男「はじめてのガソリンスタンド」(34)

車を運転中――

ブロロロロ……!

男「あ、まずいな。そろそろガソリンなくなりそうだ」

男「あそこにあるガソリンスタンドに寄っていくか……」

男(店員がいない……。どうやら出迎えがないタイプのガソスタか……ま、大丈夫だろう)

男(……待てよ?)

男(そういや俺、自分でガソリン入れたことねえ!)

男(俺んちの近くのガソリンスタンドは、最初から最後まで店員がやってくれるタイプだし)

男(セルフに寄った時は――)



友『俺にやらせてくれよ! 俺、ガソリン入れるの大好きでさ!』

女『給油ならあたしがやってあげるわ! こう見えても元店員だったし!』

先輩『た、頼む、俺にやらせてくれッ! ガソリン代はもちろん払うからッ!』ハァハァハァ



男(――てな感じで、誰かしら同乗者が入れてくれたりしたもんなぁ)

男(特に先輩の給油大好きっぷりは異常すぎる……。おかげでガソリン代浮いたけど)

男(でも、セルフ方式のガソスタにも、店員って常駐してるはずだよな)

男(だったら、店員に頼めばいいか――)

男(いや、ダメだ!)

男(いつまでも店員に頼ってたら、俺は自立できない!)

男(今日ここでセルフ給油チェリーを捨てるんだ!)

男(まず……給油装置の横に、自動車を止めるんだったな?)ブロロロ…

男(くそ……ただの停車だってのにムチャクチャ緊張しやがるぜ!)

男(一ミリのズレもなく……止める!)キキッ

男(よし……大成功!)

男(次に……ガソリン給油口を開ける!)

男(そういや……あれ開けるやつってどこにあるんだっけ? ド忘れしちゃった)モゾモゾ

男(これか?)ビビーッ

男(あ、これクラクションか)

男(こっちか?)ウイーン

男(あ、これ窓開けるやつだ)

男(じゃあこれ!)ガタンッ

男(あ、イス倒れちゃった)

男(これだ!)カチッ

男(ビンゴォォォォォッ!!!)

男「外に出て、と」バタンッ

男(いよいよか……いよいよはじめてのたった一人のガソリン給油が始まる!)

男「とりあえず、機械に近づいてみるか……」ジリ…

機械『支払い方法を選んで下さい』

男「どわっ!!?」ビクッ

男(支払い方法……現金でいいよな)ピッ

機械『油種を選んで下さい』

男(ガソリンの種類を選べ……か)

男(もし、これを間違えたら、きっと――)

~~~



ブロロロロ……!

男『――ん?』ガクッガクッ

男『なんだ!? 車の様子がおかしい!』ガクガク

男『しまった! 間違えてハイオクを入れたから……!』ガクガクガク

男『うっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!』

スガァァァァァンッ!!!



~~~

男(――ってなことになりかねない!)

男(慎重に、慎重に……! 間違えたら、一巻の終わりだ……!)ゴクッ

男「これだっ! レギュラーッ!」ポチッ

男(ふう……まるで赤か青のコードのどちらかを無事切り終えた爆弾処理班の気分だぜ……)

機械『給油量を選んで下さい』

男(給油量はもちろん“満タン”だ!)ポチッ

機械『静電気除去シートに触れてから、給油キャップを外し、ノズルから給油して下さい』

男(いよいよ給油か……)

男(静電気除去シートってのは、この黒くて丸いやつだよな……)

男(もし、万が一こいつに触れずに給油したらきっと――)

~~~



男『よっしゃーっ! 給油開始だぜ!』

男『おっと静電気が』バチバチバチッ

男『うわっ、ガソリンに引火して――』

ドゴォォォォォンッ!!!



~~~

男(――ってことになるんだ、きっと! 俺の肉体は原型も留めないに違いない!)

男「絶対触らなきゃ!」ペタッ

男「……」

男「……」

男(ところで、これどのぐらい触れればいいんだ?)

男(5秒? 10秒? 1分? それとももっと? ちゃんと書いといてくれよ!)

10分後――

男(これだけ触れとけば大丈夫だろう!)

男(キャップを外して、と……)キュポンッ

男(次はいよいよ、マジに本当に給油か……!)

男(レギュラーだから……この赤いやつでいいんだよな?)

