【モバマス】青い眼差し (49)

・地の文
・メインはモブ
・公園で知らない人とおしゃべり

推敲しつつ投下予定です
よろしければお付き合いください

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まだ何も始まっていないのに、何でもできる気がしていた。
そんな学生時代を、何もしないままに過ごした今。
私は、何の変哲もない人生を歩んでいる。

いわゆる社会人になってから数年。
与えられた業務を淡々とこなす日々。
やる気を見せるために、時々は業務外のことに手を挙げたりして。

人間生きていこうと思うと住処と服と食糧がいる。
そして、それらを得るためには対価を払う必要があって。
だから私は、それなりに向上心があるような仮面をつけて日々を過ごしている。

でも、そこにあるのはひどく色の薄い世界だった。

夢とか希望とか。
そういうものを小馬鹿にしてきたツケが今、支払われていた。


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その日は朝から綺麗に晴れ渡っていた。
自然、こういう日は気分も軽くなる。

「……昼は公園で食べようかな」

ポツリと独り言がこぼれる。
何となく、いつもと違うことをしたかった。


――――――
――――
――

会社近くの公園はそれなりに賑わっていた。
いくつか並んだベンチの内、空いていた一番端に陣取る。
鞄の底から現れたのは、銀紙に包まれたいくつかの塊。

いちいち外で買うと高くつくが、わざわざ弁当を作るのは億劫だ。
そんな妥協の結果生まれたのが、手の中にある米の塊。
そんなだから、体裁も何もあったものじゃなかった。

「お腹に入れば同じ同じ」

誰に言うわけでもなく言い訳をする。
こんなことではいけないと、どこかで感じてはいるんだろう。
でも、変わるためのきっかけも理由も、私には見つけられなかった。
少しの焦りはあっても、自分から動く熱量はなかった。


少し塩気の強いおにぎりを頬張りながら、視線を上げる。
目の前には、様々な光景が広がっていた。

元気に走り回る子供たちと、おしゃべりに花を咲かせる母親たち。
スーツに身を包んだ壮年の男性は、電話を片手にお辞儀を繰り返している。
自分よりも大きな犬と戯れる少女もいた。
隣のベンチの老人は、柔らかい光の中でまどろんでいる。

なんてことはない日常。
私も、そんな日常の一部なんだろう。
風景に溶け込んでこれといった印象も残さない、そんな存在。

そんなことをつらつらと考えていると、何やらキラキラと輝くものが見えた。


髪を腰のあたりまで伸ばした少女は、制服を着ていた。
その色はつややかな金色で、染めたりしているわけではないと分かる。
何故なら、彼女の瞳は頭上の空を映したようで、その肌は小麦色に輝いていたから。

「…………?」

今のご時世、外国人は珍しくもない。
観光客はもちろん、日本で生活している人もよく見かけるようになっている。
だから、彼女がどこかの学校のものらしい制服を着ていることが気になったのではない。

少女は、私のほうに歩いてきていた。
知らないうちに何かしてしまったのだろうか。
そんなことを考えながら首を傾げていると、声をかけられた。


「こんにちはですよー」

神秘的な雰囲気と、幼さが残る顔立ち。
そんな彼女から発せられたのは、ちょっと癖のある日本語だった。

「は、はい……こんにちは」

「お隣よろしいでしょうかー」

「……ええ、どうぞ」

見た目と言葉遣いのギャップに戸惑いながら言葉を返す。
その言葉に、彼女は嬉しそうに笑う。
警戒心を抱かせない、人懐っこい笑顔だった。


「ありがとうございますですよー」

物怖じしないというかなんというか。
微妙に言葉に詰まっている私に構うことなく、当然のようにベンチに腰掛ける少女。

「おー、初めましてでございますねー。わたくしライラさんというのですよー」

そして、ややのんびりした口調で自己紹介をする。

「ライラ……さん?」

「はいです」

「なんでまた、ここに?」

他にも空いているところならあっただろうに。
なんでわざわざ先客がいるところに来たんだろう。


「んー、なんででございましょうか」

「なんでって……私が危ない人だったらどうするの?」

「あー、それは多分大丈夫でございます」

「へ?」

「ライラさん人を見る目はあるつもりでございますし、危ない人はそんな風に言いませんですよ」

「それはまあ、そうかもしれないけど……じゃなくて」

「おや、ライラさん間違えましたですか?」


何とも危なっかしい娘だった。
どうにも放っておけないというか、構いたくなるというか。

 ぐぅ

そんなことを考えていると、可愛らしい音が聞こえた。
視線を横にやると、青い眼差しが私の膝の上に向けられている。
彼女が見ているのは、私の昼食らしい。

「えへへー」

少し恥ずかしそうに笑うライラさん。
つまり、先ほどの音は彼女のお腹の虫、ということか。


「食べる?」

他人様に食べさせるような立派なものではないけど。
こんな目を、こんな笑顔を向けられたら、そう言うよりほかないじゃないか。

「おぉー、よろしいのでございますか?」

「大したものじゃないし、美味しくはないかもしれないけど」

「そんなことはないのですよ。きっと美味しいのです」

「……そうだといいけどね」

食べもしないうちから力説するライラさん。
そんな彼女の手に、銀紙に包まれたままのおにぎりを乗せる。


「ありがとうございますですよ」

ライラさんは無邪気で屈託のない笑顔を浮かべている。
こんな笑顔が見られるなら、おにぎりの一つや二つは惜しくないか。

いつの間にやらそんなことを考えていた。
不思議な魅力を持った娘だった。

「それじゃ、改めていただきます」

「いただきますですよ」

傍目には奇妙な取り合わせの二人組が、おにぎりを頬張っている。
相変わらず少し塩気が強い。
でも、一人で食べていた時より、少しだけ美味しく感じた。

一旦ここまで
お読みいただけたなら幸いです


――――――
――――
――

特に何があったわけでもない。
天気の話をしたり、おにぎりの味の話をしたり。
ただ、それだけのことだった。

「ごちそうさまでございました」

「……ありがとう」

「あー、ありがとうございますはライラさんが言うことでございますよ?」

「うん、そうなんだけどね」

久しぶりの感覚だった。
ほんの少し、私の世界が色付いたかのような。
多分、隣の少女のお陰なのだろう。


上手く伝えられる自信はないけど。
それ以前に、初対面の相手に話すことでもないけど。

「一人より二人の方が、ご飯も美味しいからさ」

「おー、ライラさんがお役にたてたのなら嬉しいですねー」

ライラさんは、私の言葉をそのままに受け取る。
言葉の裏に何かあるなんて、考えもしないのだろう。
それが心地よかった。

「私は仕事に戻りますね」

「はいです。おにぎり、ありがとうございましたですよ」

彼女は、ヒラヒラと手を振ってくれていた。
会社へ戻る足取りが軽いのは、鞄からおにぎりの重さが減ったという理由だけではなかった。


***************************


不思議な出会いから数日。

あの公園では、時々彼女を見かけることができた。
彼女はいつも楽しそうに笑っていて、周りの人も笑顔になっていた。
そんな光景を見ると、少しだけ優しい気持ちになれた。

けれど、相変わらず私の世界は色褪せていて。
やっぱり私は、その世界を変えるために動けないでいた。


だからだろうか。
仕事からの帰り道、赤く染められたあの公園を訪れていた。
多分、きっかけが欲しかったんだろう。

「……いた」

いたらいいな、くらいの気持ちだったけど。
ライラさんはそこにいた。

「おー、なかなか元気な犬さんでございますねー」

「お姉ちゃん、こっちだよー」

ライラさんは散歩中と思しき少女を捕まえ、その子の犬と遊んでいた。
あの日に見た、不思議な魅力を湛えた笑顔で。


「ははっ」

なんてことない日常の風景。
そのはずなのに、自然に笑みがこぼれていた。

ふと周りを見てみると、私と同じような表情の人が何人か見て取れた。
あの人たちも、ライラさんに小さな幸せをもらったんだろうか。

「そうか、幸せか」

自分で言っておいて、初めて気が付いた。
あんな、なんでもない触れ合いに幸せを感じていたのか。


「ありがとうございましたですよー」

「お姉ちゃん、またねー」

つらつらと考え事をしていると、そんな声が聞こえた。
顔を上げると、二人にはやはり笑顔が浮かんでいる。
何があったというわけではないのに、心に温かなものが灯ったようだ。

「……さて、帰るか」

空が少しずつ紫色の染まりだす。
それとは対照的に、私の世界は柔らかく色付いている。


「おや?」

踵を返したその背中に、不思議そうな声が投げかけられる。
振り向くと、こちらを見ているのはやはりライラさんだった。

「おー、やっぱりおにぎりの人でございました」

「……覚えてるの?」

「はいですよ。受けたご恩は忘れてはいけないのです」

おにぎりの人、という覚えられ方はともかく。
てっきり私のことなんて忘れられてると思っていたのに。

「恩だなんて、大げさな」

「そんなことありませんですよ。あのおにぎりのお陰でライラさんは一日元気でいられたのです」


真っ直ぐにこちらを見つめる青い瞳。
沈みかけた太陽の、最後の光で輝く金の髪。

「……綺麗だ」

「ほぇ?」

「ああ、いや、夕日がね」

「おー、本当でございますねー」

意識せずに呟いた言葉は、かなり恥ずかしいものだった。
慌てて言い繕う。
そんな私の不自然な態度を気にする風もなく、ライラさんも夕日に顔を向ける。

夕日を見送るまで、静かな時間が続いた。


「お日様沈んでしまいましたですね」

少しだけ寂しそうな声が漏れた。

「でも、そのお陰でほら」

空が黒く染まるにつれ、存在感を増してきた月を指さす。
自分でも、ガラにないことをしている自覚はあるけど。
ライラさんには笑顔でいてもらいたいと、そう思った。


「おぉー、お月様も綺麗ですねー」

ライラさんはそんな些細なことでも感動してくれる。
私がどこかに置き忘れてきた物を、彼女は持っているんだろう。

 ぐぅ

この前も聞いた、可愛らしい音。
隣に立つ少女は、あの時と同じような恥ずかしそうな笑顔を見せてくれた。

「えへへー」

「あはは」


「ライラさんちょっと恥ずかしいですねー」

「ごめんね、今はこれくらいしかないから」

鞄の中から飴玉を取出し、彼女の手に収める。
そんなものでも、ライラさんは花が咲くように笑ってくれた。

「ありがとうございますですよー」

「それじゃあ、ライラさんも気を付けて帰ってね」

これ以上暗くなる前に彼女を開放しなくちゃ。
そう思って別れの言葉を告げる。

「おー、またお会いしましょー」

また。
そんな一言が、なぜだか嬉しかった。


***************************


何でこんなことをしているんだろう。
そんな疑問はもちろんあった。
でも、何となく、そうしたくなったのだ。

家に帰ってから、押し入れの中を引っ掻き回す。
ようやく見つけたのは一人暮らしを始めて以来、数回しか開いていない料理本。


『おー、またお会いしましょー』

普通に考えればただの社交辞令。
そんなものを真に受けるだなんてどうかしている。

でも、そう思いたくない自分がそこにいて。
気付けば、まともな弁当を作ろうと躍起になっていた。


「人のために料理するなんて、いつ振りだろう」

何一つ約束なんてしていないけど。
もしそうなったらいいな、と。

幾度か言葉を交わした程度の相手に、大の大人が弁当を用意する。
他人が知ったら、顔をしかめるに違いない。
でも、これをきっかけにしたいと感じる自分がいた。
これまでの平坦な毎日を変えるために。

だから、本当に彼女に会えるかどうかは関係なかった。

一旦ここまで
おそらく次で最後です

お読みいただけたなら幸いです

>>26誤字修正


「ライラさんちょっと恥ずかしいですねー」

「ごめんね、今はこれくらいしかないから」

鞄の中から飴玉を取出し、彼女の手に収める。
そんなものでも、ライラさんは花が咲くように笑ってくれた。

「ありがとうございますですよー」

「それじゃあ、ライラさんも気を付けて帰ってね」

これ以上暗くなる前に彼女を解放しなくちゃ。
そう思って別れの言葉を告げる。

「おー、またお会いしましょー」

また。
そんな一言が、なぜだか嬉しかった。


――――――
――――
――

空には薄雲がかかっていて、心なしか風も冷たく感じる。
そんな中、私はあの日のように公園に向かっていた。

あの日より少し重い鞄を持って。
思春期の学生みたいに緊張しながら。

「こんにちは」

「おー、こんにちはです」

「隣、いいですか?」

「どうぞどうぞですよー」

果たしてそこにはライラさんがいた。
交わされるのは、あの時とは逆のやり取り。


「えへへー」

「どうかした?」

「この前と逆だなーと思いまして」

「覚えてるの?」

「はいです。おにぎりの恩は大きいのですよ」

そんな些細なやり取りが、ひどく心地よかった。

「今日はちゃんとしたお弁当だけど、ライラさんも食べる?」

「おお、良いのでございますか?」

「味の保証は出来ないけどね」

「おにぎりも美味しかったですので、大丈夫でございますよ」

ライラさんの言葉に思わず苦笑する。
おにぎりを握るのと料理をするのじゃ、随分違うんだけどな。


「あー、でも」

「ん?」

珍しく言いよどむライラさん。
食べられないものでもあるんだろうか。
そんな風に思っていたのだが、意外な言葉が返ってきた。

「ライラさんばかり貰っては申し訳ないのですよ」

ライラさんの視線は、その膝元に注がれている。

「ライラさんは何もお返し出来てませんので、これ以上貰うわけにはいかないのです」

初めて見る姿だった。
俯いているその姿を、これ以上見たくなかった。


「そんなことないよ」

だから、感じていたことを素直に伝える。

「初めて会った時も、一緒に夕陽を見た時も、私はライラさんから大切なものを貰ったんだ」

「ライラさん何もしてませんですよ?」

ライラさんにはその自覚はないんだろうけど。
私が勝手にそう思っただけなのかもしれないけど。
でも、私の薄い世界に色が付いたのは、彼女のお陰。


「ライラさんは私に、小さな幸せをくれたんだよ」

「幸せでございますか?」

「朝起きて、仕事をして、帰って寝る。そんな平坦な日常で、それだけじゃないって気付かせてくれたんだ」

「よく……分かりませんですよ」

「ちょっと見方を変えるだけで、毎日が少し楽しくなるってね」

ライラさんはいつも楽しそうだった。
目に映るものをありのままに見て、何かを見つけては感動していた。
それは、いつの間にか忘れてしまった大事なもの。


「……ライラさん、お返し出来ていたのですか?」

「うん。すごく大事なものを貰ったよ」

「……幸せ、お裾分け出来ていましたですか?」

「うん。だから、これはそのお礼」

「えへへー、嬉しいですけどちょっと照れますですね」

上手く伝えられたのか不安はあったけど。
顔を上げてこちらを見たライラさんは、いつものように笑顔を見せてくれた。

「それに、一人より二人の方がご飯も美味しいからさ」

「では、ありがたく頂戴しますですよ」

傍目には奇妙な取り合わせの二人組が、弁当箱をつついている。
花が咲き、世界が色付いた。


***************************


「ああ、ライラさんここにいたんですか」

弁当を食べながらなんでもない話をしていると、そんな声がかけられた。
声の主は、スーツ姿の男性。

「おー、プロデューサー殿。どうかしましたですか?」

「もうすぐレッスンの時間ですよ」

「あー、もうそんな時間でございますか」

「皆さん事務所で待っていますから、早く行ってあげてください」

「分かりましたですよ。わざわざありがとうございますです、プロデューサー殿」


プロデューサー?
レッスン?
事務所?

目の間で交わされる会話に、何一つついて行けなかった。

「お弁当ありがとうございましたですよ」

私と目を合わせてそう言うと、ライラさんは身軽にベンチから立ち上がる。

「では、またお会いしましょー」

この前と同じ言葉を残して、ライラさんは駆けて行った。
残されたのは私と、プロデューサーと呼ばれていた男性。
……微妙に気まずい空気が流れる。


「えーと、ぷ、プロデューサー……さん?」

「申し遅れました。私はCGプロという事務所でライラさんのプロデュースを担当している者でして」

当惑をそのまま声に出すと、その男性は丁寧に答えてくれた。
彼の穏やかな表情は、初対面の私にも安心感を与えてくれる。

「……CGプロっていうと」

「はい。主にアイドルを扱っている芸能事務所です」

私でもその名を聞いたことがあるくらいだ。
かなり有名な所なのだろう。
……ということは。


「あのー、つまり、ライラさんもアイドル……なんですか?」

「その通りです。目下売出し中、というところですが」

「そうなんだ……ライラさん、アイドルだったんだ」

公園で見知らぬ人との触れ合い、楽しそうな表情を浮かべるライラさん。
相手との距離を一足飛びにして、みんなを温かな気持ちにさせるライラさん。
そんなライラさんがアイドルだという。
戸惑う気持ちがある反面、妙に納得する部分もあった。


……ふと気づいた。
私が、不審者と思われても仕方がない立ち位置にいることに。

「あっ、私は別に怪しい者じゃなくてですね、たまたまここでライラさんと会って……」

混乱する頭で必死に弁解の言葉を絞り出す。
せめて、やましいところがないということだけでも分かってもらわないと。

「ははは、大丈夫ですよ」

話せば話すほどにしどろもどろになっていく私を、彼の笑いが遮った。
苦笑というか微笑というか、とりあえず悪意を感じられないことに安堵する。


「ライラさんから聞いています。随分お世話になったようで」

「それは別にかまいませんが……アイドルがこんなことしてていいんですか?」

初対面の人に話しかけたり、あまつさえ食べ物を分けてもらったり。
そして、プロデューサーを名乗る彼は、彼女のするに任せているらしい。。
当事者が言うことじゃないかもしれないけど、無防備すぎやしないだろうか。

「彼女の人を見る目は確かですから」

「それはライラさんも言ってましたけど、止めたほうがよくないですか?」

「無理に何かを止めさせるようなことはしたくないんですよ……それに」

「それに?」

「こういう出会いが、彼女にとって何より大切だと思うんです」


その言葉は、確かな信頼に支えられていた。
仕事上の付き合いというだけではない、もっと強いものを感じる。
ほんの少し嫉妬のようなものを覚えつつ、それ以上に安心している自分がいた。

「それじゃあ、これからはファンとして応援しないとですね」

「ありがとうございます」

「……有名になったら、ここにはもう来ないんでしょうか」

それが当たり前なのだと思う。
わざわざ口に出したのは、そのことを寂しく思ったから。
そして、否定の言葉が欲しかったから、なんだろう。

「それはライラさん次第ですね」

「そうですか」


「でも私は、ライラさんはライラさんのまま、トップに立ってほしいと思っています」

それはつまり、無理に何かを変えようとするつもりはない、ということだろう。
そう言ってくれる気遣いが嬉しかった。

「ありがとうございます」

「こちらこそ。これからも、たまに話し相手になってあげてください」

「いいんですか?」

「あなたは信頼できると思います。ですから、彼女がそう望むなら」

面と向かってそう言われて、悪い気はしない。
そして、その信頼を裏切るようなことはしたくないと思った。
……この人、結構やり手なんじゃないだろうか。


「そうだ。アイドルのレッスンって、やっぱりハードなんですか?」

「基本的にはそうですね」

「じゃあ、甘い物でも用意することにします」

「喜びますよ。アイスなんかだと特に」

「分かりました」

お互いに微笑を交わして、それぞれの仕事の為に踵を返す。
足取りが軽いのは、ライラさんのお陰だった。

私の、色の薄い世界はにわかに色づいている。
けれど、時間とともにこれも色褪せていくのだろう。

だから。

自分の手で少しずつ色を足していこう。
そう思うことができた。


<了>

というお話でございました

ライラさんはネコみたい
自由気ままに振舞うのにこっちが落ち込んでると傍にいてくれるみたいな
そんなライラさんに皆さんの一票頂けたらなって

お付き合いいただきましてありがとうございました

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