魔法使いに遭えなかった灰被り (111)

モバ○スSS??です。

胸糞展開注意。

直接性描写は無いですが、エグい表現あります。

書き溜め途中までなので、気長にお付き合いいただけると幸いです。


「○○ーっ、○○は居るか??」

デスクのはるか向こう側から、部長が俺の名前を呼ぶ声がした。

一介の平社員である俺が、直属の係長や課長なら兎も角、部長に直接声を掛けられる事はあまりない。

一体こいつ何をやったんだ、と同僚達の興味と憐みが綯い交ぜになった視線を背中に感じながら、部長の元まで歩いて行った。

重い足取り、気分は刑の執行を待つ被告人だ。

不思議だったのは部長ですら、一体こいつ何をやったんだ、と言う視線を俺に向けてきた事だ。

「○○・・・、本社の社長がお前を名指しでお呼びだ、何か心当たりは有るか??」


有る訳がない。 


自慢する訳ではないが、俺が務める会社は巨大グループの一角を占めるそこそこの大企業である。


その本社の社長となると、正に雲の上の人物。 

俺程度では聞いても全く価値の分からない勲章やら何やらを貰うほどの、
実感も何も沸かない程かけ離れた世界の住人だ。


当然、俺の30年ほど生きてきた人生の中で、関わり合いになったことなど一切無いと断言できる。


唯一心当たりがあるのは、小学生の頃、親とお年玉を半分渡すの渡さないので喧嘩した時に、

「お前は橋の下から拾ってきた子だ」

と言われた事があるので、それを満々信じるのなら社長が本当のパパかも知れないと言う事だけだ。


「全くないです」


困惑を隠しきれずに断言すると、部長は軽くため息をつき、

「まぁ、有るにしても無いにしても…、とりあえず先方はお前をご指名だ。くれぐれも失礼が無いようにな。
 場合によってはお前は勿論、私を始め何人のクビが飛ぶか解らん」

部長は、そう強烈な脅しを入れて俺の前に名刺を差し出した。


本社社長の名の入った名刺だ。

ただの名刺なのだが、何だかキラキラに輝いて眩しく見えるのは気のせいだろうか。


両手で受け取ると裏にはバーらしき店の名前と住所、そして日付と時間が書かれていた。

名刺に書かれていた日時、場所の指定通りに向かうと、六本木のとあるバーに辿り着いた。


中に入るとまずその雰囲気に圧倒された。


映画か何かでしか見た事が無い様な高級感溢れるバーで、カウンターですら何か近寄りがたいオーラを放っている。


壁に並ぶ酒は、大学時代に洋酒にハマって色々知識を仕入れた悪友が、
ウンチクたっぷりに披露してくれた知識の記憶の中でも、とびっきりのレベルの逸品が惜しげもなく並べてある。


俺程度の年収のサラリーマンが通ったら、三日で楽々破産出来そうだ。

居心地悪くカウンターの端に座り、礼儀正しく話しかけてきた初老のバーテンダーに社長の名刺を見せ要件を告げると、
バーテンダーはしばらくお待ちください、と慇懃に一礼して何かお作りしますか、と俺に尋ねてきた。


普段通っている飲み屋の注文の常識が全く通用しそうにないので、苦し紛れに、

「ウィスキー、お任せで」

と告げると、バーテンダーはかしこまりました、と一礼し、琥珀色の液体をグラスに注ぐと俺の前に運んできてくれた。

一口、口に運んだだけで何時も飲んでる安酒と格が違うのが分かる、芳醇な香りとコク。

値段は怖いので一切考えない事にした。

そんな全く酔えない酒盛りを重ねていると、後ろの方から待たせたね、と言う重々しい声が聞こえて来た。


振り向くと、そこには高級そうな仕立てのダブルのスーツに身を包んだ太めの老紳士が、
隣に眼鏡の素敵な知的な美女を連れて立っていた。


老紳士の方は一方的に知っている。 

俺程度のリーマンでも知っている政財界の超大物、我が社の本社社長様だ。


「急に呼び立てて、悪かったね。今日は、こちらの方が君に用が有ると聞いてね」


と、隣の眼鏡美女をスッとエスコートした。


高そうなスーツに身を包んだ眼鏡美女はニコッと微笑んで俺に一礼した。 

その一連の動作だけでも俺は目を奪われ、ドキドキしてしまった。


言い訳させて貰えるならば、彼女の笑顔が何故か俺にとても親しみやすい、どこか懐かしい人間に会えた様な、そんな笑顔に
見えた、と言うのはあまりにも節操がなさすぎるだろうか。


俺と言う人間がこんなにも美女に弱いというのは新鮮な驚きではある。


ドギマギしているその俺の心中を知ってか知らずか、社長は眼鏡美女の紹介を始めてくれた。


「キミも聞いたことあるだろう?? 今年のノーベル賞で最年少で科学賞を受賞した日本人の天才がいると…」


それならば聞いたことが有る。

一時はニュースや新聞はその話題で持ち切りだったのだ。


「はい、何でも全く別の世界を観測できる装置を作り、パラレルワールドの実証に成功したとか…、確か…」

「そう、そのプロジェクトの中心人物が、この博士だよ」と、改めて隣の眼鏡美女を紹介した。


眼鏡美女は改めて一礼すると、名を名乗り、手を差し伸べて来た。

慌てて手を握り返すと柔らかく暖かい。 考えてみれば仕事仕事で女性の手を握るなんて何年ぶりだろうか。

これほどの美女ともなると、生まれて初かも知れない。

それにしても驚いた。 


世紀の大発明と言われ、世界中にニュースを振りまき、今でも超一線の研究の第一人者が
こんなにも若くて、しかも美女だとは。

これほどの重要人物ならば、大企業のトップである我が本社社長が仲介するのはむしろ当然とも言える。


しかし、ただの平サラリーマンに過ぎない俺に博士を引き合わせる意味が、現時点でもまったく想像も付かない訳だが。



俺が尚も戸惑っていると、本社社長は眼鏡美女、いや、博士と二、三言葉を交わし、

「では、後はよろしく頼むよ」

と俺の肩をポンポンと叩き、そのままバーから去って行った。

優雅に深々と頭を下げる博士とは対照的に、訳も分からずペコペコと頭を下げる俺、
傍から見たらいかにも不釣り合いで滑稽だろう。

本社社長が完全に姿を消すと博士は俺に向き直り、

「久しぶり…ではないのね、はじめまして。…ふふっ、何時も思うけど何だか変な感じね」

と、いたずらっぽく微笑んだ。

その物言いに引っ掛かりを覚えたものの、その微笑みに出会ってから数分で既に何度目かの恋に落ちた俺は、

「え、ええ、はじめまして??ですよね?」

と、顔を赤らめ、間抜けに問い返した。


こんな美女に出会えた事など一切記憶にないので、はじめまして、に間違いはないのだが。


言うと、博士は、

「ええ、初めて会うわね、この世界では。」と言い、カウンターに座る様に俺を促した。

言われたとおりに座ると博士は椅子の上で足を組み替え、バーテンダーに慣れた感じで自分の飲物を頼みんだ。

「この世界、と言うと…」俺が聞くと、

博士は頷くと、運ばれて来たカクテルでまず喉を潤し、説明を始めた。


「まず、私は今、別の世界を観測出来る装置を研究しているの」

「はい…確か、限定的ながら成功して、パラレルワールドの観測に成功、ノーベル賞をお取りになったとか…」

「ええ、今は本当に近い、誤差に近い範囲のパラレルワールドしか観測できないけどね? 
いつかはもっと変化の激しい別の世界、例えば全く環境に気を使わなかった世界とか、
テロリストを野放しにした世界とかを観測して、色々な平和に向けた取り組みに
説得力を添える装置にしていきたいわね」と、博士は熱く語った。

