魔王「和睦、だな」 (70)



側近「……は、今、なんと?」

魔王「土王まで敗れては仕方あるまい。これからは和睦に向けて動く」

側近「し、しかし! それでは我ら魔族はどうなるのですか!? お考え直しください!」

魔王「ならん。どうにも我は人間どもを甘く見ていた。これ以上、我が同胞が殺されゆく惨状には耐えられぬ」

側近「ですが……!」

魔王「だからな、側近よ。出陣の準備だ。」

側近「……はい?」

魔王「だからこそ、打って出るのだ」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463753590



側近「……仰っている意味が、今ひとつ分かりませんが」

魔王「側近、今の戦況を申してみよ」

側近「……土王と木王は敗走し、領土は占領され、炎王と水王も劣勢。こちらの兵は疲弊しております」

魔王「うむ。よって、目標は和睦だ」

側近「そこまでは分かります。それがなぜ、出陣の準備になるのですか?」

魔王「この状況では我らに不利な条件でしか和睦は結べまい。それでは意味がない」

側近「ええ、もちろんです」

魔王「有利な条件を提示するには戦線を押し返さねばならん。だからこそ、我が出て人間どもを追い払うのだ」

側近「なるほど……。しかし、魔王様が城を離れるというのは……」

魔王「仕方なかろう。一時のことよ。とにかく、まずは奪われた領土を取り返す」

側近「…………はっ。であれば、土王と木王が受け持っていた領土ですか」

魔王「ああ。土王と木王を呼べ。まずは土王の領土だ。土王には案内を、木王にはこの城を任せる」

側近「はっ」



土王「マオウサマ……オレ……」

魔王「よい。お主も部下たちもよく生き延びた」

土王「マオウサマ、アイツラ、ユルセナイ。オレタチノクラシ、コワシタ」

魔王「……」

土王「オレタチ、ナニモシテナイ。アイツラ、オレタチオイダシタ」

魔王「……安心しろ。お主らの暮らしは我が取り戻す。そのために我が出るのだ。案内せい。それと、木王」

木王「はい……」

魔王「留守を任す。有事の際はお主が指揮を取れ」

木王「……私で、よろしいのですか?」

魔王「お主だからこそだ。任せたぞ」

木王「……かしこまりました……」



ーー炎王の城


魔物A「ご苦労さまです! 魔王様!」

魔物B〜Z「「「ご苦労さまです!」」」


魔王「……うむ、かしこまるな。退がれ」


魔物A〜Z「「「はっ!」」」


魔王「……側近」

側近「は」

魔王「次から我がどこへ出向こうとも出迎えは不要だ。よく伝えておけ」

側近「分かりました」

魔王「うむ。土王、ついて参れ」

土王「ン」



炎王「お、魔王さま! 遠路はるばるよく来てくれやした!」

魔王「うむ、久しいな。炎王」

炎王「戦況が戦況でさあ! 仕方ねえ! つか、土王まで連れていってえなんの用でさ!」

魔王「しばしお主の城を拠点にし、我も攻勢に出る。かまわんか?」

炎王「へ!?」



炎王「はあ!? 和睦!? ヤキ回ってんじゃねえや!」

側近「こら! 炎王! なんて口の利き方ですか!」

炎王「だってそうだろうよ! 元はといやぁ人間どもが俺らのシマ荒らしてきたんだぜ!?」

魔王「仮にそうだとしてもだ。この戦況では致し方あるまい。貴様とて楽な戦況ではなかろう」

炎王「そりゃそこのウスノロが負けたからだろが! 」

土王「ナンダト!」

炎王「事実だろが! 」

側近「やめなさい! 魔王さまは我ら魔族がこれ以上命を失わないために英断されたのです! 魔王さまの苦悩が分からないのですか!」

炎王「……でもよぉ」

魔王「炎王、気持ちは分かる。だが、我とてお主らが死にゆくのは忍びないのだ」

炎王「……ズリいぜ魔王さま。あーチキショウ! おい、誰か前線に伝えてこい!これからは専守防衛! むやみに手ェ出させんな!」

魔物A「はっ!」



側近「……炎王、よく分かってくれました」

炎王「うるせえや! てか、魔王さまが直々に進軍とか人間が不憫でならねえや!」

魔王「ふ、任せておけ」

炎王「で? いったい俺はいつまで城でトロ火ってりゃいいんで?」

側近「我らの元々の領土は西から東にかけて、半円を描くように土王炎王水王木王の領土が並び、南方の大部分を魔王さまが治めていました」

炎王「おうよ、そんで人間の領土に面してるのは俺ら四天王の領土だけだ」

側近「現在、その西と東が人間どもに取られている状況です。まずはそれらを取り返します。その後に和睦です」

炎王「ほーん……あ!? じゃあ俺ぁもう城でトロ火ってるだけかよ!?」

魔王「……そうなるな」



炎王「……くー、しゃあないか。ただ、魔王さま、注意を1つだけ」

魔王「? なんだ?」

炎王「今はどこにいるか分からねえが、人間の中にめちゃくちゃ強えヤツらがいる。勇者とその仲間だ」

魔王「ほう」

側近「あなたがそう評価するほどですか」

炎王「現にそこのウスノロはそいつらにやられたはずだ。報告は受けてねえんで?」

土王「……ツヨイノハイタラシイ。デモ、オレ、スガタミテナイ。ニンゲンガイッパイシロニキタ」

炎王「そりゃ勇者が屋外の魔物にヤキいれて城壁に大穴あけたせいだ。連携もまともに取れてねえのか、テメエの軍は」

土王「……ゴメン」

炎王「謝んな気色わりぃ!ま、そうゆうことだわ!魔王さま!」

魔王「心得た。土王、ゆくぞ」

土王「オウ! アイツラ! ウメル!」



ーー炎王の領土、西側



将軍「進め! 敵は風前の灯火! 魔物どもを一気に押し込め!」


わあああああああああああ!!


魔王「極大爆裂魔法」カッ

土王「ウマレ」カッ


ズドン!!!!!!!!!!!!!

