しまじろう(30)「お父さんみたいな体型になっちゃったな」 (6)

縞野しまじろうは薄暗いリビングでサッカー観戦をしながら、自分のたるんだ腹部を掴んだ。

ずんぐりとした巨体がソファーに沈みこんでいる。

しまじろう「まあ遺伝かな? ははは」

はち切れそうな太股にちょこんと乗っかっているのは、大好きなドーナツ一箱。

もちろん母親の手作りには遠く及ばないが、最近これを買って帰るのが日課になっている。

如何にも体を破壊しそうなくらい油分たっぷりな上に、クリームやらチョコやらトッピングシュガーやらでこれでもかと言わんばかりに着飾ったやつだ。

しまじろう「……こんなの知られたら、はなに何て言われるか」

今日の検診で嫌な数値が出た。

医者曰く、今の食生活を続けていたら40までもたないそうだ。

ダメ元で「ドーナツはOK?」と聞いたところ、「死にたいんですかアンタ?」というお言葉を頂いた。

無論死にたいわけがない。

ドーナツが美味しすぎるだけなのだ。

しまじろう「今年に入ってから20キロ増えちゃったもんな」

20代後半から徐々に太ってきてはいた。

妹のはなからは会う度に日頃の不摂生を叱られてきた。

だが今回の太り方は正直言ってヤバい。

ヤバイヤバイ。

そんなことを考えながら、右手は無意識にドーナツに伸びる。

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ピンポン。

短いチャイムが部屋に鳴り響く。

しまじろう「おや、誰かな?」

ヨッコイセと立ち上がると、膝が少し痛んだ。

学生時代にサッカーで鍛えられた足腰は今、自重を支えるために昔以上に酷使されている。

しまじろう「どなた?」

はな「兄さん久しぶり! って……」

しまじろう「……」

ドアを開けると、そこには妹が立っていた。

スーツ姿のところを見ると、仕事帰りに寄ってくれたのだろう。

はな「兄さん……よね?」

しまじろう「……人違いです」

はな「嘘おっしゃい! どうしちゃったのよそのお腹!?」

しまじろう「い、遺伝だよ、遺伝……」

会って早々、やはり腹を指摘された。

適当な言いわけすら思いつかず、訳の分からないことを口走ってしまった。


***

はな「で、お正月から何キロ太ったわけ?」

しまじろう「ご、5キロくらいかな?」

はな「ホントは?」

しまじろう「……20です」

はな「まったく……」

呆れ顔で溜息を吐くはな。

視線の先には中に一つだけ残っているドーナツの箱。

今年の正月にドーナツ禁止令を出されたばかりなのもあって、非常に気まずい。

しまじろう「えーと……それよりその手元にあるの、お土産?」

はな「ええ。職場の近くに美味しいケーキ屋があるから買って来たの」

しまじろう「本当!? じゃあ今、コーヒー淹れるよ!」

はな「食べちゃダメ! これは持ち帰ります。あとこのドーナツも没収」

しまじろう「そんな……」

はな「いい? 兄さんはこのままじゃ間違いなく糖尿病になるわ! あたしは兄さんのためを思って……」

しまじろう「あ、ゴール決まった! やりい!」

はな「兄さん……!」

説教はその後、小一時間ほど続いた。

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