もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~ 前編 (496)

このスレは『真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」(真姫「西木野☆星空シアター!」凛「二本立てにゃ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420381422/))』及び、
その関連スレで他のSSと同時進行で書いていたSS、『もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~』を色々修正してまとめて貼り付けていこうという目的のスレです。

作品内容に「『凛・真姫「西木野☆星空クリニックにようこそ!」(凛・真姫「西木野☆星空クリニックにようこそ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1388/13887/1388761108.html))』シリーズの独自設定を多分に含みますが
それらを未見でも極力内容を理解出来るようになっていると思います。 よければこちらも合わせて読んでいただけると内容の理解が早まります。



※とても長いSSです。1話ごとに日をまたいで投稿していきます。


※公式の設定とは違う設定を度々持ち出します。多くのキャラクターの性格も崩壊気味ですが大目に見てください。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464010883

1レスでわかるこれまでの西木野☆星空クリニック!

――――――――――――――――――――――――――――――――――


私、西木野真姫!高校1年!

みんながよく知る世界ととても似ていて、でもほんの少し違う世界。

そこで私はスクールアイドルをしつつ、星の見える丘の上でクリニックを経営していたの。

助手兼ナースの相棒、星空凛と共に、悩めるスクールアイドルのお悩みを癒すドクターとして…。

というのは建前で、本当は凛の作った不思議なお薬を勝手に投与して、私はただただその様子を見るという趣味の悪いことをしていたのだけどね。

そんなハチャメチャでありつつも楽しい凛とのクリニック生活だったんだけど、突如としてそれは終わりを告げられて。

あわやクリニックを取り壊すってところまで話は進んでたんだけれど、穂乃果たちμ'sの協力のおかげもあってクリニックは無事大空に浮かぶことに成功したの!

……うん、何言ってるかわからないと思うけど、とりあえずなんやかんやで空に浮いたってことだけは理解して。

ついでになんやかんやでクリニックには時空を超える力とお薬を対象の体内にワープさせる機械とかも追加されたわ。もうイミワカンナイ。

クリニックは西木野☆星空スターゲイザーと名を変え、過去や未来、はたまた無数に存在するパラレルワールドを行き来してはその世界のμ'sに厄介なお薬を投与してどうなるかを見届けてきたの。

最初はμ'sのみんなを見つけるのも大変だったけれど、うちのなんでも作れちゃう超優秀な凛のおかげで、その世界のμ'sを即座に見つけることのできるモニターとかも作っちゃったりなんかして。

時には恐ろしいバッドエンドを迎える世界もあれば、薬のおかげで光明が開けた世界もまた存在し…たような気もするし。

時空ワープの際には非常に激しい揺れに襲われるけど、その先の世界のことを思えばヘッチャラよ!

そんなことを、時にはまた地上に戻ってクリニックを開いたり、時には再度クリニックを大空に舞わせ時空の旅を楽しんでいたりしていた、ある日のこと。

その日も、なんの変哲もなく始まるはずだった、時空跳躍の旅。

そこから、物語は始まるのだった。

西木野☆星空スターゲイザー内


真姫「今日もこの時間がやってきたわね!」

凛「じゃ、早速平行世界に行って誰かに薬を投与するにゃ!」

凛「フフフ…、実は今回はみんながあっと驚くようなパラレルワールドを考えてきたんだにゃ…」

真姫「へぇ?どんな世界?」

凛「えっとね、真姫ちゃんのあそこに…」

凛「おっと!これ以上は着いてからのお楽しみだにゃ!」

真姫「嫌な予感しかしないけどどうせそれは別世界の私であってこの私じゃないからオールオッケーね!」

凛「よっしゃー!目的の世界へ向けてー…」

真姫「西木野☆星空スターゲイザー、発進よ!!」



ワープ中 時空の狭間


グラグラ…


真姫「う、うぅっ…、なんか今日揺れ激しくないかしら…」

凛「うーん、なかなか激しい条件の世界を選んじゃったから航路が安定しないのかなー?」

真姫「うぷっ…、やば、吐きそう」

凛「え、あ、ちょっと!ここで吐かないでよ!?」

真姫「わかってる…、うぶっ…、おえっ…」

真姫「ご、ごめ…私トイレ…」

凛「あぁ…、行ってらっしゃい…」


タッタカター


凛「ふぅ、危うくお茶の間に見せられない文章を垂れ流すところだったにゃ」

凛「まー今から行く世界も到底地上波じゃ流せないようなー…って、あれ…」

凛「何か重要なことを忘れてるような気がするにゃ…、なんだったっけ…」



真姫「うー、トイレトイレ…上から漏れそうだわ…」

ガチャッ

真姫「…」

真姫「トイレが、ない…」

真姫「どころか…、個室自体がないんだけど…」

真姫「そして私は急いでいたので何もない空間に足を踏み入れ」

真姫「そのまま時空の狭間にダイブする5秒前」

真姫「というか今その真っ最中ぅぅぅぅっぅぅぅぅっぅぅぅううううわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

ヒュオォォォッ…




凛「あ!トイレぶっ壊れちゃったから部屋ごと分離させたんだった!」

凛「ま、真姫ちゃんなら言わなくても気づくよねーアハハハハ」




真姫「誰か、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」ヒュオォォォッ…

真姫「ひょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



真姫(時空の狭間の中で、永遠とも一瞬とも思える時間を漂った末に)

真姫(私はとある世界にはじき出された)



ドサァッ


真姫「い、いたたた…」

真姫「っは!こ、ここは…?」

真姫「…神田明神だわ」

真姫「ということは…、音ノ木坂の近く、かしら」

真姫「…って、またドジ踏んじゃったわ…。まさかスターゲイザーから落ちるなんて…」

真姫「いつ凛が気づいて助けに来てくれるかもわからないし…」

真姫「とりあえずここは行動あるのみね!」


真姫「そうね…、まずすべきは…」

真姫「味方が欲しいわ」

真姫「きっと事情を話せば驚かれるでしょうけど、もしかしたらすんなり受け入れてくれるかもしれないし」

真姫「今の時刻は…、おそらく夕方ごろかしら」

真姫「だったらみんなは音ノ木坂の屋上にいるはずね」

真姫「どんな世界かは知らないけど、それほど異常な世界でもないみたいだし」

真姫「まずはμ'sのみんなと会って話し合いたいわ」



真姫(どんな世界かは知らないけど、それほど異常な世界でもない)

真姫(この時の私はそんなこと言っちゃってるけど)

真姫(でも、結論から言えば、その世界は…)

真姫(まったくもって、異常な世界ではなかった)

真姫(これまで数多く体験した、笑っちゃうほどありえない世界観なんて一切なくて)

真姫(至って普通の世界で)

真姫(そして、その中で唯一、決定的に違っていたのは)



音ノ木坂学院前


真姫「…嘘、でしょ」


真姫「私たちの、学校が…」



真姫「…ない」




真姫(音ノ木坂学院は、既に廃校になっていた、ということだった)

音ノ木坂学院『跡地』前


真姫「い、いや…」

真姫「まだ学校があるなら理解できるんだけど…」

真姫「影も形もないじゃない…」

真姫「おっきな空き地があるだけの、何もない…場所」

真姫「…」

真姫「ま、そんな世界もあるわよね。全然普通普通」

真姫「今まで行った世界に比べれば屁でもないくらい普通だわ」

真姫「…普通なのはいいんだけど」

真姫「じゃあ、μ'sはどこ…?」



真姫(むしろ、μ'sというスクールアイドルが存在しているかも微妙)

真姫(というかこの時代に私たちは高校生なの?)

真姫(もしかしたら私たちが学生をやっていた時代より数年後という可能性だってあるし)

真姫(近くのコンビニによって新聞で日付を確認してみることにした)

真姫(どれだけ嘘しか書いてない新聞でも、日付だけは嘘は書かないでしょうし)



真姫「…ふんふん、年数は私たちの世界と変わらないみたい」

真姫「ただ今はどうやら…9月のようね」

真姫「うぅ、確かにさっきから少し暑いと思ってたのよね。どこかに服を脱ぎ捨てたいくらい」



真姫(でも、そんなことはできない。私にだって乙女として必要最低限くらいの恥じらいは残ってるんだし)

真姫(…というわけで)




西木野邸前


真姫「…どうやら私の家は残っていてくれたみたいね。こっちもなくなってたらどうしようかと思った」

真姫「じゃ、おじゃましまーす…」ガチャリ



真姫(所持していた鍵で私は家の中へと侵入…もとい堂々と入った)

真姫(こういうのって不法侵入になるのかしらね)

西木野邸内


真姫(私の家の中は静かだった)

真姫(まぁ当然と言えば当然だけど)

真姫(事前に街中で確認した時計によれば、今はまだ昼過ぎくらい)

真姫(パパとママは大抵病院にいて遅くまで帰って来れないし。帰ってこない日もある)

真姫(私は多分まだどこかの学校にいるはずで、故に今この家には誰もいないのだから)



真姫「まずは落ち着ける場所でゆっくり対策を考えないと…」

真姫「さてと、久しぶりの我が家だわー。ずっとクリニックで寝泊まりしてたから」

真姫「自分の部屋の有様すら覚えてな」ガチャッ


真姫「えっ」


真姫「えっ」



真姫(静かな私の部屋の中には)

真姫(私がいた)

真姫(だらしない皺だらけのシャツ一枚で、せっかくの美貌が台無しになるほどのクマを目の下に生やして)

真姫(高級そうなヘッドホンをして、PCの前でファーストパーソンシューティング…FPSに勤しんでいた)

真姫(あと私の部屋はこんな生ゴミだらけじゃなかった)



真姫「え、あ…、あぇ?だ、誰…?」

真姫「えっと、えっとー…」



真姫(視界に映るものの分析を終えて目の前の状況を解決するのに頭を使う)

真姫(まず第一に厄介なのはこのままじゃどっちの私が喋ってるのかわかりづらい)

真姫(そして次に面倒なのは…、あっちの私にこの状況を理解されること)

真姫(いきなり同じ顔の人間が部屋に入ってきたらパニックを起こすかもしれない…)

真姫(ここは…)



真姫「くらいなさいっ!星空凛特製…」

真姫「一瞬で夢心地になれる催眠スプレー!」プシュッ

真姫「えぁっ…、ふぉぇ…ぇ…」

真姫「くかー…」

真姫「よ、よし…。私は寝たわね。とりあえず危機は去ったわ…」

真姫「…ふぅ、無駄な汗をかいてしまった」



真姫(流石に9月に白衣+音ノ木坂の制服(冬服)は暑すぎる)

真姫(私服に着替えようとクローゼットに手をかけ、開いた私の目に飛び込んできたもの)

真姫(それは…)




真姫「…え」

クローゼットを開けた私の目に飛び込んできたもの、それは…



新品同様で。



しかしどうしようもなく埃をかぶった。




UTX学院の制服だった。








もしライブ! ~もしもμ'sのみんながUTX学院生だったら~


この世界の真姫「くかー…、すぴー…」


真姫「…なるほどね」



真姫(ここまでの情報を整理してみる)

真姫(この世界は既に音ノ木坂学院が廃校になった世界)

真姫(だから私は音ノ木坂ではなく、UTX高校に入学した、ってわけね)

真姫(でもこの時間にこの姿でゲームをしている…)

真姫(そして制服の夏服、冬服どちらにも使われた形跡が少なく、埃をかぶっていることから鑑みるに…)



真姫「この世界の私は、不登校児…ってことかしら」

真姫「…はぁ、不名誉なことね」

真姫「でも、自分で言うことじゃないけど私の家の家庭環境は複雑だから、何がきっかけで引きこもりになったとしてもおかしくはない、のかな」

真姫「…」



真姫(これは、困った)

真姫(つまり今の私にはおそらく…、外界とのつながりがほとんどない)

真姫(私を知っている人は多分、パパとママくらい)

真姫(これじゃ…、味方を得られない…)

真姫(凛の助けを待つしか道はない、ってこと…かしらね)



真姫「…はぁ。面倒なことしてくれるわね、この私も」

真姫「さて、どうするか…」

真姫「…」

真姫「…UTX、ね」

真姫「実は結構興味があったり…」



真姫(…別に私がUTXに入学したいとか、そういうわけではないんだけど)

真姫(μ'sがラブライブを制覇するまで、最強のスクールアイドルだったA-RISE)

真姫(彼女たちの学園生活が少し気になるのは事実だった)

真姫(あとあの無駄にだだっ広い校舎。一度探検してみたかったりもする)



真姫「…」チラッ

この世界の真姫「くかー…、すぴー…」

真姫「…どうせあの制服、使わないんだったら」

真姫「使わせてもらっても、いいわよね…?」

翌朝


西木野邸 真姫の部屋



この世界の真姫「ん、ん…あれ、私…」

この世界の真姫「…あっ!ね、寝てた…!?」

この世界の真姫「しまったー!深夜にフレと約束してたのにぃ…。すっぽかしちゃったわ…」




UTX学院前


真姫「…よし」



真姫(一晩ネカフェで過ごし、盗ん…借りてきたUTXの制服に袖を通し、同じく借りてきたカバンに借りてきた教材を詰め込んで)

真姫(あの部屋のクローゼットの中の、UTX学院の制服がかけてあったハンガーには、今は音ノ木坂の制服がかけてある)

真姫(今の私は、何処からどう見てもUTX学院生…!)

真姫(さぁ、いざ馳せ参じるわよ!)



UTX学院内 改札前


真姫「…」



女学生A「」ピッ

女学生B「」ピッ



真姫(なんかスマホみたいなのかざして中に入ってる)

真姫(当然私はそんなの持ってない)

真姫(試しに自分のスマホをかざすとどうなるかやってみた)



ビーッ!!


真姫「はわぁっ!!ご、ごめんなさいっ!!」ダッ


真姫(このままじゃ中に入れず終わっちゃうんですけど!?)

真姫(どどど、どうしよう…。一旦部屋に帰って取ってこようかしら…)

真姫(でもこの世界の私はきっともう目が覚めてるし…、また催眠スプレーをぶちまけるのも…)



「ね、キミ!…どうしたん?」



真姫「え、あ!いや…その、えっと…」

真姫(急に背後から声をかけられてキョドる私。慌てて振り向くと、そこにいたのは…)


真姫「の、希…!?」

希「おやおや?先輩を呼び捨て~?ナマイキな一年生やねっ」

真姫「あ、その…」


真姫(希までUTX学院生に…!まぁ、予想はついた事だけど…)

真姫(でもいきなり知った顔に会えたのは幸運…)

真姫(…いえ、そうでもないかも。だって今の私は、UTX学院生の皮をかぶった不審者…)

真姫(もし私が制服だけ盗んで侵入しようとしている他校生(?)と知れたらどうなるか…!)


真姫「え、えーっと…」

真姫(なんて答えようかしら…。怪しまれないように、怪しまれないように…!!)

希「…ん?…あ!!キミ…!」

真姫「ッ!」

真姫(も、もしかして…、バレた…!?)

希「キミ…」

真姫「…っ」ゴクリッ


希「…西木野、真姫ちゃん?」


真姫「えっ…」

希「一年生の、西木野さんよね?春先から来てなかった」

真姫「あ、え…、そ、そうだけど…」

希「だよね!?わ、わー…!学校、来てくれたんや!嬉しいなぁ!」

真姫「え、え…、そ、その…えっと、どういうこと…?」

希「ん…?あぁ、そっか…、急にそんなん言われたらびっくりするよね。さすがにもう…」

真姫「…?」

希「おほんっ。うちはね、問題のある子のことはずっと目をつけてるんよ。何とかしてそれを解決してあげたいから」

希「なにせうちは、この学校の生徒会長サマやからね!」

真姫「えぇっ!!?希が生徒会長!?」

真姫(い、意外…。あの希が、まさかの生徒会のトップ…!補佐ならわかるけどまさか生徒会長だなんて…)

希「なによ、不服ー?…あれ、でもそういえばうちの名前は…?」

真姫「あー、その、えっと…」

真姫(…でも、これはチャンスだわ。これで私が在校生であることの証明ができた。あとは…)

真姫「えっと、その…それは置いておいて」

真姫「私、久しぶりに学校に来て、この学校のことほとんど覚えてなくて…」

真姫「だからその…、みんながピッピッってやってるあれも無くしちゃって…、どうしようかなって考えてたんです…」

希「あー、電子生徒手帳、無くしちゃったんか。だから困ってたんやね」

真姫(電子生徒手帳…!?あれ生徒手帳だったの…?どこのダンガンなんとかよ…)

希「そういうことならうちにお任せ!こういう時のための貸し生徒手帳があるんよ!」デデンッ

希「はい、これ貸したげる!帰る前までに新しい生徒手帳の発行を済ませて、返してね?」

真姫「お、おぉ…!ありがとう…ございます」

希「どういたしまして!他にも困ってることがあったらうちになんでも聞きに来てな!」

希「だってうちは、泣く子も黙る生徒会長サマやねんもん!」

UTX学院 食堂


真姫「…」ピッ ピッ


真姫(希の言う電子生徒手帳…、ほとんどスマートフォンと変わらない性能を持ってた)

真姫(こんなのを生徒全員に配るなんて…さすがの財力ね)

真姫(それもそうか。何せUTXは勉学だけじゃなく、学科に芸能科なんてのを作ってアイドルを育成し、それを全力でバックアップするくらいだもの)

真姫(生徒の才能を開花させるためにお金に糸目はつけないってことね)


真姫「…とまあ、こんなものかしら」

真姫「なるほどね、大体わかった」


真姫(このUTX学院がどんなものであるのか)

真姫(それはこの電子生徒手帳の中に事細かに記されてあった)

真姫(まず先程も言ったように、このUTXにはA-RISEも選択している芸能科って学科があるけれど…)

真姫(それだけじゃなくって、他にもいろいろな学科があるのね…)

真姫(デザイン学科、演劇学科、芸術学科…)

真姫(様々な芸に繋がる学科が用意されていて、生徒はその中から自身にあった学科を選択するわけね…)

真姫(そしてその学科の中もまた、細かく分類されている)

真姫(芸能科であれば、モデル専攻、歌手専攻、ダンサー専攻などなど…)

真姫(そして驚くことにその中には)

真姫(公式には、アイドル専攻というものはなかった)

真姫(スクールアイドルA-RISEは、芸能科の専攻の中から選ばれた珠玉の三人)

真姫(芸能科を選択する少女の憧れであり目標…、それがスクールアイドル)


真姫「…最強と呼ばれる所以がわかるわ」

真姫「私たちのような寄せ集めじゃない、数多くのアイドル候補生をふるいにかけたうちのたった数粒のダイヤモンド」

真姫「それがA-RISEだったのね…」

真姫「大変な世界に生きているのね、彼女たちも…」

真姫(それをポッっと出の私たちが追い抜いちゃうんだから、人生って残酷よね)

真姫(…きっと、ラブライブ予選敗退した彼女たちは、泣きたいほど悔しかったんでしょうね)

真姫「そして、今私も大変な世界に生きている」


真姫「…クラスがどこかわからない」

真姫「大体広すぎるのよこの学校ー!」

真姫「一年生だけでも何クラスあるのってハナシ!」

真姫「希は頼ってくれてもいいって言ったけど、肝心の彼女がどこにいるのかすらわからないし…」

真姫「はぁ、油断して希から離れるんじゃなかった…」

真姫「誰か私のクラスを知ってる人は…いるわけないわよね。不登校児だし」

真姫「あー、どうしよう…ん?」

真姫「あ、あれはっ!」



ダダダダッ…!!


「…ん?あ、足音…?」


真姫「かーよちーんっ!!」ダキィッ

花陽「ひ、ひぃぃぃっ!!い、いきなりなにぃぃぃっ!?」


真姫(つい花陽を見つけたことで反射的にダッシュして抱きついてしまったわ)

真姫(凛みたいな真似して…、恥ずかし真姫ちゃん)

真姫(しかし花陽までUTX…。これはいよいよμ's全員がUTXに入学している説が濃厚ね…)


花陽「あ、あなた…誰ぇ?」

真姫「あ、えっと…、ごめんなさい。私は…」


女学生C「ちょっと!いきなり小泉さんに抱きつくなんてどういうつもり!?」

女学生D「ズルい…じゃなくて!親衛隊でもないのに小泉さんに近づかないでもらえるかしら!」


真姫「…は?し、親衛隊…?」


女学生E「あなた知らないの!?小泉花陽親衛隊を!」

女学生F「我が芸能科歌手専攻一の癒しキャラこと花陽ちゃんをお守りする小泉花陽のためだけの親衛隊なのよ!」

女学生G「あなたなんかが気安く話しかけていい子じゃないのよ!」


真姫「花陽が、歌手…!?それに、守られてるって…」

真姫(確かに守りたくなるキャラクターをしているのは理解できるけど…そんなファンクラブチックなものまで作られるほどの人気とは…)

真姫「ん?でも、あれ…?」

真姫(そんな親衛隊に真っ先に入りそうな凛がいない…?もしかして凛はUTXじゃない?)


花陽「み、みんな…。いいの、いいから…」


親衛隊ズ「「花陽様は私たちがお守りいたします!」」



真姫「…挙句には『花陽様』ね…」

真姫「…ごめんなさい。急に抱きついてしまって。次からは気をつけるわ」


花陽「あ…」

花陽「…」

UTX学院 職員室


真姫(自分のクラスがわからなかったらやっぱりここに来るべきよね)



先生「西木野、西木野、と…。春先から休学してたんだってな?」

真姫「えぇ、まぁ…」

先生「うん、学校に来てくれただけでも嬉しいよ。もう休まないように頑張れよ!」

真姫「あ、ありがとうございます。頑張ります」

先生「で、西木野の教室は…、E組だな。担任の先生がもうそろそろ教室へ行く頃だから、一緒について行きなさい」



担任「西木野さん、ここがあなたの教室よ」

真姫「は、はぁ」

担任「しばらくはクラスの空気に馴染めないかもしれないけど、西木野さんならすぐにみんなとも仲良くなれるわ。応援してる」

真姫「…ありがとうございます」

真姫(つまり…、面倒は起こすな、ってことかしらね)



1年E組


担任「みなさん、おはようございます」

担任「西木野さんの席はそこの空いている机よ」

真姫(後ろの席か…。目立たなくて済むわね)



ざわ…


「西木野さんって確か…、ねぇ」 「うん、アレのせいで…」


                              ざわ…


真姫「…」

真姫(早速噂されてるわね…。こういうのあんまり慣れないわ)

真姫(私には教室の角にひっそり収まってるのが一番似合ってるわ)

授業中…


先生「…でここがこれでこうがこれのそれがそうで接点tは出なくて…」


真姫(見たところこのクラスには知った顔をいないわね…。花陽も凛も…)

真姫(花陽はいいとして凛…。あの子はこの学校にはいない可能性もありえるわね)

真姫(バカだし)


先生「じゃあこの問題は…西木野、お前」

真姫「3xです」

先生「お、おう…正解だ」


真姫(…この程度の問題、私にとっては楽勝だけどね)

真姫(私天才だから仕方ないけど!)




昼 食堂


真姫「…天才でも友達はそうそう作れないのよね」


真姫(休み時間の間でも私に話しかけてくれる人は皆無だったし)

真姫(どうやらこの世界の私は何かしら問題を起こしたか何かで不登校になったらしいって雰囲気もわかったし…)

真姫(どこまでも面倒を押し付けてくれるわね…この世界の私…)


真姫「とにかく、お昼ご飯は一人で食べるほかないみたいね」

真姫「…考えてみると、久しぶりな気がするわ」



真姫「もぐもぐ…」

真姫(お、美味しい…!!UTXの学食めっちゃ美味しい!!)

真姫(おのれUTX…!!毎日こんなカツ丼を食べていると思うと妬ましいわ…!)

真姫「次は親子丼でも頼もうかしら…、っと。いけないいけない…」

真姫「このままじゃ希みたいな体型に…っは!殺気…!?」

真姫「…なんだ、気のせいか。びっくりさせるわね」

真姫「さてと、お腹もいっぱいだしどこで暇を潰そうかし…」

真姫「…ん?あっ…!あの後ろ姿…!!」



海未「…もぐもぐ」

ことり「でねー…。それから…」

海未「なるほど、そうだったのですか…もぐもぐ…」




真姫(海未とことり!)

真姫(二人で向き合って一緒にご飯を食べているわ)

真姫(やっぱりあの二人も入学していたのね、UTXに…)



海未「はぁ、それではやはり…もぐもぐ…」

ことり「もー海未ちゃん?食べながらしゃべるのはめっ!ですよ?」

海未「うぶっ…む。すみません、気をつけます」



真姫(海未がことりに行儀のことを注意されている…!?)

真姫(滅茶苦茶珍しいものを見てしまったわ。あの厳格な海未が…)

真姫(…そういえば)

真姫(あの二人はいるのに、穂乃果がいない…)

真姫(今日はたまたま一緒じゃないのか、それともやっぱり…)

真姫(…まぁ、穂乃果も筋金入りのおバカさんだし、ありえるわね)

真姫(それとなく話しかけたいけど…、さっきの花陽みたいなこともあったし、ここは放っておきましょうか)

真姫(それに、学校の探索もしたかったところだし。まず音楽室があるか探してみようかしら)

スタスタ…





ことり「最近、気が抜けてるんじゃない?やっぱり…」

海未「…彼女がいないから、かもしれませんね」

ことり「…海未ちゃん。もうやめよ、その話は」

海未「…はい」

6限目 音楽室


真姫(6限は芸能科歌手専攻の人たちを対象とした授業のようね)

真姫(専攻により別の授業、別のクラスに分けられる、という形みたい)

真姫(時間割を見るに1週間にこういった形の授業は結構あるようね…。週一ってわけじゃないんだ)

真姫(ていうか私歌手専攻だったのね…。ということは…)



親衛隊A「ちょっと、聞いたわよ?さっき小泉さんに抱きついたっていうあなた…」

親衛隊B「春先から今日までずっと引きこもってたんですってね!」

親衛隊C「そんな人が小泉さんにちょっかいをかけるなんて許せませんわ…!」



真姫「…」

真姫(あの子達と、そして…)



花陽「も、もーみんな…。気にしてないから、平気だってば…」



真姫(花陽もいるみたいね)

真姫(あの不意に抱きついてしまった出来事のせいで私のことは親衛隊全体に広まっているようね…)

真姫(下手なことはするものじゃないわね…。あまり目立ちたくなかったのに…)



親衛隊ズ「「じー…」」


花陽「はわわぁ…」



真姫(めっちゃガン付けられてるし…こわこわ)

真姫(花陽も言うならもっとはっきり言いなさいよね…。下手に口出ししたら逆効果じゃない…)

真姫(…や、でもそれは酷な話かしら。だってこの花陽は…μ'sじゃない)

真姫(人前で大きな声を出せる勇気は、持っていないのかしらね)

授業中…


先生「えー、確か西木野さんは今日まで休学なさっていたとか」

真姫「はい。すみません…」

先生「勇気を出して学校に来てくれたのは喜ばしいことですが…」

先生「まず、あなたがこの授業についていけるかどうかを測らせてもらいます」

先生「この曲を歌ってみてください。みんなの前で」

先生「正しい音程で歌えていなかった場合、今日は居残りで補習ということになります」

真姫「はぁ…」



親衛隊A「あの子、困ってる困ってる」

親衛隊B「長い間引きこもってた子に人前で歌を歌わせるなんて…先生も人が悪いわね」

親衛隊C「下手な歌で恥をかくといいですわ」



真姫(陰口めちゃくちゃ聞こえてるんですけど…)

真姫(ったく、私を誰だと思っているのかしらね)

真姫(日本一のスクールアイドルμ'sの中でも最も歌の上手な西木野真姫ちゃんよ?)

真姫(日本の高校生で私以上に歌える女子なんているはずもないわ)


真姫「…といってもね」


真姫(かえって本気を出しても目立つだけ…。下手すればあの親衛隊員に目をつけられる口実にもなりかねないし)

真姫(ここは…)



真姫「あ~お~げば~とうとし~わが~しの~おん~…」




先生「…はい、ありがとうございます」

先生「及第点といったところですね。久しぶりに人前で歌ったでしょうに、なかなか声が出ていてよろしい」

先生「あとは音程をもう少し正していけば上手になれると思います」

真姫「はい、ありがとうございます」



親衛隊A「ふーん、なかなかやるじゃない」

親衛隊C「でもあの子の歌…、クスクス…。とっても下手でしたわね」

親衛隊B「もー、言ってあげないでよー。まぁ、ビブラートも何もあったもんじゃなかったけど…、低音も出てなかったし」

親衛隊A「アンタが一番言ってんじゃん!アハハハ!」



真姫「…」イラッ

真姫(ぶん殴りたいあいつら…!私が本気を出せばあんたらの数倍、いや数億倍はうまいっての!)

真姫(…っと、いけないいけない。気を鎮めないと…。目立つことはしない、しない、っと…)



花陽「…」

花陽「…西木野さん、かぁ」

授業中


先生「…えー、それでは小泉さん、ここを…」

花陽「はい」



花陽「らー、らららー…」



親衛隊ズ「「きゃー…!相変わらず透き通るようないい歌声…!」」




真姫「ふぅん…」

真姫(確かに、始めて歌を聞いた時よりもずっと声が出てる…)

真姫(それにとっても…、上手ね)

真姫(アイドルでもない花陽がここまで歌が上手だなんて…少し意外)

真姫(やっぱり歌手専攻なだけあって、一学期で相当歌の練習もしたんでしょうね)



親衛隊員D「やっぱり、花陽ちゃんが最もA-RISEに近いと思うなぁ…!」

親衛隊員E「もったいないよね、あんなに歌上手なのに…」



真姫「ん?」

真姫(気になる言葉が聞こえたわね…。A-RISEっていう言葉も、この学校に来て初めて他の生徒から耳にしたけど…)

真姫(それより、『もったいない』って…どういうことかしら)

真姫(もしかしたら花陽にも私の知らない事情があるのかもしれない…)

「きりーつ、れーい…」

「「ありがとうございました!」」



放課後

1年E組 教室内


真姫「ふぅ…」

真姫(やっと一日の授業が終わった…。新鮮なことが多すぎてかなり一日が長く感じたわ…)

真姫「さてと、じゃあ帰ってクリニックの準備…」

真姫「…じゃなかった」

真姫(今は別世界でUTX学院生だったわ…。忘れてた)

真姫(この世界には、私の知っている凛がいない、のよね…)

真姫(そう思うと心細くなってきたかも…。凛、早く迎えに来てよ…)

真姫「…このモヤモヤした気持ちと、さっきの音楽室でのイライラを解消するためには…」

真姫「…思いっきり歌うしかないわね」

真姫「そうと決まれば…!」



音楽室


真姫「…誰かいますかー?」ガチャッ

真姫「よし、誰もいないわね。ここなら本気で歌える…!」

真姫「ピアノもあることだし、ここは久しぶりに弾き語りでもしてみようかしら」


真姫「よいしょっ、っと…」

真姫「ピアノの調子は…」ポロロロンッ…

真姫「うん、綺麗な音。さすがUTX、いいピアノ使ってるじゃない」

真姫「じゃー…そうね。イライラしてる感情をぶつけるためにもここは激しい曲がいいかしら…」

真姫「…これにしましょう。μ'sのいないこの世界にはぴったりかも」

真姫「…LOVELESS WORLD」



~♪


真姫「さーよならーのキースしてー、かなーしみのーくーにへー…」

真姫「ラブレスワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


真姫「…ふぅ。思いっきり叫んでやったわ。気持ちよかっ…」



パチパチパチ…



真姫「ヴぇええええっ!!?は、拍手…!?誰…?聞いてたの…?」


「…歌、上手ね。聞き惚れちゃった」


真姫「あ、あなた…」

真姫(…絵里)

絵里「…1年生?見ない顔ね」

絵里「今日、転校してきた…とか?でもそんな話聞いてないけど」


真姫「あ、えっと…私不登校で…。今日久しぶりに学校に出てきたの…です」


絵里「あぁ…、そうだったの。道理で」

絵里「じゃあ一つ忠告するけど…」

絵里「…あなた、音楽室の使用許可、とった?」

真姫「え、使用許可…?」

絵里「授業に使用する教室を空き時間に利用するためには生徒会の許可が必要なのよ」

絵里「知らなかった?」

真姫「…はい」

絵里「でしょうね。…生徒手帳にも明記されてるんだけどな」

真姫「すみません…」

絵里「別にいいわよ、私に謝らなくても。先生や生徒会の人たちに見つからなくて良かったわね」


真姫(…え?)


真姫「あ、あの…絵里…じゃなかった、あなたは…生徒会役員じゃないん、ですか?」

絵里「私が?生徒会?」

絵里「ふふ…、面白いこと言うわね。私が生徒会に入ったことなんてないわよ」

真姫「あ…、そ、そうだったんだ…」

真姫(希が生徒会長だから、もしかしたら絵里は副生徒会長なのかも、って思ってたけど…)

真姫(カンが外れたわね…。じゃあ絵里は何をやってるのかしら…)

絵里「…そういえば、前にもこんな…」

真姫「へ?」

絵里「っ…?あっ、あなた…!」

真姫「っ!?は、はい…?」

絵里「…いえ、何でもないわ」

真姫「はぁ…」

絵里「それじゃ、またね。今度は許可を取るか…誰にも見つからないようにしなさいよ?」

真姫「あ、はい…。ありがとうございます」


絵里「…さよなら。真姫」


真姫「うん、さよなら…」

真姫「…って、え?なんで私の名前…」


真姫「って、もういないし…」

真姫(見ない顔、って言っておきながら私の名前を知っていた…?)

真姫(この世界の絵里…、今までで一番よくわからないわね…)

音楽室前


真姫「…はぁ、時間潰すつもりだったのに」

真姫「あの家に帰ればまたこの世界の私と鉢合わせになるし…、どこ行こうかな…」

真姫「とりあえず、一旦学校からはもう出ようかしらね…」



タッタッタッ…


「はぁっ…、はぁっ…」

「…ねぇ!今、歌ってたの…」



真姫「あ…、あなた…」


花陽「西木野さん…、やっぱり…」


真姫「聞こえてたの?さっきの…」

花陽「うん、ちょっと、さっきまで…親衛隊の子と近くで話してたから」

真姫「そ、そうだったのね…。恥ずかし」

花陽「そんなことないよ!」

真姫「…っ!?び、びっくりした…」

真姫(急に大きな声出すから…。っていうかそんな大きな声出せたんだ花陽)

花陽「すっごい上手だった!私よりずっとずっと上手!」

真姫「そ、そんなこと…」

花陽「やっぱり音楽の時間はホンキじゃなかったんだよね!?なんとなく気づいてたの!」

花陽「すごいなぁ西木野さん!羨ましい!!ねぇ、A-RISEに入るつもりなの!?それとも…」

真姫「あの…、花陽…!お、落ち着いて…」

花陽「あっ…。ご、ごめんなさい…。私興奮するとつい…」

真姫「え、えぇ…」

花陽「…あっ!そうだ、言いたいことがあるの!」

真姫「言いたいこと?」

花陽「あの、ね…その…」

花陽「…今日の朝、抱きつかれた時はすごくビックリしたんだけど…」

花陽「私、ああいうことされたことなかったから、すごく新鮮で…胸がドキドキして…」

花陽「その、だから…西木野、さん…!」

真姫「は、はい…」

真姫(これは、もしや…)


花陽「わ、私っ…!!」

花陽「西木野さんのこと、す…好きっ…!!」

真姫「っ!!?ちょっ…!」

真姫(まさかのいきなり告白ゥッ!?)

花陽「…あっ!え、えっと…!」

花陽「違うの!!ごめんなさい、そうじゃなくて…そういう好きじゃなくて…」

花陽「…と、友達になって欲しいって、思ったの」

真姫「友達…?」

花陽「うん、私…気軽に話せる友達がまだ、いなくて…」

真姫「え、でもあなた、親衛隊がいるじゃない」

花陽「あの子達は…ちょっと違うくて。私じゃなくて…きっと私の歌声と、キャラクター性が好きなだけ、なんだと思う」

花陽「私、普段は声も小さくて引っ込み思案だから、よく守りたくなる、母性をくすぐるって言われてて…」

花陽「最初はクラスの子が打ち解けるためにおふざけで始めたことのはずだったのに、それがいつしかホンキになっていっちゃって…」

花陽「そばにいてくれるのは嬉しいんだけど、誰も私と心から向き合ってくれる子はいなくて」

花陽「いつもみんなが作り上げた、私の偶像を見てるだけ、って感じがして…」

花陽「でも、そんなこと言えなくて…ずっと心から話せる友達が欲しくて…」

花陽「西木野さんなら、なってくれるかもって…そう思ったんだ」

真姫「花陽…」

花陽「ダメ、かな…?お友達…」

真姫「…ふふ」

真姫「もちろん、ダメじゃないに決まってるでしょ」

花陽「…!じ、じゃあ…」

真姫「でも一つ、条件があるわ」

花陽「条件…?も、もしかしてパシリになれ、とか…?」

真姫「ノンノン、そういうのじゃなくて」

真姫「私のことは、名前で呼んで」

花陽「えっ…」

真姫「西木野さん、なんて他人行儀な呼び方、好きじゃないのよ」

真姫「友達なら、下の名前で呼び合うものでしょう?…花陽」

花陽「あっ…。…う、うんっ!」

花陽「真姫ちゃんっ!」

真姫(こうしてこの世界にも一人、仲間が増えた)

真姫(奇しくも、私が音ノ木坂に入って初めて出来た友達と同じ)

真姫(これも、運命なのかもね。…花陽)



花陽「ふふふっ…。真姫ちゃんっ」

真姫「な、なによー…。そんなにくっつかれると歩きにくいじゃない」

花陽「ごめんね、でもなんだか嬉しくって!ふふ、友達かぁ…」

真姫「あっ…」

真姫(…そっか、さっきの話を聞く限りじゃ、幼馴染の凛はこの学校にはいない、みたいね)

真姫(でなければ、気軽に話せる友達がいない、なんてありえないし…)

花陽「…ん?どうしたの?何か私の顔についてるのかな」

真姫「あっ…違っ…」

真姫(どうやら無意識のうちに花陽の顔を見つめていたみたいだわ)

花陽「えぇっ!?ち、血が付いてるの!?どこどこ!?」

真姫「あー、そうじゃなくてっ…!えーっと、そう、花陽はどうしてUTXに入ったのか聞こうって考えてたの!」

花陽「え…?」

真姫「ほ、ほら…。花陽は引っ込み思案じゃない?…そう、私には見えるのよね」

花陽「あ、うん。確かに引っ込み思案だよ。えへへ、恥ずかしい…」

真姫「なのにこの学校になんで入ったのかな、って。それに、芸能科の歌手専攻だなんて」

真姫「明らかに人前で歌わされること確実な学科を選択するなんて、花陽らしくないな、って思って」

花陽「あ、そうかもね…」

真姫「もしかして、誰かに誘われた、とか?」

花陽「うぅん!そんなことないよ!この学校には自分の意志で入ったの」

真姫「へぇ…意外ね」

花陽「私ね、昔から歌、っていうか、アイドルが好きで…」

花陽「だからUTX学院が家の近くにあるのはもう運命だ!って思って…」

花陽「本当はお母さんも通ってた、音ノ木坂学院ってところに通う予定だったんだけど…花陽が小さい頃に廃校になっちゃって」

花陽「UTXは学費も結構したけど、お父さんとお母さんに入学させてもらえるように頼み込んで、なんとか入学できた、ってかんじかな」

真姫「ふぅん…。そうだったのね。アイドルが好きだから、か…」

真姫(確かにアイドル好きなら、花陽がUTXに通うのも頷けるかもね)

花陽「…だから、今のこの状況は…あまりよくないの、かな」

真姫「…え?」

花陽「私、A-RISEに憧れて、私もこの学校に入ったらA-RISEの一員になろうって、そう頑張ってたんだけど…」

花陽「今は、もう…やめちゃったの。アイドル目指すの…」

真姫「えっ…、どうして?」

花陽「それは…」

『UTX高校へようこそー!!』



真姫「…っ!?な、なに…?」

花陽「あっ、A-RISEのPVが流れる頃なの。この時間」

真姫「アライズ…」

花陽「真姫ちゃんはA-RISE、知ってるかな?芸能科の3年生の人たちで結成されたスクールアイドルで…」

真姫「し、知ってるけど…。学内でも流れるのね、あれ。学校の前のモニターだけかと思ってた」

花陽「よかったら見に行こう!A-RISEの凄さがわかると思うの!」

真姫「う、うん…」



UTX学院 学内モニター前


ガヤガヤ…


真姫「うわ…、すごい人だかり…」

花陽「そっか、今日学内限定で新PVの発表があるんだっけ…」

真姫「それでこんなに…」

花陽「いち早くA-RISEのPVが見れるっていうのも、学院生だけの特権だからね!」

花陽「そのためにこの学校に入ったって人も少なくないかも?」

真姫「へ、へぇ…。そうなんだ」

花陽「あっ!始まったよ!静かにして」

真姫「う、うん…」


~♪


真姫「あ、これ…」

真姫(第二回ラブライブの時の予選に使った曲…)

真姫(確か曲名は…Shocking Partyだったっけ)

真姫(あのキレキレのダンスには圧倒されたわね…。一瞬心奪われそうになったわ)

真姫(でもこの時期にこれが流れるってことは…この世界では第二回ラブライブは行われていない…?)

真姫(多分、μ'sがいないことが世界になんらかの影響を及ぼして、結果、ラブライブは行われなかった、ってことかしら)

真姫(でもPVのクオリティとしては全く遜色ない…。うぅん、むしろ出来が増してるかも)

真姫(それにしても、前見たときよりステージが少し広い…?)



「キャーッ!!来たーっ!!」



真姫「えっ…?何が…?」

真姫(突然の声援に辺りを見回す。人だかりの彼女たちは画面に夢中だった)

真姫(それに倣ってモニターに目を戻した時、私が見たもの)

真姫(それは、予想だにしていなかったもので)



真姫「ん、なぁっ…!!!?」

真姫(あ、A-RISEに…)

真姫(バックダンサーが付いてる…!?)



「きゃーっ!!きゃーっ!!」



真姫(…いや、ただバックダンサーが付いてるだけなら、こんなに驚きはしないわよ)

真姫(でも、でもでもでもっ…!!)

真姫(こんなの、こんな、ことって…!!)




「きゃーっ!!」


「穂乃果ちゃーんっ!!」 「凛ちゃーんっ!!」 「にこにーっ!!」





真姫(モニターに映る、A-RISEのバックダンサーの3人)

真姫(それはまさしく、私の知っている顔で)

真姫(それは、紛れもなく)

真姫(高坂穂乃果と、星空凛と、矢澤にこ)

真姫(μ'sの3人が、A-RISEと共に、モニターの中で踊っている)

真姫(こんなの、冗談以外のなんだって言うのよ…)



花陽「…凛、ちゃん」


真姫「…」


花陽「…あっ!す、すごいでしょ?ね?A-RISE、カッコイイよね!」

花陽「それにね、あのバックダンサーの人たち!あの人たちは次期A-RISE候補の3人で…」

花陽「…真姫ちゃん?」



真姫(花陽の言葉はほとんど耳を通らず)

真姫(私はそのモニターを、呆けたように見入るしか、出来なかった)

テク、テク、テク…


花陽「あれが新PVかー…。すごいかっこよかったなぁ…」

花陽「ね?よかったよね?」

真姫「え、あ、あぁ…」


真姫(あの映像を見させられてから数分して、花陽と一緒に学校から出ようとしている途中にやっと意識が戻ってきた)

真姫(いろいろ気になることはあるけど、…一番気になったことを花陽に訪ねてみましょう)


真姫「花陽、質問いい?」

花陽「ん?なにかな、A-RISEのこと?」

真姫「えっと、そうじゃなくて…バックダンサーの方」

真姫「…あの、やざ…ツインテの先輩、って…、3年生じゃないの?次期A-RISE候補って言われてたけど…」

花陽「え?にこにー?…あ、にこにーっていうのは愛称で、本名は矢澤にこ先輩って言うんだけど…」

花陽「あの人は2年生だよ?」

真姫「えっ…、に、2年生…!?それ、確かなの!?」

花陽「うん、そのはずだよ…?」


真姫(どういうこと…!?この世界ではにこちゃんは生まれるのがみんなより1年遅かった、ってこと…?)

真姫(それともまさか、初期の希現象の逆が起きて2年に設定が変更されたとか!?)


花陽「…あっ、そういえば噂で聞いたことある」

花陽「矢澤先輩は一度UTXに入るために浪人したんだって噂。だから今2年生なのかな」

真姫「えっ、浪人…高校入るために…!?」

花陽「う、噂ってだけだよ?でも真姫ちゃんが矢澤先輩をそう勘違いしてるならもしかしたらその噂関係なのかなって」


真姫(…なるほど、高校浪人とは信じがたいけど…どうやらその噂、本当みたいね)

真姫(UTXに入るためににこちゃんは1年浪人して、だから今2年生…それなら計算が合うわね)


花陽「えっと、聞きたいことってそれだけ?」

真姫「…」

真姫「えぇ、それだけ」


真姫(凛のことも、とても気になったけど)

真姫(でもこれは、気軽に聞ける話じゃないってどこかで察して、そのまま質問タイムは終了となった)

UTX学院 改札前


真姫「あ」


花陽「ん?どうしたの?真姫ちゃん」

真姫「ご、ゴメン!やっぱり先帰ってて!やらなきゃいけないこと思い出した!」

花陽「?…いいけど。じゃあまた明日ね!」

真姫「うん、また明日!」


真姫(…って、明日も来られるかわかんないんだけど)

真姫(それより、今は電子生徒手帳のこと!)

真姫(再発行するの、忘れてた!)

真姫(希に帰るまでに、って言われてたのに…)

真姫(正直、明日もUTXに来るのはあまり乗り気ではないのだけど…まぁ、友達も出来てしまったし)

真姫(…でも再発行ってどこでするのかしら)

真姫「…」

真姫「…困ったらいつでも頼れって、言ってたしね」



生徒会室


ガララッ


希「はい。…あ、西木野さんやん!」


真姫「こ、こんにちは。やっぱりここにいたんだ…」

希「どしたん?あ、入り入り!お茶でもどう?」

真姫「ありがと…。それより聞きたいことがあって」

希「ん?なになに?」



オフィス


希「…で、これに記入ね」

真姫「っと、こう…ね。はい」

希「うん、これで申請は完了や!」


希「じゃあ…はいこれ!西木野さんの新しい電子生徒手帳!もう無くしたらあかんよ?」

真姫「え、こんなに早く再発行できるの…?数日かかるとかじゃ…」

希「そんなかかったら学校入れへんやん!生徒のデータさえ入力すればすぐにできるよ」

希「その代わり、どこかに行っちゃった前の生徒手帳のデータは自動的に削除されるんやけどね」

真姫「へ、へー…。そうなのね…」

真姫(この世界の私、なんかごめん。どうせ使ってないんだからいいでしょ)

真姫「ありがとう、忙しいのにこんなことまで付き合わせちゃって」

希「ん?うぅん、ええんよ。うちもそろそろ帰るつもりやったし!」

真姫「そう。じゃあ私これで…」

希「…待った!」

真姫「え…?な、なに…?」

希「にょにょにょにょにょ…はぁっ!」

真姫「わぁ…なによ」

希「真姫ちゃん、なんか悩んでるでしょ?」

真姫「そ、そりゃ人間生きてれば悩みの一つや二つあるって…」

真姫「なに?エセ占い師の真似?真似が二つかぶってるけど」

希「いやいや、うちスピリチュアルやからね。真姫ちゃんの考えてること、少しわかるんよ」

希「ついさっき…、心臓の飛び出るくらい驚くことがあったでしょ?」

真姫「えっ…!?」

希「おや、図星かな?」

真姫「な、なんでわかるのよ…」

希「んー、スピリチュアルやからかな」

真姫「真面目に答えて!」

希「じゃあ真面目に答えると…匂いやね」

真姫「はぁ?」

希「真姫ちゃんの匂いが変わってる。…汗の匂いかな」

希「緊張というか、驚いたときに発せられる汗の匂いが仄かに漂って…数分は経ってる感じ」

真姫「あ、アンタ何者よ…?」

希「ふふふ…、生徒会長はここまで出来て一人前なんよ?」

真姫(…そんな生徒会長この世界に一人しかいないっての)

希「で、もう一つ…。真姫ちゃん、帰るところなくて悩んでるんやない?」

真姫「それも、汗…?」

希「これはまぁ…表情でね」

真姫「…すごいわね。当たり。…ちょっと家に帰れない事情があって、どうしようかなって悩んでたのよ」

希「ふぅん…」

真姫「な、なによ…。まだ何かあるの?嘘じゃないわよ?」

希「嘘やなんて言ってないよ。…ふむふむ、家に帰れない、か」

希「だったら…」



希「今夜、うちに泊まらない?」

真姫「ハァ!?」

希の家


真姫「ほわぁ…」


希「ふふ、気にせんであがって?うち一人暮らしやから、どんなに騒いでもお隣さんからしか文句は来ないよ?」

真姫「え、あぁ…じゃあ遠慮なく…」


真姫(希のお家か…。一度行ったことはあったけど)

真姫(こっちの希の家もあまり変わらないわね…)

真姫(っと、今はそれより…)


真姫「…ねぇ、ところで」

真姫「どうして私を家に招待してくれる気になったの?」

真姫「生徒会長サマが家に帰らない不良生徒を匿っていいのかしら?」

希「せやねー。上級生に敬語を使わない悪い子をわざわざ家にあげる生徒会長もそうそうおらんよね」

真姫「…あ、ご、ごめんなさい。つい癖で…。気に障ってたのなら気をつけます…」

希「あはは。なんや意外と素直やん。別に気にしてへんよ?」

希「真姫ちゃんの接したいように接してくれたらええんやよ」

真姫「あ、そうなの。…というか、あなたもいつの間にか西木野さんから真姫ちゃんに…」

希「いいやんいいやん。同じ屋根の下で暮らす仲になったんやし、気にしないで」

希「で、なんやったっけ?あ、どうして家にあげるか、ってことやったっけ?」

希「別に、深い意味はないよ。家に帰れなくて困ってる子がいたから、助けてあげた」

希「それだけ、やん」

真姫「…そう」

希「あ、あと一人暮らししてると人の温もりが恋しくなってくるっていうのもあるね」

希「誰かをお泊りさせるのなんか久しぶりでめっちゃワクワクしてるわ~。うふふ」

真姫「そういうの、あんまりしないの?友達とかで…」

希「ん~、そこまで深い付き合いの友達はいないからねぇ。そういう機会には恵まれなくて」

真姫「好かれそうな性格してるのに…ホントにホント?」

希「…」

希「どう、やろうね。こう見えてもうち結構人見知りなんよ?」

真姫「あ、そう…」

真姫(この世界の絵里もちゃんとUTXに入学してるのに…)

真姫(希と絵里にも、何かのっぴきならない事情があるのかしらね…)

真姫(はぁ、ややこしいわね…。こんな世界に入り込むんじゃなかったと今更後悔してきたわ)

真姫「…」

真姫(後悔してても始まらない、か)

真姫(…希のおかげで腰の落ち着けるところも確保できたし、今は状況の整理をしましょう)



希の部屋


真姫(まずは、あのA-RISEのバックダンサー…)

真姫(私たちの世界では存在しなかったバックダンサーがいることもびっくりだけど、それ以上に…)

真姫(それがμ'sの3人…穂乃果、凛、にこちゃんのバカ3人組だなんて)

真姫(…でも、今になって考えてみてみれば、さして衝撃的でもないのかも…)

真姫(穂乃果やにこちゃんなら、アイドルになりたい…、A-RISEの一員に加わりたい、って思うのも、UTXに通っていればありうるでしょうし)

真姫(だけど問題は…、言ってしまえば、この世界の『異常』は…)

真姫(…親衛隊が作られるほどの花陽に、凛が関わっていないこと)

真姫(そして、今日の昼…食堂で海未とことりが昼食を食べていた時に、穂乃果の姿がなかったこと…)

真姫(この世界のμ'sのみんながUTXに入学したことで、それまで付き合いのあったもの同士に、亀裂が生じている…のかしら)

真姫(それに、あの花陽が…、アイドルに誰よりも憧れる花陽が)

真姫(アイドルになるために入ったUTXで、アイドルを諦めた、って言っていたのも気になる)

真姫(…はぁ。て言うか、なんで私がこの世界の人間関係に頭をひねらなくちゃならないのよ…)

真姫(どうせこの世界の私は休学中。明日にはいなくなっても誰も不審がらない)

真姫(あとは凛が私を探し出して迎えに来てくれるまで、どこかで身を潜めていればいいだけの話なのに)

真姫(気まぐれに行ってみたUTXでまさかこんなことになっているとはね…)


真姫「…厄介なことに首を突っ込んだものだわ」

真姫「やっぱり、バックレようかしら」

希「…ん?今なんて?」

真姫「わっ!の、希…!いたの?」

希「うん。ノックもしたけど返事なかったから、勝手に入ったよ?」

真姫「あぁ…そうだったの。ごめんなさい」

希「と、そうそう。ご飯できたよ。一緒に食べよ?」

真姫「…いいの?貴重な食費を私に割いて」

希「誰もタダでなんて言ってないやん?」

真姫「…いくらよ」

希「あはは!冗談冗談!お金はいらんよ!」

希「真姫ちゃんとの楽しい食卓を提供してもらえれば、うちにとってはそれが一番の報酬やよ」

食卓


希「いただきまーす」

真姫「…いただきます」


真姫「…もぐもぐ」

真姫(美味しい。UTXの食堂ほどではないけど、素朴に純朴な味…)

真姫(いわば、おふくろの味っていうのかしら。どこか懐かしくなるような味ね)

希「…どう?お口にあうかな?」

真姫「えぇ、とても美味しいわ。こんなものを頂いちゃって、少し申し訳ない気分よ」

希「うふふ。そう言ってくれると嬉しいわ」


真姫(それから十数分、会話も交えつつ晩ご飯を食べ続ける二人)

真姫(話題も尽きてきたので、気になったことを希に訪ねてみることにした)


真姫「もぐもぐ…、そういえば、A-RISEの事なんだけど…」

希「A-RISE?」

真姫「えぇ、その…私が入学した直後にはバックダンサーなんていなかったと思うんだけど、あれっていつから?」

希「あー、あれね…。あれはー…」

真姫(バックダンサーの件については当てずっぽうだったけど、どうやら本当に今年度の始まりにはいなかったみたいだった)

希「…真姫ちゃんは、A-RISEってどうやって構成されてるか知ってる?」

真姫「うぇ?い、いきなりね…。え、えっと…」

真姫(といっても…他校のアイドルのことなんてそんなに詳しくないから知らないし…)

真姫「…芸能科でアイドル志望の3年生の人が集まってできてる、って聞いているけど」

希「うん。そのとおり」

希「芸能科には専攻がいくつかあるけど…大きく分けると次の三つに分類されるんよね」

希「歌手専攻、モデル専攻、ダンサー専攻」

希「A-RISEは基本的にその三つの専攻の中のアイドルを志望する子のうち、トップの子を専攻ごとに選出して結成される」

希「ただその基点に達するまでの道のりも激しい…。ただでさえ忙しい学業をしつつ、アイドル志望の子達には7限目以降が追加されるんよ」

希「すなわち、アイドル専攻の授業が、ね」

真姫「え、アイドル専攻って存在しないはずじゃ…」

希「あぁ、専攻って言うのは名ばかりで、本当は半分部活みたいな存在なんよ」

希「志望すれば追加の学費も必要なく、誰でも受けられる授業だけど…それだけに厳しい」

希「やる気のないもの、サボろうとするもの、そういう子がいれば即刻二度と授業は受けられんくなる」

希「アイドルの見込みがない、と判断されたものもすぐに落とされる」

希「学業に支障がある、と思われても、それでおしまい」

希「すごい狭い門をくぐり抜けて、A-RISEは作られてるんよ」

真姫「なっ…」

真姫(…スクールアイドルを学校が全力でバックアップしてるとは聞いていたけど…)

真姫(専用の授業が存在して、しかもそんなに競争率が激しいなんて…)

真姫(でもそう考えると、あのバックダンサーの3人は、それを乗り越えたってこと…?)

真姫(普段からサボり癖のある凛が…?それにあの幼児体型のにこちゃんまで…)


希「そんで、こっからはバックダンサーの話やねんけど」

希「今まではA-RISEのメンバーは1年ごとに交代して行ってたんよ。専攻ごとのトップ、そのうちの3年生が基本的にA-RISEとして選ばれる」

希「せやけどそれじゃ、スクールアイドルとして表舞台で活躍できるのは1年の間だけ」

希「せっかくキツイ門をくぐり抜けた優秀な生徒なのに、それはもったいない。…って、提唱した子がいてね」

希「結果、A-RISE自体は増えなかったけど…その代わり、A-RISEとともに舞台で活躍するバックダンサーとして、メンバーは増えることになった」

真姫「それが、あの3人…」

希「そう。そしてその選出基準は2年次以下で専攻ごとの成績が最も優秀な子が選ばれる」

希「次代のA-RISE…、その最有力候補が、あの3人なんよ」

真姫「…っ!」



真姫(つまり、あの3人は厳しい授業を乗り越えただけじゃなく…)

真姫(その中でトップに位置する3人…!)

真姫(し、しかもそれじゃあ凛は…)



真姫「あの、ショートカットの子って…1年生なんでしょ?なのに…」

希「…うん。有名よね、星空凛ちゃん」

希「UTX始まって以来の…化物や、ってよく言われてる」

真姫「う、嘘…」

希「入学当初は身体が硬かったりダンスの基礎ができてなかったりと、むしろ成績は下の方やったらしいけど…」

希「一度基礎を覚えれば、成長は早かった。圧倒的な速度でダンスを学び、今じゃA-RISEに最も近いダンサーって言われてる」

希「だから特例として、凛ちゃんだけは来年、A-RISEに加入することが許されてる、ってわけやね」

真姫「…それは、ダンサー専攻の2年生は悔しいでしょうね。まぁ彼女、ダンスだけは誰にも負けないだろうし…」

希「…うぅん、ダンスだけやない」

真姫「え…?」

希「専攻ごとのトップって言っても、その専攻ごとのことしかしないわけじゃないから」

希「アイドルになるにあたっては、芸能科の全ての専攻の能力を兼ね備えている必要があるんよ」

希「歌手のような歌唱力。モデルのように自分を美しくみせる能力。ダンサーのように巧みに踊る能力」

希「そのための、アイドル専攻の授業ってわけ。むしろダンサー専攻の人たちはボイストレーニングと自分を美しくみせる術を重点的に教えてるみたいやね」

希「だからバックダンサーの子たちは、その専攻だけじゃない。全ての能力を兼ね備えた、最強の3人やねんよ」

真姫「…」

真姫(もはや、声も出ない)

真姫(私の知っているあの3人が、それを乗り越えられるとは、到底思えなかった)

真姫(彼女たちは、そう思えるほど努力し、勝ち上がり…そして、あのバックダンサーという立ち位置を得ている)

真姫(…だからこそ、なのだろうか)

真姫(彼女らが、私の知らない3人になってしまっているからこそ)

真姫(普通じゃ生まれるはずのない亀裂が、生じてしまっている、ということ、なんだろうか…)

希の部屋


希「布団しかないけど、いいかな?」

真姫「いいわよ、別に。雑魚寝は慣れてるし」

希「ふぅん…?意外やね、真姫ちゃんお金持ちそうやからベッドでしか寝てないんかと思った」


真姫(胸のモヤモヤを抱えたまま、夜となった)

真姫(UTXの驚きのアイドル育成方針…。確かにこれなら、A-RISEは最強のスクールアイドル足り得るだろう)

真姫(想像以上に、そのふるいの目は小さく険しいものだったけれど)

真姫(…場所さえ違っていれば、スクールアイドルとして才能を開花していた子も弾かれた中にいたかも知れない)

真姫(小さな芽は食いつぶす…、それよりもっと大きな才能を芽生えさせるための糧として)

真姫(私がUTXの方法から得た感想は、そうした残酷なものだった)


希「それじゃ、電気消すね」

真姫「…うん」


パチッ


真姫「…」

真姫(真っ暗の中、考える)

真姫(…UTX学院は、私が足を踏み入れていい場所じゃなかったんじゃないかって)

真姫(あそこは戦場だ)

真姫(日々アイドルを目指す者たちが、互いの才能を踏み台に上へと駆け登る、凄まじいバトルフィールド)

真姫(蹴られた者は二度と立ち上がれず、散っていく…。まさに、死者のように)

真姫(UTX学院生、アイドル志望の少女たちは、そんなことを毎日毎日、繰り返して…アイドルを目指している)

真姫(たった3人しか掴めない、A-RISEという…生存の道を)

真姫(日常が、戦争…か)

真姫「…」

希「…真姫ちゃん、何か、考えてるでしょ」

真姫「…まだ起きてたんだ。よく、わかるのね」

希「うち、スピリチュアルやからね。…誰が何考えてるか、って結構わかるの」

希「だから、言うけどね」

希「…きっと、UTXにも、真姫ちゃんの居場所はあるよ」

希「むしろ、真姫ちゃんにしかできないことがあると思うんよ」

真姫「…私にしか、できないこと」

希「うん。…だから明日も、学校、行こうね」

希「引きこもりからは…おさらば、や…。…くぅ、…すぅ」

真姫「…」

真姫(生徒会長の責務から、引きこもりの私をこれからも学校に行かせるために説得する)

真姫(どうやらそれが…、希が私をここに呼んだ、本当の目的だったみたいね)

真姫「…はぁ」

真姫(正直、もう行きたくなかったけど…。あなたのせいで、明日も行かなきゃいけなくなっちゃったじゃない…)

真姫「…恨むわよ、希…」

翌朝


希「真ー姫ーちゃんっ」


真姫「…んん…、なによ、もう…」

希「真姫ちゃーん?朝やよー?」

真姫「うるっさいわねぇ…。今日は朝練はナシのはずでしょ…」

希「朝練?…よくわからへんけど、起きぃよ?」ユッサユッサ

真姫「んぁぁ…、鬱陶しい…!」

真姫「なんだっていうのよ!!」ガバッ

希「あ、起きた。おはよ、真姫ちゃん」

真姫「…へぁ?なんで希がここに…?」

希「なんで、って。ここうちの家やし」

真姫「え…?」

真姫「…あ」


真姫(そうだった。昨日は希の家にお泊りしちゃったんだっけ…)

真姫(スターゲイザーから落っこちて別の世界に来て…)

真姫(この世界の私のUTXの制服を盗んだはいいものの、帰る家もなかったからって…)

真姫(…てことは)


真姫「私…、学校行かなきゃいけないの…?」

希「うん。うちは真姫ちゃんが学校に来てくれるととっても嬉しいよ」

真姫「あー…」

真姫(希は私を、この世界の不登校だった私だと思っている)

真姫(だから学校へ行かせて引きこもりを解消させようと思っているのだけど)

真姫(…私が学校へ行きたくない理由はそうじゃないのよね)

真姫「…わかったわ。学校、行くから」

希「ホント?よかったよかった!その調子やよ?」

真姫「…うん」


真姫(私が学校へ行きたくない理由)

真姫(それはもちろん、私がUTX学院生じゃないから)

真姫(昨日お遊びで一日だけUTXの中を冒険する気が、生徒会長サマに捕まって再度学校へ行くことになるなんて)

真姫(…だけど、学院生じゃないって理由以外にも、行きたくない理由はある)

真姫(芸能科全体から感じられるピリピリした空気…。音ノ木坂にはなかったあの感覚…)

真姫(私は、アレが嫌だった)

真姫(着替えを済ませて出ていこうとすると、希がトーストを差し出してきた)

真姫(朝食、だそう)


希「ホントはもっとちゃんとした朝食を取らないと元気出ないんやけどねー」

希「どこかの誰かさんがずっとオネムやったせいで朝ごはん作る時間なかったしー」

真姫「わ、悪かったわよ…。最近夜ふかしに慣れてたから朝起きられなくて」


真姫(私の朝食も大体トースト1枚だからこれでも全然構わないんだけど)

真姫(だけど…やっぱり学校へ行くのは億劫だった)

真姫(本来なら、あの学校に私の居場所なんてない)

真姫(…希のいう、私にしかできないこと…。そんなもの、あるわけがない)

真姫(私はこの世界の真姫じゃないんだから)

真姫(今から希だけでも事情を話して本来の真姫の引きこもりを矯正してもらおうかしら…)

真姫(いや、ムリよね…。そんな話しても信じてもらえるとも思えないし…)

真姫(だから今は仕方なく、希の言うとおりUTXに向かうしか私に出来ることはなかった)


真姫「…まぁ、この世界でも友達はできたし」

真姫「花陽に会いにいくって目的だけでも、学校へいく価値はあるのかしら、ね…」

希「…ん?なんか言った?」

真姫「別に。独り言よ」

希「んー、そう?」

真姫「それより…、どうして今日はそんなに急いでるのよ」

真姫「まだ出ていくには余裕があるんじゃない?」


真姫(時計の針は7:30を指していて、さほど早すぎるわけでもないが、ここからUTXまで近い希にしてはそこそこに早い時間に出かけようとしている)

真姫(もう少しゆっくりして、朝食を作ってもいいと思うんだけど)


希「んー…、いっつもはそうやねんけどね。今日は…大事な朝礼があるから」

真姫「朝礼?そんなのあるのね。…大事な、ってどういうこと?なんの朝礼?」

希「うん、それはね…」



希「今日からうちが、生徒会長じゃなくなる朝礼やよ」

UTX学院 講堂


真姫(今日から生徒会長じゃなくなる朝礼)

真姫(つまり今日は、新生徒会長就任のための朝礼というところかしら)

真姫(希とは別れ、私は多くの名も知らぬクラスメイトと共に講堂の椅子に腰掛けていた)

真姫(…確かに、音ノ木坂でもちょうど今日くらい、新生徒会長の就任の挨拶があった、わね)

真姫(あの時はセリフもグダグダでひどい挨拶だったけど…)

真姫(UTXでは誰が生徒会長に就任するのかしら)

真姫(集団の中の孤独な私は、そんなことを一人ずっと考えていた)

真姫(花陽がいてくれたら話し相手もいたんでしょうけどね…。クラス違うから仕方ない)

真姫(ただ時間が過ぎるのを待っていると朝礼が始まった。全校生徒の挨拶やら校長先生の長い話やらが終わったあと…)

真姫(ついに新生徒会長がお目見えになるそうだ)



『…それでは、前生徒会長、東條希さん。新生徒会長について何か一言』


希「うん。えー、うち…私は、この学校の生徒会長として、時に厳しく、でもそれ以上に優しく、生徒のみんなを見守ってきたつもりです」

希「次の生徒会長にも、そういった包容の精神を持って励んで頂きたいですね」


『はい。ありがとうございました』

『それでは新生徒会長。壇上へ』



真姫(そして、舞台奥から登場する新、生徒会長)

真姫(毅然とした態度で舞台の上に立ち、真っ直ぐな背をそそり立たせ、冷たく張るような声で)

真姫(自分の名を、口にした)



「たった今ご紹介にあずかりました」

「新生徒会長の」


「高坂、穂乃果です」

真姫「…やっぱり、か」

真姫(この世界でも変わらず、穂乃果は生徒会長だった)

真姫(聞くところによると、穂乃果のお母さんが音ノ木坂の元生徒会長だったそう)

真姫(だから彼女も、生徒会長にふさわしい血筋?みたいなものを受け継いでいるのかな、って思った)

真姫(久しぶりに穂乃果の声を聞いたような気がして、とても懐かしい気持ちで彼女の挨拶を聞いていたんだけど)

真姫(…だけど、その穂乃果は)

真姫(私の知っている穂乃果とは、どこか違っていた)



穂乃果「私は、ルールこそが第一だと考えます」

穂乃果「規律規範を守ってこそ、質実剛健とした精神が鍛えられるのです」

穂乃果「故に、生徒の皆さんには、健全かつ堅実な学園生活を送る上で」

穂乃果「常にUTXのルールが自らの身体を縛っている、と考えていただきたい」

穂乃果「息苦しいかもしれません、逃げ出したくなるかもしれない」

穂乃果「しかし、それに耐えそれに従ってこそ、社会の規範の基礎が学生のうちに身に付くのです」

穂乃果「この学院から社会に羽ばたくものが、一人たりとも人生の落伍者であってはならない」

穂乃果「私はこのUTX学院に誇りを持っているから、だから学名に一抹の汚れをも残したくありません」

穂乃果「あなた方は誇り高きUTX学院生という勲章をその胸に掲げている」

穂乃果「そのことを毎時毎分毎秒意識し、自分は選ばれた強き人間であると自覚してください」

穂乃果「最後になりますが皆さん」

穂乃果「完全で完璧な学園生活が、あなた方の人生に彩りを齎さんことを」



真姫「え…」

真姫(…だ、誰?)

真姫(私の知ってる穂乃果は、あんな難しい言葉は使わなかった)

真姫(音ノ木坂での挨拶とは打って変わって、流れる水のような滑らかでキリッっとした挨拶)

真姫(そして…冷たい氷のような、感情を感じさせない喋り口調)

真姫(絵里よりも毅然に、海未よりも厳しいその態度は…)

真姫(あれは本当に、私の知っている高坂穂乃果、なのだろうか)

真姫(あの顔で、あの声で、何処からどう見ても、高坂穂乃果その人であることに、間違いはないのに)

真姫(彼女が喋り終え、朝礼が終わるその時が来ても、私はまだ信じられずにいたのだった)

廊下


真姫(どこか夢心地で…あまり良くない意味での夢心地で)

真姫(足元が覚束無いまま、教室へ戻っている途中)


真姫「…悪い夢でも、見ているようだわ」

真姫「いえ、実際夢のような世界なんだけど…でも、これって…」

真姫「…はぁ」

真姫「ん?あっ…」


真姫(またもや、知った顔に出くわした)

真姫(昨日の私なら、花陽に出会ったあとからの私だったら、そんなことはしなかっただろうけど)

真姫(先ほどの、別人のような穂乃果を見てしまって、どこか混乱に近い状態になっていた私は)

真姫(つい話しかけてしまった)

真姫(大親友であるところの…星空凛に)


真姫「り、凛っ…」


凛「…はいっ?」


真姫「え、あっ…えーっと…。あの、私同じ学年の西木野真姫って言うんだけど…」

凛「西木野、さん?…が、凛になんのようかな?」

真姫「あー…っと、そうね…」

凛「…もしかして、凛のファンかな?凛のダンスに惚れちゃったカンジ?」

真姫「あ…、え、えぇ!そうなのよ!すごいダンスだなぁ、って昨日のPV見て驚いちゃって!」

真姫「あなた一年生なのにA-RISEの後ろで踊れるなんてカッコイイわよね!私…」



凛「あー…、もういいよ。そんなの聞き飽きてるし」

凛「ていうか、ジャマなんだけど。どいてくれない?」



真姫「えっ…」

凛「あのさ、もしかして、凛にお近づきになりたいって子?」

凛「だとしたらゴメンね。凛は自分と同じレベルの子としか付き合わないの」

凛「君、アイドル志望の子じゃないでしょ?そんな意識低い子と話してたら凛がバカになっちゃうじゃん」

凛「だから凛に近づきたかったらせめてアイドル専攻の授業でトップクラスを取ってもらわないとさぁ」

凛「あ、でも君…、よく見るとすっごいかわいい顔してるね!これは点数高いかも?」

凛「凛のパシリくらいになら、お願いしてくれたらしてあげないこともないよー?アハハハハ!!」

真姫「…」



真姫(そう言い残し去っていく背中を)

真姫(知っているはずの、知らない誰かの背中を)

真姫(滅茶苦茶ムカつく事言われてるはずなのに、私は)

真姫(ただ呆然と見送ることしか出来なかった)

1年E組 

授業中


真姫「…」

真姫「…なにこれ、意味わかんない…」



真姫(教壇で話す教師の声なんて私の耳には全く届かず)

真姫(私は頭を抱えて机に突っ伏していた)

真姫(誰よ…、あいつら誰なのよ…?)

真姫(今まで会ったこの世界のμ'sのメンバー)

真姫(その中で穂乃果と凛…あの二人だけ…)

真姫(…明らかに性格が変わっていた)

真姫(穂乃果は冷たく厳しい性格に…凛は他人を見下し友人を選ぶようなクズに…)

真姫(海未も、ことりに窘められるような性格に多少は変化していたみたいだったけど、この二人とは性質が全く違う…)

真姫(穂乃果はこの1年半で…凛に至っては半年も経たずに…)

真姫(屈託ない明るい性格から、がらんと歪んでしまった)

真姫(一体何が…UTXでの生活で一体何が彼女たちをあそこまで変えてしまったのか…)


真姫「…どうして、どうして私が…」

真姫「なんでこんなことで悩まないといけないのよ…」


真姫(私はこの世界に無関係の人間なはずなのに)

真姫(希に、半ば強制的にこの世界の歯車に組み込まれてしまった)

真姫(誰とも接点を作らず、ただ遊びのつもりで入ったUTX学院で)

真姫(私はその学院生の一人となってしまったのだ)

真姫(その時点で私は、この世界の住人)

真姫(故に、私の世界との乖離を苦痛に感じてしまう)

真姫(あの穂乃果が、あの凛が)

真姫(私はあんな二人を…見たくなかった)

真姫(この世界で、ただただ私の凛の迎えが来るのを待っていたら、こんな気持ちにならなくて済んだのに)

真姫(私はなんで今、こんな気持ちになっているのだろう。なんでここにいるのだろう)

真姫(なんで、悩まなきゃいけないんだろう…)

真姫(わからない、わからない…)



教師「えー…じゃあここを…西木野」

真姫「…わかりません」

教師「即答…!?」



真姫(今の私には、何もわからなかった)

昼休み

食堂


真姫(ぼーっとして授業を受けていたら、いつの間にか昼休みになってた)

真姫(私は今お昼ご飯を食べるために食堂に立っているけど…)

真姫(昨日と同じ状況のはずなのに、なぜか昨日より、寂しさが増して感じた)

真姫(無性に、誰かと一緒にご飯が食べたかったけど)

真姫(そういえば私は、花陽が何組であるかすら、まだ聞いていなかった)

真姫「…一人で食べるしかない、か」



真姫「もぐ…」


真姫(美味しい…はず、なのに)

真姫(何を食べているのか、さっぱりわからなかった)

真姫(箸が異様に重く感じて、親子丼のご飯を掴むだけでも大変に重労働だった)


真姫「…はぁ」

真姫「この世界の問題であることはわかるのだけど」

真姫「あの穂乃果が…、あの凛が…ねぇ」


真姫(どちらも、私の人生に大きく影響を与えてくれた人物であるがゆえに)

真姫(たとえ別世界であれどもあんなに性格が捻じ曲がった彼女らを目の当たりにしたのは、相当にショックだった)

真姫(そしてそうなると…)


真姫「あの子達はどちらもA-RISEのバックダンサー…性格の歪みの原因がそこにあるのだとしたら」

真姫「…あのにこちゃんも…」


真姫(にこちゃんも…性格が変わっているのだろうか)

真姫(皮肉屋で猫かぶりでバカなにこちゃんが、一体どうなっているのかなんて想像もつかなかったけど)

真姫(想像したらそれだけで凹んじゃいそうだから、やめておいた)


真姫「…はぁ」


真姫(今日何度目かもわからないため息をついたところで)

真姫(私に声をかける人物が現れた)



「…ねぇ?ここの席、空いてるかな?座らせてもらっていい?」



真姫「…え?あぁ…空いてると思う…あぁっ!!」


「は、はいっ!?な、何?」


真姫「こ…」

真姫「…ことり」



ことり「え…?私のこと、知ってるの…?」

真姫「あ、え、えーっと…!」


真姫(いきなりことりから私に話しかけてくるものだからつい名前を口走ってしまった)

真姫(でも見知らぬはずの少女が自分の名前を知ってたら気持ちわるいわよねぇ…)

真姫(なんて弁明しようかしら)


真姫「あのー…、そ、そう!」

真姫「あなたいっつも長い髪の人とご飯食べてるじゃない?」

真姫「あなたたちがとっても綺麗だから、いつも気になってたのよ!そ、それで…」

真姫「その長い髪の人…?確か海未ちゃん?ってあなたが呼んでる人が、ことり、ってあなたを呼んでたからそれで…」


真姫(我ながら苦しい言い訳だと思うけど。かなりハッタリも入っているし)

真姫(けれど当のことりはさほど気にも留めず)


ことり「へー、そうなんだ…。変な子だね、あなた」


真姫(『変な子』と私にレッテルを押し付けて、そのまま私の前の席で鶏天丼を食べ始めた)


真姫「あ、あー…」

ことり「…もぐもぐ」


真姫(めっちゃ気まずい)


ことり「…ごくんっ。…あ、ごめんね?一人でご飯食べてたなら邪魔しちゃって」

ことり「この時間混んでて座るところなかったから。少しだけだから、我慢してくれる?」

真姫「あ、うぅん…。気にしてないから…」

真姫(…あっちから話しかけてきてくれた。これはチャンス!)