「素晴らしい研究だと思います」

心の底からそう思った。あまりにもスケールが大きすぎて、いまいちピンとは来ないけれども。

博士はありがとう、と微笑むと、

「で、ココからが本題なんだけど…」

と声のトーンを一つ落として、申し訳なさそうに語り始めた。

「今は、更に変化の大きい別世界を観測するために色々な世界を観測してデーターを取ってる段階なんだけど…、
極めて現在の世界に近い世界で大変興味深い世界を観測したのよ…」

『興味深い世界??」

俺が問うと、博士は恥ずかしそうに、


「わっ、私が…アイドルをやってる世界…」

と声を振り絞って答えた。

「ア、アイドル…ですか。。」

「やっぱりおかしいわよね、私がアイドルなんて…」

博士は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「そんな事ないですよ!!博士は美人ですし!アイドルやってても絶対成功しますって!!」

俺が力強く告げると、博士は、キョトンとして、

「ふ、ふふっ、そう、よね。流石ね、やっぱりこの世界でもアイドルを見る目が有るわ。貴方」

と、嬉しそうに微笑んだ。

「アイドルを見る目…ですか??」俺が聞き返すと、

「そう、貴方、向こうの世界ではアイドルのプロデューサーなのよ、ふふっ、相当敏腕らしいわよ??
向こうの私も貴方に見出されてスカウトされたらしいの」

と、博士は楽しそうに語ると、軽くウィンクをした。


「俺が、アイドルのプロデューサー…何だか想像もつかないですが…」

「私だってそうよ、あんな近い世界に自分がアイドルになってる可能性があるなんて」

言うと博士はカクテルグラスを手に取り、心底不思議そうな顔つきをしながらグラスの中の液体を揺らした。

「でも、自分で言うのもなんだけど、その世界の私、アイドルで結構売れていたのよ?? 
まあ、その分忙しいのか肝心の研究はあまり進んでなかったみたいなんだけど…」

分かる気がする。さっきも言ったが、博士はこの美貌だ、アイドルとしても十分成功するだろう。

特別、別の世界の俺が有能な訳でもない気がするが、それが原因でこんな美人とバーで並んで会話出来る機会が出来た訳だし、
自分で自分を褒め称えてやりたい気分になった。

「それでもね、この世界で曲がりなりにも大成功と言われる成功をおさめた私なんかより、よっぽど素敵な顔をしていたの、
向こうの世界の私。
それで私…不思議に思ってね、最近ではその世界ばかり観測してたわ」

「あの世界の私が何でそんなに幸せそうなのか色々調べてみたの、純粋な興味でね」

確かに興味深い話だ。 

別の世界の自分が明らかに自分より幸せそうに暮らしている。 
違いが何か気になるのは人のサガと言うものだろう。

「分かるような気がします」

俺も見れると言うなら見てしまう気がしていたから、率直にそう答えた。

「でも…ココからが問題あってね…」

博士は、その美しい眉を微妙に歪め、何やら申し訳なさそうな表情になった。


何だろう、すげぇヤな予感がする。


「曲がりなりにも一つの世界を観測するのだから、自分一人だけの手じゃ足りなくなって来たの。
でも、別世界とは言え、自分の周りの行動をプロジェクトのスタッフに見られるのは流石に抵抗があって…」

確かに。

違う世界とは言え、自分の全てを見られる訳だ、確かに抵抗感は半端じゃないだろう。

博士が妙齢の美人と言う事もあり、希望者には事欠かないだろうが。

「でね、私思いついたの。向こうの世界のアイドルの時の同僚達の、こっちの世界で暮らしている人を探し出して、その人本人を観測して
貰えば大量のデーターが取れて研究が捗るんじゃないか、ってね。」

「なるほど…確かに」

別世界とはいえ本人ではあるし、プライバシーは守られそうだ。 

「でも何が問題なんですか??データーもとれそうだし、問題なさそうですが」

俺が問うと博士は、

「ええ、研究自体は順調に進んだわ。データーも目論見通り大量に取れたしね、でも・・・」


「でも??」

「こっちの世界でも成功している人は問題なかったのよ…、


「へぇ、あっちの世界でも同じ様な会社設立してんだね、まあ負けてる気はしないけど」
「アイドルですか…モデルとして長年やってますけど、こんな世界も素敵ですね…。」
「向こうの私は夢を掴んだんですね…頑張って欲しいです。私は諦めちゃったけど…、でも、私も主婦業頑張ってますよ!
 子育て頑張ります!!」

みたいにね、でも・・・」

博士は顔を曇らせる。

「でも・・・??」

「こっちの世界で人生が上手くいってない人には、向こうの世界の輝きは眩しすぎたみたいでね…、
ショックを受けたみたいで…

どうして私はこんななんだ、

何で私はこんなに苦しんでるのに向こうの私はあんなに笑顔なの、

向こうの世界の私と何が違うの…、


そう自分を追い込み始めてね…」 博士が辛そうに呟く。


「うわぁ・・・」

「当然、プロジェクトは即刻中止、私たちスタッフは鬱状態になった人達の心のケアに全力で当たってたんだけど・・・、
 一人、現在行方が知れない状態でね」


前言撤回。向こうの俺見たくない。 アイドルのプロデューサーとなれば可愛い女の子に囲まれている事だろう。

俺も病む、確実に病む。

「えらい事ですね・・・」

俺は心の底からそう思った。

そんな俺の発言に博士は沈痛に頷きながら、話を続けた。

「ええ、しかもその人の部屋に置手紙があったの」

「置手紙??」

「ええ、内容は、

この世界で私が笑って暮らせないのはアイドルになれなかったから、
アイドルになれなかったのはプロデューサーが私を見つけてくれなかったから。
プロデューサーが見つけてくれなかった見つけてくれなかった見つけてくれなかった・・・、

後は延々繰り返し書かれているわ。」 


「プロデューサーって……」

怯みながら自らを指さす俺に、博士は俺の瞳を見つめながら、頷き答えた。

「そう、貴方よ。」

「で、これがその部屋の住人の部屋の写真、…見る??」

手渡された写真を手にした瞬間、全身の血の気が引いた。

部屋は元々は白い壁?だったのだろうか?? その判別も付かないほど赤黒い塗料らしきもので、壁一面に

「許さない」

と、殴り書きされている。

他に提示された部屋の写真も、同等の闇を抱えた様子がそれぞれ伝わってくる。

包丁で八つ裂きにされたベッド、
穴だらけになった壁、
傷だらけの床、放置された弁当箱等から荒れた生活の様相が伝わってくる。


大方に共通するのは、残されたメッセージ 



「  許さない  」




「これって・・・」ガクガク震えながら、博士に尋ねる。

「そう、申し訳ないけど、プロデューサーにならなかった君を逆恨みして、君に危害を加える可能性が極めて高いの。」

「そ、そんな、どうにかならないんですか!?」

俺が縋る様に博士に尋ねると、

「申し訳ないと思っているわ…。研究所の方でも警察と連携してなるべく被験者の行方を付きとめ、
未然に被害を防ごうとはしてるのだけれど・・・、何しろ事件にもなってないので警察の動きも極めて鈍いわ。」

「今のところは貴方に注意を喚起して、様子を見るしか方法がないのよ・・・」

博士は申し訳なさそうに俯いた。

「そんな・・・」

絶望に目の前が真っ暗になる。

「とにかく、注意だけは怠らない様にして頂戴、勿論、全面的に私たちがバックアップするわ。
何かあったらすぐに連絡してくれる??」

言うと博士は携帯端末を取り出し、俺と連絡先を交換した。

これほどの美女のアドレスをゲットしたというのに、何も嬉しくなかった。


その後、博士と注意事項を二、三、確認し合ってバーの前で別れた。

最期まで申し訳なさそうな顔をした博士に俺は何も言えず、帰り道の国道の激安ジャングルで、念のための護身用にと
頼りなさげなサイズのスタンガンとポケットサイズの催涙スプレーを買い、帰路についた。





