ミカサ「私は誕生日が嫌い」(32)

初めてのSSです
色々不手際などあると思いますがご笑覧下さい

*(訓練生活三年目、ある日の夕食)

エレン「…おい、ミカサ、聞いてるのか?」

ミカサ「…え?」

エレン「ったく、しっかりしろよ。もうすぐお前の誕生日だろ?」

ミカサ「…うん」

エレン「来年の今頃、俺は調査兵団に入ってる筈だ。忙しくて祝えないかも知れない」

アルミン「そうだよね。しっかりとお祝いできるのは今年が最後かも…」

ミカサ「…」

エレン「だからさ、今年はちゃんと祝いたいんだよ」

アルミン「ふふ、去年はサプライズ・パーティーにしようとして失敗しちゃったからね」

エレン「う…、いや、あれは…」

アルミン「誰かさんが準備に気合いを入れすぎて間に合わなくなっちゃったんだっけ?」

アルミン「間に合わないからって男子寮を抜け出して準備してたら教官に見つかってさ」

アルミン「一晩中運動場を走らされて…、死ぬかと思ったよ」ハア

エレン「い、一応その後で何とか祝ったじゃねえか…」

ミカサ「アルミン、もうその辺で勘弁してあげて。私は十分嬉しかったから…」

アルミン「それでね、ミカサ。エレンと相談したんだけれど、今年は奇を衒わずに、街のレストランでお祝いしようかなって」

エレン「今年のミカサの誕生日は休日だから街に出られるしな」

ミカサ「レストラン?」

アルミン「うん、何だか種明かししているみたいで悪いんだけど、ミカサが食べたいものをご馳走するのもいいんじゃないかなって」

ミカサ「食べたいもの?」

エレン「日頃貧相な食事ばかりだろ、俺達?」

アルミン「おいしいものを食べに行こうよ。勿論僕達二人のおごりだよ」

エレン「で、何がいいんだ?チーハンか?それともチーズハンバーグか?」

アルミン「…それはエレンの好物でしょ?ミカサの希望を聞かなくてどうするのさ?」

エレン「俺はミカサが喜びそうなメニューをあげただけで…」

アルミン「はいはい、そうだよね。で、ミカサ。何か食べたいものってある?」

ミカサ「私は二人が祝ってくれるということが嬉しい」

ミカサ「ので、どんな料理でもおいしく食べられると思う。たとえばチーズハンバーグでも」

エレン「おお…、いや待った、それじゃお祝いにならねぇよ」

ミカサ「でも、三人でご飯を食べに行けるなら私はそれで満足」

ミカサ(…本当に満足出来るんだろうか)

アルミン「う〜ん、なら、メニューは当日の楽しみってことでどうだろう?」

エレン「それでいいか、ミカサ?」

ミカサ「…」

ミカサ(二人が祝ってくれようとしているのは嬉しい。…でも)

エレン「おい、どうしたんだよ?さっきから何か変だぞ」

ミカサ「ちょっとぼんやりしてた」

エレン「ったく。しっかりしろよ。お前の誕生日のことを話してんだぞ」

アルミン「ま、まあエレン。ミカサにだってそんな時もあるよ」

アルミン「ミカサ、さっきみたいな感じでお祝いしたらいいよね?」

ミカサ「うん、楽しみ。…でも今日は少し疲れたから先に宿舎に帰る」ガタッ

エレン「お、おう。無理するなよ」

ミカサ「ありがとう。寝れば大丈夫だと思うから」スタスタスタ

アルミン「…どうしたんだろ?」

エレン「ま、今日の訓練もきつかったからな」

アルミン「うん、そうだね。僕も体が重いよ…。ところで、店選びはどうする?」

エレン「ま、サシャに聞いてみればいいんじゃねえの?お〜い、サシャ!!」

*(ミカサの誕生日当日。街の片隅にて)

