和紗ミチル「バレンタインは悲劇しか生まない」 (74)

深夜、あすなろ市。

ミチル「ふんふんふ〜ん♪」

家の中、キッチンにて。

ミチルが鼻歌を歌いながら、お菓子作りをしていた。

ミチル「明日は楽しい楽しいバレンタインだ〜♪」

魔法少女の仲間が出来てうれしいミチルは、バレンタインに聖団全員にチョコをあげようと画策していた。

ミチル「よしっ、後は焼くだけ焼くだけ♪」

オーブンの余熱が完了し、中へ入れてスタートボタンを押す。

ミチル「これで焼き上がりを待つだけだね!みんな、喜んでくれるといいなぁ」

ひと息つき、椅子に座りながらオーブンの中を楽しそうに眺めるミチル。

ミチル「んっ……ふあぁぁぁぁぁ……さすがにちょっと眠たいなぁ……」

焼き上がりを待ちながら、ミチルは眠たそうにあくびをする。

ミチル「焼き上がりまでちょっと時間あるから……ちょっとだけ……」

テーブルに突っ伏し、ミチルは寝息を立て始める。

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数十分後。

ミチル「………ん」

焼き上がりを告げるオーブンの音で、ミチルは目を覚ました。

ミチル「ん〜〜〜〜〜っ……焼き上がったぁ……?」

大きく伸びをし、あくびも洩らしながら、ミチルは椅子から立ち上がる。

ガチャリと、オーブンのドアを開いた。

チョコレートを浸透させた生地を焼いたクッキーの香ばしい香りが、キッチン一帯に漂い始める。

ミチル「ん、焼き上がってる♪」

オーブントレーをガスコンロの上に移動させ、冷めるのを待つ間に、包装セットを用意する。

ミチル「自分の分も取って、あとは聖団のみんなにだから、全部で七つに小分けしなきゃだね」

聖団みんなへのメッセージカードも一緒に封入し、準備は終わった。

ミチル「よしっ、終わった終わった、っと!」

自分の分はメッセージカードを入れず、聖団のみんなに渡す六個とは別にしまう。

ミチル「さってと、明日は朝早いし、もう……寝よう……」

重いまぶたをこしこしと擦りながら、ミチルは座敷へと向かう。

小皿に五つだけ取ったクッキーを仏壇に供える。

ミチル「おやすみ、グランマ」

両手を合わせ、グランマにおやすみの挨拶をして自室へと向かう。

ボフン、とベッドに飛び込み、布団にくるまると、ミチルはすぐに寝息を立て始めた。

ミチル「えへへ……明日が楽しみだぁ……♪」

翌日、昼過ぎ。

ミチル「行ってきますグランマ!」

家を出る時の恒例行事を済ませ、ミチルは家を出る。

手には、聖団全員に渡すバレンタインチョコクッキーが入ったカバン。

ミチル「まずは海香の家に行ってみようっと!」

駆け足で、少しだけ楽しそうに、ミチルは海香の家へ向かう。


海香の家の呼び鈴を押す。

『はい、どちら様ですか?』

ミチル「あ、海香!わたしだよ、ミチル!」

『カズミ?別に呼び鈴なんて押さなくっても、そのまま上がって来てくれていいのに』

ミチル「ダメダメ、親しき仲にも礼儀あり、ってね!」

『真面目だねえカズミは。あがって、鍵は開いてるから』

ミチル「りょーかい!」

海香の了承を得たミチルは、家の中へと入って行く。

すみません、一旦投下中断します
0じ辺りに投下再開します

居間では、海香がPCに向かっていた。

ミチル「執筆中?頑張ってるねぇ」

カバンを持ったまま、海香の近くへ歩み寄る。

海香「今は執筆中じゃないの。思いついたネタを、メモ帳に羅列してるだけ」

ミチル「そうなんだ。邪魔しちゃったかなと思ったけど、それならダイジョブだね」

海香「別に、執筆中だろうと邪魔だなんて思ったりしないけど……それで、どうしたの?わざわざウチまで来るなんて、珍しいよね。いつもはカズミの家に集まるのに」

ミチル「ん?ふふ〜ん、気になる?気になるよね?」

海香の問いを受けて、ミチルは嬉しそうに笑顔になる。

海香「? そりゃ、気になるに決まってるじゃない」

ミチル「オッケーオッケー!もったいぶらずに出そうじゃないか!」

そう言って、カバンの中からひとつの包みを取り出した。

ミチル「はい、海香!ハッピーバレンタイン♪」

満面の笑みで、それを海香に差し出す。

海香「………え」

ミチル「ほらほら、受けとる!」

呆気に取られる海香の手をとり、それを渡す。

海香「………」

ミチル「それで、カオルはどこにいるの?」

海香「え、あ……カオルなら、部活に……」

ミチル「そっか、ありがと海香!んじゃ、わたし、他にも行かなきゃいけない所があるから!」

用件は済んだと言う体で、ミチルは海香の家を元気に飛び出していく。

海香の眼には、どこか急いでいる風に見えた。

海香「………バレンタイン……」

海香は頭の中で考える。

バレンタイン。

