幸子「ドリーム・ステアウェイ」 みく「イントゥ・ヘル」 (114)

P「幸子! 次の仕事が決まったぞ!」

幸子「ふふーん、当然の結果ですね! カワイイボクの響き渡る名声をもってすれば、お仕事なんて向こうから飛び込んで来るんです!」

みく「どーせまた体当たりロケ企画にゃ、もしくは恐怖スポット巡りにゃ」

幸子「うっ……そ、そんなことないですよねプロデューサーさん!? う、歌番組とか、ひな壇とか!」

みく「どーせ『特報謎の大陸! ~ナイルの川に流されて~』とか『絶叫120分生放送 お化け屋敷最強決定戦』とかにゃ」

P「随分と具体的だな」

みく「Pちゃんの手帳に書いてあったにゃ」

幸子「プ、プロデューサーさん!?」


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みく「だいたい、Pちゃんが元気な時は大概ろくな事にならないのにゃ。この前なんか『アイドル前川みくはどこまで一般人に溶け込めるのか』なんて企画をもらってきて……」

P「好評だったじゃないか、あれ。李衣菜が『初めまして、事務所の新人さん?』って言い出した時なんかバカうけだったぞ」

みく「りーなちゃんのボケはシャレにならないの! Pちゃんも『新人の後山さんだ』とか言い出すし」

幸子「……テロップでは『新人の後山(あとやま)さんだ』って出てましたね」

P「ああ、毒々しい赤色の奴な。あれからバラエティの仕事増えたじゃないか」

みく「にゃーっ! みくは可愛いアイドルなのー!」

幸子「プッ、プロデューサーさん! それで、今度のお仕事はなんなんです? カワイイボクに相応しく、アイドルらしいお仕事なんですよね?」

P「主役」

幸子「へっ?」

P「主役。月9。台本もう届いてるぞ」

幸子「えっ?」

みく「へっ?」

P「ちなみに、収録は今夜からだから」

幸子「えええええーっ!?」

みく「にゃああああーっ!?」

 夜。

幸子「しゅ、主役、主役って、ボクが主役、しゅやく……」

みく「幸子ちゃんがアイドルっぽくない顔で震えてるにゃ……」

P「幸子はかわいいなぁ。あとちょっとで現場着くぞー」

幸子「しゅやくしゅやくしゅやくしゅやくしゅやくあばばばば……」

みく「……無理も無いにゃ、みくだってまだ信じられないもん」

P「だなー。まさか『ドリーム・ステアウェイ』の続編の主役なんてなー」


P「『シンデレラパーティーZERO ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル』」

P「あの大ヒット映画『ドリーム・ステアウェイ』の前日談をドラマで作るって言うのは聞いてたし」

P「今を時めく『ニュージェネレーション』がストーリーの都合で出られないから、ワンチャンあるかなーとは思ったんだが」

みく「他人事みたいに言ってるけど、取ってきたのはPちゃんにゃ」

P「いやー、まさか本当に取れるとは思わなかったなぁあっはっは。台本は今のうちに読んでおけよー」

幸子「ぷろっ……ごほんっ、ごほ、んんっ! ……プロデューサーさん!」

P「声が裏返ってるぞ、幸子」

幸子「裏返った声もカワイイですから! ……じゃなくて、この台本、落丁じゃないんですか?」

みく「みくも思ったにゃ、最後のページが不自然に途切れてるにゃ……というかみくも出演できるの?」

P「おう」

幸子「ボクの素晴らしい演技に差し支えます! すぐにちゃんとした台本を――」

P「いいんだよ、それで。監督直々の希望でな。1話の収録、今日は前半までだが、前半ラストシーンは主役に知らせず一発撮りでやるんだと」

みく「い、一発撮り?」

P「で、その後も時系列順に一話撮って、一話撮り終ったら二話目、三話目、四話目……」

みく「……それ、スケジュール辛くない? 何回セットを行き来すればいいのにゃ」

P「まあな。ただ、その方が面白いって監督が言い出してな……出演者にもギリギリまで展開を教えないで、その時、その時の臨場感を押し出したいんだと。だから今日は一話の台本だけで――で、幸子とみくだけ、その特別版の台本」

幸子「……プロデューサーさん。一つ教えてください」

P「なんだ?」

幸子「幾らカワイイボクでも、今の実績を言うなら……こんな、主役を貰えるほどの活躍はしていない筈です」

幸子「うちの事務所の規模じゃ取ってこられないくらい大きな仕事だって、賢いボクには分かります。だから、だから……」

幸子「こんどはどんな裏があるんですか!?」

みく(……ドッキリを仕掛けられすぎて疑り深くなってるにゃ)


P「そんな事か……簡単に言うとだな」



P「お前達より無茶振りに慣れてるアイドル、まず居ないだろ」

幸子「……はぁ?」

P「この前の収録では、驚いて転んだ時の受け身が上手いって、アク監さんに褒められた」

P「『ADさんのカンペが汚くて読めない』ドッキリでも、結局番組一本分喋り通したじゃないか」

P「寝起きドッキリで顔に新鮮な鯖を乗せられた時の反応速度はゼロコンマ単位だったし」

P「プロデューサーの俺が断言するが、お前達以上に無茶振りに慣れている――芸人向きなアイドルは居ないぞ!」

みく「」

幸子「」

P「……というのは三割冗談だが」

みく「七割本気なのにゃ」

P「聞こえないふりするぞ。……二人とも、ストーリーを壊さなきゃ、どんなアドリブだってOKって許可が出てる」

P「代わりに周りも、お前達にはアドリブ仕掛けてくるぞ。だがまあ、全部乗って、全部食っちまえ。超えた無茶振りの場数が違うってとこを見せてやれ」

みく「Pちゃん、それアイドルへの激励として適切だと思う……?」

P「思う」

みく「……何も言えないにゃ」

幸子「………………」



幸子「……ふふーん」

幸子「いいでしょう! ボクの天才的演技と対応力で、どんな要望にも答えて見せます! この! カワイイ! ボクが!」

みく「はぁ……なんだか何時も通りに嫌な予感しかしないけど、立派なお仕事にゃ……みく、頑張るから!」


P「……うし、行ってこい!」

 ――シンデレラは舞踏会で王子様と出会い、やがて幸せを手にしました。
 辛い日々を耐え、清い心を失わずに育ったシンデレラのドレス姿の、なんと眩く、人の心を惹きつけたことでしょう。
 けれど――舞踏会の花形は、たった一人。
 魔女に見出され、王子様の心を掴んだ少女は、その国にたった一人しか居なかったのです。

 その国には、どれだけの少女が暮らしていたのでしょうか。
 シンデレラは本当に、最も魅力的な少女だったのでしょうか。

 お姫様を夢見る女の子が、舞踏会を待ち望む国にはきっと、
 シンデレラよりも美しい少女が――
 シンデレラよりも歌の上手い少女が――
 シンデレラよりもたくましい少女が――
 そして、シンデレラよりも不幸な少女が――きっと、たくさん居たに違いないのです。

 王子様の隣、体も沈まんばかりの柔らかな椅子に座って、国中がかしずくお姫様は、たった一人。
 玉座に続く階段は、赤い絨毯で彩られています。


 〝シンデレラパーティー/ZERO ~ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル~〟


 ねえ――夢を見ましょう?

 誰もが憧れる、きらきらしたステージの上に立つ夢を――

〝第一話 ~There's a woman who was sure to lose.~〟


ちひろ「みなさん、おはようございます」

幸子(いつもと変わらない朝礼、いつもと変わらない連絡事項、いつもと変わらない息抜きの話)

幸子(昨日も一昨日も、その前の日も、ボクはこんな日常を過ごしている――その筈なのに)

幸子(何故でしょう? 今朝は何か、違和感が……)

幸子(……そうだ、クラスメートがおかしいんですね)

幸子(隣の席の子は、高校生くらいの年齢に見える)

幸子(なのに反対側の子は……どうみても小学生。同じ教室で授業を受けてる筈が無いんです)

ちひろ「それから、お知らせがあります」

幸子「……!」

ちひろ「ヘレンさんが昨日、転校しました」

「転校?」「転校かー」

「転校じゃしかたないねー」「残念だねー」

幸子(……昨日も、たしか、誰かが……誰でしたっけ……転校して行った筈)

幸子(なのに、連日の急な転校を、誰も不思議に思わない!)

幸子(ボクの学校で、一体何が起こっているんです……?)