ズゴゴゴゴゴゴ……


将軍「な!? い、今の爆発は……、地形が変わっておる……!?」

兵士「将軍どの! 前線は壊滅状態です! お下がりください!」

将軍「なんだ今のは! 何が起きた!?」

兵士「魔王です! 魔王が現れました!」

将軍「馬鹿な……! 魔王が、自ら動くのか!?」





魔王「ゆくぞ、土王。存分に暴れろ」

土王「オウ!」




ーー1週間後



魔王「我らの勝利ぞ!! 勝鬨をあげい!!」



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


側近「おめでとうございます! 魔王さま!」

魔王「うむ、これで土王の領土は取り戻せた」

土王「……」

側近「どうしました? 土王。もっと嬉しそうな顔をしましょう!」

土王「……ダイチ、アレタ。ボロボロ……」

魔王「……」

側近「……」

土王「オレ、ヤッパリ、センソウキライ」

魔王「……奇遇だな。我もだ」

土王「ウン。デモ、オレモトニモドス。アリガトウ、マオウサマ」

魔王「よい。もう奪われるなよ」

土王「ン」



側近「さて、次は木王の領土ですが、ここからだといささか距離がありますね」

魔王「うむ、1度城に戻る。どのみちヤツの領土を取り返すには、ヤツの案内が必要だ」

側近「たしかに。では、魔王城に……」




ガーゴイル「魔王さま! ここにおられましたか!」バサッ

魔王「む?」

側近「城の警備兵? どうしました?」

ガーゴイル「魔王城へお戻りください! 魔王城が攻められております!」

魔王「なに……!?」

側近「そんな! 人間の軍勢にそんな動きはなかったはずです!」

ガーゴイル「勇者です! 勇者の一行が城に!」



ーー魔王城



木王「……残念ね……。……ここまでだわ……」



勇者「驚いたな。こんなことができるなんて」

戦士「城の中に森を作るとはな、やはりバケモノだ」



木王「……魔王さま……最後に一目……」ドサッ



魔法使い「……え? こ、こいつ今なんて言った?」

僧侶「こ、この魔物、まさか……魔王じゃなかったのですか?」



魔王「木王……!」フッ



勇者「!?」

戦士「な、こいつ今どこから!?」



魔王「貴様ら、我の不在を狙ってこの城を落とすとは……!」



魔法使い「ち、ちょっと待ってよ! こいつが本物の魔王だっていうの!?」

僧侶「そんな、もう体力も魔力も……」


魔王「何が勇者……! 人間風情が、木王を……!」


勇者「! マズい!! みんなありったけアイテムを!!」


魔王「生かして返さんぞ!! 人間ども!!」カッ



僧侶「勇者…ま、申し、訳……」ドサッ

勇者「そんな、僧侶……!」


戦士「」

魔法使い「」


勇者「戦士……魔法使い……!」

魔王「……最後までその目を保てたことは讃えてやろう、人間」

勇者「くそ、くそぉ!!」

魔王「失せよ、雑魚めが」ボッ

勇者「ガッ………!」ドサッ

魔王「……ふん、たわいもない……」



側近「魔王様」スッ

魔王「側近、城内は」

側近「……みな、手ひどくやられていました。ですが、木王の『森』により、半数近くは無事です」

魔王「……そうか。半数も、殺されたか……我が、同胞たちが……」

側近「魔王様……」

魔王「……戦争だ、致し方あるまい。……木王よ、すまなかったな……」

側近「……四天王に恥じぬ、立派な最期であったと思います」

魔王「ああ。……やられた者どもも含め、丁重に葬ってやれ」

側近「はっ。……勇者どもは?」

魔王「……身ぐるみ剥いだのち、どこぞにでも打ち捨てよ。装束のみ利用する」

側近「と、言いますと?」

魔王「勇者を討ち取ったとなれば、人間どもも和睦に応じよう。討ち取った証に装束を向こうに叩きつける」

側近「なるほど、分かりました」

魔王「人間の王には、木王の領土の返還を条件とした和睦の書状を書く。装束もろとも、ハーピーの一団に持たせ、届けさせよ」



ーー一週間後


側近「魔王様、人間の王より書状が届きました」スッ

魔王「きたか、どれ……」カサ…

側近「……」

魔王「ふん、なるほど」

側近「向こうの王は、なんと?」

魔王「和睦に応じるそうだ。ついては、詳細を決めるため、会合を開きたいと」

側近「おお! これで戦争も終わりますね!」

魔王「……」

側近「? どうしました?」

魔王「和睦の条件である、木王の領土の返還。これを向こうは飲んだ。だが、向こうも条件を出してきた」

側近「……人間どもとて、軍が負けたわけではありませんからね。それで、どのような?」

魔王「……魔族の幹部を1人、人間の国に住まわせろとのことだ」

側近「はい!?」

魔王「その代わり、人間の幹部も1人、我が国に住まわせる、と書いてある」

側近「……互いに人質を出し合う、ということですか?」

魔王「……書状では互いの文化を学ぶため、と書いてあるが、実質的にはそういうことだろう」

側近「……どうするのです?」

魔王「呑む。それで戦争が終わるならよかろう」

側近「はっ。……それで、だれを人質に出すのです?」

魔王「……」





水王「……それで? アタシに行けって?」

魔王「……うむ」

水王「あのさ、魔王さま。マジなに考えてんの? いくら魔王さまでもぶっ殺すよ?」

側近「こら! 水王!」

水王「はぁー!? だってアタシの領土どうすんだよ!!」

魔王「ウンディーネに任せる」

水王「だ・か・ら!! アタシの領土だっつってんの!! ウンディーネにアタシの領土やれってか!? はあ!?」

側近「水王! いい加減にしなさい! 」

水王「うるせえな! じゃあアンタ行けばいいじゃん! アタシ領主だぞ!?」

魔王「ダメだ。側近では有事の際に殺されるやもしれぬ」

水王「……ゲキ弱だもんね、こいつ」

側近「私に武力があればとうの昔に土王に代わって四天王についています」フンス

水王「胸張ってんじゃねーよ、アタマも弱くなったんならアンタもう生きてる価値ねーから死ね」

側近「」


魔王「……文化を学ぶという名目上、知力も必要なのだ」

水王「……あとの四天王はバカしかいねーもんね」

魔王「頼む。知と武を併せ持つお主しかおらんのだ」

水王「頼むって……はぁ、じゃあ半年だけね? それ以上は絶対ヤだから」

魔王「……すまぬ」

水王「謝るくらいなら最初から提案しないでくんない? ま、魔王さまらしくていーけど」



ーー二ヶ月後、魔王城



魔王「……よく来たな」

女騎士「お初にお目にかかります。王国騎士軍副団長、女騎士と申します。以後、よしなに」

魔王「……うむ」

側近(………副団長、って、そんな程度の位の者をよこすとは……)

魔王(なに、こちらも水王ほどの実力者を送っておるのだ。人間どもの考えも分かるだろう)

側近(なるほど……)

