男「やること終わった!」(13)

上司「おう、お疲れ。これでしばらくは安泰だな」

男「あー、もう本当に嫌ですよ、こんな神経使う仕事」

上司「なあに言ってるんだ。それが醍醐味だろう」

男「いやいや、休めるならずっと休んでいるに越した事はないんですから」

上司「ま、とりあえず今回は本当にお疲れ様だ。しばらくはゆったりと仕事をしてくれればいいさ」

上司「なんだったら長めの有給をとってくれたっていいぞ」

男「長く休むと会社が困っちゃいますよ?」

上司「一人が抜けたくらいでこける会社じゃねえから心配するな」

男「まあ、用事もないので有給はまたそのうちに」

世界は、そんなに悲観するようなものじゃない
そんなこと、頭では分かってる

それでも、将来に対して希望らしい希望を見出せない
それは多分、僕がそれを探す努力をずっとしなかったからだ

自己責任に過ぎない
分かってるから、誰かに文句を言う気分にもならない

漫画やドラマの登場人物が嫌いだった
彼らは他の人が言うほど嘘つきじゃない
世の中は、彼らと同じように意外となんとかなる

せめてなんともならないのなら、諦める言い訳にもなったのに
やりたいことを諦めて、諦めて、諦めて、ただ目の前の事をこなしてきた
いつの間にか、自由ばかりが与えられた

やりたいことなんて、もう覚えてないのに

思い出せない事を考えるとイライラして
それが嫌でまた、目の前の仕事をこなして
与えられた自由を使えない自分にウンザリする

男「お疲れ様、お先に失礼」

友「あー、早くていいなあ」

男「久しぶりに、な。散々残業したんだからしばらくはマイペースでやるさ」

友「じゃあ久しぶりに週末飲みに行くか」

男「おお、いいぜ。美味い店探してくれよな」

友「任せろ。今日明日で4件はリサーチして一番美味い店に案内してやるよ」

男「はは、それは時間的に無理だろ!」

友「それくらい期待しろってことだ」

男「サンキューな。飯代は7:3にしてやるよ」

友「おう、期待してるぜ」

食べる事は苦痛だ
食べない事は、さらに苦痛だ

空腹に、体が生きたがっている事を痛感する
満腹に、罪悪感を覚える

体は、本能は未来を望んでいる
食欲はそれだけを証明している
間違えようがない

やりたいことを思い出せないのに、やりたいことをやれないのに
明日を切実に求める自分に嫌気がさす

ヴーヴーヴー

『もしもし、男? 元気?』

男「なんだ母さんか。ああ、人並みには元気ですよ」

母『なにそれ』

男「元気だよ。ようやく大きな仕事に区切りもついたしね」

母『そう、それは良かった。それなら今度の週末くらいにこっち戻ってこない?』

男「んー、そうだね。用事ないし、いいよ」

母『そう、それじゃまたその時に』

男「ああ、じゃあね」

両親には、何を思えば良いのか分からない

なにかの間違いだと思いたい
あんなにも人生を謳歌している人たちから僕が生まれてしまったのは

あの人たちが最も幸せになってほしいと祈っている人を、僕は誰よりも呪っている

そうか、僕は僕を呪っているのか
やりたい事を、未来を見定められない自分を憎んでいるんだ

あの人たちに感謝をすればいいのか
あの人たちに憎しみをむければいいのか
あるいは、謝罪をすればいいのだろうか

どれも正しい選択には思えない

ただ、何を言われようとも僕と彼らは同じ希望は抱けない確信がある
何故なら、この不安と向き合う勇気を持つ気は全くないから

友「で、それは?」

男「ああ、この後実家に帰るから除草剤をな」

男「前に帰った時、結構雑草が生えっぱなしになってたからな」

友「そうか、親孝行だな」

男「だろ? 良い息子だろ」

友「さっさと結婚してればな」

男「言うな」

友には、……いろいろと書いてみたけど消した

本当にすまないと思っている

それしか、書けない

男「うぃっ……」

友「おいおい、大丈夫か? そんなんで実家まで帰れるのかよ?」

男「いけるいけるぅ、いつもとおなじくらいしかろんでらいらろお?」

友「それはそうだが、いつもはそんなに酔わないだろ?」

男「よっれなーい、よっれないぞー」

友「はあ、まあ電車に乗せるまでは付き合うから肩持ってろ。と、スマン先にトイレ行かせてくれ」

男「んあ? そこのおじょーさん、てちょーおろしましたよ」

女「え? 知らないですけど」

男「ほれではあ、わたしはもうかえるのれ」

女「え、えぇ?」

友「おいおい、目を離したスキに女性に絡むとかやめろよ」

男「からんでなんかねーろ、お、れんしゃるるな」

友「おい待て! それ通過列しっ」

最後に、この手帳を拾った人
その人には、期待をしてしまう

その人が一体、どんなことを思って、なにを感じるのかと思うとワクワクする
気持ち悪いと吐き捨ててくれるなら、なんとも救いに満ちている
共感を得られるなら、自分の普通さに安心する

なんであれこの文章を、僕の知らない誰かが読んでくれたなら、それだけで僕は救われる

















ああ、ただそれだけを知ってもらいたい人生だったんだ

終わり

スッキリするssを書きたいと思ってたのに>>2が暗いからそのままのノリでこんなssに…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom