エイラ「宮藤の治癒魔法ってさぁ」 (234)

エイラ「悪いな宮藤、わざわざ呼び出して」

宮藤「あ、いえ、大丈夫ですけど」

宮藤「えっと、それでなんでしょうかエイラさん」

エイラ「ああ、それなんだが…」

エイラ「実は前から気になってたんだけどな」

エイラ「お前の固有魔法ってさ、えーっと…」

宮藤「治癒魔法ですか?」

エイラ「そうそう、それ」

エイラ「その治癒魔法なんだが」

エイラ「あれって本当に、治癒魔法なのか?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462200416

宮藤「えっ…ど、どういうことですか?」

エイラ「いや、だからな」

エイラ「お前の固有魔法って、人の身体の再生速度を速める効果があるじゃん」

宮藤「え、ええ…」

エイラ「それって、本当にそうなのかなって」

宮藤「え、えぇ…?」

エイラ「いや、思い出してみろよ」

エイラ「私さ、今日お前に魔法で治療してもらったじゃん」

宮藤「あ、はい、そうですね」

宮藤「たしかエイラさんがささくれが痛いから治してって…」

宮藤「あれ、もしかして治りきってなかったですか?」

エイラ「いや…」

エイラ「…むしろ、その逆なんだよ」

宮藤「逆…?」

宮藤「もしかして、症状が悪くなってたとか?」

エイラ「いや、そういうことじゃなくてダナ」

宮藤「????」

エイラ「まあとにかく聞いてくれ」

スッ……

エイラ「ほら、見てくれ」

宮藤「…?え、なんですか?」

エイラ「ほら、ほら、ここだよ」

宮藤「……」

エイラ「……」

宮藤「…あの、ふざけてるなら…」

エイラ「ばっ…、おま!ふざけてるわけナイダロ!」

エイラ「いいからこの袖を見てくれよ」

宮藤「ん、んん…?」

エイラ「……な?」

宮藤「……」

宮藤「……あのエイラさん、からかってるなら…」

エイラ「ちげーよ!いいからこの袖のボタン見ろって!」

宮藤「も~、だからなんなんですか~」

エイラ「…直ってるんだよ…」

宮藤「…え?何がですか?」

エイラ「だから、ボタンが直ってるんだよ、袖のボタンが」

エイラ「直ってたんだよ」

宮藤「……」

宮藤「…いやいやいや、エイラさん」

エイラ「いやいやいや、聞けって」

宮藤「いやいやいや…」

宮藤「袖のボタンって…」

宮藤「私の魔法でボタンが直るわけないじゃないですか」

エイラ「いや、マジなんだって」

宮藤「そんなことありえません」

エイラ「いや、だからな…」

宮藤「…私もう部屋に戻りますね」

エイラ「なっ…!?お、おま、なんか冷たくないか!?」

宮藤「……」

宮藤「…だって」

宮藤「だって!前にもエイラさん…っ!」

~~~~~
3日前

エイラ「やべえ…やべえよ宮藤…」

宮藤「え、どうしたんですか?エイラさん」

エイラ「いやさ…私最近固有魔法がどんどん強くなっててさ…」

宮藤「えっと、未来予測…でしたっけ?」

エイラ「ああ…それがさ…」

エイラ「なんと、ついに遠い未来まで見えるようになっちまったんだ…!」

宮藤「え、えぇ…!?本当ですか!?」

エイラ「ああ…我ながら自分の力が天井知らずで恐ろしいよ」

宮藤「そ、それで!どんなことが見えたんですか!?」

エイラ「ああ、実はな…」

エイラ「実は、お前の遠い未来が見えてしまってな」

宮藤「え、私!?」

エイラ「ああ…」

宮藤「…そ、それで」

エイラ「ん?」

宮藤「えっと、それで、どんな未来が…?」

エイラ「…聞きたいのか?」

宮藤「そ、それは…聞きたいですよ」

エイラ「…本当に、聞きたいんだな?」

宮藤「は、はい…」

エイラ「……」

エイラ「本当に…いいんだな?」

宮藤「ちょ…ちょっと!もったい付けないで教えてくださいよぅ!」

エイラ「……」

エイラ「…後悔、するなよ…」

宮藤「えっ…、ちょっと待ってください、やっぱり聞きたくない…」

エイラ「いや、聞いておくべきだ」

宮藤「き、聞きたくないです…」

エイラ「いいから聞けって」

宮藤「聞きたくないですってば…!なんか怖いし…」

エイラ「お前の為でもあるんだ、ちゃんと聞け!」

宮藤「い、嫌ですってば~!」

~~~~~
そして現在


宮藤「…って言って、私がおばあちゃんになっても結婚できないって!」

宮藤「私、あの晩怖くて泣いたんですからね!?」

エイラ「いや、だからさ…あれは嘘だって、あとでちゃんと謝ったじゃん…」

宮藤「言っていい嘘と悪い嘘がありますよ!」

宮藤「私!あの晩!」

宮藤「怖くて朝まで泣いたんですからね!!!」

エイラ「いや…悪かったって…」

宮藤「それだけじゃないですよ!」

宮藤「その前にも!エイラさん、私が楽しみにとっておいた大福こっそり食べちゃったし!」

エイラ「あー、それは…」

エイラ「で、でもさ、あの後お詫びにちゃんとサルミアッキ(一缶)あげただろ?」

宮藤「いや、サルミアッキいらないですから」

エイラ「な、ナンデダヨ!?サルミアッキは美味しいお菓子じゃないか!?」

宮藤「私、あれ嫌いです」

宮藤「…不味いし」

エイラ「が、ガーン…!


※サルミアッキは世界一不味いお菓子です

エイラ「…いや、それらについては、ほんとに悪かったと思ってる」

宮藤「…本当ですか?」

エイラ「ほ、本当だって」

エイラ「…またサーニャに怒られたくねーし」

エイラ「なぁ~、とにかく話だけでも聞いてくれよ~」

宮藤「……」

宮藤「……」ハァ...

宮藤「……で、何でしたっけ?」

エイラ「……!」パァァァ...

エイラ「えっと、だからな?」

エイラ「お前の固有魔法についてだよ」

宮藤「はい」

エイラ「私のボタンがだな…」

宮藤「えっと…ですから」

宮藤「私の魔法は、ケガを治す魔法です」

宮藤「ボタンは直せません」

エイラ「いやいや聞けって」

エイラ「このボタンなんだけどさ」

エイラ「私そもそも、壊したっていうより、袖のボタンなくしてたんだよ」

宮藤「はぁ…?」

エイラ「んで、一昨日くらいにさ、格好悪いから、スペアのボタンつけ直してたんだけど…」

エイラ「なんと今日、それもまた取れててさ」

宮藤「無くしすぎですよ…」

エイラ「あーくそ、また付け直しか~、めんどくさいな~って思ってたんだけど」

エイラ「なんか無性にささくれが痛いのが気になったからさ、宮藤に治してもらおうって思って部屋に行ったら…」

エイラ「治療の後で気が付いたんだけど…」

宮藤「……」

エイラ「なんと…袖のボタンがいつの間にか元に戻ってたんだよ!」

宮藤「……」

エイラ「……」

宮藤「…そうですか」

エイラ「…お、お前信じてないな!?」

宮藤「いやだって…信じろって方が無理がありますよ…」

エイラ「本当だってば!」

宮藤「いやいやいや…」

エイラ「…目撃者がいるんだ」

宮藤「…え?」

エイラ「私のボタンが取れていた事実を証明する、目撃者がいるんだよ」

~~~~~

エイラ「というわけで、サーニャを連れて来た」

サーニャ「……」うつらうつら

宮藤「サーニャちゃん、寝そうだけど…」

エイラ「ま、まあ夜間哨戒明けだからな…おーい、サーニャ~」

サーニャ「…んん…?」

サーニャ「…あれ、なんで私の部屋に芳佳ちゃんが…」

宮藤「えっと、ここ私の部屋…」

エイラ「すまんサーニャ、私がここまで連れてきたんだ…」

サーニャ「…そう…」

サーニャ「……」うつらうつら

エイラ「あぁ!?サーニャ、寝るのはちょっと待ってくれ!」

エイラ「なあサーニャ、さっき廊下ですれ違ったときのこと覚えてるか?」

サーニャ「ん…?…ん~…」

サーニャ「…えぇ、エイラがお疲れさまって…ふぁ…」

エイラ「そう、それそれ」

エイラ「それでさ、私の袖のボタンの話、したよな!?」

サーニャ「…そうね、したわ」

サーニャ「エイラの袖、ボタンがなかったから、それどうしたのって…」

エイラ「~~~~~!」

宮藤(す、すごい嬉しそうにこっちを見てる…)

エイラ「ど~~~~だ!宮藤ぃ!?」

宮藤「ど、どうって言われてもなぁ…」

エイラ「あ、お前さてはまだ疑ってるな!?」

宮藤「いやえっと、でもその…うーん…」

エイラ「お前、私のみならず、サーニャの事まで疑う気なのか!?」

宮藤「そ、そういう訳じゃ…」

サーニャ「……」うつらうつら

宮藤「だって…やっぱり信じられないというか…」

エイラ「…ま~ったく、ここまで言っても信じられないとは、仕方のない奴だなぁ」

エイラ「そんなことだろうと思って、こんなものを用意してみました」

宮藤「これは……」

サーニャ「…………」

サーニャ「………zzzzzz………」

宮藤「…その前に、サーニャちゃん部屋に戻してあげようよ…」

エイラ「そ、そうダナ…」

以下、つづく

~~~~~
その後


エイラ「……と、いうわけでだ」

エイラ「こんなものを用意してみました(2回目)」

宮藤「これは……」

宮藤「……お豆腐?」

エイラ「ダナダナ」

エイラ「ちょいとキッチンから拝借してきた」

宮藤「……いや、なおさら意味がわからないんですけど……」

エイラ「まぁまぁまぁまぁ」

エイラ「……まず、包丁で切ります」

宮藤「え……」

エイラ「次に、皿に盛りつけます」

宮藤「……ん?」

エイラ「……よし!」

エイラ「さぁ宮藤!直すんだァァァァァッッッ!!!」

宮藤「え……うぇえええ!?」

宮藤「……ちょっと待ってくださいよエイラさん」

エイラ「おう」

宮藤「あの、わたし豆腐屋さんじゃなければ、マジシャンでもないんですけど……」

エイラ「いや、知ってるよ」

エイラ「いいから早く直してくれ」

宮藤(……こ、この人……)

エイラ「こう、ぱぱぱ〜っと、治療魔法をダナ?」

宮藤「……エイラさん」

エイラ「……宮藤、言いたいことは分かる」

エイラ「治癒魔法で切った豆腐が直るわけない」

エイラ「そうダナ?」

宮藤「いや、まぁ……」

エイラ「……宮藤」

エイラ「ウィッチに不可能はなぁい!」

宮藤「……いや、不可能ですよ……」

エイラ「ち~ゆ魔法~、あそーれ治癒魔法~」

宮藤(……な、なんか本気でムカムカしてきたなぁ……)

エイラ「……なあ、宮藤」

エイラ「試してもいない内から、どうして無理だなんて決めつけるんだ…?」

宮藤「いや、だって……」

エイラ「どんな不可能も可能にしてきた。それが私たち、ウィッチーズだろ?」

宮藤(キメ顏で言われても……)

エイラ「いいか、宮藤」

エイラ「あのライト姉妹だって、初めてストライカーで空を飛ぼうとしたときは周りから馬鹿にされたそうだ」

宮藤「え、誰ですかそれ……?」

エイラ「え…お前士官の癖にそんなことも知らないのか……」

宮藤「す、すみません……歴史苦手で……」

エイラ「……ま、まあとにかくだ!」

エイラ「これ(豆腐)、直して」

宮藤「………」

宮藤「分かりました」

エイラ「おう……おぉ!?」

エイラ「な、なんだ、やけに素直じゃないか……?」

宮藤「とりあえず、魔法かけてみます」

宮藤(……やるまで終わりそうにないしなぁ……)



パアァァァァァァ……


宮藤(うぅ…こんな(豆腐に魔法かけてる)ところ坂本さんに見られたら、本気で幻滅されそう……)

