果南「約束の貝殻」【ラブライブ!サンシャイン!!】 (32)

果南「そうだなぁ……。

初めは、変な人だなぁって印象だった。

こんな小さな町のことだから、私たちは自分の周りの同世代の人たちには大体皆面識があるんだ。それは親しげな反面、どこか新鮮味にかけるところもあって───

だからこの浦の星女学院に転校生が来る、しかも外国人とのハーフ!って言う情報は、私たちに特大の衝撃を与えたわけで。千歌なんてもう大興奮で、

「転校生さんが来たら誰よりも早く一番美味しいみかんを持っていかなきゃ! ああでも、相手はぐろーばるな人なんだからこんなちゃちなもの要らないって断られちゃうかも……! だったらこうしてみかんにリボンとか巻いてデコレーションして……」

とか何とか、もう落ち着かせるのは不可能だったね。でも千歌だけが特別だったわけじゃなくて、(千歌はちょっと気持ちの表現がオーバーだけどね……)周りも皆浮足立ったような雰囲気に包まれてたのを覚えてるな。私もちょっとウキウキしてたと思う。

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その転校生───鞠莉が、学校のある岬側じゃなくて、淡島に来るって分かった時の千歌の反応は面白かったな。廊下を歩いてる時に、先生に声をかけられて、「例の転校生だけど、淡島に引っ越してくるらしいから。松浦さん、船の乗り方とか諸々よろしくね♪」って言われてさ。

「えっ……うっ……? て、転校生さんが果南ちゃんに取られちゃう……? いや、果南ちゃんが転校生さんに取られる?? あれ?? どっち!? どっちなの!? うあああああもう分かんないよーーーー!」

って。そんな悩み方する人始めて見たよ。

千歌みたいに常識外れな混乱に襲われた訳じゃないけど、その話を聞いた時は私も、何というか───虚を突かれた、っていうのかな? 「全然あってもおかしくないんだけど何故か、そうなるとは全く思わなかった」って……今思い返すと、私にとってその知らせはそういうものだった。だから思わず、先生の前で「へぇっ??」って普段出さないような変な声を出しちゃって……あれはちょっと恥ずかしかったなぁ。へへへ。

私の中では、何か大きなイベントがある時は、いつも隣に千歌がいたから───千歌を嗜めたり一緒に騒いだりしながら、楽しそうな千歌を見ながら私も楽しむ、っていう感じ。その何かと私の間にはいつも千歌がいたんだ。

って、千歌の話ばっかりになっちゃったけど……まあとにかく、それが今回はちょっと違うぞ、って。私の学生生活史上に類を見ない特大の爆弾が、直接私めがけて降ってくる───って。そう思うと何となくドギマギするって言うか、楽しみなような、不安なような……私にも、そういう気持ちはやっぱりあったんだ。普段何も考えてないくせにね、うふふ。

でも、その内何だかんだ上手くやって行けるんじゃないか───いや、絶対大丈夫でしょ!って思うようになってたなぁ。
何でかって? いや、うーん、何でだろ? 特に理由はないんじゃないかな? だって、こんな狭い島で、新しくやって来た住人と仲良くなれなかったら困るじゃない? え~、それじゃ理由にならないって~? もー、いいじゃん、実際仲良くやっていけてるんだからさ。細かいことは気にしない、ってね!

でもまあ、そんな私の楽観は、引っ越しの挨拶をしに行ったその時に、ガラガラと音を立てて崩れ去った訳だけど───わっ、もががっ! ど、どうしたの鞠莉、そんなに慌てて? え? 聞いて欲しい? ───」

鞠莉「そうなの、あの時の私は何にも知らなかったのよ。この内浦っていう場所の素晴らしさも、世の中に私の知らない楽しみがあるってことも───私の新居に挨拶に来たwild girlがあんなに素敵なマーメイドだったってこともね♪

え? wild は言い過ぎだって? んー、でもあの時の果南、本当に海そのものって感じだったよ! 日焼けして、眉は太くて……wildというより、natureかな? でも、私が眉のお手入れとかしてあげてからは、大分そこからは遠ざかったんじゃない? うふふ♪

まあそんなわけで、本当にごめんねって思ってるんだよ───あの時、果南をあんなに冷たくあしらっちゃったことは。折角わざわざ挨拶しに来てくれたのに、私ったら会話はママとパパに任せて、話を聞く努力もしないで無視しちゃってたもんね。そうそう───ぅえっ!?

アー、そのー、あの時言ってたことはねぇ……えーっと、その、大したことじゃないから! 忘れて! ね? え? 言葉は分からないけど悪口を言われてるのは分かった? ……もう! 謝ってるんだから意地悪しないでよね!

