姫王子「黒翼のハルピュイア娘……」青花エルフ「王子、姫になる」 (392)



帝国大陸 東地方の海

白い遠洋船 甲板



ザアン ザザアン



寡黙剣士 「…………」


??? 「何を見ているのですかな」


コ コ コ


??? 「噂の幽霊船でも現れましたかな」

黒僧侶 「はっはっは……!」


寡黙剣士 「…………」


黒僧侶 「はっは……」


寡黙剣士 「……見たことの無い船が、襲われている」


黒僧侶 「はっ……」

黒僧侶 「なんと……本当だ。あれは何だ、鳥か、魔物か」

黒僧侶 「い、いかん、はやく船長に報せて離れなくては……」


寡黙剣士 「魔法の大砲の準備を」

寡黙剣士 「戦える者は甲板へ集める」


黒僧侶 「何をおっしゃいます。この船には大事な使命が」


寡黙剣士 「使命ならば私にもある」

寡黙剣士 「伝声管、ひらけ……!」


ザアン ザザアン


…………




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460415492


※ほのぼのファンタジー系
 頭をからっぽにして読める系
 書き込み遅い系





超わかりやすいかもしれない
あらすじ



王子「黒翼のハルピュイア娘か……」 幼女商人「売り物ではない」
(王子「黒翼のハルピュイア娘か……」 幼女商人「売り物ではない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385809502/))

皇帝が自国の民を顧みず戦争を繰り返すようになった帝国大陸。
奴隷市でハーピィを手に入れた帝国北東地方領主の息子が、
妖精に導かれ、勇者の世直しの旅に巻き込まれる。

パーティ加入:王子/ハーピィ(非戦闘)/黒花エルフ/貝殻の勇者/ろうそく職人



貝殻の勇者 「黒翼のハルピュイア娘……」 王子 「海老を食え、海老を」
(貝殻の勇者 「黒翼のハルピュイア娘……」 王子 「海老を食え、海老を」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392002165/))

帝国大陸東の海に浮かぶ島。
帝国憲兵との接触を避け、森の中を進むことにした勇者一行は、
何やかんやあって皇帝の千里眼の一つを破壊することに成功する。

パーティ加入:馬車幽霊


王子姫「黒翼のハルピュイア娘……」 鏡の魔女 「王子の最後」
王子姫「黒翼のハルピュイア娘……」 鏡の魔女「王子の最期」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403362485/)

南東地方へ向けて船に乗り込んだ勇者一行は、出航間近にして帝国憲兵隊と交戦。
苦戦しながらも、魔法の船の乗組員クル魔エビ娘の助けによって海へ逃れることに成功する。
しかし乗り込んだ船も、竜を操る鏡の魔女と魔王軍の魔物に襲撃されてしまうのだった。

パーティ加入:ブラウニー/野生の女/ニワトコ娘(ニワトコ女)/野菜鍛冶娘/種帽子(?)
パーティ離脱:王子





波魔法少女? 「その美しい触手の魔物」

波魔法少女? 「君の、触手を従える力は、むしろ彼女のもののようだけれど」

波魔法少女? 「じゃあ君は、どこでどうやって彼女をしもべにしたのだろう」


美触手 「…………」


幼女魔王N (どどどど、どうしよう……)

幼女魔王N 「わ、わばば……」


波魔法少女? 「だが、意外だね。人型の方のしもべを呼ばないとは……」


幼女魔王N (そ、そうだわ……)

幼女魔王N 「……それっ!」


ダダダダダ


幼女魔王N は逃げ出した!




>>13 ミスごめんなさい



…………


魔法の馬車? 御者台



カラ カラ カラ カラ


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (甘ったるい、花のかおりがする)


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「なあ、王子さま」


王子 「何だ、葉巻」


葉巻エルフ 「オレとハーピィが、崖から落ちそうだとする」


王子 「………うん?」


葉巻エルフ 「もしもの話さ」




王子 「珍しいな」

王子 「毒のパイプをふかしながら、今の世の中がいかに泥にまみれているか話すことしか興味のないお前が」

王子 「もしもの話なんて」


葉巻エルフ 「……オレとハーピィが、崖から落ちそうだとして」


王子 「はいはい、聞くよ。拗ねるなよ」

王子 (どこかで聞いたことあるな)

王子 (どちらか一方しか助けられないとして、どちらを助けるかって話か)


葉巻エルフ 「お前はすでに崖の下に落ちて」

葉巻エルフ 「死んでいるとして」


王子 「……うんっ?」


葉巻エルフ 「オレとハーピィ、どっちを引きずり落とす?」


王子 「待て待て待て」





ハーピィ 「…………」


王子 「何だよ、引きずり落とすって」


葉巻エルフ 「答えろよ。オレにしては、どう答えても救いのある質問を用意してやったんだぜ」


王子 「救いが無さすぎるだろ」

王子 「選んだら死んで、選ばなかったら離れ離れじゃないか」


葉巻エルフ 「選べよ」


王子 「………」


葉巻エルフ 「…………」


王子 (葉巻。城下で違法な薬を売りさばいていたエルフの商人)

王子 (おれはこいつをはじめとした犯罪者どもを一網打尽にするため、領主の放蕩息子として近づいたが)

王子 (正義も考え方も違うのに、こいつほどしっくりくる友人はいないだろう)

王子 (そして……)


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ。両腕が黒い翼の、ハルピュイアという珍しい種族の少女)

王子 (葉巻に誘われて行った奴隷市で、不吉な淫魔の商人から譲り受けた)

王子 (流れる金髪が美しく、やることなすこと全てが愛らしい)

王子 (ハルピュイアという種族の特性により、おれが嘘をついたときにしか話さない)


ハーピィ 「……て、何でやねん」


王子「!!??」





王子 「……ハーピィ?」

王子 「いま、話して……」


ハーピィ 「普通、そこは崖の上からどっちを助けるか、やろ」

ハーピィ 「ほんま、葉巻のあねさんにはかなわんわぁ」


王子 (何ということだ。ハーピィが、流暢に話している)

王子 (はんなりと)


ハーピィ 「でも、王子さまも王子さまや」


王子 「……お、おお」

王子 (ハーピィの口から、おれの名が出るときが来るとは)


ハーピィ 「葉巻のあねさん、優しい質問してくれはってるよ」

ハーピィ 「死んでも一緒におりたい人と、離れ離れでも生きとってほしい人」

ハーピィ 「どっちを選んでも、どっちも大事に思うとるってことや」


王子 「……な、なるほど」


ハーピィ 「ちゃんと気づいてあげないかんよ」

ハーピィ 「王子さまは、王子様なんやから」

ハーピィ 「葉巻のあねさんの王子さまは、王子さまだけなんやから」

ハーピィ 「同じように、王子さまの葉巻のあねさんも、葉巻のあねさん一人だけなんやで」


王子 「……お、おう」

王子 (説教された)

王子 (はんなりと)




御者? 「……それで?」


王子 「うん?」

王子 (この馬車の御者台に、おれたち三人以外に人が乗っていたか?)


御者? 「君はどちらを選ぶのだろう」

外套者 「ともに死を歩む者として」


王子 「…………」



カラ カラ カラ カラ





王子 (死を歩む……か)

王子 (恥ずかしい言葉だ。葉巻の関係者に違いない)


外套者 「どちらを選んでも、試練はつきまとう」

外套者 「人生は旅であり、物語であり、それは葛藤なのだ」


葉巻エルフ 「さあ、どっちだ?」


ハーピィ 「どっちにするん?」


王子 「…………」

王子 (おれが決めるのか。過ぎた権利をいただいたものだなあ)


外套者 「選択がいつも正しいとは限らない。真実とも限らない」


王子 (…………)

王子 (そうか、おれは……)


外套者 「そして君は今」

外套者 「大きな真実をひとつ、奪われている」




カラ カラ カラ

カラ カラ

ガラ

ガラガラガラ


…………



魔法の船 船長室



ガラ ガラ ガラ



王子 (……何か聞こえる)

王子 (そろそろ目を開かなくては)

王子 (……気だるい。まだ眠っていたい)


モゾ モゾ


男の声 「……起きてください」

男の声 「さあ、早く」


王子 (男の声だ。聞きおぼえがある)

王子 (はて、誰だったか……ああ)


謎の声 「……馬車幽霊?」


王子? 「………?」

王子 (別の声。聞きおぼえがない。他に誰かいるのか)




男の声 「ああ、良かった。意識が戻った」

馬車幽霊 「ようですね。さあ、起きてください」

馬車幽霊 「きっと、この事態はあなたでなければ収められない」


王子 (……そうか)

王子 (たしか鏡の魔女との交戦中だった)

王子 (それでたしか、葉巻とハーピィもろとも魔女の魔法の鏡に挟まれて……)

王子 (いかん。こうしてはいられない)


ムクリ


王子? 「…………ッ」

王子 (ううむ、身体が重いな。起き上がるだけでも一苦労だ)


馬車幽霊 「おはようございます、王子どの」


謎の声 「おはよう、馬車幽霊どの」


王子 (……またあの声。しかもすぐ近くから)


謎の声 「なあ、馬車幽霊どの……」


王子 (……うん?)

王子 (この謎の声、まさかおれの声なのか)

王子? 「? ……??」


馬車幽霊 「混乱しているようですね」

馬車幽霊 「新しい身体になったのだから無理もない」


王子? 「……新しい」

姫王子 「身体?」




馬車幽霊 「まあまあまあ、落ち着いてください」


姫王子(王子) 「待て待て待て待て」

姫王子 「頼む。ちょっと、待ってくれ」


馬車幽霊 「いえ、時間が無いのです」


姫王子 「しかし、何だこれ」

姫王子 「おれの声が……高……というか、女……」

姫王子 「声が……」

姫王子 「!!!!」


ムニュ


姫王子 「胸が!!」

姫王子 「ひゃっほう!」


馬車幽霊 「落ち着いてください」




姫王子(王子) (どういうわけか、女性の身体になっている)

姫王子 「いやいや、本当に何なんだ、これは」

姫王子 (自分の声に慣れない)

姫王子 (葉巻は魔法で身体を乗り換えるとき、いつもこんな感じなのか)


馬車幽霊 「道すがら話します」


姫王子 「あ、ああ……」

姫王子 「ぅう゛っ!?」

姫王子 (吐きそうなほどひどいにおいが、鼻をついた!)


腐った幼竜の死体A 「…………」

腐った幼竜の死体B 「…………」

腐った幼竜の死体の群れ 「…………」


姫王子 (船長室にたくさんの幼竜の死体が転がっている)

姫王子 (どれも無残に腐り果てて……ひどい有様だ)

姫王子 (こんな中で、おれは寝こけていたのか)

姫王子 「……ハーピィがいない」

姫王子 「船長も、あの魔女も」

姫王子 「……葉巻も」


馬車幽霊 「それも話します」

馬車幽霊 「さあ早く、甲板へ」




魔法の船 船内城下



タ タ タ タ タ


馬車幽霊 「……鏡の魔女との交戦中、あなたは隙をつかれ」

馬車幽霊 「鏡の魔女の罠にかかってしまいました」


姫王子 「あの黒と白の魔法の鏡か」


馬車幽霊 「本来は一枚の鏡です」

馬車幽霊 「ただの魔法のアイテムではない」

馬車幽霊 「超常の存在が作り出したとしか思えない、幻のアイテムの一つ」

馬車幽霊 「名前を、真実の鏡」


姫王子 「真実の……」


馬車幽霊 「あなたはその鏡に、真実を奪われてしまったのです」




姫王子 「奪われて……こうなったと?」

姫王子 「この……鏡を見るのは色々な意味で恐ろしいけれど……女性の姿に」


馬車幽霊 「そうですが、ふむ……」

馬車幽霊 「あの魔女は真実の鏡の使いかたを、私たちより詳しく知っていたようです」

馬車幽霊 「黒と白の二つの鏡に分けて、鏡面で対象を挟むことで」

馬車幽霊 「……おそらく、凶悪な形で真実を奪い取る」


姫王子 「……?」


馬車幽霊 「何から話せば良いか……」

馬車幽霊 「まず、これをご覧ください」


ギラリ


鏡のかけら


姫王子 「……鏡の破片?」


馬車幽霊 「恐ろしい魔女の持っていた真実の鏡」

馬車幽霊 「その破片です」




馬車幽霊 「本来ならば、魔女が真実の鏡を我々の目にさらしたときに」

馬車幽霊 「私が隙をついて奪う予定でしたが」

馬車幽霊 「予想外の事態が続き、このような結果に」


姫王子 「幻のアイテムなのだろ」

姫王子 「壊れるのかい」


馬車幽霊 「あのとき鏡に挟まれたのは、王子どのだけではありませんでした」


姫王子 「……ああ」


馬車幽霊 「お嬢様とハーピィどの」

馬車幽霊 「最終的にこの二人は、真実の鏡の力が及びませんでした」

馬車幽霊 「とくに、ハーピィどのは無傷で事なきをえています」


姫王子 「その割には、二人とも姿が見えないが」


馬車幽霊 「その話はすぐ後ほど」

馬車幽霊 「……その二人のせいでしょう、真実の鏡は割れてしまったのです」

馬車幽霊 「そして魔女は鏡の本体を深くしまい、私は鏡の破片を手に入れた」




馬車幽霊 「破片は鏡そのものではありませんでしたが」

馬車幽霊 「幸い、鏡が、つまり魔女が奪ってきたであろういくらかの真実を有していました」

馬車幽霊 「その中に、王子どのの真実もあった」


姫王子 「おれの……」


馬車幽霊 「魔女が王子どのから奪ったものは」

馬車幽霊 「魂といえるべきものと、身体でした」


姫王子 「身体と……魂?」


馬車幽霊 「この場合は心とか、意識とか、そういうものだと思ってください」

馬車幽霊 「……私はどうにか、その鏡の破片から王子どのの魂を取り出しました」


姫王子 「……どうにか取り出せたのか」


馬車幽霊 「ええ、どうにか」


姫王子 「じゃあ、身体は?」


馬車幽霊 「取り出していたら、あなたは死んでいたでしょう」

馬車幽霊 「凶悪な形で奪い取られたのは、あなたの身体でした」

馬車幽霊 「誤解を恐れずに言うならば、幸運にも」




馬車幽霊 「あなたの身体はこの鏡の中に囚われたままです」

馬車幽霊 「バラバラに割られて」


姫王子 「何だと」


馬車幽霊 「本当に、その物が映った鏡ごとバラバラに割ったようでした」


姫王子 「それは……いや、ショックだな」


馬車幽霊 「そうでしょうね。あなたの苦痛を汲み取れないことを、歯がゆく思います」

馬車幽霊 「しかし、本当に幸運ではあったのです」

馬車幽霊 「バラバラにされたのが魂でなかったことは」


姫王子 「…………」





タ タ タ タ タ


馬車幽霊 「鏡に真実を奪われ倒れた王子どのは」

馬車幽霊 「程なくして今のその姿となりました」


姫王子 「ふむ」


馬車幽霊 「おそらく、鏡に奪われた真実は」

馬車幽霊 「まったく別の物にすり替わってしまうと思われます」

馬車幽霊 「つまり、もし王子どのの魂まで鏡に囚われたままだった場合」


姫王子 「ここにいるのは全くの別人で」

姫王子 「おれはこの世から消えてしまっていたということかい?」


馬車幽霊 「ええ」

馬車幽霊 「虚実ある魔女と鏡の逸話の数々を照らし合わせてみた場合」

馬車幽霊 「そうなっていたでしょう」

馬車幽霊 「王子としての身体と、王子として培ってきた経験やらを失って」

馬車幽霊 「あなたは自分のことを王子どのだと、つゆにも思わないでしょうね」


姫王子 「……ぞっとする」




馬車幽霊 「少々ややこしい経緯はありましたが」

馬車幽霊 「結果としてあなたは今、真実の鏡に身体を奪われた状態です」


姫王子 「なるほど」


馬車幽霊 「とは言え身体にも、ところどころ、王子どのの面影があります」

馬車幽霊 「もしかしたら、魂を取り戻せたことが何か作用しているのかもしれません」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「……どちらにしても、今までのおれは終わってしまったわけか……」


馬車幽霊 「落胆するのは早いようですよ」

馬車幽霊 「王子どのの身体も、こちらの手の中にある」

馬車幽霊 「……私の特技をお忘れですか?」


姫王子 「まさか」

姫王子 「思い出すだけで、貫かれた腹の底が疼くよ」


馬車幽霊 「さまざまな死体をつぎはぎして作る人に近い人形、フレッシュゴーレムの極意」

馬車幽霊 「バラバラになった一人の人間を一人の人間の形に戻すのは」

馬車幽霊 「おこがましくも容易なことなのです」


姫王子 「頼もしいね」

姫王子 「封印したのでは?」


馬車幽霊 「いまいちど、解かねばなりませんね」


姫王子 「ははは……」





姫王子 「そして、ハーピィと葉巻だ」

姫王子 「どうしておれの傍にいない」


馬車幽霊 「ご安心を」

馬車幽霊 「変わり果てたあなたに失望したわけでもない」


姫王子 「おれが心配しているのは、二人のことだ」


馬車幽霊 「ええ、もちろんですとも」

馬車幽霊 「鏡に殺されたわけでもありません」


姫王子 「では、何故」


馬車幽霊 「二人は鏡の魔女と交戦中です」


姫王子 「何だと」

姫王子 「二人が?」

姫王子 「ハーピィが?」


馬車幽霊 「お二人とも、竜を食い殺さんばかりの勢いでしたよ」


姫王子 「……急ごう」


馬車幽霊 「両手に花どころではありませんでしたね」


姫王子 「いや、葉巻は……」

姫王子 「おお、なるほど、黒花の長老エルフということか」

姫王子 「うまいね」


馬車幽霊 「いえ、そういうわけでは……」



タ タ タ タ タ






タ タ タ タ タ


姫王子 「…………」


ユサ ユサ 


姫王子 「……やっぱり走りにくいよ、この身体」

姫王子 「揺れるし、尻も、腰のあたりも変な感じだし」

姫王子 「どうして葉巻はあんな風に、自分以外の身体を使いこなせるんだ」


馬車幽霊 「慣れてください」


姫王子 「はあ……」

姫王子 「でも、すぐに元に戻れるんだろう?」

姫王子 「おれの身体をなおして、どうにかして」


馬車幽霊 「もちろん、どうにかしますとも」


姫王子 「さすが、腕利きのゴーレム職人さまだ」


馬車幽霊 「…………」


姫王子 「…………」


馬車幽霊 「…………」

馬車幽霊 「どうにか、しますとも」


姫王子 「沈黙と一言が余計なのだが」


タ タ タ タ タ






姫王子(王子)
http://i.imgur.com/uXSD22t.jpg


真実の鏡に男性としての身体を奪われた、王子の姿。
元の姿に加え、妹である王子姫の特徴もまじっている。
画像はフィクションです。



ザワザワ ザワザワ


姫王子 「……うん?」

姫王子 (そろそろ甲板に出るというところで)

姫王子 (人だかりができいている)


ザワ ザワ


軽戦士 「ああ、くそ、武器が全部だめになっちまった」


戦士 「鎧もダメだ。なおすよりも、新しいやつにした方が良さそうだ」

戦士 「向こうで売っていると良いんだが」


弓戦士 「それも、この状況を生き延びられたらだけれど」


あの教徒 「怪我をした人はいませんか!」

あの教徒 「少しですが、疲労回復の奇跡なら使えます!」


包帯戦士 「うう、ありがたい……」


ザワ ザワ



王子 (潮くさい。甲板で戦っていた連中かな?)

王子 (……見慣れた顔はないようだ)




ザワ ザワ


姫王子 「……よいしょ」

姫王子 「すまない。通してくれ……」

姫王子 「よいしょ……」

姫王子 (くそう、人が多すぎて甲板までが遠いぞ)

姫王子 (骨の仮面をしていたころは、人を避けて歩く必要はなかったのに)


馬車幽霊 「通ります。すみません、よいしょ……」


姫王子 (……馬車幽霊も、窮屈そうに人を避けているが)


馬車幽霊 「私も、さすがに人をすり抜けて移動するわけにもいきませんかれね」

馬車幽霊 「悪霊と間違われて余計な混乱を招くことになってもことです」


姫王子 「ふむ」

姫王子 (人をすり抜けることもできるのか)


馬車幽霊 「すり抜けられるというのは、気持ちの良いものでは無いようですし」


姫王子 「そうなのか」


馬車幽霊 「とくにエルフは嫌がるようです」

馬車幽霊 「お嬢様も例外ではないようで」


姫王子 (やったのか)


馬車幽霊 「スペクターやバンシー、デュラハンなど、ゴーストに近いものとの仲は」

馬車幽霊 「あまりよくないようです」

馬車幽霊 「エルフが穢れるとオークになる、という言い伝えに関係しているのかもしれません」

馬車幽霊 「私はそちらの方にはあかるくないので、即興寝物語の類ですが」


姫王子 「オークになった葉巻か」

姫王子 「……ふはははは!」


馬車幽霊 「その姿で、その笑いかたはいかがなものかと」




長髪剣士 「君、まさか甲板に向かっているのか」


姫王子 「ああ」

姫王子 「まだドラゴンというものを見ていなくてね」


ハゲ拳士 「やめたまえ、お嬢さん」


姫王子 (お嬢さん……)


ハゲ拳士 「もはやあそこに、人の居場所はないのだ」


アマゾネス 「おや、言ってくれるねえ、この紳士さまは」


ハゲ拳士 「ドラゴンに魔女たち」

ハゲ拳士 「物語や悪夢から抜け出してきたようなものの世界だ」


姫王子 「その魔女に用がある」

姫王子 (……たち?)




姫王子 「……ドラゴン。ずいぶんと激しい戦いだったようだ」

姫王子 「武具もそんなにボロボロになって」


アマゾネス 「ああ、これかい」

アマゾネス 「たしかに、鉄をぶん殴ってる感じだったけどね」


長髪剣士 「魔女のしわざさ」


姫王子 「魔女」


アマゾネス 「ああ」


長髪剣士 「そいつが現れたとたん、鉄の武器や防具が役立たずになってしまった」


ハゲ拳士 「うかつだった。悪い魔女は他者の無理解と孤独を好むと思い込んでいたが」

ハゲ拳士 「まさか、二人目の魔女が現れるとは」


姫王子 「二人目」


馬車幽霊 「悪い魔女」


ハゲ拳士 「一目にはあどけない少女だった」

ハゲ拳士 「空を舞う、どこか人ならざる少女を連れていたが、あれが使い魔というものなのだろう」


長髪剣士 「まるで、地獄から吹く風のようだったよ」


姫王子 (バランス悪いな、この二人)




姫王子 「なるほど。それでそんなに、ボロボロに……」


ハゲ拳士 「どこを見ているのだね」

ハゲ拳士 「私の武器は髪ではないぞ」


姫王子 (……まったく、何をやっているんだ、葉巻)


アマゾネス 「と、いうわけさ。諦めて引き返しな」

アマゾネス 「お上品な顔立ちのお嬢様は特にね」


姫王子 (ほう)

姫王子 「上品か。貴重な体験だ」

姫王子 「あなたのような美人にそう言われるとは」


アマゾネス 「なっ……」


ハゲ拳士 「これは冗談では無いんだ」


姫王子 「ここにいる、腕に自信のあるだろう戦士さまたちの重苦しい表情を見ていると」

姫王子 「たしかに、そのようだ」

姫王子 「……甲板にいるという仲間の姿が見えないのだけど」

姫王子 「まさか」


ハゲ拳士 「この船の乗組員の一部や魔法使いをはじめ、まだ甲板に残っているものもいる」

ハゲ拳士 「だが……」


長髪剣士 「このままでは、時間の問題だろう」

長髪剣士 「甲板に残った者の中に、勇者と噂される者残っているが」

長髪剣士 「そんなうまい話は……」


姫王子 「……そこまでか」

姫王子 「急がなくては」


アマゾネス 「お、おい。だからやめとけって」


姫王子 (失礼ながら意外と女性らしい)

姫王子 「それは無理だ。ここの全員を敵にまわすことになっても行かせてもらう」

姫王子 「守るか叩き割られるかの盾になりたいわけじゃ無いがね」

姫王子 「どうやら甲板にあるのは、おれの命や誇りより重いものばかりなんだ」




ザ ザ ザ


馬車幽霊 「お嬢様に聞かせたい言葉でしたよ」


姫王子 「仮面があればね」

姫王子 「……上品か」


馬車幽霊 「王子どのの姉君と言っても信じられそうです」


姫王子 「似ても似つかない、上品な……といったところかな」


馬車幽霊 「さきほどのようなことばかり言っていたら、どうでしょうね」

馬車幽霊 「……経験があるので?」


姫王子 「よくできた妹や親を持つと、耳にする機会は多い」

姫王子 「分厚い石壁の部屋にいても」




甲板への扉前



姫王子 「さて、行くか」


馬車幽霊 「その前に、王子どの、装備などは大丈夫でしょうか」


姫王子 「……。うん、問題ない」

姫王子 「なれない体に不安はあるが、そうも言っていられない」

姫王子 「……風呂でじっくり確認……もとい、風呂くらいには入っておきたかったな」


馬車幽霊 「ふむ」

馬車幽霊 「では、これを試してみますか」


ガチャ


海老骨の魔剣
英雄の腰当て


姫王子 「これは」

姫王子 (ク魔エビ娘を介して船長から貰った装備)

姫王子 「持ってきてくれたのか」


馬車幽霊 「強い魔力を秘めたアイテムですね」

馬車幽霊 「どのようにつくられたのか、まったく分からない」

馬車幽霊 「よってあまり勧めたくはないのですが」


姫王子 「馬車幽霊どのをもってしても分からないか……」


カチャ カチャ スチャ


姫王子 「……なんだか」

姫王子 「以前よりしっくりくる気がする」

姫王子 「もともとは女性用……だったか」





姫王子 「ふむ……」


馬車幽霊 「何かおかしなところはありませんか」


姫王子 「……いや」

姫王子 「とくにないな」


馬車幽霊 「ああ、良かった」


姫王子 「無性にズボンを脱ぎたくなったくらいかな」


馬車幽霊 「微妙に呪われているようですね」


姫王子 「腰当ての下にズボンをはいているのが」

姫王子 「とても恥ずかしいことのように思えてくる」


馬車幽霊 「別に脱いでかまいませんが」

馬車幽霊 「王子どのとしての人生は確実に最期を迎えるでしょうね」


姫王子 「それは困るな」

姫王子 「もう最期はむかえた気もするが」


馬車幽霊 「他には何かありませんか」


姫王子 「節操なくえびを茹でたい」

姫王子 「気を抜いたら、えびゆで師の力が暴れだしそうだ」

姫王子 「この剣のせいかもしれない」


馬車幽霊 「そこは判断に困りますが」



ガチャ 

キイイン


ロブスターの船 甲板


ゴオオオ

ゴオオオ


姫王子 「まるで砲弾の雨を受けたようだ」

姫王子 「腐臭もするし、幽霊船みたいだ」

姫王子 「想像以上にひどいな」


馬車幽霊 「……お嬢様はどのあたりに」


??? 「馬車幽霊さま!」


馬車幽霊 「おや、この声は」


??? 「い、いったいどうなっているのでしょうか」

ろうそく職人 「生きた心地がしないのですが!」


姫王子 (甲板室の上に、ろうそく職人がいる)

姫王子 (甲板に残った人は、皆そこに集まっているようだ)


馬車幽霊 「生きるためには必要なことです」


貝殻の勇者 「はやく、こちらへ!」


姫王子 (無事か)

姫王子 (他は……)


ヒュルルルル


ドラゴン 「…………」


ドバシャ


王子 「!!」


ザパン

グラグラグラ


ろうそく職人 「うひゃあ! 落ちるう!」


ク魔エビ娘 「おっと」


ガシ


ク魔エビ娘 「気を抜かないでくれよ。魔法使いが減るのは困るから」


姫王子 (何かが船の近くに落ちた)

姫王子 (ドラゴンのようだったが……)




馬車幽霊 「行きましょう」


姫王子 「ああ……」


ドシャ


姫王子 「!」

姫王子 (今度は甲板に)


ワイバーン 「……グルルル」


姫王子 「ドラゴン」


馬車幽霊 「腕に翼のある、いわゆるワイバーンですね」


姫王子 (船長室のトカゲじみた大きさのものとは違う)

姫王子 (なまなましくぎらつく牙と、殺しがいのありそうな分厚さ。これこそドラゴンだ)

姫王子 (傷だらけのようだ。翼も破れて……)


ワイバーン 「グルルル!」


ドシャドシャドシャ


姫王子 (四つん這いで駆けて襲いかかってきた!)

姫王子 「トカゲが往生際の悪い!」

姫王子 「ならば思い切り残酷に殺してやろう!」


ワイバーン 「ギャオオオオ゛……!」


貝殻の勇者 「……でやああああ!」


姫王子 「!」

姫王子 (勇者どのが一飛びで)


貝殻の勇者 「あああああ!」


ドシュ ズバン


ワイバーン 「!!」


ドシン


ワイバーン 「…………」


貝殻の勇者 「……ふう」


王子 (勢いにのせて、槍でドラゴンの頭を一突き)

王子 「……お見事」





名前表記ミスごめんなさい
王子→姫王子




姫王子 (やはり、モンスターには容赦ないのだな)


貝殻の勇者 「大丈夫ですか」


姫王子 「おかげさまで」


貝殻の勇者 「では、はやく甲板室の上へ」

貝殻の勇者 「今、ここで安全な場所はそこだけです」


姫王子 「それでは戦えないんじゃないか?」


貝殻の勇者 「駆けつけていただいたのはありがたいですが」

貝殻の勇者 「もうそれどころではありません」


姫王子 「なんと……」


馬車幽霊 「結界はもちそうですか」


貝殻の勇者 「ええ。幸いにも、心強い魔術師のかたが何人か残ってくださっています」

貝殻の勇者 「ろうそく職人さんも頑張ってくれています」

貝殻の勇者 「……それで、王子どのは?」


姫王子 「ああ」

姫王子 「問題ない。死んでも元気だよ」


貝殻の勇者 「?」

貝殻の勇者 「……は、はあ、そうですか」


姫王子 (……ん?)




貝殻の勇者 「魔女の本体を倒すという言葉を最後に連絡が途絶え」

貝殻の勇者 「怒り狂った黒花どのとハーピィさんだけが甲板に姿を現し、魔女が健在で」

貝殻の勇者 「もしや王子どのに何かあったのかと思いましたが」


姫王子 (連絡はとれていたのか)

姫王子 (……魔女の本体とは)


馬車幽霊 「あるにはありましたが」

馬車幽霊 「ひとまず命はつなげたと言ったところです」


貝殻の勇者 「そうですか……」


姫王子 (おお、ほっとした表情。美しいな)

姫王子 (しかし、これはもしや……)


貝殻の勇者 「こういった場であの人の存在を感じられないのが」

貝殻の勇者 「これほど頼りないことだとは思ってもみませんでしたが」

貝殻の勇者 「弱気になってはいけませんね」


姫王子 (ああ……やっぱりか)


貝殻の勇者 「……と、ごめんなさい」

貝殻の勇者 「今はこのような状況ですが、きっとあなたの剣が必要になるときが来ます」

貝殻の勇者 「それまで耐えましょう」


姫王子 「あ、うん」

姫王子 (おれのことに気づいていないな)




タ タ タ タ

ヨジリ ヨジリ


姫王子 「よいしょ……と」

姫王子 (くそ、胸の脂肪が邪魔だ)


フヨヨヨヨ フヨヨヨヨ


魔ーレラ 「…………」


クル魔エビ娘 「…………」


ろうそく職人 「ムムムム……」


魔法使いたち 「…………」


フヨヨヨ フヨヨヨ


姫王子 (魔法使いか。祈るように杖を持っている……)


ク魔エビ娘 「……やあ、来たか」


馬車幽霊 「申し訳ありません。思わぬ事態で」


ク魔エビ娘 「良いさ」

ク魔エビ娘 「まだ余裕がある」

ク魔エビ娘 「思わぬ強力な助っ人も登場したし」


悪魔紳士 「ははは……」


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (船長室にもいた二人だ)

姫王子 「ここに来ていたのか」


悪魔紳士 「はっはっ……柄にもないことばかりする日ですな」

悪魔紳士 「ねえ、可愛な黒の君?」


淫魔幼女 「……オレは女ではない」


ク魔エビ娘 「まあ、守る分にはだけどね」

ク魔エビ娘 「攻めのきっかけはいまだに掴めない」





傭兵A 「なあ、やっぱり船に戻った方が……」


傭兵B 「中に行こうが船を沈められたら終わりだ」


ガシャアン

ゴオオオ


姫王子 「!!」

姫王子 (空で大きな音が……)


ヒュルルル


姫王子 (何か落ちてくる……)


ヒュルルル……


姫王子 「……!!」


ドラゴン 「…………」


姫王子 (ドラゴンだ)

姫王子 「おい、このままじゃ……」


ロブスター 「心配ない」


ポム


姫王子 「マスターロブ……」



ヒュルルル

ドグシャ


ドラゴン 「…………」


姫王子 (落ちてきたドラゴンが、何もないところで止まった)

姫王子 (というか、かたいものに叩きつけられたみたいだ)

姫王子 「……結界か」


ロブスター 「そういうことだ」


姫王子 「……どうしておれの肩に手をまわしているんだ」




ロブスター 「女の肩に手をまわすのは、男の病気なのさ」


姫王子 「もとがおれだと知っているのでは?」


ロブスター 「はて」


貝殻の勇者 「落ちてきたドラゴンにとどめ……」

貝殻の勇者 「……は、必要なさそうですね」


ク魔エビ娘 「ああ。しかし、まいったね」

ク魔エビ娘 「手出しができないというのは」


姫王子 「いったいどうなっているんだ」

姫王子 「ここに来てからドラゴンが二匹も降ってきた」


馬車幽霊 「二人の仕業です」


姫王子 「二人……」




ク魔エビ娘 「ボクたちが必死に戦っているところに」

ク魔エビ娘 「例のひねくれた半分エルフと不思議な魔力を帯びた少女が飛び出してきて」

ク魔エビ娘 「魔女とドラゴンに襲いかかったのさ」


姫王子 (葉巻、ハーピィ……)


ク魔エビ娘 「そこからはもうメチャクチャだったよ」

ク魔エビ娘 「とくにエルフの方は、味方を巻き込むのも構わずに魔法をぶっぱなすんだ」

ク魔エビ娘 「いまボクたちを守るこの結界も、じつはあのエルフの魔法から逃れるためというのが大きい」


姫王子 「…………」

姫王子 「その二人は?」


ク魔エビ娘 「お空の上さ」




ロブスター 「いったい何者なんだ、あの二人は」

ロブスター 「ただのエルフと従者の少女にしては、少々はみ出しすぎている」


姫王子 (……おや、船長がなんだか格好よく見える)

姫王子 「そろそろ肩から手をどかしていただけないかな」

姫王子 「まあ、ただの二人じゃあ……」


ヒュルルル


姫王子 「む……」

姫王子 (また落ちてくる。だがドラゴンとは違うようだ)


ヒュルルル


鏡の魔女 「…………!」



姫王子 「あれは……鏡の」



ヒュルルル


姫王子 (鏡の魔女を追いかけるように、もうひとつ人影が……)


ヒュルルル


ハーピィ 「…………」



姫王子 「……ハーピィ」




鏡の魔女 「……小娘が……」



姫王子 (よく見ると、鏡の魔女はぼろぼろだ)

姫王子 (ハーピィのしわざなのか?)

姫王子 (いや、葉巻か……)



ハーピィ 「(#)##!%!”!」


ドギャ


鏡の魔女 「うぐっ!」



姫王子 「!!」

姫王子 (ハーピィが、勢いそのままに翼で魔女を殴った!)



ハーピィ 「”!!$#$!!」


バキョ バシ

バシ ドガ ドガ

ズガン バコン


鏡の魔女 「……! ………ッッ!」


ハーピィ 「…………!」



姫王子 (ハーピィが、魔女に猛烈な殴る蹴るの暴行を繰り返している!)

姫王子 「…………ふぅ」


フラ


ロブスター 「おっと」


ガシ


ロブスター 「どうした、急によろけて」


姫王子 「いや、一瞬気が遠く……」




ドゲシ ガシッ ガシッ

ゴギャ

ゴキン ボギャギャッ



貝殻の勇者 「ハーピィさん……」


ロブスター 「いやはや、主人の後ろに隠れた大人しい少女だと思っていたが」

ロブスター 「これほどまで苛烈に戦うとはな……」


姫王子 「違うんだ……本来は理性的で優しい、可憐な子なんだ」

姫王子 「ああっ、そんな蹴り方をしたら、公衆の面前で下着が……」


オロオロ


姫王子 「いったいどうしてしまったんだ、ハーピィ」


ロブスター 「ここに現れてからずっとそうだぞ」


姫王子 「なんだと」

姫王子 「………あ!」



ヒュルルル


ドラゴン 「グルアアア」



姫王子 (ドラゴンがハーピィ目掛けて空から突っ込んでくる)

姫王子 「いけない、ハーピィ……!」






ドラゴン 「グバアアア」


ギュイイイ


ハーピィ 「!$#$””$#$$!」


ベギャ ボギン


ドラゴン 「グゲッ!!」



姫王子 「!!!」


貝殻の勇者 「平手打ちで一撃……!」


ク魔エビ娘 「致命傷だ。あれは首の骨がイッたね」


馬車幽霊 「難なくあしらって、鏡の魔女への殴る蹴るを再開しましたね」


姫王子 「…………ふぅ」


フラ


ロブスター 「おっと。気絶癖でもついたか、我が弟子よ」




鏡の魔女 「……ええい、鬱陶しい小娘が」


キイイ バシュン

スカッ


ハーピィ 「…………」


鏡の魔女 「どういうわけだ。なぜわらわの魔法がかすりもせぬ……」


メキョ バキ

ヌチャ グチャ ベヂュッ



野生の女 「くっそー、女の子が戦ってるってのに、アタシは見守ることしかできないのか」


ニワトコ娘 「はあ、いま目の前に物語が……幸せ……」


貝殻の勇者 「ハーピィさん……。ああ、王子どのがいてくれたら……」


馬車幽霊 「……王子どの」


姫王子 「何だね」


貝殻の勇者 「なんとっ」


馬車幽霊 「ハーピィさまは暴走状態にあると思われます」


姫王子 「あれで冷静だったらおれは死ぬところだ」


馬車幽霊 「ハーピィさまと王子さまの間に、何かしら魔法的な絆、契約があるとして」

馬車幽霊 「大抵の場合、どちらかの死によって無力化されることが多いのですが」

馬車幽霊 「今回、鏡やゴーレム術など、王子どのの身に降りかかった特殊な魔法が」

馬車幽霊 「その絆に干渉し……」


姫王子 「ああなった……と」


馬車幽霊 「確信はありませんが」




姫王子 (あの商人なら、何か知っているのだろうか)


淫魔幼女 「…………」


馬車幽霊 「王子どの」


姫王子 「うん」


馬車幽霊 「誰かが彼女を元に戻せるとしたら、あなただと思われます」


姫王子 「そうか」

姫王子 「……しかし、そうだろうか」

姫王子 「このような姿になりはてた今のおれは、はたしてあの子を止められるのだろうか」


ポヨン ムチッ


馬車幽霊 「大丈夫です」

馬車幽霊 「そんなに変わっていません」


姫王子 「そうだろうか」




貝殻の勇者 「あの……その女性が王子どのとは、いったい……」


姫王子 「……まあ、やってみるか。ハーピィを元に戻せるなら……」


ロブスター 「待て、美しき弟子よ」


姫王子 「マスターロブ」

姫王子 「……なんの弟子だって?」


ロブスター 「あの子が状態異常にあるとして」

ロブスター 「ここで元に戻すのはいかがなものかな」


姫王子 「……どういうことだ」


ロブスター 「彼女のおかげで、竜の唸り声が少なくなったのも事実だ」

ロブスター 「元に戻すのは、もう少しだけ後でも構わないのではないか」


姫王子 「ありえないな」


ロブスター 「船には多くの人々が乗っている」


姫王子 「もしもハーピィが死ぬことで世界中の人々が救われるとして」

姫王子 「おれは世界中の人々を一匹残さず殺し尽くすだろう」


ロブスター 「……なるほど」

ロブスター 「勇者には向かんな」

ロブスター 「だが、それでこそ私の弟子だ」




ロブスター 「しかし、やはりお前は彼女を元に戻すべきではない」

ロブスター 「いまや、彼女は最も貴重な兵士の一人だ」


姫王子 「彼女は兵士ではない」

姫王子 「女神だ」



淫魔幼女 「……ハルピュイアだ」


悪魔紳士 「?」



姫王子 「貴重な兵士ならいるじゃないか」

姫王子 「結界の中で牙と爪を持て余している者たちが」


ロブスター 「彼女を元に戻したところで、彼らは結界から出ることはできない」


姫王子 「…………」


ロブスター 「……来るぞ」



キイイイ




キイイイ パキイイイ

ゴオオオ


姫王子 「これは……風か」


ギシ ギシ


姫王子 (船が悲鳴をあげるように軋んでいる……)



ハーピィ 「…………! っっ!」


ドガ バキ ガシ


鏡の魔女 「むぅ……っ。おのれ、調子に……」

鏡の魔女 「…………!」


ゴオオオ オオオ

グズ グズズズ


鏡の魔女 「いかん、これは……」



グズズズ ズズズズズ


王子 「なんだこれは……」

王子 「ひどいにおい……空気が腐っていくような……」


ク魔エビ娘 「みんな、絶対に結界から出るな!」

ク魔エビ娘 「今度はさらに強い魔法だ。魂も残さず腐り果てるぞ!」




ゴオオオ ギシ ギシ ギシ

ゴオオオオ


傭兵E 「うっぷ……血の海に叩き落とされたような気分だ」


シュウウ ボロ ボロロ


傭兵F 「う、うわっ、おれの剣が崩れる……」


クル魔エビ娘 「結界が破られてる……!?」


魔ーレラ 「うろたえるでない。結界を厚くする。魔力を少し強めよ」


淫魔幼女 「…………」


王子 「武器破壊の魔法……」


狩人 「……見て! 降ってくる!」



ヒュルルルル

バラ バラ バラ


竜の骨たち 「…………」


腐ったドラゴンたち 「…………」


ボトトトト

ボチャ ボチャ ボチャ

ドポン ボチャ



盗賊 「腐った竜の肉と骨だ。次々に降ってくらあ……」


僧侶 「おお、神様。なんという光景か……」


姫王子 「……葉巻」




ロブスター 「このおぞましい風が荒れ狂う中で、彼女だけが戦えている」


姫王子 「……ハーピィ」



ハーピィ 「”!$#$”!$#$”!$#$……!!」


バキ ドガ ドガ ドガ


鏡の魔女 「いかん……障壁が……」


パキ ドガ パキキ

バリィン


鏡の魔女 「……ぬぉ」


ハーピィ 「&<”!!!!~~!!」


ドゴン

グシャ


鏡の魔女 「ッッッ……ッ!!」



姫王子 (ハーピィの翼が、魔女の腹をぶち抜いた……!)




姫王子 「は、ハーピィ……」

姫王子 「やってしまったのか……?」



ハーピィ 「…………」


鏡の魔女 「………お」

鏡の魔女 「おおおおおおおおお」


ガク ガク ガク ガク


鏡の魔女 「うあああああああ……」


ピシ

パキン ビシ ビシ パキキキ


鏡の魔女 「あ…………」


バリィン



姫王子 「魔女が、割れた……?」






ろうそく職人 「やったあ!」


クル魔エビ娘 「ま、まだですようっ。集中を切らさないで……」


姫王子 「断末魔とともに、魔女が粉々に砕けた……」

姫王子 「これはいったい……」


ヒュルルル


姫王子 「……また空から」



ヒュルルルル

バサッ


仮面の竜 「…………」



姫王子 「ドラゴン。生きているやつか」

姫王子 「その首の上に……」



バサ バサ


鏡の魔女 「…………」

鏡の魔女 「おのれ、小虫どもが……!」



姫王子 「鏡の魔女……?」




ハーピィ 「…………」


鏡の魔女 「真実の鏡のかけらを奪い、可愛いしもべたちの命を奪い」

鏡の魔女 「さらに虚像とはいえ、わらわの姿を砕くとは」

鏡の魔女 「つくづく、この海はわらわを愚弄してくれる……!」



姫王子 「鏡の魔女が砕けて、すぐに空から鏡の魔女が現れた」

姫王子 「竜に乗って」


馬車幽霊 「あれこそが、船長室に現れ、あなたの命を奪った魔女です」

馬車幽霊 「ドラゴンをともなって圧倒的に現れた虚像の裏で」

馬車幽霊 「けちなコソ泥のように動いていた」


姫王子 「なるほど……」

姫王子 (なんというか、恐るべき魔女だな)


馬車幽霊 「伴ったしもべをほぼ失い、半身を失ったとは言え」

馬車幽霊 「あれは強大な魔女であることに変わりありません」

馬車幽霊 「あれの魔法がハーピィさまをとらえることはありませんでしたが」

馬車幽霊 「ハーピィさまの翼も、虚像は砕けてもあれには届きませんでした」

馬車幽霊 「いずれ決着はつくのでしょうが、それではその前に船が沈むでしょう」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「……困ったこの風を吹かす奴は、今どこにいるんだい」


馬車幽霊 「いません」


姫王子 「……はあ?」


馬車幽霊 「我を忘れているのです」

馬車幽霊 「お嬢様は今、渦巻く嵐のように、ただの猛威に成り果てています」




姫王子 「葉巻も、どうかしちまったのか」


馬車幽霊 「はい」

馬車幽霊 「抱えきれないほどの大きな虚無感と怒りに……」


ゴオオオオ

ズズズズズ


姫王子 「……!?」

姫王子 (空気が重たく潰れていくような……)


悪魔紳士 「むうっ……ははは、これはなんと禍々しい」

悪魔紳士 「少々、胸焼けがいたしますな」


淫魔幼女 「……ふむ」


魔ーレラ 「また膨れたか。エルフとは思えぬ穢らわしさよ……」

魔ーレラ 「降りてくるぞ。みな、気を抜くでないぞ」


キイイイ


ロブスター 「やれやれ。とんだ船旅になったな」


姫王子 (……降りてくる)


ズズズズズ

ズズズズズ


??? 「…………」

血の首の化物 「…………」


ズ ズ ズ ズ


姫王子 「…………」

姫王子 (血が滴る、蛇、いや、ドラゴンの首が絡まりあったような塊……?)

姫王子 (……の、上に、どす黒い少女が生えている)


血の首の化物 「………ぐ」

血の首の化物 「がら゛る゛ぁあああ゛あ゛!!」


ゴオオオ

ズズズズ

ギシ ギシ ギシ




ズシ

グズズズ ブシュウ


隻眼射手 「ううっ、義眼がうずく……」


格闘家 「うおわああ!?」

格闘家 「お、おれの髪が抜け……!」


槍傭兵 「あれ、何か男が魅力的に見えてきた……」


盾兵 「くそっ、耐魔の鎧が黒ずんでいく。腐っていくみたいだ……!」


ゴオオオ

ブス グシュウ


血の首の化物 「る゛ら゛ああああああ゛……!」


ゴオオオオ

グズズズ


姫王子 「……葉巻なのか?」


馬車幽霊 「そう見えるのならば、ええ」


姫王子 「何をやっているんだ、馬鹿……」


ゴオオオオ

ズズズズズ


魔ーレラ 「これほどの……これはまるで……」

魔ーレラ 「ク魔よ、蒸気杖をもて」


クル魔エビ娘 「! 魔ーレラ婆さま……!」


ク魔エビ娘 「良いのかい」

ク魔エビ娘 「忌まわしい力に頼っても?」


魔ーレラ 「なりふりかまっていられんよ」

魔ーレラ 「相手は、魔の領域にさえあってはならん力なのだ」


ク魔エビ娘 「へえ……」


淫魔幼女 「…………」


全然関係無かったら申し訳ないんだけど、エルフ「私の前に道はない 私の後ろに道は出来る」の作者だったりしないよね?



淫魔幼女 「…………」


猫耳の札


淫魔幼女 「…………」


ヒラ キイイイ


魔ーレラ 「……む?」


クル魔エビ娘 「結界が安定した……」


淫魔幼女 「……結界としては効果が無いが、結界を強める札だ」

淫魔幼女 「式を問わずほとんどの結界に使えるということだが」

淫魔幼女 「どうやら、この結界にも効くようだ」


悪魔紳士 「ほう、これはこれは」


ろうそく職人 「やった! 楽ができる!」


半熟魔法使い 「はあ、助かったあ……」


魔法使いA 「こらっ、集中を切らすな、そこ!」


クル魔エビ娘 「呪符使い……珍しい」

クル魔エビ娘 「それにこのような呪符は、見たことありません……」


淫魔幼女 「がっかりさせるようで悪いが、おれは旅の商人だ」

淫魔幼女 「旅をしていれば、そのようなものも見つかる」

淫魔幼女 「珍しいものだから、できれば使いたくはなかったが」


魔ーレラ 「ありがたいことに変わりない」

魔ーレラ 「これで何とかもつじゃろ」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「いやはや」

悪魔紳士 「これは、先を越されてしまいましたな」

悪魔紳士 「黒いお嬢さん」


ボソ


淫魔幼女 「……オレは男だ」


>>85
ごめんなさい、違いますごめんなさい
私がそのスレタイで立てたら
旅のエルフが行く先々でいろんな物を排泄もとい撒き散らかしていくクソみたいな話になるから違いますごめんなさい




ドラゴンA 「グオォオン……!」


腐ったドラゴン 「…………」


ボト ボト ボト


鏡の魔女 「御所車、松葉崩し……!」

鏡の魔女 「おのれ、忌々しき湖のエルフの残り香が……」


ハーピィ 「#”%$!」


鏡の魔女 「……!」

鏡の魔女 「ええい、邪魔な。いくらやろうとも貴様の腕は届きはせぬ……!」


血の首の化物 「あああああ゛!!」


ゴオオオ グズズズズ


姫王子 「……葉巻」




血の首の化物 「死、ね゛ええええ゛!!」


ゴオオオ



馬車幽霊 「お嬢様、なんと愚弱な」

馬車幽霊 「手当たりしだいに呪いと血を、おのれの命すら貪って」

馬車幽霊 「ご自分の覚悟すらお忘れになられたか……」


姫王子 「……出るぞ」


チャキ


馬車幽霊 「お待ちください」

馬車幽霊 「いかにあなたといえど、そのまま結界の外に出たら無駄死にです」


姫王子 「だとしてもだ」


馬車幽霊 「落ち着いてください」

馬車幽霊 「あなたが本当に死んでしまっては、お嬢さまは戻れなくなるでしょう」


姫王子 「落ち着いてなど……」

姫王子 「戻れるの?」


馬車幽霊 「戻さねばなりません」

馬車幽霊 「お嬢さまなくして、魔王の驚異は退けられないのです」


姫王子 (それもそうか。勇者でもないくせに)

姫王子 「まあ、いまやあいつが魔王みたいな見た目だが」

姫王子 「では、どうやって戻す」

姫王子 「あのこんがらがった首を切り落とすとか?」


馬車幽霊 「力をそぎ落とすのは良いでしょう」

馬車幽霊 「一大国の総力をもって休みなく戦えば、可能かもしれません」


姫王子 「なんだと……」


馬車幽霊 「王子どの、だからあなたなのです」

馬車幽霊 「ハーピィさまを戻せるのがあなただけであるように」

馬車幽霊 「お嬢さまを元に戻せるのは、必ずやあなただけなのです」




姫王子 「おれだけ……まあ、あいつ、おれ以外に友だちいなさそうだものな……」


馬車幽霊 「このために、魔力を温存してきました」

馬車幽霊 「お嬢さまの代わりとしては不足でしょうが、私が援護します」

馬車幽霊 「お嬢さまと向き合い、正気に戻してください」


姫王子 「……あれに近づくのか」

姫王子 「地獄の大釜に顔つっこむようなもんだな」

姫王子 「女三人の修羅場など……」


馬車幽霊 「この風さえやめば、甲板室や船内の戦力を活かせます」

馬車幽霊 「敵の数が減った今なら、押し切ることができるでしょう」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「しかし、どうだろうか」

姫王子 「このような姿になりはてた今のおれの言葉は、はたして葉巻に届くのだろうか」


プリン ムチッ


馬車幽霊 「大丈夫です」

馬車幽霊 「そんなに変わっていません」


姫王子 「どうだろうか」




チャキ カチャ


姫王子 「館で手に入れた魔法の剣と、ここで手に入れた海老骨の剣」

姫王子 「双剣の心得はあるにはあるが、自然の声を聞きながらは初めてかな」


貝殻の勇者 「ええと、王子どの?」


姫王子 「ああ」

姫王子 「詳しい説明はあとでするよ、勇者どの」


貝殻の勇者 「そっ、それは良いのですが」

貝殻の勇者 「申し訳ありません、このようなときに役に立てず」

貝殻の勇者 「私やろうそく職人さんの言葉では駄目でした」

貝殻の勇者 「どうか、黒花どのをよろしくお願いします」


姫王子 「結界から飛び出し、おれを助けてくれたことは忘れない」

姫王子 「まかせておいてくれ」


馬車幽霊 「王子どのを魔法の壁で囲みます」

馬車幽霊 「ある程度自由に動いて結構ですが、あまり無理はなさらぬよう」


姫王子 「うん」

姫王子 「では、行くぞ」




…………


ゴオオオオ

ギシ ギシ ギシ



姫王子 (暗い、重い)

姫王子 (馬車幽霊の壁がなければ、押しつぶされそうだ)

姫王子 「……ひどいにおいだ」



ハーピィ 「…………!」


鏡の魔女 「…………!」


バサ カキィン

ヒュン ヒュン



姫王子 (そんな中でも、ハーピィは平気で戦っている)

姫王子 (空を自在に飛び回って)


ゴオオオ


姫王子 (……ハーピィが魔女とドラゴンを抑えている今のうちに動きたいが、さて)

姫王子 (葉巻を元に戻すといっても、どうするか)

姫王子 (説得するとして、おれの言葉をすんなり受け入れるとも思えん)

姫王子 (というか、言葉が通じる気もしない)


血の首の化物 「うがああああ゛あ゛」


ゴオオオオ ヒュゴオオオ


姫王子 「届かないところに浮いているし」

姫王子 「……帆桁を利用してみるか?」


馬車幽霊 「壁で足場をつくります」


姫王子 「ありがたい」




キイン シュタ

キイン シュタ


姫王子 「よっ……ほっ……」

姫王子 「はは、見えない階段か」

姫王子 「下を見ると目眩がしそうだ」


馬車幽霊 「踏み外しても大丈夫ですよ」

馬車幽霊 「ちゃんとそこに足場を足しますので」


姫王子 「頼もしいことだ」


シュタ シュタ


姫王子 「さて、そろそろ黒花さまとご対面かな」


グニョル グニョル


姫王子 (葉巻の下半身……ドラゴンの首たちが生々しく蠢いている)

姫王子 (……やはり血だ。血のにおいだ)

姫王子 (これは、血によって他者の体を渡り歩く葉巻の力が作用しているのだろうな)


血の生首A 「…………」


ギョロ


姫王子 「!!」

姫王子 「おい、このドラゴンの首生きて……」


血の生首B 「…………」


血の生首C 「…………」


血の生首たち 「…………」


ギョロ ギョロ ギョロ……


姫王子 「おいおいおいおい……」




姫王子 「どうする、斬るか?」

姫王子 「斬り殺して良いのか? 喜んで斬るが」


馬車幽霊 「いえ、その必要はなさそうです」


血の生首C 「……ォォ」


血の生首D 「……グ゙ュルル」


グニョル グニョル


姫王子 「……苦しそうだ」


馬車幽霊 「お嬢様の呪いによって魂ごと縛り付けられているのでしょう」

馬車幽霊 「それぞれの魂の記憶を宿したままひとつに圧縮され、そして、魔法の養分にされている」


姫王子 「養分……おぞましいな」

姫王子 「いよいよ化物じゃないか」

姫王子 「……む」


グニュル ボコ ボコ


姫王子 (生首たちの表面で、血が波打って……)


ズルン


血の首の化物 「…………」


姫王子 「血まみれの少女が生えた」

姫王子 「……その崩れ方。自分まで腐らせているのか」

姫王子 「なんという有様だ、葉巻」


血の首の化物 「…………」

血の首の化物 「カハアアア……!」




キイイイイ


姫王子 「………!」

姫王子 (魔法! いかん、距離を……)


血の首の化物 「ル゛ラ゛ァアアアア゛!!」


ゴオオオ


姫王子 「………!」


バリン バリン バリン

ガシャン


姫王子 「……魔法の壁の重ねがけか」


馬車幽霊 「すぐに修復します」

馬車幽霊 「はやく説得を」


血の首の化物 「死、ね゛ッ! ぜんぶ……死゛……!」


姫王子 「これ相手にか」

姫王子 「無茶を言う」




姫王子 「おい、葉巻!」

姫王子 「聞こえるか、葉巻エルフ、黒花エルフ!」


血の首の化物 「う゛る゛さい゛、雌の肉豚゛!」


姫王子 「ばっさりか」


ブンッ


姫王子 (殴りかかってきた)


ガシャン バリン


馬車幽霊 「この程度の攻撃にも魔力を込めて……」

馬車幽霊 「このままでは、本当にいけません」


姫王子 「葉巻、違う。聞け」

姫王子 「おれだ、おれおれ」


馬車幽霊 「詐欺師か何かですか」


血の首の化物 「ら゛あぁああああ゛!!!」


ブン ブオン ブン

ガシャン バリン ガシャン


姫王子 「くそっ。こんな哀れなものが、あの葉巻なのか」


ガシャン バリン バキン


姫王子 「おい、聞け、葉巻! 正気に戻れ!」


血の首の化物 「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」

血の首の化物 「こんな残りカスみ゛たいなゴミだめ、みん゛な……!」


ガシャン バリン バリン


姫王子 「おれのことも目に入らんか! おれだ!」

姫王子 「王子だ!」


血の首の化物 「………!!」


ピタ




血の首の化物 「…………」


姫王子 (魔法の壁を殴っていた葉巻の動きが止まった……)

姫王子 「……葉巻」


血の首の化物 「……王子」

血の首の化物 「…………?」


姫王子 「ああ、そうだ……」


馬車幽霊 「…………」


血の首の化物 「…………」


ジロ ジロ ジロ


姫王子 (いろいろな角度からおれを見ている)


血の首の化物 「……王子の服を着ている」


姫王子 「ああ。けっこう傷んじまった」

姫王子 「ほ、ほら、見ろ、お前にもらった首巻きは綺麗なままだぞ」


血の首の化物 「……首巻き」

血の首の化物 「王子に渡した」

血の首の化物 「この世で、王子しか持っていないものだ」


姫王子 「ああ、そうだ」

姫王子 「なんだったらお前から貰った仮面もつけてやる。割れちまったが」


血の首の化物 「……王子」

血の首の化物 「王子」


姫王子 「ああ、そうだ。おれだ」


血の首の化物 「……胸がでかい」

血の首の化物 「だれだきさま」


姫王子・馬車幽霊 「おぅ……」




血の首の化物 「王子の服を盗んだな、このコソ泥」

血の首の化物 「大事な首巻きまでつけてノコノコ現れるなんて……」

血の首の化物 「殺してやる!!」


ガツン

ガシャン バリィン


馬車幽霊 「……くっ。拳に付与した魔法が強くなっている!」

馬車幽霊 「魔法の壁を厚くしなくては……」


姫王子 「くそ、何か巻いていれば良かったか……!」


血の首の化物 「うがああああ゛!」


ガシャン ガシャン


馬車幽霊 「王子どの、説得を続けてください!」


姫王子 「……待て、葉巻! 聞け!」

姫王子 「おれの胸はもともとこんな感じだ!」


血の首の化物 「嘘だ!」


姫王子 「ああ」


血の首の化物 「うがあああ!」


ガシャン ガシャン


姫王子 (しまった。嘘をつかない暮らしに、思いのほか馴染んでしまっていた)

姫王子 「……くそ。ほかに打つ手はないのか……!」





ガシャン ガシャン


姫王子 (何か……葉巻を元に戻せる何か……)


キイイイ

ガシャン ガシャン バリン


馬車幽霊 「お嬢様……! あなたの使命をお忘れか」

馬車幽霊 「私に語ってくれた覚悟は、この程度で……!」


血の首の化物 「うるさい!! そんなもの、もうとっくに意味なんかない!!」


馬車幽霊 「……っ」

馬車幽霊 「ええ、そうでしょうとも……」


ガシャン ガシャン


姫王子 (何か)

姫王子 (葉巻とおれしか知らないような……)

姫王子 (…………)

姫王子 (………………あったぞ)




姫王子 (しかしあれは、おれへの精神的なダメージが強い)


血の首の化物 「死ね! 死ね! みんな死ねばいい!」

血の首の化物 「このくそみたいな身体の魔力ぜんぶつかって、みんな殺してやる!」

血の首の化物 「世界中の魔力が枯れるまでみんな殺してやる!」


ガシャン ガシャン バリンバリンバリンバリン


血の首の化物 「その前にお前だ、コソ泥の豚ぁ!!」


姫王子 (迷っている場合じゃないか)

姫王子 「……おお、なんということだ。まるで、月が美しい錫色の輝きそのままに」

姫王子 「人のかたちになって迷いおりてきたようだ」


馬車幽霊 「王子どの?」


血の首の化物 「…………ッ」


ピタ




ゴオオオ オオオオオ


血の首の化物 「…………」


馬車幽霊 「お嬢様の動きが止まった……?」


姫王子 「なんということだ。誰に促されるでなく、おれの心の全ては」

姫王子 「あらかじめ祈り方を知っているように膝を折り、指を組み、目をつむってしまった」

姫王子 「これだ。そうだ、これこそが、まことの信仰であり、よろこびなのだろう」


血の生首たち 「…………」


馬車幽霊 「血の竜たちも、うっとりと目を閉じている」

馬車幽霊 「これはいったい……」


姫王子 「この歓喜の、なんと静かで厳かなことか」

姫王子 「あした無実の罪で殺されることになっても、おれは少しも不幸ではない」

姫王子 「今夜、この輝きを心に刻めたのだから……」


血の首の化物 「…………」




ヒュオオオオ ギシ キシ 



血の首の化物 「…………」

血の首の化物 「……ありがとう」


馬車幽霊 「……!」

馬車幽霊 「お嬢様が、王子どのの気持ち悪い言葉にこたえた……」


血の首の化物 「今日みたいな夜に、きらびやかな言葉を贈ってくれる人は」

血の首の化物 「何人かいたけれど、あなたの言葉はその中でも一番多くて、輝いています」

血の首の化物 「つまり、一番愚かということです」


姫王子 「そうか、しかたないさ」

姫王子 「月をひとときでも長く夜空にかえさないためだ。どんな愚か者にだってなる」


血の首の化物 「本当に口のへらない人ね」

血の首の化物 「ワタシの正体も知らないくせに」

血の首の化物 「ワタシが見た目どおりの、ただの若いエルフだとでも?」


姫王子 「エルフだろうが、化物だろうが、何であろうが構わない」

姫王子 「おれは君が好きなのさ」





血の首の化物 「もうやめてください。悪酔いしてしまいそう」


姫王子 「それは好都合」

姫王子 「だが、大きな声じゃ言えないが、この酒場には良い酔い方のできる酒はない」

姫王子 「……………」


血の首の化物 「…………」


姫王子 「…………」


馬車幽霊 「…………?」


姫王子 「……馬車幽霊どの」


ボソ


姫王子 「声がでかいぞ、王子さま」

姫王子 「と言ってくれ」


馬車幽霊 「はあ……?」


姫王子 「はやく」


馬車幽霊 「…………」

馬車幽霊 「声がでかいぞ、王子さま」


姫王子 「おっと、失礼。ここが狭いことを忘れていた」




血の首の化物 「………ほんと……本当に」

血の首の化物 「よく、まわる口……」

血の首の化物 「何だったら、あなたの口を止められるんでしょう」


姫王子 「意外と多いと思うけどね」

姫王子 「酒とか、うまい料理とか……」


姫王子・血の首の化物 「唇とか」





ヒュオオオ オオオ


ハーピィ 「……! ……!!」


バシン ビシッ


鏡の魔女 「ええいっ、もう良い」

鏡の魔女 「貴様は後回しに……」

鏡の魔女 「……む?」


ヒュオオ オオ

キシ ギ キィ……



魔ーレラ 「…………むぅ?」


ク魔エビ娘 「船の軋みが弱くなっていく……」


ロブスター 「風がやむ、か」


貝殻の勇者 「王子どの、うまくいっているのでしょうか」


ろうそく職人 「…………ほう」

ろうそく職人 「ほっほう……!」


貝殻の勇者 「……ろうそく職人さん?」



ヒュオオ オオオ





キシ ギシ キイィ


姫王子 「………う」

姫王子 「ガフウッッ!!」


ビチャ ボタタタ


馬車幽霊 「王子どの!」


姫王子 「……だ、だいじょうぶだ」


馬車幽霊 「しかし、口から血が……!」


姫王子 「大丈夫。胃のあたりの心の傷がひらいて、闇が漏れ出しただけだ」


馬車幽霊 「ただならぬ印象を受けますが」


血の首の化物 「…………」

血の首の化物 「……王子」


キイイイ


馬車幽霊 「………!」

馬車幽霊 「……いや、これは」


キュロリン ピロン


姫王子 「癒しの魔法だ」

姫王子 「……葉巻」


血の首の化物 「……ケケケ」

血の首の化物 「何だよ、髪なんか伸ばして」

血の首の化物 「そんな醜い脂肪の塊までぶら下げやがって」


姫王子 「我ながら、張りはある方だと思うんだけどな」

姫王子 「やっと正気に戻ったか、馬鹿やろうめ」




馬車幽霊 「先ほどの茶番は、何かの呪文だったのでしょうか」


姫王子 「茶番……」

姫王子 「なに、おれと葉巻の友情にも、それなりに歴史があるということだよ」


血の首の化物 「今は懐かしき、出会いの思い出というやつさ」


馬車幽霊 「なるほど……」


姫王子 「くれぐれも思い出させないでくれよ。状況が状況だし、そして傷口が開く」


馬車幽霊 「察しましょう」


血の首の化物 「ケケケ……」


血の生首 「……グルルル」


シュウウウ ボト

ボロロ


姫王子 「葉巻の下半身で生々しくうごめいていた竜の生首たちが、崩れていく……」


血の首の化物 「気持ち悪い言い方するな」


ボロ ボトト


姫王子 「おい、お前も崩れているじゃないか」





血の首の化物 「そうらしいね。ひとまず死ぬしか無いようだ」


姫王子 「おいおい」


血の首の化物 「どのみち崩れかけていたんだ」

血の首の化物 「新しいのにかえた方が良いだろ?」


馬車幽霊 「いったい、私はいつになったら禁断の秘術を秘せるのでしょうか」


血の首の化物 「その時が来たらさ」


姫王子 (体の乗り換えはできるということか)

姫王子 「人騒がせなやつめ。あっちの魔女はまだぴんぴんしているぞ」


血の首の化物 「なあに、麗しの王子さまが頑張ってくれるんだろ」

血の首の化物 「うるさいトカゲどもはほとんど殺しておいてやったから、うまくやりな」


姫王子 「さすが、エルフの長老さまは深い泉のような知恵者でらっしゃる」




血の首の化物 「ため息つくなよ。これはお前のためでもあるんだぜ」

血の首の化物 「こんな血みどろの化物がそばにいたら、王子さまは怖がってしまうだろ?」


姫王子 「出会いかたひとつで関係が変わるのは、よくある話だが」

姫王子 「お前がお前である限り、どんな姿であろうが、おれにとっての葉巻は葉巻のままだ」


血の首の化物 「……言うじゃないか、色男」

血の首の化物 「ここにハーピィがいないのが悔やまれるね」


ボロ ボロロ

シュウウウ


姫王子 (みるみる崩れていく。本当に死ぬわけじゃないと分かっているが)

姫王子 「葉巻……」


血の首の化物 「さっさとハーピィをお前のうしろに戻してやれよ、王子さま」

血の首の化物 「もっとも、お前だと気づかれないかもしれないが」


シュウウウ

ボロロ





ギイイ ギイイ

シュウウウ


血の首の死体 「…………」

黒い髪飾りの白骨 「…………」


姫王子 「……葉巻」


馬車幽霊 「ご安心を。お嬢様の身体はすぐに用意します」


姫王子 「うん。……死体が残るのは良いことかもしれないな」

姫王子 「厄介なことをしでかした本人は死んで終わった」

姫王子 「と、ほかの者たちに思わせられる」

姫王子 「しかし、さて……」


バサ バサ


姫王子 (風がやみ、星空にドラゴンらしき影が三つ)

姫王子 (ハーピィと戦っている魔女と、それが乗る仮面のドラゴン)

姫王子 「やれるものかね」


馬車幽霊 「お嬢様の魔法が消えたことで、上空に逃れた竜たちもすぐに戻ってくるでしょうが」

馬車幽霊 「こちらの戦力も自由になります」

馬車幽霊 「無茶では無いかもしれません」


キイン キイン

ガチャ ガチャ ガチャ


傭兵 「……おお! 結界から出ても大丈夫だ」


ク魔エビ娘 「敵はまだ残っている」

ク魔エビ娘 「が、もはや壊滅状態だ!」

ク魔エビ娘 「これが最後にしよう。戦う心が残っているものは」

ク魔エビ娘 「どうか今一度、この船のために剣をとってほしい!」


貝殻の勇者 「守ることができるのなら、何度でも戦いましょう」


魔ーレラ 「魔法使いたちも、結界に必要な人数を残して戦闘に加われ!」

魔ーレラ 「若いとはいえ、竜。殺しすぎるほどに死力を尽くしてかかるのじゃ!」





ダム ダム ダダム

ガキン ギイン

ワアアアア


青ドラゴン 「グロロロロ」


ブオン バサ バサ


大槌の傭兵 「むう、かたい鱗におおわれた、太いトゲつきの尻尾。背後をとっても、安心できんな!」


老傭兵 「包囲を崩すな。空に逃がすな! 囲んだら、一気にぶっ潰すぞ!」


傭兵たち 「おおー!」


ガイン ガキン

ゴオオオ


赤ドラゴン 「キュオオオン」


船員たち 「さっさと船からでてけ、トカゲの化物!」


ク魔エビ娘 「だいぶ動きが鈍くなっているな」

ク魔エビ娘 「翼を狙っていこう」

ク魔エビ娘 「だけど無理をするな。守りを固めながら、だ」

ク魔エビ娘 「魔法使いは、攻撃よりも防御の魔法を切らさずに頼む!」


カキン ギン ギィン




ドタタタ バシュン

キン キイン ゴオオオオ

ワアアア


姫王子 「おお、さすがは甲板に踏みとどまった猛者たち」

姫王子 「ドラゴン相手に怯まない」


馬車幽霊 「では、ハーピィ様のもとへ行きますか」


姫王子 「ああ」

姫王子 「けれど、葉巻の身体のことは良いのか」


馬車幽霊 「ええ。いますぐにでも馬車に戻って用意をしたいのですが」

馬車幽霊 「お嬢様を欠いた今、私もこの場にいませんと」


キイイイイ

シュオオオ ギュロロロロ


姫王子 「……おお」


馬車幽霊 「守りと力の魔法です」

馬車幽霊 「お嬢様の魔法になれた王子どのには、なじみにくいかもしれませんが」


姫王子 「いや、頼もしい」

姫王子 (あいつ、大事なところで頼りないし)




馬車幽霊 「ああ、それと」


キイン キュロリロン


姫王子 「うん?」

姫王子 「何の魔法だい?」


馬車幽霊 「胸の揺れを軽減する魔法です。おつらそうだったので」


姫王子 「……助かるよ」


馬車幽霊 「戦神の胸当てと名づけました」


姫王子 「名づけちゃったか……」




バササ バサ

バシン


ハーピィ 「%##"=#!'!%"!$#"$$!!」


鏡の魔女 「ぬううう……ええい、鬱陶しい!」

鏡の魔女 「乱れ牡丹、焼き尽くせ!」


仮面の竜 「キャオオオオ」


バフ バフ

ゴオオオオ


ハーピィ 「#)##!"!!」


スカ


鏡の魔女 「ええい、当たらんか」

鏡の魔女 「いまいましい! 悪霊にとりつかれたようだ!」




鏡の魔女 「何度も何度も、いったい何なのか、この生き物たちは……!」

鏡の魔女 「む……!?」


タタタタ

ヒュオ 


??? 「…………!」

姫王子 「えやぁっ!」


鏡の魔女 「!!」


ガキイン


姫王子 「むう……魔法の壁か」


鏡の魔女 「……貴様!」





馬車幽霊 「空中ではなるべく立ち止まらずに」

馬車幽霊 「足場は私が作ります」


姫王子 「うん」


鏡の魔女 「ほほ……そうか、お前か」

鏡の魔女 「どうやって舞い戻ってきたのか知らんが」

鏡の魔女 「死を味わってなお、死に向かうか」


姫王子 「味わう暇もなかったものでね」


タン タタン


鏡の魔女 「空を跳ねるか……小ざかしい」

鏡の魔女 「しかし、お前の従者はしつけがなっておらんな」

鏡の魔女 「小うるさいハエのようだ」


姫王子 「これはこれは、美しき魔女どのの目は調子がお悪いようだ」

姫王子 「女神をハエとは」


鏡の魔女 「ほほっ……何を言うか、可愛そうな坊や」

鏡の魔女 「お前が従うものの正体さえ、見えておらぬのに」




姫王子 「見えたところで、だろ」

姫王子 「どうだい、もうじゅうぶん暴れたんじゃないか」

姫王子 「ここらで退いてくれるとありがたいのだが」


鏡の魔女 「甘い男だ。いや、ほほほ……今は小娘か」

鏡の魔女 「そうだな……考えてやっても良いぞ」

鏡の魔女 「この目障りな小娘と、あのエルフの命をわらわに差し出すならば」


ハーピィ 「#"%$!!」


バシン バシン


姫王子 「無茶な話だ」

姫王子 (ハーピィがこちらに攻撃をしかけてくる様子はない)

姫王子 (というか、目に入っていないようだ)

姫王子 (本当に、我を忘れているようだな)

姫王子 (さて、どうやって正気に戻すか)


仮面の竜 「……コオオオ」


姫王子 (ドラゴンがたっぷりと炎を咥えて、天を仰いだ)


仮面の竜 「オオオオオ!」


キイイン

バシュン

ゴオオオ ゴオオオ


姫王子 (無数の火の玉が降り注ぐ!)




ゴオオオ 

パキ バキン ガシャン

ガシャン


姫王子 「噴水のようだ」


馬車幽霊 「噴火ですね」

馬車幽霊 「足場の魔法の壁は、数発で破られます」

馬車幽霊 「お気をつけて」


姫王子 「ああ」

姫王子 「ハーピィは……」


ハーピィ 「……! っ!」


スカ スカ スカ


姫王子 「うん、大丈夫のようだ」

姫王子 「困ったな。火の玉が邪魔で、どこからもドラゴンに近づけないぞ」


馬車幽霊 「おそらく、竜の呼気の長さ以上は続かないでしょうが」


姫王子 「いったん距離を置くか……」


キイイイ パシュン

ヒュカカカカ

ガシャンッ


姫王子 「……うっ!?」

姫王子 (降り注ぐ火の玉に紛れて、輝く矢のようなものが連続で飛んできた)

姫王子 「魔法か」


鏡の魔女 「…………」


キイイイ


馬車幽霊 「厄介ですね。強力な上に連射がきくようです。一度で壁が破られました」

馬車幽霊 「なるべく防ぎますが、かわすつもりでいてください」






姫王子 「おれを殺した鏡は、使われないのかな」


馬車幽霊 「壊れた状態の強力なアイテムを使う度胸があれば」

馬車幽霊 「分かりませんが」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「ハーピィの攻撃も、魔女にまったく届いていないようだが」


馬車幽霊 「つねに守りの魔法が張られているようです」

馬車幽霊 「しかし、まったく届かないというのはおかしいですね」

馬車幽霊 「ハーピィどの以外の者……できれば物理的な一撃があれば、何か分かるかもしれませんが」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「火の玉がやんだら、しかけてみるか……」


ザパン 


緑のドラゴン 「ギャオオオ」


姫王子 「!」

姫王子 (ドラゴンに背後をとられた)

姫王子 「海にいたか……!」





キイイ 

パシュン キュイン


姫王子 (火の玉に、魔法の矢に、ドラゴンに)

姫王子 「ええい、忙しい……!」


緑のドラゴン 「グオオオ」


ドガ ザシュ


緑のドラゴン 「!!?」


姫王子 「!」


貝殻の勇者 「やあああ!」


ロブスター 「…………」


姫王子 (勇者どのに、ロブスター船長)





ヒュルルル ザブン


姫王子 (ドラゴンを、出てきた海に叩き落した)


貝殻の勇者 「やりましたか」


ロブスター 「いや、竜だ。この程度では死なん」

ロブスター 「よし、勇者どのは我が弟子の加勢を」


貝殻の勇者 「良いのですが、しかしあの竜は」

貝殻の勇者 「ああやって海に潜まれては、また奇襲を許してしまいます」


ロブスター 「奴はおれがしとめる。お望みどおり、水の中でな」





ゴオオオ ヒュン

ガシゃ キイイ


姫王子 「自殺するつもりか、マスターロブ」


ロブスター 「これは心外だ、若きえびゆでの姫よ」


姫王子 「しかし、海の中でなど無茶今度姫って呼んでみろ永遠に髭を噛み千切ってやる」


ロブスター 「ふはは、その姿のお前に言われるのも心地よい」

ロブスター 「……おれにとって、荒れ狂う海で竜と戦うのは」

ロブスター 「ヘルハウンドが穴で眠る兎を狩るより容易い」


姫王子 「だったら、おれたちと一緒に鏡の魔女を打ち倒すのなんてもっと簡単だろう」

姫王子 「マスターロブ」


ロブスター 「無理だ。おれはあの魔女とは戦えん」


姫王子 「! なぜ……」


ロブスター 「なぜ……なぜかって?」

ロブスター 「おれは世界中の女性を味方にすることはできないが」

ロブスター 「世界中の女性の味方なのだからさ」


姫王子 「…………!」


……キュン


姫王子 「いや、違う、キュンじゃない」





ロブスター 「では、またあとでな。誇らしき弟子よ」

ロブスター 「はっ」


ダッ


姫王子 「あっ……!」


ヒュルルルル



ロブスター 「…………」

ロブスター 「…………」

オ魔ール 「…………」



ザブン


姫王子 「……行ってしまった」


ゴオオオ ゴオオオ

ゴオオ…… オオ……


馬車幽霊 「火の雨がやみます、えびゆで姫!」


貝殻の勇者 「いきますよ、えびゆで姫!」


姫王子 「…………!」

姫王子 「………おおう!」


タタタタタ




鏡の魔女 「ほほほ……、勇者か……」


タン タタタ

ダム タム


馬車幽霊 「足場は私が作ります」

馬車幽霊 「つねに動きながら、敵の集中力を散らすように心がけてください」


貝殻の勇者 「分かりました!」


姫王子 (言いたいことはたくさんある。たくさんあるが……)

姫王子 「このやるせなさの全てを、おれは剣に込める……!」


タタタタタ



仮面の竜 「……グルルルル」


ヒュン ヒュン


姫王子 「元気な尻尾だ……!」


タン タタタ タン

キイイイ

ガシャン バリン


貝殻の勇者 「鏡の魔女どの!」

貝殻の勇者 「なぜあなたは人の姿でありながら」

貝殻の勇者 「このように魔物をしたがえ、人に仇なすのか!」

貝殻の勇者 「今、大陸が、人の世が、大きな災厄に見舞われようとしているときに!」


ゴオオ キイン

キイイイ


鏡の魔女 「ほほほ……! 可愛そうで憎らしい、何も知らぬあわれな小娘であることよ」

鏡の魔女 「ならば世界のかたちも知らぬまま、死ぬのが幸せかもしれぬな……!」


パシュン

ガカカカカカカ




ガシャン バリン

ドガガガガ


貝殻の勇者 「……ッ」

貝殻の勇者 「これほどの力を持ちながら」

貝殻の勇者 「いいえ、なぜ力を持つものはこうも揃って……!」


タム タタン


鏡の魔女 「わずかばかりの力を得て」

鏡の魔女 「それを力なき他者に役立てるのもよかろう」


キイン キイン


鏡の魔女 「だが、わらわに何の関係がある?」

鏡の魔女 「小娘どもの遊びと、わらわに」


貝殻の勇者 「遊び……!!」





貝殻の勇者 「てやあ!!」


ヒュン


鏡の魔女 「ほほほっ……」


キイイ ガキン


貝殻の勇者 「………!!」


鏡の魔女 「良い槍だな」

鏡の魔女 「お前よりもずっと価値があるようだ……!!」


キイイ


貝殻の勇者 「しぃッ……!」


タン タタタ

バシュン ガカカカカ

バリン バシャン ガリリリ


鏡の魔女 「ほほ……逃げる頭も持っておるか」


バサ バササ


姫王子 (勇者どのの攻撃に合わせて、魔女が杖を構えた)

姫王子 (魔法で防いだのか)

姫王子 「なるほど」


グ 

キイイイ


姫王子 (……魔法の剣の二本持ちは割と疲れるな)

姫王子 (さて、海老骨の剣の真価やいかに)


仮面の竜 「グルルル」


グオン


姫王子 (尻尾!)





ガシャン


姫王子 「ええい、この……」


仮面の竜 「グルロロロ」


フオン フオン

ブオン


姫王子 「うわっ!」

姫王子 「おわっ!」

姫王子 「どわーー!」


ヒラリ タンッ

タンッ タタタン

ヒラリ


姫王子 「尻尾か、あくまで尻尾か!」


馬車幽霊 「鏡の魔女の傲慢ですね」

馬車幽霊 「竜の玉座から降りるつもりは無いようです」


姫王子 「ううむ、しかし……」


ヒラリ タンタタ

ヒラリ


姫王子 (気のせいか、身体が軽い)




姫王子 (いや、軽いというか、やわらかい)

姫王子 (やっぱり軽い)


タン

ガシャン フオン バリィン

タタン


姫王子 (なんというか、馴染む……)

姫王子 (歯車がすべて噛み合っていくようだ)


仮面の竜 「コオオオオオ」


バフ ゴオオ


馬車幽霊 「竜の魔法が来ます。ご注意を!」





ゴオオオ ゴオオオオ


ハーピィ 「…………!」


貝殻の勇者 「火の雨……!」


鏡の魔女 「ほほほ……どうした、もっと寄らねばわらわは貫けんぞ」


馬車幽霊 「魔女の魔法に注意してください。火の雨に紛れて撃ってきます」


貝殻の勇者 「くうっ……」


タン タタ

ゴオオオ ガシャン バリン


鏡の魔女 「勇者……」

鏡の魔女 「弱きものたちの幻想、まやかし」


貝殻の勇者 「…………」


馬車幽霊 「あまり魔女と言葉を絡ませないよう、ご注意を」


ガシャン バリン ゴオオオオ


鏡の魔女 「しかしお前は、それにもなれぬ偽者だ」

鏡の魔女 「ほほ……夢になれぬまま、夢に踊らされ、夢の果てに消え入るものよ」

鏡の魔女 「あわれなものだな」


貝殻の勇者 「喜んでそうしましょう」

貝殻の勇者 「人にあだなす全てを道連れにできるのならば」


タ タタタ ガシャン


鏡の魔女 「ほほっ……忌々しい」


ゴオオオ

キイン

リン シャン リリィン


姫王子 (自然の声もよく聞こえる)

姫王子 (……自然の声って何なんだ)

姫王子 (まあ良いか)

姫王子 (聞こえるのだから、しかたない)





トン タタ トン

ズア


鏡の魔女 「……!?」


姫王子 「ぅおらッ!!」


ヒュン ガキイン


姫王子 (止められた)

姫王子 (火の玉と尻尾の攻撃をかわした勢いのまま、後ろから斬りかかってみたが)


鏡の魔女 「貴様……」


ヒュオ


鏡の魔女 「!!」


ハーピィ 「…………ッッ」


貝殻の勇者 「ぜやぁっ!!」


鏡の魔女 「おのれ……!」


ガキイン


姫王子 (ハーピィと勇者どのの攻撃も止められた。挟み撃ちだったのに)

姫王子 (だが剣はもう片方の腕にも残っている)


グルルル

ズバン


仮面の竜 「!?」


姫王子 (星魔法使いの館で手に入れた剣で)

姫王子 (思い切りドラゴンの翼を斬りつけた)





バサッ バササ


仮面の竜 「……ッ! ………ッッ!!」


グラリ


姫王子 「おおっ……」

姫王子 (翼の動きが鈍った)

姫王子 (傷をつけることはできなかったが、剣に込められた鎧打ちの魔法は)

姫王子 (効果を発揮したようだ)


鏡の魔女 「……!?」


グラ グラ


鏡の魔女 「くうっ……魔法じかけの武器か」

鏡の魔女 「ええい、どうした、乱れ牡丹」

鏡の魔女 「この程度で……!」


貝殻の勇者 「ぜあああああっ!!」


鏡の魔女 「……!!」


姫王子 (竜の上で体勢を崩した鏡の魔女に)

姫王子 (すかさず勇者どのが攻撃をしかけた!)