エイラ「わくわく……」

宮藤「……ふう」

宮藤「こんな感じでいいですか?」

エイラ「うむ、いいんじゃないかな?」

宮藤「……あ、そうですか」

エイラ「どーれど~れ、豆腐の様子はっと……」

宮藤「あの、そろそろおひらきに……」

エイラ「待てよ宮藤、まだ結果を見てから……」

エイラ「なっ……?」

宮藤「……どうかしました?」

エイラ「………」

宮藤「あの……エイラさん?」

エイラ「おい……マジかよ」

宮藤「あ、あの、もしかして……!」

エイラ「あぁ……その、まさかだよ」

エイラ「……直ってない!」

宮藤「……帰ってください」

~~~~~~

エイラ「な~な~、待てよ宮藤~」

宮藤「い・や・で・す」

エイラ「頼むからさぁ~、話の続きを聞いてくれよ~」

宮藤「……嫌です……」

エイラ「ミヤフジ~、ミ~ヤ~フ~ジ~」

宮藤「嫌です……いや…」

宮藤「…ああもう!わかりましたから、お尻にしがみつくの止めてください」

エイラ「宮藤、あのときを覚えているか?」

宮藤「いや、どのときですか…」

エイラ「いやほら、アレだよ。お前の魔法力が復活したとき」※劇場版参照

宮藤「えーっと、ああはい、覚えてますけど」

エイラ「お前あのときさ、なんか奇跡の復活遂げて、魔法力が元に戻ってたじゃん?」

宮藤「はい、おかげさまで」

エイラ「いや~、ほんとによかったなー」

宮藤「…あ、あの…豆腐と何の関係が…?」

エイラ「あぁ、話を戻すとだな」

エイラ「まあそのときは私も嬉しかったからさ、特に気にもしてなかったんだが」

エイラ「後日服部が書いた報告書を読んだらな、おやおやおや~?って気になるところがあったわけよ」

宮藤「えっと、何がですか?」

エイラ「お前、わたしたちが駆けつける直前にネウロイと戦って負傷してたそうだな」

宮藤「ああ、そうですね」

宮藤「いやぁ、無我夢中だったせいか、あのときのことあんまり覚えてないんですけど.…」

エイラ「ほう、そうだったのか」

エイラ「……それでだな、気になって報告書読み終わった後に服部本人からも直接聞いたんだけどさ」

エイラ「お腹に酷い怪我したせいで、大量に出血してたんだって?」

宮藤「み、みたいですね」

エイラ「そのときの出血、魔法で治したんだよな?」

宮藤「は、はい」

エイラ「……ってことは、治す前は出血多量だったわけだ」

エイラ「なら当然、服にも血がついていたはずだよな?」

宮藤「え、えぇ…そうですね……?」

エイラ「…いや、私の記憶が確かならの話なんだけどな?」

エイラ「戦闘が終わった直後のお前の服、血ついてなくなかったか……?」

宮藤「……え?そうでしたっけ……?」

エイラ「いや、ついてなかったって!」

宮藤「そ、そうだったかなぁ~……」

エイラ「ついてない!ぜ~ったい、ついてない!」

エイラ「だってあのとき私、ちょっとテンション上がってお前に抱きついちゃったけどさ」

宮藤「ああ、そういえば……」

宮藤「ふふ、あのときのエイラさん珍しく泣いてましたね」

エイラ「お、おま!?そういうの今はどうでもいいんダヨ!」

宮藤「す、すみません」

エイラ「……でだ、制服が血で染まってたらさぁ、さすがにそのときギョッとすると思うんだよな」

エイラ「あのとき私、宮藤のケガの具合とか知らなかったわけだし」

宮藤「う~ん、そう言われるとそうですね……」

エイラ「あとで着替えたときに、制服に血が付いてたことに気がついたか?」

宮藤「ど、どうだったかなぁ~……」

エイラ「おいおいそこ大事だぞ。困るなぁ~」

宮藤「す、すみません……」

エイラ「…まあ制服に血痕はなかったと仮定して話を進めよう」

エイラ「出血はしたのに、服には血痕が残ってない……」

エイラ「な~ぜ~……?」

宮藤「さ、さぁ……?」

エイラ「まあそこで、私は一つの仮説を思いついたわけだ」

エイラ「……宮藤の固有魔法は、実は治癒魔法じゃないんじゃね!?…ってな」

宮藤「えーっと……」

宮藤「仮にそうだとして、じゃあどんな魔法なんですか?」

エイラ「そうだな、おそらく……」

エイラ「ふふ……聞きたいか?んん~?」

宮藤「……はやく言ってくださいよ」

エイラ「私が推測するに、おそらく……!」

エイラ「……時間を戻して、復元する魔法!」

宮藤「じ、時間を戻す……!?」

宮藤「……で、でも、私の魔法はケガの治療に効果があって」

宮藤「お母さんも、おばあちゃんも、そのずっと前からも、私のお家はそういう力の家系だったみたいなんですけど……」

エイラ「ふむ……」

エイラ「いや、たぶんそれは思い込みだったんだよ」

宮藤「え、えー!?」

エイラ「本当は人間以外も直せる力だったんだよ!」

宮藤「え、えぇ~……」

エイラ「宮藤の治癒魔法…もとい復元魔法によって、ケガだけでなく、血に染まった制服までもが元の状態に復元された…というわけだ!」

エイラ「これで血痕消失事件の謎は解けた。だろ?」

エイラ「ふっふっふっふっ…どうよ?この名推理」ドヤァ

宮藤「……」

宮藤「……あのですね、エイラさん」

エイラ「ん?」

宮藤「私、子供のころ色々試したことがあるんですよ」

宮藤「人や動物以外にも、治癒魔法って効くのかなぁ~、って」

エイラ「ほ、ほー……?」

宮藤「それで、結論から言うとですね……」

宮藤「やっぱり、生き物以外には魔法は効きませんでしたよ」

エイラ「えっ」

宮藤「虫や植物には、動物ほどじゃないにしろ、多少は効果あったんですけどね」

宮藤「その他には全く効きませんでした」

エイラ「え……ええぇぇ~!?」

エイラ「……そ、そんな……」

エイラ「で、でも、それは昔の話で、今やったら結果も変わるんじゃ……」

宮藤「………」スッ… ※豆腐を指差してる

エイラ「………」

宮藤「………」

~~~~~


エイラ「…あ~もう、じゃあ結局私のボタンはなんだったんだぁ?」

宮藤「うーん、サーニャちゃんと会った後に、一旦部屋に戻って着替えたのを忘れてた…とか?」

エイラ「……そ、そこまでばーちゃんじゃねーぞ、私は……」

宮藤「……あの、エイラさん」

エイラ「ん?なんだ?」

宮藤「えっと、なんでそこまで私の魔法にこだわるんですか?」

エイラ「………」

エイラ「ん~?ん~……」

宮藤(目が泳いでる……)

エイラ「別にぃ?ただ純粋な知的好奇心というか、固有魔法に対する探求というかダナ?」

宮藤「………」

宮藤「あの、何か直してもらいたいものがあった、とか……?」

エイラ「………」

宮藤「………」

エイラ「……ソンナコト……」

エイラ「……ある……」

宮藤「……でしょうね」

~~~~~


エイラ「いやぁ…これなんだが…」


スッ…


宮藤「これは……」

エイラ「サーニャのお気に入りのマグカップなんダナ……」

宮藤「……取っ手が取れてますね」

エイラ「うう…今朝うっかり落としちゃってさぁ…」

エイラ「サーニャに知られる前に、どうにかできないものかと思って……」

宮藤「な、なるほど……」

宮藤「すみませんエイラさん、私はお役に立てそうにないです……」

エイラ「…そのようだな」

エイラ「はぁ~、仕方ない。新しいやつ買って素直に謝るかぁ」

宮藤「その方がいいですよ。あんまり隠し事はよくないと思いますし」

エイラ「ん~…それもそうダナ」

エイラ「悪かったな宮藤、時間とらせちゃって」

宮藤「いえ、大丈夫ですよ」

宮藤「それより、ちゃんとサーニャちゃんに謝らないとだめですよ?」

エイラ「わ、わかってるよ…お母さんかお前は」



ガチャッ


バタンッ


宮藤「…ふぅ」

宮藤「な、なんだかまたエイラさんに振り回されたような……」

宮藤「それにしても、固有魔法かぁ」

宮藤「あんまり自分の魔法のことについて、深く考えたことなかったなぁ」

宮藤「そもそもなんで魔法ってあるんだろう…って、あ!」

宮藤「もうこんな時間かぁ、そろそろミーティングいかないと……」

宮藤「…っていうかエイラさん、豆腐置きっぱなしにしてるし……もぉ~!」



キラッ


宮藤「……あれ、何か落ちてる」

宮藤「こ、これ…ボタン…」

宮藤「……エイラさん、また落っことしてるし……」

宮藤「も~、仕方ないなぁ……」

宮藤(……あれ?)

宮藤(このボタン、なんか見覚えがあるような……?)

宮藤(いや、さっき見せてもらったから、見覚えも何もないんだけど…)

宮藤(でもそれより前に、どこかで見たような……?)

宮藤「うーん…」

宮藤「…って、そんな場合じゃないや。はやくこれ(豆腐)片付けてミーティングいかないと」

以下、つづく



「……ーナ……ミー……」


ミーナ「………」


「……ミー……ミーナ、ミーナ!」


ミーナ「……え、あ……何かしら?」

クルト「ふむ、何ときたか…」

クルト「留学の件で相談があると聞いたから、今夜は仕事を断ってきたんだけど」

クルト「席に着くなり…いや、席に着く前から心ここにあらず…という様子だね?」

ミーナ「ご、ごめんなさい」

クルト「…これはもしや、相談をダシに愛の告白をするために呼びだされた…なんて、期待してもいいのかな?」

ミーナ「ちょ、ちょっと…!なによそれ…」

ミーナ「…残念でした。あなたが期待しているような色のついた話をする気はまったくありませんから」

クルト「そうか、それは残念だなぁ」

クルト「しかしそうは言っても、君が恋に浮かれて試験に落ちるような結果を残してしまったら、それはそれですごく困るけどね」

クルト「なんせ僕は君のご両親から直々に声楽のコーチに任命されてるんだ」

クルト「君を第二のモーツァルトと呼べる存在に育てられなければ、合わせる顔がないってものだよ」

ミーナ「なによそれ……私をクララ・シューマンにでも仕立て上げる気?」

クルト「いや、君なら、シューマンよりも更なる高みを目指せるんじゃないかな」

クルト「なんせ学校で告白されない日が無いらしいじゃないか」

クルト「他者を惹きつける、ということを、ピアノも歌も使わないで出来てしまうんだ」

クルト「その点において、君は既にシューマンを超えているよ」

ミーナ「…呆れた。そんなブリタニア人みたいなジョークどこで覚えたの?」

クルト「ああ、最近君がピリピリしてるみたいだからさ、今朝のタブロイド紙から仕入れたネタを披露してみたんだけど」

クルト「面白くなかったかい?」

ミーナ「それ、「貴婦人を虜にする魔法の言葉たち」でしょ?」

ミーナ「その記事なら今朝私も読んだけど」

ミーナ「あの歯が浮くような台詞で虜になる女性がいるなら、是非会ってみたいと思ったわ」

クルト「うーん、手厳しいなぁ……」

クルト「君に敵と味方、両方多い理由がなんとなく分かる気がするよ」

ミーナ「あら、それじゃあなたは私にとって敵と味方どっちなの?」

クルト「そうだなぁ、僕は……」





男「聞いたか?ついにガリアが陥落したらしいぞ……」

女「えぇ…!?そ、それ本当なの!?」

男「あぁ、これでうち(カールスラント)の両隣は二つともネウロイに支配されたってことになるな」

女「そ、そんな……」

女「こ、ここは大丈夫なのよね…!?」

男「ん…?ははっ、それは心配する必要もないだろう」

男「この国の技術力、軍事力がお隣の何倍あると思ってるんだ?まず陥落なんてありえないよ」

男「それにこの国には、世界でも有数のエースウィッチがたくさんいるんだ、何も心配することなんてないさ」

女「そ、そう…そうよね。なら心配いらないわよね…」

男「そうさ、心配はいらない」

男「それに、いざというときは、僕が命をかけて君を守るよ」

男「だからそんな不安そうな表情はしなくて大丈夫さ…愛しい君」

女「ああ…!嬉しい!私、もう何も怖くないわ」

ミーナ「……馬鹿みたい」

ミーナ「守る力を持ってないのに、あんな事を言うのは無責任だわ」

ミーナ「あんなこと言ってても、いざネウロイが襲ってきたら、あの男の人だって逃げ出すに決まってる」

クルト「……そうだな、確かに、僕たち男は無力な存在かもしれない」

ミーナ「あっ…!ご、ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃないの……」

クルト「大丈夫、わかってるよ」

クルト「ミーナ、さっきの質問の答えだけど…」

クルト「僕は、たとえ守る力がなくても、君の味方でいたいと思う」

クルト「君が悩んだとき、悲しんだとき…そんなときに、傍で君を助けることができたらと願っているよ」

ミーナ「クルト……」

クルト「……ウィーンへの留学を諦めるんだね?」

ミーナ「えっ……」

ミーナ「……知ってたの?」

クルト「いや、なんとなくそうかなって」

クルト「君って言い出しにくいことがあるとき、窓の外を見てぼーっとすること多いから」

ミーナ「…………」

ミーナ「……ごめんなさい」

クルト「ん?なぜ謝るんだい」

ミーナ「だって…!私、今までさんざんあなたに迷惑かけて、勉強だって手伝ってもらったのに」

ミーナ「その気持ちを全部無駄にして、私……」

クルト「ミーナ」

クルト「無駄なんかじゃないさ。僕はもう十分、君から大切なものをもらったよ」

ミーナ「え……?」

クルト「…君はプライドが高いし、わがままだし、上手くいかないことがあるとすぐに癇癪を起こすし、正直大変な生徒だったけど」

ミーナ「ちょっ…!クルト!」

クルト「でも、そんな君が笑う姿が、たまらなく愛おしかった」

クルト「すごく、楽しかったよ」

ミーナ「クルト…」

クルト「君はウィッチだ。この国を、ネウロイから守る力がある」

クルト「それは僕にも、いや、この国に住む多くの人たちができない、すごいことだよ」

クルト「その力をどう使うか、それを君に強制することは僕にはできないけど」

クルト「…もし君が誰かを守りたいと願うなら、僕はその気持ちを応援する」

ミーナ「……ありがとう、クルト……」

クルト「いえいえ」

クルト「……それに、これでもう永遠に音楽の道が閉ざされるわけじゃない」

クルト「戦争が終わって、ネウロイがいない世界になれば、またいくらでも歌うことはできるよ」

クルト「まぁ、君が発声練習をサボっていなければの話だけどね」

ミーナ「ふふっ…そうね」

ミーナ「………ねえ、クルト」

クルト「ん?なんだい?」

ミーナ「えっと、あのね……」

ミーナ「…あの、わたし…あなたにもう一つ言わなきゃいけないことが……」

~~~~~


ミーナ「……………」

ミーナ「…夢…」

ミーナ(……あれから、もう何年経ったんだっけ……?)


