中二「玄関あけたらどっかの宿屋」 死神メイド「中二ミーツ死神」 (261)



夜 小高い山

鳥居前



中二 「ん、ん……」

中二 「あー、あー、あー……」

中二 「……よし、喉はひらいたな」

中二 「次は眼下に見渡すさびれた住宅街に届かせるつもりで」

中二 「大きく息を吸って……」


スウウ


中二 「…………!」

中二 「あいうえおいうえおあうえおあいえおあいうおあいうえ!」

中二 「かきくけこきくけこかくけこかきけこかきくこかきくけ!」

中二 「さしすせそしすせそさすせそさしせそさしすそさしすせ!」

中二 「たちつてとちつてとたつてとたちてとたちつとたちつて!」

中二 「なにぬねのにぬねのなぬねのなにねのなにぬのなにぬね!」


スウウ


中二 「はひふへほひふへほはふへほはひへほはひふほはひふへ!」

中二 「まみむめもみむめもまむめもまみめもまみむもまみむめ!」

中二 「やいゆいえよいゆえよやゆえよやいえよやいゆよやいゆえ!」

中二 「らりるれろりるれろらるれろらりれろらりるろらりるれ!」

中二 「わいうえをいうえをわうえをわいえをわいうをわいうえ!」


スウウ


中二 「……ハア」

中二 「よし……完璧だ!」

中二 「このまま鼻濁音までやりたいけれど、明日は大事な声優検定試験三級の日」

中二 「今日はぐっとこらえて、このさびれた住宅街のしょぼくれた住民たちに向け」

中二 「誓いの叫びをあげることで締めることにしよう」


スウウ


中二 「ぜったい、声優に、なるぞー!」


ゾー ゾー ゾー……


中二 「………ふぅ」

中二 「ふふ……これが、青春……」


カップル 「うるさい!!」


中二 「!?」




頭からっぽ系
ほのぼのデイドリーム風ファンタジー
微エロありグロたぶんなし





コンビニ前




店員 「ありゃっしたぁ」


ウイイ ガコ


中二 「…………」

中二 (家の裏にある山で発声練習をしていたら)

中二 (カップルに泣くほど怒られた)


ガサ ゴソ


ペットボトル


キュ キュ シュポ

ゴク ゴク ゴク


中二 「……ぷはあ」

中二 「くっそう、車中性交者どもめ……」

中二 「あしたは試験だってのに、嫌な気分になっちゃったじゃないか」


ゴクゴクゴク

カコン カラン


中二 「……帰って寝よ」




夜道



ブロロロ パパー

ガシャアン


テク テク テク


中二 「……我が国のアクセントは何型か」

中二 「高低型」

中二 「……よし、正解。完璧だ」

中二 「明日の声優検定試験三級が待ち遠しいなあ」


テク テク テク


??? 「…………」


中二 「……ん?」


??? 「…………」

メイド? 「…………」


中二 (街灯の下に、メイドさん? が立っている)




メイド? 「…………」


中二 「…………」

中二 (メイドさんだ。典型的なメイドさんのかっこうをしている)

中二 (いるんだなあ、道端にもメイドさん)

中二 (エロゲと喫茶店にしか生息していないと思ってた)


メイド? 「…………」


中二 (……て、まさか、本当のメイドさんじゃあるまいし)

中二 (そういうかっこうをして楽しんでいる人なのであろう)

中二 (ううむ、ヘッドドレスがフリフリだ)

中二 (白いエプロン、汚れ一つない)


メイド? 「…………」


中二 (しかし顔色が悪い)

中二 (青白いというか、青ざめているというか)

中二 (なんか、不思議な存在感)

中二 (薄くて強い……)


メイド? 「…………」




メイド? 「…………」


中二 「…………」

中二 (こっちを見ている)

中二 (異邦人かな。遥か西の北の方の)


メイド? 「……あなた」


中二 「!」

中二 (話しかけられた! 日本語だ……)


メイド? 「……夜なのに、本が読めるのね」




>>6 訂正ごめんなさい




メイド? 「…………」


中二 「…………」

中二 (こっちを見ている)

中二 (異邦人かな。遥か西の北の方の)


メイド? 「……あなた」


中二 「!」

中二 (話しかけられた! 我が国語だ……)


メイド? 「……夜なのに、本が読めるのね」




ジイイ ジジ チチチ

リィン リィン



メイド? 「……薄い本」


中二 「その言い方はなんかダメです」


メイド? 「そう」

メイド? 「…………」


中二 (背、高いな。年上かな)


メイド? 「…………」


中二 「……あ。ああ、これ」

中二 「声優検定三級の問題集です」


メイド? 「声優……」

メイド? 「ああ、あの……」

メイド? 「目指した人の十割弱が死ぬという……」


中二 「死にません」




中二 「やめてください、死にません」

中二 「声優を目指して死ぬことはありません……!」


メイド? 「そう」

メイド? 「……でも、大丈夫」


中二 「なにが?」


メイド? 「人はみな、いつか死ぬから」

メイド? 「大丈夫」


中二 「なにが!? 声優を目指しても!?」


メイド? 「…………」


中二 「……ご、ごめんなさい。大声を出して」


メイド? 「…………」

メイド? 「大丈夫」


中二 「……あへ、はは……」


メイド? 「…………ッ」


ヒュン

メリゴボグォッッ


中二 「ふんぐぉ゛……ッッ!?」

中二 (な、なに……お腹に衝撃が……!!)


メイド? の 腹パンこうげき!
中二の HP が 1 になった!




ドシャ


中二 「なんで……なんで、いま腹パン……ッ」


メイド? 「違うわ」

メイド? 「これを渡そうと思って」


糸巻き棒


中二 「……?」

中二 (何か握ってる。細長い棒……?)


メイド? 「渡そうと思って」

メイド? 「握り締めてそっと突き出した」


中二 「凶器……!」

中二 「もう、それは、凶器、だから!」


メイド? 「よだれ、垂れてるわよ」

メイド? 「はしたない」


中二 「はしたない!?」


メイド? 「よだれで済んで良かったわね」

メイド? 「それが一般に言う吐瀉物であったなら」

メイド? 「街灯の下で吐くとか酔っ払いかよ」

メイド? 「と、突っ込んでいたところよ」

メイド? 「お腹に」


中二 「やってた!」

中二 「いま、やってた……!」


メイド? 「そう」

メイド? 「……大丈夫」


中二 「なにが!?」





メイド? 「……はい」

メイド? 「受け取って」


糸巻き棒


中二 「…………」

中二 (嫌な人に出会ってしまった)

中二 (あしたは試験なのに。声優検定三級なのに!)


メイド? 「…………」

メイド? 「…………」


グッ スイ


中二 (あ、腹パンくる)

中二 「い、いただきます」





メイド? 「…………」


ヒョイ


中二 「…………」

中二 (手を伸ばしたら、かわされた)

中二 「あの……」


メイド? 「……手と手が触れ合うなんて」

メイド? 「なんだか、はしたない」


中二 「いま、こっちのお腹その手で殴りませんでしたっけ?」


メイド? 「…………」


カラン カララ


中二 「!」

中二 (棒を落とした)


コロロ


メイド? 「…………」


中二 「…………」


メイド? 「ひろえ」

メイド? 「犬」


中二 「犬!?」




メイド? 「冗談よ」

メイド? 「ジョン」


中二 「犬! 犬っぽい!」


メイド? 「拾って」


中二 「…………」

中二 (ここは従おう)

中二 (従って、拾って、家に帰ろう……)


ヒョイ


中二 は 糸巻き棒 を手に入れた!
中二 は 呪われてしまった!


デンデロデロリロ デンデロデロディド

デデーン


中二 (なんか……いやな予感がする)


メイド? 「……つぎはこれ」


リボン


中二 (赤いリボン……)




メイド? 「…………」


中二 「!」


ビクッ


中二 (リボンを持って、何かしかけてくる?)

中二 (絞め殺す気か!)


メイド? 「つけてあげる」


ガサ サシャ


中二 「あ……」

中二 (良いにおい……)


メイド?「じっとして。手元が狂ってしまう」


中二 「は、はい……っ」


メイド? 「…………」


サシャ サシャ サシャリ


中二 「…………」


キュ キュ キュ


メイド? 「よし、できた」


中二 「……ほふぇ? は、はあ」

中二 (今度は呆けるくらい優しい……)

中二 (なんなんだろう、この人は)


メイド? 「…………」


中二 「…………」


メイド? 「よく似合うわよ」

メイド? 「ジョン」


中二 「犬!」




中二 「……はぁ」

中二 「もう良いですか? 明日、はやいので……」


メイド? 「……ええ」


中二 「……じゃあ、失礼します」


トボ トボ


メイド? 「…………」

メイド? 「……あなた」


中二 「……!」


メイド? 「名前は?」


中二 「…………」

中二 「中二です。……中学、二年生です」


メイド? 「厨学、二年生」

メイド? 「それは良いことね」


中二 「……・?」


メイド? 「さよなら」


中二 「……は、はあ」


ブロロロロロ

ゴオオ


中二 「おっと……」

中二 (車だ)


ゴオオ

ブロロロロ……


中二 「…………」

中二 「……あの」

中二 「って……」


街灯 『ヂヂヂ……バチ、バチ』


リイン リイン

ザアアア サヤ サヤ

ジジ チカ チカ


中二 「……いない」




低級マンション

エレベーター乗り場



ピピ ブイイ

コツ コツ コツ

ガコン

ゴウン ゴウン ゴウン


中二 「……なんか、疲れた」

中二 「買ったアイスも溶けちゃってるし……」


ゴウン ゴウン ゴウン


中二 「…………」


エレベーターの鏡


中二 「……リボン」

中二 「似合わんねー……」


ゴウン ゴウン

フウゥン

ガコン




低級マンション 029階

廊下



ザ ザ ザ


中二 「…………」

中二 「こんなんで、明日の試験大丈夫かな……」


カチ ピンポン ピンポン


中二 「駄目だ駄目だ……」

中二 「十割弱とはいかないまでも、声優は狭き門」

中二 「この程度の難関でくじけちゃいけない」

中二 「…………」


カチ カチ

ピポピポピポピポン


中二 「…………」


カチ カチカチカチカチカチ

ピポピポピポピポピポピポ

ピンポン


中二 「…………」

中二 「留守か」




中二 「そういえば、今日は家族でどっか食べに行くって言っていたっけ」

中二 「鍵、鍵……」


ポロ カラン

コロコロ


中二 「……あ」

中二 (棒が落ちた)


ヒョイ


糸巻き棒


中二 「……ううん、ただの棒なのに」

中二 「どことなく匠のわざを感じる」


リイン リイン


中二 「しかし、表現者を目指す者にとって棒と大根は縁起が悪いもの……」

中二 「そして、縁起が悪いは演技が悪い……ううむ」

中二 「………ま、良いか。持っておこう」




中二 「我は中二」

中二 「この程度のもので我が道は潰えはせんのだ」

中二 「なんつって」


カチャ グリン

ガチャ

ギイイ……


中二 「さっさとお風呂に入ってサイダー飲んで寝ますかね……」


ギイイイ……





ギイイイ…… バタム



??? 小路広場



中二 「…………」


ワイ ワイ ガヤガヤ


少女勇者 「携帯トイレが白貨7枚だとう!?」


ビキニ戦士 「ぼったくってんじゃねえわよ、チビのイタチ野郎!」


イタチ商人 「あやー、ぼったくりたぁひどい言い草だ、貧乳の戦士さん」

イタチ商人 「長期ダンジョン探索用に欠かせない携帯トイレですぜ?」

イタチ商人 「いわば買っているのはプライドだ」

イタチ商人 「黒一枚だって安いくらいでさ」

イタチ商人 「それとも、あなた様がたのプライドは値切って買うようなもんなんですかい?」


ビキニ戦士 「ぐぬぬ……!」


清楚僧侶 「ど、どうする勇者ちゃん」

清楚僧侶 「私たちが行ける範囲じゃ、ここしかないよ」

清楚僧侶 「勇者ちゃんの好きなスルメのにおい付きの携帯トイレがある露店……」


少女勇者 「くっそ……乙女の足元見やがって……!」


ザワザワザワ


中二 「…………」


ワイ ワイ ワイ


妖精 「注目、注目!」

妖精 「今からこの人が、鼻で花火をしながら鼻うたを歌うよ!」


新米詩人 「歌えないよ!」


ワイ ワイ ザワザワ

ガヤガヤガヤ


中二 「…………」

中二 「何だ、ここ……」





中二 (……家に帰ったつもりなのに)

中二 (どこかの街中?)


ザワザワ ガヤガヤ


子鬼紳士 「…………」


グッドフェロ 「…………」


鉱山ゴースト 「…………」


ワイ ワイ


中二 「あからさまに人間じゃない人たちでごった返している」

中二 (仮装パーティー?)


ドン


中二 「うわっ」

中二 「す、すいませ……」


人骨 「…………」


中二 「…………」


人骨 「…………」


カタカタカタ


中二 「……!」


人骨 「……人肉」

人骨 「人肉いちまい、白貨一枚」


中二 「…………!」


人骨 「……人肉」

人骨 「いかが」


中二 「…………け」

中二 「けっこうです……」


人骨 「…………」


カタカタカタカタ




??? 路地裏



ダダダダダダ


中二 「ヒイ、フウ、ヒイ、フウッ……!」

中二 「やばいやばいやばいやばいやばい……!」


ダダダダダダ


中二 「ここはやばい! やばい!」

中二 「もう……やばい!」


ダダ ダ タ タ


中二 「フウ、ハア、ハア……」


シィン


中二 「……よし、来てない、さっきの動く骨。振り切れた」

中二 「声優を目指して毎朝走り込んでおいて良かった……」


シィン


中二 (本当にここは何なんだろう。どこの国なんだろう。空は黒いし、星もないし)

中二 (はやく帰らないと……)

中二 (明日の試験が………)


ヒタ ヒタ ヒタ ヒタ


中二 「………ん?」

中二 (かたい……足音?)


ヒタ カチャ ヒタ カチャ


中二 「まさか……」


カチャ カチャ カチャ カチャ

カチャカチャカチャカチャ


人骨 「…………」


中二 「……骨が」

中二 「追ってきたあ!」




…………



屋外喫茶


牛角女 「……でさあ、うちもさあ、可愛い家具のひとつも欲しいんだけど」

牛角女 「良い細工屋ないかなあ」


桃尻淫魔 「うーん、このあたりだと、工房通りの若ドワーフさんのところかしら」


黒エルフ 「あの人、今、どこかのお城に勤めてるらしいよ?」

黒エルフ 「何だっけ、何かピンクのくそボッチの……」


ダダダダダ


中二 「うわあああああ!!」


ダダダダダ


牛乳淫魔 「のわ」


桃尻淫魔 「やあん」


黒エルフ 「にゃんっ」


ダダダダダダ


中二 「ああああああ……!」


ダダダダダダ


パン娘 「へい、サンドイッチお待……」

パン娘 「うわあ!?」


ズテン


中二 「ああああああ……!」


ダダダダダ

ガシャン ガタン

ドタバタ

ダダダダダ



黒エルフ 「すごい速さで駆け抜けてったわね……」


牛乳淫魔 「……何だあ、あれ」


パン娘 「……いててて」

パン娘 「ばっきゃろー! お皿ひっくり返っちゃったでしょうがあ!」




ダダダダダダ

ダダダダダダ


中二 「ヒイ、フウ、ヒイ、フウ!」


ダダダダダ



人食い紳士 「…………」


血染めの石像 「…………」


靴磨き 「…………」



ダダダダダ


中二 「やばい、やばい、やばい!」


ダダダダ



ホブヤー 「…………」


ケンタウロス 「…………」



ダダダダダ


中二 「やばいやばいやばいやばい……!」

中二 「この街、やばい!!」


ダダダダダ


中二 「どこだ出口、出口、出口」

中二 「出口どこだ出口どこだ出口どこだ……!」


ダダダダダ

ダダダダダ


中二 「出ぐ………」

中二 「……!!」



……ザ ザ ザ


??? 「…………」



中二 (あ、あそこにいるのは……)



??? 「…………」

メイド? 「…………」




魔物の宿屋前



メイド? 「……あら」


中二 「や、やっぱり、あのときのメイドさん!」


メイド? 「あなたね。おぼえているわ」

メイド? 「どうしたの、随分と馴れ馴れしくして」

メイド? 「見てわかると思うけれど、私、忙しいのよ」


中二 「そっけない……!」


メイド? 「いま、私は忙しく掃除をしているの」

メイド? 「暇だから」


中二 「暇なら良いでしょう!」


メイド? 「そう」

メイド? 「用があるならさっさと話して」

メイド? 「無駄話をしている暇はないの」

メイド? 「暇つぶしの掃除で忙しいから」


中二 「ぐぬ……! ………ふぅ」

中二 「ええと……」

中二 (あれ、何から話せば良いんだろう)




中二 「い、家に帰ったら、家じゃなくて!」


メイド? 「哲学的ね」


中二 「よくわからない街で、変なのがいっぱい歩いてて」


メイド? 「変なのはあなたよ」

メイド? 「そのリボン、じつは驚くほど似合わないわ」


中二 「あんたがつけたくせに!」

中二 「じゃなくて、人骨がいて」

中二 「こっちのあとを、つけてきて」


メイド? 「リボンを?」


中二 「あとを!」


メイド? 「失礼ね。私、あなたのあとなんてつけないわ」

メイド? 「つけたのは、リボンよ」


中二 「そうだけど……!」


メイド? 「そう」

メイド? 「つけてないじゃない」


中二 「え?」


メイド? 「リボン」


中二 「……あ、本当だ」

中二 (どこかで解けたんだろうか)

中二 「……じゃ、なくて!」




中二 「つけてきてるの! 骨が! 人骨が!」

中二 「人肉を売りながら!」


メイド? 「リボンを?」


中二 「あとを!」


メイド? 「わけが分からないわ」


中二 「こっちがだ!」

中二 「こっちが、わけわかんないんだあ!」


ダム ダム ダム


メイド? 「落ち着いて」

メイド? 「どうどう」


中二 「犬!」


メイド? 「どうして犬の話をしているの」

メイド? 「人骨の話をしているのに」

メイド? 「あげるの? 犬に」


中二 「あげない! あげません!」

中二 「人骨がつけてくるの!」


メイド? 「犬に?」


中二 「リボンはつけない!」


メイド? 「そう」


中二 「……!!」


メイド? 「…………」


中二 「もう、何でも良いからとにかく助けてください!」


メイド? 「あなた」

メイド? 「お店の前でうるさいわ」


中二 「ああああ゛あ゛!」

中二 「もう、もう、もう……!!」

中二 「ああああああ……!!」


メイド? 「……良いわよ」


中二 「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛~~~~……あ?」

中二 「ぁ、え……?」


メイド? 「中に入って、ついてきて」






■中二(中学 二年生)


http://i.imgur.com/UHCkKEa.jpg
(画像は女性選択時のもの)


種族  : 人間
所属  : なし
所属隊 : なし
職業  : 中学生/アイテム術士/大根役者
レベル  : 2/001/026
体質  : 早口/大声/軽度中二病/苗床/自信過剰/第二腹式
弱点  : 毒/触手/悪魔
耐性  : 精神魔法
特殊技 : 高速詠唱/超逃走/大魔王から逃げられる


声の役者を目指したいと思っている少女(男性選択時は少年)。
武器も魔法も扱えないが、家事と勉強はやっぱりできない。
趣味は発声練習と走り込み。

画像はフィクションです。実際の中二とは異なる場合があります。



あれもしかしてピンク幼女魔王の人ですか?

>>29

http://i.imgur.com/uwPucNJ.jpg



魔物の宿屋 中受付



カララン コロン

ザワザワ ワイワイ


中二 「…………」


ケットシー 「いらっしゃい」


中二 (カウンターに、メガネをかけた猫がいる)

中二 「喋った……」


メイド? 「お客じゃないの」


ケットシー 「なんだ」

ケットシー 「珍しく起きていたのに」


メイド? 「彼は表に?」


ケットシー 「表にはクーシーがいる」

ケットシー 「副業でちょっと出ているよ」


メイド? 「あら、そうなのね」


ケットシー 「君が見送ったくせに」



ケットシー 「それで? お客じゃないなら、そっちのは何さ」


中二 「え? ええと……」


メイド? 「客よ」


ケットシー 「お客じゃないって言ったじゃないか」


メイド? 「客よ」

メイド? 「もてなさなくて良い方の」


ケットシー 「招かざる客というわけかい?」


中二 「いやいや……」


メイド? 「そうよ」


中二 「っ!」


メイド? 「彼がいないなら、勝手に奥を使わせてもらうわ」


ケットシー 「招かざる客のためにかい?」


メイド? 「ええ」


ケットシー 「……あのね。ボクはお客じゃない奴をもてなすために」

ケットシー 「睡眠時間を削ってここにいるわけじゃないんだ」

ケットシー 「君が一生懸命に宿の掃除をしているのだって、そうだろう」


メイド? 「いいえ」

メイド? 「私は宿の掃除をするけれど、一生懸命に宿を掃除したことなんてない」

メイド? 「あなたは一生懸命に受付をしているのね」


ケットシー 「いいや。迎えたお客の顔なんて、帰る頃には忘れている」


メイド? 「そう」

メイド? 「行って良いかしら」


ケットシー 「良いよ。どうでも良いよ」

ケットシー 「無駄話なんてしている暇ないんだ」

ケットシー 「時間は貴重だからね」

ケットシー 「大事にしたことなんてないけれど」


メイド? 「そう」




メイド? 「こっちよ。ついてきて」


中二 「あ、はい」



ト ト ト

ギ ギ ギ


メイド? 「…………」


中二 「…………」

中二 (お酒のにおい。木の柱に染み込んでいるみたいだ)

中二 (けっこう古い建物なんだろうか)


ド ワハハハ


メイド? 「一階は酒場になっているのよ」


中二 「へえ……」


ト ト ト


メイド? 「…………」


中二 「…………」

中二 「……?」


クラ


中二 (なんか、フラフラしてきた)


メイド? 「……ああ、そうだ」

メイド? 「ここのお酒、人間には毒で」

メイド? 「においを嗅ぐだけでも影響が出るから」

メイド? 「気をつけてね」





休憩室


バタム


メイド? 「着いたわ」

メイド? 「どこでも、好きに座って」

メイド? 「…………」


中二 「ゼエ……ハア……ゼエ……ハア……」


メイド? 「…………」


中二 「ゼエ……ハア……ゼエ……ハア……」


メイド? 「…………」

メイド? 「どうしたの」

メイド? 「息をきらして」


中二 「……だ、だって……!」


メイド? 「じゃあ、お茶をいれてくるわ」


コツコツコツ


中二 「聞けえ!」




カチ コチ カチ コチ



中二 「……うう」

中二 「いったい何なの、今日は……」

中二 「発声練習をしていたらカップルに怒られ」

中二 「家に帰ったらこんなところに迷い込んでいて」


カチ コチ カチ コチ


中二 「…………」


カチ コチ カチ コチ


中二 「…………」

中二 「やわらかいソファね」


ゴロン


中二 「…………」

中二 「………ん」


モジ モジ


中二 (……何だろう)

中二 (体がポカポカしてきた……)




カチ コチ カチ


中二 「…………」

中二 (……カップルか)

中二 「……ん、んぅ」


モゾ ゴロ


中二 (あんな時間にあんな場所で)

中二 (あんなことや、そんなことを……)

中二 「…………」


ゴロ モゾ 


中二 「…………」

中二 「……ふぅ。あつい」

中二 「…………」


モゾ ゴロ


中二 「…………」

中二 「…………」


ツ ツ ツ ソソ……


中二 「…………」



メイド? 「お待ちどうさま」



中二 「ふわおぅ!?」






メイド? 「……なかなかの度胸ね」

メイド? 「座れとは言ったけれど、寝転べとは言っていないのに」


中二 「あ、あへへ……。いやあ、これは……」


メイド? 「構わないけれど」

メイド? 「お茶、飲んで」


中二 「は、はい」

中二 「いただきます……」


メイド? 「寝ながらでも良いのよ」


中二 「さすがに無理です」


メイド? 「そう」


中二 「…………」

中二 (コーヒーみたいな飲み物だ)

中二 (……においもそれっぽい)


ズズ

コク コク ゴク


中二 (……甘い。おいしい)


メイド? 「…………」

メイド? 「それで」

メイド? 「スケートの裾から手を突っ込んで何をしていたの」


中二 「ブホッ……!!」




中二 「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ……」


メイド? 「大丈夫?」


中二 「は、はい」


メイド? 「そう」

メイド? 「それで、何をしていたの」


中二 「聞かんでください……」


メイド? 「そう」


中二 「…………」


ゴク ゴク ゴク


メイド? 「…………」


中二 「……お、美味しいですね、これ!」


メイド? 「そう」

メイド? 「で?」


中二 「え? いや……美味しいなって……」


メイド? 「何をしていたの」


中二 「これに限ってしつこく食い下がる!」

中二 「他の話題はすぐ流すくせに!」


メイド? 「聞けって言ったじゃない」


中二 「違う! 言ったけど!」

中二 「それとこれとは……!!」




メイド? 「スカートが、しっとりと張り付くように、あなたの腿の形や手の動きを」

メイド? 「隠しながらも伝える様は」

メイド? 「けっこう、いやらしかったわよ」


中二 「こら!」


メイド? 「とくに、腿のまるみに沿って内に流れるスカートの裾のラインが」

メイド? 「良かったわね」


中二 「こらあ!」


メイド? 「体の火照りはしずまったかしら」


中二 「だから!」


メイド? 「うちは淫魔向けのお酒も扱っているから」

メイド? 「人間がそのお酒のにおいをかぐと」

メイド? 「いやらしい気持ちになるの」


中二 「……はい?」


メイド? 「このお茶、解毒作用があるの」


中二 「いん……解毒……?」


メイド? 「火照り」

メイド? 「しずまったかしら」


中二 「………あ」

中二 「そういえば、そんなような……」


メイド? 「そう」




中二 「…………」


メイド? 「…………」


中二 「……ありがとうございます」


メイド? 「そんな、お礼なんて良いのよ」

メイド? 「当然のことをしたまで」


中二 「いえ、でも」


メイド? 「いやらしかったのは事実だもの」


中二 「そっちじゃなくて」

中二 「かくまってもらったり、お茶いただいたりして」

中二 「ありがとうございます」


メイド? 「………そう」


中二 「…………」


メイド? 「てっきり、私にこの町にお呼ばれしたことを」

メイド? 「感謝しているのだと思っていたわ」


中二 「あなたのしわざかあ!」



メイド? 「…………」


中二 「帰して! 私を家に帰してください!」


メイド? 「…………」


中二 「明日は大事な日なんです!」

中二 「私の人生がかかった、大事な日なんです!」


メイド? 「…………」


中二 「お願いします……!」

中二 「あなたがどうにかして私をここに招いたのなら」

中二 「どうにかして、私を元の場所に帰して!」


メイド? 「土に?」


中二 「かえしすぎ!」

中二 「家に帰して!」


メイド? 「あなた、土から生まれたの?」

メイド? 「私と同じね」


中二 「人から生まれました!」

中二 「土から生まれたの!?」


メイド? 「あなたが?」


中二 「あなたが!」


メイド? 「そんなわけないでしょう」

メイド? 「冗談よ」


中二 「ぐふっ、ぬふぅうっ……!!」


ダム ダム ダム


メイド? 「どうどう、落ち着いて」


中二 「誰のせいで……!」

中二 「帰して! 家に……」


メイド? 「ちょっと表へ行ってくるわ」

メイド? 「待っていて」


トタ トタ トタ


中二 「だから、聞けえ……!!」




…………


カチ コチ カチ コチ


中二 「…………はぁ」

中二 (出ていこうにも、こんなところで)

中二 (他に頼れるものもなし。無闇に出歩いても帰れそうになし)


ズズ ゴク ゴク


中二 (……こっちも好奇心旺盛で夢見るお年頃)

中二 (正直なところ、こういう不思議な体験に心躍る部分も無いわけじゃない)

中二 (しかし、明日は声優検定の日なので、そんな場合じゃない)

中二 (……いま、何時なんだろ)


時計 『カチ、コチ、カチ……』


中二 (……ここの時計の見方が、私の慣れ親しんだものと同じだとするならば)

中二 (いまは草木も眠る丑三つどきといったところ……)

中二 (いま帰れたら、一眠りして試験に臨める)




カチ コチ カチ


中二 (……前向きに考えよう)

中二 (これで一つ、話のネタが増えたじゃないか)

中二 (演技は経験から生まれるというし、だったら、この経験は大きな糧になる)

中二 (あのメイドさんだって、腹パンしてきたりするけれど)

中二 (二度も危機から救ってくれた)

中二 (なんだかんだで、力になってくれるはず)

中二 (そう思うと、あの無表情も頼もしい気がする……)


ガチャ


メイド? 「ただいま」


中二 「メイドさん……!」


メイド? 「お客をつれてきたわ」

メイド? 「あなたに」


中二 「え?」


メイド? 「どうぞ、入って」


コツ コツ コツ


人骨 「…………」


中二 「ぎゃあ!!」




中二 「なんで!?」

中二 「なんで!?」

中二 「なんで!?」


メイド? 「あなたに用があるそうだから」


中二 「その用から逃げてきたのに!」


人骨 「…………」


メイド? 「許してあげて」

メイド? 「あの人、自慰を妨げられて怒っているの」


人骨 「…………」


コクン


中二 「違いますから!」



メイド? 「そんな風に怒号をあげるものじゃないわ」

メイド? 「この人が来ないと、あなた死ぬところだったのよ」


中二 「はあ!?」


メイド? 「……渡してあげて」


人骨 「…………」


スッ


糸巻き棒


中二 「……棒」

中二 (これ、メイドさんから貰ったもの?)

中二 (でも赤い糸が巻かれている)


メイド? 「この町でそれを手放すのは罪深いことなのよ」

メイド? 「この町で暮らす者なら、自分の糸巻き棒を落とすことはつまり」

メイド? 「命を落とすことと同じだと、誰でも知っている」


中二 「え……」


人骨 「…………」


中二 「じゃあ……」


メイド? 「そう」

メイド? 「あなたは小汚い骨くらいにしか思っていないかもしれないけれど」

メイド? 「あなたの落とした棒を届けるために、必死であなたを追いかけていたのよ」

メイド? 「薄汚れたその骨は」


中二 「骨に余計なものをつけすぎでは」




人骨 「…………」


中二 「…………」

中二 (こっちが落とした棒を、拾って届けようとしてくれいた?)

中二 (こっちはそれを知らずに、すたこらさっさと逃げていたのか……)


メイド? 「……こういうときとそ、お礼を言った方が良いのではないかしら」


中二 「……あ」

中二 「ありがとうございます」

中二 「人の骨さん……」


人骨 「…………」


コクン


中二 は 糸巻き棒 を手に入れた!
中二 は 呪われてしまった!


デンデロデロデロ……


中二 「……うっ」

中二 (やっぱり、嫌な感じが……)




…………


カチ コチ カチ コチ


メイド? 「……もう手放しちゃだめよ」

メイド? 「この町にいる間は」


中二 「は、はい……」

中二 (……糸巻き棒)

中二 「……あのう、これって何なんですか?」


メイド? 「二つの鍵の一つであり、あなたの命よ」


中二 「……はあ?」


メイド? 「その棒と赤いリボンを手に入れることで」

メイド? 「この町への扉はひらかれる」

メイド? 「赤いリボンだけでは入れない」

メイド? 「糸巻き棒だけでは入れない」

メイド? 「……命なくして、この町は歩けない」




中二 「あの……よく分からないんですが……」


メイド? 「お金がないと宿屋に泊まれないでしょう」

メイド? 「それと似たようなものよ」


中二 「は、はあ……」


メイド? 「リボンと糸巻き棒を持っていれば、ここに来ることが許される」

メイド? 「リボンは使い捨て。一度扉をくぐると失われる」


中二 「あ、それで……」


メイド? 「棒は失われない。失ってはならない物になる」

メイド? 「装備者の命を、その身に巻き取って」


中二 「巻き取る」

中二 「……糸」


メイド? 「ここは大きな町。町だけの世界」

メイド? 「町の名前は、住んでいる人の数だけある」

メイド? 「本当の名前は誰も知らない」

メイド? 「けれど、町の本当の名前が忘れ去られたという記憶だけは」

メイド? 「みんな知っている」

メイド? 「住人も、旅人も、きっと、ひびのように壁を這う蔦も……」

メイド? 「町の中心にそびえる最古の城が、それを教えてくれるから」

メイド? 「ここはそういう町」


中二 「……はあ」



メイド? 「……あなたもまき取られてしまったのね」

メイド? 「この町という、棒に」


中二 「話をややこしくしないでください」

中二 「……他人事みたいな言い方したけれど」

中二 「むしろ、こっちを巻き取ったのはあなたでは?」


メイド? 「私が棒?」


中二 「まあ、無表情というか」

中二 「棒読みというか……」


メイド? 「…………」

メイド? 「…………」

メイド? 「…………」


中二 「分かりました。謝ります、ごめんなさい謝ります」

中二 「ここが変なところだってことは分かりましたから」

中二 「じゃあ、帰る方法は?」

中二 「それを教えて欲しいんです」


メイド? 「……帰りたいのね」


中二 「明日は大事な日なんです」


メイド? 「……リボン」


中二 「リボン。さっきの?」


メイド? 「リボンと糸巻き棒があれば、扉をくぐって帰ることができるわ」





中二 「リボン……」


メイド? 「ええ」


中二 「リボンください!」


ガバ


メイド? 「……急にどうしたの」

メイド? 「這いつくばって床を舐めて」

メイド? 「やめたほうが良いわよ。私、そこまで丁寧に床を掃除していないから」


中二 「舐めていません」

中二 「お願いしているのです!」

中二 「リボンください!!」


メイド? 「嫌よ」




中二 「ください!」


メイド? 「いま持っていないもの」

メイド? 「買わなくちゃ」


中二 「どこで! いくらで!」


メイド? 「川を渡ってしばらく歩いて、左の小さな坂道に入ったあたりの魔法雑貨屋で」


中二 「いくらで!」


メイド? 「黒貨……何枚だったかしら」

メイド? 「あなた、この町の通貨を持っているの?」


中二 「貸してください!」


メイド? 「この前、友達と合法裏カジノに行ったから、無いわ」

メイド? 「勝敗、知りたい?」


中二 「負けているでしょう! いまお金が無いなら」


メイド? 「勝ったわ」


中二 「貸してください!」


メイド? 「嫌よ」

メイド? 「ボロ勝ちしている最中に、治安隊が突入してきて没収されたわ」


中二 「合法なのでは!?」


メイド? 「…………」

メイド? 「この宿を出て左に進んだところに、換金所があるわ」

メイド? 「あなたの世界のお金、換金できるかもしれないわよ」


中二 「行ってきます!」


ダダダダダ


メイド? 「…………」




ザワザワ ワイワイ


魔物区 空き缶通り



テク テク テク


中二 「換金所、換金所……」


キョロ キョロ


中二 「……あっ」



合法換金所



中二 「合法……換金所」





合法換金所



森マンドラゴラ 「ただいま、ヨゴレドリの嘴とGラットの前歯の換金強化中」

森マンドラゴラ 「換金率1.4倍で、20個ごとに回復薬のおまけつき」

森マンドラゴラ 「換金は森の錬金ギルドの換金所で!」


単眼娘 「鉱石系のアイテム、石くずから愚者の石まで換金します」

単眼娘 「今なら原石まとめ売りで、当ギルドのアクセサリをプレゼント」

単眼娘 「換金は一つ目工房の換金所で!」


ワイワイ ガヤガヤ


中二 (うひゃー……本の中でしか生きていないような化物がたくさんいる)

中二 (人間みたいなのもちらほらいるけど、耳が長かったり、角がはえてたり……)


キョロ キョロ


中二 (……受け付けがいくつかあるけど、どこに行ったら良いんだろう)




中二 (……そういえばお金、どのくらいあったかな)

中二 (財布持っててよかった……)


ガサ ゴソ

パカ


紙切れ×3
中くらいの紙切れ×1
大きな紙切れ×2
鉄クズ×5
黄銅クズ×4
白銅クズ×7
アルミクズ×4


中二 (おおっ、お札ある! けっこう入ってた!)





フヨ フヨ


おさげ小人 「お金ー、お金ー」

おさげ小人 「お金をお金に交換するっすよー」

おさげ小人 「お金の換金は黄金の小指ギルドへー」

おさげ小人 「受け付けは奥の……」


フヨ フヨ


中二 「あの……!」


おさげ小人 「何っすか」


中二 「お金、お金に交換したいんですが!」


おさげ小人 「え?」


中二 「お金を、お金に! 交換!」


おさげ小人 「あのう、すんません。よく聞こえないっす」


中二 「お金を!!!」


おさげ小人 「うひゃあ!」

おさげ小人 「もう、だからそんな大きな声で言われたら聞こえないっすよ!」


中二 「なんで……!」


おさげ小人 「あんたも巨人と話してみたら分かるっす」

おさげ小人 「小人のうちにとって、あんたの声は大きすぎて」

おさげ小人 「何を言ってるのか分かんないっす」




中二 「ご、ごめんなさい」

中二 「このくらいで良いですか?」


ポショ ポショ


おさげ小人 「うひゃっ」

おさげ小人 「べつに耳のそばで話す必要はないっすよ。内緒話じゃないんっすから」


中二 「は、はい。それで……」

中二 (これ、ウィスパーボイスの練習になるな)


おさげ小人 「お金の換金っすか?」


中二 「はい」

中二 「ここのお金に交換したいんですけど」

中二 「できますか?」


おさげ小人 「もちろん、できるっすよ」

おさげ小人 「うちはどんな世界のお金も扱っているっすから」




合法換金所 受付『黄金の小指ギルド』



フヨ フヨ



三つ編み小人 「ちょれでは、黒三枚と白五枚、黄片30個、お渡ししまちゅ」

三つ編み小人 「あと、端数分のチョコレートでちゅ」


異界剣士 「ありがとう」


三つ編み小人 「またご利用くだちゃい」

三つ編み小人 「……ふう。夜になっても人が多いでちゅね」

三つ編み小人 「ここはいつでも夜でちゅが」


フヨヨヨ


おさげ小人 「みっちん先輩、お客さんっすよー」


三つ編み小人 「こらあ! ここではワタチのことは部長と呼べって言ってるでちょう!」


中二 (わっ、また小人)

中二 (可愛い……かも)


三つ編み小人 「まったく、お金を扱うものとして、もっときちんとするべきでちゅ……」

三つ編み小人 「……と、いらっちゃいませでございまちゅわ、お客さま」

三つ編み小人 「どんな世界の冒険も楽々サポート。冒険者の強い味方」

三つ編み小人 「黄金の小指ギルドにようこそでございまちゅ」




三つ編み小人 「今日はどういったご用でちょうか」


中二 「えっと……」


おさげ小人 「他の世界のお金を、この世界のお金に換金したいそうっす」


中二 「そ、そう……っす」


三つ編み小人 「他の世界からのお客ちゃまでちゅか」

三つ編み小人 「武器も持たずに……冒険者には見えまちぇんが」


中二 「はい」

中二 「……冒険者ではありませんが」

中二 「武器は……フッ……しいて言えば、この声です」

中二 (なんつって)


三つ編み小人 「語り部さまでちゅか」

三つ編み小人 「では、ここにお金を置いてくだちゃい」


中二 「は、はい……」




三つ編み小人 「紋章があれば、こちらでお願いしまちゅ」


中二 「はい……紋章?」


おさげ小人 「わあ、違うっすよ、部長!」

おさげ小人 「紋章じゃなくて、ここでは糸巻きっす」


三つ編み小人 「わあ、そうでちた!」

三つ編み小人 「糸巻きをこちらにに置いてくだちゃい」


中二 「は、はあ……」

中二 (糸巻きって、これかな)


コト


糸巻き棒:中二



三つ編み小人 「…………」


中二 「…………」

中二 (違った?)


三つ編み小人 「はい、たしかに」


中二 (あ、良かったみたい)




三つ編み小人 「それでは、お金を拝見……」


チャリ チャリ



中二 「あの、この糸巻きっていったい……」


おさげ小人 「ああ、ここでは紋章のかわりに」

おさげ小人 「糸巻きが身分証明になるっす」


中二 「身分証明。糸巻きが……」

中二 (紋章が何か分からないから、よく分からない)


おさげ小人 「驚くのも無理はないっす」

おさげ小人 「そんなの、この世界くらいのもんっすから。ここの糸巻きは特別なんっす」


中二 「へえ……」



チャリン チャリン


三つ編み小人 「…………」

三つ編み小人 「ふぅーむ……」


中二 「…………」

中二 (いくらになるんだろう……)



…………




魔物の宿屋



カチ コチ カチ コチ


メイド? 「…………」


カチ コチ カチ コチ


メイド? 「……ズズ」


カチ コチ カチ コチ


メイド? 「…………」

メイド? 「…………」


ガチャ キイイ


中二 「…………」


メイド? 「……あら」

メイド? 「おかえりなさい」





中二 「…………」


テク テク テク テク

ドサ


中二 「…………」


バララ


中二 は 換金記念チョコレート×3 を机にぶちまけた!


