モバマス養生訓 (56)

・このSSは、貝原益軒の「養生訓」をベースにしています。

・作者の意訳が含まれます。ご注意ください。

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養生訓 巻一 『総論』


己の体は、父母から授かったものなので、これを損なうことは孝道に反する。
つまり、長生きすることが孝行であるわけだが、養生とは一朝一夕に成るものではない。
「聖人、未病を治す」と言うように、予防に勝る治療は無い。
我慢すべき時は我慢し、適度に体を動かし、心を穏やかにすることによって、気血を滞らせないようにする。
これが長生きの秘訣である。


~○×プロダクション~


P「……」

P(今、午前六時……今日は朝一に現場入りとはいえ、早朝出勤ってやだな……)

ガチャ

P「おはようございます」

P(……って、こんな早くに誰もいないか……)

「腕を前に上げて、背伸びの運動から……」

P「……ん? これって、ラジオ体操か……?」

栗原ネネ「いち、に、さん、し、……」

P(こんな朝っぱらからラジオ体操か……よくやるよ……)

ネネ「あ、Pさん、おはようございます!」

P「おはよう。ってか、ネネっていつもこんな朝早くから出勤してるのか?」

ネネ「今日みたいに、学校がお休みの日はいつもこんな感じですね。早朝にラジオ体操すると気持ちいいですよ」

P「健康的でいいな」

ネネ「Pさんもどうですか?」

P「俺はやめとくよ。いつも寝るのは日付変わってからだし、何かないかぎりこんな早朝に出勤しないし」

ネネ「それは残念です。朝起きは三文の得と言うのですが……」


P(そういえば、この事務所って……)


洋子「ふう……日課のランニングおわりっと……」

悠貴「洋子さん、最近の私、ランニングのペースが早くなったと思いませんかっ?」

夏美「はあはあ……あ、悠貴ちゃん、私にもジュースちょうだい!」

真奈美「いいかい? 筋トレを効率良く行うには……」

智香「フレー! フレー! み・ん・な! 頑張れ! 頑張れ! み・ん・な!」

茜「さあ、皆さんで走りましょう! あの地平線にむかって!」

かな子「美味しいから大丈夫だよ」

瑞樹「アンチエイジングね? わかるわ」

ヘレン「ヘーイ!」(乾布摩擦しながら)



P(みんな健康に気をつかってるんだな……)

ネネ「おや、Pさん、なんだか元気ないですね?」

P「あ? まあ、最近仕事が立て込んでてな。おかげで睡眠時間も短いし、なかなか疲れが取れないし……
  まあ、今はスタドリでなんとかもってるけど」

ネネ「それはいけませんね。ちゃんと食べてますか? 医食同源という言葉もありますし、日々の食事が体をつくるというものですよ」

P「ぎくっ……それが、面倒臭いし時間無いし、カップ麺とかスーパーの惣菜とか」

ネネ「もう! 私たちのプロデューサーとして、それは由々しき事態です。
   これからは不肖この私が、Pさんの健康管理のプロデュースをすることにしましょう!」

P(やばっ、ネネの何かのスイッチが入ったか?)

ネネ「ではPさん、こちらへどうぞ!」

P「あ、ちょっと、やめて……」ズルズル

ネネ「……それでは、第一回、Pさんを健康にしよう、会議を始めたいと思います!」

P「は、はい……」

ネネ「まず最初にお聞きしますが、Pさんは普段どのような生活をおくっていますか?」

P「えっと、日によって変わるけど、朝は八時までに出勤して、その日の皆のスケジュール確認して、

  皆を現場まで送ったり収録の付き添いしたり、その後は夕方まで現場に行ったり営業したりとか……
  会社に帰ってからは、報告書、見積書、稟議書とかの書類作成をしてるかな」

ネネ「ふむ。ならば、普通のデスクワークのサラリーマンよりは、体を動かすことが多いということですね」

P「まあそうなのかな?」

ネネ「では、毎日の食事はどうですか?」

P「朝は早いから朝食は抜く。昼はその辺の飯屋に入ってラーメンセットとか。
  夜は接待があったら酒飲むし、それが無かったら帰宅途中にコンビニで酒とかつまみ買って帰るかな」

ネネ「はあ……」

P(いま何かすごい溜息つかれたんだけど……)

