鮭を釣った話(21)

「さあさあ!見てきや!活きのいい魚があるでぇ!」

そんな快活な声が大坂の市の喧騒に混じった。

「これ、一つ買わせて貰うわ」
「お代は二百五十文でっせ」
「まだ高いわ。にいちゃん、もう少しまけてえな」
「勉強させてもろて、二百文でどうでっしゃろか」
「ほな、それで」
「まいどあり!」

昼前になる頃には魚はあらかた捌き終え、男は魚を釣りに船に乗って、海へ出た

釣果は全くだった。

いつもは大漁と言わない迄も釣れるわけである。

何かおかしい、男はそう思った。

しかし別段海が荒れるような予兆も見られない。

取り敢えず、もうひとふんばりしてまだ釣れなかったら早々に切り上げてしまおう。

男は生き餌を釣り針に取り付け海へ放り投げた。

数分待った頃だろうか。

ぐい、と大きく竿を引かれる感じがした。

「おお!やっとかかったか!」

そう思い一息に竿を引っ張り、半ば無理やりに釣り上げた。

釣ったものを見てみると、鮭であった。

鮭というものはこんなところで釣れるような代物ではないし、そもそも庶民が食べられるようなものでは無い。

とても高価なものであった。

ピチピチと船上で跳ねる鮭を見て、男はほくそ笑んだ。

今日は全く釣れなかったが、しかしそれでもなお余りあるようなものが釣れてしまった。

船着場の雁木に舟を停め、舟から鮭を取り出して荷台に上げた。

さあて、売りに出すか。

と、市に運ぶ道中である。

なにやら人々の視線が浴びるように刺さる気がした。

なにかおかしいことでもあるのだろうか。

そういえば、鮭が釣れたのだったな。

そう一人納得し、また荷台を引き始める。

「にいちゃん、どないしたんやそのべっぴんさんは」

声をかけたのは今朝の常連客であった。

「ああ、この鮭ですか?」

「どこに鮭がおんねんな」

「えっ?」

振り向くと荷台の上には裸の女がいた。

「誰だお前は」

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