【VOICEROID】(ゆかマキ)ゆかり「この口はなんのために」 (16)

締め切った部屋に二人、互いにもたれあう形で座っていた

夜とはいえ、初夏に差し掛かりそうな時期なので、やはり暑いのか汗をかいている

マキ「・・・」

ゆかり「・・・」

マキ「・・・」

ゆかり「・・・」

この状況が心地良いのか、それとも空気が重苦しいのか二人は口を開かない

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その状況を打ち破ったのは、金髪の発育の良い少女の方であった

マキ「ねえ、クーラーつけていい?」

ゆかり「はい」

もう一人の紫髪の少女の返事を受けて、クーラーのリモコンに手を伸ばした

しかしリモコンは、ベットの頭の方にあり、ここからでは手を伸ばすだけでは届きそうにはない

そうすると、彼女は「ふう」と呟き立ち上がる

リモコンを手に取り、スイッチを入れるとエアコンから涼しい風が流れ出した

そのままマキは一番風が来るベットへ腰を下ろす

それから続いてゆかりも隣へ腰を下ろした

エアコンのゴオオという音が聞こえるほど、部屋は静かである

それから数十秒後、マキはベッドへ勢いよく横になる、

右腕で照明から目を覆うようにして、体をダランとした。そしてワンクッションを置いてマキは呟いた

マキ「もう一度...する?」

彼女の腕が邪魔で表情はよくわからない

ゆかりは返事もせずに彼女へ覆い被さり、口づけを交わす

二人のキスは慣れたもので、クチュクチュという卑猥な音をたてて、互いの舌を舐めまわす行為を続けている

それが二人の関係性を物語っていた。

それから程なくして、二人は少しだけ顔を話すと、しばし見つめ合った

最初に口を開いたのはゆかり

ゆかり「このまま、ずっとこの時間が続けばいいのに」

それは単純で、そして、切実な願いであった。

二人は性愛を交わす間柄である

それは今に始まったことではない

二人は中学生に入る頃には、もう、そういった間柄であった

同性愛は普通の事ではないことは気づいていた

しかし、止める気はなかった

別れ話など一度たりとも出たことはない

昨日までは

それは、昨日の出来事である

二人は、このマキの部屋で、今と同じように口づけを交わしていた

しかし見られてしまったのだ、マキの父に

それからというもの、ゆかりの家族も呼んで、ずっと話を続けていた

その間中に突き刺さる視線は、まるで割れ物を見るようで、放たれる言葉は割れたガラスのように彼女らに突き刺さった

そして、今日も学校があったので、いったん解散し

そのまま、マキの家に二人は待機していた

これからまた、話し合いという名の一方的な弾圧が始まる

それがとても億劫であった

また、二人は口づけを交わす

それは、勇気をつける為か、恐怖を一時的にも忘れためか、なんにせよ、強く強く

水音が漏れないほどに深く、強く、隙間もできていない程に

どれくらいたったのだろうか、二人は息苦しくなって口を離した

ハアハアと呼吸をしながらゆかりはボソッと呟いた

ゆかり「このまま、ずっとキスをしていれば二人とも死んでしまうんでしょうか?」

目は笑ってない

マキ「....分からない」

マキが答える

間髪いれず呼吸が整う前に、今度はゆかりから半ば強引にキスをしてきた

二人の手のは痛いほどに堅く結ばれている、外れ無いように

そして、互いに限界が来たのか、顔は赤く染まり、体をよじらせる

しかし離すまいと、ゆかりは両手を今度はマキの頭を掴み、強く自分顔へ引き寄せる

程なくして、ゆかりは自分の限界を感じ取って、少しばかり過去を振り返った

そこには、いつも彼女の姿があった。ならばこの結果も幸せなものだろう

声を生業とする職業を目指していた二人の最後ならばこんな終わり方もいいだろう

そんなことを想いながら、ゆかりの意識は黒い意識の海へと落ちて行った

それから、数十分後マキのベッドの上で目を覚ます

その視線の先にはマキがいた

ゆかり「どうして...?」

ゆかりが朦朧とした意識でマキに問いかけた、するとマキはこう答えた

マキ「口はね...言葉を話すだけじゃない...人工呼吸だって口でするんだよ...」

涙を浮かべながらも、まるで赤ん坊に話しかける、母親のように優しく呟いた

その瞳には確かな希望を感じ取る

ゆかりは生きることを決めた。二人で生きることを

そして、戦うことを。この口を戦うために、彼女を守るために使うことを

その日、ゆかりは愛する人へラブソングを歌う為の優しい声ではなく

愛する人を守るための機械のような冷たい声を手に入れた


おわり

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