ネネ「生活習慣病まっしぐらじゃないですか」

P「面目ない」

ネネ「とは言っても、忙しいPさんに理想的な生活をしろと要求するのは無理な話です。
   ですから、できる範囲で改善していきましょう」

P「ほう?」

ネネ「Pさんって、たしか電車通勤でしたよね?」

P「うん」

ネネ「なら、普段下車している駅の、一つ手前で降りてみるのはどうでしょう?」

P「ええ~! 朝から動きたくないよ~」

ネネ「数百メートルとか、よくて1、2㎞ぐらいじゃないですか。少しでも多く歩かないと」

P「わかった……」

ネネ「それと、朝食を抜くのはよくありませんよ」

P「そう言うけどさ、よく考えたら、例えば一日に2000㎉必要だとすると、朝に飯食おうが昼に食おうが晩に食おうが、一緒じゃないか?」

ネネ「単純な足し算で言うとそうなりますが、人間の体というのはもっと複雑なものなんです!」

ネネ「Pさんの生活でいうと、朝~夕方までが一日で一番よく動く時間帯ということになりますよね?」

P「そうだな」

ネネ「つまり、その一番動く時間帯に栄養を摂取しないと、体にとっては悪影響になるわけです。
   逆に言えば、夕方から晩までは殆ど動かないわけですよね? つまり、夕飯を食べすぎると健康によくありません。
   もし食べたいなら、夕飯の分を朝食や昼食に回すといいでしょう」

P「でもさ、晩飯とか晩酌って一日のシメなわけだろ? 頑張った自分へのご褒美に、その日で一番の贅沢をしてもいいだろ」

ネネ「それが大きな落とし穴なのです。まさかPさんは、食べたり飲んだりした後にすぐに寝てないでしょうね?」

P「いや、酔っ払ったらすぐ寝るけど」

ネネ「はあ……」

P(また大きな溜息つかれたよ)

ネネ「まず、食後三時間以内に睡眠をしてはいけません」

P「えっ」

ネネ「胃に入った食べ物を消化するには、最低三時間かかります。もし食べてすぐ寝るような生活を続けると、どうなると思いますか?」

P「不健康だってのはわかるけど……」

ネネ「一番ポピュラーなのは、逆流性胃腸炎ですね」

P「その理屈で言うと、昼寝とかもダメなんじゃ……」

ネネ「一説によると、二、三十分程度のお昼寝は、胃腸の働きをよくしてくれるそうです。
   ですから、寝るとするならば、あまり横にならずに上体を起こして寝るのがいいかもしれません」

P「椅子に座ったままで、ってことか」

ネネ「次に、Pさんの食事ですが」

P「ラーメンって駄目かな?」

ネネ「ダメです。塩分過多になっちゃいますよ。特に、ラーメンとかご飯やチャーハンなどの、炭水化物×炭水化物の組み合わせは厳禁です」

P「けど、それって飲食店によくある組み合わせだろ」

ネネ「いいですか? 糖質の代謝にはチアミンという物質の量が左右されますが、これは炭水化物の量で働きが異なります。
   あまりに多くの炭水化物を摂取すると、チアミンの働きが追い付かず、糖質がいつまでも体内に残留することになります」

P「……で、どうなるの?」

ネネ「肥満の原因になるばかりか、疲労が蓄積されやくすなります。
   仕事に備えてお腹を一杯にしたつもりが、かえって体に負担をかけているわけです」

P「そんなぁ……」

ネネ「丁度良い機会ですから、食べ合わせについて、リストアップしてみましょう」


天ぷらと氷水
→水と油で胃の消化機能を阻害する。

蟹と柿
→共に体を冷やす。

胡桃と酒
→酔いが回りやすい。のぼせやすい。

スイカと酒類
→共に利尿作用がある。脱水症状を引き起こしやすい。

タコとアワビ
→消化器系に負担がかかる。

酒と薬
→薬効が強まりすぎる。

P「……普通こんな食い合わせしないだろ」

ネネ「他にもあるのですが、ちゃんと医学的根拠のあるものを挙げてみました。
   これらは、知っておくにこしたことはありません」

P「食い合わせって色々あるもんだな。酒と薬はダメってのは聞いたことあるけど」

ネネ「Pさんはいつも不摂生のようですから、これからは私がお弁当がつくってきます!」

P「ああ、ありがとう」

P(……ん? なんかさらっと重大なこと言われたような気がする)

ネネ「あと、Pさんは大人ですし、仕事上の付き合いもあるのでしょうがないですが、お酒を飲むときに是非実践してほしいことがあります」

P「なんだ?」

ネネ「それはですね、お酒を飲んだら、同じ量の水を飲んで欲しいということです」

P「腹の中タプタプになるだろ」

ネネ「お酒には利尿作用がありますから、飲んだ以上に水分が排出されると考えてください。
   つまり、お酒を飲めば飲むほどに、体は脱水症状になっちゃうんですよ」

P「飲み会でそんなことできるかどうかわからないけど、やってみるよ」

ネネ「健康云々よりも、二日酔いのPさんはつらそうでから」

P「ごめん。息も酒臭くなるしな」

ネネ「ではPさん、明日から私のプロデュースを実践してくれますか?」

P「よしわかった! 皆に迷惑かけられないし、ネネの言う通りにするよ」

P(ちょっと待てよ、この状況ってどっちがプロデューサーかわからねえな……)


~次の日~


P(さて、ネネの言う通り、いつもより一つ前の駅に降りてみたけど……)

P(……)

P(いつもと風景が違うせいか、なんだか新鮮に感じるな……)

テクテク

P(お、こんなところにおしゃれな喫茶店あるじゃないか……なになに? オーガニックカフェ?)

P(あの二人組、もしかして藍子と夕美か?)



藍子「わあ! このフルーツジュース美味しいですね」

夕美「でしょ? このカフェのジュースって、果物絞ってるだけだから、添加物とかも入ってないんだよ」

藍子「体によさそうですね……じゃあ次は、セットのケーキを……」

夕美「このケーキにはね、面白い隠し味が入ってるんだけど、藍子ちゃんにわかるかなー?」

藍子「頑張って当ててみますね」



P(へえ、藍子も夕美もこんなカフェに来るのか……ってかあの二人、ちゃんと仕事に間に合うよな?)


~事務所~


P「おはようございまーす」

ネネ「おはようございます、Pさん!」

P「おはよう。今日はネネの言う通り、一駅前で下車して歩いてきたよ」

ネネ「どうでしたか?」

P「あんまり苦にはならなかったかな。いつもと違った道を歩くのは新鮮だったよ」

ネネ「慣れてきたら、もっと距離を伸ばしてみましょう」

P「え、もっと俺を歩かせるつもり?」

ネネ「Pさんは運動不足気味なんですから、できるだけ歩数を稼がないと!」

P「ふえぇ……ネネが厳しいよぉ……」


~昼~


P「ふう、やっと昼休みだ……」

ネネ「Pさん、お弁当作ってきましたから、一緒に食べましょう」

P「ネネの弁当楽しみだったんだよ」

P(中身は大体想像つくんだよな。野菜だらけだったりとか)

ネネ「はいどうぞ」パカッ

P「おお……野菜中心だとは思ったけど、なんだか美味しそうだな」

ネネ「美味しそう、ではなく、美味しいんです!」エッヘン

P「それじゃあまずは、この野菜炒めから……」パクッ

P「……」モグモグ

ネネ「どうですか?」

P「うん、うまい! 何て言えばいいのかな? 味付けは薄めなんだけど、野菜の美味しさが全面に出てるっていうかんじがする」

ネネ「その野菜、夕美さんから頂いたものなんですよ」

P「夕美って、家庭菜園どころか自分の畑でも持ってるのか?」

P(夕美がDIYにも興味あるなら、「AIBA村」みたいな企画もよさそうだよな……)

ネネ「最近はガーデニングに熱中しすぎて、いろんな野菜作りに挑戦してるみたいですね」

ネネ「私、思うんです。よく、野菜って言えば甘い=美味しいみたいな風潮ですけど、野菜そのものの苦さ、辛さ、酸っぱさ、甘さ……
   そういったもの全て含めて美味しいって言うべきだと思います」

P「言われてみればそうだよな。トマトは酸っぱいものだし、ピーマンは苦いものなんだ。
  なんでもかんでも甘く品種改良すればいいってもんじゃないだろうし」

ネネ「すみません、ちょっと熱く語りすぎたみたいですね。さあ、次はこれを食べてみてください」

P「どれどれ……」



比奈「……」

比奈(あの二人、美○しんぼみたいな会話してるっスね。
   そのうち盆栽みたいなトマトもってきて、「これが至高のサラダだ」とか言いだしそうっス……)