真姫「ところで…今日はあの…海未、って人は?いないの?」

ことり「もぐもぐ…ごくんっ。…ん?あなた、あー…えっと」

真姫「真姫よ。西木野真姫」

ことり「真姫ちゃんは、海未ちゃんの方が気になっちゃう子?」

真姫「あ、いや…、どっちが、じゃなくって…いっつも二人なのに今日は一人なのはなんでかな、って」


真姫(いつも二人かどうかは完全に私のハッタリだ。一回しか目撃してないんだし)

真姫(でもこのふたりなら…大概二人っきりな気がする。…穂乃果が、あんな調子だったし)


ことり「うん、今日は海未ちゃんが忙しくて…なんでも今日中に専攻の授業で使う脚本を仕上げる必要があるとか」

真姫「あ、そうだったのね…。だから今日は一人…」

真姫「…ん?」

真姫「き、脚本…!?」

真姫(専攻の授業で、使う脚本…?芸能科の授業に脚本を使う授業なんて、あるの…?)

真姫(いえ、それともまさか…私が思い込んでるだけで、海未は…)


ことり「あ、海未ちゃん、演劇学科の脚本家専攻なの」

真姫「…っ!?」

真姫「え…、脚本家っ…!?げ、芸能科じゃないの…?」

ことり「どうして?芸能科以外を選択している人なんていっぱいいるでしょ?」

真姫「え、えっと…それは」

ことり「私だってデザイン学科の服飾デザイン専攻だし…」

真姫「えっ…!あ、そ、そうなのね…」


真姫(それに関しては納得だった。ことりは元々そっちを目指していたわけだし…)

真姫(だけど海未が…演劇で脚本家、だなんて…)


ことり「海未ちゃん、そんなに芸能科っぽいかなぁ…?あ、でも…」

ことり「海未ちゃんの家ね、日舞の家元だから…、昔から踊りは大の得意らしいし」

真姫「あ、あぁ…そうだったのね。だからダンスやってる人っぽいって印象があって芸能科だと思い込んじゃったのかしら」

真姫(これも苦しい言い訳ね…)

ことり「ふぅん…そう見えるんだぁ…。私にはよくわかんないけど」

ことり「あ!でもね?海未ちゃんすごいんだよー。本当はねー…」

ことり「演劇学科の演劇舞踊ってマイナーな専攻だったんだけど、2年次で習うようなところは全部マスターしちゃってるっていうから…」

ことり「今同時にもう一つの専攻…脚本家の専攻の授業も受けてるんだよ?すごくない?」

真姫「そ、それは本当にすごいわね…」

真姫(演劇舞踊…確かに聞きなれないワードね…。幼い頃から日舞を学んできたらしい海未にとっては学校でのカリキュラムは既に通り過ぎちゃったところなのかしら)

ことり「…っと。あはは、ちょっと喋りすぎちゃったかなぁ?ごめんね?身の上話を延々と…」

真姫「あ、うぅん…。全然気にしてないから…。むしろ仲良くなれたら嬉しいな、って思って…」

真姫「私、友達少ないし…」

ことり「…そうなの?」

真姫「え、えぇ…」

ことり「じゃあ!今日から私たち、友達になろう?」

真姫「へ…?」

ことり「友達になりたい!って思ってそうな子がいたら、すぐに声をかけて誘ってあげる!って、私の友達が…」

ことり「あ…」

真姫「…え?」

ことり「…うぅん!なんでもない!真姫ちゃん、だったよね?携帯電話持ってる?メアド交換しよ!」

真姫「え、あぁ…」



真姫(携帯を取り出し、ことりとメールアドレスの交換をする)

真姫(二人目の友達がまさかのことりとはね…)

真姫(…でも、このことりのアグレッシブな感じ…。私の世界のことりとは少し違う…)

真姫(私の知っている穂乃果に近いような、そんな…)

真姫(だけどそんなに変わらない…むしろ彼女はいい方向に性格が変わっているかも)

真姫(それを知れただけで、さっきまで暗澹としていた気持ちが少し楽になれた)



真姫「…ありがとう、ことり」

ことり「ん?あ、どういたしまして!えへへ…よくわかんないけどー」

真姫「あっ…」

ことり「ん?」



真姫(彼女たちが、穂乃果と一緒にご飯を食べていない理由)

真姫(友達になったついでに、それも聞いておこうかしら)

真姫(もしかしたら…ただ穂乃果とは学科が違うから、芸能科のアイドル専攻が忙しいからってだけの理由で)

真姫(共に昼食をとっていないだけ、かもしれない)

真姫(今ここにいないだけで、彼女たちの関係が破綻したと考えるのは早計だ)

真姫(壇上ではあんな口調だったけど、もしかしたら素の穂乃果は…)



真姫「えっと、あなたたちと…」

ことり「…あっ!もうこんな時間!早くご飯食べないと次の授業に間に合わなくなっちゃうよぉ!」

真姫「えっ…」

ことり「次体育なの!着替えの時間が必要だから、早く教室戻らないと!…もぐもぐっ!!」

ことり「もぐもぐもぐっ…ごくんっ!ごちそうさま!」

ことり「あ、真姫ちゃんのトレイも一緒に片付けておくね!じゃ!」ドヒューンッ

真姫「あっ…まだ食べてる途中なのに…」

真姫「…忙しい人ね」



真姫(そういうところもまとめて、穂乃果らしくなってる気がする)

真姫(だけど彼女に穂乃果のことを聞けなかったのは…)



真姫「…いえ、逆に良かったのかも」



真姫(もし穂乃果が完全に変わっていた、なんて今の私が聞いたら)

真姫(ちょっと元気になりかけてる私の心が、押しつぶされるかも)

真姫(それを知るのは、もう少し後でもいい)

真姫(今の私には、希望が必要だった)



真姫「私も、そろそろ食べ終えないとね」



真姫(重かった箸は、ちょっとは軽くなったように感じられた)

真姫(冷え切った親子丼も、まぁまぁ美味しかった)

6限目前休み時間 音楽室


真姫(今日も歌手専攻の授業があるみたいね…)

真姫(花陽と会える数少ないタイミングではあるから嬉しいんだけど…)



親衛隊ズ「「花陽様~!」」

花陽「ひゃぁぁ~…!」



真姫(相変わらず親衛隊が花陽を取り囲んで話ができない)

真姫(…まぁでも)



親衛隊J「花陽ちゃん!こ、今度一緒に秋葉原駅前に新しく出来たカフェ行かない!?」

親衛隊K「キャー!言っちゃった!ねーねー小泉さん?いいでしょ?」

花陽「え、えっとぉ…」

親衛隊L「私たち花陽様とカフェに行きたいの!あそこのケーキ、美味しいのよ!」

花陽「ホント…?あはっ、じゃあ…いいよ」

親衛隊ズ「「「やったぁ!!」」」



真姫(花陽が言ってたより、ずっといい子達じゃない)

真姫(友達がいないなんて嘘ばっかりね)

真姫(あー、でも彼女引っ込み思案だから…、そういう意味では私みたいな押さないタイプの友人は欲しかったのかもね)

真姫(なんであれ、花陽自身は変わってなくて良かったわ)


真姫「…」

真姫「…だけど」



(花陽「…凛、ちゃん」)



真姫(昨日モニターに向かって囁いたあの名前…)

真姫(そして凛の変わりよう…。花陽の『アイドルを目指すのをやめた』って発言…)

真姫(まだ私の知らない、UTXの黒い部分が残されてる…。心労は絶えてくれないようね)


真姫「って、私に何ができるって言うのよ…」


真姫(…そう。考えても私に花陽や凛のことなんてどうしようもないのに)

真姫(こんなに悩んで、私はどうしたいのかな…)

真姫(…やめやめっ!悩みはお肌に悪影響しかないのよ!)

真姫(今はただ目立たず、凛が迎えに来るまで平穏な日々を過ごせばいいだけの話)

真姫(ただ、それだけ)

6限目 音楽室

授業中



花陽「らー、らーらー、ららら~…」



真姫「…ふぅん」

真姫(この歌声を聴いていると…、親衛隊ができるのもあながちおふざけだけじゃないって思えるかも)

真姫(心安らぐ歌声…。なんだか眠ってしまいそうなほど…)

真姫「…うにゃぁ」コクッ… コクッ…


女生徒A「に、西木野さーん、船漕いでるー…!」ツンツンッ


真姫「…っは!あ、危ない危ない…」

女生徒A「寝てた?」

真姫「い、逝きそうになってたわ。ありがとう…」

女生徒A「どういたしまして。…音楽のセンセー居眠りにうるさいから、気をつけてね?」

真姫「以後気をつけるわ。ご忠告痛み入るわね」

女生徒A「でも、小泉さんの歌声聴いてると眠くなっちゃうってのはなんかわかるなー…。なんていうか…ゆりかごで揺られてる気分になるよね」

真姫「えぇ…、そうね」


真姫(あれほどの歌のセンスは私の世界の花陽も持ってなかった…。それだけUTXの教育は素晴らしいものなのかしら)


女生徒A「それだけに、惜しいよね…。絶対彼女ならA-RISE目指せると思うのに…」

真姫「え?惜しい…?」


真姫(そういえば前ももったいないって言われてたけど…)


女生徒A「あ、そっか。西木野さんは知らないんだっけ。小泉さんのあのこと」

真姫「あのこと…?」

女生徒A「…小泉さん、もうA-RISEになれない、ってこと」

真姫「えっ…」

女生徒A「アイドル専攻の授業から、逃げ出しちゃったんだって。だからもう二度とA-RISEになるための授業は受けられないの」

真姫「逃げ出した…?」


真姫(前、花陽はアイドルを目指すのはやめた、って言ってた)

真姫(でも逃げ出す、って…よっぽどのことがあったのかしら…)


女生徒A「あっ…あんまり話してると先生に目つけられるや。もう、寝ちゃダメだよ?」

真姫「う、うん。ありがとうね」


真姫(誰よりもアイドルが好きな花陽が、アイドルを目指すのをやめるきっかけになるほどのことって…)

真姫(アイドル専攻…どうやらここにUTXの闇がありそうね)

キーンコーンカーンコーン…


真姫「ふぅ…、今日も長い授業が終わったわね」

真姫「大きな声で全力で歌えないのはちょっとストレスだから…花陽誘ってカラオケでも行こうかしら」

真姫「まだ授業終わったばっかりだし、花陽もまだ音楽室に…あれ」

真姫「もういない…。先に教室に戻ったのかしら?」

真姫「仕方ないわ。放課後に誘ってみましょう」



廊下


真姫「ふんふんふ~ん…。カラオケねー…、久しぶりな気がするわ」

真姫「歌って言ったら基本屋上で歌ってたし」

真姫「個室で誰かと一緒に歌うのとか何週間ぶり…」



「…から…、…しは…!」

「…って!へい…ってば…」



真姫「…ん?声…?」

真姫「あっちの階段奥のほうね…。だけどこの声って…」

真姫「花陽…?」

階段奥


真姫(こんな早く音楽室出て、こんなところで誰と話し…)

真姫「…あ」



親衛隊A「…だからさー、きっと小泉さんならイケるって!」

親衛隊B「もったいないよー!その歌声なら、ゼッタイA-RISE目指せるよっ!」

親衛隊C「埋もれさせるには惜しい才能だと思いますわ」


花陽「あ、あぅ…」



真姫(あれは…、私の陰口叩きまくってた親衛隊の3人…)

真姫(A-RISE…、の話?でも、花陽はもうA-RISEを目指すためのアイドル専攻は受けられないはずじゃ…)



花陽「も、もう…いいから…。私、アイドルは…」

親衛隊A「一度逃げ出したのは知ってるけどさー…、小泉さんなら許されると思うんだよねー」

親衛隊C「私の友達の知り合いの子も、一回ドロップアウトしても謝ればまた授業受けさせてもらえたって聞きましたわ」

親衛隊B「だってさ、ね?小泉さんも許してもらおうよ。で、もっかいイチからA-RISEのために…」


真姫(あぁ…、花陽にアイドル専攻を受けさせようと説得してるってこと、なのかな)

真姫(だけどわざわざどうしてこんな人気のないところで、花陽囲んで…)



花陽「…も、もうっ…やめてっ!!」



真姫「…っ!?」

花陽「私ぃっ…!!もう、あそこには戻りたくないのっ…」

花陽「だから、ほっといてよ…。イヤ、なのに…ゼッタイに、嫌…」


真姫(な、涙目で震えてる…!?そんなにアイドル専攻の授業が嫌いなの…!?)

真姫(い、一体何があったっていうのよ…!?)



花陽「もう、何度も言ってるのに…、どうして分かってくれないの…!」



真姫「えっ…」

真姫(…何度も?)



親衛隊A「…」

親衛隊A「…アハ、でもさぁ…」

親衛隊B「うんうん、勿体無いって…クスクス…」

親衛隊C「絶対に戻るべき、ですわ…ウフフ」



真姫「…ッ!あ、あいつらっ…!!」



真姫(よく見てなかったけど、あいつらの顔…!)

真姫(笑ってる…!ただの笑顔じゃない…、弱者をいたぶるときの顔…!)

真姫(あの3人…、花陽がアイドル専攻の授業に戻りたくないってこと知ってて…)

真姫(それなのに、気弱な花陽に、善意のフリして戻るよう説得して…からかってる)

真姫(何が、親衛隊よ…!いじめのターゲットにするための隠れ蓑じゃない…!!)


真姫「このっ…!今すぐ止めないと…」

真姫「っ…」




真姫(…でも、ここで私が出ていけば)

真姫(今まで目立たなかったように歌も全力で歌わないよう猫かぶってたのに)

真姫(あんなやつらと敵対したら、一気に目立ってしまう)

真姫(平穏に暮らそうと計画してたのに、歯車が狂ってしまう)

真姫(どうしよう、ここで…見て見ぬふりすれば、私の静穏な日々はこれからも…)



真姫(なんて考えは)

真姫(全く浮かばず)

真姫(気づけば私は)

真姫(花陽の前に割り込み、腹からの大声で、叫んでいた)



真姫「私の友達にぃっ…何してんのよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」

花陽「ま、真姫…ちゃん?」



真姫(砂煙が舞うほどのスライディングを決めて)

真姫(世界新狙えるほどの加速で短距離走して)

真姫(スーパーモデルもびっくりなほど堂々とした、人差し指を前に突き出したポーズで)

真姫(私は、私の友達を守るために、平穏を捨てた)



真姫「あんたたちぃっ…!何、やってんの」


親衛隊A「なっ…、何よ、アンタ…」

親衛隊B「私たちは小泉さんのために…」

親衛隊C「そうですわ!親衛隊でもないあなたにとやかく言われる筋合いは…」


真姫「黙りなさいぃっ!!」


親衛隊ズ「」ビクッ


真姫「花陽のために…?彼女はこんなに震えて、目に涙も溜めてるのよ!?」

真姫「嫌だって言っている子を無理やり誘って、泣かせるのがアナタたちの親切のつもりなのかしら!?」

真姫「だとすれば…とんだ迷惑!いらないおせっかい!余計なお世話ってやつよ!!」


親衛隊B「なん、ですってぇ…!!」

親衛隊A「アンタねぇ…!言わせておけば言いたい放題…!!」

親衛隊C「ナマイキ、ですわ…!」


真姫「…花陽、行きましょう。こんなやつらに構う必要なんてない」

花陽「えっ…、あっ…、でも…」

真姫「こいつらはね、あなたの親衛隊って名目であなたをいじめてた、最低のクズどもよ」

真姫「こんなやつらと付き合ってたら、花陽が汚れちゃうわ」

花陽「真姫ちゃっ…」


親衛隊C「アナタ…!!」

親衛隊A「うちらを怒らせたらどうなるか…!」

親衛隊B「…チッ。行こ。シラケちゃったよ」




花陽「真姫ちゃん…」

真姫「…はぁ。あーあ…、何やってるのかしらね、私…」

真姫「ホント、バカみたい…。明日が休日で助かったわ…。来週からどんな目に遭うか知れたものじゃないけど」

花陽「…」

真姫「…でも、あなたが泣きそうだったんだもの。そんなの…、駆けつけるしかないじゃない」

真姫「友達、なんだから」

花陽「…っ!」

真姫「ホームルームが始まるわ。…放課後、音楽室の前で待ってて」

花陽「う、うん…」

放課後

音楽室前


花陽「…」


真姫「…花陽。待った?」


花陽「あ、真姫ちゃん…」

真姫「さ、入りましょう。こんなところで立ち話もアレだし」

花陽「え、でも、許可は…?」

真姫「いいのいいの。別にピアノ使うわけじゃないし。それに」

真姫「いけないことしてるっていう秘密の共有も、友達には必要なものなのよ」

花陽「そ、そうなのかなぁ…」



音楽室


真姫「よいしょっ…っと、やっぱり私はピアノの椅子が落ち着くわね」

花陽「あ、あの…」

真姫「ん?花陽も座っていいのよ?」

花陽「うんっ…、だけどその前に…!」

花陽「ありがとう、真姫ちゃんっ…!!」

花陽「私っ…、怖くて怖くて…、自分で逃げ出すこともできなくて…」

花陽「あの3人は…、時々ああやって無理やり私を呼び出して…」

花陽「才能が勿体無いとか…歌が上手だから認められるって言われて…アイドル専攻の授業を受けさせようと…」

花陽「でも私…もう行きたくなかった…、二度と、あそこには…。でも、言っても分かってくれなくて、ずっと言われてて…」

花陽「だけど、真姫ちゃんが前に出てきて、私を守ってくれたとき…すごく嬉しくて、びっくりして…でも、ホッとして…」

花陽「でもそのせいでもしかしたら真姫ちゃんにヘンなこと起こっちゃったらご、ゴメンナサイって言いたくて…えーっと…」

真姫「あーもうっ!言いたいことはわかるけど…まとまってなさすぎ!無理に喋ろうとしなくてもいいのよ」

花陽「あ…、うん…。でも、やっぱりもう一回、これだけは言わせて」

花陽「…ありがとう」

真姫「どういたしまして。当然のことをしたまでだとは思ってるけど」

花陽「ふふっ…。真姫ちゃんって、カッコイイね」

真姫「そう?…ふふ、まぁ、そうかもね」

花陽「うふふっ…」

真姫「えと、それでね。わざわざ花陽をこんなところまで連れ出したのは理由があって」

花陽「理由?なに?」

真姫「うん。聞きたいことが…あるの。あなたにとっては辛いことかもしれないんだけど」

花陽「辛いこと…?あ、でもっ…!真姫ちゃんのためなら私、なんでも答えるよ!」

真姫「ありがと。じゃあ、遠慮なく聞かせてもらうけど…」

真姫「…花陽、あなたはどうして…そこまでアイドル専攻の授業を拒むの?」

花陽「…!」

真姫「一度、逃げ出した、とも聞いたわ」

真姫「…もしかしたら、アイドル専攻の授業が、あなたがアイドルを目指すのをやめた理由なのかもしれないって思って」

花陽「うん…、そう、だよ」

真姫「…やっぱり、ね。そんなに…イヤなもの、なの…?アイドル専攻の授業…」

花陽「少なくとも…私にとっては…最悪だった」

花陽「あんなの…私の憧れるアイドルじゃ、ないよ…」

真姫「…じゃあ、聞かせて。アイドル専攻の授業って、どんなのなのか」

真姫「思い出したくもないのかもしれないけど」

花陽「…大丈夫。言うよ…。全部、包み隠さず…」



花陽「私はね、アイドルに…というか、A-RISEに憧れて、この学校に入ったの」

花陽「私もA-RISEみたく…うぅん、A-RISEになりたいって思って」

花陽「でね、A-RISEになるためにはアイドル専攻を通常の授業とは別に取らないといけないって言われて…」

花陽「取っても必ずA-RISEになれるわけじゃない、とか、普通の授業よりしんどいもの、っていうのはわかってた」

花陽「でも、私が想像してるより…その授業は過酷なものだった」

花陽「授業での成績がトップだと認められた人以外は、居残りで追加の練習」

花陽「2番や3番の人でも1時間は残らされるけど…、ダメな人は、夜になっても、身体がボロボロになるまで、喉がカラカラになるまで練習させられる」

花陽「途中で根を上げたり、無断で休憩したりするだけで、即刻授業から追い出されて、大抵はもう受けられなくなるの」

花陽「トップだって喜んで、練習を怠っても…それ以下の人はそれ以上に努力してすぐに抜かされる…」

花陽「でね…トップが一度でも誰かに抜かされると、その日はその人以外のみんなが帰らされるまで、ずっとその人も練習させられるようになるの」

花陽「一度トップに上がれば…、もう二度と落ちることは許されない。落ちれば地獄が待っている…って」

花陽「だけどね…それだけなら、まだ私耐えられた…。アイドルになるため、って考えれば、こんなの全然平気って…そう、思って、努力したんだ」

花陽「でもね…、私以外のみんなは違った…。自分がトップになるためにした行動は自分を磨くことじゃなくて…、他人の邪魔をすることだった」

花陽「心の負担になるようなことしたり、されたり、言ったり、言われたり…。アイドル専攻の子たちはみんな、敵同士なの…」

花陽「いつも一緒に練習していた子がいたんだけどね…、その子、一度歌でトップになったら…」

花陽「それまで話してた他の子たちから無視されて、嫌がらせ受けて…次の日トップから落ちて、ずっと練習させられて…」

花陽「もうその次の日から、アイドルなんて嫌い、って…それまで大好きだったアイドルグッズ、全部、捨てちゃったんだって…」

花陽「…私、そんな風に、なりたくなかった…。大好きなアイドルを、嫌いになってしまうのが怖くて…」

花陽「だから…逃げ出したんだ」

真姫「…っ」


真姫(花陽から聞いた、UTXのアイドル専攻の授業は)

真姫(想像していた以上に壮絶で…、凄まじいものだった)

真姫(だけど、これなら…)

真姫(穂乃果も、凛も、このアイドル専攻を生き抜き、トップに君臨しているのだとしたら)

真姫(性格が一変するのも頷ける)

真姫(常に周囲から命…アイドル生命を狙われている状態で、頂点に立ち続けるなんて、並の精神じゃやっていけるわけがない)

真姫(完璧で有り続けるために、穂乃果は心を凍らし、凛は自分より上なんて存在しないと思うことで、心の平衡を保ってきていたのね)

真姫(…でも、そんなの)

真姫(そんな、在り方…って)



花陽「…私、私ね…」

花陽「アイドル、って…もっと、楽しいものだって思ってたの…」

花陽「きらびやかな衣装を着て、光り輝くステージの上で、みんなに笑顔を届ける、夢に溢れたお仕事だって…」

花陽「そんなアイドルは、きっと練習も、全部全部、夢に溢れてるんだって…そう、思ってた…」

花陽「でも、でもでも…でもね…」

花陽「この学校に…私の夢見たアイドルは…なかった」

花陽「練習に笑顔なんてなくて、いっつも誰かに狙われてるって…危機感と恐怖だけ…」

花陽「やっぱり…、これって、花陽が間違ってるのか、なぁ…?」

花陽「みんなに笑顔を届けるアイドルになるには…」

花陽「みんなを楽しませるアイドルになるには…」

花陽「自分が楽しんじゃ、ダメ、なのかなぁ…?」

花陽「私が夢見たアイドルは…」

花陽「どこにも、いない、のかなぁ…?」



真姫(そうやって、私を見つめつつ)

真姫(今にも壊れてしまいそうな笑顔で)

真姫(とめどなく涙を流し続ける花陽を目の前にして私は)

真姫(ただひたすらに、考えていた)

真姫(そして、ただひたすらに、頭の中で否定した)

真姫(そんなことはない!そんなはずはない!!)

真姫(私のっ…!)

真姫(私が知っている…最高のアイドルってやつは!)

真姫(みんなが楽しくて…みんなが笑顔になれる…!!)

真姫(あなたの夢見た通りの、何一つ間違っていないアイドルなんだ!!って)

真姫(…けれど、私にはそれを伝える術がない)

真姫(この溢れ出る気持ちを、目で見て、耳で聴き、肌で感じた情景を花陽に伝えることは)

真姫(今いかなる技術を使っても、伝えられそうになかった)

真姫(だとするならば私は)

真姫(私は今、何をするべきか)

真姫(私は今、何をしたいのか)

真姫(私のやりたいこと)

真姫(そんなのもう、決まりきっている)




真姫「…ねぇ、花陽」


花陽「ぐずっ…、ん?な、なにかな…真姫ちゃん。まだ聞きたいこと…」


真姫「スクールアイドルって…、A-RISEだけじゃないって知ってるよね?」

花陽「ん?うん、そうだね…。東京にもいくつかあるし…有名なところだと福岡のDreamっていう…」

真姫「そのスクールアイドルたちはね」

真姫「A-RISEよりずっとずっと、恵まれない環境でやっているの」

真姫「全部自分たちで作って、自分たちの考えた練習をしているらしいのよ」

花陽「うん、それで…?」

真姫「つまりね」

真姫「スクールアイドルなんてものは、学校からのバックアップなんて必要ないってこと」

真姫「1から、自分たちだけでなせるものなのよ」

花陽「…真姫、ちゃん…。もしか、して…」

真姫「花陽」



(希「むしろ、真姫ちゃんにしかできないことがあると思うんよ」)



真姫(あなたの言うとおりだった、希)

真姫(これは私にしかできないこと)

真姫(この世界の人間じゃない私にしか、成し得ないことよ)



真姫「なければ、作ればいいのよ」

真姫「貴女の夢見た、貴女のスクールアイドル」

真姫「私は、それをやってのけた人を知ってる」

真姫「だからっ…」



真姫(私は…!)



真姫「新しいスクールアイドルを、このUTXで作りましょう」

真姫「A-RISEを…、いえ、UTXの闇…その元凶を倒し、この学院に笑顔を取り戻すために」







もしライブ! 第一話

おわり

今日はここまでです どうです、長いでしょう
これの10倍以上の量があるのでどうぞよろしくお願いします もう読んだことあるよって人もちょっとだけ変わってたりするのでまた読んでくださると喜びます
真姫ちゃんの設定は最初の西木野☆星空クリニック独自の設定以外はだいたいアニメ時空と同じものと思っていただければ
次回、2話は明日のこの時間くらいを予定しています それではまた次回 ほなな

じゃあ2話やっていきまーす

前回のもしライブ!(声:西木野真姫)


西木野☆星空スターゲイザーに乗って別の世界へとワープしている途中、不慮の事故により時空の狭間へと身をダイブさせちゃった私!

時と空間の中を流されたどり着いた世界、そこは音ノ木坂学院が既に廃校になってしまった世界だったの!



真姫「じゃあ、μ'sはどこ…?」



そしてその世界では、μ'sのみんなはUTX高校へと通っていた!

私の世界とは微妙に変わってしまったμ'sのみんなと遭遇しつつ、さらに私は衝撃の事実を知る!

なんとこの世界のA-RISEにはバックダンサーが存在し、しかもそれが穂乃果、凛、そしてにこちゃんだったということ!



真姫(こんなの、冗談以外のなんだって言うのよ…)



A-RISEという、アイドルを目指すもの達にとっての頂点を目指す中で、次第に荒れ果てていく少女たちの心。

それは穂乃果たちも例外じゃなくって…。

そしてアイドルの在り方の理想と現実の違いに涙する花陽に私が投げかけてしまった言葉…!



真姫「新しいスクールアイドルを、このUTXで作りましょう」

真姫「A-RISEを…、いえ、UTXの闇…その元凶を倒し、この学院に笑顔を取り戻すために」



って!勢いで言っちゃったはいいものの…。

本当にできるの?新しいスクールアイドルを、UTXで、なんて…。

あーもうっ!こうなったら仕方ないわ!やるしかないでしょっ!

翌朝

神田明神


真姫「…」

真姫「…」

真姫「…あー」

真姫「遅いっ!!いつになったらくるのよーっ!!」



~回想~



音楽室


花陽「新しい、スクールアイドル…!?」

真姫「えぇ」

花陽「それって…えと、つまり…A-RISEじゃない、別のスクールアイドルってこと…!?」

真姫「そうよ。別に、一つの学校につき一つしかスクールアイドルを作っちゃいけないなんて決まりはないでしょ?」

真姫「花陽がA-RISEの在り方に幻滅しちゃったなら、それとは違う、希望に満ち溢れたアイドルだって、あっていいはず」

真姫「それを、私たちで結成しよう、ってことよ」

花陽「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!?!?!?!」

真姫「…無理にとは言わないわ。判断はあなたに任せる」

真姫「よく考えて、自分の納得する答えを出してくれて構わないわ」

花陽「う、うぅ…」

真姫「そーれーに。私たちで勝手にやるスクールアイドルだからね」

真姫「A-RISEのように厳しい練習や争いなんかも起こらない平和で楽しいアイドルになれるはずよ」

花陽「ほ、ホント?」

真姫「ただし、限界ギリギリまで練習はしないと、A-RISEに打ち勝つなんてできないわよ」

真姫「やることはしっかりやる。それも忘れないで?」

花陽「う、うぎゅっ…。そう、だよね…。うぅん…」

真姫「…」

真姫「…悩んでるなら、一度体験してみるのはどう?」

花陽「体験?」

真姫「私の考えるアイドルの練習を一度やってみる。それから本当にやるか、考える」

真姫「今ここで決めるのが難しいなら、そうした方が花陽のためでもあると思うの」

花陽「体験、かぁ…。…うん」

花陽「それなら、一度やってみたい、かも。やってみてもいいかな?」

真姫「もちろんよ。じゃあ、早速明日の朝、場所は神田明神で。正確な時間は追って知らせるわ」

真姫「遅刻は、厳禁だからね」

花陽「う…、うんっ!」



~回想おわり~

真姫「…って、言っておいたはずなのに」

真姫「もう30分も遅刻してるじゃなーいっ!バカ…」



「ま、真姫ちゃーんっ…!」



真姫「あ、花陽の声…。もう花陽!遅刻はダメだって…げっ」


花陽「ご、ごめんなさい…!でも緊張して、全然寝られなくて…」


真姫「それはいいけど…、その荷物はなに?」

花陽「え?これ?えっと…、練習のために使ういろんな器具とか…あとは教本がたっぷり…」

真姫「そんなのいらないわよ!」

花陽「ふぇぇぇっ!!?そ、そうなの!?でもアイドル専攻の授業では色んな練習の仕方を教本で…」

真姫「あなたはそのアイドル専攻のやり方が嫌になって逃げ出したんでしょ!どうして今更それに従おうとするのよ!」

花陽「あ、そっか…。えっと、じゃあ何するの?」

真姫「簡単なことよ。今あなたが登ってきた階段、これをひたすらに往復するの!」

花陽「えっ…。そ、そんなことでいいの…?」

真姫「いいのよ。まずは基礎的な体力を身につけることからアイドルというものは始まるの!さぁ、動きやすい服装に着替えたら早速やってみるわよ!」

花陽「うん…」

真姫「返事が小さい!もっと元気よく!アイドルだったら笑顔で!」

花陽「う、うんっ!!」




階段ダッシュ中…




花陽「はぁっ…、はぁっ…!」

真姫「ふっ、ふっ…!さぁ花陽!ラスト5往復!」

花陽「もう、ダメぇ…。足が動かないよぉ…」

真姫「何弱音吐いてるのよ!こんなの初歩の初歩!体力作りには欠かせないことなんだから!」

花陽「でもぉ…」

真姫「でもじゃない!アイドル専攻だったら今のであなた失格なのよ!見捨てられないだけよしと思って、さぁ、立って!ゆっくりでもいいから!」

花陽「う、うんっ…」



花陽「ひぃっ…、ひぃっ…!!」

真姫「いける!いけるわよ花陽!あと数歩!あと数歩歩けばオッケーだから!」

花陽「ふひぃぃっ…、はひぃぃぃぃっ…」

真姫「ファイトーっ!!ラブリーかよちーんっ!!レッツゴー!!」

花陽「ごひゅっ…、くひゅぅぅっ…」

花陽「つ、ついた…。やっと…終わり…。ふへぇぇ…」バタリッ

真姫「あぁっ…。倒れちゃったわ…」

真姫「…思ってたより運動不足みたいね。いつもの花陽と同じ運動量じゃこの子にはちょっと辛いのかも…」

真姫「っと、その前に、水を取りに行きましょう」

花陽「ごくっ…、ごくっ…、ごくっ…」

花陽「ぷはぁっ!はぁっ…、し、死ぬかと思ったよ…」

真姫「でもアイドル専攻の授業はもっと辛いんでしょう?これくらい…」

花陽「う、うん…。でもあっちはこんなに体力をすり減らせることはしなかったなぁ」

花陽「どちらかといえば、精神的に来るような…そんな練習ばっかりしてた」

真姫「精神的に、ねぇ…」

真姫(アイドルといえば体力が資本なのに…なんのつもりでそんな練習を…)


「ふーん…、朝からいなくなってたと思ったら…」


真姫「っ!」ビクッ

希「こんなこと、してたんやねぇ…。真姫ちゃんっ」

真姫「の、希っ!!驚かせないでよっ!う、後ろからいきなり…」

希「えへへー。どっきり大成功!」

花陽「って、生徒会長!?どうしてここに…!」

希「うふふー。元、生徒会長な。いやね、うちここでバイトしてるんよ」

真姫「あぁ…」

真姫(そういえばそうだったわね…。この世界の希も神田明神で巫女さんをやってるのね…)

花陽「え、でも…。学生のバイトは校則で禁じられてるはずじゃ…」

希「だから、こっそり。ね?誰かに言うたら怖い目にあうよ~?」

花陽「ひぃっ!?」

真姫「生徒の規範となるべき生徒会長が校則破ってどうするのよ…。それじゃ今の生徒会長に叱られちゃうんじゃない?」

希「あー…。そうかもね。でもうち…、あの子のこと…好きやないから」

真姫「えっ…」

希「…あぁ!ごめんごめん。正確には…、あの子の考え方が好きじゃない、かな」

希「ルールでガチガチに縛る、なんて…、うちには認められへん考え方やから」

希「逆に言えば向こうも、うちのこと嫌ってると思う。うぅん、絶対に嫌ってるやろうね」

希「生徒会長解任の際も、結構キツい言葉かけられたし…」

真姫「…」

花陽「東條先輩…」

希「でも…、でもうちが生徒会長になったのは…、みんなを…」

真姫「みんなを…?」

希「…っわ!あ、あかんあかん。なんか暗い空気作っちゃったね!まーうちのことはいいやん!」

希「それより真姫ちゃん…。それっ!わしわし!!」

真姫「ひゃんっ!!?い、いきなり何っ!!?」

花陽「ひゃぁぁっ!真姫ちゃんが破廉恥に巻き込まれてるっ!」

真姫「あなたも言い回しが古いわね…」

希「ふんふん…、やっぱり」

真姫「な、何がやっぱりなのよ…。いいからその手を離しなさいよっ」

希「うん。…真姫ちゃん、何かスポーツやってた?」

真姫「え…?」

花陽「真姫ちゃんがスポーツ…?イメージないなぁ…」

希「うちもそんなイメージやねんけど…。筋肉のつき方が普通の子とは全然違うなぁ、って思って」

希「全身にしっかりした筋肉が張ってる。華奢に見えるけどこれは何かスポーツやってる子の身体や」

花陽「確かに、真姫ちゃんさっきの階段ダッシュでも全然疲れてなかったし…」

希「真姫ちゃん、本当に引きこもり?」

真姫「あ…、え、えっと…」


真姫(な、なんでさっきの触診でそこまでわかるのよ…!?一瞬しか触られてないはずなのに…)

真姫(でも…、どう説明しようかしら…。まさかアイドルやってました、なんて言えるわけもないし…)

真姫(引きこもりでもやってそうなスポーツで誤魔化す?でも引きこもりがスポーツやってるとか意味わかんないし…)

真姫(この世界の私でもやってそうなスポーツ、スポーツ…)

真姫(あっ!)


真姫「じ、実はね…」

真姫「学校を休んでいる間、サバゲーに興じていたのよ!」

花陽「さばげー…?鯖を使った遊び…?」

真姫「違うわ!サバイバルゲーム、略してサバゲーよ!」

真姫「木々の生い茂ったフィールドを縦横無尽に駆け回り、銃器で敵を撃つスポーツのこと!」

花陽「銃で人を撃つの!?それって殺人…」

真姫「もちろん、競技用の銃で、よ。弾丸を使ったりはしないわ」

真姫「重い銃器を持ったまま歩きづらい道を神経張り巡らせつつ闘うスポーツだからね。それで体力も自然と身に付いたってわけ!」

花陽「へぇ…」

真姫(この世界の私がFPSに興じていた、ってことで咄嗟に思いついた嘘だけど…。これで納得させられるかしら)

希「ふーん、そうやってんね。なるほど、それなら体力があるのも頷けるね」

真姫「で、でしょー?」

希「それにしても、思ってたよりアクティブな子やってんね真姫ちゃん…。意外やわ」

花陽「うん…。真姫ちゃんが銃撃ってるところなんて想像つかないよ」

真姫「ひ、人は誰しも想像し得ない部分を持っているものよ!」

希「…せやね。あ、じゃあうちはそろそろバイトに戻らんと…」

希「迷惑にならん程度になら、ここの階段や向こうの空いてるところなら使ってもらって構わないって神主さんが言ってたよ」

真姫「そう。良かったわ」

希「神主さん女子高生に弱いからねー。ほな、練習頑張ってなー」

花陽「あ、ありがとうございますっ!」

花陽「生徒会長さん…あ、元だったっけ。優しそうな人だったねー」

真姫「そうね。とても優しいわ。昨日も家に泊めてくれたし」

花陽「えっ!?ま、真姫ちゃんあの人の家に泊まってるの!?」

真姫「う、うん。ちょっと事情があって…」

花陽「じ、じゃああの人のパジャマ姿とかも見てるってことだよね!?え、そ、そんな…!」

真姫「何よ…。そのくらい別にいいでしょ?」

花陽「は、破廉恥すぎるよっ!年頃の女子が同じ部屋で衣食を共にするなんてぇぇぇ…!」

真姫「花陽…?」

花陽「う、うぶっ…!鼻血出そう…」

真姫(…この世界の花陽、かなりウブみたいね…。しかも女子同士で、って…)

真姫「今は、そんなことどうでもいいでしょう!さ、十分に休んだんだから、練習再開するわよ!」

花陽「えぇっ!ま、まだやるの…?もうクタクタ…」

真姫「次はリズム感の練習!手拍子に合わせてステップを踏み続けるだけよ!」

真姫「これならさっきより体力を使う必要もないでしょ?」

花陽「あ…、そうかも」

真姫「ただしっ!一つ条件があるわ」

花陽「条件?」

真姫「笑顔を崩しちゃダメ。アイドルっていうのはステージの上では常に笑顔だからね」

真姫「笑いながら、ずーっとステップ。できる?」

花陽「う、うんっ!さっきよりは楽そう!やってみるね!」

真姫「うん、その意気よ!さ、始めるわよ!」

真姫「ワンツースリーフォー…」パンパンッ


花陽「は、はは…」

真姫「足遅れてきてるっ!」

花陽「ひぇっ…!こ、こうっ…?」

真姫「次は笑顔忘れてる!笑って!」

花陽「ひやぁっ…!!に、にっこり!」

真姫「リズム忘れない!」

花陽「ふ、ふぇっ…!?あだっ!」


ズテーンッ


花陽「いたたた…!足引っ掛けちゃった…」

真姫「全然ダメ。なってないわ」

花陽「ご、ごめんなさい…。意外と難しいんだね…」

真姫「そうよ。簡単そうに見えて難しいものなの。笑顔を崩さないっていうのは」

花陽「うぅ…。やっぱり花陽じゃ無理なのかなぁ…」

真姫「何言ってるのよ。こんなこと、スクールアイドルなら誰だってやってるし、誰だって最初は出来なかったの」

真姫「諦めずに練習したからやれたことなのよ。あなたも、なりたいんでしょう?スクールアイドルに」

花陽「う、うん…」

真姫「だったら続ける!継続こそが力になるの!さぁ、立って!」

花陽「…わ、わかったよ」

真姫「今日は土曜日なんだし、夕方まで続けるわよ!」

花陽「えぇっ!?お、お昼までとかじゃなくて…?」

真姫「当然!休日は毎週このくらいやらないと!」

花陽「う、うぅぅぅ…じゃあ明日も…?」

真姫「もちろんよ!」

花陽「ううぇえええ…」

真姫「…アイドルになりたいんじゃないの?あなたのアイドルへの気持ちはその程度なの?」

花陽「ち、違う、よ…。なりたいけど…」

花陽「…うぅん。が、頑張る…」

真姫「そう、その調子!続き、行くわよ!ワンツースリーフォー…」パンパン…

夕方


花陽「はぁっ…、もう、ダメ…」バタリッ


真姫「…うん、もういいでしょ。お疲れ様、花陽」

花陽「はぁっ…、はぁっ…。疲れたぁ…」

真姫「音程の取り方は文句なしに上手いから…あとはやっぱり体力ね」

真姫「明日も体力作りを重点的に頑張りましょう!」

花陽「ゔっ…!そっかぁ…。明日も、かぁ…」

真姫「そう。ここでめげてちゃ本物のスクールアイドルなんか、どれだけ手を伸ばしたってたどり着けないわ」

花陽「…」

真姫「毎日の継続が大事。忘れないでね」

花陽「…うん」

真姫「…どうしても続けられないって思ったら、諦めてもいいけど」

花陽「諦めっ…う、うぅん!まだ、頑張ってみるよ…」

真姫「そう。じゃ、明日も今日と同じ時間に同じ場所で。それじゃ、また明日」

花陽「ま、また明日…」




真姫(これで花陽がやる気になってくれるといいんだけど…)

真姫(でも反応を見る限りだと…あまりよろしくないのかしら)

真姫(練習量の多さにかなり消耗しちゃってる。やっぱりもう少し抑え目の方が…)

真姫(…いえ。それは彼女に対する甘やかしでしかない)

真姫(まだμ'sが名前すらなかった頃でも、穂乃果たちはそのくらいやっていたのだから)

真姫(A-RISEに負けないくらい強いスクールアイドルになるには、こんなところで躓いてちゃいけない)

真姫(楽しいアイドルを目指しながら、現実は誤魔化しちゃダメ)

真姫(そうよ。穂乃果たちだってこうしてやってきたんだもの。花陽にだってできるはず)

真姫(私も、穂乃果のように…)

希の家


ガチャッ


真姫「ただいま」


希「んー。おかえりー。ご飯作ってるからもう少し待っててなー」

真姫「うん、ありがとう。って、私いつまでも居候してていいのかしら…」

希「気にせんでいいんよー。うちも一人より二人の方が賑やかで楽しいし」

真姫「そういうなら…。じゃあ遠慮なく、くつろがせてもらうわね」

希「自分のお家やと思ってくつろいでなー」



寝室


真姫「ふぅ…」

真姫「…そういえば、私希の家にいる、のよね…」

真姫「あの時はこうして部屋に一人、なんてそうそうなかったけど…」

真姫「なんか、花陽のせいで少し意識しちゃうじゃない…」

真姫「…」ゴクリッ

真姫「希の枕って…希の匂いがするのかしら…」

真姫「ち、ちょっとだけ…ちょっとだけ…!」

真姫「…くんかくんか」

真姫「…すー、はーっ…」


希「いい匂いする?」


真姫「うん仄かにシャンプーの香りがうっわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

希「なにその幽霊見たみたいな反応。心外やわー」

真姫「の、のぞっ…い、いつから…!」

希「真姫ちゃんが枕に顔近づけてるところくらい」

真姫「嗅いでるとこ全部見られてんじゃないのよ!え、えっと…!これは、違うの!私が変態とかそういうんじゃなくて!」

希「んー?別にいいんと違う?うちもよく嗅いでるし」

真姫「えっ」

希「真姫ちゃんの」

真姫「マジ?」

希「うん。汗の匂いとか気にして…」

真姫「…うわぁ」

希「なんで引かれてんのかな。同じことしただけやのに」

真姫「いや、だって汗って…。なんか変態っぽくない?」

希「汗の匂いや発汗量でストレスの有無とかが判断できるからやってるんよ。別にセクシャルな意味はないから」

真姫「あ…そうなの。っていうかそんなのわかるんだ…」

希「色々勉強したからねー…っと。あ、ご飯できたよ。おいで」

真姫「あ、うん。…まぁ、何はともあれなかなか恥ずかしいところを目撃されてしまったのには変わりないのよね…」

食卓


真姫「いただきまーす」

希「いただきます」


真姫「もぐもぐ…、そういえば希、神田明神でバイトしてるみたいだけど」

希「ん?うん、それが?」

真姫「…ごくん。UTX生に見つかるとヤバイんじゃないの?特に生徒会の面々とか…」

希「せやねー。ま、言うても早朝だけのバイトやし。そうそう誰かに見つかることもないよ」

真姫「あー、まぁ、そうね。いつからやってるの?」

希「えーっと…、2年生の秋頃…かな?」

真姫「それってちょうど生徒会長に任命された頃じゃないの…?」

希「せやね。自分から立候補したんよ」

真姫「それなのにいきなり校則破ってバイトって…。どんな神経してんのよ…」

希「んー、まぁ一種の反抗みたいなもんかな?学校に対する?」

真姫「えらく健全な不良ね…」

希「それより、真姫ちゃんの方も…面白そうなことやってるやん?」

真姫「あぁ…、あれ?」

希「そ。アイドルの練習なんでしょ?」

真姫「な、なんで知ってるのよ」

希「真姫ちゃん通る声してるから。境内の方にもよぉ届いてたよ?小泉さんへの激励の声」

真姫「そ、そうなんだ…。って、どうして花陽の苗字まで…」

希「そらうち生徒会長やもの!」

真姫「便利ね、その文句…」

希「でもまぁ…小泉さんも大変やね。いきなり階段ダッシュやなんて」

真姫「そう?アイドルを目指すなら当然だと思うわ」

希「アイドルを目指すなら、か…」

希「…でもね、真姫ちゃん」

真姫「ん?」


希「きっと小泉さんは、今のままやと真姫ちゃんについてこれなくなると思う」

希「アイドルを、諦めてしまうと思う」


真姫「えっ…?」

真姫「ど、どうしてよ…。どうしてそんなこと希にわかるのよ」

希「それは、真姫ちゃんのやり方が少し乱暴やから、かな」

真姫「乱暴な訳ないわ!これで正しいはずよ!」

希「なにを根拠に?」

真姫「それはっ…!その…」

真姫「…こんな感じで成功した知人を、知ってるからよ」

希「そっか…。ならその子はとても強い子、なんやろうね」

真姫「え…」

希「考えてみて、真姫ちゃん」

希「小泉さんは練習してる時、楽しそうやった?」

真姫「それは…」

希「きっと、辛そうやったんと違うかな」

真姫「…それはそうでしょう。練習なんて辛いものよ」

希「そう。辛いものや」

希「普通ならみんな、そこで折れてしまう。辛いことは誰しもやりたくないから」

希「なら、どうして、どうして真姫ちゃんの知人の子は、それで成功出来たんやろう?」

希「辛いことをどうして続けられたか、どうして続けようと思えたか、考えたことある?」

真姫「えっ…。その、それは…」


真姫(穂乃果たちが、練習を続けられた理由…?)

真姫(厳しい海未と、優しいことりがいた、から…?)

真姫(…それもそうかもしれないけど)

真姫(でも本当にそれだけ?…確かにそれは『続けられる理由』にはなるかもしれない)

真姫(だけど自分から『続ける理由』には、ならない…)

真姫(穂乃果が、自らの意思で練習を続けようとしたのは…それは…)


希「それは、目標があったから」

真姫「…あ」

希「しないといけない目標。成し遂げなければならない、はっきりとした指標」

希「それがあれば、どんな辛いことだって人は乗り越えて行ける」

真姫「で、でもっ…!花陽にだってスクールアイドルになるって目標が…」

希「それは目標じゃなくて、夢やよ」

希「まだふわふわして、掴めるかどうかも分かっていない、曖昧なもの」

希「夢だけでも、頑張れる人はいる。でも…頑張れない人だっているんよ」

希「今の小泉さんは、一度夢に破れて、夢を信じられずにいる。そんな子が、もう一度夢にすがって努力をしようとする」

希「それは、酷な話なんじゃ、ないかな」

真姫「…っ!」

希「夢、みたいな遠く果てしないものを求めて走り続けられるほど強い人はひと握りだけ」

希「普通はその度々で目標を見つけて、一休みしながら夢に向かって、ゆっくりと走っていくものよ」

真姫「…だったら、私はどうすれば」

希「それは、真姫ちゃんが考えること。うちにはどうしようもできないこと、やからね」

真姫「…」

シャワールーム


真姫「…」シャー…


真姫(穂乃果たちには、廃校を阻止する、って大きな目標があった)

真姫(そのために、アイドルという手段を用いて、学校を盛り上げようとしたんだ)

真姫(でも、今回は違う)

真姫(何かを成し遂げるためにアイドルになるんじゃなくて…、ただアイドルになるために、頑張ろうとしている…)

真姫(まだ影も形もない、私の言葉だけでしかない、架空のスクールアイドルになるために)

真姫(…考えてみれば、私の世界の花陽も、最初は弱い子だった)

真姫(彼女がμ'sに入れたのは、凛と、私と、そして穂乃果たちからもらった勇気があったから)

真姫(今、花陽の背中を押してあげられるのは、私一人の手、だけ)

真姫(これじゃ、全然足りない…。私の世界の花陽より心に深い傷を負った花陽に、勇気を与えるには、全然…)

真姫(だとすれば…)



寝室


希「それじゃ、電気消すね」

真姫「…うん」


パチッ



真姫(…どうすればいい)

真姫(ただ穂乃果の後をなぞるだけじゃ、花陽に勇気を与えることはできない)

真姫(私は、穂乃果以上のことをしないといけない)

真姫(笑えるくらい無謀で、無茶なミッション)

真姫(あの穂乃果を、私にとって大きな壁の一つである穂乃果を、越える)

真姫(でも、だからこそ)


真姫「…ふふ」

真姫「燃えるじゃない…!」


真姫(今は何も思いつかないけど、でもこんなこと…、そうそう体験できない)

真姫(穂乃果以上の無茶を、この私がやる)

真姫(μ'sのみんなが聞いたら、全力で止めそうなこと、だからこそ)

真姫(さぁ考えなさい、西木野真姫。花陽に勇気を、目標を、そしてもっと大きな、はっきりした夢を与える方法を)

真姫(あなたが今まで勉強してきたのはテストでいい点を取るためじゃない!)

真姫(こういう時に頭をひねり続けるため、なのよ!!)

真姫(考え、考え、考え続け)

真姫(外が明るくなり、小鳥の囀る声が聞こえ始めたころ)

真姫(ようやく私は)



真姫「…これ、よっ…!!」

早朝

神田明神


真姫「…」


花陽「あ、真姫ちゃん…。ごめんなさい、また遅れちゃって…」

真姫「…」

花陽「お、怒ってる…?怒ってるよね…。二度も遅刻するなんて…」

花陽「でも昨日疲れちゃって…、帰ったらすぐ寝ちゃって起きたらこの時間だったから晩ご飯も食べてなくて…」

花陽「あぁ!でも言い訳なんてダメだよね本気でスクールアイドル目指すんならそのくらいの気合入れないと話にならないんだよね…」

真姫「…」

花陽「…真姫ちゃん?」

真姫「…」

真姫「…ぐぅ」

花陽「立ったまま寝てる!?」



真姫「…ごめんなさい、ちょっと訳あって今日寝られなかったの…」

花陽「あ、あんなに練習した後なのに寝てないの…?疲労は大丈夫…?」

真姫「平気。さっきのでだいぶ良くなったわ」

花陽「立ちながら寝るので体調って回復するものなのかな…」

花陽「あ、そうだ…。今日も練習なんだよね…。まずは昨日みたいに階段の往復から?」

真姫「それなんだけど…」

真姫「今日は練習はパス!」

花陽「えっ!?」

真姫「嫌なの?」

花陽「そうじゃなくて…、真姫ちゃん昨日はあんなに練習しないと、って言ってたのに」

花陽「もしかしてやっぱり真姫ちゃんも疲れててぶっ続けで練習は勘弁して欲しい、とか…?」

真姫「そんなことはないわ!ライブ本番数日前なんか追い込みでこれ以上に…」

花陽「え?」

真姫「…なんでもない。とにかく!今日は神田明神で練習はナシ!その代わり…」

花陽「その代わり…?」




花陽「え、えぇぇぇぇっ!!!?」

花陽「な、な、な…!」

花陽「なんでアキバに来てるのぉ~~~!!!?」

秋葉原


花陽「え、えっと…」

真姫「さ、花陽。アキバ観光と行きましょう」

花陽「観光…!?んー…っと…」

花陽「もしかして、ここでトレーニング…!?この溢れかえる人ごみの中を駆け抜けて体力をつける的な…」

真姫「違うわよ…。観光、って言ってるでしょ」

真姫「今日は練習はおやすみ。だから代わりに盛大に秋葉原をエンジョイしましょ」

花陽「い、いいの…?」

真姫「いいの。アイドルには休暇も必要よ」

花陽「はぁ…。でも私…秋葉原は結構通ってるから、今更観光って言われても…」

真姫「そう?ふふ、いいじゃない。きっと花陽もあんまり経験したことないと思うけど」

真姫「友達と二人で、秋葉原なんて」

花陽「あっ…」

真姫「私は秋葉原のこと、あんまり詳しくないから」

真姫「花陽が案内してくれると嬉しいな」

花陽「う、うんっ!す、する!するね!!」

真姫「よかった。乗り気になってくれたみたいね。今日は花陽のどんなマニアックな話にでもついていくわよ」

花陽「ホント!?じ、じゃあね、私ずっと二人で行きたかったところがあってぇ…!」

真姫「うんうん…」



真姫(昨日徹夜で考えた、花陽に勇気と目標を与える作戦)

真姫(うまくいけばいいけど…)



花陽「でそれからそれから~…、あそこでしょ、それにあのお店も~…!むふふふふふふふ…!!」

真姫「あぁ…」



真姫(…私の体力も持ってくれるとありがたいんだけどね)

花陽「まずはねぇ~…、ここ!」

真姫「えっ…」


「「おかえりなさいませ、お嬢様!」」


真姫「ここって…」

花陽「メイドカフェだよ!」

真姫「うん、知ってる…」

真姫(ことりがバイトしてたところじゃない…)

真姫「えっと…、花陽はこういうところに来てみたかったの…?」

花陽「うんうんっ!一人じゃ怖くて行けなかったの!真姫ちゃんと一緒なら少しは安心かなって!!」

真姫(どうしよう、早くも予定と少しズレが)

真姫「…まぁいいわ。花陽のしたいようにしましょ」

花陽「うんっ!」



メイドカフェ店内


真姫「う…」

花陽「うー、どんな感じなのかな?楽しみ~…!」

真姫「…そ、そうね」

花陽「あれ…?真姫ちゃん、ひょっとして…」

真姫「ナ、ナニヨ」

花陽「緊張してる?」

真姫「ぐぅっ…!」


真姫(そういえば知り合いの一人もいないここに来たのは初めてだわ…)

真姫(全く知らない人に…メイド特有のアレやコレやをやられると考えると小っ恥ずかしいものがあるわね…)


真姫「し、してないし!平気よ!」

花陽「へぇ~…、真姫ちゃんでも緊張することってあるんだね」

真姫「あるわ!私をなんだと…、って!だから緊張なんてしてないと…」

花陽「あ、メイドさん来た!ほらほら、大声出してると他のお客さんの迷惑になっちゃうよ?」

真姫「おのれ…」



メイドカフェ店員「それではごゆっくりとお楽しみくださいませ」


真姫「…意外とあっさりだったわね」

花陽「ここのメイドさんはあざとくないって有名だからね。ただメイドさんの格好をしてるだけのカフェに近いかな」

真姫(そういえばことりの時もそんな感じだった気がする)

真姫「…緊張して損したわ」

花陽「ほーら、気にしてないで一緒に食べよ?」

真姫「はいはい…」

真姫「へぇ…、いろいろなアニメや企画とのコラボメニューなんていうのもあるのね…」ペラペラ

花陽「そうそう!有名なお店だから、そういうところとのタイアップも豊富なんだ!」

真姫「ふむふむ…。来たことはあったけど、こういう細かいところまでは気にかけたことなかったわね…」

花陽「え?真姫ちゃん、ここ来たことあるの?」

真姫「あっ…!そ、そうなの。実はね。…サバゲー仲間と一緒に、一度だけ」

花陽「へー!サバゲーやってる人でもこういうところきたりするんだね!今度一緒に話し合いたいなぁ…」

真姫「…えぇ、機会があればね」

花陽「うん!あ、それとね…」

花陽「今日ここに来たのは、一人じゃ来れなかったっていうのもあるんだけど…」

花陽「なんとメイドさんのライブまで見れちゃうんだよ!」

真姫「あぁ…、カラオケ的な?」

花陽「そう!うふふ…、メイドさんのライブ、すごく楽しみ~!」

真姫「そうね…」


真姫(まさかここでもことりが出てくるってことはないと思うけど…UTXはバイト禁止らしいし)


花陽「あ!始まったよ!メイドさんのライブ!」

真姫「どんな人がやってるのかしらね」



謎のメイド「みなさ~ん!!今日は当店にお越しいただき、ありがとうございま~す!」

謎のメイド「さぁて、お楽しみのところ申し訳ありませんが、少々お時間をいただきます!」

謎のメイド「今日も謎のメイドこと、私のワンマンライブが開催されま~す!いえいっ!」

謎のメイド「さぁさぁみなさん!いつものやつ、行きますよ~!せーのっ…」

謎のメイド「みんなのハート、撃ち抜くぞ!」


客ども「「ラブアローシュート!!」」


謎のメイド「ありがとー!ではまず一曲目は~…」



花陽「わぁ…、ちゃんとコールアンドレスポンスまであるんだね。すごいな~…」

真姫「あ、あがぁ…」

花陽「あの人、私たちと同年代くらいかな?誰なんだろう…サングラスしてて素顔はわかんないけど…」

真姫「が、ぉがぁ…」

花陽「…真姫ちゃん?口あんぐりして、どうしたの…?」




真姫(う、海未ィィィッ!!?)

謎のメイド「ヒーメヒメ!!ヒメ!!スキスキダイスキ!ヒメ!!ヒメ!!キラキラリン☆大きくなあれ魔法かけても~…」



真姫(どうして…、どうして海未がメイドカフェに…!?)

真姫(クハッ…、ビックリしてアゴが外れちまったっショ…)

真姫(とか言ってる場合じゃないわ…ていうかバイト禁止はどうなったのよもうUTX生で二人目よバイトしてる生徒…!)

真姫(それより…、あのかなりの引っ込み思案な海未が、まさか自分から人前で歌う、なんて…!しかもコールまでつけて…)

真姫(メイドカフェでバイトしてるのも驚きだけど、そっちのほうが驚天動地よ…)

真姫(この世界に来て一番のびっくりかも…。バックダンサーズ超えたわ…)

真姫(ことりにたしなめられるほどのドジっ娘だったり、脚本専攻だったり…)

真姫(思いのほか海未も、かなり変わっちゃってるみたいね…)

真姫(何はともあれ、ここはとりあえず…)

真姫(こっそり写メっておきましょう。サイレントで)ポチッ


花陽「はわぁぁぁ~…!ひ、ヒメ!ヒメ!」

真姫「ふふ、楽しそうね。花陽」

花陽「うんっ!わ、私こういうの…大好き!みんなで歌って、ダンスして、盛り上がって…」

花陽「それで、明日からまた頑張ろうって気持ちになれる…」

花陽「これが私の大好きなアイドルなの!」

真姫「そう…」

花陽「な、なんて…。あの人はアイドルじゃないけどね…」

花陽「メイドかぁ…。アリかも…?あ、でもバイトはダメなんだっけ…はぁ…」

真姫「…」



謎のメイド「今日はみんなも盛り上がって、私も楽しかったでーす!それでは、また来週、この時間も~…?せーのっ…」

謎のメイド「みんなのハート、撃ち抜くぞ?」



花陽・真姫&客ども「「ラブアローシュートっ!」」



謎のメイド「はいっ!ありがとうございます!!では私は厨房の方へ戻りますので、これで~…」

街道


花陽「うふふふ…、楽しかったぁ~…!」

真姫「私も楽しかったわ」

真姫(海未のあんな姿を見られて)

花陽「真姫ちゃんも?よかったぁ…。退屈じゃないかってちょっと心配だったんだー」

真姫「そんなことないわ。ホントよ?」

花陽「うんっ!ありがと!じゃあ…次はどこ行こうか?」

真姫「花陽の好きなところ。今日は花陽が全部エスコートして。私のことはいいから」

花陽「えっ…、それでいいの?」

真姫「いいのよ。どのみち私秋葉原のことほとんど知らないんだし」

花陽「うーん…、真姫ちゃんがそれでいいなら!じゃあ次に行きたかったのはねぇ…えへへへへ…」

真姫「その緩んだ顔はどうにかしなさいよ…」



とらのあな


真姫「なんで!?」

花陽「にゅふふふふ…!このサークルの新刊が欲しかったの…!」

真姫「ゆ、百合本…」

花陽「…っは!ち、違うの!この人の絵が好きってだけで!あのね、花陽も絵を描くから、それの参考にってだけで!」

花陽「べべべ、別に花陽がそ、そういう百合とかそんなのが好きってわけじゃなくてね!?大体百合なんて破廉恥だよ破廉恥すぎるよ!」

花陽「女の子同士がすきすきだったりちゅーしちゃったり…そんなのよくないこと!だから本当はこの本もダメなんだけど仕方ないの!」

花陽「だって絵がすきだから!好きになっちゃった絵を描く人が偶然百合好きだったってだけで花陽はそういうことに対して一切興味は」

真姫「はいはい…、わかったから…。慌てると一人称自分の名前になるっていうこともよーくね」

花陽「…!そ、そうなの…!?」

真姫「気づいてなかったんだ…。まぁ、私はいいから、好きな本があったら好きなだけ買っちゃいなさい。待ってるわ」

花陽「う、うんっ!ごめんね、こんなの本当は一人でするべきだと思うんだけど最近全然行けてなくて…」

真姫「いいから早くしろっ」

花陽「はい」


真姫「…この世界の花陽は百合好きか…。…趣味が合うわね」

真姫「ここは…」

花陽「うん、ここはねー…」



スクールアイドルショップ前


花陽「ちょっと前にオープンした、スクールアイドル専門のショップなの!」

真姫「うん…。知ってるわ」

花陽「えっ…、やっぱり知ってるんだ。真姫ちゃんなんでも知ってるんだね~」

真姫「なんでもは知らないわ、知ってることだけよ」

真姫(花陽の行動範囲は私の世界の彼女とほとんど変わってないし、花陽が行きたいところに行ったことあるのは必然よね)

花陽「ひょっとして…、前々から思ってたけど、真姫ちゃん結構アイドルに詳しい?」

真姫「えっ…」

花陽「スクールアイドルの練習方法とか知ってたし、自分でスクールアイドルを立ち上げようっていうくらいだから…」

花陽「真姫ちゃんは隠れアイドルファンなのかな、って!」

真姫「あー…、どうかしら。花陽ほど詳しいわけじゃないけど…ま、多少はね」

花陽「へぇぇぇ~…。でも少しはわかる、ってことだよね!?だったら嬉しいなぁ…」

花陽「今までアイドルのこと一緒に語れる友達はいなかったから」

真姫「親衛隊の子達は?あの子達はアイドルのこと好きじゃないの?」

花陽「うーん…。そう、だね…。もちろん大人気のアイドルなら知ってるくらいではあるんだけど…」

花陽「スクールアイドルだったり、少しコアなアイドルグループの話をすると、わからないって言われちゃうなぁ」

真姫「ふーん、意外ね…。A-RISEを抱えるUTXの生徒なら少なからずスクールアイドルに興味があるものだと思ってたけど」

花陽「それは…、もちろん、A-RISEはUTX生全員の憧れであり誇りではあるとは思うけど、必ずしもスクールアイドルに興味がある子ばっかりってわけでもないよ」

花陽「特に歌手専攻の子たちはそう。私たちのクラスじゃ、アイドルの曲は軽いもの、って考えが定着してるかな」

真姫「あー…。確かに、そうかもね」

真姫(私自身、そういうふうに考えていた時期もあったし。歌に本気な子はアイドルにはあまり関心がないのかも)

花陽「…だから!こうやって二人でアイドルショップに来るのは初めてなの!一人なら何度もあったけど!」

花陽「さぁ真姫ちゃん!きっと真姫ちゃんの知らないようなアイドルもいっぱいいるよ!私がオススメしてあげるねぇぇっ!!」グイグイ

真姫「わ、わかったから…、引っ張らないでよーっ!」

スクールアイドルショップ店内


花陽「はわわぁぁぁぁぁぁ~~~…!!」

真姫「こ、これは…」


真姫(前来たときより豪華になってる…)

真姫(μ'sってアイドルグループが存在しないにも関わらず、スクールアイドル文化が以前よりも発展している、ってことよね…)

真姫(確かにA-RISEのダンスパフォーマンスのクオリティは私の世界よりもアップしていた…)

真姫(μ'sの一部がA-RISEに加わったことでただでさえ人気の高いA-RISEがさらに強力なものになって…)

真姫(μ'sという対立分子のいない、一強の存在として栄えたことで、結果的にスクールアイドル全体の人気も上がった、ってこと…、なのかしら)

真姫(…自分で言ってて訳わかんなくなってきたけど、でも何かしら理由がないと私の世界と差がつくことはないでしょうし…)

真姫(となると、この世界のA-RISEはやっぱり想像以上の強敵になってくる、ってわけね…)


花陽「…真姫ちゃーんっ!何コナンくんみたいな顔して考えてるの?」

真姫「えっ…、そんな顔してた?」

花陽「後編のCM前の何か思いつきそうな時の顔っぽかったよ!もー、せっかく来たんだから、今はアイドルグッズに集中だよ!」

真姫「そ、そうね…」

花陽「まず最初はねー…」



花陽「ふぉぉぉぉぉっ!や、やっぱりA-RISEのグッズ、だよねぇ~~…!!」

真姫「うわ…!これ全部…?」

花陽「うんっ!ここからあっちの棚まで、ぜーんぶA-RISEのグッズなんだよ!」

真姫「へぇ…。これってA-RISEは知ってるの?」

花陽「うん。最初は非公式で、同人作品として売ってたって話だけど…」

花陽「ここのお店が有名になってきたあたりでUTX学院が直接公式のグッズを取り扱うように提携を交わしたんだって」

花陽「だからここに売ってるのは全部公式のA-RISEのグッズなの!他のメディアじゃ一切見せないようなA-RISEの表情も見れるんだよーっ!」

花陽「ほらこれ!このDVDはね、A-RISEの三人の水着グラビアの様子を映した、世界でここしか取り扱ってない一枚なんだよ!」

花陽「特典映像に水着でのライブもついてくるし…、ここに来たら絶対にゲットしておきたいグッズの一つだね!」

真姫「へ、へぇ…」

花陽「あとこれ!見て見てこれーっ!!実際にライブの時に使った衣装!こんなのまで飾ってあって…」

花陽「それに、こっち!先着300名限定のチケットに付いてくる特典のメッセージボイスCD!な、なんと恋の告白シチュエーションなセリフも収録されてるとか…!」

花陽「しかも3種類あって、それぞれに一人分のボイスしか入ってなくて、それに直筆のサインまで入ってるからかなりのプレミア価格で手が出せなくて…」

花陽「んーと、で、こっちは初心者にオススメ!A-RISEのピンバッヂにA-RISEのうちわ、A-RISEがデザインした専用のサイリウムまで…」

花陽「あれ、真姫ちゃん?真姫ちゃん、どこいったのー?」



真姫「…花陽には悪いけど、このまま付き合い続けたらこっちの頭がパンクしてしまうわ…」

真姫「彼女の興奮の熱が冷めるまで、ちょっと離れたところにいましょう…」

真姫「ふーん…、こうして見ると、結構な数のスクールアイドルのグッズを取り揃えてるのね…」

真姫「見たことないところのグッズまで…。これは同人作品なんでしょうけど」

真姫(そしてその中に…μ'sがいない、っていうのは、少し新鮮で…少し寂しい光景でもあるわね)

真姫「あっ…。これ…」

真姫「A-RISEのバックダンサーズのグッズ…。これもちゃんとあるのね…」

真姫「当たり前と言えば当たり前、か…。なんせ彼女達は次世代のA-RISE候補でもあるんだもの」

真姫「注目されない訳ないわよね…」


真姫(それにしても…。こうしてダンスしているところの表情だけ見れば…)

真姫(…すごく楽しそう。心の底から笑っているような、笑顔)

真姫(でもそれは違う。凛も、穂乃果も…、本当の意味では笑えていない…)

真姫(辛く厳しい試練を耐え培った、お客さんを喜ばせるための偽りの笑顔なんだ)

真姫(それは、アイドルとしては正しいのかもしれない、けど…。でも…)


真姫「…」

真姫(その笑顔に夢を見た少女たちを、裏切る行為とも、言える…)

真姫(夢なき夢を与える、罪深き笑み…)

真姫(アイドルに憧れ続け、そして今トップアイドルの一端を掴んでいる彼女…)

真姫(このブロマイドに写るにこちゃんも、そんな誰かを傷つける笑顔に…)



「あ、あった…!これを探してたのよねー…」



真姫「…ん?」

真姫(どこかで聞いたことのある声がした、ような…)

真姫(その声は、私の目の前で、棚の下の方のグッズを漁るためにしゃがんでいる…)

真姫(サングラスをかけて、厚いダッフルコートを羽織った…ちんちくりんな少女から発せられていた)



謎のグラサン少女「先週は持ち合わせが無くて買えなかったけど、まだ残っててくれてありがとー…!」

謎のグラサン少女「えっと、じゃあ次は熊本のOTEMO-YANと大阪のTiger-Tのグッズを…」


真姫「にこちゃん?」

謎のグラサン少女「…え」

真姫「矢澤…にこちゃん、よね…?」

謎のグラサン少女「…」

謎のグラサン少女「…ちょっとアンタ!こっちに来なさい!!」グイグイ

真姫「えっ、えぇっ…!?な、何…!?また引っ張られるの私!?」

ショップ裏


にこ「はぁぁ…」


真姫「えっと…、こんなところまで連れて来てなにを…」

にこ「…別に、なにをするつもりでもないんだけどね」

にこ「なんでバレちゃったのかなぁ…。結構な変装しているつもりだったんだけど」

真姫(その変装がワンパターンすぎて逆にわかりやすかったわ)

にこ「あ、えーっと…、ごめんね。こんなところに引っ張ってきちゃって」

にこ「いきなり声をかけられたから、少し驚いちゃって…」

にこ「前にね、変装ナシで歩いてたら大騒ぎになっちゃったことがあったから…」

にこ「念の為に誰もいないところまで連れて来ちゃったってわけ」

真姫「あ、あぁ…。そうなのね」

真姫(やっぱりそこそこに人気なのね)

にこ「あなたもにこを知ってる、ってことは…A-RISEのファン?」

真姫「え、私…?うーん、私は…」

真姫(…どちらかといえば)

真姫「あなたたち、バックダンサーの方が好きよ。特に、にこちゃんが」

にこ「えっ…!?」

真姫(私の世界では仲間だし)

にこ「に、にこたちの、ファンっ…!?それ、ホント…!?」

真姫「えっ…、う、うん。A-RISEはそんなに興味ない、かしら…」

にこ「A-RISEに興味ない…!?のに、にこのファン…!!!!!!?!?」

にこ「う、う、うぅぅ…!!」

真姫「えっ…。ど、どうしたのよ…」

にこ「嬉しいいいぃぃぃぃぃぃっ!!!つまり…私たちだけの固定ファンが、ついに実在したってわけなのよねぇぇっ!!」

真姫「い、今まではそんなことなかったの…?」

にこ「当たり前よっ!みんなA-RISEから知りました、とか、A-RISEの次に応援してます、とか、何か言えばA-RISEが一緒についてきてた…!」

にこ「それでも嬉しかったけど、私たちの方が好きって言ってくれたのはあなたが初めて!いわば私たちのファン第一号と言っても過言じゃないわ!」

にこ「ありがと!ありがとっ!!あなた、名前は?名前はなんていうの?」

真姫「私…?西木野、真姫…」

にこ「真姫…真姫ちゃんね!見ててよね真姫ちゃん!にこ、絶対に来年のA-RISEになってみせるから!」

にこ「真姫ちゃんがにこのファンでいてくれたこと、絶対に後悔させないから!」

真姫「ど、どうも…」


真姫(にこちゃん…。相変わらず熱いわね…)

真姫(でもこれも…、お客さんに合わせるための営業トーク、なのかしら…?)

