【モバマスSS】僕はペロである (27)

・佐城雪美ちゃんの飼猫であるペロのお話
・地の文あり


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僕は猫だ。

名前はまだない。

なんだか薄暗くてジメジメが嫌で飛び出したことだけは覚えている。

そこから宛もなくふらふらと旅をしていた。

僕は居場所が欲しかった。

居場所がなんなのかはわからなかったがとにかく旅を続けた。

そうして静かで餌のある町にたどり着いた。

そんな寒い冬の夜。

あたりは雪が降っていた。

白い雪が僕の黒い毛にまとわりついて、まるで近所を散歩しているダルメシアンのようになっていた。

今日はどうやら人間世界ではお祭りのようで窓や木にたくさんきらきらがついていた。

なんだか僕まで嬉しくなって猫のくせに、背筋をピンと伸ばして歩いてみる。

ちらりと、人間たちの住処をカーテンの隙間から覗いてみる。

ささやかな僕の趣味、人間観察。

どの家も、今日ばっかりは家族揃って大きな鶏肉を食べていた。

家族ってなんだろう、友達みたいなものかな。

でも僕には友達さえもよくわからなかった。

ニ軒三軒と隙間から覗く。

どの家も、家族みんなで仲良く笑っていた。

灯りを線で結ぶように家から家へと渡り歩く。

すると一軒、暗い家があった。

ほのかにろうそくの灯りだけが家を灯しているようだった。

僕は一瞬ぞくっとして、恐る恐る窓に近寄る。

部屋の中に、一人の女の子が座っていた。

紺青色の髪に、ろうそくのろうのように雪のように白い肌。

僕はあまりの美しさに思わず見とれて、彼女が近づいて窓を開けたのにも気づかなかった。

「………………」

彼女はしゃがみこんで僕を見つめる。

「あなた……サンタさんに……お願いして……来てくれた……?」

彼女の声が聞こえた。

雪解けの水のように澄んだ綺麗な声だった。

何を言っているかはわからなかったが、その綺麗な声に僕は魅入られてしまった。

「外……寒い………おいで…………」

白い手が、僕の白を払う。

まるで引き寄せられるかのように僕は家の中に入っていく。

彼女の小さな身体に対しては不釣り合いなほどの大きな部屋。

暖かそうな暖炉とフカフカの赤い絨毯。

まるで夢の様な世界がそこにはいっぱいに広がっていた。

彼女はふかふかしたソファに座り、手招きをしていた。

その手には彼女の瞳と同じ紅い首輪。

魔性の紅に魅せられて、僕はまるでそこに居場所があるかのような気がして一歩ずつ彼女へ近づく。

赤い絨毯を強く蹴って、彼女の膝の上に飛び込む。

絨毯より柔らかくて、でもそれよりもふかふかして暖かかった。

僕は初めて、ここが自分の居場所なのだと感じることができた。

人間はこんなときやっぱり泣くんだろうか。

にゃぁとないてみせる。

「今日から……お友達……」

彼女が何かをつぶやいて、暖かい手が、僕の頭を撫でる。

それから、僕の首に手を這わせて首輪をはめる。

紅い首輪はまるで元々僕の身体の一部だったかのようにしっくりはまった。


以前、飼猫からこんな話を聞いた。

人間は、首輪をつけた猫の下僕になりご飯や寝床を提供するのだと。

だけど今の僕には、どうしてもこの小さな女の子が下僕とは思えなかった。

下僕とかご主人様とか、そうじゃなくて対等な関係。





あぁそうか、この気持ちが。




この暖かさが。









友達か。







「私……雪美……あなたは…………?」

僕は……?