男(くそっ、緊張して、このノズルが拳銃かなにかに見えやがるぜ……!)ガシッ

男「!」ズシッ…

男(お、重い……! なんだこの重さ……!)

男(ガソリンの危険性がそのまま重量になったような重さだ!)

男(こんな重火器……俺みたいなド素人に扱えるのか!? 扱っていいのか!?)

男「あ、ああ……ど、どうすれば……!」



店員「お客様」スッ

男「あ、あなたは!?」

店員「このスタンドの店員です」

店員「よろしければ、給油のお手伝いをしましょうか?」ニコッ

男(た、助かった……)

男(きっと給油に手こずってる俺を見かねて、助けに来てくれたんだ!)

男(俺はもう十分よくやったよ! 後はこの人に任せちゃえばいいじゃん!)

男「じゃあ、お願いしま……」

男「……いや、ダメだァッ!!!」

店員「!」

男「ここでアンタに任せちまったら……逃げちまったら……俺は一生チェリーボーイだ!」

男「俺が……この俺が給油するッ!」

店員「……フッ、よくいったぜ、兄ちゃん」

店員「だったら俺はここで見届けてやる! アンタの晴れ姿をな!」

店員「もしアンタがミスりそうになったら、アドバイスしてやっから安心しなッ!」

男「感謝するッ!!!」

男「ノズルを……持って……うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」グイッ

男「給油口にブチ込むッ!」ズブッ

店員「まだ浅いッ! もっとだッ! もっと中に差し込めッ!」

男「了解ッ!」

男「うおおおおおおおおっ!!!」ズブズブズブッズブブッ

店員「いいぞぉ! そんだけ差し込めばもう十分だろう!」

店員「引き金(トリガー)を引くんだァ―――――ッ!!!」

男「うわぁぁぁぁぁ―――――ッ!!!」

男「自動車ッ! 中で出すぞッ!」ジュルルルル…

店員「そうだッ! それでいいッ! あとはもう引き金を引き続けるだけだァ!」

店員「車ン中、ガソリンでパンパンにしてやれいッ!」

男「ああっ! どんどん入れてやるぜェッ!」ジュルルルルル…

男「ガショリンが、ガショリンが入ってくよォォォォォッ!」ジュルルルルル…

男「と、ところで――」

店員「ん?」

男「これ、いつ引き金を止めればいいんだ?」

店員「安心しろッ! 満タンになったら、機械が勝手に止めてくれるッ!」

男「マジかよ! すげェェェェェ!」

店員「21世紀のガソリンスタンドを舐めるなよ!」ニヤッ

男「!」ガチャッ

男(引き金が引けなくなった……ッ! 完了ッ!)

店員「今だッ! 車の給油キャップを閉めろォォォォォ!」

男「応ッ!」ガパッ

男「給油口も……シャット!」ガチッ

男「お、終わった……」ハァ…ハァ…

店員「よくやった……! ガソリンは一滴もこぼしてねえぜ……!」

店員「初めてにしちゃあ上出来だァ!」

男「へっ……やればできるもんだな……」ゼェ…ゼェ…

店員「あとはそのレシートを、あっちにある精算機にかざして、釣りをもらうだけだ」

男「お、おう」ヨロヨロ…

店員「手を貸そうか?」

男「いや、いい……ここまできたら最後まで自分一人でやり遂げたいんだ……」

店員「かっこいいぜ……お前」

男「レシートォォォォォ、ON!」ピッ

ジャラジャラ…

男「ウホォッ! 出た出たっ! お釣りがっ!」

男(も、もう一回……)サッ

店員「残念ながら二回お釣りが出ることはないぜ」

男(バレた……ッ!)

店員「気持ちは分かる」

店員「これで終わりだ……さ、車に乗んな」

男「店ちゃん、世話になったな」

店員「だけど事故ンなよ! ガソ満タンにした直後に事故るとか、笑い話にもなりゃしねェ!」

男「おう!」キュルル…

男「また油入れにくるぜ!」ブロロロ…

店員「あざーっしたぁーっ!!!」

ブロロロロ……!

男(これでやっと……俺もガソスタチェリー卒業だ……!)

男(店員さん……ありがとう……!)

男(――ん)ポロッ…

男(ガソリンはこぼさなかったけど……涙はこぼしちまったか……)

男「俺もまだまだ、修行が足りねえな……」



ブロロォォォ……






― 完 ―

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