女騎士「なにか?」

側近「いえ、なにも」



魔王「本日よりこの国にて過ごしてもらうが、何か不便があればなんなりと申しつけよ。メスの生活はよく分からんのでな」

女騎士「…………………どうも」

魔王「? ……生活の供に、ハーピーとサキュバスを日ごとに交替でつける。何かあれば伝えよ。メス同士であれば気兼ねも少なかろう」

女騎士「………………」

側近「女騎士どの、我が王に対して返事もなしとは無礼ではありませんか?」

女騎士「……何を言う。無礼はそちらだろう!!」

側近「なっ!?」

魔王「?」

女騎士「人のことをメス扱いなど! 魔物どもめ、貴様ら何様のつもりだ!!」

側近「……?」

魔王「……?」

女騎士「……なんだ、不思議そうな顔をして」イライラ

側近「……言ってる意味が分かりませんが?」

女騎士「なに?」

魔王「……察するに、人間の国では『メス』という単語は蔑称になるのか?」

女騎士「えっ」

側近「我々の文化にはオスかメスか、陰か陽か、有機か無機かなどがありますが、人間の国には他にもあるのですか?」

女騎士「」

魔王「どうした?」

女騎士「そ、その、『メス』とは、こちらでは主に家畜などの雌雄を指す呼び方で……人間には『男』か『女』が一般的で」

側近「ははあ、なるほど」

女騎士「も、申し訳ありません。悪気もないのに、無礼な口を……!」

魔王「よい。そもそも、このような互いの文化の違いを学ぶために設けられた機会だ。こちらこそ悪かった」

女騎士「!? い、いえ、そんな、その……!?」

側近「? どうしました? そんなに取り乱さないでください」

女騎士「!?……………、……………、ふーっ………失礼、しました……」

魔王「……そう気にするでない。ハーピーを呼ぶ。今日は下がられよ」

女騎士「はっ……」



魔王「……どう思う?」

側近「……『メス』という単語がどれほどの蔑称にあたるかは分かりませんが、何か計略のある者があそこまで逆上して立場を悪くしようとはしないでしょう」

魔王「うむ、我も同意見だ。しばらくは様子見でよかろう」

側近「はっ」

魔王「……土王と木王の領土はどうなっている?」

側近「土王の領土はほぼ復興も終わっております。木王の領土は花魔道の一族に任せておりますが、やはり木王がいたころほどに戻すには時間がかかりそうです」

魔王「そうか……、やはり偉大であったな、木王は」

側近「ええ。それに、口数こそ少なかったですが、誰よりも魔王さまを慕っておりました」

魔王「そうだな……。あやつの死を無駄には出来ぬ。人間の国の動きは逐一報告をあげるよう、全土に伝えておけ」

側近「はっ」



ーー数日後、魔王城



炎王「ういっす! 失礼するぜ、魔王さま!」

側近「ノックくらいしなさい」

魔王「炎王。どうした」

炎王「ちっと人間の国絡みで報告でさあ! 最近この城にも来てなかったしよ! ほれ、これ報告書!」ポイ

側近「! なにか不穏な動きが……? ……これは!!」

炎王「まーだ何とも言えねえんだけどな! 参考情報ってヤツでさあ! ……結論から言うと、勇者のヤローが生きてる可能性がありまさあ」

魔王「なに……?」

炎王「ひくいどりとヤタガラスの情報収集よりゃあ、どうも勇者は死んでも女神の加護とやらで復活するらしい」

側近「人間ではなく、アンデットの魔族……? いや、その割には腐敗臭も……」

炎王「ちげーちげー。人間として復活するんだ。ピンピンのキレーな身体でよ」

魔王「というと?」

炎王「勇者はまだ戦争初期のころ、 オーク族に討ち取られてるみてーなんスが、いつの間にか死体が消えてやして……その後、木王と土王の領土を攻めた」

側近「……見間違いでは?」

炎王「イヤ、戦時中の捕虜でやたら勇者を信仰しているヤツもいた。単純な武力だけじゃ、ああはならねーな」

魔王「ふむ……」

炎王「こっちの手のモンを人間の国に送りこめりゃ、もちっと正確な情報も望めるが……」

側近「駄目です。ようやく和睦が済んだのに、いきなり領土侵犯など」

炎王「だわな。ま、仮に勇者が生きてたとして、まだ魔王さまの首を狙ってる訳じゃねーと思うしよ」

魔王「……いや、いい情報であった。よくやった、炎王」

炎王「その言葉ぁ、ひくいどりとヤタガラスにかけてくだせえや! んじゃ、俺ぁかえるぜ!」



魔王「……水王から便りはあったか?」

側近「今朝方、ゲルスライムが持ってきました」スッ

魔王「玉か。映せ。勇者の情報もあるかもしれぬ」

側近「はっ」





ブン……



水王『えーと、お久しぶり、魔王さま。こないだこっちに着いて、人間の王に会ったわ。アレ、魔王さまがタイマン張ったらワンパンで終わるね』


側近「……水王め、あまり向こうを挑発していなければいいのですが……」


水王『あ、あとさ、そっちの人質にあんまメスとか言わないでね。あんまいい顔しないと思う』


魔王「ふっ。もう遅い」


水王『そんで、今はこっちのこと色々教えてもらってるよ。やっぱり価値観とか食い物とかちげーね。感心することもあれば首をひねることも多い』


側近「ふむ……」


水王『いっぱい伝えたいことあるけど、今日はとりあえずこの辺で。ウンディーネのこと、気にかけてあげてね。それじゃ』


魔王「うむ、承った」


ブツン……



側近「……発言内容はともかく、元気そうでしたね」

魔王「うむ。文字通り水が合うか不安であったが、あれならば心配なかろう」

側近「ええ。……ただ、勇者については言及していませんでしたね」

魔王「ふむ……一応、こちらから注意を促しておくか」

側近「そうしましょう。それと、ウンディーネですが、今のところよく統治できているようです」

魔王「うむ。さすがに組織体制がしっかりしている。あれならば、もう1年くらい……」

側近「水王にこの城を水没させる覚悟があるならば、それも一手かと思いますが」

魔王「やはり半年で戻らせるぞ」

側近「懸命な判断だと思います」



魔王「……と、我としたことが、勇者の情報について、もっと身近で有力な情報源を忘れていたな」

側近「はい? ……あっ」

魔王「そう、人間の国より来ている女騎士だ」

側近「なるほど、あの者なら確かに……しかし、知っていたとして、そう簡単に口を割るでしょうか?」

魔王「ここでそれを論議しても仕方あるまい。女騎士の今日の予定は?」

側近「えー、土王の領土にて視察、となっております」

魔王「ならば、土王の領土まで出向く」

側近「お一人ですか?」

魔王「うむ。四天王のもとへは空間移動で向かえるのでな。政務は任せたぞ」フッ



ーー土王の領土『泥風呂』



女騎士「こ、これに入るのか!?」

サキュバス「ええ、そうよぉ」

土王「ヒトガタ、ハダガスベスベニナル。メスハコノム」

サキュバス「土王どのぉ?」

土王「ゴメン、オンナモコノム」

女騎士「し、しかし、いくらなんでも……」

サキュバス「髪も結い上げたし、上がるときに泥を洗い流せば何も問題はないわぁ、行きなさい」トン

女騎士「わ、まっ!」ドボン!