にこ「う、うぅっ…!ヤバ、涙出そう…」

にこ「…い、いけない!ファンの子の前では常に笑顔!それがアイドル、だものね!」

にこ「そうだわ真姫ちゃん!ここなら誰もいないし…今ならなんだってしてあげられるわよ!」

にこ「サインがいい?それともにっこにっこにーかしら?あ、ダンスの振りの指導だってできちゃうわよ!」

真姫「あ、ありがとう…。じゃあ、えっと…楽譜を入れるファイルのここにサイン、お願いできる…?」

にこ「お安い御用だわ!真姫ちゃん、よね?えっと…えぬあいしーおー…」ササッ


真姫(でも…私にはこの笑顔、ホンキに見える…)

真姫(いつもの…、本当にいつものにこちゃん)

真姫(バカみたいに喜んで、バカみたいに張り切ってる…私のよく知っているにこちゃんにそっくり)

真姫(そんな『バカ』が接頭語につくくらい直情的で、そして、それでいて…)

真姫(アイドルに対しての姿勢は曲げない、不屈の信念を持つ、彼女そのもの…)

真姫(…もしかしたら、彼女は…)


にこ「真姫、ちゃん、へ…っと。はい、これでいいかしら?あ、名前書かないほうがよかった?そのほうが後で売れる…なんて」

真姫「…」

にこ「あっ、じ、冗談よ!もし仮ににこが売れても、サインは売ったらダメだから!ヤフオクに流れてたら泣くわよ!?」

真姫「…ねぇ」

にこ「ん?なに?」

真姫「…にこちゃんは…、どうしてアイドルになろう、って思っているの?」

にこ「えっ…?」

真姫「きっかけ、じゃなくて…、友達から聞いたんだけど、アイドルになるための練習って、とっても辛いって…」

真姫「それなのに…にこちゃんは辛い練習を経験して、それでもまだアイドルを目指している理由が、知りたいな、って思ったの」

にこ「…アイドルを目指す理由、か…。面白いこと、聞くのね」

真姫「こ、答えづらかったら別に…」

にこ「やりたいから」

真姫「え…」

にこ「ずっとやりたかった。子供の頃からの、今も変わらないただ一つの夢」

にこ「どれだけ練習が辛くても、どれだけ他の人に憎まれても、その夢は裏切れない」

にこ「アイドルをやりたいっていう、その夢のためだけで、にこは頑張れるの」

にこ「何があっても、笑顔と夢は忘れない、って決めてるから」

真姫「…」

にこ「えっと、これでいいかしら?いきなりだったからちゃんとした答えになってるかはわかんないけど…」

真姫「…えぇ、大丈夫。ありがとう…答えてくれて」



真姫(ある意味では最も聞きたくて、最も聞きたくなかった答えを、聞かせてくれて…)

スクールアイドルショップ店内


真姫「…」


花陽「あっ!真姫ちゃん!もー、どこ行ってたの?探したんだよ?」

真姫「あ、花陽…。ごめんなさい、少し外の空気を、ね?」

花陽「そう?でも何か言ってくれても良かったのに…」

真姫「ご、ごめんなさい…」

真姫「…あ」


謎のグラサン少女「…」チラッ

謎のグラサン少女「…にこっ」ボソッ


真姫「…」コクリ



(にこ「じゃあとりあえずここまでにして…私はまた店内に戻るから」)

(にこ「にこと鉢合わせても知らないふり、してよね?それじゃ!」)



真姫(にこちゃんは、何も変わっていなかった)

真姫(果てしない戦禍に巻き込まれながらも、自分の在り方を、夢を決して忘れなかった)


(希「夢、みたいな遠く果てしないものを求めて走り続けられるほど強い人はひと握りだけ」)


真姫(夢を目指し努力するひと握りの強い人間…、それがにこちゃん)

真姫(それゆえに彼女は)

真姫(A-RISEを越える上において、凛より、穂乃果より、A-RISEのメンバーの誰よりも、私たちを阻む大きな壁となるかもしれない)

真姫(また、いつか無茶をするハメになりそうで、少し憂鬱)

真姫(だけど…それ以上に、彼女が変わってなかったことが嬉しかった)

真姫(そして今は、いつか迫り来る脅威のことを考えるよりも…)



花陽「…ん?今誰かと挨拶してた?知り合い?」

真姫「いえ、なんでもない。それより花陽」

真姫「勝手にどこか行っちゃってたお詫びに、いっぱいオススメのスクールアイドル、教えてよね」

花陽「あっ…!う、うんっ!!わかった!嫌って言ってもやめないくらい、たっくさんオススメしちゃうね!」



真姫(目の前の彼女に、決意してもらうしかない)

真姫(自分の夢見たアイドルになるための、決意を)

コスプレショップ


花陽「ここはね!アニメやゲームキャラのコスプレを扱っている他にも…」

花陽「全国津々浦々のアイドルの衣装のレプリカも置いてあるんだよ!」

花陽「しかもしかも、それを着て記念撮影だって出来ちゃうの!」

真姫「へー…、スゴいのね。こんな店あったんだ…」

花陽「はわわぁぁ…、いいなぁ…。私もこんな服、着てみたいなぁ…」

真姫「着せてもらえるんでしょ?好きに選べばいいじゃない」

花陽「うん、そうするね。真姫ちゃんはどれがいい?」

真姫「え、なんで私に聞くの…?花陽が着るんだから花陽の好みで…」

花陽「真姫ちゃんも着るんだよ?」

真姫「ええぇっ!!?わ、私も…?」

花陽「うんうんっ!真姫ちゃんならなんでも似合うと思うなぁ!」

真姫「べ、別にいいけど…。心の準備ができないとこういうのって少し抵抗あるっていうか…」

真姫(テンション高まってない時に屋外で衣装に着替えるのはまだ慣れてないわ…)

花陽「私も一緒だから!ほら!これとか…、このちょっと前のA-RISEの衣装もいいんじゃない?」

真姫「…はぁ。仕方ないわね」



店員「はーい、それじゃあ笑ってー!何か好きなポーズがあればご自由に!」



花陽「す、好きなポーズ…!こう!」

真姫「違うわ花陽!腰が甘い!もっと伸ばす!」

花陽「こ、こう…!?」

真姫「いいわ、その調子!準備オッケーです!」


店員「はいそれじゃ撮りますねー…。はい、チーズ…」


パシャッ




花陽「うふふふー…」

真姫「さっきから自分の写真見つめすぎ。ちょっと気持ちわるいわよ」

花陽「だってー…、真姫ちゃんと一緒にアイドルの衣装…!嬉しいんだもん…」

真姫「…そう」

花陽「真姫ちゃんのポーズへの執着というか…厳しさには驚いちゃったけどね」

花陽「ああいうのこだわっちゃうタイプ?」

真姫「そ、それはもちろん…そうよ!いつなんどきでも自分を美しく見せることを忘れてはいけないわ!」

花陽「意識高いんだねぇ」

CDショップ


花陽「ここはねー、昔のアイドルのCDもたくさん売っててー…」

花陽「あっ、このグループとか懐かしいなぁ…。小学生のころよく聴いてたの」

真姫「へぇ…、昔のアイドルのことについては本当に知らないから、こういうのは逆に新鮮ね」

花陽「CDを借りて視聴もできるの。聴いてみてよ!真姫ちゃん絶対に気にいると思う!」

真姫「そうなんだ。じゃあ…聴いてみようかしら」



~♪


真姫「ふんふん…。あー、昔の曲って感じ、するわね」

花陽「なんとなく曲調で年代ってわかっちゃうよねー」

真姫「でもこの感じ…、嫌いじゃないわね」

真姫「こうやって聴いてると、どことなく思い出される過去の思い出…」

真姫「音楽ってこうやって時代を感じさせてくれる、一種のアルバムのようなもの、よね」

花陽「そうだねぇ…。人生を歩んでいれば誰だってその中に自ずと音楽が入ってくる」

花陽「CMソングだったり、街のスピーカーから流れる音だったり…」

花陽「その曲は自分の中の思い出と結ばれて、心の中に保存されて…」

花陽「ずっとずっと未来、ふと何かの拍子にその曲を聴くとその時の情景がぱっと頭の中に蘇る」

花陽「それまではほとんど覚えてなかったことなのに、ちょっと前の出来事かのように一瞬で、鮮明に」

花陽「ふふ、そう考えると不思議だよね、音楽って」

真姫「えぇ。そして…素晴らしいものだと思うわ」

花陽「…うん。きっとこうして、真姫ちゃんと一緒にこの曲を聴いたこの思い出も」

花陽「心の中のアルバムに保存されて、ずっと遠くの未来にまた、開かれるのかな」

真姫「…かも、しれないわね」

真姫(それからも私と花陽は、いろいろなお店へ行った)

真姫(花陽のマニアックな知識が炸裂して、私が少しついていけないところもあったけど)

真姫(それでも、花陽がアイドルを好きだって気持ちは、余すところなく伝わってきた)

真姫(そうして気がつけば、もう日も沈み始めて)

真姫(秋葉原も赤く染まってきた)



街道


花陽「はぁぁ~~~…!今日は楽しかったぁぁ…!」

真姫「そう?ふふ、良かったわ」

花陽「真姫ちゃん、付き合ってくれてありがとう!こんなに楽しい一日は久しぶりだったよ…」

真姫「身体の疲れはすっかり取れちゃった?それとも…また疲れちゃったかしら」

花陽「あぅっ…、そ、そっか…。明日からまた練習、なんだよね…」

真姫「まぁ、そうなるわね」

花陽「…が、頑張ります」

真姫「…」

花陽「じ、じゃあ今日はもう日も暮れてきちゃったことだし、そろそろ帰って…」

真姫「まだよ」

花陽「え?」

真姫「最後に一つ、私が行きたかったところがあるの」

真姫「そこに行きましょう」

花陽「いいけど…どこへ?」

真姫「すぐそこよ」

花陽「ここ、って…」

真姫「うん、思ったより綺麗ね」


真姫(私たちが最後に訪れた場所)

真姫(そこは、名も知らぬビルの屋上)

真姫(夕日に染まる秋葉原が見渡せる場所)

真姫(私も適当な目星を付けて選んだところだったから、どんな風景を見られるかは今までわからなかったけど)

真姫(想像以上に絶景ね)



花陽「…で、こんなところに連れてきて、真姫ちゃんは何がしたいの?」

真姫「うん、まぁ…お話」

花陽「話…?」


真姫(…まぁ、景色なんてどうでもいい)

真姫(彼女と『こういう話』をするなら…)

真姫(きっと夕日の屋上が相応しい)

真姫(ただそう思っただけだから)



真姫「ねぇ、花陽」

花陽「ん…?」

真姫「今日、楽しかった?」

花陽「え…、うん。さっきも言ったでしょ?とっても楽しかったって」

真姫「えぇ、そうよね。花陽はアイドルに関すること、たくさん出来て楽しかったでしょう」

真姫「私も、とても楽しかったわ。花陽の喜びがたくさん伝わってきて」

花陽「うん…?」

真姫「…でも花陽は」

真姫「アイドルには、なりたくない、のよね…?」

花陽「えぇっ…!?」

花陽「ど、どど…どうしてそうなるの!?私…やりたいよ!すごく、アイドル!」

真姫「だけど…、練習嫌そうだったじゃない」

花陽「う、そんなこと…」

真姫「…そんなこと、ない?いえ、そんなことないことないわ」

真姫「花陽は練習を嫌がっているはず。だって疲れるから。厳しいから」

花陽「き、厳しいってことは、ないよ…。真姫ちゃん、花陽が疲れた時にはきちんと休ませてくれるし…」

花陽「でも…」

真姫「でも?でも、何?」

花陽「…っ!え、えと…」

真姫「きっと続きはこう。でも、真姫ちゃんの言うとおり練習しても、アイドルになれるかなんて分からない」

真姫「アイドル専攻より不確かで、先の見えない曖昧な道」

真姫「花陽はそう、思っているんでしょう?」

花陽「…え、う…」

真姫「答えて。イエスか、ノーかで」

花陽「…うん」

真姫「…ありがとう。私もね、昨日気づいたの」

真姫「私一人ができると思っていても仕方がない。ちゃんとあなたにも、アイドルができるって思ってもらわないと意味がない」

真姫「そして私には…そう思わせるだけの、ただ引っ張っていけるだけの力も、度胸もないわ」

花陽「…」

真姫「だから、今日こうして練習やめて、秋葉原に二人で遊びに来たのは」

真姫「あなたに分かってもらいたかった。花陽はアイドルになれる、ってこと」

真姫「あなたの夢見る、アイドルになれるってこと」

花陽「…」

真姫「うん、そもそもアイドルになるなんて簡単なこと」

真姫「勝手に歌って踊って、曲作って歌詞作って衣装作って、ネットにアップすればスクールアイドルを名乗れる」

真姫「…けど、花陽がなりたいのは、違うのよね」

真姫「確固とした意志を持った、輝かしいアイドル」

真姫「あなたが憧れ、夢見て、なりたいと思ったのは…そんなアイドルだったんでしょう?」

花陽「…っ」

真姫(この世界の花陽が憧れたA-RISEには、『頂点を目指す』という意志が)

真姫(私の世界の花陽が憧れたμ'sには、『廃校を阻止する』という意志が)

真姫(それぞれ根幹を成していた。それが”強さ”だった)

真姫(けれど…私の作ろうとしているアイドルにはそれがない。設立してないんだから、あるはずもない)

真姫(一応私にはA-RISEを越える、って目標はあるけど…花陽にはまだそれが実感できない。意志として持つことができない)

真姫(ならば花陽の意思を、彼女の想いを主軸に、アイドルという存在を作り上げる)

真姫(一日過ごして確信した。花陽には、A-RISEにもμ'sにも負けない、確固たる意志があること)

真姫(まだ彼女はそれを自覚していないけど…だったら)

真姫(私が気づかせてあげる。彼女の意志、目標、夢…、そして勇気を!)



真姫「花陽、今日一日秋葉原を過ごして、どう感じた?」

花陽「どう、って…」

真姫「あの街には、あなたの夢見たアイドルで満ち溢れていたかしら?」

花陽「私の夢見た、アイドル…」

花陽「舞台上で楽しそうに歌う、夢に満ちたアイドル…」

花陽「…」

花陽「…うん。いっぱい、いっぱい私の夢見たアイドルが、ここにはあるよ」

花陽「メイドカフェの歌うメイドさんも、ショップで見た色んなアイドルの映像も…」

花陽「一緒に撮ったアイドルのコスプレも、昔のアイドルのCDも…」

花陽「どれも私が夢見る、最高のアイドルだよ!」

真姫「…あなたはそれに憧れ、UTXに入り、アイドルを目指した」

真姫「けれどそこに、あなたの目指したアイドルは、…なかった」

真姫「血の滲むような練習と、憎み合い、争い合うアイドル候補生たち」

真姫「全てが輝かしい夢で作られていると考えていた花陽にとっては、その光景はまさに悪夢だった」

真姫「夢のようなアイドルは外側だけ作られたハリボテ、中身はドロドロの世界」

真姫「あなたはそんな現実を突きつけられて、夢を否定されて…一度は絶望に塗れた」

花陽「…でも、真姫ちゃんは」

真姫「私は、あなたの夢見たアイドルを知っている。全てが夢にあふれた、素晴らしいアイドルを」

花陽「だけどっ!…わかんないよ。花陽には」

花陽「本当に、それがあるのかどうか、なんて…。真姫ちゃんの言葉だけじゃ…」

花陽「信じられないの…。信じようとしても、心のどこかで疑ってしまう」

花陽「一度は信じた夢に、裏切られた、から…」

真姫「私だって、見せてあげたい。でも…今はできない」

真姫「だから…信じて欲しいの」

花陽「でもっ…!」

真姫「私じゃなくていい!…出会ってからたった数日の、他人のことなんて、そう信じられるものじゃないわ」

真姫「だけど…、何年も一緒に連れ添ってきた、自分の夢は、もう一度信じてあげて」

花陽「私の…、夢?」

真姫「あなただって想い続けて来たはずでしょう?輝かしいアイドル」

真姫「それをたった一度、否定されただけで諦めないで」

真姫「誰が否定しようと、自分だけは信じ続けて」

花陽「私…が…」

真姫「それにね、あなたの夢は…決してあなただけのものじゃない」

真姫「この広がる秋葉原の景色。この中にもきっと…あなたと同じ、夢見る女の子がたくさんいる」

真姫「そして、あなたと同じように現実を突きつけられて、絶望していく子だって、いる」

花陽「あ…」

花陽「…私の、友達みたいに…」

真姫「そんな彼女たちに教えてあげるのよ!」

真姫「あなたたちの夢は、偽物なんかじゃないんだって!」

真姫「あなたが私の言葉を信じられなかったように、存在しなければ誰だって何も信じることはできない」

真姫「じゃあ、だったら!私たちが彼女たちの夢の拠り所になるのよ!」

真姫「あなたたちの夢見た、すべてが輝かしいアイドルはここにあるんだって!もう、誰も二度と絶望しないように!」

真姫「私たちが、世界に知らしめるの!」

花陽「そんな、こと…」

真姫「できないかもしれない。…でも!ずっとそれを想い続けるの」

真姫「もう無理かもしれない、って思っても、それを成し遂げるって、絶対やらなくちゃって」

真姫「そう思えばできないことなんて、何一つないの」

真姫「あなたの信じた夢を、みんなの信じた夢を」

真姫「…あなたが、私たちが叶える。それが…」

花陽「真姫ちゃんの作る、アイドル…」

真姫「えぇ」

花陽「もう誰も…アイドルの現実に傷つくことのないような、そんなアイドル…」

花陽「それ、なら…私…」

真姫(…目標は、出来た)

真姫(もう誰も、夢と現実のギャップに苦しまないような)

真姫(誰もが望んだ、理想のアイドルを目指すという、目標)

真姫(けれど彼女にはまだ、そこにたどり着こうと思う意志が、足りない)

真姫(だから、それを私が…示す)

真姫(あなたが何よりも大切に思っているもの、それは――)



真姫「…まだわかんないけどね。理想論よ」

花陽「うん、そう…だね」

真姫「だけど、考えてみて」

真姫「そんな楽しそうにアイドルやっている私たちには、きっとみんなが注目するはずよ」

真姫「心の底から楽しそうに歌い、踊るアイドル」

真姫「人気もうなぎのぼりで、いつかA-RISEを追い抜かそうとするかも」

花陽「さ、流石にそこまでは…」

真姫「…仮に、そうなったとしたら、もう無視はできないわよね」

花陽「…無視?」

真姫「否が応にも、あなたに反応せざるを得ない」

花陽「え…」

真姫「そして、もし私たちがA-RISEを超えれば」

花陽「もし、かして…」

真姫「彼女は、戻ってくるかも知れない」

花陽「真姫ちゃん、なんでっ…!!」




真姫(花陽が何よりも大切に思っているもの)

真姫(それは、友達)

真姫(彼女はこうして友達を、休日をともに過ごせる友人を欲していた)

真姫(私は知っている。彼女には…そんな友人がいたことを)

真姫(いたはずだった、ということを)

真姫(覚えている。あのバックダンサーズを最初に見たとき)

真姫(私は茫然自失ながら、彼女の発した言葉を、聞き逃さなかった)



(花陽「…凛、ちゃん」)



真姫「A-RISEよりも強くなる」

真姫「そうすれば、星空凛を…、取り戻せるわ」

花陽「…っ!!!!」

花陽「どう、して…!」



「ねぇ、凛ちゃん」

「どしたのかよちん?」

「一緒に…UTX高校に入らない?」



「やった!やったよかよちん!お父さんとお母さんからオッケーもらったよ!」

「ホント!?やったぁ!これで同じ学校に通えるね!」

「うんうんっ!離れ離れにならなくていいんだね!」



「入学おめでとう!制服すごく似合ってるよーっ!」

「えへへ、かよちんもっ!あ、かよちん?どこの専攻に入るかってもう決めた?凛はダンサーだにゃ!」

「うん!私は歌が好きだから、歌手専攻かな。…凛ちゃんとは別々のクラスになっちゃうね」

「大丈夫だよ!それ以外はずっと一緒だよ!」



「ねぇねぇ、かよちんなら行けるよー。きっとアイドルになれるよ!ほら、凛も付いてってあげるからさ」

「や、やっぱりいざとなったら緊張してきたよ…。もうちょっと待って…」

「かよちん可愛いんだから楽勝だにゃー!ほーら、勇気出して!」



「…ねぇ、凛ちゃん。私…」

「かよちんかよちーんっ!今日ね、またアイドル専攻で褒められちゃった!」

「え…」

「凛にはダンスの才能あるんだって!UTXでナンバー1かも、なんて言われちゃったよーえへへー…」

「そう、なんだ…」

「このまま一緒に、A-RISE入れるように頑張ろー!おー!」

「…」




「…かよちん。アイドル専攻、逃げ出しちゃったんだって?」

「う、うん…。とっても、辛くて…」

「よく、ないよ。先生に謝ったの?かよちんもうアイドル専攻できなくなっちゃうよ」

「まだ、だけど…。ねぇ、凛ちゃん…、お願い、一緒に…」

「…凛は、先生や先輩の心象悪くしたくないから。ゴメン、かよちんだけで行ってきて」

「ぁ…」



(結局、行けなかった)

(また怒鳴られるのが怖くて、それを想像しただけで震えが止まらなくて)

(私は、アイドル専攻から、本当の意味で逃げ出して)

(それから…)




「あ、おはよう、凛ちゃん…」

「…」

「ねぇ、凛ちゃ…」

「…」

「凛ちゃんっ…!!」

「うるさいなぁっ!!」

「…っ!!」

「もう…近寄らないでよ」

「アイドルから逃げ出した…弱虫の癖に」

「ぅ、え…?」

「凛は…あなたみたいな弱虫じゃない」

「絶対に、A-RISEになるって決めたの」

「…もう関わらないで。あなたみたいな人と関わると、弱くなるって」

「先輩が言ってたから」


「あ、あぁ…」


「じゃあね、さよなら」

「小泉さん」




「ああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」






花陽「凛、ちゃんっ…!!」

真姫「…A-RISEのやり方じゃ、一番になれないってわかれば」

真姫「星空凛は、きっとあなたのもとへ戻ってくる」

真姫「幼馴染なんでしょう?あの子とは」

花陽「…なんで、真姫ちゃんが…?」

真姫「ど、どうでもいいじゃない、そんなこと」

真姫「大切なのは、あの子の心を取り戻すこと」

真姫「あなたが秘めてる最も強い意志は、それのはず」

真姫「でしょう?」

花陽「凛、ちゃんを…、取り、戻す…」

花陽「アイドルで、A-RISEを越えれば…、凛ちゃんは…」

花陽「凛ちゃんはもう一度、花陽と友達になってくれるの、かなぁ…?」

真姫「…分からない。確証はないけど、でも」

真姫「このまま何もしなければ、凛との関係は途切れたまま」

真姫「二度と、仲直りなんてできやしない」

真姫「だったら彼女と同じ場所に立って」

真姫「今の凛の心を支えているものを粉々にへし折るしかない」

真姫「あの高慢な性格を治すには、それくらいしなきゃダメよ」

花陽「…今の凛ちゃんを…、倒す」

花陽「昔の凛ちゃんを、取り戻すため…に…!」

花陽「…だったら」

花陽「だったら私、やるっ…!!」

花陽「アイドルやって、みんなを笑顔にして、みんなに夢を与えて、それで…!」

花陽「凛ちゃんともう一度、友達になるっ!!」

花陽「それで、次こそ…」

花陽「次こそ一緒に、アイドルがしたいのっ!!」

花陽「それが、私のっ…!」


真姫(花陽の、意志…!)

真姫(UTXの闇に染まった、凛を助け出す)

真姫(これが花陽と、そして…私の作るアイドルの、確固たる意志の一つとなる…!)


真姫「…決意は決まったみたいね」

花陽「うん…!私…、頑張るから!」

真姫「えぇ。それで、凛ともう一度友達になったら…」

真姫「今度は凛と二人で、秋葉原に遊びに行きましょう」

真姫「きっとそのほうが何倍も楽しいわよ」

花陽「…うぅん。違うよ」

真姫「え?」

花陽「遊びに行くなら…、3人で。真姫ちゃんも、一緒、だよ」

花陽「そのほうが、何百倍も楽しいから」

真姫「…そうね」

真姫「じゃあ、最後に花陽。背中、こっち向けて」

花陽「え?背中…こう?」

真姫「えいっ」ペタンッ

花陽「な、何…?今なにしたの?」

真姫「私の勇気をあげたの。片手分だけ、ね」

花陽「うん…?」

真姫「もう片手分は、きっと花陽が必要とした時にもらえるわ」

花陽「そうなの?」

真姫「えぇ。おまじない、みたいなものよ」

花陽「…そっか。ありがと、真姫ちゃん。勇気、くれて」

真姫「どういたしまして。じゃ、帰るわよ。もう真っ暗」

花陽「わ、ホントだ…。あ、でも街の灯りが綺麗だね」

真姫「そうね…。今度は3人で、ここの景色を見ましょう」

花陽「…うんっ!」



真姫(そうして私たちは秋葉原を後にした)

真姫(花陽が決意してくれたことで、ついに誕生した、私の作る新しいスクールアイドル)

真姫(最初は勢いで考えたことが、実現してしまうなんてね)

真姫(でも私には、UTXの闇を取り払うという意志が)

真姫(アイドルの闇に涙する少女を、これ以上増やしたくないって意志がある)

真姫(まだまだ乗り越えるべき壁は多いけど…でも)

真姫(まずはただ、今この瞬間を喜びましょう)

真姫(居場所なんかないって思ってた世界で、私にもできることがあるんだってわかったんだから)








もしライブ! 第二話

おわり

二話は短いですがここまで 次回以降はもっと長くなりますがお付き合いください
海未ちゃんのコールがみもりんのそれとは異なりますがそういうものだと思っていてくれれば幸いです
では次回も明日のこの時間に 多分 ほなな

修正部分は誤字脱字や個人的に気になったところとか後のストーリーへの辻褄合わせやら解説不足だったところを付け足したりしてるだけで
ストーリーを大幅に変えたりってことはやってません あと少々削っている部分もあります
初見でも理解はできるつもりで書いているけれどついてこられているか心配だ… とりあえず3話、今日も始めます

前回のもしライブ!(声:小泉花陽)デン


別のクラスで同じ歌手先行の不思議な子、西木野真姫ちゃん。

彼女の前で私の気持ちを伝えたら、なんと…!



花陽「新しい、スクールアイドル…!?」

真姫「えぇ」

真姫「それを、私たちで結成しよう、ってことよ」

花陽「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!?!?!?!」



スクールアイドルに誘われちゃった!

いきなりの誘いは嬉しかったけど、まだ心の準備が出来てない私には決断する勇気がなくて…。

お試しで真姫ちゃん指導のもと、スクールアイドルの練習をやってみたんだけど…。



花陽「う、うぅぅぅ…じゃあ明日も…?」

真姫「もちろんよ!」

花陽「ううぇえええ…」



スクールアイドルになるための具体的な目標。

私が練習に必死になれないのはそれが足りないと見抜いた元生徒会長の東條先輩は真姫ちゃんに進言する。

必死に考え抜いたすえたどり着いた解決策、それは二人で秋葉原に行くことだった!



真姫「あなたたちの夢見た、すべてが輝かしいアイドルはここにあるんだって!もう、誰も二度と絶望しないように!」

真姫「私たちが、世界に知らしめるの!」



みんなの夢見たスクールアイドル、それが現実にあるものだって示す…。それが私の目標となった。

そして、そこまでたどり着けたなら、きっと凛ちゃんも…。

凛ちゃんも戻ってきてくれるよね?

翌日 月曜日

UTX学院 ロッカー前


真姫「…」

真姫「…っよし」

真姫「はぁぁぁっ!!」

ガチャリッ

真姫「…」

真姫「…とりあえず、何もナシ、か…。ふぅ…」


真姫(先週末に花陽親衛隊の3人を敵に回しちゃったからロッカーに虫でも入ってないかと不安だったけど…)

真姫(どうやらそれは回避できたようでなによりだわ。…まだいじめがないと決まったわけじゃないけれどね)




1年E組


ガチャッ

真姫「…っようございまーす…」

真姫(目立たないように小声で挨拶しながら空気のように席に着く)

真姫(…つもりだったのに)


真姫「げっ…!」


花陽「あっ!真姫ちゃーんっ!!おはよー!」


真姫「んなっ…!!」

真姫(何故か花陽が私の席に座ってる!何してんのよあの子!)


花陽「おっはよー!」

真姫「お、おはよ…」

真姫(うぅ…、周りの視線が痛い…。あなた1年生ではそこそこ有名人だって自覚しなさいよ…)

真姫(『あの子、小泉さんだよね…』『西木野さん知り合いなのかな…』みたいな声に耐え切れずいたたまれなくなって私たちは一旦廊下に逃げ出した)



廊下


花陽「…どうしたの?いきなり廊下に連れ出したりなんかして…」

真姫「あなたねぇ…。はぁ…」

真姫「…どうして私の教室が分かったの?」

花陽「ん?あー、それはね」

花陽「ひたすら別の教室の人に訪ねて回ったの!西木野さんってこの教室ですか?って」

花陽「そしたらE組が真姫ちゃんの教室だって分かって、ついでに席も教えてくれたしまだ来てないみたいだから座って待ってようかなって」

真姫「私の席に座る必要はないでしょ…。教室の外で待っててくれたらいいのに…」

真姫(おかげでまた少し目立ってしまった…。この子は時々引っ込み思案なのかそうじゃないのかわからなくなるわね)

真姫「…それで?わざわざ私の教室まで来てなにを伝えたかったの?」

花陽「え…?別に伝えたいこととかは特に…」

真姫「え」

花陽「こうやって朝から真姫ちゃんとお話したかったの。アイドルの話できる友人は貴重でね…えへへ」

花陽「ほら!昨日真姫ちゃんと一緒に買ったお揃いのストラップ!ケータイにつけてきたの!」

真姫「あ、あぁ…そうなのね」

花陽「それでねぇ…ほら!二人でアイドル衣装で撮った写真!財布に貼ってあるんだぁ…」

花陽「むふふ…もうこれ一生の宝物にするね…。でへへへへ…」

真姫(…よっぽど気兼ねなくアイドルの話ができる友人が欲しかったらしい)

真姫(中学生までの彼女にとってそれは星空凛であったわけだから、今のこの子にとっては私が凛の代わりみたいなもの…)

真姫(そりゃここまでデレデレになるのもわからなくはないけどね…)

真姫「…ちょっと恥ずかしいわね…。凛と二人でいるときの花陽ってこんな感じなんだ…」

花陽「ふぇ?何か言った?」

真姫「なんでもない。それより、花陽。ちゃんとスクールアイドルになる決心は固まったのよね?」

花陽「あっ…。…うん。私、やってみたい。どんな結果になるかはわからないけど、でも私の夢見たスクールアイドルが本当に出来るなら…」

花陽「アイドルに絶望しちゃったUTXの人たちだけじゃなくて、日本中のみんなに知ってもらいたいの!」

花陽「あなたの夢見たアイドルは、嘘じゃないんだよって!」

真姫「…えぇ。そのとおりよ」

花陽「だから私…、頑張る!少しくらいしんどくてもめげないから!そ、それに…」

花陽「今なら真姫ちゃんもいるし…ふふ…」

真姫(花陽、あなたのその表情は恋する乙女しかしちゃダメなやつよ。ちょっと怖いからやめて)

真姫(…とは言えず)

真姫「え、えぇ…。一人より二人よね!団結してやっていきましょう!」

花陽「うんっ!ふぁいおー!」

真姫「お、おー…」


キーンコーンカーンコーン…


花陽「あ、チャイム鳴っちゃった。じゃあ私クラス戻るね」

真姫「あっ、その前に…。二人きりで話すためにこうしてわざわざ会うのも非効率だし…」

真姫「トークアプリのIDを交換しておきましょう。これでいつでも会話できるわ」

花陽「あ、そだね!…でも私はこうして二人きりで話すのも…」

真姫「…何か?」

花陽「うぅん!はいこれ私のID…」


真姫「はい、完了っと」

花陽「そろそろ戻らないとホームルーム始まっちゃうよぉ…」

真姫「そうね、それじゃぁ…」


真姫(その時だった)


ゾクゥッ…!!


真姫「…っ!!!?」

真姫(背後から怖気が…!)

真姫(少し気を許したら一瞬で心臓を突かれそうな、そんな冷たさ…!!)

真姫(瞬間的に私は、花陽を庇うように振り向いた)


真姫「…っ!!」バッ

花陽「きゃっ!!な、何…?真姫ちゃ…」


真姫(そこに立っていたのは…)



穂乃果「…」


真姫「ぁ…」

真姫(穂乃果…)


穂乃果「…えっと」

穂乃果「ごめんなさい。声をかけようとは思ったけど、そこまで驚かれると正直ビックリ…」


真姫(今のは、穂乃果…?)

真姫(先ほど感じた冷たさは今はなりを潜めて、何も感じなかった)

真姫「あ…、ご、ごめんなさいこちらこそ…」

穂乃果「あ、うぅん!いいの。急に話しかけようとした私が悪いから」

穂乃果「もうチャイムなってるから教室戻らないとダメだよーってね」

真姫「あ、あぁ…。そうね…。ありがとうござ…」

花陽「きゃぁあぁぁぁっ!!!」

真姫「っい!?!」

真姫(今度は一体何!?)


花陽「ほ、ほ…」

花陽「穂乃果さまぁっ!!!高坂穂乃果さんですよね!!歌手専攻の先輩で現生徒会長の!!」


穂乃果「え、あ…。うん…」

花陽「そして今はA-RISEバックダンサーのセンター!時期A-RISE候補No.1!!」

花陽「こ、こんな一年生の教室の前でお会いできるなんて光栄ですっ!!握手してください!!」

穂乃果「…もうチャイム鳴ってるって言ってるよね?」

花陽「あ…。そ、そうでした…。非常識ですよね…、ルール違反もだし…。ごめんなさい…」

穂乃果「あは…。なんて、いいよ握手ぐらい。これからもよろしくね?」サッ

花陽「…っ!あ、ありがとうございますっ!!」ギュッ


真姫(…ルールを厳しく守る…。彼女の生徒会長演説ではそんなことを言っていたけれど…)

真姫(こうしてファンの子にはちゃんと応えてあげるのね…。いいのかしら)

花陽「真姫ちゃんもしてもらいなよ!握手!面と向かって話せる機会なんてそうそうないんだよ!」

真姫「え、あ、あぁ…。そうなんだ…。じゃあお願いします…」

穂乃果「ふふ、はい、よろしくね」ギュッ

真姫(彼女の手はほんのり暖かく、両手で私の手を包み込むように握手してくれた)

真姫(…もしかしたら彼女も、生徒会長のときはあんなでも、本質はそれほど変わってないのかも…)

穂乃果「…あなた、真姫ちゃん、って言うんだね」

真姫「え…」

穂乃果「そっちの子がそう言ってたでしょ?」

真姫「あ、あぁ…。はい、そうです…。私は西木野真姫。彼女は小泉花陽」

花陽「あっ、花陽といいますっ!これからもファンでいたいと思ってます!」

穂乃果「花陽ちゃん、と…真姫ちゃんね。うん、これからもA-RISE共々、応援よろしくね」

穂乃果「それじゃ、私はこれで」スタスタ

花陽「はいっ!ありがとうございますっ!!」

花陽「…あはぁー…。まさか穂乃果さまに会えるなんて…」

真姫「同じ学校の上級生なんだから簡単に会えるものじゃないの?」

花陽「そ、そんなことないよ!バックダンサーの人たちにもファンはいっぱいいるんだもん!」

花陽「そんな人たちが一斉に会いに行くとパニックになるでしょ!だから原則こっちから会いにいくのは禁止されてるんだ」

真姫「そうなのね…」

花陽「もちろん顔見知りの人がアイドル関係なく話したり、生徒会の件を伝えたりは自由だけど、私たち1年生にはそんな接点はないから…」

花陽「あぁやって話しかけてもらえるのはすごく珍しいんだよ!ホントは握手を求めるのもダメなんだけど…むふふ…レアな体験しちゃったなぁ…。もう手洗わない…!」

真姫「それは汚いからやめなさい。…それにしても、学内でも自由に会うこと禁止、なんてね…」

真姫(やっぱり、A-RISEやその周りに対する憧れ、それに関しては徹底して管理をしている)

真姫(自由に会えるより、ああして偶然話しかけられたりする方が希少性が高くて嬉しくなるものだし)

真姫(近くにいながらも、会えないアイドル、ね…)

花陽「むふふふふ~…」

真姫「…それより花陽。もうとっくにホームルーム始まってるんじゃない?」

花陽「えっ…あぁっ!!ホントだ…!!真姫ちゃんも急いだほうがいいよ!じゃあね!」タッタッタッ…

真姫「はいはい…」





2年教室前 手洗い場


ジャー…


穂乃果「…」ゴシゴシ…

穂乃果「…ふぅ」フキフキ…

穂乃果「…」

穂乃果「西木野真姫ちゃん、か」

穂乃果「…あの子、なんだか少し目障り、かな」

昼休み 食堂


真姫「…」モグモグ

真姫(今日も私は独り寂しく親子丼をつつく)

真姫(お昼休みは花陽は親衛隊に囲まれて私の元へは来られないらしい…)

真姫(今のうちにトークアプリに今日の予定を書き込んでおきましょうか…)

真姫「…」モグモグスマスマ


「ここ、空いてる?」


真姫「…え、あ、どうぞ…あ!」


ことり「ふふ、こんにちは」

真姫「ことり…」

ことり「いつもここで食べてるの?」

真姫「えーっと…、そうね。大体このあたりの席かしら」

ことり「一人で?」

真姫「…友達が少なくて」

ことり「ふぅん…、そうなんだ。言ってくれたら一緒に食べてあげるのに」

真姫「べ、別に…一人でお昼ご飯食べることに抵抗はないからいいわよ」

真姫(寂しいとは思っているけど)

ことり「そっかー、私はちょっと抵抗あるかなー」

真姫「人それぞれでしょ」

ことり「そうね。で、今日は私一人じゃないんだよー」

真姫「えっ…」

ことり「もう少しで来るかも…」


海未「…ことり?いつもの場所ではないんですか?」


ことり「あ!海未ちゃん!」

海未「…誰ですか、その方は…」

ことり「紹介するね。一年生の西木野真姫ちゃん。で、真姫ちゃんは知ってるよね?海未ちゃんです」

真姫「え、えぇ…。どうも、初めまして…」

海未「…なんで知ってるんですか。お互い初対面のはずですよね?」

真姫「ま、まぁ…そうだけど」

ことり「私たちのこといっつも見てたんだってー。変だよねー」

真姫(変とか言われると傷つく…)

真姫(あ、そういえば…海未はあのメイドカフェでバイトをしていたんだっけ…)

真姫(ま、マズ…!思い出しただけで、わ、笑いが…!!)

真姫「ぶっ…ふひゅっ…!!」

海未「…なんで笑ってるんですかこの子」

ことり「ね、変な子でしょー?」

真姫(こうして、私の世界でも奇妙な三人で、共にお昼ご飯を食べることとなった)


真姫「…」モグモグ

ことり「それでねー…」

海未「…もぐもぐ、なるほどぉ…。もぐもぐ…」

ことり「こら!食べ物お口に含みながらしゃべるのダメ!」

海未「…おっと、そうでした。失礼しました…」

真姫「…」モグモグ


真姫(ことりが海未を叱ってる…。食事のマナーに関して…)

真姫(前も見たけどこれは…、何度見ても慣れそうにないわね)


海未「…そ、そんなに見つめないでください。上品でないのは承知してます…」

真姫「えっ、あー…。見つめてたつもりじゃないんだけど」

ことり「ふふ、海未ちゃんこれでも甘えんぼさんだから。こうして注意してあげないとね」

海未「こ、ことりっ!そんなこと言わないでください!!」

真姫「へぇ…。意外ね。もっとしっかりした人だと思ってたわ」

海未「…お恥ずかしい限りです」

ことり「うーん、前まではしっかりした子だったんだけど…。あの日以来ね…」

真姫「あの日…?」

海未「…ことり、その事は」

ことり「あっ…。うん、ごめんね。海未ちゃん…」

真姫「…」

真姫(…やっぱり、この二人にも並々ならぬ事情が見え隠れしている)

真姫(かなり気にはなるけど…、あまり突っ込まないほうがいいかしら。少なくとも、今は)

真姫「…えっと、話変わるけど…。二人は部活とか、してないの?」

海未「…下級生ですよね?」

真姫「あ、ごめんなさい…」

ことり「いいの!お友達なんだから付き合いはフランクに行こう!フランクフルト~」ツンツン

海未「いつ友達に…。って、ほっぺたつんつんするのはやめてください」

海未「っと、部活ですか。私は弓道部に所属しています」

真姫「この学校に弓道部なんてあったんだ…」

海未「えぇ。UTXの室内弓道場は設備も万全ですよ。あなたもどうですか?弓道部」

真姫「わ、私は遠慮しておくわ…。放課後は忙しいし」

海未「…そうですか、残念です」

真姫「ことりは?」

ことり「ん?私もー…放課後は忙しくて。帰宅部、ってわけでもないんだけど」

真姫「…へぇ」

海未「なぜいきなり部活を?西木野さんは無所属なのですか?」

真姫「真姫でいいわ。うん、部活はやってないんだけど…趣味に近いことを少し、放課後にね」

海未「ではどこに入るか決めかねているというわけでもなく…。どうして部活を聞く必要があったのですか」

真姫「い、いいじゃない。話のネタがなかったからよ」

真姫(本当は明確な理由があるのだけど、それを言うわけにもいかない)

ことり「海未ちゃん、察してあげて。真姫ちゃんはコミュ障なんだよ」

真姫「怒るわよ」

ことり「えへへ、冗談だよー」

海未「コミュ障ってなんですか…」

真姫「その冗談が通じてないんだけど」

ことり「コズミックミュータント障子の略だよ」

海未「…意味がわかりません」

真姫「私もわけわかんないわ…」

ことり「渾身のボケなのに…」



真姫(あとは実りのないアホな会話をしつつ親子丼を平らげて)

真姫(やることもなく食堂で3人で駄弁って、無為に時間を消費し、やがて5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った)



海未「それでは、またいずれ」

真姫「えぇ。バイバイ」

ことり「えへへ、友達が増えてよかったね。海未ちゃん」

海未「…はい。そうですね」



真姫(これで、この世界での3人目の友達ができた)

真姫(それが海未だっていうのは、少し可笑しくて、でもとても嬉しかった)

放課後

1年E組


真姫(今日は歌手専攻の授業もあったけど、トークアプリで花陽には授業中私に絡まないように言っておいた)

真姫(花陽は少し不服そうだったけど、これ以上揉め事は起こしたくないし、目立つこともはばかられたし)

真姫(結果あの3人も特に私に何か仕掛けてくるわけでもなく、私はひたすら空気に徹した)

真姫(平穏無事に授業は終了。ついに放課後がやってきた…)

真姫「…さてと、行きますか」

真姫(今日は練習するだけじゃない。もっと大事なことがあるのだから)

真姫(さぁ、花陽との待ち合わせ場所へ行きましょう)



音楽室前


花陽「あ、真姫ちゃん」

真姫「ごめんなさい、待ったかしら」

花陽「うぅん、私も今来たとこ。それで…今日はどうするの?」

真姫「ケータイに予定を送っておいたでしょ。見てないの?」

花陽「み、見たけど…。ホントにやるの…?」

真姫「もちろんよ。これがないと始まらないわ」

真姫「勧誘よ!」


真姫(当たり前ながら、私たち二人ではできることが少なすぎる)

真姫(アイドル活動だけなら二人でもできるけど、歌う歌も着る服もないアイドルというのは寂しすぎるでしょう)

真姫(私の世界の歌をそのまま流用すれば作詞に関しては大丈夫かもしれない、けど…)

真姫(それは根本的な解決にならない。なにより、この世界のアイドルとしての歌でなければ、意味がないのだから)

真姫(だから、作詞係と衣装係を勧誘しに行く。アイドルを一緒にやってもらおうとまでは考えてない)

真姫(もちろん、本人らが良ければ、それ以上のことはないんだけど)

真姫(とりあえずまずは、作詞家から勧誘しに行きましょう)

真姫(都合のいいことに、彼女のいる場所はわかりきっているのだし)



真姫「さ、行くわよ!」

花陽「う、うぅ…。いいのかなぁ…?」

室内弓道場


海未「…」キリキリキリキリ…

海未「…ふっ」シュッ


パシッ


海未「…ふぅ」



弓道部の先輩「…園田さん。いいかしら」

海未「はい、なんでしょう」

弓道部の先輩「お客さんが来てるわよ?」

海未「お客さん…?」



海未「あなたは…」

真姫「久しぶりね」

海未「さっき会ったばかりじゃないですか…。彼女は?」

花陽「ふ、ふぇぇ…」

真姫「…この子は私の同級生の花陽。人見知りなのよ」

海未「花陽…。あぁ、小泉花陽さん」

真姫「知ってるの?」

海未「えぇ。芸能科歌手専攻の方でしょう?結構有名ですよ」

花陽「あ、ありがとうございます…」

真姫「演劇学科の人にまで名前が知れ渡ってるなんて、あなた想像以上に有名人なのね…」

海未「いえ、私の場合は…。…それより、なんでしょうか。用事があってわざわざ呼び出したのでしょう?」

真姫「あぁ、そうなのよ。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」




海未「あ、アイドルっ!!?!?」

真姫「し、シーッ!あんまり大きな声出さないでよ…」

海未「いや…大きな声も出ますよ流石に…。まさか、A-RISEがいるこの学院でスクールアイドルを別に始めるなどと…」

花陽「わ、私もそう思います…」

海未「ですが確かに…、盲点ではありました。A-RISE以外にスクールアイドルをしてはならないという決まりはありませんものね」

真姫「でしょう?ナイスアイデアだと思うわ」

海未「…それで、それを私に伝えてどうするのですか?」

真姫「…私たちのアイドルが歌う曲の作詞をお願いしたいんだけど」

海未「嫌です」

花陽「回答早っ!」

真姫「ど、どうしてよ」

海未「そっくりそのままお返しします!どうして私に頼むのですか!?」

海未「作詞なんて誰でも出来るでしょう!それをなぜ今日出会ったばかりの私に!?」

真姫「あなた、演劇学科で脚本家専攻なんでしょう?キャッチーなフレーズには慣れ親しんでるから…」

海未「それだけの理由で!?り、理解できません…」

花陽「ま、真姫ちゃん…。やっぱりやめようよ…。ほぼ初対面の人なんでしょ…?」

真姫「いえ、私たちには海未が必要なの!海未でなきゃダメなのよ!」


真姫(少なくとも、私たちの世界のアイドル、μ'sと同等かそれ以上の能力を持とうとするなら、海未の作詞能力は必須だ)

真姫(彼女はμ'sの曲の中核を担う存在なのだから。彼女以外を勧誘して同じ結果を出せるとは限らない)

真姫(もしかしたら海未以外でも行けるかもしれないけど…、私はそこまで無謀な挑戦は出来ない)

真姫(短期間で結果を出すなら、転がってる金の卵を拾えばいいのよ!)


真姫「ね、海未ちゃん…、お願ぁい!!」

海未「猫撫で声でお願いされても気持ち悪いだけです」

真姫(くっ、ことり戦法が通じないなんて…。何がいけないの…!?)

海未「どんな頼まれ方をしたところで結果は変わりません。早々にお引き取りください」

花陽「ま、真姫ちゃん…、こう言ってるんだから、帰った方がいいよ…!」

真姫「…わ、私は諦めないわ。仕方ないわね…。こうなったら最終手段に出るしかないわ」

海未「最終手段…?」

花陽「なにそれ…」

真姫「…これだけはあまり使いたくなかったんだけど」

真姫「んんっ…」


真姫「あなたのハート、撃ち抜くぞ?」ボソッ

海未「ラブアローシュートっ!ばぁんっ!!」























花陽「…えっ」

海未「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

真姫(一瞬全ての世界が凍りついたように感じたわ)

真姫(すごいわね、ある意味)


海未「なっ、な、なな…!なぜっ…!!」

花陽「え、あ…、も、もしかして…!!?」

真姫「ふふふ…、ヒーメヒメ?」

海未「ほわわぁぁっ!!!!!」

花陽「う、嘘っ!?この人が…!?」

真姫「…えぇ、そうよ。あのメイドカフェの…」

海未「ストップ!ストーップッ!!!その話はもう少しあっちの方で…!」



海未「ど、どど…どうしてそのことを…!!」

真姫「昨日、行ったのよ。あなたのバイト先。私たち二人でね」

花陽「歌上手でした!すごいですね!」

海未「やめっ…、やめてください!!うわっ、顔熱っ…」

真姫「どうする?このこと…学校に報告してもいいのよ?」

海未「…っ!!?ま、まさか最終手段って…」

花陽「き、脅迫…」

海未「卑怯なっ!」

真姫「頑固なあなたを動かすにはこれしか方法はないわ!卑怯だろうと知ったこっちゃないのよ!」

花陽「…流石に少し引くよ」

海未「ぐ…!…っふは!ですがいくら学校に言ったところで、証拠がなくては…」

真姫「証拠ならあるわ。ほら」サッ

海未「えっ…」

真姫「あなたが歌っている写真よ。サングラスかけてはいるけど見る人が見ればすぐわかるでしょう?」

海未「あ、あの店は撮影禁止ですよっ!!?」

真姫「あ、そのセリフはバイトを認めたということになるわね。ちゃんと録音させてもらったわ」

海未「ぬあぁぁっ!!?!?!」

真姫「さぁ、あなたが作詞に協力してくれればこの場でこの写真とmp3は消去してあげるわ」

海未「ぐ、ぐ、ぐぬぬぬ…!」

花陽「どこかのアメフト部主将さんみたいな手口だね…」

海未「悪魔です…」

真姫「何とでも呼ぶがいいわ。私には消えない名前があるから」

真姫「さ、どうするの!?」

海未「…くっ、いいでしょう。協力しましょう」

真姫「やった!」

花陽「よ、よかったね…」

海未「はぁ…。いつかバイトのしわ寄せが来るとは覚悟してましたが、まさかこんな…」

海未「…すみません。所用ができましたので早退させて頂きます」

弓道部の先輩「いいよ」



海未「早く!早く消してください!!」

真姫「わ、わかったわよ…。はい、これでいいでしょ?」

海未「…確かに。ふぅ…。焦らせないでください」

真姫(希のPCにバックアップを保存しているのは秘密)

花陽「あの…、本当に嫌だったら、その…」

海未「優しいんですね。いえ、大丈夫です。作詞程度でしたら全然」

海未「そもそも脅されるようなことをしている私が悪いのですから、何も文句は言えませんよ」

花陽「そ、そうですか…。それなら…」

真姫「そうよ。海未が全部悪いんだから私たちが気に病む必要なんてないわ」

海未「しかしあなたは許しません。いつか復讐してみせます」

真姫「…おぉ怖。ま、それはさておき次は…」

花陽「まだやるの!?」

真姫「もちろんよ。衣装係がいなかったら私たちドンキで買った安物の服着て踊るハメになるわよ?」

花陽「そ、それはちょっと…学芸会じゃないんだし…」

真姫「でしょう?だから…」


海未「もしかして…ことりを勧誘するつもりですか?」


真姫「…ん?そのつもりだけど」

海未「…」

真姫「何か、問題でもあるの?」

海未「…ことりは、無理です。絶対に協力してくれないでしょう」

花陽「え…?」

真姫「ど、どうしてよ。ことりはあなたほど強情ではないでしょう?お願いしたらきっと…」

海未「そういう問題ではありません!」

真姫「え…」

海未「どうしても、ダメな理由があるのです」

花陽「どうしても、ダメな理由…?」

真姫「それって…?」

海未「彼女は…」




海未「彼女は、A-RISEの服飾を担当しているのですから」

ガチャッ


「…ッツースリーフォーファイシッセブンエイッ…」



ことり「お邪魔しまーす…」

ことり「あ、練習中…。座って待っとこ…」チョコン



「…じゃ、一旦休憩とするわね」

「各自水分補給を済ませて…、あとツバサと英玲奈はグッズ用の写真撮影がこの後あるわ。すぐ着替えること」

「あんじゅは記者の取材ね。ダンサーは適度な休憩ののちにA-RISEが戻るまで自主練習をお願い」



凛「…ごくっ、…ごくっ」

にこ「はぁ、はぁ…!つ、疲れた…!」

凛「あは、矢澤センパーイ、この程度で根を上げてちゃまた下位落ちじゃないですかー?」

にこ「…っ、ッハ。全っ然、楽勝よ…、この程度…!」

凛「へー。どこまで続くんですかねー、その強気。ぷぷぷ…」



穂乃果「んぐっ…、ふぅ…」

ことり「あ、穂乃果ちゃん…」

穂乃果「…どうしたの。何か用?」

ことり「えっと…、今度の衣装のために採寸、しようかなって…」

ことり「ほら、成長期だし、身体のサイズ変わってるかもしれないから」

穂乃果「わかった。早めにお願いね」

ことり「…うん」


ことり「…はい、おしまい」

穂乃果「ありがとう。ちょうどいい休憩になったよ。さてと…」

穂乃果「凛ちゃん、にこちゃん。自主連、再開しよう」

ことり「あ、凛ちゃんとにこちゃんの分も…」

穂乃果「…ごめん、これ以上休憩してられないから」

穂乃果「次の休憩に入るまで南さんはそこで座って待ってて」

ことり「…わかった。待ってるね」

穂乃果「よし!はじめよう!」




ことり「…」スワリッ

ことり「南、さん、か…」

室内弓道場前


真姫「…ことりが、A-RISEの…?」

海未「正確に言えば、A-RISE候補生…、つまりバックダンサーズの衣装を主に担当していますね」

海未「彼女一人で、というわけではありませんが、かと言って別のスクールアイドルを担当していることりが…」

海未「他のスクールアイドルまで担当できるとは思えません。立場的な意味でも」

真姫「立場…。やっぱり、A-RISEはそういうところ厳しいの?」

海未「そう、ですね…。いわゆる、専属ということになりますから」

海未「A-RISE候補生を指導する先輩はとても厳しい方だと聞いているので、それを補佐することりが別のことにかまけてると知れば…」

海未「彼女はことりを許さないでしょうね」

花陽「そ、それって…、担当を下ろされちゃう、ってこと…ですか?」

海未「おそらくそうなります。それに…彼女は自らA-RISE候補生の服飾に立候補した一人ですから」

海未「別のアイドルの担当を兼任するとなると、批難も大きいでしょうね。その先輩がいなくとも、辞めざるを得なくなるかと」

真姫「…やっぱり、この学校はピリピリしてるわね…。そういうところ」

花陽「だけど…、例えば野球部の人が部活休んで他の野球クラブに出席してた、ってなったら怒られちゃうと思うし…」

花陽「普通と言えば、普通なのかな…」

真姫「…」

花陽「や、やっぱり他の人を見つけたほうがいいと思うよ、真姫ちゃん」

花陽「わざわざ…A-RISEを担当してる人を引き抜くなんて、無茶だよ…」

真姫「…ぐっ」

海未「服飾デザイン専攻の生徒はたくさんいます。なんならことりに頼んで誰か紹介してもらいましょう」

海未「それなら文句は…」

真姫「…ダメよ!」

海未「えっ…」

真姫「私は…、私はどうしてもことりがいいの…!」

真姫「とりあえず一回…、一回交渉だけでもさせてもらえないかしら!」

海未「そんな無茶な…」

花陽「どうしてそこまで…?その…ことりさんって人、そんなに大事なの…?」

真姫「…えぇ、すごく大事」

海未「ですが…」

真姫「どうしてもダメ、って本人から言われれば、すっぱり諦めるわ」

真姫「本人の口から、返事を貰いたいの。お願い」

海未「…」

海未「…分かりました。そこまで真剣な目で頼まれては断れません」

真姫「…恩に着るわ」

多目的ホール前


海未「二人はここで待っていてください。ことりを呼んできます」

真姫「私たちは入っちゃダメなの?」

花陽「中でA-RISEやアイドル専攻の人たちが練習してるときは、普通の人は入っちゃダメな決まりなの」

花陽「ここに入れるのは中にいる人に用事がある人か、A-RISEや候補生を担当しているスタッフの人だけなの」

海未「そして今ことりがこの中にいるそうなので、私はその中にいることりに用事がある人、というわけで、中に入れるのです」

真姫「私も用事があるじゃない」

海未「基本的に複数人で入ることは許されていないのです。それに、あなたはまだことりと知り合って日が浅い」

海未「繋がりが薄い人も立ち入りは許可できないそうです」

真姫「なにそれ…」

花陽「あんまり訪問を許しちゃうとファンの人がいっぱい入ってきちゃうかも知れないから、ってことだと思う」

真姫「…やっぱり、厳しいのね。プロのアイドルみたい」

海未「そういうわけなので、少々待っていてください」

真姫「わかったわ。早めにお願いね」



花陽「うぅ…。なんだかドキドキするよ…。どうしてA-RISEの服飾の人なんか…」

真姫「どうしても必要なの。成功するためにはね」

花陽「真姫ちゃんアイドル活動にギリギリすぎる綱渡りしすぎだと思うよ…」

花陽「それに、私あんまりここには近づきたくないんだけどなぁ…」

真姫「なんで…、あ、そっか…。あなたはここから逃げ出したんだったわね」

花陽「うん。だから…」



「…んもー、なによそれぇ…」

「あれ?あなたたち、そこで何してるの?」



花陽「…っ!!」ビクッ

花陽「ごごご!ごめんなさい!!私逃げ出したとかそんなんじゃ!!」

真姫「あ、慌てすぎ…。落ち着いて花陽。別にそういうこといいに来たわけじゃないと思うし…」

真姫「…ん?って、あ!あなた…!!」

真姫「優木、あんじゅ…?」

花陽「えっ!?」

あんじゅ「あ、どうもー。優木あんじゅでーす。ウフ☆」

あんじゅ「って、そうじゃなくって!あなたたち、一般生徒でしょ?そこは立入禁止よ?」

花陽「はわっ、ご、ごめんなさい…!あの、私たち…」

真姫「私たち、友人に友人を呼んできてもらうのを待ってるんです。話したいことがあって」

あんじゅ「話したいこと?」

真姫「服飾担当の人が来ているって聞いたんですけど」

あんじゅ「あー、アイドル専攻の子にじゃないのね。それならいいんじゃない?」

あんじゅ「そんなところでスタンバってるから、出待ちの子かと思っちゃったわ。もう少し離れたところにいた方がいいかもね?」

花陽「は、はい…。あ、それより!な、なんで優木あんじゅ…じゃなかった、優木先輩がこんなところに…?」

真姫「今、中で練習中のはずじゃ…」

あんじゅ「聞いてよー、それがね?なんか雑誌の取材で練習中断したんだけど…」

あんじゅ「まだ到着してないって言うのよ?ホント、スクールアイドルだからって舐めてるわよね」

あんじゅ「スケジュールずらされるの嫌だったから、来てもお断りしておいてって言って戻ってきちゃった」

花陽「ほへぇ…」

真姫「…じゃあ今私たちとこうやって立ち話してるのもダメなんじゃ」

あんじゅ「んー?でもぉ…、取材する時間分スケジュール空いちゃったし、それまでは私の自由だから」

あんじゅ「ちょっとくらい練習サボってても大丈夫かなーって」

花陽「えっ…!練習サボってたら怒られるんじゃないんですか!?」

あんじゅ「そりゃ、バレたら怒られるでしょうけど。バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」

真姫「意外ね…。A-RISEはそういうところ厳しいのかと思ってたわ」

あんじゅ「んふ。私は例外かもね。基本、疲れることはホントはしたくないし」

あんじゅ「こうやって見知らぬ後輩ちゃんと会話するのもリラックスのうちだしねー」

花陽「あ、ありがとうございます…!わ、わぁ…、スゴイ貴重な体験…」

あんじゅ「最近はファンとのふれあいすらろくに許してもらえないのよー?ひどいと思わない?」

あんじゅ「去年まではこんなにガチガチじゃなかったんだけどね」

真姫「そう、なの…?」

あんじゅ「…えぇ。和気あいあい、ってほどではないけど、前はもう少し緩かったの」

あんじゅ「今年に入ってから人気は向上したけど…、少し空気が重くなったのは感じるわね」

真姫「へぇ…」

あんじゅ「これは多分…、彼女が原因なのかしら…」

花陽「彼女?」

あんじゅ「ん?…あー、えっとね、彼女っていうのは…」

ガチャッ


海未「お待たせしました、連れてき…おや?」

ことり「あ、優木さん」


あんじゅ「あは、南ことりちゃんだ。何この子たち、あなたのお友達?」

ことり「え、あ…、はい。真姫ちゃん、と…えっと、小泉さん…?」

あんじゅ「羨ましいなぁ、私も一年生のお友達欲しいー…っと」

あんじゅ「そろそろ戻らないと怒られちゃうかも。それじゃね、また会いましょ」

花陽「あ、ありがとうございました!」

真姫「あっ…」

真姫(…彼女って結局誰よ…)

海未「優木あんじゅと話を…?これはまた珍しい…」

花陽「は、はい、偶然話しかけていただいて…!いやぁ、穂乃果さまに続いてあんじゅさんとも話せるなんて今日は奇跡だよぉっ…!!」

ことり「え…?」

海未「穂乃果と?」

真姫「あっ…。そ、そう。偶然、ホームルーム前に」

海未「…そうですか」

ことり「あっ、それで…、私に話って?」

海未「あぁそうでした!あ、えっと…、無理な話になるとは思うのですが…」

真姫「…この近くで話すのもアレね。少し離れたところに行きましょう」





ことり「…ふ、二人でスクールアイドルを…?」

真姫「別に二人に限定しているわけじゃないわ。もちろんメンバーはどんどん募集中よ。ことりもよかったらどう?」

花陽「ま、真姫ちゃん…、それは流石に無理だよ…」

真姫(私も別に彼女らがアイドルをしてくれるとは思っていない。…穂乃果というきっかけがいないわけだしね)

ことり「それで、海未ちゃんはそのアイドルの曲の作詞を…?」

海未「え、えぇ…。例のメイドの件で、脅されてしまいまして」

ことり「…あぁ」

真姫「脅したなんて人聞きが悪いわ!」

花陽「純然たる脅迫だったと思うなぁ」

ことり「…そして、私を衣装係に…」

海未「その…、ことり」

ことり「…うーん」

花陽「やっぱり…、ダメ、ですよね?」

ことり「うぅーん…」

真姫「ことり、お願い…!」

ことり「うぅぅぅ~~~~~ん…」

ことり「うぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~…ん…」

真姫「いつまで唸ってるのよ!早く決めなさい!」

ことり「んー、とね…。協力してあげたいのは山々なんだけど…」

ことり「でも…、でもなぁ…」

花陽「や、やっぱり嫌ですか…?」

ことり「嫌ってわけじゃないの…。でも…、でも…」

ことり「…うぅん、少し、考えさせて」

真姫「少しってどれくらい!?」

ことり「具体的には決められない…」

真姫「…じゃあ、いつまで」

ことり「こ、今週末までには…」

真姫「わかったわ。今週末までにはお願い」

真姫「お邪魔して悪かったわ。…よろしくね」

ことり「…うん」




真姫「…どうかしらね」

花陽「ことりさん?うーん、すごく悩んでたね…」

真姫「即お断りより全然いいわ。あとは彼女が決めてくれれば…」

海未「…確かに、彼女は迷ってはいますが…うぅん、どうなんでしょう」

真姫「なによ。まだことりはやめておいたほうがいいって言うの?本人だって満更でもない感じだったじゃない」

真姫「もう少し揺さぶってあげればきっとすぐ陥落してくれるわ…!ドゥフフフ…」

花陽「真姫ちゃん…、もう悪役の顔だよそれ…」

海未「…しかし、それでは…」

海未「うーん…」

花陽「あれ…、今度は海未さんが唸っちゃった…」

真姫「どうしたのよ。まるで海未はことりが私たちの衣装を担当するのが嫌みたいじゃない」

海未「…そうかも、しれません…」

花陽「えっ…ど、どうして…?」

海未「事情を話せば長くなりますが…、それでもよければ」

真姫「…聞かせて」

音楽室


真姫「入って」

花陽「もう真姫ちゃんのお家みたいになってるね…」

海未「ここは申請がなければ使ってはいけないはずでは…」

真姫「立ち話するだけよ。うるさくしたりピアノかき鳴らしたりするわけじゃないんだし、いいじゃない」

真姫「よいしょっと」スワリッ

花陽「立ち話といいつつ座ってるし…。あ、私も座ろ」スワリッ

真姫「…それで?あなたがことりを衣装係にさせたくない事情って、なんなの」

海未「…」

海未「現在A-RISEのバックダンサーである高坂穂乃果、知っていますよね」

花陽「う、うん…。今日の朝話した、ってさっき言いましたよね」

海未「彼女は、元々私と、そしてことりの幼馴染でした」

海未「まだ年端も行かぬ幼い頃に出会い、それから小学校、中学校と、3人が離れ離れになることはありませんでした」

花陽「へぇ…、仲良しなんですね…」

真姫「…そして、予定調和のように3人は同じ高校へと通うこととなったわけだけど、それから?」

海未「UTXに入り、3人はそれぞれ別の道を歩み始めました。…といっても、単なる学科の違いなのですが」

海未「私は演劇学科を、ことりはデザイン学科を、穂乃果は芸能科を選択し、各々が違う教科を学びました」

海未「ただそれだけのことです。それ以外の時間は共に過ごし、クラスが別々でも休み時間ごとに遊びに行ったりしました」

海未「ただ、それだけ、のはずが…学科が違う、それだけのことで…、私たちは結果的に、バラバラになってしまったのです」

花陽「え、バラバラ…?」

海未「私は、去年の冬頃から、穂乃果と…」

海未「…一度も話したことがありません」

花陽「えっ…!?」

真姫「…っ」

海未「口論で、喧嘩別れをしてしまったのです」

海未「それ以来、穂乃果からは顔を見合わせても見ないふりをされ…私は…」

海未「…うぅっ…!うぐぅっ…!!」

花陽「え、えぇっ!!?ど、どうしたんですか?何か…」

海未「…いえ、平気です。すみません」

海未「話の続きをしましょう。…私と穂乃果が喧嘩別れをしたとき、ことりは仲裁に入ってくれました」

海未「穂乃果の怒りの矛先がことりに向かうこともしばしばありました。それでもことりは穂乃果を宥めるのを止めることはありませんでした」

海未「その頃から、ことりと穂乃果の仲も、…私ほどではないにせよ、相当険悪なものになってしまいました」

海未「次第に穂乃果との会話も少なくなり、このままではいけない、と思った、それから」

海未「…ことりは自ら、A-RISE候補生の服飾を申し出たのです」

海未「失ってしまいそうだった、穂乃果とのつながりを無くさないために」

真姫「…」

海未「私が、ことりを衣装係にするのが嫌な訳は」

海未「…私と穂乃果の喧嘩に巻き込んでしまった挙句、失いそうになっている穂乃果とのつながりを…」

海未「もうこれ以上、ことりには失って欲しくないから、なのです」

海未「別のアイドルの衣装を担当するとなれば、きっとことりはA-RISEの服飾からは外されてしまうでしょう」

海未「そうなれば、…おそらくもう二度と、穂乃果と会話することは叶わなくなってしまう」

海未「幼い頃から築き上げてきた絆が、完全に途切れてしまう」

海未「それだけは…、避けたかったのです。ことりのためだけではなく、私自身のためにも」

真姫「…なるほどね」

花陽「海未さんやことりさんも、大切な友達と決別しちゃったんですね…」

花陽「だったらその気持ち、わかります。私も、そうだから…」

花陽「もし少しでも凛ちゃんと繋がってれば、そのつながりを完全に消すようなことは…あんまりしたくないと思うから」

真姫「つながり、ね…」


真姫(完全に分かれてしまった、花陽や海未とは違い)

真姫(ことりは、まだ大切な人と、繋がっている状態だった)

真姫(今のそのつながりが、どれほどのものかは私には分からない)

真姫(…けれど、それを断ち切る選択を迫るのは…)

真姫(私にも、残酷に思えた)

真姫(たとえどれだけ細い糸で結ばれていたのだとしても、その可能性を潰すことの辛さは)

真姫(それを信じていたいという思いを摘むことの辛さは、痛いほど理解できた)

真姫(…理解できてしまった)

真姫「…」

海未「わかって、いただけましたか」

海未「ことりを、穂乃果の元から離れさせたくないんです」

海未「…お願いします。こればかりは」

花陽「…真姫ちゃん」

花陽「やっぱり、別の人にお願いしよう」

真姫「…」

花陽「真姫ちゃんっ!」

真姫「…まだ、よ」

海未「なっ…」

花陽「なんで!今のでわからなかったの!?」

花陽「穂乃果さんはことりさんの大切な人、なんだよ…!?その仲を引き裂こうとしてるのに…」

真姫「ことりは…っ!ことりは迷っていた!」

真姫「本当に穂乃果との仲を…、今の状態を良しと思うなら、即決してもいいはずよ!」

花陽「あっ…そ、そっか…」

真姫「…けれど、ことりは…。それをしなかった。決断を先延ばしにしたのよ」

海未「それは…」

真姫「つまりことりは…、完全に今のままでいいとは、思っていないはず」

真姫「葛藤しているのよ。自分がどうするべきなのかを」

真姫「…でも」


真姫(辛さを理解できてしまったゆえに)

真姫(ことりが葛藤に苦しんでいるのだろうということも想像できてしまう)

真姫(今の状態でいるか、それとも…、つながりを断ち切る選択をするか)

真姫(彼女にとっては、おそらくどちらも捨てがたいもの、なのかもしれない)

真姫(…だとするなら)


真姫「…」

花陽「ま、真姫ちゃん…。どうするの?これから」

真姫「私は…」

真姫「…まだことりを諦めたわけじゃない」

海未「そう、ですか…」

花陽「って、ことは…、さっき言ってたみたいに、何か説得するの?」

真姫「いえ。違うわ」

真姫「こればかりは、私にはどうすることもできない」

真姫「彼女のこれからを決定づける選択を揺さぶるような真似はしたくない」

真姫「…だから、今週末」

真姫「彼女の決めた選択に従おうと思うの」

真姫「今度こそ本当にダメなら、私は諦めるわ」

海未「ことりがどちらを選ぶのか…それに委ねるというのですか」

真姫「えぇ、それでいいでしょう?」

真姫「これなら、あなたが口を出す権利もないわ。彼女自身の選択なんだから」

海未「…分かりました。私もそれに従います」

海未「結果、穂乃果との絆が潰えてしまっても…文句は言えないでしょう」

海未「もうすでに、風前の灯火以下の状態なのですしね」

花陽「…うぅ、聞いてるだけで辛いね…」

真姫「今になっては、選択を突きつけたのも少し後悔してきちゃったけど」

真姫「でも私にも譲れないものがあるから。それにはことりが必要なの」

真姫「彼女に可能性を提示するくらいは、やっても許されるはずよ」

海未「…それでもいいですが、彼女の心労も理解してあげてくださいね」

真姫「わかってる…つもりよ」

海未「…」

真姫「…」

花陽「…な」

花陽「なんか重い空気になっちゃったね…」

真姫「…そうね。んんっ…!」

真姫「よしっ!とりあえず今はことりのことは置いておいて…私たちは私たちの出来ることをしましょう!」

真姫「さぁ花陽!練習と行くわよ!」

花陽「えっ!もう結構な時間だよ!?今から!?」

真姫「そう今から!少しでも体力をつけるために階段アタックよ!」

花陽「お、おぉ…」

海未「それで、私はどうすればいいのですか?帰ってもいいんですか?」

真姫「ふふ…、そうはいかないわ!もう私たちの曲を考えているのだから!」

真姫「海未には花陽が階段アタックでひーこら言ってる隣で私と一緒に曲のことで話し合ってもらうんだからね!」

海未「わ、分かりました…。はぁ…、今になって思えばなんてことを引き受けてしまったのでしょう」

真姫「ふふふ…、バイトをバラされるより数倍いいでしょう?文句言わない」

真姫「じゃ、いつもどおり神田明神へレッツゴー!」

多目的ホール内


「それでは今日の練習は終わり。A-RISEは早く帰って十分な休憩を取ること」

「それと、…矢澤さん。今日は息切れが多かったわね?」


にこ「…っ。そ、そんなこと…」


「普通ならそうかもしれないけど、あなたは次期A-RISE候補であり、多くの衆目に晒されるバックダンサーでもあるのよ」

「多少の乱れも許されないわ。今日は居残りで持久力をつけるための特訓ね」


にこ「う、うぐっ…!!」

凛「あはははー!やっぱり怒られてる怒られてるー!」

にこ「へ、なによ…!このくらいへっちゃらよ…!!やってやるわ…!」

凛「ふふーん、そう?ま、がんばってねー。じゃ、凛はこれでー」


ことり「あ、凛ちゃん待って。まだ凛ちゃんだけ採寸終わってないから、それだけ」

凛「あ、南先輩いたんですか。採寸?前と変わってないと思うからダイジョーブにゃー!」

ことり「えっ…」

凛「それより早くおうち帰りたーい!じゃねっ!」タッタカター

ことり「あ…、行っちゃった…」


穂乃果「凛ちゃんはワガママだなぁ…。ごめんね、迷惑かけちゃって」


ことり「…ううん。いいの。穂乃果ちゃんもにこちゃんも、前とそんなに変わってなかったから、多分凛ちゃんも平気、かな」

穂乃果「そう。じゃ、私帰るね」

ことり「あっ!待っ…」

穂乃果「…ん?どうかした?」

ことり「え、えっと…」

穂乃果「どうしたの?早く言ってよ」

ことり「その…」

ことり「…私も、一緒に帰っていいかな?」

UTX学院改札前


ことり(少し無謀かも、と思えた私の提案は)

ことり(驚く程あっさりと、了承を得てしまいました)


ことり「…なんか、ドキドキしてる」


ことり(こうして2人で下校するのは、何日ぶりかな?)

ことり(あの日以来…、海未ちゃんと穂乃果ちゃんがケンカしちゃった日から?)

ことり(…うぅん、多分、もっともっと前から)

ことり(なぜなら、私が思い出せる下校風景は)

ことり(いつも3人で帰っていたものばかりだったからです)


ことり「…3人で」


ことり(あの頃は当然だと思ってたことが)

ことり(今じゃとても貴重なものになってしまいました)

ことり(でも、人生ってそんなもの?)

ことり(いつまでも変わらないものなんてない、いつかはみんな、別々の道を歩むものなのかな)

ことり(だとしたら、この胸の中で疼いている)

ことり(あの頃を取り戻したいと思う気持ちは、少し贅沢なものなんでしょうか)


ことり「…まだかな、穂乃果ちゃん」


ことり(穂乃果ちゃんは生徒会長だから、アイドルのことばかりじゃいられない)

ことり(少し生徒会に寄ってからになるけど、それでもいい?と言われました)

ことり(だから私は、こうやって学校玄関の前で穂乃果ちゃんを待っているわけです)

ことり(そんなことを頭の中の自分に説明していたら…)



ことり「あ…、ほ、穂乃果ちゃんっ」


穂乃果「…待っててくれたんだ」

テクテク…


穂乃果「ゴメン、少し生徒会の仕事を片付けてて」

ことり「うぅん、お仕事だもんね。仕方ないよ」

穂乃果「ありがと…」


テクテク…


ことり「…大変でしょ?生徒会長とアイドルなんて」

穂乃果「うぅん、平気。私のやりたいことだから」

穂乃果「甘えたことは、言ってられないよ」

ことり「…そっか」


テクテク…


ことり(もっと喋りながら、楽しく帰りたいのに)

ことり(あの頃出来ていたことが、今は何故か出来ませんでした)

ことり(何かを口に出そうと思っても、穂乃果ちゃんの方を向いたら)

ことり(どうしてもそれが口に出せなくて)

ことり(いつも笑ってた穂乃果ちゃんは、今は全然笑ってくれません)

ことり(穂乃果ちゃんが笑うのは、ダンスを踊っている時と、ファンの子と喋るときだけ)

ことり(それ以外はずっと、どこか遠くを見据えている目をして、口はずっとまっすぐで)

ことり(もしかしたら、穂乃果ちゃんは…)


ことり「…ね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「何?」

ことり「穂乃果ちゃんは…、こうして私と一緒にいて、楽しい?」

穂乃果「…なんで?」

ことり「えっ…、いや、その…」

穂乃果「…そういう変なこと聞いてこなければ、まだ楽しかったかな」

ことり「…ごめん、なさい」

穂乃果「謝るなら、言わなければいいのに」

ことり「…」

穂乃果「なんて、ごめん。言いすぎかな」

穂乃果「ホントはね、楽しいよ。すごく」

ことり「えっ…」

穂乃果「あれからずっと、一人で帰ってたから」

穂乃果「またこうしてことりちゃんと並んで帰れるのは、なんだか懐かしくて、楽しい」

ことり「…っ!」

ことり(その時、私は)


穂乃果「…どうしたの?ことりちゃん」

ことり「う、うぅん…。なんでも、ないの…」


ことり(その時、私は)

ことり(私と帰るのが、楽しいと穂乃果ちゃんに言われるより)

ことり(もう一度私のことを、南さんじゃなくて、ことりちゃんと呼んでくれたことに)

ことり(これ以上なく、救われた感じがして)

ことり(同時に、自分がとても嫌になってしまって)

ことり(それだけで、幸福感を感じている自分が)

ことり(当たり前以下で、満足してしまいそうな自分が)

ことり(今を受け入れて、前に進もうとしない自分が)

ことり(嫌で、嫌で、堪らなくて)

ことり(私は前に進むために、一緒に帰ろうって、言ったはずなのに)

ことり(穂乃果ちゃんにとって、私は存在しているのだ、と感じただけで)

ことり(『存在しない誰か』と比べて、とても嬉しくなってしまって)

ことり(そんな自分に、痛いビンタを与えたくなって)

ことり(その結果、立ち止まってしまって)

ことり(穂乃果ちゃんに心配されてしまった、私なのでした)


ことり「えへ…、わ、私もこうやって穂乃果ちゃんと一緒に帰るの、楽しいよ」

穂乃果「そっか。よかった」

ことり「うん。あ、穂むら、寄って帰っていいかな?」

穂乃果「いいよ。きっとお母さんも喜ぶと思う」

ことり「うん。…うん」



ことり(一瞬、何かを提案しかけて)

ことり(それがどんなものか、自分で理解する暇もないほどに、その提案をなかったことにして)

ことり(そんな自分も、大嫌いだった)

ことり(こうして穂乃果ちゃんと一緒にいられる今が、最高にいいものだって決めつけて)

ことり(変えようと思っても変えられない、そんな私)

ことり(あぁ、私はどうしたらいいのでしょう)

ことり(また立ち止まって、今度は後ろを振り返る)

ことり(今私たちが出てきた、UTX学院。結構歩いたと思ったのに、まだ大きく見える)

ことり(1年と、ちょっと前の春。あの時も、これと同じ景色をみて)

ことり(なのに、今では何もかもが違ってしまった)

ことり(だったら私は、あぁ、どうすればいいの?)

