【モバマス】若林智香「応援の力」 (73)

こんにちわ。オリPです。
今夜、バファローズ戦見に行ってきます。天気が不安ですが、まあ大丈夫でしょう…。
今日勝って勝ち越して、最下位をハムに手渡して欲しいですね!

今回も地の文ありですが、書きためはありません。ゆっくりお付き合いいただければと思います。

前作
藤居朋「占いの力」
【モバマス】藤居朋「占いの力」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461073856/)
がありますが、続きではないのでよまなくても大丈夫です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461202847

「今回のライブバトル、勝者××~!」


 負けた。ステージ上にいる俺がプロデュースしたアイドルたちは、誰が見ても落胆した表情までは浮かべていないが、それでもやるせない表情を出して勝者を拍手で讃えている。


 ――これで今季も昇格ならずか…。


 ライブバトルは年3回、リーグ戦のように行われ年間成績が良いグループは上のリーグの下位グループとの入れかえ戦に挑戦できる。そこで勝つと上のリーグに昇格できる。


 俺がプロデュースしているアイドルはそのリーグでも最下位のEリーグ。しかも第2期リーグで早々に負け越しが決まってしまった。第1期でも負け越しており、今年のDリーグの昇格はもうない。


 そのことを知っているアイドルたちは肩を落として楽屋に入ってきた。


 俺がプロデュースしているアイドルは、センターに古澤頼子、江上椿、前川みく、小室千奈美、矢口美羽の5人だ。


「おう。お疲れさん。着替えが終わったら、ブリーフィングをやろう」


「はい……」


 アイドルたちの返事は覇気がない。今日の負けで来年もこのリーグでやらなければいけないという厳しい現実がそうさせているに違いない。


 ――このグループでもう3年目……。もう限界なのだろうか?


 このアイドルリーグ。最上位のS5リーグともなれば、毎週テレビ中継がゴールデンタイムで放映されるほどのコンテンツなのだが、最下位のEリーグはそんなものない。中継はおろか新聞やネットにも出てこない。将来生まれる新星を見つけようとするファンが会場に来る程度で、会場は空席が当たり前の淋しいステージだ。

 アイドルたちが着替えを終えて戻ってきた。


「今日はお疲れ様。分かっているとは思うが、今日の負けで負け越しが確定。昇格は来年以降に持ち越しだが、来年に向けて――」


「はあ……。いつまでこの状態なのかしらね……」


 この中では年長に当たる千奈美がこぼした。誰もが言いたくても言えない中、彼女が代表で口を開いたという感じだろう。


「分かってるだろ?今年の昇格はもうない。来年に向けて気分を新しく――」


「もうその言葉聞き飽きたわよ!」


 千奈美が思い切り机を叩く。それに俺はもちろん、隣にいたアイドルたちも驚く。


「あなたのプロデュースを受けて、今年で3年!いつかは上がれると信じてやってきて、今年も昇格はナシ!いい加減、私だって我慢の限界よ」


「それに関しては、本当に申し訳ない……」


 俺はアイドルたちに頭を下げる。アイドルたちは真剣にやっている。それなのに結果がこうでは間違いなく指導者の俺の責任だ。


「まず、目標としては第1期の5勝10敗を超す成績を上げる。まだ8敗だ。残り5日、勝ち越すことだけ――」


「それがもううんざりだって言ってるのよ!今だって2勝7敗!今日は私たちよりも新しく入った子たちに負けた!」


 もう一度机を叩く。千奈美の言うことは、もうこれ以上俺とは組みたくないということだろう。直接それを言わないのは彼女なりの配慮だろう。


「辞めるのか?」


「それは……。やらない。まだリーグ戦中、ここで辞めたら本当に負け犬よ」


 それを聞いて俺はホッとした。ここで千奈美に辞めてしまわれたら、おそらく残りの子たちも残る道は選べない。まだ彼女にもプライドの火は消えていないようだ。


「ありがとう。残りの日程、モチベーションはきついかもしれないが、精一杯頑張ろう!」

 その後、残りの日程は2勝3敗で終え、第2期も5勝10敗の成績で終わってしまった。


 第2期を以て、小室千奈美は抜けることが決まりついにリーグ戦にすら参加できなくなってしまった。リーグ戦の参加条件は5人グループ。第3期の締め切りは1か月後。それまでに1人見つけなければいけない。


 アイドルたちのレッスンの監督もほどほどに、俺は候補生を探すことに躍起になっていた。これまで3年やってきた彼女たちに申し訳が立たない。信じてレッスンをしている彼女たちになんとか吉報を届けられるように。


「ゴーファイ!ウィン!」


 公園で休憩中、大きな声を挙げている少女の声が聞こえる。どこかでチアリーディングの練習をしているのだろうか。


 声のする方へ向かうと、何と一人で練習している少女の姿を見つけた。腰まで届きそうな栗色のポニーテール。白を基調に水色のラインが入ったユニホームとスカート。そしてよく伸びる四肢に俺は吸い寄せられるように、彼女に近づいて行っていた。


「あの、今何されているんですか?」


「え?キャ!」


 不意に声をかけられて驚いていたのか、彼女はバランスを崩して倒れてしまう。


「おっと!大丈夫ですか?」


 俺はとっさに彼女の体を支えて転倒を防いだ。初対面の少女の顔がすぐ下に見える。


 大きな栗色の瞳を持った、可愛らしい顔立ちだった。


「え、は、はい……。おかげさまで……」


 少女は顔を真っ赤にしてとつとつと話す。このままで万が一のことが起きてしまうので、すぐに彼女を起こして立たせる。


「お一人でチアリーディングの練習ですか?」


「はい。私誰かを応援するのが好きなんです。だから、こうして暇を見つけて練習をしているんです」


「部活は?」


「チアリーディングは無いんです。イベントで踊るくらいですけど、ほとんどそういうの無いですけどね。あはは……」

「私、こういうものなんですけど……。アイドルに興味はありませんか?」


 俺は少女に名刺を見せる。


「え?アイドル事務所ですか!?――本当ですか?」


 彼女の反応は当然だ。そうしていかがわしいビデオに出演してしまった。という話もある。ある程度の常識感も持っているようだ。


「もしよければ、見に来ませんか?今、私がプロデュースしているアイドルたちがレッスンを受けているんです」


 そう言って俺は携帯を取り出して、事務所に連絡する。すぐに事務の人が出て、頼子たちのスケジュールを聞く。今から歩いて戻ってもレッスン中かを確認する。


「レッスンってどういうことをするんですか?やっぱり歌って踊るんですか?」


「はい。情けない話、今はボーカルを務めていた子が抜けてしまいまして、こうして探しているんです。もちろん踊れる方も」


 少女は少し迷った後、


「練習、見に行ってもいいですか?」


「ええ。もちろん。レッスン後に彼女たちと話してもいいですよ」


 了解を取ったら、すぐに俺はタクシーを止めて事務所に直行。レッスン場へ行って少女に練習風景を見せる。


 少女の名前は若林智香。17歳だそうだ。


 そこではトレーナーの手拍子に合わせて4人がダンスをしている。少しばらつきがあるが、大きなミスはない。


「すごい……。これがアイドルの練習」


 そのうち少女は、トレーナーの手拍子に合わせて少しずつ体が動いてきた、おそらくチアリーダーの血が騒いでいるのだろう。


「入ってやってみる?」


「え?良いんですか?」


「踊りたそうな感じだったから。好きなんだね」


「本当は応援するのが好きなんですけど、私の踊りを見て元気になってほしいんです。アイドルでもできますか?」


「もちろん」


 俺は断言した。

 レッスンが休憩に入ったのを見て、俺は智香を連れてレッスン場に入る。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。――今日は、候補生を連れて来た」


 俺の言葉に智香は驚き、アイドルたちは喜びの表情を浮かべる。


「彼女は若林智香ちゃんだ。――自己紹介してみようか」


「は、はい!若林智香と言います!趣味はチアリーディングです!よろしくお願いします!」


 すぐに頼子たちが智香によってきて、メンバーの自己紹介を始める。


 俺はトレーナーさんに智香用のメニューを組んでもらった。アイドルのダンスとチアリーディングのダンスは違う。その部分のよさも出しつつ、アイドルにも対応できるようなメニューにしてもらった。


 それから智香はグループに入ることになった。元々ダンスをしていたので上達も早かった。あっという間に習得して先輩アイドルたちも驚きを隠せなかった。


 頼子たち先輩アイドルも負けないようにといつも以上に練習に励んでいた。時には智香にアドバイスを請いながら、時には5人全員で居残り練習をしたりと智香の加入はいい刺激になっていた。


「お疲れ様です!プロデューサーさん!今日も元気ですか!元気がなければ応援しますよ!」


「ゴーファイ!ウィン!」


 いつの間にか、5人でチアリーディングをしている。もうすっかり智香のチームになってしまった。でも、そんな彼女のやり方に普段は控えめな頼子も椿も喜んでやっている。


 俺はこの時、何か確信的なものが出てきた。

 そして第3期リーグ戦エントリー締切日。メンバー表のセンターの欄に若林智香と俺は記入した。その両脇は頼子、椿で締め、外側はみくと美羽で行くことに決めた。


「私がセンターですか?」


「そうだ。智香ならダンスはもちろん、歌でもかなりの実力がある」


「で、ですが……」


「大丈夫です…。智香ちゃんは元気な踊理を見せてくれるだけでも、見てくれる人の勇気になります。歌は私たちがフォローします…」


 椿たちがうんうんと頷く。


「分かりました!私頑張ってみます!」


「初めてで、緊張するかもしれないけど智香は頑張ってきた。大丈夫だ!」


 ――第3期リーグ戦第1節


 本番十分前。アイドルたちと俺は舞台袖に待機していた。頼子たち4人はいつものことなので談笑してリラックスしているが、その中で初陣となる智香だけは笑みが出ず体を震わせていた。


「智香」


 俺は智香を呼んで少し離れた場所に連れて行く。


「緊張しているか?」


 智香は頷くだけだった。


「初めてチアリーディングで舞台上がった時とどっちが緊張している?」


「今の方が緊張しています……」


「そうか。――ゴーファイ!ウィン!」


 俺は大きな声を出して、智香のやっていたチアのまねごとをする。もちろん、足も腹の位置より上がらず、無様な姿をさらしてしまった。


「な、なんですか?」


 智香は驚いて開いて口がふさがらないようだ。


「いや、なんとなく智香がやってる応援をしたら、智香も力が出ると思ってな……」


 恥ずかしそうに後頭部を掻く俺を見て、友かは声を出して笑う。


「良いですか?脚はこう!ビシッと上にあげるんです!掛け声も恥ずかしさが残ってます!応援するのに後ろめたさがあってはいけません!――ゴーファイ!ウィン!です!」


「ちょっと!お二人とも、こっちにまで響いてますよ……」


 うるさくしてしまったのか、椿たちに注意されてしまった。

続きを流します。

「優勝しちゃいましたね……」


「そうだな。智香が来て1年が過ぎて、この結果はすごく嬉しい。この調子でどんどん上に行けば、トップアイドルも夢じゃない」


「そうですね!事務所のみんなでトップアイドルになれるように応援しますよ!オー!」


 私服姿でチアリーディングをする智香に俺は苦笑いを浮かべる。


「おいおい。智香もならなきゃ意味がないだろ。自分のこともしっかり応援するんだぞ」


「あ、そうですね。すっかりでした。あはは……」


 そのまま俺たちは無言のまま歩いていき、


「デートは入れ替え戦の日程が決まってからでいいですか?」


「…そうだな。そうしてくれると助かる」


「怒っていますか?私のわがままに?」


 智香は心配そうな表情で俺を見つめる。今にも泣きそうなそれは俺を戸惑わせる。本当ならばここで突き放した方が良い。だが、今の彼女の立場を考えるとそれを無下に断ってしまい、抜けられる方がもっと辛かった。