ガキン


貝殻の勇者 「……っ!」


鏡の魔女 「…………」


姫王子 (また止められた。おそらく魔法だろうが)

姫王子 「化物か……」


仮面の竜 「ゴア゛アッ……!」


ボフンッ 


姫王子 「うわっ!?」

姫王子 (ドラゴンがこっちへ火の玉を吐いてきた)

姫王子 「くそっ、苦しまぎれか……!」


タンッ 


仮面の竜 「ギャオオオッ!」


ブオンッ ブオンッ


姫王子 「うおおおおっ!?」

姫王子 (今度は尻尾を滅茶苦茶に振り回し始めた!)

姫王子 (巨人の鞭打ちみたいだ)





姫王子 (しかし、鏡の魔女)

姫王子 (攻撃を防いでいるのは馬車幽霊の使うような魔法の壁かと思ったが)

姫王子 (どうも違う手応えのようだ。魔法には違いないのだろうけれど)


ヒュオンッ


姫王子 「うおっ……」

姫王子 (ドラゴンの尻尾はまだ暴れている)


仮面の竜 「グロロロロ」


ブオン


姫王子 (太いのが厄介だな)

姫王子 (自然の声を聞けば避けられないものでは無いとはいえ)

姫王子 「ええいっ、鬱陶しい」

姫王子 (もう一度、翼を痛めつけてやろう)


タンッ


鏡の魔女 「…………!」


キイン バシュ


姫王子 「!!」

姫王子 (勇者どのとハーピィを相手どりながら)

姫王子 (魔女が魔法の矢を撃ってきた)

姫王子 「うおっ……」


グイン ヒョイ


姫王子 (なんとか空中でかわせたが、体勢が崩れた)

姫王子 (仕方ない。えびゆでの剣の方からの二連撃だ)

姫王子 「うおりゃっ」


ヒュン

キイイ

バシャンッ


姫王子 「!?」

姫王子 (ドラゴンの翼を切りつけた瞬間)

姫王子 (何かが割れる音がした)




仮面の竜 「……!?」


姫王子 (ええい、勢いに任せてもう一撃)

姫王子 (鎧打ちの効果を味わわせてやる)


グルン


姫王子 「しいぃっ!」


ヒュン

ズ

ズパンッ


仮面の竜 「ッッッ!!!!?」


姫王子 「うおっ!?」

姫王子 (なんてことだ)

姫王子 (霧を切りつけるよりも手応えなく)

姫王子 (ドラゴンの翼を根元から断ってしまった)





姫王子 (まずいっ、勢いをつけて切りつけたせいで着地が……)


ドシャ


姫王子 「ぐふうっ」

姫王子 (馬車幽霊の魔法の壁……というか床に助けられたが)

姫王子 「見えない分、受身が取りづらいな……」


仮面の竜 「グオォオオオオオ゛ン!!」


グラ グラ


鏡の魔女 「乱れ牡丹!」

鏡の魔女 「馬鹿な。竜の翼を断てる剣など……おのれ……!」


貝殻の勇者 「たああ!」


ヒュゴッ


鏡の魔女 「ッ!」


ガキン


仮面の竜 「オオオオオオ゛!!」


バサッ バササ……

ヒュルルル


姫王子 (片翼だけでもがきながら)

姫王子 (ドラゴンが落ちる……)


ヒュルルル

ドシン


>>10あたりに前スレまでのリンクをはっていますが、
日々の何でもないことが千日分書かれた他人の日記のように、
ためて読むのは苦痛であるだろうことを先に言っておきます。



ギシ ギシ 

モク モク


姫王子 「うっぷ……ペッ、ペッ」

姫王子 「しまった、ドラゴンが甲板に落ちたときのことを考えていなかった」


馬車幽霊 「油断なされませんよう」


姫王子 「ありがとう。もちろんだとも」

姫王子 (さて……)


仮面の竜 「……! ……っ!」


姫王子 (ドラゴンが、弱々しくのたうっている)

姫王子 (上あごと下あごを貫いて、甲板に槍が刺さっている。勇者どのの槍か)

姫王子 (槍はびくともしていない)

姫王子 (そして……)


スタ


貝殻の勇者 「王子どの」


姫王子 「やあ、勇者どの」

姫王子 「槍を手放して、大丈夫なのかな」


貝殻の勇者 「剣があります」

貝殻の勇者 「斧槍だと好ましいのですが」


姫王子 「しかし、やはり」


貝殻の勇者 「ええ」


ゴオオ キン ガキン

ワー ワー 


鏡の魔女 「…………」


姫王子 「地に引きずりおろせたけれど、無傷か」





ハーピィ 「!!! ッッ!!!」


ビシ バシ


鏡の魔女 「…………」


ガキン キイン

ワー ワー


青ドラゴン 「ギャアウウ!」


淫魔幼女 「…………」


縄の傭兵 「ようし、拘束したぞ! 手を緩めるな!」


紐の傭兵 「なんだ、思ったより力が無いなあ、トカゲ野郎!」

紐の傭兵 「このまま塩漬け肉にしてやろうか!」


槌の傭兵 「ようし、ぶん殴れえ!!」


ワー ワー


赤ドラゴン 「キュオオオオ……!」


ク魔エビ娘 「翼と足を止めた!」

ク魔エビ娘 「気を引き締めろ」

ク魔エビ娘 「牙つきの魚は、釣り上げてからが手強いぞ!」


船員たち 「おーっ!!」


ワー ワー

ドタドタ


鏡の魔女 「…………」

鏡の魔女 「……ほほほ」




姫王子 (鏡の魔女が、動きを止めている)

姫王子 (それをハーピィが殴る蹴るしているのは置いておいて)

姫王子 「……しかけたものかな」


馬車幽霊 「まだ何か、罠を隠しているかもしれません。慎重に」


貝殻の勇者 「もどかしいものですね、魔女とは」


姫王子 「ふむ……」


ゴオン ゴオン


姫王子 「うん?」


貝殻の勇者 「……地鳴り?」

貝殻の勇者 「いえ、まさか」

貝殻の勇者 「しかし、下から……」


ゴオン ゴオン ズズズズ

ド ド ド ド ド


姫王子 「また魔法か。魔女の魔法か」


馬車幽霊 「分かりません。ご注意を」


ド ド ド ド ド

ドドドドドドドド



ドドドドドド

ドドドドドドドド

ザパン


魔カロニペンギン 「ペギャア!!」


姫王子 「海から何か飛び出してきたぞ」


貝殻の勇者 「全身鎧の……」

貝殻の勇者 「翼の小さな、鳥のような生き物です」




魔カロニペンギン 「わーっはっはっは!」

魔カロニペンギン 「我こそは魔王軍の隊長、魔カロニ!」

魔カロニペンギン 「……フムフム。どうやら、我々の作戦通り」

魔カロニペンギン 「船は大混乱の様子!」


ワー ワー

カキン ガキイン


魔ーレラ 「……む。まだおったか」


クル魔エビ娘 「マーレラ婆さま?」


魔ーレラ 「……良い。お前は結界に集中せい」

魔ーレラ 「ク魔……には荷が重いか」

魔ーレラ 「さて……」


ガキン キイン


魔カロニペンギン 「くふふふ、おるわおるわ、裏切り者の船に、わんさかと」

魔カロニペンギン 「子エビどもが!」

魔カロニペンギン 「我々の差し伸べた手を取らぬむくい」

魔カロニペンギン 「おれの餌となることで償わせてやろう!」




姫王子 「どうやら魔王軍の者のようだ」

姫王子 「あの鎧を見るに、エルフの森で戦ったマンボウと同等の地位なのだろうか」

姫王子 「船の中が魔物だらけだから、どこかに将がいても不思議では無いのだろうが」

姫王子 「しかし、唐突というか、妙な気もする」


貝殻の勇者 「ようし、ぶっ殺しましょう」


姫王子 「綺麗な声ですごいことを言う」

姫王子 「しかし、今のところは届かないだろう。奴は飛んでいる」

姫王子 「まずいぞ。鏡の魔女、ドラゴン、魔物の軍勢の将をいっぺんに相手どって出来ることなど」

姫王子 「逃げることくらいだ」


鏡の魔女 「…………」


ガキン キイン

ワー ワー


魔カロニ 「……竜? 甲板に見えるあれは竜ではないか!」

魔カロニ 「……ふははは! これは良い!」

魔カロニ 「竜まで従えてきたか!」

魔カロニ 「いや、うむ、このくらいは当然だ」

魔カロニ 「魔王軍に逆らうものは、徹底的に叩き潰さねばならぬ!」

魔カロニ 「わはははは、ようし、突撃だ」

魔カロニ 「魔ンボウのじじいも死に、そして古き将の時代がまたひとつ終わる!」

魔カロニ 「わはははははー!」


ゴオオオ


姫王子 「……くそ、来るぞ!」




魔カロニ 「ははははは!」

魔カロニ 「おれさまが、魔王軍の隊長、いや将軍、魔カロニさまだあ!」


ゴオオオオ


魔カロニ 「わははははは……!」


ザバン ズルルルル


骨頭の竜 「…………」


魔カロニ 「……うん?」




姫王子 「!!」


貝殻の勇者 「海から、醜悪な黒いドラゴンが……」




骨頭の竜 「……アーン」


魔カロニ 「……な」


骨頭の竜 「…………」


バクン




姫王子 「……お、おい、何なんだ」


馬車幽霊 「魔女に注意を」


貝殻の勇者 「……頭部が骸骨の、黒い竜が海から現れて」

貝殻の勇者 「魔王の手先を一呑みしてしまいましたが」


骨頭の竜 「…………」


バサ バサ バサ


姫王子 「翼には長い毛がびっしりと……羽毛か?」

姫王子 「いかん、こっちに来る」


骨頭の竜 「…………」


ボフ バフ


貝殻の勇者 「頭蓋骨の穴という穴から炎が漏れ出しました」

貝殻の勇者 「いけません、離れなくては!」







骨頭の竜 「…………」


バフ バフ ジジジ

ゴゴゴゴゴ


姫王子 (さっきのドラゴンの炎が、ろうそくの火に思える激しさだ!)

姫王子 (体の大きさも、一回りかそれ以上に見える)


貝殻の勇者 「王子どの、早く!」


姫王子 (鏡の魔女は……)


鏡の魔女 「…………」


姫王子 (動かず、か)


貝殻の勇者 「王子どの!」


姫王子 「ああっ……」


ダダダダダ


骨頭の竜 「…………」




ダ ダ ダ ダ


姫王子 「……!」

姫王子 「待て!」

姫王子 「ドラゴンが……」



鏡の魔女 「…………」


骨頭の竜 「…………」


バサ バサ



貝殻の勇者 「魔女の方へ……?」



骨頭の竜 「…………」


鏡の魔女 「…………」


骨頭の竜 「…………」


ガパ



貝殻の勇者 「魔女に向かって、口を……」


姫王子 「……まさか」

姫王子 「いけない、ハーピィ!!」



骨頭の竜 「…………」


バフ ボフ

ゴオオオオオ




クル魔エビ娘 「魔ーレラ婆さま、船に火が……!」


魔ーレラ 「……ぬう」


ろうそく職人 「結界、大丈夫なのでしょうか。もう破られたい放題の気がするのですが!」

ろうそく職人 「絶望的な状況なのでは! 私たち、絶望的な状況なのでは!?」


ニワトコ娘 「あふう、もういつ死んでも悔いはないわ……」


野生の女 「アタシさあ、生まれ変わったら今度は十児の母くらいに生まれたいな」


魔ーレラ 「黙っとれ」




ゴオオオオ


骨頭の竜 「…………」


バサ バサ


貝殻の勇者 「竜が、空へのぼっていく」

貝殻の勇者 「魔女に向かって炎を吐きましたが……」

貝殻の勇者 「仲間割れでしょうか、それとも」

貝殻の勇者 「いえ、それどころではありませんね……」


姫王子 「……ハーピィ! ハーピィ!」


ゴオオオオ

ゴオオオオ

ボハ


ハーピィ 「…………」


姫王子 「おおっ……!」

姫王子 (甲板の炎の中から、ハーピィが飛び出してきた)

姫王子 (無傷で)


馬車幽霊 「鏡の魔女の姿は見当たらないようですが」


ハーピィ 「……!? ……!?」


キョロ キョロ


馬車幽霊 「ハーピィさまも、見失っているようです」




姫王子 「ハーピィ!」

姫王子 「おれだ、王子だ! ここにいるぞ!」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「駄目だ。こっちに気がつかない」

姫王子 「鏡の魔女を殺すことしか頭に無いのか」

姫王子 「ハーピィ!」


ハーピィ 「……! ……!」


キョロ キョロ


姫王子 「駄目か。くそっ……」


ダダダダ


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ハーピィ!」


ダキッ


ハーピィ 「!?」




ハーピィ 「!? …………」

ハーピィ 「……? ……!! ……」


馬車幽霊 「ハーピィさまが、抱きつかれて戸惑っている……」


姫王子 「ハーピィ、おれだ」


ハーピィ 「……? ………」

ハーピィ 「! ……!」


ジタ バタ


姫王子 「仇討ちなんかやめておくれ」

姫王子 「君の両腕はそんなことのためにあってはいけないだろう」


ナデ ナデ ナデ


ハーピィ 「………!!」

ハーピィ 「……………。………」


姫王子 「…………」


ナデ ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


ダキ



ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「王子どのになでられて、ハーピィさまが、正気に戻った……?」


姫王子 「寝かしつけるとき、こうやってなでていたものさ」

姫王子 「おぼえていてくれたんだな、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ハーピィ。ちょっと見た目は変わっちまったが」

姫王子 「おれは王子だ」


ハーピィ 「…………」


コクン



姫王子 「……なあ!?」

姫王子 「すごいだろう、ハーピィは」

姫王子 「話し合えば、こんなに素直なんだ」

姫王子 「人の言葉を信じないばかりか錯乱しだすような奴とは違うんだ」


馬車幽霊 「いえ、それは良いのですが」


姫王子 「ああ、そうだった」

姫王子 「そういえば甲板が燃えているな」


馬車幽霊 「いえ、それも……」


貝殻の勇者 「せえいや! たあ!」


ブン フオン


姫王子 (……仮面のドラゴンに刺さっていた槍を手に)

姫王子 (勇者どのが、草を刈るように炎を薙いでいる)

姫王子 「炎がみるみる小さくなっていく。いつの間に、あんな技を」


馬車幽霊 「勇者も、成長するものなのでしょう」


ハーピィ 「…………」


スリ スリ




姫王子 「ふむ。他の者たちの戦況は……おしているようだが」

姫王子 「さて、魔女は……」


馬車幽霊 「ええ、それなのですが」

馬車幽霊 「まずいですね。魔女を見失っては……」


姫王子 「ドラゴンの炎にのまれて、無事ということかい」


馬車幽霊 「まさにそれを成し遂げた方が目の前に」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ああ……」



カラン



姫王子 「……ん?」

姫王子 (甲板に何か落ちてきた)


ペンギンの骨


姫王子 「……鳥の、骨?」




カラララ バラララ

ガシャン ガシャシャ


ペンギンの骨
鎧の破片


姫王子 「鳥の骨と、鎧の破片が降ってくる……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「上か」



バサ バサ バサ


骨頭の竜 「…………」


鏡の魔女 「…………」


バサ バサ バサ バサ



姫王子 「……当然のように竜の上に立っている」




ヒラ ヒラ


姫王子 「……む」

姫王子 (羽ばたくドラゴンの翼から、黒い……雪のようなものが降ってくる)

姫王子 「……雪の降る時季でもあるまいし。嫌な予感がするな」

姫王子 「あれも魔女の魔法なのだろうか」


馬車幽霊 「おそらく、あの竜によるものかと……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」


ヒラ ヒラ ヒラ




ヒラ ヒラ ヒラ

ポワン


ペンギンの骨 「…………」

ペンギンの骨 「…………」


カタ

カタタタ


姫王子 「……!?」

姫王子 「骨が震えだした」


竜の骨たち 「…………」

竜の屍肉たち 「…………」


カタタ カタタタタ

グズル グジュルル


姫王子 「甲板の上の亡骸が震えている」

姫王子 「……何が起こっているんだ」





カタタタタ カタタタタタ

カチャ


馬車幽霊 「これは……!」


姫王子 「今度は骨が……」


カチャリ カチャチャ


ペンギンの骨 「…………」

骨ペンギン 「…………」


竜の骨たち 「…………」

骨竜たち 「…………」


姫王子 「組みあがった?」


骨ペンギン 「…………」


骨竜たち 「…………」


骨ペンギン 「カチカチカチカチ……!」


骨竜たち 「ゴチンゴチンゴチン……!」


ドタドタドタドタ


姫王子 (骨が襲いかかってきた!)




…………


カタカタカタ ガチコンガチコン

カタタタタ


骨ワイバーン 「ガチガチガチ……!」


魔法剣士 「……!」

魔法剣士 「おのれ、おぞましい……!」


クル魔エビ娘 「死んでも立ち上がってくるなんて……」


魔ーレラ 「惑わされるな。結界は破られん」

魔ーレラ 「死者は生者に負けん」


ろうそく職人 「で、ですがこれは地獄! まさに地獄絵図ですよう……」


キイイ


ろうそく職人 「……ん?」


獣くさい燭台


ろうそく職人 「ややっ、亡き魔ンボウ将軍より強奪した槍を」

ろうそく職人 「亡き師匠が私用に作りかえて生まれた杖が」

ろうそく職人 「何やらざわめいている……!」





>>188 訂正ごめんなさい



…………


カタカタカタ ガチコンガチコン

カタタタタ


骨ワイバーン 「ガチガチガチ……!」


魔法剣士 「……!」

魔法剣士 「おのれ、おぞましい……!」


クル魔エビ娘 「死んでも立ち上がってくるなんて……」


魔ーレラ 「惑わされるな。結界は破られん」

魔ーレラ 「死者は生者に勝てん」


ろうそく職人 「で、ですがこれは地獄! まさに地獄絵図ですよう……」


キイイ


ろうそく職人 「……ん?」


獣くさい燭台


ろうそく職人 「ややっ、亡き魔ンボウ将軍より強奪した槍を」

ろうそく職人 「亡き師匠が私用に作りかえて生まれた杖が」

ろうそく職人 「何やらざわめいている……!」


魔ーレラ 「……なんと」




魔ーレラ 「おい」


ろうそく職人 「うーむ、これはいったい……」

ろうそく職人 「まさか、一度は師匠の血を吸ったこの槍が」

ろうそく職人 「いま再び、師匠の血を吸いたくて吸いたくて震えているのでしょうか」


魔ーレラ 「おい、尻尾の」


ろうそく職人 「たしかに、なんか戯れに、これで師匠を突いちゃおうかなって」

ろうそく職人 「思ったことも一度や十度あったような……」


魔ーレラ 「青い獣」


ろうそく職人 「え? は、はい!」

ろうそく職人 「さぼっていません! 頑張って結界の養分になっております!」




魔ーレラ 「その杖……?」

魔ーレラ 「……は、何かいわくがあるのか」


ろうそく職人 「え、これがですか?」


獣くさい燭台杖


クル魔エビ娘 (……杖?)


夜魔法使い (あれは杖なのか?)


昼魔法使い (そういえば結界に夢中で気にならなかったが)


円魔法使い (そもそも、あの変な耳と尻尾の娘は何という種族なんだ?)


老魔法使い (モンスターなのではないか?)


ろうそく職人 「むふー……」


魔法使いたち 「…………」

魔法使いたち (……がぜん気になってきた)


シュンシュンシュン……


野生の女 「あれ、なんか結界がモヤモヤしてきたけど?」




ろうそく職人 「魔王軍の手先と名乗る魚類を倒して」

ろうそく職人 「手に入れました」


魔ーレラ 「ふむ……」

魔ーレラ 「それだけか?」


ろうそく職人 「え?」


魔ーレラ 「何か、魔術的な洗礼を受けてはおらんか」


ろうそく職人 「ええと、亡き師匠が私用に改造してくれたそうですが」

ろうそく職人 「私は立ち会えなかったので……」


魔ーレラ 「お前の師というと、あのエルフだったか」


ろうそく職人 「ええ。惜しい人を亡くしました」

ろうそく職人 「遺産は弟子……いや、娘にも等しい私が心をこめて使い込みます」


魔ーレラ 「しかし、これはエルフの技というよりは……」

魔ーレラ 「いや、こんな事態だ……やってみるか……」

魔ーレラ 「クル魔よ」


クル魔エビ娘 「は、はい!」


魔ーレラ 「試してみたいことがある。少しの間、指揮者を任せる」


クル魔エビ娘 「え!?」


魔ーレラ 「できんとは言わせん」

魔ーレラ 「お前と、ここに残る魔法使いたち」

魔ーレラ 「これほどの才能が揃っておいのだから」


クル魔エビ娘 「は、はい!」


ろうそく職人 「あ、あの……?」


…………




>>192 訂正 
(psvr発売日なので誤字脱字が多くなっておりますごめんなさい)





ろうそく職人 「魔王軍の手先と名乗る魚類を倒して」

ろうそく職人 「手に入れました」


魔ーレラ 「ふむ……」

魔ーレラ 「それだけか?」


ろうそく職人 「え?」


魔ーレラ 「何か、魔術的な洗礼を受けてはおらんか」


ろうそく職人 「ええと、亡き師匠が私用に改造してくれたそうですが」

ろうそく職人 「私は立ち会えなかったので……」


魔ーレラ 「お前の師というと、あのエルフだったか」


ろうそく職人 「ええ。惜しい人を亡くしました」

ろうそく職人 「遺産は弟子……いや、娘にも等しい私が心をこめて使い込みます」


魔ーレラ 「しかし、これはエルフの技というよりは……」

魔ーレラ 「いや、こんな事態だ……やってみるか……」

魔ーレラ 「クル魔よ」


クル魔エビ娘 「は、はい!」


魔ーレラ 「試してみたいことがある。少しの間、指揮者を任せる」


クル魔エビ娘 「え!?」


魔ーレラ 「できんとは言わせん」

魔ーレラ 「お前と、ここに残る魔法使いたち」

魔ーレラ 「これほどの才能が揃っているのだから」


クル魔エビ娘 「は、はい!」


ろうそく職人 「あ、あの……?」


…………









…………


カタカタカタ


骨竜 「カタタタタ」


姫王子 「うおりゃ!」


ゴキイン


姫王子 (骨にヒビひとつ入らない)

姫王子 「ええい、魔法無しじゃ無理か……!」


馬車幽霊 「関節は比較的崩し安いですが」

馬車幽霊 「それでも、魔法によって保護されています」


貝殻の勇者 「メイスも持っておくべきでしたか……」


馬車幽霊 「対死霊の魔法は、諸事情により私は扱えません」


姫王子 「ははは、今あなたに成仏されると非常にまずい……」

姫王子 「……むっ」


骨ペンギン 「カシャシャ」


姫王子 「来るか、短足……!」


骨ペンギン 「カシャ!」


ビヨン


姫王子 「!?」

姫王子 (足が伸びた!?)




骨ペンギン 「カタタタッ」


姫王子 「うわっと……!」


スカ

ビリ


姫王子 (何とか躱せたが……)

姫王子 「衣服の耐久力が異様に低くなっている気がする……!」


貝殻の勇者 「宿命ですね」


姫王子 「なぜ」


貝殻の勇者 「コホン……王子どのも、ええ、下着を身につけるべきかと」

貝殻の勇者 「女性同士とは言え、その」

貝殻の勇者 「戦いの中で気が散るというか……」


姫王子 「ははは、この夜を乗り切ったら考えてみ……」

姫王子 「何同士だって?」





馬車幽霊 「……!」


キイイイ ドゴン


骨竜 「!!」


ガシャン バラララ


竜の骨


カタタタタタ

カシャカシャカシャ


竜の骨 「…………ガチ」

骨竜 「ガチガチガチ」


馬車幽霊 「生きていた頃と比べ、魔法は格段に通りやすくなっていますが」

馬車幽霊 「何度倒しても立ち上がるのは厄介……」

馬車幽霊 「首無し馬を呼ぶべきか……」


貝殻の勇者 「大元であるドラゴンを討つというのは」


姫王子 「できるものならそうしたいけど……」



バサ バサ バサ


骨頭の竜 「…………」


鏡の魔女 「…………」


バサ バサ バサ




ボワンッ


王子 「!?」

王子 「何だ、どこかで変な音がした」


貝殻の勇者 「甲板のどこかのようですが……」

貝殻の勇者 「しやっ!」


ドグン


骨竜 「ガチチ」


バゴン


王子 「おお」

王子 (一突きで翼を根元から砕いた……恐ろしい威力だ)

王子 (それでいて、夜の隙間のように静かなのがさらに恐ろしい)


馬車幽霊 「む……あれは……」


バヒュウウウ


王子 「光輝く何かが、大砲の弾のように空に向かって……」

王子 「魔法使いたちのいる場所から放たれたようだが」





光り輝く何か


キイン キイン キイン


王子 「光り輝く何かが、船の上空で小さな星のようにj光り輝いている」


貝殻の勇者 「いったい何が起きているのでしょうか……」

貝殻の勇者 「さいっ!」


ヒュゴ

バコン


骨ペンギン 「ガシャンッ」


王子 「魔法かな?」


馬車幽霊 「おそらく」

馬車幽霊 「しかし、あれはまさか……」


王子 「ふむ……」

王子 (戦いながらなのでよく見ることはできないが)

王子 (光り輝く何かは、どうやら人の形をしているような気がする)




ハーピィ 「…………」


王子 「誰だあれは」

王子 (そういえば、白昼夢のように現れる鎧の騎士たちも)

王子 (あのように輝いていたな)


光り輝く何か 「…………」

光る魚? 「…………」


王子 「ううむ、どうやら背びれがあるぞ。手足の生えた、太った魚……かな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……!」

王子 「ハーピィ……」


ハーピィ 「……!?」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「……? ……!!」


王子 (なぜか戸惑っているようだ)

王子 「……あれは魚じゃ無い」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「……ふむ」




ヨン ヨン ヨン ヨン


光る魚? 「…………」


ヨン ヨン



馬車幽霊「……!」

馬車幽霊 「お気を付けを。来ます!」




キラン キラン キラン

シュイイイイ


光る魚? 「…………」


バシャン バシャン

シュイイイイ


王子 (光る何かが尾を引いて)

王子 (七色の光りの粒を弾かせながら突っ込んでくる)

王子 「お、おい、まずいんじゃないのか」


貝殻の勇者 「迎撃を……!」



鏡の魔女 「…………!」


骨頭の竜 「…………」


鏡の魔女 「ほほっ……なんと、忌々しくも懐かしい……」

鏡の魔女 「エルフォの星屑……!」



キラン キラン キラン

シュイイイイ






カシャアン

キラン キラン

シャラララララ


野生の女 「不吉な虹色の光が落ちてくる!」


ニワトコ娘 「流れ星の赤ちゃんみたい……」


術士ドワーフ 「おお、なんというまろやかな輝きよ」

術士ドワーフ 「わしがこれまでに見た、どの溶けた鉱物より美しい……」


瓶詰め妖精 「…………ふうん」


ザワ ザワ




光る魚? 「…………」


シュイイイイ


骨竜 「…………」


首無し骨竜 「………」


骨ワイバーン 「…………」


骨竜たち 「…………」


骨ペンギン 「…………」

骨ペンギン 「…………カタタ」


ガシャアン








ゴオオオオオ


王子 「うおっ……」


貝殻の勇者 「きゃっ……!?」


王子 (謎の光が、甲板に落ちて爆発した……!!)

王子 (くそっ、何も見えない! ハーピィ……!)

王子 「…………!」

王子 (何だ、声が出ないぞ)

王子 (そうだ、自然の声を……)


ギュウ


王子 「…………」

王子 (優しいものが、腕を掴んでくる)


ハーピィ 「…………」





シイン


王子 (……あたりを大きな力が吹き荒れている感覚はあるのに)

王子 (何も音がしない)

王子 (白い光が瞼を突き抜けて、雲ひとつない暑い日の太陽を見ているようなのに)

王子 (とても安らかだ)

王子 (不思議な感覚……)









……キイン キイン

ゴオオオオオ……



王子 (音が戻ってきた)

王子 (光が弱くなっていく。目を開けても大丈夫だろう)

王子 「…………」

王子 「!!」

王子 「あれは……」



フイイ フイイ


光る魔ンボウ 「…………」


フイイイ



王子 「たしか、妖精の領域で魔王の軍勢を束ねていた……」


ハーピィ 「…………」


王子 「神秘的な光りを帯びて、浮いている。これは、どういうことだ」

王子 「馬車幽れ……」


ダダダダ


貝殻の勇者 「おのれ魔王の手先!」

貝殻の勇者 「化けて出ましたか!」


王子 「ああ、まるで光に飛び込む蛾のように!」





王子 「勇者どの、待っ……」


貝殻の勇者 「死ねえええええええ!」


ギュルルルル ヒュゴッ


王子 (槍を回転させての突撃……)

王子 (あれで腹を抉られたら即死に違いない)


ボヒュッ


光魔ンボウ 「…………」


王子 「!!」


貝殻の勇者 「!?」


王子 (すり抜けた)

王子 「ゴーストか」

王子 「いや、それにしては神々しいが……」


貝殻の勇者 「ぬえぃやあ!」


ヒュゴ ヒュゴ ヒュゴ


王子 「ああ、そんなにやたらめったら突きまわしては……!」


貝殻の勇者 「てやあああ!」


王子 「聞く耳をもってくれない」

王子 「まるでさっきまでのハーピィのようだ……!」


ハーピィ 「…………」


ツネ


王子 「わかった、わかったハーピィ、悪かった。いじわるだった、ごめんよ」

王子 「だから、つねらないでおくれ」


ハーピィ 「…………」


王子 (まずいぞ、葉巻の手癖がうつってきたかな)



※ 
重ね重ねごめんなさい
名前表記「王子」は、すべて「姫王子」ということでお願いします。



姫王子 「……む」


光魔ンボウ 「…………」


フワン フワン


姫王子 「光る魔ンボウが消えていく……」

姫王子 「これはいったい、どういうことなのだろう」

姫王子 「馬車幽霊どの?」


馬車幽霊 「むう……」


光魔ンボウ 「…………」


フワ ワン ワン


馬車幽霊 「やはり、おそらく……」

馬車幽霊 「いえ、なさけなくも、おとぎ話で読んだ程度の知識しかありません」


姫王子 「なんと、あなたでさえか」

姫王子 「敵ではないようだけど……」


馬車幽霊 「ええ、おそらくこちらの味方に近いのでしょう」



散らばった骨



馬車幽霊 「私たちの側だけが、この甲板に立っているのですから」



バサ バサ バサ


鏡の魔女 「…………」


骨頭の竜 「…………」


バサ バサ バサ



馬車幽霊 「一部を除いて」





バサ バサ バサ



姫王子 「……黒い雪のようなものがやんでいるな」


馬車幽霊 「ええ」

馬車幽霊 「骨の傀儡たちも立ち上がる気配がありません」


姫王子 「さて、魔女どのの次なる一手は……」


バサ バサ バサ


鏡の魔女 「…………」

鏡の魔女 「ほほ……」


ピシ

バリイン


王子 「!」

王子 「魔女が……割れた」





ろうそく職人 「はら、ほれ、ひれ……」


魔ーレラ 「いかん、強く開きすぎたか」


ろうそく職人 「もう、尻尾一本動かせまひぇん……」


ヘロ ヘロ


クル魔エビ娘 「すごい……今のはいったい……」


魔ーレラ 「ああ、古……」


野生の女 「いやー、すごいなあろうそく職人ちゃん!」


ニワトコ娘 「うん、見直したわ」


魔法使い 「ただのヘンテコな娘かと思っていたが」


点魔法使い 「ああ、あれほどの大魔法は見たことがない」


円魔法使い 「師はいるのだろうか。いったいどれほどの星を持つ魔法使いの……」


ヤイ ヤイ


ろうそく職人 「えへへ、うへへ……」


鏡の魔女 「ほほ……わらわも気になるところよ……」


ろうそく職人 「ぎゃあ!?」




パキン キイン


鏡の魔女A 「ほほほ……」


子エビ娘A 「ま、魔女が!」


ク魔エビ娘 「……!」


ヒュキン 


鏡の魔女A 「…………」


ビシ


子エビB 「やったあ、命中!」


ク魔エビ娘 「いや……」


ガシャン


鏡の魔女B 「おや、ほほほ、可愛い小虫の小うるさいことよ」


エビ娘 「また出た!?」


パキン キイン

キイン


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「おやおや……」


鏡の魔女C 「ほう、流石は、わらわに剣先を向けし者たちよ」


鏡の魔女D 「皆なかなかに、無礼な目をしておる」


狩人 「…………!」


鏡の魔女E 「忌々しい」


鏡の魔女F 「まだ武器をおろさぬ、その心」


鏡の魔女G 「雑魚どもが、よくぞ頑張ったものだ」





バサ バサ バサ

ズズン


骨頭の竜 「…………」


王子 (ドラゴンが、甲板におりた)


鏡の魔女H 「ほほ……」


貝殻の勇者 「ふう、消えましたか魔王の手先」

貝殻の勇者 「……む?」


鏡の魔女H 「勇者」


鏡の魔女I 「お前はなんと、愚かな小娘だ」
 

鏡の魔女J 「ほほほ、あわれ、あわれ……」


貝殻の勇者 「魔女……」


姫王子 「化物め……」


鏡の魔女K 「お前たちごときに、わらわは理解できぬ」

鏡の魔女K 「お前たちごときの目では、夜の天辺が見えぬように」






姫王子 (葉巻も似たようなものか)

姫王子 「そのわけのわからない力で、おれの体を元通りにしてほしいものだね」


鏡の魔女K 「元通り……? それはどうか」

鏡の魔女K 「そう言えるほど、お前はお前のことを知っているのか」

鏡の魔女K 「小娘?」


姫王子 「…………」


ヒュパッ


鏡の魔女K 「おっと」


スカ


鏡の魔女K 「ほほ……おお、怖い怖い。思わず避けてしまった」

鏡の魔女K 「何を怒っている」

鏡の魔女K 「少し器がかわっただけのことだろう」

鏡の魔女K 「お前が愚かな人の子であることに、かわりは無いではないか」

鏡の魔女K 「怖がるな。じきに慣れる」


姫王子 「慣れたくないものでね」


ハーピィ 「…………」




姫王子 「それに、おれは一度あなたに、死ぬほど痛い目にあわされている」

姫王子 「怒らない方が難しい」


鏡の魔女K 「しかし、しぶとくもこうして生きている」


姫王子 (なんだ、戦う意志を感じない)

姫王子 (もちろん油断ならない。次は何を企んでいるのやら)

姫王子 「ずいぶんと暴れてくれたものだ」

姫王子 「船の中の獣たちも、あなたのしわざか」

姫王子 「そうだとしたら、大したものだが」


鏡の魔女K 「ふふ……はて、どうだったかな……」

鏡の魔女K 「わらわにとって、この世の術は使ったことも忘れるほどつまらぬものばかり」


姫王子 「それは、かわいそうに」


鏡の魔女K 「ほほ……言いおるわ」


姫王子 (言葉が誘いながら逃げていく)

姫王子 (おれをはぐらかして遊んでいるときの葉巻のようだ)

姫王子 (本当に何を企んでいる)

姫王子 (斬りかかるべきか……?)


鏡の魔女K 「あまり怖い顔をするな」

鏡の魔女K 「このわらわが、褒めてやろうというのに」




姫王子 「褒める?」

姫王子 「さんざん殺そうとしておいて?」


鏡の魔女K 「それゆえにだ」

鏡の魔女K 「小さき身で、皆よくぞ頑張った」

鏡の魔女K 「もちろん、わらわにとって今宵のことは」

鏡の魔女K 「すべて遊びのようなものだが」


貝殻の勇者 「遊び……?」


姫王子 (しかし、それが嘘かどうかも分かりづらい)

姫王子 (さすがは魔女というところか)


鏡の魔女K 「いらいらさせられたが」

鏡の魔女K 「ほほ……」

鏡の魔女K 「わらわの倦怠をさますには、良い遊びであったぞ」


貝殻の勇者 「人々に恐怖を振りまいておいて、何という……」


姫王子 (魔王の軍勢との関わりを、どうにか聞き出しておきたいところだが……)




貝殻の勇者 「あなた、魔王の軍勢とも関わりがあるのですか」


鏡の魔女K 「ほほ」

鏡の魔女K 「さあて、教えてやらぬ」


姫王子 (やっぱりか)

姫王子 「しかし、ずいぶんと態度をかえてくる」

姫王子 「この船を見逃してくれるということかな」


鏡の魔女K 「ほほ……さあて」

鏡の魔女K 「わらわはそれでも構わぬが、お前たち次第だな」


姫王子 (勇者どのへの執着はあまり見られないかな)

姫王子 (敵というより、たしかにからかって遊んでいるようにも見える)

姫王子 「心変わりのきっかけは何だろうか」


鏡の魔女K 「わらわにも慈悲の心はあるということだ」




ク魔エビ娘 「慈悲ね……」

ク魔エビ娘 「一度こちらの慈悲を踏みにじっておいて、よく言うよ」


鏡の魔女B 「ささいなこと」



大槌の傭兵 「こっちはさんざん痛めつけられたのだ」

大槌の傭兵 「今さら武器をおろせるものか?」


義眼の射手 「しかし、魔女はまだまだ力が衰えていない様子」

義眼の射手 「こちらに戦う力がどれほど残っているか……」


槍傭兵 「なあに、きっと、はったりさ」


鏡の魔女L 「ほほ、かかってきて構わぬぞ?」

鏡の魔女L 「もちろん死ぬことになるが……わらわは気分が良い」

鏡の魔女L 「武器をおさめた者の命まで取ることはせぬ」












姫王子 (気まぐれ……?)

姫王子 (それとも、きっかけがあったのか)

姫王子 (……としたら、さっきの魔ンボウかな?)

姫王子 「何が、あなたの気分を良くしたのだろうか」


鏡の魔女K 「小賢しいぞ、小娘」


姫王子 「さっきの光る魚類はすごかったな」


鏡の魔女K 「…………」


馬車幽霊 「ええ」

馬車幽霊 「今日使われた魔法の中でも」

馬車幽霊 「一番素晴らしいのはあの魔法でした」


鏡の魔女K 「…………」


姫王子 (少し、表情が険しくなった)


鏡の魔女K 「一番良い部屋を用意せよ」

鏡の魔女K 「わらわを誠実にもてなすならば、これ以上」

鏡の魔女K 「お前たちをいじめるようなことは、せずにいてやろう」




姫王子 「一番良い部屋ね」

姫王子 「どうだろうな。あなたがお暴れになるまでは、簡単に用意できたかもしれないが」


ハーピィ 「…………」


鏡の魔女K 「揃いも揃って、行儀の悪い子どもよ」

鏡の魔女K 「その舌を凍らせられなければ、ふざけた物言いはなおらぬか?」


姫王子 「子どもね……」


馬車幽霊 「船長がこの場にいません」

馬車幽霊 「帰ってくるまで待っていただくわけにはいきませんか」


鏡の魔女K 「関係ない。わらわが答えを求めている」


姫王子 「それはそれは……」

姫王子 (難物だ。先生が特殊なだけで、力ある魔法使いとはみんなこうなのか)

姫王子 (花の長老たちも、くせが強いようだったし)




クル魔エビ娘 「魔ーレラ婆……」


魔ーレラ 「ふむ……」


鏡の魔女たち 「どうした。答えぬのか?」

鏡の魔女たち 「ならばあとが面倒だが、お前たちを皆殺しにしてこの船をいただこうか?」


エビたち 「…………!」


傭兵たち 「…………ッ」


姫王子 (……攻撃をしかけようとする者は出ないな)

姫王子 (消耗している上に、あとどれくらい戦わなければならないか見当もつかない相手だ)


貝殻の勇者 「…………っ」


姫王子 (敵と見なした相手に迷わず攻撃をしかける勇者どのも、決めきれないようだ)

姫王子 (……葉巻がこの場にいないのは幸いだったんろうか)

姫王子 (ここまできたら、あいつは考える間もなく徹底的に戦うことを選ぶだろう)


ハーピィ 「…………」


ザザア ザプン ザザア


鏡の魔女K 「……ほほ」

鏡の魔女K 「なさけない者たちよ」




鏡の魔女たち 「では、お前たちを殺して」

鏡の魔女たち 「この船を使うことにしよう」


キイイイ


王子 「……!」

王子 (鏡の魔女たちが魔法を練りはじめた)

王子 「全部本物みたいだ。どうなっているんだ、魔女ってやつは」


馬車幽霊 「弱体化はしているようですね」

馬車幽霊 「組み立てるのに時間がかかっている」

馬車幽霊 「おそらく、一つの存在を複数に分けているのでしょうが……」


キイイイ


槍傭兵 「く、くそ……!」


剣傭兵 「ええい、黙ってやられてたまるか! 武器を構えろ!」


チャキ


ク魔エビ娘 「やれやれ」

ク魔エビ娘 「聞く耳なんて持ってやるべきじゃなかったんだ」


鏡の魔女たち 「ほほほ……」


キイイイイ







ワアアア


大槌傭兵 「でやあ!」


ブオン ガシャン


首なし鏡の魔女E 「…………」


弓傭兵 「おお、一撃で頭を粉々に砕いたぞ!」


大槌傭兵 「がははは、見かけ倒しめ! こやつ、ガラス細工のように脆いわ!」


悪魔紳士 「いやいや、どうでしょうな」

悪魔紳士 「頭を無くしても、元気に魔法を組み立てていらっしゃる」


カチャ カチャ カチャ


砕けた鏡の魔女E 「…………」

鏡の魔女E 「……ほほ」


キイイイ


狩人 「……そんな。元通りに……」


淫魔幼女 「…………」


斧傭兵 「ええい、攻撃を続けろ。何としても止めるんだ!」




ガシャン バリン

カチャ カチャ カチャ


鏡の魔女K 「ほほほ……どうした、はやくせねばわらわの炎に焼き尽くされるぞ?」


貝殻の勇者 「……いけません。まるでこたえた様子がありません」


姫王子 「本当に遊ばれているだけの気になってくるな」

姫王子 「何か手は無いものか」


馬車幽霊 「核となる存在を倒すか、すべてを同時に撃破すれば良い」

馬車幽霊 「という場合が多いのですが……」


姫王子 「難しそう話だな。砕いたところで手ごたえを感じないし」

姫王子 「……勇者どのに全部押し流してもらうというのはどうかな」

姫王子 「こちらは甲板室に避難して」


馬車幽霊 「敵もさすがに、そこまでの時間はくれないでしょう」


貝殻の勇者 「勇者の力は強大です。甲板を平らげてしまわないとも限りません」

貝殻の勇者 「私も、まったく使いこなせているというわけではありませんから」


姫王子 「ううむ」


ハーピィ 「…………」




姫王子 (しかし……)


ガシャン バリン グシャ グシャ

キイイイ


鏡の魔女K 「ほほ……何度やっても無駄なこと」


姫王子 (何度でも元通りになるというのは良いな)

姫王子 (感触はまったく違うけれど、訓練の足しになりそうだ)

姫王子 (この身体といつまで付き合わなければならないか分からないが、早く慣れておかなくては)

姫王子 (……骨と肉のある、何度斬っても元通りになる魔法の人形なんて作れないかな)


ガシャン バリリ


姫王子 (おっ……今のは良い感じに身体が動いたぞ)

姫王子 (女性の身体になって動きが柔らかくなったみたいだ)

姫王子 (腕力が落ちているが、剣の重さをうまく利用できたら良いかな)

姫王子 (重い剣も持ってみるか……)


ガシャン バリン


貝殻の勇者 「こんなときに、何をしているのです王子どの!」







姫王子 「いや、何としても止めないとと……」


貝殻の勇者 「ごまかさないでください」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


貝殻の勇者 「武器をまじえたこともあるので分かります」

貝殻の勇者 「動きから何まで、まるで訓練そのものという様子ではありませんか」


馬車幽霊 「分かりませんでしたが……」


姫王子 「いやいや……ああ、そんな気分になっていた」

姫王子 「はやく身体に慣れたくてね」

姫王子 「今後のためにも」


貝殻の勇者 「今後のためって、何をのん気な……」


姫王子 「ははは……杖を持った腕を壊しても無駄のようだ」

姫王子 「やはり偽者なのではないのかな」


馬車幽霊 「今まさに放たれようとしている魔法そのものは本物のようです」

馬車幽霊 「エルフの交感術を習得した王子どのにも分かるはずです」

馬車幽霊 「魔女に集まる魔力の流れが」


姫王子 (交感……自然の声か)

姫王子 「ふむ……」


馬車幽霊 「それをも欺く術を持たれていたら厄介ですが……お気をつけを」

馬車幽霊 「魔女は本当にとどめをさしてくるつもりの様子」

馬車幽霊 「これまでの魔法とは精度も密度を違います」

馬車幽霊 「魔法の壁は重ねていますが、耐えられるかどうか」


姫王子 (本当に化物か。まあ、ドラゴンを操るくらいだしな)

姫王子 「気をつけろと言われてもな……」





キイイイイ バフ ジジジ


鏡の魔女たち 「ほほほ……」

鏡の魔女たち 「もはやわらわにとって世界など、ひととき倦怠を紛らわす、うつろな庭のようなもの」

鏡の魔女たち 「お前たちがどれほど力を尽くしたとて、所詮は夢まぼろしのひとひら」

鏡の魔女たち 「すべてはわらわの心のままに」

鏡の魔女たち 「わらわは鏡の魔女。竜の乗り手。白き西日の左」

鏡の魔女たち 「古の賢樹よりも永く、大いなるもの……」


キイイイイ


姫王子 「……魔女の杖から今にも炎がこぼれそうだ」


キイイイ

ガシャン バリン


子エビたち 「えいっ、やあっ……!」


ア魔エビ娘 「ク魔、かくなる上はオレたちも姿を……」


ク魔エビ娘 「それで乗り切ったとしても混乱が起きる」

ク魔エビ娘 「それに無駄だ」


ガシャ バリリ


傭兵たち 「くそっ、くそっ!」


ガシャ バリン

キイイイイイ


鏡の魔女たち 「さらば、滅びゆく世界の哀れな子どもたち」

鏡の魔女たち 「ほほほほほ」

鏡の魔女たち 「ほほほほほほ……」


キイイイイ




キイイイ


貝殻の勇者 「………!」


姫王子 「ううっ……」

姫王子 (魔女が杖にたたえる炎が大きく、小さな太陽のように眩しくなった)


ハーピィ 「…………!」


スチャ


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ハーピィが変な星型の眼鏡を差し出してきた!)

姫王子 (これをかけろということだろうか。たしかに、黒いし光は防げそうだ)

姫王子 (そんな場合じゃないが)


キイイイイ


…………


ドオン


鏡の魔女K 「…………うん?」


姫王子 (遠くで爆発するような音)

姫王子 (聞き覚えがあるような……)


ヒユルルルルル

ボウン ドゴオオオン


鏡の魔女K 「………!」


貝殻の勇者 「きゃあ!?」


姫王子 「うわ!?」

姫王子 (船のすぐ近くで、何かが爆発した!)




オオオオ

パラ パラ パラ パラ


ブラウニー 「な、何ですか何ですか!?」


瓶詰め妖精 「あら、綺麗。色んな色の光の粒が雨みたいに」


野生の女 「あー、なんか、故郷の祭りを思い出すなあ」

野生の女 「コボルトの魔法使いが光の兎を出すんだよ」

野生の女 「兎がぴょんぴょん飛び跳ねて、最後は弾けてこんな感じに光の粒になるの」


ニワトコ娘 「じゃあ、これも魔法なのかしら」


野菜鍛冶娘 「いえ、これは……」


クン クン


野生の女 「どうしたの、鼻をひくひくさせて」


野菜鍛冶娘 「クンクン……やっぱり、火薬のにおい」

野菜鍛冶娘 「これ、花火です! 南西地方の!」




ザワ ザワ


魔法使いA 「な、なんだ……」


クル魔エビ娘 「う、うう……くさい」


円魔法使い 「これは、魔女の魔法なのか……?」

 
魔法使いB 「だとしたら、どんな魔法なのか……」


魔法使いA 「このにおいも罠なのか……!?」


夜魔法使い 「まずいぞ、みんな鼻をとじろお!」


ザワ ザワ


魔ーレラ 「これ、落ち着かんか……」


昼魔法使い 「大魔法使いのろうそく職人どの、何か手はないだろうか!」


ろうそく職人 「!! 大魔法使い……」

ろうそく職人 「……むふー」






ろうそく職人 「コホンッ……どんな魔法か、分からないのですね」


昼魔法使い 「ああ、分からなくては対策のたてようがない」


老魔法使い 「いや、これは花……」


ろうそく職人 「では、どんな魔法か明らかにしましょう」


夜魔法使い 「おお、できるのか!」


ろうそく職人 「簡単です」

ろうそく職人 「少し待ってください」


魔法使いたち 「おお……!」


ろうそく職人 「…………」


テク テク テク テク……


魔法使いたち 「?」


円魔法使い 「お、おい、どこへ行く……」





……テク テク テク


鏡の魔女 「……………」


ろうそく職人 「すみません、鏡の魔女さま」

ろうそく職人 「このやたら臭いだけの光の粒はあなたの魔法でしょうか」



魔法使いたち 「!?」



鏡の魔女 「違う」


ろうそく職人 「なるほど」

ろうそく職人 「では、失礼します」


テク テク テク テク……



……テク テク テク


ろうそく職人 「…………」

ろうそく職人 「どうやら、違うようです」


魔法使いたち 「……~~~ッ!!」





ザワ ザワ ドヨ ドヨ


貝殻の勇者 「花火……」


鏡の魔女 「…………?」


姫王子 (魔女にとっても意外だったようだ)


骨頭の竜 「…………」

骨頭の竜 「クロロロロ」


バサ バサ バサ


姫王子 「!」


貝殻の勇者 「竜が雄たけびを……」


姫王子 「雄たけびにしては物悲しいけど」


鏡の魔女 「…………ふん」

鏡の魔女 「どこからかぎつけてきたものか」





ザワ ザワ


馬車幽霊 「王子どの」


姫王子 「馬車幽霊どの」


馬車幽霊 「この花火は魔法仕掛けのようです」


姫王子 「そうなのか」


馬車幽霊 「出所を探していたら」

馬車幽霊 「海原、南の方に……」


姫王子 「うん?」



帆船



姫王子 「……船」



姫王子 「まずいぞ、こちらを向いている」

姫王子 「こちらに来れば、まとめて魔女の餌食だ」


馬車幽霊 「この船が襲撃を受けているのを捉えて、駆けつけてくれたのでしょうか」


姫王子 「だったら不幸だな。まさかドラゴンとは、思ってもいないだろう」


ハーピィ 「…………」



帆船



ザワ ザワ


傭兵 「あそこ……船だ」


槍傭兵 「救援か? しかし一隻では……」


ザワ ザワ



姫王子 「……領旗は見えるかい」


馬車幽霊 「いえ」


姫王子 「オレもだ」

姫王子 「……まさか海賊の火事場泥棒じゃないだろうな」





馬車幽霊 「だとしたら最悪ですが……」


貝殻の勇者 「あなたたち、少しは目の前の敵に注意を割いてください」


馬車幽霊 「……む」


王子 「何か見えたのかい? オレには分からないけれど」


馬車幽霊 「船から、何かが飛んできます」


王子 「砲弾か」


馬車幽霊 「いえ、鳥ほどの速さです」

馬車幽霊 「見たことのないものです」

馬車幽霊 「船のようですが……何だろう、あれは」


王子 (ちょっとウキウキしてないか)

王子 「空飛ぶ船? 白昼夢かな」


馬車幽霊 「まだ夜ですよ。寝ていないというだけで」

馬車幽霊 「領旗が見えます」

馬車幽霊 「赤に冠と、右下に星の」


王子 「おぼえがある」

王子 「帝国南東地方の旗だ」




オ オ オ

ヒュオオオ


骨頭の竜 「…………」


鏡の魔女 「良い」

鏡の魔女 「ホホホ……黒き煙の空をゆくか、気に入らぬことよ」



ヒュオオオ



姫王子 (鏡の魔女に動きは無しか。かっこうの的だろうに)

姫王子 (さて……?)


貝殻の勇者 「帝国……! 憲兵隊でしょうか?」


姫王子 「星のある旗は地方領のものだけど」

姫王子 「乗っていないとは言えないだろう」

姫王子 (憲兵隊の何かだとしたら、勇者どのを隠した方が良いか)

姫王子 (しかし、ここで何かすると魔女がどう動くか)


馬車幽霊 「人が乗っています。一人」

馬車幽霊 「憲兵のようには見えませんが……」



ヒュオオオオ

オオオオ


姫王子 「貝殻さん、なるべく見た目通りの可憐な娘のふりをしてくれ」


貝殻の勇者 「いきなり何を……」

貝殻の勇者 「……ああ、そういうことですか」


ハーピィ 「…………」


ヒュオオオオ


空飛ぶ船?


フイイイ



姫王子 (はっきり見えてきた。だいぶ小さい船のようだ)

姫王子 「……本当だ。人が乗っている」

姫王子 「黒い服」

姫王子 「黒か……」



フイイイ

イイイ

ヴヴン



鏡の魔女 「…………」


空飛ぶ船?


