【デレマス】スパイ・ガールズの決意【KOF】 (14)

※短いです

※KOFとのクロスですが特に戦闘はしません

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「悪いな、車を直付けできればこんなところ通らないんだが」

「真っ当な理由があるなら文句なんてないわ。歩いても大した時間はかからないもの」

プロデューサーの謝罪の言葉を、八神マキノはそう流した。

2人が目指しているのは池袋駅東口にほど近い公開録音スタジオだが、今しがた出た出口にははっきりと「北口」と書かれている。

それは決してプロデューサーの不手際や気まぐれではない。

スタジオのあるビル回りに人が集まっているという理由から、混乱を避けるべく別ルートでの移動を要請された結果だった。

北口に広がるチャイナ・タウンを横目に、わずかな距離を進むと東口側に通じるトンネルがある。

そこを通ればスタジオは目と鼻の先にある、ということは既にマキノも掴んでいた。


(…やっぱりこういう場所の方が、私はお似合いかしらね)


トンネルに踏み込んだ瞬間、不意にそう思う。

別に、もみくちゃにされるような人込みを行くつもりはない。

そんなことはナンセンスだと理解している。ただ体力を消耗し、時間も浪費するだけ。全く以て非合理的だ。

ただ、そうやってすぐさま斬って捨てられる人種が、同業者に決して多くないだろうことも認識している。

全員揃って右へならうような業界ではないから問題にならないが、場所が違えば大層な変わり者に見えたことだろう。

もっとも、論理的な裏付けがあれば、たとえどう見られようとマキノが退く気はないのだが。

ふと、茶色いハンチング帽を目深に被った、小柄なシルエットが前方に見えた。


近付く。

すれ違う。


…そして、一瞬だけ足を止める。

「ん?どうかしたか?」

「…ああ、ごめんなさい。こういったトンネルの割には、妙に明るいと思って」

「ここは北と東の行き来にはよく使われるからな。手入れもきちんとしてあるってことさ」

プロデューサーのそんな答えを聞くと、すぐにマキノは再び歩き始めた。

トンネルを抜け、すぐにスタジオに入る。

建物の向こうにはたしかに少なからず人影が見えたが、トンネル側は往来を塞がないという建て前で立ち止まりが禁止されている。

それでも全く出待ちがいないワケではなかったが、幸いにして騒ぎにならぬまま現地入りできた。



控え室に入り、再び人目がなくなる。

一息付くプロデューサーの横で、マキノも雑誌に目を通して待っていたが、やがて不意にこう切り出した。

「…プロデューサー。今日の収録が終わった後について、一つ頼みがあるのだけど」

―数時間後。


マキノは再び、北口に立っていた。

今度はトンネルに向かわず、チャイナタウンを抜ける。そしてある喫茶店へ迷わず入っていく。

エスカレーターで2階に上がったその場所は、ずいぶんと豪奢な調度品が目立つ。

そんな中ならば、地味なハンチング帽も目印になった。


「…待たせたわね」

「時間ジャストにきっちり来といてソレ言う?相変わらず自分に厳しいね、マキノは」

「まりんより先に来るつもりだったから」


まりんと呼んだ先にいたのは、一人の少女である。

ショートに揃えた金髪と、猫のようなスラリとしたスタイル。

目立つ容貌にも関わらず、どこにでも溶け込む不思議な雰囲気を持つ少女が、あのハンチング帽子をくるくる回していた。

そんな彼女の前にはまだ水しか置かれていない。オーダーをして間もないのは確からしい。

やってきたウェイターに自分のアイスコーヒーを注文すると、まりんが何かを広げた。


「いやー、いい写真だよねー。アタシなんか大舞台出てるのに話題にも出なくてさー」

「…誉めてもらうのは結構だけど、ここで広げるものじゃないわ」


まりんの持つ公開録音の告知用ポスターに、マキノは少しだけ目つきを鋭くした。

ここが喫茶店だから迷惑になるとか、顔バレしては困るという理由で咎めたのではない。

それが無断で持ち去ってきたものだと推察できたからである。

マキノの知る範疇でも、まりんの手癖が悪いのは今に始まったことではないのだ。

同時に注文したコーヒーとココアが届く。片付ける必然性を持ち出すにはちょうど良い。

まりんはあっさりとポスターを閉じた。


「はいはい。マキノに言われちゃかなわないからなぁ。
 にしても、ずいぶんと顔が売れたよね。アタシじゃこうはいかないよ」

「私だって、ここまで上手くいってしまうとは思わなかった。フォローできる範囲とはいえ、正直誤算だわ」

「まーたそんなことを…いい加減自覚しなって。
 アタシと違ってそんなナイスバディなんだし、そりゃあオトコ共はコロッていくでしょ」

「持ち上げ過ぎよ。だいたい、高校では貴方の方が男性受けが良いでしょうに」

「アタシは単に話しかけやすいだけだって。ベタベタ寄ってきた挙句に『存在感が空気』とか言われてみなさいよ!」


まりんの自虐的な発言に、思わずマキノは軽く噴いていた。

それはマキノにかなり近しい人物であろうと驚く光景だろうが、その筆頭であるプロデューサーの姿はない。

収録の折り、「このあたりを見てから自力で帰る」と前もって連絡していたため、彼は既に事務所へ帰っていた。

「で、今日はどういう用件かしら?」


破顔した表情をスッと戻すと、マキノはそう尋ねた。

トンネルですれ違い様に受け取った紙片には、場所と時間しか書かれていない。

もっとも、大体の見当はついているのだが。


「…麻宮アテナは、どうしてるかなって」

「怒ってるかってこと?」


マキノの問いに、まりんは首を縦に振った。あまりに予想通り過ぎてマキノは嘆息すら漏れなかった。

このまりんという少女は、こう見えても格闘家である。

だが前年にチームメイトのある窮地を救うため、まりんは少々強引な手段を使ってしまった。

そして今年、件のチームメイト―麻宮アテナからは声がかからなかった。

表向きは気に掛けていない風を装っていても、短くない付き合いのマキノにはまりんの意外と小心な部分もわかっている。

だからこそ、先んじて接触は済ませてある。

幸か不幸か、アテナと同じ『超能力』を触れ込みにした同僚がいるおかげで、近付くことは難しくなかった。


「それとなく話題に出してみたけど、むしろ感謝してたわよ?焚きつけた貴方のことも含めてね。
 チーム変えもただ古巣の都合ってだけで、絶縁とかそういうことじゃないわ」

