P「アイアムアヒーロー」 (36)






律子「あなた、仕事舐めてます?」






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また、仕事でミスをおかした

もはやこの765プロでは俺のミスは珍しいものではなくなってしまっている。
最初は厳しくはあっても丁寧に教えてくれた律子さんも、もはや呆れ果てていた


小鳥「……」


この前までは、庇う素振りを見せてくれていた音無さんも今では目を動かすこともなく無言で事務作業を済ませている


P「……すいません」

律子「その言葉も聞き飽きました。 全く……あなた本当に私より年上なんですか?」

P「…はい」

律子「正直、あなたよりずっと年下のあの子たちの方が仕事に対する姿勢はしっかりしています」

律子「そんなあの子たちの仕事を本来引っ張って行くべきあなたが足を引っ張る……恥ずかしくないんですか?」

P「……っ」


拳を握る。 でも、ぜんぶ、律子……さんの言う通りだ

律子「ハア……もういいです。 そろそろ千早と春香の仕事が終わるので迎えに行って下さい」

P「……はい」


車の鍵を取り、事務所を出て行く

……ドアを音が出るほど強く閉めた自分が嫌になる

律子「…さ、仕事片付けましょうか」

小鳥「プロデューサーさん怒ってましたね」

律子「ふん。 気にくわないなら結果を出して私を見返せばいいんですよ。 ドアに当たるなんて小学生ですか全く」

小鳥「何で社長はあんな人雇っちゃったんでしょうねえ」

律子「ティンときた! とか言ってましたけど要はただの勘ですよ。
全く……ウチの男連中はロクなのがいないんだから」

小鳥「ははは…」



『……佐犬にではなく、土佐犬がの間違いでした。 失礼いたしました』


律子「ん? 小鳥さん、なんか今のおかしくなかったですか?」

小鳥「何がですか?」

律子「いや……土佐犬にじゃなくて土佐犬がって……」



『昨日の夕方頃、35歳無職の男が帰宅途中の児童数人に噛み付く事件が起こりました』



小鳥「噛み付く? 物騒な話ですねぇ」

律子「何だか最近こんな事件多いような気がしません?」

小鳥「そういえば…そんな気も」

律子「あの子達にも気をつけるように言わないと。 せめて私と小鳥さんだけでもしっかりしてなくちゃ」

小鳥「そうですっ、ごほっごほっ……うっ…」

律子「大丈夫ですか?」

小鳥「す、すみませんちょっと風邪を引いたみたいで…今朝から調子が悪くて」

律子「そうなんですか…ちょっと風邪薬とってきますねー」

小鳥「ありがとうごさいます」

ーーー
ーー


P「千早の迎えか……嫌だなぁ」

P「あいつ俺のこと……嫌ってるからなぁ…」


意外と言ってはなんだが、765プロのアイドル達はこの業界においては珍しく仲が良い
けれど、最初は千早は中々心を開かず765プロのアイドル仲間とも衝突していた

無論、俺に対しても数え切れないくらい不満をぶつけてきた。 いや、寧ろサポートどころか足を引っ張る事も多々あった俺への感情は765プロのアイドル達には決して向けない『怒り』の感情があったと思う。


P「ま、今はそんな事はないんだけどさ…」


紆余曲折あり千早は心を開き765プロの所属アイドル、そして律子や小鳥さん達と確かな信頼関係を築いている

……そう、俺を除いて


P「…しかたないよ悪いのは俺なんだから。 入社してきた頃となんにも成長してないんだから」

P「千早が俺の指示聞くようになったのも、俺じゃなくて千早が成長したからだからな……」


千早は……仲間と出会い、時には衝突し、助け合い、共に手を取り合って成長した

だが、そこに俺の力はない

俺は…何も……してやれなかった


P「……はあ…鬱だ……。 って危なっ!!!」

信号ギリギリで、深緑色の中型トラックが何台も交差点を飛び出してきた


P「なんだよオイ…あれ自衛隊だよな? クレーム入れてやろうかまったく…」

信号が変わり、車を発進させる

彼女を、迎えに行かなくてはーーー

やっぱ眠いここまで

P「お疲れ千早」

千早「はい、プロデューサー」


局につき労いの言葉をかける
不愛想に言葉を返す千早
まぁ…言葉を返してくれるだけまだマシになってはいるんだが


P「って? マスク? 風邪でも引いたのか?」


見れば今日事務所ではしていなかったマスクをしている

体調が優れないのか?


千早「いえ、局の人達の間で風邪が流行ってるみたいなので、移らないようにマスクをもらったんです」

P「そうなのか?」


確かに、見渡せばマスクをつけてる人が多い
……そういえば、車を走らせている時もマスクをつけてる人達をーーー


春香「おっつかれさまです! プロデューサーさん!」

P「ん? え? 春香? 何でここに?」

春香「今日は局の近くでロケがあったんです! 千早ちゃんのお仕事ももう少しで終わりそうだったんで局で待とうかなーって……すいません本音はプロデューサーさんに送ってもらおうかなって」

P「はははっ、それぐらいお安い御用だよ」


今日になってやっと最初の笑顔が浮かぶ

彼女は…春香は今の765プロでは数少ない俺に対して友好的に接してくれるアイドルだ


千早「……プロデューサーの癖に担当アイドルのスケジュールも把握してないんですね」

P「……あ?」

春香「ちち千早ちゃん! ダメだよそんな事言っちゃ! プロデューサーさんは私達の為に働いてくれてるんだから!」

千早「……足を引っ張るの間違いでしょ」


……っ

何でこんな事を言われなくちゃいけないんだ?

確かに俺は仕事ができない…だけどそもそも10人を超えるアイドルをたった1人でプロデュースする事がどんだけ非常識かってことをこいつ……千早は分かってるのか?


P「……千早おまっ「あっれーー? Pちゃんじゃんおっひさー!」

P「っ…」

軽薄そうな男の声で、俺は我に返った

D「いやー懐かしいねーいつ以来だっけ? 最近765プロ順調そうじゃーん」

P「ははは…先輩も元気そうで変わりませんね」

D「お? 千早ちゃんに春香ちゃんじゃん? うっわーやっぱ実物は違うね」

春香「は、はい。 ありがとうございます!」

千早「……」

P(初対面の人間にちゃんづけかよ……ホント何にも変わってねえなこの人)

千早「…プロデューサー、この人は…?」

P「俺の大学の先輩だ。 今はこの局のディレクターをしてるんだ」

D「そうそう同じサークルの先輩後輩なの」

D「いやー腐れ縁だよねーまさかこの業界で一緒に仕事しあう仲になるなんてな」

春香「ははは…そ、そうですね」

千早「っ!」


馴れ馴れしく春香の肩に手を置き、下らない事を喋る
やはり……女癖の悪さも何も変わって…いや、直っていない

『噂』は…本当なのかもしれない

千早「プロデューサー! そろそろ行かないと時間が」

P「あ、ああそうだな。 すみません先輩。 少々時間が押してまして……」

D「えー? 良いじゃんまだお喋りしようぜー」

春香「……」


まだこいつは春香の肩から手を離さない


P「そうしたいのは山々なんですが…今日はまだスケジュールが詰まってまして……春香のドラマの撮影があるんですよ…」

D「……チッ。 しょうがねーな」

千早「っ……」


千早、気持ちは分かるがそんなあからさまに睨みつけるのはやめてくれ……


P「それじゃあ俺たちこの辺で……「あっ! そーいやPってまだ『アレ』持ってたよな!?」」

P「はい?」

D「アレだよアレ! サークルで使ってただろ? お前が必死こいて試験受けて許可証取ったやつだよ」

P「あ、アレですか……? た、確かに持ってますけど…」

D「アレさぁ、明日こっちに持ってきてくんない? ちょっと番組に使いたいんだよねー」

P「なっ!? ま、マズイですよ先輩っ。 アレはそんな軽々しく外に出していいんもんじゃっ……」

千早と春香に聞こえないように距離を詰めて小声で話す

本気なのかこの人は?

D「いやー今度の番組にはリアリティを求めてんだよー。 ちょっと力貸してくんねーかな? もちろん次の番組には765プロの子を優先するからさ」

P「いやいやいやいやっ。 そういう問題じゃないですって……! 下手したら犯罪にっーーー」

D「Pくぅうーーん? 俺もさぁ、あんまり無理強いはしたくないんだけどさぁ………」





D「俺の『噂』、知ってんだろ?」

P「っ!?」


や、やっぱりこの人は……!


D「あんたの所のアイドルよぉ……『傷物』にしたくないでしょ?」

P「あ…あんたって人は……っ!!」

D「ちょーっと、ちょーっと借りるだけだってぇ」

P「……」


千早と春香に目を移す

……こいつらに、汚い事をやらせる訳にいかない

P「分かりました……明日も午前中に局に来ますんで、その時に渡しても良いですか?」

D「オッケーオッケーおーるおっけー」

P「……それじゃ、そろそろ行きます。 あ、コレだけ聞かせて下さい。 どんな番組撮るんですか」

D「………撃つんだよ」

P「は?」

D「女を撃つんだよ」


さっきまで顔に貼り付けていた軽薄な笑みが消えて、能面のような表情で言う


P「う、嘘ですよね?」

D「………うっそに決まってんじゃ〜ん! リアリティだよリアリティ〜」

P「は、はぁ……」

D「んじゃ、俺もそろそろ行かなくちゃいけねーからさ、バイバ〜イ」

春香に向かって満面の笑みで手を振るD

P「……」


手の甲に貼られている血が滲んだガーゼが痛々しかった

ちょっとここまで
休憩しながら書溜めしてきます

また今日中に投下したいですが明日になるかもしれません

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