名前を聞かれているようだが僕には名前がない。

「名前……ない……?」

そうだ、野良猫は名乗らない。

「わかった………考える……。……時間……欲しい…………」

名前だなんてなんだか飼猫みたいだ。

そう思うとなんだか安心感が湧いてきて、僕は雪美と名乗った少女の手に身体を預けた。

「ふふっ……可愛い……」

暖かい手が僕の身体を包み込むように撫でる。

暖炉に照らされて仄かに光を反射した白い指が暖かい雪のように僕に降り注ぐ。

いたずらに、彼女の細い指を舐める。

びっくりした彼女は、ぴくりと少しはねた。

それから彼女は、少し笑って今度は僕の前足を握った。

「ふふっ……ペロって……する…………びっくり……」

「あなた…………ペロ…………どう…………?」

「長靴をはいた猫……好きなお話…………ペロ……主人公…………」

ペロか、長靴をはいた猫はよくわからないが良い響きだ。

何より彼女にペロと呼ばれると自分の居場所はここだと言われているような気がして嬉しかった。

ついに自分の居場所を見つけた。

僕は嬉しくなって彼女の頬を舐めた。

「くすぐったい…………ふふっ…………これからも……よろしくね……………」

これが僕と彼女の出会いだった。

とりあえずここまで。
また書けたらこちらのほうに上げさせて頂きます。

それから、僕と雪美ちゃんはずっと一緒に居た。

彼女が学校というものへ行っている昼間は相変わらずふらふらとで出掛けていたが、彼女が戻ってくるころには必ず家にいるようにした。

それは、彼女に望まれたことでもなく彼女が帰る頃に自然と戻りたくなるからなのだ。

家ではいつも雪美ちゃんは僕と一緒に居た。

一緒に御飯を食べ、一緒にお風呂に入り、一緒の布団で寝た。

昼間に散歩していた時に出会った猫がこんなことをいっていた。

雪美ちゃんみたいな子どもが僕らと暮らすには家族の許しが必要らしい。

そういえば雪美ちゃんの家族を僕は見たことがない。

あの電話という黒い箱の中に雪美ちゃんが話しかけているけれどあそこにいるのだろうか。

それでも僕が追い出されていないということは許しをもらったのだろうか。

もし許されていないなら僕は……。

そうだ、今日こそは喋りかけてみよう。

陽の光をたっぷり浴びて暖かくなった絨毯でくるまりながら決意した。

ひなたぼっこしていると雪美ちゃんが帰ってくる音がした。

「ペロ………ただいま……………」

ランドセルを床に起き、僕の隣に仰向けに寝そべる。

僕が胸の上に乗ると、優しく頭をなでてくれた。

くすぐったくて気持ちいい。

勇気を出して僕は、にゃぁと鳴いてみる。

「……………?」

そりゃそうか。

僕はなぜか雪美ちゃんの言葉はわかるが、僕の言葉は雪美ちゃんにはわかるはずもなかった。

僕なんかがにゃぁと喚き立てて迷惑だっただろうか。

でも彼女は耳をそらさずに聞いてくれた。

それだけでも、なんだか嬉しかった。

彼女がじっと僕を見つめる。

僕は目をそらさずに彼女をみた。

とにかく僕の意思を汲み取ろうと紅い瞳に僕の金の瞳が映る。

彼女の瞳に、僕の瞳が映り。僕の金に彼女の紅が映る。

向い合って、にらめっこ。

閃いたように、彼女は口を開く。

「うん……そう……パパ……ママ……許してくれた…………」

初めて話すことができた。

僕は今にも飛び上がってタップダンスでも踊りたい気持ちだったが彼女の胸の上だったのでやめておく。

「だから……大丈夫……ずっと……一緒………」

優しく微笑んで抱きしめてくれる。

それはふかふかの絨毯より、夕日よりも暖かくて、いい匂いだった。

僕はそれからこれまでのことを夕日が沈み月が顔を出すまでしゃべり続けた。

生まれたときのこと。

旅をしていたときのこと。

そして、雪美ちゃんに出会った時のこと。

僕が話すたびに彼女は笑ってうなずいて話を聞いてくれた。

ご飯を食べるときも、一緒にお風呂に入っているときも、ずっとずっとお喋りをした。

布団に入って雪美ちゃんが「もう……寝る時間……」というまで僕はしゃべり続けた。

僕はごめんなさいと謝って、彼女の腕の中で眠りに就いた。

――――――――――

雪美ちゃんの学校がお休みのある日、初めて雪美ちゃんの両親を見た。

僕を撫でている手を止め、玄関へ走りだした。

最近知ったのだがどうやらあの電話の中には両親は居ないらしい。

僕も雪美ちゃんの後についていく。

雪美ちゃんによく似た雪美ちゃんのママが何か話していた。

僕には何を言っているかわからなかった。

雪美ちゃんの顔を見ると悲しそうにしたり嬉しそうにしたり、コロコロと表情が変わった。

何を話しているのだろうか。

前足でそっと雪美ちゃんの足を叩いた。

「ペロ……………ちょっと………あっち行ってて…………」

どうやら家族で大事な話をするらしい。

もしかして追い出されるのかな?

ちょっと不安な気持ちになりながらも僕は雪美ちゃんの部屋に戻った。

やっぱり僕は野良に戻るのだろうか。

暗澹たる気持ちになってきた。

雪美ちゃんと一緒にいたい。

僕はどうなってしまうのだろうか。

1人で部屋に待っているのがいつもよりすごく心細かった。

早く戻ってきてくれ。

ほんのりといい香りのする雪美ちゃんの勉強机をガリガリと削りたくなる気持ちを抑えて待つ。

一秒が千年にも感じられる誰も居ない部屋の中で祈るように待っていた。

しばらくして雪美ちゃんだけが部屋に戻ってきた。

その顔は嬉しそうでもあり、少し寂しそうにも見えた。

「ペロ……出かけてくる……」

僕のほっぺを少しだけ撫でて決意したように立ち上がる。

結局僕はどうなってしまうのだろうか?

僕から遠ざかっていく雪美ちゃんの髪よりちょっと暗い紺色の靴下にしがみつこうとしたそのとき。

紺色の足が踵を返した。

「ペロ…大丈夫……。ママ…パパ……許してくれた……」

しゃがみこんでもう一度僕の頬を撫で回す。

嬉しくなって僕も小さな両手に顔を預ける。

最後に僕の頭をとんとんと叩いて部屋を後にした。

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