メイド? 「…………」


中二 「……これだけ」


メイド? 「…………」


中二 「三ヶ月ためたお金を換金したら」

中二 「これだけになった……!!」




メイド? 「……換金所を利用したらもらえるチョコレートね」

メイド? 「MP回復と魔法力アップの効果があるわ」


中二 「終わりだ……」

中二 「あしたの試験……あたしの……いちまんえん……」


メイド? 「お金はどうなったの」


中二 「何かいろいろ調べられたあと、換金用とか言って、お金を壺みたいなものに放り込まれて……」

中二 「待ってたらこの世界のお金が出てくるから、待ってろって言われて」

中二 「でも待てど暮らせど何も出てこなくて」

中二 「換金所の人に、壺がお金と認めなかったんだろうって言われて……」

中二 「それでも待ってたら、かわいそうだからチョコひとつ多めにやるから、邪魔だから帰れって……」


メイド? 「…………」

メイド? 「……そう」




中二 「財布だけ……残ったのは、空の財布だけ……富の抜け殻……トレジャーファントム……」


ブツブツ ブツブrツブツ


メイド? 「…………」

メイド? 「……お茶、飲みたかったら……」


中二 「……いただきます」


メイド? 「あっちにお湯があるから勝手に飲んだら良いわ」


中二 「…………」

中二 「もう終わりだあ!! うわーん!!」




ガバ


中二 「輝かしい道も、いちまんえんも、みんなすっ飛んで無くなったあ!」

中二 「ていうか人生も終わったあ! なんか変なところから帰れずに終わったあ!」


メイド? 「あきらめるのは早いわ」

メイド? 「リボンがあれば帰れるわよ」


中二 「でも! そのリボンを買うお金がないと話にならないのでしょう?」


メイド? 「その通りよ。というか、全体的にお金がないと生きていけないわ、この町では」


中二 「お金、貸してください!」

中二 「美人のメイドさん!」


メイド? 「……………」

メイド? 「死神メイド」


中二 「え?」


メイド? 「死神メイド」

死神メイド 「それが、私の名前……」


中二 「……!」

中二 「死神メイドさん! お金を」


死神メイド 「いやよ」


中二 「終わったあ!」



■死神メイド


http://i.imgur.com/oyPT4Fe.jpg
(画像はフィクションです)


種族  : 死神(のパシリ)
所属  : 魔物の宿屋 / 淫魔商会
所属隊 : なし
職業  : 死神/メイド/ギャンブラー
レベル  : ????/058/231
体質  : 無口/低体温/ポーカーフェイス/マイペース/ハイテンション
弱点  : 聖
耐性  : 死/闇/氷/くすぐり /淫
特殊技 : 魔王殺しパンチ/蘇生阻止キック/即死攻撃(乱舞)


商人の町の宿屋で働く少女。
仕事は大体いいかげん。





…………


コポコポコポ トン


死神メイド 「はい。お茶、ついであげたわ」


中二 「…………」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「……ズズ」


中二 「…………」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「……運命だったのよ」


中二 「……運命」


死神メイド 「声優なんて、目指した時点で人生終わったようなものなのだから」

死神メイド 「私と出会い、ここへやってきたのも、そう、運命だったのよ」


中二 「…………」


死神メイド 「…………」


中二 「…………納得」

中二 「いくかあ!!」




中二 「声優を何だと思っているんですか!」


死神メイド 「顔が悪いか、売れない役者の暇つぶし」


中二 「そこになおれ!」


死神メイド 「…………」


中二 「良いですか! 声優というのは」

中二 「役者が表情や体をつかって表現するものを声だけで……」


死神メイド 「やめて」


中二 「……!?」


死神メイド 「そういうの、どうでも良いわ」


中二 「………!!」


死神メイド 「本当に、まったく、興味ないの」

死神メイド 「やめて」


中二 「…………」

中二 「~~ッ、ッッッ! ッ~~~~!」

中二 「……はぁ」


ストン


死神メイド 「…………」

死神メイド 「……お茶」

死神メイド 「さめるわよ」


中二 「…………」

中二 「いただきます……」


ズズズズ




ガチャ


死神メイド 「……あら」


中二 「……?」

中二 (誰か入ってきた。誰だろう……)

中二 「………!!!!?」


ノシ ノシ ノシ


??? 「…………」

黒オーク 「……おお」


中二 「……ぶ、ぶぶぶ……」

中二 (牙のはえた、大きな黒い豚!)




死神メイド 「おかえりなさい」


黒オーク 「おう」


死神メイド 「あの子たち、どうたった?」


黒オーク 「おお、元気だったよ」

黒オーク 「んだけど、異種の方の娘たちから、ちょっと困った要望があってな」


死神メイド 「あら」


黒オーク 「いや、種類を増やしてほしいってな」

黒オーク 「とくに触手系と植物系を」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「触手だったら、あてがあるかもしれないわ」

死神メイド 「お腹を二、三発なぐれば、快く引き受けてくれるかも……」


中二 (何の話だろう)




黒オーク 「淫魔の旦那は来とらんかい?」


死神メイド 「ええ」


黒オーク 「そうかい。いれば、相談もできたが」

黒オーク 「けんど、このところ見ないな、旦那」


死神メイド 「忙しい人だから」


黒オーク 「ふーむ」

黒オーク 「んで、そっちのお嬢ちゃんは誰だい」


中二 「……!」

中二 「あのっ……あたしはっ」


死神メイド 「知らないわ」


中二 「おうっ!?」




死神メイド 「冗談よ」


中二 「こんなときにやめてください……!」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「友達よ」


中二 「!?」


黒オーク 「……あー」


中二 「い、いやいやいや、あのですね」

中二 「あたしはですね、家に帰ろうとしたら……」


黒オーク 「……うん、うん」

黒オーク 「だいたい分かった」

黒オーク 「災難でがしたな、お嬢ちゃん」


中二 「……あ、はい」

中二 (何やら察された……)




黒オーク 「……まあ、まずは」

黒オーク 「何か、食いますかい?」


中二 「い、いえ、おかまいなく……」


キュルルル


中二 (お腹が鳴ってしまった!)


死神メイド 「お腹は空いているようね」


中二 「あはは……」


黒オーク 「遠慮するこたぁないのに」


死神メイド 「つまり、あなたの料理を食べるくらいなら、泥でも拾って食べた方が良いということね」


中二 「い、いただきます!」





黒オーク 「おっしゃ、じゃあ何か作ろう」


中二 「す、すいません……」


黒オーク 「良いんでがすよ。おれも腹が減っていたし」

黒オーク 「何か食いたいものはありますかい?」

黒オーク 「あったかいもの、冷たいもの、肉、魚、野菜……」


中二 「ええっと」


死神メイド 「トンカツだそうよ」


中二 「ええっ!?」


黒オーク 「おっしゃ」


中二 「えええっ!?」




カチ コチ カチ


中二 「…………ふう」


ズズ


死神メイド 「……ぼーっとしているわね」


中二 「……あ」

中二 「いえ、思い返すと何だか、やっぱり現実じゃないみたいで」

中二 「だって、道端で糸巻き棒を投げつけられて、帰って玄関あけたら知らない街で」

中二 「そこを見たことない生き物が、人間みたいに歩いてて」

中二 「……夢の中にいるような」


死神メイド 「……そう。夢」

死神メイド 「残念だったわね、なんとかテスト」


中二 「うぐっ、誰のせい……!」

中二 (お、落ち着け自分。演じるには相手を受け入れる気持ちが肝要!)

中二 (切りかえよう。強い感情にただ流されるだけでは、感情を操る役者になどなれない……!)

中二 「……はあ。まあ、また半年後にあります」

中二 「半年の遅れなど巻き返してみせます」


死神メイド 「若いのに、切りかえが速いのね」


中二 「……! はい!」

中二 「あ、い、いえ、コホン……演じるためには必要なことだから」


死神メイド 「そう」


ズズ


中二 (……この人はいくつなんだろう)




中二 (ほかと違って、こっちと同じ普通の人みたいだし)


死神メイド 「……そうやって」

死神メイド 「半年、また半年と、延びていくのね」


中二 「うぐっ……縁起でもないことを……」


死神メイド 「……遅れるって」

死神メイド 「何に、何が遅れてしまうの?」


中二 「……アタシが、ライバルにです」


死神メイド 「そういうものなの」


中二 「厳しい世界なのです」


死神メイド 「そう……」

死神メイド 「精子よりも?」


中二 「はあ!?」


死神メイド 「精子の生存競争よりも、厳しい世界なのかしら」


中二 「知りませんが!」




死神メイド 「…………」


中二 「……あ、あの」

中二 「待ち遠しいですね、あの豚さんの料理」

中二 「けっこう楽しみなんですよ」

中二 「あ、でも、どうしようかなあ、巨大な虫の蒸し焼きとか出てきたら……」


死神メイド 「精子の世界は厳しいわ」


中二 「あーあ、話もどしたあ!」


死神メイド 「とくに人間などの哺乳類は」

死神メイド 「何千万という夥しい数の精子のうち、生き残るのは一匹かそこら」

死神メイド 「まさに、狭き門」


中二 「……は、はあ」


死神メイド 「……大丈夫よ」


中二 「え?」


死神メイド 「あなたは一度、その競争に勝ったのだから」


中二 「……!」




中二 「…………そ」

中二 「そうですよね!」


ガタン


死神メイド 「いきなり立つと危ないわ」

死神メイド 「どうしたの」


中二 「何千万のライバルに打ち勝ち、この世に生まれるという最大級の勝利を得たアタシ!」

中二 「いってたかだか数万人のライバルに勝つくらい、なんてことない!」


死神メイド 「そうなのね」


中二 「アタシ、頑張る!」

中二 「頑張って、もういちど狭き門をくぐってみせる!」


死神メイド 「また精子になるの」


中二 「はい!」


死神メイド 「変なツボに入ったみたいね」




中二 「うふわはははは……」

中二 「アタシ、精子になるわ」

中二 「声優の精子に……!」


死神メイド 「…………」


中二 「そして狭き門をくぐり、声優の卵として声優界に着床してみせる!!」

中二 「なってみせる、最強の……!」


ガチャ


黒オーク 「おーう、おまちど……」


中二 「精子になります!!」


黒オーク 「…………」


死神メイド 「…………」


中二 「…………」

中二 (うわあ!?)



黒オーク 「…………」


中二 「…………」

中二 (うわああ)

中二 (うわああ!)

中二 (よりによって聞かれた! 何てことを言ってしまった!)


死神メイド 「…………」


黒オーク 「……おう」

黒オーク 「んじゃあ、食べるでがすか」


カチャ コト


中二 「…………」

中二 (うわああ! 何事もない風に気遣われた。気まずい!)

中二 (恥ずかしさで死んでしまいそう!)

中二 (どうしたら良いんだこれ。どうしたら……!)


黒オーク 「フォークとナイフ、スプーンと、とりあえずいろいろ持ってきたから」

黒オーク 「好きなものを使ってくだせえ」


中二 「くっ、殺せえ……!!」

中二 「いやいっそ犯せ! その方がこのやり場のないエネルギーのやり場がある」

中二 「犯してください!」


黒オーク 「……へえ」

黒オーク 「じゃあ、そのうち」


中二 「嘘! ごめんなさい勢いで言いました、嘘です!」


黒オーク 「……で、がしょうなあ」

黒オーク 「まあ、ひとまず落ち着いて」

黒オーク 「飯にしやしょう」




…………


カチャ カチャチャ

パク モグモグモグ


中二 「……おいしい! フワフワでシャキシャキでジュワジュワ!」


黒オーク 「おお、そいつは良かった」


死神メイド 「彼は宿のお客の食事を、ひとりで作っているのよ」


中二 「へええ……」


黒オーク 「まだ宿が小さい頃だけども」


死神メイド 「今は人に任せることも多いわ」

死神メイド 「彼も、権力者ゆえの堕落には勝てなかったのね」


黒オーク 「お前はまた、そういう……」


死神メイド 「冗談よ」


中二 「あ、あはは……」




黒オーク 「んで、お嬢ちゃんは、ええと……」


中二 「中二です」


黒オーク 「おう。これはどうも」

黒オーク 「おれは黒オークでがす」


死神メイド 「宿オークと呼ぶ人もいるわ」


中二 「はい」


黒オーク 「中二さんは、自分がどうなってるか」

黒オーク 「どのくらい分かってるんでがしょうか」

黒オーク 「どうしてここに来た、とか」


中二 「えっと、帰り道で死神メイドさんに糸巻き棒とリボンをもらって」

中二 「で、家に帰ったらこの街にいて」

中二 「いろいろあって、ここに……」


黒オーク 「……あー。うん、やっぱり」

黒オーク 「そりゃあ、すまんこってす」


中二 「い、いえ……」


死神メイド 「あなたが謝ることは無いわ」


黒オーク・中二 「そうだけど」




死神メイド 「あら」

死神メイド 「仲良しね。羨ましいわ」

死神メイド 「本当に、羨ましい」


黒オーク 「……まあ、こういう子でがす」


中二 「はあ」

中二 「いえ、分かります、何となく……」


黒オーク 「……ふーむ」


中二 「? あの……」


黒オーク 「いんや。お若いのに、落ち着いているでがすな」

黒オーク 「もっと取り乱しても不思議でないのに」


中二 「取り乱していたんですけど、いろいろあって……」


黒オーク 「で、がしたな」

黒オーク 「なんにしても、立派なこってす」


中二 「いやあ……」

中二 (見た目は大きいし牙があるし、怖いけど、良い人そう)

中二 (……良い豚?)




黒オーク 「中二さんは、この街で行くあてなんて、当然ないでがしょうな」


中二 「はい」

中二 「帰る方法は教えてもらったけれど」

中二 「悲しいかな、お金が無く……」


黒オーク 「で、がすか」

黒オーク 「おお、それでは、おれの金を貸……」


死神メイド 「ここに泊めてあげるのはどうかしら」


黒オーク 「……まあ、構わんけど」


中二 (すごいチャンスを逃した気がする)




黒オーク 「けども、混沌区に近いとはいえ」

黒オーク 「ここは魔物区だし」

黒オーク 「この宿も一応、魔物・妖精向けでがすからなあ」


死神メイド 「人間に貸さないわけでもないじゃない」


黒オーク 「しかし、うーむ……」


中二 (魔物区?)


死神メイド 「しょうがないわね」

死神メイド 「では、叩きだしましょうか」


中二 「えっ!?」


黒オーク 「いんや、だからリボンを買ってあげて……」


死神メイド 「だめよ」





死神メイド 「宿オーク、この豚。あなたはこの店で何番目かに偉い人なのよ」


黒オーク 「店主だけども」


死神メイド 「それに、あなたが管理しなくてはならないのは、いまや宿だけでもないでしょう」

死神メイド 「そんな人が、お金にそんなことでは駄目」

死神メイド 「誰かにタダで何かをしてあげるなんて」

死神メイド 「その誰か以外を、ないがしろにしているということだわ」

死神メイド 「多くの人の上に立つとは、そういうことなのよ」


黒オーク 「もっともらしく言うけども」

黒オーク 「だったら、この宿に泊めるにも、金をもらわにゃならんくなるぞ」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「その通りね」

死神メイド 「たたき出しましょう」


中二 「ええっ」


黒オーク 「こらこら」

黒オーク 「何がしたいんかい、お前は」




死神メイド 「せっかく来てくれたのだし」

死神メイド 「泊まっていってほしいわ」

死神メイド 「五百年くらい」


中二 「永住させる気なのでしょうか」


死神メイド 「この街だって、楽しいこともあるのよ」

死神メイド 「友だちには、そういうこと、知ってもらいたいもの」


中二 「メイドさん……」

中二 (友だちに対する態度じゃない気もするけれど)


黒オーク 「まあ、五百年は無理にしろ」

黒オーク 「……中二さんの世界のニンゲンの寿命は何百年でがすか?」


中二 「だいたい百五十年くらいですね」

中二 「将来はもっと長くなるかもしれないそうです」


黒オーク 「ほー。ヒトの中でも短い方でがすな」


中二 「そうなんですか」


黒オーク 「同じニンゲンでも、三百年ほど生きる世界もあるでがす」

黒オーク 「すべての種族の中では、長いとは言えんでがすがね」


中二 「ほー」




中二 「頭はまるで追いつかないけれど」

中二 「世界はひろいんですね」


黒オーク 「ひろいというか、大きいというか、多いというか」

黒オーク 「センセではないので、うまく言えんですが」

黒オーク 「しかし、本当に落ち着いているでがすな」


中二 「目の前の出来事を受け入れる……フッ」

中二 「新鮮で自然な演技をするためには、大事なことなのです」


黒オーク 「そりゃ結構」




死神メイド 「あなた、混乱しまくっていたじゃない」

死神メイド 「三十ターンくらい」


中二 「あれは……っ」

中二 「私もまだ未熟だったのです」

中二 「……ターン?」


黒オーク 「えーと、それで、何だったか」

黒オーク 「おお、この宿に泊まる話でがした」

黒オーク 「中二さんは、それで構わないんで?」


中二 「は、はい。でも、お金が……」


黒オーク 「それは考えんでくだせえ」

黒オーク 「うちの者が巻き込んじまったんでがすから」


中二 「ありがとうございます」


黒オーク 「巻き込まれて、良かったのかもしれんでがすがね」


中二 「?」




黒オーク 「まあ、いずれ分かるでがしょう」

黒オーク 「そんときに中二さんが決めたら良いでがす」


中二 「……はあ」


黒オーク 「リボンのことも心配せんで良いでがすよ」


中二 「え?」


黒オーク 「金は出すんで」

黒オーク 「まあ、安心して観光してくだせえ」


中二 「あ、ありがとうございます!」


死神メイド 「うちの宿オーク、太っ腹でしょう。私の誇らしいことのひとつよ」

死神メイド 「お金があるから、他人に優しくできるの」

死神メイド 「お金があるから」


黒オーク 「……まあ、そういうもんだけども」




中二 「あの」


黒オーク 「うん?」


中二 「何か、宿の仕事を教えてもらいたいんですが」

中二 「駄目でしょうか」


黒オーク 「……? おー」

黒オーク 「うちを手伝ってくれるっつうことでがすか?」


中二 「はい」


黒オーク 「気をつかわんでくだせえ」


中二 「いえ、甘え癖と怠け癖がありまして」

中二 「このくらいはしておかないと」

中二 「……良い経験にもなりますし」


死神メイド 「自信家なのね」

死神メイド 「自分がここで働くに値するということ前提で話すなんて」


中二 「うっ……」


死神メイド 「冗談よ」

死神メイド 「嬉しいわ。先輩として指導してあげる」

死神メイド 「全身の骨がドロドロになるまで」


中二 「ドロドロ!?」




黒オーク 「うーむ、しかし」

黒オーク 「魔物の宿屋で人間を働かせると」

黒オーク 「どっちにとっても不幸なことが起きないとも限らんし……」


中二 「そ、そうですか……」


黒オーク 「さっきはああ言いましたが、危ないことには首を突っ込まん方が良いでがすよ」

黒オーク 「親御さんも心配しているでがしょうし」


中二 「あ、大丈夫です」

中二 「十年くらいいなくても、心配しないんじゃないですかね」


黒オーク 「そ、そうでがすか」

黒オーク 「んですが……」


死神メイド 「やめましょう」

死神メイド 「彼女の目から光が消えている」

死神メイド 「この話題はきっと闇が深いわ」


黒オーク 「うーむ」


中二 「?」




黒オーク 「そいじゃあ、その辺のことはゆっくり話すとして」

黒オーク 「中二さん用の空き部屋を確認してこよう」


中二 「あ、ありがとうございます」


黒オーク 「ん。魔物の宿屋へようこそ」


ガタタ

ノシ ノシ


死神メイド 「帰ってきたばかりでしょう。私がやるわよ」


黒オーク 「いやいや、ちょいと確認したいこともあるし」

黒オーク 「まあ、部屋が見つかったら掃除は任せるけども」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「……中毒ね。宿の仕事から少し離れただけで、落ち着かないのね」


黒オーク 「はっは……」


ノシ ノシ

ガチャ バタン





死神メイド 「…………さてと」


スタスタ

ポチ


魔動画 『……ガガ、ザザー』


中二 「!」

中二 (壁にかかった板に死神メイドさんが触れたら)

中二 (板に映像が……)

中二 (これって、まるで……)


死神メイド 「魔法じかけのアイテムよ」


中二 「魔法……」


死神メイド 「あなたの世界では絶滅しているのだったわね」


中二 「絶滅……そ、そうなるんですかね」

中二 (ここでは当たり前のように生活に溶け込んでいるのかな)


魔動画 『ザザッ……』

魔動画 『第三大世界と第A大世界……いわゆる未知の世界の衝突から……日』

魔動画 『星天観測所によりますと、衝突の中心とされる界域の観測はいまだ不可能であり……』




中二 「うーむ、魔法。魔法かあ……」

中二 「声を自在に変えられる魔法なんてあるのだろうか」

中二 「だとしたら、異性どころか渋いおじさん声もいける……」


死神メイド 「…………」


スタ スタ スタ


中二 「……!」

中二 「あ、あの……」


死神メイド 「くつろいでいて」

死神メイド 「私も準備してくるわ」


スタ スタ スタ

パタム


中二 「……行っちゃった」


魔動画 『ヂャララララ、ヂャララララララ』

魔動画 『踊る、長針チャンネル下層版!』

魔動画 『この魔動画は、貫層魔法学院下級生徒会がお送りします……』




…………


カチ コチ


魔動画 『続きまして、メンバー全員の昇級が決定しているパーティ』

魔動画 『ファイブフェアリーズの新曲!』

魔動画 『下級塔での最後のライブとなります……』


チャルララ ジャッジャジャジャ

パプー


中二 「…………」

中二 「……へえー、ここにも音楽ってあるんだ」

中二 「なんか良い曲かも……」


ガチャ

スタ スタ スタ


死神メイド 「お待たせ」


中二 「あ……はい」


死神メイド 「……黒オークは?」


中二 「まだ、行ったままですね」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「はい、これ」


バサ


綺麗なメイド服


中二 「……メイド服だ」


死神メイド 「ここで働くなら、着てもらわなくちゃ」


中二 「これを、あたしに?」


死神メイド 「ええ」

死神メイド 「私のお古だから、胸のサイズが合わないかもしれないけれど」



中二 「……おおー」

中二 (まさか、メイド服を着る機会がくるとは)

中二 (ちょっと興味あったんだよなあ……)


死神メイド 「今日はやめておきなさい」


中二 「えっ……」


死神メイド 「体、汚れているでしょ」

死神メイド 「宿屋は清潔感が大事だから」


中二 「は、はい!」

中二 「先輩!」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「かまわないけれど」

死神メイド 「……遅いわね、彼」

死神メイド 「お風呂をどうするか相談したいのだけれど」


中二 「そうですね……」



ガチャ ギイイ


黒オーク 「…………」



死神メイド 「あら、噂をすれば」




黒オーク 「……あー」


死神メイド 「うかない顔ね」

死神メイド 「鏡でも見てしまったの?」


黒オーク 「いや、うーん」

黒オーク 「……部屋が」


中二 (まさか)


死神メイド 「とれなかったのね」


黒オーク 「おう」

黒オーク 「……中二さん」


中二 「は、はい」


黒オーク 「申し訳ないこってす」

黒オーク 「空いている部屋がありませんで」


ペコリ


中二 「い、いえ、そんな、探していただいたのに……」


黒オーク 「いや、本当に申し訳ない」


死神メイド 「それで、どうするの」


黒オーク 「まあ、この部屋でも、おれの部屋でも使ってもらうしか……」


死神メイド 「少女を部屋に連れ込んで何をするつもりなのかしら」

死神メイド 「女騎士の格好をさせた少女を部屋に連れ込んで、何をするつもりなのかしら」


黒オーク 「何もせんし、騎士の格好もさせんし連れ込まんけども」




死神メイド 「戦士だけに?」


黒オーク 「騎士って言っとらんかった?」


中二 「ええと……」

中二 「忙しいんですね、この宿屋」


黒オーク 「まあ、ありがたいことに」

黒オーク 「んだけど、この時期に部屋が一杯になることは、あまり無いんでがすが」


死神メイド 「治安隊の取り締まりが厳しくなったせいかしらね」


黒オーク 「ん?」


死神メイド 「このところ、物騒じゃない」

死神メイド 「糸盗みも出ているし」


黒オーク 「おおー」


中二 (糸盗み?)




