幼女「待ちくたびれたぞ勇者」 (811)


勇者「ついにここまで来た……魔王!今日がお前の命日だ!!」

勇者「この海の向こうにある孤島が魔王城みたいだ。場所を特定するのに大分時間がかかってしまったな」

勇者「迷いの森を抜ける途中で仲間とはぐれてしまったが……いつ合流できるかもわからない、魔王城で会えることを期待しよう」

勇者「よしっ!!魔王城に乗り込むぞ!!」


勇者「くっ!なんておぞましい妖気なんだ!こんな恐ろしい城は見たことがない。さすがは魔を統べる者の住まう地か」

勇者「ん、結界が張ってあるな?しかしこんなもの、勇者の力をもってすれば」


パキンッ


勇者「造作もな……

??「あ、魔王様ー。勇者来たみたいですよー」

勇者「!? ど、どこからともなく声が!?」

??「やっぱり勇者は結界とけちゃうみたいだねー、いま迎えに行くからそこで待っててね」


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勇者「なっ……貴様は何者だ!?なれなれしい口をきくな!」

魔女「どーも魔女です。魔王様お待ちなんでさっさと大広間に転移魔法しちゃお!」

勇者「は……はあ!?」

ヒュン

勇者「うわ!」

魔女「連れてきましたよー魔王様ー」

勇者「ま……魔王!!俺は貴様を倒しにきた、勇者だ!
   貴様に苦しめられてきた人々のために、今日俺はお前を討つ!!覚悟しろ!!」

勇者「……?おい、魔王の姿が見えないが……?」

幼女「ここにおろう」

勇者「…………?」

幼女「待ちくたびれたぞ勇者。ようこそ我が城へ」

勇者「……?」



幼女「いつまでそこに立っているつもりかな?一緒に夕食を食べながらいろいろ話をしようではないか」

魔女「村でとれた新鮮野菜をふんだんに使ったご飯も用意してあるよー!ほらほらおいしそうでしょ?」

竜人「ああっ!!もういらっしゃってます!?勇者さんこんにちは、いまエプロンはずしてきますんでね!」

幼女「早くしろ、勇者くんがお腹をすかしてるだろう」

竜人「すいません魔王様!!ただいま!!」


勇者「……え、ちょっと待ってくれ。そこの君」

幼女「なにかな」

勇者「どうして子どもがこんなところにいるんだ!?ここは魔王城だぞ!!危ないからさっさと逃げなさい!俺が使った舟があるから!」

幼女「どうして逃げる必要がある?ここは私の城だ」

勇者「うそつくんじゃない!どっからどう見ても村の子どもだろうが!」

幼女「私は子どもではないぞ、魔王だ」

勇者「はあああああああっ!?」



勇者「そんなはずない。魔王は禍々しい緋色の邪眼に、同じ色の翼を背中に生やして、どんな魔法も使いこなすと言う……」

勇者「その顔には邪悪な笑みが浮かんでおり、好物は処女の子宮だとか」

魔王「そんなグロイもん、生まれてこの方口にしたことがない」

魔王「それに一応瞳は赤いだろう」

勇者「だが、翼がないじゃないか!」

魔王「生やすこともできるが……」バササッ

勇者「うおっ」

竜人「あああーーー!!もう魔王様!!また洋服の背中側だめにしてっ!!繕うのはだれだと思ってるんです!?私ですよ!」

魔王「すまん。……こうなるので普段はしまってるんだ」

勇者「魔王らしくねえなあ……」



魔王「魔法も使えるぞ。ちょう上手だぞ。ほんとだぞ」

魔女「魔王様はほんとに魔法が上手だよー!」

竜人「ええ、ほんとうに」

魔王「ふふん」

勇者「信用できねえ……。じゃあ横のお前らは何者なんだ!?お前らも見たところ人に見えるが」

魔女「えっとー、二天王の魔女と竜人だよ」

勇者「二天王って。初めて聞いたぞ」

竜人「あと二人はいま求人広告だして募集中なんですよ。なかなか採用条件にあった魔族がいなくてですね」

勇者「四天王ってそうやって募ってたのかよ。もういい、分かった。お前らが魔王と側近だということは認めよう」ジャキ

勇者「勝負だ、魔王!さあ剣をとれ!」



魔王「私は勇者くんと争うつもりはないのだが。今日は夕食に招いただけだし」

勇者「戯言を。俺はお前を倒すためだけに旅をしてきたんだ」

竜人「せっかくご飯作ったのに冷めちゃいますよ」

魔女「私さき食べてていい?」

勇者「お前ら二人は黙ってろ!!さあ勝負だ、魔王!!!」

魔王「……はあ、分かった」

魔王「好きにしろ」

勇者「……何故剣を構えない。むしろ両腕を広げて、それでは切ってくれと言ってるようなもんじゃないか」

魔王「勇者くんなら私を斬らないと信じている」

勇者「なに……!?舐められたものだ……見くびるな!!」

バッ!


勇者「……」

魔王「……」

竜人「……」ハラハラ

魔女「……」モグモグ

魔王「どうした、あと一寸動かせば私の額を割れるぞ」

勇者「……くっ、俺は無抵抗な女子供を殺す趣味はない」

魔王「魔王だとしても?」

勇者「……」ギリギリ

魔王「ふふふ、やっぱり聞いていた通りだよ。外見に惑わされるなんてやっぱり君は優しいな」

勇者「なんだと……!?」

魔王「貶したつもりはない。だから私は勇者くんとじっくり話してみたかったのだ。さあ剣をおさめて席につけ。夕食にしよう」

勇者「……少しでも不審な動きをしたら斬るからな」

魔王「かまわんぞ」



魔女「あ 終わった?先に食べちゃってるよー、てか勇者の剣ちょうピカピカだね!すげえ!聖剣ってやつ?」

竜人「こら魔女、食べながらしゃべらない。あと魔王様、袖がスープに浸りそうですよ、気をつけてください」

魔王「分かってる」

勇者(なんだこれ……なんだこれ……。あ、うまい)

勇者「……ハッ!まさか……この肉、人肉だったり…!?」

竜人「いまどき人肉なんて魔族でも食べませんよ。それは牛です、牛」

魔女「ていうかやっぱまだそういうイメージあるんだ?ヤダー」

勇者「お前らほんと魔族っぽくないな…」



魔王「ところで勇者くんよ、たった一人で魔王城に来たのか?」

勇者「ああ。仲間とはその手前の森ではぐれたんだ」

魔女「あの森は絶対に魔王城に辿りつけないように魔王様が魔法をかけてあるからねー、そんじょそこらの人間じゃ辿りつけないよ」

魔王「ちなみに勇者くんがといた結界もそうだぞ。あれを外側からといたのは君が初めてだ」

勇者「じゃあ俺の仲間たちは絶対ここに辿りつけないじゃないか。まさかそれが狙いか!?」

魔王「別にそんな魂胆はなかったが、まあいい。とりあえず勇者くんひとりに話したいことがあるのだ」

勇者「話したいこと……?」

魔王「うむ」



魔王「君はきっと人間の王に、なんて命を受けたんだ?」

勇者「魔王の居場所を突き止めて、討つこと。そしてお前の悪逆非道を止めることだ」

魔王「なるほど。でももうひとつあるんじゃないかな?」

魔王「例えば魔族の殲滅とか」

勇者「…ああそうだ。100年前の戦争で生き残った魔族を、今度こそ殲滅するようにと」

魔王「うん、そうだろうな。で、お願いがあるんだ」


魔王「見逃してほしい」


勇者「……はあ?」



魔王「見逃してほしいんだ。ここに魔王城があって、魔族の生き残りが住んでいることを、誰にも公表しないでほしい。勿論、人の王にも」

勇者「な、なに言ってるんだよ?俺は勇者でお前は魔王だ。そんなことできるわけないだろ」

魔王「私たちが別に人たちに敵意はもってないし、再び戦争を始めようとか復讐しようとか考えてるわけじゃない」

魔王「ただひっそりと、この地で暮らしたいだけなんだ」

魔女「てか100年前の戦争でほとんど魔族死んじゃってさー、ぶっちゃけ今生きてるのなんて残りかすみたいなもんなわけ」

竜人「戦争を仕掛けようにも世界征服しようにも、戦力的に月とミジンコみたいな差がありますからね」

魔王「そういうことだ。私たちは人に見つからないよう、様々な魔法をかけてここで暮らしていた。
   事実勇者くんが来るまでここの居場所は誰にも知られていなかった」

勇者「確かに……突き止めるのに苦労した」

魔女「まあたまに海で遭難した人とか流れ着いてくるけどね。それは例外ってやつだね」



魔王「というわけで私たちに害はない。だからここで戦うのも、自国に戻って王にこの居場所を報告するのもやめてほしい」

勇者「勝手なことを!!魔王の言うことなど信用できるか!!
   いまは戦力がなくとも、10年後100年後にどうなってるか分からない!
   ここでお前を見逃したら、いつかきっとまた人類は蹂躙される。そんなこと許すわけにはいかない!!」

竜人「まあまあ落ち着いて……」

魔女「勇者こわーい」

勇者「なんの非もない人々が家を焼かれたり、食い物にされたり、ひどい有様だったと聞く。そんな非道を平気で行う魔族を、先代勇者が打ち砕いたのだ。
   そして世界に光が戻った。また絶望の闇の中に落とすわけにはいかない。
   ここで魔王を殺す、それが俺の勇者としての役割だ」

魔王「先代魔王がしたことは謝ろう。でも私たちは全く別の意志をもった魔族だと思ってほしい」

勇者「信じられるわけあるか!」

魔王「……分かった。じゃあ一日だけ時間をくれるか?勇者くんよ」

勇者「なにをするつもりだ……?」

魔王「明日私たちの村を案内しよう。勇者くんは海を渡ってすぐ城に着いたから、魔族たちの生活している様子を見てないだろう」


勇者「そんなもの見て何になる」

魔王「まあそうカリカリしないで、ところで夕食は口にあったかな」

勇者「……まあまあ」

魔王「それはよかった。では竜人、勇者くんを部屋に案内してさしあげろ」

竜人「はい。魔王様、食後はしっかり歯磨きするんですよ。八重歯は念入りに」

魔王「わかったわかったから。早く」

竜人「それに昨日みたくご飯の後にお菓子も食べちゃだめですよ?こっそりベッドに持ち込んだりして、虫歯になっても知りませんからね!」

魔王「それ以上勇者くんの前で私の威厳を貶めないでくれ。早く行くんだ」

勇者(魔王って……魔王ってなんだろう……)


竜人「はい、こちらが勇者様のお部屋ですよ。何かあったらこちらのベルを鳴らしてくださいね、すぐ参りますから」

勇者「やたらと豪華だな。なんというか敵にこんな待遇を受けて複雑な心境だ」

竜人「私たちは敵だって思ってませんからね。魔王様も、勇者様に会えることを本当に楽しみにしてたんですよ」

勇者「魔王があんな幼い少女の姿をしていたなんて、誰が思いつくだろう」

竜人「ええ本当に少女らしく、毎日結界の様子を見てはため息をついたりして。
   あ、でも言っときますけど手をだしたら承知しませんよこのロリコン野郎
   戦力の比とか関係なく人類に喧嘩売りますからね、魔王様にちょっかいかけたら」

勇者「誰も手なんかださねーよ。なに言いだしてんだよお前」

竜人「いえ私としたことが……ではおやすみなさい」ニコニコ

勇者「なんなんだ…」



魔王「……」

魔女「さすがにすぐ承諾しないねー、勇者」

魔王「まあ予想していたことだ。でも私は信じている。勇者くんは公正に物事を見れる人だと」

魔女「でも所詮人間なんだよ?魔族と人間の歴史が人間社会でどんな風に語り継がれてるか、魔王様も知ってるじゃん?」

魔王「確かに偏見と先入観は取り除くのが難しい。種を越えて歩み寄ることも」

魔女「なにも勇者に全部話さなくても、魔王様が催眠魔法かけちゃえば一発じゃないのー?」

魔王「……私は勇者くんがこの城に辿りついたことは、チャンスなんじゃないだろうかと思ってる」

魔女「チャンス?いやいや魔族のピンチじゃ?」

魔王「人と魔族共存の第一歩に、なりえないだろうかと。勇者くんがその懸け橋に……もしなってくれれば。
   魔族のみんなもこの狭い島からでて、広い世界を見ることができる」

魔王「この島で生まれた子どもたちは、この島の景色しか知らないんだ。それが不憫でならない。
   世界の広さを知らずにこの島で生まれ死んでいく。そんな生を強いてしまっているんだ。それで本当にいいのだろうか…」

魔女「うーん」



魔女「魔王様はそんなに色々みんなのことを考えてくれてたんだねー
   まあそりゃちょっとは外に出たいって考えてるのもいると思うけどさ
   結構みんなこの島気にいってるよ?魔王様のこともね」

魔女「魔王様今日もかわいーって、いつもありがとーってみんな言ってるし」

魔王「……そうか。ありがとう。……」

魔女「顔真っ赤で照れてる魔王様かわいーっ!もうギューってしちゃおしちゃお!!」

魔王「やめろ。くるし……苦しい。胸を押し当てるな苦しい」


魔王「……ん。そういえば勇者くんの仲間が森にまだいるのだった」

魔女「ああ、そうだね」

魔王「ええと……いま西の方にいるみたいだ。魔女、迎えに行ってもらえるか?そのまま部屋に案内してくれ。明日私が挨拶しに行こう」

魔女「了解。じゃあ行ってくるねー」

魔王「頼むぞ」



勇者「なんだかんだで飯も食って夜もここに泊まることになってしまった」

勇者「まさか飯に毒入ってたりしないよな?魔王ならそんな姑息な手使わないか。
  こっちは闘うつもりで気合入れてきたのに拍子抜けというか、なんというか」

勇者「街での言い伝えや王の話とは全く異なる魔王で、正直混乱している。
   でも俺勇者なんだぞ?魔王と仲良しこよしってわけにもいかないだろ」

勇者「……とりあえず、寝るか」


バタンッ


神官「勇者様!ご無事だったんですね…!」

戦士「おお、安心したわ」

勇者「神官、戦士!お前らも無事だったのか!よかった」

神官「はい。森で勇者様とはぐれてからずっとさ迷っていたのですが。
   先ほど魔女と名乗る女性がこちらに案内してくれて……
   ええと。ここって、本当に魔王城なんですか?」

勇者「そうらしい。俺もちょっと状況がよくわからない」

戦士「魔族とはああいう生き物なのか?予想よりフレンドリーで人間に近いような」

勇者「うん…」


勇者「旅の途中で全然魔族に出会わないから不思議だったんだけど、どうやら今生き残ってる魔族はこの島に住んでるそうだ」

戦士「ならば、王の勅命を遂行するには好都合だろうな。……しかし…」

神官「あんまり恐ろしい人たちには見えなかったんですけど。私はもっと魔族って怖くて言葉も通じない生き物だと思ってて」

勇者「俺もだよ。というかそんな風に聞いて育ってきたしな。
   とりあえず、明日魔王が魔族の村を案内してくれるそうだ。そこで自分たちの目で、魔族は殲滅するべきなのか否かを判断してほしいと」

戦士「ま、魔王に会ったのか!?」

神官「あ、あああの目も翼も血のように赤くて、視線一つで気にいらない者を殺すといわれる、魔王に!?」

勇者「えっと……あー、うん。明日会えば分かると思うぞ…」


翌日

神官「この先に……魔王が……!」

戦士「一応いつでも剣をとれるようにしておこう…」

勇者「あんまり身構えてると拍子抜けしてすっ転ぶぞ……じゃあ扉開けるな」


魔女「あ、おっはよーん」

竜王「おはようございます。よく眠れました?」

神官「……ッ!」ゴク

戦士「……」ゴクリ

魔王「ふわぁ~ ああ……おはよう。ふわ…」

戦士・神官「……?」キョトン

勇者「この子どもが魔王だぞ」

戦士・神官「えっ!?」



魔王「だから子どもと呼ぶなぁ……魔族の血のせいで成長は遅いが、私も勇者くんと同じ年くらいだぞぉ…
   ああ、それにしても眠い。いつも言ってるが、朝食の時間が少し早いのでは?竜人」

魔女「あたしもそう思う!まだ眠いし~」

竜人「なにを言ってるんですかっ!これでも私にとっては遅い方ですよ!
   魔王様、人前でそんな大きな口を開けてあくびなさらないでください!!はしたないですよ!!」

魔王「朝から大声だすな… ええと。そちらのおふた方は勇者くんの仲間かな」

戦士・神官「……」ポカーン

勇者「そうだ。おい、戦士、神官。驚きも分かるが、そろそろしっかりしてくれ」

戦士「…ああ。わ、私が戦士だ。しかし驚いた…まさか娘と同じ年くらいの女子が魔王とは」

神官「は、はひ……神官です…」

魔王「私たちに敵意はない。どうか二人も武器をしまい魔王城を楽しんでいってくれ……ふわぁ…」

勇者「せっかくかっこよく台詞言ったのにあくびで台無しにするなよ」


魔王「朝ごはんも食べ終わったところで、今日はさっそく『勇者御一行 魔族村観光ツアー ~いま明かされる新世代の魔族の秘密!~』を始めようと思う」

勇者「なんだその頭悪そうなツアー……」

神官(なにこの幼女かわいい。いけない、油断しちゃだめっ!!相手は魔王なんだからっ!)

魔王「戦後から、まぁいろいろと魔族についてネガティブキャンペーンが行われているだろうということは分かっている。
   魔族側でも同じことが起こっていたしな。
   今日は百聞は一見に如かずということで、今まで教えられた魔族についての知識を取っ払って純粋に私たちの村を楽しんでいってくれ」

勇者「楽しむって言われてもな」

魔女「魔女ちゃんお手製パンフレットもあるよ~!いる?」

戦士「『ようこそ☆ まぞくむら!』…」

神官(字きたなっ…)

竜人「はいこれ、お弁当作ったんで、途中昼休憩で食べてくださいね。
   今日は魔王様の好きなハンバーグいれたので、楽しみにしててください」

魔王「ほんとか!?」

勇者「……」
戦士「……」
神官「……」



魔王「……こほん。別にいいだろう、好物を楽しみにしたって」

勇者「ああ、うん。ハンバーグはおいしいよな……ほんと」

魔王「その顔はなんだっ。言いたいことがあるならはっきりと言えばよかろう。
   もういい、さっさと出発するぞ。魔王自ら案内してやるのだ、光栄に思え」スタスタ

竜人「いってらっしゃーい」

魔女「暗くなる前に帰ってきてねー」

勇者「あ、はい…」





魔王「ここが学校」

勇者「え」

神官「ま、魔族の学校なんてあるんですか……?」

魔王「作ったんだ。魔法は勿論、歴史や農法について主に学ばせている。
   この村は基本的に自給自足だからな。農法の知識は欠かせない」


子ヴァンパイア「あ!魔王様だー!」

子エルフ「魔王様こんにちは!」

勇者「うおっ」ビク

魔王「こんにちは」

子エルフ「後ろの奴だれ?新しく村に住む魔物?」

魔王「人間だよ」

子エルフ「ええええ!?人間!?これが人間なんだー!俺初めて見た!!」

子ヴァンパイア「すげー!すげー!ねえ人間ってどんな血の味するの?」

神官「ひぃぃぃぃっ!!」



魔王「ところで先生は?」キョロキョロ

キマイラ「おや魔王様。今日は授業を見学しにいらっしゃったのですか」ヌッ

神官「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」ビクッ

勇者「うおぉぉ!?」ビクッ

戦士「や、山羊……いや、ライオン、蛇……キマイラか」

キマイラ「いかにもいかにも。そちらが魔王様がおっしゃってた勇者御一行ですか」

魔王「ああ。今日は村を案内しようと思ってな」

キマイラ「ほう。それは素敵ですね。どうぞ楽しんでいってください。ここはいい村ですよ」ニコ

勇者「し、紳士的なんだな……(見た目に反して)」

魔王「村で一、二を争う人格者だ。では次は商店街に行こう」


子エルフ「えー魔王様、もう行っちゃうの?遊ばないのー?」

魔王「また今度な」

神官(子どもたちが戯れてるようにしか見えない…)

魔王「こら。いま何か失礼なことを考えたろう」

神官「よ、読まれたっ!?いえ、滅相もないです!」



商店街

がやがや

勇者「随分にぎわってるなあ」

魔王「うむ、いつ見ても活気がある通りだ。
   そうそう、中には人を怖がる魔族もいるから、まあ勇者くんたちなら大丈夫だろうけど
   言動にはちょっぴり注意してくれ」

戦士「魔族が……人を怖がる?」

魔王「さっきの子どもたちはここで生まれて人に会ったことがなかったから、あんな風だったが…
   よそから来た魔族は、程度に差はあれど迫害された経験がある」

勇者「迫害って…!逆だろ? 人が魔族に虐げられてきたんだ!」

魔王「まあそんな怖い顔せずに、商店街を見て回ろうではないか今日はいい天気だな……」スタスタ

勇者「おい、待てよ!」



魔族「魔王様じゃないっすか!今日はどちらに?」
魔族「魔王様、うちの新メニュー食べてきませんか!?」


魔王「今度頂こう」

神官「ひぇえ……ま、ま、魔族がこんなにいっぱい……」ブルブル

魔王「とって食おうとする者なんかおらんぞ。大丈夫だ」

神官「……。確かに…みなさん姿はちょっと恐いけれど……なんか優しそうですね…」

魔王「そうだぞ。優しいのだ。えっへん」

戦士「む…。あれはうまそうな定食だな」

勇者「……」

マオウサマー
 マオウサマダー


勇者「随分慕われてるんだな。魔王らしからぬ外見をしているのに」

魔王「らしからぬとはなんだ、らしからぬとは。成長が遅いだけだと言ってるだろうに」

勇者「なんか、のどかで……いいところだな。俺の育った田舎の町に似ているよ」

戦士「みな楽しそうだな」

神官「私たちがいままで教わってきたことって、間違いだったんでしょうか」


ハーピー「あらあら魔王様。今日はうちのお店によってかないの?かわいいお洋服できあがりましたのに」

魔王「また今度くる。今日は客人を案内しているのだ」

ハーピー「お客さん?……あら!かわいい女の子っ!このあいだ作ったワンピースがとっても似合いそう!」

神官「わ、私ですか?そんな……かわいいだなんて///」

ハーピー「どこの種族の方なのかしら? 見たところかなり魔族の血は薄いみたいだけれど」

神官「えっと…」


魔王「人間だ」

ハーピー「…………え?」

魔王「勇者御一行が島にくることは先日伝えただろう。この者たちがそうだぞ」

ハーピー「ひ…っ!!」

勇者「……?」

ハーピー「ご、ごめんなさいっ わたし……その……っ」

勇者「…大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」スッ

ハーピー「きゃっ!」ビク

勇者「えっ…」


ハーピー「さ、さわらないで!こっちに来ないでっ!」

勇者「俺は別に、危害を加えようとしたんじゃなくって」

ハーピー「うぅぅ……っ」

魔王「……落ち着け。この者たちは私の客人だ。君が出会った人間たちとは違うから、大丈夫。
   それに何があっても私がみんなをまもるから。私は魔王だぞ」

ハーピー「魔王様……魔王様……」

魔王「今日は家でゆっくり休むといい。暖かいハーブティーでもいれてな」

ハーピー「はい。すみませんでした…」


勇者「……」

戦士「……」

神官「……」

魔王「勇者くんが悪いわけじゃないから、気にしないでくれ」

勇者「お、おう…」


ガシッ!


勇者「うあ!?」

魚人「おーっす」

神官「ゆ、勇者様ぁ!?!?」


勇者「な、なにするんだよっ!離せ!」

神官「ゆゆゆゆ勇者様から離れてください!」

戦士(まずいな。先ほどのハーピーの件で反感を買ったか?
   俺たち3人でこの商店街の魔族みんな相手にとるのは厳しいぞ…)

勇者「この…!」


魚人「へえ~~~~~お前が勇者? なんだ、意外とガキでもなれるもんだなぁ!!
   あとそこの女の子かわいいねえ。今度俺の店来ない?あの角の酒場だからさ!」

勇者「へ?」

魚人「そっちの屈強なおっさん好みの渋い酒も揃えてるぜ。旅の話、聞かせてくれよ。
   俺、冒険譚ってだいっすきなんだよな!!」

戦士「……む?」

神官「えっ…?」



魚人「つかなにその腰の剣、あれ!?いわゆる聖剣てやつ!?まじ!?触らせてくれよ!!いい!?」

勇者「おい!勝手にとるなよ!」

魚人「うはァ~~~~~~!!!やべえめっちゃ輝いてるぅ~~~~~!!!」

勇者「やめろー!返せー!」



神官「なんなんですかあの人… 人?」

魔王「酒場のマスターをやってるぞ。私はまだジュースしか飲んだことがないが、なかなかお酒もおいしいそうだ」

戦士「ほう」

神官(戦士さん…絶対あとで行く気だ!)



魚人「でな?でな?俺は人間どもに追いかけられたとき、あったまきてな?
   川にもぐって水あやつって奴らを泥水まみれにしてやったわけよ!
   そんときのあいつらの顔ったらねーよwwwwwwwまじうけるwwwwwwwwww」

勇者「聞いてねーよ!いい加減離せよ!」

魔王「そろそろ先に進まんとな。グリフォンのところにも行きたいし。魚人」

魚人「へえへえ!魔王様のご命令とあらば!」パッ

勇者「やっと解放された…」

魚人「今度酒場に来てくれよな!待ってるぜ!」


魔王「さあ、行こう」



魔王「……ん。それより先に昼ごはんにするか…
   あの丘に上が見晴らしがいいんだ。そこでご飯を食べよう」

神官「ピクニックですか。いいですね~」

戦士「もう昼か」

勇者「魔王とピクニックって……いやいいけどさ…」



丘の上


勇者「おお、すごい眺めだな」

神官「海も見えますね。風が気持ちいいです」

戦士「もっと底なし沼やらマグマが流れる火山やらを想像してたんだがなぁ」

勇者「魔界観が完全に崩れたよな」


魔王「おっ デミグラスハンバーグか!」パカッ


戦士「ハンバーグで喜ぶ魔王か…」

勇者「魔王観も完全に崩れたな」



魔王「うまいな」モグモグ

勇者「ほっぺにソースついてんぞ」

魔王「む……どこだ?」

勇者「右」

魔王「ほんとだ。ありがとう」

勇者「お、おう」


神官「竜人さんお料理上手ですねぇ」モグモグ

戦士「宮廷の馳走にも劣らない味だな」モグモグ

魔王「口にあってなによりだ」


勇者「ところでさ。さっきのことなんだけど。
   魔族が人に迫害されたってどういうことなんだよ?」



魔王「ああ。そうだな…話は100年前に遡るのだが」

神官「100年前……人魔戦争のことですか?」

魔王「うん。大陸南部に住む人間と大陸北部に住む魔族が始めた戦争だ。
   戦争は皆も知ってる通り、魔族の敗北という形で終結した」

戦士「その結果には勇者……先代勇者が、先代魔王を打ち破ったことが大きく貢献していると聞くな」

神官「ええ、そうです。
   もともと治癒術や預言など、戦争向きでない白魔法使いが少数いる王国と、
   種族ごとに強力な魔法が使える魔族とでは、戦争を始める前から勝敗は見えていました」

魔王「詳しいな。では勝敗が見えている戦争をなぜ人間は始めたのか?」


神官「恐らく勇者の存在が生まれたからじゃないでしょうか。
   あの戦争に関しては信頼できる文献がほとんどなくって……知識も多くないのですが」

神官「魔族の存在に人間は脅かされていた。しかし対抗できる軍力も高度な術もなく、ただ耐え忍ぶしかなかった。
   そんなときに魔王を討ち滅ぼせる勇者が王国に生まれて……」
   
神官「勝機を得た人間は、満を持して戦に臨んだんじゃないのでしょうか」


勇者「ん?待ってくれ。俺の村では確か…
   魔族がある日、ある村を燃やしたことをきっかけだったって聞いたが?」

勇者「溜まりに溜まった魔族への怒りがそれで爆発して、負け戦でもやってやろうと意気込んでるときに、
   勇者が現れて魔王を倒して、形勢逆転。一気に人間の攻勢になったとか」


神官「火事?なんて村です?」

勇者「いや名前まではわからん。そう教えられただけだ」


魔王「ちなみに、魔族の間では戦争のきっかけとしてはこう伝えられている」

魔王「先祖の代からまもってきた宝石を人が盗んだり、不老不死が得られるからと人魚の村に襲撃したり。
   そのような人の行いが魔族の間で不満や怒りにつながった」

魔王「このままでは魔族に未来はない、人に踏みにじられるだけだと。
   好戦的な種族を筆頭にそんな声が高まって、そうして戦争をするに至ったと。そんな風に聞いている」



戦士「そんな話は初めて聞いたが……」

勇者「どういうことだ?みんな違う風に戦争のきっかけが伝えられてるって」

魔王「まあ…歴史とはそんなもんだろう。
   見栄や種の誇りという色眼鏡を通しては、正しい歴史など語れるわけがない」

魔王「本当の歴史を知るのは第三者だけだ。そんな者、100年前にいたのかわからんが」

神官「大陸ほとんど巻き込んだ戦だったそうですから……ほとんどいないでしょうね」


魔王「戦争が魔族の敗北という形で終わったあと。人間がどうしたか分かるか?」

勇者「どうしたって。戦争は終わったんだから、平和に暮らしたに決まってんだろ?」

魔王「平和に暮らすために、やらなくちゃいけないことがひとつ残ってるだろう」



神官「なんですか?」

戦士「残党狩り……か」

魔王「そう」

魔王「いつ第二の戦争が始まるのか分からないからな。最後の一仕事がそれだ。
   最も、戦力になる種族は先の戦争で殺されてて、残ってたのは力ない魔族や子どもばかりだったろうけど」

勇者「そんな、そんなこと、人がするわけないだろ。戦力にならない者をわざわざ!」

魔王「まあ食事の間の与太話として聞いてくれればいい」


魔王「それで、魔族はほとんど滅んだはずだ。それほどまでに先代勇者パーティは協力だったんだろう」

戦士「ほとんど、と言ったな? ならば、いまこの島に住んでる魔族の祖先は、どうして生き残ったのだ?」


魔王「魔族のような外見をしてない者が、残党狩りから逃れて生き残った」

勇者「魔族のような外見をしてない?」

魔王「つまり魔族の血が薄まった者だ。人と魔族のハーフとか、もしくは半分以下の魔族の血を受け継ぐ者。
   人の血をひいていれば人に化けることのできる者もいるし、ほとんど人と変わらない容姿をもつ者もでてくる」


神官「なるほど…… そして生き残った魔族は人の社会の中で生きてきたんですね」

魔王「魔王も有力魔族も死んで、魔族社会は壊滅してしまったからな
   そうして魔族は生きてくしかなかった」


魔王「でも、異物であることを隠し通すのは難しいものだ 
   うまくやったと思っても……小さなことから魔族であることがばれて」

魔王「嫌われて、殴られて、石を投げられて、住む場所を追われて
   100年前から、そうやって細々と魔族は歴史を紡いできたのだ」




神官「じゃあ……さっきのハーピーさんも」

魔王「島にいる魔族のほとんどがそんな経験をもつ。
   だから私は、島全体を覆える強力な結界魔法を完成させて、
   魔族だけで暮らせる村をつくったのだ」

勇者「……」

魔王「私はここのみんなをまもりたい。この村をまもりたい。
   だから勇者くん、いま一度頼みたいんだ」

魔王「この島の居場所を、秘密のままにしてほしい」

勇者「……」

神官「ゆ、勇者様…」

戦士「勇者…」


魔王「答えは今すぐじゃなくていいんだ」

勇者「……即答できなくて悪い。でも俺も、国民の期待を背負ってる身なんだ」

魔王「うん」

勇者「でも今まで王国で聞いていた話を鵜呑みにしたままじゃいけないってことも分かった。
   この島に、しばらくいさせてもらえないか。
   その間、自分の目で真実を確かめたいんだ」

魔王「勿論。いつまでだっていてもらって構わない。なんなら、永住してもらっても構わないぞ」

勇者「永住はしねーけど」

魔王「1年中暮らしやすい気候で、竜人のご飯が3食無料だぞ?
   家賃も0、自然も多くていい隠居先だと思うが?」

勇者「本格的に営業はじめるなよ! 隠居って俺まだ10代だけど!?」

魔王「そうか……残念だ」シュン

今日はここまでにしときます

乙。見てるよ、頑張ってね。

おつおつ
これからも期待

乙でした。
王道でいいね。

中々
これからに期待

期待ー


魔王「じゃあこのあとは、村で一番の年長者、グリフォンのところへ行こう」

神官「グリフォンですか。なんか、緊張しますね…」

魔王「そんな緊張しなくていいぞ」



グリフォン家


魔王「グリフォン、いるか?」カランカラーン

勇者「やべえ……普通の家だ」

グリフォン「なんだ、魔王様かぁ」バタン

魔王「やあ。突然だけど勇者くんたちに君を紹介したくて」

グリフォン「勇者?へえ…」



勇者「あ、あれ? 普通の男なんだけど……本当にグリフォンか?」

戦士「人間……?」

グリフォン「ああいや。本を読むときは本来の姿だと不便だから、人型になってるだけさ」

神官「ほぇー」


魔王「グリフォンは物知りなんだ。いつも本を読んでいる。何か分からないことや疑問に思ったことがあれば、ここに聴きに来るといい」

グリフォン「魔王様にそう言われると照れるね エッヘヘヘ」

勇者「なんだこいつきもい」

魔王「ちょっと癖のある者だが……知識は、すごい。知識だけは」

神官「いま、“だけ”って言いましたよね!“だけ”って!」

グリフォン「ひどいなぁ…… まあいいけどさ。
     来ればお茶くらいだすよぉ。人間の生態にも興味あるし…」ジッ

勇者「なんかマッドサイエンティストのかほりがする!こわい!」

戦士「解剖されそうだ」



グリフォン「いつでも来てね…」ニッコリ

勇者(多分こない)


魔王「では……城に帰るか」

神官「なんか、普通に楽しかったです」

戦士「新境地だったな。興味深い」

勇者「俺は疲れた…」


勇者「とりあえず、しばらく厄介になるぞ、魔王」

魔王「ゆっくりしていくといい。勇者くん」



勇者「一週間後、定期報告のために王国に帰る。それまでに俺たちの答えを決めようと思う」

魔王「そうか。じゃあ一週間まったりしていってくれ。我々にとってよい返事を期待しているよ」



* * *


次の日


魔女「ねーねー 神官はさぁ、彼氏とかいんの?」

神官「ブハッ!! な、なにを言いだすんです魔女さん」ポタポタ

魔女「あー、やっぱいないの?そんなだっさい服着てるからだよー、あたしの服貸したげよっか?」

神官「ださい服!? これは教会から支給された聖なる神官服ですよ!?」

魔女「もっと足とか胸とかだした方がいいっしょ」

神官「魔女さんじゃないんですからっ 私はこれでいいんです!」



勇者「なあ、二人とも?竜人と戦士知らないか?」

神官「あの二人なら、中庭で剣の手合わせしてますよ」

勇者「そうか… 俺も混じってこようかな」

魔女「それなら魔王様のところに行けばー?多分図書館か研究室にいると思うよー」

勇者「魔王か?……まあ、行ってみるか。ありがとな」


図書館


勇者「うわっ すげえ蔵書数だ。壁一面に本ばっか。
   俺こういうところ頭痛くなるんだよな。昔から剣ばっか振ってきたから」

勇者「……魔王?いるのか?」

魔王「勇者くん?どうしたんだ?入って右奥の棚にいるぞ」

勇者「こっちか」

魔王「ちょうどよかった。この上の方にある本がどうしても届かなくてな。
   勇者くん、とってくれないか」プルプル

勇者「……」

魔王「その呆れた目はなんだ?全く、こんな上に本を積み上げたのは竜人か魔女か……
   梯子を使っても、これでは届かないではないか」プルプル

勇者「チビだもんな」

魔王「うるさいな」


勇者「しょうがねえな。とってやるから、梯子から降りて来いよ」

魔王「助かる…… ふう、腕が疲れた。……ん?」グラッ

勇者「おい!?」

魔王「まずいな。落下する」

勇者「落下する。じゃねーーーーよ!ばか!…………うおっと!!」ドサッ

魔王「さすが勇者くんだ。素晴らしい反応速度」

勇者「嬉しくねえよ。お前ほんとに魔王なの!?梯子からうっかり落っこちる魔王ってなに!?」

魔王「随分……間抜けな魔王だな。王たる自覚はあるのだろうか」

勇者「言っとくけどお前のことだよ?」



勇者「…で、とりたかった本ってこれか。ええと?『天候と水魔法の関連性について』……うわ、難しそう」

魔王「古い本だからな。でもいま研究してる魔法に必要な文献なのだ」

勇者「魔法の研究ねぇ。魔王ってのは普段そういうことをやるんだな。
   で、何の魔法を研究してるんだ?」

勇者「天候をまるまる変える魔法なんて、伝説の魔術師くらいしか使えたっていう試しがないぞ
   それも本当かどうかなんて分かんないけどな」

魔王「天候を変える魔法か… それもあったら便利そうだ。でも今研究してるのは違うんだ。
   雨を花びらに変える魔法だよ」

勇者「……ハイ?」

魔王「結構難しいんだ。水魔法と物質変化魔法を組み合わせて……あと重力魔法とかも組み入れたほうがよりそれらしいし……」

勇者「……あのさ。そんななんの役にも立たなそうな魔法開発して、どうすんだ?」

魔王「なんの役にも立たないとは、ひどいじゃないか」

勇者「いや、普通、より強力な攻撃魔法とかさ、そういう研究してると思うじゃん」


魔王「攻撃魔法か… 一応たまにしてるけれど。それより私は見る者を喜ばせる魔法を研究する方が好きだ」

勇者「雨が花に変わってもなぁ……それって喜ばしいか?」

魔王「喜ばしいよ。きっとわくわくするような光景だ。それを成功させたら、空から菓子を降らせる魔法の研究にとりかかろうと思う」

勇者「子どもか!……子どもだったな、そういや」

魔王「なんだ。じゃあ勇者くんはどういう魔法を使うんだ」

勇者「俺は大体、雷魔法か転移魔法とかだな」

魔王「雷ね…… このあたりの本とか、雷魔法の発展理論について書かれているぞ」スッ

勇者「むりむりむりむり!頭痛くなる!
   つーか、こんだけの本どこから調達したんだ?この島から魔族はでられないんだろ?」

魔王「ああ…」



魔王「基本的に転移魔法が使える竜人と魔女に、たまに島の外にでてもらって物質の調達をしたり情報収集したりしてもらってる」

勇者「そうだったのか」

魔王「有事のときでも自分一人で身をまもれるくらいの戦闘能力があるのがその二人だけだからな」

勇者「あれ?魔王は外にでないのか?」

魔王「私は島の結界を維持しなければならないから、島の外に出れないんだ」

勇者「ふーん」

魔王「だから勇者くんに会ったら、旅の話を聞きたいと思っていたんだ。この大陸中を見て回ったんだろう?」

勇者「魔王城が全然見つからないおかげでな」

魔王「すごいな……!ぜひ聞かせてほしい。勇者くんの村は大陸のどのあたりにあるんだ?名産品は?まず一番最初に行った街はどこ?
   どんな敵に出会ったんだ?なにか印象に残った出来事はあるか?」

勇者「死んだ魚の目が急に輝きだした!落ち着け、どうどう」



魔王「すまん。全然反省してないけど」

勇者「ふてぶてしいなお前…」

魔王「さあ、冒険譚を聞かせてくれ。私の部屋に行こう、竜人にお茶をもってこさせる」


バタン


竜人「魔王様」

魔王「早いな。気がきくじゃないか竜人」

竜人「いやなんの話ですか? 村の者が魔王様に用事があるそうです。下に降りてきてくれませんか?」

魔王「ああ、あの二人かな。 勇者くん、旅の話はまた今度聞かせてくれるか?」

勇者「大したもんじゃないけどな。いつでもいいぜ」

魔王「楽しみだ。じゃあ行ってくる」

すいません投下の途中で寝てました
あともうちょっとだけ続きます



勇者「魔王って結構ひまそうだな」

竜人「それがそうでもないですよ。魔王城はケガ人病人も診てますし、発展的な学問を学びたい者のための施設にもなってます。
   さらに役場も兼ねてますので結婚出産葬式もろもろの報告も承らなくちゃいけませんしね」

勇者「多忙だな。3人で足りるのか」

竜人「足りませんよ。だから一応お手伝いさんに来てもらって事務仕事やってもらってますよ」

勇者「俗っぽいなあ。ファンタジーの世界観ぶち壊しだぞ」

竜人「ファンタジーねぇ」ハッ

勇者「竜の末裔がファンタジー鼻で笑うなコラ」

竜人「ファンタジーで飯食えませんよ」ハッ

勇者「やめろ、さっきまで魔法がどうのこうのって話してたんだからやめろ。雰囲気ぶち壊すのやめろ」






魔王「……」カリカリ

魔王「……」カリカリ

魔王「…ん。いけない、もうこんな時間か。夜、勇者くんに旅の話を聞きたかったのにすっかり忘れてた。
   明日の夜でいいか…」

魔王「そろそろ寝ないと…竜人がまたうるさいな。でもあともう少し。この本を読み終わったらにしよう」

魔王「……」

魔王「……」コクッ コクッ

魔王「…………ん…」ゴシゴシ

魔王「……」

魔王「……ぐー」バタン



『―――!―――ッ!!』

『放せ! 勇者くんが!』

『だめです、魔王様……いま飛びだしたら……!』

『いやだ、こんなのいやだ、私は認めないぞ!』

『うっ、うぅ……私のせいだ、私の。私があんなこと、言ったから!』


『やめて……やめろ!!ふざけるなっ!!』

『やめろーーーーーっ!』


――――ザシュッ

…ゴトン


『……あ。あ。あ。あ、』

『        』





魔王「……ッ!?」ガバ

魔王「っは……はぁ……え?」


チュンチュン


魔王「あ、朝? 今のは…なんだ?予知夢?
   いや、そんな能力もってなかった……ただの、夢か」

魔女「おっはよーう魔王様!いい天気だなー って、ああああっ!また机で本読みながら寝ちゃったんですか!?なにやってんの!?」

魔王「おはよう…魔女。……背中痛い」

魔女「そら椅子で寝たんだからそうでしょーよ。全く、風邪ひいたらどうすんのさ。魔女ちゃん特製ゲロニガ風邪薬飲ませるよ?」

魔王「勘弁してくれ。お前の薬はなんで効き目抜群なのに、味が最悪なんだ」

魔女「味付けなんてよくわかんないしィ」

竜王「ちょっと魔女、早く魔王様起こしてきてくださいって……はァん!?
   魔王様、まーーーたベッドじゃなく椅子で寝たんですかァ!?」

魔女「うっさいの来た…」

>>66 竜王→竜人



竜人「何度言ったら分かるんですか!ベッドで寝てくださいって!」

魔王「今度から気をつける」シュンッ

竜人「あっ!転移魔法で逃げましたね……!これが反抗期ってやつですか…」

魔女「いやー無理もない反応でしょーありゃ。あんたどこのオカンだよ」

竜人「追いますよ魔女!」シュンッ

魔女「追いますよって、普通に大広間にいるでしょ。なにあいつ馬鹿なの うける」シュンッ


勇者「なかなか強いな!」

竜人「勇者様こそ。さすがといったところですね」


キィン! 


魔王「…………」

戦士「なんだ、浮かない顔だな?」

魔王「戦士殿。…………いや、そういうわけじゃないんだが。ただ夢見が悪くてな」

戦士「夢見とな。魔王殿は予知夢の能力も持っているのか?」

魔王「多分、もってないと、思うが」

戦士「そうか」

魔王「……王国には夢で未来を視る預言者がいると聞いたが」

戦士「ああ、宮廷お抱えの預言者がひとり。かなりの腕前だそうだ。
   あそこにいる勇者のお告げも、今の代の預言者が行ったそうだぞ」

魔王「ほう。天からのお告げというものか。勇者くんはすごいんだな」

戦士「あいつはすごいぞ。なかなか骨のある若者だ」




魔王「三人は同じ村の育ちなのか?」

戦士「いや全然違う。俺は中央都市の生まれで、神官は教会に育てられた孤児だ。
   勇者はかなり田舎の生まれで、魔王討伐の旅に出かける際に初めて顔を合わせた」

魔王「討伐の旅か……どんなところに行ったんだ?
   世界の果て、星の墓場、虹の降る谷、地底に眠る遺跡群。そういったものは本当に実在するのか?」

戦士「……魔王殿は、旅にでたいのか?」

魔王「まさか。想像するだけで十分だ。
   あ、竜人たちが呼んでるぞ。手合わせばかりして飽きないな」

戦士「魔王殿も混じってみるか」

魔王「私は肉体派ではない。……先に城に戻っている」スタスタ

戦士「……(難儀な娘だな…)」






勇者「あー 今日はいい汗かいた。やばいな、普通に魔王城満喫しちゃってるな俺ら」

コンコン

勇者「? こんな時間にだれだ…? 待ってろ、いま扉を開け……」

魔王「こんばんは」シュンッ

勇者「ぎゃあおっ!!お前かよ!つーかノックしといていきなり転移魔法かましてくんなよ!びびるだろ!!」

魔王「シッ!静かに。竜人にばれたらまたうるさいぞアイツ」

勇者「なにしでかしたんだよ……怒られんの多分俺だぞ……かえれよ…」

魔王「旅の話をいつでも聞かせてくれると言ったのは勇者くんだろうに」

勇者「昼じゃだめなのか?」

魔王「だめだ。今すぐ。ここで。聞かせてくれるまで帰らんぞ」

勇者「まじかよ」



魔王「まじだ。大まじだ」モソモソ

勇者「おい、勝手に人のベッドにもぐりこむんじゃねーよ!」

魔王「このベッドも元をただせば私のものだ」

勇者「屁理屈こねやがって……わかったよ、途中で寝んなよ?言っとくけど大した話ないからな?」

魔王「かまわない。大丈夫だ。寝ない。さあ早く。早く話せ。まだか?」

勇者「落ち着けよ!ええと。旅の初めからか? うーん、どうだったかな…」



~~~~


王「勇者よ。お前に王からの勅命を言い渡す」

勇者「ハッ。なんなりと」

王「お前も勇者として預言をうけてから幾数年経ち、立派な剣の使い手になったな。そろそろ魔王を討伐する旅にでてほしい。
  今のお前はそこらの兵士より数倍強い。さらに伝説の勇者の力をもってすれば、魔王打倒も夢ではないだろう」

勇者「必ずや魔王を倒してみせます。して魔王城はどこに?」

王「それが全くわからんのだ」

勇者「えっ」

王「どうやら特殊な術を用いて居場所を隠しているらしい。勇者、お前なら魔王城の居場所も突き止められると信じているぞ」

勇者「御意に」

王「それから、もうひとつ。世界に残っている魔族の殲滅も頼みたい」

勇者「殲滅、ですか」

王「戦争の生き残りの魔族がまだいるらしくてな。度々目撃情報があがるのだ。
  人村にふらりと現れては食物を盗んだり、人を攫ったり、暴虐の限りを尽くしているらしい」

勇者「なんて奴らだ! 罪も無き人々がいまだ魔族の影におびえなくてはならない生活をおくっているなんて!
   必ずこの俺が魔族どもを成敗してみせます。お任せ下さい」

王「期待しているぞ。魔族の血が絶えん限り、我々人類の未来はない。
  あの戦争を繰り返すことだけは絶対に避けなければならない」



戦士「お前が勇者か。俺は戦士、以前はこの国の傭兵部隊に所属していた。大剣なら自信あるぞ、よろしく」

神官「初めまして、勇者様。私、教会から指名されました神官です。ええと、回復魔法ならおまかせくださいね」

勇者「ああ。よろしくな。さて……魔王城の居場所が分からないということだが……手始めにどこに行こうか」

戦士「まずは情報収集しつつ適当に大きな都市を回ってみればよいのではないか?その道中で魔王に勝てるだけの力を身につけられるだろう」

神官「そういえば……武器の話ですけれど。この世界のどこかにある、時の神殿というところで、聖なる剣が埋まってるらしいですよ」

勇者「勇者っぽいな。でもそれも居場所がわかんないのか。うーん、まあ適当に旅してれば、そのうち情報を掴めるだろう」

戦士「そうだな。まず適当に大きな都市に行こう」

神官「そうですね、適当に。くじでも引きます?」


~~~~


魔王「適当すぎないか」

勇者「それでもここに辿りつけたんだから、結局適当でいいんだって。
   えーと、魔王は俺たちの大陸が3国に分かれてることは知ってるよな?」

魔王「それくらいは。大陸北部がもともと私たち魔族の土地だったところで、南部が勇者くんたちの太陽の国、それから雪の国、星の国だったかな」

勇者「うん、そうだ。1年中雪の降る冬の地、雪の国。天文学をはじめとした学問の都、星の国」

勇者「で、俺たちの太陽の王国。太陽神信仰で、神官が属する教会も太陽神を一神教とするものだ。
   経済力も軍力も領土も3国中最大、最近は航海術にも力を入れてて大陸以外の国とも交易が盛んだ」

魔王「ふむ、そうなのか」

勇者「俺たちはまず王国を旅して、次に雪の国に向かったんだ。
   めっちゃくちゃ寒かった。信じられないくらい寒かった」

魔王「雪というのは、どういったものなのだ?私は見たことがない」


勇者「雪っつーのは……えっと、白くて、冷たい。触ると解ける。そんなのがいっぱい空から落ちてくる」

魔王「……」

勇者「そんな怪訝な顔するな。別に恐ろしいものじゃない、結構きれいだぞ。俺は寒くて嫌いだけど」

魔王「へえ。そうなのか……いつかこの島にも降ればいいのに…」

勇者「……魔法で作り出せるかもな」

魔王「ほんとかっ」

勇者「でも俺は書を読んで研究なんてしたことないからな!すぐにはできないぞ!!」

魔王「それでもいい。いつまでだって待つ。楽しみにしてるぞ、勇者くん」

勇者「あんま期待しないで待ってろよ……
   で、ええと。雪の国に行ったところだったな。そこで変な奴にあったんだよ」

これで区切ります
説明ばっかりですけど軽い気持ちで読んで頂ければ幸いです

おつ

おつおつ


~~~~

雪の国 酒場

勇者「旅を続けてもう5カ月か。大分俺たちも強くなったんじゃないか」

神官「そうですね、魔王城の情報はまだ掴めてませんけど」

戦士「ところでひとつ、言いたいことがあるのだが」

勇者「奇遇だな、俺もひとつある」

神官「私もありますね」


勇者「魔物いなくね?」

神官「王国を出発してからまだ一匹の魔物とも遭遇してないって、これも神のご加護でしょうか?」

戦士「来る日も来る日も盗賊団や麻薬売人を倒すばかり。どういうことだ?」

勇者「王の話では、魔王の復活に伴い人村に魔物の被害が広がってるっていうことだったんだけどな。
   旅の途中で寄った村でも、最近ではそういう被害はないって言ってるし」

戦士「なんでも10年前くらいからパッタリ被害がなくなったとか」

勇者「ふーむ…」


神官「このままじゃまずいですよ!いきなりラスボス戦で魔族初対面とか、恐ろしすぎて失神する自信ありますよ!
   この魔族大図鑑見てイメージトレーニングしとかないと……」

勇者「イメトレする勇者一行ってなに?なんか決まらないよな」

戦士「まあ、俺たちが盗賊をとっ捕まえて、街に平和が訪れてるんだ。それも大事な勇者の仕事だろう」

勇者「そうだな」

マスター「よう、兄ちゃんたち。この酒、あっちのお客さんからだぜ」

勇者「ん?ありがとう。あっちのお客?」チラ


旅人♂「……」ニコッ

勇者(吟遊詩人かなにかか?見たところ俺よりも年上で、旅にも手慣れてそうだ)

神官(詩人にしては筋肉もりもりですね。戦士さんほどついてないですけど)

勇者「もしよかったらこっちのテーブルで話さないか?旅について色々聞きたいしさ」

旅人「……」ガタッ

神官(寡黙な人なのかな?)



旅人「……」スタスタスタスタ

旅人「……」ガシッ!!

勇者「ギャッ!? な、なにすんだよお前!?ケツさわんじゃねーよ!!」

旅人「あらぁ~~いいオ・シ・リ」

勇者「」


戦士「」ダッ

神官「」ダッ

勇者「オイ逃げんなよ!!!勇者見捨てんなお前ら!!!」

旅人「逃がさないわよぉ、かわいい勇者サン。うふふ」

勇者「助けて!マスター助けて!助けて!」



旅人「へぇ~~それでぇ、勇者ちゃんは魔王を探して旅してるのねぇ」

勇者「はい……ええ……」ゲッソリ

旅人「私もいろんなとこ旅してるんだけどぉ、勇者ちゃんの噂は聞いてるわよん」

勇者「やっぱり旅人なのか。なんでカマ口調なんだ……お前男だよな……? 結構屈強な成人男性だよな?」

旅人「いやん。もう、そんなひどいこと言うと、イイコト教えてあげないわよ?」

勇者「結構っす……」

旅人「勇者ちゃんが一番ほしい情報だと思うんだけどねぇ」

勇者「一番ほしい…?ま、まさか魔王城か!?」

旅人「んっふっふっふ、せいかぁい」バチコン

勇者「ゥオエ…ッ うっぷ、教えてくれ!魔王城はどこにあるんだ?」


旅人「そうね。勇者ちゃんなら大丈夫そうよね。あたしもはっきり覚えてるわけじゃないんだけど
   ちょっとドジって海で死にかけちゃってさぁ」

勇者「で?」

旅人「もうこれ完全天国コースだわ、って思ってたら、なんか竜があたしをでっかい城に運んでくれててさあ。
   魔王様、漂流者みたいです。とか言ってて」

勇者「魔王に会ったのか!?」

旅人「会った、と思うんだけどねぇ。ここから記憶があいまいで、そのあとは太陽の王国の宿屋で目を覚ましたわ。
   覚えてるのは血みたいに真っ赤な瞳だけね。多分魔王の目だと思うけど」

勇者「お、お前、魔王に会って生きて帰ってこれたのか……」

旅人「まああたしみたいなゲテモノ、さすがの魔王もいらなかったんじゃない?」

勇者「ああ納得……じゃなくて!えっと、その、口調以外はまあまあだと思うぞ」

旅人「あらぁん、嬉しい☆ 勇者ちゃんうわさ通りの色男ね☆」

勇者「やめろひっつくな」



勇者「魔王城は海の向こうにあるのか。もっと思い出せることは?」

旅人「あんまりないのよ。多分島だったと思うけど。あとは覚えてないわ。
   でもその時あたしが旅してたのが星の国と太陽の国の狭間くらいだったから
   もしかしたらそこの海に近いところかもね」

勇者「なるほど。ありがとう。次の行き先が決まった」

旅人「んふふ。がんばってねぇ、あたし応援しちゃう。
   じゃ、そろそろあたし帰るわ。いつかまた会えたらいいわね」

勇者「あんたはこの村の次はどこへ?」

旅人「さあね。歩きながら考えるわ。ばいばい、勇者ちゃん」ブチュ

勇者「」

旅人「ごちそうさま、うっふふ」

勇者「」


~~~~



勇者「うぐぅぅ…… 今思い出しても吐き気が」

魔王「待ってくれ、勇者くん。私もその旅人を知ってると思う」

勇者「え」

魔王「汚れた金髪、碧眼で女のように振る舞う大男だろう?その者は確かにこの島に流れ着いて私たちが介抱したのだ」

勇者「おお。じゃあやっぱりあいつの言ってたことは本当だったのか」

魔王「でも、おかしいな。たまに奴みたいな者が島に流れ着くが、人里に返すときは必ず忘却呪文をかけてるのだ。
   完全にここの存在を忘れるようにな。なんでその旅人は記憶をもってる?」

勇者「さぁ……。お前が魔法ミスったんじゃないのか?」

魔王「まあ確かにあの日は寝不足だったけど。まさか。い、いやあり得ない。大丈夫だ、…多分」

勇者「めちゃくちゃ動揺してんじゃねーかよ。うっかりか、うっかりさんなのか」



魔王「それで、ダンジョンとやらには行ったのか?」

勇者「ああ。割と見境なしにいろいろ入ったぜ。伝説の武器とかとりにな
   一番大変だったのは、俺のこの剣をもらった時の神殿だよ。ほんと死ぬかと思ったわ」

魔王「時の神殿……本で読んだことがある。最奥に辿りついた者は、時を司る女神に会えるとか」

勇者「ああ、会った会った」


~~~~

時の神殿


勇者「はぁ、はぁ、やっと辿りついた」ボタボタ

戦士「去年死んだばあちゃんが、視界の隅で手をふっている……」ボタボタ

神官「ごめんなさい、二人とも。MPがもうほとんど枯渇していて。そうでなければ今すぐ治療できるんですけど…」

勇者「き、気にするな、神官。俺たちなら大丈夫だ ゴフ」ビチャア

神官「勇者様ァーーーーーーーー!」

戦士「む、あそこの光る球はなんだ?」

神官「あ!もしかしたらあれが女神様のいる場所への鍵かもしれませんよ!さっそくさわってみましょう!!」

戦士「お、おい」


パァァァァアッ


女神「『女神だけどなんか質問ある?』っと……」カタカタカタ ターン

女神「やべっ 金曜ロードショー始まる!!あーんもう、こんな時に限ってリモコンみつかんない!くそっ!!
   あ、オコタのなかにあったわ。 やっぱジ○リは紅○豚一択っしょ」

勇者「」

女神「ラーメンでも食いながら見よっかな。皿洗いたくないし、鍋のままでいいや……はー うま」ズルズル

神官「」

戦士「」



女神「………………ん?」

勇者「えっと……ごめんください……」

女神「fじぇいおあぐれおあjdfs!?!?」

女神「い、一分待ちなさい!!!」


キラキラキラキラ…


女神「よくぞここまで辿りつきましたね、勇者よ……
   ここは時の神殿最奥部。私は時を司る女神です」

勇者「あ、はい」

神官「さっきの珍妙な器具たちが全て隅に押しやられてますね…」

戦士「シッ!」

女神「先ほどのことは忘れなさい……」

勇者「あ、あれは一体?」

女神「……私は未来現在過去、全ての時を操れますので。あれは未来から持ち出してきた物品です。
   打ち明けたんだから、このことはお忘れなさい。いいですね?」

勇者(なんちゅう女神だ…)

戦士(ダ女神……)



女神「ここまで辿りついた勇者には、この聖剣を与えましょう」

勇者「これが伝説の……」

女神「剣に埋め込まれている石を見なさい。それは一度だけ時を巻き戻すことのできる聖石です」

勇者「ま、まじで!?さすが伝説の聖剣!!」

女神「ただし、その代わりあなたの命を頂きます」

勇者「なんだそれ!? 意味ねーじゃん!」

女神「代償なしで時空を捻じ曲げることができるわけないじゃないですか。
   人間ごとぎが調子のらねーでほしいです」

戦士「だんだん素に戻ってるぞ、女神様」

女神「まあ勇者なんですから、世界のために俺の命を捧げるーみたいな感じで、その石を使うときもくるんでしょ?どうせ
   さあ、剣は与えました。私はテレビ見たいので、さっさと神殿から出てってください」

神官「せ、せめて二人の治療をお願いします!血だらけなんですよ!」

女神「チッ わかったよ。はい。
   じゃあね、ばいばい」

勇者「ちょ」


パァァァァァァアッ

勇者「強制的に追い出された」


~~~~



魔王「うそつくな。女神がそんなだらしないわけないだろう」

勇者「気持ちは分かるが、事実だ」

魔王「……」

勇者「そんな落ち込むなよ。多分、ほかの神はあんな風じゃないはずだ。そ、そう信じたい」

魔王「そ、そうだな。これが、その剣か」

勇者「おう」

魔王「……きれいだな。石は見たことのない色をしている。これが……
   勇者くんにぴったりだ」

勇者「褒めてもなんもでねーぞ」

魔王「本音を言ったまでだ」



魔王「勇者くんとずっと、こうして話をしてみたかった。私はとても嬉しいぞ」

勇者「……でもさ、お前ら魔族はずっと人間に迫害されてきたんだろ?なんでそんなこと言えるんだよ。
   俺はお前らに憎まれても仕方ない存在だろ」

魔王「私は別に恨んでないぞ。……勇者くんの噂を魔女と竜人ごしに聞いていてな。
   会って、みたかったのだ。魔王城の居場所が…ばれてはまずかったのだけれど……」

勇者「お、おい、寝るなら自分の部屋で寝ろよ」

魔王「いや、まだ眠くない。ねむくな…………グー」

勇者「寝てんだろーが!ばか、俺はどこで寝りゃいいんだよ」

魔王「ぐー」

勇者「おおおおおおい」


* * *


コンコン


竜人「魔王様?魔王様、朝ですよ。入りますよー」




シーン…



竜人「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!?? ど、どちらに行かれたんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」

竜人「勇者、貴様かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!ブチ殺すぞッッあの青二才がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





勇者「だからちげーって言ってんだろ!なんで俺が追われなくちゃいけないんだよ」シュンッ

勇者「くそ、なんでこうなった。魔王のせいだぞ」


魔族子「あ、勇者だー!」

魔族子「勇者だ勇者だ!」

魔族子「遊んで遊んでー!」

勇者「は?お前ら学校だろ」

キマイラ「まだ授業まで時間ありますから」

勇者「そうなのか。どうせ竜人が落ち着くまでは城に帰れないしな……
   よしっ、なにして遊ぶか!」

魔族子「わーい!!」


勇者「さて、学校も始まってしまって、暇になったな。まだ竜人はマジギレ中だろうし……商店街でも見てるか」



魔族「おう勇者さん!果物はいらんかね?とれたて新鮮だぜ」

勇者「へえ… これはなんて果実なんだ?見たことないな」

魔族「この村でしか獲れない果物さ」

勇者「おいしそうだな、ひとつもらってこう」

魔族「毎度!」


魔族「勇者さん、新しい靴はいかが?」

魔族「おっ 勇者じゃないか。城での生活はどうだ」

勇者「おかげさまで」

魔族「魔王様や竜人様、魔女様によろしくな!」



ハーピー「……」スタスタ

勇者「ん? あれは…」


ハーピー「……あっ! りんごが…」コロン

コロンコロン…

勇者「…はい、どうぞ。そんなに買い物袋にたくさん詰め込んでたら、家につくまでに全部転げ落ちるぞ?」

ハーピー「あ… 勇者さん」

ハーピー「あ、ありがとう…ございます」

勇者「気にすんなって。じゃあな」


ハーピー「あのっ!」

勇者「ん?」

ハーピー「……この間は、すいませんでした」

勇者「謝らないでくれよ。お前はなんも悪くないだろ」

ハーピー「勇者さんって、優しいんですね。人間にも怖い人ばっかりじゃないって知ることができました。
     魔王様が島にいれた方ですもんね、怖い人なわけなかった」

勇者「買いかぶりすぎだって」



ハーピー「いえ、なんとなくわかりますよ。村のみんなもそう言ってますし。そうだ、これ。
     城でみなさんと食べてくださいな」

勇者「こんなにもらっちゃ悪いよ」

ハーピー「いいんです。父の畑でとれたものですから。この間の非礼のおわびに! では、失礼します」

勇者「悪いな。ありがとう」



がやがや
 がやがや

勇者「あかりが灯ってきたな… そろそろ帰っても大丈夫だろうか」

戦士「お、勇者ではないか」

勇者「戦士!なにしてるんだ?」

戦士「魚人の酒場に行こうと思ってな。勇者も一緒にどうだ?」

勇者「げっ お、俺はいい…」

戦士「まあまあそう言わずに」ガシ

勇者「放せよ!おい!!」



魚人「らっしゃーい! って、勇者と戦士じゃねーの!!よく来たな!座れ座れ」

戦士「おすすめの酒を頼む」

勇者「俺は未成年だから酒は飲まないぞ」

魚人「オコチャマでちゅねー しゃーないな、勇者には特製イモリジュースだ!」ドンッ

勇者「飲めねーよ」


ガラッ


魔女「今日は外食だー!わーいわーい!っしゃあ酒飲むぞー!!」

魔王「飲みすぎるなよ。お前は酔っ払うと面倒くさいんだから」

神官「お酒ですか……ちょっと楽しみですねエヘヘ」

竜人「こんばんは、魚人。席は空いてますか…………あ」


勇者「あ」



勇者「だから誤解!いや誤解っつーか俺なんも悪くないし!」

竜人「うるせーこのロリコン勇者が!!魔王様の半径10m以内に近づかないでください!」

勇者「お前ちょっと頭おかしくない!? ロリコンじゃねーよ!!ふざけんな!!」


魔王「だれが竜人の子だ、だれが」


戦士「っはっはっはっは、いいぞ、もっとやれ!!」

魔女「あははははは!あはははははは!あはははははは!」

神官「なーんかぽわーんとしてたのしいですー えへへへへへへへへ」

魔王「」

魔王「ま、魔女はいいとして神官は大丈夫なのか、これは」

神官「だーいじょーぶでーっす!」


竜人「二度目はありませんからね チッ」

勇者「こええよ……えらい目にあった。はぁ、それにしても騒がしいな」

勇者「うちのテーブルもだけど……」


魔族「がっはははは!そんでどうしたんだ?」
魔族「そんでうちの女房がさぁ…」


がやがや がやがや


勇者「大繁盛だな、魚人」

魚人「ったりめーよ。俺の店だぜ?」

勇者「ははは。……」


勇者「いい村だな。ここは。……魔王、俺決めたよ」

魔王「ん?」

勇者「この島に来たことは誰にも口外しない。

勇者「お前たちや、この村に住んでる魔族が戦争なんか起こしそうもないし。
   人を襲う奴もいるようには見えない。多分、俺が王から聞いた話はデマだったんだろう」

魔王「……ありがとう。勇者くん」

勇者「こんないい村を作って、ずっと守ってるお前はすごいと思うよ、これからも頑張れ」

魔王「うん」

勇者「明日、王への謁見のために、王国へ帰る。そのまま俺たちは大陸で旅を続けよう。
   短い間だったが、世話になった。ありがとう」

魔王「そうか。いつかまた、気が向いたときにでも島に寄ってくれ。
   私も勇者くんと会えてよかった。楽しかったぞ」

勇者「……お前、笑うときは笑うんだな」

魔王「ん?」



勇者「いつも笑ってた方がかわいいと思うぞ」

魔王「わっ… 頭をなでるな。髪がぐしゃぐしゃになるだろう」

勇者「次会うときは、背も伸びてるといいな。ははは」

魔王「や、やめろ」



魔女「えぇぇぇぇーーー勇者たち帰っちゃうのぉ?さーびーしーいー!」

神官「もうちょっといましょうよぉぉー ねー勇者様ー」

戦士「まだまだぁ!呑みたらんぞ!!」

魚人「あんたつえーな!呑み比べ3連勝だ!!」

竜人「あー おいしいですねこのお酒。あれ もう空ですか」

魔族「竜人様は相変わらずザルですね…」


勇者「……よしっ!魚人、俺にも酒だ!」

魔女「いえーーーい!!勇者の一気飲みだー!!」

神官「勇者様のっ ちょっといいとこ見てみたいっ!!」

魔王「だ、大丈夫か?」


がやがや がやがや


次の日 朝


勇者「忘れ物ないか?」

神官「ええ…大丈夫、です……」

戦士「頭が、割れそうだ…」


竜人「だから呑みすぎはよくないって言ったじゃないですか」

魔女「YES!飲酒、NO!二日酔い」

戦士「お主たちが異常なのだ……うう…」


魔王「勇者くんたち。島のことを口外しないでくれてありがとう。今一度お礼を言わせてくれ」

勇者「礼を言うのは俺たちの方だ。今まで誤解していて悪かったな」

魔王「元気で。また会おう」

勇者「そちらこそ元気で。また会うときはよろしくな」



勇者「じゃあ、転移するぞ。神官、戦士、掴まれ」

魔王「……勇者くん、本当にまた…会えるのだな?」

勇者「ああ、必ず!再会を誓おう」


竜人「さようなら」

魔女「まった来てねー」




魔王「……またいつか」


シュンッ



王国


シュンッ

勇者「ふう」

神官「戻ってきましたね」

戦士「懐かしいな」

勇者「そのまま、王宮に向かうか。分かってると思うが、魔王城のことは秘密だぞ。うまく口裏を合わせてくれ」

神官「ええ、分かってますよ」


戦士「それにしても、ここ数日の経験は驚愕に値するものだったな」

神官「本当に……。でも、私たち以外の人々がこれからも魔族のことを誤解したままっていうのも、なんだか、納得いきませんね」

勇者「ああ。どうにかあいつらのことを知ってる俺たちで、なんとかしてやりたいがな。難しいものがあるよな…」

戦士「誤解をとくためには魔王城に行ったことを明かさざるを得ぬからな。
   でなければ根拠のないただの空想を語ってるに過ぎん」

勇者「まあ、そのことは王の謁見が終わったら考えよう。そろそろ王宮だ」




兵士「勇者様、お久しぶりでございます。王が玉座の間にてお待ちです」

勇者「ありがとう。さ、行くぞ。覚悟はいいか。特に神官。お前顔にでやすいから気をつけろよ」

神官「そそそそんなことないですよっ」



王「帰ったか、勇者よ」

勇者「はい」

王「お主の噂は他方から私の耳にはいってくるぞ」

勇者「お褒めに預かり光栄です。しかし、魔王の居所については依然手がかりがつかめず……申し訳ありません」

王「いや、よいのだ。もうそれは」

勇者「……?」


勇者「どういう、ことでしょうか」


王「預言者が魔王城の在り処をつきとめたのだ」

勇者「!?」

神官「……!」

戦士「!!」

勇者「なっ……なぜ今になって!?」

預言者「占いには魔力の痕跡を辿る必要がありますから、魔王の魔力を感知しないことには居場所を占いこともできません。
    今まで魔王の魔力は何かしらの術で完全に遮断されていたようで、私もなすすべがなかったのですが。
    
預言者「一週間前……一瞬だけ微かに魔力を感知することができました。
    それを元にしてようやく魔王の居所をつきとめることができたのです」


勇者「一週間ほど、前?」

王「本当はもっと早く勇者に伝えられればよかったのだが。
  急な話ですまんが、明後日魔王城に攻め入る計画を立てている」

勇者「な…!?」

王「勇者、神官、戦士。お前たちも魔王を討つために力を貸してほしい。
  さっそくだが準備を整えてくれ」



王「どうした?顔色が悪いが」

勇者「いえ、武者震いです。明後日の件、了解しました……」

王「そうか。今日は長旅で疲れているだろう。ゆっくり休みなさい」

勇者「失礼します」











バタン

勇者「おい、どーする!?!?」

神官「やばいですよ やばいですよ!!」

戦士「お、落ち着け」



勇者「一体なんで預言者が急に……!とりあえず、魔王に伝えなきゃな」

戦士「作戦の概要を、将軍に聴いてこよう」

神官「そ、そうですね。私は教会の魔法使いの人たちに話を聴いてきます」

勇者「ああ、頼む。転移魔法は一日一回しか使えないから、明日朝一で魔王城に向かおう」

神官「本当は今すぐにでも伝えられたらいいんですけど……!」

戦士「言っても仕方ない。今俺たちができることをしよう」





魔王「……」パラパラ

竜人「……」

魔女「……」



魔女「魔王様ー、その本おもしろい?」

魔王「ああ、なかなかおもしろいぞ」

魔女「表紙が上下逆ですケド…」

魔王「……む」


竜人「ま、魔王様。大丈夫ですよ、すぐにまた勇者様たちいらっしゃいますって」

魔王「別に寂しがってるわけではない」ギロ

竜人「そうですよね。失礼しました」

魔王「含み笑いするな。ハァ、学校にでも顔を出してくるか…」



ヒュンッ


勇者「魔王!!」



魔王「!」

竜人「おや勇者様!ちょうどいい」

魔女「え、なに忘れ物?パンツでも忘れてった?」

勇者「ちげぇ!!大変なことになったんだ!!」




魔王「なに…?」

竜人「魔王城の居場所がばれた!?」

勇者「明日、王国軍が森から攻め入ってくる」

神官「教会の魔術師部隊の精鋭も一緒だそうです…」



魔女「でもさ、おかしくない?なんでそっちの預言者がいきなり最近になってここの居場所を突き止められたわけ?
   この城は10年前からあるんだよ?」

魔王「……」

魔女「結界はさ、魔王様が10年前からずっと維持してるんだよ。
   物理攻撃・魔法攻撃を防ぐのも勿論、魔力の漏えいも防いでる。どんなすごい魔術師だって感知することできないって」

勇者「魔女と竜人はよく結界を抜けてるんだよな?その時に魔力が漏えいする可能性は?」

魔女「ないない。魔族は結界を自由に通り抜けられるんだからさ」

勇者「……ん?」

魔王「……確かに魔女や竜人が出入りする分には問題ない。しかし外から解かれた場合は、別だ」

「「「「…………」」」」


勇者「……俺か!!!!!!」

神官「勇者様~~~~~~!!!」

魔女「勇者ぁ…………」

勇者「ごめん!!!!ごめんなさい!!!!」


勇者「そうか……一週間前、魔王城に辿りついた時、魔法を使ってこの城の結界を一時的に解いてしまったんだった……」

魔王「勇者くんのせいではない。まさかあんな一瞬で預言者に居場所がバレるなどとは思ってなかった。完全に私の落ち度だ。
   こんなことなら迷いの森にいる時点で、覚悟を決めて勇者くんを迎えに行けばよかった」

竜人「まあ、あのときは森で迷って引き返すならそれはそれでいいかなって感じでしたしね」



魔女「てかさ、どーすんの?明日」

魔王「軍は森から到来するのだったな」

勇者「ああ、そうだ」

魔王「それなら、森の幻術を強化しておこう。魔女も協力してくれ。
   また森から来るのなら、海を渡るための舟もろくなのを持ってこれないだろう」

魔王「万が一森を抜けられたら……海で迎え撃とう」

竜人「そうですね」



勇者「できるのか?」

魔王「できなくても、やるつもりだ。私の命に代えても」

勇者「……すまない、俺のせいで。……やっぱり、今から王を説得してくる!」

魔女「やめなよー、そんなの怪しすぎるって。勇者が魔王討伐を止める理由ってなによ?」

勇者「理由はないが、なんとかしてやる……!」

竜人「勇者様、責任を感じているのならよしてください。もともと私たちの問題ですしね」

魔王「そうだ、勇者くんはそちらの国王に言われた通り、軍に合流してくれ。そうしないと不自然だ」

魔女「なーに、300人くらいならへっちゃらだって!私の幻術でみんな森で足止めさせてやるからさ!」


戦士「すまぬ、魔王殿」

神官「ごめんなさい……力になれなくて」



魔王「事前に計画を知らせてくれただけでも十分すぎるほどだ。これで対策も練れる」

勇者「一応聴いときたいんだけどさ、魔族で戦えるくらいの戦闘力をもってるのってどれくらいいるんだ?」

魔王「私と」

魔女「あたしとー」

竜人「私ですね」

勇者「3人だけかよ! 本当に大丈夫か!?」

魔王「大丈夫だ。それより勇者くんたちも私たちと接触したことを悟られないように気をつけてくれ」

勇者「あ、ああ……」


今日はここまでにします

魔王一人でも勝てそう…

どうなんだろうな実際



2日後


将軍「ここが迷いの森か。この先に魔王が……
   魔族の妨害があるかもしれん、慎重に進め!」

兵士「はい!」

勇者「……」

勇者(結局俺は何もできずに侵攻の日を迎えてしまった。でも、いざとなれば、これで魔王たちを助太刀しよう)

神官「勇者様、それなんです?」

勇者「露店で売っていた東洋の仮面だ。万が一の時には、これを被って魔族のふりをして戦うつもりだ」

神官「わあ!さすがです勇者様!それなら絶対勇者様だってばれませんよ」

戦士「それは、ひょっとこと呼ばれる仮面じゃあないのか…?」


将軍「く……さっきから同じところをぐるぐるとまわっているな。勇者殿、魔法でなんとかなりませぬか!?」

勇者「すまん、わからん。全っ然わからん」

将軍「そうですか……」

魔術師「将軍、お時間さえ頂ければ、我ら魔術師部隊がこの幻術を解いてみせましょう」

勇者(まじか)


魔術師「……魔法陣が完成しました……アンチスペル発動します。離れてください」

神官「あんな大がかりな呪文を…… うわ!まぶしっ!!」

魔術師「成功です。森の幻術は消えました」

将軍「よくやった!さあ、夜が明けぬうちに先に進むぞ!!」


勇者(くそっ)


兵士「森を抜けました!海です!」

将軍「ようやく抜けたか。軍の約三分の一の者が、なぜか錯乱して使い物になくなっているのだが、これも魔王の仕業か。小癪な真似を」

戦士(魔女殿か)

勇者(魔女だな)

神官(えげつないほどの薬の効き……間違いなく魔女さん)

兵士「ヒィーーーハハハハwww」

兵士「アロエリラルエ……アルレ……」

勇者(こわい)


将軍「あれが魔王城、か。総員油断するなよ!舟に乗りこめ!!魔王城に侵入するぞ!!」

兵士「うおおおお!!!」


将軍「勇者殿!あなた方のパーティにはぜひ先陣をお任せしたいのですが!」

勇者「ああ、承知した。行くぞ戦士、神官」


兵士「おい、なんか勇者殿、テンションひくくね……?」ヒソヒソ

兵士「ほんとだ……どうしたんだろうな……」ヒソヒソ




勇者「絶対にこの手で魔王を討ち取るぞ!!!勇者の名にかけて!!!
   聖剣の錆にしてくれるわ ウオォーーーーーー!!!!」



兵士「す、すげえ気迫だッ!?」

兵士「さすが勇者殿!!」



ヒュオォォォ……


魔王「きたか……」

魔女「やっぱ舟ちゃちぃね。これならいけそう?」

竜人「ですかね。 おや、先頭にいるのは勇者様たちではないですか」

魔王「夜目がきくな、竜人。私の目では何も見えん。もう少し月明かりがあればいいのだが。
   まあ、いいか。勇者くんたちが先頭なら、多少の無茶も大丈夫だろう」

魔女「私は森のトラップ頑張ったから休んでていい?」

魔王「ああ、私と竜人にまかせてくれ。……いくぞ。言っとくが殺すなよ。戦争の口実を与えないために」


竜人「分かってますよ、魔王様」

竜人「この姿に戻るのは久しぶりですね…」


バサッ!


神官「……わー」

戦士「……おお」

勇者「……。何が戦力的に月とミジンコほどの差がある、だよ。嘘をつけ、嘘を!!!」

勇者「これの、どこが!!」




ゴォォォォオオオオオオッッ
 ザッパーーーン!!
ビュォォォォォォッ

竜「ガァァァァッ!!!」


兵士「うわぁぁぁぁぁ!!!波に飲まれるーー!!」

兵士「前に進めません将軍!!!舟が転覆します!!」

兵士「ぎゃーーーー!火を噴くドラゴンだーーーーー!!」


勇者「これのどこがミジンコの戦力なんだよ!!!」


魔王「水魔法、風魔法。 これくらいでいいかな
   周りが海だと防衛面で楽だな」

   
   
   
ビュオオオ


ギャーー
 ワーー ザッパーーーン

 
 
魔王「……ちょっとやりすぎか?範囲が広いと加減が難しい……」


魔王「……まあ、大丈夫か」




魔王「勇者くんなら、多少私たちが無茶をしても大丈夫だろう。手加減むずいし」


勇者「……って絶対考えてるだろ、あいつ。 せいっ!!」ズバッ

兵士「勇者殿!炎さえ斬るとは……!!助かりました!」

戦士「むんっ!海に落ちた者はほかにおるか!?」ザパッ

神官「ええと、怪我した人はいますかー!?」


将軍「っく!!この嵐とドラゴンでは、撤退するほかないか……!!
   一時撤退だ!岸まで戻れーーー!!」




竜人「やりましたね」バサッ

魔王「よかった。あとは……」

竜人「なにをするおつもりで?」

魔王「もうここの場所がばれているとなれば、することは一つだろう」



勇者「はっくしゅっ!」

神官「はぁぁ、ずぶぬれですね」

戦士「さすが魔王か。あんな嵐を引き起こすほどの魔力があろうとは……それにしても疲れたな」


将軍「くそ、夜間に襲撃したのに何故もうこちらの存在に気づかれているんだ。
   それにしても舟がもう少し立派なら……」

猫「こんばんは、王国軍の将軍よ」

将軍「むっ!?!?」


魔術師「将軍!その猫は使い魔です。きっと魔王の……!」

将軍「なに!!叩き斬ってやるわ!」ジャキ

猫「やめて頂きたい。ただ私は貴公に話があるだけだ」

将軍「話だと!?」


猫「人と争うつもりはない。私たちはそちらに干渉しない、なのでそちらも私たちを放っておいてくれないか」

将軍「信じられると思うか?魔族め。 悪逆の限りを尽くす魔王よ、貴様は必ず!!ここにいる勇者殿が倒す!!」

勇者「……お、おうっ!」

猫「言っても聞かないか。ならこの文を、人の王に届けてほしい。承諾してくれるなら、森からすぐに脱出させてやろう」

将軍「取引をしかけようと言うのか、魔王……!」

猫「邪推するな、先ほどの嵐でかなり疲弊しているようだったから手をさしのべたまでだ」

将軍「……くそ、分かった。受け取ろう」

猫「ありがとう」




戦士「ふう。なんとかなったな」

神官「ええ、ホッとしました…」

勇者「……むしろこれからどうなるか、だな。問題は」

神官「え?」



王国 城

王「……魔王の手紙だと?」

将軍「ええ。呪いの類はかかっていないようです。魔術師に調べさせました」

王「ほう。……」

勇者「どのような内容が?」

王「戦争をしかける意志はない。島から出るつもりもない。人とは友好的関係を築きたい、と」

勇者「……あちらが人に危害を加えるつもりはないと言っている以上、こちらも何もしない方がよいのではないですか?」
   悪事を働かぬ魔王なら、討伐する必要はないと思いますが」
   
王「何を言っておる、勇者? 魔の者の言葉を信じるのか?」

勇者「相手は魔の者と言えど、意志伝達のできる生物です。それに、この度の魔王城侵攻でも、死者はでませんでした。
   あの魔法で作られた嵐の規模を見るに、魔王にとって我らを皆殺しにすることは容易かったはず。
   それでも今我々が生きてここにいるのは、奴が手心を加えたからに違いありません!」
   
王「勇者よ、考えが少し甘いな。魔族などどいうものの言葉を素直に受け取ってはいかん。裏の裏を読まねば。
  ここで奴らを見逃したら、いつ何時、復讐に燃えた野蛮な連中が王国に攻め入らんとも分からん」
  
王「それに魔族が絶滅すれば、未開拓の大陸北部にも本格的な調査団が出せる。
  大陸北部が我が国の領土にできればどれほどの利益を生むか、想像してみるといい」

  
  



勇者(利益だって……?)

王「さて、今回の討伐では舟が悪かったな。艦砲を搭載した軍艦の使用を許可しよう」

将軍「しかし、王よ。迷いの森を抜ける以外に魔王城へ辿りつく方法があるのですか?」

王「長い航路を辿れば可能だ。我が国も東洋諸国との交易の経験により、昔よりは航海術も進歩した。
  そうだな……1カ月後だ。1カ月後に再び魔王城に向かうぞ。勇者よ、今度こそ魔王を倒すことを期待しておる」
  
勇者(艦砲!?)

勇者「ま、待ってください!」

王「なんだ?」

勇者「王、あなたは魔族が人を度々襲ったり誘拐したりしていると仰ってましたが、俺たちの旅では魔族に一度も遭遇しなかったんです。
   出会った村の人々に聴いてもそうだと言ってました。
   つまり、昨今魔族は全く人の住む地に現れていないのです」
   
勇者「彼らは……本当は無害なのではないですか? 本当に、殲滅しなければいけない存在なのでしょうか?」

王「……」


王「やけに魔族の肩をもつな、勇者?」

勇者「ッ……」

王「なにか、旅の途中で価値観を変えるようなことがあったのか?」




勇者「そのようなことは、ありませんでしたが。しかし……今一度よくお考えになった方がよろしいのでは、」

王「お前の王国への忠誠心が変わっておらず、安心したぞ 勇者よ」

勇者「……はい」

王「さて、これから私は大臣たちと会議がある。対魔王の策を練らねばな。下がってよいぞ」

勇者「……はっ」

将軍「はっ!」






勇者「……」



* * *


戦士「はぁぁっ!!!」ブンッ


ガキィィィン!!


戦士「なかなかの強度であるな、結界というのは。俺の渾身の一撃でもヒビひとつ入らぬとは」

竜人「ええ。物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返すように作られてます。
   しかし魔法はともかく物理攻撃は、今の戦士様の剣や弓の攻撃を基準に考えられたのであって……」
   
魔女「大砲はどーなんだろねー」

竜人「試したことありませんからね」

戦士「ふむ……」

魔女「困ったよねー」




勇者「はぁ」

グリフォン「浮かない顔だねぇ。はいお茶。怪しいものは入ってないよ」

勇者「ほんとかよ。 ま、ありがとな」

グリフォン「で? なんか用?」

勇者「……や、ちょっと、な。……この本、なんだ? あんた、子ども向けの本も読むのか」

グリフォン「人間社会の教育に興味があるのさ。それは勇者譚。読んでみるかい」

勇者「子どもの頃に読んだやつとほぼ一緒だな。勇者が仲間たちと魔王を倒す旅にでて。最後は魔王を倒して世界に平和が訪れる。
   勇者は英雄としてもてはやされて、最後は自国の姫と結ばれるってオチさ、大体」
   
勇者「俺は勇者に選ばれたとき嬉しかった。普通誰だってそう思うだろ?世界を救う英雄になれるってんならさ。
   ……この本みたく、現実も簡単ならよかった。魔王も悪い奴で、人々は虐げられてて、そうだったなら……
   あ、悪い。あんたに言える話じゃないよな」
   
グリフォン「別に気にしなくていいさ。話半分に聞いてるから」

勇者「そっか。……俺、どうしたらいいのか分からないんだ。魔族を救ってやりたい。でもどうすればいいのか…。
   俺は勇者なのに無力だ。情けない話だよな。
   あんたならどうする?街で一番の年長者なんだろ?年の功とやらで教えてくれよ」
   
グリフォン「私かい? んー……私なら、君の国の王様暗殺して、自分が王になって魔族を救うけど」

勇者「あ、暗殺? あんた……本気で言ってるのか?」

グリフォン「冗談に決まってるじゃん ブフッ」

勇者「殴っていいか?」

グリフォン「だってもしそうなったとしても、国民の魔族への負の感情は残ったままなわけだし、結局同じ歴史を辿っちゃうよねぇ」




勇者「難しいな。なんでこうなっちゃったんだろうな。俺はこの島に来てみて、人間も魔族もそんな大差ないように思えたんだけどな」

グリフォン「難しいだろうさ。知ってるかい?
      100年前勇者に倒された先代魔王が、魔族を統一するまで、それぞれ種族同士の争いが絶えなかったそうなんだ」
      
勇者「そうなのか?」

グリフォン「魚人とマーメイド族。ケンタウルスとエルフ。ヴァンパイアと悪魔族。ずっと戦いが続いてた。人間だってそうじゃないの?」

勇者「……そういえば、そうだな。王国ができる前はもっと小さな都市同士で争いが続いてた」

グリフォン「だろう?つまり、魔族同士、人間同士でだって、違う種族・民族間で手を握り合うのは至極困難なことなんだ。
      どうして魔族と人間がそれぞれ魔王や国王のもと、一つにまとまったかっていうと、多分お互いの存在が鍵だったんじゃないかな。
      ほら、よく言うでしょう。敵の敵は味方だって」
      
勇者「より大きな敵から身を守るために、敵同士まとまったってことか」

グリフォン「だからさ、魔族と人間も、もっと強大な敵が新たに現れれば団結するかもねぇ」

勇者「宇宙人でもこの世界を侵略しに来ねえかな……って、来るわけないだろ」

グリフォン「はははは。まあ、なんとかなるさ。ところで私はいま本を読むだけじゃなく、書いてもみているんだ」

勇者「へえ、どんな本?」

グリフォン「勇者と魔王が手を取り合う話。結末はまだ書いてないけど、ハッピーエンドの大団円さ」

勇者「……そうなればいいけどな。完結したら、読ませてくれよ」

グリフォン「いいとも。君をモデルにしているんだから、本の中の君に負けないくらい、頑張ってくれよ」ニコ


グリフォン「君はきっと、英雄になれるさ」



* * *

魔女「はぁ~~~~~ 疲れたぁぁ。人間たちが来るまであと1週間かぁぁ。もう対策にヘロヘロだよ~~
   まじ勇者たちの王様ってなんなの?ちょう腹立つんですけど」
   
竜人「魔女、当日の回復薬は伝えた分全て精製できましたか?」

魔女「待ってあともうちょっと。ったく、回復薬じゃなくて回復役がほしいんですけど」

竜人「ガンガン攻めるぞパーティですからね、私たち。
   魔王様、当日の魔族全員の避難経路確保しました」
   
魔王「分かった。あとは防護結界の補強なんだが……大砲の威力とはどの程度のものなのだろう。
   一応術式を組みなおしてみたが、もっと強力なものにした方がいいだろうか」
   
竜人「そうですね。でも、これ以上強力になんてできるんですか?」

魔王「正直かなり難しいが、結界は破壊されたら終わりだからな。やれるところまでやってみよう」

魔女「魔王様、ちゃんと休んでる?なんか疲れてない?」

竜人「……確かに。いけませんよ魔王様。研究は少しの間とりやめにして、お休みになられては」

魔王「軍隊がくるまでもう時間があまりないんだ、ここで私が休むわけにはいかない。
   今日は勇者くんたちが来る日だったな。私は研究室にいるから、彼らが来たら呼んでくれ」


バタン


竜人「魔王様……大丈夫でしょうか」

魔女「……」




魔王「……」パラッパラッ

魔王「古い文献を見ても目ぼしいものはないな。……ならばここをもう少し変えてみれば……」カリカリ

魔王「いや、違うな。これでは魔力の消費が激しすぎる。あんまり結界に魔力を使っては、ほかの魔法が使えなくなる……」

魔王「……」カリカリ

魔王「……、あ」ガタン

魔王「しまった、インクが……ああ、せっかく……羊皮紙が全部真っ黒に…………」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……ああもう!!」


ガッシャァァァァン!!
 バサバサ……
 


……ガチャ

魔女「魔王様?なんかおっきな音聞こえたけど、どうし……」

魔王「……」

魔女「うわあ、よろけてぶつかっちゃったの?机の上のもの全部、床にぶちまけられてるけど」




魔王「……ない…」

魔女「……魔王様?」

魔王「なにもかも、全然うまくいかない!!なんでだよ!!!なんで……!!
   私は10年前からずっと、頑張ってきたのに!!!」
   
魔女「え? ま、魔王様、どうし」

魔王「もっともっと強い魔法を考えないと、みんな死んじゃうんだっ!
   早くしないと、時間が、時間がないって分かってるのに!!」ダンッ
   
魔女「ちょ 落ち着いてって……まお」

魔王「うるさい!!!うるさいうるさいっ 大体なんで人間の王はあんなに分からず屋なんだよっ
   こっちは戦争とか始めるつもりなんかないって言ってるじゃないか!!
   どうせ権力が脅かされるのが怖いだけだろっ!!」ダンッダンッ
   
魔女「ま」

魔王「魔族に会ったこともないくせに!この臆病者が!!」





魔王「一週間後もし私たちが人間どもを撃退できたとしても、いつかまた人間どもはこの島に来る。
   また逃げればいいのか?どこまで?そもそも、そんな都合のいい土地あるのか?」
   
魔王「私たち魔族は………………この世界で生きていくことすら許されないのか!?」

魔王「ふざけるなっ!!!」

魔女「魔王様、」

魔王「やっぱり、人と魔族が分かり合うことなんて無理なんだ……ッ!!!
   私たちの声はあいつらに掻き消されるばかりだ!!!」


魔王「私たちは……人間に勝てない……!!」









勇者「そんなことねぇよ」




魔王「一週間後もし私たちが人間どもを撃退できたとしても、いつかまた人間どもはこの島に来る。
   また逃げればいいのか?どこまで?そもそも、そんな都合のいい土地あるのか?」
   
魔王「私たち魔族は………………この世界で生きていくことすら許されないのか!?」

魔王「ふざけるなっ!!!」

魔女「魔王様、」

魔王「やっぱり、人と魔族が分かり合うことなんて無理なんだ……ッ!!!
   私たちの声はあいつらに掻き消されるばかりだ!!!」


魔王「私たちは……人間に勝てない……!!」









勇者「そんなことねぇよ」



勇者「人間と魔族は、共存できる。俺とお前がその証拠だ!」

魔王「……っ」

勇者「…本気で思ってたわけじゃないんだろ。ちょっと疲れちゃったんだよな」

魔王「……」

勇者「お前はひとりじゃないよ。竜人も魔女も俺も神官も戦士も、お前の味方だ。一緒にこの島を守ろう」

魔王「…………とり乱して、ごめん。魔女も…」

魔女「ううん。びっくりしたけど。魔王様、やっぱりちょっと休んだ方がいいよ!ほら、こっちのソファに座って!」

魔王「床かたさないと」

勇者「いーーから、さっさと休め!どーせ最近寝てないんだろ、お前のことだから。睡眠不足だと身長伸びないぞ」グイ

魔王「わっ ゆ…勇者くん。降ろしてくれ」

魔女「私たちがここ片づけるからさ。ゆっくり休んで! ね!」



魔王「い、いや。大丈夫だから」ワタワタ

勇者「濃い隈つけた奴が足掻くな。寝ろ」

魔王「隈などつけては…………ぐー」

勇者「こいつって、寝付きだけは異常にいいな」


魔女「勇者助かったよー 魔王様普段あんまり怒らないからさー」

勇者「だろうな。ま、大勢の期待を一身に背負うって結構きついから、ストレス溜まってたんだろ。それにこんな状況だし」

魔女「魔王様があんなに怒ったところ……」

勇者「初めて見たってか?」

魔女「私が勝手に魔王様のケーキ食べた時以来だよ……怖かった」

勇者「意外としょうもなかったな」

魔女「魔王様の負担を少しでも、減らさなくっちゃね。私もさっそく頑張って薬品作りますか」

勇者「……あと、一週間か」


勇者(……俺は……)

今日の分は終わりです

これから投下終わりに、挿絵感覚で風景写真のっけようと思ってます
フリーの素材サイトから頂きました
よければ見てってください


http://upup.bz/j/my27808YUeYtgNLDSZFzXj6.jpg

グリフォン家
http://upup.bz/j/my27809CtEYtgNLDSZFzXj6.jpg

はり間違えとる 

>>141>>145差し替えで



魔王「……ッ」ギロ

勇者「分かり合えないなんてことはない。絶対できる」

魔王「所詮詭弁だ。勇者くんは人間だからそんなことが言える!私の、私たちの気持ちなんて分かるはずもない!」
   それとも慰めのつもりか?滅びゆく種族への憐憫か!?
   もういい……たくさんだ!!! もう、いやだ……」
   
魔王「人間なんか大っきらいだ!!ずっとずっとずっとずっと思ってた!!
   きらいきらい大っきらい!!!みんな死んじゃえばいい!!!」
   
勇者「……」

勇者「その、嫌いとか、[ピーーー]ばいいってやつに、俺もはいってるのか?」

魔王「…………っ、……………ぅ」

勇者「俺もさ、この城に来て、魔王や竜人、魔女に会う前は…島に住んでる魔族に会うまではそう思ってたんだ」

勇者「でも今は違う。ほら、俺は勇者で人間で、お前は魔王で魔族だけど、
   こうして今は分かり合えてる。手をとりあえてるじゃないか」
   
魔王「それはっ 勇者くんが……変なんだ!」

勇者「違う、むしろ世界で一番ありえない組合せだろ。神だって予想できなかった組合せのはずだ。
   一番難易度の高い俺を一番最初に落としたんだから、これからはもっと容易いはずだろ?」
   

おつん

いいね



* * *

魔族「魔王様だ。今日うちで獲れた野菜もってきます?」

魔族「魔王様!おはようございます」


竜人「いい天気ですね。魔王様」

魔女「ねえねえ魔王様~ 今日人間の街に行ったときにね、ちょうおいしいお菓子買ってきたよ!一緒に食べよ」


魔王様!
 魔王様……

 
 
魔王(私の大切な、大切な宝物)


魔王(この島にあるもの、全部、消させはしない)

魔王(絶対……絶対に、守ってみせる)

魔王(私は魔王なんだから……)




* * *


そして時が過ぎ、運命の日がやってきた。


時の女神「……」

時の女神「また、戦争がはじめるのですか。いや戦争と言うにはあまりにも……」

時の女神「……」


星の都

王子「……今日か。太陽の国の軍隊が魔族を制圧するというのは。
   さてどうなることやら……」





雪の国

女王「私の国の軍隊も貸せなどと厚かましくも文をよこしおって。だからあの国の王は嫌いなのじゃ。
   ふん、あいつの国も魔族も関係ない。せいぜい高みの見物でもさせてもらおうかの」
   
女王「結果が楽しみじゃ。あ奴の自慢の軍が負けるとも思えんがの……噂の魔王とやらはどうでるのか」





子エルフ「わーい魔王城だ魔王城だー!」

子ヴァンパイア「冒険しようぜ!」

エルフ「こら!だめ、今日は母さんと父さんの近くにいなさい!!」


魚人「人間が舟で攻めてくるって? この間みたいに魔王様と竜人様がズガーンとやっつけてくれんだろ?」

キマイラ「そうなればいいのですがね」

魚人「なーに 心配いらねえって。酒でも飲むかい!?」

キマイラ「あっ、海を見てください!あれが人間の乗った船ではないですか?」




魔王「……ついに、来たな」

魔女「ふはは、よく来たな愚かな人間たちよ!返り討ちにしてくれるわ!!」

竜人「なんですかソレ」

魔女「魔王様の代わりに魔王っぽいセリフを吐いてみた」

魔王「いらん。しかし……その心持でいった方がいいかもしれない。
   随分大きな船だ。それもあんなにたくさん、か。一か月前とは比べ物にならないな」
   
竜人「手加減なんてしてる余裕ありませんね」





魔王「とりあえず砲撃が一番厄介だ。射程距離に入られる前に追い返すことが目標だぞ」

竜人「ええ。そろそろ行きますか、魔女」バサッ

魔女「箒に乗って飛ぶのイヤなんだよねー だって下から見たらパンツ丸見えじゃん?」

竜人「馬鹿言ってないで、行きますよ」

魔女「はいはい」

魔王「二人とも、…………」

竜人「死にませんから大丈夫ですよ。必ずあなたの元に帰ってきます。では」バササッ

魔女「頑張ってくるね、魔王様!」ビュン

魔王「……頼りにしてる」


将軍「見えてきたぞ、魔王城だ。魔王軍は見えているか?」

兵士「ぐ……軍?なのか分かりませんが、幼子と細身の人物が二人……」

将軍「ふむ?軍を用意していないとは、まだこちらの来襲に気づいていないのか、はたまた慢心しておるのか……
   砲撃の射程範囲に島が入り次第、一斉に撃つぞ!!」
   
兵士「ハッ!」



兵士「……!将軍!!ドラゴンとあともう一人こちらに向かってきます!!」



兵士「マストに火がー!!」

兵士「くっ、なんて力だ!!」

魔女「こっちだって負けないよ!睡眠魔法!混乱魔法!麻痺!失神!魅了!!」

兵士「うわあああああっ 状態異常のオンパレードだぁぁぁぁ!!早く逃げろおおおお!!」

魔女「はい毒薬プレゼント!毎秒体力30%削る魔女ちゃんお手製ですよ!」ポイ

兵士「逃げろーーー!!もしくは撃ち落とせーーー!!!」


ワーワー
 バキャッ ニゲロー



将軍「ひるむな!!ええい、弓兵!射撃兵!撃ち落としてしまえ!!!」

兵士「ハッ!!」チャキ



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ズォオオオオオオオオッ


魔王「……クラーケンは生憎会ったことがないが。
   その姿、お借りしよう。最大水魔法」

   
   
クラーケン「ォォォォォォオォオォッッ」



兵士「ぐ、軍艦と同じくらいの大きさの……イカ!?!?」

魔術師「いえ、これは魔法で作られたまがい物です!」


ッバッシャァァァアン!バキボキボキッ!!


将軍「くそぉ!このままでは軍艦が破壊されるのも時間の問題か!!しかし、もうすぐで射程距離に……!」


将軍「勇者殿!!しばらく時間を稼いでくれませぬか!?」

勇者「やってるよ!」

戦士「fjりえsfじょrs」

神官「きゃーー!戦士さん!!混乱状態になってるー!!」

勇者「あーこのイカ斬っても斬っても意味ない(棒)」

勇者「しまった、イカ斬ろうとしたら大砲ぶった切っちまったぜ(棒)」ズバッ

戦士「jrふぃおえsじおdsr」バキボキ

将軍「ちょっ なにしてんだあんたら!!!」



竜(く、なんて頑丈な船だ。全部燃やしつくしてやろうと思いましたが、難しいみたいだ)

魔女「チッ うざったい魔術師だなぁ!私がかけた状態異常魔法、かたっぱしから解かないでよっ!!」

竜(数が多すぎる!私たちが戦闘不能にしていってる人数は確実に増えているはずなのに…これでは)


魔王「3艦やったな。あと残り何艦だ…?数える暇も惜しい。早くしないと」







兵士「将軍!射程範囲に入りました!」

将軍「よし、やっとか。砲撃用意!!!」


将軍「今だ!撃てーーッ!」



ドガァンッ!ドガン!


ひゅぅぅぅぅぅ…


魔王「!!」

魔王(持ちこたえてくれっ……!)


バチンッ!!!バチバチッ!!バキッ!!


魔王(……耐えたか…? いや、一か所ヒビが入っている。同じところに2回砲撃を食らうと流石に耐えきれないか)

魔王(今なら修復が手早く済ませられる!一回水魔法は解かねばならないのが痛いが。竜人、魔女、ひとまずまかせるぞ)


将軍「なんだ、結界かなにかが張ってあるのか!?弾かれたな」

魔術師「結界でしょうね。ですが一か所綻びができたようで……。さて、こちらも準備が整いました」



勇者(イカがいきなり消えた?まさか、結界が破られたのか!?)

神官「ゆ、勇者様!」

勇者「!?」



竜「くそっ 魔王様!!」

魔女「竜人!あそこの船の魔術師たち、なんか大がかりな魔法発動させようとしてる!!」

竜「!! させるか!!!」


魔術師「……」ニヤ



魔術師「彼の者たちを捕えよ!捕縛魔法!」


バチバチバチッ


竜「!? か、体が……」

魔女「ぎゃーっ! なにすんのよー!!」



将軍「捕えたな。全く手こずらせてくれたものだ……!!
   よし、再装填……といきたいところだが、先ほどのイカの化け物のせいで予備の砲弾が使い物になるかどうか」
   
兵士「少し時間がかかるかもしれません!」

召喚師「それならば我ら召喚術使いにおまかせを。時間稼ぎくらいならできますよ」

将軍「頼んだ。よし、大砲班以外の兵士たちは上陸の準備を済ませておけ!!」

将軍「これは……王から仰せつかったことだが。適当に何匹かの魔族は殺さず捕えておけとのことだ」

兵士「何故ですか?」

将軍「見世物にでもするのだろう。もしくは学者たちに譲渡されるか……私には理解できぬ趣向だがな。
   しかし王の命令ならば従うほかない」
   



召喚師1「召喚魔法!いでよ大鳥!」

召喚師2「さ、行きますか!」

召喚師3「結界の綻びを狙うぞ!!」


勇者「あっ おい!!」


兵士「将軍!捕えたドラゴンと魔女はどうなさいますか?」

将軍「捕縛魔法にも限界があるからな、今のうちに撃ち殺せ」

兵士「ハッ」



竜「うぐッ……!この……!!」

魔女「ちょっと、竜人……なんとかしてよ……!!」

兵士「構えろ。一斉に撃つぞ」

兵士「はい」チャキ


勇者「……!!」



魔王「!! 竜人!魔女! くっ……!
   焦っちゃだめだ、結界を早く修復しないと……ええと」
   
魔王「…? なんだ あれは? ……人か!?」

召喚師1「見つけた、ここが結界の綻びだ!」

召喚師2「俺がやる」


魔王「な……っ やめろ!」


ガキィィン!!!
―――パリンッ……


魔王「……!!」

召喚師2「成功だ!結界が破れたぞ」

召喚師3「こうなりゃこっちのもんだな。将軍に知らせよう。上陸できますとな」

召喚師1「ん? ウオォ!!?」ヒュッ

ゴォッ

魔王「お前ら!よくも!」

召喚師3「げっ!?なんだこの火炎魔法!! もしかして、これが魔王!?」




召喚師1「こんな子どもが? なんにせよここからすぐに去るぞ!戻れ!」

召喚師2「ああ。……ほらよ、置き土産だ!!出でよ幻獣!奴を噛み殺してやれ!」

幻獣5匹「グルルルル…」


魔王「小賢しい真似を。しかし上陸される前に結界を一から張りなおさなければ……」

魔王(魔力の残りも結界を張るので精いっぱいだ。こいつら相手に使っていられる余裕もない。
   剣は得意じゃないんだが、早くこいつらを片付けて結界張って竜人と魔女を助けないと)
   
幻獣「ガァッ!!」

魔王「っうぐ…!」ガキン


魔王「……こ、こんなことならもっと剣の訓練をしとくんだったな」

魔王「ちょっと厳しいかもしれないな、これは……」ハァハァ





竜「魔王様!」

魔女「魔王様ぁー!」



兵士「…よし、撃」


勇者(くそ!!! なんとか……なんとかする方法はないのか!?)

勇者(………ハッ!!)


勇者「ウワァー!!急に体が勝手にウゴクー!!
   魔王に操られてしまったみたいだ最大雷魔法(レベル99)!!!!」

   
   
カッッ!   
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!



兵士「ガッ」

将軍「グッ!?」

魔術師「ギッッ」



神官「ええええええ!?」

戦士「神官、伏せろ!」


パチパチ……バリッ……


将軍「」
全兵士「」
魔術師「」


勇者「やっちまった……大丈夫か、竜人!?魔女!?」

竜人「え、ええ。少し体がしびれますが」

魔女「勇者って……ちゃんと勇者だったんだね」

勇者「どういう意味だよ。って違う!それより魔王が!!」



  
カッッ!   
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!


魔王「!? うわっ… なんだあの魔法は?」

幻獣「ガゥ!」バッ

魔王「! ……いっ……」

幻獣「ガァァァァ!!」

魔王「ッ!(間に合わない…!)」


ガキン!!


魔王「え?」

魚人「無事ですかい魔王様! おらっ獣は消毒だぁー!」ブンッ

幻獣「キャウンッ」

キマイラ「魔王様下がっててくださいね」

グリフォン「やれやれ、もう戦えるような年じゃないんだけど」

キマイラ「なに言ってんですかまだまだ若いでしょう」




魔王「なんで……危険だ!城に避難していてくれって伝えただろう!」

魚人「そりゃあ俺たち魔法も何も使えませんがねっ こちとら毎日酔いつぶれた客相手にしてんだ!
   それに比べりゃこんな獣、相手になりませんよ!」
   
ボカッ!ザシュッ!

キマイラ「そういうことですね」ガブッ

幻獣「ギャッ!」シュゥゥゥ…


グリフォン「生命をもたぬ獣か。人間もなかなかおもしろい術を考える」

魚人「おいっ くっちゃべってねぇであんたも戦ってくださいよ」

キマイラ「魔王様は早く結界を!」

魔王「っあ、ああ!」



ヒュンッ

勇者「魔王!無事か!?」

魔王「えっ!?勇者くん?」

竜人「お怪我されてるじゃないですか!なにしてくれとんじゃこのクソ幻獣がッ!!」バキッ

魔女「結界が破られてるね」

勇者「あれ?さっきこっちに来た召喚師どもは?」

魔王「船に戻ったが……勇者くんこっちに来て大丈夫なのか?」

魔女「船の人間全部、勇者が気絶させたよ」

魔王「え」

竜人「どうやらその召喚師とやらで最後みたいですね。3人くらいならば私一人で十分です、食いちぎってきます」

魔女「いや殺しちゃだめでしょ?」

竜人「フ○ック!魔王様に怪我させた奴ら生かしといていいんですか!?嫁入り前の娘になんてこと!」

魔王「……竜人、私はいいからとりあえずその召喚師を気絶させてきてくれ。気絶な、き・ぜ・つ」

竜人「承知しました!!ぶっ殺す!!」バサッ

勇者「話聞いてたかお前!?」

魔女「ハァ、あたしもついてくよ……」



魔王「……」

魔王「……ん」パチ

魔王「……いつから寝てたのだろう」


竜人「あ、お目覚めですか。よかった」

魔王「今日は何日だ?」

竜人「人間が軍艦でやってきてから1週間です。
   魔王様は結界を張りなおしたことによって魔力を使い果たして、あのあと倒れてしまったんですよ」
   
竜人「獣にうけた傷も塞がってますね。痕が残らないで本当によかった」

魔王「そうだ……勇者くんは?人間たちを気絶させるために魔法を使ったのだろう。
   無事なのか?今どこに?」
   
竜人「そこらへんはうまくごまかしたみたいですよ。今彼は王国にいます。
   一度、魔王様が眠っている間彼らが話をしにやってきました」
   
魔王「……どんな?」



バタン


魔女「半年後。さらに兵士も魔術師も増やして、これで最後の最後、本気で仕留めるって覚悟で
   もう一度魔族討伐作戦を決行するってさ」
   
竜人「魔女、」

魔女「やっぱ今回の軍艦破損が痛かったのかな。大分時間が空いたよね。助かるよ」

竜人「どうでした?見つかりましたか?」

魔女「全然。そんな簡単に見つかるわけないしね」

魔王「……なんの話だ?」


魔女「魔王様」

魔女「この島から逃げましょう」

魔王「え…?」





竜人「いま魔女と私で、まだ人に見つかっていないような土地を探しています。魔族が全員住める、この島のような、土地を」

魔女「もうここはだめだよ。2度目の襲撃で陥落しそうになったのに、3度目で耐えられるわけない。
   私たちがいくら頑張っても、所詮3人じゃ無理があるよ。しょうがないよ」
   
竜人「幸い時間は半年間も残されています。その間に私たちで新たな魔族の地を探しだしてみせます。
   魔王様は何も心配されなくて大丈夫ですよ。ご療養に専念してください」
   
魔王「待ってくれ。逃げるって……新たな魔族の地なんて、まだこの世界にあるのか?
   この島だってようやく見付けだしたものなのに…」
   
魔女「大丈夫ですよ。なんとかなる!また、逃げましょう。昔みたいに。逃げて逃げて逃げまくろう。この世の果てまで」

竜人「せっかく10年かけて作り上げたこの街や畑を手放すのは惜しいですが。また作ればいいんです。ね」

魔王「…………うん…そう、だな。仕方のない……ことだ」

魔王「……頼む」



勇者「待ってくれ!!」バタン




勇者「勝手に上がらせてもらってるぞ」

神官「こんにちは皆さん。魔王さん目が覚めたんですね」

戦士「久方ぶりだな」


竜人「勇者様たち。どうされたんですか?」

勇者「話があってきたんだ。俺は……」


勇者「俺は、6カ月後以内にクーデターを起こすことにした!国王を王の座から引き下ろす!!」



魔王「え?」

魔女「?」

竜人「えええ!?」

訂正 6か月後以内→6か月以内




勇者「といっても暴力的な手段に訴えるわけじゃない。無血クーデターだ。俺の国の法律には特例があってだな……」

魔王「ちょ、ちょっと待ってほしい。勇者くん。なにを言ってるんだ?」

勇者「なにって?クーデターを起こすんだよ。魔族を救うにはそれしかない。何度説得してみようと思っても無駄だった。
   魔族に強い嫌悪感をもってるあの王が国王のままじゃ、いつか魔族は滅ぼされるぞ。もしまた半年後に軍隊を撃退できてもな」
   
魔王「クーデターって、そんなことを勇者たる君が率先して行っていいのか?大体ばれたらどうする」

勇者「ばれたらまずい。そりゃあな。しかしばれなければまずくない」

戦士「当然だな」

魔王「…危険だ」

勇者「大丈夫だ。俺は正しいことを行いたいだけだ。道を踏み外したくはない。俺が見た限りでは、
   国王のやろうとしていることは悪で、お前らの主張が正しいように思えるんだよ。善悪なんて二元論じゃ語れないかもしれないが」

勇者「とにかく、まあ聞け」




~~~~


勇者「半年後に……また、ですか」

王「これで最後だ。そのつもりで惜しみなく軍力を注ぐ」

勇者「…………」グッ

王「雪の女王はまた素気無く断るだろうが、星の王子は捕えた魔族を被験体として差し出すと申せば、
  もしかしたら軍をよこしてくれるかもしれんな」
  
王「今度こそ必ず魔族をこの地から根絶やしにする。分かっておるな、勇者」

勇者「……何故ですか?」

王「何故と申すか?おかしなことを聞く。この世界は我ら人の支配する地だ。危険因子となる野蛮な種族は……
  浄化してやらねばならん。神の仰せのままに」
  
勇者「……………………」


バタン!


姫「お父様!今のお話は本当なんですか!?」

勇者「!」

王「やれやれ。盗み聞きとは感心しないぞ、娘よ」

姫「それより、今のお話。また半年後に軍隊を出動させるですって?軍費は無限じゃないんですよ。
  そんな害をなすか分からない魔族に資金を費やすより、もっとやることがあると思います」
  
姫「福祉施設や学問施設の設立。今ある数多の孤児院や病院だって、お金を必要としているところはたくさんあります。
  難民の問題だって残っているじゃありませんか」
  
王「娘よ。王たる者は長い目で物事を見通さなければならん。ここで魔族を取り逃がしたら将来苦労するのはお前たちの代だぞ」

姫「ですが……」

王「もうよい、さがれ。勇者も下がってよいぞ」





姫「なによ!お父様の分からず屋。勇者もそう思うでしょ?」

勇者「あー……ははは。相変わらずですね姫様」

姫「お父様は私の話なんてちっとも聞いてくれないの。どうせ娘は王位継承者じゃないからって、軽んじてるんだわ!んもう」

勇者「そんなことありませんよ……多分」

姫「気をつかわなくて結構ですわ。私、お父様が時々風車を巨人だと思って突進するドン・キホーテに思えます」

勇者「なまじ力があるだけに厄介だよな。……あっ!も、申し訳ありません!」

姫「ふふふ、そのように気さくに喋って頂いて結構ですのに。何度も申し上げていますけれど。
  ではまた会いましょう、勇者」
  
勇者「ええ。また」


勇者「……ドン・キホーテね……原作なら突進して大けがするけれど、王が騎士なら風車は全壊だ」

勇者「……なんのために、この剣を振るうべきなのか。俺はもう分かっているはずだ」





宿


神官「半年後って、どうしましょう、勇者様」

戦士「これはかなりまずい事態だな……なんとかならんのか」

勇者「……国王を裏切ろう」

神官「はい、そうですよね……って、はいいぃぃ!?」

戦士「ブゴッ!」ビチャ


勇者「国王を!裏切る!!俺は決めた!!」

神官「ちょっと!!声が大きいですって!!処刑されかねない発言はせめてもうちょっと小さな声でお願いしますよ!」

勇者「俺はもう王のもとで剣を振るうことができない。神の仰せのままにとか言ってるけど
   要するに戦争になったらまずいから今のうちに反乱因子を排除しようってのと、元魔族の住んでいた大陸北部の土地がほしいだけだろ!」
   
勇者「完全に小心者が私利私欲に目がくらんだ結果じゃないか。魔王たちは戦争なんて起こすつもりなんかない。
   なのにこのままだとあいつら本当に絶滅させられちまう。クーデターしかねえよ」
   
戦士「しかし……クーデターとは。具体的にどのように起こすか考えているのか?」

勇者「う…それはまだ。できれば穏便に済ませたいんだが」

神官「それならあるかもしれません」

勇者「ほんとか!?」



神官「た、ただですね。かなり成功率は低いと思いますよ……事実歴史上いまだ誰も達成できていない方法です」

勇者「それでもいい。どんな方法なんだ?」

神官「この国は、国王が治める君主制の国です。太陽の国だけじゃなく、雪の国も星の国も。それは知ってますよね?」

戦士「うむ」

神官「でも絶対君主制ではないんです。制限君主制なんですよ、大陸にある3国とも」

勇者「おい、話が難しいぞ。よく分からない」

神官「ええとだから、国王が好き放題できるかと思ったらそうではないんです。一つだけ、国王の定める法より上位の法が存在しているんですよ」

神官「それが神法です。一条だけ神によって定められたという、神法」

神官「その一条とは、『一人の国王が王らしからぬと判断された場合、他の二国の王がそれを認めれば、その王を王座から追放することができる』
   というものです」
   
戦士「……??」

勇者「……??」

神官「えーと!ええっと!」



神官「神法が制定されたのは、大昔に三国のうちどこか一国で悪質な独裁者が生まれてしまったことが発端だったんですよ。
   その国の国民だけじゃなくて、大規模な人間同士の戦争も起こっちゃってかなり被害が大きかったそうです。その年は一気に人口が減って……」
   
神官「で、そういうことがまた起きたらまずいってことで、国王以外の者が条件を満たせば国王を追放できるっていうこの法が生まれたんですよ」

勇者「へえ。つまり、俺たちも雪の女王と星の王子から認定をもらえば、無血で革命が起こせるってわけか!!」

戦士「なるほどな、幸い俺らはその二人とも面識がある。便利な法があったものだ」

神官「あ……でもですね!これには続きがあって。革命によって国王がいなくなったら、そのあとだれでも王になっていいってわけじゃないんです
   その国が法律で定める王位継承者。正式な継承者と、二国の認定書があって初めて行えるものなんですよ」
   
勇者「この国の王位継承者って王子だよな。姫様の兄の」

戦士「いま他国に留学中だと聞いたが」

勇者「つうか俺会ったことないな。いつから留学中なんだ?」

戦士「さあ。俺も見たことがない」

神官「私もです。これは噂なんですけど、留学とは言えど行方が分からないそうですよ……」

勇者「は!?」




勇者「一国の王子がそれで大丈夫なのか!?オイオイ」

神官「たまに王宮に手紙が届くそうなので、生きてはいらっしゃるんでしょうけど……」

戦士「その王子を連れ戻さなければ、無血クーデターも始まらんというわけか」

勇者「まあ、どうせ世間知らずのボンボンなんだろ?行方不明とは言っても多分大都市を見て回ればすぐ見つかるんじゃないか」

神官「だといいですけど。ああ、それにかなりの美男みたいですよ。結構目立つと思います」

勇者「羨ましい限りだ。よし、とりあえずクーデターの方向性は決まったな。あとは動くのみだ!
   ……勝手に話進めたけど、お前らは別に危険を冒す必要はないぞ。俺が勝手に決めたことだしな」
   
戦士「といっても、計画のほとんどを今話してしまったではないか。これで俺が今すぐ王にこの件を伝えたらどうするつもりだ?」

勇者「うっ……」

戦士「ハハ、冗談だ。水臭いことを言うな。協力するに決まっているだろう」

神官「わ、私も……やってやりますよ!勇者様、協力します!共に魔王さんたちを救うために頑張りましょう!」

勇者「ありがとう、神官、戦士。そう言ってもらえると心強いぜ」

勇者「よし……!打倒国王だ!!」

神官「おーー!」

~~~~


勇者「というわけだ」

魔王「勇者くんは馬鹿だったのかな?」

勇者「ええー!!?なんだこの言われよう。お前らのためにと思ってだな!」

魔王「危険すぎるだろう。そんなのマーメイドの目前で魚料理食べるレベルの危険度だ」

神官「例えがよくわかりませんけど魔族ジョークかなにかですか?」

魔王「その神法が勇者くんや戦士殿が知らないくらい公にされていなかった理由はなんだ。それが歴代国王にとって都合の悪いものだからだ。
   あの王がこの神法を利用しようとする者を畏れないはずがない。その危険性がわずかでもあれば躍起になって探すはずだ」
   
魔王「死ぬぞ」

勇者「死なないよ。これしか方法はないだろ?だったらやるしかないじゃないか」

勇者「行方不明の王子を見つけ出す!雪と星の国から認定書をもらってくる!そしてお前らを救ってみせる」

魔王「……なんで、そこまで。勇者くんは人間なのに…」

勇者「あーもう、人間とか魔族とかもうこの際関係ねえだろ!俺は守りたいもんを守るために力を使いたいんだ、ただそれだけだ!」

魔王「……。………馬鹿か」




竜人「皆さん……ありがとうございます。そこまで力になって頂けるなんて」

魔女「ほんと助かるなー!私たちも勿論クーデターに参加するよ!ていうかクーデターってなに?」

竜人「あなたはちょっと黙ってて下さい」



勇者「で、だな。まず王子の居所を突き止めるのと、2国への遠征をするのも勿論なんだが、
   俺たちの支持者を集めることも大事だと思うんだ」
  
戦士「いきなり王位が変わっても理由が分からなければ国民にとってはなんの意味もないからな。
   俺たちの行動意義を世間に広めなくては」
   
神官「どうせ水面下で活動するなら、輪を広げてやった方がいいですからね」


魔王「なるほど。でもどうやって?」



勇者「まず姫様みたいに度重なる侵攻を軍費の無駄遣いと考えてる人。
   それからきっとこれから税も重くなるだろうし、それを不満に感じる人もでてくるだろう」
   
勇者「まあそこらへんの王への不満を逆手にとって、こっちの仲間にしようかと思う。
   王都だと魔族にほとんど無関心……つまりいい感情も悪い感情ももってない人がいるしな。姫様みたく」
   
神官「できれば影響力と経済力のある人を早々に味方にいれたいですけど、難しいですかね」

戦士「やってみなければわからんぞ」

勇者「まず俺と神官と戦士で支持者集めをするから、魔女と竜人は王子を探してほしい
   その王子っていうのがどこにいるのか分からないんだが……とにかく美男らしいぞ。今のところ手がかりはそれだけだ」
   
魔女「美男!?イケメン!?よっしガンバろーね竜人!」

竜人「えええ手がかりそれだけですか!?さすがに難しいですよ!?」

勇者「一応王子だから身なりは小奇麗だと思うし、オーラもあるんじゃないか?」

竜人「だから曖昧すぎますって。そんな人物世界で何人いると思ってるんですか」

魔女「要するにキング・オブ・ザ・イケメンを探せばいいんでしょ?大丈夫、あたしにまかせてよ」

竜人「こら安請け合いしない!後で後悔しますよ!」



魔王「地盤から固めていくのだな。よし勇者くん!私も精いっぱい頑張るぞ。なにをすればいい?」

勇者「あー……」

魔王「なんでもやるぞ。遠慮せずに言ってほしい」

勇者「えっとな。遠慮とかじゃなくてな。お前は何もしなくていい」

魔王「なっ 何故だ。私だけ何もせずにいるなど、魔王の名が廃る」

勇者「お前この城から出れないしな……ぶっちゃけ今の段階じゃあ役立たず!」ビシ

魔王「や…役立たず」ガーン

勇者「つーわけでしばらく俺たちに任せろよ。魔王はこの島の自治とかいろいろあるだろ?あと城の草むしりとかさ」

魔王「勇者くんたちがクーデターのために尽力している間に、魔王の私が草むしりだと?
   やだ」

勇者「やだってお前」



魔王「私も何かしたいんだ」

竜人「魔王様はゆっくり休んでてくださいよ」

魔王「やだ。やだやだやだ。何かできることはないのか」

勇者「残念ながらねえな。とりあえず当分俺らにまかせろって。駄々こねんな」

魔王「……」

勇者「睨んでも無駄だ」

魔王「…………っ竜人、魔女。何か…」

魔女「じゃああたしの部屋片付けといてー」

竜人「自分で片付けなさい!!全くちょっと目を離すとすぐに自室散らかして!散らかしの天才ですかあなたは!!」

魔女「ぶー」

魔王「違う、そういう日常的なものじゃなくて、もっと重大な役割を……」


戦士「……」ポン

神官「……」ポン

勇者「諦めろ、魔王」ポン

魔王「やだ!」

今日はここで区切ります
ファンタジーっぽくない展開だけどファンタジーと言い張る


>>184 草むしり現場
http://upup.bz/j/my29950jQmYtgNLDSZFzXj6.jpg

たまたま見つけたら面白いじゃないかよ

乙。楽しみにしてる

魔王かわいい……

良い展開じゃないの
何でもかんでもファンタジーな方法でやられるよりずっと面白い

いい展開だな

続きが待ち遠しい


* * *

王都


神官「いよいよ今日から活動開始ですね。で、誰から声をかけますか?勇者様」

勇者「いろいろ考えたんだけど、姫様がいいんじゃないか」

戦士「い、いきなりか」

神官「勇者様……ちゃんと考えてますか?裏切ろうとしてる王に最も近い人物じゃないですかっ
   いいですか、私たちの支持者集めは、声をかけたら99%承諾してくれる人を選ばなくちゃならないんですよ!」
   
神官「だってクーデターのことを話すってことは、当然私たちがクーデター策謀者だってこと正直に明かすってことなんですよ」

勇者「分かってるさ。でも姫様なら、絶対いい返事をくれそうな気がするんだよ。彼女は国民のことを真摯に考えてる」

戦士「リスクが高すぎる気がするが……まあ、旅の中でお前のそういう直感が外れたことはなかったな。俺はお前に着いていこう」

勇者「悪いな、いつも無茶つき合わせて」

神官「ええー…本当にいきなり姫様にいくんですか!?私だって姫様を疑うわけじゃないですけどぉ…もうちょっと考えた方が……」

勇者「問題ない!俺にまかせろ!!」

神官「えええええー…」



宮殿

門番「これは、勇者様。いかがいたしましたか。陛下には今謁見できないのですが…」

勇者「いや、陛下じゃなくて、姫様は……」

姫「? 勇者、私になにか用なの?」

勇者「姫様!ちょうどよかった。少しばかりお話が」


姫の部屋


神官(うわーうわー!姫様のお部屋、すごい豪華……)

戦士(こらキョロキョロするな)


姫「珍しいですわね、私個人にお話なんて。一体どうしたの?」

勇者「ええと、昨日、王との謁見の後にしたお話を覚えてらっしゃいますか」

姫「? ええ。それが何か?」

勇者「……えっと、なんて言ったらいいのか…。俺たちクーデター起こそうと思ってるんですけど」

姫「!?!?」

神官「」ズコー

戦士「」ズコー

姫「くっクーデターですって…?」ガタガタ

神官「勇者様ぁーーーー!!いくらなんでも言葉選ばなすぎです!!!」

勇者「ぐえぇッ 苦しい…!」



神官「違うんです姫様!あの衛兵呼ぼうとしないで下さいごめんなさい!ちょっとうちの勇者様アホの子で!!」

戦士「まことにすまん!とりあえず話を聞いてくれ!!勇者が馬鹿で本当に申し訳ない!」

勇者「誰が馬鹿だオイっ 申し訳ありませんでした姫様!ちょっとだけ話聞いてください!!」




姫「……で、どこが誤解ですの……勇者、まさか本気でクーデターを起こそうとしてませんよね?聞き間違いですよね?」

勇者「姫様は国王様が魔族相手に軍を派遣することに否定的でしたよね?」

姫「ええ。もっと使い道はたくさんありますもの……」

勇者「俺たちも姫様と同じように考えてるんです。軍隊なんて派遣するべきじゃない。
   なんとか国王様にそのことを訴えたんですけど、どうにも……」
   
神官「姫様は神法のこと、ご存じですか?」

姫「神の法……勿論ですわ。まさか、あなたたちはそれを実行に移そうとしていらっしゃいますの?」

勇者「……はい。半年後の一方的な戦争を起こすのを阻止するためには、国王に王座から退いて頂くほかないと判断しました。
   姫様。どうかあなたの力を貸していただきたいのです」
   
姫「……」




戦士・神官「……」ゴクリ

勇者「お願いします。俺たちに力を貸してください。よりよい国の未来のために」

姫「……二つ、質問させて下さい。神の法をもし仮に本当に執行させたとして。……その後お父様をどうなさるおつもりなの?」

勇者「俺たちはあくまで戦争を止めたいだけです。処刑をするつもりはありません。国の最高権力を譲り渡して頂くだけです」

姫「そう……。では二つ目の質問です。先ほど『半年後の一方的な戦争』と言いましたが、どういうこと?
  魔族側の戦力を知っていないと出ない言葉だわ。あなたは魔族にも魔王にも接触してないと報告では聞きましたが?」
  
勇者「正直に申し上げますと、それ嘘です。俺たちは魔王にも魔族にも会いました。
   魔王は人間に敵意なんて持ってません。復讐なんて起こそうとしてません!」
   
姫「……確か、お父様にそのような旨の手紙が届いたそうですわね」

勇者「全て真実です。ですが国王様の意志は変えられなかった。このままでは確実に魔族は滅びます。
   俺はそれをなんとかしたい。救いたいんです。人間と魔族の共存だって絶対できるって思ってます」
   
姫「…………全く。この宮殿で、国王の娘たる私に、父を裏切れと申すのですか。私が一声上げればすぐに騎士も衛兵も駈けつけるのに。
  実直を通り越して愚直な行為ですよ、勇者」
  
勇者「…………姫様を信頼しての行動です」ダラダラ

姫「すごい汗よ。…………でも。誠意は伝わりました。とりあえず、詳しいお話聞かせてくださいますか?」

勇者「は、はい!」




姫「……なるほど。あなた方のお話を真実とするなら、魔王はハンバーグがお好き、と……」

神官「いや、そこですか。もっといろいろ話したじゃないですか」

姫「冗談です。魔族側の事情、意志。しかと聞きました。本当に今のお話は全て真実なのね?」

勇者「はい」

姫「そう……なら、やはりお父様を止めなくてはなりませんね……」


姫「私もあなた方に協力しますわ」

戦士「おお…」

神官「姫様…!」

勇者「有難うございます、姫様!」


姫「それで、私は何をすればいいの?」

勇者「まず反戦同盟のメンバーをできるだけ多く集めたいんです。
   姫様の人脈を使って、俺たちの考えに一致する……もしくは開戦に反対する人に声をかけて頂けませんか?」
   
姫「思い浮かぶ人は結構います。私の周りでも、お父様の急進的な考えに戸惑いを隠せない人は少なくありませんし……
  分かりました、出来る限りやってみるわ」
  
戦士「有り難い。宮殿や貴族のことは姫様に一任できるな」

姫「あ、あと、お兄様の居場所は見当はついてますの?神法執行にはお兄様の存在が不可欠ですよね?まさかもう見つかって…?」

神官「あう……」



勇者「いや全然、全く。見当すらついてません」

姫「そ、そう。まあ……難しいかもしれませんね……私もお兄様が留学と銘打って宮殿を出てから会ってませんもの」

戦士「王子の特徴や、行きそうな場所など心当たりはないだろうか?我々も今探している途中なのだが」

姫「特徴……うーん。私と似てる、くらいでしょうか。特に目の色なんかはよく瓜二つだなんて言われます。
  ええと、あとは女性によくもてますね。舞踏会なんかはすごかったわ。本人はうんざりしてたけれど」
  
勇者「姫様もお綺麗ですもんね」

姫「そっそんなこと言われても嬉しくなんかないんですからねっ! と言っておけばいいですか?」ハァ

勇者「雑!」

姫「あとは行きそうな場所ですか?うーん……そういえば星の国には興味を持ってましたよ。一度あの天文台に上ってみたいって言ってたわ」

神官「本当ですか!すぐに竜人さんと魔女さんに伝えないとっ!」

戦士「初めて手がかりらしい手がかりを入手できたな」

勇者「ああ!よかった。ありがとうございます姫様!」




姫「……さて、ごめんなさい、そろそろ私は稽古の時間ですので……」

勇者「じゃあ失礼しますね。姫様、本当に……有難うございます。俺たちに力を貸してくれて」

姫「力を貸す、という表現は不適切ですわ。私もあなた方の理念に賛同したから、行動するだけよ。
  力を合わせましょう。よりよい人の……いえ、人と魔族の未来のために」
  
勇者「…ええ、そうですね。頑張りましょう!では、失礼します」



城下町


勇者「やったな!」

神官「もう勇者様ったら、最初いきなりクーデターって言いだした時にはどうなることかと思いましたよ……」

戦士「姫様もドアに駆け寄ろうとしていたぞ?頼むから今度からは言葉を選べよ」

勇者「悪い悪い。まあ結果オーライじゃないか。かなりいい出だしだ。姫様は人を見る目もあるし、強力な支持者が集まるぞ!」

神官「確かに」




神官「さて、それでは私はこれから神殿の何人かに声をかけてみようかと思います」

戦士「俺は傭兵部隊に所属していた頃の仲間を何人かあたってみよう」

勇者「ああ頼む。俺は……そうだな。冒険者のギルドとか行ってみるかな。
   じゃあ今日の午後は別行動にして、明後日あたりにまた集まって報告しよう」
   
神官「分かりました。………………ふふふ」

戦士「どうした神官」

神官「ごめんなさい。う、生まれて初めて、その……大声で言えないことをしてるのに、なんだか高揚してるんです」

戦士「ははは。神官は反抗期なんかはなさそうだしな。かく言う俺も、罪悪感より高揚感の方が高いぞ。
   ただ上に言われるままに敵を排除するのより、よっぽど今の方がやりがいがあるわ」
   
神官「ちょっと昨日はびくびくして眠れなかったんですけどね。……私、小心者なんです」

勇者「大丈夫、できるさ。俺たちなら。明後日の報告も期待してるぜ」

神官「は、はいっ」

戦士「俺たちもお前の報告に期待しておるぞ?勇者」ニヤ

勇者「はん、上等だ。あまりの成果に驚くんじゃねえぞ」

戦士「言ったな。じゃあ3人のうち誰が一番支持者を集められるか、勝負だな」

勇者「いいぜ」

神官「ええええっ!ちょっ勝手に!」

勇者「一番少なかった奴は罰ゲームだな」

神官「だから私抜きでやってくださいよ!!!」



戦士「罰は何にするか」

勇者「一日語尾に『にゃん』をつけて話すのはどうだ?かなり恥ずかしいだろう。いい年した俺たちが『にゃん』とか」

神官「いやですよ!何言ってんですか!?」

戦士「フッ いいだろう。俺が負けたら娘と妻にそのまま会いにいって『パパ帰ってきたニャン』と開口一番告げてやろう」

神官「離婚嘆願されても知りませんよ!?」

勇者「じゃあ明後日、楽しみにしてるぜ!あばよ!!」ダッ

戦士「それはこちらの台詞だ!!」ダッ

神官「ああ~もう!こうなったら絶対負けられない!!」ダッ



2日後


神官「3人が集めてきたメンバーを合わせると、結構な数になりましたね!まだ一週間も経ってないのに、かなり順調ですよ!」

勇者「おい」

神官「…………かなり、順調ですニャン……」

戦士「うむ。これで冒険者ギルド、兵士、神殿、宮殿……それなりに反戦同盟の種をまけたな」

神官「ええ。それなりに実力も影響力もある人々が集まったので、
   私たちが動くと共にこれからその人たちが同盟の輪を広げていってくれれば、支持者集めも楽になりますね」
   
勇者「おい」

神官「とりあえず同盟の基盤はできたと思いますニャン!!幹部メンバーも集まりつつあると思いますニャン!!!これで満足ですか!?」

神官「なんで私が罰ゲームうけなくちゃいけないんですか!!完全にとばっちりじゃないですか!!
   ここは最年長で厳つくて妻子がいる戦士さんがニャンニャン言って周りにドン引きされる展開が一番おいしいじゃないですかニャン!!」
   
戦士「ふざけんな」

勇者「お前が一番集めてきたメンバーが少ないんだよ。なんだ8名って。俺24名、戦士19名だぞ。ひとけたってなめてんのか」

神官「だって神殿って宮殿と繋がり深いですしぃ……ていうか頭固い人多いですしぃ……
   勇者様が勧誘した冒険者みたく『魔族も国王もどうも思ってないけど、勇者に着いてくぜ!』みたいな人滅多にいないですよ……ニャン」
   
勇者「お前の人徳がなかったんだろ」

神官「割と心に刺さります!!やめて!!」




戦士「そういえばそろそろ昼時だな。話の続きはここの喫茶店でしないか」

勇者「ん?こんなところに店なんてあったのか。……結構いい雰囲気だな。入ろう」

神官「うう……なんで私だけいっつもこんな役割……」


カランカラン…


女主人「いらっしゃい。空いてる席に座りなよ」

勇者「おう」



勇者「そう言えば竜人と魔女は今どこにいるんだろうな。王子が星の国に興味を持ってたってこと、伝えないといけないのに」

神官「場所が分かれば一気に転移魔法で行けるのに、残念ですニャン」

戦士「少ししたら魔王城に行ってみてはどうだ?報告もかねてな」

勇者「だな。もうちょい落ち着いてからだけど」

神官「魔王さんも寂しがってるでしょうしねニャン」

戦士「おいだんだん雑になってきてるぞ神官」

勇者「ああ……最後まであいつ駄々こねてたなー。それにしてもこの店の飯うまいな」


ガタ

女主人「そりゃどーも。ちょいと話に参加させとくれよ」

勇者「お、おい?」ギク

神官(いつの間にそばに……さっきの話、聞かれてなかったですよね……)

女主人「あんた、勇者だろ?王都に戻ってきてたんだ」

勇者「ああ、そうだけど」



女主人「噂の勇者が、随分きな臭い話をしてるもんだね」

勇者「……きな臭い?……なんのことだ?」

戦士・神官「」ギクッ

女主人「私は耳はいいんだ。客で賑わった店内でも、おもしろそうな会話が聞き取れるくらいにはね」

勇者「おもしろそうな会話か。確かに神官が語尾にニャンとつけて話してる姿はかなり滑稽だろうが……」

神官「誰のせいだと思ってるんですか」

女主人「すっとぼけんじゃないよ。……魔王とかなんだとか聞こえたけどね?」

「「「!」」」ギクギクッ

女主人「詳しい話、聞かせておくれよ。今日の夜12時、また店で待ってる。
    勇者が魔王と手を組んでるって言いふらされたくなきゃあ ちゃんと店に来るんだね」
    
勇者「なっ……なんのつもりだ?」


客「おーい!オーダー頼む!」

女主人「はいはい。 じゃあ、夜にね」ガタン

勇者「お、おい。…行っちまった……」


今日はここまで 投下したら意外と短かった
次からはもっとまとまってから投下しますね すんません

喫茶店
http://upup.bz/j/my32883tvEYtgNLDSZFzXj6.jpg

おつー

おつ

魔王ちゃんの出番がなくて寂しいお(ーωー)






神官「どどっどどどうするんですか勇者様。さっそく処刑の危機じゃないですか」

勇者「あ、慌てるな。まだ焦るような時間じゃない!あの女主人が国王にチクるとはまだ決まってない!」

戦士「二人とも落ち着いてくれ。とりあえず部屋をうろうろするのをやめてくれ」

神官「もう夜ですし……約束の12時まであともう少しですよ」

勇者「女主人、なにを考えてるんだ?俺たちを店に呼び出してなんのつもりなんだ」

戦士「俺たちの弱みを握ってることをちらつかせて取引に持ち込もうとしてるのだろうか」

勇者「くそ。なんだってんだ。とりあえず行くしか…ないか。よし、行くぞ!!」

神官「はいぃ……うう なんでこんなことに」


ギィッ カランカラン…


勇者「……」

女主人「ああ、来たか。待ってて、ちょっと後片付けあるからさ。この店、夜はバーをやってるんだ。さっき閉店したばっか」

勇者「……おう」



勇者「で、なんだ?話って。……金か?それとも別のものか?」

女主人「は?何のことだい?」

勇者「何のことって、昼間の続きだ。あんたの目的はなんなんだ?俺たちが……魔族と関わりがあることを知ったんだろ?」

女主人「……ああ!別に私はあんたらを告発するつもりなんかないよ。
    ただ魔族の話をちょっと聞きたかっただけ。銀髪の女の魔族にあんたらは会ったことある?」
    
戦士「銀髪?」

神官「もしかして村にいた方じゃないですか?ほら、定食屋で働いてた」

勇者「ああ……確かケット・シーの血が入ってるとかの。会ったことあるが、それがなんだ?」

女主人「そうか。生きてたのか。よかった……」

勇者「あんた、魔族に会ったことがあったのか」

女主人「ああ、私は地方の田舎生まれでね。昔、その魔族の女の子に命を助けられたことがあったんだ」

神官「え?」

女主人「小さい頃、山に山菜を取りにいった帰りさ。うっかり道に迷っちまってね。
    陽も暮れ始めて、真っ暗な森の中でうろうろしてたら腹をすかせた狼に遭遇しちまった」
    
女主人「もうこりゃだめだって思ったね。そしたら茂みから女の子がでてきてさ、私を助けてくれたんだ」

戦士「ほう」

女主人「その子は傷だらけになりながらも狼を撃退した。私はびっくりしたんだ。
    狼に勝てるその強さもだけど、よく見たら明らかにその女の子の姿は人間のものじゃなかった。
    村では魔族に出会ったら食い殺される前に逃げろって言われてたんだけど……魔族に会ったのは初めてだった」
    
女主人「その子の体さ、狼にやられた傷より、もっとたくさんの傷跡があったんだ。古傷が大きいのも小さいのもたくさんあった」

女主人「……その後。真っ暗な森の中、その子が森の出口まで案内してくれたんだ。おかげで私は自分の家に帰れたんだけどさ」


女主人「その子は家がないって言ってた。別の村を追い出されて、逃げてる途中だって言ってたんだ」

女主人「それなら私の家に来なよって誘ったら、すごい悲しい顔して笑ってた。その顔が今でも忘れられないんだ」

女主人「いつか生きてたらまた会おうって約束して別れたんだけど。そっか……生きてたか。よかった……」

勇者「いっつもにこにこして明るい娘だったよ。幸せそうだった」

女主人「そうか……フッ 安心したよ。
    で、あんたら何企んでるんだい?協力させてくれないか?魔族のために動いてんだろ?」

女主人「私はあの時の魔族の女の子に、恩返しをしたいんだ」

勇者「勿論、大歓迎だ」



女主人「ふーん、なるほどね。おもしろいじゃん。その反戦同盟とやらに入れとくれよ」

勇者「魔族に会ったことがある奴に初めて会った。さらに魔族に友好的な人間って、かなりレアだ」

女主人「はん、大体私以外のみんながおかしいんだ。会ったこともない魔族をそんなに憎むかフツー?」

神官「やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね」

戦士「国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな」

勇者「そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。
   何か効果的な方法ないかな……」

女主人「ま、小難しいことは分かんないから何もできないけどさ。ここの店の地下、結構なスペースあるんだよ
    そこを同盟の集会場所に貸してやらないこともないよ」

勇者「えっ 本当か!?」

女主人「聞いたところ結構人数も集まってるみたいだし。ひとところに集まって話する場って必要だろ?」

勇者「そりゃ有り難い話だ。さっそく会合の日を決めよう」

神官「うわーうわー!なんか本格的に秘密結社って感じですね!」

戦士「一気に状況が好転したな。首が飛ばなくてよかった」

女主人「店に入ってきたときはあんたら青ざめた顔してたね。勇者パーティの名折れさ、ハッハッハ!」


数日後 深夜 街


姫「……」コソコソ

姫「今なら人がいないわね。よしっ!城を抜け出すわよ、騎士!」

騎士「ちょっと……本気でやめてくださいよ姫様……夜中に街にでるとか正気じゃないですよ…」

姫「なに言ってるの?今日は勇者たちとの第一回会合ですよ。私が参加しなくてどうするの。
  それに私に何かあったらあなたが守ってくれるから大丈夫でしょ。弱気なこと言わないで」
  
騎士「そんなこと言ったって……ああもうこの我がまま姫め」ボソ

姫「何か言った?」ギロ

騎士「いえ何も。ほらもっとフード深くかぶってください。そろそろ例の店が見えてきます」

姫「そうね。ここのお店かしら……?」ギィ


カランカラン…


女主人「ああいらっしゃい。うちはもう閉店の時間だよ」

姫「あの…その」

女主人「ああ……『フラッシュ』」

姫「! 『サンダー』」

女主人「入りな。地下の扉そっち」

姫「ありがとう」




ギィ……

ガヤガヤ ガヤガヤ

騎士「わ。すごい人ですね」

姫「あら本当。これだけもう人が集まったのね。さすが勇者パーティ」

勇者「姫様!本当にお城抜けだしてきたんですか……まじすか、大丈夫なんですか」

姫「大丈夫よ」

騎士「大丈夫じゃないですよ…」


宮殿司書「私は前々からなんとなくおかしいと思ってたんですよ……」

歴史研究家「ええ、誠にそうです。第一100年前の人魔戦争についても普及してる説に私は違和感がありましてですな……」

傭兵長「些か強引すぎると思っておりました……あのときも……」

冒険者「つーか冒険でてもモンスター全然でねーのなwwwwwwwwレベル上げしんどかったwwww」

ザワザワ ザワザワ

女主人「やーっと仕事終わった。随分賑やかだね」

勇者「これでみんな揃ったかな」


勇者「みんな、今日は集まってくれて有難う。知ってるもいるだろうけど……てか大体知ってると思うけど、俺が勇者だ。
   今日は第一回目の集会ってことで、顔合わせの意味合いが強いからさ、気楽にやってくれよな」
   
ざわざわ
 ざわざわ
 

戦士「ふむ。意外と……教養人が多いようだな、見た限り」

神官「ですね、国の政治方針や教育方針に疑問を感じてた人も少なくなかったってことでしょうか。私たちがいい発破になったのかも」


勇者「……」

姫「勇者?何か考え事を?」

勇者「……ん、ああ。この間話してたことについてちょっと考えてまして……」




『やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね』

『国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな』

『そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。
 何か効果的な方法ないかな……』



勇者「なんかうまい方法……か」

司書「そういうことなら、勇者様。私に考えがあるのですが」

勇者「え?」




~~~~~~


勇者「……なるほど。いいな、それ」

司書「ただの思いつきなのですが……やってみる価値はあるのではないかと」

勇者「うん、俺もそう思うよ。協力してくれそうな奴の心当たりもある。
   そうと決まれば俺は明日にでも魔王城に行ってみよう。色々報告したいこともあるし」
   

勇者「そういやぁ、魔王の奴元気かな?」

勇者「しばらく会ってないけど……」




* * *

魔王「……くしゅっ」

魔王「……なんだ……誰か噂でもしてるのだろうか」ブチブチ

魔王「……」ブチブチ

魔王「ふう。ここら一帯の草は刈れたか。一仕事した後は気持ちがいいな」

魔王「ガーデニングなんで今までしたことなかったけど、これを機に始めるのも悪くない」

魔王「……ん? 裾に葉でも入ったかな。なんかもぞもぞする」


蜘蛛「」モゾモゾ


魔王「」

魔王「わーーーーーーーーーっ!!」ブンブン



庭師「うおっ なんじゃあ!?今の叫び声は……!?」


魔王「叫び声?叫び声なんて聞こえたか? はぁはぁ…」

庭師「ま、魔王様!?お庭にいらしてたんですかい!?……ちゅーか草むしり!?え!?」

魔王「ああ、暇で」

庭師「そんなこと魔王様がしなくていいんですよ!私めにお任せ下さいって!ほら、お洋服もこんなに汚れちゃって。もうお城に戻ってください」

魔王「別に私は…… うう、追い出された……」


魔王「もう夕暮れか。今日も一日が終わってしまった」

魔王「……戻るか」


魔王「竜人と魔女はいまどこにいるんだろう。あれからずっと会ってない。勇者くんたちも」

魔王「……」

魔王「誰かと一緒に見る夕日は素直にきれいだって思えるのに、一人で見る夕日はなんでこんなに寂しいのだろう……」

魔王「みんな頑張ってるのに、私だけこう……暇なのは申し訳ないな…」

魔王「何かできることはないのだろうか。せめてみんなが帰ってきたときに、疲れをいやせるようなことは……」



魔王「……料理だ!」ピコーン


翌日

ハーピー「まずお料理する前に手を洗って下さいね」

魔王「うん」

ハーピー「で、今日はアップルパイを作るんですよね」

魔王「ああ。アップルパイはすごいんだ、あれこそ天上の神々が食しているものに違いない。
   それに甘いものは疲労を癒す効果があると聞くし、リンゴはこの島でたくさんとれるし」
   
ハーピー「いい考えだと思いますよ。さて材料も揃えてきましたし……さっそく作りますか!じゃあ最初はリンゴをカットしましょう!」

魔王「そうだな……で、包丁はどうやって持ったらいいんだ?」

ハーピー「そっ、そっからですか?ええとですね……」


ガランガラン


「おーい、魔王いるか?俺だけど」


魔王「!? この声、勇者くん?」ダッ

ハーピー「あっ……魔王様!包丁もったまま走ったら危ないですって!」




魔王「勇者くん?」タッタッタ

勇者「おう、久しぶりだな。魔王」

魔王「勇者くん!」タッタッタ

コケッ

魔王「あっ」

ヒュンッ!

勇者「うあああああああぁっ!あぶねーー!!包丁投げ飛ばすなよオイ!!」パシッ

魔王「いてて。流石勇者くんだな、見事な包丁キャッチだ」

勇者「流石、じゃねーよ、冷や汗すげぇ出たぞ。つーか何もないところでコケんなよ」

魔王「ドレスにつんのめってしまったのだ。私じゃなくてドレスが悪い」

勇者「無機物に責任押し付けようとするな。それより包丁なんて持って、なにしようとしてたんだ?」

魔王「あ、ああ。料理を始めようとしていたところだったんだ。まだできてないから、ちょっと時間をつぶしてきてくれ」

勇者「RYOURI……?COOKING……?お前が?」



魔王「そんなあからさまな反応されると傷つくのだが」

勇者「いやだって魔王って、魔法以外の才能まったくないように見えるから」

魔王「勇者くんって意外とデリカシーがないな?それにそんなことはないぞ。
   今日は草むしりを極めたのだ。褒めてもいいぞ」
   
勇者(草むしりほんとにやったのか)

勇者「……ま、じゃあ期待しとくな。俺はちょっとグリフォンの家に寄ってくる」

魔王「せいぜい期待しておくがよい。頬が腐り落ちても知らないぞ、ふふん」

勇者「こえーよ!腐り落ちるとか初めて聞いたよ!」




勇者「まともな料理ができあがってることを願うぜ。
   おーいグリフォン、いるかー」
   
グリフォン「んー? なんだ勇者か。なんか用?」

勇者「あのさ、前、本書いてるって言ってたよな?あれもう完成した?」

グリフォン「ああ……ちょうど昨日完成したんだ。読んでみるかい」

勇者「サンキュ。……」パラパラ


勇者「うん、やっぱいいなこれ。これをな、王国で出版しようと思ってるんだけど、どうかな」

グリフォン「は?出版?なに言ってんの?」

勇者「勿論匿名でな。人々の間にある、魔族のイメージを改めるキッカケにならないかと思って。
   話題性も作れたらなおよし!」
   
勇者「あんたのこの本、おもしろいよ。
   魔王が悪で勇者が善っていう勧善懲悪物語に慣れ親しんでる俺みたいな人間からすれば
   かなり意外性があってうけると思うんだよな」
   
グリフォン「ふーん……そううまくいけばいいけどね。まあ、その本は好きにしてくれていいよ。
      もともと君か魔王様にあげようと思ってたものだから」
      
勇者「ありがとな」







勇者「…………………で」ドキドキ

魔王「アップルパイだ。切り分けよう……うっ、テーブルが高いな……」

ハーピー「あ、私やりますよ」ザクザク

勇者「おお なんか意外といい感じじゃないか。うまそうな匂いしてる」

魔王「そりゃあ、ほとんどハーピーが手伝ってくれたからな」

ハーピー「あははは……あ、私そろそろ仕事に戻らないと。ごめんなさい、失礼しますね」

魔王「もう? そうか……有難う、助かった」

ハーピー「いえいえどういたしまして。ごゆっくりどうぞ」ニコ


……パク


魔王「……おいしい」

勇者「ん、うまいな」



魔王「そうか。それはよかった」モグモグ

勇者「ありがとな」モグモグ

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

勇者「おい、口の端にパイの欠片を大量につけながら真面目な話に突入するのやめてくれ」

魔王「ん?うわ、本当だ。失礼。テイク2だ」

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

勇者「ええと、まあ、順調だな。ほら、これ。今のところ集まったメンバーのリスト」ペラ

魔王「……! こ、こんなに……?」

魔王「本当に……人間が……これ、みんな……私たちの……味方に?」

勇者「そうだ。人間も一枚岩じゃないってことだな。魔族と一緒でさ。少しずつこうしてメンバーを増やしてけば……
   クーデターも成功するし、いつかこの城の結界も必要なくなる世界になるかもな」
   
魔王「…………なんだか……笑いたいような泣きたいような、不思議な気持ちだ」

勇者「笑うのはいいけど泣くのはまだ早いぞ。 それからさ、竜人と魔女に会う機会ってあるか?」




魔王「いや……ない。二人とも、城を旅立ってからずっと帰ってきていない。いまどこにいるのかさえも分からない」

勇者「そっか。じゃあ次帰ってきたら、王国の王子が星の都に興味をもってたって伝えてもらっていいか?」

魔王「星の都だな。分かった。それにしても二人は今どこらへんにいるのだろう」

勇者「今頃くしゃみでもしてんじゃねーのかな」

魔王「古典的な表現だ。ところで、その本は?童話……?」

勇者「ん、ああ。これはグリフォン作の絵本だよ。勇者と魔王の物語。王都の人たちの世論操作に使えないかと思ってさ」

魔王「ふうん……?これは、もしかして私と勇者くんがモデルなのか?」

勇者「そう言ってた。俺は明日王都に戻るつもりだから、それまで読んでていいぞ。グリフォンもお前に読んでほしいだろうし」

魔王「いや、いい」

勇者「え?」

魔王「今日の夜、勇者くんに寝物語として読んでもらうから、いい」

勇者「お前……また勝手に決めやがって……」






魔王「早く早く」バフバフ

勇者「こら、枕叩くな。てかお前文字読めるだろ?なんで俺が」

魔王「読めない。難しい単語とか読めない」

勇者「うそこけ!!お前が訳分からん古代文字すらすら解読してたの見たぞ俺は!!」

魔王「ゆ……うしや……ま、ま……お」

勇者「今更わざとらしく文字読まなくていいよ!分かった分かった」

勇者「えーと……『その年、勇者は人々に見送られて魔王を倒す旅に出ました』」

魔王「ふむ」



『真ん丸な月を背負った荘厳な城の中で、勇者は魔王にとうとう出会いました。
 勇者は魔王に斬りかかろうと、背中の剣を抜きかけて、それからハッと息をのみました。
 月明かりに照らされて自分に微笑む魔王の姿が、あまりにも美しかったからです。』
 

魔王「なんだ、あのとき勇者くんはそんなことを思ってたのか。照れるなぁ」

勇者「あのときには、なんでこんな子どもが魔王城にいるのかと目を疑ってたよ。
   こんな劇的な出会いじゃなかったよな。竜人はエプロンつけてでてくるし、魔女はひとりで料理先に食ってたし」
   
魔王「でも物語らしくていいじゃないか。このくらいの演出過多の方が私は好きだ」

勇者「そうかよ」ペラ…




『すると、いつのまにか大勢の敵たちが二人を取り囲んでいました。逃げ道はどこにもありません。
 「勇者、狙われてるのは私一人だけです。私を置いてあなたは逃げてください」魔王が涙を目に湛えて言いました。
 
 しかし勇者は魔王の手を離そうとはしませんでした。
 むしろより強く握りしめて、こう言いました。』

 
 
勇者「『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』 おい、聞いてるのか?」


魔王「……~~」バフバフ

勇者「あのー」

魔王「この勇者くんは随分かっこいいな……はぁ」バフッ

勇者「このってなんだ、このって!?今朗読してる俺はかっこよくないってのか!?」

魔王「ふう なんだか顔が熱い。グリフォンはすごいものを書いてくれたな」パタパタ

勇者「さっきの聞き捨てならないんだけども」



パラ…

勇者「これで最後のページみたいだ」

魔王「笑いあり涙ありのいい物語だったな。こんなふうに現実もうまくいけばいいのだけど」


『こうして世界に平和が訪れました。
 魔族と人間は手を取り合って、ずっとこの平和な世界を保っていこうと誓い合いました。
 勇者と魔王はと言うと、その年の終わりに式をあげ、二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』

 
 
魔王「ん!?」


勇者「はい、終わり。……っと、もうこんな時間か。今日は自分の部屋に戻って寝ろよ?」

魔王「えっ?え?」

勇者「どうした?」

魔王「け……結婚とは」

勇者「お前結婚知らないのか?」

魔王「いや知ってるとも。知ってるけども。……その本、本当にそのままで王都の人々に配るのか?」

勇者「そうだけど、何か不都合があるのか?」



魔王「い、一応私たちが実在してる訳だから、色々とまずくはないのか?別に私は構わないけれど、勇者くんは……」

勇者「? 俺も別に構わないけど」

魔王「えっ……」

勇者「だって、魔王。お前、」

魔王「えっ えっ!?」



勇者「まだ子どもだろ?」

魔王「………………………」

勇者「お前がそれなりの年だったら、まあ、本の中でも結婚とか書かれたら恥ずかしいんだけどな。ハッハッハ」

魔王「………………………」

勇者「さ、そろそろ寝ようぜ。転移してきたから俺もう今日は疲れたよ。おやすみ」


バタン


魔王の部屋


魔王「だから……私は……勇者くんと同じ年だと言うのに……!」

魔王「なんで私はこんなに成長が遅いんだ……っ
   生きてる年数で言えば、四捨五入したら20だぞ。ぎりぎり20なんだぞっ」
   
魔王「魔族の長寿がこんなに恨めしいなんて。別に勇者くんと結婚とかは全然考えてないけども。
   全然全くこれっぽっちも、一瞬も頭をかすめたことはないけども」
   
魔王「……」


『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』


魔王「~~……っ」ボフボフ

魔王「勇者くんかっこいいな!……はっ」




枕「」ボロボロ


魔王「……何やってるんだ私は」


今日は以上です
魔王(無能)出番多め

おつ
まおうかわいい!

無能魔王かわいい

無乳魔王かわいい!

無能かわいい!

無乳かわいい!

初めて見たけど面白いね!
楽しみにしてるよ!乙ー

無かわいい!

まだかな





勇者「さて、そろそろ出発するかなー」

魔王「……ん?」

ヒュッ!


竜人「ただいま戻りました」

魔女「うぅぅぅぅ、寒かったぁぁ」

魔王「竜人、魔女……久しぶりだな」

勇者「なんだ、偶然だな。俺もちょうど魔王城に寄ってたところなんだ」

竜人「そうだったんですか。なら少し現状報告し合いません?」

勇者「だな、せっかくだし」

魔女「魔王様も勇者も久しぶり!雪の国付近まで行ったから超寒かったよー、先にお風呂入ってきていい?」

魔王「だめ。報告が先だ」

魔女「魔王様つれないっ!かわいくないっ!」



竜人「なるほど。……ふむ」

勇者「だから王子探しは星の国優先でやってくれ。頼んだぞ」

竜人「そのことなんですが、王子探しの前に、勇者様が集めたその同盟メンバーに私を会わせて頂けませんか」

勇者「えっ?」

魔女「あー私も会いたいかも」

勇者「いやいや、お前らが王都に入国するなんて危険すぎるだろ」

魔王「……」

竜人「その点は大丈夫ですよ、よっぽどの魔術の使い手に遭遇しなければ私たちを魔族だとは見破れませんし」

竜人「目的は何にせよ、私たちの力になってくれる方々に顔も見せないなんて二天王の名が廃ります」

勇者「二天王ってマジだったんだ」

魔女「そうそう!組織っていうのは結束を固めて心を一つにしないと、いざという時にすーぐ崩壊するからね。仲良くしなくっちゃ」


勇者「まあ、そういうことならいいけど」

魔王「私の分までよろしくな。気をつけて」

竜人「ええ、そりゃあ勿論」ニッコリ

魔女「魔王様の魅力ぶっ続け3時間語りとか人間相手にやらかすのやめてよねー」

勇者「やりそうで怖いな。じゃあ、直接俺がとっている宿にテレポートするから、掴まってくれ二人とも」

竜人「はい」ギュ

魔女「うん」ギュ

魔王「……」ギュ

勇者「……なあ、魔王、お前はテレポートしてきちゃだめだろ」

魔王「分かっている。冗談だ。……行ってらっしゃい、みんな」

竜人「魔王様!!またすぐ絶対帰ってきますから!!お菓子食べすぎないでくださいね!?歯もちゃんと磨くんですよ!?」

魔女「あーうるさいうるさい。さっさと行きましょ勇者」

勇者「お、おう」


シュンッ

魔王「……はぁ」ショボン


* * *

王都 宿

勇者「じゃあ俺、昼間のうちに出かけてくるから、この部屋から出ないでくれよ。
   お前らの顔覚えてる兵士が街にいたら面倒なことになるからな」
   
魔女「わーかってるわ―かってるぅ」ゴロゴロ

竜人「さすが王都、人が賑わってますね」

勇者「……ほんとに出ないでくれよ?じゃあな」





神官「勇者様!こっちです。……本、持ってきました?」

勇者「よお神官。ああ、ばっちりだ。これ」

神官「わあ!後でじっくり読ませてくださいね。王室の司書さんから紹介してもらった本屋は、ここの角を曲がったところです」

勇者「その本屋が、魔族が書いたこの本を出版するのを頼まれてくれるといいんだが」




神官「……ええと、このあたりのはずなんですけどね」

勇者「もしかして……この廃屋みたいなボロい建物か?
   よく見りゃ本屋の看板があるぞ」
   
神官「えー……」

勇者「うーん……」

神官「俄かに不安になってきましたが……とりあえず行きましょう。
   あ、聞くところによると主人はかなりの変人らしいです」
   
勇者「えー……さらに不安になってきた」


ギィィィィッ


勇者「うるせっ…… おーい、主人いるか?」

神官「す、すごい埃っぽい店内……本が雑に積み上げられてる。ここお客さん来るのかなぁ」

本屋「は~い。んおっ!珍しいねえ。勇者サマに神官サマじゃないか。こんなインチキ本屋になんの用かね。ところであんたいい体しとるな」ジロジロ
   
神官「うっ。なんか私この方苦手ですぅ……」ササッ




勇者「1つ頼みがあってな。この本を出版してほしいんだ」

本屋「ん?ん~~。ほっほ、こりゃこのご時世だと出版してすぐ禁書指定を受けそうな本じゃの。
   作者名は、なしか。まあ珍しくないわい」
   
勇者「作者は魔族だよ」

本屋「……ほ?」


* * *


勇者「というわけ」

神官「勇者様、いいんですか?この怪しげな人に全部話しちゃって……」

本屋「ブァッハッハッハッハ!!おもろいことに手ぇだしとるのぉ!いいぞ、のった。出版しちゃる」

勇者「助かるぜ」

本屋「なーに、この店はもともと明るみに出せないような本ばかり扱ってるのさ。魔族が書いた本なんてのよりもっとすごいのもあるぞ」

神官(なんでそんな怪しいお店を、王室司書さんが知ってるんでしょう……)



本屋「発行部数はどうするね?」

勇者「うーん。すぐ禁書になりそうなんだろ?少なめがいいのかな」

神官「ですかねえ」

本屋「お主らてんで素人じゃのぉ。こういうのは……禁書指定されてからの方が売れるんじゃ。禁じられるほど見たくなるのは人間の性じゃからの」

勇者「そ、そうなのか?じゃあそこらへんはあんたに一任するよ」

本屋「そうしてもらえると助かるね。出版自体は2週間あればできる。またそのころにここにおいで」

勇者「おう、頼むぜ。ありがとな」

本屋「ま、横の姉ちゃんは今夜あたりにでも来てもらって一向に構わんがの!」ニヤ

神官「ひぃぃっ お断りですよ!」


ギィィィィッ… バタン


勇者「2週間っていうと、ちょうど俺たちが同盟結成を考えたときから3カ月経つ頃か」

神官「早いですね。もう半分ですか」

勇者「人集めっていう地道な作業だったからな。でも、そのおかげで着々と基盤は固まりつつある。
   でもそうだな。そろそろ次の段階に進むべきかもしれないな」

神官「次って言うと、星の国か雪の国に、認証書をもらいに行くんですか?」

勇者「ああ。本を配ってもらったり、ほかの普及活動は同盟のみんなに任せられるだろうし」

神官「そうですね。今夜の集会でそのこと皆さんに話してみましょう」

勇者「あ、そういえば。一週間後の集会に竜人と魔女も参加するから」

神官「ええ分かりました、竜人さんと魔女さんも―――って、ええぇぇぇ!?」


勇者「ばっ 声が大きい!注目されてんだろうが!」

神官「す、すいません!で、でも。なんでお二人が!?」

勇者「ちなみに今、俺の宿に二人ともいるから」

神官「えええぇぇっぇ!!」

勇者「だからいちいちリアクションでけーよ!!」


一週間後 夜 バーの前

神官「まさか本当に王都に滞在するなんて……ほんと無謀というかなんというか」

竜人「一回来たところでないとテレポートできないところが不便なんですよね。でも無駄な時間を過ごしてた訳じゃないですよ」

魔女「そうそう、あの後勇者と話してからちゃんと王子探しにまた出かけたしー」

勇者「結局王子の手がかりは掴めないままか……どこにいるんだろうな。案外この王国に戻ってたりして」


カランカランッ




ざわざわざわざわ がやがやがや

勇者「おお、今日も集まってるな。みんな暇なんだな」

姫「暇じゃないわ、もう。忙しい中時間を縫ってきてるの」

騎士「私も姫様がもっと城で大人しくしてくれれば、よりお暇頂けるんですけどね」

司書「おや勇者様。本の件はいかがでした?」

勇者「滞りない。出版は2週間後だそうだ」

歴史家「2週間後ですか……その前に原本を見てみたかったな。待ちきれん。なにせ魔族の書いた本など前代未聞だからな」

冒険者「だよなー!早く読んでみてーなー!」



戦士「……む?勇者、横のフードを被った2人はもしかして」

勇者「ああ。気づいたか。 おい、みんな、魔族の話なら本じゃなくて直接いま聴けばいいさ」

姫「どういうことですの?」


バサッ


勇者「今この場に魔族2人がいるからな」

竜人「初めまして。竜族の者です」

魔女「魔女ちゃんでーす!」



「!?」

「ま……魔族!?」

ざわざわっ



姫「なっ……!?」

騎士「姫様、念のためお下がりください!」

冒険者「うっひょー!魔族初遭遇なんすけどー!」


勇者「落ち着けよ、みんな。まあ俺も同じようなリアクションとっちゃったんだけどさ、最初」

戦士「この者たちに敵意はない。俺が保障しよう」

神官「お二人ともいい方たちなんですよ!ほんとに!」アワアワ



司書「……た、大変失礼しました。初めて違う種族の方にお会いしたので、少々動揺してしまいました。情けない……」

歴史家「無礼をお許しください、魔女殿、竜人殿」



魔女「あはは、そりゃーちょっとびっくりするよねー。いいよ全然気にしてないから。私の心は海並の広さを持ってるから」

魔女「でも、剣を構えるのは警戒しすぎなんじゃないの?騎士さん」パチン

騎士「う、あ、も、申し訳ない……///」

姫「えっ、なに貴方、ちょろすぎないかしら。ウインクひとつで真っ赤ってどれだけ初心なの」

竜人「もしかして貴女がこの国の王女様ですか?私たちのためにお力を貸して下さって、本当にありがとうございます」

姫「私?いえ……むしろ私は謝らなければ……あなたたち魔族に」

竜人「謝るなんて、よしてください。これからよろしくお願いしますね、王女様」

姫「あ、あ……そうね。ええ……勿論です。こちらこそ///」



勇者(あれー?)


冒険家「いろいろ話聞かせてくれよ!魔族のオニーサンオネーサン」

歴史家「ぜひ詳しい話を私にも!いっそこうなったら私も本を書いてみるかな」

小説家「それなら私も。匿名なら問題なかろうて」


神官「あら……大人気ですね」

勇者「盛り上がってるとこ悪いが、しばらくこっちでの活動はあんたらにまかせていいか。
   俺と神官と戦士、竜人、魔女はこの国以外で活動するからさ」

戦士「む、ついに認定書入手に動き出すか」

勇者「ああ、そろそろいいだろう。王子探しのために、雪の国より星の国を優先しようと思う」

竜人「私も星の王に謁見させてほしいのですが」

勇者「……いやいやいやいや。それは流石にまずいだろ」

竜人「ではどうやって勇者様は王を説得なさるつもりで?」

勇者「そりゃーまあ」



勇者「戦争はよくないから」

竜人「あちらは魔族を害獣か何かと同列に見なしてるんですよ。害獣駆除はなされるべきであって、いい悪いでは語れません」

勇者「じゃあ、こう言うさ。このまま戦争になれば、星の国もうちの国の軍力増強に協力させられるだろう、と。あちらさんはそういうの嫌いらしいしな」

竜人「それではどうして勇者様が神の法を使って無血クーデターを起こそうとしてるかの理由になってません。怪しさ満点ですよ」

勇者「うっ……」

神官「勇者様が押され気味だ!」

竜人「つまり、説得力を持たせるためにはやはり私が王に直接会わなければ。魔族は害獣なんかじゃないとはっきり認めさせるのです」

戦士「しかし、かなりの危険が伴うのでは?」

竜人「それも承知の上ですよ」

魔女「あ、ちなみにあたしはパスね!うまく敬語とか使えないから!」

竜人「それは元から期待してないから大丈夫です」

魔女「ひでーや!」



勇者「じゃあ王に謁見組が俺、竜人。星の国で太陽国王子を探す組が魔女、神官、戦士、って感じでいいか」

魔女「いいよー」

戦士「承知した」

神官「あの、謁見組は二人で大丈夫なんですか?」

勇者「俺も竜人も転移魔法使えるし、やばくなったら逃げるよ。大丈夫大丈夫」

竜人「まかせてください」

魔女「がんばってねー」



姫「……」チラチラ

騎士「あの……なにさっきからチラチラ向こう盗み見てるんですか、姫様。ばればれですよ」

姫「なっ……あなただって、さっきから聴き耳立ててるのばればれです!」

騎士「べべべべつに俺は!なにも!姿だけじゃなく御声も美しいだなんて、おおお思ってませんよ、ええ!///」

姫「あらそう。その割には耳が真っ赤だわ」


* * *


勇者「よっしお前ら!準備はいいか!」

神官「ええ、ばっちりです!薬草に、魔水に、気つけ薬も十分持ちました。あとお菓子とお弁当とお金と――」

戦士「張り切っておるな」

勇者「神官、菓子と弁当はいらないだろ」

神官「え?でも長い道中暇じゃないですか」

勇者「あのな、テレポートで行くに決まってんだろ?時間が節約できる時に節約しなきゃ」

神官「へあ!?あ、そっか!」

竜人「私たちも準備万端ですよ」

魔女「張り切っていこー」ダルン

勇者「行くぞ」


シュンッ



星の国 

がやがやがやがや ざわざわざわ

シュンッ

勇者「よし、うまい具合に路地裏に出たな」

戦士「なんだか不法侵入みたいで気がひけるな」

神官「で、でも竜人さんと魔女さんいますし、正規ルートはまずいですよね」

勇者「大丈夫だろ。前に俺たち一回きたし、勇者パーティだし」

魔女「あれれ、意外と大雑把」



勇者「俺たちは王宮がある都をここから目指そう。馬車ですぐだ」

神官「私たちはいろんな村や街を回りながら情報収集しましょうか」

魔女「なんかもっとキラキラしたところ想像してたんだけど、森とか畑ばっかりだね」

戦士「天文台のある都はすごいぞ。特に夜は身惚れるほど美しい」

魔女「ええっ!あたしも都に行きたいなぁ。宝石とか洋服とかみたい~~」

戦士「だめだ。そら行くぞ」

魔女「ああ~~」

神官「じゃあ、勇者様も竜人さんも、頑張ってくださいね!」パタパタ




がやがやざわざわ 


竜人「うわ……すごいですね。建築物のデザインが全て幾何学的に統一されてて、きれいな街並みです。それにあの王宮より高い塔は一体……?」

勇者「ありゃ天文台だよ。ここは別名、学問の都だ。ありとあらゆる分野の最先端をいく研究がなされてて、その中でも特に天文学が進んでるんだ」

竜人「それにしても高いですね。雲を突き抜けそうだ。魔王様にも見せてあげたいです」

勇者「夜はもっとすごいぜ。王宮に行くより先に宿をとっとこう」

竜人「ええ、分かりました」



宿屋

主人「いらっしゃい。2人かい?」

勇者「ああ、2部屋頼む」

主人「毎度あり。2階の部屋使ってくれ。1階の奥は食事処になってるから、よかったら食ってってくれよな」

竜人「食事ですか。先に腹ごしらえしていきます?勇者様」

主人「都限定、星入りスープが人気だぜ!」

勇者「それ一回食ったけど、何が原材料なのかさっぱり分かんないんだよな……。先に食事するか」



がやがや がやがや カンパーイ


竜人「……このスープのこれ、本当に何でできてるのか分かりませんね。まさか本当に星じゃあ……」モグモグ

勇者「だよな。俺もよくわからん」

料理人「栄養バランス完璧だぜ!栄養学も発展してるからな、この国は!タンパク質27%、ビタミン16%、それから……」

勇者「あーあーいい、いい!そういう話は聞かせてくれなくていいから!俺頭痛くなるから!」





 「おやっさん、肌荒れにきくいい食事よろしくっ!」
 
 「あ、ああ、構わねえが――あんたが食うのか?」
 
 「コラーゲンたっぷりのカクテルももらっちゃおうかな?」

 
 
勇者「! (この声……どこかで聞いたことあるような?)」


勇者「野太い掠れた声で甘ったるく女子みたいなことを喋る奴、どこかで会ったことがあるような」チラ

竜人「勇者様?」

勇者「!!!!!!」



勇者「竜人、今すぐこの店を出るぞ!」ガタッ

竜人「はい?まだ食べ終わってないのですけど」

勇者「いいから!この世界で一番の危険人物が背後にいるから!」ヒソヒソ


旅人「ん?あら?あらあら~!?やだ!!勇者ちゃんじゃないのぉ!?偶然ね!」ガタッ

勇者「Noooooooooo」

竜人「えっ……と。こちらの男性は、勇者様の知り合いですか」

旅人「例えて言うなら、ベガとアルタイルってとこかしら」

勇者「チガウ!チガウ!」

竜人「ああ。そういう愛の形もありますよね。私は応援してますよ、勇者様。安心してください」ニコ

勇者「誤解が加速して止まらないよ!俺を置いてけぼりにしないで!」



旅人「で?星の都になにしにきたの?勇者ちゃん」

勇者「あんたにゃ関係ないだろうが……おい!頼むからすり寄ってこないでくれ」

旅人「つれないわー。そんなところも好きだけど。でもあたし、これでも情報通だから役に立つかもよ?」

竜人「あの、私席はずしましょうか」

勇者「余計な気回さなくていいよ!ああ、もう。星の王にお願いしたいことがあって来たんだよ」

旅人「お願いしたいこと?へえ~ だったらいいこと教えてあげる」

勇者「いいこと?」

旅人「あ、別にやらしい意味じゃなくてね」

勇者「知ってるわい」

旅人「盗賊団の噂きいたことない?最近猛威を奮ってるらしいわよ、3国を股にかけて」

竜人「ああ、そういえば少し聞いたことがあるかも」

旅人「少数精鋭でかなり腕っ節の強い連中みたいよ。で、そいつが今狙ってるのが、この都の天文台のてっぺんに飾られてる宝石!っていう噂」

勇者「ふーん」



竜人「なら、その盗賊団を捕まえて王に差し出せば印象良好って訳ですね」

旅人「そーゆーことね。どう?いい情報じゃない?」

勇者「確かに試してみる価値はあるな。盗賊団のアジトとかも知ってんのか?」

旅人「さすがにそこまでは知らないわ、ごめんなさいね。でも最近都ではその噂でもちきりだから、色んな人に話を聞いてみたらいいんじゃないかしら」

勇者「そうしてみるか。よし、食事も済んだし、行こう」ガタッ

旅人「あら?まだ情報料もらってないんだけど」

勇者「あ。……いくらだ?」

旅人「お金じゃなくても構わないわよ?」

勇者「い く ら だ」

旅人「つれないわね」

竜人(この人どこかで見たことあるような……)

今日はここまでですたい

乙!

待っていた

この旅人…もしかして…!?乙ー

待ちくたびれたぞ!

待ちくたびれたぞ!

まだ一週間しか経ってないけど待ちくたびれた


旅人「……」

竜人「……!? な、なんでしょう。私の顔に何かついてますか?」

旅人「ん~。あなた、あたしと会ったことなぁい?見覚えがあるようなないような……」

竜人「! それが、私もそんな気がしてt……ハッ!」

竜人(この人、以前魔王城に流れ着いてきた人だ!やばい! それにしても、私が覚えているのはいいとして、
   忘却呪文かけられたはずのこの人がなんで私の顔を覚えているんだ?)
   
竜人「き、気のせいじゃないですかね、ハハハ……」

旅人「怪しいわね」

勇者「お、おい。もう俺たちは行くからな。じゃあ世話になったな!」



旅人「あ、んもう。逃げ足速いわね」






* * *

盗賊1「兄貴!兄貴ー!」バタバタッ

盗賊2「大変ですぜ兄貴!」


仮面をつけた男「んだよ……騒がしいな。天文台への侵入ルートでも割れたか」

盗賊1「それはまだですけど、もっとすごいこと聞きました!」

盗賊2「この星の都に、勇者が来てるそうです!!」

仮面「なに?勇者が……。確か勇者は神話級の剣を持ってるって噂だったな?」

盗賊1「時の神殿から持ち帰った『時の剣』ですね!さっき宿屋の窓を覗いてみたんですが、ばっちり持ってましたよ。
    大層高そうな宝石が柄に埋まってやした!」
    
盗賊2「しかも連れは一般人の男のみみたいですぜ!こりゃあ千載一遇のチャンスだ兄貴!」

仮面「ふん……そいつは本当なんだろうな?だとすると『時の剣』……いくらで売れるかね。
   よしお前ら。ターゲットを変更だ。勇者の剣を盗み取るぞ!!」
   
盗賊1・2「おっす!!」




勇者「うーん。いろいろ聞きこみしてみたけど、やっぱ盗賊団のアジトを知ってる者はいなかったな」

竜人「噂はそこここで聴くんですけどね。相当有名な盗賊みたいじゃないですか。悪い噂ばかりじゃないですし」

勇者「変に民衆に人気のある盗賊っているよな。義賊ってわけでもなさそうだが。で聞いた話によると……
   今回星の都で狙われているのは、この街の天文塔の頂点にある“アステリオス”という宝石だ」
   
勇者「いくら民に人気がある盗賊っていっても、アステリオスが狙われてると知ったら天文学者たちは怒髪天だろうな」

竜人「その宝石にどんな価値があるんです?」

勇者「そいつには魔力が宿ってるとされてる。別名「星の王」とも呼ばれるアステリオスは、星空を守護してるんだ。
   俺も神官から昔聴いた話だけど、天球を観察するのに邪魔なものはたくさんある。
   汚れた空気や街の灯り、人里と切っても切り離せないそれらをアステリオスは退けてくれるんだとさ」
   
竜人「なるほど。確かにそれは学者からしたら生命線とも言える代物ですね」

勇者「今日の夜から天文台に護衛に行こう。話はつけておいたからな」

勇者「あーあ、盗賊狩りならもっとこっちに人数いれりゃよかったな。神官、魔女、戦士のうち誰か一人でもこっちに入れてれば……
   そういえば、竜人って竜に変身しない場合、どれだけ戦えるんだ?」
   
竜人「それなりに剣術は嗜んでます。勇者様には負けますけどね。私も頑張りますよ」

勇者「そうか。頼りにしてるよ」




竜人「辺りが暗くなるまであと1時間ってところでしょうか。先に休みます?」

勇者「だな、今のうちに飯を食っとこう。今度はあいつに会わないといいが」

竜人「同感ですよ…… ん?」


ガシッ!!


男1「よお兄ちゃん二人でなにしてんだ!?これから飯かい? ならあそこの角の定食屋がオススメだぜ!」

男2「看板娘がとびきりかわいっくってな!……ん!?その姿……まさかオメェ勇者か!?」

勇者「あ、ああ」

男1「こいつぁすげえ!!まさかこんなところで勇者に会うとはよ!聞いたぜオイ、昔、北の大盗賊団を壊滅させたってマジか!?」

勇者「(あのころ魔物に全然遭遇しないから盗賊狩りばっかしてたんだよな……) 本当だ」

男2「かぁ~!かっくいいね!よしきた旦那、今日は俺の奢りだ!一緒に飯食わせてくれや!」

竜人「どうします、勇者様……って、ああ、ちょっと。引っ張らないでくださいって!」

勇者「お、おい。俺たちあんまり時間がとれないんだが」

男2「かまわねえかまわねえ!」



がやがやがやがや


男1「勇者様とそのお仲間様にかんぱーい!! 遠慮せずに飲んで食ってくれや!!」

男2「ここの葡萄酒は格別でね、俺も毎晩呑みにきちまってるのさ!おかげで酔ってるのか素面なのか誰にもわかんねえ有様だ!」

勇者「奢ってくれんのは有り難いけど、食事だけにさせてもらうよ。悪いな」

男1「なんだ勇者、お前下戸かい!?んなこと言わずに!!ほれほれ!!男なら一気に呷っちまいな!」

勇者「ちょっ!?ごぼごぼ……」

竜人「ああ、なにしてるんです。お酒は……」

男2「ほら兄ちゃんも呑みな!!!奢りだ奢りだ!!」

竜人「いや私はいいですって、ごぶっ!」

男2「はーはっはっはっは!!いい呑みっぷりだ!さすが伝説の勇者パーティだな!!」




半刻後



勇者「うっく――くっそ、なにしやがる。人の話も聞かずに――うぐっ。ああクラクラする」

男1「おいおい、もう終いかい?顔が茹だこみたいになっちまってるぜ!!」



竜人(これじゃ天文台に行くのは明日からになりそうですね。まあ仕方ありません。今日盗賊が来ないことを祈りましょうか)

竜人「勇者様、大丈夫ですか?」

男2「あんたは随分酒に強いんだなあ!呑んでも呑んでもしらーっとしてる」

竜人「まあ体質でして」

男1「ここの上は宿屋になってるんだ。俺が勇者を連れてってやるよ。お前らはまだ呑みたんねぇだろ?そこにいろよ」

竜人「いえいえ、私が連れてきますよ」

男1「呑ませちまった俺に責任があるからよ。気にすんなって。よいしょっと」

勇者「うっ」

竜人「そうですか……じゃあお願いしますね」


……バタン


男1「ふう、ふう。重いなくそったれ。おい勇者」

勇者「……」

男1「完全に寝入ってやがるな。しめしめ。これが、『時の剣』……。生きて出てきた者はいないという時の神殿の奥に眠っていたという……
   へへっ!すげえや!!それじゃこいつを失礼して!」
   
盗賊1「兄貴のところに持ち帰るか!!」




男2「あんたの出身はどこだい?」

竜人「太陽の国の北あたりですよ」

男2「へえ。あの国のか。それじゃさぞかし星の国の住民は奇妙に映るだろうな。周りを見てみろよ」

竜人「……」


「東洋から伝わった学術書をもう読んだか?あれに書いてある惑星の平均運動について疑問があるんだが……」

「天体の位置計算の補足表、最新のものがでたらしいね。これで私の研究も一歩前進といったところだ――」



竜人「……まあ、酒の肴に学問の話とは、結構変わってると思います」

男2「だろ?どこを見ても勉強のことばっかで、学のない俺らにとっては居心地悪いったらねえや」

竜人「ところで、お連れの方遅くないですか?ちょっと見てきましょう」

男2「あーあー!待て待て、俺が行ってくるよ!」


ガタッ!!バタバタ……




男2「よう。どうだった」

盗賊1「へっへ、見てみろこれ」

盗賊2「うおおおお!すっげえな!こりゃ高く売れるぜ!あいつらが気づく前に、兄貴のところに行こう!」

盗賊1「ああ!」




盗賊のアジト



盗賊1「兄貴ー!!盗んできやしたぜ!!時の剣だ!!」

仮面「おお、よくやったな。俺の方も朗報だ。天文塔への侵入ルート見つけたぜ」

盗賊2「さっすが兄貴だ!」

仮面「これから盗みに行くぞ。「星の王」――アステリオスを」

仮面「勇者が邪魔に来たとしても、この剣があれば無敵だ。丸腰の勇者と、伝説の剣を手にした俺、果たしてどっちが勝つだろうか」

盗賊1・2「兄貴だ!!」

仮面「そうとも。勇者が酔いつぶれた今がチャンスだ。行くぞ!!」

盗賊1・2「おう!」




「…………ま……う……さま、勇者様!!」


勇者「ん……!? な、なんだ?竜人?」

竜人「起きてください勇者様。腰に差してた剣はどちらに?」

勇者「へっ?どこにも置いてないけど――あれっ!?ない!!どこいった!?」

竜人「もしかして、さっきの男たち……私たちが追っていた盗賊団のメンバーだったのでは?」

勇者「なに!?っつ、頭いてぇ!あいつらどこ行ったんだ?」

竜人「勇者様を連れてった一人も、様子を見に言ったもう一人も、全然戻ってこないので見に来たらこのありさまですよ。多分もう逃げたかと」

勇者「あいつら!!最初っからそのつもりだったのか!くっそ!!急いで天文台へ行くぞ、竜人!」

竜人「天文台へ!?でも勇者様、足元ふらついてますけど」

勇者「俺から奪った剣を手にしてて、俺が体調万全じゃないこの今こそ、奴らにとって最大のチャンスだ!急ぐぞっ!」

竜人「勇者様そっち扉じゃなくて――」


ガターーン!!ゴシャァァァン!!!バタバタッ ゴトッ!

  おいなんだ!?上からなんか落ちてきた!  人!?


竜人「開け放たれた窓です――って、ああもう。遅かった……」



ダッダッダッダッ


守衛「止まれ、職員の印か推薦状は――ああ、勇者殿か……え、勇者殿!?なんで血まみれ!?」

竜人「さっき窓から落ちて……」

守衛「大丈夫ですか!?」

勇者「だいっ、だ、大丈夫だ!!気を抜くと吐しゃ物まき散らしそうな状態だが、大丈夫だ!」

守衛「それ大丈夫って言わないんじゃあ!? あ、行っちゃった……」


ダッダッダッ ズルッ バターーーン!!

 ユウシャサマー!!

 
 
 
 
守衛「……大丈夫だろうか……」






竜人「ここが最上階、宝石が保管されてる階ですね。!! 護衛の人たちが倒れてる!?」

勇者「俺も倒れそう…… おい、あんた! 気絶してるだけか。息はある」

竜人「まずいですね。もしかしたら宝石はもう……急ぎましょう」

勇者「ああ!」




勇者「この部屋か!開けるぞ竜人、準備しろ」

竜人「ええ」


バタンッ!


盗賊1「げっ!?誰だ」

盗賊2「勇者とその仲間!もう追いついてきやがったか!」

勇者「お前ら、やっぱり定食屋の男ども!!盗賊だったのか!!俺の剣を返せ!!」

竜人「全く、まんまと騙されてしまいましたよ。そして奥の、仮面をつけたあなたが親玉ですか?」

仮面「まあなぁ。でもそれがなんだってんだ?」



竜人「捕えます。剣は返してもらいますし、宝石もあなたたちに渡しません」

勇者「覚悟しろよ、お前ら」

竜人「勇者様、どこ向いてんですか。そっちただの柱ですしっかりしてください!!」


仮面「ッハッハッハ!剣も持たず、酒で千鳥足、そんな様で俺らと戦おうってのか?お笑い草だ。
   おい、お前ら、戦闘準備しろ! 俺も……」

   
   
スラッ――ジャキッ!



仮面「このお前から頂戴した剣の試し斬り、したいと思ってたところだ」

勇者「ハッ。強さってもんは剣で決まるんじゃない!本当に強い奴ってのは例え剣が鈍らだとしても立派に立ち振る舞えるもんさ」

仮面「いや、俺はこっちだ。どっち向いて構えてんだよ」

勇者「あーくそ!!もう!!いいからかかってこい!!」

仮面「じゃあ遠慮なくっ!」


ガキンッ! ギンッ! ガッ!





盗賊1「俺たちの相手はあんたか!?」

盗賊2「あんたみたいなひょろい野郎、10秒で地に臥せてやるよ!!」


ヒュッ―― ガッ

竜人「うっ、流石に速いですね!これは骨が折れそうだ……」

竜人(勇者様は大丈夫だろうか。あの仮面の男、相当な使い手だと思うのですが……)




仮面「ほらほら!どうしたよ勇者様!?防ぐのすらできなくなっちまいやがったかぁ!?」

勇者「くっ!ベラベラうるせーな!!」

仮面「すげえな、お前の剣。こんなに切れ味が鋭いのに、羽のように軽いぜ。ちょっと本気出せば――」


スパッッ


仮面「――お前のその鈍らも、真っ二つだ」

勇者「……ですよねー」

仮面「ハハハッ!ついに虚勢すら張れなくなったか。終いだな」

勇者(くそ、後ろは窓か!もう逃げ場がない)




仮面「こっから落ちたら、さすがの勇者様も命の危機ってやつじゃあねえのか?ん?」

勇者「ぐ……てめぇ……。一日に二度も窓から落ちてたまるか」


ヒュォオオオオオオ……


勇者(……さすが世界一の天文塔、てっぺんとなると雲も突き抜けてるのか)

仮面「どうだい、上半身まるまる雲の上に浮いてるってのは、どんな心地なんだ?なんなら落ちてみるか?」

勇者「…………その前に、ひとつだけ教えてくれよ」

仮面「なんだ?」

勇者「今――何時だ?」

仮面「あぁ?変なこと聞くな、お前。ちょうど12時を回ったところだ。時間がそんなに気になんのか?」

勇者「そうか。ありがとよ」ガシ

仮面「おい、なに剣掴んで―――――ばっ!離せオイ!!落ち――――」

勇者「一緒に夜空の散歩と洒落こもうぜ、仮面野郎!」


ヒュッ……


キンッ ガッ ガキン!

竜人「すばしっこいですね、本当っ…… ってあれ?勇者様たちはどこに?」

盗賊1「よそ見してる暇はねぇぞ!」

竜人「その様ですね……!さすが盗賊、評判になるのも分かりますよ」

盗賊1「へへっ!だろ!?」

盗賊2「双子の俺たちは息もぴったりさ!」

盗賊1「どんな野郎も二人で倒してきた!」

盗賊2「あんたも食らいな!!ほらよっ!!」

盗賊1「背中がガラ空きだぜ、おいっ!!!」


ザクッ!

竜人「いっ……」

盗賊1「ハハハ!食らったな!」

竜人「かすり傷ですよ」

盗賊2「かすり傷でも傷は傷。俺たちのナイフには象でも動けなくなるほどの痺れ毒が塗ってあるのさ!」

盗賊1「どんな猛者もひとたまりもないくらい強烈な毒だぜ!あんたも今にぴくりとも動けなくなるね!」

竜人「毒ですか……」



ヒュッ!!キィンッ!


盗賊1「なっ!?なんで動けるんだこいつ?」

盗賊2「この毒を食らって動ける奴なんて初めて見たぜ!」

盗賊1「なんなんだお前……?ただもんじゃねえな!?」

盗賊2「この毒を解毒できんのは、貴重も貴重、ドラゴンブラッドだけだ。でもあんなの実在してるかどうかも怪しいね」

竜人「そうですね……。竜の血はどんな病も治し、どんな毒も解毒するってあなたたちの間では伝えられてますね。
   もっとも純粋な竜族なんてもうこの世にいないので、万能の秘薬はもう作れなくなってしまいましたけど」
   
竜人「そんなもののために、私の母も父も……」

盗賊1「ああん!?なにブツブツ言ってんだぁ!?」

竜人「いえいえ、話しすぎましたね、すいません。では勇者様のことも気になりますし、そろそろカタつけましょうか」

盗賊2「フン、毒が効かないからって調子に乗ん―――」

竜人「オラァァァァ―――!!!」


バキッッ!!


盗賊1「拳!?ぎゃぶっ!」

盗賊2「っがぁ!?」



盗賊1・2「」

竜人「さて、勇者様とあの仮面の男はどこに……」



ビュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


仮面「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!馬鹿かテメェ!!!馬鹿か!!!本当に飛びおりやがって!!しかも俺も道連れとかふざけんなよクソ野郎!!!」

仮面「酒で脳もイカレたか!?テメェなんかと心中する気さらさらねーんだよッ!!!」

勇者「ぎゃあぎゃあうるせえな!落ち着け!」

仮面「これが落ち着いていられるか!!!死ぬんだぞ俺ら!!!」

勇者「まあ聞け!俺は転移魔法を使える」

仮面「はっ!?」

勇者「でもそのためには、お前が持ってるその剣が必要だ。俺に剣を返すか、このまま墜落死するか」

勇者「どっちにする?」

仮面「……ッ!!!剣でもなんでも返すから、さっさとその魔法とやらを使えクソ勇者!!!!!」

勇者「はいよ!」



シュンッ




シュンッ


勇者「……ふう」

仮面「はーっ、はーっ、はーっ、気狂いかテメェ」

竜人「勇者様!ご無事でしたか。びっくりしましたよ、気がついたらいないんですから」

勇者「ちょうど時間が12時過ぎててよかったぜ。この魔法は一日に一回しか使えないからな。おら、返せよ宝石」


ジャキッ


仮面「くっ……この野郎」


勇者「剣も取り戻せたし、宝石も守れたし、盗賊団も捕えたし。一件落着……あれっ?」

竜人「あっ」

バタンッ


竜人「勇者様!」



* * *


勇者「うーん……まぶし……。ん?朝か。ここは……宿?」

勇者「あれ、俺確か昨日盗賊と戦って、その後……」


ギィ バタン


竜人「お目覚めですか」

勇者「竜人!俺、どうなって?」

竜人「盗賊団のリーダーを倒した後、倒れたんですよ。まああれだけケガした後ですからね。体調はどうです?」

勇者「もう万全だ」

竜人「……この国の王から、召集がかかってます。勇者様が目覚め次第、体調が良好なら城にきてほしい、と」

勇者「国王から?そうか。じゃあ、行くか。お前、本当に来る気なんだな?」

竜人「ええ。もちろん」

勇者「ふう、じゃあ気を引き締めていくぞ。俺たちの本来の目的――認証書をもらいに行くんだからな」

竜人「はい。魔族と人の未来のために」

勇者「……」

勇者(魔王、見てろよ。認証書を絶対持ち帰ってやるからな)



魔王城


魔王「……」

ニンフ「魔王様、どうかしましたか?」

ノール「さっきから上の空ですけど」

魔王「……いやなんでもない。えっと、日付はこの日でよいのだったか」

ニンフ「ええ。でも……魔族が危機に晒されているこの状況で、本当にいいのかしら。その……」

魔王「いい。こんな状況だからこそ、何か皆を明るくさせるようなことが必要なのだ」

ノール「そう言って頂けると救われます」

魔王「私も楽しみにしている。竜人や魔女、勇者くんたちも来られたらいいのだがな。で、もう決めたのか?」

ニンフ「はい」

ノール「もう村のみんなにも伝えましたし衣装も準備しました」

魔王「そうか。もうすぐだな」

ニンフ「魔王様、どうぞ宜しくお願いしますね」

ノール「お願いします」

魔王「うん、分かってる。楽しみにしているぞ」




魔王(勇者くん、神官、戦士、竜人、魔女……元気にやっているだろうか)

魔王(やはり私だけ何もできないというのも歯がゆいものだな)

魔王(なんとか私の魔力と私の体を分離できれば、結界を維持しつつこの島以外で私が活動できる。
   その魔法を先日から研究しているのだが……一向に完成しない)
   
魔王(……はあ。いまごろみんなはなにしているのだろう……)




* * *


ゴゴゴゴゴゴ……バタ…ン


星の王「やあ。久しぶりだな勇者。横の彼は初めて会ったね」

勇者「お久しぶりです。星の国の王子よ」

竜人「初めまして……」

星の王「僕の国に来ていたのなら、言ってくれればよかったのに。盗賊団を捕えてくれて感謝しているよ。
    なにせ狙われてたのは天文台のアステリオスときたもんだ。盗まれていたらと思うとぞっとしないよ」
    
星の王「今盗賊たちは地下の牢につないで――」

騎士「失礼します!謁見中申し訳ございません、囚人どもが奇妙なことを口走ってまして、ぜひ王の耳にお入れしたいことがあるとか……」

星の王「僕の?そうか、じゃあここに連れてきてくれ」

騎士「よろしいのですか?」

星の王「ああ、いいよ」

勇者(王の耳に入れたいこと?なんだ?妙なことを言わないといいが……)




仮面「チッ 離せよテメェ!」

騎士「暴れるな!!」

星の王「罪人たちよ。僕に言いたいことがあるって言ってたけど、なんのことだろう」

盗賊1「王子様!聞いてください!そいつらは、少なくとも勇者でない方のそっちの男は!!人間じゃありません!!!」


勇者「!?」

竜人「……」

星の王「……なんだって?」


盗賊2「おかしいんですよ!人なら間違いなく効くはずの毒薬を食らってもピンピンしてやがったぜ、そいつは!!
    あり得ないかもしれねえが――そいつは!!」
    
盗賊2「人間じゃない!!魔族だ!!!」

勇者「なっ……!」


ざわざわざわざわ


騎士1「……っ!」

騎士2「魔族だと!?太陽の国が魔族との戦争を目論んでるとは聞いていたが、我が国にまで!?」



勇者(くそ!場の空気がもってかれた。交渉を有利にするために盗賊団を捕えたってのに、これじゃ逆効果だ)

星の王「騎士たちよ、剣をおさめなさい。ここにいるのは、私の友人だ」

勇者「!」

星の王「どういうことだか説明してもらってもいいかい?勇者……そして、お隣の彼は、なんて名前なのかな」

竜人「星の国の王子よ。素性を明らかにせず、あなたの御前に現れた無礼をお許しください。
   私は正真正銘、魔族の――竜族の血をひく者です」
   

ざわざわっ

騎士「貴様!!一歩たりともそこから動くな!宮殿にまで入り込んできおって!!」

勇者「俺たちは!!あなたに危害を加えようとしてここに来た訳ではありません!!どうかお話を聴いてください、王子!」

仮面「魔族だと!おいおい牢獄にいれる相手を間違ってるんじゃないか王子様!!俺たちを釈放してあいつらを牢にぶちこめよ!!」

盗賊2「どうりで毒がきかねぇわけだ!薄汚い魔族の血め!!」

騎士「動くな蛮族!!!」


星の王「……静かに」

星の王「我が国らしく、理性をもって物事を判断しようじゃないか。そのためにまず勇者と竜人の主張を聴こう。
    なぜ魔族の者が僕の国に?人間の希望たる勇者、君は何故魔族と共にいる?」
    
勇者「……有難うございます。ではお話しましょう。俺が魔族と共にここにいる理由、そして」

勇者「俺たちここ星の国に来た理由を」



勇者「俺は太陽の国の王に命じられて魔族討伐の旅に出ました。そしてついに魔王城の居場所を突き止めたのです。
   でも、そこで出会ったのは、想像していた魔族とは全く異なる者たちでした」
   
勇者「そして聴かされた魔族の歴史、境遇。俺たち人間に伝えられてきたものと全然違います。
   100年前の人魔戦争、その原因についても人間と魔族では伝えられてきたものが異なっています。
   俺は、何が正しいのか分からなくなりました」
   
勇者「歴史の曖昧さは仕方のないことです。でも1つだけ、分かっていることがあります。
   魔族は、俺たちが思っているよりずっと善良で、人間と性質が一緒だってことです」
   
星の王「一緒?どういうことだろう」

勇者「一緒です。気性の荒い者もいれば、血を見るだけで卒倒する者もいます。大体は、俺らと一緒です、平和な世界が好きなんです」

竜人「勇者様の仰る通りなんです。私たち魔族は戦争を始めて人間たちを脅かそうなんてこれっぽっちも思ってません。
   100年前の戦争で我らはどんどん種を減らし、今では純粋な魔族もほとんど残ってません」
   
星の王「……」

竜人「聴いてくれますか。私たちの歴史を」

星の王「……」

騎士「惑わされないでください、王よ!王宮の奥に魔族が入り込んでいるこの状況が既に危険ですよ!」

星の王「……聴かせてほしい。ぜひ」

騎士「王よ!!」

勇者「……!」

竜人「……! 有難うございます……!」




星の王「騎士たちよ、少し黙っていてくれ。僕の身を案じてくれるのはいいが、それではなにも新しい見聞など得られないのだから。
    真実とは常に思いもよらぬ方向から我らを導く。僕たちはそれを拒んではいけないのだ」
    
騎士「……っ! 仰せのままに、王よ」

星の王「さあ、聴かせておくれ。魔族の話を聴くのは初めての経験だ。歴史学も、天文学ほどではないが、この国では盛んなのだよ」

竜人「……はい。では……」










星の王「……なるほどね。実に興味深い話だ。それで、君たちは僕に何をお願いしたいんだい。
    盗賊たちを捕えたのも、交渉をスムーズに進めるための交渉材料のつもりだったんだろう?」
    
竜人「ばれてましたか……」

勇者「さすが王子です。太陽の国が魔族を殲滅しようという動きがあるのはご存じですよね」

星の王「ああ、確かあと3カ月後くらいだったかな。また軍隊要請の文が届いていたよ」

勇者「俺は、俺たちは、それを阻止しなければなりません。でも国王は聴く耳を持っておらず。
   よって、神の法を執行させるために貴方様の認定証を頂戴しにまいったのです」
   
星の王「神の……法?」

星の王「………………フフ」

竜人「?」

星の王「あーっはっはっはっはっは!!」

竜人「!?」




星の王「まさか本当に!?そんな制定以来一度も成功していない神法を本気でやろうと思っているのかい?」

勇者「……本気です。
   例え成功率が低くとも、やらなければ魔族は、こいつらは殺されるんですよ。人間の勝手な都合で。
   そんなの見過ごせるわけありません!!3カ月後に行われるのは――粛清じゃない、ただの虐殺だ!!」
   
竜人「お願いします。認定書を下さい。私たち魔族に生きる希望を下さい」

星の王「では、メリットとデメリットを考えてみよう」

勇者「……は?」


星の王「まずメリット。ゼロ」

勇者「いやいや!ゼロじゃないですよ!罪のない魔族たちが殺されずにすむんですよ!?」

星の王「それは魔族たちのメリットであって、僕たち星の国のメリットではないよね。
    では次。デメリット」
    
星の王「まず神の法執行失敗した場合、太陽の国の僕たちに対する風当たりは間違いなく強くなるだろうね。
    交易、外交、いろんな面で影響がでてくるだろうさ」
    
星の王「しかも神法はこれまで成功例がないときた。理由は分かってるよね。国王がそうむざむざと玉座から引きずりおろされるものか。
    なんとしてでも妨害するのさ。あらゆる手段を使って。大体君たちみたいな国の是正を目論む若者たちは暗殺されて、歴史の闇の中に葬り去られてきた」
    
星の王「こんな条件の下で、僕が認定証をだすと思うかい?
    魔族の君には同情するよ。でも頑張ってとしか言えない。悪いけどね」
    
竜人「……!!」




竜人「……ひとつだけ、いいでしょうか」

星の王「なんだい?」

竜人「……人と魔族。悪だとすれば、どちらでしょう?」

星の王「難しい質問だ。でも多分、人だろうね。罪深い生き物だよ」

竜人「……そうでしょうとも。私も今、そう感じているところです」

騎士「貴様っ!」

竜人「……」


勇者「…………待ってください!!あります。メリット」

星の王「ん?」

勇者「あ、ありますよたくさん!!えっと……」

勇者(くそ、こんなとき神官がいてくれりゃあいろいろと喋ってくれてるだろうに……!
   でも俺が考えなければいけないんだ。考えろ!この頭でっかちの王子様を納得させられるような案を思いつかないと……)
   
勇者(魔族……魔王城……あの島…… そうだ)

勇者「神の法が無事執行された場合、魔族たちも交易ができるようになります。魔王城のある島では、人間界にない農産物や資源がたくさんあります。
   もし魔族が自由の身になった暁には星の国を交易面で優先しますよ! な、竜人!」
   
竜人「えっ?あ、はい!」




星の王「なるほど。でもそれだけかい?」

勇者「う……あ、あとは……」

竜人「……あともうひとつあります」

竜人「先ほど、あなたは『天文学ほどではないが、歴史学も盛んだ』と仰いましたね。
   学問の都であるここでは、歴史学、民族学、民俗学諸々最先端の研究がなされていると思います」
   
竜人「魔族という『滅びゆく種族』の語る歴史や文化、そのまま葬り去っていいのですか?
   あなたがたにとっては貴重な研究材料ではないのですか?私たちの仲間には、純粋な血族ではありませんが
   エルフ、ヴァンパイア、グリフォン、ハーピー、マーメイド、キマイラ、様々な種族がいます」
   
竜人「人体実験はごめんですが、認定書をくださればあなたがたに惜しみない協力をすることを約束しますよ」




星の王「……………………ハハ、やるじゃないか」

星の王「いいよ、認定書を差し上げよう」ニッコリ

勇者「!」

竜人「ほ、本当ですか……」

星の王「試すような真似をしてしまって申し訳ないね。まさか魔族に、本当に我々のような知性があったとは。
    いや恐れ入ったよ。どうやら君たちの話も真実みたいだ。僕は今日、また未知の真理に出会った。
    星に感謝をしなければ」



竜人「有難うございます」

勇者「やったな、竜人!王子、有難うございます!!」


仮面「おい、ちょっと待てよ。なに和解ムードになってんだコラ。魔族だぞ!?
   なんで魔族は見逃して俺たちは牢獄行きなんだよ!」
   
星の王「ああ、忘れていた。罪人たちを牢へ戻せ」

騎士「ハッ」

仮面「待て待て!離せよ!!」

星の王「どうしてアステリオスを盗もうとなんてしたんだい?あれがなくなったら天球の観察に支障をきたす。
    我らの国の一番大切な宝石なんだよ」
    
仮面「ケッ!石がなんだ、星がなんだ!!んなもん、腹の足しにもなんねぇよ!」

仮面「いいかよく聴け!俺はこの国が大っきらいだ!この世界には朝食うパンにすら事欠く奴がたっくさんいるんだ!
   あんな宝石、すぐ金にしちまって食いもんにした方がよっぽど役に立つってもんだ!
   それを後生大事に塔のてっぺんに保管しやがって、この国は勉強しすぎてアホに成り下がった奴ばっかさ!」
   
勇者「……」




星の王「学問の発展がいずれ国の発展にも繋がる。そもそも僕は慈善活動にも積極的だけど」

仮面「あの宝石を売った方が、その高邁な精神による慈善活動とやらよりもよっぽど民のためになるね!
   結局口だけだてめぇらは!教科書だけ見て国の汚い部分を見てねぇんだよ!!」
   
星の王「ひどい言われようだ」

騎士「貴様ッ!黙れ!!」

仮面「ぐっ…!」

盗賊1「兄貴ー!」

盗賊2「兄貴、もうしゃべらん方がいいですって!」



勇者「王よ、もうひとつお願いがあります。あの者たちを俺にまかせてくれないでしょうか」

仮面「はっ!?」

竜人「え!?」

星の王「理由は?」

勇者「俺たちが結成してる同盟はまだまだメンバーが足りません。できるだけいろんなところに人脈をはりたいんです。
   盗賊団のメンバーはまだいませんし、こいつらかなり腕が立ちます。俺にまかせてくれませんか」
   



盗賊2「はあああ!?なに言ってやがんだてめぇ!」

星の王「分かった、まかせよう」

盗賊1「ええええ!?なに言ってんだこのクソ王子!」

星の王「ほかならぬ勇者の頼みなのだから。星が僕に示してくれている。
    君は世界を導く者だって……」
    
勇者「は、はあ」

勇者(相変わらず、たまに訳分からないこと言う人だな)

星の王「じゃあその者たちを釈放しよう。では勇者、竜人、盗賊団よ」




星の王「――君たちの行く末に、星の導きがあらんことを」



今日はここまでです
男しか主に出せなかった(白目)


http://upup.bz/j/my46513tKcYtgNLDSZFzXj6.jpg

美しの星空

星が動いてるように見える

竜人って男だったんだ(震え声乙ー

>>310
俺もその事実に驚愕

竜人の性別逆だって思ってる方いそうだなーと思ってたらやっぱりいらっしゃいましたか
一応顔合わせで、姫が竜人に一目ぼれしてる描写いれたんだけど分かりにくかったですね…

男 勇者 戦士 竜人 仮面 盗賊1・2 騎士 グリフォン魚人キマイラ
女 魔王 神官 魔女 姫 ハーピー 

くらいかな?では投下


――その頃――


魔女「ぜっっっっ」



魔女「んぜんっ!見つからないじゃん!!どこ行ったんだよ君らの王子様!?」

神官「はあ……そんな簡単に見つからないとは思ってましたけど」

戦士「今日も成果がだせなかったな」

魔女「あ、あそこに座ってる人かっこよくない?もしかして王子かな?ねーねーそこの君!」




魔女「違いました」

神官「ていうかやっぱり手かがりがですね、少なすぎますよ。……あれ?なんですあの鷹、こっちに飛んできます」

戦士「文が結んであるぞ。どうやら俺たちあてのようだな。なになに。
   ……む?なんだこの文字は。暗号か?」
   
魔女「見して。……これ、竜人からだね。んーと」




魔女「認定書ゲットしたって!!」

神官「ま、魔女さん、しーっですよ!ちょっと声小さくしてください!」

魔女「いけね。ごめんごめん」

戦士「なんと!よくやりおったな勇者と竜人の奴」

魔女「続けるね。しばらくあっちも都で王子の聴きこみしてから帰るってさ。
   ……おっ!星の王様があたしたちが探してる王子様と幼少の時に知り合いだったみたいで、話聴いたって」
   
神官「え、なんて書いてあります?」

魔女「髪は金で、左目の下に泣きぼくろがあって、鎖骨あたりに昔剣術大会で負った傷の痕があるはずだって」

戦士「ほう。容姿は大分絞れたな」

魔女「ふーん。剣はかなりの腕前らしいよ。大会で優勝したこともあるみたい」

戦士「貴族たちの剣術大会なら俺も一度見たことがある。実戦よりも型の美しさの方が重視されるような大会だったが、
   それなりに白熱しておった。かなり独特な構えでな、こう片手を前に突き出してもう一方を……」
   
魔女「あたしたちに言われてもちんぷんかんぷんなんですけどー。魔術師組だもん。
   なんならお返しに光魔法と闇魔法の比較考察について講釈したげよっか?」
   
戦士「む……結構だ」



神官「それにしても、これからちょっとは人探しも楽になりそうですね!勇者様たちも探してくれているそうですし!
   明日は武器商人の方たちにお話窺ってみましょう」
   
戦士「そうだな」

魔女「早く王子様に会ってみたいなー。どんくらいかっこいいんだろ?噂になるくらいだから相当だよね。神官も気になるよね?」

神官「へ?いえ私は別にそれほどでも」

魔女「好きな男とかいないの!?」

神官「はい!?な、なに言ってんですか!? 魔女さん、今そういうことお話してる場合では!」

魔女「いいじゃん別に、もう今日することないし。教えてよーねえねえー」

神官「いやですっ、もう勘弁してくださいよ!私そういうの興味ありませんからっ!」

キャッキャ キャッキャ




戦士「…………」

戦士(早く勇者たちと合流したい……)





星の都


勇者「なあ。こういう顔の男見たことないか?」

学生「なんですそれ、似顔絵ですか?……うーん、見たことないですね」


竜人「金髪で左目の下に泣きぼくろがある男の人、ここに泊まったことありますか?」

宿屋「んん?ごめんな兄ちゃん、覚えてねーや。なにせ一日に何十人も客が来るからな」




勇者「……なかなか、見つからないな。やっぱり」

竜人「人が多すぎることがかえって仇になってますね」

勇者「おおい、お前らどうだった?」

盗賊1「へい!成果なしです!」

盗賊2「全然だめでしたぜ勇者の旦那!」

勇者「そっか。あれ、あいつは?」

仮面「……気安く呼ぶんじゃねぇよ。チッ」



勇者「いたのか。西の方の酒場と宿屋はどうだった?」

仮面「……」

勇者「おい、ちゃんと聞きにいったんだろうな。無視すんなよ」

仮面「言っておくがな、俺はお前の下についた訳でもなんでもねぇからな。今逃げたら即牢に戻されるだろうから、協力してやってるだけだ」

盗賊1「兄貴、でも俺たちこの人たちのおかげで助かったんですぜ?おまけに昨日飯奢ってもらったし」

盗賊2「竜人の旦那にも悪いこと言っちゃったな。すいません」

竜人「いや別にもういいですよ」

盗賊2「魔族がこんないい人だなんて知らなかったぜ。でもこの人の仲間が王国に殺されそうなんだろ?
    弱きを助けて強きをくじく!それが俺たちの信念じゃねえですか兄貴」
    
盗賊1「俺と弟は孤児でね、きたねえ路地裏で、泥棒の濡れ衣着せられて追いかけまわされて、餓死しそうになってたところを
    兄貴に助けてもらったんだ。だから、竜人の旦那の気持ちもちょっとばかし分かるんだ」
    
竜人「そうですか……大変でしたね」

盗賊2「兄貴、俺たちも協力しましょうよ!」

仮面「チッ! ほだされやがって馬鹿ども。まあいい、今だけだ。
   西は宿屋も酒場も目撃情報ゼロだったよ。このお前さんが描いた美青年像もちゃんと見せてやったぜ」
   
勇者「そっちもだめか」





勇者「つーか、気になってたんだが」

仮面「あ?」

勇者「お前なんで仮面なんてつけてるんだ?怪しまれるだろ、とれよ」

仮面「うるせえな、いいだろ別に。ほっとけ」

勇者「まあ無理にとは言わないが……不便じゃないのか」

盗賊1「兄貴は俺たちと出会った時からこの仮面を愛用してんだ。よっぽど気にいってんですね!」

仮面「まあな。そんなことより、おいあそこの武具屋にはもう寄ったのか」

竜人「あそこはまだです。休憩してから行こうかと」

仮面「さっさと行くぞ。大きめの店だから客もいっぱいいんだろ。おーい親父、ちょっと話聞かせてくれよ」

盗賊2「あ、待ってくだせえ兄貴!」

竜人「急にやる気出しましたね。行きましょうか勇者様」

勇者「お、おう。……ん?こっちの狭い通りの奥……看板が見えるな。もしかして……」

勇者「悪い、先に行っててくれ」


竜人「え?あ、はい。……?」



勇者「やっぱり武器屋だったか。目立たないところにあるし品ぞろえも悪いが、なかなかいい剣を売っている。市場じゃ見たことのないものばっかりだ」

鍛冶屋「おやいらっしゃい。見慣れない客だ。新しい剣かね?買い取りもやっとるよ」

勇者「ああいや、買いにきたわけじゃないんだ。人を探していて」

鍛冶屋「むっ!?お主、その腰の剣は……まさか神殿の……ふぉおお!ちょっと見せとくれ!後生じゃから!後生じゃから!」

勇者「ええっ!?あの、話聞、」

鍛冶屋「やはりそうか!!この美しい刀身……わしが何年修業を積んでも到達できんレベルだ。素晴らしい」

勇者(聞いてねえ……)

鍛冶屋「しかし、万人にとって扱いやすい剣という訳でもなさそうだな。この重さと刀の薄さ、しなり具合。なかなか扱いづらそうじゃ。
    そういえばこの間、店に何年も置いてあった業物を金髪の若者が買っていったわい。
    それも癖のある形でな、わしもなんであんなの作ったのか分からんのだが」
    
勇者「! 金髪の若者!?詳しく聞かせてくれ!そいつ、もしかして左目の下になきぼくろとかあった!?」

鍛冶屋「んなもん知らんわ」

勇者「ええっと、じゃあ、どんな剣買っていったんだ?」

鍛冶屋「こんな形の短剣だ。お前さんに使いこなせるのかと訊いたらな、わしが見たことのない構えをとってみせた。
    こう左手に短剣を握って、右手にサーベルを控えさせとるんじゃ。で足がこう」
    
勇者(これが貴族の剣術なのか?俺大会見に行ったことないんだよな……今度戦士に訊いてみるか)

勇者「あっ、じゃあ首元に傷跡はなかったか?」



鍛冶屋「傷跡ねえ……おお、そう言えば若者が来た時には雨が降っておってな、天気が悪いと古傷が痛むだのなんだの言っとった」

勇者「本当か!そいつで間違いない。ありがとなおっさん!じゃあ剣返してくれ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「……いや、早く返してくれよ」

鍛冶屋「……」

勇者「おい!!」



* * *


竜人「勇者様。どこ行ってらしたんです? ここの店も手掛かりはありませんでしたよ」

勇者「ちょっと手こずったが……聞いてくれ、王子の手がかりを見つけたんだ」

竜人「えっ」

勇者「近々雪の国に発つと言ってたそうだ。間違いなく最近まで彼はこの都にいた。もう少し目的地を絞り込みたいから、聞きこみを続けよう」
   
仮面「雪の国だぁ?はーん、奴さん随分飛びまわるもんだ。俺は星の国だけの協力でいいだろ?
   お前ら2人は好きにしろ。この際盗賊から足を洗っちまえばいい。俺は俺で好きにやる」
   
盗賊1・2「そんな、兄貴~!」

勇者「だめだ。最後まで協力してもらうぞ。そういやさっきの鍛冶屋との話で出たんだが……
   俺の剣、一般人にはかなり使いづらい形状だそうだ。あの天文塔で、よくお前あんな身のこなしできたな」
   
竜人「確かに変わった剣ですよね。装飾用や鑑賞用とも思えるくらい」

仮面「剣と名のつくもんなら大抵使えるさ。生きるために手当たりしだい近くにある刃物で戦ってきたからな」

勇者「へえ……」




しばらくしたあと 魔王城


シュンッ


盗賊1「おお~!ここが魔王城ですかい!?すげえ!でけえな!」

盗賊2「俺たちまで連れてきてもらえるなんてな!ラッキーだぜ!」

仮面(魔王城か……いい宝あるか?)

竜人「盗んだら殺しますよ」

仮面「!?」

勇者「結局あれから王子の目撃情報はチラホラあったけど、雪の国のどこに行ったかまでは特定不明だったな」

竜人「まあ、これでもちょっとは前進しましたよ。雪の国ではきっと見つけられるはずです。……おや」


シュンッ


魔女「あ。勇者に竜人と――え、横の人たち誰?」

神官「お久しぶりです!皆さん!」

戦士「おお、認定書のことは聞いたぞ。でかしたな二人とも」

勇者「おー久しぶり」



神官「聞いてください勇者様!王子を見たって人、いましたよ!なんと、次は雪の国に向かったそうですっ!!!」

勇者「ああ、俺たちもそれ聞いた」

神官「エッ」

勇者「雪の国のどこに向かうかは特定できたか?」

神官「いや……ええと……いえ……。ごめんなざい゛……」

勇者「なんで涙ぐんでるんだよ!?」

神官「調子に乗りました……穴があったら地核まで掘り進めて埋まりたい……」

勇者「ナイーヴすぎだろお前!」


魔王「……いつまで城の外でおしゃべりしているつもりだ?」

竜人「魔王様。ただいま戻りましたよ」

魔女「魔王様ぁぁ!ただいま~!」

仮面盗賊1・2(魔王……??あれが……?)
            
                  ↑
勇者「恒例の行事になってるな、これ」




魔王「本当に認定書を……?すごい……まさか……。それに王子の行方もあと一歩というところだな。
   みんな、本当にありがとう」
   
勇者「あの国にもどうせ認定書をもらいに行くつもりだったしな。でもあと2カ月と少しで見つかればいいが……」

竜人「勇者様たちはこの後太陽の国に戻って、皆さまに報告なさってください。出版した本のこともあるでしょうし。
   表だって動けない私と魔女は、雪の国で引き続き王子探しをやりますよ」
   
魔女「はあ~……あたしあの国寒いから嫌い」

竜人「我がまま言うんじゃありません」

戦士「そうだな。それからこちらも落ち着き次第雪の国に向かって認定書を女王からもらおう」

神官「はい」

魔王「ところで、竜人たちも勇者くんたちもここを発つのは明日になるだろう?ぜひみんなに参加してほしいことがあるんだ」

勇者「ん?なんだ?」

魔王「ふふふ」

勇者「なんだよ、楽しそうだな」


魔王「明日は結婚式があるのだ」




勇者「結婚式?ここでか?」

神官「わあ、素敵です!」

戦士「めでたいな」

竜人「ああ、あのニンフとノールのですね。間に合ってよかった」

魔女「大変!じゃあ明日のための洋服とメイクとヘアセットの準備して今日は早く寝なくっちゃ!おやすみみんな!」

勇者「はやっ まだ陽が沈んだばっかりだぞ」

魔王「式を執り行うのも魔王の役目なんだ。準備はもうばっちりしてあるから、勇者くんたちも楽しみにしててほしい。
   一緒にきたあの仮面の彼と盗賊たちにも伝えてくれ」
   
勇者「おう、分かった」




翌日


仮面「なんで俺たちまで……」

竜人「あなた、夜中城の中をこっそり徘徊してたでしょう」

仮面「べっ、別になんもしてねぇけど!?」

竜人「……」

魔王「盗む価値のある芸術品なんかこの城にないぞ。物色しても無駄だ」

勇者「つーか、お前、結婚式くらいその仮面とれよ。一人だけ舞踏会の招待客だぞ。
   あとそれからいつもつけてるそのマフラーも。確かに今日は肌寒いけどおかしいだろ」
   
仮面「うるせぇな、ほっとけ。魔王のお譲ちゃんの言う通り、全然お宝ねえんだもんな。来て損した」

魔王「仲間の彼らはすごく楽しそうだが」


盗賊1「おお、ここが式場かぁ。俺結婚式にでるのなんて初めてだ」
盗賊2「俺もだぜ。花がたくさんあってきれいだなぁ!てか魔族ばっかだここ!すげえ!」
子エルフ「兄ちゃんたちも人間だー!人間いっぱい増えたー!すげえ!」


仮面「……はあ」

魔王「じゃあ先に私たちは先に中に入ってる」

魔女「またね~」




ニンフ「魔王様、今日はよろしくお願いします」

ノール「よ、よろしくお願いします」

魔女「わああっ ニンフすごく似合ってるよ!きれい!ノールも男前じゃん!」

竜人「いやーやっぱりこういう行事は心躍りますねえ。幸せになるんですよ二人とも」

魔王「手順はこの間の言った通り、ここで婚礼の儀を終えたあと、外にでて島のみんなが作ってくれたアーチを潜って
   離れたところにある東屋まで歩いて行ってくれ。……そんなに緊張しなくていいと思うが」
   
ノール「そ、そそそそうなんですががっがね!」

ニンフ「やだもう、ノールったら……この人緊張しいなんです」

魔女「でも、ちょっと天気が心配だね―――あ、うそ……」


ポツ、ポツ……ザァアアア―――……


竜人「雨が……」

ニンフ「あら……どうしましょう」

ノール「これじゃ延期、かな?」

魔王「ああ、大丈夫。ちょっとこの荷物持っててくれ、魔女」

魔女「魔王様、えっ?なんで杖構えて」

竜人「ちょっと待ってください特大の風魔法発動して雨雲を吹き飛ばそうとかそういうの洒落にならないんでやめてくださいよ!?魔王様!?」




魚人「いよぉ、久しぶりだな勇者御一行」

ハーピー「こんにちは」

勇者「久しぶり」

グリフォン「認定書ひとつ手に入れたって本当かい?すごいなあ」

戦士「まことだ。もうひとつも必ず手に入れる」

キマイラ「それは頼もしい。いやはや、あなた方のご活躍と今日の結婚式のおかげで久しぶりに島に活気が戻りましたね。
