倫子「牧瀬紅莉栖を救うなんて考えるな!」 (22)

 ハッチが開かれた。
 まばゆい光が、私の目の中に飛び込んでくる。
 ここは、どこなの?
 目を細めてみる。
 かろうじて見えたのは、夏の夕焼けの空。
 ここから出たくなかった。
 このまま消えてしまいたかった。
 それなのに----
 強引に腕をつかまれて、私はそこから引きずり出された。
 

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ダル「うお、もう帰ってきたお!まだ一分もたってないのに」

まゆり「・・・オカリン?」

 いつものあだ名を言われても言葉をかえす気力さえない。
 私は、ほとんど倒れこみそうになりながら、その場にうずくまった。

まゆり「オカリン!」

 駆け込んできたまゆりが、心配そうにのぞききこんでいる。
 けれどいまは、そんな
 気遣いすら鬱陶しい。
 私なんかにはなしかけないで。
 一人にして。

ダル「ちょ、オカリン血まみれじゃん!どしたん!?」

鈴羽「父さん、タオルと水、それから服も!今すぐ持ってきて!」

ダル「え?え?説明プリーズ!」

鈴羽「いいから早く!」

ダル「わ、分かったお!」

 ダルが、ビル内に続くドアへ駆け込んでいった。

まゆり「オカリン、大丈夫・・・・?しっかりして!しなないで!」

鈴羽「大丈夫。ケガをしているわけではないよ。」

 やめて。
 私なんかに構うな。
 放っておいて。
 私は、貴女を助けられなかった。
 それどころか、貴女の命をうばったんだ。
 三週間前の子の場所で。
 私が、殺した。
 私は、人殺しなんだ。

倫子「無駄だったのよ。····何をやっても、無駄だったんだ」

倫子「は、はは。全部、決まっているのよ。なにもかも」

倫子「同じよ。まゆりの時と、同じなのよ···」

倫子「どれだけ、もがいたって結果は変えられない。」

 何度リトライしたって、結果は必ず収束する。
 過程なんて関係ない。
 何度タイムリープしたって、何度タイムトラベルしたって、けっかをねじ曲げることは出来ない。
 そんな残酷な現実分かっていたはずなのに。
 一番キツイ形で、改めて実感させらるとは。

倫子「無駄よ···無駄だったのよ···なにもかも無駄だったの····」

倫子「私は、紅莉栖を救えないんだ。ははは、はは···」

倫子「分かってた。分かっていたのよ。こうなるって予想はしてた。」

倫子「もう疲れた。ずっと休んでいないんだ···。だから、もう、いいよ。」

倫子「はは、は····」

まゆり「オカリン···いったい、なんが···」

倫子「私が···私が殺したんだ。···バカみたいだ····全部、私のせいだ。」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を刺し殺しちゃったんだよ。」