それは確か、女の子が意中の相手に愛しい気持ちを込めたチョコレートを渡すイベントだったか。

カズミは、確かその名を言いながらこれを自分に渡してきた。

海香「……いや、まさか、そんな……ね」

言いながら、ミチルから渡された包みをぼんやりとしながら開封する。

中にはチョコクッキーと、一枚のメッセージカードが入っていた。

海香「………」

メッセージカードを取り出し、それをマジマジと眺める。

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| 今夜7時、わたしの家に来て欲しいな♪                       |
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海香「……こ、これはまさか、本当に………っ?」

よろりとよろめきながら、次にクッキーをひとつ食べてみる。

甘くて、少しだけほろ苦かった。

海香「か、カズミ……いや、ミチル……」

普段呼び慣れているあだ名から本名に言い直し、ミチルが出て行った方向を眺める。

ふと先程の事を思い返してみれば、家を出て行く時のミチルは顔が赤かったような気がしてきた。

海香「………い、いや、え、えぇ、えええぇぇぇっ??ど、どうしたら……っ?」

そもそも、自分はミチルにそのような感情を抱かれる心当たりなどあっただろうか?

海香「……そう言えば……」

——————————

ミチル『うわぁ〜、海香、また新作出したんだ!』

海香『うん、まあね』

ミチル『いいなぁ〜、カッコいい。まだわたしと同い年だっていうのに、もう立派な海香先生だよね!』

海香『そんな、大げさだってばカズミ』

ミチル『ううん、カッコいいよ!将来海香と結婚する人は幸せだろうなぁ』

海香『結婚って……まだまだ先の話だよ』

ミチル『でも、幸せな事には変わりないよね!』

——————————

海香「……あの時に……?」

心当たりと言えば、それくらいしか思いつかなかった。

海香「ま、まさかカズミ……いや、ミチルに限ってそんな事は……」

混乱しながら、もうひとつだけクッキーを口へと運ぶ。

海香「…………おいしい」

〜〜〜

ミチル「みんなはどこにいるのかな〜っと!」

駆け足で街の中を進みながら、ミチルがそう呟く。

全員に渡すにしても、どこにいるのかわかってる人から回った方が効率がいいだろうか?

ニコ「おやおや、そこ行くかわいらしいお嬢さん」

ミチル「へっ?」

特に深く考えず、ミチルはその呼び止めに足を止める。

ニコ「おっと、足を止めちゃったねカズミ」

ミチルを呼び止めたのは、神那ニコだった。

にへらと笑いながら、足を止めたミチルの頭をポンポンと叩く。

店の中から出て来たところに、ちょうどミチルが駆けて行く姿が映ったようだった。

ミチル「ニコ!ちょうどよかった」

ニコ「ん?なんだ、私に何か用か?なんだか急いでたっぽかったけど」

ミチル「うん、ちょうどね、ニコを探してたんだ!」

ニコ「私を?」

はて、何の用だろうとニコは考える。

ミチル「えーっと、はい!ハッピーバレンタイン♪」

手に持ったカバンの中から包みをひとつ取り出し、それをニコに差し出す。

ニコ「おお、まさかカズミからバレンタインチョコを貰えるなんて。夢にも思わなかったよ」

深くは考えず、ニコはそれを受け取った。

ミチル「食べ歩きは行儀悪いからやっちゃダメだよ、ニコ!それは、家に帰ってから一人で食べる事!」

ニコ「りょーかい。ありがたくいただくよ、カズミ」

ミチル「ん!それならよし!じゃーね、ニコ!」

またも満面の笑みを浮かべ、ミチルは再度元気に駆け出す。

ニコ「なんて、ね」

ミチルの後ろ姿が見えなくなったのを確認したニコが、無遠慮にその包みを開ける。

ニコ「おー、カズミ特製クッキー!こりゃうまそうだ」

ミチルの料理の腕は、聖団全員の周知だった。

中に一緒に封入されているメッセージカードには目もくれず、そのクッキーをひとつ食べてみる。

ニコ「うん、んまい」

つまんだ指をペロリと舐めながら、ニコは満足げに頷く。

おいしいお菓子をもらったことでご機嫌なニコは、鼻歌を歌いながらそのクッキーを食べ歩く。

ニコ「〜〜〜♪」

メッセージカードの存在には、まだ気付いていなかった。

ニコ「〜〜〜……ありゃ、もうなくなっちゃったか」

箱の中に手を入れても、クッキーはもう見当たらなかった。

ニコ「もうちょい味わって食べればよかったかなぁ……うん?」

そこで、ようやくメッセージカードの存在に気付く。

ニコ「ご丁寧にメッセージカードまで入れてるとは……マメだなぁカズミは」

中からそのカードを取り出し、何気なしに眺める。

(AA略)

ニコ「…………」

ピタリと、ニコの足が止まった。

ニコ(まさか、このチョコクッキーは……?)

