カツオ「ピストルを持った男が玄関に!」 (35)

サザエ「あきれた。同じ手が何度も通用すると思ったら大間違いよ」

カツオ「ホントなんだ!信じてよ!」

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サザエ「嘘おっしゃい」

カツオ「だから本当だってば!」

サザエ「大人をからかうんじゃありません」テクテクテク

カツオ「相手はピストルを持ってるんだ!危険だよ!」

サザエ「はいはい」

サザエ「ただいまー」ガラガラガラ



男「っ!?」ビュンッ



サザエ「」バキッ



(瞬間、サザエは顔面を殴られた)

ゴルゴ「俺の後ろに立つな」ギロッ

サザエ「ぅ……ぅぅぅ……」

フネ「まぁ、サザエ……」

カツオ「僕は事実を言ったまでだ……」


――――――――

――――

――

フネ「先ほどは娘がとんだ粗相を……申し訳ございません」

ゴルゴ「……用件を聞こう」

フネ「はい。ターゲットはこれです」ペラッ

(写真にはハゲ頭の男が映っていた)

~静岡県、清水~

友蔵「まる子や」

まる子「ん?何おじいちゃん?」

友蔵「お母さんたちが呼んでおる。例の暗殺の件で話し合いだそうじゃ」

まる子「ああ、あれね……」

すみれ「まる子、そこに座りなさい。今から作戦会議よ」

まる子「この前久しぶりに映画撮ったんだしもういいじゃん」

すみれ「おバカ!視聴率だってうちは負けてるんだよ!」

さきこ「そうよ。アンタ一時間スペシャルやりたくないの?」

ヒロシ「けっ、一時間スペシャルなんて無駄に長いだけじゃねえか。実写ドラマのほうが楽できるぜ」

友蔵「ヒロシ!」

こたけ「ずっと日曜日の覇権をめぐって争ってきたけど、そろそろ決着をつけないといけないね」

すみれ「まる子に行かせましょう」

まる子「なんであたしなのさ」

すみれ「あんたまだ子供でしょ。身軽な人のほうが向いてるのよ」

まる子「ヤダよ!じゃあ代わりにお姉ちゃんが行けばいいじゃん!」

さきこ「バカ言わないでよ。主役なんだからそれくらい自分でやりなさい」

まる子「トホホ……まさかあたしが波平の暗殺を任されるなんてね……」

友蔵「まる子……」

今日はここまでにします

~夜~

波平「あ、そうですか。荷物届きましたか」

波平「ではそれを着て今度の日曜日、わしが駅まで迎えに行きますので」

波平「ええ。はい」

波平「みんなを驚かせたいので、くれぐれも内密に」

波平「はい。ではそういうことで……」ガチャッ

(波平は受話器を下した)

