【モバマス】工藤忍「夢の先に」 (16)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

【注意】
・IF妄想です

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『アタシ、アイドルになりたいんだ』

幼い頃から願っていた夢。

テレビに映るキラキラしたあの人に目を奪われ、いつかはそれは憧れになっていた。

誰も賛成はしなかった。

でも誰もアタシを止めることはできなかった。

家を出る決心をし、鞄に無理やり荷物を詰め込む。

ただ一言、家を出る前にお母さんから言われた言葉を今でも覚えている。

『その夢を叶えた先に、忍はどうなりたいの?』

アタシはその問いから逃げるように青森から上京した。

ジリリリと鳴る目覚ましで目を覚ます。

「さっきのは......夢か」

目覚ましを止め時間を確認する。

「7時半か...そろそろ起きないと」

昔は1人で起きるのは苦手だったが今ではすっかり慣れてしまった。

「...帰ってきたんだなぁ」

今日はアタシの故郷である青森でのソロライブ、いわゆる凱旋ライブというやつだ。

チケットを渡しているから今日のライブは両親も来てくれる。

「うぅ...緊張するなぁ」

最近はユニットで活動していたので一人だと少し不安になる。

「ううん、弱気になっちゃだめだよね」

ほっぺを両手で軽くペシっと叩く。

「よしっ!緊張してもお腹はすくよね。まずは朝ごはん食べなきゃ」

パジャマから着替えて顔を洗い部屋の鍵を閉め、プロデューサーが泊まっている隣の部屋をノックする。

「おはようプロデューサーさん、もう起きてるかな?」



「リハーサルの時間までまだ時間あるしぶらぶら散歩したいな」

アタシのわがままをプロデューサーさんはすんなりと了承してくれた。

「ごはんおいしかったね。お母さんの味を思い出すよ」

辺り一面に広がる田んぼやリンゴ農家、都会とは違った空気......

「懐かしいなぁ...この感じ」

子供の頃は当たり前のように見てきた風景。

ここがアタシの育った町だ。

「いいトコでしょ?本当に大好きで、本当に大切な場所だから、いつかプロデューサーさんにも見せたいと思ってたんだ。」

ああ、そうだなとプロデューサーさんが空を眺めながら呟く。

家出のような形で上京してきたので、もしかするとあんまりいい場所ではないのかと思われてそうだと少し心配してたがそれは杞憂だったらしい。

「そろそろ時間だし戻ろうか」



本番まであと数分、リハーサルもばっちりだ。

...いよいよみんなにアタシのアイドル姿を見せることができるんだ...

アタシを育ててくれたこの町や人々に感謝の気持ちをこめて、今日は最高の恩返しをしたい。

「しっかり見ててよね!プロデューサーさんと夢を追って立つことができたこのステージで精一杯、アタシの歌と気持ちを届けてくるからね!」

プロデューサーさんに背中を押されステージへと駆け出す。

決して大きな会場とは言えないが客席はびっしりとお客さんで埋まっていた。

最初に何を言うべきか...。

アタシはこの言葉を伝えるために帰ってきたんだ。

手に持ったマイクのスイッチは入れずに今出せる最大の声でアタシは叫ぶ。

「ただいまー!!」

おかえりの返事が会場いっぱいに響き渡る。

みんなの歓迎に思わず泣きそうになるがぐっと涙を堪えてアタシは歌いだした。

そこから先はあっという間だった。

ソロ曲にMC、そして湧き上がるアンコールの歓声。

まだライブに慣れてない頃は自分のやることだけで精一杯だったが、今はまわりを見渡すくらいの余裕はある。

もちろん両親の姿も見つけることができた。

嬉しくてまた涙がこぼれそうになったその時、一人の女の子がアタシの目に映った。

キラキラした眩しい表情、アタシはこの女の子の目に見覚えがある。

「この子はアイドルに憧れていた頃の昔のアタシだ」

あのときはステージを見上げる側にいた。

あのときはアイドルに憧れる一人の平凡な少女だった。

そんなアタシが今、憧れられる側に立っている。

『その夢を叶えた先に、忍はどうなりたいの?』

あのときはただ一人のアイドルに憧れていた。

ただアイドルになることが目的であり夢であった。

でも今は違う...。

努力してもできないことはできない。

叶わないものは叶わないし成れないものには成れない。

そうかもしれないけどアタシは...。

「アタシはアイドルになりたいと思えるきっかけをくれたあの人のように...今度はアタシがみんなに頑張れるきっかけをあげるためにアイドルをやるんだ」

これが今のアタシの答え。

自惚れだって分かってるけどこれがアタシの夢の続きだ。



控え室で物思いにふけっているとコンコンとドアがノックされた。

「はーい、入っていいよー」

そこにいたのはプロデューサーさん、そしてお母さんとお父さん。

アタシはすぐに駆け出して両親に抱きつく。

溜まっていた涙が溢れかえりアタシは声を出して泣いた。

「そうだ、せっかくだから写真取ろうよ」

プロデューサーさんにカメラマン役をお願いし、アタシは両親の間に入り込んだ。

「よろしくね、プロデューサーさん」

涙でメイクが崩れてるぞとプロデューサーさんは言うけどそのままでいいよと答える。

「だってこれはアタシの汗と涙と、努力の結晶だからねっ!」



ジリリリと鳴る目覚ましで今日も目を覚ます。

「ん、朝か...準備しなきゃ」

いつもどおり学校に行く準備をしながらちらっと棚の上を見る。

いつもは1つだった写真立てが今朝は2つ。

アイドルになる前のアタシとなった後のアタシ。

こんな普通のアタシを見つけてくれたプロデューサーさんにお返しするために今日もアタシは往く。

「お母さんお父さん、それじゃあ行ってくるね」

写真に向かってそう言いながらアタシはドアを開いた。

終わりです。

工藤忍のことをあまり知らない人に読んで貰えると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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