【艦これ】想いのカケラ (6)

 俺は昨日、士官学校を卒業して晴れて提督となった。
 成績はとびぬけて優秀ではなかったが、別段馬鹿でもない平々凡々なものだった。
 そして今日、俺は自分に与えられた鎮守府へとやってきた。これから、俺の提督としての仕事がスタートする。

 ――はずだった。

「……なんだこれ」

 俺は思わずそう口に出していた。
 目に前にある建物を凝視する。何度も目をこすった。何度も地図を確認した。
 しかし、一向に今目の前にある建物は消えないし、地図が示す場所もここで間違っていない。

「おいおい、勘弁してくれよ」

 どう見ても、何度見ても今目の前にある建物は、お世辞にも鎮守府とは思ない。むしろ廃墟である。
 士官学校を卒業したばかりの二十歳にも満たないガキに任せるものではないだろう。恨むぞ大本営。

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 だが、愚痴をこぼしたところで現状何かが変わるわけでもない。
 俺は大きくため息をついて、その廃墟のような鎮守府の門をくぐった。


 中に入り、まず最初に感じたのは"悲惨"の一言だった。
 廊下の床板は所々陥没しており、壁には穴が開いていた。大方、深海棲艦の攻撃でも受けたのだろう。
 そして、その上埃っぽい。レンガの崩れ落ちた壁から差し込む陽光に照らされた白い粒子が、空中にふわふわと漂っている。
 手で口元を覆っていないと、呼吸をするのすらしんどい。

「でも、ここにも提督がいて、艦娘を指揮していたんだよな……」

 俺は玄関と思しき場所で突っ立ったまま、そんなことを考えていた。
 もう一度大きくため息をつき、意を決して執務室を探すことにした。

 しばらく廊下を進んでいると、長い廊下のちょうど真ん中あたりの壁にプレートがぶら下がっていることに気が付いた。
 今にも落ちそうな看板には、辛うじて読める程度までかすれた文字で"執務室"と書かれていた。

「あった。中は……まあ、考えるまでもないわな」

 本日三度目の溜息と共に、執務室の扉を開く。
 中を見渡すと、思っていたよりもきれいだった。むしろ、この建物の中で一番きれいな場所なのではないかと錯覚するほどだった。
 埃をかぶってはいるが、執務机と椅子、最低限の家具は生きている。壁に穴も開いていないし、床も陥没していない。

「掃除すれば大丈夫そうだな」

 とりあえず、備え付けてあるベッドの布団とシーツを窓の外で叩いて埃を飛ばす。叩けば叩くほど出てくる埃に、幾度となくくしゃみが出た。
 そして、あらかたきれいなったベッドの上に持ってきた荷物を置いておく。
 そのまま執務室の掃除を開始。幸いなことにバケツと雑巾、箒と塵取りのお掃除セットが用具入れの中に残っていた。
 鎮守府のすぐそばを流れる小川へ水を汲みに行き、とりあえず箒で床をはく。
 埃が舞い上がらないように注意しながら掃除をし、最後に雑巾をかけて終了した。

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