アルミン「やあ、着いた着いた。ここだよ」

ミカサ「『ベツマガ亭』?」

エレン「変な名前だけど、うまいらしいぜ。サシャのお墨付きだ」

アルミン「じゃ、早速入ろうか」ガチャ カランカラン

店員「いらっしゃいませ」

エレン「先日予約したエレン・イェーガーですが」

店員「お待ちしておりました、イェーガー様。こちらへどうぞ」

エレン「なかなかいい雰囲気だな」

ミカサ「とても静か。落ち着く」

アルミン「メニューはもう頼んであるからね。…あ、もう来たよ」

店員「お待たせしました。コーンポタージュでございます」

ミカサ「…!」

アルミン「ここの店、コーンポタージュが有名なんだって」

エレン「いい匂いだな。それじゃ早速」

ミカサ「…!!」

アルミン「本当においしいね、これ」

エレン「訓練所の食堂でもこれだけうまいのを出してくれりゃいいんだけどな」

アルミン「予算の都合上難しいんだろうね、ここのはいい材料を使ってそうだし」

エレン「どうだ、ミカサ」

ミカサ「すごくおいしい。こんなおいしいコーンポタージュは久しぶり」

エレン「さあ、次の料理はまだか?腹が減ってんだよ、俺は」

アルミン「…落ち着いて食べようよ、エレン」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エレン「ふう、うまかった」

アルミン「おいしかったね〜。ミカサ、どうだった?」

ミカサ「ひとつひとつ心のこもった料理だった」

アルミン「良かった〜。ミカサはコーンポタージュが好物なんだっけ?」

ミカサ「え?」

アルミン「あれ?エレンからそう聞いたんだけど…?」チラ

ミカサ「コーンポタージュは確かに好きだけど、誰かに言った覚えはない」

ミカサ「エレン、どうして知っているの?」

エレン「(アルミン、余計なことを)いや、ほら、何となくだ、何となく」

アルミン「何となく『ポタージュを飲んでいる時のミカサは幸せそうだ』と思ってたんだよね」ニヤ

アルミン「よく見てるよね、さすが家族だね」ニヤニヤ

エレン「う…///」

ミカサ「そう、エレンは家族」

ミカサ(…家族)

ミカサ「…」

ミカサ(…家族)

アルミン「…?」

エレン「ミカサ?」

ミカサ「…」ガタッ

アルミン「ミカサ?どうしたの?急に立ち上がって?」

エレン「おい、ミカサ…(泣いてる…?)」

ミカサ「…ごめんなさい…!!」ダダッカランカラン

エレン「どうしたんだ、あいつ…!?店から出ていったぞ!?」

アルミン「エレン、ここの支払いは僕がやっておくから!!」

エレン「お、おう。頼む!!」ダダッカランカラン

*(少し離れた公園)

ミカサ「…」グスッ

ミカサ(…やってしまった)

ミカサ(折角二人が祝ってくれたのに)

ミカサ(やっぱり誕生日なんて嫌い…)