チュンチュンチュンチュン……


ミーナ「あら、気持ちの良い天気……」

ミーナ「…さて、そろそろ準備しなくちゃ」

~~~~~
ミーティングルームにて


宮藤「す、すみません、遅れましたぁ…」

坂本「遅いぞ、宮藤」

宮藤「す、すみません……」

エーリカ「宮藤~、少尉になったからってたるんでるんじゃないのか~?」

バルクホルン「お、お前がそれを言うのかハルトマン……」

ミーナ「それじゃあ、これで全員そろったかしら?」

エイラ「あ、サーニャはまだ寝てるぞ~」

ミーナ「そうね、でもサーニャさんは夜間哨戒明けだから仕方ないわ、寝かせておきましょう」

ミーナ「…それでは、ミーティングを始めます」

シャーリー「なんかこうやって全員でミーティングするのも久しぶりだなぁ」

ルッキーニ「ん~、そういえばそだねー」

バルクホルン「そこの二人、私語は慎め」

シャーリー「は~いはい」

ミーナ「ふふ、なんだかこの感じも懐かしいわねぇ」

ミーナ「それでは、まず今日の予定について伝えます」

ミーナ「本日はネウロイの襲来予測がないため、平常の態勢でいきたいと思います」

ミーナ「まず本日10:00より12:00まで、演習場にて基礎訓練」

ミーナ「同12:00より13:00、休息と昼食」

ミーナ「同13:00より、ブリーフィングルームにて会議」

ミーナ「会議が終わり次第、そのまま以前話した例の訓練に移りたいと思います」

宮藤「例の訓練……」

宮藤「…って、なんだっけ…?リーネちゃん」小声

リーネ「えっと…ほら、ウィッチ同士の固有魔法を連携させる合体魔法の訓練だよ」

リーネ「最近、一体一体強いネウロイが増えてるから、一人じゃ対処が難しいケースに備えてってことで…」

宮藤「あ~、そういえばそんなこと言ってたなぁ……」

ミーナ「…それでは本日のスケジュールの伝達はこれで終わります」

ミーナ「次に、その他の伝達事項についてですが……」

ミーナ「二週間前に各自で注文していた備品が今朝到着しました」

ミーナ「注文した人は、あとで私の執務室に来て品物を受け取るように」

ミーナ「その他については、今日は特に伝えることはありません」

ミーナ「では、これでミーティングを終わりにしようと思いますが、誰か質問・伝達等ありますか?」

一同「………」

ミーナ「……わかりました。では、これにて朝のミーティングを終了します」

ミーナ「各自準備が整った者から、演習場での訓練を開始するように」

ミーナ「…はい、それじゃあ、解散」

一同「了解」

以下、つづく

~~~~~
AM10:30 射撃場


ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「……外れたな、右斜めに40度修正」

シャーリー「あいよー」


ガチャッ…!

…キンッ…


坂本「少し南風が吹いてる。照準より的を気持ち半分くらいずらして撃ってみろ」

シャーリー「りょーかい……」



ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「……よし!命中だ」

坂本「一発で修正するとは、さすがだなシャーリー」

シャーリー「いやぁ、それほどでも」

シャーリー「さてさて、調子が出て来たぞっと……」

坂本「……そのままで聞いてくれて構わないんだが」

シャーリー「お…?おー……」



ガチャッ…!

…キンッ…


坂本「実は、お前に少佐への打診がきてる」

シャーリー「え、マジ……?」


ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「……外れたぞ、さっきのはまぐれか?」

シャーリー「え~…少佐……うーん」

坂本「まぁ、あくまでも打診であって、辞令ではないんだがな」



ガチャッ…!

…キンッ…


坂本「ちなみに経験上言わせてもらうと、佐官になると尉官の年収に20%増ってところか」

シャーリー「に、20%……!?」

坂本「まあ、あくまで扶桑海軍の場合は…だがな」


ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「………命中だ」

シャーリー「うーん、まあ別に金に困ってるわけじゃないんだが……そうかー、20……」



ガチャッ…!

…キンッ…


坂本「その代わり…目を通す書類ももれなく20%増だがな」

坂本「その他にも上層部との連絡係、尉官以下の士官への指導・育成、その他諸々のおまけつきだ」

シャーリー「あー……まぁそうなるよな」

坂本「上層部の話だと、お前が承認すれば任官試験、面接も省略して階級を上げるそうだ」

シャーリー「な、なんだか随分と気前が良いな」

坂本「ついこの間の、ライン川から侵入してきたネウロイを阻止した功績が大きいようだが」

坂本「まあガリア、ヴェネツィアの開放に続いて、ネウロイの(カールスラントからの)大規模侵攻を未然に防いだわけだからな」

坂本「それ相応の昇進をさせるべき、という話が出たんだろう」

坂本「だが、一度解散した部隊がまたも大金星をあげたことで、上層部も慌ててるようだ」

坂本「隊員に相応の階級を用意するか否かで、だいぶ揉めてるらしい」

シャーリー「あー、だから辞令じゃなくて打診なのか…」

坂本「そういうことだ……どうした、手が止まっているぞ」

シャーリー「ん?あぁ……」



ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「……命中。だが少し左に寄ったな」

坂本「…部隊全体で階級が高い者が増えると、上としても扱いにくくて困るんだろうな」

シャーリー「ふーん、なるほどねぇ」


ガチャッ…!

…キンッ…


シャーリー「そちなみにれってさ、今ここで答えないといけないことか?」

坂本「いや、今週中で大丈夫だ」

シャーリー「あー、そうか……じゃあさ」

シャーリー「その話、辞退するってことで返事しといてくれ」

坂本「そうか…本当にそれでいいのか?」

シャーリー「ああ、まあなんつーか、私としては現状で十分満足してるし」

シャーリー「仕事が増える事に対するメリットもないしなぁ」

坂本「…そうか」

シャーリー「それに……」

坂本「……それに?」



ターーーーンッ……ッ………!!!


坂本「……命中だ」

シャーリー「……それに、階級が上がったことと引き換えに、万が一他に異動とかされても嫌だしなー」

シャーリー「この部隊が好きなんだ。私はこのままがいい」

坂本「……ふ、なるほどな」

坂本「まあお前なら、なんとなくそう答えると思ってたよ」

坂本「…ちなみに、打診はバルクホルンにも来てるんだ」

シャーリー「え、そうなの?」

坂本「ああ、奴にはミーナの方から昨日のうちに伝えてある」

シャーリー「へー、そうだったのか」

シャーリー「…まあ、あの教科書軍人には、特に断る理由もないだろうし」

シャーリー「当然、受けたんだろ?」

坂本「いや、断ったよ」

シャーリー「は?マジかよ」

坂本「理由は、お前とほとんど一緒だよ」

シャーリー「……うーん、なんか意外だな」

坂本「そうか?あの人一倍仲間想いなバルクホルンなら、こういう答えを出すのも当然だと思うがな」

シャーリー「…少佐は相変わらず、部下に対する評価が甘々だな~」

坂本「ん?そんなことはないと思うが……」

シャーリー「ちなみにさ、少佐は私のことどんな風に評価してるわけ?」

坂本「ん?どうした急に」

シャーリー「いや~、こうやって聞く機会もなかなかないからさ、一応聞いておきたくて」

坂本「ん~、そうだな……」

坂本「…いつも周囲に目が行き届いてて、仲間への気遣いを忘れない常識人」

坂本「その包容力の高さは、時折母親のようでいて、それから……」

シャーリー「あ、もうお腹いっぱいだからいいです……」

坂本「なんだ、そっちから聞いてきたから真面目に答えたというのに…」

シャーリー「……いつもそんな調子だから、中佐もコロッとやられちゃったんだろうな~……」

坂本「ん?何か言ったか?」

シャーリー「いんや、何にも言ってないぞ~」

シャーリー「…さーて、訓練訓練」

坂本「むぅ……おかしな奴だ」

~~~~~~
昼休憩 グラウンド


ルッキーニ「ばっちこ~い!」

シャーリー「おっしゃあ!いっくぞ~!」

宮藤「う、うーん…今度は打てるかなぁ…」

シャーリー「おらよっ……とぉ!」


ギューーーンッ!


宮藤「うわっ!はやっ…!」


バシーーーンッ!


リーネ「……す、ストラ~イク……?」

ルッキーニ「シャーリーないすこんとろー!」

シャーリー「おいおい宮藤~、バットを振らないとボールは前に飛ばないんだぜ~?」

宮藤「そんなこと言ったって~」

宮藤「シャーリーさん速すぎですよぉ、魔法使わないでください」

シャーリー「ん?いや、使ってないけど」

宮藤「え、えぇえ~…!?」

宮藤「や、野球選手に転向したほうがいいんじゃ…?」

シャーリー「えー?なんだって~?」

ルッキーニ「えっとねぇ、野球選手になればー?だって~」

シャーリー「あっはっは、それもいいかもなぁ」

エーリカ「おいおい宮藤、ちゃんと振ってけ~」

宮藤「いやだって…野球とかしたことないですし…」

シャーリー「いくぞ~、第三球ぅ!」

宮藤「えっ、あ…まっ」


ギューーーンッ!


宮藤「うわぁっ!?」


ブゥンッ


バシーーーンッ!


リーネ「…す、ストラ~イク…」

リーネ「えっと、バッター…アウト?」

ルッキーニ「ナイスピー!シャーリー!」

シャーリー「ふっふっふ、まだまだだな、宮藤くん」

宮藤「うぅ~…た、球が見えなかったよ~…」

リーネ「ど、ドンマイ、芳佳ちゃん…!」

宮藤「えへへ…ありがとうリーネちゃん」

エイラ「…よーし、次はわたしダナ」

エイラ「ふっふっふ、こいよシャーリー…」

シャーリー「ほう、自信アリ…って顔だな」

シャーリー「だが…果たして打てるかな……っと!」



ギューーーンッ!


エイラ「…ふっ、甘ぁいっ!」


カ…キィンッッッ……!


シャーリー「なにぃ!?」


………ボスッ………


リーネ「…えっと、ふ、ファ~ル…」

シャーリー「なんだと……」

シャーリー「ファールボールだったとはいえ、わたしの球を初球で捉えるなん…」

ルッキーニ「あ~!?尻尾生えてる~!」

エイラ「ちっ、ばれたか…」

シャーリー「あ、おまっ…!未来予知すんなよなぁ~」

エイラ「やる前に魔法禁止って言ってなかったゾ~」

エイラ「それにシャーリー、これが演習ならそんな物言いは通用しないぞぉ?」

エイラ「悔しかったら、魔法込みでわたしに勝ってみればいいんダナ!」

シャーリー「ぐぬぬ、なんて屁理屈を…」

シャーリー「…そこまで言うなら仕方ない」

ルッキーニ「し、シャーリー…まさか…」

リーネ(…な、なんか嫌な予感がするから逃げておこうかな)


パァァァァァァァ……


シャーリー「…受けてみなぁ!わたしの最大最速っ!」

シャーリー「いっ……けええええっ!」

エイラ「…は?嘘だろ?」


ギューーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!


ルッキーニ「う、うわぁっ!?」



バーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!


宮藤「……い、いったい何が……?」

シャーリー「あちゃー…コントロール狂ったか?」

リーネ「ぼ、ボールは…」

エイラ「……そこ」

宮藤「え、壁……?」


ギュルギュルギュルギュル……


ルッキーニ「う、うわぁ…!壁にめり込んでるぅ~!?」

エイラ「お、おまえ、殺す気かぁ!?」

シャーリー「いや~、わりぃわりぃ」

シャーリー「まさかここまで威力が出るなんて思わなくてさぁ」

宮藤「っていうか、ボール…」

シャーリー「…あ」

ルッキーニ「んぎぎぎぎぎ……」

ルッキーニ「と、とれないよ~…」

リーネ「…え、えっと…」

リーネ「…ゲームセット?」

一同「………」

エーリカ「………」

エーリカ「あれ、わたしまだ一回も打ってないんだけど…」

以下、つづく

~~~~~
ブリーフィングルームにて


エーリカ「それじゃあこんなのはどうだ?疾風(シュトルム)と雷撃(トネール)で……サンダーストーム!」

ペリーヌ「あの、そんなことをしたらハルトマン中尉も痺れてしまうのではなくて…?」

エーリカ「あ、そっか~」

エーリカ「うーん、それは困るなぁ……」

バルクホルン「…というか、なんだそのめちゃくちゃな技名は」

バルクホルン「サンダーはリベリオン語で、ストームはカールスラント語だぞ」

エーリカ「む~、それくらい知ってますぅ~、響きがかっちょいいからいいんです~」

ペリーヌ「はぁ…技名とかどうでもいいですから、もっと建設的なアイディアを出してくださる?」

エーリカ「なんだよ~、そういうペリーヌは何かいいアイディアあるのかよ~」

ペリーヌ「そうですわね、こんなのはいかがかしら?」

ペリーヌ「まずは、シャーリーさんの加速魔法を用いて」

ルッキーニ「あーーーーー!いいこと思いついたぁ~!」

ルッキーニ「あたしの光熱魔法とハルトマンのシュトルム~!の合体技!どう!?」

ペリーヌ「ち、ちょっと!ルッキーニさん!わたくしまだ発言中でしてよ!?」

シャーリー「んー、案外悪くないんじゃないか?」

シャーリー「おまけにルッキーニの魔法は多重シールドもつくし」

シャーリー「装甲の分厚いネウロイでも、突っ込めば一撃でコアごと吹っ飛ばせるかもなー」

エーリカ「おお!なんかかっこよさそう~!」

ペリーヌ「…こ、この人たちはどうしてこう人の話を~…!」

バルクホルン「ハルトマンの固有魔法は発動中、絶妙な魔力コントロールと神業に近い飛行技術によって飛行姿勢をなんとか保っているが」

バルクホルン「それが二人で合体となると、お互いの魔力が干渉しあって、あらぬ方向へ弾き飛ぶ危険があるぞ」

エーリカ「え?そうなの?」

バルクホルン「お、お前…自分の固有魔法だろうが…!?」わなわな

シャーリー「いやでもさー、そこを訓練して実用化していこうっていうのが、今後の課題なわけだろ?」

ルッキーニ「そーだー、そーだー」

シャーリー「難しいから無理、って却下してたら話も進まねーぞ」

バルクホルン「難しいからではなく、危険が伴うから無理と言っているんだ」

バルクホルン「一発逆転の曲芸技よりも、堅実な戦法と技術を元にだな……」

シャーリー「なんだよ夢がないな~、何事もやってみなきゃわかんねーだろ~?」

ルッキーニ「そ~だ!そーだー!」

バルクホルン「考え無しの賛同なら口を閉じていろ!フランチェスカ・ルッキーニ少尉!」

ルッキーニ「う、うじゅ~…!?」

シャーリー「ほーらでたぞぉ、堅物委員長のお出ましだ~」

バルクホルン「な、なんだと貴様!?ロマンチストで年中夢想のリベリアンめ…!」

リーネ「あの、あの~…け、ケンカしないで話し合いましょうよ~…」

ペリーヌ「はぁ…わたくし、頭が痛くなってきましたわ…」

エーリカ「……なんかお腹空いてきたなぁ~……」

~~~~~
同室 少し離れたテーブルにて


ミーナ「もう…ケンカ厳禁ってさっき言ったばかりなのに」

坂本「そうか?議論が白熱するのはいいことじゃないか」

坂本「それにあの二人は、一見ケンカ腰なようで、納得出来る意見はしっかり尊重しあっているぞ」

坂本「まあ、ケンカするほど仲が良いってやつだろ」

ミーナ「もう、美緒ったら……自由と放任は違うのよ?」

坂本「……さて、あちらのことは任せるとして」

坂本「お前たち、何か妙案はあるか?」

エイラ「う~ん、そうダナ~」

エイラ「私の未来予知と中佐の空間把握を合わせる、なんてどうだ!?」

エイラ「空間把握に未来予知が加われば、怖いもの無しじゃね?」

ミーナ「そうねえ…」

ミーナ「戦闘中二人いっぺんにその場で釘付けになっちゃうのは厳しいけど、なかなか面白そうなアイディアね」

ミーナ「コア移動型のネウロイが同時に多数出現したりしたときに、役に立つかもしれないわね」

エイラ「おお!採用か~?」

ミーナ「まあ、採用かどうかはともかく、意見の一つとして留めておくわね」

坂本「宮藤、サーニャ、お前たちは何かあるか?」

宮藤「うーん、わたしこういう難しいことは苦手で……」

坂本「なんだなんだ、そんなに難しく考えなくていいから、忌憚のない意見を出してみろ」

宮藤「う、うーん……」

サーニャ「………」

サーニャ「……あ、あの……」

ミーナ「あら、どうぞサーニャさん」

サーニャ「えっと……」

サーニャ「芳佳ちゃんの治癒魔法に、ミーナ中佐の空間把握を合わせれば……」

サーニャ「ケガをした人の容体が解りながら治癒できるんじゃ…なんて…」

坂本「おお、面白い発想だな」

坂本「さすがはサーニャ、若いだけあって発想が柔軟だな」

サーニャ「えっと…そ、そんなことないです……」

宮藤「わ~、サーニャちゃんすごいね!」

エイラ「ふふん、まぁ、サーニャがすごいのは今に始まったことじゃなくてダナ?」

ミーナ「若いって良いわねぇ。…って、あら、もうこんな時間」

ミーナ「トゥルーデ、そっちの意見はだいたいまとまったかしら?」

バルクホルン「ん?あ、あぁ…まあだいたいはまとまったと思うぞ」

ミーナ「そう、分かったわ」

ミーナ「はい、それじゃあみなさん注目して」

ミーナ「とりあえず話し合いはそろそろ終わりにして、訓練の方に移りましょう」

ミーナ「今日テーブル毎に分かれたA斑、B斑それぞれ出し合った意見を元に訓練を行ってください」

ミーナ「出た意見は各班リーダーが三つまでに厳選して、それを元に訓練を行うこと」

ミーナ「また、少しでも危険だと感じた場合はすぐに訓練を中止すること」

ミーナ「いいですね?」

一同「了解」

ミーナ「では、10分後にハンガーに集合してください」

~~~~~
基地上空


ミーナ「……うん、いい感じね」

ミーナ「広域探査のおかげで、空間把握の範囲が広くなったわ」

ミーナ「新たに広がった場所はまだ全部把握できないし、魔力の消費も多いけれど」

ミーナ「訓練次第では、新たな戦略として組み込めるんじゃないかしら」

ミーナ「すごいわねサーニャさん、あなたの固有魔法、とっても素晴らしいわ」

サーニャ「あ、ありがとうございます……」

~~~~~
ちょっと離れた空域にて


エイラ「…は~……帰ってもいいかな……」

宮藤「え、ちょっとエイラさん…やる気出してくださいよ」

エイラ「いやだってさ、お前とわたしが組んで何ができるよ……」

エイラ「治癒と予知じゃまったく噛み合う要素ないじゃんか……」

宮藤「いやまあそれはそうですけど……」

エイラ「……それに」

エイラ「ち、中佐だけどさぁ、あんなふうにサーニャの腰に手を回してさぁ、あ、あれって必要なのかぁ!?」

宮藤「……えーっと、連携するのに必要なんじゃないですか?」

エイラ「おまっテキトーナコトイッテンジャネーゾ!?!!!?」

宮藤(そ、そっちが聞いたから答えたのに~……)

エイラ「……とりあえずもうわたしは必要なさそうだし、先に基地戻ってていいか?」

エイラ「中佐、いいよな?」

ミーナ『ええ、そろそろ時間も時間だし、大丈夫よ。帰投を許可します』

エイラ「りょうか〜い、んじゃな」


ブウゥゥゥゥゥゥゥンッ………


宮藤「あ、エイラさ〜ん……」

宮藤「もう、相変わらず自由だなぁ……」

宮藤「……ってあれ?」

宮藤「あのー、エイラさん」

エイラ『ん?なんだ?』

宮藤「あの……ストライカーから煙出てませんか……?」

エイラ『………』

エイラ『…宮藤』

宮藤「…はい…」

エイラ『どうやら、予知によると5秒後に落ちるみたいだ…』

宮藤「えっ」

エイラ『あーーーーくそ!!!確かに今朝塔のカード出てたけどさ!?』

宮藤「ち、ちょっと!エイラさん!?それ本当に言ってるん……!?」



プスンプスンプス………


エイラ『あっ、エンジン止まった……』


ヒューーーーーーンッ


エイラ『なああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!??!』

宮藤「え、エイラさーーーーん!!!???!?」

~~~~~~

シャーリー「…お、おい…なんかエイラが落ちていってないか?」

エーリカ「あ、ほんとだ」

バルクホルン「な、なにぃ!?」

ペリーヌ「そ、そんな、エイラさん!?」

リーネ「わ、わたし行きます!!!」

ペリーヌ「え、あ…わ、わたくも行きますわっ!」

~~~~~

ミーナ『宮藤さん!何があったの!?』

宮藤「え、エイラさんのストライカーのエンジンが止まったみたいです!」

ミーナ『えぇ!?と…とにかく、なんとかエイラさんを助けないと!』

宮藤「今行ってます!絶対キャッチします!!!!!」

ミーナ『み、宮藤さん、頼んだわ!』

宮藤「……お願いっ…もっと速く……!!!!」

~~~~~

エイラ(なんなんだよもう…今日は完全に厄日だ…)

エイラ(まさかこっち(501)来てから、初の墜落がエンジントラブルになるとはね…)

エイラ(はぁ~、こりゃー今まで散々バカにしてきたけど、ニパのこと笑えねーなぁ…)


【そうだぞイッル、人の不幸を笑ってるといつか自分に返ってくるんだからなー?】


エイラ「え…お前は…」

ニパ【ほら頑張れ、最後まで諦めるな!】

エイラ「え?なんでニパがここに……?」

アウロラ【いいかエイラ、人生において大事なことはな】

エイラ「は!?ねーちゃん!?」

アウロラ【最善の策を考え続けること、前に進み続けること…】

エイラ「いや、なんで二人が……」

エイラ「って、あれ、これって……」

エイラ「……これ……走馬灯ってやつじゃね……?」

アウロラ【あとは、決して悔やまないこと】

エイラ「ね、ねーちゃん!ヘーーールプ!!!!」

アウロラ【そして何より大切なのは】

エイラ「た、大切なのは!?」

アウロラ【最期の瞬間は潔く諦めることだ】

エイラ「…ウソダローーーーーー!!?!???!?」

エイラ(…あ、これ本当に死ぬやつだ…)

エイラ(短かったなぁ、わたしの人生…)

エイラ(もうサーニャに会えないなんて…ああサーニャ…サーニャ~…)

アウロラ【…あ。あと一つ言い忘れていたが】

エイラ「いや、もう今更いいって…」



アウロラ【困ったときは、仲間を頼れ】



「エイラさん!!!!!!!」


エイラ「あ、えっ、宮藤…!?」

宮藤「手をっ!!!!!手を早くっっ!!!!」

エイラ「……くそおおお死んでたまるかああああああ!!!!」

エイラ「ぐ…ぬ…ああぁぁぁあああ……!!!!!!」





パアァァァァァァァッッッ!!!!!!!



~~~~~

宮藤「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

宮藤「え…エイラさん…エイラさんっ!ぶ、無事ですか!?」

エイラ「……あぁ、なんとか……」

宮藤「け、ケガとか、えっと……ケガとかないですか!?」

エイラ「いや、どこも…」

宮藤「ほ、本当ですかっ!?」

エイラ「……強いて言うなら引っ張ってもらった腕が痛いかなぁ」

宮藤「……よかった、よかったぁ……」

エイラ「な、なにも泣くことないダロー…?」

宮藤「だって…だって~…」

エイラ「………」

エイラ「……な、なあ宮藤」

宮藤「はい、なんですか?」

エイラ「あのさ、助けてもらって嬉しいし、感謝もしてるんだけど……」

エイラ「…そ、そろそろ恥ずかしいし、なんか気まずいから…離れてくれないか…?」

エイラ「あとちょっと苦しいし……」

宮藤「えっ…あ、あぁ!そうですね…!」

宮藤「あ、でも、今離すとエイラさん落っこちちゃいますよね?」

エイラ「あ、そういえばそう…ん?」

宮藤「どうかしました?」

エイラ「あれ?これって……」


「エイラさーん!!!芳佳ちゃーん!!!」


宮藤「リーネちゃん!あ、ペリーヌさんも」

リーネ「エイラさん大丈夫!?落ちていくのが見えたから…!」

エイラ「いや~、すまん、心配かけちまったな~」

ペリーヌ「その様子だと、どこもケガはなさそうですわね」

ペリーヌ「…はぁ、頼みますから、寿命が縮むようなことはしないでくださる?」

エイラ「も、申し訳ない…」


『宮藤さん!エイラさんは!?』


宮藤「あ…ミーナ中佐、えっと、なんとかキャッチできました…エイラさん、無事です」

ミーナ『……よかった。どこかケガをしている様子はない?』

宮藤「えーっと、ちょっと腕が痛いって言ってますけど、元気です」

ミーナ『そう…はぁ、本当によかった…』

ミーナ『宮藤さんありがとう。あなたのおかげよ』

宮藤「は、はい…!」

宮藤「…あ、そうだ。リーネちゃんたちが来てくれたので、このままエイラさんを基地まで運ぶの手伝ってもらいます」

ミーナ『わかりました。基地に戻るまで、決して気は抜かないようにね』

宮藤「はい、了解です!」

エイラ「ん~…?あれ、おっかしいなー…」

ペリーヌ「何をぶつくさ言ってるんですの。さっさと帰りますわよ」

エイラ「いやそれが…って、えっ…もう片方ペリーヌが支えて運ぶの?」

ペリーヌ「えぇ…?それが何か?」

エイラ「…すまないが、リーネと変わってくれないか。ツルペタには興味ないんダナ」

ペリーヌ「…あ…あな…あなあなあなたって人は〜〜〜〜〜〜っ!!!?!???!!?」

宮藤「わあちょっとぉ!こんなときにケンカはやめてくださいよ~~~!!!」

ペリーヌ「もういっぺん地面まで落ちなさい!!!!いえ、むしろわたくしが落とします!!!!」

エイラ「ぐえぇ…し、絞まる~…!」

リーネ「…あぁ、誰か止めて~…」

以下、つづく

~~~~~
翌日 執務室


坂本「まったく…今回ばかりはさすがに肝を冷やしたぞ」

ミーナ「そうね、こんなことなら、ネウロイが相手だった方がまだマシかもしれないわ」

坂本「同感だな」

坂本「……で、結局のところ、大本の原因は何だったんだ?」

ミーナ「………」

ミーナ「…それなんだけど」

~~~~~
前日夕方 ハンガーにて


整備班長「申し訳ありません中佐!」

整備班長「今回の一件、すべては自分の責任です」

整備班長「しかるべき処分は、すべて自分が…!」

ミーナ「ちょ、ちょっと落ち着いてください…」

ミーナ「まずは、分かっていることから順を追って説明していただけますか?」

整備班長「は、はい…」

整備班長「…まず、ユーティライネン中尉のストライカーに不調が出た原因は、これだと思われます」

ミーナ「これは……エンジンオイル?」

整備班長「はい、これは最近開発部から送られてきた試作品なのですが」

整備班長「使用すると燃焼効率が上がって、機体の運動性が向上する、という触れ込みでした」

整備班長「試してみたところ、実際にその通りの効果があったのですが…」

ミーナ「…なにか、問題があったのね?」

整備班長「ええ、どうやら、ごく稀にオイルが燃焼しきれずに凝固してしまう不具合があるようで…」

整備班長「つまり、固まったオイルが詰まることで、エンストを起こす可能性がある…という欠陥があったんです」

整備班長「危険性が高いということで、つい先日に使用は中止しました」

整備班長「試作品は向こうへ送り返すために、すべて回収したつもりだったのですが…」

ミーナ「試作品が、誤って紛れ込んでいたと?」

整備班長「はい、その通りです」

整備班長「こちらが普段、Bf109タイプに使用しているエンジンオイルです」

整備班長「そして、こちらが試作品」

ミーナ「……ほとんど見分けがつかないわね」

整備班長「はい…こちらで点検表を確認したのですが」

整備班長「昨日の訓練直前に、ユーティライネン中尉のストライカーにオイルを差したことが分かっています」

整備班長「おそらく、そのときのオイルが試作品だったと……」

ミーナ「そう…他の隊員のユニットは大丈夫なのかしら?」

整備班長「はい、確認したところ、他のストライカーから問題のオイルは確認できませんでした」

ミーナ「…確か昨日は、整備班のオフに合わせて、外注の人たちが整備に入っていたわね?」

整備班長「はい、その通りです…」

ミーナ「…うーん、いろいろとタイミングも重なっての事故、というところかしら?」

整備班長「い、いえ!今回のことは、試作品に対する危機管理を徹底できなかった自分にすべての責任が…!」

ミーナ「うーん、そうねぇ…」

ミーナ「…こうしましょう。ミスの責任は、今後の責任ある仕事で挽回する、ということで」

ミーナ「ミスは誰にでもあるわ。私たちとしては、同じミスが二度と起こらなければ、それで十分です」

ミーナ「それ以上の処罰だとかは、とくに望んでいません」

整備班長「ミーナ中佐……」

ミーナ「今後もよろしく頼みますね」

整備班長「ありがとうございます…!ただ、一つ気になることが」

ミーナ「…?なにかしら」

整備班長「帰還したユーティライネン中尉のストライカーをバラしてみたんですが、その…なんというか…」

ミーナ「何か、気になることでも?」

整備班長「ええ、その、見当たらないんですよ……」

ミーナ「見当たらない……?」

ミーナ「えっと、パーツのことかしら?」

整備班長「いえ、そうではなく…」

整備班長「…不具合となる個所が、見当たらなかったんです…」

ミーナ「…ど、どういうこと?」

ミーナ「だってさっき、墜落の原因はオイルにあったって…」

整備班長「ええ、そうなんですが…」

整備班長「正確には…そうとしか考えられない、と言いますか」

ミーナ「……?」

整備班長「その…オイルタンクをチェックして、入っているのが例の試作品だという確認はとれました」

整備班長「……ですが」

整備班長「……オイルが凝固した形跡は、見当たりませんでした……」

~~~~~


坂本「では、オイルが異常を起こしていないにも関わらず、エンジンは止まったということか?」

ミーナ「…そういうことになるわね」

坂本「原因は、オイルではなかったということか?」

坂本「では、ストライカーの方に問題が?」

ミーナ「…………」

坂本「…ミーナ?」

ミーナ「…見つからなかったわ」

坂本「…なに?」

ミーナ「パーツ一つ一つまで分解してチェックを行ったけど」

ミーナ「不具合は、どこにも見当たらなかったそうよ」

坂本「…そんなことがあるのか?」

ミーナ「…分からない」

ミーナ「でも、確かにあのときエイラさんのストライカーはエンジントラブルを起こした」

ミーナ「それは事実よ」

坂本「…不可解だな」

~~~~~


コンコンッ


ミーナ「あ…はい、どうぞ」


ガチャッ


「中佐―、来たぞ~」


坂本「む?エイラか」

エイラ「あれ、なんか取り込み中だったか?」

坂本「ああ、まあそんなところだ」

坂本「…っと、こんな時間か」

坂本「すまんミーナ、そろそろ私は行く。また後で話し合おう」

ミーナ「ええ、分かったわ」



ガチャッ


バタンッ


エイラ「…おいおい中佐~、「また後で」だなんて、何か大人の会話でもしてたのか~?」

ミーナ「…あのねエイラさん、何か勘違いしてない?」

エイラ「ん~?二人の仲は私の想像よりも、既により親密って勘違……」

ミーナ「…………」

エイラ「…わ、悪かったからそんな怖い目で見ないでくれよ~…」

ミーナ「…はぁ、昨日あんなことがあったのに、元気でなによりだわ」

エイラ「た、ため息交じりに言うなよ…」

エイラ「…んで、呼ばれたのは、昨日のことについてか?」

ミーナ「ええ、そうよ」

ミーナ「昨日はバタバタして聞く暇がなかったから、当時の状況について聞いておきたいと思って」

エイラ「当時の状況…ねえ」

ミーナ「あのときのこと、覚えているかしら?」

エイラ「ああ、よーく覚えてるよ」

ミーナ「それじゃあ、墜落するちょっと前から、順を追って話してくれると助かるわ」

エイラ「うーん、そうダナ~」

エイラ「確か、サーニャと中佐が一緒に訓練してる姿を後ろから見てて…」

エイラ「なんか中佐の手がサーニャの腰に回ってるのがどーも気になるというか、なんか手つきがいやらしいというか」

ミーナ「……エイラさん?」

エイラ「わ、分かった分かった!真面目に話すから!」

エイラ「えっと、あのとき確か中佐に先に基地戻ってていいかって通信いれただろ?」

ミーナ「ええ、そうね」

エイラ「んで、OKもらったから、そのまま基地に向かって飛び始めたら…」

エイラ「……落ちた」

ミーナ「…そう」

ミーナ「なにかそのとき、体調が優れなかったとか…、そういうことはなかったの?」

エイラ「いんや、別に」

ミーナ「それじゃあ…、心に不安があったとか、何か気になることがあったとか…」

エイラ「うーん、とくにないなぁ…」

ミーナ「…急に、過去の嫌な思い出を思い出した…とかは?」

エイラ「…別にないなぁ」

エイラ「落ちる瞬間、二パ…知り合いと、ねーちゃんの走馬燈なら見えたけど」

ミーナ「……そう……」

ミーナ「…………」