そう、あの時の私は、楽しみってものはお金を払って手に入れる物だと思ったいたのよ。より多くのお金を払うほど、より多くの楽しみが得られる、お金を払わなければ楽しみは得られない、ってね。だから、分かるでしょ? 
この島にはお金を払う場所なんて全っ然ないじゃない! 安っぽいディスコや寂れたバーすらなくって、私、こんな場所じゃ生きていけな~い! って、ママとパパに当たり散らしてたのよ。

それで、その次の日だったかな? 浜辺に出てぼーっと海を見てたんだよね。それまで住んでいた所と、この淡島とのギャップが激しすぎて、まるで悪い夢を見てるみたいな気持ちでね。もちろん、今はいい夢だけど♪ 

この海で溺れて大騒ぎになってやろうか、そうしたらパパとママも考え直してもっと大きな街に引っ越し直してくれるかも、なんて思いながら海を見てたら……そう! 何とそこには先客がいたのよね! ふふっ、思い出すだけで笑えてくる~♪

もう本当にびっくりしたんだよ? 視線の先に、いきなり、バッシャーン、って、ナゾの物体が海から飛び出してきたんだから! 最初は「イルカ!?」って思ったけど、何だか段々こっちに歩いてくるんだから……ううん、違うの! 地底人!? って思ったのよ! うん? No no、果南、地底人と人間じゃ全然違うよ! 

そしたら次は地底人が私に気付いて手を振って来て……「何!?これから未知との遭遇が始まるの!? 私ったらいつの間にか映画かアニメの世界に紛れ込んじゃったの!?」って、殆どパニックだったわよ、実際……」

……………………………………………………

淡島・浜辺

鞠莉「ひぃぃ……」カタカタ

果南「あ、あのー……小原さん、ですよね? 引っ越して来た……」

鞠莉「いやぁぁぁ! My God, my God, please……お願いします、何でもしますから食べないで……私にはまだまだシャイニーな未来が……」

果南「お、落ち着いて……取って食べたりしませんから。あの、私のこと分かりますか? 昨日挨拶に来てたんですけど……」

鞠莉「え!? あ!! もしかして昨日のWild Girl!?」

果南「そうだよー! やっと分かってくれた……って、ワイルドガールって言い方は引っ掛かるけど……まあ間違ってはないか……」

鞠莉「え、嘘!? あなた今、あの、あの海から飛び出して来たよね!? 見間違いじゃないよね!?」

果南「あはは、そうですよ。見間違いじゃ……」

鞠莉「すごぉい!」ガシッ

果南「うわっ!」

鞠莉「So beatiful! あなた、とっても美しかったわ!……グスッ! まるでマーメイドね! ……スンッ!」キラキラ

果南「えへへ、そうかな……って、泣くほど!?」

鞠莉「ああ、これは気にしないで、感動の涙だから」

果南(感情表現の激しい人だなぁ……外国の人って皆こうなの~?)

鞠莉「そう、それよりもっとあなたのことを教えて? 何処から来たの? 名前は?」

果南「名前は昨日言ったし、来たのは私じゃなくて小原さんだよ~……ええっと、私は松浦果南って言います。生まれも育ちもここ、淡島ですよ」

鞠莉「カナーン!! イエーイ!!」

果南「?」

鞠莉「もう、ハイタッチよハイタッチ! ほら、手の平を合わせるの!」

果南「あ……い、イエーイ!」

ペチン

鞠莉「Good! よく出来ました♪」

果南「は、はは……そりゃどうも……」

果南(何で私褒められてるんだろう……)

鞠莉「あと、そうね、年はいくつ?」ニギニギ

果南「ええっと、小原さんと同い年じゃないかな? 先生にお世話してあげて、って頼まれたから……」

鞠莉「鞠莉だよ!」ニギニギ

果南「へ?」

鞠莉「小原鞠莉! 私の名前!」ニギニギ

果南(距離が近い……それに何だか、感じた事のない匂いがする……)

果南「あ、うん、よろしく鞠莉さん……あの、それで」

鞠莉「もう、鞠莉さんだなんてやめてよ! 鞠莉って呼んで?」ニギニギ

果南「おっけー、分かった、分かったよ鞠莉、えっと、それでね」

鞠莉「うん、Good! 果南、これからよろしくね!」ニギニギ

果南「まぁりぃ! 手!」

鞠莉「Oh Hand?」ニギニギ

果南「いや、その、何で手握って来るのかな、って……///」

鞠莉「……? ぷふっ、果南って面白いのね!」

果南「面白いの私なの!?」

鞠莉「じゃあ~、果南の手が水の中にいて冷たくなってたから、温めてあげてる! かな?」

果南(……! さっきのハイタッチで……?)

