悪魔になった男 (184)

「汝、なぜゆえに力を欲す。」

長い銀髪の髪を垂らした男が
椅子に座った
黒のスーツを身に纏った男に問う。

「全ては仲間の仇討ちのため。
そのためなら俺一人の命なぞくれてやる。」

黒スーツの男の目は復讐の火を灯していた。

「いいだろう、その心意気気に入った。
汝に不死の力を授けよう。」

銀髪の男は口角を上げ、右手に懐中時計を垂らして黒スーツの頬に蒼い炎で包まれた左手をやる。

黒スーツの視界はそこで黒く染まった。


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ジリリリリリ!

朝5時、目覚まし時計の音が部屋に木霊する。

「嗚呼……五月蝿え。」

短髪の男は眠たそうに
目覚まし時計の音を切る。

「5時、か。」

男は眠そうに体を起こすと朝早くから体を鍛え始めた。

1時間も身体を動かすと、
男の目には活気があった。

男はシャワーに入り、身支度をすませると
黒のスーツを身に纏って部屋から出て行った。

バロックシティーー、
中心部の寂れたアパート。



「おはよう、ジェット。」

黒髪でメガネをかけた男が短髪の男に声をかける。

メガネと短髪の男はエレベーターに乗って地下5階のボタンを押す。

「おはようクラウド。
”スーツ”の進捗はどうだ?」

黒髪でメガネをした男、
クラウドは特殊戦闘兵器を作り出す
専門のエンジニアだ。

クラウドは今、民間兵士用のパワードスーツを作っていた。

パワードスーツは衝撃を与えると硬くなる物質を生地の内側に仕込むことにより、
力積の法則からダメージを減らす効果がある。

また、電気信号を送ることによって物質を筋肉代わりに代用することもできるシロモノだ。

「大体40%といったところかな。
まだ電気信号がうまく伝わりにくいところが
ある。」

電気信号を送るためのバッテリーについて問題があるようだった。


「クルマは整備し終えたか?」

2人はエレベーターから降りて二つの部屋を抜けてガレージについた。

「ああ今見せようと思ってたんだ。」

クラウドはガレージの黒いクルマをジェットに見せる。

「加速は10秒でトップに乗る。
最高速度は350キロ、防弾製。
拳銃の弾は疎か、
小銃の弾も通さない仕様だ。」

クラウドは自分の仕事に覚えがあるように
誇りのある顔をしている。


「流石、いい仕事するな。」

クラウドの顔の意図を読んだジェットは
クラウドを褒め称える。

「お褒めにあずかり光栄だ。」

クラウドは機嫌がよさそうだ。

「本当ならこういうのが
使わない状況が望ましいのだがな。」

ジェットが神妙な顔つきになり、
拳を握りしめていう。

「吸血鬼との抗争に終止符が打てる日
が来て欲しいものだな。」

クラウドがメガネをクイっとあげる。


2158年、人間は吸血鬼と争っている。

吸血鬼は腕力やタフさに加え、
特別な能力ー通称”牙”と呼ばれる能力を得ていた。

人間側もかつては気功などと呼ばれていたようなオカルトな技術が科学的に立証され、それを身につけて吸血鬼に対抗していた。


クラウドは少年期に妹を吸血鬼に犯され殺されている。

それも目の前で。

クラウドはその後吸血鬼に対する復讐心を
持って人間でも吸血鬼に対抗できるよう
兵器を開発してきた。

しかし、吸血鬼と争うの中で温厚な吸血鬼や
望んで吸血鬼になったわけではない者もいることを知って今は共存の道に希望を持っている。


『メーデー、メーデー、
G社ビルの屋上で吸血鬼が暴れている模様、
至急S級隊員は向かってください!』

サイレンとともにスピーカーから流れる。

「ここから6キロの地点だ、
まだこいつの出番じゃないかな。」

ボンネットに手をやり、
クラウドは笑ってみせる。

「こちらジェット・ウォーカー、
今向かおう。」

腰のトランシーバーでオペレーターに伝える。

G社屋上、

タタタン!タタタン!

