にこ「スクールヒーロー始めるわよっ!」希「キャプテン・ニコニーやん?」 (228)

前作:花陽「親愛なる隣人」凛「アメイジングかよちん!」
花陽「親愛なる隣人」凛「アメイジングかよちん!」 - SSまとめ速報
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 前回のラブライブ! デン!

 普通の高校生だった私、小泉花陽。

 ひょんなことから特殊能力を持つ"ライバー"になってしまって、今までの日常は終わりを告げ、戦いの日々が始まりました。

 幼馴染の凛ちゃん、新しくできた友だちの真姫ちゃん。スクールヒーローの先輩たち。

 たくさんの出会いが私を変えてくれました。だけどついに倒した敵(ヴィラン)は真姫ちゃんのお父さんで……。

 真姫ちゃんに二度と近づかないという約束。それでも私は真姫ちゃんの隣にいることを選んだ。

 その選択がやがて私たちを苦しめると、まだ誰も知らないまま――

西木野タワー占拠事件から数週間後 音ノ木坂学院



 【μ's】

穂乃果「スクールヒーローチームのお名前募集BOXにやっと一枚入ってたけど……なにこれ、なんて読むの?」

海未「たぶん、マイクロズじゃないかと」

ことり「海未ちゃんそれじゃOSとか作ってそうな名前だよぉ~」ウフフ

花陽「あのー、たぶんミューズって読むんじゃないかと……」

海未「あっ……!」///

凛「あー海未ちゃん赤くなったにゃ―」

海未「も、もちろん知っていますとも! 神話に出てくる音の女神のことです」コホン

ことり「石鹸じゃないんだぁ」

穂乃果「音の女神……うん、音ノ木坂にちなんだいい名前。やっと部員候補が五人揃ったし、タイミングが良いよね」



穂乃果「――私たちは、スクールヒーローμ'sだ!」

音ノ木坂学院 生徒会室


絵里「認められないわ」

穂乃果「そんな! 言われたとおり五人集めてきたんですよ!」

絵里「五人集めてきて創ろうとしているのが、スクールヒーロー部だというのが認められないのよ」

希「穂乃果ちゃん、うちらの学校には、もうヒーロー研究部があるんや」

穂乃果「ええ!?」

絵里「類似した活動目的の部がある状況で、新しく別の部活動を始めることは許可できないわ」

希「つまり、そっちの部員と話をつけてきて欲しいってことやね。えりち」

絵里「……」プイ

希「まあそういうことなんや。ごめんね、穂乃果ちゃん」

音ノ木坂学院 屋上


穂乃果「――と、いうわけなんだよ!」プンプン

海未「確かに道理は通っています。生徒数の減少で予算に限りが出ていますし、部の数をいたずらに増やすわけにはいきませんね」

ことり「でもオトノキにヒーロー部がもうあったなんて。花陽ちゃんは知ってた?」

花陽「実は……昔有名になったスクールヒーローチームがこのオトノキにあったんです」

穂乃果「ええ!? どうしてそんな大事なこと黙ってたの!?」

花陽「そのヒーローは二年近く前に活動をやめてたから……きっとやめちゃったんだと思って」

海未「そのチームは、なんという名前だったのですか?」

花陽「チーム名は"トラブルバスターズ"。中心になって活躍していたのは……」



花陽「最初のスクールヒーロー――"キャプテン・ニコニー"です」










 CAPTAIN NICONII EP.1 "The First School Hero."



いったん切ります。次回はEP.1 Chapter.1 です。早めに投下すると思います。

早く投下できそうとは何だったのか。続き投下していきます。


 どうしてだれもやらなかったんだろう。

 だって、これだけコミックや、映画や、テレビ番組があるのに。

 挑戦する変人が、一人くらいいてもいいと思うの。

 みんな毎日そんなに楽しいのかな?

 学校や会社で行くだけで満足なの?

 こんなことを考えるのはにこだけ?

 ねえ、正直になろうよ。

 だれだって一度くらいは、スーパーヒーローに憧れたはずニコ。

 私が誰かって?

 私は矢澤にこ。

 またの名を、スクールヒーロー"キャプテン・ニコニー"!



Chapter.1 過去編




【音ノ木坂学院入学式の日 矢澤家・洗面所』

にこ「……」

 すううううううう。

 息を吸って。

にこ「ニコッ!」ニコッ

 鏡の前で、笑顔の練習をする。

にこ「うん、今日もばっちりニコッ」

 毎日の私の日課だった。だけど今日はいつもより、大切な日。

にこ「ママー、ここあ、こころ、虎太郎、行ってくる!」

にこママ「今日は入学式よね。制服、似合ってるわよ。うん、我が娘ながら可愛いわ、まるでアイドルみたい」

にこ「もーママったらぁー、褒めても何も出ないよー」テレテレ

にこママ「行く前にパパにも挨拶ね」

にこ「わかってる!」バタバタ

 パパの遺影の前で手を合わせる。

にこ「パパ……『最初の技は笑顔』だよね。大丈夫、友だちもきっとできるから」

にこ「ちゃんと笑えるから」

にこ「行ってきます!」

 私は矢澤にこ。ニコニーって覚えてラブニコッ!

 今日から音ノ木坂学院の一年生。本音をいえば、もっとオシャレな学校に行きたかったけど、母子家庭で贅沢は言えないわよね。

 でもにこは強いから、弱音なんて吐かない。友だち沢山作って、高校生活を謳歌するニコッ!

 初めて歩く通学路、オシャレに気を使ったからちょっと早足。そんな時だった――

 「……ブツブツ」フラフラ

にこ「あの女の子……なんだかフラフラしてる」

 どうしたんだろう。にこと同じ制服を着た長い黒髪の女の子――その胸のあたりが著しく自己主張している――が、虚ろな目で歩いていた。

 貧血かな、声をかけようかな、と思ったけど、様子がおかしくて声をかけづらい雰囲気だった。

 それに、信号の前だとちゃんと立ち止まってる。完全に意識がもうろうとしてるわけじゃなくて、何か考えてるようだった。

 だけど――

 ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

にこ(青信号なのに――車が!?)

 居眠り運転なのか、ブレーキが壊れたのかはわからない。

 信号で止まる気配もなく、横断歩道に突っ込んでくる。そして黒髪の女の子は気づいていない。

にこ「――危ない!」ダッ

 「えっ……!?」

 ドンッ!

にこ(間に合――)

 にこの両腕が彼女を突き飛ばした――その瞬間、にこの身体が空中に巻き上がった。

 ぐしゃり、と全身の骨が砕けるのを感じた。不思議と痛みは感じなくて。

 にこは思った。

 入学式には、出られないかなって。

 ぐしゃぐしゃに歪んだにこの身体んも周りにはたくさんの人が集まってきて、そこにはあの黒髪の女の子もいて。

 「どうして……どうしてうちのことなんて、助けたん……」ポロポロ

 にこの頬に涙の粒が落ちる音を聴いた。


 「うちなんて、いなくなってもいいのに……かわりに傷つくことなんてなかったんや……」

にこ(ああ、なにやってるんだろう、にこは)

にこ(この子を泣かせちゃった)

にこ(せっかくの可愛い顔が台無しにこ――なんて、もううめき声も出ないよ。肺が潰れちゃったんだ)

にこ(でも泣かないで、笑ってよ)

にこ(あんたが笑ってくれたら、にこはそれで……それだけで……)

白衣の男「ふむ――笑顔か」

黒髪の少女「あのっ、あなたは……?」

白衣の男「私は医者だ、君は彼女の知り合いかね?」

黒髪の少女「いいえ……見ず知らずのうちを、この子は……」

白衣の男「そう、か……そういうことができる人間、か」

黒髪の少女「お願いします、うちの血が使えるなら使ってください! うち、O型やから誰にだって輸血できます! それに内蔵だって使えるだけ使ってください!」ガシッ

白衣の男「……変わっているな。互いに無関心であることが普通な現代にあって、君たちは」

黒髪の少女「……」

白衣の男「いいだろう。本来ならばもう助からないが……手をつくしてみよう。手の開いている者達は手を貸してくれ、私の"研究所"が近い」

 なぜだろう。身体はもうボロボロで、生命が尽きかけてるって自分でもわかるのに。

 意識ははっきりとしている――ような気がした。

 黒髪の女の子のことも、白衣の男の人のことも、はっきりとわかった。だけど身体が動かない。なにも伝えられない。

 にこの身体は運ばれ、白い大きな建物に入っていった。病院じゃない、研究機関みたいだった。

 そこの実験室のような場所ににこは横たえられた。


研究員「西木野博士――この"死体"は?」

 白衣の男の人は西木野博士と呼ばれていた。なんだか偉い人みたいだった。

西木野博士「"死体"ではない。まだ生きている。確実に致命傷だが奇跡的と言わざるをえない。しかしこのままでは死ぬだろうな。現代医療では生かす術はない」

研究員「では、何のために……」

西木野博士「可能性を感じた」

研究員「は……?」

西木野博士「"ラブカニウム"を用意しろ」

研究員「それは――まさか!」

西木野博士「そのまさかだ。移植手術を始めるぞ」

 "ウェポン25計画"――始動だ。
 
 麻酔が注入される。にこの意識が薄れていく。

 そして……"声"が聴こえた。

 懐かしい声が。もう聴けないはずだった、大好きな人の声が。

 「にこ――」












 「――最初の技は笑顔だ!」




【二週間後 西木野総合病院・個室】


にこ「……」パチッ

 知らない天井だ。

にこ「ここは……?」

黒髪の少女「よかった……目が覚めたんやね!」ガバッ

にこ「ちょ! いたっ、いたたたたた!! ぬゎによいきなり!」

黒髪の少女「ご、ごめんな! うち、つい嬉しくなって!」ビクッ

にこ「あんた、確か……"さっき"の」

黒髪の少女「……ごめんな、うちのせいで」

にこ「なに謝ってんのよ、いきなり」

黒髪の少女「事故はもう二週間も前のことなんや」

にこ「えっ……」

黒髪の少女「本当に、ごめんな……うちのせいでこんなことになって……」ジワリ

にこ「ちょっと、泣かないでよ! にこはこうして生きてるんだからもう気にしなくていいわよ!」

黒髪の少女「……でも……でも」

にこ「あんたねぇ、泣いてばっかだとせっかくの可愛い顔が台無しよ」

 にこは女の子の涙を指でぬぐった。

黒髪の少女「っ……!」///

にこ「ほら笑うわよ。ニコッ!」ニコッ

黒髪の少女 キュウウウウン!


黒髪の少女「に、にこっ」テレテレ

にこ「……」クスッ

にこ「良かった」

黒髪の少女「うん、ほんま生きててくれて良かった」

にこ「それもあるけど……もしにこが死んじゃったら、きっとあんた。気に病んじゃっただろうから」

にこ「だから生きててよかった」

黒髪の少女「そ、そんなこと言われたら、うち……」ドキドキ

にこ「え?」

黒髪の少女「な、なんでもないんよ」

にこ「そう。そういえばにこが目を覚ました時にいるなんて出来過ぎよね。あんた、まさか毎日ここにいたの?」

黒髪の少女「うん、ほんまはずっと居たかったけどそうするわけにもいかんし、放課後だけしか……」

にこ「はぁ、真面目なのねぇ。でもありがと。目覚めた時誰もいなかったら、たぶん寂しかったから。あんたの顔がまた見られて良かったわ」

黒髪の少女「……すごいんやね。矢澤さんは。まるで正義のヒーローや」

にこ「正義のヒーロー?」

黒髪の少女「うち、自暴自棄になっとったんや。ずっと助けて欲しかったんや……だからありがとう。どれだけお礼を言っても、言い尽くせへん」

にこ「……こっちこそありがとう」

黒髪の少女「え」

にこ「にこをヒーローって言ってくれて。ずっと憧れてたから。ねえあんた、名前は?」

黒髪の少女「うちは、うちの名前は――東條希」

にこ「そう、じゃあ希って呼ぶわね。いいでしょ、生命の恩人ってやつだもの、そのくらいの特権があったって!」

希「ふふっ……おもろいなぁ、矢澤さんは」

にこ「だからあんたも、にこって呼んで。名前で。これでおあいこでしょ」

にこ「助けたとか、助けられたとか、もうこれからはチャラ」

希「……ええんかな。うち、こんなに優しくされて」

にこ「いいのよ、人の厚意は素直に受け取りなさい」

希「うん……よろしくね、にこっち」ニコッ

【さらに数日後 西木野総合病院・個室】


西木野博士「久し振りだね、矢澤くん」

にこ「西木野先生!」

西木野博士「術後はどうかな、全身の痛みはマシになったかね」

にこ「はい、もう全然。手もこうやって動きますし」

西木野博士「経過は良好なようだ。補強につかった"特殊金属"がうまく適合したようだな。そろそろ歩行訓練をはじめても良い頃合いだ。退院もそう遠くはないだろう」

にこ「あの……前から聞きたかったんですけど、"特殊金属"っていうのは……」

にこ「それに、ママ――じゃなくてお母さんが言ってました。西木野博士が手術代を全部肩代わりしてくれたって。自分で勝手にやったことだからって……」

西木野博士「君はその理由が知りたいのかね?」

にこ「……はい。どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」

西木野博士「君は興味深いな。その質問は私が君に聞きたかったことそのものだ。君にこそ問いたい。なぜ見ず知らずの他人のために生命をかけられたのか」

にこ「……私は、ただ身体が勝手に……」

西木野博士「そこには打算も何もなかっただろう。だからこそ知りたいのだ。それが心からの行動だからだ。君の魂に刻まれた自己犠牲だからだ」

西木野博士「ふっ、そういう物言いをすると、私も宗教家の言うことを信じそうになるな。自己犠牲、か。そういうことができる人間もいるということだ」

にこ「あの、先生……?」

西木野博士「すまない、独り言だ。先ほどの質問についてだが、手術代は気にしないで良い。金なら余っている。使い道は妻子にいい暮らしをさせてやることくらいしかないからね」

西木野博士「それに君の体内で身体を補強している"特殊金属は"――そうだな、君自身には話しておこう」

西木野博士「それは"ラブカニウム"と呼ばれる、未発表の素材でね。矢澤くん、"隕石"のことは知っているかな」


にこ「はい。私が生まれたころ、東京に隕石群が降り注いだって」

西木野博士「"ラブカニウム"は一言でいえば、隕石から発見された地球外の元素から創りだされたものだ。素材として強固で、柔軟性も高く、形状記憶能力も持っている。めったに破損することはないが、破損しても自己再生する特性がある」

にこ「そ、そんな貴重そうなものが!?」

西木野博士「それは良い。君にとって重要なのは、申し訳ないが骨格を強化したことでデメリットが生じるということだ」

にこ「それって……」ゴクリ

西木野博士「あくまでも外部から埋め込んだ強化骨格だから、代謝はしない。つまり君の身体の成長は止まってしまう。育ち盛りの年齢の君には酷だが……これ以上身長は伸びないし、体型も大きく変化しないと思って欲しい」

にこ「……」

西木野博士「これに関しては私の技術力不足だ。私を責めてもらってかまわない」

にこ「……ニコッ!」ニコッ

西木野博士「……笑顔、か」

にこ「私、西木野先生には感謝しかしてません。だからそんな顔しないでください」

にこ「パパが――じゃなくて、お父さんが言ってました。『最初の技は笑顔』!」ニコッ

西木野博士「ふっ……君は本当に、面白いな。そうだ、君に合わせたい人がいるんだ。明日からリハビリがてら会ってくれるかな。年齢も近いし、良い話し相手にはるはずだ」

にこ「いいですけど、誰なんですか?」

西木野博士「絶賛不登校中の、私の不肖の娘――西木野真姫、さ」




 Chapter.1 END

EP.1 Chapter.1はここまでです。次回はEP.1 Chapter.2ですが週末くらいには投下できればと思います。

続き投下します。

【現在 音ノ木坂学院・ヒーロー研究部部室前】


真姫「……」

 扉に手を当てて、そっとうつむく。

 何度もこのドアの前まできた。だけど扉を叩く音は鳴らない。

 こうして待っていれば、いつか"あの人"が扉を開けて私に手を差し伸べてくれると、心の何処かで思っていた。

 約束したから。

 時が過ぎ去った今も、ずっと、待ち続けている。

凛「あー、真姫ちゃんだー。一緒に帰るにゃー」

花陽「ここって、もしかしてヒーロー研究部……?」

凛「真姫ちゃんここに用でもあった?」

真姫「……いいえ、別に。きっと留守みたいね」

 扉の音は、今日も鳴らなかった。

花陽「今日も図書館でお勉強してたの?」

真姫「まあね、一応これでも医者を目指してるんだから」

凛「すごいにゃー、凛なら真姫ちゃんくらいの成績があったらもう勉強なんてしないよ」

真姫「当たり前デッショー。受験勉強じゃないわよ、もう学力は大卒レベルあるわよ」

凛「えー! じゃあなんでまだ勉強してるの―?」

真姫「医者は人の命を救う仕事よ、医者になってからもずっと学び続ける必要があるわ。医学部に入るとか、国家試験に合格するとか、そんなの通過点にすぎないわよ」

花陽「すごいんだね、真姫ちゃん。ちゃんと、夢があって」

真姫「パパと――同じものが見たいの」

真姫「花陽、凛、一つ聞きたいことがあるの。パパが残してくれた言葉よ。今もずっと、その言葉の意味を考え続けてる――」




 「――人はなぜ落ちると思う?」

Chapter.2 過去編



【過去 西木野家 真姫の部屋】


西木野博士「真姫――人はなぜ落ちる?」

真姫「そんなの、愚かだからに決まってるじゃない。人のほとんどは愚かよ。パパだって、そう思ってるんでしょ」

西木野博士「そうかもな」

真姫「どうせ――学校にいけって言うんでしょ。あんな俗物だちのところへ」

真姫「知能指数が30離れた相手とはまともに会話が成立しないそうよ――俗説だけど、実感はするわ。私のIQは160よ、パパ。東大生の平均は120。クラスに一人でも、私と話が通じる相手がいたらかなり運がいいってことになるわよ」

