もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 後編 (618)

このスレは『真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」(真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420381422/))』及び、
その関連スレで他のSSと同時進行で書いていたSS、『もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~』を色々修正してまとめて貼り付けていこうという目的のスレです。

前スレ『もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 前編(もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 前編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464010883/))』があるのでそちらから先に読んでください。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1465307848

今日は7話からになります 前がアレだったのであらすじすら超長い

前回のもしライブ!(声:矢澤にこ)デン


ハロウィンライブ当日、アイドル応援部のみんなでA-RISEのライブを見に行くことに。

沸き立つ会場の中、あることに気づいた真姫ちゃんは、次の日の夜に私のもとへ訪ねてきて…。



真姫「A-RISEのバックダンサーのはずのあなたが、どうして」

真姫「昨日のハロウィンライブに、いなかったの?」



体力不足が原因でバックダンサーを下ろされた私を助けようとアイドル応援部に頼み込む真姫ちゃん。

アイドル応援部のみんなも快く了承してくれたけど、私を助ける方法というのが…。



真姫「…パジャマパーティ、するんですって」

にこ「…え」

にこ「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?!」



私の不調の原因が孤独によるストレスと見抜いていた希さんによって、私のストレスは払拭されて。

念願のバックダンサーにも復帰!これで夢のA-RISEにも再度腕が届いた!

と、思っていたけど、でも現実はそう甘くなくて…。



『小さいものは、踏まれて潰されてぺしゃんこにされて』

『それで、死ぬの』



突如として謎の幻覚と幻聴に襲われ、バックダンサーとしての練習を断念せざるを得なくなる私。

原因を突き止めに希さんの家にもう一度来訪し、得られた答え。それは、私の心が折れてしまったということだった。

孤独のストレスは更なるストレスからの防護策だったと判明して、苦悩する私と、そして真姫ちゃん。

半狂乱になりながらも助けを求める私を見て、真姫ちゃんはついにアイドル活動を犠牲にしてでも私を助けようと決意する。

一度は反対されるも覚悟を認められアイドル応援部みんなで私を救おうとし、そして、ついに私を苦しめていたものが判明する。



真姫「…おそらくだけど、にこちゃん、あなたは…」

真姫「身長に、コンプレックスを抱えているのね」



幼い頃からの悩みが積もり積もってにこの心を蝕んでいたことがわかった。

だけどそれを打開する答えを持っていないと一度は諦めかけた真姫ちゃん。しかし、考えた末にたどり着いた一つの切り札があった!



ツバサ「こんにちは、矢澤にこさん」



トップレベルのダンサーでありつつもダンスが苦手だと明かした綺羅ツバサ。

嫌いな自分を嫌いなまま、強さとして見せつけていくという考えを教わり、私はそれに救われた。

アイドル応援部のみんなにも手をかけさせちゃって、感謝をしてもしきれないけど…。

でも、夢のトップアイドル、A-RISEに向けて、にこはこれからも全力で駆け抜けるの!



希の家


真姫(もう11月も半ば。にこちゃん復帰のために時間を要したとはいえ…)

真姫(私たちの活動を疎かにするわけにもいかない。今月も変わらず新曲を発表しないと)

真姫(部費も入って、今回の曲こそが全力のC☆cuteの曲となる)

真姫(衣装やダンスの打ち合わせもいつもより入念になるというわけね)


真姫「…そうね、その部分はもう少し派手に動いたほうがいいと思うわ」

海未『わかりました。ではそのように…ふわぁぁぁ…』

ことり『あれ、海未ちゃん…今のあくび?』

花陽『珍しいです…!』

海未『す、すみません…。そろそろ眠気が…』

真姫「でも最近は夜中の打ち合わせも連続しているし、みんなの疲労も溜まっているのは確かでしょうね」

真姫「眠たくて授業が疎かになるのも避けたいし、今日はこのくらいにしておきましょうか」

海未『了解です…。では、私はこれで…』

真姫「あ!でもまだ話したいこともあるし、明日の朝部室に…」

ことり『あれ?明日部室って…』

花陽『あ、そっか…。部屋、変わるんだったっけ』

真姫「あ…」


真姫(私たちの活動が認可され、部費も入ってきた結果)

真姫(今の小さい部室は改善され、多少大きめの部室が用意されることになった)

真姫(でもそのために明日の朝から業者の方がお引越しのために出入りしてて…)

真姫(両部室とも使えない状態なんだったわ)


真姫「…じゃあ仕方ないわね。明日は私の教室…E組に集合ってことで」

海未『わかりました。真姫の教室ですか…。ふふ、クラスメイトにどんな扱いを受けているのか、少し興味がありますね』

真姫「な、なによそれ…」

ことり『真姫ちゃんクラスじゃ浮いてたり~?』

花陽『そ、そんなことないですよ!意外とクラスではみんなの人気者で…』

真姫「意外ってどういうこと?…もう、早く寝る!じゃあね!」

花陽『あ、バイバイ!また明日!』

ことり『バイちゃ~』

海未『おやすみな…ふわわぁぁぁぁ~…』

真姫「さて…私も寝ないとね…」



リビング


希「お、真姫ちゃん。お話終わった?」

真姫「えぇ。終わったというより中断。続きは明日の朝ね」

希「毎日毎日大変やねー…。全部自分たちでやるっていうのは」

真姫「A-RISEには衣装や曲を作ってくれる人がいるものね」

希「スクールアイドル多しといえども曲から衣装から振り付けからステージまでぜーんぶ自分たちで作ってるグループもそうそういないんと違う?」

真姫「そうなの?」

希「うん。普通は曲やダンスを提供してくれるサポートがいるもんやけどね」

希「もちろんそれも全部学生が行うのが普通なんやけど」

真姫「サポートね…。でも作詞作曲衣装ができる子がアイドルならそれはそれで問題ないし」

真姫「振り付けも考えながら練習したほうが理解も早いし、ステージは私たちだけじゃなく手伝ってくれる人もいるし…」

真姫「それにサポートなら希、あなたがいるじゃない。私たちの体調管理もしてくれて」

希「ん?んー…、まぁ、うちにできることなんてみんなに比べれば安いものだけどね」

真姫「そう?…だったら、希もアイドル、やってみたらいいのに」

希「え、うちが?」

真姫「うん。今からでも大歓迎よ。むしろやりなさい!」

希「うちか…。うちが、アイドルね…」

希「んー…、ちょっと気になるところもある」

真姫「おっ」

希「でもナシっ!」

真姫「え!なんでよ…」

希「うちみたいなインドア派がアイドルなんて似合わへんよ~」

真姫「室内弓道場で部活をしている海未も含めてC☆cuteはみんなインドア派だと思うけど…」

希「そういえばそうかも。あ、でもでも!」

希「カードもうちに語りかけてるんよ。このグループには後ろで見守ってくれる人が必要や、って」

希「いわば縁の下の力持ち?それがないとC☆cuteはダメになってしまう言うてるし~」

希「だからうちはみんなを見守るオカン的ポジションがいいな~、なんて言ってみたり」

真姫「結局動きたくないだけでしょ。…はぁ」


真姫(本音を言えば無理やりにでも希をアイドルにしたいところだけど)

真姫(彼女にはまだ、本気でアイドルをやろうという心構えがない)

真姫(これまでの高校生活で、誰かを支えるだけだった希が、自分から動こうとするきっかけ…)

真姫(それがない限り、希をアイドルにするのは難しいのかも)


真姫「…いつかは来てくれると思うんだけどね」

希「ん?何か言った?」

真姫「なんでも。…もう寝るわ。歯磨いたらね」

希「はいは~い。真姫ちゃん疲れてるみたいやし、よーくおやすみね」

いよいよ、この日が来てしまった。


何日ぶりだろうか。


こんなにきっちりとした身なりになるのは。


新品の服に身を包み、髪も整えて。


外見の清潔な格好とは裏腹に、私の心はとても億劫だった。


できればこのまま二度と、外に出たくなかったけど。


だけど、せめて高校は卒業しろって両親がうるさいから。



「…はぁ」



重いため息が宙に舞う。


少し早いけど、そろそろ行こうかな。


いつまでも家にいるほうが、かえって憂鬱な気分になりそう。


一度行ってしまえば、きっと拍子抜けするほどなんてことないはず。


自分の部屋の扉を開けて、足早に階段を駆け下りて。


両親には顔も見せず、朝食も食べずに革靴に履き替える。


二人が嫌いなわけじゃないけど、もう気まずくてまともに会話もできない。


学校に言っても、誰かと話をするなんて出来やしない。


…いいんだ。私にとって、学校なんてもう…。


ドアノブに手をかけ、もう一度ため息。…もとい、深呼吸。


心の中で唱える。せーのっ…。


ガチャッ、という音を立ててドアが開き、外へと出る。


久しぶりに、外で青空を見たような気がする。


後ろでドアの閉まる音が聞こえる。


両親には、何も言えなかったけど、せめて。


私をずっと匿ってくれた、この家にだけでも出発の挨拶を。



「いってきます」

ジリリリリリ…



真姫「凛!急患よ!」

凛「え!?一体なにがあったの!?」

真姫「穂乃果が暴行にあって大怪我なの!」

凛「ぼ、暴行!?それはマジで大事だよ!病院に連れてったほうがいいって!」

真姫「ダメよ!こういう時でないと外科の真似事なんてできないわ!」

凛「なんて血も涙もないこと言うんだ!!凛もやる!」

真姫「えぇ、それでこそ我が右腕ナース凛ね!」

凛「それで、穂乃果ちゃんはどこ?」

真姫「えぇそこに…」



穂乃果「ぎゃああああ痛いよぉぉぉぉぉお!!やめてええええええ」

絵里「おーっほっほほ!あぁ、穂乃果を殴るのってなんて楽しいのかしら!もうやめられないとまらなぁい!」バッキバッキ



凛「うわぁぁぁぁ!!犯人までついてきた!!」

真姫「絵里!あなたが穂乃果をボッコボコにした犯人だったのね!酷い!」

絵里「なによ!文句言うならあなたもボッコボコにするわよ!」

真姫「ふん!やれるものならやってみるがいいわ!」

絵里「じゃあお言葉に甘えて。くらえ大型スレッジハンマー!」ブオンッ

真姫「ならばこちらは!スタースカイシールド!」ササッ

凛「え、凛の身体を掴んで何を」


ズゴォォッ!!


凛「ぐぎゃあああああ!!頭蓋骨が陥没した!?これは死んだわ」バタリッ

真姫「りいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃんん!!よ、よくも凛を…!」

絵里「やべぇやっちまったわ…。殺すつもりはなかったのに」

真姫「あんなゴリラも殺せそうなハンマー持ち出してよく言えたわね!もう許せない!」

真姫「あなたはこのスタースカイソードでズッコンバッコンに退治してやるわ!」

凛「それ凛の体なんですけどー」

絵里「そ、それは伝説の剣!スタースカイソード!そんなん持ち出されたらもう勝ち目はないチカ…」

絵里「でも女には負けると分かっていてもやらねばならぬ時がある!うおおぉぉぉぉ!!穂乃果のアキレス剣!」

穂乃果「あ、足がぁぁぁぁぁぁ!!」

真姫「負けるかああああああああああああ!!!」




ジリリリリリリ…

早朝 UTX学院 1階

正門改札前



穂乃果「…」

穂乃果「…眠い」


穂乃果(生徒会長としての仕事に、朝の挨拶がある)

穂乃果(こうして毎日毎日、正門改札前で登校してくる生徒に対して挨拶をしなければならない)

穂乃果(中には軟弱な精神の、挨拶も返さない弱い心の人間もいるけど…仕事だし仕方ない)

穂乃果(けれど、連日のハードな練習のせいで最近少し日々の生活バランスが崩れかけているかもしれない)

穂乃果(今日は珍しく瞼が重くて…)


「…会長?」


穂乃果「…え」

生徒会役員A「会長…、寝てました?」

穂乃果「…寝てない」

生徒会役員B「ホントですかー?目、瞑ってましたけど」

穂乃果「寝てないから。無駄口挟まない」


穂乃果(…横でヒソヒソと、「顔赤くなってる」「意外と可愛いところあるんだ」なんて声が聞こえる)

穂乃果(ちょっと殴りたくなったけど、正直意識飛んでたところもあったし…私に過失がある。反省しよう)


穂乃果「おはようございます!」

女生徒「おはようございまーす」


穂乃果(眠気を払いのけるように大きな声で挨拶をする。すると…)


ビーッ!!

「えっ…、あれ…。うそ…」


穂乃果(けたたましい…ってほどじゃない警告音が正門に鳴り響く)

穂乃果(まさか不審者?と思いそちらを見ると、そうではなく、生徒が一人改札を通れないでいた)

穂乃果(時折電子生徒手帳のエラーや機器の不調などで改札を通れなくなる生徒がいるので、こういう時のためにも私たちはいる)

穂乃果(常に予備の外部者用の電子生徒手帳を携帯しているのだ)

穂乃果(すぐさま回り込んで外から声を掛けよう。もしこれが生徒の皮を被った不審者なら即刻退場願わなければいけない)


穂乃果「…どうしたの?」


穂乃果(何度も改札に生徒手帳をかざし、その度警告音を鳴らしあたふたする彼女の後ろから声をかける)

穂乃果(うつむきがちにこちらを振り向いた彼女の顔を見て私は…)



穂乃果「…ふぇ?」


穂乃果(長らく出していなかった、とても間抜けな声を出してしまった)

一年E組


花陽「むふふふふ…真姫ちゃんの椅子…真姫ちゃんの机~…」

花陽「すりすり、すりすり…」


ガチャッ

ことり「おはよー」


花陽「ふわぁぁあっ!!」

ことり「…あれ、花陽ちゃんだけ?」

花陽「う、うん…!まだ真姫ちゃん来てないみたい…!」

ことり「…今なんかしてなかった?」

花陽「何もしてないよ!?べべべ、別に真姫ちゃんの机や椅子に頬ずりなんて…」

ことり「…」


海未「おはようございます。…おや、花陽とことりだけですか?」


ことり「うん。まだ真姫ちゃん来てないみたーい」

花陽「な、なにしてるのかなぁ…」

ことり「私としては花陽ちゃんが何してたのかななんだけど」

海未「なにかしてたんですか?」

花陽「何もしてないしっ!」

海未「…必死感がひしひしと伝わってきますね」

ことり「えっ…!海未ちゃん今のダジャレ…!?」

海未「は?」

ことり「ひっし感が、ひしひし…ぷぷっ…!85点…!」

海未「…ことりのハードルは低いのですね」

花陽「こんな実りのない会話するより、早く昨日の続きがしたいなぁ」

ことり「は、花陽ちゃん結構辛辣…!」

海未「まぁ、私も同意見ですが…いつもは一番乗りしていてもおかしくないのですが…遅いですね、真姫」

花陽「何か厄介事に巻き込まれて、とかじゃなければいいけど…」

なんということだ。


まさか、こんなことになるなんて。


長らく使っていなかったせいで、壊れていたのだろうか。


生徒手帳が反応せず、立ちぼうけになってしまうなんて予想していなかった。


おかげで周囲の視線が痛い。痛すぎる。


初日から、こんな目に逢う、なんて…。



「どうしたの?」



急に背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がる。


喉が狭まって、全身の筋肉がこわばる。


こんな大勢が見ている前で、誰かに話しかけられるなんて体験は。


もう何年もご無沙汰だと思う。


自分の鼓動が耳に痛い。誰かに脳天をライフルで狙われているかのような緊張ぶり。


ともかく、ずっとこうして固まってはいられない。何を言うかも決まらず、後ろを振り返る。


何を言われるのか、どう言い訳すればいいのか、脳内を様々なことがよぎる中。


向き合った相手が発した言葉が…



「…ふぇ?」



そんな素っ頓狂な声だったのだから、私も拍子抜けだった。


かと言って緊張が休まることはないけど。



「…あなた」



すぐに二の句が継げられる。何を言われるのか、不安でしょうがなかった。


たぶん何を言われても、まともに返せる気がしな…



「…何なの、そのメガネ」



べっ…!

「別に誰がメガネかけてようが勝手でしょ!?」



…反射的に、声が出てしまった。

絵里「ぐわあああああああああ!!!」

真姫「やったわ!暴行犯絵里を死闘の末やっつけた!」

絵里「ぐ、ぐぅぅうぅ…!けれど私を倒したとしてもすぐに第二第三の私がお前を倒す…!」

真姫「え、絵里ってばそんな魔王みたいに分裂する仕様だったの…?!」

絵里「ゴメン嘘付いた。後継者なんていないわ!いつでもぼっちよ!」

真姫「絵里…」

絵里「今回のこれだってあまりに寂しすぎてついつい手が出ちゃった系アイドルなの」

絵里「孤独が私を変えてしまったのよ。人ごみに流されて変わっちゃったのよ」

真姫「そうだったのね…絵里…。私ってばあなたって人を誤解していたみたい」

絵里「ま、真姫…!」

真姫「絵里…!これからは手を取り合って」


ズバッ!!


絵里「ごぴゅっ」


真姫「え、り…?」


ゴロンッ…


真姫「え、絵里の…生首が…!きゃあぁぁぁっ!」

希「…」

真姫「希…!あ、あんたがやったの…!?」

希「…真姫ちゃん」

真姫「許さないっ…!許さないわ希!彼女はやり直せたはずなのに…!」

希「真姫ちゃんっ…!」

真姫「彼女を殺した罪!贖ってもらうわよ!!」

希「真姫ちゃんっ!!」

希「早く起きてっ!!」




希の家 寝室


真姫「…んぇ?」

希「もうとっくに朝やよ!!ほら起き!!」

真姫「…あれ、さっきまでのは…もしかして…夢…?」

真姫「って!希!?今何時!?」

希「はい時計!」

真姫「…え、やばっ…!完全に打ち合わせに遅刻じゃないっ!?なんで起こしてくれなかったのよ!?」

希「さんざん起こしたっちゅうに!思ってたより疲れがたまってたんやね…」

真姫「や、や、や…!」

真姫「やらかしたあああああああああああああああああああああ!!!!!」

「…はぁ」



まさかメガネのことを言われるとは思ってなかった。初対面の人に。


相当おかしいのかな、私のメガネって…。


かなり高級なフレームなのに。デザイン気に入ってるのに。


レンズだってPCから発せられるブルーライトを遮断する目に優しい作りになって…どうでもいいわそんなの。


ともかくあのあと、あの声をかけてきた人は事務的な手続きで私に電子生徒手帳の予備を貸してくれた。


帰りまでに学内のオフィスで再登録をしないといけないらしい。


私に対して特に何も質問してこなかったのはありがたいけど、あっちもなぜか急ぐように説明して、すぐに持ち場に戻っちゃった。


変な声を聞かれたのが恥ずかしかったのかな。



「…っと」



先ほどの出来事を追想していたら、教室の前にたどり着いてしまった。


ここで、合ってるわよね…?


早めに来たけれどもう既に何人かが教室に集まっている。


もし何か言われたらどうしよう。


そんなことないはず、とわかってはいるのだけど、不安でならない。



「大丈夫…。大丈夫…」



顔を伏せて入れば、誰も私になんか気づかない。


顔も、きっと名前すら覚えている人なんていないだろう。


だから、大丈夫。


勇気を出して、教室のドアを開いて…。


そして、最初に出会った人とは目も呉れず、一目散に私の席へ…。



「あっ!おはよう!!」

「…はい?」



そ、そんないきなり元気よく挨拶されるなんて…予想外だった。


そして今更気づく。


私の席って、どこだ。

1年E組


海未「…遅い、ですね」

ことり「完全に遅刻ですなぁ~。これはキツいお仕置きが必要かも」

花陽「や、やっぱり前みたいに何か事故か事件に巻き込まれて…!わわわ…!」

海未「流石にそれはないと思いますが…」

花陽「でももう教室に人も集まってきたしそろそろ来ても…」

ことり「電話してみる?」

海未「そうですね…。一度真姫の電話に…」


「あっ!おはよう!」

「おっはよー!西木野さん!」


ことり「…ん?あ、来た!真姫ちゃんだ!」

花陽「え…、あ、ホントだ。おはよー!真姫ちゃん!」

海未「…こちらに気づきませんが」

ことり「何やってんだろう、真姫ちゃん。おーい、こっちだよー!」

海未「遅刻しているから気が引けているのでは?」

ことり「む!その可能性や高し!無理やり連れてくるしかないね!」

花陽「もー!真姫ちゃん!こっちこっち!」


真姫「…あ、あの」

海未「遅いですよ、真姫。どうしたんですか?」

真姫「えっと…ご、ごめんなさい」

花陽「ごめんなさいじゃわかんないよ。何かあったの?また事故に巻き込まれたとか」

真姫「え…その…あの…、な、何も…ない、です…」

ことり「…なんかいつもと様子が違うね。やっぱり何か隠してるー?」

海未「…はぁ。今更遅刻の理由など聞いていても仕方ありません。とにかく、早く昨日の続きと行きましょう」

真姫「…昨日?」

花陽「で、どこまで話してたっけ?」

ことり「たしかダンスの振り付けを変えてみようって話で…」

海未「あとは衣装の最終案でしたね。まだ私と真姫の分が未定で…」

海未「真姫はたしかことりの考えた衣装案をアレンジして今日までに持ってくるという話でしたが」

ことり「そうそう。早く出して?」

真姫「え…?な、なんの…話、ですか…」

花陽「いや、なんの話、って…だから衣装の話だって!もしかして、忘れちゃった?」

真姫「あ、あのぉ…衣装って…、なんの?」

海未「はぁ?ふざけているのですか?もう時間がないんですから早く!」

真姫「ほ、本当にわからなくて…」

海未「おふざけに付き合う余裕はありません!というかなんなんですかそのメガネは…」

真姫「だからメガネは関係ないでしょぉっ!?」

海未「っ!?」

ことり「…急に元気になったね」

花陽「やっぱり…、なんか変?」

何っ!?何!?なにぃっ!?


私の目の前で、私の知らない言葉で、私の知らない人達が私に向けて何かを話しかけてくる。


どうしてこんなことになった。


意味がわからない。


日本語なのか何かわからない会話で、私に振らないで。


そして私のメガネはそんなに変か。そんなにおかしいかよ。


まさか初日にいきなり二回も突っ込まれるなんて思ってなかったわ。


というかなんでみんな私を知っているの?


私は…春から休学していたのに。


半年ぶりに学校に来たはずなのに、多くの人が私の顔と名前を知っていて。


私を友達のように扱って…。


昔、そんな映画を見たことがある気がする。


自分の知らぬ間にクローンに存在を乗っ取られて、家に帰ろうとしたら自分が自分の家族と団欒してた、みたいな。


私はいつの間に映画の登場人物になったんだ。


でも、そんなことありえない。ここは映画じゃない。


もうひとりの私なんて、存在するはずがない。




ガタンッ!!


大きな音を立てて、教室のドアが開いた。


誰かが大急ぎで、教室に入ってきたようだった。



「ご、ごめんなさいっ!花陽、ことり、海未っ!ね、寝坊しちゃって…!」



誰かに向かって謝罪する、そのたった今教室に入ってきた、誰かは。



私だった。



「えっ…」



もうひとりの私が、そこには存在していた。

真姫「はぁっ…!はぁっ…!!」


真姫(学校には間に合うけど…、打ち合わせには完全遅刻だわ…!)

真姫(3人とも怒ってるだろうな…)



改札前


ピッ


真姫「あ、穂乃果…」

真姫「おはようございます!!」タッタッタッ…


穂乃果「おはようございます。あ!廊下は走ったら…」

穂乃果「…に、西木野、さんっ…!?」


真姫「ごめんっ!今急いでるからっ!!」タッタッタッ…



穂乃果「どうして…西木野さんが…」

穂乃果「もう一回…登校してきたの…?」



1年E組前


真姫「はぁっ…はぁっ…!」ガチャッ 

真姫「ご、ごめんなさいっ!!」ガタンッ!!


真姫(ドアを開くか開かないかというところから謝罪に入る。事情を知らぬ人はビックリでしょうね)


真姫「花陽、ことり、海未っ!ね、寝坊しちゃって…」


真姫(すかさず遅刻理由を述べる。ごまかすよりこうした方が早く済んで…)

真姫(と、何やら私を見る顔がおかしい。怒っているというより…驚いている?それも、相当)

真姫(何を驚くことがあるのか、と思いつつ、視線を少し逸らす。…すると、そこには)


真姫「えっ…」


真姫「…わ、私…?」


真姫(…私だ)

真姫(私が…、花陽たちに囲まれて、私の席に座っていた)

真姫(色々考えることはあっただろうが、私の脳裏によぎった言葉は、たった一つ)


花陽「ま、真姫ちゃんがっ…!?」

ことり「真姫ちゃんが…」

海未「真姫が…!」


「「「ふ、二人ぃぃっ!!!?」」」



真姫(…これは、ヤバいことになった)

しばらく呆気に取られて、動けなかった。


今起きている事象に頭が追いつかない。理解の埒外の更に外を行っている。


知らない人に訳のわからないことを問い詰められただけでも相当に混乱してたのに。


それに加えて。


まさか、自分と同じ顔の人間が登校してくるなんて、誰が考える?


もしかして、私が引きこもりを続けているうちに、世間ではそういうことが一般的になってたりして。


…なんて、現実味のないことを一瞬本気で考えもしたが、どうやらそういうわけでもないみたい。


周りの人も、私と同様に、開いた口がふさがらないようだった。


じゃあやっぱり、これはおかしい事態なんだろうな。


馬鹿に冷静に事を分析できている自分を少し滑稽に思いつつ、やはり目の前の不思議への理解は出来ないでいると。



「あ、あーーーーーっ!!!」



目の前の私…と同じ顔の誰かが叫んだ。



「もー!!来るなら来るって事前に言っておいてよー!…えーっと、み、みんなビックリしてるじゃん!」



は?


何を言い出しているのか、こいつは…、って!?



「ち、ちょっと来なさい!!」


「えぇっ!?なんでっ…」



き、急にそいつに腕を引っ張られて、教室の外へ連れ出される。


私を引っ張るそいつはカバンで顔を隠し、往来の中を私を引っ張りながら突き進む。


なんなのよ一体。


どうして復学初日から、こんな目にあわなくちゃ…



「「…いけないのよーっ!!!」」

1年E組


真姫「だ、誰…?私…、なの…?」


真姫(…や、ヤバい…!)

真姫(まさか…、まさか私が…この世界の私が復学してくるなんて…)

真姫(想像してなかったわけじゃないけど、いつか来るかも、なんて思ってもいたけど)

真姫(いざ本当に来るとなると、心の準備なんて一切してない…!)

真姫(ど、どどどどうしよう…!あ、ちなみに↑で喋ってるのはこの世界の私だから)

真姫(ちょっとの間私かあっちの私か区別付きづらいかもしれないけどなんとなく察して!…って誰に言ってるの私)



花陽「ま、ま…真姫ちゃんん…!?」

ことり「え、そ、そっくりさん…?」

海未「そっくりにもほどが、あるでしょう…ふ、双子…?」



真姫(花陽たちも相当に混乱してる。そりゃそうでしょうね。事情が分かる私すら混乱してるんだし)

真姫(だけど、どうすればいいか…それは少し思いついてきたかも)

真姫(こういうのは、思い切りが肝心っ…!!)



真姫「あ、あーーーーーっ!!!」


「!!!?」



真姫(私に向かって人差し指を突きつけ大声で叫ぶ)

真姫(そして、あたかも知っている人物のように…)



真姫「もー!!来るなら来るって事前に言っておいてよー!…えーっと、み、みんなビックリしてるじゃん!」



真姫(当の本人は何言ってんだコイツみたいな顔してるけどそんなの気にしてられるか)

真姫(間髪入れず…)



真姫「ち、ちょっと来なさい!!」

真姫「えぇっ!?なんでっ…」



真姫(引っ張って外へ連れ出す!)

真姫(みんなになにが起こったのか理解させる間を与えず…、とにかく二人きりになれる場所に…!)

真姫(って言っても…部室は今使えないし…!)

真姫(顔を隠しながら、登校してくる人ごみの中をもうひとりの自分を引っ張って歩く)

真姫(忙しい時期だってのに…なんで私がこんな目にあわないと…)



真姫「「…いけないのよーっ!!!」」


真姫(…なんでハモるのよ)

音楽室


真姫「はぁっ…、はぁっ…。ここなら誰もいないはず…」

真姫「…っていうか最初からここで待ち合わせしてればこんな急に鉢会うことも…」


真姫「な、なんなのよ…。っていうか、あなた誰なの?」

真姫「どうして、私と同じ顔…っていうか、声も同じだし…。い、意味わかんない…」


真姫「えっと、それは…あーっと、ちょっと待って。…よいしょ」ペタリ

真姫☆「これでよし、っと」

真姫☆(今名前欄に貼り付けたのは星型のステッカーよ。これでこの世界の私との見分けが付きやすくなるでしょ)

真姫☆(…自分でも名前欄ってなんだよって思うのだけどこうすべきだと私のファントムが囁くんだからしょうがないわ)

真姫「…?なにしたの?」

真姫☆「あー、気にしないで。あなたには関係ない事だから」

真姫☆「…で、どこから話せばいいかしらね…」

真姫「だから!まずあなたが何者なのか説明して!」

真姫「まさか…、私に化けた幽霊や妖怪?それとも怪盗とか…」

真姫「もしくはクローン人間で私の存在を乗っ取ろうとしてるなんて…!」

真姫☆「いやいや、クローンなんてありえないでしょ…」

真姫☆(…ありえなくない世界もあったけど、それを言うと拗れるし)

真姫☆「いい?落ち着いて聞いて。端的に説明すると私は…」

真姫☆「…別の世界の、あなた自身なのよ」

真姫「別の、世界…?」

真姫☆「そう、この世界とは並行にある世界…つまり、パラレルワールド」

真姫☆「星の数以上に存在するそんな世界の一つから時空を超えてやってきた…」

真姫「…へ?」

真姫「ふ、ふざけてるの!?なにがパラレルワールドよ!?映画の話なんて聞きたくないわ!」

真姫☆「ちょっ…、だから落ち着いてって言ったのに!ていうか幽霊や妖怪やクローンを前提に出しておいて平行世界は否定っておかしくない?!」

真姫「だ、だって、いざ真面目な話するって時に本当にそんなこと言われたらそうなるわよ…!」

真姫☆「あー…、そうよね…。普通は信じられないでしょうけど…」

真姫☆「でも、真実なのよ。今こうしてあなた…西木野真姫と同じ顔で同じ声の私がここにいる事実で納得してもらいたいものだけど」

真姫「うっ…。し、信じられそうにないけどでも…あなたはどう見ても…わ、私…」

真姫「普通の事態では考えられそうに、ない…わよね」

真姫☆「そういうこと。まだ理解が早いほうで助かるわ」

真姫「で、でも!?なんで並行世界の私がこの学校にいて、そしてこの学校の制服を着ているのよ!?」

真姫「…あっ!も、もしかして…クローゼットにあったあのどこかの制服って…」

真姫☆「あ、あれ私の」

真姫「やっぱり…!いつの間に私の制服と交換して…。おかげでこの制服を買うハメになっちゃったじゃない」

真姫☆「ご、ごめんなさい…。あ、っと、それで、私の制服は?」

真姫「ママが懐かしい、って言ってたからあげたわ。母校の制服と同じだったからって。…不思議がってはいたけど」

真姫「それより!どうしてあなたがここにいるのか、説明してもらうから!」

真姫☆「あ、あぁ…そうね。わかった。手短に話すから…」

真姫☆(私は彼女に私がこの学校にいる理由を簡単に説明した)

真姫☆(誤ってこの世界に落ちてきてしまったこと。迎えが来るまで帰れないこと)

真姫☆(最初はただ興味本位で制服を借りて学校に忍び込んだこと。けれども生徒会長に捕まってその次の日も登校させられたこと)

真姫☆(そしてなにより重要なこと)

真姫☆(私がこの学校で…スクールアイドルをやっていることを、彼女に伝えた)


真姫「アイドル…?」

真姫☆「…えぇ。同級生の花陽の夢を…実現させてあげたくて」

真姫☆「だからなんだか勢いで、スクールアイドルを立ち上げちゃって」

真姫☆「思ってたより順調なのよ?…なんて」

真姫「…そう、アイドル…」

真姫「衣装とか、歌詞とか…そういう意味だったのね…」

真姫☆「え、っと…ご、ごめんなさい。あなたの存在を勝手に使わせてもらってその上アイドルだなんて…」

真姫「…いえ、それに関しては別にいいわ」

真姫「とにかく、あなたの素性は大体理解できた…。9月頃から出席してくれたのはかなりありがたいけど」

真姫「でも、ずっとこのまま私の代わりに出席してくれるわけじゃないんでしょ」

真姫☆「えぇ、まぁ…。いずれは迎えがくる…と思うんだけど」

真姫「よね。…本当ならあなたがずっと私の代わりに出席してくれると、助かるんだけど」

真姫「そうもいかないなら、やっぱり私が出席しないといけない」

真姫☆「えぇ…そう、なるけど」

真姫「でも!私はあなたの役を引き継ぐつもりはないわ!」

真姫「そもそもアイドルなんてできるわけないし!」

真姫「勝手にアイドルをやってたことに関しては何かを言うつもりはないけど、でも私の存在を返してもらった後ならそうはいかないわよ」

真姫「私は、そのスクールアイドルをやめるから」

真姫☆「…」

真姫「なに。何か文句があるなら今のうちに…」

真姫☆「いえ、文句はないのだけど」

真姫☆「…けど、西木野真姫がC☆cuteを脱退するのはダメ」

真姫「はぁ?じゃあ文句があるってことじゃ…」

真姫☆「だから。私にいい考えがあるの」

真姫☆「今日から私は、この世界の西木野真姫を演じるのをやめるから、あなたは代わりに…」



真姫「…なるほどね。それなら確かに…少し無理がある気もするけれど」

真姫☆「でもいい考えでしょ?というわけだから…」

真姫「待って」

真姫☆「え?」

真姫「…あなただけ提案するのは面白くないわ」

真姫「私からも、条件をつけさせて。あなたの案に乗る代わりに、私の提案も聞きなさい」

真姫☆「…何?」

真姫「それは…」

1年E組


ざわざわ…  ざわざわ…


ことり「うわー…すごい。教室中が真姫ちゃんの話題で持ちきりだよ…」

海未「当たり前でしょう…。まさか真姫が、二人いた、なんて…」

花陽「ど、どうしよう…。もし真姫ちゃんが二人なら…」

花陽「ダンスのフォーメーションを変えないと…!?」

海未「言ってる場合ですか!?真姫が二人共アイドルをやる必要はないでしょうに…」

ことり「うーん、って言っても、騒ぎが大きくなるとややこしいのは間違いないし…」

ことり「早く静まってくれないかなぁ…」


ガチャッ


真姫「…」



花陽「あっ!ま、真姫ちゃん!」

ことり「帰ってきた!」

海未「せ、説明をお願いします!どうしてあなたが二人いたのかを!」


ざわざわ…  ざわざわ…


真姫「…あ、えっと…その…」

真姫「ぅ…」ゴクリッ

真姫「じ、実はっ…!!」


花陽「じ…」

ことり「じぃ…?」

海未「実は…?」


真姫「い、今まで…9月から、が、学校に通ってた、わ、私は…」

真姫「本当は、私じゃなくて…」


真姫「私の、お、お姉ちゃんだったの!!」




シーン…


花陽「お…」

ことり「お姉ちゃん…?」

海未「真姫に…、お姉さん、が…?」

真姫「う、うん…今まで学校に通ってたのは、じ、実は私のお姉ちゃんで…」

真姫「私に驚く程そっくりなんだけど、年齢は3歳も離れてて、ね…?」

真姫「だ、大学にもいかず職にもつかずのニートだったから、って…」

真姫「ま、ママに…その…休学してる私の代わりに、が、学校に行け、って言われて、通ってたの」


クラスメイト共「…」


真姫「う、うぅ…!」

真姫(やっぱり、メチャクチャよぉ…!信じてくれるはずない…!!)



(真姫☆「存在をそのまま入れ替えるんじゃなくて、今まで通ってたのは別人…そう、あなたのお姉さんという設定にすればいいの」)

(真姫☆「もちろん、担任や他のクラスの生徒には内緒にして、ね」)

(真姫☆「そうすれば、アイドルとして私はこのまま活動でき、あなたは今までの私を演じる必要もない」)

(真姫☆「完璧な作戦よね!」)



真姫(…って言ってたけど、こんな与太話、そうそう簡単に信じてもらえるわけ…)


クラスメイト共「なーんだ、そうだったんだー」


真姫(信じた!?)


「確かになんか西木野さんって大人びた感じあったもんねー」 「3歳も年上だったんだ…」

「こっちの西木野さんの方が年相応っぽいし、納得ー」 「妹さんのために代わりに学校に行くなんて優しいお姉さんなんだなぁ…」


真姫「ま、マジで…?」



ことり「なるほどねー。だから今まで私たちのこと、一つ上なのに呼び捨てにしてたんだー」

海未「あれだけ偉そうだったのも年上だったからなのですね…。となると、これから真姫のことは真姫さんと呼んだほうが…?」

花陽「えぇっ!?い、今更真姫ちゃんから真姫さんになんて変えられないよぉ…」



真姫(…驚く程すんなり受け入れてるわね…。ビビるわ…)

真姫「え、えっと!それで、このことは先生や他のクラスの人たちには絶対に内緒にしてて、…ってお姉ちゃんが」

真姫「本当はいけないことだから先生に知られるとマズいし、あんまり周りに知られると噂が広がってマズいから…」


「わかったー」「任せといてー」「絶対言わないからー」


真姫(…かなり不安だわ)

真姫「あ、と…それからその…あなたたちも」

花陽「わ、私たち…?」

真姫「こ、これからもお姉ちゃんは私の名前を借りてアイドル、やるって言ってたから…その…心配しないで、って」

ことり「そう、なんだ…。う、うん…わかった。ありがとう、伝えてくれて」

海未「それはそれとして…その、お姉さんの方は今どこに…?」

真姫「えっと…今は…」

秋葉原


真姫☆「…はぁ」

真姫☆(本来の私が復学してきた以上、私はUTX学院にいられなくなった)

真姫☆(放課後の練習だけなら入れ替わりでなんとかなるけど…)

真姫☆「日中の行き場はなくなっちゃったわね…」

真姫☆「だからこうして、秋葉原を散策しているわけだけど…」

真姫☆「特にやることがない…とてつもなく暇ね」

真姫☆「そろそろポケットマネーも底が近づいてきたから無駄遣いするわけにもいかないし…」

真姫☆「スクールアイドル専門店にでも行って他のアイドルの研究しておこうかしら…」





スタスタ…

真姫☆「…うっ」

真姫☆「なにこれ…なんか、気持ち悪…」

真姫☆(街中を歩いていると、急に吐き気を催してきた)

真姫☆(慣れない雑踏に久々に出てきたせいかしら)

真姫☆「頭をシェイクされたような気持ち悪さ…うぇぷっ…」

真姫☆「…まさか、想像妊娠なんかじゃないでしょうね。つわり…」

真姫☆「ハハハ、まさかね」

真姫☆「…ふぅ、っと。あ、そうだ…」

真姫☆「今日の夜の件について、せめて…彼女だけにでも話しておきましょう」

真姫☆「あいつなら、もうほとんど気づいてるようなものだし…」ポピパ…

休み時間 1年E組


親衛隊D「へー、西木野さんの妹ねー…」


真姫「…え」


親衛隊E「す、すごくそっくりです…!見分けが付かないよ…」

親衛隊F「真姫ちゃんに妹…。ビックリだわ…」


真姫「あの…あなたたち…」

真姫「…このクラスの生徒じゃない、のよね…?なんで、そのこと…」

花陽「あ、それは私が」

真姫「えっ…、えっと、小泉さん…?だったっけ…」

花陽「うん!小泉花陽!」

真姫「ど、どうしてあなたが別のクラスの人たちにそのこと…。内緒にして、って言っておいたのに…」

親衛隊D「ふふっ!それは私たちが小泉花陽親衛隊だからさ!」

真姫「は…?し、親衛隊…?」

親衛隊E「こ、小泉さんを愛して愛してやまない人たちで構成された小泉さんを愛でるための部隊なの!」

親衛隊F「まぁ、私たちはC☆cuteのお手伝いもやるからいつか必然的にわかっちゃうでしょ、ってことで、花陽ちゃんがね」

真姫「はぁ…そうなんですか…。まぁ、3人くらいなら…」

親衛隊D「ん?親衛隊構成員は全員で26人いるよ?」

真姫「んなっ…!?」

親衛隊E「そ、そして全てのクラスに満遍なく…!」

親衛隊F「芸能科じゃない生徒までいるからねー。ホント花陽ちゃんの可愛さは恐ろしいわー」

花陽「も、もー、恥ずかしいよー」

真姫「そ、それじゃあいつか全クラスに噂が広がっちゃって…!」

花陽「うぅん!大丈夫!親衛隊のみんなは信頼のおける人たちばかりだから!」

花陽「絶対に言っちゃダメだよ!絶対だからね!って何度も念を押したから、大丈夫だよ!」

真姫「不安要素が増したわ…」



真姫(…というか、あまり私に話しかけてこないで欲しい)

真姫(緊張して、口が回らないから)

真姫(私は、あの『私』とは違うんだから)

真姫(馴れ馴れしく、しないでよね…)

昼休み

廊下


グギュルルルルルル…


女生徒A「…え、何今の音…」

女生徒B「か、雷…?こんな晴れてるのに…」


絵里「…どいて、そこ」


女生徒A「あ、あぁごめんなさい…あ!絢瀬さん…」

女生徒B「…いつ見てもクールでカッコいいよねー…」


スタスタ…


グギュルルルルルルル…


絵里「…お腹すいた」

絵里(…昨日の夜から何も食べてなかったのよね)

絵里(A-RISE候補生のスケジューリングに忙しくて何かを食べるのすら忘れていたわ)

絵里(…にこが落ちなかったのは想定外だったけど、でも…それなら彼女も利用するだけ)

絵里(私の理想を達成するまでは…)


グギュルルルルルルルルルル…


絵里「ふひぃぃぃぃぃ…」

絵里「ひ、ひもじい…。早くご飯食べたい…」



食堂


絵里「ふふふ…!今日は奮発してグラタンうどんチーズ大盛りにしたわ…!」

絵里「あぁヨダレが止まらない…!さてと、どこに座って…おや?」


穂乃果「…」ポケー…


絵里「…穂乃果?おーい、穂乃果ー」

穂乃果「…」ポケー…

絵里「死んでる…?」

穂乃果「…ハッ!え、絵里ちゃん!?な、何?私どうかしてた?」

絵里「絵里…ちゃん?」

穂乃果「あっ…!す、すみません、絵里さん…。その、ぼーっとしてて」

絵里「うん、いいんだけど…。生徒会長かつ次期A-RISEのあなたがそんなんじゃみんな幻滅するわよ?あ、ここ座ってもいい?」

穂乃果「えぇ、どうぞ…」

絵里「じゃあお言葉に甘えて、っと…」スワリッ

絵里「いただきまーす。…もぐもぐ」

穂乃果「…」ポケー…

絵里「…」

絵里「…穂乃果」

穂乃果「…」ポケー

絵里「ハノケチェン!!ボーっとしてるとご飯抜きですよ!」

穂乃果「はわぁっ!!ご、ごめんことりちゃん許して!」

穂乃果「…はっ!」

絵里「…穂乃果。マルゲリータ丼、冷めちゃうわよ」

穂乃果「そ、そうですね…。すみません…もぐもぐ」

絵里「ぼーっとしてるのには訳があるんでしょう?言ってみなさい」

穂乃果「…もぐもぐ、…ごくんっ。…訳、ですか」

絵里「溜め込んでるとメンタルの上で練習の負担になりかねないわ」

絵里「あなたには万全の状態で練習してもらわなきゃいけないんだから、何か気になることがあるならすぐ相談なさい」

穂乃果「…でも」

絵里「でも、じゃない。口答えしたらほっぺたをつねるわよ」

穂乃果「…わかりました。実は…」



穂乃果「…ということがあって」

絵里「…ふぅん」

穂乃果「多分、何かの見間違えだと思うんですけど…」

絵里「…真姫が二人、ね…」

穂乃果「それもありますし、後この間のにこちゃんの件…」

穂乃果「あれにも、西木野さんが何か関わってるんじゃないかって…」

穂乃果「…もし、私たちの妨げになるようなら…」

絵里「壊しておく、…っていうのもアリなんだけど」

絵里「直接的にやっちゃうと、私が殺されちゃうし」

穂乃果「殺され…?」

絵里「…それに、私は真姫が欲しいの」

絵里「下手に誰かに任せて壊したとして、使い物にならなくなったらどうしようもないし…」

絵里「…」

絵里「…ふふっ」

穂乃果「…なんですか、その笑いは」

絵里「ねぇ、穂乃果。もし、真姫が二人いるんだとしたら…」

絵里「…そのうちの一人くらい、貰っちゃってもいいわよねぇ?」

穂乃果「…はい?」

同じく昼休み

正門前


真姫☆「さてと、連絡通りならそろそろ…」

真姫☆「…あ、来たわね」


希「んふっ、どーしたん真姫ちゃん。わざわざこんなところまで呼び出したりして」


真姫☆「今は迂闊にそっちに入れないのよ。…というか、あなたはどこまで知ってるの?」

希「どこまで…ってどういうことかな?」

真姫☆「その…今日の朝の出来事…なんだけど」

希「んふふ、真姫ちゃんが二人事件のことかな?」

真姫☆「…知ってるんじゃない。もしかして、結構噂、広まってる?」

希「安心して。少なくとも3年生のクラスまでは届いてないみたいやから」

希「うちが知ってるんは…ほら、スピリチュアルやし」

真姫☆「…そうね」

希「で、うちをここまで呼び出した理由は何かな?」

真姫☆「そろそろ、あなたに話してもいい頃かな、と思って」

真姫☆「私の、正体について」



希「…そっか。異世界人、ってことやね」

真姫☆「って言っても、薄々気づいてたんでしょ?」

希「消去法で考えていったら最終的にありえないものが候補になって…まさか、それが正解になるとはね」

希「予想はしてたけど、いざそうや、って確定すると結構驚くもんよ」

真姫☆「って言って、そんなに驚いてないじゃない」

希「んふっ、真姫ちゃんはうちが驚いたとこ、見てみたいん?」

希「うわー!真姫ちゃん異世界人やったんかー!!びっくりびっくり!」

真姫☆「…最大級にイラッときたわ」

希「でしょ?真姫ちゃんの精神の平穏のためやよ」

真姫☆「まぁ…そんなわけだから、これからもそっちに厄介になるわよ、ってこと、言いたかったの」

希「うんうん。それに関しては前々から言ってるとおり、全然構わへんから!真姫ちゃんが元の世界に帰るまでずっといてくれていいのだ!」

真姫☆「うん、ありがと。…で、もう一つ」

希「ん?まだあるの?もしかして、実は花陽ちゃんも…?それは予想外すぎるんやけど」

真姫☆「私もびっくりよそれなら。…そうじゃなくて、今日の夜のこと、なんだけど」

真姫☆「こっちの世界の私から、提案されたことでね」

希「なになに?」



真姫☆「…今日、この世界の私が、あなたのうちにお邪魔するから」

真姫☆「代わりに、私がこの世界の私の家に帰る」

真姫☆「いわゆる…スワッピングよ」


希「…それはなんか違うと思う」

~回想~


真姫☆「夜だけ入れ替わる…?」

真姫「うん。それが私の提案よ」

真姫☆「ど、どうして…?なんの理由があって」

真姫「その…、私が引きこもってたこと、あなたも知ってるのよね?」

真姫☆「えぇ…まぁ」

真姫「そのせいでパパやママとちょっと…気まずい感じになっちゃって」

真姫「多分今日も帰ったら色々と聞かれると思う…」

真姫「私…パパやママと話すのが怖いのよ。引きこもりのことに触れられるのが」

真姫「でも!パパもママもきっと私のこと本気で心配して、ってことはわかってるの。私も、パパのこともママのことも嫌いじゃない」

真姫「だけど、同じ場所に居たくない、っていうか…」

真姫☆「…まぁ、なんとなくだけどわかるわ。自分の弱いところに触れられるのは嫌だものね」

真姫「そう。だから!今日はあなたが家に帰ってパパとママとお話して」

真姫「今までの心境とか、これからどうするのとか、色々尋ねられることはあると思うけど…なんとか凌いで」

真姫☆「つまり、あなたが家に帰って両親と話すのが億劫だから、その代わりを私にして欲しい、ってことなのね」

真姫「えぇ、そういうこと!できれば関係を良好にしてくれれば尚の事グッドよ!」

真姫☆「…はぁ。まぁいいけど。でも私が住んでるのはその…先輩の家、なんだけど」

真姫「え?」

真姫☆「部活の部長の家に居候させてもらってるってこと。それでもいいならいいけど」

真姫「…う。知らない人か…」

真姫「い、いいわ。それで」

真姫☆「わかった。一応あっちにも訳を話しておくから。彼女、もう私のことほとんど気づいてるみたいだし」

真姫「へぇ…」

真姫☆「じゃあ今日の夕方、部活が終わる頃にUTX近くの公園に来て。そこに彼女も来させるから」

真姫「うん。わかったわ」



~回想おわり~



真姫☆「…ということ」

希「ふーん、真姫ちゃんも面倒なこと引き受けたねー。平気なん?」

真姫☆「まぁ…、大丈夫でしょ。これからもアイドルを続けるために私の妹って設定を彼女も引き受けてくれたんだし、まぁ…」

希「真姫ちゃんがいいならいいんやけど。…そっか、こっちの真姫ちゃんがね…」

真姫☆「人見知りみたいだから、扱いには気をつけてね?」

希「ふふ、うちの生徒会長時代のコミュ力を舐めたらいかんよ。すーぐに友達になっちゃうんやからね」

真姫☆「じゃあ事情は話したから。私はこれで…」

希「あ、待って真姫ちゃん。今真姫ちゃんの生徒手帳はどうしてるん?」

真姫☆「え?私が持ってるけど…」

希「多分…こっちの世界の真姫ちゃんの生徒手帳は使えない状態のはず」

真姫☆「あ、そういえばこの生徒手帳を作ったときにそんなこと言ってたわね。再登録の際に前の手帳は使えなくなるって」

希「うん。だから今多分こっちの世界の真姫ちゃんが使ってる生徒手帳は予備の分やと思うんやけど…」

希「これを返却する前に使用不可になった自分の生徒手帳を再登録する必要があるんよ」

真姫☆「あっ!そっか…。こっちの私が再登録しちゃったらこの手帳は使えなくなっちゃうのよね…」

希「せやね」

真姫☆「でも…再登録しないとあっちの私がUTXから出られないし…かと言ってされたら私が…」

真姫☆「どちらか片方しか持てないこの状況…ヤバくない…?」

希「ふふふ、そんな時のためにうちがおるんよ!」

真姫☆「え?」

希「あんまり多用しちゃいけないんやけどー…」

希「生徒手帳を改造すれば、他の手帳を再登録してもデータが抹消されずそのまま使えるという裏ワザがあるのだ!」

真姫☆「な、なんですってー!?」

希「これを利用してムダに二台持ちなんかしている子もいるんよ」

真姫☆「なんのために…。ま、まぁそれが使えるならお願いするわ。改造はどれくらいかかるの?」

希「まぁ…今日の放課後までには。放課後にまたここに来てくれたら改造済の手帳を渡したげるね」

真姫☆「ありがとう。じゃあ預けておけばいいのね。はい」

希「ん、確かに。じゃ、また放課後にね」

歌手専攻授業

音楽室


真姫「…」


花陽「わわわわー♪」


親衛隊ズ「「キャー!花陽様ーっ!!」」



先生「…はい。お上手ね。さすがスクールアイドルといったところでしょうか」

花陽「え、えへへ…」

先生「ではお手本にもうひとり…そうね、同じスクールアイドルの西木野さん」

真姫「は、はいっ!?」

先生「今小泉さんが歌った曲、あなたも歌ってもらえる?」

真姫「え、えっと…は、はい…」


親衛隊B「あっちの西木野さんって妹なんだよね?どうなんだろ…」ボソボソ

親衛隊A「お姉さんがあんだけ上手いんだからちょっと期待しちゃうかも…」ボソボソ

親衛隊C「どうなんでしょう…」


真姫「…ぅ」ゴクリッ

真姫「い、行きます…」




真姫「…あ~~」

真姫「…」


「…」


先生「…えー…、西木野さん…」

先生「今日は、調子が悪いんですか…?」

真姫「…すみません」



親衛隊ズ(す、すごい下手…!!)


花陽「ま、真姫ちゃん…」



真姫(う、歌なんてここ半年全く歌ったことないんだもん!仕方ないでしょ…!)

真姫(中学までは、少しは歌ったりしてたけど…)

真姫(…もう、自分から歌う、なんて…)

放課後

UTX裏


真姫「…おまたせ」

真姫☆「うぅん、平気。じゃ、ここからは私と交代ね」

真姫「あっ…そういえば生徒手帳…もう再登録しちゃったけど」

真姫☆「あーいいのいいの。さっき改造したの貰ったから」

真姫「改造?」

真姫☆「居候させてもらってる先輩にね。これでいちいち生徒手帳の受け渡しとかせずに済むから」

真姫「そ、そう…?ならいいけど」

真姫☆「練習終わりにその先輩が公園まで迎えに来るから、それまで適当に時間潰してて」

真姫「あなたは、私の家に帰る…のよね。場所はわかる…?」

真姫☆「当たり前でしょ。同じ私なんだから」

真姫「あ、あぁ…そうだったわね。よ、よろしく頼んだわよ!」タッタッタッ

真姫☆「え、えぇ…」

真姫☆「…パパとママ、かぁ」

真姫☆(私も活発になった方ではあるけど、面と向かって話すとなるとあまり自信はない)

真姫☆(しかも引きこもりから卒業してすぐ、だ。きっと長々とお話することになるんでしょうね…)

真姫☆「考えてみれば結構なこと押し付けられちゃった気がするわ…」



UTX学院 

アイドル応援部 新部室


花陽「わ、わぁぁぁ…!!大きい…!」

ことり「かたぁい…///」

海未「なにが固いんですか…」


希「どや!新しくなった我らが部室は!」


花陽「いつもの狭い部室に比べるとすごく広い感じがします!」

海未「これでも普通サイズなんですけどね…。前が狭すぎました」

ことり「でもかなり綺麗だし言うことないよー」

花陽「うん!これで心機一転…」


ガチャッ

真姫「おまたせ。…あ、みんなもう揃ってるわね」


ことり「あっ…」

海未「えっと…」

花陽「あのー…」


真姫「…ど、どうしたのよ。なんか歯切れ悪いわね」

花陽「あの、真姫ちゃんは…」

海未「どっちの真姫、ですか…?」

真姫「…アイドルの方です」

音楽室


花陽「うぅん…!」

真姫「な、何?そんなまじまじ見て…」

花陽「や、やっぱりすごく似てる…!」

ことり「本当に姉妹なの?しかも大学生くらいの年齢って…」

海未「あまりに似過ぎて区別がつきません…」

真姫「ほ、ほら!私はメガネしてないでしょ!それで区別しなさい!」

ことり「メガネの有無だけで区別しろってそれ今までどうしてたの?」

真姫「え、えっと…こうしてたの!」ペタリ

真姫☆「これなら見分けがつくでしょ!」

花陽「はっ!本当だ!」

海未「な、なぜでしょう…。外見的には何も変わっていないふうに見えるのですが…」

真姫☆「…常にこれでいた方が良さそうね」

ことり「でも真姫ちゃんは年上、なんだよね?」

花陽「あ、今までと接し方は同じ、でいいのかな、ってみんなで相談してて…」

真姫☆「なによ。今更接し方を変えるつもり?今まで通りで構わないわよ」

海未「しかし…せめて本名は教えてくれませんか?」

真姫☆「へ?」

ことり「そうそう!ホントの名前はなんていうの?」

花陽「真姫ちゃん、は妹の名前なんだよね?」

真姫☆「え、えっと…本名…?」

真姫☆(そんな急に言われても…。本名も何もこれが本名だし…)

真姫☆「え、えっと…!」

真姫☆「本名も…真姫なの!」

ことり「えっ!?い、妹と同じ名前なの!?」

真姫☆「そ、そうなのよ…。えっと、字だけは違うんだけど…」

真姫☆「私の本当の名前は、『摩季』なの」

海未「そ、そうだったのですか…姉妹揃って同じ発音の名前とは珍しい」

花陽「なんだか真姫ちゃんの本当の名前は大きくて黒そうだよね」

ことり「大きくて…黒い…///」

真姫☆「何頬染めてんのよ。…だから今までどおり、真姫でいいわ」

花陽「うん!わかった!」

真姫☆「じゃ、朝できなかった打ち合わせとそれから練習!やっていきましょう!」

夕方

公園


真姫「はぁ…、暇ね」


真姫(放課後に家に帰れないというのは、かなり時間を持て余す)

真姫(誰か友達でもいれば、一緒にどこかに寄ることもできただろうけど)


真姫「友達なんて、出来るわけない…」


真姫(不登校児が復学したら、基本的に卒業まではぼっちルートに入るというのが一般的)

真姫(コミュ力がある人なら例外もあるかもしれないけど、私には無理…)


真姫「…友達、か」


真姫(もし私が不登校なんかにならなければ、友達のひとりやふたり、できてたのかな)

真姫(休み時間には話し合ったり、お昼ご飯を一緒に食べたりする…そんな友達が)

真姫(どういう繋がりの友達だろうか。FPS?…でも私がFPSをやり始めたのは引きこもった後からだし)

真姫(やっぱり、音楽…かな。好きな歌の話で盛り上がって…、ピアノとか、ギターとか、弾いたりして…)

真姫(もしかしたら、あの子達みたいに、勝手にスクールアイドルなんか始めたりして…)


真姫「…何、考えてるんだろ、私」

真姫「そんなの、ありえないのに…」

真姫「…」

真姫「アイ、ドル…」



真姫(ひとりの公園で、そんなことを延々と考え続けていた)

真姫(いつの間にか時間は過ぎ、そして…)



「…真姫ちゃん。おまたせ」


真姫(うつむいている私に、誰かが声をかけた)

真姫(『私』が言っていた先輩、だろうか。顔をあげて返事をしようとした)

真姫(けど…)

アイドル応援部部室


真姫☆「ふぅ…今日もお疲れ様。そろそろ新曲も形になってきたわね」

ことり「うん!衣装作り、頑張るよ!」

海未「真姫がふたりでどうなることか、とヒヤヒヤしましたが、なんとかなりそうですね」

花陽「そうだねー…。ってあれ?希さんは…?」

海未「そういえば…もう帰ったのでしょうか」

真姫☆「あー…そうなのかしら」

真姫☆(あっちの私を迎えに早めに帰ったのかな。というか、あいつも放課後はこの部室にいるくらいで他に何もしてないんだから…)

真姫☆(もっと早めに帰ってもよかったのに。あっちの私を無駄に待たせちゃったかも)

ことり「じゃ、私たちも帰ろっか。戸締り、キチンとしてね」

海未「えぇ、そうしましょう」

真姫☆(…希。あっちの私に手を焼いてないといいけど)



公園


希「…真姫ちゃん。おまたせ」


真姫「…あ、はい…」

真姫「えっ…!あ…」


希「んふ、久しぶり、やね」


真姫「の、希…先輩…!」

真姫「『私』の言っていた先輩って…あなた、だったのね…」

希「ん。数少ない知り合いでびっくりした?今日はあっちの真姫ちゃんの代わりにうちに来るんやんね?」

真姫「は、はい…。そういうことになってます…」

希「…そっか」

希「これで、二度目、やね。うちに来るのは…」

真姫「…」

西木野家前


真姫☆「…」ゴクリッ


真姫☆(何日ぶりかな、家に帰るのは…)

真姫☆(この世界に来て初めに忍び…堂々と入ったのは除くとして)

真姫☆(となるとこの世界に来る前…でもその頃はクリニックで寝泊りが多かったから…)

真姫☆(…とにかくすごく久しぶり。なんでクリニックで寝泊ってるんだよとか野暮なツッコミは許さない)

真姫☆(じゃあ私も家族と話すのとかかなりご無沙汰じゃない…。安請け合いなんかするんじゃなかったかも…)


真姫☆「…って言っても、私がスクールアイドルを続ける交換条件としてはまぁ…仕方ないわね」

真姫☆「ウダウダ言ってても仕方ない…!覚悟を決めて…!!」


真姫☆(ドアノブに手をかけ…引いた)

ガチャッ


真姫☆「た、ただいま…」


真姫☆(見慣れた我が家。数ヶ月帰ってなくても、その風貌は忘れない)

真姫☆(懐かしくて少し涙が出そう。ホームシックってやつなのかしら)

真姫☆(靴を脱いでそのままダイニングへ。この時間ならもう晩ご飯を食べていてもおかしくない)



ダイニング


真姫ママ「あ、真姫。お帰りなさい」

真姫☆「ただいま。ママ」


真姫☆(これまた久しぶりな母親。ちょっと抱きつきそうになったがこらえる)

真姫☆(昨日まで引きこもってた娘がいきなり抱きついてきたら色々な意味でびっくりしそう)


真姫ママ「どうしたの、こんな時間まで。もうご飯できてるわよ?」

真姫☆「あ、あぁ…ごめんなさい。色々あって…あれ、パパは?」

真姫☆(父親の姿はダイニングには見当たらない。自室か、そうでなければ…)

真姫ママ「パパは病院の方。今日は夜まで帰ってこれないんですって」

真姫☆「…そう」

真姫☆(数少ないパパに会えるタイミングで会えなかったのは少し寂しいが、同時に安堵した)

真姫☆(パパはこういう機会になると話が長くなるから、あっちの私には悪いけど今日話すことがなくてよかった)

真姫ママ「だから今日は私とふたりで食事ね。冷めないうちに食べちゃいましょう。手、洗ってきなさい」

真姫「う、うん…」

真姫☆「…もぐもぐ」


真姫☆(私にとっても、そしてママにとっても多分、すごく久しぶりであろう、母娘での食事)

真姫☆(家族と話すのが怖いと言っていたあっちの私のことだ、きっとご飯だってひとりで食べていたんでしょう)

真姫☆(しばらく、咀嚼音と食器の擦れる音だけが食卓を支配した)

真姫☆(沈黙を破ったのは、ママから)


真姫ママ「…真姫」

真姫☆「な、何?」

真姫ママ「学校は、どうだった?」

真姫☆「が、学校?そうね…」

真姫☆(ここで『友達とたくさん遊んだわ!』って言ったらママも喜ぶだろうけど)

真姫☆(嘘をつくとこの世界の私が後々大変だし…ここは無難に)

真姫☆「普通だったわ…。うん、意外と普通…」

真姫ママ「そう…、よかった。友達はできそう?」

真姫☆「え、えぇ…。仲良くしてくれる子も、いたはいたわ」

真姫ママ「そっか…。うん、それならママも安心」

真姫ママ「明日も、学校行く?」

真姫☆「えぇ…もちろん。明日こそは友達を作ってみせるわ」

真姫ママ「ふふ…、そう…。頑張ってね」

真姫☆「う、うん…」

真姫ママ「意外と真姫が元気そうでホッとした。私、あなたがあの人に行けって言われたから嫌々行ってるのかって心配で…」

真姫☆「そ、そんなことないわよ…。しっかり自分の意思で…」


真姫☆(…そういえば私はどうして復学しようとしたんだろう)

真姫☆(本当はパパに行けって言われたから嫌々、だったんだろうか。それだとママの心配は的中していることになってしまう)

真姫☆(そう思うと心苦しいこともあるけど…気になるのはもう一つ)

真姫☆(私はどうして、不登校になってしまったんだろう)

真姫☆(FPSにドハマリして堕落…?ありえなくもないけど…)

真姫☆(…今度あったらそれとなく聞いてみよう)


真姫ママ「…ママね」

真姫☆「はい?」

真姫ママ「私…、あなたとこうしてもう一度ご飯が食べられるようになって…本当に嬉しい…」

真姫ママ「もしかしたらもう二度と…ここで顔を合わせることはないんじゃないかって…!」

真姫ママ「そう思ったら怖くて…怖くてっ…!う、だからっ…!うぅっ…!!」

真姫☆「ちょっ…!ま、ママ…!?」


真姫☆(ママが泣き出した…。それは私も見たことがない、ママの顔で…)

真姫☆(その顔は私をとても切ない気持ちにさせて…)

真姫☆(私まで、泣きそうになってしまった)

真姫☆(今、入れ替われるならアイツと入れ替わってやりたい。この気持ちを感じるべきは、あっちの私のほうなのだから)

真姫ママ「ぐすっ…うぅ…」

真姫☆「ママ…。へ、平気よ…。ほら、私はもうこうしてここにいるんだから」

真姫☆「これからいつだって一緒に晩ご飯、食べられるわ。だから、ね?笑顔になって、ママ」

真姫ママ「ずずっ…、えぇ…ありがとう、真姫。優しいのね…」

真姫ママ「ママったら娘に泣き顔を見せちゃうなんて…母親失格ね…。ダメダメだわ…」

真姫☆「そ、そんなことないって!ほら、ママの泣き顔なんて前から見てるもの!えっと、感動的な映画を見てる時とか…」

真姫ママ「もう…そういう涙じゃないわよ…。ふふっ…」

真姫☆「あはは…、そうよね…」

真姫ママ「…うん、でも、もう笑えるわ…。はぁ…よかった…。本当に、よかったわ、真姫…」

真姫☆「うん…。私も、ママが笑顔になってくれて嬉しいわ」

真姫ママ「えぇ…。ふふ、真姫ちゃんってば、私を励まそうとまでしてくれるのね…」

真姫ママ「それならすぐに、お友達も作れるわ。とても優しい子だから…」

真姫☆「う、うん…。大丈夫大丈夫…」

真姫ママ「…ごめんなさい。変な空気にさせちゃって…まだご飯、食べきってないのにね」

真姫ママ「さ、頂きましょう。真姫も…あら?」

真姫☆「ん?どうしたのママ…」

真姫ママ「…この匂い…汗?」

真姫ママ「真姫、汗かいたの?もしかして、体育…じゃないわよね。体操服持って行ってないんだし…」

真姫☆「えっ…あ…」


真姫☆(練習でかいた汗だ。いつもはご飯前にお風呂に入るのだけど、帰ってきた時間が時間だけに今日はご飯が先になってしまった)

真姫☆(しかしどう説明したものか…)


真姫☆「えーっと…」

真姫ママ「遅くなったのって何か汗かくようなこと、したからかしら?なにしてきたの?」

真姫☆(ここぞとばかりに質問攻めを食らう。そりゃあ引きこもりの娘がスポーツか何かをやったなら喜ばしいことではあるけど…)

真姫☆(でも私がやってるのはスクールアイドルの練習であって…)

真姫☆(そんなものを復学初日目からやり始めるのはいくらなんでも不自然だろう…。どうしよう…)

真姫☆「あのね…その…えー…」

真姫☆「あ、アイドルなの!」

真姫ママ「アイドル…?」

真姫☆(結局口をついてでたのはその言葉だった。それしか思いつかなかった)

真姫☆「あの…う、うちってアイドルが有名じゃない?A-RISE」

真姫☆「ほら、私も…その、学校に行ってA-RISEを見て、アイドルになってみたくなったの!」

真姫☆「だからひとりで誰も見てないところでダンスの練習してて汗をかいちゃったっていうか…そんな感じ!」

真姫ママ「あなたが…そう、そうだったの…」


真姫☆(即興で考えた少し無理のある言い訳だったが、なんとかママを納得させることができたらしい)

真姫☆(よかったよかった、と胸をなでおろす)

真姫☆(…と、その時だった)

真姫ママ「…でも、まさかアイドルなんてね」

真姫☆「え、まさか?」

真姫ママ「真姫ちゃんがアイドルになりたいなんて言い出すなんて…驚いたわ」

真姫☆「そ、そんなにおかしい?いいじゃない、私だって…」

真姫ママ「え…、だってあなた…言ってたじゃない」

真姫☆「言ってた?何を…」

真姫ママ「学校に行かなくなる前の春頃よ。あの時はあんなに、アイドル嫌ってたのに」

真姫☆「…アイドルを、嫌ってた…?」

真姫ママ「えぇ…、夜遅く帰ってきて…泣きながら…」


真姫ママ「『アイドルなんか大嫌い。もう、やりたくない』って…」



真姫☆「っ!!」

真姫ママ「だからまたやりたくなったのかなってママ驚いちゃって…」

真姫ママ「でも応援するわよ。ママだって若い頃は…」

真姫☆「そ、それって…!」

真姫ママ「え?あぁ…若い頃って言ってもほら…中学生の…」

真姫☆「…」

真姫☆(ママの話はもう、耳には届かなかった)

真姫☆(私の頭の中には、さっきのママの言葉がこべりついて離れない)



『アイドルなんか大嫌い。もう、やりたくない』



真姫☆(…もう…?)

真姫☆(もう、ということは、つまり私は…それまでは、やってた、ということだ)

真姫☆(何を?…決まってる)

真姫☆(アイドルが大嫌いになる理由なんて…UTX学院にひとつしかありえない)

真姫☆(私が…この世界の私が不登校になった理由って、まさかっ…!!)


真姫☆「私も…アイドル専攻だった…!?」

希の家前


ガチャッ

希「…はい、入って」

真姫「お、おじゃま…します」


バタンッ



真姫「…ぅ」

希「どう?半年ぶりの生徒会長のお家は」

希「あの頃とは見えるものも変わってるんと違う?」

真姫「そう…ですね」

真姫「あの時は、周りなんて見ようともしなかったから」

真姫「…こんな、家だったんだ」

希「うちがどれだけ話しかけても、一言も話してくれなくて」

希「結局、次の日からずっと学校に来なくなっちゃって」

希「…ダメだったかと思った。また、心に傷を負った子を助けられなかったって、ひどく落ち込んで」

希「でも、それじゃダメだから…うち、くよくよしないためにすっぱり忘れちゃっててね」

希「考えるとずっと引きずっちゃうタイプやし…他にも助けを必要としている子もたくさんいるし、悪いことやとおもいつつも…」

希「だから新学期始まってすぐ、真姫ちゃん…西木野さんが学校に来てくれたときも、最初は気づかんかってんよ」

希「けどすぐ思い出して…ふふ、あの時は一度も話してくれなかった西木野さんが、今度はあんなにうちを頼ってくれて、すごい嬉しくて…」

希「…でもあれは、ホントは西木野さんじゃ、なかったんよね」

真姫「…」

希「今は、どう?少しは元気、出た?」

真姫「…うん。あの時ほどじゃ、ない」

真姫「4月頃の私は、本当に、何もかもが嫌になって…アイドルどころか、学校すらなくなればいいのに、って思ってた」

真姫「だけど引きこもってる間、あなたのことだけは…私に手を差し伸べてくれたあなたに何も応えられなかったことだけは、とても悔やんでて…」

真姫「一度、家まで行って謝りたいって思って…住所を調べようとしたんだけど」

真姫「調べ方がよくわからなくて。生徒会長だってことは知ってたから、学校のHPで名前だけは知れたんだけど」

希「あ、やっぱりうちの名前、覚えててくれんかったんや。家に誘った時に何度か自己紹介したんだけどね」

希「今日顔見て覚えててくれてちょっとびっくりしたけど、そういうことやってんね」

真姫「え、えぇ…。あの頃のことは本当に…何一つ思い出せないし…思い出したくもないから」

希「んで。知りたがってた住所が知れたけど…どうかな?」

真姫「…あ。あ、えっと…」

真姫「ご、ごめんなさい…。あの時は、何一つ相談できなくて。あんなに、私のこと心配してくれたのに」

真姫「そして…ありがとうございます。こんな私を心配してくれて」

真姫「立ち直れたきっかけの一つに、間違いなくあなたがいるから」

希「…お礼を言われるほどのことでもないよ。うちはうちで、親切心というより…義務感でやってたことやから」

真姫「…それでも」

希「…うん。せやね。ここは素直に受け取っといたほうが、西木野さんにとっても嬉しいことかな」

希「さてと。それじゃ、積もる話はこれくらいにして…せっかく我が家に来たことやし、ゆったりしていってね」

真姫「あ…、はい。ありがとうございます」

真姫「…」


真姫(…懐かしい。あの出来事から、もう半年…まだ半年、って言ったほうが、正しいのかな)

真姫(あの時は、何も感じなかったけど)

真姫(一人きりの暗い部屋に閉じこもってから、この家を訪れた夜のことを、度々思い出していた)

真姫(血のつながりのない、他人…友達の温かみ、というものが、人恋しくなっていた)

真姫(私が復学してもいいと思った理由の大半が、彼女…東條希先輩に、もう一度会いたいから、というものだった)

真姫(UTX学院において数少ない外部との繋がり…。まだ喋ることに抵抗の少ない人物ではあるから)

真姫(友達ができないであろうこれからの学園生活の拠り所に、できるかもしれないって思って…)

真姫(…そして、もう一人…。彼女にも、もう一度…)


希「真姫ちゃん?」

真姫「は、はいっ?」

希「さっきから何度も名前呼んでるのに返事ないから…。あ、もしかして真姫ちゃん、やと馴れ馴れしすぎるかな?」

希「まだ一回しか会ってないし、あの頃も西木野さん、で通してた…はず?やから。西木野さん、でいい?」

真姫「え、あ…はい。ど、どっちでも…いいです」

希「じゃ、あっちの方と区別付けるために、西木野さん、で。西木野さん、うち、料理作ってるから」

希「何かあったら、遠慮なく呼んでね?暇やったら勝手にテレビ付けてもいいから」

真姫「あ、あぁ…お気遣いありがとうございます」

希「ん」


真姫「…ふ」

真姫(やはり、彼女となら、心なしか他の人より緊張せずに話せているような気がする)

真姫(…でも、『あっちの方』…。自称異世界人の…)

真姫(彼女は、希先輩の、どこまでを知っているのかしら…)


希「ねぇ、西木野さん。西木野さんは、あっちの真姫ちゃん…9月からUTXに来た真姫ちゃんのこと、どれくらい知ってるん?」

真姫「えっ、どれくらい…どれくらい、って言われても…」

希「スクールアイドルを始めた、ってことくらいは知ってるんよね?」

真姫「…え、えぇ」

希「んふふ、そっかそっか。やーね?真姫ちゃんが来た9月からのUTXの激動具合と言ったらねー…」

真姫「…」

希「西木野さんも、これから学校に来るんやったら、ちょっとは今のスクールアイドル事情を知っておいたほうが流行に流されんで済むと思うんよ」

希「西木野さんも一度はA-RISEを志した…あっ、ごめん。やっぱまだ…嫌、かな?そういう話…」

真姫「そ、そんなことは…」


真姫(…ない、とまでは言い切れない。あの時ほどではないというだけで)

真姫(アイドルに対して、そしてUTXに対してもまだ多少の…恨み、というものが残存している気がする)

真姫(といっても、ほんの少し、胸の奥に小さいトゲのように残っているだけで、触られるとチクリとする、程度なんだけど)


真姫「…希先輩の話なら、私はなんでも…」

希「ん、そう?じゃあねー…どこから話そっかなー…」

西木野家 食卓


真姫ママ「…真姫ちゃん?」

真姫☆「へっ?」

真姫ママ「どうしたの、さっきから虚空を見つめて」

真姫ママ「もしかして…幽霊でも見える!?暗い部屋でずっと過ごしてたからそういう目に…」

真姫☆「ち、ちち…違うわよーっ!ただ考え事してただけ!」

真姫ママ「うふふ、そう。ならいいのよ。ほぉら、早くご飯食べないと冷えちゃうわよ?」

真姫☆「はぁい…」


真姫☆(さっきの泣き顔はどこ吹く風で、すっかり茶目っ気たっぷりのママに逆戻りね)

真姫☆(彼女としては娘とこうして話せるだけでも相当にテンションが上がって仕方ないのでしょうけど…)

真姫☆(…私としても嬉しいんだけど、今はそれどころじゃない)

真姫☆(そう、この世界の私も、アイドル専攻に通っていたという事実)

真姫☆(過去の私の言葉から推測できるその事実に、私の脳内は埋め尽くされていた)

真姫☆(彼女が心に傷を負い、学院生活の6分の1ほどを無駄に消耗してしまった理由も、もはやお馴染みのアイドル専攻…)

真姫☆(改めてこの世界でもUTX学院というものの存在の闇に、衝撃を受けざるを得ない)

真姫☆(…いえ、UTX学院そのものというよりやはり、元凶は…)

真姫☆(絢瀬絵里…なんでしょうね。全く、この世界ではよからぬことばかりしでかしてくれるものだわ)

真姫☆(音ノ木坂の制服を着た彼女が恋しい。あっちなら程よくアホで見ていてとても癒され…)


真姫☆「あ、そうだ!ママ、あの…」

真姫ママ「ん?なにかしら」

真姫☆「私のクローゼットに入っていた、えーっと…謎の制服、なんだけど」

真姫ママ「あぁ…あれのこと?」

真姫☆「そう、多分アレ。アレ…どうしたかな、って」

真姫ママ「ふふ、あの服はね、私の通ってた学校の制服にとてもよく似てたから、今は私のタンスで大切に保管してあるわ」

真姫ママ「って、前も言ったわね、これ。どこで手に入れたの、って言っても、知らない、ばかりだったけど」

真姫☆「え、えぇ…。いつの間にかあって、代わりにUTXの制服がなくなってて…そ、そう。まだあるのならいいんだけど」


真姫☆(勝手に処分されても困る…ってほどでもないけど)

真姫☆(捨てられると少し複雑な気分になってしまう。私物だし)

真姫☆(…というか今は制服のこととかどうでもよくて…あぁ、ママといるとなんだか集中できないわね)

真姫☆(やはり私には、根っからの引きこもり体質なのかも。集中するなら、自室でひとりきりが一番だと思える)

真姫☆(ママにももう少し、娘との団欒を提供してあげたいけど、ここは私の事情が一番大事だから…)


真姫☆「もぐもぐもぐっ…ごくんっ!」

真姫☆「ごちそうさま!お風呂、後で入るから、ママ先に入ってて!」タッタッタッ…

真姫ママ「え、あ、…なんなのかしら。昨日とは全然違うわね、あの子」

真姫ママ「でも、あれくらい元気なほうが、見ていて楽しいかも」

バダンッ



真姫の部屋


真姫☆「…ふぅ」


真姫☆(というわけで、およそ3ヶ月ぶりの、この世界の私の部屋)

真姫☆(整然としたこの私の部屋とは違い…コードやら何やらでとてもグチャグチャしてる)

真姫☆(こんな部屋で寝たくない…。よく過ごせてたわね、アイツ)


真姫☆「ま、でもどっちみち…」


真姫☆(部屋を漁るのだから、片付けついでにちょうどいい)

真姫☆(この世界の私が、どのようにして心を病んでしまったか。その原因がこの部屋にあるといいんだけど)

真姫☆(もしかしたら、絵里に対抗する術…とか、見つけられるかもしれないし。多分ないけど)

真姫☆(それに、ヤブでも便宜上ドクターを名乗っている者だから、いずれこの世界を去るのなら…)

真姫☆(この世界の全てを正常に戻してから、スッキリして帰りたい。立つ真姫ちゃんは後を濁さないどころか綺麗に掃除して帰るのよ)


真姫☆「まだアイドル専攻には謎も多いし…特に絵里のこととか…」ゴソゴソ…

真姫☆「…あんなに人を傷つけてまで、実力主義を突き通す…。異常だわ」ゴソゴソ…

真姫☆「いくら音ノ木坂とUTXの環境が違っていたとしても、あそこまで考え方が変わるとは思えない…」ゴソゴソ…

真姫☆「もしかしたら、何か他に事情が…おや?」

真姫☆(一枚の印刷紙をコードの束の底からサルベージする。これは…)

真姫☆「UTX学院のホームページ…?」

真姫☆「現在の生徒会長近影…。穂乃果じゃなくて希が写ってるってことは、9月以前に印刷したものかしら」

真姫☆「名前欄に赤ペンまで入ってるけど…なんなのこれ」


真姫☆(よくわからないけど、彼女のトラウマに関するものではなさそうだった)

真姫☆(とにかく今は、時間が許すまでこの部屋を漁り尽くそう)

真姫☆(この世界の私に、『アイドルなんて大嫌い』とまで言わせた原因が何か…)

真姫☆(それが見つかるまで、ひたすらに)

真姫☆(…でも、彼女はもう学校に復帰してるんだし、その必要もないのかもしれないけど)

真姫☆(一度気になると動かざるを得なくなるのが、私の性分だからね)

希の家


希「ん、でねー。そこでまさかのっ…!」

真姫「ふふっ…」


真姫(希先輩の話は、『私』から簡潔に聞いた話とそれほど大差はなかったけど)

真姫(一部、私でもわかるような大袈裟な脚色がしてあって、これまた大袈裟な語り口調で説明してくれるため)

真姫(否応無しにも、口元が緩んでしまう。笑顔になってしまう)

真姫(…こうして過ごす短い時間の中で、私は確信し始めていた)

真姫(あぁ、この人といると…とても安心する)

真姫(長い間口角の上がることのなかった顔面すらも弛緩してしまうほど、安らぎを感じている)

真姫(まるで母親のように…などというと、本当のママに失礼かもしれないけど)

真姫(暖かく包んでくれる心地よい抱擁感は、特別なものがあった)


希「…そして、今のC☆cuteがあったのでした。めでたしめでたし」

真姫「へー…」

希「今じゃ結構な人気で、今度のライブは対外に向けたものにしよう、って言っててねー…」

希「ついにA-RISEを超える時が来たか!?なーんて、真姫ちゃんは言ってるけど…どうなることやら」

真姫「…」

希「しかし学内でもそこそこの支持率も出てきて、UTX内部でも対立が徐々に起き始めているくらいではあるのかなー…」

希「いつか人気が完全に二分して…ってそうなると更に争いが増えるんか…。どうしたらいいんかな」

真姫「…」

真姫(彼女の話は、とても楽しい…のだけど)

真姫(時折、胸の中で渦巻く、この感情は何…?)

真姫(そう…、それは決まって、『私』の名前が出てきた時に、モヤモヤと心を覆うような、感情)

真姫(…よく、わからない)

希「…と、ご飯できたから持ってくね。ととと…」

希「よいしょっ。どや!特性親子丼やよ!デデーン!」

真姫「あ、美味しそう…。料理も上手、なんですね…」

希「ふふふ、まぁ一人暮らしも長いと、嫌でも料理のバリエーションは増えてくもんやよ。ささ、お食べ」

真姫「ありがとうございます。いただきます…もぐっ」

真姫「…うん。美味しい」

希「せやよねー。ふふ、ありがとー。何度聞いても嬉しい言葉やんっ」

真姫「…ふふふ」


真姫(彼女の無邪気な、子供のような笑みがなんだか可笑しくて)

真姫(でもそれでいて、なんだかとても彼女らしい笑顔で、私も釣られて笑ってしまう)

真姫(こんなに顔の筋肉を動かしたのは、いつぶりだろうか)

真姫(明日の顔面の筋肉痛が本気で心配になるほどの、幸せな時間だった)

真姫(彼女の親子丼は実際にとても美味しくて、ともすれば何杯でも食べてしまいそうなほどだったけど)

真姫(「学食の味に頑張って近づけてみたけど、まだまだや」とのことらしい。学食の親子丼、どれほど美味しいものだというのか)


希「…って言っても、最近うちは学食食べてないんやけどね」

真姫「え?」

希「いっつも部室でひとりでお弁当。なるべく生活費を浮かせるためー…って、一人養ってる時点でどうなん、って話やけど」

真姫「…『私』のことですか?」

希「うん。ま、真姫ちゃんのために、って考えればそれくらい、やけどね」

真姫「真姫の、ため…か」

希「ん?何か気に障るようなこと、言ったかな?」

真姫「え?あ、いや…何でもないです」

真姫「えっと、それより…じゃあどうして、学食の味を?食べてないのに…」

希「あぁ、それはね…」

希「去年までは、学食でも食べてたんよ。これも時折、やけど」

真姫「へぇ…、どうして?」

希「友達に誘われて、かな」

真姫「…友達」

希「うん。前はね、めっちゃ友達いたんよ」

希「それこそ、うちは人気者やった。クラスの中心人物、って言えるくらい」

希「毎日毎日、賑やかでね。中学までは一人ぼっちが常やったのが嘘だと思えるほど」

真姫「そうだったん、ですか?」

希「んふ。まぁ昔のことやけど」

希「そう、昔の話。一人ぼっちだったのも…、そして、友達がいたことも」

真姫「え…」

希「うちが人気だったんは、うちの人望があったからじゃなくて…うちがA-RISEに深く関われたからだって気づいたのは…結構後のことやったかな」

希「気づいたら周りには誰もいなくて、それからうちは…騒がしい場所があまり好きじゃなくなってしまった」

希「今は部員のみんなもいるけど、学年は違うし、集まるまでのラグがあって…」

希「なにより、部室でお弁当を食べていると、なんだか昔のことを思い出せて…なんて、バカみたいな感傷に浸ってたりなんかして…」

希「あ、でもでも!仲間はやっぱり大切やよ!愚痴もこぼし合うと、絆が深くなるための潤滑剤になるし!」

希「だから西木野さんも、早く友達を作るべきやよ!きっとクラスにも、いい子たくさんいるでしょ?」

真姫「えっ…あ…」

真姫「…友、達。仲間…」

真姫(友達)

真姫(復学するにあたり、私はそれを半ば諦めていた)

真姫(…うぅん、半ば、じゃない。今はもう、完全に捨てていた)

真姫(友達が欲しくないわけじゃない。他人との触れ合いはむしろ、歓迎したいくらい)

真姫(けどそれは、誰でもいいわけじゃない。話していて、充足感に満たされる人物でないと、嫌)

真姫(長時間の引きこもり生活のせいで他人と喋るときに緊張してしまう体質になってしまったのも一因だ)

真姫(今日一日クラスで過ごして、一度たりとも誰かと目線を合わせられたことなどない)

真姫(メガネのレンズを曇らせて、視線を逸らして、人の集まる教室で孤独に徹していた)

真姫(私だって、もしかしたら…そう、もしかしたら、心の許せる他人がいるかもしれない、なんて考えた)

真姫(…でも、その可能性は潰えたと、今日の経験でわかった)

真姫(『私』…、異世界の西木野真姫のせいで、完全に)

真姫(私に話しかけてくれる人はたくさんいたけれど、それは全て、『私』との差異が可笑しくて、興味本位で近づいただけ)

真姫(まるで檻の中の珍獣を見るかのように。それが私にとって、堪えようもなく嫌で、嫌で堪らなかった)

真姫(だからもう、私には…)


真姫「…友達は、いらない」

希「えっ…」

真姫「少なくとも、同じクラスの人間は…いい、です」

真姫「…友達には、誰もなりたくない」

希「そ、そんなことないって。うちも真姫ちゃんの教室、何度か行ったけど、みんないい子だったけど…」

真姫「…そんなの、感じ方なんて人に依る、でしょ」

希「…まぁ、そうかもしれないけど」

真姫「わ、私は…えっと、その…」

希「ん?」

真姫「わ、私、には…そのぉ…」


真姫(変なタイミングで言い淀んでいるせいか、希先輩が訝しんでいる)

真姫(言うのは正直メチャクチャ恥ずかしい。どうしよう、言ってしまおうか)

真姫(いいや、きっと大丈夫。言ってしまおう)


真姫「…私には、あなたが、いればいいから…」

希「え…?」

真姫「あ、あなたがいれば、寂しくない、って…言ったの!」

希「う、うち…?なんでうち…」

真姫「…なんだって、いいじゃない…ですか」

希「あ、ま、まぁ…そうやけど!そっかー、うちかー…」

真姫「…」


真姫(ヤバい。彼女にとっても結構予想外の返しだったらしく、目が泳いでいる)

真姫(でも、本心なのだから仕方がない)

真姫(今の私にとって、頼れるのは…希先輩しかいないのだから)

希「うちのこと…、信頼してくれている、ってことかな?」

真姫「…」コクリ

真姫(いざ口に出そうとすると、顔から火が出るほど恥ずかしくて、頷くくらいしかできない)

真姫(私が一緒にいたいと、そう思えるのは今のところ、あなたしかいない)

希「…そう、か。そうね…」

希「んふ、ありがと。うちのことそんな風に思ってくれてる、っていうんは、予想外やったけど…」

希「でも西木野さんに頼られてるんはめっちゃ嬉しい!生徒会長冥利に尽きるわー、もう生徒会長じゃないけど」

真姫「…そう、ですか」

真姫(生徒会長じゃなくて、あなたが)

真姫(…私はあなたが、いいのだけど)

希「けど、ずっとうちだけ、だとそれはちょっと困るなー」

真姫「え…」

希「だってうちは、数ヶ月後には卒業しちゃうからね。西木野さんが二年生になる頃にはいなくなっちゃう」

真姫「…ぁ」

希「西木野さんの学園生活が今年で終わるなら、うちだけを頼ってくれてもいいけど、そうじゃないでしょ?」

希「いつかは頼れる仲間、見つける必要があると思うな、うちは」

真姫「…」

希「もちろん!それまではうちは全力で西木野さんのサポートはするつもりだけどね!」

真姫「…わかりました。それでも、私は…平気です」

希「そっか。そう考えてくれたら嬉しいわ」

希「あ、それと…お友達だけじゃなくて、お父さんお母さんとも、仲良くすべきやよ」

真姫「はい…?」

希「今日、真姫ちゃんと立場を交換したのは、両親と話したくないから、なんよね?」

希「面倒な親子の会話を、真姫ちゃんにしてもらうために」

希「けど、それじゃいつまで経っても本当の意味で、親と子の関係が治ったとは言えないんよ」

真姫「え、ぁ…」

希「仮に、明日も真姫ちゃんにあっちへ行ってもらおうって思っているなら…考え直してほしい」

希「真姫ちゃんなら上手くやってくれるかもしれないけど、…それは西木野さんのためにならないし」

真姫「…」

希「親子っていうんは、この親子丼みたいに、心身溶け合って…って、親子丼例に挙げるんはちょっと残酷かな」

希「ま、とにかく!明日は一度帰るんよ?せめて入れ替わるんは交互に。それが最低条件やよ」

真姫「…わかり、ました」


真姫(確かに、私は明日も、『私』と入れ替わるつもりでいた)

真姫(でもそれは家族と会話したくなかったからだけではなくて…)

真姫(…)

真姫の部屋


カチャカチャ…

真姫☆「…」

真姫☆「…チッ」

真姫☆「…」

真姫☆「…っし」

真姫☆「…」

真姫☆「あーっ!ウザッ!芋消えろ!ったく…」


「…真姫ちゃーん、お風呂空いたわよー」


真姫☆「…あ、はーい!」

真姫☆「ふぅ、部屋の物色をしていたと思ったらいつの間にかFPSに熱中していたわ」

真姫☆「特に私の思っていたものは出てこなかったし…しかし、結構面白いのね、FPSって」

真姫☆「これならあっちの私がハマるのもわかる気がするわ。全然活躍できなかったけど」

真姫☆「さてと…じゃあそろそろお風呂に…、ん」


真姫☆(そういえば、ママにもわかるくらい汗の匂いを漂わせているのよね、今の私って…)

真姫☆(…汗かぁ)


真姫☆「…すぅ…、くんくん…」

真姫☆「うーん…、そんなに匂う感じしないけど…くんくん…」

真姫☆「…っは!わ、私ってば何を…」

真姫☆「これじゃあまるで匂いフェチじゃない!しかも自分の匂いを嗅ごうとするなんて…」

真姫☆「やめやめ。とっとと汗を流してフローラルな香り漂わせる真姫ちゃんになりましょう」


ガチャッ バタンッ

希の家


真姫「…ふぅ」

真姫(家主より先にお風呂をお借りして、今はほんのり湯気の上がる身体を借り物のパジャマで着飾っている)

真姫(希先輩との体格差から、すこし大きめのものが出てくるかと思っていたけど、サイズは私にぴったりだった)

真姫(…これ、希先輩も着たのかしら)

真姫「…すんすん」

真姫「洗剤の匂いしかしないわね」

真姫「…」


(希「じゃ、うちもお風呂入るわー。少しの間一人で退屈かもしれんけど、我慢しててねー」)

(希「常識の範疇ならそこらへんのものいじっててもかまへんよー」)


真姫「…いじる、って、何を」


真姫(自分が今いるところはダイニングで、あるものといえば食器棚や花瓶や、その他特に変哲のないもの)

真姫(退屈ならテレビを見てればいい、とも思ったけど、別に見たい番組もないし)


真姫「そこらへん、って言ってたけど…」

真姫「…こ、この部屋でなくてもいいのかな」


真姫(自分の気持ちを誤魔化し、鼓動が少し高まるのを抑え、家の中を散策する)

真姫(そして見つけた、お目当ての部屋)



希の部屋


真姫「…ぅ」ドキドキ…

真姫「か、勝手に入っても、怒られたりしない、わよね…?」

真姫「そ、そう。退屈なんだし、少しくらい…」


真姫(部屋に入った瞬間、リビングやダイニングとは違う、甘い香りが鼻腔を刺激する)

真姫(シャンプーや化粧品や香水や…希先輩本人の匂いが入り混じった香り)

真姫(脳を焦がすような官能的なその匂いに、一瞬目眩を感じ、倒れそうになる)

真姫(悪いことなんて何もしていないはずなのに…ヤバいくらいに緊張してる…!)


真姫「た、他人の家にお呼ばれしてるんだから、べ、別に…部屋に入ったって、いいわよね…!」

真姫「へぇ…、希先輩、こんな趣味なんだ…。意外と…可愛らしいものが好きなのね」

真姫(机の上の筆記用具類やアクセサリー、壁に貼られたアイドルのポスターや飾られたたぬきのぬいぐるみは、私の思っていた彼女のイメージとは、少し違ったものを感じた)

真姫「ここまでくると…ふふ、天蓋付きのベッドとかあってもおかしくないけど、普通のベッドね」

真姫「ただ毛布はふかふかしてて、気持ちよさそう…」

真姫「…」ゴクリッ

真姫「ふ、ふかふか感がどれほどのものか、確かめるだけ…ただそれだけ、なんだから…」

真姫(誰もいない空間に、強いて言えば自分に、言い訳をしつつ…)

真姫(フレームの形が崩れないように、あらかじめメガネを外してから…)

真姫(思いっきり、毛布に顔を埋めた)

真姫「ん、んんっ…すぅっ…んはぁぁぁ…」


真姫(顔を埋めながら、盛大に深呼吸)

真姫(濃厚な女性の香りが、体内に侵入して、神経を痺れさせる)

真姫(へその下のところがジンジンと疼き、指先はピリピリと仄かな痛みが)

真姫(身体が裂けて血が噴出するかと思うほどに、心臓が血液を激しく送り出す)

真姫(胸の中心でミニガンを全力稼働するような衝撃でも、不思議と心地よく感じてしまう)


真姫「はぁっ…、ん、ふぅっ…」

真姫「これが…、希先輩の…匂い…」

真姫「んくっ…、すぅぅぅぅっ…、あ、っはぁぁぁぁぁ…」

真姫「はーっ…、はーっ…。ふ、ふふふふ…ヤバ…」

真姫「こんなこと、変態のすること、なのに…」

真姫「でもっ…、んんっ…!すぅぅっ…」


真姫(肺の中の空気を全て入れ替えるかのように、只管に鼻呼吸する)

真姫(満たしたい、満たされたい)

真姫(この匂いに包まれた全身のように、心までも、彼女に)

真姫(暗澹とした絶望の淵に沈む私を助けようとしてくれた人)

真姫(あの時は少しウザったいとすら思っていたけれど)

真姫(日を経るにつれ、次第に膨れ上がる、恋しさ)

真姫(彼女なら私を認めてくれるんじゃないかって…こんな、どうしようもない私でも)

真姫(自身の矮小さをさらけ出した上で、それでも私を愛してくれる人なのかもしれない、って)

真姫(部屋を離れ、独りでなくなってしまった今は、とても心細いから)

真姫(満たされたくて、満たしたくて)

真姫(彼女だけに、私の全てを捧げて)

真姫(彼女を、私だけのものにしたくて)

真姫(そんな、独善的で、独占的な考えを抱いてしまう)



真姫「ふすぅっ…ぷ、はぁぁっ…」

真姫「布団もいいけど…ま、枕はどうなのかしら」

真姫「あの艶やかな長髪が直に敷かれた…、むふっ…、想像しただけで鼻から汁が…」

真姫「ごめんなさいごめんなさい…!でも抑えられないからぁっ…!」

真姫「じゅるっ…!希先輩の頭の匂い…!い、いただきっ…」


真姫(そう言ってまた鼻を近づけようとしたとき)

真姫(枕元に置かれた写真立てが目に入った)


真姫「…これ、は…」

真姫(メガネをかけ直して確かめる)

真姫(希先輩が写った写真)

真姫(それは二枚あって、一枚は古いものと、もう一枚は最近のもの)

真姫(どちらの希先輩も、人に囲まれている)

真姫(古い方は多分、夕食時に話していた、昔の友人なのだろう)


真姫「…本当に、いっぱいの人に囲まれてる」

真姫「人気者、だったのね」


真姫(その友人は全て離れていき、今は部室で一人昼食を食べている、とも言っていた)

真姫(彼女も孤独なんだって、そこで少し思っていたんだけど)

真姫(…でも、そうじゃないのよね)

真姫(新しめの写真の方に目を向ける)


真姫「私…」

真姫「…いえ、『私』が、写ってる」


真姫(それは『私』と、そして今日の朝出会った、おそらく『私』と同じスクールアイドルの仲間が写った写真だった)

真姫(こちらは前の写真よりも当然のように人は少ないし、希先輩も古い写真ほど中心にいるわけでもない)

真姫(けど…)


真姫「こっちの先輩は、すごく楽しそう」

真姫「周りの人たちもみんな…すごい笑顔」


真姫(穢しようもないほどの純粋すぎる喜び)

真姫(写真からは今にも動き出しそうなくらいの躍動感すら伝わってくる)

真姫(簡潔に表現すれば、これが青春ってもの、なのかしら)

真姫(私が嗅いだものとは、違う種類の汗を流す…かけがえのない大切な宝物)

真姫(経験したことない私でも、それが解る)

真姫(わかってしまう。この笑顔を見れば)


真姫「…」

真姫「私には…」

真姫「私は、これ以上の笑顔を…希先輩に与えられそうにない」

真姫「全てをさらけ出しても…彼女を…」


真姫(…独占なんて、できるわけがなかったのよ)

真姫(それが赦されるのは、赤子が親に求める時だけ)

真姫(誰もこんなわがままを、赦しはしない…のだから)

真姫(そう思うと途端に虚しさが身体に満ちる)

真姫(勝手に期待して、勝手に裏切られて、人知れず道化を演じていたかのような馬鹿馬鹿しさで)

真姫(寂しさで、ほんのちょっぴり涙が出た)

希「西木野さーん?」

真姫「ひぃっ!!」ビクゥッ


真姫(涙ぐんでいると急に後ろから声をかけられ、心臓が跳ね上がる)

真姫(そのまま口から飛び出すかと思った)


真姫「のののの、希せんぱいっ!!あの、これは、え、その…!」

希「西木野さん、もしかして…」

真姫「ちがちがちが、いやそうじゃ、えっとだからこれはそうでなくてあれがこれでうんたらかんたらししゃごにゅう…」

希「…もうおねむなん?」

真姫「あだだだだだだだ……、は?」

希「いや、ベッドにいるから…眠たいの?そこ、うちのベッドなんやけど」

真姫「あ、え、そのっ…、眠たいっていうか…」

希「西木野さんがベッドの方がいいって言うんやったらそこでもいいけどね。どうする?」

真姫「えっ…、あ、じゃあ…」

真姫「…お、お願いします」



希「じゃ、電気消すねー」パチリ


真姫「…ぅ」

真姫(まだ眠たくないのに寝る羽目になってしまったわ)

真姫(引きこもり時代は夜中までFPSは当然だったからこんな早くに部屋を暗くしても寝られる気がしない)

真姫(しかもよりにもよって希先輩のベッドで寝る、だなんて…!)

真姫(先ほど全身に満ちた虚しさが更なる興奮によって塗り替えられる)

真姫(鼻からの流血で枕を汚してしまわないか心配だった)


希「…西木野さん」

真姫「は、はい。ナンデスカ」

真姫(ベッドの近くで布団を敷いて、希先輩も隣で寝ている)

真姫(よくよく考えれば、これだけでも相当レアでアレな体験ね…)

希「ん、何でもないんやけど…ごめんね、眠たいのに話しかけて」

真姫「ベツニダイジョウブデス」

希「そか。あ、そのパジャマ着心地はどう?うちの古着で…」

真姫「っ!」

真姫(や、やはりこの服は先輩の古着だったのね!ってことはこれにも先輩の汗が染み込んでいたりなんか…)

希「今は真姫ちゃんが着てる奴なんやけど」

真姫「…」

真姫(…自分と同じ顔のヤツの汗なんて嗅ぎたくもなかった)

希「…着づらい?」

真姫「あ、いや…ぴったりでちょうどいい感じ…です」

希「うん、それならよかった。キツくて寝苦しかったりしたらちょっと心配だったからね」

真姫「…」

真姫(それは、『私』よりも体格が太っている心配をされた、ということだろうか)

真姫(考え過ぎかもしれないけど、ちょっと悲しかった)

希「…なんか、こうしてると9月の頃、思い出すなぁ」

真姫「9月…?」

希「うん、真姫ちゃんがここに来た時のこと」

希「あの時はまだ真姫ちゃんのことを、西木野さんやと思ってて」

希「スクールアイドル始めた時なんか、えらくアグレッシブに生まれ変わったんやな~、なんて思ってたんよ」

真姫「…へぇ」

希「西木野さんは、明日も学校行くよね?」

真姫「え?あ…行きますけど。親にも、迷惑かけられないし」

希「学校に行く理由って、親に迷惑かけたくないからってだけ、なん?」

真姫「そ、それは…」

真姫(…あなたに会いたかったから、なんてクサイ台詞、演劇やってても言える気がしない)

真姫「…それだけです。他に理由なんて…ない」

希「そっか…。それなら仕方ないけど…でも、これから学校に通い続けるなら、楽しみを見つけたほうがいいよ、ゼッタイ」

希「ほんの小さな、どんなくだらないことでもいいから、学校が楽しみになるような。そしたら、毎日行けるようになる」

真姫「…楽しみ」

希「うん。どうしても見出せないって思ったら、いつでもうちを頼ってくれていいから。お昼休みと放課後はアイドル応援部にいるし」

希「いつかうちだけじゃなくて、他にも頼れる仲間、友達が西木野さんにも出来てくれたら、うちも、とっても嬉しいんよ」

真姫「…」

希「生徒会長になってから、心に傷を負った子を何人も見てきて、その子達が次第に元気になっていって、忘れた頃に友達連れてお礼にいいに来てくれた時なんか…」

希「うち、涙が出るほど嬉しかったんよ。生徒会長やっててよかった、って、心から思える瞬間やった」

希「9月に真姫ちゃんを泊めてからこれが最後の生徒会長の仕事やね、なんて思って、ほんの少し寂しかったりもしたけど、まだうちを頼ってくれる人がいて」

希「もう高校生活も終わりってときに、ここまで幸せな気持ちになれるなんて…うちはめっちゃ恵まれてるんやと思うんよ、なんて…ふふ」

希「こんなこと、西木野さんに言ってもしょうがないよね。…もう、寝ちゃったかな?」

希「それじゃ、うちもおやすみするね。明日、また一緒に学校行こうね」

希「…おやすみなさい」

真姫「…」


真姫(…寝ては、いなかった)

真姫(彼女が淡々と語るその言葉を、ずっと聞いていた)

真姫(希先輩の喋り方がまるで、我が子をあやす様な、慈愛に満ちたものであるせいで)

真姫(諦めかけた独占欲がまたもや湧き出てくる)

真姫(彼女の声が、笑顔が、何もかもが愛おしくて)

真姫(…信じがたいことだけど、もしかしたら私は)

真姫(西木野真姫は)

真姫(東條希に)

真姫(…恋を、しているのかもしれないなんて)


真姫「…バカバカしい」


真姫(そんな愚かな考えを、小声で呟いて否定して)

真姫(不貞腐れるかのように忘れるかのように、無理やり目を閉じて、寝床についた)

翌朝

西木野家


真姫☆「おはよ…あれ、ママ…」

真姫☆「…そっか。まだ寝て…」

真姫☆「こっちは朝練があるから早起きに慣れてるけど、ママはそうじゃないものね」

真姫☆「いってきます、を言いたかったんだけど、起こすわけにもいかないし…」

真姫☆「…メモを残して先に家を出ましょう。いってきます、ママ、あと…いれば、パパもね」



希の家


真姫「…ん、んんっ…んぁ…」

真姫「んっ…ふわぁぁぁぁぁ…、今、何時…」

希「あ、おはよ。意外と早起きやね」

真姫「え、あぁ…希せんぱ…ほわぁぁぁぁっ!!?!?」

希「え、あっ…ごめんごめん。着替え中やった…」

真姫「な、何も見てないからっ!布団かぶってるから、早く着替えてくださいっ!!」

希「わ、わかった…。ごめんね、気ぃ使わせて…」



ダイニング


真姫(いつもより早寝だったせいで、起きるのも早かった)

真姫(こんなに早く起きても、することなんてないのに)


真姫「…もぐもぐ」

希「西木野さん、いつ出る?うち、そろそろ出ようかと思うんやけど」

真姫「え…、どうして?まだ一時間目には全然時間が…」

希「スクールアイドルの朝練があるんよ。だから早めに行かんとね」

真姫「あぁ…、そうなんですか。大変ですね。希先輩も踊るんですか?」

希「えっ…、あ、うちはアイドルじゃないから…。部室を開けるために部長が行かんといけないからね」

真姫「そのためだけに?…なおさら大変ね…」

希「…うん。ま、だから…後から出るなら、西木野さん、戸締りしてくれる?鍵置いていくから」

真姫「わかりました。任せてください」

希「ありがとっ!登校したらアイドル応援部部室まで来てくれればいいから。ほな、お願いね」


ガチャッ… バタンッ


真姫「…わざわざ部室を開けるためだけにこんな早起きするなんて」

真姫「殊勝な人なのね…もぐもぐ」

真姫「…あ」

真姫「やっぱり一緒に学校、行けばよかったかな」


真姫(…昨日の彼女の、寝る前の言葉を思い出して)

真姫(あれは彼女自身の願望だったのかな、なんて少し思った)

UTX学院

アイドル応援部 部室


真姫☆「おはよー…」ガチャッ


花陽「あ!おはよ、真姫ちゃん!」

希「おはようさん。眠そうやね」

ことり「おはよー」

海未「おはようございます。今日はメガネかけていないのですね」

真姫☆「…それは違う方だって」

海未「わかっていますよ。と、さて…今日は朝練の前に」

ことり「次のライブ!だよね!!」

真姫☆「そうね。もうあとは衣装とステージさえ揃えば問題ないし…」

真姫☆「ハイペースで行けば来週末には披露できるかも知れないわね」

花陽「11月ギリギリだね…大丈夫かなぁ」

希「やっぱり一ヶ月に一回の新曲リリース、&ライブ、なんて無茶な設定やと思うけどねー」

真姫☆「そのくらいしないとトップは取れないの!できるできる!!」

真姫☆(μ'sなんて10月中に2回新曲リリース&ライブしたしね。トラブルもあったくせに)

真姫☆(…考えてみればどこにそんな余裕があったのかすら不明だわ。私たちって相当すごいことやってたのね)

海未「で、肝心の場所ですが…」

花陽「つ、次こそ大々的に、みんなの見ている前でのライブ、なんだよね…!?」

ことり「そのつもりなんでしょ?うっわー、ドキドキするねー」

真姫☆「外部の方にも見てもらえる場所でいいところとなると…」

希「前にも提案したUTX前が一番やと思うな、うちは」

海未「そう、ですね…。人の集まれるスペースもありますし、休日に登校する生徒の邪魔にならないようにすればいいかと」

海未「できれば大型モニターも使いたいところですが…学校に許していただけるかどうか」

ことり「学校としてはA-RISEを推していきたいんだもんね。貸してくれないって可能性も…」

花陽「でもでも!もう私たちだって結構人気だよね…?前のライブのおかげで知名度もグンと増したし」

希「せやね。もはやUTXの顔の二代目、って言えるくらいまでには近づいてるかも」

真姫☆「だったら認めさせるほかないでしょ!むしろここから始まるのよ、A-RISE一強の体制を崩すための革命は!」

海未「そうですね。では今日にでもお願いしに行きましょう。来週の休日にモニターを貸してもらえるようにと」

ことり「よぉし!決まりだね!顔面ドアップで撮されても恥じないようなパフォーマンスにしなきゃ!」

花陽「ど、どあっぷ…!恐ろしいです…!」


希「…ふふ」

希「みんな、頑張ってな…」

真姫(そろそろといったところで、希先輩の家を出る)

真姫(ちゃんと忘れないように、鍵を閉めて…これを忘れてしまうと非常に危ないからね)

真姫(…さてと)

真姫(やっぱり、学校へ向かうのはすこし億劫)

真姫(希先輩からは友達を作れ、と言われたけど…私には出来そうにもない)

真姫(今の私が学校から求められる楽しみ、といえば、やはり希先輩の存在くらいしかありえないのだ)

真姫(…というわけで今日も、誰からも話しかけられないように、顔を伏せて登校する)

真姫(流石に今日も、昨日みたいに改札で引っかかるようなことはない…はず)



アイドル応援部 部室


ことり「はふー…、本番も近いから練習も朝からハードだねー…」

花陽「だけど歌もダンスも、前回以上にクオリティの高いものにはなってきていると思う!…多分!!」

海未「元気のよい自信のない発言ですね…。っと、ではそろそろ予鈴もなりそうですし、私はこれで」

ことり「あ、じゃあ私も!またお昼ねー」

花陽「私も戻ってるね。また放課後にね、真姫ちゃん!」


ガチャッ バタンッ


真姫☆「…と、じゃあ私は始業のベルがなるまで待機ね」

真姫☆「誰かに出て行くの見られるのも困るし」

希「今は生徒会の子たちが挨拶してるからねー」

真姫☆「ん?希は教室戻らないの?あ、そっか、戸締りあるものね…。部室以外の場所で待機しておいたほうがいいかしら…」

希「ん、まぁそれもあるんやけど…」


ガチャッ

真姫「…先輩、鍵…あっ」

真姫☆「あ、私」

真姫「…ま、まだ慣れないわ。同じ顔がいるって事実…」

希「あー、ありがと。家の鍵持ってきてくれたんやね」

真姫「は、はい…。戸締りもしておきました、ちゃんと」

真姫☆「あぁ…、家の鍵を待ってたのね」

希「うんうん、ありがとうね。そろそろ授業も始まるし、うちらも部室出よか」

真姫☆「そうね。…あ、そういえば今日も入れ替えるの?」

真姫「え、えぇと、それは…」

希「今日はダメ。もし西木野さんがまた来たい、って言うんなら、明日やね」

希「せめて交互にでも、親に顔見せないと解決には至らないからね!」

真姫☆「あぁ、そうね。あ、昨日はママとしか話してないわ。パパ、帰ってこなかったから」

真姫「そう、なの…」

真姫☆「だから、今日パパが帰ってきたらちゃんと話すのよ?ママにも心配かけちゃダメだからね」

真姫「わ、わかってるわよ。あなたに言われなくても…わかってるから」

希「まぁまぁ、話はまた後でね?さ、西木野さんも教室戻ろっか」

真姫「…うん」

1年E組


真姫「…」


女生徒「あ、真姫ちゃんおはよー」

真姫「…おはよう」

女生徒「…あ、ご、ごめん。いつもみたいに挨拶しちゃって…」

真姫「…」


真姫(項垂れながら自分の席へと座る)

真姫(朝から気分は最悪だった)

真姫(あわよくば、希先輩とまた二人きりになれる、なんて思いながら学校に来たら)

真姫(…一番見たくないヤツの顔を見てしまった)

真姫(学校に来ても、私はまだ『私』に間違われる)

真姫(やはりずっと、あっちに学校に来てもらったほうが良かった気がしてきた)

真姫(ただ、こうしてアイツの妹とという設定にするには、やっぱりこのタイミング以外難しいところだし、仕方ない…)

真姫(いつかアイツも、元いた世界に帰ってしまう事情もあるんだし)

真姫(…でも、それなら帰るまではここにいてくれてもよかったかも)

真姫(まだ、私は学校に楽しさを見出せそうにない)

真姫(ただ無心に、時が過ぎ行くのを、願うだけ)




放課後


キリーツ、レーイ…


真姫「…ありがとうございました」


真姫(終わった…)

真姫(長い長い一日だった。ゲームをしている時の数十倍の体感時間を過ごした)

真姫(無心なんて出来る訳もなく、妄想と苛立ちに心を弄ばれて一々時間を気にしていたせいで、さらに長く感じていたのかも)

真姫(…誰にも話しかけられないように、空気に徹していたのも、却って寂しさを加速させただけだった)

真姫(もういい。帰ろう。帰ってゲームしよう。FPSの中なら私を認めてくれる人もいる)

真姫(そう思い、席を離れたとき…)


「…西木野真姫、さん?」


真姫「…っ!」

真姫(…話しかけられた。だ、誰?)


「私、2年の~~って言うんだけど」


真姫(聞いたことのない名前だった。当たり前だ。私は昨日この学校に戻ってきたばかりなんだし)

真姫(じゃあ、『私』の知り合い?…でも、彼女の方も私と始めて会ったような口ぶりだし)


「…ちょっと用事があって、付いてきてくれる?すぐ済むから」


真姫「え…あ、はぁ…」

真姫(…ここで断れるような度胸とコミュ力は持ち合わせていない。今の私なら容易くキャッチセールスに引っかかりそうだった)

真姫(でも、すぐ済む、っていうなら…なんて軽い気持ちで、その知らない誰かの後ろをトボトボとついていくことにした)

真姫(でも)


真姫(彼女に付いていった先で、私は)


真姫(激しく心を揺さぶられることとなる)




真姫(胸の奥にひっそりと眠る、小さな小さなトゲの種子が)


真姫(…ほんの少し、芽吹いたような気がした)




真姫「はっ…はっ…!!」タッタッタッタッ…

真姫「はぁぁっ…!!はぁぁっ…!!」タッタッタッタッ…



西木野家


ガチャッ


真姫「ただいまっ…!!」



真姫ママ「あぁ、お帰りなさい。今日は早かったのね」

真姫ママ「ね、今日はパパ、早めに帰って…」


真姫「ごめん、今日ご飯、いらないからっ…!!」タッタッタッ…


真姫ママ「…え?」



真姫(大慌てで自分の部屋に飛び込み、ドアに鍵をかける)

真姫(今誰かと話ができる精神状態じゃなかった)

真姫(落ち着ける独りの部屋で、心を落ち着けなければ)

真姫(私は、どうなるかもわからない)


真姫「はーっ…!はーっ…!!」

真姫「ケホッ…!!コホッ…、が、はぁっ…!はぁっ…!!」


真姫(慣れない運動をして、心臓が悲鳴をあげている)

真姫(だけど今はそれどころじゃない。心臓なんてどうでもいい)

真姫(もう、何が何だかわからなくて、変な涙が溢れて止まらない)

真姫(私は…ねぇ、私は一体どうしたら…)



真姫「どうしたら…どうしたら…」

真姫「どうすれば、いいのよぉぉぉ…!!?」



真姫(頭を抱えて、塞ぎ込む)

真姫(人生最大の葛藤に答えが出るのは、その翌日だったけど)

真姫(その時の私に、それを知る由もなかった)

放課後

UTX学院前


真姫☆「…そろそろ、授業も終わって部活が始まる時間よね」

真姫☆「授業中はほとんど会話はないとは言え、休み時間やお昼ご飯時にも皆と会えないのは寂しいわね」

真姫☆「まぁ元々私はこの世界の住人ではないんだから、贅沢は言ってられないわよね」

真姫☆「もうあっちの私、学校抜けたかな?じゃあ私も…」


グワンッ…


真姫☆「…うっ」

真姫☆「ま、また…吐き気…?うぇっ…、気持ち、悪い…」

真姫☆「今度は、か、かなり、キツい…!う、ぐぅっ…!」

真姫☆(この感覚…どこかで…)

真姫☆「…はぁっ、はぁっ…。や、やっと収まった…」

真姫☆「もしかして、何か病気…?そんな…こんな時期に」

真姫☆「でも、吐き気はあっても弱音を吐いてる場合じゃない…!笑顔のトップアイドルまで、あと少し、なんだから…!」

真姫☆「練習に、行きましょう」



アイドル応援部 部室


ガチャッ

真姫☆「…あれ」


希「ん、真姫ちゃん。遅かったね」

真姫☆「…みんなは?」

希「先音楽室向かったよ。真姫ちゃんなら後からでも大丈夫だろう、って」

真姫☆「はぁ…、薄情ね。待っててくれてもいいじゃない」

真姫☆「で…、あっちの私はもう帰った?」

希「いやぁ…、うちに聞かれても。多分帰ったん違うかな?」

真姫☆「…そう。ま、ここまで来てから聞いても仕方のないことよね」

真姫☆「じゃあ、着替えてから練習に…」

真姫☆「…うっ」クラッ

希「…真姫ちゃん?」

真姫☆「な、なんでもない…なんでも」

希「調子、悪いん?」

真姫☆「…少しね。平気よ、これくらい」

希「…自分だけでの判断は危険やよ。体調の変化を見過ごしてると取り返しのつかないことになるかもしれんし」

真姫☆「…はぁ、そうね。そのとおりだわ」

希「今日はうちも、練習行くわ。見学だけやけどね」

真姫☆「…お願い」

音楽室


ガチャッ

真姫☆「…遅れたわ、ごめんなさい」


花陽「あ、真姫ちゃ…あれ、部長…?」

ことり「希ちゃん先輩まで…。練習?」

希「いや、ちょっとね。真姫ちゃんの調子が悪いかも知れないから、練習中に何かあってもすぐに対応できるようにって」

海未「体調不良ですか…?気分が優れないのでしたら無理に練習するべきでは…」

真姫☆「大丈夫。考えすぎよ。ほんのちょっぴり吐き気があるだけで、身体には異常はないはずだから」

真姫☆「マジでダメそうなら素直に引き下がるわ。…そんなことはないでしょうけど」

ことり「なんか素直そうじゃない応対だなぁ…。ホント、無理しないでよ?」

真姫☆「わかってるって」

花陽「心配だよ…」

海未「真姫が平気だというのならば仕方ありません。では準備運動から…」



数十分後…


希「…」


海未「ではもう一度、ダンスのおさらいに行きましょう。部長、手拍子お願いします」

希「ん。了解」


希「ほな、行くよー?いっせーのーで…」

希「ワンツースリーフォー…」パンパン…


花陽「よっ…ほ、はっ…」

ことり「花陽ちゃん、立ち位置もう少し左…!」

花陽「はいっ…!」

海未「と、ふっ…やっ!」

真姫☆「うん、いい感じ…!もうほとんど完璧…とっ…!あとは最後の決めポーズさえ…」


グワンッ…!!


真姫☆「…っ!!」

真姫☆(ま、マズっ…!最大級の…!)

真姫☆(身体が…頭が…揺れっ…)


バタンッ!!


海未「っ!!」

ことり「真姫ちゃんっ!!」

花陽「だだだ、大丈夫!?真姫ちゃんっ!!」

真姫☆「…大丈夫、こけた、だけ…だから」

希「…」

真姫☆「の、希…」

希「…今日は、おやすみ、やね」

真姫☆「…わかったわよ」

真姫☆(そのあとの今日の練習を、私は全て見学した)

真姫☆(こんなこと、スクールアイドル始まって以来の不覚だけど…)


希「真姫ちゃんは何でもかんでも自分ひとりで頑張りすぎ」

真姫☆「…そんなことないわよ。みんなだって…」

希「人一倍、背負い込んでるってことよ。それが祟って疲労でそうなったん違うん?」

真姫☆「…そうかもしれないけど」

希「…経験者やからって、調子乗ってるんと違う?」ボソッ

真姫☆「ぅ…」

希「なんてね。今はとにかく身体を休めて、明日からまた頑張ろね」

真姫☆「…はい」


真姫☆(希がいてくれたおかげで歯止めが効いた)

真姫☆(もし支えてくれる人が誰もいなかったら、私はもしかしたら、無茶していたかもしれないから)

真姫☆(一昨日の夜に希が言っていた、『このグループには後ろで見守ってくれる人が必要』っていうのは…)

真姫☆(…あながち、まちがってないのかも)





希の家


ガチャッ

希「ただいまー」

真姫☆「ただいま。久しぶりね、我が家。一日帰ってないだけだけど」

希「おかえりー。我が家ちゃうけどなー」

真姫☆「いいの。もうここはこの世界での我が家って決めたわ」

希「ふふ、そこまで思ってくれてたら逆に嬉しいかも。じゃ、我が家で二人、今日もゆったりしよな~」

真姫☆「そうね…。あぁ…、希の手料理が恋しいわ。はよ。はよはよ」

希「わーかってるって。今日は元気の出るもの、作ってあげないとね」

真姫☆「よろしくお願いするわ」

真姫☆(…今日の晩ご飯は牛や豚の臓物を甘辛く煮たり焼いたりしてかつニンニクやネギやその他諸々たっぷりのよくわからない丼だった)

真姫☆(よくわからないけど味だけは抜群に美味しかったわ。…明日の口臭が気になるけれど)


真姫☆「げぷっ…。ふぅ、相変わらずのお肉メニューね…」

希「安売りしてたからねー。たっぷり買い込んだから明日も何らかのホルモンかなー」

真姫☆「…なんで賞味期限の短いものをたっぷり買い込むのよ…」

希「まぁまぁ…。あ、そういえば」

希「昨日、真姫ちゃんはどんな感じのこと、ご両親と話したん?あ、お母さんだけやったっけ」

真姫☆「何を話したか…?えっと…限りなく無難な会話ね」

真姫☆「日頃の会話が少なすぎたせいか逆にそこまで踏み込んだ会話はなかったわ。パパがいなかったのもあるけどね」

希「ふぅん、そっか。じゃあ今日の西木野さんが却って大変かも?」

真姫☆「…かもね。それで言ったら、そっちはどうなのよ?」

希「そっち?」

真姫☆「昨日。あっちの私とどんな会話したの?」

希「あー…そっか」

真姫☆「それと、アイツが春から不登校になった理由…、アイドル専攻が関わってるのよね」

希「…知ってるん?」

真姫☆「えぇ。ママとの会話からほんのちょっぴりだけ、だけどね」

真姫☆「そのことも含めて、知っている限りアイツに関しての事情を聞いておきたいわ」

希「なんでよ。真姫ちゃん関係ないやん」

真姫☆「知りたいの。考えてみれば、私はアイドル専攻の内部事情をほとんど知らないし」

真姫☆「絵里や穂乃果たちの行動原理を知れたら、彼女たちと敵対する上で有利に働くかも知れないじゃない」

希「知りたいだけなのをそれっぽく言い繕ってる風に聞こえるなぁ~」

真姫☆「…もうそれでいいから、教えてって」

希「いいけど…うちが西木野さんに関して知ってることはほとんどないよ」

希「会話も、春時点ではゼロに等しかったし」

希「それに、彼女について知っても、えりちや穂乃果ちゃんの対策にはならないと思うけどね」

真姫☆「どうしてそう言い切れるのよ」

希「別に、えりちや穂乃果ちゃんにいじめられてた、とか、そういうんじゃないから」

真姫☆「え、じゃあどういう…?」

希「あんまよく知らないけど…多分、自分の限界、違うかな」

希「アイドル専攻のキツい練習量についていけなくなって、ギブアップ…とかやったと思う」

真姫☆「まぁ、そうでしょうね。春時点での私がいきなりハードな練習なんてしたら…」

真姫☆「…っていうか、まずどうしてアイドルを始めよう、なんて思ったのかが謎なんだけど」

希「それはうちも知らんわ…。なんで、なんやろうね?」

真姫☆「…さぁ、皆目見当も付かないわね」

希「…じゃあ真姫ちゃんは、なんでアイドル始めよう、って思ったの?」

真姫☆「え…?」

希「もしかしたら、西木野さんも真姫ちゃんと同じ理由かもしれないから、参考までにね」

真姫☆「私がアイドルを始めるきっかけ?そうね…」

真姫☆「…危なっかしいやつに誘われたから、かしら」

希「ふんふん」

真姫☆「何も考えてないように見えて、実は考えてて…と思ったら本当に何も考えてない、楽観的な子にね」

真姫☆「私も最初は乗り気じゃなかったんだけど、最終的に言いくるめられて、…後、お友達に勇気をあげた付き添いで、成り行きってのもあったかな」

真姫☆「気づいたらやってて、気づいたら好きになってた、みたいな感じかしら…」

希「へー…」

真姫☆「…って!私のことはどうでもいいのよ!そっちはどうなのって私が聞いてるんだから!」

真姫☆「昨日あっちの私とアイドル専攻のことについて何か話したの?」

希「いや、そのことはデリケートな問題かな、って思って触れなかったわ」

希「なんてったって、西木野さんは一度はアイドルが大嫌い、って言ってた子やから」

真姫☆「あぁ…そういえばそうだったらしいわね。…でも、練習がハードだからって、アイドルまで嫌いになる?」

真姫☆「やっぱり、実はいじめられてたからじゃ…」

希「…うーん、でも春頃にうちの家に泊まったときに、うつむきながら延々と自分を責めている感じ、あったしねぇ…」

真姫☆「責めている…?」

希「なんか『練習についていけない私とか死んじゃえ』みたいなことをブツブツ…。ちょっと怖かったわ」

希「誰かからの嫌がらせならそのことについてもなんか言いそうなものやけど、それは特になかった気がするし…」

真姫☆「…うーん、じゃあやっぱり単純に練習のハードさに嫌気がさしたから、なのかしらね」

希「かもね。…で、昨日話したことは…えっと、あれやね。友達の話」

真姫☆「友達…あぁ、何となく想像がつくわ」

希「久しぶりに登校してきたなら、とにかく友達作ろうね、的なことを言ったんよ」

真姫☆「でしょうね。あなたが言いそうなことだわ」

希「で、そしたら…えー…」

真姫☆「どうしたのよ、そこで言い淀んで」

希「…なんか、ちょっと恥ずかしいんやけど」

希「うちが友達作ったら?って言ったら、西木野さんは…」

希「友達はいらない、…って言って、そのあとに…」

希「あなたさえいればいい…って」

真姫☆「えっ」

希「うちびっくりして、目がこの時期に寒中水泳始めてたわ…」

真姫☆「それは私も驚きね…。あっちの私って、そんなに希のことを?なにかしたの?」

希「いや…うちは一回この家に泊めただけやけど。まさかそこまで信頼されてるなんてね…」

真姫☆「そうね…。どうしてそこまで…」

希「…うちも、かなり謎やったけど」

希「でも、今真姫ちゃんと話して、ちょっとだけ理由がわかったかもしれんよ」

真姫☆「え?」

希「真姫ちゃんは多分…染まりやすい子、なんじゃないかな」

真姫☆「ど、どういう意味よ、それ…」

希「真姫ちゃんがアイドルを始めたきっかけも、誰かに誘われたから、なんでしょ?元々アイドルに興味があったとかではなく」

真姫☆「ま、まぁね。音楽には興味はあったけど」

希「多分、真姫ちゃんは誰かがその方向に引っ張ってくれれば、すぐにそっちに寄っていっちゃうタイプなんやと思うわ」

希「好きでもなかったアイドルを、好きになれる程度には」

真姫☆「…なんか納得いかないけど、まぁ…そうかもね」

希「で、おそらく西木野さんも真姫ちゃんと同じ。アイドルが好きになった理由も似てるん違うかな」

真姫☆「誰かに誘われたから…、ってこと?」

希「多分ね。で、うちを頼ってくれるのも…」

希「春、うちが西木野さんを家に泊めてあげたから。その時の経験に、心が引っ張られているんよ」

真姫☆「…あぁ。なんとなくわかるわ」

真姫☆「引きこもり暮らししてたら、他に頼るもの、無くなっていっちゃうでしょうし」

真姫☆「孤独な日々が重なるごとに、あの時のあの人は優しかった、って心の中で思い出が増幅していっちゃうのかも」

真姫☆「そっか、だからあのプリント…」

希「まぁ、うちの推論やから、正しいとは言い切れないけど…」

希「だから、今の西木野さんはきっと、とても誰かに染まりやすい状態、って言ってもいいと思う」

希「…いや、違うかな。心を許している人に染まりやすい、って感じかな」

真姫☆「そして、その心を許している数少ない人物が…」

希「うち、か…。喜んでいいやら困っていいやら…」

真姫☆「いいんじゃないの?あなたが根気よく友達作れって言ってたらあの子も友達作ろうって気になれるってことだし」

希「…せや、ね。そっか…」

希「…」

真姫☆「多分花陽だったらあっちの私でもすぐ仲良くなれるだろうし、親衛隊のみんなだって…」

希「ねぇ、真姫ちゃん」

真姫☆「はい?な、なによ」

希「…真姫ちゃんってさ、いつか…帰る日がくるんよね」

真姫☆「え、えぇ…。そうね、そう、なるわね…」

希「その時、C☆cuteはどうするつもりなん?」

真姫☆「えっ…」

希「…真姫ちゃんが抜けて、それでおしまい?」

真姫☆「…そうは、させたくないけど」

希「そうやんね。うん、そう…。UTXでこれからもC☆cuteは続けていくべきやと思う」

希「…だったら、真姫ちゃんが抜けたあとのことも、考えておかないと」

真姫☆「の、希…まさか、あなた…」



希「…西木野さんを、C☆cuteに勧誘するべきや」

真姫☆「はぁっ…!?え、あ、ちょっ…はぁ!?」

真姫☆「の、希…それマジで言ってるの?」

希「大マジや。西木野さんを、今からでもC☆cuteに入れてあげよ」

真姫☆「ち、ちょっと待ってよ!アイツは…アイツは、アイドルを一度は大嫌いになってるってのに…」

真姫☆「そんな彼女がまた、アイドルを始める、なんて…」

希「心の傷が深ければ難しいとは思う。でも、西木野さんの傷は今ではほんの小さなものになってるはず」

希「彼女自身が興味を持ってくれさえすれば、精神面でアイドルに抵抗を持つことはないと思うよ」

真姫☆「そうかもしれないけど…っていうか!今から、って…」

真姫☆「今アイツにC☆cuteに入られたら西木野真姫が二人になっちゃうわよ!?」

真姫☆「人類史上どんなアイドルグループにも同一人物が二人いたなんてことはないわよ!どうするつもり!?」

希「…それはほら、適材適所?」

真姫☆「どういう意味よ…」

希「うん、まぁ…だから…」

真姫☆「もしかして…私には引退しろ、って言うんじゃないでしょうね」

希「…」

真姫☆「ちょっとぉ!?希、あなたそこまで薄情な人間だったなんて…!」

希「そ、そういうこと言ってる訳違うって!」

希「真姫ちゃんの意思に関わらず、いつか真姫ちゃんはC☆cuteを脱退することになるはずやん?」

真姫☆「…それは、そうだけど」

希「真姫ちゃんが抜けてから真姫ちゃんに替わる誰かを探してたんじゃ活動のペースが落ちちゃうし」

希「真姫ちゃんがいるうちは、慣れるまで真姫ちゃんと西木野さんでシフト制にするとかで、着々と育てていく…みたいな」

真姫☆「バイトじゃないんだから…」

希「…それに、真姫ちゃん…今日、フラフラしてたやん」

希「あれがもしずっと続いたら、真姫ちゃんは到底アイドルが務まるとも思えないし」

真姫☆「い、一時的なものよ、それに関しては!…でも、確かに、そうね…」

真姫☆「私が作ったとは言え、C☆cuteはこの世界のスクールアイドル…」

真姫☆「いつまでも私が仕切るわけにもいかない、ってわけね…」

希「…どうかな?」

真姫☆「…ふぅ、わかったわ。私はそれに賛成」

真姫☆「明日にでも、この世界の西木野真姫をC☆cuteに入隊させるように図りましょう」

希「うん!…あ、でも一応みんなの意見も聞いておいたほうがいい…、かな?」

希「それに、彼女を急に誘っても多分…拒否されると思うわ」

希「まずはゆっくり、ゆっくりと打ち解けていくところから始めないと」

真姫☆「…そっか。じゃあ明日はみんなに意見を聞くだけに留めておきましょうかね」

希「そうしよっか。よぉし、決定や!」

希「西木野さん、これで学校に前向きになってくれるといいけどなぁ…」

真姫☆「スクールアイドルが好きになれると、いいわね」

希「…うん」

西木野家


真姫「…」


真姫(…脳内で放課後の出来事がいつまでもいつまでも、ループし続ける)

真姫(不安と、驚きと、喜びと、畏れと、迷いと…様々な感情が胸中を彷徨って、廻り捩れる)

真姫(何を考えても、『私はどうすればいいのか』という問いから、一向に思考が前に進みそうにない)

真姫(ただわかるのは、一つ)

真姫(私は、選択しなければならないということ)

真姫(今までの変化のない生活から、いきなり変化をもたらす選択を余儀なくされている)

真姫(どちらを選んでも、私の中の大切なものが何か、抜け落ちてしまいそうで)

真姫(そのことを思えば思うほど、考えがまとまらなくて…)



チュン… チュンチュン…


真姫「…ぅ」

真姫「外が…明るい…?」



真姫(体操座りで、部屋の隅で思考を巡らせて)

真姫(気づいたら、朝になっていた)



UTX学院

1年E組 授業中


真姫(…昔から、悪い癖だった)

真姫(考え始めると、時間が過ぎることすら忘れてしまう)

真姫(これが自分の好きなことでも、ってことなら、暇潰しに使えるのだけど)

真姫(…残念だけど、私の頭を惑わすことでしか、時は早く進んでくれない)

真姫(そして今日に限っては…時間は早く進んで欲しくなかった)

真姫(もっと考える時間、考える時間が欲しくて…)

真姫(でもいくら考えたところで、何も、わからなくって…)

真姫(わからなくて、わからなくて…)



教師「えー…じゃあここを…西木野」

真姫「…わかりません」

教師「また即答…!?」



真姫(今の私には、何もわからなかった)

真姫(脳みそが思考を放棄している)

真姫(澱んだ微温い空気に圧し潰され、窒息している)

真姫(寝不足のように…実際に寝不足なのだけど)

真姫(判断力の欠けた足で、トボトボと無意味に廊下を歩く)

真姫(私は、何をしに廊下へ出たのだったか)

真姫(それすらももう、覚束無い)

真姫(思考を放棄した脳細胞であっても、考えるという行動から開放されることはなく)

真姫(もはや自分でも何を考えているか理解できないのに、考えることをやめることはできなかった)

真姫(かろうじて読み取れる思考の端々からは、数式のようなものを感じた気がする)

真姫(x=y^2+3zがどうのこうの…多分さっきの数学の授業が混ざってしまっているんだ)

真姫(言うことを聞かない脳は、その機能を失ってまだ、暴走を続ける)

真姫(私の精神をすり減らすことだけを目的に、熱烈稼働を終わらせない)

真姫(あぁ、しんどい)

真姫(頭が割れるように痛い…。考えすぎで頭脳がオーバーヒートを起こしているに違いない)

真姫(そうだ。寝よう)

真姫(寝てしまえば、何も考えなくて済む)

真姫(よろめく足で、私は保健室をただ目指した)

真姫(ユラユラと揺らめく風景…。世界が轟いている?いえ、私がふらついている)

真姫(今にもぶっ倒れそうな状態で、ようやく白いシーツのベッドのある部屋にたどり着いた)

真姫(あぁ、これで楽になれる…)

真姫(数分前まで、考える時間が欲しくてたまらなかった私は)

真姫(思考する時間、数時間分を)

真姫(あっさり手放して、私を包んでくれる天使に、身体を投げ出した)



ドサッ

放課後

アイドル応援部 部室



希「…」



(希「…あなたが、西木野さん?」)

(希「どうして、そんなに自分を責めるん?」)

(希「いいんよ、楽にして。西木野さんが悪いんじゃ、ないんやから」)

(希「…うん、うん…。せやね、そう…そうやね…」)

(希「大丈夫…、うちが…うちが守ってあげるから」)



希「…西木野さん」

希「うちが、西木野さんのためにできることは…」


ガチャッ

海未「…おや、部長だけ、ですか?」

ことり「花陽ちゃん、まだなのかな?」


希「ん?あぁ…せやね。あと、真姫ちゃんもまだみたい」

海未「そうですか…。では今日も先に着替えて、音楽室で…」

希「あ、ちょいまち」

海未「はい?」

希「今日はちょっと…、待ってもらえるかな?話したいことがあるんよ」

ことり「話したいこと、ですか?」

希「うん。みんな揃ってから言いたいこと」

ことり「何か大切なことなのかな?」

海未「そのようですね…。わかりました、でしたら着替えだけ済ませてあとの二人を待ちましょうか」

ことり「うん、そうだね」


ガチャッ

花陽「あ、海未さん、ことりちゃん、希部長…。遅れました…?」

ことり「まだ何も始まってないから遅れてないよー」

花陽「みんな揃ってたから…。あ、でも真姫ちゃんがまだだね…」

海未「残りは真姫、ですか…。学外から駆けつけるせいか最近はここに集まるのが遅いですね」

希「…まぁ、真姫ちゃんはいいか。じゃ、ここにいる3人に話しておきたいことがあるんよ」

花陽「話…?」

ことり「なんだかみんなに言いたいことがあるんだって。真姫ちゃんは知ってる、のかな?」

希「うん。結構大事なことだから、よく聞いてね。実は昨日、うちと真姫ちゃんで考えたことなんやけど…」



真姫(白いシーツに包まっている)

真姫(誰かに抱かれている)

真姫(私は小さな存在で、声を上げて泣いている)

真姫(そんな私を、包容してくれている人がいる)

真姫(だれが、私を…?)

真姫(こんな、私に、誰が…慈愛を向けてくれているのだろうか…)

真姫(そっと目を開ける)


真姫「あっ…」


真姫(東條希が、そこにはいた)

真姫(しかも、ただいるわけじゃなくて…)

真姫(大きな胸をはだけさせて、それを私に押し付けるように)

真姫(そこで初めて気がついた)

真姫(私は…私は赤子なんだと)

真姫(考える力も、判断する力も、何も持たない無力な赤子であると)

真姫(そしてそれ故に、力あるものに頼り、全てを授けられうる対象であると)

真姫(そう。私は赤ん坊なのよ)

真姫(あらゆるわがままが赦される、唯一無二の存在)

真姫(だから私は、心の限り望んだ)

真姫(彼女が、欲しい)

真姫(今、私の目の前で豊満な胸をさらけ出している彼女…希が)

真姫(彼女の全てを、我がものとしたい…!)

真姫(私は希の胸を乱暴に掴み、その乳首をおもむろに咥えた)

真姫(希が小さく喘ぐ。だけど私は気にしない)

真姫(彼女の中の何もかもを吸い尽くすように、ちゅぱちゅぱと音を立てて、仄赤くとんがった乳首をしゃぶる)

真姫(口の中に溢れる芳醇な甘さのミルク。これほどの美味を私は知らない…)

真姫(甘くて、美味しくて…唇や舌を巧みに動かし、搾乳器のように搾り取ろうとする)

真姫(その度希が快楽に震える声を発して…)

真姫(その声で私の支配欲は堪らなく満たされる…!)

真姫(もっと聞かせて、そしてもっと味わわせて。あなたの味を、あなたの…)



キーンコーンカーンコーン…



真姫「…はぁっ!?」

真姫「…あ、あれ…」


真姫(聞き慣れた鐘の音で、目が覚める)

真姫(気づけばそこは、何ら変哲のないただの保健室で)

真姫(ひどく唾液に塗れたシーツだけが、普段とは違う点だった)

真姫(すぐに状況を理解した私は、トマトのように顔を真っ赤に染めた)


真姫「…わ、わたっ…、私、ったら…!」

真姫「なんっ、て、夢をぉぉぉぉっ…!!!!!」


真姫(誰もいない静かな保健室に、毛布に顔を沈めてバタバタと手足を悶える音だけが、しばらく響いた)

真姫「はぁっ…、はぁっ…!!」

真姫「なんてバカな夢…、見てるのよ、私はぁ…!!」


真姫(恥ずかしさに打ち震えながらも、口は夢の感覚を覚えている)

真姫(無意識に何かを吸うように唇が動いて…)


真姫「…っ!ば、ばかっ…!」

真姫「どうしたのよ、私は…、なんで…」

真姫「あっ…!じ、時間っ…!そうよ、今日は…!」


真姫(『彼女』から与えられた期限は、今日までだった)



(『…明日、一日、ゆっくりと考えなさい』)

(『その気になったら、また明日も、この時間に、この場所に』)

(『それが、あなたを愛してあげる条件』)



真姫(愛してあげる…)

真姫(…『彼女』は、このUTXにおける、もうひとりの信頼できる人)

真姫(私に、喜びと、楽しさを教えてくれた人)

真姫(そんな人に、そんなことを言われた日には跳ねるほどに心躍るというものだけど…)

真姫(でも、ただそれだけじゃなくて、そのためには条件があって…)

真姫(そうなると…)


真姫「…えっ!!?ウソ…!」

真姫「もう、放課後…!?」

真姫(記憶が正しければ、私がこの保健室で身をゆだねたのは、2時間目の終わりの休み時間だったはず)

真姫(それが見事に熟睡して、そして…約束の時間まで、あと十数分しかない)

真姫「なん、てこと…!」

真姫(もう自分で考えている余裕はない。せめて、最後に誰かに判断を仰ぎたいところだけど…)

真姫「だ、誰に…あっ!」



(希「いつでもうちを頼ってくれていいから。お昼休みと放課後はアイドル応援部にいるし」)



真姫「希、先輩っ…!」

真姫(もはや、彼女しかいない)

真姫(この残されたわずかな時間、彼女に相談を持ちかけるほかなかった)

真姫(すぐ立ち上がり、私は彼女のいる部室に向かうため、駆け出した)

アイドル応援部 部室


希「…という、ことなんやけど」


海未「…あの真姫を、C☆cuteへ、ですか…」

ことり「なるほどなぁ~…」

花陽「でもそうなると、真姫ちゃんは…?」

希「真姫ちゃんはその…ほら、正確にはここの生徒じゃないんやから」

希「いつか、C☆cuteを離れることになるやん」

希「真姫ちゃんもそれを了承して、後継として西木野さんをC☆cuteに入れるべきや、ってことでね」

ことり「そっか…、そうだよね。真姫ちゃん、年齢的には大学生だったんだもんね」

海未「明らかに同年代のように見えますが…、本人が言うのだからそうなのでしょうね」

花陽「あの真姫ちゃんが、いつかいなくなっちゃうん、だよね…」

花陽「…」

希「…うん。せやね。でも、その代わりとして、とは思って欲しくない」

希「同じ見た目の真姫ちゃんでも、新しいメンバーとして…そして、新しい友達、仲間として関わって欲しいんよ」

希「C☆cuteの主戦力である真姫ちゃんが半分抜けて、ほぼ初心者の西木野さんが入ってくるんは、この大切な時期的にもかなりキツいかもしれない」

希「けど将来性も加味して、そして復学した西木野さんのことも考えて…うちは西木野さんをC☆cuteの新メンバーとして推したい」

希「まだ彼女自身の意思は確かめてないけど…みんなの意見を先に聞かせて欲しくて。どう、かな…?」


一同「…」


希「…」

ことり「…えっと、喋っていい空気?」

希「え?う、うん…」

ことり「じゃあ、私は賛成!」

希「ほ、ホント!?」

ことり「うん。希ちゃん先輩がそんなに推してるんだから、断れないよ~」

希「い、いや、うちのことはいいんやけど、ことりちゃん自身が…」

ことり「私も、新しいお友達が増えるのは大歓迎かな!いずれ真姫ちゃんが抜けちゃうなら、人数合わせにもちょうどいいし!」

海未「人数合わせって…。し、しかし、私も、いいと思います」

海未「この時期に新メンバーともなると確かに大変ですが…しかし、それを乗り越えてこそのC☆cuteではないでしょうか」

海未「誰もがいつでも、トップアイドルを目指すことができる。それが真姫と…そして、花陽の目指した夢のスクールアイドル、なのでしょう?」

花陽「…うん。選ばれた人しかなれない、それ以外の人は泣くしかできない…そんな現実を壊してくれるような」

花陽「応援してくれる人、うぅん、世界中だれもが笑顔になれるスクールアイドル。それが私の夢だから!」

花陽「どんな初心者でも一から手を取り合って、ともに成長していければ…それこそ、私の理想なんだもん!当然、オッケーです!」

希「み、みんな…!」

海未「ふふ、蓋を開けてみれば、簡単なことですね」

ことり「気持ちは全員一緒なんだよね~。聞くまでもなかったかも?」

花陽「ちょっと時間、勿体無かった?」

希「かも、しれんね…!ふ、ふふふっ…」

希「あははははははははは!」

一同「あはははははは…」


希「よかった…!これで、うちは…!」

希「最後の最後で、誰かを救うことが、できるのかもしれない…!」

タッタッタッ…


真姫「はぁっ…はぁっ…」


真姫(もう時間もわずかしか残されていない)

真姫(自然と気も急いてしまい、呼吸も整わず)

真姫(大した距離ではないのに、かなり疲弊してしまった)


真姫「はぁっ…、はぁっ…」

真姫「希先輩に、相談を…!」


真姫(最初からそうしていれば、こんなに悩まずに済んだのに)

真姫(複雑に絡まった思考では、そんな単純なことすらも思いつかなかった)

真姫(けれど、もうそういった煩雑な思考に囚われることはなくなるはず)

真姫(希先輩なら…彼女ならきっと助けてくれる…!)


真姫「希、せんぱいっ…!」


真姫(精一杯の嘆願を込めつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開こうとした)

真姫(そのときだった)



「あはははははははは…」



真姫(ドアの内側から、笑い声)

真姫(希先輩と、そして…数人の声が、一緒に聞こえる)

真姫(それだけで私の手は、惑ってしまった)


真姫「希先輩だけじゃ、ない…」

真姫「…誰か、いる…」


真姫(今度はそっと、ほんの少しドアを開いて、中を覗き見る)

真姫(そこにいたのは、希先輩を含んだ4人)

真姫(『私』は、いなかった)

真姫(何か楽しいことでもあったのか、希先輩と他の部員の人たちは、嬉しそうに笑っている)

真姫(なぜ笑っているのかは、私にはわからない)

真姫(希先輩の気持ちが、私には、わからない)



真姫「ほんとうに…嬉しそう…」



真姫(私に、彼女をあんな笑顔にすることは、できるだろうか)

真姫(考えるまでもなく、わたしにはできない)

真姫(頼るだけで、与えることのできないわたしには)

真姫(彼女の、あんな笑顔を見ることなんか――)



真姫「…っ!ぶ…!!」

真姫(また、涙が出てきた)

真姫(けど、今度は解る。なぜ私が泣いているのか)

真姫(悲しいから。悲しくて、辛いから)

真姫(彼女の全てを望む私が、決して彼女の全てを手に入れられないという事実に)

真姫(あの楽しそうな輪の中に…)

真姫(…私の入り込む余地なんて、ない)


真姫「…」


カチャッ…


真姫(静かに、扉を閉める)

真姫(眩い笑顔に照らされたせいで、涙も枯れたみたい)

真姫(今はもう、なんだって…いい)

真姫(…希先輩を手に入れられないなら)

真姫(ならいっそ…全て…)



真姫☆「…あれ、あなた…」


真姫「あっ…」

真姫☆「どうしたの?応援部に用?」

真姫「え、いや…」

真姫☆「あっ、もしかして希から例の話…」

真姫「ご、ごめんなさいっ…!!」ダダッ

真姫☆「えっ…、あ、行っちゃった…」ガチャッ


希「…ん?あ、真姫ちゃん。遅かったね」


真姫☆「さっき、そこであっちの…もとい、妹に会ったんだけど」

花陽「え?真姫ちゃん…いたの?」

真姫☆「えぇ、ドアの前に。すぐ走って逃げちゃったけど」

ことり「いたのなら入れば良かったのにー。今ちょうど話してたところだったんだけどなぁ」

真姫☆「話…?あ、もしかして例の…」

海未「えぇ、みんな、乗り気ですよ。あとは、彼女の意思次第ですね」

真姫☆「そう…。うん、よかった。そろそろ私の役目も終わりそうね」

花陽「えぇっ…!ま、真姫ちゃんはまだ居てくれていいんだよ…?」

真姫☆「ふふ、わかってる。まだアイツの勧誘もしてないしね」

真姫☆「とにかく今は、次のライブ!遅れたちゃったし、私が言う権利ないかもだけど…」

真姫☆「とっとと練習に行くわよ!」

真姫(…返事は決まった)

真姫(私は希先輩の全てを手に入れることはできない)

真姫(ならもう、それでいい…)

真姫(わたしには、もう一人大切な人がいるから…)

真姫(彼女なら、私を愛してくれる…)

真姫(そのための条件ならば、全て飲もう)

真姫(私は、昨日と同じ場所に、同じ時間に着くように向かった)


真姫「…」スタスタスタ…

真姫「…」ピタリ


真姫(…着いた)

真姫(思えば、懐かしい)

真姫(彼女と初めて出会ったのも、この場所だった)

真姫(私がピアノを引いていて、許可がなければ使ってはいけないと注意を受けて…)

真姫(そしてそのあと、私は…)

真姫(アイドルを、教わった)



「…来たのね」

真姫「えぇ…」

「返事を、聞かせてもらえる?」



真姫(この音楽室で、二人きり)

真姫(今日は、昨日の二年生もいない)

真姫(私を呼び出すために彼女が遣わしただけなのだから、当たり前だけど)

真姫(この部屋に微かに漂う青春の香りを払うかのように)

真姫(私は、選択する)

真姫(その選択は胸のトゲを、大きく成長させる肥料となって)

真姫(過去の遺物を掘り起こす、引き金と化した)


真姫「…私は、あなたの…」



真姫(…もう、引き返せない)

真姫(あとはただひたすら)

真姫(壊す、だけ)

十数分後

音楽室


真姫☆「さてと…、準備運動も済んだことだし今日は何から始めましょうか」

ことり「やっぱり、昨日の復習かな?」

花陽「真姫ちゃん、昨日は来てすぐに倒れちゃったからね…」

真姫☆「わ、悪かったわね。今日は大丈夫よ、多分」

海未「…そういえば、昨日は真姫、到着が遅れたのでしたね」

真姫☆「え、えぇ…。そうだけど。何、今日になって責められるの?」

海未「あ、いえ…、そうではなく。なら昨日、彼女とは出会っていないのだな、と思って」

真姫☆「彼女…?」

ことり「あっ、そういえば…」

花陽「突然だったから身構えちゃったよね…。意外と優しかったけど…」

真姫☆「え、な、何の話…?いったい誰と出会ったっていうのよ」

海未「…絢瀬絵里先輩です」

真姫☆「え、絵里!?」

ことり「うん、音楽室に向かう途中でバッタリ…。向こうも音楽室に寄ってた、のかな…?」

海未「向かう経路さえ変えていれば出会うこともなかったのに…、と一瞬悔やみましたが…」

花陽「にこやかに挨拶してくれて拍子抜けしちゃったよね。もしかしたら優しい人なのかな?」

真姫☆「そんなバカな…。絵里がクズなのは私が身をもって知ってるけど…」

真姫☆「…でも、なんで音楽室に…?」


ガチャッ

女生徒「た、大変っ!!」



ことり「きゃっ!?な、何…?」

花陽「あ、あなた、私のクラスの…」

真姫☆「どうしたのよ、急に…」

女生徒「そ、それが…!西木野さんが…って西木野さんっ!?どうしてここに…」

海未「え…真姫がここにいることが何か…」

真姫☆「…っ!ま、まさかっ…!ねぇ、何があったの!?」

女生徒「いや、でも…西木野さんがここにいるなら…違う、のかな…?」

花陽「あっ…!もしかして…!!」

真姫☆「なんでもいいから言いなさい!!言おうとしたこと、そのまま全て!!」

女生徒「う、うん…。わかった…」

女生徒「あの、アイドル専攻の手伝いしてる友達から、さっき聞いた話なんだ、けど…」




海未「なぁっ…!?」

ことり「嘘…!」

花陽「そんな…っ!」

女生徒「いや、でも…西木野さんがここにいるなら…これってデマなんじゃ…」

真姫☆「…」

真姫☆「…ぎぃっ!!」

真姫☆「最、悪ッ…!!」

多目的ホール


絵里「みんな、一旦手を止めて、集まってくれる?」


絵里「今日はみんなに大事な話があるの」



にこ「…大事?」

凛「何かな何かな?なんだと思う?」

にこ「私に聞かないでよ…」

穂乃果「何を…」



絵里「私はこの1年間、あなたたちを育てるために尽力してきました」


絵里「けれど、時間というものは残酷なもの。いずれ、別れの時は来るのよね」


絵里「私もそろそろ、卒業というタイムリミットが迫ってきている。悲しいことだわ」


絵里「けれどこのまま、何も残さずにあなたたちとお別れするのは…忍びないわよね」


絵里「だから私は…私の後継者を残すことにしました」



穂乃果「後継者…?」



絵里「…彼女なら、このアイドル専攻を…そして、次世代のA-RISEを導いてくれる存在となるでしょう」


絵里「なにせ、彼女自身もアイドルなのだから」



にこ「え、どゆこと?」

凛「さー」



絵里「じゃあ、紹介するわね。入ってきて」


スタスタスタ…



にこ「えっ…!?」

凛「にゃ?」

穂乃果「っ…!あなた…!」



絵里「…必要ないかもしれないけど一応。自己紹介、お願い」



「今日から、あなたたちの指導補佐を任されました」


真姫「…西木野、真姫です」






もしライブ! 第7話

おわり

7話でした この世界の真姫ちゃんはちょっとクセっ毛で赤い眼鏡をしてるって設定です
真姫ちゃんが二人でややこしいけど付いてきてね それではまた次回 ほなな

2スレに分けた理由ですが全部合わせても1000レスは行かない見立てだったのですが番外編とかも書きたかったのと
外野レスの如何でギリギリ1000超える可能性も考慮して余裕持って2スレに分けました 杞憂だったみたいだけれどもう前編って書いちゃったし後編も建てないとね
それじゃあ8話やっていきますよ 今回はあらすじなし

衝撃の知らせがC☆cuteに舞い込んだ前日…


放課後 


スタスタスタ…

二年の先輩「…」

真姫「…」


真姫(…結構歩いてきたけど…どこまで連れて行くつもりなのかしら。この人…)

真姫(話があるのならすぐ近くでいいと思うんだけど…)

真姫(そんなことを考えていたら、二年の先輩はとある教室の前で立ち止まった)


二年の先輩「…ここよ」

真姫「ここって…」

真姫「音楽室…?」

二年の先輩「ここで待っている人がいるわ。入って」

真姫「え、あ…はい…」


真姫(この人の用事ってわけじゃなくて、呼び出すために遣われた人だったのね)

真姫(…なんでわざわざ第三者に呼び出しに行かせたのかしら)

真姫(そもそも私に用事って言われても、私は『私』じゃないのだから…何を言われてもわからない)

真姫(さすがに私自身に用事のある人間が、この学校にいるとも思えないし…)

真姫(…適当にあしらって帰ろう、もしくは『私』に責任を押し付ければいいことだ)

真姫(そう考えつつ、ドアを開ける)


ガチャッ


真姫「…あの、用事って…」

真姫「っ…!!」

真姫「あ、あなたは…!」


真姫(…窓から差し込む低い太陽の光を背に立つ女性の姿)

真姫(その姿を、私は見たことがある)

真姫(前も、ここで出会ったことがある)

真姫(あの時は、全くの反対側だったけれど)



絵里「…こんにちは、真姫」

真姫「えっ…、ぁ…」



真姫(夕焼けに染まる音楽室、一人ぼっちでピアノを弾いていて)

真姫(音楽室は許可がないと使えないと教えてくれた人)

真姫(そして…その後、私に…アイドルを教えてくれた人)

真姫(この学校で、もうひとり…信頼できると思える人)

真姫(名前は確か…絢瀬絵里、先輩だった)

絵里「ふふ…」

真姫「…ぁ、その…」


真姫(数少ない、私が覚えている人物の一人だったけど…)

真姫(…でも、彼女が私に用事があるとは限らない)

真姫(だって、春に数度顔を合わせて話し合った私よりも、秋から来た、明らかに目立つ『私』への用事である確率の方がはるかに高い)

真姫(だから私は、彼女にどう返事を返すべきか迷っていた)

真姫(『お久しぶりです』…?いえ、それよりも『お疲れ様です』かも…)

真姫(というよりも『私』と絢瀬先輩の関係性を私は全く知らないのだから、正しい返事が返せるわけ…)


絵里「真姫」

真姫「えっ…ふぁぁぁっ!!?」


真姫(考え事をしていて全く気づけなかった)

真姫(いつの間にか目と鼻の先に絢瀬先輩の顔が近づいていたということに)

真姫(私の頬に手を当て、艶やかな眼差しでこちらを舐めるように見てくる)

真姫(どうしていいか分からずに、蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまう)


真姫「ぇ、あ、あの…!?その…!?」

絵里「…」スッ…

真姫「ふひゅぅっ!!」


真姫(唇に指を当てられる)

真姫(カサカサの私の唇を弾くように、ちょんっ、と)

真姫(ほんのり指の脂の味を感じた気がして、ますます縮こまる私)


真姫「あ、あのぉっ…!?」

絵里「…やっぱり」

真姫「は、はい…?」

絵里「やっぱりあなたは…」

真姫「ぇ…?」


真姫(得心がいった、とのように顎に手を当てて思慮を巡らせる絢瀬先輩)

真姫(対する私は、全く何も分かっていないのだけど…)


絵里「…いえ、ごめんなさい。いきなり変なことをして…」

真姫「ぁ…いえ、その…」

絵里「じゃあ、改めて…こんにちは、真姫」

絵里「…春に出会ってぶり、ね」

真姫「っ…!も、もしかして…!」

絵里「あなたと初めてであったのも、ここだったわよね。真姫」

真姫「お、覚えていてくれたん、ですか…!?」

絵里「えぇ、もちろんよ。あなたのような人を忘れるものですか」

真姫「…!」

絵里「あなたは私の出会った子の中で、最も才能に溢れていたわ」

絵里「だからこそあなたに、アイドルという道を示したんだもの」

真姫「ぁっ…!」

絵里「秋から来ている彼女とは…別人、なのよね?どういう理由かは知らないけど」

真姫「え、あっ…!そ、その…!」

絵里「うぅん、いいの。そのことに関してとやかく言うつもりはないから」

絵里「今日はただ、あなたと話がしたくて、ここに呼び出したんだもの」

絵里「それともやはり…私のことを恨んでいるかしら?」

真姫「えっ…!!?」


真姫(恨むなんて、とんでもなかった)

真姫(彼女は、没頭できるものが何もなかった私に、アイドルを一から教えてくれた人だったから)

真姫(私がアイドル専攻の授業についていけなかった時も、何度も励ましてくれて…)

真姫(でも結局、諦めてしまって…心から申し訳ないと思っていた)

真姫(アイドルの事は嫌いになってしまったけれど…彼女のことを嫌いになる理由なんてない)

真姫(彼女は私の、もうひとりの恩人なんだから)


真姫「い、いえ…そんなこと!むしろ、私の方こそ謝りたくてっ…!」

真姫「せっかく、私を誘ってくれたのに…私の体力不足で諦めてしまって…」

絵里「あら、殊勝ね。春はもっとぶっきらぼうな子だったのに」

真姫「そ、その時は…ちょっと、鬱陶しいかも、って思ってたけど…」

真姫「でも話していくにつれてアイドルってものがどういうものかってよくわかって…」

真姫「少なくともっ…!あなたとアイドルの話をしているときはとても楽しかった!」

真姫「そのことは、とても感謝しているの…!」

絵里「…そう」

絵里「じゃあ…今は?」

真姫「え…」

絵里「私のことじゃなくて、アイドルのこと」

絵里「…今は、嫌い?」

真姫「え、えと…今は…嫌い、ってほどじゃ、ない…」

真姫「そんな、好きってわけでも、ないけど…」

絵里「…」

真姫「ぇ、あっ…!ごめんなさい!アイドル専攻を指導しているあなたにこんなこというなんて…」

絵里「うぅん。それでいいの」

真姫「…え?」

絵里「…今は、どっちつかずの状態、ってことよね」

絵里「過去に、嫌いになったという事実がある…」

絵里「今はなりを潜めて、胸の奥深くで眠っている…」

絵里「そして、才能に溢れている…」

絵里「…そんなあなただからこそ、いいのよ」

真姫「どういう…こと?」

現在

アイドル応援部部室


バダンッ!!


