渋谷凛「ひとりよりふたり」 (137)


※キャラ崩壊

※長い

※使い古されたネタ

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モバP「うーん……」

凛(プロデューサーが悩んでいる)

凛(私はその理由を知っている)

P「はぁ……」

凛(無意識に漏れる、深いため息)

凛(しかし、彼は仕事関連で悩んでいるのではない……)

P「ふぅー……」

凛(私も含め、彼のプロデュースするアイドルたちには、むしろ順調に仕事が舞い込んできている)

凛(嬉しい悲鳴を上げこそすれど、深いため息をつくような状況ではない)

凛(――そう。だから違うのだ)

凛(彼を悩ませる原因は他にある。もっと、さらに彼の身近にあるのだ)

凛(それは――)



島村卯月「プロデューサーさんっ! おはようございますっ!」



P「おお、卯月。おはよう。今日もいい笑顔だな」

卯月「はいっ!」ブイッ

P「卯月の今日の予定は――レッスンか」

P「……悪いな。このところずっと忙しくって、大変じゃないか?」

卯月「いえ、そんな……! 確かに忙しいとは思いますけど……」

卯月「でもそれ以上に、いろんなお仕事ができて楽しいです!」



卯月「プロデューサーさんこそ大丈夫ですか……?」

卯月「私たちのスケジュール調整とか、お仕事取ってきてくれたりとか……。毎日、遅くまでお仕事されてるじゃないですか」

P「ははっ、大丈夫だよ。アイドルみんな、最近は向こうの方からお声がかかるからな。むしろ前より仕事してないかもなー」

卯月「うーん……。でもプロデューサーさん、顔に疲れが出てませんか……? 目の下とか、クマができてますし……」

P「ああ、これは……」

卯月「寝不足みたいですけど……」

P「……いや、気にするほどのことじゃないさ」

凛(寝不足という卯月のその指摘は正しい)

凛(――しかし、逆に言えば、的を射ているのはその一点のみだけだとも言える)



P「とにかく大丈夫だよ」

卯月「でも……少し休んだほうがいいんじゃないですか?」

P「なーに、仕事はしっかりやるから安心してくれ」

卯月「私はプロデューサーさん自身のことが心配なんですっ!」

P「卯月……」

卯月「プロデューサーさん、いつも私たちには元気な顔しか見せませんけど……裏ではとっても頑張って、苦労したり、悩んだりして
るの、私知ってます!」

卯月「確かに、私はプロデューサーさんにお世話になってばかりで、迷惑かけてばかりで……。プロデューサーさんからは、頼りない
って思われてるかもしれませんけど……」

卯月「でも、私だってプロデューサーさんのために色々してあげたいって思ってるんです!」

卯月「辛いこととか、泣きたいこととか……なんでも話してください……」

卯月「プロデューサーさんのおかげで、今、私はとっても輝けています」

卯月「自信のあった笑顔も、もっと磨きがかかって、その笑顔でファンの皆さんも笑顔にすることができるようになりました」

卯月「だから――今度はプロデューサーさんも笑顔にしてあげたいんです!」

卯月「私に辛いことを吐き出して、悲しいことに泣いて……全部、全部出し切って……」

卯月「それで、最後に笑ってほしいです……」

P「……卯月」



P「ありがとな」ポス

卯月「あっ」ナデナデ

P「お前みたいな、可愛くって優しい子にそれだけ言ってもらえれば、今は大丈夫だ」

卯月「プロデューサーさん……」

P「ほら、そうしょんぼりしてんな」

P「俺に元気になってほしいなら、いつもの、お前の笑顔を見せてくれよ」ナデナデ

卯月「は、はい……! えへへ!」ブイッ

P「ああ。最高の笑顔だ」



凛(――それは、一見すれば心温まる話だったのだろう)

凛(アイドルと、そのプロデューサーとの心の距離が近づく話だったのだろう)

凛(しかし悲しきかな――事の本質には至っていなかった)

凛(それでもあえて、符合する箇所を見出すとするなら――それは皮肉にも先ほど、卯月自身が言った一言である)

凛(『プロデューサーはアイドルの前では、元気な顔しか見せない』)

凛(元気な顔しか見せず、本当の貌は見せない)

凛(それでも――彼のその偽りの仮面を被る決意を、誰も責めることはできまい)

凛(大事なアイドル――純真な彼女に笑ってほしいという彼の想いは、紛れもなく真実なのだから)



P「さて。じゃあ卯月はこの後、レッスンだな」

卯月「はい!」


凛(それでは、そろそろ種明かしをするとしよう)

凛(彼が抱え込む、彼を飲み込む――秘密)

凛(仮面で覆った、暗闇の向こう側へ、光を当てるとしよう)

凛(プロデューサーを悩ませる、苛む正体の全貌)

凛(それは――)


P「よし。お前の笑顔にもっと磨きをかけてこい!」

卯月「はいっ!!」




凛(ずばり、エロゲーである)





P「ふぅ……。卯月には余計な心配をかけちまって、悪いことをしたな……」


凛(ことの発端は――アイドルのプロデュースという、彼のその仕事に対する真面目さにあった)

凛(このたびの問題は、彼のその真面目さから開始し、展開し、収斂し――終結する)

凛(普段から、プロデューサーのアイドルたちへの接し方は、堅実で清廉であった)

凛(彼に信頼を置くアイドルたち――彼女たちの好意的な、意識的、あるいは無意識的な行為に対して、彼は常に紳士的であり続けた


凛(しかし、彼の心の中にはその行為の爪痕が確かに、着実に蓄積していったのだった)

凛(それはじんわりと広がり、蝕み、溜り――渇きをもたらした)

凛(その渇望を満たすため、あるいはその抑圧を開放するために、プロデューサーが選んだその手段――)

凛(それがエロゲーであった)



凛(繰り返すようだが、彼は真面目を絵に描いたようなプロデューサーであり――あるいは、絵に描かれるくらいに真面目なプロデューサーである)

凛(彼が普段、様々なアイドルのプロデューサーを務める身として、女性のグラビアやそれ以上に刺激的な内容の雑誌を、自らの欲求を発散させる手段として選択することに抵抗を覚

えるということも、その申証と言える)

凛(あるいは――それは申証と言うより、彼のそれほどまでに病的な心証を表す、症状と言ったほうが適切かもしれないが……)

凛(ともかく、だからそんな彼にとってエロゲー、いわゆる二次元、フィクション世界の住人である彼女たちの存在は、さぞ救いであったことは想像に難くない)



凛(――だがしかし)

凛(彼のその真面目な、信条とも言えるものが下した決断は――結局、真面目な彼の首を絞めることになる)

凛(結論から言って――彼はエロゲー内のヒロイン、その全てを攻略することができなかった)



凛(それは、当然の帰結と言えるのかもしれない)

凛(普段から様々なアイドルたち、その全てに紳士的に――つまり、一定の距離を保って接してきたプロデューサーにとって、ヒロ
インとコミュニケーションを経て、最終的に肉体関係にまで発展させるというエロゲーの趣旨、目標は、酷く噛み合わないものであっ
た)

凛(彼の信条はゲームの目標と噛み合わず、その信条は心情に絡みつき、締め上げた)

凛(ゲーム内のヒロインたち、その好意的で淫靡な誘いの全てに、彼は現実の女性にするのと同様、一本の線を引いた接し方しかで
きなかったのだ)

凛(その結果、ヒロインたちは良くて友達止まり――酷い時には他の男に寝取られたり、その男に主人公が口説かれたり……)

凛(とにかく、彼女たちのHなシーンを、プロデューサーは一つとして拝むことはできなかった)

P「はぁ……」

凛(ということで……、プロデューサーの日頃から溜りに溜まった情動は晴らされぬまま――むしろより強くなって、今もなお残留
しているわけで……)

凛(晴らされぬ性欲と、ヒロインが寝取られるというショックが重なって、今のプロデューサーのテンションは、実はどん底だったり
する)

凛(こんなこと、事務所の人間には相談できないことだし……)

凛(ましてや、皆から頼りにされているプロデューサーの身として、エロゲーで抜けなかったから元気がないなんてことを、担当アイ
ドルたちに知られるわけにもいかず……)

凛(そんな中、今日もアイドルたちと接しなきゃならないんだから……プロデューサーも大変だね)



本田未央「おっはよーございますっ!」



P「おお、未央。おはよう!」

凛(卯月の次は未央か……)

凛(さっきの卯月のことを踏まえて、とっさに明るく振る舞う辺りはさすがだね)

未央「プロデューサー! 今日の予定は?」

P「ああ。今日はレッスンと、その後、雑誌のインタビュー」

未央「おお、インタビュー! いいねー、私の魅力をバンバン伝えてもらわなきゃ!」

P「そうだな。お前の明るさ、そのエネルギッシュさをアピールしてこいっ!」

未央「うん!」

未央「よーしっ! そうとなればこの後のレッスンも頑張らないとねー!」

P「気合の入れ過ぎでヘロヘロにならないようにな」



未央「なんのなんの。この未央ちゃんに任せなさーいってね!」

P「それは頼もしいな」

未央「だから――プロデューサー……」ギュ

P「お……?」

未央「なんか、ちょっと元気少ないみたいだけど……。私で力になれることがあったら、言ってね」

未央「私、アイドルとしてプロデューサーに恩を返したいし――」

未央「それになにより友達として、Pさんを元気にしたいって、思ってるから……」ギュウ

P「未央……」

未央「じゃ、行ってきます!」

ガチャ



凛(未央……いつの間にそこまでの慧眼を……。やはり侮れないね……)

P「むう……」モゾモゾ

凛(ただ今のプロデューサーにとって、あれは他ならぬ毒……)

凛(そういえばゲームにも似た感じのヒロインがいたし……『Pさんのpさんを元気にする』って意味じゃ、効果覿面だよ)

P「ぬぅ……」

凛(今すぐトイレにでも行って発散させたいって感じだけど――やっぱり、担当アイドルでそれをやるってのは、自分の意思に反する
みたいだね……)

凛(その志、そして意思の固さは確かに立派だよ)

凛(でも――今日という日はまだ始まったばかり……アイドルたちからのエロスアピールは――恐らくこれからが本番)

凛(アンタの戦いは――まだ始まったばかり、だよ)



ガチャ

三船美優「おはようございます……」



P「美優さん、おはようございます」

凛(美優さんか……。その儚くも暖かい包み込む雰囲気は、今のプロデューサーには清涼剤となるか、それとも……)

美優「おはようございます、プロデューサーさん」

P「早いんですね、美優さん。今日の予定は午後からだったと思いますが……」

美優「その、一人で部屋にいると、なんだか陰鬱としてしまって……。ここなら、賑やかでいいかなと思いまして……」

P「なるほど。今は俺の他には――」

凛「」サッ

P「はは、ちょうど出払ってますけど……。まあ、ゆっくりしていてください。そのうちみんな来ると思います」

美優「はい」



P「さて……」カタカタ

美優「あの……、プロデューサーさん?」

P「はい?」

美優「あ、いえ……。お仕事中、ごめんなさい」

P「いやいや、そんな。ちょうど仕事も煮詰まってきたとこですから、美優さんと話すだけでもいいリフレッシュというか、リラックスになりますよ」

美優「そ、そんな……! 私なんて……///」

P「それで、どうしましたか?」

美優「いえ……。プロデューサーさん、なんだか少し、お疲れの様子ですから……心配で……」

P「あー、あはは……。実は卯月や未央にもさっき、同じこと言われましてね」

P「よし――ちょっと給湯室で、顔でも洗ってきますね」スタスタ



――給湯室――


P「ふー」バシャバシャ

ぎゅっ

P「――!? あれ、あの、美優さん!?」

美優「ごめんなさい……。でも、そのまま聞いてください」

凛(美優さんがプロデューサーの背中に寄り添った!)

美優「プロデューサーさんが、いつも私たちのために頑張ってくださっているのは知っています……」

美優「だからこんなこと……勝手なことを言っているように聞こえるかもしれません……」

美優「でも、その……もっと自分を大切になさってください……」

美優「私がアイドルを続けていられるのも、プロデューサーさんのおかげです……」むにゅん



P「あ、あはは……。心配しないでください! 俺は絶対、あなたをもっと高みへ――」

美優「違うんです――いえ、プロデューサーさんのプロデュースのおかげと言う意味もありますけど……」ぎゅぅ

美優「何より、あなたの存在があるから……なんです……」むにゅ

P「……」

美優「あなたが私を、輝く世界へ連れ出してくれたんです……」むにゅん

P「…………」

美優「そして――あなたが傍にいてくれるから、私はその世界で輝けるんです……」もにゅん

P「………………」

美優「だから、どうか……もっとご自愛なさってください……」ぱふぱふ

P「……………………」

美優「あなたにもしものことがあったら、私……!」しゅる

P「――――!!」



凛(なんてこと……! その儚い言葉に対して、その密着したボディ!! なんていう破壊力……!)

凛(今の美優さんは、ムラムラの溜まるプロデューサーにとっては清涼剤なんかじゃない……!)

凛(あれは推進剤であり起爆剤――!! プロデューサーの越えてはいけないラインへの、超えてはいけない姿へのプロモーター!!


凛(やってしまう!! プロデューサーがご自愛してしまう!!)


凛(包まれているプロデューサーのものが美優さんの――)


凛(優しさに包まれてしまう――!!)




P「――美優さん」

美優「あっ、はい……! ご、ごめんなさい、私……」

P「――いえ、すみません」

P「心配かけて」

P「そうですね。今度から、もうちょっと自分を労わるようにしますよ」

P「美優さんにそんな悲しい顔を、もうさせるわけにはいきませんから」

美優「ぷ、プロデューサーさんっ///」



美優「あの、ごめんなさい急にこんなこと……///」カァァ

美優「ちょっと、頭を冷やしに屋上へ行ってきます……」タッタッタ

P「……………」

P「……はぁ」

凛(プロデューサーが遠い目をしている……)

凛(いやでも、よく耐えたよプロデューサー。あの無意識な誘惑に打ち勝つなんてね。正直、もう駄目だと思ってたから)

凛(未央の抱擁に続く、美優さんの好意の物理的押しつけ……そんな猛攻にさらされて生き残ったんだもの――イキ損ねてはいるけど


凛(でも、もう峠は過ぎたと言っていいんじゃないかな。もしかしたらこの勝負、案外、楽勝――)




ガチャ

及川雫「おはようございますー」



P「!?」

凛(!?)



凛(峠どころじゃないっ!)

凛(山脈っ! 山脈が隆起したっ!)

P「し、雫……。おはよう、今日はオフじゃなかったか?」ガクガク

凛(未央、美優さんをものともしなかったプロデューサーが、ここに来て初めて動揺しているっ! これはかつてない波乱の予感……
!)

雫「はいー。実は、また実家から牛乳がいっぱい送られてきまして――」ヨイショ

雫「事務所の皆さんに、おすそ分けで持ってきたんですよー。よいしょ」たゆん

凛(『盛ってきた』の間違いじゃなくて!? いや……それ以上盛られたら困るけど……)

凛(でも確実なのは、このままじゃプロデューサーが盛り上がってしまうってことだね……)



P「そっか。わざわざありがとな」

雫「いえいえー。プロデューサーさんもぜひ飲んでください」

P「じゃあ、お言葉に甘えて」ゴクゴク

P「ふう。やっぱりおいしいな」

雫「ふふ♪ プロデューサーさんはいつもおいしそうに飲んでくれるから、私も嬉しいです」

雫「じゃあ、私も一本――」

雫「んく……んく……」ゴクゴク

P「!!??」

凛(!!??)



凛(雫が牛乳を飲みながら、だんだん体を反らせていく!)

凛(そして――その行動の結果として、その胸部に連なる驚異の山脈が強調されていくっ!!)

P「お……おお……」

凛(ああ、そしてっ!! そんな雫を見てプロデューサーが彼女とは反対に屈んでいくっ!!)

雫「んく……んん……」フルッフルッ

凛(さらに、牛乳を嚥下する喉の動きが、その巨大な胸体を振動させている!!)

P「おおお……」ムクムク

凛(そのダイナマイトな外見に惑わされがちだが――及川雫、雫の真に恐るべき点はその内面にこそある……!)



凛(あの、ほんわかのんびりとした性格、そして隙だらけの姿勢……)

凛(それは今のプロデューサーにとっては、魔性以外の何物でもない……!)

凛(彼女の前では――あの芳醇な実りの山々の前では、どんなやましいことさえも、それを行動に移す正当性を与えてしまうであろう
っ!!)


凛(まずいよ……プロデューサーが行ってしまう……!!)



凛(『プロデューサーはどこでイキたいのっ?』)



凛(『ちちぶさんちゅう!!』)




雫「ぷはぁ」ぶるん

雫「ごちそうさまでしたー」たゆん

P「フー! フー!」ムラムラ

雫「プロデューサーさん……? どうしたんですか?」

P「し、雫……」ジリジリ

雫「はい?」

P「し、雫っ!!」ガバッ

凛(終わった……)



P「……今、屋上に美優さんがいるから、そっちにもおすそ分けしてきたら、どうだ……」ポン

雫「そうなんですかー! 分かりました、行ってきますねー」スタスタ

P「フー……」

凛(プロデューサー……理性をフル稼働させて、何とか持ち堪えたね)

凛(でも、さっきからの三連戦でもうそれも限界に近い……。もしかしたら、とっくに振り切っているかもしれない……)



ガチャ

凛(おっと、ここに来てさらにアイドルが……)

凛(なんだろう……、何か、今のプロデューサーを攻め立てるような、見えざる意思を感じさせるね)



佐々木千枝「おはようございます……」



凛(ふむ……でも、千枝か……)

P「おお、千枝。おはよう」

千枝「おはようございます! プロデューサーさん!」



凛(いや、別に千枝に全く危険性――もとい魅力がないなんて言わない)

凛(まだまだ幼くてちょっと弱気だけど――プロデューサーのためにと頑張っている姿は、応援したくなると同時に庇護欲を掻き立て
られる)

凛(そして、そんな姿から時折見せる――可愛らしくも確かに女を感じさせる色気は、彼女の強力な武器だ)

凛(ただその武器も――ことプロデューサーに関しては、有効だとは言えない)

凛(何度も言うように、彼は真面目で紳士的なプロデューサーだ)

凛(よって――そんな彼が、小学生に女性を感じるなんてことは――あまつさえ、それで体が反応するなんてことはありえない)

凛(まあ、だからこれは幕間の――ちょっとしたブレイクタイムと考えていいだろうね)



P「あれ千枝、今日はオフじゃなかったか?」

千枝「あの、その……」

千枝「プロデューサーさんに会いたくて……」

千枝「だめ、でしたでしょうか……?」

P「おいおい、そんなわけあるか」

P「俺も千枝に会えて嬉しいよ」

千枝「は、はい!」



千枝「……あの、プロデューサーさん」

千枝「一つ、千枝のお願い――いえ、わがままを聞いてくれませんか……?」

P「お、なんだ~? 俺に会いたいなんて言いながらおねだりか~?」

P「千枝は悪い子だな~」

千枝「あ、あぅ……ごめんなさい……」

P「はっはっはー、冗談だよ」

P「千枝は頑張り屋のとってもいい子だ」

P「なんでも言ってくれていいからな?」

凛(プロデューサー自身も、千枝に危険性がないって分かってるみたいだね)

凛(ずいぶんノリも軽いし)



P「それで? お願いって?」

千枝「はい……あの……」

千枝「千枝を、プロデューサーさんのお膝の上に座らせてくれませんか……?」

P「ん? まあいいけど……。別に楽しいもんじゃないぞ?」

千枝「の、乗りたいんです! プロデューサーさんにっ!」

P「そうか……? まあ千枝がそう言うなら――」

P「じゃあ、ほらおいで」

千枝「は、はい……」ノシッ

凛(千枝がプロデューサーの膝に座った――のはいいけど……)



P「ははは。なんだ千枝、そんな風に向かい合って座りたかったのか?」

千枝「だ、だめですか……?」

P「いや、俺は構わないけど……。千枝が恥ずかしくないか?」

千枝「そ、そんなことありません!」

千枝「こうしたかったんです……」ギュウ

凛(千枝がプロデューサーと向かい合って、さらに抱き着いている……)

凛(プロデューサーは特に気にしていないけど……何気に、あそこまで密着したのは千枝が初めてだね)



千枝「ぷ、プロデューサーさん……」

P「どうした、千枝? なんか泣きそうじゃないか……?」

千枝「……なんだか、今日のプロデューサーさん、調子が良くなさそうです」

千枝「だからそんなプロデューサーさんを見ていたら……今にも倒れちゃうんじゃないかって思って……」

P「安心しろ、大丈夫だよ。そんなことは――」

千枝「いやですよ! プロデューサーさん!!」

千枝「プロデューサーさんと、お別れしなくちゃいけなくなったら……」

千枝「いやです……プロデューサーさん……」ギュウウウ

P「千枝……」



P「……ありがとな。俺は大丈夫だから」ナデナデ

P「あと、ごめんな……心配かけて……」

千枝「プロデューサーさん……」ギュウ

P「大丈夫。絶対、千枝とお別れなんてしないから……」

P「安心してくれ」ナデナデ

千枝「約束、ですよ?」

P「もちろんだ」

千枝「は、はい……///」



千枝「ご、ごめんなさい、プロデューサーさん……。お仕事のお邪魔でしたよね……」

千枝「すぐ、降りますから……!」

P「いや、気にするな」

P「ははっ。それとも、今になって恥ずかしくなってきたか?」

千枝「えっ! そ、そんな、あっ――」ズルッ

P「千枝っ――」

ドスンッ

P「ぐふっ!」

凛(!!)

凛(膝から降りようとした千枝が滑って、プロデューサーの股間に尻もちをついた――!!)

凛(えぇ……、まさか、そんな物理的にプロデューサーのお稲荷さんにお礼参りするとは……!)



千枝「ご、ごめんなさいっ!!」

千枝「痛かったですよねっ! ごめんなさいっ!!」サスリサスリ

P「おうっ!!」ビクッ

凛(慌てた千枝が、プロデューサーの股間を撫でている!!)

凛(やはり物理――!! しかも痛みから快楽へつなげる見事なコンボ技――!!)

凛(迷いなく、流れるようにあんなことができるなんて……!!)

千枝「うぅ……プロデューサーさんにこんなことしちゃうなんて……」グスッ

千枝「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」ウルウル

P「おおおうっ!!」ビクン



凛(軽くパニックな千枝が、涙目でプロデューサーを見上げている……! 股間をさすりながら……!)

凛(これは完全に侮っていた……! 慢心していた……!)

凛(幼く、未熟ゆえの不確実性、予測不可能性――!!)

凛(それこそが、千枝の持つ真の武器!! 玄人を殺す大物食いっ!!)

凛(幕間の休憩……? ちょっとしたブレイクタイム……?)

凛(そんなことを言っていた自分が恥ずかしいよ……)

凛(これは言うなれば場外戦! プロデューサーの鋼の理性を打ち砕く刺客!!)


凛(ヌキ放たれる……! プロデューサーの物干し竿が……!!)



凛(巌流島――!!!)




千枝「プロデューサーさん……プロデューサーさん……」サスリサスリ

P「お、落ち着け千枝! 俺は大丈夫だ!」ガシッ

千枝「でも……でも……」グスッ

P「千枝は女の子で軽いし、俺はこう見えて頑丈だからな」

P「もう痛くないし――千枝にもいっぱい謝ってもらったから、大丈夫だ」

千枝「は、はい……」

凛(プロデューサー、千枝の手クニックに反応はしていたけど――さすがに本気で泣いてる彼女の姿を見て、理性を取り戻したようだ
ね……)

P「ん……。いい子だ」ナデナデ

千枝「えへへ……///」

凛(未熟ゆえのランダム性――恐ろしいけど、やっぱり穴が多くて通用しないのが普通だよ)

凛(だから――もしあれをもっと綿密に、計画的にやられていたらと考えるとぞっとするけどね……)



千枝「本当にごめんなさい。プロデューサーさん」

P「ああ、気にしないでくれ。大丈夫だよ」

千枝「あの……じゃあ、今日はこれで失礼しますね」

千枝「この後、家族みんなで食事に行くんです」

P「おお、そりゃいいな」

P「久しぶりのオフなんだし、ゆっくりしてこい!」

千枝「は、はい……!」

千枝「――あっ、でもプロデューサーさん……!」

P「うん?」

千枝「千枝、今日は――」



千枝「手、洗いませんからっ!!」ガチャ



P「ん……?」

凛(千枝……恐ろしい子……!!)



P「しかし、いよいよいかんな。千枝にまであんな気分になってしまうなんて……」

P「しょうがない……。この手だけは使いたくなかったが……」ゴソゴソ

凛(!?)

凛(なにっ!? プロデューサーが何かをカバンから取り出した……)

P「ふぅむ……」

凛(あれは……近くのレンタルビデオ店の袋……!)



凛(そう……、プロデューサーもついに、それに手を出してしまうんだね……)

凛(ううん、別に責めているわけじゃないよ)

P「えーと……PCにディスクをセットして……」ウィーン

凛(プロデューサーはよくやったよ。十分過ぎるくらいにね……)

凛(どんなものだって、溜め込み過ぎればいつかは爆発してしまうもの。息抜き、ガス抜きはしなくちゃならない)

P「チャプターは……このへんかな……。えーと、イヤホン付けるか……」

凛(だからいいんだよプロデューサー。プロデューサーもヌキヌキして――むしろして然るべきだよ)

凛(今のアンタにはその権利がある)

凛(私が保証するよ)

P「再生っと……」カチ



凛(さて、プロデューサーはどんなジャンルを使うのかな……)ソローリ

凛(!?!?)

P「うぅ……。やっぱこえーなぁ……」

凛(な、なんだとっ!?)

凛(てっきりAVを見てると思ったのに……違う……)


凛(これはホラーだっ!)


P「ひぃっ!! ……うぅ、今のは卑怯だろ……」ガクガク

凛(まさか……! そんな、信じられない……!)

凛(プロデューサー、ホラー映画を見ることで、自らの情動を恐怖でかき消すつもりなのっ!?)

P「さすがに小梅チョイスの作品だな……。怖がらせ方がよく分かってるなぁ」ガクガク



凛(そう――そうなんだね、プロデューサー)

凛(それがアンタの選んだ道……)

凛(抑圧からの解放を選ばず、欲望の解放を選ばず……)

凛(更なる修羅の道を、アンタは選んだんだね……)

凛(だったら――もう私は何も言わないよ)

凛(プロデューサーが選んだ道を、私も一緒に歩んでいく!)


PC『ギャァァァアアアア!!!』


P・凛「「ひぃぃいい!!」」



P「えっ……!? 今、誰か叫ばなかったか……?」キョロキョロ

凛「」サッ

P「気のせいか……?」

凛(危ない危ない……)

凛(ともかく、これでプロデューサーの益荒男ゲージも大分下がったと見ていい)

凛(これでとりあえず、今日のところはアイドルからのスキンシップにも耐えられるはず……)

凛(やったねプロデューサー。もう恐れるものは何も――)



ガチャ

新田美波「おはようございます」




P・凛((!!??))



凛(ここで、ここに来てっ!!)

凛(事ここに至ってからの、美波!! 新田美波だとぉ!!??)

P「おぉ……。美波、おはよう」

凛(いや、違う……。むしろ、機は熟したと言うべきなのか……)

凛(今まで、数々の修羅場を越えてきたプロデューサーへの、最後の試練……!!)

凛(物語の終局へと――クライマックスへと至る、言わばラスボスっ!!)

美波「おはようございます、プロデューサーさん」ニコ

P「ああ……」

P「ん? あれ美波、なんだかいつもと雰囲気違うな」

P「なんだか……しっとりしてるような……?」

美波「えっ!?」

凛(マズい! プロデューサー!! それは罠だよっ!!)



美波「あ、あの……、今日はなんだか暑くって……。ここに来るまでに汗で、いっぱい濡れちゃって……」

美波「ごめんなさい、こんな姿……恥ずかしい///」

P「おふっ」ビクン

凛(ああっ! なんてことっ!!)

凛(今の一連の恥じらう動作の、なんと艶かしいことかっ!!)

凛(水も滴るいい乙女――しかし、その無意識の姿の奥には、確かな魔性と淫靡が舌なめずりをして待ち構えているっ!!)

凛(げに恐ろしき、歩く創性合体――!!)

凛(彼女の一挙手一投足、紡がれる隻句さえもが、香り立つ媚香となるのだっ!!)


凛(――勃チ上ガルコト、山ノ如シ)


凛(――熱キコト、火ノ如シ)


凛(――侵略スル様、淫魔ノ如シ)


凛(――発射ノ早サ、風ノ如シ!!)



凛(風淫火山――!!!)




P「ははっ! いやー、そんな美波も色っぽくていいと思うぞー」

P「ただ、風邪でも引いたらことだからな。ちゃんと着替えるなり、拭くなりしておけよー」

凛(――!? プロデューサーがここで、まさかの攻め!?)

凛(しかもさりげなく更衣室へ誘導している……!!)

美波「い、色っぽいだなんて……///」

美波「もう、恥ずかしいこと言わないでください///」

美波「……じゃあ、ちょっと更衣室お借りしますね」

凛(美波が引いたっ! 相変わらずエロいけど)



凛(なるほど……! 今まではアイドルたちに防戦一方だったけれど――今回は違う)

凛(彼女たちから放たれる無意識エロスを利用した、これはカウンターッ!!)

凛(多少のデリカシーを欠くことで、最善の道へと繋げるっ! 今までのプロデューサーにはなかった戦術だ!)

凛(プロデューサー、戦いの中で成長しているんだね……!)

凛(いいよ。まさにラストに相応しい、ラスボスへの相応しい対応――)




ガチャ

十時愛梨「おはようございます~」



P・凛((!?!?!?!?))




凛(えっ……、うそ……)

凛(しまった……、私はとんでもない勘違いをしていたというの……!?)

凛(これは――このステージはラスボスなんかじゃない……)

凛(ラスボスなんてとっくに制覇した、クリア後の――)

凛(裏ボスステージッ!!)

P「あ、愛梨……。おはよう」ガタガタ

愛梨「あ、プロデューサーさんっ! おはようございます~」ニコ

美波「愛梨ちゃん、おはよう」

愛梨「美波ちゃん、おはよ~」ニコ

凛(マズいよ、これは……)

凛(ここまでの猛者を、二人同時に相手にするなんて……!)

凛(プロデューサー……!!)



愛梨「はぁ。それにしても、なんだか今日は暑いですね」

美波「愛梨ちゃんもそう思う? 私も、来る途中で汗かいちゃって……」

愛梨「私もですよ。ふぅ、なんだかここも暑いし――」

凛(やばいっ! 来るっ!)



愛梨「ちょっと脱いじゃいますね~」ヌギ



凛(伝家の宝刀――!!)


P「あー、愛梨っ!! 暑いならなー!!」


凛(プロデューサーが割って入った!?)



P「暑いなら、さっき雫が持ってきてくれた牛乳があるぞ!」

P「俺もさっき頂いたが、冷たくておいしかったから、それを飲むといい」

愛梨「ホントですか~! 雫ちゃんの牛乳は、私もよくお菓子作りに使わせてもらってるんですよ!」

凛(やったっ! 止めたっ! 愛梨の必殺技をっ!)

凛(まるで変身中のヒーローを叩く、みたいな戦法ではあるけど……、相手の有利に持ち込ませないっていうのは、小学生でも分かる
ことだしね)

凛(いいよ、プロデューサー!)

凛(この切迫し、差し迫った状況が、逆にプロデューサーを冷静にさせているっ!)

凛(追い詰められようとも、決して詰んではいない)

凛(これで――)

P「美波もどうだ? 喉渇いたろ?」

美波「あ、はい。じゃあ、いただきます」

凛(ん……?)



凛(なんだろう……何か引っかかる……)

凛(何か今、重大なことを見落としたような……)

愛梨「んく、んく」ゴクゴク

美波「うん……とっても濃厚……」

凛(美波の仕草が相変わらずエロいこと?)

凛(――いや、違う。プロデューサーはそれを予期して、すでに彼女たちから自分のパソコンに目を移している……)

凛(そうじゃなくて……)


凛(予期……。そうだ!)


凛(そうだ、これは何かの見落としに対する不安じゃない……)

凛(今まであったことへではなく――)

凛(これから起こることへの、それが予測できてしまうことへの本能的恐怖――!)

凛(それは――)



愛梨「ふぅー。冷たくておいしい~!」

愛梨「でも――これで脱いだら、もっと涼しくなれるかな」

愛梨「よいしょ」ヌギッ たゆん

美波「!?」ブフッ


P「なんだ? どうし――」

凛(プロデューサー! 見ちゃダメ!!)

P「なっ――!!」



美波「ケホッケホッ……あ、愛梨ちゃんダメよ、こんなところで脱いじゃ……ケホッ」

愛梨「えー? でも涼しくなったよ?」

P「あ、ああ……」ムクムク

美波「だって、愛梨ちゃん……下着まで出ちゃってるじゃない……」

愛梨「ホントだ。でも、これすっごい気持ちいいよ~♪」

愛梨「美波ちゃんこそ大丈夫……? 牛乳、吹き出しちゃったみたいだけど……?」

美波「うぅ……。ああ、服にもかかっちゃった……」


凛(……今起きたこと――それを言葉にするのは容易い……)

凛(愛梨の脱衣、その豪快っぷりに驚いた美波が、飲んでいた牛乳を吹き出した)

凛(それによってもたらされた光景は、上半身が下着だけの愛梨――)

凛(さらに咳き込み、口元を押さえながら、服と口を白いミルクで濡らした美波)

凛(そして――その光景から目が離せないプロデューサー……!!)



愛梨「じゃあ、美波ちゃんも脱いじゃおっか」ゴソゴソ

美波「えっ!? いや待って、私は……! んっ///」

愛梨「美波ちゃんも汗かいたんでしょ~? どっちみち着替えなきゃ」

美波「だめだよっ/// ここじゃ……///」

P「お、おおお……」ビンビン

凛(ああ、南無三……弓矢八幡……)

凛(愛梨と美波の合わせ技――いやさ盛り合わせ……!!」

愛梨「ふう~。せっかくだし、下も脱いじゃおっと……」ヌギヌギ

美波「あっ! やだ、私、汗で透けて――」

P「お、おおおおおっ!!!」ゴゴゴ



凛(絶え間なく放たれる、彼女たちの蠱惑的仕草)

凛(隙だらけのはずなのに、いっさい付け入る隙のないその流れを、もはやプロデューサーは見ていることしかできない……)

凛(強いて言えば、付け入る穴が二つあるだけだ……)

凛(隙はなくとも穴はある。好きにしたい穴が……)

凛(それは戦略の穴ではなく――彼の捕らえるための、あるいは彼が堕ちていくための深淵……)

凛(なるほど、これが裏ボス……。まさにエンドコンテンツ……)

凛(プロデューサーにとっての終焉をもたらす使者……)



凛(彼の敗因は、愛梨の脱ぎ芸を止めたことで油断したこと……)

凛(そこで、更衣室へ行こうとしていた美波までも止め、さらに牛乳を勧めてしまったことだ……)

凛(それは、あの無意識と無防備の申し子――及川雫の置き土産……)

凛(あの純白の液体は、しかし彼の戦績に白星をつけはしなかった……)


P「フー! フー!」ハァハァ


凛(むしろ、真っ白なのはプロデューサーの頭の中だ……)

凛(多分、もう理性も自制も、戦略も戦術も、微塵も残っていないだろう……)

凛(後は、彼の股座が白く染まるのを座して待つのみ)



P「あいり……みなみ……」


凛(恐らく、千枝との闘いの後に見たホラー映画も逆効果として表れている)

凛(ホラー映画に間々ある、男女の濡れ場を引き合いに出すまでもない……)

凛(元来、エロスとタナトスは表裏一体なのだ……)

凛(それは自然の摂理――森羅万象の帰結)

凛(今のプロデューサーが渇望しているのは、紛れもなきエロス……)

凛(ならば、そこからもたらされるものもまた――)


P「あいりぃぃぃいい!! みなみぃぃぃいいい!!」ガバッ!!




凛(タナトス(社会的死亡)以外にありはしない)





P「」ピタ

P「あいり……みなみ……」

愛梨「はい? なんですか?」

美波「あ、あのプロデューサーさん/// これは……///」

凛(……? これは一体――)

P「……俺はそろそろ、営業に行ってくるから」

P「お前たちも、ちゃんと時間になったら各々の予定をこなすようにな」

P「じゃ、行ってくる……」ガチャ

凛(!!)



凛(信じられない……)

凛(目の前の光景、起こった出来事を頭が認識しない……)

凛(でも、今のは事実……。愛梨と美波が残り、プロデューサーがいないというこの現状が、紛れもない証拠……)

凛(これは、すごいなんてものじゃないよ……)

凛(あの修羅場、惨状を切り抜けた……いや違う……)

凛(言葉を選ばずに言えば、あれは逃げの一手)

凛(四十八手逃げるに如かず――とは、よく言ったものだね)

凛(強敵に対して、勝敗の有無でなく、勝負の有無で相対する)

凛(勝負にならない相手に対し、勝負にしないという戦法……)



凛(多分、あれは完全に無意識、本能的行動だ)

凛(頭が真っ白になった――逆に言えば、理性や自制、戦略や戦術なんていう邪魔なものが一切排除された中で、彼が掴み取った唯一
の光……!!)

凛(……そっか)

凛(もうアンタは――私が知るのとは、違う次元に進んでしまったんだね……)

凛(雛はいつか巣立つ)

凛(強く、そう強く――)

凛(私はもう、それを見ていることしかできないけれど……)



凛「でもそれが、私がプロデューサーへできる、唯一の手向け、かな……」



愛梨「あれ? 凛ちゃん? そんなところで何してるの?」

凛「あっ……」



――――――
――――
―――


P「ただいま戻りましたー」ガチャ

凛(お帰り、プロデューサー)

凛(英雄の凱旋って言うには少し寂しいけれど……)

凛(でも今のプロデューサーは、私にはとても輝いて見えるよ)

P「あれ、誰もいないのか。そういえば、今日は直帰がほとんどだったっけ……」

P「ふぅ……。なんか今日は一段と疲れたなー」グデー

凛(どんな戦士にも休息は必要)

凛(だから今日、プロデューサーがあとやるべきことは、その激戦で消耗した心と体をしっかり休めることだよ)

凛(ラスボスと裏ボスまで退けたんだもの。この後はただ、エンディングのスタッフロールを眺めていればいいだけで――)



ガチャ

佐久間まゆ「お疲れさまです♪」



P・凛((!?!?!?!?!?))



凛(え、えぇ……)

凛(もしかして、これなの……?)

凛(私の、私たちの最大の誤算――!!)

凛(見落とし、見逃していた――いや、目を無意識に逸らしてきた、残酷な真実……)

凛(エンディングを迎えはしても――)

凛(それがハッピーエンドとは限らない……)

凛(残酷で冷酷で――)

凛(誰も救われない、救いようのない――)

凛(目を逸らし、塞ぎたくなるような――)



まゆ「うふふ。お疲れさまです、Pさん♪」ダキッ



凛(バッドエンドな幕引き……)



P「あ、ああ……。お疲れ、まゆ」ダラダラ

P「今日は、現場から直帰する予定じゃなかったか……?」

まゆ「ええ、そうですけれど……」

まゆ「でも、今日は朝から現場に直行して、事務所に寄りませんでしたから――帰りは顔を出しておこうと思って」

P「そうだったのか……」

まゆ「顔を出して、Pさんのお顔を見ておこうと思いまして……うふふ♪」ギュウ



凛(違う、違い過ぎる……!!)

凛(格が違うと言えばそれまでだけど、この場合、他と一線を画しているのはその速さだ)

凛(圧倒的初速! 速いし、早い)

凛(こちらへの思考の時間も、抵抗の余地も与えることを許さない!)

凛(こちらが追い付けないうちに、一気に追い詰められる――!!)

まゆ「うふふ……。Pさん? まゆ、今日は一人でとっても頑張りましたよ……?」ギュウ

まゆ「少し寂しかったですけど……、でもPさんのためにって、頑張ったらPさんに褒めてもらえるって――必要としてもらえるって思って、頑張りました」

P「そ、そうか。よく頑張ったな、えらいぞー」ナデナデ

まゆ「うふふ♪ もっと褒めてくださぁい……」スリスリ



凛(圧倒的速度で接敵し、そして圧倒的重圧で制圧する――!!)

凛(なんてこと……。これじゃあまるで、今までの戦いがすべて茶番のようだよっ!)

まゆ「……Pさん、なんだかずいぶんとお疲れみたいですね?」

P「えっ、そうかな? まあ、さっきまで営業行ってたし……」

まゆ「いえ、疲れているというより――なんだかやつれているような……」

まゆ「まるで、今日一日でいくつもの戦場を潜り抜けてきたみたいな――そんなお顔をしていますよ……?」



P「あはは、大げさだな……」

P「まあ、そんな日もあるさ。大丈夫、明日には元気に――」


まゆ「Pさん」


まゆ「今日一日も、そう言って他の娘たち相手には誤魔化してきたみたいですけど……まゆには分かります」

まゆ「Pさんが、何か問題を抱えているって」

P「も、問題なんてそんなものは……」

まゆ「……Pさんは、そうやって私たちに心配をかけさせまいとしているのかもしれません」

まゆ「あるいは――プロデューサーの立場として、アイドルに弱音は聞かせまいとしているのかも」

まゆ「確かに貴方のそんな姿勢は嫌いじゃありません」

まゆ「でも人間――どんな人でも抱えられるものには限度があるんです」

まゆ「Pさんはすごい方だけど、それでも例外じゃないはずです」

P「まゆ……」



まゆ「だから――誰かに話し辛いなら、まゆに話してください。打ち明けてください」

まゆ「まゆだけに、聞かせてください!」

まゆ「まゆだったら、貴方のどんなことでも、どんな姿でも受け入れますから……」

まゆ「下らないと思うことでも、しょうもないと思うことでも――」

まゆ「格好悪くても、情けなくても、だらしなくても――まゆは受け入れますよ?」

まゆ「まゆは全部、全てを貴方にさらけ出します。全て見せてもいいと思っています」

まゆ「だから、Pさんも見せて? ――本当の貌を」

まゆ「全て知りたいの……貴方のことは全部、全部……」

P「いや……それは……」




凛(防戦一方……。それだって破られるのは時間の問題だね……)

凛(まゆがああなったら、梃子でも諦めないよ)

凛(退路も塞がれて……、こんなの籠城とも言えない、ただの監禁だ)

P「なんでもないんだ。ホントに大したことじゃなくてだな……!」

まゆ「まゆはそれが聞きたいです」

P「ホント、つまんないことで……」

まゆ「まゆはそれが知りたいです」

凛(万事休す、八方塞がり……)

凛(プロデューサーの万策は尽きた……)

凛(これは誰の目にも明らかな事実)

凛(覆らない現実……)

凛(自然の摂理――当然の道理――)



凛(でも――)

凛(でもね、プロデューサー)

凛(それでも、まだ諦めるには早いよ――)



凛「あーあー、まゆ? それはちょっと踏み込み過ぎなんじゃないかな?」ガタッ



凛(停滞しようとも、諦観する時じゃない!)

凛(アンタが今日、数々の修羅場を掻い潜ってきたことを、私は知っている)

凛(渋谷凛は知っているんだよ)

凛(今日一日、私はアンタを見てきた――魅せられてきた!)

凛(だったら、ここで――万策尽きたプロデューサーに、私が力を貸すことだって当然の道理なんだよっ!)

凛(プロデューサーはよくやった。だからもう休んでいていい)

凛(今度は、私を見てプロデューサー)

凛(私に魅せられて、プロデューサー!!)



P「り、凛!? いつの間にいたんだ?」

まゆ「あら、おはよう凛ちゃん」

まゆ「――さっきまでの会話を聞いていた、とみていいんですよね?」

凛「うん、まあそんなとこだよ」

まゆ「ふぅん……」

まゆ「――それで? 凛ちゃんは何が言いたいのかしら? 踏み込み過ぎってどういう意味?」

凛「そのままの意味だよ。プロデューサーのことは、ちょっと放っておいてあげたらって言ってるの」

まゆ「……放っておいてあげる? Pさんが困っているのにですか?」

凛「そうだよ。プロデューサーだっていろいろ事情があるかもしれないのに――そんな風にずかずか踏み込んでいくことを、手を差し伸べているとは言わないよ」



まゆ「ずいぶん、分かったようなことを言いますね……」

凛「誰にだって隠しておきたいモノはあるってことだよ。――アンタにだってあるでしょう?」

まゆ「いいえ。まゆには、Pさんに知られていないことはあっても、知られたくないことはありません」

まゆ「さっき言ったでしょう? まゆはPさんにすべてを開示します」

凛「確かにまゆはそう言っていたけど――でも、プロデューサーはそんなこと一言も言ってないよ」

まゆ「アンタが全部をさらけ出したからって、プロデューサーが同じようにしなくちゃいけない道理なんてないでしょ?」

凛「そんな風に――自分と同じ条件、状態を相手にも求めるなんて……まゆのやってることは、ただの脅迫だよ」

まゆ「……さっきから、本当に知ったような口を利きますねぇ……」



まゆ「うふふ……ねぇ、凛ちゃんは何を知っているのかしら?」

まゆ「そして何が言いたいのかしら?」

凛「だから、私が言いたいのは――」

まゆ「自分はなんでも知っているって?」

まゆ「Pさんのことなら何でも知っている?」

まゆ「まゆの知らないことでも、まゆの知りたいことでも知っている」

まゆ「私から見れば、アンタはなんにも知らない娘」

まゆ「だから身の程をを弁えろって?」

まゆ「引っ込んでいろって……?」

まゆ「そう、言いたいんですかぁ……?」ゴゴゴゴゴゴゴ



凛(マズい……ちょっと挑発が過ぎた……)

凛(なんか、まゆとの会話は言葉を選べないね……)


まゆ「ねぇ、答えてください」


まゆ「はっきり言ってください」


まゆ「正直に言ってください」


まゆ「こればっかりは隠したって隠し切れませんよ……?」


まゆ「誤魔化しなんてさせない」


まゆ「ねぇ、凛ちゃん?」


まゆ「ねぇねぇ、凛ちゃん?」


まゆ「ねぇ? ねぇ?」


まゆ「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、
ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!

!!!」



凛「あぁーーー!! もうっ! めんどくさいっっ!!!」




凛「エロゲーだよエロゲー!!」


凛「プロデューサーはエロゲーが攻略できなくて悩んでるのっ!!!」


凛「幼馴染も!! 義妹も!! 義姉も!!」


凛「クラスメイトも!! 先輩も、後輩も!!!」


凛「教師も!! 教え子も!!」


凛「誰とのエッチも見れなくて溜まってるのっっ!!!!」



まゆ「えっ……」

P「え、ちょっ……」



凛「それで今日もずっと朝から頭の中どどめ色なのっ!!」


凛「島村卯月に尻ムラムラしてたりっ!」


凛「本田ちゃんみおっぱいをもみおもみおしたくなったりっ!!」


凛「三船美優と宝船して釣竿で大漁旗を挙げたくなったりっ!!!」


凛「及川雫に白濁の雫を垂らしてミルキーウェイしそうになったりっ!!!!」


凛「佐々木千枝とちえっちえしたくなったりっ!!!!!」


凛「新田美波で性欲なみなみになったりっ!!!!!!」


凛「十時愛梨をドキドキ愛撫したくなったりしてるのっ!!!!!!」


まゆ「……//////」

P「」チーン



凛「はぁ……はぁ……、佐久間……まゆの……さくら色のサクマドロップに……」ゼェゼェ

まゆ「わ、分かりましたっ! 分かりましたからっ!!」アセアセ

P「」ブクブク

まゆ「そ、そうでしたか……。Pさんは、その……えっちなゲームを……」

凛「そういうことだよ」

まゆ「ええと……ちなみに、どういったものなんですか、それは……?」

凛「まあ、簡単に言うと――ゲーム内の女の子と会話して、仲良くなっていって、なかでいくゲームだね」

凛「会話のたびになんて女の子に応じるかの選択肢が出るから、それをうまい具合で選んでいって親密になれれば、ハッピーもといハッピンクーエンド」

凛「プロデューサーの場合は、それに全部失敗してバッドエンドしか見てないけど」

まゆ「な、なるほど……」



P「……まゆ、その、すまなかった」

P「こんなこと(なぜ知られているのかはともかく)聞きたくなかったよな……」

まゆ「いえ、そんなっ! 謝らなければいけないのはまゆの方です……」

まゆ「Pさんだって男性ですし――まぁゲームとはいえ、そういうことをまゆ以外で発散させようというのは、ちょっといただけない
けど……」

まゆ「でも、そういった方面で言い辛いことがあるって、気づけませんでした……」

P「あ、うん……。本来、担当アイドルに気にしてもらうことじゃないんだが……」

まゆ「……凛ちゃんもごめんなさい。大人げなく、食ってかかってしまって……」

凛「……誰にだって間違いや失敗はあるよ。私は気にしてないから」



まゆ「それで……あの……Pさん……」

まゆ「もし、良かったらですね……」

まゆ「Pさんのそれ……まゆにお手伝い……させてくれませんか……?」

P「!?」

P「いや駄目だぞ!? そればっかりは駄目だ!! もっと自分の体を大事にしろっ!」

まゆ「あ、いえ……そうではなく……」

まゆ「そうでもいいんですけれど、そうではなく――」



まゆ「まゆに、えっちなゲーム攻略を手伝わせてくださいっ!!」




P「えっ……」



まゆ「まゆもそういうゲームに詳しいわけじゃありませんが……」

まゆ「察するに――Pさんは、いつもアイドルみんなに紳士的に、間違っても間違いが起きないように接しています」

まゆ「だからきっとゲーム内でも――Pさんは女の子たちと、そういう接し方しかできないんじゃないかと思って!!」

まゆ「要は、女の子と仲良くなれればいいんですよね?」

まゆ「だったら、同じ女の子であるまゆなら、女の子が喜ぶ――乙女心の分かる選択肢を選べるんじゃないかって、思って……」

P「いや、待てそれは――」


凛「……さすが、まゆだね」


P「!?」

凛「その発想には脱帽だよ」

凛「その決断には、敬意を表さざる負えない……」

まゆ「凛ちゃん……!」



凛「だから――私にも手伝わせて」

P「!?!?」

まゆ「凛ちゃんっ!」

P「待て凛! あのな――」

凛「私、気づいたんだ、プロデューサー」

凛「私はやっぱり、プロデューサーを見守っているだけで――見送るだけで、満足できる女じゃないって」

凛「私は、私たちはアイドル――みんなに輝きを届ける者なんだよ」

凛「だから、プロデューサーもその輝きで導いてあげたいって――そう思ったの」



P「いや、悪いが意味がわか――」


まゆ「先人は言いました……」


まゆ「『強敵と書いて<<とも>>と読む』」


まゆ「『昨日の敵は今日の友』」


「『嫉妬しちゃっても、がしっと手を組みましょ~』」


まゆ「あなたがついてくれれば敵なしです」ガシッ


凛「まゆっ!」ガシッ



P「待て待て落ち着けっ! 二人の世界で語り合うなっ!!」


P「お前たちにそんなことをさせるわけには――」


P「えっ、ちょっ……なんだよ……カギを出せ?」


P「いや、頼むから話を聞いてくれあの――いや、夕飯も風呂も準備するとかそういう問題じゃなくて……」


P「いや、客用の布団は二人分あるって――まさか泊まるつもり――」


P「なんでにじり寄ってくるんだ……はは、なんだ、二人とも……その手……はは……」


P「はは……いやいや、冗談でもな、やっていいこととやっちゃいけないことが――や――や――――」



イヤァァァァアアアアア――――!!!!








おまけ


凛「さて、じゃあとりあえずゲーム始めていこうか」カチカチ

まゆ「凛ちゃん、こういうゲームの経験はあるんですか?」

凛「いや、さすがにないけど……」

凛「でもアクションとか、プレーヤーの操作テクニックが求められる類のものじゃないからね」

凛「基本は文章を読んで、ストーリーを追っていけばいいんだと思う」

まゆ「じゃあ、まずはまゆにやらせてください」

まゆ「Pさんのゲーム攻略を言い出したのはまゆですし……」

凛「ん、分かった。まあ、最初は様子見ってカンジでいこう」

まゆ「はい……!」



まゆ「『このゲームに登場する人物は、すべて18歳以上です』……?」

まゆ「でもこの子なんて、どう見ても小学生くらいですけど……」

凛「まあ、そこはお決まりと言うか、お約束というか……テンプレートらしいよ」

まゆ「そういうものですか? ちょっと納得できませんねぇ……」

凛「……それ、若葉さんの前でも同じこと言える?」

まゆ「いやぁ……まぁ……」

凛「菜々さんの前でも、同じこと言える?」

まゆ「……どういう意味ですか?」



『おはようございます、Pくん!』

『朝ですよ! ほら、いつまでも寝てないで起きてくださいっ!!』

『って、きゃぁぁああっ!!』

『な、なにおっきくしてるんですかっ!! さ、サイテーですっ!!』

『もうっ! えっちなPくんなんて知りませんっ!!』



まゆ「……なんですか、この女は」

凛「攻略対象のヒロインの一人。主人公と幼馴染って設定だけど」

まゆ「へぇ……幼馴染ですかぁ……」

まゆ「でもいくら幼馴染と言っても、勝手に家に上がりこむのはどうかと思いますねぇ……」

まゆ「しかも、まゆのPさんに対して、勝手に起こして布団を剥いで、勝手に文句を言って……」

凛「……いや、まゆ? 確かに主人公キャラの名前がプロデューサーと同じだけど……、それはプロデューサーがそう設定したからで
あって――」

凛「当たり前だけど……このキャラ自身は、プロデューサーとは別人だからね……?」

まゆ「……コホン」

まゆ「分かっていますよぉ。うふふ……」



『おっはよー、P先輩っ!!』

『あれー? 朝から元気ないなー!』

『じゃあ、また私がぎゅーってして、元気を分けてあげよっかなー』


>おいおい、こんなところでか?

 じゃあ、お願いしようかな

 いや、そういう気分じゃないんだ……



まゆ「三番ですね」カチカチ

凛「いや、ここはしてもらおうよ!」

まゆ「はぁ? まゆが、Pさんと他の女とのスキンシップをそう安々と許すとでも?」

凛「これゲーム!! ゲームだからっ!!」



『コラ、Pくん? 居眠りは駄目ですよ? ってどこ見てるんですか……!?』

『先生をそんな目で見ちゃいけませんっ!』



まゆ「『見てませんよ。自意識過剰じゃないですか』っと……」カチ

凛「ちょっとまゆっ!! まゆーー!?」



『P兄さん……なんで早く帰ってきてくれなかったんですかぁ?』

『わたし、ずっと待ってたのに……』



まゆ「『お前が勝手に待ってたんだろ』っと……」カチ

凛「ままゆーー!!??」



――――――
――――
――


凛(……まったく)ジャー

凛(まゆに任せてたら、いつまで経ってもハッピーエンドにならないよ……)キュッ

凛「ふぅ……。いいお湯だった」


凛「まゆ、お風呂上がったよ」

凛「アンタも一休みして、入ってきた――」


まゆ「りりりり凛ちゃんっ!」


凛「……どうしたの?」



まゆ「大変なんですっ! ぴぴぴPさんがっ! ――いえあの、主人公がっ!」

凛「なに? ――ああ、確かに主人公、ヒロインが寝取られちゃうと自殺しちゃうエンドがあったっけ……」

まゆ「そ、そうじゃなくて……」

凛「……?」


『フフッ……。やっと二人きりだね』

『ああそうさ。あの子と仲良くしてたのは、最初からこうするためだよ。ああすれば、嫉妬して君の方から僕に近づいて来てくれると思ったからね』


凛「ああ……これね……」

凛「プロデューサーも一回経験してたよ……『恋のライバルだと思ってたイケメンにヤられるエンド』」

まゆ「なんですかそれ!?」



凛「……見てれば分かるよ」

まゆ「見てないで助けてくださいっ! こ、このままじゃ……」


『ああ、やっぱり思った通りだね。僕は君と出逢うために生まれてきたのかもしれないな……』

『さて。じゃあ、始めようか……Pくん……』

『なに、安心しなよ。優しくするからさ……』


まゆ「や、やめてくださいっ! Pさんはまゆと結ばれるんですっ! 男色のケはないんですっ! あったら困るんですっ!!」カチカチ

凛「いや……だから……。これは主人公の名前が同じだけで……」


『それにホラ――嫌がっていても身体は正直じゃないか』

『もうこんなに……』


まゆ「ち、違いますっ! これはあなたがさっきの飲み物に変なものを入れたからで――!」



『そうかい。だったら、早くその心もホンキにさせてあげないとな……』

『はははっ……悪いね……。さっきの優しくするってやつ――ちょっと守れないかも……』

『ずっとずっと……君を見てたんだ。君のその身体を、僕だけのものにしたいって……ずっと思ってた……!』


まゆ「いやっ! こ、来ないでくださいっ! こんなの、こんなのいやぁぁぁああっ!!」カチカチカチカチ

凛「……まゆ」

まゆ「お願いですっ! やめてっ! それだけはっ! いやぁあ!」カチカチカチカチカチカチ

凛「……まゆー」

まゆ「ほ、ほかのことならなんでもっ! なんでもしますからっ! あの子のことも諦めるからっ!!」カチカチカチカチカチカチ

凛「……まーゆー」

まゆ「やめてぇぇええ! そんなとこに入れちゃだめっ! そんなのいれないでぇぇええ!!!」

まゆ「いやぁぁぁあああああ!! Pさんっ!! Pさぁぁああああんっ!!!」

凛「……ままゆー」




まゆ「うぅ……グスッ……うぇぇ……ズズッ……」

まゆ「Pさぁん……。まゆは……まゆわぁ……」

凛「いつまで泣いてるのさ……ただのテキストで」

凛「とりあえず、選手交代。私にバトンタッチして」

凛「それと――主人公の名前がこのままだと、まゆがうるさいから……まずはその主人公の名前入力からやり直そう……」カチカチ

まゆ「ぐすっ……」

まゆ「……じゃあその名前――『リン』にしませんかぁ?」グスッ

凛「え、なんで? 私の名前ってこと……?」

まゆ「え、ええ……。だってホラ、凛ちゃんってカッコ良さも持ち合わせていますし……!」



凛「いや、でも……主人公、男だし……。自分の名前でそれをプレイするって、結構複雑だよ……?」

まゆ「ま、まゆたちの目的は、あくまでゲームのハッピーエンドを見て、その方法をPさんに教えることですから……。主人公の名前なんてなんでもいいじゃないですか」

まゆ「それにほら! この主人公って結構、凛ちゃんとの共通点があるんですよ!」

まゆ「見てくださいっ! この主人公の紹介文――備考に、『好きな人の匂いに敏感』って――」

凛「好きな人の匂いなら、そりゃ愛おしく感じるんじゃない? 別に言うほど特徴的でもないよ」

まゆ「あ、あとは、『犬が好き』」

凛「いや、普通でしょ。犬派、猫派……それぞれいっぱいいるよ」

まゆ「『小さい頃はお花屋さんに憧れていた』」

凛「……その憧れてる理由、花屋の店員さんが可愛かったから――って、さっき言ってたよ」

凛「ねぇ、まゆアンタ――」

凛「……もしかして――その『リン』で、さっきのイケメンに襲われるエンドに行こうとして――」

まゆ「『蒼が好き』」

凛「まあ考えてみたらこんなの悩まず、適当でいいよね。私たちはそこまでストーリーに没頭する必要はないわけだし」

凛「『リン』っと……。うん、短いし、読みやすいし……」カチカチ

まゆ「『意外とちょろい』」

凛「!?」



まゆ「――では、凛ちゃんのヒロイン攻略プランを教えてください」

凛「そんな大層なものはないけど……」

凛「普通に、女の子が喜びそうな選択肢を選んでいけばいいんじゃない?」

まゆ「ホント普通ですねぇ……。まるでリボンをつけた卯月ちゃんです」

凛「その普通ができなかった人に言われたくないよ」

まゆ「ぴにぁ……」



『ここからの夕焼け、ホントに綺麗……』

『ふふっ。リンくんがこんな素敵な所を知っているなんて、意外でしたっ!』

『でも、どうしていきなり、ここを教えてくれたんですか……?』



凛「えーと……選択肢は、これでいいかな……」カチ



リン
 『お前と一緒に見たかったんだ』
 そう言って、俺は微笑みかけ――



凛「おお。また一緒に来ようって言ってくれたね」

まゆ「…………」



凛『アンタと一緒に見たかったんだ』ニコッ

『り、凛ちゃん……!』




『ごめんね……リン先輩……』

『私が怪我しちゃったせいで、おぶってもらっちゃって……』

『私が、あそこで突っ走らなきゃ……こんなことにはならなかったのに……』


凛「えーと……これは……」カチ


リン
 『お前の傍に、ずっと居てやるって約束したからな』
 そんな言葉をかけてやると、背中から――


凛「よし。いい感じだね」

まゆ「…………」


凛『アンタの傍に――ずっと居てあげるって約束したでしょ?』

『し、しぶりん……!』




『いやっ!! いやですっ!!!』

『見捨てないでっ! リン兄さんっ!!』

『好き――!! 大好きなの――!』


凛「これかな……」カチ


リン
 『やっと、本当の気持ちを言ってくれたね』
 そう言いつつ、俺はゆっくり、義妹の頭を――


凛「よしよし……。これでハッピーエンドかな……」

まゆ「…………」


凛『やっと、本当の気持ちを言ってくれたね』ナデナデ

凛『ほら、おいで? 私の可愛いま――』


まゆ「凛ちゃんの女ったらし!!」

凛「なんで!?」



――――――
――――
――


双葉杏「それで……えーと……」

凛「…………」

まゆ「…………」

杏「なんで、二人は杏の前で土下座してんの……?」

凛「杏……いや、杏さん!」

まゆ「杏さまっ!!」

杏「や、やめてよ……。違和感がすごいし、なんかの罰ゲーム受けてる気分だよ……」



凛「そう、ゲーム……ゲームなんですよ……杏さん……」

まゆ「げ、ゲームが……攻略……」

杏「いや……杏も、二人がプロデューサーのためにゲームを――それもエロゲーを攻略してるって話は聞いたけどさ……」

杏(もっと言うと、二人が家に居ついて帰らないって泣きつかれたんだけど……)

杏「何、どうしたの? もしかして虚淵ックな展開にでもなったわけ?」

凛「いえ……そうではなく……」

まゆ「できなかったんです……」



凛・まゆ「「Hシーン、見れなかったんです……」」



杏「ああ、そう……」



杏「そうなんだ」

凛「だから是非とも――」

杏「やだよ」

まゆ「何卒――」

杏「やだって」

杏「確かに杏、ゲームはいろいろなジャンルやってきたけどさ――」

杏「さすがにエロゲーを、しかもプロデューサーのためにやれって……飴もらっても割に合わないよ」

杏「労働時間的にも、精神的にもね」

杏「大体――今の時代、ネット上で攻略情報なんていくらでもあるんだからさー。頼るなら、そっちの方がよっぽど手っ取り早いって」

凛「それはもうやったんだよ……」

杏「そうなの?」

まゆ「ええ。でも、情報が間違っていたのか、古いのか――とにかく、うまくいかなかったんです……」

杏「はぁ……」



凛「頼むよ杏っ! 私たち、約束したんだ!」

凛「必ずプロデューサーを導くって!!」

まゆ「Pさんの気持ちを裏切るわけにはいかないんですっ!!」

まゆ「まゆたちには、あの日、あの夕焼け色の事務所で契った誓いがあるんですっ!!」

杏(これがプロデューサーの言ってた二人の世界ってやつか……)

杏(断りたいけど……普段のプロデューサーへの執着が、完全にこっち向いてるしなぁ……)

杏(断るのはこっちのはずなのに、取り付く島もないって感じ……)

杏(……まあ、これを解決すればプロデューサーには大きな貸しができるわけだし――)

杏(それを盾に――週休8日くらい迫ってやればいいか……)



杏「オッケー分かった。しょうがないからやってあげるよ」

凛・まゆ「「!!!!」」

杏「ただし、攻略するのはヒロイン一人――あと、すぐに二人はプロデューサーの家から出ていくこと」

杏「これが条件だよ」

凛「……分かった、構わないよ」

凛「――我ら、生まれるときは違えど、プロデューサー宅から出る時は同じだよ!」

まゆ「誓い、またやりますか? 夕日じゃないですし、桃園でもないですけど!」

杏「そのエロゲー、三国志ものなの……?」



杏「それじゃ、とりあえずどんなやつなのか教えてくれる?」

凛「うん、これなんだけどね……」ゴソゴソ

杏「持ち歩いてたの……? 早苗さんとかにばれないようにね?」

まゆ「ちょっと凛ちゃん! それはPさんの枕じゃないですか!」

凛「おっといけない」

杏「早苗さん呼んできたほうがいいかな……」



凛「これだよ」ハイ

杏「えーっと……どれどれ……?」

杏「…………」

まゆ「ふぅ……。でも、なんとかこれで一息つけそうですね」

凛「そうだね。あとは杏に任せて、私たちは枕とかカップとかのスペアを買いに行こうか」

まゆ「そうですねぇ。まゆも、カっとなってあの写真立て壊しちゃいましたから、弁償しないと……」

凛「あとは――下着も買いたいな……。履いたやつは、みんなプロデューサーのタンスに入れちゃったし」

まゆ「合鍵も作らないとですね」



凛「まゆ、電源タップの型ってメモした?」

まゆ「ええ。もちろん」

凛「さすが、抜かりないね」

まゆ「うふふ♪」

杏「あのー、お二人さん……」

凛「ん? どうしたの」

杏「いや、悪いんだけど――このゲームでお望みのHシーンは、見れないと思うよ……?」

まゆ「えぇ!? それってどういう……」

杏「いや、これ――」




杏「コンシューマ版だし……」



凛・まゆ「「????」」









過去に書き溜めたネタなので、何がしたかったのか分からない

多分しぶりんに一人で盛り上がってほしかっただけ。テーマはきっとシュールギャグ

誤字脱字、殺意を覚える長さはごめんなさい

読んでくれてありがとう

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