サキュバス「じゃ、私も」チャプ

女騎士「……! お、おお? これは、ふぅ、〜〜」

サキュバス「あらあら、気持ち良さそうねぇ」クスクス

土王「キニイッタナラ、ヨカッタ」



魔王「ここにおったか」フッ

女騎士「ひゃ!?」ビクッ

サキュバス「あら、魔王さまぁ」

土王「マオウサマ、ドウシタ?」

魔王「女騎士に用があってな、少しよいか?」

女騎士「ゆ、湯浴みの最中に入ってくるな!!///」

魔王「?」

サキュバス「魔王さまぁ、人間はオトコに裸を見られるのが嫌なのよぉ」

魔王「……泥で見えぬが?」

女騎士「我が国では女の湯浴みの場に男が入ることは犯罪だ!///」

魔王「む、そこまで厳しいのか。すまぬ、すぐに出る」



魔王「出たか。さっきはすまなんだな」

女騎士「い、いえ、文化が違うのです。こちらこそ無礼な口利きを……」

サキュバス「……土王どのはいいのかしらぁ?」

土王「オレ、ムキ。メ……オンナノハダカミテモ、ナントモオモワナイ」

女騎士「ならセーフです」

サキュバス「そういうものなのねぇ……」



魔王「視察は順調か?」

女騎士「ええ、私が考えていた魔物の国とは大きく違っておりました」

魔王「ほう?」

サキュバス「この娘、最初に魔王さまと対面したとき、殺されると思ったみたいよぉ」

女騎士「さ、サキュバス!」

魔王「? 何かあったか……?」

サキュバス「魔王さまは暴君で、気に食わないことがあればすぐに相手を殺す、ってイメージが人間の国にはあるらしいわぁ」

女騎士「いや、その……」

魔王「……その割に、顔合わせの段でいきなり怒鳴られた覚えがあるのだが」

サキュバス「この娘、直情的だから」

女騎士「……ぁぅ……///」

魔王「そういうものか」


魔王「それで、お主に尋ねたいことがあるのだが」

女騎士「私にですか? お答えできるものであればなんなりと」

魔王「勇者のことについて色々聞きたいのだが、構わぬか?」

女騎士「勇者どののことですか? 構いませんが」

魔王「そうか。ではまず……勇者は生きているのか?」

サキュバス「!?」

女騎士「ええ。生きておりますが」

土王「ナンダト!?」



女騎士「え? なにをそんな……?」

魔王「……我が和睦を求めた際、我は勇者の装束を送りつけた。その後、人間の国の王は和睦に応じた」

女騎士「ええ。かの魔王どのが戦場に降り立ち、我が軍の一団を潰し、挙句勇者どのも敵わぬとなれば、和睦しかないと」

魔王「……なるほどな」

サキュバス「あのボーヤ、生きてるのねぇ。魔王さまが討ち取ったんじゃなかったのかしら?」

魔王「うむ」

女騎士「ああ、勇者どのには女神さまの加護がありますので。いくらでも生き返ります」

土王「メガミ? ダレダ?」

女騎士「人間の国の神様です。天界におられますから、姿を現されることはありませんが」


魔王「……そいつはなぜ、勇者に肩入れする?」

女騎士「私も詳しいことは分かりませんが……勇者さまには桁外れのチカラが眠っていて、それがあれば魔物の国を、失礼ですが、滅せると」

魔王「……人間の国の王は、我ら魔族の領土が南側にある故、その肥沃な土地を求めて進軍したと言っていた」

女騎士「ええ、その通りです」

魔王「だが、その口ぶりでは、まるで女神が勇者に我を殺させようしていたように聞こえるが?」

女騎士「いえ、勇者どのが女神の加護を受けたのは戦争が始まったあとだと聞いております。女神さまも人間の国の神ですから」

サキュバス「人間を戦争に勝たせるためにチカラを与えた、ってことねぇ」

土王「……ムズカシイハナシ、ヨクワカラナイ」



魔王「……それと、勇者はまだ我を狙っておるか?」

女騎士「それはないと思いますが……。戦争終結の折、顔を合わせたのですが、そんな雰囲気はありませんでした」

魔王「ふむ……」

女騎士「そもそも、我ら人間の国では、魔物とは何をしてくるか分からない不安の対象でした」

サキュバス「ひどい言われようねぇ」

女騎士「ですが今回、私は魔物の国の文化を学び、不安に思うことは何ひとつないと分かりました」

土王「アタリマエダ」

女騎士「このことは我が王にも、同僚にも、民にも、必ずや伝えます。これからはもっと交流を深めていただきたい」

魔王「……そうか。ぜひともそうしてもらいたい」



側近「魔王さま! 一大事です!」バッ

サキュバス「あらぁ、側近どの」

魔王「どうした? 血相を変えて」

側近「水王が……討たれました!!」

魔王「なに!?」

土王「!?」

女騎士「水王ってたしか……え?」

側近「下手人は勇者! 水王を切り捨て、逃走したとのこと! ウィッチの水晶に映っておりましたので、間違いありません!」

サキュバス「あのボーヤが……?」

魔王「……水王のもとまで行く。土王、共に来い」

土王「オ、オウ!」

魔王「側近、炎王には?」

側近「すでに通達済みです!」

魔王「ならば共に来い。サキュバス、女騎士を任せた」

サキュバス「えぇ」

女騎士「わ、わたしは……」

魔王「飛ぶぞ。離れるな」フッ



ーー城下町



魔王「……ここは……都市部か」フッ

側近「……どうやらそのようで」



「ひっ、なんだ!」「こ、こいつら魔物じゃないか!?」

「なんで急に!!」「逃げろ! 殺されるぞ!」



土王「ニンゲン、ウルサイ。ウメルカ?」

魔王「待て、土王。水王まで埋める気か」

側近「魔王さまがここに移動された以上、近くに水王がいるはずですが、どこに……」



???「失礼、魔物の国の王、魔王どのとお見受けする!」


土王「ン? ウマトニンゲンガタクサンキタゾ」

魔王「……装束が女騎士に似ているな。軍の者か?」

聖騎士「いかにも! 王国騎士軍軍団長、聖騎士と申す! 魔王どの、いきなり入国されるては困り申す!」

側近「何を言ってるんですか! 水王に手をかけておきながら!」

聖騎士「すでに耳に入っておられたか……現在、その件については調査中である! 国に戻り、報告を待たれよ!」

土王「マテルカ!」

魔王「その報告とて、貴様らの手によるものであろう。信憑性に欠ける」

聖騎士「我が国を疑うというのか! 」

側近「この状況で信じろって方が無理ですよ!」

聖騎士「ならばどうされるおつもりか! 我が国を荒らすというのであれば、我々とて相応の措置を取る!」

土王「ヤルキカ!?」

聖騎士「お望みとあらば! お相手いたす!」チャキ

魔王「……よかろう。水王を殺されたとなれば、我とて黙っておれぬ!!」



???「ちょっと待ったあ!!」


聖騎士「っ!」

魔王「!」


水王「人を勝手に殺さないでくんない!? ッケホ!」


側近「水王!」

土王「オオ!」


僧侶「水王さん! 無理しちゃダメですよ!!」

水王「無理しないで魔王さま止められる訳ないでしょ……かはっ、はっ」



魔王「生きておったか、水王! この者は……?」

水王「はぁ、はぁ……アタシの、世話役。こいつが介抱してくれなきゃ、死んでたわ……」

僧侶「ど、どうも……」

側近「……? どこかで見たような……?」

水王「ゲホッ、はぁ、勇者一行の、1人よ、そいつ」

土王「ナニ!? ……ン? アレ?」

魔王「何故生きて……いやそれよりも、勇者の仲間がお主を助けたのか?」

水王「そうよ……。魔王さま、たぶん今回のコレは、勇者の単独行動。国ぐるみの作戦なんかじゃない……」

魔王「……」

水王「この娘も、他の人間も、アタシによくしてくれた……こんなこと、するはず、ないよ……」





???「極大雷撃魔法」カッ

???「極大灼熱魔法!!」カッ



ビカッ!!!!!!!



土王「ウオッ!? ナンダ!?」

聖騎士「っ! 魔法同士のぶつかりか!? よくもこんな……」



勇者「ちっ、邪魔を……」

炎王「火ャッハーー!! やり方がセコいな!! 勇者!!!」



側近「炎王! それに、勇者!!」

魔王「我らを狙っていたか……」

僧侶「勇者さま! なんでこんなことを!!」


勇者「なんで? こいつらは魔物だ。だから倒す。僧侶、きみこそ何をしてるんだ」


聖騎士「勇者め……クソ! 騎士隊! 各自、町人たちを避難させよ! 速やかに郊外へ!」

騎士隊「「「「はっ!!!」」」」



魔王「……土王、側近と水王を守れ」

土王「オウ!」

側近「すみません……」

水王「ちきしょ……」



炎王「さあさあさあ! 燃え上がってきたぜえ!! カリカリに焼いてやっから覚悟しろや!!」


勇者「……僧侶、きみは味方してくれるね?」

僧侶「……戦士さんも、魔法使いさんも、私も、もうあなたにはついていけません」

勇者「残念だ」

魔王「勇者よ、なぜ1人で立ち向かう?」

勇者「勇者だからさ。たとえ1人になろうとも、ボクは抗い続ける」

魔王「……気でも触れたか。あのときの目とは別物よ」




炎王「くらえや! 極大爆熱魔法!!」カッ

勇者「フッ」ヒュッ


スパァン!!


炎王「はっ!?」

勇者「まず1人」ヒュッ

僧侶「! 聖壁魔法!!」カッ


バギィ!!


炎王「グオ!?」ドガガ!