本命だったのではないか、との疑問が過ぎる。

ニコ「い、いやまさかかず……ミチルに限って、そんなことは……は、ハハ……?」

カズミ、と言いかけてミチル、と言い直す。

乾いた笑いが、ニコの口から漏れ出て行く。

ニコ(いや、待てよ……確か……)

——————————

ミチル『ねーねーニコ、何やってるの?』

ニコ『ん、カズミ?いやなに、グリーフシード無しのソウルジェム浄化システム、なんとか作れないかなぁなんて思ってたりしてね』

ミチル『グリーフシード無しの?そんなの可能なの?』

ニコ『可能か不可能か、じゃないだろ?ほら、あの白いのも言ってたじゃないか。魔法少女は条理を覆す存在だ、ってね。なら、不可能なことなんてきっとないんだよ』

ミチル『ふわぁぁ……なんかニコ、今すっごいカッコいい事言ったよね!?』

ニコ『ハッハッハ。まぁこの研究は半ば挫折しかかってるんだけどね』

ミチル『出来るよ!きっとニコなら出来る!』

ニコ『おお、カズミにそこまで期待されちゃ応えるしかないね!』

ミチル『頑張れ、ニコ!プレイアデス聖団の技術リーダー!』

ニコ『よっしゃ、いっちょやってやりますか!』

——————————

ニコ「………」

思い当たる節は、あった。

そして、自分の手の中にはバレンタインのチョコレート(既に平らげてしまったが)とメッセージカード。

ニコ「……………マジ?」

誰にともなく問い掛ける。

返事は、当然のごとくなかった。

〜〜〜

ミチル「学校とうちゃ〜く!」

校門の前で急ブレーキを掛け、ビシリと校舎を指差す。

ミチル「サッカー部は、冬季は筋トレとランニングをやってるって言ってたっけ。なら、体育館にいるのかな?」

校舎をグルリと周り、体育館の方へ向かう。

体育館の出入り口付近で、お目当ての人物を見つけることが出来た。

ミチル「あっ、いたいた!カーオルー!」

大きく手を振りながら、部員と談笑しているカオルの元へ走って行く。

カオル「ん?おっ、カズミじゃん。なしたの?学校まで来るなんて珍しいね」

部員との談笑から抜け、ミチルの方へ歩いて来る。

ミチル「えへへぇ、ちょっとね!カオルにどうしても渡したいものがあって」

カオル「あたしに?何々?」

ミチル「ジャジャン!ハッピーバレンタイン♪」

カバンの中から包みをひとつ取り出し、ニッコリと笑顔を浮かべながらそれをカオルに差し出した。

カオル「おぉう、バレンタインのチョコかぁ!カズミから貰えるなんて嬉しいなぁ!いわゆる友チョコってやつですな!」

ミチル「疲れてる時は甘いものがいいって言うからね!部活終わった後にでも食べてよ!」

カオル「ありがたや〜、ありがたや〜!」

両手で崇めるように持ちあげ、ミチルに向かって一礼する。

ミチル「それじゃ、部活頑張ってね!わたし、他にも行くところあるから!」

そう言い残し、ミチルは元気よく駈け出す。

カオル「元気いっぱいだねぇ、カズミは本当に」

ミチルから受け取った包みを片手で持ちながら、元気よく走って行くミチルを見送る。

カオル「さってと。部活部活〜っと……」

ミチルの姿が見えなくなった所で、カオルは部活へと戻って行く。

カオルがその包みを開けたのは、ミチルの言った通り部活が終わってからだった。

部員全員が帰ってから、カオルは部室でミチルから受け取った包みを開封した。

カオル「ん〜♪いいにおいだぁ〜♪」

開封と同時に、ふわりとした甘い匂いがカオルの鼻孔をくすぐった。

カオル「いただきまー……?」

中のクッキーのひとつを取り出そうとしたところで、一緒に封入されているメッセージカードの存在に気付く。

カオル「メッセージカード?へぇ……凝ったことするなぁカズミは」

クッキーを口へと運びながら、そのメッセージカードに視線を落とす。

(AA略)


カオル「今夜7時……?なんかあったっけ?」

腕時計で、時刻を確認する。

PM6:30

カオル「今から向かったら、ちょうどいい頃か……カズミの家の電話借りて、海香に連絡入れればいっか」

特に何の疑問も持たず、カオルはミチルの家へ向かう事にした。

〜〜〜

時は遡り、カオルと別れたミチル。

ミチル「あとはサキと、里美と、みらいか。どこにいるんだろ?多分みらいはアンジェリカベアーズだよね」

街の中を駆け抜けながら、ミチルは呟く。

ミチル「うーん、里美とサキはどこにいるんだろ?まあ、みらいに渡してから考えればいっか」

そう結論を出し、アンジェリカベアーズを目指す事にする。

ミチル「アンジェリカベアーズ、到着!っと」

博物館の前に到着する。

と、中から誰かが出て来る。

サキ「うん?カズミか」

ミチル「サキ!ちょうどよかった」

中から出て来たのは、浅海サキだった。

サキ「どうかしたのか?」

ミチル「サキに渡したいモノがあってね」

サキに近づきながら、カバンの中を漁る。

サキ「私に?」

ミチル「そそ!はい、ハッピーバレンタイン♪」

言って、笑顔を浮かべながら包みをサキに差し出す。

サキ「!?」

ミチル「? どうかしたの、サキ?」

サキは、差し出されたミチルの手を驚いた顔で眺める。

サキ「えっ、これ、私に?」

ミチル「うん、そうだよ?」

首をかしげながら、何かおかしかったか?と表情で訴える。

サキ(か、カズミ……いや、ミチルが私にバレンタインチョコをくれるとは……!?これは夢か!?)

自分で自分のほっぺをつねってみるサキ。

サキ「いひゃひゃひゃひゃ!?」

当然のごとく、痛かった。

ミチル「サキ?どうしたの?」

サキ「夢じゃない!」

ミチル「変なサキ」

サキ「ああ、いやすまない!ありがたくいただくよミチル!」

ひとしきり喜びに浸った後、ミチルから差し出された包みを受け取る。

サキ「ありがとう……キミの想い、確かに受け取った」

ミチルから受け取ったそれを、サキは大切そうに胸の中に抱く。

ミチル「喜んでくれて、わたしも嬉しいよ!みらいはこの中にいるの?」

サキ「ああ、みらいならこの中だ。ちょうど今日、記念すべき700体目の仲間が入ったらしいんだ」

ミチル「ホントに!?それはめでたいね!わたし、みらいに会って来るよ!それじゃね、サキ!」

ブンブンと元気よく手を振って、ミチルは博物館の中へ入って行く。

サキ「あぁ……私は幸せ者だ……」

尚も大事そうに胸の中に抱えながら、サキは心底幸せそうな笑顔を浮かべていた。

〜〜〜

ミチル「やっほー、みらい!」

みらい「カズミ!ようこそ、アンジェリカベアーズへ!ちょうどよかった、サキの他に、聖団のみんなにも来てもらおうと思ってたんだ」

ミチル「話はサキから聞いたよ!今日、700体目の仲間が入ったんだって?」

みらい「なんだ、聞いちゃったのかぁ。ボクから話して驚かせようと思ってたのに、サキったら」

ミチル「おめでとう、みらい!アンジェリカベアーズもいよいよ本格的に賑やかになってきたね!」

みらい「うん、ありがとうカズミ!」

ミチル「っと、そうだそうだ!みらいにね、渡そうと思ってたものがあるんだよ」

みらい「ボクに?」

ミチル「ほい、ハッピーバレンタイン♪」

軽いノリで、ミチルはみらいに包みを差し出す。

みらい「………え」

途端に、みらいの表情が曇る。

ミチル「? どうかしたの?」

みらい「あ、いや、その……」

ミチル「ほら、受け取ってよ!」

みらいの手を持ちあげ、それを受け渡す。

みらい「ぼ、ボクに……?どうして……」

困惑しながら、みらいはミチルに問いかける。

ミチル「どうしてって……何か、おかしかった?」

みらい「あ、あの……」

ミチル「まぁ、いいや!それじゃね、みらい!わたし、他にも行かなきゃならない所があるから!」

みらい「か、カズミ……」

呼び止めることもなく、みらいはアンジェリカベアーズから出て行くミチルを見送る。

みらい(ど、どどどどうしよう!?ぼ、ボクにはサキっていう心に決めた人が……い、いやいやでも……か、カズミがボクの事をなんて……)

必死に心の中で否定するが、手の中には実際に渡されたバレンタインのチョコ。

みらい「う、うぅ〜〜〜〜……ボクはどうしたらっ……!」

混乱しながら、みらいは受け取った包みを開封する。

みらい「………」

中に入っているのは、チョコクッキーとメッセージカード。

まずはクッキーをひとつ取り、口へと運ぶ。

みらい「……甘くておいしい」

次に、メッセージカードを取り出し、それに目を落とす。

(AA略)

みらい「か、カズミの家に……!?」

眩暈を覚え、クラリとする。

みらい「う、うぅぅぅ〜〜〜〜〜……っ、僕は、どうしたらっ……!!」

その場にしゃがみ込み、ひたすら唸る。

妙案は、思いつきそうになかった。

〜〜〜

ミチル「あとは里美だけなんだけど……どこにいるんだろ?」

アンジェリカベアーズを後にしたミチルは、残り一人の聖団メンバーである里美を探して走り回っていた。

ミチル「うーん……あ、そう言えば」

ミチルは前に里美が言っていた事を思い出す。

——————————

ミチル『ねぇねぇ里美』

里美『何、カズミちゃん?』

ミチル『魔女捜索が終わったらいっつも里美、どこか行っちゃうよね?どこに行ってるの?』

里美『あぁ。別に、深い理由はないのよ。西の町外れの廃屋にね、野良猫ちゃん達が住みついてるの。その子たちに餌をあげに行ってるのよ』

ミチル『猫!?わたしも見に行ってみたい!』

里美『うーん……連れて行ってあげたいのは山々なんだけど、野良猫ちゃん達は警戒心が強いから……』

ミチル『あ、そっかぁ……』

里美『今はもう私には慣れてくれたけど、また知らない人が来たら警戒して逃げちゃうかもしれないわ』

ミチル『んー……なら仕方ないっかぁ。諦めるよ』

里美『ごめんね、カズミちゃん』

ミチル『いいのいいの。里美は優しいね』

——————————

ミチル「町外れか……ちょっと行ってみようかな」

踵を返し、ミチルは西の町外れの方へ駆けて行く。

〜〜〜

西の町外れの方へ来ると、ミチルは駆け足をやめて辺りを窺うように歩き始める。

道の向こうから、誰かが歩いて来るようだった。

里美「………あら?」

人影は、宇佐木里美だった。

ミチル「ビンゴ!」

里美「カズミちゃん?」

不思議そうな顔をする。

ミチル「えへへ、里美を探してたんだぁ」

里美「私を?魔女が現れたの?」

ミチル「ノンノン!これだよこれ!」

カバンの中から、バレンタインチョコ最後のひとつを取り出して里美に差し出す。

里美「あら……」

ミチル「ハッピーバレンタイン♪ってね」

里美「私、何も用意していないんだけど……」

ミチル「いいのいいの!わたしが好きでやってる事だから」

里美「ありがとう、カズミちゃん」

ミチル「猫ちゃんにあげないで、ちゃんと食べてね!」

里美「もちろん、そうさせてもらうわ」

ミチル「それならよし!」

里美「ところで、なんで私が町外れにいるって知ってたの?」

ミチル「ん?ほら、前に聞いたでしょ?野良猫ちゃん達に餌をあげに、こっちに来てるって」

里美「ああ、そう言えばそんなことを話したような……」

ミチル「それを覚えてたってだけの話だよ」

里美「カズミちゃんはマメね。そんな些細なことまで覚えてるなんて」

ミチル「まぁ、ね」

里美に褒められ、ミチルは照れ臭そうにポリポリと頬を掻く。

ミチル「それじゃ、わたしは行くから!じゃあね、里美!」

里美「うん、カズミちゃん」

手を降って里美と別れ、ミチルはまた走り始める。

里美「バレンタインチョコかぁ……」

呟きながら、里美はミチルから受け取った包みを開ける。

里美「うーん、甘くておいしそうな匂い」

中を確認するだけだったつもりだが、開けると我慢出来なくなってしまった。

里美「ちょっとお行儀悪いけど……ひとつくらい、いいわよね?」

誰にともなく言い訳をし、中のチョコクッキーをひとつ取り出す。

その手が、中に一緒に入っているメッセージカードに触れた。

里美「? メッセージカード……?」

それを取り出し、表面を見てみる。

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里美「わざわざイラストまでいれるなんて、本当にマメだなぁ」