まゆり「殺した····?····ウソ····」

鈴羽「でも安心して。あともう一回タイムトラベルできる。」

倫子「放っておいてくれ。····私のことなんかn····何度やったって、結果はおなじだ。」

鈴羽「なにいってんの!諦めるつもり!?」

鈴羽「たった一回の失敗がなんだっていうんだ!?」

 世界線は必ず収束する。それが、この世界の摂理なんだ。
 そんなこと、分かりきっていたことなんだ。

まゆり「どうして。どうして、オカリンに一人に押し付けるの?」

鈴羽「く……!こうなったら、ビンタしてでも気合いを入れ直して…」

まゆり「だめだよ!無理強いするのは、よくないよぅ……」

まゆり「こんなボロボロのオカリン、見てられないもん…」

鈴羽「でもさ、このままじゃ、未来を変えられない」

まゆり「未来の事を、人ひとりで変えようなんて、きっと無理なんだよ」

鈴羽「だから、そのためのシュタインズゲートで……」

鈴羽「………」

鈴羽「気持ちはわかるよ。でもさ、あたしも未来をかけて、ここまで来てるんだよね。」

鈴羽「どっちにしろ2036年にはけれないんだ。そう簡単に諦めるつもりはないから」

まゆり「………」

まゆり「未来の事を、人ひとりで変えようなんて、きっと無理なんだよ」

鈴羽「だから、そのためのシュタインズゲートで……」

鈴羽「………」

鈴羽「気持ちはわかるよ。でもさ、あたしも未来をかけて、ここまで来てるんだよね。」

鈴羽「どっちにしろ2036年にはけれないんだ。そう簡単に諦めるつもりはないから」

まゆり「………」

ミスった

鈴羽「オカリンねえさん。1つだけ、忠告しとく。このタイムマシンに残されてる燃料は有限なんだ。」

鈴羽「さっきは往復2回分しかないって言ったけど、実はそれなりに余裕はある。」


鈴羽「それでも、移動できるじかんは、およそ344日分。」

鈴羽「片道のタイムトラベルでも、今から一年たたないうちに、7月28日には届かなくなる」

鈴羽「覚えといて。その日になったら、あたしは、たとえ一人でも跳ぶよ」

倫子「………」

誰かが、何かを私に向かって言っている。
でも、言葉のいみを聞き取れない。
何も聞きたくない。今は、泥のようにねむりたい。
もう、いいでしょ。
もう、解放してくれ。

まゆり「オカリン?」

まゆり「オカリン……。ねえ、オカリン……」

まゆり「もう、頑張らなくてもいいからね?」

まゆり「泣いてもいいんだよ、オカリン……」

まゆり「まゆしぃはそばにいるからね……オカリン……」

倫子「………」

まゆりが、そう言ってくれたからかどうかはわからないけど。
涙が、溢れて。
なにもかも忘れようと、きめた。
だからその日以来、私は未来ガジェット研究所に行くのを、やめた。

零化域のミッシングリング

2010.11.23.

駅前にそびえ立つ、新しい秋葉原のシンボルのひとつ、UPX。
その4階にあるホールでは、朝からATF(アキハバラ・テクノフォーラム)のコンベンションの準備が進められていた。
国内外の複数の大学や研究施設が連携し、特別セミナーやシンポジウムが不定期に行われる。
私の通う東京電機大学も、産業連携機能の一環として参加しているのだが、関連ゼミの学生たちはこれらのセミナーに
出て、指導教員にレポートを提出いなければならない。
でないと、単位をもらえないのだ。
私は、それに加えて今回のコンベンションでは、講演者のひとりである井崎准教授の手伝いをすることになっていた。
今は、共用ロビーに設けられた受付でリストを持って、セミナーに来る学生たちの出席チェックのために待機してる
ところだった。
まだセミナー開始もで少し時間があるから、ロビーには人もまばらだ。リストに載っている学生たちも来ていない。
暇だが、ひたすらここで待っているしかない。
昔の私なら考えられない勤勉さだが、井崎にこうしてアピールしているのは、新しくできた人生の目標のためだ。
ヴィクトル・コンドリア大学。
それが、私の今の目標。
井崎は、そこの大学と共同研究をいくつも行っており、人脈も広い。そんな彼の助手をつとめて働くことが、目標
に近ずく第一歩じゃないかと、足りない頭で考えたわけだ。
それに、今回のコンベンションでは、夏に引き続きヴィクトル・コンドリアのセミナーが開かれる予定になっている。
それにも、当然ながら関心があった。
夏、か……

倫子「……っ」

あの時の、貴女の姿が脳裏に蘇る。

ヴィクトル・コンドリア大学を目指すのは、貴女が、牧瀬紅莉栖がやろうとしていたことを学んで、自分が引き継いで
みたいと思ったからだ。
もちろん私は、貴女のような天才ではないから、貴女の研究するすべてを引き継ぎたいなんて、身の程知らずなことな
んか言わない。
それでもせめて、1割程度でも、私に何かできたなら……。
我ながら、よくここまで立ち直ったものよね。
そう思って苦笑した時、ロビーに声が響いた。

???「ちょっと、そこのかた?」

倫子「……?」

顔を上げると、エレベーターホールからこちらに向かってやってくるひとりの少女の姿が見えた。
体格も背も何もかも、とにかく小さい。
思春期を迎えないと現れない女性特有の気色が少し感じられるので、さすがに小学生ではなさそうだが…
中学生ぐらいかな?
せっかく可愛らしい顔つきをしているのに、ずいぶん野暮ったい女の子だな。
ボサボサの髪は、適当にまとめただけ。
服装だって、センス皆無だとわかる。

少女「ごめんなさい。スタッフルームってどこかしら?」

倫子「えっと、ここはATFのセミナー会場だけど…?」

 この場所には、ずいぶん場違いだ。
 たぶん間違えて入ってきてしまったんだろう。
 
少女「そんなのわかっているわ。何度同じ話をすれば気が済むの?」

倫子「あの、今。初めて言ったんだけど」

少女「私にとっては、あなたで4回目よ。」

 鼻息を荒くした少女は、懐からカードをひっぱりだした。
 今回のコンベンションの招待客に配られているゲストカードだ。表面には名前と所属機関がプリントしてある。

倫子「えっ?」

Viktor chondria University USA Brain Science lnstitute

倫子「ヴィクトル・コンドリア大学、脳科学研究所?」

 目の前の少女とカードを見比べて。
 ようやくわかった。

倫子「ああ!そういうことね!」

倫子「そのカードどこに落ちていたんですか?」

少女「その話も4回目よ!」

 少女は、うんざりしたように別のカードをささげてきた。 
 写真入りのIDカードで、ヴィクトル・コンドリア大学の脳科学研究所のもの。

倫子「え?」

 いつだったか、別の世界線の紅莉栖がもっているのを見たことがある。それと同じデザインだ。
 IDカードにプリントされた写真は間違いなく少女だった。

少女「ひやじょうまほって読むの。」

少女「私の名前。比屋定 真帆。漢字でも、ローマ字でも、誰も読めたためしがないから、さきに言っておくわ。」

倫子「...ヴィクトル・コンドリア大学の中学生?」

真帆「大学に中学生がいるわけないでしょう」

倫子「たしかに。じゃあ、飛び級なのか...」

 日本と違い、アメリカは飛び級が珍しくない。紅莉栖だって17歳で大学を卒業している。
 とはいえ、こんな幼い女の子がすでに大学の研究員だなんて....

真帆「ひとつ確認していいかしら?」

倫子「え?あ、はい」

真帆「あなた、今、少なからず衝撃を受けているわよね?」

真帆「 こんな小さい子が...信じられない。 かしら?」

倫子「は、はは」

 図星だ。

真帆「ここをよく見なさい」

 女の子...比屋定真帆は、IDカードの一部を細い指でビシッとさした。
 1989年生まれということは、今は2010年だから...。

倫子「...21歳?」

真帆「つまり立派な成人女性よ。」

 そして、ぐいっと胸を張った。
 あまり大きくは大きくない胸だったが 私は着やせするの、脱ぐとすごいの と彼女なら言いそうだ。

倫子「......」

真帆「なにかしら、その顔は」

倫子「え、あ、いや。...すいません。」

 信じられない。私より年上なんて。
 ダルに紹介したら 合法ロリktkr! などと手がつけられなくなりそうだ。

真帆「まぁ、いいわ。世界中どこへ行っても同じ目に遭っているから。」

 それにしても....脳科学研究所か。
 紅莉栖が所属していたところじゃないか。
 ということは、この子....じゃなくて、この人は紅莉栖のことを知っているかもしれないじゃないか。
 いろいろと聞いてみたい衝動を、ぐっとおさえこんだ。

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