十一年後の名探偵 (100)

モバマスssです。

が、以下の件に付き、気になる方は閲覧注意でよろしくお願いします。

オリキャラ出てきます。

特定のアイドルが死んでます。

グロ、エロは無いですが、仄めかす描写はあります。

書き溜めは無いので、書いた端から出して行きます。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1465162158

先生、さよーならー!」

「おう、気をつけて帰れよ、お前らーっ?!」



小学校の校門の前に立つ男性教師に笑顔であいさつしながら、小学生の集団が校門を走り去って行く。


その様子を少し離れた電信柱の陰から眺めていた人物が、
咥えていた煙草を地面に落とし火を踏み消した。


友達同士で談笑しながら笑顔で下校する子供達とそれを見送る教師は、
その跡をつけるコートの人影には気づいていなかった。

一人、また一人と子供達が自分の家に帰るために集団下校から離れていく。

最期に一番近所に住む少年が、

「じゃあなー、赤城ーっ」

と、手を振りながら去って行くと赤城ゆりあは一人になった。

一人になった心細さではないだろうが、足早に帰り道を急いでいると横断歩道の信号が赤へと変わり、
ゆりあは素直に立ち止まった。


信号が青に変わり、右、左、と安全確認。
その時、初めてゆりあは自分の後ろに立つコートの人影に気が付いた。


赤毛で長身のコートの人物、掛けられたサングラスの奥の瞳は心なしかジッとゆりあの事を見つめている気がした。


気のせいかと思い信号を渡り角を曲がってしばらく進み、
恐る恐る後ろを振り返ってみるとコートの人影はまだ付いて来る。


気味が悪くなり、大通りを走り向かいの通りに渡り、また戻り、
それでも付いて来た所で諦めてゆりあは足を止めた。

「…なにか私にご用ですか??」


周りに人通りが多い事を確認しながら、訝し気な表情でコートの人影に尋ねるゆりあ。 


手には親から渡された防犯ブザーが握られている。


父から特に言い含められて手渡され、
押した瞬間に大音量で鳴り響き、即座に警備会社に連絡の行く優れモノである。


それだけではない。ゆりあの体内に埋め込まれたICチップが連動して、
例え誘拐される様な事があっても、どこに居ようと彼女の居場所を知らせてくれる。


ここまで厳重な警備体制は、2020年も数年過ぎた現在でも尋常ではない。


ゆりあ本人も、そんな異常ともいえる監視体制を窮屈に感じた事が無いでもないが、
とある事情で娘にそうせざるをえない親心を、理解もしている。


ゆりあの誰何に、

「赤城…ゆりあちゃんだね??」

と、答え歩を進めるコートの人物。


警戒を解く事無く半歩足を引きながら、質問に頷くゆりあ。


そこで声を聴き、初めてゆりあはコートの人物が女性だと気が付いた。

よくよく観察してみると高い身長にボロボロのインバネスコート、おまけにサングラスと怪しさ満点だが、
目鼻立ちは整っており、同性のゆりあから見ても大変な美人だと言うのが分かる。


頭の赤毛は短くショートに切り揃えられているが、その魅力を少しも損なっていない、とゆりあは感じた。


その推測は、彼女が笑顔を浮かべながらサングラスを外した時に確信に変わった。

こんな変なコートを着て歩かなければ、街の男性の殆どは彼女の歩いた後を振り向くに違いない。

その女性はゆりあを見ると、感慨深げに顔を綻ばせ、


「ああ…本当に…お姉ちゃんに…みりあちゃんにそっくりなんだね…。一瞬息が止まったよ」

と、ゆりあに告げた。

その言葉に息が止まったのはゆりあの方だ。

彼女は、その名前がゆりあとその家族にとって、
どれだけ胸を塞ぐ存在なのか理解してその名を告げているのだろうか??


ゆりあは思わずぐっと自らの小さな胸を掴む。


そんなゆりあの気を知ってか知らずか、赤毛の女性は言葉を続ける。


「今日来たのは他でもない――その君の姉、赤城みりあちゃんの事なんだが……」


いやな予感がする、やめて、それ以上言葉を続けないで。


思わずゆりあは祈るが、赤毛の女性は無慈悲にも言葉を続けた。



「私の名前は安斎都――君のお姉さん…行方不明の赤城みりあの遺体を見つけるのに協力して欲しい―――」



ゆりあは手渡された名刺の住所に書いてあるビルの前まで行き、虚ろな表情でその三階を見上げていた。

安斎探偵事務所、と、ビニールテープの様な物で窓ガラスに書かれた文字を見つめた後、
もう一度名刺に書かれた名前に目を落とした。


安斎都、と名乗った女性はゆりあに要件と名前を告げた後、名刺を手渡し去って行った。

協力してくれるなら後日そこの住所を訪ねてくれ、と言い残して。

安斎都。 名刺にもそう書かれている名前を、ゆりあは家に帰った後自室のPCで検索してみた。


探偵としては検索には掛からなかったが、その名前はかなりの検索数が出た。


アイドルとして。


アイドルだったゆりあの姉、赤城みりあと彼女は同じ会社、346プロの同僚だったらしい。

かなりの人気だったようだが、五年ほど前に引退している。


アイドル時代のプロフィールを見ると、趣味は探偵ドラマ、推理小説を見る事、となっている。

趣味が高じて探偵になったのだろうか?


それはいい。
ゆりあには関係はないし、彼女の経歴にもさほど興味は無い。


しかし彼女、安斎都はゆりあには到底聞き逃せない要件を告げた。



十一年前、行方不明になった君のお姉さん、赤城みりあの遺体を見つけるのを協力してくれ、と。

そこまで調べたところでゆりあは、動画サイトにある自分の姉である赤城みりあの動画を再生した。

明るい歌声がとライブで踊る少女の画像がPCから流れてくる。



赤城みりあ、行方不明当時11歳。


当時346プロのアイドルの一人で、明るく元気なキャラでソロ・ユニット共に大人気のアイドルだった。


そんな彼女が十一年前、クリスマスライブの寸前に突然姿を消した。


リハーサル中に姿が見えなくなったみりあに気づいたアイドル達と、
プロデューサーをはじめとするスタッフ総出で捜索したがついに開場までにみりあは見つからなかった。

それだけではない。 
翌日になってもひと月たっても、みりあは家にも戻らず、皆の前にも姿を見せなかったのだ。


勿論、早い段階で失踪届けは警察に提出されていた。

しかし、一向に見つからず、七年が経過、赤城みりあは行方不明のまま死亡認定された。


トップアイドルの突然の失踪、当時は大変なニュースになり大いに騒がれたが、
11年経った今ではそのニュースが取り上げられるのは極稀だ。



残念ながらゆりあには11歳離れた姉の思い出は無い。
当時乳幼児だったので仕方がない話だろう。


ゆりあはネットに残されたPCから流れる動画と、
部屋の片隅に置いてある姿見に写っている自分を見比べてみた。



安斎都に言われるまでもなく――瓜二つと言えた。

たまに父と母がゆりあを見て、とても辛そうにしているのはそのせいなのかもしれない。

だからこそ、父母は姉の二の轍を踏まない様に、ゆりあの体にチップまで埋め込んだのだろう。


あの探偵――安斎都は、「みりあの『遺体』を探すのを協力しろ」と言っていた。


そう言うからには行方不明の姉、みりあの安否について何か情報を掴んでいるのだろうか。


父も母も今ではみりあの事を諦めてはいるのだろう。

だが、行方不明と言う宙ぶらりんの状態では
薄い希望を何時までも抱えて辛い人生を生きて行かなくてはならない。


それを見続ける事はゆりあには耐えられなかった。



残酷な結末を二人に告げる事になるかも知れない。


だが、あの父と母の顔の曇りを少しでも晴らせるなら……。

そう思い、ゆりあは渡された名刺に書いてある探偵事務所に、単身向かう決意を固めたのだった。

雑然と積まれた段ボールを避ける様にして薄暗い階段を登るとやけに達筆な字で、

【安斎探偵事務所】

と書かれた看板が目に入った。


縁が所どころ錆びた鉄のドアを押し開けると、
案外広いフロアーの片隅に置かれたソファーに、足を投げ出して横になっている都が居た。

都は入室して来たゆりあに気付くと、頭だけ起こしてやあ、と片手を挙げてゆりあに挨拶をし、

「そこにでも腰掛けて、待っていてくれ給え」

と、向かいのソファーに掛ける様に声を掛け、頭を掻きながら起き上がり隣の部屋に入っていった。

ゆりあが所在無げにソファーに座っていると、
しばらくして都は湯気の立ったマグカップを両手に持ち、ゆりあの元へ戻って来た。


勧められたブラックのブレンドコーヒーはゆりあには少し――大分苦かったが、有難く頂く事にした。


その苦さに四苦八苦しているゆりあの様子を見て都は、

「ミルクも砂糖も普段使わないものでね、済まない」

と申し訳なさそうに詫びながらコーヒーを口に運ぶ。


ゆりあは両手でマグカップを持ち、軽く頭を下げてそれに答える。

しばらく珈琲を口に運びながら無言で腰掛けていたが、やがてゆりあは遠慮がちに、


「あの…姉の事なんですけど…」と要件を切り出した。

「ああ、それなんだが――」

都は口に運んでいたコーヒーを口から離すと、

「……言い辛い事だが、君の姉、赤城みりあは――既に亡くなってると考えた方が良い。
勿論確証は無いが、この十年独自に事件を追ってきた私の、結論だ。」


都に断定的に告げられて、ゆりあは少なからずショックを受けた。

死亡認定は出されたとはいえ、ゆりあの両親はまだ少なからずみりあの生存を何処かで願っているし、
ゆりあもそんな二人を見て、姉は何処かで生きているのではないか?、
と想像を膨らませた事は、一度や二度ではない。

「失礼ですけど…あの…そう思う理由を伺っても良いでしょうか…??」

都は、探偵は、何を論拠にその様な絶望をゆりあに告げるのか。

どうしてもその理由が知りたいと、ゆりあは思った。


都は指を組むと口の前に持って行き、少し考え込み、

「そうだね、まず…、赤城みりあちゃんはどうやって会場から消えたか、と言う事について考えてみようか――」

そう告げると、都は一つ一つ、十一年前のクリスマスライブの当時の様子について、語り始めたのだった……。


タイトルに入れるの普通にド忘れしてました。申し訳ない。次から気を付けます。

201x年、12月24日、都内の某公会堂は開場前から熱気に包まれていた。

346プロのトップアイドル達が一堂に会するイベントに開場の外で待つファンは勿論、
演者であるアイドル達もテンションは最高潮。

リハーサルにも熱が入っていた。

都は舞台の袖でトップアイドル達を憧れの眼差しで眺めていた。

残念ながらステージに立つ選抜には漏れてしまったが、裏方として働いている。

その都の視線の先に赤城みりあは居た。

舞台に立つメンバーの中で一番年下ながらも強烈な存在感を放ち、このリハーサルでも絶好調。

クリスマスライブでもきっと、抜群のパフォーマンスを発揮するだろう、と都は思った。


「みりあちゃん、お疲れさま!!」

休憩時間になり舞台の袖に戻って来たアイドル達に、タオルと飲み物を渡すのが今の都の仕事だ。

「都ちゃん!ありがとー!!」

満面の笑顔でタオルを受け取り気持ちよさそうに顔を拭くみりあ、
都はこの屈託のない年下のトップアイドルの笑顔が大好きだった。

みりあは都よりはるかに人気アイドルで、芸歴でも大分先輩なのだが、二人はそれを超えて良い友達だ。


都はその時見た友達の満面の笑顔が、みりあが自分に向けた最後の笑顔になるとは、その時は知る由もなかった。


なぜなら、リハーサルが終わり一時休憩として解散した後、会場の時間が近づいてもみりあは姿を現さなかったのだから。


スタッフ達は騒然となり、総出でみりあを捜索した。

当時から探偵アイドルを自認していた都も率先して捜索に加わったが、みりあの姿は影も形も見当たらなかった。

当時都が警察が来るまでに警備員達に聞き込んだ所によると、


アイドル、スタッフをはじめ、人の出入りは激しかったが、赤城みりあは出てこなかった。
小学生が出入りすれば流石に気づく。間違いない。

荷物の出入りも有ったが、人が入れる様な物は殆どなかった。またはチェック済み。

見知らぬ人物は一歩たりとも通していない。IDカードを持つ人物とその同行者以外通してはいない。

との事だった。

後に都が警察に告げて、警察が裏を取ったものの、事実だった。


と、なると赤城みりあは会場から去っては居ない事になる。

警察がライブ終了後に、100人体制で会場の隅から隅まで。それこそ屋根裏天井、配管下水まで念入りに捜索した。

それでも見つからず、警察は公開捜査に踏み切った。

それにもかかわらず赤城みりあの行方は杳として知れなかった。

都もアイドル活動の傍ら、いや、もしかしたらそれ以上の熱心さでみりあの行方を追った。

探偵アイドルの矜持ではなく、ただ、悲しむプロデューサーや仲間のため、そして何より友達であるみりあの為に。


しかし、結局は見つからずに7年が経過。赤城みりあは死亡認定が出された。

そのほぼ同時期に都はアイドルを辞めた。 会社はまだまだやれる、女優やモデルの道も十分ある、と引き留めたのだが、
都には眼中になかった。

7年前から感じている無力感から逃げない為に。何処かで待っている友達を救うために、都は探偵になった。


「以上が十一年前の顛末だ。」都が俯いて辛そうに呟く。

未だに彼女の中では消化できない過去なのだろう。


ゆりあは都の説明を受けて、顎に手を当て考え込む。

「それって…おかしくないですか?? それじゃあ、姉はどうやって会場からいなくなったんですか??」

どう考えてもおかしい。みりあはどうやって会場から消えたのだろうか?



それともまだ会場に居るとでも言うのだろうか。十一年間誰にも見つけられずに会場に佇む姉を想像して、
ゆりあは背筋がゾッと凍り付いてしまう。

その様子を見て都は、

「いなくなったんじゃない、連れ去られたんだろうね」

と、告げた。

「しかもその段階で十中八九、意識不明乃至遺体となっていたんだろうね。みりあちゃんは責任感のある子だったし、
ライブにとてもやる気を見せていた。直前に誰にも告げずに黙って会場から姿を消すことに同意するとはとても思えない」

都は確信めいた眼つきで断定した。

「さあ、そこで再前提になる出来事が一つある」

都はソファーに深々と掛けなおし、天井を見上げながら指を一本立てて呟いた。

「再前提??」ゆりあが聞くと、

「そう、何でイベントの寸前に、
それもわざわざ監視の目が大量にあるあのタイミングで、みりあちゃんを連れ去る必要があったのか、と言う事」

「可笑しいと思わないかい? 誰も目の付かない場所や深夜とかに実行すれば、連れ去るにしても害するにしても、
容疑者は圧倒的に大量になる。疑いも逸らせるだろう、犯行が発覚する時間も稼げる。」

「なのにわざわざ犯人は監視の厳しい、発覚する時間も短い、容疑者がかなりの範囲で限定されるイベント寸前に実行した。」

「確かにそうですね…でも、何ででしょうかね??」

「さて、それは犯人の動機にもよるよね。 みりあちゃんをライブに出したくなかっただけかもしれないし、
何らかの愛憎が絡んだのかもしれない。 ただただ、邪魔だっただけなのかも…」

そう都が語るのを聞いて、ゆりあは俯いて都に聞いた、


「姉は…他の人達に…例えば他のアイドルの人達に嫌われていたんでしょうか…??」

尋ねるゆりあに、都は、

「まさか。 それは無いって断言できるね。 明るくて元気な子でね、みんなに好かれていたよ。
どんなへそ曲がりなアイドルでも、彼女を嫌ってた人なんて居なかったと断言できるよ」

「じゃぁ、何故…」

「突発的にみりあちゃんを排除する必要に迫られた、と推測されるね。」

「排除・・・」

「そう、何らかの理由で、ね」

「でもね、犯行が可能だった全員にみりあちゃんを害する動機が極めて薄いんだ。
さっきも言っての通りみりあちゃんはみんなに好かれていたからね?
私もこのメンバーの中にみりあちゃんをどうにかする人物がいるなんて考えられないよ。」


言うと、都は立ち上がり、部屋の隅にある棚から一冊のファイルを取り出し、ゆりあの前の机に置いた。

「このファイルの中に、私と警察の調査で当時犯行が可能だった人物のデータがまとめてある。弱いながらも一応、
動機の推測もね」


このファイルの中に・・・。

ファイルを手に取りページを捲るごとにゆりあの体が震えた。

一人目はプロデューサー。
 
みりあをはじめ幾多のアイドルをトップアイドルに押し上げた敏腕プロデューサー。
当時はみりあの才能を見出し、掛かりきりでトップアイドルに押し上げた。

みりあも深く信頼を寄せて懐いていたが、彼女の無邪気さの余りに、
少し距離が近すぎるのではないか、と周りに思われプロデューサー本人も気にしていたようだ。

事件当日はライブの準備で常に誰かしらスタッフ、アイドルを帯同。

ライブ最中に緒方智絵里が転倒、靭帯を痛める。
その際に背中に背負い近所の病院に搬送。
ライブ終了まで戻らず。


二人目は渋谷凛。

超人気ユニット『ニュージェネレーションズ』の一員で、346プロの頂点の証でもあるシンデレラガールにも
選出された事もある掛け値なしの超トップアイドル。

歌唱力に裏打ちされた人気も実力も抜群。

ただ、自分をトップアイドルにまで育ててくれたプロデューサーが、みりあのソロデビューに
掛かりきりになり、疎遠になった事の不満を周りに零していた。

プロデューサーを奪われたと感じていたのかもしれない。

三人目は島村卯月 超人気ユニット『ニュージェネレーションズ』の一員。

養成所で長年下積みを積み、デビュー後も苦労を重ねた努力派。
遅咲き故に11歳で超人気アイドルまで駆け上ったみりあの事を、眩しく思うとインタビューで答えていた。

遥か年下のみりあがスターダムを駆け上がって行くのを見るのは、内心穏やかじゃなかった筈。


四人目は本田未央。

超人気『ユニットニュージェネレーションズ』のリーダー。

明るい性格だが最近、パッションの枠でみりあに仕事を取られることが増えていて悩んでいた。

プロデューサーがほぼみりあ専任になるとその傾向は更に顕著に。

みりあの事絡みでプロデューサーと激しく口論になっている所を他のアイドルに目撃されている。


以上三人は、某テレビ局のクリスマス生特番とダブルブッキングしてしまった為に、
3時間ほどテレビ局まで移動、ライブ会場から離脱。

その際、衣装等を運ぶために三人ともかなり大きなスポーツバッグを所持。

フィナーレの直前に戻り、再度ライブに参加。終了後、みりあ捜索に関わる。

四人目は輿水幸子。

カワイイに拘りのあるアイドルであり、みりあの事をライバル視していると常々公言していた。
周りはいい意味に取っていたが、悪い意味に取ると疑いが増す。

当日は紐に吊るされて会場を飛び回る、と言うドッキリの為に、常に準備スタッフを帯同。

 
五人目、緒方智絵里 デビュー時より面倒を見てくれたプロデューサーに精神的に依存しており、
プロデューサーがみりあのソロデビューに掛かり切りだった事により、精神的に不安定に。

当日、ライブでも集中力を掻き、転倒。

足を激しく挫き、プロデューサーに背負われ病院に運ばれる。

大事をとってテーピング、ライブ終了後、タクシーにて会場に駆け付ける。


六人目は諸星きらり。

みりあと後述の城ヶ崎莉嘉と共に『凸レーション』と言うユニットを組む。

みりあをとても可愛がっていたが、186cmと言う長身故に、
他のメンバーとの余りの身長差に常々悩んでいたと言う。

みりあのソロデビューが決まってから、ユニットとしての活動は放置気味。
ソロでの売り出しも決まってないので、最近はレッスン場で一人寂しく佇んでいるのを目撃されている。

私だけ何故、と言う思いも有ったかもしれない。

 
七人目の双葉杏は、サボり癖のあるアイドルである。

レッスンをサボる度に、仕事に積極的なみりあを引き合いに出されて、
プロデューサーに説教され、うんざりしている、と周りに零していた。


この二名は、会場外にある主に年少組中心の野外イベントに使う着ぐるみを
、会場内から箱に入れて運んでいた。

着ぐるみはかなり大きめの箱に入っていて、それを持ち運んでいた。

きらりが箱を持ち、杏は肩車されていた。


八人目と九人目は城ヶ崎美香、利香 

姉の美香は姉同士と言う事も有りみりあと仲が良く、彼女とは姉同盟を組み良く行動を共にしていた。
が、時折、みりあを見る目に危険な目と言動が重なった事が多数目撃されており、
執着と言う意味では一番疑いが掛かる。

利香はそんな姉を呆れた目で見ていたものの、時折仲の良い二人を寂しそうに見ていた。。

姉を取られたと思っていたかもしれない。


二人は、ライブの休憩時間にも折を見て、頻繁にみりあを探していた。

会場外にも出ていた回数は関係者中最も多く、ライブ終了後も合わせると系12回。

手持ちの荷物はハンドバッグやトートバッグくらいだった、と目撃した警備員からの証言。


ファイルを一通り目を通して、ゆりあはため息をついた。

どの記述を見ても、誰を見ても疑わしく思う。

ファイルの性質がそうなのだろうが、疑問点や不審点も書かれているので誰を見ても犯人にみえてくるのだ。


「どうだい?一読した感想は??」

都が珈琲を口に運びながら、ゆりあに感想を聞いた。

ゆりあは軽く首を振り、わかりません、と呟いた。

しかし、

「でも…一つだけ気に掛かったことがあります」

と、だけ答えた。

「何かな?」
都が興味深そうに尋ねた。

「みんな、必ず誰かと一緒に行動してますよね…??」

ゆりあが言うと都は深く頷き、

「そう、その通り。だからこそ――」

「単独犯ではありえない。 必ず誰かがパートナーと組んで嘘をついている」

と、天井を見上げて呟いた。

「嘘・・・ですか・・・」

その嘘をついている人間が、姉を――赤城みりあを連れ去った犯人――

ゆりあは俯き、拳を膝の上でギュっと握った。


「そう、その嘘を暴きたいからこそ」

都は珈琲をテーブルに置き、ゆりあの目を真っ直ぐに見つめてこう言った。




「ゆりあちゃん、君に協力を頼むんだ」




「お疲れ様です。REINAさん、今回の収録でオールアップになります!!」

「お疲れ様です!」 「お疲れ様ー」 

小関麗奈がREINAと名前を変えて三年が経つ。

名前を変えてアイドルから女優の方へ軸足を移してから、初めての自分の主演映画のオファーを貰った。

即答で飛びついたその映画の撮影が全て終わり、
他の出演者達の拍手を受け、花束を渡されてスタジオを後にしたのは、24時を軽く過ぎた頃であった。

俗にいうてっぺん過ぎる、と言う奴だが、幸い映画に掛かりきりだった今は他に仕事も入っておらず、
明日からはしばらくオフだ。

とりあえず疲れを癒す為に明日は昼過ぎまで寝よう、その後はゆっくり温泉でも行こうか。


…そう考えてマネージャーが回して来る車を待つ為に駐車場に向かうと、
そこには見たくもない顔の人物が佇んでいた。

安斎都――


昔のREINAの同僚アイドルであり、今は引退して探偵をやっているらしい。

とりあえず疲れ切った今相手にするには、途轍もなくしんどい相手だ。


咥え煙草にボロボロのインバネスコート、サングラス、と、何処から如何見ても不審者だ。

撮影所の警備員は何を考えてこの人物を通したのだろう。


後で抗議をしとかねば、とREINAは思った。


不快な表情を隠そうともしないREINAに一切構うことなく歩み寄って来た都は、
やぁ、と片手を上げて挨拶すると単刀直入に要件を告げてきた。


「赤城みりあちゃんの件だけど――」


また始まった。
REINAは忌々し気に舌打ちをした。

この探偵気取り、いや、探偵にはなったのか。 まあどちらでもよい。
は、この十年と言うもの、REINAと顔を合わせる度にその事を訪ねてくる。

REINAも最初は真摯に対応していたが、
何度も繰り返し来られると流石にキツい。


「貴女ねぇ・・・そう何度も来られたって同じことしか言えないわよ?? 
前にも言ったけどアタシのコト疑ってるの??アタシがみりあをどうにかしたって」


腹が立ってくる。 
私だって十一年前の出来事にはショックを受けた。
みりあは年下なのに私より売れててシャクだったけど、それを抜きにしてもすごくいい子だった。


そんな子が居なくなって悲しいのに、警察やこの探偵もどきには何度も犯人まがいの尋問をされ、
悲しみの心を土足で踏み荒らされた。

アイドルの中で一番みりあに突っかかっていたのは自分だって。

ふざけるんじゃない。


確かにみりあの事はライバル視はしていたけど、一度も憎いと思ったことは無い。
寧ろ仲は良かった。


友達…だと思っていた。


そしてその時の屈辱と、悔しさ、やる瀬無さを、この探偵もどきが来るたびに思い出す。思い出さされる。


「三年くらい前に大モメして、その事は蒸し返さないって話にならなかったっけ??また警察呼ばれたいの??」


そうなのだ、三年くらい前に来られた時には流石にキレて警察沙汰にまでなったのだ、

その時にもう近づかない、と約束はした筈なのだが。


いいかげんにしてよ、と叫びかけた所で、都はREINAを手で制して言った。


「ああ、いや、事件の事じゃないんだ、少し気になることを耳にしたもので…」

「気になる事・・・??」

何時もは当時の様子を掘り探る様に何度も聞いて来る都が、別の話を向けてきたので思わず聞き返してしまった。

ああ、もう。 こんな探偵もどき、一分だって相手にしたくないのに。

つか、何をしてるんだろか、あのクソマネージャー。
車回してくるだけでどんだけ時間かかってるのよ、もうクビよ、馘首。

そうREINAが思っていると、都は意外な事を聞いて来た。

「最近、君の周りで変わった事・・・なかったかい??」

「ハァ?? 変わった事??無いわよ。 
 おかげさまで仕事も順調ですケド、貴女も随分景気良さそうね??」

そんなREINAの嫌味を気にも介さず、都はつづけた。

「最近ね・・・出るらしい。」
「なにがよ??」

「当時のアイドルの周りにね・・・赤城みりあの亡霊が……」

都は声のトーンを落とし、不気味に陰鬱に告げてきたが、
REINAはそれにも構わず、思わず吹き出してしまった。

「あ、あははっ!亡霊!? みりあの??あははっ、バカじゃないの!?、貴女、そんなの信じてるの??」

REINAはお腹を抱えて心底、笑い、この探偵もどきをバカにした。


「貴女、探偵じゃなくて拝み屋にでもなったの??はー、アホらし。」


こいつもヤキが回った、とREINAは思った。よりにもよって亡霊て。


それでも表情を崩さない都。
おいおい、大丈夫ですか。いい病院でも紹介してあげようか?? そうREINAが言い掛けると、

「いや…、心当たりがないならいいんだ…幽霊でもね、会えるものなら会いたいと思ったものだから……」

そう俯いて呟くので、REINAも思わず黙り込んでしまう。


二人の間に無言の間が続く。


すると都は吸っていた煙草を踏み消して、邪魔をした、
と、それだけをREINAに告げて、そのまま振り向き去って行った。

…ちょっと悪いことしたかな。

長年事件を追っていて病んでしまったのかもしれない。
昔の仲間だし、いずれ機会を見つけて気晴らしに誘おうか。


そんな事をREINAが考えてると、マネージャーが慌てて車を回して来た。

どうしてもバッテリーが上がったまま直らず、通りすがりの人に直してもらったらしい。


平謝りのマネージャーに一通り思いつく限りのの罵倒を浴びせ、REINAは後部座席にどかり、と座り込んだ。

フカフカのシートに深く腰掛けながら、深く深呼吸して考え込む。


それにしても亡霊――。

一笑に伏したが、内心ではREINAは気が気ではなかった。


勿論、この時代に亡霊でもないと思う気持ちはあるが――



何処となく不気味だ。

マネージャーに家に送ってもらうと、REINAの自宅のタワーマンションについた。


最上階には2フロアしかなく、もう一部屋は海外の弁護士の別宅らしく、住人は殆ど見かけない。


郵便受けを覗き込み何も無いのを確認し、
入口からエレベーターホールまで廊下を歩くと、唐突に明かりが消えた。

奥まった廊下は閉鎖空間で、光取りの窓も無く真っ暗闇で何も見えない。


「ちょ、ちょっともう!! なんなのよ……」


悪態を付きながら壁に手を付き、スマホのライトを付け、手探りで進むと廊下の曲がり角に差し掛かった。


角を曲がりそのまま進むと、真っ暗な廊下に何か違和感を感じる。



暗闇の廊下の隅に何か「居る」気配がする。



悪寒に背筋がゾッと冷える。思わず竦んだ足で其方をみると、
何と廊下の暗闇の中に女の子が一人、蹲っていた。


見た瞬間、REINAの体が凍り付く。


ああ、そんな。


スマホの明かりで照らされたのはなんと、暗闇の中で蹲っていたのは。


間違いなく、赤城みりあ、だった。

ガタガタと震えるREINAの手中のスマホのライトに反応し、少女が顔を上げる。


ライトに照らし出されたのは、あの時のままの姿、あの時の髪型、・・・・あの時のステージ衣装。


ただ、その眼球はライトの光を返すことのない漆黒の暗闇、そこから大量の血の涙を流している。


この世の物とは思えない怪奇現象に、恐怖に震えながら、
REINAはなんとか喉の奥から言葉を絞り出そうとする。

「みっ・・・みり・・・っ」

が、恐怖で歯がガチガチ鳴り、全く声が出ない


そうすると、みりあはゆらりと立ち上がり、フラフラとREINAの方に歩みながら、

「麗奈ぢゃぁぁああん、寒いぃぃい”ょおお”、さびじぃよぉぉおお””」


と、絞り出す様な叫び声を挙げた。

ああ、みりあだ。苦しそうに濁った声だが間違いない、あの頃聞いた、みりあの声だ。


そこまでで限界だった。

あまりの恐怖に付いていけなくなった脳が神経に救いを出したのか、
REINAの意識はそこでプツリと途絶えた。




どさり、とREINAがその場に崩れ落ちると、パカパカッと二、三度点滅して
エレベーターホールに明かりが灯り、通路の角から都が歩み出て来た。


「迫真の演技だったよ、 ゆりあちゃん」

と、通路に佇むゆりあに声を掛けた。

「ちょっと、やりすぎちゃったかな・・・??」

黒目のコンタクトレンズを外しながら、床に横たわるREINAを見てゆりあが呟く。


「亡霊なんか信じてないそうだから、丁度良かったんじゃないかな??」

と、爪先でREINAをツンツンつつきながら、都が答える。


どうやら、先程の遣り取りを割と根に持っていたらしい。


「まあ、これで大いに騒いでくれれば、細工は流々と言う訳だ。
その点においては間違いの無い人選だと思うけどね」

そう呟くと都は、横たわるREINAに向かって二ッと笑った。


「さあ、それじゃあ次のアイドルの所へ行こうか。あと二、三人にもやれば望み通りの展開になると思うよ」

「うん、わかった…」

言うと都は、横たわるREINAにぺこりと頭を下げたステージ衣装のゆりあを伴い、
エレベーターに乗ってマンションから立ち去った。


寒空のエレベーターホールに横たわるREINAを置き去りにして。

翌日から、346プロのアイドル達の間には静かな動揺が走っていた。


事務所の中に不気味な噂が流れているからだ。


十一年前に失踪したアイドル赤城みりあ。

その亡霊が346プロのアイドル達の前に、次々と現れているというのだ。

良くある怪談話の一つと笑い飛ばせないのは、目撃したアイドルが一人や二人では効かないからである。


中でもREINAなどは、実際に遭遇して襲われた、と、何故か鼻水を流しながら皆に触れ回っており、
今ではみりあを見た事もない幼少のアイドル達にまで、恐怖の対象となっている。

そんな中、今日も練習の為にレッスン場に入って来た本田未央を呼び止める、一人の人物が居た。

「未央ーっ、こっちこっち!!」

レッスン場の真ん中に立ち、神谷奈緒と談笑していた北条加蓮が、
こちらに歩いて来る未央を見つけ、呼び止めたのだ。

「久しぶりーっ、元気だった!?」

「うん、元気だよーっ。 あ、しぶりんもしまむーも、ちょっと用が有るらしいけど、後から駆け付けるよ!!」

互いに手を握り合い旧交を温める。


加蓮も奈緒も、二十代を半ばも過ぎるといかにもアイドルな活動は減り、
最近では主に女優、バラエティの活動が多い。


だが、今でもアイドル時代の同僚との関係は良好だ。

先年、アイドル部門十周年のイベントで頻繁に顔を合わせたので、それほどの懐かしの再会と言う訳ではないが、
情報交換の意味を込めてお互いに近況を語り合っていた。


すると、

「いやー、しかし、何か大変な事になってきたねぇ…」

と、未央がワザとらしく腕を組んで発言してきた。


「みりあちゃんの・・・ことだよね??」

加蓮がぽつりと答えると、

「ぼ、亡霊とかふざけた話だよなぁ、そんな事でわざわざ騒がれてもさぁ!」

と、奈緒が強がってみせた。

それを見て加蓮が、

「でもさ、麗奈も見たって専らの噂じゃない?? それに他にも見た人が居るって言うんだし、ほら・・・」

言いながら、加蓮はレッスン場の片隅に固まるグループを指さした。


REINAをはじめとする一団が青い顔を通り越して、白い顔になってボソボソと語り合っている。


「みりあちゃんを…目撃したって人達か・・・」


奈緒が見た所、皆一様に怯えたような顔をして、とても演技には見えない。


輪になってそんな会話を交わしていると、地味目の私服を着込んだ城ヶ崎莉嘉が、

「みんな、おはよー……」

と、低めのテンションで挨拶をしながら、輪の中に加わった。

「おはよーっ……どしたの、莉嘉ちゃん、顔色悪いよ??大丈夫??」
「うん、平気……」

最近莉嘉は、姉から受け継いだギャル路線が年齢の問題も含め、そろそろキツくなってきた事も有り
路線変更を希望している。

だからこその地味目のファッションなのだが、
それを加味しても、今日の莉嘉はなんだか何時も以上にくすんで見えた。


その表情が優れないからだろうか。


莉嘉はみりあとユニットを組んでいたこともあり、
一番と言っていい程みりあと仲の良かったアイドルである。


無責任に社内に流される噂に、内心は心中穏やかでは無いようだ。

それが顔色にも表れて居るのだろうか。

そう思い、気を使いながら莉嘉と話をしていると、未央が何時もとは違う違和感に気付いた。

トップアイドルになった今も姉妹一緒に暮らしていて、
出勤は何時も莉嘉と一緒の筈の、城ケ崎姉妹の姉の方、美香が居ない。

「あれ??美香姉は??」

と、未央が気付いた事を尋ねると、
梨花は呆れた表情で、深いため息をつき、

「お姉ちゃんさ…、私もみりあちゃん見るんだ―、って……。
通販で、幽霊の見えるって怪しいゴーグル取り寄せて、そこらじゅう探し回ってる…。
昨日なんて、一晩中変なゴーグル付けて部屋の中ウロウロしてたんだよ……」

遠い目をしてあらぬ方向を見つめた。

「何というか……何年たってもブレないね、みかねぇ…」


乾いた笑いが一同を包んだ。


「でも、まあね。 会える物なら私も会ってみたいけど……」

「うん……」

それぞれに思う所が有るのか、一同の中を沈黙が包む。





そんな一団を、遠巻きに見つめる二つの人影が有った。





二人は、物陰に隠れながら小声でひそひそと呟き合っている。



「話題になってるみたいですね…みりあちゃんの事……」

「うん……」

「やっぱり、あんな所に埋めたから寂しがってるんですよ……」

「何をバカな事を……」

「だって、何人も見たって…っ!寂しいって叫んでたって……っ!!」

「落ち着いて、何かの間違いだよ、死者が生き返る訳がないよ…」


さっきから似たような会話を何度も繰り返している。

先程から話を否定している人物は、そろそろ有りもしない話を続けるのにうんざりしてきた所だ。

それに、長々と話を続けていると、誰かに目を付けられるかもしれない。

必要以上に二人の関係が知られるのは不味い、話を否定していた人物がそう考えていると、
泣き言を語っていた方の人物がとんでもない事を言い出した。


「……ねぇ、確認に行きませんか……?? みりあちゃんの死体…」

「……本気で言ってる…??」

話を否定していた人物が、呆れた様子で問いかける。
この十一年、全く発見されていない場所に埋めたのだ、それを確認する必要など皆無である。

そう説明するが、泣き言を語る人物は一向に聞き入れない。

「掘り返して、暖かい、もっと良い場所に移してあげるだけですよ…、
それに本当に化けて出てたら、そこに死体が無い訳ですから、亡霊が本物かどうか分かるでしょう……っ!?」


声を荒らげ始めた人影にもうひとりの人物が、もっと声を抑えるように言った。

「落ち着いて、正気とは思えないよ…??」

「だって夢に出るんです!!毎日毎日!!みりあちゃんが!! 私を責めてる目で睨んで立ってて!!
恨めしそうに………っ…!! もう良いですっ!! 場所は解ってますから一人で行きますっっ!!」


一人の人影がひどく興奮した様子で立ち去ろうとする。


もう一人の人物が落ち着かせるように相手の肩を掴み、言い聞かせる様に言った。

「これが誰かのトリックだとしたら、誰かが行動を起こすのを待ち受けてるのかも知れないよ??」

「……でもっ……」

尚も渋る人影に、もう一人の人物が諦める様に頷いて言った。

「………わかった、同行するよ…」

「本当ですか!? 良かった……本当は、一人じゃ不安だったんです……」

少し俯いた人影が、初めて嬉しそうに微笑した。

「……別にいいよ…、じゃあ行く時になったら連絡するから…」

「分かりました、連絡待ってますね…」

幾分落ち着いた様子で立ち去った人影を見送ったもう一人の人物が、
去って行く背中を見つめながら、こう、呟いた。


「そろそろ………邪魔になってきたかな……??」

三日後、二人は待ち合わせた場所で合流して車にシャベルを二本積み、死体が埋まっている山へと車を走らせた。

車は足が付かない様にコネで手に入れた、偽名で借りたレンタカーである。


二人はずっと無言だった。 

それも当然だろう。

これから死体を掘り起こしに行こうと言うのだから、当然愉快な訳がない。

話が弾む筈もない。



車を運転している人物は、助手席に座って俯いてる人物をチラリと横目で見て軽く舌打ちした。

元々精神的に脆い所が有るが、これほどだったとは。


それにしても、と運転手は思う。

死体が蘇る??化けて出る?? バカな事を。そんな事有る訳がない。

三文ホラー映画でもこのご時世、そんなベタな話は作らない。


それなのに、この助手席の人物はそれを全く解っていない。

有りもしない事を恐れ、わざわざ自ら危険を犯そうと言うのだ、まるで理解出来ない。

色々役に立ってもらったが、そろそろ潮時かも知れないな。
改めてそう思った運転手は、上着の内側に仕舞い込んである幅広のナイフにそっと手を添えた。


そうこうしている内に山の麓へと到着した。

ここまで来るのに、万が一の尾行を警戒して三度、意味も無く遠回りをして、
隠れる場所の無いロングストレートで後方を確認し、尾行が有るかどうかを入念に確かめた。


結果として尾行者の影も形も無く、安心してこの死体を埋めた山へと車を向けたのだった。


しかし、解せない。 
尾行者の影も形も無いとは、赤城みりあの亡霊とは一体なんだったのだろうか。


運転手が想像していたのは、警察かどこかの週刊誌が、犯人を炙り出すために子役かなんかに金を払って雇い、
みりあの真似をさせて騒ぎを起こし、容疑者が泳ぎ出すのを探っているのか、そう思っていた。

しかし、一応容疑者にも数えられ、何回か警察に尋問を受けた運転手にも助手席の人物にも、
尾行らしい尾行を張り付けてない。

運転手の思い過ごしだったのだろうか?? しかし、それなら亡霊騒ぎは何のために??


運転手は用意をしながら考え込む。

まさか亡霊は本当に居るのか――??

この先で遺体を掘り返してみて、もしそこに死体がなかったら……

もしや本当に死体が這い出して動いていたら……


不気味な想像に囚われた運転手は、悪寒にブルッと体を震わせると、その考えを振り払う様に頭を二度三度振り、
気を取り直すようにレンタカーからシャベルを二本取り出した。

一本を助手席の人物にも持たせ、共に歩いて山奥を目指す。


ココから更に徒歩で二十分程、人など殆ど立ち入らない正に秘境とも言える場所だ。

十一年前は死体を背負いながら歩き、大変苦労した覚えがある。


万が一にも見つかる訳にはいかないので、必要な苦労では有ったのだが。

しばらくすると見覚えのある大岩が目に入った。
何かあった時の為に、埋めた場所を忘れては困るので目印にしてた大岩だ。


あそこの岩の手前に、赤城みりあの死体は埋まっている。


埋まっている筈だ。


十一年前に掘り返した跡は、草に覆われて綺麗に隠れているので、
だいたいの場所に検討を付けて、もう一人の人物と頷き合い、シャベルで掘り始めようとする。

地面にシャベルを添え、最初の一突きを入れる為に足を掛け、
体重を載せて地面に突き刺そうとした所で――


「みりあちゃんは、其処か――」


唐突に聞こえた第三者の声に、二人のシャベルを持つ手が驚きと共に止まる。


「大分苦労させられたが……、どうやらエンドマークは近そうだな――??」

声をした方に振り向くと、そこには赤い髪のコートの探偵、安斎都と、今、掘り当てようとして居る筈の死体、
赤城みりあが、自分達二人を睨み付けていた。

思わぬ驚愕に目を見開く二人。


「み、みりあちゃん…っ!!」

「みりあ……お前何故っ…生きてっ…」

絶句する二人を尻目に、冷静に歩み寄ってきた都がコートから煙草を取り出し、口に咥え火を点けた。

「それにしても…」ゆっくりと煙を吐き出し、二人を眺めながら都が呟いた。


「こうして目の当たりにした今でも、信じたくはないよ……、君達が犯人だとは…」


「プロデューサー」

「緒方智絵里君」


名指しされた二人の表情が、苦々しげに歪む。

しかし、犯行が発覚した事以上に衝撃だったのか、二人の視線は都の後ろに居る一人の少女に釘付けだった。

それに気付いた都が、

「ああ、紹介が遅れたね。 彼女は事件の捜査に協力してくれている、みりあちゃんの妹……、赤城ゆりあ君だ」

二人に名を告げられたゆりあが、無言のまま一歩進み出た。
その瞳は依然、二人を強く睨み付けたままだ。


その言葉を聞いて、プロデューサーは、

「そうか…っ、妹…、そういえば居たな……」と、失念していた事を悔いる様に呟いた。

「妹…?? みりあちゃんじゃない……??」

智絵里の方はみりあの妹の存在を初めて知るのか、ゆりあの名を聞いても呆然とした様子だった。


その様子を見て都が淡々と呟く。

「事件を解決する決め手に欠けてた私は、みりあちゃんの年頃にまで成長した彼女に協力を要請してね?
ひと芝居打って貰ったんだよ」

「まあ、犯人から何らかの動揺した行動を引き出せれば儲け物、と思って行動していたが…、
こんなに上手く行くとはね……」

その都の言葉を聞いて、プロデューサーが智絵里の方を向き、憎々しげにキッと睨みつける。

コイツだ、コイツのせいだ、俺はトリックだと気付いていたんだ、
コイツが訳の分からない事さえ言わなければ。

そう言う怨念を込めた鋭い視線が自分に向けられている事に気づき、
智絵里がひっ、と短く悲鳴を上げ、一、二歩後ずさった。


それを見た都が、

「智絵里君を責めるのは間違っているよ?? 寧ろ今、君達が此処まで追い詰められているのは、
どちらかといえば君の方に失態の原因が有るのだから」

と、プロデューサーをやんわりと窘めた。

「俺が…?? 何故っ??」

心底意外そうにプロデューサーが都に問うが、

「…私たちがどうやって君達の後を追ってきたと思う……??」

と、都が逆に尋ね返してきた。


そういえばそうだ、俺は何度も尾行が無いか確認した筈だ、確かに尾行は無かった。

それなのにどうやって…。

プロデューサーが頭を悩ませている様子を見て、都が、

「君達がみりあちゃんを連れ去った事で、ご両親は深く嘆いてね…。
妹であるゆりあちゃんが同じ目に合わないように、体にマイクロチップを埋め込んだんだ。
1cm四方も無いのにGPSで探知できるすぐれ物でね、私も参考にさせて貰ったよ」

まさか。

慌ててプロデューサーが自分の体を弄る。

気付かない内にマイクロチップを付けられて居たとでも言うのか。


その様子を見た都が手にした煙草で上着を指し示し、

「スーツのジャケットの胸ポケットの裏だ。クリーニングに出された時、飲み屋の席に無造作に掛けられてた時、
仕掛けるチャンスは無数に有ったよ」

「何時もと違う格好で出かけて怪しまれないように、スーツで来たのが災いしたようだね?
GPSが使えたので、見つからないように遠く離れていても楽々尾行できたよ。 
…まぁ、私服で来られても対処のしようは幾らでも有ったがね??」

そこまで言って都は、手にした煙草を再度口に運んだ。


都の言葉を聞いて、ワナワナと震え、視線を地面に落として俯いていたプロデューサーが、

「それでもっ……、亡霊なんてバカな話に釣られて、ノコノコとこんな所に来なければっ……」

と、呪う様に呟いた。


「確かにね、決め手に欠けていたのは事実だ。」

都はプロデューサーの言う事に頷き、素直に認めた。

「実は、早い段階で君達が犯人じゃないか、とは思っていた。……信じたくはなかったけどね」

「でもね、君達しか居ないんだよ『赤城みりあを会場から連れ出せた』のは」


都は、犯人二人に断定するように告げた。


「君達は容疑者は全員、それぞれ個人にはお互いの証言によって強固なアリバイがある。
しかし、行動を共にしてた人物同士が共犯ならどうだろう、と私は考えた」

「まず、容疑者の内、幸子くんは常に周りをスタッフに囲まれていた。
彼等が全員共犯とは考え難い。しかもそもそも会場外に出ていない、まず除外」

指を一つ折る。

「次にニュージェネの三人と城ヶ崎姉妹だが……、一見不可能に見えるが、
会場でみりあちゃんを殺害してと仮定するなら話は違ってくる」

「遺体を現場でバラバラに切断すれば、ニュージェネは三人で分けて、
城ヶ崎姉妹は何回にも分けて運び出せば理論的には可能だ」

「しかし、現実的にはそんなに簡単にはいかない。人体の切断なんて大変な労力を必要とする。
大根を切る訳じゃないんだ、スキルも要るし、そもそも場所も時間もない」

「おまけに人形とは違って、人体は切断すると大量の血が流れる。 
会場内で奇跡的に大勢のスタッフの目を盗み、人体切断に成功したとしても、
流れ出す大量の血液は如何しようも無い」

「シャワールームの様な血液を流せる場所で切断を実行したとしても、
ルミノール反応を始めとする警察の捜査の目を掻い潜るのは不可能だろう、よってこれも除外」

更に指を二つ、三つ、と折る。

「諸星きらり、双葉杏の二人は一見、一番可能性が高そうだ。しかし、考えても見てくれ」

「着ぐるみとは言え、死体が隠れるほど箱に入れるとなるとかなりの重量だろう、10kgは下るまい」

「そこにみりあちゃんの遺体の重量36kg、肩に背負った杏君の重量30kg、合計80kg近い重量が加わる。
きらり君が186cmの恵まれた体とは言え、警備員になんの疑いも持たれないほど楽々と移動できるだろうか??」

「成人男性でも難しいと言わざるを得ない、しかも彼女達は野外のイベント会場に直行している。
仮に可能だったとしても遺体を隠す暇がない。これも除外だ。」

四つ目の指を折り、数え上げる。

「そして最後に残ったのは君達だ。プロデューサーは智絵里君を抱え、智絵里君は背負われていた。
他に荷物を持った形跡もない。長時間外出していとは言え、これまた君たちにも不可能だろう」

そして、5つ目の指を折り――途中で止めた。


「運ばれたのは本当に智絵里君ならば」



「私の考えはこうだ。会場内でみりあちゃんを殺害、
遺体となったみりあちゃんに智絵里君のステージ衣装を着せる」

「元々体型は似ているし、衣装は問題なく入るだろう。
そして衣装部屋から智絵里君に近い髪型のウィッグを持ち出し、みりあちゃんに被せる」

「ネックは10cm近く違う身長だが…、衣装はヒールも履いているし、何しろ背中に抱えれば
10cm程度の違いは認識し難い」

「後はプロデューサーの背中に顔を埋めるなり、タオルで顔を隠して緒方智絵里として連れ出せば、
遺体は運び出せる」

「周りはあの派手な衣装で、緒方智絵里と認識しているだろうしね」

「それに……実は智絵里君もそこにいて、
みりあちゃんの顔が見えないように背負っていたプロデューサーをカバーしていたんじゃないのかい??」

指摘されて、ビクッと智恵理が体を震わせた。


「前もって用意したスタッフジャンバーを着て、キャップを目深に被り、
プロデューサーをサポートするスタッフに化けて」

「周りに大量に居るスタッフならば、警備員も警戒しないだろうし、ね」


顔色を青ざめさせた犯人二人の様子を探りながら、自らの推理を捲し立てた都は、話を更に続ける。

「みりあちゃんの遺体を運び出した君達は、プロデューサーの車まで運び込む」

「病院に向かう車中で、みりあちゃんの遺体から衣装を剥ぎ取った智絵里君は、自分が再びその衣装を着る」

「病院に到着したら、ワザと本当に足を挫き、そのまま病院で治療する」

「その隙にプロデューサーは遺体を安全な所…、自宅とか346プロが管理してる倉庫等に一時、隠しに行く」

「そして、治療が終わった智絵里君と合流し、一緒にライブ会場に戻る」

「後は何食わぬ顔で搜索に加われば良い」

「遺体は後日、必死に心当たりを捜索する、と言って時間を作り山に埋めに行けばいい…
どうだい、私の推理は??」

そこまで一気に語った都は、二人の反応を待った。

智絵里とプロデューサーは沈痛な面持ちで下を向き、無言である。どうやら完全に図星のようだ。


この人達が……、この人達がお姉ちゃんを!! そこまで黙って聞いていたゆりあだが、
都の語る推理により、悲しみと共に生々しさを伴った怒りが心の底から湧き出てきた。

ゆりあが怒りに任せて、犯人に罵倒の言葉を叫ぼうとしたその瞬間、
無言だった緒方智恵理が、我慢しきれない様に悲痛に叫んだ。


「違うんです!!アレは事故なんです!!」






「事故??」

都が眉間に皺を寄せて智恵理に聞き返した。

「そうなんです!あの日、幸子ちゃんが会場を飛ぶって聞いたみりあちゃんが、仕掛けをみたいって言い出して…」

「プロデューサーとみりあちゃんと私で、仕掛けの舞台まで見に行ったんです。
 舞台は鉄骨で出来てて、10m程梯子で登る様な仕組みになってました」

「私も下までは付いて行ったんですが、梯子で上に登るのは怖くて下で…」


智恵理がそう語るのを聞いている都の顔を、脇からゆりあが覗き込む。

都は頷きながら智恵理の話を聞いているが、何処か納得出来ない部分が有るのか眉間の皺は依然、寄ったままだ。


「そうしたら、上の方から叫び声が聞こえてっ……、同時にみりあちゃんが上から落ちてきたんです……
  
「私、すぐに声掛けたんです! みりあちゃん、みりあちゃん!!って!!
でもっ…、首は変な方向に曲がってるし、反応も無くて……っ…見るからに即死でした…」

「すぐにプロデューサーさんが青い顔で梯子を降りてきました…、みりあちゃんが足を踏み外したって…」

「その時に、私にプロデューサーさんが言いました。 頼まれたんです!! 
今、事故を公表するとライブが中止になる。 今まで必死に準備してきたみんなが悲しむ、
そんな事、みりあちゃんもそんな事望んでないって!!」

智恵理は感情が爆発した様に、抑えきれずに眼に大粒の涙を浮かべると当時の状況を捲し立てた。



無言で聞いている都とゆりあ。

智恵理はそんな二人の、特にゆりあの辛そうに聞いている様子にハッと気づいたようだ。


申し訳無さそうに落ち着きを取り戻し、呟く様に、

「だから…、事故を隠すのを協力してくれ、って……」

「後は都ちゃんの言ったとおりです……、ライブ中にワザと転倒してライブから抜けて、急いでみりあちゃんに私の衣装を着せて、
スタッフに変装して会場から抜け出しました…」


「プロデューサーは守ろうとしただけなんです!だから、みりあちゃんを殺してなんかいませんっ!! 事故だったんです……」

そこまで言うと智恵理も無言になり、辺りの森を静寂が包んだ。

その静寂を打ち破るように、プロデューサーが絞り出すように口を開いた。


「そう、事故…」


「嘘をつくなっ!!」


事故だったんだ、プロデューサーがそう言い終える前に、赤毛の探偵が今までに無い怒気を込めて咆哮した。

ゆりあは驚愕したと言っていい。

二人が出会ってから、それ程時間が経ったとは言えないが、探偵・安斎都は常に飄々として、クールに物事を運んできた。


そんな彼女がこれ程の感情を露わにするのを、ゆりあは初めて見た。


驚愕の表情で彼女の顔を見つめる、他の三人。


都はその視線を意に介さず、

「事故??有り得ないね!! プロデューサー! 君は明確に殺意を持ってみりあちゃんを舞台の上に誘い出し、そこから突き落としたんだ!!」

都はそう断言して指を突き出し、プロデューサーに突きつけた。

「ふ、ふざけるな!! なっ、何で俺がっ!! みりあを殺さなきゃならないんだっ!!」

プロデューサーが顔を真っ赤にして、反論を都に叫んだ。

「動悸はまだ分からない…、だが、状況証拠が君がみりあちゃんを突き落とした事を、如実に物語っている」


自信を持ってそう告げる都に、訝し気に顔を顰めるプロデューサー。

「状況証拠ぉ??」


都は智恵理の方に振り向くと、

「まず、智恵理君、幸子君が舞台を飛ぶと言う話をプロデューサーがみりあちゃんにした時、他に人は居たかい??」

と、尋ねた。

智恵理は困惑した様子で、

「え、いえ、いませんでしたけど…」

そう答える智恵理に都は納得する様に頷いて、

「ふむ、そうだろうね。
なら、みりあちゃんが舞台に行きたいと行った時、プロデューサーは君に一緒に行こうと誘わなかったかい??」

と、重ねて尋ねた。

「はい、確か…そうだったと……思います。」

「だろうね、そうだろうとも」

「何故なら智恵理君、プロデューサーは君を共犯者にしようと、以前から決めていたんだよ」

当時を思い出すようにして答えた智恵理に、都は納得する様に頷き、断定するように智恵理に告げた。


「そ、そんな…」

戸惑う智恵理を前に、都は一気に自分の推理を捲し立てる。


「プロデューサーに固執する所のある君なら説得しやすいと踏んだのだろう、それに智恵理君、おかしいとは思わなかったのかい??
会場の衣裳部屋に、君の髪型ソックリのウィッグが置いて有った事を。」

「髪型程度ならどうにでもなるが、君の髪は独特の赤みがかった色をしている。違和感無いほどのウィッグとなると、そう偶然には置いて無いだろう」

「おまけに君が着たスタッフの衣装もそう簡単には手に入るとは思えない。事前に用意しておいたと考える方が自然だ。
 その二つを前々から用意でき、会場に置ける人物はおのずと限られる」

「それを二つとも用意できる人物…、つまりプロデューサーは、みりあちゃんが死亡する前からこの二つを用意していたんだ。」

「それは何を意味するか??」

「つまり、それを使用して無理なく会場に遺体を運び出せるように……要するに、前もって全ての段取りを整え、
明確な殺意を持ってみりあちゃんを舞台に誘い込んだんだよ!!」

違うかい、プロデューサー、と、都はプロデューサーの方を振り向き、言葉を纏めた。


プロデューサーは既にスコップを地面に置き、俯いて無言のままである。

そのプロデューサーを悲しい瞳で眺めながら、都は、

「それに、先程、動機は、と問われたが…、それも大方、私の推測は付いている……」

プロデューサーの肩がピクリと動いた。

「コレは本当はゆりあちゃんには効かせたくない、出来ればプロデューサーに否定して欲しいくらい下卑た想像だ……、
しかし、これ以外にみりあちゃんを無理に会場で殺害して、危険を冒して現場から遺体を運び出す理由が思い当たらない・・・」

そこまで言うと、都は一拍言葉を置き、覚悟を決めたように言葉を続けた。




「プロデューサー、聞かせてくれ…… 君は…、『みりあちゃんを妊娠させていた』んじゃないか…??」


智恵理とゆりあの顔に衝撃が走る。

が、依然プロデューサーは無言で俯いたままである。


「そうじゃないと説明が付かない事が多すぎる。
まず、第一に何故ライブの寸前などと言う人目に付く時に犯行を犯したのかと言う事」

「第二に何故大きな危険を冒してまで死体を運び出したか、と言う事だ。」


「そのどちらにもこの説ならば説明が付く。
恐らく君はみりあちゃんと多く行動を共にする内に、肉体関係を持つ様になった」

「無理矢理とは言わんさ。 君たちの仲の良さは傍目から見ていても相当のものだったしね。
上層部が少し問題にする程だ、とも」

「しかし、合意の上でとは言え犯罪は犯罪。バレたら君は地位も名誉も職も全て失って牢獄行きだろう」

「そして、それが発覚しかねない出来事が起こった……、それが、みりあちゃんの妊娠」

「君は当然困惑したはずだ、バレる訳にはいかない。 堕胎させるにも未成年には親の許可も居る。八方塞がりだ…」

「其処で君は、思い余ってみりあちゃんを殺害した……違うかい??」


依然、無言を貫くプロデューサー。
そんな彼から目を背けることなく、都は推理を続けた。

「危険を冒して死体を運び出したのもそれが原因だ。
私は最初、キミがみりあちゃんの死体を運び出したのは、彼女を殺害した時に殺害の痕跡が遺体に残ったからだ、と思っていた」

「しかし智恵理君の証言によると、君は事故とも思える方法でみりあちゃんを殺害した」

「智恵理君を共犯に引き入れる為の咄嗟の犯行とは言え、君はとても上手くやり遂げた。
目撃者の智恵理君は事故と信じているし、仲の良い君にはみりあちゃんを突き落とす動機も無い。
事故として判断される可能性が大だろう」

「それなのに君は死体を運び出した。
事故で片付く筈なのに失踪とされては要らぬ疑いを招くし、危険度も高い。おまけに死体遺棄の罪状も付く、何も良い事は無い」

「それなのに何故??  
全ては赤城みりあが君の子を妊娠していた、と言う事なら話は片付く」

「みりあちゃんの死体を警察に渡すわけにはいかないよね?? 司法解剖で妊娠している事が発覚するから」

「当然、真っ先に疑われるのは彼女に一番近い異性である君だ。もし胎児からDNAが取り出せれば、それが動かぬ証拠となるかも知れない」

「キミはどうしてもみりあちゃんの死体を警察に渡す訳にはいかなかった――」


「どうだい、私の推理は間違っているかな?? ……間違ってると――言って欲しいのだが……」


悲しそうな瞳でプロデューサーを見つめる都。
それでも尚、プロデューサーは無言のまま黙り続けるのだった。



辺りの空気を無言が支配し、重い雰囲気が周りを包む。


その空気を打ち払うかの様に、智恵理がプロデューサーの脚に縋りつき、涙目で叫びながらその体を揺すった。


「うっ…嘘ですよね!? プロデューサー!! みりあちゃん妊娠だなんて……事故、事故だって言いましたよねっ!!??」


揺すられながらも尚、無言を貫こうとするプロデューサーに痺れを切らしたかのように、都が、

「まだダンマリか……まあいい、みりあちゃんの死体を掘り出してみれば解る事だ。
とうの昔に白骨化しているだろうが、妊娠した妊婦には骨盤の変化が見られる。
法医学者の手に掛かればすぐに判別してくれるだろう」

そう言いながら都は、さぁ、と手を出し、シャベルを受け取ろうとプロデューサーに歩み寄った。





すると、都の言葉に初めてピクリと反応を示したプロデューサーは、智恵理を突き飛ばし、

「うるせぇぇぇえええええええっ!!!!!!!」

と、叫ぶと、上着から幅広のナイフを取り出し、都に向けて水平に薙ぎ払った。

「きゃぁああああっ!!??」

突如飛び出した狂気に、思わず恐怖の叫び声を挙げるゆりあ。

間一髪後ろに飛び退き、ナイフを躱した都は、わずかにコートの前裾を切り裂かれただけで済んだ。

「ペチャクチャペチャクチャ得意げに喋りやがってよぉ!! そうだよ!!俺がみりあを殺したよ!!」

先程までの様子とは打って変わってそう大声で喚き散らしたプロデューサーが、目を血走らせながらナイフを構えた。


「そうだ!! 俺はみりあと付き合ってた!! だが、俺が手を出したんじゃねぇ!!
自然とだ!!あんまりアイツが懐いて来るもんだから……」

「上手くやってたつもりだった!!だが、ライブの前日、上司に呼び出されて言われたんだ!
特定のアイドルとあまりに距離が近すぎる、このままだと処分しなければいけない、改善してくれ、ってな!?」

「俺も確かにヤバいとは思っていた、だからみりあに別れ話を切り出したんだ……。でもアイツ……絶対に嫌だ、別れないって…」

「それでも俺が別れようとして突き放したら、アイツ…アイツ…」


『私、妊娠してるの、もう三か月生理ががないんだよ、プロデューサーとの赤ちゃんだよ』って…」


「それだけじゃねぇ!どうしても別れるって言うなら、ライブが終わったら皆に言うって言いやがる!! そんなの殺すしかないだろう!?
他にどうしろってんだよっ!!」

プロデューサーは一頻り身勝手な独白を続けた後、苛立たし気に地面を蹴り上げた。


「仕方なく俺はみりあに、『分かった、別れないからそれだけは許してくれ…』って言ったよ…、
所詮はガキだな、直ぐに俺の言葉を信じて笑顔に戻った…」

「だが、俺は何時アイツが口を滑らせるか気が気じゃなかった…、腹の中の子供もどうにかしなきゃあならない…、
俺は綿密にアイツを殺す計画を練ったのさ…」


そう言うと、都の方に向かってゆらりと歩み寄りながら、

「……後は都、お前の言った通りだよ……大したもんだなぁ…?? 俺がスカウトした時は、真似だけの似非探偵だったのによぉ…」


ハハッ、と自嘲して、暗い笑顔で都を嗤うプロデューサー。


「まあ、探偵ごっこもこれまでだ…、元々、そろそろ煩くなってきた智恵理を殺して埋める積りで此処まで来たんだからな」

その台詞を聞いて、顔を青褪めさせて話を聞いていた智恵理が絶望に突き落とされた様な顔になり、力無くその場に崩れ落ちた。

今の今まで信じ続けて来たプロデューサーに騙されていた事、既に見捨てられた事に漸く気が付いたのだろう。

前を見据えた瞳にはもう光が無く、絶望に縁どられていた。

そんな共犯者の様子には構うことなくプロデューサーは、

「お前らも序でに殺して、一緒に埋めてやるよ……、そっちの妹も姉と一緒なら寂しくないだろぉ??」

プロデューサーは、ゆりあに対してナイフで指し示しながら、下卑た笑みを向けて来た。


キッとプロデューサーを睨み付けて、上着のポケットから携帯電話を取り出そうとするゆりあ。

それを見て、プロデューサーはせせら笑いながら、


「ああ、携帯は使えないぞ?? 確認済みだ」

「警察に連絡される前に、お前らを口止めする為に殺して埋めて、
犯行がバレる前に今まで貯めた金を全額降ろして、東南アジア辺りに高跳びだ」


「まあ、コネはあるし…何とかなるだろ……」

「残念だったな、都?! 俺は逃げ切ってやるぜ!? こんな所までガキと二人でノコノコやって来たお前のミスだぁ!!」


勝ち誇ったように都にナイフを突きつけ、宣言するプロデューサー。


だが、都は落ち着き払って冷静にプロデューサーに告げた。


「……残念だが、君はもう詰んでいるんだよ……」


「…ああっ!?!?」

理解できない、とばかりにプロデューサーが訝し気に顔を顰める。

この女は何を言っているんだ、向こうは女と子供でこちらは男、殺傷能力のある武器もある。

麓の車までは走って二十分、女子供が男の脚から逃げ切れる道理は無い。

そして連絡手段も無いときては、打開策は無いではないか……。

そうプロデューサーが考えていると、突如都が、


「ゆりあちゃんっ!!」

と、連れの少女に向けて大声で叫んだ。

ゆりあはコクリと頷くと、はスカートのポケットからストラップの付いた卵型のケースを取り出し、
それを高々と頭上に掲げる、真ん中に付いているボタンを力強く押した。


【ビ一ーーッ!!ビーーーーーッ!!!!】


辺りに、けたたましく鳴り響く警戒音。


「な、なんだっ!?これはっ!!!」

プロデューサーが驚きの声を挙げる。


すると、都が口元に微笑を浮かべて、

「防犯ブザーの警戒音だよ、無論、それだけならこの山奥では何の意味も成さない」

「だが、近頃の奴は高性能でね?? ゆりあ君のブザーは警備会社と契約していて、衛星で即座に現在位置を知らせる優れモノだ」

「警備会社の人間はどう思うだろうね??
小学生の少女が携帯も繋がらない山奥で防犯ブザーを鳴らしている。すぐさま警察に知らせて、自分達もココを目指して出動しただろうね」

そして少し考える様にして、

「まあ、たっぷり一時間もあれば駆け付けるだろう」

と、プロデューサーに告げた。

「君はその間に私達を殺して、逃げても良い。だが、死体を発見した警察は緊急配備を敷くだろう。
時間的に、到底逃げ切れるとは思えんね」


死体を隠して犯行が知られるのを遅らせるかい?? 良い考えだ、しかし、この場所から遠く離れた所に埋めなくてはならないね、一時間で」

「それに私達は全力で抵抗するからね?? 血も辺り一面に飛び散るだろう、その処理もしなくてはならないね、一時間で。
 さあ!!、出来るのか!?」


「今なら殺人一件で、懲役十年乃至二十年だ、それとも悪足掻きで更に三人殺して、死刑を確定させるか!?さあ!どっちだ!!」



「うああああああああああああああああああああああああっツッ!!」



自分の置かれた絶望的な状況を都に突きつけられたプロデューサーは、絶望の叫びを挙げながら、その場に両膝を付いて、頭を抱え込む。


都はそんなプロデューサーにゆっくりと歩み寄り、その脇に落ちているナイフを掴み、遠くの草むらに放り投げた。


そして、プロデューサーの傍に行くと、

「君はもう、既に逮捕されるのを待つ身だ、これから逮捕され、裁かれ刑に服し、罪を償うだろう」

「だが、私は君に更に呪いを掛ける。 友人を殺された私からのせめてもの腹いせだ」



そう告げると都は、

「赤城みりあは多分、妊娠なんかしていないよ、君のやった事は全部単なる勇み足だ」

そう、プロデューサーに向けて、冷たく言い放った。

キョトン、とするプロデューサーに、都は言葉を続けた。


「何故なら、リハーサル中のみりあちゃんは終始屈託のない笑顔だった」

「幾ら君と別れない事になったとは言え、妊娠などと言う取り返しの付かない状態に置かれているのに、
人はあんな風には笑えないよ」

「体調の変化も無さそうだったし、リハーサルも激しく動いてお腹を気遣う様子も無かった、まあ、まず間違いないだろうね」

「まあ…、それも今となっては、真実は誰にも分からない訳だが…」


その言葉を聞いて、ポカンとした表情になったプロデューサーが、不思議そうに都に尋ねた。


「……何故だ?? …死体の骨盤を見れば…妊娠してたかどうか、分かるんじゃないのか…??」

その言葉を聞いて都は、

「ああ、あれはただのカマ掛けだよ。
白骨死体を見て妊娠していたかどうかなんて分かる訳ないじゃないか。骨盤を見て分かるのは精々男女の違い位だよ」

事も無げに言い捨てる都の言葉に、あんぐりと口を開け、呆然とした表情を向けるプロデューサー。


「ならば何故、みりあちゃんは君に妊娠した、等と告げたのか――」

「私が思うに、ソレは幼い少女が愛する人に捨てられたくない一心でついた嘘――」

「君は、少女が思い付きで考えた精一杯の嘘を真に受けて、怯えて殺しただけの哀れなピエロ――その可能性が極めて高い」



「君が少しでもみりあちゃんに誠実に向き合えば、こんな事にはならなかったかも知れないね――」

心底哀れそうに、都がプロデューサーに告げた。



その言葉を聞いたプロデューサーは、遂に壊れてしまったのか、

「あはっ!あははっ、あはははっ!!」

と、笑いながら、その場で地面に向かって何かを呟き続けるだけの存在と化した。


都は、虚空を虚ろな目で前を見据える智恵理、蹲り何かを呟き続けるプロデューサー、
そしてその二人を悲しそうに見つめるゆりあを次々と見て、


「――誰も――何も――救われないな――」


そう、一言だけ呟いた

その後、駆け付けた警備会社の社員によって警察へ通報されてやって来た警官隊により、プロデューサーは緊急逮捕された。

緒方智恵理も共犯では有るが、死体遺棄の時効は三年である。


とうに時効は過ぎていたが、話を聞く為に警官に署へ任意同行を求められて、特に反応も無く、無言でそれに従って行った。


プロデューサーは殺人罪で逮捕された。

草叢に蹲ったまま身動きもせずに地面に向い何事かを呟いていたプロデューサーは、
両脇を警官達に掴まれて抱き起こされ、引き摺られる様にして山を降りて行った。


都とゆりあはその姿を複雑な視線で見送った後、警官達に囲まれて下山した――



その後、パトカーに乗り込んで戻る途中に、残った警官による現場検証で岩の前から少女の白骨死体が発掘された、と、都たちに連絡が有った。

赤城みりあの物に間違いないだろう。


パトカーの中でそっと手を組んで祈りをささげるゆりあを横目でみた都は、辛そうにコートの中から煙草を取り出した。

が、車内が禁煙であることを思い出し、溜息をつきポケットに煙草を押し込むと、
すっかり暗くなった車外の景色を、ただずっと眺め続けていた。





その翌日、芸能界には激震が走った。



十年以上にも渡り、多数のトップアイドル達をプロデュースしていた業界の風雲児の特大スキャンダルに、各紙の紙面は大賑わいだ。


探偵事務所のボロさに似つかわしくない、上質の木材で出来た机に深く腰掛け、スポーツ新聞を広げていた都が、


「いやぁ、ハチの巣を突いた様な騒ぎだねぇ…」


と、他人事の様に呟いた。


応接用の机で別の新聞を広げていたゆりあが、

「こっちの新聞にも『346プロ、アイドルまたも電撃引退』、って書いてあるよー……、大丈夫なのかなぁ、お姉ちゃんが居たトコ……」

と、ゆりあが心配そうに呟く。

姉を殺害した犯人が務めていたプロダクションとは言え、姉が所属していたプロダクションでもある。

消えて欲しいとも欲しくないとも思う。


ゆりあの心境は複雑なようだ。


「いやー…、相当厳しいだろうねぇ……。
何しろアイドルの大量引退で、そもそも駒の数が足りない。
先程、私にまで現役復帰の声を掛けてきたくらい、困ってるみたいだからね??」

まあ、その場で断ったが、と、都は続けて、再度新聞に目を落とす。


「えー!!復帰すればいいのにー!応援するよー!?」 

そう、楽しそうに告げるゆりあに、都は、

「勘弁してくれ…」

とだけ、ポツリと呟いた。



そうなのだ。

長年346プロを支えていた存在である、プロデューサーが逮捕されてしまったのだ。

しかも、同僚である小学生アイドルに手を出し、それを理由に殺害とは。


アイドル達は軒並みショックに陥り、彼のプロデュースしていたアイドル達が纏めて引退してしまった。

346プロ未曾有の危機、と言って良いだろう。


「ゆりあ君こそオバケの真似をしてた時は名演技だったじゃあないか、どうだい、姉の跡を継いでアイドルデビューってのは、
才能有ると思うよ??」

都が話を誤魔化す為に、名案とばかりに提案する。


「あはは、あんまり興味ないかな??」

と、ゆりあが困った顔で頬を書く

「…実はね、幾つもの芸能事務所からデビューしませんか?って話は来たの」

今回の事件の詳細は、幾つもの新聞、週刊誌で取り上げられた。


『十一年前に殺された悲劇の人気アイドル、赤城みりあと瓜二つの妹、犯人発見に貢献!!』


そんな記事と共にとりあげられたゆりあは、今や時代の寵児と言える。


話題性は抜群に有るし、何よりその愛らしいルックスは瓜二つだった赤城みりあの過去の人気で証明されている様な物だ。、


成功は確約されている金の卵、いや、宝石の卵だ。



どのプロダクションも目の色を変えて勧誘に動いただろう。

勿論、虫の息の346プロも例外ではあるまい。

「でもパパとママが烈火の様に怒って追い返しちゃって…」

「あー…、だろうねえ……」


それはそうだろう。

赤城みりあは芸能事務所のプロデューサーに殺されたのだ。
言い換えればみりあが芸能活動をしていなければみりあは死ななかった事になる。

そう思ったゆりあ達の両親が、芸能関係にどういう印象を持つのか、想像に難くない。

ましてや当事者の346プロにはどれ程の怒りが向けられただろうか。


「それは…無理だろうねぇ…」

都は机の上に置いた箱から煙草を一本引き抜き、火をつけてひと吸いすると、天井に向けて煙を吐いた。


そんな様子を笑顔で眺めていたゆりあが、

「あー…、でも都さんがアイドル復帰するなら一緒にアイドルやってもいいかな?? ねっ、一緒にやろっか??」

そう無邪気に都に笑いかけるゆりあの発言に、驚いた都はモロに煙を飲み込んでしまい、大きく咳き込んだ。


「…十年前ならともかく……勘弁してくれたまえよ…」

当時なら兎も角、手も足も伸びきった今の都では、ゆりあと並んで歌い踊ってもギャグにしかならないだろう。



しかし、そう言いながらも、都は想像していた。


十年前の自分と揃いの同じ衣装を着て、笑顔でステージに立つみりあの姿を。

その光景を思い浮かべると、都の心に温かい物が込み上げてくる。


それを思うとゆりあの提案も悪い事ばかりではなさそうだ、と都は思った。



復帰は絶対にしないがね、 と心に決めながら。


(完)

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