メッセージカードを眺めながら、クッキーをひとつだけ取り出し、それを食べる。

里美「甘い……カズミちゃん、お菓子作りも上手なんだなぁ……」

咀嚼しながら、尚もマジマジとメッセージカードを眺める。

里美「………」

特に、イラストに視線が行ってしまう。

里美「………」

イラストのカズミと、視線が合ったような気がした。

イラストだから当然なのだが。

里美「……まさか、本命なんてことはない、わよね?」

ふと心の中にポツリと湧いた疑問を呟く。

本当に小さな疑問だったが、口に出してみるとそれは思っていた以上に自身の耳に響く。

里美「………ま、まさか……ね」

そうは言いながらも、里美は先程のミチルとの会話を思い出す。

里美にとっては些細な話題だと思っていた話を、ミチルは覚えていた。

里美「………」

心に湧いた疑問は、更に広がって行く。

里美「ま、まさかね……そんなはず……」

乾いた笑いを口の端から洩らしながら、里美はどこかフラフラとした足取りで何故か廃屋の方へ戻って行くのだった。

〜〜〜

全員に無事渡し終えたミチルは、自宅へと帰って来ていた。

ミチル「ただいま、グランマ!」

仏壇にひと言挨拶し、ミチルは忙しそうに動き回る。

ミチル「おーっし!バレンタインパーティの飾り付けだぁ〜!」

腕をまくり、両手で頬を叩いて気合いを入れる。

ミチル「頑張るぞー!おーっ!」

左手で握りこぶしを作り、それを頭上へあげて作業を開始するミチルだった。

〜〜〜

時間は少し飛び、夕方6時半・海香の家。

海香「………結局、あれからひとつもネタが浮かばなかった」

パソコンの前に座った海香が、虚ろな目をしながら呟く。

海香「ミチルは……わたしの事が……?」

頭の中は、もはやその疑問で埋め尽くされていた。

海香「………そろそろ行かないと、時間に遅れちゃう……」

簡単に身支度を整え、フラフラとしながら海香は家を後にする。

〜〜〜

ニコ「さて、どうしたものやら……」

夕方6時半。

ニコは既に、ミチルの家の前に到着していた。

ニコ「中でミチルは何をやってるのか……私のことを今か今かと待ちわびてるか……?」

もしそうなら、申し訳無い。

でも、ミチルの気持ちに対する返答は、まだニコの中には出ていなかった。

ニコ「あーーー、どうしてこんなことになったんだ……私か?私が悪いのか?」

頭を抱え、空を仰ぐ。

いくら悩もうが、答えは決まらなかった。

〜〜〜

サキ「落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私」

ミチルの家を目指しながら、呪詛のようにサキはブツブツと同じ言葉を繰り返す。

サキ「落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私」

目はギラギラとし、ちっとも落ち着いてなどいなかった。

サキ「すぅ……はぁ……」

足を止め、深呼吸。

サキ「大丈夫だ……私は大丈夫……大丈夫だぞ、私はっ……!!」

バクバクと鳴る心臓を抑えながら、何度も大丈夫と呟く。

サキ「ふぅ……ふぅ……」

ミチルの家への道のりは、まだまだ遠かった。

〜〜〜

みらい「うぅっ………」

みらいは結局あの後、アンジェリカベアーズに他の聖団を呼ぶことはなかった。

椅子に座り、ミチルへの返答を考え続けていたのだった。

みらい「どうやって断ったら、傷つけずに済むのかな……」

断るのは既に決まっているのだが、どう言えばいいのかがわからなかった。

みらい「やっぱり、サキのことが好きだからって……言うべきなのかな」

目を閉じて、サキとミチルの顔を思い浮かべる。

どっちが好きか、なんて天秤に掛けるのはよくないと思いつつ、それでもどうしてもやってしまう。

グラグラとぐらつくのだが、やはり最後にはサキが勝ってしまう。

みらい「ええい、うじうじ悩んでたって仕方ない!どうしたって断るのは確定なんだから、ズバッと言っちゃえばいいんだ!!」

長い時間悩んだが、結局いい返事は思いつかず。

そう結論付けたみらいは、アンジェリカベアーズを飛び出した。

〜〜〜

里美「まさか、そんなまさか……」

町外れの廃屋へと戻った里美は、あの後ずっとそればかりを呟き続けていた。

里美「聖団のみんながいるのに、まさか私を好きになるなんてそんな事があるはずは……」

そうだ、聖団には私なんかより可愛い人はいるはずだ。

それなのに自分を選ぶ理由はない。ないはずだ。

そう心の中で言い聞かせる。

里美(でも、あの話を覚えてたってことはやっぱり……)