魔王「炎王!!」

勇者「……僧侶、邪魔をするな」

僧侶「嫌です!」

炎王「ててて、ありがとな。嬢ちゃん」

魔王「気をぬくな、炎王。我が討ち取ったときとは別物だ」

炎王「みてぇでさぁ。いくら強えっつってもあそこまでじゃなかった」



勇者「僧侶、魔物を庇うということは、きみは教会の教えにすら反するのかい?」

僧侶「違います。私は今、人を守りました。魔物の国の人々は、教えに出てくる悪魔なんかじゃありません」

勇者「いいや、悪魔さ。それに僧侶、女神さまが聖別したぼくに反抗するということは、女神さまにも反抗するということだよ?」

僧侶「それは……」

勇者「それすらも分からないのか……きみはもう、僧侶じゃないよ」

僧侶「っ!」

勇者「なら、僧侶。せめてきみはぼくの手で」

魔王「連続爆裂魔法」カッ

勇者「! 連続雷撃魔法」カッ



ドガガガガガガガガガガ!!!!



魔王「ふん」

勇者「っ、少しもらったか。さすがは魔王」


炎王「ま、魔王さまの魔法を受けてもアレかよ」



魔王「人間の国には悪いが、もはやこの地は更地になるより他ないな」

勇者「さすがは魔王、やはり人間の敵、だ、ガ!?」ビクッ

僧侶「……?」

勇者「な、ん!? バカな!? 出、てく、ひさなま×<×:・°,-!?」ガクガクガク

炎王「な、なんだ? 1人でのたうち回ってら」

勇者「ガ……ピ……めぇ、僧侶に何しようとした……」

魔王「……? 目が、変わったか?」

勇者「そ、りょ、逃げ、ロ」

僧侶「勇者さま……?」

勇者「マ、王。オレを、殺せ! この、かラだハ、女神に乗っ取らレテ」

炎王「ア? んじゃあ、さっきまで戦ってたのは、女神?」

勇者「ソうだ、早くしろ、俺もモウ、ゲンか、ア」

魔王「……」



魔王「……土王! 我らごと埋めよ!!」

土王「オ、オウ!!」カッ


ズゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!



聖騎士「な、地形が……!」

側近「魔王さま!? いったいなにを……!?」

水王「魔王さま……??」



ーー地中


炎王「これじゃ見えねえな。閃光魔法」カッ


ピカッ


勇者「……はっ、はっ、はっ、はっ」

魔王「さて、今いるのは女神か、勇者か」

勇者「……」

僧侶「……きっと女神さまです」

勇者「……よく分かりましたね、僧侶」

僧侶「……」




炎王「土王の極大魔法だ、俺らもアンタもそうそう簡単には抜け出せねえやな」

勇者「ふふ、果たしてそうでしょうか」

魔王「我らを同時に相手取り、逃げ切れるというのであれば、やってみるがいい」

勇者「……」

僧侶「女神さま、なぜこのようなことを?」

勇者「なぜ? 魔物を倒すために決まっているでしょう?」

炎王「だから、なんで俺らぁ襲うんだよ。もはや俺らと人間との和睦は結ばれてんのによ」

勇者「古来よりこの地は私が信仰を集めていた地です。私を信じぬあなた方など、消え去って当然でしょう」

魔王「なんとも傲慢だな。やはり、貴様が人間の王をけしかけておったか」

勇者「ええ、そうですとも。神官にそうするよう、御告げを出しました」

僧侶「そんな……」

炎王「……ヤタガラスの話じゃ、人間の国は俺らに対してメチャクチャな印象持ってるらしいけどよ」

勇者「そんなことは知りませんね。もっとも、大昔に魔物との交流を禁じて以来、人が未知の生命体に対してどんな恐怖を抱いてきたかは想像つきますが」

魔王「つまりは貴様が元凶か。こんなにも欲にまみれた者が神か」

勇者「魔王の発言とは思えませんね」

僧侶「……」




勇者「さて、ここからどうするつもりです? ここでやり合うというのであれば、お互い生き埋めは免れませんが」

炎王「火ャハハ、俺ぁ望むとこだぜ?」

勇者「虚勢を……」

魔王「早まるな、炎王。こやつ程度、もっと楽に殺せる」

勇者「ほう? たかだか魔王が、部下の助力を得た程度で私を倒すと?」

魔王「ふん、勇者の器で我を倒そうとすること自体、傲慢よ」

勇者「わざわざ私が聖別した人間ですよ? この身体を十全に使えば、あなたごときに手こずりはしません」

魔王「だから傲慢だと言ったのだ。イヤ、慢心というべきか」

勇者「? 話が見えませんね」

魔王「現に貴様はその器を十全に使えておるまい。勇者の魂は貴様の中にいたままだ」

勇者「なにを……ぐっ!?」ガク

僧侶「! 勇者さま!」

勇者「が、ァ、ああ! 魔王、言ってくれんじゃね、が、やめなさい! 人間が、わた」

炎王「火ャハ、熱いなぁオイ!! 勇者と女神が身体ん中で暴れてんのか!!」

勇者「やれ、やめ、や、あ、」ガクガクガクガク

魔王「スキだらけだが……」スッ

僧侶「ま、待ってください! お願いです! やめてください!!」

炎王「はあ? 何言ってんだ、嬢ちゃん」

僧侶「勇者さまも女神さまも私には、いえ、人間には大切な存在なのです! お願いします! 殺さないで!!」

勇者「そ、りょ……」

魔王「……ふん、ならば」






魔王「和睦、だな」








炎王「はあ!? またかよ!」

魔王「女神と勇者を討ち取った場合、その信者どもは黙っておるまい。現に討ち取ろうとしただけで、こんな小娘が我に立ち向かうのだ」

僧侶「それは……と、当然です!!」

魔王「であれば、ここでこやつらを討ち取るよりも、和睦を結んだ方がすんなり事が運ぶ」

炎王「……なるほどなるほど、信者も魔族に友好的になるわな」

勇者「ぐうッ……!」

魔王「天界というものがどこにあるのか知らぬが、少なくとも地中にいては天界には逃げられまい」

勇者「……! ……! ……!!」

魔王「それでも尚、抵抗するというのであれば……次善の策だ。致し方あるまいが、この場で討ち取る」




勇者「……いい、でしょう」

僧侶「!」

勇者「それで? 和睦の条件はなんです?」

魔王「人間たちの前で、正式に我と和睦を結び、人間と魔族の交流を認めよ」

勇者「……いいでしょう。その代わり、そちらも信仰の自由を認めなさい」

魔王「よかろう。貴様のような輩を信仰する物好きが、我が同胞にいるかは分からんがな」

僧侶「……」

魔王「ああそれと、その身体、勇者に返してやれ」

僧侶「!」

勇者「言われなくともそのつもりです。人間の器に固執する理由はもはやありませんので」

僧侶「ほっ……」




炎王「ちぃっと納得いかねえなあ。このあとこいつぁ天界ってのに帰るんですぜ? そこで反故にされたらどうすんでさぁ?」

魔王「そのときは、我が軍が総力を持って人間どもを根絶やしにする」

僧侶「!?」

魔王「信仰する人間そのものが消えてしまっては、存在の意義もあるまい? 我を殺すはずの勇者はこのザマだ」

炎王「火ャッッッハァ!! さっすがでさぁ! 魔王さま!!」

勇者「いいでしょう。私とて女神。無益な殺生は趣味ではありません。魔族からも信仰が得られるなら文句はありません」

魔王「決まりだな」








ーー数ヶ月後、土王の領土『泥風呂』



魔法使い「ふふーん、ここが噂の『泥風呂』ね♪」

土王「オウ、キョウモ、オンナガオオイナ」




ーー水王の領土『水王の箱庭』



僧侶「うわあ……」

水王「ふふ、アタシの自慢のアクアリウムだよ。存分に楽しんでって」



ーー炎王の領土『闘技場』



戦士「だーっ!! また負けた!! チクショウ!!」


炎王「火ャハハ! 鍛え直してこいや!」



ーー花魔道の森(旧森王の領土)『花の城』



側近「ーーでは、教育大網はこれでよろしいですね?」

勇者「ああ。今までの教育は女神の教えに添いすぎていた。魔族と人間の共学になるんだから、このくらい変えなきゃな」




ーー城下町『大通り』


サキュバス「あらぁ、勇者のボーヤよりもいいオトコね。どう? いいコトしない?」

聖騎士「!?」

女騎士「やめんかサキュバス!!」

ハーピー「わー、人間の国も賑やかたねー」

ウンディーネ「ええ、とっても」




ーー王国城内、『王の間』



魔王「……国王よ、前々から尋ねたいことがあったのだが」

国王「ほっほ、何かな?」

魔王「我が和睦を提案した際の、貴殿が出した案だ」

国王「おお、異文化交流のことかの」

魔王「そうだ。我はあの案を、人質交換の案として見ておった」

国王「おや、そうかね」

魔王「だが、異文化交流は当初の目的どおりに見事成功した。貴殿は人間と魔族がここまで友好的になれる見越して、あの案を出したのか?」

国王「ほっほっほ、考えすぎじゃよ。ワシとて女神さまに唆されて戦争を始める愚王じゃ。軍を再編成するための時間稼ぎしか考えておらなんだ」

魔王「つまり、我の考えどおり、人質交換が目的であったか」

国王「ああ。だがのぅ、はじめて水王どのを見たとき、なぜ魔族と争わねばならぬのかと、ふと思ってのう」

魔王「ほう……」

国王「同じ言葉をかわし、同じ物を見ているのだ。泣く泣く兵を死地に送るより、笑いながらこの魔物と暮らしたいと思った」

魔王「……ありがたい。これからもよろしく頼む」

国王「ほっほ、こちらこそじゃよ。魔王どの」








この後、この大陸において、人間と魔族の交流は続き、独自の発展を遂げていった。


人と魔族が助け合うこの大陸は、後の世において、『理想郷』という伝説として深く刻まれ、語られる。


そしてまた今日も、どこかで人間と魔族の笑い声が聞こえるーーーー。










魔王「和睦、だな」


これにて、終幕。





このSSはここまでです。
もうちょっと風呂敷を広げたかったけど、畳む時間も余裕も体力もなかった。
社会人は辛いね。

久々にSS書いたので満足できました。
少ししたらhtml依頼出します。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom