北条加蓮「昔の私へ、贈る言葉」 (24)




――大きくなったわたしへ。



おげんきですか。


わたしはいま、びょういんのベッドでお手がみをかいています。


大きくなったわたしは、きっともうげんきいっぱいで、おそとを走りまわってるとおもいます。


てんてきとか、けんさとか、しないでいい、けんこうな体になってたらうれしいです。

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―――


おかあさんとおとうさんも、おげんきですか。


わたしはすぐにおうちにかえりたくなって、おかあさんをこまらせてしまいます。


おとうさんも、おしごとでまい日たいへんなのに、おみまいにきてくれます。


でも、わたしがわがまま言っても、いつもやさしくあたまをなでてくれます。


だから、大きくなったわたしも、いっぱいいっぱいふたりをなでてあげてください。



―――


アイドルになるゆめ、かなえましたか。


テレビの中でうたってるおねえさんたちは、かわいくて、かっこよくて、げんきいっぱいです。


わたしも早くげんきになって、おねえさんたちみたいにうたってみたいです。おどってみたいです。


おけしょうもべんきょうして、きれいになって、かわいくなりたいです。


早くおとなになりたいな。



―――


お友だちはできましたか。


いまのわたしは、ちょっぴりさみしいです。みんなすぐにたいいんしちゃうから。


だから、大きくなったわたしは、お友だちおもいの子になってたらいいです。


そしたらきっと、さみしくないよね。



―――


かきたいことがいっぱいで、かみがたりません。


かなえたいこと、まだまだたくさんあります。


このお手がみをよんだら、おしえてください。


大きくなったわたしは、すてきな女の子になっていますか。

すきな男の子はできましたか。

まい日がたのしいですか。

じまんのわたしになっていますか。



えがおでいますか。



いろんなことをけいけんして、いまのわたしより、もっともっとすてきなおとなになってたらいいな。


いまのわたしの、なんばいもしあわせでいてください。



いまのわたしより。



―――



―――

――




――子どもの頃使ってたポシェットを部屋で見つけて、懐かしくなって事務所に持ってきた。


中から綺麗に折り畳まれた紙が出てきたのが運の尽き。



「なにこれ。んー……手紙? 『大きくなったわたしへ』――?」



一瞬にして奪い取られた。やられた……!


部屋中追いかけ回したけど、2対1じゃ敵うはずもなく。


世間をなんにも知らなかった頃の私の、恥ずかしい手紙の中身を全部朗読された。


ひどいひどい!


読み上げた張本人は、目尻に涙を浮かべて顔を真っ赤にしながら笑いをこらえてる。


うるさい、なにが『ロックだね』よ。まともにギターも弾けないくせに!



……あぁダメだ、精一杯の悪口も効いてない。ついにソファーに突っ伏して笑い転げだした。あぁもう。


――で? アンタはいつまで私の頭撫でてるつもり?


まるで青い猫型ロボットみたいにあったかーい目で私を見てくる。


アンタのその自慢のぱっつんヘアーもボサボサにしてやるっ。


う、うるさいうるさい、かわいくないっ!


熱を出したみたいに顔が熱い。もはや逃げ出すことしかできない私を誰が責める?



……2人が責める。もう、いつの間にか私が追いかけられる番になってるし!


ま、待った! も、もうヤメにしない?


私もアンタたちもなにも見てない。おーけー?


……その顔絶対分かってないでしょ!


いい? ぜっっったい他の人に見せないでよ? 特に――



がちゃり



あ、おかえり。新しいお仕事?






あああああああダメだってばああああああ!


――は。ははは。あはははは。


もうなにも怖くない。いつか仕返ししてやる。


覚悟してなさいよ……!



「分かった分かった♪ いつかそんな日が来たらいいねー?」

「ふふ、楽しみにしてるね……♪」



にこにこ、にこにこ。ムカつくくらい大好きな笑顔。


つられて、私も笑った。



「――ばーか♪」


同情されるより、腫れ物扱いされるより、声を上げて笑ってくれた方がずっといい。


それだけで救われた気持ちになる。



「わ、笑って悪かったよ加蓮。気、悪くしたか……?」



私の手を引いてここまで連れてきてくれた人が、申し訳なさそうに聞いてきた。



「ううん、もういいよ。はぁ、顔あっつい……ふふふっ」

「そ、そうか?」



うん。笑ってていいよ。私も、昔の私を笑うから。


昔の分も、いっぱいいっぱい笑顔でいるから!


――ね、昔の私。



元気だよ。



お母さんもお父さんも、「いってらっしゃい」って笑顔で送り出してくれる。



なれたよ、アイドル。……ちょっとスレてて、夢を忘れてた時期もあったけどね。



友だちもできた。一生大切にしたいって思える、大好きな友だちが。


素敵な女の子かどうかは……昔の私はどんなふうに思ってたか知らないけど、多分なれてるかな。


好きな男の子……これはまぁ、いいでしょ。アイドルだしね。


「ん? なんだ加蓮」

「んーん、なんでも」


こほん。


――毎日が楽しいかって? そんなの当たり前。楽しくない日なんてないよ。安心してよね。


きっと、アンタが思ってるよりずっとずっと、ずーっと自慢できる私になってるから。



だから、いつも笑顔だよ。


アンタが描いた夢も未来も、きっと実現してみせるから。


大切な人たちに囲まれて、今も幸せいっぱいだけど。


もっともっと幸せになるから。


またいつか、この手紙を見たときに……今よりもっと幸せだって言えるように、頑張るから。


サボらないように、見張っててよね。



昔の私へ。


「――大丈夫っ」


他の誰にも聞こえないようにささやく。


これで充分でしょ? 同じ私なんだから。


だから、



「加蓮、なにしてるの? 早くレッスン行こうよ!」

「今日は歌唱レッスンだから……加蓮、お手本よろしくね。ふふっ」

「気をつけてなー、頑張れよ!」


「うん、すぐ行く! いってきますっ」



――心配しないでね!



おわり

というお話だったのさ
こどもの日に間に合ったな……間に合ったはず

次は泰葉編頑張って書く

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