何気ない話を覚えていた事が、里美のその考えを何度も否定する。

そんな思考の堂々巡りだった。

里美「……そろそろ行かなくっちゃ。カズミちゃん、待ってるわよね」

意を決し、里美は立ち上がる。

返事は決まっていなかったが、まぁ、なんとかなるだろう、と。

そう決め付け、里美はミチルの家を目指すのだった。

〜〜〜

ミチル「ふぅ!これで準備完了、かな?」

グイと額の汗を拭い、両手を腰に当ててミチルは部屋の中を眺める。

ミチル「部屋の飾り付けよし!」

ビシリ、とグルリと腕を回して部屋全体を指差す。

ミチル「料理よし!」

テーブルに用意されたたくさんの料理を指差す。

ミチル「うん、上出来上出来!」

満足げにうんうんと頷き、続いて時計を確認する。

時刻は6時50分。

ミチル「あと十分か。そろそろ誰か来てもいい頃かなぁと思うんだけど……」

まだ、ミチルの家には誰も来ていなかった。

ミチル「まぁ、そんなに深く考えることもないっか!」

楽観的な答えに辿りつくと、ミチルはお風呂場へと向かう。

ミチル「汗かいちゃったし、シャワー浴びよっと」

〜〜〜

同時刻、ミチルの家前———

海香「とうとう着いちゃった……」

家の前に立ちつくし、そう呟く。

ニコ「……海香?」

海香「!」

後ろから名前を呼ばれ、海香は振り向く。

海香「ニコ……?」

ニコ「き、奇遇だね、こんなところで会うなんて」

海香「そ、そうねっ……」

お互い核心に触れられず、そんな当たり障りのない事を言いあう。

ニコ「ほ、ほら、海香。もう夜だし、そろそろ家に帰った方がいいんじゃない?」

海香「そ、そういうニコこそ」

ニコ(……困った。海香がいちゃミチルの家の中には迂闊に入れないぞ)

海香(どうしよう……まさか聖団のメンバーとはち合わせるなんて。これじゃ、ミチルとの関係を疑われる……)