きっかけは親とケンカして家を飛び出した時だった。

部活に入るでもなく、学業に勤しむでもなく、ただ日々を過ごすだけの私。

そんな毎日に、自分で自分にイライラしてた。


そんなある日、親と些細な事で衝突した。 


たぶん最初は実家の花屋の店番を手伝うの手伝わないのの他愛もない話だった。


花屋の仕事はそんなに嫌いじゃなかった。でも、イライラしてた私は意味も無く口答えをして、親と言い争いになり、
そのまま着の身着のまま家を飛び出した。


充ても無く街を歩いた。雑踏は私の気持なんか全くお構いなく通り過ぎていくし、誰も私の事なんか気にかけない。


ふと、通りの端にある道路の縁石に腰掛け、ただ通り過ぎる車を眺めていた。


頭上の街頭ビジョンからは、キラキラした笑顔のアイドル達の、華麗なダンスと明るい歌声が聞こえてくる。


思わず膝を抱え込んでうなだれてしまう。 惨めだった。


あまり歳の変わらない少女たちがあんなにも光り輝いているのに、自分はこんな風に燻っている。

彼女たちは街頭ビジョンでも多くの人の足を止め、会場では数えきれない観客の声援を受けているのに、
自分は誰にも相手にもされず、道端で蹲っている。


孤独に押しつぶされてしまいそうになっている時、ふと一人の男から声を掛けられた。

今では正直、顔も覚えていない。


ヨレヨレのスーツに身を包んだ頭髪の薄い脂ぎった印象だけは残っている、中年のサラリーマンだった。

男は私にいやらしい笑顔で笑いかけると、当時の私には理解できない隠語と符丁で私に馴れ馴れしく話しかけてきた。


当時の私もそれなりの知識はあった。


この中年が私に援助交際を持ち掛けているのだ、と気付くのにそう時間は掛からなかった。

何時もの私なら、馬鹿にするな、の一言を浴びせ、その場から立ち去っていただろう。

腹立たし紛れに通りの向こうの角にある交番に駆け込んで、この中年男性を通報していたかも知れない。


だが、その時の私はもうどうでも良かった。 

自分にイライラして家族にも当たって家を飛び出して一人、街中で蹲まる。
そんな自分に絶望していたし、そんな自分にも声を掛けてくれた人が居るって事は単純に嬉しかった。


それが未成年に援助交際を持ち掛けるような屑だったとしても。

ヤケになってもいたのだろう。 私は中年の交渉に頷き、そのまま彼に導かれる様に歓楽街のホテルに一緒に入っていった。


その後はただ身を任せるだけだった。 

バージンだった私には、その中年の稚拙な性行為は痛みを伴うだけで何の感傷も感慨も起きなかった。

ただただ虚ろな瞳で天井を眺めて、身体の上の不快な重みが早く消えてくれる事だけを祈っていた。


二時間程度、散々私の身体を弄んだ挙句、中年はベッドの上に一万円札を五枚投げてさっさと部屋から出て行ってしまった。


私はシャワーを浴びて丹念に体を二回洗うと、服を着なおしてスカートのポケットに五万円を捻じ込んだ。







こうして私は最悪の処女喪失を経験した訳だが、あまり後悔はしなかった。


と、言うのも、財布も持たずに家を飛び出したので、私はその時無一文だったのだ。

街中で頼れるものも無く、無一文と言うのは想像を絶する孤独に苛まれる。


それが今は曲がりなりにも少なくない資金を手に入れた。 貞操の代金と言うにはあまりに安売りかとも思わないでもないが、
とりあえずコレで当座はしのげる。

思えば空腹であることを思い出し、手近のファミレスでドリアと珈琲を頼んでお腹を満たすと、
すぐ近場の横に慣れるネットカフェに入り、そのまま横になった。

コレでしばらくは持つし、お金が無くなったらまたその時考えよう。 


そう思うと瞼が急に重くなり、そのまま私は微睡の中に墜ちた。

翌日から私は派手に遊ぶようになった。学校にも行かないのだし、する事がない、
懐にはそこそこ小金が有るとなればそうなるのも必然だろう。


似た様な境遇のウリをやってる娘たちとつるみ、日々を遊んで暮らした。

そんな生活を続けてれば当然お金は幾らあっても足りない。


結果的に援助交際を持ち掛ける回数も増えた。


そうなると当然、警察に目を付けられる事も多くなり、ついには補導されて家に連れ戻された。


その時、新しく買った財布の中の大金の出所を聞かれ、援助交際に手を染めている事を白状した時には
父に顔の形が変わるくらいに叩かれた。

その時の父の、鬼の形相に流れる涙の意味に気付かないくらいには当時の私は子供だった。

殴り飛ばされた先にあった剪定用のハサミが目に入った私は、無意識にそれを掴み、
なおも私の頬を張ろうとして胸倉を掴み、手を振り上げる父の腕にそれを思い切り突き刺した。

激痛に蹲る父に駆け寄る母。

それを尻目に、私は自分の財布を掴むとそのまま実家の店から駆け出した。


悲痛に私の名を叫ぶ母の声を背中に受け、私は家から走り去った。



以来、実家には一度も帰ってはいない。

次の日から私は、関東から遠く離れた地方都市に居た。



東京ではもう警察にマークされているだろうし、なにより父を刺した事により傷害罪も付くのではないかと考えたのだ。


遠く、遠く、自分の事を知ってる人など誰も居ないこの土地に流れて来た。


地方都市は都会ほど援助交際の機会が少ない。


裏サイトなどを見ても、ほぼ募集などが無かった。


忽ち資金に窮した私は、歳を誤魔化して風俗嬢の面接を受けた。

身分証も無く、仕事どころかバイトすら見つけられない私には、ほぼ唯一の選択肢だったと思う。


年齢はかなり逆サバを読んだのだが、荒んだ生活を重ねていたせいか、肌も荒れていたので微塵も疑われなかったことだけが
少しだけ悲しかった。


こうして私は場末の都市のソープ嬢となった。

以上、書き溜め分投下終了です。

ソープ嬢と言うのはメンヘラが多いと良く言う。

まあ、お金の為に見ず知らずの人間に身体を売るのだし、
そんな仕事を選ぶからには、もう既にまともな精神では無いと言えるのかもしれない。

だが、この仕事をしていれば分かるのだが、中には家族の借金や身の不幸の為に仕方なくこの仕事を始める
至極真っ当な精神の女の子も入っては来る。

だが、そういう子も次第に病んでいく。 例外なく。


何故か。


自分の貞操観念や良心等との折り合いが付かない、と言う場合も有るが、やはり客層が酷いのだ。

全員が全員酷い客と言う訳ではない。むしろ、真っ当なお客の方が多いくらいだ。

しかし、十人の中に一人でも酷い客が居ると、その日一日が辛くなる様な精神にまで墜ち込む。

ワインの中に一滴汚水が入ると、全てが汚水になるように。


そして残念なことに、風俗に通う客層と言うのは往々にして一滴の汚水、で済む量ではないのだ。

普通に付き合うだけなら一発アウトな不潔な客、ワキガや足の臭いならまだマシだ。

股間などをわざと洗わずに来店して、臭いを嗅がせて喜ぶ変態もいる。


援助交際ならこちらにも選ぶ権利が有り、多少は相手の選り好みも出来るのだが、風俗嬢にはその選択権は無い。


中には言葉攻めを通り越して、人格を否定する様な罵りをしてくる客もいる。


そんな客にも笑顔で接していかなければならない、私は急速に病んでいった。

そんなある日、ウサ晴らしのホストクラブ通いからフラフラになって自分のマンションに帰ると、
長い間見る事が無かった私の本名が宛名の封書が一枚、ポストに届いていた。


ベッドに身体を投げ出し中身を一読すると、何やら難しい大学の難しい名前の研究所が、あるデーターを取る為に
被験者を募集しているらしい。

それに貴女が選ばれた、謝礼はする。 


つきましては一度連絡を、との事だ。



謝礼の金額はまぁまぁ大した額だが、十中八九詐欺だろう。


バカらしい。


私は封書の中身を丸めてクシャクシャにすると部屋の隅の屑籠に投げ入れそのまま眠りについた。

翌日、二日酔いの頭痛を堪えながら店に出勤すると、早速指名された常連の客についた。

某広域指定暴力団の末端のチンピラだが、入っている組はそこそこの大きさらしく、何時もそれを笠に着て我が物顔で街をのし歩いてる。


だが、本人はただのチンピラだ。

別の常連の組員から聞いた話によると、背中に入っている刺青が途中で止まっているのもあまりに刺青を入れるのが痛すぎて、
途中で止めてしまったからだと言うのだから呆れる。