「怒るわけないだろ。精一杯頑張ってくれているご褒美だと思ってくれればいい。もちろん、頼子たちにも時間を割かなきゃ――」


「…そうですね。私だけが『特別』じゃないんですもんね……」

「そういうな。智香だって、頼子や椿たちがいなかったら、ここまでの活躍は出来なかったかもしれないんだぞ?逆だってあったんだ。5人がいて今がある。良いな?」


「そうですね……。そうですよね!ありがとうございます!」


 智香は深々とお辞儀をして、


「反省の意味を込めて走って帰ります!プロデューサーさん!また明日!」


 そのままかなり早いペースであっという間に智香は夜の闇に消えて行ってしまった。


 翌週からまたリーグ戦に入り、そこでは今後の為に色々と変化を見せる踊りを行っていく。入れ替え戦に勝つのが当然だが、Dリーグに入れば今のものを高めるだけでは満足いく結果は難しい。より一人ひとりの魅力を高められるようトレーナーさんとも打ち合わせを行いつつ、実戦で模索していく。


 第3期の結果として12勝3敗と後半は失速して優勝は逃してしまったが、全体1位はすでに確定しているので、入れ替え戦はDリーグ成績最下位のグループとの戦いが10日後に組まれた。


 日程が確定になって数時間後、俺の携帯が震えた。振動の種類からメールだったので手が空いてからメールを開封する。


 送信主は智香だった。内容はご褒美デートの日程だった。3日後の午後にどうかというものだった。その日は彼女もグループ全員がオフの日だった。


 事務員さんに3日後の業務内容を確認して、大きなものがないので代休を取らせてもらうことを了承してもらい、智香に了解とメールを送る。

 すぐに返信が来て『楽しみに待ってます!』と返信が来た。


 3日後――


 待ち合わせ場所に時間の少し前に行くと、もうそこには智香が立っていた。


 智香はいつものポニーテールではなく髪を下ろして黄色のショーとジャケットの中に水色のワンピースという、彼女らしくない少女らしい出で立ちだった。


「あ、プロデューサーさん!」


 智香も俺の姿を見つけると、こちらに近づいてくる。


「ど、どうですか?この格好?」


 智香は恥ずかしそうに一回転して見せる。それを見て俺はドキッとしてしまう。


「…すごく可愛いと思う」


 この仕事をして、可愛らしい服を着た可愛らしい子は今まで何度も見ていたが、それは仕事モードの時だけ。オフであれば俺だけに見せているという感情が脳裏に焼き付いてしまう。


「さてと、どこに行きたいんだ?」


「え、えーっとですね……。映画なんてどうでしょうか?」


「近くに映画館があったな。そこでいいかな?」


「はい!」


 智香とのデートは一日まるまる使った。映画の後は、レストランで昼食。彼女が今後着たい服などを調べるためショッピングに費やしてデートは終わった。


 家に帰ると、早速智香からメールが来た。


『プロデューサーさん。今日は本当に楽しかったです!いろいろとありがとうございました。また明日から頑張れそうです!』

 デートのお礼メールが来たので、こちらもありがとう。また明日から頑張ろうと返信した。


 そしてそれから1週間後。運命の入れ替え戦。アイドルたちにとっても初めての経験で皆の表情が強張っている。


「最下位チームとは言えDリーグでやってきた実力と経験がある。でも、成績と自信は俺達の方が上だ。笑顔を絶やさず、レッスン通りやろう!」


「はい!」


「よし!いってこい!」


 ステージ袖からメンバーは元気よく飛び出していった。


 俺は事務員さんとトレーナーさんと一緒に会場の端でアイドルたちを見る。


 今期から智香目当てで会場に来てくれるファンが多くなってきた。彼女の元気いっぱいの姿を見て魅了されたファンたちだ。応援ボードを持っているファンもいれば、なんと有志で横断幕まで用意するファンもいた。Eリーグではこんなアイドルがいるなんて前代未聞だった。


 Dリーガーにアドバンテージがある入れ替え戦だが、こと今回においてはこちら側にそれがあった。


「ありがとー!」


 アイドルとファンのコールアンドレスポンスがうまくハマり、素晴らしいライブになったと思う。


 相手は口角のプレッシャーもあるのか表情が固く、動きも心地なかった。


 相手のアピールタイムが終わり、俺は内心ガッツポーズをした。勝てる。昇格できる。と。


「結果発表を行います!勝者、アイドルチアーズ!」


 俺たちの名前が挙げられた瞬間、アイドルたちは喜びで抱き合い、開場は歓喜の渦に巻き込まれた。

「おめでとうございます!来季からはついにDリーグですね!」


 俺は二人と握手を交わして、みんなでアイドルたちが戻る舞台袖へ急いだ。


 もちろんその夜は祝賀会を行った。その後は、やはり智香と一緒に帰る。


「ついに私たち、Dリーグで戦えるんですね……」


「まだその実感がわかないか?」


「はい……」


「明日は、在籍しているグループのビデオを嫌というほど見てもらうからな」


 それを聞いて智香はおどけてしまうが、俺はそれを見て笑ってしまう。


「Dリーグになったら、アイドルとしてお仕事増えるんでしょうか?」


「分からないなあ。まだうちに仕事のオファーは来ていないな……。だがこの調子でランクを上げれば、いずれくるだろう」


 他愛のない会話で今日は終わった。


 次の日。俺も事務員さんも殺到する電話にてんやわんやの状況だった。ひっきりなしにかかってくる電話の内容は、雑誌のインタビューと地方ラジオ出演、ファッション雑誌のモデルとグループだけでなく、個人にも出演のオファーが来てしまった。