エレン「…み、見つけた」ゼエゼエ

ミカサ「…エレン」グスッ

エレン「…隣、座るぞ?」

ミカサ「…」

エレン「…」

ミカサ「…ごめんなさい」

ミカサ「…二人の気持ちを台無しにしてしまった」

エレン「…いや、そんな事はねえよ」

ミカサ「…」

エレン「…」

エレン「…さっきのこと、聞いてもいいか?」

ミカサ「…」

エレン「…何か悩みごとがあるのか?」

エレン「もし俺で良ければ話は聞くぜ?」

ミカサ「…」

ミカサ「…エレン、今日、私は15歳になった」

エレン「そうだな」

ミカサ「私は誕生日が嫌い」

エレン「…?」

ミカサ「誕生日が来て、ひとつひとつ私は歳を取る」

ミカサ「去年は14歳になった。今年は15歳になった」

ミカサ「来年の今日は16歳になる」

エレン「ああ、そうなるよな」

ミカサ「年々、あの頃から遠ざかっている」

エレン「…?」

ミカサ「お父さん、お母さんと一緒に住んでいた私」

ミカサ「エレンの家で過ごしていた私」

ミカサ「今の私はあの頃の私とは違う」

ミカサ「大切な思い出が一杯あるのに」

ミカサ「楽しかった思い出がたくさんあるのに」

ミカサ「私は少しづつ違う私になっていく」

ミカサ「思い出が色あせてゆく」

ミカサ「誕生日が来る度にそう考えてしまう…!!」

エレン「…」

エレン「…それで誕生日が嫌いなのか」

ミカサ「…去年もおととしも、今年も」

ミカサ「二人が誕生日を祝ってくれたのは嬉しかった」

ミカサ「でも心のどこかでそう考えてる」

ミカサ「今年は訓練兵団の三年目」

ミカサ「この前二人が言ってた。今年が三人で集まる最後かも知れないって」

エレン「それは…そうかも知れねえ」

ミカサ「誕生日が来る度にあの頃の私じゃなくなって、来年は三人で集まれないかも知れなくて」

ミカサ「私はどうすればいいの…?」グスッ

エレン「…ああ、何となく分かったよ」

エレン「……」

エレン「…ミカサにとって、誕生日ってのはそういうことを改めて考えてしまう日なんだな」

ミカサ「折角二人が祝ってくれているのに…」グスッ

エレン「だから、いいって、そんな事は」

エレン「…う〜ん」

エレン「…どう言ったらいいんだろうな」

エレン「……俺はアルミンじゃないからうまく言えねえけど」

エレン「ミカサにとって、今の俺は」

エレン「シガンシナ区に住んでいた頃から変わったか?」

ミカサ「…エレンは私の家族のまま。でも」

エレン「そうだ、『でも』、だ。母さんが巨人に喰われてから、俺は変わったろ?」

ミカサ「エレンは巨人を駆逐することばかりに気持ちが向いている」

エレン「ああ、母さんを殺した巨人を許すことは出来ない。この世から一匹残らず駆逐しなきゃならないって思っている」

エレン「でもな、巨人を駆逐したいのは母さんの敵を討つ為だけじゃねえんだよ」

ミカサ「…?」

エレン「俺は、この壁の中で家畜みたいに生きるなんてまっぴらなんだ」

エレン「壁の外には俺達が見たこともない世界が広がってる」

エレン「本当なら、俺達には外の世界を見る自由がある筈だ」

エレン「それなのに、巨人がいるせいでそんな自由が侵されている」

エレン「だからこそ、巨人を駆逐しなけりゃいけないって考えてる」

エレン「シガンシナにいた頃の俺はこんな風に自分の考えを言ったことはなかったと思う」

エレン「多分、今ほどうまく言えなかっただろうしな。でも、同じことを考えてた」

エレン「あの頃も今も、俺の胸の一番深いところにある考え方は変わってないんだよ」

エレン「ずっと外の世界に憧れているんだよ」

ミカサ「…」

ミカサ「エレンは、変わってない…?」

エレン「ああ」

ミカサ「エレンはエレンのまま…」

エレン「お前以外に家族がいなくなっても、家が無くなっても、兵士になっても、俺が俺であることには変わりない」

エレン「あの頃の俺も今の俺も、全部俺だ」

エレン「確かに母さんは亡くなった。でも、俺が母さんの子どもだってことはずっと変わらない」

エレン「母さんとの思い出は、俺が俺であり続ける以上、消えることはないんだよ」

ミカサ「エレンがエレンのままであればおばさんの思い出も消えない…」

エレン「俺は生きている限り俺のままだし、俺の中には母さんとの思い出が残り続ける」

エレン「だから、ミカサ」

エレン「お前だってずっとお前のままなんだよ」

エレン「生きている限りお前の両親の思い出が消える筈がないんだ」

エレン「シガンシナの思い出が消える筈がないんだ」

ミカサ「…私は私のままなの?」

エレン「少なくとも俺の目から見れば変わってないぜ?」

ミカサ「…」

エレン「昔っから俺の世話ばかり焼きたがるし」

エレン「俺の行くところ行くところついてまわるし」

エレン「俺はお前の子どもでも弟でもないっての」

エレン「そのくせ俺の前では泣き虫なミカサだ。大男を投げ飛ばすくせにな」

ミカサ「エレンはいじわる。昔も今もそう」

エレン「何言ってんだ。俺はお前が変わってないことを言ってんだよ」

ミカサ「…」

ミカサ「…私はエレンみたいにちゃんとした夢があるわけじゃない」

ミカサ「でも、初めて会ったあの日から、エレンと一緒にいたいと思ってる」

ミカサ「この先もずっと」

ミカサ「私が私である以上、この気持ちは変わらない」

ミカサ「いつの日かエレンが外の世界に旅立つなら」

ミカサ「私はその傍らにいたい」

エレン「外の世界にまでついてくる気か?」

ミカサ「うん」

エレン「駄目だっていっても着いてくるんだろうな」

ミカサ「それが私だから」

エレン「分かってるよ。二人で行こう」

エレン「ずっと俺の側にいてくれ、ミカサ」

ミカサ「嬉しい…」

アルミン「ちょ、ちょっとっ!!ちょっとっ!!」ガサガサッ

エレン・ミカサ「アルミン!?」

エレン「お前、いたのかよ!?」

アルミン「『いたのかよ』じゃないよ!!ど〜いうことなのさ!!」

エレン「へ?」

アルミン「外の世界に行くのはエレンとミカサだけなの!?」

エレン「…あ」

アルミン「僕だって外の世界に行きたいのに。三人で行きたいって思ってたのに」ジトッ

エレン「違うぞ、アルミン!!俺もそう思ってる!!」

アルミン「さっき二人って言ってたじゃない」ジト〜ッ

エレン「いや、それは三人でって意味で言ったのであって」

アルミン「二人が三人ってどういう意味なのさ。さっぱり分かんないよ」ハア

エレン「う…」

私怨を送りながら気体を膨らまし舞っておこう

アルミン「『分かってるよ。二人で行こう』」キリッ

アルミン「『ずっと俺の側にいてくれ、ミカサ』」キリッ

エレン「」

アルミン「とりあえず様子を見ようって盗み聞きしていた僕も悪かったけどさ〜」

アルミン「な〜んかさ〜、二人だけの世界っていうかさ〜」

エレン「」

ミカサ「アルミン、エレンの弁解が薄っぺらい感じがするのは分かるけど」

ミカサ「エレンはちゃんと三人で行くつもりだから。信用してあげて」

アルミン「…ミカサがそう言うなら」

ミカサ「ありがとう」

エレン「納得いかねーぞ、お前ら!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アルミン「それじゃ、帰ろうか」

ミカサ「門限に間に合わなかったら大変。帰ろう」

エレン「おう…(なんかつかれた)」*

エレンとミカサはアルミンを忘れていたか。

*(帰り道)

エレン「…そうだ、忘れてた」

ミカサ「何か忘れ物?今からだと取りに戻る時間は…」

エレン「いや、そうじゃねえって。…ほら、これ」

ミカサ「イヤリング…」

エレン「俺達二人からプレゼントだ。つけてやるよ」カチャカチャ

ミカサ「…似合う?」

エレン「ああ、いいんじゃねえの。なぁ、アルミン(なんで前を歩いてんだ、あいつ?)」

アルミン「うん、とても似合ってるよ」ニコニコ

ミカサ「二人とも、ありがとう。大事にする」

アルミン(まぁ連名で買ったわけだけど、選んだのはエレンなんだよね)

アルミン(『ミカサならこれが似合うはずだ』キリッとか言っちゃってさ〜)

このエレミカは俺の心の中のファイルに刻んでこよう。

アルミン(バラそうかな、エレンがあたふたするの面白そうだし)

ミカサ「コーンポタージュ」

エレン「うん?」

ミカサ「おいしかった」

エレン「ああ、うまかったな」

ミカサ「お母さんの得意料理」

エレン「…」

ミカサ「家の畑で取れたトウモロコシでお母さんが作ってくれた」

ミカサ「私もお手伝いして」

エレン「…ああ」

ミカサ「お父さんもおいしいおいしいって」

ミカサ「三人で飲んで」

ミカサ「コーンポタージュを飲むとあの頃を思い出す」

ミカサ「…だから、好物」

エレン「…そうだったのか」

エレン「また行こうぜ」

ミカサ「うん、行く」

アルミン(二人か、二人でなのか)

アルミン(ま、いいんだけどね。後で散々からかってやろ)

アルミン(誕生日おめでとう、ミカサ)

>>20
想像するとかなりシュールな光景だな

以上です。
お読み頂いてありがとうございました
ヤンデレでないミカサが書きたくて書いてみました

また機会があったらよろしくお願いします

末筆ながら、書き込んでいる途中で応援して下さった方々、ありがとうございました!!

乙、短く纏まってて読み易かった

乙乙

心情描写そんな悪くないからもっと長く読みたいくらい
むしろもっと掘り下げてもよかったかも


これは良いエレミカ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom