楓「藍子ちゃんのお腹を触っていたら夜になっていた」 (42)


・高垣楓さんと高森藍子ちゃんのSSです



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~夜、事務所


早苗「楓ちゃ~ん?」

楓「はい」

早苗「言いたいことはそれだけかしら?」

楓「そうですね……まるで洗いたて、干したてのタオルケットを触っているようでした」

早苗「どうも反省していないみたいね」

あい「早苗さん、落ち着こうか。振り上げたその一升瓶を一度下ろして」


楓「私の命はあいちゃんに託されているから。ね?」

あい「それは楓さんの態度次第さ」

楓「あら、そうなの?」

あい「……いま一度、自分が置かれている状況を把握するべきだよ」

早苗「一回、大きなショックをあたえるのがいいんじゃない?」

あい「流血沙汰で有名になってもしょうがない。うん、だから右手の大魔王から手を離そうか」


 *


~およそ半日前、事務所


楓「美優さん」

美優「……どうしたんですか?」

楓「眠いです」

美優「はぁ……」

楓「眠いんですよ」

美優「お疲れ様です……?」

雪美「楓……大変そう……」

楓「ありがたいことに仕事、仕事の毎日で」

雪美「ホワイトボード……楓……いっぱい……」

楓「帰宅して、お風呂に入って、お酒を飲んで、寝て。気付いたら朝で」

美優「お酒はちゃんと飲むんですね……」


楓「飲まないと寝つきがよくないんです」

雪美「大丈夫……?」

楓「病院に行く時間もありませんし、行っても他の部分がひっかかりそうですし」ナデナデ

雪美「ふふ……楓の撫でかた……やさしい……」

楓「ふふ、美優さんで撫で慣れているから」

美優「楓さん」

楓「この話は雪美ちゃんには早すぎますね」

美優「誤解を生むようなことは言わないでください」

楓「これは手厳しい」


雪美「美優も……楓に撫でられるの……?」

楓「そうなの。美優さんったら特にお腹が弱くて」

美優「……」

楓「眉間にシワが寄っていますよ?」

美優「誰のせいだとおもっているんですか?」

楓「……それはそうと、今日は少し肌寒いですね。次の季節は夏だというのに」

雪美「夏……海……プール……楽しみ……」

楓「あら、雪美ちゃん、意外とアクティブなのね」

美優「今年はにぎやかな夏になりそうですね……」

楓「人も増えましたしねぇ。今年こそ、みんなで海に行きましょう。いまから休み取っちゃいますよ」

美優「ふふ……どれだけ楽しみにしてるんですか」

楓「春夏秋冬、どれも一年に一度しかきませんから。楽しまないと損です」

雪美「私も……楽しみ……」


楓「さて」

美優「どうしました……?」

雪美「……」

楓「美優さん、疲れてません?」

美優「え……いえ、特には……」

楓「そうですか? 私の間から見る美優さんの顔には、疲れてる、って書かれてますよ?」

美優「えっと……もしかして目の下にくまとかできてます?」

楓「いえ? まったく」

美優「どういうことですか……」

楓「雪美ちゃんが軽いとはいえ、羽根でできてるわけじゃないんですから、あれなら交代しようかなって」

美優「……要は雪美ちゃんを座らせたいと?」

楓「あら、不思議。そうともとれますね」


美優「最初からそう言えばいいじゃないですか……」

楓「美優さんがそう言うなら」

美優「はいはい、そうですね……雪美ちゃん、いい?」

雪美「……」

雪美「や……」ギュッ


楓「あら、フラれちゃいましたか」