3人の武装兵が物陰からサブマシンガンを撃ち続ける。

屋上の中央に立つ吸血鬼は腰から荊のようなモノを生やして変幻自在に飛んで
弾を避けている。

吸血鬼は仮面をつけていて白いフードの付いたパーカーを着ている。

武装兵の一人の足首を荊で巻きつけ
吸血鬼は自分の方へ引っ張る。

すると吸血鬼は兵の一人を人質にとり、
武装兵にサブマシンガンを撃たせなくした。




吸血鬼と武装兵との間に数分の均衡が保たれていた。

武装兵は相手の要求が分からないので武器を下ろすことにも撃つこともできない。



ドン!ドン!

吸血鬼の足元に弾丸が着弾する。

吸血鬼は人質を撃ってきた方向に向ける。

「そいつ、放せよ。」

黒いコートを着たジェットが貯水槽の上に立っていた。

ジェットの手には大型の自動拳銃がある。


吸血鬼は武装兵の高速を解く。

意外にも吸血鬼は応じた。

ジェットは貯水槽から降りてジリジリと吸血鬼との間を詰めていく。


「お前らは先に帰ってろ。」

目線は吸血鬼に据えたままジェットは武装兵に命じる。

「し、しかし。」

武装兵はバツが悪そうにする。

「邪魔なんだよッ!」

ジェットが怒鳴る。

「は、はい。」

武装兵3人は屋上から退散した。



吸血鬼とジェットとの距離は
10メーター程だった。

どちらから仕掛けるということもなく
時が過ぎていく。


ある時、突然、
糸が切れるように2人が動き出す。

ジェットは吸血鬼に向かって大型自動拳銃を
撃っていく。

吸血鬼は後ろに飛びながら体をよじって弾丸を避け、荊を鞭のようにして
ジェットに攻撃する。


「ングッ!」

ジェットの大柄な体のあちこちに穴が開く。

ジェットが攻撃を受けて怯んだ隙にフェンスに
吸血鬼は荊を巻きつけ、
プロレスのロープのようにする。

そして吸血鬼はロープの反動による高速スピードの飛び蹴りをジェットに与える。

ジェットの巨体は貯水槽に吹っ飛んでいった。


バン!と音を立てジェットは貯水槽に叩きつけられる。

貯水槽は衝撃で穴が開き水がチョロチョロと流れ出ている。

吸血鬼は飛び蹴りから起き上がると
ビルから飛び降りて逃げようとした。


「待てよ、吸血鬼。
終わってなんかないぜ!」

吸血鬼は殺したと思った相手が生きていることに驚いて後ろを振り向く。

後ろには傷一つないジェットの姿があった。


ジェットは腰からトランシーバーを取り出して
通話を始めた。

『クラウド、聞いてるか?
面白い拾い物をしたんだ。
良いセンスしてるぜ!』

『⁉︎おい、ちょっと待てよ。
まさかスカウトするつもりか⁉︎』

吸血鬼は通話しているジェットの首目掛けて
高い蹴りを放つ。

『これも一つの共存の道なんじゃないかッ!』

その蹴りを難なく躱して通話を切るジェット。


ジェットは吸血鬼の至近距離の連撃を先程とは思えないほどの器用さで、
紙一重で避けていく。

ジェットは避けつつ左の拳に
淡く蒼い炎を灯す。

吸血鬼は危険なモノを感じ取ったのか距離をとって荊による鞭の攻撃をする。


(こいつは自分にとって一番ベストなポジション
が中距離なんだな。)

ジェットは攻撃を避けつつ思案した。

吸血鬼が攻撃の速さを上げて距離をとっていく。

すると”一瞬”の内にジェットは吸血鬼を自分の射程圏内に入れる。

吸血鬼は咄嗟に体の前に手をクロスして防御の構えをとる。

しかしジェットの鋭い一撃が突き刺さる。

吸血鬼は衝撃によって後ろに押される。

「ハァハァ……!、ウッ。」

耐えて気を緩めたのか吸血鬼は
ドサッと倒れた。




倒れた吸血鬼をジェットはアジトに連れ帰った。

そして吸血鬼を闇医者”トウドウ”に診せた。

「ジェット、
あの吸血鬼はかなりの重傷だったよ。
背中を大きく斬られていた。
斬撃だから君による傷じゃないだろう。」

「というと手負いで俺と戦ったというのか。」


「イエス、ショックだったか?」

「とんでもない、
期待を良い方向に裏切ってくれたぜ。」

「まぁとにかく彼女に会ってくるといい。」

「彼女?あの吸血鬼は女だったのか?」

「知らなかったのか、
まだ16ほどの少女だよ。」


「………謝礼はそこの封筒に入ってる。
持っていけ。」

「君の動揺は見てて面白いね。」

ジェットの体から滝のように汗が流れていた。




トウドウが帰った後、クラウドがドアを開けて
ジェットの部屋に入ってきた。

「ジェット!
君は正気かい!」

入るなりクラウドは怒鳴り込む。

「この機関は人手が少なすぎる。
俺を”一回”殺せるだけでかなりの手練れだ。
まずA級以上だろう。」

もっともな台詞をスラスラという。
用意してきたようだ。

「信頼は築けるのかい?」

「さあな。」

「ハァ、でその吸血鬼はどこに?」

「空きベッドに寝かしてある。
重傷だったからな。」

「!追われているのかい。」

ジェットが頷く。


「もう僕は関わらないぞ!
君だけで勝手にしてくれ!」

「頼んだつもりはない。」

クラウドは部屋から出て行った。

ここまで。明日来るかも

よっしゃ投下してくぜ!