お互い沈黙していると、どこからかブツブツと呟く声が聞こえて来る。

サキ「落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私落ち着け私」

声の主は、浅海サキだった。

同じ言葉を何度も繰り返し続けていた。

ニコ「さ、サキ……?」

海香「っ……」

サキ「!? な、何故お前たちがここに!?」

ミチルの家の前に立ちつくす二人の存在に気付いたサキは、狼狽しながら二人のことを指差す。

ニコ「な、なんでって言われても……」

海香「ぐっ、偶然ここでニコとはち合わせちゃって……ね、ね?ニコ?」

ニコ「あ、あぁ、そうだ。そういうサキこそ、なんでここに?」

サキ「うぐっ……わ、私は……」

どう言ったらいいのかわからず、サキは言葉に詰まる。

続いてその場に姿を現したのは、みらいだった。

みらい「………」

人形を抱きしめながら俯いている。

話しかけてこない所を見ると、みらいは3人の存在に気付いていないようだった。

ニコ「お、おーいみらい?」

みらい「っ! さ、サキ!?ニコに、海香まで!?」

ニコに声を掛けられ、みらいは激しくうろたえる。

特に、その場にサキがいる事に一番動揺していた。

サキ「み、みらいまで来るなんて、ぐっ、偶然、だなっ……」

みらい「え、あ、う、うん……」

海香「ほ、本当、こんな偶然って、あるんだね……アハハ……」

力なく笑う海香の声が、虚しく響き渡る。

里美「え、あれ……?」

続いてその場に姿を現した里美が、その場の異様な光景を見て思わず呟く。

みらい「さ、里美まで……?」

里美「み、みんな、こんなところで何をしてるの?」

極力平静を装い、里美は4人に問いかける。

海香「な、何をって……言われても……その……」

ニコ「まぁ、何と言うか……たまたま?」

サキ「わ、私もたまたま……」

みらい「ぼ、ボクも……」

全員が視線を周囲に泳がせながら、苦しい言い訳をする。

里美「そ、そうなの……偶然ね、私もたまたま通りかかっただけで……ええと……」

これで、5人がその場に揃う。

全員目的の場所が同じである為、その場を離れることも出来なかった。

一番自然なのは、ミチルの家に用事があるからついでだしみんなで入ろう、なのは間違いなかった。

事実、5人の心の中にはその言葉が浮かんでいた。

しかし、それを言い出す人は誰もいない。

沈黙を破ったのは、最後にその場に現れたカオルだった。

カオル「みんな?何やってんの、カズミの家の前で」

海香「か、カオル……?」

カオル「……あ〜、そっかぁ、なるほどなるほど」

サキ「な、何がなるほどなんだ?」

カオル「みんなに渡して回ってたんだね、カズミ」

ニコ「……えっ?」

みらい「み、みんなに……って……」

里美「か、カズミちゃんが……?」

ガチャリと、ミチルの家の扉が開く。

そこから顔を出したのは、みんなが来ない事に疑問を覚えて出て来たミチルだった。

ミチル「あ、みんな!もう、遅いよー。もう7時回ってるよー?」

カオル「あっはは、ゴメンゴメンカズミ。部活終わってまっすぐこっちを目指してたんだけどね」

ミチル「ほらほら、入って!」

カオル以外のみんなは釈然としない表情のまま、ミチルに導かれながら家の中へ入って行く。

居間には、飾り付けられた内装が広がっていた。

ミチル「改めまして、ようこそわたしの家へ!」

カオル「おー、これカズミ一人でやったの!?」

ミチル「ふっふーん!当然♪」

海香「………」

楽しげに話すミチルとカオルを尻目に、5人は大きく飾られている看板に目が行く。

『聖団結成100日目記念&バレンタインパーティ』

看板には、そう書かれていた。

サキ「100日目……」

みらい「記念……」

ニコ「……もう、そんなに経つのか」

里美「………そうみたいね」

ミチル「わたしもね、数えてみたらびっくり!こんなことってあるんだね!」

カオル「飾り付けくらい、言ってくれればみんな手伝ったのに。水臭いなぁカズミは」

ミチル「一応、わたしがみんなを魔法少女に勧誘した形だからね!こういうのは、わたしがやろうって決めてたの!」

海香「………」

ニコ「………」

サキ「………」

みらい「………」

里美「………」

5人は、勘違いしていたことが急に恥ずかしくなってくる。

ミチル「ほらほら、座って座って!わたし特製の料理もたっくさん用意したんだから!」

カオル「うお〜!ミチル特製フルコースだぁ〜!部活帰りだからこれは嬉しいなぁ〜!」

海香「そっ、そうね……」

ニコ「いや、本当に嬉しいよカズミ……」

サキ「も、申し訳無いな、なんだか」

みらい「そ、そうだね、サキ……」

里美「あ、アハハ……」

5人は微妙な表情をしたまま、それぞれ座る。

ミチル「えー、ゴホン!」

咳払いをひとつして、ミチルは全員を見渡す。

ミチル「それでは僭越ながら、わたしから挨拶させてもらいます!」

カオル「いよっ!大統領!」

ミチル「早いモノで、聖団結成から今日でちょうど100日目と相成りました!」

海香「本当に早いよねぇ」

ミチル「どうかこれからも、わたしとプレイアデス聖団をよろしくお願い申し上げます!」

ニコ「当然だ」

ミチル「本日はバレンタインということもありまして、パーティを開きたいと思いこうして皆さまに集まっていただきました!」

サキ「カズミらしい考えだな」

ミチル「一緒に飲んで食べて、騒ぎましょう!」

みらい「いっぱい食べるぞー!」

ミチル「皆々様方、グラスをお持ちください!」

サキ「うん、カズミちゃん!」

ミチル「プレイアデス聖団のこれからに、カンパーイ!」

全員「カンパーイ!」

その日、聖団は夜遅くまで騒いだのだった。

———後日。

海香「今日は集まってくれてありがとう、みんな」

その場に揃ったニコ、サキ、みらい、里美の顔を眺めて、海香がそう言う。

サキ「……やっぱり、やるんだな?」

海香「ええ……ずっと悩んでいたけど」

ニコ「まぁ、2度とあんなことは御免だしな」

みらい「ボクも頑張るよ、サキ」

里美「これしか……ないのよね」

海香達5人は、ベランダへと出る。

そこには、キュゥべえの姿があった。

QB「なんだか不穏な空気を感じてここへ来たけれど、その正体はキミ達だったか」

海香「キュゥべえ……」

QB「一体、何をやらかそうとしているんだい?」

海香「前にこの街で起こった悲劇を、もう繰り返さない為に……バレンタインを消す」

QB「バレンタインを?どうするつもりだい?」

海香「……この街に、バレンタインという概念を消し去る結界を掛ける」

QB「………」

海香「もちろんわたし達も、バレンタインを忘れる。この結界を掛けたことすらも」

QB「なるほどね……バレンタインの消去の仕方としてはパーフェクトだ」

海香「これで悲劇は起きない。チャオ、バレンタイン———」

海香達は魔法を発動する。

あすなろ市の上空に、魔法陣が展開される。

その日を境に、あすなろ市からバレンタインが消えた———

ホワイトデーへ続く

見返したらミスがあったorz
>>60の下から四行目

× サキ「うん、カズミちゃん!」
○ 里美「うん、カズミちゃん!」

バレンタイン過ぎてるけど許してね
改めて、ホワイトデーに続く

報告遅れて申し訳ないのです、>>1です
非常に言いにくいのですが、このSSは打ち切りとさせてもらいます
執筆意欲が最近湧いてこなくて、結局今になっても完結まで書けてなくって、書ける気もしないので…
しばらくは読み専にまわろうと思います。期待していた方がいたのなら、本当にゴメンナサイ
HTML化スレに依頼に行ってきます

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