姫王子 (木造りの小さな船が、甲板についた)

姫王子 (金属でできた筒状のものから、煙突みたいに黒い煙が上がっている……ひどいにおいだ)

姫王子 (乗っているのは……)


??? 「…………」

寡黙剣士 「…………」


姫王子 「ああ……」


馬車幽霊 「お知り合いですか、王子どの」


姫王子 「まあ、うん」

姫王子 「城にいたころのツテでね……」


カシャン ガラララ

バララ


剣傭兵 「……おお」


槍傭兵 「どうしたんだ、骨の魔物たちが糸が切れたように崩れ落ちた」


大槌傭兵 「我々の勝ち……なのか?」


クル魔エビ娘 「う、うう……」


ろうそく職人 「うむむ、なんでしょう。なんだか頭が痛くなってきましたよ」


魔ーレラ 「魔法使いはとくに、あの煙を、においすら体内に入れぬように気をつけよ」

魔ーレラ 「あれは魔法を殺す」


ろうそく職人 「殺す!」

ろうそく職人 「殺されてしまうのですか!?」


クル魔エビ娘 「ええっ!?」


ろうそく職人 「みなさん、呼吸を止めましょう!」

ろうそく職人 「生き残るすべはそれしかありません!」


魔ーレラ 「落ち着け。魔法を殺すだけじゃ」


魔法使いエビ 「魔ーレラ婆、あれはいったい」


魔ーレラ 「英雄の時代よりも古くに葬られた忌むべきものだ」

魔ーレラ 「まだ絶えてはいなかったか」





ハーピィ 「…………」


姫王子 「……ん」


馬車幽霊 「船にもう一人乗っていたようですね」



ニョコ


??? 「……ふひい」

黒僧侶 「つ、着いたか……?」


寡黙剣士 「…………」


黒僧侶 「やれやれ……この乗り心地にはいまいち慣れない……!」

黒僧侶 「しかし、何ともうさんくさいにおいのする大きな船だ。まさか噂の黒い幽霊船ではないだろうな」

黒僧侶 「……むむ」


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「……! おお、あれが悪名高き、西の竜山の魔女……」

黒僧侶 「ゴクリ……美しい」

黒僧侶 「い、いや、コホン……禍々しい……」


鏡の魔女 「…………」


寡黙剣士 「…………」

寡黙剣士 「……お迎えにあがりました」

寡黙剣士 「鏡の魔女どの」





線魔法使い 「何だ、どうなっているんだ。あの不思議な帆の船はなんだ」


点魔法使い 「もう結界は解いても良いのか?」


貝殻の勇者 「迎え……魔女を?」


馬車幽霊 「王子どの?」


姫王子 「ふうむ……」


ハーピィ 「…………」


ザワ ザワ


鏡の魔女 「……ほほほ」

鏡の魔女 「おお、なんと悲しいことだ」


寡黙剣士 「…………」


鏡の魔女 「見ず知らずの人間の若者が、わらわの遊び場へ不愉快なものに乗ってあらわれ」

鏡の魔女 「名乗りもせずに、わらわに口をきいている」

鏡の魔女 「わらわは、この罪深き者どもにしかるべき罰をあたえねばならぬではないか」


黒僧侶 「な、なんと!」

黒僧侶 「なんという口のききかただ! この方はだな……」


寡黙剣士 「黒僧侶どの、良い」


黒僧侶 「しかし……!」


寡黙剣士 「失礼しました。お久しぶりです」

寡黙剣士 「……帝国南東地方領、南東領主の子、黒王子です」

黒王子 「我が父の命により、お迎えにあがりました」


鏡の魔女 「ほほ……はて、黒王子。そんな者もおったかな」




鏡の魔女 「ふむ……おぼえておらぬ」


黒王子 「……こちらの船の方々とはうまくいっていない様子」

黒王子 「我々の船にお越しになられては」


鏡の魔女 「さて、ふうむ」

鏡の魔女 「ほほほ……嫌じゃ」


黒僧侶 「なっ!?」


鏡の魔女 「輝王子をつれて参れ」

鏡の魔女 「そうしたら、おとなしく乗ってやっても良い」

鏡の魔女 「わらわの可愛い竜たちとともに」


黒僧侶 「なっ、なんというわがまま!」

黒僧侶 「黒王子、我らの船に集めし盛栄と魔法の大砲を見せ付けてやりましょうぞ!」


黒王子 「…………」

黒王子 「兄……輝王子さまは今、本島海上都市にいます」

黒王子 「この季節の風では、ここまで来るには何日とかかるでしょう」


鏡の魔女 「だから、私の方から出向けと?」


黒王子 「我々の船ならば、魔女どのを輝王子さまのもとへ、多少は速く運ぶことができます」


鏡の魔女 「女がわざわざ、男のところへ出向けと」

鏡の魔女 「そう言いたいのか……!」


黒僧侶 「さっさと海賊のような真似をやめておとなしく船に乗れと言っているのだ、この魔女め!」


黒王子 「黒僧侶どの!」








馬車幽霊 「何やら、もめているようですが……」


貝殻の勇者 「この骨たちは、もう襲ってこないのでしょうか」


竜の骨たち


貝殻の勇者 「……日ごろ思っているのですが」

貝殻の勇者 「獣などの骨は、はたして、魚の小骨などと違って食べられない、残すべきものなのでしょうか」

貝殻の勇者 「もしかすると、じつはとても美味しい食べ方があるのでは……」


姫王子 「勇者どの……」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「王子どの、魔女と話している男と知り合いとのことですが」


姫王子 「さて、どれほど知っているものか」

姫王子 「親同士の親交があるので、顔を合わせることもあったが」

姫王子 「最後に直接会ったのは葉巻と出会うかなり前だし」

姫王子 「あんな魔女の知り合いがいるなんて、聞いたこともなかった」

姫王子 「隣の青年も知らん」

姫王子 (服を見るに、あの宗教の関係者のようだが)


貝殻の勇者 「魔女を迎えに、領主の子が出向くとは」

貝殻の勇者 「領そのものが魔女と手を結んでいるということではないですか?」


姫王子 「裏で、なのか、彼だけが、なのかは分からないが」

姫王子 「敵同士には見えないな」


貝殻の勇者 「ううむ……」


馬車幽霊 「やはり魔女の方が上手のようですが」


姫王子 「あのやりとりの感じには、何故かおぼえがあるな」

姫王子 「領主の息子は厄介なものに振り回される宿命でもあるのかね」


ハーピィ 「…………」




鏡の魔女 「ほほ、よく吠える子どもだ……」


キイイ


黒僧侶 「ふぐっ……!?」

黒僧侶 「~~~! ~~~~~!!!」


鏡の魔女 「そうやって汚い口を閉じているが良い」

鏡の魔女 「それとも、わらわ直々に引き裂いて竜の餌にしてやろうか」


黒王子 「契約を果たすまで、我々に危害をくわえないはずでは」


鏡の魔女 「ほほほ……さあて」


黒王子 「違えるつもりならば、こちらもそうしなくてはなりません」


鏡の魔女 「………そなた、わらわを脅すつもりか?」


黒王子 「少なくとも、あなたの欲するものは永遠に失われることとなる」


鏡の魔女 「ほほっ……!」

鏡の魔女 「わらわの欲するものを知っていると言う」

鏡の魔女 「人間が、魔女たるわらわの全てが分かるとでも言いたげな、傲慢な顔をして!」


黒王子 「少なくとも、何を欲しているのかは知っています」

黒王子 「だからこそ、契約は結ばれた」


鏡の魔女 「……ふん」

鏡の魔女 「世界の何も知らぬくせに、あわれで憎いことよ」


キイイ


黒僧侶 「~~~ぷはっ!?」


黒王子 「大丈夫か、黒僧侶どの」


鏡の魔女 「傍におく者には気をつけることだ」

鏡の魔女 「もっとも、その自由がきくほどの力がそなたに与えられているのなら」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「ほほほ……」




黒僧侶 「だ……だから反対なのだ、ぼくは……!」


黒王子 「鏡の魔女どの」

黒王子 「我々の船にお乗りいただきたい」


鏡の魔女 「わらわは誰の言いなりにもならぬ」

鏡の魔女 「わらわのすべては、わらわの気分しだい」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「ふふ……さて、どうしてくれようか……」

鏡の魔女 「のう?」


骨頭の竜 「…………」


黒僧侶 「うう、なんと恐ろしい」

黒僧侶 「血のようにべったりとした黒い皮膚に、骨の頭とは」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「……ほほ、そうだな」

鏡の魔女 「酷というものよ」

鏡の魔女 「何の力もない者に、あれこれと言いつけても」


黒王子 「…………」





鏡の魔女たち 「ほほほ……」



パリン ガシャン


ク魔エビ娘 「……! 魔女の分身たちが砕け散った……」


悪魔紳士 「さあて? お次は何でしょうな。また骨が立ち上がるのですかな」

悪魔紳士 「たとえばこの……役立たずの鳥の骨とか」


魔カロニペンギンの頭蓋骨


悪魔紳士 「悪趣味なショウを見ているようで、少し楽しみになってまいりましたよ」

悪魔紳士 「ねえ?」


カタ カタ カタ カタ


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「失礼、お嬢さんには悪い冗談でしたかな」


淫魔幼女 「おれはおと……」



パリン ガシャン

ガシャン パリン

サララ



鏡の魔女 「……良いだろう」

鏡の魔女 「そなたの船に乗ってやろう」

鏡の魔女 「空を行く竜の背に比べ、劣るであろうが」

鏡の魔女 「これ以上、無能な犬をいじめるようなことをしては、心が痛む」

鏡の魔女 「せいぜい、わらわを退屈させぬよう心がけよ」


黒僧侶 「何という態度。おお神よ、この高慢ちきの魔女に白姫の謙虚さの欠片でもお恵みくださいますよう……」


ボソ


黒王子 「魔女どのを退屈させぬなど「身に過ぎる大任ではありましょうが、尽力いたします」

黒王子 「大切にもてなすよう、領主からも言いつかっておりますので」


鏡の魔女 「ほほ……つまらぬ男よ」






鏡の魔女 「では、そうだな……おお、そうであった」

鏡の魔女 「さっそく、そなたに頼みたいことがある」


黒王子 「私にできることであれば」


鏡の魔女 「今宵は、わらわの可愛い竜たちが大勢殺されてしまった」

鏡の魔女 「灰にして弔ってやりたいので、骨を集めてもらいたいのだが……」


黒僧侶 「なんと! 骨を拾う!」

黒僧侶 「この船に乗る、いかめしい方々の視線に刺されながら!」


黒王子 「分かりました。さっそくこの船の者に話を……」


鏡の魔女 「ほほ……そう急ぐでないよ、まだ話の途中だ」

鏡の魔女 「……一匹、どうしても見つからぬ」

鏡の魔女 「先ほど、海の中に入ったのだが……どこにいったのやら」

鏡の魔女 「のう? ほほほ……」




黒王子 「……先に骨を集めましょう」

黒王子 「その間に出てくるかもしれません」


鏡の魔女 「だめだ」

鏡の魔女 「そうであってほしくはないが、死んでおるやもしれん」


黒王子 「…………」


ガサ ゴソ


黒僧侶 「何をされているのですか、黒王子!」


黒王子 「靴は邪魔になる」


黒僧侶 「海に飛び込むおつもりか!」

黒僧侶 「明けぬ海などという邪悪な時に飛び込むなど、愚かに過ぎますぞ!」

黒僧侶 「神もそのような者に慈悲をおかけくださらない!」


黒王子 「承知の上だ」

黒王子 「強い錆び止めの魔法を付与した武器を持ってくればよかったか……」


黒僧侶 「……!」


鏡の魔女 「ほほ……、ちゃんと連れ帰ってくるのだぞ。死体であっても」


黒僧侶 「ふざけるな!」

黒僧侶 「生きたドラゴンを、調教した馬のように連れて帰れと!?」

黒僧侶 「それに浮かんでこない死体を探せとはつまり、海の底で死ねということではないか!」




鏡の魔女 「できぬと申すか?」

鏡の魔女 「であれば、わらわは退屈のあまりあの船を沈めることになろうな」


黒僧侶 「そんなこと……」


鏡の魔女 「試してみるか?」


黒僧侶 「ぐっ……」


ト ト ト


??? 「あまり、我々の船で好き勝手をしないでほしいね」

ク魔エビ娘 「このトカゲたちの骨を片付けてくれるっていうなら、仕事が減って大助かりだが」


黒王子 「……この船の方々か」


魔ーレラ 「船長は不在じゃがな」


黒王子 「申し訳ない。我々の事情に巻き込んでしまいました」


鏡の魔女 「ほほ……」


ク魔エビ娘 「どこぞの高貴なお方の、申し訳ないの一つで済むものかね」

ク魔エビ娘 「散らばったトカゲの骨を丸ごとお金にかえたって、埋められやしないところだよ」


黒僧侶 「おお、神よ! この海にはなんと、愚か者の多いことか!」

黒僧侶 「黒王子はわざわざ、襲われているお前たちのために……!」


黒王子 「黒僧侶どの」


魔ーレラ 「ク魔、少しお黙り」

魔ーレラ 「やっと嵐が過ぎようというんだ」





魔ーレラ 「海の中を探すのは我々の方が得意じゃ」

魔ーレラ 「あの男も海の中じゃし、探すのは……」


鏡の魔女 「わらわは、この男に探せと言ったのだ」


ク魔エビ娘 「死ねの間違いじゃないかな」

ク魔エビ娘 「陸の生き物に海で探し物をしろってのは」


黒王子 「海に囲まれて育ちました。陸と同じことです」


ガサ ゴソ


ク魔エビ娘 「勇ましいことで……」





姫王子 「おいおい……海に飛び込むつもりか」


馬車幽霊 「さすがは、王子どのの知り合いでらっしゃる」


姫王子 「どういう意味かな、馬車幽霊どの」


貝殻の勇者 「は、ハレンチです、男性とはいえ船の上で服を脱ぎ胸をさらすなど……!」


姫王子 「うーむ、あの鍛え方は」

姫王子 「剣だけを振っているわけではなさそうだぞ」


ヒタ


??? 「だが、飛び込んでもらうわけにはいかんな」

ロブスター 「おれの船に不吉がついてしまう」


姫王子 「マスター・ロブ!」

姫王子 (手に剣の欠片のようなものを持っている)


貝殻の勇者 「ご無事でしたか」


ロブスター 「海の男は女性の心配を無駄にすることなどしないのさ、美しいお嬢さんがた」


姫王子 「ドラゴンに一人で立ち向かうなんて無茶をその髭むしって焼いて良いか今なら塩味も効いて良い味を出すだろう」


ロブスター 「はっは、ぜひ風呂場で願いたいものだ」








ガサ ゴソ


黒王子 「……では、ドラゴン探しに向かいます」

黒王子 「黒僧侶どの、甲板の方はお願いする」


黒僧侶 「ぼく一人で!? いえ、そうではなく、はやくそこから降りるのです、黒王子!」


??? 「そこの黒い坊さんの言う通りだ」

ロブスター 「ドラゴンを探しに海へ飛び込む必要なんざない」


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


黒僧侶 「おお……! 話の分かりそうなのがきた! 神よ感謝します」


黒王子 「あなたがたは……」


ロブスター 「おれはこの船の船長をしている」

ロブスター 「人は、キャプテン・ロブスターと呼ぶ」

ロブスター 「オ、魔ール……」


魔ーレラ 「やっと戻ってきおったか。船をほっぽり出しよって」


ロブスター 「優秀な船員たちがいる」

ロブスター 「さて、南東の貴きご子息よ、そこから降りていただけないか」

ロブスター 「そこは手を乗せる場所であって、素足で踏む床ではない」


黒王子 「お許しいただきたい。海中に消えたドラゴンを探さねばならないのです」


ロブスター 「で、あれば、なおさらだ」

ロブスター 「そのドラゴンはここにいる」


姫王子 「…………」


黒王子 「……? そちらの女性が何か……」


姫王子 (殺すぞ)

姫王子 「ああ、いや……」


ハーピィ 「…………」


黒僧侶 「まさか、その娘どもがドラゴンだと言うのか!」

黒僧侶 「ドラゴンが魔法で人の姿になって人を騙す話を読んだことがあるが……ううむ、たしかにこの二人、美しいがどこか野蛮な野生の気配がしますぞ」

黒僧侶 「そちらの黒い髪の娘など着ている服も破れていろいろはみ出……ゴクリ……コホン!」

黒僧侶 「むむう、その娘がドラゴンなのか!」

黒僧侶 「その娘が!」


姫王子 (殺すぞ)




姫王子 (とは言え、おれもよく事情が分からない)

姫王子 (何となく想像はつくが、指示されたとおりにしてみよう)

姫王子 「これをご覧いただきたい」




何かの欠片


黒王子 「これは……武器の欠片のようですが」


黒僧侶 「いいや、おそらく鏡の欠片では」

黒僧侶 「触ってはなりませんぞ、黒王子どの」

黒僧侶 「触ると呪われる悪魔の道具かもしれない」


姫王子 「なんだと」


黒王子 「鏡……」


鏡の魔女 「…………」



ロブスター 「さて、鏡の欠片か割れた眼鏡かは分からないが」

ロブスター 「それが、おれが先ほどまで海中で戦っていた竜の成れの果てだ」

ロブスター 「思い切りきりつけたら、そんなものになっちまった」


黒王子 「この欠片が竜の……」


黒僧侶 「馬鹿な、鏡が竜になるなど」


ロブスター 「そう、馬鹿な話だ」

ロブスター 「この船丸ごと、魔女の鏡遊びに付き合わされていたということだ」

ロブスター 「やれやれ、竜退治の自慢話ができると思ったら、とんだ笑い話だったわけだ」


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「ううむ……悪名高き鏡の魔女の魔法か」


黒王子 「…………」


姫王子 (この男と話したのはいつ以来か。親父についていったときだから……)

姫王子 (ふむ、もとより暗い男だったが、しばらく見ないうちに一層深刻な顔になっているな)

姫王子 「どうぞ」


黒王子 「いただけるのですか……」


姫王子 (おれだと気づいてないようだ。そりゃそうか。今のおれは髪の伸び散らかった女だ)

姫王子 「海にもぐったきり出てこないドラゴンを探しているのだろ」


黒王子 「…………」


姫王子 (はて、この男はこんなに背が高かったか)

姫王子 (ああ、おれが縮んでいるのか。そういえば、たしかに視界がいつもと違っている)

姫王子 (だとしても、かなり伸びているぞ。肩もがっしりとしている)

姫王子 (おれと変わらないくらいだと思っていたのに……これでは正面きって戦うことはできないな)


黒王子 「…………」


姫王子 「別に呪いのアイテムというわけじゃない」

姫王子 「おれ自身は呪われているようなもんだが。あっはっは……」


黒王子 「…………」


姫王子 (愛想笑いもなしか)


ハーピィ 「…………」





黒王子 「…………」


黒僧侶 「受け取ってはなりませんぞ、黒王子」


姫王子 「じゃあ、素っ裸になって海に飛び込んで探すってのかな。おすすめはしないが」


黒僧侶 「くうう、さっきから、乙女とは思えん言葉づかいだ」


姫王子 (そりゃそうだ。女の見た目になったからと言って、おれは葉巻のようにころころと話しかたをかえたりしない)


黒王子 「……失礼ですが」


姫王子 「うん?」


黒王子 「どこかで、お会いしたことはありませんか」


姫王子 (ふむ……)



ハーピィ 「…………」


姫王子 「そうやって日ごろ、異性を口説いてらっしゃるのかな」

姫王子 「堅物に見えて、案外……」


黒僧侶 「口をわきまえろ!」

黒僧侶 「黒王子どのが、お前のようなふしだらで汚らわしい格好の女とそのようなことを……」


黒王子 「黒僧侶どの!」


姫王子 (僧侶のくせにひどい言い草だ)


黒王子 「失礼」

黒王子 「私の知る……人物に、あまりに似ていたもので」


姫王子 「どこぞの王子さまにそう言ってもらえるとは光栄だね」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「そうだ。光栄なものか」

姫王子 「さあ、この欠片を受け取って、あなたと親しげなその魔女どのに渡してやっていただけないかな」

姫王子 「あなたからしか受け取りたくないようなので」





黒王子 「…………」


姫王子 (怪しまれたかな。まさかおれだと気づかれたか)

姫王子 (高貴な人々の前ではこのように振舞っていたおぼえはないが)


黒僧侶 「あんなものをドラゴンなどと言って、騙そうとしているのかも」


黒王子 「このようなときに、そうする理由があるとは思えない」


黒僧侶 「正義を信仰しないものは、理由なく悪を働くものなのです」

黒僧侶 「そもそも……」


黒王子 「……ありがたく、いただきましょう。黒い首巻きのかた」


黒僧侶 「黒王子どの!」


姫王子 「どうぞ」




姫王子 「気をつけてくれよ」

姫王子 「槍の穂先で無いにせよ、指を切るにはじゅうぶんな物だ」

姫王子 「あなたは手袋をしていないし、万が一何かあったら、そこのお友だちに何をされるか分かったものじゃない」


黒僧侶 「ぼ、私をそのような不埒な輩と一緒にするな!」


黒王子 「お気遣い、感謝します」


姫王子 (相変わらず、疲れる性格をしているようだ)


鏡の魔女 「…………」


姫王子 「ん?」


キイイイ


黒王子 「欠片が」


姫王子 (光りだした……)


黒僧侶 「離れなさい、黒王子どの」

黒僧侶 「やはり罠だったのです!」


姫王子 「いや、違う……」


黒僧侶 「何と言うことだ。どこからか帝国に情報が……」


黒王子 「黒僧侶どの!!!」


黒僧侶 「……っ」

黒僧侶 「と、とにかく、その娼婦のような女から離れるのです!」


姫王子 「ぶん殴るぞエロ坊主」

姫王子 (今度から、この手の話で葉巻をからかうのはやめよう……)




キイイイイ


姫王子 (魔女のしわざか?)


鏡の魔女 「…………」


キイイイイ



ゴト ガタガタ カタカタ


魔法使い 「甲板に散らばる竜の骨が、いっせいに音をたてて震えだした」


双剣傭兵 「まだ何かあるっていうのか……?」


円魔法使い 「そうだ、ろうそく職人どの!」


線魔法使い 「おお、そうだ! 彼女ならこの奇怪な現象について何か知っているに違いない!」


ろうそく職人 「え?」


戦士たち 「大魔法使いろうそく職人どの」

戦士たち 「これはいったいどういうことなのでしょうか!」


ろうそく職人 「え……ええと……」

ろうそく職人 「コホンッ……」

ろうそく職人 「みなさま、うろたえてはなりません」

ろうそく職人 「まずは何が起きているのか、よおく観察するのです」

ろうそく職人 「さすれば、道はひらけるでしょう」


戦士たち 「おお……!」





カタ カタタタタ

キイイイイ


姫王子 (甲板に散らばる骨が、おれの手の上の欠片と同じように輝きだした)


フヨ バシュン


姫王子 「…………!」


鏡の魔女 「…………」


姫王子 (ふわりと浮いたと思ったら、矢のように魔女のもとへ集まっていく)


キイイイ

カチャカチャカチャ


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「姿見……」


姫王子 (一枚の鏡が、おびただしい数のドラゴンに化けていたのか)

姫王子 (すべて、魔女の手のひらの上か)

姫王子 (これはひょっとすると、先生や葉巻でも太刀打ちできないレベルじゃないのか)


骨頭の竜 「…………」


姫王子 (すべて鏡だったというわけでもないのか)



ザワ ザワ


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「なるほど、まさか鏡の欠片相手に剣をふるっていたとは」

悪魔紳士 「なかなか格好つかない話です」


ペンギンの骨


悪魔紳士 「しかしどうやら、これは本物の骨のようで」

悪魔紳士 「ドラゴンと比べたら落ちますが、貰っておくとしましょうか」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「はっはっは……」




姫王子 (……では、葉巻にとらわれ血肉とされていたドラゴンたちは)

姫王子 (いったい何だったのだろうか)


カチャ カチャ

キイイ


鏡の魔女 「つまらぬ」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「ふん……」


キイイ

ゴオオオ


姫王子 (鏡が一瞬炎に包まれて、炎もろとも消えてしまった)

姫王子 (魔法だとして、ではろうそく職人も、あんなことができるようになるのか?)

姫王子 (だとしたら、おれも魔法を学んでみたいものだが)



ロブスター 「自分で散らかしたものを自分で片付けるとは」

ロブスター 「なかなか行儀の良いことだ」


ク魔エビ娘 「甲板を掃除する手間は省けたけれど」

ク魔エビ娘 「あとに残る、悪い夢を見せられていたような嫌な気分が際立ってしまうね」





ザワ ザワ


魔法使い 「鏡……あの恐ろしいドラゴンどもが鏡だったと言うのか……」


双剣傭兵 「まるで夢を見せられていたようだ」


円魔法使い 「ああ、悪い夢だ」

円魔法使い 「学院中の魔導書の内容はほとんど頭に入れてきたのに」

円魔法使い 「分からないことだらけだ……」


斧傭兵 「夢なものか!」

斧傭兵 「見ろ、この兜のへこみを! 竜の尾を受け止めたときについたものだ」

斧傭兵 「はっきりと残っている!」


狩人 「あんたの兜なんて元々、ばあちゃんちの鍋みたいにベコベコだったろ……」


大槌の傭兵 「受けた傷も残っている。大怪我を負って船内に運び込まれたのも大勢いる」

大槌の傭兵 「その戦いの結末が、こんなもので良いのか」

大槌の傭兵 「いや、良くはない! あの魔女めの頭蓋を叩き潰し船首に掲げるべきだ!」




荒くれ傭兵たち 「魔女を捕えろ! ひん剥け! 引きずりまわして殺せ!」


魔法使いたち 「長引く戦いでもはや魔力は尽き、外の魔力も薄く、結界もガタガタだ」

魔法使いたち 「そして黒い煙。これ以上やれば、被害は計り知れないものとなる」

魔法使いたち 「戦いは終わりにするべきだ」


槍傭兵 「よく考えてみれば、不自由なのは向こうも一緒なんじゃないか? 魔女一人と骨頭の羽つきトカゲ一匹」

槍傭兵 「皆でかかれば、討ち取れたりするかもしれないぞ?」


点魔法使い 「そんな馬鹿な。魔女があれ以上の術を繰り出してこないと?」

点魔法使い 「魔力が弱まったこの場において、こともなげに杖をふるう化物だぞ」


荒くれ傭兵たち 「ええい、臆病者のヒョロもぐらめ!」

荒くれ傭兵たち 「後ろに隠れてブツブツ念じるだけの者どもめ!」

荒くれ傭兵たち 「我らがお前たちの盾となり、どれほどの許しがたい痛みを負ったと思うのだ!」


術士ドワーフ 「鏡の魔女を我々と同じ物のように考えてはいかん」

術士ドワーフ 「あれは白き西日の左。忘れ去られるはずだった影。万年を経て残る英雄の時代のゆらめき」

術士ドワーフ 「もはや自然そのもの。気まぐれに山村を焼き、船を飲み込み、田畑を押し流す」

術士ドワーフ 「あれのもたらした痛みに、今は怒るな。痛みに耐え抜き命があることを、何よりの勝利とするべきだ」


ろうそく職人 「たぬき」


荒くれ傭兵たち 「今さら英雄の時代か!」

荒くれ傭兵たち 「そんなもの、おとぎ話だ」

荒くれ傭兵たち 「老いぼれの臆病者のチビめ、説教なら土の下でやりやがれ!」


半熟魔法使い 「あ、あんたたちだって、さっきまで疲れ果てて尻込みしていたじゃないですか」

半熟魔法使い 「もう忘れたっていうんですか!」


荒くれ傭兵たち 「何をー!」













ギャアギャア

ワア ワア



黒王子 「…………」


黒僧侶 「おお、嘆かわしい」

黒僧侶 「黒王子どの、この船には野蛮人しかおりません」

黒僧侶 「さっさと我らが船へ戻りましょう。合図の狼煙を上げますぞ」



狼煙筒(緑)


シュポ ジジジジジ

パチ パチ パチ



貝殻の勇者 「これが、帝国大陸で一番華やかと言われる、南東の狼煙筒ですか」


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「だからぼくは反対したのだ」

黒僧侶 「よりによって魔女を……なぜに教会はあんな決定を……」


ブツ ブツ グチ グチ

ジジジジジ


黒王子 「黒僧侶どの……!」


黒僧侶 「ブツブツ……え?」


バシュ ジジジ

シュバシュバシュバ


黒僧侶 「うわあああ!? 狼煙筒が……!」




甲板 船首側



ギャア ギャア



姫王子 「なんだろう、また騒がしくなったな」


馬車幽霊 「やはり魔女を討つかどうか、で、もめているようですね」


姫王子 「まだそんな気力があるのか」

姫王子 「ドラゴンや魔女を相手に戦い抜いた自信が、そうさせるのだろうか」

姫王子 「さすがは、ここまで甲板に残った猛者たちか……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「む」



黒い髪飾りの白骨



姫王子 「あったぞ、葉巻の白骨死体だ」

姫王子 「綺麗に残っている」


馬車幽霊 「これで、船中の目をお嬢様の本体からそらすことができるでしょう」


姫王子 「ふうむ、本物の骨のようだ」

姫王子 「……けっこう小柄だな」

姫王子 (仕組みは分からんが、葉巻本来の姿と関係があったりするのかな……)



バシュンッ

ドオン



姫王子 「!?」

姫王子 「何の音だ」




シュゴオオオ


馬車幽霊 「船長どのや小者くさい僧侶どののいるあたりからですね」


王子 「あれは……火花が空へふいているのか? くそっ、また魔女が何か始めたのか」


馬車幽霊 「ふむ……」


シュババババ

バチ バチ

ユラ ユラ


王子 「おい、火花が何か空に模様が現れたぞ」

王子 「まずいんじゃないのか、これは……」


ゴ ゴ ゴ ゴ

ユラ ユラ


光のカーテン


ユラ ユラ


王子 (妖しい光が、薄いカーテンのように船の空を覆って揺れている)


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが光に見とれている)

王子 「馬車幽霊どの、これは魔女の魔法なのか」


馬車幽霊 「おそらく」

馬車幽霊 「どうやら破壊的なものではありません」

馬車幽霊 「威嚇のようなものなのかも」


王子 「まだ戦う力は残っているぞ、ということか……」



馬車幽霊 「もしくは、実は我々が思うほどの余裕がないのかも」


王子 「そうか。うーん……」

王子 「夜明けの空に揺れる光。おぞましくも、幻想的ではあるな……」



ユラ ユラ ユラ



ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、すっかり元通りのようだな)

王子 (良かった、良かった)

王子 「さてと、さっさと骨を回収しておくか……」


クラ


王子 「ううっ?」


グラリ


王子 (世界と頭がグルリと回る。気持ちが悪い)

王子 「ハーピィ、馬車幽霊、まずいぞ、やはり魔女の……」


ハーピィ 「!」


馬車幽霊 「王子どの?」


王子 「魔法……」


ドサッ


王子 (…………)

王子 (…………)

王子 (……)




…………


???



姫王子 「…………」

姫王子 (……声が聞こえる)




ロブスターの声 「……確かに、君が我々に貸し与えてくれた札が結界を強め」

ロブスターの声 「船に乗り合わせた多くの者の命を救う助けとなったことは認めよう」


淫魔幼女の声 「失礼ながら、船長」

淫魔幼女の声 「今回の魔女襲撃において、あの腐敗の魔法こそが最たる脅威であったのです」

淫魔幼女の声 「あれを防げていなければ、甲板でドラゴンや魔女と戦うことすら出来なかったでしょう」
 



姫王子 (ロブスター船長と……あの不吉な商人か)




悪魔紳士の声 「どうでしょうな。たしかに、小さな商人どののおかげで船は守れたかもしれませんが」

悪魔紳士の声 「しかし、その船が内側から敵の手に落ちていたとしたらどうでしょう」

悪魔紳士の声 「城下を駆けずり回って黒き魔物どもを駆逐した私の働きも、もう少し見直されるべきでは?」


ロブスターの声 「よくも抜け抜けと言えたものだ」

ロブスターの声 「ヤマネコが、自ら放ったネズミを自ら狩るか」


悪魔紳士の声 「はて、次は小エビも良いでしょうな」


魔ーレラの声 「体を壊すぞ」




姫王子 (……ここは、どこなんだ)







淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「なぜそれほどまでにあの杖を欲するのかな。抜け目のないお嬢さん」


淫魔幼女の声 「……失礼ながら船長、私はお嬢さんではありません」

淫魔幼女の声 「私は旅商人。仕入れのため、秘境や魔境など、危険に飛び込まねばならぬ仕事なのです」

淫魔幼女の声 「そんな場所に、得体の知れない魔法や呪いのたぐいは欠かせぬもの」

淫魔幼女の声 「また、品物が希少なものの場合、他者と争わなければならないこともあります」

淫魔幼女の声 「魔法使いを相手取らねばならないことも少なくはない」

淫魔幼女の声 「あの魔法殺しの杖があれば、どんなに助かることでしょう」


ロブスターの声 「魔法殺しか……」

ロブスターの声 「しかし私としては、うちの小さな乗組員と同じくらい幼なそうな君が危険に飛び込む手助けを」

ロブスターの声 「したくはないというのが本音だがね」


淫魔幼女の声 「……お譲りいただけないということでしょうか」


ロブスターの声 「そこまで手元に置いておきたいものでは無いのだがね」

ロブスターの声 「むしろ無い方がありがたい」



ロブスターの声 「なるほどたしかに、あの杖は魔法殺しと言って良い」

ロブスターの声 「敵が強力な魔法使いであるほど、その力を発揮するだろう」

ロブスターの声 「そしてあの杖を作ることのできる者は、この世に誰もいないだろう」

ロブスターの声 「だからこそ、あまり世に放ちたくないのだ」

ロブスターの声 「噂とは手ですくう水のようなもの。君が持ち歩けば、きっとその身にいらぬ危険が降りかかることになるだろう」


淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「あの鏡の魔女のような悪しき魔法使いや、よからぬ企みを持つ者の手に渡れば」

ロブスターの声 「大きな悲劇を巻き起こすかもしれない」

ロブスターの声 「一つの宝石が、国ひとつを傾けたという話もある」



姫王子 (杖……)




姫王子 (杖とは、おれが初めて船長室を訪れたときにク魔エビ娘が使っていた、あの杖だろうか)

姫王子 (思えば、葉巻やほかの魔法使いの持っていた杖とどこか雰囲気が違っていたような)

姫王子 (いなかったような……)


悪魔紳士の声 「頑なですなあ、相変わらず」


ロブスターの声 「お互い様だ」


淫魔幼女の声 「…………」


姫王子 (戦いの報酬でもめているらしいが)

姫王子 (おれはどうするべきなのだろうな)

姫王子 (……まあ、このまま寝ている方が良いのだろうな)

姫王子 (もめている三人ともに、大なり小なり借りがある)




姫王子 (強力な魔法のアイテムの厄介さは身をもって味わった)

姫王子 (ロブスター船長のもとで眠らせておくのが良いとは思うが)

姫王子 (胡散臭い紳士どのはともかく、小さな黒い商人には大きな借りがあるし、相談も受けてしまったし、話がこじれそうだ)

姫王子 (うん、やはりここは眠っておこう)

姫王子 (寝起きでハーピィを伴って渡り合うには厳しい相手だろうし…………)

姫王子 (ハーピィはどこだ?)


ムニ


姫王子 (……なんだか、少し苦しいぞ)

姫王子 (重たい毛布だと思っていたが、もしや)


ムニ


姫王子 (乗っている。これはきっと、乗っているな)




姫王子 「う……」


ハーピィ 「…………」


ムニ


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ハーピィがおれの胸に頭を置いて寝ている)


魔ーレラ 「ほれ、お前たちがもめているから病人が起きてしもうた」


姫王子 (若きマーレラ婆……)

姫王子 (船長室の天井……)

姫王子 (ここはベッドの上か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (ハーピィは何をしているんだろう)

姫王子 (おれの胸の上で頭を転がして)




ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (納得いかないといった様子だ)


魔ーレラ 「お前の名前は何じゃ」


姫王子 「………名前」

姫王子 「王子だ」


魔ーレラ 「名前を鏡に奪われはしなかったようじゃな」

魔ーレラ 「生まれは?」


姫王子 「帝国の……どこかだよ」


魔ーレラ 「むう、生まれた場所は忘れてしまったか」


姫王子 「あ、いや、そうじゃなくてね……」


魔ーレラ 「お前の真実の一部を鏡に奪われるまでのことは憶えておるか?」


姫王子 「ああ。奪われたあとのことも」


魔ーレラ 「ふむ」



ハーピィ 「…………」


ペタ ペタ


姫王子 (ハーピィが心配そうに、黒い羽で頬を撫でてくる)

姫王子 「ありがとうハーピィ。大丈夫、大丈夫だよ」


ハーピィ 「…………」


ロブスター 「まだ安心するのは早い」

ロブスター 「どんなに大事な記憶も、なくしてしまえば、その記憶が大事であったことさえ忘れてしまう」


姫王子 (その場合、ハーピィはどう反応するのだろう)

姫王子 (おれがそう思い込んでいて、じつは記憶違いだったことに対して、見抜いてくれるんだろうか)

姫王子 「大事な記憶か……」

姫王子 「おれが男の中の男であることとか?」


ロブスター 「はっはっ、言いやがるな、我が弟子め」




魔ーレラ 「冗談を言う元気はあるようじゃな」


姫王子 「冗談じゃなくてね……」

姫王子 「ああ、記憶といえば」

姫王子 「おれは、どうしてここにいるんだろうか」

姫王子 「甲板の上で魔女と戦い抜いたことは憶えているんだけど」

姫王子 「そこから今までが判然としない」


ロブスター 「結んだ荷がほどけ崩れるように倒れたのさ」

ロブスター 「溜まっていた疲れにやられたのだろうとは思ったが」

ロブスター 「名高くも謎多き真実の鏡の魔力を受けていたというから、そのせいかと慌てたものだ」


姫王子 (真実の鏡……)

姫王子 「ふむ……」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「健やかなお目覚め、めでたいことですな」


姫王子 「……大事な話の途中だったようだ」

姫王子 「もう少し、寝ていた方が良かっただろうか」


悪魔紳士 「いえいえ」

悪魔紳士 「美女の目覚めなど、私のようなつまらない男では、そうそうお目にかかれるものではございませんのでね」


姫王子 「はっは……」



姫王子 「黒王子が空飛ぶ船でやってきたのは、夢ということかな」


ロブスター 「いや…


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「ありがとうハーピィ」

姫王子 「夢ではないようだね」

姫王子 (鏡の魔女と、少なくとも敵対していない様子だったことも)

姫王子 (……南東地方か)

姫王子 「うっ……!?」


グラリ


ロブスター 「どうした。頭が痛むか」


姫王子 「あ、ああ……いや……これは……」

姫王子 「記憶……?」


ロブスター 「なに」


魔ーレラ 「何かの弾みで、忘れていた記憶が甦りかけているのかもしれん」

魔ーレラ 「ある魔法をかけたときに、それとまったく反対の現象がおきてしまうことがある」

魔ーレラ 「特殊な条件が重なった上で稀に起こるというが」


姫王子 「……館、古い……大きな、館……」


ロブスター 「館? 館がどうした」


魔ーレラ 「あまり外から刺激するな」


姫王子 「……寝室……ひまわりの種……大きなベッド……」

姫王子 「の下に………大量の……」

姫王子 「似顔絵……」

姫王子 「ううぅ……!!」








姫王子 「はぁ、はぁ……」


魔ーレラ 「そこまでにしておけ」

魔ーレラ 「なくした記憶を無理に呼び起こそうとすると心身への負担が大きい」

魔ーレラ 「あまり無理はせんことじゃ」


姫王子 「あ、ああ……」


ハーピィ 「………!」


ビクッ


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「大丈夫ですか。変わり果てた姿になられて」


姫王子 「……やあ、商人どの」

姫王子 (ぶどうを煮詰めたような色の液体が入った瓶を持っている)

姫王子 (ハーピィがおびえている……)


淫魔幼女 「忘れ薬です」

淫魔幼女 「あまり長くはもちませんが、魔法使いに呪文を忘れさせる程度のことはできます」

淫魔幼女 「記憶の混乱による頭痛も和らげることができるでしょう」





淫魔幼女 「あなたのいた地方で流行っていた薬に似ていますが」

淫魔幼女 「副作用はありません」


キュポンッ


淫魔幼女 「どうぞ。香りをかぐだけで効果があります」


姫王子 (葉巻の売りさばいていた薬か)

姫王子 (あれは確か粉状だったな)

姫王子 「どうも。どれどれ……」


クンカ クンカ


姫王子 「………おお」

姫王子 「澄んだ風が一筋通ったようだ。何だか、頭がすっきりした」


淫魔幼女 「それは良かった」

淫魔幼女 「二十年に一度しか摘めない花からつくられた、特製の薬ですから」

淫魔幼女 「効いてもらわねば困りますが」


姫王子 「……いくら?」


淫魔幼女 「とんでもない」

淫魔幼女 「最も脅威であったあの化物をしずめたあなたです」

淫魔幼女 「このくらいは当然のこと」

淫魔幼女 「もっと珍しいアイテムでも、ためらわず使わせていただきます」


姫王子 (……そういうことか)




淫魔幼女 「……それとは、うまくやっているようですな」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (うかつな。まあ良いか)

姫王子 「ああ」


悪魔紳士 「ふむ。小さな商人どのと麗しき女剣士どのは、古いお知り合いなのですか」


姫王子 (女剣士……いちいち否定しても仕方ないか)

姫王子 「……まあ、日は浅いけれど、何かとお世話になっているね」

姫王子 (一度、自分の姿をよく鏡で見ておかなくてはな)

姫王子 (全身、隅々まで……)


悪魔紳士 「もしや、首輪をつけたそのお嬢さんは商人どのから?」


姫王子 (そら来た)

姫王子 「まあ、ね」




悪魔紳士 「いやあ、手広いですなあ」

悪魔紳士 「人身売買までやっておられるとは」


ロブスター 「ふむ」


淫魔幼女 「なりふり構っていられないのです」

淫魔幼女 「本当は私も、アイテムだけを扱いたい」

淫魔幼女 「頼もしい装備があれば、後ろめたい商売から足を洗って大冒険だけをしていられるのですが」


悪魔紳士 「おやおや……」


ロブスター 「大冒険か」


魔ーレラ 「何も、大冒険せんでも良いじゃろうに」


淫魔幼女 「何度も言いますが、私はお嬢さんではない」

淫魔幼女 「わけあって」この姿ですが、心は立派な男なのです」

淫魔幼女 「宝を求めて危険に飛び込む生き方しかできないのです」


ロブスター 「不器用なお嬢さんだ」


淫魔幼女 「…………」




姫王子 (やれやれ、話はもつれそうだな)

姫王子 (なあ、ハーピィ)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


スリ スリ

ムニ


姫王子 (おれのために怒ってくれたのだなあ。ありがたいことだ)

姫王子 (もう二度とないように心がけなくては)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


姫王子 (………葉巻はどうしているんだろうか)







姫王子 (ちゃんと、甲板に残した骨があいつの死体だということになっているんだろうか)

姫王子 (他の乗客に生きていると知られたら、厄介なことになるぞ)

姫王子 (最悪、葉巻を殺そうとする者も現れるかもしれない)

姫王子 (……ここにいる者たちはどうなんだろうか)


淫魔幼女 「じゃあ……私は故郷に、役立たずで飲み食いばかり六人前の、養わねばならない幼い家族がいるのです」


姫王子 (淫魔幼女か……どこまで知っているのやら)

姫王子 (大恩あるし、できれば敵に回したくないが、油断ならない相手だ)


魔ーレラ 「何じゃ、泣き落としか」


姫王子 (若きマーレラ婆。ロブスター船長がよく意見を求める相手だ)

姫王子 (魔法の心得があるから、葉巻の秘密に何か気づいているかもしれない)

姫王子 (彼女も油断ならないな)


悪魔紳士 「唐突ですなあ」


姫王子 (紳士どの)

姫王子 (船内の魔物たちを相手に一人で立ちまわり、甲板でも傷一つなく戦い抜いた)

姫王子 (帝国で活躍する勇者たちの噂には好意的なようだが)

姫王子 (ハの字の口ひげが油断なら無いな)


ロブスター 「幼い家族か……」


姫王子 (ロブスター。マスター・ロブ。おれの剣の師匠の一人だ)

姫王子 (器の大きな海の男だ)

姫王子 (しかしおれがこの身体になってからわずかの間に、もう何度か肩を抱かれた)

姫王子 (不覚にも、大きく厚く、そして荒々しいようで暖かい手にちょっと安心感をおぼえてしまった)

姫王子 (油断ならない相手だ)





姫王子 (立場の違いは視点の違い。そんな者たちが集まった場所でうかつなことは喋れないぞ)

姫王子 (おれと葉巻の関係を知っているのは……全員だな。おれとあいつが一緒にいるところを一度は見られている)

姫王子 (おれの姿が変わっているとはいえ、唯一無二の愛らしさと美しさを兼ね備えたハーピィが傍にいるし)

姫王子 (何しろおれの男としての存在感は隠し通せるものではない)

姫王子 (おれが王子であるということは容易に想像できるはずだ)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (杖を巡る三つ巴に乗じて、それとなく葉巻のことを探ってみるか?)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (……しかし、そうなると、おれも意見を求められるだろうな)

姫王子 (おれの一言に力は無いのだろうが、おれが誰の味方につくか明らかになってしまう)

姫王子 (もしうまくはぐらかせても、それぞれから不信を買うことになるだろう)

姫王子 (…………)



姫王子 (ああ。旅人となっても)

姫王子 (こういった、人のしがらみに悩まされるのだろうか)

姫王子 (いや、身一つで生きていかねばならない旅人こそ、いらぬ恨みを買わないように細心の注意を払うべきなのだろう)

姫王子 (……などと、領地の人々に食わせてもらってきたおれが考えてもお粗末か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ

ムニュン


ハーピィ 「………!」

ハーピィ 「…………」


コク コク


姫王子 (あ、何か納得している。しっくりきたようだ)









姫王子 (繊細な立ち回りは我が妹、王子姫の方が得意なんだよな)

姫王子 (忍耐と度胸もあり、人望もあつい。剣と魔法の腕もなかなかのもの。領主にふさわしいのは彼女だろう)

姫王子 (おれは馬鹿息子で通っているしな)

姫王子 (彼女が結婚を考えるであろう頃には都の王宮にとられる心配もないだろうし)

姫王子 (……女性の領主は現在どのくらいいたかな。善し悪しが極端だと聞くが)

姫王子 (まあ、うちの王子姫は間違いなく善く治めるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


ギュウ


姫王子 (ハーピィ。君も王子姫についていれば、城で贅沢な暮らしが……)

姫王子 (できはしないか。町の商人の方が良いベッドを使っているだろう)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (責任まみれの華やかなドレスよりも、野の花のような服の方が似合う気もする)

姫王子 (無表情なこの子が見せる豊かな表情の、なんと素晴らしいことか)

姫王子 (……ハルピュイアにとりつかれた王は)

姫王子 (果たして、どれほどの嘘を告発されるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


スリ スリ


姫王子 (おれがこの姿になったら、くっつき方が、何と言うか強くなった気がする)




魔ーレラ 「どうした。ボーッとしておるようだが」


姫王子 「……ん、ああ」

姫王子 「……少し、いや、いろいろと考えてしまって」

姫王子 「急に頭が冴えたおかげかな」

姫王子 「だとしたらありがとう、商人どの。素晴らしい薬だ」

姫王子 「誰とは言わないが、うちのあいつにも少しは見習わせたいね」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「いえ。重ねて言いますが、さきの戦いの最大の功労者に当然のことをしただけです」


姫王子 「はっは……」

姫王子 「ハーピィのことを始め、この旅であなたには世話になりっぱなしだ」


淫魔幼女 「ええ、不思議な縁を感じます」

淫魔幼女 「なあに、その子のことについては、私も感謝しております」

淫魔幼女 「良い人に引き取られてよかった」

淫魔幼女 「商人として失格かもしれませんが、命を扱うとなると、どうしても情がうつってしまって」


姫王子 (その子ときたか)

姫王子 「はっは……」



姫王子 「マスター・ロブ」

姫王子 「そちらの話をさえぎって悪いけど、少し行きたい場所があるんだ」

姫王子 「退室しても構わないかな」


ロブスター 「病み上がりだ。明日の朝まで寝ていろ。このあたりの海の夜は冷えて困っていたしな」


姫王子 「船長」


ロブスター 「冗談だ」


魔ーレラ 「もう少し休んでからが良いのはそうじゃ。顔に不調のあとが色濃い」

魔ーレラ 「戦いのあとで、船内のお客の行儀は少しばかり悪くなっておるし」

魔ーレラ 「弱って見える年頃の女がふらふらと歩いておれば、すれ違う者によからぬ心が宿ってしまうかもしれん」


姫王子 (散々な言われようだ)

姫王子 「大丈夫、ちゃんと斬って捨てるから」


魔ーレラ 「それも考えて言っとるんじゃよ」





コン コン


姫王子 (誰かが、船長室の扉を叩いている)


ロブスター 「……良いだろうか」


悪魔紳士 「どうぞどうぞ」


淫魔幼女 「かまいません」


ロブスター 「申し訳ない」

ロブスター 「……誰だ!」




???2の声 『……そういえば、本で読んだことがあります』



姫王子 (扉の向こうで誰かが話しているようだ)



???2の声 『波が荒れていても聞こえるように、ノックではなく鐘のようなものを鳴らすのです』


???1の声 『なるほど』

???1の声 『しかし、そのようなものは見当たりませんね』


???3の声 『これじゃない? なんかこの、何かひっかけたくなるような金属の』


???2の声 『これは服をかけるところでは?』



ロブスター 「大丈夫だ、ノックは聞こえているぞ。誰だ……」



???1の声 「ヘアァックション!」




???1の声 『やだ。私ったら、はしたない……』


???2の声 『風邪でしょうか。夜通しの戦いでしたから』


???1の声 『ブラウニーさんのポカポカ汁を飲んだんですが……』


???3の声 『私、あれを瓶に入れてもらって風呂にしたわよ。もうポッカポカ』


???1の声 『まあっ、それは気持ち良さそうですね』


???2の声 『妖精さまは小さなクッキーもお腹一杯食べられて羨ましい限りです』


???3の声 『あら。あなたたちこそ、美味しいものをたくさん食べてもお腹一杯にならないなんて』

???3の声 『羨ましいわよ』


???2の声 『あやっ』


???1の声 『なるほど』


???2の声 『こりゃあ一本とられちゃいましたかね』

???2の声 『へへっ』


アハハ ウフフ



ロブスター 「おい……」



???3の声 「アヘックシュ!」


???1の声 『おや……』


???3の声 『えへへ、今さら湯冷めしちゃったみたい……』


アハハ ウフフ



ロブスター 「お……」



???たちの声 『ハックショオオオーン!』



ロブスター 「おい、どこかにあいつらに聞かせてやる鐘はないか」


魔ーレラ婆 「ないわい」


王子姫 「まさか,こちらに鐘が必要になるとは……」





姫王子 (まあ、彼女たちだろうな)

姫王子 「やあ、申し訳ない」

姫王子 「扉の向こうの身内が迷惑をかけてしまっているようで」


ロブスター 「やはりそうか」

ロブスター 「なに、女性は一筋縄でいかないくらいがちょうど良い……」

ロブスター 「入りたまえ、扉の前の風邪ひきお嬢さんたち!!」



???1の声 『おや、ちゃんと聞こえていたようですね』


???2の声 『ノックじゃなくてくしゃみが良かったのかもしれません』


???3の声 『聞いた? 私たちのこと、お嬢さん、だってえ』


???2の声 『いやあ、それほどでも』


キャッキャッ


???1の声 『この船の船長どのは紳士的な方です』

???1の声 『こちらも失礼の無いよう、気をつけましょう』

???1の声 『開けますよ。準備は良いですか?』


???2の声 『あーっ、待ってください。そういえば、私は今日、下着をつけていません!』

???2の声 『何たる不覚!』


???3の声 『妖精なんだから、下着なんて気にしなくて良いでしょうに』


???2の声 『私は人間ですよう! この狐か狸かの耳にかけて!』


ワイワイ



姫王子 (扉の向こうで何をしとるんだ、何を……)


ハーピィ 「…………」




姫王子 (しかし、下着か……)

姫王子 (…………)


ユサ


谷間


姫王子 (おれも、つけなきゃならないのかな……?)



ガチャ ギイイ



姫王子 (おお、やっと入ってくるか)



ハタム カチャ

ト ト 


???1 「……失礼いたします」

貝殻の勇者 「帝国大陸北東島の港よりお世話になっております、イウシャ・オーグライです」


姫王子 (勇者どの。やはりか)

姫王子 (……偽名だな)


???3 「え、えーと……」

ろうそく職人 「付き人のローソックです」


姫王子 (別に本名で良いだろうに)


???3 「はあい、船長さん」

瓶詰め妖精 「瓶暮らしの瓶詰め妖精よ」


姫王子 (瓶は置いてきたのだな)


ロブスター 「ようこそ、おお、ようこそだ」

ロブスター 「なんということだろう、魔ーレラ。美しい女性が三人一緒に我が部屋にやってきた」

ロブスター 「どんな用かね? ぜひとも真っ先に聞かせてくれたまえ」


瓶詰め妖精 「その前になんだけど、おひげの船長さん」


フヨヨヨヨ


瓶詰め妖精 「妖精用の出入り口もちゃんと作るべきだと思うわ」

瓶詰め妖精 「それと、何か瓶は無いかしら。あなたたちで言うところの粗末な腰掛程度で構わないのだけど」





ロブスター 「それはすまなかった。何しろ小妖精のお客は、鱗の盗人くらいしか来ないものでね」

ロブスター 「君のようなヒトが来ると知っていたら、宝石つきのやつをこしらえたろうに」

ロブスター 「ちょうど机のところにいくつか置いている。どれ、取ってこよう」


瓶詰め妖精 「あら、悪いわ。自分で選ぶから大丈夫」


フヨヨヨヨ



ロブスター 「はっはっは……」


貝殻の勇者 「ああっ、瓶詰め妖精さん」

貝殻の勇者 「す、すみません……」


ロブスター 「とんでもない。彼女の言動について謝っているのなら、彼女は妖精にしてはとても礼儀正しい」

ロブスター 「それに、素晴らしい女性の無礼は男にとってありがたいものなのだよ」


貝殻の勇者 「あら、まあ。嫌だわ、ほほほ……」


姫王子 (勇者どのはこの手の軽口は好きそうではないが)

姫王子 (嫌そうな顔をしていないな。取り繕っているようでもない)

姫王子 (おれのときは露骨に嫌そうな顔をしたものだが)

姫王子 (……さすがは船長、と言ったところ……か?)




瓶詰め妖精 「んふ、ふ、ふーん……さっすがあ、大きな船の船長だけあって、なかなか良いのが置いてあるじゃなぁい」


カラ カラン コト


姫王子 (傾けたり、足を突っ込んだり、我が物顔で瓶を物色している)

姫王子 (それを……)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (不吉な商人が目で追っている)

姫王子 (つかまえて売り飛ばそうなんて考えているんじゃあるまいな)


ハーピィ 「…………」



ロブスター 「それで、何の用かね」

ロブスター 「何か飲みながら話そうか」


貝殻の勇者 「いいえ、どうやら邪魔をしてしまったようですし」

貝殻の勇者 「こちらも落ち着いてきたので、そろそろ、預かっていただいている王子どのを引き取らせていただこうかと」

貝殻の勇者 「参ったのです」


姫王子 (落ち着いてきた……何かごたごたしていたのかな)




ロブスター 「かまわないが、べつにまだ預かっていても良いのだぞ」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「ですが、馬車の掃除も終わりましたので……」


ロブスター 「そうか」

ロブスター 「……だそうだが、どうかな我が弟子よ」


姫王子 「…………」


グ パ グ パ

スタ


姫王子 「よっ、とと……」

姫王子 「ふむ、大丈夫だ。今すぐにでも戦える」


ハーピィ 「…………」




フヨ フヨ フラ


瓶詰め妖精 「これを、いただくわぁ……っ」


星印の瓶



姫王子 (お気に入りの瓶を見つけたようだ)

姫王子 「持とうか」


星妖精 「あら、ありがと」


ヒョイ


星妖精 「割っちゃ嫌よ」


姫王子 「おおせのままに、お姫様」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り、お姫様じゃない」

姫王子 「……ただの透明な瓶には見えないな」


瓶詰め妖精 「あんたたちにとっちゃ、ただの透明な瓶よ」

瓶詰め妖精 「あら、やっぱりあなた、背が縮んだ?」


姫王子 「どうかな。こんなもんだった気もするが」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「……ふうん?」




姫王子 「勇者どの、ろうそく職人、瓶詰め妖精、良いところで迎えに来てくれた」

姫王子 「さあ、これなら善からぬ者と一人ですれ違うこともないだろう。どうかな、美しきマーレラ?」


魔ーレラ 「まあ、良いじゃろうよ」

魔ーレラ 「どうしてもと言うならクル魔かク魔のどちらかをつけようとも思うたが」

魔ーレラ 「その娘がついておれば、お前も無茶をする心配は無かろう」


ろうそく職人 「いやあ、私たち信頼されちゃってますよ勇者さま」


貝殻の勇者 「ええ、これこそ日ごろの行いの賜物です」


ろうそく職人 「師匠も王子さまも、とんだやんちゃ者なので、そのぶん私たちが善行を頑張らなくてはなりません」

ろうそく職人 「まったく、損な役回りです」


魔ーレラ 「娘たち、とは言っておらんからな」





悪魔紳士 「おや、まあ! 何と言うことだ! 船上の英雄がさらに二人も!」

悪魔紳士 「できることなら、ぜひ、食事でもしながらお話をうかがいたいものです」


ロブスター 「お前が引き下がってくれれば、こちらの話はまとまるのだがな」


悪魔紳士 「おやおや、悩ましい」

悪魔紳士 「ふふふ……」



姫王子 「……話の途中ですまないが、おれは行かせてもらうよ」


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (許せ商人どの)

姫王子 「急いでやっておきたいことも色々あるし」



ハーピィ 「…………」


魔ーレラ 「たしかに、今までとは勝手が違ってくるじゃろうしな」

魔ーレラ 「気をつけるのじゃぞ」


姫王子 「ああ」


ロブスター 「船中での取引も再開している」

ロブスター 「必要なものがあれば、商人区のバザーへ足を運んでみると良い」


姫王子 「たくましいな」


ロブスター 「旅商の醍醐味だからな」

ロブスター 「おれも忙しくないわけではないが、荷物持ちが欲しければ呼んでくれ」

ロブスター 「男好きする服も選んでやろう」


姫王子 「船長、おれは故郷では男の中の男、右に出る者は無いと言われた男だぞ」

姫王子 「そんなおれが、男好きする服を選ぶのに困ると思っているのか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。言われたこと無いけどね」




瓶詰め妖精 「ねえ、あいつって良いとこの人なんでしょ。どんな感じだったの」


ろうそく職人 「食べるものには困りませんでしたが、あんまり裕福じゃないとこですよ」

ろうそく職人 「そうですね……王子さまはそこで、領主一族の出涸らしと呼ばれていました」

ろうそく職人 「その勇名は帝国大陸の東に響き渡り、帝都にまで迫る勢い」


瓶詰め妖精 「ええ、なにそれ。名の知れた役立たずだったってこと?」


貝殻の勇者 「出涸らしですか。あれはあれで、良いものです」


姫王子 (なぜ迎えがこの人選なんだろうな)

姫王子 「では、失礼」





テク テク


貝殻の勇者 「あまり、急がずに歩いてくださいね」


ろうそく職人 「私が手を繋いであげます」


姫王子 「ありがとう。甲板ではかなり動けていたんだけどな……」


瓶詰め妖精 「転んでも良いけど、瓶は割らないでよね」


トコ トコ



淫魔幼女 「…………」


姫王子 (こっちを見ている)

姫王子 (助け舟を期待していたかな。悪いがこちらも立場があるんだ……)


淫魔幼女 「……自ら真実を失わぬよう、お気をつけください」


姫王子 「…………」


テク ピタ


姫王子 「……うん?」


淫魔幼女 「心の出ずるところ、魂は強く……しかしそれはしなやかな強さ」

淫魔幼女 「簡単に色も形も変えてしまう」

淫魔幼女 「その力は本人も驚くほど大きい」

淫魔幼女 「あなたの魂が、その肉体に見合ったものにならぬよう願うなら」

淫魔幼女 「想像以上の覚悟が必要となるでしょう」






ロブスターの船 船長室前




……キイイ ガチャ

テク テク テク



姫王子 「…………」

姫王子 「……ろうそく職人くん」


ろうそく職人 「はい」

ろうそく職人 「心は、ちょっとしたことでコロコロ変わってしまうもの」

ろうそく職人 「だから女の子の身体になって心を男の子のままで保つのは、とっても大変」

ろうそく職人 「頑張ってね」

ろうそく職人 「……ですかね」


姫王子 「ありがとう」


貝殻の勇者 「ろうそく職人さんに通訳のスキルが……」


姫王子 「ふむ、心か……」

姫王子 「ま、大丈夫だろう」

姫王子 「おれの男らしさはこの程度じゃびくともしない」


ハーピィ 「…………」



テク テク テク





ザワザワ



貝殻の勇者 「まずは、馬車へ帰りましょう」

貝殻の勇者 「黒花どのと会ってください」


姫王子 「馬車にいるのか、あいつは」

姫王子 「勇者どのに使いをさせるなんて……相変わらずのようだ」


貝殻の勇者 「いえ、使いはそうですが、馬車幽霊どのに頼まれたのです」


姫王子 「へえ……」

姫王子 「ところで勇者どの、背が伸びたかい?」


貝殻の勇者 「あなたが縮んだのです」


姫王子 「うーん、そうかな」

姫王子 「そういえば、はじめは視線の高さが変わった気がしていたような、違うような」


瓶詰め妖精 「さっそく心が身体になじんできているじゃない」




テク テク


ろうそく職人 「むふ、王子さまと手を繋いで歩く日が来ようとは」

ろうそく職人 「お城にいたときには思いもしませんでした」


姫王子 「はっはっは、気をつけろぉ、出涸らしがうつるぞ」


瓶詰め妖精 「気にしてんの?」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り。たぶんうつらない」

姫王子 (ろうそく職人の手のひら……普通の人間のものだな)

姫王子 「……おや」

姫王子 「ろうそく職人、何か頭がすっきりしていないかい」


ろうそく職人 「ふっふっふ……よくぞ気づきましたね王子さま」

ろうそく職人 「髪を切ってもらったのです」


姫王子 「ほう、良い感じだ」

姫王子 「髪か……」


貝殻の勇者 「だいぶ伸びましたね、王子どの」


姫王子 「うん。なんだってこんなに急に……」

姫王子 「ハネてしまうから伸びると大変だってのに」


貝殻の勇者 「良いではありませんか」

貝殻の勇者 「これを機に、新しい髪型に挑戦なさってはどうですか」


姫王子 (牢で見たときとは比べ物にならないほど余裕があるな、勇者どの)

姫王子 「うーむ」


ろうそく職人 「勇者どの、かつてから温めていたあの髪型を王子どので試してみるというのは……!」


貝殻の勇者 「なるほど……うふふ、面白そうですね」


姫王子 (ろうそく職人を従者にした効果……か?)
















ろうそく職人 「王子さまの髪なら、野生と母性を両立させるあの髪型を実現できそうです」

ろうそく職人 「野生さんの髪は思いのほかフワフワで、少し方向性がズレてしまいました」


姫王子 「母性はちょっと困るんだけどね……」

姫王子 「元の髪型で良いんじゃないかな」


瓶詰め妖精 「あららあ? 男の中の男が、髪型ひとつで揺らいじゃうのかしらん」


姫王子 「むっ」




ザワ ザワ

テク テク テク



ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 「……?」


ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 (……見てるな。胸を)

姫王子 (視線って、割と分かるもんだな)


ろうそく職人 「王子さま」

ろうそく職人 「もうこのままで良いんじゃないですかね」


姫王子 「縁起でもないことを」


貝殻の勇者 「ほほほ……」

貝殻の勇者 「と、これほど容姿が変わってしまったら、王子どのはもう仮面を着ける必要が無くなるのでは?」


姫王子 「おお」

姫王子 「……いや、やっぱり着けた方が良いかな」


貝殻の勇者 「そうですか?」


姫王子 「うん。ほら……」

姫王子 「視線がね……」


貝殻の勇者 「……?」


ハーピィ 「…………」




テク テク


貝殻の勇者 「下着もちゃんと選ばなくては」

貝殻の勇者 「合わないものを着けていると、動きが大きく鈍ってしまいます」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「大変だな……」



??? 「おお、森の巫女殿……!」



姫王子 (ん?)



??? 「すみません、思わず声をかけてしまいました」

魔法使い 「お目にかかれるとは何たる幸運!」



姫王子 (ローブを着た男が近づいてくる)

姫王子 (もりのみこ?)






姫王子 (もりのみこって誰だ)


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「…………」


瓶詰め妖精 「…………」


ろうそく職人 「ゥオッホン。ごきげんよう」


姫王子 (この子か)


魔法使い 「お仲間の皆さんと船内の散歩でしょうか」


ろうそく職人 「オホンッ。ええ、まあ、そのようなものですね」


魔法使い 「おお、それはそれは……せめて挨拶だけでもと思いましたが、お邪魔でしたでしょうか……」


ろうそく職人 「い、いえいえ、ええと……」


チラ


姫王子 (こちらに気を遣っている)

姫王子 「そんなことはありません」

姫王子 「ろうそく職人、気を遣ってくれてありがとうございます。おれは大丈夫です」


ろうそく職人 「えぇ……!?」


貝殻の勇者 「……そうですね。ろうそく職人さまが挨拶を受けるのは、私たちの誇りです」

貝殻の勇者 「どうか、この時間を大切になさってください」


ろうそく職人 「勇者さままで……!」





ザワ ザワ


姫王子 (魔法使いらしき目の前の男。胡散臭い格好だが、悪いものは感じられない)

姫王子 (とりあえず警戒はしておくか)


魔法使い 「やはりというか、森の巫女どのともなると、お仲間も一味違いますな」

魔法使い 「どの方も、ただならぬ品格と美しさを有していらっしゃる」


貝殻の勇者 「ほほほ……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「はは……」

姫王子 (こちらへの視線がちらちらと胸元を向いている気がする)

姫王子 (うん、きっと気のせいだ)


ろうそく職人 「ええ、皆さん素晴らしいかたばかりで、ええ」

ろうそく職人 「あひゃへへ……」


貝殻の勇者 「ふふふ……」

貝殻の勇者 「(頑張って、ろうそく職人さん)」


姫王子 (ろうそく職人、焦っている。明るくなって度胸もついたようだが、こんな風に緊張はするのだな)

姫王子 (……それにしても、勇者どのが冗談に付き合ってくれるとは意外だった)

姫王子 (やはりだいぶ砕けた……それとも、もともとこういう性格だったのか?)




魔法使い 「それにしても残念です」

魔法使い 「わたくしもあの戦いで甲板にいれば、森の巫女どのの奇跡の召喚魔法を目にできたのに」

魔法使い 「なさけないことに、臆病風に吹かれてしまい……」


姫王子 (召喚魔法。あの、光る魔ンボウを出した魔法のことか)

姫王子 (魔法使いが奇跡と呼ぶほどのものなのか)


ろうそく職人 「いえいえ、自分の命を大事にできる者がいちばん賢いのです」


魔法使い 「おお……! なんというありがたい言葉だ!」

魔法使い 「……あのう、森の巫女どのは、妖精の領域で森エルフの長老に師事し、エルフの魔法を修めたと耳にしました」

魔法使い 「森の巫女どのの才はもちろんのことですが、その魔法のことわりへの深い理解は」

魔法使い 「それも関係しているのでしょうか」


ろうそく職人 「お、修めただなんて、恐れ多いです。私もまだまだ修行の身なのです」

ろうそく職人 「たしかに、私の師匠は森エルフの長老が一人、紫煙の貴婦人黒花エルフさまです」


姫王子 「ふっっ、ぷふ……ッ!?」




魔法使い 「?」



貝殻の勇者 「(王子どの! なにを笑っているのです!)」


姫王子 「(だ、だって、紫煙の貴婦人だなんてひどい不意打ちだもの!)」

姫王子 「(勇者どのも顔が笑っているじゃないか)」


貝殻の勇者 「(そ、そんなことはありません)」



魔法使い 「……あの、そちらのかたは急にいったい……」


姫王子 「……コホン」

姫王子 「も、申し訳ない。決して話の邪魔をするつもりでは無いのです」

姫王子 「どうぞ、お続けください」


ニコ


魔法使い 「……!」

魔法使い 「……あっ、はあ、あ、いや、はい、そうですな」

魔法使い 「そうですか、はあ、森の巫女どのはエルフの長老に魔法を、何とも羨ましい……」



姫王子 (……? 急に挙動不審になったな)


ハーピィ 「…………」





※ステータス別パーティ内くらべっこ


ちから  : 王子(♂)>貝殻>野生

まりょく : 葉巻.>>>馬車霊>ブラウニ
かしこさ : 馬車霊>>葉巻>貝殻≧王子

はやさ  : ハーピィ>>>>葉巻>王子(♂)
きよう  : ブラウニ>野菜鍛冶>葉巻

たかさ  : 馬車霊>王子(♂)>野生
おもさ  : 王子(♂)>野生>貝殻

うん   : ハーピィ>>>瓶詰め>種帽子
ずるさ  :王子≧葉巻>瓶詰め>ろうそく
ちゅうに : ニワトコ>葉巻>ろうそく
おおきさ : 野生>王子(♀)>ろうそく=ハーピィ


・参考…種帽子による分析とニワトコ娘の妄想



タタタ


??? 「おお、これはこれは」

魔法使い2 「蒼き丸三角の耳さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥオッホン。いかにも」



姫王子 (また見るからに魔法使いらしき人物がやってきた)

姫王子 「きせきのみみ……?」


貝殻の勇者 「甲板での戦い以降、ろうそく職人さんはこの船の魔法使いたちの尊敬を集めています」

貝殻の勇者 「通り名もたくさんいただいたようです」


姫王子 「へえ、大出世じゃないか」

姫王子 (葉巻の弟子になってあまり経っていないのに、他の魔法使いから尊敬されるほどとは)

姫王子 (すごい才能があったのだろうか。それとも、葉巻の指導の賜物なのだろうか)

姫王子 「お供が高名な魔法使いで、勇者さまも誇らしいかな?」


貝殻の勇者 「私は友の名声など気にしませんが」

貝殻の勇者 「微笑ましいというか、気持ち良いものですね」


姫王子 (妹を見守るような心境なのだろうか)

姫王子 (……王子姫、どうしているだろうな)

姫王子 (そろそろ暑くなる頃だし、また視察の途中で農家の土作りに参加して、従者を困らせているのだろうか)







タタタ


??? 「ややややや、これはこれは!」

太魔法使い 「隠れえぬ尻尾さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥエッヘン。その通り」



姫王子 「おや、また」

姫王子 「今度はきせきのしっぽか」



タタタ


魔法使いC 「おやおやおや」


魔法使いD 「これはこれはこれは」


タタタタ


ろうそく職人 「ゥオッホン、エッヘン、アッハン」



姫王子 「どんどん集まってくるな」


瓶詰め妖精 「果物にたかる虫みたいね」


ハーピィ 「…………」




ワラワラ 


ろうそく職人 「ゲェーッホ、ゲホッ。その通り、いかにも……」


ワイワイ


姫王子 「すっかり囲まれてしまったな、ろうそく職人」


貝殻の勇者 「ええ。魔法使いは厭世的であると聞きますが」

貝殻の勇者 「顔を輝かせてあれこれ話す様は、まるで好奇心あふれる子供のようです」


姫王子 「ふむ……」

姫王子 「しかし困った。魔法使いたちの談義が終わるのを待っていたら、葉巻に会いに行けるのはいつになるか」


貝殻の勇者 「そうですね」

貝殻の勇者 「置いていく……のは少しかわいそうですし……」


フヨヨ


瓶詰め妖精 「じゃあ、貝ちゃんが残ると良いのよ」


姫王子 「貝ちゃん?」


貝殻の勇者 「瓶詰め妖精さん」


瓶詰め妖精 「王子さまは私がちゃんと送ってあげるわ」

瓶詰め妖精 「大事な瓶に傷をつけないか見張らないといけないし」


姫王子 「これは心外だ」

姫王子 「……貝ちゃんとは?」


貝殻の勇者 「いえ、しかし、病み上がりの王子どのを……」


ハーピィ 「…………」





姫王子 「ハーピィ」

姫王子 (身体を支えてくれているのか)


瓶詰め妖精 「ほら、この子も心配ないって言ってる」


ハーピィ 「…………」





貝殻の勇者 「ですが……」


ろうそく職人 「うわーん、勇者さまあ」


魔法使いF 「勇者?」


太魔法使い 「ん? よく見ると、そこの女性」

太魔法使い 「朝日の揺れる海面をとかしたような美しい髪……甲板の戦いに現れたという勇者どのでは!」


魔法使いB 「おお! よく見るとたしかに!」


魔法使いD 「やや! よく見るとそれっぽい!」


ゾロゾロ


貝殻の勇者 「え、あの……」


魔法使いたち 「勇者どの!」

魔法使いたち 「ぜひ勇者どのにもお話を!」


ワラワラ


貝殻の勇者 「ああっ!」



ワラワラ ヨイショ

ワイワイ ヨイショ


姫王子 「ううむ、勇者どのもあっという間に魔法使いたちに囲まれてしまった」

姫王子 「人気者も大変だ」


瓶詰め妖精 「人気が無くて良かったわね」

瓶詰め妖精 「じゃあ行きましょ」


姫王子 「うむ」

姫王子 「……では勇者さま、黒花の弟子さま、あとで会いましょう!」


貝殻の勇者 「えっ、ちょっと王子どの、お待ちなさ……」

貝殻の勇者 「きゃあっ!?」

貝殻の勇者 「誰ですか、鎧の隙間に手を突っ込んだのは!」


ワイワイ


姫王子 「うーん、やはりこの瓶、見れば見るほど、そこはかとなくそこはとない物を感じるな」


瓶詰め妖精 「ちょっと、べたべた触らないでよ」

瓶詰め妖精 「あんただって、巨人の指垢に頬ずりしたいと思わないでしょ?」


姫王子 「そういうものか。ごめんよ、布で包むとしよう」

姫王子 「して、貝ちゃんとはいったい……」


瓶詰め妖精 「ウキウキ、早く瓶風呂を試したあい」


テク テク テク



貝殻の勇者 「王子どのぉ!」



…………





…………


ロブスターの船

魔法の馬車へ続く通路



テクテク フヨ フヨ



瓶詰め妖精 「今回のことも吟遊詩人たちなんかは歌うでしょうね」

瓶詰め妖精 「夜の海で、恐ろしい魔女やドラゴンの群れにたちむかった人間と英雄の物語として」

瓶詰め妖精 「それが時間の流れによって磨かれ輝きを増していくか、すり潰されていくかは知らないけれど」


姫王子 「英雄の物語か……」


瓶詰め妖精 「まあ、どうでも良いことだけどね」

瓶詰め妖精 「妖精の私にとっちゃ、人間の歌声より早起きした森の音の方がまだ興味をひくわ」


姫王子 「おやおや」

姫王子 「でも、吟遊詩人は皆、君のような相棒の祝福を受けている」

姫王子 「なんて話を聞くけど」


瓶詰め妖精 「妖精の恋人ね」

瓶詰め妖精 「まあ、詩人の肩に乗っかって一緒に旅する妖精も一人や二人じゃ無いけどね」

瓶詰め妖精 「何が良いんだか。妖精の恋人どころか、妖精の変人よ」

瓶詰め妖精 「妖精の中でもはぐれ者」


姫王子 「そうなのか」


瓶詰め妖精 「人間は恋をすれば皆詩人になる、とか言うけど」

瓶詰め妖精 「人間の歌声なんて発情期の獣の鳴き声みたいなもんよ」

瓶詰め妖精 「人間以外が聞けば、間抜けでしかないもの」


姫王子 「ほう」

姫王子 (エルフの長老たちの歌が、おれたちには音痴の大合唱にしか聞こえなかったのと同じ感覚かな)




姫王子 (ハーピィが歌ったら、どう聞こえるのだろう)


ハーピィ 「…………?」


姫王子 (疑いようも無いな。きっと可愛らしいに違いない)

姫王子 (しかし……)

姫王子 「君は何と言うか……たくましいね」


瓶詰め妖精 「ふふん。まあ、人間ともそれなりに渡り合っているもの」


姫王子 「あはは……」

姫王子 (そう言えば、初対面のときも葉巻相手にひるまず交渉していたな)

姫王子 (物怖じせず、人の輪に積極的に入っていける性格のようだ)

姫王子 (……いっぽう葉巻は態度がでかいわりに、わりと人見知りだ)

姫王子 (人間の町で人間相手にカスみたいな商売をしていたが、人の輪に入り込もうとはしなかった)

姫王子 (酒場の隅で余裕ぶってグラスを傾けていたが、オレ以外に軽口をふっかけるところを見たことが無い)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (…………心が弱いのだろうな)

姫王子 (態度のでかさも、人見知りの裏返しなのかもしれない)

姫王子 (そんなんだから、大事なときに人質にとられたりするんだ)

姫王子 (ひょっとして、奴に魔法の才能が無かったら、城にいた時のろうそく職人のようになっていたんじゃないか?)




魔法の馬車




姫王子 「……久しぶりの旅の我が家だ」

姫王子 「親しみ深い外観に魔物の襲撃の跡は無いな」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「到着ね」

瓶詰め妖精 「私の瓶を返して」


姫王子 「うん?」


瓶詰め妖精 「あんたはこれからあの面倒くさいエルフのとこに行くでしょ」

瓶詰め妖精 「付き合っていたら、瓶のお風呂が遠のいちゃう」


姫王子 「ははは……なるほど」


ヒョイ


瓶詰め妖精 「はい、どうも」

瓶詰め妖精 「部屋の場所は分かってるんでしょ」

瓶詰め妖精 「じゃあねえ」


フヨ フヨ フヨ……

ピタ


瓶詰め妖精 「瓶運び、ご苦労さまだったわね」


フヨ フヨ フヨ





魔法の馬車

廊下



テク テク テク


姫王子 「…………」

姫王子 (葉巻の部屋か)

姫王子 (……ほとんど御者台にいるから、馴染みはあまり無い)

姫王子 (むしろ、あいつが町で暮らしていたときに拠点としていた宿の一室の方が印象に残っている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あいつが魔法使いだとにおわせるようなものは何も置いていなかったっけ)

姫王子 (何か窓際で栽培していると思ったら野菜だったし)

姫王子 (エルフの部屋ということで密かに幻想的な品々を期待していたら、がっかりさせられたものだ)

姫王子 (おれが魔法に疎いから気づいていなかっただけだったのかもしれないが)

姫王子 (……ああ、エルフの森ではあいつの家に世話になったんだっけ)

姫王子 (あれはさすが妖精の家、といった感じだったな)



魔法の馬車

黒花エルフの部屋前



姫王子 (……今回のあいつはアレだった)

姫王子 (おれに船内を無駄に走らせ)

姫王子 (しまいには錯乱して暴れて……一歩間違っていたら全滅だったんだ。友だちとしてビシッと言ってやらないと)

姫王子 「……ん?」


ガチャム

ハタハタ


ブラウニー 「……あら」


姫王子 (葉巻の部屋からブラウニーが出てきた)


ハタタタタ


ブラウニー 「帰ってきていたんですね、王子さん」

ブラウニー 「おかえりなさい!」


姫王子 「ただいま、ブラウニー」

姫王子 「さっそく働いているのかな」


ブラウニー 「おうちのことは大好きですから」

ブラウニー 「大丈夫ですか? 少し顔が青ざめていますね」

ブラウニー 「元気の出るスープを温めましょうか」


姫王子 「そんなにひどい顔色かな。見た目よりもずっと元気だよ」

姫王子 「そうだな、葉巻との話が終わったら、ぜひスープをいただきたいけど……」

姫王子 「君はよく働くね。ずっと馬車内を走り回っているんじゃないかな」


ブラウニー 「おうちのことをしていないと病気になっちゃいそうで」


姫王子 「すさまじいな……」

姫王子 (妹とは気が合いそうだな)


ブラウニー 「黒花さんとお話しですか。良いときに来ましたね」

ブラウニー 「黒花さんは今ちょうど、起きてご飯を食べたところです」




姫王子 「ご飯、ね……」

姫王子 (食べる元気はあるんだな)

姫王子 (強めにビシッと言っても大丈夫そうだ)



ブラウニー 「ハーピィさんと種帽子さんは、何か食べますか?」


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


ブラウニー 「泥水ですね。あとで持ってきます」



姫王子 「さて、それじゃあ面会といきますか」



葉巻エルフの部屋の扉


姫王子 (…………)

姫王子 (ビシッと……)

姫王子 (ふむ……)


ブラウニー 「…………」

ブラウニー 「入らないんですか?」


姫王子 「え?」

姫王子 「入るけど、うん」

姫王子 「あいつの様子、どうだったかな」


ブラウニー 「?」


姫王子 「いつもと違う、とか、落ち込んでいる、ような……」


ブラウニー 「特に変わりは……ああー、そういえば」

ブラウニー 「角が生えていました」


姫王子 「角!」




姫王子 「角って、あの角かな」

姫王子 「肥溜めマイマイとか肉食ツノガイとかの頭に生えている、あの」


ブラウニー 「角です、角です」

ブラウニー 「ユニコーンとかカブトムシとかの頭に生えている、あの」


姫王子 「あいつ、角まで生えちゃったか……」

姫王子 「馬になったり女になったり、あいつも忙しい奴だが、ついに角か」

姫王子 「そうかあ……」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「…………」


姫王子 「ビシッと言ったら突き殺されたりしてな」

姫王子 「ははっ」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あんなこと起こしたあとだしな。冗談とも言い切れないんだよな)

姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ねえ、本当に角だった?」

姫王子 「耳じゃなかった?」


ブラウニー 「入らないんですか?」




姫王子 「いや、いざ会うとなると。結構なことが起きたあとだしね」

姫王子 「何を話したものやら」

姫王子 「……外見だけじゃなく、その、雰囲気的なもので、変わったところは無かったかな」


ブラウニー 「あはあ、雰囲気ですか……」

ブラウニー 「うーん、何だか落ち着きが無かったような」


姫王子 「落ち着きが……」


ブラウニー 「髪や頬っぺたを気にしていたり、毛布のすそをいじったり」

ブラウニー 「まあ、王子さんの変化に比べたら大したことありません」


姫王子 「ははは……」


ブラウニー 「今の王子さんは、野生の女さんみたいです」

ブラウニー 「とっても寝心地が良さそう」


姫王子 「寝心地」


ブラウニー 「お胸のところがフカフカです」

ブラウニー 「もうずっとこのままで良いんじゃないですか」


姫王子 「あ、言ったな、このお」


ブラウニー 「きゃー」


ハーピィ 「…………」




姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜家事娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)


>>377訂正ごめんなさい



姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜鍛冶娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)


ブラウニー 「五回に一回は当たります」


姫王子 「勘か」


ブラウニー 「それではー」


ハタタタタタ



…………





姫王子 「……さて」


コン コン


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (返事がない……)

姫王子 「おや?」


カチャ キイ


姫王子 (扉が勝手に開いた。入れってことか?)

姫王子 「入るぞ」


キイイ

ト ト ト 






ト ト


姫王子 「……これは」



黒花エルフの部屋



姫王子 (壁の模様や、部屋のにおい……エルフの森にある、葉巻の家みたいだ)

姫王子 (広くはないが、馬車の中とは思えない)

姫王子 (木の息遣いが聞こえてきそうなテーブルと椅子……窓際にベッド。ベッドの上には……)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (……いる。また姿が変わっているが、きっと葉巻だ)

姫王子 (窓の外を見ている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ここは、葉巻の寝室なのか。魔法で繋げたのだろうか)

姫王子 (ブラウニーたちの馬車とも繋げたのだし、できてもおかしくは無さそうだが)

姫王子 (だとしたら何でもありじゃないのか)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (窓の外は……あの森でも、船の中でもない)

姫王子 (夜の海だろうか)

姫王子 (……どこの?)




幼竜エルフ 「……行儀が良いじゃないか、王子さま」


姫王子 (葉巻の声だ)

姫王子 (姿形は変わっても、耳と声は葉巻なのだな)

姫王子 「葉巻」


幼竜エルフ 「ノックをするなんて」


姫王子 「……これでも領主の息子なものでね」

姫王子 (もっとも、おれの知る葉巻が真実なのかは知らないが)

姫王子 (先生の声も簡単に真似るような奴だ)


幼竜エルフ 「剣を振り回すのが好きなくせに」

幼竜エルフ 「ろくな領主にならないぜ」


姫王子 「たいへん優秀な妹君がいましてね」

姫王子 「鼻は高いが肩身がせまいよ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。ちっとも気にしていない」

姫王子 「どうでも良いことさ」

姫王子 「おれがいてもいなくても、帝国北東領はうまくいくのさ」


幼竜エルフ 「あきれた王子さまさ」

幼竜エルフ 「そう、どうでも良いんだ」





姫王子 (こっちを向く気配が無い)


幼竜エルフ 「お前の国のこと、魔王の軍勢のこと」

幼竜エルフ 「この世界のあらゆることがどうでも良いんだ」

幼竜エルフ 「善悪どちらがのさばろうが、おれは知ったこっちゃない」

幼竜エルフ 「本当に、どうでも良い」


姫王子 「おいおい、勇者どのが聞いたら穏やかじゃないぞ」

姫王子 「どうでも良いのは構わないが、だからって船を丸ごと腐らせようとするなよ」


幼竜エルフ 「お前のせいだよ」




姫王子 「…………」

姫王子 「おれ?」


幼竜エルフ 「…………」

幼竜エルフ 「こんな腐った世界だが」

幼竜エルフ 「いてもいなくても良いお前がいなくなると、いよいよどうでも良くなるんだ」

幼竜エルフ 「おれでも、オレでも、どうでも良い」

幼竜エルフ 「水面を跳ねる魚の一匹も我慢ならないくらいに、どうでも良い気分になるんだ」


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼竜エルフ 「……お前が悪いんだ」

幼竜エルフ 「お前が死ぬから……」


姫王子 「葉巻……」


幼竜エルフ 「お前が勝手に死ぬから」


姫王子 「おい」




姫王子 「散々人を駆けずり回らせておいて、それは無いだろ」


幼竜エルフ 「おれと一緒に行動したのはお前の判断だろ」


姫王子 「その通りだけども」


ハーピィ 「………」


幼竜エルフ 「森の館のときだって、腹に穴を空けたままのこのこ地下までやってきやがって」


姫王子 「腹の穴が何だ。北東領の男は、首を落とされても平気で百歩は歩けるようにできているんだ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん、首を落とされたら無理だね」

姫王子 「まあ、そのくらい丈夫なんだよ」




幼妻エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼妻エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼妻エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼妻エルフ 「その声」

幼妻エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」




>>387訂正ごめんなさい夏だからごめんなさい




幼竜エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼竜エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼竜エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼竜エルフ 「その声」

幼竜エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」



幼竜エルフ 「本当のオレの声?」


姫王子 「お前は姿と一緒に声も変わるが、いつの間にか、おれの知っているお前の声で話している」

姫王子 (ついでにいつの間にか耳も尖っている)


幼竜エルフ 「これは、お前が初めてオレと会ったときの声を出してやっているだけだよ」


姫王子 (……ということは、やはりおれは葉巻の真実の姿をまったく知らないということか)


幼竜エルフ 「頭のかたい、友だち、に対する、オレなりの気遣いさ」

幼竜エルフ 「オレがどんなに姿を変えようと、お前にとってのオレはいつまでも、酒場で会った美少年なのだろ」


姫王子 「そりゃどうも……」

姫王子 (ずいぶん刺のある言い方だな)


幼竜エルフ 「さてね、どんな声で、どんな姿だったかな」

幼竜エルフ 「どうでも良いことさ」


姫王子 「そんなものなのか」

姫王子 「おれは、自分の声を忘れるんじゃないかと思うと、良い気分じゃないよ」

姫王子 「今はまだはっきりとおぼえているが、頭の中でだけなんだ」

姫王子 「はっきりとした形を捉えきれない。できたと思っても、声を出した途端にあやふやになる」

姫王子 「このまま今のおれの声が頭に響き続けると、消えてしまう気がする」

姫王子 「そして、一緒におれそのものも、だ」

姫王子 「現に、筋骨隆々で強さと逞しさを備えていた本当のおれの姿を、今はもう幽かにしか思い出せない……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


幼竜エルフ 「いないんだよ、その本当のお前は」


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年05月17日 (水) 00:00:18   ID: 38t3NEVM

王子と葉巻姉さんのいちゃこらに口元が…

2 :  SS好きの774さん   2017年07月07日 (金) 00:05:06   ID: 65aqWEs2

言葉遊びで話の進行が遅いのがあれだけども
大好物な内容っす。続きはよ。

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