部屋は美味しそうな匂いで包まれていた。

「?」

少女がベッドから起き上がり、ドアを開けて個室から出る。

匂いのする方向へひたひたと足を動かしていく。
流石は吸血鬼、匂いを辿るのは早い。



匂いのする台所からは牛肉が焼かれている。

食べ頃の色になった牛肉の上にチーズを乗せて
さらにおいしそうに見える。

後ろ姿でしか見えない男は牛肉とチーズを
レタスとトマトが乗っているパンに落とす。


「ねえ。」

少女が男に声をかける。

「ん?ああ、起きたのか。」

ジェットは何一つ表情を変えることなく振り向いた。

「貴方、何故後ろに人が立ってても
平然と入られるの?。」

「俺はオンとオフを使い分けてるんだ。
今はオフ、たとえ俺を狙っている奴がいても
攻撃されるまではオフ。
ホギーはちゃんと君の分もあるぞ。」

「一度くらい殺されたって何てことはない。」


「!……どうして貴方は死なないの。」

ジェットの言ったことで昨晩の屋上での戦闘を思い出した。

少女はジェットを一度殺したはずなのに、
ジェットは生きていた。

「悪魔はわかるかね。」

少女は首を横に振る。

「そうか。一般的に悪魔というモノは
オカルトのように思えるが
実はそうじゃない。」

「人がその存在を信じれば信じるほど
存在が濃くなってゆくモノなんだ。
だから実体がない。概念そのものなんだ。」

「だから俺は死なない。
悪魔と契約したからな。
存在があってないようなものなんだ。」

「まぁとにかく今は冷めないうちにホギーを
食べよう。」

ジェットはトレイに乗せたホギーをテーブルの方へ向ける。


「ホギー?」

少女はホギーを知らないようだ。

「君は肉とか食べられる体質かね。」

吸血鬼は何も血液だけを糧するわけじゃない。
普通に食事することもできるし、普通の食事だけで生きることもできる。

吸血鬼は血液を飲むと性的快楽を得る。
多くの吸血鬼はそれ目的で人間
を襲ったりする。

なかには他の何か目的で吸血する鬼もいるが。


「食事は普通にできるわ。」

トレイの一つをジェットから少女は受け取る。

「そうか。作った甲斐があった。」

2人はテーブルでグレープフルーツジュースと
ホギーを食べている。


「今度は君の話を聞かせてもらおう。」

ジェットが話を切り出した。

「……ここまでよくしてくれたんだものね。
いいわ、話す。」

「私の名前はレイ・アンダー、17になるわ。」

「昨晩暴れたのは追手を
近づけせないようにするため。」


「俺が出てくるのは想定内だったか?」

「いいえ、完全に予想外だった。
本当は騒ぎを起こして追手の目を
くらませるつもりだった。
それなのに逆に返り討ちに
されちゃうんだもの。
参ったわ。」

ジェットがニヤリと笑う。


「君は俺に負けた。
けど君の腕は相当なものだ。
腕に覚えはあったんだろう。」

「前いたところでは私より強い
吸血鬼はいなかった。」

「それだけにショックだわ。」

「君にはまだ伸びしろがある。
銃火器を使ったことは?」


レイは首を横に振った。

「ないわ。必要なかったから。」

「結果的に追手の目はくらませたから
時間は稼げたな。
君の体にはサブマシンガンが
ちょうどいいだろう。」

「食べ終わったら外に出るぞ。」

「歓迎してくれるのね。」


「君には我々の機関に属してもらう。」

ジェットは手をピストルの形にしてレイの顔を指す。

レイは少し驚いた様子で言った。

「選択権はないってカンジね。
……いいわ、貴方の元で
働かせてもらいます。」

レイはにっこり笑った。

ジェットはレイの笑みに心を撃たれた。

その笑みが純粋そのもので。




2人は部屋を出てガレージに向かった。

ガレージにはクラウド調整、改造した黒い車があった。

ジェットは執事のように助手席のドアを開け、
手をシートに向けた。

「ふふっ、なんか面白い。」

「そうかぁ?」

「執事にしては体が大きすぎて、
ボディガードよ。それじゃあ。」

レイは車に乗り込み、ジェットも左の運転席に乗った。



黒塗りの車が灰色の道を走る。

「今日は晴れか。」

日差しが強く差して眩しいのか
ジェットはサングラスを取り出す。

「吸血鬼にとっては嫌な天気だわ。」

ジェットからサングラスを手渡せれレイもサングラスをかける。

吸血鬼は日光で死ぬことはない。
が、不死性は弱まる。

「君が、人間になりたいと思うのなら
いい天気なのかもな。」

「……そうね。」

「少し聞かせてくれ。
君の吸血鬼としての立場、
それと追手の立場に能力とか。」

「……吸血鬼にも国みたいなものはあるの。」

「ああ知ってるさ。
主要3カ国に小国10あるんだっけ。」

「私のいた国が乗っ取られたの。」

「察するに君は王女か?」

「小国のね。
それで、乗っ取りを成した連中が
私に何かされると困るから。」


「追手は顔見知りか?」

「ううん。
全く面識がなかった。
けど恐ろしく強くて、」

レイが自分の両腕をつかんで背中を丸める。

「背後を襲われたわ。」

「正面からやって勝算は?あるか。」

「わからない。
相手の力量が読めない。
底が深すぎて。」


「そういえば君の能力を聞いてなかったな。」

「言わなきゃだめ?」

「ああ。俺のことも教える。
君を裏切ったりする予定はない。」

「……ゴムみたいな荊を具象化する。
名は”Thorn”。
能力は荊を対象に刺して、
一瞬反応を遅らせたり、差のある相手だったら
勝手に操作することもできるわ。」

「具象系統の精神系か。
俺の天敵だな。」


「俺の能力は蒼い炎を左手から出す。
蒼炎は加速や物質同士の”繋がり”
を壊れやすくする。
左手の能力はそれ。
右手は時間をごく僅か操れる。
使用には限度があるが進ませたり遅らせたり
止めたりできる。」

「それで一瞬で間合いに入れたのね。」

「チートじゃない。」

「君みたいな精神干渉系にやられると
”マト”になっちまうから
弱点がないわけじゃないさ。」

「そろそろ着くぞ。」





2人はアパートの地下5階に降りて、
ジェットのオフィスにきた。

「そこに座ってくれ。」

レイが椅子に座る。

ジェットは何やらロッカーから何かを探しているようだ。

コト!

レイの目の前のテーブルにサブマシンガンが置かれた。


「一般的に銃はまず構造を理解した方が
撃ちやすくなる。
公式の証明ができれば難問が
解けるのと同じだ。」

「10分後に一度テストする。
解体して組み立ての練習をしといてくれ。」

「スパルタなのね。」

「君の命がかかってるからな。」

ジェットはオンになったのか真剣な眼差しでレイを見ていた。

そしてジェットは自分は気づいていないが心の奥底で
こいつだけは守り抜かなきゃいけなように思った。

ここまで。

イッテキューみたらチャンカワイのコーナー学校の知り合いしか居なかったでござる。

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