね」

真姫☆「なんで今流したのよ…?」

凛☆「だって面白くない?この世界の人にとってμ'sって…」


希「す、すごっ…えりちが、踊ってる…!」

亜里沙「5分しか踊れないお姉ちゃんがおどっ…は、ハラショォォッ!!」

雪穂「亜里沙、興奮しすぎだって…でも、ホントにすごいや…」

穂乃果「…うん。まるで…夢、見てるみたい…」


凛☆「…だよね?」

真姫☆「まぁ、確かに…夢みたいなものね。この世界じゃ絶対に有り得ようもない光景だもの」

真姫☆(花陽の目指す笑顔のスクールアイドル…、あの日、あの時…涙する花陽に私が指し示してあげたかったもの)

真姫☆(…はぁ。こんな映像があれば、花陽のやる気を底上げする材料としては最適だったのに。大事な時に持ってないものね)

真姫☆(けれど…今はもう、必要ないかな。花陽にはちゃんと、これに近い光景も、見させてあげられたんだし…)

真姫☆「…私の世界じゃ、簡単なことなのに、ね」

真姫☆「たどり着くまでに、随分かかっちゃったわ」

凛☆「お疲れ様だにゃー」




花陽「…」

凛「…かよちん?見とれてる?」

花陽「え、あ、あぁ…うん。すごいなぁ…って」

花陽「…」

凛「確かにねー。合成映像かと思っちゃうくらい。こんなの現実じゃありえないにゃー!あははははは!」

花陽「ありえない…」

花陽「…よしっ」

凛「にゃ?」

バシュゥッ


真姫☆「っと、ワープ完了ね。そろそろ降りる準備をしておいて」



音ノ木坂学院跡地


ヒュゥゥゥゥ… シュタッ


凛☆「到着にゃー!東京~、東京~、お降りの際は忘れ物の無いようにご注意ください~」



ガチャッ


ことり「うわ、真っ暗…」

亜里沙「お父さん、心配してるかも…。亜里沙、先に帰ります!今日は色々と、ありがとうございましたー!」タッタッタッ…

にこ「あぁ、行っちゃった…」

雪穂「私たちも、帰ろっか」

穂乃果「うん。じゃあ…ことりちゃん、海未ちゃん、また新学期に会おうね」

海未「はい。機会があれば、冬休み中にでもまた」

ことり「ばいばーい!」

にこ「私も帰るわ。貴重な体験どうもありがとう。じゃあね」

凛「かよちーん、一緒に病院まで行こう~?」

花陽「あ…うん。そうだね」

花陽「でも、その前に…」



真姫☆「さて、じゃあ私たちは…」

希「もう、帰るん?」

真姫☆「…」

花陽「ま、真姫ちゃんっ!やっぱり、今日でお別れ…?」

凛☆「真姫ちゃん…?」

真姫☆「…ふぅ」

真姫☆「いつまでも、ってわけにはいかないの、わかってるわよね?」

花陽「それは…わかってるつもり、だよ」

花陽「でも、もう少し…もうほんの少しだけ、一緒に…いたいよ。真姫ちゃん」

真姫☆「…花陽」

希「うちの家なら、いつでも空いてるよ」

真姫☆「…ふっ」

真姫☆「あーあ、仕方ないわねー!…凛も、いいかしら?」

凛☆「え?今日も希ちゃんちに泊まるんでしょ?元よりそのつもりにゃ」

真姫☆「もう、凛ったら。…ってわけだから、今日もお邪魔させてもらうわ」

花陽「それで…いつまで?」

真姫☆「そうね…。最悪でも、今月中には帰りたいところね。余りにも長く居すぎると元の世界に帰ったとき浦島真姫ちゃんになっちゃうし」

花陽「じ、じゃあ…始業式…学校が始まる前日まで…じゃ、ダメかな?あと、一週間…」

真姫☆「あと一週間…。わかった。じゃあその日に、本当にお別れね。それまではまた、希の家に居候させてもらうから」

希「おっけー。まぁ真姫ちゃんにしても、引き上げる準備も色々必要やと思うし、ちょうどいいくらいやない?ね、花陽ちゃん」

花陽「…はい」

病院への道


カラカラ…


花陽「本当に、遅くなっちゃったね。なんて言い訳しようか…」

凛「ねぇ、かよちん」

花陽「うん?なにかな」

凛「…あっちの真姫ちゃんのこと、そんなに気になるの?」

花陽「え?」

凛「すごい気にしてたから。…大切?」

花陽「…それは、もちろんだよ。とても、大切な友達だもん…。いなくなっちゃうのは、寂しいから。少しでも、長くいたいよ…」

凛「…ふぅん。そんなものなんだ…。凛とどっちが大切?」

花陽「え?凛ちゃんと…、…そんなの、比べられないよ。友達に優劣はつけられない」

花陽「凛ちゃんがどこか遠くへ行っちゃう、ってなったら、同じくらい気にすると思うよ。だから…」

凛「…ま、そうだよね。一緒にアイドルやってきた仲間だもんね。凛も穂乃果先輩やにこ先輩がどっかいっちゃったら気になるにゃ」

花陽「うん。それに…真姫ちゃんは私にスクールアイドルをやるきっかけを与えてくれた人だから」

花陽「見ることを諦めていた景色を、見せてくれた人、だから…」

花陽「…何か、お返しがしたいんだ。最後に」

凛「お返し?」

花陽「もう、やることは考えているんだけどね。…出来るかどうかは、わからないけど」



希の家


ガチャッ

真姫☆「ただいま、我が家」

希「お帰りなさい。住人さん」

凛☆「すっかり住み慣れちゃったね、ここにも」

真姫☆「ホントね…。それもあと一週間だけど」

希「寂しいこと言わんと、最終目的も一応は済んだことやし…さ、駆け付け一杯!」ガチャッ…

凛☆「お、お酒かにゃ!?」

希「コーラやよ!はい、真姫ちゃん。凛ちゃんも」

真姫☆「飲み会じゃないんだから…。まぁ、頂くけどね」

プシュッ…!! 

凛☆「んぐっ…んぐっ…、ぷはーっ!久々の炭酸飲料は骨身にしみるにゃー!」

真姫☆「けぷっ…あんまり一気には飲めないわね…」

希「炭酸ダメな子やっけ?」

真姫☆「そんなに強くはないわね…。飲めないことはないけど」

希「そっか…。うち、まだまだ真姫ちゃんのこと知らんなー。うふふ」

真姫☆「そうね…。私だって希のこと、まだ全然知らないわよ」

希「…せやね。まだ、知らないことたくさんあるのに。お別れ、って言うんも、少し…寂しいものがあるね」

真姫☆「…そっちが寂しいこと言っててどうするのよ。いつかは、って前々から言ってるでしょ!はい、罰として一気!」グイッ

希「あぶぶっ…!ご、ごめんって…そんな急に飲めな…ぶふっ!」

凛☆「あはは!希ちゃん吹き出してるにゃー!おもしろい!」

希「ぐぶふぅっ…。びしょ濡れやん…。あははは…」

真姫☆「ふふふふ…」



花陽の家



花陽「…」

花陽「…よし、やろう」


ピッピッピッ…

プルルルル… プルルルル… ガチャッ



花陽「あの、もしもし…。夜遅くにごめんね。頼みがあって、明日…」

翌日 朝


希の家


真姫☆「むにゃむにゃ…もう、これ以上は飲めないわよぉ…げぷっ…」

凛☆「そんなこと言わずに、ほらほら~…一気、一気…ぐごおぉぉぉぉぉぉ…」

真姫☆「む、ムリぃぃぃ…ん、むむ…っは!?」

真姫☆「はぁ…はぁ…。コーラで溺れ死ぬところだったわ…。夢か…」

真姫☆「…あれ、希は…もう起きてるのかしら」



ガラッ

真姫☆「希?」


希「…」


真姫☆「あ、いた…。起きてたのね」

希「あ、あぁ…真姫ちゃん。もっとゆっくり寝ててもいいんよ?」

真姫☆「ちょっとした悪夢のせいで目が覚めちゃってね。…希は、何してたの?」

希「ちょっとメールの確認。…そういえば、色々とやらないけないことも、うちにはまだ残ってたわ」

真姫☆「やらないといけないこと…?また悩みかしら」

希「うぅん。もう答えは出てるから、真姫ちゃんの手を煩わせることはないよ」

真姫☆「ふぅん…。それならいいけどね」

真姫☆「はぁ~…それにしても、冬休みなのに早起きしちゃったわね。練習もしないし、今日は何して時間潰そうかし…」


ピンポーン…


希「うん…?呼び鈴?誰か来たんかな」

真姫☆「こんな朝早くから?いったい…」


ガチャッ


真姫☆「うげっ…!?」


親衛隊A「やっほ!おはよう、西木野さん!」

親衛隊E「き、急に来ちゃって、すみません…」

親衛隊D「ほわ~…西木野さんって本当に東條先輩と一緒に住んでるんだ…すごっ」


真姫☆「ち、ちょっと!?なんで親衛隊のみんながここに…」


親衛隊F「冬休みって微妙に時間持て余すじゃない?だから、せっかくだし真姫ちゃんと遊びに行きたいってみんながね~…」

親衛隊C「ちょうど実家から帰ってきて暇してたので、よければ遊んで差し上げますわ!」

真姫☆「誰も遊んで欲しいなんて…」

親衛隊B「いいからいいから!今日だけ!ね?行こう!!」

真姫☆「え?いやあの…きゃあああああぁぁぁぁぁぁ…」



凛☆「ふわぁぁ…。なんか、起きたら真姫ちゃんがさらわれてたんだけど…。何があったの?」

希「…さてと。じゃ、凛ちゃん。ちょっと協力してもらいたい事があるんやけど」

凛☆「…え?」

秋葉原


親衛隊B「ねーねー、どこ行く?」

真姫☆「あのねぇ…、だからこんな朝早くにはどこも…」

親衛隊E「あ、あの…!この近くに朝からやってるおいしいカフェが、あって…!!」

親衛隊E「そ、そこ行きたい…!!ダメ、かなぁ…?」

親衛隊A「お?アンタが提案するなんて珍しいじゃん!じゃ、そこ行こう」

真姫☆「あぁもう…どうにでもして…」



カフェ


親衛隊C「お、お、おいしいですわっ!ここのケーキ…!」

真姫☆「あ、ホントに…ほろ苦いチョコレートが実にちょうどいい塩梅で…」

親衛隊E「はふ~…心温まるね…」

親衛隊F「そういえばここ、前にも花陽ちゃんと来たことあったっけ」

真姫☆「へぇ…そうなんだ」

親衛隊B「練習がない日とかは、割と小泉さんとお出かけしたりしてるんだけど…」

親衛隊A「そういえば西木野さんやほかのC☆cuteのメンバーは誘ったこと、なかったよね」

真姫☆「はぁ…。結構花陽も知らないところで付き合い上手ね。日々の練習もしつつ休日はお出かけなんて」

親衛隊D「えっ?休日は出かけるものでしょ?」

真姫☆「…私はもっぱらクリニックで…あっ」

親衛隊B「クリ…何?」

真姫☆(異世界人であることは伝えてても西木野☆星空クリニックのことは一切言ってなかったわ、そういえば)

真姫☆(…さすがにあんな変態じみた素性はこういうところで話したくないし…)

真姫☆「…別荘みたいなところで、友人と駄弁ってるのが私の休日の過ごし方よ」

親衛隊A「へぇ…。ショッピングとか、したりしないの?」

真姫☆「欲しいものは大体持ってるし…行くとしても月一じゃないかしら」

親衛隊F「わぁ。お金持ちっぽい発言。なんだか憎たらしー」

親衛隊C「休日はもっとアクティブに過ごすべきですわ!だらけていては脳みそが蕩けてしまいますわよ!」

真姫☆「…あぁ、私と一緒に駄弁ってる子は確かに蕩けてそうな脳みそしてるわね」


(凛「あぁ~…、毛布が凛を包んで離してくれないにゃぁぁ~…。もう凛おふとんと結婚する…。真姫ちゃんとは重婚だけどごめんね…」)


真姫☆「アイツも休日はめっきりインドアだし。私よりだらけてるわ」

親衛隊B「西木野さんもそうならないように…さ?」

親衛隊E「そ、そだ!今まで…小泉さんと一緒に、い、行ったところ…西木野さん、と…一緒に行くってどう、かな…?」

親衛隊F「お!小泉花陽親衛隊の聖地巡り、みたいな感じー?いいねいいね!」

親衛隊A「脳みそ蕩けるよりいいんじゃないの?」

真姫☆「…ふぅ。わかったわよ。休日の花陽がどういうところ行ってるのか、私も少しは気になるし…付き合ってあげるわ」

親衛隊C「よぉしっ!決まったら早速次の目的地に行きますわよっ!」

親衛隊A「あんたが仕切んなって…」

真姫☆「ふふ…たまにはこんな賑やかなのも悪くないわね」

とある喫茶店


ガチャッ… カランカランッ



ツバサ「…おまたせ」


希「うん。急に呼び出してごめんね。この際だし…って思って」


あんじゅ「いいの。希ちゃんのお願いならこっちは全然オッケーよぉ」

英玲奈「それで…話とはなにかな、東條」

希「うん。…この間の、マネージメントチームへの勧誘の件について。答えが出たから」

英玲奈「おぉ!それで…?」

希「…ごめんやけど、見送らせてもらう」

英玲奈「うっ…そ、そう…か…」

あんじゅ「あはは~、れなっち落ち込んでるぅ~」

英玲奈「れなっちって言うなって!」

ツバサ「…理由を聞かせてもらってもいい?」

希「うちは…、誰か困ってる人の役に立ちたいって言うんが、自分のやりたいことの根本にあることでね」

希「アイドル応援部で身についた、他人への体調管理能力もその内のひとつだった」

希「それが評価されてこうして誘ってくれてるんは、とっても誇らしいことやと思う」

希「…だけど、もっと困ってる子が近くにいたから。そして、うちはそれを助けてあげたいって思ったから」

希「うちは、うちのやりたいことを貫く。その困ってる子のそばにいてあげるんが…今のうちのやりたいこと、かなって」

ツバサ「なるほどね…」

あんじゅ「まぁ私たちは、困ってる、ってワケでもないしね~。希ちゃんがそうしたいなら、こちらがどうこうする権利はないわ」

英玲奈「…私は、いつでも東條を待っているから」

希「…うん。覚えとくね、れなっち」

ツバサ「ふふ、英玲奈ってば一途ね」

英玲奈「悪いか。…あと、れなっちって言うな」

希「それじゃ、うちはこれで…」スクッ

あんじゅ「あれぇ?もう行っちゃうの?」

希「うん。今日はちょっと予定が詰まってるから。ちょっとしたサプライズの…」

ツバサ「サプライズ!?」

希「えっ…」

英玲奈「あぁ…ツバサが食いついたか」

あんじゅ「ツバサちゃんサプライズ大好きだもんね~」

ツバサ「そ、それ…!私たちも参加しちゃいけないかしら!!ね?ね!?」

希「うーん、いいとは思うけど…うちらのサプライズにA-RISEまで巻き込んでいいものかな…?」

あんじゅ「私はツバサちゃんがやりたいって言うなら、その後ろをついていくだけよ?」

英玲奈「たまには私たちも企画する側に回りたいしな。生憎予定も空いていて何するか考えていたところだよ」

ツバサ「…って言っているけど、いかがかしら?」

希「ふふ、しゃあないなぁ。ならお言葉に甘えて、手伝ってもらおかな?」

カラオケ


真姫☆「らららら~…♪」


親衛隊C「やっぱりとても歌が上手ですのね…!」

真姫☆「まぁね。最初に歌が下手って言われたこと、忘れてないわよ?」

親衛隊A「あ、あれはわざと下手に歌ってたんだろぉ…?」

真姫☆「ふふ、そうだけどね」

親衛隊B「さて、じゃあ次は…」


ジャカジャカジャカジャカ… ギュイィィィィィンッ


真姫☆「うわ、バリバリのヘビーなメタルっぽい曲…誰よこれ入れたの」

親衛隊E「あの…わ、私、です…」

真姫☆「っ!?」

親衛隊F「あはははは、この子のカラオケでの変わり具合パないよ?まぁ見てなって」

親衛隊D「はいマイク」

親衛隊E「ありがと…!じ、じゃあ歌うね…」ドキドキ …



親衛隊E「しゃああああああああぁぁっ!!!行くぞオラアアァァァァッ!!」

親衛隊E「オイッ!オイッ!オイッ!!フゥーッ!!」

親衛隊E「(超デスボイス)」



真姫☆「」

親衛隊D「あの子超が付くレベルのバンギャでしかもああいうのが大好きなんだって」

親衛隊C「デスメタル寄りの少々卑猥な曲も難なく…」

親衛隊B「少々どころじゃないけどね…。何回犯すって口にしてんのよ…聞いてるこっちが赤面しちゃうわ」

真姫☆「あの子だけキャラ濃すぎない?」

親衛隊A「おとなしめの子がこういうの好きなのって結構あるあるでしょ」

真姫☆「…確かに花陽にも百合趣味があるし珍しいことじゃないのかもしれないわね…」



親衛隊E「あ、ありがとうございました…」ペコリッ

真姫☆「…上手だったけど普段からその半分くらいの声が出てるとちょうどいいと思う」

ゲーセン


親衛隊A「よっしゃぁ!格ゲーは超得意なんだ!任せといて!」

真姫☆「負けないわよー!うりゃりゃりゃ…」ガチャガチャ…

親衛隊B「うわ、すごいレバガチャしてる…」

親衛隊D「そんなんじゃ勝てないと思うよ~?」

バゴォォンンッ!!

真姫☆「よし、勝ったわ!」

親衛隊A「嘘だああぁぁぁぁ!」

親衛隊C「すごい格闘センスですわ…」



親衛隊F「はいはい、次こっち!UFOキャッチャーしよ!」

真姫☆「ちょっと急ぎすぎじゃ…」

親衛隊A「この後もまだまだ予定入ってるからね!」

親衛隊E「あ、もう少しで…取れそう…!」

真姫☆「あらホント。よぉし、ここはUFOキャッチャーの天才真姫ちゃんに任せなさい!」カチャリンッ

真姫☆「コツはこうやってじっくり…」カチッ カチッ

真姫☆「よし、いい位置!来い…!!」

モギュッ

親衛隊B「掴んだ!」

ポトッ…

親衛隊C「落ちましたわ…」

真姫☆「ちょっと店員さんっ!?このアーム設定おかしいんじゃないの!?詐欺よこんなの!」

親衛隊F「ま、真姫ちゃん…そこまで本気にならなくても…」

親衛隊D「よ、よーし、次はプリクラ撮ろうプリクラ!」



親衛隊A「それじゃ、フレームはこれにして…」

親衛隊E「う、上手く笑えるかな…」

真姫☆「はぁ…はぁ…。ハイペースすぎよ…ちょっと休ませ…」


『カメラに向かって笑顔で~…、はい、チーズっ!』


真姫☆「え、あ、ちょっ…」

パシャッ


親衛隊B「お、いい感じに撮れてんじゃん」

真姫☆「すごい不細工な顔してるわね、私…」

親衛隊F「こういうのも新鮮でいいじゃない」

親衛隊E「じ、じゃあ次はダンスゲームに…」

真姫☆「ま、まだ続くのーっ…!?」

親衛隊C「当然ですわっ!!」

メイドカフェ


謎のメイド「みなさーん!今日も私、謎のメイドの…」


親衛隊E「わ、ホントにいる…。中学生メイドさん…」

親衛隊D「あの噂は本当だったのね…。サングラスをかけたミニライブをする小さなメイドって…」

真姫☆「あれって亜里沙ちゃんじゃ…」

親衛隊A「知ってんの?」

真姫☆「…まぁ、知ってるといえば知ってるような…あんなことしてるなんて聞いてないんだけど。海未の後継人かしら…」


謎のメイド「…しかし、残念なことに亜里沙の学校は明日から新学期なんです…。なのでライブは今日で最後になります」


親衛隊C「そ、そうなんですのね…。偶然最後のライブを見ることができてよかったですわ」

真姫☆「それはいいけどあの子自分で自分の名前言っちゃってるじゃない…。謎のメイドの癖に詰めが甘いわよ…」


謎のメイド「なので、今日見に来てくれたお客さんには、これまでで最高のライブをお届けしたいと思います!」

謎のメイド「では…行きますよー…!ミュージック~…スタート!!」


~♪


親衛隊F「あ、この曲…A-RISEの歌だね」

真姫☆「ふぅん…さすがにオリジナルの曲ではないのね」


謎のメイド「こころっのせつなっさーわかるっひとだけどー…」


親衛隊B「結構歌上手じゃん。可愛らしいし、最後なんてもったいないよね」

親衛隊A「そだね。花陽がアイドル専攻行かないくらいもったいない」

親衛隊C「ま、まだそんなこと言ってますの…?」

親衛隊A「あはは、冗談冗談」

真姫☆「…問題ないわよ」

親衛隊A「え?」

真姫☆「あの子はきっと…ここで終わるような子じゃないから」

真姫☆(花陽が叶えた理想を、夢見てくれる子になるはず)

真姫☆(きっと亜里沙ちゃんも、笑顔のスクールアイドルに…)



謎のメイド「…はい!それでは、私のライブはここまでとさせていただきます!」

謎のメイド「冬休みの間楽しみにしてくださった方々、偶然見に来てくれた方々にも、感謝を込めて!」

謎のメイド「今まで、ありがとうございました!亜里沙は普通の女の子に戻ります!」


パチパチパチパチパチパチ!!


謎のメイド「で、ではあとはごゆっくりカフェをお楽しみください~」スタスタスタ…



親衛隊E「か、かわいかったねぇ~…」

親衛隊D「意図せずライブも楽しめたし、そろそろ次の目的地に行こっか」

親衛隊F「賛成!次はどこがいいかな~…」

真姫☆「そろそろ体が疲れてきたわ…。というか亜里沙ちゃんは最後の台詞をどこで覚えたのやら…」

夕方


親衛隊A「今日は付き合ってくれてありがとね~。楽しかったよ!」

真姫☆「ははは…想像以上にハードな一日だったわ…」

親衛隊B「じゃあまたねー!小泉さんにもよろしく言っておいて!」

親衛隊C「次に会うのは新学期ですわね。それでは」

スタスタ…


真姫☆「あっ…」

真姫☆(…そっか。まだあの子たちには私が元の世界に帰る云々の話はしてなかったっけ)

真姫☆「さよならの言葉も、言えなかったわね」

真姫☆「…そういえば結局、だれの名前も覚えてない気がするわ。不思議ね」



希の家


ガチャッ

真姫☆「ただいまー。ふぅ、疲れちゃった。ねぇ凛…」

真姫☆「…凛?」


シャー…


真姫☆「シャワーの音…。ま、まさか凛っ…!!お風呂場でリストカッ…」


凛☆『うん?真姫ちゃん帰ってきたの?』


真姫☆「…まぁ、そんなわけ無いわよね。うん、帰ってきたの。そっちこそこんな中途半端な時間にシャワー浴びてどうしたのよ」


凛☆『え?あー…ちょっと汗かいたからさ。久しぶりに運動して』


真姫☆「運動…?どこか走ってきたの?」


凛☆『まぁそんな感じー。希ちゃんはもう少ししたら帰ってくるから、それまで夕御飯は待っててってー』


真姫☆「ふぅん…。お腹すいてるのだけどしかたないわね。テレビでも見て待ってましょう」



数十分後…



ガチャッ

希「ただいまー。遅くなってごめんねー…」


真姫☆「あ、希。お帰りなさい。もうお腹ペコペコなんだけど」

凛☆「疲れてるところ申し訳ないにゃー」

希「待っててー。今すぐ作るから」

真姫☆「…というか、もうそんなに疲れる練習してるの?すでにダンスは出来上がってるってことかしら」

希「うん?…あー、まぁ、そんなところかな」

真姫☆「…?なんだかはっきりしない答えね。まぁ、いいけど…」

凛☆「そんなことよりお腹すいたにゃー!はよはよ!」

希「うんうん、待っててなー」

翌日 朝


真姫☆「ふわぁぁぁ~…、おはよう…」

凛☆「お、今日は凛より遅起きにゃ」

真姫☆「そりゃあ昨日あれだけ遊べば疲れも溜まるわよ」

希「ん、おはよう。朝ごはん、できてるよ」

真姫☆「いただくわ。…もぐもぐ」


ピンポーン


凛☆「にゃ?呼び鈴がべーだにゃ。誰だろ…」

真姫☆「…なんだか嫌な予感がするんだけど」


ガチャッ


花陽「おはよ、真姫ちゃん」


真姫☆「あれ…。花陽?どうしたのよ」

花陽「うん、実はね…これから…」

花陽「一緒に遊びにいかない?」

真姫☆「えぇっ!?き、今日も…?」

花陽「うん。ダメかなぁ…?」

真姫☆「だ、ダメってわけじゃないけど…でもあなたはアイドルの練習があるんじゃ…」

花陽「それなんだけど…」

希「真姫ちゃんがいられるのも、今日をいれてあと6日やん?日曜日に帰るとすれば、一日自由に空いてるのは五日間」

希「もういられる時間も多くはない…みんなもできるだけ長く真姫ちゃんと一緒にいたい。だから、今日から一日ずつ、C☆cuteのみんなで真姫ちゃんと一緒にいられる時間を作ろうって」

真姫☆「えっ…」

花陽「今日は私が真姫ちゃんと一緒に遊んで、明日がことりちゃん、明後日が海未さん、って感じで…」

真姫☆「つまり私は帰るまでの5日間、毎日遊び続き、ってこと…!?」

希「せやね」

凛☆「わー、ハードだにゃー」

真姫☆「そんなぁ…」

花陽「ホントは、みんな毎日真姫ちゃんと一緒に居たいけど、ライブの練習もあることを考えて、出した結論がこうなの」

花陽「そんなに疲れるところにはいかないつもりだから…ね?」

真姫☆「…はぁ。わかったわよ。私も、あなたたち一人一人に、言い足りないこともあるしね。ちょうどいいわ」

花陽「よし、それじゃ今から行こう!」

真姫☆「はいはい…。ふぅ、大変な一週間になりそうね」


スタスタ…



凛☆「…そんじゃ、凛たちも…」

希「真姫ちゃんが出かけたことやし、そろそろ行こっか」

スタスタ…


真姫☆「それで…どこに行くつもり?」

花陽「うん。もう場所は決めてあるの。こっちだよ」



CDショップ


真姫☆「ここは…」

花陽「真姫ちゃんと一番最初に秋葉原に来た時に寄ったCDショップ。覚えてる?」

真姫☆「…えぇ。スクールアイドルの夢を決心しきれずにいたあなたをどう説得しようかって、必死に悩んだ末の秋葉原巡りだったからね」

花陽「おかげで私、ここまで来られた。本当に感謝してるんだ。ありがとう…真姫ちゃん」

真姫☆「あなたの力があってこそよ。私は、ほんの少し背中を押してあげただけ…だから」

花陽「ふふっ…あ、それでね。今日ここに来たのは…少ししたいことがあって」

真姫☆「したいこと?」

花陽「えっと、どれだったかなぁ…。あ、あった。これだよ、これ」スッ

真姫☆「これ…?これ、昔のアイドルのCDよね?どうして今更…」

花陽「このCD、前にここに来たときに聴いたの、覚えてる?」

真姫☆「…え。そうだったかしら」

花陽「そうだよ。でね、これを二人で聴きながら、こんなことを話してたの」



(真姫「こうやって聴いてると、どことなく思い出される過去の思い出…」)

(真姫「音楽ってこうやって時代を感じさせてくれる、一種のアルバムのようなもの、よね」)

(花陽「そうだねぇ…。人生を歩んでいれば誰だってその中に自ずと音楽が入ってくる」)

(花陽「CMソングだったり、街のスピーカーから流れる音だったり…」)

(花陽「その曲は自分の中の思い出と結ばれて、心の中に保存されて…」)

(花陽「ずっとずっと未来、ふと何かの拍子にその曲を聴くとその時の情景がぱっと頭の中に蘇る」)

(花陽「それまではほとんど覚えてなかったことなのに、ちょっと前の出来事かのように一瞬で、鮮明に」)

(花陽「ふふ、そう考えると不思議だよね、音楽って」)

(真姫「えぇ。そして…素晴らしいものだと思うわ」)

(花陽「…うん。きっとこうして、真姫ちゃんと一緒にこの曲を聴いたこの思い出も」)

(花陽「心の中のアルバムに保存されて、ずっと遠くの未来にまた、開かれるのかな」)

(真姫「…かも、しれないわね」)



真姫☆「…あぁ、そういえばそんなことを言った覚えもあるわね」

花陽「この半年弱の間に、色んなことがあって」

花陽「もうこの思い出も、ずっとずっと昔のことのように感じられる」

花陽「だから、もう一度ここで、同じ曲を聴いて」

花陽「この音楽と一緒に、心のアルバムに真姫ちゃんとの思い出を保存しておきたいなって」

花陽「今より、ずっと遠い未来…ふとした拍子にこの曲を聴いて、真姫ちゃんのことを思い出せるように」

花陽「ずっと、真姫ちゃんのことを忘れずにいられるようにって」

真姫☆「…花陽。…ふふ」

真姫☆「そうね。私も…この世界での出来事、きっと忘れない。忘れないように、心のアルバムに記録しておかなくちゃね」

花陽「…うんっ」

夕方


花陽「ふふ、今日は楽しかった!帰るのが惜しいくらい」

真姫☆「私も。二人きりって久々だったからね」

花陽「次は…日曜日だね」

真姫☆「…えぇ。最後の日。そこで本当に、花陽とはさよならね」

花陽「寂しいな…。でも、私…真姫ちゃんがいなくなっても頑張るから!」

花陽「絶対に、真姫ちゃんが見せてくれた景色を…同じ景色を多くの人に見せられるように!」

真姫☆「うん、期待してる。あなたならできるわ。この私が認めたんだもの。誇りを持ちなさい」

花陽「ふふ…じゃあ、さよなら。明日はことりちゃんが迎えに来ると思うから、明日も楽しんでね。それじゃ、バイバイ」

真姫☆「えぇ、バイバイ。…と、明日も外出ね…。家が恋しいわ」




希の家


ガチャッ

真姫☆「ただいまー」


凛☆「っ!」ビクゥッ!!

希「おぅっ…」ビクッ


真姫☆「…うん?何してたの?」

凛☆「べべ、別に何もしてないよ!?」

希「お、おうおうおうおう!何もしてへんよ!?」

真姫☆「あからさまに怪しいんだけど…くんくん」

真姫☆「なんだかあなたたち…汗の臭いがするわね」

凛☆「ぎくっ」

真姫☆「練習で忙しい希はいいとして…凛、どうしてあなたまで汗をかいてるの?今日も走ってきたとか?」

凛☆「う、うぅ…それは…」

真姫☆「何か隠し事してるわね…!」

希「…実はね、凛ちゃんは…」

凛☆「の、希ちゃっ…!!」

希「長らくライブをしてこなかったブランクを、この間に取り戻そうとしてるんよ!」

真姫☆「え…」

凛☆「あぁ、言っちゃったにゃ。恥ずかしいから黙ってて欲しかったのに…」

希「だからうちらと一緒に今日も練習してたんよね。真姫ちゃんにナメられたくないからー!って張り切って」

真姫☆「…あぁ、なんだ。そういうことね。別に隠すほどのことでもないでしょうに」

凛☆「凛は見えないところで努力するタイプなんだもん!しかし周りには天才で通したいおマセさんなのにゃ」

真姫☆「自分でおマセとか笑わせてくれるわね。…はぁ、あなたたちに付き合ってたら疲れがぶり返してきたわ。シャワー浴びてくる」

凛☆「ごゆっくりどうぞにゃー…」

凛☆「…ふぅ」

希「…焦ったね」

凛☆「ナイスアシストにゃ」

翌日 朝


ことり「おはよー」


真姫☆「…」

ことり「あれれ、聞こえなかったのかな?おはよー」

真姫☆「聞こえてるわよ」

ことり「あ、おはよう。真姫ちゃん」

真姫☆「…重い」

ことり「何がぁ?」

真姫☆「あなたよあなた!!朝起きたらなんで布団の上にあなたが馬乗りになってんのよ!?」

ことり「えへへー。凝った趣向でしょ?」

真姫☆「なんにも凝ったところなんてないわよっ!ただただ乗っかってるだけじゃない!!早くどけ!」

ことり「もう、朝からハイテンションだなぁ。高血圧になるよ?」

真姫☆「怒らしてるのは誰よ…。で、なんでことりが私の寝室にいるわけ…?」

ことり「ふふ、今日は私が真姫ちゃんを一日自由にしていい権利を得ているからね」

真姫☆「なんだかその言葉だけ聞くと非常に嫌な気分になるわね」

ことり「だから通い妻?みたいな感じで、今日は朝ごはんを真姫ちゃんに作ってあげようかなと」

真姫☆「朝ごはんを…?…って、通い妻ってあなた…」

ことり「ささ、用意はできてますよー。こっちこっち」



真姫☆「わ、わぁぁ…!!」


凛☆「あ、真姫ちゃんおはようにゃ。見てみてこれー!すごいよねー!?」

希「ことりちゃん、料理もできたんやねー。この張り切りっぷりは驚きやけど」

ことり「さぁさぁ、たーんと召し上がれ?」

真姫☆「しかし…オムライスにポーチドエッグにチーズケーキにミルクセーキに…朝からかなり重い…」

真姫☆「ってよく考えたら全てのメニューに卵が使われている!?」

ことり「ことりが産んだ卵なのです。泣く泣く食材にしたんだよ…およよ…」

希「うちの冷蔵庫にあった卵やけどね」

真姫☆「知ってる。まぁ、ことりが丹精込めて作ってくれたメニューなら残さず食べさせてもらうわよ。…いただきます」

真姫☆「コレステロールがマッハで上がるけど…もぐもぐ…うん、すごく美味しい」

ことり「わぁ嬉しい!リアクションもっと大きくてもいいんですよ?」

真姫☆「朝から体力使わせないで」



ことり「じゃ、いってきまーす!」

真姫☆「いってきまーす…」


凛☆「いってらっしゃいにゃー」

希「今日は帰りに卵買ってこないとね。それじゃ、うちらも行こうか」

凛☆「オッケーにゃ!今日もたっぷり指導してあげるからね!」

「いらっしゃいませー」


真姫☆「ここは…」

ことり「衣装を作るための生地屋さん。ちょっと足りなくなっちゃって、買い足し」

真姫☆「衣装…もう作ってるのね。気が早いのね…」

ことり「え?あぁ…そうかも。今すごい頑張って仕立てあげてるんだー。アイドル専攻の手伝いしてたときのお友達にも手伝ってもらって」

真姫☆「へぇ…」

ことり「ふふ、でも意外だったなぁ。手伝ってもらえるかその友達に頼んだら、二つ返事でオッケーしてくれて」

ことり「友達って言ってもね?ほとんど話もしてなかった人ばかりなんだよ。衣装製作の時だけ関わっていたような」

ことり「だから、そんなにすぐ引き受けてくれるなんて思ってなくて。…なんだか、不思議だなぁ」

真姫☆「前も、似たようなことあったわよね。ステージが壊されちゃったとき」

ことり「あ、そうだね。あの時も、一度か二度話したくらいの他の部の人たちがこぞって手伝ってくれて…」

ことり「ほんの少しの繋がりが、私たちを助けてくれたんだよね」

真姫☆「えぇ、そうね。困ってる時助けてくれるのは、遠い友達より近くの知り合いなのよ」

真姫☆「助けを求める人の気持ちさえ伝われば、案外動いてくれる。人って、結構優しいから」

ことり「…うん。私ね、それで思い直したんだ」

ことり「9月からの思い出は大切だけど、それ以前は最悪だったって、思ってたけど」

ことり「…でも、そうじゃないよね。どれだけ辛い思い出で満ち溢れていても、全てがそうじゃないんだって」

ことり「服飾手伝いをしていたときの友達を頼ることができたのは、この一年間、私が存在していたから、なんだよね」

ことり「全てをなかったことにしちゃったら…その繋がりも、なくなってたんだって」

真姫☆「はじめからのやり直しのこと?」

ことり「うん。あの時…穂乃果ちゃんに一度別れを告げたときは、それでいいんだって思ってた」

ことり「でも、違ってた。それじゃダメだって。なかったことにできないくらい、たくさんの大切が、この一年間に詰まってた」

ことり「それに気づかせてくれたのが…穂乃果ちゃんだったなんて、なんだか…すごいなぁって」

真姫☆「…ことり」

ことり「真姫ちゃん。海未ちゃんに笑顔をくれて、ありがとう」

ことり「あの海未ちゃんの笑顔を見ることがなかったら私…今でもスクールアイドル、やってなかったかもしれない」

ことり「選んじゃいけない道を選んで、無くさないための停滞を選択して…本当に大切なものを失っていたかもしれない」

ことり「この世界に来てくれて、ありがとう。真姫ちゃん…」

真姫☆「…今更、そんな改まって言われるようなことでも」

ことり「ぎゅーっ!!」ギュッ!!

真姫☆「ひゃわぁっ!!?いきなり何っ!?」

ことり「なんだか無性にギュッってしてあげたくなったの!抑えられぬリビドーってやつだよぉっ!」

真姫☆「いや抑えて!恥ずかしいから!店内の人みんな見てるからぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」



夕方


ことり「今日は買い物に付き合ってくれてありがとうね。週末、帰るときもまた会おうね」

真姫☆「えぇ。あ、生地大丈夫?そんなにたくさん…持って帰るの手伝う?」

ことり「いいよー。真姫ちゃんは明日もお出かけだもん。私のための優しさを是非海未ちゃんにどうぞ♪」

真姫☆「…わかったわ。海未には優しくしてあげるわよ。じゃ、気をつけて帰ってね。また、日曜日に」

ことり「うん。今日は楽しかったよ。バイバイ、真姫ちゃん」

翌日 早朝

希の家


海未「おはようございます」

真姫☆「…今、何時だと思ってるのよ」

海未「えっと…朝の5時ですね」

真姫☆「5時なんてまだ夜よ!なんでこんな時間…」

海未「最近真姫は遊び呆けているらしいので、早朝でのランニングで鈍った体を鍛え直そうかと」

真姫☆「あなたたちが毎日連れ出してるんでしょうが!むしろ練習とかより知らない場所に行ったりする方が体力使って…」

海未「おや、では見知った場所のランニングならいい気分転換にもなりそうですね。さぁ、今すぐ行きましょう」

真姫☆「う、ぐぅっ…」



タッタッタッ…


海未「ふっふっ…」

真姫☆「はぁっ…はぁっ…」

海未「もう息が切れているのですか?やはりたるんでいるようですね」

真姫☆「勘弁してよぉぉぉ…」



ガチャッ…

真姫☆「はぁーっ…、はぁーっ…」


凛☆「あ、おかえり真姫ちゃん!海未ちゃんも!」

海未「ただいま。ほら真姫、朝ごはんが出来ていますよ」

真姫☆「ちょっと…まずシャワーに…」

海未「疲れた身体こそ美味しい朝ごはんを食べる秘訣です!シャワーは後でも浴びられるでしょう?冷めないうちに頂きましょう」

真姫☆「なんなのよもう…」


真姫☆「もぐもぐもぐ…」

海未「どうです?早朝ランニングの後の朝食は美味しいでしょう?」

真姫☆「ま、まぁ美味しいけど…希の作った料理はいつでも美味しいわよ」

希「んふ、嬉しいこと言ってくれるやん。でも、いつもよりも美味しく感じられるんと違う?」

海未「えぇ!ランニングの力で!!」

真姫☆「別にそこまで…」

海未「なんですか!?」

真姫☆「すごく美味しいわ!チクショウ!!」

凛☆「いつも以上に騒がしい食卓でなによりにゃ」



メイドカフェ


真姫☆「…それで、行きたかった場所ってここなの?」

海未「はい。バイトを辞めてから行く機会が今までなかったもので。久しぶりに来てみたかったんです」

真姫☆「へぇ…。あ、そういえばこのメイドカフェで海未と同じことしている子いたわよ。サングラスかけてライブしてた」

海未「なっ…!それは本当ですかっ!?何時頃からの何曜日でしょうか!?」

真姫☆「それを言うなら何曜日の何時頃じゃ…でも、もうやってないみたい。その子の学校はもう冬休み明けちゃったみたいで」

海未「そ、そうですか…。残念です、見てみたかった…」

真姫☆「その子、絵里の妹の亜里沙ちゃんだったから、来年UTXに入学してきたら見せてもらえるわよ、好きなだけ」

海未「なんと…彼女だったんですか。でも私はこのメイドカフェのライブが見てみたかったので…」

海未「自分の後を追ってくれる人がいる、というものは、なんだか…とても嬉しいものですね」

真姫☆「ふふ、そうよね」

海未「はい。それに…このメイドカフェで、というのも、感慨深いものがあります」

海未「ここは私に、色々なきっかけを与えてくれた場所でもありますから」

真姫☆「きっかけ…」

海未「仮面の自分でも、笑顔を作るきっかけを貰えた。アイドルというものに興味を持つきっかけを貰えた」

海未「ステージの上で輝きたいという自らの欲望に気づくきっかけを貰えた。そして…」

海未「あなたたちとこうして、スクールアイドルをするためのきっかけを貰えました」

海未「初めは穂乃果の言葉から、半ばヤケクソで始めた謎のメイドとしてのアルバイトでしたが…」

海未「結果的に、私の人生にかけがえない彩りを与えてくれた…素晴らしい場所になってくれました」

真姫☆「今でも、スクールアイドル始めたこと…後悔してない?」

海未「えぇ!後悔なんて、これっぽっちもあるわけがありません!」

海未「今では毎日が楽しくて楽しくて…本気でプロを目指そうかとも考えているんですよ」

真姫☆「えっ…!そ、それはすごいハマりようね…」

海未「…昔の自分では考えられないほど、今の私は笑えています。自然に、朗らかに…」

海未「あなたがいなければ、こんな私はもしかしたら、ありえなかったのかもしれません。…真姫」

海未「もっと、あなたと一緒にいたかった。できるならば、これからもずっと…笑い話を聞かせて貰いたかったです」

真姫☆「それは…できないのよ。ごめんなさい」

海未「いえ!もう、それはわかりきっていることですから!なので今日は是非!」

海未「…たっぷりと、真姫と笑える話がしたくて。日が暮れるまで、語り尽くしましょう」

真姫☆「ふふっ…、えぇ、いいわ。話のネタなら、尽きないほどに溢れているもの」




夕方


海未「…今日は、頬が痛くなるほどに笑わせていただきました。いつか一人の時間に、思い出し笑いをさせてもらいますね」

真姫☆「もしまた会えた時のために、色々話のネタを補充しておくわ。その日は遠い未来になるかもしれないけど」

海未「お願いします。いつまでも…いつまでも、待っていますから」

翌日

希の家


真姫☆「むにゃむにゃ…ふわぁあぁぁぁ~…」

真姫☆「あれ、もう朝…?はぁ、今日は誰と…」

真姫☆「…」

真姫☆「布団が妙に暖かい…まさか…」

希「…うん?あ、起きたんかー」

真姫☆「…どうして希が私の布団の中で寝て…」

希「真姫ちゃんの温度を感じたかったから~」

真姫☆「気持ちわるいわよ…早く出て!って、今日は希と遊びに行く日でしょう?こんなゆっくりしてていいの?」

希「いいのいいの。だってうちは…」

希「今日は、ここで真姫ちゃんと過ごそう思っててね」

真姫☆「ここ…ってもしかして、この家で?一日?」

希「うん。真姫ちゃんも連日外出で疲れてるやろと思って。うちってば気が利くやん?」

真姫☆「ま、まぁ…そうね。なんだか拍子抜けした感じもあるけど…」

希「うちはこうして真姫ちゃんと思う存分おうちデートを楽しむんよ~」

真姫☆「おうちデートって表現はその…恥ずかしいからやめて」



真姫☆「あれ、そういえば凛は…?」

希「今日も出かけたよ。用事で」

真姫☆「用事って…この期に及んであの子はどこになんの用事が…」

希「真姫ちゃんほどではないにしろ、凛ちゃんも凛ちゃんでこの世界に思い入れがあるんと違う?」

希「最後にお別れする前に、色々とやっておきたいこともあるんやって」

真姫☆「やっておきたいこと、ね…。じゃあ朝ごはんは?」

希「うちと二人で、やね。ふふ、こうするのもなんだか久しぶりかも」

真姫☆「そうね…。凛がやってきたのもなんだか随分前に感じるわ」

希「もうこの家も、だいぶ賑やかになってきて…」

希「静かだった頃が、思い出せないくらいやよ」

真姫☆「…でも、それは…」

希「うん。明後日までのおはなし」

希「それからは再び、静かな我が家が帰ってくる」

真姫☆「そう…ね」

真姫☆「もうこの家にも、厄介になって長いわね…。この家に帰らなくなる未来が想像できないくらい」

真姫☆「なんでだろ…。みんなとお別れするのは寂しくないのに、この家からバイバイするのは少し…切ないわね」

希「真姫ちゃんはおうちに愛着が湧いちゃうタイプなんかもね。言っちゃえばうちらの誰よりも、付き合いが長いわけやし」

真姫☆「かも、しれないわね。だとすれば希がこうしてどこにも行かずに、家で一日を過ごさせてくれたのは…私にとってもちょっと嬉しいことだったのかも」

希「でしょ?やっぱうちって気が利くやん!」

真姫☆「そういう余計なことさえ言わなければ、もっと気が利くんだけどね」

希「んふ、手痛いなぁ。やっぱり真姫ちゃんは真姫ちゃんや。さ、じゃあふたりっきりの朝食と行こうか」

真姫☆「えぇ。今日くらいはゆっくり食べたいものだわ」




真姫☆「はふぅ…こうしてダラダラと時間を過ごすほうが私はしあわせだわ…」グテー

希「もー、だらしないなぁ」

真姫☆「凛がいないとどうしても私がだらしなくなっちゃうわね…。希の甘えさせてくれるオーラのおかげかしら」

希「ま、うちはダラダラと真姫ちゃんとこの時間を堪能するんもいいんやけど…もう残されている時間もごくわずかなわけだから、濃密な時間も過ごしたいよねぇ…」

真姫☆「濃密って…ど、どんなことするのよ」ドキドキ

希「ま、思い出話でもと」

真姫☆「あぁ…なんだ」

希「うふ、どんなこと想像してたんかなぁ~?やらしいことぉ~?」

真姫☆「ふ、ふざけないでよ。そんなこと…」

希「うちは真姫ちゃん相手ならちょっとしたやらしいことでもしちゃっていいけどね~なんて」

真姫☆「何言ってるのよ…」

希「まぁ、そう思っちゃうくらいに…もう真姫ちゃんとの付き合いも結構なもんやんね」

真姫☆「あぁ…そうね。なんせ毎日一緒に寝てるくらいだもの。夫婦かって感じよ」

希「最初に真姫ちゃんと出会ったときはこうなるなんて思ってもなかったなぁ…」

希「てっきりうちは数日で帰るものやと思ってたけど…もはや当然のごとく住み着いちゃって」

希「これはおかしいなぁ、って思ったんが、真姫ちゃんと出会って1ヶ月くらい経ってからやね」

真姫☆「そのくらいから、私がこの世界の住人じゃないって?」

希「うん。というよりも、前に一度出会った西木野さんとは、別の真姫ちゃんやないかなって」

希「最初に真姫ちゃんに話しかけた頃は、もう春に西木野さんを家に泊めた頃のことなんかほとんど記憶してなかったけど…」

希「どんどん思い出していくと、つじつまの合わないことも多いな、なんて気づいて」

希「うちはもしかしたら、ヤバい子を家に泊めてしまったんじゃないか、とか思ってたよ」

真姫☆「なのにそれでもまだ、私を追い出さなかった。…どうして?」

希「それは…うちのしたいことが、困っている誰かの役にたちたいってことやから」

希「真姫ちゃんが何も言わずにうちの家に帰ってきてくれるのは、うちと、そしてこの家を必要としてくれているってことだから」

希「もううちには、それだけで十分やった。真姫ちゃんがどんな子であろうと、それを見捨てるなんて、ましてや追い出すなんてことは考えないよ」

希「それにうちは…」

希「…やっぱいいや」

真姫☆「え」

希「なんだか言ってて気恥ずかしくなってきちゃった。そんなことよりプロレスごっこしよか」

真姫☆「ちょっと!?話の続きは?!気になるじゃないっ!!」

希「いいの!やっぱ休日の部屋でやることと言えばプロレスやよ!さぁ戦いのゴングは今鳴らされた!よっしゃー!!」ガバッ

真姫☆「えぇっ!!あ、ちょっ…このぉっ!!私だってちょっとくらいは…!」



夕方


ガチャッ

凛☆「ただい…何してんの二人共」

真姫☆「えっ…あ、これはその…プロレスごっこよ、プロレスごっこ」

凛☆「…ほぉ、プロレスごっこですか…。そんな半裸で…」

希「暴れてたらなんか、熱くなってきちゃって。あははは…」

凛☆「…まぁ、夜に寝てる隣でやられるよりはいいですけどね。別れが近いからといって一時の過ちに流されるのも凛はどうかと…」

真姫☆「盛大に勘違いしてんじゃないわよーっ!!」

翌日 朝

希の家


真姫「おはよう」

真姫☆「え、あ、あぁ…おはよう」

真姫「…はい、これ」

真姫☆「これは…?」

真姫「制服よ。あなたが着てきたものでしょ?」

凛☆「お、ホントだにゃ。真姫ちゃんの音ノ木坂の制服だ」

真姫☆「あぁ…そうだったわ。私の制服、あなたの家にあったのだったわね。ありがとう、わざわざ届けてくれて」

真姫「別に…置いててもかさ張るだけだし」

真姫☆「あ…じゃあUTXの制服、私返したほうがいいかしら」

真姫「いいわよ。もう新しいの買っちゃったし。持って帰って」

真姫☆「え…」

希「いいんやない?この世界にいた、って記念に。真姫ちゃんも短い間だけど、UTX学院の生徒であったわけなんだし」

凛☆「遠慮なくもらっちゃいなよ!」

真姫☆「…わかった。もらっておくわね、キノ」

真姫「…うん」

真姫☆「それで…今日で最後、だったわよね。明日帰るんだから」

真姫「そうなるわね」

真姫☆「あなたは私をどこへ連れて行ってくれるの?疲れる場所はもう勘弁願いたいんだけどね」

希「真姫ちゃん体力ないねー」

真姫☆「…アンタと昨日プロレスごっこしまくってたのが原因だけどね」

真姫「ぷ、プロレスごっこ…!?希先輩と…!?」

凛☆「半裸でね」

真姫「はんらぁっ…!!なんてことを…」

真姫☆「ほぼ練習着と変わらない状態で互いの身体を触りあっただけじゃない…。いつもと変わらないでしょ」

希「言っちゃえばそうだけどね」

真姫☆「昨日の話はどうでもいいのよ!どこ行くかって聞いてるの」

凛☆「真姫ちゃんが言い出したことなのに」

真姫☆「あぁん!?」

凛☆「何でもないです」

真姫「…別に、疲れるようなところに行く気はないわよ。私だってちょっと疲れてるし」

真姫「それに、どこか楽しめるような場所も、私は知らない。何ヶ月引きこもり生活してきたと思ってるの」

真姫☆「自慢できることじゃないような…」

真姫「…だから、私が行くのは見知った場所よ。あなたも、よく知っているところ」

真姫「見知った場所に、なれたところ」

UTX学院


真姫☆「…休日のUTXね。確かにあまり来たことはなかったかも」

真姫「絵里の指導体系が廃止されるに伴って、結構学校の規律も変化してきてね」

真姫「特に用事がなくても、申請なしで休日でも学校に入ることができるようになって」

真姫☆「へぇ、そうだったのね…。アイドル専攻…というか絵里はUTXにどれだけ影響を与えていたのよ…」

真姫「A-RISEはUTX学院の名看板でもあるから、それを振りかざすことで色々とやりくりしていいた…って聞いたわ」

真姫☆「ふぅん…。誰から?」

真姫「え」

真姫☆「つい最近人見知りが克服出来たあなたがそこまで知ってるってなんだか違和感があって。誰からそんな内部の情報を聞いたのかしら」

真姫「え、あ、いや、それは…」

真姫☆「…」

真姫「…え、絵里よ。本人から聴いたの」

真姫☆「絵里から…?」

真姫「うん。昔のわだかまりは忘れて、今はよく話すようになったのよ」

真姫☆「絵里とあっているの?個人的に?」

真姫「えっと、個人的にというか…うぅん…」

真姫「ま、まぁ私にも色々とあるのよ!全部あなたに話さないといけない理由、ある!?」

真姫☆「…それはないけど」

真姫「…はぁ。じゃ、それは置いておいて。こうしてあなたと二人きりでいるのって、思えばあの日以来じゃないかしら」

真姫☆「あの日…あぁ、あなたが登校してきた時ね。あの時は驚いたわ…」

真姫「それはこっちのセリフなんだから!おかしいでしょ、学校へ来たら私がすでにいるなんて!」

真姫「危うく卒倒しそうになったの、今でも覚えているわ…!それに、あなたと話をつけた後でも…」

真姫☆「後?」

真姫「…まだ、人に慣れていなかったから、C☆cuteのみんなやあなたの友達に話しかけられる度に、心臓がどきりとして」

真姫「誰かと話すたびにこんな、寿命が縮まりそうな思いをするなら…学校で友達なんていらないって、本気で思ってた」

真姫☆「…それを、希が助けてくれたのよね」

真姫「えぇ…。学校を、好きにしてくれた。外に居場所がない私に、こんな素晴らしい…見知った場所を与えてくれた」

真姫「希先輩には、感謝してもしきれないくらい。まぁ…少し歯向かっちゃったことも、あったんだけど」

真姫☆「絵里の策略に引っかからなければ、もう少し希も気が楽になったでしょうにね」

真姫「そ、それを言われると辛いかも…。でも、あなたも…」

真姫「あなたも、私にとってとても特別な人間。本当に、姉妹のような存在…とも思ってる」

真姫「同じ顔のクセに、私の全然知らない世界を知っている。知らないところへ、みんなを引っ張ってくれる」

真姫「もっともっと前に…幼い頃からあなたと共にいられたらどんな人生になったのか…ふふ、そういう世界も体験してみたかったわ」

真姫☆「…あははっ!」

真姫「えっ…な、ナニヨ。そんなにおかしいこと、言った?」

真姫☆「えぇ、とっても。だって私がこんなに…そう、あなたの言ったような、みんなを引っ張るようになったのは」

真姫☆「つい、最近のことなんだもの」

真姫「えっ…」

真姫☆「私は、ただの真似っこよ。そもそも、あなたと私はほとんど同じ人生をたどってきているんだから、そんなに劇的に変わるわけ無いでしょう?」

真姫「あ、まぁ…確かにそうかも」

真姫☆「だから、もしあなたが…今の私に憧れるのだとしたら」

真姫☆「簡単になれる。だって…あなたは私なんだもの!」

真姫「…!えぇ、そうね!」

夕方の少し前


真姫「最後が学校巡りじゃ少し味気なかったかしら…?」

真姫☆「いえ、ちょうどいいくらい。あなたも、こんな早くでいいの?もっと私と居たくない?」

真姫「何言ってるのよ…。まぁ、いいの。長い間学校にいたら、もしかしたら誰かにふたりでいるところを目撃されちゃうかもしれないし」

真姫「それに私はまだ完璧に…」

真姫☆「完璧?」

真姫「あ、あぁいえ!何でもないわ!!」

真姫☆「…はぁ。薄々感づいてたけど、あなたたち私に何か隠してる?」

真姫「か、隠してなんか…」

真姫☆「目を逸らさない。…何かを隠しているのは明白のようだけど」

真姫☆「それはどうしても私に知られたくないことなのかしら」

真姫「…ぅ」

真姫☆「…」

真姫「私からは…何も言えないわ」

真姫☆「…そう。まぁいいわ。どうせ明日までの付き合いなんだし。何を隠されていても私には関係ないものね」

真姫「そ、そんな寂しい考え方は…」

真姫☆「別に、そんなつもりはないけど。じゃ、また明日。見送りには来てくれるんでしょう?」

真姫「えぇ…。音ノ木坂学院跡地、だったわよね」

真姫☆「うん。来るなら遅れずに来るのよ。それじゃぁ…今日は楽しかったわ。バイバイ」

真姫「ば、バイバイ…」



真姫☆「隠し事…気になるけど」

真姫☆「誰かに素直に聞いても教えてもらえそうにないわね」

真姫☆「…いいわ。帰るときに堂々と聞けば教えてくれるでしょ。帰る時なんだし」

真姫☆「とりあえず今日はもう帰って、明日の準備をしましょう…」

真姫☆「ついに、この世界ともお別れ。…もう急なめまいや吐き気に悩ませれる心配もなくなる」

真姫☆「寂しいって気持ちや、心残りがない…ってことは、ないけど」

真姫☆「…もう、花陽は、ことりは、海未は、希は、キノ…真姫は」

真姫☆「C☆cuteは、己の力で成し遂げていける」

真姫☆「そしていつかきっと…」

真姫☆「頂点を、掴むことが、できる」

真姫☆「穂乃果の真似事で始めた、穂乃果以上の無茶をして支えた、私のスクールアイドル」

真姫☆「飛ぶこともままならない小鳥だったあなたたちも、もう、羽ばたいて行ける」

真姫☆「UTXを」

真姫☆「この世界を」

真姫☆「…笑顔に、包み込んであげてよね。任せたわよ、スクールアイドル、C☆cute」



希の家



凛☆「むにゃぁ…すやぁ…」


真姫☆「…」

真姫☆「…やばい、寝れない」

真姫☆(みんなの隠し事が気になりすぎて…目が冴え渡ってる…)

真姫☆(それと、何かやり残したことがないかとか、色々気になってどうしようもないわ…)

真姫☆「…はぁ」

真姫☆「これじゃ、カッコつかないわね…。堂々と去っていきたかったのに…」

真姫☆「…私も、まだまだ寂しがり屋なのかしら」

凛☆「むにゃぁ…ん、んんっ…真姫ちゃん…?」

真姫☆「あ、凛…。ごめんなさい、独り言で起こしちゃったかしら」

凛☆「うぇ…今何時…って、こんな時間…。寝れないのぉ…?」

真姫☆「うん。ちょっとね…」

凛☆「ふーん…、そっか。ま、仕方ないよね」

凛☆「凛も明日は緊張するにゃー…」

真姫☆「は?」

凛☆「でも早く寝ないとだから、おやすみね…。むにゃむにゃ…」

真姫☆「え、ちょっと…」

真姫☆(凛まで緊張するって何事?)

真姫☆(…まさか、凛まで私に隠し事を…)

真姫☆(あーっもう!もしかして私だけのけ者なの!?なんなの!?)

真姫☆(気になる気になる気になる気になる…!!)



翌朝


真姫☆「…」ノソノソ…

希「あ、おはよう真姫ちゃ…目の下真っ黒やね」

真姫☆「一睡もできなかったわ…」

凛☆「凛はぐっすりだにゃ。最後なのに締まらないねー、真姫ちゃんは」

真姫☆「誰のせいだと…ふわああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ…」

希「大きなあくびやねー。朝ごはんだけはちゃんと食べてきね?」

真姫☆「わかってるわ…。もぐ…」

希「それで、今日はいつ帰るんやっけ」

真姫☆「できれば長くいたいところだけど…キリがないからね。昼には帰らせてもらうわ」

希「昼…か。わかった、みんなにも連絡しておくね」

凛☆「よろしくにゃ」

真姫☆「色々あったけど…ついについに、お別れね」

希「ま、最後は明るく行こうよ。笑顔でさよならのほうが真姫ちゃんも気持ちいいでしょ?」

真姫☆「そうねー…もぐもぐ…」

真姫☆(少し腑に落ちないところはあるけど…まぁ、いいわ)

真姫☆(別れ際に感涙するなんて、真姫ちゃんらしくないものね)



音ノ木坂学院跡地前


真姫☆「ふぅ…なんだかドキドキしてきた」

凛☆「帰るのが?」

真姫☆「住み慣れたところからさよならするのは多かれ少なかれ緊張するものよ」

凛☆「ふーん…。っと、さてさて、ゆっくり歩いてきたせいでやっとオトノキにたどり着いたにゃ」

真姫☆「凛の歩くスピードが遅いからよ」

凛☆「凛は真姫ちゃんの歩調に合わせてただけなんだけどねー」

真姫☆「…ったく、もうみんな来てるんじゃ…」

真姫☆「あれ」


シーン…

真姫☆「誰もいないんだけど」

凛☆「わぁ、ホントだね」

真姫☆「え、えっと…希はちゃんとみんなに帰る時間伝えたのかしら?言い忘れたとか…?」

真姫☆「私が早く来すぎちゃった…!?え、でもゆっくり歩いてきたんだし…えぇ…」

凛☆「ところで真姫ちゃん」

真姫☆「それとも私のことなんか結局どうでもいいって…」

凛☆「真姫ちゃん」

真姫☆「な、ナニヨ!?少しパニクってるんだからあとにし…」

凛☆「こっちきてこっち」グイグイ…

真姫☆「え?え?」


トトトトト…

真姫☆「ちょっと!どこまで連れて行く気…?クリニックはもっとあっちの…」

凛☆「いいからいいから!」


トトトトト…


凛☆「うーんと…うん!このあたりかな!」

真姫☆「な、なんなのよ一体…!ここに何があるって言うの!?」

凛☆「ねぇ真姫ちゃん。ここ、どこかわかる?」

真姫☆「ハァ?どこって…音ノ木坂学院跡地で…」

凛☆「そうじゃなくて、オトノキがあった時代なら、ここはどこに相当する場所かなって」

真姫☆「え…ここは…わかんないわよそんなの。もう一面地面しかないんだし」

凛☆「ここはね。もう芝も枯れちゃってるけど、よく運動部がランニングしてたグラウンドにゃ。真姫ちゃんはここに、何か思い入れない?」

真姫☆「思い入れ?運動部のグラウンドになんか特に…」

真姫☆「あ…」

凛☆「分かっちゃった?」

真姫☆「わかったっていうか…確かに思い入れはあるけど…」

真姫☆「…オープンキャンパス。その日、私たちが9人で、初めて…」

凛☆「そう!さぁみんなっ!!行くよっ!」


バサァッ!!


真姫☆「…え?」

~回想の回想~



一週間前

西木野☆星空クリニック


~♪


凛「かよちん…?」

花陽「…よしっ」

凛☆「にゃ?」



その夜

花陽の家



花陽「…」

花陽「…よし、やろう」


ピッピッピッ…

プルルルル… プルルルル… ガチャッ



花陽「あの、もしもし…。夜遅くにごめんね。頼みがあって、明日…」

花陽「真姫ちゃんを、遊びに誘ってくれないかな…?うん、ちょっと…理由は聞かないで欲しいんだ」

花陽「真姫ちゃん、目ざといから…何か気づかれちゃうかもしれないし」

花陽「…うん、大体そういう感じ。ありがとう…それじゃ」ピッ

花陽「あとは、みんなにメールを入れよう。手伝ってもらえるかはわからないけど」

花陽「これが真姫ちゃんへの…恩返しになるかもしれないなら」



翌日

希の家


親衛隊B「いいからいいから!今日だけ!ね?行こう!!」

真姫☆「え?いやあの…きゃあああああぁぁぁぁぁぁ…」



凛☆「ふわぁぁ…。なんか、起きたら真姫ちゃんがさらわれてたんだけど…。何があったの?」

希「…さてと。じゃ、凛ちゃん。ちょっと協力してもらいたい事があるんやけど」

凛☆「…え?協力って…」

希「メールで花陽ちゃんに呼び出されてね。凛ちゃんも一緒に来て欲しいんよ。それと…例のDVDも貸して欲しい」

凛☆「DVD…それって、昨日見た?」

希「うん。お願いや」

凛☆「…な、なんだかよくわかんないけど、そこまでお願いされちゃ断れないにゃ!」

希「ありがと。それじゃ、凛ちゃんは先花陽ちゃんち行っといて。…うちはちょっと、先に済ませておきたい用事があるから」

凛☆「わ、わかったにゃ…」



花陽の家


花陽「…」


ことり「えっとー…」

海未「いきなり呼び出されるとは思ってなかったのですが」

真姫「一体なんなの?」

花陽「うん、ちょっとね。話したいことがあって」

穂乃果「…それは、私たちにも関係していること、なのかな」

にこ「どうしても来て欲しい、って書いてたから、仕方なく来ちゃったけど。ご丁寧に住所まで添付してたし」

凛☆「凛はまだ状況を把握できてないにゃ…。急に希ちゃんにかよちんの家に行けって言われただけで。あとこれ、DVD」

花陽「あ、ありがと。…話はみんな揃ってからにしたいんだ。もう少し待ってて欲しい」

真姫「みんなって…あとは希先輩くらい…?」


ガチャッ

希「ごめん、少し先に用事を済ませて置きたくて。待たせちゃった?」

海未「いえ、そこまでは。これで全員揃いまし…」

希「あ、うちだけやなくて…」


ツバサ「ほほぉ…ここが小泉さんの…」

英玲奈「…お邪魔している」

あんじゅ「ごめんね~、急に来ちゃって」


花陽「あ、あ、あ、A-RISEっ!!?どうして…」

希「どうしてもついてきたいっていうから…」

ことり「これは花陽ちゃんも想定外なんだね…」

真姫「ま、まぁいいんじゃないの?これでようやく揃ったんだし早く本題に…」

花陽「…ごめん。まだ、もうひとり」

穂乃果「え…?」

花陽「もうひとり、呼んでいる人がいるの」

にこ「もうひとりってまさか…」


コンコン

「…入ってもいいかしら」


花陽「どうぞ」

希「この声…」


ガチャッ


絵里「…お邪魔します」

ツバサ「え、絵里…。あなたまで?」

にこ「やっぱり…!花陽、あなた私に絵里の連絡先を聞いたのはそういうことだったのね…!」

花陽「うん。どうしても、呼びたくて」

絵里「急に連絡が来た時は驚いたけど…そこまでして私を呼びつけるということは、よほどなんでしょう?」

花陽「はい。どうしても…この9人でないと、いけないことなんです」

凛☆「この9人って…え、もしかして凛も…!?あっちの凛じゃなくて…!?」

花陽「うん。…今、凛ちゃんは動けないから、できればあなたに頼みたい」

ことり「それって…?」

花陽「来週、真姫ちゃんがこの世界から元の世界へ帰っちゃう時」

花陽「サプライズライブをやりたいって思って」

あんじゅ「わぉ。サプライズ…!」

ツバサ「いい響きね」

希「うん、サプライズとまでは聞かされてるけど…」

にこ「…何のライブをするつもり?」

花陽「これ、です」スッ

英玲奈「…これは?」

花陽「凛ちゃんに持ってきてもらった、昨日見たライブのDVD」

海未「なっ…!そ、それって…!!」

花陽「うん。…真姫ちゃんの世界のスクールアイドル、μ'sの初めてのライブ映像…なんだったっけ」

凛☆「微妙に違うけど、そのとおりにゃ」

絵里「あの子の世界の、ライブ…」

花陽「私は…このライブを」

花陽「μ'sのライブを、この世界を去る真姫ちゃんに、最後に見せてあげたいの」

ことり「μ's…って、C☆cuteじゃなくて…」

穂乃果「A-RISEでもなくて…」

真姫「…C☆cuteとA-RISE…その二つのスクールアイドルが、一緒に…ライブするってこと?」

花陽「…うん」

英玲奈「ほぅ…これはまた、大きく出たな…」

あんじゅ「私たちに出る幕はないけど…とても面白そうね!」

ツバサ「見てみたいわね。それ」

海未「しかし、それは…どう、なのでしょう…」

にこ「私たちが、一緒に…」

花陽「…どう、かな?協力して…もらえない、かな…」

一同「…」



「私、賛成」



一同「えっ…」


穂乃果「…やろうよ。みんなで!」

にこ「穂乃果…。でも…」

穂乃果「何か、いけないことでもあるの?私たちが一緒にライブしたら」

ツバサ「そうね。…クリスマスのライブ、私たちはひとつと宣言しておきながら」

英玲奈「本当の意味でひとつになったことは、まだなかったじゃないか」

あんじゅ「いい機会だと思うけど~?」

にこ「本当の意味で、ひとつに…」

希「うちも賛成かなー」

真姫「希先輩…」

希「このライブは、ただ真姫ちゃんに、真姫ちゃんの世界のアイドルを再現してみせる…ってことだけじゃない」

希「今まで交わることのなかった、C☆cuteとA-RISEっていう二つのスクールアイドルが、手を取り合って一つのライブをする」

希「真姫ちゃんが成し遂げようとした革命の集大成って意味合いも込められてると思うんよ」

凛☆「もう何ヶ月も真姫ちゃん、μ'sのみんなと会ってないからねー…最後のサプライズにしては面白いかも!」

真姫「で、でもっ…ライブをするって言ったって…ど、どうするのよ!?何もないのよ!?」

にこ「そうよ!それよ!!音源も衣装も…ダンスも何もかもないのに…!」

花陽「なければ、今から作ればいいんだよ!!」

一同「「えぇぇっ!?」」

花陽「何も一から作るってわけじゃない!映像を見たらダンスも曲も、衣装だって出来上がってるんだから!それを真似すれば、いつもよりずっと早く出来上がるよ!」

ことり「で、でも…真姫ちゃん帰っちゃうの、一週間後だし…」

ツバサ「あら?一週間あればライブのひとつくらい…出来て当然じゃないかしら」

あんじゅ「そうよねー?にこちゃんっ♪」

にこ「え゙っ…!!と、当然でしょ!A-RISEの名に泥を塗るわけには行かないわ!」

英玲奈「…こちらはできると豪語しているけど、そちらはどうかな?」

花陽「海未ちゃん、ことりちゃん、真姫ちゃん」

海未「ここまで言われては…」

ことり「できるって返すしかないよ!!できるっ!!」

真姫「や、や…やってやろうじゃないっ!!」

ツバサ「うん、いい返事ね」

希「でも、一番の問題は…」

絵里「…私ね」

穂乃果「あっ…絵里、さんは…」

にこ「昔の厳しいレッスンのせいで、5分も踊ったら足が動かなくなる…んだったわよね」

花陽「それをわかってて、絵里さんを呼び出しました。絵里さん…」

花陽「無理に…とは言いません。ここに呼んだのも、せめて話だけでもと思ったからです」

花陽「だから…」


絵里「やるわ」


花陽「えっ…!」

絵里「…やる。私…そのライブ、踊る」

穂乃果「そんなっ…!大丈夫、なんですか…?」

にこ「もう数年以上まともなダンスを踊ったことなんてないんでしょう!?」

絵里「ライブなら…5分もかからないでしょう?平気よ」

にこ「でもっ!一週間でどれだけレッスンすると思って…」

絵里「休憩を入れながらだったら、続けて練習もできるわ。だから…やらせて欲しい」

絵里「塞ぎ込んで、自らの精神を燃やそうとした私を…真姫は助けてくれたのだから。少しでも恩を返さなくちゃ」

絵里「どれだけ練習が辛くたって、倒れてなんていられない。私はそんな子たちを…容赦なく切り捨ててきた身分なんだし」

絵里「彼女たちへの贖罪を思えば…やれるわよ」

にこ「絵里…」

絵里「それに、体調管理には頼もしいマネージャーもいるからね、希」

希「ふふ、任せとき。肉体面の管理ならえりちの慧眼にも劣らんよ~?」

英玲奈「東條の技術は確かなものだ。やるなら、全力でやれ。…みんな」

凛☆「ってことは…!」

海未「どうやら、決定のようですね…!今から一週間で…!!」

ことり「あのDVDのライブを、完全コピー!うわぁ、大変だぁ…衣装も作らないと…」

あんじゅ「私たちも手伝うわ。なるったけ完璧に近づけるように万全を期さないと、真姫ちゃんにも幻滅されちゃうもの」

真姫「じゃあこの一週間、完全にライブの練習…」

花陽「うぅん!それじゃ…勘の鋭い真姫ちゃんは気づいちゃうかも!」

凛☆「一週間帰るの引き伸ばして一切構ってもらえなかったら何してるんだって勘ぐるよね、普通」

花陽「だから、C☆cuteのみんなで一日ずつ、真姫ちゃんと一緒に過ごす日を作るの!」

花陽「最後に過ごす二人きりの一日を作る、っていうのもあるけど、それなら真姫ちゃんも私たちがやってることに気づかないと思うから」

海未「なるほど…。真姫の足止め…ということですか。しかし…」

にこ「スケジュール、ただでさえ忙しいのに大丈夫なの?貴重な一日を使って…」

花陽「大丈夫です!できるっ!人間その気になればなんだってできるもんっ!」

絵里「無茶苦茶ね…。でも…」

穂乃果「その無茶をやるのが…私たち、だもんね」

海未「…分かりました。この際覚悟を決めましょう!」

ことり「全部全部やっちゃおう!私たちが望むことぜーんぶっ!」

希「こんくらいの無茶、今まで真姫ちゃんがやってきたことに比べれば大したことないもんね!」

花陽「はいっ!」




花陽「…そして、一週間。限りなく本物に近づくため練習して。一度も一緒に練習したことのなかったA-RISEと一緒に踊って」

花陽「連続して5分以上踊ることのできない絵里さんも、何度もこけながら立ち上がって」

花陽「ついに、こうして…ここまで来たんだよ」

花陽「どうかな…真姫ちゃん」



真姫☆「あ…!」

真姫☆「その、服…」


ことり「ふふ、映像の中の衣装を見よう見まねでね。どうかな、うまくできてる?」

海未「一週間で間に合わせる…だなんて、不可能かと思っていましたが」

にこ「やれば結構、なんとかなるものよね」

希「えりちも…あんなに頑張ってたし」

絵里「もう当分、踊りたくはないけど…。ここが私の最後の見せ所だから!」

真姫「できれば最後まで隠し事がバレて欲しくなかったけど…多少は感づかれちゃうわよね」

凛☆「でも結局気づいてなかったみたいだし、凛のナイスアシストのおかげにゃ!」

穂乃果「こうやってC☆cuteとA-RISEがひとつになれる…。これもあなたのおかげ…」

穂乃果「あなたが、私たちを動かしたんだよ。本当に…すごい存在だよ」

真姫☆「そ、そんな、こと…っていうか、さ、さっきまでどこにいたのよ!?影も形も…」

凛☆「にゃははーっ!凛の透明マントを忘れてないかにゃー?」

真姫☆「あっ…まさかそれで…」

凛「みんな、被って隠れてたんだ。びっくりしたでしょ?」

ツバサ「無駄に私たちもいるわ」 英玲奈「最近私たち端役だな」 あんじゅ「出過ぎると主役食べちゃうから仕方ないわよー」

真姫☆「あなたたちまで…。あ、あははは…たったこれだけの観客のために、そんな急ピッチでのライブの練習…なんてことを…」

ツバサ「…うぅん。違うわ」

真姫☆「え…」

英玲奈「私たちは観客ではない。彼女たちのアシストだ」

あんじゅ「だから、今日このライブを見るのは一人だけ。真姫ちゃんだけのライブ」

凛「たったひとりのためのライブ…なんだよ」

真姫☆「…!」

花陽「真姫ちゃん…覚えてる?一番最初のC☆cuteのライブ。私とことりちゃん、二人のライブ」

花陽「あの時も、たった一週間の練習で、ライブを成功させたんだ」

花陽「あれから随分と時間が経って…最初はふたり、三人だったC☆cuteが、段々、だんだん大きくなっていって」

花陽「ついに、A-RISEも含めて、9人でライブができるようになった…」

花陽「今、このステージ…とも呼べない、ただの空き地のステージから、私の見たかった景色を、真姫ちゃんが見せてくれた。…だから」

花陽「私も…お返しに。真姫ちゃんの見たい景色を、見せてあげたい」

真姫☆「花、陽…っ」

花陽「行くよ、みんなっ!!」

花陽「これは…これからやる曲は、私たち9人の…初めての曲ですっ!!」

花陽「UTXのスクールアイドル…その深い闇から抜け出した、証の曲ですっ!!!」

花陽「…聞いてください」



「僕らのLIVE 君とのLIFE」

曲が始まった。


聞き馴染みのある…だけど、少し違う。ほんの少し、アレンジが加わってる。


私の知ってるようで、知らない…そして、とても近くなのに、初めてこうして…観客として見るライブが、目の前で。



「  確かな今よりも 新しい夢 つかまえたい  」

「  大胆に 飛び出せば O.K.マイライフ  」


「  望みは大きくね 背伸びだってば 高く遠く  」

「  まぶしいあした 抱きしめに行こう  」

「  全部叶えよう  」



ふふ、と小さな声が漏れる。


ダンス、ミスってる。キノ…まだドジなんだから。


その点、やっぱり穂乃果とにこちゃんはすごい…。さすが、A-RISEね。


花陽は、あんな宣言しておきながら、センターじゃないのね。まぁ、コピーだから仕方ないけど。


でも、みんなを引っ張るのが板についてきて。本当…リーダーって感じになった。



「  そうだよ 信じるだけで  」

「  ぐんぐん 前に進むよ、君が!  」



この一年、限りなく遠かった穂乃果と、海未と、ことり。


今は、限りなく近い場所で、笑顔を振りまいている。


絶望的なほど、亀裂の入った仲だった、絵里と希。


今は、共に、同じステージの上で煌めいている。


私が、この世界にたどり着いて、そして、この世界と、私の世界との差を痛感して。


故に、絶対にありえないと思っていた、景色が。


今、ここで…。


目の前、で、私の、目の…。



「  答えなくていいんだわかるから  」


胸にえがく、場所は同じ…。


「  何度でも諦めずに  」


探すことが…僕らの挑戦…。


口ずさむ。彼女らの歌とともに、私が。


頬に、暖かな雫を流しながら。

元気の温度は下がらない。


「  熱いままで羽ばたいてく  」


あこがれを語る君の。


「  ゆずらない瞳が  」


…だいすき。


「…ダイスキっ!」





花陽「はぁっ…!」ビシッ!!


ツバサ「…」パチパチパチパチパチパチ

英玲奈「よくやった…」パチパチパチパチパチパチ

あんじゅ「ちょこっとミスもあったけれど、素晴らしいライブだったわ」パチパチパチパチパチパチ

凛「ほわぁぁぁ…す、すごいにゃー…!」


絵里「はぁっ…はぁっ…。たった数分のライブでも、本番となるとキツいわね…」

希「おつかれさん。っと…当の真姫ちゃんはどうしたんかな?」

にこ「こら、真姫ちゃん!まだライブの感想、聞いてないわよ!」


真姫☆「…」


ことり「真姫ちゃん…?」

凛☆「あ…にゃふふっ。これはこれは…」

海未「凛…?なんですかいやらしい笑顔を湛えて…」

穂乃果「もしかして、真姫ちゃん…」

花陽「…泣いてる?」


真姫☆「えぐっ…う、うぅっ…!あ、うぅぅっ…!!ぐじゅっ…!ずる、いわよぉぉっ…!!こん、なの…!な、泣くに決まってるでしょぉっ…!」

真姫☆「こんな、こんなの、見せられちゃったら…う、うぅっ…!!じゅっ…えへぇぇぇぇんっ…!!」

真姫☆「絶対に、泣かないって決めて、たのにっ…!笑顔で、さよならしたかった、のに…!」


真姫「…ふふ。いいじゃない。みんな、一度は誰かに泣き顔を見られてるんだし」

希「あ、ホント。この中で誰にも泣き顔を見られてないん、真姫ちゃんだけやん!」

花陽「これで、真姫ちゃんも私たちと同じ、だね!」

真姫☆「う、う、うぅぅっ…!!やだぁぁぁ、もう…!泣いてる顔なんて、見られたく、なかったぁぁぁ…!!」

凛☆「ずっとずっと、気丈に振舞ってきたんだもんね。真姫ちゃんだけは、絶対に折れちゃいけないからって」

凛☆「…でも、今だけは、泣いていいんだよ。泣けば泣くほど、みんな、笑顔になっちゃう素敵な涙だにゃ」ギュッ

真姫☆「り、んっ…!う、ああぁぁぁぁぁっ…!バカッ…ばかばかぁっ…!こんな、ときだけ…いいカッコしてんじゃ、ないわよぉぉっ…!!えっぐっ…!」

花陽「…見せられたかな、真姫ちゃんの見たかった景色。私の言葉にできないくらいの、真姫ちゃんへのありがとうを…伝えられた?」

真姫☆「も、もうばっちり…!すごい、すごい伝わった…。びっくりするくらい、つたわっ、うぎゅぅっ…!!うええぇぇぇぇぇぇんっ…!!」

凛☆「おー、よしよし。真姫ちゃんはいい子だにゃー」

海未「…こうして、泣いている真姫を見るのは、なんだか不思議な気持ちになります。真姫はてっきり、泣かない人間だと思っていましたから」

ことり「そだねー。真姫ちゃんもヒトの子なんだー」

真姫☆「あ、あたりま…ううぇぇぇぇぇっ…だ、だめ…もう何もしゃべれない…」

数分後…


真姫☆「ずっ…ずずっ…。あー、鼻痛い」


穂乃果「落ち着いた?」

真姫☆「…うん。あぁ、もう…恥ずかしいところ、見られちゃったわね」

希「全然!むしろ、真姫ちゃんの可愛い一面が知れてよかったわぁ~♪」

花陽「…けど、もうさよなら、だね。本当の本当に…」

真姫☆「えぇ。最後に…最高のライブを見せてくれてありがとう。C☆cuteとA-RISEで」

真姫☆「今日の出来事は一生忘れない。私の生涯で一番の心に残るライブだったわ」

凛「羨ましいにゃ。凛もあんなライブ…貰いたいな」

凛☆「ふふふ。うちの真姫ちゃんの人望は厚いからね!そんじょそこらの凛じゃ追いつけないにゃ!…ま、凛は別だけど~」

凛「な、何を…!」

にこ「凛同士が言い合ってるのはこれまた新鮮ね」

凛☆「…っと、じゃあそろそろ、帰ろっか。真姫ちゃん」

真姫☆「…えぇ」

ツバサ「最後に何か言い残したことはないの?」

真姫☆「…もう、ひとり一人への言葉は言い尽くしたわ。だから…ひとつだけ」

真姫☆「私がこの世界にたどり着いてから、色々なことがあって…それが全部全部大変なことだったけど」

真姫☆「でも、…やってよかった。この世界に来て、本当に良かったって思ってる」

真姫☆「かけがえない思い出をくれた、みんな…ありがとう」

穂乃果「…うん。私たちこそ」

ツバサ「私からも、言わせて。西木野さん」

ツバサ「私も、あなたがこの世界に来てくれて…本当に感謝しているわ」

ツバサ「私たちのUTXを、スクールアイドルを取り戻してくれたこと…ありがとう」

英玲奈「おや、ここで出しゃばるのか」 あんじゅ「やっぱり主役を食っちゃうスタイル~?」

ツバサ「い、いいでしょ…言いたかったんだから」

真姫☆「ふふふ…。あなたたちのよく知らなかった本性も知れて、勉強になったわ」

真姫☆「…じゃあ、行きましょうか。凛」

凛☆「オッケー!クリニックに乗り込むにゃー!!」

西木野☆星空クリニック内


凛☆「それじゃ、西木野☆星空クリニック、はっし…」

真姫☆「…ずずっ」

凛☆「泣くな泣くな。それでも男かにゃ!?」

真姫☆「…まごう事なき女の子よ」

凛☆「うん、真姫ちゃんはか弱い女の子だね。…だけど、最後は笑顔で」

凛☆「そう言ったのは真姫ちゃんだにゃ」

真姫☆「…わかってる。泣かない。もう、泣いてやるものですか」

真姫☆「笑顔が、アイドルには一番大切なんだもの」

真姫☆「どんな、ときでも」

凛☆「…そうだよ。さぁ、行くにゃっ!!」

凛☆「西木野☆星空クリニック~…!」

真姫☆「発進よっ!!」ポチッ



ゴゴゴゴッ…!!



花陽「わわっ…!」

にこ「うわ、本当にクリニックが浮いた!こんな大きい建物が…」

海未「乗りはしましたが、実際に外から浮くところを間近で見ると得がたいものがありますね…」

絵里「あ、見て窓!」


真姫☆「みんなーっ!さようならー!!」ブンブンッ!!

真姫☆「だいすきーっ!あなたたち全員…愛してるばんざーいっ!!」


真姫「ぷふっ…なによそれ?愛してるばんざーい?変なのっ…私も愛してるわ!また、どこか出会えるのを期待してるからねっ!!さようならっ!!」

ことり「私、真姫ちゃんのこと絶対に忘れないよっ!いっぱい写真もあるからっ…だから、ううぇえええんっ!!」

穂乃果「ことりちゃん…。っ!真姫ちゃーんっ!!ありがとうっ!!ありがとー!!私も大好きだーっ!!ばいばーいっ!」

海未「お元気でっ!またこの世界に来た時は、美味しいお饅頭を用意して待っていますからねー!」

希「困ったときはいつでもうちに訪ねてきたらいいからねー!なんてったってうちは…」

絵里「泣く子も黙る…東條希様、だものね。…真姫っ!もう私…誰かを泣かせるようなこと、しないようになるっ!約束、約束よっ!!」

にこ「へんっ!いつか…あんたのいるところまで手が届くような、声が届くような…!ビッグなスーパーアイドルになってやるわ!絶対にね!!」

凛「足が治ったら凛、凛ね…!かよちんと一緒にライブする!もう…思い出を捨てるようなこと、しないよっ!これからは、もっともっと増やすんだっ!!」

花陽「真姫ちゃんっ!!…さようならっ!!私、私ね…!」

花陽「真姫ちゃんと一緒に立ち上げたこのC☆cuteで、次は…スクールアイドルの頂点、目指してみるからっ!だからっ!!」

花陽「次会うときはっ!ら、ラブライブ、優勝してみせるんだっ!それまで、それまでは、さよならっ!!真姫ちゃんっ!!真姫ちゃーんっ!!」



真姫☆「…っ。ふ、ふふ…!!ホント…素直に笑顔にさせてくれない子たちだわ…!早く出して、凛…!!」

真姫☆「もう、ヤバい…。出そう…」

凛☆「なんか一見キタナイものが出そうかと」

真姫☆「いいから!」

凛☆「ほいほい。じゃあお別れの挨拶はこれで!次に真姫ちゃんと出会うのはあなたかもね?せーのっ…」

真姫☆・凛☆「「まじ☆えんじぇーっ!!」」


ピシュゥゥンッ!!




現在

アイドル応援部部室


ことり「…昨日のライブ、真姫ちゃん、とっても喜んでくれて。そうだね、もう一度…今度は怪我の治った凛ちゃんと一緒に」

凛「うんっ!」

希「う、うちとえりちはもうアイドル続けないと思うんやけどねー…」

花陽「いえ、無理やりにでもやります!凛ちゃんのやりたいこと、だもんっ!!」

海未「…えぇ。UTXの生徒に絵里さんのライブ、見せつけてあげましょう。きっと驚いた顔が見れますよ」

真姫「ふふ、あのツバサさんが喜びそうなことじゃない。いいわね、今度は絵里を知るみんなにサプライズ♪」

希「全くもう…。でも、うちも楽しそうやと思ってきたかも。せやね…またいつか、大学生になってもステージに立ちたいもの、やね…」

海未「感傷に浸っている場合ではありませんよ、希」

希「うん?あぁ…せやったね!」

ことり「まだ3学期は始まったばかり!卒業式までは時間はたっぷりあるんだから!」

真姫「もうやめる気で話してもらっちゃ困るわよ?希先輩っ」

希「うんうん!次のライブ、まだ何も決まってないけど…」

凛「次も、その次も、みんなを笑顔にさせるライブをお願いするにゃ!」

花陽「そうだね、私たちは…笑顔のスクールアイドルなんだもん」

花陽「じゃあ、始めよう!次のライブの相談!」



花陽(こうしてC☆cuteは、UTXのスクールアイドルはこれからも続いてゆく)

花陽(子供の頃に思い描いたほど、華々しく、煌びやかな世界ではなかったけれど)

花陽(でも、今の私が見ている景色は、誰かが涙するような、そんな世界ではなくて)

花陽(だれもを笑顔にしてくれる…そんな、楽しいステージ)

花陽(この私の「今」を、いつか誰かが夢に見てくれるように)

花陽(あなたの夢見た世界は、ここにあるんだよって、伝えるために)

花陽(あなたの見せてくれた景色を、私も見せられるように)

花陽(私たちは、続いてゆく)








もしライブ! 最終回

おわり

エピローグ




…拝啓、西木野真姫様。


突然のお手紙で、驚かせて申し訳ありません。

明日に備えて今日は練習を控えるように言われたのですが、これといってやることがなく、

突発的にこうして手紙を綴ろうと考えたのが経緯になります。


もう、あなたがいなくなって半年以上が過ぎました。

既に衣替えも終わり、あなたの着たことのない夏服がUTX学院に溢れかえっています。

ライブの時の衣装も、どんどん露出の多いものが増えて、ちょっと恥ずかしいです。

私たちが進級してから、いろんなことがありました。例えば…




花陽「…うーん」


そこまで書いてから、何を書けばいいのか、迷った。

元々文章を書くのが得意ってわけじゃないから、あえてこんな文体に挑戦しなくてもいいと思うけど。

でも、真姫ちゃんに向けた手紙なんだから、丁寧に書かなきゃ。

…届くことはない、私の自己満足、なんだけどね。


花陽「さてと…どうしようかな」


書く事がないわけではないの。

ただ、書きたいことが多すぎて、何から書けばいいのかわからないや。

そうだなぁ…、じゃあとりあえず、思いついたことから書いていこう。

まずは…穂乃果さん。あの人は、とても変わりました。

とても笑って、とても泣く、感情表現が激しい…ふふ、まるで真姫ちゃんのような人に。

海未さんやことりちゃんによれば、この穂乃果さんが本当の穂乃果さん…だそうなんだって。

真姫ちゃんの世界の穂乃果さんも、そうなのかな?

どうして一番初めに思いついたが穂乃果さんなのか…それは、後で説明するとして、次は。

じゃあ、海未さんとことりちゃん。二人は、あまり変わっていません。

アイドルも今までどおり続けていて、海未さんは作詞をして、ことりちゃんは衣装を作って。

でも、ひとつ変わったことがあるとするなら、それは。

今まで、ふたりでいることが多かった海未さんとことりちゃんが。

今は、三人でいるところをよく見るようになった、ってことかな。

笑顔も、心なしか多くなったような気もします。

次は、真姫ちゃん。…あ、あなたのことじゃなくて。

私と同じクラスの、真姫ちゃん。そう、今年は同じクラスになったの。

そして、なんとね!真姫ちゃんは、今学期のクラス委員長に選ばれたんだ!

もしかしたら、あなたの印象が色濃く残っていて、それも一因になっているのかも知れないけど。

でも選ばれた真姫ちゃんはね、しっかりとその役目を果たしているの。

前の物怖じした真姫ちゃんは何処へやら…、今ではクラスのみんなの意見をよく聞く、リーダー気質のある子になりました。

赤いメガネを光らせて、ホントに委員長キャラみたいで…。

最近はよく、三年のにこ先輩と話しているところも見かけます。アイドルのことだったり、世間話だったり。

上級生でしかもライバルのA-RISEの一人だっていうのに、とても親しげで…私が羨ましいくらい。

知らない人ともよく話してて、真姫ちゃんもとても、変わったと思う。

…そう、変わったといえば。

アイドル専攻も、変わりました。とても、去年のアイドル専攻とは思えないくらいに。

今でも三専攻で成績トップの子をA-RISEに選抜する、ってスタンスは変わってないんだけどね。

でも、ある程度スクールアイドルとしての基本が身に付いたら、そこから抜けて。

自分たちで別のスクールアイドルを目指す、って選択肢を選べるようにもなったんだよ。

A-RISEと比べると、ハンデもあるけれど。でも、誰もアイドルの道を諦めないで済む、そんなUTXに…変わってきています。

きっとこれも、真姫ちゃんのなそうとしていた革命、なんだよね。

あ、それでね。ツバサさんも絵里さんもいなくなったアイドル専攻を、誰が指導しているか、なんだけど。

これは実は、去年から決まっていたことで。

実はね…凛ちゃんが、アイドル応援部の凛ちゃんが、今はアイドル専攻の指導をしています。

ふふ、すごいよね。アイドル応援部がアイドル専攻の指導…だなんて。

けど、希さんの時代を考えたら、元の鞘に戻った、ってことなのかな。

凛ちゃんは、足のリハビリをしながら、今年度からずっと指導を続けています。

松葉杖をついて、私のプレゼントしたアンクレットをつけて。

病室で凛ちゃんから、アイドル専攻の指導がやりたい、って聞かされたときはビックリしたけれど。

ツバサさんたちから正式に任されたことだって聞くと、私も応援して。

今では優しすぎず厳しすぎずの名指導者として、名を馳せているそうです。

そのおかげ、でもあるのかな。

UTXは今では、スクールアイドルがたくさん在籍しています。

絵里さんと穂乃果さんの妹さんたちも、今では立派なスクールアイドルのひとりになっていて。

ただ、練習場所の確保も必要で、まだまだ問題は残されていそうです。

これからはこういう問題も、私たちで解決して行かないと…ね。

そういえばこの間、街中で希さんに出会ったんだ。

絵里さんも一緒にいて、仲良さそうにしてた。

休日にふたりで遊びにいくくらいに、親密な仲になってるみたい。

顔合わせればにらみ合っていた頃が、嘘みたいです。

C☆cuteの噂も街に轟いているようで、明日のライブも、見に来てくれるって。

絵里さんは、ちょっと悔しそうにしてたけど、でも応援してくれるって言っていたよ。

街中では時々、メジャーデビューした前A-RISEのポスターを目にします。

名前も少し変えて、新しく活動を始めた3人だけど、やっぱりプロの世界は厳しいみたいで。

けど、ツバサさんたちならきっと…プロの世界でも頂点を取れるよね。

私も、ファンの一人として目が離せない限りだよ!



花陽「…そして」



最後に、C☆cute。

ここまで、隠してきたけれど。

実は、第2回ラブライブがこの春から夏にかけて開催されて、そして。

私たち…ラブライブの本戦に出場します。

地区予選で、今のA-RISEを打ち倒して。

今日は、明日の決勝大会に向けて、身体を休めてるってことなんだ。

自分でも信じられないけど、私たち…あのA-RISEに勝ったんだよ!

追いつけないほど遠くに感じていた穂乃果さんとにこさんを、追い抜いて。

その結果が発表されたとき、穂乃果さんは…とても泣いてた。

ツバサさんに顔向けできない、本戦に行けなくて悔しい、とにこさんや海未さん、ことりちゃんに抱きついて。

始まる前から、どちらかが本戦には残れない戦いだったけど…それが分かっていても、悔しいものは悔しくて。

その穂乃果さんの泣き顔が、今でも私の心に残ってる。だから、最初に思いついたのが穂乃果さんだったんだ。

けど、昨日穂乃果さんに直接言われた。絶対に優勝してって。

A-RISEとしては連覇は無理でも、UTXのスクールアイドルとして、優勝してほしいって。

私の手を握って、ファイトだよって。

前、握手してもらった頃の手より、ずっとずっと、火傷してしまいそうに温かい手のひらの温度。

彼女の思いも、ステージの上に連れて行く。

そして、優勝するんだ。絶対に…!

だから、この手紙を読んだら、真姫ちゃんも…見に来て欲しいな。

私たちのライブ。ラブライブの、決勝大会に。

届くことのないこの手紙が、何かの手違いで届くことを祈って。



小泉花陽より



花陽「…ふぅ」


思いついたことをゆっくり書いていたら、もう日が沈みそう。

手紙はこのくらいにして、封筒にしまおう。

渡せなかったプリクラ写真を、封の代わりに貼って…よし。

引き出しの中にしまって、ベッドに横たわる。

明日のために、これでもかというほど練習してきて。

それでも私は、不安で仕方ない。

ごまかそうとしてきた胸の高鳴りを、どうしても意識してしまうの。

ラブライブ、優勝…。

夢見てきたこの絶対的な目標を前に、私は恐れているのかな。

名ばかりでも、C☆cuteというスクールアイドルのリーダーとして。

数々の想いを背負って、何百人、何千人…ひょっとしたら何万という人の前に立つことを。

こんな私で、できるのかな。

どうしてもあなたに頼ってしまいそうになるの。

真姫ちゃん。

そんなことを思って、届くはずのない手紙を書いてしまった。



花陽「ダメだなぁ、私って…」



真姫ちゃんは、困ったときは誰かを頼れって言ったけど。

当のあなたは、誰かに頼る時も迷わなかった。

私は…迷ってしまう。

リーダーとして、頼ることに、迷ってしまう。

チームまで不安にさせたくないから、誰にも言えず。

一番頼りたいあなたは、ここにはいない。

考えれば考えるほど、緊張してしまう。



花陽「…はぁ」

花陽「もう一度、あの時みたいに…」

花陽「…背中を、押してもらいたいよ。真姫ちゃん…」



考えることに疲れてしまったからなのか、日々の練習疲れからなのか。

そのまま次第に瞼は落ちていき。

夕方なのに私は…ぐっすりと眠ってしまった。

「ねぇ、花陽」


ん?なにかな。


「あなたは、どんなアイドルになりたいの?」


どんな…アイドル?


「難しい質問かもしれないけど、思ったことを素直に聞かせて欲しい」


そうだなぁ…私がなりたいアイドル…。

やっぱり、みんなを笑顔にするアイドル、かなぁ…。


「んー…それでもいいけど、でも、本当にそれだけ?」


え?


「笑顔にするアイドルってだけなら、A-RISEだって、きっと世界中のアイドルだってそう」

「あなたの目指した笑顔のスクールアイドルは…それだけ?」


え、えっと…私が目指した、笑顔…。

それは…。


「…答えは、もう持っているはず」

「迷ったときはね、まず振り向いてみることよ」

「あなたの辿ってきた道が、そこにはあるんだから」スタスタ…


え、あっ…い、行かないでっ!!

まだ、まだ一緒にいたい…!

置いていかないでよっ!


真姫ちゃんっ!!

真姫「花陽っ!!」


花陽「ひゅびゅぇっ!!?」ビクゥッ!!


真姫「おわぁっ…!き、急に起きないでよ…」

花陽「ま、真姫ちゃ…?どうして…」

真姫「どうしてじゃないってば!今何時だと思ってるの!?」

花陽「何時って…」


時計に目をやる。

まだ8時だ。寝て2時間ほどしか経っていない。

でも、それにしては外が明るいような…?


花陽「も、もしかして今日って…」

真姫「ラブライブの本戦よ!!起こしに来て正解だったわね…」

花陽「う、う、嘘ぉっ…!?」


私はあれから、どうやら14時間も寝てしまったみたい。

どうしよう…!まだ出て行く準備してないよ!!


真姫「とりあえず着替えて!荷物は私が準備しておくから!」

花陽「ご、ごめん…!」アタフタアタフタ…



うぅ…最後までこれだ…。



真姫「はい!これ!」

花陽「う、うん…!」

真姫「忘れ物がないかチェックして!私下で待ってるからね!」タタタッ

花陽「わかった!…えっと、忘れ物、忘れ物…!」


念入りに持っていくものを確認する。それと、机周りに何か置いていないか。

衣装の小道具は基本ことりちゃんに任せているけど、自作のものは自分でチェックしないと…。

全部揃っているとは思うけど、一応、念には念を入れて机の引き出しを開く。

すると。


花陽「…あれ?」


入れておいたはずの手紙が、ない。

ここに確かに、昨日寝る前にしまったのに。

それとも、違う引き出しだったっけ…?



真姫「花陽ー!まだー!?」



下から真姫ちゃんが急かす。

時間も危ないんだった!は、早くしないと…!!

忘れ物はもうないと判断して、走り出す。

ラブライブ本戦会場

C☆cute控え室



海未「…えー、リーダーが集合に遅刻するハプニングもありましたが」

花陽「ご、ごめんなさい…」

ことり「緊張もしてるし、仕方ないよね…。数分だけなんだし許してあげようよ~」

海未「別に怒ってはいません。衣装も、全員着替え終わりましたね」

真姫「ふぅ…。ついにここまで、って感じね…」

ことり「本当なら希ちゃんもここに連れてきたかったけど…でも!」

海未「様々な人の思いを背負って、この決勝の舞台にたどり着いたのです」

海未「悔いのないように…全力のライブをしましょう!」

花陽「…うん」

真姫「花陽…やっぱり緊張してる?」

花陽「え…あ、えっと…その…」

ことり「し、深呼吸しよう!そうしたら落ち着くって!!」

花陽「あ、う、うん…。すぅ~…」


ガチャッ!!


花陽「っ!げ、げほっ!げほっ!!」

海未「だ、誰ですか急に…って」

真姫「凛…!どうしてここまで…」

凛「えへへ!いてもたってもいられなくて!一応凛もアイドル応援部のメンバーだしさ!」

ことり「そうだけど…」

凛「はいこれ!差し入れにゃ!!」

花陽「差し入れ…?ってこれ、ど、ドーナツ…」

海未「今からは食べられませんよ…」

凛「え、そうだっけ…」

ことり「くすっ…あははは!もう、凛ちゃんってばドジっこ~!」

真姫「もっと栄養ドリンクとかなかったわけ~?ふふふふ…」

凛「えへへへ…やっちゃったにゃ!」

花陽「ふふ…凛ちゃんのおかげで、少し緊張が和らいだかも。ありがとう」

海未「凛はアイドル応援部のムードメイカーですね。やはり、凛いてこその私たち…なのかもしれません」

凛「そう?そう言われると照れちゃうなぁ…。でも、来てよかったよ」

花陽「うん。…あ、そろそろ…」

真姫「次が、私たちの出番ね…」

ことり「…うん。じゃあ…」

海未「はい。…行きましょう」

舞台裏


花陽「…」ドキドキ…


真姫「やっぱりまだ、緊張する?」

花陽「あ…、…うん」

海未「しっかりしてください、花陽。それでは…」

花陽「わかってる。わかってるよ…」

ことり「…」

花陽「…もう、もう目前なんだ」

花陽「なのに…不安が…」

花陽(…不安が止まない)

花陽(助けて…!助けてっ…!!)



(「あなたは、どんなアイドルになりたいの?」)



花陽「…っ!」

花陽「私の、なりたいアイドル…」

真姫「…花陽?」


花陽(…そっか。そういう、ことだったんだ…)

花陽(うん、わかってたはずだよ。笑顔のスクールアイドルって、そういうことなんだって…)


花陽「…よしっ!」

花陽「みんな、聞いて!」

海未「な、なんですか…?」

花陽「私…緊張してた。こんな私が、こんなに…今までないほどの大勢の前で立って、大丈夫なのかなって」

ことり「そんなの、みんなそうだよ。わたしだって、不安だった…」

真姫「…私もよ」

花陽「うん。だから今までその不安に触れないように…押さえ込んできたけど、でも!」

花陽「今はその緊張を、その不安を楽しもう!」

海未「不安を、楽しむ…?」

花陽「うんっ!だって、こんなにドキドキするの、この大舞台でないと味わえないよ!」

真姫「…ふふっ。確かに、そうかも」

花陽「楽しんで、笑顔になろう!だって、私たちは…笑顔のスクールアイドルだもん!」

花陽「みんなを笑顔にして、そして私たちも笑顔でいられる…夢のようなスクールアイドルが、私たちだよっ!!」

ことり「…うん!知ってる!それがC☆cute!それが私たちのアイデンティティー!」

海未「おや、難しい言葉を…。そうです。笑いましょう。笑顔は見ている人を幸せにする魔法なのですから」

真姫「私たちが心から楽しんで、最高の魔法を見ているみんなに届けないと!」

花陽「私たちの心はひとつ!みんなを笑顔に…!」

花陽「私たちも含めて、全員!」

ラブライブ本戦会場

観客席



キャアアアアアァァァァッ!!



絵里「…すごい盛り上がり…」

希「そりゃあまぁ…多くのスクールアイドルを退けた全国の猛者たちが集まってるもんね」

にこ「一瞬たりとも目が離せない熱い戦いだわ…!」

穂乃果「あーあ、私もあそこに立ちたかったなぁ…。次は絶対に勝つんだから!」

希「次はC☆cute&A-RISE連合軍で出場する?」

絵里「ふふ…アリかもしれないわね」

にこ「それはさすがに…」


「…失礼。隣、座っても?」


にこ「え、あぁ…どうぞ」


「ありがとう」スワッ


にこ「いえいえお構いな…ん?え…、えぇぇぇぇぇっ!!!?!?!」

穂乃果「に、にこちゃん、急に叫んでな…えぇっ!?」

絵里「あ、あなた…!どうして…」

希「…その、手紙…」



「…約束、したからね」

「次に会うときは、ラブライブを優勝した時だって」

「しっかり、見てるんだから。負けたりしたら、承知しないわよ」

舞台裏


花陽「いくよっ!!」ビシッ!!

一同「はいっ!!」ビシッ!!

花陽「今まで頑張ってきた全てをぶつけよう!そして…」

花陽「絶対に、優勝する!」

ことり「うん!」 海未「当然です!」 真姫「もちろんよ!」

花陽「すぅっ…、1っ!」

ことり「2っ!」

海未「3っ!」

真姫「4っ!」

花陽「C☆cuteっ!ミュージック…」


「「「「スタート!!」」」」



ことり「よーし!いっくぞー!」タッタッタッ…

海未「待ってくださいよ!」タッタッタッ…

真姫「私が一番、目立つんだからっ!」タッタッタッ…


花陽「…」


みんなの士気は高まった。

これでいいんだ。


…けれど。

私の足はまだ、震えっぱなし。

強がり、言っちゃったかな。

緊張も、不安も、楽しもうとしているけど。

恐怖だけは、どうにもならない。

ガクガクと震えて、前に進めない。

早く、行かないと。

みんなが、待っている。待って、いるのに…!

動け、なくて…!!




トンッ



私の背中を、二つの手のひらが、押した。

私の足は、驚く程すんなり、前に進めた。



花陽「えっ…?」

振り返ると、そこには。



花陽「…凛ちゃん?」


凛「ど、どうしたのかよちん。みんな、行っちゃうにゃ」


花陽「…うん。ねぇ、凛ちゃん…」

凛「うん?」

花陽「今、私の背中…押した、よね?」

凛「うん!元気が出るようにって」

花陽「…それ、両手で?」

凛「えっ…うぅん、右手だけだけど…」

花陽「右手、だけ…?」



確かに私の背中には、ふたり分の温かみがあった。

二人に、背中を押された感触が、あった。



花陽「あ…」



(「私の勇気をあげたの。片手分だけ、ね」)


(「もう片手分は、きっと花陽が必要とした時にもらえるわ」)



花陽「…そっか」

凛「ん?どうしたの?」

花陽「うぅん、何でもない。早く、行かないとね」

凛「うんっ!頑張れかよちん!ファイトだよ!」




もう片手は、この時のために、だったんだね。


もう震えは、感じない。

恐れも、微塵も感じてない。

今はただ、楽しさを。


さぁ行こう。

みんなが待っている。


私は踏み出す。



輝かしい、夢のステージへ向かって。






もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~

おしまい

長らくお付き合いいただきありがとうございました 以上でもしライブ!本編は終了となります
…本編は、ですが
こちらでも懲りずに番外編やっていきたいと思います 感動が薄れるかもしれないけどやりたいと思ったならやれって皆が言ってた
まだ2レス分しか書けていないので少々時間はかかるでしょうが頑張ります それではまた次回 ほなな

完結おめでとうございます。

μ‘sのメンバーがUTX学院生という設定は面白かったですか、ちょっと不満が残ります。

前にも言いましたか、トップになる為に穂乃果に『必要ない物』だと言われ、縁を切られたのに『友達になりたい』と言われたらあっさり許すのはちょっと……って感じです(苦笑)海未とことりがいくら心が広いと言っても暴言を吐かれて縁を切られ、完全に他人扱いされたのにあれだけ変わった穂乃果から『仲直りしよう』と言われたから反省したと感じて海未達が許したのは分りますけど、それでも限度がある様な気がします。

仲直りするにしても凛みたいなドラマっぽい事や罪を償いたいという描写があれば良かったんですけど、無かったのが残念です。結局の所は穂乃果は何も失っていないんですよね、凛は足を故障してアライズを脱退しなきゃいけなくなり、絵里は持っていて権力を全て失いました、それに対して穂乃果は何も失わず、後悔もなくあれだけ酷い事を言っていた&してきて、拒絶をされてもおかしくない事をしていたのに海未たちからあっさり受け入れられ、『全てを拾い上げる』『それが私なんだ』と聞こえの良い事を言うだけで海未達に対してやってきた事は後ろめたさは無かったのかと言いたくなりました。

後、穂乃果が『一年を無かった事にしたくない』『途中からのやり直し』というのは加害者である穂乃果がいうのは違和感があります、そのセリフは海未がことりが言ってこそ意味があると思います。そしていつの間にか穂乃果は元の明るい性格に戻っていたというのも何かなぁって感じでした。


これはを抜きにしても設定自体は面白いと思うだけに少しの甘さが台無しにしちゃったという感じなので物凄く惜しい作品です。

長文すいまでんした。

訂正

長文ですいまでんした。

訂正2

長文ですいませんでした。

仰るとおり、穂乃果に対して詰めの甘さが残っていたかもしれませんね…
執筆当時はとにかく問題を解決させたい!と思いつつ書いていたので穂乃果の罪の意識に限らず、絵里の依頼をしてるのに自分はことうみとの関係に悩んでる等
ちょっと問題を抱えすぎたせいかそれぞれの描写への追い込みに意識が回っていなかったのでしょうね…
書いてるときは完璧やん!くらいの自信があったんですが、第三者の視点で見られるとやっぱり欠点も見えてくるんだなと痛感しました
でも欠点が見えるほどに読んで頂けたのはとても嬉しいです 願わくばもっと早くに出会いたかった…
次作にも引き続き付き合っていただけるとタメになります 感想ありがとうございました

追記

書き忘れてましたか、穂乃果の行動も良く分かりませんでした、絵里のやり方に従っていたのにいつの間にか(にこの脱退問題から?)反感や疑問を持ち始めたのならなんでもっと早く持ち始めなかったんでしょうか?どうして黙って従っていた人が盗聴器を仕掛けたりとか真姫に対して協力するのかよく分かりませんでした。

本編の穂乃果ならこの絵里を救いたいというのなら分かりますけど、この腐った穂乃果が憧れている絵里を救いたいと思うものなんでしょうか?長年、一緒だった海未とことりとの縁をトップになる為と切っておきながらそう思えるのが不思議です、そしてそんな穂乃果にこの真姫が『自分の知っている穂乃果だ』とか言って協力するのかよく分かりませんでした。


別に評論家ぶるつもりも完璧を求めているつもりもないんですけど、どうしてもこの辺りが気になったので投稿させて頂きました。

気を悪くしたのならすいませんでした。

穂乃果が絵里に疑念を持ち始めたのは仰るとおり、才能があると思っているにこを食い潰そうとしたところからで
反逆したきっかけは、キノの指導が単純に強さだけを求めるような練習とは思えなかったから、というつもりで書きました
今まではバックダンサーをちゃんと強く育てるための練習だったけれど、キノの指導は絵里卒業後の混乱をもたらす起爆剤としての意味もあったので
従来の練習とは差異を感じた結果、自分の信じる道を確かめるために真姫に協力した、ってところですかね

絵里を救いたいと思った正月時点での穂乃果はだいぶ丸くなってきています 度々「元の穂乃果に戻ってきている」とも書いていますし
海未とことりを切り捨てた頃はトップ争いに必死だったためにとってしまった行動で、心の底ではそうすべきではなかったと悔いています
描写不足な点もありますが理解して頂ければ幸いです

おつおつ!次回作も期待してる!

返信有難うございます。

何か細かい所ばかり指摘して粗探しみたいになっちゃってすいません。

自分はよく小説投稿サイトで色んなSSを読んでいたので色んな所が気になっちゃいまして……

二次創作なので描写不足部分があるのは仕方がないと思いますけど、重要な所はしっかり書いて欲しかったというのが本音です。

それに冷酷で非情、まさに最低と言っても良いくらいの人物だった穂乃果が自分の信じていた物が無くなり、求めていた強さが分からなくなったけど、雪穂の言葉で元の穂乃果に戻るきっかけになった(自分の理解不足じゃなければですけど)。それは分からないでもないですけど、少し説得力が無いな、と思いました。

例えばですけど、信じていた事や支えていた物がなくなり、強さが分からなくなった時にやはり精神的にも追いつめられて不安定な時に雪穂の言葉がきっかけで本来の自分を取り戻すという捻りを加えた展開の方か良かったんじゃないかなと(個人的な主観ですけど)

おつ!本当に面白かった
また書いてくれよな 番外編み楽しみにしてる


長文君が粘着してるみたいだが気にせず頑張ってくれ

>長文君が粘着している

とは自分の事でしょうか?

自分も小説を書いているので少し気になった所を言っただけですし、もし作者が迷惑を感じていたのならそれは謝ります。

だけど、自分は小説の感想として気になった所を言っただけなのに荒し扱いをされるなんて少し心外です。

うーわ、さっそく湧いてきた

気になるとこと言えば
絵里の後ろ盾で強権指導してた真姫ちゃんがあっさりやめて他ユニットでアイドル開始って時に
指導受けてたり辞めさせられたりした娘達からなんもなかったのかってとこだな
辞めた花陽に対してはゴタゴタあったからその部分がなんかアッサリしてるなと

自分は小説書いてるとかどうでもいいしこれはssであって小説じゃない いちいち言わなくていいぞ
意見とかは>>1的にありがたいかもしれないが長文は普通に鬱陶しい簡潔に纏めてくれ
俺も荒らしっぽくなったな ともかく>>1

>>462 これは二次創作であり、個人の趣味で投稿するものなのでそこまで求める必要は
ないと思いますが

肯定以外の感想は認めないニキ湧いてきたな
少なくとも長文君は至極真っ当な感想を述べていると思うが

信者が作品をダメにするってはっきり分かんだね

指摘を受けてない>>1の次回作より指摘を受けた>>1の次回作の方がより良いものになるでしょう。そしてその指摘はここでしかできないのだから

否定的な意見に対してアレルギーを発症している人は、悪意ある指摘と善意の指摘を履き違えないようにした方が良い
急に長文君やら粘着やら言い出す人が湧けばスレの雰囲気も悪くなる

>>468
すいません、自分の中ではssと二次創作の小説を同一に考えていたのでそれは謝りますし、これからは出来るだけ簡潔にまとめる様にします。

>>469
それはどうなんでしょうか、自分も二次創作を書いているので読者の感想や指摘とか物凄い有りがたいですけど。

えー、キノが指導して抜けた後どうなんに対しての返答ですが
他ユニットでアイドルやる、というより大半の一般生徒からすればC☆cuteにいた真姫ちゃんが1週間ほど専攻を荒らしてからすぐ戻った、という感じですので
まぁ真姫ちゃん単体よりもC☆cuteにヘイトは溜まったかもしれません だけどアイドル専攻生は大抵が元からC☆cuteにいい感情は抱いてないと思うし
個人への攻撃も真姫ちゃんのそれまでの人柄であったり花陽親衛隊の子達がいたりして迂闊にできなかった、ということでそこまで影響がなかったんじゃないかなと補正してもらえれば
メタ的な理由だと一般生徒の恨みを題材に話を書いてしまうとどうしても名もないモブが目立つことになってしまうのでなるべくそういう話は書かないようにしたかったのです
あといじめを話の軸にするとちょっと重すぎるかなぁと かよちんの件は親衛隊の諍いを無くしてステージを手伝ってくれる人員を確保するための話だったので

それでもって指摘の件ですが、僕個人としてはとてもタメになるので、ここが残念だった、ここがわかりづらかった等の指摘は全然オッケーです
次作を作る際の参考にもなりますし、説明できる点があるなら理解を深めてもらえると思いますし
ただ読み手としては「ssなんだから細かいこと気にせずに感じたまま面白かったでいいじゃん」って思うのもよくわかります
自分が面白いと思ったものに欠点がある、と事実を突きつけられると少なからず悔しい、と思ってしまうかもしれないので
最初、指摘があるなら個人のTwitterに直接おねがいしようかな、と思ってたんですが、他に読んでくれている人の理解も深まるかもと思い掲示板で返答することにしましたが
正論であっても不快に感じる人もいる点は考慮していなかったので、これ以降は具体的な指摘とかはTwitterかaskのurl貼っておくのでそちらで返答します
率直な感想とかは是非もうバンバン言ってくれるとモチベが上がるのでお願いします 長文失礼しました


えーそれで今日は、久しぶりにリアルタイムで更新します 推敲が甘くなるのが欠点ですがこうでもしないと書けそうにないっす
ゆっくりペースですがお付き合いください それじゃやっていくよ!


Twitter→@the_sox
ask→ttp://ask.fm/the_sox

12月末

希の家 リビング


希「ほわぁぁ~…ぬくぬくやぁ~…。こたつはいいよね…」

真姫「そうですねぇ…」

凛☆「人をダメにする機械だにゃぁ…。特に最近冷え込んできたからね…」

真姫☆「だらけちゃダメなのはわかってるけど…あふぅ…」


真姫☆(クリスマスのライブも終わって、しばらくはライブの予定もなく)

真姫☆(C☆cuteのみんなは集まって多少の練習はしているらしいけど、花陽は怪我で参加できず…)

真姫☆(負けても解散、ということにはならなかったこともあり、緊張の糸が切れてしばらくは身が入らないみたい)

真姫☆(練習もお昼くらいで切り上げて、束の間の冬休みを楽しむ方針みたいだけど…)

真姫☆(…私は穂乃果から頼まれた依頼もあって、こんなゆっくりしている場合じゃないのは、わかってるのに…)


真姫☆「…こう寒いと、どうしても何かをしようっていう気になれないのは仕方ないわよね…」

真姫「うん、わかる…。最近ハードな練習続きで体の休まる暇がなかったから、こうしてだらーっとする時間が気持ちいいのよね~…」

凛☆「わかるにゃわかるにゃ~…」

真姫☆「…ところでなんであなたがいるのよ、キノ」

真姫「久しぶりに希先輩の家にお邪魔したかったからよ。あなたに文句言われる筋合いなんてないでしょ?」

真姫☆「まぁ、そうだけど…」

希「ふー…、それにしても、確かに何もやる気が起きないってのはわかるけど…そろそろ年も明ける頃よね…」

希「毎年年始は神社でお手伝いのバイトしてたから、それには参加しないと…」

凛☆「あー、そういえばそだね。あれ、でもこっちの希ちゃんはバイトやめてたんじゃ」

希「ん?まぁ、その日だけお手伝いってことで。神社の人もうちの事頼ってくれてるし、これだけはやらんとね」

真姫「…ってことは、希先輩とは一緒に初詣、行けないってこと?」

希「あぁ、そうなるかな…。毎年のことやけどね」

真姫「そう…」

真姫☆「…毎年、ね。あなたはそれでいいの?希」

希「うん?」

真姫☆「去年は一人ぼっちだったからいいとして、今年…久しぶりに仲間ができたんだから、一緒に初詣、行こうって気にならないの?」

希「えっと…そう言われると難しいなぁ。行きたくないってわけじゃないけど、でも…」

真姫☆「行きたいんでしょ?じゃあ今年は行きなさいよ。やりたいことはやる!それがC☆cuteよ!」

希「うーん…。でも、お手伝いも必要やし。うちももう参加します、って言ってもたから今更キャンセルはできないよ」

真姫☆「希…」

凛☆「…じゃあ真姫ちゃんが代わりにお手伝いすればいいんじゃないかにゃ?」

真姫☆「ヴぇ!?」

凛☆「真姫ちゃんは希ちゃんにせっかくの初詣をみんなと一緒に楽しんで欲しいんでしょ?そのためなら自己犠牲の精神くらいなくちゃね!」

真姫☆「え、いや、ちょっとそれは…」

真姫「ナニヨ。自分から言い出しておいて自分が働くのは嫌なわけ?」

真姫☆「あ、あうぅ…そう、言われると…」

凛☆「てなわけで、代役は真姫ちゃんに任せて、希ちゃんはみんなと初詣、行ってきたらいいにゃ!ね?」

希「あははは…、なんか、そこまで言われたら…。…うん、せやね。初詣…随分行ってなかったし、行ってみようかな…」

希「真姫ちゃんも…いいかな?」

真姫☆「…はぁ。いいわよ!やってやるわよ巫女さんのバイト!!巫女のまきちゃんとしてどっかの熊と仲良くでもなんでもやってやるんだから!!」

希の部屋


真姫☆「…って言ったはいいものの…」


真姫☆(私にも予定は盛りだくさんなのよね…。穂乃果からの依頼もあるし、それに…)

真姫☆(花陽から、一緒に旅行に行こう、とも言われてたんだっけ。旅行ね…)

真姫☆(確かに私も思い出作りにどこかに行きたい気持ちもあるけど、絵里のことを解決しないままに旅行へ行く気分にはなれないし)

真姫☆(そうすると旅行へ行けるのはいつになるんだって話で…考えれば考えるほど、この世界へ留まる期間が伸びてしまう…)

真姫☆(本当ならクリスマスライブの日、希に書き置きを残す程度に去っていこう、なんて考えてたんだけどね…)

真姫☆(…まぁ、そんな甘い話もないか。立つ真姫ちゃんは綺麗に掃除をして帰る、って言っちゃったくらいだし…)

真姫☆(だけどその掃除が終わるのはいつごろになるやら。もうこの際3学期が終わるまで居着くっていうのも…)


真姫☆「…ない。とは言い切れないのがなんだか、恐ろしいところね」

真姫☆「心境的にも…ちょっと居心地がいいとすら感じちゃってるし」

真姫☆「…ここは私の居場所じゃ、ないはずなのにな」

凛☆「どったのさっきからブツブツ?」

真姫☆「ひょわっ!?き、聞いてたのね…。ただの考え事よ」

凛☆「そう?もしかして本気で巫女さんのバイト嫌だったり?希ちゃんも本当に嫌なら無理せんでも…、って言ってたよ?」

真姫☆「…それに関してはもう言っちゃったことだし、気にしてないわよ。やるなら本気でやってやるわ」

凛☆「おぉ、やる気勢だね~。ふふ、そんな真姫ちゃんに嬉しいお知らせ!」

真姫☆「何?」

凛☆「どうせ真姫ちゃんはバイトなんてやったことないだろうからってことで、凛も一緒についていくことにしたにゃ!いえ~!」

真姫☆「ハァ?凛が…?どうしてよ」

凛☆「も、もっと喜んでもいいじゃん…。どうして、と言われると返答に困るけど、まぁ真姫ちゃんと一緒にバイトする経験もしたかったし、それに…」

凛☆「真姫ちゃん、いつ目眩で倒れるかわかったもんじゃないじゃん?それのためにさ」

真姫☆「…あぁ。そうね。そういえばそんな症状も抱えていたわね…」

凛☆「それに…はい。これ」スッ

真姫☆「うん?お薬…?チートすぎるからこの世界じゃ作らないって話だったんじゃないの?」

凛☆「これは時空振動の目眩を抑える酔い止めみたいなものにゃ。即効性はあるけどあくまで抑える、程度だから完全になくすことはできないけどね」

凛☆「これくらいはやらないと、真姫ちゃん不意に死んじゃったりなんかしちゃうと危ないし」

真姫☆「縁起でもないこと言わないでよ。…でも、ありがとう。そうね、こんなところで死んじゃったりなんかしたらシャレにならないわ」

凛☆「そうそう!ちゃんといつかは無事に生きて帰るんだよ!」

真姫☆「…うん。そうよね。帰る、か…」

凛☆「ん?どうかした?」

真姫☆「…別に。っと、それより、私バイト初挑戦じゃないわよ?前にも一度神社のバイトしたことあったんだから!」

凛☆「お?そうだったんだ。どんなことしたの?」

真姫☆「えーっと、たしか掃除をしてたらにこちゃんがお守りを買いに来て、どさくさにまぎれてお薬を渡したらUTXの屋上から投身自殺をしそうになったからデュープキスで窒息させて気絶させたわね」

凛☆「…やっぱ凛がついてないと大変なことになりそうだにゃ」

真姫「お邪魔しました。そろそろ帰ります」

希「うん。またいつでもおいでね」


バタンッ


真姫☆「キノ、帰ったの?」

希「うん、晩ご飯までいてくれてもよかってんけどね。そこまでは厄介になれないって」

希「こたつで4人で鍋パーティとかやりたかったな~」

真姫☆「そう。…鍋ね。もうすっかり真冬だものね。にこちゃんの時もしたけど…」

凛☆「鍋!おぉ!いいねいいね!凛も鍋食べたい!今日はお鍋にするかにゃ?」

希「ふふ、凛ちゃんがそこまで言うなら3人でも鍋にしよか。材料あったかな~?」

凛☆「なかったら凛がひとっ走り買いに行ってくるよ!ふふふ、お肉たっぷり買い込んで、シメにラーメン…!」

真姫☆「魚もいっぱいね」

凛☆「絶対ヤダ!!」

真姫☆「…好き嫌いしてると胸が成長しないわよ」

凛☆「じゃあ真姫ちゃんもみかん食べなよ!希ちゃんみたいになれないよ!」

真姫☆「別にみかんは食べられないくらい嫌いってわけでもないんだけど…。希ほどの化物おっぱいはいらないし」

希「うん~?なんか言ったかな?」

真姫☆「…いえ、何も」

希「…っと、材料は一通りあるね。シメのラーメンもインスタントならあるよ」

凛☆「よっしゃ!お鍋~お鍋~…」

真姫☆「…凛は魚苦手だから、入れないであげてね」ボソッ

希「ん?んふふ…意外と真姫ちゃんも思いやりある人やね」

真姫☆「どうせ食べるなら…楽しく食べたいでしょ?」

希「うんうん。じゃあまだ早いけど野菜切る準備に…」


ヴィィィィ… ヴィィィィ…


凛☆「にゃ!?誰!?股に入れてるやつ!」

真姫☆「携帯電話に決まってるでしょ!何変な想像してんのよ!」

希「おや、うちの電話か。誰から…」

希「えっ…?」

真姫☆「ん?どうしたのよ」

希「…」ピッ

希「…もしもし?」

希「うん、うん…。わかった。携帯…スピーカーにするね」

真姫☆「ちょっと希…いったい誰から?」

希「聞けばわかる…」ポチッ


『…あー、あー。聞こえてる?希と…そして、西木野真姫さん?』


真姫☆「…っ!こ、この声って、まさか…」

真姫☆「綺羅ツバサ…!?」

特に指摘とかないけどTwitterフォローしました
リアルタイム更新は大変そうだ 頑張れ

ツバサ『えぇ、こんにちは。今、時間大丈夫?』

真姫☆「大丈夫…って、まぁ大丈夫だけど、なんの用なの?突然…」

ツバサ『ちょっと…頼みたいことがあって』

真姫☆「た、頼みって…」

希「それって真姫ちゃんに?」

ツバサ『正確にはアイドル応援部に、なんだけど』

真姫☆「…頼みって、具体的に何よ?」

ツバサ『ちょっと前に、凛の足の怪我のことで絵里がアイドル専攻の指導を辞めさせられたじゃない?』

ツバサ『彼女、指導だけじゃなくてA-RISEのマネジメントも取り巻きの下級生数人と行ってくれていたんだけど…』

ツバサ『絵里がいなくなったおかげで、まともなマネジメントができなくなっている状態なのよ』

希「船頭が居なくなれば船は挫傷する…ってことかな」

ツバサ『…まぁ、そうね。下級生の子たちは絵里の指示に従うことが常だったせいで自分での判断力に欠けているみたい』

ツバサ『悪いけど、そんな子達に私たちのマネージャーは務まらない、って思って、あなたに連絡したの』

希「つまり…アイドル応援部への依頼は、うちらの誰かが…」

真姫☆「…A-RISEのマネージャーになって欲しい、ってこと?」

ツバサ『えぇ、そういうこと。ほんの少しの間でいいの。30日と、31日だけ』

ツバサ『その日はA-RISEの年末イベントがある。数少ないファンとのふれあいに、今年の集大成となるライブ』

ツバサ『必然的に移動も多くなるから、タイムスケジュールをきちんと管理できる子に来てほしくてね。誰か一人』

真姫☆「なかなか忙しそうじゃない…。急ごしらえのマネージャーで大丈夫なの…?」

希「本来の応援部はそういう時のために作られたものやからね。わかった。じゃあうちが…」

ツバサ『…アイドル応援部なら、誰でもいいんだけど』

ツバサ『願うなら私は…真姫さん、あなたに来て欲しいの』

真姫☆「えっ…!?」

希「なんでっ…?うちの方がそういうことには慣れてるし…」

ツバサ『もちろん希、あなたの手腕は高く評価しているわ。安定を望むならあなた一択なんでしょうけど』

ツバサ『真姫さん、あなたは…UTXを大きく変えた。あなたにお願いすればもしかしたら、私たちにも今以上の何かが訪れるかも、なんて思って』

真姫☆「無理言わないでよ!買いかぶり過ぎよ…。二日の、しかもマネージャーで何が変わるって言うのよ」

真姫☆「…それに、今は色々忙しいの。あなたたちのマネージャーまでやっている暇は…」

ツバサ『…ない?そう、残念ね…。私も無理言うつもりはないけど…』

ツバサ『でも、A-RISEのマネージャーなんて滅多にできる体験じゃないわよ?今まで聞けなかったことだって、聞けちゃうかも』

真姫☆「別に、私はあなたたちのミーハーなファンってわけでもないんだからそんな、今更聞きたいことなんて…」

真姫☆「…あっ」


真姫☆(…ある)

真姫☆(A-RISE自体のことではないけれど…今、とっても聞きたいことが)

真姫☆(彼女たちならもしかしたら…かなり重要なことが聞けるかもしれない)


希「…真姫ちゃん、なんか用事があるみたいやし、やっぱりうちが…」

真姫☆「…いえ、いいわ希。私、やる」

希「えっ…」

真姫☆「…年末の二日、A-RISEのマネージャー…やってみるわ」

ツバサ『ふぅん…』

希「え、いいの?なんか用事があるみたいな素振りだったけど…」

真姫☆「いいの。年末に大変な仕事が入るのは結構キツいかもだけど、貴重な体験ができるかもしれないなら…それも面白いでしょ?」

希「真姫ちゃんがいいって言うならうちも口を挟まへんけど…」

ツバサ『…つまり、私たちのマネージャーになってくれるって依頼、受けてもらえるのね?』

真姫☆「えぇ、受けましょう。その代わり、ちゃんとあなたも言ったことは守りなさいよ?」

ツバサ『うん?』

真姫☆「今まで聞けなかったこと、聞かせてもらうから」

ツバサ『あぁ…ふふ、いいわよ?ちょっと踏み込んだプライベートくらいなら、真姫さんになら教えちゃうカモ』

真姫☆「…そういうのはいいから」

ツバサ『あらそう?じゃあ、当日の予定をそっちに送信しておくから、夜までには確認しておいてね』

ツバサ『改めて夜、もう一度連絡するわ。その時に具体的な行動プランを聞かせてね』

ツバサ『それじゃ…またね。しーゆー』ピッ


真姫☆「ハァ…、嵐のような人ね…」

希「…マネージャー、か」

真姫☆「ん?どうしたの?」

希「あ、いや…うちの知ってる頃のA-RISEにはそんなのいなかったから、相当忙しくなったんやなーって」

真姫☆「そうなんだ…。…って、そういえばさっきから凛の姿がないんだけど」

凛☆「あ、話終わった?」

真姫☆「あ、いた。何してたのよ?」

凛☆「いや、凛が声出しちゃ面倒なことになるかなって」

希「あー、そっか。まだツバサちゃんには凛ちゃんのことも…それに、真姫ちゃんのことも話してないもんね」

真姫☆「あぁ…彼女らは私たちが異世界人であることは知らないものね…。入院しているはずの凛の声が聞こえてきたらどういうことかってビビるわよね」

真姫☆「あなた、意外と思慮深いのね」

凛☆「意外は余計だっつーの。…で、真姫ちゃん、マネージャーやるんだって?」

真姫☆「うん、まぁ…利害が一致したなら、それもいいかなって」

凛☆「そっか…。うん、別にいいんだけど…」

真姫☆「うん?」

凛☆「…どうせなら、年末は一緒にいたかったにゃ。ゆっくりごろごろしたかった」

真姫☆「…あぁ、そう、ね…」

凛☆「ねぇねぇ!だったら凛も一緒に連れてってよ!真姫ちゃんと一緒にいたいにゃー!」

真姫☆「だ、ダメだって!凛がいるなんて知ったらビックリでしょ?それに凛とは今までずっと一緒だったんだから少しくらいいいじゃない…」

希「んふ、凛ちゃん、真姫ちゃんのことが大好きなんやね?」

凛☆「当たり前だにゃ!あー、今年も一緒にこたつでみかんを…」

真姫☆「みかん汁を目にかけられたかったって?」

凛☆「…あー、それがあったにゃ。いや、それは勘弁だから心置きなく行ってきていいよ」

真姫☆「はいはい。手のひら返しが早いんだから…」

夕方


凛☆「お、おぉぉぉぉぉぉ…!!」


グツグツ…


凛☆「鍋だにゃー!美味しそう~~!」

希「具沢山のちゃんこ鍋やよ。熱いから気ぃつけて食べよ?」

凛☆「わかってるにゃー!いただきまーす!あむっ…はふはふ…」

凛☆「んふー!おいひいにゃ!」

希「ふふ、それはよかった。…ところで真姫ちゃんは、いつまで携帯いじってるん?もう晩ご飯ですよー?」

真姫☆「わかってる。ツバサから送られてきたスケジュールの確認よ。…にしても」

真姫☆「確かにすごい詰め詰めなスケジュールね…。移動もそうだけど最終日のライブも昼と夜の2部構成だし…」

真姫☆「売れっ子のプロアイドルでもここまでの予定は入れないと思うんだけど…やっぱり、相当人気なのね、A-RISEって」

希「真姫ちゃんの世界にも、A-RISEはいたんでしょ?どうやったん、そっちは」

真姫☆「それは…私は知らないわ。興味もそこまでなかったし」

真姫☆「だけど、ここまでじゃなかったと思うのよね…。A-RISEは年が明ける前に既にμ'sに敗北していたんだから…」

真姫☆「これほどまでに過剰なイベントを開くくらいなら、きっと私たちにも余裕で勝てたはず…」

真姫☆「多分μ'sのメンバーがUTXに集まったことによって、スクールアイドルの人気が拡散せずA-RISEに一点集中して、私たちの世界よりも更に人気になった、ってことかしら…」

凛☆「あー、そっか…。μ'sがいなかったら東京のスクールアイドルの人気はほぼA-RISEに集まるもんね…。いや、他にもいたんだけど…」

希「はぁ、あのA-RISEが負ける、か…。しかもそれに勝ったのが…うちら、なんてね。想像がつかないわ」

真姫☆「そうね。それにきっと…」

希「あ、お肉みっけ。いただき!」

真姫☆「あ、ちょっ…!私が話してる隙に!」

希「前にも言ったはずやよ~?お鍋は戦争なんやからねぇ~~!」

凛☆「ふふふ、気を抜いたものから死んでいく…!ホント戦争は地獄だにゃー!フゥハハハハー!」

真姫☆「フルメタルジャケットネタ何回目よ…。えぇい!話してる暇はないわ!私も鍋の戦乱に飛び込むんだから!」

凛☆「ほう、どこまでやれるか…って凛の皿から奪っていくのは流石に反則すぎるにゃー!」



真姫☆(…それにきっと、この世界のA-RISEには…)

真姫☆(もしかしたら、私の世界のμ'sですら歯が立たないのではないかと思ってしまった)

真姫☆(それはUTXで過ごすうちに感じた、アイドル専攻の厳しい実態を知ってしまったからなのか)

真姫☆(絵里が加わったことによって、実際にA-RISE自体が強化されたからなのか)

真姫☆(もしくは…)

真姫☆(…あの日、アイドル応援部で語った、綺羅ツバサ。彼女の隠すコンプレックス)

真姫☆(ダンスが苦手であることを乗り越えて、トップアイドルとして君臨する姿に)

真姫☆(下手をすれば…私の知る誰よりも、王者としての貫禄を見せつけられたから、なのかもしれない)

その夜


ツバサ『ふわ、ほわぁぁぁ~~~…』


真姫☆「…」

あんじゅ『こ~ら、ツバサちゃん?大きなあくびしてると後輩ちゃんに舐められるわよぉ?』

ツバサ『だって、夜は弱くてぇ…。いつもならもうパック貼って寝る準備…ふわぁぁぁ…』

英玲奈『最近は練習もピークだったからな…。眠くなるのはわかるけど…』

真姫☆「…これが、王者の貫禄…ね」

あんじゅ『ん?何か言ったかしら?真ー姫ーちゃんっ!』

真姫☆「あ、いや別に…」

あんじゅ『あーん、真姫ちゃんの声ってホント可愛らしいわよねぇ…。食べちゃいたいくらい』

真姫☆「声を食べたいってどういう意味…」

英玲奈『…こんなことに付き合わせてしまって本当にごめんなさい。今回もツバサの思いつきだったから…』

真姫☆「いいわよ…。そっちもマネージャーいなくて困ってるんでしょ?プライベートでも気を張るのは大変なのはわかってるし、多少は気にしないわ」

英玲奈『あぁ、いや…。うん、そう…だが』

真姫☆「…?」

ツバサ『はふ…。私がこんな状態だからとっとと終わらせましょ…。早く寝て早く起きる…それこそ健康の秘訣…』

真姫☆「そうね。リーダーさんが眠たそうすぎるからとっとと済ませるわ。それで、当日のスケジュールを確認して考えたんだけど…」


真姫☆(私なりに彼女たちから与えられたスケジュールをどうしたら破綻せずに進められるか考えて)

真姫☆(移動時間、トークの切り上げ方、ライブのリハ準備等の設定を細かく説明)

真姫☆(初めてにしてはなかなかに頑張ったと思うんだけど、相手方の反応は…)