ちひろ「それでは、朝礼を終わります。今日も一日、頑張りましょう!」


幸子(誰か、誰か他に何か気付いていそうな人は……)キョロキョロ

みく「………………」

幸子(……あっ)

幸子(授業合間の休憩時間……友人二人に、それとなく聞いてみたりもしました)

輝子「ふひ? へ、変な事、って……ぼっちの私に友達がいる事……?」

幸子「違います」

小梅「あ、あの子は、別におかしな事は無いって言ってるよ……」

幸子「だからあの子って誰なんですか!? どこを見てるんですか小梅さーん?」

幸子「そっ、そうじゃなくてですねえ、ほら、転校の事とかっ、クラスメートの事とか……」

小梅「転校……?」

輝子「て、転校なら仕方ないじゃないか、ふひひ……」

小梅「うん……そうだよね、仕方ないよね……」

幸子(…………)

加蓮「でさ、これ新しいネイルなんだけど……」

美嘉「へー、カワイーッ★ アタシもこれやりたーい!」

幸子(クラスの女子の中心人物的二人……彼女達はどうでしょう)

幸子「あっ、あのっ」

加蓮「ん? 幸子ちゃんじゃん、どうかしたの?」

美嘉「……なんか珍しい組み合わせだね、こうして見ると」

幸子「普段、あまり話しませんからね。……それはさておいて、お二人とも、変な事に気づきませんか?」

加蓮「変な事?」

美嘉「うーん……むしろ変な質問するね幸子ちゃん……」

幸子「ほ、ほら、何か不自然な出来事ですとか、普段と様子の違う子だとか……!」

加蓮「様子が違うっていうと……ねえ?」

美嘉「幸子ちゃんだよねぇ……?」

幸子「そ、そうじゃなくってー! ほら、今日だって急に転校とか有ったでしょう、変だと思いませんか?」

加蓮「…………」

美嘉「…………」


加蓮・美嘉「転校なら仕方ないよ」

幸子「……っ!」

幸子「そ、そうですよね……変な事を聞いてごめんなさい」

加蓮「あー、びっくりした。幸子ちゃんってあんな変わった子だっけ」

美嘉「おとなしい子だとしか思ってなかったね……あ、そうそう、加蓮さ」

加蓮「ん?」

美嘉「あの子が言ってた〝転校〟って、どう思う?」

加蓮「……? 転校は転校でしょ? 残念だけど、仕方ないよ」

美嘉「…………」

美嘉「だよねー、あははっ★ ごめんごめん、私まで変な事聞いちゃった」

加蓮「ほんとだよ、もー。あ、それでさ、さっきのネイルの話の続きだけど――」


美嘉(……輿水幸子、か)

幸子(昼休みを待って、ボクは前川みくさん――明らかに年上の同級生を、こっそり校舎裏に呼び出しました)

みく「幸子ちゃん……いきなりこんな所に呼んで、どうしたの?」

みく「輝子ちゃんとか小梅ちゃんには『告白だったらオッケーしてあげて』とか言われるし……え、まさか本当に」

幸子「違います!(あの二人はいっつもいっつも……)」


幸子「前川さん、あなたは何歳ですか?」

みく「おかしな質問だにゃ。みくは15歳、高校一年生。誕生日が来たら16歳にゃ」

幸子「……ボクは誕生日を過ぎて14歳。今年で中学二年生です」

みく「……! 幸子ちゃん、もしかしてっ」

幸子「良かった、気付いてたのはボクだけじゃなかったんですね……!」

みく「今朝、急に気付いたのにゃ……年上や年下の子が混ざってる同級生、毎日続く誰かの転校、それに誰も疑問を持たない……」

みく「おかしいにゃ! でも、誰も気にしてないみたいで、変に感じてるのはみくだけで……」

幸子「……ボクの友達も、みんな、転校なら仕方ないって言うんですけど、おかしいですよね!?」

幸子「良かった、ボクがおかしいんじゃないんだ……」

みく「みくも、ほっとしたにゃ。みくだけがおかしくなって、周りは何も気にしてないとかだったらどうしようって……」


みく「……良く考えたら何も解決してないにゃ!」

幸子「そ、そうでした……あ、で、でも、そもそも一体、何が起こってるんで――」


 ――きぃぃいいぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ。


幸子(……あれ、なんだろ、この音)

幸子(ノイズ? いや、でも……不快じゃない、心地良い音)

幸子(どこから聞こえてくるんだろう……あっちかな? ちょっとだけ、ちょっとだけ聞きに行くくらいなら……)


みく「幸子ちゃん、危ないっ!」

幸子「――っ!?」

今夜はここまで。
台本形式でバトルは無理だわと思ったので、バトルシーンだけnot台本になります多分。

 前川みくが輿水幸子に飛び付き、彼女を地面に引き倒した――それと前後し、先程まで幸子の頭部が存在した空間を、拳大の石が駆け抜けて行った。

「……! だっ、誰ですか、なんてことするんですかっ!」

「あっちゃー、外しちゃった★ 一人だったら倒せてたのになぁ」

 立ち上がり、怯えたように周囲を見渡せば、物陰から現れたのは、髪を派手に染めた女子――城ヶ崎美嘉。
 その物言い、手にまだ残る石を見れば、今の投石の犯人が誰かは明確だ。

「た、たおっ……美嘉ちゃん、何言ってるにゃ!?」

「何って、分かってるでしょ? アンタ達に願いがあるように、アタシも叶えたい願いがあるの」

 みくの抗議に返す言葉は、幸子、みくの両名には、まるで意味が通らないもの。だが美嘉は、この行為が当然であるように二人へ歩み寄りながら――制服の襟から背に手を入れ、鞭と、大振りのナイフを一つ、取り出した。
 右手に鞭――サーカスの猛獣を躾けるような、身の丈より長い鞭を、しんと唸らせて地を叩き。
 左手にナイフ――分厚いサバイバルナイフ、ところどころに刃の欠けがある一本を、手慣れた動きで逆手に構えた。

「アンタ達のシンデレラハート……命ごとだって良い、貰ってくよ!」

「に――逃げましょう、前川さんっ!」

 異常だ――幸子は、直感的に状況を理解する。
 逃げねば、本当に殺されるのだ。理由は分からない、必然性も分からない、だが動かねば死ぬ。
 足を縺れさせながらも立ち上がり、幸子は、美嘉と逆方向に走った――走ろうとした。

 足が、体を裏切り、幸子を、美嘉の正面へと導いた。

「――え、あ……あれっ、え、なんで」

「アタシの〝アイドル〟の歌、すごいでしょ……じゃーね★」

 ざしゅっ。
 幸子の視界が、朱の一色に染まった。

一応バトルシーンもサンプルばかり。こんなノリです。

 東郷 あい。
 何故か、その名を、幸子は知っていた。

「ありがとう、私のダンスパートナー」

 少しキザにも思える台詞を吐いて、あいは幸子に流し目を送る。
 意識しているようには見えない。そういう振る舞いが、体に染み付いているような、自然な口振りだった。
 それから――ナイフを掴む左手はそのまま、右手を城ヶ崎美嘉の手に触れさせ、親指をつかみ、

「これは預かろう、君のような子が持つには物騒で、似合わない」

 〝相手を傷付けないよう〟に、彼女が持つ凶器の一つを取り上げた。
 奇妙な事に、その間、美嘉は抵抗らしき抵抗をしなかった。
 優しく指を開かされ、手の中から凶器を奪われて、その刃が無造作にへし折られてようやく――

「――――――っ、あぁっ!?」

 何が起こったかを認識し、飛び退り、身構える。
 まだ美嘉は、もう片手に鞭を持っている――猛獣さえも打ち据える、リーチと速度に優れた武器だ。
 然し、それを振るおうとするのではなく、自分の身を守る事に専念し、距離を引き離した。

「ほう……〝残響〟とは決して戦わない、自分はあくまで候補生だけを……見た目に似合わず、戦い慣れているようだね」

「……っ、精神干渉系、ほんっと嫌い!」

 彼我の戦力差を理解し、勝てる戦いをのみ――美嘉の戦術は、派手な外見とは裏腹、堅実なものであった。
 然し、そもそもの想定が狂っていた。
 美嘉は〝未覚醒の相手を、未覚醒の間に仕留める事で、他の陣営の強化を阻止する〟目的で動いていた。だから、追い詰めた獲物に牙を剥かれる前提など存在しなかった。
 あいは、穏やかな立ち姿から、突如、弾かれたように馳せる。
 長い足が地を蹴って、大きく弧を描き、美嘉の頭部へと迫った。何の変哲も無い、ただの蹴りだが――戦闘経験の豊富な美嘉は、この蹴りが十分に、自分を殺し得るものだと知っていた。

 だが。
 元より戦いに於いて、想定外など日常茶飯事である。
 〝残響〟を戦わせるのが常識であるシンデレラパーティーに於いて、自ら武器を持って他のアイドルを狙う美嘉が、此処まで勝ち残っている理由は、酷く単純であった。

「あら……私も精神干渉系なのに……ひどいわ……」

 単純に、強いのだ。
 美嘉が、ではない。
 美嘉の盾となり、美嘉の剣となる〝残響〟――過去のアイドルの写し絵が。 
 人の首をも断つ斬撃の如き蹴りを、〝彼女〟は左手で軽く打ち払い、美嘉を背に庇って立った。

「……! まいったね、最初から最悪の相手だ……!」

 蹴り足を弾かれたあいは、次を放たず呼吸を整えながら、神秘的なまでに眩い敵の姿に、僅かに目を細めた。

「ふふ、ありがとう。あなたに褒めてもらえるなら、自信を持ってもいいのかしら」

 高垣楓――数ある〝残響〟の中で、間違いなく最強格の一座を占める、最強最悪の〝歌姫〟であった。

監督「カーット! 前半撮影終了です、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でーす!」「お疲れ様でしたー!」「お疲れ様ーっす!」


P「よーう、幸子、みく、いい演技だったぞ!」

幸子「――――――」

みく「………………」

P「聞いたぞ。台本書いてあるの、城ヶ崎さんが刺そうとしてくるシーンまでなんだってな? その後全部アドリブとか流石――どうした二人とも、腹を減らした鯉みたいな顔して」

みく「……Pちゃん。これ、幸子ちゃん、一話を生き残れるのにゃ?」

P「大丈夫だろ、主役だし」

幸子「た、高垣楓さんに、城ヶ崎美嘉さん……お二人が、相手役なんです……?」

P「うむ。アイドル界の歌姫高垣楓さんと、業界トップのカリスマギャル城ヶ崎美嘉さんだ」

みく「出落ちにも程があるにゃあ!」

美嘉「お疲れ様ー★ いやー、アタシも今日、台本貰ったばっかりだったんだけどさ、楓さんがパートナーなのは驚いたなー」

楓「いえ、それを言うなら私だって、美嘉ちゃんが味方ちゃんで驚いた、なんて……」

美嘉「やだもう楓さん、いっつもいっつも――あはははっ」

楓「うふふふふ」

みく「ああ、何気ない会話をしているだけなのにあそこだけオーラが違うにゃ……」

幸子「ぐ、ぐぬぬぬ……ボクだって、ボクの可愛さが放つオーラは真昼のように眩くて――」


あい「あ、いたいた、幸子君!」

幸子「ひゃ、ひゃいっ!?」

みく(声が裏返ったにゃ……)

あい「すまないね、現場入りの時に挨拶をしたかったんだが、監督から『前半撮影終了まで幸子君には秘密にしてくれ』と言われていて……」

幸子「いっ、いえっ――ぁ。……こほんっ、初めまして、輿水幸子です!」

あい「おっと、失礼した。東郷あいです、これから撮影の間、よろしく頼む」

幸子「は、はいっ、よろしくお願いしますっ」

P(幸子のやつ、ガチガチだなー。なんだかんだで同世代との絡みが多いしなー)

みく(バラエティでも収録開始前はあんな感じだにゃ。芸人さん達が挨拶回りに来る時なんか特ににゃ)

P(そうなのか? でも緊張してる幸子も可愛いなぁ)

みく(Pちゃんの贔屓が酷いにゃ)

幸子(……いくらカワイイボクだって、ボクがどう見られてるかは知っています)

幸子(アイドルというよりバラドル、ドッキリ番組の常連。不本意ながらバンジージャンプにも慣れてきてしまいました)

幸子(そんなボクと組むのが、演技経験は舞台くらいで、後はモデルの仕事がメインの、東郷あいさん)

幸子(お互い、ドラマは端役くらいしか経験は無いし、同じお仕事をした事もなくて……)

幸子(おまけに相手役は、高垣楓さんと城ヶ崎美嘉さん、テレビに映らない日は無い超売れっ子の二人)

幸子(あの二人を相手にして、ボクに……ボク達に求められているものは、なんなんです?)


幸子「あの、東郷さん! お聞きしてもよろしいでしょうか?」

あい「なんだい? ……そんなに改まらないでくれていいよ、肩がこるだろう」

幸子「は、はい。その、どうして東郷さんが、ボクのパートナー役に?」

あい「どうして? ……ん? ふーむ」

あい「ふむ……確かに私達は、これまでは接点も殆ど無い。共演の経験もなければ事務所も違う、言われてみれば不思議だ。何故だろう」

幸子「……え?」

あい「ああ、いや、実はだね、幸子君。私も、どうして私が君のパートナー役に選ばれたのか、誰からも聞かされていないんだよ」

幸子「はあ……?」

あい「舞台以来、久しぶりの演技の仕事という事で、仔細も聞く前に引き受けたら、まさかの主役級でね……君がパートナー役だと知ったのも、実は今日、台本をもらってからなんだ」

幸子「……えーと、その、つまり……東郷さんにも、ボク達が主役である理由は知らされてない……?」

あい「……そういうことだね」

幸子「………………」

あい「………………」

あい「……けれども、幸子君。これはチャンスだろう?」

幸子「チャンス、ですか……?」

あい「そうだ。まず俗な事を言うなら、君も私も、話題作の主演を務めるというのは、非常に大きな仕事だ。名声は一度に高まるだろう。……けれどそれ以上に、私はね、この撮影を、私自身の魅力を引き出す機会だと思っているよ」

幸子「……自分の、魅力」

あい「例えば、誰かを魅了する為にどう微笑めばいいのか、どんな視線を向ければいいのか――写真映りを良くする方法なら、幾つか心得ているつもりだった。ところがね、演劇を学び始めて、いざ舞台の上で動いてみると、写真に写る為のノウハウは、遠くの席のお客さんには通用しない。全く別なアプローチが要求されたんだ」

あい「けれど、自分と異なる人間を演じる事で、気付けた事がある。自分らしさを押し出さずとも、全く包み隠しても尚、どうやっても滲み出る〝色〟がある――寧ろ、自分以外の人間を演じる事で、その〝色〟が強調されるようだった。その〝色〟こそ、私は、〝魅力〟というものだと思っているよ」

あい「つまり……自分の魅力は、意外に自分でも知り尽くせてはいないし、思ってもいない所から発掘できる。その為に、例えば君と私のように接点の無いもの同士が、パートナーになってドラマの主役を飾るなんていうのも、面白いじゃないか」

あい「という訳だが、どうだい、幸子君」

幸子「……魅力の、発掘ですか」

幸子(自分の魅力……カワイイボクが、ボク自身でも見つけられていない魅力……新しい事を通じて見つけられる魅力……)

幸子「……そうです。きっとボクには、魅力が沢山眠っているに違いありません!」

あい「――おっ?」

幸子「あ、いえ! もちろん今でも、溢れんばかりの愛らしさに満ちているボクですが! そこに新しい〝演技派女優〟という魅力が加わるのは素晴らしい事ですね! ゾクゾクしてきます!」

あい「――――――」

幸子「そうと決まれば、東郷さん! 早速後半の台本を読み合せしましょう! ……はっ、そもそもボク達、一話は生き残れるんですか!? まさか一話でいきなり死亡エンド、二話以降全部過去回想とか無いですよね!? 無いですよねっ!?」

あい「――っ、ふふふ、ふふっ……ははっ、それは無いさ。例えドラマの中の出来事だろうと、私もこれで中々に手強い人間だと自負しているよ。相手役が例え、楓さん達であろうと――」


楓「あら、呼ばれたかしら?」

今夜はこの辺りで一休み。
楓さんはきっと宝具がEXランク。

あい「おっ……と! お疲れ様です。呼んではいませんが、貴女の事を話していましたよ」

楓「お疲れ様です。話題にされるのは、わー、大好き……なんて」

あい「…………」

楓「わー、だいすき……うふっ、うふふっ」

あい「……ふっ、噂に聞く通りの不思議な人だ」

幸子(あっ、東郷さんが押されてる)


楓「ね、あいちゃん、幸子ちゃん。台本、一緒に読みませんか?」

幸子「はいっ! ……えっ、楓さんと?」

楓「ええ。せっかく悪い人の役なんだもの、主人公をどんな風に困らせるか、ちゃんと話し合っておきたいわ。……あら、あいちゃんどうしたの?」

あい「ちゃ――ちゃん?」

楓「私の方がお姉さんだから、あいちゃん」

あい「……どうも、この人には敵わないな」

楓「ほら、美嘉ちゃんもいらっしゃい。みんなで読めば怖くない」

美嘉「はいは~い。幸子ちゃん、隣座るね? まずは最初のページから――うわっ! 『サイコーに悪い顔で』とか書かれてるー!」

幸子「ボ、ボクなんか『真相を悟った戸惑いと覚悟が入り混じりながらもまだ戦いに怯える顔』って指示が……どんな顔なんです!?」

みく「にゃ? あーっ、幸子ちゃんだけなんか凄い人に挟まれてる!」

P「幸子はかわいいからなー」

みく「Pちゃんもたいがい贔屓が酷いにゃ」

小梅「あ……幸子ちゃん、楽しそうな事してる……」

輝子「い、いいな、羨ましいな……フヒ。私達、後半ほとんど出番ナイけど……」

楓「あらあら、みんな、誰でもいらっしゃい。一緒に読んでみる方が、掛け合いが分かりやすいでしょう?」

P(アイドルがこれだけ集まってるのも壮観だなー。メイキングでも別に一企画発案しとくか)

監督「それじゃあ後半入るよー、まずは逃げるシーン、早速特撮で行くよー、はい!」




 逃げ惑う――そうとしか言いようのない、逃走劇。
 人の間をすり抜け、教室に飛び込み、ベランダを馳せ、非常階段を駆け上がる。
 時には柱の陰に隠れ、或いは階段の手すりから遥かに跳躍し――東郷あいは、輿水幸子と前川みく、二人を抱えて走っていた。

「わ、揺れる、揺れ、うひゃ、ひゃあああああぁっ!?」

 珍妙な悲鳴を上げる幸子をよそに、何も言わずひた走るあい。
 最終的に辿り着いたのは、体育館、ステージ裏の倉庫。ガラス窓をぶち破って飛び込み、転がるように、跳び箱類の裏に隠れた。

「……ふぅ。良かった、彼女はまだ本気じゃないらしい」

 安堵の溜息を吐き、額に滲んだ汗を拭うあい。その横で、ずっと口を開かずにいたみくが、やっと声を出す。これまでせき止められていた分が、感情と共に流れ出すような――殆ど、それは叫び声にも近かった。