胸の部分にある般若の顔が自慢らしいが、小さくてカブトムシにしか見えないので密かに私はこの男をカブトムシと呼んでいた。


カブトムシは早漏だし一回出すともう立たなくなるので、何時もは早く終わる楽な仕事なのだが、
今日は贅沢にも意味も無くロング120分で指名してきた。


不思議に思い、一戦終わった後ベットの上でカブトムシに尋ねてみた。

「今日は随分ゆっくりできるのね、一体どうしたの??」

カブトムシは肩から回した手で私の胸を揉みながら下卑た笑みを浮かべると、

「ああ、バカな若僧たちがハネたせいで俺らにも金が回って来てな、今、羽振りが良いんだよ」

と馬鹿そうにゲヒャヒャと笑いながら、嬉しそうに語った。

カブトムシが言うには、地元の半グレのグループが地回りの組に届け出も出さず、この一帯の老人達にオレオレ詐欺の電話攻勢
を掛け、少なくない額を稼ぎ出したらしい。


それを地元の組に泣きついて来た老人たちから仕入れた情報により、末端の組員がグループに接触、
半グレ達から場所代とシノギのアガリを脅し取る事に成功したらしい。


その分け前がチンピラのカブトムシの懐にも多少入って来たのだろう。

ちなみにお年寄りたちの貴重な蓄えは、一銭も手元に戻らないらしい、お気の毒様。



その話を寝転びながら聞いていた私は、ある考えが思い浮かんだ。

「ねえ、詐欺グループって見つけて尻尾掴むとお金入るの??」

私が聞くとカブトムシは、

「まあ、ウチに届けてねぇなら色々因縁付けてアガリを引っ張れるからな。 
嫌がるならサツにチンコロするぞ、って脅しゃあいいんだ、大抵面倒避けるために何ぼか包んでくるわな」

私はそれを聞くと、

「ねえ…いい話があるんだけど…」

と、カブトムシの胸に頬を寄せ、そっと囁いた。




数日後、私はゴミ箱から拾い、皺を伸ばした封書の中身を手に、都内近郊の研究所の前に居た。


カブトムシと話し合った結果、私はこの手紙の詐欺に乗ってみる事になり、向こうが私から金を巻き上げる算段で
接触して来たら、カブトムシをはじめとする組員が相手グループに乗り込んでくる。

そのまま、

「俺の女になにすんだ、コラ」

と、金を脅し取る算段に持って行くらしい。

カブトムシの女扱いされるのは正直勘弁だが、私にも少なからぬ小遣いも入る様だし、見逃す手は無い。


ストレス発散に通ってるホストクラブも相当ツケが溜まっているので、この辺で清算しておかないと出禁になってしまうだろう。

今の私にとって唯一のストレス発散まで無くなると、私はそう遠くない内に潰れてしまうだろう。



そう思い、カブトムシに言われるままに手紙に書いた連絡先に連絡、今日と言う指定された日に指定された場所へとやって来た。

それにしても巨大な建物である。 


ガラス張りの玄関ホールは広々として解放感も有る。

玄関には警備員も立っており、受付の女性の受け答えもしっかりしたものだ。


最近の詐欺グループは此処まで大掛かりに舞台を整えるものなのだろうか??

私の様な風俗嬢を一人引っ掛けた所で、引っ張れる金額は精々数百万が良いところだろう。

だが、こんな施設、用意するだけでも一千万では効かないのではないのだろうか??


何かおかしいと思いながら受付嬢に案内されてホールの片隅のこれまた豪華な調度品であるソファーに腰掛ける。


運ばれて来た紅茶もカップも高そうだ。 

まあコンビニのペットボトルしかロクに飲んだ事ない私では、紅茶の良し悪しなど分かろうはずも無いのだが。


居心地悪くソファーに浅く腰掛けて時を過ごしていると、私の前に一人の白衣の女性が現れた。


眼鏡を掛けた知的美女で、この施設の博士をやっていると名乗ると、自らの名前が書かれた名刺を差し出して来た。


その名前には見覚えが有った。

ソープ嬢と言うのは、ただ客を射精させるだけが仕事ではない。

プレイ前、相手の緊張を解くため、プレイ後、少しでも長い間話をして
長時間指名して貰う為に、気に入られて次回も指名が取れる様に、話術の向上も欠かせない。


時事ネタを仕入れる為にニュース番組は欠かさず見ている風俗嬢は意外に多い。


そんな私もニュースは良く見ているのだが、数か月前に夕方のニュースで大々的に報じられた、
日本人の若き天才博士が最年少でノーベル賞受賞、と言うニュースはよく覚えている。

彼女が抜群の美人のリケジョと言うのもあり、大々的に取り上げられたからでもあるが、私とあまり歳の変わらない女の子が、
ノーベル賞まで受賞しているのに、私は場末の風俗嬢か、と打ちのめされた様な感傷に囚われたからだろうか。


その日の酒は深く荒れた事を覚えている。


そんな鬱屈した感情を私が抱えていて、自分に向けられている事も知らず、彼女は私の方を見るとなんだか気安そうに微笑み、

「えっと、はじめまして。 ふふっ、何だか不思議な感じね」と微笑んで手を差し出して来た。


どう反応していいかわからず、手短に挨拶を返して、その手を握り返すと、博士は、

「よろしくね、実は貴女にある研究のデーターを取る手伝いをして欲しいの」と告げて来た。

施設内を歩く博士の後を付いて行くと壁一面に備え付けられた機械と、真ん中にヘルメットの付いた椅子が置いてある部屋に到着した。

椅子からは無数に太いコードが至る所から食み出て、壁の機械類に繋がっている。


椅子のSFを思わせる尖ったデザインも相まって、ハリウッド映画の撮影と言われても信じたかもしれない。


椅子に手を掛けて博士が、

「私の研究については知っている??」と聞いて来た。


そういえばノーベル賞を受賞した事までは知っているが、詳しくは知らない。

それを博士に告げると、

「そう、じゃあ説明からね」と、言うなりホワイトボードに難しい数式を書き始め、何やら意味不明な言語で話し出した。

中卒の私の頭では全く理解できないので呆然として聞いていると、その様子に気付いた博士が申し訳なさそうに、

「えと、分かりやすく言うとココとは違う別の世界を観測する装置ね」と、端的に告げた。

なるほど、分かりやすい。


だが待ってほしい。別の世界を観測する?? それは中卒の私でも冗談ではないかと思える。


まさにSFの世界の話だろう。


やはり詐欺だったのだ。

しかし、こんな大掛かりな施設を用意して、世界的な有名人を用意して一体どんな詐欺を仕掛ける気なのだろうか??


疑いの目で博士を見る私に、


「論より証拠、まずは試してみて??」と、椅子にこれまた太いコードで接続されたヘルメットを差し出してくる。


怪しさ満点だが、こんなトコまでノコノコやってきて何もせずに帰ったのでは、カブトムシにどんな因縁を付けられるか分かったものではない。

不承不承ヘルメットを被ると、椅子に腰かけた。

ヘルメットはバイザーの部分も真っ黒になっており外の様子が全く見えない。

ただ、博士が椅子の周りの機械を何やら操作する音だけがカチャカチャと煩い。


不安になり、博士に声を掛けようとすると、

「用意できたわ、それじゃぁ、楽しんできてね??」と、私の肩にポンと手を置く。


その瞬間、一瞬で視界の暗闇がマーブル模様の渦巻きへと変わり、その次の瞬間、世界は蒼い光が揺れる空間へと変化した。

次第に目が慣れると、そこはかなりの広さのステージを持つ会場のようだった。


その会場で私は、天井から眺める様に見下ろす視点にいる。


不思議な事に身体の感覚はあるのに、視界には一切入らない。まるで視点だけが天上から下界を見下ろしているような、そんな感じだった。


落ち着いて来たので目を凝らして会場を眺めてみると、揺れる蒼い光は、何万人もの人間が振るサイリウムの光だった。


その揺れる数万本の蒼光の中、ステージで踊り歌うのは紛れもなく私だった。


自信にあふれた笑顔で、会場中に響く声で曲を歌う。 その行動に対する数万の大歓声。

普段は地方のソープでたった一人の客に媚びた笑顔を向け、
時に罵声を浴びせられる私とは似ても似つかないこの圧倒的なカリスマ。


見た目だけは瓜二つなこの人物は一体誰なのか?? 全く理解できず混乱していると、頭の中に博士の声が響いて来た。


「驚いた?? それはね、違う世界の貴女なの。 別の世界では貴女も私もアイドルなのよ」と告げて来た。


アイドル?? 私が? そんな輝いている世界に私が??

混乱していると、ステージは興奮の最高潮の中、幕が下り、ステージの脇から駆け付けて来た同僚のアイドル達に
アイドルの私が揉みくちゃにされている。

一通り仲間達の手洗い歓迎が終わると、脇に立っていたスーツ姿の青年がアイドルの私に歩み寄る。

すると、それに気づいたアイドルの私が青年の傍に駆け寄り、

「プロデューサー!!」

っと嬉しそうに叫び、その胸に飛び込んだのだった。


何だろう――見た事も無い人と向こうの世界の私が抱き合ってるだけなのに――何故か胸が痛んだ。

その後、休憩を挟みながら博士の指示通りに向こうの世界の私の色々な時間を観測した。


アイドルから女優を始めた25歳の時―

ソロでアイドル界の頂点に立った20歳の時―

ユニットを組んで初めてのライブに立った16歳の時―

時間を遡りながら色々な私を見ていく。



どの時間の私もキラキラに光輝いていて――そして脇には何時もあの青年が居た。



嗚呼、この子は何て眩しいのだろう、私と同じ存在のはずなのになぜこうも違うのだろう。

この子がこんなに光り輝いてる時に私は何をしていた??なぜこうも差があるの??

何故何故何故――


私が自分自身に対する劣等感に苛まれていると、その時はついに訪れた。

この光景は――、そう、初めて親とケンカして家を飛び出したあの時と全く一緒だ。


向こうの世界の私も、ただ毎日を過ごすことにイライラして、感情を逆立てて、親に当たって――家を飛び出した。


なんだ、まったく同じじゃないか、向こうの世界の私も私と一緒だったんだ。


なのになぜ今はこうも違う? 何が私達をこうも変えた?? 
私は食い入るように涙を浮かべて街を走り抜ける自分を見下ろしていた。


すると、向こうの世界の私も、私と同じように歩き疲れ、あの通りの端にある道路の縁石に腰掛けた。

所在無げに通り過ぎる車をただ眺め、頭上の街頭ビジョンからはキラキラしたアイドルたちの歌声が聞こえてくる。


それを見て膝を抱えて蹲る私。


あの時と全く一緒だ――。

すると、あの時の様に、ヨレヨレのスーツを来たサラリーマンが座り込む私を見つけて、いやらしい笑顔で近寄って来る。


私はそれをただ無感情に眺めていた。

すると――

サラリーマンが私に声を掛ける寸前、近くを取り掛かった長身のスーツの青年が私の脇に立った。


間違えもしない、あの時、ステージの私が抱き着いて行った青年だ。
ずっとアイドルの私の傍に居た、あの青年だ――

青年は、私の横にしゃがみ込んで視線を合わせてこう言ってきた。



「アイドルに興味、有りませんか??」



その瞬間、私は椅子の上ではじける様に笑った。 

「あはははははははははははははっ!!」狂った様に笑い声を上げ続ける私。


余りの笑い様に異常を感じ取った博士が装置の動作を止めたほどだ。

瞬間、ヘルメットのバイザーは暗黒に戻り、視界もゼロになる。

しかし、私は両目から止め処なく涙を溢れさせながら、狂笑い続けた。


こんな惨めな私と、あのキラキラに輝いていたアイドルの私、二人にはあんな差しかなかったのだ。


あの街角で声を掛けて来たのがプロデューサーだったか、援助交際目当ての中年だったか、だ。


場末のソープ嬢とアイドル界のトップアイドルが!!


ひとしきり笑った後、笑いが収まると、流れ続ける涙と共に私の心に暗い感情が押し寄せて来た。

何故、プロデューサーは私に声を掛けてくれなかったのだろう。何故プロデューサーは私を見つけてくれなかったのだろう。

何故プロデューサーはなぜなぜ何故何故なぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼ何故nazenazenaze――


両手で顔を覆い、顔面を掻き毟るように指を動かしながら只々自問自答する。

何やら脇で博士の声が聞こえる様な気がするが、耳に綿を積めたように世界が音から隔離され、言っている事が良く分からない。


これは好都合だ。


私はナゼプロデューサーサンにミツケテ貰えなかったか、考えないといけないカラ。


惨めなワタシの何がいケナかったのヵ考えないとイケナイカラ。

プロデューサープロデューサープロデューサープロデューサープロデューサープロデューサー
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プロデューサープロデューサープロデューサー何故何故何故何故なぜ
プロデューサープロデューサープロデューサー   何故何故何故何故なぜ
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プロデューサープロデューサープロデューサー
プロデューサープロデューサープロデューサー
プロデューサープロデューサープロデューサー
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プロデューサープロデューサープロデューサー何故何故なぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼ何故nazen
プロデューサープロデューサープロデューサー何故何故なぜなぜなぜなぜゼナゼナゼ何故nazen――
プロデューサープロデューサープロデューサー





     




                    許さない









   



本日は此処までです。続きは書け次第投下します。

博士に呼び出されたあの日からひと月、俺は普段と変わらない毎日を過ごしていた。

最初の一週間程は通勤の行き帰りに尾行者が居ないか、ビクビク何度も振り返ったり、
駅のホームでは念の為に最前列に立たなかったりと、警戒は怠らなかった。

しかし、日々を重ねるごとに警戒感は薄れ、今ではほとんど気にもしなくなってきていた。


冷静に考えてみれば別の世界の俺の行動が原因で、
こちらの世界の俺が襲われるなんてどう考えても可笑しな話なのだ。
   
しかも別の世界で殺された、とかなら理解も出来るが(それでも勘弁して頂きたい)、
【なにもしなかった】だけなのだ。

そんな理由で襲ったり襲われたり、許すの許さないのなんて理不尽極まりない。

案外、被験者の女性もそれに途中で気が付いたのかもしれない。

それに気がついて、顔真っ赤にして博士たちと連絡が取りづらいのも知れないしな。

その時まで俺はそんな風に呑気に考えていた。



そんなある日、残業を終えて家のマンションに帰り、鍵を開けるとドアが開かない。

あれ??と思い、もう一度鍵を刺して回すと今度は開いた。



…と、言う事は鍵が開いていた…??


掛け忘れてたかな??と考えた脳裏に、ひと月前の博士の忠告がフラッシュバックした。


『プロデューサーにならなかった君を逆恨みして、君に危害を加える可能性が極めて高いの。』


包丁で八つ裂きにされたベッド、

穴だらけになった壁、

傷だらけの床、放置された弁当箱等


             残されたメッセージ 『  許さない  』


俺はゴクリと喉を鳴らしてゆっくりとドアを開けると、
下駄箱の脇に立て掛けていた傘を手に取り、剣道の晴眼に構えた。

薄暗い廊下を慎重に一歩一歩進んでいく。

リビングに辿り着き明かりを付けると、いつも通りの自分の部屋で朝、家を出た時と何の変化も無い。


だが、俺は油断なくトイレ、風呂場、押し入れ、果てはクローゼットの中まで誰も居ないか確認し、
ベランダまで探索して誰も潜んでいない事を確認した所で、漸くホッとと胸を撫で下ろした。

どうやらただの取り越し苦労らしい。

単純に朝鍵を閉め忘れただけらしいな、そう思った俺はネクタイを緩めると下駄箱の横に傘を仕舞い、
リビングに戻ってくるとソファーに身を投げ出した。

そしてテレビを見ようとテーブルの上のリモコンに手を伸ばした所で、ふとある違和感に気が付いた。


何時も置いてある場所にリモコンが無い。

俺は使いたい時にリモコンを探すのが酢豚のパイナップル位、嫌いなので、
何時もリモコンの類はまとめてテーブルの端に置いておくと決めているのだが。


この手間がイライラするんだがなぁ、そう思いながら立ち上がってテレビのリモコンを捜索する。

テレビの裏、テーブルの下、アイランドキッチンの上、
一通り見廻してから何気なく座っていたソファーのクッションの下を覗き込んだ。


瞬間、世界が凍った。


クッションの下に隠れていたのはリモコンではなく髪の毛だった。




黒く、長く長く細い、髪の毛。



勿論、学生時代から短髪で過ごしている俺の髪で有ろう筈がない。

俺も男だから、この部屋に女の子を連れ込んだことが無いとは言わない。

しかし、最後に連れて来たのは二年前に別れた彼女、しかし彼女はセミロングでしかも明るい茶髪だった。


悪寒に囚われた俺は、半ば叫び出したい心境で部屋中を隅々まで調べ始めた。


すると一見して気づかない様な所で様々な違和感を見つけた。

しばらく空けてない押し入れから何かを出し入れした形跡や、他にも数本の長い毛髪を発見した。

間違いない、俺の留守の間に知らない誰かが勝手に侵入して部屋を漁っている。


それは、恐らく、見た事も無い長い長い黒髪の女性…。


恐怖に震えあがった俺は、厳重に戸締りをするとベッドに戻り、布団を頭から被って朝を待った。


だが、目を瞑ると部屋の隅の暗闇から黒髪の女が染み出て来そうで、到底眠れそうにはなかった。


俺は結局、一睡もせずに朝を迎えた――

翌朝、夜が明けると俺は開店一番に鍵屋に電話し、大家に連絡してその立会いの下に
ドアの鍵を付け替えて貰った。

その時の鍵屋の店員が言う所によると、鍵穴に無数の引っ掻き傷が有り、恐らくピッキングの痕だろう、
とのことであった。


「でも、コレで大丈夫ですよ、最新型ですから」


と、鍵屋の店員が胸を張る、見るからにゴツいプレート型の錠前へと変更してもらった。


鍵も特殊な形状で、素人には最早どうする事も出来そうにない。


鍵屋が手早くドアの鍵を付け替え、仕事を終えて立ち去ると、
俺は大家に朝早く出張って貰った事を詫びて頭を下げた。

すると、大家は却って俺に同情してきて逆に励まされた。

「ピッキングなんてねぇ、怖いわぁ。もう、うちの物件全部鍵付け替えてもらおうかしら…、
 ○○さん、気を落とさないでね…??」

大家は頬に手を当てながら、心底気の毒そうに俺にそう言ってきた。


どうやら空き巣に入られた、と告げておいたのが良かったらしい。


俺が原因のストーキング行為(全く身に覚えが無いが。この世界では)だと知れたら、
追い出されはしないまでも、嫌味の一つも言われたかもしれない。


俺は大家に改めて一礼すると、部屋の中に戻った。


これで一応は我が家の安全は確保できた訳だ。

後は外で襲われた時の対応方法だ。


そう考えた俺は通勤カバンの底を抜くと、そこに先日購入したスタンガンを仕込み、
その上に底を戻して見えないように加工した。

こんな物騒な物を持ち歩きたくはないが、背に腹は代えられない。


そうしていると出勤の時間になったので、俺は再度戸締りを厳重に確認して回った。

最期に家を出て新しい鍵を掛けて、二度ほど閉まってるか壊れそうにないか確認すると、
誰かに尾行られてないか度々確認しつつ、会社へと向かった。


滅入った俺の気とはお構いなしに仕事はやって来るし、時間は流れる。


何時もの様に仕事をこなしていると昼休になり、食事に出た。

あまり食欲が沸いて来なかったので、
近くのコンビニに立ち寄りサンドイッチで軽く昼食を済ます。


社に戻るまで多少時間が余ったのでふと思い立ち、
スマホを取り出し博士のアドレスに事の経過を報告する事にした。


被験者らしき人物に部屋を漁られた、と。

すると思いの外早く帰って来た返信には、迷惑を掛けている詫びと、くれぐれも油断しない様に再度の警告、
それと警察の上の方に連絡して俺の自宅の周辺のパトロールを強化してくれる、との事が羅列してあった。


警察のパトロールが強化されると言うのは朗報だ。

頻繁に警察が巡回しているとなれば、被験者の女性も我が家に近付き難くなるだろう。

いざ接触されても、助けを求めやすくもなる。


騒動の大元とは言え、博士には感謝してもし足りない。


これで問題の大半は片が付く筈だ、俺はそう胸を撫で下ろした。



だが、俺はあまりに物事を楽観的に考えすぎていたようだ。




なぜならば、その日の夜、急に降り始めた大雨の中タクシーで家に帰ると、

家のドアは大きく開け放たれていた――

最初に見た時は、一体何が起きているのか分からなかった。

しかし、今朝付けたばかりの頑丈な錠前が叩き壊されて、
未練がましくドアにぶら下がっているのを見た時に、恐怖と共に現状を理解した。

自分の生活スペースに力づくで入り込まれる不快感と悪寒が共に押し寄せてくる感覚、
それに寄る耳鳴り、嘔吐感。


ザーザーと降りしきる大雨の音が、耳鳴りが激しくなるにつれて小さくなり聞こえ難くなってきた。


その時の俺の胸に押し寄せて来た身体を震わせる思いは、恐怖と言うより――怒りだった。


逃げ出すか警察に通報していれば良かった、とは今も思う。

だが、その時の俺は余りに追い詰められた事により恐怖が裏返り、
理不尽に対する怒りが沸いて来て、今や感情の大半を占めていた。

傘を玄関の前に投げ捨てると、カバンの底からスタンガンを取り出す。


まだ侵入者が中に居るとは限らないが、用心に越したことはない。


先手を打たれないように明かりも付けず、音を立てずに慎重に忍び足で廊下を進む。


手早くトイレと洗面所を確認して、どちらも人影が無い暗闇なのを確認する。

開け放たれたままのリビングへのドアを潜り、中の様子を覗き込むが特に変わった様子は無い。

だが、寝室へのドアが中途半端に開いていた。
その先は行き止まりだ。


そこか。

俺は覚悟を決めるとスタンガンを握り直しながら素早くドアの手前まで駆け寄り、
バァン!とドアを跳ね開けるとそのまま部屋に踏み込んだ。


意気込んで侵入したものの、部屋の様子は朝と何ら変わりはなかった。


ただ一点、ベッドのシーツだけが変化していた。

朝に整えて家を出た筈なのに、今まで人が寝ていたかのようにグシャグシャになっていたのだ。


一瞬ギョッとしたがシーツに膨らみは無く、今現在、誰かが寝ているという訳ではなさそうだ。


警戒しつつ、ベッドに近寄りベッドカバーを捲ってみると、何か、
ぐちゃっとしたモノが、
手に、
触れた。

ベッドカバーの下に隠れていたのは、俺も見覚えのある、
人が愛し合った際に出るモノ、平たく言えば愛液、それだった。

ぐっしょりと濡れてシーツに広がっているそれに直に手を触れた俺は、「ひぃっ!!」と短く叫び声を
上げて、素早く手を引いた。


人の留守中に上がり込むのはまだいい、だが、勝手にベッドを使って一体何をしていたと言うのか。


全く理解不能だ、汚らわしいものに触れた、そう思った俺は、
一刻も早く手を洗い流したい衝動に駆られ、そのまま洗面所に駆け込んで手を洗い流した。


ハンドソープを使い、触れた指先を丁寧に丁寧に洗い流す。

匂いを嗅いで石鹸の香りしかしなくなったのを確かめて、やっと落ち着いて横に掛けてあったタオルに
手を伸ばした。



その時に初めて気が付いたのだ。

タオルを手に取る為に振り向いた、その先にあるバスルーム…。


先程から耳鳴りと共に聞こえてくるこのザァザァとした音は、
先程から外で降り続く雨音などでは無く――



明かりも付いていないバスルームから聞こえる、シャワーの音だと言う事に――



誰も居ない暗闇のバスルームから聞こえるシャワー音。

その異質さに、しばらく固まっていた俺だが、
ゴクリと喉を鳴らしてスタンガンを構えなおし、もう片方の手で指先を震わせながらバスルームの
明かりのスイッチを押した。

俺は「ひぃぅッ?」と、短い叫び声を上げた。
二、三度瞬いて付いた明かりは、確かにバスルームに人が居る事を示したのだ。


曇った擦りガラスの向こうに見えたシルエットは、見え辛くはあるが確かに女だ。


黒く、長く長く細い腰まであるロングヘアーの。


俺が叫び出しそうな恐怖に震えていると、ガチャリと音を立ててバスルームの戸が開いた。


そこには全裸の女が、バスルームの中でシャワーを手に笑みを浮かべて立っていた。

腰まである濡れた黒髪、官能的なボディライン、ルックスはとびっきりの美女、
そんな女が全裸で蠱惑的な笑顔を浮かべて俺を見つめている。

場所と環境が違えば、男としてこれ程嬉しい事は無いだろう。

だが、もう恐怖に耐えきれなくなった俺は、遂に精神の限界が訪れ、
手にしたスタンガンをバスルームの女に向けて突き出しながら、絶叫を上げて彼女に向けて突進した。

「うぁああああああああああああッツ!!!?」

だが、その瞬間女は薄く笑うと、手にしたシャワーのヘッドを無造作にスタンガンに向けた。

流れる水流はそのままスタンガンへと掛かり、放出していた電流と諸共、俺の身体を激痛と共に駆け抜けた。

遠くなる意識、倒れ込む俺の身体。


徐々に暗くなる視界、最後に見たのはその場に跪く女の姿――


女は髪を掻き上げながら俺に何事かを呟くと、そのまま頬に口を寄せた。


薄れ行く意識の中では、一体何を呟かれたのかは定かではない。


そして頬に何かが触れたと同時に――俺の意識は暗闇へと墜ちた――

終わりまで一気に投下します。

最初に直接性描写は無い、と書きましたが、違う結末を思いつき、
プロットを大幅変更したのでかなりしっかり性描写入れてしまいました。

SS速報Rなので問題は無いかと思いますが、苦手な人も居られるかと思いますので、
一応閲覧注意でよろしくお願いします。

両手両足に喰い込むような痛みと、下半身に蕩けそうな快感を同時に覚えながら、俺は目を覚ました。

見覚えのある天井に、すぐ此処が自分の部屋の寝室だと言う事を理解する。

何時も朝に見ているのと何ら変わらない光景だ。


ただ、何時もと違うのは時間はまだ深夜の様で、明かりが常夜灯だけの部屋は薄暗く、
腕と足を何かで縛られる、と言う事だった。


唯一自由に動く首を向けて、手首に縛られているモノを確認する。

何処から持ち込んだのか、堅牢そうな荒縄で先はベッドの柱にガッチリと縛り付けられて、
どう足掻いても解けそうにない。

その瞬間、俺の男根に継続的に加えられていた蕩ける様な快楽がふと、止まった。


首を起こして自分の下腹部を見てみると、
黒髪の女が俺の男性自身を口で咥えて丹念な愛撫を加えていた。

俺が意識を取り戻したのに気づくと、その奉仕を止め、
名残惜しそうに陰茎を舌で舐めまわしながら口を離して、俺の眼を見つめて妖艶に微笑んだ。


「おはよう、よく眠れた??」


言いながら、縛られた俺の身体にじり寄ってきて、
豊満なその乳房を俺の胸板に押し付ける様に伸し掛かる。

その柔らかな感触と、尚も女の手で加えられる陰茎への上下運動に、
俺の頭は霞が掛かったようにぼんやりとして、意識がハッキリとしない。

だが、俺は気力を振り絞り、息も絶え絶えに、


「な、なんでこんな事をするっ?? 何が目的だっ…?!」と、女に尋ねた。


女は俺の下半身を弄びながら薄く笑い、


「あの博士から大体の所は聞いてるでしょ?? 理由も想像付くんじゃない?」

「…………」


俺の無言を肯定と受取ったのか、女は話を続けた。


「初めは腹いせに脅かして精神的に追い込んでやろうか、くらいにしか思ってなかったんだけどね…」

「知ってる?? 向こうの世界の私、貴方にベタ惚れなのよ?? もう、見てて恥ずかしいくらい」

「…………」

「それなのに、あの子ったらプロデューサーと、貴方と、キスもしたコトないのよ?? 
アイドルとプロデューサーは恋愛なんかしちゃいけないんだって、バッカみたい」


女はさも可笑しそうに暗い目をして、自分自身を鼻で笑った。

「それに義理立てしてるのか、あの子、いい年してまだ処女なのよ。 笑っちゃうわよねぇ、
こんな気持のイイコト、他にないのにね??」


言うと女は、俺の男根のカリの部分を握り、其処を中心にリズミカルに動かし始めた。


俺が一方的に加えられる快感に思わず眉をしかめると、女は愉快そうに笑い、


「だからさぁ、私があの子より先に貴方と寝てやろうかと思ってね?? 
愉快でしょ?何もあの子に勝てない私が、唯一あの子に先んじれるんだもの……」


ビクビクと跳ねる俺の性器をうっとりと眺めながら、絶妙な力加減の手扱きを繰り返す。


俺はその快感に耐え切れずに、ついに激しく射精した。


女は二の腕まで勢いよく飛んだ精液を、伸ばした舌で舐め取ると、
俺の身体を跨ぎ、馬乗りになり、耳元で、


「さあ…楽しみましょ?? 十年分、しっかりとレッスンしてね…?? プロデューサー……」


と、未だギンギンの俺の男性自身に自らの身体を沈めて来た。


「やめろ…やめろッ…!!」


俺は必死に抵抗の意思を示すものの、女は意にも介さず薄笑いのまま腰を使い始める。


精神の表層の不快感とは裏腹に、下半身から溢れる快感の凄まじさは、俺の心まで融かしそうになる。


女の熱い膣内はウネウネと張り付くように男根に絡みつき、女が腰をくねらせる度に
頭蓋骨の裏に張り付くような快楽の電撃が俺の脳を焼く。

やがて抵抗の言葉も出なくなった俺は、女の上げる嬌声に合わせる様に唸り声を上げ、
いつしか、動きにただ身を任せるだけの物体に成り果てた――


ほどなく二回目の限界が俺に訪れようとしていた。


そこで漸く、コンドームも何も付けてない事に気付いた俺は、


「せ、せめて外にッ…外に出させてくれっ……!!」と、切ない声で初めて女に哀願した。


女はその哀願に、上気した顔でニコリと微笑むと、俺の首に手を回しガッチリと固める様に掻き抱き、
腰を股間に押し付ける様に激しく打ち付けて来た。


女の意図に気付いた俺は、歯を食いしばり、時には舌を噛んで懸命に射精を耐えた。

だが、唾液を付けた指先で俺の乳首を舐るように弄んだり、絶妙な力加減で膣壁を締め付け、
ザラザラしたソレを亀頭の一番敏感な所に擦り付けてくる驚異的な性技に俺は耐え切れず、
二回目だと言うのに、生涯で記憶に無いほどの大量の精液を女の子宮内に放出した。


女もほぼ同時に一際大きい嬌声と共にオーガズムに達したらしく、ベッドに二人並ぶ様に倒れ込み
、痙攣するように絶頂の余韻に震えた。

それからどれくらい時間がたっただろうか。 
ほんの僅かな間だったに違いない。


こちらの息も整わぬ内に、女の手が再度俺のペニスに伸び、また執拗に愛撫を加え始めた。


「も、もう、無理だ。 もう立たない……」俺の精力は既に限界に近い。


精神的にも肉体的にも、これ以上は持ちそうにない。



その証拠に、女がいくら舐めようと扱こうと、俺の息子は最早反応すらしなかった。


「もう…?? 若いのに元気ないのねぇ…」女は少しガッカリした様子を見せると、
何やら良い事を思いついたような顔をしてベッドから立ち上がった。

やっとこの悪夢から解放されるのか、
一瞬そう思った俺のその甘い考えは早々に粉々に砕かれる事となった。


「何かの為に持ってきたけど、まさか使えるなんてね♪♪」


隣の部屋からバッグとなにやらポンプボトルらしきものを持ってきた女は、
そのバッグの中から目を疑う様な禍々しい物体を取り出した。


優に20cmは越える、黒々とした棒状の物。いわゆるバイブレーターだ。


おい、止めろ、まさか。

俺の男性自身のサイズを遥かに越えるその凶器を動かしながらベッドに座り、
女は無慈悲にも俺にとって最悪の宣告を告げた。

「男の子なんて後ろの穴にコレ突っ込んで、前立腺をバイブ刺激すればもう一晩だってビンビンなんだから♪
私愛用のヤツだから初めてにしては大きいかも知れないけど…、まあ、その内慣れるでしょ」

言うと女は俺の尻を割り、後ろの穴を空気に晒す。


今まで以上に耐え難い強烈な忌避感と嫌悪感、何より未知の痛みに対する恐怖に絶叫する俺。


「止めてくれッ!!それだけはッツ!!頼むーッツ!!」


俺の、喉の奥から声を振り絞った懇願にも、女は全く意に介した様子を見せず、

「ワセリン無いからシャンプーを潤滑油にして、っと…、
染みるかもしれないけどそれもイイ刺激よね…?」

ボトルから出したシャンプーを塗り付けられ、テラテラと鈍く黒光るバイブを震わせながら、
俺のアナルに押し当ててきた。


「うぁああああああああああああああああああああああああああああああっッ!!」



俺の地獄は、この後、一昼夜に渡り続いた――――
















それから16年が経過した。

あの日、一昼夜に渡り女から凌辱され続けた私は、その更に翌日、
衰弱しきった所を警察と共に駆け付けた博士によって発見された。

既にその場に女の姿は無く、彼女の家からも職場からも姿を消していた。


本格的に監禁暴行の罪に問われた女性の行方を、警察も今度ばかりは大々的に彼女の行方を追った。


だが時既に遅く、現在に至るまで見つかっていない。

大分前にその事件は時効が成立したが、私の心の傷はまだ癒えたとは言えない。


延々と性的暴行を加えられた事により、精神的にトラウマになってしまったようで、
あれから私はED(勃起不全)になった。

それだけではない。女性が近づいただけでも固まってしまい、触れられただけで気が遠くなるほどの
女性恐怖症となってしまったのだ。


お陰で中年となった今でも独身である。

あの日、駆け付けて私の縄を解いてくれた博士を全力で突き飛ばし、部屋の隅で震え続ける私を見つめる
博士の表情を、私は今でも忘れる事が出来ない。

後に博士は事件の責任を取り、世界中から大いに惜しまれながらプロジェクトの凍結を決断、
装置の解体を進め、データーを破棄した。


その後、批判や懇願を躱す意味も込めて海外に移住したらしい。


何度か近況を知らせる手紙が私の元へ届いたが、
手に取るだけで動悸が激しくなる状態では返事も送れなかった。

その内便りも届かなくなった。 
私の現状を察してくれたのだろう。その美貌が霞むほどに知性の優れた方だったから。


その後、私はと言えば、社で頭角を現しかなり出世もした。


多分、お詫びと言う訳でもないのだろうが、博士が本社社長に頼んで周りに掛け合ってくれたのだろう。


私の微妙な学歴では考えられないくらいに大きな仕事を多数与えられ、
周りに助けられ、出世し、今では部長職にある。


定年までには専務も狙える、と社内で噂されている。


果たして、あのまま普通に平サラリーマン生活を送っていたのと、どちらが良い人生だったのか、
私には分からない。


それこそ、博士が凍結したあのプロジェクトの機械に座ってみなければ。



そんな事を考えながら、私は傘を借りて会社から徒歩で帰宅した。

何時もは車で帰るのだが、あの事件が起きたこの季節に雨が降ると、無性に一人になりたくなる。


モヤモヤとした感情に、周りに当たり散らしたくなる衝動が抑えられない。


ささくれだった心や不快な雨音も、雑踏の喧騒がかき消してくれる気がした。

雑踏の誰も自分を知らない人々の中を一人で歩いていると、不思議と気分が落ち着くのだ。



そんな街中を歩いている最中、ふいに頭上から歌声が聞こえて来た。

傘を傾けて上を見上げると、街頭ビジョンから新人アイドルの発掘番組が放送されていた。

可憐な少女たちが笑顔を浮かべて、精いっぱい力強く歌っている。


私は、顔を背けてその場から足早に立ち去ろうとした。


私の女性恐怖症は筋金入りで、女性ボーカルの歌ですらロクに聞けなくなってしまっていたのだ。


そして、曲がり角の手前まで辿り着き、やっとこの歌声から逃れられる、そう思ったその時、

その少女は街頭ビジョンに現れた。






「15番、渋谷凛です!!」





私はその瞬間、街中に立ち竦んだ。


彼女は、十六年前私を襲ったあの女性生き写しだった。


勿論、街頭ビジョンの少女は、体形も表情も年相応で、
あの女の様な成熟しきった女性の怪しい美しさは無い。


しかし、あの女を十歳ほど若返らせて、日に晒したらこの少女になるのではないか?

そう思えるくらいには共通点は山ほど存在した。

そして、何よりもこの少女が告げた名前……
あの時、博士に警戒するように言われた時に見せられた資料――


その資料に書かれた女性の名前と、全く同じだった。

その瞬間、全ての合点がいった。




彼女は取り返したのだ。 全力で、力づくで、アイドルの自分を――


宿った命に、娘に、自分と同じ名を付け、アイドルを目指させ、全てを――


何という執念か。

私はその長年に渡るドロドロとした黒く渦巻く想いを想像して、
大雨の中も構わず、街中に両手両膝を付いた。


街頭ビジョンでは、唄っていたあの少女が合格の判定を受け、そのクールな表情を崩して、
涙を浮かべて大喜びしている。



「お母さん!!私、やったよーッ!!」



その少女の歓喜の叫び声を聴いた瞬間、私はついに我慢できず、全力でその場に嘔吐した。


(完)

以上で終了です。

同じ背景の話でシリアルキラー仁奈ちゃん編を構想中ですので、
完成したらよろしければ見てやってください。

娘しぶりん「私はお母さんの二週目なんだ……」

しぶウリん「だからなに」



気狂み仁奈ちゃんになら……やっぱ殺されたくねーや

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