真姫☆「希っ!!」



希「…真姫ちゃん」


真姫☆「あ、アイツが…!あっちのわた…いや、妹が…!」

希「…知ってる。さっき一年生の子が来て教えてくれた」

希「真姫ちゃんたちにも早急に知らせたほうがいい、って思ってうちが音楽室に知らせに行かせたんよ」

花陽「あっ…そういうことだったんだ」

ことり「そ、それで…本当なの!?えっと…真姫ちゃんが…アイドル専攻の指導補佐、って…」

海未「なにかの冗談ではないのですか!?」

希「うちもそう思ってさっきまで調べてて…」

希「…どうやら、本当のことみたいよ」

花陽「そんなっ…!」

海未「い、一体どうして…!?彼女がアイドル専攻の指導をする理由、なんて…」

ことり「そもそも、真姫ちゃんにアイドル専攻の指導ができるツテなんて…」

真姫☆「…あっ!まさかっ…」

希「どうしたん?真姫ちゃん」

真姫☆「そういえば昨日…音楽室に向かう途中に絵里と会ったって話してたわよね?」

ことり「ん?あぁ、そういえば…」

真姫☆「…もしかしたら彼女は、そこで妹と話をしていたのかも」

花陽「えっ!?」

真姫☆「そこで何らかの理由で妹を勧誘して…アイドル専攻の指導補佐、つまり、絵里の跡取りへと指名した」

真姫☆「でなければ、いつもはホールで専攻の指導をしている時間にアイツが音楽室にわざわざ出向く理由なんて他に考えられないわ」

希「確かに…一理あるね」

海未「ですが、どうして真姫を…?つまり彼女は、真姫を普段の違う真姫だと認識していたのですよね…?」

海未「そうでなければライバルである真姫を勧誘するなんてありえませんし…」

真姫☆「…そういうことになるわね」

花陽「なんでわざわざ真姫ちゃんを選んだんだろうね…?別人なら尚更、あっちの真姫ちゃんにはアイドル経験なんてないはずなのに…」

希「春にほんの少し、経験はしてたんやけどね」

ことり「え!?そうなの!?」

希「うん。すぐやめっちゃった子のうちの一人やよ」

ことり「…そう、なんだ」

真姫☆「絵里が妹を選んだ理由は私にもわからない。けど彼女のことだから…きっと理由があるには間違いないと思うけど」

花陽「なんの理由があるにせよ、これで真姫ちゃんをC☆cuteに勧誘するのは難しくなっちゃったね…」

海未「そうですね…。しかし、めげていても仕方がありません」

海未「いずれ彼女を説得してアイドル専攻の指導をやめさせることも念頭に置きつつ、今は来週の私たちのライブのために練習をするべきです」

ことり「そ、そうだね…!ぼーっとしてたらそれこそA-RISEに置いてかれちゃうもんね…!よし、今からまた…」


真姫「…それは、できないわ」

ことり「…え?」

花陽「できない、って…?」

海未「練習ができない、ということですか…?」

真姫☆「ごめんなさい。言葉不足だったわね」

真姫☆「練習自体ができないってことじゃなくて…私はその練習に参加できない、って言いたいの」

ことり「どうして…?」

真姫☆「私が…西木野真姫がアイドル専攻の指導補佐になったってことはきっと明日にでも知れ渡る」

真姫☆「そんな状態で、音楽室でも西木野真姫がアイドルの練習をしていたらどうなるかしら?」

花陽「あっ…!」

真姫☆「…全校生徒に、西木野真姫は二人いると認識される」

真姫☆「当然学校側にもその情報は伝わるでしょうね。不測の事態にきっと両親に呼び出しがかかるでしょう」

真姫☆「…そこで、私が妹の代わりに代返していた、なんて事実が浮き彫りになれば…」

希「退学は免れない…ね」

海未「そんな…っ」


真姫☆(実際は、親なんか呼ばれたら退学よりも大変なことになりそうだけどね…)

真姫☆(いるはずのない姉が、存在しているのだから)


真姫☆「だから、今は私は練習には出られない…。うぅん、おそらく、このままだと二度とC☆cuteに戻れない」

真姫☆「アイドル専攻にいるってことは、私はC☆cuteを脱退したと巷に認知されるでしょうし」

真姫☆「だから来週のライブも…参加できないかもしれないわね」

ことり「そ、それって…もう、終わり、ってこと…!?」

花陽「だ、ダメだよっ!今真姫ちゃんに抜けられたら…!」

花陽「A-RISEに対抗するなんて…できないよ…!」

真姫☆「…そう、ね。私もまだ脱退なんてしたくない」

真姫☆「ならば、今現在何よりも優先すべきことは…」

希「…西木野さんをアイドル専攻から引き抜くこと」

真姫☆「そういうことね」

海未「し、しかしっ…!かと言ってそれに全力を注いでしまっては…」

ことり「来週のライブ、万全の状態で臨めるとは言えないよね…」

花陽「ライブが行えるかどうかも怪しくなってくるよね…どうしよう…」

真姫☆「あなたたちは今までどおりライブの練習に集中してくれればいいわ」

真姫☆「…妹を引き戻す係は」

真姫☆「希」


希「っ…!」


真姫☆「…あなたしかいない」

希「せや、ね…。うちが一番暇を持て余してるんやし、順当かな」

花陽「ひとりで…!大丈夫なんですか…?」

希「…まぁ、むしろあの子はうち一人で説得したほうがいいと思う。他の子に心を許してないみたいやし」

希「だから、西木野さんの件はうちに全て任せて。みんなはいつもどおり、練習しておいて」

海未「…わかり、ました。花陽、ことり、行きましょう」

花陽「う、うん…」

ことり「わかった…」

真姫☆「…」

ガチャッ… バタンッ



希「…ふぅ」

希「真姫ちゃんはどうするん?」

真姫☆「…ん、私?そうね…どうしようかな…」

真姫☆「今は学校にいられないしね…。顔を見られただけで生存の危機よ」

真姫☆「花陽のクラスメイト一人に知られるだけなら口止めでなんとかなるけど、複数人に知られるとなるどどうしようもないし」

真姫☆「今はとにかく、こっそり学校を抜け出して…そこで出来うる限りのことをするしかないわね」

希「…そっか。そうやね」

希「えりち…どうしてこんなことを」

真姫☆「さぁね。アイツの考えることなんて私には1ミリたりとも理解できそうにないわ」

真姫☆「あなたの方が、彼女を知ってるんでしょう?何か思い当たる理由、ないの?」

希「…確かに、えりちは西木野さんの才能を強く買ってた」

希「寵愛していた…って言ってもいいくらい。その頃はほとんどえりちに関わらなかったうちでも、西木野さんへの入れ込みは噂で聞くくらいだったし」

真姫☆「へぇ…珍しいのね…」

希「でも…西木野さんに限界が来てからのえりちは…冷たかったな」

希「西木野さんが不登校になってからえりちに問い詰めたら、『才能があっても花開かなければ、そこらの雑草と変わらないわ』なんて…」

希「たぶん、数日もしないうちに西木野さんの存在すら忘れてたと思う。真姫ちゃんも、えりちに初めて会った時…初対面みたいな反応されたと思うわ」

真姫☆「あ、あぁ…確かに…」


(絵里「…1年生?見ない顔ね」)


真姫☆「…顔どころか、存在すら全く記憶になかったみたいね。その後、思い出してた素振りはあったけど」

希「うん、まぁだから…今更、西木野さんを後継者として指名する理由がうちにはわからない…」

希「もしかして、アイドルじゃなくて指導者としての才能なら花開くのかも、って考えたのかもしれんけど…」

希「彼女のやり方を理解してる2年生以下の子ならたくさんいるのに…わざわざ経験の乏しい西木野さんを選ぶ理由、か…」

真姫☆「絵里のやり方…。真の強さを欲するには他人の才能を踏み台にする…ってことね」

真姫☆「確かにそうよね…。アイツがこんな…高度って言っていいのかわからないけど、普通じゃない指導方法を理解して正しく指導できるなんて…私は思えないわ」

希「そこらへんもしっかり調べる必要がありそうやね…」

希「…うち、直接アイドル専攻に行ってみる」

真姫☆「えっ…!」

希「そんで指導の仕方とか、その他もろもろちょっとだけでも覗いてきて…西木野さんの様子も調べておきたい」

希「機会があれば、直接西木野さんや、えりちに話をつける」

真姫☆「で、でも…部外者が勝手にホールに入って…」

希「…うちを誰やと思ってるん?」

希「アイドル応援部部長やよ。もろ、アイドル専攻に関わりのある人間やん!」

真姫☆「…まぁ、そうかもしれないけども」

希「まぁ、えりち以外から注意を受けることはないと思うわ。別に目立とうってわけでもないし」

希「でも、真姫ちゃんは逆に絶対に目立ったらいかんよ?バレたら一瞬で命取りになるんやし」

真姫☆「…そうね。そろそろ私も外に出ていったほうが良さそう。希、頑張ってね」

希「了解や」

秋葉原


真姫☆「…はぁ」


真姫☆(外に出てきたはいいものの、何をすればいいのかしら)

真姫☆(出来うる限りのこと…といってもこの状況、私にできることなんて何も思いつかない)

真姫☆(せいぜい変装してC☆cuteの宣伝でもして…って、そんなことしても意味ないわよね)


真姫☆「…いつか離れる時が来る…か」

真姫☆「確かに、いつかは私は帰らなきゃいけないけど…」

真姫☆「今こんな時に…帰れるわけ無いわよ」

真姫☆「…まだ、花陽と、ことりと、海未と、希と…私たちに協力してくれる、いろんな人たちのためにも…」

真姫☆「UTXの革命の時まで…私は終われない」

真姫☆「笑顔のスクールアイドルを実現するのが」


バッ

ガシッ!!


真姫☆「っ!!?」


真姫☆(独り言をつぶやいていて、完全に油断していた)

真姫☆(突如路地脇から現れた小さな影)

真姫☆(それが誰かすら認識する前に、私は口を押さえられ、後ろ手を極められた)

真姫☆(悲鳴の欠片もあげる隙なく、私は路地の奥へと連れ去られ…)

真姫☆(…そこで、私の意識は消滅した)





多目的ホール前


希「…」

希「ここに来るのは…何日ぶりかな」

希「もう二度と、直接関わることはない、って思ってたんやけど」

希「…いや、真姫ちゃんに関わってから、こうなることは決まってたんやろうね」

希「いつかうちも、えりちと決着つけないけない時が来るんやろうし…」

希「今日はそのための前調べってことで…いざ、入らせてもら…」


ガチャッ!!


希「えっ…」

希(うちがドアノブを掴む前に、ホールのドアが勢いよく開いて…)


女生徒「うああぁぁぁぁぁぁっ!!!」ダダダッ!!


希(…一人の女の子が、叫びながら走って出て行った)

希(床には数雫…汗と一緒に、涙も落として)


希「…嘘やん」

希(指導初日から…これ?)

多目的ホール


絵里「ワンツースリーフォー…」


女生徒A「ふっ…!だ、っ…はぁっ…」タンタンッ…

女生徒B「やっ…たっ…!よっ…」タンタタンッ…


真姫「…」テクテク…


女生徒C「くっ…とっ…、んんっ…!」タタタンタッ…


真姫「…不細工ね」


女生徒C「えっ…!?」


真姫「誰が動きを止めていいっていったの?続けなさい」

女生徒C「ぁ、うっ…!」タタンッ…

真姫「…あぁ、別にあなたの顔のことを言ったわけじゃないの」

真姫「動きが…不細工だと思って」

真姫「今まで練習してきてその程度だなんて、よっぽど才能に恵まれていないのね」

真姫「可哀想だとは思うけど、アイドル専攻は各人の自由だし、いいんじゃないかしら」

真姫「結局ここで培ったダンスと歌の技術は永劫活かせぬまま朽ちていくんでしょうけど」

真姫「楽しいダイエットが出来たと思えば時間を無駄にしなくていいんじゃない?」

女生徒C「っ…!あんたねぇっ!!」


ざわっ…


絵里「…そこ、静かに」



女生徒C「い、言わせておけばズケズケとっ!!何様のつもりっ!?」

女生徒C「わっ…私は、二年生なのよ!?それを年下のあんたがっ…ふざけないでよっ!!」

女生徒C「指導補佐か何か知らないけどいい気になってんじゃ…」


真姫「黙りなさい」


女生徒C「っ…!!」

真姫「…誰が口を開いていいと言ったのかしら」

真姫「ダンスしか脳がないんだからただ無心で踊っていればいいのよ、あなたは」

女生徒C「ぎっ…!何をっ…!」

真姫「口答えしないで。ここでは私の言葉は絢瀬先輩の言葉と思いなさい」

真姫「私に歯向かえば…どうなるかわかっているわよね?」

女生徒C「…っ!は、はい…」

真姫「返事の前と後ろには『教官殿』とつけなさい」

女生徒C「は…?」

真姫「口でクソ垂れる前と後に『教官殿』とつけろと言ったの。…理解できた?」

女生徒「…き、教官殿…わかりました、教官殿…」

真姫「…よろしい」



にこ「…なにあれ」

凛「お、おっそろしいにゃぁ…。アレが指導ってやつ?」

にこ「アメリカの軍隊かなにかじゃないんだから…あれじゃあの子の評判落とすだけよ…」

にこ「…なんで真姫ちゃんがアイドル専攻の指導補佐になったのかは知らないけど…もしかしたら専攻生を蹴落とすため、だったりするのかしら」

凛「げー…やり方がえげつないにゃ…。そろそろあっちのスクールアイドルもホンキになってきたってことかな?」

にこ「…どう、なんでしょうね。でも…」

にこ「私の知ってるあの子は、あんなこと…」

穂乃果「…」



穂乃果(…私の知っているあの子も、あんな風じゃない)

穂乃果(アイドル専攻を直接叩くなんて乱暴なことはしそうにないし…仮にしようとしたとしても)

穂乃果(…あんな暴言、吐くなんて思えない)

穂乃果(やっぱり…)



穂乃果「西木野さん…二人、いるの…?」





希「…う、うわぁ…」


希(ホール入口近くで事の成り行きを見守ってたけど…)

希(に、西木野さん…どうしたんや、あれ…)

希(昨日までとは雰囲気がまるで違うというか…)

希(あんな人に対して強く当たれる子やったっけ?)

希(真姫ちゃんとも、昨日までの西木野さんとも違う…もしや3人目の!?…なんて一瞬思ったりしたけど)

希(でも、アレは間違いなく…西木野さんやね。真姫ちゃんよりも筋肉がしぼんだ体つき…無造作な髪…)

希(それと、血のように赤いメガネがそれを物語ってくれている)

希(何のために西木野さんがあんなことをしているのか…それをまず突き止めないと、彼女をここから引き戻すのは難しそうやね…)

希(その鍵を握るのは…やはり)


希「…えりち、か」

希「あんまり、顔を突き合わせたくはないんやけど…仕方ないな」

希「…ひとまず、キリのいいところまで見学させてもらおか、…な」

絵里「では、私はバックダンサー…いえ、次期A-RISEのレッスンへ行くので…」

絵里「…後のことは真姫、あなたに任せたわ」

真姫「…ぅ、うん…。わかった…」



真姫「…」


専攻生ズ「…」ジー…


真姫「…ぅ」

真姫「ん、んんっ…!!…ふぅ」

真姫「えー、それでは…アイドル専攻、授業を始めます」

真姫「…それにあたりまず第一に…皆さんに伝えておきます」

真姫「私から話しかけられたとき以外口を開かないこと」

真姫「返事をするときは腹の底から大きな声を出すこと」

真姫「そして、言葉の前と後ろに『教官殿』とつけること」

真姫「…いいわね?」


専攻生ズ「…」シーン…


真姫「…返事は?」

専攻生ズ「…」

真姫「…そう。わかったわ」

真姫「今日はもうおしまい。帰っていいわよ」

女生徒A「えっ…!?」

真姫「何のプライドか知らないけれど、指導補佐の私の言うことに従えないのなら仕方ないわ」

真姫「もうあなたたちを指導する気も起きない」

真姫「だから、帰っていいって言ったの。そして、もう明日から来なくていいわ」


「そ、そんな…!」「なによそれ!!」「ふざけんな!」


真姫「ふざけるなと言いたいのはこっちのほうよ」

真姫「やる気のない人は即刻切り捨てる。…それがこの、アイドル専攻の掟よ」

真姫「少なくとも私がいた頃はそうだったわ。今はもうやる気のない人しかいないの?」


「…っ」


真姫「上に登りたければ従いなさい。ここでは安っぽいプライドなんか捨てること」

真姫「屈辱に塗れた戦場を生き抜いた者のみ、その先に待つ栄光のステージへとたどり着ける」

真姫「アイドルって、そういうものよ」

真姫「もう一度聞かせてもらうわ。…あなたたち、やる気はあるの?」


「…き、教官殿!あります!教官殿!」


真姫「…ふふ、よろしい」

穂乃果「…」



真姫「…じゃあ聞くわ。あなたは何?」

A「わ、私はっ…」

真姫「違う」

A「教官殿!私はダンスしか取り柄のないブタです!教官殿!」

真姫「えぇ、そう。その口は今は返事するのと水分補給のみに使われるだけの穴よ」

真姫「ここで歌えるのは、頂点に立ったものだけ。そうでしょう?」

A「教官殿!はい!教官殿!」

真姫「はい、よろしい。…じゃあ次。あなたは何?」

B「教官殿!わたしは…」




穂乃果「…」


絵里「…穂乃果。話聞いてる?」

穂乃果「はい。聞いてます」

絵里「じゃあなんて言ってたか説明して」

穂乃果「…今年度のA-RISEの活動も最終段階に差し迫ってきており、ラストライブに向けての準備を着々と進める必要有り」

穂乃果「それと同時に来年度、次期A-RISE…私たちのための新譜の準備も行う必要もあるのでこれから多忙になると」

穂乃果「それに向けアイドルショップで販売される私たちのグッズのデザインやブロマイド撮影などによる…」

絵里「…あぁわかったわ。ありがとう。今度からちゃんとこっち向いて話聞いてね」

穂乃果「わかりました」


凛「うひゃー。相変わらず穂乃果センパイはハイスペックだねー。凛なんかもう忘れちゃったにゃ」

にこ「それはどうかと思うわよ」


穂乃果「…ついでに、一つ訪ねてもいいでしょうか」

絵里「何?」

穂乃果「今専攻生を指導している彼女…西木野さんのことなんですけど」

穂乃果「あれは、あなたの指示で?」

絵里「あれ、とは?彼女が指導していることかしら」

穂乃果「指導の仕方です。あれではまるで戦前の軍隊です」

穂乃果「…育成の上で効率のいい方法だとは思えません」

絵里「へぇ…穂乃果。あなたはいつから私のやり方に口出しできるほど偉くなったの?」

穂乃果「…っ。じゃあ、あれはやっぱり、あなたの指示なんですね」

絵里「私がああしろ、といったわけではないわ。でも、彼女の指導の権利は私と同等のものよ」

絵里「だから、アレは私のやり方、って言っても差し支えはないわね」

絵里「それともあなたは、私が信用できないの?…あなたをここまで育て上げた私のことを」

穂乃果「…そういうことじゃ、ない、です」

絵里「なら安心して。来年、私がいなくなっても…A-RISEは立派に強くなってくれるわ。…えぇ、強く、立派にね」

穂乃果「…」

穂乃果(絵里先輩は偉大な人だと、私は信じてきた)

穂乃果(彼女の幼い頃のバレエの経歴は、素晴らしいの一言に尽きるほどで)

穂乃果(あらゆるコンクールの金賞を総嘗めにしてきたその実力は、本物としか言いようがない)

穂乃果(だから私はスクールアイドルになるため、強くなるために、彼女のやり方に賛同して)

穂乃果(どんなことがあれども、彼女に従ってきた)

穂乃果(けれど…)

穂乃果(私は最近、揺らいできている)

穂乃果(彼女の今までのやり方が間違っていたとは思わない。確かにこれで、私は強くなれた。数々の人を、心を犠牲にして)

穂乃果(でも最近は…彼女の意思が、何か純粋でないと感じるように、なってきていた)

穂乃果(ただ、『強さ』を求めているだけとは…思えなくなってきていた)

穂乃果(にこちゃんを犠牲に私達を育成しようと考えていたことはまだ、理解できた)

穂乃果(きっとにこちゃんがダメになっていたら、私たちは更なる躍進…恐怖によるブーストで、成長できていたかも知れない)

穂乃果(けれど今回の…西木野さんの起用は、理解できない)

穂乃果(あの方法がA-RISEに…UTXに有益をもたらすとは、思えなくて…)

穂乃果(『何か理由があるんじゃない?』って、凛ちゃんもにこちゃんも言うけど)

穂乃果(その理由が…『強さ』ならいいのだけど)

穂乃果(…もし、私の感じている『強さ』以外の何かのためだとしたら…)

穂乃果(そう思うと、猜疑心が胸を塞いで止まない)

穂乃果(その何かは、私にはまだ、分かりそうにないけれど)



絵里「…じゃあ、今日はここまでにしましょう」

にこ「えっ…、もう終わり?」

絵里「えぇ、話し合いに結構時間を割いてしまったし…今から練習しても中途半端に終わっちゃうでしょうし」

穂乃果「居残りですればいいのでは?」

絵里「それがいいと思うのなら、あなたたちが自主的に行って。とりあえず、私の仕事はここまで」

絵里「これ以降のスケジュール管理の追い込みが忙しいから、帰って整理しないと。…まぁ、私のためってことよ」

凛「うーん、それなら仕方ないにゃー。じゃあ穂乃果先輩とにこちゃんは後で一緒に練習ね!歌も合わせよう!」

にこ「そうしましょうか。先輩も忙しいでしょうし、頑張ってね」

絵里「えぇ、あなたたちもね。それじゃ私はお先に着替えてくるわ」

凛「お疲れ様ですー。よーし、じゃあ発声練習、いっくにゃー!」タタタタッ…

にこ「あ、もう…発声練習にどうして走る必要があるのよ…」

穂乃果「…余裕があるなら、一度生徒会の方に戻っていいかな。あっちも来年度の予算の方で慌ただしくなってるし、確認しておきたくて」

にこ「いいんじゃない?アンタも忙しいわねー…」

穂乃果「もう、来年も近いからね。…じゃ、また後で。遅くなりそうだったら先に始めておいてね」

にこ「わかったわ。凛にも言っとく」



穂乃果「…」スタスタ…


希「…おや、もう終わりなん?」


穂乃果「ひゃあっ!?の、希せんぱっ…」

穂乃果「…どうしてここに」


希「まぁ、いいやん。それより…」

希「ちょっとお話、いいかな」

多目的ホール前


穂乃果「…絵里先輩と、西木野さんのこと、ですか」


希「うん。えりち、何か言ってなかった?西木野さんのこと」

穂乃果「いえ、何も。…あれでいい、とくらい、ですね」

希「そっか…。やっぱり、直接本人に理由を問い詰めるしかない、かな…」

希「穂乃果ちゃん自身はどう思う?西木野さんのこと」

穂乃果「…別に。絵里先輩がいい、と思っているのなら…いいんじゃないでしょうか」

穂乃果「私は彼女のやり方を支持している派なので」

希「ふふっ…、せやったね。穂乃果ちゃん、えりち派やもんねー」

穂乃果「…何がおかしいんですか」

希「あぁ、うん…別に何でもないよ。ごめんね、呼び止めちゃって」

希「もうえりち帰るんやろ?うちそれまで待っとくわ。ありがと、穂乃果ちゃ…」

穂乃果「その前に」

希「ん?」

穂乃果「…あなたに聞いておきたいんですけど」

穂乃果「あの西木野さんは…私の知ってる西木野さんとは別人ですね?」

希「…なんで、そう思うん?」

穂乃果「昨日の朝、西木野さんに二回、出会ったのもありますけど」

穂乃果「…あなたが彼女のことを、『真姫ちゃん』ではなく『西木野さん』と呼んでいることも、起因して」

希「…鋭いなぁ。結論から言えば…まぁ、その通りやね」

穂乃果「そんな簡単にバラしてしまっていいんですか?…結構、重大なことだと思うんですけど」

希「ん?…うーん、穂乃果ちゃんなら、大丈夫かな、って」

穂乃果「…私、なら?何故…ですか」

穂乃果「あなたは、私のこと…好きじゃないんでしょう?」

希「なにそれー?どこ情報?うち穂乃果ちゃんの事嫌ってはおらんよ?」

希「嫌いなんは…やり方、やね。えりちから教わった、その思想が、うちは嫌い」

穂乃果「…」

希「ねぇ、穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんが生徒会に就任した日のこと、覚えてる?」

穂乃果「えっ…。いや…」

希「穂乃果ちゃんに…結構キツいこと言われちゃって、うちかなり凹んだんよ?」

穂乃果「…すみません。そこまでいちいち覚えていられません」

希「せやろね。穂乃果ちゃんにとってはなんでもない言葉やったんやろうけど」

希「うちの今までを全て否定された気がして…随分落ち込んだわ。あの日」

穂乃果「…なんて、言ったんですか。私」

希「…えっとね」




「生徒を救うなんて、おこがましいこと、もうやめてください」

「あなたのしているその行為は、慰められた方を更に惨めにするだけの行為です」

「あなたが慰めているのは傷ついた人間ではなく…あなた自身だと言うことに、まだ気づかないんですか」

穂乃果「そんなことを、私が…?」

希「…うん。生徒会長を辞めたなら、もう一切しないで、って」

希「それ聞いて、うち今まで…孤独な自分を慰めたかったから、傷ついた誰かを家に呼んでたんかな、って…」

希「ホントは、自分より悲しんでいる人を眺めて、自分の傷を癒したかったんかな。…そう思ったら」

希「卑しいな、なんて…柄にもなく落ち込んでたんよ」

穂乃果「…でも、それは事実だと思いますよ」

穂乃果「あなたは、誰ひとり救うことができなかった」

穂乃果「それは、あなたに救う気がなかったからです」

穂乃果「本当に誰かの心を癒したいと思っている人は…諦めない人だから」

希「…せや、ね。うちも、そう思う」

希「うちはずっと、諦めてばかりだった。西木野さんが不登校になってしまっても…」

希「次の傷ついた子のために、自分が傷つかないために、って…存在すら忘れてしまったんやもん」

希「本当に誰かを助けたい人は…どうあっても諦めない人や、って気づいたのは…あの子が来てから」

希「真に心の強い子。…真姫ちゃんが、家に来てから」

穂乃果「それが…私の知っている西木野さん、ですか」

希「あの子は…どんな時も諦めなかった」

希「自分がどれだけの無茶をやらかそうとしてても、決して諦めはしなかった」

希「あの子のおかげで救われた子を、うちは何人も見てきた。…うちが一年かかっても、一人も救えなかったのに」

希「うちも、そのうちのひとり、かもね」

穂乃果「…」

希「真姫ちゃんは、強い子やよ。それは、穂乃果ちゃんも知ってるんじゃない?」

穂乃果「私、が…?」

希「にこっちのこと、もう気づいてるんと違う?あの子が立ち直れた原因が…」

穂乃果「…やっぱり、そう、だったんですか」

希「うん。真姫ちゃんのおかげ。あの子が躍起になってにこっちの崩れた心の支えを見つけてくれたから、今のにこっちがある」

穂乃果「…彼女が、にこちゃんに何かしたわけじゃ、なかったんですね」

穂乃果「その可能性も少しは考えてましたけど…じゃあ…」

希「…うちがね、穂乃果ちゃんのこと、嫌いじゃないのは」

希「穂乃果ちゃんは、えりちじゃないから」

穂乃果「えっ…?」

希「えりちの考え方を受け継いではいるけど、染まりきってはいない」

希「芯は、強い穂乃果ちゃんの意思が貫いてる。純粋な、穂乃果ちゃんの気持ち」

希「『努力している子を、応援したい』って感情。違う?」

穂乃果「…そうでしょうか。自分でもよく、わかりません」

希「だからうちは穂乃果ちゃんになら、真姫ちゃんの秘密を明かしてもいい、って思えたんよ」

希「まだえりちに染まりきってないなら、この秘密も、穂乃果ちゃんはうまく扱ってくれるかもしれないって」

穂乃果「…買いかぶりすぎですよ。学校に、言うかも知れないのに」

希「うん、でも…うちは穂乃果ちゃんを信じたかった」

希「いつか、穂乃果ちゃんは真姫ちゃんの味方になってくれるかもしれない」

希「そして…、真姫ちゃんが、穂乃果ちゃんの味方になってくれるかもしれないから」

希「努力している子を純粋に応援してくれる、本当の穂乃果ちゃんへの…ちょっとした投資みたいなもの、かな」

穂乃果「…バカバカしい」

希「ま、前生徒会長から現生徒会長へのエールやよ。これをどう扱うかは…穂乃果ちゃん次第だから」

希「でも…遅かれ早かれ、気づかれてたのは変わらないと思うけどね」

穂乃果「…長話に付き合わされ損ってことですか」

希「穂乃果ちゃんが退屈してたなら、そうなるかも」

穂乃果「…はぁ」

穂乃果「もう、いいです。西木野さんが二人いる事実が確認できたなら、私はこれで」

希「ん。じゃあね、生徒会、頑張って」

穂乃果「…はい」

穂乃果「いえ、やっぱり…」

希「うん?」

穂乃果「最後に、もうひとつだけ」

穂乃果「どうして…まだ西木野さんに手を差し伸べようとするんですか?」

穂乃果「この一年、誰も救うことができなかったのに…なぜまだ、諦めないんですか?」

希「あぁ…気づかれてたか。でも、せやね…。理解しがたいかもね」

希「だけど、簡単な理由」



希「きっと今度こそ…初めて、心から誰かを救いたい、って思ったから」

希「そしてもう…絶対に諦めないって、決めたから」




生徒会室


ガチャッ


生徒会役員「…あ、会長。お疲れ様です。アイドルのほうは大丈夫なんですか?」


穂乃果「…」


生徒会役員「会長?」

穂乃果「…ごめん、なんでもない」

生徒会役員「そう…、ですか。あの、失礼ですが、何かありました?」

穂乃果「…え?」

生徒会役員「いえ、いつもは考え事をしていても意識を分散させている会長が、何か考え込んでいるようなので…」

生徒会役員「もしや重大な事件でも抱え込んでいるのかと…!?」

穂乃果「あ、あはは…そんな…」

穂乃果「…ぁ」


穂乃果(役員の子が冗談めかして言った、重大な事件という言葉に)

穂乃果(西木野真姫が、二人いるという事実が、頭をよぎる)


穂乃果「…」


穂乃果(けれど)


穂乃果「…うぅん。なんでもない。それより、来年度の予算の件についてなんだけど…」



穂乃果(そんなことは些細なことだと思い返し、今日も私は…生徒会長としての職務を全うする)

絵里「長話は終わった?」


希「っ…!」




多目的ホール前



絵里「…そんなに深い話されてたら、出るに出られないじゃない」

希「えり、ち…」

希「どこから?」

絵里「最初から、…って言いたいところだけど、安心して」

絵里「真姫が二人いる…とかどうとか、穂乃果が言ってたところくらいからしか聞いてないわ」

希「そう、…よかった」

絵里「聞かれたくない話?ふふ、つれないわね」

絵里「私にも、聞かせてくれたらいいのに」

希「…じゃ、うちの長話、付き合ってくれる?」

絵里「話にもよるわ。なんなら今からパフェ食べに行く?」

希「そこまで長くはならんよ。すぐ、済む」

希「…単刀直入に聞くわ」

希「どうして、西木野さんを指導補佐なんかにしたんや」

絵里「長くなりそうだわ。パフェ食べに行きましょう」

希「答えて!」

絵里「…」

希「やっぱり…、ただならぬ事情があるんじゃないの!?」

絵里「そんなわけ、あるわけないじゃない」

絵里「私はただ、真姫の才能を買っただけよ」

絵里「あの子なら、私がいないA-RISEを強くしてくれるって、思ったから」

希「そんな、歯の浮くようなっ…!」

絵里「でも、事実だもの」

絵里「そうよね?真姫」

希「…えっ」



真姫「…希、先輩…」


希「西木野さん…」


真姫「どうして、ここに…」

希「西木野さんこそどうして…。まだ指導の途中なんじゃ…」

真姫「…今、休憩中だから…」

希「…ちょうどいい。西木野さんにも聞きたいことがあるんよ」

希「なんで、あんな乱暴な指導の仕方してるんや…」

希「普段の西木野さんは、あんなこと言わないはずやん」

真姫「それは…」


絵里「…真姫。おいで」

絵里「ご褒美をあげるわ」

希「えっ…?」

真姫「あっ…!はい!」タタタタッ…


絵里「…偉いわね。初めてなのにあんなにできて」

真姫「うん…。緊張したけど…頑張ったわ」

真姫「ああいうロールプレイならオンラインゲームで何度か演じたことがあったし…。余裕よ」

絵里「あなたならやればできる、って思ってたの。私が見込んだだけのことはあるわね。よしよし」ナデナデ

真姫「はぁぁぁぁ…!」



希「…あの。なんでいきなりイチャイチャし始めたん?」


絵里「なによ。希もナデナデされたいの?いいわよ、おいで」

希「いらんわ」

希「そうじゃなくって…!」

絵里「報酬よ。これが、真姫への報酬」

希「報酬…?」

絵里「私の後継者になってくれるための条件よ」

絵里「ただ、真姫を愛する。彼女が欲した時はいつでも…とまでは言えないけど、可能な限り愛してあげる」

絵里「それが私が真姫に提示した、条件」

希「なんやっ…、それっ…!?」

真姫「え、絵里…。もっと…もっと撫でて」

真姫「希先輩と話してないで…私だけを見てよ…」

絵里「もう、仕方ないわね…。よしよし、真姫…可愛い子ね」ナデナデ

真姫「うん、ありがと…。はふぅっ…」

希「えぇ…いや、うちの話も…」

希「というか西木野さん、昨日はうちのことも信頼してくれてるって言ってたのに…」

真姫「…」

希「西木野さんっ!」

絵里「…ふふ、馬鹿ね」

希「え…?」

絵里「あなたは、彼女が求めるものも何も分かっていなかった」

絵里「この子に必要なのは仲間じゃない」

絵里「ただひとりの…愛よ」

希「なっ…」

絵里「…昔からそう。あなたは心の機微に疎い」

絵里「それだから誰も救えないのよ。元生徒会長さん」

絵里「代わりにあなたは肉体の変化や疲労に敏感だったわね。触診や汗の匂いで体調を管理するのが上手だった」

絵里「あなたが身体、私が心。そうやってアイドル応援部は様々な状況に対応し、地位を確固としたものにしていったんじゃない」

絵里「…でも今は、その名誉も全て、私の手の内なのだけどね」

希「…っく」

絵里「結局、疲労も自分でコントロールできないアイドルなんて…必要ないってことなのよ」

絵里「才能が全て。言うことを聞かないなら…ふふっ、あとはわかるでしょう?」

希(えりちが人心掌握術に長けているのは、事実だった)

希(だからこそこんな無茶なやり方でも、アイドル専攻は破綻せず続けていられる)

希(心傷つき、病んでいってしまう人たちが、アイドルを嫌うことはあっても…)

希(…えりちを嫌うことは、ほとんど、ない)



絵里「この子は飢えていたのよ。他人の愛に」

絵里「欲すれば手に入る。当然の権利」

絵里「そんな誰でも持ってそうで…なかなか与えられない、いつでも愛される、ってことを」

絵里「あなたにもそれを求めていた。けど…あなたははぐらかしたそうじゃない」

希「えっ…あ、いや…」

絵里「…そうよね。無条件の愛なんてそんな、誰にでも与えられるものじゃないものね」

絵里「でも、それがあなたの限界」

絵里「彼女の欲しているものも与えられない愚かなあなたの、終着点よ」


希「っ…!ち、違うっ!!」


絵里「…」

希「西木野さんが欲しているものと、彼女に必要なものは別や!」

希「今の西木野さんに必要なんは…仲間やよ!」

希「えりちはすぐに卒業してしまう!そしたらその後、西木野さんはひとりぼっちやん!」

希「西木野さんが充実した毎日を送るためには、今仲間を作っておくことが大事なんよ!」

希「だ、だからうちは…うちらは!西木野さんを…」

真姫「…いいの」

希「えっ…?」

真姫「学校なんて、楽しくなくていい」

真姫「絵里は、卒業しても私を愛してくれるって言ったわ」

真姫「これからの一生、私に尽くしてくれるって言ってくれたもの」

真姫「だから、こんな生活、充実しなくて構わない」

真姫「大嫌いな学校で、大嫌いなアイドルを育てる」

真姫「ただ、絵里に愛される。それだけのために」

希「大、嫌い…?そんな…西木野さん、もう、嫌いやないって…言ってたのに…」

真姫「嫌いよ。心からアイドルが憎い」

真姫「大好きな絵里を悩ませて…、大好きだったあなたを独り占めにできなかった理由のアイドルが…嫌い」

真姫「嫌いなまま、強くする。それが私の思想よ」

真姫「…もう、これ以上あなたと話すこともないわ。さようなら、大嫌いなアイドルを応援する人」

真姫「あなたも、嫌い」

希「待って!西木野さんっ!!うちはっ…!」

希「西木野さんもっ!仲間にっ…!!」


ガチャンッ


希「…ぅ、あ…」

絵里「…もうあなたは部外者なの。アイドル専攻にとっても、私にとっても、そして、彼女にとっても」

絵里「もう来ないで頂戴。ふふ…、私だけに用事があるなら、内密に来てもいいけどね」

絵里「それじゃ、さようなら。…希」

希(目の前で閉じてしまった…そして、もう開くことのないホールのドアを、眺めて)

希(ただただ呆然と、立ち尽くすことしかできなかった)


希「…ぐ、ぅっ…!」


希(もう既に、西木野さんはえりちにかなり心酔している)

希(もはや、うちの言葉では西木野さんの心を開かせることは…難しいのかもしれない)

希(でもっ…)



希「こんな、絶望的な状況でもっ…」ギリィッ…!!

希「今度こそ、絶対に諦めないんやっ…!」



希(何度無理な状況に陥っても、何度無茶なことを挑戦することになっても)

希(必ず、その全てに打ち克ってきた、あの子のように)

希(拳を握り、奥歯を噛み締め、決意する)

希(今度は、そう)

希(うちが、無茶をする番やもの)


希「…もし、西木野さんの心を開かせ、目を覚まさせるものがあるとするならば」

希「それは…」



希(えりちの言葉自身)

希(はぐらかされて聞き出すことの出来なかった、彼女の本心を、西木野さんに聞かせられたなら)

希(うちの言葉でなく、えりちの口から発せられた言葉で)

希(…それがどれほど無理難題なのかは、うちも承知しているけど)

希(これが、生徒会長として成せなかった、…いや、成す気がなかったうちの)

希(最初で最後の、全力投球…!誰かを、孤独の闇から救い出すっ…!!)




希「絶対にっ…!負けへんからなぁぁっ…!!」




希(そう唸り、まずすべきことを確認する)

希(とにかく…悩んだらひとりで悩むな。カッコ悪くても、誰かを頼る)

希(うちの知っていることで、真姫ちゃんに教わったことでもある)

希(今うちが頼れるのは、真姫ちゃんしかおらんから)

希(音楽室で練習しているあの子達に頼るのは後回しにして、まずは真姫ちゃんに連絡を取ろう)

希(彼女の電話番号に向けてコールする)


希「…無茶するんはうち自身でいいから、せめてアドバイスだけでも…」

希「お願い、真姫ちゃんっ…!」


プルルルルッ… プルルルルルッ…


ピッ


希「あ、もしもし真姫ちゃん?実は…」






『おかけになった電話は電源が入っていないか電波の届かない場所にいるためお繋ぎできません』





希「…あれ?」

音楽室


ことり「よーしっ!もうワンセットー!」

海未「ふっ、はっ…」

花陽「よととと…」


海未「ふー…、そろそろいい時間でしょうか」

ことり「そだね。じゃあ最後に…うーん、どうしよっかなぁ…」

花陽「なんか…やっぱり真姫ちゃんがいないと締まらないね…」

海未「そうですね…。3人だとどうしてもバランスが悪くなってしまいますし」

ことり「こうしてここに集めてくれた子がいないって考えると、なんか寂しい気分もあるよね」

花陽「また、一緒に練習できるようになるといいね…」

海未「はい…、一刻も早くその時が来ることを願って…」

ことり「明日休みなんだし神田明神で練習する分には真姫ちゃん来てもいいんじゃないかな?」

花陽「…」

海未「…」

海未「そういえばそうですね!」

花陽「だねー!あははははは…」


ブルルルル… ブルルルル…


ことり「…あれ?携帯のバイブ音…誰のだろう」バッグガサゴソ…

海未「私ではありませんね」

花陽「あ…私だ。えーっと…、希部長からだね」

ことり「何かな?」

花陽「うん。…はい、もしもし。花陽です」

花陽「…え?うぅん、来てない、ですけど…」

花陽「はい…。はい、わかりました。じゃあ…」ピッ

海未「部長はなんと?」

花陽「…真姫ちゃんに連絡がつかなくて、こっちに来てないか、って」

ことり「連絡が?」

花陽「うん。何回かけても電源が入っていないか電波の届かない場所にいるか、って…」

海未「どうしたんでしょうか…。何かあったのか…」

ことり「ま、ま、まさかっ…!また誰かに襲われちゃった、なんて…!」

海未「いや、そんな…。そんなことないと思いますが…」

花陽「でも、前にも一度同じようなことがあったし…」

花陽「ま、真姫ちゃんっ…!大丈夫かな、心配だよ…」

花陽「もし、明日の練習にも来ない、なんてなったら…っ!!」

海未「か、考えすぎですよ…。きっと真姫は明日、練習に来てくれます」

ことり「…そう、だといいけど」

その夜

希の家


希「…真姫ちゃん」


希(家に帰っても当たり前のように真姫ちゃんの姿はなくて)

希(もう夜も夜やというのに、未だ帰って来ない)

希(最悪、警察に通報しようかとも考えたけど…)

希(…真姫ちゃんの出自じゃ、却って厄介なことになるだけ、やよねぇ…)

希(二つの意味で、うちに頼れるものはなくなってしもた)

希(真姫ちゃんの心配と、…そして西木野さんの心配で頭がいっぱいで)

希(考えなきゃ、って思っていたことも、考える余裕がない)

希(ただ時間だけが無意味に過ぎてゆく…)



希「…はぁ」

希「せっかく二つ作ったんやから、食べて欲しかったなぁ…」


希(真姫ちゃんがいつ帰ってきてもいいようにちゃんと、晩ご飯は真姫ちゃんの分も作っておいたんやよ)

希(すっかり冷えてもて…明日の朝ごはんはこれをチンしたやつやからね?)

希(…もし明日も帰ってこなかったら、明後日で、明後日もダメだったら…)

希(ダメ、だったら…)



希(…ずっと、帰ってこなかったら)




希「…そんなん、やめてよ」

希「いつか、いなくなるってわかってるけど…、いなくなるんやったら…いなくなるいうてからいなくなってよっ…!」

希「黙って帰っちゃうなんて…そんなん許さへんからね…!」

希「食費だって、生活費だって…うちが全部負担してあげててんからっ…!」

希「返さないで帰るとか、最低やんっ…!!」

希「返してくれるまで、延々と呪い続けたるんやから…」

希「だからっ…、はよぉ…はよ、帰ってきてよ…」

希「…真姫ちゃん」


ピンポーン


希「っ!誰か来たっ…!もしかして…」デンワガチャ

希「…はい、どちら様?」


『…私よ、希。西木野さんじゃない方の、真姫ちゃん』

『入っていい?』


希「ま、真姫ちゃんっ!!今まで何を…いや、うぅん、入っていいよ!」


『…わかったわ。ちょっと、驚くかもしれないけど…まぁ、気にしないでね』

ガチャッ


希「真姫ちゃんっ!おかえりっ!もー、どうしてこんな遅くまで…って、え…?」

数時間前


真姫☆「…ん、ぅ…」

真姫☆「あれ、ここ…」


真姫☆(意識が混濁している…)

真姫☆(私は今まで、一体何を…)

真姫☆(どうして、こんなところで寝て…)

真姫☆(…確か、秋葉原を歩いている途中に…)

真姫☆(そう、誰かに急に捕まえられて)

真姫☆(そのまま路地裏に引っ張りこまれたのまでは覚えてるんだけど…)

真姫☆(そこから意識を失って…)

真姫☆(…でも、どうして。前、絵里の派閥に捕まった時は変なクスリを嗅がされたみたいだったけど…)

真姫☆(今回は何にも嗅がされた感じはなかったし…それに確か…)

真姫☆(気を失う寸前に…あの目眩が…)

真姫☆(…そんなことより、絵里たちに捕まったのだとしたら…)

真姫☆(早く逃げないと…!また良からぬ目に…)


真姫☆「…って、あれ?」

真姫☆「特に縛られていない…」


真姫☆(私は小さなベッドに寝かされていて、身体を拘束されている様子もなかった)

真姫☆(っ…!じゃあまさか、この部屋自体に私を捕まえる仕掛けがっ…!?)

真姫☆(くっ、なんて卑劣な…!こんな薄汚いどことも知らない密室に私を閉じ込めるなんて…!)

真姫☆(こんな…見知らぬ…部、屋…に…)


真姫☆「…いや」

真姫☆「ここ…知ってる…?」

真姫☆「なんだか随分と…見覚えのある、部屋…の気が、する…」

真姫☆「長い間見なかったけど、長い間過ごしていた…」

真姫☆「…まさか、ここって」



「…あ、目、覚めた?」


真姫☆「っ…!」


「もー、急に気を失っちゃうんだもん。びっくりしたよー。もう平気?気分悪いとことかない?」


真姫☆「あ、あなたはっ…!」

真姫☆「凛…」


凛「…ん?凛だけど、何かにゃ?」

真姫☆「や、やっぱりっ…!」

真姫☆「私を捕まえたのはあなただったのね!」

凛「えっ、いや、捕まえた…うん、まぁ捕まえたけどさ」

真姫☆「このっ…、卑怯よ!」

凛「え、何が!?」

真姫☆「言いなさい!何が目的なの!私を捕まえてどうする気!」

凛「え、いや…その、あの…」

真姫☆「あなた一人でどうこうできるとは思えない…!絵里になんて指示されたの!?」

真姫☆「もし花陽たちに手を出す気なら私、あなたにも容赦はしないっ…!」

凛「えぇっ!?か、かよちんに手を出す…、なんて、アハハ、そんなぁ…///」

凛「んー、まぁ?法と世界が許すなら別に凛はかよちんに手を出してもいいんですけどー…ってそんなつもりは更々ないからねっ!?」

真姫☆「何をわけのわからないことをっ…!」

凛「わけわかんないのはそっちのほうだよ!どうしちゃったの真姫ちゃん!?」

凛「やっぱなんか変なモノでも食べた!?変な蟲に寄生された!?変なベルで催眠をかけられた!?」

真姫☆「あなたこそ何を…、あれ」

真姫☆「凛、その服…」

凛「へ?服?いつものナース衣装だけど…」

真姫☆「いつもの…」

凛「ん?」

真姫☆「…」

真姫☆「今日の西木野☆星空クリニックはここまで!」

凛「次にヤバい病気にかかっちゃうのはあなたかもね?」

真姫☆・凛「「まじ☆えんじぇー!!」」



真姫☆「りぃぃぃんんっ!!!!?あなたっ…、凛ねっ!?」

凛「どぅぁからさっきから凛は凛だって言ってるでしょぉぉっ!!?」

真姫☆「じゃあ、じゃあここはっ…」

真姫☆「この薄汚い、嫌になるほど見覚えのある部屋はっ…!!」

凛「クリニックだよ?」

真姫☆「っ!!」

真姫☆「わ、私…」



真姫☆「帰ってきちゃった…?」

凛「…真姫ちゃんがクリニックから転落したと知って一ヶ月…」

凛「凛は真姫ちゃんを探しに探し続けたにゃ」

凛「様々な世界に行っては帰り、また行ってはちょっと観光してすぐ帰り…」

凛「…時々数日間異世界で遊んだりもしたけど」

凛「そんなこんなでようやっと真姫ちゃん…凛の真姫ちゃんが見つかって、心の底から叫びだしたいほど嬉しかったんだけどー…」

凛「同時に不注意で転落しやがったおかげでこんなにも必死で探させられる苦労も味わせてもらったって考えるとちょっぴりイラッ☆ってしちゃったから…」

凛「少し驚かせたろーと思ってお得意の異次元CQCで真姫ちゃんの身柄を拘束させてもらったら…」

凛「…なんか知らんけど気を失っちゃってこちとら大パニックだよ」

凛「もし凛のおふざけが真姫ちゃんを死へと追いやったなら後追い自殺する気マンマンだったりしたんだけど」

凛「どうやら心臓は動いてるみたいだったから一安心。寝てる間にクリニックに運んでこの世界へと戻ってきたってわけにゃ」

凛「どぅゆぅあんだすたん?」

真姫☆「…理解したわ」

真姫☆「私が気を失ったのは薬のせいなんかじゃなく、あの目眩に襲われたから、…で」

真姫☆「ついでに凛の感覚ではまだ世界は1ヶ月しか時間経過していない…ということなのね」

凛「世界…ってか凛は、だね。世界自体はたぶん一日も経過してないんじゃないかな」

凛「真姫ちゃんはどれくらい?」

真姫☆「私は…3ヶ月弱ね。前の経験も含めたらそろそろ二年生に年齢が追いつきそうだわ」

凛「海未ちゃんあたりはゆうに追い越してるね」

真姫☆「…そうね」

凛「いやー、でも見つかってホントに良かったよー。経過した時間も数ヶ月程度で済んで!」

凛「もし時空壁が数年後の時点にあったら大変なことになってたし、不幸中の幸いだね!」

真姫☆「時空壁…?」

凛「とにかくこれで万事解決!やっと真姫ちゃんとの平穏な暮らしが戻ってきたって考えると一安心にゃー」

真姫☆「…そう、ね…」

真姫☆「万事解決…よね…」

真姫☆「…」

真姫☆「…ってぇっ!そうはいかないのよぉっ!!」ダダッ

凛「えぇっ!!?真姫ちゃんどこ行くの!?」



西木野☆星空クリニック パイロットルーム


真姫☆「えっと…、確か世界線は…っと…。あぁもうっ!久々過ぎて操作忘れた!」

凛「ちょっとちょっと!?真姫ちゃん帰ってきて早々に何をっ…」

真姫☆「…えぇいっ!今はとにかくっ…!」

真姫☆「西木野☆星空クリニック…改め!西木野☆星空スターゲイザー!発進よっ!!」


ガコンッ ボシュゥゥゥッ!!

グニュワンッ


凛「ぬおわっ…!?ま、真姫ちゃんっ!いきなり時空ワープ!?どこ行く気にゃあぁぁっ!?」

真姫☆「決まってるでしょっ…!」



真姫☆「帰るのよっ…!あの世界へ!」

真姫☆「私はまだ、あの世界でやり残したことがあるんだからっ…!」

グラングランッ…


凛「えぇっ…、ちょっ…うぇっぷっ…!ま、真姫ちゃん、運転荒すぎ…酔うにゃっ…」

真姫☆「おぇっ…ご、ごめんなさい…。一旦止めるわ…」


凛「はぁっ…、足掴まれてぶん回されたみたいだにゃ…」

真姫☆「…この感覚…うぷっ…、あの、目眩と似てる…」

凛「目眩?」

真姫☆「最近、急に目眩を感じることがあるのよ。足元が覚束なくなるような、キツイの」

凛「真姫ちゃんがいた世界で、ってこと?」

真姫☆「えぇ…。つい最近からね」

凛「…じゃあたぶんそれ、時空壁の生成の影響かも」

真姫☆「時空…なにそれ」

凛「…その前に、真姫ちゃんはあっちの世界に戻って何をする気なのか説明してほしいにゃ」

凛「急にこんなことされても、凛戸惑っちゃうよ」

真姫☆「…わかった。説明するわ。私があの世界で体験した、3ヶ月の出来事も全て」











凛「…な、なんてことを…。真姫ちゃん、ガッツリ別世界と絡んじゃったの…?」

真姫☆「まぁ…そうね。私も最初はそんなつもりじゃなかったんだけど。興味本位からUTXに行ったら成り行きで大変なことになっちゃって」

凛「だから、あれほどの時空壁が…。それで、真姫ちゃんはこれから帰ってどうする気?」

真姫☆「もちろん、あっちの世界の私をアイドル専攻から連れ戻す。それがまずすべきことよ」

真姫☆「そのあとは…とにかく!花陽と約束した、笑顔のスクールアイドルを実現させるまでは…帰れない」

真姫☆「私のC☆cuteで、UTXの頂点を獲るまではね」

凛「…なるほど、にゃ。大体わかった」

凛「でも…凛はそれ、オススメできないにゃ」

真姫☆「えっ…!な、なんでよ!」

真姫☆「これ以上別世界に干渉することは許されない、なんて言わないでしょうね!そんな綺麗事、凛らしくもないわ!」

凛「…割と本心で、そう思ってもいるよ。眺めるだけならまだしも、そんなに深く関わるのはホントはやっちゃいけないことだもん」

真姫☆「でもっ…!もう関わっちゃったんだから仕方ないでしょ!」

真姫☆「もう、あの世界に…私の居場所ができてしまったのよ!」

真姫☆「ダメだから、って…それを放棄して帰るなんて、私にはできないわ。約束だって、したんだから」

凛「…うん。その気持ちは凛にも理解できるよ。だから、そのことは問題じゃないの」

凛「凛は…、真姫ちゃんのこと、心配してるんだよ」

真姫☆「え…?」

凛「…もし、真姫ちゃんがあの世界で、これからもアイドルを続けちゃったら…」


凛「もう、真姫ちゃんはアイドルができない身体になっちゃうかも、しれないんだよ」

真姫☆「ど、どういう意味よ、それ…」

凛「真姫ちゃんが最近感じてる目眩のこと」

凛「あれは、時空壁があの世界に生成されたことによる時空振動によって、真姫ちゃんの身体が揺り動かされたことによって起こされる現象なの」

真姫☆「え、えっとー…?いきなり難しい単語が…」

真姫☆「さっきから言ってる時空壁、ってなんのことよ…。時空振動は歴史の改変が行われた時に感じる身体の揺れ…のことよね?」

凛「うん。大体それでいいよ。時空壁、っていうのは、その歴史の改変を行われないように、世界が取る防護策、だにゃ」

真姫☆「世界…?世界自身が、歴史の改変を防ぐ、ってこと?」

凛「そう。…あのさ。真姫ちゃんがあの世界にいるって分かったなら、真姫ちゃんがあの世界に落ちた3ヶ月前に行って、その時の真姫ちゃんを拾ってくればいいと思わない?」

真姫☆「え?あぁ…そうね。それなら凛が1ヶ月私を探し回っただけで済むんだから」

凛「でも、それはできないの。なぜなら、時空壁が邪魔をしているからだにゃ」

凛「時空壁が生成されると、それ以前の時間へは戻ることができなくなる」

凛「まさしく、時間を遡る上で立ちはだかる壁、みたいなもの」

凛「凛があの世界でたどり着ける最も経過の少ない時間が…真姫ちゃんが今まで過ごした3ヶ月のラインだった、ってこと」

真姫☆「そう、だったの…。でも、どうしてその3ヶ月の時点で、時空壁が生成されたの?」

凛「それは、真姫ちゃんがあの世界の真姫ちゃんと接触したことが原因…なんだと思う」

真姫☆「えっ…でもあの世界にたどり着いた初日にも、あっちの私と出会ったけど…」

凛「…うん、じゃあちょっと違うかな…。正確には、『あっちの真姫ちゃんが、異世界の真姫ちゃんを認識してしまった』ことが原因」

凛「その時点で、世界はパラドクスを起こしてしまったにゃ。本来はあり得なかった、あり得る筈のない歴史を」

凛「世界が拒絶反応を起こしてるの。真姫ちゃんに対して。その結果が、時空壁の生成」

凛「そして、その際に起こる時空振動の波、だにゃ」

真姫☆「…つまり何。私が目眩を起こすのは京都で言うところのぶぶ漬けを出されている状態ってこと?」

凛「うん、そんな感じにゃ」

真姫☆「じゃあ私はそのぶぶ漬けを喰らい尽くしてやるわ。その程度の催促で帰るわけにはいかないの」

真姫☆「目眩が辛かろうが、私はっ…!」

凛「でもっ!…そんな状態で、真姫ちゃんにアイドルが務まると思う?」

真姫☆「…」

凛「このままあの世界に真姫ちゃんが居続けたら、更に大きな目眩だって引き起こすかもしれない」

凛「その目眩が練習中や、ライブ中に起こってしまったら…大怪我するかもしれないんだよ」

凛「そうなったら真姫ちゃんは…最悪、もう動けなくなっちゃうかも知れないんだよ」

凛「そうでなくても本番中にぶっ倒れでもしたらどうなるか…知らない真姫ちゃんじゃないでしょ」

凛「…どっちみち、これ以上あの世界で真姫ちゃんにアイドルは無理、だよ」

凛「諦めてよ。真姫ちゃん…」

真姫☆「…」

真姫☆「…っは」

凛「にゃ?」

真姫☆「ははは…あははははっ!なによ…なによ、そんなこと?」

真姫☆「…なら、なんの問題もないわ」

真姫☆「アイドルできないってんなら…しなきゃいいのよ」

真姫☆「しなくても、夢は叶えられる。とっくに私の代替を用意する計画だって…考えてあるんだからっ…!」

真姫☆「だからあなたが何を言おうと、私はっ…!」グイィィッ…!!


ガコンッ…!!

凛「ひぃぃっ!!ま、真姫ちゃんっ!!」

真姫☆「あの世界へ帰る!私の、花陽の…みんなの夢を叶えるために!」

グワングワンッ…!!


凛「待ってよ真姫ちゃんっ!!い、いくらアイドルはやらないからって…!」

真姫☆「っ…」

凛「目眩はあの世界に居続ける限りいつ襲ってくるかわからないんだよ!」

凛「身体を揺らされる目眩と吐き気…真姫ちゃんも体験して…ううぇっ…こ、こんな感じだよぉっ!!」

凛「これがぁっ…、ほ、発作的に襲って来るのに…!真姫ちゃんにこんな苦痛、凛、見過ごせな…」

真姫☆「うっさいわねぇっ!!」

凛「まっ…」

真姫☆「…私だって、そのくらいわかってる…!」

真姫☆「けど、諦めるわけにはいかない…うぅん、諦めたくないっ!」

真姫☆「これが今私の、やりたいことなんだから!」

真姫☆「苦痛がなによっ…!あっちの世界でだって、それを耐えて、耐え抜いて…今頂点目指して頑張ってるにこちゃんもいるのよっ…!」

真姫☆「それを考えれば、この程度の揺れっ…!屁でもないわ!!」

凛「…真姫ちゃん」

真姫☆「お願い、凛…。行かせて」

真姫☆「あなたは…い、一ヶ月に一回くらい様子見に来てくれればいいから。あなたにとっては時空跳躍ですぐなんだし」

凛「…はぁ。わかったにゃ。そこまで言うなら…もう止めないよ」

凛「でも、約束」

凛「決して、無茶はしないで。真姫ちゃんが倒れるところなんて、想像したくないよ」

真姫☆「…ごめん、凛。それは約束できない」

真姫☆「もう今までだって、無茶しかして来なかったんだもの」

真姫☆「だから…ぶっ倒れそうな時は誰かを頼るわ」

真姫☆「幸運にも、私の周りには…私を、支えてくれる人がたくさんいるもの」

凛「…ふふ、羨ましいこというね!」

凛「よぉしっ!このままあっちの世界へレッツゴーだよ!」

真姫☆「えぇ、そのつもりよ!」



凛「うぅっ…、も、もう少し…もう少しで到着だよ…」

真姫☆「うん…。そろそろっ…見えた!時空の出口…!」


シュバァッ!!


凛「ふぅっ…よ、ようやく着いたにゃ…。どこにクリニックを着陸させよっか…」

真姫☆「ここからなら、そうね…。やっぱり近いところで音ノ木坂学院跡地が一番…」


グワンッ…!!

真姫☆(うっ…!!?)


真姫☆(この世界に着いた途端、身体を大きな揺れが襲った)

真姫☆(でもそれは、クリニックでワープしている時なんか比べ物にならないほど、激しい揺れで…)


真姫☆「あ、うぐっ…!!」ガクッ

凛「え、ま、真姫ちゃっ…!!」


真姫☆(思わず、倒れこむ)

真姫☆(その時、無意識に身体を支えようとハンドルに体重をかけてしまい…そのまま…)

グリュルンッ…!!



凛「ま、ま、ま真姫ちゃぁんっ!!クリニックが傾いてるっ!!」

真姫☆「り、凛っ…ごめ…んっ」

凛「あぁもうだから言わんこっちゃないにゃ!くっ、このままじゃ二人まとめて墜落してお陀仏だよ!」

凛「なんとか…今から体勢を立て直っ…すっ…!!」グググッ…!!


真姫☆「…ごめん、なさい…凛…」

真姫☆「私の…せい、で…」


凛「バカっ!何泣き言言ってるの!?」

凛「真姫ちゃんは今から無茶するんでしょ!」

凛「こんなとこでへこたれてちゃっ…、聞いて呆れるよっ!!」

凛「こんくらいのヘマ…凛に任せておいてっ!」

凛「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」グググググッ…!!


ユラユラユラッ…


凛「く、なんとか墜落コースからは外れた、けどっ…!」

凛「安定着陸は無理っぽいぃっ…!く、仕方ないにゃっ…」

凛「多少機体が削れることは覚悟の上でっ…胴体着陸するしかないっ…!!」

凛「真姫ちゃん!なんでもいいからどこかに掴まってて!めっちゃ揺れるよ!」

真姫☆「わ、わかった…」ガシィッ!!

凛「うおぉっ!?ま、真姫ちゃん胸があたってまんがな!?なんで凛掴むの!?クリニック掴まないと意味ないって!」

真姫☆「アンタも…支えてあげないとっ…着陸の衝撃で吹っ飛ぶかもしんないでしょっ…!」

真姫☆「身体の固定は私に任せて…、アンタは着陸に集中しなさいっ…!」

凛「…っ!わ、わかった!ってもう地面が目の前っ!!」

凛「ぬ、ぬあああぁぁぁぁっ!!!」



ドッサァァァァァッ!!



シュゥゥゥッ…


凛「…」

真姫☆「…」

凛「…真姫ちゃぁん…」

真姫☆「なにぃ…?」

凛「…生きてる?」

真姫☆「…割と」

凛「そっか…良かったにゃ…」

凛「全っ然良くないよ!?」



音ノ木坂学院跡地


真姫☆「…動力部がイカレてるわね…。これじゃ飛行できそうにないわ」

凛「こ、これでクリニックが壊れるの何回目だよぉぉぉぉ…」

真姫☆「幸い時空転移装置は無事だったんだし、動力部さえこの世界で賄えばなんとかなるわよ」

凛「それまでどうするの…。クリニックも中グッチャグチャで到底衣食住に満足できるとは言い難いよ」

真姫☆「それは…」

真姫☆「…仕方ない。彼女に…厄介になるしかないわね」

凛「彼女…?」

真姫☆「とにかく、クリニックの中から使えるものを手当たり次第持って行くわよ。そんでステルスモードで外部の人間からは見えないようにしておいて」

凛「わかったにゃ…。で、どこに行くの?」

真姫☆「…ついてきたらわかるわよ」





希の家


希「…そんで、そんなボロボロなんやね」

真姫☆「えぇ、驚いたでしょ。あと、養うヤツもひとり増えたわ」

凛「えーっと…は、初めまして。星空凛といいます。希ちゃん…だよね?これからお世話になります…」

希「うん、初めまして。この凛ちゃんはあっちの凛ちゃんより可愛げがあっていいね」

真姫☆「そうでしょ?私の自慢の凛なんだから」

凛「…今はそれより、この荷物と衣服をどうにかしたいよ」



シャー…

凛「ふひー…、いちちっ…。お湯が傷に染みるにゃぁ…」


真姫☆「…希。これ」

希「え?これ…封筒?なによこれ…」

真姫☆「いいから」

希「…あっ!これ…お金やん!どうしたんよこれ!」

真姫☆「今までの生活費、賄ってもらってた分、返しておかないとと思って。お金も用意できたしね」

希「え、でも…」

希「…」

希「…いらんよ。うちは…真姫ちゃんさえ戻ってきてくれればいいんやしっ。はい、返す」

真姫☆「残念ながらクーリングオフは受け付けていないわ」

希「せやけど…明らかに真姫ちゃんの生活費より多いし…。こんなたくさん受け取れへんよ」

真姫☆「いいのよ、それで。…だって」

真姫☆「これからも、ちょっとの間厄介になるんだから。そのお金で、たっぷり美味しいもの、食べさせてちょうだいよ?」

希「っ…!ふふっ…」

希「…わかった。頂いとくわ。真姫ちゃん、ご飯は?」

真姫☆「まだよ」

希「じゃあ今からっ…、ホッカホカの美味しいご飯作るから、ちょっと待っててね!」

真姫☆「…えぇ、ありがとう。希」

凛「はぐはぐはぐ…っ!んんーっ!おいしいにゃー!」

希「ゆ、ゆっくり食べな?凛ちゃん、見ていて気持ちがいい食べっぷりやね」

凛「だって…がつがつ…こんな美味しいご飯食べたの久しぶりだよーっ!もぐもぐ…晩飯パクパクにゃ!」

真姫☆「あなただってお料理上手じゃない」

凛「それは二人暮らしする上で真姫ちゃんがあまりにも料理下手なせいで上手にならざるを得なかったの!命の危機すらあるからね!」

希「そうなん?」

真姫☆「…私の得意料理はもっぱらトーストだわ」

凛「でも凛は自炊するの好きってわけじゃないしー、最近はコンビニご飯や安い外食で済ましてたのー」

凛「だから希ちゃんのご飯は五臓六腑に染み渡るほど美味しいよー!凛よりずっとずっと上手だね!」

希「そこまでストレートに褒められると照れてまうなーえへへ…」

真姫☆「けどもう少し静かに食べなさいよ。ほら、机にこんなにご飯のくず零して…バカ」

凛「うぅ…!真姫ちゃんの優しい罵倒も久々にゃ…。けど言うことは聞かない」ガツガツ

真姫☆「…はぁ」

希「いいよいいよ。うちが後片付けしといたげるし」

真姫☆「…甘やかすのはいけないと思うわ」



凛「ふひー…けぷっ…。食った食った…。もう食べられないにゃ…ぐてー」

真姫☆「食ってすぐ寝ない。はぁ…だらしないわね」

凛「ごめんにゃー」

希「…ふふふ」

真姫☆「何笑ってんのよ」

希「ん?あ、いや…仲がいいんやな、って思って」

凛「凛と真姫ちゃんが?そりゃまー…親友だもんね!」

真姫☆「今のやり取りで仲が良さそうに見えるのもどうかと…まぁ、仲は悪くはないわね」

凛「素直じゃないんだから真姫ちゃんはーこのー」プニプニ

真姫☆「ほっぺたつつくな」

希「…いやぁ、羨ましいわ。うちにもそんなことできる友達がいればなぁ…」

凛「え、希ちゃん友達いないの?意外だね」

希「んふっ、昔はおってんよ?今は…」

真姫☆「今もいるでしょ。私たちが。ほれ、ぷにぷによ」プニプニ

希「やーん。…ふふふ、そ、やね…。あははは…」

凛「凛もぷにぷににゃ!うりゃうりゃ」プニプニ

希「もー、凛ちゃんまでっ。それっ、しかえしや!」

凛「むにーっ!ほっぺ挟むのにゃしだにゃぁぁぁ…」

真姫☆「んふふふっ…」


凛「ふわぁぁぁ~…なんだか眠たくなってきたにゃ…」

真姫☆「あなたが?珍しいわね…いつもは夜ふかししまくってるのに」

凛「最近は真姫ちゃん探しで疲れが溜まってたからねぇ…。安心したらどっと眠く…」

希「じゃ、うちの部屋に布団、用意しといたから。眠たかったらいつでも使ってくれていいよ」

凛「ありがとうございます…。ほんじゃ、お先にねんねするね…。おやすみぃぃ…」

真姫☆「えぇ、おやすみ」

希「おやすみな」

真姫☆「…希」

希「ん?」

真姫☆「話したいこと、何かあったんでしょ?」

希「えっ…どうして?」

真姫☆「そんな顔してる。相談したいことがあるってツラよ」

希「へぇ…真姫ちゃんも相当洞察力高いね。次のアイドル応援部部長は真姫ちゃんで決まりかな?」

真姫☆「残念だけど…あなたが卒業する前にこの世界からはいなくなる予定よ。…本当に、残念だけど」

希「そっか…。うん、それは仕方ないことやけどね…」

希「…せやね、悩み事…相談したいことあったんよ。西木野さんのことについて」

真姫☆「まぁそうでしょうね。今日アイドル専攻に行ってきたんでしょう?何があったの?」

希「…何が、うーんと、色々なことがあったね…」

希「何から話せばいいか…」


希(うちは思いつく限りの、今日うちが見たこと、聞いた話を真姫ちゃんに話した)

希(西木野さんが乱暴な指導の仕方をしていたこと、それがえりちの指示だということ)

希(えりちは西木野さんを愛するという条件で西木野さんを指導補佐に仕立て上げたこと)

希(西木野さんの収まりかけていた、アイドルと学校が嫌いという感情が、再び芽生えてしまったということ)

希(それと後…穂乃果ちゃんにも、真姫ちゃんが二人いると知られたことも、ついでに)


真姫☆「…穂乃果に?だ、大丈夫なの…?学校にチクられたりしたら…」

希「穂乃果ちゃんはそんなことしないと思うから平気やよ」

真姫☆「そ、そうかしら…生徒会長就任演説を聞いてたらかなり厳しそうだったけど」

真姫☆「少しの異常も見逃さないような…」

希「サボりや規則違反には厳しいかもしれないけど、事情があるなら穂乃果ちゃんはそこらへん寛容やよ」

希「あの子にはちゃんとした、優しさも兼ね備えているから」

真姫☆「あの穂乃果に、優しさ…?私には理解できそうにないわね…」

希「…ま、穂乃果ちゃんとの付き合いはそこそこ長いからね、うちは」

真姫☆「…それはいいとして、あっちの私…、絵里にいいように使われちゃってるわね」

真姫☆「希の言っていた、誰かに染まりやすい状態っていうのをまんまと利用されちゃったって感じね」

希「そう…えりちの真姫ちゃんへの入れ込み具合から察するべきやったのかもしれない。…彼女が、真姫ちゃんにアイドルを教えた張本人だったってことに」

希「そして、人の心を操るのが得意なえりちなら、西木野さんの信頼を勝ち取るくらい楽勝だなんて、わかりきってたことやったのに…」

希「…そのことまで、頭が回らなかったうちの失態や…。もっと注意するように言っておくべきだった…」

真姫☆「行っても無駄よ。絵里はそんな猜疑心を煽る言葉も忘れされるでしょう」

真姫☆「きっとあっちの私にとって、誰かに愛されるということは何事にも代え難いほどの充足を得られる行為なのでしょうし」

真姫☆「あなたからちょっとの注意を受けたところで、その誘惑に勝てるとは思えないわ」

希「…せやね。じゃあうちがずっと付き添って…いや、現実的に無理か、それは」

真姫☆「そう。そして今考えるべきは、あの時こうしていればよかった、なんかじゃない」

真姫☆「これから、どうするべきか。それだけよ」

希「…うん」

真姫☆「あなたには何か、考えていることはないの?あっちの私をアイドル専攻から抜け出させる方法」

希「ひとつだけあるとすれば…、えりちの本心の言葉を、西木野さんに聞かせる…かな」

希「えりちは西木野さんのことを信頼して…なんて言ってたけど、そんなはずない」

希「自分が都合よく動かせられるから…西木野さんを選んだにほかならないはずや」

希「愛するなんて、形だけ。西木野さんは騙されているだけに過ぎないんだって、彼女に気づかせれば…」

真姫☆「…それで、本当にいけると思う?」

希「えっ…」

真姫☆「私は…それじゃダメだと思うわ」

希「そ、そんな…。なんでそう思うん?」

真姫☆「きっと私なら…騙されていてもいい、って考えるもの」

希「騙されていても…?」

真姫☆「形だけでも…愛されていたい、って」

真姫☆「相思相愛でなくても、愛されるという行為を受けてじぶんが満ち足りていればただそれでいい」

真姫☆「そういう考えなはずよ。アイツは」

希「そうなん…?」

真姫☆「…まぁ、私だとしたらそう思うかも、って想像だけど。でも私とアイツは一応同一人物だし」

真姫☆「アレはアレで、引っ込み思案っぽく見えて…意外と我が強いヤツよ」

真姫☆「自分が正しいと思うことは正しい…そう思いこんで止まないタイプ」

真姫☆「彼女に考えを変えさせるなら…もっと根本から叩き直すべきね」

希「叩き直す…、具体的に言うと、どうするべき?」

真姫☆「つまり、愛されることが幸せでないと考えさせる」

真姫☆「あなたの言うように、仲間を持つことが大事なのだと考えさせることが必要だと、私は考えるわ」

希「西木野さんに、仲間を大事に思わせる…」

希「…でもそれは、無理やよ」

希「今の西木野さんに…えりち以外の言葉は届かない」

希「そうするならやっぱりまずはえりちの本心を聞かせて信頼を緩める方が…」

真姫☆「そうしても、愛されることが幸せだと考えているうちは、彼女の本心を語っても信頼は揺るがないわ」

真姫☆「信頼といっても、一方的に依存しているだけだもの。絵里が必要でないと思わせることの方が優先されるわ」

希「でも説得しようとしても…」

真姫☆「彼女は話を聞かない、でしょうね…」

希「これじゃあいつまでたってもイタチごっこやん…。どうしようもない…」

真姫☆「…私だけの考えじゃ、どうしようもならないわね」

真姫☆「もう夜も遅いし、明日…、休日だし、神田明神でみんなの考えも聞いてみましょう」

希「そっか…、明日は学校じゃないから真姫ちゃんも一緒に練習、できるんよね。ふふ、みんな喜ぶやん」

真姫☆「…、それがね…」

希「ん…?」

西木野家

真姫の部屋


真姫「…」


コンコン


真姫「…はい?」


『…真姫ちゃん?起きてる、かしら…』


真姫「ママ…」


『あの…、今日帰ってくるのが遅かったけど…何、してるのかなー、って』

『もしかしたら、お友達ができて遊んでて遅くなったのならママ…』


真姫「…いいじゃない、別に」

真姫「私がなにしてたって…ママには関係ないことよ」

真姫「もう、寝るから…ママも部屋に帰ってよ」


『…』

『…うん、ごめんね。あ、明日お休みだし、久しぶりに一緒にショッピングなんて…』


真姫「明日は朝から学校へ行くの。用事で」

真姫「だからいかない。明後日も」


『…そう。そうなの…。わかった、おやすみなさい、真姫…』


真姫「…」




真姫「明日も、学校…」

真姫「…面倒くさい、けど…」

真姫「あの人に、愛されるため、だもの…」

真姫「希先輩を敵に回してでも…」

真姫「…っ」

真姫「なに弱気になってるの…、自分で選んだ道なのに…」

真姫「また、昨日みたいになっちゃう…揺らいでちゃ、ダメ…!」

真姫「…そう、昨日…。絵里から…あんなこと告げられた、後みたいに…」

~回想~


昨日の夕方 音楽室


絵里「…ってことなんだけど…どう?」

真姫「えっ…」


真姫(彼女の話した内容が複雑過ぎて、私には理解の埒外だった)

真姫(かろうじて理解できたのが…、私に彼女の担当している、アイドル専攻の指導補佐を務めてほしいとと言われていることと…)

真姫(そうしてくれたら…、彼女は私のことを…愛してくれる、と言ったことくらいだった)


絵里「なんて…急に言われても、難しいわよね」

絵里「ふふ、でも私はあなたならできるって考えてのことなのよ。あなたの才能を枯らせるなんて勿体ないって思って」

絵里「難しいことをするわけじゃないわ。ただ私の言うとおりに動いてくれればいいだけ」

絵里「たったそれだけのことで、私はあなたに報酬を与えられる」

真姫「報酬…」

絵里「…あなたを、愛してあげる」

絵里「あなたが愛に飢えているのは見てすぐにわかったわ。誰かに愛されたくて、しょうがないんでしょう?」

絵里「それも親からではない…他人からの愛情。自分のために尽くしてくれる、誰かからの愛」

真姫「…ぅ、どう、して…」

絵里「ふふ、そういうの感じるの、得意なのよ」

絵里「でもあなたも…贅沢よね。そんな愛情、そうそう手に入るものじゃないわよ?」

絵里「よっぽどの美貌を持つ大金持ちとかか…もしくは、赤ん坊とか」

絵里「普通はそんな大それた愛情を求めるのは、おこがましいと考えるわ」

絵里「でも…私はそれを与えてあげられる。いつでも、ってわけではないけど…出来うる限りずっとね」

真姫「ずっと…?」

絵里「えぇ…。私が卒業しても、ずっと。休日はあなたと一緒にいてあげてもいい」

絵里「なんなら…私が一人暮らしを始めたら、あなたもそこに住んだって構わないわ」

真姫「ホント、に…?」

絵里「えぇ…本当に」

真姫「だ、だったら私っ…!!やるっ!やりますっ…!」

真姫「あなたに愛されるなら、それで…」

絵里「…でも、ほんの少し覚悟して欲しいことがあるわ」

真姫「えっ…」

絵里「指導って結構大変なのよ。難しくはないけど、休日は日中全て埋め尽くされるし」

絵里「休日のプライベートの時間はあまり用意されない、って考えてちょうだい」

真姫「…それくらいなら、大丈夫です。休日、誰かと遊んだりなんて…しないし」

絵里「そう。それならいいわ。…そして、あともう一つ」

真姫「もうひとつ…?」

絵里「…アイドル専攻の指導になる上で」

絵里「必ず…この学校のもう一つのスクールアイドルと敵対することになる」

真姫「あ、そ、それって…」

絵里「もちろん、そんなところに属している人たちや…それに与する人たちとも仲良くしてもらうと困るのよ」

絵里「だから…」


絵里「…東條希とは、決別しなさい」

真姫「ぇっ…!」

絵里「彼女と今後一切関わりを持たないこと。それが指導補佐になるために必要なことよ」

真姫「わっ…、私、それはっ…!」

絵里「…できないって言うの?なんで?」

絵里「彼女が、あなたに優しくしてくれたから?」

真姫「ぁ、うっ…」

絵里「ふふ…、あの子のことを好きになっちゃう気持ちはよーくわかるわ。でもね…」

絵里「あなたが希のことを好きでも…希はあなたのこと、好きなのかしら?」

真姫「え…」

絵里「あなたが欲しているほどの愛情を、彼女が与えてくれると思う?」

絵里「さっきも言ったけど、そんなの…なかなかもらえないわよ」

絵里「今の希は既に恵まれている…。あの子の欲しているもの、ほとんどをあの子は与えられている」

絵里「そんな満ち足りている彼女が、あなたまで欲するなんて…思えないでしょう?」

真姫「…それ、は…」

絵里「でも、私は違う」

絵里「私は…あなたが欲しいの。今はただ…あなた一人が欲しい」

絵里「だから私はあなたを愛してあげられる。あなただけを」

絵里「ね?どっちがいいか、なんて…子供でもわかるでしょ?」

真姫「…」

絵里「まだ、私を信用できない?」

絵里「それも仕方ないわよね。…うん、いいの」

絵里「まだ混乱して正常な判断ができないのはわかるわ。だから…考える時間をあげる」

絵里「そうね…明日、までってどうかしら」

真姫「あし、た…」

絵里「そんなに待ってられないのよ。私の後継になりたいって思う人はいっぱいいるから」

絵里「私が特別に、あなたのために与えた一日のチャンス…。これでも最大限頑張って用意してあげたんだから」

絵里「指導補佐、やりたいか、やりたくないか」

絵里「私か、希か」

絵里「…明日、一日、ゆっくりと考えなさい」

絵里「その気になったら、また明日も、この時間に、この場所に」

絵里「それが、あなたを愛してあげる条件」

真姫「…っ」

絵里「それじゃあ、私今からアイドル専攻の方に行かなきゃいけないから。あなたも、帰って検討していて」

絵里「…さよなら、また逢いましょう。真姫」



ガチャッ… バタン


~回想終わり~



真姫「…もう、選んだから」

真姫「希先輩は、いらないんだ、って…。彼女に愛されることだけ、欲したんだから…」

真姫「…」

翌朝

園田家


海未「…ふ、ぅぅ…はわぁぁぁああぁぁ…」

海未「…あぁ…、今日も、練習…」

海未「しんどいです…」



街角


ことり「おはよー」

海未「おはようございますことり!今日も張り切っていきましょうね!」

ことり「げ、元気だね…」

海未「内部事情が複雑な現在、少しでも元気を出して勢いをカバーしなければいけません!」

海未「真姫のいない分も、頑張るぞー!おぉー!!」

ことり「…」

海未「何ボーっとつっ立っているんですかことり!あなたもほら…、おぉー!」

ことり「お、おぉぉ…」

海未「はい、元気出ましたね!では神田明神へ向かいましょう!」スタスタ

ことり「…元気なのはいいけど朝からそんなに大声だとご近所に迷惑だと…」


ドンッ


ことり「あいたっ…!?う、海未ちゃん!?急に止まらないでよー…、頭に鼻打っちゃった…」

海未「…」

ことり「…海未ちゃん?」

ことり「…ぁ」



穂乃果「…」



海未「…ほ、穂乃果…」

ことり「ぐ、偶然…だね…。こんな時間に…」

海未「…っ!」ソソクサ

ことり「あっ…、う、海未ちゃん…!なんで私の後ろに隠れ…」

海未「ソンナコトイワレテモー」

ことり「声ちっさ!さっきまでの元気どこいったの!?」

海未「シリマセンヨソンナノー」



穂乃果「…ふふ」



ことり「え…?」



穂乃果「…おはよう」スタスタ…



海未「…」ポカーン

ことり「…」ポカーン

神田明神


海未「…」ポケー…


花陽「…海未さん?」

ことり「今日の朝かくかくしかじかなことがあってから、こうなっちゃって…」

花陽「穂乃果さんに挨拶を?へぇ…」

ことり「海未ちゃん、去年の秋からまともに穂乃果ちゃんと話してなかったから…ああやって挨拶をしてくれたことがかなり衝撃だったみたい」

花陽「ほとんど一年ぶり…だもんね。びっくりするよ…」

ことり「どうして…穂乃果ちゃん、挨拶してくれたんだろう…」

花陽「え?」

ことり「…穂乃果ちゃん、海未ちゃんのこと、嫌ってたはずなのに」

ことり「それに、去年から滅多なことじゃ笑わなくなっちゃった穂乃果ちゃんが…笑ってた」

ことり「何か、あったのかなぁ…」

花陽「何か、ですか?」

ことり「…うん。もしかしたら穂乃果ちゃん…少しずつ変わっていってるのかな」

ことり「元の優しい穂乃果ちゃんに…ちょっとだけ」

花陽「もしくは…海未さんのこと、認めてくれたとか」

花陽「私たちも、もうA-RISEに肩を並べる…とまでは言い過ぎだけど、知名度も増してきたし」

花陽「だから穂乃果さんも少し心を許してくれたのかも」

ことり「ふふ、そうかもね。なんにせよ、悪い変化じゃないと思う」

ことり「このアイドルがきっかけで、穂乃果ちゃんの心も変わってきてくれたのなら…本当に、やってよかったって思えるよ」

花陽「うん…!」

ことり「…なのに当の海未ちゃんったら」


海未「ぽけー…」


ことり「あんなに不抜けちゃって…。それじゃ穂乃果ちゃんにまた貶されちゃいますよ?」

海未「…うぅ、ごめんなさい…。はぁ…録音しておけばよかった…」

花陽「え、そこまで?」

ことり「…それにしても、真姫ちゃん来ないね。やっぱり誰かに目撃されるのを恐れて…」

花陽「そんな…。今日くらい一緒に練習…」

海未「…って言ってたら来ましたよ」

花陽「えっ」


真姫☆「…ごめんなさい。少し遅れちゃったわね」

海未「もう!遅刻ですよ!」

真姫「希が、起こしてくれなかったから…」

ことり「そっか。今日はバイトで早朝からここのお掃除してるんだよね」

海未「自分で目覚められないって…その年齢で恥ずかしくないんですか?」

真姫☆「…お恥ずかしい話よ。凛に顔見せできないわ…アイツも多分まだ寝てるけど」

花陽「え?凛…?」

真姫☆「あぁ、こっちの話よ。えっと、それで…」

ことり「うん、練習だよね!遅れた分取り戻そう!」

真姫☆「…違うの。それが、私もう…」

真姫☆「練習に参加できない。…うぅん。もう…アイドルが、できない」




花陽「えっ…?」




海未「…ど、どういう…ことですか。アイドルができないとは…」

ことり「C☆cute…やめちゃうの?」

真姫☆「そういうことになるわね…」

花陽「どっ、どうして!?ま、真姫ちゃんがどうしてやめないといけないの!?」

花陽「誰かに…何か言われて、脅されて…!?それで、仕方なくっ…」

真姫☆「違うのっ…!そうじゃ、なくてぇっ…」

花陽「じゃあなんでなのっ!?真姫ちゃんっ、真姫ちゃんが…アイドルを辞めるなんてぇっ…!」

ことり「お、落ち着いて花陽ちゃんっ…!真姫ちゃんの肩、強く掴みすぎ…」

海未「…指、食い込んでますよ」

花陽「あっ…」

真姫☆「…痛いわよ」

花陽「ご、ごめん…。でも…」

真姫☆「わかってる。理由もなしにやめるわけじゃないわ」

真姫☆「あなたたちにも…もう、全部話すから」

真姫☆「C☆cuteを辞める理由も…そして、私が何者であるのかも」










ことり「…嘘」

真姫☆「…本当。今話したこと、全てね」

真姫☆「西木野真姫に、姉なんて存在しない」

真姫☆「今アイドル専攻で指導補佐しているのも西木野真姫で」

真姫☆「ここにこうして立っている私も…同じ西木野真姫」

真姫☆「違うのは、ただ暮らす世界ってだけ」

真姫☆「私は…異世界人なのよ」

海未「…変な映画でも見たんですか?」

真姫☆「全部ガチよ!信じて!」

真姫☆「別の世界の違うスクールアイドルをしていた私が時空を超えてこの世界にやってきた」

真姫☆「それが紛れもない真実なの!…って言っても」

真姫☆「信用されないってことはわかってるわ。…でもとにかく、そういうことなのよ」

花陽「真姫、ちゃん…」

真姫☆「さっき言ったとおり、なんか…意味不明の目眩がこれから度々、発作的に私に襲いかかってくる」

真姫☆「いつ、どこで目眩に襲われるかは私もわからない…。練習中、ライブ中に倒れでもしたら、私の命が危ないの」

真姫☆「メンバーの一人がライブ中に倒れた、なんてなったら、学校側からも何らかの処置が下されるかもしれない、からね」

真姫☆「そういった可能性を危険視して…私はもう、これから…C☆cuteを脱退する」

真姫☆「納得できないかもしれないけど、納得して。お願い」

ぱなことうみ「…」


真姫☆(…まぁ、こんなことを言えば困惑されるのも当然ね)

真姫☆(今はともかく…私が脱退するという事実を受け止めてくれれば、それでいいわ)

真姫☆(それ以外はこれから、ゆっくりと理解してくれたら…)


「…ぅ、だったんだ…」


真姫☆「ん?」


花陽「そう、だったんだ…!真姫ちゃんが異世界人…、だったなんて…!」

花陽「カッコイイ…!!」



真姫☆「え」

真姫☆「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!?!!」



海未「そ、そういう反応なんですか!?」

花陽「え、カッコよくない?異世界人だよ!別の世界なんだよ!?」

花陽「一度そういう人と会ってみたいなぁ…って子供の頃から妄想してたの!」

花陽「そ、それがまさか真姫ちゃんがそうだったなんて!ゆ、ゆ、夢みたいっ!!」

ことり「あ、あははは…ま、まぁ…花陽ちゃんがいいなら、いいんじゃない…?」

真姫☆「い、いいの?私がもうアイドルできないって言った時はあんなに取り乱してたのに…」

花陽「あっ…うん。それは残念だけど、でも…できない理由があるなら仕方ないかなって。真姫ちゃんに怪我して欲しくないし…」

花陽「それに、今すぐいなくなっちゃうとかそういうわけじゃないなら…真姫ちゃんの考えを尊重しようって思ったんだ」

海未「はぁ…、まぁいいでしょう、私も半信半疑ですが…今はそれでいいとします。問題は…」

ことり「真姫ちゃんが抜けた穴を、どうするか…だよね」

真姫☆「私の考えは当然…アイツよ」

ことり「アイツって…」

花陽「真姫ちゃんで言うところの…この世界の真姫ちゃん、ってこと?」

真姫☆「…えぇ。私の抜けた穴を埋めるには、私が一番でしょう」

海未「し、しかし…あなたの言葉を信用するならば、彼女のアイドル経験はあなたの数十分の一ほどでしょう…」

海未「なにせ、あなたは今年の春からずっとアイドルをしているのに対して彼女は…ほんの数日なのでしょう?」

ことり「本当なら真姫ちゃんと時々交代させてじっくり育てていくつもりだったんだもんね…」

真姫☆「…そうね。ダンスの技術も、歌の技術も、私とあの子は随分と離れているでしょう」

花陽「確かにあの真姫ちゃんは…歌、ヘタだったなぁ…。驚くくらい」

真姫☆「…でも、そんなの関係ないわ。だって私たちが目指しているアイドルは…」

真姫☆「どんな女の子でも、なろうと思えばなれる…夢に溢れたスクールアイドルなんだもん」

真姫☆「シロウトの技術でも、数日でアマチュア程度には仕上げてみせるわ」

ことり「ふふっ…、相変わらずムチャクチャだなぁ…」

花陽「そんなムチャでも…真姫ちゃんなら無理じゃないかもって思わせられるのが、不思議だよね」

海未「…しかし、彼女は今、アイドル専攻の指導補佐、なのですよ。いわば、私たちの敵中の敵。親玉のようなものです。それをいきなり引き抜くなんて無理なのでは…」

真姫☆「そうね。…無理な可能性の方が高いと思うわ」

海未「えぇ…認めてしまうのですか」

真姫☆「…だから、その時のためにもちゃんと、保険は用意してあるわ」

真姫☆「そうでしょ?…希」

ことり「えっ…?」

花陽「希、って…」

海未「部長っ…!?」



希「…」



ことり「い、いつからそこに…」

花陽「あれ…?でも、その服…私服?」

海未「まだバイトの時間、なのでは…」


希「…やめてきた」


はなことうみ「っ!!」


希「神主さんに言って、今日限りで、ってことで…」

希「急なお願いやったけど、快く了承してくれたわ。ほんま、ありがたいな…」


花陽「なんで…部長がやめなきゃいけないんですか…。バイト…」


希「…うち、今日から…スクールアイドルになる」

希「それに集中するために、休日の時間を開けるために…バイトを辞めた」

希「昨日の夜、真姫ちゃんがもうアイドルできない、って聞いてから…二人で話し合った結果やよ」


海未「アイドル、って…今からですか!?もう、部長には…」

ことり「卒業まで、半年も、もうないのに…」


希「ふふ…4ヶ月もあれば充分やん」

希「卒業後の進路はもう決まってるから、自分の時間は自由に決められるし」

希「学生生活の最後に、大きな花、咲かせたろっかな、なんてね」

希「真姫ちゃんの言ってたとおり…C☆cuteって言うんは、どんな女の子でもなろうと思えばなれる夢のスクールアイドルなんやから」

希「それが、卒業間近だろうと、変わらないよね?」



ぱなことうみ「…」



真姫☆「…希は、こう言ってたわ」

真姫☆「タロットカードで占ったら、このグループには後ろで見守ってくれる人が必要なんだ、って」

真姫☆「だから今まで、C☆cuteの縁の下の力持ちとして、希はいてくれた」

真姫☆「今日からは…交代よ。私が、その後ろから見守る役となる」

真姫☆「今まで支えるだけだった希が…今度は表舞台に立つの」

真姫☆「彼女が、どうしても救いたい…一人のために」

花陽「その、一人、って」


希「西木野さん」

希「えりちの誘惑のために、孤独の闇に絡め取られようとしている彼女を…どうしても救いたいんよ」

希「ひとりぼっちは、寂しいもん」

希「去年の秋から一年間、ずっと一人やったうちだから、わかる」

希「他の人たちの話し声を聞くと、胸を締め付けられるような孤独感に襲われる」

希「口が、話し相手を求めて勝手に動いたりする。うちの周りには誰もおらんのにね」

希「生徒会長として人助けしようとしたのも、話し相手が欲しかっただけ、なのかもしれんね」

希「…そんな孤独の怖さを、西木野さんには味わって欲しくない」

希「いつかにこっちみたいに…身体に悪影響だって及ぼしかねない」

希「うちは西木野さんに、うちのホンキを見せつけるために…アイドルを始めるんよ」


ことり「ホンキって…」

真姫☆「…昨日、考えてみたの」

真姫☆「この世界の私を絵里の誘惑から…アイドル専攻から助け出すにはどうすればいいのかって」

真姫☆「私の意見と希の意見、どちらも決め手に欠けるからって水掛け論で…結論は出なかったけど」

希「真姫ちゃんがスクールアイドル辞めるって聞いてから、思い直した」

希「…やっぱり、貫き通すべきなんや、って」

希「西木野さんがえりちに魅了されている時点では、うちの声は届かへんから…まずえりちをどうにかしないと、って考えてた」

希「でもっ、それじゃダメなんよっ…!ダメ、って諦めている時点で、うちはホンキやないっ…!」

希「本当に心から、誰かを救いたい人間はっ…」

希「絶対に、諦めない人だって、知ってるからっ…!!」

希「だからうちは、うちの声が届くまで…西木野さんに話し続けることに決めたんよ」

希「うちの全身全霊を持って、西木野さんの未来に光を灯してあげたい」

希「うちの、アイドルとして『夢』は…それ、なんよ」

花陽「夢…」

花陽「私が、凛ちゃんの心を取り戻したいと思うのと、同じように…」

ことり「私と海未ちゃんが、穂乃果ちゃんとやり直したいって思うのと同じように…」

海未「部長…希さんには希さんの、大きな夢を…」

真姫☆「にこちゃんのときとは違って、今度は根気の勝負よ」

真姫☆「アイツの心が傾くのが先か、私たちが折れるのが先か…」

真姫☆「そのために…希に、私たちの全てをつぎ込んであげましょう!」

真姫☆「私たち全員の想いで…、あの子を救ってあげるためにっ…!」

真姫☆「希の夢を、叶えるために…!!」

花陽「…うんっ!」

ことり「そう言われたらもう…やるしかないよっ!!」

海未「部長…いえ、希さん!これからは同じ…スクールアイドルの仲間として…よろしくお願いしますっ!!」

希「…うんっ、よろしくね!」

真姫☆「でも、もう時間はないからねっ!私たちも全力でビシビシ鍛えてあげちゃうんだから!」

希「ふふっ…、とっくに覚悟はできてるんよ!さぁっ…やろう!!」

嫌い。




UTX学院

多目的ホール



女生徒D「はぁっ…!はぁっ…!!」


バタンッ!!


女生徒D「う、っぐっ…!」

真姫「…なにやってるの。立ちなさい」

女生徒D「あ、うぐっ…」




大嫌い。




真姫「返事がないわね」

女生徒D「…っ、あっ…!き、教官、殿…」

真姫「二度はないわ」

真姫「…帰って」

女生徒D「そ、そんなっ…!!」

女生徒D「…」




どうして、そんな顔をするの。


一瞬、悲しそうな顔をして。


でも、そのすぐ後。


とっても、解放されたような顔になるのは、何故?




ガチャッ… バタンッ



「…今日でもう5人目よ」「これじゃあ…来月頃には何人…」


真姫「…」




嫌い。大嫌い。


身体を縛っていた鎖が砕けたような、吹っ切れた表情。


大嫌い。

嫌い。



真姫「…答えなさい。あなたはどうしてここにいるのか」


女生徒E「教官殿!私はA-RISEのようなスクールアイドルになりたくてここにいます!教官殿!」

真姫「そのためにはどんなことでもする覚悟はある?」

女生徒E「教官殿!いかなる厳しい試練であっても、血反吐を吐いたとしてもやり遂げる覚悟であります!教官殿!」

真姫「よろしい。じゃあ次…」



大嫌い。


与えられた役割を愚直に演じるその姿。


滑稽を通り越して、不気味。




女生徒G「教官殿!私は口からクソ垂れることしか能のない役立たずであります!教官殿!」

女生徒G「教官殿!この能無し豚をどうぞ導いてください!教官殿!」




気持ち悪い。


それが、あなたたちのやりたかったアイドルなの?


この役割を演じることに、なんの疑問も抱かないの?


気持ち悪い。気持ち悪い。


だから、アイドルは嫌いなのよ。


自身の栄光のためならば、裏でどんな屈辱を受けようとも耐える。


優越感に浸りたくて、無様に悔しがる誰かを見下したくて、


欲望の器を満たすその時まで、汚水すら喜んで口にする、下劣な生き物。


それが…、アイドル


嫌い…、大嫌い。



アイドルなんて、消えてしまえばいい。

好き。




真姫「…ん、っはぁっ…。絵里の…匂い…。甘い、香り…」

絵里「ふふっ…、もう、そんなに首筋に鼻を近づけないの。誰かに見られたら…勘違いされちゃわよ?」

真姫「いいのっ…。勘違い、されたいっ…!」

絵里「もう…おバカさんね」




大好き。


こんなゴミ溜めの中にいても尚、私に安らぎを与えてくれる絵里が好き。


甘い香り…。ずっと嗅いでいたい…。



真姫「でもっ…本当にこれでいいの?絵里…」

絵里「いいの…あなたの思うまま、してちょうだい」

絵里「あぁすることが、彼女たちにとっての起爆剤となるのだから」

真姫「…へぇ、そうなの。やっぱり、気持ちわるいのね、アイドルって」

絵里「そうかもね…」




私に無上の愛を捧げてくれる絵里。


今の私にとって、これ以上は考えられない。


彼女に抱きしめられて、耳元で囁かれることが、何よりも安らぎをもたらしてくれる。


大好き。絵里…大好きよ。


あなたしか、私はいらない。



真姫「…絵里」

絵里「なぁに?」

真姫「…キス、して」

絵里「…」

真姫「お願い…」

絵里「…今は、ダメ」

真姫「え…?」

絵里「今は休憩中だし…、それに」

絵里「キスは本当に大切な時にしかしちゃダメなのよ。こんな時にしたら、ありがたみがなくなるでしょう?」

真姫「…そ、そうね。ごめんなさい…」

絵里「うぅん…いいの。あなたが私を満足させてくれたら…いくらでもしてあげるわ」



優しい、絵里…。


大好き。

真姫「…はぁ」



練習の時間が終わってしまった。


絵里とは、もう一緒にいられない。


もっと彼女と一緒にいたいのに、彼女は規定時間を過ぎたらすぐに帰ってしまう。


アイドル専攻から逃げるように。


そうよね。


あんな汚物に塗れた空間に、いつまでも居たくないわよね。


けれど、私は練習の時間が待ち遠しい。


絵里の体温を感じられない時間がもどかしくて仕方がない。


彼女は実家暮らしだから、学校にいる時と練習の時でしか、愛してもらえない。


もっと…もっと愛してもらいたいのに。


でも、我慢、我慢。


彼女が卒業すれば、一人暮らししてくれるから。


毎日、アイドル専攻が終われば彼女の家に遊びに行ける。


もっと長いあいだ、愛してくれる。


だから、それまでは我慢の時。


けどやっぱり、帰り道は憂鬱で。


薄紅に染まる静かな街道を、トボトボと重い足を引きずるようにして歩く。


俯き伏せた目に、影が映った。



真姫「えっ…?」



いつもは誰もいないはずの、私の家の前。


誰かが立っている。


その人は、私を見つけるなり笑顔を浮かべ、


優しく、こちらに手を振って。




希「おかえり」


真姫「希…、先輩…っ」




どうして。

希「おかえり」


真姫「…希、先輩」

真姫「どうして、私の家に…」


希「うちはまだ、西木野さんを諦めたわけやないから」

希「お願い、西木野さん。うちの話を…」


真姫「…っ」


スタスタ…


ガチャッ… バタンッ



希「…」

希「…ふぅ」



西木野家 玄関


真姫「…なんでよ」

真姫「私はもう、絵里だけを選んだんだからっ…!」

真姫「来ないでよっ…!!」



あなたのことは、もう嫌いになったんだから。


だから…。


私の心をこれ以上、揺さぶるのは、やめて。


胸の奥の悪の芽が、彼女のことを思うたびに疼きだす。


東條希のことは、忘れろ、と。


絢瀬絵里だけを、求めろ、と。


人を人とも思わない鬼畜に成り果ててまで、今の道を選んだんだから…。


私にとって、今が一番の幸せなんだから…!

翌日

夕方 西木野家前


真姫「…」



希「おかえり、西木野さん」



いた。


また、彼女が、私の家の前に。




希「指導、お疲れ様やね。朝から大変やん?」

希「でも実はうちもね。今日一日中練習しててんよ」

希「アイドルの…」


真姫「…っ!!」スタスタ…



ガチャンッ!!



希「…ぁ」






西木野家 玄関



真姫「何がっ…、アイドルよ…!」

真姫「嫌い、嫌い、嫌いっ…!」

真姫「鬱陶しいのよっ…!来ないで欲しいのに…!」

真姫「どうして分かってくれないの…!?」



トゲがチクチクと、心を締め付ける。


わかってる。


わかってるからっ!!



だからっ…、これ以上、私を苦しめるのは、やめてよっ…!

翌日 月曜日




テクテク…


真姫「…はぁ」



もうめっきり寒くなってきた。


今日は平日だったから、アイドル専攻は夜まで続いて。


こんな夜中ともなれば、外気温は真冬のようなものだ。


だから、今日はいないはず。


寒空の下、外で待ちぼうけなんて…するわけ、ない。




希「…おかえり」


真姫「…」


希「はー…。ふふっ、さぶいね。もう息が白くなるくらいやん」

希「でも最近は慣れない運動してて、身体がよく火照ってるからね」

希「さぶくてもへっちゃらやん」


真姫「…運動、って…」

真姫「アイドル、ですか」


希「ん?…うん、せやよ」

希「うち、アイドル始めてんよ。もう卒業間近やってのにね、えへへ」

希「けど、楽しいんよ。みんなでわいわい、あれこれ考えて、歌って、踊って…」

希「きっと…、西木野さんもやってみたら楽しい、って思ってくれると思う」

希「だからね…、西木野さん…」


真姫「…っ!興味、ないですっ…」


希「西木野さんっ…!」

真姫「お断りしますっ!!」


タタタタッ…


ガチャンッ!!



西木野家 玄関


真姫「…」

真姫「…く、うぅっ…!」



嫌い。


大、嫌い…!

翌日 火曜日

UTX学院 多目的ホール




ザー… ザー…


にこ「…っくちんっ!!ずずっ…」

凛「にこセンパイ、風邪?うつさないでよー?」

にこ「かもしれないわね…。っくちんっ!!」

にこ「でも、まだ大丈夫だから…、行けるわ」

凛「そう?ま、せいぜい頑張りなよー。んじゃねー」

にこ「うん、バイバイ。…と、じゃあ私もそろそろ…ん?」


真姫「…」


にこ「…あんた」

真姫「へっ…?あ、にこ…ちゃん」

にこ「帰らないの?もう規定時間は過ぎたんだし…」

真姫「い、いいの…。今日は…居残って練習を見ていくわ」

真姫「雨だって、降ってるし」

にこ「…あっそう。好きにすればいいんじゃない」

にこ「じゃあね。…真姫」



真姫「…」




今日は…帰りたく、なかった。


絵里の家に泊めて、ってお願いしたけど、両親も妹も居るからお泊りはダメ、だって…。


休日の夜に、食事に来るくらいなら、いつでもいいわ、って言ってくれたけど…。


私は今日、帰りたくないの。


また、希先輩の顔を、見てしまうかも知れないから。


だから、特に見たくもない練習を見てから…、


外が、真っ暗の真っ暗になってから…、帰る。


今日はあいにくの雨だし、…いえ、絶好の雨日和だし。


夜遅くまで、寒い中雨に打たれるなんて…まずありえない。


そう、確信していた。


でも…、どうしてだろうか。


胸の奥、トゲじゃない、何かが。


高まっている感覚が、あるのは…。

学校の電気も全て消えた頃。


ようやく校門を出る。


まだ外には、雨が降っていた。




真姫「…あ」



しまった。


傘を、上に忘れてきてしまった。


取りに戻ろうかとも思ったが、教室へ続く道は閉じられているだろう。


仕方ない…。走って帰ろう。




真姫「…っ」ピチャピチャッ…




雨に顔を打たれながら、靴を水に濡らしながら走る。


ソックスにも水が染みて、足元がなんとも気持ち悪い。


息を切らせながら、全力で走っているのに。


冷たい雨は私の体温を無情にも奪ってゆく。




真姫「さっぶっ…!」



足が氷の彫像のようだ。


もはや、走る体力もなくなって、濡れることも気にせずにトボトボと歩く。


温かいお風呂に入って、今日はもう寝よう。


私の頭の中はもう、それしか考えていなかった。


いなかった、から。


もしかして有り得たかもしれない考えすら、忘れていた。






希「…おかえり」



真姫「…どうして」



東條希が、私の家の前に…いるかもしれないということを。

真姫「どうして…ここに…」

希「西木野さん、ずぶ濡れやん。傘は?」

真姫「わ、私の話を聞いてっ…」

希「身体濡らすと、風邪引くよ。ほら、うちの傘使い」サッ

真姫「…もう、家そこだから」

希「うん、そうやね。…ごめん、じゃあ今日はもう、うちは帰るわ」

希「温かくして、寝るんやよ?それじゃ…」


真姫「待って!!」


希「…」

真姫「なんでっ…、なんでなのっ…!!」

真姫「どうしてそこまで、するのよっ!!」

真姫「意味、わかんないわよぉっ…!」

真姫「寒いでしょ…。雨降ってるし…濡れるし…」

真姫「家の前、だし…なに、やってるの…」

真姫「もう…、なんなの…?」

真姫「何がっ…、なんでっ!?」



もう、言葉にならなかった。


彼女は私をどうしたいのだろうか。


彼女も、私を愛してくれるのだろうか。


けどそれは、同時に絵里から愛されなくなってしまうということで。


それを思うと、とても、嫌。嫌、なのに…。



ギュッ


真姫「っ…!」


希「…うちは、西木野さんに…」

希「西木野さんに、わかってほしいから」

希「誰か一人に、大きな愛をもらえることは…、幸せやない、ってことを」

希「そりゃまぁ…考え方によっては、それもアリかもしれないけどね」

希「でも、西木野さんに今、必要なのは…小さな小さな、愛なんよ」

希「みんなからの小さな愛を、大切な仲間からたっぷり貰う」

希「空っぽになった心の器を、最初に満たすやり方は…そうじゃないといけないんよ」

希「えりちからだけの愛情に頼ってたら…西木野さんはいつか、ダメになってしまう」

希「気づいてほしい。仲間と共に、愛を育む事の楽しさを。喜びを」

希「そんで、学校をね…アイドルを…好きになって欲しいんよ」

希「そのほうが…嫌いより、ずっと…いいやん」

温かい。


両の手で抱きしめられて。


全身が、彼女にすっぽりと収まって。


傘は道端に転げて、二人共冷たい雨に打たれているのに。


温かい…身体が、心が。


彼女の言葉は、姿は、途中から意識できなくなっていたけど。


何かが瓦解するように、目から大粒の雫がとめどなく溢れ出ていたから。


声を殺して、彼女の胸元を涙で濡らしてしまう。


こんな姿、見られたくなかった。


恥ずかしくて、みっともなくて。


アイドルが嫌になった春でさえ、誰かに涙は見せなかったのに。


だけど、不思議と、心地いい。


幼い頃を、思い出していた。


昔もこうして、ママの胸の中でよく、大泣きしていたっけ。


ママの胸が、優しく、温かく、私を包んでくれた。


その度に、強くなれた。


私の大粒の涙は、雨にかき消され。


彼女の服に、その跡が残ることは、なかった。




希「…西木野さん」

真姫「…ぅ、ぇ?」


急に声を掛けられ、驚く。

声がかすれて上手く返事ができなかった。


希「明日、またうちに会ってもいい、って思ってくれたなら…専攻の指導が終わったら、すぐ帰ってきて欲しい」

希「西木野さんに見せたいもの、あるから」

真姫「…」


声をだして、返事したかったけど。

なんか言えば、今度こそ泣き喘いでしまいそうだったし。

ただ、頷くことしかできず。

彼女に肩を抱えられたまま、私は自分の家の、玄関を開けた。

翌日 放課後

多目的ホール


真姫「くちっ!…ふぇ」


絵里「…大丈夫?風邪?」

真姫「平気…っくち!!」



流石に堪えた。


家までの道を雨に濡れながら走っていれば、風邪もひくというものだ。


でも不幸中の幸いというべきか、その風邪は鼻づまりとくしゃみくらいのもので、特にダルさがあるわけでもなく。


多分、明日には治っていることだろう。



真姫「…私より…、あっち、かな…」

絵里「あぁ…」



にこ「は、は…っ!」

にこ「はっくちゅんっ!!!」

凛「うわぁっ!!?飛沫かかった!」

にこ「うぇー…ごべんなざい…」

凛「センパイ…、休んだほうがいいよ…。凛たちにもうつされると困るし、ね?」

にこ「でも…」

穂乃果「…にこちゃん。今日は…もう帰ろ」

穂乃果「絵里さんだって、もうにこちゃんをそう簡単に下ろしたりできないし」

凛「そうそう!なんてったって凛たちはもはや次期A-RISEに決定しちゃったんだから!」

凛「撮影もレコーディングも始まってきてるのに、にこセンパイが数日休んだくらいじゃ何も変わらないって!」

にこ「そう、かしら…」

凛「うんうん!だから…お大事にしたほうがいいよ。さ、帰ろ?なんなら凛が付き合ってあげるにゃ」

にこ「…わかった。だけど一人で十分…、帰るわ…。ってアンタ…やけに今日は優しいじゃない…。気味悪い…」

凛「凛だって…センパイが体調悪かったら心配するよ…。…尊敬する先輩だもん」

にこ「へへ…言ってくれるじゃない…。ありがとね、凛…じゃあ、お先に失礼するわ…」トボトボ…

凛「風邪でなきゃこんなこと言わないんだからねー!ばいばいー!」



絵里「…はぁ。にこは風邪で欠席、か…。長くなりそうね」

真姫「そう、ね…」

絵里「体調不良は仕方ないとはいえ…あー、もう…これじゃあスケジュールが…」

真姫「…」

絵里「ごめんなさい真姫。私、穂乃果と凛とで明日以降の予定について話し合いたいから、今日はこれで…ね?」

真姫「…うん。お疲れ様…頑張ってね」

絵里「うん…」スタスタ…

彼女が忙しそうで、助かった。


この胸の内を、知られずに済みそうだから。


って、なに考えているんだろう、私…。


希先輩と会えるから、って…ワクワクしてちゃいけない…のに。



真姫「…ふふ」




…帰り道。


未だ乾ききっていない道路を、普段より軽い足並みで歩く。


心のトゲは、もう疼かない。


心の雨を流した際に、一緒に流れ落ちていってしまったのかもね。



希「…おかえり」


真姫「…ただいま」



いた。


今日も…、いてくれた。


いつもはもふもふしたダウンジャケットを羽織っている彼女だけど、今日はひざ下まであるコートだった。


あれじゃちょっと寒そう…、大丈夫かな。



真姫「…それで、見せたいもの…って?」

希「うん。それはね…」



そう言うと彼女はコートのボタンを一つずつ外してゆく。


…えぇっ!!?



真姫「え、ちょっ…!ま、まさかぁっ…!!」



希先輩はそういうプレイがお好み…!?


それを、私に見て欲しくてっ…!!?



真姫「あの、ちょっと…!私としてはやぶさかでもないんだけどでも心の準備というものがぁっ…!」



構わず彼女はコートを脱ぎ捨てる。



希「そりゃぁぁっ!!」バッ

真姫「ひゃあああぁぁあぁっ!!」

真姫「…え?」



コートの下から現れたのは、彼女の裸体などではなく。


可愛らしく、絢爛な、アイドルの衣装だった。



希「…ふふ。どう?似合ってるかな」

真姫「ぇ…あ、…そのっ…」



一瞬で、目を奪われた。


スラっと伸びた脚に、艶やかに括れた腰に。赤く火照った腕に、白く陶器のような首筋に。


そして、無邪気に笑う、彼女の笑顔に。


心すら、全てを持って行かれた気分だった。



真姫「…似合ってます。すごく」

希「ふふふっ…よかった。これ、無理言って大急ぎで作ってもらったんよ」

希「まだ完成品やないんやけど、どうしても西木野さんに見せたくて」

希「うちの初めてのアイドル着、かわいいでしょ?」

真姫「可愛いけど…ふふ、それが見せたくて、こんな夜にコート一枚でいたんですか?」

真姫「寒い…でしょ」

希「うん、さぶい。風邪引きそう」

真姫「最近風邪、流行ってるんだから、気をつけてくださいよ。…で、それだけですか?」

希「ん?…ふふ、実は…もう一つ」

真姫「もう一つ?」

希「おいで!」

真姫「えっ…」


ことり「どーんっ!!」

真姫「ふぁぁぁっ!!?」

花陽「捕まえた!」

真姫「ちょっ…!」

海未「今度は逃がしませんよ!」

真姫「えぇっ!?」


真姫☆「…アイドル応援部の前まで来て、逃げ出してもらったら」

真姫☆「みんなの応援部の名が廃るからね!」


真姫「あなた…」

希「今日はみんなで、西木野さんを誘いに来たんよ」

真姫「誘いに…って」

希「当然、アイドルにね」

花陽「C☆cute、入ろう!大歓迎だよ!!」

ことり「すっごく楽しいから!めっちゃくちゃ楽しいから!」

海未「練習は厳しいですけどね!」

真姫「あ、アイドルに…」

希「最悪…西木野さんがどうしても嫌、というのなら、アイドルでなくてもいい」

希「せやけど…みんなと友達になって欲しいんよ」

希「そんでね。もう二度と、学校が嫌い、アイドルが嫌い、なんて言って欲しくない」

希「西木野さんには、これからの人生を大いに楽しんでほしいんよ」

真姫「っ…」

真姫☆「あなたがアイドル専攻で何を見させられて、そしてどんな指導をさせられているか、私は興味もないけど」

真姫☆「でも、私たちの…笑顔のスクールアイドルを見ないまま、アイドルを嫌いだなんて言って欲しくないわ」

真姫☆「本物のアイドルっていうのはね、笑顔でいっぱいになれるアイドルなんだから」

真姫☆「笑顔、嫌いじゃないでしょ?」

真姫「ぁ…」



心奪われた、希先輩の笑顔。


それを嫌いだと言えるほど…、私の心は錆び付いてはいなかったみたいだ。



希「…アイドルでなくてもいい、って言ったけど」

花陽「今ならC☆cuteに加入するとこんないいことが!」

ことり「じゃじゃーん!これ見てこれ!!」バッ

真姫「これは…?」

真姫☆「私の…もとい、あなたの衣装よ。次のライブのための、ね」

海未「これを着て、踊れる権利を差し上げます!」

真姫「これを着て、踊る…」

花陽「さらに!ふふっ…、希さんと同じダンスを踊れる権利も!」

ことり「希ちゃんと同じステージに立てる権利も!」

海未「超のつく特等席で、希さんのライブを共に感じられる権利まで!」

真姫☆「…そのおまけとして、私たちがもれなくついてくるわ。もういいことばかりじゃない」

真姫☆「嫌とは、言わせないわよ?」

真姫「私が…アイ、ドル…?」

希「西木野さんが憧れた、アイドル」

希「ここに、あるんよ」

真姫「っ…!!」

真姫「わ、わたしで…いい、の…?」

真姫「わたしっ…なんか、でっ…!」

真姫☆「もちろん」

真姫☆「あなただからこそ、いいのよ」

真姫「っ!」

でもっ…。


心に一欠片、残ったトゲが、疼き始める。


私にアイドルを教えてくれた、彼女。


絢瀬、絵里。


彼女たちのスクールアイドルに入るということは、つまりアイドル専攻を裏切るということだ。


絵里の信頼を、裏切るということだ。


それは…。




真姫「…できない」


花陽「えっ…」

ことり「どうして…?」

真姫「絵里が…絵里先輩が、私を信じてくれているから」

海未「まだ、そんなことを…。彼女はあなたを利用しているだけなんですよ!」

真姫「そんなこと言って欲しくない!」

真姫「たとえ、あの愛情は偽物だったとしても…」

真姫「アイドルを私に教えてくれた優しさと、指導を私に任せてくれた想いは…信じてるから」

真姫「だから、私…まだ…」

希「…西木野さん…」

真姫☆「まぁ…、そうでしょうね。例えここで私たちが、彼女の思惑を語ったところであなたは信じられないでしょう」

真姫☆「絵里自身の口から、あなたに対する本心を聞き出すまでは」

真姫「そんなこと…できるの?」

真姫☆「できるわ」

真姫「えっ…!?」

希「…明日の、放課後。うちらに作戦がある」

希「その時に、えりちの本心を聞き出すつもりや」

真姫☆「その時間、アイドル専攻に訪れる前に…応援部に来て欲しい」

真姫☆「そこで…、作戦を決行するから」

真姫「…」ゴクリッ

翌日 朝

UTX学院ロッカー前


絵里「…」


絵里「なにこれ…」

絵里「ロッカー開けたら手紙入ってた…」

絵里「…ら、ラブレター?まさかこんな前時代的な…」

絵里「ま、まぁ嫌いじゃないけどね…。っと、誰にも見つからないように…」コソコソ

絵里「えーっと、なになに…」

絵里「『今日の放課後、話したいことがあります。音楽室の前で待ってます。一人で来てください』」

絵里「…『東條希』」

絵里「…」


ポチポチ

プルルルル…


希『はい、もしもし』

絵里「この手紙を入れたのはあなた?」

希『あ、読んでくれたんやね。読まずに捨てられるかと思ってちょっと心配やったけど』

絵里「…ラブレター、ではないのよね?」

希『当たり前やん。真剣な話し合い…やよ』

絵里「…はぁ」

絵里「ちょっぴりガッカリだわ。でも、今度はそっちから話したい、なんてね…」

絵里「ふふ、いいわよ。今日の放課後…アイドル専攻が始まる前、でいいのかしら?」

希『…うん。一人で来てね』

絵里「わかった。遅れずに来るのよ」

希『わかってる』


プツッ… ツーツー


絵里「…何を考えてるのかしらね」

~回想~


4日前 日曜日 夜

希の家


ガチャッ


希「…ただいま」


真姫☆「お帰りなさい、希」

凛「おかえりにゃ。ささ、お風呂温めてるよ!」

希「ん、ありがとう凛ちゃん。早速…入らせてもらうわ」



希「…ふー。あったまるねー…」

真姫☆「もう冷え込んできているってのに、よく外で人の帰りを待つ、なんてできるわね」

凛「風邪ひいちゃうよ?」

希「うん、ちょっと心配やけど…大丈夫大丈夫!いうてまだ11月やし、厚着もしてるんやもん!」

真姫☆「でも…、他に方法はないわけ?家の前で待ち伏せ、なんて、一歩間違えば逆に嫌われるわよ」

希「あー…、かもね」

凛「もし凛の家の前に知らない人が毎日いるって考えたら…、うぅっ…鳥肌ものだよ」

希「でも、うちは西木野さんにとって知らない人やないし…それにうち、不器用やから」

希「顔を突き合わせて話し合うことしか、今までやって来なかった」

希「それで今までダメ、やってんけど…けど、この方法が間違ってるとは思ってないもん」

希「足りなかったのは、うちのホンキ。ダメだって諦めずに、やり抜き通す心」

希「本心で向き合えば、いつか西木野さんの心も、開いてくれるって信じてるから」

凛「家の前以外はないの?ちょっと怖いにゃ」

希「うーん…、うちがどこそこに来て、なんて言っても聞いてもらえないやろうし」

希「唯一二人きりで話せる場所って考えると、自然とね」

真姫☆「…希が正しいと思っていることを私たちがとやかく口出しすべきじゃないわ」

真姫☆「これは、希の夢なんだもの」

希「…うん。ありがと、真姫ちゃん」

真姫☆「えぇ。…問題は、あっちの私が心開いてからよ」

真姫☆「絵里に対しての依存心。これをどうにかしないと…、完全にあっちの私を勧誘するのは難しいでしょう」

真姫☆「これの対策も、考えておかないと」

希「対策、かぁ…。うちが考えてるのは、えりちが西木野さんをアイドル専攻に誘った本当の気持ちを、直接本人に言ってくれればいいんやけど…」

凛「そっちの絵里ちゃんがどんな人かは知らないけど、後ろめたい気持ちがあるならそんなこと本人に言ったりなんてしないじゃないかなぁ…?」

希「せや、よね…。まさか本当に西木野さんをただただ信頼してくれて、なんてこと…」

真姫☆「…絵里に限って、それはないわよね。彼女、バックダンサーズのことすら自分の夢を叶える道具、くらいにしか思ってなさそう」

真姫☆「人を信じる、って心を完全に無くしちゃってるのよ、アイツは」

希「…そう、やね。多分えりちは、西木野さんが自分にとって都合がいいから指導補佐、っていう役職に就かせたはず…」

希「何とかしてそれを吐かせられたら…、あれ?凛ちゃん、どこいったん?いつの間にか消えてるけど…」

真姫☆「アイツならさっき自分の部屋で飛行エンジンの製作に戻ってたわ。なんかいいアイデアが浮かんだんですって」

希「えぇ…なにそれ。凛ちゃんそんなんまで自作してるん…?すごいね…」

希「…アイデア、かぁ。うちにもいいアイデアが浮かべば、なぁ…」

現在

UTX学院 食堂


絵里「…話、ねぇ」

絵里「もぐもぐ…」


絵里(…まぁ、なんの話、かなんて大方見当がついている)

絵里(西木野真姫のことでしょうね)

絵里(彼女のことを…私の口から色々と聞き出したいのでしょう)

絵里(でも、希は二人きりで、って言っていた)

絵里(私と二人きりで話して、何かを聞き出したとして)

絵里(それを口頭で真姫に話しても、それは伝聞でしかない)

絵里(彼女に伝聞での情報を聞かせて、それで信用させられるならわざわざ私に話を聞きに来るなんて真似…しないはず)

絵里(だとしたら希はどうして…)


ポンッ


絵里「…ん?」


穂乃果「どうしたんですか。珍しく難しそうな顔して」

絵里「あぁ…穂乃果。あなたに肩なんて叩かれたの、初めてじゃない?ビックリしたわ」

穂乃果「私だって、フランクな接し方くらいしますよ。…で、何かあったんですか?」

絵里「ん?うぅん…、なんでも。少し考え事をね」

穂乃果「あぁ…最近忙しいですもんね。スケジュール、こっちも大変ですけど、絵里さんだって大変でしょ?」

絵里「えぇ…。ホント、多忙だわ。卒業後もあなたたちの力を保つ必要があるしね」

絵里「そのための引き継ぎにも手を焼いて…、忙しくて堪らないわ」

絵里「…むしろ、私がいなくなったあとからが、本番なんだから」

穂乃果「はい?」

絵里「うん?あぁ…A-RISEのこと。いなくなった後でも変わらない体制でいてくれないとね」

絵里「誰よりも強いスクールアイドルが、私のモットーなんだから」

穂乃果「誰よりも、強い…。絵里さんはA-RISEにそれを求めている、と?」

絵里「えぇ。それ以外は考えられない。…昔から、そう言われて育てられてきたから」

穂乃果「…」

絵里「…あぁっと、ごめんなさい。ちょっと語りすぎちゃったかしら」

絵里「じゃあ私はこれで失礼するわね」

穂乃果「あぁ…もう行っちゃうんですか?まだ私ご飯に一口も手をつけてないのに…」

絵里「一人の方が集中できるから」

穂乃果「…そうですか。でも、何か大事そうな話ならもっと話してくれても良かったのに」

穂乃果「そうすれば携帯で録音して、いつかの切り札にでもできたんですけどね」

絵里「ふふ…、怖いこと言うわね。けど、そんな簡単に尻尾は出さないわ」

絵里「別に聞かれて困る話でもないし…。それじゃ、また放課後にね」

穂乃果「…はい、また。…」モグモグ



絵里「…」

絵里「…ふふふ、あぁ、そういうこと…」

~回想~



3日前 月曜日 夜

希の家


ガチャッ


希「…ただいま」


真姫☆「おかえり。もう…、こんな夜にまで…」

凛「明日、雨って天気予報で言ってたよ?一日だけだけど、結構激しいらしいにゃ」

凛「それでも…明日も行く気なの?」

希「もちろんやよ。明日だって、明後日だって…西木野さんがうちに心を開いてくれるまで…」

希「うぅっ…!」ブルルッ

真姫☆「やっぱり寒いんじゃない。さ、今日もお風呂沸かしてあるから、ちゃっちゃと入っちゃいなさい」

希「うん…」



希「…ふぃー…。あったまるなぁ…」


真姫☆「あぁ、希。お風呂上がったのね」

希「うん…。それはいいとして…」

希「凛ちゃん、その…机の上に置かれたたっぷりのゴミの山は?」

凛「ゴミなんて失礼だよ!これは宝の山なんだから!」

希「た、宝…?」

凛「今日のお昼に秋葉原まで行って買い込んできたジャンクパーツ!」

凛「これらを組み合わせてなんとか飛行エンジンを組み立てようと必死なのにゃ」

希「ジャンクパーツって…パソコンとかの部品でしょ?そんなんで…え、エンジンができるものなん?」

真姫☆「…まぁ、この子はやろうと思えばなんだって作れる天才っ子だから。いつの間にか」

凛「ふふふ…、ヤバいお薬だって市販の薬剤で作れるのだよ…。流石にチートすぎるからこの世界じゃ作らないけどね!」

希「ヤバ…?あぁ…、まぁいいけど。ちゃんと片付けるんやよ?」

凛「わかってるにゃー。えーっと、これとこれをくっつけると…うん、いい感じにゃ!」

希「…」

真姫☆「しかし買い込むって…、ジャンクパーツといえどもお金がかかるんだからね?無駄遣いはしちゃダメよ」

凛「わかってるって!凛の脳内にはちゃんとした設計図が…」

希「ねぇ凛ちゃん」

凛「にゃ?どうしたの?」

希「凛ちゃんは…作ろうと思えばなんでも作れる、って言ったよね…?」

凛「ま、まぁ…時を超える機械は凛でも結構難しいんだけど、大抵の物なら割とできるよ」

真姫☆「それでも十分チートよね」

希「じゃあさ、例えば…」



希「…盗聴器、って、作れる?」

凛「と、盗聴器…?何に使うの?」

希「いいから。作れるかどうか、聞いてるんよ」

凛「え…、つ、作れるにゃ。現に真姫ちゃんの部屋には…おっと、内緒だったわこれ」

真姫☆「いやもう知ってるけどね。…って、もしかして希…」

希「…うん」

希「えりちが直接西木野さんに本心を語る必要はない」

希「肉声であれば、十分な証拠足り得るはず。だから…」

希「うちが一対一で話し合って、えりちの本心を聞き出す」

希「うちの身体に、盗聴器をつけて…!」

真姫☆「っ…!」

凛「な、なるほどなー!それをあっちの真姫ちゃんに聞かせて、絵里ちゃんへの信頼を払う作戦ってことかにゃ!?」

希「…うん。一回携帯電話や無線機で、って言うんも考えたりはしたけど…肉声を鮮明に聞き取らせるには相当声を近くにしないといけない」

希「それに、大きさだってそこそこあるから、バレやすいはず…」

希「でも、小型の盗聴器を身体に仕込んでおいたら、外見じゃわからへんと思うんよ!」

真姫☆「確かに…。私たちに用意できそうな無線機器じゃ、大きさに限界があるけど…。凛が作る盗聴器なら…」

希「どんくらいちっさくできる?」

凛「え?えーっとねー…そうだねー…」

凛「最小で100円玉くらい?」

希「ちっさ!」

真姫☆「そのサイズなら身体に仕込んでおいてもバレはしないでしょうね」

希「それって、遠くの距離でも聞き取ることできる?」

凛「実験してみた中だと、ぬいぐるみやお布団の中に仕込んでいても数メートル範囲の物音ならハッキリ拾うことが可能なはず…にゃ」

真姫☆「どこで実験されたか非常に不安ね…」

希「で、でもっ…それなら身体の外に出しておく必要もない!服の中や鞄の中に入れておいて盗聴することだってできるやん!」

希「これや!これしかないっ…!これならえりちの声を盗むことが…できるっ…!」

真姫☆「…」

希「凛ちゃんお願い!この作戦を決行に移すことができるのがいつになるかはわからんけど…」

希「その盗聴器…エンジンの合間でいいから作っといてくれる?」

凛「うん!合間とは言わず集中して作ってみるね!」

凛「凛に任せてくれれば盗聴器なんてあっとゆう間の朝飯パクパクにゃ!」

真姫☆「最近好きねそれ」

希「よぉしっ!断然燃えてきたやんっ!」

希「雨やろうが槍やろうが…、今のうちならなんでも跳ね返せる気がする!」

凛「お、おぉ…、希ちゃんがすごいオーラに包まれているにゃ…」

真姫☆「でも体調は気をつけて欲しいところね…

二日前 火曜日 放課後

UTX学院 音楽室


ザー… ザー…


海未「…雨、止みませんね」

花陽「こんな日にも、真姫ちゃんを待ち伏せする気なんですか…?」

希「…うん、そのつもり」

ことり「自分の身体も、大切にしてね…?」

ことり「ほら、希ちゃん部長の衣装、超大急ぎで仕上げてるんだもん!」

ことり「明日までには完成できるかもしれないし、それで身体壊しちゃったら着れないんですよ?」

希「ふふ…ありがと、ことりちゃん。海未ちゃんも、花陽ちゃんも心配してくれて」

希「けどうち、今は燃えてるから!だから雨の冷たさもへっちゃらやん!」

ぱなことうみ「…」

希「もう…、そんな目で見んといてよ」

希「大丈夫。濡れないように傘も用意してるし。寒さ対策にカイロだってあるし」

希「みんなに迷惑かけないようには、心がけてるつもりやよ」

海未「…わかりました。希さんの覚悟も相当なものなのでしょう」

海未「今からは素直に、応援します。私たちの気持ちも、あっちの真姫にぶつけてきてくださいね」

希「…うん」

花陽「もうひとりの真姫ちゃんとも、私お友達になりたいから…部長!」

花陽「お願いしますっ!」

希「任せて!」

ことり「明日、この服…真姫ちゃんに見せてあげよう?」

ことり「そしたら、希ちゃん部長の可愛さに胸キュンで、真姫ちゃんもコロッとC☆cuteに入りたくなっちゃうよ!」

希「かもしれんね!…うん、明日、見せたげられるように…頑張ってくる!」



練習終わり

帰り道


花陽「今頃希さん、家の前で待ってるの、かな…」

海未「もう真姫と話している頃でしょうか…。うまくいけば良いのですが」

ことり「…でも、ふふ、無茶で無鉄砲なこの感じ、真姫ちゃんっぽいよね」

花陽「そうだねー…。希さんも真姫ちゃんに影響されちゃったのかな?」

海未「真姫でももう少し自分の身体に気を遣いそうなものですけどね。むしろこの感じは…」

ことり「…中学までの穂乃果ちゃんっぽい?」

海未「…かも、しれませんね」

花陽「穂乃果さん、こんな感じ、だったんですね。想像もつかないや…」

海未「今の私ですら、ちょっと想像がつきません。穂乃果が、今更こんなふうになってくれるか、なんて…」

ことり「…でも、それが私の夢なんだよ。穂乃果ちゃんと…やり直すんだ。あの頃を」

ことり「また…友達になるんだよ」

海未「…えぇ、それもいつか…叶えたい夢ですね」

その夜

希の家


真姫☆「…」

凛「…」


真姫☆「…」ススッ

凛「ダメだよ、真姫ちゃん」

真姫☆「…わかってるわ。連絡はダメ…。希を信じてるんだから」

真姫☆「それにしたって、今日は遅すぎ…」


ガチャッ


真姫☆「っ!の、希っ!!」


希「…」


真姫☆「び、ビショビショじゃないっ!それにっ…」

真姫☆「うっ、身体冷たい…。一体どれくらい外で待ちぼうけてたのよ…ホント、バカなんだから…!」

凛「け、結局真姫ちゃんと話せなかった、とかじゃない…よね?」

希「うぅん…それは、大丈夫…。西木野さん、帰るん遅かったけど…今度こそ、ちゃんと話せた」

希「多分…西木野さんの心を…こじ開けられた、気がする…」

希「だから、あとは…あとは…」

真姫☆「絵里からの、解放、よね」

真姫☆「安心して。盗聴器は完成したわ。これを身につけて絵里の本心を聞き出せれば…」

希「うん、ようやっと…うちは…」

希「うっ…」ガクッ

凛「の、希ちゃんっ!!」

真姫☆「…大丈夫、気を失ってるだけみたい。熱もないみたいだし…」

真姫☆「相当疲れが溜まってたのね。凛、服脱がせるの手伝って」

凛「おぉ…寝入りを襲うってやつですか…」

真姫☆「こんな時までふざけんじゃないの。着替えさせるのよ」

凛「わかってるわかってる。じゃ、まずは奥まで運んで…っと」



希「…すぅ、すぅ」


真姫☆「本当なら、お風呂に入れてあげないとなんだけど、もう今日は起きそうにないわね」

凛「…だね。お布団はいい感じに温めておいたから寒いってことはないと思うんだけど」

真姫☆「彼女もホンキだして、ここまでやったんだから…」

凛「凛たちも、だよね」

真姫☆「…えぇ。この作戦を、失敗させるわけにはいかないんだから」

真姫☆「希、今は…静かに眠っていてね」

現在

木曜日 放課後

UTX学院 音楽室前


希「…」ゴクリッ


希(盗聴器はちゃんと仕掛けた。今、西木野さんは応援部の部室にいるはず…)

希(ここからのうちとえりちの会話を、聞いてくれる予定や…)

希(もしえりちの会話にやましい要素が見受けられなかった場合…西木野さんがうちらに加わることはない)

希(…最悪、それでもいい。今の西木野さんなら、花陽ちゃんたちとも、ちゃんと友達になってくれるはずやから)

希(けど…えりちがただ信頼して、ってだけなはずない。いつか西木野さんに…)

希(それだけは避けたい。だから、ここでえりちの本心をなんとしても聞き出すんや)

希(絶対に…!)


スタスタ…


希「っ!足音…」

希(来たっ…!!)



絵里「…」


希「えりちっ…、えっ…!」



取り巻きA「…」

取り巻きB「…」

絵里「…ふふ、待たせちゃったかしら?」


希「…うちは、一人で来て、って言ったはずやけど」

希「誰なん、その後ろの二人は」

絵里「私の信頼できる後輩たちよ、可愛いでしょう?」

希「そんなん聞いてないよ!約束を破る気!?」

絵里「…そんなこと、言っていいのかしら?」

希「ど、どういう意味やよ…。約束違反はそっち…」

絵里「違うわ」

絵里「あなたこそ、反則よ」

希「えっ…」



絵里「盗聴器を、外しなさい」

希「っ…!!」

希「な、何をっ…!」


絵里「ふふ、あなたってば本当にわかりやすい」

絵里「心のうちが、手に取るようにわかる」

絵里「今だって、焦りが顔に浮かびすぎよ。心臓の音だって、聞こえてきそうなくらい」

希「…っ、盗聴器、なんて、うちは…」

絵里「行って」

取り巻きA・B「はい」

希「きゃっ…!なにす…」ゴソゴソ…

取り巻きA「…これかな」

取り巻きB「ありました」スッ

絵里「…ふぅん、これが…」

希「っ…!そ、それは違っ…」

絵里「…知らない」グシャッ

希「っ…!」

絵里「ひとつだけとも限らないわ。くまなく捜しなさい」

取り巻きA・B「了解しました」


ゴソゴソ…


希「んんっ…!ん、あぁっ…!そこはっ…!」



絵里「あなたが私を話し合いに誘い出したことに、なんの疑問も持たないと思った?」

絵里「あなたが今更、私の心境を聞いたところで…思い出したくもない記憶を引きずるくらいにしかならない」

絵里「じゃあやはり、あなたには何かしらの秘策があるんでしょう、と」

絵里「誰もが考えそうなことよね。盗聴、なんて」

絵里「私なんかには、お見通し。まさかこんな…精密なものを用意してくるとは驚きだけど」



取り巻きA「もう一つ、ありました」

希「っ…くそぉっ…!」

取り巻きB「これは…?」

希「そ、それはただのキーホルダーやからっ…」



絵里「…もう面倒だわ。希、衣服を全て脱ぎなさい」

希「なっ…!」

絵里「別に、全裸で話し合いをしましょうなんて考えてないわ」

絵里「こっちで用意したジャージと下着に着替えてくれればいい」

絵里「鞄も、話し合いが終わるまでこちらで預からせてもらうわ」

絵里「この音楽室で、っていうのも怪しいわね。もしかしたらこの部屋の壁にも仕掛けられてるかも」

絵里「普段使用されてない教室の鍵を借りてきたわ。ここなら…誰にも邪魔されない。盗聴器にも、ね」

絵里「あぁ…真姫?まだ聞こえているなら…早くアイドル専攻に戻ることね。無音の盗聴器に耳をすませるなんて、時間の無駄だから」


希「…っ」

希(…終わった)

空き教室


希「…」


絵里「…流石に、身体の中までは調べてないけど、大丈夫よね?」

絵里「そこまではしてない、って勝手に信じてるけど…やっていい?」

希「…やらなくていい」

絵里「えぇ、いいわ。信用してあげる」

希「…」

絵里「さぁ希。早速お話しましょう」

絵里「何からする?私、今日この時間をずっと楽しみにしていたのよ」

絵里「久しぶりに希と二人きりで色々なことをお喋りできる、って」

希「…」

絵里「去年の冬頃…、アイドル応援部が崩壊するちょっと前から、仲違いしちゃったものね」

絵里「私は私の本心とやり方を語っただけだったのに、思いっきりビンタされちゃって…」

絵里「私、とてもショックだった。希とは仲良くしたかったのに…」

絵里「うぅん、今でも仲良くしたい。だから希。話しましょう」

絵里「そうね、まずは…今、どんな気持ち?」

希「っ…!」

絵里「悔しい?うまくいく、って思っていた作戦を見破られてしまって」

絵里「居たくもない人とこれから無駄におしゃべりに興じないといけなくなって」

絵里「でも呼び出したのはあなたなのよ?真剣な話があるから、だなんて」

絵里「私はアイドル専攻の指導を押してでもあなたに会いに来たっていうのに…」

絵里「なのにあなたは何も話さないの?…ふふ、でも、それでも構わないわ」

絵里「そういえば…盗聴器なんて持ち込んだことに対する謝罪をまだしてもらってないわね」

絵里「そうねぇ…。希、あなたが私の靴に口づけでもしてくれたら、許してあげてもいいけど」

希「なっ…、え、えりちっ…!!」

絵里「…さぁ、するの?しないのなら、あの盗聴器…学校側に提出してもいいんだけど」

絵里「もう片方はまだ壊さずに取っておいてあるし…立場がどうなるか、あなたでもわかるわよね?」

希「…」

希「…わかった。やる…」

絵里「…えぇ、どうぞ」スッ…

希「う、うっ…!」

希「…っ!!」ソーッ…


絵里「…なんてね、冗談よ」サッ

希「えっ…」

絵里「私があなたに対して、そんなことするわけないじゃない。提出もしない」

絵里「ふふ、驚いた?」

希「…軽蔑しそうになったわ」

絵里「そう。…まだ、してなかったんだ」

希「いや、もっと…しそうにね」

絵里「ふふ…、されなくてよかった」

絵里「ねぇ、希」

希「…何」

絵里「もう一度…お友達にならない?」

希「えっ…」

絵里「もう私だってあなただって、卒業するんだし、一度過去のことは清算して、…ね?」

絵里「正直ね。こんなことになってしまったのは、私も少し反省してたりするの」

絵里「あの頃は一番正しいと思ったやり方をやったけど、でも…多くの人に対して悪いこと、しちゃったな、とも思ってる」

絵里「でも、結果を残したかった…!誰もが憧れるアイドルを…、私の…うぅん、私たちアイドル応援部の手で成し遂げたかったの!」

絵里「いい方法とは言えなかったかもしれない…。結果的に、仲違いしてしまったわけだし、ね…」

絵里「けど、私の気持ちもわかって…。私だって、必死だったんだもの…」

絵里「こんなやり方を今まで続けてしまったのも、他に方法が思いつかなかったから…」

絵里「こうしないと強くなれないなら、やり方を維持するしかないじゃない…」

希「えり、ち…」

絵里「…今は許してくれなくてもいいわ。ひどい女だって思ってくれても、構わない」

絵里「だけど…せめて卒業したら…もう一度、お友達になりたいのよ」

絵里「私…希のこと、好きだから…」

希「…」

絵里「希…」スッ

希「…ぁ」

絵里「握手、してくれる?」

絵里「今は…それだけでも嬉しい、から」

希「…えりち」


希(…えりちと、もう一度友達に…)

希(卒業したら、うちは…)

希(…アイドル応援部のみんなと、C☆cuteとお別れすることになる)

希(でも…えりちなら…)

希(卒業後も…)

希(とも、だち、に…)

希(ひとりぼっちじゃ…ない…)



希「…」スッ…

絵里「ふふっ…」




(本当に誰かの心を癒したいと思っている人は…諦めない人だから)




希「っ!」


パシィィンッ!!



絵里「…これは、どういうことかしら」


希「…うちは、諦めない」

希「そんな甘い誘惑に、乗るわけには…いかんのよっ!!」

希「…そうやって、数々の人の心を騙してきたんやね、えりちは」

絵里「騙してなんかいないわ。本心よ」

絵里「少なくとも、あなたと友達になりたいのは…ね」

希「じゃあ他は嘘、ってことやね…!」

絵里「…ふんっ。可愛げがないのね、希」

希「結構や!」

希「…うちにだけでも教えてもらおうか。西木野さんをアイドル専攻に誘った理由を」

絵里「まだ言ってるの?あなただけが知ったところで無駄でしょうに…」

希「それでもや!えりちの…どす黒い本性を…、表に出しておきたいんよ」

希「もう誰も、騙されたりしないように…!」

絵里「ひどい言われようね。言うに事欠いて、どす黒いだなんて」

絵里「私が真姫を誘った理由?あの子に才能があったからに決まってるじゃない」

希「…あぁ、そうやろうね」

絵里「あら、意外とすんなり納得するのね」

希「でも、それだけなはずがない」

絵里「…」

希「えりちは才能を…才能が枯渇し、燃え尽きる様を見させて、他の才能を育てようとしている」

希「にこっちの時やって、そうやったやん!!」

絵里「…そんなつもりじゃなかったんだけど」

希「…自分が、昔そう言ったんやないか」

希「忘れたとは、言わさんよ」

絵里「…」

絵里「…はぁ。いいわよ。仮に、仮ににこのそれが私のやり方の一環だったとして」

絵里「真姫は指導役なのよ?特に厳しい練習なんてしていない。誰かに追いつかないと、なんて焦りもない」

絵里「どうしてそれで才能が枯れる、って言うのよ」

希「…焦りがない?それは、違う」

絵里「えっ…」

希「えりちが卒業した後…西木野さんはえりちの後を継ぐことになる」

希「そこで、えりちと同じ働きを、期待されることになる」

希「えりちに追いつかなければ、っていう焦りは、絶対的に持つことになるっ…!!」

希「今えりちが言った、焦りを持つこと…!それが、才能の枯渇に繋がると認めるのならばっ…!」

希「やはり西木野さんは、えりちの…非道な教育の…、教材として取り入れられたんと、違うんかっ!!」

絵里「…っ、のぞ、み…」

絵里「…ふ」

絵里「ふふふふふっ…あはははははっ…」

絵里「アハハハハハハハハ!!」

希「なっ…、何がおかしいんよ!」

絵里「…ふふ、希…」

絵里「あなたも…わかってきたじゃない」

希「ッ!なら、やっぱりっ…」

絵里「…そう。真姫は…更なる才能を伸ばすための、起爆剤に過ぎないわ」

絵里「そうね…爆薬に例えるならば…さしずめ時限爆弾といったところかしらね」

希「時限、爆弾…?」



絵里「真姫の才能は確かなもの。私から直々に指導を任されたという責任も、大きい」

絵里「けれど、今のやり方をずっと続けていたら…いつか、反感を持つ人が現れるわ」

絵里「こんな方法で、アイドルになれるはずがないと気づく人間が出てくる」

絵里「そうなると真姫は焦っちゃう。自分に歯向かう人間に対する術を持ち合わせていないから」

絵里「今は私という権力を振りかざすことだけでなんとかなるけれど、私が卒業してからはそうはいかない」

絵里「十数人がアイドル専攻からの反逆を考えれば、真姫の体制はあっという間に崩壊する」

絵里「そして、真に私の思想を受け継いだ誰かが、また私のやり方でアイドル専攻を始めてくれる」

絵里「見せかけの改革。その中で本当に強いものと弱いものが、振り分けられることでしょう」

絵里「体制に疑問を持ち、新たな場所を築こうとするものが強者。専攻が絶対のものだと思い込み、変わることを拒むものが弱者」

絵里「真姫には、その振り分けのための傀儡になってもらうのよ。…そして、体制とともに、彼女にも崩壊してもらう」

絵里「そうすることで、真姫の才能を糧として、新たな才能が育ってゆく…」

絵里「私のいないところで、私の指導が進んでゆく。だからこその、時限爆弾」

絵里「それが、私の計画」

希「…っ」

絵里「…はい、話してあげたわ」

絵里「どう?面白いでしょ」

希「お、お前っ…!!」

絵里「…ひどいわ、お前、だなんて。あなたが知りたかったから教えてあげたのに」

絵里「でも、あなたには何もできない。これから真姫に…もっと深い愛情を与えないとね」

絵里「私、ちょっと真姫のこと、遠慮しちゃってたから。今度は奥深くまで…侵略してあげるの」

絵里「私以外のこと、信じられないくらいにね」

希「まっ…、待てっ!!!」

絵里「無駄。あなたの声は誰にも届かない」

絵里「この計画を知るのは、私とあなただけ」

絵里「真姫には、あなたの声すら聞きたくなくなるくらい、滅茶苦茶にしてあげないと」

絵里「ふふ…、全部あなたのせいなんだからね?」

絵里「あなたが知らなければ、真姫も壊れずに済んだのに…」

希「ちょっ、何をっ…!!やめてっ!!西木野さんにっ…手を出すなぁっ!!」


ガッ!!


絵里「う、ぐぅっ…!!がっ…の、希っ…!!」

希「そんなこと、うちがさせへんっ!!力ずくでもえりちを止めてっ…!」グググ…!!

絵里「た、助けっ…!がっ…、ぁ…!!」ポチッ…


ブー!!


ガララッ!!


取り巻きA「え、絵里さんっ!」

取り巻きB「貴様、何をっ!!」


ガシッ!!


希「は、離せっ…!!こらぁっ!!えりちっ…!えりちぃぃっ!!」

絵里「が、はぁっ…!はぁっ…!ふぅ…いざという時のために外部に知らせられるブザーを用意しておいて良かったわね…」

絵里「…本当にあなたに、殺されるかと思ったわよ」

絵里「無様ね、希。諦めが悪い女は嫌いよ。…それじゃあね」

希「待っ…!おいっ!!やめっ…」

絵里「やめない、待たない」

絵里「さようなら、希」

絵里「もうあなたと友達になれないのは寂しいけど、それも仕方ないわね」

絵里「哀れな、負け犬さん」


ガチャッ… バタンッ


希「…っ」

希「く、そっ…」

音楽室前


取り巻きA「これ、衣服と鞄です。どうぞ」

希「…ありがと」


希「…」キガエキガエ…


希(えりちの本心は聞き出せた。うちの思っていたより、ずっと汚いものだった)

希(でも…、ただただ虚しいだけ)

希(こんなこと知ったとて、うちの心が痛ましいだけ、だった)

希(盗聴がバレた時点で、西木野さんがアイドル専攻に戻っていることだろう)

希(盗聴器が取り外された時の命令で、えりちへの依存心を揺り動かされた可能性も高い)

希(信頼関係を守ろうとするならば当然…西木野さんはもう、部室には…)

希(今からこのことを西木野さんに伝えようとしたとて、…何もかも遅すぎる)

希(もう、えりちに…何をされているかすら…考えたくない)

希(せっかく出来たアイドル応援部の友達の声すらも、届かなくなるよう、侵されてしまうかもしれない)

希(…うちは結局、誰も…誰も救えないまま、終わってしまった)

希(もう…うちに…アイドルをやる資格すら…)


ブルルル… ブルルル…


希「…ん?携帯が震えてる…電話かな…?」

希「誰から、やろうか…。あ、真姫ちゃん…」


希(…何も聞こえないことを心配してかけてきたのだろうか)

希(鞄を取られて、今まで返事できなかったから)

希(あまり出たい気分ではなかったけど…そうもいかないし)


ピッ

希「…もしもし」


『もしもし、希?あの…』


希「ゴメン真姫ちゃんっ!!うち、うち…もう、そっちに西木野さん、おらんよね…?」

希「うちのせいや…うちが、甘かったから…だからっ…」


『落ち着いて聞いて、希』




『作戦は、成功したわ』



希「…えっ?」






多目的ホール前


絵里「…ふぅ、えらく遅れてしまったわね」

絵里「もう真姫が始めてる頃かしら?私も早く行かないと…」


真姫「…」


絵里「…あら?真姫…、どうしたの?指導は?」

絵里「それとも、もう休憩…」




真姫「今まで、ありがとうございました」

真姫「…私、指導補佐…やめます。さよならっ…!!」ダダッ




絵里「…」

絵里「…え?」

絵里「…どう、して」

絵里「まさかっ…、まだ、盗聴器が…?」

絵里「そんなはずはっ…!だって希の衣服は全て取り払った!鞄も、場所だって変えた…!」

絵里「本当に体内に…?いえ、そこまでするわけっ…」

絵里「じゃあどこに…?」

絵里「希じゃ、ないなら…教室でもないなら…」

絵里「…」



絵里「…私?」



絵里「そ、そんなっ…!だって、私、今日…アイドル応援部の子たちに会ったりなんて…」

絵里「鞄だって、衣服だって、彼女たちに何かを仕掛けられるタイミングなんてなかったはずっ…!」

絵里「誰かに身体を触られたことだって…」


絵里「っ!!!」

絵里「…ある」

絵里「一度、だけ…。応援部でも…一年生でも、ないけど」

絵里「あの、時…」



(「あなたに肩なんて叩かれたの、初めてじゃない?ビックリしたわ」)



絵里「あの時っ…、私の肩に触れた、のはっ…!!」



(穂乃果「私だって、フランクな接し方くらいしますよ」)




絵里「穂乃、果っ…!!!」








真姫☆「絵里、あなたは人の心を読むのが得意なようね」

真姫☆「それが希でも、あっちの私でも」

真姫☆「だとするなら…あなたが道具のようにしか考えていない人なら?」

真姫☆「あなたが、あなたに従順だと思い込んでいる人間なら?」

真姫☆「一手、遅かったわね。絵里」

真姫☆「哀れな、負け犬さん」

~回想~



作戦決行の2日前 火曜日 夜

希の家


ザー…


真姫☆「…希、遅いわね」

凛「もういつもなら帰ってきててもいい時間、なのにね…」

真姫☆「こんな雨の中いつまでも外に居たら…希のほうが参っちゃうわよ」

凛「そだね…。迎えに行く?」

真姫☆「…そうしたいのはやまやまなんだけど」

真姫☆「けど、希がしたい、って思ってることを私たちの判断で止めてしまうのは避けたいのよね」

真姫☆「案外、捨て鉢になりかけてる時のがいい結果を残せたりするものよ」

凛「捨て鉢になっちゃいけないんじゃ…。希ちゃんこれからもアイドルやるんでしょ?」

真姫☆「…そうなんだけどね。まぁ、今はまだ、ってことよ。それより…」

真姫☆「私にはもう一つ、不安要素があるの」

凛「不安要素?なんの話?」

真姫☆「昨日の盗聴云々の話よ。凛、盗聴器はもう出来たの?」

凛「うん、ちゃっちゃと完成させたにゃ」

真姫☆「見せて」

凛「ほい」

真姫☆「…本当に小型ね。これ自体の性能はいいんでしょうけど」

真姫☆「でもこれじゃ…」

凛「え?何かこれにいけないことでもあるの?…あ、実は…」

真姫☆「いえ、盗聴器がいけない、ってことじゃないの。倫理的な問題も考えてないわけでもないけど、そうじゃなくて…」

真姫☆「希は以前、絵里は人の心を感じ取るのが得意、的なことを言っていたわ」

真姫☆「その特技でアイドル専攻の人たちの心を物にしてきた、とか」

真姫☆「だとするならば、もしかしたら…希が盗聴器を仕掛けている、ってことすら、読まれてしまうかもしれない」

凛「えっ…、そ、そこまで?」

真姫☆「可能性は十分に考えられるわ。アイドル専攻生全員の心を掌握できるくらいなんだもの、そのくらい…」

真姫☆「もし絵里に見破られて盗聴器を外されでもしたら、この作戦はオジャンよ。そうね…」

真姫☆「…希も知らない別の作戦を、裏で実行するべきだと思う。絵里にもバレない何かを…」

凛「何か、って…なに?」

真姫☆「…そうよね。彼女の話を間接的に聞く方法…うーん…盗聴器以外に…」

真姫☆「ん?そういえば凛、さっきあなた、『実は…』って何か言いかけてなかった?」

凛「え、あぁ…そうだった」

真姫☆「何言おうとしたのよ。もしかして盗聴器に欠点でもあるんじゃ」

凛「違うよ!凛の作る機械は完璧だよ!言いたかったのは…」

凛「実は希ちゃんに言った盗聴器のサイズ…あれは最小のものじゃないんだ」

真姫☆「最小じゃない…?」

凛「うん。ホントはもっと小さくできるの。落ちたら探すのに苦労するレベルで」

真姫☆「へぇ…なんで言わなかったのよ。紛失されるかもしれないから?」

凛「それもあるんだけどさ。集音機能に難があるんだよね、そこまで小さくしちゃうと」

凛「半径1~2メートルくらいの音しか拾ってくれないんだ。だからあらかじめ省いちゃったってこと」

真姫☆「あぁ…そうだったの。うん、まぁそれなら…」

真姫☆「…」


真姫☆「あっ…!」


凛「にゃ?どうしたの?」

真姫☆「…それだわ!」

真姫☆「小さくて発見が困難で、それでいて周囲1,2メートルの音が拾える…!」

真姫☆「確かにそれだと、第三者が所持していちゃ誰かの会話を拾うことは困難だけど…」

真姫☆「じゃあそれを、話す本人にくっつければ…!」

凛「おぉ!」

凛「…ん?だけどよくよく考えたら、絵里ちゃんが盗聴器に気づいてたら意味ないんじゃ?」

凛「気づいた上で盗聴器を外させずに、心にもない綺麗事を並べてこの世界の真姫ちゃんにさらに気に入られようとするかも!」

真姫☆「…その可能性もなくはないけれど、でも…あの絵里の性格から察するに、彼女は希の心も折りにくると思ってる」

真姫☆「自信満々だった希の作戦を看破することで希を絶望させて愉悦に浸ろうって考えそうなやつよ、アイツは」

凛「うぇ…凛の知ってる絵里ちゃんとはかけ離れた感じの思考だにゃ…」

真姫☆「私もあまり信じたくはないけど、こういう考え方するやつなのよ、この世界の絵里は」

真姫☆「…だからきっと、盗聴器に気づいたならそれを外させるように言ってくると思う」

真姫☆「そこに思いもよらないところからもう一つの盗聴器を仕掛ければ…」

凛「流石にそこまでは気が回らないって寸法だね!」

真姫☆「あえて希に知らせないことで、絵里の心を読む力にも対応できる。…これならうまくいくはずよ」

凛「…んー、でも自然に絵里ちゃんに近づいて、尚且つ違和感なく身体に盗聴器くっつけられる人、なんている?」

真姫☆「私たちの中にはいないかもしれないけど…」

真姫☆「…バックダンサーズなら」

真姫☆「そうね…、にこちゃんなら、なんとか協力してくれるかも知れない」

真姫☆「貸しを作ったとは思ってないけど、絵里のやり方には反感も持ってるかもしれないし」

凛「なるほど…!協力してくれる人もいる、ってことだね!」

真姫☆「えぇ、よし!凛、今から作れる?身体にひっつけて傍目からは視認が難しい感じの超小型盗聴器!」

凛「任せておいて!明日には完成させたるにゃ!」

真姫☆「…ふふっ、見てなさい、絵里。あなたがいくら裏を読もうと…」

真姫☆「私はその裏の裏を行ってみせるんだからっ…!」

作戦決行当日 木曜日 朝

アイドル応援部


希「それじゃ、手紙出しに行ってくる。…来てくれるかは、ちょっと不安やけど」


ガチャッ バタン


真姫☆「…」

花陽「うぅ…心配だね」

ことり「でも、いつまでも心配なままじゃこっちの練習にも身が入らないしね」

海未「うまくいくと信じて、今は…私たちだけでも練習に行きましょう」

真姫☆「待って」

海未「はい?」

花陽「真姫ちゃん?って、早く学校でないと怪しまれるんじゃ…」

真姫☆「その前に話があるの。希には言えない、大事な話…」



ことり「え、絵里さんの身体にも、盗聴器をっ…!?」

真姫☆「えぇ。これなら、万が一希の方の盗聴器がバレても、安全に盗聴できるはず」

花陽「た、確かに…めっちゃ小さいね」

真姫☆「制服に紛れるように作ったからね。一度くっつけたら凝視しない限りは見えないわ」

海未「しかし、どうやって本人にそれを付けるつもりですか?」

真姫☆「ここはやっぱり…絵里に不審がられず近づけるにこちゃんに依頼して…」

ことり「えっ…、にこちゃん?」

海未「ま、真姫っ…。にこは…」

真姫☆「えっ?」

ことり「…にこちゃん、昨日すごい風邪で、多分今日は…来てないと思う」

真姫☆「んなっ!?」

海未「昨日、アイドル専攻を早退したとも聞きました。おそらく…来ないでしょうね」

真姫☆「う、嘘っ!?病欠!?聞いてないわよ!」

花陽「真姫ちゃん、今は学校情報に疎いから…」

真姫☆「そんなっ…、にこちゃんが休むなんて考えてなかった…。どどど、どうしよう…」

真姫☆「誰かがこっそり近づいて貼り付けてくる…?で、でももし気づかれたら一巻の終わりだし…」

真姫☆「他に彼女に警戒されずに近づいて、尚且つこんなこと頼める人、なんて…」

真姫☆「ま、マズい…!詰んだかも…!!」

花陽「そ、そんなっ…!!」

ことり「…ね、ねぇ、海未ちゃん…」

海未「はい?なんでしょう…」

ことり「…もしかしたら……ちゃん、なら…」

海未「えっ…!そ、それは…」

真姫☆「な、なんて?ことり…今なんて言ったの?」

海未「…無理、ですよ。彼女が、そんな…」

ことり「…私、もしかしたら…彼女なら引き受けてくれるかもしれないって思うの」


ことり「今の、穂乃果ちゃんなら」

真姫☆「穂乃果…?」

海未「ことり、それはありえません。だって、穂乃果は…」

ことり「…ぅ」

海未「穂乃果は、絵里先輩のやり方に同調しているのでしょう?」

海未「…そんな、絵里先輩を裏切るような真似に、協力してくれるとは…」

真姫☆「…」

花陽「作戦に協力して欲しい、ってなると、事情の説明もあるだろうし…」

花陽「生徒会長に真姫ちゃんが二人いる、なんて知られちゃったら一巻の終わり…」

真姫☆「…いえ」

花陽「え?」

真姫☆「穂乃果…、アリ、かもしれないわね」

海未「なっ…!ど、どうして!?」

真姫☆「さっき、花陽の言ったこと…私が二人いるという事実だけど」

真姫☆「実は…穂乃果はもう知っているの」

ことり「えぇっ!?そ、そうな…の?」

真姫☆「うん。穂乃果に怪しまれちゃったから希がバラしちゃったんだって。…おかしな話よね」

真姫☆「でも、一週間ほど前の話だというのに、未だ学校側に私たちのことは把握されていない」

真姫☆「生徒会長が、一言報告すれば、すぐ明るみに出るはずのことなのに」

真姫☆「…これって、どういうことなのかしらね」

海未「つまり…穂乃果は、真姫が二人いるという事実を知ってなお、黙っている…ってことですか?」

花陽「あ、あの厳しそうな生徒会長が…!?」

真姫☆「希が言うには…穂乃果は、ちゃんとした優しさも兼ね備えている、だそうよ。寛容な心、っていうのかな」

ことり「…やっぱり、穂乃果ちゃん」

ことり「変わってきているのかも、しれない」

ことり「うぅん…、変わってるんじゃなくて…」

真姫☆「戻ってきている。昔の穂乃果が、…って言いたいのかしら」

ことり「うん。昔の、優しくて…交わした約束は何が何でも守る、そんな…私の知ってる穂乃果ちゃんに」

海未「そんな…。彼女に、変わるきっかけか何か、あったのでしょうか…」

真姫☆「…それは、私にもわからない」

真姫☆「だけど希も言ってたわ。変わりたいと思えば、知らず知らずのうちに変わっていゆくものだって」

ことり「あっ…!」

真姫☆「きっと彼女も、変化を求めている。今のままじゃいけないって思い始めているんだわ」

真姫☆「だから、今の穂乃果なら…もしかしたら、協力してくれるかも知れない」

花陽「そ、そうだねっ…!一瞬ダメかと思ったけど、それがうまくいけば…!」

海未「…っ」ゴクリッ

ことり「それで…穂乃果ちゃんへ話をつけに行くのは、いつ?あ、でも真姫ちゃんが行くのなら…この朝でないといけないし…」

真姫☆「…」

真姫☆「私はいかない」

ことり「えっ」

真姫☆「この話は…」

真姫☆「ことり。あなたが穂乃果と交渉するべきよ」

3時間目 授業終わり

穂乃果の教室


キリーツレーイアリガトゴザイマシター


穂乃果「…ふぅ」

穂乃果「…ん?」


海未「こ、コトリー、ガンバッテクダサイー」

ことり「海未ちゃんも行くの!ほら、しがみついてないで!!」

海未「むりですー!」

穂乃果「…もしかして、私に用事?」

海未「っ!」

海未「」

ことり「う、海未ちゃんが固まっちゃった!」

穂乃果「…」



穂乃果「…ここなら、誰も来ないと思うけど」

ことり「…うん」

海未「ハァ…、ハァ…!」

穂乃果「…それで、なんの話?」

ことり「えと…実は…」



~回想~


真姫☆「ことり。あなたが穂乃果と交渉するべきよ」

ことり「え…えぇぇっ!!?」

真姫☆「…驚く程のことでもないでしょ」

真姫☆「今のこの時間、穂乃果はアイドル専攻で練習中だし。朝の予鈴がなる前に私はここを抜け出さなきゃいけない」

真姫☆「私が穂乃果と交渉する時間はないわ。だとするなら…」

ことり「わ、私…ってこと?」

真姫☆「花陽が穂乃果と交渉するのは無理があるしね」

海未「が、頑張ってください!応援してます!」

真姫☆「…当然、海未も行くのよ?」

海未「ホワイッ!?わたひもれすか!?」

花陽「舌回ってないよ、海未さん…」

真姫☆「一人より二人の方がいいに決まってるでしょ。それに…」

真姫☆「これは、チャンスだわ。あなたたちの、夢を叶えるための」

ことり「私たちの…」

海未「…夢」

真姫☆「戻りたいのでしょう?あの頃に。なら…」



ことり(…なら、私が…、私たちが行動を起こさなきゃ!)

ことり「…ということなの。だから…、協力して欲しくて」

穂乃果「…」

乃果「…えっと」


穂乃果(急に教室を訪ねられたときも驚いたけど)

穂乃果(いわば敵、とも言える私に…彼女たちがこんなお願いをするなんて)


穂乃果「…誰に話してるか、分かってる?」


ことり「ぇ、それは…」

海未「わ、わかっていますとも!!」

ことり「海未ちゃん、落ち着いて…」

穂乃果「…はぁ」


穂乃果(頭が痛くなる)

穂乃果(私に頼み事をする時点でどうかしている)

穂乃果(しかもそれが、絵里さんに…盗聴器を付ける、なんて…)


穂乃果「…ごめんだけど、その依頼には応じることはできないよ。アイドル専攻としても、生徒会長としても」

穂乃果「じゃあ、私はこれで…」

ことり「まっ…、穂乃果ちゃんっ!!」

穂乃果「…」スタスタ…

海未「待ってください、穂乃果っ!!」

穂乃果「…」ピタリ

海未「わ、わわっ…私たちも、ホンキなのですっ!!」

海未「それはスクールアイドルを…C☆cuteを存続させるため、もありますがっ…!ですがそれ以上に…」

海未「一人の人生が変わってしまうかも知れない瀬戸際なのですっ!」

海未「このままではもしかしたらっ…彼女まで、わ、私のようになってしまうかもしれない…!」

海未「それは嫌なんですっ!だから…、お願いしますっ!お力を…力を貸してくださいっ!」

穂乃果「…」

海未「穂乃果ぁぁっ!!」

ことり「海未ちゃん…」


穂乃果(…彼女から名前を叫ばれたのは、いつぶりだろう)

穂乃果(あの日、彼女と別れを告げた日、から…)

穂乃果(…あの時、私は)



(穂乃果「私は…、私はスクールアイドルでトップを獲らなきゃいけないの…!それ以外は何の意味もない…、屑同然なの…!」)

(穂乃果「誰よりも上へ登って、頂点を獲って…輝かしいステージに立つのが、私の夢なのっ!!」)

(穂乃果「それを、そんなもの呼ばわり…!?あなたに何がわかるの!?」)

(穂乃果「アイドルのことなんて、何も知らないくせにっ!!!」)



穂乃果(今の…今の『海未ちゃん』は)

穂乃果(アイドルのことを、何も知らない海未ちゃんだろうか)

穂乃果(私が、強さを求めるために切り捨てたものが)

穂乃果(今、私に並ぶくらい強くなって、ここにいる)

穂乃果(…強さって、一体何なんだろう)

穂乃果(私が求める、強さって…なんなの、かな)

穂乃果(私が知っている強くなる方法)

穂乃果(…それは全て)

穂乃果(絢瀬絵里から学んだもの、だった)

穂乃果(そして、現在私は)

穂乃果(その絢瀬絵里すら、わからなくなってきている)

穂乃果(なら、私は…)

穂乃果(私が、求めるべき、は…)



穂乃果「…貸して」


海未「はい?」

穂乃果「その…、盗聴器とやら」

ことり「穂乃果ちゃん…?」

穂乃果「今はないの?」

ことり「う、うぅんっ!あるけど…ってことは、つまり…!」

海未「き、協力してくれる気になったんですか!?」

穂乃果「…協力、じゃない。ただ…」

穂乃果「私もそろそろ…自分のやり方を見つけるべき、なのかなって思って」

ことり「ほ、穂乃果、ちゃぁんっ…!」

海未「穂乃果っ…!」

穂乃果「っ…!だから勘違いしないで!」

穂乃果「私とあなたたちは…敵同士だから」

穂乃果「友達になる気は…ない、から」

海未「穂乃果…」

ことり「…うん、今はそれでも、いい」

ことり「協力して…うぅん、穂乃果ちゃんのやりたいことが見つかって、よかった」

ことり「ありがとう。穂乃果ちゃん」

穂乃果「…」




穂乃果の教室


穂乃果「…」



(希「いつか、穂乃果ちゃんは真姫ちゃんの味方になってくれるかもしれない」)

(希「そして…、真姫ちゃんが、穂乃果ちゃんの味方になってくれるかもしれないから」)

(希「努力している子を純粋に応援してくれる、本当の穂乃果ちゃんへの…ちょっとした投資みたいなもの、かな」)



穂乃果「…ふっ」

穂乃果「ホント、バカバカしいよ…」

穂乃果「…これが、私の…やりたい、ことか…」

放課後

アイドル応援部



真姫「…」ガチャッ


真姫☆「…あぁ、来たわね。ここ、座って」

真姫「本当に…いなきゃ、ダメ?」

真姫☆「ダメよ。希があなたのために必死で繋いだ、最後の道なんだもん」

真姫☆「応えてあげなさい。…あなたにとって、辛い思いになるかもしれないけど」

真姫「…」

真姫☆「花陽、状況は?」

花陽「うん、今のところ三つとも聞こえてる…」

海未「穂乃果は、バレずに絵里先輩に盗聴器を仕掛けることに成功したよう、ですね…」

ことり「よかったぁっ…!」

真姫「盗聴…!?」

真姫☆「まぁまぁ落ち着いて。…こうするしか彼女の本心を聞き出すことはできないでしょ」

花陽「穂乃果さん…、協力してくれたんだ…」

真姫☆「…えぇ。上手くいってよかった」

海未「私も、行ってよかったと思います…。彼女の中の何かも、変えられることができたようなので」

ことり「…その話もいいけど、そろそろ…」

花陽「きたっ!」

真姫「っ…!」



真姫☆(…私の予想通り、最初の盗聴器は見破られていた)

真姫☆(予備に持たせた二つ目の盗聴器すら発見され)

真姫☆(衣服に持ち物、全て別のものと変えられ、万端に万端を期した準備を絵里はしてきた)

真姫☆(…なればこそ、気づかない)

真姫☆(二つあったから、もうあるはずないと、タカをくくっている。その油断こそ…)

真姫☆(私たちが、付け入る隙。あとは、失敗したと思い込み、希が作戦を諦めることも不安要素ではあるけど…)

真姫☆(…いえ、彼女に限ってそれはない。もう彼女は…諦めない人間なのだもの)

真姫☆(そして、私たちの作戦は成功した)

真姫☆(悲痛に歪む心を観察することが好きな絵里のおかげで、彼女の醜い本心を余ることなく堪能させてもらえた)

真姫☆(…ありがとう、絵里。あなたが完璧な人間だったら、私たちに勝利はあり得なかった)

真姫☆(そして…)



真姫「…ぅ、うぅっ…!!」

花陽「ま、真姫…ちゃんっ…」

真姫☆「わかったでしょう。これが…絵里の本当の狙い」

真姫☆「あなたは…生贄だったのよ。強いアイドルを育てるための」

真姫「っ!!」ダダッ

ことり「あっ、真姫ちゃんっ!!?」

真姫☆「…行かせてあげて。きっと彼女にも…もう、わかったはずだから」

真姫「今まで、ありがとうございました」

真姫「…私、指導補佐…やめます。さよならっ…!!」ダダッ




絵里「…っ!ほ、穂乃果ぁぁぁ!!」



多目的ホール


ガチャンッ!!

女生徒「あっ、絵里さ…きゃぁっ!!?」


絵里「穂乃果ああぁぁぁぁっ!!!」ダダッ


凛「ひぃっ…!?」

穂乃果「…っ!」


パシィィンッ!!

絵里「はぁーっ…!はぁー…!!」

穂乃果「…」


凛「え、え…?い、一体何が…」


絵里「裏切ったわね、穂乃果っ…!」

絵里「あなたが、私に…盗聴器を…!!」

絵里「ふざけたマネ、してくれたわねっ…!!即刻…」

穂乃果「下位落ち、ですか?」

絵里「当たり前よっ!!この私に逆らって…!」

穂乃果「…私は、裏切ってませんよ」

絵里「はぁっ!?シラを切るつもりっ!?舐めないでっ!今日私に触れたのは…」

穂乃果「私は、何もしていない」

穂乃果「ただ…あなたの声が少し大きかっただけだよ」

絵里「なっ…」

穂乃果「全て、あなたが招いた結果だよ」

穂乃果「本当に強さを求めるのなら…あなたが本当に強さを求めているのなら」

穂乃果「心の奥なんて、誰にも明かすべきじゃなかった」

穂乃果「あなたは自分の愉悦を求め、純粋に強さだけを求めていなかったから」

穂乃果「負けたんだ」

絵里「…っ!!このぉっ…!!」ヒュッ…!!


ガシィッ!!

絵里「っ!」

穂乃果「今まで私は、あなたの強さに憧れてきた」

穂乃果「あなたに従えば、あなたのように強くなれるって思って」

穂乃果「…でも、今はもう、違う」

穂乃果「あなたの強さだけを信じていたら…本当に強いアイドルにはなれないっ…」

穂乃果「私は…っ、私のやり方を信じますっ!!」

絵里「ほっ…の、か…!」

絵里「何がっ…!強いアイドル…よっ…!!」

絵里「ここで私に逆らって、生きていけると思っているの!?」

絵里「もう、あなたはっ…!」

穂乃果「…いや、あなたに私は殺せない」

絵里「なっ…!」

穂乃果「私が…強いから」

穂乃果「今、A-RISEから私がいなくなれば、あなたにとっても相当な損失になる」

穂乃果「あなたの夢から、遠ざかる」

絵里「っ…!!」

穂乃果「仮に私を切り捨てても…私は新たに別のスクールアイドルを始めます。一人でも」

穂乃果「私にとっての強いアイドルは…もはや、A-RISEだけじゃない」

穂乃果「C☆cute、彼女たちだって、十分に…強いアイドルであるから」

絵里「く、ぁっ…!!ぁ、ぁぁぁああぁぁっ…!!!」



(絵里「体制に疑問を持ち、新たな場所を築こうとするものが強者。専攻が絶対のものだと思い込み、変わることを拒むものが弱者」)



絵里「私がっ…私の、計画がっ…!!」

絵里「私に、牙をォォッ…!!」

穂乃果「…行こう、凛ちゃん」

穂乃果「練習の、続き」

凛「えっ…あ、うん…」


絵里「…ぐ、ぐぅぅっ…!!」



(「強くなるの。それ以外に…価値はないわ」)



私、強くなった。



(「ほら、見て…。また私、コンクールで優勝して…」)



誰にも、負けないくらい強く。



(「…ストレスが原因だって医者は…」「ひどくやつれていたからねぇ…」)



強く、なって…周りを見渡せば。



(「…ねぇ、だから…起きてよ。目を、覚ましてよぉぉ…!!」)



もう、誰も、いなかった。






絵里「ぐぅっ…、うぐあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

音楽室


希「えー…それじゃあ…何が何だかよくわからんけど、うちの…いや、真姫ちゃんの計画が無事成功した、ということなので…」

希「改めて、紹介…うぅん、自己紹介といこか!さ、西木野さん」

真姫「…ぐずっ、は、はいぃ…」

真姫☆「まだ泣いてるの?」

海未「…仕方ありませんよ。信頼していたものの口からあんな言葉を聞かされては…」

花陽「真姫ちゃん、い、行ける…?」

真姫「へ、平気っ…!んんっ!じ、じゃあ…」

真姫「に、西木野、真姫ですっ…!春から、半年くらい休学してたけど…ついに学校に戻ってきました!」

真姫「だから、わ、私とっ…友達になってください!」

花陽「うんっ!友達だよ!」

ことり「先輩だけど、遠慮なーく、ことりちゃん、って呼んでいいんだよ」

海未「え、では私のことは海未と…」

真姫「わ、わかったわ!ことりちゃん!海未!」

真姫☆「わぁ、ちょっと違和感」

希「…で、西木野さんは…C☆cuteに入るつもりはあるん?」

真姫「…正直、ちょっと、迷ってます」

真姫「だけど、打算目的でも…絵里が、私にアイドルを教えてくれた、ってことは、紛れもない真実だから」

真姫「彼女には裏切られたけど、でも…この自分の好きな気持ちを、もう裏切りたくないから…」

真姫「私、もう一回…アイドル、やってみる!やってみたいのよ!!」

希「うん!その意気や!」

花陽「ってことは、真姫ちゃんはC☆cuteに正式加入、だよね!?」

真姫☆「私が抜けて、こっちの私と希が追加、計6人のメンバーね」

ことり「…でも、今週末のライブ、間に合わないよね。どう考えても」

海未「その件に関しては…繰り上げ、だそうですよ。12月の最初の週末になるそうです」

真姫「え、そのライブ、私も出る、ってこと…?」

真姫☆「もちろんでしょ!今から一週間、私と遜色ないレベルまで踊れるようになるまで、みっちり特訓させてもらうんだからね!!」

花陽「あと歌も!こっちの真姫ちゃんは歌、すごくヘタになってたし…いっぱい歌わないと!」

ことり「髪の毛のボサボサも整えて!こっちの真姫ちゃんには身だしなみが足りてません!」

海未「あとダンスの時に危なくないようにこっちの真姫もメガネをやめて…」

真姫「って!さっきからこっちの真姫こっちの真姫って、それで定着するの!?」

希「うーん、せやけど同じ名前やとどうもね…。みんなも西木野さん、って呼ぶ?」

花陽「それだとなんか他人行儀っぽいイメージで…うーん、そうだなぁ…」

ことり「あ!名案です!」

ことり「西木野さんじゃなくて、西木野ちゃん、って呼ぼう!で、それだとあんまり可愛くないから…」

ことり「略して…キノちゃん!こっちの真姫ちゃんのことは、今度からキノちゃんって呼ぼう!」

真姫「き、キノちゃん…?」

真姫☆「なんかモーターバイク(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)に乗って旅をしそうね…」

花陽「でもかわいい響き!いいと思う!ね、キノちゃん!」

真姫「キノちゃ…、ま、まぁいいわよ!好きに呼べば!?」

海未「ふふっ、こういうところ、やはり同一人物ですね」

真姫☆「…私こんなふうなのね」

真姫☆(希と、この世界の私…あだ名は、キノで定着しちゃった、西木野真姫を加え)

真姫☆(新生C☆cuteは動き出した)

真姫☆(一週間のライブの延期期間のあいだに、ほぼ初心者の希とキノをみんなと同じくらいに動かさせる)

真姫☆(オマケに二人共歌がめっきりで…想像以上に慌ただしい一週間になってしまったけれど)

真姫☆(でも、その一週間は、みんなが笑顔で)

真姫☆(まさか…学校が楽しくないなんて人が、この中に紛れているなんてこと、あるはずもなかった)

真姫☆(楽しくて楽しくて、仕方がない)

真姫☆(その楽しさを、見てくれる人、みんなに伝えてあげる)

真姫☆(それが、私の知っているスクールアイドル。μ'sと…そしてC☆cute)

真姫☆(C☆cuteは…私の見せたかった風景に、限りなく近づいたといっても、言い過ぎじゃないでしょう)

真姫☆(もう、この世界でやり残したことは、私には…)



真姫☆「だーかーらっ!!そうじゃないって!」

真姫「いえっ!私はこれでいいと思うわ!」

真姫☆「そんなリズムの曲が万人受けするわけ無いでしょっ!あなたが作ってるのは歌じゃなくてゲームミュージックよこのバカっ!!」

真姫「ばっ、バカですって!?バカはそっちよバカーッ!!」


花陽「…なにで言い争ってるの?あの二人」

ことり「真姫ちゃんの作曲のセンスをキノちゃんに受け継ごうとして…」

希「同じ人でも環境が違うと曲の好みも変わってくるもんなんやね…」

海未「ふふ…、またまた、騒がしくなりそうですね」



真姫☆(…どうやら、このスクールアイドルには…まだ私の居場所があるらしい)

真姫☆(仕方ないわね…。もう少しだけなら、いてあげてもいいわよ?…なんてね)




ライブ当日

舞台裏


ことり「うっ、わー…!こ、こんなに人がっ…!」

海未「初めての対外ライブで、こんなに集まる、なんて…!」


真姫「っ…!」ゴクリッ

希「西木野さん、緊張してる?」

真姫「うっ…、ま、まぁ…」

花陽「当然だよね。初めてのライブが…こんな大規模なやつじゃ…」

真姫☆「しっかりする!あなたには私と同じ働きをしてもらわないといけないんだからね!」

真姫「…わかってるわ!今度こそ…、私の選んだ道だもの!」

ことり「よしっ!じゃあ…」

海未「いつものやつ、ですね!」

真姫「いつもの…?」

真姫☆「はい、指をこう!」ビシッ


一同「こうっ!」ビシッ


真姫「こ、こう…」ビシッ

真姫☆「…私のいないC☆cute。でも、これが本当の姿よ!今日みんなを、一番の笑顔にしてきなさい!」

真姫☆「1!」 花陽「2!」 ことり「3!」 海未「4!」 希「5!」

真姫「えっ…、あっ!6っ!!」

真姫☆「…それで良し!さぁ…お客さんが待ってるわ!行ってきなさい!」

希「…行こう!西木野さん!」

真姫「…っ!うんっ!!」





すっかりよれよれになった制服に着替え、食卓に座る。


もうそろそろクリーニングかな、なんて、ママと会話。


パパは相変わらず寡黙だけど、気持ちは伝わってる。


いけない、そろそろ朝練習の時間。


食べる手を早め、かつ汚くない程度に。


ごちそうさまも、忘れずに。


鞄は持った。ハンカチも。


そして、練習着に、白い五線譜。


ドアノブに手をかけ、深呼吸。


ガチャッ、という音を立ててドアが開き、外へと出る。


もう見飽きたくらいの、青空が待っていた。


まだ、ドアノブには手をかけたまま。


私を出迎えてくれる、この家と。


食卓にいる、パパとママに、聞こえるくらいの大声で。





「いってきますっ!!」






もしライブ! 第8話

おわり

以上8話でした 一応希回だったのでちょうど希の誕生日に貼れていい感じでした ハッピーバースデーのんたん
まだ9話はまとめきれてないので日があく可能性もありますがなるべく開けないよう頑張ります それでは次回もお楽しみに ほなな

一日空いたけれど9話やっていきます 6話よりも長いお話なのでまたも2分割
あと後半オリジナル歌詞の曲が出てきます 稚拙ですが物語上必要だったので仕方ない

前回のもしライブ!(声:西木野真姫(キノ))


絵里から誘われたことでアイドル専攻の指導補佐となってしまった私。

西木野真姫が二人いると知られる危険性から、真姫の練習への参加すら危ぶまれるC☆cuteが取った行動は…。



真姫☆「…妹を引き戻す係は」

真姫☆「希…あなたしかいない」



指導補佐から私を下ろすためにアイドル専攻へ向かう希先輩だったけど、そう簡単にはいかず。

諦めない希先輩だったけど次の行動へ映るための相談を真姫にしようとするも繋がらず、悪い未来を想像してしまう。

その時、真姫は別世界の星空凛によって、元の世界へと連れ戻されていたのだった!



真姫☆「わ、私…」

真姫☆「帰ってきちゃった…?」



約束を果たさないまま帰れないと、またこの世界へと戻ろうとする真姫を凛は止めようとするけれど。

自分の身に降りかかる目眩をも恐れず、今度は凛と一緒に、再度希先輩への家に舞い戻った。

そして、私を絵里の呪縛から解き放つため、真姫と希先輩がたどり着いた一つの答えは…!



希「…うち、今日から…スクールアイドルになる」



アイドルの楽しさを伝えるため、自らもアイドルになった希先輩。

幾度もの説得の末、私の心はこじ開けられた、けれど…。

まだ絵里を信じたかった私に、アイドル応援部が決行した最後の作戦。それは発案者の希先輩すらも驚かせた!



絵里「希じゃ、ないなら…教室でもないなら…」

絵里「…私?」



高坂穂乃果からの反逆によって絵里の計画が露呈した結果、私はアイドル専攻の指導補佐を辞退。

そして改めて、C☆cuteの最初にして最後のメンバー、西木野真姫として加入することとなったの!

初めてライブは緊張したけれど、アイドルのことを好きになれたのは、仲間のおかげ。

引きこもりだった私にも、すっかり外の風景が見慣れたものになれたのだった。


ぱしん。ぱしん。



上がって、下がって。いったり、きたり。



ぱしん。ぱしん。



一定のリズムで刻まれる、地面を叩く音。



ぱしん。ぱしん。



閉じて開いてを繰り返す、一筋の細いトビラのむこう。



土煙の幕で薄くぼやけた、誰かが見える。



ぱしん。ぱしん。



それはとっても近くのようで、とっても遠くて。



それはとっても遠くのようで、とっても近い。



むこうのあの子は、どんな顔をしているのだろう。



煙に隠れて、よく見えない。



ぱしん。ぱしん。



会いに行きたい。



よし、会いに行こう。



少しためらったけど、でもすぐに。



トビラに向かって、大きな一歩を踏み出した。

休み時間

花陽の教室


「「こ、小泉さんっ!!」」



花陽「…はい?」

女生徒A「さ、サインくださいっ!」

花陽「サイン…?なんの?」

女生徒B「決まってるじゃない!C☆cuteとしての…!」

「「キャー!」」

花陽「えっ…、私のサイン…!?それってアイドルとしてのってこと!?」

女生徒A「そうだよー!」

花陽「わ、私のサインが欲しいって…えぇぇぇっ!!?」

女生徒B「私たちだけじゃないんだよ!えっと…ほら、こんなに!」

女生徒A「小泉さんとあまり親しくない子からも頼まれちゃって。ね、お願い!」

花陽「え、え、そのぉ…!」


真姫「今、プライベートなんで」


女生徒A「あ、西木野さん…」

真姫「プライベートだから、サインだめ」

花陽「キノちゃ…じゃない、真姫ちゃん…」

真姫「…なによ」

花陽「人と話すときはちゃんとこっち向いて話そ?」

真姫「わ、分かってるわよっ!」

真姫「あ、あのね!わ、わわ…私たちは、その…アイ、ドルトハイエドモ…」

女生徒B「え?なんて?」

真姫「…///」

花陽「ひ、人見知りだから。まぁ、真姫ちゃんが言いたいこともわかったけど…」

花陽「私のサインで良ければ書けるだけ書いてみる!私も…ちょっと憧れてた節あるし」

女生徒A「いいのっ!?」

花陽「うんっ」

女生徒A・B「「やったー!」」


カキカキ…


花陽(…サイン、かぁ)

花陽(なんだか、信じられないや…)

昼休み

アイドル応援部


海未「…サイン、ですか」


ことり「ふふ、私何枚か書いちゃった!子供の頃に考えていたサイン、試したかったし!」

海未「…恥ずかしながら私も、幾度か応えてしまいました」

希「ええんやない?羨ましいわー。うちはまだお声がかからんのよ?」

花陽「ま、まぁ…希さんはつい最近入ったばかりだし」

ことり「キノちゃんは?」

花陽「き、キノちゃんは…」

真姫「…」ブスッ

花陽「アイドルでも身分は学生だから、って頑なに拒否…」

花陽「…したいみたいなんですけど、言い寄られると断れないとかで…何枚か」

花陽「しかも結構可愛らしい…」

真姫「も、もうっ!そこまで言わなくていいじゃない!」

海未「誰かと話すのがイヤでしたら背中に『サインお断り!』と書かれた張り紙などしてはどうでしょうか…」

ことり「さ、流石にそれは…」

真姫「ナイスアイデアだわ!」

ことり「いいの!?」

希「誰かと話すのをいつまでも怖がってたら人見知りは治らんよ~?」

真姫「…う、うぅ…」


真姫☆「しかしこれは、いい兆候ね」


海未「…うわぁっ!!?ま、真姫っ…!いたんですか!?」

真姫☆「いたわよずっと」

ことり「えっ…見えなかったんだけど」

真姫☆「ふふふ…うちの世界の技術担当に作らせたのよ。ジャジャーン!透明マント」ガバッ

真姫「わ…、すごい。首が浮いているみたい…」

真姫☆「なんでも金曜ナントカショーでのナントカポッターを見てて思いついたらしいわ」

花陽「思いつきで作れる品じゃないよね…」

真姫☆「これさえあれば学校から出て行く手間も省けるし、昼休みに集まって会議もできるしね」

真姫☆「これからは私がC☆cuteのプロデュースをしていくんだから」

希「…それはいいとして真姫ちゃん。いい兆候って言うんは?」

海未「サインをねだられるのがいい兆候なのですか?」

真姫☆「えぇ、なにせ…UTXがC☆cuteに傾いてきている証拠だから」

真姫☆「まぁ、まだ実情の人気はまだわからないけどね。A-RISEはファンからのふれあいを一切禁じられているから」

真姫☆「代わりにC☆cuteにその…うっぷんっていうのかしら、A-RISEに関われない分、積極的にふれあいを求めてきているんでしょう」

ことり「でもそれ、A-RISEの代替ってことは…結局はA-RISEありきってことじゃないの?」

真姫☆「ふふ…甘いわね。今やC☆cuteはA-RISEの代替になりうる、って考えるの」

真姫☆「トップスターへのサインの代わりに道端のミュージシャンで済ませて満足する人はいないでしょう?」

真姫☆「もうC☆cuteは、A-RISEと並ぶ存在にまで上り詰めた、って言っても過言ではないわ」

ことり「そ、そっか…!」

希「ま、並んだかどうかはまだわからないけど、それでも人気なのは間違いないよね」

真姫「そうよね…!このまま平穏無事にこの人気を上手いこと維持していければ…!」

真姫☆「何言ってるのよ!」

真姫「えっ…」

真姫☆「そんな考えでいいわけ無いでしょ!」

ことり「いい兆候なのに、いいわけないの?」

海未「精神分裂病ですか?」

真姫☆「違うわ!そーゆーこと言ってるんじゃなくて…」

真姫☆「C☆cuteの人気が絶頂期の今こそ、A-RISEを…アイドル専攻をひっくり返すチャンスだってことよ!」

真姫☆「今の人気をただ保っているだけじゃ、UTX学院に革命は起こせないわ。動くなら今、ってこと」

真姫「か、革命…。物騒な単語ね」

花陽「真姫ちゃんが言っているのは、アイドル専攻が原因で悲しみの涙を流す人を無くしたい、ってことなんだよね?」

真姫☆「…えぇ、今のアイドル専攻の体制をぶっ壊す。そうしなくちゃ、これから先、また誰かがアイドルを嫌いになっていっちゃうかも知れないからね」

希「…えりちのやり方を変える、ってことかな」

海未「もしくはアイドル専攻自体を無くすか、ってところでしょうか」

海未「…これは少し乱暴すぎる気はしますが」

花陽「アイドル専攻がなくなったらA-RISEはどうなっちゃうんだろう…」

ことり「また別の方法で決めることになるとは思うけど…真姫ちゃんが言ってるやり方はそう…じゃないんだよね?」

真姫☆「…うん。絵里のやり方を変える必要も、アイドル専攻を無くす必要もない」

真姫☆「みんなの、アイドルに対する意識を変えればそれでいい」

真姫「意識を変える…」

ことり「今まではみんな、A-RISEが一番で、A-RISEっていう栄光だけを求めてアイドルを続けてきていた」

海未「…頂点、それ以外は意味のないものだと、アイドル専攻で教え込まれてきていたようですからね」

花陽「でもそうじゃない。一人でも、二人からだって始められる!涙なんかなくたって、トップスターになれるんだ、って気付ければ!」

希「泣いたっていい、また笑顔になれるアイドルもある、ってみんなが分かってくれれば…!」

真姫☆「…今のアイドル専攻は大きく変わるわ。頂点への希望。それを私たちが示すことができれば」

真姫☆「人間の希望の強さは凄まじいものだから、絵里一人ではどうすることもできないはずよ」

希「…つまるところいよいよ、A-RISEとの決着、ってことかな?」

真姫「け、決着って…!戦うってことなの!?」

海未「そうしなければスクールアイドルの頂点の座を獲ることはできませんからね」

花陽「ついに、ってところまでやってきちゃった…!でも、どうやって優劣を決めるつもり?」

真姫☆「計画は考えてある。彼女たちに…いえ、絵里にとって、どうしても予断の許さない状態へ持っていく」

真姫☆「絵里がこだわっているA-RISE一強を妨げるような状況を作るの」

ことり「どんな風に?」

真姫☆「それはっ…!」

放課後

3年の教室前 廊下


カツカツ…


絵里「…」ツメカリカリ




「ほらこれ見てー!」「わぁ…!C☆cuteのグッズじゃん!羨ましいー!」

「前のC☆cuteのライブ映像なんだけどー…!」「可愛かったよねー!」




絵里「…ッ!!」


絵里(面白くない)

絵里(私のUTXから、私のA-RISE以外の話題が挙がることが)

絵里(手塩にかけて育て上げたアイドル専攻の環境に、彼女たちが徐々に侵食してきていることが)

絵里(腹立たしいぃっ…!!)



凛「…うわっ」


絵里「…あんっ?」ギロッ

凛「ひぃっ!!」

絵里「…なんだ、凛。どうしたの?珍しいわね、3年の教室前まで」

凛「や、やー…練習前に明日のスケジュールが聞きたくて…」

凛「最近別のアイドルの話題が多くなってきたから、ちょっと悔しくてって思って、早めに…にゃぁ…」

絵里「…そう。あなたも同じ気持ちなのね」

凛「は、はい!…でもライブは正直かっこよかったかななんて…」

絵里「何か言ったかしら…?」

凛「な、何でもないです!」

絵里「…そう。ならいいけど」

絵里「そうね。年末も近いことだし、今日は次のA-RISEのライブのー…」

凛「うんうん…!」

絵里「…ふふ、どうしたのよそんなに目を血走らせて。もしかしてにこや穂乃果が一度下位落ちしかけたから不安なの?」

凛「えっ…」

絵里「もしかしたら次は自分かも…なんて思ってるんじゃない?」

凛「そ、そんなことない…です。興奮してたのは単に練習が楽しみだっただけで…」

絵里「そう。ならいいけどね。…安心して、凛。あなたは特別よ」

凛「へ?特別…?」

絵里「あなたほどの逸材はそうそういないわ。私にとってもあなたを手放すのは夢の成就から遠ざかることだし」

凛「ほ、ほわぁぁっ…!そんな風に思われてたんですかー!?わ、わぁい、嬉しいにゃぁっ!!」

絵里「…ふふ、えぇ。これは…私にとっても本心よ」

凛「よぉーしっ!テンション上がるにゃー!」

凛「今日は早めに行って歌のレッスンだにゃー!」ピョンピョコピョンピョコ


絵里「あっ…、明日のスケジュールまだ言ってないのに…」

絵里「まぁいいわ。練習後に伝えてあげましょう」


絵里(凛が手放せない、っていうのは彼女にも伝えたとおり、私の本心)

絵里(彼女の才能は目を見張るものがある。…それ以外にも、持っているものも、あるのだけど)

絵里(でも今の状況を鑑みて、凛だけじゃない…穂乃果も、にこも、もう手放すわけには行かなくなってきた)

絵里(彼女たちの替えととなる才能なんて、今のアイドル専攻には育っていない)

絵里(私の夢を…野望を達成するためには、もはや誰ひとり欠けてはいけない)

絵里(そして目障りなC☆cute…希に、真姫…!)

絵里(彼女たちをどうにかしないことには…!!)



「…ねぇ、さっきさぁ…」

「C☆cuteが……に入っていくところを見かけて」



絵里「っ!!」

絵里(…なっ、なんですって…!?)


絵里「ど、どこって…!今どこでC☆cuteを見かけたって言ったの!?」

女生徒「うわっ!!?え、絵里ちゃん…?」

絵里「早く教えて!!」

女生徒「え、だから…」




理事長室



ガチャッ


真姫☆「…失礼します」

花陽「ししし、失礼しますっ…!」

ことり「おじゃましまーす」

海未「こ、ことりっ…!もっと恭しく…」

希「大所帯でごめんなさい」

真姫「…」←透明マント着用


バタン


理事長「あ、あらぁ…?あなたたちは…」



真姫☆「ご相談したいことが、ありまして」

理事長「えと…スクールアイドルの子、だったかしらぁ…?どうしてここに…?」


真姫☆(UTX学院理事長。ことりの母親ではなく、おっとり目の美人なお姉さん…って言うには年齢を重ねてはいるけど)

真姫☆(UTXが様々な学科を内包し、様々な部活で溢れかえっているのは、ひとえに彼女の…おっとりさが原因なのかも)

真姫☆(聞くところによると、優柔不断な欲張りさんなようで、とにかくいいと思ったものは取り入れていくスタイルだそう)

真姫☆(こんな人がトップでいいのかと思うけど…決めるところは決めてくれる人、だとも聞く)

真姫☆(…生徒会長就任式で一回見たきりだけど、そのときは堂々とした喋り口だったし)

真姫☆(正直ここに来て見かけて、その喋り方にちょっと驚いたくらい)


理事長「こ、こんな大勢で来てくれるなんて…、お茶とお菓子、用意したほうがいいかしら…?」

希「お、お構いなく」

花陽「わ、私たち、お頼みしたいことがあって此度参った次第でごじゃりましてぇぇぇっ…!!」

海未「テンパりすぎです!もっと落ち着いて…」

ことり「うわ、高そうな食器が置いてる…。すごーい」

海未「あなたは落ち着きすぎですっ!」

真姫「…(バレないか心配だわ)」ドキドキ


理事長「頼みたいこと…?私に?なにかしら…」

真姫☆「それが…これの件について、なんです」スッ…

理事長「ん?これ…」

理事長「うちの…UTX学院の、パンフレット…?」

真姫☆「はい、去年の」

真姫☆「UTX学院のパンフレットでは色々な学科を紹介されていますよね。数が多いので一部を抜粋してますが」

真姫☆「芸能科では歌手専攻やモデル専攻の人たちを写真とともに紹介しています」

真姫☆「その横…一際大きく紹介されている、この学校唯一、だった、スクールアイドル…A-RISE」

理事長「えぇ…。あぁ、これね。去年の…あ、東條さん。えっと…東條さんと同じ部活だった…」

希「絢瀬絵里…ですね」

理事長「そうそう。絢瀬さんに勧められて、大々的にパンフレットで紹介することにしたの。グッズも、近くで公式で販売しているし…ってこともあって」

真姫☆「はい、そうですね。そこで私たちが相談したいこと、なんですけど…」

真姫☆「来年度のパンフレット、もう既に作っていますか?」

理事長「え?えぇ…そうねぇ…。入学希望者へのものは…」

真姫☆「なら新入生へのパンフレットは?」

理事長「それはまだ…」

真姫☆「でしたら!」

真姫☆「その新入生向けパンフレットに!」

真姫☆「私たち…C☆cuteも紹介していただけませんか!」

理事長「はぁ…、…え?」

理事長「あなたたちを紹介…?」

真姫☆「はい!どうでしょう!」

理事長「え、えと…」

理事長「難しいお願いね…。うぅん…、そうね…」

花陽「お願いしますっ!その…A-RISEだけがスクールアイドルじゃないんだ、って新入生にもわかってもらいたいんです!」

理事長「でも…、あなたたちがやってるのはその…部活動、のようなものでしょう?」

理事長「一応、学校公認であるA-RISEと並べるのは…ちょっと…」

ことり「並べなくて結構です!A-RISEの横に小さく、非公式でこういうアイドルもいます!って写真を載せてくれるだけでいいんで!」

海未「部活動の写真でしたら他のページに数箇所ありますし、スクールアイドルとしてA-RISEと比較するように並べる程度なら許されると思います!」

理事長「う、うん…?確かにそう言われれば…そうかもしれないわね…」

希「それに、今のうちらの人気、知ってます~?もう学内でもそこそこの噂になってるんですよ~?」

希「…この期に乗じて、非公式でも推していけば、学校の人気上昇にも繋がる、かもかも~…?」

理事長「人気、上昇…!それなら…!」

真姫「…!(思いよ届けっ…!!)」ビビビビ

理事長「そうねっ…!一考してみる余地はあるかも…!」

真姫☆「っ…!!」



真姫☆(来たっ…!)

真姫☆(ここでA-RISE以外にもスクールアイドルがいると、新入生に知れ渡ってしまえば)

真姫☆(来年以降のアイドル専攻の体制は、大きく崩れることになる)

真姫☆(甘い考えは持ってほしくはないけど、『アイドル専攻が向いてないなら、アイドルを自分たちで始めればいい』という精神的な逃げ道を確保できる)

真姫☆(それに来年までに知名度をもっともっと上げてしまえば、非公式のUTXのスクールアイドル、ってだけでC☆cuteってわかってもらえるかも知れない)

真姫☆(そうなれば私たちに憧れて、アイドル専攻にすら入らずに、初めから自分たちだけの力で、って子も中にはいるかも知れない)

真姫☆(どちらにしろ、絵里の野望を妨げるには十分すぎるわ)

真姫☆(そして更に、このことが公になったら…!!)



「「お願いしますっ!!」」


理事長「わかったわ。今すぐ決定、ってわけには行かないけれど、職員と話し合って…」



バンッ!!


「待ってくださいっ!!」



海未「な、何事…!?」

真姫「ひっ…!」

理事長「あれ今変なところから声が」

ことり「き、気のせい気のせい」

花陽「あなたは…!」

希「…えりち」



絵里「…そんな提案、認められないわ」

真姫☆「絵里っ…!どうして…」

真姫☆(このことが公になれば、必ず絵里が抗議しに来る…と思っていたんだけど)

真姫☆(まさか公になる前に来るなんて…早すぎでしょ)


絵里「理事長っ!そのお考えは即刻取りやめてくださいっ!」

理事長「え…でも…」

絵里「学校公認のアイドルはA-RISEただ一つのみです!パンフレットで紹介してしまえばそれは認めたということになるでしょう!」

理事長「あ、あぁ…確かに…」

希「その言い分は違うんやない?」

絵里「あぁんっ…!?」

希「A-RISEにはUTXの大型モニター…オーロラビジョンを独占できる権利があるはずや」

希「それに学校に認められているからこそ、一般のアイドル雑誌からの取材、取り上げも許される」

希「それに比べればパンフレットの一部で紹介されるくらい、些細なことやないかなぁ?」

理事長「そ、そうよね…。わかるわかる…」

絵里「くっ…!しかしUTX所属スクールアイドルの人気が二分すれば、提携しているグッズの売上にも響きます!」

絵里「非公式であるがゆえに彼女たちのグッズは作られてもUTXに利益を与えません!その件に関してはいかがお考えですか!」

理事長「うぅん…それも言えてるような…」

花陽「待ってください!私たちが人気になったとしても、A-RISEの公式グッズには独自の優位性があります!!」

花陽「公式ゆえに他の同人グッズでは得られないクオリティの高さや、本人たちのデザイン…」

花陽「UTXやA-RISE自身が関わっていなければ存在し得ないレア度の高いものが揃っています!」

花陽「それゆえグッズの売上はスクールアイドル界隈で他の追随を許しません…!」

花陽「なので!グッズの売上それ自体と私たちの知名度は関係ないものだと思われます!!」

真姫☆「さすが花陽…こういう時の頼もしさがハンパないわ…」

海未「それに、A-RISEもスクールアイドルとしての活動が第一です。グッズの売上は二の次でしょう」

海未「本分に関わることでもないことで他の生徒の活動を抑制する権利は、いくらあなたといえども持ち合わせてはいないはずでは?」

絵里「ぐ、うっ…!…キッ!」

絵里「理事長!!彼女らの言葉に耳を傾けてはいけません!何せこの真姫はっ…!」

真姫「えっ…」←透明マント着用

絵里「9月から彼女の姉を替え玉に代返を行っていたのですからっ!!」

真姫「っ!!」ビクゥッ!!

理事長「え…そうなの?」

希「どこでそんなこと…」

絵里「ハッ…!私を舐めないことね…!!一年とは言えども私の息がかかった子はたくさんいる…!」

絵里「その程度の情報くらい、簡単に…」

真姫☆「…ハァ?姉ぇ…?何言ってるのかしら」

絵里「何…?」

真姫☆「私に、お姉ちゃんなんかいないんですけどぉ」

絵里「なぁっ…!」

真姫☆「調べてもらったらわかるわ。私の家族に姉は存在しない」

理事長「そ、そうね…。西木野さん…?は確か、一人っ子だったと…」

絵里「えっ…!?」

真姫「…そんな異議…、ミトメラレナイワァ?」

絵里「ッ…!!」イラッ

希「おぉ…煽りよる煽りよる」

希(えりちも真姫ちゃん…西木野さんの家庭にまでは詳しくない)

希(同じ姿をした真姫ちゃんが二人いるという自体は理解していたみたいやけど…)

希(まさか、別次元から同一人物が来た、とまでは把握できんかったんやろうね…)

希(そして一年生から得た情報を鵜呑みにして…今の事態に)


絵里「そんなっ…!何かの間違いよっ!!私は、彼女が二人いるって事実を知っている!!」

真姫☆「何言ってるのよ」

真姫☆「…同じ人物が二人いるなんて、ありえないでしょう?」

絵里「ぐっ…!!ま、真姫ィィッ…!!」

真姫☆「変な夢でも見たんじゃないの?それか…」


グワンッ…


真姫☆「…っ!!?う、うあぁっ…!!」ヨロッ…

ガクンッ…

絵里「えっ…ど、どうしたの…?」

希「あっ…真姫ちゃん!もしかして、またっ…!!」ガシィッ

ことり「例の目眩…?」

真姫☆「へ、平気…。急に来るから、怖いわよね…」

絵里「…こ、こんな状態の彼女にアイドルを任せていいんですかっ!ライブ中に倒れでもしたら…」

理事長「落ち着いて、絢瀬さん」

絵里「UTXの評判は地に落ちっ!!安全性を考慮した上でも…」

理事長「落ち着きなさいっ!!」

絵里「っ!!」

理事長「…あなたの話もわかるけど、ここは会議室じゃないのよ」

理事長「私の意見を言わせてもらえば、私自身は彼女たちの提案を受け入れることに異議はありません」

絵里「そ、そんなっ…」

理事長「…だから、あなたがどうしても受け入れられないというのであれば…当事者で解決して」

理事長「大声を聞きすぎて…耳がキーンってなっちゃうから、ね?お願い」

絵里「う、うぅっ…!」タラッ…


真姫☆(絵里の額から一筋の汗が流れ落ちる)

真姫☆(先程までのなりふり構わない抗議を見ればわかるように、彼女はかなり焦っている)

真姫☆(自らの手中から、夢がこぼれ落ちていきそうなことに)

真姫☆(…その瞬間が、絶好のチャンス)

真姫☆(こちらからの提案を、すかさず挟み込むっ…!!)


真姫☆「…絵里。あなたの言いたいことも分かるわ。あなたの焦りも、手に取るように分かる」

絵里「真姫…?」

真姫☆「でもあなたと私たちの意見はどこまで行っても平行線、決して交わることはないわ」

真姫☆「ならもういっそ…決着をつけましょう」

絵里「…なにを、するつもり」



真姫☆「ライブよ」

理事長室前


希「うるさいからって追い出されちゃったね」

花陽「でも、理事長先生はパンフレットのこと、前向きに検討してくれてるみたいだし…」

海未「しかし…」


絵里「…詳しく聞かせてもらおうかしら、ライブのこと」

真姫☆「えぇ」


ことり「…大変なことにならないといいけど」

真姫「…」コクリ


真姫☆「この学校の終業式は12月24日、その日は午前までに下校となるわ」

真姫☆「それからすぐ、となると下校時の生徒の邪魔になるから…」

真姫☆「終業式の日の午後3時から、UTX前、オーロラビジョンが見える場所でC☆cuteとA-RISEの合同ライブを行いたいの」

絵里「…」

真姫☆「流石に外部も、となるとパニックになると思うから、UTX生限定で」

真姫☆「ライブ終了時点でライブを見に来てくれたUTX生に投票をお願いする」

真姫☆「票数が多い方が、勝者となる」

真姫☆「私たちが勝った場合、来年度の新入生パンフレットに私たちのことを紹介してもらう。あなたたちもそれに対して口出しはしない」

真姫☆「けれどあなたたちが勝った場合は…素直に引き下がるわ」

絵里「…正気?」

絵里「まだ活動を初めて数ヶ月のあなたたちが…ハッ。A-RISEを相手取るなんて…」

絵里「無謀にも程がある、とは思わないのかしら」

絵里「それにね。A-RISEは既に年末にイベントで…」

真姫☆「話は最後まで聞いて」

絵里「…なんですって?」

真姫☆「A-RISEと言ったけど、私たちが相手したいのは、今のA-RISEじゃ、ない」

真姫☆「未来の、A-RISEよ」

絵里「それは、つまり…」

絵里「…穂乃果、にこ、凛の3人で、…ということ?」

真姫☆「えぇ。今のバックダンサーズ。もうすでに来期のA-RISEであることは決まっているんでしょう?」

真姫☆「私たちと決着をつけるなら、彼女たちが相応しいわ」

真姫☆「A-RISEという誉れある看板を背負って1年間練習してきた彼女たちと、無名からここまで上り詰めた私たち」

真姫☆「どちらが優っているか…あなたも興味あるんじゃないの?」

絵里「…」

真姫☆「今からの猶予は約2週間…スケジュール的にはキツいところもあるかもしれないけど」

真姫☆「UTX生へのクリスマスプレゼント、って考えると趣があるでしょう?」

真姫☆「さぁ、どうかしら?一緒にライブ…してくれるわよね?」

絵里「…」

真姫☆「…」ゴクリッ




絵里「…断らせてもらうわ」

真姫☆「なっ…!」

希「どうして?」

絵里「…フッ」

絵里「そんなライブなんかやらなくても…私のA-RISEが優っていることなんて明らかだもの…」

絵里「今更不必要だわ!あなたたちに構っているヒマもないしね」

花陽「で、でもっ…!そうなる来年度のパンフレットにC☆cuteが載ることは順調に決まっちゃうんじゃ…」

海未「理事長は前向きに検討してくださっていましたし…」

絵里「…ふふ、別にいいわよ?理事長がなんと言おうと…」

絵里「来年までに、あなたたちが…居なくなれば問題ないんだもの…!!」


「っ!!」


ことり「そ、それ、どういう意味ですかっ…!!」

絵里「…真姫、あなたにも言ったはずよ?どんな手を使ってでも私は私のA-RISEを一番にしなくちゃけないんだって」

絵里「そのためにはどんな汚い手だって使う。あなたたちがこれ以上、スクールアイドルができなくなるようなことだって、簡単に…!」

希「え、えりちっ…!!またそんなことっ…!!」

真姫「…」プルプル…

真姫☆「…させないわよ。そんなこと」

真姫☆「もしそんなことがあったら…私が身を呈してでもあなたを…」

絵里「アハッ…、別にいいわよ?私が仮に瀕死になっても…私に忠実な子はたくさんいるのだから」

絵里「あなた一人じゃ私は止められない…!!フフフフッ…アハハハハッ!!」

ことり「な、なんだか怖い…」

海未「…完全に、目がイってしまってます」

花陽「絵里先輩…」

真姫☆「…」


真姫☆(…確かに彼女の瞳孔は開いて、顔は青ざめているように見える)

真姫☆(けれど、その眼光の奥に…)

真姫☆(隙あらば獲物を噛み砕こうとする、獣の如き鋭さが、垣間見えている)

真姫☆(まさか、絵里は…)


絵里「…それじゃ、困るでしょう?あなたたちも…」

真姫☆「それはまぁ…困るわね」

希「えりちが本気でうちらを潰しにかかれば…容易いことやもしれんからね」

絵里「だから、折衷案を考えてあげる」

真姫☆「…折衷案?」

絵里「ライブよ」

絵里「参加してあげてもいい」

希「え…?でも…」

絵里「その代わり…私たちがあなたたちに勝利したその時…」

絵里「あなたたち、C☆cuteの…」


絵里「解散を約束しなさい」

ことり「っ…!!?」

海未「なぁっ…!!」

希「解散…!!?」

真姫「っ!」ビクッ

花陽「解、散…」


真姫☆「…」タラッ

絵里「ふふふ…、焦っているようね、真姫…」

絵里「攻めていたのは自分だと思っていたら、気づけば喉元に牙を当てられていた」

絵里「気分はどう…?」

真姫☆「…ふ、ふふ…、心臓が縮みそう」

希「か、解散なんて…そんなん認められへんよっ!」

絵里「認められない…?あぁそう、じゃあ…」

絵里「…まずは、部室が荒れ放題、なんてどう?」

海未「っ…!脅迫、ですか…!!」

ことり「ライブでの条件追加を飲まなければ…私たちを潰す…ってこと」

絵里「うん、そういうことよ。だってあなたたちが提示した条件は私たちに利益を与えてくれないもの」

絵里「仮に負けたとしても、また頑張ればいい。いくらでも立ち直れる方法はある」

絵里「それじゃ…王者たるA-RISEを動かさせる条件には程遠いわ」

絵里「自分たちの居場所を賭けるくらいしてもらわないと、釣り合わないのよ」

花陽「そんな…」

絵里「さぁ、どうする?解散が怖くて逃げ出す?それとも私と心中する?」

絵里「フフフフフフ…!」

真姫☆「…」ゴクリッ…

希「ま、真姫ちゃ…」


真姫☆「…」

真姫☆「…いいでしょう。その条件、飲むわ」


「「「「「っ!!」」」」」


絵里「…いいのね?敗北すれば解散、再結成は許されないわよ?」

真姫☆「えぇ。でもこちらが勝った場合、あなたも二度とC☆cuteに手は出さないと約束しなさい」

絵里「…ハラショー。約束しましょう。これ以上ゴネても話が長引くだけだし」

真姫☆「約束を破ればその時こそ、あなたの命はないものと思いなさい」

絵里「わかってるってば。じゃあ…決戦の日、クリスマスイブ。その日まで…ダスヴィダーニャ」スタスタ…


花陽「ま、真姫ちゃぁぁぁん…!!」

海未「あなた、なんてことを…」

真姫☆「…自分でも分かってる。今はとにかく、部室に戻りましょう」

真姫☆「これからのこと、色々と話し合う必要があるわ」

アイドル応援部部室


ことり「と、とんでもない約束しちゃった…!」

真姫「ど、どうするのよぉっ!!?私アイドルになって1ヶ月で引退させられるハメになるの!?」

真姫☆「お、落ち着きなさい。負けたら、の話でしょ」

海未「…しかし、相手はバックダンサーと言えども、約一年間あのアイドル専攻で技術を磨いてきたA-RISEです…」

花陽「しかも相手は凛ちゃんやにこさん…穂乃果さん」

希「…負ける可能性は十分あるよね」

海未「ど、どうして受けてしまったのですか!もう少し交渉しても…!」

真姫☆「…いえ、絵里は譲らないでしょう」

ことり「どうしてそんなことが言えるの?」

真姫☆「彼女の目的は、最初から私たちをライブで負かせて、潰すこと、だからよ」

花陽「えっ…?」

真姫「ど、どういうことよ」

真姫☆「絵里は折衷案、なんて言ってたけど、彼女の本当の狙いは最初から自分の意見を通すことだった」

真姫☆「しかし私たちのパンフレットの件は理事長にも認められてるし、絵里が彼女の意見を通すには状況が不利過ぎた」

真姫☆「だから彼女は、自分の持てる最大限の力を行使する…フリを見せたのよ」

ことり「フリ?」

海未「な、なるほど…!つまり彼女は元から部下に私たちを攻撃させるつもりはなかった、ということですね」

真姫☆「うん。いくら絵里と言えども、私に抵抗されて大怪我を負ったりするのはイヤなはずだし」

真姫☆「私が何もしなくても、もしかすれば下級生にそういうことさせてる証拠が見つかって、退学になる可能性だってありうる」

真姫☆「そんな諸刃の剣を通すのは彼女にとっても危険。けれど私たちだって相当な痛手を負う」

花陽「絵里先輩は私たちに自分の条件を飲まざるを得ない状況に無理やり持っていった…ってことかな」

海未「あの不気味な薄ら笑いは、半分演技…といったところだったのでしょうか…」

希「追い込まれてヤケクソになったと思い込ませて、実は心の奥で自分の戦略を練っていた…」

希「さすが、えりちと言わざるを得ないね…。あんな状況でも冷静に自分の有利な条件を飲ませるなんて」

真姫「絵里…」

ことり「…?よ、よくわかんないや。とりあえず私たち、もし負けちゃったらおしまい、って考えていいんだよね…?」

真姫☆「そうね。次期A-RISEに負ければその時点でゲームオーバー。コンティニューは許されない、ってところね」

真姫「…リスポーンされないFPSなんか、ただの戦場じゃない。死にたくないわよ、私…」

花陽「し、死ぬ…!うぅっ…」

真姫☆「…ごめんなさい、花陽。あなたにとってはこの勝負、余りにもリスクが高すぎるわよね」

海未「そうですね…。花陽以外の我々にとっては最悪、解散しても夢を叶えることはできますが…」

希「花陽ちゃんは、笑顔のスクールアイドルをみんなに見せつけるってことが夢、なんやものね」

ことり「ここでのゲームオーバーが、まさしく花陽ちゃんの夢のゲームオーバー…なんだね…」

花陽「…っ!」

真姫☆「花陽…」

花陽「…大丈夫。大丈夫だよ」

花陽「私の夢を叶えるには、どちらにしろここで負けるわけにはいかないんだから」

花陽「勝って、凛ちゃんに悔しい顔させてあげるんだもんっ…!絶対に、勝つんだもんっ…!!」

真姫☆「っ…。花陽…!」

真姫☆「…ふふっ、そうね。勝ちましょう」

真姫☆「これが正真正銘、夢への最後の戦い…になるかもしれないんだからね」

真姫「さ、最後、って…演技でもないこと言わないでよ…」

真姫☆「そういうつもりじゃないわ。最後は最後でも、最後の戦い」

真姫☆「この戦いに勝利し、UTXに…アイドル専攻に、A-RISEだけが絶対じゃないって分からせれば」

真姫☆「もう私たちが争う必要はない。今まで泣いていた人たちだって、笑顔にできるんだから」

真姫☆「そういう意味での、最後の戦いなのよ」

花陽「…その戦いが終われば、真姫ちゃんは…」

花陽「帰っちゃうの?元の世界に…」

ことり「…」

海未「…」

希「…」

真姫「…」


真姫☆「…」

真姫☆「…かも、しれないわね」


花陽「…そう、なっちゃうんだ」

真姫☆「元々、私は花陽の夢を叶えてあげるためにこの世界に残ったんだし」

真姫☆「UTXで、花陽の夢見た世界を現実のものにできれば、私はこれ以上この世界に居座る必要はないわよ」

真姫☆「…いずれ、別れが来るのは必然なんだから」

花陽「…」

真姫☆「それにほら!この立派なパンフレットにあなたたちのことが紹介されるのよ!?」ババンッ

真姫☆「それが私が…私たちが頑張った成果だって考えたら、誇らしいことじゃない」

花陽「…ふふ、そう…だね。真姫ちゃんがいてくれたおかげで、ここまで来られたんだし」

ことり「真姫ちゃんがいなければアイドルなんかしてなかったかも!」

海未「あなたが去ったとしても、パンフレットに私たちが紹介された、という功績は永遠に残りますからね」

希「そのためには、勝たないといけない…!真姫ちゃんのために、なによりうちら自身のために、頑張らんとね!!」

真姫「そうですね…。私もまだ、アイドル活動に満足してないもの!負けられないわよ!」

真姫☆「えぇ、その調子その調子。頑張りましょう」

真姫☆「…それにしても凝ってるわよね、UTXのパンフ…。さすが人気校なだけ…ん?」

海未「えぇ、ここに入学する前も一際目を引く学校案内だったと記憶して…」

真姫☆「ねぇちょっとまって。こ、このUTXって…~~年に設立されたの?」

ことり「え?うん、今から大体~~年前くらい?だよね」

花陽「はい。私たちが生まれる前…だよね?」

希「それがどうしたん?」

真姫☆「…私の世界のUTXと違う」

真姫☆「私の世界じゃUTX学院はつい最近…私たちが中学か小学生の頃にできたものなのに…そんな前に」

真姫「へぇ…そうなのね」

真姫☆「…そっか」

真姫☆(だから音ノ木坂はもう、廃校になっていたのね)

真姫☆(十数年も前からUTXに生徒を横取りされていたせいで、学校の維持ができなくなって)

真姫☆(こんなところの違いが、結果的に今の歪みを生んでるんだと思うと…)

真姫☆「バタフライ・エフェクトって怖いわね…」

ことり「エビフライ?」

真姫☆「…なんでもない。さぁ、次はこれからのことについての話し合い!ちゃっちゃとやるわよ!」

多目的ホール


凛「遅いねー…絵里先輩」

にこ「何してるのかしら…よっ、と…」グググ…

凛「イタタタタ!いたいにゃー!」

にこ「えぇ…。この程度で痛がる?身体固くなったんじゃない?凛」

凛「そんなことないよ!にこ先輩の押し方が悪いんだにゃ!ほら」グイッ

にこ「あらホント。柔らかいじゃない。おかしいわねー…」

凛「凛は一人でも柔軟できるから、穂乃果先輩の方に行ってきたら?」

にこ「はいはい、わかったわよ」


穂乃果「…っしょ」グググ…

にこ「柔軟、手伝おうか?」

穂乃果「あ、にこちゃん。お願いしようかな」

にこ「はい、よいしょっ…」グググ…

穂乃果「よ、ととと…」

にこ「…そういえばアンタ、絵里にケンカ売っといてよく平気で来られるわね」

にこ「私なら怖くて不登校になるわよ」

穂乃果「…別に、ケンカ売ったとは思ってないよ」

穂乃果「私は自分の考えを正直に言っただけ。私の思う強さを求めたい、って思ったから」

穂乃果「その結果、彼女の反感を買ったとしても…私に後悔はないよ」

にこ「…すごいわね、アンタ」

穂乃果「にこちゃんも、絵里先輩のこと、呼び捨てにしていいの?先輩だよ」

にこ「…いいのよ。私、アイツのこと気に入らないし。実際は同じ年齢だし、見てないところで呼び捨てくらいいいじゃない」

穂乃果「…同じ、年齢…なの?」

にこ「あっ…そっか。まだ言ってなかったっけ。私、浪人してるのよ。ここ入るために」

穂乃果「…そう、だったんだ。噂で少しは聞いたことあったけど本当に…。言っていいの?そんなこと…」

にこ「同じA-RISEのメンバーになるんだから、これくらい知り合っておかないとファンに笑われるわよ」

にこ「メンバーの年齢も知らないアイドルグループがあるらしい、ってね」

穂乃果「そう…だね。思えば私たち、お互いのこと何も知らないのかも…」

穂乃果「…そういうところも、直していった方が、いいのかな」

にこ「ん?何か言った?」

穂乃果「うぅん、なんでも…」


ガチャッ


絵里「…」スタスタ…


凛「あ、やっと来たにゃー!もー先輩!まだ明日のスケジュ…ぎょっ」


にこ「…ぎょっ?なんて声…うげっ!」

穂乃果「にこちゃんまでどんな反応…うわ」

穂乃果(顔すごい怖い)


絵里「…話があるの。聞いて」

にこ「は、はぁ…」

穂乃果「ライブ…」

にこ「ライブ…っ!?」

凛「ライブーっ!?や、やったあああっ!!」

にこ「え、えぇっ…!そうね!つ、ついに私たちがライブ、できるのよねっ…!?」

凛「いえーいっ!ハイタッチだにゃ!」

にこ「う、うんっ…!」パシンッ


絵里「…はしゃがない。ただのライブじゃ、ないわ」

絵里「明確に勝ち負けが決まるライブ。そして、絶対に負けの許されないライブよ」


にこ「…っ!そ、そう、なのよね…。でも、勝ったら…」

穂乃果「C☆cuteは解散…」

凛「えへへーっ!知ったことじゃないにゃ!凛たちにとってはどっちでもいいことだよ!」

穂乃果「そう、だね…。その条件を飲んだ、彼女たちに責任があるよ」

にこ「…解散、ね。何もそこまで…」

絵里「にこ。生半可な気持ちじゃ、足元を掬われるわよ?」

にこ「うっ…」

絵里「C☆cuteはすでに最強のA-RISEにとって脅威になりつつある」

絵里「ここで彼女らを葬っておくことが、将来のA-RISEのためなのよ」

絵里「…理解できたかしら?」

にこ「…わかり、ました」

絵里「そして、そのためには」

絵里「穂乃果。にこ。凛」

絵里「あなたたち一人たりとも、欠けることは許されない」

絵里「もう、後には引けない状況まで来ている」

絵里「穂乃果。あなたが私のやり方に納得できないということは理解したわ」

絵里「にこ。あなたを犠牲にしようとしたこと、恨まれても仕方がないことよ」

絵里「凛。あなたがへこたれないことを逆手に、ハードな練習を強要してきたかもしれない」

絵里「…でも、それでも。ここまで来たからには、私に従って…」

絵里「いいえ、私に、ついてきて欲しい。命令じゃなく、お願いよ」

絵里「私の悲願を達成するために、ここは…絶対に負けることの許されない戦い」

絵里「だからこそ、こんな私に…あなたたちの意思で、私についてきて欲しいの」

絵里「お願い…っ!」



「「「…」」」

「…」

「分かりました」


絵里「…っ」

穂乃果「元々、そのつもりでしたし」

絵里「穂乃果…」

にこ「意外ね、アンタが最初に返事するなんて」

穂乃果「…今の先輩は、純粋に勝利を願っているように見えたので」

穂乃果「いつもその調子だと、私も信頼できるんですけどね」

絵里「…ふふ、そう…。精進するわ」

凛「凛も!先輩の悔しさ、十二分に凛も理解できるにゃ!」

凛「…小泉さんなんかに、絶対に負けない。コテンパンにして泣かせてやるんだから」

絵里「頼もしいわね…凛」

にこ「…仕方ないから、私も。いえ、生半可じゃダメ、なのよね」

にこ「勝負になるなら、絶対に勝つ。あっちが負けたら解散だろうと、貪欲に獲りに行くわ」

絵里「えぇ…、そうよ。勝ちましょう」

絵里「ありがとう3人とも。私に応えてくれて」

絵里「決戦は2週間後、これからはひたすらライブのための練習を続けていきましょう」

絵里「今までよりも更に過酷なものになるかもしれないわ。下位組のように、遅くまで居残りもあるでしょう」

絵里「…それでも、付いてきてくれるのね」

穂乃果「えぇ」

凛「もちろん!」

にこ「そのつもり」

絵里「わかった。覚悟は出来てるのね」

絵里「…だったら、走り続けましょう。…私の、夢のためにも」



凛「にゃー…、ライブかぁ…。楽しみだなぁ…!」

にこ「ついに、って感じよね。うぅ…、今から緊張してきたぁ…!」

凛「やっと歌えるって思うと胸が高鳴って仕方ないよっ!わーいっ!!」ブンブンッ!!

にこ「おわぁっ!!?ちょっと!?腕が強く降りすぎぃぃ!!」

穂乃果「…」

凛「にゃ?どうしたの穂乃果先輩。今から練習なのにぼーっとしちゃって」

穂乃果「…うぅん、なんでも」

穂乃果「行こっか」

凛「うん!楽しみですなぁ…!」トットコトー

にこ「…あいつだけは毎日毎日楽しそうね」

穂乃果「…そうだね」


穂乃果(…夢)

穂乃果(夢、か…)

音楽室


希「そんじゃ、ひとまず解散のことは置いておいて、クリスマスライブのことを考えよう」

海未「置いておいて、と言われても…やはり心のどこかでは重荷になりますよ…」

海未「…負ければ終了、だなんて」

ことり「もう海未ちゃん!今からそんなに弱気でどうするの~!?」

ことり「穂乃果ちゃんだって少しずつ変わってきてる…。それにもう海未ちゃんは昔の海未ちゃんじゃないって証明しちゃうんだよ!」

ことり「そしたら穂乃果ちゃん、海未ちゃんに教えを乞うてきたりして…!」

海未「あの穂乃果が…?ぷふっ、ありえませんよ」

ことり「そのくらい、穂乃果ちゃんがビックリするくらいカッコイイライブができるようになって、そして勝てばいいんだよ」

ことり「それが私たちの願い…だからね」

海未「…ことり」

海未「そう、ですね…。不安になっていても夢は叶いませんものね」

希「うんうん。勝って当然、みたいな感じで気楽に行こう!」

真姫☆「どうせ今からどうしようと私たちが劇的に変われるわけでもないしね」

花陽「え…」

真姫☆「私たちはいつも通り。いつも通り、心の底から笑顔で」

真姫☆「そうやって勝ってこその、私たち、でしょう?」

花陽「あ…!うんっ!そうだよね!!」

希「よし、心の整理もついたところで…歌う曲についてやけど」

海未「そうですね…。やはりここは最も自信のある…キノも踊ることですし、前回のライブで使った…」

真姫「新曲で行きましょう」

海未「えぇ、新曲で…」

海未「…ええぇぇぇっ!!!?」

ことり「し、新曲っ!?」

真姫「…ダメなの?」

花陽「だ、ダメじゃない、けど…2週間後、なんだよ!?」

希「流石に練習できる期間が短すぎるんじゃ…。今から1から、ってことでしょ?」

真姫☆「…もしかしてアナタ、何か…」

真姫「…えぇ」

真姫☆「っ…!」


真姫☆(…やはり、腐ってもこの世界の私)

真姫☆(突拍子のない提案に思えても、何か考えを巡らせている、ってことなのね)

真姫☆(さすがだわ…!)


真姫「…だって」



真姫「もし負けちゃったら私一回も作曲できずに終わっちゃうじゃない!!」

「………」

「…は?」


真姫「私だって…さ、作曲したいわよ」

真姫「み、みんなと…仲間?になったんだし…。でも、もし負けちゃったら、解散しちゃうし…」

真姫「だから…せめて最低でも一回は、私の作った歌を残しておきたいって思って…」

海未「そ、それが理由…ですかぁ…?」

真姫「ナニヨ!!…いい、でしょぉ…?」

ことり「ち、ちょっとワガママ、じゃないかなぁ…?」

希「勝てばそれからいくらでも作れるんやし、ここは前の曲で行こ?」

真姫「あう…、そ、そう…よね。ごめんなさい…私…」


花陽「…うぅん」

花陽「私、いいと思う。キノちゃんの新曲」


真姫☆「え…」

ことり「花陽ちゃん…?」

花陽「C☆cuteに入って、何かを残したいって気持ち、よくわかるもん」

花陽「真姫ちゃんは作曲、ことりちゃんは衣装、海未さんは作詞。ダンスはみんなで考えて、だったけど…」

花陽「ずっと近くで見てて、私も自分だけのなにかが出来たら、って思ってたんだ」

花陽「…でも私は、やっぱりこうしてアイドルとして踊れることが一番の喜びだから、それだけでも十分なのかな、って思ってた」

花陽「けど、キノちゃんが作曲をしたい、って思ってるなら、やったほうがいい」

花陽「やりたいと思ったらやってみる。…でしょ?」

真姫☆「は、花陽…」

真姫「花陽ぉぉ…!!うぅぅぅぅ…!ありがとぉぉ…!」ギュゥッ

花陽「や、やぁっ…、恥ずかしいよキノちゃん…」

海未「し、しかし…作詞は頑張ればなんとかなるでしょうが、衣装はどうするんです?」

希「練習しながら二週間で新しい衣装を仕立てるんはスケジュールが辛いし…」

ことり「着まわしで頑張る?」

花陽「うーん…やっぱりこういう時は…」

真姫☆「よし、誰かに頼りましょう。花陽親衛隊とか」

海未「い、いいんですか…?他力本願ではありませんか?」

真姫☆「いいのよ。だって私たちはスクールアイドルなんだもの」

真姫☆「私たちだけの力で成り立ってるんじゃない。応援してくれるみんなが支えてくれているから成り立っているの」

真姫☆「もちろん、彼女たちの都合が悪ければ新曲は取り下げることになるけど…でも」

真姫☆「クリスマスイブのプレゼント、どうせなら魔法のように新しい曲を引き連れて、驚かせてあげましょうよ」

ことり「サプライズっ!そうだよね、つい2週間前に新曲出したのに、クリスマスにも新曲だったら…」

希「それもダンスも衣装も新調…まるで魔法で作り出したかのよう、やね」

真姫「魔法…」

海未「…みんなの驚く顔、ですか…。それを聞いてしまうと、自分の中の謎のメイドが騒ぎ出してしまいそうです」

真姫☆「でしょう?こんな楽しいこと、しでかしちゃったら最高にクールじゃない!」

花陽「うんっ!そ、そのためにはみんなの協力は不可欠、だよね…!流石に今日は無理かなぁ…」

真姫☆「話が付きそうな子だけでも連絡してみたら?」

花陽「あ、そっか!そうしてみるね!」ピピピ…

花陽「あ、もしもし…私…」


真姫☆「…花陽」

真姫☆(本当なら私も、キノの意見には反対するつもりだった)

真姫☆(負ければ後のない状況で、新しい曲は無謀すぎる、って)

真姫☆(…でも、そうよね)

真姫☆(花陽の言うとおり。やりたいと思ったことを、やる)

真姫☆(今までもずっとそうやってきたじゃない)

真姫☆(無茶だろうとなんだろうと、突っ走ってきた。道を逸れそうな時は仲間が支えてくれた)

真姫☆(だからこれからも、それでいいのよ…ね)

真姫☆(私の世界の穂乃果から教わった、頂点へ導く方法)

真姫☆(まさか私より先に、花陽に言われちゃう、なんて…)

真姫☆「…ふふっ」



海未「協力していただける人員の確保は花陽に任せるとして…キノ。どういう曲を作る気、なのですか?」

真姫「作る気…っていうか、実はもう…作ってあるのよ」

ことり「え…本当?」

真姫「えぇ…『私』に作曲の方法を習いながら、家で一人でね」

希「そうなんや…。で、どういう曲にしたの?」

真姫「どういう…と言われると難しいんだけど…」

真姫「…そうね。その時の気持ちを素直に曲にした…かしら」

真姫☆「その時の、気持ち…?」

真姫「こんな私を、C☆cuteに誘ってくれたあなたたちへの感謝…」

真姫「そして、嫌いだった学校を、大好きにしてくれた喜びを、そのまま詰め込んだ」

真姫「だから…うん、言うなれば…『学校に来たくなる』曲ね」

ことり「あははは、それいいね。サボり学生には最高だ!」

海未「しかしなにげに、その命題は今のこの状況にピッタリ、当てはまっているかもしれませんね」

希「アイドル専攻のせいで学校に…UTX学院に行きたくない、って子は、今でもたくさん生まれてるからね」

希「その曲を聞いてUTXが好きになってくれるなら…それはまさに夢のような曲やよ。うちにとって」

真姫「そ、そう…?そんなに言われると照れちゃうわね…」

真姫「自分ではいいものができた、って思ってるけど…拙かったらごめんなさい」スッ

真姫☆「そしたら私がちょこっと直してあげるわよ。もちろん、直さないでいい出来を期待しているけどね」

海未「ではまずはじめに…ここは希さんが行くべきでしょうね」

希「あ、うち?」

ことり「キノちゃんがそういう気持ちになれたのは希ちゃんのおかげが大半だもん!一番最初に聞くべきだよ!」

真姫「うん…私もそうしてほしい。お願いします、希先輩」

希「わかった…。よいしょ」スポッ

希「…」~♪

真姫「…」ドキドキ

希「…ふふっ」

真姫「っ…!その笑みはどっちの…!?」

ことり「ぷふっ…!キノちゃんの顔、おもしろーい」

真姫☆「凝視しすぎよ…ふふ」

希「…」

真姫「ど、どうだった…?」

海未「判定は…?」

希「…うん」

希「すごいいいやん!うち、この曲好きや!」

真姫「っ!!ほ、本当に…!?」

希「うんうんっ!なんだか聞いててワクワクする…!」

真姫☆「どれどれ?」スポッ

ことり「わ、私も…!」スポッ

海未「あぁっ…、ことり…!私にも聞かせて…」



花陽「聞いて!親衛隊の子達で協力してくれるって子が今の連絡だけでなんと…!」

花陽「…って、アレ?」

ことり「はわぁぁぁぁ…!こ、これ…!真姫ちゃんの曲より好きかも…!」

海未「なんでしょう…。子供の頃の無邪気さを思い出させてくれるような…」

真姫☆「むっ…!ち、ちょーっと甘めの作りだけどね!ほんの少し直せばもっと良くなるわ!」

真姫「そ、そう?…あ、花陽!これ、私の曲!聞いて聞いて!」

花陽「わ、私の話も聞いて欲しいなぁ…ま、いいけどね」



真姫☆(案の定キノの曲は花陽にも大好評)

真姫☆(この曲を活かさないのはもったいない、ということで、めでたくクリスマスライブ、キノの作った新曲を採用することに)

真姫☆(私はちょっとジェラシー抱いちゃうけど…うん、これでいいのよね)

真姫☆(花陽の呼びかけで集まってくれる子も、すでに2桁を突破してるようで)

真姫☆(新曲を使ったライブには、かろうじて間に合いそうな勢い)

真姫☆(今日は基礎的なダンス練習と、振り付けの案をみんなで出し合ったところで、下校時刻となった)




キーンコーンカーンコーン…


真姫「ふぅっ…はぁ…。つ、疲れるわ…」

海未「まだ基礎連で疲れているのですか…?それじゃダメ、ですよ」

ことり「この程度は汗ひとつかかないくらいでなきゃ!」

真姫「は、はぁい…」

花陽「ま、まぁ…キノちゃんはまだ始めたばっかりだし…」

真姫☆「じゃあ、今日はここまでね。海未、歌詞…お願いね」

海未「あ、そのことなんですが…」

希「ん?どしたん?」

海未「…今回の曲の歌詞は」

海未「花陽と一緒に考えたいのですが、どうでしょうか」

花陽「へぇー…」

花陽「…」

花陽「えぇぇぇっ!!?」

多目的ホール


キュッ… タタタタンッ…!!

ダッ ガシィッ!!


ピタッ…


穂乃果「ハァッ…!ハァッ…!!」

にこ「ぜぇぇっ…!はぁぁぁっ…!!」

凛「ふぅっ…」



絵里「…まだよ。全然揃ってない」

絵里「この曲はもっと機械のように完全に揃えてこそ映えるもの」

絵里「あと表情も。無表情と笑顔を使い分けなさい」

絵里「もう一回…は、休憩後ね」


キーンコーンカーンコーン…


にこ「い、いつもならこのチャイムで帰ってるのに…ハァッ…まだ、帰れない…!」

穂乃果「…頑張ろう…。もっと、完璧に揃う、まで…!」

凛「ごくごく…ぷはーっ。凛、歌が歌いたいにゃー」

にこ「あ、アンタ…はぁっ…つ、疲れないのぉ…?」

穂乃果「あんなに激しいダンスして…い、息一つ切れてないなんてっ…はぁっ…すごいね…」

凛「うん。このくらいは平気。なんだかここに入ってから疲れづらい体質になったの!」

凛「最初の頃はゲロ吐くくらい辛かったけど、今はどれだけ練習してもケロッとしてるにゃー!」

にこ「は、ハハ…まさにバケモノね…。私、今がそのゲロ吐きそ…うえっ…」

穂乃果「…トイレ、一緒に行こう…」


スタスタ…


凛「大変だねー、ふたりとも。…ごくごく」

凛「ぷふっ…、あ、絵里先輩!明日はなにするんですか?」

絵里「明日?そう…ね。はっきりは決まってないんだけど…」

絵里「凛がとても歌いたそうだし、明日は歌の練習を重点的にしましょうか」

凛「ホントっ!?わーい!やったー!」

絵里「ふふふ…そんなに歌いたいの?凛はダンスの方が好きそうに見えるのに」

凛「ん?まぁ、ダンスも好きですけど、歌は…」

凛「歌、は…」

絵里「…どうしたの?凛」

凛「…どうして凛、歌が好きなんだったっけ」

絵里「え?」

凛「うーん、よくわかんないや…。でも、歌うと気分が明るくなって楽しいから!」

凛「うん、だから好きなんです!ダンスは授業でも散々やってるから飽きてきちゃうしー」

絵里「そう…。まぁ、好きな理由なんてどうでもいいんだけど」

絵里「…さ、そろそろ二人も戻ってくる頃だし、ダンス練習再開の準備、お願いね」

凛「わかったにゃ!」

2時間後…



タタタンッ… ピタッ



絵里「…」

絵里「…もうこれ以上は無理そうね」


バターンッ!!


穂乃果「はぁーっ…!!はぁーっ…!!」

にこ「ごほっ!!が、はぁっ…!はぁっ…はぁっ…!」

凛「ふひぃ…疲れたぁ…」


絵里「これ以上の練習でパフォーマンスの向上は望めないわね」

絵里「今日は帰っていいわ。明日、穂乃果以外は朝一でね」

にこ「な、なんで穂乃果…あぁ、生徒会…」

穂乃果「…ごめん、にこちゃん」

凛「じゃあ歌にしましょうよ!3人じゃなくても揃えやすいし!」

絵里「そうね。明日は朝から歌のレッスン。…って言っても、音程を外さず発声できるかの特訓だけど」

にこ「う…苦手なやつじゃない…」

穂乃果「避けてても上手くはならないよ。…きっとあっちも、頑張ってることだし」

にこ「…そうよね」

凛「あっち?小泉さんのほう?」

凛「どうかなぁ?どうせヌルい練習で満足して帰ってるんだよ」

凛「…ホント、イラつくなぁ。絶対に解散させてやるんだもん」

絵里「凛のやる気は十分のようね。…じゃ、解散。着替えて速やかに休息をとること」

絵里「…そこの…あなたたちも。学校が閉まるまでには下校するのよ」

絵里「…あと、吐瀉物は片付けるように」




UTX学院 正門前


にこ「うわ…久しぶりの真っ暗だわ」

凛「星空が綺麗~!」

穂乃果「…私、帰るね」

凛「あ、一緒に帰らないんですかー?友達もう帰っちゃったから寂しいにゃー」

穂乃果「家族が、心配してるかもしれないから」

にこ「…そっか。そうね、私も…」

凛「ふーん、そう…。じゃあ凛は寂しく一人で帰るにゃー」

にこ「夜道には気をつけなさいよ」

穂乃果「じゃ、バイバイ。また明日、放課後にね」

凛「バイバーイ」

穂むら


ガララッ…


穂乃果「…ただいま」


雪穂「あ、おかえりー。遅かったね、今日」

穂乃果「うん。クリスマスイブにバックダンサー3人でのライブが決まってね。その練習で」

雪穂「へー、すごいじゃん!それってA-RISEとしての初ライブ?」

穂乃果「そう…なるかな」

雪穂「ねぇねぇ!私も見に行っていいの?それ」

穂乃果「…残念だけど、UTX生限定なんだって」

雪穂「そっかぁ…。おねえちゃんの晴れ舞台なのになー」

雪穂「あ、お風呂、温め直しとくね。ご飯、キッチンに用意してあるから食べておいて」

穂乃果「…うん。ありがと、雪穂」



穂乃果「…ふぅ。お風呂、上がったよ」

雪穂「私もう入ったー」

穂乃果「そっか。じゃあ閉めとくね」

雪穂「いいよ。お姉ちゃんはどっしり構えてて。私が閉めとくから」

穂乃果「…雪穂ばっかりに任せちゃ、悪いよ」

雪穂「いいから。あ、身体凝ってるでしょ?そこ、寝転がって」

雪穂「いつものマッサージ~♪」

穂乃果「…お風呂は?」

雪穂「寝て準備しててってこと!」タタタッ…

穂乃果「ふぅ…、全く」


雪穂「よっ…」グググ…

雪穂「…はぁっ。凝ってるねー、すごい筋肉」

穂乃果「いちち…雪穂が、毎晩こうしてくれるおかげで…うぎゅっ…なんとか保ててるんだよ…」

穂乃果「そうじゃなきゃとっくに、倒れてた、かも…」

雪穂「へー。じゃあお姉ちゃんにとって私が、心の支え?」

穂乃果「…そう、だね…あたたたっ!!痛いよっ!」

雪穂「へへ、小っ恥ずかしいこと言ってるから」

穂乃果「もー…」

雪穂「…でも、今こうしてお姉ちゃんの役に立てるのは、嬉しいよ」

雪穂「去年の今頃なんか…荒れに荒れてたじゃん。お姉ちゃん」

穂乃果「…」

雪穂「トップ争いに必死でさ。海未さんやことりさんとも絶交しちゃって…」

雪穂「…毎晩寝言でうなされてたじゃん。『海未ちゃん、ことりちゃん、ごめんね』ってさ」

穂乃果「…もう、いいじゃん」

穂乃果「おかげで、こうしてA-RISEになれたんだし」

雪穂「でもさ、ホントにそれで…」

雪穂「…うぅん、なんでもない。お姉ちゃん、頑張ったんだもんね」

穂乃果「…」

雪穂「で、念願のA-RISEはどう?楽しい?」

穂乃果「…アイドルは楽しむものじゃないよ。楽しませるもの」

雪穂「でもやりたかったことなんでしょ?やりたいことやってれば楽しいと思うけどなぁ」

穂乃果「それは…多分ライブをやってからでないと」

雪穂「そっか。まだ実際にライブやったわけじゃないもんね」

雪穂「うぅ…見に行きたいなぁ…。こっそり忍び込めばバレないんじゃ…」

穂乃果「…ダメだよ?」

雪穂「はいはい。分かっております生徒会長どの」

穂乃果「ふふ…来年、雪穂がUTX生になったら…いくらでも見せてあげるから」

雪穂「…あ」

穂乃果「ん?どうしたの?」

雪穂「…そのこと、なんだけどさ」


雪穂「私…、UTX、行かない」


穂乃果「…」

穂乃果「…どうして?」

雪穂「え、えっと…仲のいい友達がどうしてもUTXに行きたくない、って言ってて」

雪穂「私もその子と同じ学校に行きたいから、だから…都内の別の高校を選んでるんだ」

穂乃果「…そう、なんだ」

雪穂「…ごめん。お姉ちゃん」

穂乃果「別に、いいよ。雪穂とはこうして、夜会えれば」

穂乃果「…けど、雪穂自体はどう思ってるの?」

雪穂「え?」

穂乃果「…いや、いいや。こんなの、どうでもいい…」

雪穂「…っ」

雪穂「わ、私もっ…!」

雪穂「…私も、今のUTXは、行きたくない…かな」

穂乃果「…」

雪穂「今のA-RISEも好きだし、お姉ちゃんだって、バックダンサーだって大好きだけど…」

雪穂「…でも、それでUTXに行きたいか、って言われると…行きたくない」

雪穂「なんか、怖いから…。今のUTXって」

穂乃果「…怖い、か」

雪穂「あ、でもさ、UTXって今…あ、やっぱいいや…」

穂乃果「言いなさい」

雪穂「…今、新しいスクールアイドル、いるんでしょ?」

雪穂「しーきゅーと…?だっけ」

雪穂「ライブ見たよ。…すごかった」

穂乃果「A-RISEと、どっちがすごい?」

雪穂「それは…A-RISEだよ。絶対」

穂乃果「…そう」

雪穂「…けど」

雪穂「なんか、楽しかった」

穂乃果「…楽しい?」

雪穂「A-RISEを見るとさ、すげー、とか、かっけー、とか…感嘆符ばっかり出てくるんだけど」

雪穂「C☆cuteはそれより、楽しそう、だったり、やってみたい、だったり…そう思わせてくれたの」

雪穂「私ね、…C☆cuteを見るためなら、…うぅん、C☆cuteになるためなら、UTX入ってもいいかな、って、ちょっとだけ思った」

雪穂「夢に溢れてた、から…」

穂乃果「…夢」

穂乃果「夢、って…なに?」

雪穂「え?」

穂乃果「ねぇ、雪穂の夢は?」

雪穂「ど、どうしたの突然…」

穂乃果「おしえて」

雪穂「…え、えっと…そうだなぁ…」

雪穂「お、お嫁さん!…なんちて」

穂乃果「ふふっ…あははははっ!雪穂っぽい!いいんじゃないのー?お嫁さん」

雪穂「お、おぉ…!お姉ちゃん笑った!」

穂乃果「えっ…、あっ…」

雪穂「…なんだ、まだ笑えるんじゃん」

穂乃果「…バカ。ごめん、もう寝るね」

雪穂「ん。おやすみ。明日も…頑張ってね」



穂乃果の部屋


ガチャッ

穂乃果「…ふぅ」

穂乃果「お嫁さん、か…。ふふっ…、ふふふふっ…」

穂乃果「…夢」

穂乃果「妹の夢すら、知らなかった」

穂乃果「…ましてや、他人の夢なんて」


穂乃果(絵里先輩が度々語る、夢)

穂乃果(何度も耳にした言葉。夢のために、夢を実現するために)

穂乃果(彼女はそのために、あらゆる手段を使ってA-RISEを強くしてきた)

穂乃果(でも私は、その夢の内容を一度も聞いたことはない)

穂乃果(彼女の夢って…何なんだろう)

穂乃果(彼女はA-RISEを強くして、どうしたいんだろう)

穂乃果(…強くなって、行き着く先は、どこ?)

穂乃果(私が欲しかった頂点って…)


穂乃果「…やめよう」

穂乃果「考えても…無駄なことだよ」

穂乃果「今はただ…目指すんだ。迷いなく、突き進む」

穂乃果「トップアイドルに…なる」

穂乃果「…だから今日はもう…おやすみ

小泉家


花陽「えと、そうだなぁ…ここはー…」

海未『あまり気負わないように、思ったままの言葉がいいと真姫も言っていましたよ』

花陽「そっか…うーんと、じゃあ…」



~回想~


海未「今回の曲の歌詞は、花陽と一緒に考えたいのですが、どうでしょうか」


花陽「えぇぇぇっ!!?」

ことり「花陽ちゃんと?」

真姫☆「ど、どうしてよ…?どういう風の吹き回しなの?」

海未「先ほど、花陽が言っていたじゃないですか」

海未「私も自分だけのなにかが出来たら、と」

花陽「い、言ってたけど…」

海未「けれど、アイドルとして活動できることで十分だと、自分では納得していたのでしょう?」

海未「しかし、私にはそれは、自分を無理やり納得させているように思えてならなくて」

希「海未ちゃんは花陽ちゃんがまだそういったこと、したがってるって思うん?」

海未「まだ…というより、一度でもしたい、って感情があったのならやるべきです」

海未「あなたがそう言ったんでしょう?花陽」

花陽「うっ…!い、言ったけど…!」

真姫「んふふ、いいじゃない。花陽、初挑戦同士、一つの曲を作り上げましょうよ」

ことり「うん、キノちゃんと花陽ちゃんの曲…今までとは毛色の違った、面白い曲になるかも!」

真姫☆「まぁ…たまにはそういうのも悪くないかもね」

希「うち賛成~!」

花陽「ひえぇぇぇぇぇっ!!?」


~回想おわり~



花陽「…はぁ。作詞かぁ…」

海未『作曲や衣装作りはさておき、作詞などその気になれば誰でも出来ることです』

海未『そもそも脚本専攻だからといって私に作詞を頼む方がおかしいと思います。…中学の頃には似たようなことはしてましたが』

花陽「え?なんて…?」

海未『なんでもありません!ですから初挑戦であろうとも難しいことなんて何一つありません!』

海未『ちょっとかっこよくて可愛らしい詩的な文章を綴ってしまえば、ほら、出来上がりです』

花陽「そんな簡単に出来たら苦労しないよぉぉ…」

海未『簡単だと思うのですが…』

花陽(…やっぱり海未さん、作詞の才能があるんだなぁ…)

花陽(…でも)


花陽「少し、懐かしいなぁ…」

海未『…懐かしい?』

花陽「あのね、実は…初挑戦、って決めつけられてたけど」

花陽「私、昔自分の曲を作ったことがあったの」

海未『そう、なんですか…?』

花陽「うん。作詞だけじゃなくて、作曲も」

花陽「って言っても、本当に簡単な、誰でも作れそうな曲なんだけど」

海未『どんな歌、だったんですか?聞かせて頂けませんか?』

花陽「えっ…、うーん…もう忘れちゃったよ」

花陽「頭の中で考えたメロディに、感謝の思いをそのまま乗せた歌詞だったから」

花陽「歌ったのも、多分…一度きりだったと思う」

海未『そうですか。残念ですね…』

海未『…感謝の思い、とは?誰かに向けて歌ったものなんですか?』

花陽「うん。泣いてた私に、手を差し伸べてくれた人に向けて歌った曲」

花陽「それが私の…生まれて初めての誰かに見せたライブ、だったのかも…」

海未『…ライブ。ただ歌っただけではなく…?』

花陽「えっ…、あぁ、ほとんど歌だけだったよ。ただ身体をゆらゆらさせて、ちっさな砂場のお立ち台でのライブ」

花陽「それだけでもとても緊張して、歌いきった後はちょっぴり泣いちゃったけど」

花陽「…あの時のたった一人だけの拍手が、今も胸に残り続けて…歌うための原動力になっているのかも」

海未『…いい話ですね。その話を歌詞にしてみては?』

花陽「えぇっ!?だ、ダメだよ…キノちゃんはこの歌を学校に行きたくなる曲として書いたんだから…」

花陽「私の勝手な思い出を乗せたら別の曲になっちゃうよ。それはダメでしょ?」

海未『ふふ、そうですね。わかっていました』

海未『メロディと言葉がチグハグでは良い物語は生まれませんからね』

花陽「おぉ…!海未さん、さすが…!脚本家って感じです!」

海未『…つい最近授業で似たような言葉を聞いただけですよ。受け売りです』

海未『しかしまぁ…感謝という意味では共通する点もあることですし、その時の気持ちを参考にするのも悪い方法ではないと思います』

花陽「はい、分かりました。それも一緒に考えてみるね」

海未『よろしい。…っと、そろそろ夜も更けてきた頃ですね。明日も朝から大変でしょうし…』

花陽「うん、おやすみなさい」

海未『えぇ、また明日』

翌日 早朝

多目的ホール



凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」



ガチャッ

にこ「よしっ、一番のり…って、凛…」

凛「あ!おはよう!」

にこ「あ、アンタ…いつからいたのよ?」

凛「んー?昨日のおさらいとー、発声練習してたから~…」

凛「1時間前くらい?」

にこ「うぇっ…!学校が開いて直後くらいじゃないの、それ…?」

凛「開く前から来てたよ?」

にこ「えぇ…どんだけ練習が楽しみなのよ…。昨日もアンタだって倒れるくらい疲れてたのに…」

にこ「休息は十分…なんでしょうね?」

凛「全然ピンピンしてるよ!一睡すれば全快!ほらほらっ!」ピョンコピョンコッ

にこ「し、信じらんない…。私だって今日は歌の練習だから早起きできたようなものなのに…」

にこ「…ホントに、平気なの?」

凛「もー、しつこいなぁにこ先輩!先輩とは身体の作りが違うの~!」

凛「さぁさぁ、絵里先輩が来る前に発声練習、やっちゃおうよ!」

にこ「わ、わかった…」



音楽室


真姫☆「…」

ことり「…」

海未「…」

希「…」

真姫「…」


真姫☆「…花陽が、来ない…」


ことり「ま、まさかっ…!またなにか事件に…!?」

真姫☆「流石にそれは、ないと思うけど…」

希「…電話、してみよか」

海未「まさか…」



花陽「お、遅れましたぁぁっ!!」ガタンッ!!


真姫「は、花陽…、何してたのよ」

海未「もしかして、花陽…あなた、作詞のことを考えて…」

花陽「…はい。ずっと眠れなくて…」

海未「や、やっぱりですか…」

ことり「よくあることなの?」

海未「えぇ…作詞を始めた頃は考え出すと夜も眠れなくて」

海未「あの頃は私はアイドルをしていませんでしたから、まだ良かったのですが…」

希「花陽ちゃん、疲れてる上に作詞で眠れないとなると…」

真姫「体力が回復しないわよ?大丈夫なの?」

花陽「だ、大丈夫ぅぅ…!」

真姫☆「…寝坊してくる人が言えたことじゃないわね」

花陽「うぅ…ごめん真姫ちゃん…」

真姫☆「仕方ない。今日は練習メニューを急遽変更ね」

ことり「変更?」

真姫☆「振り付けの考案とダンスの基礎をやるつもりだったけど…」

真姫☆「花陽の心配事をなくすために、作詞を全員で手伝いましょう」

花陽「て、手伝う…って、こ、これは私が任されたことだし…」

真姫☆「別に、直接歌詞を考える、とかじゃなくて」

真姫☆「アイデアの手助けになりそうなワードをみんなで考えましょう、ってこと」

海未「歌の世界観を皆で語り合えば、自ずとそれに見合った歌詞が浮かんでくるものです」

花陽「は、はぁ…」

希「世界観…。西木野さんはこの歌を学校に来たくなる、って思いで書いてたんよね?」

真姫「うーん…、私のそのままの気持ちをあえて言葉にすればそう、ってわけだから、正確にはそうじゃないのだけど…」

真姫「でも大体はそんな感じね…です」

ことり「キノちゃんまだ希ちゃんには敬語が抜けないねーえへへ」

希「うちも西木野さんのままやからねー…人のこと言えないわ」

真姫☆「…というわけだから、みんなで学校…つまりUTXのことについて語りましょう」

海未「UTX…ですか。しかし…」

花陽「前も同じようなことしたような…。取材の時だったっけ」

ことり「あの時も、UTXは混然一体とした異世界みたいなところ、ってイメージでステージを作ったんだよね」

真姫「異世界…。そうね…、そうとも言えるかもしれないけど…」

真姫「…けど、私にとってUTXは…過ごしやすい場所にはなったけれど、異世界とは思えないわ」

真姫「だって私が過ごしているのは教室と歌手専攻のクラスと、アイドル応援部だけだもの」

希「一日中歌と触れ合ってる西木野さんにとってUTXは異世界ってほどカオスな空間じゃない…もんね」

真姫☆「だけどUTXがカオスな空間だっていうのは間違いないことよ。それは個人にとってはそういう見方もあるけれど…」

真姫「でも!この歌は私の感情で作ったものよ!事実はそうだとしても私にとってはそうじゃないわ!」

海未「…ふむ、なるほど。つまり…」

海未「前の曲の場合は、客観的なUTXを、外部に紹介する、…そういうコンセプトであったのに対して」

海未「今回は…そう、主観的。個人がそれぞれ抱く、UTXの魅力…それを前面に出していく方針…でしょうか」

花陽「主観的な…UTX…」

真姫「思わず学校に行きたくなるような魅力…。なるほどね!」

希「それは西木野さんにとってのうちら、みたいな感じ?」

ことり「そうなる…かも?」

花陽「そ、それだったら私にとっても身近なものですし、いけそう…!よし、C☆cuteを題材に…」

真姫☆「待って!」

花陽「え?」

真姫☆「…あなたねぇ、それはキノと、そしてあなたにとっての魅力でしょ?」

花陽「え…そうだけど…それがいけないの?」

真姫☆「確かにそれは主観での魅力かもしれないけど、それが他人にとっての魅力とは限らないでしょ」

花陽「え?え?ど、どういうこと…?」

海未「…真姫が言いたいのはこういうことです」

海未「主観的な、とは言いましたが、そもそもUTXの魅力が歌を聴いてくれている人にも伝わらなければ意味がない」

海未「誰かの経験をそのまま歌にしても、その魅力が十分に伝わるとは考えにくいでしょう」

海未「はっきりと、誰しもに共通する…UTXでの日々を過ごせば、確かに伝わってくる魅力」

海未「そんな客観的な、主観的魅力を文章にするべきだ、ということです」

花陽「き、客観的で、主観的ぃぃ…!?」

ことり「い、意味がわからないよ…」

希「…誰もが感じ方が違っていても、その中で共通する想いがある」

希「それを抜き出せ…って言いたいのかな?」

真姫☆「えぇ、そういうこと」

花陽「む、無茶だよ…。だって私は私の感じたことしかわからないんだもん…」

花陽「誰かの感じ方と比較する、なんて…」

真姫「初心者に対して、注文がキツすぎるんじゃない?もっと気楽に…」

真姫☆「ダメよ!」 海未「ダメです!」

真姫「ひっ…!ゴメンナサイ」

希「流れるような謝罪やね」

海未「作詞に妥協は許されません!キノの感じた思いを全ての人に、限りなく平等に伝えられるような…そんな歌詞を考えるべきです!」

真姫☆「ベストを尽くさなければA-RISEに打ち勝つなんて到底無理…!舐めてかかったら私たちの命はないのよ!」

花陽「そ、そうなんだよね…うぅん…思った以上に大変だなぁ…」

ことり「作詞って難しいんだねー…。私がやらなくてよかった」

真姫☆(…あなたも別世界ではやってたんだけど)

真姫☆「だから、そのノルマを達成するためにこれからみんなで…」


ガタンッ!!


親衛隊A「は、花陽っ!!」


真姫「あ、あなたは…」

花陽「こんな朝早くにどうしたの?あ、そっか!昨日手伝ってくれるって言ってたからそれの…」

親衛隊A「そ、そのつもりだったんだけど…!それがねっ…!!」

花陽「…ん?」

廊下


花陽「こ、これはっ…!」


『決戦!A-RISEvsC☆cute!勝つのはどちらのスクールアイドルか!』

『クリスマスイブに火花散る!運命の女神が微笑むのは果たして…!?』


ことり「校内新聞…」

希「…が、掲示してあるね」

海未「って、昨日の今日ですよ…?まだ誰にも言ってないはずなのに…」

親衛隊A「ってことはこれ、ガセネタじゃない、ってことだよね…?」

親衛隊F「い、いったい誰がこんな…」

親衛隊C「…謎ですわ」

親衛隊E「そ、そうですね…」

真姫「ていうかあなたたち…朝からこんな集まって…」

親衛隊B「昨日小泉さんに衣装作りを手伝って欲しい、って言われたから、とりあえず自分だけでも行って話を聞こう…って思ってたら」

親衛隊C「みんな、考えることは同じだったようですわね…」

親衛隊E「え、えへへ…」

真姫☆「花陽の人徳には毎回驚かされるわね。…まぁ、それはいいとしてこれは…」


写真部部長「…おのれ…」ヌッ…


真姫☆「ひゃわぁっ!!?」ガバッ←透明マント装備

写真部部長「…あれ?西木野さん…消えた?」

真姫「え、わ、私ならここにいるけど…?」

写真部部長「ホントだー…。じゃあ今のはー…?」

希「そ、それは置いといて…これ、あなたがやったんやないん?」

写真部部長「…当たり前っすわー。うちは、写真部ですしー…」

海未「ということは、これを貼ったのは…」

写真部部長「…UTXのハイエナ…こと、新聞部の連中だねー。ハァ…手の早いことで…」

ことり「そうなんだ…。って、部長さんはどうしてこんなに早く学校に?」

写真部部長「…これを、うちが先にやろうとして…、追い抜かされちったー…」

真姫「あ、アナタも人のこと言えないじゃない…」

親衛隊B「…新聞部って前のステージ製作のときは…」

親衛隊D「来てなかったよねぇ…?」

写真部部長「アイツらはー…、注目集めないようなことはー…やらない主義だかんね…」

写真部部長「あんときはまだあなたたち無名だったしー…手伝うなんてことはしなかったけどー…」

写真部部長「最近知名度が出てきたわけでー…格好のネタとして食らいついてきたってわけだわー…」

海未「にしても耳が早すぎませんか…」

希「あなたもすでに知ってたんよね?うちらがA-RISEとライブ対決するって」

写真部部長「うん、独自のルートで…。アイツらはそれ以上に目ざといってことー…」

花陽「へぇ…」

親衛隊E「あ、あの…その、西木野さん、のお姉さん…今、消えなかった…?」ヒソヒソ…

親衛隊A「ま、まぁ彼女のことだし消えるくらいアリなんじゃないの…?」ヒソヒソ…

親衛隊F「真姫ちゃん、多分もっとヤバい秘密抱えてそうだしね…」ヒソヒソ…



真姫☆「…」


真姫☆(…新聞部、ねぇ)

真姫☆(おそらく既に学校中の掲示板に同じ新聞が掲示されてるはず)

真姫☆(今日、みんなが登校してくる頃には大きな噂になってくるでしょう…)

真姫☆(A-RISEとC☆cuteが対決する…、UTX始まって史上、これほどエキサイティングなイベントもないでしょうから)

真姫☆(…ふむ)


チョンチョン

真姫「ひゃぁっ!?な、なに…?」

真姫☆「…私よ」ヒソヒソ

真姫「え、な、どうしたの…?」

真姫☆「みんなに提案したいことがあるから、あなた私の代わりに口パクして」

真姫「へっ?」

真姫☆「コ○ン君がア○サ博士がいるときに変声機でやるやつよ。お願い」

真姫「え、あ、そのっ…」


「みんな、聞いて」



親衛隊C「ん?西木野さん、どうしましたの?」


真姫「へっ…、あ、え、あっと…」

真姫☆「これは、あなたたちにも話してなかったわよね。A-RISEとの対決」

真姫「…!」パクパク

親衛隊B「う、うん…新しい曲を使ったライブ、としか聞いてなかった…」

親衛隊D「てか、A-RISEとの勝負って…ホンキ!?」

真姫☆「えぇ。…A-RISEと言っても、来年のA-RISE、今のバックダンサーと、だけどね」

写真部部長「へー…だけどそれでも無謀だと思うなー…」

真姫☆「…かもしれない。まぁ、いいのよ。勝負って言っても結局はライブだし」

真姫☆「勝ち負けなんて大した問題じゃない。要はどちらが観客を沸かせられるか、の問題だからね」


花陽「…えっ?」


真姫☆「ライブ自体は、いつもどおりやるだけのことよ。それはいいんだけど…」

真姫☆「こんな新聞を貼り付けられたら、きっとUTXは大騒ぎになるわよね」

親衛隊A「そ、そうだよ!あなたたちとA-RISEだなんて…大事になるよ!?」

親衛隊E「い、いいの西木野さん…!?いまっ…、今すぐ取り下げてもらったほうがいいんじゃ…」

真姫☆「逆よ」

一同「…え?」


真姫☆「もっとこのことを、新聞部には取り上げてもらいましょう」

真姫☆「このUTXを…熱狂の渦に巻き込むほどに!」

アイドル応援部 部室


海未「な、なにを考えているのですっ!新聞部のスクープをさらに大きなものにするだなんて!」

真姫「わ、私が言ったんじゃないわよ!!」

希「…どういうことかわかってるん?真姫ちゃん」

ことり「騒ぎが大きくなればそれだけ、真姫ちゃんの存在も…」

真姫☆「…知られるかもしれない。それはわかっているわ」

真姫☆「でもそれ以上に、こちらに有利な状況を作れるかもしれないのよ」

花陽「有利な状況…?」

真姫☆「これまでのUTXは、限りなく近い存在としてA-RISEがいたにも関わらず、規律によって一定以上の熱狂を封じられていた」

希「生徒とA-RISEは会話をすることはできない…そういう決まりがあるんよね。アイドル専攻が、えりちがそう…決めてたはず」

海未「学生は学生として、アイドルとは別のものという考え方からプライベートでの触れ合いは禁じられているのでしたね」

真姫「え、そうなんだ…。知らなかったわ」

花陽「もちろん生徒としての身分で、なら大丈夫なんだけど、アイドル活動に関わる会話は一切しちゃいけないんだ」

真姫☆「そう。彼女らの内面を知ることができるのは彼女たち自身かアイドル専攻生のほんの一部…そして絵里くらいね」

真姫☆「あとは雑誌の取材とか…触れ合える機会が少ないせいで普段はどうしても盛り上がりに欠けちゃうのよね」

花陽「それをプロ級のパフォーマンスで補う…そうしてA-RISEは人気を不動のものにしてるんだよね」

ことり「そう考えるとA-RISEってすごいね…」

真姫☆「けど今回のライブ対決、大々的に宣伝することでUTX生にライブまでの時間の熱狂を味わってもらうのよ」

真姫☆「新聞部の取材を受け、一般の生徒にも手伝ってもらったり、なんにせよ多くの人と関わる」

真姫☆「それまで抑圧されてきた、『日常での盛り上がり』を、UTX全体に感じてもらえれば」

真姫☆「アイドル専攻の暗闇も吹き飛ばすほどの、明るいスクールアイドル…そういうのが存在するんだって、みんなもわかってくれると思うの」

ことり「明るい…、花陽ちゃんの夢見た笑顔のスクールアイドルを見せつけるっ…!」

希「それを、このタイミングで成し遂げるってこと?」

真姫☆「…そういうこと」

花陽「ま、真姫ちゃんっ…!」

真姫☆「私たちの活動をみんなに奥深くまで知ってもらえれば、もしも私たちが負けて、解散してしまっても」

真姫☆「私たちの意思を継いでくれる人も出てくるかもしれない。そういう意味でも、今は盛り上げることを重視したほうがいいと…」

真姫「待ってよ!」

花陽「…キノ、ちゃん…?」

真姫「本当に、大丈夫なの…?その、新聞部に頼って」

真姫「盛り上げるより前に、彼女らがA-RISEの肩を持ったらどうするのよ…」

海未「…そうですね。あることないことを記事にされて、逆効果になる可能性だって考えられうる」

海未「それは考慮していないのですか?」

真姫☆「…」

花陽「それは…」

ことり「そっか…。悪評を書かれたとして、いざこざが起こってしまえばそれだけで時間が奪われちゃう…」

希「今でもギリギリなうちらにとってそれは致命的やね…。…真姫ちゃん」

真姫☆「…」

真姫☆「…それは」

真姫☆「たぶん、大丈夫…だと思う」

海未「…大丈夫?」

真姫「なんでそう言えるのよ」

真姫☆「…あの新聞記事、全部読んだ?」

ことり「全部…はまだかなぁ…?色々話してて意識がバラけてたし」

希「あぁ…、真姫ちゃんは会話に参加してなかったから新聞全部読めたんか」

海未「それが、なにか…?」

真姫☆「…あの新聞、私たちの会話を盗み聞きしてたかのような正確な内容だったわ」

真姫☆「多分、盗み聞きしていたのでしょうね」

真姫「や、やり口が狡猾じゃない…!やっぱり信用できないわ!」

希「…盗聴は、いかんよね…うん、せやよね…」

真姫「あ、えっと…先輩のことを言ったわけじゃ…」

真姫☆「…でもそれにしては、重要な要素が書かれていなかった」

ことり「なにそれ?」

花陽「あっ…!もしかしてっ…」

真姫☆「…そう。勝利した際の条件。私たちならばパンフレットへの掲載。彼女たちならばC☆cuteの解散」

真姫☆「あの会話を聞いていたならば確実に耳を引くはずのその情報をあの新聞は書いていなかった」

花陽「だから真姫ちゃん、親衛隊の子たちに『勝ち負けなんて大した問題じゃない』って言ってたんだ…!」

海未「しかし、それはなぜ…?そんなマスコミならば真っ先に食いつきそうなネタを…」

真姫☆「…きっと新聞部は、そんな誰かが不利になるような情報は書かない。そういうポリシーを持っているのよ、多分」

真姫☆「私たちが理事長にパンフレットへの掲載を直訴しに行ったなんて知れたら、他の部からの反感を買うかもしれない」

真姫☆「絵里が私たちの解散を提示したのが知れたら、私たちのファンや良識を持った人々の反感を買うかもしれない」

真姫☆「あの記事はそういう誰かが嫌な思いをしそうな内容を排除した上で書かれていた」

真姫☆「…きょうび、珍しいくらい誠実な新聞記事だったわ」

ことり「ってことはっ…!あの新聞を書いた新聞部のこと…!」

真姫☆「私は、信用してもいいと思う」

真姫☆「彼女たちはきっと、このUTXを盛り上げるのに一役買ってくれる…私たちの味方になってくれる」

海未「そうですか…。わかりました。そこまで言われては私も賛同せざるを得ませんね」

真姫「顔も見たことない人たちを信頼…。私には考えられないけれど…」

花陽「…それでいいと思う。私たちだってそうだもん」

花陽「私たちが見たこともないような人に、どこかで応援されているかもしれないんだし」

花陽「私たちも、応援してくれるその人たちを信頼したい。だってスクールアイドルなんだから」

希「色々な人に支えられて大きくなっていく…花陽ちゃんの夢が本当に実現しつつあるんやもんね」

花陽「はいっ!」


真姫☆「…」

真姫☆(…『ファンの熱狂』っていうのは人気を保つ上でとても大事なことのはず)

真姫☆(絵里はそれをあえて切り捨て、実力だけでA-RISEを頂点へと誘おうとしている)

真姫☆(アイドル専攻を絶望で染めて、数少ない強い才能を見つけ出すのならばわかるけど…)

真姫☆(わざわざファンとの触れ合いの一切を禁止にして、UTX全体の熱狂を抑えた理由は何…?)

真姫☆(前は『憧れ』を大きくして人気に繋げようとしてるのかとも思ったけど、熱狂に勝るほどのものじゃないのは絵里だってわかってるはず)

真姫☆(やはり、そうしてこそA-RISEが真の強さにたどり着けると信じてのもの…なのかしら)

海未「ふぅ…今日は話し合いだけで貴重な朝の時間を消費してしまいましたね」

ことり「でも有意義な時間だったと思う!」

花陽「はいっ…!それにほんの少し、作詞にも役立ちそうな感じが…!」

真姫「ホント?よかったじゃない!」

希「意外と順調に来てるんと違う?」


真姫☆「…さてと」バサッ←透明マント装備


海未「真姫?どうしたのですか、いきなり透明になって…」

真姫☆「そろそろ、ってところかしらね…」

真姫☆「あなたたちも、覚悟しといたほうがいいわよ」

希「へ?」


ダダダダッ…!!


ことり「な、何…?地面が揺れて…地震?」

花陽「この音はっ…!?」


ガチャンッ!!


「あのっ!C☆cuteがA-RISEと対戦するってホントですか!!?」「A-RISEと一緒にライブするんですか!?」

「それとも別々の場所で!?」「あ、海未ちゃん!ファンなのサイン頂戴!」「あぁ~!花陽ちゃん近くで見るとすっごいかわいい!」

「A-RISEと交流があるって噂ホントですか!?」「明日の空いてる時間教えてください!!」「希先輩は卒業してもC☆cuteに在籍する予定は!?」



ことり「ひぃぃっ!!?雪崩のように人が流れ込んできたっ!?」

海未「ちょっ…わぷっ!登校してきた人々があの記事を読んでっ…!」

希「覚悟しろ、って…このことかいなぁぁぁっ!!」

真姫「あ、あ、あ、ひ、人…人がぁぁあぁぁぁ…!!あわわわわわ…ガクリ」

花陽「き、キノちゃああぁぁんっ!キノちゃんが意識を失っちゃった!!」


ガヤガヤ…



ノソノソ…


プルルルル… プルルルル… ピッ


真姫☆「はい、もしもし」

親衛隊F『こちら親衛隊。真姫ちゃん、だよね?』

真姫☆「えぇ、姉の方のね。…で、そっちは?」

親衛隊F『うん、それが…って、なんか騒がしくない?』

真姫☆「気にしないで。ちゃんと聞こえてるから」

親衛隊F『あ、あぁ…それならいいんだけど。新聞部との取材の件だけど』

親衛隊F『あちらは是非、だってさ。時間の許す限り、いつでも頼みたいって』

真姫☆「…オッケー。じゃあ今日の昼。早速取材を取り付けて欲しいの」

親衛隊F『了解。ふふっ…楽しいことになってきちゃったね』

真姫☆「えぇ。…最高に楽しいパーティよ。パーティ会場は、UTX学院全ての、ね」

昼休み

アイドル応援部 部室


花陽「…」 ことり「…」 海未「…」 希「…」 真姫「…」

ドキドキ…


真姫☆「じゃ、あとは頼んだわよ」バサッ


海未「ちょっと!?どうしてあなたが透明になるのですか!」

真姫「そうよ!私に貸しなさい!渉外に私がいたって役に立たないんだから!」

真姫☆「胸張って言わないの!あなたが緊張する気持ちもわかるけど」

真姫☆「いつまでも私に頼りっきりじゃダメよ。そろそろ、私がいない時の立ち振る舞いも身につけないと」

真姫「うぅ…」

ことり「うーんと、じゃあ真姫ちゃんは新聞部の取材には参加しない、ってことかな?」

真姫☆「そうね。あなたたちだけで頑張って」

海未「真姫が新聞部の取材を受けようと言い出したのではありませんか…」

希「でも遅かれ早かれ、新聞部の取材には応じてたと思うし…。今までリーダー張ってた真姫ちゃんもいつかは帰っちゃうんだもんね」

希「今のうちからリーダーのいない状況に慣れておくのも手かも」

花陽「それで…、そのリーダーがいない状況での主な受け答えって誰が…?」

真姫「やっぱり希先輩かしら。部長だし」

希「うち?んー、うちでもいいんやけど…」

ことり「いずれ真姫ちゃんがいなくなったときの練習だよ?もうすぐ卒業しちゃう希ちゃんに任せても意味ないよ」

真姫「あぁ、そっか…」

海未「となると…」

ことり「しっかりものの海未ちゃん!…って言いたいところだけど」

ことり「海未ちゃんは意外なところでしっかりしてませんからなぁ。穂乃果ちゃんの話が出ただけでパニクって泡吹いて失神しちゃうかも」

海未「そこまではありえませんよ!?…しかし、私がこういう場面であがり症であるのは否定できません」

海未「そこで…、私は花陽を次のリーダーとして推薦したいと思います」

花陽「ハァァッ!?」

真姫☆「うん、散水…じゃなくて、私も賛成」

花陽「ままま、待ってぇっ!?なんで私!?私だってあがり症だし!初対面の人と堂々と話すなんてみゅりぃぃぃぃっ!!」

真姫「…でもねぇ、それで言えばみんな似たような…」

希「せやねー」

真姫☆「花陽。考えても見なさい。私がいなくなったら一番初めにこのスクールアイドルを作ったのは誰になるのか」

真姫☆「アイドルを、そしてC☆cuteを最も愛しているのは花陽、あなたでしかありえない。だから私は、あなたがリーダーになるのが適任だと思う」

花陽「真姫、ちゃん…」

海未「ふふ、全て言われてしまいましたね。自信を持ってください花陽。あなたには真姫にも持ち得ない唯一無二の力だって持ち合わせているんですから」

花陽「な、なんですかそれ…」

海未「テキトーです」

花陽「ふえぇぇっ!!?」

ことり「まー、なんやかんやいって花陽ちゃんがリーダーになるのが一番だよ!」

真姫「いいじゃない。十分頼もしいわよ、新リーダー」

花陽「そんなぁ…」

希「来年のアイドル応援部の部長もやってみる?」

花陽「それは絶対にダメですぅっ!!」

真姫☆「そんなわけだから、あとはよろしくね」バサッ


花陽「け、結局私が真姫ちゃんの代わり…!?」

希「がんばりよー」

海未「真姫ほどグイグイ行く必要はありません。いざとなればこちらも助け舟を出しますので安心していてください」

花陽「わ、分かりました…」

ことり「で、でも…取材だよ…!?前は私たちがする側だったのに、今度はされる側になるなんて…!」

真姫「き、緊張する…!うまく話せるかしら…!!」

真姫☆「…あなたはC☆cuteについてそんなに詳しくないんだから無理して喋る必要はないわよ。ボロが出るかもしれないし」

真姫「…あ、そうね」


コツッ コツッ


希「…そんな話をしてたら外から足音が…!」

ことり「つ、ついにくるっ…!」


ガチャッ


一同「…!」


ダラララララッ!!

シュバッ!!


花陽「ひぃっ!?」

海未「なっ…!こんなに大勢!?しかも一糸乱れぬ整列…!」

真姫「軍隊を思わせるほどの統率された動きね…」

希「…さっき、外から聞こえてきた足音は一つ思ってたんやけど…」

ことり「やけに響くと思ったら、大勢がまったく同じ歩調で歩いてたからなんだ…!」

真姫☆(何この人たち…)


パチパチ…

「うん、よろしい。記者たるもの礼儀正しく、規律を以て事に当たるべし」



花陽「あなたは…?」


新聞部部長「ふふ、この度はお忙しいところお伺いして申し訳ありません」

新聞部部長「ボクはこの新聞部の部長です。以後お見知りおきを」


海未「とても、礼儀がなっています…。素晴らしい…」

ことり「ホントにいたんだ…!ぼ、ボクっ娘…!ほわぁぁぁぁぁ…///」

希「え、そこなん…?」


新聞部部長「えー…、ごほん。それでは少し楽にさせていただいて…」

新聞部部長「今回のA-RISE対C☆cuteの件と、それからあなたたちC☆cute自体について何点か…」

花陽「あ、あのっ!」

新聞部部長「…はい?」


花陽「その前に、聞いておきたいことが…!」

新聞部部長「聞いておきたいこと…」


真姫☆(おおっ!やるじゃない花陽!)

真姫☆(流れに圧倒されたままなし崩しで取材に持って行かれそうになったのをすかさず食い止めた…!あとは…)



花陽「あの、あのっ…そのぉっ…!!」

新聞部部長「…」

花陽「えっと、ですねっ…、それが、あれで、うーんと、お、お…」

花陽「お胸が、大きいですねっ!!」



シーン…


新聞部部員一同「…」

新聞部部長「…それは」

新聞部部長「ボクに対する嫌味、かな?」

花陽「ち、違うんですっ!そういうつもりじゃなくて!!」

ことり「…どう見ても花陽ちゃんの方が大きいからねー…」

新聞部部長「あなたも一言余計じゃない…?」

真姫☆(…花陽ぉ…)

海未「…んんっ!すみません、彼女は緊張していまして。突拍子もない失言をしてしまいました」

海未「おそらく彼女が聞きたいのは、あなた方がどこまで知っていらっしゃるのか、ということだと思います」

新聞部部長「…どういう意味でしょう?」

希「今日、掲示されてた新聞、あれは理事長室でのうちらの会話を聞いてないと知ることのできないことやけど」

希「そのうちのどこまでを聞いたのか、ってことやよ」

新聞部部長「…あぁ、そういうことですか」

新聞部部長「それはもちろん、全て。新聞部の耳は地獄耳ですから」

真姫「って、ことはっ…!絵里との…!」

新聞部部長「はい。勝てばパンフレットに掲載、負ければ解散…でしたよね」

花陽「知っていたのなら、どうしてそのことを新聞に書かなかったのか…教えてもらえますか?」


真姫☆(そうそう…。私は信頼できる証左の一つだと思ってるんだけど…)

真姫☆(…実際のところ、彼女らはどういう思いで記事にそのことを載せなかったのかは気になる…)

真姫☆(私たちの肩を持つわけでも、絵里の肩を持つわけでもない、新聞部の真意はいったい…)


新聞部部長「それは…」

新聞部部長「…そうですね。難しいな…」

新聞部部長「いつもはこちらが聞く側に回るものだから、こうして聞かれるのは新鮮でハッキリと言葉にするのは難しい…」

新聞部部長「ただ…、納得されるかはわかりませんが、理由の一つとしては…」

新聞部部長「私たちが、プロではないから…ですか、ね」


花陽「…プロじゃないから?」

希「それは新聞のプロじゃない…マスコミではないってことかな?」

新聞部部長「はい、その解釈であってます」

ことり「それと今回の話とどう関係が…?」

新聞部部長「えー…、そうですね。つまり、だから…」

新聞部部員A「…部長、落ち着いてください」

新聞部部員B「予定にないこと尋ねられるとすぐパニクっちゃうんだもんね…」

新聞部部長「そこ、余計なことを口にしない」

海未「す、すみません…大丈夫ですか?」

新聞部部長「平気です。…ありがとう、意見が固まりました」

新聞部部長「そう、プロの…プロの報道記者、マスコミであれば、その人の人生がかかっていますから」

新聞部部長「どのような手段を用いても人々の興味を引くことが重要になってきます」

新聞部部長「それが楽しいことであれ、悲しいことであれ」

新聞部部長「しかしボクたちはプロではありません。あくまで全て自分たちの趣味の範囲内…となりますから」

新聞部部長「わざわざ、人が不快になるようなことを記事にしても…面白くないでしょう?」

花陽「今回の勝敗の条件は、誰かが不快になりそうなことだって判断して…ってこと?」

新聞部部長「そうです。いわば賭けのようなものですから。それに条件が解散は、ネガティブなイメージをどうしても持ちかねません」

新聞部部長「そうなると…この戦いでの投票が片方の解散を招くものだと知ってしまえば、純粋に楽しめなくなる…と、ボクたちは考えたのです」

新聞部部長「あ、今回の取材であなた方がその情報を開示して構わないとのことでしたら、一方的に勝利条件のみを公開、ということは可能ですが」

新聞部部長「敗北条件の方はA-RISE側の印象が悪くなる可能性もありますからね」

ことり「そ、そんなことまで考えて記事を作ってるの…!?すごい…」

新聞部部長「はい。楽しい学校生活にさらなる彩りを。嫌な話は見なかったことに。それが我が…我らが新聞部の伝統ある誇りですから」

新聞部部長「きっとボクたちは…新聞部なんてやってますけど、マスコミにはなれないでしょうね」

希「いやいや…、理事長室の会話を盗み聞きするんはかなりレベルの高い技術やと思うよ?どうやって…」

新聞部部長「それは、秘密。新聞部は情報に飢えたハイエナですので」

新聞部部長「何か盛り上がりそうなネタさえ嗅ぎつければ、それがどこであろうと食いつくのみ、です」

真姫「この人…、優しそうに見えて強かね…」

ことり「でも私、部長さんの考え方…好きかな。つまり、知る必要のないことは知らなくていい…ってことだよね」

海未「いいのですか…?あまりいい印象のない言葉なのですがそれは…」

希「楽しむことに必要のない情報はいらないってことやん?うちらにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際であっても…」

希「その緊張感を見ている子たちにまで与える必要はない。ただ楽しかったな、で終わらせられたら、それが一番やん」

新聞部部長「わかっていただけますか?信用して頂けたなら取材に移らさせても…」

花陽「あ、じゃああと…ほんの一つだけ、質問…いいですか?」

新聞部部長「はい、なんですか?」

花陽「…あなたは、この学校が…UTXが、好きですか?」

新聞部部長「…ふふっ」

新聞部部長「うんっ!すごくっ…大好きっ!!」


真姫☆(そう語る彼女の笑顔に、嘘なんて微塵も感じられなかった)

真姫☆(やはり私の見込みどおりね。新聞部はきっと…この学校に革命を起こす火付け役になってくれる!)

真姫☆(そして彼女の言葉を聞いた花陽の笑顔も、私にはとても印象的で)

真姫☆(以前の、UTXが…アイドル専攻が嫌いだと言っていた花陽が、今ではUTXを好きになってくれたのには)

真姫☆(なんだか私も…嬉しくなった)

真姫☆(そんなこんなでやっぱり最終的に新聞部を信じることとなったC☆cuteは、そのまま取材を受けた)

真姫☆(対決の内容やら、C☆cuteの成り立ちやら。時にはこちらからの質問も交えつつ)


カキカキカキ…

新聞部部長「…ではその時の決意…気持ちをお聞かせ願いますか?」

希「うん、そのときは…」


カキカキカキ… カキカキカキ… カキカキカキ…


希「…えー、あの、さっきから気になってたんやけど…たった5人への取材でどうしてそんなにずらりとメモ取る人が必要なん?」

新聞部部長「あ、気になります?」

真姫「そりゃあね…なんだか落ち着かないわよ」

新聞部部長「これもボクたち独自の方法でして…、活字は感情を持ちませんから」

新聞部部長「なるべく取材対象の話すとき、聞くときの一挙手一投足を事細かに書き記して、あたかも生きているかのように文章を書き上げる技法…です」

海未「そんなことやってる新聞部、他の学校にはいないでしょうに…」

新聞部部長「あははは…、そうでしょうね。私も入部時はバカバカしいと思っていましたが…今は面白い方法だと思っています」

新聞部部長「確かに労力は必要ですが、UTXで最もイベントに富んだアイドル専攻には一切の取材が禁じられていますし…」

新聞部部長「この学校には文化祭もありませんからね。たまのイベントにたっぷりと労力が掛けられます」

新聞部部長「おかげで観察力と速筆は身に付きますが…将来的に役に立つかは怪しいところですね」

希「そんなことはないと思うけどねー…。相変わらずUTX学院の生徒は専門性の高い子ばっかりやね…」

新聞部部長「みんなそうですね。だからこそ、このUTXは面白い。全く違う分野のプロフェッショナルが入り組んだ学校。芸能科もボクたちにとっては別次元の話、みたいなものですよ」

花陽「UTXは、異世界…」

新聞部部長「けれどそんな別次元の話からも、とても魅力的な情報が飛び出してくることがある。それらを取り込んで成長できる…。素晴らしいところだと思います。UTXは」

花陽「っ…!わ、私もそう思いますっ!」ガタンッ

真姫「ち、ちょっと花陽…身体のり出しすぎ…」

新聞部部長「あはは…えっと、では先ほどの…あっ…、ふむ、そろそろ休み時間も終わりですね」

新聞部部長「ではこれまで取材させていただいた話を基に、C☆cuteのこととクリスマスライブに向けた特集記事を組みたいと思います」

ことり「あ、よろしくお願いしますっ!どうか…盛り上げてくださいね!」

新聞部部長「はい。あなた方も負けないよう頑張ってください。応援しています」

希「…あ、最後にうちからも質問、いいかな?」

新聞部部長「はい…?」

希「理事長室の会話を事細かに聞き取れるくらいや。取材が禁じられてるって言っても知ってるんでしょ?アイドル専攻の実情」

希「絢瀬絵里が、生徒たちにどんなことをしているのかってこと。それを糾弾したり…って考えたりしないん?」

希「いくら誰かが悲しい気持ちになる記事はダメだって言っても、多くの証拠を以てえりちを追い詰めればこれ以上心が壊される子だって…!」

真姫「希…先輩…」

新聞部部長「…その気持ちはわかりますが、ボクの一存で記事が決定するわけではないので。新聞部の伝統ある掟も感情で破るわけにはいきませんし」

新聞部部長「それに…情報を集めていると、知りすぎてしまうことも多々あります。ですから…」

新聞部部長「…いえ、何でもありません。では、本当にこれで…」

ことり「あ!最後の最後に私からも!!」

海未「な、なんですかことりまで…」

ことり「部長さんはA-RISEか私たち、どっち派ですか?」

新聞部部長「えっ!え、えーっと…そうですね…その…、応援してますと言っておいてなんですが、A-RISE…ですね。正直に言えば」

花陽「そ、そうですか…」

新聞部部長「…ふふ、まぁでも…『今は』、ですけどね」

真姫☆(新聞部の取材の成果は翌日には既に出来上がっていて)

真姫☆(クリスマスライブの詳細と、C☆cuteの詳しい成り立ちについての記事が全校に貼り巡らされた)

真姫☆(その熱狂はたちまちUTXを包み込み、今までにない興奮の坩堝と化した)

真姫☆(アイドルに対して閉鎖的だったUTXが盛り上がってきている。それだけで私たちの希望は大きくなってゆく)

真姫☆(もう二度と、アイドルが嫌いだなんて誰も言わなくていい学校になれば、希も後腐れなくこの学校を卒業できるしね)

真姫☆(ただ盛り上がってくるとやっぱり…)



数日後 放課後

音楽室


真姫☆「えーっと…、じゃあその振り付けを今度はー…」


花陽「…あの、真姫ちゃん」

真姫☆「ナニヨ」

ことり「透明マントから顔だけ出してるの、余りにもシュールだなぁ…って」

花陽「練習に集中できなくて…」

真姫☆「仕方ないでしょ…。いつ来るかわかんないんだし」

海未「…まぁ、そうですね…。先程も演劇部の…」


ガチャッ

「ういーっす!やってるー?」


真姫☆「はふぶっ!」バサッ

真姫「…突然の来訪者に対応するためにはこうでもしないとね…」

希「あ、キミは…」

花陽「パーツモデル部の部長さん!お久しぶりです!」

パモ部部長「あー、もう長いからパモ部でいいよ。うちもそう改名したしね」

海未「えらく思い切った改名をしましたね…。初見じゃ意味がわかりませんよ」

パモ部部長「まぁそれはいいんだけど、ステージってどうなってる?」

ことり「ステージ…ですか?」

パモ部部長「いやねー?またうちの木材が役に立つかなーって、いやむしろなんか手伝いたいなって!手伝わせろって!」

希「暇なん?」

パモ部部長「そんなことないわよー!ただ学校中熱気で包まれてんじゃない!?なんかしたくてそわそわしてるのよー!」

海未「…その気持ちはありがたいのですが、ステージ製作は全てアイドル専攻の指示のもと有志が既に集められて制作されておりまして…」

真姫「意見があるなら言っておいて、こっちで賄うから、ってことなのよね…」

花陽「だからごめんなさい。ステージ製作は手伝ってもらえないかも…です」

パモ部部長「そっか…、残念…」

パモ部部長「…って逃げ出すようなガラじゃないのよね!アタシ!」

花陽「へ…?」

パモ部部長「ステージは手を出すなってんなら、それ以外ならオッケーでしょ!」

パモ部部長「アタシC☆cute応援するなんか作る!そういうの好きな友達いるんだ!いいでしょ!?」

ことり「え、えっとぉ…」

希「先生に言って許可貰ったなら、いいん違う?うちらは文句はないけど」

パモ部部長「オッケー!!よっしゃテンション上がってきたフー!らんららんららーん!」ガチャッ バタンッ

真姫☆「…テンション高いわね、あの人」

真姫☆(私たちを応援してくれる人たちが、自主的にそういったものを作ってくれるようにもなった)

真姫☆(もちろんのこと、C☆cuteだけではなく、A-RISE派も対抗して)

真姫☆(ありがたいことに学校側も容認してくれて、まるで季節はずれの文化祭のように学校中が楽しげで)

真姫☆(そういえばどうしてこの学校にはこんなにも多数の部活や学科が存在しているのに文化祭がないのか、聞いてみたところによると…)


海未「本当の話かどうかは不確かですが、余りにも部活が多いせいでUTX校内で文化祭を行うととてもややこしいことになると聞いたことがあります」

ことり「学生の数も多いし、その上来賓の方まで含めちゃうと学校中わちゃわちゃしちゃいそうだしねー」

真姫「あぁ…確かにそうね。学生の家族が来ただけでも大変なことになりそう…」

希「今回のライブは学生だけでの、って条件付きやったから、学校もちょっとは寛容になってくれてるんかな?」

花陽「あ、でも一部の専攻や部活は別の場所で合同研究ってやったりするらしいね」

海未「あぁ、ありましたね!演劇学科全体による演劇大会というのが少し前にありました」

海未「あれは面白かったですね…。しかしあれだけでもたくさんの方が来られていましたし…やはり人数が多いと催し物が行いにくくなるのは確かかもしれません」

真姫☆「混乱を避けた判断は正しかったわけね!よぉし…!ならこのままもっと巻き込んでいきましょう!」


真姫☆(基本真面目な生徒が多い故に、はっちゃけるときはそのテンションも凄まじく)

真姫☆(多数の学科、部活の入り混じる…非常にカオスな空間を形成していたのだった)

真姫☆(まさに、UTXの形そのものね…なんて、私は思ってたんだけど)

真姫☆(…でもその中に、別のものを感じた子も、いたみたい)




ガヤガヤ… ガヤガヤ…


ことり「はわぁぁ…!すごいね…、10分の休み時間だっていうのに、始まった途端にみんなライブのことで話し始めてる…!」

海未「自主制作でオリジナルグッズや応援アイテムを用意している人々も多いと聞きます」

希「みんな自分の持てる技能を最大限に発揮してくれてるね…。もう毎日目まぐるしいくらい」

真姫「こ、こう見てるとやっぱり…混然一体…いえ、混沌そのものよね。UTX…」

真姫☆「まぁ、そうね…。誰もがみんな別の世界の住人みたいなもんなんだから、合わさるとそうなって…」←透明


花陽「…うぅん。違うよっ!」


ことり「うん?花陽ちゃん…?」

花陽「違う、違うんだっ…!これは、混沌じゃないんです!」

真姫「ど、どうしたのよ、花陽」

海未「…もしかして、見つかったんですか?作詞の決め手となるUTXの魅力が」

花陽「はいっ!!確かに、傍目から…客観的に見ればUTXのこの現状は混沌とした、まるで異世界がグチャグチャと混ざり込んでるように見えるかもしれない…!」

花陽「でも、あの人たち一人一人の観点からすれば、それは異世界じゃないんですっ…!」

花陽「みんな、自分たちの世界を…楽しいって思える情報を、他のいろんな世界から少しずつ貰ってゆく…!」

希「新聞部の部長さんも言ってたこと…やね」

花陽「そう、それは…新聞部だけじゃなくて、みんなみんな、同じこと…だったんです」

花陽「みんな自分だけの世界を…、しかも、他の学校じゃ絶対に作り得ない、様々な楽しいことが詰まった、特別な世界…!!」

花陽「そんな、自分だけの理想の空間を成していける…!無限の可能性の中で!!」

花陽「UTXって…UTXの魅力って、そう言うところだと思うんですっ!!」

真姫「自分だけの、理想…」

海未「確かに、このC☆cuteも、ただ芸能科が集まっただけでは形成されなかったかもしれませんね」

ことり「歌を作る人がいて、詩を書く人がいて、洋服を作る人がいて、ダンスを考える人がいて、それらを纏める人がいて…」

希「そうしてやっと作ることができた。それはうちらだけやなくて、A-RISEだって同じこと」

希「うぅん、きっと他の部活も、いろんな学科から人が集まって、その学科特有の観点から発展を遂げていったのかもしれない」

真姫☆「…プロじゃないから、型にはまらず、楽しいと思ったことなら貪欲に取り入れていく」

真姫☆「そういえば、それがスクールアイドルってもの…だったのかもね」

花陽「そして、UTXにはそれが詰まってるって思うの!多分…他のどんな学校よりも、たくさん!」

花陽「誰もが何かしら一つの、理想の世界を持っているっ…、最高の場所だって!」

真姫「理想の世界ね…。カッコイイ言い方をすれば、理想郷…ってところかしら」

海未「理想郷…ですか。少し壮大な感じもありますが…花陽の考え方にはピッタリ当てはまるかもしれませんね」

海未「どこにも存在しない場所…。あるのは、それぞれの胸の内に。決して外からは覗けず、けれど確かに感じられる、暖かい居場所」

花陽「おぉ!詩的です!カッコイイ!!」

海未「て、照れます…」

ことり「でも理想郷…理想郷ってちょっと固いよねー。もっと別の言い方にできない?」

希「理想郷を別の言い方…そうやね…」

希「…ユートピア?」

ことり「あっ…!ユートピア!それそれ!」

真姫☆「…utopia。UTopiaね…ふふっ、UTXに相応しいじゃない。決定ね」

海未「花陽。今のその感情、そのまま書きなぐってしまいましょう!さぁ今から、授業中でもお構いなく!」

花陽「えっ…わ、分かりましたっ!!ノートがすり減るまで書きます!」

真姫「そこまではしなくていいから…」

ことり「授業も聞かないとダメだよー」



真姫☆(曲のイメージを掴んだ花陽。ついにC☆cuteの全ての想いが、目標から夢へと向かって走り出した)

真姫☆(既に手を伸ばせば届くところまで来ている。あとは…)

真姫☆(来る日まで、全力を出し尽くすのみ…!!)

放課後

一年教室前廊下


ザワザワ… ガヤガヤ…


凛「…」スタスタ

凛「…みんな、楽しそうだなぁ」



凛(こんなふうに、ライブを楽しみにしてくれる生徒、今まで見たことあったっけ)

凛(凛にアイドル関係のお話をする人は少ないし、いても嫌味か励ましの言葉くらいだった)

凛(今はみんなの情熱が一つの方向に向いている)

凛(きっとライブ本番の時、その方向が凛たちに向けられるものになるんだ)

凛(そのことを考えるだけで、胸がはちきれそうなほど興奮する)

凛(ワクワクする)

凛(やっと…やっと歓声の中で歌えるんだ)

凛(踊りと歌で、ステージを魅了して)

凛(雷のような拍手と喝采を浴びるんだ)

凛(もう何百回も、何万回も夢に見た光景)

凛(今度こそ、実現する)



凛「ふ、ふふっ…あははははは…」

凛「あはははははははっ!!わーいわーいっ!!あははははははははははははっ!!」


テッテケテー


凛「あはっ!あははははっ!!もう練習が待ちきれないにゃーっ!!」

凛「穂乃果先輩、にこ先輩っ!今日の凛に追いつけるかにゃーっ?」

凛「あはははははははっ!!わーっはっははははははははははははっ!!」



凛(心の奥底から笑いが止まらない)

凛(凛の血反吐を吐くような努力が…いや途中から吐かなくはなったけど!)

凛(それがついに成就する!)

凛(最高のパフォーマンスで小泉さんたちのエセアイドルなんかけちょんけちょんにのしてやるんだ!)

凛(今の凛を止められるものなんか…)



凛「誰もいなーいっ!!あははははははははははっ!!!!」

3年教室前廊下


ザワザワ… ガヤガヤ…


絵里「…」カリカリ… パキィッ

絵里「…痛っ。チッ…!!」



絵里(爪の噛みすぎで深爪になってしまった)

絵里(この喧騒は、それだけ私に苛立ちを与えてくれる)

絵里(今まで私が成してきた理想の国が、とんだ外様に崩壊させられようとしている)

絵里(それが、何よりも許せない)



絵里「…絶対にさせない」

絵里「私の夢を…、野望を叶えるために…!」

絵里「西木野真姫ィィィ…!!」



絵里(だけどもう、彼女をどうこうしただけでは私の夢は叶わない)

絵里(私の野望は、私のA-RISEが最強でなければ成し遂げられないのだから…!!)

絵里(どんなことにも屈しないよう育ててきた私のかわいいA-RISE…)

絵里(彼女たちには完膚なきまでに、実力差を見せつけてもらわないと困るの)

絵里(圧倒的な力の差で、C☆cuteもその取り巻きも黙らせる)

絵里(そして解散に追い込めば、もう誰もA-RISEに歯向かおうとする人間はいなくなるはず)

絵里(…そのための、一心不乱な猛練習)

絵里(一切の乱れを許さない、今までで最もハードな練習)

絵里(その程度ではもう、彼女たちの心は折れはしない)

絵里(私がそう、育てたのだから)



絵里「…にこは少し、予想外ではあったけど」

絵里「でも、もう少し…あと少しなのよ」

絵里「手が、届きそうなところまで来ているのよ…!」

絵里「私の夢…そう…」

絵里「『復讐』の達成まで…!!」

多目的ホール


「はぁっ…!!はぁぁっ…!!が、はぁっ…!げほっ!ごほっごほっ!!」


穂乃果「はぁっ…、うぶっ…。はぁぁっ…!」

にこ「ひぃっ…、ひぃっ…けふっ…ごがぁっ…」

凛「ふぅ…」



絵里「…一旦休憩。10分の水分補給のうち、またダンスに戻りなさい」

凛「歌はー?」

絵里「歌の練習は規定時間が過ぎてからよ。どんな体力でも腹の底から声を出せなきゃ意味がないわ」

絵里「そして明日からはいよいよライブの形式での練習になる」

絵里「この程度で息を上げてることを後悔するから、そのことも鑑みるようにね」



にこ「ごくごくごく…っく、はぁっ…!し、死ぬ…!」

穂乃果「流石にこれは…やりすぎ、だと思う…」

穂乃果「本番前に倒れたりしたらっ…台無し…だよ…」

凛「えー、先輩たちそんなヤワなんですかー?」

にこ「アンタねぇっ…。みんながみんな、アンタみたいに疲れ知らずじゃ…げっほっ!ごほはぁっ…!」

穂乃果「大声出すと…肺が驚くからやめよう…。ゆっくり、慣らしていかないと…」

凛「ふーん、大変なんだねぇ…」

凛「凛はこの休憩時間で歌の練習でもするにゃー。ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」

穂乃果「…?何その歌…A-RISEの曲じゃない…よね…」

凛「ん?テキトーにゃ。発声練習だよー」

にこ「鼻歌が発声練習になるの…?はぁ、別にいいけど…」

にこ「私も…あんたみたいに底なしの元気だったら…楽なんだけどねぇ…。羨ましいわ…」

凛「まぁまぁ!にこ先輩程度じゃ凛には追いつけないにゃ!せいぜい可愛さくらいかなー?」

穂乃果「可愛さは認めてるんだね…」

凛「でも凛が元気でもこの部屋が元気なくなってきちゃうと困るよねー。いつか床抜けちゃうんじゃない?」

にこ「はぁ…?どういう意味よ」

凛「だってさー。練習ずっとここでやってたからか、ダンスしてる時床ミシミシ言ってるじゃん」

凛「老朽化かなんか知らないけど、少しテンポ崩されるから何とかして欲しいにゃ。そう思うでしょ?」

にこ「え、えっと…凛…。気のせいじゃない?私、踊ってて床が軋む音なんて聞かないけど…」

凛「え…?そんなはず…」

穂乃果「…このホールは床も特別丈夫に作られてるはずだよ。大勢が激しい運動しても下の階まで響かないように」

穂乃果「経年劣化の心配も、比較的新しく建てられたホールなはずだからありえないと思う。それなら他のほとんどの教室が傷んでることになるし」

にこ「アンタがダンスに気合入れすぎて床が痛がってる声か、それか神経質になりすぎて幻聴でも聞こえてるんじゃないの?」

凛「えぇ…」

穂乃果「身体が疲れない分、聴覚がノイズも敏感に拾ってるんじゃないかな。落ち着けば聞こえなくなると思うよ」

にこ「そうそう。逆にちょっとくらい疲れなさいって話よ!」

凛「うん…」


凛「…でも、確かに聞こえるんだよなぁ…。ミシミシって音…」

別の日


ガヤガヤ…


英玲奈「…相変わらず、休み時間の声は収まることがないな」

あんじゅ「それだけクリスマスライブを楽しみにしてるってことでしょう?」

あんじゅ「…私たちは出ないっていうのに。失礼しちゃうわ。ぷんぷん」

ツバサ「まぁまぁ、いいじゃない。最近のどことなく暗かったUTXの雰囲気が、一気に払拭された感じで」

あんじゅ「うん…、それはいいんだけどね…」

英玲奈「我々がそれをなすことができなかった、というのは複雑な気持ちだな」

あんじゅ「この空気…、すごく羨ましいって思うの。あーあ、私たちも今からお願いしてライブに参加させてもらう?」

ツバサ「あはは、それもいいかも…って言いたいけど、私たちは私たちで年末のライブの練習で忙しいでしょ?」

ツバサ「この盛り上がりは彼女たちの努力の結果なんだし、私たちが邪魔するのもおかしいじゃない」

あんじゅ「そうね…。はぁ、やっぱり羨ましい」

英玲奈「どれだけ羨ましがってるんだお前は…。私たちのライブだって相当に盛り上がっているのに不満なの?」

あんじゅ「そうじゃないの。不満って言うのも少しはあるんだけど…」

あんじゅ「競い合えるライバルが、身近にいるっていうのは…私たちにはなかったことじゃない」

英玲奈「…あぁ」

あんじゅ「必死で頑張ってA-RISEになって、血反吐を吐くほど努力して日本一のスクールアイドルになった」

あんじゅ「でもそれって、全て私たちの中で完結してるお話。主役の私たちだけが目立つ…面白くないお話よ」

英玲奈「…私たちにも私たちの物語はあっただろう?あんじゅ」

あんじゅ「そうだけど!…でも、もっと…他のスクールアイドルの子たちとも知り合いになりたかったわ」

ツバサ「他のスクールアイドルとは会えたとしても、ラブライブでの会場だけ…だったからね」

ツバサ「研鑽し会える…切磋琢磨できるライバル…。そういう存在と出会える前に私たちは」

ツバサ「日本一になってしまった…のよね」

あんじゅ「…なんだか、一等賞って孤独なのね」

英玲奈「場合にもよるんじゃないか?私たちは出会えなかった…というだけだ」

あんじゅ「あぁんっ!だから羨ましいっ!もう一回入学しちゃおうかなぁ…」

ツバサ「バカ言わないの。…きっと、これからいつか出会えるわよ」

ツバサ「プロの世界に出れば、私たちはもう日本一じゃなくなる。また挫折の日々の連続でしょうけど」

ツバサ「そうなれば足りないものを補わせてくれるライバルに、どこかで会えるわ」

英玲奈「…あぁ」

あんじゅ「私は高校時代に会っておきたかったのー!そうすれば…別の大学はどうこうってお話ができたじゃなーい!」

あんじゅ「あ、希ちゃんがいるわ!あぁでも彼女は卒業したらもうアイドルじゃなくなるのかしら…うーん…」

英玲奈「悩ましいのはいいが…そろそろ場所を移動しようか」

ツバサ「…囲まれちゃったわね」


ワイワイガヤガヤ…


英玲奈「ははっ、こうしてみれば、私たちの人気も捨てたものじゃ…ないよなっ!」ガシッ ダダッ

あんじゅ「きゃっ!急に掴まないでよ英玲奈っ!」タッタッタッ…

ツバサ「ふふふっ…、日本一はこうでなくちゃ!追われる気分っていいわよねっ!あはははっ!!」

放課後 音楽室


真姫☆(ほんの少し海未による修正は入ったものの、花陽は見事作詩を成し遂げた)

真姫☆(海未の歌詞にも負けず劣らず…明るさに満ち溢れたいい歌詞だって思うわ)

真姫☆(花陽独特の、ほんわかした温かみも感じられる、いつもとはまたひと味違う歌に仕上がったわね)

真姫☆(そしてついに…本当にやっと、本格的なライブの練習)

真姫☆(ダンスはまだ未完成。探り探り、こうしたらいいんじゃないかなんて、親衛隊の子たちにもアドバイスを貰いながら)

真姫☆(衣装はデザインは既にできているけど、製作が本番ギリギリになりそうでヒヤッとする)

真姫☆(綱渡りにも程があるスケジュールだけど…、これが私たちなんだもの)

真姫☆(無理でもなんでもやればできる。その意志の塊が、C☆cuteなんだから)



真姫☆「ワンツースリーフォー…」パンパン…

タンタタンタッ… 


親衛隊A「…しかし今でもまだ信じられないよね」

親衛隊B「こっちの西木野さんが、異世界の住人だなんて」

親衛隊C「いきなり打ち明けられた時は何言ってるんですの?って感じでしたけど…」

親衛隊D「こうして生首浮いてるところを見せられちゃ…ねぇ?」

親衛隊E「べ、別の世界って…こんな魔法みたいなグッズが売ってるんですね…!私も少し欲しい…かも」

親衛隊F「いや、なんでも真姫ちゃんの相棒がこの世界にあるものだけで作ったって話だよ?」

親衛隊G「うぇっ!?ってことは私たちも頑張れば作れるってこと!?なにそれ夢広がりすぎ!」

親衛隊H「透明マントなんてあったら…むふふふ…色々し放題だよねぇ…」

親衛隊I「何か不純なこと考えてませんか?あなた…」


真姫☆「こらそこぉっ!!見学はいいけど声大きいっての!」

真姫☆「練習の邪魔するのなら出て行ってよね!」


親衛隊ズ「…ご、ごめんなさい」


花陽「あははは…私たちは大丈夫だけどね。集中してるから」

ことり「それに、私たちの活動を見てくれたらアイドルってこういうものだってわかってくれる子も口伝えで増えて…」

真姫☆「いや、あの子たち私の話しかしてなかったわよ」

ことり「あ、そうなんだ…」

海未「確かに、あまり騒がしくされては集中が乱されるのは事実ですね。リズムに狂いも生じるでしょうし」

海未「あと少しだけ、声のボリュームは下げてもらえませんか?」

親衛隊ズ「ワカリマシター…」

真姫「…っていうか、あの子たちがいる意味あるの?もうことりちゃんとの衣装の打ち合わせは終わったんでしょう?」

希「んー、まぁいて悪いってことはないし、それにいざってとき…」


ガララッ

パモ部部長「ういーっすっ!」


ババババッ!!

パモ部部長「おわっ!?何!?急に整列して!」

親衛隊ズ「なんでもありません!!」


希「…真姫ちゃん隠しに使えるし」

花陽「ぱ、パモ部の部長さんくらいならいいと思うけどね…」

真姫☆(…身近にいない人までにバラしちゃ何が原因で漏洩するかわからないでしょうが)

花陽「そ、そっか…」


海未「…あの、どうされました?何か御用でしょうか」

パモ部部長「ん?あ、そうそうそう!言っておきたいことがあってさ!」

真姫「言っておきたいこと?」

パモ部部長「この間さー、アタシも仲間と一緒になんか作るって話してたじゃない?」

ことり「あー、そういえば…」

パモ部部長「最初は立て看板みたいなものにしようかなー、なんて思ってたんだけど…」

パモ部部長「ステージ周りはアイドル専攻が管理してて迂闊にそういうの置けないらしいのよ!」

希「あ、そうなんや。…でもステージ近くに何も作れないんやったら他に場所なくない?」

花陽「学校前の限られたスペースですもんね…。客席も含めればかなり狭いほうだし…」

パモ部部長「そう!悲観に暮れたアタシたちだったけど…ここで妙案が思いついたの!」

パモ部部長「それが…これだっ!」ババンッ

ことり「なにこれ?」

海未「見取り図…?UTXとステージがあって…あれ、UTXに貼り付けられたようなこれは…?」

パモ部部長「これこそアタシたちの考えた計画!屋上から垂れ幕をかけるっ!」

真姫・真姫☆「「た、垂れ幕ぅっ!?」」

パモ部部長「あれ、今真姫ちゃんの声二重じゃなかった?」

希「き、気のせい気のせい…。でも垂れ幕って…あのデパート開店した時とかにかけるでっかいやつよね?」

花陽「今から作るんですか…?もう本番まで一週間と少し程度なのに…」

パモ部部長「アタシの人脈の広さを舐めないでよ!そういうのはプロに任せればちゃちゃっと完成さ!」

パモ部部長「ま、ギリギリなんだけどねー…。前日の23日に屋上に運び込まれる予定」

海未「その…学校側に許可は取ったんですか?」

パモ部部長「モチのロン!理事長に直訴しに行ったら『うーん…いいんじゃ、ない…?多分。始まる直前くらいにかけるなら』みたいな曖昧な許可をもらったわよ!」

ことり「もう理事長も何が良くて何がダメなのかわからなくなってきてそうだね…」

パモ部部長「てなわけで、本番当日を楽しみにしててよね!どでかく応援幕垂れ流してあげるからさっ!ほなな!」ガチャッ バタンッ


真姫☆「…嵐のような人ね…」

海未「提案もハチャメチャでしたし…しかし垂れ幕ですか…。カッコイイですね」

花陽「え、海未さん…?」

海未「え?かっこよくありませんか?大きな文字がババンッって。まさか実現できるとは思いませんでしたが…」

ことり「海未ちゃんこういうところもある子だから」

真姫「…未だに海未をわかりかねてるわ」

希「安心して。うちもやから」

夕方

UTX学院校門前


海未「…はぁ」

ことり「うん?どうしたの海未ちゃん」

海未「こんな時間に下校していて、穂乃果たちに太刀打ちできるのでしょうか…」

真姫☆「仕方ないでしょ。アイドル専攻以外は下校時間には絶対に下校しなきゃいけないんだから」

真姫「…よくよく考えると不気味よね。アイドル専攻って」

希「学校の決まりごとから尽く逸脱しているからね。…それだけえりちに権力があるってことよ」

花陽「ま、まぁ!こうやって夕日を見ながら帰れるって思えば!ね?」

海未「…ふふ、そうですね。っと、そういえば…」

海未「本番は、この校門前でライブするのでしたね」

希「UTXのオーロラビジョンが眺められるこの場所で、やね」

ことり「で、この大きな校舎の屋上から…垂れ幕がだばーって降りるんだよね」

真姫「ちょうどステージ上から見上げる形で…って、ライブ中は誰も眺められないんじゃない?」

花陽「あ、ホントだ…。近すぎて下の方しかわかんないよね…」

真姫☆「どこに向けて私たちのライブを宣伝する気なのよ…。対外向けじゃないっていうのに」

希「あははは、いいやんっ。どうせ完全に封鎖するわけでもないんやし」

希「あのモニターを通してならそこそこ遠くの場所にもライブは届く。広い立ち見席なら、他のお客さんも見れるやん!」

真姫☆「…そうかもね。どれだけのお客さんが集まるのかしら?」

海未「うぅ…混乱が起こって中止などにならなければ良いのですが…あ、いえ!それならばノーコンテストで我々が解散する必要がなくなるのでは…!?」

ことり「もう海未ちゃんっ!ライブ前から不吉なこと言わないのっ!」

海未「ご、ごめんなさい…」

真姫☆「勝つ気でいかないと勝てる勝負も勝てないわ。負けることなんか今から考えていてもしょうがないでしょ」

真姫「そうそう。負けたとは負けてから考えればいいのよ。芋砂にやられたら回り込んで…」

希「何の話…?」

花陽「とにかくがんばろーってことだよね!よぉし、これからダンスの練習だー!」

真姫「え、今からまだ…?」

真姫☆「神田明神なら空いてそうだし、自主練習をしたいならすればいいんじゃない?」

海未「そうですね。行きましょう」

真姫「うぅ…もう疲れた…」

神田明神


真姫「ハァ…ハァ…。この階段…いつ登っても辛い…」

海未「まだ言ってるんですか?ほら、行きますよ!」

真姫「ま、待ってぇ…」

ことり「海未ちゃん、元気だねー」

花陽「それだけ負けたくない…うぅん、勝ちたいんだよ。勝って取り戻したいんだよね」

ことり「穂乃果ちゃんとの日々を…か。うん、私も…取り戻したい」

真姫☆「…」


タッタッタッ…

海未「よし、一番乗りっ!…あれ?」

真姫「はぁ…はぁ…な、なんなのよー?」

希「ありゃりゃ…先客やん」


ことり「どうしたの?」

海未「既に境内前のスペースを使われていました…。これではダンスの練習は難しそうですね…」

真姫☆「珍しい…いったい誰が?」


パシンッ パシンッ


真姫「…?何してるのあれ…。縄跳びをくぐって…」

希「あれはダブルダッチやね。ダンスの一種みたいなもんかな」

真姫☆「現代版バンブーダンスみたいなものよ。参加させてもらったら?」

真姫「い、いいわよ」

海未「使われていたなら仕方ありませんね…。今日は解散しますか」

ことり「そうだねー…」

真姫「はぁ…よかった」



花陽「…なわとび」



真姫☆「…ん?花陽…どうしたの?」

花陽「…」

真姫☆「花陽っ、みんな行っちゃうわよ?」

花陽「えっ?あ、あぁ…うん、わかった。今行くね」



海未「では、私たちはこちらなので」

ことり「また明日ね」

真姫「うん、バイバイ。私は…こっちね。さようなら」

希「うん、ほなぁ。じゃ、うちらは一緒に…あ」

花陽「うん?どうしたんですか?」

希「…ごめん、今日スーパーに買い出しに行く予定やったんや。忘れてた」

希「真姫ちゃん、先帰ってて。り…同居人ちゃんには晩ご飯少し遅れるって伝えておいてね。じゃ!」タッタッタッ…

真姫☆「あっ…、言ってくれたら私も付き合ったのに…。まぁいいわ。花陽、久しぶりの二人きりね」

花陽「あ、…そうだねー」

スタスタ…


花陽「…」

真姫☆「…」

真姫☆「…花陽」

花陽「…」

真姫☆「花陽っ」

花陽「ふえっ?な、何かな…?」

真姫☆「さっきからぼーっとしてどうしたのよ?病気?」

花陽「あ、うぅん…違うの。えっと…」

花陽「…思い出してたの。昔のこと」

真姫☆「昔の…?」

花陽「うん」

花陽「あの…なわとびを見て、思い出したんだ」

真姫☆「ダブルダッチのアレ?」

花陽「そう。昔…大なわとびってあったじゃない。グルグル回して、一人ずつくぐっていくの。体育の授業でよくある」

真姫☆「あぁ…あるわね」

花陽「私、あれが怖くて…。ムチで叩かれるような怖さで。みんなが飛んだあと、ずっと立ち尽くして、震えてて…」

花陽「涙をボロボロ流して、あわやおもらしする直前で、逃げ出そうとも思った時…」

花陽「そんな私を見かねて、大なわとびを逆から飛んで、私に手を差し伸べてくれた子がいたの」

花陽「『こわくないよ。簡単だよ。いっしょに飛ぼう?』って」

花陽「『いやだよ。あたったら痛いもん』って私がダダをこねても、諦めず私を励ましてくれて」

花陽「ついに私は、その子と一緒に大縄跳びを飛んで。…思ったよりずっと簡単で、怖いものなんてなくて」

花陽「『ね、簡単だったでしょ?』って笑って言ってくれて。私も『うん、簡単だね』って返して」

花陽「でも心の中では、こう付け足して。『あなたがいてくれたから、簡単だったんだよ』って」

花陽「それから私とその子は、とても仲良しになって…遊びに行くときも、トイレに行く時も一緒の、大の仲良しに、親友になれた」

真姫☆「…それが」

花陽「星空凛ちゃん」

真姫☆「…」

花陽「思い出したんだ。あれがあったから私…、凛ちゃんと仲良しになれたんだって」

花陽「私がどんくさい子じゃなかったら。凛ちゃんが私を励ましてくれなかったら」

花陽「あんな仲良しには、なれてなかったのかもしれないなぁって」

真姫☆「そう…」

花陽「なんて、もしかしたらまた別のところで出会ってたのかもしれないけどね」

花陽「けれど、私にとってなわとびは…出会いの一つだったから」

花陽「凛ちゃんに出会わせてくれた、細い扉」

花陽「…あ」

真姫☆「うん?」

花陽「もう一つ、思い出した」

花陽「私を助けてくれた凛ちゃんに送った、お礼の歌」

花陽「私が…漢字もろくに書けない私が、言葉もほとんど知らない私が、知ってる言葉を紡いで作った」

花陽「生まれて初めての、ライブの…歌」

花陽「…すぅっ」



「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  夢が 少しずつ 近づいて  」


「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  ありがとう  」


「  嬉しくて 嬉しくて 幸せすぎると  」


「  泣けちゃうの ごめんね  」



花陽「…」

真姫☆「…ふふ」パチパチパチ…

花陽「わっ…!は、恥ずかしい…」

真姫☆「何よ。いい曲じゃない」

花陽「…そう、かな?ふふ、ありがと」

花陽「凛ちゃんもお歌が終わったあとに大きな拍手をくれて、すごく嬉しかった」

花陽「ただ『最後にごめんね、っていうのはかよちんっぽいね』って言われたの、すごく覚えてるかも」

真姫☆「ふふ、ホントね。最後までありがとうでいいのに」

花陽「だって、怖くても泣いて、幸せでも泣いて…泣いてばっかりできっと凛ちゃんもうろたえちゃうだろうなって思いで」

花陽「こんなに泣いてごめんね、って気持ちで書いたんだったと思う」

花陽「ふふ…変なの」

真姫☆「ん?何が変なの?」

花陽「だってね、私…この歌のこと、ほとんど覚えてなかったんだ」

花陽「メロディも、歌詞も何もかも忘れてて。なのに今は、どんな気持ちで作っていたのかも思い出せる」

花陽「だから可笑しいな、って思って」

真姫☆「それは、あなたの気持ちが過去に戻ってるから…じゃないかしら」

花陽「過去に?」

真姫☆「えぇ。なわとびを見て、あの頃の気持ちを思い出して」

真姫☆「その時と全く同じ思いをしているから、忘れていたことも鮮明に思い出せるようになったのよ」

花陽「…そっか」

真姫☆「だから…凛にも思い出させてあげて。その頃の純粋な気持ち」

真姫☆「あなたと、友達になりたいって思っていた頃の凛の気持ちに、あなたの歌で戻してあげるのよ」

花陽「…うんっ!私たちのライブで…凛ちゃんともう一度…お友達になるんだっ…!!」

真姫☆「凛には敗北の悔し涙を浮かべさせるより、感動の涙を流させてあげたいわね」

真姫☆「そうすればきっと悲しみの連鎖も…終わりを告げるはずよ」

花陽「そう、だね…。あぁぁ…、ドキドキしてきた!」

花陽「ごめん真姫ちゃん!私先帰るね!お風呂の中で歌の練習してくる!」

真姫☆「え、あ…頑張って」

花陽「うおおぉぉっ!凛ちゃああぁぁぁんっ!!」ダダダダッ…!!

真姫☆「…」

真姫☆「…まぁ、元気なのは大切よね」





真姫☆(花陽の決意も新たに、決戦へと歩みを進み続ける私たち)


真姫☆(それぞれの思惑を胸に、C☆cuteもA-RISEも、勝利を求めて練習に励む)


真姫☆(ダンスも完成して、C☆cuteの衣装も一つ、また一つと出来上がり)


真姫☆(ほどよい緊張と、日が近づくにつれてなお増し続けるUTXの熱狂に包まれ)


真姫☆(きっとこのライブは、勝っても負けても素晴らしいものになるに違いないと)


真姫☆(私たちの誰もがそう思っていた)


真姫☆(そんな、ライブ本番4日前の、放課後)




真姫☆(事件は、起きた)


真姫☆(起こるべくして、起こってしまった)




12月20日 土曜日

朝 神田明神


真姫☆「…」←透明マント


花陽「あぁ…」

海未「うぅっ…」

ことり「あはは…」

希「これは…」

真姫「ちょっと…」



野次馬ズ「「「わあぁぁぁぁ…!」」」ガヤガヤ…



希「朝からこんなに人が集まるなんて…」

ことり「最近音楽室の前に見学者が来ることは度々あったけど…」

海未「休日であることと、神田明神という開けた場所であるがゆえに、たくさん人が来たようですね…」

真姫「に、人気があるのがわかっていいんじゃない?」

花陽「でも神社の人に迷惑じゃないかなぁ…?」

希「うーん、神主さんはおおらかな人やし、お正月に比べれば全然少ないほうやからそこはいいやろうけど…」

ことり「…これじゃ真姫ちゃん、顔出しできないよね」

海未「今ここで真姫が二人いることが知られてしまえば学校側にも伝わるでしょうしね」

真姫「それは困るわね…」

花陽「どうする…?人払いしたほうがいいかなぁ…」

真姫☆「…今日は土曜日よ。休日だからどれだけの人がいつ来るかわかんないし、人が来るたび人払いなんてしている余裕もないわ」

真姫☆「練習を見学されるのはまぁ…別に悪いことじゃないと思うわよ。これを参考に自分もアイドルはじめよう、って思ってくれればありがたいしね」

希「でも真姫ちゃんはどうするん?ずっと透明?」

真姫☆「マントの中から手拍子してもほとんど聞こえないわ、音楽室ならまだしも開けた場所じゃあね…」

真姫☆「…はぁ、仕方ないわ」

海未「どうするつもりですか?」

真姫☆「今日はコーチはナシよ。あなたたちで練習して頂戴」

ことり「えっ…」

真姫☆「できるでしょ?もうあとは追い込みだけなんだし」

真姫☆「私はここにいるよりどこか別の場所にいたほうが安全よ」

花陽「そ、そっか…。そうだね」

真姫☆「それじゃ、あとはよろしくね。また夕方頃に会いに来るわ」

花陽「うん、頑張るね。よーしっ、じゃあ練習だ!」

「おーっ!」



スタスタ…

真姫☆「…とはいったものの」

真姫☆「どこで暇を潰しておこうかしら」

UTX

多目的ホール



絵里「…」


穂乃果「はっ…!せいっ、やっ…」

にこ「よっ…、とっ…」

凛「へっ…、ほっ…」



絵里「…うん」

絵里「なかなか仕上がってきたわね。完璧にはまだ至っていないけれど」


穂乃果「はぁっ…はぁっ…、そう、ですか…」

絵里「あと、疲れがたたって笑顔がおざなりになっているわね。もっと笑うこと」

にこ「はい…」

絵里「じゃ、次はライブ本番と同じ体で…」

凛「あ、ちょっと待って…」

凛「ととと…」プシュー

穂乃果「…そんなに酷いの?筋肉痛」

凛「うん、ここ最近足が痛くて…」

にこ「さっきから何回目よ、クールダウン」

凛「ご、ごめんなさい…」

絵里「…今日は休む?練習に支障が出るなら…」

凛「や、やれますっ!足手まといにはなりませんからっ!」

穂乃果「明日にも痛みが治まらなかったら、本番に備えて明日は休もうね」

凛「うん…でも、今日は行けるにゃっ!さ、さぁ!ライブライブ!」

にこ「…ホントに平気なのかな」


凛(こんなところでへこたれてられないよ…!)

凛(痛みくらいガマンすれば平気!)

凛(もう4日後にはライブなんだ…!ここで休んでちゃ二人に遅れを取っちゃうよ…!)

凛(夢の舞台へはもう後一歩…!後一歩でたどり着くんだからっ…!!)




絵里「…足が、痛い…?」

絵里「いえ、まさか…まさかね」


絵里「…まだ、大丈夫なはず」

秋葉原


真姫☆「凛ー…?凛はどこー?」

真姫☆「…はぁ。いないわよね」


真姫☆(凛の最近の楽しみは朝からアキバに繰り出してジャンクパーツを漁ることなんだけど)

真姫☆(広い秋葉原から凛を探すのは無謀だったわね…)

真姫☆(見つけられたら二人でショッピングでも…と思ってたんだけど)

真姫☆(凛の携帯は着陸時の衝撃でぶっ壊れちゃって連絡の方法がない…)

真姫☆(…そもそも別世界の携帯がなんで使用できるのかは…考えないでおきましょう)


真姫☆「このままアキバをうろついていても仕方ないわよね…」

グゥゥゥ…

真姫☆「…う。お腹すいた」

真姫☆「もうそんな時間…。どこか適当な場所でお昼にでもしましょうか」



喫茶店


真姫☆「…もぐもぐ」

真姫☆「ふぅ、おいしかった。最近外食してなかったから新鮮ね」

真姫☆「さてと、…やることがなくなっちゃったわ」

真姫☆「あぁ…、どうしよう…」

真姫☆「…あ、そうだわ!いいこと思いついちゃった」

真姫☆「透明マントがあればA-RISEの練習にこっそり忍び込めるんじゃないかしら…!」

真姫☆「そして敵情視察…!してどうなるってわけでもないけど」

真姫☆「…まぁ、どんな曲をやるのか知っておいて損はないでしょ」

真姫☆「よし、決まりね。目標はUTXよ!」



UTX 多目的ホール



絵里「…それじゃ、一旦1時間ほどの休憩を取るわね。その間に昼食と水分補給。よろしくね」


穂乃果「はぁっ…、ふぅ…。疲れた…」

にこ「…身体に疲れが溜まってきてるわね…。少しの運動でかなり疲れるようになってきてる…」

穂乃果「その分気合を入れないと…、んぐっ…んぐっ…」

にこ「ご飯もいっぱい食べなきゃね!むふふ~…」カパッ

穂乃果「…うわ、多いね。よくそんなに入るなぁ…」

にこ「ご飯は栄養あるものをたっぷり食べないと身体が持たないって学んだのよ!あ、凛!凛も一緒に…」


凛「ふっ…く、うぅっ…」ギュッ ギュッ…


にこ「…凛。足、そんなに痛む?」

凛「へ、平気っ…!筋肉痛くらい我慢すれば大丈夫だもん!」

凛「マッサージで凝り固まった筋肉をほぐしてあげればすぐに…!」グイグイ…

穂乃果「…力任せにマッサージしても凝りはほぐれないよ」

穂乃果「手伝おうか?」

凛「い、いい…です。ちゃんとケータイで調べてやってるから平気だもん…!」

凛「よっ…たっ…」クニクニ…

穂乃果「…」

にこ「…凛がいいって言ってるならいいんじゃないの。大丈夫よ、あの凛だもん」

にこ「その代わり、明日は絶対休むのよ?一日休めばタフな凛のことだからすぐ良くなるわ!」

凛「えへへ…、ごめんね。そうするにゃ」


穂乃果「…本当に」

穂乃果「本当に筋肉痛なの…?凛ちゃん…」

穂乃果「…嫌な、予感がする」




絵里「はい、ワンツースリーフォー…」パンパン…


凛「ららら~…!」タンタタンッ


凛(痛いっ…、痛いっ…!!)

凛(でもこのくらいどうってことない!!前はもっと辛い思いだってしたんだから…!)

凛(そうだ…!忘れちゃえ…!忘れちゃうんだ…!!)

凛(疲れを忘れたように、この痛みだって忘れちゃえばなんてことないよっ…!!)

凛(そうすれば…立ち止まることなく前に進めるっ…!!)

凛(後一歩を、踏み出せるっ…!!!)

凛(一歩を…こうやって!!)


凛「はぁっ!」ダンッ




パキンッ

UTX学院


真姫☆「ふふふ~、さてさて…」

真姫☆「休日に学校に忍び込む…なんだか趣があるわよね」

真姫☆「さてと…アイドル専攻が練習しているホールまで行きましょうか」



多目的ホール前


真姫☆「よし、たどり着いたわ」

真姫☆「中ではどんな鬼畜なことが…」


グワンッ…!!


真姫☆「ッ…!!?」

真姫☆「あ、ぐぅっ…!!揺れがっ…!」

真姫☆「こんな、時に時空の揺れ…!う、ぐっ…立っていられない…」ヨロッ…


パサッ…


真姫☆「あ、マントが…。く、ぅっ…」

真姫☆「ううぅ…か、はぁっ…」

真姫☆「はぁ…はぁ…。だいぶ収まって、きた…」

真姫☆「全く…厄介すぎるわ…。しかし、こんな…ホールの前で寄りかかってるところなんて目撃されたら…」

真姫☆「また出待ちか何かと勘違いされるんじゃ…あの時優木あんじゅに出会ったみたいに今度はまた…」



英玲奈「…何、している?」



真姫☆「…」

真姫☆「…会っちゃったし」

英玲奈「お前は確か…西木野真姫?練習はどうした?そもそも今日は休日なのにどうしてここにいる?」

真姫☆「あ、その…実は…あ、うぅっ…」ヨロッ

英玲奈「っ…、大丈夫か?気分が悪いのか?」

真姫☆「…ごめんなさい。一過性のものだから気にしないで…」

英玲奈「そうか、ならいいが…いや良くない!なんでここにいるのか説明してもら…あ、いや今気分が悪いなら後ででも…」

真姫☆「色々と気を遣ってもらって申し訳ないわね…」

真姫☆(でもここにいる理由…どう説明したものかしら…)



「うぅっ…、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」



真姫☆・英玲奈「「っ!!?」」


英玲奈「何だっ…今の声…!?ホールの中から…!?」

真姫☆「今のっ…凛!?凛に何かあったんじゃ…!!」

真姫☆「凛っ!!」ダダッ

英玲奈「あ、おいお前…くっ、今は仕方ないか…」タタッ

多目的ホール


凛「ぎぃっ…!!?」


穂乃果「…何、今の音…」

にこ「なんか、パキンって聞こえなかった…?」


凛「うぅっ…」

凛「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


穂乃果・にこ・絵里「「「っ…!?」」」


凛「痛いっ…!!痛い痛いぃぃっ!!あああああぁぁぁっ!!!」

凛「ぐぎぃぃっ…、うぎゅううぅぅっ!!あ、ああぁぁぁぁっ…足があぁぁっ…」


にこ「り、凛っ…!?」

穂乃果「凛ちゃん…、ど、どうし…」


真姫☆「凛っ!!」バダンッ


絵里「ま、真姫っ…!?あなた、どうしてここに…」

真姫☆「話は後よ!凛…凛、どうしたの!?」

凛「痛いっ…!!いたいいぃぃぃ!!!」

穂乃果「わからない…急に足を押さえて痛がり出して…」

にこ「あ、足をくじいたんじゃ…!凛、保健室行きましょう!」

絵里「そうね…肩貸してあげるから、ひどくならないうちに…」


真姫☆「動かさないでっ!!」


絵里「っ…、どうして」

真姫☆「…捻挫かどうかまだわからないわ」

凛「ひぃっ…、ふひいぃぃぃっ…!!」

真姫☆「凛の痛がりようが尋常じゃない…。もしかしたら…」

真姫☆「凛、聞こえる?返事、できる?」

凛「西木野…さん?う、ぐぅっ…」

真姫☆「足のどこが痛いの?どっちの足?」

凛「ぎぃっ…、み、右足の…すねの、とこぉぉ…はぁっ…!はぁぁぁっ…」

穂乃果「脛…って、じゃあくじいたわけじゃない…?」

真姫☆「…足が赤黒く変色してる。内出血を起こしているんだわ」

真姫☆「と、なるとこれは…っく、なんて、こと…!」

にこ「ど、どうしたの…?凛、どうなったの…?」

真姫☆「にこちゃん!すぐに棒みたいなもの、持ってきて!なかったら傘でもいいから!」

にこ「えっ…?」

真姫☆「早くっ!!」

にこ「わ、わかったわ…」タタタッ…

穂乃果「…棒?どうするつもり…?」

真姫☆「足を固定するために使うの。凛は…」


真姫☆「…骨折しているわ」

絵里「っ…、嘘っ…!」

穂乃果「骨折っ…!?」

真姫☆「…多分、間違いない」


凛「う、うぅぅっ…!!」


穂乃果「そんな、どうして…?ただ普通に練習してただけなのに…」

絵里「…」

穂乃果「…でもそういえば、倒れる直前にパキンって音が聞こえたけど…あれが…?」

真姫☆「間違いないわね。凛の足の骨が折れる音…」

真姫☆「…折れた骨が中の肉を傷つけて内出血を起こしている…。何か冷やすものない?」

穂乃果「冷やすもの…。あっ、凛ちゃんが筋肉痛のために持ってきてたコールドスプレーが…」

真姫☆「それでいい。…あとガムテープとかもあると助かるんだけど」

穂乃果「さ、探してくるっ…!」タタッ…

真姫☆「…あとは…」ピポパッ

真姫☆「…あ、私。うん…え?あぁ…と、友達の携帯電話貸してもらったのよ。だから…」

真姫☆「それより…友達が骨折したの。病院に運びたいから救急車、学校まで送って欲しい」

真姫☆「…お願い。ありがとうパパ、愛してるわ。それじゃ…」ピッ

真姫☆「…電話番号も違ってるなんてね。流石に想定してなかったわ」

絵里「…凛を、どうするつもり」

真姫☆「聞いててわからなかったの?病院に…」


絵里「ダメよっ!!」


真姫☆「…なんですって?」

にこ「真姫ちゃん、傘っ…え、何…?」

絵里「ダメっ…絶対にダメッ!!」

絵里「凛を連れて行かないで!!今…今凛に抜けられたら困るのよっ!!」

真姫☆「なっ…何を言ってるのあなた!?」

絵里「怪我だろうが骨折だろうが関係ないわ…!凛が居なくなればA-RISEは…!A-RISEはっ…!!」

絵里「凛はどこにも行かせないッ…!誰にも渡さないんだからっ!!離れてっ!凛から離れなさいっ!!」ガッ

真姫☆「な、やめてっ…!動かしたら凛がっ…」

絵里「凛っ…!!凛ッ!!!」



スパシィィンッ!!



絵里「ぶっ…!」

ドテーンッ…!!


にこ「なっ…」


真姫☆「…」

真姫☆「…英玲奈、さん」



英玲奈「少し落ち着け、絢瀬」

絵里「え、れ、な…」

英玲奈「…」

絵里「え、英玲奈あぁぁぁっ!!」ガシィッ

英玲奈「落ち着けと言っているんだっ!!」

絵里「っ…」

英玲奈「今は西木野の判断に任せよう。本当に骨折なら…お前がどうこうできる問題じゃない」

絵里「でもっ…、でもぉっ…!!」

英玲奈「…少なくともこの痛がりようじゃ、…もうクリスマスのライブは無理だ」

絵里「っ…!」

英玲奈「今はおとなしく引け。…わかったな?」

絵里「…わかったわ」



にこ「…か、カッコイイ…。あの絵里をあんなふうにおとなしくさせるなんて…」

真姫☆「そうね…」

穂乃果「真姫ちゃん、ガムテープ…、…何かあったの?」

真姫☆「…いえ。じゃあとにかく、応急処置…」


真姫☆(傘を凛の足に固定させ、ガムテープでガチガチに縛り付ける)

真姫☆(むやみに足を動かせば骨が筋肉をどう傷つけるかわからない)

真姫☆(出血したところにはコールドスプレーを吹きかける。これでひとまずは…)


真姫☆「…凛、どう?痛い?」

凛「痛い…けど、さっきよりかは、マシかも…」

真姫☆「そう。よかった…」

真姫☆「…凛、筋肉痛だって言ってたけど…本当に筋肉痛なの?」

穂乃果「えっ…、わかんない…。凛ちゃんが自分で筋肉痛だって言ってただけだから…」

真姫☆「…じゃあ多分、そうじゃないんだわ。傷んでいたのは筋肉じゃなく、骨だったのよ」

にこ「えっ…それじゃあ…」

真姫☆「前々から兆候は出ていた…。多分骨に細かいヒビが入っていて…何かの衝撃で折れてしまったのね」

真姫☆「原因はおそらく、疲労の蓄積。それによる…疲労骨折」

凛「疲労、骨折…」

にこ「ど、どうなのそれ…?凛、どうなっちゃうの…?」

真姫☆「…そこまでは私もわからない。軽度か重度か…それによるわね」

穂乃果「…」

真姫☆「…そろそろ救急車が来る頃ね。私は凛についていくつもりだけど」

真姫☆「あなたたちは、どうする?」

穂乃果「えっ…」

にこ「…私は」

にこ「私もついていくわ!凛っ…、いいわよね?」

凛「せんぱ、い…」

穂乃果「…私も、行く。大切な仲間が怪我をしたんだもの…行くに決まってるよ」

真姫☆「…わかったわ」

絵里「なっ…あなたたちまでっ…!」

絵里「ふざけないでっ!残りなさいっ!!まだ昼なのよ!?練習はっ…!」

真姫☆「っ…あなたねぇっ!!どこまでっ…」

英玲奈「…絢瀬。大切な仲間の安否を心配するのは当然のことだ」

英玲奈「今から練習したところで、練習に身が入ると思うか?」

絵里「当たり前でしょうっ!誰かが散っていったところで気にしていたら、一番にはなれないっ!頂点には立てないのよ!!」

英玲奈「怪我と挫折は違う。それに、お前の目指しているものは…それでは頂点ではない」

英玲奈「ただの、孤独だよ」

絵里「ッ…!うる、さいぃっ…!!」

英玲奈「うるさくて結構。専攻生の健康の管理もできないお前に、頂点を獲るなど言えたことではない」

英玲奈「…この責任は、後々響いてくるぞ。覚悟しておけ」

絵里「…っ、ぐ、うぅっ…」

真姫☆「…ありがとう、英玲奈さん。絵里を宥めてくれて」

英玲奈「当然のことだ。あとは…私に任せてくれ。先生には事情を説明しておく。コイツのことも、含めてな」

絵里「…」

真姫☆「…えぇ。お願い」



救急車


真姫☆(救急車に3人も同乗するのはありえないんだけど、どうしてもとお願いしたらなんとか乗せてくれた)

真姫☆(事故時の状況説明や普段の素行を聞くためには一人くらいは必要だけど、普通はそんなにいらないしね)

真姫☆(心配そうに見守る穂乃果に、涙ながらに凛の手を握り締めるにこちゃん)

真姫☆(凛は汗ばんだ額でにこの必死な問いかけに答えていたけど、疲れが祟ったのか、やがて静かに眠りについた)

真姫☆(…私があのタイミングでUTXに来ていて助かった。絵里に任せていたらどうなってたことか…)

真姫☆(とにかく今私ができることは、凛の家族に連絡することと、そして…)

真姫☆(…花陽にも、知らせておかないと)



西木野総合病院


真姫☆「…ってこと、らしいです。お願いします」


穂乃果「…あ、西木野さん」

真姫☆「どうだった?そっちは」

にこ「色々と聞かれたわ。普段はどんなことをしてたのか、って…」

にこ「明らかに過労…ですって。知ってるわよ、そのくらい…」

真姫☆「…そうね」

穂乃果「凛ちゃん、治療にどれくらい…かかるのかな」

穂乃果「…ねぇ、西木野さん…。私たち…凛ちゃんと一緒に、スクールアイドル…できるの、かな…?」

にこ「穂乃果…」

穂乃果「嫌だよ…、あんなに頑張ってた凛ちゃんが…」

穂乃果「歌うことを楽しみにしていた凛ちゃんが、A-RISEになれないなんて…ここまできて、そんなの…」

穂乃果「嫌だよ…嫌だよ…う、うぅうぅっ…!!凛ちゃんっ…!!」

真姫☆「…私の口からは、何も言えないわ」

真姫☆「治療と診断をして、結果が出てから。…それまでは、どうとも」

穂乃果「うぅっ…、うぅぅぅっ…」

真姫☆(それから時間が過ぎて)

真姫☆(夕方頃になってから、凛の家族が駆けつけた。仕事を切り上げてやっと来られたらしい)

真姫☆(足にギプスと包帯を巻かれた凛は、病室で家族たちと話していた)

真姫☆(思ったより元気で、退院したら美味しいもの食べたい、だとか…そんな話をしていた)

真姫☆(家族が帰ったあとは、穂乃果とにこが)

真姫☆(これからのことと、クリスマスのライブのことについて)

真姫☆(…A-RISEは、二人でもライブを行うと結論が出たみたい。凛は不服だったけれど…それは仕方のないことでしょう)

真姫☆(あとはほんの少し会話をして…それから、帰り際に二人に凛のことを告げた)

真姫☆(二人にとっても凛にとっても残酷なことだったが、告げなければいけないことだった)

真姫☆(にこちゃんは目を伏せて、穂乃果は声を殺すように嗚咽をあげ、帰っていった)

真姫☆(…そして、面会時間が終わるほんの少し前に)

真姫☆(花陽が来た)



凛の病室


コンコン


凛「…どうぞ」


ガチャッ

花陽「…は、入るね」

真姫☆「…」


凛「なんだ、小泉さん。来たんだ」

花陽「そ、そりゃ…くるよ…。怪我したんだもん」

凛「…ただの骨折だよ。運動を抑えたらすぐ治るにゃ」

花陽「そ、そうだよね。あ、これ…お見舞い。大したものは買えなかったけど…」

凛「あ、凛の好きなカップラーメン!へぇ~…覚えてたんだ…」

花陽「うん!小さい頃、二人でよく食べたよね。覚えてるよ~」

凛「そっかー…。凛は覚えてないなぁ…」

花陽「そう?」

凛「うん…。忘れちゃったよもう…昔のことなんて」

花陽「…そう、なんだ」

凛「…、っ…!む、昔はもういいでしょ!重要なのはこれから、だにゃ!」

凛「ら、ライブは…ライブは出られなくなっちゃったけどでもっ…来年はっ…絶対に小泉さんを泣かせてやるんだもん!」

凛「だからその時まで覚悟しておくんだね!ふんっ!」

花陽「うん…待ってるから、だから凛ちゃんも…」


真姫☆「…ごめんなさい。花陽、その後は言わないで」


花陽「え…?」

真姫☆「凛、あなたに言わなくちゃいけないことがある。どうしても」

凛「…え、何?」

真姫☆「これ以上長引かせても、あなたが傷つくだけだから、だから…言うわね」



真姫☆「凛、あなたは…A-RISEにはなれない」

凛「へ…?」


真姫☆「…疲労骨折はただの骨折じゃないの。骨に小さいヒビが徐々に入って、ある日ほんの衝撃で砕ける骨折」

真姫☆「あなたの場合、それが…かなりひどい」

真姫☆「レントゲンで、あなたの骨に無数のヒビがあることがわかったわ。骨折した右足だけでなく、左足にも」

真姫☆「これら全てを完治するにはかなりの日数が必要になる」

花陽「かなりの日数って…どれくらいの…?」

真姫☆「…多分、全治に…3ヶ月くらい」

凛「3、ヶ月…。さ、3ヶ月なんでしょ…!?それじゃ治るのは3月じゃんっ…!」

凛「それからなら、まだA-RISEはやれるっ…!!全然大丈夫じゃんっ…」

真姫☆「…そして」

真姫☆「リハビリに半年以上」

凛「え…?」

真姫☆「知ってる?動かさない筋肉がどうなってしまうか」

真姫☆「3ヶ月も歩くことをしなければ…筋肉はやせ衰える。ダンスはもちろんのこと、走ることも飛ぶことも…歩くことすらできない」

真姫☆「その足を動かせるようになるまでの時間が、半年いるってことよ」

凛「…ウソ」

真姫☆「嘘じゃない」

真姫☆「半年のリハビリを終えたとして、それは普通に過ごすことのできる身体になるだけ」

真姫☆「今の…常人をはるかに凌駕するほどの運動能力は、もう宿っていないでしょう」

真姫☆「きっと、来年の1年生のダンサー専攻にすら、劣る運動能力になってると思う」

真姫☆「…それじゃもう、A-RISEは…できないわ」

凛「…ウソだ」

真姫☆「嘘じゃ、ない」

凛「ウソ…だよ」

凛「ウソって…言ってよ」

凛「だったら…だったら何のために凛は…いままで…」

凛「いままで…バカみたいに頑張ってきたの…?」

凛「ウソ、なんじゃないの…?ねぇ、ウソだって…ウソでしょう…?」

真姫☆「…嘘じゃ、ないのよ」

凛「…そう」

凛「そう、なんだ」

凛「…」

花陽「凛、ちゃん…」

真姫☆「…8時。もう面会時間が終わるわ」

真姫☆「帰るわよ、花陽。…お見舞いはまた、明日」

花陽「…う、うん…。凛ちゃん…あの、か、帰るね…」

花陽「バイバイ…」

凛「…」



凛「…そう、なんだ」

凛「アイドル…なれないん、だ…」

凛「は、はは…ははっ…ふ…、うぅぅっ…!!うぅぅぅぅぅぅぅっ…」

凛「く、くぅぅっ…!!う、ぐ、ぐぅぅっ…うああぁぁぁあぁ…、ああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁ…!!」

今日はここまで 大体ここまでで半分
明日はもう少し早めにできますように ほなな

PV見てたら遅れたけど続き

帰り道


トコトコ…

花陽「…」

真姫☆「…」

花陽「…」

真姫☆「…花陽」

花陽「んっ…?な、何?」

真姫☆「…ごめんなさいね。せっかくお見舞いに来てくれたのに、凛の怪我の話で時間を消費してしまって」

真姫☆「本当はもっと話したいこともあったと思うのに…、気が利かなくて」

花陽「えっ…、あぁ…、うぅん。いいの…」

花陽「…凛ちゃんがもう…スクールアイドルできないって知らずに、色々余計なこと言っちゃう前に止めてくれて良かったと思う」

花陽「言ってたら、それが凛ちゃんの重荷になってたかもしれないから…ありがとう」

真姫☆「…うん」

花陽「…」

真姫☆「…」

真姫☆「…凛はね」

花陽「ん?」

真姫☆「凛は多分…いずれああなってしまう運命だったと思うの」

花陽「運命…?どういうこと?」

真姫☆「凛がアイドル専攻でバケモノ呼ばわりされてるって…知ってる?」

花陽「あ、あぁ…うん。一年生で二年生のすべての子を凌ぐほどのすごい体力の持ち主だから、って…」

真姫☆「うん。にこちゃんもそんな風に言ってた。それで…こうも言ってた」

真姫☆「いつか壊れてしまうんじゃないか、って」

花陽「…いつか、壊れて…」

真姫☆「これは私の推測に過ぎないんだけど」

真姫☆「…凛は特別体力に満ち溢れていたわけじゃなかった」

花陽「えっ…?でも…」

真姫☆「確かに常人以上ではあったかもしれないけど、それでも超人並みの体力は持ってなかった」

真姫☆「凛はおそらく…疲れを忘れたのよ」

花陽「忘れた…?」

真姫☆「えぇ。疲れという肉体からの抑制を、無視して運動し続けた」

真姫☆「アイドル専攻の厳しい練習体制に打ち勝つ為に、凛は…どこかでそういうリミッターを外してしまったの」

花陽「そ、そんな…そんなこと、できるの…?」

真姫☆「…わからない。でも、ランナーズハイのように肉体が限界を突破すれば普段以上の力を出すことができる、って事例もある」

真姫☆「凛はそれの常時型だった…と言えるかもしれないの。今回の検査で、なんとなくそう感じた」

真姫☆「…でなければ、あの肉体にかかった疲労…、既に倒れていてもおかしくない」

真姫☆「疲労は無視…忘れることができても、肉体は覚えている。限界を超えた疲労は徐々に凛の体を蝕んでいく」

真姫☆「そして今日ついに…骨を砕くほどの疲れが累積して、凛を襲ったってわけ」

花陽「…」

真姫☆「…凛の肉体の疲れは足だけじゃなくて、全身にまで及んでいる」

真姫☆「あともう少し運動を続けていれば凛は最悪…」

真姫☆「…っ」

花陽「…」

真姫☆「…まぁ、だからある意味では…今凛の足の骨が折れてくれたのは幸いでもあったってことよ」

花陽「そう…なの、かな…」

真姫☆「えぇ、そう。間違いないわ」

真姫☆「人間…生きてさえいればいずれやり直せるんだもの」

花陽「…やり直す」

真姫☆「そのために…花陽。あなたが支えになってあげて欲しい」

花陽「えっ…?」

真姫☆「今の凛は…とてつもなく深い傷を心に負ってしまっている」

真姫☆「今まで必死に紡いできた努力の成果を、一夜にして失ってしまったわけだから」

真姫☆「凛も…アイドル専攻で夢に破れた子のように…ダメになってしまうかもしれない」

花陽「…っ。そ、そう…だよね…!」

真姫☆「だから…そんな凛を救って。花陽」

花陽「わ、私が…?」

真姫☆「そう。あなたしかいない」

真姫☆「凛を誰よりも知っているのは…あなたでしょう?」

花陽「…う、うん…」

花陽「でも私は…今の凛ちゃんを…どれだけ理解できるか…」

真姫☆「…やる前から諦めちゃダメ。そんなに不安にならないで」

真姫☆「きっと…凛は昔の凛を忘れきってはいないわ」

花陽「え、ホント…?凛ちゃん、昔のことはもう忘れたって…」

真姫☆「人間ね、そう簡単に忘れられないものもあるのよ」

真姫☆「誰にも負けないために、疲れを忘れられたとしても」

真姫☆「大切な思い出を、そうそう忘れることなんてできない」

真姫☆「凛との思い出を一番持っているあなたなら…彼女の眠っている思い出を引き出して、思い出させることだってできるはず」

真姫☆「凛を助けてあげて。…花陽」

花陽「…」

花陽「…私が、凛ちゃんを…助ける…」

花陽「…っ!わかった…!」

花陽「凛ちゃんを深い闇から救い出して、前に進む希望を与える…!」

花陽「それは私にしかできないこと…なんだよね!だったら…やるっ!」

花陽「どれだけ拒絶されても、今度こそ…逃げたりしないから!」

真姫☆「…うん。その調子。あ、それにね…」

真姫☆「凛は…A-RISEができなくなったのは確かだけど」

真姫☆「…スクールアイドルができなくなった、までは言ってないわよ?」

花陽「え…、あっ!」

真姫☆「リハビリが終わって、動けるようになれば」

真姫☆「いつだってスクールアイドルを目指せる。それが…」

花陽「私の夢っ!私の…スクールアイドル!」

真姫☆「…そう」

花陽「そうだよっ…!凛ちゃんはまだアイドルになれるんだ…!」

花陽「絶対に諦めさせたりなんて…させないっ!」

希の家


ガチャッ


真姫☆「…ただいま」


希「おかえり。…お疲れ様」

凛「おかえりー」

真姫☆「…あなたは元気ね。凛」

凛「ぶー、何よー。元気じゃダメ?」

真姫☆「そういうこと言ってるわけじゃないわ。…ごめんなさい」

凛「うぇ…、真姫ちゃんいつもよりしおらしいにゃ…」

希「凛ちゃん、大怪我しちゃったわけやもんね。あ、こっちの世界のね」

真姫☆「…自分が情けないわ。これでも医者の娘で、多少は医療についてもかじってるはずなのに」

真姫☆「凛の身体に気づくことができなかったなんて。…もう少し私が早く気づけていれば」

真姫☆「絵里を、止めることができたなら…」

希「…えりちを止めたとしても、凛ちゃんは止まらんかったと思うよ」

希「強くなるために、必死で練習してそして…壊れていたと思う」

希「凛ちゃんの不調に気づけなかったのは…もう仕方のないことやん。自分を責めても詮無いことよ」

真姫☆「…」

凛「そ、そうだよー…。元気だしてよ真姫ちゃん…」

凛「真姫ちゃんが元気ないとみーんなしょんぼりしちゃうにゃ…。お願い…」

凛「あ!そうだ!クリニックが治ったら凛が怪我する前まで戻ればいいんじゃない?」

凛「そうすれば怪我を未然に防げるはず!うわー凛賢い」

真姫☆「できるの…?そんなこと…」

凛「うん!できるよ!…ただ時空壁がなければの話だけど」

真姫☆「…じゃあダメね。凛が怪我する直前に、時空振動の揺れを感じたわ。あれが時空壁生成の余波なんでしょ?」

凛「あぁ…そだね。真姫ちゃんが観測しちゃった時点でそれ以前の過去にはいけないにゃ…。残念」

真姫☆「…それがなくてもどちらにしろ、11月時点に戻ったところで凛の身体はボロボロ…。説得の仕方もわからないんじゃ意味がないわね…」

希「…よ、よくわからん話やね…。時空がどうとかとか…」

希「まぁ、今考えてもどうにもならないことならとりあえず置いておいて…真姫ちゃんも精神的に疲れきってるならご飯にしよう」

希「いざって時に動かせる身体を作っておかないと、それこそ後悔しちゃうからね!」

真姫☆「…そうね。うん、そういえばお腹もすいてるし…いただくわ、ご飯」

凛「うんうん!お腹すいたにゃー!」

真姫☆「…あ、それと凛」

凛「うん?何?」

真姫☆「携帯、直しておいてよ。連絡が取れないと不便だわ」

凛「あー…携帯ね。わかったにゃ。でもまだいじったことないからいつ直るか…」

真姫☆「なるべく早く。お願いね」

凛「了解にゃー」

翌日

12月21日 日曜日




UTX学院 多目的ホール前ロッカールーム


穂乃果「…」キガエキガエ


にこ「…おはよ」

穂乃果「おはよう、にこちゃん」

にこ「…もう、平気なの?」

穂乃果「…何が?」

にこ「昨日…ずっと泣いてたじゃない」

にこ「凛がもう…A-RISEできないって真姫ちゃんから聞いてから」

にこ「相当へこんでるって思ってたんだけど…もう大丈夫なのかなって」

穂乃果「…うん。もう心配ないよ。ごめんね、不安にさせて」

にこ「い、いや別に…不安とかじゃなくてただの…気遣いだし」

穂乃果「大丈夫。涙は全部昨日で出し尽くしたから」

穂乃果「こんなところで…立ち止まるわけにはいかない」

穂乃果「『たかがメンバーが一人欠けたくらい』で、私までダメになってたら…」

穂乃果「…凛ちゃんに、怒られるよ」

にこ「…えぇ、そうよね」

穂乃果「クリスマスのライブは二人でやろう。来年のA-RISEは、まだどうなるかはわからないけど」

穂乃果「とにかく今を全力でやり抜く。それが…アイドルだもん」

にこ「ふふ…かっこいいこと言うじゃない。さすがA-RISEのリーダーね」

穂乃果「…いつの間にリーダーに」

にこ「にこよりずっと相応しいわよ。…それにしても」

にこ「今日…絵里、来てないのよね」

穂乃果「…あぁ、そういえば」

にこ「凛の一件、英玲奈さんが学校に報告しておく、って言ってたからもしかして…」

穂乃果「…そうかもしれないね。だとすると…指導は誰がするんだろう」

にこ「今までは絵里と、絵里のお抱えの2年生がやってたけど…」

穂乃果「絵里先輩が指導から外されたら、その2年生も指導の権利は失われるはずだし…」

にこ「今日は自主練習…?」

多目的ホール


にこ「な、な…なぁぁぁっ…!!」

穂乃果「…まさか、そんな…」



「…えー、ゴホン」

「今日より、指導係代行としてあなたたちの世話をすることになりましたー…」

ツバサ「…現、A-RISEよ。よろしくね」



「「っ…!」」

「「わああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」」



英玲奈「…静かに!」


シーン…


ツバサ「…ふぅ。急にそうなったらまぁ…驚くわよね」

あんじゅ「疑問質問もあるだろうけど、今はおとなしくしててねー」

英玲奈「…皆も知っていると思うが、昨日ここで怪我をした生徒がいる」

英玲奈「原因はその生徒の不注意…ではなく、明らかに監督不行届の結果と言える」

英玲奈「私たちはこの結果を受け入れ、…現在の指導方法は誤りであったと結論を出し、先生とも話し合った結果…」

あんじゅ「今までの指導を行っていた絢瀬さんには、一度お休みを取ってもらうことになりました」

英玲奈「教師たちも良い結果さえ出せれば過程を見過ごす、というスタンスで今までアイドル専攻を甘く見ていたようだが」

英玲奈「それを続けていたゆえに、ついに大怪我を負う生徒まで出てしまった」

ツバサ「一度抜本的にアイドル専攻を変えていかなきゃいけない…ってことになったんだけど」

あんじゅ「それをするのは誰か…ってなった挙句、それが見つかるまで私たちがあなたたちの指導をすることになっちゃったの」

ツバサ「まぁ、こっちも忙しいから交代制ではあるけどね。これからよろしく、有望なアイドル専攻の子たち」



にこ「…す、すごい…!嘘みたい…!まさか、A-RISEが私たちに指導を…!?」

穂乃果「私たちじゃなくて、多分…A-RISE候補生を重点的に教育するんだろうけどね」

にこ「う、うぅっ…!今なら下位落ちしてもいい…!」

穂乃果「変なこと言わないの…」


ツバサ「…おはよう、穂乃果、にこ」


穂乃果「あっ…ツバサさん!おはようございます!」

にこ「おお、お、おはようございますっ!!こんなところで話せるなんて…!!感激ぃぃっ…!」

ツバサ「もう、何言ってるの。いつもライブ前は気合入れ合ってたじゃない」

にこ「そ、そうですけど」

穂乃果「…でも、どうしてわざわざA-RISEの皆さんが直接指導を…?」

ツバサ「昨日あれから、私たちと…絵里も含めて話し合ったのよ」

ツバサ「無理な練習が祟って大怪我人を出したことについて、色々とね」

ツバサ「特に英玲奈が…今までのストレスを晴らすかのように絵里に強く当たってたけど」

ツバサ「でもその状況に今まで不干渉すぎた私たちにも責任があるんじゃないか、ってことになって」

ツバサ「とりあえず、適任者を探し出せるまで、私たちが交代制でやろうってなったの。…まぁ、一種の罰ね」

穂乃果「そうだったんですか…」

ツバサ「中には…この状況を楽しんでる子もいるみたいだけど」



あんじゅ「んー…全然ダメダメね。なってない!」

専攻生A「ご、ごめんなさいぃぃ…えへへ…」

あんじゅ「もう、笑顔だけは合格ね!もう少し引き締まったら満点だけど!」



にこ「あぁ…」

穂乃果「あんじゅさん、後輩のお友達を欲しがってましたもんね…」

ツバサ「後は…英玲奈も英玲奈で、意外と…」



英玲奈「もっとシャキっとする!気の抜けた姿勢はだらしなく見えるだけだ!」

専攻生B「わかりましたぁぁっ…!!」ピシッ

英玲奈「うん、やればできるな。偉いぞ」

専攻生「あ、ありがとうございますぅぅぅ…」ヘナッ

英玲奈「気を緩めるなぁぁぁっ!!」ビシッ



ツバサ「…楽しそうだけど」

にこ「指導される側もとっても嬉しそうだし」

穂乃果「それはまぁ…このアイドル専攻でA-RISEのファンじゃない子なんていないし」

穂乃果「その憧れの現A-RISEに直接指導される、なんて…まさしく夢のような出来事だろうからね」

ツバサ「今日は初日ってこともあるし、私たち全員でお相手しようと思うの」

にこ「ってことは、ツバサ様は私たちを…!!」

ツバサ「うん。見させてもらうわね」

にこ「い、いやったああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

穂乃果「ありがとうございます。ツバサさんの技術を吸収できれば、心強いです」

ツバサ「ふふふ、私なんて大したことないわよ。…あ、それより」

ツバサ「絵里が指導を外されたことで、あなたたちと彼女たち…C☆cuteとの契約も破棄されたわ」

穂乃果「…こちらが勝てば、彼女らの解散…ですか」

ツバサ「えぇ。もうそれはナシってこと。これは決定事項よ。あちらにも伝えておいた」

ツバサ「…だから今度こそ、心おきなく…C☆cuteを叩き潰してあげてちょうだい」

ツバサ「代々受け継がれてきたA-RISEの称号を超えるなんて、簡単には許されないってことを教えてあげるの。いい?」

にこ「…っ!はいっ!!」

穂乃果「凛ちゃんの想いも受け継いで…絶対に勝ちますっ!!」

ツバサ「ふふっ、よろしい」

ツバサ「さぁ、行くわよ…練習開始!!」

神田明神


希「…ふぅん。そっか…」


海未「…希さん?どうしたんですか、携帯を眺めて…」

真姫「メール?だれから?」


希「…うぅん、なんでもない。ただのメルマガやよ」サッ

希「さ、練習練習!油断してたらA-RISEに足元すくわれちゃうよ?」

ことり「そ、そうだよ…!いくら凛ちゃんが怪我して出られないからって…」

海未「負けたら解散、は変わりませんからね…。引き締まっていきましょう!」

花陽「う、うんっ…!!」



希「…今はこれでいい。適度な緊張感も必要やからね」

希「それより、あっちは…大丈夫かな」





西木野総合病院 凛の病室



凛「…」


コンコン


凛「…」


真姫☆「…凛、入るわよ」ガチャッ


凛「…西木野、さん…」


真姫☆「聞いたんだけど、昨日の夜から何も食べてないらしいじゃない」

真姫☆「…食べないと、動ける身体もすぐ動かなくなるわ。復帰に時間もかかる」

真姫☆「美味しくないかもしれないけど、病院食は栄養も豊富で…」


凛「…るさい…」

真姫☆「え?」

凛「うるさいなぁぁっ!!西木野さんは関係ないでしょっ!?」

凛「凛の身体がどうなろうと、凛の勝手じゃないっ!!」

真姫☆「…そうじゃない。このままだとあなたは死ぬのよ?死んでもらっちゃ困るの」

凛「死んだからなんなの!?動かなくなるから何っ!?動いたってA-RISEはできやしないのにっ!動く意味なんてない!!」

凛「復帰って…A-RISEにはもうなれないのに、関係ないよっ!!」

真姫☆「関係なくない!まだA-RISEじゃない、他のスクールアイドルって道も残されてるのよっ!?生きてさえいれば…」

凛「一番以外意味なんかないんだよぉぉっ!!それ以外は…クズなんだからっ…!!」

真姫☆「その考え方は捨てなさいっ!あなたを悪いようにしかしないから!!」

凛「うるさいっ…!うるさぁぁぁいっ!!出てってよ!凛の病室から出てって!!」

真姫☆「っ…、わかったわ。ただご飯だけはちゃんと食べて。いざって時に動ける身体を作るためにね」


ガチャッ… バタン


凛「…どうだっていいんだ…。もう…どうだって…」

凛の病室の前


真姫☆「…」

真姫☆「…やっぱり私じゃ、ダメかもね」

真姫☆「諦めるな、って人に言っておいてアレだけど…あまり刺激するより、ここは…」

真姫☆「…花陽に任せるのが、得策かも知れない」

真姫☆「今は私にできることをしておくべき…かしらね」


ピピピ… プルルルル…

ガチャッ

真姫☆「あ、もしもし…」

親衛隊A『ん?あ、西木野さん?どうしたの?』

真姫☆「いえ、そちらの進捗はどうなのかな、って思って」

真姫☆「滞ってるようなら手伝いに…」

親衛隊A『それがねーっ!衣装、やっと全員分できたの!』

親衛隊A『今からみんなで打ち上げに行こうって話してたんだけど、西木野さんも来る?』

真姫☆「…うぅん、忙しくないのならいいわ。衣装作り、手伝ってくれてありがとうね」

親衛隊A『これくらい簡単だって!来ないのは残念だけど…ま、忙しいもんね!』

親衛隊A『それじゃ、花陽にもよろしく言っておいて!またね~』

ピッ

真姫☆「…」

真姫☆「…パモ部はどうかしら」ペポパ…

ガチャッ

パモ部部長『ういっす!ん?真姫ちゃんかしらー?』

真姫☆「うん。そっちの状況はどうかな、って」

パモ部部長『状況?あ、もしかして垂れ幕のこと?』

パモ部部長『あれは業者に発注してて今やれることは特にないよー?明後日間に合うことをただ祈るだけですわ』

真姫☆「…あぁ、そうなのね。そういえば明後日屋上に…って言ってたけど、いつもは屋上、閉鎖されてるはずじゃ…」

パモ部部長『あー、それに関しては大丈夫!ちゃんと先生に行ってその日は開放してもらうことにしたから』

パモ部部長『ただいつ来るかはっきりとはわからないから、ずっと開けっ放しになってるんだよね。ま、どうでもいいけど』

真姫☆「あぁ…開放されてるんだ。えっと…私がその日手伝えることとかって、ない?」

パモ部部長『んー?垂れ幕は業者の人とウチの若い衆…ってアタシが一番若いんだけど、まぁ、その人たちに運んでもらうから』

パモ部部長『真姫ちゃんは本番前日なんだし、練習か身体休めるのに集中してたら?』

真姫☆「…あ、あぁ…そうね。ありがと、そうさせてもらうわ」

パモ部部長『要件はそれだけー?』

真姫☆「あ、えっと…えぇ、それだけ」

パモ部部長『おっけ。真姫ちゃんも練習ガンバッテねー。ほななー』ピッ

真姫☆「…」

真姫☆「…やることがない」

真姫☆「また手持ち無沙汰…!ぬおぉぉぉぉ…!」

真姫☆「…一人で作曲でもしてましょう」

夕方

神田明神


希「…ふぅ。ダンスはもうほぼ完璧、違うかな?」

ことり「うん!後は歌…だけど」

海未「神田明神で大声は出せませんし、休日に学校は使えませんから…」

真姫「…今からカラオケでも行く?」

花陽「い、今から…」

海未「そうですね。歌の方はカラオケに行って合わせて…」

花陽「ごめんなさい!私…それには行けない」

ことり「えっ…?あ…」

真姫「星空凛さん…のことよね?」

花陽「…うん。今は私が、凛ちゃんの支えになってあげないといけないから」

花陽「歌の練習は、家でなんとか頑張るから今は…」

希「うん、行ってき。誰も文句は言わんよ」

ことり「今から行っても1、2時間しか喋られないんだもんね…。悩む前にさっさと行っちゃえ!」

海未「となるとライブを合わせられるのは明日が最後…少々キツいですが、…まぁ、なんとかなるでしょう」

真姫「頑張ってね、花陽」

花陽「…うんっ!!」



西木野総合病院 凛の病室


コンコン

凛「…」ペラ…ペラ…


花陽「凛ちゃん…?いる?入るよ…?」ガチャッ

花陽「あ、いた…。読書中?ごめんね、邪魔して…」


凛「…」パタンッ… スッ


花陽「…あの、凛ちゃん?き、聞こえてる?」


凛「…なんで、来たの」

花陽「えっ…、なんで、って…」

凛「凛をバカにしに来たの…!?」

凛「こんな身体になってアイドルができなくなった凛を嘲笑いに来たの!?」

凛「あはっ…さすがはクズの小泉さんだ!嫌がらせに容赦ないよね!」

凛「クズは帰ってよ!目障りだからさぁぁっ!!帰ってってば!!」

花陽「っ…!!」

花陽「…」

凛「…帰ってよ」

花陽「…」


(花陽「わかった…今日は、帰るね…」)


花陽「…ッ!うぅん…違うっ!」

花陽「帰らないっ…!凛ちゃんに、前に進む勇気を与えるまでは…!」

凛「はぁ…?」

花陽「り、凛ちゃんっ!お腹すいてるでしょ!ほら、カップラーメン!」ヌッ

凛「…なにそれ、いらない」

花陽「いらなくないよ!あ、昨日渡したやつもまだ食べてない…」

花陽「ね、一緒に食べよ?私も練習でクタクタでお腹すいてるから」

凛「すいてないから、いらない」

花陽「…じゃあ、私がお腹すいたから、食べるね」

花陽「あ、ちょうどいいところに電子ケトル。お水ついでこよ」テコテコ…

凛「…」


花陽「ふんふんふ~ん…」コポコポ…

凛「…」

花陽「はぁぁ~…いい匂い…。この塩とんこつラーメン、ついついお米が食べたくなる味だよね~」

凛「…ウザい。どっかいってよっ…!」

凛「食べるんならここじゃなくてもできるでしょ!とっとと帰ってってば!」

花陽「私は、凛ちゃんと一緒にラーメンが食べたいの。凛ちゃんも食べたいよね?」

凛「ば、バカ言わないでよっ!食べたくなんてっ…」


グギュルルルルルル~…


凛「ー…ッ!!」

花陽「…ぷふっ」

凛「笑うなっ!!」

花陽「ご、ごめんごめんっ…。ほら、お湯、ふたり分あるから」

花陽「凛ちゃんも、食べよ?」

凛「…」

凛「…食べる」

花陽「うんっ」


凛「ずるるるっ…もぐもぐ…」

花陽「はぁぁぁぁ~…美味しいねぇ…」

凛「…うん、美味しい」

花陽「ご飯が欲しくなっちゃうよねぇ…」

凛「…ご飯なら、もう少しで病院食が来るから」

花陽「えっ!あ、そっか…。ご飯前なのに凛ちゃん、ラーメン食べちゃマズかったかな…」

凛「いらないから、ご飯食べていいよ」

花陽「え、ダメだよ~…。ちゃんとご飯食べないと、骨がくっつかないんだよ…」

凛「もう、いいんだ…。くっつかなくても…」

花陽「ど、どうして…」

凛「…治っても、もうA-RISEにはなれない。それじゃ、やる意味なんて…ないよ」

花陽「そんな…」

凛「…ずるずる…もぐもぐ…」

花陽「…」

花陽「…意味、ない…って」

花陽「じゃあ凛ちゃんは、何のためにアイドル、やろうとしてたの…?」

凛「…何のために?フンッ、一番になるために決まってるじゃん」

花陽「本当に、それだけ?」

凛「え…」

花陽「一番になるためだけに、アイドルをやってたの?」

花陽「違うよ…、それなら凛ちゃんの得意な陸上競技の方が、ずっと簡単に一番になれてたかもしれないのに」

花陽「凛ちゃんは、もっと他にやりたいこと、あったんじゃないの…?」

凛「凛の、やりたいこと…?」

花陽「うん…。アイドルでないと、いけなかったこと」

凛「…」

凛「やりたい、こと…」


凛「歌…」


花陽「うん?」

凛「…歌いたかった。歌を」

凛「ライブで、凛の歌を披露して…拍手をもらいたかった」

花陽「それが、凛ちゃんのやりたかったこと…?」

凛「…わからない」

花陽「わからない?」

凛「だって、どうしてっ…どうしてそう思ったかわからないんだもん…っ」

凛「でも確かに、歌を歌いたいって気持ちがあって…それで、アイドルをやりたくて…」

凛「一番になって、いっぱいの人から、大きな拍手をもらいたいって思ってて…」

凛「…それが、凛の夢だった」

花陽「凛ちゃん…」

凛「っ…!ど、どうしてこんなこと小泉さんに話さないといけないのっ!!?」

凛「もう、関係ないんだっ…!A-RISEになれない今は、もう…万雷の拍手なんて、夢のまた夢…!」

凛「凛の足の骨と同時に、壊れちゃったんだからっ…!」

花陽「…」

花陽「…そんなこと、ないよ」

凛「へ…?」

花陽「それが、凛ちゃんの本当の気持ちなら…凛ちゃんはもう一度、スクールアイドルになれる」

花陽「絶対に、…絶対に」

凛「なっ…」

凛「何いい加減なこと言ってるの!もう無理なんだって!できっこないっ!!やりたくもないっ!!」

凛「一番になって、一番大きな拍手をもらえないと…結局、侘しいだけじゃんっ…!」

凛「惨めな気持ちに、なるだけ…!それなら、そんな拍手なら、いらなっ…」

花陽「凛ちゃんっ!!」

凛「っ…」

花陽「…私、知ってるんだ」

花陽「一生懸命、心を込めて歌った歌なら、たった一人の拍手であっても」

花陽「すごく、すごく…嬉しいってこと」

凛「え…」

凛「何を根拠にそんなこと…」

花陽「私がそうだったから」

花陽「…私が、アイドルを本気で目指す原動力になったのが、たった一人の拍手、だったから」

凛「…」

花陽「凛ちゃんも知ってるでしょ…?小学校の頃の私」

花陽「運動も満足に出来なくて、みんなからおいてけぼりのどんくさい子だった私…」

花陽「そんな私でも、こうして…凛ちゃんに追いつけるほどのアイドルになれたんだよっ!」

花陽「凛ちゃんなら、ちょっとくらい動けなくたって…すぐにみんなを追い抜けるほどのすごいアイドルになれるよ!」

花陽「凛ちゃん、私よりずっとずっと頑張ってたじゃない!」

花陽「だからっ…こんなところで諦めちゃ、ダメだよっ…!!」

凛「…」

花陽「凛ちゃん…」


花陽(必死に説得をしてみても、凛ちゃんの沈んだ顔が明るくなることはありません…)

花陽(でも、お願い…気づいて凛ちゃん)

花陽(何度挫折したって、いくらだってやり直せるんだってこと…!)


花陽「ほ、ほら…リハビリが完了して、動けるようになるのは来年の9月くらいでしょ?」

花陽「それなら今年の私たちと状況は同じだよ!十分スクールアイドルの頂点は目指せるんだよ!」

花陽「そのために…少しでも早く動ける身体を作らないと!」

凛「…動ける、身体…」

花陽「そう!一歩前に踏み出せる身体…!今は辛いかもしれないけど、でも諦めるなんて勿体ないから…!」

花陽「だからたくさん栄養のあるもの食べて、早く骨がくっつくように努力して…それから、未来の夢をイメージするの!」

花陽「私にはわかるよっ…!来年の今頃、凛ちゃんは…私たちと同じステージで、一緒に踊ってるって!」

凛「一緒に…踊る…」

花陽「ねぇ…、やり直そう!一からのスタートだって、凛ちゃんなら…絶対にできるはずだよっ!とってもすごいアイドル!」

花陽「一人の拍手が、大勢の拍手に変わるまで…私も凛ちゃんに付き添うから…だから…、ねぇ…」

凛「…」

花陽「凛ちゃんっ…!!」

凛「…」


花陽(やっぱり、私の説得じゃ、ダメだったのかなぁ…?)

花陽(私の想いは、凛ちゃんには届かなかったのかな…)

花陽(…うぅんっ…!私も、諦めちゃダメなんだ…!)

花陽(届いてっ…!届けっ!私の…心っ…!!)



凛「…ふ」

花陽「え…?」

花陽(凛ちゃんの口元が、微かに動いたような…)

花陽(もしかして…笑った…?)

凛「…そう、だね」

凛「何もしなければ…始まらない、か…」

花陽「り、凛ちゃんっ…!」

凛「…凛も、このままはイヤだ」

凛「動けないまま…成り行きを見守るだけなんて…イヤ」

凛「…小泉さんの言うとおりだね。ただ諦めて、全てを投げ出してちゃ…ダメなんだって」

凛「ありがと。ちょっと、希望が見えたかも」

花陽「ほ、ホント…っ!?凛、ちゃんっ…!!」

凛「うん。少なくとも、ここで塞ぎ込んでるよりかは…前向きな選択だと思う」

花陽「じ、じゃあ…!」

凛「…約束だよ?」

花陽「え、約束…って?」

凛「同じステージで、一緒に踊る約束」

凛「凛も、イメージしたから」

凛「…かよちんも、約束ね」

花陽「…っ!」

花陽「う、うんっ!!約束っ!絶対に一緒にライブしよう!指きりげんまんだよっ!!」ギュッギュッ

凛「あははっ…痛いよかよちーんっ!あはははははっ!」

花陽「あはっ…、あははははっ…!!うぅっ…凛ちゃぁぁんっ…!」

凛「えへへ…」


花陽(届いてくれた)

花陽(私の、必死な気持ち)

花陽(少しだけでも、凛ちゃんに夢を、希望を…笑顔を与えられたのかな)

花陽(今まで、別の世界で生きてきた凛ちゃんに、私の世界から、明るい光を分け与えることができたのかな)

花陽(これから作る、新しい凛ちゃんの居場所を、…凛ちゃんにとっての、理想郷にすることが…)

花陽(…これからの、私の夢になりそうです)



花陽「はい、あーん」

凛「あーん…もぐっ…。もぐもぐ…って手は怪我してないんだから、一人でも食べられるって!」

花陽「あ、ごめん…」

凛「うぅん。これもかよちんの気遣いなんだねー。ちょっぴり昔のこと、思い出したよ」

凛「かよちん、ずっと、ごめんごめんばっかりだったのも、思い出したにゃー」

花陽「あぅ…」

凛「でもそんなかよちんだったから…凛も、友達になれたのかも」

花陽「凛、ちゃん…」

凛「…」

凛「ねぇ、かよちん…。今まで、ひどいこと、いっぱいいっぱい言ってきて、こんなこと言うのも…変な話だけど」

凛「ちょっとだけでも…凛と、友達になってくれる?」

花陽「っ…!も、もちろんだよっ!ちょっとなんて言わず、ずーっと友達だよっ!!うぅん、私の中ではずっと友達だったもん!」

凛「ホント?えへ…勇気を出して言ってみるものだねー…」

凛「これもかよちんの与えてくれた一歩前へ踏み出せる勇気のおかげだにゃ!」

花陽「うんっ…!うんっ!」

花陽(それから凛ちゃんと、面会時間が過ぎるまでいろんな、他愛もない話を続けた)

花陽(それは途方もなく久しぶりの出来事で、話しているうちに何度も涙が出そうになって)

花陽(でも、我慢した)

花陽(こんなところで泣いたら、また凛ちゃんがうろたえちゃうかも知れないもんね)

花陽(また、「ごめんね」って口をついて出そうになっちゃうもん)

花陽(今は、そう…ごめんね、より)


花陽「…ありがとう。凛ちゃん」

凛「…ん?何が?」

花陽「うぅん、なんでも♪…あ、そろそろ帰らないと」

凛「えー、もうそんな時間!?もっと話したーいー!」

花陽「えへへ…ダメだよ。明日も来るから、今日はまたね」

凛「ぶーぶー!…て、あはは…今日の凛、ちょっと変かも」

凛「怪我しちゃって切なくて甘えんぼさんになってるのかな?」

凛「色々吹っ切れちゃってかよちんにべったりしちゃってるんだー…。えへへ…」

花陽「そうかも知れないね。あ、でも…明日は学校終わりだから、ちょっと遅くなっちゃうかも…」

凛「…そっか。でも仕方ないよね」

凛「少しでも会えたら凛はそれでいいよ。バイバイ、かよちん」

花陽「うん、バイバイ」

凛「…あ、その前に」

花陽「ん、何?」

凛「おしっこ付き合って」

花陽「…え」



凛「よいしょっ…よいしょっ…」

花陽「まだ松葉杖で移動するの、慣れてないもんね…」

凛「明日…暇な時間練習しとかないと…」

花陽「ま、まだそんなに動いちゃダメなんじゃない…?」

凛「平気平気!っと…、着いた。じゃあしてくるにゃー。ありがと、先帰ってていいよ」

花陽「え、ダメだよ。帰りどうするの?」

凛「でも、もう面会時間…」

花陽「少しくらい看護師さんも許してくれるって。凛ちゃんの用が終わるまで、待ってるから」

凛「へへ…、じゃあお言葉に甘えて。かよちんは優しいねー」

花陽「ふふ、どういたしまして」



凛「…う、っと…」ドサッ

凛「ふぅ…疲れた。ほんの少しの距離を移動するだけで疲れるねー…」

花陽「少しずつ慣れていこ。私も練習、付き合うから」

凛「うん、そうするね。…じゃ、今度こそバイバイ」

花陽「うん、またね。凛ちゃん」

凛「またねー!」

西木野総合病院前


花陽「ふふふ…」

花陽「凛ちゃん、元気になってくれてよかった…!」

花陽「あ、ここから凛ちゃんの病室が見える…おーい、凛ちゃーん!」


凛「…あ!かよちーん!また明日ー!」


花陽「うん、また明日ねー!…ふふ」

花陽「ふ…ふぇっくちゅっ!!…うぅ…外は寒い…。早く帰ろう…」トボトボ…




凛「…また、明日」

凛「一緒に、ステージで踊る…イメージか」

凛「夢みたいな話だけど、でも…きっと叶うよね…」

凛「今のままなんて、イヤだから…」

凛「…」

凛「…よし!今からちょっとでも歌う練習しておこ!でも夜だから、小さい声で…」

凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」




翌日 12月22日 月曜日


早朝

多目的ホール


ダンッ ダダンッ ピタッ


にこ「…はぁ。寂しいわね…」

にこ「凛はいないし、穂乃果は生徒会長の仕事だし…」

にこ「…!集中集中!昨日ツバサ様から教わったダンスのノウハウ!活かしきるんだから!」

にこ「後は…嫌いな自分を嫌いで居続けるコツもね!」

にこ「ッハ!ちびっちょい身体して!そんなミニサイズのボディを人様に晒して恥ずかしくないわけ!?」ビシィッ

にこ「そうよね!恥ずかしいに決まってるわ!でも、そんな恥ずかしい身体を可愛いって思ってもらえるように頑張るのよ!私!」

にこ「…ふっ、一人のホールでアホみたい…」

あんじゅ「聞いてたわよー?」

にこ「あんぎゃああぁぁぁぁっ!!?あ、あ、あんじゅぅっ…!?」

あんじゅ「むふふふ…にこちゃんってばツバサちゃんみたいな真似して…。可愛いんだから!」モギュッ

にこ「ふひええぇぇぇぇぇっ!!そっちも練習中じゃ…あはぁぁぁでも幸せぇぇぇぇ…!」

あんじゅ「今日は英玲奈もツバサちゃんも用事で朝来れないのー。だからヒマー」

にこ「こ、こっちと状況が似てるわね…」

あんじゅ「だからこうして後輩を弄って遊ぶことに決めたの。もにゅもにゅ」

にこ「ひょっ…ひゃめ…ほっぺはふにふにやめぇぇ…」




校門前


「おはようございまーす!」「おはようございます!」



穂乃果「おはようございます」

生徒会役員B「もう、会長。明後日はライブ本番なんでしょ?会長職なんてサボって練習行ったほうがいいんじゃないの?」

生徒会役員A「せ、先輩の言うとおりです!律儀なのはいいことですが、こんな日にまで貴重な時間を…」

穂乃果「…いいの。規律には従わないといけないし。私が生徒会長である以上、健康であれば職務を放棄することはできないよ」

穂乃果「それに…」

生徒会役員A「それに?」

穂乃果「…うぅん、なんでもない。ほら、無駄口叩いてないで、挨拶挨拶。おはようございます!」

生徒会役員B「はぁ…会長がいいって言うならいいんだけど。真面目っていうか、融通が利かないっていうか」

生徒会役員A「それが会長のいいところですよ、ね、会長?」

穂乃果「…無駄口」

生徒会役員A・B「「おはようございます!!」」

穂乃果「…ふぅ」


穂乃果(…それに、今日ここへ来たのは)

穂乃果(彼女が、学校へ来るか…それを確かめるためでもある)

穂乃果(彼女の持てる権力の全てを奪われた、絵里さん)

穂乃果(…どういう心境なんだろう)

穂乃果「おはようございます」

女生徒「おはようございます!」


キャー!! ホノカサントアイサツシター!!



