優希「走り出す春」【咲-Saki-】 (36)


――――三月

まだまだ風は冷たいけれど、だんだんと暖かい陽が射す時間が長くなってきた

暑くなったり寒くなったりと気候が安定しないせいか、一足早く蕾が開き始めている桜の姿も見られる

春なんだな、と今更ながらに実感する……やっぱり、桜と言えば春だ

春は好きだ。 なんというか……始まる! って感じがして

新しく始まるいろいろなことや、出逢いへの期待、希望に満ち溢れていると思う

和「ゆーき? ……そろそろ行きませんか? 咲さんたちが待ってますよ?」

優希「ん……そうだな、それじゃあ……行くか!」

……だけど、出逢いの前には別れの時があるわけで

この時だけは春という季節が恨めしい……旅立ちを祝うべき時だというのは痛いほどにわかっているんだけど……

今日は、卒業式……希望がやって来る、その前に……別れの、春だ



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前回:優希「受け継いだ冬」
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騒がしい人波をかき分けつつ正門に向かう

校内は一年生から三年生まで、別れを惜しんだり、門出を祝福したり……そういう日なんだな、と改めて実感する

和「……卒業式、なんですね」

優希「うん……さっきまで式にも出席してたじゃないか、忘れたのか?」

和「むぅ……そういう意味じゃないですよ」

優希「わかってるわかってる、冗談だからむくれないでほしいじょ」

和「もう……ゆーきだって、染谷先輩が卒業するの……」

優希「うん……そりゃあ、そうだけど……」

和「…………すみません」

優希「いや、こっちこそすまん……染谷先輩が卒業するの……寂しいけど、あんまりしんみりしたくなくって」

和「ゆーきは、そういうの苦手ですもんね……私は……すみません、正直もう泣いちゃいそうです……」

優希「のどちゃんは泣き虫だからなー」

和「な、別に、泣き虫というわけでは……!」

優希「あ、いたいた! 咲ちゃーん! 京太郎! 待たせたな!」

咲「優希ちゃん、和ちゃん、遅かったね?」

京太郎「今日食堂開いてないだろ?」

優希「別にタコスを買ってたわけではないんだが……」

和「……はぁ……遅くなってすみません、少しゆっくりしすぎました……染谷先輩は……?」

咲「まだだよー」

京太郎「まあ、先輩もクラスの方でも色々あるだろうしな……どうする? 先に部室行っとくか?」

優希「んー……いや、ここで待ってようじぇ。 外出てきて誰も待ってなかったら寂しいだろ」

京太郎「……そうだな、そうすっか」


染谷先輩が来るまでは、校門の前でみんなで時間を潰すことにする……部活の先輩は染谷先輩だけだったし、会いに行く先輩も正直あまりいないったいうのはなんとなく寂しい気もする

京太郎「……卒業式って言っても、俺、あんまり知ってる先輩もいないんだよな」

咲「私も……染谷先輩の他には……紫芝先輩ぐらいかなぁ」

和「紫芝先輩には去年から竹井先輩共々お世話になっていましたから……挨拶しておかないとですね」

優希「そうだな! 私も紫芝先輩には散々お世話になったからな……タコス差し入れてもらったり、麻雀部の方も便宜を図ってくれたし、おかしもらったり、タコスおごってもらったり……」

咲「食べ物ばっかりだね……まあ、優希ちゃんすごく美味しそうに食べるから先輩の気持ちもわかるけど……」

優希「元々竹井先輩の学生議会繋がりで話すことはあったし、今年は私が部長で先輩が学生議会長だったからな。 結構話す機会も多かったんだ」

京太郎「で、見事に餌付けされたと」

優希「まあそう言うな。 お前だって私にタコスを貢いでいるだろ?」

京太郎「貢ぐっておい……まあ似たようなもんか」

和「……須賀くん、いくらそうやってゆーきの気を引こうとしてもダメですからね。 私は認めませんよ」

京太郎「へ?……いやっ! だから違うって! そういうのじゃねぇってば!」

優希「はぁ……まったく、別に照れなくてもいいんだじょ? 私ほどの美少女相手だ、夢中になっても仕方ないじぇ」

和「その通りですね。 いいですか、須賀くん? ゆーきに変なことをしたら……」

京太郎「だからしないって! つーかお前も自分でそういうこと言うか普通!?」

優希「はっはっは……それにしても、のどちゃんは相変わらず私たちの仲を疑ってるのか?」

咲「優希ちゃんがそうやってしょっちゅうネタにするからでしょ? ……というかさ」

優希「ん?」

咲「本当にそういうの無いの?」

優希「ほっほう? 心配なのか?」

咲「まさか! ……でも、もしそうなら話してほしいなって……優希ちゃんも京ちゃんも大事な友だちなんだからさ。 いいことなら隠さないでほしいかな」

優希「ま、そういう話は今んとこ無いから気にしなくていいじょ? というか、後々にも無いだろ」

咲「ふふ、そうかなあ?」



優希「そうだろ。 だって京太郎だぞ? ……そういう咲ちゃんこそそういう話は無いのか?」

咲「ないねー……というか、私ってそれこそ話す男子って京ちゃんと誠ちゃんぐらいだし」

優希「誠か……まあ、あいつは京太郎よりはましなんじゃないか? 空気読めるし背は高いし……あのガタイでてんで運動ダメなインテリ派ってのも面白いじょ?」

咲「面白いって……まあ、そうかもね」

優希「お? なんだ咲ちゃんアリな感じか?」

咲「ないってば。 京ちゃんも誠ちゃんも今更そういう感じにはならないって」

優希「そんなもんか……ねえ、のどちゃん」

和「だいたい須賀くんは……はい? どうしました、ゆーき?」

優希「のどちゃんは気になる男子とかいないの?」

京太郎「!!」

和「いないですね。 今は麻雀や……ゆーきや咲さんの方が大切ですから」

京太郎「……そんなもんか。 もったいねぇなー」

咲「あからさまにホッとしないでよ……」

優希「むしろ少しぐらいガッカリしたらどうだ?」

京太郎「はっ! ばーか、脈無いことくらいわかってんだよ!」

咲「……言ってて虚しくならない?」

優希「いっそ清々しいな……もう諦めたらどうだ?」

京太郎「うっせぇな、ほっとけよ!」

和「?」


珍しく恋バナなんかしつつ――結局誰もなにも無いという残念な感じではあるが――染谷先輩を待つ

麻雀部の部室は旧校舎にあるから、他の部活に比べて名残を惜しむのにも手間がかかるけど……その分、部外者はほとんど立ち寄らないから身内だけでじっくりと話ができる

職員室に鍵を返さないといけないからあんまり長くは居座れないだろうけど……幸いにも、麻雀部は大会で結果も出しているし、清澄の名を広めた功績からか色々と甘く見てもらっている

……部費はあんまり貰えなかったけど。 今年は夏も負けちゃったし増額は厳しそうだ……いっそ、京太郎でも学生議会に送り込むか……?

優希「…………」

京太郎「……ん? なんだよ?」

優希「いや……無いな」

京太郎「なにがだよ!? 失礼なこと考えてねぇか!?」

優希「いや、無いというよりアリっちゃアリなんだが……他に色々支障が出そうだしな」

京太郎「はぁ?」

京太郎を学生議会に……うん、これ自体は無くはない。 誠を相方にして出馬させれば……こいつはアホでスケベでどうしようもないやつだが、ノリもいいし世話焼きで、私ほどではないにせよ意外と人気者だ。 対抗にもよるけど概ね当選はできそうだ

学生議会の仕事だって、きっとやらせればある程度はこなせるだけの力はある……今だって麻雀部の運営関係の書類には手を借りているわけだし

ただ、こいつはこれで根は真面目だし、竹井先輩みたいに器用でもない。 部に議会にって頑張った挙げ句に潰れられても困る

……来年は全員で全国に行くって決めてるしな

京太郎「ん? もしかして俺を彼氏にすると和との友情にヒビが入る的な……」

優希「アホなのか? 寝言は寝て言え! 前提が片っ端から間違いだらけでツッコミきれんじょ」

京太郎「くっ……だいたいな、俺だってこう見えて意外とモテたり……」

咲「しないよね」

優希「妄想乙だじぇ」

和「どこからその自信が出てくるんですか?」

京太郎「ないの!? ほら、俺もそろそろそういう話のひとつやふたつ……クラスの女子とか後輩が須賀くんいいよねー、とか須賀先輩彼女とかいないんですか? とか言われたりしないの!?」

和「あるんですか?」

優希「まさか」

咲「聞いたことないなぁ」

京太郎「くっ……おかしい……そろそろモテ期が来てもいいはずなのに……」

和「だからどこからその自信が……?」

優希「京太郎だぞ? 根拠があるわけないだろ?」

咲「京ちゃんはなんでモテ期が来ないのかよりも、どうしてモテないのか考えた方がいいと思うよ?」


まこ「なんじゃ、あんたらはいつも通りじゃのう」

優希「染谷先輩!」

京太郎「あっ! 先輩! ちょっと聞いてくださいよ! みんなして俺を……!」

咲「それ、後にしてよ……染谷先輩、卒業おめでとうございます」

和「お待ちしてました! 卒業おめでとうございます!」

まこ「うん、ありがとな。 待たせてすまんのう……で? どうしたんじゃ?」

京太郎「こいつらが俺がモテないっていじめるんですよ!」

まこ「……ん? 京太郎ってモテるんか?」

京太郎「いや、モテないっすけど……」

まこ「ああ、そうじゃよな。 知らん間にモテるようになったんかと思って焦ったわ」

京太郎「ちょ、染谷先輩まで……ん? 焦るってアレっすか!? もしかして俺のこと……」

まこ「はっは。 んじゃ、部室に行くかのう? 寒い中待たせてすまんかったなあ」

和「いえ、気になさらないでください!」

咲「ふふ、全然気にしてませんから」

優希「一年組が先に行ってストーブ付けてるはずなんで部室はあったかいはずだじぇ!」

まこ「ほうか。 一年生たちをこれ以上待たせるのも悪いけえ、少し急ぐかのう」

京太郎「えっ、染谷先輩にまでスルーされたら俺はどうしたら……」

まこ「ほれ、行くぞ京太郎。 それとも、あんたはわしの卒業祝ってくれんのか?」

京太郎「そんなまさか! 染谷先輩、卒業おめでとうございますっ! パーっとお祝い、盛り上げますよ!」


旧校舎への、短い道のり……いつものようにみんなで笑い合いながら部室に向かって行く

……これからは、この『いつも』が無くなって、染谷先輩がこうして同じ制服を着て、同じ道を行くことはないんだと思うとやっぱり寂しくなる

優希「……染谷先輩!」

まこ「なんじゃ?」

油断するとすぐに落ち込んでいく気持ちを抑えるために、いつも通りに元気よく話しかける

……まあ、こういう風に空元気を出しても、だいたい染谷先輩にはバレちゃうんだけど

……わかっても知らんぷりしてくれる、優しい先輩なんだ

優希「結局、学校は竹井先輩と同じとこにしたんですよね?」

まこ「ああ……久んやつがうるさくってのう」

優希「染谷先輩のこと心待ちにしてると思うじぇ? 竹井先輩、染谷先輩のこと大好きだからな!」

まこ「またあいつん世話見んといけんのかと思うとちいとばかし気が滅入るがのう」

和「ふふ、同じ学校に決めたのは染谷先輩じゃないですか」

まこ「こればっかりは性分じゃな……誰かの世話焼いてる方が落ち着いてのう……あんたら四人の面倒見るのとどっちが大変かねぇ」

咲「あはは……お世話になりきってたからなにも言えないや」

京太郎「あっちの方が大変なんじゃないですか? ほら、竹井先輩は俺たちと違って振り回すタイプだし」

まこ「たしかにのう……疲れるんじゃ、久の相手すんのは……突拍子のないことばっか言うけえ、ついてくのにも一苦労じゃ」

優希「ふふっ……でもそれがいいんだろ? 手のかかる子ほどかわいいって言うじょ?」

まこ「……ま、そうじゃな。 あんたとかのう」


不意に、優しく頭を撫でられてうっかり涙が出そうになる

優希「……うぅ……染谷先輩、そーいうのやめてほしいじょ。 こっちは精一杯堪えてるって言うのにズルいじぇ」

まこ「はは、泣かされる前に泣かせてやろうと思ったんじゃがなあ」

京太郎「あーあー! ダメっすよ先輩! そういうのは部室までとっといてくださいって! 一年たちが待ってんですから!」

咲「ふふっ、優希ちゃんもフライングしたらダメだよ?」

優希「こ、こっちは元より泣くつもりはないじぇ!」

和「こういう時、ほんとは私よりもゆーきの方が弱いんですよね」

優希「そ、そんなことないじょ! のどちゃんなんか卒業式が始まる前からちょっとヤバかったじゃないか!」

和「なっ……ゆーきっ! そ、そういうのは秘密にしておいてくださいよ!」

京太郎「どっちもどっちだろ? ……去年の竹井先輩の時は優希のが早かったか」

和「そうですよ! ほら、やっぱりゆーきの方が……」

優希「あ、あの時は竹井先輩につられて……」

咲「ふふ、たしかに竹井先輩が一番だったね」

まこ「久はアレで寂しがりじゃからな……卒業で、思うところなんかありすぎるぐらいじゃったろ」

京太郎「いやいや、染谷先輩が泣かせたんじゃないですか……というか、染谷先輩も思うところがたくさんあったり?」

まこ「そりゃそうじゃろ。 わしだって、麻雀部に青春かけとったんじゃからな?」

まこ「……充実しとった。 大会こそ出んかったが、久と過ごした一年目も、あんたらと一緒に戦ったこの二年間も……」

和「染谷先輩……」

咲「ううう……」

まこ「……ふふ、あんたら涙腺緩みすぎじゃ」

和「学校来たときから危なかったんですよ……? 泣くに決まってるじゃないですかぁ……」

咲「染谷先輩には、ほんと、ずっとお世話になって……」

京太郎「ふたりとも落ち着けよ……お前らばっか泣いてちゃしょうがねぇだろ……」

まこ「……こうして泣いてもらえるんじゃから、わしの高校生活も……本当に意味があったんじゃって思えるわ」


――――――

京太郎「おう! 待たせたなっ! 染谷先輩のご登場だぞっ!」

裕子「染谷先輩、ご卒業おめでとうございます! ……えぇ……原村先輩も宮永先輩ももうボロボロじゃないですか……」

和「うぅ……堪えきれませんでした……」

咲「ごめんね……どうにも……いろいろ思い出しちゃって……」

優希「そうなんだよなぁ……つい、去年の竹井先輩が卒業したときとかも思い出しちゃって……」

和「ゆーきっ! 止まらなくなるからやめてくださいっ……!」

今年に入って麻雀部の人数も増えて、五人で竹井先輩を送り出した時とまた違って……染谷先輩も、部室に来てすぐにムロをはじめとした後輩たちに囲まれている

……のどちゃんと咲ちゃんが部室に着いた時点でボロボロ泣いてたものだから、後輩たちも釣られてしまったらしい。 みんなでお祝いしよう! なんて気合を入れて用意してたのに段取りなんてあったものじゃない

数少ない男どもも目尻に涙を浮かべていたりする……人望ってやつだよな。 来年、私もこんな風に後輩たちに泣いてもらえるのだろうか……

……いや、そんな先のことを考えるのはまだ早いか。 泣いてもらえるような自分になる努力をしよう……私は染谷先輩みたいにはなれないし、同じようにはやれないけれど……私にしかできないやり方もきっとあるはずだ

私のできるやり方で、みんなと、私たちの麻雀部を作っていけばいい……それに気づいたのは、つい最近だけど



京太郎「お、おい……お前らなあ……こう、段取りとか……いい加減落ち着いて……」

「せんぱーい!」「染谷先輩!」「卒業おめでとうございます!」「そ、そめやせんぱい……!」

京太郎「おーい……だから、ちょっと? 聞いてるか?」

咲「……もう、いいじゃない。 京ちゃんだってさ……いろいろあるでしょ?」

和「ひとりだけ平気なふりをするのはやめていいんじゃないですか?」

京太郎「……だ、だってよ、俺がしっかりしないと……お前ら麻雀以外のこととなるとボケッとしてて頼りねぇし……」

咲「いいから! ほら、我慢しないの」

京太郎「……う……そ、染谷先輩っ! 俺、俺……っ!」

まこ「だあっ……ったく、なんじゃあんたまで……しょうがない奴じゃのう……」

京太郎「俺、マジで世話になりっぱなしで……入部したときなんて麻雀なんて全然わかんなかったし……」

まこ「わかっとる……京太郎が頑張っとったのも悩んどったのも、ずっと見てきたけえね」

まこ「……ほれ、シャキッとせえ! わしが卒業して、今度はあんたが後輩たちの面倒見んといかんのじゃぞ?」

京太郎「それは、そうなんすけど……う、うう……」

まこ「落ち着かんか……そんな風にボロボロ泣いてちゃあ、みっともないけえ」

京太郎「うぅ……もう、いいっすよ、今日くらい……みっともなくたって……」


京太郎は、麻雀に触れたのは麻雀部に入ってからだった。 こいつが咲ちゃんを連れてきてからは、竹井先輩は大会に向けての準備に追われていたから……京太郎は主に染谷先輩に麻雀を教わっていたことになる

休みの日もちょくちょくRoof-topに行ってあいつなりに勉強していたとは聞いているし……みんな染谷先輩にはお世話になったけれど、京太郎は特に思い入れが強いのかもしれない

優希「……まったく、カッコつかんやつだな。 たまにはビシッと決めればいいものを……」

咲「カッコついたら京ちゃんじゃないでしょ……優希ちゃんは? いいの?」

優希「私は……うん。 あとで……少し話したいとは思ってるけど……」

和「咲さん、ゆーきは私たちに泣いてるところを見られるのが嫌なんですよ。 意地っ張りなんですから……」

優希「……のどちゃんも言うようになったな」

和「ゆーきだって私のこと散々言うんですから、お返しですっ」

べーっ、と舌を出して勝ち誇るのどちゃん……うん、かわいいから許した

咲「……それにしても、京ちゃんったら失礼しちゃうよね。 私たち、ボケッとしてて頼りないってよ?」

優希「ほんと、失礼千万だじょ。 私たちの世話まで焼いてるつもりになって……」

和「……それを言うなら、ゆーきはタコスを、咲さんも迷子になるのをどうにかしてからにしてくださいね」

咲「あぅ……そ、それは……ねえ?」

優希「うむ……なんというか……それはそれ、これはこれというかだな……」

和「もうっ……しっかりしてくださいね? ここからは、本当に……私たちが、一番の先輩になるんですから」

咲「……うん。 染谷先輩、卒業しちゃうんだもんね……ちゃんとやっていけるんだ、って……安心してもらわないと」

優希「……そうだな」

竹井先輩は、卒業してからもよく顔を出してくれていた……今も時々顔を出してくれるけれど、やっぱりその頻度は少しずつ落ちているし……

染谷先輩も顔は出してくれるだろうし、Roof-topに行けば、染谷先輩にも、それこそ竹井先輩にだっていつでも会えるけれど……

そう、やっぱり先輩たちには安心していてもらいたい……安心して、卒業してもらいたい

甘えっぱなしじゃ、いけないよな


優希「……のどちゃん、咲ちゃん」

和「はい、どうしました?」

咲「なぁに?」

優希「……これからは、ここからは……本当に、私たちの麻雀部になるんだから……」

咲「……うん、わかってる。 一緒に頑張ろうね」

和「ふふ……本当に、しっかりしないとですよ?」

優希「うん……私たちと、京太郎と……前にも言ったけど、やっぱりたくさん頼っちゃうと思うけど……」

和「ええ、一緒に作っていきましょう……私たちの、麻雀部なんですから」

咲「それで、次こそみんなで全国出場……ううん、全国優勝、だよね? 優希ちゃん」

優希「その通りっ! 私たちだけじゃなくって、男どももな! ……まあ、あいつがあんなんじゃ先が思いやられるがな」

和「まあ、いいじゃないですか今日くらいは」

咲「優希ちゃんも我慢しないで行ってくればいいのに……誰もみっともないとか、情けないとか、そんな風に思わないよ?」

優希「……わかってはいるけど……意地を張りたいとこなんだ。 私も部長だし……あいつがあの状態じゃ私がしっかりしてないとな。 上二人がボロボロってわけにもいかんだろ」

和「それじゃあ、そういうことにしておきましょうか」

咲「ふふ、そうだね」

優希「…………もう!」

咲「意地っ張りー」

和「仕方のない子ですね」

優希「むー!」

和「後輩たちも居るのに、その怒り方はちょっと子どもっぽいんじゃないですか、部長?」

優希「うぅ……意地悪なのどちゃんは嫌いだじょ」

和「あら、そうですか」

優希「……!?」

咲「えっ!?」

和「……なんですか、ふたりして?」


咲「だ、だって……ねえ?」

優希「い、今までののどちゃんだったら半泣きで『そ、そんな……ち、違うんです……ゆ、ゆーきぃ……』とか言ってたのに!」

和「なっ……わ、私だっていちいち泣いたりしませんよ! だいたい、この程度でゆーきは私のことを嫌いになったりしませんし」

咲「……それはそうだけど」

優希「くっ……! おろおろするのどちゃんがかわいかったのにもうそんな姿は見られないのか……!」

咲「ちょっと残念だね」

優希「なー」

和「な、なんなんですかその反応は! 私だって成長しているんです!」

優希「胸が?」

咲「まだ大きくなるの……? 不公平だなぁ……」

和「む、胸の話なんてしてないじゃないですか!」

優希「でも、私の見立てでは実際……」

咲「え……本当に……? おかしいよ……和ちゃん私たちの分吸い取ってない?」

優希「少しでいいから返してほしいじょ」

和「取ってませんよ! どういう仕組みですか!?」


和「むぅ……私だって、ゆーきや咲さんにばかり負担をかけたくないですし……しっかりしないとって思ってるんです。 ……これまでは、染谷先輩に甘えている部分が大きかったですから」

咲「……ちょっと考え直すと、本当にね……私も、あんまり話したりとか教えたりとか得意じゃないから……一年生のみんなにほとんどなにもしてあげられなかったし……」

優希「咲ちゃんはその分結果で引っ張ってたと思うじょ? 大活躍してる咲ちゃんに憧れてる後輩だっているんだじぇ? ……そんなこと言ったら、私だって自分のことで精一杯だったから……指導に関しては染谷先輩とのどちゃんにほとんど振っちゃったし……」

和「そうだとしても、ゆーきはその分みんなに声をかけたり……染谷先輩が私たちにしてくれていたように、しっかり面倒見てあげていたと思いますよ?」

優希「……そうかな……?」

咲「……今は、三人一緒でやっと一人前って感じかな?」

和「……つくづく、竹井先輩と染谷先輩の大きさを感じますね」

優希「うん……」

やっぱり、先輩たちはすごく大きい存在で……私だけじゃ越えられないと思う。 だけど……

優希「だけど、私たちは三人いるんだから……今は三人でやっと一人前ぐらいの仕事しかできなくても、力を合わせてそれぞれのできることをやればきっと先輩たち以上のことだってできるように……いや、できるようになるんだ。 私たちの麻雀部で……今まで以上のことができなきゃ、全国制覇なんて夢のまた夢だじょ」

和「……そうですね。 先輩たちを越えるぐらいじゃないと安心してもらえないでしょうから……三人で力を合わせて頑張りましょう」

咲「うん……あ、一応京ちゃんもいるから四人だったね」

優希「忘れてたわけじゃないじょ? ただ、今のあいつは役に立たんじょ」

和「……まだ泣いてますね」

咲「箍が外れて止まらなくなっちゃったんじゃないかな……あれで結構涙もろいとこあるし」

優希「……ま、私たち三人におまけまでいるんだ。 きっと越えられる……越えるんだ、私たちの力で……!」


のどちゃんと、咲ちゃんと、決意も新たに結束を深める

なんだかんだとふざけていたって、気持ちは一緒なんだ

ふたりは今年も個人戦で全国に行ったけれど……団体戦で敗退した悔しさは同じだ

一年生の時にみんなで立って見た、頂上の景色……決して忘れられない、あの達成感、感動……また、みんなで分かち合いたい

目を合わせれば、わざわざ言葉にしなくったって二人の考えていることなんてわかるんだ。 固い絆と、強い決意で通じあってるんだから……

優希「ふっ……」

和「ふふ」

咲「……えへへ」

誰からともなく、握った拳を軽くぶつけ合ってみたりして

……意外と、のどちゃんも咲ちゃんも熱血なところあるんだよな……あ、私のせいか?

とにかく、負けてられない……気持ちでも、麻雀でも!


優希「……よし! そろそろあっちも止めてくるか……いい加減にしないと打つ時間が無くなっちゃうじょ」

咲「そうだね……ちょっと京ちゃん、そろそろ……」

その時、遠くから鳴り響くチャイムの音……

和「……そろそろ、引き上げないとですね」

優希「……おい! 京太郎! お前がいつまでもうじうじやってるせいで打つ時間がなくなったじゃないか!」

京太郎「俺のせいかよ!? おかしくない!? 最初みんなでわいのわいのやってたじゃん!」

優希「あのさ、段取りとかさ……」

京太郎「俺が悪かったよ畜生!」

まこ「ふふ……ったく、こればっかりは仕方ないからのう……最後に部室であんたらとわいわい話せてよかったわ」

優希「染谷先輩……あの……」

まこ「そんな顔せんで……今生の別れってわけでもないけえ、また顔出させてもらうわ……んで、な?」

和「?」

まこ「最後なのに打てんかったからのう……時間あるもんだけでええから、うち来て相手してくれんかね? 久もシフト入れて待っとるしな」

咲「はい! 是非参加させてもらいます!」

和「でも……いいんですか? 同級生の方たちと集まったり……」

まこ「卒業してしばらく暇じゃからな……いつでも集まれるけえ。 でも、確実に余裕をもってあんたらと打てるのは今日ぐらいじゃろ?」

優希「……ほんとうにいいの?」

まこ「心配せんでも、わしがやりたいようにやっとるだけじゃ。 安心せえ、席料も今日はサービスしちゃるけえね」

京太郎「……ははっ、太っ腹っすね! よしっ! 打って打って打ちまくりますよ!」


まこ「ほんじゃ、時間が惜しいけぇ……早いとこ引き上げるかね……部室の鍵も返しにいかんとじゃし」

京太郎「っしゃ! お前らさっさと撤収すんぞ! 準備しろー」

「須賀先輩がボロボロ泣いてる間に準備終わってまーす」

「戸締まりオッケーっす」

「先輩早く準備してくださいよー」

京太郎「……おい、なんか俺の扱いアレじゃね? 軽くね?」

咲「そういうのって、日常の積み重ねだよね……このあと、来れない子は? 急な話だし予定があるなら……」

「全員参加です宮永先輩!」

「先輩たちと打つ機会を逃すわけには!」

咲「へへ、みんな参加だって。 なんか、うれしいよね」

京太郎「……なんか納得いかねぇー……」

和「いつまでもぐちぐちと……男らしくないですよ、須賀くん。 ほら、早くRoof-topに向かいましょう? 時間は有限ですから」

優希「そうだな! 私は鍵返してくるからみんなで先に行ってろ!」

和「そんな、待ってますよ?」

優希「学校も閉めるからそうそう迷惑もかけられないだろ? 私は自転車通学だし……どうせすぐに追いつくじょ」

咲「うん、わかったよ……それじゃ、みんな行こっか」

裕子「……あ、あの、宮永先輩、鞄……」

咲「え? ……あ! ご、ごめん、ありがとうムロちゃん……」

京太郎「しっかりしろよ、締まらねぇな……」

咲「京ちゃんに言われたくないんだけど……」

まこ「ほれ、いつまでもじゃれとらんで……んじゃ、鍵返しに行くかのう」

優希「鍵は私が返しに行くから先輩も先に行っちゃっていいじょ?」

まこ「なぁに、世話になった先生方にも最後に挨拶に行こうかと思ってのう」

優希「……そっか」


――――――

みんなといったん別れて、染谷先輩と二人で職員室に向かう

まこ「ふふ……こうしてこの制服着て学校歩くのも最後になるんかと思うとなかなか感慨深いのう」

優希「……うん」

まこ「元気ないのう……あんまりしょんぼりされると困ってまうわ」

優希「……ごめんなさい」

まこ「別れを惜しんでくれるのはうれしいんじゃがな……それで?」

優希「ん……話したら泣いちゃうなって思って……やっぱり、後輩たちにそういうとこあんま見せたくないし……」

まこ「相変わらず意地張るのう……カッコつけたくなる気持ちはわかるがね」

優希「京太郎がアレだったし、私まで無様をさらすわけにはいかなかったし……」

まこ「京太郎もカッコつけしいじゃし、あそこまで泣いてもらえるとは思わんかったわ……なかなか決まらんのはいつものことじゃがな……優希も、頑張るんじゃぞ? 先輩するのも大変じゃからなあ」

優希「それは日々感じてるじょ……染谷先輩」

まこ「うん」

優希「……いままで、お世話になりました」

まこ「……そこまでかしこまらんでもええのに」

優希「でも、本当にお世話になったから……」


きっと、染谷先輩に一番世話になったのは京太郎だ

でも……染谷先輩に一番甘えていたのは、きっと私だ

普段のことだけじゃなく……大会の時だって、私の後ろにはいつも染谷先輩が居てくれて……

どんな相手と打つときも、安心して、落ち着いて、対局に臨めた……全力で戦って、後は先輩とのどちゃんや咲ちゃんにまかせる……ずっとそんなスタイルだった

……春季の大会は、今までとは全然違った。 後ろにいる後輩が安心して打てるようにしてやらなきゃって、打つときの心構えから違う形で卓に臨まなきゃいけなくって……

先鋒というエースポジション、試合の趨勢を決める大切な第一戦……プレッシャーが今まで以上に大きくなった

部長として、先輩として頑張らなきゃって、何度も自分に言い聞かせていたのに、やっぱり勝負の場に出ると不馴れなのが出てしまって……固くなりすぎて出鼻を挫かれたりもした

その時に、自分がどれだけ先輩や仲間たちに甘えていたのかを改めて自覚して……それと同時に先輩の偉大さも改めて感じたんだ

竹井先輩はみんなを引っ張っていく強いリーダーだった

染谷先輩はみんなを安心させる優しいリーダーだった

……それじゃあ、私は?

回りに甘えてばかりだった私は、先輩たちみたいに立派になれるんだろうか……?


回りを頼るのと、甘えるのは、やっぱり違う

その事に気づけたからこそ……線引きの難しいところではあるけれど……最近は、のどちゃんや咲ちゃん、京太郎にもいろいろ相談して……

みんなで全国に行くためにも、甘えすぎないように、頼れるところは頼りながら、自分のできることは自分でしっかりやって頑張っているけど……

……私には竹井先輩ほどの強いリーダーシップはないし、染谷先輩みたいにみんなを優しく支えることはできないけれど……それでも、やっぱり二人の先輩が私の理想の先輩像だから

……わかってるんだ。 いつまでも甘えてばかりじゃいけないってことは

優希「……染谷先輩、卒業しちゃったんだよな」

まこ「そうじゃなあ……どうやらそういうことらしくてのう」

優希「ふふっ……なんでそんな他人事みたいな……」

まこ「ついさっきのことじゃしなぁ……あんま自覚が無かったんじゃが、みんながアレだけ別れを惜しんでくれたし……なんとなく、卒業したらしいなーって、のう」

優希「…………さびしくなるじょ」

まこ「……わしもじゃよ」

まこ「……だが、四月には新入生も入ってくる。 わしも、進学先でまた打ちはじめる……感傷に浸ってる暇はないけえね」

優希「うん……だから、今日だけ……今だけ……」

まこ「ん……そうじゃな……」

堪えきれなくて、それでも溢れる涙を見せたくなくって……少し前を歩いていた染谷先輩の背中に飛びつく

染谷先輩が目許を拭っている気配を感じる……本当に、本当に卒業しちゃったんだよな……

……私も、先輩に甘えてばかりだった自分から……卒業、しないと……



――――――

優希「……ごめんなさい、もう平気だじょ」

まこ「……ほうかい」

優希「うん……大丈夫」

まこ「……優希」

優希「……うん」

まこ「……あんたにな、渡したいものがあるんじゃが……」

優希「……渡したいもの?」

まこ「ああ……これ、受け取ってもらえんかのう?」

優希「あ……これ……」

くるりと振り向いた染谷先輩の手には、いつもその胸元でリボン結びにされていた三年生が着ける青のタイ

まこ「……わしも去年、久にもらってのう……また、インターハイに……一緒に連れて行って、頂点からの景色、見せてやりたかったんじゃが……」

優希「……私で、いいの?」

まこ「うん……あんたに持っててほしいんじゃ」

まこ「勝手で悪いんじゃがな……託させてほしい。 わしは、信じとる……あんたなら……あんたらなら、また頂点に立てるって」

まこ「だから……来年、こいつも一緒に連れてってくれんかのう?」

優希「…………!」


部長の……竹井先輩と、染谷先輩の……

優希「……着けてもいい?」

まこ「そうしてもらえると、うれしいのう」

恐る恐るタイを受け取り、自分の着けていた緑色のタイを解いて、受け取った青いタイを着ける

優希「……どう、かな? 似合ってる?」

まこ「うん、ええと思うよ……じゃが……」

優希「へへ……前からかわいいなって思ってたんだ……真似しちゃったじょ」

まこ「……ふふ、ほうかい」

三角タイを、胸の前でリボン結びにして……これくらいなら、お洒落の一環だし……いいよな?

優希「……私、ずっと先輩に甘えちゃってたけど……ちゃんと、ちゃんとする……から……」

まこ「……うん」

この青いタイには、二人の先輩の思いが沢山つまっていて……ずっしりと重いけれど……これを託されたことが、うれしい

私に託してくれたことが、うれしい

優希「……絶対、全国まで……全国優勝まで、一緒に連れてくから……!」

まこ「うん……うん……!」

託されたプレッシャーもあるけれど、竹井先輩と染谷先輩が一緒に戦ってくれるみたいで心強い

……甘えているわけじゃない。 ただ、私を支えてくれるものが、形になったってだけで

優希「……染谷先輩! 卒業、おめでとう! 私……みんなと一緒に頑張るから! だから……先輩も頑張って!」

まこ「うん……! ありがとう、優希……わしも、ずっと応援してるけえね」


――――――

優希「よう、姉ちゃん! 乗ってくかい?」

まこ「なんじゃそのキャラ……自転車の二人乗りは危ないから禁止じゃ」

優希「はぁーい……」

まこ「普通に追いかけても……まあ、追いつけるじゃろ。 どうせ全員揃ってわーわーやっとるんじゃからたいして先に行っとらんわ」

優希「そーだな……のんびり追いかけるとするか」

まこ「……全員揃う時間も大切じゃが……あんたとこうして二人で歩く時間も、減ってくんじゃろうしなあ……」

優希「……もう泣かないじょ? そういう時間は終わったんだ」

まこ「そいつは残念じゃねえ……ふたりきりなんじゃから、甘えてもええんじゃよ?」

優希「うぅ……これ以上甘やかされたら固い決意も揺らいじゃうじょ……染谷先輩はもっと後輩を気遣ってほしいじぇ」

まこ「はは、気遣った結果なんじゃがなあ……あんたが一番の甘えん坊じゃからのう」

優希「むぅ……ついさっき部長として、最上級生としてしっかりするって言ったばっかりなんだじょ? 染谷先輩は甘やかし禁止だ!」

まこ「ふふ、そいつは困ったのう」

いつものようにじゃれながら、いつものように言葉を交わして……最後の『いつも』を噛み締めるようにして歩いていく

染谷先輩は甘やかし上手だから困る……ああ言われるとつい甘えたくなるというか……

まこ「そもそも、あんたがかわいいからつい甘やかしたくなるんじゃがなあ……」

優希「私がかわいいのは仕方ないけどな……もう、甘やかさなくていいから……ちゃんと見てて、私のこと……みんなのこと」

まこ「……うん、わしの得意分野じゃな……ちゃんと、見てるけえね」

優希「……うん、よろしく!」


まこ「……ん、思ったよりもさらに早く見つけたのう」

優希「ほんとに全然進んでなかったじぇ……おーいっ!」

和「ゆーき、染谷先輩……結構遅かっ……あ……」

優希「ん? どうした?」

和「いえ……いいですね、それ……お洒落ですよ」

優希「あ……うん、そうだろ? ……いい、よな?」

咲「もちろん! ……ふふ、ちょっと悔しいけどね」

和「ええ……でも、ゆーきが受け継ぐのが……きっと、一番いいと思いますから」

まこ「ふふ、優希にだけじゃ不公平じゃしのう……そうじゃな、ふたりには玉子焼きのレシピでも教えたるわ」

和「えっ!? いいんですか!?」

咲「染谷先輩の玉子焼きを!?」

京太郎「えっ、なにそのテンションの上がり方……」

優希「染谷先輩の玉子焼きは絶品だじょ? 知ってるだろ?」

京太郎「そりゃそうだけどそういうことではなくてだな……いいじゃん、それ……似合ってるぜ」

優希「ん……そうだろ? 惚れたか?」

京太郎「バカ言ってんじゃねえよ! ったく……ま、俺はお前に着いてくからよ……頼むぜ、部長」

優希「……おう。 こっちこそ頼むぞ、副部長」


……のどちゃんも、咲ちゃんも、京太郎も……私を認めてくれている

染谷先輩も竹井先輩も……私に託してくれた

……後は、私が、私を認められるようになればいい

自分を認められるように、努力するだけだ

受け継いだ部長も、タイも、とっても重く感じるけれど……だからこそ甘えを捨てて、しっかりとやっていこうとも思える

吹き抜けていく強い風、青い空を雲が流れていく……太陽も顔を出して……やっぱり、春は希望に溢れる季節なんだと思う

優希「む……春一番ってやつか」

和「立春はとうに過ぎていますし適当ではない気がしますが……」

優希「そーいうものなのか?」

咲「昔と暦も違うしこういう季節の言葉って難しいよね」

優希「難しいことはわからんじょ……にしても、今日は風が強いじぇ」

舞い上がりかけたスカートを凝視している男どもを蹴り飛ばしつつ、雑談を交わしながら進む

……東から吹く強い風。 来年は、私が……この風のようになるんだ

立ち塞がる敵を吹き飛ばし、仲間の背を押してやれるような、強い風に

……四月には、マホをはじめとした新入生たちもやって来て……また、新しい風が吹き込んでくるだろう

その時、しっかりと先輩として迎え入れられるようにならないと……

まこ「……どうしたんじゃ、優希?」

優希「……ううん、いろいろ……ちょっと、考え事?」

まこ「なんで疑問系なんじゃ……」

優希「ふふっ……そうだな、今日はお祝いの日だし……私自ら腕を振るってごちそうを用意するじょ! 楽しみにしてほしいじぇ!」

まこ「ほう? そりゃあ楽しみじゃな……いったい何を作ってくれるんかのう?」

京太郎「いやーそれは聞くだけ野暮ってもんじゃないっすかね……」

和「そもそも、ゆーきのレパートリーって……」

咲「あはは……狭い中ですごく広いけどね……正直すごいと思うんだけど」


今日は、染谷先輩の門出の日だ

そして、私も、麻雀部も新しく変わっていく……始まりの日なんだ

別れは寂しいけれど……私は、一人じゃない

吹き抜ける風に背を押されながら、胸元のタイを握りしめて、希望に向かって走り出す



優希「みんな! タコス食うか? おいしいじょ!」



カン!



卒業シーズンどころか入学シーズンも過ぎちゃったけど書いてたものは仕方ないということで…


まこ「それ、もらってもええかのう?」久「自分のがあるでしょ」
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1426673919
この際去年書いた卒業ものも晒してみたり…なんでもいいから清澄ss増えろ!

増えるわけねーだろ
速報住民は主人公である咲さんスレと見りゃ荒らして過疎らせるんだから

乙です

乙です


本当このシリーズ好き

キャラを美化しすぎ
原型とどめてないじゃん

これくらいで美化と言うならまず京太郎スレにお前らは世の理を乱していると指摘してこい

ミンナ成長シタンダヨ

ご都合主義感が酷いな

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