ことり(そんな風に、悲劇のヒロインを気取る私)

ことり(虫酸が走るほど、嫌いだった)



希の家



ガチャッ

真姫「ただいまー」


希「んー、おかえり。今日も遅くまでご苦労さま」

真姫「いえいえ、このくらいどうってことないわ」

真姫「でももうお腹ペコペコ。今日のご飯なに?」

希「んとね、今日は…」

希「…って、真姫ちゃんも同居生活にえらく慣れてきたね」

真姫「もう一週間近くになるからね…。そろそろ申し訳ない気持ちも薄れてきてしまったわ」

希「うふ。なんならこのまま卒業までここ使ってくれてもいいんよ?」

真姫「いやそれは…」

真姫(…流石にあと2年半もこの世界に居着くわけにはいかないし)

希「なんて、冗談やよ」

真姫「そりゃ、何年もここにいられたら希も迷惑でしょ?」

希「んー、いるだけなら、うちはいつでも大歓迎なんやけどー…」

希「でもちゃんと、いつかは家に戻らないと、ね」

真姫「…」

希「あ、今すぐ、ってわけじゃなくてもいいから、落ち着いたら…」

真姫「わ、わかってるわよ。いつかね、いつか」


真姫(希は私が家族といざこざがあったか何かで家に帰れないと思い込んでるみたいだから…)

真姫(それの早期解決も望んでるんでしょうけど、実際はそういうわけでもないし…)

真姫(余りにも希の家に居着きすぎれば逆にそれの心配もされかねないわね…)

真姫(…早めに解決方法を見つけないと)


希「さて、そんな話は置いといて、ご飯にしよか」

真姫「そ、そうね。…って今日のご飯は?」

希「それは出てからのお楽しみ~♪」

食卓


希「いただきまーす!」

真姫「…」

希「どしたん真姫ちゃん。いただきますしないと」

真姫「き、今日も…肉なのね」

希「若い時はスタミナつけるためにいーっぱいお肉食べておいたほうがいいんよ?」

真姫「それは…わからないことはないんだけど」

真姫「こう毎日続くと飽きちゃうというか…」

真姫(この家に居候してから晩ご飯にお肉を欠かしたことは一度もなかった)

希「んー、そう?真姫ちゃんがそういうんならまた別のもの考えるわ」

真姫「ゔっ…、なんか、ワガママ言ってるみたいでごめんなさい…」

希「んふー、そういうところでちゃんと謝ってくれるから真姫ちゃん可愛いなぁ」

希「最初に会った時と比べたら大分変わったんと違う?」

真姫「最初…?そ、そうだったかしら」

希「せやよ。真姫ちゃん自身は気づいてないんかもしれないけど」

希「人は変わりたいと思えば知らず知らずに変わっていくもの」

希「きっと真姫ちゃんも変わりたいって思ったから、学校に来たんでしょ?」

真姫「…そ、そうかもね」

希「ん、そうよ。じゃ、冷める前にご飯はよ食べよか」

真姫「わかった。…いただきます」


真姫「…」モグモグ

真姫(人は変わりたいと思えば知らず知らずのうちに変わっていくもの…か)

真姫(多分ことりも、変わりたいって思ってるはず…。だから私に勧誘された時、唸るほど迷ってた)

真姫(けど、あと一歩が踏み出せない。それは、後戻りできない闇の中の一歩)

真姫(この先に道があるのか、それともただ底のない奈落なのかは…私にすらわからない)

真姫(だから…私にはどうしようも…)


希「ちょっと、真姫ちゃーん?」

真姫「…っ!?ぶふっ…、ごほっ!な、なによいきなり!」

希「さっきからずっと呼んでたよ。なに難しい顔して考え事してるん?」

希「ご飯は明るく楽しーく食べるものでしょ!悩み事があるなら元生徒会長さまのうちに相談せい!」

真姫「べ、別にそんな…、…そうね」

真姫「あまり詳しく言うことはしたくないけど、ちょっとくらいなら…」

希「お?なになに?」

真姫「私と花陽がアイドルしてる、って知ってるわよね?」

希「うん。今日もそれで帰ってくるの遅くなったんやよね」

真姫「えぇ。それで今日は…勧誘をしてたのよ。メンバーの」

希「ふーん。二人だけでやるんやないんね」

真姫「まぁ、最悪アイドルは二人でもできるでしょうけど、他にも色々あるじゃない。作詞とか」

真姫「で、一人はその…私の華麗な交渉術でぜひ仲間に入れて欲しいと言ってきてくれたんだけど」

希「ふむふむ」

真姫「もうひとり誘いたい人がいて…、でもその子には色々と事情があって、本当にこのまま誘っていいものか悩んでたの」

真姫「このまま無理やり誘えば、大切な友達と引き離しちゃうことになるし…」

真姫「けど彼女は私たちにとっても欠かせない存在で…」

真姫「それに彼女自身も悩んでたみたいだから、私はどうすることが正解なのかな、って…」

希「ふーむ…なるほどなぁ」

希「…真姫ちゃんは、今現在は、どうしようと思ってるん?」

真姫「わ、私は…彼女の判断に全て任せるつもりで…」

希「ならそれでいいんじゃない?」

真姫「えっ?い、いや…それもなんだか無責任じゃない?」

希「かもね。でもいいんよ。きっかけなんて無責任でちょうどいい」

希「いつどこからくるかわからない、ひょんなことが、人生を変えるきっかけになるかもしれんのやし」

希「うちもその子の判断に任せるのが、彼女のためにも一番いい方法やと思うよ」

真姫「そう、なのかな…」

希「人は変わりたいと思えば知らず知らずに変わっていく」

希「真姫ちゃんがきっかけを与えて、その子が変わりたいと思ったなら、そのうち見つかるはずよ。答えがね」

真姫「…そうかも、ね」



ことりの部屋


ことり「…」モグモグ

ことり「穂むらのお饅頭はやっぱり美味しいなぁ…。近頃食べてなかったから懐かしいよ」

ことり「うっ…、でもこんな夜中にお饅頭食べたら太っちゃう…?あ、明日海未ちゃんにもおすそ分けしよ…」


ピリリリ…

ことり「ん?あ、そんな話をしてたら…」ピッ

ことり「はい、もしもし?」

海未『あ、夜分遅くに失礼します。ことりですか?』

ことり「もー、私の携帯にかけてるんだから私に決まってるでしょ」

海未『あっ、そ、そうでした…。すみません』

ことり「…海未ちゃん、やっぱりまだ…」

海未『わ、私のことは良いのです!ことりのおかげで、一時とは比べ物にならないほど良くなりましたし…』

海未『私がああして…、下級生と話せるようになれたのも、ことりのおかげです』

ことり「そ、それは海未ちゃん自身の力だよー。えっと、それで今日も…穂乃果ちゃんのこと?」

海未『…はい。どんな様子でしたか?何か気にかけていたことは?』

ことり「うん、えっとね…」


ことり(いつも、夜中のこの時間には海未ちゃんからの電話が入る)

ことり(話す内容は決まって、穂乃果ちゃんのこと)

ことり(海未ちゃんはもう、穂乃果ちゃんと口も利いてもらえないから、私を通じて穂乃果ちゃんの様子を聞く)

ことり(私も穂乃果ちゃんと会えない日だってあるけど、会えた日には決まって長電話)

ことり(穂乃果ちゃんの言ったこと全部、一挙手一投足…ってほどじゃないけど、大体のことを海未ちゃんに伝える)

ことり(おかげで海未ちゃんは芸能科でもないのにアイドル専攻のことに少し詳しくなっちゃって、多分花陽ちゃんのことも知ってたんじゃないかな)

ことり(私も、そんな海未ちゃんに嫌な顔一つせず、今日の穂乃果ちゃんのことを話すんだけど…)


ことり「で、アイドル専攻が終わって、それで…」

ことり「…」

海未「…ことり?どうしたんですか急に止まって。それから、放課後は?」

ことり「…うん。それからは…」

ことり「そこで別れて、一人で帰ったよ」


ことり(海未ちゃんと自分を比べて、優越感に浸ってしまった下校道)

ことり(醜い自分を隠すために、海未ちゃんに嘘をつきました)

ことり(海未ちゃんに対して申し訳ないと思ったから?もしくは、嫌な私を海未ちゃんに見せたくなかったから?)

ことり(それとも…)

ことり(このままずっと、海未ちゃんの知らない穂乃果ちゃんを、独占したかったから?)

ことり(それ以上考えるのが怖くなって、急いで海未ちゃんとの電話を切りました)


ことり「…何やってるんだろう」

ことり(もう寝よう。それで、残ったお饅頭は…)

ことり「…明日、食べよう」

翌日 朝

二年教室前


真姫「あ、おはよ」

花陽「おはようございますっ」

海未「…」

海未「…どうしてここにいるのですか」

真姫「曲のことで話したいことがあって、来ちゃった」

海未「放課後ではダメなんですか…」

真姫「別にダメってわけじゃないけど、ほら、話すならナルハヤがいいでしょ」

花陽「えーっと…、私はただの付き添いです」

海未「分かりました…。朝礼までそれほど時間があるわけでもないので、ここで話しましょう」



海未「確か真姫の言うには、甘い感じのラブソング、とのことでしたが…」

真姫「うん。作詞できた?」

花陽「プロのメイドさんなら簡単ですよね!?」

海未「…あまりここで大声で話すのはちょっと…」

花陽「あ、ご、ごめんなさい…」

海未「昨日貰った曲を聞いて軽く詩を書いてみました。なにぶん作詞なんて初めてなのでこれでいいのかはわかりませんが…」サッ

真姫「うん、仕事が早くて助かるわ。んーと…ふむふむ…」

花陽「お、おぉおぉ…!これを海未さんが…!?」

海未「お、可笑しいでしょうか…。自分でも正直少し…」

真姫「…いえ!とてもいいと思う!」

海未「ほ、本当ですか!?」

花陽「はいっ!そのっ…、恋する女の子って感じがビシビシ伝わってきます!」

花陽「この…、好きな人を待つ気持ち、というか…、気になるあの人はどんなことを考えてるんだろうか、って言う年頃の乙女!?みたいな!」

花陽「海未さんすごいですっ!その海未さんを連れてきた真姫ちゃんもすごい!」

海未「べ、ベタ褒めですね…。ありがとうございます…」

花陽「もしかして海未さん…恋をしている!?」

海未「えっ!?こ、恋ですか…?いえ、特に覚えは…」

真姫「んじゃあ何を想って書いたの?この詩」

海未「えっ…、あ、そ、そうですね…。その…」

海未「友人のことを想って…」

花陽「あ、じゃあその人のことが?!」

海未「ど、同性ですよ!?」

花陽「さらに破廉恥に!?」

真姫「…ややこしいわ」

海未「好きとか、そういうことではなく…」

海未「いや、今でも好きなのですが、異性に向けるような恋愛感情ではなく…」

海未「しかしこの恋人を想う気持ちというのは私のこの想いと似たようなところがあるのではと思って…」

真姫「あーわかったわかったから。あなたもそっち方面だったら収集がつかないわ」

海未「そっち方面って…『も』、とは…?」

真姫「…なんでもない」

花陽「ん?」

真姫「ふむ、あなたの友人を想う気持ちを歌詞に乗せた、と…」

海未「し、少々大げさにアレンジして、ですよ?」

真姫「その友人って…高坂穂乃果?」

海未「…っ。そ、そうです…」

花陽「やっぱり海未さん、穂乃果さんのこと大切なんですね」

海未「あの、拡大解釈はやめてくださいよ。決してやましい気持ちは…」

真姫「わかってるって。うん、でも…」

真姫「歌詞全体としてはいいと思うんだけど、所々から少しヤンデレっぽさが漂ってくるのよね…」

海未「や、ヤンデレ…!?とは一体…」

真姫「ストーカーみたいなものよ。執着が激しすぎるというか…」

花陽「はっ、たしかに…。言われて見れば略奪愛っぽい…!?」

海未「そ、そうですか!?全然意識してませんでした…」

真姫「その点はどう釈明する?」

海未「いや、べ、別にそんなつもりないですし…」

海未「ですがそうだと言うならば改善します…」

真姫「うん。お願いね。それから追加で注文なんだけど~…」



キーンコーンカーンコーン…

キリーツ、レーイ、チャクセーキ


海未「…ふぅ」

海未(厄介なことを引き受けてしまったものです、つくづく)

海未(まさか作詞で私の心理状況を読み取られるなんて…真姫は心理学者かなにかでしょうか)

海未(しかし…、正直に話すわけにもいきません。久しぶりにできた友人に…)

海未(あんな、ことを…)

授業中

2年教室


ことり「…」カキカキ


ことり(UTX学院は勉強する内容も普通に難しいから、ちゃんとノートを取らないと大変)

ことり(少しでもウトウトしちゃうと、すぐについていけなくなっちゃいます)

ことり(だから私は、こうして真面目に黒板の文字を書き写して…)

ことり(いっつも居眠りしちゃうお友達に、テストの数日前に貸してあげるために…)


ことり「…」


ことり(いえ、もうそんなお友達はいません)

ことり(海未ちゃんはあの時以来、少しボーッとするようになってしまいましたが、勉強に励む姿勢は変わってないし)

ことり(そして…)

ことり(…うぅん、もう、言うまでもないのかも)

ことり(穂乃果ちゃんは、とても優秀になった)

ことり(勉強だって私を追い抜いて、学院みんなの憧れの的にもなって)

ことり(当然、居眠りなんかしない、理想の生徒会長に)

ことり(でもそれは…、今まで16年、一緒に歩み続けた人生で)

ことり(私の知らない穂乃果ちゃんなんです)

ことり(いつから?いつからでしょう)

ことり(私の知ってる穂乃果ちゃんが、私の知らない穂乃果ちゃんになってしまったのは)

ことり(具体的にいつかは、すぐには思い出せません、…だから)

ことり(あの日から振り返ろう。きっと私たちの運命が決定づけられてしまった、あの日)

ことり(穂乃果ちゃんと海未ちゃんと、入る高校を模索していた中学3年生の春…)





2年とちょっと前

穂むら 穂乃果の部屋



ことり「それじゃー…、これとかどう?」

穂乃果「えー、遠くない?穂乃果歩いて通える場所がいいー!」

海未「でしたらこれはどうでしょうか。自転車通学にはなりますが…」

穂乃果「うぅん…、共学かぁ…。ちょっと怖いなー」

ことり「もー、じゃあどこがいいの?」

穂乃果「…んーと、ほら、こことかいいんじゃない?UTX学院!」

ことり「ここぉ?って確か…」

海未「相当なお嬢様校で、偏差値もなかなかだと記憶していますが…、穂乃果の学力では難しいのでは?」

穂乃果「ちょっ…、ひどくない!?大丈夫だよ!なんだか面白そうな学校だし!ここにしよ!ね?いいでしょ?」

海未「…穂乃果にそう言われては断れませんね。しかし、学力が追いつかなければ意味がないのですよ?」

穂乃果「わかってるって!よーし、UTX学院入学目指して、がんばろー!」

ことり(たくさんの高校のパンフレットの中の一つ)

ことり(入るのを決めた理由は、近かったから)

ことり(最初は、ただそれだけの理由で、穂乃果ちゃんも学力が及ばなかったらすぐに別の高校に入学するつもりだったと思う)

ことり(けれど…)



穂乃果「ほらっ、どう!?見てみてすごいでしょ!!」

ことり「穂乃果ちゃんが模試でB判定…!」

海未「奇跡としか言いようがありません…!!」

穂乃果「努力の結果だよ!へへっ、これならもうUTX学院間違いなしだよね?」

海未「しかし、まだB判定ですよ!確信に至るには早すぎます!」

ことり「だけど、これで私たちが落ちちゃったらシャレにならないよね…」

海未「うっ…、たしかに…」

穂乃果「あはは!大丈夫だよ!だってこれまでもずっと一緒だったんだし!」

穂乃果「きっとこれからも、ずーっとずっと一緒に決まってる!だから二人共…うぅん、三人みんな、ぜーったいに合格するよ!」

海未「…えぇ、そうですね」

ことり「そのためにも、受験勉強頑張らないとね!」

穂乃果「うんっ!!」



ことり(穂乃果ちゃんの努力の甲斐もあり、成績はグングンと伸びて)

ことり(UTX学院入学も、夢じゃなくなってきちゃいました)

ことり(その頃の私たちは、それが素直に嬉しくて、そして穂乃果ちゃんに負けないように、私たちも努力しました)

ことり(これまでも一緒だったから、これからもずっと一緒)

ことり(その言葉を、私たちはその頃、信じて疑わなかったんです)

ことり(穢れを知らない無垢な小鳥のように、受け入れていたのです)

ことり(そして、ついにやってきた合格発表の日)

ことり(この一年の努力は…、三人とも、報われました)



穂乃果「やった、やったやったやったぁぁぁぁっ!!」

海未「うぅっ…、良かったですね!本当にっ…、うぅぅっ…!!」

ことり「夢じゃないよね!?あははぁぁぁんっ…!やってきてよかったよぉぉぉぉっ…!!」

穂乃果「合格できたんだっ…!あの大きな建物が、春から私たちの通う学校になるんだーっ!!」



ことり(三人でお祝いもして、記念撮影もして)

ことり(落ち着いたら、入学してからどの学科にするか、何日も何日も悩みましたよね)

ことり(一緒の学科もいいですけど、やっぱりそれぞれの道を選ぶ時期も来たんじゃないですか)

ことり(うぅん。私は同じ学科がいい。私は芸能科なんて嫌ですよ。海未ちゃんも歌おうよ。嫌です!)

ことり(揉めに揉めて、結局最後は、みんなバラバラの学科、専攻に通うことになっちゃったね)

ことり(でもそれで離れ離れになるなんてことは考えませんでした。クラスが離れてても、学科が違っていても)

ことり(歩けば1分もかからない場所にずっといられる)

ことり(限りなく近くに、ずっといられる)

ことり(それは私たちにとって、最上の幸せでした)



ことり(そしてやってきた、入学の季節)

ことり(おろしたての真っ白な制服に身を包み、私たちはUTXの講堂に座っていました)

ことり(先生方のながーいありがたいお話を聞き流して、余りにも大勢の入学者にびっくりして)

ことり(クラスが多すぎて、私たちは3人それぞれ、バラバラのクラスに振り分けられました)

ことり(残念だね、って帰り際に話をしつつ、舞い散る桜を背に、三人並んで下校したっけ)

ことり(あの日も、後ろを振り返ったんだった)

ことり(雄大にそびえ立つ、私たちの学院)

ことり(きっと今までにない夢が、溢れてるって)

ことり(…信じていたのに)

ことり(でも、でもね?最初から…そうじゃなかったんだよ?)

ことり(少なくとも一年生の一学期は、いつもと同じ、同じ日々しかなかった)

ことり(それどころか、三人それぞれが違う経験をするなんて、それまでそうそうなかったから)

ことり(海未ちゃんの演劇学科ではこんなことをやった、私のデザイン学科ではこういうことを)

ことり(穂乃果ちゃんの芸能科は、こんなことまでやっちゃうんだよ!)

ことり(毎日毎日、飽きることなく3人で語り合い、笑い合い)

ことり(満たされすぎて、怖いくらい)

ことり(中間テストでは穂乃果ちゃんが泣きついてきて、海未ちゃんが『受験が終わればすぐこれですか…』って呆れたりして)

ことり(私はそれを心の底から楽しんで、ちょっと離れたところで半笑い)

ことり(海未ちゃんが弓道部に入ったのを二人で見学して、穂乃果ちゃんが楽しそうだからって体験入部)

ことり(でも経験者じゃない人はすぐに弓持たせてくれないから、って、すぐやめちゃったり)

ことり(帰りはみんなで穂むらに寄って、新作のお饅頭を食べたり、恋愛映画をみて涙したり)

ことり(休日はおしゃれな街へショッピングをしたり、ちょっとオタクなお店にも寄ってみたり)

ことり(書ききれないくらい、思い出せないくらい、なんでもない日々は、何でもないように続き)

ことり(気がつけば、秋が来て)

ことり(そして…、ついに出会ってしまったの)

ことり(変わらない日から、変わる日へのスタート地点)

ことり(アイドル、ってものに)

1年前

UTX学院 1年教室


海未「穂乃果が…!?」

ことり「す、スクールアイドル…!?」

穂乃果「うん!どうかな、って…」

海未「ど、どど、どうしていきなり…?」

穂乃果「いきなりじゃないよ!芸能科にはもともとアイドル専攻っていうのがあって…あ!私のやってる歌手専攻とは別なんだけど…」

穂乃果「春からずーっと気になってたんだけど、結構キツいって聞いてたから決心もつかなくて…」

穂乃果「でもね!なんと…、今参加すると、うまくいけば来年の春にはスクールアイドルと一緒に活動できるかもしれないんだって!」

ことり「スクールアイドルって…、A-RISE?」

海未「あぁ、あの…。えっと、参加は自由なのですか?」

穂乃果「うん、みたい。ただ落第基準が相当厳しいみたいなんだけど…」

穂乃果「でもね、これってチャンスだと思わない!?今まではUTXのスクールアイドルは基本的に3年生3人しか枠がなかったんだけど…」

穂乃果「来年からは2年生以下の3人も枠が増えるんだよ!今までの倍だよ倍!」

ことり「へぇ…、制度が変わるってこと?」

穂乃果「うん!聞くところによるとね、2年の先輩がやってる…、アイドルなんとか部?ってところが学校に提案したみたいで…」

穂乃果「頑張ってるアイドルの卵を1年で使い切るのはもったいない!っていう理由から、A-RISEと共にパフォーマンス出来る枠が追加されたみたいなの!」

海未「それはA-RISEと同じように…、学校側で大大にアピールされるんですか?」

穂乃果「もっちろん!だから、これはもう狙うっきゃないよ!」

海未「それは確かにチャンスではありますね…」

ことり「すごいよ!それ!」

穂乃果「あ、でも…」

ことり「ん?どうしたの?なにか問題でも?」

穂乃果「…アイドル専攻の授業は通常の授業の後にあって…、一緒に帰れなくなっちゃうかも…」

穂乃果「それに休み時間にも練習が挟まるかも知れないから、二人とお昼一緒に食べられなくなる可能性だって…」

海未「何言ってるんですか!その程度で諦めるつもりなんですか?」

ことり「今までいーっぱい、一緒に過ごしてきたじゃない。ちょっとくらい離れてても、全然平気だよ」

穂乃果「そ、そう?平気かなぁ…?」

海未「我々のことは心配いりません。穂乃果がやりたいと本気で思っているなら…」

ことり「私たちは背中押してあげるだけ!でしょ?」

穂乃果「う、海未ちゃんっ…!ことりちゃんっ…!!」

穂乃果「私は最高の友達を持ったぁぁぁぁ!!幸せものだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

海未「ちょ、穂乃果…」

ことり「みんな見てるよ…。恥ずかしい…」

ことり(ちょっとくらい離れてても全然平気)

ことり(穂乃果ちゃんがやりたいなら、私たちは背中を押すだけ)

ことり(今考えれば、こんなの)

ことり(全部ゼンブ、嘘っぱちだったんです)

ことり(でも私たちをつなぐ絆はいとも容易く幻想を魅せてしまって)

ことり(そのとき、そのときにさえ止めていたら)

ことり(今私は、こんな思いをせずに済んだのかもしれない)

ことり(それから、私たちは、穂乃果ちゃんは…)



先生「…南、おい南。寝てるのか?」


ことり「…あっ。は、はいっ!えと、な、なんですか…?」

先生「さっき言ったところ、答えてみろ」

ことり「え、えっと…」



穂乃果「ことりちゃん、135ページの5行目だよ」



ことり「…」

ことり「…すみません、聞いてませんでした」

先生「ちゃんと授業は集中しろー。すぐ置いてかれるぞー。じゃあ後ろの…」




ことり(私の隣に、穂乃果ちゃんはいない)

ことり(回想は妄想を呼んで、幻聴も引き起こした)

ことり(…授業は真面目に聞こう)

ことり(思い返すのにも、疲れてきちゃったところだし)

お昼


花陽「ま、真姫ちゃーーーーーーーーー…」

親衛隊ズ「「「「花陽ちゃん花陽ちゃん花陽ちゃん花陽ちゃん花陽ちゃん花陽ちゃん花陽ちゃん」」」」」


真姫「花陽ーーーー…」

真姫「…一人でご飯食べてこよ」

真姫「花陽も大人気ね…。困ったものだわ」



食堂


真姫「ううぇっ…、ここにも人だかりが…。なんでこんな…」

真姫「…あっ」


ツバサ「…ふぅっ」

英玲奈「…」

あんじゅ「お腹すいたわー」


真姫(A-RISEの3人…!が食堂に…)

真姫(直接話しかけるのはルール違反だから野次馬が大量に押し寄せてるってわけなのね…)

真姫(それにしてもこの量…、学校の先輩を囲む生徒の数としては異常よね…)

真姫(それだけ学内でも徹底してる…、近くにいながらにして会うことのできない、A-RISEへの憧れ…)

真姫(…恐怖すら感じるわね)


あんじゅ「…あ」

あんじゅ「あーっ!真姫ちゃんだー!」


真姫「…えっ」


あんじゅ「あははっ!昨日ぶりねー!元気してるー?」

真姫「あの、ちょっ…!」



野次馬ズ「「「ギロッ」」」



真姫(周りの視線が剣のように突き刺さる)

真姫(優木あんじゅ…、あなたは死刑執行人か何か?)


真姫「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」ダダダッ


あんじゅ「…あ。行っちゃった」

英玲奈「…誰?今の」

ツバサ「知り合い?」

あんじゅ「昨日知り合った子ー。可愛いわよねー」

英玲奈「あまり人前で人を呼ぶものじゃない」

あんじゅ「ごめんなさーい」

???


ガチャッ


希「…」

希「ここに来るのも、久しぶり、やね」

希「なーんにもない…。前はたっくさん、あったのになあ」

希「変わりたいと思えば、知らず知らずに変わっていく、か…」

希「…うちらは、どれだけ変わりたい、って思ってしまったんやろう」

希「今、どれだけ変わってしまったんやろう」

希「何もかもが、変わっちゃったね」


希「…ねぇ、えりち?」


希「…ふぅ」

希「さーてと、それじゃあ…」

希「もしかしたら近々使うかもしれんし、掃除と備品を…あ」

希「そーいえばあれ…、生徒会に置きっぱなしやったっけ…」

希「忘れてた…。うーん…、どうしよ」

希「…誰かに見られるのも恥ずかしいし、明日の朝、こっそり取りに行けばいっか」

放課後


ことり「…」カタカタ…


ことり(昨日採寸した穂乃果ちゃんたちの衣装を作るため)

ことり(デザイン専攻のA-RISE候補生担当のみんなでミシンを動かしてます)

ことり(とは言え、私は他のみんなと特別仲がいい訳ではないので会話もなく)

ことり(無言でミシンをかき鳴らしていると自然と別のことを考えてしまって)

ことり(授業中の回想の続きを半ば無意識に始めていました)

ことり(えっと、どこまで思い出したんだっけ)

ことり(そう、ちょうど穂乃果ちゃんがアイドル専攻に参加したところまでだったっけ)

ことり(あのあと、私たちは…)




一年前

ことりの部屋


プルルル… ガチャッ

穂乃果『はい、もしもし。ことりちゃん?』

ことり「あ、もしもーし」

穂乃果『どうしたのー?こんな時間に』

ことり「うん、ほら…最近一緒に帰ってないじゃない?休み時間も忙しいみたいだし」

ことり「どうしてるのかな、って思って」

穂乃果『どうしてるって…別にいつも通りだよ』

穂乃果『アイドル専攻は大変だけど楽しいし…この前も優しい先輩に誉められちゃった』

穂乃果『このまま行けば次のA-RISEにも選ばれるかもね、だって!すごくない!?』

ことり「そうなの?すごいなぁ…!穂乃果ちゃん優秀だね」

穂乃果『でしょ?いつかあの大きなスクリーンで歌って踊っちゃうよー?期待しててよね!』

ことり「うん、期待して待ってる」

穂乃果『うんっ!じゃあ、明日も早いから、おやすみ!』

ことり「あっ…。…うん、おやすみ」


ピッ ツー…


ことり「…もう少し話したかったんだけどなぁ」

ことり(それからも穂乃果ちゃんはアイドル専攻に精力的になって)

ことり(そして熱心に取り組むにつれて私と海未ちゃんとの会話も少なくなってきて)

ことり(それに比例して夜の電話の頻度も上がっていました)

ことり(後から海未ちゃんから聞くと、海未ちゃんも頻繁に穂乃果ちゃんに電話をかけていたらしいです)

ことり(心配しないでいい、なんて偉そうに言っておいて、いざとなると二人とも寂しくて仕方なかったから)

ことり(きっとそれが穂乃果ちゃんには重荷になってしまったんでしょう)

ことり(真剣な彼女に、その時の私たちのお節介は)

ことり(酷く邪魔に思えて仕方なかった)

ことり(だから、あんなことになっても仕方なかった、のかな…)



UTX学院 食堂


海未「…」

ことり「…やっぱり、海未ちゃんも?」

海未「はい、まさか…」

海未「穂乃果から着信拒否されるとは…」

ことり「ちょっと、私たちかまってちゃん過ぎたのかもね」

海未「かもしれないですね…。ショックですが穂乃果には迷惑だったんでしょうね」

ことり「これからはちゃんと遠くから応援してあげよ?休み時間に会えれば少し話す程度にね」

海未「そう、ですね…」



ことり(自らの行いを反省して、それからは積極的に穂乃果ちゃんに連絡することはなくなりました)

ことり(いつかは穂乃果ちゃんも許してくれて、冬休みとかになればまた和気藹々と話し合えるようになるって)

ことり(その時は、そう信じてました)

ことり(けれどその日以降、穂乃果ちゃんと私たちは次第に喋る機会も少なくなっていき)

ことり(廊下ですれ違って声をかけても無視をされるようになりました)

ことり(穂乃果ちゃん、すねてるのかなって)

ことり(最初はそんな風に、どこか軽く考えてて)

ことり(いつかは元通りに、また仲良しになれるって)

ことり(だって、今までもそうだったんだから)

ことり(でも、何日経っても、何週間経っても穂乃果ちゃんは一向に喋ってくれませんでした)

ことり(そして、とある冬の日)

ことり(業を煮やした海未ちゃんがついに、穂乃果ちゃんに詰め寄りました)



UTX学院前


穂乃果「…」スタスタ


海未「待ってください穂乃果!」

穂乃果「…」ピタッ

穂乃果「…」…スタスタ

海未「待ってというのが聞こえないのですか!」ガシィッ

穂乃果「…なんなの、この腕。離してよ、痛いから」

海未「えぇ、話してあげます。この腕をつかむ理由を」

穂乃果「何、意味わかんないこと言ってるの?」


ことり「はぁっ…、はぁっ…!う、海未ちゃんっ」タッタッ…

ことり「やっぱり、もう少し考えてからっ…!話を聞くのはそれからでもぉっ…」


海未「どうして私やことりを無視するんですかっ!私たちが何か気に障ることをしたのですか!?」

穂乃果「…」

海未「…以前、夜中に毎日電話を掛けたのは謝ります。もう二度としないと誓います。現に今は一切していないでしょう!?」

海未「ですから、お願いです!無視をするのならせめて理由を教えてください!」

海未「私たちに至らぬ点があるのなら、改善しますからっ!」

穂乃果「…」

海未「穂乃果ぁっ!!」

穂乃果「…わざわざ、律儀にアイドル専攻の授業が終わるまで待ってたのに免じて、答えてあげる」

穂乃果「前、ことりちゃんと海未ちゃんがこぞって電話をかけてきたとき」

穂乃果「とても、鬱陶しかったんだ。アイドル活動にも支障が出かねないし」

穂乃果「だから相談したの、先輩に」

穂乃果「そしたら、こう言ってくれた」




「そんな人たちとは縁を切っちゃいなさい。あなたの発展を阻害しているから」

穂乃果「あなたたちと付き合っていると、私はトップを取れないらしいの」

穂乃果「だから私、あなたたちと縁を切ることにした」

海未「…」

海未「…ぇ?」

穂乃果「これが理由だよ。もういいでしょ?腕、離して…よっ!」グイッ

海未「あっ…!」

穂乃果「バイバイ。もう話しかけてこないでね」

海未「…」



ことり(その時、私も、海未ちゃんも)

ことり(あまりのことで声すら出ませんでした)

ことり(今まで、15,6年間、ともに人生を過ごしてきて)

ことり(そして、その絆を捨てる理由が…先輩にそうしろと言われたから、だなんて)

ことり(あまりにも突拍子すぎて、あまりにも理不尽すぎて)

ことり(それでも何とか、海未ちゃんは声にならない声で穂乃果ちゃんの腕を掴もうともがきました)



海未「ま、待ってっ…!!どういうことですかっ…!」

穂乃果「どういうことも何も、そのままだよ」

穂乃果「邪魔なの。あなたが」

海未「邪魔、って…!な、なぜ…!?なぜ知り合って長くもない先輩に、そういわれたからと言って…」

穂乃果「別に先輩に言われたからじゃないよ。私もそうするべきと思ったから」

穂乃果「夜中は身体を休める時間なのに、電話で無駄な体力を消耗させてくるような人とは、別れるべきだって」

穂乃果「私は、トップをとるために必死なんだから」

海未「トップって…、おかしいですよっ!どうして友達を捨ててまで、そんなものに執着するんですか…っ!?」

穂乃果「そんなもの…?…ふざけないでっ!!」バシィッ

海未「きゃぁっ!!?」

穂乃果「私は…、私はスクールアイドルでトップを獲らなきゃいけないの…!それ以外は何の意味もない…、屑同然なの…!」

穂乃果「誰よりも上へ登って、頂点を獲って…輝かしいステージに立つのが、私の夢なのっ!!」

穂乃果「それを、そんなもの呼ばわり…!?あなたに何がわかるの!?」

穂乃果「アイドルのことなんて、何も知らないくせにっ!!!」

海未「…ッ!!」

穂乃果「…お願いだから、消えてよ。もう、話したくもない」

穂乃果「さようなら。…園田さん。南さん」

ことり(次こそ、海未ちゃんはその場から一歩も動けなくなってしまいました)

ことり(ショックが強すぎて、現実が理解できなかったそうです)

ことり(なんで、こうなったのか…それは未だに、私もわかりません)

ことり(でも、そんな事実をいっぺんに背負うことになってしまった荷は、海未ちゃんには少し重すぎて)



海未の部屋


ことり「…海未ちゃん、入るよ?」ガタッ…


海未「…」

ことり「これ、今日の課題と…、来週から冬休みに入るって内容のプリント」

海未「…りがと…、ざいま…す」

ことり「…海未、ちゃん。その首…また、やっちゃったの…?」

海未「首…?なんの、こと、ですか…?」

ことり「切り傷が、あるじゃない。とても痛々しい…」

海未「あぁ、これ…です、か…?いいんです、これは…」

海未「私の喉が正常であるがゆえに…、穂乃果を傷つけてしまったのですか、ら…」

海未「無くなってしまえと、自らにば、罰を…与え、たまでで、す…は、はは…」

海未「ねぇ、穂乃果は許っ、してくれま…したか?こんな、私を見て…」

ことり「…海未ちゃん、穂乃果ちゃんは…」

海未「う…、うぐっ、うぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!!うるさいぃぃっ!!いないいないいないぃぃぃっ!!」

海未「私を認めてくれない穂乃果なんていないっ!!あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

海未「出て行ってぇっ!!喋らないでよぉぉっ!!うるさい、あぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

ことり「…」

ことり「…わかった、ごめんね。お邪魔して」



ことり(海未ちゃんは、心に深い深い傷を負ってしまいました)

ことり(完治にはそれこそ、3学期を丸々費やしました)

ことり(本来なら出席日数の関係上、海未ちゃんはもう一度一年生をやり直す羽目になるのですが)

ことり(海未ちゃんが専攻していた演劇舞踊は既に修了できるほどの技量があると判断されたため、事情も含め進級が許されたのです)

ことり(あの頃と比べると、なかったかのように海未ちゃんは明るくなりましたが、後遺症?なのかなんなのかはわからないけど…)

ことり(以前の海未ちゃんと比べて、行儀やマナーが少し、悪くなってしまいました。そして、私に少し、甘えん坊であるところも増えたのかな)

ことり(そう、後は…ほとんど笑わなくなってしまって。作り笑いならできるみたいだけど。私がおかしなことを言っても、クスリともしてくれません)

ことり(でも、その程度で済んで、本当に良かった。もし私が…穂乃果ちゃんと海未ちゃんを繋ぎ止めていなければ…)

ことり(…そっか、そのこともあったっけ)

ことり(3学期に入り、私は学校が終わると海未ちゃんの治療のためにいつもお見舞いに行ってました)

ことり(信頼のおける友人として、海未ちゃんのカウンセリング?に付き合っていたのですが)

ことり(極度の妄想や自傷行為は、改善するどころか日に日に酷くなっていって)

ことり(このままだと、海未ちゃんは…死んでしまうかもしれなかったそうです)

ことり(これじゃあいけないって、どうにかしなきゃって思ったときに)

ことり(あの張り紙を見つけたの)



ことり「来年度、A-RISE候補生サポーター募集…?」



ことり(A-RISE候補生、というよりも、今でいうところのA-RISEのバックダンサー)

ことり(つまり穂乃果ちゃんたちのサポートをしてくれる生徒を募る、という内容の張り紙でした)

ことり(そしてその中に、衣装の作成、という文字が)

ことり(これだ、と。私はそれを見た瞬間に、応募の手続きをしに走りました)

ことり(友人としては、もはや見放されてしまった私でも)

ことり(サポーターの一人としてなら、接してもらえるかも)

ことり(もし無視されても、穂乃果ちゃんの動向を公的に見ることができるだけでも大きい)

ことり(穂乃果ちゃんが何をしていたか…、それを逐一海未ちゃんに報告することで、彼女の様態が少しでも改善するかもしれないのなら)

ことり(簡単な審査の下、私はA-RISE候補生サポーターとして選ばれることとなったのです)

ことり(3学期間は居残りでA-RISEやアイドル専攻の人たちの見学や衣装作成の基礎を学ばされました)

ことり(その際に穂乃果ちゃんに会うこともありました。話すことも、少しは)

ことり(そうやって少しずつ少しずつ穂乃果ちゃんの情報を集めて、海未ちゃんに話してはまた情報を集めて)

ことり(それを繰り返していくうち、海未ちゃんもやっと、現実に戻ってくることができました)

ことり(自らを取り戻した海未ちゃんは、真っ先に私に抱き着いて、赤ん坊のようにわんわん泣きました)

ことり(私もそれを受け入れて…って、これは思い出すと恥ずかしいや。パスパス)

ことり(こうして海未ちゃんの心の治療はほとんど完了しましたが、だからと言って…穂乃果ちゃんとの薄い絆を手放すことは、できませんでした)

ことり(そもそも来年度のサポーターの募集だったのに進級してからやめる、では示しがつかないしね)

ことり(けれど、今は)

ことり(今はその繋がりが、しがらみとなってしまって)

ことり(今のままじゃダメだって、変わらないといけないんだって思っていても)

ことり(今を享受してしまう。海未ちゃんは繋がっていなくて、私と穂乃果ちゃんが繋がっているこの状況に優越感と満足を覚えてしまう)

ことり(こんな醜い感情、消したい。でも、消したくない。この快楽に溺れていたいと感じる)

ことり(…やっぱり私、ダメな人間だ。穂乃果ちゃんに嫌われても仕方がない、海未ちゃんに失礼なくらいの…)

ことり「…あっ」ガタンッ


ことり(回想に夢中になっていたせいか、ミシンの針はしつけをした場所から見当違いのところに外れ)

ことり(大きく縫い直すことになってしまいました)


ことり「…す、すみません。えと、ハサミは…」


ことり(でもやっぱり、私はどうするべきなのか、考えても考えても、一向に答えは出ません)

ことり(私はあの日からずっと、変わらないように、そう考えてここまで来ました)

ことり(これ以上、絶望的な状況にならないように慎重に、変えないように歩んできました)

ことり(けれど、変わりたい。今のままの自分は嫌…。海未ちゃんを無意識に虐げているような私に、吐き気がします)

ことり(でも、どう変わればいいの?どうすれば私は…)

ことり(結局、堂々巡り。これじゃあ、いくら考えても答えが出てこないに決まってます)

ことり(そしていつも最後には、保留という、楽な逃げ道を選んでしまっている)

ことり(だから今日も、穂乃果ちゃんと一緒に下校する。もちろん、海未ちゃんには、ないしょ)




放課後

下校道


穂乃果「…」スタスタ

ことり「…」スタスタ


ことり(ほとんど無言で帰る下校道。まるで厳格な旦那様に付き従うメイドさん?それとも…)

ことり(…はぁ。やめよう。また、いやらしい考えが脳裏をよぎりましたから)


ことり「ね、穂乃果ちゃん…」

穂乃果「…なに?ことりちゃん」

ことり「…うぅん。なんでもない。疲れてるもんね。あまり話したくないでしょ?」

穂乃果「うん。気を使わせてごめん」

ことり「…平気だよ」


ことり(だって私は、ことりちゃん、と穂乃果ちゃんに呼ばれたかった、それだけだから)

ことり(さすがにそんな本音は明かせないけど)

ことり(でもこうして穂乃果ちゃんといるうちにどんどん、引き寄せられている自分がいるのです)

ことり(変わる、より、変わらない、を選ぼうとする私に、気づいてしまうんです)



海未の部屋


海未「えぇとですね、だからそこは…」

真姫『そうじゃなくって…、えーっと…』

海未「いえ、ですからこれがこうなると乙女の複雑な心境というものが浮き彫りに…」

真姫『複雑すぎてストーカーにしか見えないって言ってんの!ドン引きされるわよこんな歌詞じゃ!』

海未「お、おかしいですね…。改良しているはずなのにどんどん深みにはまっていく…」

真姫『これはもはや性格の問題なのかしら…。…あっちの海未はこんなのじゃないはずなのに』

海未「…はい?何か言いましたか?」

真姫『な、なんでもないから。けどさすがにこれはこのままじゃ使えない。明日もまた、話し合うわよ』

海未「はぁ…。わかりました…。難しいのですね、作詞というものは」

真姫『大丈夫。海未ならすぐマスターするわ。私を信じなさい』

海未「脅迫されている人にそういわれても全く信頼できませんが…、ひとまずは信じておきましょう」

海未「それでは、今日はこれで」

真姫『えぇ。また明日ね』

ピッ


海未「…作詞、ですか。どうしてなかなか、奥が深い」

海未「ふふ…、今日もまた遅くまで起きる必要がありそうですね」

海未「…おや?今私、笑った?」

海未「意外と、楽しんでいるということでしょうか。…不思議なものですね。半ば強制的にやらされていることのはずなんですが」

海未「まぁ、いいでしょう。それならそれで、驚くほどのものを提出して、真姫に目に物を見せるだけのこと、です」

海未「…」バサッ カキカキ…

海未「…そういえば、何かを忘れているような気が」

海未「いえ、今は作詞に集中しましょう。えっと…じゃあここはこういう表現なんて…」カキカキ…




ことりの部屋


ことり「もぐもぐ…」

ことり「…海未ちゃん、電話遅いなぁ。いつもならとっくに穂乃果ちゃんのこと、聞きに来るはずなのに」

ことり「もう寝ちゃったのかなぁ…もぐもぐ…、うぷっ…」

ことり「う、うぅ…。ちょっとお饅頭多く買いすぎちゃったかも…、一人じゃ食べきれないよぉ…」

ことり(でも、海未ちゃんや真姫ちゃんたちに渡したら、海未ちゃんに私が穂むらに行ったってバレちゃうし…)

ことり(そうなると、穂乃果ちゃんと下校してたって事実も知られるかもしれないから…)

ことり(そうだ、生徒会関係の人なら穂乃果ちゃんに憧れてると思うし、素直に受け取ってくれるかも)

ことり「…明日の朝、生徒会の人におすそ分けしよう。…げぷっ」

翌日 朝

UTX学院 生徒会室前


ことり(今日は早めに来て、生徒会にお饅頭のおすそ分けをしに来ました)

ことり(この時間なら穂乃果ちゃんはアイドルのほうで朝練してるはずだから、生徒会室にはいないだろうし)

ことり(自分のお店で買っていってもらったものを、他の人に食べきれなかったと譲っているのを見るのは、あまり気分のいいものじゃないかな、って配慮してのものでした)

ことり(問題はこの時間に生徒会役員がいるのかどうかだけど…、ま、でも一人くらいいるでしょ!)


ガララッ…


ことり「失礼しまぁす…。お饅頭の…」


希「ほよっ!?」


ことり「あ、あれ…?」

ことり(ぜ、前生徒会長の…東條先輩?だったっけ…?)

ことり(どうして生徒会を引退したはずの東條先輩がここに…)


希「え、えっと君は…?どちら様?」

ことり「あ、私は…その、穂乃果ちゃ…生徒会長の友人の南ことり、って言います」

希「南…、あぁ!園田海未さんの件の子?」

ことり「えっ…!?海未ちゃんのこと、知ってるんですか…?」

希「うん、まぁね!問題のある子のことは一通り覚えてるんよ!あ、今は『あった子』かな」

ことり「は、はぁ…」

希「それで今日は…、おや?その手に持ってる袋…、くんくん、甘い香りがするね」

ことり「あ、わかります?これ、お饅頭をおすそ分け…」

希「お饅頭!?ちょうだい!」

ことり「えっ…」

希「うちお饅頭好きなんよ!もしかして穂むらの!?うっわー!大好物やん!」

希「いいでしょ?どうせおすそ分けなんやし、うちに全部頂戴!」

ことり「え、い、いいですけど…はい」ススッ

希「んー!ありがと!」

ことり(…変な人だなぁ。真姫ちゃんに負けず劣らず)

ことり「えと、それじゃあ私これで…」

希「おっとちょいまち」

ことり「…な、なんでですか?私もう用事は済んで…」

希「南さん。あなた…悩み事があるでしょ?それも、相当深刻な」

ことり「んなっ…!?ど、どうしてわかるんですか…!?」

希「…それはうちが、泣く子も黙る、元生徒会長サマ、だからかな」

希「ほらー、なんか悩みがあるんやったら気にせずうちに相談していいんよ?」

ことり「え、えぇ…。いきなりそんなこと言われてもぉ…」

ことり(ほぼ初対面の上級生に相談事は少し気が引けるし…)

ことり「…結構です。これは、自分で決めないといけないことだから」

ことり「誰かに選択を委ねるようなことはしたくないんです」

希「んー…、うちは、あーしろ、こうすればいい、って言うつもりはないよ?」

ことり「え…?」

希「相談してくれれば、南さんとは違う目線で物事を見ることが出来るかも知れないから」

希「視点が変われば選択の幅も増えるかも。これならどうかな?」

ことり「…」

希「自分で決めないと、って言ってたけど、本当に一人で決めるのは勇気がいることやと思うんよ」

希「…ね?うちの胸を借りると思って、気軽に相談してみいひん?」

ことり「…わかりました。その、少しだけなら」

希「うふ、おっけー。頼ってくれてありがと。じゃ、ここにいつまでもおるのもなんやし…」




食堂


希「むふー、美味しそう…!いただきまー…はむっ!んんー!うまうまー!」

ことり「…」

希「この餡子の舌触りが滑らかでさっぱりとした甘みもあって…、たまらんっ!」

希「…っと、ごめんごめん。ついお饅頭に夢中に…。で、どんなことに悩んでるん?」

ことり「え、えっと…」


ことり(相談してみるとは決めてみたものの、どう説明していいのか悩みます)

ことり(真姫ちゃんからアイドルに誘われた、って正直に言うと、色々と説明がややこしそうだし…)


ことり「私、今A-RISE候補生の服飾の仕事を担当してまして…」

ことり「だけど、えぇと…、友人からその、また別のことにも誘われて、そうすると服飾の仕事を抜ける羽目になりそうなんです」

ことり「それで、どっちを選ぼうか、とても迷ってて…」

希「ふぅん…。単純に、自分の好きな方を選ぶんじゃダメなの?…ダメなんやろうね、その調子やと」

ことり「…はい」

希「その理由は言える?」

ことり「私、このままA-RISE候補生の服飾を続けるのも、ちょっと良くないって思ってて…」

ことり「だからこの機会に服飾を辞めて、別の道を探ろう、自分を変えてみよう、って思ったりもしてるんです」

ことり「…けど、今のまま、変わらずにいることも…捨てがたいんです。居心地がいい、っていうのかな…」

ことり「でもそれは同時に、私の親友にないものを得て優越感に浸っている感じがして、とても嫌で…」

ことり「だけど変わってしまえば…、今充足しているものを捨ててしまうことになって…」

ことり「…どちらを選んでも何かを捨てることになってしまって、それで悩んでるんです」

希「…ほうほう」

希「うぅんー、難しいねー」

ことり「…やっぱり、そうですよね」

希「南さんは、変わりたい、って思ってるんよね?」

ことり「え、あ…、はい。今の自分は、とても嫌だから」

ことり「けど変わるための一歩を踏み出すのが、その…怖くて」

希「…そう。変わりたい、か…」

希「そういえばね、昨日も…うちの同居人に似たようなこと聞かれてんよ」

ことり「同居人?え、誰かと同棲してるんですか…?」

希「うふ。まぁね。ラブラブなんよー」

ことり「…!」

希「なんて冗談やけど。ちょっとした事情で家に帰れない子を匿ってるだけよ」

ことり「そ、そうなんですか…」

希「うふふ、でも可愛いいい子なんよー。で、その子もちょうど君みたいな子を知ってる、って言ってた」

希「どうしてもグループに誘いたい子がいるんだけど、事情があって誘うかどうかを悩んでる、やったけね」

ことり「え、すごい…。私と本当に似てる…」

希「その時、うちは『きっかけを与えて、その子が変わりたいと思ったなら答えがそのうち見つかる』って言ったんやけど…」

希「…意外と、そうはいかないんかもね。南さん見てると、そう思ったんよ」

ことり「私を?」

希「うん。簡単に言うけど、『変わる』ってすごい難しいことやと思う」

希「ただ何か行動を起こすだけじゃ本当に変われるかなんて分からないし、今足りてるものすらなくなってしまうかもしれないんやしね」

ことり「…はい」

希「進む方向、目指す方向が何か分からずに変わる、っていうのは…、勇気がいることやものね」

希「うちも昔…、似たようなことがあったからよくわかるわ」

ことり「東條先輩も?」

希「ん。変わりたい、変わりたいってずっと思ってた挙句に…」

希「うちの思ってた方向とは全然別のところに、変わってしまった話」

希「ただ闇雲に変化を求めるだけじゃ、それが本当に正しいものか、判断を見失ってしまう」

希「おかげでうちは…、かけがえのないものを失っちゃったから」

ことり「…っ。かけがえのない、もの…」

希「南さんも、もし変わりたい、と思う先に、かけがえのないものを失う未来があるなら」

希「安易に道を選んじゃダメやと思うんよ」

ことり「…じゃあ」

ことり「じゃあやっぱり…、このまま…」

ことり「…変わり続けない方が、いいってことですか」

希「違う違う!」

ことり「えっ…」

希「南さん、よーく考えて」

希「『変わらない』っていうのは、停滞じゃないんよ」

希「それも立派な選択。南さんは今、『変わる』と『変わらない』の分かれ道に立たされてる」

希「うちはこの分かれ道を選ぶのを、慎重にならないとダメ、って言ったの」

ことり「『変わらない』も、選択…」

希「そう。もうひとつの道があるなら、それは分かれ道。まっすぐ進むことは一つの道を捨てること」

希「今まで歩いてきた道にも、気づかないくらいたーくさんの道があったはずよ」

ことり「だ、だったら…。立ち止まることって、できないんですか…?」

ことり「私が立ち止まってると思ってることは、…無意識に一つの道を選んでる、ってこと?」

希「せやよ。だって時間は進み続けるものだから」

希「うちがご飯を食べるか食べないか迷ってて、何日も迷い続けたら死んじゃうのと同じ」

希「必然的に食べないを選んじゃってるから、ってことやね」

ことり「早く選ばないと、後戻りができなくなっちゃう…?」

希「そういうこと。何にでも言えることやけどね」

ことり「…」

希「慎重に、けれども立ち止れる時間はない。一度選べば、引き返せない」

希「人生の選択っていうのは、だからこそ恐ろしいものがあるよね」

ことり「…でも、無理だよ…。そんなの…」

ことり「短い時間で、どちらかを選ぶなんて…」

希「うん。だけど…それも違うよ」

ことり「…え?」

希「どちらか、じゃない」

希「南さんには、もう一つ道があるでしょう?」

ことり「もう一つの…道?」


希「今まで歩んできた道、その中で選んだ道、選ばなかった道」

希「後ろを振り返れば、自分の歩いてきた軌跡が広がっている」

希「辿り直すことはできないけど、でもそれは自分の歩み続ける道の大きなヒントになる」

希「もう一度、一から考えてみて。ことりちゃん」

希「今自分が選択しようとしているのは、『何から変わる』道なのか『何から変わらない』道なのか」

希「そうすれば、今とは違う風景も見えてくるかも知れんよ?」



ことり「今とは違う、風景…」

希「…うちに言えるのはここまで。あとは…、ことりちゃん次第かな」

希「じゃ、うちはこれで。お饅頭ありがとね」スタスタ…

ことり「あっ…」

ことり「…お饅頭、結局全部食べちゃった。いつの間にかことりちゃん呼びになってるし…」

授業中

二年教室


ことり「…」


(希「もう一度、一から考えてみて。ことりちゃん」)

(希「今自分が選択しようとしているのは、『何から変わる』道なのか『何から変わらない』道なのか」)

(希「そうすれば、今とは違う風景も見えてくるかも知れんよ?」)


ことり(一から考える…。私が何から変わりたいのか、何から変わりたくないのか)

ことり(変わりたいのは、自分)

ことり(穂乃果ちゃんと一緒に居られることに満足している自分、海未ちゃんにはないものを持っている優越感に浸る自分)

ことり(そんなことを考えてしまう醜い私を、変えたい)

ことり(穂乃果ちゃんとのしがらみをゼロにして、別の道を歩みたい)

ことり(変わりたくないのは、今)

ことり(穂乃果ちゃんと居られるこの状況から、抜け出したくない)

ことり(ずっとずっと前から変わらないよう、守ってきた細い、薄い絆…)

ことり(やっと、名前を呼んでもらえるくらいには戻ってきたこの絆を、捨てたくない…!)



ことり「…はぁ」



ことり(やっぱり、思い返しても)

ことり(どちらも捨て難いほどの価値があるように思えます)

ことり(新しい風景なんて、私には見えてこないよ…)

ことり(…それとも、私の考え方がダメなのかな)

ことり(一から…。それってどれくらいの一?)

ことり(それこそ、本当に最初の最初なのだとしたら…)

ことり(私たち3人が出会ったあの公園のところから?)

ことり(でも、それももう曖昧かも)

ことり(3人で一緒に遊んで、ただ楽しかった)

ことり(そういう記憶が、うっすらと残っているだけ)

ことり(なにも考えずに、夕暮れを見ながら遊んだ記憶が…)


ことり「…ふふ」


ことり(曖昧な記憶だったはずなのに、その頃の楽しさがすぐ目の前に迫ってきたかのように)

ことり(私は微笑んでしまいました)

ことり(そして、その時)

ことり(気づいたのです。見えてしまったんです)

ことり(今まで見えなかった、分かれ道の風景)

ことり(『変わりたくない』道は、『今』だけじゃない、ってことに)

ことり「あっ…!」


ことり(ずっとずっと守ってきた、変わらない今)

ことり(でもそれは…既に変わってしまった後の絆)

ことり(求めるなら、もっと前)

ことり(そう、こんな小さな頃から変わらなかった『今』を)

ことり(去年の秋頃までずっと続いていた『今』を)

ことり(どうして私は求めようとしなかったのでしょう)

ことり(必死の思いで紡いできた、今にも消えそうな弱々しい絆よりも)

ことり(それまで当たり前のように存在していた、煌々しいまでに輝いていた、3人の絆を)

ことり(私は、自然と選択肢から外していたということに)

ことり(今の今まで、気づきませんでした)



ことり「…だけど、それは」



ことり(だけどそれは)

ことり(きっと変わるより、何倍も何倍も大変なことだと思います)

ことり(あの頃を、取り戻したい)

ことり(幾度も胸を揺らし、そして感じなかったことにした渇望)

ことり(今までそうしてきたのは、それができるならどれだけいいかと)

ことり(挑戦する勇気もなく、諦めてきたから)

ことり(きっと奇跡でも起きなければ、あの頃を取り戻すことなど不可能だと思っていたから)

ことり(…いえ、今でもそうでしょう)

ことり(既に変わってしまったものを、変わって欲しくないなんて)

ことり(やっぱり、馬鹿げてる、よね)



ことり「…」


ことり(一度は見えた、新しい景色)

ことり(けどそれは…、理想郷に過ぎないものでした)

ことり(どこまで手を伸ばしても掴めない景色なら、いっそ見えない方がよかったかもしれない)

ことり(…また、考え直しかなぁ)

放課後

二年教室


ことり「えと、今日は…」


ことり(今日は衣装の作成はお休みです。だから放課後はまるまる空いちゃうんだけど…)

ことり(だけどアイドル専攻はあるし、穂乃果ちゃんが終わるのを待つのも…)


ことり「…なにもないのに待ってたら、逆に気持ち悪がられるよね」

ことり「いいや。一人で帰ろっと…よいしょっ…」ガサッ

ことり「…あれ?」


ことり(持ってきたお饅頭の空き箱を持って帰ろうとした時に感じた違和感)

ことり(ちょっとだけ…重い?)


ことり「空のはずなのに…、何か入ってるのかな…?」パカッ

ことり「あれ?これって…写真?」


ことり(小さな写真立てが、空箱の中に入ってました)

ことり(誰のだろう…?そう思って見たその写真には…)


ことり「あ!東條先輩!」


ことり(あの東條先輩が、おそらく同級生数名と一緒に写っていました)

ことり(そしてその後ろには何故か…A-RISEも)

ことり(しかもこれって、先代のA-RISE?先代のA-RISEと今のA-RISEと一緒に東條先輩が写ってるって…)

ことり(あの人、一体どういう…?生徒会長だから、なのかな…?)


ことり「で、でもこれ…。多分大切なものだよね…?いつ紛れ込んじゃったんだろう…」

ことり「お饅頭を食べてる時に箱に入れちゃってそのまま?うっかりさんだなぁ…」

ことり(うっかり具合ではうちの海未ちゃんに遅れを取らないかもしれません)

ことり「ってそれは言いすぎかな…。でもちゃんと返さないと…」

ことり(とりあえず今日の放課後は、東條先輩に写真を返すので埋まりそうです)

ことり(急いで3年生の教室に来たはいいものの)

ことり(どこが東條先輩の教室かわからない!)

ことり(下校したり部活に行ったりする人も多くて人ごみでめちゃくちゃで…)

ことり(いろんな人に聞きまわって教室を見つけた時にはもう東條先輩はいなくて)

ことり(どこか行き先に心当たりはないかと教室にいた人に訪ねて帰ってきた答えが…)



下校道


ことり「…神田明神?」

ことり「どうしてそんなところに…。まぁ、近いからいいんだけど」


ことり(もしここまで行っていなかったらもうどうしようもありません)

ことり(普通に家に帰るつもりが、ここに至るまでで結構なスペクタクルに…)


ことり「…海未ちゃんならどうなっていたことか」


ことり(今日の私みたく、人を探すのに奔走なんてしてたら…)

ことり(もし今の海未ちゃんなら…、泣いているかもしれません)

ことり(心の病気から回復したとは言え、今でも他人とまともに話すことができない後遺症は少し続いてるし)

ことり(それに、私と話していても滅多に笑ってくれなったし…)

ことり(変なボケとかたまーにかましたりするのに…)

ことり(…バイトはある意味で振り切ってるらしいけど)



ことり「…っと。着いた着いた。ここで何やってるのかなぁ…?」

ことり「って、あれ…。あれって…」



花陽「はぁっ…!はぁっ…!!ひぃぃ…」スッタッタッタッ…



ことり「あ、花陽ちゃん。階段を往復してる…」

ことり「あ!もしかして…。アイドルの練習ってここでやってるの…!?」

ことり「そっかそっか…。公式な部活じゃないから部室とかもないし…」

ことり「大変なんだなー。ふふ、そういえば一度は見学に来てもいいよね。どんなところかも見ておきたいし…」

ことり(花陽ちゃんが階段を駆け上っていったところをバレないように死角からついていき、すぐに物陰に隠れました)

ことり(ここで真姫ちゃんと花陽ちゃんが練習…、あ、あそこ…。海未ちゃんもいるんだ)

ことり(ふふ、海未ちゃんが作詞だなんて…。ちゃんとできてるのかなー?)

ことり(好奇心と、ちょっとの嗜虐心で覗いた真姫ちゃんと海未ちゃんの会話)

ことり(でも、そこにいたのは…)

海未「…!」

真姫「うん、うんうん…!いいじゃない!」

海未「ほ、本当ですか!?」

真姫「えぇ、最高!これならかなり可愛い感じのラブソングになると思う!やったわね!」

海未「はいっ!やりましたっ!!やりましたよっ!!」ギュッ

花陽「ふえぇえぇっ!!?ご、ごめんなさい今疲れて…」

海未「知りませんっ!あははは!あなたたちの歌う曲ができましたっ!やっとです!」ブンブンッ

花陽「ひゃぁぁっ…!!そんなに振り回さないでぇぇぇぇぇぇぇ…」

海未「だっていきなり任されて苦労したんですよっ!?でもようやく完成っ…!」

海未「なんだか…満たされたって感じがします!!こんな気持ち、久々です…!!」

真姫「ふふ、ならよかった。あなたを選んで正解だったわ」

海未「ありがとうございますっ!ふふふ…、よかった…」ギューッ

花陽「だ、抱きしめないでぇぇぇぇ…、ぐるじぃぃぃぃぃぃぃ…」




ことり(信じられないものを目にした気分でした)

ことり(…海未ちゃんが笑っている)

ことり(数日前に知り合った人と一緒に、笑ってる…!?)

ことり(あの、海未ちゃんがっ…!?)

ことり(正直私は、海未ちゃんは作詞をするにしてもメールとかでやり取りするものだと思ってたから)

ことり(今そこに、花陽ちゃんが練習している隣にいることにも少し驚いたんだけど)

ことり(でもまさか…一時は何度も自殺までしようとした海未ちゃんが)

ことり(あぁやって、笑えるように、なったなん、てっ…!!)


ことり「…っ!!」


ことり(声が出そうになったのを手で抑え我慢しました。でも…)

ことり(目から溢れ出る涙は止められそうにありませんでした)

ことり(よかったね、よかったねって、心の中でずっと海未ちゃんの頭を撫でてるつもりで祝福して)

ことり(自分のことのように嬉しくなって、神社の端で丸まって、声を殺して泣き続けました)

ことり(あの頃の海未ちゃんに、また会えたようで…)


ことり「…あの、頃…?」


ことり(そう、あの頃)

ことり(小さな子供の時から、去年の秋までの、海未ちゃんに)

ことり(もう二度と、戻ることのできないと思っていた過去からの海未ちゃんに、もう一度)

ことり(会うことが、できた)

ことり(起こらないと諦めていた奇跡が、今、ここで)

ことり(起きていたんです)

ことり(小さかった頃の海未ちゃんは臆病で)

ことり(何かあるとすぐ、泣きべそをかいていましたね)

ことり(そんな時、手を伸ばしてあげたのが、穂乃果ちゃんでした)

ことり(私は隣で心配そうに見てただけだったけど、海未ちゃんはそれだけですぐに笑顔になれたんだったよね)

ことり(穂乃果ちゃんに聞いたことがあったっけ)

ことり(どうして海未ちゃんを誘ってあげたの?って)

ことり(寂しそうにしてたから見かねて、とか、そういう答えが帰ってくるのかなって思ってたら)



穂乃果「理由なんてないよ!友達になりたいって思ったからなったの!」

穂乃果「それで、その子も友達になりたい!って思ってそうだったから、すぐに友達になれると思ったの!」



ことり(そうだよね。友達になるのに、理由なんていらないよね)

ことり(友達になりたいから、友達になるの)

ことり(いままでずーっとずっと、それを変わらずに続けてきたんじゃない)

ことり(何が、難しいことがあるのかな)

ことり(奇跡なんて、必要ないんだよね)

ことり(だったら――――)




神田明神


希「おー、みんなやってるー?」


真姫「希っ!珍しいわね」

希「んふー、せやろー?今日は久々に美味しいもの食べたから上機嫌でねー」

希「みんなにも味わってもらおうと差し入れ!はいこれ!」

花陽「わぁぁ…!お饅頭ですか!?」

希「うん、これ美味しいんよ!食べてみて!!」

海未「穂むらのお饅頭…」

希「あ、海未ちゃんは確か穂乃果ちゃんの知り合い、やったんやったっけ…?」

海未「…そ、そうですね。友達、でした」

海未「だけど、久々です。…はむっ…」

海未「…うん、美味しい。美味しいです…」

希「それはよかった…ん?あれって…」スタスタ…

希「…うちの写真?なんでこんなところに落ちて…」

真姫「んー?どうしたのー?希の分、食べちゃうわよー?」

希「あぁぁぁっ!!あかんっ!!食べたら突き落とすからねっ!」

花陽「…こ、怖いです」

翌日

放課後

多目的室



「…じゃあ今日の練習はこれでおしまい。各自家に帰ってしっかりと休憩を取るように」


穂乃果「…はぁ、…んぐっ…、ごく、ごく…。ぷはぁっ…」

凛「お疲れ様でしたー、穂乃果せんぱーい」タッタカター

穂乃果「ん、お疲れ様…。凛ちゃんは元気だね」

凛「この程度どってことないにゃー!じゃ、さよならー」

にこ「…元気ね、あいつ」

穂乃果「そうだね…ん?」



ことり「…あ、終わった?」


穂乃果「ことりちゃん…。今日は早いね、衣装作り」

ことり「ん?あー…、まぁね」

ことり「それでー…終わったなら、一緒に帰ろ?」



ロッカー前


穂乃果「…よっと」ガチャッ

ことり「靴、履けた?」

穂乃果「うん、じゃあ、帰ろうか」

ことり「…うん」



スタスタ…


穂乃果「…」

ことり「ね、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「何?」

ことり「どうして私のこと…、もう一度、ことりちゃん、って呼んでくれるようになったの?」

ことり「友達、だから?」

穂乃果「…そうだよ?」

ことり「そっか。じゃあどうして…もう一度友達になってくれたの?」

穂乃果「そんなの、簡単だよ」

穂乃果「先輩が、サポートメンバーのみんなは大切にしなさい、って言ってたから」

穂乃果「だからことりちゃんは、大切な友達なんだ」

ことり「…そっか」

ことり「そう、だよね」

穂乃果「…うん」

UTX学院 玄関


スタスタ…


穂乃果「…あれ」

ことり「…」



花陽「えっ…!?!」

海未「なっ…」


真姫「…穂乃果」



穂乃果「真姫ちゃん、花陽ちゃん。…それに、園田さん」


海未「穂乃、果…」


穂乃果「もしかして…出待ち?ダメだよ、規則違反。私がA-RISE候補生と言えどもそういう行為は…」

真姫「違うわ」

穂乃果「…え?」


真姫「呼ばれて待ってたのよ。そこの…ことりにね」


穂乃果「…ことりちゃんに?」

真姫「えぇ、この時間、この場所で待っててって」

穂乃果「それ、本当?どうして出待ちを助長するような…」

ことり「穂乃果ちゃん」



ことり「私、A-RISEの衣装やめる」

ことり「それで、この子たちが他のスクールアイドルやるから」

ことり「そっちの衣装を担当することに、決めたの」

穂乃果「…っ!」



花陽「え、えぇぇっ!!?ど、どどど…」

海未「どうしてっ!!?」



穂乃果「スクール、アイドル…?」


ことり「うん。やるんだって。真姫ちゃんと花陽ちゃんが」

ことり「それで、海未ちゃんは作詞を担当してるの」

ことり「真姫ちゃんから衣装やらない?って言われたから、衣装やることにしたの」

ことり「それが伝えたかった」


穂乃果「…」


ことり「もう、これで穂乃果ちゃんとは何の関係もなくなっちゃったね」

ことり「だってもう私、サポートメンバーじゃないから」

ことり「辞表も提出してきました」

ことり「これで…もう友達じゃなくなっちゃった」


海未「な、なぜですかことりっ!!どうして穂乃果と分かれるような決断を…っ!!」

真姫「変わるのを、選択したってこと…?」


ことり「…うぅん。違う」

ことり「私は…変わりたくない」

ことり「変わりたくないからこそ、私は今のままじゃダメなんだって思った」

ことり「私が変えたくなかった今は、もう変わってしまった今だったから」

ことり「私が本当に変えたくなかったのは」

ことり「あの日、夕焼けが見える公園で三人一緒に遊んだ光景」

ことり「あの頃からずっと続いてた日々」

ことり「それをもう一度やり直すために」

ことり「今度は…私から海未ちゃんと友達になるんだ」


海未「っ!こ、ことり…!」


ことり「今のまま続けても、戻ってこないなら」

ことり「もう一度スタート地点からやり直すの」

ことり「遠すぎて手が届かないと諦めていた『今』を、もう一度…手に入れるために」

穂乃果「…」


ことり「それでね。私…」

ことり「…真姫ちゃん!」

真姫「うぇっ!?な、なによ…」



ことり「…スクールアイドルも、一緒にやってみていい、かな?」



真姫「え、えぇっ!!?」

海未「ことりも、スクールアイドルを…!?」

花陽「やるんですかっ!!?」

ことり「うん。…ダメ?」

真姫「い、いや…、いいわよ。むしろ大歓迎、だけど…」


穂乃果「…」


ことり「これで、同じだね」

ことり「全てが変わってしまった、穂乃果ちゃんがアイドルになった日」

ことり「変わらない日から、変わる日へのスタート地点」

ことり「私は今、そこに立ったの」

ことり「最初からやり直すなら、私もここに立たないと」

ことり「一年、周回遅れだけど」

ことり「絶対に追いついてみせるから」

ことり「絶対に、追い越してやるから」

ことり「覚悟しててよね、穂乃果ちゃん」


穂乃果「…そう」

穂乃果「つまり、『南さん』は…敵だってことだね」


ことり「そう、だよ」


穂乃果「なら、いいよ。それで」

ことり「それでね、穂乃果ちゃ…」

穂乃果「さよなら」


スタスタ…



穂乃果「…」スタスタ…

海未「…っ」




ことり「…」

ことり「…また、友達になりたい、って思ったときは」

ことり「友達になりたい、って思ってくれたときは」

ことり「もう一回、友達になろうね」

花陽「あ、高坂せんぱ…」

真姫「…今はやめなさい」



ことり「…」

海未「こ、ことり…」

真姫「よかったの?本当に」

真姫「…まだ一日、あったじゃない。週末まで」

ことり「うぅん。いいの」

ことり「だって…見ちゃったから」

海未「なにを、ですか…?」

ことり「…海未ちゃんが、笑ってるとこ…」

ことり「それ、見ちゃったら…、いままで、海未ちゃんのこと、笑ってた自分が…」

ことり「恥ずかしくてどうしようもなくって…、だから、だから…!!」

ことり「ごめんねぇぇっ…!!海未ちゃんっ!!海未ちゃぁぁぁんっ!!!うぎゅぅうっっ!!!うわぁああぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」

海未「こ、ことりっ!!?どうしたんですか!?わ、笑ってたって何を…」

ことり「嘘付いてたのっ!!私っ、馬鹿だからぁぁっ!!!海未ちゃんに黙ってぇぇぇぇぇぇぇ…!!」

ことり「友達なのに、なのにぃぃぃぃぃ…!!うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁあ……!!!!」

海未「ぁ…」

海未「ふふ、仕方ないですね、ことりは…。甘えん坊、なんですから…」

海未「いいんですよ。ことり…。こうやって、そばにいてくれるだけで」

海未「私は、誰よりも救われるのですから…」ギュッ

ことり「海未ぢゃあぁぁぁぁぁぁぁ…!!!うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ…!!!ごべんねぇぇぇぇぇ…!!ごめんんん…!!」

海未「もう…、可愛い顔がぐちゃぐちゃですよ…?ぐずっ…、ホント、バカなんですから…」

海未「穂乃果に負けず劣らず、大バカです…。うぅっ…ずずっ…!」




花陽「…よかったね、真姫ちゃん。ことり先輩、心のわだかまりが取れたみたいで」

真姫「えぇ。やっぱり希の言ってたとおりね」

真姫「きっかけを与えれば…なんとかなるのよ」


真姫(…でも、ことりが穂乃果の前で宣戦布告してくれたおかげで)

真姫(いままでひそひそとやってたスクールアイドルの活動がついに彼女たちにも知れ渡ってしまった)

真姫(本格的に始まってしまったわね)

真姫(A-RISEとの戦いが…)





もしライブ! 第三話

おわり

以上、3話でした 続きもまた明日のこの時間 おそらく ほなな

うろはもうしないかな… これ貼り終えたら新しいの始める予定なんでそちらもよろしければどうぞ
じゃあ今日も今日とて4話、やってくにゃ

前回のもしライブ!(声:南ことり)デン


スクールアイドルの活動のため、私と海未ちゃんに目を付けた真姫ちゃん!

作詞係として海未ちゃんを勧誘しに行くんだけど…。



海未「嫌です」

花陽「回答早っ!」



当然断られちゃったけど真姫ちゃんは諦めない!

海未ちゃんの秘密のバイトをダシに脅しをかけて強引に引き抜いちゃった!

その流れで今度は衣装係として私を勧誘しに行こうとする真姫ちゃん。けれど…。



海未「どうしても、ダメな理由があるのです」

海未「彼女は、A-RISEの服飾を担当しているのですから」



だけど理由はそれだけじゃなくて、穂乃果ちゃんと私…、そして海未ちゃんとの薄い絆を無くさないためでもあった。

けど私は海未ちゃんが持っていない、穂乃果ちゃんとの直接のつながりを持ってることに優越感を抱いてて…。

真姫ちゃんの勧誘をきっかけに、変わりたいと感じ始める私。そして…。



ことり「一年、周回遅れだけど」

ことり「絶対に追いついてみせるから」

ことり「絶対に、追い越してやるから」

ことり「覚悟しててよね、穂乃果ちゃん」



変わらない日々をやり直すために変わることを選択した私。

スクールアイドルっていう穂乃果ちゃんと同じ目線に立った今なら…。

いつか、たどり着けるって信じてる。

金曜日 放課後

音楽室



真姫「皆、揃ってるわね?」


花陽「うん!」

海未「え、えぇ…」

ことり「はーい」


真姫「海未の働きにより、ついに我がスクールアイドルにも曲が完成したわ!」

真姫「これからは基礎体力作りもしつつ、歌の練習にも力を入れていきたいと思っているの!」

真姫「もともと歌手専攻の私や花陽はともかく、デザイン学科のことりも歌うなら激しい特訓が必要よ!」

真姫「だからこの音楽室を貸し切って放課後はここで歌の練習をしようと思うの!神田明神じゃ近所迷惑だし」

真姫「…で、なんだけど」

真姫「音楽室ってどうやって借りればいいか教えてくれない?」


海未「…」

花陽「し、知らなかったの…?」

真姫「うん…」

真姫(私こういう主体性のあること元いた世界じゃほとんどしてこなかったし)

ことり「え、えっとねー、真姫ちゃん…。非常に言いづらい事なんだけど…」

海未「こういった特別教室は部活動に所属していなければ借りることはできません」

真姫「えっ…!」

海未「そうでなければ不良生徒のたまり場になってしまうかもしれませんからね」

ことり「今のこの状況がそれに当てはまってそうな…」

真姫「じ、じゃあ別の教室は?屋上とか!」

海未「部活に所属していなくても貸し切れる教室はないことはないですが…」

海未「そういったところは特定のサークルに人気なので、毎日借りることは不可能かと」

ことり「屋上も入れないことはないけど…、みんなで使えるような広いところは普段は立ち入り禁止だねー」

真姫「だったら私たちで新しい部活を!」

花陽「新しい部の設立には最低5人必要なんだよね…」

真姫「…」

海未「生徒手帳にも書いてあるでしょう。読んだんですか?」

真姫「…読んでないわ。無駄に長くて」

ことり「それにー…。新しい部を申請するためには生徒会の許可が必要だから…」

ことり「必然的に穂乃果ちゃんと対面することになっちゃうかも…?」

真姫「それは…、キツいわね…」


真姫(部活の設立の問題…。ここもμ'sと同じね…)

真姫(また壁が立ちふさがってしまった…。どうしようかしら)

海未「仮にもうひとり連れてきて5人にしたとしても、部活動の内容はどうするのですか?」

海未「スクールアイドル活動をする、など今のA-RISEの体制の中で許可されるとは思いません」

真姫「…そうね。今のところ、禁止されてないから勝手にやっている行為であって…」

真姫「公的なところを通しちゃったらどんなこと言われるかわかったものじゃないしね…」

花陽「今はまだ、学校で練習するのはやめておいたほうがいい、ってことかな…?」

ことり「そうだね。ライブの開催に明確な期限があるわけじゃないし、発声練習ならカラオケとかでもできるし」

真姫「どうしてもダメなら学外の施設を借りることも視野に入れましょう。じゃ、今日は改めて神田明神で体力作りと行くわよ」

真姫「そしてことりとは衣装の打ち合わせもするわよ!いずれ来たるUTXでのライブに向けてね!」

ことり「はーい」

海未「すみません。そろそろ部活動の方にも顔を出したいのですが…」

真姫「あー…そうね。作詞も終わったことだしそれはオッケー」

海未「分かりました。それでは失礼します」スタスタ…

花陽「あ…、行っちゃった」

ことり「それじゃ、私たちは神田明神へ行こっか」

真姫「えぇ」



神田明神


真姫「…さぁこれでラスト!頑張って!」


花陽「はぁっ…、はぁっ…!」タッタッタッ…

ことり「ふぅっ…!ふぅっ…!!」タッタッタッ…


真姫「はい、お疲れ様。二人共よく頑張ったわね」ドリンクサッ

ことり「あ、ありがと…。ごくごくっ…。ぷはーっ…」

ことり「あの、真姫ちゃんは走らなくても平気なの?」

花陽「…ふひぃ…。ま、真姫ちゃんは…、こう見えてもすごい体力あって…全然平気みたいですぅ…」

真姫「今日はことりの初練習だから監修してるだけで、いつもはちゃんと走ってるのよ?」

花陽「それにしても…、こ、ことりさんは今日が初めての練習なのに…、ど、どうしてスクールアイドルの先輩である私と…互角…」

ことり「んー?なんでだろね?」

真姫「一週間フルに練習してやっとこの練習量にも耐えられるようになったのにすんなりことりにこなされちゃったわね」

花陽「わ、私って…運動音痴なのかなぁ…?」

ピリリリリ…

ことり「ん?海未ちゃんからメールだ…」

ことり「あ、真姫ちゃん宛だって」

真姫「私に?あぁ、そういえばメールアドレス交換してなかったわね」

花陽「なんて書いてるの?」

真姫「えっと、なになに…『明日明後日も所用によりお休みします。と真姫に伝えてください』」

真姫「所用?部活動かしら」

花陽「違うよ真姫ちゃん。きっと…」

ことり「メイドさん♪」

真姫「…あぁ。土曜もなんだ」

ことり「基本的に毎週土日はバイトだねー」

真姫「まぁ、それなら仕方ないわ。今は作詞係は必要ないし」

真姫「できれば振り付けを考えるためにいてくれると助かるんだけどね」

真姫(…だけど、いずれは海未にも…加入してもらわないとね)

真姫「それじゃ、今日はこれで解散!明日の朝、またこの場所で集合よ!」

花陽「うんっ…!」

ことり「はーい」





希の家 食後


希「ふー…、忙しい一週間が終わって、明日はついに休日やねー」

真姫「って言っても、私もあなたも練習やバイトがあるでしょう」

希「まー、そーなんやけど…いいやん。細かいことは」

希「はぁー…」

真姫「…なんか希、気が抜けてない?」

希「んー、かもねー。なんか昔のこと思い出して、しんみりしちゃってー」

真姫「昔…って、いつごろのことよ?」

希「あー…、去年ー?あの頃はー…ふひー…」

真姫(…去年の希。私が完全に知らない頃の希)

真姫(普段の言動から言って…きっと希にも複雑な過去があるのでしょうね)

真姫「ねぇ、ところで…」

希「ふに?」

真姫「…希は、スクールアイドルになる気ない?」

真姫「生徒会長もやめたんだし、暇でしょ?よかったら…」

希「うちが、スクールアイドルかぁ…。うーん…、せやねー…」

希「悪くない、かも…」

真姫「お、本当?」

希「んまー…でもなぁ…。大変そうかなぁ…」

真姫「ちょ、どっちなのよ」

希「どっちかなぁ…」

真姫(ダメだ。完全にだらけてるわ)

真姫「…その気になったら、いつでも歓迎するわ。希ならね」

希「んふー…、わかたー…」

真姫「…先お風呂入るわよ」

希「おけけー」



翌日 朝

神田明神


花陽「おはよう真姫ちゃん!!おはようございますことりさん!」

ことり「ことりちゃんでいいよー」

花陽「じゃあ…こ、ことりちゃん!!今日は負けません!」

真姫「どうしたのよ、えらく張り切っちゃって」

花陽「昨日はアイドルの先輩ながら互角の戦いを許しちゃったけど…」

花陽「私にだって負けられないことがあるから!衣装係も兼ねてることりちゃんに体力で負けられないよ!」

ことり「おぉー!花陽ちゃん張り切ってる!これはうかうかしてられないなぁ」

真姫「その意気よ花陽!ことりに目にもの見せてあげなさい!」

花陽「うん!絶対にことりちゃんには負けない!」



夕方


花陽「ぜー…!はーっ…!!」

ことり「ふう…。疲れたー」

真姫「…ことりはまだまだ余裕ね」

花陽「な、なんでなのぉ…?」

ことり「一時期ほぼ毎日海未ちゃんの家に行ってたからかな?」

真姫「その時の精神状態も含めてメンタルの面で強いのかもね」

花陽「うぅぅ…、これじゃ私、いいとこなしだよぉ…」

真姫「う、歌は上手いじゃない」

花陽「…それも真姫ちゃんには負けちゃうんだよねー。ふみゅぅ…」

真姫「ところで、質問なんだけど。ことり」

ことり「ごくごくっ…、んぷっ。ん?何かな」

真姫「どうして海未はその…メイドのバイトなんてやってるの?」

花陽「あ!それ私も知りたかったんです!」

ことり「あー…」

真姫「あんなメイドの格好をして人前で歌ったりするところでバイト、だなんて」

真姫「もしかしたら海未って、アイドルをやりたかったりするの?」

ことり「…え、えと…うーん…」

花陽「…ん?どうして言い淀んでるんですか?」

ことり「いや、その…うぅーん…言っていいのかなぁ…」

ことり「…いいや!言っちゃおう!きっと真姫ちゃんや花陽ちゃんなら大丈夫だよ…!」

真姫「はい?」

ことり「じ、実はね…。海未ちゃんからは言わないで、って言われてるんだけど」

ことり「昔海未ちゃんは…心の病、つまり…鬱病にかかってたことがあったの」

花陽「う、鬱病…!?あの、海未さんが!?」

真姫「それは、穂乃果と喧嘩したせいで?」

ことり「うん。一時期は自殺しちゃいそうな勢いの、酷いやつ」

花陽「うっ…!それは、悲惨ですね…」

真姫「でも、外面からはそんな過去を持ってる印象はないわね」

ことり「そうだね。大分よくなったと思う。きっと…真姫ちゃんと花陽ちゃんのおかげだよ」

真姫「そう?それなら海未を誘って良かったと思えるわ」

ことり「あ、でも海未ちゃんにはこれ、言わないでね?人に知られるのすごく気にしてるみたいだから」

花陽「は、はい…!分かりました、肝に銘じます!」

ことり「それで、今年の春頃には鬱病は一通り収まって安定してたんだけど」

ことり「穂乃果ちゃんと別れる前に言われた『アイドルのことなんて何も知らないくせに』って言葉がずっと胸に引っかかってたらしくて」

ことり「…もし自分がアイドルのことをもっと理解していたら、こんなことにはならなかったんじゃないか、って後悔してたみたいなの」

真姫「…そうだったの」

ことり「だから海未ちゃんは、どうにかして今からでもアイドルのことを理解して、穂乃果ちゃんの気持ちを少しでも共有したい、って考えて…」

ことり「何か、アイドルに近いことはできないか、って私と一緒に探した結果、あのメイドカフェでのバイトにたどり着いたんだ」

ことり「週に一度、お客さんの前で歌を披露するメイドのアルバイトにね」

真姫「…なるほどね。そんな理由があったんだ」

花陽「でも…だったらやっぱり、海未さんはスクールアイドルをやるべきだと思います!」

ことり「なんで?」

花陽「だって…穂乃果さんの気持ちを分かりたくてアイドルのようなバイトを始めたんですよね?」

花陽「ならスクールアイドルならそのまま、穂乃果さんとやってることは同じじゃないですか!」

真姫「まぁ…、確かに」

花陽「そっちの方がきっと穂乃果さんの気持ちをより理解できると思うんです!」

ことり「あー…、かもね」

花陽「それに…、歌を歌ってる時の海未さんはとても輝いてました…!」

花陽「あのメイドさんの姿は、間違いなく私の憧れのアイドルの姿そのものなの!」

花陽「海未さんはスクールアイドルに向いてると思うの!だから…」

真姫「わ、わかったわよ…。そんなに迫って来ても困るから」

真姫「…私も、そう思う。海未はスクールアイドルをするべきだわ」

花陽「だ、だよねっ!?ことりちゃんはどう思いますか?」

ことり「んー…」

ことり「…いいんじゃないかな。そのほうがより海未ちゃんのためになるのかも」

花陽「ですよね!」

真姫「満場一致ね。次の目標が決まったわ」

真姫「園田海未を全力でスクールアイドルに勧誘する。そのためにはまず…」

ことり「明日、ちょうど海未ちゃんはお店で歌を披露するから…」

花陽「その時に訪問しましょう!もう一度見たかったんです!」

真姫「よし決まり。何事も早いほうがいいしね。明日は秋葉原駅に11時集合ね」

花陽「うぅぅ…!まさか二週連続で秋葉原にお友達と一緒に遊びに行けるなんてぇぇ…!夢みたい…!!」

ことり「私も初めてなのー。楽しみだなぁ…」

真姫(そういえば先週交わした『今度は三人で』が既に達成されようとしている…いいのかしら)



翌日

秋葉原駅前


ことり「んーっと…あ!いたいた!おはよー!」

真姫「あ、ことり。おはよ」

花陽「おはようございます!今日もい、いいいい、いい天気ですね!!」

真姫「…緊張しすぎ。先週と変わらないでしょ」

花陽「だ、だって今度はせ、先輩と一緒にアキバなんて…!私の夢見たオタクライフそのものだよ…!!」

ことり「んー、だったらもう少し早く来て別のところ巡ってからでも良かったかな?」

花陽「ひゃわわーっ!!それをなんで早く言ってくれないんですかー!朝からでも空いているお店は網羅してるんです!あー…もったいないぃぃ…」

真姫「ま、また遊びに来ればいいでしょ。今日は海未をスクールアイドルに勧誘するのが目的なんだから」

花陽「そ、そうだね!来週も!再来週も来ようね!!」

ことり「あはは…、花陽ちゃんてこんなのなんだね…」

真姫「…早く慣れてね」

ことり「あー、ここここ。久しぶりだなー」

真姫「そういえば、海未はどれくらいバイトを?」

ことり「今年の春からだから…もう半年位かな?」

ことり「わたしは最初に数回行った程度だから、もう長いこと見てないなぁ」

花陽「す、すごいんですよ!コールアンドレスポンスまで付いてて!」

ことり「へー…。もっと見に行けば良かったかなぁ…。本人から聞いた程度だったよ」

真姫「…まぁ、普段の海未を知ってるなら多少心の準備が必要だと思うわ」

ことり「そ、そうなんだ…。わかった、どんなのが来ても驚かないよ…!」

花陽「それじゃ、入りましょう!」ガチャッ



メイドカフェ店内


「おかえりなさいませ、お嬢様方」


花陽「ほわわぁぁ…!綺麗だなぁ…」

メイド「3名様ですね?お席にご案内いたします」

真姫「ここには海未は…いないみたいね」

ことり「普段は厨房の方でお皿洗いしてるって言ってたよ。見えるところに来るのはライブの時だけなんだって」

真姫「よくそれでメイドとして務まるわね…。普段の業務だけだったら男性店員でも可じゃない」

花陽「でも海未さんのライブにはコアなファンも多くて…ほら!日曜日の朝だというのに…」

ことり「わぁ…、人がたくさん…。これみんな海未ちゃんを見に来てる人たち?」

花陽「ライブのスタートは12時からなので、開店直後のこの時間から席を確保しておかないと店内に入れないなんてこともあるらしいです…!」

真姫「改めて聞くとすごい人気ね…。確かにそれなら集客効果も馬鹿にならないし、いいの…かな?」



花陽「ささ、席に着いたよ!何頼もっか!」

ことり「んー、そうだなぁ…。この日替わりケーキってのが気になるなぁ」

真姫「…って、私たち今日は海未を勧誘に来たんだって…」

花陽「でもライブ始まる前に話しかけるのは良くないと思うの!」

真姫「…まぁ、そうね」

花陽「ほらほら!真姫ちゃんも何か注文しよ!それでねー…、一緒にあーんし合うの!むふふふ…」

真姫「え、えぇ…。そうね…」

ことり「ふふふ…、仲睦まじくて羨ましいな」

真姫「テンション上がってるのはいいけど、人前でそういうのは、ちょっと恥ずかしいんだけどな…」

メイド「お待たせしました。こちら日替わりケーキとアッサムティーです」

ことり「あ、はーい。私でーす」

メイド「そして、こちらがきまぐれスコーンとエスプレッソです」

真姫「あ、私ね」

メイド「そして、こちらが…」

メイド「…チャンピオンカツカレー、ライス大盛りです」

花陽「は、はい!私ですっ!」

ドサッ



メイド「…ごゆっくり、お楽しみください」


ことり「うわぁ…。すごいの来たね」

真姫「注文したときはまさかと思ったけど…」

ことり「しかもごはんは別皿って…」

真姫「店員若干引いてたわよ」

花陽「いいの!都内じゃここくらいしか食べられるところないんだって!いっぱい食べなきゃ損だよ!」

真姫「私カレーをあーんさせられるの…?いや、いいけどね…」

花陽「んふふ…!お米もいいの使ってるなぁ…。さすがだよぉ…」

ことり「花陽ちゃん、ご飯を前にしてうっとりしてる…。ちょっと怖い…」

真姫「周囲の客もこっち見てるし…。恥ずかしい…」

花陽「さ!いただきますしよ!いただきます!!」

真姫「いただきます…」

ことり「いただきまーす。…あむ、もにゅもにゅ…んー!美味しい!あまーい!!」

真姫「ことりのそれはフルーツケーキかしら?美味しそうね。スコーンは…かぷ、もぐもぐ…うん、なかなか」

ことり「いいなー、私もちょっと頂戴?」

真姫「えぇ、どうぞ。その代わりことりのもね?」

ことり「オッケーでぇーす。はい、どうぞ?」

花陽「…う、羨ましい…!私も!私も真姫ちゃん!!」

真姫「いや、今ケーキ食べてるところだから…」

花陽「はい!カレーだよ!」ズボッ

真姫「ふむぐっ!!?うむぶっ…」

真姫(ケーキの甘味とカレーの辛味が口の中で混ざり合って…)

真姫「もぐもぐ…悪くないわね。むしろいい…?」

ことり「うそぉ…」

真姫「ケーキカレー…。今度作ってみようかしら」

ことり「…想像したくないなあ」

十数分後…


花陽「もぐもぐ…ごくんっ。ごちそうさまでしたぁ!」

花陽「ほわー…、おいしかった!」

真姫「まさかほぼ全部一人で食べきるとはね…」

ことり「意外と花陽ちゃん大食漢?」

花陽「お、男の人じゃないですよ!?言うなら…大飯食らい?」

真姫「それもどうかと…」



真姫(それからお冷を貰ったり、お茶の追加注文をしたり…)

真姫(12時になるまで時間を潰して…)

真姫(そしてついに、その時間に…)



ざわ…    ざわ…


花陽「…っ!店内の空気が変わった…!来るよ真姫ちゃん!」

真姫「えぇ、わかってる…!今回もかなりの覚悟が必要ね…!」

ことり「え、そこまで?」

花陽「あ!来たよ!」



謎のメイド「あー…ごほん」

謎のメイド「さぁさぁ皆さんご注目!本日は当店にお越しいただき誠にありがとうございます!」

謎のメイド「ケーキをつまむ手はお止めいただいて、少々お時間をいただきます!」

謎のメイド「今日も謎のメイドこと、私のワンマンライブが開催されるのです!ひゃーふー!」

謎のメイド「いやいやいや!あ、そんなそんな!拍手だなんてもったいない!もっと!もっとください!」

謎のメイド「あ、それではー…?フフフ、皆さんお待ちかねのー?」

謎のメイド「そうですね!いつものアレ、行っちゃいましょう!」

謎のメイド「みんなのハート、撃ち抜くぞ!」


客ども+まきぱな「「ラブアローシュート!!」」


謎のメイド「いえぇーい!ありがとー!それでは早速一曲目ー!アウトブレイクカンパニーからオープニング曲で…」



花陽「ねー?すごいでしょ、ことりちゃ…」

ことり「…」ガクガクガク…

花陽「こ、ことりちゃん…?」

ことり「はわ、はわわわわわわ…」ガクガクガク…

ことり「あれが…う、海未ちゃん…?え、ホント…?」ガクガクガク…

真姫「…紛れもない事実よ。受け入れなさい」

ことり「は、は、はははは…」ガクガクガク…

ことり「ほにょぇぇぇ~…」ガクッ

花陽「あまりのことにことりちゃんが気絶しちゃった!?」

真姫「…覚悟してこれならしてなかったときどうなってたのかしら」

謎のメイド「だんだん芽生えた~最初のおも~い、わからないーことーはー日々のページめくりーものーがたりをっ♪」



真姫「…もう大丈夫?」

ことり「うん…ありがと…」

花陽「そんなに衝撃なの…?」

ことり「衝撃的すぎたよ…。私ね?海未ちゃんが笑ってるところ見ただけでも泣いたんだよ!?」

ことり「こんなのもし何も聞かされずに見ちゃったらもう…大事故だね」

真姫「それは良かったわね…」

ことり「最初はすごくたどたどしく初々しかったのに…どうしてこうなった」

花陽「十数回もやってると吹っ切れちゃうんでしょうね…」

ことり「けど…」

ことり「海未ちゃん、すごく楽しそう…」

花陽「ですよね…。心から楽しそう歌ってて、惚れ惚れしちゃうなぁ…」

真姫「えぇ、それには私も感心。だけど…」

花陽「ん?何か問題があるの?」

真姫「…いえ、よしましょう。今は海未の歌に集中しましょう」

ことり「そうね。海未ちゃん、こういうこともできるようになったんだ…。すごいなあ…」



謎のメイド「はーい、ではそろそろお時間の方が来てしまいましたので、ここまでとさせて頂きます!」

謎のメイド「最後に恒例の~…、来週のこの時間もー…、せーのっ」

謎のメイド「みんなのハート、撃ち抜くぞ?」


「「ラブアローシュート!!」」



ことり「わー…、海未ちゃんのライブが終わった途端がらーんとしちゃった…」

真姫「一番人の多いお昼時に来るお客さんが前倒しで来てたから、その反動ってことかしら?」

花陽「今なら海未さんを訪ねても大丈夫かな?」

ことり「むしろお皿洗いはお客さんが帰った今が一番忙しそうだけど…」

花陽「あ、そっか…」

真姫「いいじゃない。すぐ終わらせたいし。話し合うならお客さんの少ない時間の方が都合がいいし」

ことり「いいのかなぁ…」

真姫「いいのいいの。さ、厨房に突撃よ!」

真姫「あのー…、すみませーん」

メイド「はい?なんでしょう」

真姫「私、当店でバイトをしてる園田海未さんの友人なんですけど、今園田さんっていますか?」

メイド「はい、少々お待ちください」


花陽「意外と及び腰…」

ことり「礼儀正しいって言ってあげようよ」


真姫「…素直に来るかしら」


海未「…友人?いったい誰が…」

海未「げっ」


真姫「あ!来た!」

ことり「海未ちゃーん、バイト中ごめんねー」

花陽「すぐ済むので!」


海未「ど、どうしてあなたたち…!ちょっ…、まっ…」

海未「ふひぃっ!!?」ツルッ


真姫「わぁっ!!?」

花陽「ひゃっ!?」

ことり「ひょえっ…!」


ドッテーンッ




メイドカフェ店内 テーブル


海未「うぅ…、いたたた…」

真姫「慌てすぎ。何もないところで転ぶなんて花陽以上にドジね」

花陽「え、私そんなドジっ子だと思われてたの…?」

海未「お皿を運んでいる最中でなくて良かったです…」

ことり「海未ちゃん、バイト中だったけど大丈夫?都合悪いなら終わってからまた来るよ」

海未「いえ、ちょうど休憩時間なのでそれは平気です。しかし…」

海未「何故大勢で私のバイト先に…。遊びに来たんですか?」

真姫「いいえ!今日は大事な用事があってきたのよ!単刀直入に問うわ…」

真姫「あなたもスクールアイドルをやってみな」

海未「お断りします」

花陽「返答早っ!」

真姫「な、なんでよ…」

海未「嫌に決まっているでしょう!スクールアイドルなんて!」

ことり「でも海未ちゃん、さっきは気持ちよさそうに歌ってたじゃない!」

海未「なっ…!み、見てたのですか…、ことりまで…」

ことり「あれだけ堂々と歌えるんだからきっとアイドルとしても輝けるよ!」

海未「そ、それでも…、嫌なものは嫌なんです!絶対に!」

真姫「…もしかして、やりたくない理由があるの?」

花陽「あっ…、そっか…」

花陽「…ことりちゃんにも穂乃果さんと別れたくないって事情があったもんね…。それなら無理に誘っても仕方ないし…」

海未「…えぇ。やりたくない理由、あります」

ことり「理由、って…?」

海未「それは…」

花陽「それは…?」


海未「…決まってます!恥ずかしいからです!!」


花陽「…へ?」

海未「スクールアイドルをやるということは、穂乃果たちやA-RISEのような格好をするんですよね!?」

海未「あんな露出の多い衣装を来て人前で踊るなんて…、想像しただけで卒倒します!」

ことり「ち、ちょっと!?海未ちゃんはこのバイトをやってアイドルの気持ちを理解したんじゃないの!?」

海未「た、確かに始める理由はそうでしたが…」

海未「…やはり私には、アイドルは無理です…」

真姫「どうして?さっきの歌ってる姿はアイドル然としたものだったわよ」

花陽「そうです!あれこそまさに私の理想!アイドルオブアイドルですっ!!やらないなんてもったいない!!」

海未「…あれは」

海未「違うのです。あれは…、私ではありません」

花陽「はい?」

ことり「え!?あれ海未ちゃんじゃなかったの!?じゃあ別の誰か…?」

海未「そうではないのです。ああして皆の前で歌っている私は、私であって私でない…いわば仮面なんです」

真姫「仮面…」

海未「最初、私は穂乃果を…、アイドルを理解しようとしてこのバイトを始めました」

海未「しかしいざお客様の目の前で歌おうとすると…、緊張して声が出ないんです…」

海未「顔も真っ赤で、恥ずかしくなって…こんな姿を誰かに見られているなんて思うと、死んでしまいそうになりました」

海未「けれどバイトの契約上、お客様の前で歌うのは必須事項…、どうにかできないかと店長さんが提示してくれた案が、サングラスでした」

ことり「歌ってるときにつけてるやつ?」

海未「はい。これをつけて歌えばいいんじゃないかと。身分がバレるのを防ぐこともできますし」

海未「サングラスをかけた程度でこの緊張がどうにかできるとは、自分でも思えなかったのですが…」

海未「いざかけてお客様の前に立ってみると、意外と落ち着いて歌うことができました」

海未「サングラスをかけることで自分ではない、別の誰かを演じて、歌うことができるようになったのです」

真姫「…演じる。まさに、演劇学科の海未だからこその技ね」

海未「次第に髪型もアレンジを加え、話し方も普段は使わないような風に変えて…」

海未「園田海未ではない『謎のメイド』を名乗り、その仮面を被って歌を披露するようになりました」

花陽「そのミステリー性が受けて今ではアキバの隠し名所的イベントになってるんですよね…!」

海未「…けれど!アイドルとなれば話は別です。私はサングラスを捨て、『園田海未』として活動しなければなりません」

海未「それは…、きっと私には不可能です…。『謎のメイド』という鎧を捨てて、お客様の視線というナイフにさらされては…」

海未「私の脆いメンタルは、早々に砕け散ってしまうでしょう…。きっと」

花陽「そんな…」

真姫「だ、大丈夫よ!意外とやってみたら行けるってことも…!」

ことり「海未ちゃん…」

海未「確かにやってみたら出来た、ってこともあるかもしれません」

海未「ですがやってみよう、とまで思えません!やりたくないんですから!!」

真姫「う…」

海未「とにかく恥ずかしいんです!あんな足の見えるような衣装で踊るなんて…考えられません!却下です!」

花陽「でもでも…!メイド服もアイドルの衣装みたいなものじゃないですか!あんまり変わりませんって!」

海未「どこがですか!メイド服は由緒正しい英国のお召し物です!露出も少ないですし比較しようもありません!」

花陽「ぐぬぬ…」

真姫「さっきはあんなに楽しそうに歌ってたじゃない!ホントはやりたいんでしょう!?」

海未「あれはお仕事の一環ですから!それに何度も言っていますがアイドルをするとなると素顔を晒す必要があるでしょう!」

真姫「だったら海未だけサングラスつきでアイドルを!衣装も露出も少ないものに!」

海未「っ…!い、いえ!ダメです!」

真姫「なんでよ!条件としては最大限に譲歩してるじゃない!!」

海未「いくらそれでもやはり…恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」

真姫「少しくらい恥ずかしい方がやってて気持ちいいのよ!」

ことり「そ、そうなの…?」

真姫「あ、いやまぁ…個人差もあるけど」

花陽「あの…真姫ちゃん…。そろそろお客さんも増えてきてるんだけど…」

真姫「え」

海未「…これ以上大声で話されては他のご主人様方にも迷惑です。私の休憩時間も残り少ないですし、今日はお引取りを」スクッ

真姫「ちょ、待ってよ!」

海未「お引取りを!!」

真姫「…わかったわよ」

秋葉原


花陽「…ダメだったかぁ」

ことり「残念だね…」

真姫「…まぁ、なんとなくわかってたけど」

ことり「え?どうして?あんなに必死に勧誘してたのに」

真姫「海未はまだ、アイドルの気持ちを理解することはできてないわ」

真姫「彼女が歌ってるの見ると、わかるもの」

花陽「えぇっ!?そうかな…。すごく楽しそうに歌ってるのに」

真姫「そうね。彼女自身はとても楽しそう」

真姫「けどそれは、彼女だけの中で終わっている楽しさなのよ」

ことり「…?どういう意味?」

真姫「これは、私のすごく尊敬してる人のセリフなんだけど」

真姫「アイドルっていうのは、楽しむものじゃない。誰かを楽しませるものなんだ、って」

真姫「海未自体は楽しんでて、その姿を見ているこちらも微笑ましくなるけど、でもそれはあくまでメイドカフェ店員の枠だからこそ」

真姫「アイドルともなれば、自分が楽しむだけじゃいけない。お客さんをどれだけ楽しませるか」

真姫「それが一番、大切なことになってくるから」

花陽「ほぇぇぇ…。ま、真姫ちゃんがすごいいいこと言ってる…」

真姫「この程度、素人でも見抜けて当然でしょ?だって海未は…」

真姫「お客さんである私たちが、ライブを見に来ていることすらも気付かなかったのよ?」

ことり「あ…」

真姫「それは観客の顔を見ていない証拠。どんな人が見に来ていて、どんな顔をしているかを見ていないから、誰が来ているかすらわからない」

真姫「だから、海未のバイトの目的が、アイドルの気持ちを理解するため、ってことなのだとしたら…」

真姫「それは全くの徒労に終わってるわね。…きっと穂乃果が見ても、同じ気持ちになると思う」

ことり「海未、ちゃん…」

花陽「で、でも真姫ちゃん、海未さんのこと勧誘してたじゃない。それって海未さんにアイドルの素質があるから、なんでしょ?」

真姫「そうね、それは間違いないわ。あの海未なら…」


真姫(この世界の海未は、『アイドル性』だけなら、私の世界の海未よりも遥か上にいる)

真姫(それに、真にアイドルの気持ちを理解するならやっぱり、スクールアイドルをやるしかない)

真姫「でも、無理やりスクールアイドルをやらせても、海未にアイドルの気持ちを理解させることはできないわ」

真姫「肝心なのは、海未自身にスクールアイドルをやりたい、と思わせること。そのためには…」

花陽「そのためには…?」

真姫「…それはこれから考えるわ」

ことり「そっか…。うーん…、海未ちゃんもアイドル、いいと思うんだけどなぁ…」

真姫「私たちがいくらそう思っても本人が嫌がってるんだもの。どうしようもないわ」

ことり「やりたいと思わせるかぁ…。結構難易度高そうだね…」

真姫「そうね…」

花陽「じ、じゃあ今日は真姫ちゃん!前みたいにアキバを探索して答えを探そうよ!ね?ね?」

真姫「…それって今から練習するのが嫌だからでしょ?」

花陽「うぐっ…。そ、そんなこと…あるけど。ちょっとだけ」

真姫「はいはい。大丈夫よ。私も今日は3人でアキバ散策する予定だったし」

花陽「ホント!?やったぁぁぁっ!!!」

ことり「花陽ちゃん喜び過ぎー…」

真姫「ことりにも、アイドルの良さがわかるようなスポット、教えてあげなさいよ?」

花陽「うん!」



真姫(それから夕方まで、私たちは花陽の案内のもと、秋葉原を練り歩いた)

真姫(行ったことある場所から初めて見る場所まで…)

真姫(いつもの練習より何倍も早く時間が過ぎるのを感じた)

真姫(そして、夕方…)



ことり「はわぁー…、今日は楽しかったぁ…」

花陽「本当ですか!?よかったです!」

真姫「えぇ、まさか秋葉原にあんなところがあったなんてね。…今度凛を連れて行ってあげましょ」

花陽「え?凛ちゃんがなんて…?」

真姫「あぁ…、ごめんごめん。こっちの話」

ことり「でも名残惜しいけど…、もう時間…だね」

花陽「そうですねー。また来ましょうね!絶対!」

ことり「うんっ!」

真姫「もちろんよ。今度は…4人以上だと尚良しね」

帰り道


花陽「あ、それじゃ私、こっちだから…」

ことり「あ、花陽ちゃんここでお別れ?」

花陽「はい。では、また明日!学校で会いましょうね!真姫ちゃんも!」

真姫「えぇ、バイバイ」

花陽「ばいばーい!」



ことり「うふふふ…、花陽ちゃんってアイドルのことになるとあんな感じになるんだね」

真姫「私も初めて知ったときはビックリだったわ。あれも花陽のいいところなんだけどね」

ことり「うんうん。パワフルな花陽ちゃんもかわいいなぁー」

ことり「ほらー。この写真の花陽ちゃん、可愛いよねー。あ、これも!」

真姫「い、いつの間にこんなに写真を…あ、私も撮られてる…」

ことり「それにこれは…海未ちゃんの写真!」

真姫「あ、撮影禁止なのに…」

ことり「門外不出なら問題ないのです!えへへー」

真姫「…まぁ、私が言えたことではないしね」

ことり「うーん…、でもねー…」

真姫「ん?」

ことり「海未ちゃんがアイドルやりたくない、っていうのも、私わかる気がするの」

真姫「どうして?」

ことり「ほら、私海未ちゃんの去年の荒れようを知ってるからわかるんだけど…」

ことり「きっと少しでも心にプレッシャーがかかると、鬱だった頃の自分を思い出して怖くなっちゃうんだよ」

ことり「また、あんな風になってしまわないかって」

ことり「…あの頃の海未ちゃんは、見ていてとても痛ましかったから」

ことり「今のメイドカフェでのライブも、言ってたとおり自分じゃない、って暗示をかけてるから出来てることなんだよね…」

ことり「そう考えたら、海未ちゃんにも、ただ恥ずかしい、ってだけじゃない…やりたくない相応の理由があるのかな、って思って」

真姫「あの頃が怖いから、か…。でも、そうなるとやっぱり、海未には是非ともスクールアイドルをやってもらいたいわね」

真姫「いつまでも心にしこりを残しておくのは、精神上良くないことよ。ドクターの私が言うんだから間違いないわ」

ことり「ドクター?真姫ちゃんってお医者さんなの?」

真姫「あ゙っ…。い、医者志望なの。親が医者だから」

ことり「ふーん、そっか。でも、そだね…。私も一緒に海未ちゃんとスクールアイドル、やってみたいよ」

ことり「それが私の目標の…『あの頃をやり直す』ための一歩になるから」

真姫「…ことりの決意も、堅いのね」

ことり「ふふ、もちろんでぇーす。あ、じゃあ私こっちだから」

真姫「そう。また明日。風邪ひかないでね?」

ことり「うーん、だいじょぶー。また明日ねーばいばーい」

真姫「ん、バイバイ」

希の家


ガチャッ


真姫「ただいまー」


希「おかえりー…。ご飯できてるよー」

真姫「あぁ、ありがとう。いつもいつも悪いわね」

希「んふー。それは言わないお約束やんっ」

真姫「した覚えはないけど」

希「そういう流れもお約束ー。ささ、冷めないうちに召し上がれー」



真姫「…もぐもぐ」

希「んー」

真姫「…希」

希「なにー?」

真姫「見られてると食べにくいのだけど」

希「いうてうち辛抱できずに食べちゃったからねー。真姫ちゃんの顔見るくらいしかすることなくて」

希「んふんふー…」

真姫(今日の希もなんか…変ね)

真姫「あの、ところで…実は今日…」

希「んー?なぁにかなぁー?お悩み事ー?」

真姫「…」

真姫「…やっぱいい」

希「えぇーん?言うてーなー。元生徒会長サマやよー?なんでも知ってるんよー」

真姫(絡み方がウザイ)

真姫「…平気よ。また困ったことがあったらその時お願い」

希「おっけー。期待しとくねー」

真姫「え、えぇ」

一方その頃

ことりの部屋


ことり「ふふ…今日は楽しかったなあ…」ケータイポチポチ

ことり「海未ちゃんがスクールアイドルやる気にさえなってくれたら、最高の一日だったのに!」

ことり「でも、そうだよねー…。ただでさえ引っ込み思案な海未ちゃんだもんね…。それこそ、穂乃果ちゃんのため、とかでなければ…」

ことり「やるわけないよねー…。うぅん…」

ことり「…ま、一人で考え込んでも仕方ないか。今は今日の楽しかったことを振り返ってみよーっと」ポチポチ

ことり「ふふふ…、ここでの花陽ちゃんのテンションの上がり具合と言ったら…ぷぷ、思い出しただけでも笑いが…」

ことり「でも、アキバも何回か行ったことあったけど、意外と知らないところ、多かったなぁ…」

ことり「最初は変なお店、って思った場所も、案外入ってみると普通に楽しかったり…」

ことり「今までアキバのそういうお店って知識がないと楽しめないと思ってたけど、そうでもないのかぁ…」

ことり「やっぱり何事も、体験してみないとわからないもの、なんだよねー…」

ことり「…ん?」

ことり「…」

ことり「あ!!」



ことり「こ、これだーっ!!これだよっ!!」

ことり「ふ、ふふふふふふふ…!思いついちゃいました…!」


ことり「海未ちゃんに、スクールアイドルをやりたい、って思わせる方法…!」

ことり「これならきっと…行ける!覚悟しててよね…、海未ちゃーん…!ぬふふふふ…」

翌日 月曜日 放課後

音楽室



ことり「皆、揃ってるわね?」


真姫「…誰の真似?」

ことり「あら真姫。これはあなたの真似よ。オホホホホ」

花陽「に、似て…ないっ!」

ことり「えー、ひどい」

真姫「純然たる感想だと思うわ」

ことり「でもでも、だってほら、ちょうどこの状況、先週の金曜日と同じだよね?」

花陽「あー…、確かに」

真姫「海未がいないことを除けばね」

ことり「んふふー、もうこの音楽室が部室みたいになっちゃってるねー」

花陽「いつまでもここを使うわけにはいかないんですけどね…」

真姫「で?わざわざことりが私たちを集めてまで話したかったことって何よ?」

ことり「ふふふふふ…、それはね?」


ことり「海未ちゃんをスクールアイドルに勧誘する方法だよっ!」


花陽「お、おぉぉっ!!?ことりさん、思いついたんですか!?」

ことり「うん、昨日寝る前に」

真姫「へぇ…、意外とあっさり思いつくのね」

ことり「昨日の秋葉原巡りが私にアイデアを与えてくれたの!」

真姫「それで、どんなアイデア?」

ことり「海未ちゃんにアイドルをやらせるためにはまず、海未ちゃん自身にアイドルをやりたい、って思わせることが大事って真姫ちゃん言ってたよね?」

ことり「そして昨日私は秋葉原の今まで見たことのなかった面を、実際見ることによって知ることができて、興味を持つこともできた」

ことり「だから、海未ちゃんにも見せてあげるの!」

ことり「本物のスクールアイドルを、間近で!そうすれば海未ちゃんも興味を持ってくれるはず!」

花陽「そ、それってつまり…?」

ことり「つまり…」



ことり「あのメイドカフェを、私たちの初めてのライブの舞台にしようってこと!」

花陽「えぇぇっ!あ、あのメイドカフェで…!?」

ことり「ダメかな?」

ことり「海未ちゃん、アイドルの真似事はしてても真面目にスクールアイドルのライブを見たことはほとんどないだろうし…」

ことり「A-RISEのPVは見てるだろうけど、あれだけ上の存在から何かを学べ、って言われても難しいかも知れないし…」

ことり「じゃあ私たちが海未ちゃんの目の前で歌って踊って、スクールアイドルって本当はこういうものなんだよ、って示してあげれば…」

ことり「昨日の私みたいに、アイドルに対する興味が湧いてくるかもしれない、って思ったんだ」

花陽「な、なるほどぉ…。確かに一理あるかもです」

花陽「でも、あそこは…歌うくらいのスペースしかないですし、ダンスをするとなると…」

ことり「あー…、そっかー…。お店の中でやるのは難しいかも?」

ことり「じゃあダメかなぁ…」

真姫「…いえ、アリかも」

ことり「ホント!?」

花陽「えぇっ!でも真姫ちゃん、広いとは言えないお店でアイドルをするのはお店側にも迷惑じゃ…」

花陽「あ、それとも店外でゲリラライブ、って形にするのかな?それなら踊るスペースも…」

真姫「うぅん、そうじゃない」

真姫「海未に見せつけるなら…、全く同条件のほうがわかりやすいわ」

真姫「本物と偽物の違いをはっきりさせつつ、アイドルの楽しさを理解させるためにはね」

花陽「に、ニセモノ…。海未さんのアレをそう表現しちゃうんだ…」

ことり「だけど肝心のお店の広さの問題はどうするの?バタバタ踊って埃を立てるのはいけないよね」

真姫「それなら問題ないわ。今回の曲は激しい曲じゃない」

真姫「小さく可愛らしい振り付けなら店の広さは関係ないし、間奏や歌ってる最中にお客さんに近づいたりすればアイドルらしさも表現できるでしょ?」

花陽「なるほど…。海未さんに足りていない、お客さんへの感心、だね」

真姫「そう。見る人を喜ばせる、アイドルの本質とも呼べる部分だわ」

ことり「あ、じゃあ大丈夫かな?私の案、いい感じ?」

真姫「えぇ、いい感じよ!あとはお店から許可が出れば、の話だけど」

ことり「わ、私交渉してみるね!」

真姫「お願い、あとは…」

花陽「…」

真姫「…花陽?」

花陽「えっ?な、何かな…」

真姫「いえ、ボーっとしてたから。もしかしてまだ、不安なことある?」

花陽「え、あっ…、うぅん。なんでもない」

花陽「いざライブをするのかぁ…、って思うと緊張しちゃっただけ。うん、いつかしないといけないんだもんね」

花陽「わ、私も頑張るよ!海未さんにアイドルの素晴らしさ、伝えなきゃ!」

真姫「えぇ、その調子よ!さぁ、じゃあそうね…」



花陽「…」

花陽「…でも、なにか…足りないような…」

真姫「そうね、ついに歌の練習が必要になってくるというわけよ」

ことり「そうだね!」

花陽「う、うんっ…!」

真姫「…」

真姫「どうする?」

ことぱな「「えっ」」

真姫「歌う場所…、このままじゃ借りられないんでしょ?部活じゃないと」

花陽「あー…、そうだね。音楽室は…」

ことり「じゃあ他のところとなるとー…」

真姫「…めぼしいところは皆他の人たちが使っていたわ。時々空いてることもあるけど、毎日練習する私達にとっては…」

ことり「意味がない、よね…」

花陽「でも新しい部活をするとなると…」

真姫「人が足りない、でしょ?…はぁ」

ことり「そっかー…。その問題もあるん、だよねー…」

花陽「やっぱり、学外で練習する?公園とか…」

真姫「そこは公民館とかでないと、近所の迷惑になるわ」

ことり「でも、そういうところって毎日借りようとすると…」

真姫「…お金がかかるわね」

花陽「花陽、そんなにお金持ってないよぉ…」

ことり「私も…」

真姫「私も、今はね…」

花陽「う、うーーーーーん…意外と難しい問題?」

ことり「部活に入ってさえいれば音楽室は借りられるのに…」

真姫「部活、ね…」


真姫「どこか既存の部活に入ることができれば…」


ことり「…」

花陽「既存の部活?」

真姫「えぇ、それなら5人いなくても平気でしょ?入部するわけだし」

ことり「…ん?」

花陽「でも…、それってつまり部で借りる、ってことでしょ?例えば吹奏楽部に入部したとして…」

花陽「吹奏楽部名義で音楽室借りて、本来の吹奏楽部はホールで、私たちだけ音楽室、っていうのは…無理なんじゃないかな?」

真姫「あー…、確かに」

花陽「それに私たちのやることってアイドル、だよね?その活動に適した部活でないと意味ないんじゃないかな…」

花陽「私たちだけアイドルやります!っていうのも、部活動やってるとは言えないし」

真姫「そうね…。正論すぎるわ」

真姫「はぁ…。アイドル関係の部があれば話は簡単なんだけど…」

花陽「あはは、アイドル関係の部なんてそう都合いい話が…」



ことり「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」

まきぱな「「!?」」

真姫「ど、どうしたのよ…」

花陽「いきなり大きな声だして…、先生に見つかっちゃいますよ!?」


ことり「あ、あるよっ!!あるんだよっ!」


真姫「…何が?」

花陽「何があるんですか?」



ことり「アイドル関係の部がっ!」



まきぱな「「えぇっ!!?」」

真姫「それ、本当なの!?」

花陽「アイドル関係の部…!?あるんですか!?」

ことり「うん!…たぶん!」

真姫「た、たぶん…?」

花陽「随分とあいまいですね…」

ことり「だ、だって…聞いたのはだいぶ前に穂乃果ちゃんの口からだけだし…」

ことり「UTXの数ある部活を全部把握しているわけじゃないから、今も残ってるかは知らないけど…」

ことり「確か昔、穂乃果ちゃんが言うには…」



(穂乃果「うん!聞くところによるとね、2年の先輩がやってる…、アイドルなんとか部?ってところが学校に提案したみたいで…」)



ことり「スクールアイドルを運営するところに直接進言しに行った部活…だったっけ?」

ことり「かつてのA-RISEの制度を改変して、今のバックダンサーも育てる制度にした…」

花陽「そ、そんな部が…?初めて知りました…」

真姫「それ、私も聞いたことある。そんな部活があるとまでは聞いてなかったけど」

真姫「花陽はこういうこと目ざとそうだけど、知らなかったのね」

花陽「うん、UTXでアイドルといえばA-RISEとアイドル専攻、ってイメージだったから。それ以外は露とも…」

花陽「でもその、アイドル…なんとか部?なら、お願いすれば入部させてくれるかも!アイドル活動も、部活動として認定されそうだし!」

真姫「そうね。早速…」

ことり「あ、でも…」

真姫「うん?まだ何か?」

ことり「…その部活のこと、最近は全く何も聞かないから残ってるかどうか…」

ことり「もしかしたら廃部になってる可能性だって…」

花陽「えぇぇぇぇ…、そんなぁ…」

真姫「せっかく見つけたのにそれは困るわね…。でも、行ってみないとわからないわ」

ことり「…そだね。期待せずに、行ってみよう」

真姫(正式な部にはそれぞれ、部室が用意される)

真姫(部員の数や大会等の成果などにより部室の大きさは多種多様だけど、ない、ってことはないみたい)

真姫(電子生徒手帳に記載されている部の紹介ページから、私たちはそのアイドルなんとか部を探した)

真姫(メジャーな部活からマイナーにも程がある部活まで、大小さまざまな部活たちをくぐり抜け)

真姫(やっと見つけた、『アイドル』が名前に冠してある部活)

真姫(その名は…『アイドル応援部』)

真姫(紹介ページに載ってある部室のある場所の情報を得て、私たちはついにそこへたどり着いた)

真姫(はず、なんだけど…)



アイドル応援部前


真姫「こ、これが…」

花陽「部室…?」

ことり「ちっさ」

真姫「い、言っちゃダメよ…。敷地的には女子トイレと何ら変わりないけど!」

花陽「真姫ちゃんもひどいこと言ってる!」

ことり「だってこれ…、隣の教室と教室の間に偶然出来ちゃったスペースを部室にしてみましたって感じだよ!?」

真姫「言い得て妙だわ」

ことり「それに…、部名の表札も寂れてるし…。長らく使ってないよ、これ」

花陽「うぅ…、ホントです…」

ことり「多分、何か理由があって廃部になってないだけの誰もいない部だと思う」

ことり「入部にはその部の部長の許可が必要だから、もうやる気もないその人に言ったところで…」

花陽「入部できない、ってこと…!?」

ことり「…多分ね。試してみないことにはわからないけど、でも…」

真姫「可能性は薄い、か…」

ことり「とにかく、部長さんを探そ。職員室に聞きに行けば誰が部長か、わかると思う」

花陽「そうですね!なんとかして説得して…」

真姫「あ、その前に…、部室の中がどんな風になってるか見てみてもいい?」

ことり「え、無理だと思うけど…。使ってない部室は鍵がかかって…」


ガチャッ


ことり「…え?」

真姫「空いてる…?」

ことり「施錠のし忘れかな…?」

真姫「いいわ。とりあえず中に…」

ギィィィ…


木の軋む音と共に扉を開き。



中を覗き込んだ私たち。



そこにあったのは。



殺風景な小さな部屋の中に、デスクがひとつ。



その上には写真立てが置いてあり。



そしてそのデスクに座る人影が、一人。



それはみんなのよく知る人で。



そして、私のよく知る人でもあって。



でも、どうしてそこにいるか、わからない人でもあった。



ハテナが頭にいくつも浮かんでしょうがない、そんな私たちを見かねて彼女は。



ゆっくりと、口を開き、こう言った。









希「アイドル応援部へようこそ」

希「部長の、東條希、やよ」

多目的ホール


「ワンツースリーフォー…」パンパン…


穂乃果「はぁっ…、ふっ…!」


「はい、じゃあここでひとまず休憩ね。水分補給を忘れずに」

「それと…、穂乃果。少しいい?」


穂乃果「…なんですか?」


「何か嫌なことでもあったのかしら?」

「先週末から笑顔が減っていっているわ」


穂乃果「嫌な、こと…?」

穂乃果「…」



(ことり「私、A-RISEの衣装やめる」)

(ことり「これで…もう友達じゃなくなっちゃった」)



穂乃果「…別に」

穂乃果「何もありませんよ」


「私に嘘を言うつもり?毎日練習を見ているんだから多少の変化くらいすぐわかるのよ」

「不機嫌な理由があるはずよ。言いなさい」


穂乃果「…本当に、なんでもないんですけど」

穂乃果「あ、でもあれかな。なんでも一年生が自主的にスクールアイドルを始めるって聞いたから」

穂乃果「それで苛立ってたのかも」


「自主的に、スクールアイドルを…?」

「それ、誰が?」


穂乃果「確か…、西木野さん?西木野…、真姫、って名前だったと思います」



「っ…!西木野、真姫…!」

「へぇ…、そう…。そう、なんだ…」


穂乃果「…?知ってるんですか?」


「まぁ、ね。ありがとう、面白いことを聞けたわ」

「今度、実際に会って確かめてみたいわね。…フフフ」

アイドル応援部


真姫「なっ…!」


真姫(念のためと思ってドアを開けたアイドル応援部の部室)

真姫(そこになぜか、私の知っている彼女が…)

真姫(泣く子も黙る元生徒会長サマがふんぞり返っていた)


真姫「の、希っ…」

花陽「生徒会長!?あ、元…」

ことり「東條先輩…っ!?」


希「ん、正解。うちは希で元生徒会長で東條先輩やよ」


真姫「そ、そんなのわかってるわよ!聞きたいのは…」

真姫「どうしてあなたがここにいるのかってこと!」

真姫「まさか、さっき言ってたこと…マジなの…?」


希「そう、マジ。うちは東條希、元生徒会長でありながら…」

希「アイドル応援部初代部長でもあった。どう?びっくりした?」


真姫(びっくりなんてものじゃない)

真姫(この世界に来てから私は驚かされっぱなしよ)

真姫(何がどうまかり間違ったら、希がアイドル応援部とかいう部に入部するというのか)

真姫(しかも、部長、だなんて…)


花陽「…ん?今、初代って…。ということは…」

ことり「もしかして東條先輩が立ち上げたんですか?このアイドル応援部…」

真姫「ハァッ!?え、嘘っ…!?」


希「まぁ、そういうことになるかな?若気の至りってやつよ」


真姫「」

花陽「ま、真姫ちゃんが驚きすぎて白目むいてる…」

ことり「ていうか真姫ちゃん東條先輩と知り合いだったんだ…」

希「はいこれ。粗茶になります」ストッ

花陽「あ、ありがとうございます」

ことり「おかまいなくー」

真姫「…」ブスッ


真姫(私たちが部室に訪問したということで、立てかけてあったテーブルとパイプ椅子を並べて、客人として扱われることとなった)

真姫(部長自らお茶を出してくれたわ。まぁ、部長しかこの部室に部員がいないんだから当たり前だけど)


真姫「…」ズズッ…

真姫「…ぬるい」


希「でー…。どこから説明して欲しい?」

真姫「最初からよっ!当たり前でしょ!」

ことり「真姫ちゃん、先輩なのにあたりが強いね…」

花陽「なんでも物怖じせずに突っかかれるのが真姫ちゃんのいいところなんですよ、…おそらく」

希「最初からか…。つまり18年前…」

真姫「生まれたときからはいいわっ!あなたがこの学校に入って、この部活を立ち上げた経緯!」

真姫「その説明をお願いしたいの!」

希「もー、始めっからそう言ってくれればいいのにー」

希「せやねー…、じゃあなんでうちがこの部を作ろうかと思ったか、から行こかな」

希「うちはもともと、親の仕事の都合で中学生くらいまでは各地の学校を転々としてたんよ」

希「それで仲のいい固定の友人が少なくて、趣味の合う子を見つけるのも一苦労やった」

希「高校からは東京に一人暮らしすることになって、もう転校することもなくなったから」

希「何か、共通の趣味を持つ友人が欲しいな、ってなんとなく漠然と考えてはいたんよ」

希「そしたらね、うちは見てもたんよ」

希「それまで興味のなかった、スクールアイドル。先々代のA-RISE」

希「UTXに入学して初めて、間近で彼女らを見たとき、うちに電流が走った」

希「その瞬間に、うちが青春を賭けるべきものはこれや!って思った」

希「でもうちは芸能科じゃなかったし、アイドルも自分でやりたい、とまでは考えてなかった」

希「だけど、何らかの形で彼女たちを応援したい!アイドル活動をするお手伝いがやりたい!」

希「そんな考えの子はうちのクラスだけでもたっくさんいて…、その子の友達にもいっぱいいて」

希「だったら…、そんなにいっぱいいるんやったら、できるんじゃないかって思って」

希「たくさんの友人が欲しかったうちは、人伝いにその子達を集めて結成しようって呼びかけた」

希「このUTX学院の誇るスクールアイドルグループ、A-RISEを応援する部活…」

希「そう、アイドル応援部を作ろうって!」

希「それが、この部活ができた顛末なのだ!デデンッ」

真姫「いや顛末って…結局人は集まったの?」

希「もちろん!上級生も巻き込んで、結構な数が集まったよ!」

希「ただ話題性だけで集まったようなものやし、一気に部員がたくさんいてもまとまらないな、って思って」

希「最初はうちと初めに話を持ちかけた数人、それと…初期に集まった子達を含めた何人かで部を立ち上げたんよ」

希「で、部を立ち上げるためには部長を決めないと、ってなって、最初に言い出したうちが部長に任命されたってわけ」

希「まぁ、普通に盛り上がるより面倒なことが多かったから、部長を押し付けられた、って言うんが正しいかもね」

花陽「あー…、なるほど」

希「部長ってこともあって、部を設立してからスクールアイドルの運営に交渉するのはもっぱらうちの役目」

希「スクールアイドルのお手伝い、何かできませんか!?って詰め寄ってんよ」

希「そしたら向こうは、自主的にやってくれるならこれほど嬉しいことはない、みたいなことを言ってすんなり任せてくれて」

希「それまでは運営側で用意してた舞台の設置とか色々をうちらアイドル応援部に任せてくれることになったんよね」

ことり「へー…、意外と大事なことやってたんですね」

希「せやよー?一番勢いのあるときなんか、A-RISE候補生の体調管理やら筋肉の状態までも把握するようになっていって…」

希「うちもそのためにいっぱいいっぱい勉強したんよ。そのおかげで、今じゃ汗の臭いで心理状況を把握できるようにまでなれたわ」

ことり「そんなこともできるんですか!?」

希「うん。意外と出来るものやよ?カウンセリングも得意やし」

真姫「あっ…!そういえば前もそんなことを言っていたわね…!てっきり冗談だと思ってたら…」

希「ふふ、真姫ちゃんの汗の臭いも度々嗅がせてもらってたしねー。どんな心境か手に取るようにわかったわー」

希「ま、それは置いておいて…。それから徐々に人を増やして、裏方として活躍もするようになって…」

希「スクールアイドル運営にも関われるほど評価されたこともあってね」

花陽「はわぁぁ…!そんなすごい部活だったんですか…!」

真姫「…で、そのすごい部活がどうして」

真姫「こんな小さな部室に収まっているかの理由は、教えてもらってもいいのかしら?」

花陽「…あ。そ、そっか…!」

真姫「まさか、全盛期もこんな部室だったわけじゃないんでしょう?」

希「うん…。そうやね」

希「いいよ。教えたげる。って言っても、これは色々と複雑な理由も入り混じってるから説明がややこしいんやけど…」

希「まぁ、一言で説明するならこうかな」


希「喧嘩別れ、やね」


ことぱな「「…っ!」」

真姫「…あなたも、なのね」

希「アイドル応援部はあまり表立って評価されるような部活ではなかったけど」

希「運営からは確かに信頼の厚い部でもあった」

希「そんでね。うちはA-RISE候補生の子たちの面倒を見ていくにつれて胸にある思いを抱くようになった」

希「この子たちはこんなに頑張ってるのに、その大半が誰にも見られることなく終わっていく」

希「数少ない『A-RISE』って称号を手にした子も、活躍するのはわずか1年の間のみ」

希「それじゃ、もったいないって」

真姫「ま、まさかっ…!あなたの言っていた、『運営に新案を提唱した生徒』って…!」

希「そう。うちや」

希「アイドル応援部を設立して約1年、運営との信頼も厚いうちだからこそできた提案」

希「最初は、A-RISEのメンバーを増やそう、みたいなことやってんけど」

希「すったもんだあって、今のバックダンサー制度に落ち着いたんよ」

真姫「そう、だったのね…」


真姫(最初に希の家に泊めてもらったあの夜)

真姫(彼女からA-RISEにバックダンサーがついている経緯を教えてもらってはいたけど…)

真姫(確かにあの時、関わってないにしては詳しすぎる、とは思ってた…)

真姫(なんてこと、関わってないどころじゃない。希はかつて、A-RISE運営の中枢にいたんだから)

真姫(A-RISEがそうなった顛末に詳しいのも当たり前だったってことね…)


希「そんで、そこまでならこじれることのない、普通のお話よ」

希「問題はここから」

希「バックダンサー育成に関して、運営はうちらに全権を一任した」

希「好きなようにやってもらっていい。ただし、評価はさせてもらう、って条件で」

希「バックダンサーの本格的な始動は来年の五月、それまでにA-RISEにも負けないほどの実力のある候補生を育てろ、って言われた」

希「最初は応援部一丸となって、一つの育成方法で頑張ろう、ってことになってたんやけど」

希「失敗は許されない初めてのゼロからのスタート。評価されなければうちらの努力も水の泡」

希「そんな状況でひとつの道しか作らないのは危険だってことになって」

希「いくつかの育成方法に別れて、候補生を何人かのグループに分けて、それぞれの育成法を試していった」

希「うちもそんな中のひとつだったけど」

希「でも…、うちの方法は評価されなかった」

希「評価されたのはたった一つ」

希「今の、候補生の育て方だけやってんよ」

ことり「今の方法って…」

花陽「つ、つまり…、私も体験した、あの方法、ですよね…?」

真姫「…才能を食いつぶし、さらに才能あるものの糧とする」

真姫「そんな、残酷なやり方」

希「…ふふ、真姫ちゃんもそんな感想持っててんね」

希「うちも、そうだった」

希「誰が評価されても恨みっこなしで、って、そう言って始めた方法だったけど」

希「うちはそのやり方だけは許せなかった」

希「どうして…、どうしてアイドルを育てるために、誰かが涙を流す必要があるのか」

希「好きだったものを、大嫌いと言わせてしまうくらい、人を変えてしまうそのやり方に」

希「どうしてもうちは、納得できなかった」

希「だから言い寄った、詰め寄った。いくら評価されてても、それはやめてと」

希「そしたら、その育成法を用いた、うちのかつての友達はこう言い放った」

希「『素人同然の人ゴミから短時間で輝くものを見つけるには、こうするしかないでしょう?』」

希「『全部を対等に育てるのなんか、労力の無駄』」

希「『他の栄養を吸えば、それだけ才能は大きく花開く。強い花であればあるほど』」

希「『ならそのために、その他大勢の才能を犠牲にすることの、なにがいけないの?』ってね」

真姫「…っ!」

希「…うちね。その子のこと…、そんな子やって思ってなかったから」

希「最初は唖然として、何も言えなくて」

希「その次に、そんなことを言われたことのショックが大きすぎて、泣いてしまって」

希「最後に…、怒りを全て、平手に込めて。思いっきりその子をビンタした」

希「叩かれた方は、冷たい目でうちを一瞥して、それっきり。何も言わずに去っていった」

希「それから、かな…。アイドル応援部が瓦解し始めたのは」

希「その子以外の方法は軒並み評価されず、残ったのは数少ない強い才能を特化して育てるその方法だけ」

希「今はA-RISE候補生の練習の全権を、彼女一人が任されている」

希「今やアイドル応援部にあった信頼は、全部その子に」

希「アイドル応援部に所属してなくても、彼女の一声さえあればA-RISEに関わることができた。むしろアイドル応援部に入ってない方がしがらみが少ない」

希「そういう経緯で、応援部からはどんどん人が減っていった。最後に残ったのは、この小さな部室と…うち、だけ」

希「これが、アイドル応援部栄枯盛衰の物語。その全て、かな」

希「…何か質問は?」

ことまきぱな「「「…」」」

希「ない?」


真姫(彼女の話した、この部の始まりから終わりは)

真姫(私たちが想像していたよりも壮絶で)

真姫(呆気に取られた私は、しばらく考えることすらできなかった)

真姫(ようやくして、花陽が口を開いた)

花陽「…すごい、話、ですね」

希「ふふ、せやね。ここ2年が、うちの人生の中で一番濃厚やったかも」

希「そりゃまぁ、嫌なこともあればいいこともあって、今となればなかなかの思い出だったよ」

花陽「あの…、その、練習が評価された人、って…、今A-RISE候補生を取り仕切ってる人、なんですよね…」

希「うん、せやね。厳しかったでしょ?」

花陽「はい、とても…。怖くて、逃げ出しちゃいました…」

ことり「あぁ…、あの人かぁ…。確かにとても綺麗な人だったけど、不良なのかな、って驚いちゃった」

真姫「不良?そうなの?」

ことり「うん、だって…」

ことり「髪の毛、びっくりするくらい金色に染めてたから」

真姫「金髪?」

ことり「あの金色は長年染めてるんだろうなぁ、って感心しちゃったよ。印象に残ってる」

花陽「あ、そうですね。私もそれはびっくりしました。でもあれって…」

希「あれは自毛やよ」

ことり「えっ!?そうなんですか!?」

希「うん、彼女…、クォーターやから」


真姫「…っ!?」


花陽「へー…、クォーター…」

真姫「待って!く、クォーターって…」

ことり「金髪って劣性遺伝だから遺伝しづらいはずなのにすごいなー」

真姫「そんなことどうでもいいのよっ!!金髪、クォーターってま、まさか…」

希「あぁ、真姫ちゃんは会ったことあるんだよね。確か…」

真姫「ねぇ!名前…!その人の名前、教えなさいよっ!」

希「…?真姫ちゃんも知ってると思うんやけど」

希「その子の名前は…」



希「絢瀬絵里、やよ」

真姫(この世界で最初に出会った頃から、どんな人か謎だった彼女)

真姫(これまで素性の欠片もわからなかった、μ's最後の一人)

真姫(絢瀬絵里…、エリーチカが、まさか)

真姫(花陽と共に打倒しようと誓った、UTXの闇)

真姫(元凶、そのものだったなんて…)


真姫「う、嘘…!」

希「嘘違うよ。前までは名前で呼び合うくらい仲が良かった…、親友って言える子やってんけど」

希「でも、プロ意識が強すぎたんかな。幼少期からバレエで一線級の世界に居続けたみたいやったし」

希「勝てないことの悔しさを知ってる子やったから…、どんなことをしても信頼を勝ち取りたかったんやと思う」

希「結果的に一年間でA-RISEと同程度の実力を持つバックダンサーを発掘したのは、彼女の力でもあったし…」

希「…それでもうちは、認めたくないけどね」

真姫「…」


真姫(…絵里が、元凶)

真姫(その事実は受け入れがたいほどショックなものだったけど、冷静に考えればそうおかしくないものなのかもしれない)

真姫(かつて私たちμ'sの前に立ちはだかった生徒会長の絵里。彼女も…、冷徹な考えを持っていたのだから)

真姫(穂乃果と交じり合うことでその考えは穏やかになり、今では立派なムードメーカーだけど)

真姫(もし、あんな考え方の絵里が…、誰よりも評価されたのなら)

真姫(今のA-RISEの在り方がこうなっているのも、納得できる気がする)


真姫「…絵里を、私たちが…」

真姫「倒す…か」

真姫「…」ゴクリッ

希「んー、他に質問ある子はいるかなー?」

ことり「あ、えっと…はい!」

希「はいことりちゃん!」

ことり「あの、東條先輩…」

希「希ちゃんでええんよー」

ことり「希ちゃん先輩は、どうして生徒会長に?アイドル応援部も兼ねて忙しかったんじゃ…」

希「んー、ふふ…、新しい生徒会長を決める頃には、うちはもう忙しくなくなってたっていうか…」

希「…早々と、切り捨てられた組やったのよね」

希「んで、えりち…、絢瀬さんが傷つけたアイドル専攻の子、彼女たちを、元気づけてあげたい、って気持ちもあって」

希「それまでついでくらいに所属してた生徒会で、会長に自ら立候補したんよ」

希「会長になれば、問題児…って言い方もどうかと思うから、心のケガで学校に来てない子とかの情報もすぐに手に入るし」

希「絢瀬さんのアフターケア、っていうと、なんか癪に障るけど。そうやって元アイドル専攻の子達を、今の真姫ちゃんみたく家に泊めて慰めたり、なんかね」

ことり「なるほどー…。大変、なんですねー…」

希「はい。じゃあもうないかな?質問はー…」

真姫「…じゃあ、最後に一つだけ」

希「ん、真姫ちゃん」

真姫「どうして、ここにいたのよ」

希「…どういうことかな?うちは部長やねんから、いてもおかしくないと思うけど」

真姫「今の話を聞く限りだと、もうこのアイドル応援部ですることなんてほとんどないんでしょう」

真姫「もう長いこと使ってない形跡だって、外からも確認できる」

真姫「普段からここに通うことなんて、なかったはずよ。ずっと生徒会にも行ってたんでしょうし」

真姫「なのにどうして、わざわざここに居たのかって聞いているの。まるで私たちを待っていたかのように」

花陽「そ、そういえばそうだよね…。ことりちゃんはここを見て、多分使ってないって判断してたんだし…」

真姫「どうしてかしら?希」

希「…それを待ってたんよ」

真姫「えっ…」

希「それを聞かれるんを待ってたのだ!やっと言えるから!」

真姫「な、何を…!?」

希「何故この時間、この部室にうちが居たかって!?そう、それは!」

希「そのとおり!うちは知ってたからよ!君たちがここに来るのを!」

希「なぜならっ!」


ビュオォォオォォォッ!!!



ことり「ひゃぁっ!!?何この風っ!?」

花陽「急に窓が開いてっ…!?」

真姫「こ、これはっ…!」




希「カードがうちに、そう告げるんやっ!!!」

バサァァァァッ!!


ことり「風でカードがはためいてる…!?」



ヒュオッ パシィンッ!!


真姫「痛っ!!?な、何よこれ…!」

ことり「真姫ちゃんの顔にカードが張り付いた!?」

花陽「これって…、お星様?」


希「崩壊の後の再生を告げる星のアルカナ。『希望』を意味するそれは…」

希「うちの、そして君たちの希望を指し示しているのだ!」

希「真姫ちゃんも言ってたやん?困ったことがあったらお願いって!」

希「今がその時よ!はっ!」ヒュヒュヒュッ


パシッ パシッ パシッ


真姫「これって…」

花陽「この紙は…」

ことり「もしかして…」


希「この部への入部届!アイドル応援部は君たちを歓迎します!」


花陽「入部届…!?ってことは!」

ことり「私たち、今日からアイドル応援部…!?」

真姫「つまり…、音楽室が借りられる…!歌の練習ができるようになるってことよ!」


希「そういうこと!」

希「さぁ…、ここからが真の始まりやよ!」

花陽「つ、ついに私たちも歌の練習ができる…!」

真姫「この入部届に記入すれば入部できるのよね?」

真姫「なら今すぐ提出して早速音楽室を…」

希「あー…。それがね」

希「入部届には生徒会長が目を通す必要があるから、たぶん受理されるのは明日になるかなぁ…」

ことり「えっ」

真姫「ち、ちょっと!?それじゃあ今日は音楽室は借りられないってこと!?」

希「まぁ、せやね」

真姫「期待させておいてこれなのね…」

花陽「まぁまぁ…。明日には借りられるようになるんですよね?」

希「うん、もちろんや。うちに任せとき!」

ことり「じゃあ今日も…」

真姫「神田明神で体力作りになるわね」

花陽「ゔっ…。ま、またかぁ…。そろそろ歌いたいよぉ…」

真姫「ダンスの練習も大事よ。それじゃ今日は私たちここにいる必要はないってこと?」

希「うん、せやね。入部届に記入して預けてくれれば、あとはうちが生徒会に提出しとくね」

希「あんまり生徒会長とは顔合わせたくないでしょ?」

ことり「そんな、ことは…ないです」

希「あーごめんごめん。でもまぁうちがまとめて持っていったほうが効率がいいし」

真姫「そうね。そうさせてもらうわ。…ことりもいいでしょ?」

ことり「…うん」



花陽「はい、書けました!」

希「ん、これで3人分ね。確かに預かりました」

真姫「頼んだわよ。じゃ、私たちは行きましょ」

ことり「そだね」


ガチャッ ギィィィ…


真姫「それじゃ希」

希「ん?」

真姫「…明日もまた、この部室でね」

希「…うん、また明日」


バタンッ


希「…」

希「…実に、1年ちょっと振りの、新入部員か」

希「ふふ、なんか、変な気分やね…」

生徒会室


コンコン


生徒会役員「はい、どうぞ」


ガチャッ


生徒会役員「…あっ」

希「や、久しぶり。元気やった?」

生徒会役員「…今日はどうされました?既に引退したはずの会ちょ…先輩が生徒会室になんて」

希「んー、ちょっと顔を見に…っていうのは冗談で」

希「はいこれ」スッ

生徒会役員「…これは」

希「アイドル応援部への入部届。お願いね?」

生徒会役員「懐かしい名前ですね…。こんな時期に新入部員ですか?」

希「まぁね。いきなりでうちも休まる暇がないわー」

生徒会役員「その割には…ふふ、嬉しそうですね」

希「お、そう見える?なら…、そうなんやろうね」

生徒会役員「えぇ。…あれ?」

生徒会役員「これ…、3枚は記入されてますが…1枚だけ白紙ですよ?」

希「ん?あ、いけないいけない」

希「これは…まだ早い、かな」サッ

生徒会役員「早い?それはどういう…」

希「んふっ、内緒♪」

希「じゃ、穂乃果ちゃんによろしくね?あの子あんまりうちのこと好いてへんと思うから、やんわり言っておいて」

生徒会役員「はぁ…。わかりました」

希「じゃね。次いつ会えるかわからんけど」

生徒会役員「はい、いつでもお待ちしてます」


ガチャッ バタンッ



希「ま、これであとは…」

希「…ん?」

希「おや、おや…」


スタスタ…

穂乃果「…希、さん?」


希「まさか、こんな時間に会える、なんてね…」

穂乃果「…なんで、希さんが生徒会室から?」

穂乃果「生徒会長はお辞めになったはずですよね?」

希「うちは部長でもあるからね。新入部員の入部届を出しに来たんよ」

希「それより穂乃果ちゃんこそ、どうして生徒会に?アイドル専攻はええん?」

穂乃果「…ずっと生徒会をサボるわけにもいきませんから」

穂乃果「生徒会の業務が終わってから、居残りで練習しようかと」

希「へぇ…」

穂乃果「…もう、一緒に帰る人もいないし」

希「ん?なんて?」

穂乃果「いえ、なんでもありません。それより…」

穂乃果「あなたが部長って…アイドル応援部ですか?今更新入部員…」

希「んふ、いいでしょ?」

穂乃果「…なにが?はぁ…、別にいいですけど」

希「あ、それと…、えりちは元気でやってる?」

穂乃果「絵里さん…?あぁ、元気ですよ…。今日も一人脱落者を生み出しそうです」

希「…それはまた、絶好調なことで…」

穂乃果「私には関係ないことなんで、構いませんが。…と、そろそろそこ、どいてもらえません?」

穂乃果「いられると、邪魔なんで」

希「あぁ、ゴメンゴメン。邪魔者はどっか行くわー。ほな~」スタスタ…

穂乃果「…」


穂乃果「…、あと」

希「…ん?」

穂乃果「絵里さんのことですけど」

希「うん、なにかな」

穂乃果「…なんだか、楽しそうでしたよ。色々と」

穂乃果「それだけ、です」

希「…そう、ありがと」


スタスタ…


穂乃果「…」

穂乃果「…ハッ、何言ってんだろ、私…」


ガチャッ バタンッ

神田明神


真姫「さてと、練習の前に…」

真姫「ついに海未を勧誘するための準備は整ったわ!そして、私たちのデビューの時もね!」

花陽「つ、ついに満を持してデビュー…!?」

ことり「いつか来るとは思ってたけど、ドキドキだよぉ…!!」

真姫「ま、まだ歌の練習もできてないし、先の話ではあるけど」

真姫「とりあえずまずは…舞台をセッティングしたいところね」

花陽「セッティング?」

真姫「ほら、海未に私たちのライブを見せるのならメイドカフェの許可が必要でしょ?」

真姫「いつになるかはわからないけど、ちゃんと許可が出るか確認くらいはしておかないと」

花陽「あー…、そうだね。これでダメです、って言われたら初めから考えなおしだしね」

真姫(まぁ、海未を歌わせてるし一度ライブをやったことがあるから許可が下りるであろうことはわかってるんだけど)

ことり「そっか…!その可能性もあるのか!う、不安になってきた…」

真姫「そう思うなら、自分で確認して。はい、これ電話番号」

ことり「え、いきなり…!?」

真姫「何事も早めのほうが都合がいいわ。さ、早く」

ことり「えっと…、ちなみに歌う曜日はー…」

花陽「海未さんのライブと被らないように土曜日のほうがいいかな?」

真姫「…いえ、そこは逆でしょう」

花陽「逆?」

真姫「サプライズとして海未のライブを乗っ取る方向で行きましょう」

花陽「な、何それっ!」

ことり「面白そう!」

真姫「海未がいつもの調子ではいはーい、って入ってきたら、ちょっと待ったー!って風に乱入するのよ」

真姫「当然海未は困惑してあたふた、その間に舞台から降ろして私たちが見事なライブを披露するって魂胆よ!」

ことり「いいよ!それすごく燃える!萌える!」

花陽「い、いいのかなぁ…」

真姫「メイドカフェの許可さえあればいいの。というわけで、私たちのライブは日曜日、正午」

真姫「ちょうど海未のライブを乗っ取るように始めるわよ!…お客さんも海未のおかげでたくさんいるだろうし」

花陽「それズルくない…?」

真姫「いいのよ!オーディエンスは多い方がいいんだから!」

ことり「流石にお客さんが一人もいないライブは寂しいしねー」

真姫「…そ、そうね。うん」

ことり「ん?」

真姫「じゃ、電話で許可をお願いね、ことり」

ことり「了解しましたぞ!びしっ!」

花陽「頑張ってください!どきどき…」

ことり「えーっと…、ぴぽぱ…」

ことり「ごくりっ…」


プルルルル… プルルルル…

ガチャッ

ことり「…あ、もしもし、えっと、私南ことりと言いまして…」

ことり「そちらで働いています、園田海未さんのお友達なんですけど、…はい、はいそうです…」


真姫「…大丈夫かしら。こっちまで緊張してきたわ」

花陽「心臓が飛び出そう…!」


ことり「…はい、えっとそれで…、実は私、スクールアイドルをこれからやる予定でして…、はい、スクールアイドルです。A-RISEのような」

ことり「はい、あ、いえまだなんですけど…。これからなんです。それで、最初のライブにそちらのメイドカフェを使わせていただきたいな、って考えておりまして」

ことり「いかがでしょうか?えっと…あー…、はい、はい…。あ、わかりました」

ことり「今店長さんに替わってるところ…!ふひー…!汗が…」


真姫「花陽!」

花陽「うんっ!汗ふきふき!」


ことり「あ、ありがと…、…あっ!はいもしもし…、あ、はい、はい…南ことりです!あーあはは、ありがとうございます」

ことり「…はい、…え、あ!本当ですか!いいんですか!?やったぁ…!」

真姫「…どうやら大丈夫みたいね」

花陽「よ、よかったぁー…!」

ことり「それはいつでも大丈夫ですか?…あー、はい、…あ、そうですか。日にもよるけど、大体大丈夫だって」

真姫「じゃあ、いつかの日曜に、海未のライブと同じ時間にって言って」

ことり「おっけ。…あの、じゃあ日程なんですけど、まだ具体的にいつとは言えないんですが…」

ことり「海未ちゃんがそちらでライブをやっているじゃないですか、その時間と同じ、ってできませんか?」

ことり「海未ちゃんのライブを乗っ取る感じで!…はい、あ、はいっ!大丈夫です!あ、いいんですか!?」

花陽「やった!完璧だよ!」

ことり「うんっ!…はい?え、あ…はい。えっと…」

ことり「えぇっ!?」

真姫「…!何…?」

ことり「えと、それは…、はい、はい…。そ、そう、なんですか…?はぁ…」

ことり「あの、じゃあすみません…。少し相談させてください。…はい、はい、ありがとうございます。それでは」ピッ

花陽「と、途中驚いてたところありましたけど…大丈夫なんですよね?歌える、んだよね?」

真姫「何があったの?」

ことり「うん、歌わせてもらえるはもらえる、んだけど…実は…」



ことり「…海未ちゃん、来週でバイト辞めちゃう、んだって…」

真姫「えっ…!」

花陽「メイドのバイトを、ですか…!?それとも謎のメイドのライブを!?」

ことり「メイドさん自体を、だね。前から決まってたみたい」

ことり「来週、っていうか今週末。それが9月最後のバイトだから、キリがいいところで終わらせるつもりだったんだって」

真姫「理由は…?」

花陽「謎のメイドのライブは人気だったのに!?そんな急に…」

ことり「そこまでは聞いてないけど…。たぶん海未ちゃんのことだから…疲れてきたんじゃないかな」

ことり「穂乃果ちゃんの気持ちを理解するために始めたバイトではあったけど、結局アイドルにかける情熱までは理解できなかったみたいだし」

花陽「でもそれだと…、海未さんのライブを乗っ取るには…」

真姫「チャンスは今週末だけ、ってことになるわね」

花陽「あと、6日!?」

ことり「それまでにダンスと歌と…あと衣装を?…無理だよね」

花陽「そ、そうなるとメイドカフェでのライブは断念したほうがいい、ってこと、かな…」

ことり「でもそうすると、海未ちゃんをどこかに連れてくることになっちゃうよね」

ことり「…サプライズのほうが面白そうなのに」

花陽「いやそれは…、うーん、でも…そうなるとまた場所の問題が…」

真姫「…」

真姫「…いえ、やりましょう」

花陽「…え?」

真姫「やってやろうじゃない!今週末!」

真姫「それまでに完璧にこなして、完璧なライブを海未に見せつけてやるのよ!サプライズで!」

花陽「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!?!?!」

ことり「こ、今週末って…、もう6日しかないんだよ?歌の練習ができるのは5日だけ…」

ことり「そこにダンスの練習と衣装作りを含めれば…」

真姫「それなら心配ないわ!衣装なら既にあるじゃない!」

ことり「す、既にって…?」

花陽「あっ!もしかしてメイドさん?」

真姫「えぇ、その通り!メイドカフェで歌うんだもの!メイドの衣装が一番ぴったりよ!」

ことり「なるほど、それなら…!あ、でもダンスは?」

真姫「これは元からカフェ内で大きく動けるわけじゃないから、一部のパートだけを決めておいて…」

真姫「あとは完全にアドリブにすればなんとかなるはず…!」

ことり「あ、アドリブ…っ!?そんなので大丈夫なの!?」

花陽「アリですっ!実際のライブでもダンスにアドリブパートが用意されている曲もあったりしますし…」

花陽「今回ならお客さんと触れ合える位置でもあります!それを利用すればダンスの未熟さをカバー出来るかもしれません…!!」

ことり「お客さんとの触れ合いを振り付けの一部にする、ってこと?」

真姫「そう。海未が辞めてからじゃ、ライブを見せる口実を作るのが面倒になるし…」

真姫「何より、サプライズだから面白んだもの!」

ことり「うんっ!それには同意!」

花陽「二人共サプライズ好きすぎじゃないかな…」

真姫「だってサプライズっていうのは、誰かを喜ばせるためにやることなのよ!」

真姫「まさに、アイドル!私たちの最初のライブにふさわしい演出じゃない!」

花陽「誰かを喜ばせるため…」

ことり「その誰かはお客さんでもあり、そして、海未ちゃんでもある…」

真姫「バイトを辞めるっていうなら都合がいいわ!なにせ、来週から休日練習に参加してもらえるんだし!」

真姫「海未への退職祝いとして、最っ高のライブを贈ってあげましょう!」

花陽「そ、そう聞くとなんだかワクワクしてきたかも…!」

ことり「よしっ!やろう!!できるよっ!だって…」

ことり「…やろうと思えば、やれないことはないんだからっ!」

真姫「決まりね。期日は今週末…。それまでに…」

真姫「海未…、『謎のメイド』を軽く超えちゃうようなライブ、完成させるのよ!」

ことぱな「「うんっ!!」」

真姫「はいっ!」ササッ

ことり「…なにこれ?」

花陽「ピース?」

真姫「こういうときは、番号を叫ぶのよ。お決まりなの」

ことり「へぇー、そうなんだ…。じゃあ、はい!」ササッ

花陽「私も!」ササッ

真姫「じゃ、行くわよ。んんっ…」

真姫「…誰から言う?」

ことり「最初に始めたの真姫ちゃんなんだから、真姫ちゃんからでしょ?」

真姫「えっ…!私から…?」

花陽「今更何言ってるの。真姫ちゃんがリーダーなんだし、当たり前じゃない」

真姫「え、私リーダーだったの!?」

ことり「クスッ。気づかないでやってたの?今まで」

花陽「真姫ちゃんほどリーダーが似合う子はいないよー。ね?」

ことり「ねー」

真姫「私がリーダーって…。私が…」


真姫(今更、ホント今更自覚した、私が集団を引っ張っているって感覚)

真姫(こんな私が、リーダー)

真姫(誇っていいのか、照れるべきか悩むけど)

真姫(でもふたりは…花陽とことりは、私を信じてくれた)

真姫(信じて、運命を私に預けてくれた)

真姫(だったら私が揺るいでどうする)

真姫(柄じゃないのはわかってるけど、でも、今、この世界だけなら)

真姫(私は、誰よりも輝く存在であるべきなのよ)

真姫(A-RISEを超え、頂点を目指すために)

真姫(UTXを覆う闇を払い、真のアイドルとは何かを示すために)

真姫(スクールアイドルによる、革命を起こすためにっ…!!)


真姫「…よぉしっ!」

花陽「行こう真姫ちゃんっ!」 ことり「やる気、見せようっ!」

真姫「えぇっ!行くわよっ!」


真姫「1!!」

花陽「2!!」

ことり「3!!」


真姫(やってやる、やってみせる)

真姫(誰でもない、この私が)

真姫(みんなを、頂へ導くのよ)





「…クスッ」

翌日 火曜日


真姫(私たちに与えられた猶予は5日間)

真姫(それまでに歌と踊りを完璧にこなす…!そのためには歌って踊れる場所を確保することが何よりも重要…!)

真姫(このUTXの音楽室なら十分に踊れるスペースはある…、でもまずは…)



放課後

アイドル応援部



バダンッ!!


真姫「希っ!」

花陽「希さんっ!!」

ことり「希ちゃん先輩!!」


希「ん、おや。3人揃って慌てて、どないしたん?そんな勢いよくドア開けたら壊れてまうよ」


真姫「に、入部…、入部許可は出た!?」

ことり「穂乃果ちゃんのことだから、もしかしてと思って…」

花陽「突っぱねられたなんて、ないですよね…!?」


希「あっ…、そ、それが…」


まきぱなこと「「「…っ」」」ゴクリッ


希「実は…、残念なことに…」


まきぱなこと「「「!!」」」ドキッ




希「3人とも入部決定や!これで部室が狭くなるね!」



まきぱなこと「「「っ!!」」」


「やっ…ったああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」


真姫「こ、これでついに念願のっ…!」

花陽「歌が歌えるんだねぇぇぇぇぇぇ…!」

ことり「じゃあ今すぐ許可を…!」


希「それならもううちがもらっておいたよ。毎日放課後の音楽室の使用許可♪」


真姫「希っ!あなたって人はどこまで最高なの!?マーヴェラス!」

真姫「おっしゃあ早速行くわよぉぉっ!着いてきなさいっ!」ダダッ

花陽「わぁっ!!?待ってよぉっ!!」 ことり「すごいハイテンション…」タッタッタッ…



希「んふ、賑やかやなぁ」

音楽室


真姫「もうどれだけここではしゃいでも文句は言われないわっ!ヒャッフゥ!」

花陽「ま、真姫ちゃんそろそろ落ち着いて…」

ことり「邪魔な机は後ろに下げてー…。っと、これで大丈夫かな?」

真姫「そうね。それじゃ、ついに始めるわよ…!歌のレッスン!」

真姫「まずは発声練習!あーあーあーあーあー!」

花陽「あーあーあーあーあー…」

ことり「は、花陽ちゃんすごくいい声!!そんな声出せるんだ…」

花陽「え、えへへ…。これだけならことりちゃんにも負けないよっ」

真姫「はい、ことりも!」

ことり「うんっ…!あーあーあーあーあー…」

真姫「うん、なかなか。もっとお腹から出せるようにね!」

ことり「了解であります!花陽ちゃん、いっぱいコツとか、教えてね?」

花陽「任せてくださいっ!」

真姫「それじゃあ次はロングトーン!すぅぅっ…あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

ことり「うっさ」

真姫「そういうものよ!さぁご一緒に!」


「「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」




真姫(大声出せるのが嬉しすぎて、初日は半分遊んでるみたいになっちゃったけど)

真姫(笑い合って、はしゃぎあって、楽しく練習するのが、私と、そして花陽が夢見ているアイドルの姿なんだもの)

真姫(これこそが私の知ってるスクールアイドルなんだもの)

真姫(最初は見せることのできなかった、私の世界)

真姫(これで少しは、花陽にも見せてあげられたかな?)




真姫「…っと、今日のレッスンはここまで!」

花陽「え?もう終わり…?」

ことり「あ、ホントだ!もうこんな時間…」

真姫「あっという間でしょ?さ、着替えて帰るわよ」

花陽「うんっ!」

ことり「歌うのって楽しいねー…」

真姫「今日は初日だから軽めにしたけど、明日からはダンスも一緒にやっていくんだからね!」

花陽「生半可な覚悟じゃバテちゃうねっ!がんばろ!」

ことり「うんっ!がんばるっ!!」

真姫(家についてからも携帯で二人と振り付けについて夜遅くまで語り合った)



希の家


真姫「そうねー…、ここは簡単な振り付けでいいんじゃないかしら」

ことり『でもここって盛り上がるから、もーっとインパクトのあるダンスがいいと思う!』

花陽『あえてここをアドリブにして、次のパートを…』

希「うちはここでジャンプしたらいいと思うわー」

真姫「なんで会話に入ってきてんのよ?!」

希「ん?あかんかった?」

真姫「いや、悪くはないけど…今のアドバイス適当でしょ?」

希「んふー、まぁね」

花陽『あ、でも希さんってA-RISEに関わってるなら振り付けにも詳しいんですよね?』

希「あー、うちそこまで関わってはないわ。基本裏方で舞台の設置とかやってたから」

ことり『なんだー…、残念です』

希「他に困ったことがあったらいつでも頼ってくれていいからね?」

真姫「ありがと。遠慮なく頼らせてもらうわね」

花陽『ちなみに真姫ちゃんは今希さんのパジャマを着てるんですか…!?』

真姫「何聞いてんのよ!?」

希「せやよー。うちのお下がりでめちゃんこ可愛いやつー」

花陽『ぶはぁっ!!』

真姫「いや言わなくていいから!そして花陽はなんのダメージを受けたの!?」

ことり『…もう夜なんだから大声は控えようよ』


真姫(それからも話し合いは続き、12時過ぎた頃にまた明日ってなったけど)

真姫(その日は興奮しすぎて寝られなかったわ)

真姫(おかげで…)



翌日 水曜日

1年E組 授業中


真姫「くかー…、すぴー…」

女生徒「に、西木野さーん…」

真姫「…っは!?なんだ夢ね…、くかー…」

女生徒「いや、現実だよ!?」



真姫(私らしからぬ不真面目さを見せてしまったわ)

真姫(…後から聞いたら、花陽も同じことしちゃってたみたい)

真姫(ちゃんと自分の健康管理もしなくちゃね。…誰かの二の舞はゴメンだし)

放課後

2年廊下


穂乃果「くしゅんっ!」

生徒会役員「…会長?風邪ですか?」

穂乃果「…そんなことないと思うけど。あ、それより目を通しておく書類とかはない?」

生徒会役員「はい、今月の各部の予算案が…」

穂乃果「…」

穂乃果「…あ」



海未「それでは、私は部へ。ことりも頑張ってくださいね」

ことり「うんっ!海未ちゃんもファイトっ!」

海未「はい」スタスタ…



穂乃果「…」

生徒会役員「…会長?聞いてますか?」

穂乃果「…聞いてる。ありがとう、帰りまでに考えておく。それじゃ、私、アイドル専攻があるから。あとはよろしくね」スタスタ…

生徒会役員「はい、頑張ってください」





弓道部


海未「…」グググ…

海未「ふっ!」ヒュッ

パシッ


弓道部員A「わー、園田さんさすがー。ど真ん中だよー」

弓道部員B「集中力が違うよねー…。弓を引く以外何も考えてないんだろうなー…」


海未「…」グググ…

海未(ことり、楽しそうでしたね。なんでもついに歌のレッスンができるようになったとか)

海未(今までできていなかったことに驚きでしたが、まぁことりが楽しければ私はそれで…)

海未(そういえば今週の日曜日でついに長きの付き合いだったメイドのバイトともお別れになってしまいますね)

海未(楽しくなかったといえば嘘になりますが、やっと解放される、と思うと気が楽でもあります)

海未(惜しむらくは、今まで見に来てくれたお客様をがっかりさせてしまうことでしょうか)

海未(しかしいずれ別れが来るのは世の摂理です。ならばせめて最高のもてなしを以てお別れということに…)

海未「ふっ!」ヒュッ

パシッ


ワーマタメイチュウー!! スゴーイ!!


海未「ふぅ…」

真姫(こんなに急ピッチな歌とダンスの特訓は、私も今まで体験したことなかったから)

真姫(未経験な二人がついてこられるか少し不安だったけれど)

真姫(でもそれは杞憂に終わったみたい)

真姫(ここまで一度も弱音を吐かず、私についてきてくれた)

真姫(きっとそれは、二人に目指したい確固とした目標があるからこそ)

真姫(そして、その目標にたどり着くための足掛かり。それこそ、海未へのサプライズライブ)

真姫(彼女に夢を、喜びを、憧れを与えられるライブを、私たちは目指して…!)

真姫(そしてついに、ライブ前日…!!)



土曜日

神田明神


真姫「…はぁっ、はぁっ…!それじゃ、ラスト…っ!行くわよっ…!」

花陽「かはぁっ…、ふひぃっ…」

ことり「花陽、ちゃ…大丈夫…?」

花陽「平気、です…!やれますっ…!」

真姫「1、2、3…ハイッ!」



真姫「…っはぁっ!よしっ!」

花陽「完ペキ…ぃっ!」

ことり「ふはー…、疲れたぁぁぁぁ…」

真姫「ふぅー…、今日は…、これでおしまい。少し早いけど、明日に備えて今日は体をゆっくり休めるのよ?」

花陽「ごくっ…、ごくっ…。ぷはーっ…。うん、わかってる。でもそれは真姫ちゃんもね?」

ことり「私たちの面倒見てくれて、人一倍疲れてると思うから。ぐっすり寝るんだよ?」

真姫「わかってるわよ。じゃ、解散ね。集合は明日の…」

花陽「あ!そうだ、その件なんだけど…」

真姫「ん?」

ことり「あそっか。真姫ちゃんに言うの忘れてた。あのね、明日は私たち、早くメイドカフェの方へ行って…」

花陽「色々と舞台のチェックと仕込みとかか、先に済ませておこうと思うの」

真姫「え、じゃあ私も行くわよ?」

ことり「真姫ちゃんはいいよ!今まで私たちに付きっきりで疲れてるだろうし、ここは私たちに任せて?」

花陽「いっつも真姫ちゃんに頼りっきりだったから、こういうところくらいは私たちにやらせてほしいなって」

真姫「花陽…、ことり…」

真姫「…わかったわ。明日は二人に任せる。私は重役出勤させてもらうわね」

花陽「うんっ!でも遅刻はダメだからね?」

真姫「縁起でもないこと言わないの。わかってるわよ」

「あぁ、私。えぇ…、えぇ、そう。うん…」



「手はずは整っているわね?」



「うん、それでいいの」



「じゃ、当日はそれで、えぇ、よろしくね」ピッ



「…」



「…ふふふ」



「なんでも、そう上手くいくと思ったら」



「大間違い、なんだから…。ふふふふふふ…」



「あははははははは!」

日曜日 朝

希の家



ユッサユッサ


希「まーきーちゃーんっ!」

真姫「うぅん…。なによぉぉ…」

希「あーさーやーよー!!おきー!!」

真姫「もうあと5時間…」

希「それやとライブおわってまうやろーっ!起きなさいーー!!」

真姫「んん…、ライブ…?ライ…、っは!!」

真姫「今日はライブだった!!」

希「…大丈夫なん?」


真姫「もぐもぐ…」

希「そんなにはよ食べたらお腹壊してまうよー?」

真姫「平気…。もぐもぐ…、それより、起こしてくれてありが…もぐもぐ…」

希「喋りながら食べるのやめーよ。…まったく、うちがおらんかったらどうなってたことか」

真姫「…ごくんっ。…想像しただけで怖気がするわ」

希「ま、でもそれなら大丈夫そやねー。ささ、はよ着替えて。二人が待ってるよ?」

真姫「わかってるわ」



ガチャッ

真姫「それじゃ、行ってくるわね。希は来ないの?」

希「んー、じゃあギリギリに行くわ。立ち見客でね」

真姫「そう。でも余裕持っていかないと入れすらしないかもよ?」

希「あははー、じゃあそうするー」

真姫「じゃね」

希「あ、あと真姫ちゃん」

真姫「…ん?」

希「…気をつけてね」

真姫「?…えぇ、大丈夫よ。怪我はしないようにするわね」


バタンッ


希「…」

希「…大丈夫、かな」

秋葉原駅


真姫「…遅延ってどういうことよ。ヤバいわね…。急がないと間に合わないかも」

真姫「いや、間に合わないってことはないけど…、海未と鉢合わせしちゃったりなんかしたら…」

真姫「少し急ぎ足で行きましょう」スタスタ…



秋葉原 街中


真姫「…」スタスタ


??「あのー…、すみません、少しいいですかー?」


真姫「…は?な、何…」

??「えっとー、道が知りたいんですけどー」

真姫「道、って…ごめんなさい!今急いで…」

??「すぐ済むんで、お願いしますー」

真姫「あぁっ…もう!なんなのよっ!!邪魔しないで…」

バッ!!


??「ふっ!」ダダッ


真姫「えっ…!ちょっ…!!」

真姫(バッグを盗られた!?)

真姫(そ、それには携帯とか財布が…っ!)

真姫「ま、待ちなさいっ!!ドロボーッ!!!」


真姫(泥棒は裏路地へ逃げ込んだ。ここなら人目が少ない…)

真姫(くっ…、叫びながら追っても誰も捕まえてくれる人はいない…!)

真姫(しかも相手は逃走用のルートを用意してる…!入念な犯行だわ…!)



裏路地


真姫「はぁっ…!はぁっ…!!なんなのよ…!」

真姫「…くっそ、もう時間が…」

真姫「悔しいけど、バッグは諦めてもうメイドカフェへ向かいましょう。二人も待って…」


「残念だけど、それは無理ね」


真姫「えっ…むぐっ!!?!ふぐっ…、もがぁっ…!!」

真姫(ヤバ…!これ、危険な薬品…!?嗅がされ…っ!)

真姫(そう、いうのは…私の仕事なの、にっ…)


「おやすみ、真姫…」


真姫(こ、の…声…)

真姫(まさ、か…。そんな…)

真姫「…」

メイドカフェ 控え室


花陽「どうどう?可愛いかなぁ…」

ことり「うんー!ばっちりだよ花陽ちゃんっ!すごいプリティ!」

花陽「ふひひ…。なんだか照れちゃうね」

ことり「私はどう?似合ってる?」

花陽「そりゃもう激似合いですよ!カリスマメイドって言っても違和感ないかも!」

ことり「わー!言い過ぎだよー!私なんかがカリスマメイドなんてー、えへへー」

花陽「そ、それにしてもー…、ドキドキするね。もう、し、心臓、飛び出るかと思うくらい」

ことり「確かに…。海未ちゃんはこんな気持ちで歌ってたのかなぁ…」

花陽「私たちは海未さんにバレないように、ってミッションも含まれてるから、それ以上ですよ…!」

ことり「そっか…!海未ちゃん、間違ってこっちの部屋に入ってこないかなぁ…」

花陽「店長さんが注意しておく、とは言ってましたけど…。でも万が一ってこともあるし…」

ことり「あ、変装用に仮面持ってきたよ。はい、これ」

花陽「え、用意がいいですね…。これは…?」

ことり「えっとねー、チェスがモデルの子供向け特撮のヒーローでー、パワーアップ形態がなぜか野球にシフトチェンジしちゃった…」

花陽「いや詳しい説明はいいです…。こ、こうかな…?」カパッ

ことり「うん似合う似合う!そんなになっても花陽ちゃんはかわいいねー」

花陽「似合ってもあんまり嬉しくないなぁ…」

ことり「…それにしても」

ことり「真姫ちゃん、遅いね」

花陽「あ、そういえば…。まだ寝てるとか…!?」

ことり「いや流石にそれは…希ちゃん先輩が起こしてくれてるでしょ」

花陽「あー、ですよね。でもそれじゃ何をしてるのかな…?」

ことり「ちょっと電話してみようかな…」ピポパッ


プルルルル… プルルルル…


ことり「…繋がらないね」

花陽「な、何してるのぉ…!?真姫ちゃん…」




裏路地


プルルルル… プルルルル…


真姫「ぐっ…!離してっ…!この縄を解きなさい!!」

??「ごめんね。先輩の命令だから」

真姫「くっ…!」


「あら、お友達から電話かかってきてるわよ?」

「なんて返事する?それとも放置かしら」


真姫「…ふざけたこと、やってくれるじゃない…!!」

真姫「絢瀬、絵里ィッ…!!」

絵里「…」


真姫「なんのつもり…!集団で囲って、私を拉致して…!」

真姫「私は用事があるのよっ!!とっとと離して!」


絵里「嫌よ。だってわざわざ捕まえたんだもの」

絵里「それを解放するなんて、穴を掘ってそれを埋める作業並に虚しいじゃない」


真姫「冗談のつもりっ…!?何も面白くないわよ!!」

真姫(…まさか、こんなところで絵里に捕まる、なんて…!)

真姫(全く予想してなかった…!!こんなことをしてくるだなんて…)

真姫(どこまで墜ちたのよ、あなたはっ…!!)

真姫「こんなことして、後でどうなるかわかってるの…!?」

真姫「警察にチクるわよ!退学間違いなしね!」

絵里「警察ゥ…?アハハハ!何言ってるのかしら。誰が退学するというの?」

真姫「だ、誰って…!あなたに決まってるでしょ!婦女暴行よこれは!」

絵里「私が?お生憎様だけど、今頃私は学校の可愛い後輩とショッピングを楽しんでいるの」

絵里「それを証言してくれる友人だってたくさんいるわ。ほら、あなたの周りに」

真姫「…っ!!」


真姫(こいつら…!いくつか見知った顔もいる…。歌手専攻で同じクラスの子だわ…)

真姫(…つまり、この子たちは…アイドル専攻…?)

真姫(なるほど…、絵里の都合のいい下僕、といったところかしら…)

真姫(なにせアイドル専攻のA-RISE候補生の全権を握るのは絵里…。どうとでも好きなようにできる…!)


真姫「…この、下衆がっ…!」

絵里「ひどい言われようね。まぁ、否定はしないわ」

絵里「でもあなたを痛めつけるつもりはないの。それは本当よ、信じて」

真姫「じゃあなんのために、こんなところに連れてきたって言うのよ…!?」

絵里「んふ、それはね…」



絵里「いますぐ、アイドル活動をやめなさい」

メイドカフェ 控え室


花陽「どどどどうしよう…!?真姫ちゃん、連絡つかない…!!」

ことり「希ちゃん先輩にも電話しても、出かけたっきりだって…!」

花陽「もう海未さん来ちゃってるし…!こ、このままだと…」

ことり「…中止に、なっちゃう…」

花陽「えぇぇぇぇぇぇっ!!!だ、ダメだよそんなの…!」

花陽「海未さんをメイドカフェで勧誘する、最後のチャンスなのに…」

ことり「でも真姫ちゃんがいないと…!!」

花陽「…う、うぅぅ…」

ことり「…私、店長に相談してくる」

花陽「は、はい…」



裏路地


絵里「いますぐ、アイドル活動をやめなさい」


真姫「…なんですって?」

絵里「アイドルをやめて、って言ったの」

真姫「なんで、かしら」

真姫「あなたが…私がアイドルをやってることを知ってるのも気になるけど…、まぁ十中八九穂乃果からでしょうけど」

真姫「何故あなたがそれをやめさせたがるの?…理由を教えて」

絵里「目障りだからよ」

絵里「あなたたちにUTXでスクールアイドルをやる資格はないわ」

真姫「意味がわかんないんだけど。スクールアイドルなら他にも有名な子がたくさんいるでしょ!どうして私たちは…」

絵里「それはあなたがUTX学院生だから」

真姫「はぁ?」

絵里「私はね…。A-RISEを愛しているの。これ以上なく強いスクールアイドルに仕立てあげたいのよ」

絵里「環境も、人材も、全てが一流のトップアイドル。それが私の理想とするA-RISEなのよ」

絵里「そのA-RISEの周りに…、うるさいハエが飛び回っていたら、世間の人々はどう思うかしら?」

絵里「『A-RISEは完璧なのに、同じUTX学院にみっともないスクールアイドルがいる。これじゃA-RISEも劣って見える』」

絵里「そう思われるかもしれないじゃない」

真姫「なっ…!!そんなの、勝手な憶測じゃない!!なんの根拠もないわ!!」

絵里「なんの根拠もない勝手な憶測でも構わないわ。ほんの少しでも可能性があるなら、私はそれを潰さなきゃいけない…」

絵里「…私の思い描く夢に泥を塗られるかもしれないのならね」

真姫「…っ!!そんな、自分勝手な…!」

真姫「あなたはそんな考えだから…、今まで何人ものアイドルの卵を…、傷つけてきたのね…!」

真姫「最っ低…!!」

絵里「どうやら、受け入れてはくれないようね」

真姫「当たり前…」

ビリィッ!!


真姫「…っ!!?」

真姫「グギィッ…!」

真姫(今の衝撃は、何っ…!!?)

真姫「かはっ…!」

絵里「ありがとう、バッチリよ」

学院生A「はい、任せてください」

真姫「い、今のは…、一体…!」

絵里「ふふ、なんてことはないわ」

絵里「どこでも売ってる…普通のスタンガン」

絵里「ちょーっと出力を高めにしているだけの、ね」

真姫「んなっ…!」

絵里「痛めつけるつもりはないけど、でも痺れさせるくらいならいいでしょう?」

絵里「平気、傷は残さないわ」

絵里「やりすぎると、麻痺が残るかもしれないけどね」

真姫「っ!」

絵里「それは嫌でしょう?ね、お願い真姫」

絵里「…アイドル、やめてくれる?」

真姫「…」

真姫「ふざけないで…っ!誰がっ…」

ビリィッ!!


真姫「ぎぃっ!!ぐ、がっ…!!」

絵里「強情なのね…。しかも気が強い。あの頃とは大違い」

真姫「はぁっ…、はぁっ…」

真姫(あの頃…?)

絵里「でも今のあなたはとても輝いて見える。今なら…、あなたを私のA-RISE候補生に入れてあげてもいいわ」

絵里「もちろん他の二人はダメだけど…、ね?真姫…。これならいいでしょう?」

絵里「あなたがどうしても表舞台に立ちたいっていうなら、専用の枠を用意してあげてもいい」

絵里「それくらい私はあなたのことを買っているのよ、こんなところで無駄にしたくないの」

絵里「アイドルなら私の下で好きなだけさせてあげる。だからお願い、私のところへ来て」

絵里「弱い人間と付き合ってあなたまで弱くなる必要はないのよ。私はあなたが欲しいの」

絵里「ね…、今のスクールアイドルは解散して」

真姫「…はぁ、…はぁ」

真姫「バカ、め…」

絵里「…なんて?」

真姫「バカめと言ってやったのよ…。ハッ…、通信越しじゃないのが惜しいけど…」

ビリィッ!!


真姫「ひ、ぎぃぃっ!!!い、だぁっ…!!」

絵里「…意地っ張りなのね。でもその強気がどこまで続くかしら?」

絵里「自分から私のものになりたい、って言うまで…、可愛がってあげる」

メイドカフェ 控え室


ガチャッ

ことり「…」


花陽「あ、ことりちゃん…」

ことり「店長に言ってきた。もしもの時はライブを中止する、って…」

花陽「そっか…」

ことり「真姫ちゃんから連絡、きた?」

花陽「…」フルフル…

ことり「…そう」

ことり「今日まで、頑張ってきたのにね…」

花陽「うん…」

ことり「…私、やっぱり…」

ことり「ここで真姫ちゃんを待つより、探しに行ったほうがいいと思う」

花陽「えっ…」

ことり「もし大きな事故に巻き込まれてたたら大変だし…」

ことり「どうせ中止になるなら、早く行ったほうがいいよ!」

花陽「…」

ことり「行こう!花陽ちゃんっ!」

花陽「…」

路地裏


ビリビリィッ!!

真姫「ぐぎぃぃぃっ!!!!が、は…っ!」

絵里「もー…、真姫ぃ?何度言わせれば気が済むのよ…」

絵里「それとも待遇が不満?今すぐA-RISEに入りたいの?」

絵里「あー…、ちょっと迷うけどそれでもいいわ!だから…、みすぼらしいスクールアイドルは解散してよ」

絵里「UTXに、A-RISEに汚点は残したくないの。あなたも掃き溜めに捨て置くには惜しい人材だから」

絵里「さ、返事は?」

真姫「…ば、バーカ」

絵里「…はぁ」


ビリリリッ!!


真姫「ぎぐがぁっ!!」

絵里「…やめて。今は真姫に喋らせてあげて」

学院生A「はい」

真姫「はぁ…、はぁ…」

絵里「ねぇ、何がいけないの?あなたの口から言って」

絵里「あなたには最高のもてなしを用意してあげているのよ?それの対価にスクールアイドルを辞めてって言っているだけなのに」

絵里「どうしてそれでも…、痛みに耐えてまで頑なに応じようとは思わないの?」

真姫「はぁ…、はぁ…!…ッハ!」

真姫「あなたには、わからないでしょうね…。人の痛みを理解しようとしない、あなたには…」

真姫「私だって…、正直こんなところで…、こんな世界でスクールアイドルなんて、馬鹿げてるって思ってる…」

真姫「…穂乃果も、凛も、にこちゃんもいない…。絵里は今まであった人間の中で一番の下衆に成り果てて…」

真姫「普通だったらとっくに投げ出して、ひたすらSOS信号を出し続けてるわよ…」

絵里「…?変な言い回しね…。いいけど」

真姫「…でもね、私は見ちゃったのよ…」

真姫「夕日の音楽室で、花陽が…、花陽が、泣いてるのを…!」

真姫「自分の追い求める夢なんて、どこにも無いのかな、って…、悲痛な笑みを浮かべながら…!!」

真姫「そんなの見ちゃったら…、無視できるわけない、でしょう…!」

真姫「私はねぇ…!見せてあげたいのよ…!!私の見てきた景色を…、この世界の花陽にも、もう一度…っ!!」

真姫「だからあなたがどんなに私を優遇しようが、関係ないっ…!!」

真姫「私がアイドルできなくなるより、花陽がっ…、花陽がアイドルを続けられるほうが、何億倍も大事だからっ!!」

真姫「お門違いなのよっ!!私に甘言かけるのは!」

真姫「そんな考え方で人の上に立とうなんてお笑い種ねっ!あなたこそ深夜までアイドルの練習でもしてればいいんじゃないのっ!!?」

真姫「今よりよっぽどちゃんとした精神が身につくわよっ…!」

学院生A「このっ…!言わせておけば…」

絵里「…やめなさい」

学院生「あっ…、ご、ごめんなさい」

絵里「真姫…、思っていたより」

絵里「ずっとずっと、立派になっていたのね…」

真姫「…なにそれ、褒め言葉のつもり…?」

絵里「いえ、本心よ」

絵里「…強い人間なのね、あなたは」

絵里「私よりも誰よりも、強い心をもっているわ」

真姫「…っは、急に褒められると、照れるじゃない」

真姫「でもね…。私なんて、たいしたことないわよ」

真姫「私の知ってるスクールアイドルには、私よりもっと強い人たちがいた…」

真姫「何も知らない、何もないゼロの状態から、頂点まで勝ち上がった少女がいた…!」

絵里「…へぇ。会ってみたいものね、そんな強い人がいるなら」

真姫「それにっ…!」

真姫「…あなたが弱いと称した、二人」

真姫「花陽と、ことりも…」

真姫「あなたが思っているほど、弱くはないわよ」




メイドカフェ 控え室


花陽「…うぅん」

花陽「行かない。…行けないよ」

ことり「えっ…!」

花陽「やっぱり、中止はできない」

花陽「真姫ちゃんが来ないなら、二人でやろう」

ことり「は、花陽ちゃんっ…!!?」

花陽「私たちがここから離れても、できることはないよ」

花陽「だったら、今私たちができる最良は何?」

ことり「…っ」

花陽「きっと今を逃せば、海未さんにアイドルの楽しさを伝える機会は当分来なくなっちゃう」

花陽「そうなったら、真姫ちゃんが今まで必死でやってきたことが、台無しになる」

花陽「それは私、絶対に嫌だから」

花陽「もし真姫ちゃんが来られなくても、私は成し遂げたいの」

花陽「真姫ちゃんが海未さんに…、そして、海未さんを見に来てくれているお客さん全てに、伝えたかった気持ちを」

ことり「花陽、ちゃん…」

花陽「だからことりちゃん、酷いって思うかもしれないけど」

花陽「私はやるよ。やりたいから…、真姫ちゃんがいなくても、今、アイドルを」

花陽「やらせて欲しいの。お願い」

ことり「…」

ことり「…うん。私も…、やりたい」

ことり「私…、海未ちゃんが笑ってるところ、もっと近くで見たいから」

ことり「だから、アイドルを始めたんだもん。あの頃をやり直すために」

ことり「そうだよね…。今しかないなら…、今やるしかないんだよね…」

花陽「はいっ!それにっ…!!」

裏路地


絵里「あの二人が、ね」

絵里「…ふふ、私の目にはそう見えないんだけど、あなたにはそうなんでしょうね…」

絵里「貸して」パシッ

学院生A「えっ…、あ、はい…」

絵里「はぁ…。少し、遅かったみたいね」

真姫「…何がよ」

絵里「あなたをもう少し早く、勧誘しておけば良かったかのかもしれない」

絵里「それこそ…、あの音楽室で出会ったときとかに、ね」

絵里「でもその時は、私あなたのこと忘れてたから。ギリギリまでね…」

絵里「…最近、忘れっぽくて仕方がなくて、興味ないことはすぐに忘れちゃうのよ」

真姫「何言ってるの、あなた…」

絵里「だからきっと、あなたのこともすぐに忘れられると思う」

真姫「…っ!ま、さか…!」

絵里「もう少しあなたが未熟なら、私のものになってくれるかもしれなかったんだけど」

絵里「でも遅すぎた。あなたは熟してしまっている。私に染まってはくれない」

絵里「…なら、もういらないわ」ビジジジッ…!!

真姫「っ!」

絵里「出力最大…。多分死ぬことはないと思うけど…、後遺症は残るかもね」

絵里「一生人前に出られないような顔になるかも…」

真姫「く、ぅっ…!!」

絵里「さよならっ…」

絵里「…真姫ぃぃっ!!!」ブンッ!!



ヒュッ!!


絵里「っ!?」


バキィィッ!!


絵里「ぐあぁぁっ!!」ズサァァッ…!!

学院生共「「先輩っ!!?」」





花陽「はいっ!それにっ…!!」

ことり「それに?」


花陽「私たちには、頼れる先輩もいますからっ!」





真姫「…あっ!!」


希「…どうやら、間一髪で間に合ったみたいやね」

学院生A「貴様っ!先輩によくもっ…!」

希「ふっ!!」ゲシィッ!!

学院生A「ぐあっ!」

希「真姫ちゃんっ!せいっ!」ズバッ!!

真姫「あっ…!縛っていたロープが切れた!」

学院生B「くっ…!このぉっ!!」

真姫「…っは!不意を突かれなきゃあなたたち程度っ…!」

真姫「どうとでもなるのよぉっ!!」ドガァァッ!!

学院生B「ぐごぇっ!」

真姫「さぁ、かかってきなさい!全員地獄に送ってやるわ!!」クイクイ


学院生共「…くっ」


真姫「…ありがとう希。助かったわ」

希「ことりちゃんが連絡くれてね。うちの嗅覚とスピリチュアルパワーでなんとか見つけられたわ」

真姫「恐ろしいわね…、あなたの鼻…」

希「まったく、うちがおらんかったらどうなってたことか」

真姫「想像しただけで怖気がするわ。…さて、ここからは」

希「うちらの逆襲やよっ…!」


学院生共「ぜ、全員でかかればっ…!!」


絵里「…ストップ」

学院生共「せ、先輩っ…」

絵里「希には勝てないわ。あなたたち全員でかかっても」

学院生共「っ!?」

真姫「えっ…」

絵里「…だから降参。今日のところは引き上げるわ」

希「…えりち。このこと学校にチクったら、どうなるか…」

絵里「それはちょっと怖いけど…、でも平気よ」

絵里「私、信頼されてるから。あなたと違って…、ね?」

希「…っ!いちいち、癇に障ること言うね、えりち…」

絵里「まだそう呼んでくれてありがとう、希。さ、みんな、帰りましょう」

絵里「…はい、真姫。あなたのバッグ。盗んじゃってごめんなさいね」

真姫「えぇ…」ガシッ

絵里「今日はおとなしく、帰るわ。…でも私まだ諦めたわけじゃないから」

絵里「どんな手を使ってでも…」

真姫「…どんな手を使ってくれてもいいけど」

真姫「もし、花陽やことりに手を出したりなんかしたら…」


真姫「…私、あなたのこと殺すから」


絵里「…えぇ、肝に銘じておくわ」

絵里たち「…」スタスタ…



真姫「…」

真姫「…っはぁー…!あ、危なかったー…!」

希「ホント、危機一髪みたいやったね」

真姫「ヤバかったわよマジで…。アイドルできなくなるところだった…」

真姫「そういえば絵里が希には全員かかっても勝てない、って言ってたけど…、あなたそんなに強いの?」

希「ん?んー…、まぁね。色々勉強した、って言ったやん?」

希「その中の色々にもまー色々ありまして…」

真姫「…なるべく歯向かうのはやめておくわ」

希「それが真姫ちゃんのためやねー…っと」

希「それより…、もうライブ、始まってるよ?急がんでいいん?」

真姫「えっ!!?もうそんな時間!?」

真姫「マズッ…!花陽たち大丈夫かな…。行きましょう!」

希「うんっ!うちも行く!」





絵里「…」

学院生A「せ、先輩…。あっさり引き下がってよかったんですか…」

絵里「…えぇ、今はね」

絵里「ふふ…、でも、あの時の…真姫の顔…」


(真姫「…私、あなたのこと殺すから」)


絵里(…本当に、殺されるかと、思った)

絵里(この私が、本気でビビるなんて…)

絵里「…いくらなんでも、変わりすぎじゃない?あの子…」

学院生A「はい?」

絵里「いえ、なんでもない」

絵里「…ま、でも…直接彼女たちに危害を加えることはできなくても…」

絵里「やり方はいくらでもあるわ」

絵里「私のA-RISEを頂点に導くためには、どんな小さな障害をも取り除かなければいけない」

絵里「それだけは、絶対にやり遂げないといけないのよ」

時は少し巻き戻り

メイドカフェ店内


花陽「つ、ついに海未さんのライブ開始まであと3分ほど…!」

ことり「真姫ちゃん結局来れなかったね…」

花陽「はいぃ…!でも、やらなきゃ…!!」

ことり「う、うんっ…!!それはわかってるよ…!」

花陽「ポジションやダンスは先ほどおさらいしたように、急な話なので混乱するかもしれませんが…」

ことり「うん、バッチリ…、とまでいかないけど、ちょっとアレンジ加えただけだもん…!行けるよ…!」

花陽「では、始まるまで…!!」

ことり「海未ちゃんにバレないように、待機…!」



舞台裏


海未「…」

海未「アイドルの事を少しでも知りたいと思って始めたバイトでしたが…結局、徒労に終わってしまったようですね」

海未「いえ、楽しくはあったので、無駄ではなかったですけれど」

海未「…今日で、このメイド服と、サングラスともお別れですか」

海未「今までありがとうございました。不甲斐ない私を引っ張ってきてくれて」

海未「笑えなかった私に仮初の笑顔を与えてくださったのは、あなたたちのおかげですよ」

海未「最後まで、私に力を貸してください」


スチャッ…


謎のメイド「…」

謎のメイド「あーあー…、んんっ」

謎のメイド「よしっ」

謎のメイド「それでは…、行きますっ…!!」



メイドカフェ 特設舞台


謎のメイド「はいはーいっ!!皆さんこんにちはー!はいっ?」


「「こーんにーちはー!」」


謎のメイド「おおー!急なフリにもちゃんと反応してくれるなんてここのご主人様は訓練されてますねー、なんてー」


アハハハハ…


謎のメイド「というわけで、今日も今日とてこの謎のメイドこと私のライブが…」




「「ちょっと待ったーーーーっ!!!!!!」」




謎のメイド「…っ!!?な、何っ…!?」

花陽「そのライブーっ!」

ことり「待ってもらおうかっ!!ででんっ!!」


謎のメイド「ことりっ!!?それに…、小泉さん…!?」


メイドA「はいはい、じゃあ謎のメイドさんには少しご退場頂いて…」

メイドB「はい、マイクは私にね」

謎のメイド「ど、どういうことですかこれは…?聞いてませんよ…」

メイドA「言ってないからねー」

謎のメイド「は、はぁ…」



ざわ…  ざわ…


花陽「え、えと…、突然のことで驚いている人も多いかもしれませんが…」

ことり「これはイベントの一環なのです!ちゃんと店長にも許可とってるんで、心配ご無用ですよー」


オォー…


花陽「あ、あの…、あの…、ゎ、私、たち…は…」

ことり「頑張って、花陽ちゃん!」

花陽「う、うん…。私たちは、す、スクールアイドル、なんです…」

花陽「き、今日が、そのっ…、そのデビューライブとなりますっ!」

ことり「海未ちゃ…、謎のメイドちゃんのライブをお楽しみに来てくれた方には申し訳ないですー。あ、でも大丈夫!」

花陽「このあと、ちゃんと謎のメイドさんのライブがありますからっ!!」


オォーッ!!


ことり「…あは、すごい盛り上がり。これじゃ私たち前座みたいだね」

花陽「…っ」ゴクリッ

花陽「でも、それじゃダメなんです…。海未さんを、圧倒的に超えないと」

花陽「でないと…!」

ことり「うん、わかってるよ。さ、準備準備」

花陽「うんっ…!」



謎のメイド「ライブ…。そうだったんですか。わざわざここで…」

謎のメイド「では、私は一度裏で待機しておいたほうがいいですか?」


ことり「ダメっ!謎のメイドちゃんはここにいて!」


謎のメイド「えっ…、では、袖の方で待機を…」

花陽「違うんですっ!!」

謎のメイド「はい…?」

花陽「謎のメイドさんには…、謎のメイドさんには…!」

花陽「客席で、見てもらいたいんですっ!!!」


謎のメイド「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」

~回想~


音楽室


真姫「お疲れ様。だんだん物になってきたじゃない」

ことり「…ふぅー、これならうまくいきそうだねー」

花陽「…」

真姫「…花陽?どうしたの?」

ことり「もしかして、練習の成果に不満?もう少し練習してから帰る?」

花陽「あ、うぅん…、そうじゃないんです…」

花陽「練習は、真姫ちゃんのおかげもあってとてもうまく言ってるとは思ってるんですけど…」

花陽「でも、本当にこれでいいのかなぁ、って」

花陽「私たちがライブを成功させたところで、海未さんは本当にアイドルをやりたい、って思ってくれるのかな、って思って」

真姫「…どういうこと?」

花陽「だって…、もしかしたら、海未さんにまた疎外感というか…、それこそ、私たちが海未さんよりずっとずっと上手にライブができたとしたら…」

花陽「海未さん、今まで自分がやってきたことはなんだったのか、って落ち込んだりしないかな、って」

ことり「あっ…」

花陽「あ、いや…、まだあの海未さんを超えられるかわかってないんですけど…」

真姫「何よ、そんなこと」

ことり「…うぅん、でも確かに、今の海未ちゃんメンタル弱いからなぁ」

ことり「ポジティブに受け取ってくれない可能性も考慮に入れる必要があるのかも…」

花陽「で、ですよね…!不確定な要素ではありますけど…」

真姫「だーかーら!そんなの心配する必要ないわよ!」

花陽「えっ…」

ことり「で、でも…、海未ちゃんの心の脆さは…」

真姫「そんなの関係ない!だって、そんなの不確定な要素でもなんでもないんだから」

花陽「え…?」

真姫「いい?花陽。例えばの話」

真姫「あなたがA-RISEの練習風景を見たとします。私たちよりずっと練習量は多いの。あなたはどう思う?」

花陽「え…?うーん、す、すごいなー…って思うのかな」

真姫「じゃあ、ことりが練習してたら?そうね、あなたの練習量より多めにやってるとしたら」

花陽「えっ」

ことり「私?」

花陽「うぅーん…、そーだなぁ…えっと…」

真姫「これに関しては前言ってたじゃない。『アイドルの先輩だから負けてられない』って」

花陽「あ!そっか。そういうことだよね…。ことりちゃんに負けないように、って思って私も練習量多くしたんだった」

ことり「で、それが?」

真姫「今の質問の状況は、ほとんど一緒でしょ?どっちも自分より練習量が多い。でも感じ方は違った」

真姫「じゃあなんで感じ方が違ったんだと思う?」

花陽「えっ…、し、質問の意味がよく…」

真姫「…はぁ。いいわ。教えたげる」

真姫「それはね、対象が身近であるかどうか」

真姫「あなたにとってA-RISEは憧れる存在。だから、自分より練習量が多くて当たり前、すごいな、くらいしか感じない」

真姫「でもことりは自分と同じスクールアイドル。年齢は一個上でも経験は自分のほうが早いし、負けたくないって思う」

真姫「今回の海未も、これと同じよ」

ことり「ど、どういうこと…?」

真姫「もし海未が、『自分のやってきた事って一体…』って思うのだとしたら、それは身近な存在であるから」

真姫「彼女が一人の、…みんなから愛されるアイドルであるがゆえに、目線を私たちスクールアイドルと自分を同等の存在としておいてしまうの」

真姫「だから今回のライブ、海未には一つ下の目線から見てもらうようにしましょう。引き下げるのよ」

真姫「彼女をアイドルでも何でもない…、一人の観客として」

ことり「え、えぇっ!!?」

花陽「仮にもアイドルな海未さんを…、観客に引き下げるのォ!?それっていいの…?」

真姫「だからこそいいんじゃない!彼女は今まで観客としてライブを味わってこなかった。だからアイドルの良さがわからなかったのよ!」

ことり「あっ…!そっか!!」

花陽「え…?」

真姫「海未は最初からやり方を間違ってたの。花陽、あなたが一番よく知ってるでしょ。アイドルを大好きなあなたが」

真姫「あなたがアイドルになりたい、って憧れたとき、あなたはどこにいた?」

花陽「…あっ!!」

花陽「そうか…、そうだよ!」

花陽「眺めてたんだ…!遠い遠い場所にいるアイドルを…!」

花陽「そして、こうも思ったんだ…!」

花陽「私も、そこに立ちたい、って…!!!」



~回想おわり~

花陽「謎のメイドさん、あなたはそこで、私たちを見守っていてください」

花陽「そして、思ったこと、感じたこと…、私たちのライブが終わった後で、存分に口に出してください」

ことり「これからお見せするのは、ひとつの魔法」

ことり「恥ずかしさなんか吹っ飛ばして、ワクワクした心を生み出しちゃう、不思議なマジック」

ことり「きっと目が釘付けになって、まばたきすらできなくなっちゃうかも!」


謎のメイド「魔法…」


花陽「そ、それじゃっ…、歌いますっ!」

ことり「時間がなくて、一曲しか用意できませんでしたがー…、3分半、夢のような時間をお届けします!」

花陽「き、聞いてください…!曲は…!!」



(真姫「曲名?あぁ、海未が名づけてくれたものがあるわ」)

(真姫「可愛らしい歌詞なのに簡素なタイトルで、私は少し物足りないんだけど…」)

(真姫「うん、曲名はね…」)

(真姫「『告白日和』、だって」)



花陽「こっ…」

花陽「告白日和、ですっ!!」




ことぱな「「すぅっ…」」





「  ねぇ、ひとつだけ聞いていい? 私のこと…  」

謎のメイド「…」



「  会えるかも今日は 心が騒いで  」

「  スキップしたくなった ときめきに踊る瞬間  」



海未(急にライブが始まって、驚いて最初は曲どころではなかったのですが)

海未(二人が歌い始めた瞬間、一瞬で周りの空気が変わったように感じられました)



「  私のことなど たぶん気にしてないの  」

「  だけど…ここにいるんだよ 私はここよ  」



海未(少し騒がしかった他のお客様方はすぐに静まり、しかしながらも穏やかな熱狂に包まれたように)

海未(まるでテーマパークに放り込まれたかのような興奮を、肌で感じました)

海未(…違う、まるで…違う)



「  自信が揺れ動く 嫌われてないかな?  」

「  勢いでとにかく挨拶だ!  」



海未(私のときとは、全く違いました)

海未(みんながみんな、同じ方向をむいて、誰もしゃべることなく、夢中になって)

海未(集まった有象無象の方々が、統率の取れた軍隊のように、同じものに対して一つに纏まっている)

海未(これぞまさしく…魔法)



「  やっと晴れたね ぱーっと晴れたね そして元気になるね  」

「  おはようの代わりに背中を叩いて 「さあ、行くよ!」  」



海未(店内を所狭しと動き回る、メイド服のことりと、小泉さん)

海未(それは小さな箱庭に降り立った妖精のようで)

海未(見るもの全てを幸福な気持ちにさせてくれる、天使のような存在で)

海未(しかし、なぜでしょう。私は、おそらく私だけは)

海未(ただ、それだけに収まってくれないのは)



「  やっと晴れたら ぱーっと晴れたら きっと元気なえがお  」



海未(今私は…、私のこの足は…)

海未(猛烈に、動き出したいと呻いている…!!)

海未(私の心は…!)

海未(熱烈に、歌いたいと願っている…!!)



「  なんだか 今の この気持ちが切なくなったよ  」

ガチャッ


真姫「ライブはっ…!!」

希「…始まってるようやね」

真姫「…やっぱり間に合わなかったか…」

希「でも見て、真姫ちゃん」

真姫「…ん?」

希「結構、うまくいってるみたいやよ?」

真姫「…そうね。ちょっと悔しいけど…、いいじゃない。二人共」





「  どんな ふうに 感じてるの全部見せてよ  」


ことぱな「…ふぅ」



「…っ」

「オオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ!!


謎のメイド「ぉぉ…」パチパチ…




ことり「ひゃっ!…あ、ありがとうございますー!」

花陽「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!!」

花陽「え、えっと…、聞いていただいたのは告白日和、という歌で…」


観客「えっ?『告白日和、です』じゃないの?」


花陽「えっ…、えっ!?いやそれは私が…」

ことり「はいー!『告白日和、です!』って曲でしたー!!」

花陽「えぇっ!!?いいの!?」

ことり「いいのいいの。告白日和、より可愛らしいよ。花陽ちゃんらしさも出てて」

花陽「勝手に曲名変えちゃったんだけど…」

ことり「…で、その『告白日和、です!』なんですけどー…、実は!この謎のメイドさんが作詞してくれたんですよねー!」


オォーッ!!


謎のメイド「えっ…、あ、ど、どうも…」


ことり「それで、今日は私たち、ただライブをやるためにここに来たんじゃないんです」

花陽「謎のメイドさんを、私たちのスクールアイドルに勧誘したくて、ライブをしたんだよね」


謎のメイド「なっ…!そ、そんな理由で…!!?」

ことり「どうだった、謎のメイドさん?」

謎のメイド「え、あ、あの…、その…」

花陽「ささ、舞台へどーぞ!!」

謎のメイド「え、えぇぇっ!!!」


謎のメイド「えっと…、あの…」

ことり「えへへ、いつもより緊張してる?」


海未(な、何故でしょう、いつもと同じはずの舞台からの景色が…)

海未(これほどまでに変わって見えるのは…!)


ことり「お集まりの皆さん、少し聞いてください」

ことり「実はこの謎のメイドちゃん、ここではこんなはっちゃけてるけど」

ことり「…実は、今年の春まで、心を病んでいたんです」

謎のメイド「…なっ!!?こ、ことり、何故今それをっ…!!」

花陽「ことりちゃんっ!?私も聞いてな…」

ことり「大切なお友達と喧嘩して、それまでの自分を否定されて」

ことり「心の殻に閉じこもってしまった時期も、あったんです」

ことり「でも今ではこんなに明るく振舞っている謎のメイドちゃん」

ことり「あの頃を知っている私は、今でも夢のように思えます」

ことり「こんなに大勢の人に愛されて、笑顔を振舞っているなんて」

ことり「ホント…、よかったね。うm…、謎のメイドちゃん」

謎のメイド「…もうほぼ漏らしてるじゃないですか、名前」

ことり「でも!その謎のメイドちゃんが今日でバイトをやめちゃうんです!!」


エェェェーッ!!


ことり「嫌だよね!?そうだよね!でも仕方ないの!期日だから!」

ことり「私だって残念で仕方ないよっ…、舞台の上で笑う、謎のメイドちゃんを見られなくなるのは」

ことり「ねぇ、謎のメイドちゃん。それで、本当にいいの?」

ことり「今終わって、満足だって言える?」

謎のメイド「…」

ことり「…これ、マイク」

ことり「次は…、あなたの番だよ」

花陽「ことり、ちゃん…」

謎のメイド「…」

謎のメイド「えー…、その…」

謎のメイド「…その」


ガンバレー!! 


謎のメイド「…はい、頑張ります」

謎のメイド「…んんっ!」

謎のメイド「えっと…、私は今まで、この舞台の上で歌ってきました」

謎のメイド「それは、かつての友人に言われた一言を理解するために、始めたことでした」

謎のメイド「しかしそれは…、ついぞ、叶うことはありませんでした」

謎のメイド「確かにこうして歌うことは楽しいんです!皆さんに自分すら知らない自分を見せることが!」

謎のメイド「でもそれはきっと…、彼女の考えるアイドルとは、別のものなのでしょう」

謎のメイド「ことりの言うとおり、私はずっと演じて歌ってきました。謎のメイド、という別の自分を」

謎のメイド「それを楽しいと思うのはおそらく…演劇の部類なのだと思います」

謎のメイド「今までアイドルというものを理解せず、この場に立ち続けてしまったことを…、深くお詫びしたいと思います」

謎のメイド「そして今日私は…、このバイトを辞職します。本当は言わずに、このまま別れの雰囲気を出すことなく去りたかったのですが…」

謎のメイド「しかし、そうもいかなくなってしまいましたね」

謎のメイド「…この、メイド服と、サングラスも…、今日限りです」

謎のメイド「…」


謎のメイド「…ですが」


謎のメイド「私は…、私はっ…!!」

謎のメイド「私はまだ、満足していませんっ!」

謎のメイド「なぜなら、今日、ついさっきここで!!」

謎のメイド「私はっ!!」


ヒュンッ!!


花陽「さ、サングラスを!」 ことり「取った!!」



海未「アイドルに、なりたいと…思ってしまったからですっ!!」

海未「二人がこの店内で踊るその姿に…嫉妬してしまったから!」

海未「私もこうなりたいと!こうでありたいと!!」

海未「ですから私は…、メイドをやめますっ!!」

海未「そして、これからはっ!!」


海未「謎のメイドではなく、園田海未として!」

海未「あ、アイドルをっ…!」

海未「スクールアイドルを目指していきたいと思いますっ!!」

海未「応援、よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁすっ!!!!!」

オオォォォォォォオオォォォォォォォォォォォッ!!!


花陽「海未さんっ…!」

ことり「海未ちゃんっ!!」


海未「ことり、小泉さん…。ありがとうございます」

海未「…これが、これが…アイドル、なんですね」

海未「今まで私が見ていた景色より、何倍も、何十倍も輝いて見えます」

海未「自分をさらけ出す勇気をくれたこと」

海未「心より、感謝します」


花陽「は、はいぃっ!!私も、海未さんが入ってくれて…、入ってくれて嬉しいですっ!!」

ことり「これからはずっと隣で…、海未ちゃんの笑った顔が見れるんだよね?」

海未「…もちろんですよ、ことり」

ことり「うぅぅぅぅっ…、やったぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!海未ちゃぁぁぁぁぁぁあああんっ!!」ギュッ!!

海未「ふふっ…、ありがとう、ことり…。本当に、ありがとう…」


海未(そして、今まで…、今まで私に勇気をくれた、あなたたちにも)

海未(もう、あなたたちがいなくても、私は歌えます)

海未(さようなら、そして…心から、ありがとうございました)

海未(メイド服と、サングラス)



花陽「じ、じゃあ海未さんのラストライブ!始めていこっ!!」

ことり「そだね!初めての素顔のライブだよ!今日見に来れた人は激レアだね!」

海未「撮影は禁止ですよっ!それではー…」




観客「あ!その前に…」

観客「そのスクールアイドル、って、なんて名前なんですか?」



ぱなことうみ「え…」

海未「…なんて名前なんですか?」

ことり「私知らないけど…、花陽ちゃんは?」

花陽「え、えっと…!まだ、決まってない…」

ことうみ「えぇぇっ!!!?」




真姫「シーキュート!!」



全員「えっ…?」



真姫「私たちのスクールアイドルの名前!大文字のCに、小文字でcute!!」

真姫「間に☆で、C☆cuteよ!」

翌日

アイドル応援部 


花陽「はぁぁぁぁ…!昨日は緊張したなぁ…!」

ことり「うんうん!でも最高のデビューライブになったと思う!」

海未「は、初めての素顔でしたが…、結構いいものですね…!」

ことぱな「「でしょー!?」」


真姫「…これで、四人ね」

希「せやね。ふふ、最後の入部届も、やっと白紙じゃなくなった」

希「園田海未さん。ちゃんと受理されたよ」

海未「はい。今日からお世話になります!」

ことり「これで4人のスクールアイドルかぁ…!もう人数的にはA-RISE超えちゃったね」

花陽「あはは…、ですね。あ、そういえばスクールアイドルの名前…C☆cuteだっけ…?」

花陽「なんでそんな名前を付けたの?」

希「あ、それうちも気になってた。急に叫びだすからびっくりやよ」

海未「何か理由があるのですか?」

ことり「ちょっと既存のアイドルとかぶってるし」

真姫「そ、それは仕方ないでしょ。ちゃんとした理由はあるのよ」

真姫「みんな、歌の女神は知ってる?」

花陽「歌の女神…?」

希「ギリシャ神話のミューズのこと?」

真姫「そう。その中の5人」

真姫「私はこのUTXに降り立った天の御使い、天文を司るウラニアの頭文字、Uを」

真姫「花陽は、綺麗な声を持っている、名前が美声を意味するカリオペの頭文字、Cを」

真姫「ことりは、その可愛らしい容姿から、名前が愛らしい女を意味するエラトーの頭文字、E」

真姫「海未は、演劇舞踊をやってるみたいだから、舞踊を司るテルプシコラの頭文字、Tを」

真姫「そして部長の希は、このUTXのアイドルの歴史を知る人物、ってことで、歴史を司るクレイオの頭文字、Cを」

真姫「それらを並び替えて、部長の希はちょっと大きく大文字で、私たちはまだ小さい存在だから、ってことで小文字」

真姫「そして…間に希望の星を入れて、『C☆cute』よ。どう?なかなかイカすでしょ」

希「うちはまきまきちゃんと愉快な仲間たちとかのほうがいいと思う」

真姫「ふざけんな」

花陽「私は好きだな、シーキュート…。可愛いと思う!」

真姫「えぇ、そうよね、それが普通の反応!まだアイドルでもないのに入れてあげたんだから感謝しなさいよね!希」

希「ぶー」

海未「それ、私が入る前から考えていたんですよね…。もう私が入る事確定じゃないですか」

真姫「もちろん。確信してたわ」

海未「…はぁ、舐められてますね」

ことり「それだけ海未ちゃんを信頼してた、ってことだよ。ね?」

海未「そういうことに、しておきます」

真姫「それじゃ、新生スクールアイドル『C☆cute』!ついにスタートのときとしてっ…!」

真姫「さぁ!5人でピース!」ササッ

花陽「うんっ!」 ことり「はいっ!!」

海未「…なんですかこれは」

希「そういうお約束、みたいやよ?はい、海未ちゃんも」サッ

海未「ち、ちょっと気恥ずかしいですが…、わかりました」ササッ

花陽「あっ!こうして5人でピースすると…」

ことり「お星様!」

真姫「うわ、マジだわ…」

海未「気づいてなかったんですか…」

希「ちょっと抜けてるところも真姫ちゃんらしい!さ、行くよ!」

真姫「えぇ!」


真姫「1!」 花陽「2!」 ことり「3!」 海未「4!」 希「5!」


真姫「C☆cute、ミュージック…!」


「「「「「スタート!!」」」」」




もしライブ 第四話

おわり

以上、4話でした μ'sはやはり9人での称号だということでこの5人での名前はC☆cuteになります ダサくない
あとえりちがド畜生ですが僕がえりちのことが嫌いだからこうなったとかではなくて展開上仕方ないことですのでご了承ください
それでは次回第5話 やっぱり明日のこの時間をお楽しみに ほなな

じゃあ5話 やっていきますよー やっていくんだからね

前回のもしライブ!(声:園田海未)デン


歌の練習をするために音楽室を借りたい真姫たち。

けれどそのためには部への所属が必要だった!



真姫(部活の設立の問題…。ここもμ'sと同じね…)

真姫(また壁が立ちふさがってしまった…。どうしようかしら)



それと同時に、真姫たちは私をスクールアイドルに勧誘する計画を立てる。

メイドカフェで私に直談判をしに来るも…。



海未「私の休憩時間も残り少ないですし、今日はお引取りを」スクッ

真姫「ちょ、待ってよ!」

海未「お引取りを!!」



翌日真姫たちは謎のアイドル応援部を訪れ、そこが3年生の東條先輩の部活だと知る!

所属する部を見つけ、さらに私にアイドルになりたいと思わせるためのライブに向け一歩前進した真姫たち!

ですが、そのライブ当日…!



絵里「いますぐ、アイドル活動をやめなさい」



A-RISE候補生の育成者、絢瀬絵里さんに捕らえられた真姫。そのピンチを東條先輩がなんとか救いました!

しかし真姫はライブには間に合わず、二人で決行!それでもライブはなんとか成功に終わりました。

二人の輝きに目を奪われた私。サングラス越しでも伝わる光に、私は惹かれ、

ついに、私も彼女たちと共にアイドルをすることになったのです!

そして生まれた新生スクールアイドル、C☆cute。

これからどうなっていくのでしょうか…。

アイドル応援部 部室


花陽「は、はわわぁぁ~~…!」


ガチャッ

ことり「こんにちはー」

真姫「あ、ことり。おはよう」

ことり「真姫ちゃん、おはよー。…花陽ちゃん?もしかしてまた?」


花陽「むふふふふ~…!」


真姫「…えぇ、また」

ことり「飽きないねー」

真姫「それだけ嬉しかったんでしょ」



真姫(あれから2週間)

真姫(花陽は少しの暇さえあればパソコンや携帯から…)

真姫(自分たちのライブ映像を眺めていた)

真姫(あの日、店員のメイドさんにお願いしてハンディカメラで撮影してもらっていたものを動画サイトにアップして)

真姫(再生数や付いたコメントを見返しては悦に浸っている)



花陽「か、かわいい…、だなんてっ…!恥ずかしぃ…!!」

真姫「その反応何回目?そろそろ海未も来るし、練習始めるわよ?」

花陽「もうちょっと…!ぬふふふ…!」

ことり「笑い方…」

真姫「…はぁ」

真姫(でも、花陽が喜んでる中悪いけど)

真姫(私が予想してたよりか、再生数は少なかった)

真姫(演出や歌は私の思う最前を尽くして、時間がない中でのベストだったと自分では評価しているんだけど)

真姫(それでも、思ってたよりずっと…、伸びない。もっと行ってもいいと思うんだけど)

真姫(やっぱりそれって…)

ことり「えへへ、この時は緊張したねー」

花陽「はい…!死んじゃうかと思いました…!タイトルも間違えられちゃったし…」

ことり「私は告白日和、ってだけより好きだけどねー。真姫ちゃんはどう思う?」

真姫「…ん、私?…そうね、いいと思う」

花陽「そ、それならいいけど…」

真姫「あ、そうそう。そろそろ次のライブのことも考えておきたいんだけど」

真姫「まだ海未は来てないけど…、まぁ、いいわよね」

ことり「もう次?早いねー」

真姫「一応次の曲も出来てはいるのよ。海未にも渡してある」

真姫「今は曲もそうだけど…、魅せ方が重要よね」

花陽「魅せ方?」

真姫「そう。この間のライブに関しては、ダンスも歌も、私はとても良かったと思うの」

真姫「だけど衣装はよくあるメイド服だったし、ステージは小さいお立ち台」

真姫「カメラも一台だけ、一発取りの映像」

真姫「これじゃ普通過ぎるの。どれだけ歌やダンスが完璧でも魅せ方が単純すぎるとその魅力が画面越しには伝わらない」

真姫「今のままじゃ、A-RISEに追いつくほどのアイドルになれる人気を得るのは、難しいわ」

ことり「はー…、なるほどー」

ことり「よくわかんない」

真姫「おい」

ことり「つ、つまり次のライブは衣装やステージをもっと派手にね!ってことでしょ?」

ことり「わかってるわかってる!すっごいキュートな衣装、考えるから待っててね!C☆cuteだけに!」

花陽「んー…、衣装はことりちゃんでいいとして、でもステージは私たちズブの素人だからなぁ…」

真姫「い、言い方が古風ね…」

花陽「誰かそういうのに詳しそうな人は…」



ガチャッ


海未「お、遅れました…。すみません」

ことり「あ、海未ちゃんおはよー」

真姫「…ステージ」

真姫「ステージと言えば舞台、舞台と言えば演劇」

真姫「演劇と言えば…」

海未「…はい?」

海未「舞台美術ですか…?」

花陽「はい!演劇学科なら詳しいと思って!」

海未「…申し訳ありませんが、私はそこまでは」

海未「基本的に、演劇舞踊としての役者、それと脚本家を専攻しているので、舞台美術のことはあまり学んでいません」

ことり「ダメかー…」

海未「やはり、アイドルのそれを参考にしてはいかがでしょう」

海未「私たちがゼロから考えるよりはいいのでは?」

真姫「普通はそうなんだけど…」



真姫(でも、μ'sと違ってここでは私たちは…)

真姫(…お金がない)

真姫(いつもなら親の金で好き勝手できたけど、今の私は家なき子)

真姫(ほぼ無一文と言って差し支えないわ。一応生活費程度ならポケットマネーで凌げるけど)

真姫(他のみんなも私ほどではないにしろ、使えるお金はそれほどないでしょうし)

真姫(プロのアイドルを真似るには、財力が足りなさすぎる)

真姫(そして他のスクールアイドルと同レベルじゃ、A-RISEを超えることなんて夢のまた夢)

真姫(だからここは、発想で勝負!…したいところなんだけど)



真姫「…私たちもそこまで発想に自信があるわけでもないし」

海未「A-RISEは学校の全力サポートがありますからね…。正直他とは比べ物にならないでしょう」

花陽「それと人員も豊富です!なにせアイドル専攻の人たちもいますし…」

真姫「そして、絢瀬絵里の人脈もね…。ここにはA-RISEに憧れる人が多い」

真姫「権力を持つ彼女が少しでも手伝って?って言えば手伝ってくれる人がたくさんいるわ」

ことり「それに比べて私たちは全部自分でやる必要があるんだよね…」

花陽「か、考えれば考えるほど、A-RISEを超えるなんて無理だって思えてくるね…」

海未「そ、そうですね…」

真姫「弱気になっちゃダメよ!花陽には目標があるでしょう!ことりも、海未も!」

真姫「絶対に掴み取るの、頂点を!そして欲しいものを手に入れるのよ!でしょう?」

花陽「…うん。だよね!」

ことり「こんなところでくじけちゃダメ、だよね」

海未「…わ、私は二人ほど強い決意があって始めたわけでは」

真姫「うるさい!あなたもことりと同じようなものでしょ!穂乃果との日々、やり直したくないの!?」

海未「それは…。…えぇ、私もやり直したいです!」

真姫「なら前を向く!なんとかなるって思えばなんとかなるのよ!」

真姫(…私も、いつまでもあなたたちを応援できるわけじゃないしね…)

真姫「さ、練習よ!魅せ方もあるけど、自分たちが完璧でないと意味がないんだからね!」

ぱなことうみ「はい!」

真姫(いつもは、どうしてたんだっけ…)

真姫(私の役割は、作曲って割り切ってたせいで)

真姫(その他のことに関してはさっぱり、わからなかった)

真姫(改めてみんなに支えられてきたんだな、って実感する)

真姫(今度は私が、なんとかしないと)

真姫(次の壁は、『ライブの魅せ方』)

真姫(これを乗り越えないと、先はない)




1年E組


真姫(朝練を終え、いつもの孤独な授業)

真姫(まだ学内で、私たちがアイドルをやっているという噂は一切流れていない)

真姫(宣伝しようって花陽は言ったんだけど…)



~回想~


花陽「私たちがアイドルやってるって宣伝しよう!そうすれば…」

真姫「…いえ、まだダメ」

花陽「え、ど、どうして?」

真姫「考えてみなさい。ここはUTXよ?いくらまだ生まれたばかりの弱小スクールアイドルにしろ…」

真姫「ここにはA-RISEファンが大勢いる。そんな中別のスクールアイドルを宣伝しても無視されるか…」

真姫「…下手すれば、潰されかねないわ」

ことり「そ、そうかも。特にアイドル専攻の人たちは過激だし」

真姫「仲間を増やすなら徐々に。擁護が一人もいない中で宣伝するのは勇気がいるわ」

真姫「せめて次のライブまでに応援してくれる人を増やしてからにしましょう」

花陽「そ、そだね…」


~回想終わり~



真姫(て言っても、応援してくれる人ね…)

真姫(ほとんどがA-RISEファンのこのUTX学院で、私たちを応援してくれる人…)

真姫(…心当たりはないでもないけど、でもねぇ…)

真姫(仕方ないわ。それはまたにして…、今は魅せ方よ、魅せ方)

真姫(衣装はことりが頑張ってくれることを期待して、今はステージの作り方…)

真姫(どこで、どんな演出で舞台を作るか…。今まで他人任せで考えたこともなかったけど)

真姫(ここに来て頭をひねらせることになるとは、ね…)

真姫(授業中は先生の話を聞かずに、ずっとノートに演出案を書き連ねるばかりだった)



食堂


ことり「花だよ!花」


真姫「…花?」

ことり「私たちには花が足りないと思う!」

海未「鼻、ですか…?あ、つけ鼻をするということですか!?」

海未「確かに鼻が高いと美人になるかもしれません…!ナイスアイデアです!」

ことり「違う!フラワーの方だよ!」

海未「あ、そうですか…。ノーズではないのですね…」

真姫「相変わらず少しボケてるのね、海未…」



真姫(いつものように花陽は親衛隊に囲まれご飯を食べている)

真姫(仕方ないので私たちで集まってお昼ととることに)

真姫(希も誘いたいんだけど、彼女はお昼はひとりで食べるのが落ち着く、って言って)

真姫(ただひとり、部室で黙々とお弁当を食べているみたい)

真姫(まぁ…、私もこんな人の多いところでご飯を食べるのは、あまり好まないんだけど)

真姫(でもUTXの食堂のご飯は美味しすぎるから仕方ないわよね。毎日食べても飽きない)

真姫(閑話休題。…そんなこんなで集まった3人で、次の舞台の演出案を考えようと話をしていた)



真姫「で、フラワーがどうしたのよ」

ことり「だから、ばっさー!ってお花を散らして、華々しいステージを作る!」

海未「ふむふむ」

ことり「衣装もお花であしらってカワイイのにしようと思ってるの!どう?」

海未「…花粉症になりそうで怖いですね」

ことり「え、そこ?」

真姫「…悪くないけど、そんなステージを埋め尽くすほどのお花、どこから持ってくるのよ」

真姫「お花屋さんじゃ大きな花束一つでも結構するわよ?」

海未「よくある祝い花でも、安いもので1万円ほどすると聞いたことがあります」

ことり「い、一万…」

真姫「それをステージ全部埋め尽くすほどだったら…、100個くらい必要かしら?」

ことり「ひゃくまん…えん」

海未「それはさすがに…、無理でしょうね」

ことり「うぅ…、いいと思ったんだけどなぁ…」

真姫「衣装に花を使う、なら私もいいと思うわ。…二番煎じ感が強いけど」

ことり「え」

真姫「何でもない。…で、海未はなにかある?舞台案」

海未「あまりお金を使わない方向で…ですか」

海未「となると…元からあるものを活用するのはいかがでしょう」

海未「今は紅葉の季節ですし、綺麗な赤をバックにステージを作る、というのもおつですね」

真姫「えぇ、悪くないわね。あー、でもそうなると和風なイメージよね…」

海未「今の曲では合いませんか?」

真姫「まだ今の段階なら作り直せばなんとかなるけど…。でもまだそれで決定ともいかないから本格的に作り直すわけにも…」

ことり「あ、あと…そうすると場所はどうなるのかな?」

ことり「紅葉が綺麗でステージを作れるくらいのスペースがあって、貸しきれて…」

海未「う、そうなるとやはり、お金が…」

真姫「少しくらいなら部費でなんとかなるって!」

ことり「それなんだけど、希ちゃん先輩に聞いたら…」



(希「部費?最近活動してなかったから、今月いっぱいは全く出ないみたいやねー」)

(希「支給されるのは来月からかな。それまでは自分たちのお金でなんとかしないとね」)



ことり「…って言ってた」

真姫「ぐぬぬ…」

海未「私たちの貯金だけでやりくりですか…」

真姫「次からは少しは融通が効くけど、今回ばかりはあるものだけでやりくりしないといけないのね…」

海未「来月までライブを引き伸ばしますか?それなら…」

真姫「そんな悠長な事言ってられないわよ。…A-RISEに勝つためには」

真姫(μ'sにも勝るペースで曲を出しつづけないといけない…。少なくとも月に1回はノルマよ)

ことり「でもあり合わせって言ってもね…。私たち、何がある?」

真姫「私は…、何も」

ことり「あ!海未ちゃんは家があるじゃない!あそこで…」

海未「や、やめてください!怒られますよ…」

ことり「そ、そうだよねー…。あはは…、はぁ…」

ことり「…どこでやるかを考えるだけでも一苦労だね」

海未「そう、ですね…」

歌手専攻

授業前


花陽「ステージかぁ…」

真姫「そう。意見はない?」

花陽「んー…、ワガママ言ったら、そういうライブステージを借りたいけど…」

花陽「それはお金もないし、誰でもやってることだもんね」

真姫「そうね。私たちにしかないもの、が欲しいところね」

花陽「えー…、私たちにしかないものかぁ…。なんだろう…」

花陽「…真姫ちゃんは、自分にしかないもの、ってある?」

真姫「え、わ、私?」

花陽「うん。身近な例として参考にしようかなって」

真姫「え、えっと…」

真姫「類まれなる作曲センス!…かしら」

花陽「ま、まぁ…それもそうかもね」

花陽「…考える上で参考にしづらいよ…」

真姫「ご、ごめんなさい」

花陽「それで言うなら私はー…、歌声?」

花陽「…でも、他の人よりちょっと上手って言っても、その程度だよね、私なんか…」

真姫「そ、そんなことないわよ!花陽の歌は唯一無二だと…」

真姫(…でも私の作曲能力も他で替えがきかないこともないのよね)

真姫「あ!花陽はアレがあるじゃない!ほら…」

花陽「アレ?」

真姫「小泉花陽親衛隊!!」

花陽「えっ…」


親衛隊ズ「「呼んだ!?」」


花陽「わぁ!?呼んでないよ!?」

真姫「これだけは誰にも負けないと思うけど」

花陽「で、でも…だからってどうしろと…」

真姫「…そうよね。あ、彼女たちに応援を頼むのは?」

花陽「ち、ちょっと怖いかな…。アイドルにあんまり興味ない子も多いし」

花陽「親しい子から順に明かしていこうと思うの。ダメ?」

真姫「そうね。一気に広まると怖いところがあるし」

真姫(前の3人みたく、親衛隊といいつつ花陽を快く思ってない人も、いるかもしれないし)

真姫(そういえばあの3人は…)

真姫(あの日以来、花陽を囲っていじめていた3人は、花陽とあまり会話することがなくなっていた)

真姫(今も花陽から離れた場所で、3人で集まって会話をしてる)

真姫(正直、いじめを止めに入った報復が何かしら来ると思ってたけど)

真姫(特にそれらしいことは一切なくて、ちょっと意外だった)

真姫「…腐ってもお嬢様学校の生徒、ってこと?」

真姫「でもアイドル専攻はドロドロの争いがあるって聞くし…」


親衛隊D「ねぇ、西木野さん。そろそろ花陽ちゃんを貸してくれてもいいんじゃない?」

親衛隊E「い、いくら…その…好き同士でも…、ね?私たちも小泉さんと話したいし」


花陽「へぇっ!!?」

真姫「あの、今なんて…」

親衛隊F「花陽ちゃんと真姫ちゃんって、付き合ってるんでしょ?噂んなってるよ?」

真姫「つ、付き合ってる!?私と花陽がァ!?」

親衛隊E「だだだ、だって…!小泉さん、西木野さんと一緒にいるとすっごく幸せそうだし…」

親衛隊D「花陽ちゃんも、私といるときは西木野さんとの話ばっかりだもん。嫉妬しちゃうよ」

親衛隊F「だから、きっと真姫ちゃんと花陽ちゃんは付き合ってるんだって親衛隊一同は結論づけたわけですよ」

真姫「いやいやいやいや!!付き合ってないし!っていうかあんたたちはそれでいいわけ!?」

真姫「親衛隊なんだから阻止とかしないの!?」

親衛隊D「私たちはほら…、花陽ちゃんを見守るための小泉花陽親衛隊だし。花陽ちゃんが西木野さん好きならそれもいいかなって…」

親衛隊E「わ、私は個人的には…、すっごく応援してる…!!しし、幸せになってね…!」

真姫「頬を赤らめるな!そういう事実は一切ないからね!?」

花陽「そ、そだよ…。わ、私と真姫ちゃんが…、なんて…ぬふっ…。あるわけないよぉ…。にへへぇ…」

真姫「ダメ…!この子顔とセリフが一致してない…!!満面の笑みだわ…!!」



真姫(それまで考えていたこと全てを忘れて、授業が始まるまで彼女たちを必死に説得した)

真姫(特に花陽の緩んでしまった頬の筋肉を引き締めなおすのは、大変な苦労だった…)

放課後

1年E組


アリガトウゴザイマシター


真姫「…はぁ、やっと授業が終わった」

真姫(私にとってもはや数ヶ月前に習い終えたことの復習でしかない授業は、ただただ退屈で)

真姫(その間ずっとステージ案を考えていたけど…)

真姫「ダメね。どれも現実的じゃない」

真姫「…金銭的余裕がないと、こうもやりくりが大変だなんて」

真姫(思いつくものはどれもお金がそれなりに必要で)

真姫(私たちの少ないお財布事情でどうにかするには、無理があるものばかりだった)

真姫「んー…、どうすればいいのよ…。くっ…」

真姫「派手なパフォーマンスをしようとするとお金が必要…」

真姫「お金を節約しようとするとどこにでもあるものに…」

真姫「なんという二律背反…」

真姫(予想してたとおり、私の進もうとしている道は、μ'sが歩んできたものよりもはるかにハードルが高いらしい)

真姫「…うぅん。私も今までステージ制作に携わったことが少ないから詳しくないのよね…」

真姫「もっとこういうことに長けた人、誰かいないかしら…。誰か…」

真姫「…あ」




アイドル応援部 部室


ガチャッ

真姫「希!あなた、過去にアイドル応援部でステージを作ってたって…」


ことり「あ」 海未「あ」 花陽「あ」

希「んふ、これで4人目やねー」


真姫(どうやら私以外の3人は先にそこに至ったらしい)

真姫(これから講習会でも始まるかのように椅子を並べて希の前に座っていた)


希「そういうことでなんで真っ先にうちを頼らんかなー?」

真姫「…ゴメン、正直忘れてたわ」

希「心外やねー。ま、うちは寛大やから許すけどね!」

花陽「真姫ちゃんも、ここに座って話聞こ」

真姫「そうさせてもらうわ」

希「話を聞くと、なんでも次のステージは安くついて個性的なもの、らしいね」

真姫「えぇ、そんな感じ。希は今までそんな感じで作ったことはあるの?」

希「んふ、実はないんよね。A-RISEは学校側のサポートを受けてるってのは知ってるよね?」

海未「えぇ、ですからそれほどお金には苦労しないのではないかと」

希「そのとおり。うちが知っている中でA-RISEの舞台のセッティングにお金が足りない、ってことはなかった」

希「って言っても、上限がないってことはなかったんやけどね。限られた金額の中からではあったけど、それでも十分に余裕はあった」

ことり「じゃあやっぱり…、そんなに参考にならない感じですか?」

希「うちの実際の経験からしたらそうなるねー。でも経験は経験」

希「体験したことがないことでも、経験則、ってものがあるんよ」

花陽「おぉ!なんだかカッコイイです!」

希「ふっふっふ。うちに言わせれば、真姫ちゃんたちには致命的に欠けているものがあるのだ!」

真姫「致命的に欠けているもの…!?」

ことり「なーに?」

希「それは…知識!」

海未「えらく根本的ですね…」

希「魅せることに関する知識が、真姫ちゃんたちには足りてないんやと思う。だからどうしてもよく知っているアイドルを参考にしちゃう」

希「プロのアイドルやA-RISEは、もちろんお金をかけてステージを作ってるんやから、参考にすればどうしたってお金がかかる」

希「安く、尚且つお客さんを魅了するなら、別のところから知恵を引っ張ってこないと!」

花陽「つ、つまり…!?」

希「ここで、部長のうちから部員のみんなに指令を与える!ででんっ!」

ことり「ほぉわ!指令!つまり希ちゃん部長は長官でありますか!」

希「せや!」

真姫「ノリノリね…」

海未「で、指令とは…?」

希「ふふふ、アイドル応援部、久々の部活動やよ…!」

花陽「部活動…って、アイドル応援部の活動って何するんですか…?」

希「今回の指令の内容、それはっ!!」

一同「…」ゴクリッ



希「取材やぁぁっ!!!」

一同「し、取材っ!?」

海未「取材って…、あの取材ですか?」

花陽「される方じゃなくて、まさかのする方…?」

ことり「アイドルが取材…。新しい!」

真姫「っていうか、どこに取材に行くのよ?まさかプロのアイドルにとか?」

希「ちゃうちゃう。アイドル以外の知識が乏しいって言ってるんやから、もっと他の分野でないと」

海未「他の分野…。と言われても」

ことり「魅せることに特化した分野って何があるのかな…?」

真姫「考えればそりゃあるでしょうけど、いちいち取材許可を取るの?」

真姫「あちらの都合もあるだろうし長々とやってちゃ今月が終わっちゃうわよ!」

希「ふふふ…、何も外に出ていく必要なんてあらへんやん?」

花陽「外に出ていく必要はない?…あ!そ、そっか…!」

花陽「ここだよ、UTXだよ!」

ことり「え?…ああ!」

海未「このUTX学院には様々な学科、専攻が存在する…。それはつまり、他方の分野のプロフェッショナルが集まっている!」

海未「UTX学院こそ人材の宝庫ということですね!」

希「せやね。UTXの先生方なら真姫ちゃんたちの知りたいこと、いっぱい知ってるかもしれんよ?」

真姫「なるほど…。さすが部長ね。なかなかいいアイデアじゃない」

真姫「そうと決まれば、職員室へ向かうわよ!」




職員室


先生「専攻の先生たちへ取材?うーん…」

先生「ごめんなさい。一応聞いてみるけど、でも専門職の方たちだから、放課後は帰ったり自身の研究で忙しい方が多くて…」

先生「都合がつくのは難しいかも知れないわね…」




希「…」

真姫「どういうことよ」

希「てへっ」

真姫「この役立たずっ!」

花陽「それはさすがにひどいと思う…」

海未「そうでした…。専攻の先生方は非常勤の方が多いのでしたね」

ことり「本職はやっぱりプロの人たちだから外で取材するのと一緒だよね…」

海未「やはり取材は断念するべきでしょうか…」


希「まだやっ!まだ道はある!」


真姫「何よ。取材できる先生はいないのに他にどうしろって言うの」

希「ふふふ、それやから真姫ちゃんはあまちゃんやねん。あまきちゃんやねん」

真姫「誰よ」

希「プロの方々がおらんでも、そのプロに教えを乞うてる人たちならいっぱいいるやん?」

花陽「生徒、ってことですか?」

ことり「UTX生に取材?」

希「せやね」

海未「それは大丈夫なのでしょうか…。アイドルとしての魅せ方を聞いていくわけですよね?」

海未「下手すれば私たちがアイドルをやっていると広まるのでは…」

ことり「普通ならありがたいんだけどちょっと不安だよねー」

希「んー、でも平気やと思うよ。意外とみんな、他人が何やってるかなんて興味薄いもんやって」

希「それに、聞くのはアイドルとして、ではなく、その分野特有の魅せ方。それを応用してアイドルの活動に活かそうって話やし」

真姫「まぁ、大体はわかったわ。…でも今のこの時間、専攻の人たちで集まることなんかほとんどなくない?」

花陽「みんな部活やそれぞれのサークルに行ってますよね…」

希「あー…、せやねー」

希「あ!だったらこうしよう!専攻の人たちへの取材は後回しにして…」

希「今からするのは、それぞれの部活への取材!」

希「どうしたら美しく見えるか、っていうポリシーは部活でも持ってるかもしれんやん?」

希「それを聞きまわろう!」

海未「それならこの時間でも可能かもしれませんね」

真姫「最初の計画とは結構かけ離れちゃったけどね」

ことり「でもUTXの部活ってかなり数多いよねー…」

花陽「自由な校風が売りだから生徒それぞれが自分たちで部活を立ち上げることが多いんですよね」

希「このアイドル応援部もその一つやからね」

真姫「テキトーに面白そうな部活を覗いていく感じでいいんじゃない?それに野球部とかサッカー部とかは私たちが考える魅せ方からは遠いものがあるでしょうし」

海未「魅せ方を応用出来そうな部活をピックアップしていけばいいんですね」

真姫「この計画がどれほど効果を持ってるかはわかんないけど…、何もしないよりはずっといいわ」

ことり「じゃ、次は生徒手帳から面白そうな部活を探すこと、だねー」

真姫(こうして改めて部活を見直してみると…)

真姫(半端ないくらいに多いのね…)

真姫(設立にはそれぞれ少なくとも5人ずつは必要だから単純計算しても…)

真姫(…この学校、人多すぎ…。音ノ木坂にもちょっとは分けてあげて欲しいわね)

真姫(それはさておき、私たちはまず、わかりやすく、美しさを求めてそうな部活を探してみた)

真姫(そして最初に訪れたのが…)




パーツモデル部


ガチャッ

花陽「あのぉ~…、失礼しま…」


パーツモデル部部長「何!?新入部員!?」ダダッ


花陽「ひっ!ご、ごめんなさい!」

真姫「取材です」

パーツモデル部部長「…取材?」



真姫(パーツモデル部。部員約13名)

真姫(全身ではなく、体の部位の一つのみを徹底的に美しく磨き上げるパーツモデル)

真姫(それを目指す人々の部活…らしい)



パーツモデル部部長「アイドル応援部?…初めて聞く名前ね」

海未「せ、先日から活動を再開したんです」

パーツモデル部部長「ふぅん…、もの好きな部もあったものねー」

ことり「あの、それで…なにか美しく魅せるコツ、ってありません?」

ことり「パーツモデル部さんならなにか知ってるんじゃないかと」

パーツモデル部部長「それが取材?んー…、そーねー…」

パーツモデル部部長「やっぱり日々のたゆまぬ努力?健康?エステ通い?」

パーツモデル部部長「ていうかあなた…、滅茶苦茶肌キレイね!モデル専攻の子?」

真姫「えっ…!あ、いや…、私歌手専攻…」

パーツモデル部部長「えぇぇ…、もったいない…。羨ましいわ、その肌」

パーツモデル部部長「なんならうちの部に入らない?きっとあなたは輝ける!」

ことり「逆に勧誘されてるよ…」

花陽「だ、ダメですっ!真姫ちゃんはアイドル応援部の一員なんですから!!」

真姫「…この学校こんなのしかいないの…?」

パーツモデル部部長「だけどあなたたち、よく見るとみんな肌きれいね…。嫉妬しちゃう」

海未「ど、どうも…」

花陽「他には魅せ方でこだわっている点とかありませんか?写真を撮るときとか…」

パーツモデル部部長「写真…、写真ね…。アタシたちいつも撮影は写真部の子に一任してるから…」

パーツモデル部部長「そっちの技術に関しては写真部に行ってくれたほうが詳しく聞けるわ」

真姫「写真部ね…。ありがとう、後で行ってみるわ」

パーツモデル部部長「アタシたち自身が写真を撮る時に気を使うことといえば…」

パーツモデル部部長「…ズバリ、角度ね」

ことり「角度?」

パーツモデル部部長「顔写真を撮るとき、キメ顔ってあるじゃない?この角度で取ればすごい綺麗に写る、ってやつ」

パーツモデル部部長「あれと同じで、手や足を撮るときにも角度は大切なのよ。ちょっとした違いで印象が随分変わってくるんだから」

海未「これはわかります。演劇でも上手下手面奥の位置や、顔の向きなどで人に与える感情が変わってくるものだと言いますから」

パーツモデル部部長「その通り。あとは照明の当たり方ね。暗すぎず、明るすぎずの絶妙な明るさ、これがベスト」

パーツモデル部部長「まぁここらへんはモデル専攻の子なら誰でも気にしてることかも」

花陽「角度と照明…。単純だけど奥深いです…」

真姫「…」

真姫(それはライブでも同じね…。単純だけどやっぱり大事なこと)

真姫(特に角度は必須。私たちは歌って踊るモデルのようなものなんだから)

真姫(…だけど今、私たちが持ってるカメラは部のもの一つだけ…。同時に多方向から撮ることは不可能)

真姫(どうしてもベストな角度を持ってくるのには限界がある。…これも財力の問題ね)

ことり「あのー…、ところでなんですけどー」

ことり「…他の部員の方々は?」

海未「そういえば部長さん以外、誰もいませんね」

パーツモデル部部長「あぁ、うちの部員?それがねー…」

パーツモデル部部長「一度撮影の日程決めちゃうとここに集まる意味があんまないっていうかさー…」

パーツモデル部部長「みんな自分の思い思いにやっちゃうから集まんなくて。部長としては指導したいこともあるんだけどねー」

パーツモデル部部長「…って言っても、アタシより手とか足綺麗な部員とかいるし、説得力ないっていうかさ…」

パーツモデル部部長「ま、そんなわけで孤独なのよ。一瞬新入部員が入ってきてくれたのかと思って喜んだアタシを返して」

花陽「ご、ごめんなさい…」

パーツモデル部部長「アハハ、冗談だって。ま、取材でもなんでも久々に語る相手が出来て嬉しかったよ。いつでもおいで」

真姫「うん、ありがとう。また機会があったら訪ねさせてもらうわね」

パーツモデル部部長「あいよー。アンタはちょーっとナマイキで気に入らないけどねー。お肌が綺麗だから許しちゃうけど」




ことり「えへへ、真姫ちゃん言われちゃったね」

真姫「…やっぱりタメ口キャラは正すべきかしら…」

海未「気にしてはいるんですね…」

花陽「でも、優しい人でよかったね」

真姫「そうね。…じゃ、次は部長さんが推してくれた写真部かしら」

写真部


写真部部長「…取材ー?へー…、そんなことしてんだー…」

ことり「はい。そうなんですよー」

写真部部長「新聞部すら私たちに取材来たことなんてないのにー…、物好きねー…」

花陽「あははは…、また言われちゃった」

真姫「物好きでもなんでも構わないわ!なにか美しく魅せるコツ、ないの!?」

写真部部長「美しく…。んー…、そうねー…」

真姫(眠っちゃいそうな喋り方ねこの人)

写真部部長「…写真はー…、心…」

海未「はい?」

写真部部長「心が、大事なのよー…」

写真部部長「撮る側にスピリットが宿ってないと、写真も応えてくれないー…」

写真部部長「彼女は何よりも美しいー…。そう思えば、木も花も、全てが美しく写ろうとしてくれるのー…」

花陽「は、はぁ…。そうなんですかー…」

真姫「スピリチュアル、…ね」

海未「ふむ…。しかしいまいち掴みきれませんね…。具体的にはどういった感じで…」

写真部部長「仕方なしー…。例を見せたげるー…」

写真部部長「ここにー…、筆箱がありまーす…。あ、これをー…」

写真部部長「ふっ!」シャキンッ!!


真姫「なっ!カメラを構えた途端…」

花陽「目つきが変わった!」


写真部部長「あはーんかわいいかわいいそうそうその笑顔いいよそれそれ!んーバッチリ!!」パシャパシャ

写真部部長「あーんだめだめそうじゃないのあなたのかわいさはもっと心を開いたその先にあるのほら自分をさらけ出して全開に!」パシャパシャ

写真部部長「イエスイエス!ラブリーベリーキュート!!んー愛してる!好き好き超好きもう離さないんだからー!!んふっ」パシャパシャ

写真部部長「…」スッ…

写真部部長「とまぁこのような感じでー…」

真姫「キャラチェンジしすぎでしょ…」

ことり「それだけ心を込めて撮影に挑んでるんですね!憧れます!」

海未「撮影に魂込め過ぎているせいで普段はこうなのでしょうか…」

花陽「と、とりあえず…ありがとうございましたー!」

映画研究部


映研部長「美しく魅せるねぇ…。なんだろう…」

海未「舞台演劇とはどのように違うものか、個人的にもお聞かせ願いたいものです」

花陽「なにかありませんか?」

映研部長「…気にしたことねーや!あはは!」

真姫「ちょっ…」

映研部長「センスよセンス!個人の感覚がモノを言うの!」

映研部長「自分がやりたいこと貫き通す!他人に合わせちゃそれは自分の作品じゃねーのよ!」

映研部長「映画ってーもんはそんなもんなのよ!」

ことり「か、かっこいい…!」

海未「惚れます」

真姫「…参考にはなりそうにないわね」




合唱部


花陽「ひゃあああああああああ誰か助けてえええええええええええええ」

親衛隊ズ「「どうして花陽様が合唱部に!?もしかして入部希望ですか!?」」

花陽「違うからあああああああああああああああ」

親衛隊ズ「「待ってください花陽様あああああああああああああああああああ」」


合唱部部長「あー…、あれが一年で噂の小泉クンか…。カワイイしいい声で啼く…。うちにも欲しい…」

合唱部部長「あ、取材だったな。美しく魅せる…か。難しいな」

真姫「そうなの?」

合唱部部長「我々合唱部は歌で魅せてこそだよ。姿なんて二の次だ」

合唱部部長「といっても最低限の身なりは整えておかなければいけないがね」

合唱部部長「あと歌に感情を乗せることも大事だね。歌の世界に没入する…」

合唱部部長「美しく魅せる、とは少し違うかもしれないけど、私が気をつけているのはそのくらいかな」

海未「ありがとうございます。忙しい中取材に答えていただいて」

合唱部部長「いや、いいんだ。…それより物は相談なんだが」

合唱部部長「…あの小泉クンを少し貸してくれないかな?なぁに、悪いようにはしないよ…フフフ…」

真姫「なんか怖いからダメ!」




ガンプラ部


真姫「…なんでこんなところにまで…」


ガンプラ部部長「美しく魅せる!?たわけっ!!」

ガンプラ部部長「ガンプラはありとあらゆるモノ全てが美しい!美しくないガンプラは存在しないっ!!」

ガンプラ部部長「なぜなら、ガンプラはどんな自由な発想で作ってもいいからだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ガンプラ部部長「…真面目に答えると塗装の時はまずサフを全面にまんべんなく…」

吹奏楽部


吹奏楽部部長「ふむー…、美しくかー」

ことり「衣装とか、どんな風に考えてるんですか?」

吹奏楽部部長「んー、そりゃまあ曲のイメージに合った服だけど…」

吹奏楽部部長「でも美しく魅せる…あまり考えたことなかったかも…」

花陽「え、そうなんですか?」

吹奏楽部部長「でもこれ大事なことだよね!いいこと聞いちゃった!」

吹奏楽部部長「明日からそれについても考えてみるよ!サンキュ!」

海未「…相手を学ばせてしまいましたね」

真姫「学びたいのはこっちなのに…」


花陽「…ん?これ…」

ことり「どうしたの?」

花陽「ここに無造作にまとめて置いてある楽器は…」

吹奏楽部部員「あー、それは壊れちゃった楽器よ」

吹奏楽部部員「回収してもらうのにもお金かかっちゃうからある程度貯まるまで放置してるの」

花陽「そうですか…」

花陽「なんだから捨てられてるみたいでかわいそう…」

真姫「実際捨てられてるんだけどね」

花陽「そ、そういうことじゃなくて…」

花陽「役目が果たせなくなると無残に捨てられるのって、なんか寂しいなって思って…」

海未「ですが吹けなくなった楽器はどうしようもありませんからね」

海未「それまで頑張ってきてくれたのです。眠らせてあげている、と考えましょう」

花陽「う、うん…」

演劇部


真姫「海未が舞台美術に詳しくないなら、やっぱりここに頼るしかないでしょ!」

花陽「ここって演劇学科とどう違うんですか?」

海未「学科の方は学校から用意された課題をこなすのが主な活動になりますね」

海未「演劇部は演出、脚本から舞台や小道具の作成、多方面への制作や公演日程に至るまで全て生徒の力でこなすようです」

ことり「学生にしてプロと同じ領域…!もうここはプロの巣窟だよ!」

真姫「それはさすがに言いすぎでしょ…。あくまで学業の合間にやってることなんだし」

海未「では、舞台班の方に話を聞きに行きましょう」

ことり「じゃあ私衣装さんに~」

花陽「え、別行動?」

真姫「いいじゃない。いろんな人から話を聞くのはいいことだわ。私たちも手分けして取材しましょう」

真姫「じゃあ私は…、演出さんかしら」

花陽「えっ…、えーっとじゃあ私はー…」

花陽「役者さんかな…?」



~数分後~



真姫「…」

ことり「あ、真姫ちゃん…。どうだった…?」

真姫「なんで…」

真姫「なんで演劇やってるやつはあんなヘンタイばっかなのよ!?」

真姫「意味不明のこだわりやら挙句の果てにフェチについても聞かされたわ!」

ことり「わ、私も…。誰それの腰周りがエロいとか…」

海未「舞台美術も熱く語られましたが早口すぎて理解が…」

真姫「…そういえば花陽は?」

ことり「まだ帰ってきてないね…」

海未「なにかあったんでしょうか」





花陽「おぉ…、おぉロミオ!ロミオぉぉっ!!」

親衛隊M「きゃー!花陽ちゃん似合ってるー!」

親衛隊P「次私!私がロミオね!」

親衛隊W「だめー!まだ私がロミオなの!」


花陽「…こ、こんなところにまでぇぇぇ…」

真姫(その後も私たちは様々な部やサークルに取材を続けた)

真姫(ダンスサークルやバレーボール部…、手芸部にアニメ研究部にマヨネーズ同好会…)

真姫(確かにいろんな部活のいろんな魅せ方について知ることはできたけど…)

真姫(これって本当に私たちの役に立つの…?)



アイドル応援部


真姫「つ、疲れたぁぁ~…」

花陽「あっち行ったりこっち行ったりで、いつもの練習より体力使うよぉぉ~…」

希「んふ、おつかれさん。そろそろ帰ってくるやろ思ってお茶とお菓子用意してたよー」

海未「こ、これはっ…!穂むらの揚げ饅頭!大好物です!」

ことり「わー…、わざわざありがとうございます」

希「長官やからね。これくらいしないと」

希「それで、成果はどう?」

真姫「んー…、まずまずね」

真姫「これを参考にしつつ、としたいところだけど…」

真姫「本当にその部独特のものが多すぎて、使い道に困るのもたくさん…」

真姫「…これでいいのかしら?」

希「うんうん、上々やんっ」

希「その積み重ねが、いつか真姫ちゃんたちを救ってくれるんよ」

真姫「そうだといいけど…」

花陽「今は考えるより、甘いもので疲れを吹き飛ばそう!はい、あーん」

真姫「あ、あーん…もぐっ」

真姫「ふぅ…、甘い…」



真姫(まだまだ先は長いわね…)

多目的ホール


絵里「ワンツースリーフォー…」


ズルッ

にこ「ぎっ…!」バターンッ!!


絵里「…矢澤さん」


凛「あははは!!にこ先輩またこけてるー!運動不足かにゃー?」

にこ「過労なくらいよ…。はぁっ…!」

穂乃果「休憩は十分足りてると思うんだけど、…ちゃんと寝てるよね?にこちゃん」

にこ「もちろんだわ…。夜は安眠MAXよ…、ふぅっ…、ふぅっ…」


絵里「でも明らかに息切れが多くなってきてるわ。少し、考え直す必要もあるわね」


にこ「そ、そんなっ…!私はまだっ!!」

絵里「とにかく、時間も時間だし今日はここまで。…まだやれるなら、矢澤さんは居残りね」

にこ「く、ぅっ…!」

凛「じゃー凛は一足お先に帰るね?にこ先輩、頑張って!凛の足だけは引っ張らないで欲しいにゃー」

凛「穂乃果先輩もお疲れ様ー!にゃんにゃんにゃーんっ」

にこ「はぁ…、はぁ…。何よ、あいつ…」

にこ「あれだけの練習の後だってのに…元気すぎでしょ…」

穂乃果「…そだね。羨ましいよ…」



凛「ふんふんふーん…。あと少しで凛はA-RISE~…」

凛「歌うこともできちゃう…!ふふふ、楽しみにゃー」


女学生「待って!!」


凛「にゃ?…あー、誰かと思えば二年の先パイじゃないですかー。どうしたんですか?」

女学生「なん、でっ…!」

女学生「なんで二年でダンス専攻トップの私よりっ…!あんたが次のA-RISEなのよっ!!」

女学生「おかしいでしょ…、そんなの…!!私のこの2年間はなんだったのよ!?去年はこのままいけばバックダンサーだって期待されてたのに…」

女学生「アンタがいるせいで…!アンタのせいで私はこんな惨めな思いをっ…!」

凛「だから何?」

凛「そんなこと凛に言ってどうしたいのさ。同情でも買ってバックダンサー譲って欲しいの?」

凛「そんなに悔しいなら、凛に一度でもダンスで勝ってから言って欲しいな。そしたら凛も嫌々ながら譲ってあげるけどー」

女学生「…くっ…!!」

凛「できないんなら、黙っててよ」

凛「あ、それじゃ!にゃんにゃんにゃーん…」テテテテ…



女学生「この…、バケモノがっ…!」

真姫(それから数日、私たちは様々な部へと取材を続けた)

真姫(最初はよくわからないことばかりだったけど、次第に魅せ方の応用も分かってきて)

真姫(走り回って部室に戻ってくる頃には、私の頭の中でイメージが作り上がってきていた)




アイドル応援部 部室


海未「運動部から文化部まで…、大量の部活を何度も行ったり来たりして集めた、美しく見せるやり方…」

ことり「玉石混交って感じだね~」

真姫「でも、それぞれ独特なものでも、組み合わせれば形になるわ」

花陽「ってことは、真姫ちゃんはなにか思いついたの?このたくさんの魅せ方を、ひとつにまとめる方法」

ことり「低予算でね」

真姫「えぇ!」

真姫(…二番煎じな気がしなくもないんだけど)

海未「では、次の曲のステージや衣装は、どんなものにするのですか?」

真姫「それはね…!」

真姫「ズバリ、テーマは『異世界』よ!」

ぱなことうみ「「「異世界…?」」」

真姫「ここに集まった凸凹な魅せ方たちを、同じステージに立たせるのはハッキリ言って不可能だわ」

真姫「だからそれを生かすため、一つの舞台じゃなくて、色々な舞台を転々としながら歌とダンスを繰り広げるのよ」

花陽「まっすぐな一つのテーマというよりも、いっぱいのテーマを合わせてひとつにする、って感じかな?」

真姫「うん、そんな感じ」

真姫(…このアイデアは既に、μ'sが使用したものではあるんだけど)

真姫(『これからのSomeday』…。あれも異世界をテーマとした曲よね)

真姫(少し違うのは、一つの異世界ではなく、いろんな世界を行ったり来たり、ってところかしら)

海未「しかし…、舞台を行ったり来たりはお金がかかるのでは…」

真姫「そこは平気よ!だって使うのは…」

希「…休日の学校、かな?」

真姫「せ、正解。そう、学校を彩ってステージを作るの」

ことり「そっか!それなら普通に場所を借りるよりも随分安くつくよね」

海未「なるほど…。しかし学校の中、といってもUTXは広いですよ?どこを使用するのですか」

真姫「うーん、まだそこまでは考えてないわ。でも、お金がない中で、私たちが最も輝けるいいアイデアだと思うんだけど…、どうかしら?」

花陽「うん!いいと思う。色んな世界を巡る旅、かぁ…。してみたいな」

真姫(…いつか、凛が迎えに来てくれたらさせてあげるわ)

ことり「私も賛成!…まぁ、他に思いつくものもないし」

海未「正直ですね…。私も、良いと思います。これ以上迷っている余裕もありませんしね」

希「一応うちも。いいかな?」

真姫「そうね!じゃあ決定!『異世界』を軸に、これから舞台を彩っていきましょう!」

一同「おー!」

真姫(そうしてやっと方向性が決まって、これから、ってとき)

真姫(ついに、いつか起こると思っていた事件が、起きた)



翌日 朝

1年E組


ガチャッ

真姫「おはよう…」


ガヤガヤガヤ…


真姫「…な、なに?」

真姫(なんだか、いつもの朝より騒がしい…?)


クラスメイトA「あ!西木野さん!おはよ!」

クラスメイトB「たたた、大変!これ見てこれ!」


真姫「ど、どれよ?」

クラスメイトA「この映像なんだけど…」

真姫「…っ!こ、これって…」

クラスメイトB「ね?ね?すごくない!?」

クラスメイトA「このメイドカフェで踊ってる子…、C組の小泉さんだよね!?」

真姫「…っあー…」



真姫(いずれは知られると思っていたんだけど)

真姫(…ついにバレてしまった。C☆cuteのファーストライブ映像)

真姫(花陽のいないE組でこんな騒ぎってことは、きっと花陽のクラスじゃ…)



クラスメイトA「西木野さん、小泉さんと友達なんだよね?これについて、なにか聞いてないの?」

真姫「えっ…!あ、あー…、そうね…。うん…」

真姫(この映像に私は映ってないから。まさか、同じアイドルだなんて思いつきもしないでしょうね)

真姫「まぁ、ちょっとくらいは」

クラスメイトB「えー!すごいよ!これってさ、つまり…、アイドルやってるってことだよね!?スクールアイドル!!」

真姫「えぇ…。まぁ…。…あの、ちょっといい?」

真姫「私、花陽が心配だから、行ってきていいかな…」

クラスメイトA「あ、そっか…。うん、わかった!」

真姫「ありがとう。…じゃあ」



真姫(…質問攻めにあって潰されてないか心配だわ)

1年C組


真姫「花陽っ…、うわっ!」

真姫(な、なにこの人口密度!!?ひ、人多すぎ…)

真姫「花陽っ!花陽…、あ!」

真姫(いた!…この大量の人の中心部、ポツンと佇んでいるわ)


花陽「は、はわぁぁぁ…!!」


真姫(涙目でプルプル震えてる…。気持ちはわからなくもないけど)

真姫(こんな人ごみに囲まれれば私だって泣き出すわ。果てない草原で風がビュビュンと吹いた時と同じくらい)

真姫(あれ、でも…)

真姫「…質問攻めに食らってる感じはない?ただ囲まれて困惑しているような…」

真姫「あっ…!」

真姫(よく見れば、花陽の周りにいる数人はみんな、見知った顔だった)

真姫(…つまり、小泉花陽親衛隊。彼女たちは花陽が押しつぶされないように、花陽を守っているんだわ)


親衛隊F「…あっ!真姫ちゃん…!」


真姫(親衛隊の一人と目があった。こちらを強く見つめてきている)

真姫(…彼女の言わんとしていることは大体わかった。私は大きく頷いた)

真姫「…うん」コクリ


親衛隊F「よしっ…。花陽ちゃん…!」クイクイッ

花陽「え…。あ…」


真姫(花陽に顎で合図をする。人ごみに気づかれないようにするため一度屈む花陽)

真姫(そして、人ごみの間を縫うように、私のもとへ現れた)


花陽「ま、真姫ちゃっ…」

真姫「しっ!気づかれないうちに…」ダダッ

花陽「きゃっ!」



真姫(とりあえず、予鈴のチャイムがなるまで、部室で身を潜めることとなった)

アイドル応援部 部室


ガチャッ ガチンッ


真姫「ふぅ…、ふぅ…。ここまでくれば平気でしょ」

花陽「あ、ありがと、真姫ちゃん…」

真姫「お礼なら、あなたの親衛隊に言ってあげなさい。…ホント、いい子たちね」

花陽「うん。ちゃんと説明もするつもりだよ。でも…」

花陽「…こうやって、真姫ちゃんに腕を引かれて逃げるのって、すごいドキドキした…」

真姫「えっ…」

花陽「まるで、王子様にさらわれちゃうお姫様って感じで…、今もまだ、胸が熱いの…」

真姫「は、花陽…」

花陽「ね、真姫ちゃん…」

花陽「ドキドキが収まるまで、花陽のそばに、いてくれる?」

真姫「…ば、バカ…」

真姫「それじゃ、いつまでたっても…、離れられないじゃないのっ…」

花陽「ふふ、そうかもね…」



希「んふー、青臭いお芝居やねー。120点」


花陽「ひょわぁぁっ!!!?の、希部長!?いたんですか!?」

希「ずっといたよ。でないとこの部室開いてへんしー」

真姫「…気づいてなかったのね」

花陽「さ、さっきの見られてた…!恥ずかしい…」

真姫「二人きりであんなこというわけ無いでしょ。芝居でもない限り」

花陽「くぅぅぅ…!乙女の心を弄ぶ真姫ちゃん、許すまじぃぃぃ…!!」

希「ええやん、羨ましいなー。うちも混ぜてほしいわ」

真姫「遠慮しとくわ。…で、花陽。さっきのアレのことだけど、やっぱり…」

花陽「う、うん。例のライブ映像の件で、質問攻めに…」

花陽「こ、怖かった…」

希「結構、広まってるみたいよ?その件」

希「うちのクラスでも、話題にしてる子いたし。『あの有名な』小泉さんがアイドルやってる、って」

真姫「…花陽の知名度半端ないわね」

花陽「わ、私が何したっていうのぉ…?」



食堂


真姫「ふーっ、ふーっ…、ずるずる…。もぐもぐ…、ごくんっ。…それじゃ、ことりも?」

ことり「うん。ちょっとはね…。でも…」

ことり「…花陽ちゃんほどではなかったかな。やっぱり、大人気だね、花陽ちゃん」

海未「歌声一本であそこまで人気が上がるのは正直驚きます。羨ましくもありますね…」

真姫「元メイドアイドルとして?そうね…。花陽は自分から人気をあげようなんてこと一切してないのにアレだものね…」

ことり「まさに天性のアイドル!なのかな?私も映ってるっていうのに、私そっちのけで花陽ちゃんの質問しに来た子もいたし」

真姫「花陽に直接聞かせてあげたい言葉だわ…。天性のアイドル、なんて」

海未「…ところで、その花陽はどこに?」

真姫「あそこ」クイッ

ことり「あー…、あの人だかり?」

真姫「いっつもあの位置で、小泉花陽親衛隊に囲まれて食事してるんだけど…」

真姫「今日はいつも以上に多いわね…。多分、親衛隊以外もいるんでしょうけど」

海未「というか、親衛隊なんていたんですね…。彼女はどういう立ち位置の人なのですか…」

真姫「…未だに私もわかりかねてはいるわ」

花陽「えと、えっと…、それからそれから…」

花陽「…とまぁ、色々な紆余曲折を経て今に至る、かな…?」


親衛隊ズ「「「おぉー!」」」パチパチパチパチ


花陽「や、やめてよぉ…。拍手するほどのことじゃないって」

親衛隊L「そんなことないってば、花陽!やるじゃん!」

親衛隊E「に、にに西木野さんも、アイドルなんだね…。い、意外かも…」

親衛隊P「それどころかかよちゃんをアイドルに誘ったのが西木野さんなんでしょ?驚きだよねー」

親衛隊I「熱血な面もあるんですね、真姫さん…。おとなしい子ってだけだと思っていました…」

花陽「結構アグレッシブな子だよ、真姫ちゃん…。付き合ってたらわかるけど…」

親衛隊T「え!?やっぱ付き合ってんの!?」

親衛隊Y「どっち!?どっちが攻め!?やっぱ西木野さんがガンガン行くタイプなの!?」

親衛隊F「私が思うにきっと花陽ちゃんがなんだかんだ真姫ちゃんのリードを引っ張るタイプのそれだと…」

花陽「ちちち、違うよ!?そういう付き合うじゃないって!!一緒にいたら、ってことで…」



ザワッ…



花陽「…?何?」

親衛隊D「後ろの方から、声が聞こえた…?」

親衛隊K「…いやむしろ、野次馬の声が消えた…?」



ザワッ… ザワッ…



「あー、そこどいてー。うんうん、ありがとー」



花陽「…っ!!この、声…」



「邪魔だなぁ…。どっか消えてってばー。ほら、あっち行って。シッシッ」




花陽(そんな声が何度か聞こえたあと、私の正面にいた人だかりは、綺麗さっぱりいなくなり)

花陽(ただ向かいの席にひとり、椅子に座っている子がいるだけでした)

花陽(その子は堂々と椅子にふんぞり返って、私を値踏みするような目で見つめて)

花陽(数瞬ののち、こう言いました)




凛「久しぶり、…小泉さん」

花陽「り、凛、ちゃんっ…!!」


親衛隊G「えっ…!!A-RISEバックダンサーの、星空凛ちゃん…!?ど、どうして…」

親衛隊W「小泉さんと、なにか関係あるの…?」

凛「…誰に向かって話しかけてるわけ?ルール違反なんですけど」

親衛隊G・W「えっ…」

凛「今凛は小泉さんに話しかけてるの。それ以外は凛とかに話しかけちゃダメって決まり、知ってるよね?」

親衛隊G・W「あ…」

凛「もー、しっかりしてよねー?レベルが低いんだからー」

凛「小泉さんも、相変わらずレベル低い子たちに囲まれて。女王さま気取りかにゃ?」

花陽「…っ!そ、…そんなんじゃ、ないよ」

凛「だよねぇー!女王さまならこんなみみっちい人たち囲んで満足するわけないもんね!アハハハ!!」

花陽「や、やめて…。私はいいから、みんなをバカにするようなことは…」

凛「そんなの小泉さんに咎められる筋合いないにゃー。凛がそう思ったから言っただけだよ」

凛「質の低いアイドルのもとには質の低い人間しか集まらない。まさに絵里センパイの言ってた通り…」

花陽「そんなこと言うために会いに来たのっ!!?」ダンッ!!

凛「…っ」

花陽「…あっ、ご、ごめん…。でも…」

凛「うぅん、こっちこそ。そうそう、わざわざこんなこと、言いに来たんじゃなかった」

花陽「何しに、来てくれたの…?」

凛「まぁ別に、用があったわけじゃないんだけど」

凛「聞いたよ?…スクールアイドル、始めたんだって?」

花陽「…っ。う、うん…。それで?」

凛「ふぅん…。それで?だなんて…。ププッ…、笑っちゃうにゃぁ…」

花陽「えっ…」

凛「だって…、くふっ…、あははははは!!なんにも悪びれずにやっちゃうんだね!スクールアイドル!!」

凛「せめて凛にお伺いを立ててから始めて欲しかったモンだけどなぁ…。ねぇ?」

凛「勝手に辞めた、裏切り者」

花陽「…っ!!!」

凛「凛言ったよね?ちゃんと逃げ出したこと謝りに行かないとダメだよ、って」

凛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」

凛「なのに…、なのに”かよちん”は動こうとしなかった。怖いからって、嫌だからって」

凛「だからもう…、小泉さんのアイドルに対する思いって、そんなものなんだって思って失望して」

凛「でも哀れんでもいたの。この子は弱い人間なんだ、だから仕方ないんだって、半分諦めみたいな」

凛「でもさぁ…。まさか、新しくスクールアイドル始めちゃうなんて思わなかったよ」

凛「それでね?凛…、哀れんであげたのが馬鹿みたいじゃんって思って、腹が立ったんだ」

凛「小泉さんは弱いっていうより、姑息で、卑怯な人間なんだって気づいたから」

花陽「ひ、卑怯って…!そんなこと、な…」

凛「卑怯じゃん!!辛いからって逃げ出して、嫌だからって今度は楽してアイドルやって!」

凛「一緒にやろうって言いだしたのはどっちだよ!?最初に諦めたのはどっち!!?」

凛「アイドルやりたかったらもう一回戻ってきてやればよかったのに、小泉さんなら十分にその資格があったのに!」

凛「…失礼だとは思わないの?『才能』を持ってない人たちにさ?」

花陽「さ、才能…?」

凛「小泉さん、歌、上手だよね。あの質の悪い映像だけでもよくわかるよ」

凛「多分、一年生じゃぶっちぎりで上手だと思う。きっと来年、頑張ればバックダンサーになれる資格が十分にある」

凛「でも頑張らない。才能を持ってるのに逃げ出して、チャンスをふいにしてる」

凛「それって、チャンスすら持たない人間に対して、どれだけ失礼な行為かわかってないのかな?…小泉さん」

花陽「だ、だけどそんなのっ…」

凛「え?口答えする気?できるとでも思ってるのぉ!?アハハハハ!!笑える!」

凛「かよちーん、これはイジワルでもなんでもないんだよ?れっきとした、事実なの」

凛「いつか身にしみる時が来るよ。自分がどれほど最低な人間なのか、ってさ」

花陽「…う、ぅぅ…!」

凛「…ま、そのくらいかな。もし自分がまだ、楽しくアイドルやれると思ってるなら、思い直したほうがいいよ」

凛「小泉さんは、絶対に、そんなこと、できないから。…じゃあね」スッ



花陽「ま、待ってよ!!」



凛「…どったの?」

花陽「…っ、う、ぐぐっ…!!」

花陽「わ、私っ…!!絶対に私、凛ちゃんに追いついてみせる…!!」

花陽「どれだけ酷いこと言われても、凛ちゃんはまだ私にとって、凛ちゃんだからっ…!!」

花陽「だからいつか、またっ…」


凛「黙れよ」


花陽「…っ!!」

凛「…ハァ?お、追いつく…?クハッ…、ア、ハハハ…!!」

凛「アッハハハハハハハハハハハハァァァァァァァアアアッ!!!なにそれ、超ウケる!!」

凛「小泉さんが、凛に、追いつくだなんて…ぇっへへへへ…!!冗談にしては、タチ悪すぎだにゃぁぁっ…!!」

花陽「冗談なんかじゃっ…!」

凛「…じゃあ、もっとタチ悪いね。そんなの、夢物語ですらない」

凛「ただの戯言だよ。無理に決まってるもの」

凛「一度諦めた人間が、諦めない人間に勝てるはずがない」

凛「…どれだけ、凛を見下せば気が済むの?ホンット、最低だね…」

花陽「う…」

凛「小泉さん程度の人間が、凛と同格だなんて、二度と思わないで」

凛「…不愉快すぎて、吐きそうだから」

花陽「ぅ、ぁ…」

凛「今日の日記には、こう書いておやすみするにゃー」

凛「『小泉花陽ちゃんは、凛の思っていた以上にクズで最低な子でした。それ以外は普通の日でした』ってねー」

凛「長話が過ぎたにゃー。じゃ、今度こそバイバーイ。あ、凛を嫌いになってもA-RISEは好きでいてね!よろしく!」スッタカター





シーン…



親衛隊D「…なにあれ、最低…」

花陽「やめてっ!」

親衛隊D「えっ…」

花陽「私が…、私が、いけないの…」

花陽「凛ちゃんを、あんなふうに変えちゃったのは…、私…」

花陽「弱くて、最低で…、傷つくのが怖くて逃げることしか考えなかった私が、ぁ…、あぁぁぁっ…!!」

花陽「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

親衛隊E「ちょっ…、小泉さっ…」

花陽「うぐぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

親衛隊N「えと、えっと…、その…」


真姫「…は、花陽っ!?なにが…」

ことり「ど、どど…、どうしたの!?」


親衛隊F「真姫ちゃんっ…!…お願い、今は真姫ちゃんしか、花陽ちゃんを救ってあげられないと思う、から…」

真姫「…!わ、わかったわ…。花陽。行きましょう」

花陽「ううぅぅぅぅっ…!!うあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」







花陽(言えなかった)

花陽(ことりちゃんみたいに、かっこよく)

花陽(だからいつかまた…)

花陽(『もう一度、友達になろう』って)

花陽(それが、どうしようもなく悲しくて、悔しくて、虚しくて)

花陽(凛ちゃんから受けたどんな暴言よりも、深く胸に突き刺さった)

アイドル応援部 部室


花陽「うぅっ…、ふ、ぅぅふぅ…」

真姫「花陽…、もう大丈夫?」

花陽「…うん、ありがとう。真姫ちゃん、ことりちゃん、海未さん…」

海未「急に泣き出したときはどうしたのかと驚きましたよ…」

希「うちはお弁当食べてる時にいきなり花陽ちゃんたちが泣きながら部屋に入ってきてビックリしたわ」

ことり「あの、そろそろ何があったのか教えてくれる?」

真姫「…凛があなたの席の近くまで行ったのは知ってるんだけど、もしかしてアイツになにか…」

花陽「うぅん、違うの…。違くは、ないんだけど…、泣いてるのは、違う」

花陽「実はね…」



海未「そんなことを…」

ことり「凛ちゃんって少しワガママなところあったりして苦労してたけど、そんなこと言う子だったんだ…」

海未「そんな振る舞いをしてファンが離れていくとは思わないのでしょうか…」

希「…それ以上に、自分の才能に対して自信を持ってるんやろうね」

希「『UTX始まって以来の天才』、って呼ばれてもいるから、凛ちゃん」

海未「どれだけ不遜な行いをしても、ステージの上で華麗に踊る姿に人々は次第に魅了される…、そういうことでしょうか」

ことり「それにしたって酷いと思うよ…。聞く限りだと花陽ちゃんの心をへし折る気満々だもん…」

希「実際、そうするつもりなんやろうね。花陽ちゃん、今度は精神的に潰れんといいけど…」


真姫「…そう、凛が…」

花陽「凛ちゃん、昔はとてもいい子だったんだよ…。人の悪口なんか、ふざけてる時くらいしか言わないような…」

花陽「あれだけ凛ちゃんが歪んじゃったのはきっと、私が…」

真姫「…違うわ。凛が歪んでしまったのはあなたのせいじゃない」

真姫(あの凛の考え方から察するに、絵里の影響をモロに受けている)

真姫(歪んだ絵里が、さらに凛をも歪ませてしまった…)

花陽「私が直接的じゃなくても、少なくとも、原因のひとつであることは間違いないよ」

花陽「ずっと凛ちゃんのそばにいてあげれば、あるいは、道をそれることもなかったかもしれない」

花陽「…私が、逃げ出しちゃったせいで、凛ちゃんは…」

真姫「そんなこと言いだしたらキリがないでしょ!そのまま花陽がアイドル専攻を受け続けたら、もしかしたら花陽こそ歪んじゃったかもしれないんだし」

真姫「わ、私は…、今の花陽に出会えてよかったと思う。今の花陽が、その…、好きだからね」

花陽「…ふふっ」

花陽「真姫ちゃん、顔真っ赤だよ」

真姫「…うるさい」

6限 歌手専攻授業前

音楽室


真姫「…」

花陽「あ、あのっ!」


親衛隊ズ「…?」

親衛隊D「どうしたの?花陽ちゃん…」

親衛隊E「な、なにか言いたいこと、あるの…?」


花陽「え、えっと…」



~回想~


部室


真姫「…へぇ。親衛隊の子達にも説明したのね」

花陽「うん。真姫ちゃんがアイドルやってるってことも、全部」

花陽「みんな応援してくれる、って言ってたよ」

真姫「じゃあ…、大丈夫そうね」

花陽「ん?なにが?」

真姫「今後、ステージを組む時とかに人手は必要じゃない?そのための人員」

真姫「彼女たちになら、任せられると思うの」

花陽「あ、そっか…」


~回想おわり~



真姫(…歌手専攻にいる子たちが親衛隊全員ってわけじゃないけど、大部分は占めるし)

真姫(一度誰かが承認してくれれば、あとはなし崩しで、ってわけじゃないけど)

真姫(でも、花陽のことを誰よりも大切に思ってくれてる、っていうのは、朝のアレで理解できた)

真姫(きっと彼女たちなら、すんなり引き受けてくれるはず。問題があるとすれば…)


花陽「え、えと…」

真姫(頼みごとをするときの花陽のあがり癖、くらいかしら)

親衛隊F「ほら、リラックスして。ちゃんと聞いてあげるから」

花陽「う、うん。言うね。…あの、これから私…、私たちがライブするときとかに…」

花陽「ステージを作るの、手伝って欲しいな、って思ってて…。ダメ?」

親衛隊E「だ、ダメなんてことないよ…!もも、もちろん…」

親衛隊G「そーそー。みんなもそうだよね?」

親衛隊ズ「「うんうん!」」

真姫「そう…。よかった、じゃあ…」




「やめといたほうがいいと思うよ」

花陽「えっ…?」

真姫「だ、誰っ…?」


親衛隊A「私」


真姫「あ、あなたはっ…!」

真姫(…花陽をいじめていたうちの、ひとり。最近ほとんど花陽に絡んでなかったと思ったら…)

真姫(こんなところで一体何を言い出すの…!?)


親衛隊F「ちょっと!やめておいた方がいいってどういうことよ?」

親衛隊H「もしかして最近ハブられ気味だからって嫉妬してるのー?」

親衛隊A「そんなんじゃないって。善意だよ、これは」

花陽「ぜ、善意…?」

親衛隊A「小泉さんを手伝うことが、どういうことか理解して言ってるの?みんな」

親衛隊E「どど、どういう意味…?」

親衛隊A「彼女を手伝うっていうことは、彼女のスクールアイドルを手伝うってこと」

親衛隊A「新しいスクールアイドルを手伝うってことは、A-RISEに歯向かうってこと」

親衛隊A「アンタらにもA-RISE大好きな子もいるんじゃないの?」

親衛隊H「ま、まぁ…。好きだよね…」

親衛隊A「ここUTXはA-RISEの本拠地なわけよ?そこで別のスクールアイドルを応援するってなったら…」

親衛隊A「どんな扱いを受けるかわかったものじゃないわよ?」

親衛隊I「えっ…」

親衛隊A「特にアイドル専攻の子たちは過激だってよく聞くしね~。自分たちがアイドルになるのに必死だって」

親衛隊A「そんな中、勝手にアイドル始めようとしてる人たち見かけたら、どう思うかな?」

親衛隊A「私だったら、潰したくなると思う」

親衛隊ズ「…」ザワッ…

親衛隊A「スクールアイドル本人もだけど、それを応援している人にも被害が及ぶかもしんないんだよ?」

親衛隊A「うぅん。むしろ被害が最初に出るのは応援してる方かも。そっちの応援してるってだけで、話の輪からはじき出されたりして」

親衛隊A「だから、やめておいたほうがいいって言ったの。入るにしても、よく考えてからにしたら?」

親衛隊A「二つ返事で受け入れるのは、賢い選択じゃないと思うんだよね」


親衛隊ズ「…」シーン…


真姫「…あなた」

親衛隊A「あ、他の子達にも私が伝えといてあげるよ。あなたたちが手伝って欲しがってたって」

親衛隊A「もちろん、そのリスクも一緒にね。手間減らしてあげるんだから感謝してよね?」

真姫「…」

真姫「えぇ、ありがとう…」

親衛隊A「どういたしまして。…くくっ」

真姫(まさか、こんなタイミングで…)

真姫(私が花陽のいじめを阻止したことへの報復が来るなんて…)



親衛隊J「わ、私…。やっぱり、やめる…」


親衛隊D「えっ…!ちょっと!」

親衛隊J「だ、だって私…。A-RISEも花陽ちゃんと同じくらい好きだもん…」

親衛隊J「仲のいい友達にもA-RISEの熱狂的なファンもいるし、もしその子から敵視されちゃったら…」

親衛隊E「そ、そそ…、そんなことないと思う…、多分。みんな、優しいって…」

親衛隊L「…ゴメン。あたしもパス。部活も忙しいし…。多分手伝えないタイミングも多いし…」

親衛隊L「同じ部の子には、あんま評判良くないんだよね…。あなたたちのこと…」

真姫「…っ」

花陽「そんなっ…!」



真姫(それから次々と、「私も」「私も」と、手伝いを拒否する子たちが現れ始め)

真姫(残った子たちも「考えさせて」という子がほとんどで…)

真姫(結局、手伝ってくれる子はほんの少ししか残らなかった)

真姫(少しでもいてくれたのは嬉しいけど、…でも、やっぱりこの学校ではA-RISEの存在は大きいって実感した)



親衛隊P「ごめんね、かよちゃん、まきちん…。私も…」

花陽「ま、待ってみんな!もう少し話を…」

真姫「…やめておきなさい」

花陽「真姫ちゃんっ!!でもっ…」

真姫「今は…」


キーンコーンカーンコーン…


花陽「あっ…」

真姫「…授業が始まるわ。早く、席につかないと」

花陽「う、うん…」




真姫(改めて感じた、A-RISEに立ち向かうことのハードルの高さ)

真姫(だけどこれも、私の…、私たちの乗り越えるべき壁なのよ)

真姫(ここで信頼を勝ち取らないと、この先に進むことなんて到底できない)

真姫(また、頭を使いそうな事案が増えてしまった、…なんて思っていた矢先)

真姫(…あんなことが起きるなんて、予想もしていなかった)

数日後 放課後

アイドル応援部 部室


真姫「ふんふん…」カキカキ…


真姫(結局手伝ってくれるって言ってくれた子は、花陽と仲のいい3人だけだった)

真姫(A-RISEにケンカを売る片棒を担げ、って言ってるのにまぁ…その3人だけでも手伝ってくれるのはとてもありがたいこと)

真姫(そして今私は、早々にその3人を利用するため、ステージや舞台美術のイメージをスケッチしている最中)

真姫(歌やダンスに関しては、経験の浅い他の3人よりも早く習熟できるから、こうして練習の時間を構想に当てている)

真姫(普通は家でやることなんだけど、手伝ってくれる3人のためにいち早く完成させたいからね)

真姫(そんなわけで、今この部室には私と希だけがいて、鉛筆の擦れる音だけが静かに響いていた)


真姫「で、ここがこうで…」サッサッ…

希「…ふむふむ」

真姫「わっ。き、急に近づいてこないでよ」

希「ふふ、進捗どうですか、ってことで覗かせてもらったよ」

真姫「進捗?…まぁ、そこそこね」

希「ホント?」

真姫「嘘ついてどうするのよ。…でも、そこそこ以上ではないわ」

真姫「…なんか、もう少し欲しいのよ。もう1ランク上の、魅せ方が…」

希「1ランク上…。もっかい取材してくる?」

真姫「って言ってもほとんどのところ取材しつくしたし…。あと、残っているところと言ったら…」



コンコンッ

??「…いる?」



真姫「…?誰、お客さん?」

真姫(扉の外からドアをノックする音と、誰かの声が聞こえた)

希「さぁ…。うちは誰も呼んでないけど」

真姫「じゃあ他の誰かが呼んだのかしら…。今は音楽室なんだけど」


??「…いないんじゃないのか?」

??「えー、でも明かり付いてるし…」

??「鍵は…、かかってないみたいだけど」


真姫(外からの声はどうやら3人あるみたいだった)

希「あー、はいはい。今開けますーっと…」


ガチャッ


希「はいはい、どちら様…、えっ!」

真姫「…誰よ、こんな部活に…ぬぁっ!!?」




ツバサ「…こんにちは。アイドル応援部さん」

あんじゅ「へー、こんなところにいるんだー。あはは、狭っ」

英玲奈「…失礼だろう。すまない、急にお邪魔して」


希「いや、うちはいいけど…」

真姫「え、えぇぇぇぇぇ…!!?どどど、どうして…!!

真姫(どうして、A-RISEがっ!!?)

真姫(しかも一人ならまだしも、三人全員が揃って、この寂れたアイドル応援部に!?)

真姫(この学校の生徒が、この学校の部室に顔を見せる)

真姫(事実だけ述べれば何ら不思議ではない状況、しかしUTXではそうはいかない)

真姫(なにせ、A-RISEはこの学校の、スーパースター…)

真姫(学校側か絵里の策略かは知らないけど、同じ学校にいても遠い存在だと印象付けるために)

真姫(こちら側から話すことは基本的に禁止され、あちら側から話すことも、あまりないことなはずなのに…)


英玲奈「…それにしても、久しぶりだな。東條」

希「あ…、せやね。れなっちも、久しぶり」

真姫「は?」

あんじゅ「私はいつも会ってるよねー。希ちゃん」

希「まぁ…、あんじゅちゃんとは同じクラスやからね」

真姫「えっ」

ツバサ「去年までは、とてもお世話になってたわね。口じゃ言い表せないほど感謝してるわ」

希「せやね。…あの頃は、めっちゃ楽しかったわ。今も、めっちゃ楽しいけどね」

真姫「あぁ…」

真姫(…そうか。希は…)

真姫(希は、アイドル応援部部長なのだった)

真姫(これまた当たり前すぎる感想だけど、私たちのこのアイドル応援部と、過去のアイドル応援部とではわけが違うから仕方がない)

真姫(希の話だと、去年の秋頃まではA-RISEととても深い関係のある部活だったそうな)

真姫(それならば去年のA-RISE候補生で合った現A-RISEの3人とも顔見知りであることは何ら不思議じゃない)

真姫(それに部長であるということは、かなり重要なポジションなわけで…。それなりに親しくてもおかしくない、ってわけね…)

真姫(A-RISEの3人も3年だし…、しかし、それにしてもさっきの会話でちょくちょく気になるところが)


真姫「…あの、希?その…、統堂さんのこと、今…れなっちって言った?」

希「ん?せやね、れなっち。英玲奈の下の二文字取って、れなっちやね。ふふっ、こう呼ぶのも久々やん」

英玲奈「その呼び方にももう慣れたよ…。…いや、まだ慣れてないかもしれないな。恥ずかしいから正直やめてほしい」

真姫「な、仲はいいの?」

希「そこそこやったねー。A-RISEが今の体制になるまでは二人で遊びに行ったりもしたし」

真姫(…意外すぎるわ)

ツバサ「まぁまぁ、昔話もいいけど、立ちながらって言うのもどうなの」

あんじゅ「そうねー。別に昔のお話をしに来たわけでもないしー」

希「…わかった。じゃ、お茶用意するね」

真姫「…」


ツバサ「ふぅん…、えらく変わったわねー…。部室も…」

英玲奈「し、しかし…。壁と背中の距離が近いな…」

あんじゅ「私なんておっぱい挟まれちゃうわよー。もうちょっとなんとかならないのー?」


真姫(…ど、どうして私をお茶くみに行かせてくれなかったの…)

真姫(気まずすぎる)


あんじゅ「あ、真姫ちゃーん…だよね?」

真姫「え、えぇ…。そういえば、どうして名前…。この前も呼ばれたし…」

あんじゅ「んふ、どうやらあなたも結構な有名人らしいじゃない」

真姫「え、そ、そうなの…?」

英玲奈「こら、あんじゅ」

あんじゅ「あぁん、もう。…ごめんなさい。ま、そんなわけだから偶然知っちゃってね、これからも仲良くしましょ?」

真姫「は、はぁ…(意味わかんない)」

真姫「あ、あのぉ…。希とは同じクラスって…」

あんじゅ「うん、そうよ。今年はね」

あんじゅ「去年あんなことがあって、しかも同じクラスになるのは初めてだったからちょっと気まずかったけど、今じゃ時々お話するくらいのお友達よ」

真姫「へぇ…。そ、そうなんだ…」

ツバサ「ふふ、もっと気を楽にしていいのよ?今は誰も咎める人はいないんだし」

ツバサ「それにここはあなたの部室なんだし」

真姫「そ、そうですね…、はい…」


希「お、ちゃんとおもてなししてるー?お茶くんできたよー」

英玲奈「あぁ、ありがとう。はい、あんじゅ」

あんじゅ「どーもー。んぐっ…、んん、あったかい」

ツバサ「私にまで回してよ…」

希「はい、これ真姫ちゃんの…、どうしたん?汗ひどいけど」

真姫(…希が来てくれて助かった。正直…、緊張で死ぬかと思ったわ)

希「よいしょっ、と。じゃ、そろそろ話してもらえる?わざわざこの部室に来てくれた理由」

ツバサ「うん。でももう少し…、あともう少しで…」


ガチャッ!!

花陽「あ、A-RISEが来てるってホント…ってわぁぁぁっ!!!」

ことり「ほ、ホントにいる!?」

海未「ど、どういうことですか、これは…」


ツバサ「揃ったわね。新生スクールアイドルの皆さん」

真姫「全員いないと、できない話…?」

英玲奈「そういうことだ」

ツバサ「じゃあ、早速本題に移りましょう。単刀直入に言うわね」



ツバサ「今度の、アキバハロウィンフェスタ。…一緒に出てみない?」

花陽「え…?」

ことり「あきばはろうぃんふぇすた?」

海未「…に、一緒に?」


あんじゅ「そう!あ、アキバハロウィンフェスタのことは知ってる?」

あんじゅ「10月30日周辺の数日に渡って行われる一大イベント!たっくさんの人々が仮装して街を大行進!」

英玲奈「…日本じゃ考えられないほど大掛かりなイベントだな」

ツバサ「そのアキバハロウィンフェスタに、私たちA-RISEへライブのオファーが来ているの」

花陽「え、ライブするんですか!?」

ツバサ「うん。お祭りの最終日にね」

海未「それは理解しましたが…、一緒にってどういう…」

あんじゅ「んふ、簡単よ。あなたたちにもライブを披露してもらうってこと」

ことり「えぇぇぇっ!!?」

英玲奈「スクールアイドルなんだ。披露できる曲の一つくらいは持ってるでしょう?」

英玲奈「それを、私たちと共に行おう、と提案しているのよ」

真姫「…それは、どうして?」

花陽「そそ、そうですよ!まだ結成して日も浅い…どころかほとんど活動してないような私たちを!」

希「もしかして、アイドル応援部時代のよしみで、とか?」

ツバサ「ふふふっ、それもあるかもしれないけど、理由は違うわ」

ツバサ「素直に、応援したくて」

海未「応援、ですか…?」

ことり「アイドル応援部を、応援…。つまり綺羅さんはアイドル応援部応援部ですか!」

希「真面目な話してる時にボケない」

あんじゅ「そうよー?だって私たち3人じゃ新しい部活は作れないもの、ね?」

英玲奈「…お前も乗るな」ポコンッ

あんじゅ「痛っ!英玲奈がぶったー!」

ツバサ「あはは…。まぁつまり、私たちもUTX学院に新しくスクールアイドルができるのなら喜ばしいことだと思ってるの」

ツバサ「絵里は快く思ってないみたいだけど…。でも私たちはそうじゃないわ。ライバルとして、でも学院生として、仲間としても、支えていきたいって」

花陽「つ、ツバサさんっ…!!」

ツバサ「あなたたちはまだ目立つ活動は行っていないのよね?だったら、このハロウィンフェスタで一気に名を上げるチャンスじゃない!」

ツバサ「まだ正式に運営を通して話したわけじゃないから確約はできないけど、私たちからならきっと承諾してくれると思う。だから、どうかしら?」

ツバサ「私たちと同じ舞台で、踊ってみない?」

ことり「そんなの…、渡りに船ですよっ…!当然オッケーだよね?海未ちゃん!」

海未「当たり前です!こんな有名になれるチャンス、逃す手はありません!」

花陽「うんうんっ!!この前のライブ以上のお客さんの前でライブができるんだよ!うわぁぁ…、楽しみだなぁ…」

希「そういう話なら、うちも賛成かな。部員たちが有名になれるならそれに越したことはないし…」

英玲奈「決まりかな。それじゃ…」

真姫「ダメよ」



花陽「…え?」

真姫「…魅力的だけど、その誘い。乗るわけには行かないわ」

英玲奈「なっ…!」

あんじゅ「えー!なんでー?」

花陽「そそ、そうだよ真姫ちゃんっ!!!どうしてそんなこと…!」

海未「正気ですか!?」 ことり「熱があるの!!?」

希「…もしえりちの罠や、とか考えてるなら、心配いらないよ。ツバサちゃんたちはそんな…」

真姫「そういうことじゃない。私だって彼女たちに裏があるとは思ってないわよ」


真姫(…少なくとも、何もしなくても実力でこのUTXを勝ち上がった3人だし)

真姫(この場合の『何も』っていうのは、私たちμ'sの面々がUTXに介入しなくても、って意味ね)


花陽「だったら…」

真姫「…冷静になって、花陽。私たちがA-RISEにそこまでしてもらう義理がどこにあるの?」

花陽「え…?」

英玲奈「どういう意味かな?」

真姫「私たちはスクールアイドルよ。この日本に数多く存在する、そのうちのたったひとつ、唯一のチーム」

真姫「UTX学院生であること以外は他のどこのスクールアイドルとも変わらない。まだ、名前を知っている人もごくわずか」

真姫「それは、どこのアイドルだって一緒。なのに私たちだけ、偶然UTX学院で始めたからって、トップアイドルの手を借りてもいいの?」

花陽「あ…」

真姫「言い方は悪いけど、そうやって得られた知名度に、…価値はないわ」

真姫「そこから伸びた噂には必ずA-RISEの尾ひれがついて回る。どれだけ力を伸ばしても、決して離れることのない立派な尾ひれがね」

真姫「私の、私たちの目標は、打倒A-RISEなのよ。それすなわち…、スクールアイドルの頂点」

ことり「スクールアイドルの…」

海未「頂点…」

真姫「そして、全国のスクールアイドル共通の夢でもあるの。私たちだけが優遇されていい謂れはないわ」

真姫「あなたたちだって、そうやってトップを取ったわけじゃ、ないんでしょう?」

ツバサ「…そうね」

真姫「自分たちの力で成し遂げてこそ、頂点に意味があるのよ」

真姫「私たちが出場できる資格のないライブに誘われてる程度じゃ、ライバルとすら思われてないようなものだし」

真姫「…だから、ごめんなさい。気持ちはありがたいけれど…」

ツバサ「…」

花陽「真姫ちゃん…」

花陽「…すみません。私からも…、お願いします。断らせてください」

海未「は、花陽まで…」

花陽「真姫ちゃんの言いたいこと、理解したから…。そう、だよね…」

花陽「A-RISEに手伝って貰ってちゃ、もうそれは特別なんだ…」

花陽「…世界中の女の子に、夢を与えるためには…それじゃいけないんだよね」

花陽「い、一緒に踊れなくなるのはすっごく残念ですけど…!!でも、ごめんなさいっ!!」

ツバサ「…ふ」

ツバサ「ふふふっ…。…わかったわ」

ツバサ「こちらこそ、ごめんなさい。あなたたちのこと、よくわかってなかったみたい」

ツバサ「ちょっと、私も調子に乗ってたのかも。日本一のスクールアイドルに、名実ともになれたから」

ツバサ「去年の私の気持ち、忘れたりなんかして」

英玲奈「ツバサ…」

ツバサ「あの頃の私たちも、必死だったもんね。認めてもらおうって」

ツバサ「誰かが上から手を差し伸べてくれなんて、してくれなかったし、して欲しくもなかった」

ツバサ「私たちのありったけだけを、見せつけることだけでしか、満足できなかったんだよ、ね…」

あんじゅ「ツバサちゃん…」

ツバサ「…えへへ。ちょっと懐かしい気持ちになっちゃったかも」

真姫「…ぁ」


真姫(初めて見た、綺羅ツバサの子供らしく笑った顔)

真姫(こんな顔も出来る人なんだって…、ちょっとドキッとしてしまった)

真姫(それは私の横の花陽も同じだったようで)


花陽「お、おぉぉ…!!か、カメラが欲しい…!」

真姫「…自重しなさい。…私も我慢してるんだから」

ツバサ「?…何か言った?」

真姫「あぁ、いえ。なんでも」

英玲奈「…ふぅ。つまり、なんだ。結局私たちの誘いは無下にも断られてしまったということかな」

あんじゅ「うえー!!?残念すぎ!せ、せっかく新しい後輩のお友達が出来ると思ったのにぃ…」

ツバサ「まぁまぁ…。彼女たちも本気なのよ。そう、私たちと同じくね」

ツバサ「えっと…、真姫さん、だったかしら」

真姫「えぇ…、西木野真姫、…です」

ツバサ「西木野真姫さんね。…だったらこれからは、私たちは容赦なくあなたたちを跳ね除けるつもりで行くわ」

ツバサ「スクールアイドルとして、絶対に負けるわけにはいかない。王者の冠を被ったまま、私たちは卒業するのよ」

真姫「…」ゴクッ…

ツバサ「…でもね?」

ツバサ「少なくとも、UTX学院の一人の生徒として」

ツバサ「あなたたちを応援することくらいは…、許してくれるよね?」

真姫「…!えぇ…、もちろんよ!それなら何の問題もないわね!」

ことり「えっ!調子良すぎ!?」

海未「肝っ玉の太さが尋常ではありませんね…」

真姫「う、うるさいわね…。UTX生ならではの恩恵くらいいいでしょ!…多分」

ツバサ「なら、今度から困ったことがあったらいつでも訪ねてきて。個人として対応できる限りなら、快く協力するから」

ツバサ「あんじゅも、それでいいわよね?」

あんじゅ「なんてナイスな提案をするのかしらツバサちゃん!オッケーオッケー!!」

英玲奈「…ただし。あまり表沙汰にならないよう、ひっそりとな。うるさい奴がいるから…」

希「…えりちやね」

あんじゅ「今度希ちゃんに連絡先教えてあげとくから、必要なときはいつでもどうぞ?あ、だからって連絡しまくるのは他のファンと不公平だからダメだから!」

花陽「あ、A-RISEのみなさんの連絡先を教えてくださるのですかぁぁっ!!?」

真姫「これでも十分な贅沢ね…。…あ!」

真姫「だったら、早速で悪いんだけど一つ、頼まれてくれるかしら?」

ツバサ「何?」

真姫「今までしたくてもできなかった、各専攻への取材…。そのうちの芸能科トップクラスの3人なら、かなりいいことが聞けると思うの!」

海未「それなら確かに…!」

ことり「う、うわー!!贅沢だよー!」

花陽「でもUTX学院生の悲願でもあります!!」

希「A-RISEに取材を、か。ええんと違う?」

ツバサ「えぇ!なんでも、というわけにはいかないけど、答えられる範囲でなら、いくらでも!」

英玲奈「ただ、時間に限りはあるけどね」

あんじゅ「今からなら~…、30分が限度かしら?」

真姫「なら、それまで…、聞けることは聞いておきましょう!」

一同「うんっ!!」

真姫(それから30分間、私たちは彼女たちに対して、ひたすら取材を行った)

真姫(普段の学校生活からアイドル専攻の内容、ライブでの様子に至るまで。中には答えられない、ってものもあったけど)

真姫(アイドルをやる上での美しく魅せるコツ。欲しがっていたもう1ランク上が、ようやく手に入った気がする)

真姫(とても興味深い話も、聞けたことだし…)



海未「今日は、本当にありがとうございました!」

英玲奈「いや、こちらこそ。貴重な体験をさせてもらったよ」

あんじゅ「かわいい後輩に取材をねー。オジサン相手とはまた違ったものを感じたわー」

ことり「色々と…、参考にさせていただきます!」

真姫「そうね…。これなら、次のステージを完成させることが出来る…!」

花陽「A-RISEに失礼の無いような、とびっきりの舞台を作らないとね!」

ツバサ「えぇ。楽しみにしているわ。あ、それと…」

ツバサ「私の『秘密』については、絶対に喋っちゃダメよ?」

真姫「…えぇ。胸の内に秘めておくわ」

花陽「どこにも言わないし書きません!誓います!」

ツバサ「よろしい。…それと、もう一つ」

ツバサ「真姫さん。あなたの、『自分たちの力で成し遂げてこそ、頂点に意味がある』って言葉だけど」

真姫「え?えぇ…」

ツバサ「それはとっても正しいことのようで」

ツバサ「…でも、少し間違ってるわ」

真姫「えっ…」

ツバサ「希ならもうわかってることじゃない?」

希「…まぁね」

真姫「ちょっ…、どういうことよ希っ…!?」

ツバサ「それは自分で明らかにしないと。…それでこそ、意味があるのよ」

真姫「なっ…!」

ツバサ「ふふっ、なんてね?それじゃ、そろそろ戻らないと怒られちゃうわ」

英玲奈「さようなら。また、こうして話せる機会があることを望むよ」

あんじゅ「ツマンナイ与太話でもゼンゼン私はいいんだけどねー。じゃあねっ!」

花陽「はいっ!もう一回、みんなで…」

海未「えぇ、そうですね」 ことり「万感の思いを込めて!」 希「情緒も溢れて!」

真姫「ちょっ…、あぁもう…、今はいいわ…。そうね、最後にもう一度」

花陽「せーのっ…」




「「「「「ありがとうございましたぁっ!!」」」」」

部室


花陽「はわぁぁぁ…!最高の一日になったよぉ…!」

海未「あんなにA-RISEの人たちと話せるとは思いませんでしたね。学校から禁止令を出されてますし…」

ことり「とってもいい人たちでよかったねぇ…。すごく楽しかった!」

花陽「スクールアイドルやっててよかったって今までで一番思えたよ…!!はふぅぅ…!」

真姫「こら、花陽。こんなところで満足してちゃダメでしょ。あなたは、あの人たちを超えなきゃいけないんだから」


真姫(…それも、今年度以内に。もう10月も半ばだっていうのに、大丈夫なのかしら)

真姫(いざ本人と対面したら、勝てる気がしなくなって来たわ)


花陽「ま、真姫ちゃんだって不安そうな顔してるじゃない…。うう、そう思うと胸が痛いよ…」

海未「…痛いと言えば、アキバハロウィンフェスタを断ってしまったのは痛かったですね…」

ことり「私も少し後悔してる…」

真姫「だから!それはダメだって!フェスタ運営から誘われるならまだしも、A-RISEが誘引したりなんかしたら…」

希「それからずーーっと、A-RISEがきっかけで成り上がった、って思われるからね」

海未「…それは、そうかもしれませんね」

真姫「そう、だから私たちは私たちの力で…」

真姫「…そういえばこれ、間違ってるって言われたんだっけ」

真姫「ち、ちょっと希!これのなにが間違ってるって言うのよ!?あなたならわかるんでしょ!」

希「それは自分の力で。ツバサちゃんも言ってたやん?」

真姫「ぐぬぬ…」

ことり「それはいいとして!…イメージが固まったんなら、スケッチ、続けなくていいの?」

花陽「手伝ってくれる子が待ってるんだもんね」

真姫「…あ!そうね、よぉし!今日中に終わらせて、なんとか10月最後の日曜日までにはステージを仕上げるわよ!」

海未「それでは、私たちは練習の続きと行きましょうか。真姫に追いつかなくてはいけませんしね」

ことり「真姫ちゃんがサボってる間に、追い越しちゃうつもりでがんばろー!」

花陽「うんっ!!」

真姫(それから、ステージ案を大急ぎで作って、みんなに見せて)

真姫(材料費や規模のことも考えながら、改善点をみんなで考えあった)

真姫(結果納得のいくものができたってなったら、協力してくれる3人にそれを見せた)


親衛隊D「ほぅほぅ…、なかなか本格的だねぇ…」

親衛隊E「ここ、こんなの作れるかなぁ…?」

親衛隊F「任されちゃったんだからやるしかないって!真姫ちゃん、期待しててね!」

真姫「えぇ。私たちも負けないように頑張るわ」


真姫(最終的に、ステージを特設する場所は屋上になった)

真姫(UTX校内の数箇所を簡易ステージと見立て、最後は屋上で派手に、という計画)


真姫「完全にこれSomeのパクりじゃない!」


真姫(…これは計画を練ってる最中に叫んだ私の独り言)

真姫(でもいいの。だってこの世界ではまだ使われていないんだもの。誰も文句ないわよね)

真姫(肝心のステージや舞台美術の保管場所、だけど…)

真姫(そこは希が何とかしてくれた)


希「先生と話し合って、使ってないうちの部屋の一つを貸してもらったよ」

希「暗くて埃っぽいところやったけど、掃除すれば倉庫としては使えそうやね」

真姫「ありがとう。よかったわ。…それなら、部室の方も新調してもらえたりは…」

希「…検討中だって」

真姫「あぁ、そうなのね…」


真姫(あと…そう。取材に協力してくれた各部にも礼を言いに行ったんだけど)

真姫(既に私たちの噂はそこにまで広まっていて…)


パーツモデル部部長「聞いたわよー?あなたたちアイドルなんだって?」

真姫「え、あ…まぁ」

パーツモデル部部長「だからあんな取材をしてたってワケね…。ははーん、しかしアイドルとはねー」

パーツモデル部部長「A-RISEのいるこの学校で勇気あるじゃん。どんなことしてるのー?」

真姫「どんなことって…アイドルの練習よ。歌ったり、踊ったり…」

パーツモデル部部長「そんなのわかってるわよ!具体的に!」

真姫「口じゃ説明しづらいわよ!あー、だったら…今度リハーサルやるから、見学にでも来れば?そんなに気になるならね!」

パーツモデル部部長「あは!いいじゃないいいじゃない!暇だったらいくー」


真姫(彼女にはリハーサルの日程を伝えて、あと礼もして部室を後にした)

真姫(他の部にも出向いたけれど…意外とそんなに印象は悪くなかったみたいね)

真姫(UTXもピリピリムードなところばかりじゃないって、ちょっと見直したかも、なんて)

真姫(…っと。ライブと関係ない話が挟まったので話を戻すけど)

真姫(衣装案も、ステージ案を参考にして作成)

真姫(低予算にしては綺麗に整った、立派な衣装を作れた)


ことり「ふふんっ!自信作!どや!」

海未「わざわざ授業で作成した過去の洋服などをアレンジしてくれたそうですよ」

ことり「あとは家にあったよさげなワンピースとかをね。可愛いでしょ~」

花陽「うんうんっ!うわぁぁ…!不思議なデザインだねぇ…」

真姫「『異世界』をイメージして作ってくれたみたいね」

ことり「今日はこれを着てダンスレッスンだゼーット!」

海未「おぉ…、ことりがいつも以上に元気ハツラツです…」


真姫(今まで取材してきた全ての魅せ方を駆使して、自分たちが持てる全てを出し切って)

真姫(私たちが納得できるものが、完成した)

真姫(あとは、数日後。10月最後の休日、撮影の本番を待つだけ)

真姫(計画は全て順調で、見事私たちは最高のライブを演出して終われると)





真姫(そのときは、誰もがそう思っていた)

真姫(…けれど、運命の車輪は残酷で)

真姫(思い描いた理想を、容赦なく…踏み潰していったのだった)

部室


花陽「ふふふ…、本番までもう少しだよ…!ドキドキするね…」

真姫「そうね。私も、こんなドキドキは久しぶり…」

真姫(いつもは曲作って終わりだったし…。こんなにプロデュースしたのはあっちの世界じゃなかったわね…)

真姫「今日はステージの仮組をして、リハーサルね」

花陽「こ、これで不具合が見つかったりとかしたらどうしよう…」

真姫「心配性ね。何度も組み立ててちゃんと踊れるってわかったんだから、平気よ、きっと」

花陽「そのきっとが怖い…」

真姫「あはは…。…それにしても、ことりたち遅いわね…。倉庫の鍵を取りに行くのにどれだけ…」


ガチャッ!!

ことり「ま、真姫ちゃんっ!」

真姫「ことり?どうしたのよ、そんなに慌てて…」

ことり「か、鍵がっ…!倉庫の鍵が…!!」

ことり「なくなっちゃったって!!」

真姫「えっ!!?」

花陽「う、嘘っ…!昨日、確かに返したはずだよね…?」

ことり「うん、受け取ったのは覚えてるって言ってたけど…。でもその後から行方がわからないって…」

ことり「と、とりあえず海未ちゃんが倉庫に行ってみようって!」

真姫「そうね…。もしかしたら刺しっぱなしなのかも…」

花陽「う、うん…」



倉庫


海未「あ!ことり…!」

ことり「海未ちゃん!鍵は…?」

海未「…いえ、ありません」

花陽「そんな…!」

海未「…ですが」

海未「開いて、いるのです…」

真姫「え…?」

海未「鍵が、開いています…。ドアの鍵が…」

ことり「え?ど、どうして…」

真姫「部屋には入ったの…?」

海未「…」フルフル

海未「何故か、…怖くて、入れませんでした」

ことり「いやいや…、そんな…!そんな、ねぇ…?」

真姫「…っ!開いてるなら、入るしかないでしょ…!海未、どきなさい!」

海未「…くっ」ササッ

真姫「一体、どうなって…!」


ガチャッ

真姫「えっ…」



暗くて、最初はよく見えなかったけど。



ことり「どうなってるの…?」カチッ



ことりが部屋の電気をつけた瞬間。



花陽「…っ!!!」



映し出された風景。



海未「…ぐ、ぐぅっ…!!」



予想はしたけど、でも、まさかと、考えないようにして。



ことり「ひ、ひどいっ…!!」



ここまで順調だったから、もう起こり得るはずがないと、心のどこかで決めつけていた。



花陽「わ、私たちの、私たちのステージが…、衣装が…!!」




そんな、どこにでもありふれた、悲劇。




真姫「…壊されてる」






私たちのステージは、衣装は、夢は。


誰かの手によって。


無残にも、打ち砕かれていた。

花陽「…」

ことり「…」

海未「…」


真姫(…みんな、一様に言葉を失っている)

真姫(当然、私も)

真姫(考えたことがないわけではなかったけど)

真姫(実際に目の当たりにすると、途方もなくショックね…)

真姫(ただ、あまりのことすぎて逆に頭は冷静ではあった)



ことり「ステージが手当たり次第にボロボロにされてる…。衣装も…」

ことり「私の…、私が作った衣装が…。うぅぅぅ…」

花陽「もう、これ…、明日明後日じゃ、どうしようもないよ…」

花陽「材料だってないし、お金も…もう…」

海未「…いったい誰が、こんなことを…」

真姫「私たちを快く思ってない誰か…」

真姫「…おそらく、アイドル専攻の…、絵里の息がかかってる奴らの誰か、かしら…」


真姫(花陽やことりたちには手を出すな、とは言ったけど…)

真姫(こんな形で、阻止されるなんて)

真姫(…油断してた。まさか、絵里が学校内でこんな大事を起こすなんて思ってなかったから)

真姫(私たちを潰すためなら、手段は選ばない、ってことかしら…)


ことり「…これから、どうする?」

真姫「どうしようも、ないでしょ。とにかく、10月内での撮影はもう不可能よ」

真姫「また新しくステージ案を考えて…、来月は部費が出るから…それでなんとか、なるかもしれない」

花陽「…そうするしか、ないの、かな」

海未「…っ!でしたら、もう今月にできることがないのだったら、せめて犯人を捕まえましょう!」

海未「こんなことをしてっ…、人の気持ちを踏みにじるような人間を、のさばらせておくわけにはいきませんっ…!!」

真姫「そうね、私も賛成。…出来うるなら材料費を弁償させてやりましょう」

ことり「…でも、犯人の心当たりとか、あるの?」

真姫「それはわからないけど…、多分、絵里の息のかかったアイドル専攻の誰かがやったに決まって…」



「違うわ」



真姫「…えっ」

海未「だ、誰ですかっ…!」

ガチャッ…


花陽「あっ…!あなたたちは…」


親衛隊B「…」

親衛隊C「…」


真姫「花陽をいじめてた3人のうちの…。違う、ってどういうことよ」

ことり「あなたたちは犯人を知ってるの?」

真姫「…それとも何?あなたたちが犯人だって言うつもり?」

親衛隊B「それも違う。…私たちは、やってない。知ってるだけよ」

親衛隊C「…それを、やった人を、です」

海未「なぜあなたたちが…」

真姫「…っ!!ま、まさか犯人って…!あなたたちのうちの、もうひとり…!?」

親衛隊C「正解、ですわ…。彼女が…、やったんです」

親衛隊B「アイツが…、職員室から鍵を盗み出して、ここに入って…メチャクチャにしたの」

真姫「どうして…」


花陽「どうしてっ!!!!!?」


真姫「っ…!?」


花陽「どうしてそれを知っていて止めなかったのぉっ!!!」ダンッ!!

親衛隊B「…っ!」

親衛隊C「ひっ…!!」

花陽「なんで好きにやらせてたのっ!!?悪いことだって思わなかったのぉっ!!!?」

花陽「ひどいよそんなのっ!!ひどいっ…!!どうしてっ…、どうしてどうしてどうしてぇぇっ!!!!?!?!」


真姫(…花陽の、痛々しい悲壮な叫び声)

真姫(壁際に立つ親衛隊の二人の肩を押し込むように、涙ながらに花陽は訴えた)

真姫(こんな姿、彼女たちは初めて見たのでしょうね。…私だって、初めて見たんだから)


花陽「ねぇ…、答えてよ…。ひぐっ…、なんで、止めて…、くれなかったのぉ…?」

親衛隊C「止め、ましたわ…っ、私、だって…」

親衛隊C「…でも、こ、怖かったんですの…。あの子の、執念が…」

海未「執念…?」

真姫「どういう、こと…?」

真姫(確かに彼女は、他の親衛隊にC☆cuteを応援させないような発言をしていたけど…)

真姫「…もしかして、9月頭のことを根に持って…?私が花陽の間に割って入った…」

親衛隊B「そんなことじゃないよ…。もっと、根の深いものだって…」

親衛隊B「…小泉さん、あなたの…、あなたが原因なの…」

花陽「…えっ?」

親衛隊B「アイツは、あなたのことが憎くて…、こんなことをやったのよ…」

花陽「私が、憎い…?なんで、そこまで…」

ガチャッ

希「そっから先は、本人に直接聞き」


真姫「の、希っ…?」

真姫(後ろのドアから鍵を開けて入ってきた希)

真姫(そして、後ろ手に拘束された…もうひとり)


親衛隊A「は、離せっ…!!このっ…!」

希「この子がこの教室の鍵と…、衣装の切れ端持ってハァハァ言っててね」

希「あからさまに怪しかったから、取り押さえた訳。…まさか、こんなことになってるとは」

親衛隊A「痛いんだよこのっ…!!離せって!!」

希「そうはいかんなぁ。逃げられると困るし」

真姫「しかしまぁ片手で易々と…。本当に強いのね」

希「まぁねー」

親衛隊A「ぐぅっ…、この、怪力女がっ…!!」

花陽「…ねぇ」

親衛隊A「…あん?」

花陽「どうして…、ステージや衣装を壊したりしたの?」

花陽「私が憎い、って、どういうこと…?私が、何か悪いことでもしたの…?ねぇ、教えてよ…」

親衛隊A「…」

花陽「…答えてよっ!!黙ってないでさぁっ!!なんなの!?黙ってれば許されると思ってるのっ!!?」

花陽「ふざけないでよっ!!どれだけ真姫ちゃんやみんなが頑張って…、みんなの思いの結晶なんだよ!!なのにそれを…」

親衛隊A「うっせえなあ!!」

花陽「っ…!!?な、なにがっ…!」

親衛隊A「全部…、全部お前が悪いんだよっ!!お前が…、お前がぁっ!!」

花陽「わ、私が…?な、なにが悪いのっ!私が何したって…」

親衛隊A「…わかってないのなら、教えてやるよ。お前がどれだけ、ふざけたこと、してるか…ッ!」

親衛隊A「お前は知らないんだろうけど…、私はっ…。私は…」


親衛隊A「…最初、アイドル専攻だったんだよ」


花陽「えっ…?」

「昔っから歌が大好きで、歌うのが大好きで」

「その中でも好きだったのが、アイドルソングだった」

「男の子のアイドルも、女の子のアイドルも好きで」

「ありえないことだってわかってたけど、もしかしたら、っていつも思ってたんだ」

「…いつか、こんなふうに自分も、歌って踊ってみたいってさ」

「UTX学院を知ったのは、去年」

「どこに進学するかってなって、偶然見つけた、高校」

「ここしかないって思った。歌うことができる高校なんて、最高だって」

「しかも、もしかしたら…もしかしたら、アイドルになれるかもしれないって。淡い希望を持ってた」

「…私はUTXに入学して、すぐさまアイドル専攻を希望したの」

「一番初めの授業、先輩の前で歌を披露して、最初に言われた言葉がこうだった」

「『あなた、歌下手ね。才能がないわ』…だってさ」

「…ショックだったよ。せめて、ダンスを批判されるならまだしも、得意だと思ってた歌を否定されて」

「しかもさ、その時点で見限られて、2回目の授業を受けさせてすらもらえなかった」

「私、悔しくて、悔しくて…何日も泣いて…。今まで何のために生きてきたんだ、って本気で思った」

「…だけど、私の前に天使が現れたの。笑える表現かもしれないけど、その時の私はそんな気分だった」

「お前だよ…、小泉花陽。お前の…、あなたの歌声を聞いて私は…、一瞬で魅了された」

「歌の才能があるって、こういうことなんだって…、初めて理解できた。それは私だけじゃなくて、他の色んな人も一緒で」

「だからみんなで、この子を応援しようって…。歌手専攻一の歌姫を。そんな流れで、『小泉花陽親衛隊』は生まれたの」

「小泉さんがアイドル専攻やってる、って聞いたときも嬉しくて、この子なら…この子ならきっと、一番になれる。私にはできなかった…アイドルになれるって確信してた」

「…でも、ある日…、小泉さんは私たちにこう言った。アイドル専攻から、逃げちゃったって」

「他の親衛隊は残念そうに、でも慰めたり、元気づけたりしてる子ばかりだったけど」

「私は…納得できなかった。あんなに歌が上手なのに、なんで、って」

「私はひとり、必死で小泉さんを説得した。戻ったほうがいい、もったいないから。そう言った」

「でも、小泉さんは首を横に振るばかりで、戻る素振りを一切見せなかった」

「…そこからよ。私が、小泉さんに怒りを覚え始めたのは」

「私はどれだけ専攻の授業に行きたくても、才能がないって笑われて、切り捨てられて。でもなんで、才能があって、授業を受けられる小泉さんが、そんな簡単に諦めるの」

「何度も説得してるうちに、断るあなたが苛立たしくて」

「だけど、もう一度戻って欲しい、って気持ちはずっと変わらなかった。…結局、私の声は、あなたには届かなかったけど」

「あの日、西木野さんにやめろって言われて、実は反省したのよ。…悪いこと、しちゃったんじゃないかって」

「アイドルになる気がないのに、強要してたんじゃないか、ってさ…。思ってたのよ」

「…思ってたのに、さぁ…。なんで…、なんで、もう一回、始めてるわけ…?しかも今度は、アイドル専攻じゃない、って…」

「ふざけるなって思った!私があれだけ…、あれだけ必死に呼び止めたのに…、私の得られなかった権利を自ら捨てるような真似をしておいてっ!」

「今度は勝手に自分たちでアイドル…?なによそれ…、笑わせないでよ…!」

「だったらアイドル専攻の権利、私にちょうだいよ!!あなたなら行けるのに…、行ってトップになることだって簡単なはずでしょうっ!!」

「誰でもできるようなアイドルごっこやって見せつけるような真似してっ…!!それ、才能のない私たちに対するあてつけのつもりっ!!?」

「許せなかった…!お前は私の気持ちを裏切ったんだっ!!だから私も踏みにじってやった!!」

「お前が私の前で踏みにじったアイドル専攻の権利みたいに、お前にアイドルをさせる権利を、私があぁっ!!」

「ざまぁみろっ!!アハッ…、アハハハハハハハハハ!!アッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」

真姫「何よ、それ…」


真姫(逆恨みにも、ほどがある)

真姫(花陽がアイドル専攻に行けなかった苦悩を、この女は欠片も知りもしない)

真姫(自分の好きなアイドルを嫌いになってしまう恐怖が、花陽をアイドル専攻から遠ざけていたことを)

真姫(自分勝手な理想を押し付けて、勝手に嫌いになって。その上、自分の説得ではしなかったのに、いつの間にかアイドルやってたことに逆上して)

真姫(一方的な恨みで、花陽の夢を奪った…最低なヤツ)


真姫「…ふざけないでよ。あなたに、花陽の何がっ…!!」

親衛隊A「黙れっ!アンタにこそ私の何がわかるっ!!」

真姫「知るかっ!アンタが誰だろうと知ったこっちゃないわよ!!」

真姫「だからって…、だからって私たちの…、花陽の夢を奪っていい理由にはならないって言ってんのよ!!」

親衛隊A「うるさいうるさいうるさいっ!!私は、わたしはぁっ…!!」

親衛隊A「くそっ…!!くそぉぉっ!!!」ガンッ!!

希「あぎゅっ!!あ、頭が顎にクリーンヒット…!」

親衛隊A「…くっ!!」ダダッ

真姫「あっ!待ちなさいっ!!」ダダダッ…


海未「ま、真姫…」

ことり「行っちゃった…」

希「ご、ゴメン…。油断してた…」

花陽「…」

海未「花陽…。災難でしたね…、あんな逆恨みをされるとは…」

花陽「…私の…」

花陽「私の、せいだ…」

ことり「えっ…!!?」

真姫「ゴメン、見失った…。クソッ…、アイツ、明日にはとっ捕まえて…」

花陽「私のせいで…!私がっ…!!」

真姫「っ!!?は、花陽っ!?どうしたの…!?」

希「な、なんか…、さっきのでショック受けてる…?」

花陽「う、うぅぅっ…!!」

真姫「花陽っ!あ、あなたが気に病む必要なんてないんだって!悪いのは全部アイツなんだから…!」

海未「そうです!惑わされては…」

花陽「凛ちゃんが、言ってたことって、こういうことだったんだ…」

真姫「え…?」

花陽「あの時、凛ちゃんが言ってた…」


(凛「才能を持ってるのに逃げ出して、チャンスをふいにしてる」)

(凛「それって、チャンスすら持たない人間に対して、どれだけ失礼な行為かわかってないのかな?」)


花陽「『いつか身にしみる時が来るよ』って…、言われたの…」

花陽「…これは、私の…、私の、責任だよ…」

花陽「あの頃の私は、臆病だった」

花陽「自分の思い描いたアイドルとかけ離れた、本当の世界を目にして…」

花陽「いつか自分も、全てが嫌になってしまわないか、怖くて…、怖くて…」

花陽「凛ちゃんのことも、あの子のことも…、全てが信用できなくなってた…」

花陽「その臆病さが…、二人を傷つけちゃったんだ…!」

花陽「せめて…、せめて少しでもあの子のことを信用できていれば…」

花陽「私がどう思ってるかを相談して、あの子の気持ちも聞いていれば…」

花陽「少なくともこんな目には遭わなかった!!」

ことり「花陽ちゃん…」

花陽「…こんなのじゃ、『アイドルでみんなを笑顔に』なんて…、馬鹿げてるよね…」

花陽「誰でもない私の態度が…アイドルに夢見る子を、傷つけちゃったんだから…」

真姫「それはっ…、それはあなたが決意する前の話でしょう!?」

真姫「その頃の花陽と今は、別でしょ…」

花陽「…うん。だけど、それでもやっぱり…、私が逃げちゃったことが問題だから」

花陽「今でも過去でも、私がやっちゃったことはなくしちゃいけない…」

海未「だとしても、今自分が目指す夢を、過去の過ちで汚す必要はありませんよ」

海未「間違えたなら、これから正していけばいいのです。花陽の夢は、そういうことでもあるのでしょう?」

花陽「…そう、なの、かな…」

希「せやせや!花陽ちゃんひとりが背負い込む事ないんよ?」

希「間違った、って感じたなら、周りの子に頼ったらいい。みんな優しいんやし、助けてくれるよ!」

花陽「…」

花陽「…あ、ありがとう、ございます…。そう、だよね…。ここには、私一人だけじゃないんだよね…」

花陽「今度は逃げ出すより先に、誰かに頼れば…、いいんだよね…」

真姫「…そう。あなたが間違っても、私たちみんなが助けてあげるから」

花陽「ありがとう…、真姫ちゃん、みんな…。そうだ、私が今やることは、へこんでることじゃないんだよ…」

花陽「私が彼女を傷つけちゃったのなら、私ができることは…、それは…」

花陽「…」ブツブツ…

ことり「花陽ちゃん、今度はひとりでブツブツ言い始めたけど…。いいのかな?」

海未「何か考え事をしているようですが…。また一人で塞ぎ込むわけではないですよね…?」

真姫「ちゃんと一人だけで背負い込むのは良くない、って理解してたみたいだし、本当に困ったら頼ってくれるとは思うけどね」

真姫「…と、それより。気になってたんだけど…、そこの二人」

親衛隊B「え、私ら…?」

親衛隊C「な、なんですの…?」

真姫「どうしてあなたたちは花陽をいじめてたのかしら?アイツほど花陽を恨んでたってわけじゃないんでしょ」

親衛隊B「わ、私は…。私も小泉さんの歌声は素敵だな、って思ってたけど…。煮え切らない態度が気に入らなくなって、つい…」

親衛隊C「ワタクシはっ…!い、いじめてたつもりとかなかったんですの…。ホンキで善意で小泉さんにアイドル専攻に戻ったほうがいいと思って…」

親衛隊C「…おふたりが何故かその際にいやらしい笑みを浮かべていたので、私もやらなくてはならないのかと思って…」

真姫「…天然か」

希「ま、今はその子達は関係ないみたいやし、いいんやない?」

真姫「まぁ、そうね…。止めてくれなかったのを責めるほど、私たちに義理もないでしょうし」

海未「しかし、これからどうしましょうか…」

ことり「う…!それがあった…。えっと、どうしたらいいのかな…」

真姫「…ステージの修繕を今から始めても10月中に撮影することは不可能だし」

希「それ以前に材料を買い集めるお金ももうないんと違う?」

海未「そうですね…。来月、部費を貰うまで待つしかないのでしょうか…」

「「「「うーーーん……」」」」



花陽「…」ブツブツブツブツ…


真姫「…って花陽…。あなたはいつまで一人でブツブツと…」

花陽「あ、真姫ちゃん…。ごめん、考え事してて…」

真姫「…もしかして、ホントにまた一人で塞ぎ込んでるの?」

花陽「う、うぅん。それはもう大丈夫…。もう一人で悩むようなことはしないよ」

花陽「みんなが力になってくれるんだ、ってわかったから」

真姫「えぇ、なんでも自分だけで解決できるほど、人は強くないんだからね。迷ったらすぐに…っ」

真姫「…」

花陽「…?真姫ちゃん?どうしたの…?」

真姫「…自分だけで、解決できるほど、強くない…」

真姫「これって、もしかして…。今の私たちにも当てはまるんじゃ…」

花陽「え?どういう意味…?」

真姫「つ、つまり…」



海未「とりあえず今は、一旦散らばった木材などを片付けましょう」

ことり「そだねー…」


ガチャッ…


海未「…ん?」 ことり「今度は誰?」

パーツモデル部部長「チョリーッス!頑張ってるぅ~?」



シーン…



パーツモデル部部長「…ありゃ?なんか空気読めてない系?」


海未「…な、なぜあなたがここに…」

パーツモデル部部長「いやー、部員がいなくて余りにも暇でね?リハーサルが今日ってこないだ言ってたじゃん?」

パーツモデル部部長「どうせなら見学に行こうかなー、って思ってたら…、なんじゃこら…。バラバラじゃん…」

ことり「…あ、えっと、これは…。その…」

パーツモデル部部長「…もしかして、抜き差しならない状況なのかな?」

海未「そう、ですね…。かなり危ないです…」

ことり「材料費も時間もなくて、これからどうしようかって迷ってるところです」

パーツモデル部部長「あぁ…、そうなんだ。材料って、木?」

ことり「はい?」

パーツモデル部部長「木材か、って聞いてるの」

海未「え、えぇ…。電飾もありますが大部分は木で作成して…」

パーツモデル部部長「あ、そう。よっと」サッ ピピピ…

パーツモデル部部長「…あー、もしもし?うん、アタシ。そうそうお嬢でーす」

パーツモデル部部長「あのさ、いきなりで悪いんだけどさ、今すぐ」

パーツモデル部部長「余ってる木、持ってきてくんない?」

ことり「…え?」

パーツモデル部部長「あー、いいからいいから。…うん、そう。うちの学校」

パーツモデル部部長「んー…、まぁいい感じの量で頼んます。ハーイ、ハイ、ハイ、それじゃー…」ピッ

パーツモデル部部長「はい、よし」

海未「あ、あの…、今の電話はいったい…?」

パーツモデル部部長「ん?あぁ、材料が足んないんでしょ?」

パーツモデル部部長「今、オヤジんとこの若い人らに持ってこさせるよう頼んどいたから」

ことり「えぇぇっ!!?!?」

海未「理解が、追いつかないのですが…」

パーツモデル部部長「うちのオヤジ、建築業だから。そこの偉いオッサンだから」

パーツモデル部部長「木材ならちょちょいって持ってこれるって話よ」

ことり「」ポカーン

海未「」ポカーン



(ツバサ「真姫さん。あなたの、『自分たちの力で成し遂げてこそ、頂点に意味がある』って言葉だけど」)

(ツバサ「それはとっても正しいことのようで、…でも、少し間違ってるわ」)



真姫「そうか…。少し、間違ってるの意味…」

真姫「…こういうこと、だったのね…!」

オッサンA「へいお嬢!これでいいっすか!」

オッサンB「不揃いっすけど大体使えるもん持ってきやした!!」

パーツモデル部部長「あー、ありがとっすー。そこ置いといてー」

オッサンズ「「ういっす!おつかれっした!!」」

ダダダダッ…



海未「…女子高ではありえない人たちが走り去っていきましたね」

ことり「それにしても部長さん、すごい人だったんですねー…」

パーツモデル部部長「んなことないって!」

希「せやけど、こんなにいっぱい、支払えるお金も持ってないよ?」

パーツモデル部部長「平気平気!ちょっとくらいなら私のモンのようなアレだから!遠慮なく使って!」

花陽「あ、ありがとうございます…。でも…」

ことり「…木材は足りても、ペンキや電飾が…」

海未「人手も圧倒的に足りません…。これでは宝の持ち腐れのような…」



真姫「頼るのよっ!!」



花陽「え?」

真姫「困ってるなら、自分たちだけでなんとかするのはやめましょう!」

真姫「恥も外聞も全て捨てて、頼みに行くのよ!手伝ってくださいって!」

ことり「ど、どこに…?」

真姫「今学校に残ってるのは部活動をしてる人くらいしかいないでしょ!つまり…」

真姫「このUTX学院の、他の部、手当たり次第によっ!!」


「え…」

「えぇええぇぇぇぇぇぇっ!!!!?!?」



希「…んふ、どうやら、気づいたみたいやね」




真姫(自分たちの力でできることには限界がある)

真姫(なら、周りの人に助けを求めればいい。私たちだけで塞ぎ込まないで)

真姫(私たちが他の部にしたことと言ったら取材くらいで、何かを手伝ったこともない)

真姫(もしかしたら、誰も手伝ってくれないかもしれないけど)

真姫(最初から諦めるより、全然いい。それに、きっと大丈夫。なぜなら)

真姫(ここは学校で、私たちはスクールアイドルなんだから)

真姫(部活の取材で鍛えたフットワークを駆使して、私たちは手分けして色んな部活に助けを求めた)



海未「お願いしますっ!どうか、少しだけでも…」

吹奏楽部部員A「…って言ってますけど…」

吹奏楽部部長「うーん、いいんじゃない?困ってるみたいだし」

海未「ほ、本当ですかっ…!!?ありがとうございます!」

吹奏楽部部長「いいのよ。…あなたたちが教えてくれた『魅せ方』のおかげで、こっちも助かってるんだから」



真姫(今まで様々な部を駆けずり回って集めたのは、ただそれぞれの魅せ方だけじゃないことに、そうして初めて気づいた)



映研部長「ほう、人手が足りねーってか!」

花陽「は、はいぃ…。あとはステージの装飾とかも…」

映研部長「よろしい!ならばやってやろうじゃん!困ってる奴に手を差し伸べるのが、真の女ってぇもんよ!なぁ野郎ども!!」

映研部員ズ「おぉー!!」

花陽「か、かっこいい…!…野郎は一人もいないけど」



真姫(ほんの少しの、繋がり。ただの顔見知りって程度の、小さなものだったけど)



ことり「人手が欲しいんですけど…」

演劇部衣装A「あ!首筋がエロい子!ねぇねぇ、もっかい触らせて!」

演劇部衣装B「南さんは首筋より足首でしょ!」

ことり「あのぉ…」

演劇部演出「あ、あなた真姫ちゃんと同じ部の子よね?人手がいるなら連れてっていいわよ」

ことり「い、いいんですか…?」

演劇部演出「うん。その代わり、もう一度聞かせてって言っておいて。…別世界にワープするクリニックの話をね」



真姫(たったそれだけが、私たちを助けてくれた)

真姫(顔も知らない誰かだったら、こんなことできそうもなかったから)

真姫(もしかしたら希は…こうなることも予期して、私たちを取材に行かせたのかしら)

真姫(…まさか、ね)



真姫「…お願いしますっ!」

合唱部部長「…フム。いいけど条件がある」

真姫「何かしら」

合唱部部長「今度でいいから、小泉クンを貸してくれ」

真姫「…」

真姫「…い、いいでしょう!!」ガシッ

合唱部部長「契約成立だっ!!」ガシッ

倉庫兼教室


ガチャッ

親衛隊J「花陽ちゃんごめんっ!」

親衛隊K「小泉さんたちが人集めてるって聞いて、やっぱり私たち手伝おうって…」

親衛隊L「…って、こ、これは…!!」


ガヤガヤガヤ…


親衛隊ズ「既にいっぱいいるっ!!?」



ガンプラ部部長「おうおう!ペンキはないけど塗装用のスプレーなら任せろ!」

演劇部部員A「いやペンキならこっちにあるからいいですよ…」

ガンプラ部部員A「部長はおとなしく衣装の手伝いしててあげてください!」

花陽「うぅん…。どうしても装飾のパーツが足りない…。あ!そうだ!あのっ!」

吹奏楽部部員B「はい?どうしたの?」

花陽「この間見かけた、壊れた楽器って貰うことってできませんか!?」

花陽「あれを装飾の一部にしたいんです!」

吹奏楽部部長「…へぇ、なにそれ。面白そうじゃない」

映研部員A「あ、だったらさ!うちの千切れちゃった映画のフィルムもどう?」

真姫「いいわねそれっ!装飾に使えそう!お願いするわ!花陽も、いいアイデアね、ナイス!」

花陽「えへへへ…」

合唱部部員A「うぅん…。あんまりカナヅチとか使ったことないから…難し…」コンコンッ…

パーツモデル部部長「もっと腰を入れる!真上から押さえつけるように叩く!あぁ角度がなってない!」

合唱部部員A「は、はぁ…」

パーツモデル部部長「何事も角度が大事なのよっ!」

ことり「えっと…、衣装の修繕は…」

演劇部衣装B「ねぇ南さん。もう使わなくなった衣装なんだけど…これらって使える?」

海未「じ、時代も世界観もバラバラのものばかりですね…。これでは…」

ことり「…う、うぅん!すごいよっ!これなら…!」

ことり「もっと理想の衣装が作れるかも!」

演劇部衣装B「ホントに!?よかった!」

海未「もっと理想の…。どんなものが完成するのでしょうか…。楽しみですね」



親衛隊J「なんか、いろんな部の人がいっぱい集まってる…。まるで文化祭みたいだね…」

親衛隊P「…あれ?あんたら…」

親衛隊B「よいしょっ…、あ!」

親衛隊C「あなたたち…手伝いに来たんですの?だったら話は早いですわ!」

親衛隊K「人手はまだまだ必要みたいだね…。それじゃ、いっちょやりますか!」

写真部部長「あっはいいわいいわその活力!んーもっと見せつけて!プリーズプリーズ!!」パシャパシャ

写真部部長「…ふぅ。みんなのやる気が伝わってくるいい写真が撮れたー…。新聞部に売るべし…」

真姫「ははは…、買い取ってくれるといいけどね」

映研部長「あ、西木野。あのさ、もしかしたらカメラで困ってるとかない?」

真姫「え?ま、まぁ…。安物のハンディカメラしかないって問題はあるけど…」

映研部長「おぉ、そーか!じゃあうちの撮影用のカメラどーよ!?バッチリ綺麗に撮れるぜ!」

真姫「えっ…!い、いいの…?」

映研部長「もうここまで乗りかかった船だ!できるとこまでやってやんよ!」

真姫「あ、ありがとう…ございますっ!」

映研部長「よせや気持ち悪い!西木野はタメ語が一番似合ってるぜ!」

真姫「そ、そう…?じゃあ…、ありがとう。遠慮なく、使わせてもらうわね」

写真部部長「…あ。じゃあじゃあ…、衣装が出来上がってからの全身撮影とかいかがっすかー…」

写真部部長「ライブ中の写真とかも、撮ったげるよー…」

真姫「あ、あなたまで…。そこまでしてくれなくても…」

写真部部長「あんまない機会だしー…、どうせ日曜ヒマだからねー…」

写真部部長「生ライブってのも、あんま見たことないしー…。見学代ということでどうよー…?」

真姫「…わかった。お願いするわ」

パーツモデル部部長「なによー、アンタ大人気じゃん。なんかアタシの立つ瀬なくねー?」

真姫「ふふ、そんなことないわよ。あなたがいてくれなかったら始まらなかったんだもの」

真姫「…そういえば、あなたはどうして手伝ってくれる気になったの?」

真姫「他の部の人は交換条件とかもあったりしたけど、あなたは無償で木材を提供してくれるなんて、太っ腹すぎると思うんだけど」

パーツモデル部部長「なにさ、アタシを信用してないっての?裏があるんじゃないかって疑ってる?」

真姫「そういうことじゃ…」

パーツモデル部部長「アハハ、わかってるって。冗談。…そうだね。まず一つ目に、部員がいなくて退屈だったからっていうのがあるかな」

パーツモデル部部長「なんだかんだ取材を受けてた時、アタシも満たされてるカンジ、したし」

パーツモデル部部長「もう一つは、アタシもオンナノコだからね。アイドルが好きなんだ。だから」

真姫「けど、それならA-RISEだって…」

パーツモデル部部長「確かに、A-RISEも大好きだよ。グッズだってたくさん持ってる。でもね…」


パーツモデル部部長「どうせ手伝うなら、アンタらの方が楽しそうじゃん、って思ったのよ」


真姫「っ…!」

合唱部部長「ふふ、そうだな。彼女の言う通りだ。あんな校内を駆けずり回るアイドルなんて、そうそう聞いたことがない」

吹奏楽部部長「必死で走り回ってる姿が妙に魅力的で、なんだか手伝ってもいいかな、って気持ちにしてくれるんだよね」

ガンプラ部部長「それにUTXは文化祭がないからな!こういうみんなで何かを作るってのはなんか…、新鮮だぁぁっ!!」

写真部部長「それもあるー…。インドアばかりでは錆び付くー…。これもインドアだけどなー…」

真姫「みんな…」

映研部長「A-RISEはもう完成されきってる感があるしな!それに比べお前らはまだまだみじゅーっく!!」

パーツモデル部部長「アタシらが背中押してやんのも、悪くないでしょ?」

真姫「…えぇ。そうね」

親衛隊A「…ちっ、あのまま帰るつもりだったのにカバン置きっぱなしだし…」

親衛隊A「はぁ…。アイツらに見つからなきゃいいけど…」


ガヤガヤ…


親衛隊A「…ん?なんか騒がしい…?さっきの教室からだ…」

親衛隊A「もしかして大事になってたりする?…ちょっとだけ覗いてみようかな」


チラッ

親衛隊A「何が起こって…、えっ…」



「これどこってー?」「あー、それそっち置いといてだって」「あいよー」



親衛隊A「なんでこんな人がいっぱい…。しかも親衛隊の奴らまで…」


花陽「…ん?誰か覗いて…、あっ!」



親衛隊A「げっ…!見つかっ…!!」ダダッ


タッタッタッ…

親衛隊A「クッソ…!覗きになんか行かなきゃ…」


タッタッタッ…

花陽「ま、待って…!」


親衛隊A「っ…!く、来んなっ!こっち来るなよっ!!」

花陽「お願いっ…、私の話を聞いてっ!少しだけでも、いいからっ…!あっ!」

ガッ

花陽「あぎゅっ!!」ズコッ

親衛隊A「あっ…!」

花陽「…い、痛ぁ…。こけちゃった…」

親衛隊A「…」

花陽「あ、止まってくれた…。よかった…」

親衛隊A「…なによ、話って」

親衛隊A「つまんない話だったら、ぶっ飛ばすからね」

花陽「うん、さっきの話の続き」

花陽「…あなたの思いに対して、私、何も言えてなかったから」

花陽「一言、言わせて」

親衛隊A「反論するつもり?何言ったところで今更…」

花陽「…ごめんなさいっ!!」

親衛隊A「…えっ」

親衛隊A「ごめんなさい…?」

花陽「私がダメだったせいで、あなたを深く傷つけた」

花陽「あの時私にもっと勇気があれば、こんなことにはならなかったのに、って思って」

花陽「…だから、ごめんなさい」

親衛隊A「…っ!」

親衛隊A「何がごめんなさいよっ!謝れば済むと思ってるの!?そういうナヨナヨしたところが嫌いなのよっ!!」

親衛隊A「じゃあ何!?反省したなら、アイドルやめてくれるの!?私にアイドル専攻受ける権利をくれるの!?」

花陽「…うぅん。それは、できない」

親衛隊A「できないんじゃん!!だったら軽々しくごめんなさいとか言ってんじゃねぇよ!そんなの自分がスッキリしたいだけなんでしょ!」

親衛隊A「謝る気持ちがあるくらいなら、私の前でアイドルを辞めるくらいしてよっ!!」

花陽「やめることは…、できないよ」

花陽「アイドルは、私の夢だから」

親衛隊A「夢って…!夢ならどうしてっ!!どうしてすぐに諦めたんだよっ!!」

親衛隊A「私だって夢だった!!なのに…、私には才能がないから…、できなかったんだよ…っ!!」

親衛隊A「でもっ!アンタはあったくせに捨てたんじゃないか!権利を!!それをどうして今になって!!」

花陽「私の夢はね…。みんなが憧れる、アイドルそのものになりたいの」

親衛隊A「はぁ…?」

花陽「華々しくて、楽しくて、心の底から笑顔になれるアイドルが、私の夢」

花陽「私が今目指しているのは、そんな、本当に夢物語みたいなものなんだ」

花陽「バカげてる、って思われるかもしれないけど、本気だよ」

花陽「アイドル専攻は、私にとっての夢の在処じゃなかったから」

花陽「次は、自分で見つけ出そうとしてるの。本当の夢の場所」

花陽「決して、アイドルごっこなんかじゃないよ。…だけど」

花陽「誰にでもできるんだって証明したい。私たちの力で、夢のようなアイドルを」

花陽「あなたを傷つけてしまったことは、その夢を裏切ったことになるから」

花陽「…だから今は、あなたの傷を癒したくて、そのために話がしたかったの」

親衛隊A「何よ…、何言ってんのよっ…」

花陽「私、今度は真剣にスクールアイドルをやろう、って決意したから」

花陽「アイドル専攻じゃないけど、誰にも負けない、みんなを笑顔にするアイドルになるって決めたから」

花陽「少し遅くなっちゃったけど…、これじゃ、ダメかな…?」

親衛隊A「…っ!!小泉、さん…」

親衛隊A「私はっ…、くっ…!!そんな、そんなのっ…!!」

親衛隊A「そんなの信じられるわけないっ…!!あんな弱々しかったアンタが、そんなの…!」

花陽「本当だよっ!あの時は一人だったけど、今はひとりじゃない!」

花陽「真姫ちゃんが、ことりちゃんが、海未さんが、希さんが…それに、みんながいるってわかったもん!!」

花陽「もう弱くなんかない。私は、夢を叶えるの」

親衛隊A「っ…!!…だったら、私はどうなるのよ…」

親衛隊A「そんなあなたの夢を、粉々に壊した私は、どうすればいいのよ…?」

親衛隊A「許されないことをした私を…、笑顔にすることなんて…」

花陽「…大丈夫。私は…、私は、あなたを…許したいと思ってるから」

親衛隊A「…え?」

花陽「真姫ちゃんや海未さんは許せない、って言うかも知れないけど。でも、私はあなたを責めたりなんかしない」

親衛隊A「な、なんでよ…。それこそ、意味わかんないわよ…」

親衛隊A「私はあなたの夢をメチャクチャにしたのに…、どうしてそれを許そうなんて思えるの…!?」

花陽「私だって、どうしようもないことされちゃったら、許せなかったかもしれない」

花陽「だけど、ステージも衣装も、みんなのおかげでなんとかなりそうだし」

花陽「それに、誰かがどこかで許してあげないと、ずっと憎しみが続いちゃうでしょ?」

花陽「私はあなたと、憎しみあいたくなんてないから」

花陽「私を好きでいてくれた人なんだもん」

親衛隊A「ぁ…」

花陽「仲直り、したいの」

花陽「あなたがステージや衣装を壊しちゃったこと、反省してくれるなら、私はあなたの味方になれる」

花陽「誰があなたを責めたって、絶対にあなたを守ってあげる」

花陽「それが、友達、だから」

親衛隊A「っ…!」

花陽「それで、あなたは笑顔になれるかな?」

花陽「もう誰かを憎んだり、しなくて済むのかな?」

花陽「私に、アイドルに、幻滅しなくなれるのかな?」

花陽「…もしそうなら、それが」

花陽「私の、夢なんだよ」

親衛隊A「…ぁ、っ…!!」

親衛隊A「なんっ…、でっ…!!そん、なにっ…」

親衛隊A「優しく、なれるのよぉ…っ!!う、うぅぅっ…!!」

親衛隊A「うあ、ぁぁっ…あああぁぁぁぁっ…!!!」

親衛隊A「ごめんなさいぃっっ…!!ごめんなさい、小泉さんっ…!!」

親衛隊A「私ぃぃっ…!私っ…、あなたのことっ…!!う、うぎゅぅぅっ…!!!」

花陽「泣いちゃ、ダメだよ。こういうときは、笑おう?」

花陽「仲直りの秘訣は、笑顔から、だよ」

親衛隊A「うん、うんっ…!!ありがとうっ…、ありがとう…」

親衛隊A「花陽ぉっ…!!」








(泣きながら笑う私の前に、天使が微笑んでいた)

(笑える表現かもしれないけど、その時の私は本当に…、本当にそんな気分だったんだ)

真姫(集まってくれたみんなのおかげで、ステージの修繕は想像以上に早く終わった)

真姫(この修繕の最大の収穫は、足りなかったパーツを有り余りのもので補った結果、さらに良くなったってことかしら)

真姫(様々な部活から貰った、不要なモノやジャンクパーツをステージの飾りとして使用できた)

真姫(吹奏楽部の金管楽器たち、映画研究部のフィルム、演劇部の小道具など)

真姫(さらに、衣装の一部を演劇部の衣装の一部をまるごと移植、なんてことも。…これはことりのアイデアだけどね)

真姫(そのおかげでより一層、異世界…、様々な空間に放り出されたイメージを強めることに成功できた)

真姫(あらゆる時間、世界観、この世界だけでなく、平行する他の世界までも取り込んだ、ゴチャゴチャな、しかしながら統一されたステージ)

真姫(それはまさに私たちと同じようで、そして、このUTX学院をも象徴している)

真姫(趣味も、得意なことも、好きなものも嫌いなものも、住んでる環境や価値観だって誰ひとり違う)

真姫(下の階でやってる授業と、上の階でやってる授業は、全くかけ離れている)

真姫(そんな空間が混じり合って、なお共存している。UTXは、一つの異世界と言えるかもしれない)

真姫(このステージは、そのUTXをこれでもかと表現している)

真姫(私たちこそが、UTXの名を背負うものなのだと、声高に主張している)

真姫(なぜなら)

真姫(ここは学校で、私たちはスクールアイドルなのだから)

真姫(A-RISEだけが、スクールアイドルじゃない)

真姫(私たちこそが、UTX学院のスクールアイドルなのよ)




屋上


~♪


映研部長「…はいカットォッ!!お疲れっ!」



海未「ど、どうでしたか…!?どこか映像に不備は…!」

真姫「…うん、うん…。大丈夫!これなら完璧よ!!画質も最高レベルだわ!」

ことり「やったぁぁっ!!成功だぁっ!!」

花陽「うんっ…、よかった…!一時はどうなるかと思ったけど、本当によかった…」

海未「それにしても、協力していただいた部の皆さんには本当に、どれだけお礼を言っても足りませんね…」

ことり「まさか校内での撮影に部室まで貸してくれるとはねー。みんな優しい人ばっかり!」

真姫「えぇ、そうね。…彼女とも、もう争い合うようなことも、なさそうだし」

花陽「うん。今度から何があっても協力してくれる、って言ってた。…みんなも許してくれて、ありがとう」

海未「花陽は、少し優しすぎるかもしれませんけどね」

ことり「そこが花陽ちゃんのいいところなんじゃなーい!」

真姫「みんながみんなのいいところをカバーしていく、それがC☆cuteだからね」

花陽「あ、そうだ!今日希さんが撮影終わったらみんなでご飯食べに行こうって!」

真姫「あぁ、そういえば。…奢りですってよ、希の」

ことり「奢り!?これは行くしかないね!」

海未「元気ですね…とはいえ私も…、そう聞くとお腹が空いてきました」

真姫「じゃ、パーっと打ち上げと行きましょう!」

一同「「「うんっ!!」」」

真姫(撮影した映像を編集して、アップできるのは数日後くらいでしょう。おそらく、ハロウィン前後になりそう)

真姫(アキバハロウィンフェスタでのA-RISEと、どれだけ張り合えるか…)

真姫(けれど私たちなら…、きっと成し遂げられると信じている)

真姫(このライブが、革命の足がかりになれるって)



翌日 月曜日

1年C組前


花陽「…本当に、いいの?その気があるならあなたもアイドルに…」

親衛隊A「いいのいいの!花陽のおかげで許されたって言っても、私のしたことをなかったことにはできないし」

親衛隊A「それに、今はアイドルになるってより、もっと大きな夢ができたから」

親衛隊A「…絶対にあなたたちを、スクールアイドルの頂点に立たせるって夢。私がアイドルやるとしたら、その後よ、きっと」

花陽「うんっ、ありがとう!」

親衛隊B「ちょっと!小泉さんを独り占めはズルいわよ!私も話させなさい!」

親衛隊C「っていうかいつの間に呼び捨て!?ズルいですの!わ、私も…は、花陽…ちゃん」

親衛隊C「む、無理ですわ!神々しすぎて!」

花陽「あはははは…」


「…そこ、どいて。通行の邪魔」


親衛隊B「あ、ごめっ…、あっ!」

凛「…何?」

親衛隊B「…な、なんでも…」

花陽「…凛ちゃん」

凛「あれー?誰かと思えばクズの小泉さんじゃなーい。まだ学校来てたんだー」

凛「アイドルはまだやってるのー?凛の辛辣な激励でもうやめちゃった?」

花陽「…まだ、続けるよ。少なくとも、A-RISEを超えるまで」

凛「まだ、言ってるの?それ。…ハァ、懲りないなぁ…」

凛「小泉さんは弱い人間なの自覚してないの?あなたがA-RISEを超えるなんて夢のまた夢なんだよ?」

花陽「うん。私一人なら、弱い人間だよ。…でも」

花陽「私には助けてくれるたくさんの人がいるから。だから負けない」

花陽「必ず、勝つって決めたんだ」

凛「…なんか、違うね。こないだと、感触。…ま、いいけどねー」

凛「現実を見れないってのは幸せそうでいいにゃー。じゃ、凛はこれでー」

花陽「凛ちゃんっ!」

凛「…なに?」

花陽「…ハロウィンフェスタのライブ!私、絶対に見に行くから!頑張ってね!」

凛「…」

凛「…が、頑張るにゃ。応援ありがと…。ば、バイバイっ!!」ダダッ

親衛隊C「…なんですの?今の間…」

親衛隊A「多分、知り合いとしてかファンとしてかの扱いに迷ったんじゃない?」

親衛隊B「なんか照れてて笑えたねー…!ぷふっ…!!」

花陽「凛ちゃん、私、絶対に負けない」


花陽「もう諦めない。逃げたりなんてしない」


花陽「いつかあなたを、超えてみせる」


花陽「あなたが認めてくれるアイドルに、なってみせる」


花陽「だから、そのときは…」



花陽(…これは、受け売りだけど)

花陽(でも、どうしても言いたかった言葉)

花陽(私の、決意の言葉)



花陽「もう一度、友達になろうね」







もしライブ! 第五話

おわり

以上、5話でした ライブでやった曲はご想像にお任せします
明日もきっとこの時間 なるべく日は跨がないようにしたい ほなな

今回は6話 ですが
6話は書きたいこと書いてたら非常に長くなってしまったので二分割します
それではどうぞ

前回のもしライブ!(声:東條希)デン


初ライブ動画の再生数が伸び悩んでいることから、真姫ちゃんはライブの魅せ方を考えようと決意!

だけど、アイドル応援部の限られた財力では思い通りにステージを作ることができず迷走。

そこでうちが提案したのが…。



希「取材やぁぁっ!!!」

一同「し、取材っ!?」



UTXの色々な部活動を取材して回ることでその部固有の魅せ方を取り入れようと奔走する4人。

でもそんな折、ついにC☆cuteの存在がUTX中に広まってしまう!

それは花陽ちゃんと因縁の深い彼女にも伝わってしまって…。



凛「久しぶり、…小泉さん」



凛ちゃんからの冷たい言葉と不甲斐ない自分に涙する花陽ちゃん。でもそこで挫けないのが今の花陽ちゃんだった!

A-RISEのみんなからの協力もあって、ついにライブの魅せ方が完成!これで万全を期してライブに挑める!

…けれど現実はそうもいかず、花陽ちゃんの親衛隊の一人に個人的な恨みでステージが破壊されてしまい…。



親衛隊A「許せなかった…!お前は私の気持ちを裏切ったんだっ!!だから私も踏みにじってやった!!」

親衛隊A「お前が私の前で踏みにじったアイドル専攻の権利みたいに、お前にアイドルをさせる権利を、私があぁっ!!」



絶望するみんなだったけど、パーツモデル部部長の登場がきっかけで今まで取材した部を頼ろうと提案する真姫ちゃん!

取材して得られたのが魅せ方だけでなくほんの少しの繋がりだったと気づくことができ、そして…。



花陽「…もしそうなら、それが」

花陽「私の、夢なんだよ」



今度こそ本気でアイドルを目指すと親衛隊の子に誓った花陽ちゃん。

花陽ちゃんの優しさに救われた彼女も、心を入れ替えて手伝ってくれるようになった!

もうどんな苦難が待っていても、アイドル応援部の4人なら乗り越えていけそうな予感がするね!

…あ、5人かな?うちを入れてっ♪

街道


レポーター「はーい!みなさーん、盛り上がってるかーい!!」


イエェェェェェェッ!!


レポーター「いい返事だー!ついにアキバハロウィンフェスタ最終日ー!んんー、楽しかったお祭りが終わっちゃうのは寂しいねー!」

レポーター「けど安心して!そんな寂しさを埋めるように、今日はスペシャルなゲストをお呼びしてるんだぁぁんっ!」

レポーター「みんなももう知ってるよねー?第一回ラブライブ優勝者、その名を全国に轟かせた、スクールアイドルの頂点!」

レポーター「今夜、A-RISEがハロウィンの終幕に華を飾ってくれるぜー!イェーフー!!」

レポーター「会場は混雑が予想されるからー、A-RISEが大好きだー、って人は早めに席に着いとくといいんだよー!」

レポーター「そしてそしてー、司会はなんとこの私がやっちゃうよー!じゃ、そゆわけでまた会おうねー!」



花陽「つ、ついにA-RISEのライブが生で見られるんだよね…。ドキドキ…!」

海未「一介のスクールアイドルとは思えないほどの盛り上がりですね…。街の人たちもA-RISEに燃えています」

ことり「さっきのレポーターさんが言ってたように、見に行くなら早くに行ったほうが良さそうだね」

希「せやねー。いい席も確保しておきたいし」

真姫「一体どんなライブになるのか、期待と同時に、不安も大きいわね…」

真姫(今のA-RISEに、私たちが太刀打ちできるのか)

真姫(今日のライブは、それを見定めるいい機会になると思う)



真姫(先日アップロードした、私たちのライブ映像)

真姫(それは、最初のメイドカフェライブを大きく凌ぐほどの再生数の伸びを誇った)

真姫(まだアップして数日しか経っていないけど、既に前回の動画の再生数を越している)

真姫(動画内コメントはもちろん他の掲示板等にも、C☆cuteのことを書き込んでいる人も少なからず増えてきた)

真姫(これで、UTXに存在する、もう一つのスクールアイドルの存在が、前回以上に大々的に知れ渡ったと言えるわね)

真姫(もちろん、まだ賛否は分かれるところだけど、知られたってことは大きい)

真姫(少しだけでも私たちを知ってくれる人がいて、ファンでいてくれる人たちがいるかも知れないというのは、希望になるからね)

真姫(UTX生の中にも私たちの存在を快く思ってくれない人たちもいるけれど、このライブ映像を見て、彼女たちを見返せると嬉しいところね)

真姫(でも、このライブはA-RISEの今日のライブに対抗するためのものでもあるけど)

真姫(本当に彼女たちに傷跡を残すことができるかは、そのパフォーマンス如何によるわね)

真姫(下手をすれば、私たちが逆に大怪我を負いかねない。『やはりUTXはA-RISEしかいない』…とは思われたくないわね)

真姫(だから、このハロウィンフェスタの参加は、楽しくもあるけど…、それ以上に胸が締め付けられる思いでいっぱいだった)

真姫(お願いだから、彼女たちのパフォーマンスに片腕だけでも届いてくれたなら)

真姫(それをただただ、願うばかりだった)

ライブ会場


ザワザワ…


花陽「うわー…、人がいっぱいだぁ…」

海未「少し早く来すぎたかとも思いましたが、そんなこともなかったようですね…、これは…」

希「んんー…、席に座るだけでもえらく待ちそうやねー。どうしよっか?」

真姫「この調子だとまだ時間かかりそうだし、私が並んでおくからみんなは近くで休むか遊ぶか、してきてもいいわよ」

ことり「えー、悪いよー。真姫ちゃん一人に任せるなんて」

真姫「私はいいの。…フェスタはこれで二回目だしね」

ことり「え?」

真姫「なんでもなーい。ほら、あっちに美味しそうなカボチャのパンケーキ売ってたわよ?」

希「お!それ美味しそうやねー。じゃあ真姫ちゃんの分までみんなで買いに行ってあげよか!」

海未「そうですね、それならいいかもしれません」

ことり「そだね。じゃ、ここは任せたよ!」

真姫「えぇ。行ってらっしゃい」

花陽「あ、…わ、私は、真姫ちゃんと一緒に待ってるね。真姫ちゃんも一人ぼっちだと寂しいだろうし」

海未「そうですか、分かりました。では花陽の分も一緒に」

花陽「うん、ありがとう。いってらっしゃい」


真姫「…別に良かったのよ?」

花陽「え?」

真姫「私一人で並んでいても。花陽も行ってきてよかったのに」

花陽「うぅん、いいの。私は真姫ちゃんと一緒に居たかったから」

真姫「そ、そう…?ならいいんだけど」

花陽「それにしても楽しみだよねぇ…、ライブ!生ライブだよ!UTXにいてもなかなか味わえないよねー」

真姫「そうねー…、UTX生なんだからそこのところもっと優遇してくれてもいいのに」

花陽「ふふ、でも私たちはA-RISEと直接会って話したんだから、すごく恵まれてるよね」

真姫「それはそうだけど、他のファンの子たちにも、もっと触れ合える機会とかあってもいいと思うわ」

花陽「そうだねー、それは残念だよね。でもA-RISEファン全員と相手してたら今度はA-RISEのほうが大変だし、仕方ないのかな」

真姫「かもしれないわね。ここまで有名になっちゃうとただの女子高生ではいられないでしょうね」

花陽「ただの女子高生じゃないかぁ…。アイドルって憧れるけど、やっぱり大変なんだよね」

真姫「何を今更。十分わかってたことでしょ?」

花陽「あはは、そうかも。あ、でももしかしたらこの間のライブで私たち有名になっちゃってたりするのかな!?」

花陽「再生数もうなぎのぼりだし!知らないだけで結構巷で騒がれてたりしたり!?あ、マスクとサングラスしてくるべきだったかな!?」

真姫「…まだそんなに知られてるわけないから、安心しなさいよ」

花陽「そっかぁ…。それはそれでなんだか、しょんぼりだね」

真姫「まだたった二つだけしかライブを撮影できてないからね。良く言えば、これからよ。頑張りましょう」

花陽「うんっ。いつか有名人になれたらいいね」


希「ただいまー。買ってきたよー」

真姫「お帰りなさい」

花陽「あ、それがパンケーキ?美味しそう!」

ことり「でしょー?焼きたてのホカホカ!一緒に食べよ!」

花陽「はいっ!」

海未「あ…、わ、私もことりと食べたかったです…。仕方ありません、妥協して真姫、お願いします」

真姫「…あなたも結構失礼な人ね。いいわよ、妥協して付き合ってあげるわ」

希「もー、みんなで一斉にあーんしたらいいんと違う?」

花陽「五人であーん…!?なんだかすごく新鮮かもです…!!」

ことり「注目度がヤバいよそんなことしたら…」


ザワッ…


海未「あ、列が動き出したようです。入れそうですね」

真姫「はふはふっ…、ま、まだ食べてる途中なのに…」

希「んー、おいし。甘いものはいいねー」

ことり「希ちゃん先輩食べるのはやっ!もうほとんどない…」

希「こういう時はいかに素早く味わうかがコツやよ。心配しなくてももう一枚買ってあるしー」

真姫「どれだけ食べるつもりよアンタ…」

花陽「あち、あちっ…。ふー、ふー…。あわわ…、歩きながらは食べづらいね…」

海未「諦めて、席についてからゆっくりいただくとしましょう」

希「せやねー。…もぐもぐ」

ことり「言ってることとやってることが一致してないよこの人!」

ライブ会場内


ことり「ふぅ、やっと座れたねー」

海未「これは…。なかなかに広いですね…。ステージも豪華です…。ぐぬぬ…」

真姫「…羨ましい?」

海未「うっ…!そ、そうですね…!羨ましいです…!」

花陽「あはっ、海未さん、アイドルをやりたい気持ちが強いんですね!」

真姫「まだまだメイドアイドルは現役ってことね。安心したわ」

海未「こういうところを見るとウズウズしてしまいます…」

ことり「あの海未ちゃんがここまでアイドルやりたがるなんてねー…。人生何があるかわかんないものだよね」

希「…ま、それはうちらが一番良く身にしみてわかってることやね」

真姫「地味に深い言葉ね…。そうね、何があるかわかったものじゃないわ」

花陽「真姫ちゃんと出会わなかったら、きっとアイドルなんてやってなかっただろうしね…」

希「ここにいる子はみんな、真姫ちゃんと出会えてよかったって思えてるよ?ね?」

ことり「うん!」

海未「えぇ。本当に、感謝しています」

真姫「や、やめてよ…。…はぁ、わ、私も…、まぁ、あなたたちと会えてよかったって思えてるわ…」

ことり「おぉ!真姫ちゃんがデレた!」

真姫「うっさい!ほら、そろそろ始まるんだから精神統一!集中して見るのよ!」

海未「集中…、そうですね、これはただのライブではなく、私たちの倒すべき敵の視察とも言えますから」

花陽「倒すべき、敵…。うっ…、そう思うとなんだか緊張してきた…」

希「まぁまぁ、そう深く考えんでも、楽しむことが第一やん?」

ことり「そうだそうだ!まずは楽しも?」

真姫「…そうね」

花陽「それに、そろそろ始まるって言ってもまだ時間に余裕あるし、その間はリラックスしてよっか」

真姫「わかったわよ、ふぅ…」


真姫(花陽に言われたように、始まるまでのしばらくの間、みんなと話し合ってリラックスすることにした)

真姫(けど、迫り来るその時に、胸の高鳴りを抑えることはできず)

真姫(緊張がピークに達しそうな瞬間、ついに)



『皆さん、今日は私たちA-RISEのライブへようこそ!』


キャアァァァァァァァッッ!!



花陽「あ、綺羅さんのアナウンス!」

希「そろそろ、始まるかな…」

真姫「…っ」ゴクリッ

『アキバハロウィンフェスタ最終日、最後まで存分に楽しんでいってください!』

『それでは…、We are A-RISE!! Let's Party Time!!』


キャアァァァァァァァッッ!!



ことり「ひぃっ…!会場が揺れるほどの歓声…!」

海未「き、来ました!A-RISEです!その後ろには…」

真姫「…バックダンサー」



レポーター『ついに開幕!A-RISE、ライブinアキバハロウィンフェスタ!』

レポーター『聞いてくださいこの割れんばかりの歓声!圧倒的だねっ!』

レポーター『そしてそしてっ!ステージの奥からはA-RISEの3人が入場だぁぁあぁっ!!』

レポーター『もうみんな知ってると思うけど、それでも一人ずつ紹介していきましょうっ!!』

レポーター『その可憐なボディで広いステージを所狭しと舞い踊る!その姿はまさに妖精のごとくっ!』

レポーター『「ダンスの貴公子」こと、我らがA-RISEのリーダー!綺羅ツバサっ!』

レポーター『美しき長身と切れ長の瞳に魅了される殿方多数っ!泣きボクロがめっちゃセクシーっ!!』

レポーター『踏んでください女王サマっ!冷たきA-RISEのクイーン!統堂英玲奈っ!』

レポーター『ゆるふわヘアーのプリティフェイス!その実態はまだ誰も知らないっ!』

レポーター『歌唱力はナンバーワン!キャラクターはオンリーワン!優木あんじゅっ!!』

レポーター『A-RISEそろい踏みっ!今夜は一体どんなパフォーマンスを我々に見せてくれるんでしょうかっ!!』



花陽「れ、レポーターさんの司会にも気合が入ってるねー…」

希「…あれ、バックダンサーは紹介しないんやね」

海未「確かに…。穂乃果はどう紹介されるのかと少し期待してたんですが…」

ことり「仕方ないよー。バックダンサーを紹介するアイドルってあんまりいないだろうし」

花陽「でも、凛ちゃんは目立ちたがりだし、見えないところでふくれっ面してそう…」

真姫「かもしれないわね。そういうものだと割り切ってる穂乃果やにこちゃんならまだしも、凛は…」

真姫「…って、あれ?」




英玲奈「ふふ、熱い紹介をどうもありがとう!そして今日ここに集まってくれたみんなにも!」

あんじゅ「私たちのためにこんなにもたくさんの人が集まってくれるなんて、私感激です!」

ツバサ「それ以上の感動を、みんなに与えられるよう…、最高のパフォーマンスを、お届けするわ!」

ツバサ「まず最初は…、こんな曲、いかがかしら?We are A-RISE!ミュージック…」


「「「スタートっ!!」」」

~♪


花陽「こ、これっ…!新曲です!」

希「新曲のリリースがいつもよりも早いね…。それにこれ…」

ことり「いつものA-RISEと違って、なんだか…」

海未「とても、可愛らしいですね…。クールなイメージなA-RISEには珍しい…」

花陽「でもすごくいい曲っ…!いつもとは違うけど確かなA-RISEを感じるし…、真姫ちゃんもそう思うよね!?」

真姫「…」

花陽「…真姫ちゃん?」

真姫「え…、あ、あぁ…。そうね」



真姫(周りを見ても、特に反応はなかった)

真姫(やはりこの人たちは、『A-RISE』を見に来ているのだな、とそれで再確認できた)

真姫(そして、花陽たちも…)

真姫(この時期の新曲は、私たちの世界にもなかったこと。私の全く知らない、A-RISEの曲と言える)

真姫(花陽や海未たちの感想は確かに正しかった。私も、同意見なことには間違いない、…けど)

真姫(今はそんなこと、どうでもいいくらい…、気になることがあった)

真姫(私以外のほとんどが気にしていない、A-RISEから『喪失』したもの)

真姫(それまでの、ライブのパフォーマンスを気にしていたのはすっかり消え去り、そのことばかりを考えてしまっていた)



~♪…


パチパチパチパチ…!!


花陽「おぉぉっ!!すごぉいっ!!」

ことり「はわぁぁぁ…、可愛かった…!」

海未「く、悔しいですが…、完璧と言わざるを得ません…」

希「ここまでとは…、正直予想外やったかもね」

真姫「…どうして」

希「ん?どないしたん?」

真姫「どうしてよ…、なんで…」

真姫「…くっ」



真姫(そのあともライブは続き、ほんの数曲の短いライブではあったけれど、大盛況に終わった)

真姫(正直、出来は最高だったと言わざるを得ない。私たちのライブが、傷跡を残すのは…、難しいのかもしれない)

真姫(でも私は…、私はそのライブを、終始複雑な気持ちで見るしか、できなかった)

真姫(A-RISEとバックダンサー…、合わせて『5人』が、歌い、踊る、そのライブを)

翌日 放課後

アイドル応援部部室


花陽「はわぁぁぁぁぁ…、A-RISEのライブ、最高だったねぇ…」

真姫「…そうね。けど、喜んでばかりもいられないのよ」

ことり「そうだよ!れ、連休が終わっちゃったんだよぉぉ…!!悲しいよ…」

海未「そういうことではないと思いますが…。あのライブには圧倒されましたね…」

花陽「あれに立ち向かうのは相当骨が折れる、ってことだよ、ね…」

希「ふふ、まぁまぁ。確かに超えるのは大変やけど、でもうちらかて負けてない、って思うよ。うちは」

希「単体で強いA-RISEと、まだまだ未熟だけどみんなの応援が強くしてくれるC☆cute」

希「伸びしろならうちらのほうが断然やん!このまま前向きに突っ走ってればいけるいける!」

海未「…そう、ですね。落ち込んでいても前には進めません!A-RISEを打倒するならば、練習あるのみです!」

ことり「よしっ!今日も練習だね!」

花陽「うんっ!えいえいおー!」

真姫「…」

花陽「ま、真姫ちゃん?元気ないね…、どうしたの?」

真姫「え?あ、いや…。元気ないことはないんだけど。ごめんなさい、ボーッとしてたわ」

真姫「…そうね。パフォーマンスでは勝ててるとは言えなくても、負けてるってことは絶対にないわ」

真姫「まだA-RISEを凌ぐのは難しいかもだけど、追い付くならきっとすぐできると思う!頑張りましょう!おー!」

ことり「うん、その調子その調子!」

海未「次の曲もバシバシ作っていきましょうね!」

真姫「えぇ!」

花陽「ふふふ…、やっぱり真姫ちゃんはこうでないとね」

希「うんうん。元気でよかったよかった!」


真姫「…」

数時間後…

音楽室


真姫「…じゃあ、今日の練習はここまでにしましょう」


花陽「ふーっ、熱いよー…」

海未「もう冬も近いといえど、動くと汗をかきますね…」

ことり「窓開けるねー」ガラガラッ ヒュオォッ…

海未「うふぅっ…!さ、さぶいです…」

希「この時期は風邪を引きやすいから。気をつけなあかんよ?」

ことり「はーい。気をつけまーす」

希「うん、はいドリンク」

花陽「あ、ありがとうございます。…ごくごく、ふぅ、じゃ、そろそろ着替えて帰ろっか」

海未「いつまでも濡れた練習着では風邪を引いてしまいますからね」

真姫「…ごめん。先、帰ってて。私用事あるから」

ことり「え?そうなの?何の用事?」

真姫「ちょっと、私的なやつよ」

花陽「そ、そっか…。わかった。今日は先、帰ってるよ」



花陽「バイバイ、真姫ちゃん。また明日ね!」

真姫「えぇ、また明日」

海未「次の曲、早めに完成させてくださいね」

真姫「わかってるわ。ちゃんと考える」



真姫「…ふぅ」

真姫「さて、と…。はぁ…」

真姫「…何やってんのかな、私」

真姫「こんなことする意味、ないはずなのに…」

それから数時間後…

夜 多目的ホール



カツンッ… カツンッ…!!

ダンッ!!


「はぁっ…!はぁっ…!!や、やっと、できた…」

「目標の、ダンス、100回…、達成…。はぁっ…、はぁっ…」

「…早く帰って、寝ない、と…。はぁ、…っふ…」

「…」

「…あははっ…、もう、誰もいないわね」

「私が…、最後…」



キィッ… バタンッ


コツ、コツ…



「…夜の校舎って、キライ」

「お化けが出そうだもん」

「はぁ…、非常灯の光がやけに怪しく見えるのよね…」

「不審者に襲われたりしないかしら…」


真姫「…独り言、大きいのね」


「…きゃっ!?!だだだ、誰っ!!!?」


真姫「ごめんなさい、待ってたの。あなたを」

真姫「…すこしだけ、お話、いい?」

真姫「にこちゃん」


にこ「あなた…、たしか…、真姫ちゃん、だったかしら…?」

にこ「ど、どうして…、どうしてここにいるの?だ、ダメじゃないっ、もー、にこみたいなダメダメな子にもー、出待ちは禁止にこっ!」

にこ「…っぷはぁ、今は、こういうのもキツ…」


真姫「…ふふ、こんな時でもファンサービスは欠かさないのね。憧れちゃうわ」

真姫「なのに、どうして?…そうね、どうして、は、こっちのセリフ」

真姫「A-RISEのバックダンサーのはずのあなたが、どうして」


真姫「昨日のハロウィンライブに、いなかったの?」


にこ「…」

真姫(アキバハロウィンフェスタ最終日に行われた、A-RISEのライブ)

真姫(そのステージには、にこちゃんもいるはずだった)

真姫(けれど、6人が立つはずのそのステージには、何故か5人しかいなくて)

真姫(そのことが、昨日からずっと気になっていた)


にこ「…」

にこ「そんなの知って、どうするのよ」

真姫「…別に。気になるから、知りたかっただけ」

にこ「…そう。そっか」

にこ「いいわ、教えたげる。簡単よ」

にこ「下ろされたの。…バックダンサー」

真姫「っ…!な、なんで…?」

にこ「その実力に達していないから、って言われたわね」

真姫「そんなことっ…!!」

にこ「あーん、もう…、大きな声出さない。ホントはこんな遅くまで練習してちゃダメなんだから」

にこ「続きは、外のベンチで話しましょ」

真姫「…わかったわ」



ベンチ


にこ「…はい、コーヒー。あ、お茶がよかった?」

真姫「いえ。…ありがとう」

にこ「どういたしまして。…で、どこまで話したっけ。あ、そうそう、下ろされたってことだけだったわね」

真姫「実力に達していないって…」

にこ「最近、ダンスレッスンが失敗続きでね…。体力的についていけなくなってきて」

にこ「その無様な姿をお客さんには見せられない、って…下ろされちゃった」

真姫「今までは…、そんなことはなかったの?ダンス中に失敗って…」

にこ「ない、ってことはないわよ。まー、去年はすっごい頑張ってトップだったんだけど」

にこ「最近は無理が祟ったのかな、すぐバテるようになってきちゃって」

にこ「結局、このザマよ」

真姫「…そう。でも、なんでバックダンサーは二人だったの?にこちゃんが抜けたなら補填されるんじゃ」

にこ「モデル専攻は結構アイドル志望が少ないからね。私が抜けたのも最近だったし、お客さんに見せられるダンスができる子も少なかったってわけ」

真姫「へぇ…、だから二人で…。だったら他の専攻の子を入れてあげても…」

真姫「…」

真姫「…ん?」

にこ「どうしたのよ」

真姫「…あの、に、にこちゃん…。あなた、な、何、専攻って言った…?」

にこ「モデルだけど?」

真姫「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?!?!」

真姫(バックダンサーはA-RISE候補生であることから、選出もそのままA-RISEと同じように)

真姫(各専攻のトップがそれぞれメンバーとなる)

真姫(凛がダンサー専攻で、穂乃果が歌手専攻なんだから、必然的に残ったにこちゃんは、ってなるんだけど…)

真姫(今まで考えたこともなかったから…。ま、まさかにこちゃんが、も、モデル専攻…、だなんて…!)


にこ「な、何よ…。そんなに意外?まぁ、確かに…、私がモデルなんて笑えるでしょうけど」

真姫「い、いえそんなことは…。でもどうして…」

にこ「別に、モデルの方がライバルが少ないって思ったからよ。A-RISEになるための」

にこ「最もアイドル専攻志望が少ない専攻が、モデルだったからね」

真姫「そんな理由で…?」

にこ「私にとっては、本専攻はオマケよ。アイドル専攻が、私の目指す道」

にこ「なんとしても私は、A-RISEにならなくちゃいけないのよ。…それが私の、夢なんだから」

真姫「…にこちゃん」

にこ「そのために必死で頑張って、何度落ちても這い上がって、まさかのバックダンサーに選出されたときは、やった!って喜んだものだけど」

にこ「…また、落とされたちゃったわね。再び1からのスタートよ」

にこ「バックダンサーの空いた穴はすぐに埋まるわけじゃない。選出されるまでには少し余裕があるから」

にこ「それまでに先輩に認められるように、人一倍…、うぅん、人百倍は頑張らないと」

真姫「…諦めないのね」

にこ「えぇ、諦めてたまるもんですか。夢なんだもん」

にこ「もっかい上に行って、もっかい認められる。絶対に…、絶対に」

にこ「真姫ちゃんが私のこと気にかけてくれたのは、すごい励みになったわ。ハロウィンライブ、出られなくてごめんね」

にこ「でもでもっ!次のライブにはぜーったいに出てやるからっ!!凛や穂乃果にも負けないくらいっ…、うぅん、A-RISEにだって負けないダンスを見せたげる!」

にこ「だから、真姫ちゃんも応援よろしく!…あと、アイドル、頑張ってね」

真姫「あっ…」

にこ「驚いたわ。あなたまで、アイドルやってたなんてね。負けないんだからね?」

真姫「…えぇ。私も、負けない。A-RISEに追いつけるよう…、追い越せるよう、共に頑張りましょうね」

にこ「うん!じゃ、そろそろ時間だから帰るわね。バイバイ」

真姫「えぇ…。バイバイ」



真姫(そう言って去っていく小さい背中が)

真姫(なんだか、前よりずっとずっと、小さくなっている気がして)

真姫(そのまま、暗い闇に消えてしまいそうな気がして)

真姫(私は、言いようのない不安に襲われた)

真姫(とても強い心を持ったにこちゃん。今も気丈に振舞ってはいたけれど)

真姫(いつか簡単に、ポキリと折れてしまいそうで、私は…)

真姫(私は…)

数日後





花陽「あ、真姫ちゃん。おはよー。ね、聞いてよー!昨日ねー…」

真姫「あぁ…、うん…。おはよ」

花陽「あの、真姫ちゃん…?」

真姫「…何?」

花陽「いや…、何でもないけど…」



昼休み


真姫「…もぐもぐ」

海未「…」

ことり「…」

真姫「…もぐもぐ」

真姫「ごちそうさま」スッ


海未「…ひ、一言も喋りませんでしたね」

ことり「なんだか心、ここにアルカトラズって感じだね」

海未「は?」

ことり「…言わなきゃよかった」



歌手専攻 音楽室


親衛隊C「あ!西木野さん!今度手伝うのはいつごろになりそうですの?」

親衛隊B「また今月中に新曲出すの?」

真姫「今度手伝う日、か…。そうね…」

真姫「…」

親衛隊A「…ちょっと?」

真姫「…」

親衛隊A「おーい…、生きてる?」

真姫「…え?あ、あぁ…。ごめんなさい、別のことを考えてたわ」

真姫「次は大体…、えっと…」

真姫「…」

親衛隊C「ま、また止まってしまわれましたわ」


花陽「…」