「…そっか。うん、なら良かった」


ちょっとだけ感慨深そうなまりんを、マキノは静かに眺めた。

ここで彼女をからかうのは簡単だが、そういう真似をする気はない。ナンセンスだ。

だから落ち着いた頃合いを見て、マキノも別件を切り出した。

「貴方がそういう用件なら、私も聞きたいことがあるのだけど」

「アイツの身辺のことなら、もう調べてあるよ」


ほう、と少し驚く。

だが予想できなかったことでもない。まりんも十分聡い子なのはわかっている。

やがてテーブルの上に置かれた写真には、見知らぬ少女の姿があった。


「アイツの実家に忍びこんで撮ってきた。
 軍人だのヘンな組織だのがウロウロしてて手こずったけど、まりん様の手に掛かればこんなものってね」

「この写真は?」

「ウワサの妹さん。アイツ本人と違ってずいぶん可愛いというか、おとなしいというか…。
 マキノの言ってた従妹とは全然違うと思うけど、どうよ?」

「…たしかに違うわね。あの子は右首筋に目立つほくろがあるけど、この子にはない。これで私も安心できるわ」


写真から目を離すと同時に、マキノは深めに溜息をついた。

「自分の従妹が手から火を出した」という噂を聞いたのと、八神庵なる男に妹がいることを知ったのはほぼ同時だった。

非論理的だと片付けようにも、本当に手から火を放って戦う男がいる以上、その血縁だった場合は見方を変えねばならない。

だが、その心配もまりんのおかげで杞憂に終わった。

ただ従妹の家が閉鎖的環境で、そういった突飛な噂が止まらなかっただけだと、今なら断言できる。

「ずいぶんと安心したみたいだね、マキノ?」

「…否定はしないわ」

「安心ついでに聞いておきたいんだけどさ…マキノは、アイドルいつまでやるの?」


口から洩れる息が止まった。

いつかは聞かれるだろうと思っていたが、こうも早く来るとは。

だが、答えは決まっている。論理的な考えに基づけば、迷いなどない。


「私達の仕事からすれば、顔が売れてしまうのはプラスに働かない。
 なら、アイドルという今の仕事は、辞めた方がプラスに働くはず」

「その通り。諜報活動で有名になるのは、007で十分ってね」


目を伏せ気味にしながら、まりんがそう混ぜ返す。

そんなことができるのは、おそらくその先の答えもわかっているから。

だからこそ、マキノも偽らざる本音をぶつけた。


「…でも、私はアイドルを辞める気はない」

マキノの答えに、今度はまりんが息を吐いていた。

そこに見えるのはやはり安心だった。


「言うと思ったよ。ホント、マキノは決めたらガンコだからなぁ」

「貴方だって同じでしょう?口実を私に探させてまで、またあの舞台に登ろうとしている」

「ま、それを言われちゃアタシも弱いけどね」


マキノの言葉に、まりんは軽くお手上げのポーズをした。

「自分にいちゃもんを付けているような記事を探してくれ」とまりんに頼まれたのは大分前のことだった。

不可解に思いながらも、『暗器を使うなんて卑怯』というユリ・サカザキの言動を収めた雑誌記事を渡したが、

今日スタジオ備え付けの雑誌を見てようやくその理由がわかった。

麻宮アテナから声が掛からなかったまりんは、それでも『キング・オブ・ファイターズ』なる格闘大会に出る道を探していたのだ。

だから、大会エントリーを済ませた事実を知った今ならわかる。



自分とまりんは、揃って大層な変わり者で、そして似た者同士なのだ…と。



本当はずっと前からそうだったのかもしれないし、まりんはとっくに理解していたのかもしれない。

だが、論理的な認識で自分を支えるマキノにとっては、今日ようやく肯定できるようになった事実であった。

「さて、そろそろ上がりましょうか」

「早いなぁ…用は済んだからいいけどさ」

コーヒーとココアをそれぞれ飲み切ると、マキノはレシートを手にした。機としては悪くない。

まりんは話し足りなそうだったが、さして文句も言わず立ち上がった。


「あ、タクシーまでは一緒についてくから」

「そうね。そうしてくれると助かるわ」


まりんの申し出を、マキノは素直に受け入れた。

顔バレ以前に、夜となると池袋北口は治安が少々よろしくない。

だが全身機械化されたサイボーグすら倒してしまうまりんがいれば、その心配はいらない。

全く以て論理的な判断だ。

ただ、彼女の存在が心強く感じるのは、決してその身体的な強さのせいだけではないことも、今のマキノはよく把握していた。

―翌日。

マキノが馴染みの芸能事務所を訪れると、既にプロデューサーはそこにいた。


「おはようございます」

「おう、おはよう。…マキノ、なんかいいことあったか?」


さすがにマキノの動きが止まる。会って早々、そんなことを言われたのは初めてだった。


「何故そんな風に思うの?」

「なーんか、いつもより優しい顔してるからさ。ま、いいことだ」


言われて手近な鏡を見ると、たしかに表情に少し余裕が出たように見える。

優しいかどうかは判断できないが、理由ならわかった。

…自分のような変わり者は一人ではないと、確信を持って言える。


「次回以降の公開録音なんだが、あの状況を抑えるのはちょっと難しそうだ。また北口から行くことになると思う」

「あら、残念ね。たまにはファンに囲まれてみたいのに」

「残念って…珍しいな。いつもなら『人込みをあえて行くなんて度し難い』って言うのに」


少しきょとんとした顔のプロデューサーに、マキノは振り返る。

それは今まで見たことのない、いい笑顔。


「本気でアイドルになりたくなったのよ。ならそれくらいを望むのが正しいのしょう?」


新たな論理で導いた決意は、揺らがなかった。

[END]

短いですがこれにて終わりです。
時期的にはデレマス側は「秋の大運動会」ガチャ前、KOF側は2003~XI間。
現実の時系列でぴったり10年ほどズレた度し難い代物に…orz

あと、マキノの従妹回りは庵につなげるための完全捏造ですが、庵に健在の妹がいるのは公式設定です

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