美優「え、えーっと……」

雪美「美優が……いい……」

楓「確かに、美優さんは膝のプロって感じですもんね」

美優「格闘家みたいに言うのやめてください」

雪美「美優……いいにおい……」

楓「汗をかいたときでもフローラルな香りですからね」

美優「楓さん」

楓「てへ」


雪美「あと……」

楓「あと?」

雪美「楓……お酒……くさい……」


楓「……」

雪美「……」

美優「あぁ……」


 *


楓「……ということなの」

沙紀「話はわかったっすけど、なんでアタシに言うんすか……」

楓「一緒に寝た仲じゃない?」

沙紀「誤解を生む言い方だし、寝てたのは楓さんだけっす」

楓「あら、そうだった?」

沙紀「テキトーっすね……」


楓「改めて、面と向かって言われると結構ショックで……」

沙紀「前はそうでもなかったっすけど、最近の楓さんは確かに……」

楓「におう?」

沙紀「特に小さい子はそういうのに敏感っすから。におわせなくて大丈夫っす」

楓「志乃さんみたいになるなんて……」

沙紀「ここにいない人をダメな大人の一例みたいにあげるの、やめましょうよ」


沙紀「少しは控えたらどうっすか?」

楓「沙紀ちゃんは枕がなくても寝られる?」

沙紀「えっ……場合によるけど、あったほうがよく眠れるっすね」

楓「それと同じ」

沙紀「どういうことっすか……」

楓「飲まないと眠れない」キリッ

沙紀「キメ顔で言うセリフじゃないっすよ……ジャンキーじゃないっすか」

楓「大人になったらわかるわ」

沙紀「あんまわかりたくない大人の証明っすね……」


楓「ところで、相談なんだけれど……」

沙紀「あの、そろそろレッスンの時間なんで、また今度でいいっすか?」

楓「あら、それは残念……」

沙紀「話くらいなら次聞くっすから。それじゃ、いってきまーす!」

楓「いってらっしゃーい」

楓「……」


ポツーン


楓「……」

楓「……」

楓「……誰か帰ってこないかしら」


ガチャッ


楓「!」

藍子「ただいまもどりましたー」

楓「藍子ちゃん、おかえりなさい」

藍子「楓さん、おつかれさまです。あれ、ひとりなんですか?」

楓「そうなの。退屈だからお酒でも呑んじゃおうかなって」

藍子「さ、さすがに事務所でお酒は……」

楓「うふふ、冗談よ」


藍子「なんだかごきげんですね。なにかいいことでも?」

楓「しいて言うなら藍子ちゃんが帰ってきたことかしら?」

藍子「私も楓さんとお話しできてうれしいですよ」

楓「相思相愛ね」

藍子「ふふっ、そうですね」


藍子「そういえばお仕事は?」

楓「撮影が入っていたんだけど、機材トラブルで延期になっちゃって」

藍子「それはしょうがないですね」

楓「でもそのおかげでおしゃべりできるんだから。そういう藍子ちゃんは?」

藍子「私はこれで終わりだったんですけど、休憩がてら事務所に寄ろうかなって」

楓「そしたら私がいた、と」

藍子「はい♪」

楓(かわいい)



楓(おだやかな時の流れ……藍子ちゃんと話すとリラックスしすぎて時間を忘れてしまう)


藍子「それで、茜ちゃんが……」

楓(口からリラクゼーション効果のある物質が出てるのかしら?)

藍子「お花畑にむかって飛び込もうとして……」

楓(心があたたかくなる……高森……あったかもり……)

楓(……やめておきましょう)


藍子「未央ちゃんもそれに続こうとしちゃって、もう大変で……」

楓(……そういえば、この3人のユニットって結構意外というか)

楓(ふたりと比べて、藍子ちゃんは対照的で)

楓「……」

藍子「……楓さん? どうかしました?」

藍子「あっ、私ばっかりしゃべりすぎですよね。ごめんなさい」


楓「ううん、こうしてゆっくりできるの、ずいぶん久しぶりだなぁって」

藍子「お忙しいですよね」

楓「えぇ、おかげさまで」

藍子「あまり無理しちゃダメ、ですよ?」

楓「ふふ、ありがとう。みんながそう言ってくれるうちは大丈夫かしら」


楓「そういう藍子ちゃんだって、最近はレッスン続きみたいね」

藍子「ライブが近いですからね。茜ちゃんにあわせてたら、すぐヘトヘトになっちゃって」

楓「レッスン終わってからも、走って駅までいきそう」

藍子「そうなんですよ! 藍子ちゃん、未央ちゃん、まだまだやりたりないって顔してますね! って」

楓「茜ちゃんらしいというか」

藍子「もうっ、大変だったんですから~」

楓「でも、楽しそうで羨ましい。私はユニットのお仕事が多くないから」


藍子「そうだ。そんな茜ちゃんのおかげでできるようになったことがあるんですよ」

楓「そういうの素敵ね。なにかしら?」


藍子「腹筋です!」

楓「腹筋」

藍子「私、全然できなくて、1回やるのにもすごい苦労してて……」

楓「確かに、藍子ちゃんがすごい勢いで腹筋してたら、なにか嫌ね」

藍子「え?」

楓「なんでもないから、続けて?」


藍子「仰向けの状態で足を数センチ浮かしてから30秒維持したりとか、上半身を完全に起こすんじゃなくて腹筋に負荷がかかるところまででいいとか」

楓「なるほど……まるで茜ちゃんは藍子ちゃんの専属トレーナーね」

藍子「トレーナーさんより付きっきりで指導してもらったかもしれません」クスクス

楓「未央ちゃんが妬きそう」

藍子「途中から急に、腹筋できなくなったー! って言ってましたよ」

楓「あらあら、微笑ましい」


藍子「あんまり回数はいかないですけど、ほとんどできなかったときと比べたら。それにお腹の筋肉もついたんですよ」

楓「割れてる?」

藍子「さすがにそこまではいってないですね。でも硬くなってますよ」

楓「へぇ……」

藍子「触って確かめてみます?」

楓「いいの?」

藍子「はい♪」


楓(きっと確認してほしいのね)

楓「なら、遠慮なく」

藍子「力入れますね。ん~……」

楓「……」サワサワ

楓(この感触、どこかで……)

藍子「ん~……ど、どうですか?」

楓(……あぁ、そうだ、これは)


楓(低反発まくら)

藍子「~~~っ、はぁ……あ、あの、そこまで硬くなかった、ですか……?」

楓(癖になりそう)サワサワ

藍子「か、楓さん? さすがにくすぐったい……ひゃうっ!」ビクッ

楓「……」サワサワサワ

藍子「だっ、だめ、ですよっ、そこは、あっ」ビクンッ

楓「……」サワサワサワサワ

藍子「かっ、かえ、でさっ、んぁっ」

楓「……」サワサワサワサワサワ

藍子「~~~~っ」


 *


楓「……ということです」

あい「……」

早苗「問題のとこどころか、楓ちゃんの一日を聞いてしまったわね……」

あい「それが事実なら、すべて楓さんに非があるとは言いにくいとしても、だ」

早苗「異常な行動に変わりないわ」

楓「沙紀ちゃんが帰ってこなかったら、藍子ちゃんが果ててしまうところでした」

早苗「楓ちゃん?」

楓「反省してますよ?」

あい「せめて言葉と態度を同期してくれないかな」


沙紀「あ、あのぅ」

あい「沙紀くん、どうしたんだい?」

早苗「もしかして、藍子ちゃん起きた?」

沙紀「は、はい。ちょっとぐったりしてたっすけど、なんとか」

早苗「ま、変なことがなくてよかったわ」

沙紀「ビックリしたっすよ……予定確認で事務所によったら、一心不乱に藍子ちゃんのお腹をなでる無表情の楓さんがいたんすから……」

あい「……なんともシュールな光景だね」

楓「美優さんにやるノリで、つい」

あい「楓さん」

楓「はぁい」


早苗「女子会中に、『早苗さん、助けてっ』って電話がくるんだもの。そりゃすっとばしてきましたとも」

沙紀「ごめんなさい……こういうとき、頼りになるのは早苗さんかなって」

早苗「そーそー、いい判断よ、沙紀ちゃん! お姉さんに任せとけば万事解決オールオッケー♪」

あい「そういえば、藍子くんはひとり?」

沙紀「いや、亜里沙先生がついてるっす」

早苗「あたしと一緒にきたのよ、女子会から」

あい「そうか、それなら安心……ん?」


早苗「どしたの?」

あい「……女子会とは、つまり」

早苗「決まってるじゃない、いつもの飲み会よ」

あい「……」

沙紀「なにかあるんすか?」

あい「藍子くんが危ないな」

早苗「え?」


< ウサコモサワルウサー


沙紀「ん?」

早苗「お?」

あい「……気づくのが遅かった」

楓「ウサウサ♪」

あい「楓さん」

楓「うふふ、はぁい♪」


おわり


総選挙おつかれさまです
藍子のお腹をまくらにして、よだれたらして爆睡したい

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