     子どもたちも元気に振る舞ってはいるもののやはり一抹の不安を感じていたようですが、今日は元気いっぱいで安心しました」
     
魚人「俺はいつでも元気爆発だけどな!!!!!フゥッ!!!!式場から二人が出てきたら秘蔵の酒を新郎にぶっかけようと思ってな!!!ワインシャワーだ!!!」

ハーピー「頼むからやめてあげて」

神官「花嫁ブチ切れますよ、それ……」

勇者「そろそろ式が始まるかな……。ん?」



ポツ、ポツ……ザァアアア―――……



戦士「む、雨か」

マーメイド「大変!私はむしろ大歓迎だけど」

魚人「俺もむしろ大歓迎なんだけどな」

グリフォン「魚人族はそりゃそうだろうけどさ。これじゃ式は中止かな?」

子ヴァンパイア「ええー!俺結婚式見たいー!」

盗賊1・2「「俺も見たい!!」」

仮面「てめえらすっかり馴染んでんなぁオイ」



カッ!

神官「うわあ!?眩しい……これ、魔法の光じゃないですか?誰かが魔法を使ったんですよ」

勇者「魔法を?でもどうして。……あれ……雨が止んだ。代わりにあの白いの――雪か?」

戦士「いや、これは」


子エルフ「花びらだー!空から花びらが振ってくるー!」

仮面「……魔法でこんなこともできんのか」

グリフォン「僕も初めて見たなあ」

ハーピー「すごい……きれい」

勇者「これって――そうか、魔王か。完成させたんだな」

子ヴァンパイア「あ!お姉さんとお兄さんでてきたー!」

魚人「よおしお前らみんなでアーチ準備しろ!!あいつらを出迎えるぞー!!」


わいわいわいわい がやがやがやがや
「おめでとう!」 「おめでとうございます!」 「お幸せに!ニンフ!ノール!」


ニンフ「わ……す、すごいです。本当に雨が花びらになっちゃった……!」

ノール「こんなことが……」



魔王「ほら、みんな待ってるぞ」

ノール「は、はい!有難うございました!」

ニンフ「こんな素敵な結婚式を挙げることができて、私たち幸せです……ぐすん」

魔女「泣いたらメイク落ちちゃうよ?夜に宴会もあるのにさ」ニコッ

竜人「さあ、行ってらっしゃい」ニコニコ


わーわー
 オメデトー ……

 
 
竜人「はあ……なんか涙でてきた……魔王様もいつかお嫁にいくのかと思うと。うぅ」


魔女「でたよー竜人の親ばか」

魔王「……。心配せずとも嫁にはいかないよ」

竜人「え?いまなんか言いました魔王様?」

魔王「なんでもない。私たちも行くぞ」

魔女「はいはーい」





* * *


魔王城 鐘塔


魔王「……」

魔王「……誰だろう。ここに上ってくる足音が聞こえる。みんな宴会の準備をしているはずだけど」

勇者「なんだ、魔王。こんなところにいたのか。どうりで姿を見かけないと思った」

魔王「勇者くんか」

勇者「なにしてんだ?」

魔王「もうすぐ陽が暮れるなって」

勇者「ああ」

魔王「思ってた」

勇者「つまりサボリかよ。宴会の準備手伝えよ」

魔王「サボリではない。休憩と言う」



勇者「あの魔法完成させたんだな。以前言ってた魔法だろ?」

魔王「そうだ。私は魔王なのに城から出れない無能魔王だからな、魔法の研究か草むしりくらいしかすることがないのだ」

勇者「そんなに卑下せんでも」

魔王「最近は空から菓子を降らせる魔法の前に、魔力を自分の体から分離させる魔法を研究している。それが完成したら私もいろいろ役に立てるのに……」
   
勇者「そんな魔法が作れたら、魔術界が騒然とするな」

魔王「作るさ。絶対」

勇者「本当に作りそうだから怖いよ。……お前と図書室で魔法のことを話していた時から随分時間が経ったもんだ」

魔王「色んなことがあったけど、今のような状況になるとは夢にも思わなかった」


勇者「俺も。……そうだ。忘れてた。ほらよ、これお前にお土産」

魔王「? ブローチ?」

勇者「星の都で売ってたものだ。陰で見てみろよ、火が灯ってるわけでもないのに光るんだ。
   露店の商人は本物の星が入ってるって言ってたけど、まあ売り文句だろ。原理は分からないな。お前なら分かるか?」
   
魔王「これは……多分、月桂樹の葉とガラス球と……いや」

魔王「……本物の星が入っているんだな、きっと。だってこんなにきれいなんだから。ほら、ささやかな光だけど頑張って瞬いてる」

魔王「勇者くんが星をくれた。君は本当にたくさんのものを私にくれる」



タンッ

勇者「おい、そんなところに登ったら危ないぞ。ただでさえ運動能力ほぼゼロなんだから」

魔王「う、うるさい。少しくらいはある」


魔王「……この鐘塔は島で一番高いところにあるんだ。ここからなら島の全貌も、その向こうに広がる海も見える」

勇者「おー……。きれいな眺めだな」

魔王「勇者くんは死にたいって思ったことはあるか?」

勇者「なっ、なんだ突然。どうした。そんなことあるわけねぇだろ」

魔王「そっか。じゃあ勇者くんは強い人だ。実を言うと、私は昔何回も思ったことがある……早く死んでしまいたいって」

勇者「………………なあ、そこから降りろよ。そろそろ宴会も始まるんじゃないか?もう戻ろう」

魔王「竜人と魔女に会うまで毎日毎日毎日毎日そう思ってた」



勇者「魔王。降りろって。手、貸してやるから」

魔王「……ん」


グイッ


勇者「ちょっ――馬鹿、落ち……っ」

魔王「でも、今は生きててよかったって思ってる。みんなと一緒に、勇者くんと一緒にこれからも生きたいって思ってる」

魔王「ありがとう、勇者くん……!」ニコッ

魔王「一緒に飛ぼう!掴まって!」


バサッ!!


勇者「わっ!?」

魔王「ほら、いま私たちは塔より高いところにいるんだ!」

魔王「夕陽に照らされて、空も私も勇者くんも、村も海も……全て金色に輝いている。なんてきれいなんだろう。そう思わないかな?」
   
勇者「風景を楽しむ心の余裕がないんだよっ!飛び降りたのかと思っただろ! ったく、お前に翼があるの忘れてたぜ……」




魔王「飛び降りるなんてそんなこと、しないよ」

勇者「まぎらわしいんだお前は」






ノール「……ん?あれは……」

ニンフ「あら」

子エルフ「えー!じゃあ兄ちゃんたち、とうぞく団なの!?宝石とか盗んだの!?」

盗賊1「まあな。星の都の宝石だって、あともう少しで手に入れられるところだったんだぜ」

盗賊2「そうそう!星の都の次は雪の国宝物庫のスノーダイヤ、その次は太陽の国の美術館の『ほほ笑む女』を狙ってたんだぜ」

子ヴァンパイア「俺それ知ってるー!本で見たことあるー!すげえな兄ちゃんたち!」

盗賊1「勇者の野郎のあの剣だって、一回は盗みに成功したしな!へへへ!」

子エルフ「じゃあ兄ちゃんたち勇者より強えの!?」

子ヴァンパイア「……あー!!勇者と魔王様が空飛んでるー!!」


魔女「ほんとだぁ。あたしも箒もってこよっかな」

竜人「ああ、帰ったら魔王様の服を繕わなくては……」



勇者「もう少し暗くなったら、ほんとに星まで手が届きそうだな」

魔王「うん……でもいらない。勇者くんがさっきくれたこのブローチがもうあるから。
   これから空が暗くなって、みんな旅立って、いつか私一人になったとしても」
   
魔王「この星がいつでも私を照らしてくれるから、さびしくないよ」


勇者「……。一人になんかなってる暇ないだろ? あのさ、お前雪を見たことないって言ってたよな」

魔王「うん、ない。でもいつか勇者くんが魔法で見せてくれるって言った」

勇者「あれやっぱり俺には難しい。無理だ」

魔王「えっ」パッ

勇者「ばっ!!おい手を離すな落ちる!!!」

魔王「ご、ごめん。……そうだな、難しいか。別に気にしなくていいぞ、勇者くんだって忙しいんだから……」

勇者「だから、代わりに!お前を雪の国に連れてってやるよ。俺たちが認定書を集めて、王子も見つけたら、
   魔族がこの島に留まる必要も、結界を魔王が張る必要もないだろ?
   そうしたら俺がお前を雪の国まで連れてってやる」
   
勇者「あそこに行ったら雪なんて腐るほどあるから、1日で見あきるだろうけどな。ハハハ」
   
魔王「私がこの島の外に……?」

勇者「そうだよ。鼻が真っ赤になるくらい寒いから覚悟しておけ」




魔王「うん……そうなったら、嬉しい。すっごく嬉しい」

勇者「じゃあ約束な」

魔王「うん。約束だ」



勇者「……もう陽が沈んだな。宴会も始まってるだろう。戻ろうか」

魔王「……………………勇者くん、」

勇者「ん?」

魔王「   」


ビュッ バササ…


勇者「わっ すごい風だ。悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか」

魔王「……いや。大したことを言ったわけではない。気にしないでほしい」

勇者「なんだよ、気になるって」

魔王「あ。やっぱり宴会もう始まってた。早く行かないと料理がなくなってしまうな。急ごう」

勇者「? お、おい、引っ張るなって」


がやがやがや わいわいわい


魚人「はいはーい!俺一発芸やりまーす!!秘儀水提灯!!」

グリフォン「わぁ。すごいなあ。それ腹の中どうなってるんだい?かっ捌いて本の通りか確かめてみたいな」

竜人「魚人、今すぐ逃げなさい」

ハーピー「人間同士の結婚式と、魔族の結婚式ではなにか違うところあるんですか?」

神官「人間同士といっても宗教によってしきたりは異なるんですよ。我々太陽の国では――」



ニンフ「魔王様」

魔王「ん?」

ニンフ「それなんですか?不思議なブローチ……きれいな灯りですね」

魔王「星の灯りなんだ。勇者くんからもらったのだ。ふふふ」

ニンフ「まあ、素敵。……魔王様は勇者様をとっても慕っていらっしゃるんですね」

魔王「…………。…………聴いてくれ、ニンフ」

ニンフ「はい」

魔王「この世界が変わったら、勇者くんが私を雪の国まで連れてってくれるって言った。
   二人で一緒に旅をするんだ。見たことのない景色を見て、会ったことのない人に会って、アクシデントもないと……つまらないな」
   
ニンフ「ええ、そうですね」




魔王「きっといつか勇者くんも誰か人間の女の子と結婚するだろう。それまででいいから……
   それまでずっと勇者くんと一緒にいたいな。いっぱい色んなものをくれたから、今度は私が返したいんだ」
 
ニンフ「魔王様と勇者様、すごくお似合いだと思いますのに、どうしてそんなことを言うんです?
    あ!姿かたちのことでしたら、私の一族に伝わっていた成長薬のレシピがあるので心配しなくとも!」
    
魔王「そういうことじゃない。というかそんな薬あったのか」

魔王「とにかく!いいんだ。絶対にこの世界を変えてみせる。全部うまくいく。魔族のみんなを救ってみせる。ニンフもみんなも何も心配しなくていい」

ニンフ「魔王様……」


魔女「ニンフちゃん、魔王様!主役と王様がそんな隅っこでなにしてんのー?こっちおいでよー!」

ニンフ「あ……」

魔王「行こう」



魔王(全部終わったら、雪を見に行く)

魔王(勇者くん。約束、忘れないでね……)


仮面は女なのかな?

ここまでです
いつもレス励みになってます、ありがとうございます

http://upup.bz/j/my47360KMSYtgNLDSZFzXj6.jpg

あ、仮面は男です

おつー

勝手に伏線なのかと

おつおつ

仮面さんの正体はたぶんあの人だろうなぁとかぼんやり
次回も楽しみ


俺もあの人だと思うわ、話もあうし

あの人はオカマの旅人かと思ってたわ

自分を卑下する魔王たんかわゆい…乙ー

姫の一目惚れはてっきり百合かと

いまさらトリ





勇者「じゃあ俺たちは王国に帰るぜ」

竜人「私たちは雪の国へ先に行ってます」

魔女「残り時間も折り返し地点に来ちゃってるし、ちゃちゃっと王子見つけないとね」

仮面「ちょっと待て。なあ!俺たちも雪の国に連れてってくれねぇか」

戦士「む?何故だ?お前は俺たちと一緒に王国に来る予定ではなかったか」

仮面「雪の国に同じ盗賊やってる奴らいるから、そいつにコンタクトとってやるよ。王子様探してんだろ」

竜人「有り難いですけど、急に協力的になりましたね?」

勇者「怪しいな……」

仮面「うるせぇな。この俺様がせっかく協力してやろうと思ってんだからゴチャゴチャ言うんじゃねぇ」

盗賊1「兄貴がいれば百人力ですぜ!」

盗賊2「兄貴は盗賊ギルドの中でも有名なんだ!」

仮面「そういうこった。いいだろ?」

勇者「じゃあまかせるよ。ところで魔王の姿が見えないがどこ行った?」


ぱたぱた


魔王「……すまない、待たせた」

神官「魔王さん、どうしたんですそんなに息を切らせて」

魔王「昨日の夜、書庫で古い古い魔術書を見つけて。それを読んでたんだ……
   竜人、魔女。もし王子の持ち物を見つけたらここに持ってきてくれ」
   
魔女「え、なんで?」

魔王「この書に書いてある魔法を発動させれば、その持ち物から本人の居場所が特定できるんだ。
   まさか本棚の奥にこんな本があったとは思わなかった。もっと早く気付けばよかった」
   
神官「そ、そんな魔法あるんですか?」

魔王「勿論古い魔法だから準備もめちゃくちゃ面倒だが、なんとかこっちで用意しよう。
   ヤモリの子どもと3日間月明かりに照らしたムーンストーンと女子の生き血400ミリリットルなどなど」
 
勇者「もろ黒魔術だな!生き血とか久々に聞いた」

盗賊1「怖い」

盗賊2「怖い」

戦士「しかし、持ち物なら姫様に頼んで城から持ち出してもらえばよいのでは?」

魔王「それが本人が手放して1年以内のものでなくてはならないのだ。
   王子がいなくなったのはそれよりも前だろう?だから使えないんだ」
   
仮面「残念だったな」




魔王「あと残り時間は約3カ月……そろそろあの魔族に敵意むき出しの王も準備を整えていることだろう」

竜人「ええ。一刻も早く王子を見つけ出さなくては」

魔女「ちょっとのんびりしすぎちゃったかなぁ。でも全然見つからない王子が悪いよねーまじ腹立つんですけど」

仮面「王子ねぇ。今までそんなに探しても見つからなかった奴頼りにする前にほかの方法ねぇのか?
   まあ俺はあんたらの目的なんてどうでもいいんだけどよ。さっさと自由にしてもらいてぇんだこっちは」
   
勇者「いいや、これしかない。俺たちも王国の様子を確認したらすぐ雪の国に行って認定書をもらう」

神官「そろそろ王様も勇者様を呼びだしそうですよね。戦争の準備しろーって言って」

戦士「だな。ボロを出さないように気をつけろよ勇者」

魔王「そうだ、十分気をつけてくれ、勇者くん。特に、勇者くん」

魔女「ついカッとして王様に喧嘩売っちゃだめだよ?勇者」

竜人「全て水泡に帰しますからね、勇者様」

仮面「お前が一番危ねぇよな勇者」

盗賊1・2「確かに」

勇者「おいおい!なんで俺にだけ注意するんだよ!?そんなに信用ないのか俺!」

魔王「まあ強いて言うなら」

勇者「傷ついた!俺傷ついたよ!あーもう分かったよ、気をつける。じゃあそろそろ行くわ俺たち。お前らも達者でな」

竜人「では私たちも行きますか。魔王様、私がいなくても規則正しい生活を送ってくださいよ」


シュンッ




魔王「……行ったか。急に静かになってしまったな」

魔王「さて私は先ほど話した魔術の下準備でもしておこう。まずはヤモリ……」









夕方


魔王「ああ、疲れた……。もう自分の部屋まで歩いてくるのも面倒だ。一人で使うにはこの城は広すぎる」

魔王「急に眠気が……いやでも今寝たら夜に眠れなくなってしまう……うぅ……」

魔王「ちょっとだけ、ちょっとベッドに横たわるだけ、ちょっとだkグーーーーーー」


バタンッ




魔王(…………ん……?)

魔王(これは……夢か……。というか普通に1秒くらいで寝てしまったな。不覚だ。
   ここは、外? 行ったことのない場所だ。 あっちに人だかりが見える……なんだろう)
   
魔王(音は聞こえないな。この人間たちは一体何を見ているんだ?……誰かが両脇の騎士に剣を突き付けられている。
   手を後ろ手に縛られて……ああ、罪人か。処刑でもするのだろうか)
   
魔王(私たちの島にはこのような罪人がでたことないから助かるな。このような処刑を行いたくも見たくもない)

魔王(なんの罪だろう…………罪人の顔は…………)

魔王(あれ……おかしいな。見覚えがある……彼は……勇者くん?)

魔王(そんな。どうして勇者くんが捕えられて……。いや落ち着け、これは私の夢だ)

魔王(私が不安がっているからこんな夢を見るんだ。早く覚めよう。早く早く……)

魔王(夢であっても、こんな光景見たくない……!早くしないと剣が振り下ろされてしまう……)

魔王(早く夢から覚めなくては……っ)



魔王「…………ッ!!」


ガバッ


魔王(……はぁ……やっぱり夢だった。嫌な夢だ……。
   部屋が真っ暗だ。こんな時間まで寝てしまうとは。灯りを……)
   
魔王「……!? そこにいるのは誰だ?」




男「……貴様が今の魔王か」
  
魔王「村の魔族ではないな。人間……でもない。誰だ?そもそもどうやってここに入ってきたんだ?」

男「まさかこのような娘が魔王を名乗るとは……随分魔族も落ちぶれたものだ」

魔王「質問に答えろ」

男「こんな、部屋にぬいぐるみ置いていたり、リボンをあしらった天蓋付きベッドで寝るような娘が魔王なんて片腹痛いわ」

魔王「勝手に入って勝手にじろじろ部屋を見るな。なんて失礼な奴だ。やめろ馬鹿そこはクローゼットだ開けるなっ」

男「馬鹿だと?口のきき方を誰かから教わらなかったのか、無礼者」

魔王「無礼なのはお前の方だ!捕縛魔法……あれ?捕縛魔法!……ん?」

男「無駄だ、ここも貴様の夢の中だ」

魔王「夢……?じゃあさっきのは……」

男「それも夢だ。これも夢。まあそうカッカするな。一度貴様と話をしたかったから夢に介入させてもらった」

魔王「夢に介入なんて私でもできないぞ。何者だお前は」

男「自惚れるなよ。それに口のきき方に気をつけろと先ほど言ったはずだ。俺は魔王……貴様からすると先代の魔王にあたるか」

魔王「えっ?」

男「ふん、貴様も俺と同じ赤い瞳か。100年たっても受け継がれるものは受け継がれるのだな」

魔王「ええっ?」




男「なにを驚いておる」

魔王「先代魔王……お前が私の祖先なのか?」

男「なんだ、知らなかったのか。あとお前と言うな。
  正確には祖先と言うより、血族というだけだ。俺の妹がお前の祖先だ」
  
魔王「えっ……ええ?そうだったのか?」

男「本当に知らなかったのか。随分とぼけた奴だ。それで魔王をやっていけてるのか貴様。
  まあいい。些細なことだ。それより貴様に話がある」
  
男「何故勇者を殺さない?魔族が危機に瀕しているこの状況で貴様は一体なにをしているのだ。
  貴様と今の勇者なら、苦戦はするだろうが貴様の方が力はあるだろう」
  
男「さっさと殺して勇者の肉を食らえ」

魔王「食らう……?気持ち悪いことを言うな」

男「勇者の肉を食らえばあいつの魔力も手に入る。そうすれば魔族を脅かす人間どもも一掃できるだろう。
  同胞を守れるばかりか人間どもへの復讐もできるのだぞ。なにを迷うことがある?」
  
男「情けを捨てろ。憎しみだけ心に抱いておけばよい。貴様らを散々虐げてきた人間どもが憎くないのか?」

魔王「…………私はこの魔力をそんなことのために使いたくない。
   傷つける魔法じゃなくて、誰かを幸せにできるような魔法を使いたい」
   
魔王「私は勇者くんも人間も殺さない。魔族のみんなだって殺させない。私は、お前と同じ道を辿らない」

男「そんな世迷言が通用すると思っておるのか」

魔王「通用させてみせる」

男「……ふん。せっかく忠告しに来てやったのに、親不孝な娘だ」

魔王「だれが親だ」




男「その頑固なところ、あいつによく似ておる。……ならばやってみるがいい。後悔しても知らんぞ」

魔王「……」

男「では俺はそろそろ行こう。ではな」

魔王「あっ、待ってくれ。訊きたいことが……」








ガバッ


魔王「………………」

魔王「誰もいない……今度こそ、現実か」

魔王「寝たのに疲れがとれてない……あれが先代魔王、か。まさか血がつながってたとは」

魔王「……全然私と似てないじゃないか」



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

魔王「似てない。……うん」

魔王「……ん?ベルの音。誰か城に来てる」



ケット・シー「……あ、こんばんは魔王様。どうしたの?なんか顔色優れないよ」

魔王「いや、なんでもない」

ケット・シー「今って竜人様いないんだよね?うちのお店に食べに来ない?魔王様も一人ぼっちで食べるのなんてさびしいでしょ?」


グゥゥゥ

魔王「……」

ケット・シー「……お腹すいてるみたいだし」

魔王「腹の虫が鳴ったぞケット・シー」

ケット・シー「ナチュラルになすりつけられた!?さすがだ魔王様!」

魔王「行くぞ」

ケット・シー「あー待ってくださいよー」



太陽の国


カランカランッ

女主人「いらっしゃ……おや勇者たちかい。やっとお帰りなすったか」

勇者「よう。なんというか、賑わってるな」


ざわざわざわ

「この本ほんとうに魔族が書いたってのか?」
「魔族って字書けるのか!?流石に嘘じゃないのか」
「例え嘘だとしても、変わったストーリーだな。魔族と人間がねぇ……本当にそうなれば、平和が一番なんだけどさ」
「しっ。宮殿の騎士が通るぞ、本を隠せ」


神官「本、出版できたんですね。私たちの居ぬ間に、どうも有難うございます」

戦士「ここに来るまでもそこかしこでグリフォンの書いた本を読んでる連中を見たぞ。なかなか話題になってるようだな」

勇者「後で本屋の主人にも礼を言いに行かなくちゃな」

女主人「ちょっと店の倉庫で話をしないかい。今は客もあんまりいない時間帯だし」

勇者「ああ」



女主人「さて、と。ここなら普通に話をしていいだろう。あんたらがいなかった間のことを話しておこうと思ってさ。
    とその前に成果を聞いておこうか。認定書はどうだったのさ?」
    
勇者「ふっふっふ」

神官「えっへっへ」

勇者「刮目せよ!これが星の国の王子からもらった認定書だ!」

神官「わー!」パチパチ

女主人「うっ!眩しいー!認定書から謎の後光がぁ!?」

戦士(この茶番、俺も乗らねばならないのだろうか)


勇者「認定書はもらった。うちの王子はまだ見つかってないんだけどな。全くどこにいるんだか」

女主人「やったじゃないか。さすがさね」

戦士「してそちらは?」

女主人「こっちはねぇ、結構大変なことになってたよ。まず本が売られて、すぐ禁書指定されたよ」

神官「ええっ!?だめじゃないですか!」

女主人「いや、かえってよかったよ。禁書指定なんて滅多にされないからさ、どんな本なんだろうって逆に人気が出たらしくって。
    あの胡散臭い本屋も珍しく客でいっぱいだよ」
    
勇者「おお、あの主人が言ってた通りだったな」

女主人「それから王様の魔族殲滅について色んなとこでみんな本を片手に語り合ってるってわけ。
    うちの店でも御覧の通りだ。で、よさそうな客には同盟加入しませんか~?って声をかけて仲間を増やしてるとこ」
    
女主人「こんな感じで仲間は結構増えたよ」




女主人「でも、いっこトラブルがあってさ。いつものようにあんたら抜きでここの地下で集会を開いていたときに、
    突然王様直属の騎士団がやってきてね」
    
戦士「なに?」

勇者「なっ、ここがばれたのか!?」

女主人「どうしてあいつらが嗅ぎつけたのかは分からない。なんとか全員逃げのびたんだけど、あいつら完全に納得してる空気じゃなかったね」

神官「ひえぇぇ……っ」

女主人「王様もちょっと街の空気が変わったことに気付いたのかもね。あんたらが戻ってきてくれてよかったよ。
    5日後に王様が住民に向けて、演説をするらしいよ」
    
勇者「そうか……。ここが正念場だな。流れを持ってかれたら仕舞いだ」

神官「で、でもどうするつもりですか?表だって反論できたらそれが一番ですけど、そしたら私たち逮捕されちゃいますよ」

勇者「俺にひとつ考えがある」


女主人「へえ……あんた脳筋タイプかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだ。まああんたらも旅で疲れてるだろう。
    今日は奢りで御馳走してあげるよ。テーブルにつきな。そろそろ私も店に戻らなくちゃ」
    
勇者「そりゃ有り難いが、前半でさらっと失礼なこと言わなかったか。
   俺のパーティは脳筋、非脳筋、半脳筋の俺というバランスがいいパーティだぞ」

戦士「おい聞き捨てならんぞ勇者よ……」

勇者「いってぇ!!叩くなよ!!冗談だって」




がやがやがや

勇者「相変わらずここの飯はうまいな」

神官「それにしても……」


「俺は魔族に会ったことねえが、やっぱり殺すのはかわいそうじゃないか?そもそもそれがきっかけで戦争につながるかもしれんぞ」

「魔族がどうのこうのは分からないけど、税が重くなったのには困ったよ。私も王様には反対だね」

「本当に王様の言ってることは正しいのか?大体なんで魔族が書いたからと言ってこんな普通の本が禁書指定されるってんだ」



神官「……ここまで反響を呼ぶとは思いませんでした」

戦士「成功と言っていいだろうな」

勇者「王様の言うことを全部鵜呑みにすることが一番まずいからな、国民たちがちょっとでも疑うようになったらそりゃ大きな進歩だ」



「はあ?あんたら何言ってるんだ?俺は田舎の村出身だが、昔魔族の奴らに畑を荒らされたぞ!!それに奴ら妙な魔法を使いやがる!気持ち悪い連中だ!」

「そうよ。私の村なんて、人間に紛れて吸血鬼が住んでたのよ!!犠牲者は出なかったけど、もし誰かが殺されていたらと思うと!ああおぞましい!」

「あんな底知れない不気味な者たちと仲良くなんて、冗談でも無理だ。お前らは実際に会ったことないからそんなこと言えるんだよ」


勇者「……」



戦士「……まあ、ああいう意見もゼロではないのだな」

神官「悲しいですね……あんなにいい方たちなのに。きっと誤解ですよ」

勇者「誤解じゃないとしても、本当に悪い奴がいたとしても、それで全員殲滅しようっていうのは極端な話だ。
   うーん……なんて言えば伝わるんだろうな。俺は舌戦なんて得意じゃないんだ」
   
神官「舌戦?え、勇者様なにするつもりですか」


バサバサッ


戦士「む、この白い鳩……宮殿からの伝達ではないか」

勇者「俺宛てだ。明日戦士と神官と、王に会いに来いってさ。さっそくお呼び出しだぜ」

神官「なんか緊張しますっ……きゅ、宮殿に入った途端に捕まえられたりしませんよね!?」

戦士「もしかしたら罠かもな。それで明後日の演説の代わりに俺らが処刑されるのだ」

神官「ひぃぃぃ!!縁起でもないこと言わないでくださいよ戦士さん!!!」

戦士「先に言ったのは神官だろう」

勇者「しっかし、ここの地下で集会をやってることあっちが感づいているとしたら、もう集会やらない方がいいかもしれないな。
   これからは大っぴらに集まることもできない……できても少人数でだ。大人数じゃいざというとき逃げられないし」
   
戦士「なに、あと俺たち3人が集中すべきなのは認証書と王子のことだけだ。同盟管理に関しては、女主人がかなりのやり手だしな」

神官「確かに……ビラとかいつの間に作ったんでしょう」

戦士「姫様も、彼女にお付きの騎士もなかなか頼りになる。王室司書や歴史家も頭が回るし、本屋の主人も曲者だ」

勇者「曲者って」

戦士「彼らの頑張りに応えるためにも、絶対に目的を達成しよう。俺たちパーティの真骨頂を見せるときだ」

勇者「ああ!そうだな!いける気がしてきたぜ!神官もそろそろ震えを止めろ!」

神官「むっ、武者震いですっ!!」



翌日 王宮


神官「はあ……はあ……ごくり……」

戦士「大丈夫か神官」

神官「実は昨日寝れませんでした……あああ、胃が痛いっ。単体治癒魔法……!」

戦士「魔法使うのか!?胃痛で!?」

勇者「おい大丈夫か?そろそろ謁見の部屋につくぞ」


 「殿下、勇者様、神官様、戦士様をお連れしました……」
 
国王「御苦労だった。下がってよい」

 「はい」

 
 
国王「さて勇者、神官、戦士よ。魔族侵攻まで3カ月をきったが、お主たちの調子はどうかね。日々鍛錬を重ねているか?

   魔族殲滅ではお前たちの鬼神のごとき活躍を期待している」
   
戦士「はい、心得ております」

神官「ひゃい!……し、失礼しましたっ……はい!」

国王「そう緊張するな。魔族に恐ろしさを感じるのは仕方のないことだ。だが案ずるな、我々も着々と準備を進めている。
   我々の全軍力、そしてお主たちの力をもってすれば例え魔王と言えど恐るるに足らん」
   
勇者「……」

国王「勇者?先ほどから口を閉ざしたままだが、どうかしたのか。まさか今更戦うのが怖いなどと申すでないぞ。
   お主の戦力も既に計算に入れておるのだからな」
   



勇者「……そうではありません」

神官「(勇者様?ど、どうしたんですか?)」

戦士「(勇者、こらえろ)」

勇者「……っ、いえ、申し訳ありません。全身全霊をかけて……魔族を討つ、ことを約束します」

国王「それでよい。勇者よ、迷うな。敵に情けをかけるな。期待しておるぞ」

国王「さて本題だが、近頃この国で不穏な動きが見られるのだ。どうやら同盟を組んで国に楯突こうという不遜な輩がいるらしい」

神官「」ギクッ

勇者(やっぱり感づかれてる……でも首謀者が俺たちとはまだ思ってないか。本人に言うってことは)

国王「テロやクーデターなど起こされては敵わん。国民の安全にも関わることだ。
   勇者、神官、戦士。お主たちにその者たちの正体を突き止め捕えてほしいのだ」

勇者「ええ……勿論です」

国王「頼むぞ。それからあともうひとつ……」

国王「4日後王宮の前で、国民に向けて私自ら演説を行う。
   勇者よ、国民の期待を背負う者として、彼らの志気を上げるためにお主にも演説をしてほしいのだが」
   
勇者「すいません。4日後から星の国に向かう予定なのです。どうしても外せない用事がありまして」

国王「そうか。残念だが強制はすまい。ではこれからも修練に励んで、いずれ訪れる戦いの時まで己を磨くがいい。
   下がってよいぞ」
  
勇者「はい」





国王「………………」 


国王「……待て勇者よ。これを持ってゆけ」

勇者「これは?」

国王「魔除けの札だ。お主を魔の者から守ってくれよう」

勇者「どうも有難うございます。では」







宿屋

神官「緊張した……寿命が5年縮んだ……」

戦士「同盟のことやはり感づかれていたな。流石にあの時は心臓が止まった」

勇者「俺、魔王城でみんなが言ってたことが分かったよ。俺が一番ボロ出しそうだ」

神官「ひやひやしましたよ、もう。ところで、星の国にまた行くんですか?」

勇者「いや行かないよ。この大事な時に行く訳ないだろう」

戦士「ではどうしてうそを?」



勇者「……これだ」

戦士「引き出しから出した……いつかのひょっとこの面か。それがどうした」

勇者「これを……こうだ」

神官「顔につけましたね」

勇者「そして、このローブを羽織る」

戦士「うむ」

勇者「これでどっからどう見ても俺には見えまい。俺は正々堂々国王の前に姿を表わして議論で勝負してやる!」


戦士「神官」

神官「はい、戦士さん」

勇者「?」


スパーーーンッ!!


勇者「いった!!!なんだよ両脇からビンタって!!!?ああっ面が!飛んでいった!!」

戦士「お前は馬鹿か」

神官「それでばれないと思ってるんですか。声は勇者様そのものですよ」

戦士「姿はただの怪しい変質者だがな。大体演説と言ったら騎士たちも王の周りにいるだろう。
   戦えば強さで勇者と分かる。逃げるのも転移魔法は使えないんだぞ?」
   
勇者「いや、分かってるけどさ。つーか今のビンタで顔が腫れて面いらずだよ畜生」




神官「とにかく、やめてくださいよ!?だめですからね!戦士さんだってこう言ってるんですから」

戦士「勇者、気持ちは分かるが危険すぎる。今は動くときではない」

勇者「あーはいはい。分かったよ……。じゃあまた明日な」




ガチャ バタン…



勇者「……でも、だったらどうするんだよ?」

勇者「認定書や王子探しも勿論大事だけど、もっと根本的に変えなくちゃいけないこともあるんじゃないか?」

勇者「とにかく、もう寝るか……明日、危惧したようなことが起きなければいいが……」



  


* * *



時の女神「さて……」

女神「ここが運命の分かれ道」



女神「一方はいずれ破滅に至る道。一見勇者たちの目的が完遂されたかのように見えるけど、じわじわと破滅へと至る道」

女神「もう一方は光の道。犠牲は少なくないけれど、勇者が守りたいものは守れる、彼が望んだ道」

女神「彼はどちらを選ぶのでしょう」

女神「…………どちらも、私にとっては悲しい結末しか待ってませんけどね」


* * *





翌日 宮殿前広場


ざわざわざわざわざわざわざわ
  がやがやがやがやがやがやがや


神官「わ、すごい人だかり」

戦士「これじゃ帽子やフードを被って顔を隠さなくとも、俺たちのことを気にする者もいないだろうな」

勇者「まあ念のためだよ。……あ、国王と姫様が出てきたぞ。姫様すごい不機嫌な顔してるなぁ」

神官「勇者様、絶対、ぜーったいこらえてくださいよ?」

勇者「分かってるって」





国王「国民たちよ、よくぞ集まってくれた。今日私が皆に告げたいのは、後に控えた魔族侵攻および殲滅についてだ」


王様―! 国王様!

国王「皆には税を増やして申し訳ないと思っておる。しかしそれも無駄にはせん。
   100年前の戦争で、我々太陽の国は辛くも成功をおさめた。それから魔族は絶滅の道を辿ったかのように見えた……」
   
国王「戦争から100年、我々は勝ち取った平和を享受して過ごしていた。永遠にこの平穏が続くと思っていた」

国王「が、しかし。魔王の復活したという知らせは皆の耳にも届いただろう。我々の平和なる時は今にも崩れ去ろうとしている!」



国王「このまま放っておいては、戦争の前の状態……人々がただ魔族に搾取され、虐げられて疲弊する悪夢の時代に逆戻りだ」

国王「国民たちよ、今こそ立ちあがるべき時が来た。我々は戦おう、そして再び自らの手で勝利をつかみ取ろう」

国王「我々には伝説の勇者がついている。案ずるな、恐れるな。魔の者をこの世から排除し、偉大なるあの太陽のような栄光を!」

国王「今こそ、この手に!!」


わーーーーーー!! 王様ーーー!!
 今こそ魔族を殲滅する時だ!! 今やらなくていつやるんだ!! 
人類に偉大なる栄光を!!


ざわ… ざわ…
 
 「でも……本当にいいのかしら? 魔族にも家庭があって子があって……避けられる戦いなら……」
 
 「俺はちょっと王様には賛同できない……かも」
 
 「戦争が今やるべきことなのか?もっとほかにあるんじゃないのか?」
 
 「戦いに税を使うなら私たちの孤児院に少しでも寄付をして頂きたいです……」

 
 
勇者「(おっ……!いいぞ!)」


神官「(もっと声を大きくです!流れを変えましょう!!皆さん!)」

姫様「(皆さん……!)」



国王「ふむ……やはり毒されておる者たちが少なからずおるようだな」



国王「なにやら私の知らないところで、あることないこと嘯いてる輩がおるようだが、騙されるな」

勇者(嘯いてるのはあんただろうが!)

国王「魔族が書いたという本を出版したり、私への不信を煽ってよからぬことを企む輩に唆されてはいかん」


ざわざわ… ざわざわ……


  「でも……」  「俺は反対だ」
  
  「やっぱりおかしいよ」 「魔族は戦いなんて望んでないんじゃないか?」
  


国王「ならばこう言おう。今我々が魔族を殲滅しなければどういうことになるか」

勇者(……?)

国王「いずれ魔族と人が共に同じ土地で生活するようになる日が来るかもしれん。ある者が言うように、魔族に戦いの意志がないならば」
   
国王「そしていずれ、人と魔族の血は入り混じってゆくことだろう。だんだんと純粋な人の血を持つ者は減ってゆく。
   想像してみるといい、自分の娘や息子の結婚相手に魔族の者を連れてくる光景を。
   魔族の血が流れている自分の孫や子孫を、本当に愛せるか?」
   
国王「人とは違う肌の色、目の色、体質、寿命、全て受け入れられるのか?
   私の息子や娘がそのようなことを望んでいたら、なんとしてでも目を覚まさせようとするだろう」

   
   
ざわざわっ! ざわざわ…



「そんなこと……想像してなかった」
「本当にそんなことが起きてしまうのか?」


国王「起きる。絶対に」

姫「お父様……っ!」

国王「人類の尊厳を守るためにも、今我々は行動せねばならん。国民たちよ、皆はただ私を信じてくれればいいのだ」

国王「国を信じ、私を信じ、私にただ着いてきてくれればいい。私は常にこの国を一番に考えておるのだから」


「そうなのかな?」
「俺馬鹿だから、なんかよくわかんなくなってきちまったよ。やっぱ王様の言うこと聞いてた方がいいのかも」
「そうよね……王様は間違いなんてしないもの。私なんかが頑張って考えるよりずっと素晴らしいことを思いつくはずね」


国王「そう……それでよい。流石は我が国の民だ。賢く強い。それでこそ、我が太陽の国の民」


わーーーー!!王様万歳ーー!!
  わーーーわーーー!!!太陽の国万歳!!
  

女主人「なんだいこりゃ……!ねえみんな!どうしちまったんだい!」

本屋主人「ぬかしおるわい」

司書(これでは……私たちの今までの地道な努力が……)

姫(だめ、このままみんなを解散させてしまっては挽回することができないわ。
  ここで何かアクションを起こさないと!でも、どうやって?……私がやるべきなの?)

  
  
  



勇者「このぉっ……!」

神官「勇者様、だめだって言ったじゃないですかー!危ないですよ!おさえてください戦士さん!」

戦士「やってる!!落ち着け勇者、頭を冷やせ!こいつ、ちゃっかり面を持ってきおって!」

勇者「じゃあどうするんだ!?このまま国民たちが王の言いなりになったままじゃ、いくらクーデターを起こせたって何も変わりはしない!」

勇者「同じことの繰り返しになるだけだ!今ここで俺が出なくちゃ皆の考えを変えさせることができない。もう時間も残されてないんだぞ!」

神官「うっ……それは分かってますけど!!」



わーーーーわーーーー!! 国王様ーーー!!!


国王「有難う。では」

勇者「国王が壇上から降りていっちまう!離せよ戦士!!!」

勇者「待っ―――」



少年「王さま、まってください」



勇者「!?」

国王「ん……?」



だれだあの坊主?  確かパン屋の息子の…… ああ、あの知恵遅れの?


少年「ぼくは戦いなんてしないほうがいいと思う。だって戦いって自分がころされたり相手をころしたりするんでしょ?
   だれかがしぬのは悲しいよ。だから戦いなんてしない方がいいよ」
   
少年「ぼく、本読んだ。まぞくの人が書いた本。ぼくそれ好きなんだ。まおうとゆうしゃさまがなかよくなるはなしなんだ。
   読んじゃだめって言われたけど、こっそり読んじゃった」
   
母親「こらっ!!あ、あんた王様になに言ってんの!!」

国王「坊や、君はまだ小さいから色んなことが分からないのだよ。君は母親の言うことをきちんと聞いていい大人になりなさい。
   そのような胡散臭い本は読むべきではないよ」
   
少年「うさんくさい……本当かうそか分からないってことだ。でも、じゃあ、王さま。
   王さまは、まぞくの人に会ったことがあるんですか?」
   
母親「こらっ!!!!」

国王「…………」

少年「会ったことないのに、悪いって決めつけるのは、うさんくさいってことじゃないんですか?」

国王「随分と……」

母親「黙りなさい!!この子ったら!!」

少年「ぼく、お母さんに“この世にはうそがいっぱいある”って言われた。
   だからぼくみんなにバカって言われてるけど、いっぱいいつも考えてる。
   どれがうそか、どれが本当か。ぼくは……王さまより本を信じる!」

少年「ねえ、お母さんもそこのおばさんもおじさんも、それでいいの?」

少年「いっぱい考えなくて、本当に、それでいいの?」




少年「ぼくは……ムグッ」

母親「す、すいません本当にうちの子馬鹿たれで……ハハハ」


ざわ…


「なんだあの坊主、生意気な」
「でも……じゃあどうしろって言うんだ?俺はなにを信じれば?」
「王様を信じてれば間違いなんてないのよ!」


国王「……なかなかおもしろいことを言う子だ。子どもはそれくらい元気な方がいい。
   しかしいずれ君も大人になった時に分かるだろう。絶対的に正しい存在があるということを」

   
   
神官「あ、あの子……!すごいですねって あれ!?!?戦士さん、勇者様はどこに!?」


戦士「ぬ!?おらんぞ!!どこいったあいつ!?」

神官「ああああっ!あの少年に注目してるうちに逃げられましたっ!早く見つけないと!!」

戦士「!! 神官、あそこの屋根の上だ!」

神官「え!?」




ひょっとこ「よく言ったな、少年!」


神官「あああああああああああああああああああああっ!!!」

戦士「あのバカ……」


ここまで

あの人の正体ばればれでしたね
そうお察しの通り本屋の主人です(ネタバレ)

>>359の突然の@マークは書いてるときに区切ってるやつです
ミスってはりつけちゃった

おつおつ

@が鏡なのかと思って見てたわ…

乙ー



「なんだあの変質者!?」
「だれだ?」

姫「なにあれ……」

国王「……?」


神官「いやーー!変な感じに広場がどよめいてるーー!もうあんなに止めたのに勇者様の馬鹿ー!」

戦士「無駄だったな……」


ひょっとこ「あることないこと嘯いてるのは一体どっちだろうな?みんな……」

ひょっとこ「少年の言う通り、本当にそれでいいのか!?国の言うことをなんでも鵜呑みにして、信じて」

ひょっとこ「ああ、そうして自分の意見を誰かに委ねてれば、もしその選択が間違いだったとしても
      自分が責任を負わなくていいから楽だよな」
      

「……!」

「なんだあいつ!知った口を!」


国王「貴様が主犯か。……捕えろ」

傭兵「ハッ!」


ひょっとこ「だからみんな選択肢がひとつだって思いこみたいんだろ?王様だけを信じてればいいって」

ひょっとこ「でもそれじゃだめなんだ!!いま、みんなの前には二つの選択肢がある」

ひょっとこ「王様を信じて魔族殲滅に賛同するか、俺たちを信じて殲滅に反対するか、二つに一つ」

ひょっとこ「選ぶのはみんなだ。王様が言うからとか、誰かが賛成してたからとかじゃなくって、自分で真剣に考えてほしい」





ひょっとこ「自分の気持ちを大事にしてほしい。どんな小さなことでも下らないことでもいいよ。
      それは誰にも否定されていいものじゃない、例え……国王であっても」
      
国王「蛮族めが……たわごとを。さては貴様も魔の者か!?」

ひょっとこ「そうやって悪い奴はなんでも魔族にしちゃうから、魔族は悪って思われてんじゃないのか?」

傭兵「覚悟しろー!!うおおおおお!!」

ひょっとこ「チッ! いいかみんな!俺たちは国王に対して戦うぞ!この世に絶対的存在なんていないんだ!
      考えを放棄して自分の言うこと全て信じろなんて宣う王について行く気なんてさらさらないからな!!」
      
ひょっとこ「うおっと」

傭兵「おい!逃げたぞ!!追えー!!」



わーわー! なんだなんだ!? どよどよ……


神官「……」

戦士「本当に正面きって喧嘩売りおった……あいつ」







宿屋


勇者「すいませんでした」

神官「もー!なにやってんですか!?勇者様の頭にはもしかして馬糞が詰まってるんですか!?」

勇者「ひどい……でもさ!声色だって変えたし、俺だとはばれてなかったろ?」

神官「ドヤ顔しないでくださいっ!ばれてた、かも!しれないんですよ!?どうしてこう向こう見ずなんだか」

戦士「まあ……落ち着け神官。結果よければすべてよしとしよう。
   勇者の言葉の後では、かなり広場の空気も変わっていたではないか」
   
神官「確かにあのちょっと怖いくらいの王様盲信ムードはなくなったからいいんですけど……もうあんなことしないで下さいよ?
   冷や汗だっらだらだったんですから、私」

勇者「ごめんって。でも、これで少しは流れをこっちに持ってこれたろ。この勢いのまま、雪の女王のところに行こうぜ」

戦士「街の同盟メンバーに話を聞いて、準備を整えたらすぐに発つか」

神官「分かりました。……あの女王様、素直に認定書くれますかね」

勇者「俺の予想だと、拍子抜けするほどあっさりくれるか、めちゃくちゃ難易度高いかのどっちかだと思う」

戦士「同感だ」

神官「ああ~……はい」

勇者「前者であってくれることを祈ろうか。 じゃ、明日はそれぞれ行くところがあると思うし、別行動だな」

戦士「ではまたな、勇者、神官。無茶するなよ」

神官「私も勇者様に念を押したいですね…… ではまた」

勇者「はいはい」







数日後



勇者「あーよく寝た。今日は本屋の主人と武器屋と露店商人に会って……あとは姫様にも会えたらいいんだけどな、難しいか」


コンコン


勇者「こんな朝早くに誰だ?」

兵士「おはようございます、勇者様。国王様より言付けを預かって参りました」

勇者「王様からっ? なんて?」

兵士「本日正午過ぎより軍で勇者様方を含めた全体訓練を致しますので、宮殿隣の訓練場までお越しください」

勇者「全体訓練……分かった。ありがとう」

兵士「よろしくおねがいします」




勇者「まあ、仕方ないか。本当ならやるつもりもない戦いに向けての訓練なんてのに時間を割いている場合じゃないんだが」



翌日


勇者「よし、今日は昨日こなせなかった用事を済ませるぞ」

コンコン


勇者「まさか…… どうぞ」

兵士「おはようございます勇者様」

勇者「おはようございます……」







そのまた翌日

勇者「今日は!今日はないだろう!よっし出かけるぞ!」

コンコン

勇者「あわわわわ」

兵士「おはようございます勇者様。どうかなさいましたか?」

勇者「な、なんでもない」



* * *


昼のバー


勇者「どーなってんだ、おい!!」

女主人「荒れてるねぇ勇者」

神官「最近訓練訓練訓練訓練、訓練ばっかりで筋肉痛です」

戦士「おかげでこっちの用事が全然こなせないな。まかせっきりで済まない」

司書「いえ大丈夫ですよ。しかしまさかバッタリ勇者殿たちとここで会うとはね。このあとの用事は?」

神官「今日もこれから訓練場に呼び出されているんです。訓練は夜までミッチリ行われるので、全然暇な時間がないんですよ」

勇者「もしかして……俺ら疑われてたり……?」

女主人「……あはは」

戦士「ははは」

神官「うふふ」

司書「……ハハ」

勇者「そそそそそんんんなわけないよな!!」

神官「そそそそそそうですよ!」

戦士「おいお前ら、コップから飲み物零れてるぞ」

女主人「でもすぐ捕えないってことは、疑われてるとしても『怪しいなこいつら』くらいじゃないの?」

司書「それ以上疑われないように気をつけて下さいね。あなたたちが要なんですから」

勇者「ああ……」




訓練所


将軍「今日はこれで終いだ。勇者殿たちもお疲れ様でした。次の訓練は一週間後となります。
   大事な全体訓練ですのでくれぐれもご欠席なさらぬよう。殿下からのお達しです」
   

勇者「(一週間後!? よし、チャンスだ)」

神官「(これまで毎日訓練強制参加でなにもできませんでしたからね。この機を逃す手はないですよ)」

戦士「(ふむ。雪の国に行くのか)」

将軍「? なにか?」

勇者「いやなんでも!」



勇者「よし、やっと訓練が終わったぜ!明日の朝雪の国まで出発するぞ!二人とも準備しとけよ」

神官「了解です。……ってあれ?こっちに歩いてくるの姫様じゃないですか?」


騎士「姫様、ちょっ待ってくださいよ~」

姫「いた!勇者!こっちよ騎士!」

勇者「姫様?訓練場にいらっしゃるなんて珍しい」

戦士「というかお久しぶりです」

姫「あなたたちに会いに来たのですよ。ところでその前にひとつ確認したいことが」

姫「……ひょっとこ?」

勇者「イエス、ひょっとこ」

姫「馬鹿!!」






騎士「やっぱり勇者さんだったんですかあれ。大胆なことしますね!」

姫「大胆どころの話ではないわよ!お父様もあれからピリピリしてるし、もうちょっと慎重な行動を……
  と言いたいところですが、……ごめんなさい」
  
勇者「どうして姫様が謝るんです?」

姫「あの場でああするべきだったのは、王族である私だったのに。
  私がなにもできなかったせいで、あなたを危険に晒してしまって、申し訳なく思っているわ」
  
騎士「姫様……」

勇者「いや、あなたが気にすることではありませんよ。あれは俺が勝手にやったことですから」

姫「……ごめんなさい。それから、ありがとうございます。……それで、これをあなたたちに渡したくて」

勇者「手紙?」

姫「ほかの方からお話を聞きました。なんでも魔王さんがお兄様の居場所を特定する魔術を発見したとか。
  その手紙、お兄様からのはずです。この間お父様のお部屋にこっそり侵入した時に発見しましたの」
  
騎士「侵入!?いつの間にそんなことを、姫様!?」

姫「ただそれが、いつ頃の手紙なのか分からないの。1年以内のものでないといけないのよね」

勇者「そうですか。でも、大事な手掛かりですよ。一応魔王のところに持っていこうと思います。
   それから雪の国に認定書をもらいに行くつもりです」








姫「お願いしますね。……いけない、そろそろ戻らなくては。では、ご武運をお祈りしてます」

騎士「王国の方は僕たちにまかせて下さい。……あ、あの最後に……魔女さんはお元気ですか?」

戦士「今は雪の国にいるぞ。寒いのは苦手と言っていたが、まあいつも通り元気だろう」

騎士「そっ、そうですか。よかった。いや別に大した意味はないんですけども」

姫「あっずるいわ!私は聞かなかったのに……!」

神官「ふふふ、竜人さんも元気でしたよ」

姫「誰もあの方のこととは言っていないでしょう!なんですその生温かい微笑は。やめなさいっ」

姫「本当に本当に私たちもう行きますわ。ほら騎士」

騎士「ええ。では」





勇者「竜人も魔女も幸せ者だなー」

神官「ふふふふ」






翌日 朝


勇者「準備はいいか?二人とも」

神官「ええ、バッチリです」

戦士「雪の国に行くのに随分予定から遅れてしまったな。もう残りあと2カ月しかないぞ」

勇者「無駄な時間を過ごしちまった。まず魔王に昨日の手紙を渡すために魔王城に行くぞ」



シュンッ



勇者「よし到着っと。ん?なんか島の様子おかしくないか?」

神官「なんでしょう。今日はお祭りですかね。提灯と旗がいっぱい島中に……夜になったらきれいでしょうね」

戦士「変わった紋様が描かれているな。不思議な印だ」


子エルフ「あー勇者だ!久しぶり!」

魚人「おっお前ら元気だったか!!今日来るたぁタイミングばっちりじゃねえかよ!!さては狙ったな!?ハッハッハ!!」

ケット・シー「こんにちはー」

勇者「なんだ、今日は祭りなのか?」

ノール「そうなんですよ。一年に一度の魔族の祭り、今日は月祭りです」






勇者「月祭り?なんだそれ」

子ヴァンパイア「月明かりの道を通って死んだ人が帰ってくるんだよー」

神官「へ……?」

ハーピー「こんな時にお祭りなんて不謹慎かもしれませんが……ずっと続いてきたお祭りなので」

魚人「夜からやるからよ、お前らも参加しろよ!うまいもんいっぱい用意してるからよ!!
   この祭りも最後になっちまうかもしれんと思うと盛大にやらなくっちゃな!!」
   
キマイラ「おや、そんなネガティブなこと言うなんて、魚人さんにしては珍しい」

魚人「ハハハ!いっけね!!うそうそ!!じゃあまたなお前ら!魔王様のところに行くんだろ?」







神官「死者が蘇るお祭り……ってあのあの、本物の死者じゃないですよね?ね?」

戦士「……」

勇者「……」

神官「黙らないで下さいよ!」

勇者「さあ……未知の世界だからな。まあ魔王に直接聞いてみよう。おーい魔王、いるか?」


シーン


勇者「あれ?城にいないのか?」

神官「おかしいですね。探してみましょうか。私は庭を見てきます」

戦士「じゃあ俺は大広間へ」






勇者「自室にでも行ってみるか」





勇者「おーい魔王、いるか。……ノックしても返事がないな。……あ、開いてる」

勇者「魔王?」


ビュンビュンッ!


勇者「ファーーーッ!?なんだこの矢のトラップ!?」

勇者「げっ なんか魔法陣踏んじゃった!これ一体なんの……」


バリバリバリバリッ!!!ビシャァァァン!!!


勇者「ぐあっぁあああああああ!!!」



プスプス…


勇者「おい……なんで自室にこんな罠しかけてんだよ……ここはダンジョンか。もう満身創痍だよ」

魔王「……」スヤスヤ

勇者「寝てるし。よくあの大騒音の中で起きないな……。」

勇者「寝顔だけ見てれば本当ただの子どもだな。 おーい、魔王。朝だぞ」

魔王「…………ん……牛?」

勇者「俺のどこらへんを牛と見間違えた?言ってみろこの野郎」

魔王「あれ?勇者くんか。来てたのか。いらっしゃい。ところでなんでそんなボロボロなんだ?」

勇者「お前のせいだよ!なんなんだよあの入り口のは!」

魔王「ごめん。この間不法侵入されてな。一応しかけといたのだが勇者くんが引っかかるとは。ところで何か用事でも?
   あ、別に用事がないと来るなという意味ではないぞ。いつでも歓迎するが。お腹はすいているか?
   一緒に朝食を食べよう。この間パンケーキの作り方を習ったから作れるぞ」
   
勇者「え、なに!?畳みかけるように喋るな! お前ってそんな饒舌だったっけ!?」

魔王「だって久しぶりに会ったから仕方ないじゃないか。では着替えるので先に広間に行っててく……」

勇者「どうかしたか?」

魔王「なんか……変な感じがするな。勇者くんから」

勇者「え?」






魔王「君から知らない魔力を感じる。勇者くんのものではないな。赤ん坊でも身ごもったか?」

勇者「どういう発想だそりゃ」

魔王「では何か魔術具でも身につけているのか」

勇者「もしかして……これか?国王からもらったっていう魔除けの札だ」

魔王「ああ、きっとそれだ。なんだかすごく嫌な感じがする」

勇者「へえ。じゃあちゃんと効いてるんだな。ほれほれ」

魔王「や、やめろ。それを近づけないでくれ。鳥肌が立つ。やめろったら。」

勇者「ちょっと楽しくなってきた。はっはっは」

魔王「わーーーーーっ気持ち悪い気持ち悪い!それ以上近づけるなーーーっ」

魔王「……は」


勇者「……」

魔王「……」

魔王「いま何か悲鳴のようなものが聞こえたな。神官が虫でも見つけたのかもしれない。早く行こうか」

勇者「お、おう……なんかすまんな」

魔王「なにが?」

勇者「いやそんな下手な嘘つかせて……いたいっ!杖で殴るな!ごめんって!」





大広間


神官「かくかくしかじかってわけで、これが王子からの手紙らしいのです。ただ条件に合致するかは分からないんですけど」

魔王「なるほど。ではさっそくやってみようか。準備は整えてある」

戦士「ほう、用意がいいな」

魔王「大分頑張ったのだ。全身全霊で褒めてほしい」

勇者「よしよし」

魔王「勇者くんの全身全霊はそんなものか。がっかりだ」

勇者「よぉぉぉぉしよぉぉぉぉぉぉぉし!!!!」

魔王「そういうことじゃなく……もういいや。もういい、いいから。髪の毛ぐっしゃぐしゃになる。さて、あとは女子の生き血だけ採ればすぐに儀式を始められる」
   
戦士「そうか。よし神官」

神官「えっ!?わ、私!?」

魔王「? 別に私の血を採るつもりだったから平気だ。ではいくぞ、……はぁ……はぁ……いくぞっ……! うっ……くぅ……!」

戦士「神官!」

神官「うぅぅぅ、魔王さんのこんな姿見せられたら立候補するしかないじゃないですかー!!いいです私やりますぅぅう!!」

魔王「わっ…… あ、」


ザクッ!!


神官「っきゃーーーーーー!? 魔王さん大丈夫ですか!?ごごごごめんなさい私が大声あげたから!!」

魔王「わーーーーーー!? い、いたいぞ!」

勇者「そりゃ痛いだろ!なにやってんだ! 神官、治癒魔法!!」

神官「え、あ、はい! でも魔族の方って教会の魔術効くんでしょうか!?」

戦士「ええいそれより先に血を採取だ! そんなに大けがじゃないから落ち着け3人とも!」




* * *


魔王「ではこれより儀式を始める」

神官「うわああ、この部屋の禍々しさすごい」

勇者「そのいかにもな黒いローブは必要なのか」

魔王「当たり前だ。ふう、じゃさっさと終わらせてしまおう。手紙を魔法陣の中心において……」





魔王「……どうやらこの手紙は1年以内のものではないな。魔法が発動しない」

勇者「なんだ……じゃあ無駄足だったか。せっかく貴重な一週間を割いてきたのに」

神官「残念でしたね」

魔王「ところで、この王子からだという手紙には目を通したのか?もしかしたら何か手掛かりをつかめるかもしれないぞ」

勇者「ばか、そんな倫理に反すること、勇者がするわけないだろっ!」ガサガサ

戦士「といいつつ手紙を封筒から出しているお前の手はなんだ」

勇者「いや居場所の手がかりがつかめたら見ないつもりだったんだけどな。もう時間も多く残されてないし、ちょっとくらいは許してくれ、王子様」

勇者「えーどれどれ」

勇者「…………これと言って……特筆すべきことは書いてないな。至って普通の内容だ」

戦士「ふむ。内容を見るに、なかなか素直で親思いの青年のようではないか」





魔王「ん?待ってくれ、これ、行の文頭だけ見ると……『くたばれじじい』」

勇者「oh」

戦士「ぬ……」

神官「あ、あれれー?私の王子様像がガラガラと音をたてて崩落していく」

勇者「なんか居場所特定するの、自信なくなってきたわ俺」

魔王「まあそう憂慮せず、前向きにいこうではないか。今日は泊まっていくのだろう」

勇者「もう今日は転移魔法使えないしな」

魔王「外の様子を見て分かったかもしれないが、今日は祭りの日だ。ぜひ楽しんでいってほしい」

神官「あ、それ村の方に聞きました。あああああの!本当に亡くなった方がいらっしゃるのですか……?」

魔王「怖いのか?」

神官「いえ、そんなことは決してありませんけど!」

魔王「それは……参加してからのお楽しみ、だ」ニッコリ

神官「そんな魔王さん……意地悪しないでくださいよ~!」








神官「わーっ!きれいですね戦士さん!提灯がいっぱい光ってて幻想的です。それからこの音楽……島の方が演奏されてるんですか?魔王さん」

魔王「うん、そうだ」

戦士「ほう。賑わっておるな」

神官「でもなんでみなさん、面をつけてるんですか?」

魔王「二人にも用意してあるぞ。祭りの日はみんなこれをつける決まりだ」

戦士「あのいつも仮面をつけている男も、今日なら溶け込めたろうに」

神官「変わった面ですね。木彫り?」

魔王「死者が月明かりを渡って蘇る祭りと銘打ってあるが、本当に死者が紛れているかは分からない。
   でも、たまに見かけない背格好の者を目にすることもあるから、もしかしたらいるかもな。運がよければ会えるかもしれないぞ」

神官「ハハハ……マタマタ、ゴジョウダンヲ……」
   
魔王「ところで勇者くんは?」

神官「あれ、てっきりもう参加されてるのかと」

魔王「いや、まだ来てない。まだ城にいるのだろう。私が探してくるから二人は先に祭りを楽しんでてくれ」

戦士「すまんが頼むぞ。あいつ寝起き悪いから気をつけてくれ」








魔王「うーん。大広間にも客間にもトイレにもいない。
   ……ここは図書室か。勇者くんはあまり本を好きな様子ではなかったけれど、一応見てみるか」

勇者「……」

魔王「あ、いた。机に突っ伏して寝てると、腕がしびれてしまうぞ……起きて勇者くん。勇者くーん」

魔王「全然起きない。どうしよう。かわいそうだがゆさぶってみるか、って渾身の力でも全然揺れないぞ。あ、あれ?」

勇者「うぅ……」

魔王「困った。…………ふーっ」


ガタガタッ! ゴシャッ!!


勇者「!?……なにした!?」

魔王「耳に息を吹きかけただけだが。思いのほか大きい反応でこっちが慄いたぞ」

勇者「起こすなら普通に起こせよ!お前の100倍こっちはびっくりした」

魔王「そんなにか?昔魔女にやられた悪戯をしてみただけなんだけども。大丈夫か?」

勇者「ああ、一人で立ち上がれる。ってもう夜か。俺、随分寝てたみたいだな」

魔王「迎えに来た。ところで何の本を読んでたんだ?」

勇者「これだよ」

魔王「それ……」

勇者「グリフォンが書いたあの本。本屋の主人に返してもらったんだ。で魔王に渡そうと思って忘れてた」

魔王「いいのか?私がもらっても」

勇者「もともとお前のものみたいなもんだ」

魔王「そうか。じゃあ遠慮なく。これから毎日読もうっと」

勇者「やっぱり字読めるんじゃないかよ……」

魔王「うーん、何も聞こえなかったな。さあ、もう祭りは始まっているぞ。早く行こう」

勇者「わっ、引っ張るなって」





がやがや がやがや


魔王「今年は竜人と魔女は参加できなかったな。残念だ」

グリフォン「だねぇ」

魔王「そのひょろ長い体に間延びした声。君はグリフォンか」

グリフォン「面つけてもやっぱり分かっちゃうね。チ……じゃなくて矮躯に長い髪、君は魔王様だよね」

魔王「チってなんだ、チって。なにを言いかけた」

グリフォン「いや~今年は彼らも参加してくれてたんだね。ほんと人間なのによくやってくれてるよねぇ」

魔王「話をそらしたな。……まあいい。勇者くんたちのことなら、本当に感謝してもしきれないくらいだ」

グリフォン「あれれ、彼、女の子たちに囲まれて楽しそうに話してるけど、行かなくていいのかい?」

魔王「質問の意味が分からないな」

グリフォン「えぇ、そう?意外だな。じゃ僕お店に料理もらってこよっと」

魔王「……」



魔族女1「勇者様、お話聞かせてください!」

魔族女2「付き合ってる人、いるんですか?」

魚人「初体験はいつですか!?」

勇者「おい最後。面で顔が見えないが明らかに違う奴混じってるだろ」



魔王「……はあ」

グリフォン「『私も早く大人になりたいなぁ』……ってところかな?」

魔王「まだいたのか。早く行け。違う」





魔族女「あれ、勇者様どこ行くんですか?」

勇者「いやちょっとトイレに……ははは」


勇者「ふう。ああいう話題はなんか慣れない……思わず逃げてきてしまった。
   
勇者「海辺には誰もいない、か。 しばらく休憩するか」
   
勇者「それにしても。本当に村で見かけたことのない奴がチラホラ混じっているんだが、まさかな……。面のせいで分からないだけだよな、うん」
   

ザッザッザッ……


男「……」

勇者「よう。あんたもあんまり村じゃ見かけない姿だな。一休みしに?」

男「……」

勇者「あのー……?」

男「幻滅した」

勇者「え、ええぇ……」






勇者「流石に初対面で幻滅されたのは今日が初めてだ」

男「全く、魔王だけかと思えば勇者まで日和っておったとは。なんだその貴様の情けない面は」

勇者「いやお面だからこれ。あんた一体何者だ?」

男「貴様は、奴には似てないな。血縁関係はないのか」

勇者「……おいおい何の話だ?」

男「今の俺でも勝てそうだな」

勇者「はっ?――うっ!!」


キィンッ!


男「ふん、なんとか凌いだか。呆けた顔のくせに剣の腕はそれなりらしいな」

勇者「いきなりなにするんだ!?危ないだろ!」

男「むしろ貴様とあの娘が、どこまでやれるか興味が湧いてきた。せいぜい頑張ってみろ」

勇者「はぁ? あの娘ってだれだよ?」

男「これを貴様にやろう。有り難く受け取れ」

勇者「おい、俺の話聞けよ! って、なんだこれ?小ビン?
   なあこれなにが入っているんだ?……あ!? い、いない」
   
勇者「なんだったんだあいつ……怪しい奴だな。あんな男この村にいたか……?」


魔王「勇者くん?一人でなに騒いでるんだ?」

勇者「うわっ! 魔王か……。いやさっきまで一人じゃなかったんだが」






勇者「怪しい男に怪しいものをもらった」

魔王「すぐ捨てるべきだと思う」

勇者「だよな。城に帰ったらゴミ箱にいれるわ」

魔王「怪しいものって、それか?……この液体、すごい魔力を感じる。しかもなんとなく覚えがあるような……
   まさか、その怪しい男って……勇者くん、大丈夫か?なにもされてないか!?」
   
勇者「いきなり切りかかられた」

魔王「えっ。け、怪我はないのか?…………脱げ」

勇者「最近耳の調子が悪いな。え?なんか言った?」

魔王「今すぐ服を脱げ」

勇者「えっちょ、なんで杖構えてっイヤァーーー!!!」


魔王「……よかった。怪我はないみたいだな」

勇者「ねえほかに確かめる方法いくらでもあったよね!?なんで服破いちゃった!?」

魔王「つい無我夢中で」

勇者「ふざけんなよ!ついで人のこと裸にするなよ!」


魔王「ところでこれだが……どうやってあいつは自分の体と魔力を分断したのだろう。
   液体化……ふむ。もしかしたら、いけるかも。もう私を無能などと言わせないぞ」
   
勇者「お前がそんな苦戦するなんて、よっぽど難しいのか。その魔法」

魔王「難しい……です」

勇者「口調が変わってしまうくらいなのか。分かった」





魔王「魔力は生命そのものと密接に結びついている。その証拠に、魔族が魔力を全部使い切ると、死ぬ」

勇者「そうなのか?」

魔王「だから魔力を切り離す魔法は、命を二分するくらい難しい。それを容易くやってしまうとはやっぱりあいつ、さすがというべきか」

勇者「だからあいつってだれだよ?知り合いか?」

魔王「いや、えっと。えーと。まあ」

勇者「ふーん。ま、訊かれたくないなら詳しくは探らないよ」

魔王「……助かる」


ザザーン……ザザーン……


魔王「……海面に月明かりが反射しているのが見えるか?」

勇者「ああ」

魔王「あそこを通って死者たちが帰ってくる。面をつけて、だれとも分からないように。
   今日は死者も生者も入り乱れて、悲しみも何も全部忘れてみんなで楽しむ日なんだ。勇者くんや神官や戦士殿は楽しんでいるだろうか」
   
勇者「向こうにいる二人楽しそうだぞ」

魔王「それはよかった」

勇者「裸同然だけど俺もそれなりに楽しいよ。裸同然だけど」

魔王「それはよかった」

勇者「よくねえよ」




魔王「明日、雪の国へ?」

勇者「ああ」

魔王「そうか」

勇者「女王に会ってくる。心配すんな、すぐ認定書もらってきてやるよ」

魔王「うん。信じてる」

勇者「な、なんだ。やけに素直だな」

魔王「私はいつも素直だ。 やっぱりその小ビンについてだが、捨てずにとっておいた方がいい」

勇者「なんでだ? 正直気味悪くて持ち歩きたくないんだけど」

魔王「万が一ということもある。こういうときの勘はよくあたるのだ。大人しく従っておけ」

勇者「まあお前がそこまで言うなら……なんか身につけるグッズが多くなってきたな……」

魔王「国王に先代ま……もごもご……からの贈り物か。では私からも贈ろう」

勇者「いいよ別に、ってなにしてんだお前」

魔王「元気がでるおまじないだ。君の頭をなでている」

勇者「どんな画だよ、これ。見た奴になにか誤解されそうだからやめろ」

魔王「む……」




グリフォン「あーあ。もう月が落ちていくね。祭りも終わりだ」

魚人「また来年かぁ。じゃ、まぎれてるかもしれない死者さんたちよ、また来年な!!」

マーメイド「片付けましょうか」


神官「お祭りも終わりですか……なんだか寂しいですね」

戦士「また来年、参加させてもらえばいい。さあ、俺たちも片付けを手伝うぞ」

神官「……はい!」





* * *




神官「うん、今日も快晴ですね!旅立ち日和です」

戦士「どうせあちらについたら雪だがな」

勇者「一瞬で着くから温度差やばいな。 じゃあ、行ってくるな、魔王」

魔王「ああ。あちらの竜人と魔女とあの仮面の彼たちによろしく」


魔王「行ってらっしゃい。気をつけて」





雪の国


ビュォォォオオオ


神官「さっむっ……」

勇者「この国はいつ来ても寒い。だが負けるな!!よっしゃさっそく女王のところに行くぞ!!」

戦士「待て勇者。あそこを見てみろ」

勇者「ん?」




仮面「あそこで飲んでいる男、随分と金に余裕があるようだな。少しくらいちょろまかしても罰はあたらねぇだろ。適当に指輪や装飾品を頂いてくるか」
   
盗賊1「そっすね兄貴!」

盗賊2「それ売っぱらってもっと上着買いたいですぜ兄貴!寒ぃ!」

仮面「いつもの作戦で行くぞ。今日は豪華な飯が食えるから楽しみにしとけ」

勇者「なーにーしーてーんーだ仮面野郎。その仮面剥いで燃やすぞ」

仮面「あ?なんだてめぇら、こっち来てたのか。遅かったな」

戦士「お前らちゃんと王子探ししておったのだろうな。泥棒業ばっかりやっておったのではないか」

盗賊1「その通りですz ピギャー!痛いよ兄貴!!」

仮面「やってたに決まってんだろ?あんまり偉そうな口きくなよオッサン。髭凍ってんぞ」

戦士「よーしオッサン怒ったぞ、こいつらも女王のところに一緒に連れてくか」

神官「賛成ですね」

勇者「賛成だな」

仮面「おい!誰も行くなんて言ってねぇだろうが!」

盗賊2「兄貴行ってらっしゃい!」

盗賊1「ご武運を、兄貴!」

仮面「てめぇら、裏切りやがって!離せこら!!」

勇者「行くぞ」



ここまでです


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アイス・フェンドラ-ナ

すごくいいものをみつけてしまった。乙

乙ー

国王の贈り物をさっさと処分して…



神官「あれ?そういえば竜人さんと魔女さんは?」

仮面「さあな。先々週くらいから別行動とってる」

勇者「うーん、星の王のときみたいに竜人が一緒に説得してくれればと思ったんだが」

勇者「時間も惜しい。仕方ない……このままのメンバーで向かうか」






神官「来ましたね。宮殿。さてどうなるでしょうか」

戦士「もうここまで来たら勢いだ。勢いだけで乗り切ろう」

勇者「そうだな、そもそも俺たちのパーティに勢い以外の何かがあったか?」

神官「そう考えればそうでしたね!もともと勢いしかなかった!」

仮面「不安しかねぇ。帰りたいんだが」


ギィィィ……バタン


騎士「陛下、勇者殿御一行が謁見に参られました」


雪の女王「ふふ、久しぶりじゃのう。元気にしておったか神官、戦士、そして勇者。
     ……はて、端の男は初めて見る顔だが。面をとらずにこの謁見の間にいるとは……レディの前で失礼だとは思わなかったのか?」
     
仮面「……」

戦士「おいっ」

女王「ふん……? ……まあよい。話を進めるか」

勇者「お久しぶりでございます、陛下。さっそく本題に入らせて頂きたいのですが、実は――」

女王「ああ、そなたらがこの国に参った理由は察しがついておる。――認定書じゃろう?」

神官「え!どうして……」

女王「星の国の王から先日文を受け取ってのう。事情は大体聞いておる。
   我ら三国が神より賜った聖なる法――という名分のあの法律に、馬鹿正直に挑む奴がまだいるとはなぁ」
   
女王「くくく……最初会ったときから変わった勇者だと思っておったが、まさかそこまでとは。魔族に肩入れする勇者など、変わり者どころではないわ」

勇者「変わり者でもなんでもいいです。事情をご存知でしたら話が早い。どうか、認定書を我らに」

女王「よいぞ」

勇者「えっ?」






勇者「今、なんと?」

女王「よいぞと言ったのじゃ。二度も言わすでない」

神官「(あ、あれ……すんなりOKでましたね)」

戦士「(不気味だが僥倖だったな)」

仮面「(俺きた意味あったのか、これ?)」

勇者「……あ、ありがとうございます!!」

女王「なにをそんなに驚いた顔をしているのやら」

女王「私はそなたらの国も魔族も、どうでもよい。そなたらの計画が成功しようが失敗しようが、国のトップが誰だろうがどうでもよい。
   私は私の国だけが大切なのだから。国境の外でなにが起きようが、私にとっては瑣末なことじゃ」

勇者「はい。あなたがそのような考え方をする方だと知っていたからこそ、先ほどの返事に驚いているのですが」

女王「なに、ただ単にそちらの方がおもしろそうじゃったからの」

女王「本来、剣と魔法を武器に戦うそなたらが、そのままでは立ち向かえないモノに対してどのような戦い方をするのか、と。
   私は高みの見物がこの世で五番目に好きなのじゃ。はっはっは」
   
勇者「……ご期待に添えるよう頑張ります。ではさっそく、認定書を、」

女王「しかし」

勇者「?」

女王「取引はギブ&テイクが基本ということはそなたも知っておろうな?」

勇者「…………(そうだ、こういう人だった)」

勇者「えーと。何かお困りのことがあれば、どうぞ我らにお任せ下さい」

女王「そうこなくては」ニッコリ






女王「最近、森の動物たちの様子がどうにもおかしい。ふらりと人里に下りてきては人に襲いかかろうとしたり、畑を荒らしたり。
   これまでそのようなことはなかったのだが、最近になって急に凶暴になってまるで別種の動物かと疑うほどじゃ」
   
女王「彼らを森に住むよき隣人、神聖な獣として崇めていた国民たちも、立て続けに起こる人や畑の被害で気が立っておってのう。
   このままでは討伐隊を組んで森を焼き払うとまで言いだしかねん」
   
勇者「分かりました。森に入って、何故動物たちの様子が急変したのか、その原因を突き止めればいいのですね」

女王「頼むぞ。報酬はそなたらの望む認定書じゃ。……ふっ、その顔だと、もっと無理難題を言い渡されると思っておったようじゃの」

勇者「いっ、いえ」

女王「なにやら急いでおったようだが……私から認定書を受け取ったら、そのまますぐに太陽の国でクーデターを起こすのか?」

勇者「いや……それが、まだ、王位継承者を見つけ出せていなくてですね。今目下捜索中です」

女王「なんと……。……ふふふ」

女王「のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?」

勇者「? はい。有名な話ですよね」

女王「探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ」

勇者「すぐ、近く……ですか」









城下町


勇者「意外となんとかなったな。じゃあ薬草とか防寒具とかもろもろ準備して、1時間後にまたここに集合しよう」

神官「暗くなる前に帰ってこれるといいですね……」

戦士「俺たちは宿をとっておこう。荷物あれば預かるが」

神官「あぁ、はあこれお願いします」

仮面「ちょっと待て。おっさん、俺“たち”ってなんだよ。まさか俺も、このクソ寒い中森に入らなくちゃならねぇのか!?」

勇者「当たり前だろ。ほっておいたらまた人の金盗もうとするだろうが」

仮面「現金は盗まない。あくまでモノを盗るのが俺流だ」

勇者「知らないよ。とにかくいまは少しでも腕の立つ奴がほしいんだ、協力してくれよ」

仮面「なんで俺が……チッ……しょうがねぇな。その代わり、報酬はたんまりもらうぜ」

神官「あ、はい。飴ちゃんでいいですか?」ゴソゴソ

仮面「むしろなんで飴ちゃんでいいと思った? ん?」








ザックザックザクザック……ドテッ


神官「ひゃっ!」

勇者「大丈夫か?」

神官「ええ……。もう、これだけ雪が積もってると歩きにくいですね」

戦士「人里に下りてくる動物たちか。ふむ……足跡の一つでも、ここらへんにあっていいと思うのだが、見当たらんな」

仮面「そりゃーこんだけ雪が毎日降ってれば、足跡も消えちまうだろ」

勇者「動物たちが来たのは一番最近で一週間前だそうだ。余裕で消えてるだろうな」

神官「闇雲に探しても時間と体力の無駄です。どうしますか?」

勇者「話を聞く限り、凶暴化した動物は人間に対して敵意を抱いているみたいだから、大声で話して俺たちの居場所を知らせるとかどうかな」

神官「それって私たち自身が囮役するってことですか」

勇者「まあ、そうとも言うな」

神官「ええええぇ~!?」

戦士「いいぞ神官、その調子だ」

神官「いや今のはわざとではないですよ!」



ビュォォオオオオオオ


神官「いつの間にか森を抜けて、木に囲まれただだっぴろい雪原にでちゃいましたね。本当に囮作戦やるんですかぁ……?」

神官「森ってどこでもそうですけど、囲まれたらかなり不利な状況になりますよ」

勇者「大丈夫、お前がそのロッドで会心の一撃を繰り出したあのときのこと、忘れちゃいないぜ」

神官「そこは嘘でも俺たちが守るから大丈夫だ的なことを言ってほしかったですね!!お忘れなら言っておきますが、私非戦闘員ですからね!?
   とにかくもう少し場所を変えましょう……!!もうちょっとマシな場を選んで……」

仮面「いや、その必要はないみたいだ」

神官「え?」

仮面「後ろ」

神官「……」クルッ



熊1「グルルルルル……」

熊2「ガァァァァッ!」

鳶「キィーッ!」

鷹「……」バッサバッサ

狼「ガウゥッ!!」



神官「……わ、わあ」





勇者「なんだ、意外にあっさり遭遇できたな」

戦士「俺が熊をやるか」

仮面「おいおい、こんなの俺たちで相手できる数じゃねぇだろ。後ろにまだまだ控えてら。ざっと20くらいか?
   勘弁してくれよ。手がかじかんでうまく剣が扱えねえし」
   
勇者「俺が雷魔法でこいつらを麻痺させるよ」


バチバチバチバチッ!!


勇者「さて、どうしてこいつらが急に凶暴になったのか、その理由を探らないとな」

神官「あっ、勇者様!近づいちゃだめです!」


熊「ガァァァァァァッ!!」

勇者「うおっと!」

戦士「前列にでてきているその熊と、空の鷹、そしてそちらのひと際でかい狼は動きは鈍っているものの、気絶とまではいかなかったみたいだな」

勇者「やるしかないか。一人一匹だな。神官は後ろに下がっててくれ」

神官「はい!」





熊「ガルルルルルル……!!」ブンッ

戦士「フンッ……!!」ガシッ


仮面「熊と一騎打ちってまじかよ、あのオッサン。体張ってんなぁ」

勇者「おい、下りてくるぞ」

鷹「キィーーーッ!」


ビュッ!


仮面「うぉ! ッハハハ!鷹の剥製とか高く売れっかなー……」

神官「だめですよ!?できるだけ動物たちを殺さないでって女王様にも言われたじゃないですか!」

仮面「冗談冗談。真面目だねぇお譲ちゃん」

神官「目が本気でしたよ」





狼「ガウッ!!」

ザザッ

勇者「何か変わったところ……変なところ……」

勇者(外傷も特にないしな。人間が動物の怒り恨みを買ったという線はなさそうだ。
   魔法で何者かに操られているのかとも思ったが、そうだとしたらこの滑らかな動きはできないだろうし)
   
勇者(でも確かに様子が変だ。……毒キノコでも食べたとか?いやまさかな)





戦士「ぬぅぅぅ……はああ!!」ドスッ

熊「ぐえっ!?」


神官「戦士さん……熊相手に拳で勝っちゃうなんて……相変わらず出鱈目な人ですね」

戦士「まだまだ若いもんには負けぬぞ。 む?なんだこれは」

神官「え?」

戦士「熊が今しがた吐き出したものだ。これはネックレスか?」

神官「なんだかそれ、邪悪な感じがしますよ。もしかしてこれが騒動の原因かもしれません……!」

神官「勇者様、仮面さん!動物のお腹を殴って、これを吐き出させてあげてください!」


仮面「あぁ?」

勇者「それって……あっ!待てこら!!」

勇者「俺は逃げた狼を追う!そっちはまかせたぞ!」

戦士「あぁ。大丈夫か?」

勇者「おう!」






戦士「……ふう。これで全部か?」

神官「やっぱりこのネックレスが原因だったみたいですね。これを吐き出した動物たちはもう私たちを襲ってきませんし」

神官「これ、おそらく呪いがかかってます。それほど悪質なものじゃないですけど、動物たちには効き目が大きかったのかもしれません。
   でも一体どうしてこんなものが彼らの口に入ったのでしょう……やはり恣意的なものでしょうか?」
   
仮面「あー……」

戦士「なんだ、何か言いたそうな様子だな?」

仮面「確証はないが、盗賊ギルドの奴が言ってたことを思い出してね。
   ちょいと呪いのかかった品々を闇市で売ろうとしてたんだが、旅の道中丸ごと落としちまった、みたいなことを言ってたぜ」
   
戦士「その落とした場所が雪の国だとしたら、つじつまが合うな」

神官「呪いのかかった金品の売買は、どこの国でも禁止されていますけど。闇市って、そんなのも売ってるんですか?」

仮面「もっとすごいやつもあるぜ」

神官「……はぁぁー。私、魔族の方たちのこととか、王子探しのこととか全部落ち着いたら、闇市を解体することに全力を注ごうと思います」

仮面「そいつは困る。まああんたにそんなことできるとは思えねぇが」

神官「ムキー!」

戦士「そのへんにしておけ、二人とも。勇者を追うぞ」






ザックザックザック……


戦士「足跡は、向こうに続いておるな」

神官「そのまま遺跡に続いてますね」

仮面「なんで遺跡がこんな山奥にあるんだよ?」

戦士「む、勇者が出てきよった」


勇者「悪い、なかなか追いつけなくてさ。狼は遺跡の中に入りこんじまった。入り口はここひとつだから取り逃すことはないと思う」

勇者「遺跡の中で入れ違いになったら厄介だからここでお前らを待ってたんだ」

神官「よかったぁ、松明セットとか持ってきて。備えあれば憂いなしですね」

仮面「おいおい、犬っころ一匹すら取り逃がすとは、呆れた勇者様だなァ?」

勇者「すばしっこいんだよ、あいつ」

仮面「へっ」

戦士「もう日も傾く。あとはあの狼一匹だけ追えば、あとは問題なかろう」

仮面「だな。さっき話した盗賊の男も、仕入れた品の数は20くらいだっつってた。さっさと終わらせて帰ろうぜ」



* * *


勇者「……なんだ。盗賊ギルドの奴が原因を作ったんだな。人騒がせな……」

戦士「全くだ」


仮面「暗いし寒いし狭いし最悪だな、遺跡の中ってやつぁよ。遺跡につきもののお宝も全然ねぇし」

神官「ここの遺跡はとっくの昔に女王様が調査隊を派遣してますよ」

神官「以前はトラップも多かったり、頑強なゴーレムがいたりと結構厄介な遺跡だったみたいです。
   ほら、この通路なんかも、床が重量を感じると同時に天井が押し迫ってくるベタな仕掛けがあったところですよ」

神官「古代の方たちもいろいろ考えますよね~、あははは」
   
仮面「へえ。詳しい……、ん?なんだ、この音?」


ズズズズズズ……


戦士「……」

勇者「うーん、おかしいな。……俺も神官と同じことを聞いてたんだが」

神官「ええと……ま、まさか」






ゴゴゴゴゴゴゴ……


勇者「とりあえず、走れ!!!」

神官「いやーーーーっ!」

仮面「ハァ!?トラップは昔の話じゃなかったのかよ!?」

戦士「圧死したくなければお前も走れ!!」


ダダダダダッ!


勇者「……ぐううう!まずいまずい!!天井がガンガン迫ってきてるぞ!」

神官「こっ、このままじゃ4人とも間に合いませんよー!」

戦士「ぬ!あれを見ろ!!」


狼「グッヘッヘヘ」ポチポチ


勇者「あいつ! なんか仕掛けをいじってやがるな!?やたらと天井のスピードが速いのもそのせいか!?」

戦士「あの狼、知性があるんじゃないか!?」

仮面「ぐっ…………おおおおおおお!!」


ガッ!





神官「仮面さん!? そ、そんな、天井を腕で支えるとか無茶ですよっ」

仮面「今のうちに、さっさと……!!行け……!! ……ぐっ!!」

戦士「仮面!恩に着るぞ!」

勇者「ありがとう!」



狼「ガウッ」ダッ


勇者「右の通路に逃げた!追うぞ!!」ダッ

戦士「待て狼!!大人しくお縄につかんか!!」ダッ

神官「狼さん、怖くないので逃げないでくださーい!」ダッ

仮面「おいっ!!待てお前ら!!先にトラップ解除しろや!!!」

仮面「このアホパーティがっ!!おーーーーい!!!」


ここまでです

乙~

仮面死んだらゲームオーバーじゃね?

仮面涙目

神官ちゃんが可愛い乙ー

待ちくたびれたぞ!

待っているぞ!




仮面「はぁっ、はぁっ! てめぇらまじふざけるなよ!? そろそろ本気で怒るぞ!」

勇者「だからごめんって」

神官「狼さーん!……だめです、見失っちゃいました」

戦士「少し開けた場に出たな。ここらで一旦休憩するか? 昼から動きっぱなしでくたびれたろう」

神官「もう夜ごはんの時間ですものね。簡易食しか持ってきてませんけど、よろしければいかがですか?」

勇者「準備がいいな、神官。いつも助かるよ」

勇者「戦士の言う通り、ここで少し休憩しよう」

仮面「はあ……ったく疲れたぜ。 なあ、お前、火を起こせる魔法も使えたりするのか?」

勇者「一応な。ほら」ボッ

仮面「おお。それずっと続けてくれや。 あーあったかい。この国はどうも寒すぎていけねぇな」

神官「相変わらず便利ですね、勇者様の魔法。あったかーい」

勇者「俺を焚き木代わりにしないでくれよ。もういいか?」ボォォッ

戦士「ここが少し広いとはいえ、本格的に焚き木をしたら空気が淀んでしまうからなぁ……。あったかいな」

勇者「俺も休みたいんだが」ボォォッ







仮面「これが勇者だけに使えるっていう五大魔法……か」

神官「火、水、風、土、雷。 自然界の五大属性を司る魔法ですね。最も勇者様があまり使わない属性の魔法もありますが」

勇者「一応得手不得手があるんだよ。使おうとすれば、まあ、使えるが、不得意な属性はそんなに威力も出せない」

仮面「ふうん。そういうもんか」

仮面「……なぁ、お前はなんで勇者になろうと思ったんだ?」

勇者「なんでって……教会から預言が為されたんだよ。俺の村の何月何日に生まれた男児が勇者ですってさ」

勇者「お前がさっき言ったように、小さい頃から神父が使う治癒魔法とは違う魔法も扱えたし。
   そりゃああんまり俺は勇者っぽくないとは自分でも思ってるさ。でも預言と魔法、二つも揃ってれば認めざるを得ないだろ」
   
仮面「俺が言いたいのはそういうことじゃない。確かにお前はこの時代に一人だけ、勇者の資格を持って生まれた」

仮面「だが、勇者以外の生き方を選ぼうとは思わなかったのか? 勇者として生きることに何の抵抗もなかったのか?
   それとも、何か確固たる理由があって、勇者になったのか。俺はそう聞いてるんだ」
   
勇者「勇者以外の生き方?」

勇者「……。そんなの、考えたことなかったな。生まれたときから、お前は勇者だって告げられて。
   剣の修行も、魔法の修行も大して苦じゃなかったし。俺だけが魔王を討ち滅べせて、それで世界が平和になるなら……」
   
勇者「そうだとしたら、俺がなるべきだって思ったんだ」

勇者「だから勇者になるかならないかなんて、迷ったことなんてなかったよ」

仮面「………………そうか」


仮面「ならお前は、俺が思ってたよりずっとつまらない人間だな。勇者」






勇者「……」


神官「…………あ、あの。仮面さん!お水飲みますか!? 勇者様も、や、薬草食べますか薬草。滋養強壮にいいですよ薬草!」

仮面「いらねぇ」

勇者「俺も、いいや」

神官「そっそうですよねぇ~!」

仮面「……」

勇者「……」


シーン


神官「(戦士さん……! これどうしたらいいんでしょうか、この空気。私窒息しそうですよぉ)」

戦士「(仮面は仮面なりに考えていることがあるのだろう。放っておくのが吉だ)」

神官「(ええぇ?)」

戦士「さて、そろそろ休憩も終わりにするか。ここから先は道が二手に分かれているが、どうする勇者?」

勇者「定石どおりにこっちも二手に分かれて進もうか」

勇者「多分トラップはこの先もあると思うから、気をつけて行こう。じゃ組み分けするぞ」





右通路


勇者「意外と広いな、この遺跡。どちらかが行き止まりじゃなくて、両方とも奥に続いていれば合流がスムーズに行くんだがな」

神官「でも前者の方が可能性が高い気がしますよ……」

勇者「だろうな。 くそ、狼一匹にここまで時間を食うことになるとは」

神官「……」

神官「あの、さっきの仮面さんの言葉は気にしない方がいいですよ」

勇者「ん?」

神官「仮面さんは……多分その、かなり自由な生き方をしてらっしゃるので、あんなことを言ったのだと思いますが、
   私は勇者様の生き方は正しいと思います。あなたが、勇者として神に選ばれたのは何かしらの理由があるはずです」
   
勇者「はは。神官らしい言い方だな」

神官「まあ腐っても神官ですから……。じゃなくて、真剣に言ってるんですよ」

勇者「仮面は、俺が何も悩まず、苦しまずに勇者になると選択したことが気に食わないと思ってるんだろうな」

勇者「確かにあいつのように生きている奴からしたら、異常に思えるのかもしれないな。
   実際俺も、今までそのことを考えなかったことに驚いたくらいだ」
   
神官「それは悩むこともないほど、天性があるということだと思います」

神官「私は勇者様が勇者様でよかったと思ってますよ。多少破天荒で向こう見ずなところは直してほしいですけどね。
   これまで一緒に旅してきた戦士さんだって、きっとそう思ってます」

   
   
   




   
勇者「……もしかして俺、慰められてる?」

神官「少ししょげてた様子でしたので」

勇者「別にしょげてねぇよ。ただ、いろいろ考えてただけで」

神官「珍しいですね、勇者様が」

勇者「別にいいだろ、たまには。ない頭しぼってもさ。 じゃあ逆に聞くけど、お前はなんで神官になることを選んだんだ?」

神官「えっ……私、ですか」

神官「私は、最初は学校の先生になりたかったんです」

勇者「へえ、初耳だな」

神官「でも子どもとはいえ大勢の前で話すのが苦手で……それから、植物学者になろうとしましたけど、高等教育を受けられるお金がなくって、
   結局神学校に進んで神官になることに決めたんですよ。そのまま神官になれば学費も大幅免除されますから」
   
神官「とまあ、私なんてかなり優柔不断な人生設計立てたものです」

勇者「そうだったのか。……金があったら自分は他の道を歩んでいたと思うか?」

神官「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。今では神官になってよかったと思ってますし。
   でも、本当に神官が私の生きる道なのか、悩んだことはありました。そんなとき、勇者様がとってもうらやましかったです」
   
勇者「なんで俺がそこででてくる」

神官「だってこの世で一人だけ、勇者として選ばれて。勇者に絶対ならなくてはならない。
   そんな風に世界から言われたら、悩むこともないじゃないですか。それが私の天職だって、生まれたときから思えるじゃないですか」
   
神官「私のこの考え方も、勇者様にとっては失礼で、癪に障るかもしれません……でもこんな風に考える人もいるんですよってことで」






勇者「なるほどな……。そういう考え方もしたことがなかった。ありがとな」

神官「いえいえ」

勇者「ここが雪山の中の遺跡なんかじゃなければ、もっとじっくり話を聞きたいところだが、そうもいかないみたいだな」


コツコツ


勇者「行き止まりだ。あっちが正解ルートだったみたいだな。この壁も壊せそうにない。戻るか」

神官「い、いや、壊せそうでも遺跡を無断でやっちゃうのはまずいかと。
   しかし……ここまでこっちのルートにトラップがゼロというのは不気味ですね」
   
勇者「そんなことを言うと、今までの展開から見るにそろそろ一つ来るんじゃないか? ハハハ」

神官「あはは、止めてくださいよ、洒落になりませんって。さあ、戦士さんと仮面さんたちに合流するために戻りましょうか」


ガコッ


勇者「あ、おい、何かのスイッチを踏まなかったか今……」

神官「……」

勇者「な、なんかこっちに転がってくるような轟音がするが大丈夫か!? これ大丈夫!?」

神官「多分だめなパターンです!! うわーん!!」

勇者「逃げろ!!」

神官「私たちこんなのばっかー!! わぁぁぁん!!」








左通路


仮面「あぁクソったれ。もう外は真っ暗な時間だぜ。暗闇の中で下山するつもりか?」

戦士「いや、勇者の転移魔法で帰れるから心配はいらぬ」

仮面「あーそういやそんな魔法もあったか。それで星の国で俺はあいつに負けたんだよな。思い出すだけでムカついてくる」

戦士「……勇者の奴もな、神によって選ばれたからと言ってただ漫然とその資格に胡坐をかいておったわけではない。
   それは対峙したお前も重々分かっていることだとは思うがな」
   
仮面「なんだよオッサン、説教か?今時そういうのって、若者には引かれるぜ」

戦士「オッサンオッサンと言うが、俺はまだ……、 む。扉が見えてきたぞ」

仮面「さっさと狼に吐かせて帰ろうぜ。おらよっと」


ギィィィィ……


狼「ガルルルル…」

仮面「いたぜ、犬っころ。どうやらここで行き止まりみてぇだな。観念しやがれ」

戦士「二人で挟みうちするぞ。俺が右から行く、お前は左からだ」

仮面「へいへい、っと!」ザッ

戦士「……!? 待て、何か来るぞ」



ゴゴゴゴゴゴゴ……







ゴーレム「……」


戦士「ゴーレム!? まさか、まだ稼働しておるとは……厄介だな」

仮面「面倒くさそうなのがまたでてきたな、おい。でもこいつ、動きが鈍いぜ」

戦士「鈍いのはいいが、問題は硬さだ。よっぽど力を込めんと決定打は与えられんぞ」

仮面「ハッ!」

戦士「フンッ」


ガキンッ


仮面「……確かにかてぇな」

仮面「じゃああの狼の野郎を先に……ってあいつ!ゴーレムの裏に隠れやがって!腹立つ野郎だなぁ」

戦士「地道にダメージを与えていくしかないみたいだな……仕方ない」

ゴーレム「……」ブンッ


ズドドドドドッ


仮面「うおっ!? 一撃で地面を揺るがすたぁ、やるな」

戦士「気をつけろよ。一発でも食らったら即お陀仏だ」





戦士「しかし、攻撃モーションに入った後の隙が肝だな」

戦士「様子を見つつ、攻撃をした後の隙をついてこちらから打撃を加えていくぞ」

仮面「は? んなまどろっこしいやり方してられっかよ。あいつの攻撃なんてそんな用心してなくても避けられる。
   様子なんて見る必要ねえ、行くぞ」

戦士「あいつの攻撃を見たろう、用心しすぎて困ることはないぞ」

仮面「ビビってんならオッサンはそこで見てろ。俺がやってやるよ」

戦士「…………だからオッサンと呼ぶのはやめろ!!!まだそう呼ばれるだけの年は重ねとらんわ!!!」

戦士「ここは素直に年長者の言うことを聞いておけ!!お前のためを思って言ってるんだ!!」

仮面「うっるせぇな、叫ぶんじゃねーよ。だったらこうしようぜ」


ゴーレム「……シンニュウシャ……」ブンッ


仮面「俺は俺のやり方で、あんたはあんたのやり方で戦う。これで文句はねぇだろ?」ヒョイ

仮面「っこの!」ガッ


戦士「おい! 考えなしに突っ込むな……! 大体、勇者と神官ももうそろそろ追いつくだろう」

戦士「そんなに急がなくても、あいつらが来るのを待つのも手だぞ」

仮面「どいつもこいつも勇者勇者って……気にいらねえな」ガキンッ

仮面「神託だの運命だの、胡散臭いと思ったことはないのか?」

戦士「……?」






戦士「……くそっ」ザッ

仮面「なんだオッサン、無理すんなよ」

戦士「ぬかせ」


ゴーレム「……」ブンッブンッ


仮面(しかし、これだけ攻撃を加えてるのに全然堪えた様子がねえな……いつまでこうやってりゃいいんだ?)

仮面「なぁオッサン、ゴーレムって、人形に魔法がかけられたもんだよな?なんか急所とかねえの?」

戦士「そういうのは神官の方が詳しいんだが、俺にはさっぱりだ」

仮面「役に立たねぇな」

戦士「黙れ……、!  おい、来るぞ!」


ズドドドドドドドッ


仮面「わっと……!」ヨロッ

ゴーレム「……」ブン

仮面「!」

戦士「仮面!」





ドゴッ!


仮面「……!?」

戦士「ぐっ……」

仮面「オッサン! なにしてんだてめぇ……馬鹿か!?」

戦士「……一旦……退け……勇者たちと合流しろ……」

仮面「分かったよ、じゃあ掴まれ。チッ、重いんだよクソが!」

戦士「俺はいい……先に行け……」

仮面「んなこと言ってる暇あったらさっさと立てや!」

仮面「ん……!?」


ヒュ……


仮面「!」

仮面(避けたらオッサンが…… 俺に受け止められるか!?)

仮面(やるしか……!)



バターンッ




勇者「戦士!仮面!無事か!?無事じゃないな!」

勇者「おらぁぁぁ!!」ゴッ

ゴーレム「!?」グラッ


仮面「お……お前!今のどうやって!?」

勇者「え?」

神官「戦士さん!しっかりしてください!今、治癒魔法かけますので……!」

戦士「助……かる……。死んだ……祖父が……手を振って……」

神官「戦士さーん!こっちに帰ってきてください!!」


ゴーレム「ガガッ……ガッ……」

勇者「神官、ゴーレムの弱点ってなんだと思う?」

神官「ええと、確かゴーレムの動力源は体の中心部に嵌めこまれてることが多いです」

神官「体は岩よりも硬いですが、関節部分はほかよりダメージが与えやすいと思います!」

勇者「そっか」

勇者「仮面、お前はまだ戦えるのか?」

仮面「ああ……俺は無傷だ」

勇者「じゃ、手伝ってくれ。隙を見て二人で両足の関節を狙って、転倒させるんだ。
   片足だけじゃあ、さっきみたいにぐらつくだけで終わってしまう」

勇者「転がせたら後は俺がゴーレムの胸を割って、動力源を取り出すから。行くぞ!」





仮面「後は俺が……って、お前あんなのぶった斬れんのかよ!?」

勇者「うおおおぉおぉ!!」

仮面「聞けよ!」

ゴーレム「……」ブンッ!


勇者「おっと」ヒョイ

勇者「今だ!足を狙うぞ!」

仮面「……っああ!」


ズドーンッ


ゴーレム「ッガガガ……ガガ……」

勇者「……っせぇい!!」ズバッ

ゴーレム「ッガ……――――」







仮面「あ、あいつ。本当に一発で斬りやがった……化けもんか」

神官「よかった……。扉開けて血まみれの戦士さんを見たときにはどうなることかと」



勇者「さて、もう観念しろよ?手こずらせやがってよぉ……」

狼「」ガクガク

勇者「おらぁ、吐いちまいな!!」

狼「クゥーン……!」

神官「勇者様、勇者にあるまじき言動は謹んで頂けますか」


続きます
書けば書くほど勇者が勇者っぽくなくなっていく

おつ

支援

勇者は勇者なのか?

お久乙ー

性格に難ありだけど勇者は勇者やで

では投下



* * *


女王「……ふぅむ。なるほどな、呪いの品のせいであったか」

女王「よもや盗賊どもがそのような品を私の国に持ち込んでおろうとはな。あやつらやってくれる」

女王「関所の警備を強化することにしよう。 ご苦労だったな」

勇者「いえ、お役に立てて光栄です」

女王「それにしてもできるだけ急いで解決してほしいとは思っておったものの、まさか一日足らずで帰ってくるとは。
   しかし今日はこの国に留まるのであろう?」
   
勇者「はい。そのつもりです」

女王「ちょうどよい」

神官「?」

女王「今夜はこの城で舞踏会が行われる予定でのう。そなたらも参加するとよい、皆喜ぶ」

戦士(……)ギク

女王「そなたらの国の王子を探しておるのであろう?今夜出席する貴族たちに話を聞いてみたらどうじゃ?顔見知りの者もおるかもしれんぞ」

勇者「確かに、そうですね。参加させて頂きます。でもよろしいのですか?」

女王「よいよい。着替えはこちらで用意しよう。ついでにその後城に泊まってゆけ」

勇者「どうも有難うございます。お心遣い感謝いたします」








使用人「勇者様、とてもお似合いですよ。後は髪型ですね。あらあらこんなに癖っ毛で……毎日とかしていらっしゃいます?」

勇者「え?ああ、いえ。ありがとう」

勇者(……うーん。動きにくい。戦士と仮面の奴はどんな様子だろう)カチャ

使用人「え!? ちょ、ちょっと勇者様。剣をかついで舞踏会に参加なさるおつもりですか!?」

勇者「あ……。つい」



勇者「戦士、どうだ? ってめちゃくちゃ暗いな!どうした!?」

戦士「俺は昔から社交界とかああいうのが大の苦手なんだ……はぁ。憂鬱だ……」

勇者「俺も好きではないけどな」

戦士「大体、あの時、参加すると即答しておったが、お前踊れるのか?」

勇者「………………いっけね!!」

戦士「そんなこったろうと思ったわ」

勇者「まあいいや。どうせ情報収集が目的だし。で、仮面の奴は?」

戦士「さあな。そろそろ出てくるんじゃないのか」


仮面「あ~~雪山で獣とゴーレムと戦って、休む暇なくダンスとか……だるすぎ」ガチャ





勇者「……ブッ!ッハハハハ!!」

仮面「んだよ、人の顔見るなり笑いだすんじゃねぇクソガキ」

勇者「いやおま……その仮面に燕尾服ってもろ仮面舞踏会で、似合いすぎてて笑うわ」

仮面「うっせぇバーカ死ね。おいオッサン、あんたもう怪我は平気なのか」

戦士「ん? おう。神官の魔法のおかげでな」

仮面「そーかよ。あんときゃ悪かったな」

戦士「なんだ、いきなり随分殊勝になりおって」

仮面「俺はいつも殊勝で素直だよ」

勇者「どの口が言って……って、もう時間か。神官はもうホールにいるそうだから、そのまま行こう」

戦士「はぁ……帰りたい。娘に会いたい」



神官「あ!遅いですよ、皆さん。女性より身支度に時間かかるってなんなんですか」

勇者「おお、神官の神官服以外の姿って、そういやレアだな。似合ってるじゃん」

戦士「うむ、なかなかだぞ」

神官「褒めても毒消し草くらいしかだせませんよ、アハハ」

神官「……って、ちょッ!? 仮面さん……いい出オチですね!」ニコ

仮面「黙れ」





~~♪ ~~~♪


女性「太陽の国の? うーん、ごめんなさいね。私社交界に出たの最近だから……母なら知ってるかもしれないわ」

勇者「そうですか……どうもありがとう」

勇者(王子のことを知ってる人がそもそも少ないな。次は年配の人に聞いてみるか)

勇者(って言ってもほとんどみんなダンスに夢中でなぁ。俺と戦士浮きまくり。
   まさか自分が貴族に混じって舞踏会に出席する日が来るとは思わなんだ)
   
勇者(というより、神官はいいとして、なんで仮面の野郎が完璧にステップ踏んでるんだよ!あいつ盗賊じゃなかったのかよ!)


仮面 女性「」クルクル


勇者(あいつ何者だ? 今時の盗賊は社交ダンスも踊れるのか……盗賊に負けた俺って……)

勇者(まだ曲は終わらないか。曲が終わって話聞けそうな人を捕まえられるようになるまで、のんびりしてよう)


勇者(……。遺跡の中での会話といい、今のダンスといい、あいつって何か事情があって盗賊になったのかもしれないな)







勇者(四六時中仮面をつけてるのも何か理由があるのかもしれないな。人には一つや二つ、誰にも知られたくない秘密ってものがあるはずだ)

勇者(誰にも知られたくない……隠したい秘密……が)

勇者(……なんだ? やけに頭にひっかかる。仮面……あいつ)


~~♪


勇者(金髪。男。顔の上半分を覆った仮面。常に身につけてる、首元をかくす布――今はしてないな)

勇者(しかし襟とタイで首はほとんど隠れてるし……身につける必要はないか)


女性「あの仮面つけてる方、なんか不思議な雰囲気よね」ヒソヒソ

女性「仮面から覗くアッシュブルーの瞳がミステリアスで素敵」ヒソヒソ



勇者(アッシュブルー?青い瞳。王子の妹である姫様の瞳の色も……青だ)

勇者(金髪に青い目?)

勇者(いや…………いやいやいやいや。まさかな)






勇者(仮面が泣きぼくろを隠すためで?マフラーが首の傷を隠すためで?おまけに金髪碧眼?社交ダンスも完璧?)

勇者(…………いくらなんでもできすぎだ。そうだ!戦士!)

勇者「戦士!ちょっといいか!?訊きたいことがあるんだが」

戦士「ぬ?なんだ?」

勇者「こっちに」




勇者「今日の遺跡で、俺と神官が来る前に、仮面と一緒に戦ったよな?あいつの戦闘スタイルを見てどう思った?」

戦士「スタイル……?素早さ重視でトリッキーな動きを得意としているように感じたが。勇者の方がよく分かっているのでは?」

勇者「戦士は王子がやってたっていう、太陽の国の貴族剣術の型、知ってるんだよな?あいつの戦い方にどこか類似点はなかったか?」

戦士「見たところあまり……むしろ正反対のような気さえする」

戦士「……いや!待て。俺がゴーレムの一撃を食らった後で、勇者が来る前だ。
   振りかぶったゴーレムを前にして、自分が避ければ俺にあたると考えた仮面が、一瞬防御の姿勢をとった」
   
戦士「それが、以前見た貴族が使う剣術に似てなくも、なかったな」

勇者「そ、そうか。ありがとう」

戦士「勇者?」

勇者「ちょっとテラス出て考えてくる」フラフラ

戦士「外は雪だが……」





ガチャン


勇者「……………………」



勇者「ええええええええええええーーーーー!? まじでッッ!?!?」

勇者「うそだろ!?あり得ないだろ!?ないよな!?ありかなしかで言ったら完全にないよな!?」

勇者「だって……あんな……柄の悪い王子って大丈夫なのか?いいのか?」

勇者「うっそ……」

勇者「つーかもし俺の考えていることが本当だとしたら、これまでの無礼の数々が思い起こされる」

勇者「……いや、もしそうだとしたら。もうすでに仲間にしてるし、認証書も2枚揃ってるし、万々歳なんだが」


勇者「ちょっと衝撃すぎて脳の処理追いついてないよ……」


――のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?

――探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ



勇者「近すぎだよ!!!」





そのころ


魔女「はっ―――」




魔女「っくしゅっ!!」

竜人「大丈夫ですか?もうそろそろ休みますか。宿に向かいましょう」

魔女「火ぃ吹いてよー」

竜人「馬鹿言わないでください。変温動物の私のことも慮ってくださいよ」

魔女「いま人の姿じゃん……てか竜ってそうなんだ」

魔女「……うわあ!ね、見て見て。雪国名酒『雪おんな』あります、だって!
   どうせ今日はもうやることないし、ちょっとだけお酒飲もうよ!ね!」
   
竜人「なに言ってんですか、いやですよ。何も今日飲まなくても」

魔女「だってこんな寒いんだし、今日はずっと外で王子の手がかり探してたし、少しお酒飲めば体もあったまるじゃん」

竜人「……飲みすぎないって約束できますか」

魔女「できますできます」

竜人「じゃあ―――」


「食い逃げだーー!!誰か捕まえてくれーー!!」






バタンッ!!


竜人「?」

魔女「っわ!! ちょっとー、ぶつかりそうになったじゃん、あの食い逃げヤローとっつかまえようよ」

竜人「いや、ここは下手に目立ちたくない。見なかったフリしましょう」

魔女「えー?」



旅人「いやぁね……だめよ。食った分だけの代金はきっちり払う。それが世の中のルールってもんよ……」

食い逃げ「どけっ!!!」バッ


竜人「!! あ、あの人……!?」

魔女「え?知り合い?」


食い逃げ「どけぇぇぇえぇえぇカマ野郎がぁぁぁ!!!」

旅人「そんな基本的なことさえ分からないチ○カス野郎は……カマ以下ね!!!」

旅人「滅しなさい!!! 破ァ――――――!!!!!」

食い逃げ「ちょ」ジュワッ



竜人「……」

魔女「……」

オカマってすごい。二人はそう思った。




店主「おや旅人さん!いらっしゃってたんですか!お久しぶりです」

旅人「はい食い逃げ犯。煮るなり焼くなり掘るなり好きにしてちょうだい」



竜人「やっぱり!星の国で会った人だ。魔女、やっぱりこの店は諦めてください。宿に帰りますよ」

魔女「えー!?なんで!?さっき好きなだけ飲んでいいよって言ったじゃん!?」

竜人「そこまで言ったっけ!? あと声大きいです、気づかれる前に……」


旅人「……ん?」

旅人「あら」


竜人「ほらこうなる……助けて魔王様……」





旅人「やーっぱり、あのとき勇者ボーイと一緒にいた子よね!隣の女の子はなに? コレ?」

竜人「小指立てないでください。違いますよ」

魔女「ねーあなたって、女?男?どっ ムグ。ひゃにしゅんのー」

竜人「すいませんね躾がなってないもんでアハハハハ気にしないでくださいね本当申し訳ない」

旅人「なにこの子、おもしろいわ。今日会ったのも何かの縁ね、ここはあたしが奢るから好きなだけ飲んで食べなさい」

竜人「い、いえ。もうそろそろ帰らないと……明日も早いので」

魔女「ねー、旅人は勇者に会ってない?あたしたちこの国で落ち合うことになってるんだけど、全然来ないの」

旅人「勇者ちゃんねー、結構な頻度で巡り合うんだけど、この国ではまだ会ってないわ。神様の意地悪かしら」

魔女「そっか。なにやってんだろーね今頃」グビグビ

魔女「プハー。うまい!もう一本!」

竜人「青汁じゃないんですから」

旅人「ふ~~~~~~~~~んむ」

竜人「な、なんですか?」

旅人「この間も言ったと思うんだけど、やっぱどっかで見たことあるような気がするのよね、二人とも」

竜人「初対面ですよ。やだなあ、あはは」ギク





旅人「本当にそうかしら。ん~~~。……ハッ!!!」

旅人「そうだわ思い出した!! あなたたち、魔族ね!?」

竜人「!?」

魔女「!」


シーン……ざわざわ……


「魔族?いま、魔族って?」  「言い間違いか?」
  「いや、ここに魔族がいるわけないだろ」 「あそこのテーブルから」

  
  
魔女「ま……ま……」


魔女「これで『満足』したでしょー!?私オリジナル配合のカクテル!!舌の肥えた旅人も満足するよねきっと!!」

旅人「ンゴッ」

魔女「はい、ちゃーんと飲み込んでね!!おいしいでしょ!?あっははは!」

旅人「ゴゴゴゴゴ」ガクガク



「なーんだやっぱり聞き間違いだったよ」 「ちょっとびびったぜ」





魔女「はあ……はあ……」

旅人「」

店主「おやぁ、旅人さんが潰れるなんて珍しいこともあるもんだ。ハッハッハ」

竜人「ほんとですね!ちょっと休ませときましょうかアッハハハハ!!」


竜人「(よくやった。ですが、あなた飲ませた酒の中に何か混ぜてましたよね?一体何を?)」

魔女「(ただの忘却の水薬と眠り薬だよ。これで魔族のこととかは忘れたはず。でもさっきのどういうこと?)」

竜人「(ほら、よく魔王城に漂流してくる人間に、魔王様が忘却呪文かけて帰してやってるでしょう。
    そのうちの一人です。見覚えがありませんか?)」
    
魔女「(あるような、ないような)」

竜人「(何故か呪文が解けかかってるみたいです。もともと効きにくいのかもしれません。
    とりあえずここはすぐに逃げますよ!お代はここに置いとけばいいでしょう)」
    
魔女「ちょっ、ちょっと待ってよ。外套忘れてるって。これないと死ぬよ?」






翌朝


竜人「……」

魔女「おはよー」

竜人「勇者様はまだですかね?」

魔女「っぽいね。今日魔王城に行く?」

竜人「せっかくなら勇者様方と会ってからにしたかったんですけどね。もうこれ以上先延ばしにしても時間の浪費か」

魔女「王子の持ち物っぽいの手に入れちゃったもんねー。早く魔王城で調べなくっちゃ。これでうまくいけば一発だし!」

竜人「一応勇者様に鳥を飛ばしておきましょう。さて……じゃあ行きますか」

竜人「ん……? 私の外套、こんなに肩幅余ってましたっけ」

魔女「竜人の肩幅が縮んだんじゃね?」

竜人「なんか内側の手触りも違うような」

魔女「………………あ」

竜人「え」





竜人「えっ!?旅人さんの外套と間違って持ってきたかもしれないって!?」

魔女「だって竜人がさっさと行っちゃうから焦ったんだもん」

竜人「どうすんですか、これ……」

魔女「別に外套なんてそのまんまでいいんじゃないの?」

竜人「いや、私が肩幅余ってるってことは、あっちはかなり窮屈な思いをしてるってことになります。
   ましてやここは外套必須の雪の国ですし……、くっ……返しに行かなくてはならないのか」
   
魔女「そっかー……じゃあ先に魔王様のところ、行ってるね?」シュッ

竜人「いやいやいやいや!?」ガシッ

魔女「ちょ、離してよ」

竜人「なに一人で帰ろうとしてるんですか。信じられない」

魔女「いやいやいや」

竜人「いやいやいや」




旅人が泊まってるはずの宿



魔女「旅人さーん。いるんでしょー?開けてくださーい」ガンガンガン

竜人「借金取りみたいな挨拶やめなさい! ええと、旅人さん。いらっしゃいますか?」

魔女「返事がないけど、部屋に気配あるよね?」

竜人「もしかして、やっぱり魔女の昨日の薬が原因で倒れてるとか……!?」

魔女「あたしが薬で間違うはずないない。開けちゃえ」ガチャ

竜人「え!?」







魔女「急病だったら大変じゃん?」

竜人「……まあ、確かに」

竜人「……おかしいな。中にもいない。そんなに広い部屋ではないんだが」

魔女「あ、このドア開けてなくない?」ガチャ

竜人「そッ!? それはまさか浴室のドアでッ……」


旅人「……あらぁ?やだ!ちょっとなに覗き見してんの!魔族のエッチ!」


竜人「バカーーー!!すいませんでしたーー!!」スパーン

魔女「いったぁぁぁぁ!?」

竜人「何故か魔族って既にばれてるし、男の裸見ちゃうし、覗き魔の称号を得てしまうし!!!どうなってんですかーー!!」

魔女「そんなのこっちが聞きたいんだけど」


旅人「いま上がるからちょっと待っててね~」

魔女「はーい」

竜人「私が変なのか、彼らが変なのか……」





旅人「お待たせ。こんな姿でごめんなさいね」

魔女「うわ!?化け物!?」

旅人「やぁねー。顔パックよ、パック。あなたもやった方がいいわよ。この国空気が乾燥してるから」

魔女「へー」

旅人「ほしければ一つあげるわ」

魔女「まじで!?やったぁ」

竜人「いやあの、順応性高すぎですから」

竜人「旅人さん……私たちのこと、さっき魔族って仰ってましたよね」

旅人「ええ。全部思い出したわ。あなたたちが、海で漂流しちゃった私を助けてくれたのよね。
   お礼が遅れちゃったってごめんなさいね。あのときはどうもありがとう」
   
魔女「恐くないの?あたしたちのこと」

旅人「命の恩人だもの」

竜人「……」

魔女「よかったー。まあ結果オーライだけどさ、なんで思い出せたのかな?あたしの薬は完璧のはずなのに」

旅人「薬?よくわかんないけど、あたし胃は丈夫な方だから」

魔女「えー。そういう問題なのかな。すごい敗北感なんだけど」







旅人「あのとき、あたしを助けてくれたのはあなたたち二人のほかにもう一人いなかった?赤い目をした女の子」

竜人「いましたよ。彼女が魔王です」

旅人「へえ~魔王って……そうだったの。じゃああたしが勇者ちゃんに言ったことは間違いじゃなかったのね」

竜人「あらためて自己紹介しますね。私は竜人、竜の血族です」

魔女「あたしは魔女。よろしくね」

旅人「魔王ちゃんの側近ってわけ?でも今あなたたち大変なんじゃないの?戦争だのなんだので」

魔女「うん。ちょー大変」

旅人「ん?ていうか竜人ちゃんは勇者ちゃんと一緒にいたわよね?」

旅人「ははーん、もしかして何か企んでるの?どれ、言ってみなさいよ」

竜人「……あなたを信じていいですか?旅人さん」

旅人「いいわよ。あたしに全てまかせて身を委ねなさい、二人とも。カムカム」

竜人「いやそういう意味でなく。魔女もひょいひょい行かないで」






旅人「冗談よ~~。もらった恩は三倍返し!それがカマ道ってもんよ。
   あなたたちがいなかったら今あたしも生きてなかった。恩返しさせてちょうだい」
   
魔女「竜人、あたしは旅人を信じるよ。悪い人には見えないもん」

竜人「そうですね。では旅人さん、お話します。実は……」







旅人「………………マジ?」

魔女「マジ」

竜人「マジです」

旅人「なにそれ~~情報通を名乗るあたしが全然知らなかったなんてあり得ないわ。本当の本当にマジなの?」

魔女「マジ」

竜人「マジです」

旅人「うっそぉ~~!?えーこわい!!こわいわ!!」

魔女「あたしも……こわいよ」

竜人「魔女?」






魔女「本当はね、ちょっと怖いんだ。うまくいかなかったらどうしようって考えちゃうと、怖くて仕方ないよ」

魔女「もう友だちや家族が、大切な人たちが傷つけられるのなんていや。あたしだって誰かに否定されたりしたくない。
   魔族の血が流れるあたしを、皆を、誰にも否定されたくない。胸を張って生きていきたいの」
   
魔女「あたし、魔王様とか竜人みたいに器大きくないからさ、実を言うとまだちょっと人間が憎いよ」

竜人「魔女……」

旅人「……」

魔女「でも、その憎しみのまま行動したらこの先ずっとそれが続いちゃうって分かってる。
   憎しみが憎しみを生んでいつまでもそのまま。何も新しいの生まれないよね」
   
魔女「それに人間の中でも勇者や神官、戦士とか、旅人とか、あたしたちを助けてくれる人もいるって知ったから。
   あたしは魔族だけの世界じゃなくて、魔族と人間の世界で生きていきたい」
   
魔女「怖いけど、がんばるよ。……って、話が脱線しちゃったね」

旅人「魔女ちゃん……。そうよね。怖がってちゃ何もできないわ」

旅人「……。あたしにも手伝わせてくれないかしら?あなたたちの力になりたいわ」

竜人「いいのですか?」

旅人「ええ」







旅人「命を救ってくれた恩……ここで返さなきゃカマが廃るってもんよ!!!!ねえ!?」

魔女「わーい!旅人が仲間になったぜ!」

竜人「ありがとうございます」

旅人「で?認定書は勇者ちゃんたちがとってきてくれるのね?後は王子様だけってこと?」

魔女「うん。あ、でも一応手がかりはあるよ。これからあたしたちは魔王城に行くつもり」

旅人「そう。あたしはあたしでツテを伝って探してあげるわ。そうねぇ……一週間よ」

竜人「?」

旅人「一週間で見つけ出してみせる。太陽の国の、広場の前の宿屋は知ってる?」

旅人「一週間後、そこで落ち合いましょう。それくらいの時間があれば、勇者ちゃんたちも仕事が終わってるはずよね?」

魔女「だといいけどね」

旅人「じゃあそういうことでいいわね。勇者ちゃんによろちくび。あたしもすぐにここを発つわ」

竜人「あ、あの?本当に一週間で見つけられるんですか!?」

旅人「だって顔見知りだもん」







竜人「えっ?」

旅人「小さい頃からの知り合いよ?あいつって臆病で無責任でホントろくでもない奴なんだから」

旅人「すぐ捕まえてあげるわ。まかせて」バチコン

竜人「え……本当に?」








竜人「強烈な人間もいるもんですね……」

魔女「あたしたちはどうする?」

竜人「私たちは私たちにできることをしましょう。とりあえず魔王様に……」


勇者「あれ?」

竜人「あ」

魔女「あーーー!」






魔女「遅いよ!なにしてたの皆。てかいつこっち来てたの?」

竜人「入れ違いにならなくてよかったです」

神官「すいません。ちょっと太陽の国で足止め食らっちゃってまして」

盗賊1「久しぶりっす魔女の姉貴に竜人の旦那」

盗賊2「どーもー」

魔女「って、君、なにちゃっかりそっち加わってんの」

仮面「無理やり加えさせられたんだよ!」


戦士「二人とも、久しぶりだな」

勇者「朗報だぜ。認定書は二つとも手に入れた」

竜人「え!?は、早いですね」

魔女「すごいね!やるじゃん!」

戦士「あとは放浪王子の行方だけだ」

竜人「あ、そのことなんですけど、さっき……」






勇者「えっ……あの旅人が協力してくれるって!?あ、あいつが?」

魔女「一週間で王子様を見つけ出すって言ってたよ」

竜人「一週間後、太陽の国の広場前の宿屋で落ち合おうと仰ってましたよ」

勇者「王子を見つけるったって……」チラ

仮面「? なんだよ」

勇者「いや……何も」

勇者(表情が読めない……やっぱり見当違いだったか?でもなぁ……偶然にしちゃ出来すぎだ……)



竜人「とは言っても、私たちは私たちなりにできるだけ王子を探してみます。
   手がかりを手に入れたので、これから魔王様のところに行きますがあなた方はどうしますか?」
   
勇者「俺たちは……一度王国に帰るよ。待ってる仲間たちにも報告したいし」

勇者「あ、そうだ。王国に来るときはくれぐれも気をつけてくれ。国王に反する者たちが同盟を組んでるってのも、もうばれてる。
   魔族に対しての警備もきつくなってるはずだ……できればもう王国には来ない方がいいかもしれないな」

竜人「ついに露呈してしまいましたか。……分かりました。気をつけます。あなたたちこそ気をつけてくださいね」

勇者「ああ」

神官「あともう少しです。お互い頑張りましょう」

戦士「ここが正念場だな」

竜人「ええ。なにもかも、本当にありがとうございます。では何かあったら鳥を飛ばすので」ニコッ

魔女「またねー!」

勇者「おう!」




太陽の国


シュンッ


勇者「……っと。よし」

神官「ふぅ。帰ってきましたね」

勇者「とりあえず女主人のいる店に歩いていこう。認定書のことは彼女に伝えておけば大体みんなに伝わると思うし。
   俺たちが発ってからの国王の動向も訊いておきたい」
   
戦士「ここからならすぐだ。行こう」

仮面「……」

仮面「この国に入るのも久しぶりだ……」

盗賊1「兄貴?」

仮面「……いや、なんでもねぇよ」




勇者「あ、あれ?今日は閉店か?珍しいな」

神官「お店の中、誰もいませんね。もしかして女主人さん、体調が悪いんでしょうか?」

勇者「じゃあ冒険者ギルドか本屋のじいさんのところに行くか……ここへは明日また来てみよう」

仮面「俺たちはここらへんで分かれていいよな?あとは一週間後、広場の前の宿屋に行きゃあいいだろ?」

仮面「じゃあな」

勇者「……待て」






仮面「あ?」

勇者「少し……話がある」

仮面「なんだよ」

神官「勇者様……?」

勇者「…………」

勇者「間違ってたら謝るよ。……あのさ」

勇者「その仮面、とってみてくれないか?」

仮面「……何故だ?」

勇者「もしかして、お前は――」



兵士「勇者殿!勇者殿ではありませんか。お帰りになっていたのですね」

勇者「!」

仮面「!」

勇者「あ……ああ」

兵士「このような細道で何をしていらっしゃってたんですか?」

兵士「街で勇者殿をお見かけ次第、宮廷にお連れするようにと国王様から言付かっております。一緒に来て頂けますか?」



戦士「国王様が……?」

神官「(また全体訓練ですかね?憂鬱……)」

勇者「分かった。仮面、話はまた後でにしよう」

兵士「そちらの方々は勇者様のお仲間ですか?でしたらご一緒に宮廷までお越しいただきたいのですが」

仮面「俺たちがこいつらの仲間?そんなわけねぇだろ」

仮面「この勇者様とやらは正義感だけはご立派のようで。俺たちが怪しい商売をしてるだかなんだかでイチャモンつけられてたところだ。
   助かったぜ兵士さん。な、勇者さん、もう見逃してくれたっていいだろ?国王様がお呼びだぜ」
   
盗賊2(?? 兄貴?)

仮面「そら行くぞ、てめーら。さっさとトンズラだ」

盗賊1「??へ、へい」



兵士「……あのような者はいかに法を厳しくしても、警備を強化しても、一向に減りませんなぁ。
   魔族のこと以外にも、問題は山積みです」
   
兵士「盗賊風情なんぞをお仲間と勘違いしてしまい、大変失礼しました。では行きましょう」

勇者「……ああ」






宮廷内


コツ、コツ、コツ……


兵士「国王様はもうお待ちになっておられるはずです」


神官「(さっきの、仮面さんにする予定の話って、なんなんですか?)」ヒソヒソ

戦士「(俺も気になるな)」

勇者「(ああ。そうだな、二人には話しておいた方がいいか。……これは俺の憶測でしかないんだが)」

勇者「(仮面が……俺たちが探し求めてる人物なんじゃないかって)」

神官「(へっ!?)」

戦士「(ハハ……あんな王位継承者がいてたまるか)」

勇者「(いや、冗談じゃないって。俺もまさかとは思ったけどさ。でも考えてみてくれよ、いろいろ辻褄が合うんだ)」

神官「(しかしですね。じゃあなんでずっと今まで一緒にいたのに、名乗りでてくれなかったんです?)」

勇者「(そりゃあ……まあ。事情があるんだろ、あいつにも)」

勇者「(とにかく、今日帰ったら確認してみるぞ。違ったら違ったで、また探せばいい。旅人の言う一週間後ってのも気になるしな)」


兵士「殿下、勇者様がいらっしゃいました」

勇者「(おしゃべりはここまでだ。また後でな)」ヒソ

神官「(はい)」


謁見の間


国王「来たか、勇者よ。いきなり呼びつけてすまなかったな」

勇者「いえ、滅相もありません。お待たせしました」

国王「……今日お主を呼んだのはほかでもない」

勇者「…………?」


国王「ひとつ……お主に訊きたいことが」


国王「あってな」



今日はここまで

しか
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かかし

しんか

かいし

しょうか

かみかくし

しょうか

ししがみ

乙ー

おつー



* * *

昨晩


タッタッタッタ…

コンコン

魔王「グリフォン。いるか?」

グリフォン「君か。いらっしゃい」

魔王「いま、いい?」

グリフォン「いいよ。お茶淹れるから適当にその辺座って」

魔王「ありがとう」



魔王「いつも以上に書が散乱してるな。いい加減片付けたらどうだ」

グリフォン「片づけてるよ。はい紅茶」

魔王「……?この手紙の山積みは一体?」

グリフォン「あぁ。人間からの手紙さ。この間勇者くんが持ってきてくれてねぇ」

魔王「人間から……」

グリフォン「僕の本を読んでくれた人間からの手紙。軽い気持ちで書いたものだったけど……なかなかに嬉しいものだね」

魔王「そうか。よかったな」





魔王「……ふふ」

グリフォン「どうして笑ってるんだい?」

魔王「グリフォンのそんなに穏やかな笑み、はじめて見たと思ってな」

グリフォン「失礼だなぁ。もうこの話はいいよ」

魔王「そんなに照れなくてもいいのに」ブラブラ

グリフォン「足をぶらぶらしない。 で?君の用事は?」

魔王「うん、貿易論についての本を持ってるか?持ってたら貸してほしい」

グリフォン「貿易論?人間社会のでいいんだよね?一応一昔前のならあるけど。君が魔法書以外の本を読むなんて珍しいね」

グリフォン「はい、これ」

魔王「ありがとう。ふむ。なるほど」パラパラ

魔王「…………単語の意味が全然分からないのだが」

グリフォン「だろうね。何故それを?」

魔王「いずれ、必要になってくるだろう。魔族と人間の関係が改善された後に」

魔王「それに勇者くんが星の王に約束してしまったらしいんだ。認定書の礼に、いずれ魔族との交易において優遇すると」

グリフォン「あらら」

魔王「今のうちに勉強しておかないとな……しかし、なかなか難航しそうだ」





グリフォン「前向きだね」

魔王「当たり前だ。私が前向きじゃなくてどうする。一応これでも魔王なのだぞ」

グリフォン「分かってるよ、マオウサマ」

魔王「ふふん」


魔王「それから、城にいるときは勇者くんたちが使えるようなアイテム合成とかしてみた」

グリフォン「へえ、どんな?」

魔王「例えばこれだ。この青い粉末はただの粉ではない。ものすごい辛さの青とうがらしを粉にして呪いをかけた。
   これを敵に振りまけば、相手はあまりの刺激に発狂して『ウニョラー』『トッピロキー』しか喋らなくなる」
   
グリフォン「どっかで聴いたことあるようなアイテムだね」

魔王「あとはこれ。魔法陣が描いてあるこの紙に、魔力をこめると……腰みのをつけた中年男性がでてきて、
   敵を魅了するダンスを目の前で踊ってくれるのだ。その隙に使用者は逃げることができる」
   
グリフォン「それもどっかで聴いたことがある話だね」

魔王「そうだったか」

グリフォン「うん」

魔王「とまあこれは全部冗談だが」

グリフォン「君の冗談は分かりにくいね」







魔王「いつか魔族と人が住む街をつくろうと思うんだ」

グリフォン「どうしたの突然」

魔王「城でやることがないので、これからのことやこれまでのことについて考える時間が多いんだ。
   グリフォンは100年前の戦争以前、本当に人と魔族は完全な対立関係にあったと思っているか?」
   
グリフォン「思ってないよ」

魔王「……理由は?」

グリフォン「そうじゃないと半魔半人の僕たちのルーツがどこにあるのか分からなくなってしまう」

魔王「そうか……。私も同じ意見なんだ」

魔王「魔族の住む大陸と人の住む大陸は大河で隔てられていたけれど、本当に全く交流がなかったのか疑問が残る。
   証拠はないから完全に推測だけど、川沿いの村にでも魔族と人が共存している、なんてことがあったのかもしれない」
   
グリフォン「そこで僕たちの先祖が生まれてたのかもね」

魔王「勿論大っぴらに交流が行われていたとは思えないけど。
   だから私たちが、魔族と人が堂々と交流できるような街をつくるんだ」
   
魔王「港と、学校と、教会と、図書館と、店と、広場と、川と、橋と、畑と、家をつくって」

魔王「活気のある街にしたいんだ」






グリフォン「名前は?」

魔王「ん?」

グリフォン「街の名前」

魔王「それはまだ決めてない。私はそういったセンスがないから」

グリフォン「君の名前をつければいいんじゃないかい?」

魔王「魔王村って? 嫌だ。そんなんじゃ人が寄りつかないだろう」

グリフォン「いや、そっちじゃなくて。君の本当の名前だよ」

魔王「……その方がもっと恥ずかしくて嫌だ」

グリフォン「街に人の名前つけるのって結構あると思うけどなぁ」

魔王「どうせ先の話だ、それまでじっくり考える」

グリフォン「僕が老衰で死ぬ前につくっておいてね」

魔王「まだ若いくせに、何を言う」

魔王「……じゃあ、邪魔したな。本は借りてくぞ。多分また分からないところを質問に来る」

グリフォン「僕もあんまり詳しくないけど……まあ、待ってるよ」



ガチャ


グリフォン「魔王様」

魔王「ん?」

グリフォン「『魔王』は楽しい?」






魔王「……」

魔王「楽しいよ」

魔王「なってよかった」

グリフォン「そう」

魔王「魔王と言ったって……ただ今の魔族の中で最も魔力が強かったことだけが理由だったけど」

グリフォン「まぁ、10年前は今よりいろいろひどかった状態だしねぇ」

魔王「だから勇者と魔王の伝説なんて、今は効力を失っているだろうな。なにせこっち側の選別が適当だ。
   『魔王は勇者にしか討ち滅ぼせない、勇者は魔王にしか討ち滅ぼせない』っていうアレだ」
   
グリフォン「あ~……」

魔王「勇者くんじゃなくても私は殺せるし、私以外の者でも勇者くんは殺せるだろう」

魔王「神の啓示も先代からの指名も何もない魔王だけど……楽しいよ。だから心配しないでくれ」

グリフォン「心配は別にしてないけどね。君がそう思うのならよかった」

魔王「全部うまくいくよ」

魔王「おやすみ、グリフォン」

グリフォン「……おやすみ、魔王様」








魔王(本当に、伝説の通りだったらいいのに)

魔王(そうだったらこの世界の誰からにだって勇者くんは殺されたりしない)


魔王(伝説も神も運命も、きっと存在しないと思うけど……)

魔王(……あ。勇者くんたちは時の女神に会ったことがあるのだったか)

魔王(神が実在しているのなら……ほかだって、存在しているのかもしれない)


魔王(……)

魔王(そうだといいな)








魔王「……ふーむ」

魔王「やっぱり貿易というものは私にはよくわからないな。商人とやらを尊敬する」パラパラ


シュッ


魔女「まおうさまーーーっ!!」ガバッ

魔王「まっ……!?」

魔女「元気だった!?久しぶり!ほんと久しぶり!さびしくて泣いてなかった!?大丈夫!?」

魔王「泣いてないし大丈夫だ」

竜人「お久しぶりです。ほら魔女、魔王様が苦しさからの涙を浮かべてますから、離しなさい」

魔女「ごめんごめん」

魔王「二人とも、元気だったか?」

魔女「元気元気!」




魔女「てかねー、いい知らせと超いい知らせがあるけど、どっちから先に訊きたい?」

魔王「じゃあいい知らせから」

魔女「はい、これ。雪の国で王子様の手がかり入手しましたー!魔術で居所調べて!」

魔王「耳飾りか」

竜人「最近の落し物だそうです。金髪碧眼、やけに羽振りがいい、首元を隠した男の」

魔王「羽振りがいい……か。王子のように身分が高ければそれも頷けるな。首のことも条件と一致する」

魔女「で、次の超いい知らせっていうのが、認定書二つ揃いました!あとは王子を見つけるだけ!イエーイ!」

魔王「本当か。すごいぞ」ナデナデ

魔女「えへへへ」

竜人「認定書の件は完全に勇者様たちの成果ですからね」


魔王「よし。後は王子の居所だけなら私の腕の見せ所だな……!さっそく魔術の準備をするぞ」

魔女「魔王様がんばれー!」





魔王「あと一回分くらいの魔術の用意をしといてよかった。あとは……また血の採取だけだ」

魔女「ああ、女の子の血だっけ?いいよ、あたしやる」

魔王「何を言う、それくらい私にもできる。この間もできたんだ」

竜人「えっ……いや。私がやりますよ。はいどうぞ」

魔女「どうぞって、あんた男だろーが。なに言ってんの?大体なにその、性別がまぎらわしい一人称」

竜人「丁寧な口調を心掛ける私の意気込みを見習え」

魔王「……」スパッ

竜人「ってちょっと!!魔王様は魔王様で何無言でリストカットしてんですか!!」

魔王「大丈夫だ、二度目だしもう慣れた。じゃあ魔法陣発動させるから離れてくれ」

竜人「いやめちゃくちゃ涙目じゃないですか!?全然大丈夫じゃないように見えるんですが!」

魔王「うるさい、そこは見ないふりをしろ」






魔王「……この耳飾りにはちゃんと魔法陣が作動したが……おかしいな」

魔女「なにが?」

魔王「これによると、耳飾りの持ち主、王子は太陽の国にいるらしい」

竜人「え?久しぶりに里帰りでしょうかね。でも居所が分かってよかった。
   今は太陽の国は少し混乱している状況ですが、行くしかないでしょう」
   
魔女「だよねー、あたしまだ今日転移魔法使ってないし、さっさと行っちゃお」

魔王「魔力回復する薬草、そっちの棚にストックが、ある―― え?」


パキッ


魔王「……」

竜人「どうかしましたか?」

魔王「勇者くんからもらったブローチが」

魔女「あれ?ヒビがはいってるね。急にどうしたんだろ?魔王様握りしめすぎたんじゃないのー?」

魔王「そんなわけあるか。一体どうして……」

魔王「…………」ギュッ








勇者「訊きたいこととは何でしょうか」

国王「……」

勇者(……なんだ?何故俺は汗をかいている?)

勇者(嫌な予感がする……まさか?)


国王「今日までどこに行っておった?」

勇者「……雪の国です。雪山に住む動物が凶暴化して困ってると人づてに聴いたので」

国王「ほう、では……その前はどこへ?」

勇者「どこへ、と言われましても……この国に、いました」

国王「嘘をつくな。本当のことを申せ」

国王「魔王城に行っておったな?」

神官「えっ……」

戦士「何……?」

勇者「……!」






国王「お主がどうも魔族のことを気にかけすぎておるように思えてな。悪いが魔術師に動向を探らせてもらった」

神官「……大陸全土に渡って対象者の位置を把握できる魔法なんて」

国王「そんなに高度な魔術ではない。勇者に『魔除けの札』と言って渡したあれのおかげだ」

勇者「……」

国王「魔除けの効果など、あの札にはない。宮廷魔術師が現在研究中の魔術アイテムだが、どうやら成功のようだな。誤作動などではなくてよかった」

国王「さて……お主が我らの宿敵たる魔王の根城に、何故行っていたのか……。
   それを何故先ほど私に告げなかったのか……」
   
国王「何か申し開きがあるのなら言ってみるがよい」

国王「勇者……いや。国に仇なす反逆者よ」



騎士「……」チャキ

騎士「……」スッ

勇者「くそっ!」






神官「わわ……!」

戦士「チッ……」



勇者(王の周りに10人、扉の前に10人)

勇者(腕が立ちそうな奴もチラホラいるが、俺と戦士ならゴリ押しでいけるな)チャキ


国王「この場で剣を抜いたということは、認めたと考えていいのだろうな?」

勇者「その通りですよ。俺たちはあなたについていけません。悪いが反旗を翻させてもらう」

国王「愚かな真似を……貴様には悉く失望させられたわ」

勇者「愚かなのは――あんただ」


勇者「戦士!」

戦士「ああ!」


騎士「ウオォォォォォォ!!!」

騎士「覚悟っ!!」


勇者「はあぁぁッ!」

戦士「――フンッ!!」






――ドサッ……ドサドサッ


騎士「ぐ……」

騎士「がっ」



国王「……腐っても元勇者か」

騎士「扉の前の騎士が一瞬で……!?」


勇者「退くぞ!」

神官「は、はい……っ!」

戦士「どけっ!」ガィン

騎士「ぐあ……ッ」



国王「待て。この者たちを見殺しにするつもりか?」

勇者「!?」





女主人「離しなっ このクソ野郎が!」

本屋「全く老体にひどいことをしおるわい……」

司書「皆さん!私たちのことは気にしないで、早くここから逃げてください!」



神官「えっ……!!ど、どうして……!?」

戦士「人質か。こすい真似を」

勇者「なっ、なに捕まってんだお前ら!」

女主人「うるさいね!あんたらこそほいほいここに来てんじゃないよ!ちったぁ疑いな馬鹿!」

司書「喧嘩してる場合ではないですよ、早く逃げてください……!!」

勇者「……っ」


国王「私の言いたいことは分かるな? 抵抗をやめ、武器を捨てなさい」

勇者「…………ほらよ」ガチャン

国王「身柄を拘束しろ」

騎士「はっ」



神官「いたた……」

戦士「……」

女主人「馬鹿……あんたらまで捕まってどうすんのさ!」

司書「申し訳ありません……皆さん」


国王「貴様らがなにを企んでいたのか、大方の予想はついている。
   認定書はもう受け取っているのかね?」
   
勇者「!」

勇者「……そこまで察しがついていたとは。ハッ……情けないが、まだどっちの国からも受け取ってない」

国王「魔術師……」

魔術師「は、承知しております」

勇者「(げっ……)」

魔術師「『我が言葉に従い、真実を示せ』」

勇者「うっ……やめろ!」

神官「勇者様!」

魔術師「『認定書はどこにある?私に差し出しなさい』」

戦士「勇者……!」

勇者(手が……勝手に……!!くそ……!)


国王「ほう。あの偏屈屋の王子と、高慢な女王、どちらからも認定書を持ち帰ってきていたとはな。
   全く、侮れんものだ。しかし……私の放蕩息子の行方までは掴めていまい」
   
勇者「……」






国王「図星のようだな。あれの行方はいまだに私ですら掴めんのだ。今どこで何をしているのやら」

国王「……これはもう必要ない。暖炉にでもくべてしまえ」

騎士「はい」


ビリビリ……


勇者「……! やめろ!」


ボォッ パチパチ……


神官(……あぁ……。あんなに苦労して手に入れた認定書が……灰に、なって……)

勇者「……ッごめん」

戦士「お前のせいではない」





国王「残念だが――クーデターを企み、国王である私を陥れようとし、民を無意味に惑わしたその罪」

国王「死をもって償ってもらうほかない」

国王「三日後。計画の首謀者である三人の処刑を行う」

国王「それまでその者らを牢獄に繋いでおけ」

騎士「ハッ」





大臣「やれやれ、ひと段落ですな。まさか勇者が魔王と繋がっていたとは……。
   あのような若者が、何故……疑問が残りますな。魔族に惑わされていたのでしょうか?」
   
国王「それはないだろう。彼奴の目を見れば分かることだ」

国王「しかし、まさかあそこまで彼奴らが動いておったとは。
   これはあの放蕩息子の捜索もいよいよ本格化させんとな」
   
国王「またこのようなことが起きたら面倒だ……。あいつもそろそろ満足したろう。
   未だ王座を譲る気は毛頭ないが、私もいい年だしな」
   
大臣「仰せのままに」






ガンッ!


勇者「くそ!剣さえあれば、こんな牢……」

戦士「落ち着け、勇者。こういう時にこそ冷静になることが重要だ」

勇者「冷静になんかなってられるか。畜生、あと一歩だったってのに!」

神官「私たち、三日後に処刑、ですよね。どんな処刑方法なんでしょうか……」

戦士「重罪人だからな。そりゃあ国民の前で首をスパッと……或いは磔にされて内臓を下から串刺しに」

神官「いやぁー!血みどろスプラッタ!神よ、哀れな子羊をお助け下さい!」

勇者「おぞましいことを言うのはやめてくれ!吐きそう!」


勇者「はぁ……二人ともすまなかった。全部俺のせいだ」

神官「気を落とさないでください。勇者様だけの責任じゃありませんよ」

勇者「認定書も……昨日受け取りたてほやほやだったのに。
   灰になったら流石に無効だよな。つーか王子もまだ……いや」
   
勇者「あいつ、そうだ、あいつはまだ俺たちの仲間ってことがばれてない!」

戦士「うむ。しかし……なあ」







神官「そ、それに、魔王さんや魔女さん、竜人さんなら、もしかしたら灰から認定書を再生できる魔法が使えるかもですよ」

勇者「ああ、あいつらならもしかして……って思えてしまうことが恐ろしいな。
   仮面も捕まってない。まだまだ諦めるには早いってことだな」
   
戦士「しかし、どうも俺は仮面と王子を結びつけるのは早計だと思うのだが……」

勇者「でもあいつがそうでないとしたらもう希望が見えないぞ」

神官「王様に私たちの目論見が露呈してしまった以上、国を挙げて何が何でも阻止しようとするでしょうね」

神官「もう……こうなったら、祈るしかありません」

戦士「祈る、か……」

神官「きっと、信じる者は救われます。最後まで信じましょう――運命を」







魔王城


魔女「じゃ、ちゃちゃっと行ってくるね。王都」

魔王「待て」

竜人「?」

魔王「……」

魔王「今、魔女の転移魔法で王都に行ったら、二人とも今日は転移魔法が使えなくなる……」

竜人「それは分かってますけども、急ぎませんと。時間はもうたくさんは残されていないのですから」

魔女「大丈夫だよー、心配しなくても」

魔王「……そうだな。余計なことを言った。でも、くれぐれも気をつけて」

竜人「ええ。これまで振り回してくれた王子様の首を絶対にとっ捕まえてやりますよ」

魔女「どんな人なのかなぁー王子って。ついに会えるのかー」

魔王「だから気を引き締めろと……まあいいや。行ってらっしゃい」





王都


魔女「ふう。到着」

竜人「……? なんだか、いつもより騒がしいですね。何かあったんでしょうか」


ザワザワザワザワ……


男性「号外!号外!!大ニュースだよ!!」

男性「あの伝説の勇者とお仲間の二人が、反逆罪で三日後に処刑だ!!!」


ザワザワザワザワ……


魔女「はぁ!? どういうこと!?」

竜人「一部下さい!」

男性「毎度あり!!さあさあ皆も買った買った!!今年一番の大ニュースだ!!」


竜人「ええと……勇者様たちが捕まったのは……私たちが来るほんの1時間前ですね」

魔女「魔族と裏で繋がり、国家転覆を謀ったため、死罪って!?なんでばれちゃったのかな?」

竜人「とりあえず、なんとか助けださないと。三日間のうちに彼らを助けだして、
   あとは旅人さんの言う一週間後まで逃げ延びられれば、まだチャンスはあるはずです」
   






ザワザワ

「あの勇者が魔王とつながってたなんて。俺たちは裏切られたのか」
「どうなっちまうんだ、この国は」


魔女「! 竜人、顔隠して」

竜人「あれは……騎士団か。どこに向かって……」


女性「……な、なんです騎士様。うちに何か用ですか?」

騎士「ここの主人に用がある。悪いが入らせて頂きますぞ」

女性「ちょ、ちょっと!なんなんですか!」


騎士「来い!魂を穢した売国者め」

男性「離せ!畜生!」

女性「やめてください!主人は何もしてません!連れてかないで!」

子ども「パパー!」





「かわいそうに……今日で何件目だ?」 「自業自得だろ」 


竜人「…………」





塔の上


竜人「くっそ、街中騎士だらけだ」

魔女「って、何も塔の上じゃなくても、ほかに隠れられるところあるんじゃないの」

竜人「ここなら地上からの目は届かないでしょう。しかし困りましたね。
   勇者様たちのほかにも、どんどん味方の人間が騎士たちに捕えられてしまっています」
   
魔女「こんな空気じゃあ、あたしたちの格好悪目立ちだね。ろくに歩けないよ」

竜人「あ~~~~もう!王子も見つけないといけないし、勇者様たちも助けないといけないし、
   魔王様にもこのこと知らせないと……ああ、そうだ。鳥を今のうちに飛ばそう」
   
魔女「できるだけ急いでね、鳥くん。緊急事態だから」

鳥「ピィー」バッサバッサ

竜人「もうなんなんですか、この状況!胃が痛い!思考回路が焼き切れ寸前ですよ全く!」

魔女「やばい、竜人が発狂し始めた。あんた本当追い詰められるとすぐ胃が痛くなるよね。
   もーめんどくさいからしっかりしてよ。早く作戦考えて」
   
竜人「丸投げよくないと思います。少しは私のストレス軽減してくださいよ……。
   ……とりあえず暗くなるまでここで待ちましょう」
   
竜人「で、まずは魔王様が特定してくれた場所に行って、王子に会いに行く。
   勇者様たちを解放するためにも、地の理がある王子を仲間につけておいた方が得策でしょうしね」
   
魔女「りょーかい」



ここまでにしときます
レスあざっす いつも励みになってます
もうラスト間際なんで最後まで見てくれたらうれしいです

いいから早く
まだ全裸でも寒くないけど来週になると寒くなるから風邪ひく

しかし、無情にも王子は出て来ることはなく勇者たちは死ぬのであった…

BAD END

みたいな展開に期待してる

おつおつ
それにしても懐かしいなグルグル

>>526
なんかしらんけど、可哀想な人生送ってそうだな…
頑張れよ

乙ー


ハッピー以外ユルサン

>>523 訂正
地の理→地の利




ドンドンッ!


姫「どういうつもり!?出して、出しなさい!」

大臣「申し訳ありません、姫様。王都中が混乱しています故、いまは自室にてお待ちください。
   国王様からのご命令でございますので、恐れ多くも鍵をかけさせていただきます」
   
姫「鍵……? どうしてそんなことを。お父様に会わせて!!ここから出しなさいよ!!」

大臣「姫様、貴女様は王族の自覚をもって、慎重に行動して頂きたいものですな」

姫「この、分からず屋ポークヘッド!」

大臣「どうやら魔族の暗示にかかっているご様子……後で神殿の者を呼びましょう」

姫「肉壁大臣!髭面眼鏡!豚!!!」

大臣「随分強力な錯乱の呪いにかかっているご様子ですなぁ!?ええ!?あーあー聞こえない!」

兵士「大臣殿、ご報告に参りました。
   東の民衆による暴動は既に鎮圧されましたが、今度は王都の南と西で暴動が起きて、ただいま鎮圧にあたっています」
   
大臣「南と西でも、か。分かった、私から殿下に伝えましょう。
   現場での指揮は引き続き、将軍に任せます。牢の警護は騎士団長にまかせるので」
   
兵士「ハッ」






姫「あっ……行っちゃったわ。もう!」

姫「勇者たちが捕えられてしまったなんて、一体どうしたら……。
  それに、暴動って……何が起こっているの?」
  
姫「このままじゃ全ておしまいよ」

姫「お兄様……いまどこにいらっしゃいますの……!?」









ドゴーン…… ワーワー
 いたぞー!捕まえろぉ! やれるもんならやってみろー!
 

竜人「……そろそろ動きだしてもいいような暗さになりましたが、あちこちで聞こえる爆発音は一体……」

魔女「よくわかんないけど、あたしたちにとっては好都合じゃない?」

竜人「確かに混乱に乗じて騎士の目を引かずに移動できるのはいいですけど。
   ……気にしても仕方ありませんね。行きましょう」
   
魔女「そうそう。利用できるもんはよく分からなくても利用しなくっちゃ」


タッタッタッタ…


竜人「もう少しです。この通りを真っ直ぐ行って……ここだ!」

魔女「ここ?こんなボロっちぃ廃屋に王子様がいるっていうの? うそでしょ」

竜人「確かに魔王様に告げられた場所はここのはずなのですが」


バタバタッ そっちにいたか!? 虱潰しに探せ!


竜人「うわ、人が来ます。とりあえず中に入りましょう!」

魔女「なんか汚そうだしやだよー」






ガサガサ


竜人「一応人が住んでたらしき痕跡はありますね。ソファーや調理道具も……ボロボロですけど」

魔女「でもホコリだらけだよ?普通に廃墟レベル」

竜人「誰かさんの部屋も似たようなもんですけどね」

魔女「こんなに汚くないもーん」

魔女「ていうかまさかの本人不在? いい加減あたしもイライラしてきたんだけどな」

竜人「……」

魔女「なに見てんの?」

竜人「壁に貼ってあるメモ、見てください。全部どこかの建物の見取り図です」

魔女「ほんとだ。変な趣味だね!」

竜人「趣味……なんでしょうか。 ん!?」

竜人「これ、双子の盗賊さんのバンダナじゃあ……?」

魔女「あれ。なんでこんなところにあるの?ここって、あいつらの家ってこと?」

竜人「っていうより、仮面さんと双子の盗賊さんの……アジト、と言った方がいいですかね。
   ここに葉巻の吸い殻があります。双子は葉巻を吸ってませんでしたし」
   
竜人「とすると見取り図は盗みに入る前の事前調査でしょうね」



竜人「……もしかして」

竜人「王子って……まさか」







魔女「あ。ねえ!ゴミ箱にビリビリに破かれたメモ入ってるよ」ゴソゴソ

竜人「意味深ですね。つなげてみましょう。……これも見取り図ですか」

魔女「これってさあ……王都の牢獄のじゃないの?」

竜人「何故そう思うんです?どこの見取り図なのかは何も書いてありませんよ」

魔女「だってさ、窓がどこにもないよ。これを見ると7階建ての建物だと思うけど、
   そんな高い建物、さっき私たちがいた時計塔くらいしか王都にはないよね?」
   
魔女「だとするとこの見取り図の建物は地下7階建てってことでしょ?
   窓がなくて、そんな大層な地下の建物って、牢獄くらいしかなくない?」
   
竜人「なるほど。確かに説得力がありますね」

竜人「牢獄の見取り図が破かれてゴミ箱に捨てられてたってことは……
   王子、いや仮面さんは勇者様たちを脱獄させに牢獄に向かったのか?」
   
魔女「はあ?なんで王子=仮面?テンパりすぎでしょ、竜人。プッ」

竜人「さっきあれだけ鋭い考察したのに、何故そこは気づかないんですか。
   あり得ない話じゃないですよ。現に魔王様の魔術が、ここに王子がいたと示したんです」
   
魔女「だって王子って……金髪碧眼イケメンハンサム王子様って……もっとさあ……もっと!!!」

竜人「言いたいことは分かります!完全に同意しますが、今はおさえて!」





竜人「多分、この家に誰もいないってことは、彼らは牢獄に向かったんでしょう。勇者様たちを助けに」
   
魔女「仮面君、結構情に厚いところあるんだね」

竜人「私たちも行きますよ。この見取り図を覚えれば、裏口からこっそり侵入できます」

魔女「よっしゃ、行こうか!みんなを助けに!」




牢獄 地下1階


仮面「……」チラ


騎士A「今日は随分城下が騒がしいな」

騎士B「なんでもあちこちで暴動が……」

騎士C「すまん、ちょっと便所に行ってくる」

騎士A「早めにすませろよ、今日は特別重警護をしなければならないのだから」

騎士C「へいへい」スタスタ


騎士C「はぁー……誰が囚人を脱獄させに来るってんだ。そんな奴ここ10年来たことねーっつの」

仮面「じゃあ俺が記念すべき10年来の脱獄補助者だな」ダスッ

騎士C「ぐむっ!?」


仮面「……騎士装備、似合うか?」

盗賊1「似合ってますぜ兄貴」

仮面「じゃ、ちょっと待ってろよ」





仮面「待たせたな」

騎士A「ぶはっ、お前、なんで兜被ってるんだ?」

騎士B「……? 待て。そいつ……」

仮面「遅えよ」


* * *


仮面「おら、これ着ろ」

盗賊2「すげー。騎士団の鎧なんて一生着る機会ねーや」

盗賊1「おもっ……重いッス!!これじゃまともに戦えねーよ兄貴!」

仮面「戦う必要はねーよ。さっき倒した騎士三人組の異常に、誰かが気づく前に勝負を決める」

仮面「いちいち出会う騎士全て相手してたら時間が足らん。盗賊らしくコソコソしながら勇者たちの牢に行くぞ」

盗賊1「なるほど」

盗賊2「でも、勇者の旦那たちはどこに捕まってるんだろ」

仮面「どうせVIP待遇の最下階、地下7階だろうさ。さっさと行くぞ」






地下3階


仮面「ん? なんかここの階は騒がしいな」

盗賊1「あ、あれって、街の人たちじゃねぇですかい?」


女主人「こっから出しな!おいこら聞いてんのかい馬鹿騎士!」ガンガン

騎士「……」

本屋「静かにしてくれんかのう、わし寝たいんじゃが」

司書「よくこんな状態で寝れますね」

女主人「全く、頭が固い連中だよ」

歴史家「同感です。なんとか脱獄できませんかねぇ」

男性「帰してくれよ~妻と子が待ってるんだよ~」



盗賊2「どうするんで?」

仮面「どのみちあそこを通過しねぇと地下4階に行けねえ。仕方ねぇな……」

仮面「見張りは6人か。多いな。少し博打にでるか」





仮面「大変です!」

騎士D「どうした?」

仮面「先ほど当番を代わりに地下1階に赴いたのですが、見張りをしていた騎士が全員倒れていました!
   もしかしたら脱獄者が出たのかもしれません!」
   
騎士E「なんだって!?まさか……あり得ん!」

騎士F「どこの牢から脱獄者がでたのか、確認せねばなるまい」

盗賊1「私たちがここの牢を見張ります。皆さまは地下1階をお願いします!」

騎士G「分かった!」

仮面(よし……)


騎士隊長「なんだ?どうかしたのか」ヌッ

騎士H「隊長、大変です。地下1階の見張りが倒れていたようで、脱獄者が出たかもしれません」

騎士隊長「なんだと!?しかし、それをどうやって知ったのだ?」


仮面(……)ダラダラ






騎士D「この3人の騎士が知らせに来ました」

騎士隊長「お前らか。どこの部隊の所属だ?言ってみろ」

仮面(部隊!?)

騎士隊長「どうした……?まさかド忘れしたわけじゃあるまいな」

盗賊1「えぇと……あの……」

騎士隊長「……ハァッ!」

盗賊2「うわぁッ!?」


カランカラン……


盗賊2「うわわ、兜がっ」

騎士隊長「貴様、見ない顔だな。それに随分鎧に着慣れていない様子も気になる」

騎士隊長「我ら騎士団の名を騙る賊め。構えろ!こいつらも牢に入れるのだ!」

騎士「「「はい!」」」

仮面「チッ ばれちゃあしょうがねえな!!」






騎士F「はぁ!せいっ!」ザッ

盗賊1「うぐぐ……鎧が重くて……! どわッ!!」

騎士D「なんだ、口ほどにもないじゃないか」

盗賊2「いってて……!!」ドサッ


仮面「お前らしっかりしろ!盗賊の根性見せつけろ馬鹿!」キィン ザシュッ

騎士隊長「よそ見している暇があるのか!?」

騎士H「うおおおお!!」

仮面「おいおい、俺一人で6人はさすがに手こずるぞ……!」



??「全体睡眠魔法!!!」

仮面「……!? だ、……れ……だ……」バタッ






??「仮面さんたちまで眠らせてどうするんですか」

??「あんだけ入り乱れてたら区別なんてできないっしょ。まあいいや、叩き起こそう」

??「そうですね」ユサユサ

仮面「うぐ……む……」

??「だめだよ、あたしの睡眠魔法なんだから、そう簡単に起きないよ。これくらいやらなきゃ」ドスッ

仮面「いっ……うぅ……」

??「仕方ない、時間がないので許してくださいね」

??「そんな振りかぶっちゃっていいの?」

??「っらぁ!!」

仮面「ぐえぇぇ!!?」



竜人「よかった、起きましたね」

仮面「うっぐゲッホ、ゲホ、ゴホゴホッ!!」

魔女「時々ほんとにあんたが怖くなるよー」






仮面「てめぇぇ、なにしやがんだゴラァ!!殺すぞクソドラゴン!!」

竜人「彼らも起こしましょう」

魔女「っていうか、あたしが状態異常回復魔法かければよかったねー」パァァ

盗賊1・2「……あれ?俺なんで眠ってたんだ?」

仮面「もっと早く気付けよ!!わざとだよなお前ら!!」


竜人「失礼しました。大丈夫ですか?」

仮面「てめーのせいで腹がいてーよ。死ね、5回死ね」

盗賊1「なんで竜の旦那と魔女の姉貴がここに?」

魔女「そりゃ、勇者たちを助けに来たに決まってんじゃん!君たちもでしょ?」

盗賊2「そりゃあ心強いや!」

竜人「そこの牢に入ってる人たちも起こして、ここから逃げてもらいましょう。
   裏口までの最短距離にいる見張りは全て魔女が眠らせました」
   
竜人「今なら誰にも見つからずに逃げ出せるはずです」






女主人「助かったよ。恩に着る」

司書「ありがとうございます……!」

女主人「私たちは牢の外でやれることをやるよ。勇者たちによろしくね!がんばんなよ!」

本屋「グッドラックじゃ」


タッタッタ……


竜人「私たちも先を急ぎましょう!」

魔女「そんなに呪文の効果、長いわけじゃないからさ」

盗賊1「全員眠らせちまうなんて、魔法ってすげーっすね」




地下4階


タッタッタ


竜人「すいません。あなたたちのアジトに入らせてもらいました」

仮面「は!?」

魔女「ちゃんと掃除した方がいいよ」

仮面「るせー。てか何勝手に入ってんだよ。
   ああ、見取り図を見たんだな?だからここの裏口を知ってたってわけだ」

竜人「二つ訊きたいことがあります。走りながらでいいので答えてください」

竜人「昼から続いてるあちこちでの暴動、あれはあなたが?」

仮面「まあな。って言っても俺がしたのは人家がない路地裏とか空き家に少しばかり火薬を仕込んで爆発させただけだ」

魔女「テロじゃん」

仮面「一応近隣の住民に許可とったよ。何気にノリノリな奴が多くてな。
   あちこちで騒ぎを起こして、牢獄に集中してる騎士兵士を分散させたかったんだ」
   
仮面「でも俺が起こしたのは最初の数件だけだぜ。後は勝手に民衆がやってくれた」

竜人「今逃がした人たちも加わって、さらに苛烈になるでしょうね……騎士もお気の毒に」

魔女「今夜は眠れないね」






騎士「なんだおm」

魔女「死ねぇぇぇ!」

竜人「違うでしょうが!睡眠睡眠!」




老女「ありがとうございます……この恩は忘れません」

商人「外でド派手な花火あげてやるぜ!俺は勇者やあんたらを応援する!がんばんな!」


バタバタ……ドタドタ……


盗賊1「順調に国民を解放できてますね!」

盗賊2「こんなに多くの人が捕まってたなんて、驚きだ」

仮面「牢も広いから面倒だな……。が、もうここまで来たら意地でも全員逃がすか。
   その方が後に有利になりそうだしな」

竜人「しかし意外ですね」

仮面「あん?」






魔女「仮面君が勇者を助けるために、こんなに頑張るなんて、ね。 君ツンデレ?」

盗賊1「兄貴はクールに見せかけて、内に燃えたぎる魂をもつ熱い男だぜ!」

仮面「別にただの乗りかかった船だ。それにまだ、あいつに報酬をもらってねぇからな。
   人探ししたり、雪山に獣退治しに行ったり、いくら請求してやろうか今でも楽しみだ」
   
魔女「素直じゃないんだからー」

仮面「ニヤニヤするんじゃねぇ!!」


仮面「で?竜男、お前のもうひとつ俺に訊きたいことってなんだよ?」

竜人「ああ……」



地下6階


竜人「あなたの正体は――……」

??「止まれッ!!」

竜人「!?」





仮面「だれだ!?」

騎士団長「貴様らこそ、何者だ!!この先は通さんぞ」

騎士副団長「こいつら、どうやってここまで!?」

竜人「今までいた騎士たちとは装備が違う。見るからに手ごわそうですね」

盗賊1「こ、この二人、騎士団長と副団長だ」

盗賊2「に、逃げて別ルート探した方がいいっすよ!!」

魔女「大丈夫、まかせてよ。全体睡眠魔法!」


団長「なっ……!? この呪文……貴様、魔族か!!どうやってこの国に入りこんだ!?」

魔女「あ、あれ?効かない?」

団長「副団長、お前は国王様にこのことを知らせに行け。ここは俺が受け持った」

副団長「はい!」

竜人「それは……まずい。とてもまずい!待て!」

団長「貴様らの相手は俺だ」

竜人「くっ」





魔女「混乱魔法!麻痺魔法! あーもーなんで全然魔法が効かないの!?」

団長「俺に呪いは効かない。『破魔の指輪』を装備しているからな」

魔女「そんなのアリ!?」

団長「まとめてかかってこい! 一網打尽にしてくれる」


仮面「フン……いいぜ。一度その高い鼻へし折ってみたかったんだ」

盗賊1「魔法が効かないなら!」

盗賊2「レベルをあげて物理で殴れ!」

仮面「相手は槍使いだ。リーチが長いが、懐に入り込めればこっちの勝ちだ」

竜人「数の利を生かしましょう。連携が大事ですよ!」

団長「推して参る!!」ゴォッ



騎士団長ってお飾りじゃないのね…

ここまで

乙ー




竜人「数の利を……」

ブォンッ!!

竜人「生かし……」

ブォンブオンッ!!

竜人「連携が……」

ブォンブオンブォンッ!!


竜人「ええい! できるわけあるか!!」

盗賊1「つ、つええ」

盗賊2「うわぁあ!」ドサッ

団長「自ら牢獄に侵入してきたことを後悔するがいい。今に貴様らの背後にある牢にぶち込んでやる」

仮面「はぁ……はあ……薙ぎ払いが厄介だな。4人で囲い込めればかなり有利になるはずなんだが」

団長「うおおおおッ!」


ガッ!!

盗賊1・2「ぬわーっっ!!」



魔女「ひゃっ……君たち大丈夫!?」

盗賊1・2「」

仮面「おい、しっかりしろ!!」

魔女「気絶してるだけみたいだけど……」

竜人「なんて馬鹿力だ……戦士さんに勝らずとも劣らずですね」


団長「他愛もない。あとは3人か」ブンッ

竜人「!」

仮面「うおっ!!」


竜人(このままじゃ防戦一方だ。ここで時間をとられるわけには……っ)


団長「終わりだっ!!」



竜人「…………っ!」ブンッ

仮面「お前なにしてんだ!!?頭沸いてんのか!」



団長「なにっ!? 剣を投げ……っ!?…………が」

団長「避けられぬとでも、思ったのか!!」


ズブッ!!


竜人「ぐっ……っげほ……」ガクッ

魔女「竜人!!」

団長「…………。……!?」グッ

竜人「……死んでもこの槍、離しませんよ。仮面さん!今のうちに!」

団長「貴様……!まさかそのために……!」


仮面「うおおおおおおっ!!」

団長「ぐああぁ!!この……賊めが……!!!」




団長「……っ」グラッ

団長「……ならん!!」グッ

仮面「しぶてぇ野郎だな……!!」

団長「この程度の傷で……俺は倒れん……ここは通さん!!!」

団長「槍がなくとも、この身ひとつで事足りる!!」

仮面「こちとらもたもたしてる時間なんてねーんだよ、……!?」

団長「……?」

盗賊1・2「「おりゃああああああああああああああああ!!」」スパッ


団長「貴様ら……!?」

団長「しかし虫けらが一匹だろうが三匹になろうが、変わ……」

団長「か……k……!?」ガクッ

団長「n……に……を……」




盗賊1「痺れて動けねぇだろ?象でも動けない痺れ毒だ」

盗賊2「竜には効かないみてぇだけどな」

団長「…………!!」

盗賊2「魔法がだめなら物理で状態異常だ」

盗賊1「騎士団団長撃破!!」

仮面「お前ら……たまには役に立つじゃねぇか!さすが俺の子分だぜ!」



魔女「大丈夫?無茶しないでよ、もう」

竜人「ええ……」

仮面「おい、死んでねえか竜男!」

竜人「……平気ですよ。竜族は生命力強いので、これくらいなら……いてて」

魔女「あたし治癒魔法あんまり得意じゃなくって……ほんと応急処置くらいしかできないんだけど」

竜人「十分です。さあ、いつ追手が来るとも限りません。行きましょう……」

仮面「……次がいよいよ最下層だな」




地下7階


仮面「オラァー!てめぇら助けに来てやったぜ、跪いて感謝しろ!!」

神官「ひえ!?」

戦士「仮面!?盗賊も……竜人と魔女も!?お前ら、どうして」

竜人「助けに来ました……って、何故二人だけ……?」

神官「さっき騎士団長さんと副団長さんが来て、勇者様は最下層の地下牢に移されてしまいました。
   街で暴動が起きているから、用心のために特別な牢に入れると……」

魔女「えー」

竜人「地下7階が最下層では……?」

仮面「おかしいな……ここより下なんてなかったはずだが」

盗賊1「解錠ならまかせてくだせえ」カチャカチャ

盗賊2「ピッキングなら誰にも負けねえ」カチャカチャ


戦士「助かった。心から礼を言う」

神官「ありがとうございます……!」

魔女「よっし。で、勇者の牢にはどうやって行けばいいの?」

戦士「この通路の奥に連れていかれていた。行ってみよう」






仮面「あぁ!?行き止まりじゃねぇかよ」

戦士「一体どこに階段が……」

盗賊1「ここまで一本道だってえのに、どこに消えちまったんだ?」

魔女「どーなってんの??」

竜人「…………」

神官「竜人さん?」

竜人「……そこの床だけ、音の反響が違います……恐らく空洞になっているのではないかと」

仮面「よく分かったな。全然違いを感じねえよ」

魔女「でも取っ手なんかないし、床を壊せそうもないし、万事きゅーすだね」

神官「うーん、きっとどこかに仕掛けがあるんじゃないでしょうか……」キョロキョロ

戦士「目に留まるのは燭台くらいか……。む」

戦士「ほかの燭台は埃で汚れていたり錆びているのに、この燭台だけ妙に新しいな」

神官「あ、ちょっと待って……」

盗賊2「お、右に回せる」ガチャ


ガコン


盗賊2「ぎゃあああああああああああああああ」ヒュー

神官「落とし穴!わ、罠です!」

戦士「うおおおおおおおおおおおお」ガシッ

盗賊2「はあ……はあ……死ぬかと思った……」





神官「さ、さすが最下層への扉ですね。意地悪なトラップです。
   ……目立たないですけど、この壁の石だけダミーでずらせるのをさっき発見して……」

神官「多分この窪みに手の平を合わせれば、階段が出没するのかと思います」

盗賊2「先に言ってくれねぇか」

神官「ごめんなさい! えっと……じゃあやってみますね。一応気を付けてください」

神官「……えいっ」


ゴゴゴゴ……


神官「あ、開いた!」

戦士「暗いな……用心して行こう」

竜人「……私は夜目がきくので、先導しましょう」

魔女「どきどきするね」






勇者「………………はぁ」

勇者「俺、なにやってんだろ……、ん?」


キサマラ ナゼココニ 
 ウギャアアアア アベシッ

 
 

勇者「……なんだ?」

神官「勇者様!大丈夫ですか!?」

勇者「え……!?お前ら……!」

魔女「勇者!完全に姫ポジションの勇者!助けに来たぜっ!」

勇者「情けなくて泣きたくなるから姫ポジションとか言わないで!自覚してるから!」



仮面「この檻……なんだ?扉も鍵も何もねぇ。どうやってお前、この牢に入れられたんだ?」

竜人「なんだか変な感じがします。ただの金属でできていないのかも……いたたッ」バチッ

勇者「それ以上近づくな。この牢は特別製らしくてな、魔法で結界が張ってあるんだ」

勇者「術者が解錠するか、死亡するかしないと俺は出られない」

神官「術者って、宮廷の魔術師のことですよね……ええええ、どうしましょう」

竜人「斬り続けたら結界が壊れたりは……」

仮面「しねぇな。実体がないものはいくらなんでも斬れねえよ」






魔女「竜人が竜に変身してブレスかましてみれば?」

竜人「こんな地下で竜に戻ったら全員生き埋めです……もう少しここが広かったらよかったんですけど」

仮面「んだよ、せっかくこんな地下深くまで来たってのに!!」


勇者「……みんな、本当にありがとな」

勇者「でももういい。俺は牢に残る。すぐに騎士たちが来るだろうし、早くここから逃げるんだ」

神官「なに言ってるんですか、このままじゃ処刑されちゃいますよ!」

竜人「諦めないでください。何か手はあるはずです」

勇者「情けないけど、お前らに全部頼んだ。俺のことは気にせず、認定書をまた取りにいってくれ。
   国王は俺の処刑まで王都に目を配るだろうから、その隙にこの国を脱出しろ!」

魔女「馬鹿言わないでよ。君が死んだら魔王様泣いちゃうよ」

勇者「ここで全員捕まったら魔族はどうなる?……俺のことは本当に気にするな」

勇者「魔王によろしくな」

竜人「……」

勇者「それから、仮面。お前の事情も知らずに、いろいろ巻き込んでごめん。無礼を承知で、恥も忍んで言うけど」

勇者「どうか、みんなを……魔族を、俺の仲間を頼みます」

仮面「……なんで急に畏まった言葉なんて使ってんだよ」






勇者「だってお前、」

勇者「この国の王位継承者だろ?」








仮面「……………………」

仮面「………………は?」

勇者「! おい、後ろだ!!」

仮面「くっ!?」バッ


カランッ……カランカラン……


騎士「動くな!!」

射手「頭をカチ割るつもりだったのに。割れたのはその変な仮面だけか」

神官「もう追手が……!」



竜人「え?」

魔女「……君、それ……」

勇者「…………お、前」

勇者「その顔の傷跡、なんだよ?」

仮面「なんで俺なんかを王子と勘違いしたのか知らねえが、的外れだぜ」

仮面「俺は王子じゃない」

勇者「はあああああ!?!?」





勇者「左目の泣きぼくろは!?」

仮面「見ての通りそんなもんねぇ」

勇者「首の傷は!?いつも巻いてる布、傷跡を隠すためだろ!?」

仮面「ちげーよ。ただ不格好な痣があるから隠してるだけだ」

勇者「だっ……お前……ふざけんなよ!!!紛らわしいんだよ!!!」

仮面「勝手にてめぇが勘違いしたんだろうが!!」


騎士「ごちゃごちゃと騒ぐな!全員でかかれーっ!」

「「「うおおおぉぉ!!」」」

神官「もうだめです!これ以上ここにいられません!」

戦士「ぬ……!!勇者ぁ!!!」

勇者「なんだ!」

戦士「お前の剣があれば、その牢も断ち切れるのではないか!?」

勇者「え!? でも、剣は宮殿に保管されてるはずだ。取りに行く時間なんて」

戦士「できるのか、できないのか、どっちだ!!!」

勇者「…………ッ」

勇者「……ああ、できる!やってやるさ!!!」

戦士「そうか!ならば待っていろ!!すぐに持ってきてやる!!」





戦士「よし!!地上まで駆け抜けるぞ!!」

仮面「武器のないオッサンと神官は下がってろよ。俺たちが切り開く!」

戦士「いや、俺が先を行く。竜人、剣を貸してくれ」

竜人「……どうぞ」

戦士「俺にまかせろ。行くぞ、仮面!盗賊!魔女!!」

盗賊1「おお!!」

盗賊2「邪魔だああああどけぇぇぇ!!」

魔女「あたしも出来る限りサポートするよ!」

神官「勇者様、待ってて下さい!!必ず戻ります!!」

勇者「ああ……悪いな。気をつけろよ!」




宮殿


国王「まだ牢に侵入した人間と魔族は捕えられていないのか?」

大臣「はい……騎士団が健闘しているのですが、まだ報告はありません」

国王「まさか魔族が、私の国にな……なめられたものだ」

国王「必ず捕えろ。殺しても構わん。しかし問題は魔族のことだけではない……」

大臣「はあ……暴動が、鎮圧しても鎮圧しても次から次へと起きてまして……
   明日の朝には宮殿の前に詰め掛けかねない勢いです」

国王「……何故わからん。私こそ国民のことを第一に考えているというのに。
   やはり群衆は愚かだ。理性ではなく感情や情緒で判断する生き物だ」

大臣「殿下、もう夜も更けます……。そろそろ休まれては」

国王「……」





草陰


竜人「」

魔女「はーっ はーっ しんどいまじしんどい」

仮面「全員生きてるか……儲けもんだな」

盗賊1「体中いてえ」

竜人「」

盗賊2「ってちょっと!!竜の旦那がしゃべってねぇ!!生きてますか旦那ぁぁ!!」

竜人「ぎ、ぎりぎり……少し体力を消耗しすぎました……ぜえはあ」

神官「うう、すいません……杖があればすぐ治療できるんですけど。
   竜人さんだけじゃなくて皆さんも傷だらけですし……ごめんなさい私役立たずで!生きる価値のないゴミクズで!」
   
魔女「ちょっとここで休もうよ……」






戦士「……やはりお前は王子ではなかったか」

仮面「勇者も言ってたけど、とんでもねぇ勘違いしてくれるな。んなわけねーだろ」

盗賊1「兄貴の素顔初めて見たぜ!男前だ!」

魔女「でもイケメン王子って感じじゃあないかな」

仮面「うっせ」

神官「あの……首の痣って?」

仮面「あぁ、……まあいいか。これだよ」



盗賊2「な、なんですかい?それ。手の形がくっきり残ってら」

竜人「まるで誰かに、首を絞められたみたいな痣ですね」

仮面「その通りだよ。母親に首を絞められた時の痣が、何故かずっと消えねえんだ」





神官「その顔の傷も、首の痣も、あなたは一体……」

仮面「聞いておもしろい話でもねぇけどな。まあ、息を整える間に与太話として聞くか?」

仮面「実はな、俺は貴族の息子として生まれたんだ」

盗賊1「はえっ!?」

盗賊2「えええ!?兄貴が!?」

魔女「じょ、冗談としか思えないなぁ」

仮面「そんなに驚かなくてもいいだろーが。今はこんなんでも昔はお坊ちゃんだったんだよ!」

仮面「……よくあるだろ?貴族の世継ぎ問題。俺の母親は後妻でな、前妻と父親の間には俺と同じくらいの息子がいたんだ。
   俺の兄だな。前妻は俺が生まれる随分前に亡くなった」

仮面「ま、それなりに兄とも仲が良かったんだけどな。そこで親父が逝っちまった。
   そうなると俺と兄でどっちが後を継ぐかで周りの大人がやいのやいのとうるせぇ」

仮面「人一倍俺に跡を継がせたがってたのが俺の母親だ。
   俺は社交も勉強も着飾るのもあんまり好きじゃなかったし、兄の方が出来が良かったから
   普通に兄に継いでほしかったんだがなあ……」

仮面「で、その母親の頑張りが報われたのか跡継ぎは俺に決まった。
   だがやっぱり兄の方が適任だと思ってたんでな、その意思を母親に素直に告げたらこのザマだ」

神官「母親が実の子どもを、跡を継がないからって殺そうとするなんておかしいですよ!そんなの……」

仮面「今思うと俺の母親も貴族として生きてくにゃあ、ちょっとばかしメンタルが弱かったな。
   自分の立場と俺の立場を考えて、ノイローゼ気味になってたんだろ」

仮面「くっだらねえ世界だ、貴族も社交界ってやつも。どいつもこいつもにこにこ笑いながら腹の内では自分の評判と外聞のことだけ考えてる」

仮面「だから俺は家と国をでて、盗賊界のトップに立つことにした!!」





仮面「世界中の埃被ってる宝物を、欲すがままに盗み去る!それが俺の正義だ!!どうだ、恐れ入ったか!!」

盗賊1「まじっすか……」

盗賊2「兄貴にそんな過去があったなんて……」

神官「な、なんかすいません……詮索するような真似をしてしまって」

仮面「おいおい、湿気た面すんなよ。なんか語っちまって恥ずかしいな」

仮面「そろそろ体力が回復したか?宮殿への侵入口を探しにいかねぇとな」

竜人「人間もいろいろ大変なんですね……」

戦士「勘違いしていて悪かったな。仮面の言う通り、そろそろ動くか」




コソコソ……


戦士「俺たちが脱獄したことは既にもう知れ渡っているだろう。
   あれだけ派手に出てきたんだからな」

神官「でも、まさか宮殿に侵入しようとしてるとは思ってないんじゃないですか?」

魔女「見当違いのところ捜してくれてればいいけど」

盗賊1「兄貴、宮殿の見取り図とか知らねえんで?」

仮面「さすがに知らねえよ。宝物庫には興味あったけどな」

竜人「じき、夜が明けます。できれば暗いうちに剣を入手したいのですが……」





竜人「あ。そういえば……この耳飾り、仮面さんのですか?雪の国で見つけたんですけど」

仮面「なんでお前がそれを持ってんだ!?」

竜人「あああぁ……。自分の頭の残念さが悔やまれます」

竜人「金髪で首元を隠してて、やけに羽振りのいい男って、あなたですか……」

仮面「羽振り……ああ。お前らと別れた後、ちょっと……な、いいもん拾ってな」

戦士「どうせ盗んだんだろう」

仮面「盗んだと書いて拾ったと読むんだよ」

神官「めちゃくちゃな」

魔女「でも君、耳飾りなんてつけてなかったよねー」

仮面「別に……値打ちがありそうなもんだったから、いつか売ろうと思ってただけだ」

魔女「ふーん……」


竜人(しかし、仮面さんが王子じゃないとすると、本物の王子は一体どこに……)

竜人(確か勇者様の処刑は――今から60時間後の正午12時)

竜人(それまでに、見つけられるのでしょうか……)





魔王城


魔王「今日は曇りか。雨が降り出さないといいが」テクテク

子エルフ「あ、魔王様だ。おはようございまーす」

キマイラ「おやおや、今日は早起きですね」

魔王「もう一人は?」

子エルフ「今日は風邪で休み!魔王様、一緒に勉強する?」

魔王「いや、今日は……」

魔王「ん……?」

鳥「ピィーッ」バサバサ

魔王「なんだ?……竜人からか」


魔王「…………!」

子エルフ「魔王様?どうしたの?」

キマイラ「顔色が悪いようですが……?」

魔王「…………いや、なんでもない」

魔王「急用ができたので城に戻る」

子エルフ「あっ……行っちゃった。魔王様どうしたのかな、先生」

キマイラ「様子がおかしかったですね……」






魔王「処刑……勇者くんたちが」

魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「助けに、行かないと」


魔王「1日……いや、半日で完成させてみせる」

魔王「……待ってて。すぐに行く」




宮殿


騎士「そっちには!?」

騎士「いや、いない」


バタバタバタ…


戦士「……行ったか」

神官「仮面さんが無駄に部屋の宝を物色してるから姿見られちゃったじゃないですか……」

仮面「あまりに見事なダイヤのネックレスだったからな」

魔女「同感」

竜人「二人とももっと緊張感を持って臨んで頂けますかね!?」

仮面「けが人なんだから大声でツッコミ入れんなよ。うるせえし」

竜人「自分でも己の立ち位置が忌々しいですよ……!」


盗賊1「しかし宝物庫ってどこにあるんですかねい」

魔女「じゃあ聞いてみよっか」

神官「え?」





兵士「宝物庫は……西と東にそびえる双塔の……東の方……」

魔女「そっ、鍵はかかってないの?鍵はどこ?」

兵士「わ……わからん……」

魔女「オーケー、もういいよ」

兵士「」ガクッ


魔女「魔女ちゃんお得意の自白呪文でした!」

仮面「便利なもんだな、オイ」

戦士「東の塔、あれか……。しかし鍵は一体どこに?」

竜人「心当たりがない以上、虱潰しでいくしかないですね……」

神官「仕方ない、ですよね。頑張りましょう!」




数時間後



兵士「てやぁー!」ブン

戦士「しつこいぞ!!」

神官「あっ、あっちの角からも援軍が来ます!!」

仮面「埒があかねぇ!やっぱ逃げるぞ!」

魔女「この部屋、入れるよ」ガチャ





戦士「……気づかず通り過ぎたな……
   しかし、敵の数の多さと我々の体力の消耗がネックだ」

盗賊1「昨日からずっと寝ずに戦い続けでへとへとですぜ」

盗賊2「鍵も全然ないし」

仮面「少しここで休憩するか。このままずっと動き続けてたら逆に効率が悪ぃ」

魔女「ねえ、あんた本当に大丈夫なの?顔色悪いよ」

竜人「お荷物にはなりませんよ」

神官「いくら竜族だと言っても、流石に無理しすぎです」

神官「ここ、倉庫みたいですし、包帯か何かありませんかね……」ゴソゴソ

魔女「仮面君の言う通り休もう。……あたしも疲れちゃったよ」

魔女「…………なんか、目閉じたら……急に眠気が……」

盗賊1「扉の鍵……閉めねえよ……うーん」









??「……ん……」

??「……み……さ……!」

魔女「なによぉー……うるっさいなぁ……」

??「起きてください、みなさん。大丈夫ですか!?」

魔女「うーん……?」


× 盗賊1「扉の鍵……閉めねえよ……うーん」
○ 盗賊1「扉の鍵……閉めてねえ……うーん」



魔女「わ!?」ガバッ

姫「きゃ!?」

魔女「え……お姫様?」

姫「大丈夫ですか?ケガはない?驚いたわ……扉を開けたらみなさん座りこんでるんですもの」


仮面「……うおおぉぉ!?!?」ガバ

騎士「ギャー!なにするんですか!!僕です、僕!!姫様お付きの騎士ですよ!!」

仮面「あーびっくりした。思わず首に剣突き付けちまった」スチャ



姫「皆さん、無事でよかった!神官と戦士も」

神官「姫様もご無事でなによりです。でもどうしてここが?」

姫「私も部屋に閉じ込められてたのですが、彼が部屋から出してくれて。
  戦士と神官が脱獄して、勇者がまだ囚われていると盗み聴いたとき、
  あなたたちは絶対勇者を助けるために、宝物庫の勇者の剣を取りにくると思ったの」

姫「で、宝物庫の鍵をこっそり取ってきて、私もあなたたちを探してたのだけど、
  何の気なしに倉庫を覗いたらみんな死んだように眠ってて……
  ていうか死んでるのかと思ったわ。卒倒しそうになったわよ、もう」





竜人「しまった、私たちいつの間にか眠ってしまったみたいですね。
   窓の外がもう暗い。ざっと2時間経過したところでしょうか……」

魔女「でも、お姫様とすれ違いにならなくてよかったじゃん!結果オーライ!」

盗賊1「体も軽いっす!腹は減ってるけど!」

騎士「だと思って、わずかばかりですが厨房から食料も持ってきました。パンや水ばかりですけど、よければ」

仮面「うお!気がきくなぁ!」

姫「それから、怪我してる方もいるだろうと思って、いろいろ医療室からかっぱら……拝借してきましたわ。
  とりあえず竜人さん、あなたのお腹の傷診せて下さい。出来る限り治療して見せます」
  
竜人「……助かります」



姫「これから宝物庫に?」

竜人「ええ」

姫「気を付けてくださいね。私も鍵をとった直後に、こっそり宝物庫に侵入しようと思ったのですけど、
  多くの魔術師が塔への道に集合して何かやってて、見つからずには通れなかったの」

騎士「何か仕掛けてるのかも」

仮面「かもっていうか、ぜってえ仕掛けてんだろ」モグモグ

魔女「だるいねー」モグモグ

戦士「しかし、行くしかなかろう……俺と神官の武器もそこにあることだし」




姫「……はい。とりあえずですけど、傷の手当てはこれで終わりです。
  造血剤の効き目はどうです?」
  
竜人「ありがとうございます。大分楽になりました」

盗賊1「顔色も少し戻ってきてるみてぇですね」

姫「魔族の方にも効き目があってよかった……。でも無理は禁物ですわ。
  私も専門の知識を持っているわけではないので、応急処置の域をでませんもの」
  
竜人「本当に助かりました。ここでへばるわけにはいきませんからね」

竜人「姫様が来てくれてよかったです」

姫「そ……そう言って頂けると……そっそんなの当然ですわ!感謝してくださいまし!!嬉しくなんてありません!!」

騎士「姫様、キャラがブレブレです」

魔女「そんなイチャイチャしてると、宝物庫で死亡フラグ回収~なんて事態になってもしらないよ~」

竜人「誰と誰がイチャイチャしたって言うんです。さて、じゃあ準備を整えたら宝物庫に向かいますか」

仮面「面倒なことにならなきゃいいがな……」



ここまでです
祝・魔王の脱ひきこもり

乙ーやっぱ仮面は王子でなかったか

乙乙bbb

仮面が王子だと思ってた人手を挙げて

(´・ω・`)ノ

(´・ω・`)ノ

_(´・ω・`)_

´・ω・`)旦



魔王城


魔王「…………よし!できたっ」

魔王「私の魔力を分断してここに留める魔術。
   これで結界を私から独立して張り続けることができるから、王都に私も勇者くんたちを助けに行ける……」
   
魔王「さて、問題はどれくらいの魔力を私から切り離すか、だ」

魔王「…………私が無事帰ってこれるとしたら、残しておく魔力は数日結界を張るくらいの量でいいわけだが」

魔王「…………」

魔王「そういうわけには、いかないだろうな」

魔王「一応……1年分……いや3年分くらいの魔力をここに残しておいた方がいいかな」

魔王「すると私の身に残る魔力は半分のそのまた半分以下くらいになってしまう……けど、
   無駄な消費を避ければ十分戦えるだろう」
   
魔王「よし、魔術発動」


パアァァァ……


魔王「……う……なんか変な感じだな。一気に魔力が減ったせいで、めまいが」





魔王「……処刑まであと40時間弱か。急がなければ」バサッ

バサバサバサ…




窓の下

子エルフ「……」ヒョコ

子エルフ「魔王様、今日元気なかったからおやすみって言いに来たんだけど」

子エルフ「処刑って??だれがだろ……」

子エルフ「魔王様、どっかに飛んで行っちゃった。先生に知らせた方がいいかな……」





王都


神官「あれが宝物庫のある塔です。あそこに行くには、この橋を渡るしかありません」

竜人「暗くて足元が見えにくいですね。気をつけないと」

魔女「結構大きい橋だねー。さっさと渡っちゃおうか」

戦士「しかし……姫様たちと別れてから、橋の前に来るまで、全く騎士や魔術師に遭遇しなかったな。
   不気味なほど静まり返っていた」
   
仮面「ラッキーだったじゃねぇか」

戦士「ただの幸運で済ませられればいいがな」

神官「姫様が言っていたことも気になりますね。見たところこの辺りに人はいないと思いますが……」

仮面「いないならいないでいいっつの。さっさと行こうぜ」






魔術師X「……来ましたよ、魔術師長」

魔術師長「来たわね。うふふふ」

魔術師Y「発動させますか」

魔術師長「まぁだ。まだだめよ。もっと橋の中央に来てから……うふふふふ。楽しみね」

魔術師長「私とあなたが一緒に研究したこの魔術。早く発動させたいわぁ。ねえ?召喚師長サン」

召喚師長「うまく発動すればいいけどね。これだけの魔術師、召喚師を動員して発動させる魔術なんて、初めてだよ」

召喚師W「尽力しますよ、僕たちも」

魔術師長「さあ、そろそろね。みんな、配置について」

召喚師長「……普段でかい顔している騎士団を見返してやろうじゃないか」

魔術師長「うふふ、あいつらって真正面から剣を振り回すしか脳がないんだから、野蛮よねぇ」

召喚師長「戦い方などいくらでもあるというのに。相手の弱点を探り、その弱点をさらけ出すしかない状況を作り出す」

魔術師長「それから罠にかけて追い詰めて、じわじわ弱らせていくのよ。うふふふふふ。楽しみ」

召喚師長「それじゃあ、やろうか。みんな集中してくれ」







魔女「……ん……?」

神官「…………あれ……なんか……竜人さんか魔女さん、いま魔法使いましたか?」

竜人「いえ?」

魔女「気をつけて……なんか来るかも」

仮面「なんか、ってなんだよ。もっと具体的に――あ!?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


不死鳥「ここは……通さぬ!!」


盗賊1「!? ほ、炎がしゃしゃしゃべ……!?なんだこりゃ!!」

盗賊2「め、めちゃくちゃでけぇぇ!!ま、魔物っ!?」

魔女「いやあんな魔族知らないんだけど」

神官「これは……幻獣です!
   宮廷の召喚師が作り出す魔法生物……でも、人の言葉を話すほどの知能をもった幻獣だなんて」
   
神官「しかもこんな大きな生物、初めて見ました。恐らく魔力も攻撃力もケタ違いのはずです!気をつけてください!」

戦士「やはり仕組まれていたか……戦うより宝物庫まで突っ切った方が速い!駆け抜けるぞ!!」


不死鳥「させぬ!!」


ゴオオオォォォォオォッ!






魔女「ちょ……橋、燃え尽きちゃったんですけど」

仮面「なんつー火力だよ!!こりゃあやべえんじゃねえか!?」




魔術師長「うふふふ、焦ってるわ。焦ってる。でもまだまだこれからよ」

召喚師長「成功か……知能のある幻獣を召喚できたのも、全て君たち魔術師の協力のおかげだ」

魔術師長「私たちもいい研究データが得られてメリットばかりよ。例には及ばないわ」







召喚師長「さて、次は彼らの退路を断つように伝えてある」

魔術師長「進むことも戻ることもできなくなって逃げ場がない状況で、あの不死鳥が橋をも溶かす炎を吹いたらどうなるかしら」

召喚師長「大人しく燃えてくれるのもおもしろいけど……」

魔術師長「いやね。そんなの興ざめだわ。――きっと彼らは、空に逃げるはずよ」

召喚師長「本当にあの中に竜族の生き残りが?」

魔術師長「そのはずよぉ?私は参加してないけれど、以前兵士たちとともに魔王城を襲撃したときに、
     王国軍と戦ったのはたった3人の魔族……魔王に魔女、竜と聞いてるわ」
     
魔術師長「その魔女の姿を見た者が騎士の中で何人もいるわ。なら竜の方もこっちに来てるって考えるのが妥当でしょ?」

召喚師長「へえ……にしてもまさか本当に魔族が勇者を助けにね……」

魔術師長「私自身は勇者に恨みも何もないし、むしろ好感を持っていたのだけどね。あなたもでしょ?」

召喚師長「まあ、ね。でも……仕事だからね」

魔術師長「しょうがないわよねぇ」






バサッバサッ


魔術師Z「……竜だ!本物の……」

召喚師S「すごい……データとらなきゃ」



魔術師長「ほらほらぁ、ね。言った通り。竜がみんなを背に乗せて逃げるはず、あたったわ」

召喚師長「不死鳥と大きさは互角か。思ったより大きい竜だな」

魔術師長「うふふ、でもあの竜、手負いなのよねぇ。あの暑苦しい騎士団団長と交戦したときの傷……まだ治ってないはずよ」

召喚師長「彼らはここから逃げて一旦体勢を立て直そうとするだろう。でも逃がしはしない。
     追ってくれ、不死鳥。絶対にここから逃がすな。あの竜を空中にとどめるんだ」

不死鳥「了解した……」

魔術師長「うふふ、全部計算通りね。空中戦をできるのはあの竜と、箒にのって飛べる魔女だけ……あとの5人はただの人間。
     でも彼らが仲間だって言うなら、飛ぶことのできない人間を背に乗せて空に留まるしかない」
     
召喚師長「既に橋はほぼ壊されて、地上であの不死鳥の炎から逃れる術はないからね」

魔術師長「彼は手負いでいつまで飛べるのかしら?いつまで不死鳥の攻撃をかわせるかしら?」

召喚師長「せっかくなら賭けるかい? ははは…」

魔術師長「遠慮しておくわ……あなた強いんだもの」








不死鳥「いつまで逃げるのだ? 我が炎を受けてみよ!」

竜「…………ッ」

魔女「はあ、ぎりぎりで箒召喚できてよかった……けど、どうすんの!?こいつ!弱点とかないわけ?」

神官「弱点……炎を纏った鳥……や、焼き鳥……?」

戦士「しっかりしろぉぉ神官!!焦るのは分かるが冷静になって考えてくれ!!」

仮面「おいおい、こんな怪獣相手にするなんて聞いてねーぜ!剣で攻撃しようにも、近づいただけで全身燃えちまう!!」

盗賊1「絶体絶命のピンチ……って、わああ!?竜の旦那、ち、血が……」

盗賊2「大丈夫なんですかい旦那!!」

竜「……」コクン

魔女「危ない!来るよ!!」


ゴオォォォォォッ!!





魔女「沈黙呪文!!麻痺呪文!!」

不死鳥「ふん…」

魔女「混乱呪文!!」

不死鳥「無駄だ…………む!? ぐぐ……」

神官「!!効いた!?」

不死鳥「……一瞬囚われてしまったが、もって数秒。どの道無駄だ、逃しはしない!」



魔女「ちっ 混乱だけ効くみたいだけど、ほんの少しの間だけみたい。
   竜人……あんたそろそろ限界なんじゃないの?大丈夫!?」
   
竜「……」ギロッ

仮面「やせ我慢してんじゃねーよ、うざってぇなあ。お前らと一緒にこのまま燃えカスなんて、俺ぁごめんだぜ」

神官「ちょっと、そういう言い方はないんじゃないですかっ!」

戦士「よせ、……なにかほかに言いたいことがあるのだろう?仮面」

仮面「……魔女、またあの焼き鳥野郎に呪文をかけろ」

魔女「数秒しか効き目ないけど、いいの?」

神官「魔女さん、前!!」



ゴオォォォォォォッ!!
   ゴオォォォォォッ!!

   
   





戦士「魔女!!!」

盗賊1・2「姉貴ぃぃぃぃ!?」

魔女「ここ! 間一髪、転移魔法で避けたから平気……じゃない!!」

魔女「っぎゃー!あたしのローブの裾燃えたああああああぁっ!!」

戦士「竜人も、翼が……」

仮面「魔女、ローブぐらいでぎゃあぎゃあ騒いでないで、早くしろ!」

魔女「っるさいな、やってやるわよ!!こんのぉぉぉっ、本物の魔族なめんじゃないわよ!!混乱呪文!!!」

不死鳥「む……っ」フラフラ


仮面「よし!」ヒュッ スタッ

神官「仮面さん!? な、えっ!?地上に降りたら……!」

仮面「俺があいつをなんとか引き留める。あいつが混乱している間にさっさと宝物庫に行け!!」

戦士「お前……とことん素直じゃないな」

仮面「へっ、まあな。でも長くはもたねえだろうから、俺が燃やされる前に早く勇者の剣と武器とって戻ってきてくれよ」

盗賊1「兄貴!俺たちも手伝いやすぜ!!」スタッ

盗賊2「もちのロンでさぁ!!」スタッ

魔女「本気?どうやってその剣で……」

仮面「うるせー!!やろうと思えば人間……いや、生物はなんだってできんだよ!!早く行けっ」

魔女「ありがとね! 行こう竜人!!今の内に!」

神官「必ず勇者様の剣を取り戻してきます!!仮面さん……あの、さっきはすいませんでした!」






不死鳥「……む?竜と女……!!宝物庫には行かせぬぞ!!待て!!」

仮面「待つのはテメーだ、焼き鳥野郎。おーいこっちこっち」

仮面「(おい、お前ら。ありったけの罵詈雑言であの鳥を挑発しろ)」

盗賊1・2「(? 了解っす!)」

盗賊1「やーいやーい焼き鳥野郎!味付けは塩か?たれか?」

盗賊2「そんなチンケな炎で俺たちに勝てると思ってんのかぁ?俺たちゃ天下の大盗賊団だぜ!!」

仮面「てめぇみたいな鳥なんか、飽きるほど相手してきたってんだ。遊んでやるからかかってこいよ、チキン野郎」

不死鳥「貴様ら……我を愚弄するのもいい加減にしろ……」

不死鳥「骨さえ燃やしつくしてくれるわ!!」


ゴオォォォォォォ


召喚師長「うわ、まさか人間3人を囮にするなんて。読みが誤ったな」

魔術師長「不死鳥サン、そっちの人間じゃなくて宝物庫に向かってる竜と魔女を追ってちょうだい!」

不死鳥「ちょこまかと逃げおって!!さっさと燃え尽きてしまえ!!!」ゴオオ

魔術師長「ちょ……聞いてる?」

召喚師長「おーーい!そっちじゃなくって!!あっち追って、あっちーー!!」

不死鳥「死ねぇぇえぇええええ」ゴオオ ゴオオ


召喚師長「……知能つけない方がよかったかな……」

魔術師長「かもねぇ」





ガチャガチャ


神官「あ、開きました!」

戦士「武器がごちゃごちゃしていて分かりにくいな。2階まであるぞ」

神官「! 私の杖!よかった……竜人さん、いま治癒魔法かけますから!魔女さんは怪我ありませんか?」

魔女「あたしはローブが焦げただけだから大丈夫」


神官「……はい、終わりです。大丈夫ですか?」

竜人「すごい……あっという間ですね。聞いてことのない言語の呪文でしたが、あれは?」

神官「あれは古代の言葉ですよ。神への祈りの言葉です。
   私たちが使う魔術はあなたたちとは根本的に違うんですよ。私たちが使う魔法は全て『神の奇跡』ですから」
   
竜人「神……」

神官「神様の偉大なる力を祈りによってお借りしてるに過ぎません。私自身は何の力もないんです」

竜人「神は実在していると考えているんですか?」

神官「え?」

竜人「いえ、神官なのですからそうに決まってますよね……すいません。なんでもないです。私たちも勇者様の剣を探し……」


戦士「見つけたぞ!勇者の剣だ!!」

魔女「戦士の大剣もここにあったよー。ほい」






神官「よかった!これで勇者様を牢から救えます!」

戦士「それより前に仮面たちのことが気になるな。早く行こう。竜人、もう平気なのか?」

竜人「ええ。今ならあの不死鳥とも空中戦をやり合えますよ。さあ、では……」


カシャンッ!


魔女「わ、ごめん。なんかひっかけて落としちゃった。割れてるし」

竜人「国宝割るとか、恐ろしいことしますね」

魔女「やばいかな。なにこれ……『忘れじの鏡』?」

神官「……変ですね。これ、偽物じゃないですか?本物だったら落としただけで割れませんよ」

神官「忘却呪文を一切跳ねのけるっていう鏡です。古くからここに保管されてると聞きますが……」

竜人「………………ん?」

魔女「………………忘却呪文を?」





竜人「…………え。ちょっと待ってください。…………」

魔女「………………ここにあるのが偽物だとしたら、本物は誰かが持ち去ったってことだよね…………」

戦士「どうかしたか?二人とも」

神官「この鏡がなにか?」

竜人「……」

魔女「……」

竜人「……」

魔女「……」




竜人「…………イエ、ナニモ……」

魔女「…………ハ、ハヤク、カメンクンタチ ノ トコロニ……イカナイト……ネ」

戦士「お、おい。どうした本当に。汗がすごいぞ」





神官「…………」

神官「ほかにやるべきことが見つかったんじゃないですか?」ニコッ

魔女「でも……」

神官「勇者様のこと、それから仮面さんたちのこと、私たちにまかせてください。ね、戦士さん」

戦士「よく分からんが、お前たちがほかにやるべきことがあるというのならそちらを優先してほしい」

竜人「しかし……空を飛べる私や、混乱呪文を使える魔女を抜かしてどうやってあの鳥に……」

魔女「みんなを見捨ててあたしたちだけ助かろうなんて、できないよ……。
   魔族のあたしたちと一緒に戦ってくれた、大事な人たちだもん」
   
神官「大事な人たちじゃないです」

魔女「えっ」

神官「私たち、仲間です!」

戦士「仲間に必要不可欠なのはお互いを信頼する気持ちだ。俺たちを信じろ、魔女、竜人」

神官「そうです。私、勇者様と戦士さんと旅してひとつだけ学んだことがあります……
   『やけくそで思いきってやってみたら、案外なんでもできる』ってことですよ。あはは。私たちのパーティらしい」
   
戦士「それで全部乗りきってきたんだ、俺たちは。 行け、二人とも。あとはまかせろ」

神官「私もお二人のこと、信じてますから。神のご加護があらんことをお祈りしています!」


魔女「……ありがと!絶対王子連れてくるからね!!」

竜人「信じてますから、絶対後でまた会いましょう。仮面さんたちにもよろしくお伝えください」

竜人「転移魔法!」


シュンッ



そういうことか
一体なにをやってたんだろうか

王子‥‥いったい何人なんだ‥‥



神官「……行きましたね」

戦士「俺たちも、仮面たちのもとに。橋は溶けてしまったが、なんとかして向こうへ行こう」

神官「はい。よいしょっと」

戦士「……神官、それは『神殺しの大弓』では?」

神官「ええ、そうですよ。一応遠距離攻撃用の持っていった方がいいかと思いまして」

戦士(神職が神殺しって……)

神官「ふふ。私の神学校時代のあだ名、知ってますか? CHの鬼ですよ」

戦士「CH……まさか!?」

神官「そう、私のクリティカルヒット率は95%です。攻撃力は弱いですけどね」

戦士「俺より高いだと!?」

神官「…………ふふっ」








神官「昔の血が騒ぎますよおおおおおおおおおおおおおっっ!!行きますよ、戦士さん!!!!!!!!」

戦士「お…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!??」






魔王城


竜人「うかつでした……盲点でした。いえ、言い訳なんてできません。もっと早く気づいていれば!!アホか自分は!!」

魔女「すぐに魔王様にあの魔術を使ってもらおう。この、彼……でいいんだよね?からもらった顔パックを使って、王子の居所を教えてもらわないと」

竜人「……魔王様! 魔王様?おや……城にはいないみたいですね。魔王様がやるより時間がかかってしまいますが、自分たちでその魔術を発動させましょうか」

魔女「急がないといけないもんね」






竜人「……ふう……なんとかうまくいった」

魔女「ええと?彼は雪の国と星の国の中間地点くらいにいるみたい……ていうか移動中?」

竜人「今は午前4時……処刑まで約32時間ってところですか。
   今日は私も魔女も転移魔法を使ってしまいましたし……飛んでいくしかなさそうですね」
   
魔女「えーと。太陽、雪、星の三国って上から見ると、それぞれ三角形の頂点になってて
   国同士は、あたしたちが飛んでいくと10時間くらいかかるよね?」
   
竜人「馬で走ると倍以上かかりますけどね。ええ、10時間」

魔女「じゃ、その王子がいまいるところに一直線に行けば、7、8時間くらいでいけるからー。
   往復16時間くらいで帰ってこれる。よっしゃ、余裕だね!」
   
竜人「いや……まず、星の国、王子の場所、雪の国という順番で行きましょう」

魔女「はっ!?なんで!?」

竜人「なんでもなにも、忘れましたか?神官さんと戦士さんが言ってたでしょう。認定書が燃やされてしまったんですよ。
   もう勇者様たちも私たちも助かるには、王子に今日か明日、王位を継承してもらわないといけません。
   彼には突然の話で悪いと思ってますけどね」
   
魔女「あ、そっか。そうだよね、もうあっちの王様、今回のことでカンカンだろうし。勇者たちもずっと危ないし」






竜人「星の国まで10時間。認定書をもらって、王子を見つけて、雪の国まで10時間。そこでまた認定書をもらって、太陽の国に帰ってくるまで10時間」

魔女「合わせて30時間かー……ギリギリ処刑には間に合うね」

竜人「ええ」


コンコン


竜人「ん?来客ですね。どなたでしょう」

キマイラ「すいません、失礼します。竜人様も魔女様もお戻りになられてたんですね」

子エルフ「大変だよ!聞いて聞いて!」

魔女「大変て、なにが?」






竜人「え!?魔王様が王都に!?でも……結界は張られたままですよね?この結界は術者が結界内にいないと発動しないはずですが……?」

子エルフ「ほんとだよ、バサバサって飛んでったの見たよ!」

魔女「……魔王様の部屋と、結界の魔法陣がある部屋、見てきた。自分の魔力を切り取って、独立して結界を発動させてるみたい」

竜人「そんなことが……!?」

魔女「しかも、結構な量の魔力がここに残ってたよ。結界が何年も張れるくらいの膨大さ。
   魔王様に残ってる魔力は微々たるものだと思う」
   
キマイラ「……魔王様……それなら我々のことを気にせず、結界を解いてくださってよかったのに」

グリフォン「本当にね」

子エルフ「グリフォンさんいたの……」

竜人「そんな僅かな魔力で王都なんて行ったら、魔王様といえど危険ですよ!まさか……。……いや、なんでもありません」

魔女「…………ッ!!」

竜人「魔女!どこに行くつもりです」

魔女「どこって……決まってんじゃん!王都に魔王様を連れ戻しに行くの!」






竜人「…………………王都に行ってる時間はありません。星の国の都の方向とは大分違いますから」

魔女「王子を連れてくるのも、どっちか一人がやれば十分じゃないの?」

竜人「空を飛んで移動するんですよ。ということは、どう頑張っても人の目に止まります。
   なにがあるか分かりません。一人より二人の方が確実でしょう」
   
魔女「……じゃあ!竜人は魔王様を見捨てるって言うの!?絶対あの子死ぬ気じゃん!
   そんなの絶対許さない!竜人がなんと言おうと、あたし魔王様を止めてくるから!!」
   
竜人「魔女、」

魔女「魔王様がいない世界でなんて、生きのびても意味ないもん!!そんなの絶対絶対だめ!!!」

竜人「……」


パチンッ……


魔女「……」


キマイラ「……子エルフくん、ちょっと外で一緒に遊ぼうか」

子エルフ「お、おねえちゃ……」

キマイラ「さあさあ」






竜人「少し落ち着け。神官さんと戦士さんと約束したこと、忘れたのか?
   魔王様が心配なのは私だって……この村の魔族みんながそうです。あなただけじゃない」
   
魔女「……」

竜人「魔王様だって何も考えずに王都に向かった訳じゃないはずです。もう、子どもじゃないんですから。
   彼女が考え抜いて思い悩んで、その結果の行動のはずです」
   
魔女「……」

竜人「それをあなたがふいにする気ですか?私たちには私たちのやるべきことがある。
   それを為すことが、いま、魔王様のためにできる唯一のことですよ」
   
魔女「…………」


バキィィィィィッ!!!


竜人「がはっ!!」ガシャーン

魔女「いっったいなぁぁ……なにすんの?お返しだよ」

竜人「いや、全然威力ちが……!!」






魔女「あんたのさぁ!!そーいういい子ぶったところ大っきらい!!あとそのまどろっこしい喋り方!?なんなのそれ!?普通に喋れよ!!」

竜人「……はい?じゃあ私も言わせてもらいますけどね!!みすぼらしい体のくせに露出度の高い衣服選ぶのやめてもらえますか!?」

竜人「それにあなたが何でもかんでも面倒事を私に押し付けるから、私がそういうブレーキ役に甘んじてたんですよ!!あなたがしっかりしてくれればですね……!」

魔女「はあ!?責任転嫁やめてくれます?つーかみすぼらしい体ってなによ!!!この猫かぶりドラゴンが!!」

竜人「だれが猫かぶっているんです、だれが!!言ってみろゴラ!!」

魔女「やっぱかぶってんじゃん!」



魚人「……えーなにこれ?」

グリフォン「かくかくしかじか」

魚人「ほー。グリフォンさんバケツ2個貸して」






魔女「このエセ紳士!!世話焼きオカン男!!」

竜人「黙れ馬鹿魔女!!いい加減にしろ!!」


バッシャアアアアアアアアアアアアアア


魔女「……」ポタポタ

竜人「……」ポタポタ


魚人「……目、覚めたかい?」


魔女「…………うん」

竜人「…………すいません」

魚人「仲間割れしてる状況じゃないって、二人とも分かってんだよなぁ?ん?」

魔女「…………ふー。ごめん。……王子、探しに行かないと……だよね」

竜人「魔王様のことは、もういいんですか」

魔女「ちょっと頭に血が上ってた。そう、だよね。あたしはあたしのやるべきことを……しないとね」

竜人「……多分、魔女が言いださなければ私が言いだしてましたよ。頬叩いてすいませんでした」

魔女「あたしも、顔ぶん殴って鼻血出させたし、おあいこだよ。気にしないで」

竜人「……。……………ええ、そうですね」







魔女「魔王様、きっと大丈夫だよね。だって、魔王様なんだから」

竜人「ええ。私たちのかわいくて強い一番の王様ですから」






王都 入り口


兵士I「勇者が処刑なんて、世も末だよなあ」

兵士H「だよなあ。つーかさっき、噂で、魔族が国に侵入してるって聞いたけど」

兵士I「なんだそりゃ。朝から酔っ払っちまってんじゃねーの?」

兵士H「騎士様の言うことは分からんわ。ハッハッハ」


兵士I「……ん?なんだあれ……鳥?」

兵士H「でけえなあ。鷹かなにかか?ここらじゃ珍しいな」

兵士I「どんどん近付いて……あ、あれ?ありゃ人じゃねえのか?」

兵士H「ま、まさか。人って背中に翼が生えてんのか?いるとすりゃ、そりゃ魔族だよ、魔族」

兵士I「だよなあ。魔族だよなあ」


スタッ


魔王「…………」

兵士I「…………魔族だああああああああああああああああ!!魔族が来たぞおおおおおお!!」

兵士H「橋を上げろおおおおおおおおお!!門を閉ざせえええええええええええええ!!!!!大至急だあああ!!!」



ギイィィィィィ…


兵士長「魔族!?本当にか!?」

兵士I「はい!!確かに見ました!!」

兵士長「すぐに将軍をお連れしろ!!お前は宮殿に報告を。橋は上げたな!?門は!?」

兵士J「いま完全に閉ざしました!!」

兵士長「第一隊は暇そうな魔術師・兵士・射手を片っ端から連れて来い!!
    それ以外は城壁から投石機と大砲と弓で魔族を迎え撃つぞ!!」
    


兵士長「よし!!ってえーーーい!!」


ビュンビュンビュンッ!!


魔王「……土の防壁」

ズドドドドドドッ


兵士長「なっ……あ、あの魔族……もしやあのとき、海で巨大なイカの怪物を作り出した奴か?」

魔王「―――……―――」

魔術師「何か呪文を口にしています!気をつけて」






魔王「――…。」


―――カッッ!!



兵士長「…………」

兵士I「……門が……一瞬で、木っ端みじんに」

兵士G「こ、こんな魔法……食らったら、ひとたまりも……」

兵士長「信じられん……やはり化け物か。くそ!!なんとしてもここは守りきれ!!奴を王都に入れるな!!!」



魔王「化け物ではない。魔王だ。さっきの魔法は人にあてるつもりはないので安心しろ」

兵士長「…………フッ。そりゃあ有り難い。魔王が……王都になんの用だ?」

魔王「勇者たちを助けに」

兵士長「は?」

魔王「彼らを……解放しろ!」



処刑宣告から2日目、午前9時。
勇者処刑まで、残り30時間。


大事なところミス

×処刑宣告から2日目、午前9時
○処刑宣告から2日目、午前6時

すごい単純な計算間違いをしたところで、今日はここまでにします
わーい600越えたの初めて
あと最初の方で、魔女が1日に2回転移魔法使ってるとこありましたがそれもミスです

それはほら
日をまたいだとかでふにゃっと

みんな伏線に気づいてるのか…
鏡とか全然わかんねーや

乙ー

魔王がかっこよくみえる

良スレ

>>628
ふにゃっと補完おねしゃす

>>629
いまの時点ではわざと分かりにくく書いてますが
もう少し後でもっと直接的に書きます
ただ>>1の文章力がしょぼいので、それでも分かりにくかったら
完結した後に質問があれば答えるつもりなので、そのとき言ってくれたら嬉しいです



宮殿


「勇者処刑をとりやめろー!!」「国王がでてくるまでここから退かんぞ!」

騎士「こら!いい加減にしろ!!立ち去れ!!」

「いてっ!なんだよ、暴力で解決か!?」 「私たちはただ抗議しに来ただけよ!」
 「処刑を取りやめなさい!」 「魔族のことも、王様の言うことは信じないことに決めたぞ!」
 


国王「……まだ宮殿前の民衆は片付かないのか。うるさくて敵わん」

大臣「申し訳ありません……。何分彼らも武器を持っているわけでもなく、ただ主張しているだけなので、
   騎士たちに武力制圧させることもできず……」
   
大臣「しかもその数は刻一刻と増えてきております。王都各所の暴動も収まるところを知らず、いやはや……」

国王「………………愚かな民衆め」


騎士「国王様!大臣様!失礼します……緊急事態です!!」

国王「どうした。脱獄した戦士・神官、そして国に侵入した二人の魔族は捕えられたのか?」

騎士「い、いえ。それが……!!」

騎士「魔王が!魔王が王都の中央門に現れたとの連絡が警備兵より入りました!」

国王「なに……!?」ガタ






大臣「それは確かなのですか!?」

騎士「はい。今も城壁で魔王と兵士たちが交戦中です。しかし、こちらの戦力不足は否めません。
   奴は一瞬で王都を閉ざす大門を吹き飛ばしたとか……」
   
騎士「『勇者たちを解放すれば、王都に侵入することもなく立ち去る』と主張しているそうなのですが」

国王「…………」

国王「……フッ……おもしろい。勇者らを助けに来たというのか。魔族が」

大臣「どうなさるおつもりですか、殿下」

国王「戦える者を全て中央門へ。魔術師長と召喚師長にも伝えろ。絶対に王都への侵入を許すでないぞ」

騎士「では……魔王の主張は」

国王「飲むわけがなかろう。むしろ魔王が一人で我が領地に赴いたのを好機とも捉えられる。
   奴が落ちれば残りの魔族を制圧するのも容易かろう。……随分勇者に執着しているようだしな」

国王「今の時点ではこちらが有利だ。さあ、行け」

騎士「ハッ!」







バッサバッサバッサ…


不死鳥「どこだ……どこに逃げた……」



仮面「あ゛ーーーもう、なんでお前ら竜と魔女をどっかにやっちゃったんだよ!!
   あいつらなしでどうやってあれから逃げるって言うんだよ!!」
   
盗賊1「今俺たちが隠れている岩陰も、いつか見つかっちまいやすぜ」

盗賊2「死ぬ……まじで死ぬ……」

神官「うう……もう薬草も魔力も残り少ない……」

戦士「この状況、どうやって打破したものか……」

仮面「……ん!?」

神官「あれ? 不死鳥、方向転換してどっか行っちゃいました……?」

盗賊1「どういうことだ?」

盗賊2「もう俺たちを探すのを諦めたってのか?」

仮面「……なんにせよ、御の字だな。勇者の剣は手に入れたし、ひとまずどっかで少し休息していこうぜ」

戦士「全員ボロボロだしな。よく生き残ったものだ……」







ドーーーン……!
   ズドーーン!
   

女主人「ハッ!騎士も兵士も鈍い奴ばっかさね!重たい鎧なんか着てるからさ!
    次は騎士駐屯地に殴りこみに行こうか」
    
冒険者「やりますね姉さん!!俺も久々に血沸き肉躍るぜーー!!」

司書「しかし……なんだかおかしくないですか?さっきから全然我々を追ってきませんよ。
   なんかあわただしい様子ですし、もしかして何かあったのかも」
   
本屋「そういやあ、さっき中央門の方で大きな音が聞こえたのお。
   てっきり同胞の仕業かと思ったが、それにしちゃ規模が大きかったのが気になったのでな」
   
女主人「んー、確かに中央門の方向に向かってるね。こりゃ本当になんかあったのか……?」






中央門


将軍「……久しぶりだな、魔王」

魔王「で、勇者たちを解放するのかしないのか、どちらなんだ。
   言っておくが、私はそれなりに強いぞ。人間たちを傷つけるのは本望ではないが」
   
魔王「もし私の出した条件を呑まなければ、建物や道路は甚大な被害を伴うだろうな。経済的被害は尋常じゃないぞ」

将軍「脅しのつもりか?…………答えは、ノーだ。我々は貴様に屈しない。ここで討つ!!王国軍の名にかけて!」

魔王「……」



将軍「魔術師長、召喚師長、どうだ?」

魔術師長「ええ。整ったわ」

召喚師長「いやーやっぱり知能無い方が扱いやすいよね。じゃあみんな、行くよ。陣について」




魔王「……!」

不死鳥「ピィィィィィィィィッ……」バッサバッサ


将軍「兵士隊は指揮に従って大砲で、射手隊はおのおの石弓で、遠距離攻撃で援護しろ」

将軍「相手は魔王だ!!油断するな!!しかし怯みもするな!!国王軍の意地を見せてやれ!!」

「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」







魔王「炎を纏った鳥……いや、鳥の形をした炎? 魔族ではないな」

不死鳥「スゥ……」

魔王「! 氷水魔法」


ゴオォォオォォッ!


魔王「……結構分厚い氷柱を立てたつもりだったんだがな。一瞬で水蒸気にさせられるとは」


ヒュウゥゥゥウ…


魔王「おっと、土の壁! ……飛んでくる砲撃と矢と、あの鳥を一緒に相手するのは骨が折れるな……」

魔王「さて……どうしようか」フラッ





将軍「……」

魔術師長「なんか、変ね。魔王って海戦のときに、すごい大魔法連発してたのよね?」

将軍「ああ」

召喚師長「不死鳥の炎を相殺したり、大砲を防いだり……魔法の質はかなり高い。詠唱時間も短いし。
     でも、正直言って聞いてたほどじゃあないね」
     
魔術師長「それによく見てれば足元がたまにフラついてるし、顔色も悪いわ」

将軍「様子が変なのは俺も気づいている。しかしそれがなんだというのだ?」

魔術師長「別に?ただチャンスねって言いたかっただけよ。あなたはどう問われてると思ったのかしら?」

将軍「婉曲な言葉を俺は好まんぞ」

召喚師長「はいはい。これだから戦士とか剣士って……」







魔王(私が出した脅しという名の交換条件を跳ねのけられた今、勇者くんたちを助けるには牢獄に直接手助けに行くしかない)

魔王(さっさと王都に侵入したいんだけど……空を飛んで無理やり城壁を越えてしまおうか?)

魔王(いや、牢獄がどこにあるのかも分からないし、それなら思う存分戦える広いスペースのあるここで始末をつけた方がいいか)

魔王(とりあえず……あの鳥をどうにかしたい)


不死鳥「ピィィィィィィイイイイ!」ゴォォォ


魔王「『氷の矢』、『氷の刃』……はあ、全て奴の体に触れただけで蒸発してしまうか。なんて温度だ」

魔王(……仕方ない、あの術で動きを止めよう。詠唱時間が長いし魔力消費も大きいからあまり使いたくなかったんだが)

魔王「とりあえず分身を2体作り出して……本体の私は隠れよう」





魔王(詠唱をしている間……分身がどうにかばれずに、かつ消されずにすめば御の字だ)

魔王「―――……―――…――――――」


ゴオォォォッ ドーーンッ!! ズドッズドッ…!


魔王「―――…………―――……!」

魔王「…―――…――――――」

不死鳥「ギイイイイイイイィィィ!!!」スウッ


ゴオォッ!!


魔王「っ!……――――――……。詠唱完了っ…」

魔王「地に伏せろ!重力魔法!!」

不死鳥「ギ……ッ」


ゴシャアァッ!!


不死鳥「ピ……ギ……ッ」ミシミシ

召喚師長「あああああ!僕の不死鳥がっ!!」

魔術師長「重力を操作して不死鳥を地に縫い付けたの……!?まさかそんな魔法まであったなんて」

魔術師長「うふふふふ……おもしろいわね!でもその子、ただの火の鳥じゃなくってよ?うふふふ」

将軍「相変わらず気味の悪い女だ。おい!!魔王が消耗している間に畳みかけろ!!」

兵士「はいっ!!」

召喚師長「気を付けた方がいいよ?将軍。畳みかけようとしているのはあちらも同じかもね」

将軍「なんだと?」




兵士「砲弾装填かんりょ……」スパッ

兵士「へっ!?」


ビュオォォォォオッ


兵士長「将軍!!ぜ……全大砲、今の風によって破壊されました!!」

将軍「全て、だと? クソッ……」

魔術師長「風魔法ね。でも不思議……いまの風、私たちを傷つけることもできたはずなのに、どうして大砲だけ?」

将軍「フン。目測を誤っただけだろう!
   射手はそのまま遠距離攻撃を!兵士はそれぞれの武器を持て!突撃の準備をしろ!!」
   
将軍「俺が……先陣を切る。橋を下ろせ」



魔王「はあっ……はあっ……はあっ……げほげほ」

魔王「あとはこの鳥を……重力魔法の効果を上げて、圧死させる」

不死鳥「ギギ……ギ……!!」メキメキメキメキ


バキッ!!


魔王「はあ…はあ……」

魔王「は……?」






召喚師長「不死鳥って、何故不死なのか知ってるかい?その身が朽ちたとき、炎に包まれて、その灰から新たに生まれ変わるのさ」


パキパキ……パキ……


魔王「それは……厄介だ」

魔王「だけどやりようがないわけじゃない。土の壁をつくって、それでこいつを密閉してしまえば……」ズドドドッ

魔王「炎は空気がなければ燃え続けることはできない。さっきの完全体になる前に閉じ込めれば、不死鳥もさしたる脅威ではない」

召喚師長「……ほう」

魔術師長「確かに」

将軍「納得しとらんで、お前らも俺たちの援護をしろ!まだ魔力は残っておるな!?」




将軍「よし、今だ!!奴の首を国に捧げるのだ!!勝負の女神は我らに微笑んでいる!!行くぞ!!」ドドドド

兵士「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」

魔術師長「うふふふふ。効くか分からないけど、捕縛魔術もう少しで発動できるわよ」

召喚師長「大型幻獣10体召喚完了!行け!」


魔王「…………チッ」






将軍「なんだ……!?この霧は……これも魔王の魔法なのか!?」

兵士長「前が見えないほどの霧ですね。これでは……」

将軍「くそ!!奴を逃すな!!まだ近くにいるはずだ!!探せ、なんとしても!!」

兵士「どわ!?」ブンッ

兵士「ば、ばか!!俺だよ俺!味方だ!!」



魔術師長「あなたの召喚した幻獣で、匂いで追えないの?」

召喚師長「探らせてるのですが、だめだね。匂いも消してる。あなたの方は?」

魔術師長「対象が視認できないと発動できないのよ、私たちの魔法って。これは一本とられたわね」






射手「霧が……晴れましたね」

兵士「いない……」

将軍「くそ!!!奴は王都に侵入した可能性がある!!血眼になってでも探し出せ!!
   俺は騎士団に話をつけてくる」
   
将軍「魔術師長。お前の魔術で王都内にいる魔王の居場所は割り出せんのか?」

魔術師長「さすがに疲れちゃったわ。でも、ほら……魔王城の在り処をつきとめたあの預言者なら可能なんじゃないかしら」

将軍「最近音沙汰を聞かないが、まあいい。合わせて尋ねてくる」

魔術師長「がんばってね」






騎士団副団長「将軍殿!」

騎士団団長「魔王はどうであった?こちらは一応住民の避難は……全員に呼びかけた」

団長「素直に従わない連中も多かったが。そういう奴らは大体宮殿前に集まっている……
   散らそうと奮闘しているのだが、なかなかままならん。武器で脅す訳にもいかぬのでな」
   
将軍「そうか。俺たちは……魔王を逃した。恐らく王都に侵入していると思われる」

副団長「なんですって!?」

将軍「すまない。俺たちは魔王を探し出す。騎士団も余力があれば協力してくれ。
   それから、宮殿にいる預言者様のことは知っているか?」
   
団長「確かいまは病床に臥せられているが……魔王の居場所を占ってもらうか?俺が話をつけにいこう。
   現場の指示は副団長にまかせるぞ」
   
副団長「はい」

将軍「助かる。では」






路地裏


魔王「あー……はあ……はあ…」ズッ ズッ

魔王「疲…れた」ドサッ

魔王「ここまで来るのにも魔法をかなり使ってしまった。火傷した足も治したいが……
   勇者くんたちを脱獄させるために魔力を残しておかないと……」
   
魔王「……いまは……ええと、もうすぐ正午か。随分戦ってたんだな」

魔王(処刑まで時間はある。焦らずにここは傷をいやそう。どこかの空き家に入って薬を頂戴しようかな。
   はしたないとどこかの竜に怒られそうだが、緊急事態だし仕方ないのだ、うん)
   
魔王(仮面や竜人、魔女たちはどこだろう……合流したいが、無理そうか)

魔王(とりあえず傷の手当てをして……体力と魔力の回復を待とう。それから牢獄の位置を探りだして……ええと)

魔王(疲労で頭が回らない……)









午後3時


預言者「申し訳ありません……なにぶん高齢のため、体調が常に万全というわけにもいかないのです」

団長「いえ。こちらこそお身体の調子が悪いときに無理を言ってすいません」

預言者「やっと、視えました。魔王は、王都南東区。民家のひとつに留まっているようです」

団長「南東区……分かりました。ありがとうございます。ご協力感謝いたします」




団長「南東区……か」

団長「すぐに兵団、騎士団ともに知らせねば」






午後4時30分


宮殿前


わーーーーわーーーーー
   わーーーーーわーーーーー
   


国王「魔王を仕留めることも、追い払うこともできず、あまつさえ王都への侵入を許してしまうとは
   我が国の兵士はなにをやっているのだ?騎士団といい兵団といい、魔術師団といい……」
   
大臣「宮殿前に集まっている民衆の数も、まだ増え続けてます。
   魔王が侵入したから避難するように言っているのですが、全く聞く耳持たずでして」
   
大臣「むしろ勇者とともに魔王を応援するような輩もちらほら……」

国王「…………」

国王「愚民め」

国王「一人だと自分で考えることもしない……
   そんな人間たちがただ単に騒ぎに浮かれて、心地のいい言葉に便乗して、それが自分の意志だと思いこんでいるだけのこと」

国王「そのような愚かな国民たちを導くのが王たる役目よ」

大臣「では、どうなさるおつもりですか?」






国王「いま宮殿の前にいる民衆は、ただ誰かが唱えた力強い言葉に引きずられているだけだ。
   ならば、正気に戻してやればいい。より大きな、より正しい何かを見せつけてやればいい」
   
国王「……こんなことを言うと、私が悪役のようだな。フッ……」

大臣「殿下……?」

国王「……」


国王「勇者の処刑を、予定より18時間早める」


国王「明日の正午に執り行う予定だったが、変更だ。今日の18時、今から1時間と半刻後に」

国王「宮殿に集まっている民衆の前で。彼らが信じる偶像を処刑してみせよう」

国王「神の加護など、彼には備わっていないことを……本当に信じるべきなのは誰なのかということを」

国王「盲目で無知たる民たちに見せてあげよう」

大臣「……では準備を」

国王「ああ、頼む」







午後5時


魔王「……ようやく牢獄の場所が分かったな。そこらを騎士と兵士がうろちょろしているから煩わしいことこの上ない。
   しかし無駄な魔力を消費するわけにも……いかないし」
   
魔王「傷の手当てはできたが……魔力はほとんどまだ空だ。でも、何もできないわけじゃない。うまくやれば、どうにか」





将軍「……!!!(魔王……!!)」

兵士「しょ、将軍……!」

将軍「待て……焦るな。まだ奴はこちらに気づいていない」




魔王「……ん…?」



子ども「ふえぇぇぇ……ママぁぁ……みんな どこ行っちゃったの……」






兵士「あ!子どもが……避難し忘れたのでしょうか。魔王があんな近くにいますよ!助けないと!!」

将軍「…………奴は……なにをしているんだ?」

兵士「え?」



魔王「……ええと、大丈夫か?」

子ども「だれ……?」

魔王「立てるか?あっちに騎士がいるから、保護してもらえばいい」

子ども「さっき足くじいて……いたくて立てない……ぐす」

魔王「けがをしていたのか。見せてみろ。……これでもう痛くない?」

子ども「うん。もう痛くない!すごいね……神官様なの?神官様って君みたいな子どもでもなれるの?」

魔王「こ、子ども……いや、私は神官ではないが」

母親「ああ!!こんなところに!!よかった……!」

子ども「ママ!」







母親「あなたは娘のお友達かしら?とにかく、一緒にここから避難しましょう。
   魔王が王都に入ってきているらしいの。騎士様たちに保護してもらっ……あら?」
   
魔王「いや……私は、ええと……」

母親「あなた……その目と……耳……ま、魔王……なの?」

子ども「違うよ、神官様だよ。わたしの足、治してくれたもん!」

母親「え……!?本当なの?」

魔王「私は、人を傷つけるつもりはない。勇者くんたちを助けに来たんだ」

母親「処刑されるっていう……あの……?」

魔王「! 騎士がこちらにもうすぐ来る。私はこれで」タッ

母親「あ、あの!!娘を助けて頂いて……本当にありがとうございました!」

子ども「ありがとう、神官様ー!」

魔王「……」







タッタッタッタ……タ


将軍「待て、魔王」

魔王「! ……く……」

将軍「杖を下ろせ。我らも剣を抜いておらんだろう」

魔王「なんのつもりだ?」

将軍「聞きたいことがある。さきほどのあれは、どういうことだ?」

魔王「……見ていたのか」

魔王「君たちが初めて魔王城に来たときからずっと言っている。
   私たちは人間に敵意も持ってないし、ただそっとしておいてくれれば何も望まないと」
   
魔王「いや、むしろ、手を取り合って共存関係を築けたらとさえ思っている」

将軍「まさか……魔族が本当にそんなことを思っているというのか。それを信じろというのか。
   ……と、数時間前の俺なら言っていただろうな」
   
将軍「俺の信条は『己の目で見るまでは何も信じない』。つまり言いかえれば、見たものは信じるということだ。
   いま俺は人の子の傷を癒す貴様の姿を見た。それは俺にとって何にも勝る情報だ」
   
魔王「……?」






騎士「いたぞ!!魔王だ!!!」

騎士「将軍殿もいる。囲めー!!!」

将軍「……この通りを右に曲がり、大通りを北にずっと進め。宮殿につく」

将軍「勇者の処刑が早まった。処刑は午後6時、いまから1時間後だ」

魔王「なに!?処刑は明日の正午だって……!」

将軍「だから早まったと言っただろう。早く行け。勇者を助けに来たのだろう。ここは俺が受け持つ」

兵士「わー……将軍まじっすか……」

将軍「お前らはどうする?己が信じる道を行け。俺の敵になろうとなるまいと、好きにするがいい」

兵士「じゃあ、味方で」チャキ

騎士「なっ、将軍殿!!どういうおつもりですか!!?」

将軍「ここを通りたくば俺を倒してから行け!!!」


魔王「……あ……ありがとう」

将軍「礼には及ばん」






午後5時30分


牢獄 地下7階


仮面「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!やっとここまで辿りついたあああああああああああ」

神官「なんか以前より警備が薄いですね?いや助かりますけど」

戦士「行くぞ!!最下層!!」


バターン


盗賊1「勇者の旦那あああああああああああっ!!」

盗賊2「お待たせしやしたあああああああああああ」

神官「勇者さ…………まッ!?」

戦士「い、いない……?」

仮面「どういうこったぁ……?」






午後5時45分


勇者「…………」

勇者「夕日がきれいだな」

処刑人「最後の夕日です。とくとご覧ください」

勇者「そうだな」

勇者「……俺は死ぬなら、魔物にバッサリ切られて死ぬか、旅の途中に谷に落っこちて死ぬかだと思ってた」

勇者「まさか処刑されるとはな。ハハ……笑ってくれていいぜ」

処刑人「…………自分もまさか勇者様の首をギロチンにかける日が来るとは思っておりませんでした」

勇者「ギロチンで処刑してくれる部分がまだ良心的か?」

処刑人「…………そろそろ時間です。断頭台へ」

勇者「……。ああ」



ここまで

明日の夜9時くらいから、最後まで投下します

おつおつ

次で最後だと思うと寂しいわ

王子はよ

バッドエンドは許さない

乙様!

因みに一刻は約2時間、半刻は大凡一時間、四半刻は30分。
小さなミスを気にする>>1さんのために一応伝えておくね(´・ω・`)

もうすぐラスト

今読み直したら王子の正体がわかった!
おそらくオカマの旅人だとおもわれる
金髪しか判断材料がないが一番可能性が高い

>>665
はいはい分かった分かった

楽しみだ
バッドエンドは回避してほしい

>>663
ほげええ恥ずかしいいいい
普通に勘違いしてました。ご指摘本当にありがとうございます。

>>651訂正で
×今日の18時、今から1時間と半刻後に
○今日の18時、今から1時間と四半刻後に







午後6時







ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ


「勇者様!」 「処刑をやめろー!」 「本当にここで……?」
  「王様ー!」 「なにがどうなってるんだ」 「ちょっとおさないでよ!」

  
  
国王「……これより勇者の処刑を行う」


国王「彼の罪状は、魔の者と共謀し、我が国を滅ぼそうとしたこと。すなわち国民に対する裏切り行為である」

国王「この者の罪が、いま死によって贖われようとしておる。みな心して見よ」


勇者「…………」

国王「最後の言葉として言いたいことはあるか?反逆者よ」

勇者「ああ……あるね」


勇者「俺がいなくなったって、俺みたいに考える奴はどんどん出てくるぞ。
   あんたは俺を処刑することで俺の考え自体をこの国からなくしたいんだろうが、無駄だ」
   
勇者「人ってのはそんなに単純な生き物じゃない。ただ誰かの意見を聞くだけじゃなく
   自分で考えて、時には以前の間違いも認めて、迷いながらも答えをだすことができるんだ」
   
勇者「国民全ての意志とか信じるものを掌握して操作するなんて、いくら国王のあんたでも無理だよ」
   
勇者「なあみんな!!俺が死んだら……あとは頼むぞ!!!」


ざわざわざわ……






国王「引かれ者の小唄か……」

処刑人「勇者様、こちらに……お首を」

勇者「よいしょっと」


処刑人「では、綱を切りますよ。……一瞬で刃が下まで落ちます。痛みを感じる暇もないはずですから」

勇者「……ああ」






勇者(…………終わりか)

勇者(……あんなに偉そうなことを言っておいて、俺はなにもできなかったな)

勇者(魔族を守るとか……いろいろ。出鱈目言っちまって悪かった)


勇者(魔王に雪を見せるって、雪の国に連れてってやるっていう約束も、破ることになるな)

勇者(…………)

勇者(………………ごめんな)




処刑人「では、切ります……」


――ブチッ!!





勇者(……ごめん)





「きゃああああああああああ!!」 「うわ……っ!!」 「勇者あああ!!」


ヒュッ……!


勇者「……」スッ












魔王「やめろっ!!」


――ガシャァァァァァァァァァァァァァン!!





国王「なに……!?」

国王「まさか……貴様が、魔王か!?」

処刑人「ギ、ギロチンの刃が粉々に!?」


「なんだなんだ!? なにが起こった!?」
「ギロチンが大破してる……勇者様のお力!?これが神のご加護?」
「いや違うぞ!女の子の声が聞こえたんだ!どこだ!?」


勇者「……お、俺の首……まだある……!?え!?」

勇者「つーかさっきの声って、まさか…………」

勇者「お前…………」

勇者「魔王!!」


魔王「遅くなってごめん。助けに来たぞ、勇者くん」

勇者「どうしてここに!?」






魔王「……はあ……、うっ」ドサッ

勇者「魔王!」

魔王「大丈夫だ……」


騎士「ま、魔王だ!!すぐにここから出て避難してください!さあ早く!」

男「魔王だって……あ、あれが?でも……」

騎士「早くしてください!一刻を争うのですよ!!」

女「あの子が……本当に?」チラ

魔王「……」


母親「待って下さい!!」

騎士「ちょ、ちょっと奥さん……危ないですから!」

母親「その子、確かに魔王だって言ってましたけど、さっき私の娘の傷を治してくれたんですよ!!
   わ……悪い人じゃないと思うんです!!」
   
魔王「さっきの……」







男「…………あの馬鹿正直な勇者が、本当の悪党と仲よしこよしだなんてできるわけねぇんだ!あの子だっていい子にちげぇねえ!!」

女「そうよ!!人間を滅ぼしたいと思ってるはずの魔王が、子どもの傷なんて癒さないわ!!」

 「僕は勇者と魔王を信じる!!処刑と魔族侵攻をやめろー!」

 
 
勇者「みんな……!」


魔王「……ありがとう」

魔王「……国王!!私と取引をしよう」

国王「…………」

魔王「勇者を解放しろ。さもなければ、私はこの場でお前の身の安全を保障できない。
   距離が離れていようとも、私ならお前の全身至るところ任意で狙うことができる」
   
国王「……その割には顔色は青ざめて、立つのもやっとという具合に見えるが?」

魔王「命を危険に晒すか、勇者を解放するか、二つに一つだ」

国王「よかろう。勇者の処刑を取りやめよう。ただしこちらも条件を一つ提示したい」


ヒュッ……カランッ


国王「いま貴様の足元に投げたそれは『聖なる短剣』。刺した者の魔力を吸いつくす聖剣だ。
   魔の者にとって魔力を奪いつくされるということは死と同義なのは、分かっている」
   

国王「その剣で自分の心臓を刺せ」







勇者「はっ……!?なに言ってんだ!!」

魔王「………、………」スッ

勇者「おい!!!魔王!!なにをする気だ……!?」

国王「賢明だな。もう魔力もほとんど残っておらんように見える。
   自分も勇者も死ぬか、自分だけ犠牲になるか……後者の方がはるかに賢い」
   
魔王「本当に勇者くんを解放するんだな」

国王「処刑人。彼の枷を外してやれ」



勇者「おい、よく考えろ!馬鹿な真似はやめろ、魔王!!」

騎士「動くな!」ガシャ

勇者「離せ!!」



国王「貴様がここで命を断つというのなら……残りの魔族には手を出さんと約束しよう」
   
魔王「いきなり親切だな」
   
国王「魔王がいまここに一人で来ているということが、残りの魔族は取るに足らん存在だということを示しているからな」

魔王「……そうか。そうしてくれ」






ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ


魔王「ならば喜んで私は……」

魔王「魔族の平和のためにこの血を捧げよう」

勇者「う、うそだろ? やめろ……、今からでも遅くない!すぐ逃げろ……魔王!」

魔王「勇者くん…………。…………だめだな」

魔王「次に会ったら言おうと思っていたことがたくさんあったのだけど、……なんだか言葉が出てこない」

魔王「でも、これだけ。私たちのために戦ってくれてありがとう。私たちを信じてくれてありがとう。
   私たちに未来を、夢をくれてありがとう……君は伝説の通り、世界に光をもたらす存在なんだって、いま改めて思う」
   
魔王「ここにいる人たちも、歴史上の私たちではなく、いま存在している私たちをちゃんと見てくれて嬉しかった。ありがとう」

魔王「残った魔族をよろしくお願いします」


ざわざわ……ざわ………






魔王「人間とか魔族とか、そういう考え方じゃなくて、もっと一人ひとりが向き合って話し合ってみればいいんじゃないかって……そう思ってます」

魔王「そうすれば、宿敵のはずの魔王と勇者だってこんなにお互い分かり合えました。ね、勇者くん」

勇者「…………っ」

魔王「勇者くん。君はどう思っているか分からないけど、私は」

魔王「君に出会えてよかった……!」


スッ……


勇者「やめろっ!! 頼む……魔王!!おい!!」

騎士「くっ……動くな」

勇者「魔王!!!」

魔王「…………もういいんだ」



――ドッ




魔王「…………っ」







――――パタッ……ポタタッ……


魔王「……―――」


ドサッ……



国王「……ほう」

国王「魔族の血も……赤いのだな」

勇者「…………………………」





勇者「……魔王」

魔王「 」

勇者「おい……うそだろ」

魔王「 」

勇者「…………」

魔王「 」

勇者「なんで……」

魔王「 」

勇者「なあ……」

魔王「 」

勇者「魔王…………ッ!!!」











――魔王様!







「え?だって王様なんだから様をつけるのが普通じゃない?」

「確かにそうですね。こういうのは形から入るのが一番ですし。私もそう呼びましょう」

「あっはは、すごい嫌そうな顔してるー。いいじゃん、魔王サマー」

「そうそう、堂々としてればいいんですよ」

「喋り方も少し変えてみれば?魔王っぽく。なんかちょう偉そうな感じで」

「……うーん、ちょっとぎこちないですね……いや、いいんですよ。これから慣れていけば

「え、あたしか竜人が魔王をやればいいのにって?むりむりむりむり!!」

「こういうのは器っていうのがあるんですよ。少なくとも魔女みたいなだらしない魔族には魔王は務まりませんね」

「はあ?竜人にだって魔王なんか1日も務まらないね!あんただって無理無理。べーっだ」

「はい?…………あ。い、いえ、これは別に喧嘩じゃないですよ、魔王様」

「そ、そうだよ。あたしたちめちゃくちゃ仲良しだから、だからそんな泣きそうな顔しないで!!ね!!」






「魔王様ぁ!おはようございます!」

「魔王様だ!」


「え?いや竜人様と魔女様がそう呼んでるの聞いたんで。いやですか?」

「……ならよかった!じゃあまた!」


「いたっ!いてて……ちょっ なんですか魔王様!?私なにかしました!?」

「……ああー。広まっちゃいましたか。まあいいじゃないですか。魔王様は魔王様なんですから」

「自分が子どもの姿だからなんか申し訳ない?……ははは、そんなの気にしなくていいんですよ」

「魔王様はそのままでいいんです。そのままのあなたが、みんな大好きなんですから」






「ねー。魔王様」

「一緒に寝ていい?……うん!ありがとっ」

「ん?んー。あたしも、怖い夢見て眠れなくなっちゃったから」

「『も』ってなんだって?」

「だってなんかすすり泣く声が魔王様の部屋から……わわ、ごめんねって!うそうそ何も聞いてないです」

「……うん、だから一緒に寝よ。二人でいれば大丈夫、いい夢見れるよ」

「羊数えてあげようか。それともあたしが睡眠魔法かけてあげようか」

「羊でいいの?本当に?魔法の方が効果あるけど?本当にいいの?」

「……ちぇ。えーと、羊は一匹ー……羊が二匹……って」

「もう寝てるし……寝付きよすぎでしょ魔王様」





「魔王様、ハンバーグおいしいですか?……よかった」

「ていうかね、聞いてよ二人とも」

「なんです?」

「今日村で買い出ししてる時に小耳に挟んだんだけど、勇者が魔王城を探して旅してるみたいだよ」

「ファ!?勇者って……100年前に魔王を討ったっていう!?この時代にもいるんですか」

「でも結構間の抜けてる勇者みたい。薬草1こで遺跡潜って血まみれで帰ってきたりとか」

「カジノに行ったら身ぐるみはがされて、裸で雪の国の狼と戦ったとかなんとか」

「それ本当の話ですか?尾ひれが随分ついてそうですね」

「……あ、魔王様が笑ってる。おもしろそうな勇者だよね。でもこの城に近づいたら容赦しないけど」

「迷いの森にすら辿りつけないでしょう。大丈夫ですよ」




「ねえ、この間勇者の話したよね?今日も噂聞いたんだけど」

「いやー。なんでか知らないんだけど、勇者たち迷わずこっちに向かってるらしいんだよねー」

「え?どうしてでしょう。ここの場所は誰も知らないはずなのですが……どうします、魔王様?」

「森で始末しちゃう?あ、別に物騒なことじゃなくて、忘却呪文ぱぱっとかければあと10年は思いだせないはずだよ」

「え……招き入れる?ちょっと待ってください。本気ですか?」

「…………なるほど。……はい、分かりました」

「魔王様も結構賭けにでるねー。あたしはそっちの方がおもしろそうだから賛成!」

「じゃあいつ来てもいいように準備しときませんとね」






「また窓の外を見ているのですか?まだ勇者たちは来ませんよ」

「……そんなに会うのが楽しみですか。いい方たちだといいですね」

「いやいや、顔に出てますから。隠しても無駄ですよ。ははは」

「……あまり夜風にあたっていてはお体を冷やします。もう窓も閉めましょう」

「ええ。ちゃんと魔王様が寝てるときに来たら、すかさず起こしますから」

「はい。おやすみなさい」





「うわ!」



「連れてきましたよー魔王様ー」

「ま……魔王!!俺は貴様を倒しにきた、勇者だ! 」

「貴様に苦しめられてきた人々のために、今日俺はお前を討つ!!覚悟しろ!!」

「……?おい、魔王の姿が見えないが……?」







「待ちくたびれたぞ……勇者」

「ようこそ我が城へ」







国王「死体を処理しておけ。聖火にて浄化するのだ」

騎士「はっ」

国王「国民たちよ。王都に訪れた危機は去った。安心したまえ」

国王「さて……貴様はもう自由の身だ。しかし、二度と我が国の土を踏むことは許さぬ。
   国家転覆を図って単なる追放で許されるなど、貴様が初めての例だ。感謝しろ」
   
勇者「……」



国王「一番恐れるべき魔王は消えた。これで数カ月後の魔族殲滅も楽になるだろう……」

勇者「……」

勇者「あ……?」

国王「なんだ?」

勇者「……あんた、何言ってんだ?」

国王「何とは……?」


国王「私が魔族風情とかわした約束など、守ると思っているのか?」





勇者「…………て」

勇者「てめぇぇっ!!ふざけるなッ!!!」

騎士「ぐあっ!」ドッ

勇者「このっ!!!」

国王「やれ」

近衛騎士1~10「……」スッ



ジャキッ!


国王「そこから一歩でもこちらに踏み出せば、騎士たちの剣が貴様の身を引き裂くぞ。
   せっかく魔族に救ってもらったその命、大事にしてはどうかね」
   
勇者「てめえは……魔王のあの言葉を聞いてなかったのか!?
   聞いてたなら、なんであんなことが言えるんだ!!この、下衆がッ!!!」
   
国王「おかしなことを言う……まあ貴様もあと何十年か年をとれば分かるようになるだろう」





男「……っ お前なんか王じゃない!勇者を離せ!」

女「魔族はきっとあんたが思ってるような生物じゃないわよ!間違ってるわ!」

母親「魔族も人間も……そんなに違うところなんて、ないって……!!そう彼女は言ってました!!」

子ども「ママ……あの子どうなっちゃったの……?」

母親「……っ」

男「そうだそうだー!!」


ヒュッ…… コン


国王「いま誰か石を投げたな?」ニヤ

国王「武力をもって国家権力に仇なす者として、いまこの広場に集まっている者たち全て、制圧しろ」

騎士「……」ジャキ

国王「武力制圧を……許可する」

国王「怪我をしたくない者は両手を上げて、騎士たちの誘導に従うのだ」


「ひ……!」「ちょっと!離しなさいよ!」「大人しくしろ!!」


わーーーーーわーーーー!
  ざわざわっ ざわざわ
  

勇者「この野郎……!!」


  




騎士「頼む、大人しくしてくれ……さもないと」ジャキ

母親「そ、そんな危ないもの子どもに向けないでちょうだい!!」

騎士「仕事なんだ……ガハッ!?」

女主人「へ、フライパンでも結構いい攻撃力してんのよね」

母親「あ、ありがとうございます……?」

女主人「子どもは危ないからあんたはその子連れてこっから離れな。あとは私たちが頑張るからさ!!」


男「いててててててっ!!肩外れる外れる!!勘弁してくれー!」

司書「はあああああああああっ!!」

冒険者「おらああああああああああああ!!!」

騎士「なにっ!?」


女「こんなの横暴よ!!私たちは自分たちの考えを主張しているだけじゃない!!」

本屋「大丈夫かい、お譲さん」ゲシッ

騎士「な、なんだこのジジイ!!」

本屋「古書アターック!!」



勇者「女主人、司書、冒険者、本屋の爺さん……!」




騎士「抵抗をやめろ!これ以上抵抗すれば、痛い目に遭うことになるぞ」

??「痛い目に遭うのは、貴様だ!」


ドッガァァァァン!!

人「き、騎士を一気に3人!あんた……戦士か!」
  
戦士「どんどん来い!!」


神官「どいてください!!!」ゴシャッ

騎士「ぐっはあ!?」

神官「魔王さん、魔王さん!!しっかりしてください……!!いまっ、いま治療しますから!!!」

神官「勇者様、魔王さんは私にまかせてください!!」


騎士「ぐあああ!き、貴様ら何者だ!?ただの一般人ではあるまい……」

盗賊1・2「「え?一般人ですよ?」」

仮面「ったく、処刑の時間早めるとか反則じゃねーのかよ?せっかく死に物狂いで剣とってきたのによ!!」



勇者「戦士、神官、仮面、盗賊……」





騎士「こら、おとなしく……って、え!?姫様……!?」

姫「はああああああ!……あれ?」スカッ

騎士「なにをなさっているのですか!いますぐ宮殿に!!」

姫「きゃ!ちょっと離して!!」

そばかす青年「てやああ!!」ドカッ

騎士「な!?」

そばかす「全く、姫様。無茶しないでくださいよ」

姫「あら。いまのはたまたまよ」


戦士「……なんだか、見覚えがあるな」

そばかす「僕ですよ、僕!!元騎士です!僕、騎士団今日限りでやめるんで!!」ヒュッ

姫「私だって、姫やめてやるわ!!民衆の声に耳を傾けなくて、なにが王族よ!!」ヒュッ

仮面「すげえ姫もいたもんだ」



国王「馬鹿娘が……」

勇者「姫様……元騎士も」





女主人「私らは戦うよ!王様、あんたの思い通りになんてなってたまるか!」

 「お…俺も戦ってやる!!おい、フライパン貸してくれ!!」
 
 「あたしだってこの箒で騎士様相手に戦ってやるよ!!もうやけくそだ!!」
 
 「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 
 
国王「……騎士団長はなにをしている? 国の誇る騎士たちよ、この暴動を必ず鎮めよ!!」


仮面「おい、勇者!! 受け取れ……っ てめえの剣だ!!」

国王「! 剣を奴に渡すな!」

近衛騎士「はあぁっ!」キイン


カランカラン…


仮面「!? チッ…」

戦士「なにやってる仮面!」

仮面「うるせーーーな!!ごめん!」







国王「近衛騎士団!!もうよい……奴の、この反逆者の首を掻っ切ってしまえ!!」

国王「こ奴が全ての元凶だ!!首謀者がいなくなれば民衆の気勢も削がれるだろう」

近衛騎士「……」スッ

勇者「!」

近衛騎士「許せ…!」ブンッ

勇者(全方位から囲まれてる……逃げ場がない……!)


神官「勇者様ぁーーーー!!!」

戦士「勇者っ……!!」






国王「フッ……呆気ない最期だな。魔王も勇者も」

国王「もう邪魔も入るまいて……!」




―――ヒュッ……!


勇者「ぐっ……!!」






バサッ!!







??「太陽の国第一王子が命ずる!!!」


??「全員その場から動くな!!!」



勇者「!?」




近衛騎士「!?」ピタ

国王「なに……!?」

戦士「ぬ!?」

神官「あ……!!」

勇者「!?……王子……!?」

勇者「と……竜人……魔女!?」





バッサバッサ…


竜「間に合った……!!」

魔女「連れてきたよ!!王子っ!!」






ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ



「ありゃド、ドラゴンか!?」 「王子だってー!?」


王子「神の定めし法により、星と雪の国両国から持ち帰った認定書と、この国の唯一なる王位継承者、第一王子の私の存在をもって」

王子「これより、この国の近衛騎士団、騎士団、兵団、魔術師団の最高指揮権は私に移ることになる!」

王子「近衛騎士、勇者から刃をのけよ。騎士よ、広場の民衆と争うのをやめ、剣を鞘におさめよ」

近衛騎士「……」スッ

騎士「……はっ」スッ

王子「国民たちよ、私は魔族殲滅に乗り出すつもりはない。勇者もその仲間も処刑するつもりはない」

王子「得心がいったら武器をおさめてくれ」





ざわざわ… ざわ…


王子「……遅くなってすまなかった。勇者、久しぶりだな」

勇者「いや……え……」

勇者「だれ!?」

王子「やっぱり分からないかな?スッピンで会うのは初めてだからか」

王子「こう言えば分かるかい?」




王子「久しぶりねぇ~ 勇・者・ちゃ・ん」

勇者「!?!?!?!?」

勇者「おまっ……お前……旅人か!?!?」

王子「そうだ」





国王「お前……認定書と神法のこと、本気なのか?」

王子「はい。本気です。お久しぶりですね父上」

国王「たわごとを言うな。こんな方法……実の父に!許されんぞ……!!」

王子「父上……認めてください、潮時です。もうあなたのように強引に国を導くやり方じゃあ通用しないのですよ」

王子「いまこの国は変わろうとしています。そして王たる者がいますべきなのは……
   強引にその変化を止めようとするのでなく、一緒に変わろうとすることです」
   
王子「これから私が父上に変わって、この国の上に立ちます。少し早いですが、御隠居なさって下さい」

国王「…………ふ、ふざけるな……今まで国政に微塵も関わっていなかった貴様が!!!」

国王「理想だけでは国は動かせん!!」

王子「……」

国王「何故分からん!?ここに私以上にこの国を案じている者がおるか!?
   私こそ!!私だけが!!この王国内で国の繁栄に、真に腐心しておるというのに!!」

国王「はぁ……はぁ……」

国王「……そもそも……全て貴様のせいだ」

国王「息子と娘が私に反抗するのも、民衆が私に従わないのも……全て貴様のせいだ、勇者……!!」チャキ

勇者「!」





国王「貴様さえ……いなければ!!騎士の手を借りるまでもないわ!!私がこの手で……!!!」

勇者「……てめぇ……いい加減にしろ」


戦士「勇者!!今度こそ、この剣を!!!」ヒュッ

勇者「!!」パシッ







――『ほう。魔族の血も……赤いのだな。』



勇者「…………ッ」ギロッ

国王「覚悟ッ!!」





―――チキッ…


勇者「王様……あんたの血は何色だ?」

国王「ぬうぅぅ!!」

勇者「俺は……あんたを、許さない……!!」

勇者「っああああああああああああ!!!!」


―――ズパッッッ!!!


国王「かっ……」






姫「っお父様……!!」ギュ

そばかす「……大丈夫ですよ、姫様。勇者さんは……踏み留まりました。目を開けてご覧ください」

姫「え……」



国王「剣が……真っ二つ、か」

勇者「…………」

勇者「……あんたは見方によっちゃ、いい王様だったと思う。
   自国の民を第一に考え、民にとって危険なものは何がなんでも排除する、あんたのやり方は」
   
国王「……」

勇者「でも悪いな。……俺はあんたのやり方が個人的に気に食わない。
   自国の民以外の声を無視して聞こうとも、理解しようともしないのは間違ってる」

勇者「数多の犠牲の上に成り立っている安全なんて、この国のみんなが喜んで享受すると思うのか」

勇者「そこまで俺たちは落ちぶれちゃいない。あんたに思考も信念も全て委ねて安穏と日々を過ごすほど愚かじゃない。人間をなめるな」

勇者「王座から降りろ。あんたの時代は、もう終わりだ」

国王「…………く」






ざわざわざわざわ


王子「私が事態の収拾にまわる。君は……彼女のもとへ」

勇者「すまない、あとで必ず礼をさせてもらう」ダッ



勇者「神官!!魔王は……!?」

神官「…………ッ」

魔女「魔王様、魔王様、魔王様……っ 目を開けてよ……ねえ……!!」

竜人「…………」グッ

勇者「おいおい……うそだろ!?神官、お前はどんな傷だって今まで治してくれたじゃないか!魔王のこんな傷くらい……」

神官「先ほどから……高位神官の方にも協力してもらって……治癒魔法かけてます……」

神官「でも……どうしても息を吹き返さないんです」

神官「この……『聖なる短剣』のせいだと思います」

戦士「どういうことだ……!?」





魔女「うっ……うぁ……魔王様ぁ……やだよぉ……」

竜人「魔族にとって……いえ、魔力ある者にとって、魔力が完全に尽きてしまうことは死を意味します……から」

神官「この短剣で致命傷を受けたせいで、魔王さんの魔力は全てこの剣に吸い取られてしまったのだと……」

勇者「吸い取られたなら、いま剣から戻せないのか!?」

仮面「無駄だ。俺もその短剣について調べたことがあるが、一度吸われた魔力は二度と戻らない」

盗賊1「魔王の嬢ちゃん……」

盗賊2「こんなのって、ねぇよ……」

勇者「そんな……なんとか……ならないのかよ……。
   魔力水は?魔力が0なら、足せばいいだろ?ほら、神官もよく俺たちの旅の途中に飲んでたじゃないか」
   
竜人「魔王様は遙かに大きな魔力をお持ちでしたから……少しの魔力を回復しただけでは、どうにもなりません。
   どちらにせよ、魔王様の心臓が動かないことには……」
   
神官「でも、心臓を動かすためには魔力が足りないのです。だから八方ふさがりで……」





勇者「大きな魔力…… そういえば、これは?」

神官「なんです?その小びんに入った液体……」

勇者「月祭りの夜に変な男からもらったんだ。魔王は男から分断された魔力だって言ってたけど」

竜人「……なんだか、魔王様の魔力に近いものを感じます。それにすごく大きな力が秘められている。もしかして……これなら」

竜人「でも……どっちにしろ手遅れです。魔王様は……お亡くなりに……なりました」

魔女「ひぐっ うっ こんなの……ひどいよ…… せっかくあたしたち、認めてもらえたのに……魔王様がいないなんて……っ」

仮面「……」

神官「ごめんなさい……もう……」



勇者「もし時が巻き戻って、魔王の心臓が止まる前に戻れたら、この小びんの魔力も役に立つんだな?」

勇者「そうしたらこいつの魔力が尽きることもなく、命を落とすこともないな?」





竜人「……勇者様……?」

魔女「そんな、もしの話なんてしたって……意味ないじゃん!!もう……もう、魔王様死んじゃったんだよぉ……生き返らないの、もう!!」

戦士「……お前」

神官「あ……まさか!?」


勇者「よかった」

勇者「なあ、戦士、神官。 伝説の剣っていくつかあったよな。どれを武器にしようかあれこれ迷ってさ……」

戦士「稲妻の剣。三日月の聖剣。神剣グラム。そして、時の剣……だったな」

勇者「あのときは一番近いところに時の剣があったからそれを取りにいっただけだったが
   きっとあのときから決まってたんだ。俺はいまこの瞬間のために、時の剣を選んだ」
   



勇者は、時の剣を天高く掲げた。






勇者「魔王の時間を巻き戻す」

魔女「えっ……?そんなこと……できるの!?」

勇者「あんまり長い時間は巻き戻せないと思う。でもぎりぎり魔王の心臓が止まる前まではできるはずだ」

勇者「これ、頼むぞ。……その魔力、一体だれのなんだろうな」

神官「勇者様!!女神が言ったこと……覚えてるんですか?」

神官「時を巻き戻す代償は、あなたの――命なんですよ」

竜人「……!?」

勇者「勿論覚えてるさ。でも、いいんだ。いま使わなくて、いつ使うって言うんだ?」

戦士「勇者」

魔女「勇者……!でもそれじゃ君が……」



勇者「旅人……いや王子か。あいつに礼を言いそびれた。誰か俺の代わりに言っといてくれ」


勇者「全員今までありがとうな」


勇者「……あと。魔王が目を覚ましたら謝っといてくれ」


勇者「――じゃあな」


神官「勇者様っ!!」





眩い光が勇者の体を包み込んだ。

全員が再び目を開けたとき、そこに……彼の姿はなかった。











―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
―――――





勇者「……ん。ここは……」

時の女神「来てしまいましたか、勇者」

勇者「あんたは…… 久しぶりだな」








女神「こうなることは分かってましたが……やはり、寂しいものですね」

勇者「分かってたのか?」

女神「私は過去未来全てで起こり得る事象が見通せます。
   あなたが選び取った現在は、起こり得る事象の中で最善のものでした」
   
勇者「最善ね……なににとって最もいいって判断しているんだ?」

女神「より多くの生きとし生ける者にとって、ですよ」

勇者「……なら、よかった」

女神「あなたが自分の命を犠牲に時を巻き戻すことも、本当は……見えていました。
   でも、そうならない未来も数多あったのですよ」


女神「……いいのですね?いまなら向こうの世界に引き返せますけれど」
   
勇者「そんなことしない。いいよ、俺の命をあんたに捧げる。だから魔王の時間を巻き戻してくれ」

女神「…………分かりました」


スウゥゥゥゥ


勇者「体が、足から……消えていく」






女神「さようなら。勇者」

勇者「そんなに悲しそうな顔しないでくれよ」

勇者「俺は満足してるんだ」

勇者「誰かを守れた。誰かを救ってあげられた。世界を変えることができた」

勇者「……勿論、いろんな奴の手助けがあって、だけどな」

女神「ええ……」

勇者「まあ。できれば、変わった世界をもう少し見たかったってのもある。
   王子の奴にもいろいろ質問したかったし……でも」
   
勇者「ずっと10年あの島で魔王として頑張ってきたあいつにこそ、新しい世界を見せてやりたいんだ」

勇者「雪だけじゃない。星の国も太陽の国も、この大陸外のことだって……
   全部全部、俺よりあいつが見るべきだ。……見てほしいんだ」
   
勇者「あいつのために死ぬんなら、そんなに悪くないって思える。不思議なほど今は心が落ち着いてるんだ」

勇者「おっと……そろそろか」






勇者「さようなら、女神様。ありがとうな」

女神「……さようなら、勇者」




スウゥ…………


………









魔王「……………………ん」

魔女「!!!」

竜人「魔王様!?」

魔王「…………んん……あれ……?」

魔女「ま゛お゛う゛ざま゛ああああああああああ!!!」ガバ

竜人「よかった……!!本当に……!!」

魔王「ここは……」

竜人「魔王城です。2週間、ずっとあなたは眠ったままで……本当にどうなることかと……」


神官「あ!魔王さん、お目覚めになられたんですね……!よかったあ」

戦士「具合は悪くないか?どこか痛いところは?」

魔王「いや、どこもない。……私は、ええと。頭の中がぐちゃぐちゃで、よく思い出せない」

魔王「なにがあったんだっけ」





魔王「そうだ。勇者くんは?神官と戦士殿がいるということは、勇者くんも来ているのだろう?」

戦士「……」

神官「……えと」

魔女「……」

竜人「勇者様は」

魔王「?」

竜人「……っ」

魔王「…………?」





魔王「え?」





魔王「…………なんだ?みんなして黙り込んで……」

魔女「……」

神官「……」グス

戦士「……」

竜人「……」

魔王「はは……。まるで……勇者くんが……死んじゃったみたいな、顔してる」

魔王「………………」

神官「ゆっ……勇者様、は…………勇者様はぁ……っ」






魔王「え…………?」






* * *



王国暦×××年

第――代目国王、神法により即位す。

また同日、

神に選ばれし勇者XX、神の御許に招かれ、この地を旅立つ。








ザアァァァァァ……

   ザアアァァ……



魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「ひどいよ」

魔王「…………」



ザアアァァァァァァ……

   ザアァァァ…………
   





―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
―――――


一カ月後


太陽の国 王都 宮殿


神官「……それにしても」

戦士「まさか旅人が王子だったとは……世の中わからんものだ」

王子「はは。すまないね」

竜人「どうしてあんな格好と……えっと、態度を?」

王子「家出同然で旅に出たとき、騎士団の追跡がうざったくてね。髪型を変えても、服装を変えても必ず私だってばれてしまうから、
   いっそ度肝を抜くような変装をしてやろうと思ったら、ああなったんだ」
   
魔女「度肝抜きすぎ」

王子「凝り性だから化粧も服装も態度も口調も全部変えた。
   王族としてきちんとした身なり立ち振る舞いをずっとしてきた自分にとっては、結構楽しかったけれどね。
   いまも気を抜くとオネエ言葉がでちゃうわぁ~」
   
仮面「なんだこいつ……」

姫「もう。お兄様、今日就任式と、その後パレードがあるのよ?ちゃんと自覚持ってるの?」

王子「勿論持ってるさ。ただ政治に関しては僕も素人同然だからね、努力はするけど手助けしてくれよ、我が妹」

姫「しょうがないわね……お兄様がきちんとした王様になるまでは、手伝ってあげるわ」






姫「ねえ、どうして家を出たの?私……寂しかったわ」

王子「うん。すまない。実を言うと……王位を継ぎたくなかったんだ。
   私が旅先で失踪すれば、王位継承権は必然的に君に移る……正直、私より君の方が向いていると思うんだよね」

神官「なんか仮面さんと似てますね」

仮面「やめろこんな奴といっしょにするな」

王子「まあそんなことを薄ら考えながら根なし草の生活をしていた……それなりに気にいっていたんだよ。
   父は次の王になる私に、自分と同じような考えを植え付けようとするのに必死だった。意識的にか無意識的なのかは分からないけれど」
   
王子「そんな風に何かを押し付けられて生きてくのは苦しかったし、自分が何なのか分からなくなっていた。この宮殿にいるときは」

姫「…………そんなこと考えてたなんて、知らなかった」

王子「君は私より強かった。あの父のそばにいても、自分をしっかり持っていたから。だから向いているって言ったんだ。
   旅に出て、自由に生きてると、型に嵌められて埋没した自分自身を少しずつ解放していってるような気がした」
   
王子「このまま、生きていくのもいいと思った」

王子「でもそこで竜人と魔女にあの話を聞かされたんだ」

王子「私が自由に生きていく裏で、苦しんでいる人がいる。見ないフリして逃げてた事実を目の前に叩きつけられたんだ。
   もう逃げていられないと思って、腹を括ったよ」
   





姫「私は、私よりお兄様の方が王様に向いていると思います。
  そんな風に色んなことを考えられる繊細な心をもったお兄様の方が、よい政治を行えると思うの」
  
王子「ありがとう。精進するよ。……もう逃げない。自分からも、国からも」




竜人「あなたが旅人として魔王城に漂流してきた時。魔王様が忘却呪文を施したにも関わらず、記憶を思い出したのは
   宝物庫から盗んだ、忘却呪文を跳ね返すという『忘れじの鏡』のせいですね?」
   
王子「鏡?ああ……あれそんな名前だったんだ?鏡がほしかったから適当に取ってきたんだけど」

神官「えええ……」

戦士「それからその左目の泣きぼくろと首元の傷……俺たちがお主に会ったとき、気づかなかったのは、お主が化粧をしていたからか」
   
王子「まあね。首まで化粧しないと、顔と首の色が違ってしまうじゃないか?常識だよね」

神官「そうでしょうか……」

魔女「金髪碧眼の時点でちょっとは気をとめればよかったのかもしれないけど……それ以上にインパクトありすぎてありすぎて」

王子「あっはっは」

魔女「確かにこうして見るとイケメンだけどさー。あんなの気づかないよ。まったく」







竜人「雪の国で、あなたの宿のシャワールームを開けてしまったときがありましたね」

王子「やだーもう。恥ずかしっ!エッチ!」

姫「お兄様」

王子「すみません」

竜人「あのときは『この世で最も汚いものを見てしまった…』と思ってすぐに記憶から抹消したのですけど」

王子「ひどくない?」

竜人「思えば、何か引っかかるところがありました……きっと、泣きぼくろと首の傷をそのとき視界に入れてたからですね」

魔女「ああ。確かに……あったかも」

竜人「でも、まあ、あのとき魔女があなたからもらった顔パックが後のち役に立ったから、よかったですけど」

魔女「王子の居場所を特定するための材料としてね」





仮面「しかし、お前らほんとあのときギリギリだったな。よく間に合ったもんだぜ」

竜人「ああ。あれは本当にギリッギリでしたね」

魔女「本当は間に合わなかったはずなんだよね。予定では、えーと。
   処刑宣告から3日目の正午、つまり処刑が早まる前の本来の時間ギリギリに王都に到着することになってたんだもん」

竜人「太陽の国→星の都→王子拾って→雪の首都→太陽の王都 で、全部で30時間かかる計算でしたから」

神官「じゃあ、どうして?転移魔法は使えなかったんですよね?」

魔女「王子が雪の国の認定書を取ってきてくれてたからねー」

戦士「ほう?」

王子「竜人と魔女から話を聞いたあと、私は雪の国を旅立ったんだ。いろいろ準備しなくちゃいけないことあったし、国王になるための後ろ盾も必要だったし。
   でもその後……しばらくして、勇者が処刑されるとの噂が耳に入った」
   
王子「父が嗅ぎつけたんだと思った。当然認定書も消されてるはず――だからまた取りに行ったんだ。
   でも馬で走るとどう頑張っても星の都に行った後、太陽の国まで時間内に辿りつけない。
   どうしたもんかと思いながら馬を走らせてた時に、大きな竜が飛んでくるのが目に入った」
   
王子「正直ちびったよね」

姫「お兄様」

王子「はい」






竜人「私たちが無事に星の国の認定書を手にしたあと、星の国と雪の国の中継地点で王子と合流しました。
   それから王子が認定書もう一枚持っていることが分かったので、すぐに王都に引き返したんです」
   
魔女「処刑は次の日のはずだったからさ、一日休んで転移魔法でぴゅって行っちゃおうって考えたんだけど。
   王子が絶対王様は処刑を早めるはずだから急いだ方がいいって言うからさ」
   
仮面「さすが親子だな。あたってるじゃねーの」

王子「こういうときの勘はあたるからね」

竜人「それから死に物狂いで飛びました。で、なんとか王都に辿りつけたってことです。
   でももし王子が星の国の認定書をもらっていなかったら、確実に間に合いませんでしたね」

神官「ほえー……ギリギリでしたね」

王子「もう少し……早く、私も動いていれば、未来も違ったのだろうけどね」

王子「すまない。この通りだ」

戦士「……いや、お主はよくやってくれたと思ってる。それにあいつは、自分でああなることを選んだんだ。
   後悔はしてないだろうさ」

神官「……はい、私もそう思います。きっと、今も神様の近くで……私たちを見守っていてくれているはずです」


コンコン


騎士「失礼します。そろそろ……」

王子「もう時間か」





王子「さて。これから私は就任式だ。では行ってくるよ」

竜人「はい。私たちもぜひ見させてもらいますよ」

魔女「パレードもね」

仮面「……あいつはどこ行った?あのちびっこ魔王」

魔女「…………多分、お墓かな」

竜人「迎えに行ってみます。転移魔法で」


王子「そういえばさっき、旅人としての私は変装だと言ったけど、何から何まで嘘じゃないんだ」ガタッ

神官「へ?」

王子「男も女も愛することができる、いわゆるバイというものだね」

姫「お兄様」

王子「今のは普通の発言だろ?」





王子「ということで、私は男も女も人も魔族も、自国民もそれ以外も愛するよ。そんな政治を行いたいと思っている」

姫「なにを言いだすかと思えば」

王子「この国も、あの勇者に託されたようなものだからね。やるからには半端な政治はしないつもりだ」

魔女「期待してるよ、王子様」

竜人「……ええ」

神官「できますよ。きっと」

戦士「ああ。俺たちだって、何かできることがあればすぐに手を貸す」

王子「……ありがとう。じゃあ行ってくるよ」


バタン



小さな村


ザアアァァァァ……
  ザアアアアァァァァ……


『勇者XX ここに眠る』


魔王「眠る、か……」

魔王「みんなが言うには、勇者くんの体は光に包まれて消えてしまったらしい」

魔王「ならばこのお墓の下にはなにも埋まっていないのだろうな」



魔王「……」

魔王「……」

魔王「風が気持ちいいな。勇者くん」

魔王「君の育った村を初めて見た…… 小さいけれど、いいところだ」

魔王「風車があるんだな」








ザアァァァ……


魔王「風の音を聞いてると、いろいろ思い出すよ」

魔王「君と出会ったときのこと。一緒にご飯食べたこと。夕焼けの中を二人で飛んだこと」

魔王「絵本を読んでくれたこと……頭をなででくれたこと……」

魔王「雪を見せてくれるって言ってくれたこと……」ゴシゴシ

魔王「約束したのに……」

魔王「勇者くんのばか」





魔王「……」ゴシゴシ

魔王「……泣いてないよ」

魔王「君が変えてくれた世界に、君がくれた命。どちらも大切にするから」

魔王「いつか、また。どこかで会おうね」

魔王「そのときは覚えていてくれ。私は……まだほんのちょっとだけ、怒っているんだぞ」

魔王「…………」



シュン


竜人「……魔王様。王子の就任式とパレード、そろそろ始まりますよ」

魔女「いこ……」

魔王「……うん」




魔王「勇者くん」

魔王「ごめんね」

魔王「…………ありがとう」

魔王「……じゃあね。また来るね」


タッタッタ……




魔王(もう泣かない)

魔王(泣いてるひまなんてない)

魔王(それに……絶対またいつか、会えるって信じてるから)

魔王(いつか、なんでもないような顔して……「元気だったか」とかなんとか言って)

魔王(私が怒ったら、いつもみたいに「ごめんって」って言って笑いながら謝るに違いない)

魔王(そしたら……許してあげるよ。約束破ったことも、勝手に死んじゃったことも……だから)

魔王(………………)

魔王(ずっと信じてる。また会えるって)

魔王(ずっと……)



魔王「いつまでだって……待ってるよ、勇者くん」




おわり






















時の女神「あら」

時の女神「なんでしょう。これ、『おわり』?」

時の女神「こんなところにおいたら邪魔です。えい」


おわり 「あっちに蹴っちゃいましょう」ドカッ

わり 「えいえい」バシッ

り 「よいしょ!」ゴスッ


女神「ふう」


!?

…!!



女神「え?」

女神「だってまだ、終わりじゃないですよ」

女神「むしろ始まりです」

女神「なにがなんだかわからないって感じですか」

女神「ですよね」

女神「じゃあ、少しだけ時間を巻き戻しましょうか」

女神「命?代償? いえいえ、私は女神なのでいいんですよ。自由自在に過去未来見れますから」

女神「では時の歯車をまわして……」カラカラ






* * *




勇者「さようなら。女神様」

女神「……さようなら、勇者」




スウゥ…………


………





女神「…………」

女神「…………あら……お客さんなんて珍しい」

??「こんにちは」


まさにメタな存在だなおい





女神「あなたは……先代の勇者ですね。どうやってここに来れたのですか?」

先代勇者「さあ。自分でもよく分からないよ」

女神「そうですか」

先代勇者「いまのが今の時代の勇者だよね」

女神「ええ。時を巻き戻した代償として、消えてしまいましたけれど」

先代勇者「……」


先代勇者「知ってる?先代の魔王と勇者は、相手にできるだけの苦痛を味あわせて殺したかったから、ほとんど剣術で闘ったんだ。
   魔力を使ったのは、せいぜい己の身の治療のみ」
   
先代勇者「だから二人ともほとんど魔力を残して死んだんだ」

女神「ええ。見てましたから」

先代勇者「先代魔王……あいつの魔力は、いまの魔王の命を救ってたね」

先代勇者「はい。これ使ってよ。さっきの彼、助けてあげて」

女神「魔力、ですか。でもこれは契約なのです。魔力ではだめなのです……命でなければ」

先代勇者「意外と面倒くさいんだね」







先代勇者「魔力ある者にとって、魔力の枯渇はすなわち死を意味する。ってことは、魔力=命ってことなんじゃないの?」

女神「屁理屈です」

先代勇者「君だって、彼に生きてほしいくせに」

女神「見ていて飽きませんからね」

先代勇者「頼むよ。先代勇者として、世界を無茶苦茶にした功績を称えてよ」

女神「意味が分かりません」

先代勇者「……先代勇者が成し遂げられなかったことを、やってのけたんだ。彼にはご褒美が必要なんじゃないの?
   ほら、受け取っちゃいなよ。ほらほら」
   
女神「もう…………分かりました。一応理屈が通っているってことで、大目に見ましょう」

先代勇者「やったね」

女神「ただし、あなたの魔力で購われるのは、彼の命の半分だけですね。結構消費してるじゃないですか」

先代勇者「そう?ごめんごめん。ま、命があるだけいいよね」






女神「でも……不思議ですね。私が見ていた未来に、あなたがここに来るルートはなかったのですけど」

先代勇者「神様だって予測できないことのひとつやふたつ、この世には起こるんじゃないかな。
     それに、ほら、勇者だし。仕方ないよ。嬉しいサプライズでしょ?」

女神「まあ。本音を言えば……そうなりますね」ニコ




女神「では、もう一度彼の魂を呼び戻しますよ。あなたの魔力を使ってしまえば、あなたは既にここに存在できなくなります。
   よろしいのですね?」
   
先代勇者「よろしいよ。覚悟はできてる」

女神「そうですか。…………では」

女神「……あなたも、長い間お疲れ様でした。どうか向こうの世界ではお幸せに」

先代勇者「……」






* * *


少年「…………んあ」パチ




農夫「お!起きたか坊主!!」

少年「え……だれだ?ここは……?」

農夫「オメーよお、あの時の神殿の前で倒れてたんだっぺ。ずーっと眠り続けてっから、死んだかと思ったっぺよ」

少年「時の神殿?……あれ!?なんで俺、生きてんだ……?」

農夫「でーじょうぶか?あの神殿は危険だっつーことで有名なのよ。坊主まさか入ったわけじゃねーな?」

農夫「ま、顔でも洗ってきな。扉を出てすぐに泉があるからよ」

少年「え、え?あ、……おう」






少年「………………なんっじゃこりゃあああああああああああああ!!!」

農夫「うおおお!? どーした坊主!?熊か!?それとも猪か!?!?」

少年「お、お、俺……なんで子どもになってんだ!?」

農夫「なあに言ってんだ?オメーもとから子どもだっぺ」

少年「違うっぺ!!こんなんじゃなかった!!絶対!!」

農夫「そういやオメーの名前まだ聞いてなかったな。なんつーんだ?」

少年「俺は……!!」





* * *


ピューピュー!

新たな太陽の王、ばんざーい! ばんざーい!


王子「ありがとう!」


がやがや わいわい



竜人「華々しいパレードですね」

魔女「わああ、すごーい」

魔王「うん。それにすごい人だ……」






魔王「あ。あそこにいるのは、神官と戦士殿だ」

魔女「本当だ。話しにいこうよー」

竜人「……ん?誰かほかの方と話し中のようですね」




神官「……う、うぅぅ、本当に……勇者様そっくり……」

戦士「見れば見るほど似てるな……まさか隠し子か……?いやまさかな」

少年「だーかーら!!俺がそうだって言ってるだろ!?」



魔王「……………………」

魔王「…………ゆ」



竜人「なんだかあの少年、彼に……すごく似てますね。そんなはずないのに」

魔女「変だね。あたしもすっごい見える。ちょっと目が疲れてるのかも」

竜人「あっ、魔王様!?」






少年「いい加減信じろって!!だからな、何度も言ってるけど――」

神官「ええ。あなたが勇者様に憧れる気持ちも分かりますよ。本当に……すごい方でした……うぅっ」

戦士「ところでお父さんかお母さんはどこにいるんだ?迷子か?ん?」

少年「お前ら……いい加減にしろよ、ほんっ―――」

魔王「勇者くん!!!!!」

少年「うわっ!?!?」


ドサッ!


魔王「勇者くん……勇者くん勇者くん勇者くん勇者くんっ……わぁぁぁぁぁぁん!!ばか!ばかばかばか!!」

少年「ま……魔王? よかった、無事だったのか」

魔王「無事だったのか、じゃない!!それは……私の台詞だっ……ばか!!!」






勇者「そ、そんな泣くなよ。ごめんって本当」

魔王「うるさい泣いてない、よだれだっ!」

勇者「よだれの方がアレじゃない!?」

魔王「私が……私がどんな気持ちで一カ月過ごしたと……っいままでどこにいたんだ!言え!言えったら!」

勇者「わーーーっ 一旦落ち着け!!深呼吸しよう!なっ!!」


神官「魔王さん……え!?ほんとうにこの子勇者様なんですか!?」

勇者「だから何度もそう言ってんだろ」

戦士「お前は時を巻き戻した代償で命をとられたのではなかったのか!?」

勇者「なんか知らないんだけど、時の神殿の入り口で倒れてたらしいんだ。
   何故子どもの姿に若返っているのかも全然分からん」
   
魔女「君、本当に勇者なの? 生きてたんだ……よかった!!!!今日は宴会だーーーっ!!!」

竜人「勇者様!? まさか、……え!?本当に!?ご……ご無事で何よりですが……え、本当に?」

勇者「こんなナリだが正真正銘勇者だ」

戦士「本当に無事で何よりだが……まずいな、葬儀もやったし墓も建ててしまった」

勇者「墓!?俺の墓があるの!?」







勇者「あー。にしても、みんな無事でよかった……俺もここに来るまで気が気でなかったんだ」

魔王「……勇者くんも私と同じくらいの背の高さになったな」

勇者「ぐ……言っておくが、すぐ元の姿くらいに大きくなってやるからな」

魔王「どうかな。私の方が先に大きくなるかも」

勇者「なんだと!」


戦士「どちらも今は子どもの姿なのだから、喧嘩はやめろ」ヒョイ

勇者「う、うわ。離せよ。子ども扱いするな。中身は普通に俺のままだからな!?」

魔王「わっ……」

神官「勇者様が死んで悲しんだ方、たくさんいたんですよ。皆さんに顔を見せに行きましょう!」

勇者「このまま!?」

魔女「ほらほら、いこーよ!!」








数か月後







魔王城



魔王「……では新たな太陽の国国王就任と、『ようこそ人間たち魔王城へ記念日』を祝して」

勇者「これからの人と魔族の明るい未来を願って!」

「「「「かんぱーい!!!」」」



王子「ここが魔王城か。なかなかいいところだね」

魔王「君の国の歴史ある宮殿には及ばない。しかし、あんなに探していた王子が、まさかあのとき海から助けた漂流者だったとは」

王子「そうだ、あのときは命を救ってくれてありがとう」

魔王「前は泣きぼくろも傷跡もなかった気がするのだが?」

王子「それは、あれさ。ウォータープルーフの化粧品を使っていたからね」

魔王「うぉーたーぷる…… え?」

勇者「なあ、あんた……いや、ええっと。貴方様、……王子様?国王様?」

王子「そんなに畏まらなくていいさ。今まで通りの態度で頼む」

勇者「なんか慣れないんだよな。そういうことなら俺も普通に話すけど」

王子「なにかさっき言いかけた?」

勇者「ああ。あんた、雪の女王に正体ばれてたろ。俺、あの人にまぎらわしいヒントもらったぞ」

王子「そうなんだ。以前雪の国をぶらついているときにバッタリ顔を合わせてしまってね。1秒で正体が露呈してしまったよ。
   まあ、おもしろいからという理由で見逃してもらえたけどね」

勇者「女王も相当な変わり者だな」






竜人「今日は公務はお休みですか?王に就任してからお忙しいと聞いてましたが」

王子「忙しいさ。文字通り忙殺されそうだ」

姫「今まで王としての勉強を怠けてフラフラしていたのだから、自業自得よ」

王子「ひどい妹君だろう?全く。 でも勇者と魔王も相当多忙だそうじゃないか?」

勇者「まあな。あんたが王になってくれて、魔族を脅かす直接的な要因はなくなったが……それだけで終わりってわけにはいかないからな」

魔王「うん、魔族と人の相互理解がないと、いつなんどきまた衝突が起きないとも限らない。
   だからそのためにお互い種族を越えて手を取り合えるように、いろいろと取り図っている最中だ。私と勇者くんで」
   
魔女「そーそー、俺たちの戦いはまだこれからだぜっ!って感じかな! 神法は成立させられたし、次の目標はー……」

竜人「魔族と人の本当の意味での共存関係を築くこと、ですね。……って、もう一瓶空けたんですか、魔女」

勇者「まだまだ時間はかかりそうだけどな。王都はまだしも、地方の田舎へは今回俺たちはまだ何もアプローチしてないし。
   ……ま、焦っても仕方ない。じっくりやってくさ」
   
王子「悪いな、私もそちらに力を貸せたらいいのだが。法の整備だけやって、地道な仕事は君たちに押し付けてしまって」

魔王「なにを言う。十分だ。本当に王子には感謝しているんだ」


王子「まあ、私は大変だとは言っても、彼らがいてくれるおかげで随分助かっているよ」

戦士「久しぶりだな、勇者。まだ子どもの姿のままか。ははは、ちんまいな」

神官「お久しぶりです。ぷふっ」

勇者「笑うな!抱き上げるな!ちくしょーほんっと数年後覚えてろよお前ら!!」







魔女「戦士と神官は勇者についていかなかったんだね」

仮面「オッサンはあれだろ? 近衛騎士。ハッハッハ!騎士ってガラかぁ?あんた」

戦士「うるさいわ」

王子「私が彼に頼んだんだ。就任の仕方が仕方だったから、国の内部もごたごたしててね。信頼に足る部下の一人くらい、身近にほしかったのさ」

そばかす「あ。ちなみに僕も近衛騎士に昇格しましたよ!やった!」

魔女「だれ?君」

そばかす「ひどい!!何回か会ってるじゃないですかぁぁぁ」


魔王「神官は、神殿を抜けるのだったな」

勇者「意外だったな、それ。本当にいいのか?神官長昇格への誘いが来てるんだろ?」

神官「ええ。もう少ししたら本格的に神官をやめます。……歴史の先生になろうと思ってるんです!えへへ」

キマイラ「ほうほう。教師ですかな。教職はいいものですよ」

神官「はい……私、今回のことで歴史教育の重要さを知りました。私たちが魔族への偏見を持ってたのって、
   何も知らない白紙の状態の子どもの心に、周りの大人たちのそういう魔族への考えが植え付けられたから、というのもあると思うんです」
   
盗賊1「やべえ……話が難しすぎてついていけねえ」

盗賊2「俺もだ」

神官「えっと、だから!もちろん過去あった事件を知識として学ぶのは大事だと思いますが歴史の不確かさをいつも頭の片隅に置いて自分で正誤を判断する力をいまの子どもたちに身につけてほしいと私は!!!」

仮面「おい盗賊らが泡吹いて倒れたぞ!!嬢ちゃん、難しい話をこいつらにこれ以上聞かせないでやってくれ!!」







がやがやがやがや がやがやがやがや

女主人「あ……あんた!!あのときの……!!よかった、生きてたんだね!!」

ケット・シー「あなた……まさか、森で会った女の子……?うそっ……!また会えるなんて信じられない!」


キマイラ「教師たる者うんぬんかんぬん…」

神官「教育とはうんぬんかんぬん…」

戦士「俺も頭痛くなってきた」


司書「じゃああなたがあの本を書いた魔族の方なんですね!はじめまして。王国で司書をやっております」

本屋「あんたのおかげでひと儲けさせてもらったよ。ヒッヒッヒ」

グリフォン「え、あ、ああ……はは、なんだか照れるね」


魚人「よおよお!お前さんが新しい王さまなんだってぇー!?いいガタイしてんじゃねえの!!呑み比べすっかあ!?」

ハーピー「ちょっ……魚人さん!その方えらい人なんだから勢いで絡むのやめた方が」

王子「いいよ。よっしゃ樽ごともってきてくれ」

姫「お兄様明日も公務なんだからやめてちょうだい!!」





仮面「……」

勇者「よお」

仮面「話しかけんなチビ」

勇者「……」ボグッ

仮面「いってえええ!脛蹴るのやめろマジで!!俺の扱いだんだんこんな感じになってるけどそろそろやめてくれ!!」

勇者「ごめんごめん」

仮面「チッ 何の用だよ……チッ」

勇者「2回も舌打ちせんでも……。あー……前に雪の国の、森の遺跡で話したことがあっただろ?あのことについて、俺なりにいろいろ考えたんだ」

仮面「あ?」

勇者「俺が勇者になるのに抵抗はなかったのか、とかそんな話だよ」

仮面「ああ……それが?」

勇者「やっぱり、何度考えても、俺は勇者になることに対して全然戸惑いも躊躇もなかったんだ。
   そういう意味ではお前とも王子とも真逆なんだよな」
   
勇者「……でもさ!多分、俺が勇者という身分だろうがそうじゃなかろうが……
   例え魔法が使えなくて、剣も全然できなくて、勉強も……勉強は今もあんまり得意じゃないが、頭もよくないとして」
   
勇者「それでも、そんな風に生まれてたとしても。何の力もないただの一般人だったとしても、俺は今と同じことをしていたと思う」





仮面「んなことできるわけねーだろ。なんの力もなかったら、認定書をもらうことも王子を探すこともできなかっただろうが」

勇者「どんなに不可能に思えてもやったよ。やらずにはいられないと思う。俺は思いついたらすぐに行動しないと死ぬ男だからな」

仮面「恐ろしい持病だな」

勇者「だって俺は俺なんだ。力や剣や魔法があってもなくても、俺は俺だ。勇者だろうがそうじゃなかろうが、俺は俺!」

勇者「だからお前が、仮面被った変な男だろうが、元貴族だろうが、盗賊団のリーダーだろうが、お前がお前であるってことには変わりない」

勇者「俺やお前だけじゃない、この世界の誰もがそうなんだよ。多分。本当に大事なのは身分でも種族でも肩書でもなんでもない、自分が自分をどう捉えるかだ。
   だから未来に迷ったお前や王子だって、迷わなかった俺だって、どっちが間違いとかないんだ」

勇者「どっちも正解なんだから」
   
仮面「……へっ。勇者様の有り難いお言葉どうもありがとうございますっと」

勇者「おい、真剣に話したんだから茶化すなよな……。俺が恥ずかしいだろうが」




魔王「…………」

魔女「魔王様なにやってんのー!?」

魔王「わっ……! ばか、静かに!」

魔女「なになになに!?!?あーー勇者と仮面君じゃん!!おっす!」

魔王「堂々と出て行くなっ」







仮面「なにやってんだお前ら」

勇者「いたのか?」

魔女「うん!あたしはさっき、そこの影に身を潜めてた魔王様の後ろから来たばっかだけどねー」

魔王「魔女……わざとか?」

魔女「え?言っちゃだめだった?」

魔王「いや……盗み聞きをしていたわけでは……これはその……偶然。……すまない」

勇者「いるなら出てきてくれればよかったのに」



魔女「あー そういえば言いたかったことあるんだけどさ。君のあの耳飾り、お母さんのじゃないの?」

仮面「ブッフ!!!ガハッオゥエッ!!ゲホゲホ!!」

魔王「大丈夫か」

仮面「な、なにを……ちげえ、あれはいざとなったら質屋にいれようと……」

魔女「会いたいと思ってるなら、会いにいけばいーじゃん?」





仮面「……簡単に言うなよ、一度殺されかけた女だぞ? なんで俺が……」

魔女「じゃあなんで耳飾りをずっと持ってるのかなー。ま、別にどっちでもいいけどね。
   ただ一生なんて短いんだから、会いたいなら早く会いに行った方がいいと思うよ、あたしは」
   
仮面「……チッ 余計のお世話だっつの。酔いが醒めちまった、おーーい!酒どこだ酒」

魔女「あ。逃げた。ていうかあたしもお酒おかわり」

魔王「ほどほどにしておけ、魔女……って聞いてないな」

勇者「ははは、あいつらも変わらないな。そりゃそうか。まだ出会ってそれほど時間も経ってないんだよな。
   なんだか初めて魔王城に来た時から随分時が過ぎたように感じるが……まだ1年も経ってないんだった」
   
魔王「不思議だ。ずっと前からここにいるみんなとは知り合いだった気がする」

勇者「俺も」

魔王「……さっきの話だが」

勇者「む、蒸し返すのかよ。結構恥ずかしいこと言ってた気がするから流してくれよ」

魔王「もし、勇者くんが勇者くんでなかったとして……私が魔王でなかったとしても……」









魔王「それでもきっと、私は勇者くんのことを好きになってたと、おも……っ」

魔王「いや……もちろん、仲間として!」

魔王「友人として、という意味だけども……!」

勇者「お、おう!?」

魔王「えっと、だから……えー……なにを言いたいのか忘れてしまったな」

勇者「しっかりしろ」

魔王「……まあいいか」

勇者「よくねえよ、俺が気になるだろ!なに諦めてんだ、がんばれよ!」

魔王「いいじゃないか。思いだしたらすぐに言う」

魔王「だってこれから、ずっと一緒にいられるんだから」

勇者「……それもそう……なのか?」






姫「可愛らしいですね」

王子「あの二人はいいコンビになるだろうね」

神官「魔王と勇者のコンビって、なんですかそれ。最強じゃないですか」

戦士「こうして見ていると、ただの子ども二人なんだがなぁ」

魔女「結局、なんで勇者があの姿になっちゃったのかわかんないままだよね」

仮面「まあ、姿が元のままじゃあ勇者が変態ロリコン野郎になっちまうからよかったんじゃねえの」

姫「ロ……なにを仰ってるの、あなた」

そばかす「同い年、同じ日に生まれたそうじゃないですか?あの二人。運命ですねえ」

竜人「ハァァァ……魔王様を嫁にもらいたくば私からの4つの試練をクリアして頂かなくてはなりませんね……」バキャッ

魔女「竜人、グラスグラス。割っちゃってるから」

仮面「嫁って気早すぎだろオメー」




* * *


あれから数年の月日が過ぎ去った。

王子は時々いまだ姫様にひっぱたかれながらも、順調に国王の風格を身につけつつある。

もともと素養はあったのだろう、外交でも内政でもすぐに辣腕をふるい始めた。

ただ時々旅人時代の話し方が出てきそうになるのを抑えるのに苦労しているらしい。やめてくれ、マジで。


元国王――王子と姫様の父は隠居して、今は王都から離れた東の湖畔地方にて、近しい家臣とともに静かに暮らしているようだ。

王子と姫様はときどき彼の元を訪れるそうだ。権力に対しての野心や固執は見られないらしい。

毒気が抜けたように穏やかになったと二人から聞いた。


神官は教師の免許をとって、いまは王都の初等学院にて教鞭をとっている。

少し緊張するがやりがいのある仕事だと言って笑っていた。教職も板についてきたようだ。


戦士は宮殿にて毎日王子の近くで近衛騎士として働いている。

王都から離れることが基本的になくなったので、都に住んでいる娘と妻に毎日会えるのは嬉しいと親ばか丸出しで言っていた。





女主人はいままで通り昼も夜もあそこで店を開いている。

本屋の爺さんも、司書も、歴史研究家も、冒険家も、姫様も、近衛騎士に昇格したそばかすの青年も、

いつも通りの日常に戻った。

ただ、俺たちが結成した反戦同盟はまだ解散しちゃいない。

集まって何かをするということはとりあえず今のところないが、各々魔族と人の歩み寄りのために活動をしてくれている。

本当に有り難く、頼りがいのある仲間たちだ。


仮面のあいつと、双子の盗賊は、驚くべきことに盗賊業から足を洗った。

美術鑑定師として店を構えていると聞いたときはまさに青天の霹靂だった。

なんでも美術品を盗品か本物かチェックしたり、闇市に流れた美術品を探し出したりと、そういう仕事を専門に請け負っているらしい。

……得意分野は仕事として生かすべきだよな。うん。

店がもっと大きくなったら、実家に行って母と兄に会うつもりだと、あいつは俺に話した。

ちなみに実際はもっと冗長で言い訳めいて回りくどい言い方だった。もう面倒だから素直になれよ……。






ここ数年でいろいろ変わったことがある。

魔王の発案で、魔王城と王都の中間地点に、魔族と人のどちらも住める街をつくった。

花が年中咲いていて、住民ものどかで仲のいい、いい町だ。

それから魔王城の結界は消えた。もう存在を隠す必要もないからな。

あの島には毎日船で人々が観光に訪れている。珍しい果物や美しい海、魔族独特の文化が人気を呼んでいるらしい。


竜人と魔女は、魔王城や、魔族と人の住む共存都市において細々した仕事をこなしてくれている。

魔女は観光PRをするのが楽しいと言って、意気込んで作ったらしいパンフレットを見せてくれたが……うーん。

デザインは向いてないみたいだ。ただそれ以外の仕事についてはかなり実力を発揮してくれている。

竜人はなんでもそつなくこなしていて、本当に安心できるというか、頼れる……のはありがたいのだが、

俺に会うたびに『魔王様に手ぇだしてねぇだろうな?』という無言の圧力をかけてくるのが怖い。とても怖い。

だすか馬鹿。親ばかも大概にしろ。親でもないしな。


まあ、癖はあるが、なんだかんだ言って、信頼できるいい奴らだ。

……世界は変わろうとしている。でもまだその途中なんだ。完全には変わっていない。

だから今でも魔族と人の衝突は、規模は小さいといえどどこかで必ず起こる。

俺と魔王だけじゃあカバーできないところも、竜人と魔女が手助けしてくれるからかなり助かっている。





そうそう、俺の背丈もやっと以前くらいの高さの戻った。

これで誰にもちびっこだのチビスケだのと馬鹿にされずに済む。全くなんだったんだ、あれは?

もう時の女神に会うことはできない。あの剣はなくなってしまった。

俺を保護してくれたあの農夫にも聞いたが、俺のそばにあのとき剣など落ちてなかったらしい。

だから何故魔王も俺も生きているのか、真相は永遠に闇の中だ。

まあそのうち分かる時がくるだろうと楽観的に考えている。



魔王も出会ったときと比べると随分成長した。

俺の肩と自分の頭のてっぺんに手のひらを合わせて比べては、満足げに笑う。

もうそんなことを20回くらいされた。どんだけ背が伸びたことが嬉しいんだよ。


ああ、俺と魔王がいま何をしているのかを書いていなかった。

俺たちは……―――。






* * *


雪の国



絵描きの青年「…………。…………ふぅ」

絵描き「あとは灰色と空色で……」

魔王「……」ジッ

絵描き「うわっ!? き……君、いつから僕の背後に!?」

魔王「こんな雪が降り積もっている中でよく絵が描けるなと思って。失礼した」

絵描き「あ、ああ……そうだね。正直手が悴んで描くのがつらいよ」

絵描き「でもこの景色を見ていたらどうしても今描きたくなって……気づいたら外にキャンパスと絵具をもって出てきていた」

絵描き「雪って、色がないから風景画の題材としてどうしても海とか空より人気がないんだけど、僕はとても好きなんだ」

絵描き「雪の降らない土地で育ったからかな……って、僕しゃべりすぎだな。ごめんごめん」

魔王「私もそうだ。初めて雪を見たとき、びっくりした。世界が死んだのかと思った」

絵描き「……。すごい捉え方だね。でも分かるよ。一面真っ白な雪に覆われた風景って、きれいだけど少し不気味だね」





魔王「少し想像していたのと違ったから怖かった。一人でこの国に来ていたら余計不安だったろう」

絵描き「誰かとこの国に?」

魔王「ああ」

絵描き「……あれ。もしかして、君って魔族かい?」

魔王「そうだ」

絵描き「ああ、そうなんだ。あんまり魔族と会ったことがないから分からなかったよ」

魔王「……くしゅっ」

絵描き「大丈夫?そういえば、何故君は外に?」

魔王「連れを待っていたんだが……遅いな。まったく、昔からそうなんだ」

魔王「もう辛抱ならない。では、私は行く。ぜひその絵を完成させてくれ。楽しみにしてる」

絵描き「あ……よかったら連れの人を待つ間に、どこかでお茶でも……! って行っちゃった……」



花売り「振られたね、おにーさん」

服屋「どんまい、兄ちゃん」

絵描き「うぐ……、見てたのか」





花売り「あんたにゃ高嶺の花ってやつじゃあないの? ずいぶん別嬪のお嬢さんだったじゃない」

絵描き「うるさいな……そういうつもりじゃなくて、ただ僕は魔族の方と異文化交流を図ろうとしてですね。けっしてやましい気持ちは……」

服屋「なんだ、お前ら知らないのか?」

絵描き「へ?」

服屋「さっきの彼女、魔王だぞ」

絵描き「ほあッ!?」

花売り「へえ?あの子がねぇ。噂には聞いてたんだけど、雪の国に来てるっていうのは本当だったんだね」

服屋「だから兄ちゃんには無理無理。高嶺どころか幻の花だよ」

絵描き「ひどい……そこまで言わなくても。ってだから僕は!!」

花売り「ってすると、連れっていうのは……」

服屋「……ああ。そういえば勇者と二人で旅してるんだっけな」

絵描き「……まだ昼だけど、一杯飲み屋でひっかけてこようかな」

花売り「涙ふきなよ。次があるって」





タッタッタッタ…


魔王「勇者くん!」

勇者「……ん!? 魔王? 時間がかかるから宿で待ってろって言っただろ」

魔王「こんなに時間がかかるなんて聞いてなっ、」ズボ

魔王「はぶっ!」ボフン

勇者「おおおい!!どうしたらそんなにきれいに雪道でこけることができるんだよ!!」

魔王「う……顔が冷たいし痛い」

勇者「その異常なまでの運動神経の無さは昔から変わってないな……。よし、雪が積もってたせいで怪我はないな」

魔王「そんなことより、遅いぞ。待ちくたびれてしまったではないか」

勇者「仕方ないだろ。こっちの国の人と話し合いが長引いてさ」

魔王「……」

勇者「ごめんって。睨むな」





勇者「今さっき終わったから戻ろうと思ってたんだよ。お前……まさか外でずっと待ってたわけじゃないよな?」

魔王「そんなことはしてないが?」

勇者「おい、本当だろうな。なんか目が泳いでないか。大体さっきの話し合いに魔王を欠席させたのも、
   こっち来てからお前がくしゃみばっかりしてるから、風邪でも引いたんじゃないかと思ってだな……」
   
魔王「外で待ってなんかない。本当だ」

勇者「そうか、ならいいんだ。外にいる間、なにしてた?」

魔王「雪だるまをつくって、絵を描いてる青年と話をしてた」

勇者「ガッツリ外で待ってんじゃねーか!なにやってんだ!宿にいろっつったろ!!」

魔王「あ……」

勇者「……ハァ、もう宿に帰るぞ。これ以上寒空の下にいたら余計体調崩すだろ。ほら」

魔王「うん」




魔王「勇者くんの手はあったかいな」

勇者「魔王の手が冷たいだけだ」

魔王「ちがう。君が子ども体温なんだ、きっと」

勇者「お前の方が子どもだろ」

魔王「もう背も伸びたし、子どもじゃないぞ。お酒だって飲めるようになったんだから」

勇者「はいはい」

魔王「……。勇……っくしゅ!」

勇者「ほら、やっぱ風邪ひいてるじゃないか」

魔王「…………大体、待たせる君が悪い。全面的に圧倒的に弁明の余地もないほど勇者くんが悪い」

勇者「さすがに言いがかりじゃないか!?」

魔王「いっつも私ばっかり待っている。いい加減待ちくたびれた。疲れた」

勇者「そんな怒るなよ」







魔王「でも、もういいんだ」

勇者「ん?」

魔王「待ちくたびれたなら、私が迎えに行けばいいということにさっき気づいた」

勇者「なんか、それ、俺がかなり情けなくないか」

魔王「いいんだ。私が、早く勇者くんに会いたいだけだから」

魔王「……いや、もちろん仲間としてだぞ。ええと……そうだ、一人より二人の方が戦闘力的な意味で安心だろう。うん」

勇者「魔王一人で大概のことはなんとかなると思うが……」

魔王「とにかく。決めたんだ。勇者くんがどこにいても、どんなに離れていても」


魔王「これからは待ってばかりいないで、迎えに行く。もう私は、城で待つことしかできない子どもじゃないんだ」

魔王「私はもうどこにでも行ける。君が自由にしてくれたんだ。……だから」




魔王「今度は、私が君を迎えに行くよ。勇者くん!」






おわり



今日だけこんなに投下量が多くなってしまってごめんなさい
きりどころがわからなくて

ラスト1枚
http://upup.bz/j/my64589iQtYtgNLDSZFzXj6.jpg

乙でした!

最後まで初心な奴らだ

こんなところにおわりがあるけど邪魔だから片付けておくわ

三ヶ月もお疲れさま
面白かったよ

レスしてくれた方も、最後まで読んでくれた方も、どうも有難うございました。
これで今度こそ終わりです


わかりづらかったところや、王子のパンツの柄など、質問があったらぽやっと答えます
8月から長い間お付き合い頂きありがとうございました。

終わったのか…>1乙ーまた書いてくれよな!!


この瞬間に立ち会えて嬉しい
魔王かわいいよ魔王!

すごく面白かった.ありがとう.乙

乙、すごく面白かったです!
写真は実際に撮ってきたもの?



これで1000スレもいってないとは‥‥
なんてキレイまとめているんだ!

乙でした
すごく面白かったです、終わってしまって少し残念ですがまたいつかどこかで書いてくれたら嬉しいです

 \ 乙 /
    __
   /   /.|
  /   /. |
 /__/./| |__
 |__|/ .| |__| | 
   (゚Д゚,,)| | //
   (/  ヽ) |//
   | ∞ |  /
   \_\/
    U"U ̄

最初からみてたがついに終わったか
本当にお疲れ様

魔王ちゃんのぱんつ……
ぱんつは何色ですか?

>>783
写真はクレジット記載不要のフリーの写真素材サイトから頂いてます。
大体morguefileってとこからです ほかのサイトからもちょろちょろ頂いてます

>>788
魔王らしくあろうと服を黒系で統一してるのでパンツも黒かと思わせて白です


温かいお言葉、本当に感謝です とてもうれしいです。書くのもすごい楽しかった
またいつかなにか書きたいと思ってるのでそのときはよろしくお願いします。

乙!雪慣れしてないとガチでひどい目にあうね。ソースは自分。一月の新潟、普通の靴、消雪パイプ。あとはわかるな?


きれいに終わって本当に読んでて楽しかった

姫のパンツの柄を教えてください

おわりのせいでおわりから後の蛇足感

>>791
誰かに見せるつもりはないのでレースを最低限の装飾としてあしらったシンプルなパンツです

「近世 女性 パンツ」でぐぐったらNO(現代的な意味で)パンツの可能性もでてきて よくわからんかったので
時代背景まる無視しております

二ヵ月半お疲れ様!

次回作も楽しみにしてるけど、次の素案とか過去作とかある?

>>794
次はこれと関連性が限りなく薄い、先代勇者パーティと魔王一族のほのぼの鬱グロ書きたいなと
それ書いたらこのssの続編書いてみたいです。たぶん、魔法が使えなくなったと思ったら世界崩壊の危機訪れてまじやべえって話になるかも

過去作は全然方向性違うんですけど…深夜で書いてたこれが一応そうです
牡丹「あんたの花言葉ってさあ」薔薇「んあ?」

不真面目でわけわからん、多分ラブコメです

>>795
すぐに次を書き始めるなら依頼出さずに誘導してほしいべー

>>796
まだ細かい部分まで考えられてないので、すぐには書きません。ごめんなさい。
勇者「君だけを、百年ずっと待ってたよ」 みたいなタイトルになるかと思われます。上がってたら覗いてみてやってくだしゃあ
でも鬱苦手な方は注意です

>>797
定期的に探してみることにするわ

よかったヽ(;▽;)ノ
最後の蹴るところでびっくりした

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3ヶ月間乙でした!
次回作も期待してます

期間は3ヶ月足らずで、投稿とレス合わせても800行ってないとは思えない密度だった。
2スレ埋まったくらいの量に思えたよ

お疲れさん、面白かった!

>>795

見   て   た   wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

超乙

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楽しみが一個減ったじゃないかどうしてくれる

最高でした乙

>>806そうだそぅだ!もっと続けるんだ!




















御免なさいでしゃばりすぎました乙です

>>807
酉つけてるけど、どこのスレ主か言ってみなさい?

もうすぐhtml化されると思うのでひっそりと宣伝ですが
調子乗ってブログつくったので、暇で暇で仕方ないときにでもよければ見に来てくださいテヘペロ
sora9999.tumblr.com

調子に乗りおったな!
ブックマークしといてやるよ!

おいふざけんなよ
花言葉で腹筋崩壊したじゃねーか!

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