中二 「ええと」


黒オーク 「おっと、すまんこってす」


死神メイド 「ここの仕組みについては、おいおい説明するわ」

死神メイド 「気が向いたら」


中二 「お、お願いします」


黒オーク 「部屋を用意せんといかんでがすな」

黒オーク 「たしかに、おれの部屋に若い娘さんを置くのも悪いだろうし」

黒オーク 「ここを使ってもらいますか」


死神メイド 「待って」

死神メイド 「まだあるじゃない」


黒オーク 「うん?」


死神メイド 「あそこよ」




中二 (ここだとかあそこだとか、分からないけれど)


黒オーク 「あそこは……駄目だろう」


死神メイド 「そうかしら」

死神メイド 「予約の空き部屋……は、ダメね」


黒オーク 「やっぱりこの部屋だな」

黒オーク 「……従業員の部屋を増設せんといかんなあ」


死神メイド 「ずっといるわけでもないのに?」


黒オーク 「必要なくなったら、倉庫にするなり潰すなりすりゃ良い」


死神メイド 「大雑把ね」

死神メイド 「良いわ。私の部屋を貸しましょう」


黒オーク 「おお?」

黒オーク 「珍しい。相部屋嫌いのお前さんが」


死神メイド 「抱き枕が欲しかったところなのよ」

死神メイド 「殴る用の」


中二 「なぐ……」


ガチャ


??? 「げっ……」


中二 (誰か来た)



死神メイド 「あら」


黒オーク 「おん?」

黒オーク 「おお、たしか……」


??? 「あちゃー……誰もいないだろって思って来てみたら」

女郎蜘蛛娘 「なーんで、揃っているかなあ」


中二 (人間……)

中二 (じゃ、ないか。耳が尖ってるし)


死神メイド 「女郎蜘蛛娘よ」

死神メイド 「娼婦狐の遊郭の」


中二 「遊郭……」


黒オーク 「おおー」

黒オーク 「そちらさんには、日頃お世話になっとります」


ペコ


女郎蜘蛛娘 「あ、あははは……どうも……」


中二 「お世話に……」




死神メイド 「安心して、そういう意味のお世話じゃないわ」


中二 「あ、そうですか……?」


死神メイド 「雄としての体がお世話になっているのよ」


中二 「想像通りですがっ?」


黒オーク 「なってない、なってない」

黒オーク 「おれは」


中二 「はあ……」


死神メイド 「娼婦を派遣するギルドの子よ」

死神メイド 「うちも派遣先として登録しているの」

死神メイド 「そういうサービスを求めるお客もいるから」


中二 「な……なるほど」


女郎蜘蛛娘 「ああ、うち男娼もいるよ」


中二 「ほ、ほほう……」

中二 (そういうの、あるんだ)


黒オーク 「これこれ、変なことを教えとらんで」






黒オーク 「そいで、どうしたんでがすか」


女郎蜘蛛娘 「ぅえ゛っ?」


黒オーク 「部屋が分かんなくなったでがしょうか?」


女郎蜘蛛娘 「ああ、いやー……」

女郎蜘蛛娘 「あぁーっは……はは……」


中二 (何だか締まりの無い人だ……)


女郎蜘蛛娘 「はは………」

女郎蜘蛛娘 「………ちょ」

女郎蜘蛛娘 「ちょーっと……昼寝に」


黒オーク 「へえ……?」


女郎蜘蛛娘 「いやぁー……あっはっは、どーしよ」

女郎蜘蛛娘 「あははは……」


中二 (娼婦……っていったら、やっぱりあれだよね)

中二 (ご奉仕的な……裏的な……)

中二 (……はじめて見た)




死神メイド 「逃げてきたのね」

死神メイド 「また」


女郎蜘蛛娘 「ぬ゛っ……」


黒オーク 「うん?」


中二 「逃げて……」


死神メイド 「この子、ここでサボるつもりだったのよ」

死神メイド 「お客をとるのが嫌だから……」


女郎蜘蛛娘 「おおーっとお!」


ガシ


中二 「ひっ!?」

中二 (肩を掴まれた!)




女郎蜘蛛娘 「妹! 妹ではないか妹よ!」

女郎蜘蛛娘 「なんかほら生き別れた感じの!」


ユッサユッサ


中二 「え、ええー!?」

中二 「あ、アタシは……」


女郎蜘蛛娘 「妹! 妹だよ妹!」

女郎蜘蛛娘 「うん、妹だよ妹! 見れば見るほど妹だ。髪型似てるし!」

女郎蜘蛛娘 「いやあー、会いたかったぞ妹!」


バシン バシン バシン バシン


中二 「ちょっ……痛っ……たたかっ……」


女郎蜘蛛娘 「よーっし、妹ぉー! ここじゃアレだから移動しようではないかー!」

女郎蜘蛛娘 「積もる話をしようではないかー!」

女郎蜘蛛娘 「積もっちゃおうじゃないかー!」


ガシ ヒョイ 


中二 「おふわっ!?」

中二 (担がれた!)


黒オーク 「お、おい……」


女郎蜘蛛娘 「じゃあ、そういうことで!」

女郎蜘蛛娘 「私たち、積もる話が積もってるんで!」


ダ ダ ダ ダ ダ ダ


…………





…………



黒オーク 「……はあ」


死神メイド 「…………」


カチ コチ カチ コチ


黒オーク 「…………」


死神メイド 「……良いのかしら」

死神メイド 「連れ去られちゃったわよ、あの子」


黒オーク 「……お」

黒オーク 「いかんいかん、そうだった」


死神メイド 「百等自警団を呼びましょう」


黒オーク 「殺す気かい」

黒オーク 「えーっと、娼婦狐さんとこの連絡先は……」


ガサ ゴソ ガサ


死神メイド 「…………」



…………




























■女郎蜘蛛娘


http://imgur.com/A38q8xC
(画像はフィクションです)


種族 : 女郎蜘蛛(劣性)
所属 : 千夜光ギルド / 常夜絢爛楼閣
所属隊: なし
職業 : 見習い娼婦 / 軽戦士 / 罠士 / 地図士
レベル: 001 / 005 / 015 / 77
体質 : 投げやり / 天然 / 人情家 / 母性 / 苗床体質
弱点 : 鈍足 / 睡眠 / 暗闇
耐性 : 混乱 / 水 / 魅了 / 淫(無効)
特殊技:いとをだす / いつでも脱出 / ひっさつパンチ


商人の町で暮らす気だるげな少女。
サキュバスと似たような種族ながら、性欲がない。



>>119 ミスごめんなさい







■女郎蜘蛛娘


http://i.imgur.com/A38q8xC.jpg
(画像はフィクションです)


種族 : 女郎蜘蛛(劣性)
所属 : 千夜光ギルド / 常夜絢爛楼閣
所属隊: なし
職業 : 見習い娼婦 / 軽戦士 / 罠士 / 地図士
レベル: 001 / 005 / 015 / 77
体質 : 投げやり / 天然 / 人情家 / 母性 / 苗床体質
弱点 : 鈍足 / 睡眠 / 暗闇
耐性 : 混乱 / 水 / 魅了 / 淫(無効)
特殊技:いとをだす / いつでも脱出 / ひっさつパンチ


商人の町で暮らす気だるげな少女。
サキュバスと似たような種族ながら、性欲がない。







…………



野外喫茶



瞑想詩人 「模様を描く石畳……見上げれば、低く星の靄がかかる黒天井」

瞑想詩人 「ここは夜を知らない夜の町だけれど、静かになるときがある」

瞑想詩人 「一日が終わろうとするカフェ」

瞑想詩人 「去ってしまった客の変わりに、さて、何が来るのだろうか……と」


サラ サラ


女郎蜘蛛娘 「……いやー、ごめんごめん」


中二 「うええ、頭がクラクラする」


女郎蜘蛛娘 「許してよー、何かご馳走するからさあ」


中二 「いえ、あの……」


女郎蜘蛛娘 「すいませぇん、注文良いですかあ!」


中二 (ここでは話を聞かないのが礼儀なのだろうか)

中二 「あの、ですから、アタシはあの宿に……」


スタ スタ スタ


??? 「はいはーい……あんたはまったく、私の交代間際に……」

??? 「って」

パン娘 「あぁあーーー!!」


中二 「!?」


パン娘 「あんた、あの時の!」





中二 「え?」


女郎蜘蛛娘 「なになに、知り合い?」


パン娘 「あんた!」


バンッ


中二 「はい!?」


パン娘 「さっきはよくもやってくれたわね!」

パン娘 「おかげで、料理を作り直すハメになったんだから!」

パン娘 「しかも、ぶちまけた分の料理代、私のお給料からひかれちゃうんだから!」


中二 「ええーっと」

中二 「身におぼえが……」


パン娘 「無いとは言わせないわよ!」


女郎蜘蛛娘 「おー、会話の連携プレー」


パン娘 「あんた、店の中をドタバタ駆け抜けて行ったでしょう!」

パン娘 「あのときよ!」


中二 「えー……」

中二 「!!」

中二 「ああ!」

中二 (人の骨さんに追われていたときに、そんなことがあった気がする!)




パン娘 「思い出したようね」

パン娘 「まったく、厚かましいを通り越して良い度胸ね

パン娘 「あんなことをしておいて、のこのこ客として戻ってくるなんて」

パン娘 「まったく、どうしてくれようかし……」



ガタタンッ


中二 「ごめんなさい!」


ビシッ


パン娘 「!?」


女郎蜘蛛娘 「おおー、見事な直角謝罪」





パン娘 「え」

パン娘 「ええーっと……」


中二 「決して、わざとやったわけでは無いんですが」

中二 「本当にごめんなさい!」


ビシッ


パン娘 「……あ、え」

パン娘 「まあ、うん……そ、そうよ」

パン娘 「当然、ごめんなさいよね……」


中二 「料理!」


パン娘 「はいっ?」


中二 「いえっ、被害は……」

中二 「お店の被害はいったいどれほどの……!」


パン娘 「……あ、えーっと」

パン娘 「ミルクケーキに、赤い木の実のタルトに、蜜の紅茶に……」

パン娘 「あとはお皿が一枚。そのくらいかな……」


中二 「ごめんなさい!!」


ビシィッ


パン娘 「ええーっ……!?」


女郎蜘蛛娘 「見事な六時半」




パン娘 「いや、あの、あんた、別にそこまで……」


中二 「ごめんなさい!」


ビシィッ


パン娘 「わ、分かったから……!」

パン娘 「顔あげなさいよ。これじゃ私、年下をいじめてるみたいじゃない」


女郎蜘蛛娘 「初対面でも当たりきついもんねー、パン娘」


パン娘 「やかましいわよっ」

パン娘 「……ねえちょっと、蜘蛛娘、何とか言ってよ」

パン娘 「この子、あんたの連れなんでしょ?」


女郎蜘蛛娘 「あー、無理」

女郎蜘蛛娘 「私も今さっき会ったばっかで、付き合い方よくわかんないもん」


パン娘 「はあっ!?」




パン娘 「どういうことよ」

パン娘 「もー、いいから何とかしなさいよ」


女郎蜘蛛娘 「しっかたないなあ」

女郎蜘蛛娘 「……ねえねえ、君、顔上げなよ」


中二 「そういうわけにはいきません!」

中二 「まずは、しっかりと謝罪を!」

中二 「この姿勢で五分間!」


ビシィ


女郎蜘蛛娘 「あー、そうかー」

女郎蜘蛛娘 「頑張れっ」


中二 「はいっ」


パン娘 「ちょっと、何で煽ってんのよ!」

パン娘 「本当どうにかしてよ。あんたたち髪型一緒でしょ!」


女郎蜘蛛娘 「だよね。びっくりだよねー」


中二 「ごめんなさい!」


パン娘 「あーん、もう、どうすりゃ良いのよお」




中二 「人が一生懸命につくった料理を」

中二 「作品を! 台無しにしてしまうだなんて」

中二 「裸で土下座でもしなければ贖えないほどの悪行!」

中二 「ごめんなさい!」


パン娘 「いや、別にそんな……つくったの別の人だし……」


女郎蜘蛛娘 「あー、裸で土下座はしないんだね」


パン娘 「ちょっと、また……!」


中二 「寒いじゃないですか!」


パン娘 「!?」


中二 「裸で土下座したら、寒いじゃないですか!」


パン娘 「そ、そうだけど……」


中二 「寒いのは、駄目です」

中二 「嫌です」


パン娘 「…………」

パン娘 「ええぇー……」




パン娘 「ちょっと、何なのよー」

パン娘 「どうしたら良いのよぉ……」

パン娘 「怒鳴ったのは謝るから、もう顔あげてよ」


中二 「謝るのはアタシの方です!」

中二 「ごめんなさい!」


パン娘 「ほ、本当に、分かったから」

パン娘 「顔あげて、座ってってば」

パン娘 「ほら、ここに立たれたら他のお客さんも困るし……」


中二 「……はっ、ご、ごめんなさい」


ガタタ ストン


パン娘 「……もー、びっくりしたあ」


女郎蜘蛛娘 「君、おもしろいねえ。変で」


中二 「変……」

中二 「物づくりの人はとりわけ尊敬するように心がけていまして……」

中二 「いや、本当にごめんなさい」


パン娘 「良いけどさあ」

パン娘 「これじゃあ、怒るに怒れないじゃない」




…………


パン娘 「へえー、今日来たばかりなんだ」


女郎蜘蛛娘 「ひとりで?」


中二 「はい、まあ。おかげで右も左も分からず……」


パン娘 「分かる分かる」

パン娘 「広いしゴチャゴチャしてるもんねえ、この町」

パン娘 「私も来たばっかりのとき、いっぱい迷ったもん」


女郎蜘蛛娘 「自慢だけど私ー」

女郎蜘蛛娘 「二日でこの辺の道おぼえたよ?」


パン娘 「あんた、だらしないくせに方向感覚だけは良いわよね……」


女郎蜘蛛娘 「あはは……」


中二 (二人は知り合いなんだろうか)

中二 (って、いや、早く黒オークさんの宿に戻らないと)

中二 「あのー……」


パン娘 「あっ、じゃあさあ」

パン娘 「パンケーキ食べていきなよ!」

パン娘 「おいしいんだよー、ここのパンケーキ!」

パン娘 「私、奢ったげる!」



中二 「ええー……」

中二 「ご、ごちそうになります」




女郎蜘蛛娘 「わーい」


パン娘 「あんたは今までのツケと合わせて払いなさいよ」


女郎蜘蛛娘 「ええー……」

女郎蜘蛛娘 「やだ」


パン娘 「あんた!」


女郎蜘蛛娘 「冗談、冗談」

女郎蜘蛛娘 「お金入ったらちゃんと払うから」

女郎蜘蛛娘 「私はいつものやつ」


パン娘 「はいはい」

パン娘 「まったく……」


サラ サラ カキ カキ


女郎蜘蛛娘 「……あ」

女郎蜘蛛娘 「ごめーん」

女郎蜘蛛娘 「お金ないや」


パン娘 「はあっ?」


女郎蜘蛛娘 「ねえねえ、君、持ってるー?」


中二 「いえ、無一文ですね」


女郎蜘蛛娘 「あちゃー」




パン娘 「あんた、お金持たずにやってきたわけ!?」


女郎蜘蛛娘 「いやあ、来る予定はなかったのよ」

女郎蜘蛛娘 「でもさー、なりゆきでね」


中二 (それなのに、アタシにご馳走するとか言ってたんだ……)


パン娘 「はあ……」


女郎蜘蛛娘 「ごめーん」

女郎蜘蛛娘 「私、水ね」


パン娘 「……いいわよ。出してあげる」

パン娘 「いつものね」


女郎蜘蛛娘 「良いの?」


パン娘 「お店に来て水だけ飲んでるなんて」

パン娘 「友だちとしてこっちが悲しくなるわよ」


女郎蜘蛛娘 「おお、友よー」

女郎蜘蛛娘 「ありがとう!」


ガシ


パン娘 「きゃっ、ちょっと、こんなとこで抱きつかないでよっ……」

パン娘 「やんっ……」


中二 (水はタダなんだ……)

中二 (わりと裕福なところなんだろうか)




パン娘 「ちゃんとツケに足しとくからね」


女郎蜘蛛娘 「ええー?」

女郎蜘蛛娘 「けち」


パン娘 「あんたねえ……っ」


女郎蜘蛛娘 「冗談だって」


中二 「あの、アタシが駄目にした分」

中二 「お金ないけど、皿洗いでも何でもして返しますから!」


パン娘 「い、いや、だからいいって」

パン娘 「あんたはあんたで、どうしてそこまでするのよ……」


女郎蜘蛛娘 「私の分までやってー」


パン娘 「あんたは黙ってなさい!」


中二 「あのっ……!」


パン娘 「本当に大丈夫だからっ」

パン娘 「じゃあ、ちゃっちゃと注文届けてくるわね!」


スタ タ タ タ




………

リィン ゴオン リィン……




中二 (どこからか、鐘の音……?)


キョロ キョロ


女郎蜘蛛娘 「あー、もうこんな時間かあ」


中二 「時間?」


女郎蜘蛛娘 「ほら、ここってずっと夜じゃない?」

女郎蜘蛛娘 「ここで生まれ育つとそうでもないみたいだけど、外の世界から来ると、時間の感覚がつかめないわけ」

女郎蜘蛛娘 「だから、こうやって鐘が鳴るんだよ」


中二 「へえ……」


女郎蜘蛛娘 「どこから聞こえてくるか分かんないんだけどね」


中二 「不思議な鐘ですか」


女郎蜘蛛娘 「そうそう」

女郎蜘蛛娘 「まあ、この町で不思議なんて数えてたら、星を数えるのと変わんないけどね」




ゴオン リイン……



中二 「宿オークさんの宿には時計がありましたけど」

中二 「あの鐘も、どこかの時計塔から鳴っているんでしょうか」


女郎蜘蛛娘 「さあ……」

女郎蜘蛛娘 「そうかもしれないけど、誰も見つけたことがない」

女郎蜘蛛娘 「もしかしたら時計ができる前……いやいや、町が出来る前から鳴っているのかもねえ」


リイン ゴオン 


中二 「……ううーむ、とことんアタシの常識が通じなさそう」


女郎蜘蛛娘 「あははぁ、考えすぎは毒だぞ妹よ」

女郎蜘蛛娘 「私のようにヘラヘラ無銭飲食できるほど図太くなるのだー」


中二 (この人はもっと考えた方が良い気がする……)


女郎蜘蛛娘 「とにかく、あの鐘の音は覚えておいた方が良いよ」

女郎蜘蛛娘 「冒険者は特にね」






中二 「冒険者?」


女郎蜘蛛娘 「ほら、この町って……」


ズズズ


女郎蜘蛛娘 「……ん?」


中二 「……何か不安な音が聞こえますが」

中二 「地響きというか……」


ズ ズ ズ ズ


女郎蜘蛛娘 「うーん、何だろうね」


中二 「だ、大丈夫なんでしょうか、これは」


女郎蜘蛛娘 「さあ」


中二 「さあって……」


ズ ズ ゴ ゴ ゴ


中二 「ち、近づいてませんか?」

中二 「下から大きな何かが来ているような」


女郎蜘蛛娘 「そのわりに揺れてないけど……」




コツ コツ コツ コツ


パン娘 「おまたせー」


女郎蜘蛛娘 「お、くるくる」

女郎蜘蛛娘 「ここのパンケーキは美味しい上に来るのが早いんだよー」


中二 「いや、それどころじゃ……」


パン娘 「パンケーキ二つと、星蜜の……」




ゴ ゴ ゴ ゴ

ボコン



パン娘 「きゃあ!?」


ガシャン ガララン


中二 (ちょうどパン娘さんが立っているところの床が、箱の蓋みたいに開いた!)





モク モク モク


中二 「う、うわ、すごい煙が……!」


女郎蜘蛛娘 「ケホッ……って、吸っても何ともない」

女郎蜘蛛娘 「毒ガスじゃないみたいだけど」


中二 「毒ガス!? ここは床が突然開いて、さらにそこから毒ガスが噴き出す町なんでしょうか!?」


女郎蜘蛛娘 「無いとは言い切れない」


中二 「ええっ!?」


女郎蜘蛛娘 「私もこの町のこと全部知ってるわけじゃないもん」


パン娘 「もー、いったい何なのよお!」

パン娘 「またお料理落としちゃったじゃないの!」


モク モク


中二 (よく見ると不思議な煙……なんだか、キラキラしている)

中二 (というか、もろに煙の中にいるけれど、大丈夫なんだろうか)


モク モク モク モク


人影 「…………」


中二 「……ん?」


モク モク


中二 (煙の向こうに、女郎蜘蛛さんでもパン娘さんでもない人影がある……)




モク モク モク


人影 「…………」


サアアア


中二 「煙が消えていく……」


ザアア


人影 「…………」

??? 「…………」


女郎蜘蛛娘 「……おおー」


中二 (煙の中から、女の人が現れた)

中二 (人間みたいだけど、頭に犬耳をつけている……?)


??? 「…………?」

コボルト娘 「ここは……」


キョロ キョロ






コボルト娘 「…………」


キョロ キョロ


中二 (小さな弓のようなものを持っているけど、矢のようなものは見当たらない)

中二 (それにしても、ぼろぼろの服……)


コボルト娘 「酒場……?」


中二 (む、低めの声が格好いい)


女郎蜘蛛娘 「喫茶店だよ」

女郎蜘蛛娘 「青空喫茶へようこそー」


コボルト娘 「青空、喫茶……」

コボルト娘 「…………」


水の入ったコップ


中二 (アタシの飲みかけの水を見つめている)


コボルト娘 「その水は……」


中二 「は、はい」


コボルト娘 「無料だろうか」


中二 「そうだと思いますけど……」

中二 (女郎蜘蛛さん、お助けを)


女郎蜘蛛娘 「うん、タダだよ」


コボルト娘 「そうか……」

コボルト娘 「いきなりですまないが、それを私にくれないか」

コボルト娘 「ひどく喉がかわいているんだ」


中二 「ええと……」




>>144


1. 中二 「どうぞ」
2. 中二 「いくらくれる?」









中二 「どうぞ」


コボルト娘 「恩に着る……」


パン娘 「ちょっとお!」


コボルト娘 「?」


パン娘 「あんた、何してくれてるのよ!」

パン娘 「おかげで料理が台無しになっちゃったじゃない」

パン娘 「私のお給料から引かれちゃうんだからね!」

パン娘 「お尻も痛いし!」


ギャイ ギャイ


女郎蜘蛛娘 「まあまあ、落ち着きなよ」

女郎蜘蛛娘 「二度あることは三度あるって」


パン娘 「まだ二度目よ! 不吉な予言をしないで」


女郎蜘蛛娘 「三度なかったんだ。良かったじゃない」


パン娘 「良かないわよ!」


コボルト娘 「……料理」


床にぶちまけられたパンケーキ ×2
星蜜のお茶 ×2


コボルト娘 「すまない」


パン娘 「そうね、すまないわよね! お店の床までこんなにして」

パン娘 「あーあ、大きな穴!」

パン娘 「もー、どうしてくれるのよ!」


中二 「皿洗いでも、何でもしますから……っ」


パン娘 「あんたはもう良いのっ」





コボルト娘 「すまない」

コボルト娘 「先にこの水だけでも飲ませてくれないか」

コボルト娘 「ゲホッ……償いは、ちゃんとするから」


中二 (肩で息をしている)


パン娘 「償いっ……て」

パン娘 「何なの、ひどく疲れているみたい」

パン娘 「もしかして、潜ってたの?」


中二 (もぐってた?)


コボルト娘 「ああ」

コボルト娘 「事情を話すと、少し複雑だが……」


ハア ハア


パン娘 「い、いいわよ、飲みなさいよ」

パン娘 「座って」







コボルト娘 「ありがとう……」


ギギ ガタタ

ストン


コボルト娘 「…………」


ガサ ゴソ


薬筒


中二 (細長い筒を取り出した……)


コボルト娘 「…………」

コボルト娘 「ゴクリ……うぐっ」


中二 (中の物を一気飲み)

中二 (苦そう……)


コボルト娘 「ゴクゴ゙クゴク……」


中二 (すごい勢いで水を飲んでいる)


コボルト娘 「プハッ……」

コボルト娘 「ふう……」


中二 (この人、おっぱいが大きい)




中二 (年上だとは思うけど、結構近そうな気もする)


コボルト娘 「ありがとう、生き返った」


中二 「い、いえ……」

中二 (微笑みが格好いい)

中二 (犬耳だけど)


パン娘 「おかわりは?」


コボルト娘 「ありがとう、もう十分だ」


パン娘 「そう」

パン娘 「それにつけても、本当にボロボロね」


コボルト娘 「ああ、私が挑むにはまだ早いところだったようだ」


女郎蜘蛛娘 「他の人はいないの?」


コボルト娘 「いない。一人だけだ」


女郎蜘蛛娘 「わお」


中二 (女郎蜘蛛さんが眠たそうに驚いている)




女郎蜘蛛娘 「すごいね、その若さで一人で潜るなんて」


コボルト娘 「そんなことはない……」


中二 (長い前髪で分かりにくいけれど、左右で目の色が違う)


コボルト娘 「……いくらだろうか」


パン娘 「へ?」


コボルト娘 「私が台無しにしてしまった料理と、床の修理費は」


パン娘 「え、ええと……いや……」


コボルト娘 「こんななりだが、そのくらいの金は出せる」

コボルト娘 「いま出せなくても、潜って返す」


パン娘 「そりゃ、床はちょっと偉い人に聞かなきゃ分かんないけど」

パン娘 「いいって、ちゃんと休んでからで」


コボルト娘 「そうか……」


中二 (犬というより、狼みたい)




女郎蜘蛛娘 「ねえねえ、パン娘ー」


パン娘 「何よ」


女郎蜘蛛娘 「パンケーキは?」


パン娘 「床に落ちているわよ」


女郎蜘蛛娘 「えー……」

女郎蜘蛛娘 「じゃあ新しいやつ」


パン娘 「あんた、タダ飯食らう分際で……ちょっとは遠慮しなさいよね」


コボルト娘 「すまない」


パン娘 「いや、ええと……」

パン娘 「ああ、もう、分かったわよ!」

パン娘 「持ってくるわよ」


女郎蜘蛛娘 「わーい」


中二 「いやはや、ごめんなさい」


パン娘 「……あんたも、パンケーキで良い?」


コボルト娘 「私?」

コボルト娘 「いや、私は……」


パン娘 「あら、店をこんなにしといて、何も食べずに出て行くつもり?」


コボルト娘 「……。だから、金なら……」


女郎蜘蛛娘 「気にしない、気にしない」

女郎蜘蛛娘 「照れ隠しで言ってるだけだから」


コボルト娘 「……?」


女郎蜘蛛娘 「ここの名物なのよ」

女郎蜘蛛娘 「隠しメニュー、パン娘の優しさ照れ隠し」


パン娘 「そんなもん無いわよ」

パン娘 「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐに持ってくるから」


コツ コツ コツ コツ





女郎蜘蛛娘 「……いやあ、一人で潜るとはねえ」


コボルト娘 「…………」


中二 「あの、潜るって……」


女郎蜘蛛娘 「地下」


中二 「地下?」


女郎蜘蛛娘 「地下じゃないかも」


中二 「はい?」


女郎蜘蛛娘 「とにかく、モンスターとかお宝とか」

女郎蜘蛛娘 「いっぱいあるとこ」


中二 「モンスター……お宝」

中二 「ああ、今流行りの……」


女郎蜘蛛娘 「ああー」

女郎蜘蛛娘 「絶対わかってないよね」





コボルト娘 「……この町には来たばかりなのか?」


中二 「はい」

中二 「まだまだ右も左も分からなくて」


コボルト娘 「そうか……」

コボルト娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「あなたは長いの? この町」

女郎蜘蛛娘 「なんだか慣れた感じがするけど」


コボルト娘 「いや……」

コボルト娘 「百日ほど前に来たばかりだ」


中二 (ここって一日はどのくらいの長さなんだろう)


女郎蜘蛛娘 「それでもう一人で潜ってるんだ」


コボルト娘 「……そうするしかないから」


女郎蜘蛛娘 「ああ、何か事情ありそうだね」




コボルト娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「まあ、ここで出会ったのも巡り合わせだよ」

女郎蜘蛛娘 「パンケーキでも食べてのんびりやろうよ」


コボルト娘 「……赤き月の導きのままに」


女郎蜘蛛娘 「ん? なあにそれぇ」


コボルト娘 「……私の世界の挨拶のようなものだ」

コボルト娘 「ここに月は出ないようだが」


女郎蜘蛛娘 「あはは」

女郎蜘蛛娘 「面白いことも言うんだ」


コボルト娘 「いや、今のは……」


中二 (小型の木の弓……あたしでも片手で持てそう)

中二 (持つところに何か腕輪みたいなものがゴチャゴチャついているけど、使いにくくないんだろうか)






女郎蜘蛛娘 「でもまさか、ここから出てくるとはねえ」


床の大穴


コボルト娘 「申し訳ない」


女郎蜘蛛娘 「良いよ良いよ、私たち一銭も払ってないし」

女郎蜘蛛娘 「払わないし」


中二 「いま言い直しませんでした?」


女郎蜘蛛娘 「あっはっは」


コボルト娘 「……私が払う」


女郎蜘蛛娘・中二 「ん?」


コボルト娘 「お前たちの食べる分は、私が払おう」


女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 「…………」

中二 「……あの、えっと」


女郎蜘蛛娘 「うんうん。真剣な声で」

女郎蜘蛛娘 「お前……だって」

女郎蜘蛛娘 「女の子同士なのに、ちょっとドキッとするよね」


中二 「いえ、そうじゃなくて」

中二 「いえ、はあ、そうですね……」



コボルト娘 「そうさせてくれ」

コボルト娘 「でないと、こちらの気がすまない」


中二 (借りはつくらない主義……みたいなものなのかな)


女郎蜘蛛娘 「まあ、どうしてもっていうなら良いと思うけど」

女郎蜘蛛娘 「この大穴、もしかして大発見なんじゃない?」


中二 (大発見?)


女郎蜘蛛娘 「だってさあ、まだ見つかっていなかった脱出口じゃない」


コボルト娘 「偶然見つかって運が良かった」

コボルト娘 「どうやら、こちらからは繋がらないようだが」


女郎蜘蛛娘 「にしてもさあ、ギルドに届けたら特別報酬がっぽり貰えちゃうよ」


中二 (ギルド……)


コボルト娘 「だと良かったんだが……」





コボルト娘 「モンスターから逃げきるのに必死だったから」

コボルト娘 「マッピングをする暇もなかった」


女郎蜘蛛娘 「あちゃー……」


コボルト娘 「……あれはどこだったのだろう」

コボルト娘 「青緑色の壁が続く水道」

コボルト娘 「あたりに他の冒険者の姿を見えなかった」


女郎蜘蛛娘 「うーん……上層の人たちなら分かるのかもねえ」


中二 (上層……)


女郎蜘蛛娘 「まあ、良かったよ。命があって」

女郎蜘蛛娘 「帰還おめでとう」


中二 「お、おめでとうございます」


コボルト娘 「……感謝する」




コツ コツ コツ


パン娘 「へーい、今度こそおまたせえ……」


女郎蜘蛛娘 「お、来た来た」


中二 (三つの皿に、飲み物までいっぺんに持ってきている)

中二 (なれた様子……有能な店員さんなんだなあ)



??? 「全員!」

??? 「動くなぁ!」



中二 「!?」







中二 (青空喫茶の入り口に……)


??? 「屋根の無い店とはありがたい」

不死竜娘 「百等自警団、不死竜隊である!」


太っちょ兵 「…………」


ひげ兵 「…………」


自警団員たち 「…………」



中二 「自警団……」

中二 (びしっとした、たぶん制服を着ている)

中二 (無骨な鎧や兜をしている人もいるけど、羽根つきだったり、トゲつきだったり、そんなもの身につけてなかったり、統一感は無い)


女郎蜘蛛娘 「もう来たんだ。最近仕事が早いなあ」


コボルト娘 「…………」




不死竜娘 「先ほど、穴の発生が確認された!」

不死竜娘 「よって調査を行う!」

不死竜娘 「これより一時、この場の権限は我々不死竜隊が預からせていただこう!」




不死竜娘 「申し訳ないが市民の方々には、安全のため、この場から離れていただくことをお願いしたい!」


中二 「声の大きな人だなあ。うらやましい」


パン娘 「何なのよ、大声で威圧して、偉そうにしちゃって」

パン娘 「お願いだなんて、断れば難癖つけて捕まえるくせに」


女郎蜘蛛娘 「まあまあ、最近は物騒みたいだし」


中二 「穴って、やっぱりさっきの……?」


女郎蜘蛛娘 「うん、コボルト娘ちゃんの出てきた穴」

女郎蜘蛛娘 「さあさあ、面倒になる前に離れようよ」


中二 「はい……」

中二 「うーん、結局食べられないままかあ」


コボルト娘 「すまない。私のせいだ」


中二 「いえ、そんな……」



ズカズカズカ


太っちょ兵 「おらおら、いつまでボサッとしてるんだ!」

太っちょ兵 「けつに根っこでも生えちまったか。がはは!」


ひげ兵 「さっさと従わねえと、うちの隊長はおっかねえぞお」


中二 「うわっ」

中二 (こっちに来た。鎧と何かの革の独特なにおい。中は普通の人間に見える)


パン娘 「ちょっと、乱暴に店の中を歩いて、うちの客をびっくりさせないでよね!」


太っちょ兵 「うひょっ、何て口をききやがる」


ひげ兵 「そっちがさっさとどかねえのが悪いんだ」

ひげ兵 「っと……」


中二 「……う?」

中二 (睨まれた?)




ひげ兵 「おいおい、なんだあ、子どもがいるじゃねえか」

ひげ兵 「とんだ不良娘だぜ」


太っちょ兵 「ひひひ、度胸あるじゃねえか、夜にこんな所を出歩くとはよ」

太っちょ兵 「さっさと帰らねえと、人さらいに捕まって娼婦街の闇行きになっちまうぞ?」

太っちょ兵 「もっともここは、いつも夜だけどなあ。わひゃひゃ……」


中二 「いえ、帰るに帰れない事情がありまして……」


パン娘 「行きましょっ、こんなのと真面目に話す必要なんて無いわよ」


中二 「あ、はい……」


太っちょ兵 「何だあ、お前。ずいぶんとキツいこと言うじゃねえか」


パン娘 「ごめんなさいね。私はがらの悪い兵隊が嫌いなの」

パン娘 「あんたたちなんか、アッカンベエよ」


ひげ兵 「おいおい、こちとらお前らが安心して暮らせるよう日々頑張ってるってのに」

ひげ兵 「そりゃあ無いんじゃねえの」


太っちょ兵 「気の強い女は嫌いじゃないぜ」

太っちょ兵 「しかもパン族の女の腰つきが、へっへっへ……」


女郎蜘蛛娘 「おえっ……」


中二 (女郎蜘蛛娘さんが気持ち悪そうな顔をした)





不死竜娘 「貴様らあ!!」


ひげ兵・太っちょ兵 「!?」


不死竜娘 「何をもたついているか!」


中二 (隊長らしき人が来た)

中二 (小柄で肌が青白い……顔にツギハギがある)

中二 (耳の上くらいから角が生えて、片方は短い)


ひげ兵 「すみません隊長」


太っちょ兵 「こいつらが、生意気な口をきくもんで」


ひげ兵 「おいっ……」


パン娘 「何よ、いきなり怒鳴ったのはそっちでしょ」


不死竜娘 「生意気な口……?」


太っちょ兵 「うっ……」


不死竜娘 「貴様……」


バチ バチ


中二 (!? 隊長らしき人の角が光り出した)

中二 (帯電している……?)


太っちょ兵 「い、いや、今のは言葉のあやってやつで……」


不死竜娘 「民の僕たる我々が」

不死竜娘 「どの口でそれを言うかあ!!」


バチ バチ

ドゴオン


不死竜娘 の放電!
太っちょ兵 は 210 のダメージ!


太っちょ兵 「ぎゃあ!」


中二 「ぎゃあ!」




太っちょ兵 「ううーん……」


ドサ


ひげ兵 「余計なこと言うから……」


不死竜娘 「フンッ。この程度の制裁で気絶とは、軟弱者が」

不死竜娘 「この層のレベルは思ったよりも低いようだ」


中二 「あわわわ、かみ、雷が……」

中二 (背はアタシと同じくらいしかないのに、すごい威圧感)


不死竜娘 「……申し訳ない」

不死竜娘 「我が部下たちが失礼なことをしたようだ」


パン娘 「いや、別にそこまでしなくても……」


不死竜娘 「部下たちは厳しくしつけなければな」

不死竜娘 「さて、ここは危ない。申し訳ないが早く避難していただきたい」


パン娘 「そんなに急かさなくても良いじゃない。営業中だし」


中二 (うわあ、すごい度胸)


不死竜娘 「申し訳ないと言っている」

不死竜娘 「穴の調査をすることは、民の安全な生活のために欠かせないものだ」

不死竜娘 「早ければ早いほど良い。ご理解いただきたい」


コボルト娘 「…………」


パン娘 「そりゃあ、そうでしょうけど……」


不死竜娘 「時間が惜しい」

不死竜娘 「快い協力をお願いする」


中二 (脅迫にしか聞こえない……)




パン娘 「むうー……」


フヨヨヨヨ


??? 「……こらこら、パン娘」

けやき箒 「自警団のかたがたを困らせちゃいけないよ」


中二 「うわっ」

中二 (箒が飛んできて、口をきいた!)


パン娘 「店長!」


中二 (店長!?)


けやき箒 「……こんばんは、自警団のかた。治安維持活動、お疲れ様です」

けやき箒 「私はこの青空喫茶の店長です」


不死竜娘 「百等自警団不死竜隊、不死竜娘だ」

不死竜娘 「聞いたと思うが、穴の調査のため、自警団員以外の者にはこの場から避難していただきたい」


けやき箒 「ええ、すぐに避難させましょう」

けやき箒 「パン娘、早くお友だちを連れて避難しなさい」

けやき箒 「どんなに小さなものでも、穴が危険なものだからね」

けやき箒 「お客さん、女郎蜘蛛、今度来てくれたときにサービスしますから、これからもご贔屓にお願いしますよ」


パン娘 「……は-い」


コボルト娘 「…………」


中二 「はい……」

中二 (紳士的な箒……)


女郎蜘蛛娘 「やったあ、大っぴらにタダ飯にありつけるや」


パン娘 「アンタね……」


不死竜娘 「快い協力、感謝する」




けやき箒 「終わったら、椅子やテーブルは……」


不死竜娘 「心配無用だ。こちらで元の場所に戻しておく」



中二 「…………」

中二 (ここでは道具も話すんだ……)


パン娘 「ほら、行くわよ」


中二 「あ、はい」


トコトコトコ


女郎蜘蛛娘 「いやあ、相変わらずあの人たちが嫌いみたいだねえ」


パン娘 「当たり前よ」

パン娘 「自警団だからって、あいつら偉そうに威張り散らして」

パン娘 「お店でも行儀悪くお酒飲んで騒いで絡んできて、いっつもお尻を……ああ、思い出しても腹がたつぅ!」


女郎蜘蛛娘 「大きいもんね」


パン娘 「うるさいわよっ。気にしてるんだからね!」


女郎蜘蛛娘 「あはは……」

女郎蜘蛛娘 「でも、このあたりの自警団のガラが悪かったのって、前の隊長のときなんでしょ?」

女郎蜘蛛娘 「今の隊長になってから、そういうの減ったって聞いてるけど」

女郎蜘蛛娘 「うちの店でも、自警団のお客の行儀が良くなったって言ってたし」


中二 「自警団もそういう店、使うんだ……」


女郎蜘蛛娘 「使う使う。暇さえあれば来てるんじゃない」


パン娘 「あんた、自分がそういう話聞くの嫌なくせに、何てこと子どもに言ってるのよ……」


コボルト娘 「…………」


テク テク テク




自警団員の声 「……おい、何だお前」


自警団員の声2 「今ここは立ち入り禁止だぞ。さっさと立ち去……」

自警団員の声2 「うわっ、何をする!?」


ドゴンッ



中二 「!?」

中二 (どこからかすごい音がした)



??? 「…………」

死神メイド 「…………」


鎧の自警団員 「キュウ……」


自警団員A 「何だ貴様! どういうつもりだ」

自警団員A 「我々の邪魔をするつもりか!?」


死神メイド 「……違うわ」

死神メイド 「気安く触ってきたので、やめてもらおうと思って」

死神メイド 「お腹を押しただけよ」


自警団員A 「嘘をつけ!! 押しただけだってんならどうして……」


鎧の自警団員 「キュウ……」


自警団員A 「鎧のどてっ腹がぶち抜かれてるんだよ!?」


自警団員B 「こりゃひでえぜ、泥鬼にぶんなぐられたみたいに見事に粉々だ」


自警団員D 「かわいそうに……こないだ新調したばっかだって言ってたのに」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「不思議ね」


自警団員A 「うるせえ!」







死神メイド 「…………」


自警団員A 「自警団に暴力を振るうのは重罪だぞ!」

自警団員A 「おまけにそのナメた態度は何だ! 捕まえて牢屋に入れてやる!」


死神メイド 「……ねえ、あなた」


自警団員A 「ああ!?」


死神メイド 「もう少し、静かにした方が良いわ」


自警団員A 「はあ!?」


死神メイド 「人通りが多いとは言え、夜に大声を出したら近所迷惑よ」

死神メイド 「あなたの声、とてもうるさいわ」

死神メイド 「何かあったの。それとも、自覚がないの?」

死神メイド 「自覚が無いのなら、あなた、ちょっと心配だわ」


自警団員A 「……っ………このッッ」

自警団員A 「誰のせいだと思ってやがる!!」


死神メイド 「何が?」


自警団員A 「だから、おれが怒っているのがお前の……」

自警団員A 「えーい、うるせえ! とにかくこれ以上おれを怒らせるな!」


死神メイド 「あなた、怒っているのね」

死神メイド 「自分が怒っているからと言って、それが人を牢屋に入れて良い理由にはならないわ」

死神メイド 「理不尽よ」


自警団員A 「ぐ……ッッ!! ………ぐぎっ!!!」

自警団員A 「この………ッッ」


死神メイド 「私にだって仕事があるの。悪いけれど……」

死神メイド 「………!」



ヒュゴオオオ


不死竜娘 「全団員、どけえええ!!」



ドゴオン

ガゴ ゴト ゴロ

バラ バラ パラ



パン娘 「きゃああ!? なになになに、何なのよ、もう!」


中二 「死神メイドさんが現れて、自警団の人と何かもめて……」

中二 「と思ったら、顔色の優れない隊長さんが飛び上がって、どこからか大きな斧のようなものを取り出して」

中二 「帯電しながら落下の勢いにのって死神メイドさん目掛けて突撃しましたね……」


女郎蜘蛛娘 「おー、見事な解説だ」


中二 「へへっ……滑舌は鍛えていますから」


コボルト娘 「…………」



モク モク モク モク

ストン


死神メイド 「…………」

死神メイド 「どうしたの」

死神メイド 「こんなところで、武器を持って戦ったら危ないじゃない」

死神メイド 「机や柵が壊れてしまったわ」


不死竜娘 「貴様を仕留めるためには、最初から手加減などできんからな」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「手加減していたわ」

死神メイド 「この人たちを気づかったのね」



自警団員A 「ふう、ふう、ふう……」

自警団員A 「重いんだよ、この!」


ゴイン


鎧の自警団員C 「キュウ……」


自警団員B 「あ、相変わらず心臓に悪いぜ、隊長の大斧は……」



死神メイド 「おかしな人ね」

死神メイド 「周りの目を気にせず襲ってきたかと思ったら、変なところで気をつかって」


不死竜娘 「その手には乗らん!」


バチチ ブオン

不死竜娘 の 帯電!
不死竜娘 の 素早い斬撃!

ヒラリ

死神メイド は ひらりとかわした!



不死竜娘 「バッタのようによく動く……」


死神メイド 「どうしたの、いきなり斬りかかってきて」

死神メイド 「理由が分からない」


不死竜娘 「お前と問答などするものか!」


ブオン ブオン

ヒラリ ヒラリ

ドガ バキバキバキ



パン娘 「きゃああ!」

パン娘 「椅子が! テーブルが! もらったばっかのファイブフェアリーズのサインがあ!」


中二 (ファイブフェアリーズ? どこかで聞いたような……)


女郎蜘蛛娘 「へえー、ここにも来たんだあ」




ヒゲ兵 「隊長、やめてください!」

ヒゲ兵 「今は穴の調査で、そいつとやりあってる暇はねえはずです!」


不死竜娘 「それはお前たちがやれ!」

不死竜娘 「私はこの極悪犯罪人をぶちのめして永久に牢獄にぶち込む!」


ヒゲ兵 「隊長に暴れられたら調査どころじゃねえってさあ!」

ヒゲ兵 「……って、おわっ」


太っちょ兵 「いてて、いったい何が……ふぎゃっ!?」


流れ弾!
重い木片 が 飛んでくる!
太っちょ兵 に 20のダメージ!
太っちょ兵 は 気絶した!





死神メイド 「人の話を聞かないなんて、失礼な人」

死神メイド 「人を探しているの。知らないかしら」

死神メイド 「髪が黒か白の、若い……たぶん男か女だと思うのだけれど」


不死竜娘 「でやあああ!」


ビュオン

ドゴオン

バリバリバリ


死神メイド 「……そう」

死神メイド 「困ったわ」


ブオン ヒラリ

バキ ガシャン



通りすがり 「なんだなんだ」


靴磨き 「自警団の喧嘩かな。困るなあ……」


酔っ払い 「いいぞお、やれやれえ」


??? 「…………」



ザワ ザワ

ピー ピー



自警団員A 「こら、見世物じゃないぞ!」


自警団員B 「どうしましょうか」


ヒゲ兵 「隊長が暴れだしたら止まらん」

ヒゲ兵 「しかたねえ、穴の調査はおれたちだけでやるぞ」

ヒゲ兵 「なあに、どうせいつもの迷い穴だろ」

ヒゲ兵 「ちょっと穴周辺の素材を採取して、面倒な書類を上層に送ったらおしまいさ」




コボルト娘 「…………」


中二 「死神メイドさん……」

中二 (自警団から狙われるって、いったい何をしたんだろう)


けやき箒 「君たち、ここで立ち止まっていてはいけないよ」

けやき箒 「早く避難しなさい」


パン娘 「店長! お店……」


けやき箒 「なあに、すぐになおせるさ」


パン娘 「でもお……」


けやき箒 「調理台はちょっとやそっとじゃ壊れないし、うちは屋根の無い青空喫茶だ」

けやき箒 「飲み物を置ける空いた木箱さえあれば、それで立派なお店だよ」

けやき箒 「さ、行った行った」




…………


糸巻きの町 路地裏



ワー ワー

ガチャン ガシャ



パン娘 「さてと……」


女郎蜘蛛娘 「良かったねえ、仕事はやく上がれて」


パン娘 「本当ならもっと早く上がれてたんだけどね」

パン娘 「どうする? 何か食べるなら、うちにでも来る?」

パン娘 「あまり物で良ければ、何か作るわよ」


女郎蜘蛛娘 「わーい」

女郎蜘蛛娘 「やったぜ中二ー」


女郎蜘蛛娘の ハイタッチ!


中二 「わ、わーい」


パチン


中二 「……て、アタシ、宿オークさんの宿に戻らないと……」


女郎蜘蛛娘 「いえーい!」


中二 「いえーい!」


パチン


中二 (体が逆らえない! 柔軟な演技のため、相手の行動を受け入れるように心がけていたせいか!)






コボルト娘 「…………」


テク……


パン娘 「ねえ、あなたも来る?」


コボルト娘 「……私?」


パン娘 「冒険から帰ってきたばかりで、栄養つけなきゃでしょ」

パン娘 「店でごちそうできなかった分、うちで食べさせてあげるわよ」

パン娘 「あまりものだけど」


コボルト娘 「…………」

コボルト娘 「冒険者ギルドに報告しなくてはならない」

コボルト娘 「だから……」


パン娘 「じゃあ、先にそっちを済ませてからにする?」

パン娘 「ねえ」


女郎蜘蛛娘 「いえー……ん?」

女郎蜘蛛娘 「ああー、良いよ。私も新しい依頼ないか見ておきたいし」

女郎蜘蛛娘 「ね?」


中二 「え? あ、はい」


女郎蜘蛛娘 「いえーい」


中二 「いえーっ……あの、もうちょっと手を下げてもらえませんか」

中二 「飛ばなきゃ届かない……」




女郎蜘蛛娘 「君、小っこいよねえ」

女郎蜘蛛娘 「にんげんの中でも小さい方なんじゃない」


中二 「そうですね。学校でも整列のときはだいたい前になりますね」


女郎蜘蛛娘 「学校かあ。この町にも学院があるよ、すごくでっかいの」

女郎蜘蛛娘 「いえーい!」


中二 「いえー……あの、さっきより高くなってませんかね?」



コボルト娘 「…………」


パン娘 「じゃ、行きましょ。一番近いギルドは……」


グキュルルル


コボルト娘 「…………」


パン娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「お、パン娘の腹の虫が」


パン娘 「し、しかたないでしょ、まだ食べてないんだから!」


中二 「ま、まあ、可愛い音でしたから……」


パン娘 「そんななぐさめ無用よ!」


キャン キャン ウフフ


コボルト娘 「……フフ」

コボルト娘 「ありがたいが、やはり一人で行く」


パン娘 「え? でも」


コボルト娘 「時間がかかるし、さっきのように面倒に巻き込んでしまうかもしれない」

コボルト娘 「食事はまた今度、落ち着いたときに、店で食べさせてもらうよ」


パン娘 「そう……? まあ、そこまで言うなら……」


女郎蜘蛛娘 「店、残ってると良いけどね」


パン娘 「お黙り!」








糸巻きの町

魔物区 無限海へ続く川辺



大カエル 「無限にひろがる町の外には、無限にひろがる海があるという説もあります」

大カエル 「しかし海へ向かう人も、海の向こうを知ろうとする人もいません」

大カエル 「冒険心にあふれる人々は、地下に広がるダンジョンそして町中心の城にあるという宝に夢中なのです」



クルルルル ホー ホー

ギシ ギシ ワハハハ……



中二 (コボルト娘さんと別れて、しばらく歩いていたら)

中二 (橋と川だらけの場所に出た)

中二 (大小たくさんの川、それに沿って歪んだ家が縦に横にいくつも重なっている)

中二 (たくさんの橋はそんな家々を出鱈目に繋でいる)

中二 (みすぼらしいもの、立派なもの、何階分も上の家と繋がったもの……どことも繋がっていないものまである)

中二 (広場より静かだけれど、常に誰かの声や橋の軋みが聞こえる)


女郎蜘蛛娘 「ここは下層でも人が多いところだよ。冒険者もたくさんいる」

女郎蜘蛛娘 「冒険者ギルドとか個人工房、色んな店や停留所が近くにあるから」

女郎蜘蛛娘 「学生は少ないけどね」


中二 「へえ……」

中二 「ごちゃごちゃしているけれど、川がきらきらして綺麗ですね」


女郎蜘蛛娘 「星靄の日はもっと綺麗だよ……あ、パン娘、こっちの橋の方が早いよ」


パン娘 「そうなの?」


女郎蜘蛛娘 「この前みつけたんだ」


パン娘 「あんた本当にこういうの得意よね……」




中二 「それにしても、すごい数の橋ですね」


女郎蜘蛛娘 「みんな好き勝手に渡してるからねえ」

女郎蜘蛛娘 「この前なんか、パン娘の家の窓にさあ……」


パン娘 「その話はやめて」


女郎蜘蛛娘 「あっはは」


中二 (何があったんだろう)


ドボォン


中二 「!?」



???A 「おおーい、誰か落ちたぞお」


???B 「カワウソ隊に連絡だあ」



女郎蜘蛛娘 「おおー、今日も落ちてるねえ」


パン娘 「どうせ酔っ払いでしょ」


中二 (……気をつけよう)


魔物区 無限海へ続く川辺



女郎蜘蛛娘 「……もとは大きな川だったらしいんだけどね」

女郎蜘蛛娘 「いろいろあって今の形になったそうなんだよ」

女郎蜘蛛娘 「あ、この先から混沌区ね」



混沌区 星淀む川辺



中二 「混沌区?」


女郎蜘蛛娘 「いろんな種族がごった煮で暮らしているところだよ」

女郎蜘蛛娘 「この町ではいろんな種族が暮らしていてね」

女郎蜘蛛娘 「食べ物とかの関係で相性の悪い種族同士もあるから、住む場所は分かれているんだ」

女郎蜘蛛娘 「その方が、余計なトラブルが起きないしね」

女郎蜘蛛娘 「で、ここはそうじゃない」


中二 「なるほど……」

中二 「危なそうですね」


女郎蜘蛛娘 「うん。危ないよお」

女郎蜘蛛娘 「君は混じりっけなしのにんげんみたいだから」

女郎蜘蛛娘 「人食い鬼さんちとか、桃尻淫魔さんちには近づかない方が良いかな」


中二 「き、気をつけます」







天秤帽子A 「すべての糸を、すべての人に!」

天秤帽子A 「すべての魔法を、すべての人に!」

天秤帽子A 「糸巻きの町のすべての人に、自由を!」



中二 (橋の端に、不思議な帽子を被った二人組がいる)



天秤帽子B 「お疲れ様でえす」

天秤帽子B 「よろしくお願いしまあす」


水平天秤のビラ1


中二 (ビラを差し出された)

中二 「えっと……」


天秤帽子B 「秘密ギルド、水平天秤です」

天秤帽子B 「今度、私たちのギルドの集会があるので、良かったら見学に来てください」

天秤帽子B 「この町の真の平等と自由について一緒に考えましょうねえ」


中二 (一生懸命に作られたような、手作りのビラだ)

中二 「あ、ありがとうございます」




































カン カン カン

ギイイ






女郎蜘蛛娘 「ただいまあ」



川辺のアパート パン娘の部屋



女郎蜘蛛娘 「我が家は落ち着くねえ」


パン娘 「あんたの家じゃないでしょ」


中二 (ベコベコの金属の橋を渡って、隙間を埋めるように伸びる階段を登って)

中二 (パン娘さんの家に着いた)

中二 (小さいけど、住みやすそうな家だ)


パン娘 「あんたは、変なビラを受け取っちゃって……」


中二 「熱心だったもので」


パン娘 「詐欺師だって熱心に仕事するわよ」

パン娘 「この町では、何でもかんでもに首を突っ込まないこと」




パン娘 「じゃあ、ちゃちゃっと何か作るから、適当にくつろいでいて」


女郎蜘蛛娘 「はーい」

女郎蜘蛛娘 「ようし、中二ちゃんよ、パン娘の家を案内してあげよう」

女郎蜘蛛娘 「まずはベッドの横のタンスから」


中二 「はい」


パン娘 「変なことしたら蹴っ飛ばすからね」


女郎蜘蛛娘 「はーい」


パン娘 「まったく……」


スタ スタ スタ





中二 「……何だか、素敵な部屋」

中二 「見たことが無いけれど、なじみのある物ばかり」

中二 「花の形の灯りに、良いにおいがする木のベッドに……」

中二 「あ、窓あけても良いですか?」


パン娘 「ああ、お願い」

パン娘 「うるさかったり変なにおいがしたら、カーテンおろしといて」


中二 「はあい」


カチャ ガココ

ソヨソヨソヨ 


中二 「……ふう」

中二 (風が気持ち良い)

中二 (にぎやかな町の音がどこか遠くに感じる)


女郎蜘蛛娘 「いよっ、窓辺の乙女」


中二 「は、はあ……いえ、そんな」

中二 「良いところだなあって」

中二 「ひしめく家の灯りとか、声とか、人の気配がして、川面の灯りは綺麗で」


女郎蜘蛛娘 「気に入ってくれたかね」


中二 「はい」


パン娘 「あんたの部屋じゃないでしょ」

パン娘 「すぐに飽きるわよ、暮らしていたら」





パン娘 「うるさいし、狭いし、下品な笑い声が聞こえてきたりするし」

パン娘 「お尻をさわってくる人もいるし」


女郎蜘蛛娘 「窓辺に座って川を眺めるのが好きなんだよ、パン娘は」

女郎蜘蛛娘 「この前訪ねたときは、歌まで歌ってたんだ」


中二 「良い趣味をお持ちで」


パン娘 「そんなのは教えなくて良いの」

パン娘 「美味しい料理が食べたかったらね!」


トン トン コトコト


女郎蜘蛛娘 「でも、残り物なんでしょう?」


パン娘 「こんにゃろ、わざと塩と苦薬を間違えてやろうかしら……」


女郎蜘蛛娘 「冗談、冗談」





…………


グツグツ コト コト 

パン娘 「あちち……」

シュー シュー



中二 (低いテーブル。大木をそのまま輪切りにした感じだ)

中二 (ベリーソースをかけたケーキみたいにつやつやしている……)

中二 (カーペットは何でできているんだろう)


女郎蜘蛛娘 「行儀良いねえ。足くずしなよ」

女郎蜘蛛娘 「こんな狭い部屋だけど、気なんか遣わなくて良いって」



中二 「あ、はい、失礼します……」



パン娘 「ちょっと、また何か聞こえたわよ!」



女郎蜘蛛娘 「あははあ……ねえねえ」

女郎蜘蛛娘 「君って住むところ決まってるんだっけ」


中二 「……あ、はい。宿オークさんのところで」

中二 「家に帰るまで住み込みで働かせてもらいながら、お世話になろうかと」


女郎蜘蛛娘 「住み込みかあ。うちにもいるなあ、住み込みで働いてるの」

女郎蜘蛛娘 「……って、ええー、帰っちゃうの?」





中二 「はい。私には、声優という夢がありますので」


女郎蜘蛛娘 「セーユウ?」


中二 「声の役者です」

中二 「感情を表現するために、普通の役者は表情や身振り手振り、足音などを使えますが」

中二 「声優は基本的に声しか使いません」

中二 「声だけであらゆる感情、季候に気候など周りの様子さえ表現するのが」

中二 「声優なのです」


女郎蜘蛛娘 「……あー」

女郎蜘蛛娘 「聞いたことあるある」

女郎蜘蛛娘 「声優ね、声優」


中二 「普通の役者よりも高い演技力が求められる、たいへん難しい世界なのです」


女郎蜘蛛娘 「なるほどねえ」

女郎蜘蛛娘 「じゃあさあ、こっちでなっちゃえば良いじゃん」


中二 「え?」


女郎蜘蛛娘 「どうやってなるのか分かんないけどさ」

女郎蜘蛛娘 「大丈夫大丈夫、やればできるって」




中二 (ここで……)


パン娘 「何を言ってんのよ」

パン娘 「へい、お待ちぃ」


カボチャのドルマ
残り物ピキリア
残り物スープ


中二 (中身をくり貫いたカボチャに、何かおいしそうな炒め物が入っている?)


女郎蜘蛛娘 「きたきたー」

女郎蜘蛛娘 「残り物パン娘スペシャル!」


パン娘 「残り物は余計よ!」

パン娘 「……まだ子供だし、ここで暮らすのは大変よ」

パン娘 「それに、パパやママも心配するでしょ?」


中二 「いいえ? 全然」


パン娘 「いやいや、そうは言っても……」


中二 「まったく、心配していませんね」


パン娘 「まあ照れるのは分かるけど、心配……」


中二 「していません」

中二 「いなくなったら泣いて喜びますね」


パン娘 「…………」

パン娘 「ええぇ~~……」


女郎蜘蛛娘 「…………よし」

女郎蜘蛛娘 「いっただきまーす!」





パン娘 「ちょ、ちょっとあんた、何をのん気に食べ始めてんのよ」

パン娘 「今すごいこと言ったわよこの子!」


女郎蜘蛛娘 「残念ながらたぶん私の手に負えん!」

女郎蜘蛛娘 「食べよう!」


パン娘 「逃げんじゃないわよ!」


中二 「いただきます!」


パン娘 「ちょ、ちょっと、あんたも……!」


中二 「……!! 濃厚な甘みのカボチャとモチっとした麦のような何かのハーモニー!」


ムシャムシャムシャ


パン娘 「えぇ~……」


女郎蜘蛛娘 「おいしいだろー、中二よ」

女郎蜘蛛娘 「パン娘の手にかかれば、半分ゴミのような食材もこの通り」

女郎蜘蛛娘 「間に合わせのファンタジスタとは彼女のことだ!」


パン娘 「何てこと言ってんのよアンタぁ!」


中二 「なるほど、食の錬金術士……」

中二 「というわけですね!」


女郎蜘蛛娘 「知らんけど」

女郎蜘蛛娘 「うーん、うまいっ!」


中二 「うまいっ!」


モグモグモグ

ムシャムシャムシャ


パン娘 「何なのよコレ、もぉ……」





パクパク モグモグ


中二 「こんな小さなカボチャもあるんですね」

中二 「皮が暗い紫色で……初めて見ました」


パン娘 「似てるけど違うものよ。もとは同じだけど」

パン娘 「魔女のカボチャ畑でたまにできていたのが始まりなんですって」

パン娘 「今ではお店にいっぱい並べられるくらい、簡単につくれるようになっているの」

パン娘 「栽培には毒ヨモギと角ムカゴが関係しているって聞いたけど、よく分かんない」

パン娘 「前にうちで作ってみたんだけど、だめになっちゃった」


中二 「へえ~」


女郎蜘蛛娘 「飲む回復薬の材料にもなったりするんだよ」


中二 「コボルト娘さんが飲んでたようなものですか?」


女郎蜘蛛娘 「そうそう。あれはたぶん苦いやつだと思うけど」

女郎蜘蛛娘 「これを使うと甘くなるんだよー」


中二 「へえ。甘い方が良いですねえ」


女郎蜘蛛娘 「だよねえ」


中二 「飲む回復薬って、疲れが取れるとか、そういうものですか?」


女郎蜘蛛娘 「小さな傷もなおせるよ」

女郎蜘蛛娘 「高級なのになると、大怪我もあっという間になおせちゃう」


中二 「傷があっという間になおる……って、想像できませんけど」


女郎蜘蛛娘 「そうなんだ?」


中二 「だいたいの擦り傷とか切り傷とか、小さくてもなおるのに数日はかかります」


女郎蜘蛛娘 「怪我しにくい世界だねえ」

女郎蜘蛛娘 「まあ、こっちでも質の悪いの薬だと小さな傷でもなおすのに時間がかかったりするけどね」




モグモグ キャッキャ

パクパク ウフフ


パン娘 「……あ、魔動画つけていい?」


女郎蜘蛛娘 「むぃーふょー(いーよー)」


パチン

フヴォン


魔動画 『ダンジョン探索の準備は、ぜひGアント商会で』

魔動画 『上層から下層まで、Gアント商会は良質なアイテムを提供いたします!』


パン娘 「よかったあ、まだ始まってなかった」


中二 (宿オークさんのところにあったものと同じ物?)

中二 (こっちのは箱みたいだけど)


女郎蜘蛛娘 「最近熱心に見てるよね、スパットレース」


パン娘 「私の応援してるチームがいい感じなのよ」

パン娘 「とくに今日は市街戦の王子、飛行帽フォレ様の本領発揮なんだから」


女郎蜘蛛娘 「あはは、好きだねえ」


中二 (スポーツがあるのかな?)




女郎蜘蛛娘 「スパットっていうモンスターがいるのよ」

女郎蜘蛛娘 「それに乗って、雪原とか砂漠とか市街地とか走って速さを競ったり」

女郎蜘蛛娘 「風船くっつけて割りあったりするわけ」

女郎蜘蛛娘 「今日は夜の市街戦みたい」


中二 「ほー」

中二 (見てみないと分からなそうだ)

中二 (……ん?)

中二 「あれ? 砂漠とか雪原って、この町に……」


女郎蜘蛛娘 「ねー、中二くんよ」


中二 「あ、はい」


女郎蜘蛛娘 「今日はうちに泊まっていきなよ」




女郎蜘蛛娘 「このままさー」


中二 「ええっと」

中二 (女郎蜘蛛娘さんは魔動画? に顔を向けていて)

中二 (どのくらい本気か分からない)


女郎蜘蛛娘 「うちはここのすぐ上なんだけどさー」

女郎蜘蛛娘 「もう遅いし、宿オークさんには私が説明するからさあ」


中二 「はあ、ありがたいですけど」

中二 「やっぱり一度宿に戻った方が……」

中二 「ほら、なんだかゴタゴタしたまま出てきちゃったので」


女郎蜘蛛娘 「あちゃー、そうかー……」


中二 「はい……」

中二 (そうだ、あんまりゆっくりしてられないや)


女郎蜘蛛娘 「じゃあ、その辺もあした一緒に謝るってことでー……」


中二 「え?」


女郎蜘蛛娘 「あー、食った食ったあ」

女郎蜘蛛娘 「パン娘ぇ、私今日ここに泊まっていいー?」


中二 「はいっ?」


パン娘 「テキトーな子なのよ、本当……」

パン娘 「あんまり真面目に対応しすぎない方が楽よ」




女郎蜘蛛娘 「中二よ、君も一緒にパン娘の家に泊まるのだ」


中二 「やや、さすがにそれは……」


パン娘 「ほらほら、あんたが連れ出したんでしょ」

パン娘 「ちゃんと面倒見てあげなきゃ……って寝る体勢に入るなあ!」


女郎蜘蛛娘 「寝巻きはそこのタンスの下から二段目だからねー……」


パン娘 「そこは下着よ!」

パン娘 「じゃ無くて……寝るなあ!」


女郎蜘蛛娘 「レース始まるよ」


パン娘 「えっ」

パン娘 「やあん、本当……!」




実況A 『……皆さん、今夜のスパットレースを飲み物片手に観ようだなんて思っていませんか?』


実況B 『だとしたら、今すぐに飲み干すべきだね』


実況A 『その通り。今夜は優勝への大事な大事な大事なターニングポイント』

実況A 『各チーム、いつにも増して本気の布陣で臨んでくるこの試合』

実況A 『目を離す隙なんてどこにもありません』


実況B 『中でも注目は彼さ。飛行帽フォレ』

実況B 『さっき、調整房でロングイアーの碧眼エルフとバルカンの片翼インプと話してたんだけど』

実況B 『どちらも、彼のことをかなり意識していたね』

実況B 『もっとも僕は今、スタンド二段目にいるホットパンツの彼女から目が離せないけど……』



女郎蜘蛛娘 「声優ってこれ?」


中二 「……必要なスキルではあります」


パン娘 「あーん、もう。早く映してよ、飛行帽フォレ様を!」





中二 (実況の人がどんな話し方をするのか聞いていきたい……)

中二 「…………」



実況A 『さあ、各チームのメンバーを見ていきましょう。まずは……』



女郎蜘蛛娘 「くあぁ………」


中二 「…………」



実況B 『……第四戦から急遽トップフラッグを受け継いだとは思えない貫禄』

実況B 『金毛猫耳が帰って来ても、立派に席を争えるよ』


実況A 『ええ、まさに今季最も成長した選手は間違いなく彼でしょう』

実況A 『さて、皆さんお待ちかね。続いてはこのチーム……』



パン娘 「んもーう! マッスルヴァンパイアの人たちなんて映すの後で良いじゃない!」

パン娘 「見たいのはフォレ様よ、ホークアイのフォレ様!」


中二 (この実況の人たち、息が合ってるな)

中二 「実況の人たちは、いつも同じなんですか?」


女郎蜘蛛娘 「……さあ?」

女郎蜘蛛娘 「でも、たしか魔法ラジオで他の番組を一緒にやってたかも」


中二 「ほー……」

中二 (今度探して聞いてみよう)


女郎蜘蛛娘 「…………」

女郎蜘蛛娘 「泊まってく?」




…………

…………


少し後



ガサ ゴソ


パン娘 「……どう?」


中二 (パン娘さんの寝巻きを貸してもらった)

中二 (……お尻がぶかぶかだ)

中二 「え、えっと……」


女郎蜘蛛娘 「お尻がぶかぶかでしょ? お尻が」


中二 「あ、はは、まあ……ですね」


女郎蜘蛛娘 「ぶっかぶかだって、お尻が」


パン娘 「分かってるわよ……お尻お尻うるさいわよ!」

パン娘 「ほら、このサスペンダー使って。上は大丈夫?」


中二 「は、はい」


ハミュ ハミュ


中二 「……ど、どうでしょうか」


パン娘 「うん、うんっ、可愛いじゃない!」


女郎蜘蛛娘 「うん、可愛い。変なキノコみたい」


中二 「変なキノコですか」


女郎蜘蛛娘 「眠らせてきたり、毒にしてきたりする奴」


中二 「うわっ、やだなあ」


パン娘 「着心地はどんな感じ?」


女郎蜘蛛娘 「チクチクしない? パン族は下半身ぼーぼーだから」


パン娘 「ちゃんと洗ってあるわよ! ぼーぼーとか言うなあ!」


中二 「ゆったりして、気持ち良いです」

中二 「このまま外を歩きたいくらいですね」




パン娘 「そう? 気に入ってくれた?」


中二 「はい、すごく。こんなの初めて着ました」


パン娘 「ふうん……」

パン娘 「よし、じゃああげる」


女郎蜘蛛娘 「おおー」


中二 「えっ」


パン娘 「着られなくなって、どうするか迷ってたやつなの」

パン娘 「だから、あげるっ」


中二 「う、うれしいけど悪いですよ、そんな」


パン娘 「いいのいいの。サスペンダーもおまけ。私からの、この町に来たお祝いよ」


女郎蜘蛛娘 「決して、飛行帽の王子様が勝ったから機嫌が良いだけってわけじゃないからね」


中二 「……うぐっ」

中二 (いかん、泣けてきた……!)

中二 「あっ……りがと、ございますぅ゛……!」



パン娘 「ウフフッ、どういたしま……」


女郎蜘蛛娘 「どういたしまして!」


パン娘 「こらあ!」




パン娘 「さあってと、ベッドはどうしようかしらね」


中二 「ごめんなさい、結局お世話になっちゃって」


パン娘 「いいの、いつものことだし、一人くらい増えたって」


女郎蜘蛛娘 「これからもよろしくー」


パン娘 「あんたは自重なさいっ」

パン娘 「言っとくけど、寝床は良いとしても食費の方は本当に考えるからね!」


女郎蜘蛛娘 「大丈夫、そのあたりの加減は考えてるから」


パン娘 「なら良いけど……良くないわよ!」


中二 「計画的な、たかり……」


女郎蜘蛛娘 「あっはっは」

女郎蜘蛛娘 「また何か良い素材見つけたら持ってきてあげるからさ」


パン娘 「んもう……」




パン娘 「えっと、じゃあベッドは中二と私が使うとして……」


女郎蜘蛛娘 「えー、三人で並んで寝ようよー」


パン娘 「三人は無理よ」


女郎蜘蛛娘 「パン娘のお尻が大きいから?」


パン娘 「あんたの手足が長いからよ!」


死神メイド 「もしくはその両方ね」


中二・パン娘・女郎蜘蛛娘 「うわあ!?」




死神メイド が あらわれた


中二 「び、びっくりしたあ……!」


死神メイド 「そう」


女郎蜘蛛娘 「相変わらず神出鬼没だなあ」

女郎蜘蛛娘 「ねえ、パン娘」


パン娘 「や、やめてよ! 私は知らないわよ、こんな子!」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「傷つくわ。ショック」

死神メイド 「ねえ、パン娘」


パン娘 「やめて! かかわりたくない!」

パン娘 「あんたに関わると何かしら痛い目を見るもの!」


中二 (あれ、知り合い?)


パン娘 「私は死神メイドなんて知らない!」


イヤ イヤ


中二 「すごい拒否反応……」






女郎蜘蛛娘 「ほら、死神メイドって超マイペースなんだよ」

女郎蜘蛛娘 「で、パン娘は振り回されるタイプじゃない?」

女郎蜘蛛娘 「そりゃあ、嫌ってほど振り回されちゃうよねー」


中二 「へえ……」

中二 (女郎蜘蛛娘さんも、かなりマイペースだと思う……)


女郎蜘蛛娘 「彼氏ができても振り回されるんだろうなあ」


中二 「面倒見が良さそうだから、ほっとけないんでしょうかね」


女郎蜘蛛娘 「そーそー」

女郎蜘蛛娘 「で、重いって捨てられるの」


パン娘 「聞こえてるわよ、そこ!」


死神メイド 「知らないなんて言わないで。あなたと私の仲じゃない」


パン娘 「いや!」


死神メイド 「傷つくわ」

死神メイド 「ねえ、パン娘。野外喫茶の青空喫茶で働く20歳」

死神メイド 「夢は素敵な旦那様とお店を持つこと」

死神メイド 「好きなタイプは王子様みたいな人」

死神メイド 「趣味は魔動画でスパットレースの観戦」


パン娘 「いや! いや!」


死神メイド 「初恋の相手は近所に住んでいた友達のお兄ちゃん」

死神メイド 「初めての××××は、お風呂場でそのお兄ちゃんのことを……」


パン娘 「きゃあああああ!?」

パン娘 「もうやめてえ!」





パン娘 「どどど、どうしてそんなことまで知ってるのよお!」


死神メイド 「さあ」

死神メイド 「なぜでしょう」

死神メイド 「にやり」


中二 (にやりって言った、無表情で……)


パン娘 「やな奴!」



中二 「あのう、パン娘さんと死神メイドさんは知り合いなんでしょうか」


女郎蜘蛛娘 「職場がわりと近所だからね」

女郎蜘蛛娘 「浅からぬ縁ではあるよね」



パン娘 「もー、あんたと関わるとこっちの寿命がいくらあっても足りないから」

パン娘 「他人のふりしていたのにぃ……」


死神メイド 「他人じゃない」


パン娘 「そういう意味じゃなくてっ」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「でも良かったわ、寿命が縮んで」

死神メイド 「死神冥利につきる」


パン娘 「くぅ~……っ!!」

パン娘 「……はぁ」




パン娘 「……うちに何しに来たのよ。仕事中じゃないの?」


死神メイド 「仕事中よ。仕事でここに来ているの」

死神メイド 「仕事じゃなきゃ来ないわ、こんなところ」


パン娘 「ぬっく……!」

パン娘 「……ああ、もう、はいはい、何の用なわけ? 私たち、これから寝るところなんだけど」


死神メイド 「あなた達がこの燃えやすそうなボロ部屋で、これから何をするのか」

死神メイド 「ごめんなさい、まったく興味ないわ」

死神メイド 「知ってる? 今月の私のラッキーアイテム」

死神メイド 「一本で巨人の家を燃やせる魔法のマッチ」


パン娘 「そっちの方がどうでも良いわよ!」




中二 (今月のラッキーアイテム。今月ってことは……)

中二 (ここの暦ってどうなっているんだろう)



死神メイド 「たまたま持っていたのだけど、本当に家を燃やせるのかしら、このマッチ」

死神メイド 「試して良い?」


パン娘 「それが仕事で、そのためにここに来たんだったら引っ叩くわよ」


死神メイド 「……ちょっと、あの、ごめんなさい」

死神メイド 「私、真面目に話しているのだけど」


パン娘 「私だって、ふざけていないわよ! ふざけているのはそっちでしょ」

パン娘 「じゃあ何しに来たのよ。仕事って何なのよ」

パン娘 「っていうか、あんたねえ、うちの店どーーーっしてくれんのよ。百等自警団相手にあんなに暴れて!」

パン娘 「目をつけられちゃったらどうすんのよ!」


死神メイド 「どうしたの、急に怒りだして」




死神メイド 「暴れたのはあの死に損ないの竜人族の男よ」

死神メイド 「……女だったかしら」

死神メイド 「そもそも私は、お友だちのお店に迷惑をかけようだなんて思わない」

死神メイド 「私、あなたがコソコソと逃げ出したあとも、店を守るためにあの青白い顔の生物に一生懸命言ったわ」

死神メイド 「ここは私の大切な大切な大切なお友だちの勤めているお店だから、暴れるのはやめなさいって」


パン娘 「つけられた! ぜったい目をつけられた!」

パン娘 「もー、あんた何てことしてくれたのよ。あの人たちに目をつけられたら、牢屋にいるのと違わないじゃない!」


死神メイド 「……いらないわ、お礼は」


パン娘 「やらないわよ!」

パン娘 「あー、もう、本当に目をつけられたらどうしよう……」


死神メイド 「大丈夫よ」


パン娘 「気軽に言ってくれちゃって……」




死神メイド 「だから、大丈夫よ」


バサ


死神メイドは 不死竜娘の頭を 取り出した!


中二・女郎蜘蛛娘・パン娘 「ぎゃっ!」





不死竜娘の頭


中二 「どどどど、ど、どどどどどどどどどどど……」

中二 (生首! 目隠しされて猿轡された)


パン娘 「あた、あたあたあた……」


女郎蜘蛛娘 「…………」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「ね」


パン娘 「何があ!?」


中二 「じょじょじょじょじょ、じょろじょろじょろくもサン、ここここれはいったい………」


女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 「あ!」

中二 「気絶してる……」




女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 (立ったままで、しかも目を開けたままで気絶している)

中二 「スウゥ……」

中二 「女郎蜘蛛さぁん!」


女郎蜘蛛娘 「!!」

女郎蜘蛛娘 「はっ……ああ、何だ、夢かあ」

女郎蜘蛛娘 「さっき、生々しい生首がさあ……」


中二 「違います違います、女郎蜘蛛さん。夢じゃありませんよ」

中二 「あたしなんてもう死神メイドさんに会ったくらいから夢見てる感覚ですけど」



パン娘 「死神メイド……あ、あんた、ついにやっちゃったの」

パン娘 「いつかやるだろうと……っていうか、もうすでに何人かやってそうだと思っていたけど」

パン娘 「ついにやっちゃったの!?」


死神メイド 「いいえ。最近、他人のお腹にパンチするのは控えているわ」


中二 (ん?)


死神メイド 「三人とも、何を慌てふためいているの」

死神メイド 「たかが生首じゃない」


ズイ


不死竜娘の頭



女郎蜘蛛娘 「ぎゃっ……」


中二 「ああっ、また」




死神メイド 「どうして人の生首程度で慌てふためくの」

死神メイド 「小魚の生首を見ても、慌てふためかないでしょう」

死神メイド 「小魚に悪いと思わないの」

死神メイド 「料理の皿に小魚の頭が乗っていようが、あなた達の生首が乗っていようが」

死神メイド 「私にとっては同じことなのよ」


パン娘 「大事な友達とか言っておきながら小魚と同列……って、そういう問題じゃないのよ!」


死神メイド 「そうなのね」

死神メイド 「やっちゃったって、お腹にパンチのことでは無いのね」

死神メイド 「ええ、パムンク呼吸法は試してみたわ。効果があったのか、顔色は良くなる一方よ」


パン娘 「ああん、もう会話の行方が分かんないわよう!」

パン娘 「とにかくそれ、その頭しまってよ! 吐きそうなのよ!」


死神メイド 「かまわないけれど、正直嫌なのよね」

死神メイド 「ここまで、この生首、スカートの中に入れてきたのよ。またこんな生臭いものしまうなんて」

死神メイド 「とても嫌」


パン娘 「小魚がどうとか、差別するなみたいなこと、いま言ってたじゃない!」


死神メイド 「言っていたわね」

死神メイド 「ええ、そうよ。小魚の生首をスカートにしまう行為も、とても嫌」

死神メイド 「ちょっとこの生首、テーブルに置かせてくれるかしら」

死神メイド 「わりと重いのよね」


パン娘 「やめてえ!」




パン娘 「もう嫌ぁ、やっぱりえらいことに巻き込まれちゃったじゃないのよぉ……」


死神メイド 「いい加減にしてほしいわよね」


パン娘 「あんたが言うなあ!」


死神メイド 「私だって、仕事があるのに」


中二 (死神メイドさん、平然と生首を持っている)

中二 (パン娘さんや女郎蜘蛛娘さんの反応を見るに、ここではそれが普通じゃないみたいだ)

中二 (死神メイドさんは、すごく怖い人なんだろうか……)


死神メイド 「……中二」


中二 「は、はい!?」


ビクッ


死神メイド 「説明、手伝ってもらうわ」


中二 「え?」




シュルル チュパア


死神メイドは 不死竜娘の生首から
目隠しと猿轡を 外した!


パン娘 「ちょっとあんた、やめてよ顔なんて見せないで……」


不死竜娘の生首 「ぷあっ……」

不死竜娘の生首 「くそう、このような屈辱……」


パン娘・中二 「…………」


中二 「……ええっ!?」






中二 「生きてる」

中二 「ええっ!?」

中二 「女郎蜘蛛さん……は、気絶しているから……」

中二 「パン娘さん、これって……」


パン娘 「私だってよく分かんないわよぉ……」

パン娘 「自警団の隊長はゾンビかそういう種族だったってことじゃないの?」


中二 「ゾンビもいるんですか」


パン娘 「うん……」


中二 (走る人骨だっていたし、何がいても不思議じゃないか)

中二 (つくづく何でもありなところだなあ……と感じるけれど、さすがに生首の持ち歩きは普通じゃ無かった)

中二 (あたしの暮らしているところとだいぶ違うだけで、ここにもちゃんと常識と非常識はあるんだ)

中二 (これは大事なことだぞ)

中二 (あたしが目指す声優界も、いわば別世界。特殊なしきたり、常識非常識があるだろう)

中二 (それをいち早く把握し適応できなければ、一緒に仕事する人たちとの信頼関係は築けない)

中二 (すぐにその世界から抹殺されてしまう)



死神メイド 「私はうちの宿でお世話しているこの子を、連れ戻そうとしていただけ」

死神メイド 「やましいことをしていたわけでは無いの」

死神メイド 「そもそも、私はあなたが言うような極悪犯罪者では無いのよ」


不死竜娘の生首 「ふん……」

不死竜娘の生首 「そうなのですか、黒髪のお嬢さん?」


中二 (生首に話しかけられた。意外と話し方は柔らかい)

中二 「お世話になっているのは本当ですけれど……」

中二 「死神メイドさん、探しにきてくれたんですか?」


死神メイド 「当たり前でしょう」

死神メイド 「大事な後輩だもの」



…………


不死竜娘の生首 「この町に来てまだ間も無いのですか」

不死竜娘の生首 「私も外の出身です。はじめは色々と、戸惑うことが多いでしょう」


中二 「はい、ええ、もう……」

中二 (しっかりとした声。頭だけでどうやって出しているんだろう)

中二 (あたしの知らない発声法が、ここにはあるのかな)


不死竜娘の生首 「そうですか、あなたがたは、あの野外喫茶に……」

不死竜娘の生首 「巻き込んでしまい、申し訳ない」


パン娘 「申し訳ないじゃないわよ。おかげでお店が滅茶苦茶なのよ!」

パン娘 「あなたたちって、本当に乱暴なんだから。行儀悪いのも多いし」


不死竜娘の生首 「たしかに、隊の風紀は正すべきところが多いと感じております」

不死竜娘の生首 「しかし、私が今日、あそこで斧を振るったのは正義のため」

不死竜娘の生首 「町の平和を守るためなのです」

不死竜娘の生首 「それはご理解いただきたい」




パン娘 「平和のためって何よ」

パン娘 「そもそも自警団なんてあなた達が勝手に名乗って」

パン娘 「勝手にみんなを取り締まっているだけでしょう」



中二 「パン娘さん、ずばずばと……」


女郎蜘蛛娘 「面倒事に巻き込まれたくないわりに、怖いもの知らずなとこあるからね」



不死竜娘の生首 「もちろん、そのような声が多いことも承知しております」

不死竜娘の生首 「真実正義というものが、大衆に理解されにくいことも」

不死竜娘の生首 「しかし、我々は微かでも尽きることなくこの町に秩序を灯し続けましょう」

不死竜娘の生首 「ゆえに、我々は百等自警団なのです」



パン娘 「それがありがた迷惑だって……」


死神メイド 「やめてあげて、パン娘」

死神メイド 「彼女、こんなになるまで頑張っているのよ」


不死竜娘の生首 「したのは貴様だ」

不死竜娘の生首 「今に尻尾をつかまえて、牢獄にぶちこんでやる」


死神メイド 「私に尻尾は無いわ」

死神メイド 「あるのはあなた……」

死神メイド 「ああ、そう。そうだったのね。あなたなりの冗談だったのね」

死神メイド 「気づかなくてごめんなさい」

死神メイド 「面白くないけれど、笑ってあげるわ」

死神メイド 「うふ」


中二 (真顔で……)




女郎蜘蛛娘の生首 「あのさあ、ところでさあ……」

女郎蜘蛛娘の生首 「その隊長さんの頭はここにあるけど、身体は大丈夫なの?」

女郎蜘蛛娘の生首 「燃やされちゃったり食べられたりして、なくなっちゃったらまずいんじゃないの?」


中二 「女郎蜘蛛さん、顔が真っ青……」

中二 (声の震えかた、顔の筋肉の様子、しっかり観察しておかなくちゃ)



不死竜娘の生首 「ありがとうございます。私は皆様に奉仕する身。そのような気遣いは無用です」

不死竜娘の生首 「急いだ方が良いのは確かですが」


死神メイド 「私も急いで宿に戻りたいわ」

死神メイド 「誤解もとけたようだし」


不死竜娘の生首 「勘違いをするな」

不死竜娘の生首 「貴様には、先日の賭博場のことで聞き出さねばならんことがある」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「頑張り屋さんは好きよ」


女郎蜘蛛いつのまにか生首になってる…

>>234ありがとうございます



>>233訂正ごめんなさい



女郎蜘蛛娘 「あのさあ、ところでさあ……」

女郎蜘蛛娘 「その隊長さんの頭はここにあるけど、身体は大丈夫なの?」

女郎蜘蛛娘 「燃やされちゃったり食べられたりして、なくなっちゃったらまずいんじゃないの?」


中二 「女郎蜘蛛さん、顔が真っ青……」

中二 (声の震えかた、顔の筋肉の様子、しっかり観察しておかなくちゃ)



不死竜娘の生首 「ありがとうございます。私は皆様に奉仕する身。そのような気遣いは無用です」

不死竜娘の生首 「急いだ方が良いのは確かですが」


死神メイド 「私も急いで宿に戻りたいわ」

死神メイド 「誤解もとけたようだし」


不死竜娘の生首 「勘違いをするな」

不死竜娘の生首 「貴様には、先日の賭博場のことで聞き出さねばならんことがある」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「頑張り屋さんは好きよ」



死神メイド 「何でも聞いて」

死神メイド 「気が向いたら答えるわ」


不死竜娘の生首 「その生意気な口、いつか塞いでやろう」


死神メイド 「そうしたら答えられないわ」

死神メイド 「大丈夫、あなた? 頭だけになって脳みそがなくなったから、頭、悪くなったんじゃない」

死神メイド 「あ、脳みそは頭に入っているのだったわね」

死神メイド 「私のうっかりさん」

死神メイド 「あなた、もとから脳みそが無いのね」


不死竜娘の生首 「……やはり貴様との問答は不毛だ」


死神メイド 「まるで、あなたの人生のようね」


不死竜娘の生首 「ふ……ふふふふふ……」


ユラ


中二 (不死竜娘さんから、どす黒いものがユラユラと立ち上っている)

中二 (……ような気がする)






中二 「あ、あの!」


パン娘・蜘蛛娘・メイド・首 「?」


中二 「死神メイドさんも来てくれたことですし」

中二 「やっぱり、今日は帰った方が良いかなー、って……」


女郎蜘蛛娘 「えー」

女郎蜘蛛娘 「一緒にここに泊まろうよう」

女郎蜘蛛娘 「抱き枕になってよう。私ら姉妹じゃん」


中二 「姉妹っていうか……抱き枕?」


女郎蜘蛛娘 「私の長い手足は、一人で寝るには長すぎらあ……」


パン娘 「この子と並んで寝るの、すごく面倒くさいのよね。暑い日は特に」


女郎蜘蛛娘 「あんただって、下半身がぼうぼうだから一緒に寝ると暑苦しいって、男に捨てられたじゃん」


パン娘 「男と一緒に寝たことなんて無いわよ!」




女郎蜘蛛娘 「だよね」


パン娘 「ややこしい時にテキトーなこと言ってんじゃないわよ……」

パン娘 「しかも、またぼうぼうって!」


女郎蜘蛛娘 「あはは。ごめん」


死神メイド 「……パン娘」


パン娘 「何よ!」


死神メイド 「大丈夫、知っているわ」


パン娘 「何をよ!」


死神メイド 「あなたが男と一緒に寝たことがないことくらい」


パン娘 「ああそうですか!」


死神メイド 「町中のみんなが知ってる」

死神メイド 「パン娘は処女だって」


パン娘 「うるっさいわよ!」

パン娘 「子供がいるのに、変な話をしてんじゃないの!」


中二 「あの、私もそういう知識はありますので……」




パン娘 「だからって、ねえ……!」

パン娘 「中二、この際だから言っておくけど、この町で暮らすなら、そういうことについての守りはしっかりしておかないと駄目よ」

パン娘 「色んな種族がいるから、性に対する考え方もそれぞれなの」

パン娘 「子供だからって、そういうのと無縁とはいかないんだからね」


中二 (ここでは、私はよっぽど小さな子供に見えるんだろうか)

中二 「はい、気をつけます」

中二 (でも、演技のためには早めに知っておいた方が良さそうなんだよね)


パン娘 「そうだ、龍虎商店で淫魔除けのお守りを買うと良いわ。あと、避妊薬も」

パン娘 「相手にとって一番不細工に見える魔法の眼鏡なんかもあるわ」

パン娘 「それに……」


中二 (変なスイッチが入っちゃったみたい)


不死竜娘の生首 「嘆かわしいことです」

不死竜娘の生首 「一日も早く、我々がここを、子供たちが伸び伸びと暮らせる街にしてみせましょう」


死神メイド 「期待しているわ」

死神メイド 「頭だけで言われても滑稽なだけだけれど」




不死竜娘の生首 「貴様はいちいちいちいち……!」


死神メイド 「あなたほどしつこくないわ」




女郎蜘蛛娘 「中二ぃ」


ダキ


中二 「わっ……は、はい?」

中二 (抱きつかれた)


女郎蜘蛛娘 「ねえ、夜は物騒なんだよぉ。怖いんだよぉ」

女郎蜘蛛娘 「だから今日はここに泊まっていこうよ」


中二 (この人はこの人で、どうしてこんなにここに泊まらせたがるんだろう)

中二 「で、ですが……うわあ手足が絡みつくっ!」


女郎蜘蛛娘 「ねー、ねー」


パン娘 「何やってんのよ、もう!」





女郎蜘蛛娘 「だってさあ、せっかくのご縁じゃん」

女郎蜘蛛娘 「仲良くなりたいじゃん」


中二 「そ、それは嬉しいですけど、苦し……」


女郎蜘蛛娘 「ほらあ、中二も嬉しいって言ってる」


パン娘 「苦しがってるでしょうが」

パン娘 「それに、その子にはその子の事情もあるんだから……」


ボワン


??? 「楽しそうじゃの」



???が 現れた!





パン娘 「きゃっ!?」


??? 「…………」


中二 (部屋にいきなり小さな雲が現れたと思ったら、弾けて)

中二 (次には女の人が立っていた)

中二 (私より小さいけれど、なんだかずっと高いところに立っているような不思議な感じの人だ)

中二 (……耳は狐の耳? 猫? 普通の人間じゃ無いみたい)


女郎蜘蛛娘 「げぇっ……」


スルスル


中二 (拘束がとけた)


女郎蜘蛛娘 「月夜姫さま……」


中二 「姫さま?」


??? 「いかにも」

??? 「われこそは月夜姫」

月夜姫 「暁月夜比売である」


中二 「アカトキ……」


月夜姫 「九泉楼主暁月夜比売である」


中二 「キュウセンローシュ……アカト……」


月夜姫 「妓楼傾城九泉楼主暁月夜比売である」


中二 「ギローケーセーキューセ……」


月夜姫 「あっはっは!」

娼婦狐 「ま、娼婦狐と呼ぶが良い」






中二 「娼婦狐……さん」

中二 「さま?」


娼婦狐 「好きにせよ」

娼婦狐 「わしは名には縛られぬでの」

娼婦狐 「蛇牙猫姫、猫耳蛇娘、赤面猿姫……どれでも良い良い」


中二 「はあ……」

中二 (着物に似た服に、さっき弾けた雲のようなものを纏っている)


不死竜娘の生首 「九泉楼……娼婦ギルドのか」


死神メイド 「お久しぶりです、月夜姫さま」


中二 (あ、死神メイドが丁寧な喋り方をしている)


死神メイド 「ベイベーロッケンロー、相変わらず儲かっているみたいですね」


娼婦狐 「傾城九泉楼である」




>>244ミスごめんなさい




中二 「娼婦狐……さん」

中二 「さま?」


娼婦狐 「好きにせよ」

娼婦狐 「わしは名には縛られぬでの」

娼婦狐 「蛇牙猫姫、猫耳蛇娘、赤面猿姫……どれでも良い良い」


中二 「はあ……」

中二 (着物に似た服に、さっき弾けた雲のようなものを纏っている)


不死竜娘の生首 「九泉楼……娼婦ギルドのか」


死神メイド 「お久しぶりです、月夜姫さま」


中二 (あ、死神メイドさんが丁寧な喋り方をしている)


死神メイド 「ベイベーロッケンロー、相変わらず儲かっているみたいですね」


娼婦狐 「傾城九泉楼である」

娼婦狐 「そなたも相変わらずのようだ」




娼婦狐 「淫魔幼女は元気でやっておるかの」


死神メイド 「相変わらずの草枕よ」

死神メイド 「最近、少し優しくなったみたい」


中二 (死神メイドさんが少し笑った?)

中二 (気のせいか……)

中二 (誰のことを話しているんだろう)


娼婦狐 「ほほ、それは何より」

娼婦狐 「……では、さて?」


チラ


女郎蜘蛛娘 「ギクッ」




娼婦狐 「女郎蜘蛛」


女郎蜘蛛娘 「ひえっ」


娼婦狐 「まあぁー………た」

娼婦狐 「サボりかの?」


女郎蜘蛛娘 「い、いやっ」

女郎蜘蛛娘 「あは、あっはは……」


中二 (女郎蜘蛛娘さんがたじたじだ)


娼婦狐 「まったく困りものの女郎蜘蛛よ」

娼婦狐 「そなたくらいのものじゃぞ。その歳で客の一人もとっておらんのは」

娼婦狐 「男の味も知らず手足ばかり長うなりおって。それに何じゃ、その格好……」


女郎蜘蛛娘 「お、お金!」

女郎蜘蛛娘 「お金はちゃんと納めますから……!」


娼婦狐 「金の心配をしとるんではない」

娼婦狐 「そなたの、女郎蜘蛛としての将来を心配しているのだ」

娼婦狐 「いつまでもふらふらふらふらと……もうちっと種族としての自覚をじゃな……」


女郎蜘蛛娘 「はい、はいっ……」


娼婦狐 「だいたいそなたは……」


クドクドクドクド




パン娘 「あーん、自警団のゴタゴタだけでもいっぱいなのに」

パン娘 「どうして娼婦ギルドのお説教までうちで始まっちゃうのよぉ」


中二 「パン娘さん……」

中二 (哀れ)


死神メイド 「…………じゃあ」

死神メイド 「私、帰るわ」


中二 「えっ?」

中二 (このタイミングで?)


死神メイド 「もうここでやることなんて無いもの」

死神メイド 「ここに、この粗末な家に私の興味をひくようなものは何一つ無いわ」


パン娘 「粗末って言うなあ!」


中二 (哀れ)




死神メイド 「この人の身体も見つけてあげないといけないし」


不死竜娘の生首 「誰のせいでこうなっているか」


死神メイド 「あなたが弱いせいでしょう」

死神メイド 「弱いくせに頑張るからでしょう」


不死竜娘の生首 「貴様!」


死神メイド 「安心して。私、頑張り屋さんは好きなのよ」

死神メイド 「だから、助けてあげるわ」


不死竜娘の生首 「………!」

不死竜娘の生首 「まさか、貴様は……」


死神メイド 「身体が見つからなかったら、うちと取引している近所の畑に寄付してあげるわ」

死神メイド 「ちょうど案山子の頭がもげて困っていたようなのよね」


不死竜娘の生首 「貴様!!」





中二 「あの、だったらアタシも一緒に行きます」


女郎蜘蛛娘 「ええー!?」


娼婦狐 「こりゃ、話は終わっておらん」


ポコン


女郎蜘蛛娘 「きゅっ」

女郎蜘蛛娘 「うえーい……」


中二 「あはは……」


死神メイド 「良いわ。ここに泊まっていきなさい」


中二 「え」


死神メイド 「せっかくできたお友達なのでしょう」

死神メイド 「大事にしなくては駄目よ」




中二 「でも、明日から宿のお仕事のお手伝いを覚えなくてはなりませんし」

中二 「特に明日は初日だし……」


死神メイド 「明日はあなた、お休みよ。今日来たばかりで、さらに大変なことが起きたでしょう」


中二 「こ、このくらい平気ですよ」

中二 (わりとこたえているけど……声優には体力とやせ我慢も必要なんだ)

中二 (この程度のことでへこたれていられない)


死神メイド 「宿オークも、いきなりあなたを宿娘に仕込もうとは思っていないわ」

死神メイド 「簡単な仕事は頼むかもしれないけれど、しばらくは、のんびり暮らしてもらうつもりのようよ」


中二 「ええっ。そんな、お世話になるのにのんびりだなんて」


死神メイド 「それが最初の仕事」


中二 「のんびり暮らすのが、しごと?」


死神メイド 「ごろごろしてろということでは無いわ」

死神メイド 「まずはこの街……宿のある区画にくらいは慣れることが先」

死神メイド 「街で仕事をするにあたって、その街がどんなところか、知っておくのは良いことだから」


中二 「……なるほど」

中二 (死神メイドさんが、初めてまともなことを言っている気がする)


死神メイド 「周りの人たちと仲良くとはいかなくても、どんな人が住んでいるのか、知っておくのも大事」

死神メイド 「人がいて、仕事があるの。その順番を間違えてはいけないわよ」

死神メイド 「だから、お友達はなるべく大事にしなさい」


パン娘 「どの口が言ってんのよ……」


中二 「…………」


死神メイド 「?」

死神メイド 「どうしたの、中二」

死神メイド 「ぼーっとして」


中二 「……! い、いえ!」

中二 「はい、分かりました!」

中二 「人がいて、仕事がある……ですね! アタシ、感動しています!」

中二 「死神メイドさん……いえ、死神メイド先輩!」


パン娘 「感動? うっそぉ……」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「気味の悪い子ね」


パン娘 「……えぇ~」





死神メイド 「じゃあ、私は行くわ」

死神メイド 「このみすぼらしい生首を持って、ここを去るわ」


不死竜娘の生首 「貴様」


死神メイド 「パン娘」

死神メイド 「後輩が迷惑をかけるわね」


パン娘 「……いいわよ。一人泊まるのも二人泊まるのも一緒よ」


死神メイド 「……あなた、そんなわけないでしょう」

死神メイド 「こんな狭いボロ家なのに」


パン娘 「さっさと行きなさいよ!」


死神メイド 「そうだ、中二、朝ごはんの時間を言っていなかったわね」

死神メイド 「うちの宿では……」


パン娘 「それもいいわよ」

パン娘 「うちで食べてってもらうから」


中二 「パン娘さん……」


死神メイド 「……あなた、そんなわけないでしょう」

死神メイド 「こんな狭いボロ家にしか住めないのに、食費に余裕なんてあるわけ無いじゃない」


パン娘 「あんたねえ……!」


死神メイド 「パン娘」

死神メイド 「ちゃんと現実を見て」


パン娘 「出てけえ!!」




キイ ガチャン


パン娘 「ハアッ、ハアッ……やっと行った。まったく、塩まいてやろうかしら……」


中二 「あの、パン娘さん……」


パン娘 「気にしなくて良いからね、中二」

パン娘 「これでも結構稼いでるんだから」

パン娘 「朝ごはんくらい余裕余裕」


中二 「いえ、そんな心配なんて……」

中二 「その、今日はお世話になります」


ペコ


パン娘 「……あ、あはは」

パン娘 「そんなに改まって言われると困っちゃうなあ」

パン娘 「あなたって、行儀が良いのねえ」


中二 「えへへ、そうでしょうか。気をつけてはいますけど」


パン娘 「うんうん。あいつやアイツとは大違い」

パン娘 「私相手には、もっと砕けて良いんだからね」

パン娘 「あ、でも、いい? くれぐれも、死神メイドなんかの影響を受けちゃ駄目よ」


中二 「受けようにも受けられないと思いますけど……」






娼婦狐 「クドクドクドクド……ふう」

娼婦狐 「今日はこの辺にしておくかの。顎が疲れてしもうた」


女郎蜘蛛娘 「ぷへぇ……」


娼婦狐 「パン娘、そして……」


中二 「あ、中二、中学二年生です」

中二 (娼婦狐さん、雲のようなもので口元を隠した)


娼婦狐 「中二か」

娼婦狐 「二人とも、うちの者が迷惑をかけたのう」


パン娘 「いえいえ、慣れてますから……」


中二 (娼婦狐さんを前にすると、不思議と背筋が伸びてしまう)

中二 (パン娘さんも、緊張しているみたい)

中二 「迷惑だなんて。優しくしてもらっています」


娼婦狐 「をほほ、こやつには勿体ない者たちよ」


ポム ポム


女郎蜘蛛娘 「うへぇ……」


中二 (大人が子供にお守りされているように見えてしまう)


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