果南「……へへ、そっか。ありがとう、鞠莉。大分温かくなって来たよ」

鞠莉「でしょう?」ニコッ

果南「それじゃ、今度は鞠莉のことを教えてよ。鞠莉は何処から来たの?」

鞠莉「私? そうね、わたしは馬に乗れるんだよ!」

果南「質問聞いてた!?」

──────────────────

クゥー……クゥー……

鞠莉「……そうなの、パパがイタリア系アメリカ人なのよ。イタリア系フランス人じゃないから注意してね!」

果南「へぇ~、なるほど」

鞠莉「そうそう……くしゅん!」

果南「わっ、大丈夫? ……もう大分暗くなってきたね」

鞠莉「うん、大丈夫……」

果南「随分薄着だよね。そろそろ帰ろっか? 夜は冷えるよ」

鞠莉「う~ん、名残惜しいけど、そうした方がいいかも……」サスサス

果南「転校早々風邪なんて引いちゃったら最悪だしね~」

鞠莉「そうねぇ……。ん~、それにしても楽しかったぁ♪ 絶対またお話しようね♡」

果南「そうだね、船で学校に行かなきゃだから、いやでもいっぱい話すことになると思うけど……」

鞠莉「え~、いやなの?」

果南「うふふ、全然。私ももっと鞠莉とお話ししたいと思ってるよ?」

鞠莉「Fu~♪ もう、果南大好き~!」ダキッ

果南「はは、ちょっとぉ、歩けないよ~……あ。そうだ!」

鞠莉「ん~? どうしたの?」

果南「ちょっと待ってて!」

鞠莉「え? あ、ちょっと果南!?」

ザッザッザッ……ドボン!

鞠莉(果南……?)

ザパァ!ザッザッザッ……

果南「はいこれ! 今海から取ってきた貝殻……だよ!」

鞠莉「果南、これを私に……?」

果南「うんっ。仲良くなれた記念に……ね?」ギュ!

鞠莉「果南……! 嬉しいっ! ありがとう! 一生大切にするっ!」ダキッ

果南「あははっ、もう、大げさだよ~……」

……………………………………………………

果南「そんなこともあったね。懐かしいなぁ……」

鞠莉「実はその貝殻、今日持ってきてるんだよ! ほら!」

果南「わっ、ホントだ」

鞠莉「この貝殻、今も時々眺めてるの……本当にすごく嬉しかったわ♡」

果南「はは、そんなに大事にしてもらえるなら、こっちもあげてよかったよ」

鞠莉「うん! それにしても……あの時の果南の台詞、素敵だったなぁ……」

果南「私の台詞? 何だろう、何か言ったっけ?」

鞠莉「言ってたよ~? 貝殻をくれた後に……」

果南「……ちょっと待って。何だか記憶が定かじゃないんだけど、嫌な予感がして来たから口を噤んでもらってもいいかな……?」

鞠莉「『深海のマーメイドから……』」

果南「わーっ、わーっ!!」

鞠莉「もう、邪魔しないで! 『深海のマーメイドから、異国のお姫様に贈り物ってとこかな?』……って! きゃー! 果南ったらカッコいいんだからぁー♪」

果南「あぁ……もうやだぁ……///」ホカホカ

鞠莉「果南からあんなキザな台詞が聞けるなんて、今じゃ考えられないよ~」

果南「もう……いいでしょ!? あの頃は若かったの!!///」ホカホカ

鞠莉「うんうん、若いっていいよね~♪」

果南「くぅぅ……何かすごい弱みを握られた感じがする……」

鞠莉「はぁ~、久しぶりに果南とじっくりお話出来て幸せ~♪」

果南「そうだね、言われてみれば久しぶりかも……Aqoursを始めてから、皆で一緒にいることも増えたから」

鞠莉「うん……そろそろ冷えてきちゃったね。帰ろっか?」

果南「うん。ああ、夕焼けだよ。鞠莉」

鞠莉「あ、ホントだ! 綺麗な夕焼け……」

果南「ふふ、でしょ? この島から見る夕焼けはいつ見てもすごいんだよね」

鞠莉「……綺麗ね。本当に……」

果南「……うん……」

鞠莉「……あと何回、果南とこうやって二人で過ごせるのかな……」ポツリ

果南「……鞠莉?」

鞠莉「……」

果南「鞠莉は、この島に来た時みたいに、いつかまたどこか遠くの町に行くの?」

鞠莉「……分からないわ、私にも」

果南「ダメだよ」ギュ

鞠莉「……え?」

果南「私は、ずっとここで生きていく。だから、鞠莉も、ずっとここで……ここで、私と一緒にいて欲しい……んだ」

鞠莉(果南の手、温かい……)

鞠莉「果南、それは」

果南「住む所がなかったら、ウチにいたっていい。しばらくの間、何処か遠くに遊びに行ったっていい。何か大きなことをやりたかったら、ここを拠点にしてやったらいい。だから……」ギュウ…

鞠莉(果南の手、力、強い……)

果南「だから、分からないなんて言わないで! ずっとここにいるって、はっきりそう言ってよ……お願い……!」

鞠莉「果南……強引だよ……」

果南「あっ……ご、ごめん、つい……」

鞠莉「もう、果南のバカ……そんなこと、真剣な顔で言われたら……」

果南「……ごめん」

鞠莉「……私も、果南と一緒にいたい。果南と離れたくなんかないわ」

果南「……じゃあ!」

鞠莉「でも『それ』は、運命が決めることよ……今の私には何も言えない。本当に何も言えないの」

果南「……そっか。そうだよね。……はは、ごめんね、無茶言って! 今のは忘れて……」

鞠莉「でも!」

果南「……!」

鞠莉「でも、約束するわ……私が何処に行くことがあっても、絶対またここに帰ってくるって! どれだけ長い旅をすることになっても……ここが私の生涯の場所だって! 内浦の海と、果南がいるこの島が私の……私が本当に帰る場所だよって、約束するわ! 絶対!」

果南「鞠莉……」

鞠莉「だから、もしもその時が来たら、この貝殻が約束の印……ふふ、役目が増えちゃったね♪」

果南「あはは、ホントだねっ……鞠莉」

鞠莉「なぁに?」

果南「……ありがとう」

鞠莉「……! 私こそ、ありがとうだよ……私に、大切な一生の友達と、海の素晴らしさを教えてくれた果南に……」

果南「ふふ……そうだ、今日は鞠莉に、もう一つプレゼントをあげるよ」

鞠莉「えっ? 何なに? 何をくれるの?」

果南「ほら、あの夕焼けを見て?」

鞠莉「夕焼けを?」

果南「沈む夕日と、真っ赤に彩られた海岸線が、首飾りに見えるでしょ? ずっと続く海岸線……あの綺麗な首飾りを、鞠莉にあげる。だから……いつでもここに、首飾りを付けに帰ってきてね?」

鞠莉「………///!」ボンッ!

鞠莉「もう~っ! 果南ったら何考えてるの!?///」

果南「………///」ウツムキ

鞠莉「もう、ほんっとにキザ! しかも急にキザになるなんて、ほんとに……ああ、もう!///」

果南「そ、そんなに、キザだったかな……あはは……」

鞠莉「もうありえないんだから! ありえない! そんなキザなことシラフで言える人この世に果南しかいないわよ!///」

果南「そ、そんなことないよ~……きっともう一人くらいなら……」

鞠莉「もう……でも、嬉しい。帰って来るわ、首飾りを付けに」

果南「……ふふっ。ありがと」

鞠莉「もう……///」

果南「……じゃあ、帰ろっか? そろそろ冷えて来たし……」

鞠莉「……うん!」

果南(
私たちは、手を繋いで帰った。
暮れる海辺の冷たい空気の中で、繋いだ手と、あとほっぺただけが暖かった。
私たちは何も言わず、鞠莉はなんか俯いてた。
こんな大人しい鞠莉を見るのは初めてだ───なんて思ったけど、それも何となく言わずにおいた。
夕暮れの中を二人、同じ気持ちで歩いて行く───そんな帰り道が、どこまでも続いてくれたらいいのに、と思った。


これからも、私たちの日々は続いて行く。
学校に行って、Aqoursのステージをやって、たまにこうして二人で遊んだりして───その中で、その日々の先、ずっと先のことが、ふっと浮かんで、怖くなることもあるだろう。
そんな時は、今日のことを思い出して、また笑って生きていくんだ───私の胸の中に、そーゆー確信が生まれていた。

でも、とりあえず今は目の前の事。明日も明後日も、
今まで通りの日々が続くわけで……
)

果南「じゃあ、ここまでだね。おやすみ、鞠莉。また明日」

鞠莉「うん、また明日ね、果南。……。」

果南「もうすっかり暗くなっちゃったね……どしたの? 早く帰らないと風邪引くよ?」

鞠莉「ねぇ、果南……? ずっと一緒にいて、って言ってくれて、嬉しかった……」

果南「ま、またその話ぃ? 恥ずかしいからあんまり蒸し返さないで……」

鞠莉「ねぇ果南? 私、誓いが欲しいな……。ダメ?」

果南「……! 鞠莉……」

鞠莉「……」



その日、小さな島の片隅で、永遠を誓った2人の姿は、夜空だけが知っている。

おわりです

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