双葉杏「いつまでもあなたの中心にあれますように」(13)

おはよ、よく眠れた?


あーあ、誰かさんがお世話してくれないせいでこんなんなっちゃったじゃん。

……駄目だよ。それ外したら逃げちゃうでしょ。何回言わせるのさ。

それにそもそも、もう外しに行くために起き上がる体力すら残ってないんだよね。だからこうやって、90度違う角度で話してるの。

ずっとそこで見てたでしょ。ここに来てから一度も何も口にしてないの。

でもさ、プロデューサーが悪いんだよ。人の気持ちを踏みにじったんだから。


言ったよね、「ファンも、アイドルの肩書も、事務所のみんなも、何もかもいらないから、ずっと一緒にいて欲しい」って。それにプロデューサー、なんて答えたっけ。

……覚えてないのか言いたくないのか、どっちかは知らないケドさ。「そんな馬鹿みたいなコト言うな」って答えたんだよ。

酷いよね。一世一代の告白が寄りにも寄って「馬鹿みたいなコト」だって。人がどれだけ勇気を振り絞って言ったと思ってるのさ。

……別に謝んなくったっていいよ。看取ってもらうのが何十年か早まっただけだしさ。


……うるさいなぁ。まだ生きてるよ。そんなに心配ならずっと喋っててあげるからさ、安心してよ。

じゃあ何の話がいいかな。仕事とか他の人とか、そういういらないものの話はしないよ。

……いつから、かぁ。いつからだろう。一年もしない内にはもうこうなってたと思うよ。

どうすれば気を引けるかって、どうすればずっとそばにいてもらえるかって、そんなコトばっかり考えてたかな。


……だから言ったでしょ。いらないものの話はしないんだって。

……駄目だって。

……しょうがないなぁ。今回だけだよ。

アイドルの仕事は楽しかった、んだと思う。でもそれはプロデューサーがいたからで、プロデューサーと一緒にやってきたからで、プロデューサーが見ててくれてたからだよ。それ以外に理由なんかないよ。

なんでそこでちょっと嬉しそうな顔するのさ。担当してたアイドルに裏切られたんだよ?


安心してよ、プロデューサーは生き残るから。身体の大きさも蓄えてる体力も、全然違うんだからさ。

プロデューサーがいなくなってから何日も経ってるから捜索願も出されてるだろうし、まず初日の時点で何人も動き出してるでしょ。

いい子たちをスカウトしたよね、ホント。ただ一人を除いてさ。

……気なんて使わなくていいよ。ここまでした相手になんてさ。


……こんな事、協力してくれる人なんているワケないじゃん。

だからぜーんぶ一人で考えて、一人で道具を集めて、一人で計画に移したんだ。

意外とあるもんなんだね、重たくて大きい物を一人で運ぶ方法って。

道具もさ、色んな種類があって選ぶのに苦労したんだ。

大変だったんだよ、周りにばれないように取り寄せたりするのって。

……え?


うそ、それ壊したの?

かなり頑丈なやつ選んだはずなんだケド。

……無駄だって。これからも生きていけるって人間が、こんなに軽いワケないじゃん。救急より警察呼びなよ。

……わがまま言わないでよ。そっちが心配するからってずっと無理して喋り続けてたんだから、今更黙らないよ。

じゃあさ、名前を呼んでよ。好きだって、愛してるって言ってよ。

好きな人が愛を囁いてくれてるんだから、静かに聞き入るよ。


……うん、そうだと思ってた。ありがと。

そのつもりだろうとは思うケド、最期に一応言っとこうかな。



杏のコトなんてきれいさっぱり忘れて、幸せになってね。

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