~~~~~
ちょっと前


坂本「心に何らかの不調があることで、急に飛べなくなるというのはよくあるが…」

坂本「エイラも、それに当てはまるんじゃないのか?」

ミーナ「…機体になにも異常が見られなかったのだから、そうとしか考えられないわね」

坂本「エイラも何かしら、悩みを抱えている…ということか?」

坂本「普段の様子を見てると、そうは感じんのだがなぁ」

ミーナ「そうねぇ…」

坂本「前に、宮藤が急に飛べなくなったことがあったな」

坂本「ほら、アドリア海の遺跡を基地にしていたとき…」

ミーナ「ええ、覚えてるわ」

坂本「あのときと同じで、エイラも今のストライカーと相性が悪くなってきている…とか」

ミーナ「どうかしら…、あの頃の宮藤さんはまだまだ発展途上で伸びしろも未知数だったけど…」

ミーナ「ウィッチとしての経歴が長いエイラさんが、急に魔法力の総量が増えるなんてこと、あるかしら…?」

坂本「……ふむ」

坂本「…まぁ、どちらにせよ、本人にはあまり意識させないほうがいいかもな」

ミーナ「え?」

坂本「あまりあれこれ言うと、いろいろ意識しすぎて雁字搦めになることもあるからな」

坂本「最悪、今回の一件が原因で…引退なんてことも」

ミーナ「そ、そんな…」

坂本「はっはっは、なんてな」

坂本「まあ、やつ(エイラ)に限ってそんなことはないと思うがな」

ミーナ「そう…だといいけど」

ミーナ「それにしても美緒、なんだか妙に詳しく語るわね?」

坂本「ああ、経験者は語る…ってやつだよ」

ミーナ「えっ…?…あぁ、そうなの…?」

坂本「なんだ?何か変なことを言ったか?」

ミーナ「あ…、いえ、別に…」

~~~~~
再び現在


ミーナ(昔の美緒って、どんな感じだったのかしら…?)

エイラ「…おーい、中佐?」

ミーナ「…え、あ…ごめんなさい」

ミーナ「それじゃあ、本当にいつもと変わりなかったのね?」

エイラ「ああ、そうダナ」

ミーナ「…隠れて変なもの食べたりとかしてないわよね?」

エイラ「ちょっ…!ルッキーニじゃあるまいし、そんなことシネーヨ!」

ミーナ「…分かりました」

ミーナ(うーん、ますます謎が深まってしまったわねぇ…)



コンコンッ


ミーナ「はい、どうぞ」


ガチャッ


「失礼します」


エイラ「あ、宮藤」

宮藤「あれ、エイラさん」

宮藤「あ、すみません、また後で出直してきます…」

ミーナ「…あ、大丈夫よ宮藤さん。今だいたい終わったところだから」

ミーナ「エイラさんありがとう、もう大丈夫よ」

エイラ「ん?ああ、分かった」

エイラ「っていうかなんだ宮藤~?また何かやらかしたのかー?」

宮藤「ち、違いますよ…、エイラさんじゃあるまいし」

エイラ「お、お前…失礼なことを言うね?」

ミーナ「えっと、宮藤さん、もしかして荷物のことかしら」

宮藤「あ、はい。そうです」

エイラ「荷物って…、ああ、注文してたやつ?」

エイラ「お前な~、まだ受け取ってなかったのかよぉ」

宮藤「だ、だって、昨日は誰かさんの墜落騒動でバタバタして…それどころじゃなかったですし…」

エイラ「…ぐ、ぐぬぬ…」

ミーナ「ええっと、宮藤さんの荷物は…あぁ、これね」

ミーナ「はい。ここの欄にサインをしてね」

宮藤「はい。み…や…ふ…じ…、と」

ミーナ「宮藤さん、昨日のこと、改めてお礼を言うわ」

ミーナ「ありがとう」

ミーナ「やっぱり貴女は、いざという時に頼りになるわね」

宮藤「え、あ…そんな」

宮藤「いや~、な、なんか照れるなぁ~」

エイラ「おい中佐~、あんまり宮藤ばっかり褒めるなよなー」

エイラ「私のことも、もっと褒めていいんダゾ?」

ミーナ「…なんていうか、エイラさんは色んな意味で器が大きいわね」

エイラ「ふふん、照れること言うじゃ~ん?」

宮藤(ほ、褒めてるのかなぁ、それって…)

宮藤「それにしても…」

宮藤「ミーナ中佐ってやっぱり凄いんですねぇ」

宮藤「あっちの机と棚、勲章だけでいっぱい…」

エイラ「確かにすげー数だよな~」

エイラ「あ、これって例の200機撃墜の勲章か?」

ミーナ「え、えぇ…そうだけど」

宮藤「ちょ、ちょっとエイラさん…、それ触れちゃダメな話題じゃ…!?」小声

※ミーナ中佐は記念すべき200機目のネウロイを尻で圧殺しています

エイラ「え?あ…あぁ~、うん!いや~…それにしても、よく整理された棚ダナ!?」

エイラ「私はこんな風にきれいに並べられないナ~」


コツン


エイラ「ありゃっ」

宮藤「あっ、もう何してるんですかエイラさ~ん。あ~写真立てが…」

宮藤「も~…、すみませんミーナ中佐」

ミーナ「え、ええ…大丈夫よ」

エイラ「わ、わりぃわりぃ…、つい肘が……って、あれ…?」

エイラ「この写真……」

宮藤「…エイラさん?」

エイラ「見ろよ宮藤、これ…」

宮藤「え…ちょっと人のものを勝手に…、…って、あれ…?」

宮藤「……この写真、破れてる」

ミーナ「あら、ずいぶん懐かしい写真だわ…」

宮藤「あの、ミーナ中佐…、これ…」

ミーナ「ん?気になる?」

エイラ「そりゃー気になるだろー」

エイラ「写ってる中佐若いし、っていうかなんか破れて半分しかないし…」

エイラ「というか、なんでこんな破れた写真、わざわざ写真立てにいれてるんだ?」

宮藤(……え、エイラさんって、こういうとき遠慮しないで聞けるからすごいな~……)

ミーナ「…これはね」

ミーナ「昔、私が好きだった人と一緒に写ってる写真なの」

~~~~~


宮藤「好きだった人……?」

ミーナ「ええ、もうだいぶ昔のことよ」

ミーナ「ほらここ、手が写ってるでしょ?これが彼よ」

宮藤(…それって…)

エイラ「な、なにぃ~~~!?」

エイラ「なぁなぁ中佐、好きだったってことは、もうその人とは別れたのか!?」

ミーナ「そ、そうねぇ……」

ミーナ「別れたというか、生き別れたというか……」

エイラ「…………」

宮藤「…………」

宮藤(エ・イ・ラさ~ん………!?)

エイラ(って感じで、宮藤がすげー顔してる……)

エイラ(ここはやっぱ、謝らないと…だよなぁ)

エイラ「ちゅ、中佐……その、ごめん」

ミーナ「え?あぁ……、別に謝らなくてもいいのに…」

ミーナ「もう彼のことは、だいぶ前に心の整理がついてるし……」

エイラ「そ、それでもさ、やっぱ…ごめんな」

ミーナ「ふふ、ありがとう」

エイラ「……あの、差し支えなければでいいんだけど」

ミーナ「ん?なにかしら」

エイラ「その写真、どうして飾ってるのかな~……、なんて……」

エイラ「あ、いや…答えたくなければ全然答えなくていいんダゾ!?」

ミーナ「あらあら、気を遣っちゃって」

ミーナ「……私もね、本当は、ちゃんとした写真を飾りたかったんだけど」

ミーナ「残念なことに、彼が写っている写真はこれしか手元に残ってなかったの」

宮藤「…………」

ミーナ「4年前、ダイナモ作戦が発令されてパド・カレーから撤退するとき…」

ミーナ「持っていけるものは、生きのびるために必要なものに限られたわ」

ミーナ「というより、ほとんどの人が荷物なんて碌にまとめる時間もなく、撤退を余儀なくされたんだけどね」

ミーナ「この写真は、そのときになんとか持ってこれた一枚なの」

ミーナ「…でも、あのときはとてもそれどころじゃなくて、写真のことを思い出したのはだいぶ後のことなんだけど」

ミーナ「荷物を整理して写真を見つけた時には、もうこんな状態になってて…」

エイラ「千切れた方は見つからなかったのか?」

ミーナ「ええ、残念だけど」

エイラ「そっか…」

ミーナ「…でも、もういいの」

エイラ「え?」

ミーナ「彼との思い出は、ちゃんと心の中に残ってるから」

ミーナ「だから、写真がなくても大丈夫よ」

ミーナ「だから二人とも、そんな心配そうな顔はしないで、ね?」

宮藤「……ミーナ中佐……」

宮藤(…………)

~~~~~
基地 廊下


エイラ「……うーん……」

宮藤「……うーん……」

エイラ「……宮藤、ミーナ中佐ってさぁ、なんていうか……」

エイラ「大人…だよなぁ…」

宮藤「そ、そうだね……」

エイラ「私もさぁ、いつかあんな風に」

エイラ「こう、過去を漂わせるアダルトな女性にさぁ」

宮藤「……ミーナ中佐、なんだかちょっと寂しそうだったなぁ……」

エイラ「え?あ、あぁ…そうダナ…」

宮藤「ねえエイラさん、私たちがミーナ中佐のためにできることって何かないかなぁ?」

エイラ「え?そ、そりゃ~…あれだよ…」

エイラ「…えっと、肩揉んだりとか?」

宮藤「そ、そんなお母さんじゃないんだから……」

エイラ「ん~まあアレだ、迷惑かけないのが一番嬉しいだろ」

エイラ「そいじゃ私は部屋戻るわ、じゃあなー」

宮藤「あ、エイラさ~ん……もう」

宮藤「……………」

宮藤「………大切な、人かぁ」

宮藤(……私も、お父さんが死んじゃったときすごく悲しかったら、ちょっとだけミーナ中佐の気持が分かるな……)

宮藤(私はお父さんの写真持ってるから、いつでも思い出すことができるけど……)

宮藤(写真がないなら、大事な人でも…、いつか……)

宮藤「……こんなとき、わたしに人を慰められる魔法があったらな……」

以下、つづく

~~~~~
エイラの自室前


エイラ(にしても、なんで急に落ちたのかは、私も気になってるんだよな~)

エイラ「話聞く限り、ストライカーのせいじゃなさそうだし…」

エイラ「…なぁ~、もやもやするゾ~」


「あら、エイラさんちょうどよかった」


エイラ「ん?ああ、ツンツ…ペリーヌか」

ペリーヌ「…い、今何か言いかけなかったかしら?」

エイラ「気のせいダロ~?」

ペリーヌ「はぁ…はいはいそうですか」

ペリーヌ「貴女のそのお気楽さ、たまに羨ましく感じますわ…」

エイラ「いやいや~、お前やバルクホルン大尉が真面目すぎるだけだって」

ペリーヌ「…お褒めの言葉をどうも…」

エイラ「…っていうか、今ちょうどよかったって言ったか?」

ペリーヌ「あ、ええ、そうでしたわ」

ペリーヌ「エイラさん、貴女今時間空いてるかしら?」

エイラ「え?あ、空いてるけど…」

ペリーヌ「そう、よかった。ならちょっと付き合ってくださる?」

エイラ「な、なんだよ…、愛の告白とか受け付けないからな…」

ペリーヌ「はぁ!?そんなわけっ……!」

ペリーヌ「…いけないですわ、心を静めて…」

エイラ「お、おい、ペリーヌ…?」

ペリーヌ「…とにかく、つべこべ言ってないで早く着いてきなさいな」

エイラ「ええ、ちょっ…お、おい引っ張るなよ~」

~~~~~
ハンガー


エイラ「おい、なんでハンガーに来るんだよ」

エイラ「まさか、「決闘を申し込みますわぁ」とかいう気じゃないだろうな?」

ペリーヌ「あら、察しが良いですわね。その通りですわよ」

エイラ「え゛、お、おまっ…本気で言ってんのか!?」

ペリーヌ「…そんなわけないでしょう。わたくしそこまで暇じゃありませんわ」

エイラ「…前に宮藤に決闘申し込んでた奴は誰だったかなぁ~…?」

ペリーヌ「う、うるさいですわね…!さっさとストライカーを履きなさいな」

エイラ「いや、中佐の許可もなくストライカー動かしたら怒られちゃうだろ」

ペリーヌ「ああ、ミーナ中佐の許可なら既にとってありますわよ」

エイラ「は?そうなの?」

エイラ「いや…なんのために?」

ペリーヌ「決まってますでしょう?貴女のリハビリですわよ」

エイラ「り、リハビリぃ?」

エイラ「いやいや、そんなの必要ねーって」

ペリーヌ「そんなこと言って、また墜落したらどうする気ですの?」

エイラ「いや、あれはストライカーの問題だって、私は大丈夫だよ」

ペリーヌ「呆れた…、昨日の今日でよくそんなことが言えますわね」

ペリーヌ「それに、もしあのときが訓練でなく戦闘中でしたら、貴女、死んでましたわよ」

エイラ「ぐ、ぐぬぅ…」

ペリーヌ「貴女も、不安な気持ちはさっさと片付けたいんじゃなくて?」

エイラ「べ、別に不安とかねーし…」

ペリーヌ「……そう、分かりました」

ペリーヌ「なら、私たち二人だけで訓練するから、貴女はそこで見てなさい」

エイラ「え?私たち二人…?」

ペリーヌ「行きましょう、サーニャさん」

サーニャ「は、はい」

エイラ「え゛!?なんでサーニャが!?」

サーニャ「えっと…、ペリーヌさんが訓練に付き合わないかって誘ってくれて…」

ペリーヌ「サーニャさん、どうやらエイラさんはやる気がないみたいですわよ」

ペリーヌ「彼女のことは放っておいて、二人だけで行きましょう」

ペリーヌ「二人だけ…そう、二人きりで…!ね?」

サーニャ「は、はい…」

エイラ「…………」

エイラ「……な…ナ゛アアアアアア!!!!!」

エイラ「い…行く行くっ!行けばいいんだろ~!?」

~~~~~
基地上空


ダダダダダダッ


エイラ「ヒョイっ」


ダダダダダダッ


エイラ「あそーれ…ヒョイっと」

エイラ「ふっふ~ん、どうしたペリーヌ~、実弾じゃないと調子が出ないってか
~?」

ペリーヌ「相変わらず、すばしっこいですわね~…!」

サーニャ「すごい、二人同時に撃ったのに…」

エイラ「なっはっはっは、全弾回避~!」

ペリーヌ「…はぁ、エイラさん、調子はどうですの?」

エイラ「ん~?絶好調ナンダナ!」

ペリーヌ「そう、ならよかったですわね」

エイラ「おう」

サーニャ「よかったね、エイラ」

エイラ「さ、サーニャ〜…!ありがとな~」

サーニャ「…えっと私は付き合っただけだから」

サーニャ「それより、ちゃんとペリーヌさんにお礼を言わないと駄目よ?エイラ」

エイラ「え、ペリーヌに?」

サーニャ「ペリーヌさん、エイラのこと心配して、訓練の許可をミーナ中佐に取ってくれたり」

サーニャ「私がいた方がやる気が出るだろうって、わざわざ声をかけてくれたり」

サーニャ「全部、エイラのために自主的にやってくれたのよ」

エイラ「えっ…」

ペリーヌ「ちょ、ちょっとサーニャさん…」

サーニャ「…ごめんなさい、でも、私も嬉しかったんです」

サーニャ「エイラのために、何かできることないかな…って思ってたから」

ペリーヌ「サーニャさん…」

サーニャ「ペリーヌさんって、やっぱり優しい人ですね」

ペリーヌ「な……」

ペリーヌ「も、もう…それ以上は恥ずかしいから結構ですわ…」

エイラ「…………」

エイラ「…ペリーヌ」

ペリーヌ「え?」

エイラ「…さ…サンキューな…」

ペリーヌ「ああ…はいはい、どういたしまして」

ペリーヌ「それより、もう終わりで大丈夫ですの?」

ペリーヌ「一応、まだ時間はありますわよ」

エイラ「うーん、そうだな~」

エイラ「せっかくサーニャもいるし、もう少しやってこうかな~」

ペリーヌ「わかりましたわ。それじゃあ、行きますわよ」

エイラ「おーう、どんとこーい」

~~~~~
基地 搬入口


ブウゥゥゥゥゥゥゥンッ



坂本「お、エイラか」

坂本「ふむ、問題なさそうじゃないか」

坂本「ふっ、仲間の存在に感謝…だな」

~~~~~
再び基地上空


エイラ「ヒョイヒョイヒョイっと~…」

エイラ(うーん、全く問題ないじゃないか)

エイラ(ほんとに、昨日のは何だったんだ?)

ペリーヌ「…サーニャさん、挟み討ちで行きますわよ!」

サーニャ「は、はい!」

エイラ(確かエンジンオイルがどうのこうの言ってたよな~)

エイラ(こうして普通に飛べてる訳だし、私自身には問題ないってことだから…)

エイラ(やっぱり、問題はそのオイル…?だよなぁ)

エイラ(でも確かオイルにも問題なかったって言ってたっけ…うーん)

エイラ(…ってあれ…そういえば?)

ペリーヌ「…そこぉっ!」

エイラ(そうだ…いや、あのとき確かに…!)

エイラ「…あ、もしかして…!?」

サーニャ「あ、エイラ…」


ベチャベチャベチャッ


ペリーヌ「…ちょっ、ちょっと大丈夫ですの!?エイラさん!」

エイラ「…うへぁ…口ん中にペイントがぁ…」

ペリーヌ「えっと…自分で当てておいてなんですけど、貴女が被弾するなんて…」

サーニャ「もしかして、やっぱりまだ調子が戻ってないんじゃ…?」

エイラ「え?ああ…違う違う。ちょっと考えごとしてたせいで当たっちまった」

ペリーヌ「そ、そうですの…?」

ペリーヌ「なら、よかったですけど…」

エイラ「…二人ともすまん、ちょっと急用思い出したから、先に戻ってるわ」

サーニャ「え?」

エイラ「ホントすまん!二人とも、ありがとナ~!」


ブウゥゥゥゥゥゥゥンッ


ペリーヌ「あ…エイラさん!」

ペリーヌ「…もう、本当に大丈夫ですの?」

~~~~~
ミーティングルーム


バルクホルン「なるほど、話は分かった」

バルクホルン「それなら、後で機材を持ってこよう」

宮藤「そうですか!よかった~」

バルクホルン「ただそれだと問題は……」


「お~いっ!ミヤフジ~!」


宮藤「え?エイラさん…?」

エイラ「探したぞ宮藤、ちょっと一緒に来てくれ」

宮藤「えっ…ちょっと今バルクホルンさんと話が…」

エイラ「なあ大尉、それって急用か?」

バルクホルン「い、いや、別にそんなことはないが…」

エイラ「じゃあちょっと宮藤借りてくな、いくぞ~」

宮藤「ちょっとエイラさ…わ~!引っ張らないで下さいよ~」

バルクホルン「……な、なんなんだ一体?」

~~~~~
宮藤の自室


エイラ「悪いな宮藤、わざわざ呼び出して」

宮藤「……いえ、まあ別にいいですけど」

宮藤「えっと、それでなんでしょうかエイラさん」

エイラ「ああ、それなんだが…」

エイラ「実はちょっと気になることがあるんだけどな」

エイラ「お前の固有魔法ってさ、えーっと…」

宮藤「……治癒魔法のことですか?」

エイラ「そうそう、それ」

エイラ「その治癒魔法なんだが…」

エイラ「あれって本当の本当に、治癒魔法なのかな~って?」

宮藤「…………」

宮藤「…あの、エイラさん、そのくだり前にもやりましたよね…?」

エイラ「いいから聞けって!」

宮藤「え~…」

宮藤「…じゃあ一応聞きますけど、どういうことですか?」

エイラ「いや、だからな」

エイラ「お前の固有魔法って、人の身体の再生速度を速める効果があるじゃん」

宮藤「…はい、そうですね」

エイラ「それって、本当にそれだけなのかなって」

宮藤「あの、エイラさん…」

エイラ「いや、思い出してみろよ」

エイラ「私さ、昨日墜落しそうになったところをお前に助けてもらったじゃん?」

宮藤「え、ええ…、そうですね」

宮藤「あの、それが一体…?」

エイラ「……墜落の原因について聞いたか?」

宮藤「えっと…、確か、エンジンオイルが異常を起こして…でしたっけ?」

エイラ「ああ、まあ…その通りなんだが」

エイラ「実はさ、ここだけの話、エンジンオイルには問題なかったそうなんだよ」

宮藤「えっ…そうなんですか?」

エイラ「ああ、中佐は教えてくれなかったけど、整備のおっちゃんにしつこく聞いたら教えてくれたんだ」

~~~~~


宮藤「は~…、オイルが固まって詰まっちゃう…ですか」

エイラ「まあ、簡単に言えばそういうことらしい」

宮藤「でも、それなら戻ってきたあとの点検で、オイルに異常がないって変ですよね?」

エイラ「ああ、だから中佐も、わたしの体調とかメンタルに問題がないか聞いてきたんだろうけど」

エイラ「…あ、そういえばな」

エイラ「さっきペリーヌとサーニャに手伝ってもらって、飛行の訓練というか…、まあ慣らし飛行的なことやったんだよ」

宮藤「あ、どうでした?」

エイラ「ああ、ぜ~んぜん問題なかった」

エイラ「わたし自身にも、なにも問題はないってこったな」

宮藤「うーん、それじゃあ一体…」

エイラ「…そこでだ。宮藤の固有魔法の話に戻るんだが」

エイラ「実は昨日、黙ってたことがあってな」

宮藤「え?」

エイラ「昨日、宮藤たちに基地まで運んでもらったじゃんか」

宮藤「え、ええ…」

エイラ「宮藤にキャッチしてもらった後に気付いたんだけどな?」

エイラ「あのときさ、実は……」

エイラ「ストライカー、普通に動いてたんだよな…」

宮藤「え?えええ…!?」

宮藤「じゃ、じゃあ、わたしたちが支えなくても本当は飛べたってことですか!?」

エイラ「…そ、そういうことになるな」

宮藤「…………」

宮藤「…エイラさん、なんで黙ってたんですか…」

エイラ「いや、黙ってたのは悪かったと思う…」

エイラ「でもさ、重要なのはそこじゃなくてダナ?」

宮藤「人に心配かけたんですから重要ですよぅ!」

エイラ「いや…まあそうなんだけどさぁ…」

宮藤「…まず、なんで黙ってたのか教えてください」

エイラ「えぇ~…」

宮藤「…エイラさ~ん?」

エイラ「わ、分かったよ…」

エイラ「…………」

エイラ「……えっとさぁ…」

エイラ「片方をリーネに支えてもらえばさぁ…」

エイラ「腕にリーネの胸の感触を味わいながら運んでもらえるな~って思ったら……」

エイラ「……誘惑に抗えなくて…つい……」

宮藤「……あ~!?だから飛んでる最中「傷に障るからもっとゆっくり飛んで」とか言ってたんですかぁ!?」

エイラ「…そ、そんなこと言ったかなぁ…?」

宮藤「さ、最低ですね……」

エイラ「な、なんだとぉ~~~!?」

エイラ「じゃあ宮藤が逆の立場だったらどうするんだよぉ!」

宮藤「え」

エイラ「ここで黙って運ばれれば、基地に戻るまでの間、リーネのおっぱいを楽しむことができる」

エイラ「そんなときお前だったら、絶対に誘惑に負けないと…言いきれるのかね?」

宮藤「う、うーん……」

エイラ「ほーら迷ってる~、ほらほら~」

宮藤「で、でもそれとこれとは話が別ですよ…!」

エイラ「…っち」

~~~~~


宮藤「……ああもう、なんの話でしたっけ……?」

エイラ「…えーっと、お前の固有魔法の話」

エイラ「だからな?要するに……」

エイラ「あのとき、確かに私のストライカーはオイルが原因でエンストを起こし、墜落した」

宮藤「はい」

エイラ「で、それを宮藤の魔法が直して…」

エイラ「エンストが起こる前の状態まで、復元したってことだ…!」

エイラ「これが、昨日の事故の真相だと、わたしは考えたわけなんダナ!」

宮藤「いや…でも」

宮藤「わたしの魔法が治癒以外に効果がないのは、この前証明したじゃないですか」

エイラ「ああ、そこなんだよ…」

エイラ「確かに、豆腐の件は失敗だった」

エイラ「でも、今までのケースを改めて振り返ってみるとさ」

エイラ「何かが直るときって、わたしと宮藤が二人とも揃ってる場面に限られてるんだよ」

宮藤「え…?」

宮藤「えっと、ストライカーの他に何かありましたっけ?」

エイラ「ほらあれだよ、ボタンボタン」

宮藤「ああ、そういえば言ってましたね……」

宮藤「いやでも偶然なんじゃ…」

エイラ「宮藤」

エイラ「偶然かどうか、嘘か本当かは、今ここで確かめてみればいいことだろ?」

宮藤「え…、まさか、また豆腐直すんですか?」

エイラ「いや、今回直すのはこれだ」


スッ


宮藤「あっ、これさっきの写真!」

エイラ「ああ、中佐から借りてきた」

宮藤「これ、大事なものなんじゃ…」

エイラ「だからこそ、もし直ったら中佐喜ぶだろ?」

宮藤「そ、それはそうかもしれないですけど…」

宮藤「でもわたし、治癒魔法以外はできる自信ないですよ…?」

エイラ「ああ、それでいいんだよ」

宮藤「え?」

エイラ「今度は、わたしも手伝う」

宮藤「て、手伝う?」

エイラ「宮藤、合体魔法だよ」

宮藤「え……」

エイラ「昨日散々やっただろ?二人の固有魔法を合体させるあれだよ」

宮藤「え…えぇえ~…!?」

宮藤「で、でもエイラさん…!」

宮藤「わたしの治癒魔法と、エイラさんの未来予知…」

宮藤「この二つじゃ噛み合う要素ないって、昨日エイラさんが言ったんですよ?」

エイラ「ああ、確かに言ったな」

宮藤「それじゃあ…」

エイラ「でも、言うには言ったけど、まだ実際に試してはいないダロ?」

宮藤「え、えぇ~…?」

エイラ「…それにな、試すも何も」

エイラ「わたしと宮藤の魔法が合体した結果が、壊れたものを直すっていう魔法になるんじゃないか…?」

エイラ「だから、ボタンもストライカーも直ったんじゃないかって思うんだが…」

宮藤「魔法が、合体…」

宮藤(…あれ、そういえば?)

~~~~~

【こ、これ…ボタン…】

【……エイラさん、また落っことしてるし……】

【も~、仕方ないなぁ……】

【……あれ?】

【このボタン、なんか見覚えがあるような……?】

【いや、さっき見せてもらったから、見覚えも何もないんだけど…】

【でもそれより前に、どこかで見たような……?】

~~~~~

宮藤(そういえばあのとき、エイラさんが言ってたボタン)

宮藤(わたし、あのボタン初めて見たはずなのに、なぜか見覚えがあって…)

宮藤(ちょっと不思議に思ってたけど、もしそれが合体魔法の影響だったとしたら…)

宮藤「あの、エイラさん」

エイラ「ん?なんだよ」

宮藤「わたしがエイラさんのささくれ治療してたとき、エイラさん、未来予知の魔法使ってました?」

エイラ「…あー、あのときか。あのときは確か」

宮藤「……ごくり……」

エイラ「……覚えてねーな」

宮藤 ガクッ

宮藤「ちょっとエイラさ~ん…、そこ肝心なところですよ~?」

エイラ「お、覚えてないもんは仕方ないだろー?」

宮藤(うーん、やっぱり思い過ごしなのかな…?)

エイラ「と、とにかくだ!」

エイラ「試してみれば、わかること…ダロ?」

以下、つづく

~~~~~


エイラ「…それじゃ、いくぞ」

宮藤「は、はい…」

エイラ・宮藤(魔法力発動…!)


パァァァァァァァァッ………!


エイラ「…………」

宮藤「…………」

エイラ「……ふぅ、こんなもんか?」

宮藤「…え、エイラさん」

宮藤「これ……」

エイラ「……な……」



エイラ「直って…ない…?」

エイラ「そんな…、だってボタンとストライカーは…!?」

宮藤「…………」

エイラ「…………」

エイラ「……やっぱり、ただの思い過ごしだったのか……」

宮藤「…………」

エイラ「…は~、なんか馬鹿だよなぁ、わたし」

エイラ「魔法があるんだからさ、ちょっとくらい奇跡も起こるんじゃないか~…なんてちょっと期待してたけど…」

エイラ「まぁ…これが現実だよな」

宮藤「…エイラさん」

エイラ「悪かったな宮藤、変なことにつき合わせて」

エイラ「わたし…部屋戻るわ」

宮藤「エイラさん」

エイラ「…じゃあな」

宮藤「エイラさん!」

エイラ「…な、なんだよ?」

宮藤「エイラさん、どうしてそんなに直すことにこだわってるんですか?」

エイラ「…………」

~~~~~
少し前 執務室


エイラ「中佐~、写真貸してー」

ミーナ「あら、エイラさん」

ミーナ「えっと、写真…?」

エイラ「ああ、実はな」

エイラ「その…えーっと…写真を元の状態に復元できるかもしれない…っていう業者?の人がいてさぁ」

エイラ「も、もしかしたらさ、この写真、元に戻せるかも~…?なんて」

ミーナ「え…?そ、そうなの…」

エイラ「あ~、中佐信じてないだろ?」

ミーナ「え?そ、そんなことはないけど…」

エイラ「むー、どうだか…」

ミーナ「…ねえエイラさん、それより、さっきペリーヌさんたちと訓練してたみたいだけど…」

ミーナ「どう?上手く飛べた?」

エイラ「ん?ああ…、おかげさまで」

ミーナ「そう、ならよかったわ」

ミーナ「正直、ちょっと心配だったから」

エイラ「中佐は心配症だなぁ」

ミーナ「ふふっ、そうかもね」

ミーナ「でも、心配くらいさせてほしいの」

ミーナ「貴女はわたしの、いえ、わたしたちの大切な部隊の仲間だし…それから」

ミーナ「大切な、家族でもあるから」

エイラ「ちゅ、中佐…」

ミーナ「さっきも言ったんだけどね…」

ミーナ「わたしにとって一番大切なのは、過去よりも…今の人たちなの」

ミーナ「だから、エイラさんや部隊のみんなは、今のわたしにとって一番の宝物」

ミーナ「…破れた写真なんかより、ずーっと大事な、ね?」

エイラ「…………」

ミーナ「ふふ、こんなこと言われると、次からは無茶なことできなくなるでしょ?」

エイラ「…うん、まあ…」

ミーナ「うふふ、ならよろしい」

ミーナ「いつも貴女のことを心配している誰かがいることを、忘れないでね」

エイラ「…りょーかい」

エイラ「じゃあ…、写真借りてくから」

ミーナ「あ、ええ…」

エイラ「…それでもさ」

ミーナ「え?」

エイラ「それでもとりあえず、思い出が手元に残るのはやっぱり嬉しいだろ?」

ミーナ「そ、そうねぇ…」

エイラ「じ、じゃあ期待して待ってるんダナ!じゃあな!」

ミーナ「あ、エイラさん…」

ミーナ「…………」

~~~~~


エイラ「…別に、ただ興味があっただけだよ」

宮藤「そ、そうですか…」

宮藤「えっと…それじゃあなんで、泣いて…?」

エイラ「な、泣いてなんかネーヨ!?」

宮藤「え、ええ~…」

宮藤「…あの、エイラさん」

エイラ「…なんだよ?」

宮藤「エイラさん、わたし…やっぱり奇跡ってあると思います」

エイラ「…いや、ないって今分かったろ」

宮藤「ありますよ」

エイラ「ないって」

宮藤「あります」

エイラ「…ないって言ってるだろ!」

宮藤「…………」

宮藤「…ありますよ」

エイラ「お、お前しつこいなぁ…」

宮藤「…わたし、見えたんです」

エイラ「は?なにが…」

宮藤「写真……」


スッ……


宮藤「この写真にエイラさんと一緒に触れた瞬間、一瞬ですけど、見えたんです」

宮藤「ミーナ中佐の、隣に写ってる人の顔が…」

~~~~~
翌日 執務室


コンコンッ


ミーナ「はい、どうぞ」


「入るぞ~」「失礼しまぁす」


ミーナ「あら、どうしたの二人揃って」

エイラ「えっとさ、借りてた写真を返しにきたんだ」

ミーナ「ああ、そういえば…」

エイラ「…中佐、ごめん」

ミーナ「え?」

エイラ「中佐の写真、やっぱり直せなかった」

ミーナ「…そう」

エイラ「…ごめん、期待しとけとか言っておいて、結局…」

ミーナ「いいのよ、気持ちだけで嬉しかったから」

ミーナ「ありがとう、エイラさん」

ミーナ「えっと、宮藤さんも協力してくれたのかしら?」

宮藤「えっと、わたしは別に…その」

ミーナ「?」

エイラ「…あのさ中佐、写真は直せなかったけど、渡したいものがあるんだ」

ミーナ「渡したいもの?」

宮藤「はい、これです」

ミーナ「これは……絵、かしら?」

宮藤「…………」

エイラ「…………」



シュルッ


ミーナ「え…!?これって…!」

ミーナ「わたしと…、クルト…?」

エイラ「えっと、宮藤が描いたんだけどな…」

ミーナ「……二人とも」

宮藤「…………」

エイラ「…………」

ミーナ「これは、一体どういうことなの…?」

~~~~~


ミーナ「…つまり、二人の固有魔法を合体させると」

ミーナ「物を復元する力が働く…ということ?」

宮藤「は、はい…」

エイラ「正確に言えば、壊れてから時間が経ってないものに限る、みたいなんだけどな…」

エイラ「この力が分かってから、宮藤と色々検証してみたんだけど」

エイラ「壊れてから5分くらいのものなら、壊れるより前の状態に直すことができたんだ」

エイラ「でも、それ以上時間が経ったやつは…直せなかった」

ミーナ「……なるほどね」

ミーナ「それについては、今二人が実演してくれたからよく分かったわ」

ミーナ「でも、この似顔絵はどういうことなのかしら?」

エイラ「えっと、それは……」

宮藤「…あのですね、時間が経ったものは、もう元の状態に戻せないみたいなんですけど」

宮藤「二人で魔法を使った状態で、壊れたものに触ってみたら…」

宮藤「壊れる前の状態のイメージが、頭に浮かんできたんです」

宮藤「この絵は、そのときのイメージを元に…その、わたしが描いたんですけど…」

エイラ「わたしはそれ見えなくてさ、宮藤にしか見えないみたいなんだけどな…」

ミーナ「……信じられない、と言いたいところだけど」

ミーナ「この絵を見せてもらった以上、信じるしかないわね」

エイラ「そ、それじゃあ…!」

ミーナ「二人とも」

ミーナ「今後一切、二人が合体魔法を使うことを禁止します」

~~~~~


エイラ「…は?中佐、今なんて…」

ミーナ「もうこの魔法は二度と使わないでください」

宮藤「…え…」

エイラ「お、おい、どういうことだよ!?」

エイラ「こんな便利な力なのに、なんで……!?」

ミーナ「……二人とも、ちょっとこれを」


スッ


宮藤「お札…?」


ビリッ


エイラ「あっ」

ミーナ「二人が今ここで魔法を使うとどうなるかしら?」

エイラ「…えっと、紙幣が直るな」

ミーナ「そう、じゃあそれはこの片方の切れ端だけでも直るのかしら?」

エイラ「…たぶん、直る」

ミーナ「…それじゃあ、直した後に、もう一つの切れ端を直すのは?」

宮藤「…………」

ミーナ「たぶん、出来てしまうのでしょうね」

ミーナ「……二人の力は素晴らしいと思うわ」

ミーナ「でもね、こういう風に、その力はいくらでも悪用することができてしまうの」

エイラ「わ、わたしたちはそんなことしねーよ…」

ミーナ「わかってるわ、でもね」

ミーナ「この世界すべての人が、そうとは限らないわ」

エイラ・宮藤「…………」

ミーナ「今言った例よりも、もっと恐ろしいことに、二人の力を利用しようとする人もいるかもしれない」

ミーナ「…ごめんなさいね、こんなことを言ってしまって」

ミーナ「二人は、わたしのためを思って力を使ってくれたのに…」

宮藤「い、いえ…そんなこと…」

エイラ「…………」

ミーナ「でもね、その万能すぎる力が災いして…」

ミーナ「幽閉されたり、殺されてしまったりしたウィッチは、歴史の表舞台に出てないだけで一杯いるの」

ミーナ「中世のヨーロッパだと、一人のウィッチを巡って戦争が起きたこともあったそうよ」

宮藤「そ、そんな……」

ミーナ「まぁ、今はネウロイが出てきたせいで、そんなことやってる暇はないんだけどね」

ミーナ「…そんなくだらない争いとはね、二人は…遠い場所にいてほしいなって思うの」

エイラ・宮藤「…………」

ミーナ「…二人とも、お願い」

ミーナ「もう、この力は使わないって、約束してくれる?」

宮藤「はい、わかりました…」

エイラ「…わかった」

ミーナ「……ありがとう」


ギュッ


宮藤「あうっ」

エイラ「うぇ!?ちゅ、中佐…!?」

ミーナ「二人とも、本当にありがとう」

ミーナ「わたし…もう彼に会えることはないって諦めてたから」

ミーナ「また再会できるなんて、思ってもいなかったから…」

ミーナ「本当に…、本当に嬉しい」

エイラ・宮藤「み、ミーナ中佐ぁ…」

~~~~~
その後 基地のとある場所


バルクホルン「シャーリーもう少しルッキーニの方へ寄ってくれ、…よし、全員入ったな」

バルクホルン「では、シャッターを切るから全員動くなよ」

エーリカ「あれ?トゥルーデは写真入らないの?」

バルクホルン「いや、わたしはシャッターを押すという仕事が……」

シャーリー「そんなのそっちのスタッフの人に任せりゃいいだろー?」

宮藤「バルクホルンさ~ん、一緒に写りましょうよ~」

バルクホルン「いや、しかしだな……」チラッ

ミーナ「…トゥルーデ、一緒に撮りましょう?」

坂本「この基地に来てまだ集合写真は撮ってないんだ」

坂本「せっかくの機会だ、全員で写ったほうがいいんじゃないか?」

バルクホルン「……まぁ、二人がそう言うなら……」

バルクホルン「…では済まないが、シャッターを頼んでもいいか?」

基地スタッフ「はい、わかりました」

シャーリー「なんだよ~、本当は最初から写りたかった癖に、素直じゃないなぁ~?」

バルクホルン「そ、そんなわけあるか!子供じゃあるまいし!」

基地スタッフ「では撮ります、はい…笑ってくださーい」

宮藤「ちょ、ちょっと二人とも、写真撮るみたいですよ」

バルクホルン「だいたい貴様は!」

シャーリー「お~、なんだやるか~?」

坂本「…やれやれ」

ミーナ「あらあら…」


パシャッ!

~~~~~


1945年10月X日 火曜日 天気 快晴

今日は宮藤さんの提案で、501のみんなで集合写真を撮ることになった。

この基地に来てからの集合写真はまだ撮っていなかったから、とてもいい提案だと思う。

後で宮藤さんに、どうして写真を撮ろうと思ったのか、理由を尋ねてみたところ、

彼…、クルトの写真を見たあとに、このことを思いついたと言っていた。

思いやりと優しさに富んだ、とても彼女らしい答えに少し涙が出そうになったけど、それは秘密。

あの写真について、わたし自身はあまり気にしていなかったんだけれど、

やっぱり、あんな写真が残っていたら心配させてしまうわよね、ちょっと反省…。

破れた写真は、あの後すぐに処分した。

過去に対する後悔はないつもりだったけれど、

あの写真も、ある意味その後悔の一部なんじゃないかと思ったからだ。

それに、宮藤さんにもらった似顔絵や、みんなと作る新しい思い出が、

今の私にとっての、かけがえのない財産と言えるだろう。

だからこれで、本当の意味であの写真から…自分の過去から、卒業できた気がする。

形に残った思い出、残らなかった思い出……

そのすべてが、今のわたしを、この新たな出会いへと導いてくれたような気がする。

今なら、あのとき彼に言えなかったあの言葉を、胸を張って伝えたい。

大好きだった…って。

~~~~~


ミーナ「あの…わたし…」

クルト「なにかな?」

ミーナ「…あの、えっと…」

ミーナ「ま、魔法って…何だと思う?」

クルト「魔法…?」

ミーナ「ええ、魔法…」

ミーナ「ウィッチが使える魔法ってね、まだ解明されていないことがたくさんあるんだって」

ミーナ「そもそもどうして人間が魔法を使えるようになったかとか、不思議だと思わない?」

クルト「そうだなぁ…」

クルト「僕はウィッチじゃないし、魔法のことはよく分からないけど…」

クルト「たぶん、誰かと繋がるために、魔法って生まれたんじゃないかな」

ミーナ「誰かと…?」

クルト「うん」

クルト「もしお互いに言葉が通じなかったり、諍いが起こったりしても」

クルト「魔法があれば、きっと解決できるだろ?」

ミーナ「うーん、そう…なのかな」

クルト「よく分からないけど、たぶん、誰かを傷つけるために生まれたんじゃないと思うんだ」

クルト「君たちウィッチが、今もこうして誰かを守るために戦っているように」

クルト「昔の人たちも、きっと、自分じゃない誰かのために、魔法を作りだしたんじゃないかな」

~~~~~
ある日の執務室


ミーナ「…………」

ミーナ「…ん、いけない…うたた寝してた」


チュンチュンチュンチュン……


ミーナ「あらあら、気持ちのいい天気…」

ミーナ「…それにしても、ほんと…魔法って不思議よね」

ミーナ「そう思わない?クルト」

ミーナ「でも、本当の魔法は…」

ミーナ「あの二人のように、誰かのことを思う気持ち…そのものなのかもしれないわね」

ミーナ「……あら?もうこんな時間」

ミーナ「…それじゃあ、いってきます」


ガチャッ


バタンッ…




おわり

おしまい

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