「───来年の4月には、もっと上手くなってるよ？」

ギー太を持ち上げる唯ちゃんの目から、涙が一筋落ちる。

いつの間にかリッちゃんの目にも涙が浮かんでいて、澪ちゃんは既に蹲って震えていた。
かく言う私も、必死に泣くことを我慢───

「お前留年する気かぁ？高校の部活は3年で終わりなの！」

「そっかぁ……」

「っ───やだやだやだぁ！」

───できるわけなかった。
2人の会話が、水風船みたいに膨らんでいた私の心にチクリと刺さって、涙と一緒に言葉が弾けて、私はまるで駄々をこねる子供みたいに足をばたつかせる。

「ムギ先輩。我儘言わないで」

梓ちゃんに叱られちゃった。
それがちょっとだけ嬉しかったけど、でも嫌なものは嫌だから仕方がない。
だって、終わっちゃったんだよ？最後のライブが、たった3回しかない学園祭が……

「唯先輩も泣かないでください」

「これは汗だよっ………！」

そう言って鼻水も垂らしながら、目元を拭う。
汗、か……そうだよね。
今日はすっごく頑張ったんだから、汗だってかくよね。
澪ちゃんも、リッちゃんも、唯ちゃんも。少し寂しそうだけど、どこかやりきった表情で、目から汗を流していた。

だけど……私は……ッ！

もっと、みんなと一緒にいたい！まだまだ全然足りないよ！

なんで、学園祭って年に一回しかないの？
なんで高校って3年しかないの？

まだまだみんなと色んなこと色んなことしたいよ……
色んなことしたかったよ……


もし、もしも、


もう一度、やり直せることが、できるなら───

「っ───せぇーーーのっ！」

穂乃果のかけ声で、私たちは一斉に口を開く。

「「大会が終わったら！μ'sは！おしまいにします！！」」

練習なんて一度もしなかったのに、一字一句綺麗に揃った6人の言葉を、夕日に染まる小々波がさらって行った。


「にこちゃんのいないμ'sなんて嫌なの！」

にこちゃん
エリー
希
穂乃果
海未
ことり
花陽
凛
そして……私

『μ'sは、この9人でしかありえない』



それが、私達の結論だった。

帰りの駅のホームで、花陽が泣き始める。それに次いで凛も、つられて、私も……
他にお客さんがいなくてよかった。9人だけのホームで、それぞれの思いを胸に、私たちは涙を流した。解散を決断したものの、やっぱり、寂しいものは寂しいのよ……

μ'sに入って1年……本当に色々なことがあった。

最初は強引に誘われて、それからは自分の意志で入って、辛い練習や、楽しい思い出……長いようで短い、ほんの一瞬の出来事だったかのような……

そしてまた、来年には、穂乃果達が卒業してしまう……

もし……もしも、よ？

もしみんな同じ学年だったら、こんな日を後2年、過ごすことができたのにな……




もし、もしも、




高校の3年間を、みんなで一緒に過ごすことができたら───