「ガンバレ!ガンバレ!」


 俺と事務員さんが電話応対をしている中、智香たちは応援していた。


 オファーの電話も一段落したところで、メンバー全員で仕事の確認をする。ひとまず知名度アップを優先とし、全員が出れる仕事を優先に入れる。その後に無理にならない範囲で個人の仕事を入れる。やはり智香が一番多く、頼子と椿、みくと美和の順だった。

>>21 訂正 美和→美羽です。


「こうなってくると、全員でダンスを合わせるという時間が少なくなってくる。今まではリーグ戦だけに集中できていたが、各自で練習、数少ない全体練習でしっかりできるようにやろう」


 その日はDリーグにいるアイドルたちのビデオを見ながらのスカウティングで終了する。


 それからは俺も事務所に半日以上いる日は一気に少なくなった。仕事の送り迎え、新しい仕事の打ち合わせ。構成会議。アイドルとコミュニケーションを取る時間は一気に減っていき、レッスン報告や事務所での普段の行動などはトレーナーさんと事務員さんから聞くくらいしか出来なくなっていた。


 そしてDリーグの開幕戦が近づいていたが、俺がそこに入れる日はほとんどないままその日を迎えてしまった。


「さて開幕戦を迎えたが……」


 アイドルたちは不安げな表情を浮かべている。無理もない。格上の相手との戦いをするのに準備が出来ていない。合わせでの練習はしているが、前期と比べて半分以下。俺がそこで見たことは一度もない。


 会場に来ている観客もEリーグの頃とは比べ物にならない人数だ。一団だった応援隊も完全に小隊レベルになっている。

以上でストックが無くなりましたので、また書いてきます。
次回更新は7日か8日になればと思います。

お待たせしました。続き書いていきますよ!先週は時間が取れず申し訳ありませんでした。

 そんなスキンシップが毎日のように行われていた。


「うーん……」


「どうしましたか?智香ちゃん……」


 腕組みをして考える智香に頼子が話しかける。同じ寮で暮らしている仲間なので、こうしてお互いに遊びに来ている。特に智香と頼子は同い年。色々な面でお互いにアドバイスを貰っている。


「プロデューサーさんにスキンシップを行っているのですが……」


 あの女子会で、智香はプロデューサーと恋愛関係に発展させたいという思いをメンバーに伝え、全員がそれに協力してくれると言ってくれた。


「あまりうまく行っていない……。と言った感じでしょうか?」


「はい……。雑誌では『密着でお互いの仲は急接近!』と書いてあったので実行しているのですが、プロデューサーさんはお仕事以外では全く話しかけてこな
いんです……」


「その雑誌……。見せてもらえませんか?」


 智香は件の雑誌を頼子に手渡し、その雑誌を読み始める。ティーンエイジャー向けのファッション雑誌で、服のコーディネートや恋愛、熱いプレイスポットの情報などが詳しく載ってある。


 ――意中の相手には、一に押し、二に押し、三に押すべし!ですか……。


 智香が参考にしただろうページを見ながら頼子は思案する。行動派とは言いにくい彼女だが、ロジカルシンキングには長けている。この意図を自分なりに読み解いてみる。

「智香ちゃん……。私が思うに、このやり方は意中の相手をその気にさせる方法ではあると思います。ですが、それだけではプロデューサーさんは振り向いてくれません」


「どうしたら良いかなあ?」


「この本が出している意中の相手は、私たちと同じ年頃の『男子向け』。プロデューサーさんのような『大人』には効果が薄いと思います」


 そのまま頼子が続ける。


「ですから――」



「今日は帰るか……」


 それから1週間ほど経って智香のアプローチは嘘のように無くなった。あれだけ毎日、夜遅くまでいろいろと相談に乗っていたがどうやら解決したようだ。レッスンの全体練習が終わったら椿たちと一緒に帰り、その後事務所に寄るということは無かった。


 時計の針は9時を回っている。今までにしてはかなり早い時間だ。定期的な大口契約を手にしてある程度の採算の目途が立ったことで営業回りの時間が省かれて午前様での帰社はほとんどない。手の空いた時こそ、アイドルのサポートを行っていきたいが、


 ――相談に乗ってほしいアイドルがいなくちゃ意味がないよな。


 智香のように頼られるのは男として、プロデューサーとして嬉しい限りだったが、それも一段落してしまい少し物足りなさを感じていた。


 事務所の戸締りを終えてドアを開けた瞬間、


「きゃっ!」


 ドアの前に女性がいたらしく、俺がドアを開けたことに驚いてしまったようだ。

「すいません!大丈夫でしたか?」


 俺はすぐに女性の元に寄る。何と智香だった。


「智香か……。どうしたんだ?こんな時間にここにいるなんて」


「あの……。少しご相談したいことがあったんですが、今はもう帰られますよね?すいませ――」


 帰る瞬間だった俺を察してか、智香は立ち去ろうとしたが俺は彼女の腕を掴んで逃がさないようにしていた。


「いや、相談事があるならいいぞ。もう仕事はないから事務所で聞くよ」


 再び事務所に戻り消したばかりの照明を再び照らす。応接ソファーに智香を座らせる。


「何か飲むか?」


 その質問に智香は首を横に振ったので俺は対面のソファーに腰を下ろした。


「それで相談事というのは?今までのようなことか?」


 よく見ると、彼女は顔を赤らめて、目もやや赤い。


「智香?少し顔が赤くないか?」


 俺が智香の顔を良く見るため顔を近づける。


「だ、だいじょうぶですっ!」


 声が上ずっている。やはりどこか様子がおかしい。


「深呼吸」


 俺は智香にそう指示して、彼女にそれを行わせる。数回行った後、


「落ち着いたか?」


「はい……。ありがとうございます……」


 まだ顔は赤いが、落ち着きは取り戻したようだ。

「じゃあ、今日の相談事は何かな?」


「私と付き合ってください!」


 智香の言葉ははきはきと良く通る声だったが、俺はその時の彼女の発言を全く聞こえていなかった。それだけ予想外で驚いた。


「え……」


「私と、若林智香と付き合ってくださいっ!」


 二度目の告白は先ほどよりも大きな声。もう彼女が何を言っているのか俺でも分かった。


「……確かに俺は智香の恋愛を応援すると言った。でも、その相手が俺とはなあ……」


 てっきり智香の意中の人は高校生だと思っていた。だから俺に相談したんだろうとも。だが、現実は俺に告白している。


「駄目でしょうか?」


「智香の気持ちは確かに分かった。男としてこれ以上にないくらいすごく嬉しい。だが、プロデューサーの俺としての答えはノー。その気持ちには応えることは出来ない」


 その答えを聞いた瞬間、智香の感情が一気に削ぎ落ちた。しかし、それは一瞬だった。


「でも、でも!プロデューサーさんは応援してくれるって!私、応援されて……。後ろから優しく押してくれて……」


 涙を流しながら、俺に悲痛な叫びをぶつけてくる。それを見て何も思わない人間ではない。


「俺と智香は、プロデューサーとアイドルだ。それが明るみになってしまえば、智香だけじゃない。椿や頼子たちにまで迷惑をかけてしまう。このグループは智香だけじゃないんだ……。分かってくれ」


 智香は俺の言葉を黙って聞いていた。時折鼻をすする音が聞こえる。

「ほら、これ使え」


 俺はポケットからハンカチを智香に渡す。それを使って彼女は涙を拭う。


「落ち着いたら、寮まで送るよ」


 俺は智香が泣き止むまでずっと見ていた。


 不安だったので、寮の部屋まで一緒に行って部屋のドアが閉じたのを見てから俺も自宅へと帰る。


「参ったな……」


 車に乗り込んで俺はため息をついた。まさか好きな人は俺だったとは考えもしていなかった。


 智香の恋は応援するつもりだった。が、この恋の応援は協力できない。


 ――智香。悪いけどこの恋は……。


 俺はそう自分に語りかけながら自宅へと車を進めていった。



 智香は自分の部屋で泣いていた。部屋の明かりも点けず暗闇の中で。


 恋焦がれ、仲間にも協力をしてもらって万全の状態で挑んだ今回の告白。しかし、彼女に待っていたのは非情な現実。


 ――アイドルとプロデューサー……。


 それが彼の断った理由だった。

 ――私が応援している姿をあの人が見たから、あの人に出会えた。そして新たな私を見せてくれた。だからあの人に感謝してもしきれない。


 あの人を好きになったのは、彼なら私が考えて諦めていた世界を見せてくれる無限の可能性に惹かれてしまったのだ。


 電話が鳴り響く。暗闇の中に携帯電話の音と着信知らせる画面が照らされる。


 その音に気づいた智香は久しく顔を上げて電話を手に取る。


「頼子ちゃん……」


 電話の相手は古沢頼子。今回のアドバイスをしてくれた少女だ。


 震える手で通話ボタンを押して電話に出る。


「もしもし……」


 泣いている事を悟られないように声を忍ばせるように話そうとしたが、震えてしまっている。それはすぐに頼子は悟って、


「駄目でしたか……」


「すいませんでした、頼子さん……。私の、力不足で……」


 智香はついに堪え切れず堰を切ったように声を上げて鳴きはじめた。


「よく頑張ったね……」


 智香が落ち着くのを待って、頼子が智香を慰める。

「せっかく皆さんが色々手を打ってくれたのに……」


「でも、それはプロデューサーさんの気持ちもあるから……。プロデューサーさんは何て?」


「『俺と智香はプロデューサーとアイドルだから。それは出来ない。それをすれば、椿さんや頼子さんにも迷惑をかけることになる。』って……」


「プロデューサーさんらしいですね。自分の幸せよりも、他人である私たちの幸せを優先するなんて……」


「だからこそ……、私はあの人に幸せになってほしいんです」


 それから落ち着きを完全に取り戻した智香は、頼子と共に今後のことを話した。


 まず、事務所は辞めないこと。それは智香にもプロデューサーにとっても不幸でしかならない。


 二つ目はプロデューサーへの態度は今までどおりに振舞うこと。かなり難しいことだが、可能な限りそう振舞うこと。


 そして三つ目は、今回のことは布石だと思うこと。プロデューサーに智香の好意は本当であると意識付けられた。この告白は種になっていつか芽を出すかもしれないということ。


 この三つを頼子と改めて確認をした。もちろん思いつめたことはしないと約束をして電話を切った。

 電話を切った頼子は小さく息を吹いた。


 ――やはり、プロデューサーさんは告白を断りましたか……。


 やはりプロデューサーは告白を断った。だから今回の智香の告白もそうなると頼子は知っていた。


 予感ではない。『知っていた』だ。


 頼子は過去に所属していたプロデューサーが告白を受けていたことを知っていた。そして結果は今回のように断られていた。


 そのアイドルは、小室千奈美。智香と入れ替わりで事務所を辞めたアイドルだ。


 あの時は偶然その場に居合わせていた。千奈美とプロデューサーだけの事務所で彼女が告白をするところを。そしてその思いはあえなく潰えてしまった。ちょうど今回の智香を断るように。


 小室千奈美はどこでプロデューサーに好意を持っていたのか分からないが、結果的に彼女は告白をしていたのだ。

 頼子は通話アプリで智香を除いたアイドルに文章を送る。


『智香ちゃんが、プロデューサーさんに告白しました』


 程なく、他のメンバーから返信が帰ってきた。


『結果はどうなったんですかっ!』


 美羽は文面からでも身を乗り出して聞いているような感触がする。


『Pチャンのことだから、断ったんじゃないかにゃ?』


 にゃの語尾はみく。ここでもアイドルと変わらない口調は意識の高さからか。


『ですが、智香ちゃんも断られたと思いますが?』


 年下の頼子にでも優しい口調で話すのが椿。


『頼子さん。どうなったんですか!』


『プロデューサーさんは智香さんの告白を断りました』


 美羽の返信に頼子が返信する。


『プロデューサーさんらしいですね。だからこそ、私たちを魅せてくれた人ですね』


『まったくだにゃ。Pチャンらしいにゃ』


『でも、智香さんもプロデューサーさんが好きだったのは、少し安心しましたね』


『でも、油断は禁物にゃ!智香チャンも千奈美チャンのように独占したがるタイプかもしれないにゃ!』


 みくの警戒に頼子は一人うなづいて、

「もう少し見てみましょう。そして折を見て話してみるのはどうでしょうか?」


『それでいいと思います!』


『もし、それでだめなら、そのときに考えればいいと思うにゃ!』


『そうですね。そこでみんなで考えましょう』


 三人の意見から智香の行動を注視するということで決まった。


『智香さん。塞ぎこんでいませんでしたか?』


 椿の心配した文章が届くが、頼子はフォローしたと伝える。


『そうでしたか。頼子さんありがとうございます』


 夜も遅くなってきたので、ここで通信のやり取りを終えて眠る。


 次の日。


 俺は智香のことが不安で早く事務所に来てしまった。平日で彼女は学校なので事務所に来るのは午後過ぎてからだが、不安で不安でしょうがなかった。


 人の出入りの度に反応して顔を上げて一憂していた。

今回はここまでになります。次回で終わらせられるように頑張ります!

お待たせしました。本日完結です。ごゆっくりお楽しみください。

 そして午後を過ぎて、そろそろ学生組が来る時間になって、


「おはようございます!」


 元気の良い声が聞こえた。すぐに顔を上げる。智香だ。


「おはようございます!プロデューサーさん!」


「お、おはよう。今日も元気だな……」


 俺の不安とは裏腹に智香はいつもと変わらない笑顔を俺に向けてくれる。それを見て俺はホッとしていた。


「はい!私は元気が取り柄ですから!この元気をみんなに応援として与えますよ!」


「ありがとう……」


 彼女の目は泣き腫らしたように赤い。かなり長い時間泣いていたようだ。それでもこうして平然を装ってくれているのだ。


「あはは。変なプロデューサーさんですね!そんなプロデューサーさんには応援で力を与えます!」


 そうしていつものチアリーディングを制服姿で見せてくれる。元気はつらつの踊りと掛け声で俺は自然と表情を緩ませていた。


「あ、明るくなってきましたね!プロデューサーさんの顔!」


 それを見て智香も嬉しそうに微笑む。


「それでは、私はレッスンに行ってきますね!」


 一しきり踊った後、智香はそのままレッスン場へと向かって行った。


 ――良かった。

 俺もホッとして自分のデスクに座って、その日の片付けなければいけない書類の処理を行っていく。


 事務処理も終わってレッスン場に足を運ぶ。Dリーグも佳境に入り、レッスンも熱が入っている。休憩時間まで俺は外からレッスンの様子を見る。


「はい。それでは十五分休憩!第2クールは通しで行きますよ!」


 トレーナーさんの声で休憩に入ったと同時に俺もレッスンルームに入る。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。――さ、プロデューサーさんも来たことですし、本番の気持ちでレッスン行きますよ!」


 トレーナーさんの煽りも入ったところで第2クールは通し練習となる。リーグ戦で使う曲のレッスンだ。先程までにこやかだった五人も、レッスンになれば真剣な表情で取り組む。


「はい!――どうでしたか?プロデューサーさんから見た彼女たちは?」


「そうだな。ダンスや歌は特に問題ないかと思います。みくと美羽の位置をもう少し内側の方が良いかと思いました。もしくは、そのままの位置でみくと頼子。美羽と椿の位置を変えてみても面白いかと」


「なるほど。少し立ち位置を変えてやってみましょうか?」


「みんなは大丈夫か?特に智香はかなりハードになるが……」


 俺は5人にもう一回、通しを行うことを聞く。


「私は大丈夫です!」


 智香も残りの4人も行けると答えてくれた。

「ではもう一度、立ち位置を変えてやってみましょう」


 そしてもう一度、智香以外の立ち位置を変えて通してみる。


「こっちの方がしっくりくると思います。当日はこれでやってみましょう」


 俺の言葉でトレーナーさんも頷いた。


「じゃあ、この位置でやってみましょう。今までの距離感は忘れて、やってみて!」


 そこから時間になるまで曲の練習を行う。智香は途中でボーカルのレッスンも行う。


「少し、後半息切れが多いな。間奏部分で大目に呼吸を意識して……」


「はい!」


 トレーナーさんのようにはいかないが俺が指導する。智香は俺の言うこともしっかり聞いてくれる。


「よし!今の感じだ。その調子でやってくれ!」


 練習が終わると最後の通し練習で5人が本番と同じ状況で練習する。それをビデオで録る。


「はい!お疲れ様!今日はここまで!」


「ありがとうございました!」


 5人はレッスン場から着替えに戻る。その間に俺は車を回して、彼女たちの家へ送迎する。


「まずは寮からな」


「プロデューサーさん!」


 発進する直前、智香が手を挙げた。


「今日は、頼子さんの部屋にお泊りするので私も皆さんと同じ寮で降ります!」


「そうか。親御さんには連絡はしてるよな?」


「はい!大丈夫です!」


「分かった。お泊り女子会だから楽しいけど、夜更かしは厳禁だからな」


「はーい!」


 盛り上がる女子トークに俺も時折参加しながら楽しい車内の空気で寮まで送る。


「おやすみなさーい!」


 寮で全員と別れて、俺は事務所に車を返す。メールを確認して今日は帰ることにする。

 その頃、年長の椿の部屋に5人が集まっている。持ち寄りの食材でまずは料理の時間だ。


「みんなで作るカレーなんて楽しみです!」


 役割分担をしながらカレーを作る。智香は材料の皮むき。みくは具材を切る。美羽には野菜を炒め、頼子は味付け。椿はその様子を写真に収める。
皮を剥いているのか、実を向いているのか分からない皮むきや、明らかに大きく切りすぎたジャガイモ。あおりが強すぎて具材が飛び出したり、見たことも聞いたこともない調味料に首を傾げたりとシャッターチャンスがかなりあったらしく、椿はかなり満足していたようだ。


「いっただきまーす!」


 全員で出来上がったカレーを食べる。


「おいしー!」


 全員が同じような感想を出して、思い思いの食べ方を披露してあっという間に楽しい時間が過ぎていく。


「この時間になったら女子トークにゃ!」


 夕飯を食べてまったりした後、智香以外は自分の布団を持ってきて部屋に広げる。布団は4つ。止まる人数は5人。


「あれ?私どこに寝たらいいでしょうか?」


「どこの布団でもいいですよ。」


 寮ではない智香の質問に4人は自分の掛布団を広げる。


「そうです。ここには私たちだけですし、今日は問題ないでしょう」


 智香は少し迷って、みくと美羽の間に入った。


「うふふ。それじゃ、電気消しますね」


 椿が蛍光灯のスイッチを切る。部屋が暗くなった。


「なんかこうしていると不思議な気分です」

「ホントだにゃ」


「私が来る前にもこういうことってやってたんですか?」


「智香さんが来てからは初めてかな?」


「そうですね。もう2年以上やっていませんでしたね」


 美羽の質問に椿が答える。


「それ以前は頻繁にやっていたんですか?」


「そうですね。私たち4人では頻繁にやっていましたね」


「4人ですか?私が入る前に誰か一緒に活動はしていなかったんですか?」


 頼子の言葉に智香は質問する。


「そうにゃ。もう1人いたんだけど、あまりみくたちとは仲がよくなかったにゃ」


「そうだったんですか……。ということは私ははれて皆さんの仲間になったという感じですか?」


「本当はもっと早くしたかったのですが……。アイドル活動のほうが忙しくなってしまいましたからね」


 椿が笑う。


 智香がこの事務所でこのチームを組んでいこう、活動は明らかに上向きになっていた。目まぐるしく動く日々に5人は充実感を持っていた。


 その時、隣通しだった頼子は椿のほうを見た。目で何かを訴えて、椿は小さく首肯した。


「智香ちゃん……。実はね――」


「私たちプロデューサーさんが大好きなんです!」


 頼子の言葉をさえぎるように美羽が衝撃発言をぶちまける。

「ええ!」


 驚きのあまり智香は掛け布団を跳ね除けて飛び起きた。


「み、みなさん、プロデューサーさんのことが好きなんですか?」


 智香以外の4人が頷いた。


「どうしよう……。みんなの気持ちも知らないでわたし……」


「みくたちは気にしてないにゃ。でも」


「でも?」


「わたしたちは同盟を組んだんです。1人がプロデューサーさんを独占するのではなく、みんなでプロデューサーさんを愛そうというものです」


 椿が理由を話してくれた。


「…どうでしょうか?智香ちゃん。わたしたちと同盟を組みませんか?」


「わたしたちの同盟を組めば、プロデューサーさんは必ず振り向いてくれます」


 椿の説明がいまひとつ分からなかったが、必ず振り向いてくれるという言葉に智香は断ることはなかった。


「うん。わたしもその同盟に入る」

 次の日。


 今日は土曜日で学校は休み。アイドルは昼からレッスンに来る。


「おはようございまーす」


 昨晩、お泊り会を行っていたため、全員そろって事務所入りしてきた。


「おはよう。昨日は楽しかったかな?」


「はい!とっても楽しかったです!」


 全員が楽しそうな表情をしているので俺もうれしかった。


「レッスンには少し早いから休んでからいくのか?」


「そうですね。プロデューサーさん。昨日のお話聞きたいですか?」


「ん?普通女子会とかの話は参加した人だけの秘密なんじゃないか?」


「いえ。楽しかったお話をプロデューサーさんにも聞いてもらいたくて」


「そうか、じゃあもう少ししたら手が空くから、少し待っててくれ」


 俺はパソコンで作っている書類を作り終わった後、みんなが座っている応接用のソファーに座る。


「それで昨日、どんな話をしたんだ?」


 5人が一度顔を見合わせて椿が口を開いた。


「実はですね。わたしたち、プロデューサーさんのことが好きになってしまったんです」


「……好きというのは、プロデューサーとしてだよな?」


「いいえ。プロデューサーさんを異性として好き、です……」


 頼子の言葉に全員が頷いた。

「俺はアイドルのみんなを好きになるわけにはいかないんだ。それは分かってほしい」


「それは『誰かと付き合うのが、みんなの迷惑になる』んじゃありませんか?」


 椿。


「ですから、わたしたち5人を好きになってしまえば、誰かの迷惑になるなんてありえなくなります!」


 美羽。


「バカな…!5人と付き合うなんて非現実的だ!それにスキャンダルになってしまえば……」


「みくたち5人と付き合ってしまえば、スキャンダルなんて無意味にゃ。四六時中いたって『アイドルの私生活が心配だ。』ですむと思うにゃ」


 みく。


「そんな簡単なわけないだろう!お前たち、どうかしてるぞ。今までずっと頑張ってきたじゃないか……」


「それは、プロデューサーさんのためです……。あなたが私たちを魅せてくれたのです。それに私たちは魅せられてしまったのです。あなたのかけてくれる魔法なら、わたしたちはかかってもいい。それがどんな魔法でも」


 頼子。


 俺は耐え切れず席を立った。頭がくらくらしてきた。信頼されているとは思っていたが、まさかこんな風に思われているとは。


 ふらついた足出歩き、目の前に人がいることに気づかなかった。


 目の前にいたのは智香だった。


「プロデューサーさん。辛そうですね。わたしが応援します!それを見たら気持ちが楽になるかもしれませんよ!」


 智香が踊り始める。元気が良く通る声だ。


「何も悩む必要はありません!私たちはあなたのことが好きなだけです!その気持ちだけ受け取っていただければいいのです!」


 ――そしてその種が、やがて芽が出るよう、『私たち』は肥料を水を与えるのです。

 エピローグ

 Dリーグの第3期が終了した。


 第3期はなんとリーグ優勝を飾り、1年でCリーグ行きの挑戦権を手にしたのだ。年間成績は全体3位。相手はかなり厳しいことになるが、それでも彼女たちならやってくれるはずだ。


「そう言えば」


 事務員さんが俺に何かを言いかける。


「最近、プロデューサーさんとアイドルの皆さんの距離が近すぎると、社長が苦言を呈していましたよ。『以前のように分を弁えてほしい。』とのことです」


「それは勘違いですよ。アイドル活動がうまく行っている。リーグ戦もこの第3期は優勝。好調でそう見えるだけです」


「……勝って冑の緒を締める。この時期が一番大事です。スキャンダルなんて起こさないようにお願いしますよ」


 分かってますよ。それだけを言って、俺はアイドルたちのレッスンの様子を見た後、彼女たちを送って直帰とホワイトボードに書いて外出した。


 レッスン場では、今日も智香たちがレッスンをしている。次の目標はCリーグ昇格。燃えないはずがなかった。


「幸せだなあ……」


 俺は彼女たちの充実した表情を見ながらそう呟いた。


 レッスンが終わると、いつものように着替えを行いみんなが帰宅の準備に入る。その間に俺はトレーナーさんと入れ替え戦までの間の最後の確認を行う。


 それが終わると、車で寮に向かう。

「今日の夕飯はカレーでーす!」


 美羽の発表にみんなが拍手と歓声を上げる。


「カレーかー。久しぶりに食べるな。俺も作ろうかな」


「Pチャン料理作れるのかにゃ!」


 みくが期待した表情で俺を見る。


「当たり前だろ。自炊してるんだからある程度出来る。カレーなんてお茶の子さいさいだ」


 帰りにスーパーでカレーの材料を買いに寄る。


「6人分だから結構量が多いよな……」


 俺は大体の量の材料をかごに入れる。隣にいるのは頼子と椿。二人ともニコニコしながらついてくる。


「プロデューサーチャン!お魚のカレーはだめだからね!」


「分かってるよ。猫アイドルが魚嫌いなんて変わってるよなあ」


 生肉コーナーで豚肉をかごに入れる。それを確認してからみくはまたどこかへと消えていった。


「プロデューサーさん。飲み物も買っておきますね!」


 かごにペットボトルのお茶を詰め込む美羽。彼女もまた笑顔だ。


「おいおい。そんなに買って誰が運ぶんだよ……」


「6人いるんです。みんなで運べば問題無しです!」


「全くしょうがないなあ……」


 美羽の親指を立てたポーズに俺は苦笑してしまう。


 レジで会計をしていると財布を出す。


「しまった。誰か五円玉持ってないか?」


「はい!どうぞ!」


 いつの間にか戻っていた智香が五円玉を差し出した。

「ありがとう」


 それを出して会計を終わらせて袋詰めは全員で行う。


「みんな手際がいいなあ」


「これも女の子の実力です」


 カートいっぱいの荷物を車につめて寮へと戻る。


 今日は頼子の部屋で晩餐会だ。荷物を彼女の部屋に運んで早速調理を行う。


「プロデューサーさん。すごいです!」


 俺の包丁捌きにアイドルたちは感嘆の声を上げてみている。


「毎日やれば上達するぞ。練習あるのみだ。レッスンと同じだろ?」


 あっという間に出来たカレーと炊き立てのご飯を一緒に盛って完成だ。


「いただきます!」


「いただきまーす!」


 みんなで出来上がったカレーを口へ運ぶ。


「美味しい!」


 口を揃えた感想に俺は頬を緩める。


「今日はどうするんですか?お帰りですか?」


 智香の質問に俺は首を振った。


「そんなわけないだろう。お前たちを淋しがらせることなんか出来ないよ」


「そうですよね!食べ終わったらお布団持ってこないといけませんね!」


 美羽が言葉を弾ませる。


「こら美羽。行儀が悪いから落ち着いて食べなさい。俺は逃げたりしないんだから」


「そ、そうですよね。あはは……」


 食事を終えて俺を含めた3人は片付け。残りの三人は布団をよりこの部屋に持ってくる。

「お布団の準備が出来ました!」


「みんな、お風呂に入ってきなさい。俺は最後でいいから」


 女子5人が風呂に行くために部屋を出て行った。この部屋に残されたのは男の俺だけだ。


「幸せだなあ……」


 俺は虚空を見上げながら呟いた。


 アイドル活動は順調。仕事も徐々に依頼されてくることが多くなり、メデイァへの出演も出てきた。事務所としても彼女たちが支えてくれるようになってきた。このまま行けば、俺が育てたアイドルたちが世間をにぎわせてくれる日も近い。


 こうして手塩にかけたアイドルが活躍してくれるのは何よりも幸せだ。


「しあわせだなあ……」


 いつからだろうか。彼女たちの幸せしか考えられなくなったのは。いつからだったろうか。


「し、あ、わ……。せ」


 難しいことを考えてしまったせいか、眠くなってしまった。まぶたが重い。


「し…あ…」


 そのまま俺の意識はなくなってしまった。


 しばらくして智香たちが戻ってきた。すでに横になっている俺を見て、


「眠ってしまいましたね……」


「全くお風呂も入らず眠るなんて不潔だにゃ!」


 みくは怒った口調だが、顔は全く怒っていなかった。むしろ笑っていた。


「でも、プロデューサーさんには清潔でいてもらいたいですし……」


 アイドルたちは眠った俺の身体を起こして服を脱がせる。裸になってしまった俺の身体を舐めはじめた。


「明日も私たちのプロデュース。お願いしますね……」

以上で完結です。…時間かかり過ぎというか、予定よりも長くなりました。

次回は、モバP「バファローズポンタ?」を書きますのでお楽しみに!

好評なら力シリーズを書くかもしれません。

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