P「はあ~、食った食った」

ネネ「ごちそうさまでした」

P「それにしても、野菜中心とはいえ、肉も魚も卵焼きも入ったバランスのいい弁当だったな」

ネネ「食事のバランスは大事です。ベジタリアンって人がいますけど、野菜だけだと体こわしちゃいます。要は程度の問題ということですね」

P「でもさ、この弁当作ってくるの手間だったんじゃないか?」

ネネ「Pさんのためですから。えへへ♪」

P(ネネって良いお嫁さんになるかも……)


養生訓 巻三 『飲食 上』


同じものを食べ続けることを、「五味偏勝」という。
例えば、塩辛いものを食べすぎると喉が渇く、というように、五味偏勝は健康を損ねてしまう。
だから五味をそなえているものを、少しずつ多くの種類食べるのがよい。
肉でも野菜でも、同じものを食べすぎるのはよくない。
酒は少量を嗜む程度がよい。飲みすぎはよくない。
美味しいものや珍しいものでも、腹八分目にすること。

ネネ「ではPさん、食事の後にやることがあります」

P「食ったら動け、とか?」

ネネ「それも大事ですが、食事の後にこれをやるだけで、胃の働きが良くなりますよ」

ネネ「まず顔を撫でます」スリスリ

P「こうか?」スリスリ

ネネ「次に、両手で縦と横に、お腹を撫でます。二十回程度でいいでしょう」スリスリ

P「ほう……」スリスリ

ネネ「こうすれば、胃の働きが穏やかになって、食事中に口の中にできた唾も胃にゆっくりと流れていきますよ」

P「へえ、こんなとこまで気をつかうんだな」

ネネ「それからもう一つ、“京門(けいもん)”というツボを押さえるのも良いですよ」

P「どこにあるんだ?」

ネネ「脇腹の肋骨の一番下、角にあたる部分です。ここを刺激すると、胃の病気、お腹のはり、便秘、腰痛などに効果があります」

P「えっと、ここかな?」

ネネ「違います。ここですよ、ここ」ツンツン

P「ちょっとネネ、くすぐったいって!」

ネネ「ほら、ちゃんと押さないと効果ありませんよ。ふふっ」ツンツン

P「だーかーらー、やめてって」

キャッキャ ウフフ

まゆ「……」イライラ

響子「……」イライラ

まゆ「ネネちゃんって、お料理上手なんですねぇ」

響子「Pさんのお弁当作るの、私たちの仕事だったのに」

まゆ「ここで一つ、釘を刺す必要がありませんか?」

響子「私も同じこと考えてました」

まゆ&響子「「ふふふふふ……」」


養生訓 巻五 『五官』


「千金方」にこう書いてある。

「毎食後には手をもって顔をこすり、腹を撫で、唾液を飲み下しやすくすべし。
その後、数百歩程度散歩すること。食後すぐに横になるのは、百病のもとである」


また、「医説」にはこう書いてある。

「食後、たとえ体がだるくても、すぐに寝てはいけない。
二、三百程静かに歩き、くつろいだ格好をして端座し、両手をもって腹や脇腹をに三十回撫でる。
こうすれば胃の働きがよくなり、食べ物を消化しやすくなる」


~数日後 仮眠室~


ネネ「……どうですか、最近の体の調子は?」

P「なんとなく、体が軽い気がするよ。夜もぐっすり眠れるし、次の日に疲れがたまりにくくなったかな」

ネネ「それは良かったです。それじゃあ今日は、健康マッサージをやってみましょう」

P「マッサージ? ああ、だから仮眠室に来たのか」

ネネ「これを一日一回でもやると、健康に良いらしいです」

P「どうやるんだ?」

ネネ「頭の先から足先まで、くまなく押していくんですよ。
   自分でやってもいいですし、押しにくいところは他の人にやってもらうのもいいかもしれません」


養生訓 巻五 『五官』


一日に一度、頭の先から足先まで、他人に命じてくまなく指圧させるのがよい。

頭の頂点、頭の周囲から両眉の外、眉尻、鼻柱の側面、耳の前と後ろ、項の左右を揉む。
左側は右手、右側は左手で行う。
次に両肩、肘の関節、腕、十指。
背中を押さえ、叩く。その後は腰の横と後ろを撫でる。
それが終わったら、胸、腹を何度も撫でる。
下半身は、両股、両膝、脛の表裏、くるぶし、足の甲、爪先の十指、足の裏を撫でる。
各部とも十回押す。


以上は「寿養叢書」に書いてある。
また、人にさせずに自分でやってもよい。

ネネ「……どうです、自分でもできるので、暇があったらやってみてください」モミモミ

P「……あー、なんだか体が楽になってきたような……」モミモミ

P「けどさ、肩とか背中とか自分でやりにくいよな」

ネネ「じゃあ私が揉みましょうか?」

P「べ、別にいいよ」

ネネ「まあまあ、そう遠慮なさらず」

P「じゃ、じゃお願いしようかな」

P(なんかネネに、有無を言わさない迫力がある……)

ネネ「この辺、気持ちよくないですか?」モミモミ

P「あ~、そこ、すごい気持ちいい」

ネネ「ふう……じゃあPさん、交代です」

P「へ?」

ネネ「私が揉んだんですから、Pさんも揉んでくださいよ」

P「いや、それはいろいろとまずい気がする」

ネネ「何がまずいんですか?」キョトン

P(何とも思ってないのかよ……)

ネネ「さあさあ、はやくしてください」

P「あ、うん」

P「えっと、こうかな……」モミモミ

ネネ「ひゃん!」

P「ネネ、変な声出すなよ」

ネネ「ごめんなさい……けど、とても気持ちよくて、Pさんの手、とても大きくて、暖かくて……」

P(目がとろんとしてるな……この状況は非常に危ないぞ……)モミモミ

ネネ「あんっ!」

P(廊下に声漏れてないだろうな。勘違いされそうだ……)

悠貴「あわわ……」

洋子「あれ、悠貴ちゃんどうしたの?」

悠貴「あっ、洋子さん……あの、さっきプロデューサーさんとネネさんがこの部屋の中に入っていったんですけど」

洋子「ここって……仮眠室か」

悠貴「中で何してるのかなって思って、気配を探ってたんですけど、そしたら……」



「ひゃん!」

「ネネ、変な声出すなよ」

「ごめんなさい……とても気持ちよくて、Pさんの……とても大きくて、暖かくて……」

洋子「ななな……!」

洋子「なにやってんだー!」ガチャ

P「おわっ! 洋子、それと悠貴か。いきなり開けるなよ、びっくりするじゃないか」

ネネ「あ、お二人ともおつかれさまです」

洋子(二人はベッドの上……乱れた服……上気した顔……少し荒い呼吸………
   ネネちゃんが下になって、プロデューサーが覆いかぶさるように……)

洋子「最っ低です! プロデューサー、見損ないました!」

悠貴「まさか、事務所でこんなことやってる人がいるなんて……!」

P「ち、違うんだ、これは!」

P(まずいぞ……盛大に誤解されてる!)

ネネ「ああ、今、Pさんに揉んでもらってたところです」

洋子「揉んでもらってた?」ピクッ

ネネ「Pさんって、大きくて、温かくて」

洋子「大きい? 温かい?」ワナワナ

P「おいネネ、語弊ありまくりな説明やめて……」

ネネ「最初は痛かったんですけど、だんだん気持ちよくなってきて……」

洋子「最初は痛かった? だんだん気持ちよくなってきた?」ゴゴゴゴ

ネネ「こういうのって、やっぱり人によって上手下手ってあるんですね」

悠貴「ネネさん……私と二歳しか違わないのに、もう大人の階段を上ってしまったんですね……」

洋子「自分のアイドルに手をだしてどうするんですかーっ!」

P「いやだから、これはだな……」

ネネ「あ、この際ですから、洋子さんや悠貴ちゃんもどうですか? Pさん、とっても上手ですよ」

洋子「上手とか気持ちいいとかの問題じゃなーい!」

悠貴「えっと……私にはまだ早いような……あわわ」

P「たのむから、ネネはちょっと黙ってくれ……」


養生訓 巻四 『慎色欲』


男女の交接の周期については、「千金方」にこう書いてある。

「二十歳の者は、四日に一度。三十歳の者は、八日に一度。四十歳の者は、十六日に一度。
 五十歳の者は、二十日に一度。六十歳を越えたら、もうやめた方が良い」


度を越して交接すると、寿命が短くなり、精神が色欲にまみれてしまう。
それは態度にも表れ、人から軽蔑され、恥ずかしい思いをすることになる。
回数を抑え目にし、精気を体内に保つことによって、精神と肉体の均衡が取れ、長寿を得られる。


~数か月後~


ネネ「おはようございます、Pさん」

P「おはよう、ネネ」

ネネ「ふふっ」

P「どうした?」

ネネ「最近、Pさんが前に較べて健康になってきたなーって思いまして」

P「ああ。健康って状態が、こんなにすがすがしいとは思わなかったよ。これも全て、ネネのおかげだな」

ネネ「これからも、私のプロデュース、よろしくお願いしますね」

P「まかせとけ」

ネネ「……さてPさん、健康になったからと言って、油断してはいけませんよ」

P「わかってるって。この生活を維持していくことが大切なんだろ」

ネネ「さすがですね。では、次の段階に進みましょう」

P「まだ続きがあるのか」

ネネ「いくら健康な人でも、生きている限り必ず病気になります。
   なので、今度は病気になった時のことをお教えしましょう」

ネネ「病気になったとき、病院に行きますよね」

P「うん」

ネネ「では、良いお医者さんの選び方って知ってます?」

P「いやあ、あんまり深く考えたことなかったな。風邪ひいたら、いつも家の近くの病院に行ってるし」

ネネ「“医は仁術なり”という言葉があります。良い医者とは、患者のことを第一に考えている人のことを指します。
   医療で儲けようと考えている医者は、もう掛らないほうがいいでしょう」

P「とは言っても、どうやって見分けるんだ?」

ネネ「ちょっと我儘言ってみるのはどうでしょう。
   それと、パソコンのカルテばっかり見ずに、ちゃんとこちらの目を見て話しを聞いてくれる先生が良いんじゃないか、と思います」

P「優しくて話しを聞いてくれるって、医者としてあたりまえと言えば当たり前だよな」

ネネ「悲しい話ですが、その当たり前のことができないお医者さんも、世の中にはいるみたいです。
   また、ネットや口コミで評判になり、患者の数が多くなりすぎて落ち着いて診察できなくなった、というお医者さんもいるようですね」

養生訓 巻六 『択医』


医は仁術なり。
医者という職業は、まず第一に患者のことを考えなくてはならない。
医術で儲けようなどと考えている輩は、すぐに医者をやめよ。
よく世間で、私の家は代々医者の家系で、という者がいる。しかし、子が医術に関心が無く、知識も技量も得られなければ、医者はやめさせたほうが良い。
医学に優れた者が、医者になるべきだ。

「医は意なり」と古人は言った。
広く知識を得ようとする者は良医だが、知識も得ようとせず、創意工夫もしないようなものは俗医と言える。

また、医者でなくても医術の心得をもっていたほうが良い。
自分の養生に用いることができるし、家族を看病することもできる。
日常生活で役に立つことが多いので、他の知識を差し置いてでも是非医術を学んでほしい。

P「なるほどねぇ……」

ネネ「“常に病想を作(な)す”、という言葉もありますし、健康な時ほど自分が病気になった時の苦しみを想像して、普段から用心するのも大切です」

P「病気になったら皆に迷惑かかるから、俺だけの問題じゃないんだよな。よし、これからも気を付けよう」

ネネ「あとは薬の飲み方とか、鍼やお灸の使い方とかもあるんですけど……」

P「いや、そういう専門的な知識はまた別の機会に」

ネネ「そうですか? 残念です」

ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん」

P「おはようございます、ちひろさん」

ちひろ「今日も一日、お仕事頑張りましょう。景気づけに、スタミナドリンク一本どうですか?」

P「ごめんなさい、最近体の調子が良いんで、スタドリとかは特にいらないです。仕事が立て込んだ時にでも、またお世話になりますよ」

ちひろ「そ、そうですか……」

P「これも全部、ネネが俺の健康管理してくれたおかげですよ」ナデナデ

ネネ「えへへ♪」

ちひろ(たしかに、最近プロデューサーさんの顔色良いですもんね……はっ!)

プロデューサーが健康になる

疲れにくくなる

スタドリ不要

千川ちひろの収入が減る



ちひろ(プロデューサーさんが健康になっても、このままでは私の実入りが……)

ちひろ「……あの、プロデューサーさん、今日一緒に飲みに行きませんか?」

P「どうしたんです、急に」

ちひろ「いやあ、最近プロデューサーさんと飲んでないなって思っただけです。私が奢りますよ」

P「ちひろさんの奢りだなんて珍しいな」

ちひろ(しめしめ、これでプロデューサーさんを不健康にしてくれる……)

ネネ「……」

ネネ(……ちひろさんが、こんなに積極的にPさんを食事に誘うということは、もしかしてちひろさんって、Pさんのことを……)

ネネ(確かに、Pさんとちひろさんは、私よりも歳が近いですけど……負けてられません!)

ネネ「だ、だめですよ、Pさん!」

P「そ、そうだよな。あんまり飲みすぎちゃ……」

ネネ「Pさん、今日仕事終わったら、私と一緒に食事に行きましょう!
   野菜ソムリエがいる、美味しいレストランがあるんです!」グイグイ

P「ちょっと、そんなに腕つかまなくても」

ちひろ(むう、ネネちゃん手ごわいですね……けど、私の生活がかかっているんです!)

ちひろ「まあまあ、ちょっとくらい良いじゃありませんか。お酒を我慢しすぎるのも、健康に良くないですよ。
    たまには羽目をはずさないと」グイグイ

P「ちひろさんも引っ張らないで」

ネネ(わあ! ちひろってそんなにPさんのことが好きだったんですか! 私だって!)

ネネ「羽目を外そうっていう考えが落とし穴なんです! 健康は維持してこそですよ!」グイグイ

P「いい加減、二人とも離してくれないかな。仕事ができないんだけど……」



おわり


~おまけ~


ネネ「ふむふむ、なるほど……」

春菜「ネネちゃん」

ネネ「あ、春菜さん、お疲れ様です」

春菜「勉強とは感心ですね。何を読んでいるんですか?」

ネネ「貝原益軒の、養生訓という本です。健康について、いろいろ書いてありますよ」

春菜「それなら私も読んだことあります。それにしても、貝原先生って素晴らしい人ですよねー。眼鏡の手入れについても書いてるんですから」

ネネ「えっ、そんな記述ありましたっけ?」

春菜「ちょっと貸してください……」ペラペラ

春菜「ほら、ここです」


養生訓 巻五 『五官』


「留青日札」という書物によれば、老人用の眼鏡のことを「靉靆(あいたい)」と言うらしい。
四十歳を過ぎたら、眼鏡をかけて視力を大事にしなさい。
材質は、国産の水晶製がよい。
手入れには絹や羅紗をつかい、両指で挟んで拭くこと。
硝子製は割れやすいので、おすすめしない。
硝子製の眼鏡を拭くときは、灯心を用いるとよい。

春菜「……ね?」

ネネ「本当に書いてありますね……」

春菜「というわけで、ネネちゃんもメガネどうぞ」サッ

ネネ「あ、はい……ありがとうございます……」


おしまい

・貝原益軒は、江戸時代の儒学者で、黒田藩に仕えた人物です。
 七十歳で現役を引退し、八十四歳で没するまで、数多くの書物を著しましたが、その一つが「養生訓」になります。

・養生訓は、益軒が八十三歳の時に著した書物であり、身体だけではなく精神の健康についても言及しているところが特徴と言えるでしょう。
 分かりやすい文章で書かれており、誰でも読みやすいので広く世間に広まりました。

・食事、薬、酒、喫煙、医術、鍼灸、養老など、健康に関することが事細かに記述されています。
 内容があまりにも具体的すぎるので、このSSでは詳しく書くことができませんでした。
 解説書も多く出版されているので、気になる方は読んでみてください。

・養生訓の健康法には、現代医学で健康に良いと裏付けされていることもありますが、中には眉唾なものや、
 「歯を磨いた水で目を洗う」など、逆に危険なことも書いてあるので、下調べしてから実践することをおすすめします。

以下は作者の過去作です。
日本の歴史・古典ものですが、興味のある方はどうぞ。


モバマス太平記
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モバマス五輪書 - SSまとめ速報
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