穂乃果「…」

生徒会役員A「あはは…最近は前にも増して人気ですね…」

生徒会役員B「あっちのスクールアイドルのおかげで学校中賑わってるからねー」

穂乃果「…こう挨拶するたびに盛り上がられるのも、少し疲れるよ」

生徒会役員A「いいじゃないですかー。人気な証拠ですしー」

穂乃果「まぁ悪い気は…、…っ!」ダッ

生徒会役員B「えっ…どこ行くんだよ!?」

穂乃果「ごめん、ちょっと…!」


タッタッタッ…

穂乃果「…おはようございますっ…!」

穂乃果「…絵里さん」


絵里「…」


穂乃果「…えっと」

穂乃果「元気…ですか?その…昨日は…」

絵里「…」

穂乃果「絵里、さん…。…指導の件は、色々あったとは言え…人間の限界を鑑みなかったあなたの…」

絵里「…」

穂乃果「…絵里さん?」

絵里「…ごめんなさい」

穂乃果「え…?」

絵里「ごめんなさい…ごめんなさい…」ブツブツ…

絵里「…ごめん、なさい…」トボトボ…

穂乃果「え、ちょっと…」

絵里「ごめんなさい、ごめんなさい…」

絵里「私は成し得なかった…私にはできなかった…」

絵里「何もかもが狂ってしまった…すべて、終わってしまった…」

絵里「あぁ…ごめんなさい…何もできなくて…ごめんなさい…ごめんなさい…」

絵里「私の3年間は…無意味、だった…」トボトボ…

穂乃果「…ぁ」

穂乃果「…」



穂乃果(どこか遠くを見るような、精気の抜けた瞳で)

穂乃果(目の下にドス黒い隈を蓄えた、やつれた面持ちで)

穂乃果(うわ言のように謝罪の言葉を呟く、かつての憧れを)

穂乃果(ただ黙って見送るしか、私にはできなかった)

昼休み 食堂


希「それホント?」

花陽「…はい。凛ちゃん、少しは元気になってくれて…」

ことり「よ、よかったねぇぇ…!うぅぅ…!」

海未「何も泣くことは…しかし、花陽の熱い説得が星空さんに伝わった、ということでしょう」

海未「さすが、リーダー…ですね」

花陽「り、リーダーはやめてよぉぉ…」

真姫「一緒に踊る…それって星空さんを、将来的にC☆cuteのメンバーにするってこと?」

花陽「ん?んー…それでもいいし、あえて別のアイドルになって…共演する、っていうのも夢があっていいよね」

花陽「まだそこまでは考えてないや。凛ちゃんの考えにもよるし」

希「凛ちゃんなら、あるいは自力でA-RISEに舞い戻る、なんてこともありうるかもしれんしね」

真姫「…そうなるといよいよバケモノじみてるけど」

海未「しかし、星空さんは1年であるがゆえにその可能性も無きにしも非ず…」

ことり「燃える展開ではあるよね!」

ことり「『あの時の約束をー…、果たす時が来たようだにゃぁぁ…!』みたいな!」

花陽「ぷっ…、なんですかその喋り方…!」

海未「誰の真似なんですか…星空さんはそんな喋り方でもない気が…」

希「…でも、来年の今のA-RISEがどういう在り方になっているかは、まだ…」

真姫「うん?」

希「あ、いや…独り言。うーん、いやぁしかし…久しぶりに食堂に来てみたけど、賑やかやね…」

花陽「あぁ、いつも部室で一人、なんでしたっけ…」

希「うん。賑やかなところでご飯食べるのが少し怖かったんやけど…まぁそのトラウマも克服しないとね」

希「でも思ってたよりなんてことないかも。こんだけ大勢でいれば当たり前やけど」

海未「逆に…置いてきた彼女が気にかかりますね…」

ことり「いつもは希ちゃんと一緒にご飯食べてたけど…今は一人ぼっちか」

真姫「…どういう気持ちなのかしら」



アイドル応援部 部室


真姫☆「…もぐもぐ」

真姫☆「…なんてことないわ。去年の春も私はこうして…もぐもぐ…」

真姫☆「…はぁ」

真姫☆「うぅ…寂しい…。流石にマントしながらご飯は食べられないもんね…ぐすん」

真姫☆「けど、アイドル専攻の指導から絵里が外れ、それにより彼女の権威も地に落ち…」

真姫☆「これからアイドル専攻もまた変化するのだとしたら」

真姫☆「…もうそろそろ、私の役目も…おしまいってところかしらね」

真姫☆「あとはあの子達だけで、なんとかしてくれる」

真姫☆「楽しい夢のスクールアイドル…これからは、あなたたちが作り上げていってね」

真姫☆「もぐもぐ…ごくんっ」

真姫☆「…ごちそうさま」

放課後 音楽室


ザワザワ…


ことり「うわっ…、今日も人でいっぱい…」

海未「A-RISEと差をつけるために出待ち、見学等は禁止していないとは言え…」

真姫「こ、こう注目されちゃ落ち着かないわね…」

希「せっかくならライブは新鮮な気持ちで見て欲しいっていうのもあるしね」

花陽「今日は学校で練習できる最終日…本格的にライブを合わせられるのは今日が最後だし…」

真姫「今日だけは人払いする?」

海未「それも考えましたが、それでも限度がありますし…仕方ありません。奥の手です」

ことり「奥の手…?」



講堂


花陽「はわわぁぁぁぁ…!広ぉぉい…!」

希「ホントにここ、使っていいの?」

海未「はい。演劇部の先輩の方に頼み込んで、今日一日だけ稽古場所を変えていただきました」

ことり「海未ちゃん、いつの間にそんな人脈が…!」

真姫「ここなら出来上がった衣装で踊れるわね。スペースも十分だし、本番と同じ感じでライブができる…!」

花陽「観客ゼロのライブ…。寂しいけど、面白そうかも」

真姫「『私』…真姫がいれば観客は一人いるはずだけど…あれ、そういえばいないわね」

花陽「あ、真姫ちゃんなら先に病院に行ったんだって。いても仕方ないからって」

希「音楽室じゃなくて講堂でやる、って言ってたら人に見られる心配もなかったし、残ってくれてたのにね…」

海未「仕方ありません。講堂を使うと決めたのはつい先ほどですし…なんなら呼び戻しますか?」

花陽「そ、そこまではしなくてもいいんじゃない?」

ことり「新衣装でのライブは真姫ちゃんにも本番まで内緒にしちゃおう!」

真姫「ふふ…そうね。これまでC☆cuteを支えてきてくれた彼女への、ほんの少しのサプライズになるかも」

海未「…分かりました。では控え室がありますので、そちらで衣装に着替えましょう!」

希「見返す用に、カメラも設置して…よし、いいやん!」

花陽「C☆cuteの命運が決まるライブ…!でも、最後まで笑顔で頑張ろう!」

一同「うんっ!」

数時間後…



~♪

一同「…」ジー…


希「…うん、今度こそ完璧やん!」

ことり「やったあぁぁぁっ!!」

真姫「これが…私たち…!」

海未「泣いても笑っても、これで決着、ですね…!」

花陽「ライブはこれでいいとして、うん…明日は細かい部分の調整だけに…あっ!」

真姫「どうしたの?」

花陽「ご、ごめん…もう行かなきゃ!」

希「病院?」

花陽「うん…、今からだと凛ちゃんと話せるのがほんの少しになっちゃう…!もうちょっと早めに行くつもりだったのに…」

海未「明日、たくさん話せばいいのでは?」

花陽「そ、そうですけど…でも、今日もいっぱい喋りたいから!じゃ、着替えてきます!お疲れ様でした!」ダダッ

ことり「あ、行っちゃった…」

真姫「大切な友達だものね。少しでも多く話したいって気持ちは…ちょっとは理解できるわ」

希「…せやね」



UTX学院 校門前


花陽「はぁっ…はぁっ…!」タッタッタッ…


プップー!!


花陽「ひゃっ…!?な、何…?」


ウィーン…

真姫☆「花陽、こっち」


花陽「真姫ちゃん…?そのタクシーは…?」

真姫☆「歩いて行くよりこっちのが早いでしょ?乗りなさい」

花陽「待っててくれたの…?」

真姫☆「今の私にできるのはこれくらいしかないからね。さ、早く」

花陽「う、うんっ…!ありがとう!」

西木野総合病院 凛の病室


ガチャッ


花陽「凛ちゃんっ!」


凛「うわっ…!こ、小泉さ…じゃなかった、かよちん。どうしたのそんなに慌てて…?」

花陽「お、遅れちゃってごめん…!もっと早くに来ればよかったんだけど…」

凛「え?あはは、そんなこと?気にしなくていいよ」

花陽「そ、そう…?」

凛「ね、聞いて聞いて!松葉杖で歩くの、上手になったんだよ!よいしょっ…」


カッツカッツ…


花陽「わぁ…!ホントだ!」

凛「えへへ、今日練習してたんだ!これでもうトイレに一人で行けるね!」

花陽「うんうん!あ、でもまだ激しく動いたら骨が…」

凛「ゆ、ゆっくりだから大丈夫にゃ…多分」

花陽「ホントー?ふふ…」

凛「えへへへ…」



凛「…でねー?凛の友達ってば一人もお見舞いに来てくれないんだ」

凛「来てくれるのはかよちんだけ!うぅ…、やっぱりかよちんは友達だよぉぉ~!」

花陽「もう、最初からそう言ってるでしょ。凛ちゃんとはずっとずっと、友達」

凛「…うん。あ、あとね…」




花陽「…あははは!そっかー…」

凛「うん!だから…」

花陽「…あ」

凛「うん?」

花陽「もう、8時だ…。あと10分くらいで…」

凛「え、もうそんな?」

花陽「話し込んでると時間、忘れちゃうもんね…」

凛「そだねー…」

花陽「今日はもう、帰るね。あ、それと…」

花陽「…明後日って、外出許可、降りるかな」

凛「明後日…ライブの日、かにゃ…?」

花陽「…うん。凛ちゃんには少し、辛いことかもしれないけど」

花陽「でも、私たちのライブ…見に来て欲しい」

凛「…」

花陽「今回の曲…実はね、新曲なんだけど。『学校に来たくなる』ってテーマなの」

花陽「きっと凛ちゃんの身体にもよく作用して、治りがよくなるかも…って、これはバカバカしいけど」

花陽「でも…見て欲しいな。ダメ…?」

凛「…うーん、どうだろう…。多分、難しいかなぁ…」

花陽「そっか…」

凛「で、でもっ…!」

凛「…きっと、見に行けると思う。かよちんに一番近い場所で、一緒に感じられるよ」

花陽「ん?…そっか、そうだと、いいね…」

凛「そうだよ!どんな曲かな?楽しみにゃ!」

花陽「ふふ、私が作詞した曲なんだよ~。あ、そういえば…」

花陽「凛ちゃん、覚えてるかな?私が昔作った…」

凛「うん?」

花陽「…」

花陽「…うぅん。やっぱりいい!」

凛「え、なんでなんで?気になる~!」

花陽「これは、また今度ね。じゃあ、私はこれで…」

凛「あっ…」


ギュッ


花陽「…っとと…。ど、どうしたの、凛ちゃん…。袖掴んだら帰れないよ」

凛「…」

花陽「凛ちゃん?」

凛「…やっぱり、もう少し一緒にいて」

花陽「な、なんで?もう面会時間過ぎちゃう…」

凛「お願いっ!」

花陽「…凛、ちゃん…」

花陽「もう少し、って、どれくらい?」

凛「…消灯時間くらい」

花陽「え…そ、そこまでは無理だよ…」

凛「だ、だって!だって…その…」

凛「…」プルプル…

花陽「どうしたの…?震えてるよ?」

凛「…怖いの」

花陽「怖い…?」

凛「…うん」

花陽「何が怖いの…?」

凛「このまま、一人になるのが怖くて…」

凛「…だって、だってぇっ…!」

凛「…っ」ゴクリッ

凛「…ゆ」

凛「幽霊が、出るかもしれないから…!」

花陽「…はぇ?」

花陽「幽霊…?あ、あははは!凛ちゃん、そういうの怖い子だったっけ?」

凛「わ、笑わないでよぉぉ…。昨日の夜もすっごい怖かったんだからー…」

凛「お母さんが持ってきてくれた本の中に幽霊に関するお話が乗ってて、それで…」

花陽「あぁ、昨日読んでたアレ?」

凛「うん。…かよちん、地縛霊って知ってる?」

花陽「じばくれい?…爆発する幽霊?」

凛「そうじゃないよ!なんでも、死んじゃったらその土地に縛られちゃうって幽霊なの」

凛「ずっとずっと、未来永劫そこに居続けるんだって。だから病院は地縛霊が溜まりやすい場所なの…!」

凛「暗い夜、トイレに行きたくなって廊下を歩いていると…向こう側から青白い顔のお化けがぁあぁぁぁぁっ…!」

花陽「ひぃっ…!」

凛「…ってことはなかったんだけど。でも、地縛霊ってホントにいそうじゃない?」

凛「凛は、いると思うんだ」

花陽「そ、そうなの…?でも、だからって消灯時間まで一緒に…っていうのは無理だよ。明日も、絶対にお見舞いに来るから。だから、ね?」

凛「うーん…わかったよ。なるべく目をキツく瞑って寝るにゃ」

花陽「うん。それじゃ、バイバイ、また明日」

凛「…」

花陽「凛ちゃん?」

凛「え、あっ…うん。バイバイ、かよちん」

花陽「うん。バイバイ、凛ちゃん」



西木野総合病院前


花陽「ふぅ…今日も話し込んじゃったなぁ…凛ちゃん、ライブに来られるといいな…」


真姫☆「終わったわね。タクシー、待たせてあるわ」

花陽「あ、真姫ちゃん…。帰りまで…ありがとう」

真姫☆「早く。寒いし、風邪ひいたら元も子もないわよ」

花陽「うん。あ、その前に…凛ちゃーん!また明日ねー!」

花陽「…あれ、聞こえてないのかな?」

真姫☆「あ、気づいた」


凛「あ、かーよちーん!さよならー!ライブ、楽しみにしてるー!」


花陽「さよならー!また明日ー!来られるといいねー!」

真姫☆「挨拶は済んだ?」

花陽「うん。じゃ、帰ろっか」

真姫☆「…えぇ」



タクシー内


花陽「…」

真姫☆「…どうしたの?さっきから、口数少ない気がするけど」

花陽「え?そう、かな…。あ、ただね…」

花陽「やっぱり、もう少し一緒にいればよかったかな、って思ってたの」

真姫☆「明日また、会えるじゃない。少しの辛抱でしょ」

花陽「…うん、そうだね」

12月22日 夜

西木野総合病院 凛の病室


凛「…」

凛「…さよなら、かよちん」

凛「ライブ…一緒に頑張ろうね…」







12月23日 朝

神田明神


ザワザワ…


ことり「うわぁ…相変わらず人が多い…」

海未「休日の上、多くの人にここで練習していることが知られてしまったようですからね…」

真姫「…ったく、他にやることないのかしら」

花陽「あはは…」

希「でも人が多いせいで真姫ちゃんのコーチがつけられないのは…ちょっと」

花陽「あー…そうですね…。今何してるのかな…」

真姫「またうちの病院かしら…。パパにバレなきゃいいけど。もうひとりの私だってこと」

海未「…今真姫のことを気にしても仕方ありません。今の曲に関しては、既に彼女のコーチを必要としないレベルで完成してると思います」

海未「ですから今日はとりあえず、細かいところの調整のみを行い、明日に備えて休息…でしたよね?」

花陽「あ、はい!」

ことり「じゃあ、どこからする?あっ、すいませーん!そこ使うので空けてくださーい!」

花陽「えっと…って、私が決めるんですか!?」

希「花陽ちゃんがリーダーやもん。当たり前やん!」

真姫「早く決めて。リーダー」

花陽「だからリーダーはやめてって…うぅん、そうだなぁ…じゃあサビ前の…」


ピリリリリ… ピリリリリ…


花陽「…んっ?電話…」

海未「こんな時にだれから?」

花陽「あ…真姫ちゃんだ…。なんだろう…」ポチリッ

花陽「はい、もしもし?真姫ちゃ…」

真姫☆『…花陽、落ち着いて聞いて』

花陽「え?あ…うん、何?」



真姫☆『…凛が、病室からいなくなった』

花陽「…え?」


真姫☆『ついさっき、凛の病室を覗きに病院へ来たのだけど』

真姫☆『…ベッドがもぬけの殻だった』


花陽「え、ど、どういう…こと…?」

希「どうしたん?真姫ちゃんなんて?」

花陽「り、凛ちゃんがっ…凛ちゃんが病院からいなく、なったって…」

ことり「えっ…!?」

花陽「と、トイレ、とか…!?」


真姫☆『…今院内を探し回っている。凛の病室から一番近くのトイレは既に探したけど、いなかった』

真姫☆『彼女が使ってた松葉づえも一緒になくなってるから、もしかしたら遠くへ行ってる可能性も高い』

真姫☆『病院の職員総出で彼女の行方を追ってる…。親御さんにも既に連絡して…一緒に探してもらっている』

真姫☆『あなたたちにまで探して…とは言わないわ。明日はライブだし。きっとすぐ見つかる…はずだから』

真姫☆『…でももし、凛を見つけたのなら、連絡して。嫌な予感が…するの』


花陽「…うん」ピッ

海未「星空さん…どうなったんですか?見つかっては…」

花陽「まだ見つかってない…。もしかしたら病院を出て遠くにきてるかもしれないから、見つけたら教えて、って…」

真姫「な、何やってるのよ凛って子…!足の骨が折れて重症だっていうのに、外出歩くなんて…バカじゃないの?」

花陽「…」

真姫「あっ…ご、ごめんなさい。友達だったのよね…」

花陽「あ、うぅん。…いいの」

ことり「でも、仮に病院の外にいるのだとしたら、どうして…?何をしたくて外に出たのかなぁ…?」

海未「松葉づえではそう遠くへはいけないと思いますが…」

希「…花陽ちゃん、平気?凛ちゃん、うちらも一緒に探そうか…?」

花陽「い、いえ…!大丈夫です!きっと真姫ちゃんが見つけてくれると思うから…」

花陽「今はライブのことを一番に考えましょう!」

西木野総合病院


ピッ…

真姫☆「…」

真姫☆「凛…」

真姫☆「くっ…今彼女達に負担をかけさせるわけにはいかない…けどっ…!」

真姫☆「どこほっつき歩いてるのよ…!あのバカっ…!」

真姫☆「とにかく、凛が行きそうなところに目星をつけて、当たってみるしかない…!」

真姫☆「…あの凛が行きそうなところ…。…やっぱり最初は…」



ピリリリリ… ピリリリリ…

真姫☆「…」イライラ…

ピッ

『…はい、もしもし?』

真姫☆「あ、やっと出た!もしもし!にこちゃんっ!?」

にこ『ま、真姫ちゃんっ!?なんなのよ…こんな朝から…。まだ休憩入ってないんだけど?』

真姫☆「そんなことどうでもよくて!」 にこ『ど、どうでもいいって…』

真姫☆「そっちに、凛がいない!?」

にこ『…はぁ?』



UTX 多目的ホール


穂乃果「…なんて?」

にこ「り、凛がいないか、ですって…」

ツバサ「…凛?どうして…?」

真姫☆『いるの!?いないの!?』

にこ「い、いるわけないでしょ!凛は大怪我してるのよ!?来られるわけないじゃない!」

真姫☆『…っ、そう、よね…。もし、凛がそっちに来たら私に連絡して。すぐに行くから』

にこ「えっ…ちょ、ちょっとどういうこと!?凛…何かあったの!?」

真姫☆『…病院からいなくなったの。病院内を探したけど見つからなくて、身一つでどこかに出て行っている可能性が高い』

にこ「り、凛がいなくなった!?」

穂乃果「っ…!にこちゃん、貸してっ…!」

穂乃果「凛ちゃんがいなくなったって…!西木野さん!?」

真姫☆『穂乃果っ…。ねぇ、もしかして、絵里のしわざってことは…』

穂乃果「それは…」

穂乃果「…それはないよ。多分」

穂乃果「絵里さんは…昨日見た絵里さんは、抜け殻のような状態だったから…凛ちゃんに何かできる…とは思えない」

穂乃果「多分、凛ちゃんの意志で…」

真姫☆『…そう。ありがとう、少しは参考になったわ。もし凛を見つけたら連絡してね』

穂乃果「わかった。…お願い、凛ちゃんを…探し出して」

真姫☆『言われなくても、そのつもりよ。それじゃ…心配かけたわね』ピッ

穂乃果「…」

にこ「…凛。病院を脱走したって…ことかしら」

ツバサ「でも、ここじゃないとしたら…どこに?凛は何をしに病院を抜け出したのかしら…」

西木野総合病院


真姫☆「…A-RISEでもない、とするなら…。あぁもうっ…!親族の人に聞くべきかしら…!」

真姫☆「…いや、アテになるとは思えないわ。こうなったら…」

ダダッ!!


真姫☆「…足で探すしかないっ…!!」

真姫☆「パジャマ姿に松葉づえなんてすぐに見つかるでしょっ…!って言っても凛の行きそうな場所なんて…」

真姫☆「そうだ!本人に聞けばいいのよ!」

真姫☆「…流石にそろそろ携帯治ってる頃でしょ…!凛っ!!」ピポパッ…


『おかけになった電話は、電源が入っていないか電波の届かない…』


真姫☆「ぬあーっ!もうっ!!こんな時に役に立たないわねぇぇっ!!」

真姫☆「…仕方ないっ!アイツが行きそうな場所…!アキバとかぁ…!?」

真姫☆「もうどこでもいいっ…!とりあえず走って見つけるわよ!」

真姫☆「なんて手間かけさせやがるのよアイツは…!どこの世界でも厄介ねっ…!」



UTX 多目的ホール


穂乃果「…」

にこ「凛…」

ツバサ「…どうする?早めの休憩?」

にこ「そ、そんなわけっ…」

穂乃果「そうさせてください」

にこ「えっ…!?ちょっ…」

ツバサ「ふぅん…心配なんだ」

穂乃果「…はい。もう、彼女はA-RISEではないですけど…」

穂乃果「大事な、友達だから」

ツバサ「…そうよね。わかった。少し早いけど休憩ね」

にこ「い、いいの…!?本番は明日なのよ…っ!?」

穂乃果「にこちゃんこそ、凛ちゃんを放っておけるの…!?私にはできないよっ!」

にこ「っ…穂乃果…!」

穂乃果「とにかく、なんでもいいから居場所を探ろう…!まずは凛ちゃんに直接電話して…」ポチポチ…

穂乃果「あっ!これ私の携帯じゃないじゃん!ロックかかってる…にこちゃん!ロック解除して!」

にこ「え、あ…うん…」ポチポチ…

穂乃果「凛ちゃんっ…凛ちゃんはっ…あれ!?凛ちゃんの番号ない…」

にこ「あっ…そっか…、凛とはアプリ通話しかしてなかったから…」

穂乃果「何やってるのバカーっ!じ、自分のとってこなきゃっ…!!」ダダッ…

にこ「…」

ツバサ「…あんな子だっけ?穂乃果」

にこ「わ、私も驚いてます…」

穂乃果「…繋がらない」

穂乃果「凛ちゃんっ…!どこにいるの…!?」

にこ「ほ、ほっといても夜には帰ってくるって…。今はライブに集中しましょうよ…」

穂乃果「…っ」

穂乃果「そうっ…だよ、ね…。私が焦っても、どうしようも…ないん、だもん…」

にこ「穂乃果…。ここ最近、色々あって不安なのはわかるけど…」

にこ「強く、なるんでしょう?凛はひとまず、真姫ちゃんに任せよう…?」

穂乃果「…」

穂乃果「強く、か…。難しい、ね…強いって…」

ツバサ「…そうね」

にこ「さ、練習練習!もう休憩も終わりに…」

穂乃果「その前にっ!」

にこ「ガクッ…な、なによ…」

穂乃果「最後にもうひとり…かけたい人がいるの」

にこ「だ、誰?」

穂乃果「…絵里さん」

プルルルル… プルルルル…


穂乃果(真姫ちゃんには、絵里さんの仕業ではないって伝えたけれど)

穂乃果(私の判断であり、確信の持てる情報ではない)

穂乃果(トチ狂った絵里さんが、凛ちゃんを何らかの方法で外に連れ出した…って可能性も、考えられなくはないから)

穂乃果(その可能性を、潰しておきたくて、彼女に連絡を…している、はず)

穂乃果(…彼女が、心配だからでは…ないと、思う)



穂乃果「…出ない」

にこ「もう諦めたら?」

穂乃果「うぅん…、もう少し…」

ピッ

『はい、もしもし…』

穂乃果「あ、もしもし絵里さんっ!?今どこに…」

『きゃっ…!?だ、誰ですか…?』

穂乃果「…絵里さんじゃ、ない…?あなた…誰?」

『あ、えっと…すみません。姉は今電話に出られない状況で…代わりに私が』

穂乃果「ということは…あなたは絵里さんの妹さん…?」

『はい!えっと…、姉に何か御用でしょうか?お聞きします』

穂乃果「…絵里さんは、そこにいるんですか?そこはどこでしょうか?」

『え?あ、はい…姉はいます。ここは家です』

穂乃果「あ、そう、ですか…。分かりました。高坂穂乃果から電話がかかってきた、とでも絵里さんには伝えて…」

『こ、高坂穂乃果ぁぁっ!?』

穂乃果「ほぇっ!?」


にこ「ど、どうしたのよ…」

ツバサ「いきなり電話から飛び退いて…」


穂乃果「な、何…?」

『こ、高坂穂乃果って…あのA-RISEのバックダンサーの高坂穂乃果さんですか!?』

穂乃果「は、はぁ…」

『だ、だ、だ…』

『大ファンっ、ですっ!!』

穂乃果「え、あ…そうなんだ…。ありがとう…」

『えっと、えっと…!ど、どうしよう…!あの、お姉ちゃんの指導で、その…なんですよね!?』

穂乃果「な、何が?」

『ご、ごめんなさい…うまく話せなくて…。あっ、その、雪穂からお噂はかねがね!』

穂乃果「えっ…?雪穂を知ってるの?」

『はいっ!一番仲のいい友人です!多分、来年進学する高校も同じ高校にする予定で…』

『な、何度かそちらへお伺いしたのですが、タイミングが悪くて一度も会えなくて残念でしたけどっ…!』

『こうして直接お話ができて…う、嬉しいですっ!』

穂乃果「そ、そう…」

穂乃果「…ん?」

穂乃果(一番仲のいい友人…確か雪穂も前、そんなこと…)



(雪穂「え、えっと…仲のいい友達がどうしてもUTXに行きたくない、って言ってて」)

(雪穂「私もその子と同じ学校に行きたいから、だから…都内の別の高校を選んでるんだ」)



穂乃果(…そっか。多分この子が、UTXに行きたくないって言ってる子…まさか、絵里さんの妹だったなんて)

穂乃果(でもどうして、絵里さんの妹が…UTXに行きたがらないの?)

穂乃果(A-RISEに憧れてくれているなら、来たがってもおかしくないはず…なのに)

穂乃果「ねぇ、一つ質問…いいかな?」

『は、はい…?なんですか?』

穂乃果「キミ…UTX学院に行きたくない、って言ってた子?」

『えっなんで…あ、雪穂からですか?』

穂乃果「…うん。どうしてなのかな、って…A-RISEが好き、なんでしょ?」

穂乃果「どうしてもUTX学院に来たくない理由があるのかなって疑問に思って」

にこ「何聞いてるのよ…もう凛と絵里は関係ないってわかったんじゃ…」

穂乃果「…ごめん、少しだけだから」

『い、いえ…確かにA-RISEは好きなんですけど…』

ツバサ「絵里が怖いからとか?」

穂乃果「な、何を…」

『はい?お姉ちゃんは優しくていいお姉ちゃんですけど…』

穂乃果「そ、そうなんだ…。じゃあ、どうして?」

『…その、私に理由があるわけじゃなくて…』

『お姉ちゃんが言うんです。「絶対に、UTX学院へは入学するな」って…だから』

穂乃果「絵里さんが…っ?どうして…」

『わかりません。でも、どうしてもって』

穂乃果「…」

穂乃果「…わかった。ありがとう…絵里さん、元気になるといいね」

『あ、はいっ…。言っておきます!それでは!』

ピッ…


穂乃果「…どういう、ことなの…?」

穂乃果「まさか…」

アキバ


真姫☆「はぁっ…!はぁっ…!!」

真姫☆「パジャマで、松葉づえ…!いないっ…!!」

真姫☆「多くの人に聞きまわっても誰も見てないって…そもそも凛はそこそこ顔も売れてるはずだから、道行く人なら気づいてもいいはず…」

真姫☆「じゃあやっぱりこっちには来てないってこと…!?だったらどこに…!」

真姫☆「っ…!アイツが行く場所なんてわかるわけないじゃないっ…!何か、他に方法は…」


プルルルル… プルルルル…

真姫☆「…電話?あ、こっちの凛からっ…!」ピッ

真姫☆「もしもしっ…」

凛『もしもし真姫ちゃーん?携帯やっと直せたの!でねー…えへへー朗報だよ朗報!なんとっ…』

真姫☆「今はどうでもいい!凛っ!あなた、凛の居場所わかる!?」

凛『は?ど、どうでもいいって…凛は今クリニックだけど…』

真姫☆「あなたじゃなくて、この世界の凛よ!同じ存在の凛ならちょっとは居場所の見当がつくんじゃないの?」

凛『えぇ…?そんなこと言われても…っていうか、こっちの世界の凛って今骨折してるはずじゃ…』

真姫☆「いなくなったのよ!それで必死になって探してるの!」

凛『え、マジで?そかー…大変だね』

真姫☆「た、他人行儀なんだからっ…」

真姫☆「…というか、どうして凛もクリニックにいるのよ。今更壊れたクリニックに何の用が…」

凛『ん?それ聞いちゃう?んふふーなんとねー…じゃじゃーん!飛行エンジンが完成しましたー!』

真姫☆「…っ!そうなの!?」

凛『うん!って言っても取り付けてもいないし、クリニックの修復にも時間がかかるから動かせるのは明日以降になりそうだけど…』

真姫☆「明日ぁ…!?それじゃクリニックで空を飛んで凛を探すのは…」

真姫☆「っ…!!で、できるじゃないっ!」

凛『え?』

真姫☆「モニターよ!そのクリニックにはその世界のμ'sメンバーを即座に発見できるモニターが備え付けられているはずだわ!」

凛『あ、そういえば!長らく使ってなかったから忘れてた!』

真姫☆「空を飛んでいない状態でも使える?」

凛『カメラに捉えることはできないけど、場所ならわかるはず!冴えてるね、真姫ちゃん!』

真姫☆「…今まで思い出せなかった自分がバカらしいわ」

凛『じゃあ早速、この世界の凛の居場所を…検索にゃー!』

凛『んん?ここって…』

真姫☆「ど、どこにいるの?凛…」

凛『え、えっと、それが…』

凛『UTX学院の、屋上にゃ』

真姫☆「屋上…!?まさか、そんな…あそこは締め切られて…」

真姫☆「あっ!そうか、垂れ幕で今日は…!一日中開けっ放し…!」

真姫☆「まさか…、凛の病室の前でパモ部部長と話してたから…ドア越しに聞かれてたのかしら…」

凛『屋上へ行ってどうする気なんだろ…』

真姫☆「屋上へ行って…ッ!ま、まさかっ…!!」

真姫☆「嘘、でしょっ…!?凛っ!!」ダダッ

凛『え、あ、ちょっ…真姫ちゃんっ!?真姫ちゃんっ!』ピッ


真姫☆「急がないとっ…凛がっ…!!」

タッタッタッタッタッ…


真姫☆「はぁっ…!!はぁぁっ…!!」

真姫☆「凛っ…!凛っ…!早まっちゃ…ダメぇぇっ…!!」



UTX学院


真姫☆「え、エレベーターで、屋上に…っ!」ポチリッ


ウィーンッ…


真姫☆「お願いっ…!お願い、間に合ってっ…!!」



UTX学院

屋上



真姫☆「凛っ!!」ダッ!!



凛「…あ」

凛「見つかっちゃった」



真姫☆「り、ん…!!」



真姫☆(おどけた顔で、かくれんぼでもしていたかのように呟く凛は)

真姫☆(UTX学院、屋上の縁で)

真姫☆(申し訳程度に建てられた、胸元あたりまである柵の)

真姫☆(外側に立って、微笑んでいた)



真姫☆「凛、まさか…」

真姫☆「そこから、飛び降りる、気じゃ」


凛「そうだよ」


真姫☆「っ…!」




凛「もう、A-RISEができないのなら」

凛「生きていたって仕方ないから」

凛「今日、ここから飛び降りて」


凛「凛は、死ぬんだ」

真姫☆「どう、してっ…」

真姫☆「なんでなのよっ!?あなたはっ…!!」ジリッ


凛「それ以上、近づかないで」


真姫☆「なっ…」


凛「それ以上近づいたら、凛はここからすぐに飛び降りる」

凛「だから、それ以上近づくのはやめて」


真姫☆「…どういう意味よ。近づかなければ、飛び降りを思いとどまってくれるの?」


凛「…うぅん。そうじゃないけど」

凛「最後に、ここに来てくれた人が…凛の知ってる人だったら」

凛「少し、お話がしたいって考えてたんだ」

凛「穂乃果先輩やにこ先輩や…かよちんなら、よかったんだけど…まぁ、西木野さんでもいいよ」


真姫☆「あなた…」


凛「…それに、もしかしたら西木野さんの説得で、思いとどまるかも?」

凛「だから、最後にお話しよう?さ、西木野さんから話していいよ」

凛「そこは、絶対に動かないようにね」


真姫☆「…」

真姫☆「…わかったわ」

真姫☆「じゃあ聞くけど…あなたは、花陽と仲良く話していたじゃない。ここ最近…」

真姫☆「あれは…なんだったの?前向きに生きよう、って…決めたのじゃなかったわけ?」


凛「うん?前向き、だったよ。…あぁ、でも」

凛「前向きに、死のう…って考えたんだったね」

凛「このまま惨めに、夢のステージを眺めるしかできないなら死んじゃおうって」

凛「そう考えたら、不意に頭がスッキリしたんだ。今まで見下してきた小泉さんも…どうでもよくなるくらい」

凛「もう凛には強さなんていらない。好きなように振舞おう、せめて、死ぬまでは…ってね」


真姫☆「好きなようにって…花陽と話す時間を楽しみにしてたんじゃないの!?どうして、わざわざ死ぬことを選ぶのよ!?」

真姫☆「そんなことが前向きだなんて…ふざけてる…っ!!」


凛「…かよちんと話すのは、楽しかったよ。かよちん…思ってたよりずっといい子だった」

凛「でも…A-RISEの栄光と比べると、それのどれほど小さいことか。くだらない…ただ楽しいだけの日々…」

凛「…そんなモノのために、凛は今まで血反吐を吐いて、疲れを忘れて、骨を砕いてきたんじゃない」

凛「それにね、前向きなのは間違いないよ?だって…」

凛「凛は、明日…かよちんと一緒に、ライブをするって決めてるんだもん」


真姫☆「えっ…?」



凛「西木野さん、地縛霊、って知ってる?」

真姫☆「地縛霊…」


凛「うん。土地に縛られた幽霊…」

凛「この世に未練を遺して死んでいく人が、なってしまうとされている霊」


真姫☆「知ってるけど…それが、なんだって言うのよ…?」


凛「…凛は、この世に未練しかない」

凛「A-RISEになれないまま、死にたくないし…そもそも普通に死にたくない」


真姫☆「ハァ…!?じゃあ、死ななきゃいいじゃないっ!!」

真姫☆「なんで…屋上から飛び降りるなんて道を選んでるのよっ…!!」


凛「だって、このまま生きていてもA-RISEにはなれないから」

凛「だからね…凛は地縛霊になっちゃう道を選んだの」

凛「ここから落ちれば…どうなると思う?」


真姫☆「どうなる、って…それは…あなたが…死ぬ…ってこと、だけど…」


凛「…うん。そして、死んだ土地に縛られる」

凛「その死んだ土地、明日はどうなってるかな?ここまで言えばわかる?」


真姫☆「…っ!ここから、落ちれば…」

真姫☆「この真下は…明日、ステージがある場所っ…!まさか、凛、あなたっ…!!」


凛「うん」

凛「…凛は幽霊になってね。かよちんの横で踊るんだ」

凛「もちろん、A-RISEとしても」

凛「そして、みんなに喝采をもらうの」

凛「かよちんの隣で。A-RISEの隣で」

凛「こんなの、生きていたら絶対に味わえないエンターテインメントだよ」

凛「そうは思わないかにゃぁ?」

凛「ね?前向きでしょ?」



真姫☆「っ…!!」


真姫☆(凛の発想は私の想像の遥か斜め上を行っていた)

真姫☆(彼女は自分の夢を叶えるために…地縛霊になる道を選択しようという)

真姫☆(馬鹿げている。地縛霊なんて存在しない)

真姫☆(死んでも…何も変わらない。何も残らない)

真姫☆(その言葉を口に出そうとしても、出なかった)

真姫☆(あまりのことに、唖然としすぎて。そして)

真姫☆(凛の顔が…希望に満ち溢れていたから)



凛「…西木野さんは、これ以上の喜びを凛に与えてくれる人?」

凛「動けない凛を、A-RISEと…かよちんと一緒に踊らせてくれる人?」

凛「答えてよ」

真姫☆「っ…」



真姫☆(…先程から私は)

真姫☆(後ろ手に携帯電話を弄っていた)

真姫☆(スマートフォンのせいで、イマイチ感覚は掴めないけど)

真姫☆(日頃から行っている行為だから、感じられなくても体に染み付いた動き)

真姫☆(おそらく、C☆cuteの誰かに電話をかけている…はず)

真姫☆(本当にかけているかどうかの確信はない…けど…でも、お願い…!誰かに伝わって…今の状況…!!)

真姫☆(私はなるべく、凛との会話を長引かせる…!それしか、凛を生存させる道を考えられない…!)



真姫☆「…私は…」

真姫☆「凛、なら…凛なら、また、やり直せるって…」


凛「あはっ」

凛「あははははははははっ!!そればっかりっ!かよちんも同じこと言ってたよ!」

凛「やり直せるって保証は!?こんな大怪我で、半年以上もまともに動けないのに!」

凛「一から始めるなんて、出来るわけないっ!もう二度と…こんな辛い思いなんか、したくないのにっ…!!」


真姫☆「もうそんな辛い思いをする必要はないわっ!もう既にUTXはっ…アイドル専攻は変わりつつあるのだからっ!」

真姫☆「あなたが体験したような…血反吐を吐くような地獄を、味わう必要なんてなくなるっ!」


凛「ハンッ、そんな生ぬるい環境で得られるものなんて、たかがしれてるよっ!」

凛「アイドルは頂点以外意味はないんだって…西木野さんだって知ってるはずでしょっ…!!」


真姫☆「そんなことないっ!!アイドルは…それ自体が最高に楽しくてっ…頂点なんか、どうでもいいことなのよっ!!」

真姫☆「結果的に認めてもらえて、一番になれるなら…それはとっても嬉しいことだわっ!!でもっ…」

真姫☆「最初から一番だけを目指すなんて…そんなの…本当のアイドルじゃないっ…!アイドルは、誰かを楽しませてこその…」


凛「…ふぅん」

凛「凛は違う…。誰かを楽しませるのは手段でしかない」

凛「一番の栄光を掴むまでの…多くの人から注目されて、喝采を浴びるためのもの」

凛「凛はアイドルに憧れてからずっと、そう教わったもん」

凛「やっぱり、西木野さんとは…相容れなかったね」

凛「…お話は、もうおしまいにしようか」


真姫☆「待っ…!まだ…!!」


凛「んー?ぷっ…あはははは!慌てっぷりおもしろ!あははははは!」

凛「安心してー。まだ死なないよ」

凛「…最後に、肝心の…ライブが残ってるから」


真姫☆「ライ、ブ…?」


凛「…うん。ライブ」

凛「観客ひとりのライブ」

凛「本当にそんなので、アイドルを目指す原動力になるのか」

凛「最後の最後に、試すんだ」

真姫☆「観客ひとりの、ライブ…!?」

真姫☆「それはっ…」


凛「ん?ふふ…おかしいでしょ?観客ひとりでライブ、なんて」

凛「かよちんが凛を元気づけるためにいった、戯言だよ」

凛「可笑しくって笑っちゃった。ありえないもん」

凛「ただ惨めなだけのそんな行為が、慰めになると思ったのかな?ふふふっ…」

凛「…でも、もしかしたら」

凛「本当に希望を貰えるのかも、ってほんの少しだけ、思っちゃった」

凛「だから、最後に試して、それで…」

凛「…うまくいったら、やめよっかなって。自殺」


真姫☆「り、凛っ!聞いてっ…その、観客っていうのはっ…!!」


凛「あぁもううるさいなぁっ!!こっちが今から歌おうとしてるところなんだよ!?」

凛「凛の人生で最初で最後のソロライブなの!そんなのも黙って聞けないワケ!?」

凛「いいじゃん…自殺、辞めるかもしれないって言ってんだから」

凛「西木野さんにとっては、凛がここから落ちたら、明日のライブに響くから嫌なんだよね?」

凛「そのためなんだから、ちょっとくらい我慢して」


真姫☆「ねぇっ…!凛…そういうことじゃ、なくてぇっ…!!お願いっ…!」


凛「黙れって言ってるのっ!!」

凛「次喋ったら、死ぬから」


真姫☆「ッ…!く、ぅぅっ…!!」


凛「うん、黙ったね」

凛「じゃあはじまりはじまり~。凛の人生最後?のソロライブ!にゃはは~ん」

凛「んーと、じゃあまずはね~…凛の大好きな、Shocking Partyからかにゃ!アカペラだと滑稽だけど…ごほんっ」

凛「それじゃいくねー…だんしんだんしんどんすとっぱだんしん…」



真姫☆(そうして奇妙な二人きりのライブが始まった)

真姫☆(このまま歌が続けば、携帯の通話で気づいた誰かがこちらに来てくれる時間が稼げる…)

真姫☆(せめて、あと10分…どうやったら助けられるかは、私でも思いつかないけどっ…でも、とにかく誰か…!!)

真姫☆(そして、凛にどうしても伝えたい…!)

真姫☆(花陽の心を強く支え続けた、観客ひとりのライブ)

真姫☆(その観客というのが誰なのか…きっと凛は気づいていないんだっ…!!)

真姫☆(だから伝えたいのにっ…下手に声を出せないっ…!!)

真姫☆(凛っ…死ぬなんて、選んじゃ、ダメっ…!!)

真姫☆(きっと、あなたにはっ…!)

真姫☆(曲の中盤あたり、急に凛が歌を止めた)


凛「…」


真姫☆「…?」


凛「…やっぱり、違うなぁ」

凛「ライブっていうのは、踊ってこそだもん…」

凛「歌だけじゃ、全然面白くない…。A-RISEの曲はアップテンポでダンサブルな曲ばかりだし…」

凛「アカペラで歌ったって…ライブじゃないよ、こんなの…」

凛「つまらない…」


真姫☆「り、凛っ…」


凛「喋るなって言ってるでしょっ!!!」


真姫☆「…っ」


凛「…まぁ、いいや」

凛「観客がひとりのライブなんて、こんなものだったって、それだけ」

凛「そろそろ、終わりにしよっか」


真姫☆(そ、そんなっ…!まだ時間が…!!)


凛「あ、最後にもう一曲だけ」

凛「曲名も歌詞も、何もわからないけど」

凛「凛の、心に残ってる…大好きな歌」

凛「聞いてください。…すぅっ」



凛「ふんふんふふんふふ~ん…ふんふんふふ~んふんふんふふ~ん…」



真姫☆「ッ…!!!」

真姫☆「その、曲、はっ…!!」



凛「これなら、アカペラでも多少は様になったかな…」

凛「…さよなら、西木野さん」

凛「明日また、ステージで会おうね」



真姫☆(そう言って凛は、手すりからゆっくりと手を放し)

真姫☆(後ろ側に倒れこむように)



真姫☆「ッ…り、りぃぃぃぃぃぃんっ!!!!!」ダダッ


真姫☆(その瞬間を見逃さず、駆け出すっ…!)

真姫☆(後ろ手に握った携帯なんか、放り出して)

真姫☆(彼女が歌っている間、気づかれない程度にジリジリと近づいて)

真姫☆(この距離なら…全力で走って、全力で掴みにかかれば)

真姫☆(間に合う自信がある。そう予感していた)



真姫☆(けれど)

真姫☆(世界はよそ者の私に、容赦はしてくれなくて)



グワンッ…!!



真姫☆「く、あぁっ…!!?」

真姫☆「こんな、とき、にっ…!!!!!!」


真姫☆(強烈なめまいが私を襲う)

真姫☆(もはや前がどちらか、上下すら認識できないほどの、激しい頭の揺れ)

真姫☆(時空振動が、私に猛威を振るった)

真姫☆(まっすぐ伸びた私の腕は、すぐに勢いを失い)

真姫☆(足はもつれ、フラフラと行き場を無くす)

真姫☆(あとほんの少しの距離なのに、後一歩、歩くことができれば、掴める距離ってところで)

真姫☆(最後の一歩が、踏み出せない)

真姫☆(時空壁が生成されたということは)

真姫☆(もうタイムマシンで、この時間に戻ることも許されない)

真姫☆(死んでしまった凛を救い出すことは、できなくなる)

真姫☆(だからここで、彼女に触れられないと)

真姫☆(終わってしまう。全てが)

真姫☆(踏み出せ。最後の一歩をっ…!)

真姫☆(スローモーションのように倒れていく彼女の体を)

真姫☆(この手で引っ張り上げるためにっ!!)

真姫☆(踏み出せっ!届けっ!!踏み出せぇぇっ!!届けェええっぇぇぇっ!!!!)



真姫☆「届けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!」



真姫☆(骨が軋むほどの意地と根性を持って)


真姫☆(私は、一歩を踏み出した)


真姫☆(己が全力を右足と右腕に込め)


真姫☆(後ろに倒れこむ凛の首元を)



真姫☆(私の腕が、掴んだ)

真姫☆(…と、錯覚した)


真姫☆(私の腕が掴んだと感じたのは、一瞬前の、凛の幻影で)


真姫☆(実際はただ虚しく、私の手は空を切るのみ)


真姫☆(後ろに倒れこむ凛を止めることは叶わず)


真姫☆(地についた凛の左足は)


真姫☆(空へ、投げ出された)



真姫☆「ぁっ…!!!」



真姫☆(私の差し出した腕は、無力にも…届かなかった)


真姫☆(凛を救うことは)


真姫☆(私には)


真姫☆(できな、かった)





















無限のように感じられる、一瞬の時間。


ふわり、と空中へ投げ出される、凛の身体。


もう一段あると思っていた階段が、なかったかのような。


寝ぼけて、ベッドから落ちたときのような。


ジェットコースターで急降下しているような。


そんな浮遊感を、全身で感じてる。


気持ちいい、って思った。


それから、あぁ、死ぬんだ、って思った。


ちょっと怖いけど、明日が楽しみ。


幽霊になって、喝采を浴びることができる。


そのあとは…UTX学院の七不思議の一つになろう。


夜、遅くまで居残ってると幽霊に襲われる、みたいな。


ふふ、それも面白いかも。


なんて考えながら、目を瞑る。


忘れたと思っていた、過去の出来事が次々と瞼の裏に浮かぶ。


おぉ!これがそうまとー?ってやつかにゃ!?


アイドル専攻での数々の出来事。辛かったたくさんのことと、楽しかった少しのこと。


中学での陸上部の経験も、休日に友達と出かけた思い出も。


みんな浮かんでは消えてゆく。


凛が見る、最後の風景ってなんなのかな。


凛だけが見えるシアターで、凛だけの幕引きを心待ちにする。


ふと、声が聞こえた。


うぅん、違う。


歌…聞いたことのある、歌。


そう。凛が歌っていた、あの…鼻歌。


思い出した。あの曲の、歌詞は…。




「ありが、とう…って…あふれ、だして…くる…」

凛「あれ…?」



気がつくと、知らない場所に、凛は立っていた。


知らない場所?…違う、ここ、知ってる。


見たことのある、運動場だ。


でも、おかしい。


運動場しか…ない。


凛の知ってる場所なら、すぐ後ろに小学校があったはずなのに。


もしかしてこれは…。



凛「凛の記憶の中…?」



ぱしんっ。ぱしんっ。


地面に鞭を打つような音が、どこからか聞こえてくる。


ぱしんっ。ぱしんっ。


すぐ近く。振り返ると…。



凛「あ…」



いた。


大縄跳びを飛んでる、何人かの子供たち。


でも今は、誰も飛んでない。


縄跳びを順番に飛んで、8の字を描くように循環するはずが、一箇所で止まっている。


一人が、立ち止まってるんだ。


震えて縮こまって、泣いて、しゃがみこんでいる。


子供がみんな、迷惑そうにその子を睨んでいる。


このままじゃいけない。


凛が、その子を助けようとしたとき。



その縄跳びの逆の方から。


細いトビラをくぐって、ひとりの女の子が、飛び出してきた。


泣いてるその少女に向かって、手を差し出して、



「こわくないよ。簡単だよ。いっしょに飛ぼう?」

凛「…あれっ?」



瞬間、風景が変わる。


小学校のときの、凛の教室。


何年生の、頃だったっけ。


不親切な夢だ。何の脈絡もなく場面が入れ替わる。


まぁ、夢ってそんなものだよね。



「…これ、なんて読むの?」



横から声が聞こえた。


さっきの女の子の声だ。



「か、と……たいようの、よう…?」


「はなよ、だよ」


「かよう…?かようび?」


「は、はなよっ…だよぉ…!」


「かよー?」


「はーなーよっ!」


「あはは、おおきな声!きれいで、かわいいこえ!」


「あ、…ごめん、なさい…」


「?…どうしてあやまるにゃ?」


「…え、その…ごめん」



とりとめのない、よくわからない会話。


どこかぼんやりとして凛の耳を通り、内容を理解することができない。


でも、どこか懐かしいって感じる。


当たり前か。


凛の、記憶なんだから。

また場面が変わる。


次は近所の公園だ。


何人かの子供たちが、遊具で遊んでいるのが見える。



「どけよ!」



ナマイキそうな、少年の声。


高い滑り台の方。子供たちが集まる、特に人気の遊具だった。



「え、でもっ…」


「ここはおれたちが使うんだ!!」

「どっか別のところいけ!」


「だけど、さ、先に…使おうと…」


「どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!」

「どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!どっかいけ!」


「う、うぅぅぅぅ…!!」



縄跳びの前でしゃがんでいた、眼鏡の女の子が、今にも泣き出しそうだった。


すると、やはりといった感じで。



「こらー!かよちんをいじめるなーっ!!!」


「げっ!ガキ大将のりんだ!」

「ころされる!にげろー!!」



「かよちん、大丈夫?あいつらにひどいこと、されてないかにゃ?」


「うん、うん…ごめん、ね…」


「あやまらなくていいの!そういうときは、ありがとう、だよ?」


「うん、でも…ごめん」


「うーん…。まぁいいや!遊ぼう!」



元気な女の子が、眼鏡の女の子の手を取って滑り台へ引っ張る。


高い高い、空へも届きそうな滑り台。


そう思ってたのに…。



凛「…こんなに、小さかったんだ」

また、別の場所。


ここは、秋葉原かな?


お母さんたちに連れてきてもらって。


色々なお店を回って。


帰りは疲れて、車の中でぐっすり。


また、別の場所。


ここは、凛の家。


ゲームしたり、歌を歌ったり。


庭を走り回って、汗かいて。


一緒にお風呂に入ったりも、したよね。


楽しいことを語らいながら、同じ布団で寄り添いあって。


また、別の場所。


ここは――。


何かを思う前に、風景が変わる。


また変わり、次も、次も、色々な風景が凛だけを取り残して目まぐるしく入れ替わる。


どんな場面にも、二人の少女がいて。


どんな場面でも、そのふたりは笑っていて。


楽しいルーレットに入れられて、回されているみたいに。


凛も自然に、笑顔になっていた。


楽しい。


こんな気分になったのは、いつぶりだろうか。


もう、思い出せないかもしれない。


それだけ、貴重なものだった。


ありふれているようで、かけがえのない、大切な思い出だった。


手放すことのできない――。



手放す、ことの――。

メリーゴーランドのように回転していた風景が、ピタリと止まった。


また、公園。


今度は、あまり人気のなかった、小さな砂場。


その砂場に、やっぱり二人の女の子。


ひとりは砂場の前で小さく体育座りをして。


もうひとりは、みかん箱の上に立って、おもちゃのマイクを手にして。


これから何が始まるんだろう?


どうせだから凛も、その子の隣に体育座り、してみることにした。



「あれ?お姉ちゃん、誰にゃ?」


「まぁまぁ、いいからいいから。始まっちゃうよ?」



眼鏡の女の子はみかん箱の上で、ぷるぷると震えている。


緊張、しているのかな?


数秒待ったあとで、万を持して彼女が口を開く。



「あ、あのっ…凛ちゃんっ!」

「今まで…り、凛ちゃんと…いっぱい、いっぱい遊んできた、よね…」

「でもあの時…なわとびのところで、凛ちゃんがたすけてくれなかったら…もしかしたら、そうじゃなかったかもしれないって思って」

「だから、今こうしていっしょに遊んでくれる凛ちゃんに、思いをつたえるライブがしたいの!」

「あのときの、なわとびがとべなかったことを歌にして、アイドルみたいに…歌いたいの」

「それともうひとつ。いままで『ごめんね』ばかりで、あんまりいえなかった『ありがとう』を…伝えたくて」

「だから、歌うね。きいてください」


「うんっ!たのしみだにゃ~…」


凛「…うん。楽しみだにゃ」



そっか、ライブか…。


こんな小さな会場で、観客もふたりだけ。


子供なら、それでも楽しいんだろうな。


だけど、今の凛も、ワクワクしていた。


子供の頃の純粋な気持ちを、思い出して。



「歌いますっ…『なわとび』」

「  出会いが私を 変えたみたい  」


「  なりたい自分を 見つけたの  」



眼鏡の女の子が身体を揺らして歌う。


ただリズムをとっているだけでなく、小さな仕草も随所に入れて。


動きが小さすぎて、何をやっているかよくわからない、拙い動き。


ダンスと言えるものでは到底ない、その動きが、なんだか。


凛の心を、激しく揺さぶる。



「  子供みたい ためらいながら  」


「  いつも待っていたの 君を  」



子供みたい、と子供が言うと、少し滑稽だ。


凛は苦笑する。


でも、どこか懐かしいな、この歌。どこで、聞いたんだっけ。


あれ?でも、確かこの歌は…。


この子が…。



「  あきらめかけた時 ささえてくれた  」


「  優しい手の そのぬくもり  」


「  好きだよ  」



凛「あっ…!」



「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「  夢が 少しずつ 近づいて  」


「  ありがとうって あふれ出してくる  」


「…ありがとう」


「  嬉しくて 嬉しくて 幸せすぎると  」


「  泣けちゃうの ごめんね  」



この、歌、だった。


凛の、心に、いつまでも残っていた…歌。


こんな、ところで…。

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」


ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!


隣の少女が大きく拍手をする。


目を輝かせて、満面の笑みで。


その少女は、凛だった。


そうだ。凛が、かよちんに向かって、大きく拍手をしたんだった。


そう、それで…。



「かっわいいっ!かよちん!可愛いよ!!」


「あ、ありがとう…」


「えへへ、でも最後にごめんね、っていうのはかよちんっぽいね」


「あ、あうぅ…あ、ありがとう…」


「そこはごめんねでいいんだよー!あはははは!」


「う、ごめん…ぷっ、あはははは…あはははははっ!」


「あははは…かわいったよ、かよちん…!いいなぁ…」



「凛も、あんなふうに歌えたら、いいのになぁ…」



「え?凛ちゃんだって歌えるよー!」


「ダメダメ!凛は歌、下手っぴだし、アイドルはかわいいかっこして歌うんだよね?」

「そんなのできないにゃー!凛がもーっとかよちんみたいにかわいかったらいいのに!って思ったの!」


「えー!?凛ちゃん、かわいいよ!凛ちゃんならできるよ!」


「無理無理!ぜったいに、ムリー!」タタタタッ…


「あー!凛ちゃんっ!待ってー!」タタタタッ…



凛「…」



ここだ。


凛は、ここで…「歌いたい」って、思ったんだ。


かよちんが、たったひとりの拍手で、アイドルをやりたいと強く思ったように。


私は…凛はっ…たったひとりのために向けた歌を聞いて、歌いたいって思ったんだっ…!


凛も、こんなふうに歌いたいって思ったんだ!!


たったひとりのための歌をっ…歌いたかったんだっ!!!

目を覚ます。


凛は、空中にいて。


運動場も、公園も、アキバも、家も…そこには地面も何もない場所で。


二人の少女は、そこにはいなくて。


笑顔の少女たちは、いなくて。


忘れていたことなんてもう、何もなくて。


疲れも、痛みも。


夢も、はじまりも。


恐怖も、後悔も。


仲間も。


友達も。


生きたいって気持ちも。


大切な、歌も。


全て、思い出した。



「たすけてっ…」



その声は宙に浮いて、誰にも届かない。


ただ、無残に落ちるのを待つのみ。



そんなの、いやだ。



「たすけてぇぇっ!!!」




不意に、息が詰まる。



浮遊感が、止んだ。

真姫☆(私の差し出した腕は、無力にも…届かなかった)


真姫☆(凛を救うことは)


真姫☆(私には)


真姫☆(できな、かった)




真姫☆(…私、には)




真姫☆(光を蹴散らすような速さで屋上を駆け)


真姫☆(弾丸をも上回る勢いで凛に手を伸ばし)


真姫☆(柵から身を乗り出し、凛の首元を掴んだ彼女)


真姫☆(凛が掴む腕は、私じゃない)


真姫☆(そう、よね…)



真姫☆「…花、陽っ…!!」




花陽「はぁっ…!!はぁっ…!!」


凛「ごがっ…か、よちっ…!」


花陽「凛ちゃんっ!!」




花陽「掴んでっ!!」




凛「あ…!う、ぅ…!!」


花陽「早くっ…!!お願いぃぃっ…!!もう、これ以上…!!」


凛「う、ん…!!」ガシィッ…!!



ズルッ…

花陽「ひっ…!!落ちっ…!!?」


真姫☆「ふっ…!!」ガシッ


花陽「あ、真姫ちゃっ…!!」

真姫☆「体は…私に任せて…!凛を、絶対に離しちゃダメ、だからねっ…!!!」

花陽「…っ!うんっ…!!!」

凛「はぁっ…!!はぁっ…!!」


花陽「はぁっ…、ま、間に合った…」

真姫☆「花陽…どうして、ここが…」

花陽「…真姫ちゃんが電話をくれた、とき…」

花陽「真姫ちゃんの声が、して…屋上から、飛び降りる、って…」

花陽「そこから私、神田明神から走って…」

真姫☆「でも、そんな時間…」

花陽「わからない…夢中でかけてたから…どうして間に合ったのか…」

花陽「…私が屋上についたのも、凛ちゃんが落ちそうな寸前、で…」

花陽「私が屋上の端から端まで…あんな一瞬で駆け抜けたの…?」

真姫☆「…どうやら、事実だけを見ればそう、みたいね…」

真姫☆「凛のことを予感して…火事場の馬鹿力が働いたのかしら。…凛が疲れを忘れたように、花陽は限界を一時的に忘れたのね」

真姫☆「片腕だけで、一瞬でも凛を支えられたのも多分…そのおかげだと思う」

花陽「なんだかわからないけど、よかっ…痛っ…!」

真姫☆「っ…花陽、肩を…!」

花陽「うん、さっきの凛ちゃんを支えた時に…」

真姫☆「そんなっ…!あなたまで怪我を…!?」

花陽「…平気。そんな激しい痛みじゃないから…後で病院には、行くけど」

花陽「でも、その前に…」

真姫☆「…」


凛「…かよ、ちん…」

花陽「…」

凛「あの、ね…凛…凛…」


パシィンンッ!!


凛「っ…」


真姫☆「は、花陽っ…」


花陽「…」

凛「かよちん…?」

花陽「うっ…うぅっ…!!うぅぅぅっ…!!」

花陽「なんで、あんなバカなことっ…!バカッ…!!バカだよ凛ちゃんはっ!!」

花陽「自分が何をしたか、わかってるのっ!!?」

凛「…ぅ。っ…!!」

凛「よ、余計なことだよっ!!あのまま落ちたら…明日、幽霊になってかよちんと…」

花陽「ばかぁぁぁっ!!」

凛「っ…!」

花陽「たすけてって…言ってたよ…。凛ちゃん…!」

凛「えっ…?」

花陽「こっちを見て、たすけてって言ったんだよ…!」

花陽「本当は…死にたく、ないんでしょ…?」

凛「…」

凛「…おもい、だしたんだっ…」

凛「凛がどうして、アイドルになりたかったのか…。歌を、歌いたかったのか…」

凛「それは…かよちんが凛のために歌ってくれた歌がきっかけだったって…」

花陽「それ…なわとびのうた?」

凛「…うん。あんなふうに歌いたいって…思ってた」

凛「でも、そのことを忘れて、一番になることしか次第に考えられなくなって…」

凛「そのせいで凛は…手放すことのできないはずの大切な思い出を…命を…」

凛「手放そうとしちゃったんだ…!!」

凛「でも、おぼえてた、からっ…だから、たすけてって…!」

凛「落ちる寸前に、思い出せたっ…!」

花陽「…」

花陽「…うぅん、違うよ」

凛「えっ…?」

花陽「凛ちゃん…昨日、私を呼び止めたよね?」

凛「うん…」

花陽「もっと話したいからって。…あれは」

花陽「きっと凛ちゃんが、助けを求めてたんだよ。私に」

花陽「怖いから、たすけて、って」

花陽「私がまた明日、って言っても凛ちゃんは『また明日』って返してくれなかった。バイバイ、や、さよなら、しか、返してくれなかった」

花陽「明日はもう会えないって、私に教えてくれていたんだ」

花陽「…でもそれは、きっと凛ちゃんの心の叫びだっだんだよ」

花陽「死にたくないって思いが、凛ちゃんの中にはちゃんと残ってたんだよ」

花陽「凛ちゃんの叫びが、私に不安を残してくれた」

花陽「だから、ここまでたどり着けた」

花陽「…ありがとう。凛ちゃんっ…」ギュゥッ…!!

凛「っ…!!うっ…うぅ…」

凛「う、うぅぅぅっ…!!うああああああぁぁぁぁぁっ…!!うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

凛「ごめんなさいっ…!ごめん、ごめんねかよちいぃぃんんっ!!いっ、いままでひどいこといって…!!」

凛「ともだぢだっだのにっ…じゅっとともだちだったのに…!!りん、ばかだからっ…だがらっ…!!」

凛「たいせつなともだちも、うたもっ…あったのにっ…!!しんじゃおうなんてしてっ…!!じにだぐながっだのにぃぃっ…!!」

凛「とびおりようなんがしでっ…ずずっ…!ううぇえぇえぇぇぇんっ…!!ええぇぇぇぇぇんっ…!!ごめんっ…!ごべんねぇぇぇえぇぇぇっ…!!」

凛「ごめん、なさいぃぃぃっ…!!」

花陽「…うん、うん…、怖かったね。でも、そうじゃないでしょ、凛ちゃん」

凛「え…?」

花陽「助けられて、嬉しいなら…」


花陽「…こういう時は、『ありがとう』って言うんだよ。…でしょ?」


凛「…うんっ…!!ありがどっ…かよ、ちんっ…!!」

花陽「うんっ…帰ろう。いっしょに…」


真姫☆「…ふふ」


真姫☆(その日は、突き抜けるような青一色の空で)

真姫☆(ホワイトクリスマスにはなりようのない、晴れた一日だった)

12月24日 水曜日

終業式

UTX学院 講堂



理事長「…そして、残された時間を自分のために有意義に使っていってください」

理事長「では、次に会うのは年明け…、ちょっと成長したあなたたちを、見れることを期待していましゅ…いますっ」


『え、えー…理事長からのお言葉でした』



ことり「…今、噛んだよね」

海未「しっかりしているようで…あの理事長ですね、やはり」



『では次に、生徒会長から生徒へ向けての挨拶を』



穂乃果「…はい」

穂乃果「UTX学院生徒会長、高坂穂乃果です。本日は室内ながらも晴天に恵まれ、春の陽気を感じさせる…」


穂乃果(…)

穂乃果(口では今朝覚え込んだ文章を語らいながら、思考は全く別のことを)

穂乃果(三年生の席あたり…、一人一人を、目で確認する)

穂乃果(…意識の分散、か…)



穂乃果「意識の分散…ですか?」

絵里「えぇ、アイドルにとって、なくてはならないもの」

絵里「歌とダンスを同時に完璧にこなすには、どちらか片方をほぼ無意識状態でこなすくらいでなければいけない」

絵里「それに加え、その場に沿った表情でのパフォーマンス、ステージ上を確認し即座に状況に対応する判断…」

絵里「何より、観客を見据えること。全てを同時にこなしてこそ、真のアイドルとなれる」

にこ「…そんなのできる気がしないんですが」

凛「せ、先輩はできるんですかー!?」

絵里「えぇ、もちろん。片手でけん玉しながらもう片手で皿回し、それをホッピングで玉乗りして早口言葉を言いつつ天体観測ができるくらい」

にこ「それもう大道芸人じゃない!?」

絵里「ふふ…まぁ、これはさすがに言い過ぎたけど。でも、それを目標くらいには頑張ってもらうわよ?」

絵里「あなたたちはこれから、A-RISEのバックダンサーとしての道を歩むことになるんだから」

穂乃果「…はい」



穂乃果(…いない)

穂乃果(やはり…彼女は、もう…)


穂乃果「…以上、私からの言葉として締めさせて頂きます」


『はい、ありがとうございました!では次に…』



穂乃果(…そういえば、この意識の分散、って…)

穂乃果(海未ちゃん、得意だったな)

花陽の教室


親衛隊C「明日から冬休み…ですわね。私、冬休みは実家に帰ることにしているので、年明けまでお会いできませんが…」

花陽「うん、そうだったね。あ、年賀状、書くから!」

親衛隊F「無理しなくていいよ~?花陽ちゃんが年賀状書いたら大変じゃん!」

親衛隊E「た、たくさん書く事になっちゃう…。親衛隊の子、み、みんなの分は辛いんじゃ…」

花陽「平気平気!もう年賀状いっぱい買い込んでるんだから!気合入れて書いちゃうよ~!」

親衛隊A「ははは…私らはそんなに多くないんだけどねー…」

親衛隊D「親衛隊の中でもそんなに親しくない子もいるしね…」

親衛隊X「そうっちゅね。あんまりお話しない子も結構いるっちゅ」

親衛隊B「いやアンタ誰!?」

花陽「あははは…、あ…」


真姫「…」



教室前廊下


花陽「どうしたの?キノちゃん…用事?」

真姫「え、あぁ…ごめんね、会話の邪魔してしまって」

花陽「あぁ…うぅん、大丈夫」

真姫「それで…、右肩…、いけそうなの?」

花陽「…そのこと」

真姫「昨日痛めたって聞いてから、その後どうなったか聞いてなかったから…」

花陽「今日のライブのことなら大丈夫!一日くらい動かす程度なら、許容範囲内だってお医者さんも言ってくれたし」

花陽「ただ、明日からは安静…だから、今年はもう一緒に練習はできなさそう…かな」

真姫「…そう。よかった、あなたまでその…アイドルができないなんてことになったら、私…」

花陽「そ、そんなにひどくないってちゃんと言ったでしょ!もぅ…キノちゃんは心配性なんだから…」

真姫「…えぇ、そうね。ごめんなさい、余計な心配だったわね。今日のライブ、頑張りましょう!」

花陽「うんっ!もちろん…!絶対にA-RISEには負けないっ…!」

真姫「それじゃ、そろそろ自分の教室に戻るわ!また、後でね!」

花陽「うん、バイバイ」

花陽「…」



花陽(…右肩を痛めてしまったことより)

花陽(昨日の凛ちゃんの、飛び降り自殺未遂の件のせいで、今日凛ちゃんには外出許可が下りなかった)

花陽(そのことが、とても悔やまれる)

花陽(せめて、A-RISEのライブだけでも、凛ちゃんには見させてあげたかった…)

花陽(…そして願わくば、私たちの歌も、聞いて欲しかった)


花陽「凛ちゃん…」

花陽「…っ!」グッ…

花陽「よしっ…!」

西木野総合病院

凛の病室


凛「…」


真姫☆「…おはよう。凛」


凛「あ…西木野、さん…」

真姫☆「ご飯、ちゃんと食べてる?」

凛「うん…、美味しかったよ。西木野さんは、どうして…?」

真姫☆「…まぁ、色々あるのよ。今の時間はその…ね」

凛「ふぅん…まぁ、いいけど」

凛「…」

真姫☆「…気になる?花陽のこと」

凛「…うん」

真姫☆「やけに素直ね。悪いものでも食べた?」

凛「自分の家族が経営する病院の病院食を悪いもの扱いするのはどうかと思うにゃ」

真姫☆「そういえばそうね…。お見舞いはラーメンしか口にしてないみたいだし…」

凛「…別に、今更斜に振舞ったところで意味ないことだしね。ちょっとくらい素直にもなるよ」

真姫☆「へぇ…でもまぁ…憎たらしさは抜けきってないみたいね」

真姫☆「もっとフレンドリーに明るい性格になったら、花陽も喜んでくれるわよ?」

凛「ハッ…なにそれ。どしてそこまでしてかよちんに喜ばれなきゃいけないの?」

真姫☆「あなたねぇ…、友達なんだから…」

凛「…友達なんだったら、自然にするのが一番だよ」

凛「自然に接して、ゆっくりと打ち解けていくほうが…きっといいと思うんだ」

真姫☆「…」

真姫☆「…そうね。私から言うことは、あなたたちの間では何もないのかもしれないわね」

真姫☆「フフ、でも私は明るい凛が好きだからもっと明るく振舞って欲しいなー?」

凛「ハァ?どうして凛が西木野さんの好みに合わせないといけないの…」

真姫☆「いいじゃない。凛~♪」

凛「…うっざ。かよちんとは友達になったけど、アナタと友達になった覚えはないんですけど」

凛「そもそもいきなり呼び捨てとか馴れ馴れしすぎるよ!何様なの!?」

真姫☆「そ、そんなに嫌…?仕方ないわね…、ほ、星空…さん…」

凛「…」

真姫☆「…」

凛「…なんか気持ち悪いからやっぱり凛でいい」

真姫☆「そう、ね…私も凛がいい」



UTX学院


キーンコーンカーンコーン…


真姫「お待たせ、花陽」

花陽「うぅん。それじゃ、行こっか」



アイドル応援部 部室


ガチャッ

花陽「こんにちは~」


海未「おや、花陽にキノ…これで全員、でしょうか」

花陽「あれ、真姫ちゃんは…?」

希「真姫ちゃんはまだ病院のほう、違うかな?始まる直前くらいにはくる、って言ってたよ」

ことり「じゃあそれまでは来ないんだよね。…どうしよっか」

真姫「…今からリハーサルを兼ねて練習…する?」

花陽「さすがに今更過ぎるよ…。昨日練習できなかった分はあるけど、きっと大丈夫!」

ことり「うーん、だったら…」


グウゥゥゥゥゥゥ…


海未「…誰ですか」

希「ごめんうち」

花陽「…ご飯、食べに行きましょうか」

真姫「…賛成」



食堂


海未「おや、今日はそんなに人がいませんね…」

希「いるといえばいるけど、まばらやね。昼までで学校終わりやから、わざわざ学食で食べていく人が少ないから違うかな?」

真姫「…美味しいのに、もったいないわね」

ことり「でも日頃は埋まってて使えない大きなテーブルでお昼ご飯、食べられるよ!」

花陽「ホントだ…。今日はあそこでご飯を…」


「…ちょっと、いいかしら?」


花陽「はい?なんでしょ…はわぁぁぁっ!!!?」

海未「なんですか突然、大きな声を…のわぁぁぁっ!!!?」

ことり「う、海未ちゃんまで何を…えぇっ!!?」

希「…ツバサちゃんに、れなっち…あんじゅちゃんまで…」

あんじゅ「はろ~。元気?」

英玲奈「…れなっちはやめろ」

真姫「…な、なんのよう、ですか…?」

ツバサ「うふ、こんな日だし、提案なんだけど…」


ツバサ「今日くらい、一緒にご飯、食べない?」

にこ「うふふふ~…まさかA-RISEとお昼ご飯ご一緒できるなんて夢のようだわ…!」

穂乃果「…そうだね。有意義な話ができるといいね」


ツバサ「あ、穂乃果、にこ!こっちこっち!」


にこ「ツバサさーん!今行きま…うぇっ!!?」

穂乃果「こ、これは…」



数分後…


ツバサ「じゃあみんな、お昼ご飯は揃ったわね?」

ツバサ「じゃ、手を合わせて…せーのっ」


「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」


あんじゅ「ふふ、ツバサちゃん、学校の先生みたいね」

英玲奈「こんな大所帯でお昼ご飯を食べるのは久々だな」


花陽「え、えっと…」

にこ「…何見てるのよ」

ことり「見てる、というか…」

穂乃果「…」

海未「見ざるを得ないというか…」

真姫「…どんな状況よ、これ」

希「ツバサちゃん、説明してくれへん?なんでここにうちらと穂乃果ちゃんたちを集めたん?」

希「わざわざA-RISEまで勢ぞろいして…」

ツバサ「説明も何も…気まぐれよ、気まぐれ」

ツバサ「もしあなたたちも食堂に来てたら、一緒にご飯食べられたら楽しいかも、って思ってただけ」

海未「無茶苦茶ですね…」

花陽「いいんですか…?私たちとご飯食べる、なんて…」

あんじゅ「うーん、いいんじゃない?もう誰が怒るってわけでもないし…」

英玲奈「私たちはツバサのやりたいことに従うだけだよ」

にこ「そ、それでいいの…?」

ツバサ「こうしてA-RISEとバックダンサー…それに、C☆cuteの面々が揃って話し合うなんて機会、そうそうないじゃない」

ツバサ「いえ、話し合うつもりはないけれど。ただ和気藹々にご飯を食べようってことで…ずるずるっ…うん、美味しい」

ことり「ご、強引だね…」

あんじゅ「そこがうちのリーダーの魅力なのよー」

希「…ま、いいんやないかな。そういうことなら」

花陽「そうですね。せっかく大きなテーブルが空いているんだし、みんなで使わないともったいないよ!」

花陽「じゃあ改めて…いただきます!もぐもぐもぐ…」

穂乃果「…いただきます。あむっ…もぐもぐ…」

海未「い、いいんのでしょうか、食べ始めてしまって…」

ことり「もうこの空気に乗るしかないよ…はむっ…もぐもぐ…」

真姫「…シラナイヒトコワイ…モグモグ…」

にこ「…そういえば、真姫ちゃん、いないのね」

花陽「えっ…?」

真姫「わ、私ならいるけど…!?」

にこ「あぁ…そうね。いたわ、ごめんなさい。…真姫」

真姫「はぁ…?」

希「…くすっ」

英玲奈「なんだ東條…変な笑みを浮かべて。気持ちわるいぞ」

希「なんでもー?あ、れなっち、その海老天ちょうだいっ!」

英玲奈「はぁっ!?おい待てっ!天丼の主役だぞバカっ!」

あんじゅ「あー、英玲奈ばっかり希ちゃんとずるーい!うぅん、でもここは新規開拓?」

あんじゅ「じゃ、ことりちゃん、あーんしましょ?」

ことり「へっ…!?」

穂乃果「…あんじゅさん」

あんじゅ「なにー?嫉妬かしらー?」

穂乃果「…別に。ただ、あまり食事中にふざけるのも良くないかと」

あんじゅ「そう?ふざけてなんかいないんだけどなー」

海未「あの、穂乃果…」

穂乃果「…ごめん。食事中は話さない主義なんだ。後でね」

海未「はぁ…」

ツバサ「…あ、そうだ。あなたたち、穂乃果の幼馴染なんですってね?幼い頃の穂乃果ってどんな感じだったの?」

穂乃果「ぶっ…!つ、ツバサさっ…」

希「お、それうちも知りたい!」

ことり「ちっちゃい頃の穂乃果ちゃん…?うーん、そうだなぁ…」

海未「よくおねしょして泣きべそかいてましたね」

ことり「あーそうそう!お泊りしてて隣の布団までしみちゃうくらいのいっぱいの…」

穂乃果「ど、どれだけ昔の話してるのっ!!ツバサさんもっ…!!」

ツバサ「へぇ~…穂乃果がねぇ…ふふふ…」

英玲奈「うわ…ツバサの目がいやらしいこと考えているときの目になっているな…」

にこ「あんまりファンに見せられる顔じゃないわね…」


花陽「…ふふふっ」

真姫「花陽…?どうしたの?」

花陽「え?あ、うぅん…なんだか楽しくなってきちゃって」

花陽「こんなふうに、A-RISEとC☆cuteが会話することが…ホントに夢みたいで」

花陽「私の夢が、叶ったような気がして…」

ツバサ「夢じゃないわ、小泉花陽さん」

花陽「は、は、はいっ!?」

ツバサ「これは現実。れっきとした、ね」

ツバサ「そしてこれから、夢にしていくのよ。いがみ合いなんて存在しない、そんなUTXに」

花陽「あ…」

ツバサ「まだ叶った気でいられたら、困るわよ?」

花陽「は、はいっ!頑張りますっ!!」

数分後…


あんじゅ「ふー…、お腹いっぱい」

ことり「ごちそうさまー」

英玲奈「…今頃、ステージが作られているのだろうか」

希「あ、それやん!えりちがその…アレやのに、ステージ作る子はいてくれてるん?」

海未「アレ…?」

希「あぁ、まぁまぁ…」

ツバサ「確かにステージの作成は絵里の呼びかけによって集まった有志の子たちだけど…」

ツバサ「大丈夫。任せられたことを途中で投げ出すような子達ではないわ」

希「…そう。それなら良かった」

ツバサ「…さてと、みんなもう食べ終えた頃ね。じゃあそろそろ…」

穂乃果「解散、ですか?」

ツバサ「あなたたちに話しておきたいことを言おうと思って」

にこ「い、今から本題…?」

ツバサ「軽い激励みたいなものよ。…それじゃあ」

ツバサ「新A-RISE、並びに、C☆cuteの皆さん」

ツバサ「今日のライブ、全力で臨んでいってね」

あんじゅ「なんなら私たちをゲスト出演…もがっ」

英玲奈「余計なことを言うな」

ツバサ「そして、最高に楽しいライブを。どちらが勝っても悔いのない勝負を。お客さんに今日一番の喜びを」

ツバサ「あなたたちはライバルで、…そして、同じUTXのスクールアイドルでもある」

ツバサ「敵であり、仲間でもある。…覚えていてね」

穂乃果「…はい」

花陽「わ、わかりましたっ…!!」

あんじゅ「そう!私たちはこの丼の元に一つ!」

英玲奈「何言ってるんだお前…」

あんじゅ「同じ釜の飯を食べた仲って言うじゃない?それみたいなものよ~」

にこ「…そうね。ご飯を一緒に食べればみんな仲良しよ!」

真姫「な、仲良し…。まぁ…悪くない響きだけど」

希「それじゃ、今度はうちが締めようかな?いい?」

ツバサ「えぇ。あの頃みたいに、お願いね?」

希「任せといて。…それじゃ、手を合わせて。ぱしんっ!せーのっ…」



「「「「「「「「「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」」」」」」」」」

UTX学院 屋上


パモ部部長「やーやー!今日は私のために集まってくれてどうもありがとう!」

親衛隊A「別