【ミリマス】最高の表情 (17)

あれはいつからだっただろうか

彼は私を見ると嫌な顔をするようになった

出会ってすぐに嫌な顔をされるようになったことは覚えている

私はただ、アイドルの写真を撮って彼に差し出していただけだ

嫌な顔をされる覚えはないし、される筋合いもないはずだ

しかし彼は私を見るたびに嫌な顔をした

いったい何故なのだろうか?

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しかし私はそんな彼の嫌な顔が好きだった

冷たい瞳、僅かに歪んだ眉、今にも舌打ちしそうな口元

そしてその表情から感じられる苛立ち

その全てが完成していて、私の心を揺さぶった

もっとあの顔が見たい…

そう思った私は、もっと彼の前に姿を現すことを決めた

彼の前に現す機会が増えると彼はさらに嫌な顔をしてくれた

その瞳に捉えられるだけで私の心臓は高鳴り、体中の血液が沸騰しそうになる

私が彼と交わす会話はいつも一方通行だ

今日も一方的に言葉を告げ、写真を渡した

そんなある日の帰り道、私は男か女かわからない人物に捕まった

その人物は私に彼にあまり近付くなと言ってきたのだ

冗談じゃない、私は仕事があるし彼の表情が見たいのだ

そう口にしようとしたが、出て来たのは了承の言葉だった

その後も何度も否定しようとしたが、まるで操られているかのように口から出るのは了承の言葉ばかり

その人物が納得し、立ち去った後でようやく、口が自由に動くようになった

謎の人物が現れてから、私は彼に会う機会が減った

以前のように彼の元へ向かおうとすると必ずと言って良いほど何かしらの邪魔が入った

期間を空けて会いに行くと問題なく会える

しかし連日会うことは出来なくなっていた

そして私にとってもっとも大切だったことが変わってしまった

彼が嫌な顔をしなくなってしまったのだ

今、私を見る彼の表情は、道端の石ころを見るような何の感情もない無感情だ

それはそれでありだと思うが、私が好きだった表情ではない

しばらくそんな状態が続いたが、去年のエイプリルフールに変化があった

アイドルの亜利沙ちゃんが、エイプリルフールの企画として私をアイドルにしようとしてきたのだ

私は彼の前に引き出され、問答をした

これが彼との初めての「会話」だった

二人で、今まで私が撮った懐かしいアイドルの写真を見ながらクイズを出した

彼はその全てに正解し、私はその日一日、アイドルになった

この日、彼が私の代わりに写真を撮ってくれた

私だけが写った私だけの写真だった

エイプリルフールが過ぎ、彼が再び無感情に私を見るようになってからまた1年が過ぎた

風花さんが春の女神としてステージに立つので、私も写真を撮るために会場に向かっていた

イベントが始まり、私は写真を撮って彼に見せに行く

その時に気付いたのだ

出来なくなっていたはずの、彼への連続接触が可能になっていたことを

私はここぞとばかりに彼へと接触した

最初は無表情だった彼の顔が

私の

好きな表情へと

変わった

何年かぶりに見る彼の嫌な顔だった

私のずっと見たかった表情

冷たい瞳、僅かに歪んだ眉、今にも舌打ちしそうな口元

そしてその表情から感じられる苛立ち…

全てが懐かしかった

だから私はカメラを取り出す

その最高の表情を手に入れるために

そして私はいつもの言葉を彼に告げた

「あっ、その 表情いいですね!1枚撮らせてください!」

終わり

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