男「友達の家に遊びに行ったら……」(47)

男「知らない女の子がいた」

~ある日の休日~

友「僕の家に遊びにこない?」

男「珍しいな、おまえから誘ってくるなんて」

友「こないの?」

男「いくよ、興味あるし」

友「着いたよ」

男「こんな武家屋敷みたいなところになんの用だよ。観光でもすんのか」

友「ここが僕の家」

男「へ……?」

友「だから僕の家」

男「おまえんち、忍者でも飼ってんの?」

友「うるさいなー。いいからあがってよ」

~友の家~

友「着替えてくる。お茶でも飲んで待ってて」

男「あいよ」

男(広い家だなー)

女の子「おまたせ」

男「え?」

男(だれこの子? かわいい)

男「きみ、友の彼女?」

女の子「…………」

男「あれちがった? じゃあ妹?」

女の子「…………」

男「お母さん?」

女の子「いや、おかしいでしょ」


女の子「僕だよ」

男「自分のことを僕って言っちゃう女の子はちょっと……」

女の子「引かないでよ。ちょっと傷ついた」

女の子「友だよ。きみの友達の」

男「…………」

男「え? うええぇぇぇえええっ!?」

男「ほ、ほんとに友なのか!」

友「ま、驚くのも無理ないよね」

男「いいんだ。わかってる、全部わかってるから」

友「はい?」

男「おまえにどんな趣味があっても俺は気にしないから」

友「待って。誤解してない?」

男「女装、似合ってるぜ!」グッ

友「ちがーうっ!」

<ご当主さまのおなーりー

男「なんだなんだ」

友「まずい……!」

友「男。僕と話を合わせて」

男「は? 話ってなに?」

友「事情はあとで説明するから」

ガラララッ

当主「…………」

友「…………」

男「おじゃましてまーす」

当主「ほう、これはまた」

当主「ずいぶんと平凡な男を選んだものだ」

友「ご当主さま、彼を悪く言うのはやめてください」

当主「ほほう?」

友「わたしは彼を……男さんを生涯の伴侶として」

友「愛してます」

~男子寮205号室~

男「つまり……どういうことだってばよ?」

友「僕は女」

男「うん、それはわかった」

友「で、今日からきみは僕の許嫁」

男「ちょっとなに言ってるかわかんない」

友「……だよね」

男「いいなずけってなに? おいしいの?」

友「結婚の約束をした男女のことだよ。婚約者、フィアンセ、呼び方はいろいろあるけどね」

男「け、結婚!? 俺たち結婚しないといけないのか?」

友「現時点ではそうだね」

男「なんかひっかかる言い方だな」

友「実際には結婚しなくてもいいんだ」

友「僕の家族の前で許嫁のフリをしてくれればいい」

男「ちょっと待てよ。それってウソつくってことだよな」

友「そうだね」

男「いやいや、よくないだろ。さっき家族の前で『愛してる』とかなんとか宣言してたじゃねえか」

友「男は僕と結婚したいの?」

男「んなっ!」

友「そういうことでしょ?」

男「あのなぁ……今はそんな冗談やってる場合じゃ」

友「どうなの?」

男「…………」

男「わかんねーよ」

男「結婚しろとか言われても、俺恋人もできたことないし」

友「同感」

友「僕もこの歳で結婚って言われてもよくわからない」

友「まだやりたいこともあるしね」

友「協力してくれると嬉しいな」

男「協力するもなにも、もうあともどりできないじゃねーか」

友「ごめん。巻き込んで悪かったと思ってる」

友「月一回でいいんだ。家族の前では話を合わせてくれないかな」

男「まぁ、それぐらいなら」

友「ありがとう、悪いけどよろしく頼むよ」

男「うし、じゃあそろそろ寝るか」

パチッ

友「ねぇ男」

男「なんだ?」

友「これからも僕と友達のままでいてくれる?」

男「なにいってんだ。そんなの当たり前だろ」

友「僕、体は女の子なんだよ」

男「関係ねーよ。友は俺の男友達だ」

男「おまえの正体が宇宙人や超能力者だとしてもな」

友「…………」

男「もう寝るぞ。おやすみ」

男「…………」

男(眠れねぇ……今何時だろ?)

男「友ー?」

シーーーン

男(いないし)

男「しゃーない。風呂でも入ってすっきりするか」

~男湯~

<ふんふんふーん♪

男(先客がいるみたいだ)

ガラララッ

男「うぃーっす」

?「う、うわああああああっ!」バチャアッ

男「ん?」

男(この声はまさか……!)

友「なっ……ななななななあっ!///」

男「と、友?」

友「こ、こないで!」

男「なんでおまえが男湯にいるんだよ」

友「こないでったらー!」

男「だいじょうぶか? 顔真っ赤だぞ」

友「くるなーーーーっ!!」

カポーン

男「あべしっ」

~男子寮205号室~

友「バカ。ヘンタイ」ゴニョゴニョ

男「え、なに。俺が悪いの? ねえ」

男「女なのに男湯にいるほうがおかしくね? 女湯に行けよ女湯に」

友「僕に女の格好をして女子寮に行けとでも?」

友「そっちのほうがよっぽど危険だよ」

男「一つ確認していい?」

友「どうぞ」

男「学校の先生は知ってるんだよな。友が本当は女だってこと」

友「…………」

男「友?」

友「もしそうだったら今ごろ苦労はしてない」

友「今の段階で知っているのは僕ときみだけだ」

男「マジかよ……」

男「ばれたらどうなるんだよ」

友「退学だろうね」

男「退学……」

友「…………」

男「…………」

男「し、心配すんなって!」

男「今までずっと隠し通してきたんだろ。だれかに疑われることもなかったし」

男「この調子でいけばばれることはないって!」

友「あ、そのことなんだけど……」

友「もう疑われてる」

男「え?」

ガチャッ

生徒会役員「友先輩はいますか?」

友「いるけど。僕になんの用?」

生徒会役員「いるならいいんです。夜遅くに失礼しました」

バタンッ

友「ほらね」

男「今のって生徒会のやつだよな」

友「昨晩トイレに行きたくなって外に出たんだ」

友「終わって草陰から出ようとしたとき、生徒会長にばったり遭遇した」

友「そのときからだろうね。生徒会にマークされはじめたのは」

男「男子トイレ使えよ!」

男「風呂といい、トイレといい、なんで危ない橋を渡ろうとするかなぁおまえは」

友「しかたないだろ。だって……」

友「あの匂いは生理的に受け付けない」

男「…………」

男(まぁ、わからんでもない)

友「それに個室だと上から覗かれたらおしまいだ」

男「ホモかよ。そんな物好きいねーよ」

友「万が一に備えてだよ」

男「でも外でトイレはできなくなったな。生徒会に監視されてるから」

友「…………」ソワソワ

男「なぁ友」

男「おまえ、さっきから妙に落ち着きなくね?」

男「風呂でのことまだ気にしてんのか」

友「…………」ソワソワ

男「遠足の前日か?」

友「…………」ソワソワ

男「生理か?」

ポカッ

男「いてっ」

友「さいってい。ふつうそういうこと言う?」

男「わ、わりー。男子のときのノリでつい」

友「いいかげん、慣れてよ」

友「…………」ソワソワ

男「なぁ、ほんとにだいじょうぶか」

友「ト、トイレ……」

男「は?」

友「トイレ……行きたい」

男「行けばいいじゃん」

友「いやだ」

男「は?」

友「あのにおいはたえられない」

男「言ってる場合かよ。頼むからもらすのだけは勘弁な」

友「もう……限界かも」

男「え?」

友「もれそう……」

男「ひゃえええぇぇぇぇええええええ!?」

男「行ってこい! 今すぐ! ライナウ!」

友「無理。歩いたらでそう」

友「男、僕どうすればいい……?」

男「んぬぅ……」

男(まずい。非常にまずいぞ)

男(このままだと布団に黄色い世界地図ができてしまう)

男(どうすればいい。どうすればいいんだ)

男(なにかいい方法は……)

友「男ぉ……」

男(友を男子トイレまで連れていく方法)

男(どうやって?)

男「……そうだ!」

男「いい方法を思いついたぞ!」

友「いい方法って……」

男「友、おまえをトイレまで連れてってやる」

友「無理だよ」

男「無理じゃない!」

ヒョイッ

友「わっ」

友「こ、これってお姫様だっこ……?」

男「揺れるけど我慢しろよ」

友「待って。おと……」

男「いくぞーーーー!」

友「わ、わああああああああっ!」

~男子トイレ~

友「うぇぇ、くさい……」

男「布団を台無しにするよりはマシだろ。じゃ俺は外で待ってるから」

友「まって」

友「だれかに覗かれるかも」

男「深夜だぜ? こんな時間にだれもこないって」

クイッ

男「友?」

友「行かないで」

友「こわいんだ」

友「一人は、こわいんだ」

男「…………」

男「ぷっ。なんだよそれ」

友「わ、笑うな」

男「はいはい、ドアの前に立ってればいいんだろ」

友「うん……」

バタンッ

友「…………」

男「はじめないのか?」

友「耳ふさいで」

男「耳?」

友「音、聞かれたくない」

男「別に気にしないけど」

友「バカ……僕が気にするんだよ」

男「わかったよ」

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