カツオ「こんな時間にどうしたの?」

波平「なんだ、まだ起きとったのか」

カツオ「ちょっとトイレに行きたくなってね」

波平「明日も学校だろ。早く寝なさい」

カツオ「そういうお父さんだって明日は会社でしょ」

波平「まったく、調子のいいやつめ」

カツオ「へへへ、おやすみなさい」

波平「うむ。おやすみ」

サザエ「タラちゃん寝ちゃったわ」

フネ「サザエ、ちょっといいかい」

サザエ「どうしたの母さん?」

フネ「お父さんから大事な話があります。マスオさんも呼んで来てください」

サザエ「はーい」

マスオ「お義父さん、大事な話って一体?」

波平「まあ、とりあえず座ってくれ」

サザエ「なーに?かしこまったりして」

波平「今から磯野家の今後のことについて話す」

波平「よく聞いててくれ……」


――――――――

――――

――

マスオ「お義父さん……」

波平「マスオくん、君には迷惑かもしれないがこれからの磯野家をよろしく頼む」

マスオ「はい……僕では頼りないかもしれませんが、必ずやカツオくんを磯野家の立派な家長に……」

波平「うむ」

サザエ「父さん、それ本当にやるのね……」

波平「ああ、これはもう決まったことだ。今更変えることはできん」

サザエ「そう……きっとみんな悲しむわ……」

波平「子供たちには内緒にしといてくれ。あの子らを巻き込みたくない」

サザエ「……」

~日曜日~

波平「ちょっと散歩に行ってくる」

ワカメ「いってらっしゃい」

タラオ「僕も行きたいでーす!」

マスオ「タラちゃん、今日はパパと遊ぼう」

カツオ「大人は一人になりたい時があるんだよ。特にうちみたいにうるさい家だとのんびりできないからね」

タラオ「わかったです」

ワカメ「誰のせいでうるさくなってると思ってるの」

カツオ「そりゃ姉さんに決まってるよ」

サザエ「聞こえてるわよ」

カツオ「うわっ!?姉さん!?」

サザエ「待ちなさーい!」


ドタバタ ドタバタ


波平「バカモン!」

カツオ「す、すみません……」

波平「二人ともわしの部屋に来なさい!」

波平「と言いたいところだが、続きは帰ってからだ。散歩に行ってくる」

サザエ「いってらっしゃいませ……」

~あさひが丘駅~

波平「よし、まだ来てないな……もうそろそろか」

波平「えーっと、公衆電話は……」キョロキョロ

ノリスケ「はい。波野です」

波平「おお、ノリスケか」

ノリスケ「どうしたんですかおじさん?」

波平「ちょっとお前と話したいことがあってな。駅まで来てくれんか」

ノリスケ「え~、別にいいですけど。もしかしておごってくれるんですか?」

波平「そういうことだ。急いで来てくれ」

ノリスケ「わかりました!飛んで行きます!」ガチャッ

波平「……」ツーツー



~向かいのビル~

ゴルゴ「……」

ノリスケ「いやー、日曜の昼から飲みに誘われるなんてついてるな~」

ノリスケ「そういえば、なんか大事な話があるみたいだったな……」

ノリスケ「まあ、たまにはおじさんの愚痴も聞いてあげよう!」

~あさひが丘駅~

ノリスケ「あ、いたいた」

ノリスケ「おーい!おじさーん!」




ゴルゴ「……」カチャッ


ズキュゥーーーーン


ズキュゥーーーーン

バタッ



ノリスケ「――だ、大丈夫ですかおじさん!?!?」

ノリスケ「しっかりしてください、おじさん!!!!」

ノリスケ「救急車!誰か救急車を呼んでください!!!!」



ガタンゴトン ガタンゴトン

(電車が駅のホームから発車した)

~磯野家~

カツオ「姉さん、警察から電話だよ」

カツオ「なんか大人の人にかわってくれってさ」

サザエ「いい加減にしないと父さんに言いつけるわよ!」

カツオ「本当だよ!この前だって姉さん、僕を信用しなくて痛い目見たじゃないか!」

サザエ「それはそれ、これはこれです」

フネ「なんですか騒々しい」

サザエ「警察から電話だって母さん。どうせまたカツオのいたずらよ」

カツオ「信じてよ!」

フネ「電話くらい出ればいいじゃありませんか」

フネ「お電話かわりました、磯野です」

フネ「まあ、警察の方ですか」

カツオ「ほら!僕の言った通りじゃないか!」

サザエ「ぐぬぬ……普段が正直じゃないから信用できないのよ」

フネ「えっ!?」

フネ「まぁ……本当ですか……主人が……」

カツオ「??」

高木「被害者は磯野波平さん54歳、会社員です」

目暮「眉間を撃ち抜かれて即死か……これはプロの仕事だな」

高木「目暮警部。その線なんですがちょっと妙なんですよ」

目暮「ん?何がだ?」

高木「駅構内にいた人たちの証言は皆口をそろえて銃声が2回」

高木「ところが遺体には傷が眉間の一つにしかないんです」

高木「もう一発の銃弾なんですが既に発見されていて、駅の柱に当たっていました」

高木「弾痕の軌道から2発は同じ場所から撃たれたものと推測されます」

目暮「じゃあ一発で仕留めることができなかったから犯人は2回撃ったのか?」

高木「ええ、磯野さんの他に被弾した人はいないので、おそらくそうかと……」

高木「でもおかしいですよね?頭を撃ち抜くほどの腕を持っているのに一発目は標的にかすりもしないなんて?」

目暮「うーん……」

~静岡県、清水~

ヒロシ「おい、今朝の新聞見たか?波平の奴がくたばったそうだ」

すみれ「あらまあ」

こたけ「爺さん、もしかしてお前さんが勝手に殺ったんじゃないだろうねえ?」

友蔵「ば、バカを言うな婆さん!わしは飛び道具など使ったりせん!」

友蔵「子供の頃から真剣勝負の友蔵ちゃんと呼ばれとったんじゃぞ!」

こたけ「どうだかね……」

すみれ「でも、わざわざうちで暗殺計画を練っていたのに残念ですね」

さきこ「野比家か野原家の仕業……あるいは死神と称される名探偵コナンの勢力かもしれないね」

ヒロシ「そんな他局から狙われたらたまったもんじゃねーな」

さきこ「他局まで警戒しないといけないなら、これからはあんまり目立った動き出来ないよ」

まる子「なーに、結果オーライだよお姉ちゃん。殺す手間が省けたってもんさ」

まる子「それよりお母さん、波平が死んだんだから今夜は宴だよ。パーッとやろう」

すみれ「そうね。じゃあ、すき焼きにしましょう」

まる子「わーい!」

ワカメ「わあああああああああん」

フネ「……」

タラオ「どうしておじいちゃん帰ってこないですか?」

マスオ「おじいちゃんはね、お星さまになったんだよ」

カツオ「……」

サザエ「カツオ、いつまでもくよくよしてるんじゃないの」

カツオ「そんな……ひどいよ姉さん!」

サザエ「今の磯野家の家長はあんたになるのよ。そんなんじゃ父さんに叱られるわ」

カツオ「そうだよ姉さんの言う通りだ……あの時だって、また僕を叱ってくれるって約束したんだ!」

カツオ「お父さん……」

サザエ「……」

~数日前~

フネ「先ほどは娘がとんだ粗相を……申し訳ございません」

ゴルゴ「……用件を聞こう」

フネ「はい。ターゲットはこれです」ペラッ

(写真にはハゲ頭の男が映っていた)

ゴルゴ「磯野波平……お前の夫か」

フネ「いいえ。この依頼、主人も重々承知しております」

ゴルゴ「……」

フネ「ここをよく見てください」

(フネは写真の男の頭頂部を指さした)

フネ「主人はここに毛が1本しかありません。2本あるこの男は兄の海平です」

ゴルゴ「双子……」

フネ「主人は今、とある一家から命を狙われております」

フネ「磯野波平に見せかけた死体の偽装……身代わりが必要なんです」

フネ「そこで私たちは夫婦で話し合い、お兄さんに死んでもらうことに決めました」

フネ「ですが、いくら双子とはいえ二人には決定的な違いがある。見る人が見ればバレてしまうでしょう」

フネ「ただ海平を殺すだけなら何もあなたの手を煩わせたりしません」

フネ「誰にも気づかれず、頭皮に傷すら残さずに2本ある毛のうち1本だけを弾丸で確実に焼き切る……」

フネ「極秘で呼び出した磯野海平の毛を1本にしてから殺す。これが依頼内容です」

フネ「東郷さん!これはあなたにしかできない狙撃なんです!どうか、どうかお願いします!」

ゴルゴ「……」

~九州にて~

波平「これで長らく続いた日曜午後6時の抗争も鎮静化するだろう」

波平「すまない海平兄さん……我が家の平和のためにはこうするしかなかったんだ……」

波平「いいや、磯野波平ももうこの世から消えた」

波平「わしは……私はこれからまったくの別人として生きる……」

(波平は故郷の海を見つめながら、そう呟いた)



END

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