カズマ「お前……何か用があるのか?」アクア「何もないわよ!」 (37)



おかしい

そう思ってるのは最初からだったが

それでも最近は特におかしい

「……おいアクア」

「何よ?言っておくけどあげないわよ?」

コテンっと首を傾げるアクアはその手にポテトを持っている

ちなみに作ったのは俺だ

「それ作ったの俺なんだが……それよりもさ」

「だから何よ?」

「……近い」

「……?」

「だから近いっての!こんだけだだっ広いのに何でわざわざ見せつけるように隣で食ってんだお前は。そのポテト奪うぞ」

最近こいつはやたらと俺の近くに寄ってくるのだ

そして寄ってきたと思ったら……皮肉の一つでも言って離れていく

離れたと思ったらチラチラとこっちの様子を伺ってくる

それに俺が何か言うとまた近づいてくる

そしてまた離れる

……一体何がしたいんだこいつは


「ふん!いくら私でもカズマに簡単にポテト奪われるわけ無いでしょ?その貧弱ステータスのカズマなんかに!」

「スティール」

問答無用でスティールを使う

……外れだ

右手に掴んだアクアの靴下をポイッと捨てる

アクアがジワリと距離を離そうとしているがそうはさせるものか

今度はさっきより魔力を込めてみる

「スティール」

「む、無駄よ?前もスティールで羽衣取ろうとした時も私の宴会芸道具しか取れなかったじゃない……ね?だから。ね?無駄に魔力使うのはやめない?ね?カズマ……カズマさん!ごめんなさい!やめて!」

アクアが何か言っているが知ったことじゃない

先ほどのスティールで掴んだもう片方の靴下を捨てる

さらに魔力を込める

「スティール」

「ちょ!……何で!?必死に抵抗してるのに何で取られるの!?カズマさんがおかしい!おかしいわ!」

「……外れか」

今度はポイっとアクアのパンツを投げ捨てる

これがアクアのじゃなくてエリス様やめぐみん、ダクネス辺りならご褒美にもなるのだが、アクアじゃなぁ……

今はこいつのポテトを奪ってこのお調子者を泣かせることが目的なのだ

「捨てた!カズマが私のパンツ奪っておいてどうでもよさそうに捨てた!酷い!めぐみんとかの洗濯物あんなにジロジロ見てる癖に!」

「おいこらちょっと待てぇええ!スティール!」

「いやぁあああ」

ガヤガヤと叫ぶアクアにスティールの連打を食らわせる


「毎日飽きないですねぇ」

「お帰りめぐみん、今日もゆんゆんと行ってきたのか」

「はい。カズマに自分の存在価値を潰されたくありませんので修行です」

「……?どういう事だ?」

「そのうちわかるのですよ。モンスターを討伐しにいけば……きっとダクネスもビックリしますよ」

「ん。……確かに最近は篭もりきりだからな。そろそろ街の外のモンスターを討伐しなければな……」

「ちょっと二人共助けてぇえええ!」


「あんまりアクアを虐めちゃだめですよ?……む、やりますね。ダクネス」

「ふっふっふ。一日寝ずに考えた戦力だからな」

「あいつがちょこまかとするから悪い」

グスグスと泣き崩れるアクアを尻目にめぐみんが言ってくるが聞く気はない

いつもちょっかいをかけてくるが最近はいくらなんでも度が過ぎる

俺が街に行く時も後ろから付いてきてちょっかいを掛けては離れて近づいてを繰り返してくる

曰くカズマは目を離すとすぐ居なくなるだの

自分がいないとすぐダメになるだのと……その全てをチラチラとこちらの顔を見ながら言ってくるのだ

子供か!構ってちゃんか!?暇ならゼル帝かギルド連中の手伝いでもしてやれよと思う

「うぅ……きっとカズマはこのローブを剥ぎ取って全裸の私を視姦するつもりよ……ごめんねゼル帝……私は鬼畜な男によってあられもない姿にされてしまうわ……けど貴方だけは助けてみせるから!」

またチラチラとこっちを見ながらゼル帝に話しかけているアクア

その周囲には下着やら靴下、宴会芸の小道具が大量にばら蒔かれている

アクアの着ているローブだけ剥ぎ取れなかった

それ以外の大事なものは全部奪いきったが……特に羽衣奪った時は全力で泣いた

羽衣を返す条件でポテトを奪い取り敢えず落ち着いたわけだ

「はいはい、悪かったよ」

「……」

「なんだよ?」

「え、あ……うん。珍しくカズマが謝って……」

「おい、俺だって頭下げる時は下げるぞ。今まではお前相手に下げる必要がなかっただけだ。むしろ被害者は俺だぞ」

「そ、そう!やっと少しは身の程を弁え始めたのね!」

「お前変な顔してるぞ……?何でニヤけながら唇噛んでるんだよ」

「べ!別に何でもないから!カズマご飯!ご飯食べたいわ!食べに行くわよ!今日は特別に私が奢ってあげるから!」

「お前さっきまでポテト食ってたのに太るぞ……え?お前からの奢り?」

何それ怖い

それを口実にどんな願いを言われるか……

「んな!女神は太ったりしませんから!超ナイスなボディバランス保ってますから!お肌もずっとピッチピチなままだし!」

「真実は年齢不詳のババアだけどな」

「なんですって!このバカぁあああ!あんた本当に祟るわよ!?」

「いってぇええ!杖で殴りかかって……いて……ちょ……おい!いい加減にしろよ!?」

「うっさいわよ!このバカニート!私のありがたさをもう一度思い知らせてやるわ!」


「全く、一つ解決したと思ったらこれですよ」

「しかし、こんな日常がいいのさ……ふふふ、めぐみん私の勝ちだな……テレポートは使えないだろう?」

「……甘いですよ!相討ち覚悟のエクスプロージョン!両者は死ぬ」

「な!ズルいぞめぐみん!」

「勝負にズルなんて言葉はないですよ。このゲームは両者死亡で引き分けですね」

「くっ!私の完璧な作戦が!」

……何時も思うけどそのゲーム本当に理不尽じゃないか?


屋敷を出てアクアの希望通りギルドで食事を取る事に

ぶっちゃけギルドに行けばチヤホヤされるし?

ちょっとした英雄気分を味わいながらしかもアクアに奢られるのだ

あのアクアが俺達に奢るとか天変地異だが本人が言うなら受け取っておこう

……もし何か企んでてもどうせロクでもない事だろうし放っておくことにする

今日は何を食べようかなぁと思っていたその矢先だった

「クエストに行くわよ」

「……はい?」

そんなアクアの一言が、事の発端になるのだった

「クエストよクエスト!毎日グウタラでろくに働きもしないニートなカズマに私の有り難さを教えてやるのよ!」

「待てアクア、俺は働く必要がないんだが……」

「そんな事言ってるとまたダクネスに税取られるわよ?それとも何?もしかしてカズマさんってば逃げるの?え?女の子に言いくるめられて逃げちゃうの?」

「な!お前らは去年逃げただろうが!」

「上等だ駄目神。普段お前がどれだけの存在か思い知らせてやる。負けた方は一週間下僕のようにお茶汲みな」

「いい度胸ね!ちょっと中級魔法を覚えたからって調子に乗ってるんじゃないわよ」

「おい……私を無視するんじゃ……いや、これはこれで……」

「……しかしアクア、どうやって勝敗を決めるんですか?」

「そんなの簡単よ!適当なクエストでより活躍した人の勝利って訳!」

「……でもその条件では」

「大丈夫よめぐみん!どうせカズマなんてすぐに怪我して私に泣き寝入りしてくるんだから!」

「いえ、そうでは……聞いてないですね。もうどうにでもなれですよ」

調子に乗っているアクアに対してめぐみんは何かを言いかけている

そう、めぐみんだけは知っているのだ

この勝負、圧倒的に俺が有利だということを

「カズマの顔が何時もより酷いことになっているな……一体何を想像しているんだろうか……くっ想像するだけで堪らん!」

「きっとすぐにわかりますよ……」


「何でよおおおおおおおおおおおお」


絶叫

それが森の中で響いていた

叫びをあげているのはアクアだ


今回受けているのはジャイアントホーネットのハチミツの採取だ

端的に言うと森のでっかい蜂の巣からハチミツを採取してくれというクエストである

ハチミツの採取だけならば問題はないのだ

ないのだが……問題はその蜂だ

麻痺と毒の状態異常を持つ蜂がブンブンとアクアの周辺を飛び回っている

というか、アクアをひたすら追い掛け回している

これはアクアが蜂の巣を見つけて一番に採取しようと不用意に近づいた結果である

「怖い!助けて!助けてカズマさん!カズマさまあああ!デカイの!こんなデカイの入れられたら死んじゃう!死んじゃうから!」


ギャアギャアと叫びながらも必死に逃げるアクア

そう、デカいのだ

一匹一匹のサイズがちょっと俺の常識の蜂より5、6倍はデカい

そんな蜂に大量に追い掛け回されると考えるとゾっとする

「カズマ、どうするんですか?撃っていいんですか?」

「流石に爆裂魔法をアクアに叩き込むのはまずいよな」

「ああ!何て楽しそうなんだ!」

「ちょっと!本当に!本当に助けて!ああああああ刺されたああああちょっと!刺されてるんですけど!」

そんな事を叫びながらも元気に逃げまくってるアクアを見ると大丈夫な気がしてくる

そう言えばあの羽衣って状態異常無効にするとか言ってたな……

……今全力でスティールしたら奪えないかな?

「カズマ、カズマ。流石に可哀想なので早く助けてあげてください」

「……おーいアクアー。助けてやろうかぁー?」

「早く!早く助けて!お願いだから!お願いしますから!」

「……しょうがねえなぁ!」



ポケットから秘策を取り出す

「何だ?それは」

「これはだな……とりゃ!」

「な!何を!」

「超強力虫寄せスプレーだ」

それをダクネスに噴射させる

「なに!つまりこれを振りかければ私もああなるのか!よしカズマもっとだ!もっとかけるんだ!」

「あ!おい!そんなに大量に振りまいたら!やめろダクネス!」

「よーし!さぁ!こい!」

「……これは私も準備をしておかないといけませんね……」

「お前もお前でフラグを立てるなぁ!」

「カズマ!カズマぁぁ!何か数が増えてる!無理!これ以上無理だってば!」

「あぁ!あの大群にこれから私はもみくちゃにされてしまうのだろうか……し、しかしどんな屈強な虫にも私は負けない!さぁこい!」

「ダクネスなら撃っても大丈夫ですね!全力で行きますよ!」

「ああ!もう!ライトニング!」

全力で魔力を込めて大群に放つ

発生した雷は触れる虫を一瞬で炭に変えていく

が、数が多すぎる

範囲が足りていない


「クッソ!おいアクア!水だせ水!セイクリッドハイネスウォーター!」

水系統の上級魔法

先日ウィズから教えて貰ったばかりのスキルを使う

クリエイトウォーターとは比較にならない水が蜂や虫を巻き込んでいく

かなり練習はしていたけどごっそりと魔力を持って行かれてる感覚はやっぱりまだ慣れない

「ちょっと!?カズマが何で水の上級魔法を……!ねぇなんで!?ちょっとおおおおお!」

「だから少しは水を出せってば!ああもう!フリーズ!」

大量の水の噴射を一気にフリーズで凍らせる

凍らせる量が量なのでまた魔力を持っていかれてしまう

大量のレベルアップによって増えた魔力量を考えてもかなり無茶な使い方をしたと思う

上級魔法が扱えるようになったのはごく最近で、しかも中級に比べて詠唱も複雑なので成功率も低めだ。だから凍結魔法は初級のフリーズに無理やり大量の魔力を込めて放ったのだ

今回水の上級魔法が成功したのは幸運だった

「いいから走れ!森から脱出するぞ!ダクネス!お前が一番やばいんだからな!」

「どうして凍らせてしまったんだ!これじゃ楽しめないじゃないか!」

「この変態クルセイダーが!とにかく森を抜けないとまた偉い目になるって言ってんだよ!森を出るぞ!」

「……覚悟はしていましたがこう改めてやれれると悔しいですね……あの氷の塊撃っていいですか?」

「やめんか!誰がおぶって帰ると思ってんだよ!まだ残しといてくれ!次大量に来たときに頼るから!秘密兵器だよ!」

「秘密兵器……!それならば仕方ないですね!」

キラキラと目を輝かせるめぐみん

それと相対的に涙を流しながら駄々をこねてくるアクア

「うわああああああカズマが私の仕事とったあああああ」

「わかったからお前も走れ!」

「何で水の上級魔法覚えてるのよおおおお!それは私だけの特権なのに!返して!私のだからそれ返して!」

「返せるもんでもないだろうが!いいから走れ!」

そそくさと退散を決め込み走って逃げる

逃げる先からもあらゆる昆虫が攻めてくる

その矛先は全てダクネスだが進路上に俺たちもいるので当然巻き込まれる


「ウィンド!」

風の初級魔法で虫を弾きながら走る

こんなのじゃ致命傷にはならない。逸れた虫もまたダクネスを追ってくる

とにかく森の入口まで戻ってそれでも追ってくるようならめぐみんに一発撃ってもらって……

「もう我慢できません!行きます!」

「待て待て待て!まだ秘密兵器の出番じゃないから!やめろおおおお!」

「エクスプローージョン!」

そんな考えは一瞬で吹き飛ばされるのだ

ああ、本当もう……何も成長してやいない

魔王討伐した勇者パーティとか言われてるがちーっともそうは思えない

こんなもんなのだ

爆発の衝撃と轟音

付近の虫は根こそぎ吹き飛ばしたが今度は森の奥からワラワラと来るだろう

転がってるめぐみんを担いで兎に角走り出さないと!

「カズマさん!カズマさん!あれ!あれやって!」

「ああ!?何だよこの緊急時に!お前も早く立ち上がってダクネス叩き起こしてくれ!」

「テレポート!テレポートで逃げるのよ!カズマ持ってるでしょ!」

「……お前偉い!最高!珍しく冴えてるじゃねえか!」

そうだよ!テレポートだよ!何でこんな簡単な方法を思いつかなかったんだよ!

「ふふん!この私の天才的な閃きに感謝するのね!ほら!わかったら褒めて!甘やかして!頭の一つでも撫でなさいよ!めぐみんやダクネスにはしてるんだから!」

俺はアクアに手を伸ばす

するとビックリしたのかアクアがちょっと後ずさる

「え……?ほ、本当に?……してくれるの?」

その後ゆっくりと頭を下げ俺を上目でみてくる

そのアクアに俺は……

「ドレインタッチ」

「ぎゃあああああ。ちょっと!?何してくれてんのよ!?撫でろって言ったのよ!?吸えだなんて言ってないわよ!」

「ええいうるさい!魔力が足りないんだから寄越せ!後ダクネス抱えてくれ!」

「ううううう!カズマのアホ!バカ!私役にたったのに!良い事言ったのに!」

「それ以上喚くとお前だけ置いていくぞ駄々っ子女神!」

「うわあああああ!カズマもう私置いて行かないって言ったのに!嘘だったんだ!嘘だったのね!」

「わかったから!帰ったらゼル帝の分も合わせてポテト山盛り揚げてやるから早く!きてる!大群が来てるから!」

「帰ったら酷いんだからね!」

「行くぞ!テレポート!」

魔力を込め俺達は森を脱出するのだった


「私の勝ちよ!私がテレポートの提案をしないと絶対にもっと大変な目にあってたんだから!」

「それ以前にお前がやった事を思い出せよ!無駄に蜂の巣突っついて追い掛け回されてただけじゃねえか!俺は討伐もしたぞ!そしてテレポートを使ったのも俺だ!」

ギルドに入るなり騒ぎ立てるアクアと言い合う

そもそも今回の騒動だってもっと安全にやる事も出来たのだ

それをこいつは……見つけてそのまま警戒もせずに突っつくから!

「あの……申し訳ありませんがジャイアントホーネットのハチミツを採取されなかったので報酬の方は討伐分の代金となりますが……」

「あ、はい。私が受け取っておきます。あの二人はまだ言い争うでしょうから」

「くっ!考えると今回私何もやれてないじゃないか!」

「だからって欲求を満たすためにカズマの部屋に行ったりしないでくださいね?」

「……しないよ?」

「おい。目を見て言ってもらおうか。どうしてそんな焦ってるんですか」

「焦ってない」

「焦ってるじゃないですか!どうして目を反らすんですか!」

「そもそもカズマがダクネスにスプレーをかけるからああなったんじゃない!」

「助けてくれって言ったのはお前だろ!テレポートで置いてかれなかっただけありがたいと思えよ!」

「何よ何よ!ちょっと魔法とか回復魔法が使えるようになったからって!そんなの私のが完璧に……完璧に……うわあああああんどうして回復魔法とか上級魔法取っちゃったのよおおおおお!私がいるからいいじゃないいいいい」

「何でいきなり泣くんだよ!?ほら!お前には宴会芸があるだろ!?だから泣くなって!ギルドの人たちの目が冷たい!お願い!泣き止んで!」

「あの……他の方に迷惑ですので外で……」


「何よ何よー!テレポートの案出した時は褒めてくれたのに!帰ったら鬼のように怒るなんて酷いわ!もっと褒めて!褒めたたえて!私にも優しくしてよ!」

「カズマ……このままではアクアが泣き崩れてしまいます。一言ぐらい褒めてあげてくださいよ。それで機嫌も直りますから」

「……はいはい。よくやったよくやった」

「適当!カズマさんが適当な褒め言葉をするわ!そんなのじゃ女神たる私は満足しないわよ!そうね!ここは親愛を込めて優しく頭を撫でる事で手をうつわ!ほら撫でて!心の底から感謝して撫でて!」

「……めぐみんーダクネス。俺今夜は適当な所で泊まるからー」

「ちょっと!何でよ!」

「あ。じゃあカズマに報酬を渡しておきますね」

「ああ。お前らは適当にこいつの相手しといてくれ」

「仕方ないな」

「しょうがないですね」

「あれ!?私の事まるで小さい子供みたいな扱いしてない!?なんで!?」

「よし。アクア。お前はめぐみん達と帰ってちゃんと大人しくしてるんだぞ。二人に迷惑かけないようにな?」

「子供じゃないのよ!?……何でめぐみんもダクネスもそんな優しい目するのよ!?」


アクアの標的が二人に移った所で俺はこっそりと歩き出す

今夜は適当にダスト達と飲んでサキュバスお姉さんの所にいって宿を取って……

んー今日は誰の設定をするかなぁ……エリス様……は何か後で怖い目に合わされそうなんだよなぁ

いや、ここはやっぱりクリスでいいな

また今度神器集めを手伝ってくれと手紙が来てたし、報酬の先払いを受け取っても罰は当たらないだろう

よし!エリス様とクリスの両手に花状態でしっぽりむふふといきたいですなぁ!

決めたからには即実行だ

胸が躍ってくる

なのに……軽く袖を引っ張られる感覚があるんですが

「あっ……」

「……アクア?」

袖を軽く掴んで離さないアクアを振り返る

「いや……えっと……その、ね?」

視線をそこらじゅうに泳がせながら何かを言おうとしている

……いや、何を言ったらいいかわからなくて袖掴んだはいいけどどうしようってパニくってるだけか?

「どうした?」

「あの……その……怒って……ない?」

何だ。お前は何時ももっとスパーンっとロクでもない事を言って突っ込まれるタイプだろ?

何でそんなモジモジと俺の機嫌なんて伺ってるんだ

シュンっとしてしまってるアクアを見ていると調子が狂う

あーもう、そんな捨て犬みたいな目でこっち見んなよ


「……しょうがねえなぁ」

「……え?」

「……今日はお前がいなかったらやばかったよ。ほら、帰るぞ?感謝の証にポテト大量に揚げてやるから」

「あ……うん!……じゃなくて!当然よね!当たり前の待遇だわ!ほらカズマ!帰るわよ!早く!」

パアッと笑顔になりグイグイと袖を引っ張るアクア

……現金なやつだよなぁ……

チラリと見るとアクアとダクネスがニヤニヤとこっちを見ている

あいつら後で覚えてろよ


「見ましたかダクネス。カズマがデレましたよ」

「よせめぐみん。あいつは面倒な性格だからな。そんな事を言ってはまたへそを曲げるぞ」

「いえ、しばらくはこれで苛めようと思います」


「カズマー!ゼル帝の分もだから2kgは頼むわよ!」

「へいへい……え?多くない?そんな食べるの?太るぞ」

「太らないわよ!皆で食べるんだからね!」

「いや待て、一人あたり500って結構な量だぞ」

「いいから!私のとっておきの芸とお酒で場を盛り上げるわよー!」


こっちの話を聞きゃしない

まぁ……変に落ち込むこいつを見るよりかはいいさ


「ほら!走るのよ!キリキリ走る!」

「……ったく。待てよ!アクア!」


前を走るアクアを追いかける

何だかんだでこいつと始まった生活なのだ

今日ぐらいは付き合ってもいいだろう



そんならしくない事を考えてしまったのだ

……だからだろうか

その夜、夢を見た

優しく頭を撫でられながら誰かが呟く

「あんたって好きな人いるんでしょ?」

「……」

声は出ない

どうやら発言権はないようだ

折角の夢だと言うのに勿体無い

だが、撫でられている感覚は悪くない

ゆっくりと、優しく撫でられている

こんな優しさを見せてくれるのはエリス様ぐらいじゃないだろうか

「……さっさと言って楽になればいいのに……振られた所を笑ってあげるから」

……訂正

アクアのように性格悪い

誰だこの失礼なやつは

「……そうしたら、笑った後に少しは優しくしてあげる」

そう呟いた人物は、それ以降喋らずにひたすら俺を撫で続けた

その心地よい感触に俺の意識はどんどんと落ちていく

あれ?……夢なのに……まぁ、いいか

「お休み……カズマ」


「……しょうがないですね」

「うわ!め、めぐみん!?」

「何も見てませんよ。ええ。アクアがカズマの部屋から出てきた所なんて見てませんよ」

「いや、これは違って!ほら!そう!悪戯よ!今日の仕返しにね?」

「そういう事にしておきますよ……アクア」

「な、なに?どうかした?」

「あんまりにも鈍いと、後悔しますよ?」

「……?何のこと?」

「いえ……余計なお世話でしたね。それでは私はこれからカズマと添い寝してきますので」

「……めぐみんも物好きよねぇー」

「それを言ったらアクアもですよ」

「ええ?私はごめんよ?もっと私を助けてくれて、甘やかしてくれて、それでいて全てを捧げて私に奉仕してくれるような人がいいもの」

「……そうですか。それではお休みなさい」

何かアクアがニヤニヤしてるんですけど

「うん。お休みー」

……あれ?

何かモヤモヤする

カズマの部屋に入っていくめぐみんを見ただけなのに

「……んー。もっと落書きしておくべきだったわね」

ま、どうせカズマさんは私がいないと駄目だろうしね

華々しく散ってへこんだ所に慈悲の心でこの私が手を指し伸ばしてあげましょう

「仕方ないから、私が慰めてあげるわよ……そうすればカズマだって私を甘やかしてくれるわ!」

そんな想像をして自然と口元が緩くなる

明日カズマがどんな顔するか楽しみだわ!



……そして彼女は自室に戻っていく

彼女が後に自分の思いに気がつき、苦悩するのはまた別の話だ


「おいこらアクア!てめぇ昨日の夜俺に落書きしただろ!」

「何を根拠にそんな事いうのよ!そんな邪推で私を犯人にするとか出るとか出るわよ!」

「おお上等だこの野郎!何度でも泣かせてやる!」

「やってみなさいよクソニート!言っておきますけどこっちの弁護人はダクネスだからね!」

「ならこっちはアイリスだ!王女引っ張り出してダクネスと纏めて偉い目に合わせてやる!」

「待て!そもそも私は関係ないぞ!」

「ちょっと!権力を使うなんて最低よ!」

「お前が最初に言い出したんだろうが!」


今しばらくは……彼と彼女の関係は変わらない

その時が来るまでは……

「……仕方ないですね。アクアですから」




End

中途半端だけど許して
その後の話はダクネス書いてから長編として書くよ
お疲れ様でした

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