英玲奈『あー…、うん。いいんじゃないか。上出来だ』

あんじゅ『ふふ、ばっちオーケーね!もう完全にチェックメイト!』

真姫☆「ど、どうも…(チェックメイトって何)」

ツバサ『うん、聞いた限りならそのスケジュールで行動すれば問題なさそう。ありがとう、真姫さん』

ツバサ『じゃあ私先寝るから!当日、よろしくね!グンナイ!』ピッ

真姫☆「あ、先に落ちた…。なんというか…思ってたよりマイペースなのね、彼女」

英玲奈『…あぁ、マイペース。ツバサを表現するのにこれほど適した言葉もないな』

真姫☆「もっとクールな人かと思ってたわ」

あんじゅ『それは表の顔っ。本当は結構ムチャなことする子なんだから』

英玲奈『クール、なんて思われているなら、きっとあいつにとってはそれこそ一番の喜びだろう。なにせ、騙すことが趣味のような女なのだからな』

真姫☆「人聞き悪すぎるでしょそれ…」

英玲奈『だがそれが、綺羅ツバサというアイドルを形成している重要なファクターだ。もっとも、彼女にしてみれば知られたくないことではあるだろうけど』

あんじゅ『驚く顔がツバサちゃんの一番の栄養分だもんね。ヤな趣味してるわ~、ホント』

真姫☆「あなたたち、実は仲悪いとかじゃないわよね…?」

英玲奈『大の仲良しだよ。…ではそろそろ、私たちも寝るとしよう』

あんじゅ『すぐ会うことになるでしょうけど、それまで元気でね?バイバ~イ』

英玲奈『…何を知らされても、恨まないでくれよ。それじゃ、おやすみ』

真姫☆「え、えぇ…おやすみなさい」

ピッ

希の部屋


真姫☆「はぁ~…、なんだかどっと疲れが…」

希「んふ、ツバサちゃんたち、結構ハチャメチャだったでしょ?」

真姫☆「あぁ…そうね。アイドル応援部とも関わりがあったものね」

希「うんうん、あの頃からツバサちゃんは目立ってたな…。成績はお世辞にも良い、とは言えなかったけど…」

希「全然めげなかった。むしろ壁があればあるほど面白い、って感じの…破天荒な子、だったかな」

真姫☆「…破天荒の意味間違ってるわよ。大体わかるけど」

凛☆「でも、凛たちの世界でも結構そういう兆候あったよね?」

真姫☆「そう?」

凛☆「ほら、UTX前で映像見てたら急に出てきて…」

真姫☆「…穂乃果の腕を引っ張っていったわね。そういえばそんなこともあったっけ…」

凛☆「UTXをライブの舞台に使ってみない?って提案してくれたり、ハロウィンのVTRでも編集で変身したりして…」

凛☆「やっぱり元から人を驚かせる…というか、楽しませるのが好きな人なのかもしれないね」

希「突発的な提案で周りを困惑させることも多かったけど…でも、ツバサちゃんは誰も考えもしなかったことをやってのけてた」

希「まさに根っからのエンターテイナー…。彼女がA-RISEに選ばれることに、疑問を持った子なんて誰ひとりいなかったよ」

真姫☆「なるほどね…。彼女たちの生態にもちょっと興味が湧いてきたかも」

真姫☆「本当に聞きたいことを聞いたあとは、色々個人的な質問もさせてもらおうかしらね」

希「前のインタビューじゃ専攻のことくらいしか聞けなかったもんね。いいと違う?」

凛☆「好きなラーメンとかも聞いてきて欲しいにゃ!」

真姫☆「それ聞いてどうするつもりよ…。ふぅ…30日まであとほんの2日…、余りにも急だから緊張してきたわ」

凛☆「やっぱ凛も行っちゃう?」

真姫☆「却下。イメージトレーニングでなんとか乗り切りましょう」

希「うちらには応援することしかできないけど、真姫ちゃんのマネージャーとしての初仕事やからね。頑張ってね!」

凛☆「頑張れ!」

真姫☆「他人事なんだから…。はいはい、頑張りますって。希も、練習明日もあるんでしょ?頑張りなさいよ。昼までじゃなくて」

希「うっ…。し、精進します。そ、そろそろ寝よか!明日も早いし!」

凛☆「そだねー。凛は全然眠くないけど」

希「凛ちゃんもはよ寝ないとお肌に悪いよ!それじゃ、うちは寝ます!おやすみ!!」バサッ

希「ぐぅ…」

真姫☆「相変わらず神速の就寝ね…。健康的だけども…」

凛☆「夜ふかししても凛の天才肌はピッチピチのままだって証明されてるからいいもんねー。グラベルしとこ」

真姫☆「…また花陽から説教喰らいたいのかしらね?」

凛☆「な、なんのことでしょうかねー?」

真姫☆「…いいわ。私も寝る準備しないとね。…あ、その前に」

真姫☆「凛、私がいない間…この世界の絵里のことについて、調べていてもらえない?」

凛☆「絵里ちゃん…?どして」

真姫☆「…そういう依頼が来たの。いいから、あなたならそういうの得意そうでしょ?」

凛☆「探偵事務所の所長でもないんだからちょっと無茶ぶりっぽいにゃ。まぁ、できるだけ頑張ってみるけどさ」

真姫☆「お願いね。頼りにしてるから」

そして…


12月30日


希の家 玄関


真姫「それじゃ、行ってくるから」


希「うん、行ってくるんやで…。元気でね…」

凛☆「寂しくなったら、いつでも帰ってきていいんだよ…!」


真姫「別に遠征に行くわけじゃないんだから大げさでしょ…」




スタスタスタ…


真姫「結構早めに出てきたけど、大丈夫よね。迷ったりしないわよね…」

真姫「前みたいに…実はA-RISEの罠で、後ろ手に縛られて拘束されてどこかに…なんてことは…」

真姫「…もうご勘弁いただきたいわね」

真姫(ちなみに必要ないと思ったから今日は☆型ステッカーは置いてきたわ。久しぶりのすっぴん真姫ちゃんね)

真姫(いやちゃんとメイクはしてるわよ)

真姫「…心の中で誰に突っ込んでるのよ私」



スタスタスタ…



真姫「ふぅ…たしかこのあたりで待ち合わせのはず…。少し早く着いちゃったけど…」

真姫「うっ…柄にもなくマジで緊張してきたわ…。上手にできなかったらどうしよう…」

真姫「今までは穂乃果の真似事でなんとかできてたけど、誰かのマネージャーなんて初体験すぎるわよ…」

真姫「うー…、うー…」ソワソワ…


ブロロロロロロ… キィッ

ウィーン…


「おーい!真姫さーん!」


真姫「…うん?この声…」



ツバサ「真姫さん、こっちこっち!」


真姫「あ、ツバサ…。うぇっ!?な、ナニヨあの車…」

真姫「あんな車、学生が私用していいものなの…?」

真姫(私は見慣れてる方だけど…あんな高級車で迎えに来られるとは思ってなかったからビックリだわ)

真姫「と、とりあえず車に乗り込みましょう…」

車内


バタンッ…


ツバサ「おはよう、真姫さん」


真姫「お、おはよう…。中、こんなふうになってるのね…」

ツバサ「ふふふ、ビックリした?」

真姫「え、えぇ…すごくビックリした」

ツバサ「でしょ?驚くわよね…、この車。A-RISE特権っていうのかしら」

ツバサ「色々ついててこの中で寝泊りできそうなくらい。あ、喉渇いてる?ドリンクあるけど」

真姫「い、いい…。ちょっとトイレ行きたいくらいだから」

ツバサ「そう?じゃあ今からあんじゅと英玲奈を迎えに行くから、その際にトイレ、行きましょうか」

真姫「あ、お願いします…」

真姫(…マネージャーだっていうのに、いきなり体調を気遣われてちゃしょうがないわね…。くぅ…)

ツバサ「あっ!」

真姫「っ!?な、何…?」

ツバサ「トイレって大きい方?小さい方?」

真姫「ち、小さい方だけど、それが…?」

ツバサ「ふふ、よかった。アイドルが大きい方なんて外でしちゃったら、スキャンダルよ?気を付けないと」

真姫「…」

真姫(つ、疲れる…)



十数分後…


バタンッ

真姫「お待たせしました…」


あんじゅ「そうよ~?ちゃんと家で済ましてこないといけないんだからね?」

英玲奈「まぁ、緊張しているなら仕方がない。こちらも無茶を言って来てもらっているんだし、ちょっとくらいは平気だ」

真姫「…ごめんなさい」

ツバサ「まぁまぁ、トイレくらいならロスのうちに入らないわよ。じゃあ早速、最初の会場に向かいましょうか」


ブロロロロ…


真姫「…最初の会場…、えっと…」パラパラ…

真姫「ファンミーティングとグッズのお渡し会ね…。時間はたしか…」

ツバサ「ねぇ、真姫さん?ちょっといい?」

真姫「な、何?今スケジュールの確認で忙し…」

英玲奈「…西木野の気を楽にさせるためにも早めに言っておこうと思っておいた事なんだけど…」

あんじゅ「怒らないで聞いてね?」

真姫「…え、何…?」


ツバサ「…マネージャーなんて、ホントは最初から、いないの」





真姫「は?」

今日はここまで
元々もしライブはA-RISEのスピンオフの代わりに始めた作品だったのにA-RISE全然目立ってないから今回はA-RISEメインのお話です
A-RISE好きだけどアニメ以外の媒体での彼女らほとんど知らないので多少性格や呼称が公式と異なると思いますがまぁ今更ですよね
じゃ、次回もよろしくね! ほなな

作者さんへ
もしライブ μ‘sメンバーがUXT学院生だったらという小説を自分も書いて宜しいでしょうか

連投ですいません。
貴方の掲示板にコメントを投稿したいんですけど、英語でよく分かりません、どうすればいいでしょうか

うーんつまらん

頼み事を聞いてくれる探偵事務所の所長?
鳴海かな?

貴方の掲示板にコメントが投稿出来なかったのでpixivの方でメッセージを送っておきました。

宜しければ返信をお待ちしています。

今追いつきました。乙です。
前のもしライブを元々読んでいましたが、
追加された海未ちゃんの話が良かったです。
今のA-RISE編も期待してます。

μ'sがUTX学院生だったら、という設定の作品を書く事に関しては自分にどうこう言う権利はないので別に構いませんが
もしライブ!を彷彿とさせるような単語・設定等(専攻やC☆cuteなど)はなるべく排除してアイデアを同じとする別作品として下さればありがたいです
askへの登録方法がわからなかったのであればTwitterの方にPixivのURLがありますのでそちらに登録していただいてそこからメール送って下されば大丈夫です
あと今回はちょくちょくもしライブ!以外の過去作ネタを挟んでいます 探偵事務所の所長云々のそのうちです
興味があるならトリップで検索してね!(姑息な宣伝)
海未ちゃん回は自分でもかなり迷走感ありましたが面白かったならよかった… A-RISEもかなり迷走してますが面白くなるといいよね…
長くなりましたが嘘みたいだろ、これ前書きなんだぜ… とっとと続きやっていきます

真姫「…あ、あの…」


ツバサ「ふふっ…」

真姫「えっと…?どういう、こと…?最初からいない…って?」

英玲奈「ほら見ろ。やっぱりこうなる」

あんじゅ「まだ理解できてないからいいけど、しちゃったらどうなるかしらね…」

真姫「ちょっと!せ、説明しなさいよ!イミワカンナイわよ!それだけじゃ!!」

ツバサ「…つまりね。電話で言ってたでしょ?『絵里がいなくなったからマネジメントできる人間がいなくなった』って」

ツバサ「あの話は…ウソなのよ」

真姫「っ!?」

ツバサ「今までA-RISEのスケジュールは私たち自身で決めていたの。言っても、普段は本業のアイドルより忙しくないし…」

ツバサ「絵里がしてくれていたときもあったけど、別にいなくてもなんとかなるレベル。今日だって…忙しくはあるけれど、全然大丈夫」

ツバサ「だからホントはね…、マネージャーなんて必要なかったってことなのよ」

真姫「ハァ!!?わ、私は必要ない…!?じゃあなんで呼んだのよ!?なにゆえ!?」

英玲奈「お、落ち着け…。怒るのもわかるけど…」

ツバサ「一つはそう…。あなたが驚く顔が見たかったの。そういうの、好きだから」

真姫「ぬぁっ…!」


真姫(そうだった…。ツバサは英玲奈も言っていたように、驚かせるのが好きな人…)

真姫(それは以前のアイドル応援部での取材の時、ツバサ本人の口からも聞かされていたことではあった)

真姫(そういえば昨日の夜から、英玲奈の口ぶりが少しおかしかった気がしたけれど…)

真姫(私を騙すことを気の毒に思っていたから、なのかしら…。っ、だとしても!)

真姫(単なるサプライズにしては趣味が悪すぎるわよ!しかも大事なA-RISEのイベントのある日、だっていうのに…!)

真姫(私のために時間を割くとか、ちょっと…バカすぎるわよ!)


真姫「そんなことのためにっ!?あなた…」

あんじゅ「まぁまぁ待ってって。それだけじゃないわよ」

真姫「えっ…」

英玲奈「本当に驚かせるためだけに私たちまで付き合うはずないだろう。とはいえ、少々馬鹿げているのは否めないけど…」

真姫「…サプライズ以外の理由があるとして、それはなんなのよ…?」

ツバサ「二つ目は…、あなたのことが知りたくて。西木野、真姫さん」

真姫「私のことが知りたい?」

ツバサ「えぇ。…9月からUTXに来て、小泉花陽とスクールアイドルを立ち上げ…怒涛の勢いで仲間を増やし…」

ツバサ「わずか数ヶ月でA-RISEの喉元に迫るまでに追いついた、あなたの手腕」

ツバサ「どうしたらそんなことができるのか、そもそもあなたは何者なのか…」

ツバサ「…どうして、二人いるのか。それを聞いておきたかったのよ」

真姫「っ…。やっぱり、気づいてたのね…」

ツバサ「うん、もちろん。…それで、教えてくれるかしら?」

ツバサ「狭い車内に、逃げ場はないけれど…ね」

真姫「…っ」ゴクリッ

真姫(先程までバカバカしいサプライズに子供のように喜んでいた綺羅ツバサの顔が)

真姫(今は獲物を喰らおうとする蛇のような顔つきへと変貌していた)

真姫(ただ直接電話で聞こうとせず、こうしてウソをついてまでマネージャーとして雇ったのは…)

真姫(…私を車という監獄に閉じ込めるため)

真姫(口を割るまで、何をしようと外に漏れないように…)


真姫「…」

あんじゅ「も、もう~…ツバサちゃん?あまり真姫ちゃんを怖がらせるような真似、しちゃダメよ?」

英玲奈「確かに、西木野が二人いる、という事実には薄々感づいてはいたけど…別にお前に危害を加えるつもりはない」

英玲奈「ただ、興味があるのは確かだよ。…どうやってここまでたどり着いたのか、知りたい」

真姫「…そう」

ツバサ「教えてくれる気になった?」

真姫「…別に、隠すつもりもないわよ。いざとなれば私は、簡単にここから逃げることだってできるんだし」

英玲奈「ほう、それは…すごいな」

真姫「だから正直に言うわ。信じてもらえないかもしれないけれど、私はこの世界の人間ではありません」

真姫「もっと…もう少し平和な世界から来ました」

あんじゅ「…つまり、異世界人っていうこと?」

真姫「えぇ。別の世界の人間よ。そこで私は、一年間スクールアイドルをして…ラブライブで優勝した」

英玲奈「っ…、一年で…?」

真姫「もっと言えば春から冬にかけて、だから…実質1年の4分の3くらいかしら」

ツバサ「…冗談では、ないのね?」

真姫「マジのマジ。まじえんじぇーよ。…私がいたグループの名前、それが…μ's」

英玲奈「μ's…」

あんじゅ「…その異世界人の真姫ちゃんはどうして、この世界に…?」

真姫「えっと…そこから先を詳しく説明すると長くなるんだけど…」

真姫「…じゃあここはカットね」


~カット~


真姫「…ということなの」

ツバサ「正直な感想を言っていい?」

真姫「どうぞ?」

ツバサ「…精神病かなにかかしら?」

真姫「…まぁ、真っ当な感想でしょうね、それが」

英玲奈「だけど普通に考えたら信用できるはずないだろう…?その…空飛ぶクリニックとやらは」

あんじゅ「そういうことが普通にできる世界なの?真姫ちゃんの世界は」

真姫「…こればかりはちょっと、色々と世界観が微妙なところもあるから言いづらいわ」

真姫「でも、私は精神病患者ではないの!今言ったのは全部…本当のこと」

英玲奈「…信じがたいことではあるけれど、彼女がC☆cuteというスクールアイドルをここまで育て上げたのは事実」

英玲奈「実力から鑑みるに、いくら現実離れしていても事実、と信じるほかないだろう…」

あんじゅ「まー…ちょっとアタマがおかしいけど天才、って人もいないことはないでしょうけどぉ…。真姫ちゃんはそんな子には見えないものね」

ツバサ「異世界人で、別のスクールアイドル…。あとドクター真姫…」

真姫「ドクター真姫はこの際無視してもらっていいから。ちょっと恥ずかしいけど説明せざるを得なかっただけだから」

ツバサ「…わかった。あなたの話は信じましょう。信じるとして…」

ツバサ「その世界では、負けたのよね?私たちは…A-RISEは」

真姫「…えぇ。負けたわね。って言っても、ラブライブは2回目。一度目のラブライブでは優勝してたけど」

ツバサ「一度優勝した、とかは重要じゃないの。負けた、って事実が大事…」

ツバサ「…そう、負けたんだ」

あんじゅ「ツバサ…」

真姫「べ、別に負けたといってもこの世界のA-RISEとは事情も違うしそれに…」


ツバサ「…羨ましいな」


真姫「…え?」

ツバサ「…いえ、なんでもない」

ツバサ「そう、ということはとっても強いのね。μ'sは」

真姫「え、…えぇ。そうよ!μ'sは名実ともにスクールアイドルの伝説になったの!ふふ、すごいでしょう?」

あんじゅ「真姫ちゃんもそのうちの一人、だからシロウトでも簡単にA-RISEに追いつくことができた、ってことぉ?」

あんじゅ「…そんなワケないわよね。いくら経験があっても話がうますぎるわ」

真姫「まぁ、そうね…。追いつけたのはきっと、μ'sのメンバーがUTXに来ていたから。C☆cuteのメンバーは全員、μ'sのメンバーでもある」

真姫「そしてバックダンサーズ…来期A-RISEと、絵里もね」

英玲奈「それはまた、えらく偏っているな…。だけどそう考えると…」

ツバサ「穂乃果も凛もにこも…絵里も、みんな信じられないほどの才能を秘めていた。それと同じくらい、C☆cuteのみんなも才能に溢れているなら」

ツバサ「A-RISEが負けても、おかしくないのかもね」

真姫「私たちの場合、才能というか…」

真姫「…いえ、これは説明のしようがないわ。でも、だいたいこれでわかったでしょ?もう私に用はないんじゃないの」

ツバサ「うぅん、ダメ」

真姫「えっ」

ツバサ「マネージャーとして雇ったことには変わりないわ。今日と明日、みっちり付き合ってもらうからね?」

真姫「…そう、なっちゃうのね…。うぅ…」

英玲奈「まぁ、一応ちゃんとスケジュールを考えてくれたんだ。それに従って行動するつもりだよ」

あんじゅ「それに、真姫ちゃんも私たちに何か聞きたいことがあるんじゃないの?ツバサが言ってたけど」

真姫「あっ!そうよ…!それのために来たようなものだったわ!忘れるところだった…」

ツバサ「それで、何が聞きたいの?私たちの赤裸々なプライベート?騙しちゃったお詫びに大抵のことなら教えてあげるけど」

真姫「ちょっと気になるけどそうじゃなくて…今絵里のことを調べてるのよ!特に、絵里の夢について」

あんじゅ「絵里ちゃんの?」

真姫「あなたたちなら何か知らないかなって…」

ツバサ「ふぅん…絵里ねぇ…。あなたが絵里を知りたがるなんて意外だけど、知りたいなら答えるわ」

英玲奈「…と言っても、絢瀬とまともにアイドル以外の会話をした覚えはそんなにないし…」

あんじゅ「夢のことなんてわからないわ…。ごめんなさいね」

ツバサ「私もね…。絵里はあまり自分のことは語らない人間だったから、具体的なことは知らない…」

真姫「…そう」

ツバサ「でも、一度だけ…夢って言葉は聞いた覚えがある」

真姫「え?なんて言ってたの?」

ツバサ「…『あなたたちといると、自分の夢を忘れてしまいそうで、怖い』」

ツバサ「そう言っていたわ。たしか、去年の夏ごろだったと思う」

真姫「まだ絵里が変貌する前…。ありがとう、少しは役に立つかも知れない情報ね」

真姫「夢を忘れたくないから絵里は、ああなってしまった…?うぅん…まだわからない事だらけね…」

あんじゅ「…っと、じゃあこれで真姫ちゃんの聞きたいことも済んだことだし、もう後は私たちのマネージャーってことよね?」

真姫「ゔ」

あんじゅ「マネージャーってねぇ?担当している子のいうこと、なんでも聞かなきゃいけないのよ?ムフフ…」

真姫「それは語弊がある言い方じゃない!?使いぱしりなら理解できるけど…!」

あんじゅ「大丈夫…!痛いようにはしないわ…!」

真姫「マズい…!目が冗談を言う目じゃないわ…!本気で緊急脱出装置を作動する可能性も…!」

英玲奈「はいはい。あんじゅのおふざけもいいけど。そろそろ目的地だ」

ツバサ「降りる準備しなさいよ」

あんじゅ「あう…。残念」

真姫「…助かったわ」

ガチャッ


英玲奈「…あぁ、これを渡しておくのを忘れていた。はい」スッ

真姫「ナニコレ」

英玲奈「私たちの名刺。いつもは私が渡すんだけど。ちゃんと会場の人への挨拶、頼んだぞ」

真姫「」

あんじゅ「まーさーかー?想定してなかった、とか言わないわよね?」

真姫「…スケジュール管理とかだけだと思ってました…」

ツバサ「こういう外部との上手な立ち回りもマネージャーの仕事でしょ?頑張ってね、真姫さん」

真姫「…はい」


真姫「え、えと…!今日はお世話になります!UTX学院のA-RISEです!よろしくお願いします!」

真姫「こちら名刺です!あ、今日はお世話になります!A-RISEです!名刺…あっ、今日は…あっあっあっ」



控え室


ガチャッ…


真姫「…」


英玲奈「おかえり。…もう疲れたか?」

真姫「あのね…。私は確かにC☆cuteを引っ張ってきたけど、それは私の世界のリーダーの真似事でもあって…」

真姫「…本来の私はこんなこと、やったことないのよ…。うぅ…疲れたぁ…」

あんじゅ「ふふふ、ちょっと意地悪しちゃったかしら?真姫ちゃんならなんでもこなせそうだからつい任せちゃったけど」

真姫「はぁ…穂乃果なら適役でしょうに…。いや、この世界の穂乃果はちょっと不器用そうだから…希とか?」

英玲奈「東條なら楽にこなしていただろうな。あいつほどの人材はそうはいないし…」

あんじゅ「あらら?また英玲奈の希ちゃん惚気?もうとっくに飽きちゃったかと思ってたのに」

英玲奈「だ、誰がっ…!」

ツバサ「もう、車の中じゃないんだから大きな声出しちゃダメでしょう?真姫さんが来ていつもより楽しくなるのはわかるけど」

真姫「私がいて楽しいってどういうことよ…。私ってそんなムードメーカー?」

あんじゅ「ムードメーカーとは違うかもしれないけど、一緒にいて楽しくなれそうよね。弄ると反応が面白いし」

英玲奈「まぁ、いつもの3人ではないから多少の刺激があるのは間違いないかもな」

真姫「…あぁ、そう。楽しくなるならいて意味はあったのかもしれないけれどね」

真姫「でも、一緒にいて楽しい、なんて…中学の頃に言われたらビックリしちゃうわ」

ツバサ「…そうなの?」

真姫「クラスに馴染めなくて、友達が少なかったからね。高校に入って…ホント、見違えるように変わったのかも、私」

英玲奈「…そうか。だとするなら西木野は、よほどいい友人に出会えたんだな。よかったじゃないか」

真姫「かもね。最高の…仲間たちのおかげね」

ツバサ「…本当、羨ましい」

真姫「えっ…。あなただって、仲間はいるでしょう?」

ツバサ「うぅん、真姫さんのことじゃなくて…」


「リハーサル準備できました!お願いします!」


真姫「あ、はい!分かりました!今行きます!ほら、行かないと」

ツバサ「…わかってる!さぁ、ついに今日が始まるわよ!気合入れていきましょ!」

英玲奈「あぁ」 あんじゅ「おっけい!」

色々やってたおかげで全然更新できませんでしたが明日もやるから許して
ゆっくりやったほうが話も練られるので…たぶん ほなな

やっぱり仮面アイドルのほうか

やる気がすこぶる起こらなかったので遅れましたがとりあえず続き

ファンミーティング会場


英玲奈「…で、予定ではここで登場する。その後はテーブルに着いて3人で会話…と」

あんじゅ「簡単な自己紹介と近況報告でちょっと喋ってからこの間の練習風景のブイを流して~…」



真姫「…ふぅん…。控え室でも車内でも騒がしかったけど…こういうところはやっぱり真面目ね」

真姫「いや、むしろ当たり前なんだけど!この世界に来る前ならA-RISEはずっと真面目なユニットだと思ってたのに…」

真姫「この数日で個性爆発3人組だと認識してしまった…。恐ろしいわね、素A-RISE…略して素-RISE」



ツバサ「…で、これどっち先にする?ジャンケン?」

あんじゅ「私はお便りタイムが先がいいかな~?」

英玲奈「ふむ、私もそうした方が…。あ、西木野、少しいいか」


真姫「…へっ!?な、何…?」


英玲奈「この後の○×ゲームの予行演習に観客として付き合って欲しい。用意しておいてくれ」

真姫「はぁ…、わかったけど」

あんじゅ「問題集は…よっと、これね。なかなかの難問ぞろいなんだから~。考えるのに苦労したのよ?」

真姫「へぇ…そういう問題も自分たちで考えるのね」

ツバサ「プライベートのラインは自分たちで決めないと、だからね。スクールアイドルだし、誰かが定めているわけでもないから」

あんじゅ「こういう普段の行いを問題にする基準も私たちの判断だものね。そもそも、私たちのことなんだから私たちが考えるのが一番ラクだし」

真姫「まぁ…そうだけど。行いが余りにもプロアイドルに近いから、ちょっとそのあたり混乱しがちなのよね…」

真姫「わたしたちはこんなところでファンミーティングなんてやったことないわよ…。すごいのね」

英玲奈「学校側が企画してくれているイベントだからな…。個人で立ち上げたグループとはまた話が違ってくるだろう」

あんじゅ「ホント、わたしたちってば恵まれてる~」

ツバサ「…えぇ、そうね。じゃ、そろそろ○×ゲームの練習と行きましょう。真姫さん、そこの椅子に座って」

真姫「えぇ。…すわりっ」

あんじゅ「ん、んんっ…。はーい!えー、ではここからは私たちのプライベートに迫る○×ゲームコーナー!」

あんじゅ「最後の最後まで正解を選び続けてくれた人たちには~…ちょっと特別なご褒美が!みんな、頑張ってね~!」

真姫「お、おぉ…。急にスイッチが入るのね…」

あんじゅ「うーん、会場のみんなのやる気が伝わってこないなぁ~?ご褒美、いらないのぉ…?」

ツバサ「クスッ…そうよ!もっと大きな声を出す!カモンッ!」

真姫「え、それ私に言ってるの!?」

あんじゅ「みんなー!ご褒美は欲しいかー!」

真姫「お、おー!」

英玲奈「ニューヨークに行きたいかー!!」

真姫「お、おぉぉー!!…え、ニューヨーク?行くの?景品?」

英玲奈「…すまない。言ってみたかっただけだ」

あんじゅ「珍しい英玲奈のボケも見れたところで第一問!えーっと…」

あんじゅ「ツバサちゃんが昨日食べたお夕飯はおでんである、○か×か…」

あんじゅ「○の人は腕で大きくまるー!ってしてね!×の人は腕で大きくバツ!」

英玲奈「さて、どっちかな?どっちかな?」

真姫「えー…、じゃあ○で。まるっ!」

あんじゅ「みんなの答えも決まったところで、正解発表!ツバサちゃん、どうぞ?」

ツバサ「正解は…×よ!昨日の夜はグラタンを食べたわ!」

あんじゅ「えー、というわけで全員間違いでした!ご褒美はナシ!ってことで!」

真姫「…あぁ、終了ね…」

英玲奈「まぁ本当に全員一度に間違えればそうなるだろうけど、そうそうないことだろうね」

ツバサ「んー…一問だけじゃつまらないし、もう一問くらい行っておく?」

英玲奈「いや、もう十分だろう。次の…」

ツバサ「ではもう一問!」

英玲奈「え、おい話を…」

ツバサ「リハーサルだけの特別クイズ!つい最近英玲奈は希の私服とお揃いの服を買った!○か×か!」

真姫「えっ…」

英玲奈「はぁぁぁぁぁぁっ!!?!!?お、おい、待てっ!!ツバサ!何を言っている!?」

あんじゅ「そして買ったはいいものサイズが合わなくてしょんぼりしていた!○か×か!」

英玲奈「いや待ってって!なんでお前たちがそれを知ってるの!?あれを着たのは自分の部屋で…!」

ツバサ「…私は服を買ったことしか聞いてなかったけど?あんじゅは?」

あんじゅ「その情報を聞いてカマかけちゃった~。だって希ちゃんの服だもん。そりゃあ、ねぇ…?」

英玲奈「ん、なぁっ…!!」カァァァ

真姫「あの、英玲奈さんってもしかして、希のことが…」

英玲奈「おい待てっ!違う、そうじゃないっ!!私は東條の服のセンスを気に入っているだけだ!いつもショッピングに行く時にセンスのいい服を着てきていると思ってだな…!」

真姫「え、いつもショッピングに…!?」

英玲奈「去年の話だぞ!モデル専攻はそういう…アレだ!服が気になるんだ!常々見習いたいと思ってついに買ったはいいもの…し、試着を忘れて衝動買いしたら、えっと…ちょっと私にはブカブカで…」

英玲奈「って何を言わせるんだ!恥ずかしいだろ!!」

真姫「自分で言ったんでしょ…」

あんじゅ「で、答えは?」

真姫「今の流れで×だったらあなたたちの演技力にびっくりよ。○で」

ツバサ「うん、正解。ご褒美に…何あげる?何欲しい?」

真姫「えー…じゃあどうせだし、記念写真でも」

あんじゅ「おっけーおっけー。次のチェキのリハーサルも兼ねられるしね。ほぉら、英玲奈も赤くなってないで、記念写真~」

英玲奈「な、なってないぃ…!」

真姫(統堂英玲奈はいじられキャラ…なのかしら)


スタッフ「では撮りますよ~。はい、チーズ」


パシャッ



ツバサ「はい、真姫さん。私たちとの思い出に、残しておいてよね?」

真姫「ありがとう。当分忘れないわ。…こんな賑やかなリハーサルはね」


あんじゅ「あはははははは!真っ赤っか!英玲奈顔真っ赤っか!!」

英玲奈「うわぁ…ホントだ…。恥ずかしい…」

真姫(リハもその後何事もなく終わり、後は本番まで控え室で待機することになったA-RISEと私)



控え室


あんじゅ「ふんふんふ~ん…。あは、やっ!ねぇねぇ真姫ちゃん!」

真姫「な、何かしら」

あんじゅ「この帽子とこの帽子、どっちがかわいい?」

真姫「えっ…」

あんじゅ「あ、それとこの眼鏡よりこっちの眼鏡ならどうかしら?あと最近寒くなったからマフラーっていうのもアリだと思ってるんだけど…」

あんじゅ「こっちの手編み風かそれともファーマフラー、どっちが似合う?私的にはこっちの色が好きなんだけどそうすると爪の色とミスマッチな気がするのよね…」

あんじゅ「別に今から変えてもいいんだけど。あ、それとこのリングとピアスだったら真姫ちゃんはどっち好き?愛され系オシャレ美女をイメージしたコーデなんだけど~…」

真姫「ごめんなさい途中からちょっと意識がどこか飛んでたわ」

英玲奈「…西木野はそういうの疎いみたいだから、いつも通り私に任せておいて。今日はー、そうだな…」


真姫「…な、なんだか私服まで色々気にしているのね…。私、あまり気にしたことなくて…」

ツバサ「ふふ、むしろ私服こそ、アイドルとして最も気合を入れるべき要素かもね。普段どんな服を着ているか、今日くらいしかみんなは知ることができないんだもん」

ツバサ「印象が今日という日でガラリと変わる。そのためには着ている服には本気で挑まないと」

真姫「と、いう割にはあなたは特に着替える様子はないのね…」

ツバサ「私は…あの二人がキメッキメすぎて、逆に質素な服を着ていたほうがアピールになるって英玲奈が言うから…」

ツバサ「そもそも私も、そんなにファッションに興味のある人間じゃないからね。どちらかといえばインドアな人間だし」

真姫「インドア…、ダンサー専攻がね…」

ツバサ「だってダンス嫌いだもの。運動は昔から大っ嫌い。代わりに歌が大好きで…暇な時間さえあればずーっと歌を歌ってたかも」

真姫「へぇ…ふふ、私もそう。一人になると歌を歌うことばかり考えちゃうのよね…」

ツバサ「作曲もしてるんだっけ?ふふ、実は私も作曲したりするの。A-RISEの曲は私の作った曲じゃないんだけどね」

真姫「作曲…」

真姫(そういえばあの時も、私の曲にアドバイスをしてきてたっけ…。でも、A-RISEの曲は作ってない、って)

真姫「A-RISEの曲はあなたの作った曲じゃなかったの?」

ツバサ「ん?えぇ…、アイドル活動と作曲の両方を掛け持ちするには…私にはちょっと難しくて」

ツバサ「ダンスが苦手なディスアドバンテージも背負ってるから、二人より人一倍頑張らなくっちゃいけない」

ツバサ「それに私の作る曲はA-RISEっぽくないし。スローテンポで穏やかな曲。そんなのばかりよ」

真姫「…でも、作曲できるなら自分の曲をA-RISEとして残したい、とは思わなかったの?」

ツバサ「思わない、こともないわ。でも、A-RISEとしてではなく…自分の曲として作った曲だし。それをA-RISEに押し付けるのもどうかと思うしね」

真姫「自分の、曲…。一人で歌うための、ってこと?」

ツバサ「ん?え、えぇ…。まぁ…ね」

ツバサ「…わ、私の歌のことなんて今はどうでもよくない?ちょっと語りすぎよね。あはは…」

真姫「え…」

ツバサ「英玲奈、次は私の服も見てくれる?どこか変えるところとか…」

英玲奈「ん?あぁ、わかった。ちょっと待っていて…」



真姫「…」

ファンミーティング本番十数分前…


あんじゅ「ふー…!いよいよ本番ね…!」

真姫「すごいガヤガヤしてる…。こんなに集まるものなのね…」

ツバサ「えぇ、ここまでの規模のものは初めてなんだけ…あ!」

真姫「っ!?な、何よいきなり大声出して…」

ツバサ「…忘れてた」

英玲奈「わ、忘れてた、って…一体なんのこと?」

ツバサ「真姫さん!」

真姫「は、はいっ!?」

ツバサ「今から観客の人たちに注意、言ってきてくれない!?」

真姫「えっ!」

あんじゅ「あ、そういえば…。いつもは会場のスタッフの人にお願いしていた観覧の際の注意点…」

英玲奈「…西木野に任せるつもりだったから、頼んでなかったんだったよな」

真姫「え、ちょっと!?私に任せるつもりって…」

ツバサ「マネージャーなんだからそのくらいして当然!…なんだけど、それを伝えるのを忘れていて…」

ツバサ「ごめんなさい。今からなんとかならない?カンペなら急いで作るから…」

真姫「き、急過ぎません!?今から、って…」

あんじゅ「えぇい…かきかきかきかき…!はい、真姫ちゃん!これ注意点!お客さんの前でおねがい!」

真姫「ヴぇっ…!」

英玲奈「ちゃんと失礼の無いよう、挨拶も忘れずにな」

真姫「ヴぇぇぇぇぇっ…!!」

ツバサ「あ、本番中もチェキ撮る時に呼ぶから、それもよろしくね?」

真姫「ヴぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





ガヤガヤ…  ガヤガヤ…


真姫「…」スタスタ…


オォォォ…?


真姫「えー、き、今日はその…ごほんっ!UTX学院、スクールアイドルA-RISEの年忘れファンミーティングにお越しいただきあ、ありがとうございますっ!」

真姫「えー、開演にさきださ…先立ちっ…注意点がいくちゅか…んんっ!!いくつかございます!!」

真姫「まず一つ目、えー、撮影、録音などの行為はおやめいただきたく候…。携帯電話の電源は切って…えー、えー…切ってください!」

真姫「二つ目ぇ…。あの、あの…う、うぅ…。す、すみません…」


ガ、ガンバッテー!!


真姫「あ、ありがとうございますっ…!あー…、二つ目はぁっ!周りのお客様に迷惑にならないように!常識の範囲内での盛り上がりでお願いします!」

真姫「注意を聞き入れていただけないお客様がいた場合スタッフが全身全霊を持って退場させますので覚悟しなさい!」

真姫「最後に!紛失盗難等の責任はUTX及びA-RISEは一切負いかねます!自己責任だから自分の身は自分で守りなさい!」

真姫「以上っ!開演までもうしばらくっ…、おま、おまちくださぃ…。す、すみませんでしたぁっ!!」

タタタタタッ…



「…な、なんだったんだ…」

控え室


真姫「うぅぅっ…、うぇっうえぇぇぇぇっ…」

あんじゅ「あー、よしよし…。ごめんね…、無理させちゃって…」

英玲奈「アイドルがそんな調子でどうするんだ…」

真姫「だって…ぐすんっ…だってぇ…、私イレギュラーには弱いんだもの…。こんな沢山のお客さんの前では特に…」

ツバサ「ちょっと意外だったわね、もっとそつなくなんでもこなせる子だと思ってたけど」

真姫「…言ったでしょう。私の虚勢は私の世界のリーダー…穂乃果の真似事に過ぎないんだもの」

真姫「穂乃果も大勢の前での発表にはてんで弱かったし…。私もこんな急に大役を任されるのには全然慣れてなくて…」

ツバサ「ふぅん…。そう…」

英玲奈「次からは事前連絡は忘れないようにする…。今回は私たちが悪かったよ」

あんじゅ「後は写真撮るだけだから、ね?リラックス、リラックス。ひっひっふー、ひっひっふー」

真姫「それラマーズ法じゃない…。妊娠とかしてないし…」

あんじゅ「ふふ、突っ込めるくらいに元気ならもう問題ないわね」

英玲奈「さて、そろそろ時間だ。入場曲が鳴り出す頃だし私たちも…」

ツバサ「…」

英玲奈「…ツバサ?」

ツバサ「え?あ、あぁ…何?聞いてなかった」

あんじゅ「ツバサ…ちゃん。また、あのこと?」

真姫「あのこと…?」

ツバサ「あー…、まぁ、ほんの少しね。…ごめんなさい、行きましょう」

あんじゅ「あ、うん…」

真姫「何が…」

英玲奈「…やっぱり、西木野を連れてきてしまったのは…間違いだったのかも、しれないな」

真姫「えっ…」

英玲奈「…悪気はない。ただお前の存在が…ツバサの未練をくすぐるんだろう」

英玲奈「私も行く。会場、きちんと見ておくんだぞ。寝たりしてはダメ、だからな」

真姫「あ、うん…。わかってるけど…」



真姫(…なんか、変な空気。今日の朝からだったけど)

真姫(時々ツバサから感じられる、憂いのようなもの…。まさか、彼女も何かに悩んでいる?)

真姫(No.1トップスクールアイドルであるA-RISEの綺羅ツバサに、なんの悩みがあるというの?)

真姫(未練、って…一体…)


真姫「なんだかまた、面倒なことになりそうな予感がしてきたわ…」

今日は特に何もしていませんでしたが気力が尽きたので次回
なるべく毎日更新するつもり たぶん ほなな

噛みまきちゃんかわいい

オーズのパロとやらも早く読みたい

毎日なんてなかった 二日分以上は更新したいところですがまだ途中なんで書ききってから貼っていきます 少々お待ちを
オーズパロはだからしばらくやらないってば!すまないねぇ… 設定が固まったらやるかもしれません 期待させてごめん

ファンミーティング中…


真姫「ふーん…」


真姫(写真撮り係として控え室に待機を命じられた私。備え付けのモニターから会場の状況を把握はできるけど…)

真姫(リハの様子からするに写真撮影って相当後よね…。それまではずっと待っておかなくちゃいけない)

真姫(結構時間を持て余す、わね…)


真姫「ただただモニターを眺めているっていうのも非生産的だし、んーっと、今日のこれからのスケジュールは、と…」

真姫(一応A-RISEのイベントとしては今日はこれでおしまい、ではあるのだけど、でも実質の本番は明日から)

真姫(明日は昼夜の2部構成のライブ。移動はないものの当然今日よりもハードになることは間違いない)

真姫(今日の後半はそのための…)

真姫「…場当たり、それとゲネ。こっちにはちゃんと手伝ってくれる生徒の子もいるのね…」

真姫「流石にA-RISEの三人で照明や音響の確認を全てこなすのは無理があるしね…。私たちも親衛隊の子たちに手伝ってもらってはいるけど…」

真姫「本番よりむしろこっちに時間を費やすのよね…。今日も結構な夜まで…」

真姫「…あ」

真姫(そこまで確認して、肝心なことを希に伝え忘れていたことに気づいた)

真姫(A-RISEのスケジュールばかり気にしていたけれど…)


ポチポチ…  プルルルルル…



ピッ

凛☆『あ、もしもし真姫ちゃん?どうしたのー?』

真姫「あぁ凛…。希は?」

凛☆『希ちゃんはまだお外にゃ。練習頑張ってるみたいだよー』

凛☆『それより真姫ちゃんこそ、今はA-RISEのマネージャー中でしょ?凛に電話なんてしてていいの?』

凛☆『ハッ…!まさか凛の声が聞きたくて仕方なかったから、それでお電話をかけてきてくれたのかにゃー…!?うぅ、感激だよ…!』

真姫「そんなラブラブカップルのようなことするわけないでしょ」

凛☆『ぶーぶー、凛と真姫ちゃんはラブラブじゃないのー?』

真姫「別にラブラブでもいいけど…今は違うの。えーっと、まだどうなるかはわかってないんだけど…」

真姫「もしかしたら今日、帰れないかも」

凛☆『え、そうなの?』

真姫「うん。A-RISEのライブ会場での練習がかなり夜までやってて、A-RISEも終わったらすぐに会場近くのホテルに泊まることになってる」

真姫「一応マネージャーだし、そこまで付き合うことになるかはわからないけど…。一応知らせておこうと思って」

凛☆『うー、そっかー。残念。真姫ちゃんが帰ってきたらまたお鍋パーティやろうと考えてたところだったのに~』

真姫「じゃあ鍋パーティは明日、お願いするわ。帰ってきてクタクタになっているところに体に染み渡るような…まぁ、別に疲れるようなことにはならないと思うけどね」

凛☆『うん、わかったにゃ!お鍋は明日ね!希ちゃんにも伝えておく!』

真姫「ありがと。んーと、それじゃあ今はこれくらいで…」

凛☆『んー?もう凛との電話は終わり?もうちょっと話したいにゃ。寂しいにゃー』

真姫「…別に話しててもいいけど…。何を話すことがあるのよ」

凛☆『この前凛に伝えたことなんだったの?ほら、絵里ちゃんのことについて調べて、だとか』

真姫「あぁそういえば言ってたわね…。何かわかった?」

凛☆『現住所とかは分かったけど…具体的に何を調べたらいいかはわかんないよ』

真姫「あー、そうね…。ちょっと頼み方が曖昧だったわね…。うーん、仕方ないわ…。今はそれのことはいい」

真姫「私が帰ったら色々詳しく話すから、その時におねがい」

凛☆『逆に真姫ちゃんは何かわかったことないの?』

真姫「あるといえばある、んだけど…ほとんど無いようなもの。そのためにA-RISEのマネージャーを引き受けたんだけど…」

真姫「なんだか徒労に終わりそうね。しかもそれ以上に厄介なこともありそうで…」

凛☆『厄介なこと?おやおや、ドクター真姫の本領発揮かにゃ?』

真姫「お悩み解決なんてガラじゃないことはなるべくやりたくないんだけどね…っと、会場に動きがありそうだから、そろそろ切るわね」

凛☆『おっけー。また寂しくなったらかけてきてもいいんだよー』

真姫「…わかったわよ。寂しくなったら電話する。じゃあ、またね」

凛☆『ん。バイバイにゃー』

ピッ


真姫「ふぅ。会場は…ジャンケンで最後の二人が撮影権を賭けて争っているところね」

真姫「ふふ…、醜い争いだわ…。もっともっと 争え、憎め…!」

真姫「…何邪神みたいなこと言ってるの私。もう少しでお呼ばれされそうだし、出ていく準備しておきましょう」




真姫(その後、最後まで書き残ったファンの一人とA-RISEの記念写真を撮影するために会場に出て行った私)

真姫(温まりきった会場の空気にやや気圧されつつも、今度こそそつなく仕事をこなした)

真姫(…最初から言われていればこの程度、楽勝なのよ。別に私がポンコツとかそういうわけじゃないんだから)

真姫(その後も多少のコーナーを経て、無事、A-RISEの年末ファンミーティングは終わることとなった)

控え室


ガチャッ


真姫「あ、お疲れ様」

ツバサ「ありがとう。ふー、ちょっと会場暑かったかも?」

英玲奈「ライブ会場ほど広くはなかったから、その分熱気がこもったのかもな」

あんじゅ「うえー、喉渇いたー、甘いものが飲みたーいー。真姫ちゃんなんか甘いの買ってきて~」

真姫「え、甘いの…?」

あんじゅ「塩分と糖分が足りないの!塩分はお菓子で補充するから甘い飲み物が飲みたい~」

真姫「わ、わかったわよ…。ジュースか何かでいい?」

あんじゅ「おっけ~」

英玲奈「あぁ西木野。私も飲み物。紅茶がいい。できればミルクティー」

真姫「はいはい。買ってくるわよ。ツバサは何かいる?」

ツバサ「うん?んー、特に思い浮かばないから…私も行くわ。自分の好きなの飲みたいし」

真姫「あぁ…いいけど」



自動販売機前


真姫「えっと、甘いジュースとミルクティー…。ジュースは炭酸ない方がいいのかしら…あんじゅってどっちが好き?」

ツバサ「あぁ見えて炭酸は結構飲む子だから炭酸でもいいと思うわ。私は…そうね…」

真姫「じゃあ炭酸…ここの自販機コーラにスコールにマウンテンデューに…ドクターペッパーまで置いてあるのね…。すごいラインナップ」

真姫「…ドクペにしましょう。怒られても知らなかったで通そう」

真姫「後はミルクティー…がないし!炭酸のラインナップは豊富なくせにアイスティーしか置いてない…。何よこの自販機…」

ツバサ「ねぇ、真姫さん?」

真姫「うん…何?」

ツバサ「C☆cuteはどこまでを目標としているの?」

真姫「え、何よいきなり…」

ツバサ「いいから、教えてよ」

真姫「目標…うーん、C☆cute自体の目標は具体的には決まってないのかも。ただ…みんなの夢見るスクールアイドルを現実にしてくれるような…」

真姫「そんなスクールアイドルになれることが、C☆cuteの目標と言えば目標なのかもね。正確には花陽の目標なんだけど」

ツバサ「夢見る…理想のスクールアイドル。ならそれを知らしめるには、もっと上に行くことが必要じゃない?」

真姫「あぁ…そうなるかもね。将来的にはラブライブに出場して…も考えてるのかな。私は知らないけど」

ツバサ「…私たちを越える、って目標はないのかしら?」

真姫「えっ…?越えるって…今のA-RISE?」

ツバサ「うん」

真姫「いや…無理でしょう…。それは」

ツバサ「でも真姫さんのいたμ'sは、私たちに勝ったんでしょ?」

真姫「勝ったけど…μ'sとC☆cuteじゃ話が違いすぎるわ。メンバーも、始めた時期も」

真姫「だからあなたたちを越える…までは流石に目指せないと思う。あなたたちも、もうスクールアイドルとして活躍できる時間はそう長くないんだし」

ツバサ「…うん。そうよね」

ツバサ「いえ、わかってたことよ。C☆cuteを初めて知ったときは、私たちの前に立ちふさがって来てくれるかも、なんて考えはしたけど…」

ツバサ「そうはいかないわよね…」

真姫「…ツバサ?」

ツバサ「…うぅん、なんでもないわ。次の予定も迫ってるし、帰りましょうか」ピッ ゴトンッ

ツバサ「はい、真姫さん」スッ

真姫「えっ…」

ツバサ「私のわがままに付き合ってもらっている少しのお礼。真姫さんの分よ」

真姫「あぁ、ありがとう…」

ツバサ「ずっと立ち話してると遅い、って英玲奈たちに怒られちゃうわね。行きましょ」

真姫「え、えぇ…」

真姫(ツバサの悩みが、なんとなく輪郭を表してきているような気がする…)

真姫「…って、これオランジーナじゃない…。みかん好きじゃないのに…」



控え室


英玲奈「…遅い」

真姫「ご、ごめんなさい。あの、これ…アイスティーしかなかったけどいいかしら?」

英玲奈「う、そうか…。まぁいいさ」

あんじゅ「私の飲み物はこれ?待ちくたびれて喉カラカラよ!いただくわね?」パシュッ

真姫「あっ…」

真姫(そ、そんないきなりドクペなんか飲んだらっ…!吹き出しちゃう可能性も…!)

あんじゅ「ごくごく…」

あんじゅ「ぷっはー!んー、この独特な香りと後味がたまらないわね~!」

真姫「あ…全然大丈夫だった…」

ツバサ「さて、喉も潤ったしそろそろ出発しましょう」

英玲奈「ごくごくっ…。ん、そうだな…」


ヨロヨロッ…


英玲奈「あうっ…」

あんじゅ「きゃっ…、大丈夫?英玲奈」

英玲奈「あぁ、なんだか目の前がフラフラして…。疲れがたまってるのかな…」

ツバサ「ちょっと?今からが本番みたいなものなんだからしっかりしてよね?」

英玲奈「わ、わかっているよ…。ふ、ふわぁぁ~…」

あんじゅ「英玲奈がこんな時間に眠たそうにしてるの、珍しいわね?体調悪いの?」

英玲奈「わからないけど…早く車に急ごうか…」

ツバサ「え、えぇ…」


真姫「…」

真姫「…多分さっき飲んだ冷たいアイスティーのせい…ではないと信じましょう」

車内


英玲奈「すぅ…すぅ…」


あんじゅ「あらぁ…英玲奈、ぐっすりね。やっぱり疲れがたまってたのかしら?」

ツバサ「練習中にふらつかれるよりいいでしょ。これからは本番よりキツいんだし、今のうちに体力を貯めておかないとね」

真姫「ここからはずっとリハーサルなんでしょう?…考えてみれば重いスケジュールね」

あんじゅ「失敗するわけにはいかない、大事な大事なライブだもの。いつもより大きな慣れない会場だし、ステージのことは誰よりも理解していなくちゃ」

ツバサ「言ってみれば今日のライブは、プロに近づくための第一歩、ってところなのかも。いつまでも学生気分での甘えは許されない…」

ツバサ「UTXという大きな後ろ盾がなくなった後も強く生きていけるように、今から心構えが必要なのよ」

真姫「…真剣なのね」

ツバサ「えぇ、とてもね。だから、今のうちに体験できることはなんでもやっておきたい、って気持ちもあるの」

ツバサ「こうして無茶言って真姫さんを驚かせたのもそのうちの一つね」

真姫「失敗の許されるスクールアイドルのうちに…ってことね。だからと言ってわざわざマネージャーなんて…」

あんじゅ「私は真姫ちゃんが来てくれてとっても助かってるわよぉ?いつも話さないような内容のことも喋れるしね」

真姫「そ、そう…。それなら良かったわ…」

真姫「…あ!そうそう、聞きたいことがあったんだった」

ツバサ「何?また絵里のこと?」

真姫「それじゃなくて…あなたたちはこのあと夜まで明日のライブのリハーサルじゃない?その後ホテルに泊まることになってるけど…」

真姫「私はどうしたらいいのかな、って…。マネージャーとして付き添うべき?それとも帰ってもいいの?」

ツバサ「あぁ、その事…。真姫さんが帰りたいのなら車を遣わすけど…私は一緒に泊まってくれた方が嬉しいかな?」

あんじゅ「私も♪いつもとは違うお泊りになりそうでワクワクしているのよ。英玲奈もいいでしょ?」

英玲奈「あ、ぅう…むにゃむにゃ…」

あんじゅ「いいって」

真姫「あぁ…そう言うのならそれでもいいんだけど…。宿泊費とかは…」

あんじゅ「それなら大丈夫!今日は二人部屋を二部屋分借りているから、真姫ちゃんの寝る場所なら空いているわよ!」

ツバサ「貧乏くじを引いて独り寂しく寝ることもなくなるし、空いたベッドも埋まるしで一石二鳥でしょ?」

真姫「…了解したわ。泊まることとします」

あんじゅ「やった!むふふ、ちゃんとこの時のためにね~、真姫ちゃんのパジャマだって用意してるんだ・か・らっ!」

あんじゅ「一人じゃ着る機会の少なかった超カワイイネグリジェ!お揃いのやつ~。ふふ、楽しみだわぁ~」

真姫「…ちょっと恐怖を感じるけど、大丈夫よね」

ツバサ「あー…、私たち以外に見られることはないから大丈夫じゃない?」

真姫「もっと怖くなるようなこと言わないでよ…」

英玲奈「にゅへへ…変な顔…。すぅ…すぅ…」

真姫「あなたの寝言の方が変だから」

ブロロロロ… キキッ


あんじゅ「…あ、着いたみたい。降りましょう~。英玲奈、着いたわよ~」

英玲奈「んぇぁ…?あ、あぁ…。降りる…」

ツバサ「もっとシャキっとしなさい。寝ぼけ眼のままの顔をファンの子たちには見せられないわよ?」

真姫「あぁ、そういえば手伝ってくれるUTXの生徒もファンの子だものね。ふふ、気が抜けないんじゃない?」

英玲奈「う。そうだったな…。ふっ!」シャキッ

あんじゅ「うんうん、その調子その調子~」



ライブ会場前


真姫「うわ、すご…」


あんじゅ「ここが明日の会場ね~。今までで一番大きなホールだわ」

真姫「本当にプロの人とかが使うところでしょう?それを単独ライブで使うなんて…」

真姫(さすがはUTX…ってところね。A-RISEであるのとそうでないのとでは、資金力に大きな差がある…)

真姫(毎年のように派手なA-RISEのパフォーマンスを見ていれば、自分たちで別のスクールアイドルを始めようと考える人は…いないでしょうね)

真姫「…知らなくて良かったかも」

英玲奈「何か言ったか?」

真姫「あ、いえ別に…」

あんじゅ「で、真姫ちゃんなんだけど…。きっとこれから数時間は構ってあげられなくなっちゃうよね」

ツバサ「あぁ、そうね…。ずっとステージで音響や照明の指示をすることになると思うから…」

真姫「私も手伝えること、ない?」

英玲奈「…いや、いい。事前に他の生徒には綿密に役割を指示してあるから、それに関しては問題ない」

あんじゅ「んー、それに…C☆cuteの真姫ちゃんのこと、良く思ってない子も沢山いると思うし。あまり目立つ行動はダメダメよ?」

真姫「う、そういえばそうね…。じゃあ完全フリー…?」

ツバサ「強いて言えば熱が入ると時間の感覚が疎かになっちゃうかも知れないから、冷静な真姫さんが予定に遅れが生じてる時とかに注意してくれるのがありがたい、かも」

ツバサ「まぁ…誰も遅れに気づかない、ってことも滅多にないけど、万が一の時にね?おねがい」

真姫「つまり、当分はやることない、ってことよね…。はぁ…」

あんじゅ「ごめんね。やっぱり、帰る?」

真姫「…いえ、任せられた仕事は最後までこなしてこそのマネージャー真姫ちゃんよ!マネージャーとしてちゃんとA-RISEのステージを把握しておかないと」

英玲奈「ふふっ…、こちらから振った無茶にも全力で応えてくれる。いい子だな、西木野は」

真姫「前までは困った子扱いだったんだけどね。これもμ'sのおかげかしら」

ツバサ「そうなのかもね。じゃあそろそろ…会場入りしましょうか」

会場入り中…


ガヤガヤ… ガヤガヤ…


真姫「うわ、思ってたより人が多い…」



UTXスタッフA「おはようございます!リハーサル、一緒に頑張りましょう!」

ツバサ「うん。みんなで一緒に頑張ろう」

UTXスタッフB「ありがとうございますっ!」


<キャー!!ツバササマカッコイイ-!!


UTXスタッフC「ファンミお疲れ様でした、英玲奈様!ライブは明日友達と見に行きます!」

英玲奈「ありがとう。リハーサルも気を抜かないようにな」

UTXスタッフズ「「はいっ!」」



真姫(わぁ…こう見るとやっぱり…、すごい…)

真姫(μ'sとは憧れのベクトルが違う方向…。絵里の目指していたように、生徒の一人ではなく飽くまで別世界のアイドル…)

真姫(それが、A-RISE…なのね)


ポフッ

真姫「きゃっ…!何…?」

あんじゅ「帽子。あと眼鏡」

真姫「えっ?」

あんじゅ「つけて」

真姫「え、えぇ…」ツケツケ…



UTXスタッフD「あれ、あんじゅ様…。その子は誰ですか?」


真姫「っ…」

あんじゅ「うふ。この二日のために雇ったマネージャーの子よ。私の…んー、いとこの子なの!」

真姫「はっ…!?」

UTXスタッフD「あ、身内の方なんですか…?」

あんじゅ「そうなのー。優秀なんだけど人見知りだからそっとしておいてあげてね?」

UTXスタッフD「わ、わかりました…」


<ドコカデミタコトアルヨウナ…?



あんじゅ「…ふぅ」

真姫「え、いとこって…?」

あんじゅ「…めんどくさい諍いとかあると嫌じゃない?とりあえず今は、私のいとこの優木真姫ちゃんでいてね?」

真姫「あぁ…そうね。ありがとう」

あんじゅ「ふふ、いいってことよ~。控え室についたらもーっといい感じの変装、させてあげるっ♪」

真姫「…それは、その…どうも」

控え室


あんじゅ「ふふふんふふ~ん…、あーあー、あめんぼ赤いなあいうえお~」

イジリイジリ…


真姫「発声練習しながら私の髪の毛弄るのやめて…」

あんじゅ「この方が効率的でしょ?柿の木栗の木かきくけこ~、キツツキこつこつ~」

あんじゅ「真姫ちゃんがマネージャーの任を全うする、っていうなら、その任務を阻害するようなことが無いようにしなきゃでしょ?」イジイジ…

あんじゅ「真姫ちゃんだってバレてトラブルに、なんて私見たくないもの」

真姫「それはわかるんだけど…結構声が大きいから耳元で叫ばれると耳が痛い…」

英玲奈「ならこれ。はい」スッ

真姫「ん?これって…」

英玲奈「スタッフ用のインカム。一応付けておけ」

ツバサ「さっき言ったように、時間にズレがあって誰もそれを指摘してないようなら使って欲しいの。マネージャーなら一応今日はスタッフではあるし」

真姫「あぁ…ほぼ使うことはないでしょうがこれをつけておけばスタッフってことは周りからも認知されそうよね」

あんじゅ「とてとて立ったとチキンタツタ~…っと、よし!完成~。ふふふ、これならパッと見真姫ちゃんって気づかれないんじゃない?」

英玲奈「うむ、アリだな。UTXの生徒たちと厄介事は起こさないように頼むぞ?」

真姫「ぜ、善処します…」

ツバサ「UTXの生徒にはこうして控え室にいて3人に囲まれている、ってことだけでもレアな状況でしょうしね」

ツバサ「…別の意味で恨まれる可能性だってあるかも」

真姫「う。で、でもA-RISEに必要以上に近づかない決まりは絵里が決めてたんじゃ…。ならもう無くしてもいいんじゃないの?」

英玲奈「絢瀬が決めていたのはプライベートでも、ということだ。こうしたイベントの日にメンバーにやたらと接触しないことは昔からのA-RISEの習わしだな」

あんじゅ「つまり真姫ちゃんは超超ちょ~う特別扱いなのよぉ?そこのところ、理解してる?」

真姫「全然理解できていなかったわ…。確かにそれなら恨まれうるわね」

ツバサ「あんじゅが自分のいとこということにしたのはいい機転ね。親族なら恨まれることもないでしょうし」

あんじゅ「真姫ちゃんみたいないとこなら溺愛しちゃうのになぁ~。今からでもどうかしら?」

真姫「え、遠慮しとく」



コンコン… ガチャッ

UTXスタッフA「失礼します。あの、そろそろお時間です。ステージの方へどうぞ」


ツバサ「ありがとう。今行くわ」

英玲奈「ふぅ…。ついに始まるんだな。今年最後のライブ…」

あんじゅ「今までの成果を全力でぶちまけるわよ!」

真姫「…頑張ってね」

あんじゅ「あら?ステージを確認するんじゃないの?一緒に行きましょうよ」

真姫「えっ、でも…」

英玲奈「そうだな。今のうちにみんなにあんじゅのいとこと紹介していたほうが混乱も少なくて済む」

ツバサ「代わりに…バレると非常に面倒になるかもだけど…そのスリルも楽しそうじゃない?」

真姫「鋼の心臓持ちで何よりだけど、私の心臓はそこまで硬くないことは考慮しておいてね…」

ライブ会場 ステージ


ツバサ「みんな、おはよう!」


「「「おはようございます!!」」」


英玲奈「いい返事だ。今日は一日よろしく頼む」

あんじゅ「でー、リハに入る前に紹介しておきたいんだけどぉー」

真姫(ま、マジでみんなの前で紹介するの!?怖っ…!)

あんじゅ「この子、私のいとこの子なの!私が無理言ってマネージャーとして連れてきたんだけど…」

あんじゅ「この子自体はとっても優秀な子だから安心してね!ただ人見知りなところもあるから、そっとしておいてほしいかなって」

あんじゅ「いいかしらー?」



「「「わかりましたー!」」」



あんじゅ「ありがとー!」

英玲奈「…ま、というわけだ。好きにうろついていてくれ」

真姫「心臓が縮むわよ…!」

ツバサ「じゃあ私たちは早速ステージに登らせてもらうわ。しばしのお別れね、マネージャーさん」




ツバサ「あー…あー…」

英玲奈「あーー!あーーー!」

あんじゅ「おいっちにーおいっちにー」



真姫(ステージの上で発声と準備体操を始めるA-RISEの3人。彼女たちのこんな姿も私にとっては初めての体験)

真姫(この様子を映像に残して花陽にでも送ったらハンパなく喜ばれるんでしょうけど…流石にそれは躊躇われた)

真姫(私もこの機会に、アイドルとして大事な何かを学べれば、と真剣にステージを眺めることにした)

真姫(…のだけれど)

数十分後…


英玲奈「では次…Bメロの始めの部分から!」


<ココロッノセツナサッワカルヒトダケド~♪


あんじゅ「んー、若干ライトのタイミング遅い?もう少し早めでお願いしまーす」

ツバサ「あと立ち位置だけどステージの広さ的に…」



真姫「…ふわ」

真姫「っと、いけないいけない…」

真姫(なにせ、地味…。失敗の許されないステージ作りとしては地味な作業はとても重要なのでしょうけど)

真姫(ほんのワンアクションに全力を注ぎ込むかのごとく細かい調整。見ている方としては動きがなくてとても…退屈)

真姫(私には裏方仕事は向いてない、ってことなのかしらね…。一応ステージの見学程度はできたし…)

真姫(この自由な時間、何に使うべきかしら…)

真姫「…最初に考えつくのは、そう」

真姫「作曲ね!」


真姫(どこからともなく真姫ちゃんズ五線譜を取り出す。いつでもどこでも作曲ができるμ'sの天才作曲家たる私の必須アイテム)

真姫(…って言っても、もうC☆cuteでの作曲はキノに任せればいい話だし、μ'sとして歌うことも…もうないのでしょうから)

真姫(こんなもの、いつまでも持っていても仕方ない気がするけど…ここ一年で身に染み付いてしまった暇つぶしの方法)

真姫(そう簡単に捨てることはできない、のよね)


真姫「ふんふんふん…」カキカキ…

真姫「この世界に落ちて様々な体験をしたけれど…これも今までにない大イベントよね」

真姫「どうせならちゃんと音楽として形に残しておきたい。この感情を誰かに伝えられるように…」カキカキ…




英玲奈「そうだな、今のところは…」

ツバサ「…うん?あれは…」

あんじゅ「ツバサちゃん、どうしたの?」

ツバサ「いえ、真姫さんが、ね」

あんじゅ「あぁ…、あはは、やっぱり退屈だったのかしら?少し悪い気もするわね」

ツバサ「作曲、か…」

あんじゅ「…あぁいうのもやっぱり、羨ましい?」

ツバサ「…うん、そうかも、しれないわね」

あんじゅ「…」

英玲奈「…?何話している?集中しろ」

あんじゅ「あぁん、ごめんなさい。そんな怒らないでよ~」

英玲奈「怒ってなどはいないけど…」

真姫(…ものすごく場違いなところで作曲しているのはわかっているんだけど)


~♪


真姫「あぅぅ…いいメロディが浮かびそうなところで音楽が流れるから集中できないじゃない…」

真姫(場当たりのため、頻繁に流れるA-RISEの曲が私の思考を邪魔する)

真姫(まぁ悪いのは完全に私なんだけど)

真姫「はぁ…、こんなことしてたらマネージャー失格なのはわかるんだけど…今マネージャーとしてすることなんて欠片もないし…」

真姫「このままだといつか寝ちゃいそうね…。ちょっと悪い気もするけどここは…」

真姫(控え室に戻って一人になることにしましょう)



控え室


真姫「ふー、ここにも一応ステージを見られるモニターはあるけどさっきほど音楽は耳に入ってこないし」

真姫「集中して暇つぶしができる…。暇つぶしに集中ってどうなのよって話だけど」

真姫「ふんふんふーん…」


真姫(久しぶりに味わう、音の少ない一人の空間)

真姫(本来こういう場所の方がリラックスできる人間であるため、作曲に集中している今はとても無防備な状態だった)

真姫(帽子や眼鏡を外し、あんじゅに整えてもらった髪も、髪の毛を弄る癖のせいで多少乱れてしまっていて)

真姫(私の今置かれている状況を、忘れる程度に、無防備な状態になってしまっていたのだった)


真姫(そして、その時は訪れた)



ガチャッ


UTXスタッフE「こんにちはー。って誰もいないよねー…」

UTXスタッフF「みんなからの差し入れ、置いておきますねー…」


真姫「っ…!」


UTXスタッフE「…って、わぁ!?い、いたし!えっとたしか…あんじゅ様のいとこの人、だっけ…」

UTXスタッフF「ご、ごめんなさい。急に入っちゃって…」

真姫「あ、いえ、その…」

UTXスタッフE「…あれ?」

UTXスタッフF「うん?どうしたの…?」

UTXスタッフE「いや、さっきはその…帽子とか眼鏡してたからわかんなかったんだけど…」

UTXスタッフE「ねぇちょっと!あなた、顔よく見せて!」ガッ

真姫「え、ちょっ…!?」

UTXスタッフF「な、何やってるの!?ダメだよあんじゅ様のいとこの人にそんなことしちゃ…」

UTXスタッフE「や、やっぱりそうだ…!違うよっ!この人、あんじゅ様のいとこなんかじゃない!!」

真姫「えっ…!」

真姫(ま、まさかっ…!)


UTXスタッフE「あの、西木野、真姫だっ…!!」



真姫(早くも、バレたっ…!?)

ようやく話が前に進みそうだ 次回に続く ほなな

アイスティーしかない…眠気…あっ(察し)

遅くなり申した
えー、あまりやりたくありませんでしたが完全オリジナルの名前付きモブが二人出ます ご了承ください
待たせた上に短いけれど続きをどうぞ

真姫(ゆ、油断してた…!A-RISEの控え室ならそうそう誰も入ってこないはずだって…!)

真姫(今はリハーサルの最中だからスタッフはみんなステージにいるものだって…!)

真姫(ま、マズ…)



UTXスタッフF「えっ…!?西木野…って、あの西木野さん…!?C☆cuteの!?」

UTXスタッフE「うん、間違いないっ!なんでアンタがここにっ…!」

真姫「私はっ…その、マネージャーとしてっ…」

UTXスタッフE「ふざけるなっ!どうしてアンタがマネージャーなんてやってるんだよっ!!」

真姫(ぐ…真っ当な疑問…。説明しようにも色々と事情が複雑で咄嗟に二の句が継げない)

UTXスタッフE「そいつ、捕まえてて!私、知らせに行ってくる!!きっとC☆cuteのスパイだよ、コイツ!!」

UTXスタッフF「えっ、えっ…!?」

真姫「ち、違うっ!待って!私の話を聞いてっ!!」

UTXスタッフE「知るかっ!アンタの言うことなんか信用できるかっ!」

真姫「私のことはいいけど、でもっ…!」


真姫「今はダメ!騒ぎを起こして、A-RISEのライブを台無しにしたくないのっ!」


UTXスタッフE「っ…!」

真姫「理解して!そのっ…私のことはA-RISEは認識しているわ!一緒に会場に入ってきたんだからわかるでしょ!」

UTXスタッフF「あ、そうだよね…。話し合ったりもしてたし…紹介もしてたんだもんね」

真姫「…マネージャーっていうのは今日と明日限りの、A-RISEからアイドル応援部への依頼なの。実際はほとんど役に立ってない名ばかりマネージャーだけど」

UTXスタッフE「…」

真姫「とりあえず、今は落ち着いて欲しいの。私はスパイなんかじゃない。事情は…なるべく説明するから」

UTXスタッフE「…わかったよ」

真姫「そう。ありがとう」


真姫(…なんとか丸く収まりそうで助かった。役に立たないどころか足まで引っ張ったとなったらそれこそ本当に帰らされかねない)

真姫(バレてしまっては仕方ない。二人には簡単に事情を説明して、私がここにいる理由を知ってもらうことにした)



真姫「…ということなのよ。わかった?」

UTXスタッフE「…ふぅん」

UTXスタッフF「す、すごい…!西木野さんってA-RISEの人たちとも繋がりがあったんだ…。C☆cuteを通じて知り合ったってこと?」

真姫「まぁ、そんな感じ」

UTXスタッフF「へぇ~…。UTXで別のスクールアイドルをやってる、って聞いたときは無茶するなぁ、って思ったけど、過程でA-RISEと知り合いになれるなら…」

UTXスタッフF「アカリちゃんもC☆cuteみたいな別のスクールアイドル、始めてみたらいいんじゃないかな!?A-RISEに近づけるかも!」

UTXスタッフE「…バカ。それじゃA-RISEに近づくためにスクールアイドルやるみたいじゃん。そんな不純な理由で始めても続かないって」

UTXスタッフF「あ、そっか…。そうだよね…、C☆cute、もうすごい知名度になったもんね。最初からすごい頑張る!って感じだったの?」

真姫「え、えぇ…まぁ…。あの、あなたは…スクールアイドルやりたい子なの?」

UTXスタッフF「ん?私はそこまで、かなぁ。あ!ごめん、自己紹介してなかったよね。私たちだけ勝手に名前で呼んじゃってごめんね」

真姫「あ、いや別にいいんだけど…」

キョウコ「私、不動キョウコ!今回のライブの音響スタッフの下っ端、って感じかな。で、こっちの子がアカリちゃん」

アカリ「…恵那アカリ。照明の下っ端」

真姫「不動さんと恵那さん…ね。二人共一年生、なのかしら?」

キョウコ「うん!同い年だね」

真姫「えぇ、そうね」


真姫(この不動さんは私への警戒心は薄い方ね。明るく話しかけてきてくれてすぐに友達になれそうなタイプ)

真姫(逆に…さっき私に食ってかかってきた恵那さんは…まだ私に心を許してない様子ね)


キョウコ「私ね、A-RISEの大ファンなの」

真姫「えっ。何急に」

キョウコ「だから今回、A-RISEの年末ライブ、頼み込んでなんとかスタッフの一人に入れてもらえたんだけど…」

キョウコ「でも実はC☆cuteも結構好きだったり…!だからここで西木野さんに出会えたの、すっごい嬉しいの!」

真姫「そ、そうだったんだ…。ありがとう、ファンでいてくれて」

キョウコ「C☆cute、これからも応援するから頑張ってね!」

真姫「うん。が、頑張るわ…。えっとー…そっちの恵那さんは、A-RISEのファンなのよね?」

アカリ「…当たり前。言っとくけど、私はC☆cuteのこと、好きじゃないから」

真姫「う、…そう」

キョウコ「し、仕方ないよね。だってアカリちゃんは…」

キョウコ「…元、アイドル専攻だもんね」

真姫「えっ…!」

キョウコ「割と最近まで行ってたんだけど、ちょっと前にやめちゃったんだよね?なんでだっけ」

アカリ「…ひどい練習に嫌気がさしてね。自分からやめたの」

真姫「あー…、それはなんというか、ご愁傷様だったわね…」

アカリ「…ふざけてるの?」

真姫「え、どうして…」

アカリ「自分のしたことも忘れてるのかって意味よ!私はね…!」

アカリ「アンタの度を越えたスパルタ指導が嫌になってアイドル専攻をやめたのよ!!」

真姫「あっ…!」

アカリ「はんっ!どうせアンタのことだろうからやめていった人間の顔なんて覚えてないんでしょ?」

アカリ「C☆cuteの人間がアイドル専攻の指導ってことからおかしいって思ってたけど、A-RISEとつながりがあるなら当たり前だったんだよね…!」

アカリ「一週間ちょっとで辞めていったって後から聞いたけど、結局何がしたかったワケ!?ただアイドル専攻をかき回したかったってことだったの!?」

真姫「そ、それは…」


真姫(それを私が答えられるわけがない。だってそれは…私じゃないんだから)

真姫(もうひとりの私。この世界の西木野真姫…キノがやったことだ)

真姫(絵里に魅入られたキノが軍隊のような厳しい練習を強いていた…と希から聞いていた)

真姫(そうしていた理由を私は知らない。どういう意図であんな真似をしていたかなんて…)

真姫(でも、素直に『それは私じゃない』なんて言えるはずもなくて…)

真姫「えっと、その…」

アカリ「最近ファンも増えてきて調子乗ってるみたいだけど、アイドル専攻では恨んでる子もいるって知ってる?」

アカリ「アンタのやったことでどれだけの子が泣いたかって…」

キョウコ「あ、アカリちゃん!今はそんなことっ…」

アカリ「私は今もコイツが飄々とした顔でアイドルやってるのが許せないのっ!アイドルしたい子を差し置いて自分だけっ…!」

真姫「…っ!あ、アイドルは…」

真姫「アイドルはどこからだって始められるわ!例えアイドル専攻をやめたとしてもっ…ひどい指導についていけなくなったとしても!」

真姫「A-RISEじゃなくたって、スクールアイドルはやれる!」

真姫「わ、私の…私のしたことは、ひどいことだったって、そう思う…。今は…その、反省しているわ」

真姫「アイドル専攻で泣かせてしまった子がいることも…悪いことをしてしまった、って思ってる」

真姫「だけどっ…アイドル専攻を辞めさせられただけでアイドルを諦めるのは…それは私、違うって思うから!」

アカリ「んなっ…」

真姫「どうしてもアイドルをやりたいって子は、自分からだって始められるはずよ!だ、だから、そのっ…」

真姫「わ、私ばっかり責められるのも、どうかと…思ぅ…」


真姫(彼女の言い分に、少し腹が立って言い返してみたけれど)

真姫(最終的になんだか開き直りみたいになって最後まで勢いよく言えなかった…)

真姫(しかし、恵那さんも言い返してくるかと思いきや…)


アカリ「…っ」

真姫(あれ…)

真姫(意外と効いてる?)

キョウコ「あ、あぅ…。どうしたらぁ…」

アカリ「…ごめん、キョウコ。私も、ここでこんなこと言うべきじゃなかったよね」

アカリ「アンタのことは好きになれないけど、今は事情があるって言うなら見逃してあげる」

アカリ「だから…好きにしたらいいんじゃないの」

真姫「あ…どうも…」

キョウコ「よ、よかった…。…あ!そろそろ持ち場に戻らないと怒られるんじゃ!」

アカリ「あっ!そうだ…!追加の差し入れ渡したらすぐに帰るはずだったのに…!アンタのせいよ!」

真姫「いやそれは私のせいにされても…」

キョウコ「それじゃ西木野さん、私たちはこれで…」

アカリ「…次はバレないようにするのね」スタスタ…

真姫「…えぇ」


真姫(とりあえずひとまずは静穏なひと時を取り戻せた…)

真姫(…と、思いきや)


キョウコ「ねぇ、西木野さんってさっきまで何してたの?」

真姫「えっ…(帰ったんじゃないの…)」

真姫「…作曲よ。曲作り。…C☆cuteのための曲が必要でしょ?暇だったのもあるけどね」

キョウコ「あ、やっぱり西木野さんが曲、作ってたんだ!ねぇねぇ、それじゃあ音響機材とか、興味ない?」

真姫「機材…?」

キョウコ「私音響機材大好きなの!暇なら、これから戻るから音響の見学に来ない?」

真姫「見学…ね。そう言うなら、行ってみてもいい、かも」

キョウコ「やった!」

真姫(次はバレないよう、帽子をかぶり眼鏡をかけ、髪型も少々変え)

真姫(不動さんの持ち場という、音響スタッフのもとへと向かった)



キョウコ「お、遅れました!すみませーん!」

UTX音響スタッフA「あ、やっと帰ってきた!何してたのよ!!」

キョウコ「ご、ごめんなさい!A-RISEの控え室に差し入れ届けてたら偶然この子と…」

真姫「ど、どうも…」

UTX音響スタッフB「あれ、この子って…あんじゅ様のいとこの子、だっけ」

真姫「は、はい…。優木…えー…優木、槐です。木のことに関しては鬼のように詳しいです」

UTX音響スタッフA「あー、えんじゅさん…。似たお名前ね…」

キョウコ「マネージャーさんということなので、音響のチェックもしておいたほうがいいかな!ってお連れしました!ダメでした?」

UTX音響スタッフA「いや、別にダメじゃないけど…。あまり邪魔にならないようにお願いしますね?」

真姫「だ、大丈夫です。端で縮こまっています」


真姫(ライブ会場に音を届ける音響スタッフ。ここは…ミキサー室?っていうのかしら)

真姫(まるで蛇のように地を這う大量のコードに、意味わかんないくらい山ほどボタンのついてる大きい機械…)

真姫(これが本場の、音響…)


キョウコ「ね、ね。すごいでしょ?すごいよね、音響機材!ロマンがつまってるよね…!」

真姫「え、えぇ…圧倒されたわ。これ、プロレベルじゃないの…?」

キョウコ「うん!あ、もちろんアレに触れるのは音響の中でも一部の先輩だけだけどね!私は機材の搬入とか雑用程度の仕事しかできないけど…」

キョウコ「いつかアレを使って本番、ライブ会場に音を響かせるのが夢なんだぁ…!できればUTXにいるうちに、一回は体験しておきたいなぁ…」

真姫「音響スタッフがあなたの夢、ってこと?」

キョウコ「うんうん!将来お仕事にできたらな、って!」

真姫「そう…。熱心なのね…」

真姫(…私より、よっぽど)


真姫(音響。いわゆる裏方…)

真姫(大衆から表立って評価されるアイドルとは違い、つくづく目立たない、地味な仕事)

真姫(…でも、そんな人たちも情熱を持って仕事を行い、中にはそれに憧れるという人も…いるのよね)

真姫(今までしてきたことも、そして、私の将来の夢も…そんな世界とは程遠い世界。私には…少し理解の及ばない世界)

真姫(改めて…異世界のようだと感心する)

真姫(けれどこれも…なくてはならないもの。輝かしい表舞台を支える、知っておくべきこと…だったのかもしれないわね)


真姫「…ありがとう」

キョウコ「えっ?」

真姫「ここに連れてきてくれて。とってもタメになったわ」

キョウコ「ほ、本当!?よかったー!そう言ってくれると私も嬉しい!」


UTX音響スタッフB「こらそこ!話してないで、ちゃんと仕事する!」


キョウコ「ご、ごめんなさーい!じ、じゃあ後でね?」

真姫「…えぇ」

真姫(それから数十分は、A-RISEの細かい音合わせに忠実に応える音響スタッフと、不動さんがあたふたする様を見学した)

真姫(ひとまず音合わせは終了して、次は舞台チェックを行うこととなった。下っ端の不動さんはこれ以降はほぼフリーだそう)


キョウコ「ふひー…。疲れたよー…」

真姫「お疲れ様。勉強になった?」

キョウコ「ボタンの位置を把握するだけでも大変だったー…。先輩ってホントすごいね…」

真姫「そうね。…今からは自由なんだっけ?」

キョウコ「うん!あ、だから…今度はアカリちゃんとこ…照明の方も見に行ってみない?」

真姫「照明?…でも、あの子は私のこと…」

キョウコ「平気平気。アカリちゃんだって照明さんたちの前で怒ったりはしないって」

キョウコ「見学するだけなら邪魔になることもないし。ね?」

真姫「…わかったわ。こっちもタメになることがあるかもしれないし、行ってみる」



真姫(不動さんに連れられ、今度は照明スタッフも見学することになった)

真姫(それと同時に、今回のライブのことも、道中不動さんから聞かされることになった)


キョウコ「今回のA-RISEのライブはねー…。すごい気合入ってるよね!」

キョウコ「特別なライブってこともあって、完全な単独のライブ!かなり久々だよー…!」

真姫「あぁ…そういえばそうね。ずっとバックダンサー、いたんだものね」

キョウコ「バックダンサーの人たちも一緒に見たかったから、私としてはちょっと残念かなぁ。あ、でもクリスマスのライブは見れたもんね!」

キョウコ「ちなみに私はA-RISEに入れましたー…。ごめんね?」

真姫「いや、いいわよ。純粋にいいと思った方に投票してくれたならそれで」

キョウコ「あ、結局どっちが勝ったんだっけ?」

真姫「…A-RISE。3票差だったって」

キョウコ「おー…。んー、惜しかったね!」

真姫「まぁね…」

キョウコ「…あ!この部屋!ここにねー、ライブで使う楽器とか置いてあるんだよー。キーボードとかー、ギターとかベースとかー、ドラムとか!」

キョウコ「明日のライブのために軽音楽部の人たちが生オケで演奏して、それをバックにA-RISEが踊るの!すごいよねー!」

真姫「え、えぇ…」

キョウコ「今まで録音していた音源ばっかりだったから実際の楽器を持ち込んでのライブは初らしくて!前からその準備にすっごい力入れてるんだよー!」

キョウコ「演奏も素晴らしいものなんだけど!西木野さんもライブ聴くならね!音響にも注目してほしいなーって!すっごいいい音になってるから!絶対!」

真姫「わかった…」

真姫(この子…おとなしめに見えるけど自分の好きな話題のこと言っている時の勢いが凄いわね…。どこかの誰かと似てる気がする…)

キョウコ「んー?西木野さん、元気ない?」

真姫「あ、あなたが元気すぎるだけでしょ…」

キョウコ「そうかなー?あ、もしかしてさっきアカリちゃんから言われたこと、気にしてる?」

真姫「さっき?あぁ…指導のこと?それは別に…」

キョウコ「あんまり気にしなくて大丈夫だと思うよ。確かに、泣かせるようなことは悪いとは思うけど、でも…」

キョウコ「アカリちゃん自体は、別に泣いてないし」

キョウコ「それに、アイドル専攻にいたのも、数週間だけだし」

真姫「へぇ…」


真姫「…え?」

キョウコ「だから、多分勢いで熱くなってるだけなんじゃないかって…」

真姫「ちょっと待って、アイドル専攻にいたのが数週間って…」

キョウコ「ん?あぁ、ちょうどあなたたちの…C☆cuteの噂が流れだした頃くらいかな?」

キョウコ「アカリちゃん、それまではただのA-RISEファンだったのに急にやる気出して…『私もA-RISE目指す!』って言ってアイドル専攻入って」

キョウコ「ちょっとは続いたんだけど、その…西木野さんのことがあってやめちゃったんだ」

真姫「あぁ…そうなのね…」


真姫(…なるほどね)

真姫(だからさっき私が反論した時、素直に言い返せなかったという訳か)

真姫(彼女はおそらく、私たちを見たことで、自分もやれるんじゃないかとやる気を出し…)

真姫(キノの指導がキツいせいで、やめてしまった…ということらしい)

真姫(つまり彼女は、最初からアイドルがやりたい、って訳ではなかった…。C☆cuteに希望を見出した人間だったということね)

真姫(…とするなら、却って残念ね。誰でもいつでも始めることのできるスクールアイドル…C☆cuteの理想を夢見て始めた一人の子が)

真姫(辛い現実にぶつかったせいで、挫折してしまったことは)

真姫(うまくいけば、花陽の夢の体現者、第一号になっていたかもしれないのに)


真姫「…でも、だったらやっぱり私のせいで、続くかもしれなかったアイドルへの思いが途切れてしまったなら、それは寂しいことだと思うわ」

キョウコ「うーん、そっか…。そのあたりをどう思ってるのかはアカリちゃんに聞かないとわかんないけど…」

キョウコ「で、でも今は照明のこと、見学するほうが勉強になると思うし!だから深く考えなくても…今はいいと思う!うん!」

真姫「ふふ…ありがとう。悩まないように気を遣ってくれているのね?」

キョウコ「うー、そんなんじゃ…。あ!照明室、着いた!入ってみようか」

ガチャッ


キョウコ「失礼しまー…」



UTX照明スタッフA「ちょっと!何やってるのバカ!」

アカリ「す、すみませんっ!」

UTX照明スタッフB「あー…もういいから今は出て行ってて。邪魔になっちゃう」

アカリ「ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」



キョウコ「あ、アカリちゃん…?」


アカリ「あ、キョウコ…」



真姫「…なんだか見たらいけないものを見たような気がする…」

控え室


アカリ「…」ショボン

真姫「…これ、オランジーナ。飲む?」

アカリ「…ありがと。んぐ、んぐ…」

キョウコ「えっと…つまりアカリちゃんは…照明さんの足を引っ張っちゃったってこと…?」

アカリ「…うん。ちょっとドジしちゃって…ハードなスケジュールなのに色々やり直しになって…」

真姫「それはまぁ…怒るでしょうね」

アカリ「…」

キョウコ「う…。い、一度や二度のミスくらい誰だってあるよ!そのミスを活かして成長すればいいの!」

アカリ「…いや、いいよもう…。多分これ以降、照明することなんてないし」

真姫「えっ…」

アカリ「…私、何やってもダメなんだなぁって。ずっと中途半端なんだもん…」

アカリ「アイドル専攻だって、別にアイドルが本気でやりたかったわけじゃない。A-RISEに少しでも近づきたかっただけ」

アカリ「ダンスを趣味レベルでやってたから偶然続けられただけで、あの星空凛に追いつこうなんて一度たりとも考えなかった」

アカリ「キョウコがさっき言ったみたく、C☆cuteのような別のスクールアイドルも、なんて一瞬考えたりしたけど…自分で答えたとおり」

アカリ「私みたいな考えで、続けられるわけないってすぐ諦めて…」

アカリ「今回の照明だって同じ…。下っ端でもA-RISEと同じ空間にいられるならって思ってやっただけだし…」

アカリ「音響好きのキョウコみたく、照明に憧れがあるわけでもなんでもない…。だからさっきみたいに初歩的なバカやっちゃう…」

アカリ「…私、今まで人生で一度も本気になれたことなんてない。好きなもののために努力をしたことも、ない…」

アカリ「だからもう…」

キョウコ「アカリちゃん…」

真姫「…でも」

真姫「アイドル専攻、数週間でも続けられたんでしょ?」

アカリ「え…」

真姫「…あまり…その、普段のことは知らなかったんだけど、私が指導する前からアイドル専攻、なかなかに厳しかったんでしょ?」

真姫「すぐに休んで降ろされたって人もいっぱいいた、って聞いたわ」

真姫「でもあなたは、降ろされたわけじゃないじゃない。自分から辞めた。それまでは、自分の力でついていけたんでしょ?」

アカリ「それは、そうだけど…でも、ただA-RISEに近づきたかったから始めたってだけで…」

真姫「動機なんてなんでもいいのよ。どれだけ不純でも、それまでの練習についていけるだけの力はあった」

真姫「ならあなたは、ほんの少しのきっかけで本気になれる。何をやってもダメ、なんてこと、絶対にない」

真姫「…自分のことを、そんな風に貶めないであげて。どれだけ好きでも…ついていけない子だって、いたんだから」

アカリ「…」

アカリ「…なんかアンタ、変わったね。そんなこと言うようには、見えなかったのに…」

真姫「…そうかもね。仲間に出会えたおかげ、かも」

アカリ「そっか…。…なんか、単純だけど…ちょっと、慰められたかも、しんないな」

キョウコ「げ、元気になった?」

アカリ「まぁ、ちょっとはね…。後で謝りに行かなくちゃ」

真姫「うん、そうするべきね。照明は二度とやらないのかもしれないけど、明日までは絶対にこなさないといけないんだし」

アカリ「…わかってる。はぁ…ずっとこうしてもいらんないな。とりあえず私は戻るよ。…オランジーナ、ありがとね」

真姫「お礼ならいらないわ。私、みかん好きじゃなかったからあげただけだし」

アカリ「なんだそれ…。まぁいいよ。どんな理由があれ貰ったものは貰ったものだからね」

キョウコ「じゃあ私もそろそろ戻るね。西木野さんもA-RISEのマネージャー、頑張ってね!」

真姫「えぇ…、どうなるかはわかんないけど、頑張ってみるわ」

真姫(恵那さんと不動さんの二人と別れたあとは、ようやく一人の時間)

真姫(控え室にいても良かったんだけど、そろそろA-RISEのステージの方も様子を見に行かないと、と思ってステージへ)

真姫(タイムスケジュールも順調で、特に私が注意すべき状況とはなってないみたい)

真姫(そしてこれからちょうどゲネ…、本番同様最初から最後まで通しで行う最後のリハーサル)

真姫(おそらく観客として見ることができるのはこれのみになりそうだし、私は観客として参加させてもらうことにした)



真姫「なんだか貸切みたいですごいわね…。この広い空間で客が数人ぽっちだなんて」

真姫「このプレミア感を体感できるならマネージャーとして残ったのも正解だったかも…」



真姫(数分の最終調整ののち、ステージは楽器を残したまま、誰もいなくなり)

真姫(照明は落ち、数秒の無音と暗闇の後…)

真姫(音楽が、弾けた)



ツバサ「さぁっ!始めるわよっ!We are A-RISE!!」


「「「Let's Party!!」」」



真姫(観客のほとんどいない中でも、神々しく輝くA-RISEの3人)

真姫(凄まじいオーラのようなものを全身で感じている。なんというか…圧倒される)

真姫(最初の曲が終わったあとの自己紹介でも、周りの静寂を感じさせない態度で、まるで数千の観客と共に観ている錯覚すら感じた)

真姫(全てが、すごい。貧弱すぎる語彙だけど、そう表現せざるを得ないほどに魅了されて)

真姫(こうして間近で観客として見ることのなかった私は、初めての衝撃に我を忘れて熱狂して)

真姫(なんか色々声を上げていたような気もするけど、気づいたら…ライブは終わり)

真姫(A-RISEと、軽音楽部の人達と、私の他にも観客席で見ていた数名と、そして私は…汗だくになっていた)

真姫(体感的には30分も経っていない気がするのに、実際はそれより1時間以上過ぎており)

真姫(準備時間も含めてもう夜も遅くとなっていた)

真姫(余韻に浸る時間も欲しかったけど…、今はまず撤収が最優先となる)

真姫(私は一足先にA-RISEの控え室に戻り、彼女らの荷物をまとめることにしよう。せめて少しでもマネージャーらしくせねば)

真姫(この興奮を与えられたことに対して、そうしないとなんだか申し訳ないという気持ちになったのだった)



控え室


真姫「ふー…荷物まとめ完了っと…」


ガチャッ

ツバサ「あー、あっつー…。疲れたぁ…」

英玲奈「ふぅ…」

あんじゅ「あ、真姫ちゃん!どうだった?見てたんでしょー?」


真姫「えぇ…。すごかったわ…。やっぱり…勝てる気がしないわ」

英玲奈「ふふ、おかしな話だな。勝ったんだろう?μ'sは」

真姫「うん。でも…ライバルとして見るのと、観客として見るのとでは全然感覚が違うって改めてわかったみたい」

真姫「とても楽しかったわ。明日も、よろしく頼むわよ?」

ツバサ「えぇ、任せておいて。観客が入れば今日以上、もっとエキサイティングなライブを約束してあげる」

もっと書きたかったが時間的にアレなんで続きは次回 当時と比べても遅筆になってて凹む
それでは ほなな

押し付けるまきちゃんかわいい

ようやく此処まで追いつきました……
しかし本編を読んでいて思った事は色々と色々ツッコミ所&矛盾があるな、という感想です(-_-;)
失礼な言い方ですか、作者自身は多分物語のプロットよく考えずにその場を勢いで書き上げてしまったという印象ですね。
個人的にはもう少しよく練ってから書いて欲しかったです……

今日更新するつもりでしたが脳みそ動かないのでちょっと諦めます あ、明日にはきっと…
これは当時もその場の勢いで書いて完成した作品なのでその感想になるのは概ね正しいです
詰めが甘くてすみません 悪かった部分は脳内補正でなんとか 

うぃっす 貼っていきます

真姫(着替えを終え、帰る準備が完了すると早々に会場を後にする)

真姫(出口で待っていてくれた車に乗り込み、次に向かうのは近くのホテル)

真姫(そこで明日の朝まで英気を養うことになる)

真姫(ついでにマネージャーの私も泊まり込み…。ほとんど何の役にも立てていないのに、なんだか申し訳ないわね…)



車内


真姫「外泊、か…。この世界に来てからじゃ初めてね」

ツバサ「いつもは希の家にいる、のだったわね?」

真姫「…そういえば、なんでそれを知ってたのよ。普通なら私の家に訪ねてくるはずでしょう?」

あんじゅ「希ちゃんとは時々世間話程度には話すからね。その時にほんのちょっぴり匂わされていたのよ。真姫ちゃんの存在」

真姫「あー…、なるほどね。クラスメイトなんだっけ、あなたたち」

あんじゅ「うふ、こんなこと言うと英玲奈が妬いちゃうかしら?希ちゃんと二人きりで会話なんて~」

英玲奈「はぁ?なんでそうなるんだ…!東條のことになるとすぐに私に話を振るのはやめろ!」

ツバサ「まぁまぁ。そんなことより…」

英玲奈「そんなこと呼ばわりもなんだか寂しいぞ…」

ツバサ「…今は、ホテルの部屋割り、早めに決めておきましょう?」

真姫「部屋割り…」

あんじゅ「二人部屋をふたつだから、どういう組み合わせで泊まるか、ってことでしょ?」

真姫「あぁ、そういうことね…。どうやって決めるの?」

英玲奈「まぁ無難に、グーとパーで別れればいいんじゃないか」

ツバサ「ん、じゃあそれで」

あんじゅ「よーし!じゃあせーので『グッパで分かれましょ!』ね!行くわよぉ~?」

ツバサ「え、待って待って。『グッパージャス!』でしょ?」

英玲奈「は?『グットッパ!』だろ?」

あんじゅ「なにそれセンスない!『グッパで分かれましょ!』がオーソドックスじゃない!」

英玲奈「『グットッパ!』が短くて効率的だろう!揃わなかったとき毎回『グッパで分かれましょ!』っていうと面倒だろ!?」

あんじゅ「揃わなかったら『なってない!』で振りなおしでしょ!?」

ツバサ「それで言うなら『グッパージャス!』は『ジャス!ジャス!』だから一番早いわ!」

真姫「どうでもいいわよそんなのっ!!!!!何!?今までグッパーやったことなかったの!?」

ツバサ「え、えぇ…。いつも3人だから2,2で別れることなんてなかったし…」

英玲奈「意外なところで地域差が露呈したな…」

真姫「あーもー…じゃあ公平をとってオリジナルの『グーかパーかでラブライブ!』にしましょう!」

あんじゅ「…ダッサ」

真姫「うるさいっ!」



真姫(そんなこんなで騒がしい中グーとパーで分かれた結果…)



真姫「私は…」

ツバサ「真姫さんと、ね。ふふ、よろしくね」

真姫「…えぇ、よろしく」


あんじゅ「…英玲奈かぁぁぁぁ…。真姫ちゃんとが良かった…」

英玲奈「心底嫌そうな声を出すな…。意外と私も傷つくんだぞ」

真姫(組み合わせも決まったところで車はホテルに到着)

真姫(ようやく身体を落ち着かせるところに来られたわけだけど…)



ホテル前


真姫「う、っわ…!大きい、のね…」

英玲奈「ふふ、なかなかに壮観だろう?まぁ一晩くらい贅沢させて貰っても罰は当たらないさ」

あんじゅ「なにせ天下のA-RISEですもの~。あ、真姫ちゃんお荷物、運んでおいてね?」

真姫「あ、うん…。ツバサは…」

ツバサ「私は持てるからいいわ。部屋に着いたらなるべく早くお風呂の準備もしたいし」

真姫「え、お風呂って大浴槽…?」

ツバサ「残念。備え付けの小さいバスタブ。その代わりディナーは結構豪華らしいから、期待してもいいかもね?」

真姫「…」ゴクリッ

真姫(希の晩ご飯に文句をつけるつもりは一切ないけれど、こういうところでの食事はいつぶりか覚えていないくらいなので、否応なしに唾液が…)

英玲奈「締りの悪い顔になってるぞ。さぁ、チェックインだ」

真姫「う。…そうね」



真姫(ホテルへのチェックインを済ませ、鍵を受け取る)

真姫(結構な高層階の二部屋…。相当高い気がするけど大丈夫なのかしら…。私も泊まっても…)




部屋の前


真姫「はい、カードキー。オートロックみたいだから、忘れて出ないようにね?」

ツバサ「それくらいわかってるわよ。一応年長さんなのよ~?」

真姫「う、うん。わかってるんだけど…」

真姫(μ'sの年長は結構信用ならない人らばかりなので真姫ちゃんは心配性にならざるを得ないのよ…)

真姫「私はあっちの二人の荷物、運んでくるから、えっと…」

ツバサ「あぁ、じゃあ一度ロック解除してからカードキー渡しておいたほうがいいんじゃない?」

真姫「あぁ、そうね…」



真姫(一度部屋のロックを解除して、ツバサを部屋に入れてからカードキーは持ったまま)

真姫(今度は英玲奈とあんじゅの部屋へ荷物を運びに行く)



英玲奈「お勤めご苦労様」

真姫「勿体無いお言葉よ」

あんじゅ「これくらいしか仕事がないものね。仕事あげてあげたんだから感謝してよぉ?」

真姫「気遣い痛み入るわ…。役に立てていない自分を少しでも慰められるし」

英玲奈「別に、ただの友人というだけでも私は構わないんだけどね」

真姫「それだと、私がここにいる理由になりえないし…。A-RISEと同じ部屋に泊まるとか…、ファンが聞いたら発狂モノよ」

あんじゅ「ねー。お金とってもいいくらい。マネージャーっていうのがいい落とし所なのよね」

真姫「えぇ。あと…いとこもね」

あんじゅ「あぁ聞いた聞いた。明日まではえんじゅちゃんだってね?よろしくね、えんじゅちゃん」

英玲奈「えんじゅ…いい名前だな。芸名にどうかな?」

真姫「それはちょっと…。まぁ、明日はそれで通すことになるけどね…」

真姫(二人の荷物を届け終えたところで部屋に戻る)



真姫「ふぅ…。っと、私も流石にそろそろお腹すいてきたかも…。お風呂の前にご飯に行きたいわね…」シュッ ピッ

ガチャッ


真姫「ただいま…、げっ」


ツバサ「あぁ、お帰りなさい。お風呂、お先に失礼するわね」


真姫「は、は…!!」

ツバサ「は?」

真姫「裸じゃないっ!!」




シャー…

ツバサ「ふぅ…気持ちいい…。汗が流れてゆく…」



真姫(部屋に戻ったら綺羅ツバサがほぼ全裸だったのは、私にとって相当衝撃だった)

真姫(見慣れた仲間の裸体ならまだしも、A-RISEのそれは…)

真姫(場合によってはさっきの映像が焼き付いた私の網膜を切り取れば、高い値段で取引されることだってありえる)

真姫(自分たちがスクールアイドルのトップであることに自覚がないのかしら…。呆れるわね…)

真姫(今は何事もなかったかのようにシャワーを浴び、私は部屋でひとり、さっきの瞬間をどうやったら脳内から映像として切り取れるかを思案していた)

真姫(…私ならやれないことはなさそうだから怖いところだけど)



ツバサ「…真姫さん?あの、さっきのこと…ごめんね?マナー違反だったわよね」


真姫(シャワールームからツバサが話しかけてきた)

真姫「…マナーっていうか、その…私は一応、あなたたちとは関わりの薄い人なんだから、不用意にあぁいう格好を晒すのは…」


ツバサ「ふふ…、そうだったわね。ごめんなさい。部屋に泊まるといつも英玲奈かあんじゅくらいしかいなかったから、警戒心薄くて」

ツバサ「でも、真姫さんも今日一日過ごして気心が知れる仲になれた、って思ったからなのかな?あまり見られるのに抵抗なかったのよ」


真姫「あぁ…」

真姫(…私も心当たりがないこともない。仲間内で裸を見られ合うことに慣れると裸を見られることの抵抗感が弱まるのはよくわかる…)

真姫「…だからって、ねぇ…。ハァ…」


真姫(先ほどからのA-RISEのマネージャーとしてどうにか彼女らの役に立ちたい、と思う気持ちの大きな理由)

真姫(それは…なんだか他のファンに申し訳ないくらい、A-RISEのそばにいられるから、なんだろう…)

真姫(あんなすごいパフォーマンスをするA-RISEと、こうして同じ部屋、薄い壁を隔てたすぐそこに、裸体の綺羅ツバサが居る状況なんて…)

真姫(私の世界のにこちゃんや花陽なら、喉から手が出るほど羨ましいでしょうに…)

真姫(その状況を何もせず享受できてしまう私が…なんだか、悪いような、勿体ないような…なんというか、言葉にできない罪悪感に襲われてしまう)


真姫「だったら帰ればいいじゃない…とも思うけど、でも一緒にいられるなら私もいたい気持ちもあるし…」

真姫「うー、もどかしいわねぇ…。何か、何か私に出来ることがあればいいんだけどね…」



真姫(また、ある意味で別世界へと放り込まれた私。…この世界で、私の役割はあるのだろうか)

十数分後


ガチャッ

ツバサ「お待たせ。真姫さん、お風呂空いたわよ」


真姫「あ、あぁ…私は…うぶっ」

ツバサ「な、何?今度は裸じゃないわよ!?」

真姫「いえ、別に問題ないけど…」

真姫(部屋着が思ってたより、その…可愛くて、ギャップでつい笑ってしまったのだった)

ツバサ「そう?あ、お風呂、どうする?」

真姫「私はそんなに疲れてないから、お風呂はいいわ…。それよりお腹がすいたから、ディナーに行きたいんだけど…」

ツバサ「わかった。じゃあ二人にも今からディナーにするって連絡しておく。ふふ、楽しみね」

真姫「えぇ…。どんな料理が出てくるか楽しみ」

ツバサ「ん?…そうね、それもだけど」

ツバサ「私は、4人での食事が楽しみ」




真姫(二人もお風呂に入っていたらしく、出てくるまで少し時間がかかったけど)

真姫(4人揃ってホテル上階のレストランへ向かった)

真姫(もう外装からして高そう…。お、お金はどれだけ持ってきたかしら…!?)


英玲奈「食費は経費で落ちる。出費の心配をする必要はないよ」


真姫(とは言ってもらったものの、私は本来いる必要のない人間なわけだし…)

真姫(…まぁでも、あまりお金のことを気にして食事が楽しめないと、それはそれで勿体無いから、今はお言葉に甘えるとしましょう…)



あんじゅ「見て見てー!すっごい景色!」

ツバサ「ホント…東京が一望できそうね」

真姫「こういうところもなんだか…久しぶりね…」

英玲奈「…西木野は来たことがあるのか?」

真姫「まぁ、家族となら何度でもね。最近はそんなになかったから、ちょっと新鮮」

英玲奈「金持ちなのか…。羨ましいな」

あんじゅ「わっ…、私だってねー、何度もねー、来たことありますしー」

ツバサ「さっきの喜びようはなんだったのよ…」



真姫(適当にコース料理を注文し、それぞれのものを頂く)

真姫(…最近は希の手料理ばかりだったからか、こういう上品な味は体に染み渡る…!)



真姫「ん…、おいしい。ため息が出そうなほどね。シェフを呼んでもらえるかしら?」

あんじゅ「ハッ…!やっぱりお金持ちの子はそういうことしちゃうの…!?」

真姫「…冗談よ」

英玲奈「確かに美味しいけど…明日のことを思うと、喉をすんなり通ってくれないな…」

ツバサ「緊張してる?」

英玲奈「まぁ少なからず…今までにない大きな会場だからな。でも、萎縮する姿をファンには見せられない」

英玲奈「ちゃんと最後まで美味しく頂くのが、A-RISEの女王としての正しい姿だからね。…はむはむ」

真姫「あはは…食事に関してまですごい心意気ね…」

真姫(4人で色々な話を…時折、3人での私がついていけなくなるような話も交えつつ)

真姫(ゆっくりと食事を終えた私たちは、それぞれの部屋に戻ることに)



真姫・ツバサの部屋


ツバサ「はー、お腹いっぱい…。なかなかの量だったわね」

真姫「そう?普通だったと思うけど」

ツバサ「あー、私少食な方だからかな。ふー、お風呂もディナーも済んでしまうと…眠たくなってくるわね」

真姫「そういえば早寝の人だったわね、あなた。私、お風呂入ってくるから眠たければもう寝てもいいのよ?」

ツバサ「うん?んー、それでもいいけれど…せっかく真姫さんと一緒の部屋なんだし、もう少し二人きりで話してから寝たいかな」

真姫「あ、あぁ…そう。じゃあ先にシャワー浴びてくるから…」



シャー…

真姫(…先にシャワー浴びてくるから、って言うとなんだか…)

真姫(いやいや、何考えてるのよ私!流石にそんなこと考えるのは色々な人に失礼だわ!)

真姫(しかし一度妄想を始めると簡単には止まらないのが厄介よね…)

真姫「はぁー…はぁー…」

真姫(結局、バカな興奮が収まるまで少し時間をかけてから、風呂から出た)



真姫「…ふぅ。いいお湯でした。ツバサは…」


ツバサ「ふんふん…」


真姫「まだ起きてる?…っていうか、それ…」

ツバサ「あぁ、真姫さん。ごめんなさい、勝手に見てしまって」

真姫「それ、私の五線譜…。今日のライブリハの時に作詞してた…」

ツバサ「あの時から少し気になっていて、どんな曲なのかなって」

真姫「まだ全然途中だけど…。どんな曲かと言われると、その時の感情だから…」

ツバサ「うん…。なんとなくわかる。驚きというか興奮というか、見たままの情景を絵に描いたような…とてもシンプルな譜」

ツバサ「すごく素直で…優しくて、けれど何も考えていない、幼稚な楽譜…」

真姫「よ、幼稚って…。批評かしら?悪かったわね、幼稚で」

ツバサ「あ!うぅん、違うの…。幼稚…じゃなくて、うーん、無邪気…?とも違うような…無垢…そう、無垢な」

ツバサ「別の意思が含まれない、って言うのかな…。ストレートに感情を叩きつけるような、そんな感じ」

真姫「はぁ…」

ツバサ「真姫さんはいつもこういう風な歌を書いているの?」

真姫「え…?うーん、いつもと言われると難しいわね…。なんとなく、自分の考えたメロディをすらすらっ、って書いているだけだから…」

ツバサ「…そう」

真姫「な、なによ。悪い?」

ツバサ「いえ、全然。…ねぇ、真姫さん。私の曲も、見てもらえる?」

真姫「え、ツバサの曲?今、ここにあるの?」

ツバサ「えぇ、いつも持ち歩いてるの。あなたのように、私の五線譜をね。…っと、えーっと、どこだったかしら…」

真姫「ツバサの曲…」


真姫(気になることは間違いないけれど…でも、どうして。ツバサはA-RISEの曲は作っていないと言っていたはずなのに)

真姫(ただ趣味だから、なのかしら…)

ツバサ「あった。はい、これ。私が書いた曲なんだけど…」スッ

真姫「え、これ…こんなに?結構な量あるのね…」

ツバサ「ふふ、私も何か思いつくたびに曲を書いちゃってて…いつの間にかこんな量になってたの」

真姫「ふぅん…。ふむふむ…」

ツバサ「どう?私の曲…どんな印象かしら?」

真姫「ほんの少ししか読めてないから微妙な感想だけど…うん、少し意外ね」

真姫「もっと…激しい曲を書くのかと思ってたわ」

ツバサ「それは、どうして?」

真姫「A-RISEがアップテンポな曲が多いから、あなたもそういうのに感化されて、と思ってた」

真姫「なんというか正反対の…柔らかな曲でちょっと驚いたかも」

ツバサ「あら、またサプライズさせちゃった?」

真姫「…まさかこの曲もサプライズのため、なんてことは…」

ツバサ「あはは、流石にそれはないわよ。正真正銘日頃から書き続けている楽譜」

ツバサ「私が書くのは、聞いている人が眠ってしまいそうな、ゆっくりとした曲ばかり」

ツバサ「本当はそういう曲が、好きだから」

真姫「…そうだったの。あなたに関しては色々と、予想もしてなかった部分が多いわね…」

ツバサ「私は騙すのが趣味の女だもん。みんなが知っている綺羅ツバサは偽りの姿。実際の私は…また別の私」

ツバサ「この曲たちも、そんな本当の私の表れ…なのかも」

真姫「これ、全部趣味で?」

ツバサ「うん、そう。A-RISEは別に曲を作ってる人がいるから、これは全部私の趣味」

ツバサ「あ、この曲なんかは…英玲奈と一緒に歌詞まで考えたのよ?まだ誰の前でも歌ったことはないんだけど…。家で時々、一人で歌ったりしてる曲」

真姫「それ、A-RISEに提供しようとは考えなかったの?A-RISEで歌おうって…」

ツバサ「…そうね。この曲は、私の曲。これをA-RISEとして歌っても、受け入れて貰えないと思う」

ツバサ「だから、これをA-RISEとして歌おうって考えたことは、なかった。…だけど」

真姫「だけど…?」

ツバサ「私としてなら、一度多くの観客の前で歌ってみたかった、かな」

真姫「…え?」

ツバサ「…あは。ごめんなさい。なんだか意味深なこと言っちゃって…。いつもはそんなじゃないはずなんだけどね…」

ツバサ「ちょっと疲れてるのかしら?もう、寝たほうがいいのかもね…」

真姫「…っ、つ、ツバサ!」

真姫「もしかしたらあなた…何か悩み事があるんじゃないの?今日、度々様子がおかしかったこともあったし」

真姫「何か迷ってることがあるなら、その…言ってくれたら私、役に立てるかもしれないし」

ツバサ「あなたに…?」

真姫「そ、そうよ!ドクター真姫は患者のお悩みを解消させるのがお仕事だもの!」

ツバサ「だけどこれは…言っても仕方のないことよ。どうすることもできない、私の…」

真姫「…解決はできないかもしれないけど、誰かに打ち明けることで多少スッキリすることもある…かもしれないし。ね?」

ツバサ「…。ふふ、そうかもね。マネージャーだもん。担当の心もマネジメントしてもいい…か」

ツバサ「…ありがとう。だったら少し、話してみるわ」

真姫「えぇ、お願い」

ツバサ「それじゃあまず、聞きたいことがあるの」

真姫「え、いきなり?あなたから?」

ツバサ「うん。あのね、真姫さん…」

ツバサ「今、私とこうしてね?同じ部屋にいること、どう思ってる?」

真姫「は?どう、って…」

ツバサ「あなたの言うトップアイドルであるA-RISEの私と、ただの西木野真姫さんが、どういう訳か同じ部屋にいること」

ツバサ「この状況、あなたはどう思う?」

真姫「それは…」

真姫(さっきも、ツバサの裸体を目撃してしまった時に考えていたように…)

真姫「…私が、こんなところにいていいものか、なんて考えるわね」

ツバサ「…そうよね」

真姫「な、なんなのよ?何が言いたいの?」

ツバサ「あぁ…ごめんね。でも、例えば…私じゃなくて、うん…希といっしょなら、そう考えはしないわけでしょう?」

真姫「え、えぇ…そう、仲間…だし。毎晩一緒にいるわけだし」

ツバサ「よね?…私は、今日…あなたを友達、仲間として扱ってきたわけだけど…それでもあなたは、私たちに多少の抵抗があるんでしょ?」

ツバサ「どこか近寄りがたいものだって、感じてるのよね?」

真姫「えぇまぁ…それが?」

ツバサ「…私はそれが、嫌なの」

真姫「はっ?」

ツバサ「私はA-RISEになるまで、この2年間努力して、A-RISEになってラブライブで優勝して、トップアイドルとしてみんなからの注目を集めるようになって」

ツバサ「そして、そのせいで」

ツバサ「…綺羅ツバサを、失ってしまった気がするの」

真姫「失っ…た?」

ツバサ「A-RISEじゃない、ただのツバサ。もしくは別のツバサ。例えば…作曲家。作曲家、綺羅ツバサ」

ツバサ「何にも囚われず、自分の好きなように作った歌を発信したい。もしくは、誰かに依頼されて曲を作りたい」

ツバサ「何度かA-RISEのための歌も書こう、それを歌おう、なんて考えもした。けどね、私は…不出来な方だから」

ツバサ「これ以上の重荷が増えたら、今度こそ私は二人の足を引っ張ってしまうかもしれない。それが怖くて…できなかった」

ツバサ「A-RISEという重責に囚われない、作曲家としてだけの私に、なる未来も欲しかった」

真姫「…」

ツバサ「あと、もしくは…歌手。ダンスをしない、歌だけで勝負をする歌手の綺羅ツバサ」

真姫「で、でもそれは自分で跳ね除けたんでしょう?アイドルになりたいから、って」

ツバサ「えぇ、そう。アイドルになるためにはアイドルに本気にならなくちゃ、って思ったから」

ツバサ「でもいざA-RISEになって、アイドルとして日本一になったら…今度はね」

ツバサ「アイドルじゃない選択肢が、私は欲しくなったの」

真姫「選択肢…?」

ツバサ「もし、私がアイドル…A-RISEじゃなくて、作曲者だったら。歌手だったら。それとも、そのどちらともだったら」

ツバサ「それ以外にも…例えば私がアイドル応援部で、今年のA-RISEを応援する立場だったら。C☆cuteになって、A-RISEに立ち向かうことができたなら」

ツバサ「誰にも名前を知られず、自由に秋葉原を歩くことができたなら。急に呼んだ女の子とこうして、何のしがらみもなく話すことができたなら」

ツバサ「そんな、様々な『もしも』を考えてしまう。それが欲しくて、たまらなくなってしまう」

ツバサ「一つの道しか選べない人生を、悲観してしまうの」

真姫「そんな…」

ツバサ「ふふ、幻滅したかしら?A-RISEのリーダーが何言ってるんだ、って」

真姫「え、あ…それは…」

ツバサ「そうよね。自分が欲しくて手を伸ばして、多くの人の夢を蹴り飛ばして私が、私の意志で掴んだA-RISE」

ツバサ「なのに、そうでない自分が欲しい、なんて」

ツバサ「きっと、私はワガママなの。どうしようもなく欲深い…強欲な人間」

ツバサ「これほどの名声を得ても、得られるはずのなかった可能性に、まだ手を伸ばそうとしているんだもの」

ツバサ「ふふっ、むしろそんなだから、優勝できたのかもね。あのラブライブの場にいた誰よりも、欲しがりだったから…かな」

ツバサ「って言っちゃうと、英玲奈とあんじゅにも悪いわね…。私だけの問題じゃないんだし」

ツバサ「でも…そんなありえない可能性だけじゃなくって、できれば今のうちに…学生のうちに体験しておきたかったってこともあるわ」

ツバサ「例えば…負けたかった」

真姫「負ける…?それはつまり、私の世界のA-RISEのように…?」

ツバサ「えぇ、そう。その通り。だからとても羨ましかった。あなたじゃなくて…あなたの世界の私たちが」

真姫「ど、どうしてよ?負ける必要なんてない方がいいんじゃ…」

ツバサ「…そうね。負ける、なんてこと、ないに越したことはないわね。でも…そんな人生は存在しない」

ツバサ「誰かしらがどこかで必ず挫折を味わう。どれだけ必死に努力しようと報われない運命が…必ずある、と私は思ってるの」

ツバサ「でも、その敗北が未来の糧となる。敗北を知っているからこそ…もう負けたくないと、強くあろう、と思う」

ツバサ「このあたりは、絵里と考え方が似ているかもね」

真姫「あ、あぁ…絵里は自分の敗北、じゃなくて他人の敗北を見せることで強くするって考え方みたいだったけれど」

真姫「でも、それなら今からだって…いつかどこかで負ける未来があるんじゃないの?」

ツバサ「えぇ。でもその未来の敗北が…立ち上がれないほどの大敗だったら?」

ツバサ「私たちのアイドルとしての生命を断つほどの、最悪の敗北だったら?」

真姫「あ…っ」

ツバサ「誰しもいつか負ける。でも最初の敗北が、未来につながる敗北か、未来を失う敗北か…それは誰にもわからない」

ツバサ「なら私は、今…学生という取り返しがつく今に、負けておきたかった。これから私はね、敗北を知らないまま、いつかくる挫折に怯えることになるの」

ツバサ「一度でも知っていれば、悔しさも、そこから立ち上がる気力も、どうであったかを覚えていられるのに」

ツバサ「そして、どんな人が私たちに勝ったのか…それを知ることができるのに、って」

ツバサ「なるべく早く、それを体験していたかった、って気持ちも…あるの」

真姫「だけどそれは…」

ツバサ「うん。言っても仕方のないこと。もはやありえない可能性」

ツバサ「今はもう負けることなんてできないし、未来に向けて全力で突き進むしかない」

ツバサ「だから私のこれは悩みというより…未練なのね。あの時ああしていれば、ああ出来れば良かった。そんな…どうにもならない切なさなの」

ツバサ「言っちゃえばほら、マタニティブルーみたいなものよ?きっといつかは気にならなくなる。だからあなたも、深く考えないでいいわ」

真姫「…それは、そうかも…しれないけど」

ツバサ「いつもはこんなこと、誰かに語るなんてしないんだけど…。あなたの前だからかしら?っふ、ごめんね、つまらないのにね…」

真姫「そ、そんなこと…!」

ツバサ「ふ、わぁぁ~~…。話疲れたから、かな…。はふ…。眠たくなってきちゃった…」

ツバサ「ごめんなさい、私…先におやすみするわね。明日…頑張るから応援よろしくね…」モグリッ

真姫「あ、ツバサ…」

ツバサ「ふみゅ…。ん…」

真姫「…」

英玲奈・あんじゅの部屋


あんじゅ「英玲奈~、二人でババ抜きはそろそろやめましょ~?」

英玲奈「いや、まだ勝てていない!勝つまで…勝つまでやるんだ!」

あんじゅ「はぁぁ…こんな面倒な思いしてるのはきっと世界で私くらいなんでしょうね…」


コンコンッ


あんじゅ「うん?誰かドアノックしたわよ?誰かしら…」

英玲奈「ツバサか?…よっと」


ガチャッ

英玲奈「…あ」


真姫「少し、いい?」



真姫(ツバサが寝静まるまで待ってから、私は英玲奈とあんじゅの部屋を訪れ)

真姫(先ほど、ツバサから聞いた未練の話をした)



真姫「…ってことを、聞いたんだけど、これ…」


英玲奈「あぁ…」

あんじゅ「…うん」

真姫「あなたたちも、知ってたことよね?」

英玲奈「…そう、だな。まさか、ツバサから話すなんて思ってもなかったけど」

あんじゅ「ツバサちゃんだけじゃなくて、私も、きっと英玲奈も少なからず考えていることではあるのよ」

あんじゅ「一度、敗北を経験しておくべきだった、って。だからC☆cuteのような反乱分子…って言い方は悪いけど、別のスクールアイドルが出てきたときは」

あんじゅ「もしかしたら、私たちに追いついて…なんてワクワクもしたけど」

英玲奈「…流石にそこまでとは行かなかったな。西木野たちが打倒すべきA-RISEも、もう変わってしまっただろう」

英玲奈「私たちは宣言通り、王者の冠を被ったまま卒業することになる」

真姫「…それが、嫌なの?」

あんじゅ「嫌、ってほどじゃないわ。むしろ誇らしいこと。敗北を知らない、なんてカッコイイじゃない?」

英玲奈「だけど…先のことを見据えるなら、経験は多いほどいい。負けることは強さに繋がると思っているからな」

英玲奈「しかしその気持ちが…ツバサは私たちより少々大きい、のかもしれない」

あんじゅ「私たちはA-RISE以外の道を考えはしないけど…ツバサちゃんはホント、ワガママちゃんだから」

あんじゅ「やりたいことを全部やろうとする。それはA-RISEとしてだけじゃなくて、そうでなかった未来をも想像してしまって…」

英玲奈「可能性があるならその全てを手に入れたいと願うような無茶な女だ。そのハングリー精神に支えられているところもあるけれどね」

あんじゅ「けれど彼女は…その理想と比べたらスペックが足りてない…、っていうのかしら?努力の天才ではあるんだけどね」

あんじゅ「真姫ちゃんみたく、アイドルと作曲の二足のわらじ、とまではできなかったわね」

英玲奈「…だからツバサは西木野、お前が羨ましくて仕方なかったのだろう。そう、アイドルとして、作曲家として…だけでなく」

英玲奈「時空を移動して、あらゆる可能性の世界を知るお前が…。だから、つい語ってしまったんだ。いつもなら誰かに言うはずのない、つまらない未練を」

真姫「っ…!!それで…『西木野を連れてきてしまったのは間違いだったのかもしれない』って言ったのね…」

英玲奈「あぁ…。お前がそんな…時空を越える、なんて突拍子もないプロフィールを持っているなんて予想もしなかったから」

あんじゅ「ツバサちゃんの柔らかいところ、ピンポイントでくすぐっちゃったのね。…まぁ、仕方ないわよ」

あんじゅ「だからと言って彼女のパフォーマンスに陰りができる、なんてことはないと思う。ツバサちゃんは100%の仕事をこなしてくれるわ。心配しないで」

真姫「それは…そうかもしれないけど」

真姫「…だけど、悩んでいるなら」

真姫「それをどうにかしてあげたい、って…私は思うんだけど」

英玲奈「ツバサの悩みを?…それは、無茶だろう」

あんじゅ「今からツバサちゃんにA-RISE以外の道を示す、なんて、逆に彼女が惑ってしまうんじゃないかしら…?」

真姫「う…。確かにね…」

英玲奈「無理に考えることでもないさ。かもしれなかった過去に比べて、かもしれない未来は、それ以上に膨大だ」

英玲奈「ツバサの未練も、そうした未来の中で徐々に解消されると思うよ」

真姫「…わかったわ。あなたたちがそう言うなら、そうする」

あんじゅ「ふふ、また何か面白いこと思いついたら、協力してあげるけどね?」

英玲奈「こらこら…。変なこと言うな」

真姫「あはは…ま、思いついたらね…」

英玲奈「西木野まで…。お前まで変なことで悩んだら元も子もないんだからな?」

真姫「わかってるわよ。じゃあ、私は部屋に戻るから。相談に乗ってくれてありがとう。…おやすみ」

あんじゅ「えぇ、おやすみなさい。明日もよろしくね?」

英玲奈「ちゃんと、私たちより早く起きるんだぞ?」

真姫「えぇ、それじゃ」


ガチャッ… バタンッ




真姫・ツバサの部屋



ツバサ「すぅ…。すぅ…」


真姫「…」


真姫(とは言ったものの…)

真姫(彼女の、普段なら表に出さないであろう未練をくすぐってしまった原因が私なら…)

真姫(せめて、なにかしらのケアはしてあげたい、と考えてしまう)

真姫(これもドクターとしての職業病なのか、それともただのお節介焼きなのか…)

真姫(…お節介でしょうね。ずっと前から変わらない、気になることに関わっちゃう厄介なクセ…)

真姫(…でも、そのおかげで私は、μ'sになれたのだから)

真姫(このクセをどうにかしようなんて考えない)

真姫(私にできることがあるなら、なんとかしたいの)


真姫「…でも、何が出来るって言うの?」

真姫「ツバサを西木野☆星空クリニックに乗せて時空の旅…まぁ可能性としてはなくはないけど」

真姫「もっと彼女の未練を直接ケアできるような、そんな…」


真姫(その時だった)


グワンッ…!!


真姫「っ…!?!」


真姫(揺れたっ…!一瞬地震かと錯覚したけどそうじゃない…!)

真姫(あ、アレだ…!時空振動っ…!)

真姫「き、急に、きたわねっ…!たしか、こんな時のために…!」


真姫(凛から渡された、ポケットに忍ばせておいた酔い止めを飲む)

真姫(即効性があるって聞いたけど、どれくらいの…)


真姫「…あ、すごい。すぐに揺れが収まったわ…。さすが凛ね…」

真姫「多少はクラクラするけど、これなら耐えられる…」

真姫「誰かに助けを求める、ってことにはならなさそうで安心したわ…」

真姫「…助け」


真姫(そう。こんな時…一人で悩んでいたときは、誰かに助けを求めればいい)

真姫(いつもそうやって、苦難を乗り越えてきたのだから)

真姫(凛も、寂しくなったらかけてきて、と言ってたし…)


真姫「…」

真姫「だったら…」



ピ、ピ、ピ…

プルルルル…



ピッ

真姫「あ、もしもし?」


花陽『…ほえ?真姫ちゃん…?』



真姫(凛と話すのもいいけど、なんとなく花陽と話したい気分だったので、花陽にかけてしまった)

真姫(でもよくよく考えると…)



真姫(…A-RISEと一緒にいること、花陽に告げるのはヤバい気がする…)

真姫(さっきも自分で思ったことだけど、こんなプレミアな状況、ファンなら発狂モノでしょうし…)

花陽『真姫ちゃん、私に何か用?もう寝ようかなって思ってたところだったんだけど…』

真姫「あぁ、いえ…その、ちょっと声を聞きたくて」

花陽『っ…!なにその恋人みたいなセリフ!も、萌えちゃうよ…!』

真姫「反応が微妙に古いわね…。まぁ特に…言いたいこともなかったんだけど」

花陽『そう?あ、真姫ちゃん。この間話した旅行の件だけど…どこか行きたい場所ってない?』

真姫「え゙っ。あ、あぁ…そういえばそんな話もしていたっけ…。ば、場所ぉ…?」

真姫「うーん…、か、海外なんてどうかしら?」

花陽『い、今から海外…?それは無理じゃないかなぁ…?そもそも真姫ちゃん、パスポート持ってるの?』

真姫「キノのを借りれば…」

花陽『それじゃあキノちゃんが行けなくなるでしょ!海外はダメだよ~』

真姫「そうね、海外なんか行けるわけないものね…。あはは…」

花陽『どこ行きたいか、ちゃんと考えておいてね?近場でもいいから…』

真姫「わかった、わかったわよ。どこか…考えておく」

花陽『うん。えっと、それで…真姫ちゃんからは本当に何もないの?』

真姫「え、えぇ…。花陽の声がなんとなく聞きたかったってだけだったの。マジで」

花陽『そうなんだ…。うん、じゃあそれでもいいよ。最近お喋りしてなかった気がするし、いっぱい喋ろう?』

真姫「えっ…、あー…」


真姫(さっきまでツバサになにかできないか考えた末、誰かに相談しようと思っていたのだけど…)

真姫(…まぁ、いいか。こんなことにまで花陽やC☆cuteを巻き込むのは流石にお門違いね)

真姫(今回に限れば、特に何もしなくても問題なく事は進むのだし…、今はそう。久々の花陽との会話を楽しむのも、悪くないかも)


真姫「…そうね。花陽が眠くなるまで、すこしお話しましょうか」

花陽『やった!ふふ、だったらね、こないだね、凛ちゃんと…』



真姫(それからしばらくの間、花陽との他愛ない世間話に花が咲いた)

真姫(互いの近況報告のようなことばかりだったけど、気心の知れている仲相手だとそれだけでも心が安らぐ)

真姫(ついつい時間を忘れて、会話を弾ませてしまったのだった)



真姫「…でね。明後日の大晦日、私巫女のバイトすることになっちゃって…」

花陽『へぇ~。ってことは巫女さんの衣装を着るの?た、楽しみだよっ!』

真姫「そういうことになるわね。はぁ…明日を乗り越えることができるかも不安なのに、大丈夫かしら。巫女さん…」

花陽『明日…?真姫ちゃん、明日なにか用事があるの?』

真姫「えっ…、あぁ、まぁね。だからこんな遅くまで起きてるのもどうかと思うんだけど…」

花陽『それなら早く寝ないと!こんな話してる場合じゃないよ!』

真姫「あはは、そうね…、私もそろそろ眠たくなってきたし、寝ることとするわ」

花陽『うん。私もちょうど眠気が戻ってきたし、それじゃあ…』

花陽『…愛してるよ、真姫ちゃん』

真姫「ブッ」

花陽『なんてっ!あはは、どうだった?』

真姫「な、なに、急に…」

花陽『さっき真姫ちゃんが恋人っぽいセリフを言ってたから、その仕返しにね。うふふ、私もお顔真っ赤だぁ…』

真姫「自分で言って真っ赤になってたら世話ないわよ…。そもそもさっきのも別にそういうつもりで…」



真姫(…ん?)

真姫(仕返し…、仕返し……?)



真姫「…っは!!」



花陽『ふぇっ?どうし…』

真姫「そ、それよっ!それ、それがいいっ!!」

花陽『え、えぇっ!?何が!?まさか私とこいび』ピッ

真姫「いいアイデアが閃いたのよ!…って力んで電話切っちゃった…」

真姫「まぁそんなことはいいわ!今はこれが実現可能かどうか…!」



真姫(ツバサの未練を解消させるためのアイデア)

真姫(それは途方もなく…突然過ぎる発案で)

真姫(乗り越えるべき壁が、山ほど存在しているけれど…)

真姫(でも、とっておきの私の『仕返し』を…どうにかしてツバサに届けたい)

真姫(私もこれで…ワガママな人間だからね!)

以上です
えーっと、「ツバサ作曲してるのにA-RISEの作曲できないってどういうことやねん」って言われ得るかもしれませんが
そこは「A-RISEの曲として作ろうとすると責任感やA-RISEにあった曲にしようと試行錯誤する必要があるので思い通りに作れなかった」とか解釈してください
その他なんか都合が悪そうなところは各々がいい風に解釈していただけるとこのssは名作になります それではまた次回 ほなな

かよちんかわいい

ものすごく遅くなりましたが生きてます
全然進んでませんが一応続き

翌朝

英玲奈・あんじゅの部屋


真姫「…って事なんだけど、どう?」


英玲奈「…」

あんじゅ「…」


真姫「あれ、反応は?」


英玲奈「ムリだ」

あんじゅ「ムリね」

真姫「え、即答!?」

英玲奈「…今日が本番だぞ?今からやるのか?」

あんじゅ「そこまでするなら私たちだけの問題じゃなくなるし…今から都合をつけるのは無謀よ」

真姫「むっ…、無謀でも、いいじゃない。別に、都合がつかなかったら諦めるだけのことよ」

真姫「でも私の計画では実行に移せるピースは揃ってる!上手く事が運べば、今からでも間に合わせられる…はずよ」

英玲奈「しかし…」

真姫「今聞いているのは!…あなたたちが、このアイデアに乗ってくれるか、どうか」

真姫「私のこの案を、面白いことと思ってくれるか否かよ」

英玲奈「…」

あんじゅ「んー…面白い、といえば面白いんだけどぉ…」

英玲奈「…『仕返し』、か」

英玲奈「私たちは普段、ツバサに振り回されっぱなしだからな」

英玲奈「…一度ここらで、痛い目を見るのもいいのかも」

真姫「ってことは…!」

英玲奈「西木野がそこまで自信満々なんだ。…気になるじゃないか、どこまでやれるのか」

英玲奈「どこまで綺羅ツバサを虚仮にできるか、見てみたい。…できるなら、やってみてもいいと思う」

真姫「英玲奈は賛成、ってことよね!?で、あんじゅは…」

あんじゅ「…うーん…、あー…うー…」

真姫「ど、どれだけ悩んでるのよ…」

あんじゅ「…もし、それが上手くいかなくてツバサちゃんが悲しむようなことがあったら、って考えてて」

あんじゅ「それはちょっと、嫌なんだけど…でも」

あんじゅ「…負けたがってた、って言ってたものね。そういう悲しみももしかしたら…いいのかも、しれないね」

あんじゅ「いいわ。私も賛成。…ただし、完璧にできる条件が整ったら、の話よ?」

あんじゅ「今から急ピッチに話を合わせようとすればステージの進行にも支障が出るかもしれない。絶対にスタッフさんの負担にはなっちゃダメ」

真姫「う…。そ、そうね…。少々条件は厳しいけど、今からやろうとすればそのくらいは考えないとダメよね…」

英玲奈「…私たちも一応口効かせはするが、本格的に手を貸すわけにはいかない。スタッフと話をつけるのは…西木野、お前一人だ」

英玲奈「そのことも重々わかった上で、やってみようと言うんだな?」

真姫「…えぇ!やってみせるわ!当日土壇場の大作戦…!」

真姫「タイムリミットは夜のライブが始まるまで…!それまでに、なんとかっ…!」

ホテル ロビー


ツバサ「…」

ツバサ「…何か話してた?」


真姫「え゙っ…どうして」

ツバサ「早起きして英玲奈たちの部屋に行ってたみたいだから。何か朝早くから盛り上がってるのかなって」

英玲奈「別に…他愛ないことを話していただけだぞ。なぁ?」

あんじゅ「うんうん。昨日真姫ちゃんのネグリジェ見れずじまいだったからね?可愛いかったねーって話してたの」

真姫「あぁ…そうね…」

真姫(…そういえば違和感なく着てしまっていた…。他人から見たら相当キャピキャピな服だったのに…)

ツバサ「そう。だったら私も混ぜて欲しかったわ。昨日一足先に寝ちゃったし、真姫さんを含めての無駄話も貴重といえば貴重だし」

英玲奈「眠りたがりなツバサがよく言うよ。無駄話なら車内でもできるだろう?」

ツバサ「まぁ、そうね。英玲奈は昨日車の中で寝ていて話せなかったからね。いいんじゃない?」

英玲奈「あ、あれはなぜか急に眠たくなっただけで…」

あんじゅ「もう、こんなところで長話してないで、とっととチェックアウトして車を待ちましょうよ」

あんじゅ「私たちは着いたらすぐ衣装チェック!あとはメイクに発声練習!諸々済んだらスタッフのみんなと気合を入れる!」

ツバサ「わかってるわよ。あとそれを言うのはマネージャーの仕事でしょ?お仕事奪わないの」

あんじゅ「あ、そうだったわねー。ごめんね真姫ちゃん?」

真姫「…本人がわかってるなら別に言う必要ないでしょ」

英玲奈「それもそうだが」



真姫(鍵を返却し、ホテルから出たところでちょうど車が迎えにやってきた)

真姫(この車の運転手さんはとても優秀な人ね…。この人にマネージャーやってもらえればいいのに)

真姫(そんなことも考えつつ、車内ではあんじゅが私の髪を弄っている)

真姫(控え室につく前にとっとと変装を済ませておこう、ということらしいけど…)



車内


あんじゅ「ふんふふ~ん…いじいじ」

真姫「いたた…。も、もっと優しくしてよ」

あんじゅ「真姫ちゃんの髪って結構クセが強くてね?ちょっとのセットじゃすぐに戻っちゃうのよね~…」

英玲奈「今日までは優木えんじゅとして生きるのだからな。一目見て西木野とバレることの無いようにしっかりセットしないと」

真姫「だからって…昨日より激しっ…あたたたっ!毛が抜けちゃうわよっ!」

ツバサ「後は眼鏡と帽子をかければ…うん、よく知ってる子でも騙せちゃうくらいね。さすがあんじゅ」

あんじゅ「ふふふ、褒めたって何も出ないわよ?」

真姫「うぅ、頭皮が…」

真姫(昨日の会場に着くとすぐさま場内へ…と思ったけど)


真姫「うぇっ…!?もうこんなにファンが…!」

あんじゅ「さすが大人気のA-RISEね。…バレたら大騒ぎになっちゃうかも」

英玲奈「今日は裏口から入ろう。場所はわかっているかな?マネージャーさん」

真姫「…い、一応把握しているわよ。多分」

ツバサ「ふふ、じゃあご案内よろしくね」


真姫(きっとA-RISEは全員裏口の場所を知っているだろうに、私に案内を任せてきた)

真姫(バレたらかなりの大騒ぎだっていうのに悠長というか恐れ知らずというか…)

真姫(ヨーロピアンエクストリームな私のスニーキングミッションは、なんとか平穏に達成され、何事もなく控え室へとたどり着いた)



控え室


ツバサ「あ、みんな、おはよう!…えっと、まずは…」

真姫・あんじゅ「「衣装チェック!」」

ツバサ「そう。それね」

あんじゅ「ふふ、息ピッタリね!」

真姫「ちょっと楽しかったわ」

英玲奈「…ここからはのんびりお前と会話をしている暇はない。衣装さんの邪魔になるかもしれないし、どこか別の場所で待機してもらえないだろうか」

真姫「あっ…、そうね。私はここから出ていくことにするわ。あ、後は頑張って!」

ツバサ「そうなの?別に一人くらい…」

あんじゅ「まぁまぁ。ほら、最初の衣装から…」




真姫「…さて、ここからが私のお仕事、ね…」

真姫(ツバサの未練を多少でも解消させる作戦。それにはおそらく…彼女たちの協力が必要ね)

真姫(といっても、彼女たちに何ができるとは思ってない。ただ、あまり目立てない私の声となってもらう、それだけなんだけど)



ミキサー室


コンコン ガチャッ

真姫「…失礼します」


UTX音響スタッフA「あ、えっと…優木さんのいとこの…えんじゅさん?どうしたの、こんなときに」

真姫「えっと、すこしその…」

真姫(…あの子は…)

真姫「あ、いた!」


キョウコ「…あれ?にし…じゃなかった、えんじゅさん…。何かご用?」


真姫「ちょっと来て!それと、あのアカリって子も呼びに行くの!」

キョウコ「ふえぇっ!?え、でも今からその…」

真姫「少しお借りします!」

ガチャッ バタンッ


UTX音響スタッフA「…あ、あぁ、どうぞ…」

UTX音響スタッフB「なんだったの…」

真姫(それから不動さんを連れて照明の恵那さんも拉致り)

真姫(休憩所的なところで3人で作戦会議を始めることにした)



休憩所的なところ


アカリ「かはっ…、な、なんなのよ!?いきなり人の首根っこ掴んで引っ張って!私は猫か!?」

キョウコ「何か相談事…?」

真姫「まぁ、そんな感じ。ちょっとあなたたちに協力してもらいたいことがあるの」

アカリ「協力…って何を?ていうか、私たちも下っ端とは言えども一応スタッフなんだから、あまり長い間付き合ってられな…」

キョウコ「当日はあまり仕事ないけどね」

アカリ「…それはそうだけど」

真姫「なら少しは大丈夫ね。…いい?聞いて。実は…」


真姫(二人に、今朝英玲奈とあんじゅに話した私の作戦を告げた)


真姫「…ってこと。それに協力して欲しいの」

キョウコ「えっ…そ、それって西木野さんが考えたってこと…!?」

アカリ「バッ…、なんで部外者のアンタがそんなこと…!」

真姫「なんだかその…ツバサ、さんに気に入られちゃった、のかしら?色々と聞いてしまって」

真姫「それをなんとかしてあげたい、って思うといてもたってもいられなくなる性分なの。どう?面白いとは思わない?」

キョウコ「面白い…っていうか、そんなの…」

アカリ「無茶苦茶よ!そもそもアンタが勝手にそんなこと出来るわけないでしょ!」

真姫「ちゃんと英玲奈さんとあんじゅさんの許可はとってあるわ!できるというのならやってもいい、って」

真姫「演者とスタッフの負担にならない程度に、とは言われてるけど。だからあなたたちにも協力を仰ぎたいの」

キョウコ「どうして私たちに?」

真姫「私はあまり目立てない。なるべくバレないように動く必要がある。だからこの私の提案を、あなたたちが上に説明して欲しいの」

真姫「この作戦には音響と照明の協力が必要不可欠だから。そのために協力を…」

アカリ「バカ言わないでよ…!私たちがこんな土壇場で…そのプログラムの改変をどう説明しろって言うの!?」

アカリ「私は下っ端だし、本番のオペレーションする先輩に口出せるような権限なんてないし…!」

アカリ「それに…それがツバサ様に喜ばれる保証なんてないっ!もしかしたら、傷つけるかもしれないじゃん!!」

アカリ「だから、私は協力できないっ…したくない!」

真姫「…」

キョウコ「あ、あの…」

真姫「…あなたは?」

キョウコ「私は…その、やってもいい、って言われてるなら…やってみたい、って思った」

アカリ「なっ…キョウコっ!?」

キョウコ「西木野さんの発案ではあるけど、A-RISEの二人が了承したって言うんならそれは…A-RISEの二人がツバサ様のためにしてもいい、って思ってるってことだよね」

キョウコ「だったらファンとして!私もツバサ様のために何かできるならやってみたいもん!しかも、私たちにしかできないこと、なんでしょ!?」

真姫「まぁ、そういうことになるわね」

キョウコ「私の行動でツバサ様に何かの感情を与えられるなら…ファンとして嬉しいことだよ!」

アカリ「何かの感情、って…、じゃあツバサ様が悲しんでもいいっていうの!?」

真姫「…確かに、ツバサさんが悲しむ可能性も、なくはないけど」

真姫「彼女は体験できることはなんでも体験したい、っていうような人…なのよ。だから…どうであれこの作戦は、彼女に未知を与えることではあるはずよ」

真姫「そう考えたら…ダメ?」

アカリ「…」

真姫「どうしてもあなたが反対するなら…また別の道を探すけど。私は、私のできる限りのことは尽くしたいの」

キョウコ「どうする…?」

アカリ「…どうせ私が反対してもやり続けるって言うんなら、…協力してあげるわよ」

アカリ「見てないところで動き回られるより、加わってたほうが…まだ動向が把握できるからね」

真姫「ってことは、協力してくれるのね?」

アカリ「完全にあなたの案に賛成したってわけじゃない!ただ…あなたのメッセンジャーになるくらいならいいってこと!」

アカリ「上の人が反対したら私はそれに従うから!それだけは理解しておいてよね!」

真姫「…えぇ、それは仕方がないわね。でも手伝ってくれるだけでもありがたいわ」

キョウコ「じゃあ、一応満場一致ってことで…で、これからどうするの?」

真姫「さっき伝えたことを、スタッフの先輩たちに伝えに行ってきて欲しい。どこからそんなこと言われたの?と聞かれたら、英玲奈さんやあんじゅさんの名前を出して」

真姫「一応本人たちの意思は確認してある、ってことを証明すれば、話を聞き入れてもらえる…はずよ」

真姫「それに賛成してもらえるかどうかは、スタッフの人たちの考え次第だけどね」

キョウコ「私たちがそれぞれのところに行ってくればいいんだね?わかった。緊張するけど…言ってみるよ」

アカリ「う、私も…」

キョウコ「アカリちゃん、一人じゃ厳しいかな…。昨日も先輩に怒られてたみたいだし…」

真姫「…そうね。じゃあ恵那さんには私が付き添う。あまり積極的に関わらなければ身バレする可能性も低いはずだし」

アカリ「アンタが…?まぁ、誰もいないよりはマシだけど…」

真姫「いいわよね?じゃ、作戦開始…、いい答えが聞けるのを期待してるからね」



真姫(私は恵那さんの後をついていき、証明室へ向かった)


アカリ「…はぁ。気が重い…。ただでさえ厄介な新参者って思われてるはずなのに…」

真姫「それでもスタッフの一員であることには変わりないんでしょう?少しは聞いてくれるはずよ」

アカリ「そうだといいけど…。うぅ…」

真姫「…よし、着いたわね。行きましょう、中に」

アカリ「っ…。えぇい、なるようになれっ…!」


ガチャッ


アカリ「し、失礼します。戻りました」


UTX照明スタッフA「あ、帰ってきた…。何のようだったの?一体…」

UTX照明スタッフB「後ろにいるのは…えっと、なんだっけ、優木さんのいとこ?」


アカリ「あの、いいですか…?少し、お話が…」

UTX照明スタッフA「話…?」

真姫(恵那さんが照明スタッフ全員の前で私の話した作戦のことを告げる)

真姫(一番下っ端であるはずの恵那さんの仰天発言に皆困惑していたけれど…)

真姫(一応、話自体は最後まで聞き入れてもらえた。問題は…この案に賛成してもらえるか、だけど)



アカリ「…って、感じです。あの…どう、しますか…?」


UTX照明スタッフA「ふぅむ…」

UTX照明スタッフB「…どうする、ってったてねー…」


コンコン ガチャッ

UTX照明スタッフC「入ります。…英玲奈様とあんじゅ様から確認をとってきました」

UTX照明スタッフA「なんて言ってた?」

UTX照明スタッフC「把握、しているそうです。彼女たちが言っていることは嘘ではありません」

UTX照明スタッフA「…そう」


真姫「どうですか。協力していただけますか?」

アカリ「そ、その…無理なら無理とはっきり言っていただいて構わないんで…!」


UTX照明スタッフA「…」

UTX照明スタッフB「…どうする?」

UTX照明スタッフA「…ちょっと、興味がないわけではない」

真姫「おっ…」

UTX照明スタッフA「でもね、私たちには…自分たちに決められた仕事がある」

真姫「え?」

UTX照明スタッフA「私たちは肩書きはスタッフってことにはなってるけど、ボランティアで集められた一般生徒で」

UTX照明スタッフA「経験はあるけれど、別に皆どこかに属しているわけじゃない。ここにいる子達はみんな、他に自分の居場所のある人間」

UTX照明スタッフA「そんな子たちがそれぞれ事前に細かい指示を与えられ、自分たちの仕事を全うする」

UTX照明スタッフA「でも、万が一にも失敗するようなことがあればその非難はどこに向けられる?…私たちじゃない、UTXによ」

UTX照明スタッフA「プロではない以上、本来の責任は私たちではなくA-RISE運営にある。私たちのミスで、UTXの品位を下げることになってしまう」

UTX照明スタッフA「それは嫌だから、そのミスを起こさないように細心の注意が必要なの。…だから、今からプログラムを変更しろ、と言われて」

UTX照明スタッフA「その結果もし失敗したことを考えると…私は、その責任を負いたくない」

UTX照明スタッフA「UTXを背負っている以上、安易に決められた仕事を変えることは…良くないって思うの」

真姫「そんな…」


真姫(周りの人間もどうやらその考えに賛成のようで、声は発さないながらも頷く者もいたり、同意の空気が漂っていた)

真姫(つまり…私の案には、照明スタッフは反対、ということ、だろうか…)



アカリ「っ…!そう、ですよねっ…!やっぱり反対だって!ねぇ、だからこの提案はもう…」

UTX照明スタッフA「待って。…別に私は、反対だとは言っていないけど?」

アカリ「え?」

真姫「え?」

アカリ「反対じゃないって…でも、仕事は変えられない、って今…」

UTX照明スタッフA「私は私にに与えられた仕事を変えてまではやりたくない、って思ったの」

UTX照明スタッフA「だけど、新たに責任を負うことのできる人がいるなら…乗ってみてもいいかな、って思ってもいる」

真姫「新たに責任を…?」

アカリ「けどっ…!先輩たちはみんな本番中の仕事で忙しいんじゃ…」

UTX照明スタッフB「そうだね。…私たちは、忙しいかも」

UTX照明スタッフA「だけど、ちょうど…そう、仕事がなくて本番中、ヒマって子だっているのよ?」

アカリ「ヒマ…?え、誰…」

真姫「ま…、まさ、か…!」

UTX照明スタッフA「話を持ちかけてきたのなら、それをすべきは提案した人、じゃない?」

アカリ「え…」


UTX照明スタッフA「恵那アカリさん。…あなたが本番、その計画を実行するなら。…私は作戦に乗ってあげる」


アカリ「は…?」

アカリ「ハァァァァッ!?」

真姫「か、彼女はっ…彼女は下っ端なんでしょ!?そんな、今日いきなり機材に触らせるなんて…いいの!?」

UTX照明スタッフB「誰しも初めてのときはいつか来るものよ。それが突然だとしても」

真姫「で、でも、失敗したら責任は…」

UTX照明スタッフA「失敗の責任はUTXにあるわ。身分的な損失はありえないし、外部から私たちに文句が行くようなことはないけど…」

UTX照明スタッフA「UTX内で失敗の重圧に耐えられるか。…ここでの責任感っていうのは、そのことを指しているの」

UTX照明スタッフA「A-RISEのライブに泥を塗るような真似をして、ファンから非難の目で見られるかもしれない、その未来への責任…」

アカリ「わ、わたっ…私は…!」

UTX照明スタッフB「恵那さんは昨日もミスをしてしまっていた。緊張感が足りないと言わざるを得ないわね」

UTX照明スタッフB「それはきっと背負っている仕事があまりにも軽すぎるからだと思うのよ。だからここらで…一つ、重要な仕事を持つことも、将来を考えた上で悪くないかもね」

UTX照明スタッフA「言い出しっぺの法則、って言葉もある?…どうかな?」

アカリ「私が…!照明の、オペを…っ!?」

アカリ「そん、なのっ…」

アカリ「そんなの無理ィィィィィィィィィィィ!!!」ダダッ


ガチャッ バタンッ!!


真姫「あっ…」

UTX照明スタッフA「…出てっちゃったか。ちょっと、脅しすぎたかな」

UTX照明スタッフA「ホントは…、その程度の仕事が増えるくらいなら、失敗のリスクなんてないようなものだけど…」

UTX照明スタッフA「下っ端としてでも照明スタッフに入って来たなら、多少の覚悟は背負ってもらいたい。あの子も…A-RISEのファンならね」

真姫「あなた…」

UTX照明スタッフA「あなたの作戦を飲む条件はたった一つ。…彼女を説得して」

UTX照明スタッフA「少なくとも夜のライブが始まる1、2時間前までには。仕事を覚えさせる必要があるからね」

UTX照明スタッフB「あの子によろしくね。えんじゅさん」

真姫「わかり、ました…」

スタスタ…


真姫「ったく、彼女どこいったのよ…」


真姫(照明スタッフの人たちの言いたいことは理解できた…)

真姫(私の作戦に乗じて、恵那さんに仕事の責任を負わせることが目的だったわけね)

真姫(スタッフである以上、中途半端な覚悟で臨んではいけない、と彼女に分からせるために)

真姫(そのために失敗のリスクをこれ以上ないほどに伝えて…彼女の覚悟を試したかったのでしょうけど…)


真姫「…結局、その説得は私がする羽目になるのね。はぁ…」

真姫(まぁ、仕方がない。本来ならやる必要のない仕事を増やすのだし、これ以上スタッフの人たちにも迷惑はかけられない)

真姫「でも…あの子の半端な意思をどうこうするのは、ちょっと骨が折れそうね…」

真姫「けど、あの子には…あの子にはきっと…」


キョウコ「あっ、西木野さん!どうだった?」


真姫「あ、不動さん…」

キョウコ「あ、私?音響はオッケーだって!ノリのいい先輩たちで良かったよー!」

真姫「そ、そう。それは良かった…」

キョウコ「…あれ?そういえばアカリちゃんはどうしたの?一緒じゃなかったっけ…」

真姫「それがね…」



キョウコ「え、えぇー!?本番のオペを任された…!そ、そんな…」

キョウコ「羨ましい!!」

真姫「え、そういう反応…?」

キョウコ「だ、だってだって!私音響卓に触れることすら許されてないんだよ~!?照明と音響は話が違うかもしれないけどさぁ…」

キョウコ「アカリちゃん、これはチャンスなのに…逃げちゃったなんて…」

真姫「…そうよね。勿体無いわ」

真姫「様々な可能性を秘めたチャンス。ここで捨てさせるわけにはいかない」

真姫「手分けして彼女を探しましょう!まず説得しないことには始まらないわ!」

キョウコ「う、うんっ!…あ、でも…」

真姫「ん?どうしたの?」

キョウコ「もう少しで開場の時間なんだよね…」

真姫「え、もうそんな…!?」

キョウコ「昼のライブは2時間後だけど、混乱を避けるために早めに開場するって…」

真姫「…そういえばそうだったわね。マネージャーなのにすっかりすっぽ抜けてたわよ」

キョウコ「開場しちゃったら混雑して余計見つけづらくなっちゃうよ…!早めに見つけないと!」

真姫「そうね…。不動さんの予定は大丈夫なの?」

キョウコ「大丈夫!もう今日はヒマ!」

真姫「…仕事が少なくて助かったわ。じゃあ、お願いね!なんとしても見つけ出すの!」

キョウコ「り、了解です!」

以上です 急ブレーキかかって辛い ゆっくり目ですがちゃんと終わらせるつもりなので気長に待っていてください
それでは次回 ほなな

まきちゃん

見事に週1更新になった
あと2,3回はかかるかなぁ… 前向きにやっていくよ

真姫(とは言ったものの…私の仕事はまだ残ってる!)

真姫(恵那さんも探しつつ、せめてライブ前にあの人たちにも話をつけておかないと…)



タタタタッ…

真姫「えぇっと…ここにもいないし…」

トタタタッ…



控え室

ガチャッ


真姫「恵那さっ…いないわよね、流石に…」


ツバサ「あら?真姫さん、戻ってきたの?今からステージ行くからもうこの部屋使っててもいいわよ」

真姫「それはありがたいんだけど…今はちょっと用事があるの!ごめん!」バタンッ

ツバサ「用事…?」

英玲奈「何なんだろうな」

あんじゅ「さっぱりわからないわね」




真姫「スタッフルームにもいないし、A-RISEの控え室も当然いない…。後探してないところといえば…」

真姫「まさかステージにはいないと思うけど一応…」


真姫(舞台にへと繋がるドアを開こうとしたところで、同時に出てくる人とぶつかりそうになった)


真姫「ひゃっ…」

「わっ…」

真姫「ご、ごめんなさ…あっ」

真姫(ライブの生演奏をしてくれる軽音部の人たちだわ…)

軽音部部員A「あっ…と、ごめんね。急ぎの用だった?」

軽音部部員B「ん?この子って確かー…優木さんのいとこちゃんだったかな?マネージャー…なんだっけ」

軽音部部員C「話を聞く限りだと形だけの…っと、本人の前じゃ失礼か」

真姫「ま、まぁその通りなんですけど…」

真姫(でもちょうど良かった。この人たちとも一応話を付けておかなければいけないと思っていたところだったし)

真姫「その、話があるんですけど…」

軽音部部長「…ん?」

真姫「実は…」

軽音部部長「キミ西木野真姫ちゃんだよね?」

真姫「」

軽音部部長「あの…C☆cuteの。最近イメージ変わったから一瞬気付かなかったけど…」

軽音部部員A「えっ?西木野真姫…ってあの!?え、いとこじゃないの!?」

軽音部部長「間違いないよ!ファンだし!ほら、ちょっと前にも部に取材やお手伝いの依頼来てた…」

軽音部部員B「あー、ありましたね…。あんときは忙しくて手伝えなかったけど…そういえば確かにそうかも…」

軽音部部員C「でもなんでその西木野真姫さんがここに…?」


真姫(…またバレた…)

真姫(正体がバレてしまったのなら仕方がない)

真姫(事情も説明しつつ、今回の計画のことも伝えることにした)

真姫(完全に外部の人ということもあってか、恵那さんの時のように騒がれることはなく、冷静に話を聞いてもらえた)

真姫(ただ、事情が事情だけに説明にかなり時間を要してしまったのが難点ね…)



真姫「…ってことなの。理解してもらえた?」

軽音部部員C「へぇ~…A-RISEとC☆cuteにそんな繋がりがあったなんてね」

軽音部部員A「綺羅さんもすごいこと考えるもんだなぁ…」

軽音部部員B「それもそうだけど、西木野さんの、さっきの話も…」

真姫「協力…ってほどでもないけど、許可はもらえるかしら…?」

軽音部部員B「…部長、どうします?」

軽音部部長「んー、いいんじゃない?なんか面白そうだしね」

軽音部部員A「だってさ」

真姫「あ、ありがとうございますっ!」

軽音部部長「まぁ前の時手伝えなかったし、それくらいならね。あ、ついでなんだけど…」

軽音部部長「あの、ここ!ここにサインもらえない?私作曲も担当しててさー!真姫ちゃんの曲、大好きなの!!」

真姫「あ、あぁ…そうなのね…。それくらいならお安い御用よ」


真姫(彼女の五線譜帳の表紙に私のサインを書き入れた後、中断していた恵那さん捜索を再開することにした)


軽音部部長「なんか忙しそうだけど、がんばってねー!」

真姫「えぇ、あなたたちも!」タッタッタッ…



真姫(軽音部たちと別れたあと、ステージの方を覗いてみるもやはり彼女は見当たらず)

真姫(途中で不動さんとも再開したけれど、やはり見つかっていなくて)

真姫(まさか会場の外に出ていってしまったんじゃ…と危惧した不動さんは、連絡先を私に渡して一度建物の外を探しに行くことにした)

真姫(私は引き続き会場内を…って思っていた矢先)

真姫(ついにそのときが来てしまった)



ガチャッ!!


ゾロゾロゾロ…



真姫「っ…!か、会場時間…!マズ…っ!」


真姫(A-RISEのファンたちが建物の中へと入ってきてしまった)

真姫(こうなると人ごみの中を進むことになる上、その中から恵那さんを見つけ出すことも困難になりうる…)

真姫(しかもUTX前で大々的に行ったクリスマスライブの直後。もしかしたら私のファンだっているかもしれないし…)

真姫(そうなると今度こそ騒ぎは抑えきれない。A-RISEの足を正真正銘引っ張ってしまうことになる)

真姫(ど、どうする…!?)


真姫「この人の多さじゃまともに捜索なんてできっこな…」

真姫「あっ…!?」


真姫(頭を悩ませている私の目に飛び込んできた風景、それは…)


真姫「花陽…と、凛っ…!?」

「…で、最初はどこ行くの?」

「ん、最初はねー…」



真姫(あれは間違いなく私の知っている花陽と凛…だけど…)

真姫(凛がどうして…。彼女は足を怪我していてまだ歩けないはずなのに…)

真姫「…ま、まさかあの凛って…」



花陽「凛ちゃんはどうしたい?」

凛☆「凛はかよちんと一緒ならどこでもいいよー」



真姫「私の世界の凛じゃない…」

真姫(どうしてうちの凛が花陽と一緒にいるのよ…まだ面識すらなかったはずなのに)

真姫(いつの間にか仲良くなったの…?)

真姫(まぁ、そんなことは今は置いておいて…花陽がここにいるってことは、彼女もA-RISEのライブを見に来たのね…)

真姫(花陽も熱心なファンだし、来ることは予想できたけど…)

真姫(このままだと花陽に見つかる可能性もある…!?それはちょっと恥ずかしいわね…)


真姫「…どうしようかしら。今はもう諦めて客が引くまで…」

真姫(いえ、そんな悠長なことをしている場合じゃないわね…。こうなれば…)

真姫(…そう、迷っているときは頼る戦法よ。今この場で頼れそうな人…!)

真姫(もう一人しかいない…!)




花陽「じゃあちょっと時間かかるけど物販にいこっか」

凛☆「オッケーにゃ!あ、あんまり目立つとこっちの世界の凛と間違われちゃうか…。ちゃんとグラサンかけてー…」


真姫「あのっ!そこの人、星空さんですよねー!私ファンなんです!ちょっと来てください!!」


凛☆「えっ!早速身バレかにゃ!?!?」

花陽「え、えっと、この子は…」

真姫「いいからこっち!」グイッ

凛☆「わ、ちょっ…問答無用っ!?」


タッタッタッ…


花陽「い、行っちゃった…。凛ちゃん、大丈夫かな…」

花陽「…でもさっきの人、なんだか見覚えが…?」

タッタッタッ…


凛☆「ちょっとぉっ!?どこまで連れて行くつもりなの!?り、凛は凛だけど凛じゃないんだにゃー!」

真姫「ふぅっ…。ここなら人通りも少なめね…」

凛☆「な、なんなの…。キミはいったい誰?凛のファンならその…ごめん!実は凛は凛の妹の凛なの!ん…?何言ってるんだ?」

真姫「自分で言ったこと自分で理解不能になってるんじゃないわよ…。別に、私はあなたにサインねだりに来たってわけじゃないし…」

凛☆「じ、じゃあ何!?凛のことさらいに!?凛を誘拐してもお金にはならないよ!」

真姫「違うし…っていうか、とっとと気づきなさいよ…」

凛☆「気づく…?何を…」

真姫「私よ!わたし!」

凛☆「は?」

真姫「…」

真姫「ベータカロチン」

凛☆「べーたかよちん」

凛☆「っは!真姫ちゃん!!?」

真姫「なぜそれで気づく…」

凛☆「そういえば真姫ちゃんはA-RISEのマネージャーとして昨日から出て行ってたんだっけ…。昨日一日いなかったからすっかり存在を失念してたにゃ」

真姫「バカな犬でももうちょっと人の顔は覚えてるものだけどね…凛の頭はニワトリ以下かしら?」

凛☆「ぬっ!ひどい言い草にゃ!傷ついたよ!」

真姫「外部の人には一瞬で気づかれたのになんでそろそろ1年以上の付き合いになるあなたが気づかないのよ…。そっちのが傷つくわ」

真姫「…それと、どうしてあなた、花陽と一緒にここに来てるワケ?そんな話聞いてないんだけど」

凛☆「昨日の夕方急に誘われちゃったの。なんでも今日のチケットはこの世界の凛のものらしくて、かよちんも昨日渡されたんだって」

凛☆「『そういえばこんなの持ってたけど、凛は見に行けないからかよちん使って』って。かよちんも大喜びだったんだけどペアチケットだったから急に一緒に行く人を探してて…」

真姫「ペアチケットならそっちの凛と一緒に行く予定だった子に渡すべきなんじゃないの…?」

凛☆「お見舞い、一度も来なかったって言ってたらしいにゃ。だからだって」

真姫「あぁ…そういうことね」

凛☆「で、最初は真姫ちゃんを誘おうかな、って思ってたらしいけど…凛の存在思い出して、どうせなら凛と写真撮って擬似的に一緒にライブ来たってことにしたかったみたい」

凛☆「年明けのお見舞いで渡すための写真を撮るのに協力して、って言われたにゃ。だからこうしてA-RISEのライブ会場に来てるんだよ!理解できたぁ?」

真姫「最後がすごいムカついたけど理解できたわ。…そう、それなら手伝ってもらうことはできなさそうね…」

凛☆「真姫ちゃんもなんか問題抱えてる系?」

真姫「まぁね…その…じゃあせめて知恵だけでも貸してよ。彼女がどこにいるか、一緒に考えて欲しい」




凛☆「ふむふむ、なるへそ…。確かにそんなこと言われりゃ逃げたくもなるよねー」

真姫「負わなくてもよかった責任を負うハメになりそうなんだものね…。恐怖もなかなかのものでしょう」

真姫「説得は私がなんとかしてみる。でも場所がわからないとどうしようもないわ。…凛はそういうの得意そうだと思って」

凛☆「別に得意なわけじゃないけど…クリニックの万能モニターだってμ'sの居所しか特定できない仕様だし」

凛☆「でも…わからなくもないかもね」

真姫「ホント!?どこにいると思うの?」

凛☆「んー、確信はないけどなんとなく…もし真姫ちゃんが無理難題ふっかけられたらどうする?」

真姫「え、私が…?」

真姫「私が無理難題をって…そうね、私だったら…家で一人で悩みそうかも」

真姫「でもまさか彼女も家に帰った…なんてことないでしょ」

凛☆「そりゃそうかもしれないけど、家に帰るっていうのはつまり…一人で考える場所が欲しいってことでしょ?」

凛☆「じゃあきっとその子も一人で悩める場所にいるんじゃないかなぁって」

真姫「一人で…。だけどこの会場はもう人だらけだし、開場前にも大抵の部屋はスタッフが誰かいるはずよ」

真姫「休憩室なら時折一人になれることだってあるかもしれないけど…人が入ってくることもあるし、大体もう探したわよ」

凛☆「ちっちっち。真姫ちゃんはそれだから詰めが甘いにゃ。焦って考えに至ってないのかにゃー?」

真姫「なっ…ナニヨ。人をポンコツみたいに!」

凛☆「どこの場所だってあるはずだよ!絶対に人が入ってこなくて一人になれる場所!」

真姫「絶対に人が来ない…。あっ…もしかして…」

凛☆「確証はないけどそんなに探してもいないってことならそこくらいしかないんじゃないかなー?」

真姫「…その可能性はあるかも。確かに気が回ってなかったみたいね…。行ってみるわ。もし居なかったら…また頼りに来るかもしれないけど、そのときはよろしくね」

凛☆「今日はかよちんと遊びに来てるからなるべく遠慮願いたいんだけどね…」


真姫(凛のアドバイスの元、おそらく恵那さんがいるであろう場所に向かった。そこは…)



女子トイレ


真姫「『絶対に人が入ってこない一人になれる場所』…もうここくらいしかないはずよね…」

真姫(既に何人か客が入っていて個室も使用中のところが数箇所ある。おそらくこの中に恵那さんはいるはず…)

真姫「…」

コンコンッ

真姫「あのー、入ってますか?」


「え、はいっ…。すぐ出ますっ…」


真姫「いえ、お構いなく」


スタスタ…


コンコンッ

真姫「入ってますか?」


「はい、入ってます」


真姫「分かりました」


スタスタ…


コンコンッ

真姫「入ってますか?」


「…」


真姫「入ってますか?」コンコンッ


「…」


真姫「…」

真姫「そこにいるのね、恵那さん」

「…」


真姫(個室が使用中にも関わらず、ノックをして声をかけても返事が帰ってこなかった)

真姫(声を聞かれたら中に入っているのが誰かバレるからマズい、と思ったのだろう)

真姫(つまりここに入っているのは…)

真姫「…恵那さん。いるんでしょう?返事、してもらえない?」


「…」


真姫「…返事、ないのね。まぁそれでもいいわ」

真姫「とりあえず、出てきて欲しい。…それで、もう一度話を聞いて欲しいの」

真姫「今諦めるのは…あなたにとっても勿体無いことなの!」

真姫「それに、一人で閉じこもって悩むより、一度誰かに思いの丈を吐き出したほうがうまくいくこともあるのよ!だからっ…」


ガチャッ…


真姫「あっ…」

アカリ「…」

真姫「恵那さん、話す気に…」

アカリ「話す気っていうか…トイレで大声で話されるのが嫌だったってだけ…」

アカリ「多分、めっちゃ注目浴びてるよ、あんた…」

真姫「えっ」

真姫(冷静になって周りを見回してみると、トイレの利用客からかなり見られていた)

真姫「は…はずかしっ…」



控え室


真姫(その後、見つかったと不動さんに連絡を取り、A-RISEのいなくなった控え室で集まることにした)


アカリ「…」

キョウコ「よ、よかった~!見つかって!もしかしたら家まで帰っちゃったのかと思ったよぉ~~」

アカリ「…さすがにそれはないし」

真姫「それで結局、あなた一人で悩んだ結果…どうしようかって決まったの?」

キョウコ「そ、そうそう!それだよ!照明、任されることになったんだよね!?やるの?どうするの?」

アカリ「私は…」

キョウコ「…っ」ゴクリッ

アカリ「…やりたくない」

キョウコ「えぇっ!どうしてっ!」

真姫「まぁ…でしょうね」

真姫(これまで見てきた彼女の性格から鑑みれば、その答えに行き着くのも納得だった)

アカリ「だって…怖いもん…!もし私が原因で、A-RISEのライブが失敗しちゃったら、なんて思ったら…!」

アカリ「雑用ばかりで一度も照明機材に触ったこともない私が、本番のオペを担当なんて…!できっこない…!!」

真姫「だからってずっとあそこで隠れてるつもりだったの?…嫌なら嫌って素直に伝えればいいのに」

アカリ「それは…」

真姫「あなたはきっと、そうすることも嫌だったのね。…何かのために頑張っている人を遮るようなことを、したくない」

真姫「責任を負いたくない…そんな性格なんでしょ?」

アカリ「…」

キョウコ「アカリちゃん、西木野さんに嫌だと伝えることも嫌だったってこと…?」

真姫「このことを嫌だと私に伝えれば、照明スタッフの出している条件を満たせなくなり、私の計画は頓挫…」

真姫「自分の一言で他人の計画を失敗に陥れる『責任』…それを負うことも、彼女には嫌だった」

真姫「だから個室トイレで取り返しのつかない時間になるまで隠れて、責任の所在をうやむやにしようとしてた」

真姫「そんな…極端に責任を負うのが嫌な性格だと、私は感じたわ」

キョウコ「そうなの…?」

アカリ「うっ…、そう、だよぉっ…!計画の成功も失敗も、私の選択にかかってる…」

アカリ「そんなことになるなんて思ってなかった…!そんな覚悟、いきなり背負えなんて言われても私には、無理だよっ…!」

アカリ「いつもそうだったっ!大事な選択は全部他人任せで…流行や空気感で、なんとなくで選んできてっ…」

アカリ「誰かの腰巾着で生きてきた、優柔不断で、最低なっ…最低人間なのっ…!」

アカリ「そんな私に何かを選ぶことなんて、できっこない…!だから、逃げてっ…閉じこもってたの…!」

キョウコ「あ、アカリちゃんっ…。そ、そんなことないよっ!アカリちゃんはいつも元気で私に勇気をくれてっ…」

アカリ「そんなの、見せかけ…!ホントの私は、ちっぽけで、弱虫で…、最低の…」

真姫「…」


真姫(…彼女も、選ぶことを恐れている人間)

真姫(ちょうど、過去のことりのように)

真姫(だけど彼女の停滞はいずれ、選ばない、を選択する運命となる)

真姫(そしてそれは…彼女にとっても、勿体無い選択)

真姫(だったら、私が…私が彼女にきっかけを与えてあげるしかない)

真姫(変わりたいと思えば、自然に変わっていくものだと…希に教えられた)

真姫(それなら、まずは彼女に、変わりたい、と思ってもらうしかないっ…!)



キョウコ「アカリちゃんが最低なんてことないよっ!アカリちゃんは私の大好きな友達で、とっても明るい子だしっ…」

アカリ「そういうんじゃないしっ…。そういうことを言ってるわけじゃ…」

真姫「…不動さんの言うとおりよ。あなたは最低な子なんかじゃない」

キョウコ「に、西木野さんっ!そうだよねっ、アカリちゃんはとってもいい子だし、みんなからも愛されてて…」

真姫「あなたは…どこにでもいる、普通の子よ」

キョウコ「えぇっ…?」

アカリ「なっ…」

真姫「責任を負うことから逃げたい、なんて誰でも考えること。重要な選択から目を背ける、流行に流される…誰だってそうよ」

真姫「だからあなたは最低でも何でもない。何も特別なことなんてない。至って普通の…単純な子なのよ」

アカリ「そ、それっ…なにそれっ!け、ケンカ売ってるつもり…?」

真姫「まぁ、そうかもね。…自分を特別視するのはやめなさい、ってこと」

真姫「昨日も言ったけど、あなたは特別弱いわけじゃない。あなたが自分の思う弱さを言い訳にして、選択を遠ざけるのはダメ」

真姫「誰もがギリギリまで選択を拒むものよ。でも、いずれ誰しも、選ばなきゃいけない時が来る」

真姫「その時どうするかで、初めて人は特別になれるのっ!」

アカリ「っ…」

真姫「目を背けてないで選んで!私の計画を破綻させるか、照明の責任を負うか!」

真姫「こんなことで悩んでたら、ツバサに笑われるわよっ!」

アカリ「な、なんでツバサ様の名前が出てくるのっ…」

真姫「彼女は、どちらかを選ぶことに躊躇なんかしない!そして選んだあと、どちらも選びたかったと悩むような人間なの!」

真姫「どちらからも目を背けるあなたと全く正反対なのよ、綺羅ツバサは」

アカリ「私と、正反対…。き、決まってるよ、私とツバサ様が両極端なんてっ…。わかりきってる…」

真姫「そうね。…でも選択次第であなたは、ツバサにその『選べなかった選択』を与えられるかもしれないの!」

真姫「大好きなんでしょう?A-RISEのこと」

アカリ「だ、大好き、だけど…」

真姫「だったら、今ここで変わりなさい!今まで、好きなもののために全力になれなかった自分からっ…!」

真姫「好きなもののために全力になれる自分に!今、この選択でっ!」

真姫「あなたは変わることができるのっ!」

真姫「選択を、責任を恐れないでっ!!誰だって最初は惑うかもしれないけどっ…!」

真姫「それを乗り越えれば、新しい自分に会えるっ!見えなかった世界だって見えてくるんだからっ!!」

アカリ「っ…!!」

アカリ「新しい、自分っ…」

キョウコ「普通じゃない、特別な…自分。選べるアカリちゃんになれるんだよ!」

真姫「責任から目を背けるばかりの自分から、変わることができるのよ。…変わりたいって、思わない?」

アカリ「変わり…たい…か、どう、なんだろうっ…。でもっ…」

アカリ「でも、ずっとこのままなのは…私、イヤ…。逃げ続けるばかりじゃ…怖がってばかりじゃ…前に進めないからっ…!」

アカリ「っ…!だ、だったら!だったら私っ、変わりたいっ…!前に進むことのできる、私に、なりたいのっ!!」

キョウコ「あ、アカリちゃんっ…!」

真姫「恵那さん…。じゃあ、今あなたはどうしたいの?あなたの言葉で、決めて」

アカリ「…私は…、や、やるっ…!責任は怖いけどっ…、本番の照明…やってみる…!」

アカリ「それがツバサ様のためになれるなら、もう、逃げたくないっ…!A-RISEが大好きだからっ!」

キョウコ「アカリちゃんっ!やったよー!これで…できるんだねっ!」

真姫「えぇ…。これで…私の計画のピースが埋まった。後は、うまくいくかどうかよ。…決まったなら早速照明に戻って…」


ガチャッ

あんじゅ「…あらぁ?なんだか熱いセリフが聞こえると思ったら真姫ちゃ…えんじゅちゃん。戻ってきてたの?」


真姫「あ、あんじゅ…。もう舞台裏に行ったと思ってた…」

あんじゅ「うふ、まだ開演には時間があるからね。戻りもするわ。…あら?その子たちは?」

真姫「あぁ…この子たちは計画の協力者よ。ちょうど話がついたところで…」

アカリ「は、はわわわ…あ、あんじゅ様っ…!」

キョウコ「こ、こんな間近でぇぇぇぇぇ…!」

あんじゅ「へぇ、そう…。んー、えんじゅちゃんは一応マネージャーだからいいけど、あまり他の子を長時間控え室に上げるのはダメよ?」

真姫「あぁ…そうだったわね。ごめんなさい、次からは気をつけるわ」

あんじゅ「それはそうと協力者ね…。ふふ、なかなか可愛い子じゃない。期待してるから、よろしくね?」

キョウコ「は、はいっ!が、がんばりましゅぅっ!」

アカリ「んっ、まっ、任せといてくださいよっ!バッチシ成し遂げてみせますからっ!」

あんじゅ「ふふ、気合充分みたいね。頼もしいわ」


真姫(…さっきまで不安たっぷりだったくせに、調子いいんだから…)

真姫(その後、控え室を後にした私たちは照明スタッフの元へと戻った)

真姫(恵那さんは急に逃げ出した謝罪と、私の計画の際に照明オペを務めることを決めた旨を使えた)



UTX照明スタッフA「…本当にいいのね?失敗した際のリスクもちゃんとわかった上での選択だってことで、いいのよね?」

アカリ「はっ…はい!私、大好きなもののために全力を出せるようになりたいんですっ…!だから…」

アカリ「やらせてくださいっ!絶対に失敗しないよう、気をつけますからっ!」

UTX照明スタッフB「意気込みは十分みたいね。だったら昼のライブはちゃんと見ておかないと」

UTX照明スタッフB「間近で仕事を見学できる数少ない機会だし、何より…ここは最高の特等席だしね」

アカリ「っ…はい!」


真姫(この調子ならきっと恵那さんはうまくやってくれるはずね…)




スタスタ…


キョウコ「いやぁ、良かったねー!アカリちゃんがやる気になってくれてー!」

真姫「…そうね。彼女が流されやすい性格で良かったわ」

キョウコ「え?流され…どういう意味?」

真姫「別に恵那さんは、本当に彼女の意思で照明を引き受けることを選んだわけじゃない。…私の言葉に乗せられただけよ」

真姫「ああ言えばきっと彼女はその場のノリでやる気が出るだろう、って思ってね」

キョウコ「えぇっ!?でもアカリちゃんははっきり自分で決めたって…」

真姫「だってあの場で選択権があったとして、私やらない、なんて言えないでしょ?言う人もいるかもしれないけど、彼女はそうじゃない、って思ってた」

真姫「周りの雰囲気に流されやすい、とっても普通な子。まだ何も選んでない、特別じゃない人間よ」

キョウコ「そ、そんなぁー…。私西木野さんの説得、結構感動して聞いてたのに…」

真姫「でも、あの説得に意味がなかったってわけじゃないわよ。私は彼女に、変わりたいって思わせるきっかけを与えたの」

キョウコ「きっかけ…?」

真姫「その場のノリでもなんでもいい。一度責任を負う仕事を引き受けて、成し遂げる。それだけで人は…特別になれるの」

真姫「真に好きなものに全力を注げる恵那さんになれるかは…、これからの彼女次第だけど。その第一歩目くらいは、背中を押してあげないとね」

キョウコ「そっか…。今までなんでもなんとなくで流してきたアカリちゃんが初めて、自分だけの仕事を持つんだもんね」

キョウコ「もしかしたらそれで、アカリちゃんの本当に熱中できるものも、見つかるかもしれない…そういうことだよね?」

真姫「ま、そんな感じね。うまくいくかはわからないけど…そこまでは私も付き合ってられないし。やっぱり彼女次第ってことだけどね」

真姫「さて…そろそろ開演時間も近いんじゃない?あなたも自分の居場所に戻ったらどう?」

キョウコ「あ、そだね…。じゃあ、えっと…またねー!西木野さんも、頑張ってね!」

真姫「えぇ、頑張るわ。…でも廊下だから、あまり大きな声で西木野さんって言わないでね…」

キョウコ「あっ、ごめん…」




真姫(よし、後私に残された仕事はただ一つ。…最初で最後の、マネージャーっぽい仕事)

真姫(そして、私も失敗しないように、やる気を出さないとね…!)

ここまで
今更だけどアカリとキョウコって名前ですが別にゆるゆりは意識してません それでは次回 なるべく一週間以内で ほなな

全然なもりだって気づかなかったゾ

どうも 週刊もしライブです
遅筆にも程がある まぁ、もう少しで終わるのでお付き合いください

控え室


真姫(開演も間近に控えたということで、私はA-RISEの控え室へ帰ってきていた)

真姫(昼のライブを室内の備え付けモニターから観察して、彼女らの活躍を見守る)

真姫(と同時に、今まであまり気にしてなかった、それぞれの歌、トークにかかる時間を測る)

真姫(ライブ中のタイムスケジュールを計算して、例の計画をねじ込む時間を作るために)

真姫(ここまで来たら、後は勢いで乗り切ってやるわよ…!)


真姫「…っと、そろそろ始まりそうね」


真姫(モニターからもわかるほど、会場は熱気に包まれていた)

真姫(今にも溢れんばかりの興奮をモニター越しにもひしひしと感じる)

真姫(私も、昨日間近で見たにも関わらず、開演が待ち遠しく、胸が高まっているのを感じた)



『みんなー!今日はA-RISEのライブにようこそーっ!』


真姫「っ…始まった」


真姫(会場中に広がるツバサの掛け声から始まる昼のライブ。同時に会場の空気をも揺るがすようなファンの歓声が鳴り響く)

真姫(間髪入れず一曲目が始まる。派手なライティングに派手なステージ。演奏は生音の凄まじいライブ)


真姫「私もこういう感じのライブ、一度してみたかったかもね…」

真姫「…帰ったら一案として考えておきましょう。まだ私のアイドル人生が終わったわけじゃないものね」


真姫(レベルの高いダンスと歌で会場を沸かせる彼女たちを見て、控え室の私も息を呑む)

真姫(昨日ツバサが言ったように、本番だとやる気の入りようが違うのか、迫力が段違いね…)

真姫(こうして3人並べて見てみても、ツバサのバネのように弾むダンスは一層目を引く)

真姫(これでダンスが苦手、というのだから、なんというか…不条理よね)

真姫(むしろツバサは苦手だからこそ、それを得意だと観客を騙すことに快感を覚えるってことらしいから…よっぽど血の滲むような練習を重ねての結果なんでしょう)

真姫(本番なら体力もいつも以上に使うでしょうに、それを一日に2公演も行う…。疲労感は想像できないほどだけど)

真姫(その辛さすらツバサは乗り越えて観客を楽しませ、そして観客を騙すことの楽しみを得ている)

真姫(私には理解が及ばないモチベーションの保ち方だけど…彼女のその貪欲な性格のせいで、彼女は悩みを持っている)

真姫(未知を得たい…。選べなかった選択肢、そのもう片方にすら手を伸ばしたい、と)

真姫(普段は人に語ることのなかった彼女の異次元の欲望を、目覚めさせてしまったのはこの私)

真姫(あらゆる可能性に手を伸ばせる…ドクター真姫、そして西木野☆星空クリニック)

真姫(ならばその責任を負うのは、私なのでしょう)

真姫(彼女に未知を。ありえないはずの『もし』を与える)

真姫(今日のライブで…その無茶苦茶をやってみせる!)


真姫「結果がどうなるのかはまだわからないけど…ここまで来たなら、ね…!」

真姫(そのために今のライブを目を皿にして見続ける。マネージャー真姫ちゃんの本領を発揮よ!)

真姫(A-RISEのライブにかかる時間、トークに要する時間)

真姫(その一々をメモし、時間短縮点をマークしていく)

真姫(当初の予定では昼と夜のライブのセットリストは同じ予定だったけど…)

真姫(私はそれを変えようとしている。土壇場でこんなことが許されるのか…私も少々不安だったけど)

真姫(英玲奈とあんじゅは了承してくれたし、それに…)


真姫「…ツバサなら、ノーとは言わないでしょ」


真姫(頭の中で再度計画を反芻しつつ、目の前のライブにも集中する)

真姫(ちょっと油断すると意識をそっちに持って行かれそうだから、しっかりしないと)

真姫(…そういえばこのライブ、花陽と凛も…凛☆も見てるんだっけ。あの子たちはどんな風にライブを見ているか、ちょっと興味があるけど…)

真姫(ま、まぁ今はそんなこといい。集中、集中…)



真姫(数曲ライブを終えたら、衣装替えのために舞台裏へと引っ込むA-RISE)

真姫(衣装を着替えるスペースは舞台裏の小部屋があるから、わざわざ控え室まで戻ってくることはないけど…)

真姫(モニターではそこまでを見ることはできない。だったら私もそこに行こうかな、とも思ったけど…)

真姫(この場において私は部外者だし、そこまでお邪魔する権限は持ち合わせてはいない、と思うので遠慮しておいた)

真姫(さすがに衣装替えのスピードを上げろ、とまでは言えないでしょうし…それはいいでしょう)

真姫(数分の休憩の後、また曲が始まる。新たな衣装に着替えたA-RISEがモニターに映る)

真姫(静まった空気が再度熱を持ち、場内は轟音に包まれる)

真姫(ライブに入るまで少々間があるわね…。このあたり省略できないかしら…。メモメモ、っと)

真姫(画面上の熱狂に飲まれないよう注意しつつ、冷静に状況を見守る)

真姫(一時間以上こうしているのはなかなかに精神を削る作業ね…。私もあの場に行って騒ぎたい気持ちがふつふつと湧いてくる)

真姫(それをなんとか抑えて自分の仕事を成し遂げる…。これが私の作戦の最終ミッションなのだから)

真姫(ストップウォッチとペンを持った私の地味な作業は、ライブが終わるまで続けられた)




ライブ終了後…


真姫「…ふぅ、ようやく終わった、わね…」

真姫(ツバサの宣言通り、リハーサル以上の心が沸き立つような素晴らしいライブだった。今すぐ誰かと感想を言い合いたい)

真姫「…けども、そんなことしてる場合じゃない。今はA-RISEが控え室に戻るのを待ちましょう」

真姫(彼女たちもライブ終わりで疲れているでしょうね。つかの間の休憩時間も与えてあげたいけど…)

真姫(計画の大詰め。ついに、ツバサにも計画を伝える時が来た)

控え室


ガチャッ


あんじゅ「ひぇ~~~…あっつぅぃ…!疲れたぁぁ…!甘いものぉぉぉ…」

真姫「はい、これでいいかしら?」スッ

あんじゅ「あら、ナイスじゃない!んーでもライブ終わりにコーラは少しキツいわね…。いただくけど!」

真姫「英玲奈はこれでいい?」スッ

英玲奈「ふむ、レモンティーか。ありがとう…。ふぅ…何事もなく昼のライブは終わったな」

ツバサ「そうね、最高の盛り上がりだった!数時間後もこれをこなせば、私たちの今年は最高の幕切れを迎えるわね」

真姫「ツバサは喉、乾いてない?お茶、あるけど」

ツバサ「えぇ、いただくわ。ありがとう、真姫さん。…んぐっ、んぐっ」

あんじゅ「はふぅ…つかの間の休憩ね…。どうして1日に2回もライブをやろうなんて思ったのかしら」

英玲奈「それを言ったら元も子もないだろうが」

真姫「…休憩もいいんだけど、今のうちに伝えておきたいことがあるの」

ツバサ「ん?何?」

真姫「落ち着いて聞いて欲しいんだけど…」

真姫「私の独断で、夜のセットリストを変えたいと思ってるの」

ツバサ「ブッ」

あんじゅ「うわ、すごい吹き出た」

真姫「既にスタッフにも了承を得てる。あんじゅと英玲奈にも…話したわよね」

英玲奈「あぁ、今日の朝聞いているな」

ツバサ「ゴホッ、ゴホッ!き、急になにを言い出すの!?セットリストを変えるって…」

真姫「そんな大層なことではないわよ。今日の昼、アンコールは一回だけだったじゃない?」

ツバサ「え、えぇ…。それが?」

真姫「それを2回にしたいの。2回目のアンコールって、結構メジャーでしょ?」

ツバサ「それはわかるけど、今日いきなりそうしようとした理由を教えてよ!」

真姫「サプライズよ」

ツバサ「サプライズ…?」

真姫「好きでしょ?サプライズ」

ツバサ「そりゃまぁ…好きだけど」

真姫「同日2回のライブ。A-RISEのファンならどちらにも参加しようと思う人も多いはず」

真姫「でも、昼と夜は全く同じセットリスト。片方にしか参加できない人に平等にライブを届けるにはそれも悪くないけど」

真姫「少なからずいる2回目のお客さんにも、少しの驚きを与えてあげてもいいんじゃないの?って思ったのよ」

ツバサ「それが、急遽の2回目のアンコール…。だけど、ライブの予定時間をいたずらに伸ばすことはできないわ。さすがに2回目は…」

真姫「そういうんじゃないかと思ってこれ。今日のライブを分析して、どうにか最後のアンコール…1、2曲を入れられるくらいの省略出来そうなところをピックアップしておいたの」ササッ

あんじゅ「わぁ、細かい」

ツバサ「これを、あなたが…」

真姫「マネージャーだもの。タイムスケジュールの管理はお手の物よ。この日のために無駄にマネージャースキルを高めた甲斐があったわ」

英玲奈「この時までまともにマネージャーらしい仕事はしてなかったものな」

ツバサ「…あなたの努力は認めるけど、それならどうして私にも朝言わなかったのよ」

真姫「それは…」

英玲奈「朝起きるのが遅かったのと…ちゃんとできることが決まってから教えたかったからだ」

あんじゅ「ツバサちゃんの期待を無駄に煽ると、本番の妨げになるかもしれなかったしね」

ツバサ「期待って…」

英玲奈「ツバサの筋金入りのサプライズ好きを刺激させたら、ただでさえ高揚している気分をさらに高まらせるかも知れないからね」

あんじゅ「ギリギリまで話さない、ってことにしてたのよねー。急な思いつきだし、もし出来なかったときに落ち込んじゃうかも知れないからって。そうよね?」

真姫「え、えぇ…。そういうことよ」

ツバサ「…」

真姫「あなたならノーとは言わない。そう勝手に決めつけて進行してきたけど…」

真姫「…どうかしら?この計画…乗ってくれる?」

ツバサ「…ふ」

ツバサ「ふふふっ、面白そうじゃない!そうよね…、2回目のお客さんにも驚きを…」

ツバサ「どうして考えなかったのかしら、私!同日2回のライブが初めてだったからこんなことにも気が回らないで!」

ツバサ「同じライブと見せかけて実はちょっと違ってた、なんて…ゾクゾクするじゃない!乗ったわ、その計画!」

真姫「…思ってたよりすんなりだったわね」

あんじゅ「そうね~」

英玲奈「とはいえ、省略部分の確認も今からすることになる…。MCの短縮、考えておけよ?」

ツバサ「わかってるわかってる!ふふ、急なのは緊張するけど、それだけ気合が入るわ!」

あんじゅ「それじゃ、今からステージで確認に行きましょうか?」

ツバサ「あ、その前に…曲はなにをやるのよ?」

真姫「そうね、それはまだ未定で…セットリスト的に既にやっている曲をもう一度やる、ってことになるけど…」

真姫「軽音部の人に話を付けておいて、多少のアレンジの効いた曲にしてもらえることになっているから、そこは気にしないで」

英玲奈「最後の曲は…、そうだな。観客と一緒に歌う、とか、アンコールらしくていいじゃないか」

あんじゅ「アカペラとかもいいかも~。伴奏なしで歌う私たちの曲…、そこに重なるお客さんたちの歌声…!想像しただけで胸が熱くなるわね!」

ツバサ「今から考える余地があるってことね。ふふ、それも楽しそう!」



真姫(…よし)

真姫(計画通り、ツバサはアンコール案を飲んでくれた。あとは、本番を待つのみ…)

真姫(彼女らがアンコールの曲を考えている間に、最後の確認に行きましょう)

真姫(手伝ってくれる音響、照明に…今からすることの覚悟を確かめに行く)

スタスタスタ…



キョウコ「あ、にしっ…え、えんじゅさん!」

真姫「…どう、調子は?」

キョウコ「うん、大丈夫!バッチシだよ!あ、先輩!えんじゅさんです!」

UTX音響スタッフA「あぁ…昨日ぶりね。あなたがこんな計画を立てた元凶ね…」

UTX音響スタッフB「なかなかすごいこと考えるじゃない…。こんな土壇場で」

真姫「迷惑、でしたか?」

UTX音響スタッフA「まぁ、正直ね。…って言っても、このくらいの迷惑、逆に面白いって思うから」

UTX音響スタッフB「キョウコから話聞いたときも結構ノリノリだったからねー。挑戦者気質なのもUTX生ならでは、かも」

キョウコ「かもしれないですね!私も…ワクワクしてるもん!」

真姫「…ふふ、そうね。ありがとう。本番…よろしく頼むわよ」



スタスタスタ…



真姫「…頑張ってる?」

アカリ「…ッハ、学ぶことが多すぎて大変だっての…!」

アカリ「せっかくの特等席でのライブ、心の底から楽しめなかったし」

真姫「緊張してるんだ?」

アカリ「当たり前!でも、こういう緊張…人生で初めてかもしれない」

アカリ「責任を負う感覚…初めて機材に触れる感触…汗が滲んで止まらないけど」

アカリ「それと同時に、胸が高まる…!緊張とは別の、熱い何かが…!」

UTX照明スタッフA「ふふ、言うようになったわね。あなたの仕事は全体で見ればほんの一瞬かもしれない」

UTX照明スタッフB「…でも、一番盛り上がるところなんだからね?しっかり、最高の光、与えてあげないと!」

アカリ「はいっ!」

真姫「タイミングは私がインカムで直接伝える。私が今、と言った時に始めてくれればいいわ」

アカリ「まかしといて!絶対に、成功させるっ…!その瞬間だけは、私は裏方の主役、なんだからっ!」



スタスタスタ…



軽音部部員A「あ、真姫ちゃん。例の計画、いよいよだねー」

真姫「えぇ…ツバサからも話は聞いてる?」

軽音部部員B「もちろん。この曲がしたい、これがやりたい…って言われてね」

軽音部部員C「あんなハツラツとした綺羅さん目の前にするの初めてでビックリしたよ…」

軽音部部長「だからちょっとなんか…気分的にはフクザツだね…。仕方ないんだけど」

真姫「そういう計画だからね。それじゃあ本番…お願いね」

軽音部部長「うん!…真姫ちゃんも、ね」

真姫「…えぇ、わかってるわ」



真姫(みんな、覚悟は出来ている)

真姫(夜のライブももう目前に迫ってきた。A-RISEの今年を締めくくる最後のライブ)

真姫(きっと大勢の人を驚かせるであろうサプライズ…ここまでやったなら、必ずやり遂げましょう)

真姫(私にも大仕事が残されている。…そのために、ギリギリまで『アレ』の確認も、忘れずにしておかないとね)

真姫(そして、2回目のライブ…夜のライブが始まった)

真姫(最初は昼と何も変わらず、会場の盛り上がりも以前爆発的なまま)

真姫(今度は私も舞台裏の小部屋に待機している。最後のサプライズの時に照明に合図を出すために)

真姫(衣装替えの時に激励なんかも入れたりして。…この場では一スタッフに過ぎないってのに、偉そうだけど)



真姫「MCは順調かしら?」

ツバサ「んー、ちょっと急ぎ過ぎかな、とも感じるけど…大丈夫かな?」

英玲奈「あんなものだろう。特にあんじゅはいつもこのくらいだとありがたい」

あんじゅ「それ私がのんびりしてるって言いたいわけ~?んー、まぁ否定はしないけどね」

真姫「気が急くのは仕方ないわ。ぶっつけ本番なところもあるし。焦ってミスだけはないようにね?」

英玲奈「フッ、誰に物を言っているのかな?私たちはA-RISEだ」

ツバサ「この程度でミスをするようなら…日本一のスクールアイドルになんてなってないわよ!」



真姫(サプライズに気を取られすぎてパフォーマンスに乱れが生じる、なんてこともないみたいで安心ね)

真姫(ライブは何事もなく順調に進み、佳境へと差し掛かる)

真姫(ライブは一度終わりを告げ、演者が舞台裏へと引っ込む)

真姫(すかさず湧き上がる、会場からのアンコール。ここまではまぁ、お約束みたいなものだけどね)



ツバサ「このアンコールを終えてからが…ある意味本番ってところね」

あんじゅ「急なプログラム変更も学生のうちだからこそできるムチャ、よね!」

ツバサ「そうね…。プロになってからだったら経験できなかったかもしれないわね」

英玲奈「この提案を考えてくれた西木野に感謝だな」

真姫「べ、別にそこまですることでもないでしょ。面白いかも、ってただ単純にそう思っただけだもの」

ツバサ「それでも、気の利いたことを考えてくれたのには変わらないでしょ?ありがとう、真姫さん」

真姫「まぁ…感謝は感謝として受け取っておくわ。あと、最後に確認しておく」

真姫「このアンコールが終われば、衣装をライブTシャツに着替えて舞台袖に待機」

真姫「舞台上はまだ照明を灯しておくことで、客席からのアンコールを待つ」

真姫「アンコールが鳴り始めて少ししたら…一旦照明を完全に暗転させるわ」

真姫「そこに3人が舞台中央に出て行って、スポットライトが当たる…。最後の曲が始まる、ってわけよ」

真姫「ちゃんと、覚えてるわよね?」

あんじゅ「もちろん!計画はバッチリ頭に叩き込んでるわ!」

英玲奈「ふっ…、どう転ぶか。見ものだな」

ツバサ「えぇ、初めての試みだけど、ちゃんと成功させるわよ!」



真姫(彼女たちも気合を入れつつ、アンコールに応え、再び舞台へと戻っていった)

真姫(A-RISEの登場に応えて会場も盛り上がる。既に昼のライブに来ている人たちにとっては、最後と思っているであろう曲が始まる)

真姫(しかし、まだ終わらない。これからが、全てにおいて、未知の世界)

真姫(今年最後にして最大のサプライズが、まもなく始まろうとしていた)

真姫(一回目のアンコールを終え、A-RISEが舞台裏へと戻る)

真姫(すぐに派手な衣装を脱ぎ捨て、スタッフと同じライブTシャツに着替え始める)


ツバサ「ふー、よしっ、着替え終わり!」

英玲奈「ふふ、聞こえるな。アンコールが」

あんじゅ「帰っちゃったらどうしようかって思ってたけど、さすが私たちのファン!空気を読むのがお上手ね!」


真姫(きっとファンの大半も、半ば盛り上がりついでのアンコールでしょう)

真姫(もし何もなくても仕方ない。でもあったらとても嬉しい…そう思ってのコール)

真姫(そこに本当にA-RISEが登場すれば、彼らもビックリするでしょうね。盛り上がりも最高潮かも)


ツバサ「それじゃあ、行ってくるわ!お留守番、よろしくね」

真姫「…えぇ、頑張って行ってきてね」

ツバサ「うん!」


真姫(ついに始まる、2度目のアンコールライブ。私も耳のインカムに手を当て、照明室の彼女へと声をかける)


真姫「…いよいよよ。準備…いえ、覚悟はいい?」

アカリ『う、うん…!ちょっと、マジで緊張がヤバいけど…!大丈夫っ…!!』

真姫「頑張りなさい。私たちが…驚かせるんだからね」

アカリ『わかってるっ…!合図、頼んだからねっ…!』

真姫「…任せなさい」



真姫(さぁ、私も行きましょう。舞台袖に)

真姫(傍らの五線譜を握り締め、ステージへと向かう)



真姫(なんとか最後まで、バレずに来れた)

真姫(この計画の、本当の目的)



アンコール!! アンコール!!


ツバサ「ふふっ…!すごい熱気…!」

あんじゅ「照明が暗転したらすぐ、だからねっ!」

英玲奈「あぁ、わかっている…」



真姫(昂ぶるA-RISEの少し後ろに、私も待機する)

真姫(ちゃんと、A-RISEがステージへ向かうことを確認しないといけないからね)


バッ…!!


ザワッ…!!


真姫(そして不意に、ステージの照明が下がる)

真姫(一部を除いて、完全に視界が失われる。会場もアンコールが消え、ざわつく声に支配される)

真姫(すかさず声と気配を殺したツバサたちが、ステージへと向かう。ゆっくり、音を立てず、失った視界の代わり、感覚を頼りに中央へ進む)

真姫「…」


真姫(…ツバサ)

真姫(これは、仕返しよ)

真姫(英玲奈も、あんじゅも、この計画に賛同してくれたのは…きっと、普段から振り回されて根に持っていたのでしょう)

真姫(あなたの、性格を)



アカリ『…ま、まだ…?』

真姫「まだよ、もう少し待って」

アカリ『…っ』ゴクリッ



真姫(そして私も)

真姫(昨日、マネージャーを頼みたいと言われて来たら、実は最初からマネージャーなんて必要なかった、なんて)

真姫(ツバサの突拍子のない思いつきに、振り回されて)

真姫(楽しくなかったわけではないけど、でも)

真姫(やられっぱなしは、趣味じゃないのよ)



真姫(暗転したステージ。きっともう、ツバサには何も見えていないでしょう)

真姫(ただ、自分がステージ中央にいるってことだけ。後は明転をただ待っているはず)

真姫(だけど、まだ明るくするわけにはいかない。…そう、このタイミングまでは)

真姫「…」

ポンッ

真姫(暗がりの中、私の肩を叩く二つの手があった)


「…じゃあ、後は頼んだ」

「舞台裏から楽しませてもらうから、ね?」


真姫「…えぇ」


真姫(そしてついに、私も動き出す)

真姫(綺羅ツバサ、と名の書かれた、五線譜を片手に)

真姫(一歩、また一歩と)

真姫(ステージに向かって)





真姫「…今よ」


アカリ『オッ…ケェッ…!!』



真姫(私の合図で、ステージに一つの光が灯る。会場が僅かにどよめく)




ツバサ「みんなっ!ライブはまだっ…」

ツバサ「…あれっ…?」




真姫(会場は今までにない空気に包まれる。盛り上がることも、声を張り上げることもなく)

真姫(観客も、そして舞台の上の演者すらも、ただ…困惑していた)




ツバサ「え、英玲奈っ…!?あんじゅっ…!?」

ツバサ「いないっ…?」




真姫(舞台上に一人佇む、綺羅ツバサ)

真姫(彼女に話した計画は、嘘だった)

真姫(私が計画、その本当の目的は…それは)

真姫(彼女に、A-RISEではない綺羅ツバサへとなってもらうこと)



ツバサ「まさか、こ、これ、って…」



真姫(ツバサ、これは仕返しよ)

真姫(サプライズが好きなあなたは、今まできっと多くの人を振り回してきたことでしょう)

真姫(英玲奈やあんじゅだけに限らず、私も、バックダンサーも、C☆cuteも)

真姫(そして、A-RISEのファンすらも、自身の弱みを隠し、天才ダンサーとして振舞うことで騙してきた)

真姫(そんな、どうしようもなく驚かせることが好きなあなた)


真姫(だったら、逆に騙される経験って、どう?)

真姫(これはあなたの好きなサプライズ。でもターゲットは…)






ツバサ「私…、騙され、ちゃった…?」

以上です 次回で終われるといいな
それでは ほなな

この作品の穂乃果はマジでクズですね。
絵里に言われるまま一方的に縁を切り、暴言を吐き、ことり達の心を傷つけて抉り、海未を引きこもりにまで追い込んだくせにその張本人は悪夢にうなられているとか寝言で『海未ちゃん、ことりちゃん。ごめんね』と謝罪しているとかどんだけ調子が良いんですかね。しかも一年以上、ことりと海未に冷たい態度で接し続、完全に縁を切り『他人』の様に接する態度を続けていたくせ(しかもいつの間にか海未ちゃん、ことりちゃんとか親しい呼びに戻っているし)にことりが自分から離れていくと衝撃、ショックを受け、動揺を隠せない、ことりが自分から離れていく寂しさを抱き、ことりと海未が傍にいない事に寂しさを感じているとかどんだけ都合が良いんですか?

そして一方的に縁を切り、絶縁を突き付けて暴言を吐いたくせに『ずっと無駄だと思って押し殺してきた私の本当の気持ち』『もう削ぎ落とす必要は無いと分かったの』『もう一度友達になろう』『も一回笑い合いたい、ことりちゃんと海未ちゃんと一緒に一緒に』って、どの口が言うんですか?本当に調子が良い事ばっか言ってるんじゃねぇよ、という感じですし、自分のやった反省や悔やんでいる描写もない、海未を引きこもりまで追い込んだ事に関する謝罪もない、こんなヤツの何処が『許される』ポイントがあるんですかね?

そしてこの穂乃果は壮絶に嫌われてもおかしくない事をやっているくせに誰も嫌わない。優しい態度で接し続けて好印象を抱かれ、友人として扱われる。
こんな不自然すぎる扱いがこの作品自体をダメにしてしまった典型的な例です。

長文になってすいません。

从廿_廿从 ヴェエ

>>587です。
今更ですけど、とりあえず付け足し。

後、『ことりと海未を切り捨てた時は専攻のトップ争いで必死だった時であり、心の底ではそうすぺきではなかったと悔いてます』『ことりと海未の事で悩んでます』と言っていましたが、それが本当に都合が良過ぎるんですよね。あんな一方的に縁を切り、絶縁を突きつけたうえ、ことり達の関係を『かなり鬱陶しいから』『邪魔だから』『自分の成長を阻害しているから』切り捨てました、しかも暴言を吐き、海未を引きこもりになるまで追い込んだくせに『心の底ではそうすべきではなかったと悔いてます』まさかと思いますけど、切り捨てたのは『本心じゃなかった』というつもりですか?そんなのは絶対通じないし、あんだけの事をしたくせに『切り捨てた事を心の底では悔いてました』とそんな理屈が通るわけがありませんよ。

しかも何ですか、自分から切り捨て、完全に縁を切ったくせにことりと海未の関係を抱え込み、悩んでいます。とか、本当に都合が良いですね、作者様の書き方を見ていると『トップになる為にことりと海未を切り捨てました、んで、トップの座を掴んた途端に自分から一方的に絶縁を突きつけ、完全に縁を切ったことりと海未の関係に悩み始めました』とか作者様はそう意図して書いていなかったとしてもそう言っている様にしかみえませんね。本当にマジで身勝手な言い分ですね。

作者様はこのSSを勢いで書き始め、勢いのまま完結してしまった、と言っているので此処まで滅茶苦茶過ぎるのはそれが原因だな、と納得していますけど、
SSを書くのならちゃんとストーリーを練ってから書いてください。作者様はどういう考えてSSを書いているかは分かりませんけど、此処まで滅茶苦茶なうえ、
キャラの扱いも本当に不自然、違和感だらけ(特に穂乃果)なので読んでいる読者としては腹が立つ時があります、しかもそれが好きな作品で好きなキャラで
されると尚更です。

再び長文すいません

はいこんばんは これが正真正銘ラストの更新ですよ

ザワザワ…


ツバサ「え、えっと…」



真姫(ステージの中央で一人、光を浴びて立ち尽くすツバサ)

真姫(観客も何が起きたかわからず、盛り上がりきれない雰囲気の様子)

真姫(このまま放っておけば正真正銘の放送事故…もといライブ事故になりかねないわね)

真姫(耳につけたインカムの通信先をツバサのイヤモニへと変更する)

真姫(その私がどこにいるかというと…ステージのキーボードの前に座っている)

真姫(ステージにいながら、ツバサに指示を送るスタッフ…。あまりに不自然だけど、仕方ないわ)



真姫『…あーあー、聞こえる?』

ツバサ「っ…!真姫さん…!何をっ…」


真姫(一応彼女の声が届く距離にはいるけれど、彼女もステージの上だし大声は出せず、彼女には通信用のマイクがないのでツバサの声はほとんど聞こえない)

真姫(だから、一方的に話すことになるわね)


真姫『率直に言えば、ドッキリよ。昼のライブが終わってからあなたに話した計画はまるっきり嘘』

真姫『本当の計画はこうして、あなた一人だけを、ステージに立たせるようにすること』

ツバサ「…どうして…」

真姫『昨日の夜、言っていたでしょう?アイドルじゃない選択肢が欲しかった、って』

真姫『その中の一つが、歌手。自分ひとりの歌を歌いたい、って』

ツバサ「言、ったけど…」

真姫『これは私と…英玲奈とあんじゅが与えた可能性よ。この瞬間だけ、今あなたはA-RISEの綺羅ツバサじゃない』

真姫『歌手の綺羅ツバサ。あの時私に見せてくれた五線譜、あの曲を…歌ってほしい』

ツバサ「…っ!あれを、ここでっ…!?」

真姫『欲しかったんでしょう?未知が。知らない体験が』

真姫『こんな急で悪いとは思うけど…あなたはどうしようもなく欲深い…強欲な人間、なのよね?』

真姫『この大勢の前で、あなたは…どうしたい?』

ツバサ「私が…どう、したいかっ…」

ツバサ「…それは…」

真姫『…私はあなたの合図でキーボードを弾き始めるわ。好きな時に言って』

ツバサ「…」



真姫(そして私はインカムから手を離す)

真姫(ざわついた空気の中、ステージの上で一人佇むツバサ。これ以上の沈黙は本当にアクシデントだと誤解されかねない)

真姫(観客も動揺し始めた時、ついに彼女が口を開いた)


ツバサ「…あー、あー…っと、ごめんなさい。急に黙ってしまって」

ツバサ「アクシデントではないの!ちょっと…ふふ、私への…プレゼント、なのかな?」

ツバサ「あっ…と、そう!アンコールありがとう!急な計画だったから乗ってくれるか不安だったけど、とても大きな声で嬉しかった!」


オー!!



真姫(彼女の声で惑っていた観客もいつもの空気を取り戻したみたい。そして…ここからが本題ね)

ツバサ「そして、その…アンコールなんだけど」

ツバサ「A-RISEの曲ではなくて…、その…」

ツバサ「…私の曲を、聴いてもらえますか?」

ツバサ「まだ仲間以外には聴かせたことのない、私が作った歌。A-RISEじゃない私が歌う歌…」

ツバサ「いつか、こうして大勢の人の前で、たった一人で歌ってみたい、って考えていて…どうやら仲間が与えてくれたみたいなの。そのチャンス」

ツバサ「ビックリしたけど、でも…いつも私のワガママに付いてきてくれたあの二人なら、あの二人が今この場にいたら、絶対にやれ、って言うと思うから」

ツバサ「お願いします、歌わせてください。…みんなも、私のワガママに…ついてきてくれる?」


オオーー!!


ツバサ「…ふふっ。ありがとう」

ツバサ「じゃあ、歌います。題名のない…綺羅ツバサの歌」

ツバサ「…お願い」



真姫(彼女の声と共に、私もキーボードを弾き始める)

真姫(これから始まるのは、ありえないはず可能性のライブ。様々な『もしも』の中の一つを、形にしたライブ)

真姫(言うなれば…『もしライブ』)

真姫(A-RISEの綺羅ツバサが、ただの綺羅ツバサとなって、綺羅ツバサの歌を大勢の観客の前で歌いだす)

真姫(激しく明るいA-RISEの曲とは正反対の、静かでゆったりとした曲調の彼女の歌)

真姫(サイリウムが、大きく横へと揺れる。この会場で、初めての動き)

真姫(静かに熱を持って、会場に歌が広がっている…)

真姫(今、この時…あなたは何を思って歌っているのかしら?ツバサ…)

真姫(穏やかさを保ったまま、曲はゆっくりと終わりを迎えて)

真姫(一つのライトに照らされた綺羅ツバサは、その場を一歩も動くことなく、歌い終えた)


ツバサ「…ふぅっ」


真姫(彼女の歌を聞いた会場の反応は…)


オォォォォォッ!!

パチパチパチパチ!!



ツバサ「ふ、ふっ…あ、ありがとう!ありがとうっ!」

ツバサ「最後まで聴いてくれて…本当に、ありがとうございました…っ!」

ツバサ「えっと…それで…このあとは…?」


あんじゅ「んー!お疲れ様~!いい歌だったよ~~!!」

英玲奈「突然だったがよく歌いきったな、ツバサ。感動したよ」


ツバサ「あっ…!もう二人共!ひどいじゃない!」

あんじゅ「いつも引っ張り回してるのはそっちでしょぉ?ふふ、仕返しよ、仕返し」

英玲奈「ちょっとは引っ張り回される者の気持ちも理解してくれたかな?」

ツバサ「えぇ、大変ね。急な思いつきでこんなことやらされると。これからはもう少し抑え目に…なんて考える私じゃないけど!」

あんじゅ「ふふふっ!それでこそ我らがリーダーね!これからもよろしく!」

英玲奈「さて、では最後の最後…次こそはA-RISEの曲で締めさせてもらおうじゃないか!準備はいい?ツバサ」

ツバサ「うんっ!それじゃあ最後の曲っ…!いくわよっ!ミュージック、スタートッ!!」

数分後…

控え室


真姫(アンコールライブが終わり、控え室へと戻ってきたA-RISE。汗を拭うためのタオルを3人に渡す)

真姫(汗を拭いたツバサが、開口一番にこう言った)



ツバサ「…負けた」

真姫「うん?」

ツバサ「負けたわ、完敗よ。凹むわ」

あんじゅ「負けた…って、今回の計画にハメられたこと?」

ツバサ「うぅん、そうじゃなくてね。…私の歌、観客のみんなに響いてなかったな、って」

ツバサ「もっと大きな反応が返ってくるって、結構自信あったんだけど…想像より声は小さかった」

ツバサ「反面、英玲奈とあんじゅが入ってきた時の声はすごくて…やっぱり、私はA-RISEには勝てないって思った」

ツバサ「スクールアイドルA-RISEになってから初めて負けた相手が…ふふ、A-RISE自身だなんて、笑っちゃうけど」

真姫「でも、観客が求めてるのはA-RISEなんだし…ツバサも本調子じゃない中で歌ったんだから、それは仕方ないんじゃない?」

英玲奈「歓声もなかなか上がってたじゃないか。それじゃダメ、だったのか?」

ツバサ「えぇ。私の満足いく結果じゃなかったわね。なにせ、貪欲な人間ですもの」

ツバサ「…けど、貴重な体験だった。あの場で私は、A-RISEのファンの前で、A-RISEじゃない子の歌を歌ったんだもの」

ツバサ「完全アウェーでのライブ…。なかなか体験できるものじゃないわ。それに…敗北の悔しさも味わえた」

ツバサ「今度は…歌だけでも、A-RISEを超えられるようなアイドルになってみせる。いつサプライズにかけられてもいいように、ね」

あんじゅ「ふふ、すごい意気込みね。でもそれじゃA-RISEのレベルも上がっちゃうからアキレスと亀状態じゃない?」

英玲奈「一生かかっても追いつけないな」

ツバサ「それでもなんとかする。意地でもね!」

英玲奈「ははは…無茶苦茶だな」

あんじゅ「それでも、ツバサちゃんならその無茶、叶えちゃいそうで恐ろしいかも」

ツバサ「…あ、そうそう。…真姫さん?」

真姫「は、はい?なにかしら」

ツバサ「よくも、あんな超土壇場の計画を押し通したわね?スタッフに迷惑、かけてないわよね?」

真姫「え、あ、その…た、多分、大丈夫です…。ご、ごめんなさい…」

あんじゅ「ツバサちゃん、顔怖い怖い…」

ツバサ「…はぁ。まぁ、いいけど。超土壇場な計画を押し通したといえば、私もだし。そしてその結果が…私に跳ね返ってきたってことよね」

英玲奈「西木野をマネージャーとして呼ぶ、ってことだな。こんなことになるなんて微塵も想像してなかったけど…」

あんじゅ「んふ、でも楽しかった!私たちじゃ思いもよらない計画を実行するんだもの!肝が据わってるわね!」

ツバサ「さすがは…A-RISEを打ち倒した、第2回ラブライブ覇者、といったところかしら?」

真姫「ん…まぁ、そうなのかもね。肝はこの世界でも色々と鍛えられたし…」

真姫「でも、私の思いつきでツバサが楽しんでくれたなら…よかったって思えるけど。楽しんでくれたのよね?」

ツバサ「んー…、どうかしら?凹んだところもあるから一概にそうとは言えないかもね」

真姫「ヴぇっ…」

ツバサ「ふふ、冗談よ。結果的には楽しかった。私のライブっていう前置きもあったから、ラストのアンコールも最大級に盛り上がれたし」

ツバサ「どうなることかと思ったけど、今日、あなたをここに連れてきていてよかった。ご苦労様、そして…ありがとう。西木野真姫さん」

真姫「っ…!えぇ、こちらこそ!」

真姫(こうして、私の二日間のなんちゃってマネージャー体験は終わりを告げた)

真姫(色々と大変なことをやらかしてしまった気もするけど…私にとっても、なかなかできない体験だし)

真姫(場をかき乱すのは…ドクター真姫にとっては日常みたいなものだし)

真姫(きっとこの出来事も、しばらくすると私のびっくりエピソードとして語り継がれるうちのひとつとなるだろう)

真姫(その中でも、とびっきりの隠し玉としてね)


真姫(A-RISEが帰る準備をしている中、ステージは解体作業が行われていた)

真姫(その中でも一際興奮しつつ、作業をこなしている二人…)

真姫(邪魔しちゃいけないとは思いつつも、彼女たちにも一応、労いの言葉をかけておこう)


真姫「…頑張ってるわね。お疲れ様」

キョウコ「あっ!にしきっ…えんじゅちゃん!」

アカリ「あ、西木野真姫!」

真姫「…えんじゅです」

アカリ「や、やっちゃったわ!あ、あんなツバサ様初めてみた!す、すごかった!可愛かったぁぁっ!」

キョウコ「アカリちゃん、ライブ終わってからずっとこんな調子で…」

真姫「当のツバサは会場の盛り上がりに不満だったみたいだけど、恵那さんはいい反応してるわね」

アカリ「A-RISEのツバサ様も好きだけど、私はああやって静かに歌うツバサ様もいいなぁ…って思った!ホント、やってよかった…」

アカリ「私がやらなかったら、あんなツバサ様も見れなかったんだよね…。本当に、やってよかった…う、うぅっ…!」

アカリ「ううぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇ…!よかったよぉぉおぉぉぉぉぉ…!!」

キョウコ「ちょっとアカリちゃん!?う、感極まっちゃったかぁ…」

真姫「そんなに喜んでくれてる人がいるならきっとツバサも喜ぶわ。少なくとも一人は、A-RISEを超えて綺羅ツバサを好きになってくれたんだし」

アカリ「ぐすっ…、っうん!ずっとずっと私、A-RISEと、ツバサ様を応援する!あ、それとね…」

真姫「ん?」

アカリ「ふふ…、実は私…これからも照明係、続けてみよう、って思ったんだ」

真姫「えっ…」

キョウコ「それ本当!?」

アカリ「うん。最初はA-RISEに少しでも近づけたら、って考えだったけど…今回のことで必死になってミスしないように照明のこと、覚えて…」

アカリ「ほんの短い間だったけど、あのアンコールの最中の照明をやりきって、責任持って仕事をこなすことの大変さと、緊張と、その中の楽しさ、ってわかった気がするの」

アカリ「だから今度はさ…最初から最後まで、責任をもって照明の仕事をやり抜きたい、って思った。だから、ね」

キョウコ「う、うおぉぉぉぉっ!アカリちゃんっ…!!わ、私もずっと音響やるから、一緒に頑張ろうね!!」

アカリ「うん。今度のライブも、一緒に裏方やろう!」

真姫「…ふふ、これは、私が選ばせたことじゃないわよ?恵那さんが自分で選択したこと。…ついに、特別になれたわね」

キョウコ「っ…!ホントだっ…!すごいなぁ…西木野さ、えんじゅちゃん!」

真姫「もういいわよ…」

アカリ「あ、っていうかさっきからツバサ様の事呼び捨てってどうなのよ!そこまで親しい仲!?」

真姫「う…、そ、それじゃあ私帰るから!じゃあね!」

アカリ「あ、おいっ!…またね!新学期、学校に来たら聞かせてもらうから!」

キョウコ「来年からは仲良くしようね!西木野さん!」

真姫「っ…。…えぇ。でも、私忘れっぽいから。もしかしたらこのこと、すっかり忘れてるかもしれないけど…その時はよろしくね」

キョウコ「あはは、なにそれー…」

真姫「…」



真姫(きっとその私は、あなたたちのこと、何も知らないと思うけど…人見知りみたいだから、仲良くしてあげてね)

真姫(A-RISEも帰る準備ができたということで)

真姫(ステージの撤収作業をしている中悪いけど、私も帰らせてもらうことにした)

真姫(まぁマネージャーだし…そこまでしなくてもいいでしょ…。うん)



軽音部部長「あ、お疲れさまー、真姫ちゃん!」

真姫「あ、どうも…。楽器使わせてもらってありがとうね」

軽音部部員A「いやいやー、貴重なものを見させてもらってこちらも感無量よー」

軽音部部員B「西木野さんもC☆cuteのほう、頑張ってね。応援してるから!」

軽音部部員C「そんじゃまたねー」

真姫「えぇ、また」

タタタタタッ…


真姫「…会えるかどうかはわからないけど」



ライブ会場前


真姫「…おまたせ」

あんじゅ「真姫ちゃーん。お疲れ様~」

真姫「ふふ、何言ってるのよ。一番のお疲れ様はあなたたちでしょう?」

あんじゅ「んー、そうだけど。でももう真姫ちゃんとはお別れなのね…」

英玲奈「最後に家まで送っていくよ。今からはマネージャーではなく、友人として」

真姫「ありがとう。…なんなら、希の家…寄っていく?アツアツのお鍋が待っているわよ」

ツバサ「魅力的な提案だけど…今日は遠慮しておくわ。これから3人で反省会だから。この3人でないと話せないこともいっぱいあるし」

真姫「そう。…なら初詣は?来る予定あるの?」

あんじゅ「えぇ、行くつもりだけど?」

真姫「ふふ、じゃあその時もまた会えるわね。巫女のバイト入っちゃってるから」

英玲奈「これからまだ働く予定があるのか…。大変だな、お前も」

ツバサ「話し込んでるうちに車が来たわ。さ、乗って」

真姫「えぇ…」



真姫(すっかり乗り慣れてしまった車の中でも、いろんな話で盛り上がった)

真姫(私の世界では知り得なかったA-RISEの本性…。最後の最後まで存分に堪能させてもらったわね…)

真姫(これもツバサの言うところの、ありえないはずの未知、なのかしら)

真姫(だとしたら、これからは私もこの『もしも』に執着してしまいそう。それくらい…楽しい時間だった)

真姫(私に残された問題はまだ山積みで、この世界にいられるあとわずかな時間での解決を考えると、骨が折れるけど)

真姫(その苦悩をも吹き飛ばせるくらいの思い出がまた1ページ。そして最後まで…楽しい思い出で埋まると、いいわね)

真姫(まずは巫女のバイトをこなすことが第一目標だけど…。はぁ、今からでも辞退したいくらいダルいわ)

真姫(そうこうしているうちに車は希宅の前に着いた。あ、今のは色々やってるって意味のそうこうと車の走行をかけた…)

真姫(…やめましょう。どこかの誰かとキャラが被るわ)


ガチャッ


真姫「ふぅ…。久しぶりに見知った土地に帰ってこられた気がするわ。送ってくれてありがとう」

ツバサ「こちらこそ、あなたがいてくれたおかげで最後まで飽きなかったわ」

あんじゅ「巫女さんのバイト、頑張ってねー。ちゃんと見に行ってあげるからっ!」

英玲奈「くれぐれも体調には気をつけてな」

真姫「えぇ、それじゃ…」

スタスタ…


ツバサ「ねぇ、真姫さんっ!!」


真姫「っ…、な、ナニヨ…?まだ何か言いたいことが…?」


ツバサ「今日は…よくも騙してくれたわねっ!私、やられたらやり返したい人間だからっ!」

ツバサ「今度会ったら…あなたが泣いちゃうくらいのビッグなサプライズ、用意しておいてあげるわ!覚悟しておきなさい!」


真姫「…」

真姫「…っは、ふふ…。えぇ、楽しみにしてる。でも私、そうそう泣かないわよ?どんなサプライズなのかしらね」


ツバサ「さぁ、何も考えてないけど!…じゃあ、また会いましょう!数時間後くらいに、ね!」

バタンッ


ブルルルルル…



真姫「ふ…。騒がしい人だったわね、綺羅ツバサ…」

真姫「…今まであまりA-RISEには興味なかったけど、帰ったら…花陽に話、聞いてみましょう」

真姫「きっと彼女も知らないようなこと、知っちゃったんだし。ファンとしては大きな特典よね」

真姫「さて、と…それじゃあそろそろ、我が家へ帰りましょ。アツアツのお鍋用意して、待っててくれてるわよね…」



真姫(そして私は見慣れた扉をノックもせず開く)

真姫(私がメガネをかけていたら曇りそうな暖かい空気と、ダシの香ばしい香りが体を包み込んだ)

真姫(二日間の慌ただしい日々の疲れを吹き飛ばすような、帰ってきたって実感)

真姫(靴を脱いだらすぐさま、二人の待つダイニングへ。少し早足で向かう)

真姫(久しぶりの彼女たちに、まず言うべき言葉は…)



真姫「…ただいま」


希「おかえりっ!」

凛☆「おかえりにゃっ!」


真姫(待つ間もなく、二つの声が返ってくる)

真姫(やっぱり私は、そんな既知の日常が)

真姫(大好きだって、改めて思えたのだった)




おわり

おまけ



車内


ツバサ「ふー…真姫さんが帰っちゃうとこの車もなんだか寂しくかんじるわね」

あんじゅ「これがいつもどおりでしょ?さぁさ、今からお食事タイムよ」

英玲奈「これだけ汗を流すとさぞかしご飯も美味しいだろう。…ところでさっき西木野にサプライズを、なんて言ってたけど」

あんじゅ「あ、そうそう!また何かとんでもないことに巻き込まれちゃうのぉ?私たちも!」

ツバサ「わからないわよ、まだ何も考えてないんだし。ただやられっぱなしっていうのも悔しいじゃない?」

ツバサ「あの気丈に振舞っている真姫さんを泣かせられるくらいの感動的なビックリを与えてあげたい、って思ってるけど」

ツバサ「…どこかに落ちてないかしらね。サプライズ」

英玲奈「はは…サプライズってのは落ちているものなのか。そうだな、どこかに落ちているといいな」

あんじゅ「意外とすぐ見つかるかもね?」

ツバサ「そうね。だといいわね」



ツバサ(無計画のまま彼女に言い放った、泣かせるくらいのビッグなサプライズ)

ツバサ(どんな風かも想像つかないままのその計画が、本当にどこかに落ちてないかと考えていたけれど)

ツバサ(割とその日は、簡単にやってきて)




数日後…


とある喫茶店




希「…うん。覚えとくね、れなっち」

ツバサ「ふふ、英玲奈ってば一途ね」

英玲奈「悪いか。…あと、れなっちって言うな」

希「それじゃ、うちはこれで…」スクッ

あんじゅ「あれぇ?もう行っちゃうの?」

希「うん。今日はちょっと予定が詰まってるから。ちょっとしたサプライズの…」

ツバサ「サプライズ!?」

希「えっ…」



ツバサ(このサプライズはなんだか、おいしい匂いがする)

ツバサ(そう直感的に判断して、犬のように噛み付いた)




ツバサ「さぁ、行きましょう!真姫さんに極上の驚きと感動を!」

希「あ、ま、待ってーなぁ~…。ツバサちゃんやけにやる気やねぇ…」

英玲奈「やれやれ…うちのリーダーはこれだから…」

あんじゅ「…これだから、最高なのよね」




もしライブ! 番外編 その2

おわり

そんなわけで9話と10話の間にあったA-RISEのライブでの出来事的なことをやりました
10話で真姫ちゃんが異世界人であることにA-RISEが一切驚いてなかったのでその理由付けという意味も込めて見切り発車で始めた結果
SSまともに書くの久々過ぎて全然スラスラかけずにものすごい時間を食ってしまって申し訳なさ
10話との辻褄を合わせるために真姫ちゃん以外のキャラをほとんど出さなかったのもアレだったのかもね…
続けてなにかしら別スレ建てようかと思ってましたがちょっと疲れたので再度間を開けます またどこかでお会いできるといいですね
僕個人としては細かいところは見逃してなんとなくで楽しんでくれてたら嬉しいです それではいつかまた ほなな


オーズパロ待ってる

乙!楽しかったよ

『細かい所は見逃して』と言っていますけど、これが貴方が他に書いているギャグメインの安価SSだったり
普通の日常系のSSだったら細かい矛盾は目を瞑りますか、こんなドロドロ?グチャグチャ?な人間関係をしてこのクズ穂乃果の行動や言動、無茶苦茶なうえ
ブレブレまくりで都合が良い事ばっかり言っているのに『細かい所は見逃して』とかいうのは勝手過ぎると思いますよ。
『何となく楽しんでくれたら嬉しい』と思うのならこんな海未達の人間関係が滅茶苦茶になる様な書き方はしないで下さい。
そして人間関係を滅茶苦茶になる様な書き方をするのならしっかり書いて下さい、結局の所は穂乃果以外のグズみたいな凛、絵里は反省や
罪に気づいてのに対してクズ穂乃果だけは絶縁を宣言して無駄と切り捨てたあっさり海未達の絆を取り戻して昔みたいに笑い合える関係に戻りました
絵里達とは違い何も失わずにハッピーを迎えて終わりですからね。この作品のクズ穂乃果は。

もしまた新しいSSを書くのならちゃんとした『理由づけや』自分がやからした事に罰はしっかり受けさせる様にして下さいね。

分かったからもう黙れ
流石にお前の方が鬱陶しい

何がこいつを駆り立てているのか

批判は一切許さない外野にも問題はあるんだよなぁ

批判は一切駄目なんて誰も言ってないだろ
長文君の言ってることはあながち間違いじゃないとは思う
でもいつまでもこんなクソ長文で何回も言ってたら鬱陶しがられるのも仕方ない

乙です! 楽しませてもらいました! オーズパロやるとしたらめっちゃ楽しみにしてます! アンクポジは鳥関連でことりちゃんとかのイメージがある おおあなでツバサさんとか?

>>603です。
言いたい事があり過ぎてこれでもかなり短くしたつもりなんですけどね(というか全然言い足りないですし)
鬱陶しく感じたのならすいません。というよりまだ言いたい事がありますし、ツッコミたい所はあります。
自分は穂乃果推しだけとこのクズ穂乃果は嫌いだし、海未達を裏切り、切り捨てたのに何であっさり絆を取り戻して笑い合える関係に戻っているのか
と言いたい所がある過ぎるんですよね。

>>609
お前に良い方法を教えてやろう
それは意見を吐き出す用のTwitter垢を作ることだ
これで見たくないやつは見ないし>>1もTwitterやってるからおそらく見てくれると思うぞ

作者がどう受け取るかだけで外野なんて正直どうでもいい

もう終わったスレにねちねち粘着し続けるより、上でも言ってた自分なりのUTXライブの物語を書いて推しの穂乃果を救ってやれ
そっちの方がよほど時間的にも有意義だ
まさか世に星の数ほどあるクズ穂乃果が出てくるSSに片っ端から文句つけて回ってるわけでもあるまいに

クソみたいな長文で二次創作は許さない的なこと書くから叩かれるんだよなぁ…

どんな感想を持つのも自由だけど
指摘はTwitterとかaskでって>>1が言ってるのを無視してるのはどうかと

>>612
いや、流石にクズ穂乃果が出てくるSSに片っ端から文句をつけていませんし、このSSが完結してから数ヶ月経っていたのなら何も
言いませんけど、一応リアルタイムでしたので指摘しただけです。

>>614
自分はツイッターやaskというヤツはやっていないので指摘が出来ないんです。

>>613
長文で鬱陶しく感じたのなら謝りますけど、一言も二次創作は許さないと言ってませんし、このSS自体否定する気もありません。
只、おかしい所を指摘しただけなのにそう言われるのは少し心外です。

お前ら反応するなよ

>>1乙!
リメイク前から見てたけど、楽しく読ませてもらったわ!
そのままの勢いで書いて欲しい!
新作期待してる!

暫く見失ってたんだけどやっぱり速報メインで書いてるのね、面白かった
時間空いてもぜひまた何か書いてほしいな

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