「なに、これ、なんなの……ねえ、何が起きてるの!? あなた誰!? なんで美嘉ちゃんが、幸子ちゃんに、あんな――!」

「ま、前川さん、声を抑えて……!」

 幸子が、みくに飛び付き、口を手で塞ぐ。それで現状を思い出したか、素直にみくは言葉を止めたが、〝わからないもの〟への敵意の視線は、全く薄れていなかった。

「何が――君が、それを聞く必要は無い筈だ。私の姿が見えているんだろう?」

「……っ、ふざけないで。みくは真面目に聞いてるの!」

 声量は控えたが、語気にはまだ棘が残る。

「……そうか。君はまだ、目覚めて間もないか――或いは、目覚め切っていないか、そういう事なんだろう。今、私の言葉を信用できなくとも構わないが、いずれ君は自然と確信する――何が起こっているのかも、何故、善良な友人同士が殺し合うのかも。ただ、これだけは信じて欲しいが、私は幸子君の敵ではないし、君がまだ目覚めていないなら、君を害する理由も無いんだ」

「――――――」

 あいが語る言葉は、具体性を欠いていた。抽象的な言葉は、そこに裏があると宣言しているも同様で――
 だが、みくは異論を挟めない。疑いの目をあいに向けながらも、隣に立つ幸子の様子を、ちらちらと伺っていたからだ。

「……シンデレラのパーティーは、始まってたんですね。美嘉さんも、これまでに転校していったみんなも」

 幸子は、既に〝目覚めて〟いた。
 激変する状況を、悲鳴を上げながらも正しく理解し――自分が命を狙われたのは、冗談でもなんでもないのだと、これも正しく把握していた。

「パーティー……幸子ちゃん、何を言ってるにゃ……?」

「ボク達はシンデレラ。眩しく輝くアイドルに、なれるかも知れない――なれないかも知れない、何人かの内の一人。だから、〝アイドル〟になりたい誰もが、ボク達を敵だと認識している。そうでしょう?」

「理解が早くて助かる――が、一つだけ認識に抜けがある。……いや、それは後で、ちひろ先生に聞いてもらおう。今、知っておくべきなのは、君を狙っているのが、おそらくは今回のパーティーで最強の敵だという事だ」

「最強――ですか」

「高垣楓。過去の〝残響〟の中でも、彼女ほどに眩く輝いていた人は少ない。他の全ての参加者を知っている訳じゃあないが、彼女に対抗できるとしたら、〝神眼〟か〝クルセイダー〟か……それくらいのものだろう。この三人から、同時に二人以上も参加しているパーティーなんて、過去に聞いた事が無い」

 東郷あいが語る敵の脅威――短いものであったが、聞いた幸子は黙り込む。
 言葉や呼吸音を抑えるように、口に手を当てて暫し思案し、それが纏まると手の蓋を避けて、細く息を吸い込んでから、

「分かりました……いえ、まだ分からない事だらけですが、戦わないといけない事は」

 覚悟を決めた目であった。
 だが――14歳の少女が、理不尽に突き刺さる害意に立ち向かおうとして、怯えを抱かない筈が無い。
 握った拳も膝も小さく震えながら立つ輿水幸子は、弱く儚く、それ故に――まだ未熟ながら、シンデレラの輝きを纏っていた。

「教えてください、東郷あいさん。あなたが出来る事、高垣楓が出来る事、知っている限り」

「……ほう?」

「向こうが最強だというなら――ボクだって、最カワイイです! 違った、最高に天才です! 美嘉さんにハンデをつけてあげてるようなものですね! だから、そのハンデの内容を教えてください!」

 シンデレラ、アイドル候補者として、輿水幸子の特異性を言うのなら――この、根拠を必要としない自信が挙げられるだろう。
 根拠が無いのではない――必要としないのだ。例え他の誰が信じずとも、幸子だけは幸子の才を信じるという、ある種の鉄の心。

「……私のパートナーは、面白い子だね。分かった、じゃあ教えよう……まず高垣楓だが――」

 それから東郷あいは、敵の戦力を語った。
 高垣楓――反応速度や耐久力など、守備的な能力が全体的に高水準にあり、攻撃能力こそ低いものの、格闘戦や武器戦にも十分以上の対応が可能。だが、真に恐るべきはワンオフの能力にある。
 歌声による〝干渉〟。
 高垣楓が認識できる範囲内の、人間、或いは動物、或いは建造物に至るまで、〝歌声〟を届ける事で行う〝干渉〟は、精神操作に始まり――長時間続ける事で、物体の破壊にまで至る。

「――つまり、彼女が長く歌声を聴かせれば、極論、この校舎を砂に還す事も、聴衆を複数人数、同時に自死に追いやる事も可能なんだ」

「ひぇぇ……――」

 つい先程、相手が〝最強〟だとてそれもハンデだと、強気でいた筈の少女が、今はこの通りである。
 無理も無い。聞かされたスペックが、尋常では無いのである。
 多少の不利は天才的な采配で覆せば良いと、諸葛亮の如く構えていたら、敵は曹軍百万、長板の戦いに投げ出されたようなものだ。如何に天才軍師とて、どうにかなる戦いと、ならぬ戦いがあるのである。

「そっ――ごほんっ、ごほんっ。そ、それなら、東郷さん、あなたの能力は……?」

 だが、敵に力があれば、こちらとて戦力がある。一縷の望みを掛け、訪ねた幸子に返る答えは――

「『対象に敵意を持たない事を前提とした、一個人への排他的絶対干渉』――これが、私の力だ。聞こえは良いが、正直に言おう……すまない、勝ち目が見えない」

 詫び、であった。東郷あいは、その長身を縮めるように、幸子に頭を下げたのである。

「へ――?」

「パワー、スピード、いずれも平均的か少し上。防御はやや自信が無いが、それも平均より大きく下回ってはいない――私は、突出した欠点の無い事が売りでね。ワンオフ、固有の能力はさっき伝えた通りだが――要は『任意の一人だけに、その対象に害を与えない範囲で行動に干渉できる』」

「ぐ、具体的に言いますと……」

「君の同級生――美嘉君と言ったか。彼女からナイフを取り上げただろう? あの時、私は彼女に攻撃出来なかった。『攻撃の意思を持たない』事を条件に、彼女の『抵抗しようという意思を排除』したという訳だ。
 だから私は、高垣楓のように、敵に自死を強要する事も出来ないし、複数人数を同時に操る事も出来ない……最悪の相手だと言ったのはこれだよ。殆ど彼女の能力は、私の上位互換に近いのだから」

 それから、あいは、ふうと溜息を吐いて、跳び箱を椅子代わりに腰掛けた。ある種自虐的な微笑みを浮かべて、ゆるゆると首を振り、

「……とは言うが、最初から諦めて掛かるのも性に合わない。なんとか手を考えてみるし、パートナーの君だけはなんとしても守って――」

 そこまでを言って、あいは気付く――幸子の雰囲気が、先程までと、ガラリと変わっていたのだ。
 先程まで、輿水幸子は、14歳の少女。自信家な面を持ちながら、怖がりもする、戸惑いもする、年相応の子供であった筈なのに――

「――幸子君?」

「少し、待ってください」

 それが、急に〝変わった〟のだ。
 幸子の目は床に向き、雑多な視覚情報を排除し、思考のみに努めていた。
 小さく動く唇は音を伴わぬまま、多数の言葉を紡ぎ、それも自分の思考の中でのみ消費される。
 何がスイッチとなったものか、それはあいにも分からなかったが、幸子は――見事なまでに腹を据えて、戦いの備えを整えていた。

「――二つ、詳しく教えてください」

「その目、何か思いついたようだね。……良いだろう、何でも答えよう」

「では……あなたの〝排他的絶対干渉〟の定義と、高垣楓の能力の〝認識できる範囲内〟の意味を――」

 不敵な笑みを浮かべて、あいが身を乗り出す。彼女もまた、おとなしく諦める事を嫌う性質である。
 そういう面では、この二人は似ていた。
 自らに自信を持っているが故、諦めない。自分にはまだ能力があると信ずればこそ、諦めぬ限り可能性は開かれると信じられる者達である。

「――その二つを使って、〝最強〟を出し抜きます」

 怯え、頬をひきつらせながらも、輿水幸子は笑った。
 目には涙さえ浮かべていたが、その意思は確かに前を向いていた。

今夜はこれまで。
ヘレンさんは強すぎるので開始前に退場いただきましたが多分OP曲とか歌ってます。

監督「カーット! 一話終了です、お疲れ様でしたー!」

「お疲れさまっしたー!」「お疲れ様でしたー!」


楓「みんな、お疲れ様でした。……ふふ、かたき役なんて初めてで、ちょっと楽しんじゃった」

美嘉「アタシも! っていうか、ドラマ自体あんまり出た事なかったし!」

みく(二人ともモデル業やライブがメインだからにゃ……)

みく「……あれ。PちゃんPちゃん」

P「おう、なんだ」

みく「楓さんと美嘉ちゃんの出番、折角あの二人のスケジュール確保したのに、もう終わりなの?」

P「らしいぞ。後は回想シーンで登場したりするかもって聞いたが」

みく「……勿体無いにゃあ!」

監督「はーい、それじゃあ高垣さんと城ヶ崎さんはメイキング収録入りまーす。同時にPV班、校庭空きましたんで星さん、松永さん、木村さん入ってくださーい。……あ、あと荒木さんもメイキング同時にやっちゃいましょう!」

P「ほぁー、忙しそうだなぁ。こりゃお前達ものんびりしてられ……って、どうした幸子」

幸子「――プ、プロ」

P「プロ……グラムか? バイダーか?」

幸子「プロデューサーさん! これ本当に、ボク、大丈夫なんですよね!? 主役なんですよね!? どう考えても主役の所業じゃないですよね!?」

P「何を言う。圧倒的な戦力差を作戦で覆す、これが主人公じゃなくてなんだ」

幸子「主人公が相手をナイフで刺したり窓から突き落したりって、どういう事なんですかぁ!?」

P「ドリーム・ステアウェイだからなー。脚本の人も映画版と別だし」

幸子「ボ、ボクのカワイイ表情をお見せする機会が殆ど無いじゃないですか……! ボクはもっと優雅に微笑んで、余裕で勝つような主人公が向いてるんじゃないかと――」

P(動揺する幸子もかわいいなぁ)

P「まあまあ、待て。……すいませーん、撮影さーん」

映像班「はーい?」

P「ちょっとうちの輿水が、ちゃんと演技が出来てたか気になるそうでして、見せてもらえたりできますか?」

映像班A「ああ、はいはい、お安い御用ですよ。……例えばこのシーンとか」

『あいつ……――』

『ひ――ひゃぁ、あっ!? こ、来ないでください!』

P「おお、城ヶ崎さんに睨まれた幸子がビビるシーン」

映像班A「ここが私らの中でウケが良いんですよー。ほら、この怯えてるのに悲壮感より情けなさが先に立つ表情、けれどギャグにならないくらいに留めてる、こりゃ中々女優さん達も出来ない顔ですよ!」

P「良かったなー、幸子。カメラさんに褒められてるぞ!」

幸子(え……褒められてるんですかこれ?)

映像班A「で、ここから! ここで楓さんに操られて表情が抜け落ちる! スイッチ入ったみたいにカチーッと変わるのがもう最高! こっからカメラが美嘉さんの背を追って、楓さんとあいさんがカットインですよ! あいさんの横顔微笑から切り替えで幸子さんドン! 飛び込む! 刺す! 突き落とす! 飛び込む所からは顔を極力映さない角度にしましたが、数フレームちらっと見える表情も、思い詰めてて強張ってて、いやー表情豊かな子は良いですねえ!」

P「おお、そこまで言ってくれますか、いやありがたい!」

映像班A「そりゃ私らは撮るのが仕事ですからね、被写体がなんだろうが撮りますが、良いシーンを撮りたいって気持ちは絶対なんですよ! この廊下のシーンは凄かった、まず楓さんと美嘉さんが背中合わせになるでしょう!? こっれがまた絵になるのなんのって、フィルムをコマ送りにした全部が決まってるんですよ! そこからあの特撮とCGの連発でバトルシーンですが、楓さんの悪い顔! あいさんが顔を歪めて血を吐くシーン! こんなものがあなた、他のどんな媒体で見られますかって話ですよ、ねえ!?」

P(あっ、この人話し始めると長いタイプだ)

映像班A「凄いと言えば美嘉さんも、転落して立ち上がった後、また倒れるシーンとかね! やっぱり元々の目付きがキリリとしてるから――」

あい「……やれやれ。君のプロデューサーさんにご挨拶をと思ったが、どうやら捕まってしまってるようだね」

幸子「あ……東郷さん! お疲れ様です」

あい「お疲れ様です。……ふむ、完成した映像を見ていたのか……お、音も入ってるんだな」

幸子「はい。……東郷さんも、見ます?」

あい「ああ。ええと、巻き戻しはこっちか……――ああ、ここ。楓さんにお腹を打たれるシーン」

幸子「あのシーン、口から吐いてた血はどうしてたんです?」

あい「水風船に、食紅を上手い具合に調節した水を入れておいて、後はCGで少しいじってもらった――」


あい「――ふむ。もう一度、今のシーンを」

あい「そうか、へぇ……もう一度」

あい「ふん、ふん、なる程……もう一度」

幸子(……? 今の、打たれて血を吐くシーンだけ、何回も……?)

幸子「何か、気になることでも?」

あい「ああ、いや……そうではないよ。ただ、私はこんな顔を出来るのかと、自分で驚いただけでね」

幸子「自分で――」

あい「そう、自分で。自分で言うのもなんだが、私の〝キャラクター〟というのは、あまり苦しんだり困ったりが似合わないものだと思っていたからね。戦う役柄と聞いた時も、優雅に微笑んで、余裕で勝つような役を想像したものさ」

幸子「優雅に、余裕――つまり、ボクのような役ですね!」

あい「ふふっ、そうかも知れないね。……ところが台本を開いてみれば、さしたる力も無く、年下の女の子の助言が無ければ、格上に良いようにしてやられていた、そんな役どころだった。こうして言葉にすると、普段の私のイメージと随分違う――と、少なくとも私は思ったよ」

幸子「………………」

あい「けれど、出来上がった映像を見て驚いた。苦痛に歪む顔も、君を讃えて微笑む顔も、どちらも全く私だし、胸を張って『これが私だ』と人前に出せる顔だったんだよ。だから驚いたし、嬉しい――と言っても良いのかな。私の魅力を引き出す為に、格好良い私以外の、別の顔を晒しても良い。そういう自信が持てたんだから」

幸子「……すいません、もう一度だけ、ちょっとリモコンを」

あい「ああ、どうぞ。……おっ、美嘉君に石を投げられたシーンか。この戸惑いの表情もそうだが、この次の、私が現れた時の表情の方がもっと凄い」

幸子「あっ、あれは本当に驚いたんですよ! 台本はあそこで途切れてたし、パートナーが東郷さんだなんて知らされてませんでしたし……」

あい「そうだった、意地の悪い脚本だよ。……と、このシーン、確か一発撮りだったね、体育館倉庫に逃げ込んでから」

『ひぇぇ……――。そっ――ごほんっ、ごほんっ。そ、それなら、東郷さん、あなたの能力は……?』


幸子(そっか……ボク、こんな風に怯えて、こんな風に戸惑うんだ)

幸子(『少し、待ってください』この台詞のちょっと前、視線を床に落として、考え込む顔になって――)

幸子(『真相を悟った戸惑いと覚悟が入り混じりながらもまだ戦いに怯える顔』。あんなめちゃくちゃな指示で、ボクはこんな顔をしてる)

幸子(毎朝たっぷり鏡は見てますけど、こんな顔を見た事はありません……本当にボクなのか分からなくなるくらい)

幸子(でも、なんででしょう。不思議と、カワイイだけじゃないボクが、嫌じゃない……?)


幸子「もう一回。もう一回だけ巻き戻し――」

あい「そうだね、最初から見てみようか……ふふっ」

今夜はこれまで。次回、収録現場のあれこれ。
ちなみにOPはヘレンさん、エンディングはシャウトVo輝子クリーンボイス涼さんギターコーラスなつきちで、荒木先生は能力バトル監修です。
ので第一話をテレビで視聴すると、ヘレンさんの無駄に世界レベルなハイクオリティOP→「ヘレンさんが転校しました」な二段落ちに。

『メイキング・オブ〝ステアウェイ・イントゥ・ヘル〟――1日目』


インタビュアー「それでは宜しくお願いします」

楓「お願いします」

美嘉「お願いしまーす」

イ「まずはお二人とも、初日から脱落する役どころでしたが……」

美嘉「あはは、いきなりだ……あ、でも、初日じゃないよ、四日目」

イ「ほう?」

楓「幸子ちゃん達が参戦したのは四日目からで、私達――美嘉ちゃんが〝覚醒〟したのは初日なんです」

イ「なるほど、だから連携もスムーズなんですね」

美嘉「うんうん、目と目で通じあう、って言うか?」

楓「ツーカー、っつうかー」

イ「…………」

美嘉「…………」

楓「ツーカーっつうかー……うふっ、うふふふっ」

イ「二度言わないで大丈夫です」

イ「さて、お二人ですが、かたやモデル出身の歌姫、かたやモデル最前線のカリスマギャル……ドラマの出演、案外少ないんですね」

楓「そうですね。私は、目がちょっと変わってる事もありますし、普通のドラマに出るとなると、カラコンを入れないと浮くんです。だから、長時間、画面にアップで映る役って、少なかったかも知れません」

美嘉「アタシは……アタシも、髪がこうだし? やっぱ落ち着いた雰囲気のドラマにはお呼びが掛からないかなぁ……学校ものだったら、端っこの方に映ってた事は何回かあるけど。だから、たくさん活躍できたのは嬉しかったです」

イ「ええ、大活躍でしたね」

美嘉「あー、何か言いたそうなカンジー! だって仕方ないじゃん、アタシはタダのギャルだから、本当は戦いなんて向いてない子なのー! むしろ、パートナー楓さんじゃなかったら、四日目までに敗退してた可能性も高かったって言うか?」

イ「そうなんですか?」

美嘉「って、比奈さんが言ってた。……あ、荒木比奈さんは戦闘シーンの監修と、能力の設定をしてくれてまーす!」

イ「視聴者さんへのご配慮、ありがとうございます」

楓「美嘉ちゃん、ちゃあんとお仕事してる。偉いわぁ」

イ「……今のはダジャレかどうか、判断に困ります」

楓「……でも、美嘉ちゃんが、本当は戦いに向いてない子だっていうのは、本当の設定ですよ。……というより、どうしてもそうなってしまうって言えばいいんでしょうか」

イ「それは何故?」

楓「誰かを取り戻すために戦う子が、誰かの大事な人を奪うのに、何も思わない事は無いと思うんです」

イ「……なるほど」

楓「戦う度に、相手を一人倒す度に――その子の願いを踏み躙り、誰かの祈りを壊して行く。きっと、私と美嘉ちゃんの二人は、物語が始まるまでの三日間で、たくさんの相手を倒したでしょう。その度に美嘉ちゃんも、私も……悲しさ、寂しさ、辛さ、言葉にはしにくいけれど、そういうものを背中にたくさん積み上げてしまった。だから、押し潰されて負けたんです」

イ「お二人は優しかったから、負けてしまったと」

楓「優しい……のかしら?」

美嘉「優しい人は、共演者の顔にビンタする提案とかしないと思うなー」

イ「ビ、ビンタ?」

楓「はい。……あっ、誤解しないでくださいね。戦いのシーンで、あいちゃんのお腹を、私がぱぁんって叩くシーンがあるでしょう? あそこ、お腹を狙うってなると、こう……下から上に、手を振り上げるじゃないですか。ちょっとやり辛いなぁって思って、どうしたらいいかなーって考えて、あっそうだ、顔は丁度良い高さにあるぞーって」

イ「あはは……」

楓「比奈ちゃんに『楓さんのパワーで顔を叩いたら顔がひしゃげる設定なので駄目っす』って言われちゃいました」

イ「こだわりですねぇ……」

美嘉「今回、アタシ達は一話で負けちゃう役目だったけど、この『ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル』が何を描く話なのか、私達二人で示せたと思うんだ。ほら、映画版では小日向美穂ちゃんが、虚構の世界を抜けて、現実の世界でアイドルを目指すって決めたでしょ? ……あ、ネタバレオッケー?」

イ「大丈夫です、チャプター前に警告入れます」

美嘉「ありがと★ ……映画版では、幸せな夢が終わって、辛い現実が戻って来るんだけど、でも美穂ちゃんはその辛い現実の方が、本当に幸せになれる場所だって知ってるの。アタシは逆――幸せな夢の中にずっと居たくって、他の子を夢から追い出していく役なんだよね」

イ「その言い方だと、本当に悪役みたいですね」

美嘉「でしょー!? 台本にも『サイコーに悪い顔で』とか書かれてるからさー、グラビアの撮影と同じ顔は出来ないよね。鏡とにらめっこして、こんな顔か、それともこんな顔かーって。でも、途中から役に入り込めたのか、あんまり意識しないであの顔になってたから、表情がまだ残ってないのか心配なんだよねー……」

楓「廊下での、幸子ちゃんを狙って走り出すくらいから?」

美嘉「あっ、楓さん凄ーい、そこから! 幸子ちゃんが臆病なフリをして、私を誘い出そうとするシーンあるでしょ? あそこの台詞、台本だと『このカワイイボクが、あんな怖い人に狙われなきゃないのがおかしい』だったんだ」

イ「ん? えーと、確か劇中では」

美嘉「『あんな人殺しに狙われなきゃ』――凄い言葉でぶつかって来られたなって思ったし、その瞬間……なんだろ。私はアイドルの城ヶ崎美嘉じゃなく、本当に、何人も今まで倒して来た城ヶ崎美嘉なんだって気持ちになった。それからはもう、何時でもあの顔出来るようになったな――ほら、今もこんな風に」

楓「きゃー、美嘉ちゃん悪ーい。悪い顔だわー」

美嘉「悪いでしょー。こんな悪い顔をする子も、実は戦う理由があって――でも、その理由で同情してられないくらい、他の子にも理由がある。みんなに理由があるから、幸せになる為に、どんな酷い事だってできる。夢の為にならなんだってするって決めて――それでも、手が届かない。〝城ヶ崎美嘉〟の気持ちになると、悔しくて私まで泣けて来ちゃう」

楓「……でも、その悔しさも、私達の成果。〝高垣楓〟は〝城ヶ崎美嘉〟を、夢を競う舞台から降ろして、自分も舞台から去った。同じように私達は、後ろ髪を引かれながら、階段を降りたいと思います。この後は回想シーンなどでお会いしましょう」

イ「など……?」

楓「うふふふふふふ」

美嘉「もー、楓さん」


イ「以上、高垣楓さん、城ヶ崎美嘉さんでした」

インタビュアー「それでは宜しくお願いします」

荒木比奈「お願いします」

イ「早速ですが荒木比奈さん、なぜこちらに背中を向けて机にしがみついてるんですか」

比奈「今、アイデアが降って来てるんっス! 逃がしたらもう描けない! ヒャハー、新鮮なアイデアだぁ!」

イ「机に並ぶ栄養ドリンクの瓶が修羅場を物語ります荒木比奈さんです、宜しくお願いします……さて、今回は出演者でなく、能力バトル監修での参加という事ですが」

比奈「正直、斜め上のお仕事だったっスね。まっさかアイドル事務所を通しての仕事で、机の前で徹夜する日が来ようとは……」

イ「アイドルは世に多けれど、比奈さん程にマンガカルチャー方面に詳しい方も珍しいと、そういう事でお声が掛かったそうです」

比奈「まあ、星座と洋楽アルバムと聖書は、オタの教養としては割と一般的な方っスから……最近は戦艦と日本刀も増えたっスけど」

イ「1話から最終話まで、今回は全てのバトルの原案を出しているとお聞きしました。相当な量ですね」

比奈「あれが漫画だったらとんでもないページ数だったっスね……提出は文章に、ちょっとラフスケッチを混ぜてだったんっスけど、自分の頭の中にある動きを、どうやったら上手く伝えられるか、本当に頭をひねりました。」

イ「すると、今描いてらっしゃる漫画の原稿は、また別物?」

比奈「はい、ちょっと今、また別件でその、描く方のお仕事が入って……」

イ「えー、このメイキングが初めての公式発表となりますが、荒木比奈先生作画で、『ドリーム・ステアウェイ』のスピンオフコミカライズが決定しております」

比奈「バラすのこのタイミングっスか!?」

イ「えー、衝撃発表の後ですが話を戻します。このメイキングは1話の後に入れる予定なので、1話の戦闘について語っていただければ」

比奈「あー……能力監修に決まって直ぐなんでスけど、監督に『主役のパートナーは能力弱めで!』って頼まれたんっスよ。で、候補者リストを見せてもらって、それぞれに能力を考えて……で、『これだ!』って思ったのが東郷さんだったんス。〝魅了〟から転じた〝精神干渉〟っスね」

イ「発動条件に制約が多い代わり、単純な拘束力は強いもの、でしたか」

比奈「万能にはなれないけれど、条件が噛み合えば恐ろしく強くなるんで、本当に運用次第の力っスね。で、それにまずぶつけるとしたらどういう能力が――と悩んでたら監督から『高垣楓さんのスケジュール取れたから』。そっから三時間ちょっとで仕上げました」

イ「おおー……」

比奈「『正面から戦ったら絶対勝てない存在』にしようと思ったんで、リーチは視界範囲内全て、生物非生物全て対象で、殆ど自分の思うままに何でも改変出来る……いわゆるチートっス。楓さんだったら、どれだけ強くても許されると思ったんで」

イ「まあ、楓さんなら仕方がないという所はあります」

比奈「ただ、今度はうっかり強くし過ぎて、どうやっても普通の戦闘じゃ勝てなくなっちゃったんスよね……だから幸子ちゃんと美嘉ちゃんに戦って貰って、美嘉ちゃんに負けてもらう事にしたっス。ハズレクジを引かせたみたいで、ちょっと気も引けてるっスけど……」

イ「滅多に出来ない悪役という事で、楽しんでいらっしゃったようです」

比奈「ホッ……監修冥利に尽きるってもんっス」

イ「ところで、比奈さんご自身は、『ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル』に出演はなさらないのですか?」

比奈「………………」

イ(お……手を止めた、振り向いた)


比奈「アタシは、このお話に自分を投げ込みはしない……できないっす」

イ「それは、何故ですか?」

比奈「アタシは根本的に、自己評価が低くて承認欲求が高い、オタ気質なんっス。認められたいけど、自分が認められるものなんてない――そう思ってたアタシを変えてくれたのは、ファンの皆さん、事務所の人達、これまでご一緒できた共演者の人達、本当に沢山の助けが有ったから。周りの支えを担保にしてるから、アイドルをやってるアタシは、人前に出て行けるんっス」

イ「ご自分に自信が無い、と?」

比奈「オタはだいたいそんなもんっス。……いえ、アイドルのアタシはまた別っスよ。あれだけ支えて貰った以上、胸を張って、あなた達が支えてくれた比奈は立派になったと見せてあげたい。けど、〝創作者としての荒木比奈〟は、また考え方が違うんス」

イ「と、言いますと」

比奈「綺麗な景色を見た時に、そのままに写真を撮りたいか、自分が踏み荒らしてから撮りたいかっス。せっかく頭をひねって、栄養ドリンク漬けになってまで考えたシーンっスからね、どうせなら演者まで最高の布陣で臨んで欲しい。そういう時に〝創作者としての荒木比奈〟は、『自分が演じる事を考える』より、『自分が考えたシーンをあのアイドルが演じる』事に喜びを感じるんっス……それに、アクションはあまり得意じゃないッスから」

イ「今は、アイドルより創作者である、と」

比奈「この仕事に関しては、そうっスね。アイドルの仕事に手を抜けないように、創作者として呼ばれたのなら、拘りは曲げられない、手を抜けない。並み居る豪華メンバーの演技を通じて、アタシの本気を見て欲しいっス!」

大西由里子「『そう語る比奈センセーが劇中にシンデレラ役で登場するのは、それから数週間後の事だった……』」

比奈「ユリユリ、変なナレーション入れないで欲しいッス」

由里子「一人だけ実名じゃなく、『ヒナコ・カリギュラ』みたいな名前でどう?」

比奈「色々混ざってるし、それだと大和さんをパートナーに連れてこなきゃ駄目っスね」

由里子「ランチャー改めバズーカ―だじぇー!」

比奈「原型留めてないっス」

イ「いらっしゃったんですね……戦闘監修アシスタントの大西由里子さんです」

由里子「ねー雛センセー、さっきの原稿の戦闘シーンだけど、利き手がずっと逆になってるじぇー」

比奈「うげ、マジっスか!? ……あっちゃ、そうか左利きかぁ……」

由里子「描きなおす?」

比奈「……〝鏡像を作りだし操る〟能力に変更っス!」

百合子「でたー! 比奈センセーの必殺『後付け設定大車輪』だー!」

比奈「いいから手伝うっす! 初月分ラスト10ページ!」

イ「大変な修羅場ですのでここまでにしましょう、ありがとうございました」

今夜はこれまで。
幸子はかわいい、楓さんは女神、比奈センセーはモンエナ漬けボサ髪ジャージ可愛い。

 話は前後して。

幸子「もう一回だけ、もう一回だけ……」

あい「……そろそろ、一時間ほど経つけれども、大丈夫かい?」

幸子「プロデューサーさんは待たせても大丈夫な人ですので!」

あい「そ、そうか……ん? おや、お疲れ様です、楓さん」

楓「あいちゃん、幸子ちゃんも、お疲れ様です……あら、これ、完成した映像?」

幸子「あっ、お疲れ様です!」

あい「自分達の演技を見返していました。どちらかというと、幸子君の方が熱心ではありますが……楓さん、何をしてるんですか」

楓「見て見て。巻き戻し再生すると、あいちゃんが血を飲み込むの。面白いでしょう?」

あい「………………」

美嘉「楓さん、東郷さん困ってるって……っと、お疲れ様でーす★ 幸子ちゃん、東郷さん、共演ありがとうねー」

あれ、酉おかしい

あい「お礼なら、私達からも。共演者に恵まれたのは、我々としても同じ事だからね」

美嘉「褒めてくれてありがと★ ……でも、本当に感謝はしてるんだよ、ねーっ、幸子ちゃん?」

幸子「はいっ!? えっ、ボクですか、ボク何かしましたかっ!?」

美嘉「ちょっとー、幸子ちゃん緊張しすぎ! ドラマで刺されたからって怒らないからさー……ふぅ、本番だとあんなに落ち着いてたのに」

楓「初主演とは思えない演技だったわよ。役に入り込んでたというか、役そのものの姿だったわ」

幸子「え、あ、はい! ……いえ、共演者の皆さんに助けられたからで――」

美嘉「謙遜もしないの。ほら、私達って、自分で言うのもなんだけど……結構、人気じゃん? だからちょっと遠慮気味に接してくる人が多い、って言うか……」

楓「相手を萎縮させてしまってるなぁって、思う事は有ったのよ。けど、幸子ちゃんもあいちゃんも、そんな事が無くって、全力の演技でぶつかってくれたでしょう? ……ただの出演者として対等に扱ってもらって、ただの悪役として、たった一話で退場する。これで評価してもらえたら、本当に、私の力で評価されたんだって、胸を張れるじゃない」

美嘉「うん、うん。全力でぶつかって来てくれる人がいるのが嬉しいって、そんな事まで忘れそうだったから……二人に助けられた、って言えばいいのかな」

東郷「ふふっ、買い被りですよ。萎縮する程の余裕も無く、演じる事に全力だった、それだけです」

楓「あいちゃん、お姉さんに嘘はいけませんよ……だから二人とも、本当にありがとう。短い出番だけれど、楽しい収録だったわ」

あい「お、おね――……ふっ、やはり楓さんにはかないませんね」

幸子「……そ、そうですか」

幸子「………………」

幸子「……フフーン、カワイイボクの演技力なら、当然の結果です! いえ、どうせならもっと褒めてもいいんですよ!」

楓(……幸子ちゃん、褒められた反応が面白いわよね)

美嘉(でしょ? 面白い子でしょ? カワイイでしょ?)

P(やっぱり幸子は可愛いなぁ)

楓(どちら様ですか)

P(申し遅れました、私は輿水幸子のプロデューサーを務めております――)

楓(あら、これはこれはご丁寧にありがとうございます、高垣楓と――)

美嘉(二人とも、会話するなら声を出そうよ)

ドドドドドド

美嘉「……ん?」

莉嘉「お姉ちゃーーーん!!」

美嘉「っ!?」

莉嘉「お姉ちゃーん!」

美嘉「莉嘉、あんた来てたんだ――って、きゃあっ!? な、何、何飛び込んで来てるの!? アタシちょっと足浮いたよ!?」

莉嘉「お姉ちゃん、死んじゃやだあああぁぁぁ!! やだああああああ!!」

美嘉「はぁ!? ちょ、ちょっと落ち着いてよ莉嘉、本気泣きじゃん!」

幸子「……あ、あれは……」

あい「城ヶ崎莉嘉君、だね……仲睦まじい姉妹とは聞いていたけれども……ふふっ、なるほど」

美嘉「はい、どーどーどー……それで? なんでそんなに……はぁ? つまり、さっき完成した映像を見せてもらって」

莉嘉「………………」

美嘉「私が死ぬシーンを見ちゃったと」

莉嘉「……うー」

美嘉「……お芝居じゃん! 演技じゃん!?」

莉嘉「お芝居でも死んじゃやだー!!」

楓「迫真の演技、好評だったみたいね」

幸子「すっごくイヤーな予感がするんですけど」

莉嘉「うー……!」ギョロッ

幸子「ひっ!?」

莉嘉「お姉ちゃんの仇だー! うわーんっ!」

幸子「ひゃえっ!? ひょっ、カワイイボフのほっへはをひっはらはいへくだはーい!?」

美嘉「さ、幸子ちゃんごめーん!? こら、莉嘉ー! やめなさーい!」

幸子「やめ、みかひゃんもひっはっひゃひゃめー! のびひゃいまふってばー!」

P「やっぱり幸子はかわいいなぁ」

撮影班A「本当ですねぇ」

P「撮影してくれてましたかぁ」

撮影班A「メイキングビデオに収録したいですしねぇ」

みく「相変わらず贔屓のひどいPちゃん、Pちゃん」

P「なんだ、お前も十分可愛いぞみく」

みく「はいはい。……えーと、次の回の台本ってもらってる?」

P「ん? あー、そういえばまだだな」

みく「また当日渡しのぶっつけ本番なのかなー……」


拓海「台本なら〝ココ〟だぜェ!」

P「〝!?〟」

みく「Pちゃん、何かリアクションが不自然な気がするにゃ」

P「いや、義務だと思って」

有香「押忍! 前川さん、それに696プロのプロデューサーさん、お疲れ様です!」

P「お疲れ様です、わざわざ持ってきてくださったんですか!」

みく「お、お疲れ様です……(声量がとんでもない二人にゃ……耳が……)」

有香「押忍、お気になさらず! ちょうど前川さんと打ち合わせしたい事もありましたので」

みく「にゃ? 幸子ちゃんじゃなく、みく?」

拓海「ああ? だって二話の主役、お前だろ、みく」

みく「……えっ、主役?」

有香「はい。輿水幸子さん、前川みくさんの主役二人体制で、一話ごとに交代して――と聞いていましたが」

みく「Pちゃん、Pちゃん。他に隠してる事あるなら今のうちに言うがいいにゃ」

P「隠してるとは失礼な。考え込むタイプのみくをおもんぱかって、事実の一部を意図的に伏せただけだ」

有香「台本の……このページですね。読んでいただければ、打ち合わせの必要性がお分かりいただけるかと」

みく「まったく、Pちゃんはもう……ん、台本失礼しますにゃ」

みく「………………」

みく「……にゃあぁっ!? ちょ、これ本当にみくがやるの!?」

拓海「どうせやるならハンパはできねぇからよぉ……自主練ってえのをやりたいわけよ」

みく「た、確かに……こんなの、ぶっつけ本番じゃ絶対に無理にゃ……」

P「どれどれ……うわっ、確かにこりゃ大変だ。がんばれよー、みく。送り迎えくらいは任せておけ」

みく「Pちゃんはとことん無責任にゃあ!」

有香「練習スペースならあてがあります、次の収録までにものにしましょう、押忍!」

P「大丈夫だろ、みくはダンスやってるし」

みく「ダンスやってないアイドルの方が珍しい気がするにゃ」

拓海「なんだ、ビビってんのかァ、みく!?」

みく「〝!?〟」

拓海「いいかァ、〝タイマン〟ってのは〝根性〟なんだよ! ネをアゲなきゃ負けじゃねえんだ! なのになんだ、始まる前から尻尾を巻きやがって!」

みく「……〝根性〟」

拓海「分かるぜ……私も最初は〝そう〟だった……妙にフリフリの服、子供向け番組のパーソナリティ、無意味に水着での料理番組、わけのわかんねぇ、似合いもしねぇ仕事ばっかりやらされたもんさ……」

みく「た、確かにそういうイメージばっかりだったにゃ……」

拓海「うるせえ! ……けどなぁ、〝理解った〟んだよ……どんな仕事だろうが、『ネをアゲなきゃ負けじゃねえ!』 やけくそだろうがなんだろうが、やりゃあどうにかなんだよ、ってなァ!」

みく「拓海ちゃん……!」

拓海「無理難題、上等じゃねえか? そういうのを軽ーくブッ潰してやるのが燃えるだろう……!?」

みく「拓海ちゃんの言う通りにゃ……! よーし、無茶振りだろうがなんだろうがやったるにゃー!」

有香「気合が入ったようで何よりです! ……というところで、当プロのプロデューサーより贈り物が」ゴソゴソ

みく「にゃ? そういえば、その、すっごく大きな鞄は――」

みく「……えーと、その一式は」

有香「押忍。まずこれはメンホー、頭部を保護する為の、ヘルメットのようなものです。正面はポリカーボネイト製のフェイスガード。仰向けに倒れた際、下段突きを受ける事を想定した作りです。前川さんが着用する事を想定し、頭部に猫耳
装着されています」

みく「お、お気遣いありがとうにゃ……」

有香「こちらは拳サポ、グローブのようなものですがそこまで全体的に保護はしません、拳面のみ守るようなものですね。その代わり、全ての指を開く事ができるので、付けたままでものを掴む事ができます」

有香「すね当て。自分が蹴りを打つにも、相手の下段蹴りを受けるにも、これがあるとないとで、怪我の頻度が随分変わります。クッションが強めのものを選びましたが、ダメージを与える目的ではないので問題ないかと」

有香「胴当ては薄く、頼りないように見えるかも知れませんが、これ一枚で衝撃が拡散しますので、鳩尾への拳打、蹴撃を緩和する事が出来ます。紐を固く結ばないと、動いている間に落ちてくるので気をつけてください」

有香「些細ながら、足甲プロテクター。相手の肘に蹴り込んでしまった場合、最悪、指が折れる事もありますが、これならば痛みが走る程度で済むでしょう。ただ、可動性を損なわない為、足首までの保護はできませんので、そこは前川さんが気をつけてください」

有香「流石にマウスピースは、歯型を取れないので用意していませんが、歯医者さんに相談してみると、しっくり来るものを作ってくれますよ。激しいダンスの練習にもぴったりです!」

拓海「マウスピースかァ、悪くねぇな……でもな、歯医者はなー……なんかなー……」

みく(みくが目指したアイドルって、なんだったっけ……?)

P「よかったなー、みく。後で向こうさんにお礼状出しておかにゃ」

みく「うにゃあぁぁ……」

幸子「な、何かすごい被り物してますねみくさん!?」

みく「まあ、ちょっと紆余曲折あってにゃ……幸子ちゃんは、台本貰った?」

幸子「ええ、勿論! カワイイ主役のボクですからね!」

P「二人体制の主役だけどな」

幸子「主役であることに変わりはありませんから!」

みく「幸子ちゃん、いつもにも増して機嫌良さそう」

P「まあ、高垣さんと城ヶ崎さんにかなり褒めていただいたからなぁ」

みく「あー、いいにゃあ」

幸子「ああ、今日この日を、ボクの演技の才が開花した記念日に定めなければ! お祝いしてくれてもいいんですよプロデューサーさん!」

P「そうだなぁ、幸子はかわいいなぁ」

みく「いつもながらPちゃんは、みくと幸子ちゃんの扱いの差がひどいにゃ」

P「何を言う、みく。お前達二人、芸人体質な事を除けば、タイプの違うアイドルだろ」

みく「誰が芸人体質にゃ!」

P「そのツッコミのレスポンススピードが――いや、それはいい。例えばな、同じかわいいにしても、幸子のかわいさは子供のかわいさというか、背伸びして頑張ってるところをニヤニヤしながら見てたいとか、失敗してしょぼくれてるところを慰めたら一気に元気になるその瞬間を目に収めたいとか、褒めて褒めて褒めまくって照れさせつつ喜ばせたいとか、まあそんなんだな」

みく「Pちゃんちょっと気持ち悪い」

P「無視するぞ。で、みくのかわいさは……まあ、猫キャラだな」

みく「みくの価値を一語に集約された!?」

P「でもお前、猫キャラ押しで頑張ってきたじゃないか」

みく「そうだけど、そうだけどー! でも、あれだけ言ったら、みくだって何か褒め言葉とか来るかもって思うじゃ――」

ギャィイイイイイイイン
ギュラギュラギュラギュラギュワーン

みく「――にゃ?」

幸子「ギター……の、音?」

P「ああ、エンディング曲のPV撮影だな。星さんのメイクに時間が掛かってたらしいが、やっと開始らしい。こっちも豪華メンバーだぞ、ボーカルが星さんと松永さんのツイン、ギターとコーラスに木村さん、同じくギターで有浦さん――アコースティックだが。それから、フォー・ピースからドラムでライラさん、ベースに涼宮さん」

みく「……どっかのバンドのリーダー兼ボーカルは?」

P「……敢えて俺に言わせるか?」

みく「聞かなくても分かるからいいにゃ」

輝子「Hell! Hell!! Hell!!! Hell!!!! Heeeeeeeeeeeell!!!!!」

みく「にゃ――あ、相変わらずとんでもないシャウトにゃ……」

P「あの体のどこに、あのパワーがあるんだろうな。……なあ、みく。お前、あれの真似、出来るか?」

みく「にゃっ!? いやいやいや、そんな無茶な」

P「いや、あんな極端例じゃなくてもいい。まあ、例えば、同じ事務所だしかわいい路線なのも同じ幸子のやり方を、お前は真似出来るか? ついでに言うと、幸子は、みくの猫キャラを真似出来るか?」

幸子「カワイイボクにカワイイ猫耳が生えたらもっとカワイイでしょうが……それは、その……猫耳はみくさんに一日の長がありますし……」

P「だろうなぁ。『ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル』じゃないが、お前達の魅力はワンオフだからな。幸子の路線をみくは真似できないし、逆もまた然り。みくはみくなんだから、幸子と同じように褒めるのは難しいんだ」

みく「ぴ、Pちゃん、急に真面目になるのズルいにゃ……」

P「だからお前を一言で評価してしまうのも仕方が無いんだ、いいな、みく」

みく「みくの感激を返せー!」

P「でもな、お前達それぞれ、真似できない魅力があるのは本当だぞ。このアイドル群雄割拠の時代、典型的アイドル像なんて、ほんの一部の子にしか当てはまらない。逆説的だが、お前達の在り方そのものが、アイドルの一つの形なんだ」

みく「……なんか言いくるめられてる気がする」

P「気のせいだ。まあ、それよりPV収録見よう。あのメンバーのライブなんて、アリーナ席なら転売価格が6桁に乗るぞ」

涼「何時しか二つの影は 銀幕の奥へと進み――」

みく「にゃー……涼さん、やっぱり歌上手いにゃぁ……」

涼「落ちてゆく…… down through the Stairway into hell♪」

P「あれも一つのアイドルの形だな、うん」

輝子「立ち込める煙も消えェてェェ 何事も無かったァァアようにィイイ!」

みく「輝子ちゃんは全力でシャウトしてるにゃ……」

P「あれも一つのアイドルの形だ、学べ」

輝子「残されたものはァァ it's only the Staaaairway into Heeeeeeeeeeeell!!」

 ――お城を夢見るシンデレラ。辛い生活にも耐え、清い心を失わなかったシンデレラ。
 彼女の物語は、彼女が幸福を手にした瞬間に閉ざされ、その後を知る人は誰もいません。
 ええ――きっとシンデレラは、不自由なく生きていったのでしょう。
 けれどその生活が、本当に幸せであったかどうか、誰が決められるのですか?

 幸せは、とっても主観的なもの。
 お城の中、百万の兵に守られて、金銀に埋もれていても、彼女がそれを喜ばないなら、それは幸せではない。
 どんな苦しい生活の中にも、一つ眩しい光を胸に抱いていられるなら、それは幸せなのかも知れません。

 あなたは不幸な女王様? それとも幸せに枯れて逝く、つつましやかな野の花?
 そのどちらでも――夢を見ましょう。

 誰もが憧れる、きらきらしたステージの上に立つ夢を――


 〝シンデレラパーティー/ZERO ~ドリーム・ステアウェイ・イントゥ・ヘル~〟


〝第二話 ~The Lady who we thought was holy.~〟

次回、第二話。色々の元ネタが分かる人とは語り合いたい。タイトルとか。
あと荒木先生の視聴者人気がやたら高いので何かしたいが思いつかない。

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