真姫「テレビのあの男が格好いいとか、今年はどんなファッションがトレンドだとか、くだらない話しかしないあの人達と仲良くしろっていうの?」

西木野博士「いいや、そんなくだらない説教をするつもりはない。真姫、君は特別だ。普通の子どもと同じ接し方をしても無意味だろう」

西木野博士「そもそも、君はすでに高校卒業レベルの学力がある。無理に学校へいく必要はない」

真姫「だったら……」

西木野博士「私はなにも、真姫に"普通になれ"という気はないさ。ただ、世界を見て欲しいんだ」

真姫「それって、パパが"戦争"へ行った時のことと関係してるの?」

西木野博士「……そうかも知れないな。しかし真姫、世界には我々天才にすら想像のつかないモノがある」

西木野博士「それは、部屋の中に閉じこもっていては見えないものだ」

西木野博士「そして真姫には、私の中の長年の疑問を解き明かして欲しいんだ」

真姫「それが……さっきの?」

西木野博士「そうだ、真姫」

 「――人はなぜ落ちる?」

【数日後 西木野総合病院 リハビリテーションルーム】


にこ「そんなの、また立ち上がるために決まってるじゃない」

真姫「あなた、バカでしょ」

にこ「よく言われるわ。っていうかほんっと、口悪いわねえ。西木野先生の娘さんだから赦してやってるけど、普通だったらビンタよビンタ」

にこ「顔だけは可愛いのに、性格は全ッ然可愛くない」

真姫「……」カミノケクルクル

にこ「でもあんたも物好きよね。毎日にこのリハビリなんかにつきっきりで」

真姫「別に……暇だったし」

にこ「聴いたわよ、あんた、学校行ってないんでしょ」

真姫「前にも言ったけど、私は高校卒業レベルの学力があるから中学なんて行く必要ないのよ。あなたも、他の人みたいに説教するの?」

にこ「さあね……っとと」ガクッ

真姫「っ! 無理するんじゃないわよ!」

 リハビリを初めて数日目。成果は上がらない。

 全身が砕け、ほとんど肉体が死んだ状態から急激に回復した身体だ。

 骨格を補強する特殊金属を埋め込んだ影響もあり、感覚と運動の不適合を起こしているようだった。

 真姫の目にはそれが簡単にわかった。しかし異例の手術を経た矢澤にこの状態を、担当の理学療法士は十分に把握できていなかった。

 だから――真姫が直々に歩行訓練を担当することになった。もちろん無免許なので、表向きは理学療法士を"補佐"するという形式であるが。

真姫「前の身体とは重量バランスが全然違うんだから、前の感覚は捨てなさいって何度も言ってるデショ」

にこ「そう言われてもすぐには慣れないわよ! もっと優しい言い方って無いわけ?」

真姫「無いわよ。優しく言って歩けるようになるなら優しく言ってるわ」

にこ「ほんっと可愛くない……可愛い顔して可愛くない……」

真姫「なによ、可愛いとか……」///

にこ「あれー真姫ちゃん照れちゃったー? そういう顔してたら可愛いにこー」ニコッ

真姫「ばっ、馬鹿にしてるの!?」

にこ「してませーん! 年下をかわいがってまーす!」

真姫「ウルサイウルサイウルサイ!」///

【数日後 西木野総合病院 にこの個室】


希「ふんふんふ~ん♪」

希「にこっちー、お見舞いにきたよー……ってわああああああああああ!!!!」

真姫「ん」

にこ「希?」

希「あ、ああああ」ワナワナ

希「なにしてるん!? 女の子どうしてそんな……抱き合って!」

真姫「ちょ!」///

にこ「これはっ! 違うわよ、リハビリが終わったからベッドに寝かせてもらってたのよ!」

希「なぁんだ」フゥ

希「うちはてっきりにこっちが百合の道に目覚めたのかと」

真姫「勝手にそっちの道に巻き込まないで!」

真姫「お友達が来たみたいだから、私はもう行くわね」スタスタ

希「にこっち、あの子は?」

にこ「西木野真姫ちゃん。中学二年生よ。西木野先生の娘さん。リハビリを手伝ってくれてるの」

希「そうなんや。可愛い子やね、にこっちはああいうすらっとした子が好みなん?」

にこ「ぬぁんでよ!」

希「うんうん、じゃあうちにもワンチャンあるってことか」ウナヅキ

にこ「ったく、あんたの冗談は際どいわね。女子校ノリってヤツ?」

希「そうやね。中学の時は女子校にいたこともあったから」

にこ「いたこともあったって、いなかったこともあったってこと?」

希「鋭いね、にこっちは。そう……うちは転校を繰り返してたから」

にこ「あんたもけっこう大変な人生送ってんのね」

希「うち"も"って?」

にこ「あの真姫ちゃんもきっと、それなりに悩みを抱えてるのよ」

にこ「ねえ、希。なんとかあの子を笑わせられないかな」

にこ「感情が薄いわけじゃないと思う。だけど真姫ちゃんは、心の底から笑った顔を見せてくれない」

にこ「希は、どうすればいいと思う?」

希「……すごいなぁ、にこっちは。こんな時でも、ずっと他人を笑顔にしようとしてる。今は自分が大変な時やのに」

希「そんなにこっちやから、あの真姫ちゃんも、あんな風にリハビリに付き合ってくれるんじゃないかな」

希「だからうちは……特別なことなんてせんでいいと思うよ。にこっちが思うようにしてるだけで、きっと伝わるよ」

希「うちはいつも、応援してから……にこっちのこと」

Chapter.2終わってませんがいったん中断します。明日(今日)中には続き投下できると思います。

【さらに数日後】


真姫(矢澤にこは日に日に回復していった。だけど今も自分一人では立ち上がれない状態だった)

真姫("普通"と比べるなら奇跡的な回復力と言ってよかった。だからこそ――歩けないのは不可解だった)

真姫(彼女の身体に、歩けない理由はほとんどない。器質的にはもう正常だ。感覚と運動の乖離も、この程度の期間があれば慣れてくるはずだった)

真姫(なのに……"何らかの意思"が邪魔しているみたいに、地面に、重力に魂を引っ張られるみたいに)

真姫(矢澤にこは地面に這いつくばった)

にこ「はぁ……はぁ……」ガクガク

真姫「足が痙攣してるわ。過緊張になってるのよ。今日はもう休みなさい」

にこ「にこの身体はもう健康なんでしょ、だったらこんなところで……立ち止まってるわけにはいかないのよ」

真姫「そんなに気負ってどうするの。心理的な緊張が身体の緊張にだって繋がるんだから、リラックスが大事だって言ってるの!」ガシッ

にこ「っ……! わかったにこ……」

真姫「パパが言ってたわ、そういう時は逆に考えるのよ」

にこ「逆に考える?」

真姫「別に歩けなくなっても構わないって考えるの。そう考えたら気が楽になるわ」

にこ「歩けなくなっても……」シュン

真姫「べっ、べつに本当に歩けなくなってもいいってわけじゃないわよ! どんなことにも言えるけど、絶対やらなきゃいけないって思うほどできなくなるものよ!」

にこ「……そっか。うん、真姫ちゃんの言うとおり、今日はもう休むにこ」ニコッ

真姫「明日はパパが検査してくれるって言ってたわ。歩けない原因が詳しくわかるかもね」

【さらに次の日 西木野研究所】


西木野博士「矢澤くん、君は魂の存在を信じるかね?」

にこ「魂? 私にはわかりません」

西木野博士「"ラブカニウム"には魂がある」

にこ「え!?」

西木野博士「どうやら分子のひとつひとつが君の意思と共鳴するようにできているらしい……一種の寄生生物、いや――共生体だ」

西木野博士「実を言えば、君の経過を観察するまでわからなかった。単純に金属素材として独立している時とは性質が変わったらしい。君に移植したことで、だ」

西木野博士「難しい話をしてすまない。つまり、君の魂と"ラブカニウム"の魂に乖離が生じていること。それが歩けない原因となっているようだ」

にこ「だったらどうすれば! どうすればいいんですか!」

西木野博士「……まだわからない。おそらく真実を知るのは隕石と共に飛来した"天より降りたる者"だけだ。しかし君こそが人が天へ至る可能性となる」

にこ「"天より降りたる者"? 可能性? それってどういう……」

 その時だった。

黒服の男「話は聞かせてもらいましたよ、西木野博士」

 特別研究室の扉が開き、黒服の、存在感の妙に薄い男が現れた。

黒服の男「まさかウェポン計画が成功していたとは。そのデータをよこしてもらいましょうか」

西木野博士「何者だ? どうやってここに入った?」

黒服の男「答えるわけ無いでしょう――いいえ、ここに入った理由は簡単ですよ」グイッ

真姫「んーっ!」モゴモゴ

にこ「真姫ちゃん!?」

西木野博士「なるほど、真姫のセキュリティカードを奪ったか」

黒服の男「随分余裕ですね、西木野博士。情報によればあなたは娘を溺愛していると聴きます。"ウェポン25"のデータと交換しませんか」

西木野博士「悪いが私は敵と交渉しない。戦地で培った知恵さ」

黒服の男「良いのですか? 娘の可愛らしい顔がどうなっても……」チャキ

 男は真姫の頬にナイフをつきつける。

西木野博士「……いいだろう。このデータを渡そう」

 西木野博士はメモリーカードを胸ポケットから出した。

西木野博士「……」チラリ

にこ「……!」コクン

黒服の男「わかりました。では交換といきましょう」

 男は両腕を縛ったままの真姫を片腕でホールドしながら、手を差し出す。

黒服の男「渡してください。妙なことをすればその瞬間、あなたの娘は二度と嫁入りができなくなるでしょうね」

西木野博士(そんなものは再生医療でどうにでもなるが……生命だけはどうにもならない、か)

 西木野博士はメモリーカードを男に手渡した。

 この瞬間だ。

 ヤツの両腕が塞がったこの瞬間だけは隙ができる。

西木野博士「――今だ」

にこ「たあああああああああああああああ!!!!!」ガッ

 にこがおぼつかない足で数歩の距離を移動し、敵にタックルした。

 にこの体格では、体内に移植した金属を加味してもぐらりと男の身体を揺らす程度の威力しか無い。しかし十分だ。

西木野博士「落ちろ!」バリバリバリ!

 白衣の袖から突如飛び出した電極がタックルで怯んだ、黒服の男の首筋に電撃を流した。

 護身用のスタンガンだ。危険な研究をする立場だ、無策でいるわけがない。

黒服の男「ガアアアアアアアアアア!」ブンッ

西木野博士「ぐう!!!」ドゴッ

 男が苦し紛れに振り回した腕がヒットし、西木野博士が吹っ飛んだ。

西木野博士(この力は……ライバーか!?)

黒服の男「フフフ……予定通りですよ、抵抗が予想できないと思いましたか?」

黒服の男「失礼しますよ、博士」スウウ

にこ「消えた!?」

にこ「しかも真姫ちゃんごと……どういうことよ!」

 男にタックルしたまま倒れていたにこが狼狽する。

西木野博士「落ち着き給え、矢澤くん」

にこ「でも!」

西木野博士「あのメモリーカードには発信機が仕込んである。位置は追跡可能だ」

 西木野博士のスマートフォンの画面には地図とメモリーカードの位置情報が表示されていた。

西木野博士「あの男はライバーだ……特殊能力は姿を消すこと。衣服や触れた物体にも能力が及ぶのだろう、だから真姫も消えた。おそらくその能力を利用して以前から私を探っていたのだろう」

にこ「そんな危険なやつなら、今すぐ追わないと!」

西木野博士「私はこのザマだ……今の一撃で動けん。君はそもそも歩けない。我々だけで何になる。今は助けを求めるしかない……」

西木野博士「あのメモリーは偽物だ。今後それに気づいたとしても、本物を手に入れるために真姫は交渉材料として生かされるだろう」

西木野博士「あとは私に任せなさい、アテならある」

西木野博士(不本意だが、"UTX"に協力を要請するしか)

にこ「そんなの……遅すぎるわ!」バシッ

 西木野博士のスマートフォンを、にこが奪いとっていた。

西木野博士「矢澤君、君は……!」

 博士が驚愕したのは、にこの突発的な行動ではない。

 彼女が立ち上がっていたことに、だった。

にこ「はぁ……はぁ……」

にこ「反応を追います。私が……真姫ちゃんを取り戻します!」ダッ

 にこは今まで歩けなかった人間とは思えない瞬発力で走りだし、特別研究室を出て行った。

西木野博士「足が動いた、だと……」

西木野博士「"ラブカニウム"が、彼女の魂に共鳴したのか……ククク、面白い」

西木野博士「私の感じた可能性――それを証明してみろ、矢澤にこ」


にこ「はぁ……はぁ」ダダダダダダ

にこ(身体が軽い、まるで羽みたいに風を切る感覚)

 にこの身体は今、事故の前よりも遥かに素早く反応し、動いていた。

にこ(まるでにこの身体がにこの意思をそのまま反映してるみたいに……全然タイムラグがない!)

にこ「これなら……!」

 発信機の反応を見る。すでに黒服の男は階段を降り、一回駐車場にまで出ていた。

 駐車場の一角――研究所の陰になり目につきにくい部分で足が止まった。

にこ(ここに逃走用の車を隠したってこと!)

にこ(にこはまだ三階にいる。だったら――!)

 加速。加速。加速。加速。加速。

 もっと速く、もっと!

 階を変えずに突っ走る。地図上なら直線距離で100mも無いのだ。

 真姫を車に載せ、エンジンを始動し、発進するまでの数秒間で追いつけばいい。

 高低差――それを克服すれば!

にこ「にっこにっこ――」

にこ「にいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」

 バリイイイイイイイイイイイイイイン!!!!

 全力疾走した勢いのまま、三階の窓を突き破った。

 窓の外に、その下に広がる駐車場から、すでに車が発進しようとしていた。

 しかしもう遅い、

にこ「捕まえた!」

 ドゴォッ!!!

 にこが着地したのはまさに黒服の男が用意した逃走用の自動車だったのだ。にこはその真上に降り立った。


 ボンネットが大きくへこむ。それがクッションとなったのか、にこは三階から飛び降りて全くの無傷だ。

 だが、まだ終わっていない。

 黒服の男が車内から拳銃を向けていた。

にこ「――!」

 にこは拳をつきだした。

 反射的な防御行動だった。それは、"普通"ならば無茶な行動だっただろう。

 しかし、にこの拳は車の強化ガラスを突き破って車内に侵入したのだ。

黒服の男「何――!?」

 拳銃を捕まれて窓の外に放り投げられ、武器を失った男は、にこを振り落とそうとアクセルを踏み込んだ。

にこ「わわっ!」

 にこはバランスを崩し車の後部まで追いやられる。

 加速しながらジグザグに走行する車の上で、振り落とされないようしがみつくのがやっとだ。

黒服の男「落ちろ! 落ちろ!」ギュイイイイイイイ

にこ(真姫ちゃんは……後部座席にいない!)

にこ「どいうことは――トランク!」

 にこは先程の自分の怪力を思い出した。今ならトランクを突き破れるかもしれない。

 でもどうやって。バランスが悪く手を使えば車の上から振り落とされてしまう。

にこ「こうなったら……頭を使うしか無いわね」

にこ「文字通り!!!」

 にこは頭を使った。

 文字通り――それは頭突きだった。

 ガオオオン!!!!

 車のトランクが大きくへこみ、ひしゃげた。そこに指を引っ掛け、力づくで引き裂いてゆく。

 裂け目から、手足を縛られたまま眠る真姫が見えた。


にこ「真姫ちゃん!」

 真姫を引きずりだしたにこは、真姫を抱きしめたまま車から飛び降りた。

 ガスッ、ガスッ!

 アスファルトの地面を数回バウンド。やがて慣性のまま草むらに突っ込んだ。

にこ「いたた……真姫ちゃん、大丈夫?」

 真姫の傷を確認する。にこが身体で覆ったおかげか、真姫は無傷だった。

 にこのほうはといえば、無傷とはいかなかった。擦り傷があちこちにでき、出血している。

 しかし骨格や内臓にまでダメージは及んでいない。あれほどの無茶をしたのに、だ。

にこ「これが……"ラブカニウム"の力……?」

 それだけじゃない。向上した全身の反応、怪力。なにもかもが変わっていた。

にこ「にこの身体、どうなっちゃったの?」

黒服の男「やってくれたな……ウェポン25」ハァハァ

にこ「あんた、まだ……!」

黒服の男「このメモリーカードが本物とは限らない。本来の目的は人質を取ることだった……しかし今、目の前にウェポン25の成功体がある……回収させてもらいますよ」

にこ「あんた……恥ずかしいと思わないの!?」

黒服の男「何のことですか」

にこ「か弱い女子中学生を利用して、人が努力した研究成果を横取りしようとして! そんなの、誰も笑顔になれないじゃない!」

黒服の男「はぁ、あなたは理解していない。この研究の重大さを」

黒服の男「それに、笑顔になる人間ならいますよ。私の依頼人も、私も、今回の件が成功すれば得をします」

黒服の男「誰だって、他人を不幸にして笑っているんですよ。みんなの夢は同時にはかなわないんです」

にこ「にこはそんなの認めない……夢はみんなで叶えるもんよ。誰かの笑顔を奪って得た笑顔なんて、本物じゃないわ」

黒服の男「おしゃべりはもう終わりにしましょう、私は訓練された"ライバー"です。あなたは強化されたとはいえ、所詮素人。レベルが違う」

にこ「そんな道理、どうだっていい! 私はね、あんたみたいなのがいっちばん赦せないのよ!」

にこ「そんな奴がいて、笑ってることを見過ごせる世界も赦せない! 見て見ぬふりする奴らも赦せない! だから――」




にこ「――私があんたを倒す!!」


 こうして矢澤にこの最初の戦いが始まった。


 Chapter.2 END

これでChapter.2は終わりです。次回はChapter.3です。
最速なら水曜日くらいに投下できそうですが、できるかどうかはわかりません。ご了承ください。

作者です。
書いても文句言われるだけだと思ってやる気がなくなっていたのですが、待っている方がいらっしゃるなら続きを書こうと思いました。
今から書くので少しだけお待ち下さい。

にこ「――私があんたを倒す!!」

 こうして矢澤にこの最初の戦いが始まった。

黒服の男「面白い。ウェポン25、戦闘データをここで取らせてもらいます」ヒュ

にこ(消えた!? またあの透明化能力――)

にこ(――じゃない!)

 ガキィン!

 気配のした方向に反射的に防御姿勢をとったにこ。その腕で男の攻撃をガードしていた。

 透明化能力ではない。男は高速で移動したのだ。

にこ「姿を消すだけじゃないってわけね……だけど」

 今のにこになら防げないスピードではない。

 それに、にこの体内に埋め込まれたラブカニウムがダメージを完全に軽減していた。

黒服の男「よく防ぎましたね。しかしその通り、透明化だけではない――」パァア

にこ「――っ」(なんかヤバイ!?)

黒服の男「――ラブカブラスト」

 男の目が光ったと思った瞬間、亜光速のビームが至近距離から飛来していた。

 とっさに掌を突き出したにこ。男にとって予想通りの反応だった。

 普通の人間なら腕一本は吹っ飛ぶ威力だ。ウェポン25を"殺さない程度に"傷めつけるには十分な威力――

 ――その、はずだった。

にこ「はぁ、はぁ……いまのは、防いだの? にこが?」

黒服の男「なっ、バカな……!」

 にこの掌には傷一つなかった。

黒服の男「ならば!」スウゥ

にこ「消えた……今度は透明化能力……!」


にこ(だけど――)

 ガサッ

黒服の男「もらった!」

にこ「――こっちのセリフ!!!」ブンッ

 ドゴォ!!

 背後から跳びかかった男の透明な腹部に、にこのカウンターパンチがめりこんでいた。

 強烈な一撃に、男は大きく吹っ飛び地面に落ちる。許容限界を越えたダメージに、男の透明化は解除された。

黒服の男「な、なぜ……私の居場所を」

にこ「真姫ちゃんなら言うでしょうね……あんた、バカでしょ」

にこ「透明化能力があっても動けば音はでる。ましてやここは草むらよ。大きく動けば葉の揺れる音がする」

にこ「それにあんたみたいな卑怯な奴は、背後から攻撃してくるってわかってた。音でタイミングをはかればカウンターなんて余裕なのよ」

にこ「さあ、誰に頼まれたのか、どうしてこんなことをしたのか。全部説明してもらうわよ。なによりも――真姫ちゃんと西木野先生に謝ってもらう」

黒服の男(くっ……こんな小娘に……油断した、油断した、油断した……)

黒服の男(こうなれば"ラストライブ"で……)

黒服の男「ラストラ――」ザシュ

黒服の男「ガッ……!」ゲフッ

にこ「!? なっ、なにが」

 突如飛来した"何か"に首を切り裂かれ、男は頸動脈から大量出血していた。

 にこはとっさに首を抑えるが、間に合わない、すでに男は事切れていた。ショック死だった。

 男のそばに、トランプが地面に刺さっている。これが首を切り裂いたのだ。

にこ「トランプ? 一体誰が……」

 周囲を見回すが、倒れている真姫以外に他の人影はない。

にこ「なによこれ……こんな後味の悪さって……」

 こうしてにこの最初の戦いは幕を閉じた。

 なにもわからないまま。大きな陰謀の予感と、小さな後悔だけを残して――



Chapter.3 現代編

Chapter.3 の途中ですが一旦中断します。あまり間を開かずに次を投下できると思います
長らく間が空いて申し訳ありませんでした。またよろしくお願いします

Chapter.3 の続きから投下します


【現在 西木野家 西木野博士の書斎】


真姫「パパ……私はどうすればいいの……?」

真姫「パパがどんな風に生きて、どんな風に死んだのか。何を考えていたのか。私は何も知らなかった」

真姫「何も……」

 書斎で父の残した文書がないか探した。しかし何も残ってはいなかった。

 残っているのは父の残した膨大な書物が眠るこの本棚だけだ。

真姫「ん……?」

真姫「本棚のこの段、なぜか本が均等に並んで……」

 そこに気になる点を見つけた。

 本棚に均一に本が並べられている。完璧主義者の父ならば不思議ではない。

 しかし他の本棚には多少使用した形跡があるにも関わらず、この本棚だけが不自然に揃いすぎているのだ。

 まるで「書物を出し入れするために一度も使われ無かったかのように」。

真姫「本が全く日焼けしていない……だけど……一冊だけ端っこがヨレて……」

 その段に並べられた本の一冊に、使用感が見られた。端に指で出し入れしたような跡がある。

 真姫は直感的にそれを指で引っ張りだした。

 ガコン

 何かがキッカリとハマったような音がして、ギリギリと本棚が動き始めた。


真姫「これは……階段? 地下に続いてる……」ゴクリ

真姫「行くしか無いわね……」

 真姫はそこに足を踏み入れた。そろそろと降りていく。闇の中を深く、深く落ちていくような感覚だった。

 ブイイイイイン!

真姫(明かりが、いきなり……!)

 『生体認証完了 西木野真姫と判定 コード"ダイヤモンドプリンセス"起動』

真姫「な、なによこれ!」

 ライトがつき、真姫が立っていたのは広大な地下空間だった。

 そこには大量の先進的なコンピュータ、データーセンター、サーバーが並んでおり、それぞれの状態を立体投射し空間に表示している。

 真姫の頭脳が反射的に概算すると、国家予算レベルの資金がつぎ込まれた施設だった。

真姫「研究施設じゃない……こんなの、"世界"と戦うための設備じゃない」

 "世界平和"

 父の言っていた理想。その言葉が思い浮かぶ。

真姫「戦おうとしていたの……ここから……世界と……?」

 「ここに来てしまいましたか」

真姫「っ――あなたは……和木さん?」

 背後に立っていたのは、西木野家に仕えるメイド、和木だった。

 怪しげな雰囲気をまとった物静かな美女だ。真姫の物心ついた時から彼女は姿が変わらない。

 それなりの年齢のはずだが、少女のようにも見える不思議な人物だった。

和木「これが旦那様の遺産です。お嬢様、あなたに遺した"世界平和"への道です」

真姫「世界……平和……? 何を言っているの和木さん、あなたは一体……」

和木「お嬢様。私は旦那様を見てきました。西木野家の行く末を見届ける義務があります。だからこそ、あえて聞かなければなりません」

真姫「な、なんだって言うのよ」

和木「お嬢様――」


 「――世界を救う覚悟は有りますか?」


【UXTの会議室】


 薄暗い部屋の中心に、一人の少女が立っていた。美しい少女だ。

 ふわりとした髪に厚めのリップ。肉感のある身体を持つ彼女は、名を優木あんじゅと言った。

あんじゅ「それで、私をこんなところまで呼びつけて何の用?」

 あんじゅの周囲に仮想的に投射された黒いモノリスが出現する。

 「優木あんじゅ、君に任務を与える」

あんじゅ「与える? ずいぶん上からね。言っておくけど私とUTXは協力関係であって、従属関係じゃないのよ」

 「承知している。しかし今回の任務は君の利益にもなるはずだ」

あんじゅ「――」ピクッ

 あんじゅの眉がピクリと動いた。

あんじゅ「それって――"ツバサ"のこと?」

 「その通り。君には"ラブカニウム"の輸入を手伝ってもらいたい。つまりは護衛だ」

 「数日後、東京の港にUXTの船が到着する。そのタイミングを狙って襲撃を仕掛ける者たちがいるはずだ」

あんじゅ「情報は掴んでるってわけね。首謀者も……なら、恐れることはないじゃない」

 「恐れる、だと?」

あんじゅ「だってそうでしょう? UXTともあろうものが、敵の正体と目的まで掴んでおいて先制攻撃もしないで防衛を選ぶなんて」

あんじゅ「それも、A-RISEであるこの私を呼び出すほどの案件――敵は相当なヤツってことでしょう?」

 「……そうだな、君には告げておこう」

 「"サイキック・ファイア"だ」

あんじゅ「っ……そいつは……!」

 「そう、"ライバー"を越えた存在であり、この世界を滅ぼすもの……ヤツが暴走すればやがて"モーメント・リング"すらも焼き尽くされるだろう」

 「ヤツはUTXの……いや」


 「"世界の敵"だ」

【数日後 音ノ木坂学院 屋上】


花陽「大変ですぅ~!」バタン

穂乃果「いやー今日もパンがうま――どうしたの花陽ちゃん?」

花陽「大変なんです! 秋葉原で原因不明のビル倒壊事故が!」

穂乃果「ええ!? よし、μ's出動だよ!」

花陽「それだけじゃないんです、まだニュースでは言ってないけど港で銃撃戦が起きてるって警察無線で!」

海未「二つの事件が同時に……二手に別れましょう」

ことり「分担はどうする?」
 
海未「秋葉原の事故はどのくらいの規模ですか?」

花陽「かなり大きいかも……瓦礫の下に何人もまだいて、救助も難航してるって」

海未「ならば力のある穂乃果と治癒能力のあることりが適任です。それに……凛!」

凛「は、はいにゃ!」

海未「初仕事です。あなたの"能力"なら救助活動に役立つでしょう。銃撃戦のほうは私と花陽で行きます」

凛「えー! 凛もかよちんと一緒に行きたいにゃ!」

海未「遊びではないんですよ。凛はまだ戦闘に出る段階ではありません。それに――ヒーローの本業は人助けのほうです」

花陽「凛ちゃん、こっちは大丈夫だよ。凛ちゃんなら困ってる人を助けられる。だから頑張って」

凛「かよちんがそう言うなら……」

穂乃果「凛ちゃん、ことりちゃん! 時間がないよ、行こう!」

ことり「チュンチュン!」

凛「いっくにゃー!」ビュン

 三人が屋上から去っていった。凛は全員の目の前から一瞬で消え去り、穂乃果はことりを背負って跳躍した。

 あの三人ならばやってくれるだろう。海未はその背中を見つめていた。


花陽「海未ちゃん……?」

海未「っ、す、すみません。私たちも行きましょう」

花陽「でも海未ちゃんの移動手段が……電車に乗って行くわけにもいかないし」

海未「ふふふ……甘いですね花陽」

海未「コレを見なさい!」ババーン

花陽「そ、それは……バイクの免許! 海未ちゃんメンキョトッチャッタノォ!?」

海未「先日の事件で機動力の大切さを知りましたからね。これでも、努力するのは得意なんです」

海未「私は――"普通人(ノーマル)"ですから」

花陽「……」

 花陽には、そう語る海未の横顔がどこか悲しげに見えた。

 まるで穂乃果達の背中を見つめるように、それがずっと遠くにあるものみたいに。

花陽「……大丈夫だよ」ギュ

海未「花陽……?」

花陽「海未ちゃんのこと、みんな頼りにしてるから」

花陽「引け目なんて、感じなくていいんだよ」

花陽「私も昔はそうだったから、何となく分かる」

海未「……優しいのですね、花陽は。元気が出ました」ニコリ

花陽「さあ、行きましょう!」


【港】


あんじゅ「なるほど、そう来たってわけね……」

あんじゅ「完全にフルハウス」

 "ラブカニウム"を輸送してきたUTXの船が港に到着した瞬間、ぞろぞろと人が湧き出てきた。

 "湧き出てきた"という表現は比喩ではなく、まさに言葉通りだった。

あんじゅ「物量作戦。"アイツ"らしいわ」ギリッ

 奥歯を噛む。

 状況は良くない。奴の――"サイキック・ファイア"の能力は知っている。二年前に戦ったことがあるからだ。

 その時はこんな人数ではなかったが、しかしこういう戦法は見たことがある。

 言ってみればこれは――

あんじゅ「――"人間爆弾"」

 チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 爆発が起こった。起爆したのだ。向かってきた"人間"が。

 UTXの雇った傭兵部隊が人間爆弾に銃撃しているが無駄だった。現代映画のゾンビのように銃弾にひるまず突進する人間爆弾たちが、傭兵組み付いて爆発していく。

 それを見た別の傭兵や輸送業者は恐怖のあまり動きを止めていた。

あんじゅ「あなたたち、ボサっとしてないでさっさと積み荷をトラックに移して! UTXまで移送するわ!」

 あんじゅは指示を出し、トラックの荷台の上に跳躍した。

あんじゅ「うん、いい眺め」ジャキ

 腰から棒状のものを取り出し、教鞭のように収納されていたそれを一振りで伸ばした。

 そのステッキはまるでビリヤードのキューのようにも見えた。

 あんじゅの周囲に光の球体が出現する。

あんじゅ「ラブカバレット――!」キュイイイイイイイ

 そのうちの一つをキューで打ち出す。すさまじい高速で人間爆弾の群れに飛び込んだ光の弾"ラブカバレット"は人間爆弾の胸部を容易に貫いた。

あんじゅ「まだまだ……跳ねなさい」

 貫通して地面に着弾したかと思われた"ラブカバレット"が、地面で跳ね上がった。

 空中に浮き上がったラブカバレットに対して、すかさずあんじゅが第二射を撃ちだした。

 その第二弾が先ほどの跳弾とぶつかり、さらに起動を変える。二つの"ラブカバレット"が人間爆弾をさらに貫通していく。

 胸を貫かれた人間爆弾は、爆発せずにその場に倒れた。


あんじゅ「ふふふ、"サイキック・ファイア"。あなたの能力で心臓を暴走させて爆弾に変えてるのはわかってるのよ」

あんじゅ「だっら心臓を抉るように撃ち抜けば良い。簡単な理屈」バシュバシュバシュ

 さらに"ラブカバレット"を追加する。地面、建物、そしてラブカバレット同士がぶつかり合い、高速で飛び回り。

 高威力の飛び道具が空間を制圧するように飛び交っていた。バタバタとなぎ倒されていく人間爆弾達。

 不思議な事に、あんじゅの弾丸は味方には一発も当たっていない。

 弾道、弾速、角度。跳弾の計算は完璧に自力で行っている。攻撃翌力だけではない、それを使いこなすだけの圧倒的なコントロール能力。

 これがUTX最強のライバー、A-RISEの一人"優木あんじゅ"の実力だった。

傭兵「トラック発進します!」

あんじゅ「行きなさい、私はこのまま荷台の上から援護するわ」

傭兵「はい!」ブロロ

 あんじゅの圧倒的な力を目の前にし、傭兵たちは生気を取り戻していた。

 このままトラックで逃げ切れば任務完了だ。

あんじゅ「ふう……」

 トラックは速度を出し、人間爆弾はもう追いついてこれない。奴らはあくまで能力で操られた人間だ。

 ダメージを感じないから攻撃に怯むことはないと言っても、人間より早く走れるわけじゃない。

あんじゅ「これで一安心――じゃないか」

花陽「たああああああああああああああ!!!!!」ビュン

 花陽の素早い蹴り"プランター・スウィング"をひらりとかわすあんじゅ。

 蹴りがかわされ体勢を崩した花陽だが、空中で回転してトラックの上に着地した。


あんじゅ「そう、あなたが最近現れた秋葉原の"スクールヒーロー"ってわけね」

花陽「スクールヒーロー"μ's"のメンバー"プランタン"です! 港で何人も死んでいました、あなたの仕業ですね」

あんじゅ「そう……そういうことになるわね」

 なるほど。ハタからみれば一方的な虐殺だったか。

 確かに直接殺したのは自分だが、人間爆弾になった時点で彼らはもう終わりだった。なら心臓を貫いたほうがマシな死に方だろうに。

 とはいえ――

花陽「あなたを捕まえます」

あんじゅ「ふふっ、面白い」クスクス
 
あんじゅ(――スクールヒーローに説明しても意味ないか。だったら)

あんじゅ「楽しみましょう?」ジャキ

 ステッキを構えるあんじゅに、花陽は素早い動きで突進した。

あんじゅ「はっ!」ブンッ

 あんじゅのステッキの振り下ろしを見きった花陽は身をかわし、パンチを叩き込む。が、避けられる。

 反応速度が速い。もしかしたら花陽以上に――

花陽(だけど!)

 "プランタン"の強みは糸を使ったトリッキーな動きだ。そしていまはトラックで道路を走っている。


あんじゅ「これならどう!?」ブンッ

 あんじゅが胴体をなぎ払うようにステッキを振るった。普通ならば避けられない。が、花陽は後方に跳躍して避けた。

 そのまま信号機に"プランター・ストリングス"を巻きつけ、反動を利用して急加速する。

花陽(これなら予測できない!)

あんじゅ「――なんて、思ってるんでしょう?」

花陽「なっ――」バキッ

 花陽の突進に対し、完全にカウンターの膝蹴りが入った。

花陽「がっ……!」

あんじゅ「あなた、戦闘のセンスがあるわ。だけど圧倒的に力不足ね」

あんじゅ「ライバーの"クラス"って知ってる?」

花陽「はぁ……はぁ……な、何を」

あんじゅ「ライバーはその"ラブカ"のパワーレベルで5段階に分類されてるのよ、クラス1からクラス5。あなたは――そこそこだけど良くてクラス3ってところね」

あんじゅ「単体での戦闘ならクラス3で十分に強い。だけどクラス4以上になると大群と戦えるようになる。クラス5は――都市殲滅級って呼ばれているの。世界に数人しかいないけどね、戦略級の力を持っていて世界各国のパワーバランスに影響を及ぼすこともある」

あんじゅ「そろそろわかった?」

あんじゅ「私の能力"ショッキングパーティ"はね――クラス5なのよ」ガシッ

 あんじゅは片手で花陽の首をつかみ、身体を持ち上げた。外見からは想像もつかないパワーだった。

 いや、ライバーならば誰もが少なからずそうだ。しかしこのパワーは段違いだ。ライバーの中でもパワーに恵まれない花陽では絶対に振りほどく事ができない。


花陽「ぐ、ううう……!」ギリリ

あんじゅ「これでお別れ。グッド・ナイトね」

 あんじゅは手に力を入れた。完全に首を折って終わらせる――そのはずだった。

 ズルッ

 花陽の首から手がスッポ抜けた。

あんじゅ(これは……!?)

 あんじゅは自分の手を見る。なにかぬるぬるとした液体が付着していた。

花陽「はぁ、はぁ……樹液、です。粘性の低く滑りやすいものを生成しました」

あんじゅ「私の力に抗うのではなく、摩擦力を下げてかわしたってわけね。……すごいわ、あなた。その判断力、勇気、土壇場の閃き。あの子を思い出す――」



 「――"キャプテン・ニコニー"を」




 Chapter.3 END

かなり間が空いてしまいましたが、Chapter.3終わりです。
次はChapter.4です、バトルばっかりですがよろしくお願いします。

Chapter.4 前半投下します。

【現在 秋葉原 ビル倒壊事故現場】


ことり「痛いところはございませんかー?」ペカー

 「は、はいぃ、ありがとうございます! ご褒美です!」

ことり「怪我した人は擦り傷でも言ってくださいね。治してあげちゃいます!」

 「かわいい」「持病まで治りそうだ」「おじさんの股間がおっきくなっちゃったのも治してくれないかな、ふひひ」「一人おかしいのがいるぞ」「頭を打ったんだ、連れて行け」

ことり フゥー

 事故は大規模だったが、意外にも死者はでなかった。もともと人が少ないビルであり、作りも頑丈で崩れてもうまく空間が残っており瓦礫に押しつぶされた人間はいない。

 ただ、瓦礫の下の空間に閉じ込められた人が残っており、彼らを酸欠になる前に救い出すのが急務だった。

ことり『穂乃果ちゃん、そっちはどう?』キイイイン

 ことりは多重能力の一つ、"念話(テレパシー)"で穂乃果に通信を試みた。

穂乃果『ことりちゃん?』

ことり『うん、久々にテレパシー使ってみたの』

穂乃果『久し振りだねー、ザザッ、お腹すいた……パンたべたいなー』

ことり『ちょっとホノカチャン! 思考にノイズが乗ってるよ!』

穂乃果『へへっ、ごめーん。救助はほとんど完了したよ。穂乃果からはもう誰も見えないけど……そうだ、ことりちゃん、あの能力使ってみてよ!』

ことり『あの能力?』

穂乃果『ほら、他人と視界を共有するやつ! それと透視能力を同時に使えば、まだ埋まってる人を探せるよ!』

穂乃果『それに穂乃果の視力ってめちゃくちゃいいから透視範囲はことりちゃん自身で使うより広がるはずだよ!』

ことり『ううーん、できるかなぁ~?』

穂乃果『できるよ! ことりちゃん、いっぱい能力を使いこなしててすごいんだもん!』

ことり『穂乃果ちゃんがそういうなら……やってみる!』キュイイイイイイイン


 ことりは多重能力のうち、"視界共有(フュージョニックスケイプ)"と"透視(クレアボヤンス)"を同時発動した。

 ことりの大脳後頭葉視覚野に穂乃果の視覚情報が飛び込んでくる。

ことり『すごい情報量……穂乃果ちゃんの視力なら地球の反対側まで透視できそう』

 だが今はその必要はない。事故が起きた範囲全体を透視でスキャンする。

ことり『フムフム……一人、瓦礫の中に埋まってるよ! 穂乃果ちゃんのいる場所から左に十歩進んだ真下!』

穂乃果『わかった! ありがとうことりちゃん!』

ことり『今から治療しに行くね。能力解除』ブツン

ことり「ふぅっ、よかったぁ~穂乃果ちゃんの役にたてたよ」

 ことりのライバーとしての特性は多重能力"小鳥の羽(タイニー・フェザーズ)"である。

 "治癒(ヒーリング)"、"念話(テレパシー)"、"透視(クレアボヤンス)"、"念動(サイコキネシス)"などの基本的な超能力に加え、"視界共有(フュージョニックスケイプ)"などの稀なスキルも複数用いることができる。

 一つ一つの能力はクラス1~2、一部強力なものでもクラス3と小さいが、さらに彼女はラブカのコントロールに長けている。

 つまりことりはそれら多くの特殊技能に加え、"夜空を切りとるレーザービーム(ラブカブラストの一種)"や"フォースフィールド"と言った戦闘技能も一通り習得しており、あらゆる局面に対応できるのである。

 その総合力から能力評価はクラス4と非常に優秀なライバーであった。

 ただし、万能ではなく制約もある。一つは豊富な超能力と引き換えに身体能力の向上がほとんどなく"普通人(ノーマル)"と同レベルであること。

 そしてもう一つが能力の同時使用制限である。能力は通常、一つ使うだけでもラブカと集中力を消費する。

 それを二つ以上同時使用となると体力、精神力ともに消費が激しくなるのは道理である。実際、ことりも3つになれば能力を制御できる自信はない。

 だが――

ことり(穂乃果ちゃんがことりを必要としてくれるから……)

ことり(ことりは頑張れちゃうんです!)フンス


ことり「おまたせ、穂乃果ちゃん!」テテテ

穂乃果「あ、ことりちゃん!」

ことり「穂乃果ちゃん、その子が……?」

穂乃果「うん。ちゃんと助け出せたよ。たぶん傷はないと思うんだけど……目を覚まさなくて」

ことり「ちょっと見せてみて」

 ことりは掌を穂乃果が抱きかかえる少女の額にあてた。



             ――燃えろ。



             世界ごと、燃えてしまえ。




ことり「ッ――ッ!?」

穂乃果「ことりちゃん!?」

ことり「え、え、……な……なに、これ……」ドキドキドキ

穂乃果「どうしたの、ことりちゃん!?」

ことり「すごく熱い」

穂乃果「熱い? 熱があるの?」ペト

穂乃果「平熱だよ? 熱くも冷たくもない……」

ことり(うそ……いまの、気のせい?)

 「う、ううん……」

穂乃果「あっ、眼を覚ましたよ、ことりちゃん!」

ことり「……」

 「あの……ここは?」

穂乃果「大丈夫、事故があったんだよ。ビルの下に閉じ込められてたけど、傷もないし。もう大丈夫だよ」ギュ

 穂乃果は少女を抱きしめた。


 「……ありがとうございます」

 少女は穂乃果の顔をじっと見て、そしてはっとしたような顔で。

 「もしかしてスクールヒーローのスーパーホノカさんですか!?」

穂乃果「知ってるの!?」

 「ハラショー! 大ファンなんです! そっかぁ、ホノカさんに助けられるなんて幸運だなぁ」

 「そうだ、私の名前は――」

亜里沙「亜里沙っていいます!」

 プラチナブランドの美少女はそう名乗った。

亜里沙「亜里沙、お礼とかできないですけど……」チュ

ことり「!?」

亜里沙「スパシーバ、ホノカさん」ニコッ

穂乃果「もぉー、照れるなぁー」テレテレ

ことり(こ、この娘、何をしたの……ほっぺに……チ、チッス!? チューしちゃったチュン!?)ワナワナ

ことり(ホノカチャンに、チューしたチュン!? うらやま……けしからん!)

亜里沙「亜里沙、傷もないみたいなのでそろそろ仮設避難所に行きますね」ペッコリン

穂乃果「う、うん。気をつけてね」///

ことり「……キヲツケテネ」ブルブル

穂乃果「はぁー、ことりちゃん、穂乃果いきなりキスされちゃったよ! キスって女の子にされてもこんなにドキドキするものなんだねぇー」///

ことり「えっ、今なんて……」

ことり(女の子にされてもドキドキする? こ、これは……ワンチャン、ワンチャンあるチュンかぁ~!?)

穂乃果「やっぱりあの子が綺麗だったからかな。髪もキラキラでハーフかクォーターみたいだったし」

ことり「そ、そうだね」

穂乃果「な、なんか穂乃果、胸が熱くなってきたよ……」ハァハァ///

ことり「……穂乃果ちゃん?」

穂乃果「あれ、頭もボーッとして……なんだか、疲れちゃったのかな……おかしいな、こんなこと今まで……なかっ」フラリ

 ドサッ


ことり「穂乃果ちゃん……?」「穂乃果ちゃん?」「ホノカチャン?」


   「ほのかちゃん?」


       ビキッ


 音がする。

 世界が崩れる音が。世界の歪みから、運命の扉が崩れる音が。崩壊の足音が。

ことり「」ビキッビキッ

ことり「――」

 「ことりちゃん!」

ことり「――っ!」ハッ

凛「ことりちゃん、大変にゃ! かよちんが!」

ことり「……花陽ちゃんが?」

凛「なんだかピンチな気がするにゃ……だから……」

ことり(凛ちゃんのこの感覚、前にもあった……能力が目覚める前の全長みたいな。あの時は虫の知らせみたいなものだったけど)

ことり(凛ちゃんの"能力"を考えたら、もしかしたら予感なんて生易しい物じゃないかもしれない)

ことり(冷静になれ、南ことり。私は――先輩なんだ)

凛「って、穂乃果ちゃんどうしたのぉ!?」

ことり「大丈夫、ちょっと疲れちゃっただけで傷はないよ。ことりが介抱しておくから、凛ちゃんは行ってあげて」

ことり「大事な人のところへ」

凛「……うん!」ビュン

 ことりの目の前から、凛の姿が一種にして消えた。

ことり「ことりも大事な人のために頑張る。穂乃果ちゃんのためなら……海未ちゃんのためなら……」



 「世界だって敵にできるよ」






 Chapter.4 現代編

Chapter.4 は一旦ここで中断します。忙しかったんですがしばらく書く時間を取れるようになったので投下間隔を短くできるよう頑張ります。

誤字が多いですがとりあえず
>>79

>>ことり(凛ちゃんのこの感覚、前にもあった……能力が目覚める前の全長みたいな。あの時は虫の知らせみたいなものだったけど)

は「全長」→「前兆」です

>>ことりの目の前から、凛の姿が一種にして消えた。

は「一種」→「一瞬」です

読みにくくてすみません。

Chapter.4の続きから投下します

【現在 東京都心近く 走行するトラックの荷台の上】


あんじゅ「迫り来る死から切り抜けたのは良いけれど、まだまだピンチは終わらない」

あんじゅ「さあ、あなたの持つ"可能性"……見せてくれる?」

花陽「うぅ……」ハァハァ

花陽(なんとか首を折られるのは回避できたけど、この人とまともにやり合える手段がない)

花陽(ダメージも大きい。もう動けないよ……どうすれば……)

あんじゅ「なにもないなら、ここで終わらせてあげる――"ラブカバレット"」

 あんじゅの前に光の弾丸が生成された。

あんじゅ「貫きなさい」バシュ

花陽(ダメ、避けられな――)

 ヒュ  バシュウ!!!!

花陽「っ、これは……!」

 何かが飛来するラブカバレットを撃ち落としたのだ。

あんじゅ「今のは――矢?」

 こんなことができるのは一人しかいない。

花陽「――」フフッ

あんじゅ「……何を笑っているの?」

花陽「忘れてました。私、独りじゃないんです」フワッ

 花陽は不敵な笑みを浮かべ、トラックの荷台から身を投げだした。


 落下し、地面に激突すると思われたその時――。

 ガシッ!

海未「遅くなりました、"プランタン"!」ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

花陽「ううん、最高のタイミングだよ、"ラブアロー"」ニコッ

 バイクに乗った海未が追いついてきたのだ。ビルの多い東京では、屋上を伝ってほぼ直線距離で移動できる花陽のほうが早く現場に到着していた。

あんじゅ「あの子は確か……スクールヒーロー"ラブアロー"と言ったかしら……」

 海未は花陽を抱きかかえたまま角を曲がり横道に入った。トラックが見えなくなる。

花陽「海未ちゃん、ごめん。苦戦しちゃった」

海未「当然です。相手はあの優木あんじゅ――A-RISEなのですから」

花陽「前から思ってたけど……A-RISEってなんなの? 時々海未ちゃんたちが言うのを聞いたけど……」

海未「……」

 海未はしばし何も言わずに考えこみ。

海未「花陽はUTXという組織を知っていますか?」

花陽「え、ううん。どこかで聞いたことは有るような気はするけど……」

海未「"UTX"はライバーを管理する巨大組織です。その権力は警察機構や大手企業の幹部にまで及ぶ……実質的に日本を牛耳っていると言っても過言ではありません」

花陽「ギュウジッチャッテルノォ!?」

花陽「つまり、それってコミックに出てくるような"悪の組織"ってこと?」

海未「いえ、そうとも言えないのです。日本にはライバーが多い。そのため世界のパワーバランスを維持するべく、CIA、KGB、MI6――各国のエージェントが日本に干渉してきています」

海未「そんな干渉から日本を守る役割を果たしているのも事実です。"UTX"の権力は日本のライバーが世界から排斥されないための防波堤となっています」

海未「我々のようにスクールヒーロー活動をするものたちを裏から保護しているのも"UTX"の機能です。しかし――」

海未「"UTX"ほど巨大な組織ともなると、一枚岩では行きません。過激な一派が存在し、彼らはとある目的のために保有するライバーを用い、手段を選ばず工作活動を行っている」

花陽「ある目的って?」

海未「それは……私にも全容はわかりません。しかし彼らの暗躍と過去に関わった経験から言えるのは、彼らが何か"運命の環"とも言えるようなものを目指していると……そう感じるのです」


花陽「運命の……環?」

海未「A-RISEはUTXの保有するライバーの中で最強の存在。ただのクラス5ではない、特殊な"調整"と"強化"を受けている――っ!」

 キキィー!!!!

 海未が急ブレーキをかけた。人通りの少ない道を走行していたバイクの進行方向上に、人影があった。

海未「……まさか、そちらから追ってくるとは」

海未「――優木あんじゅ」

あんじゅ「ふふっ」

あんじゅ「トラックを追う相手はもういない。任務は完了したも同然。だったら、何をしようと私の勝手でしょう?」

あんじゅ「"ラブアロー"って言ったわね。あなたには"借り"がある」

海未「はて、何のことでしょう。見覚えがありませんが」

あんじゅ「あなたは――あなたたちは私から"ツバサ"を奪った!!!」

海未「……何を言っているのですか。先に奪ったのは、そちらのほうでしょう」

あんじゅ「うるさい」ギリッ

花陽(なに、これ、どういうこと?)

 優木あんじゅは美しい顔に相応しくない憎しみを込めて海未を睨みつけていた。

 間違いない、海未たちは……おそらく穂乃果も、ことりも。過去に何かが合ったのだ。UTX、そしてA-RISEと。

あんじゅ「あなたは簡単には殺さない……ツバサを傷つけた"アイツ"の……高坂穂乃果の目の前で傷めつけて」

あんじゅ「あなたたちの大切なもの全て……全部、奪ってあげるから」

海未「……!」

 海未の顔つきが明らかに変わった。


海未「穂乃果を傷つける……?」

海未「そんなことを私の目の前で口にして、生きて帰れるとでも?」ゴゴゴゴゴゴゴ

 そう言って弓を構える。すさまじい殺気とともに。

花陽(無謀だよ……! 海未ちゃん)

 花陽にははっきりとわかる。優木あんじゅは、園田海未の敵う相手じゃない。

 確かに海未は強い。"普通人"でありながら、卓越した武の技量で並のライバーを凌ぐ戦闘能力を持っている。

 しかし根本的にライバーとは違うのだ。いくら鍛えあげても、研ぎ澄ましても。人であるかぎり越えられない壁がある。

花陽(普段なら勝てない戦いを挑むはずないのに、どうしちゃったの、海未ちゃん……?)

 かつて海未との鍛錬の中で、海未自身が語ったことがある。

 「花陽、まず武の基本として勝てない相手とは戦わないこと」

 「逃げるのも立派な戦術なのです」

花陽(冷静さを失ってるんだ。"ツバサ"って人と、A-RISEと、過去に何かが合った。そして穂乃果ちゃんが傷つけられることを極度に恐れてる)

 花陽には思い当たることがあった。

 海未は穂乃果を戦闘に出したがらない。あの絶大な力を持つ穂乃果だが、海未は不自然なほどに対人戦闘を避けさせている。

 今回の事件だって即座に災害救助に割り当てた。戦闘では無敵の穂乃果だ、銃撃戦の鎮圧くらい無傷のまま数秒でできるはずなのに。

花陽「……」ゴクリ

 あんじゅと海未がにらみ合い、今にも死闘が始まろうとしていた。しかしその実、未来には一方的な虐殺しかありえない。

 それほどの差があるのだ。埋まらない差が。

 この戦いは――


花陽(――やめさせる!)バシュ ガシッ

海未「っ――花陽、何を……!」

 花陽は海未を掴んでプランター・ストリングスでビルの上まで跳躍した。

 海未がもがいているが無理やり押さえつけ、抱きかかえ、そのまま再び助走をつけて別のビルに飛び移る。

 さっきあんじゅに受けた打撃のダメージがズキズキと骨を軋ませる。しかし今は無理をしてでも海未を連れ出すべき時だった。

海未「花陽、はなしなさい!」

花陽「はなさない!!」

海未 ビクッ

花陽「海未ちゃん、おかしいよ! 相手は"最強のライバー"なんだよ!? なのに戦おうとするなんて!!」

海未「しかし穂乃果を守るために、私は……!」

花陽「海未ちゃんが死んだら、穂乃果ちゃんが悲しむよ!!!」

海未「……!」

花陽「だから今は逃げよう。カッコ悪くても、死ぬよりはましだよ!」

海未「……わかり、ました」

 「ホンッと――カッコ悪い」

花陽「――っ」

海未「っ――!!!!?」

 ビルとビルの間を飛び移り、遠くへ逃げたはずだった。花陽の――"プランタン"の機動力は本物だ。

 いかに強力なライバーでも追いつくことは困難……。

 の、はずだった。


 「言ったでしょ」

花陽「あ、ああああ……あ」ガクガク

 「あなたたちのプライドも、成功も、勝利も――」

海未「そんな……バカな……」

あんじゅ「全て奪ってあげるって」

花陽(逃げられない! だったら!)

花陽「逃げて、"ラブアロー"!!」バシュバシュ

 花陽はあんじゅに"プランター・ストリングス"を射出した。

あんじゅ「こんな糸」ガシッ グイ

花陽「引っ張られ――あがっ!!!」ガスッ!!

あんじゅ「貧弱なのよ……」

 起動を見きって掴んだ糸で逆に花陽を引き寄せ、カウンターの一撃を喰らわせた。

 すさまじい威力。意識を保っていられない。

花陽「うみちゃ……にげ……」ドサッ

あんじゅ「寝てなさい、私の狙いはあなたじゃない」

海未「"プランタン"! ……くっ!」バシュバシュバシュバシュ

あんじゅ「はぁ、あなたもバカの一つ覚えみたいに」キンキンキンキン

 あんじゅはため息をつきながら片手でステッキをふるい、海未の弓矢を全て弾き落とす。

 反応速度が違いすぎる。遠距離攻撃は全て見切られる。

海未「ならば!」ガシュ

 海未は手に持った弓の一端を地面に叩きつける。それがスイッチになり、変形した弓のそりがなくなり、一本のロッドになった。

 ナギナタが両端についたようなその武器は、通常弓矢で中距離戦をこなす海未が緊急回避的に素手での接近戦を行っていたのとは全く違う意味をもつ。

 本気の接近戦闘を行う証――隠された切り札だった。


海未「行きます!」ヒュ

あんじゅ「――っ!?」

 ロッドを構えたかと思ったその瞬間、海未はあんじゅの懐にまで潜り込んでいた。

あんじゅ(反応できなかった――これは!?)

海未「はぁー!!!」ブンッ

あんじゅ「くっ!」

 あんじゅはギリギリで身をかわした。

海未「まだまだ!」シュバババババババ

 すかさず海未は追撃する。連撃をあんじゅは紙一重でかわし続けた。

あんじゅ(この動きは……スピードじゃない。武術の体捌きと足運びを利用して、実際の速度よりも相手の体感上の"受けにくさ"が上回っているのね)

あんじゅ(最初の踏み込みは"縮地法"。独特の足運びにより相手の遠近感を狂わせ、一瞬で接近されたと私に錯覚させたということ……)

あんじゅ(つまりこの子の身体能力はあくまで鍛えた常人レベル。技もタネさえわかればどうということはない)

あんじゅ「ふふふっ」

海未「何が……おかしいのですか!」ブンッ!

 ガシッ!

海未「うけとめた!?」

あんじゅ「あなた、とんだペテン師ね」

海未「何を……!」

あんじゅ「ただの人間で、ちっぽけで、こんなにも弱いのに。なんとかごまかしてここまで来たんでしょう」

あんじゅ「遠距離戦では勝ち目がないとわかれば即座に近接戦に切り替える。棒術での戦いなら勝ると考えた……その勝ちへの執念は認めるわ」

あんじゅ「だけどね、残念だけどあなたには力がない。悲しいほどに。そこに転がってる"プランタン"ちゃんのほうがよほどマシね」

あんじゅ「勝ち目はない。もう諦めたら?」

海未「誰が……!」

 海未は一度距離をとり、再び睨み合う。


あんじゅ「どうしても、負けを認める気はないの?」

海未「当然です」

あんじゅ「そう……残念。あなたはもう――負けている」

海未「え――?」

 チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 海未は見た。自分が持つロッドが光り輝くのを。そこから放たれた光の本流が自分の身体を引き裂くのを感じた。

海未「――」ドサッ

 半身が焼けただれ、肩から胴にかけて肉が裂けてた状態の海未の身体が、無残にも地面に放り出された。

あんじゅ「声も出せなかったみたいね。爆炎で喉が焼けたのかしら?」

 つかつかと歩いてきたあんじゅが、重症を負った海未を見下ろしていた。

あんじゅ「これが私の能力――"ショッキング・パーティー"。物体にラブカエネルギーをチャージする力」

あんじゅ「エネルギーをチャージした物体からは、自在にラブカブラストを放つことが出来る。エネルギーを放出して爆発させることもできる」

あんじゅ「生命体には効果がないんだけどね――私は"サイキック・ファイア"みたいな外道じゃないから。人間を爆弾にしたりはしない」

あんじゅ「これでわかったでしょ?」

あんじゅ「今まで……能力を使ってなかったの」

あんじゅ「ラブカバレットも、格闘戦もね、所詮はクラス5なら出来て当然の小技にすぎない」

あんじゅ「私はね、今立っている地面から。今まで通ってきた建物の壁から……触れたもの全てを私の"砲台"や"爆弾"に変えられる」

あんじゅ「最初から本気を出してたらあなたたちなんて原型も残らないくらいに消し去ることができたの。それがクラス5ということ。だけどね……」

あんじゅ「すぐには殺さない。苦しませてから殺す。そう言ったでしょ」


海未(あ、ああ……私は……なんて思い上がりを)ゼェゼェ

あんじゅ「意識は有るでしょう。あなたより先に、まず仲間から嬲り殺してあげるから」

 あんじゅは倒れている花陽を片手で持ち上げた。空いた片手で頬を叩く。

あんじゅ「起きなさい」ペチペチ

花陽「うっ……うう……」

あんじゅ「意識はあるみたいね」

 ボキッ!

花陽「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

海未(花陽!)

 あんじゅは花陽の指を折った。

あんじゅ「ほらもっと苦しんで。悲痛な声で助けを呼びなさい」

 ボキッ!

花陽「うっああああああああああああああああああああ!!!!!」

海未(もう、やめてください!)

 そう叫びたいが、声が出ない。先ほどの攻撃で全身が動かなくなっていた。血も大量に出ている。放っておけば自分は死ぬ。

 何も出来ない。花陽が傷つけられるのを見ているだけしか出来ない。

海未(もう、やめてください……)ポロポロ

 涙が流れてくる。そして後悔が湧き上がる。なぜ、こんなことになってしまったのか。

 自分が無茶したから。優木あんじゅの挑発に乗ったから。最初から2人でにげていれば、こんな事にはならなかったのではないか?

 花陽をこの戦いに巻き込んでしまった。その結果がこれだ。

海未(バカだ、私は……)

あんじゅ「さあ、命乞いをしなさい。助けを求めなさい。あの愚かなスクールヒーロー"ラブアロー"に向かって」

花陽「……はぁ、はぁ……」

あんじゅ「恨んでいるでしょう。あの愚か者の尻拭いをするハメになって、こんな苦痛を味わって……」

あんじゅ「あなただけ命乞いをすれば、助けてあげるかも」

あんじゅ「だから言いなさい。『助けて』って」


海未(花陽、言うのです。私はどうなってもいい。あなただけは……!)

花陽「……」ニコッ

 花陽は笑った。この極限状況で。

花陽「いわない、よ……ヒーローだもん」

花陽「わたしが、みんなをたすけるんだ……」

あんじゅ「……ふうん」

あんじゅ「あなた、やっぱり似てるわ。キャプテン・ニコニーに。ねえ知ってる?」

あんじゅ「私、アイツのこと……ほんとに嫌いだったのよ」スッ

 あんじゅは花陽の心臓に向かって手刀の狙いを定めた。一撃で貫き、即死させる気だった。

あんじゅ「その高潔な精神と共に逝きなさい。バイバイ、ヒーロー」

海未(花陽――だれか……だれか花陽を助けてください!!!!!)

 ――スカッ




あんじゅ「――え……?」




 一瞬だった。あんじゅの反応速度を遥かに超える一瞬の、刹那の出来事だった。

 あんじゅが確かに捕まえていたはずの花陽が消え去っていた。

 そして……。

 「……」

 短髪の小柄な少女の両腕の中に、花陽は抱きしめられていた。

あんじゅ「一体何が……?」

 「お前か」

 高く可愛らしい声の愛らしい外見の少女だった。しかしそこから発せられた言葉には、どす黒い意思の力が込められていた。

あんじゅ「あなたがやったの? どうやらあなたもμ'sのお仲間みたいね。だけど雑魚が何人集まっても――」

あんじゅ「――え……?」ガクッ

 あんじゅはやっと気づいた。自分の膝が地面についていると。

 「お前が――」

あんじゅ「これは……」ガクガク

 それは恐怖か。それとも武者震いか。あんじゅの身体が震えていた。

 ライバー特有の感覚が告げる。目の前の少女は、今までの敵と何かが違う。

 自分を脅かす存在だと。




凛「お前が――かよちんをイジメたな」




   Chapter.4 END


Chapter.4終わりです。次回はChapter.5です。
次回からはまたにjこにーが出てくると思います。

お久しぶりです。相変わらず忙しい状態ですが落ちそうなので少しだけ投下します

【数日前 音ノ木坂学院 屋上】

凛「――というわけで、あの事件の時から凛に能力が目覚めたにゃ!」

穂乃果「おおー」パチパチパチ

花陽「凛ちゃんの能力ってどんなの?」

凛「では、それを今からお披露目します」フンス

 ・・・・・

海未「何も起こりませんが」

ことり「これからなんじゃないかな?」

穂乃果「えー違うよふたりともー。ほら見て、海未ちゃんとことりちゃんの髪型」

海未「これは……!」

ことり「海未ちゃんが私の髪型になってる!」

花陽「いつのまに!?」

海未「これが凛の能力……しかし一体どうやって髪型を」

凛「それはねー」ヘヘン


穂乃果「すごいスピードで髪型をセットしただけだよ」

凛「ちょっとぉ! なんで言っちゃうにゃぁ!」プンプン

穂乃果「ごめーん」エヘヘ

海未「つまり、凛の能力は超スピードで動くということですね」

ことり「すごい! いろんな役に立つ能力だよ!」

 ワイワイ

花陽(凛ちゃんの能力は超スピード……ライバーの私でも全く見えなかった……時間が止まったみたいに全てが一瞬だった……だけど)

花陽(穂乃果ちゃんは見えていた。なんで誰も不思議に思わないの?)

花陽(穂乃果ちゃんって一体……本当に、人間なの?)

花陽(ことりちゃんは、穂乃果ちゃんはライバーとも違うって言ってた。だったら一体……何者なんだろう)



Chapter.5


【現在】

 凛は花陽の身体を地面に横たえた。

凛「かよちん、ちょっと休んでて――すぐに終わらせるから」

あんじゅ「ふふ、終わらせる? 妙な攻撃を使ったみたいだけど、クラス5の私をそう簡単に――」ドスッ

凛「お前――もう黙るにゃ」

あんじゅ「がはっ……!」

 いつのまにか真正面にあらわれていた凛の拳が、あんじゅの腹部にめりこんでいた。

あんじゅ(こ、これはさっきの"縮地法"とは違う……! 純然たるスピード! 反応することも目で追うこともできない!)

あんじゅ チラッ

 あんじゅはチラリと視線を移動した。先ほどあらかじめラブカをチャージした場所だ。

 そこからすかさずラブカブラストが射出された。

 しかし凛の姿が一瞬で消えたかと思うと、あんじゅの背後に凛が現れた。

凛「無駄だよ。その光線――凛には遅すぎるから」

 凛が拳を大きく振りかぶったと思うと、次の瞬間にはあんじゅの身体は数メートル吹っ飛んでいた。

凛「まだまだ!」ヒュ

あんじゅ(ふっとんだ先に追撃――!?)ドゴォ!

あんじゅ「反応することも抵抗することもできない絶対的な速度……これが」

 超加速能力――"スピードスター"。その効果は至極単純、速く動ける。

 それだけだ。それだけの能力が今、最強のライバー優木あんじゅをおいつめていた。


あんじゅ「はぁ……はぁ……感じるラブカパワーからして能力はクラス3というところ……だけど」

海未(戦闘においてスピードは決定的な戦力差を生み出すファクターとなる……)

 あんじゅにも、倒れたまま戦いを見ているしか無い海未にもわかった。

海未(スピードで上回っていれば攻撃はあたらない。いかにパワー差があろうとも……!)

海未(しかし……!)

あんじゅ「戦いってのは、それだけじゃあ決まらないのよね……」ニヤリ

凛「まだまだ!」ビュン

 ガシッ

凛「受け止めた!?」

あんじゅ「それじゃあ甘いのよ」

海未(凛……! 動きがワンパターンになっています……これでは読まれてしまう!)

海未(優木あんじゅ、クラス5の力を持つだけではない。戦闘経験に裏打ちされた総合力がある……!)

凛「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!」ズガガガガガガガ

 ガトリングガンのような連打を、あんじゅは無駄のない動きで受け止めていた。

あんじゅ「反応できない速度でも、先読みすれば問題ない。そして……」ブンッ

凛「そんなの当たらないにゃ!」スカッ

あんじゅ「反撃が当たらなくても……」

海未(……これは……!)

凛「な、何か嫌な予感がするにゃ」

あんじゅ「おっと、動かないで」

凛「っ」ビクッ

あんじゅ「確かにそのスピードは脅威。このまま遊んでいても膠着状態になるだけ」

あんじゅ「だからどれだけあなたがチョコマカ動こうとも関係のない処刑方法を思いついた」

凛「……これは!?」


凛「な、何か嫌な予感がするにゃ」

あんじゅ「おっと、動かないで」

凛「っ」ビクッ

あんじゅ「確かにそのスピードは脅威。このまま遊んでいても膠着状態になるだけ」

あんじゅ「だからどれだけあなたがチョコマカ動こうとも関係のない処刑方法を思いついた」

凛「……これは!?」

あんじゅ「私の指先に集中したラブカエネルギー……あなたもライバーの端くれならわかるはず」

あんじゅ「放出すればここら一帯を消滅させる程度の力は集まっている」

海未(まずい……!)

あんじゅ「半径数キロメートルは攻撃範囲内に入るわ。もしかしたら、そのスピードなら逃げられるかもね」

あんじゅ「だけど――」

あんじゅ「仲間は助からない」

凛「そんな……!」

あんじゅ「自分だけ助かるか、仲間と一緒に死ぬか。選びなさい」

凛「……っ!」


凛(どうすれば……凛には"フォースフィールド"はない。ラブカブラストを防ぐことなんてできないにゃ)

凛(確かにここから走れば発射されても逃げ切れると思うけど、そうしたらかよちんと……海未ちゃんが……!)

海未(凛……私を置いて逃げなさい!)

凛「どうすれば……!」

 凛には判断できなかった。逃げることも、仲間を守ることもできない。身体が動かなかった。

 凛には戦闘経験がない。こうした一瞬の判断を求められる状況には対応できないのだ。

あんじゅ「終わりよ」

あんじゅ「――ラブカブラスト」キュイイイイイイ

凛「誰か――」

凛「誰か助けて――!!!!」






   「しょーがないわねー」




 その時だった。

 "何か"小さな影が凛とあんじゅの間に割り込み。

 バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!

 強大なエネルギーの奔流がはじけ飛ぶ音。

凛「な……何が……起こったの……?」

あんじゅ「受け止めた……?」

 あんじゅのラブカブラストは全てのライバーの中で最上位の威力を誇る。

 受け止められるライバーなどめったにいない。いや、そもそもこれは単純な"フォースフィールド"による防御ではない。

あんじゅ「いや――"打ち消した"のね。なるほど……」

あんじゅ「待ちくたびれたわよ――"キャプテン・ニコニー"」

にこ「……」

あんじゅ「何よ、そのしかめっ面?」

あんじゅ「いつもやってた"アレ"はどうしたの? ほら『にっこにっこにー』って奴」

にこ「――スクールヒーローはやめた」

あんじゅ「……そうだったわね。つまんないやつ。あーあー、冷めちゃった」

あんじゅ「適度に遊べたし。もう帰るわ」

あんじゅ「また遊べる時を楽しみにしてるわ。じゃあね」スッ

 あんじゅはどこからともなくトランプを取り出し空中に放り投げると、空間に長方形の"穴"が開いた。

 そこに身体をねじ込み、あんじゅは姿を消した。何らかの能力を用いたテレポートのようだった。


にこ「……相変わらずね、あいつは」

凛「な、何が起こったの……?」

にこ「あんたたち……ボロボロじゃない」

にこ「さっさと病院に行きなさい。これにこりたら、二度と"UTX"と戦おうなんて思わないことね」

凛「それはどういう……?」

にこ「あんたたちはスクールヒーローをやめるべきってことよ」

 にこはそう言って、踵を返し去っていった。

 その背中を凛は見ているだけしかできなかった。

 μ'sは敗北した。最強のライバー"優木あんじゅ"に手も足も出なかったのだ。

 花陽と海未を傷つけた相手を見逃すことしかできなかった。仲間を守れず、助けを求めることしかできなかった。

凛「凛……スクールヒーローに向いてないのかな……」

一端休憩します。今日明日は時間があるのでその間にもう少し進めます。


【UTXビル】

ブイイイイン

あんじゅ「さて、"ラブカニウム"の輸送は終わったかしら」

傭兵「あんじゅ様!」

あんじゅ「どうしたの?」

傭兵「"ラブカニウム"が奪われました!」

あんじゅ「なんですって……スクールヒーローにやられたの?」

傭兵「いえ、敵は正体不明。UTXにも登録されていない全くの"アンノウン"です」

傭兵「戦車のような"何か"でトラックを破壊され、護衛の傭兵20人を瞬く間に倒して行きました」

傭兵「そして……残されていたのはこのカードです」

    "Diamond Princess"

あんじゅ「ダイヤモンドプリンセス……?」

あんじゅ「何者なの……」



【統堂博士の研究室】


あんじゅ「失礼するわね」

統堂博士「なんですか、私は忙しいんです。失礼するなら帰ってください」

あんじゅ「はぁ……前の事件からずっと研究室にこもりきりね、あなたは」

あんじゅ「"自慢の娘"が行方不明なのがそんなにもショックだったのかしら」

あんじゅ「それとも……あの"西木野博士"に出し抜かれたのが気に食わない?」

統堂博士「私を笑いに来たのですか、暇人ですね、あなたは」

あんじゅ「いいえ、リベンジのチャンスを与えに来たのよ」シュ

統堂博士「このカードは……ダイヤモンドプリンセス?」

あんじゅ「ええ、あなたならわかるなじゃないかしら」

統堂博士「フフフ……間違いないですよ。私にはわかります。これは、西木野先生の亡霊」

統堂博士「私の"英玲奈"こそが真に未来を制する可能性であると証明できる時が来た」

あんじゅ「"英玲奈"? だからその子は行方不明に――」

統堂博士「――あなたの目は節穴ですか、優木あんじゅ」パチン

 統堂がスイッチを推すと、奥の壁が開き巨大な実験場が現れた。

 そこには――培養基に入った人間の影。いや、これはただの人間ではない。それに、数が多すぎる……。

あんじゅ「まさかこれが……!」

統堂博士「そう、"エレナMk.2"です、もはや量産機を250体制作しています」

あんじゅ「嘘……でしょ」

 あんじゅも統堂博士が制作した人造ライバー"統堂英玲奈"のデータは閲覧済みだ。その性能は理解している。

 A-RISE計画と遺伝子工学を応用して作られた統堂英玲奈は、あんじゅに匹敵する戦闘能力を誇っていたはずだ。

 しかしそれ以上に危険なのは、その量産性だった。


あんじゅ(私と同等の戦力が……250体ですって……)

あんじゅ「こんなの……」

統堂博士「あなたはこう考えましたね、世界を支配することも可能……その通り」

あんじゅ「報告書にはなかった……前の事件から姿を表さないと思ったら"UTX"に隠れてこんなものを作ってたのね! これは反逆……いえ、世界と戦争に――ハッ」

統堂博士「そうですよ。私は私自身の出世などとうに諦めました。UTXの権力に迎合し西木野博士を出し抜いた……その時は気分が良かったですよ」

統堂博士「しかし気づいたのです。競争相手の西木野博士が消えたいま、私は世界最高の天才だ。並び立つものがいない。そんな世界はつまらない」

統堂博士「どんな地位に上り詰めても、その先がなければ生きている意味など無い。私にとって世界とは、人生とは、大いなる暇つぶしにすぎないのです」

統堂博士「私はこの"エレナ"たちで世界を壊す――そのつもりでした」

あんじゅ「つもり……だった?」

統堂博士「私はUTXの用いる新エネルギー開発のために"ラブカニウム"の輸入をUTXに依頼した。それを護衛するのがあなた方の任務だった」

統堂博士「しかしその任務、実際はこの"エレナ"を動かす新開発の"ラブカドライブエンジン"のためだったのです」

あんじゅ「なるほどね……」

 あんじゅは理解した。統堂個人でこれほどのエレナを量産するには明らかに資金が足りない。

 そのために統堂は新エネルギー開発を"UTX"に持ちかけ、資金援助を受けた。そしてその中核となるのがこれら250体を動かための"ラブカドライブエンジン"。

 統堂は自分の目的のためにUTXを利用したのだ。

統堂博士「"ラブカドライブエンジン"一つ完成すれば"エレナMk.2"はマイクロウェーブを通じてエネルギー供給を行い、250体全てフルスペックで稼働できる」

統堂博士「そのために"ラブカニウム"が必要でしたが、あなたがたの失敗のためにね」

統堂博士「誤解しないでください。別にあなたを攻めているわけではありませんよ、優木あんじゅ。完璧な存在などいません。誰にでもミスはあるものです。そうでなくては科学も発展してこなかった」

統堂博士「私が言いたいのは、あなたと私は協力関係になれる、ということです」


あんじゅ「どういうこと?」

統堂博士「"ラブカニウム"が奪取されたのは好都合でしたよ。これでUTXの手を離れた。つまり――」

あんじゅ「"ダイヤモンドプリンセス"から"ラブカニウム"を奪えば、UTXを無視して自由に仕えるってことね。でもあなたの考えに私が乗ってなんの得がある?」

あんじゅ「UTXを裏切れば命はない――とは言わないわ。この私がUTXの最高戦力なのだから。だけど私には……理由がある」

統堂博士「"天より降りたる者"――いいえ、"ツバサ"とお呼びしましょうか。彼女のことですね」

あんじゅ「……」

統堂博士「あなたは活動を停止した彼女を"再生"するためUTXに従っている。しかしそれが"嘘"だとしたら?」

あんじゅ「……どういうこと? UTXはツバサを必要としているはずよ」

統堂博士「UTXはもはや制御不能の"オリジナル"に頼るのはやめたのです。私が独自に手に入れたこの内部資料――」

あんじゅ「よこしなさい」

統堂博士「――私に協力するならばお見せしましょう」

あんじゅ「……あなたの言うことがデタラメでなければね。だけど……もし嘘だったら」

統堂博士「その時は私の肉体を破壊すればいい。もはや無意味な器ですよ」

統堂博士「私の意識は"クラウド"にアップロードされ、全ての肉体に同期している」

あんじゅ「な……? 何を言って……?」

統堂博士「"エレナMk.2"のAIはクラウドベースに作られています。あの250体の私の娘達の全てが、私の意識の断片――いいえ、そのものなのです」

あんじゅ「狂ってる……!」


統堂博士「正気と狂気の境界線など相対的なものです。特に時代が動くときにはね」

あんじゅ「……いいわ。あなたは狂っている。だからこそ信じられる」

あんじゅ「この場で私を騙す意味なんて無い。そうなんでしょ」

 あんじゅはそう言って統堂博士から資料を受け取った。

あんじゅ「……これは……!」ペラ

あんじゅ「"人造天使ヨハネ"……ですって……?」

あんじゅ「"UTX"が新エネルギーを求めていた理由はこのためだったのね」

 あんじゅは混乱していたが、やっと状況を理解しはじめた。あまりに強大な物事が動いている。自分には想像もつかないような。

 世界の行末を左右するような存在が動けめき始めた。

 "UTX"は当初"天より降りたる者"="ツバサ"を利用し"モーメント・リング"へ至ろうとしていたが、制御不能なツバサを諦め代替物を作り出したのだ。

 それが"人造天使ヨハネ"。そして"人造天使ヨハネ"の動力源として隕石の欠片を加工した"ラブカニウム"が必要だった。

 統堂博士はそんな"UTX"の計画を利用してラブカニウムを横取りし、新エネルギー開発に協力するふりをして"エレナMk.2"を完成させようとしていた。

 どちらに渡っても今の世界は終わりを告げるだろう。そして今、"ラブカニウム"は謎の存在"ダイヤモンドプリンセス"の手にある。

 間違いなく、世界をめぐる争奪戦になる。あらゆる勢力がこの秋葉原に集まってくる。

 戦争が始まる。


あんじゅ(私は……)

 世界が変わる。そのタイミングで、世界を破滅させる存在"サイキック・ファイア"までもが現れた。

 全ての運命がここに収束し始めている。

あんじゅ「少し……考えさせて」

統堂博士「いいでしょう。返事は待ちます。しかし時間は有限で、不可逆です」

統堂博士「あなたの選択があなたの未来をより良いものとするように、祈っていますよ」


【UTX 地下神殿】


 長大な地下エレベーターを下り、あんじゅは地下数百メートルにある地下神殿へと降り立っていた。

 かつての隕石が作った広大な地下空間。その中心に建てられた十字架。

 そこに"彼女"の姿があった。

あんじゅ「ツバサ……」

 彼女は眠ってしまった。"高坂穂乃果"と戦ってからずっと目を覚まさない。

 "モーメント・リング"へ至る手伝いをすれば彼女にもう一度会えると"UTX"は言った。それがあんじゅの原動力だった。

 しかし――全て嘘だった。

 だったら、選択肢はもう一つしか無い。あんじゅは自分の力に自信を持っている。一人でも大抵のことはできる。

 しかし、それでも一人では限界があるのだ。

あんじゅ「……ツバサ、私が絶対に、あなたを助けてあげるから」

 統堂と手を組む。

 "ラブカニウム"を"ダイヤモンドプリンセス"から奪い返し、そして――

あんじゅ「――あなたともう一度会いたい」

あんじゅ「あいたいよ……ツバサ……」




 「……誰か助けて」







    Chapter.5 END

これでChapter.5終了です。
一端休憩してはやめにChapter.6も投下していきます。


  Chapter.6



【西木野総合病院】


花陽「……うっ、ううん……」ハッ

 ガバッ

花陽「わ、私は……!」

花陽「あんじゅさんと戦って……敗けて……どうなったの……?」

凛「かよちん!」ガバッ

花陽「わっ、凛ちゃん!?」

凛「良かった! かよちん三日も目を覚まさなかったんだよ!」

花陽「三日!? ミッカモタッチャッタノォ!?」

凛「ことりちゃんも呼んでくるね!」タタタ

花陽「……そっか、私……」

花陽「あの人に、手も足も出なかったんだ……」

 ブルッ

花陽「あはは、まだ手が震えるよ……」

 クラス5。最強のライバー。あの時は必死になって戦った。しかし今思えば、あれほどの力の差を前に戦うなど、まさに自殺行為に等しい。

 歩兵が素手で戦車に立ち向かっていくようなものなのだ。


 ガチャ

ことり「花陽ちゃん! 眼が覚めたんだね!」

花陽「ことりちゃん」

ことり「良かった……」ホッ

花陽「もしかしてこの傷、ことりちゃんが……?」

ことり「うん。打撲傷はすぐに回復できたんだけど、もっと深いところにダメージが残ってたみたいで」

花陽「それって……内蔵とか脳とか?」

ことり「ううん……」

ことり「きっと、心だよ」

花陽「えっ――?」

凛「とにかくかよちんが目覚めて良かったにゃー」

ことり「そうだね。一安心」

花陽「そういえば、海未ちゃんは……?」

ことり「っ――」

花陽「……もしかして」


ことり「だ、大丈夫だよ。命に別状はないって」

ことり「だけど普通なら死んでるところだったから、まだしばらく入院が必要だろうって」

花陽「それは……安心すれば良いのかな。悲しんだら良いのかな」

凛「安心すればいいにゃ。かよちんはなーんにも心配しないで、今はゆっくり休んで!」

花陽「凛ちゃん……」

ことり「うん、そうだね。花陽ちゃんは目覚めたらもう退院できる身体みたいだから、検査をして明日には退院できるんじゃないかな」

花陽「そっか……ありがとう、ことりちゃん」

ことり「……どういたしまして」

 ことりは部屋を出ていった。




【西木野総合病院 海未の病室】

海未「……何のようですか、ことり」

ことり「海未ちゃんが心配で」

海未「心配?」

海未「私には、心配される価値はありませんよ」

海未「今回のことは、全て私が招いたことです。私の慢心が、仲間を傷つけ、命の危機にまで陥れたのです」

海未「もう私のことなんて、ほうって置いてください」

ことり「……ごめんね、海未ちゃん」

 海未はすでに意識を取り戻していた。身体のほうも回復しつつあった。

 しかし心のダメージは誰よりも大きかった。

 面会を拒み、ことりの言葉もききれようとしない。

ことり(こんな時、穂乃果ちゃんなら……)

 穂乃果はといえば、三日前の事件の後、どこか様子がおかしくなった。

 何を言っても上の空のような。最初は海未や花陽が入院したことが原因だと思っていた。彼女らを心配するあまり心ここにあらずなのだと。

 しかしことりにはどこか不安が拭えなかった。あの時急に倒れた穂乃果。あのあとすぐに目覚めたが、その後なのだ。様子がおかしくなったのは。

 何かの呼び声がずっと聞こえるかのように、時々周りをきょろきょろと見回す。声をかけても聞き逃す。

ことり(穂乃果ちゃん……どうしてるの……私、どうすればいいのかわからないよ……)



【秋葉原のどこか】

穂乃果「……あれ?」

穂乃果「ここ、どこだろう」

 穂乃果は最近自分が時々ぼーっとすることに気づいていた。しかしそういう時期もあると思って、あまり気にしていなかった。

 なんせ最近は仲間たちが立て続けに倒れてしまったのだから。心配になって放心状態になることくらいあり得るだろう。そう思っていた。

 今、夢遊病のように気づいたら知らない場所にいた、ということになるまでは。

亜里沙「ふふふ、こんにちは、穂乃果さん」

穂乃果「あれ? 確か前にあった……亜里沙ちゃん?」

亜里沙「やっと亜里沙の声を聴いてくれたんですね」

穂乃果「声?」

亜里沙「心の中で炎が燃え上がるように……徐々に感情から温度が奪われていくように……」

亜里沙「自覚はありませんでしたか? 自分の中のやる気とか、情熱とかが、何か別のものに吸い取られているような気分」

亜里沙「ここ数日、何をやっても上の空。満足できない。燃え上がれない。酸素がない。息苦しくて……まるで狭い部屋に閉じ込められたみたいに」

亜里沙「すべてを壊して、出て行きたくなるような」

亜里沙「――そんな気分」

穂乃果「何を言ってるの……? 全然わかんないよ」

亜里沙「そういう素直な反応が穂乃果さんの魅力なんです」

亜里沙「でも心のなかに秘めた情熱は誰よりも熱い。その心の温度を引っ張り出して、操作するのが私の能力」

穂乃果「炎? 能力? 亜里沙ちゃん……何言って――」

亜里沙「――"サイキック・ファイア"」キュイイイイイイイイイイイン

穂乃果「えっ――」ポワワワワ

穂乃果(なに、これ……気持ちいい……心の中が全部この子で満たされてるみたいな……)

穂乃果(この子に従ってれば、いままでのモヤモヤした気持ち、全部晴れて……雨がやむみたいに思える)


亜里沙「あの時ほっぺにキスしたでしょう? それが"火種"だったんです。普通の相手なら触れただけで"爆弾"に変えられるんですけどね」

亜里沙「穂乃果さんは"特別"だから。爆弾にはしません」

亜里沙「その代わり、心の炎を操って、亜里沙のお人形になってもらいますね」

穂乃果「あり、さ……ちゃ……」

亜里沙「さあ、ひざまずいて、穂乃果さん」

穂乃果「……ハイ」コクリ

亜里沙「そう、それでいいんです」

亜里沙「亜里沙の可愛いお人形になった証を……情熱の印をつけてくださいね」ハァハァ
 
 亜里沙はそう言ってスカートをまくり上げ、太ももを露出した。

 穂乃果はそこに唇を近づけ……

穂乃果「……」チュ

 内ももにキスをした。

亜里沙「ふふふ……さあ、一緒に世界が焼ける姿を見ましょうね、穂乃果さん」


とりあえず今回はここまでです。
Chapter.6で一旦一区切りになって、そこからはニコニーの過去編が一貫して続くと思います。
今作は時系列や情報がかなりバラバラで複雑になっているので、Chapter.6が終わったら情報をある程度整理したものを掲載しようと思います。

続き投下します

【西木野邸 地下室】

和木「お嬢様、これが――」

真姫「ええ、これが"ラブカニウム"」

 二人の目の前には"ラブカニウム"の巨大な塊がそびえ立っていた。

和木「およそ13000g、これほどの隕石を調達できるとは……"UTX"の力は底知れない、ということですね」

真姫「そうね。だけど、どんな敵がこようと絶対に負けないわ」

真姫「パパの遺したこの強化スーツ――"ダイヤモンドプリンセス"があればね」

和木(強大な組織力を持つ"UTX"から単独でこれを奪ってきた。やはり旦那様の技術力は凄まじい……)

和木(しかし真に恐るべきは……強化スーツを短期間で使いこなした真姫お嬢様の力)

和木(この力があれば……旦那様の理想を。"世界平和"を、かなえられるかもしれない……!)

真姫「さあ、"世界平和"を実現するために」

真姫「始めるわよ。世界との戦いを――」


【音ノ木坂学院】

凛「守れなかった……かよちんを、仲間を」

凛「凛……ヒーローに向いてないのかな」

にこ「なーにしょぼくれてんのよ」

凛「ピャア! に、ニコニー先輩!?」

にこ「ぬゎによその中途半端な呼び方! 矢澤先輩って呼びなさい!」

凛「ご、ごめんなさいですにゃ。矢澤先輩……」シュン

にこ「あんた、スクールヒーローに向いてないとか言ってたわね。情けない」

凛「そう言ったのは先輩にゃあ……」ジトッ

にこ「べつに、あんただけのことじゃないわ。向いてる人間なんてほとんどいないのよ」

にこ「いい? ヒーローの才能……英雄の才能ってのはね。持ってて嬉しいなんてもんじゃないの」

にこ「ヒーローが敵を倒したら、戦う相手がいなくなったら。世界が平和になったら」

にこ「消えてしまうしか無いんだから。そんなの、悲しいだけよ」

凛「矢澤先輩……」

凛「……それでも、それでも凛は友達を守りたい」

凛「強くなりたい! 矢澤先輩!」

凛「凛を――強くしてください!!」

にこ「……」

にこ「いいわ、一つ、昔話をしてあげる」

にこ「ヒーローに憧れた一人の女の子が、ヒーローになろうってあがいて、あがいて……そして、挫折した話を」

にこ「どうしようもない話よ」

にこ「それを聞いても決意が揺らがないなら、明日からヒーロー研究部の部室に来なさい」

凛「……うん」ゴクリ

にこ「あれはにこがまだ一年生の頃だった――」


【西木野総合病院】

希「やっほー、みんな、げんきしとったー?」

ことり「希先輩!?」

花陽「どうしてここに?」

希「うちの学校の子が怪我したなら、生徒会が御見舞にくるのは当然やん?」

希「えりちは自業自得だって言って来なかったけど」テヘヘ

海未「……いいですよ、見舞いなんて」プイッ

希「……りんご、食べる?」

 シャリシャリ

希「りんごの皮剥くのは得意なんよ。にこっちの看病してた時に何回もやったから」

花陽「にこっちって……希先輩、キャプテン・ニコニーのこと知ってるんですか?」

希「知ってるも何も……」

希「一番近くであの子を見てきたのがうちやったから」

希「そしてうちは、にこっちを救えなかった」

ことり「何が……あったんですか?」

花陽「教えてください!」

花陽「凛ちゃんは私達を助けてくれたのはキャプテン・ニコニーだって言ってました。だけど今はヒーローをやめてしまったって……」

花陽「そんなすごい力を持ってるのに、なんで……!」

希「……それには深い事情があるんや」

希「そうやな。みんなには、いつか話そうと思ってた」

希「話す時が来たのかもしれんね」

希「キャプテン・ニコニーが何を成し遂げて、どうしていなくなってしまったのか」

希「うちらがまだ一年生で、世界を変えられるって本気で信じて……希望を持ってたときのことを」

希「"サイキック・ファイア"との戦いを――」





CAPTAIN NICONII EP.1 "The First School Hero."  END



 NEXT: CAPTAIN NICONII EP.2 "VS PSYCHIC FIRE."

○これまでのおさらい

1.登場人物

【スクールヒーローμ's】:今作で発足したスクールヒーローチーム。二年生3人から発足し、現在花陽、凛が加入し5人となった。
 音ノ木坂-神田明神-秋葉原近辺で活動している。穂乃果、海未を除く3人のメンバーがライバーであり、非ライバーである2人も高い戦闘能力を持つためチームの総合力は高い。

◯高坂穂乃果
ヒーローネーム:スーパーホノカ 能力分類:不明。クラス5以上に相当すると目される。
ライバー能力"不明":非ライバー。しかし普通の人間とも違う謎の存在。ライバーを超える戦闘能力を持つ。
 ①超高速移動:初速から音速を超えるほどの加速力を持つ。壁を走る、数百メートル跳躍するなど脚力は人間や通常のライバーを軽く超越している。
 ②超パワー:倒壊したビルの破片を軽々持ち上げるパワーを持つ。
 ③超耐久:周囲一体を軽く消滅させる英玲奈のラブカブラストを受けても無傷。
 ④超感覚:視力・聴力はじめ五感に優れている。
 ⑤熱視線(ヒートビジョン):未使用。ラブカブラストとは違う純粋な光熱エネルギーの塊を発射できる。
 ⑥スタイルチェンジ"パッショネイトスタイル":オレンジ色のマントが出現する。エネルギー消費が激しく3分しか戦えず、その後長いクールダウンが必要。
   穂乃果が"本気を出す"際に使用するとされているが、実は通常状態よりも遥かにパワーダウンしている。通常状態では周囲への被害が甚大になりすぎるため、
   自身のパワーを二分割して内部で相殺しており、誤差として残った数%のパワーで戦うことで手加減しているいるのがこの"パッショネイトスタイル"である。
   マントは内部で相殺した余剰エネルギーを放出する役割があり、高エネルギーを常にまとっているため非常に高い防御力を持つ。このマントを使用することで
   仲間や一般人を包み込んで守ることができるなど、効率的に戦えるメリットがある。
解説:原作では主人公ポジションだが、本シリーズではいろいろと鍵を握りながらもあまり前に出て活躍しないキャラクター。
 あまりにも強すぎるので活躍させづらい。"アメイジングかよちん"の時期よりも前に一度"ツバサ"たちと戦っている。
 正義感が強く真っ直ぐな性格で、あまり悩んだりウジウジしたりはしない。
 
◯園田海未
ヒーローネーム:ラブアロー 能力分類:なし。戦闘技術に長け、総合戦闘能力は並みの(クラス2以下の)ライバーを上回る。 
ライバー能力"なし"非ライバーの普通人。武芸百般の達人。素手のみならず様々な武器を使いこなす。
 ①ラブアローシュート:高速かつ連続で打ち出す弓矢の技。一度に4発以上連射でき、狙いは正確。
 ②縮地法:遠近感を狂わせ一瞬で接近する移動法。スピードではライバーに劣る海未が格闘戦を仕掛けるための技。
 ③柔術(詳細不明):相手の強力な攻撃を周囲に受け流し無効化する技術。パワーでライバーに劣る海未が格闘戦で勝つための技。
解説:μ's唯一の普通人。穂乃果とことりの幼なじみであり、2人を守るために全力を尽くしている。
 ほどほどの強さで解説キャラでもあるので動かしやすい。
 純粋な正義感ではなく、仲間(特に幼なじみ)を守るために戦うという動機が強い。
 強さは才能やセンスというより幼少期からの鍛錬の賜物。それでもクラス3のライバーに純粋な戦力では劣るレベル。
 
◯南ことり
ヒーローネーム:不明 能力分類:クラス4。ラブカコントロールに長け多重能力を持つが、身体能力は普通人レベル。
ライバー能力"小鳥の羽(タイニー・フェザーズ)":多重能力。一つ一つの能力は弱く、能力の3つ以上の同時使用は困難(一応可能だがコントロールを失う危険がある)
 ①光線"夜空を切りとるレーザービーム":ことり版ラブカブラスト。
 ②防壁(フォースフィールド):オーソドックスなバリア。
 ③透視(クレアボヤンス):透視。
 ④念話(テレパシー):音ノ木坂学院くらいの範囲なら誰とでも念話出来る程度の範囲があるが、それ以上の遠距離では困難。
 ⑤共感(フュージョニックセンシズ):対象者と五感のうち一つを共有できる。範囲は念話と同じくらい。連携のために念話と同時使用することが多い。
 ⑥念動(サイコキネシス):力は弱いが小さな物なら動かせる。
 ⑦治癒(ヒーリング):手をかざして治療できる。メインで使っているためパワーがあり、重症でも死んでいなければ治せるレベル。
 ⑧その他多数の能力を保有する
解説:μ'sのコスチューム担当。戦闘ではもっぱら後衛、サポートに回る。前線で戦ってもそれなりに強い。
 海未とのコンビネーションが強力で、防御と中・遠距離攻撃を目まぐるしく入れ替えて圧倒する戦術を得意とする。
 人当たりは優しいが本心では幼なじみたちを何より第一に考えており、世界を守ることよりも穂乃果や海未を優先している。
 実はかなりの潜在能力を秘めているらしい。
 


○小泉花陽
ヒーローネーム:プランタン 能力分類:クラス3。身体能力が高いが、ラブカコントロールはほぼできない。
ライバー能力"プランタン":"花を咲かせる能力"。植物を生成・操作する応用性の高い能力だが、養分を消費する。
 ①植物の生成:養分を消費し様々な植物を生み出せる。花陽は粘性の樹液と繊維を手足の表面に出して壁に張り付き移動している。
 ②光合成:葉緑素を持った植物を大量に生み出すことで養分を回収する。ダイヤモンドプリンスの能力で生み出された二酸化炭素を酸素に換えるため使用したが、
   実はそれほど使い勝手がよくなく、大量にエネルギー消費をしたぶん無理やり補給しているため身体への負担は大きい。
 ③プランター・ストリングス:バイオナノファイバー製の糸を生成する。西木野博士にもらった資料を読み仕組みを理解したことで体内で直接加工することができるようになった。
   軽く柔軟性と強度を兼ね備えた素材で、これの粘度や太さを調整しつつ撃ち分けることで自由自在な立ち回りが可能になる。
 ④プランター・スウィング:糸を用い重力加速と遠心力を利用して移動速度と攻撃力を上昇させる技術。
 ⑤自己再生能力(リジェネレーション):通常のライバーよりも遥かに傷の治りが速く、ある程度ならば欠損でも再生可能(ただし養分を消費する)
 ⑥プランター・コクーン:バイオナノファイバーで繭のように身体を覆う防御技。高所からの落下から子供を救ったり、ラブカブラストを防いだ。
 ⑦ラストライブ"ラブ・マージナル":プランター・コクーンの強化技とも言える花陽の"絶対防御能力"。
   蓮の花のような巨大な花弁が花陽の周囲を包みこみ、内部をあらゆる脅威から守護する。前作ラストではマイクロブラックホールから凛を守った。
   さらに花陽の生命を燃やし尽くすことで、飛散する強制進化薬"ワンダフル・ラッシュ"をフィルターのように浄化し、無力化する効果を発揮した。
解説:前作"アメイジングかよちん"の主人公。
 身体能力が高いライバーで、特に敏捷性は並みのライバーを遥かに上回る。反面パワーは少し弱く、ラブカブラストなどの攻撃手段がない。
 卓越した戦闘センスを持ち、判断力に優れる。能力は戦闘向きではないが応用力があり、花陽の戦闘センスと合わさり総合的な戦闘能力は高い。 

◯星空凛
ヒーローネーム:不明 能力分類:クラス3。強力な加速能力を持つが、ラブカコントロールはほぼできない。
ライバー能力"スピードスター":シンプルな加速能力。目にも留まらぬ速さで動く。
 ①加速:素早く動ける。穂乃果以外には目で追うことすらできないほどのスピードが出せる。
 ②花陽にキスすることで"時を巻き戻して"生き返らせるなど詳細不明の能力を持つ
解説:前作"アメイジングかよちん"のヒロイン。前作ラストでライバーに目覚めた。
 能力は単純で加速するだけだが、シンプル故に強い。また、加速自体が戦闘向きでもある。
 そのスピードであんじゅを追い詰めたが、戦いに慣れていないため逆転されてしまった。


一端ここまでです。
次回はまとめの続きとEP.2に入ります。

続き投下します

【約一年半前 どこかの雪山】


希「ねえ、ほんとによかったん?」

にこ「……何のこと」

希「えりちのことや。えりちに黙って来たけどやっぱり――」

にこ「――いいのよ。絵里は強そうに見えるけど、優しすぎるから……きっと、非情になんてなれない」

にこ「これから戦う相手はあの――サイキック・ファイアなんだから」

希「……にこっち、勝算はあるん?」

にこ「私を誰だと思ってるの? 宇宙No.1ヒーロー、キャプテン・ニコニーにこっ! もう誰にも負けないにこ」

希「……うん。にこっちはそうやったね。ずっと、うちのヒーローやった。だからうちも、信じてるからね」

にこ「希……私、スクールヒーロー初めてよかったと思ってる。つらくて、苦しくて、たくさん嫌なこともあったけど……」

にこ「希に会えたから」

にこ「だから見てて、キャプテン・ニコニーの――」

 ――最後の戦いを。



サイキック・ファイア「来たんですね、ウェポン25。いいえ、こう呼んだほうが良いですか? スクールヒーロー"キャプテン・ニコニー"」

にこ「決めたのよ。あんたを倒すって」

サイキック・ファイア「覚悟ができたみたいですね。でもあなたに、その力がありますか」

 サイキック・ファイアは手のひらを前に突き出す。

 物体を発火させる能力だ。

 しかし――

 キュイイイイイイイイイン!!!

サイキック・ファイア「打ち消された……!? ふふっ、やっぱりそうじゃないと面白くないです」

サイキック・ファイア「嬉しいです。私と戦うためだけに……"人間"をやめてくれたんですね」

にこ「あんたみたいな奴のために、これ以上誰かの涙はみたくない。皆に笑顔でいて欲しいって、そう決めたの」

サイキック・ファイア「みんな? くすくす……みんなって誰ですか?」

にこ「……」


サイキック・ファイア「あなたのいう"みんな"の中に、私は入ってないんですか?」

サイキック・ファイア「私は"世界が燃えるのを見る"ことでしか笑顔になれない。そんな存在。"世界の敵"なんですよ?」

サイキック・ファイア「他人を傷つけて、人の作り上げてきたもの、信じられること、全部。壊して、壊して、燃やし尽くして……それが私なんです」

サイキック・ファイア「あなたにとっての"みんな"の中に私がいるなら」

サイキック・ファイア「私を笑顔にしてよ、ヒーロー」

サイキック・ファイア「それができないのなら。私の笑顔を奪って笑顔にする"みんな"なんて幻想ですよ。嘘なんです、全部」

にこ「……真実がいつだって最善とは限らないから」

にこ「嘘でもいい。人には信じられるものが必要なの」

サイキック・ファイア「あはは! 勝手なんですね! いいですよ、結局大事なのは、勝つか負けるかでしかないんですから」

サイキック・ファイア「壊しあいましょう、キャプテン・ニコニー」

にこ「――っ!」

 矢澤にこは――いいや、キャプテン・ニコニーは走り出した。

 拳を振り上げ、サイキック・ファイアに叩きつける。

 純然たる"殺意"と共に。

 このとき彼女は思った。

 今この瞬間、目の前の女の子の笑顔を奪おうとしている。

 "みんなの笑顔を守る"なんて夢物語だった。
 
 誰かを笑顔にしようとすれば。誰かの涙を止めようとすれば。

 それだけ誰かが泣いてるんだって……そんな真実がわかってしまったから。

 夢は終わった。

 自分はもう――ヒーローじゃいられない、と。






       CAPTAIN NICONII EP.2 "VS PSYCHIC FIRE."


   Chapter.7


【そこからさらに半年ほど前 西木野総合病院】


にこ「お世話になりました!」

西木野博士「礼を言うのはこちらのほうさ。真姫を助けてくれてありがとう。"ラブカニウム"については未知の部分が多い。退院してからもいつでも相談にきてくれたまえ」

にこ「はい!」

西木野博士「真姫、隠れてないでちゃんとお別れをいいなさい」

 物陰から覗いていた真姫ちゃんがおずおずと顔を出した。

真姫「……べ、べつに寂しいとか思ってないし」

にこ「もぉー真姫ちゃんは素直じゃないなぁー」ニヤニヤ

真姫「からかわないで!」

にこ「大丈夫、にこはこれからも真姫ちゃんの味方だよ」

にこ「困った時はにこのことを呼んで。絶対助けにいくから! 約束にこっ!」

真姫「……ふんっ、まあ、覚えておくわ」


【翌日 音ノ木坂学院】

にこ(まずい……)

にこ(学校に復帰したはいいものの、一年の入学式で事故って以来初めてきたから友達もいないし、勉強にも全然ついていけない……)

にこ(どうしよう……)

 昼休み。みんなグループを作ってごはんを食べるけど、にこには一緒に食べる相手がいない。

絵里「……」

にこ(あ、あの子も独りみたい)

にこ「あのぉー良かったらお弁当一緒に……」

絵里「ごめんなさい、私、生徒会室で食べてるから」ガタッ

 氷のようにキレイな女の子は、氷のように冷たい目でにこを見て立ち去った。

にこ(これは……高校ぼっちにこ!?)

希「にこっちいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」ドタバタ

にこ「希!?」

希「遅くなってごめんなあああああああああああああ!!!! ぼっちで寂しかったやろ! うちがいっぱい愛してあげるな~」ワシワシ

にこ「べつに寂しくなんてなかったわよ! どこさわってんの!」

希「購買のパンが毎日混んどってなぁー、戦争なんや。クラス別々になったぶん、昼休みと放課後はずっと一緒やね!」

にこ「ちょ、他の子も見てるじゃない! ただでさえ復帰初日で変な目で見られてるのにあんたがそんなだとにこが"そっち系"だと思われるでしょ! はなしなさいよ、はなせー!」

 ワイワイ

 「ププッ、矢澤さんって気難しそうな顔してたからちょっと怖かったけど」

 「うん、面白い」

 「矢澤さん、一緒に食べよう! のぞみんも!」

 クラスのみんなが集まってきた。希には人望があるらしかった。

 めちゃくちゃなやつだけど、今はそれがありがたかった。

にこ「……しょーがないわねぇー」


【放課後 秋葉原】


希「ほんとにいいの?」

にこ「もちろんよ、このときのために退院前から準備してたんだから!」

希「まあうちは、かわいいにこっちをカメラに納められるならそれでええんやけど」ジー

にこ「せっかくすごい力を手に入れたんだから、この力をいいことに使うの!」

希「だけどその格好は……可愛いけど、恥ずかしくないん?」

 にこは入院中暇だったから作ったコスチュームを着ていた。

 アイドルのステージ衣装とか魔法少女アニメの服装とかを真似て作った、にこのオリジナル衣装。

 この衣装はにこが"いいこと"をする時に着ようって決めていた。

にこ「気合よ気合! こういうのは気分だからいいのよ!」

 にこたちはパトロールに出かけた。

 西木野博士から聞いた。世の中には"ライバー"という人たちがいる。

 時々悪さをするライバーがいて、みんなが困ってるらしい。

 みんなの笑顔を守るため、にこは与えられた力を有効活用しようと思った。

にこ「――まあ、簡単に見つかれば苦労はしないわよね」

希「メイド喫茶で働かないかって勧誘が10回。あとはアイドルの勧誘2回。宗教の勧誘が1回。怪しい絵を売りつけられそうになったのが1回。コスプレAVの勧誘が3回。……ねえにこっち、にこっちの身体って男の人に需要あるん?」

にこ「失礼すぎるわよ!」

希「男の人はうちみたいなバインバインが好みやと思ってたけどな~。にこっちみたいなのは特殊な趣味の人向けやん? うちみたいな」

にこ「こわ。あんたと一緒に銭湯とか行かないからね絶対」

希「恥ずかしくないようにうちが育てたるやーん」

にこ「もうワシワシはいいわよ!」


 「――誰か助けてー!」

にこ「!」

 「あっちでリンチが……」

 「一人を三人で……」

 「誰か警察を……」

にこ「希、行くわよ!」

希「よっしゃ!」ダッ

 そこに向かうと、たしかにレディースのような格好をした女三人が弱そうな女の子一人を暴行していた。

 「あたしらに舐めたことしてくれて、調子こいてんじゃないわよ」

 「ここで落とし前つけさせてやるって言ってんのよ」

女の子「ごめんなさい、赦して……」

 「ごめんなさいで済んだら警察いらねーんだよ!」

 女の一人が木刀を振り上げた。

にこ「待ちなさい!」

 「あぁ?」

 「誰だ、おめえ」

 暴走族だか暴力団員だかわからないけど。

 ライバー犯罪じゃなさそうだった。元々にこの考えてた範疇の事件じゃないけど……。

 ほっとけない!


にこ「誰だ、って言ったわね……」スゥ

 大きく息を吸い込んで。

にこ「ニッコニッコニー! あなたのハートにニコニコニー! 笑顔届けるキャプテン・ニコニーにこ! ニコニーって覚えてキャプニコ!」

 ふふふ、決まった……!

 「……?」

 「あ……?」

 完全に気圧されているわね。

 このオーラ。まさに宇宙ナンバーワンヒーローの貫禄よ……。

 「ふざけんな! コスプレバカが!」
 
 「やっちまえ!」

にこ「ちょっと、こうすれば相手がビビるって希も言ってたじゃない!」

 希を見る。

希「……プププ」

 目をそらして笑いをこらえていた。話が違う!

にこ「しょーがないわねー……戦うしかないか!」

 にこは木刀をもった三人に立ち向かう。

 あの時の力が出せればこんなやつ……。


 ボゴォ!

にこ「いっ……いたぁ―!!!!!」ジタバタ

 うそ、木刀で殴られて痛い……ていうか全然避けられなかった!

 「こいつ口だけでめちゃくちゃよわいぜ!」

 「あたしらに歯向かったこと後悔させてやんよ」

にこ「ちょ、タンマ!」

 「タンマがケンカで通用するか」

 「やれやれ!」

 ボコスカ

にこ「あ、ちょ、待って! こんなはずじゃ!」

 ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。

 力が全然でない。あの時みたいな"ラブカニウム"の力が出れば楽勝なのに!

 こんな時西木野博士の言葉を思い出す。

 ラブカニウムは生き物と同じだって。意思を持ってる。

 じゃあ今は、ラブカニウムに戦う気が無いっていうの!?

にこ「誰か助け……」

 周囲をみる。

 みんな白い目でにこを見ている。

 スマホのカメラで撮ったり、野次を飛ばすだけで。

 誰も助けようとはしなかった。


 ただ一人、希はにこの視線に気づいてカメラを降ろしてこっちに来ようとする――

 ――それを一人の手が制止した。

絵里「だめよ」

希「絢瀬さん……!?」

絵里「あなたが行ってどうにかなるものではないわ」

希「でも……!」

絵里「力もないのにこういうことをするからバチが当たったのよ」

絵里「大丈夫、本当にどうしようもなくなったら私が止めるから」



にこ(ちょっと、助けにこないっていうの!?)

 誰も助けは来ない。

 もともとそうだった。あの弱そうな女の子がリンチされてたときも同じだった。

 誰も助けようとはしなかった。ただ見ていた。

 なんで?

 今だってそう。ただ、"助からない"人が増えただけだ。こんなに人がいるのに。

 みんなが勇気を出せば変わるのに。

 みんな笑顔になれるのに。

にこ「そんなの……ひどすぎる!」

 にこは立ち上がり、女にタックルをかけた。

 「こいつ……!」

 がむしゃらだった。もうラブカニウムに頼ったりしない。

 相手はライバーじゃない。普通の人間。だったら条件は同じ。

にこ「あんたちみたいなの、赦せないのよ!」

 にこは泣きながら腕を振り回し、叫んだ。

にこ「数が多いからって一方的に人を傷つける……もっと赦せないのは」

にこ「もっと数が多いのに、ただ見てるだけで何もしないやつらよ!」

にこ「がんばろうって、助けようって思えば変わるかもしれないのに!」

にこ「何もせずに見てるだけなんて……そんなの、誰も笑顔になれないじゃない!」

 「こいつ、何を……」

 「殴っても殴っても立ち上がってくる……!」


 「わかった……あたしらの負けだ! 付き合ってらんねーよ!」

 何分くらいたっただろう。

 三人はついに根負けして去っていった。

 にこはボロボロだったけど、殴られても骨も折れてなければ内臓が傷ついたりもしていなかった。

女の子「あ、ありがとうございます……わたし、もうだめだと思って、誰も助けてくれないと思って……」ポロポロ

にこ「……大丈夫。笑ってよ。ほら、ニッコニッコニー」ニコッ

女の子「……わたし、尾崎まこっていいます。ありがとう、ニコニーさん。あなたは……ヒーローです」

にこ「うんっ!」

希「にこっち!」

絵里「待って」ガシッ

絵里「このビデオカメラ、生徒会権限で没収します」

希「……後で返してな!」ダッ

希「にこっち、かっこよかったよ! うち、感動した!」

にこ「まあね、こんなもんよ……」フラッ

希「おっと」ポスッ

希「こんなとこで役に立つなんてね……うちのおっぱい」

希「……」ギュ

希「頑張ったね」



【さらに翌日 音ノ木坂学院】

希「にこっちにこっちにこっち―!」ドタドタ

にこ「なにようるさいわねー」

希「これ見て!」

 希はスマホで動画アプリを起動してにこに見せてきた。

にこ「これ、昨日にこが戦った映像じゃない!」
希「本物のヒーローが現れたって世界中に話題になってるんや! ほら、もう2000万再生超えそうやで!」

にこ「うそっ!?」

にこ「こんな映像誰が撮ってたのよ!」

希「まわりの人らがスマホとかでとってたから誰かまでは……」

希(このアングル、うちから見た角度と同じような……でもカメラは没収されたし)

にこ「とにかく、これはチャンスよ」

希「チャンス?」

にこ「世界中を笑顔にする計画……みんながみんなを助けられるような、勇気を出せるような、そんな世の中にするの」

希「それって……にこっち、どうする気なん?」

にこ「"スクールヒーロー"始めるわよっ!!!」




 Chapter.7 END

今回はここまでです。
今更ですがこの話は「キック・アス」とか「仮面ライダークウガ」とかが主な元ネタです。


アナウンサー「皆様は"スクールヒーロー"を知っていますか?」

アナウンサー「1か月前、秋葉原に水星のように現れたヒーロー"キャプテン・ニコニー"を皮切りに、日本中で自主的な治安維持活動を始める学生たちが現れました。彼女たちの多くが特別な力を持つ"ライバー"と言われています」

アナウンサー「本日はこの"スクールヒーロー"ムーブメントについて、コメンテイターの××大学○○教授をお招きしています。教授、本日はよろしくお願いします」

コメンテイター「お願いします。まず"ライバー"についてですが、ここ最近までその存在を疑問視されていました。これまでは特殊能力を犯罪に使うものたちが多かったという背景があります。しかし超能力犯罪を法律は想定していないため、司法、立法、行政のすべてが公式にライバーの存在を認めてこなかった」

コメンテイター「それに対するカウンターカルチャーとしてこうした活動が顕在化したのでしょうな。能力を正義のために使うことで、自らの存在を社会に認めさせる。実際にアメリカでは"ライバー"の自警団が治安を守ることが公的に認められた州も出てきています」

コメンテイター「日本での法整備が今後どうなっていくのかに注目でしょう」

アナウンサー「ありがとうございました。ではCMの後も"スクールヒーロー"及び"ライバー"について街の声を――」


      Chapter.8


【秋葉原】


にこ「にっこにっこにー!」ポーズ

 「うおおおおおおおおおおお!」

 「ニコニー! こっち向いてー!」

 「かわいいー!」

にこ「ふふふ……」ドヤ

 にこの姿が動画サイトにアップロードされてから1か月。

 キャプテン・ニコニーは人気者になった。

 スクールヒーローブームの火付け役となった元祖スクールヒーローとして、秋葉原の顔となっていた。

希「にこっち、かわいいよー!」REC

 にこと希は「ヒーロー研究部」の部員となった。

 もともとはヒーロー漫画やヒーロー番組を楽しむ部活だったが、去年の卒業者ですべての部員がいなくなり、新入部員もいなかった。

 今年中に新入部員が現れない場合は部活の消滅の危機だったが、そこににこと希が滑り込んだわけだ。

 こうして彼女らは部室を得た。

にこ「これで事件は解決にこー、さあみなさんご一緒にー!」

 「「「「「にっこにっこにー!」」」」」

 いまは部室のPCに届くヒーロー研究部宛てのメールから、秋葉原周辺の事件に関する依頼を調査したり、解決したりする。

 いわゆる探偵や何でも屋の真似事をしている。

 もちろん、たいていの依頼はくだらないもので、猫探しとかゴミ掃除とか。

 その程度のものだが、それでも良かった。

 依頼をこなすことで、人々は笑顔になった。
 
 それがにこにとって何より嬉しかった。



【音ノ木坂学院 ヒーロー研究部部室】

にこ「ふー、今日もいい汗かいたにこー」

希「おつかれ、にこっち」パタパタ

にこ「さーて、メールボックスはっと……なによ、まーたゴミ拾いとかネコ探しじゃない! もっとニコニーにふさわしい依頼はないの!?」

希「まあまあ、望まれてる内が華やから。にこっちもなんだかんだ楽しんでるやん?」

にこ「ま、まあそうだけどね」

希「でも確かに、うちらはライバー犯罪と遭遇するって機会はあんがいないもんやね。ケンカしないに越したことはないけど」

にこ「最近できたスクールヒーローたちはもっと派手に活躍してるみたいよ」ポチポチ

にこ「元祖スクールヒーローのにこを差し置いてどんどん目立ってきてるわね……」

希「世の中のために頑張る子たちが増えるのはええことやん。それに能力を正しいことに使えるって希望がいろんな人につたわった。みんなにこっちが始めたことがきっかけで、いい方向に進んでる……それって素敵なことやん?」

にこ「あんたは……お気楽よね」

希「それが取り柄やから」

にこ「ぷっ、くくく」

希「あははははははッ!」

にこ「あったばっかりのとき、あんた生きる希望をなくしてたとか言ってたじゃない! ぷっ、ぷぷぷ……そんなあんたがねぇ……お気楽が取り柄って!」ケラケラ

希「にこっちこそ、依頼を受けるときは文句ばっかり言って、いつも楽しそう!」

にこ「私たち、互いに」

希「素直じゃない、やんね」

 2人はそうやって笑いあった。


【数日後】


にこ「通り魔?」

希「噂になってたんや。なんでも音ノ木坂学院の生徒が襲われたって……」

にこ「ちょっと、それ大丈夫だったの!?」

希「被害者の子はうまく逃げて生命に別状はなかったみたいやけど……証言によれば、明らかに"普通じゃない力"で傷つけられたとか……」

にこ「それってライバー犯罪ってこと……?」カタカタ

にこ「メールボックスにも届いてる……通り魔をなんとかしてほしいって……」

希「にこっち、一応言っとくな。本来こういうガチな犯罪は警察に任せることや」

希「だけど、にこっちは……ううん。うちも同じ気持ちや。相手がライバーだとしたら、警察の手には負えない。実際に今、犠牲者は増え続けている」

希「にこっちは――どうする?」

にこ「決まってるでしょ――私はキャプテン・ニコニー。宇宙NO.1ヒーローなんだから!」



【秋葉原】

希(ネットとか噂話とかからの推測やけど、被害者には音ノ木坂学院の制服を着て夕方に秋葉原を歩いていたという共通点がある)

希(だから今回は囮作戦としてうちが夕方に秋葉原であるきまわって、後からにこっちがこっそり追いかける。ライバーの通り魔が現れたらお縄ってわけや)

希(にこっちは危険だからやめろって言ったけど、同じ学校の生徒が襲われてるならうちだって黙ってられないんよ)

希(いちおうヒーロー研究部の一員やからね。記録係だって、たまには活躍したいんや)

希(――)ゾクリ

 その時、希は背後に冷たい気配を感じた。

希「誰――ング!」

絵里「しー、大声を出さないで」

希「絢瀬さん……どうして?」

絵里「犯人がこっちを見ているわ」ヒソヒソ

希「――っ」

絵里「目を合わさないで。危険よ」

希「にこっちがうちを守ってくれる……だから大丈夫や」

絵里「あら、そうは思えないけど」

希「絢瀬さんはにこっちを知らないやろ?」

絵里「知らなくたってわかるわよ。目立ちたがり屋の取るに足らない中途半端な能力者――」

希「っ! あんたに何が――!」

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 希が絵里に食ってかかろうとしたその時だった。
 
 希と絵里がさっきまでいた場所を光線が薙ぎ払っていた。

 アスファルトの地面が弾け飛び、火柱があがる。

絵里「わかるわよ、矢澤さんに今の攻撃は防げなかった。私だから避けられたってことくらい」

 希は気づく。

 いつのまにか、自分の体が絵里に抱えられていることに。

 そして、絵里が運んでくれなければ先程の攻撃で死んでいたことに。



にこ「希……!? どこから攻撃を!?」キョロキョロ

 "ラブカブラスト"の攻撃に気づいたにこは周囲を見まわすが、敵の姿は見えない。

 ここは秋葉原、人通りが多い。

 先程の爆発に気づいた人々が悲鳴をあげ、逃げ惑う中に紛れたのかもしれない。

にこ「くっ……!」

絵里「やっぱり私には、素人にしか見えないわね――"スクールヒーロー"さん?」

にこ「あんた……希になにを!?」

絵里「助けただけよ、感謝して欲しいくらい。さて、あなたは敵を見失ったみたいだけど、私は違うわ――もう捕まえた」

 絵里が指差した先には、逃げ惑う人々が散った後に動けなくなった人影が一つあった。

 いいや、にこがよく見ると逃げ遅れたわけじゃない。

 足が凍結し、地面に縛り付けられているのだ。

絵里「あなたね、音ノ木坂学院の生徒を狙った連続通り魔事件の犯人は」

 ツカツカと近づく絵里。

 人影は全く動けないようだった。

絵里「もがいてもムダよ。あなたの足は凍結させたわ、"ラブカブラスト"を撃たれた瞬間にね」

絵里「私くらいに――"クラス5"になるとラブカブラストから"ラブカエネルギー"の発信源を逆探知できるようになる。知らなかった?」

通り魔「く、くきき……!」

絵里「あら、醜い男なのかと思ったけど違うのね。可愛い顔をしているじゃない」

にこ「……女の子……?」

 にこと絵里の目の前に這いつくばる"通り魔"は、明らかに中学生くらいの女の子だった。

 しかし様子が明らかにおかしい。眼の焦点が定まっておらず、言動も不明瞭だ。


通り魔「くききき……われら……サイキック・ファイア様の意思のままに……!」

絵里「"サイキック・ファイア"……それが黒幕の名前?」

通り魔「絢瀬絵里……ククク……キサマでは、止められない……!」

絵里「音ノ木坂学院生徒を狙った犯行……でも誰一人死者は出ていない。まるで警告みたいだった……なるほど、そういうことね」

絵里「この一連の犯行は、私への"警告"だった。そうでしょう?」

通り魔「……」

絵里「沈黙は肯定と受け取るわ。随分と恨みを買っているのね、私は。だけど残念、私が生徒会をやっている限り、生徒に手は出させない。私が止めてみせるわ」

通り魔「止められない……キサマは……ココデ、オワリだからだ」パアアアアア

絵里「――っ!?」

にこ「これ、ヤバいやつ!」

 にこはとっさに絵里を突き飛ばした。

 そのまま通り魔の少女にタックルする。

 にこのカンが告げていた。これは――"ラストライブ"。ライバーの力を凝縮した最後の攻撃。

 いいや、これはそれだけじゃない。明らかに"生きる意志"を感じない光。

にこ(自爆攻撃!)

にこ「みんな逃げて――!!!!」

 にこは組み付いたまま少女とともに人の少ない方向へ全力で走った。

 前とは違う。一般人と戦ったときとは。

 今はあの姿を消すライバーと戦ったときのような、大きな力が湧いてきた。

 小柄なにこの姿ににあわぬ剛力とスピードで、少女とにこは絵里や希から離れていく。

にこ(私はどうなってもいい、でも秋葉原のみんなは――!)

 通り魔少女の全身が強く光り輝きはじめる。もう限界だ。

 溢れ出すラブカの力がここら一体を吹き飛ばすだろう。

 少女の身体ごと、周囲を完全消滅させる。にこも無事では済まない――。

 にこは覚悟を決め、目を閉じた。


希「にこっち!!」

絵里「はぁ……バカね」ボソリ

 絵里は一瞬だけ息を吐き……。

絵里「――っ!」キィン

 通り魔少女の力が最大限に高まり、崩壊するその瞬間――大きく目を見開いた。

 その眼は――アイス・ブルーの瞳。雪のように儚く、強く、蒼白く輝いていた。

絵里「"ラストライブ"――」




絵里「"アイス・ブルーの瞬間"」







      Chapter.8 END


今回はここまでです。次回は今週末ごろに。


絵里「"ラストライブ"――"アイス・ブルーの瞬間"」キィィィィィン!!

 絵里の瞳が光り輝く。

 その瞬間――世界が凍りついた。
 
 すべてがアイスブルーの光に包まれた世界。

 絵里の視界の中に入った人間も何もかもが静止していた。

 そこで一人だけ、絵里だけが周囲を認識し、思考し、そして動作している。

 ラストライブ"アイス・ブルーの瞬間"。

 その効果により、"時間"を凍結させたのだ。

絵里「矢澤にこ……私を、いいえ、秋葉原の人たちを命がけで守ろうとしたのね」

 絵里は自爆直前の敵ライバーと、それに組み付いて爆発を抑えようとするにこの姿をみる。

 体全体が光につつまれ、今にも弾け飛びそうな状態で静止する2人。

 絵里はそのうち片方に――通り魔ライバーに手をかざし、囁いた。

絵里「――凍りなさい」

 そして時間は動き出した。



にこ「っ――」ハッ

にこ「な、何がおこって……?」

 にこが気づいたときには、彼女の眼の前の敵ライバーが"凍り付いていた"。

 ただ物理的に皮膚表面が冷やされているだけではない。

にこ「自爆攻撃自体が……ラブカパワーそのものが"凍結された"みたいな……」

絵里「危なかったわね」

にこ「あんた……いつのまに」

 にこには認識できなかった。

 全く体感できない一瞬のうちに、絵里がにこたちのいる場所まで移動していたのだ。


にこ「あんたがやったの?」

絵里「そうよ、私の能力"アイス・ブルーの瞳"で能力を凍結させた」

にこ「能力を……凍結?」

絵里「一時的なものだけれどね、いつか氷が解けてまた使えるようになる。だけどこのライバーも一時的に暴走させられていた可能性があるわ。時間をおけば正常化するかもしれない」

にこ「どういう意味よ」

絵里「……正直、私も理解できていないというか……ただ感覚でそう感じただけ。おそらくこの娘の背後には別の強力なライバーがいて、そいつがこの娘の能力を暴走させて操った。まるで"追尾型の爆弾"みたいに……」

 絵里は思い出す。

 通り魔の少女は言った。"サイキック・ファイア"と。

 その名を。どこかで聞いたことがある。どこかで……。



   Chapter.9


【絵里の幼少期】


 私――絢瀬絵里は小さな頃、笑わない娘だった。

 笑わないだけじゃない。感情の起伏が少なかった。

 その原因はなんとなくわかっていた。たぶん、私が生まれつき持っていた能力のせいだ。

 私が生まれた年に東京に隕石群が降り注いで、その年以降に生まれた女の子はライバーになる確率が高いらしい。

 ロシアの血が混ざりながらも、生まれは東京の私もその影響か、"物体を凍結させる能力"を持っていた。

 そしてだんだんと成長するにつれて、私の能力は強くなっていった。

 最初はコップの水を凍らせる程度だった。小学生に上がる頃にはお風呂のお湯を直接氷河に変えることができた。

 そして小学校高学年になるころには、湖一つ分の表面を凍らせてその上を歩いて渡る程度の力が手に入った。

 だけど同時に、物体だけじゃない。この能力は別のものも凍らせることに気づいた。

 それはライバーの力の源、"ラブカ"や、他にもある。人間の感情や魂、意思みたいなもの。あるいはこの世界を流れる"時間"そのものまで。

 言ってみれば、目に見えないエネルギーや概念的なものまで凍らせることが出来る。私の能力は"クラス5"、世界でも有数の強力なライバーに分類されるらしい。

 だけど嬉しいとは思わなかった。大きな力の代償なのだろう、私は私自身の感情も"凍ってしまっている"ことに気づいた。

 小さな頃は希薄な感情のせいで周囲に溶け込むことが難しくて、友だちはできなかったし、両親にも怖がられていて、妹の亜里沙が生まれてからは二人共私にはかまってくれなくなった。

 だから私はおばあさまに育てられた。


おばあさま「いつかあなたの目の前に現れることになる、あなたの"対(つい)"となる存在が」

おばあさま「その名は"サイキック・ファイア"」

おばあさま「今はわからなくても良い、だけど恐れてはダメ」

おばあさま「あなたが氷とすれば、それは炎。どちらが欠けても世界は成り立たない。善悪など関係ないの、あなたとその存在は2つで1つ」

おばあさま「"それ"はあなたの影。だから恐れてはダメよ、受け入れるの」

おばあさま「たとえ戦うことになっても、その戦いの中にきっと、あなたの"大切なもの"が見つけられるわ。あなたを孤独から救う何かが……」

おばあさま「だから忘れないで。私のかしこい、かわいい、エリーチカ――あなたは独りじゃない」

短いですが今回はここまでです。
Chapter.9は絵里の身の上話なのでもう少し続きます。

次回は今週の火曜くらいに。

【通り魔事件から数日後 音ノ木坂学院】


にこ「あんた、ライバーだったのね」

絵里「……」

にこ「それにあの"凍らせる"能力……」

絵里(ああ、またこの展開か……)

 絵里には覚えがある。

 今までの短い人生、能力を見られたことはそれなりにある。

 その度に同じ反応が返ってきた。

 恐れ。

 人は理解不能なものを恐れるのだ。

 それは"普通人"だけではない。ライバーも同じだ。

 絵里はクラス5、普通のライバーとは格が違う。

 今まで何度かライバーと出会ったこともあるが、彼ら、彼女らも絵里の力を知ると彼女を恐れた。

 きっと目の前の矢澤にこもそうなる――

にこ「――めっっっっっちゃくちゃすっごいじゃない!!!」

絵里「……え?」

にこ「あの能力で秋葉原もニコニーも救ったのよね!? あんた、スクールヒーローに向いてるわよ!」

絵里「え、何……その反応」

にこ「何って当然じゃない、この音ノ木坂学院にあんたみたいなスゴいライバーがいたなんて」

にこ「これは奇跡よ、運命よ! 絵里、あんたヒーロー研究部に入りなさいよ!」

絵里「……!」


にこ「私と希と一緒に、この音ノ木坂も、秋葉原も守っていくの。ねえ良いでしょ!?」

 いきなりのことで絵里はどう返していいかわからなかった。

 こんな反応をされたのは初めてだった。

絵里「ちょ、ちょっと、矢澤さん……いきなりは」

希「そうやで、にこっち。絢瀬さん困ってるやん?」

にこ「でもぉー」

希「ふふっ、でもうちも同じ想いや。絢瀬さんの力すごいなぁーって」

希「絢瀬さんはうちらじゃアカンって言ってた。その意味がわかった気がするんよ。そんなにスゴい力を持ってる絢瀬さんから見れば、うちなんて何の役にも立たない人間かもしれんけど……」

絵里「そんなこと……!」

希「ううん、いいんや。確かにうちらだけじゃ通り魔は止めらなかった。だけど絢瀬さんと一緒なら……できたんや」

希「あの時にこっちは絢瀬さんを命がけで守ろうとした。あれがうちらの本気。もう絢瀬さんもわかってくれたんやろ?」

希「この学校と街を守りたい。その気持ちはきっと同じと思うんや。だからゆっくりでもいい、考えて欲しいんよ」

絵里「……わかった、わ」



【放課後 絵里の家】

絵里「ただいま」

亜里沙「おかえり、お姉ちゃん!」バタバタ

絵里「もう、甘えん坊ね」ヨシヨシ

亜里沙「だって、久しぶりにお姉ちゃんに会えたんだもん」

絵里「久しぶりって、日本に着いてから一週間は経ってるわよ。そういえば、今回はどのくらいこっちにいられるの?」

亜里沙「しばらくはいられるよ、今度からこっちの学校にも通うの!」

絵里「そうなのね」

亜里沙「お姉ちゃんは、嬉しくないの?」

絵里「嬉しいわよ」

亜里沙「お姉ちゃんってそういうの顔に出ないよね」

絵里「ごめんね、昔からこうで」

亜里沙「ううん、いいの。これからは亜里沙がお姉ちゃんを笑顔にしてあげるからね!」

絵里「ふふ、楽しみにしているわ」

亜里沙「……お姉ちゃん」

絵里「ん、どうしたの?」

亜里沙「学校で何かいいことあった?」

絵里「……」

亜里沙「亜里沙が帰ってきたことよりも、そっちのほうが嬉しそう」

亜里沙「わかるよ、妹だもん」

絵里「……亜里沙、聞いてもいい?」

亜里沙「何、お姉ちゃん?」

絵里「私、幸せになってもいいのかな。友だちと笑いあったり、そんな普通の高校生活……私がしても、いいのかしら」

亜里沙「……いいよ。何度失敗しても、試してみたらいいんだよ」

亜里沙「もし失敗しても。お姉ちゃんは、亜里沙が幸せにするから」

絵里「ありがとう……部屋、先に戻ってるわ」バタン

亜里沙「……」


亜里沙「そう、何度だって試してみたらいいんだよ、お姉ちゃん」

亜里沙「そうすれば気づくよ、お姉ちゃんは普通の幸せなんて絶対に手に入れられないって」

亜里沙「お姉ちゃんは私と同じ。世界を凍らせずにはいられない。そういう存在なの」

亜里沙「だから絶対に亜里沙が幸せにしてあげるからね――お姉ちゃん」

 亜里沙が掌を広げると、その上に小さな炎が灯った。

亜里沙「まずはこの街を少しずつ炎で侵食していこうっと」

亜里沙「次の"ブーステッド"は、誰にしようかなぁ」

 人間の感情は、炎のようなものだ。

 燃え上がり、揺らめいて、時々消えたり、爆発したり。

 絵里の能力"アイス・ブルーの瞳"が物体のみならず感情や魂、そしてライバーの能力まで凍らせてしまうものだとすれば。

 その対となる亜里沙の能力"サイキック・ファイア"は物体及び感情や魂、そして"ライバー"の能力すら強く炎上させてしまう。

 "ブーステッド"とは、その名の通り亜里沙が"ブースト"したライバーのことだ。

 弱々しい能力しかもっていないようなクラス1のライバーだろうと、亜里沙にかかれば触れるだけでクラス2から3程度まで強化される。

 さらに元から持っていた感情を強化し、方向性を操ることで、望む方向へその人物を導くこともできる。一種の洗脳だ。

 今回の事件では亜里沙がこの能力を使い、元から音ノ木坂の学生と若干のいざこざを起こしたライバーの少女を暴走させ、通り魔に仕立て上げた。

 亜里沙は絵里と同じく、生まれつきこの能力を持っていた。

 手をかざすだけで視界内のあらゆる物体を焼き尽くし、手を触れれば人間の感情を操り、相手がライバーなら能力を強化・暴走させる。

 それが"サイキック・ファイア"。

 周囲と比較したり、確かめたりする必要なんてない。明らかに最強の能力だと、小さな頃から亜里沙は理解していた。

亜里沙「まあ、お姉ちゃんはニブいから亜里沙が"ライバー"だっていうことには気づいてないんだけどね」

亜里沙「可愛いお姉ちゃん」

亜里沙「せいぜいあがいて、人並みの幸せを探してみたらいいんだよ」

亜里沙「お姉ちゃんはずっと独り。お姉ちゃんを理解できるのは亜里沙だけだって、いつかわかるときがくるんだから――」

今回はここまでです。次回は今週末にでも。

絢瀬姉妹を強くしすぎて頭を抱えてます。

"サイキック・ファイア"の能力は今のところ 分類:クラス5
①自然発火:効果範囲は視界に入ったもの全て。手をかざしただけで遠距離でも発動する。普通人には防御不可能で、ライバーならフォースフィールドで防御可能。
②爆弾化:触れた物体を爆弾に変える。人間でも爆弾に変えられる。
③感情の炎上:触れた人間の感情を暴走させる。実質的な洗脳であり、爆弾化と同時に使えば「人間爆弾」が出来上がる。
④ラブカブースト:触れたライバーの能力を暴走させる。感情の炎上と同時使用することで、ライバーを強化した上で操り"ブーステッド"とすることができる。

という感じです。他にも色々出来ると思いますがこれだけでも十分強そうです。

【数日後 秋葉原 ビルの屋上】


希「にこっち、聞こえる!?」

にこ『ええ聞こえてるわよ、ジャックされたバスの位置は!?』

希「望遠レンズではっきり見えてるよ」ジー

希「そこから北に120m、行ける?」

にこ『誰に言ってんの! 誘導頼んだわよ!』

希「うちにまかしとき!」

 秋葉原でバスジャック事件が発生した。

 幼稚園バスがライバー犯罪者に乗っ取られ、暴走しているのだ。

 にこと希の2人はふた手にわかかれ、バスを追っていた。

 希は高層ビルの屋上から状況を把握し、にこに連絡している。

 にこは実際に地上を走って移動し、バスに追いつこうとしていた。

【秋葉原 地上】


にこ「だけど……」

にこ「バス自体が加速してる、全然追いつけないじゃない!」

希『みたいやね、何らかの能力でバス全体を加速させてる』

にこ「"ラブカニウム"の調子はいいけど……これだけ速く走ってもおいつけないなんて!」ダダダダダダ

 周囲の車を追い越すほどのスピードで走るにこだが、一向にバスに追いつけない。

 当然、警察の車両も完全に置いて行かれている。

にこ「どうすれば……!」

絵里「つかまって」ガシッ

にこ「っ! あんた……!」

 にこはいつのまにか絵里に抱きかかえられていた。

絵里「あなた、見た目よりも重いのね」

にこ「失礼ね! にこの身体は金属で補強されてるから仕方ないじゃない!」

絵里「持てないほどじゃないわよ、仮にもクラス5だもの」

にこ「で、にこをお姫様だっこしてどうするつもり?」

絵里「いったでしょう、つかまって……ってね」ビュン

 そう言うと、一気に絵里が加速した。


にこ「足元を凍らせてスケートみたいに……!」

絵里「あのバスに追いつけばいいのね」

にこ「確かに速いけど、このスピードじゃ追いつけないニコ!」

絵里「……遠距離攻撃する手段ならあるけど、それをやっても中の人たちに被害が及ぶ」

絵里「私一人なら追いつくこともできるけど、私一人では被害を抑える解決法は思い浮かばなかった」

絵里「だからあなたたちを探したの。キャプテン・ニコニー」

にこ「連携して解決しろってことね……しょーがないわねー!」

絵里「あなたには、この状況を打開する策はある?」

にこ「にこを誰だと思ってるの? 宇宙No.1ヒーロー、キャプテン・ニコニーよ?」

にこ「にこと希、そして絵里! あたしたち三人で、この事件を解決してみせる!」



 Chapter.9 END

Chapter.9は終わりです。
次回からChapter.10です。投下は来週火曜か週末を予定しています。


バスジャック犯「あたしは子どもが嫌いなのよ……うっとおしいから」ブツブツ

バスジャック犯「"サイキック・ファイア"様がブーストしてくれたあたしの力で子どもなんてみんな海に沈めてやるんだから……」

 彼女は秋葉原で幼稚園バスを乗っ取ったライバー。

 "サイキック・ファイア"に感情と能力をブーストされた"ブーステッド"だ。

 "ブーステッド"は単純な感情に支配されて行動する。

 彼女の場合、子どもへの小さな恨みや海への漠然とした恐怖が増幅され、子どもたちを海に沈めようと行動していた。

先生「みんな、大丈夫だからね……」

 先生に抱きしめられ、震える子どもたちを見てもなんとも思わない。

 "ブーステッド"は、単一の感情に完全支配されるのだ。だから自分のしていることの是非は関係ない。


先生「誰か……誰か助けて……!」

バスジャック犯「無駄無駄、みんな沈んじゃうのよ。このまま東京湾まで爆走よ!」

 彼女の能力は乗り物を強化すること。

 それは現在のように幼稚園バスを高速で走らせるだけではない。

 外装の強化、そして武装化。様々な強化がほどこされる。

 さらに今は、"サイキック・ファイア"によるブーストがある。

 このバスにたとえ追いついたとしても、バスを止めることも、侵入することも、ましてや一人の犠牲もなく幼稚園児たちを救い出すことなど。

 絶対にできるはずがないのだ。



   Chapter.10


なかなか書く時間がとれずペースが遅くて申し訳ありません。
次回は来週水曜か木曜あたりに。


にこ「希、見えてる!?」

希『見えてるでー』

絵里「高いところから東條さんにナビゲートしてもらって、私たちは地上で追う……確かに良い協力体制だけれど、これではあのバスに追いつけないわ」

にこ「追いつく必要はないわ」

絵里「どういうこと?」

にこ「先回りするのよ!」

 絵里はにこを抱えてスケートのように地面を凍らせながら移動していた。

絵里「先回り? バスの行き先が予測できるっていうの?」

にこ「イマドキ、ネットから捜査情報とかいろいろ集められるもんよ。希がやってくれたニコ」

にこ「ね、希!」


希『そうやね、今のところバスは海に向かってる説が有力みたいや』

絵里「海? それがわかったところで海にいくルートはいくらでも……」

絵里「それに先回りしてもバスを止めることはできない。私の能力で無理やり止めようとすれば中の人に被害が……」

にこ「はいはい後ろ向きはそこまでニコ!」

にこ「宇宙NO.1ヒーローキャプテン・ニコニーができるって言ってるんだからできる!」

にこ「希から送られてくる移動経路はだいたい2,3個の候補に絞られてる……あとは」

にこ「希、あんたが決めて!」

希『うちが!?』

にこ「あんた、ラッキーガールなんでしょ?」

希『……そうやんな。うちは、ラッキーガールやから』

希『いいよ、カードがうちに告げるんや……バスの経路を』

絵里「ちょっと! こんな大事なことを運任せで決めていいの!?」

にこ「いいのよ、にこは仲間を信じてるから!」

にこ「だからあんたも信じる、絢瀬絵里。あんたもにこたちを信じて!」

絵里「……!」

絵里「わかった。今回はあなたたちを信じるわ」

希『見えた! にこっち、絢瀬さん! そのまま南に5分ほど直進して! タイミングはうちが指示するから!』

絵里「タイミング?」

にこ「わかったニコ!」


【5分後 立体交差点】

希『今や、絢瀬さん! にこっちをぶん投げて!』

絵里「そうか、立体交差点ね!」

にこ「今よ、ニッコニッコ……ニィー!!!!!!」ブン

 絵里が全力で直進していたその勢いで、抱えていたにこを放り投げた。

 立体交差点の下を走る車線までにこが飛んでいく。

にこ「ここだあああああああああああああああ!!!!」ドスン

 にこは丁度真下を通っていたバスの上に着地した。希の指示通りだ。

 予測もタイミングも完璧だった。

にこ「さっすが希! あとはにこが!」ガッ

 にこはバスの天井に手刀を突き込み、恐ろしい力でひっぺがした。

 天井からバスの中に侵入する。

バスジャック犯「なっ、お前は一体!?」

バスジャック犯「このスピードで走行し、武装までしたバスにどうやって!?」

にこ「さすがに真上からの奇襲は予想できなかったでしょ?」


バスジャック犯「くっ……」

 バスジャック犯は手近にいた幼稚園児に手を伸ばした。

 人質をとるつもりだ。

 ――しかし。

にこ「もう――遅いのよ!」ドゴォ

バスジャック犯「ぐああああ!!」ドシャ

 にこの拳がバスジャック犯の顎を捉えていた。

にこ「追い詰められた犯人がやることなんて決まりきってるニコ」

にこ「それをキャプテン・ニコニーが読めないと思ったニコ? 大した能力だけど、本体はそれほどでもなかったみたいね」

バスジャック犯「くくく、それはどうかな……」ガクッ

にこ「?」

運転手「だ、だめです! バスが止まりません!」

にこ「え!?」

 犯人が倒された後、バスを止めようとした運転手が絶望した様子で叫んだ。

にこ「まさかこいつの能力、気絶した後も継続するの?」

にこ「嘘、どうすれば……」

運転手「ハンドル操作はなんとか効きますが、ブレーキが効かない……! それどころかどんどん加速しています……!」

にこ「だ、大ピンチニコー!!!!」

今回はここまでです。次回は週末に。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年05月11日 (水) 23:03:55   ID: UAaiuH38

キャプテンニコニーキターーーー\(^^)/

2 :  SS好きの774さん   2016年07月29日 (金) 21:32:07   ID: dPO5VR_Q

すごい続き気になるん

3 :  SS好きの774さん   2016年08月03日 (水) 11:48:24   ID: NSTogQ8B

続き、待ってます!

4 :  SS好きの774さん   2016年09月04日 (日) 11:16:22   ID: eu7WbbHR

にこにー回と言うよりはにこにー回想ちょい役的に思えてしまう。でも続きが楽しみ。

5 :  SS好きの774さん   2016年10月05日 (水) 20:48:56   ID: eU-5FdjJ

早く続きを~

6 :  SS好きの774さん   2016年10月14日 (金) 23:04:23   ID: omlO2m-q

おもろい!

7 :  SS好きの774さん   2016年10月21日 (金) 12:31:28   ID: hT1W8Wrd

続き楽しみ…

8 :  SS好きの774さん   2016年11月23日 (水) 07:40:31   ID: bwhWEbUj

前作も含め面白かったけど作者失踪しちゃった?

9 :  SS好きの774さん   2016年11月27日 (日) 01:03:55   ID: 1WRujX2F

いつの間にか続きが...とりまお帰り!

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