【平沢進】ヒミコ「道を今ここへ」過去向く士「キミの威光の方へ」【英雄戦姫】 (17)

私の名前はヒミコ。

ジパングの内にある都市のひとつ『邪馬台』の女王として、世話役のヤマトタケルと共に
国のため民のため、日々奮闘しています。

さて、現在このジパングではあちらこちらで戦闘が発生しています。
私たちが相手どっているのは『京都』と『江戸』、それぞれ邪馬台と同程度の規模を持つ都市です(邪馬台より大きくはないんですよ、決して)。

簡単に言えば、ジパングは内戦状態にあるということですね。

暴君に領土を狙われているのか、ですか?

いいえ。

何故ならこの戦争は、私が始めたものですから。

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ちょ、ちょっと、私をそんな目で見ないでくださーい!
私だって戦争がしたかったり、資源や土地が欲しくて攻め込んでるわけじゃないんです!

まぁ確かに、京都の義経さんはちょーっとお節介かなーとか、弁慶さんは少しやんちゃすぎるかなーとか、
江戸の信長さんはいくらか、いや割と、いやいやかなり意地悪なところもありますけど、
皆さんとってもいい人なんです!
皆さんが嫌いで攻めてるわけじゃないんですよぅ!

こほん。
では、先に開戦の理由をお話しておきますね。

ふっふっふ……

私がこの戦いの先に夢見るもの、それはずばり、『世界征服』です!

え? 今ですか?
ちょうど戦を終えて、江戸から邪馬台に帰るところですよ。

勝利の凱旋?
い、いえ、それが……

勿論いいところまでは行ったんですけど、信長さんの指揮する鉄砲隊がなかなか手強くてですねぇ、
今日のところは逃げ……戦略的撤退中です。
いやー惜しかったですね。

ともかく、この山を越えればもう邪馬台です。皆さんお疲れでしょうし、早く帰って休みましょう。
空模様も少し怪しくなってきましたからね。

―邪馬台に向かう山道―

ヒミコ「みなさーん! 邪馬台まであとひと息ですよー! 頑張りましょーう!」

ヒミコ「……はぁ、今日も信長さんにけちょんけちょんにやられてしまいました……あんなところに伏兵を忍ばせておくなんて、ずるいですよ」

ヒミコ「帰りに通りかかった京都近くの街道では義経さんが私を待ち構えていて、宿題を山のように持たされてしまいましたし」

ヒミコ「1日も早く世界を征服して『備え』ないといけないのに、私がへっぽこなせいでこんなところでつまづいて……」


ヒミコ「せめてタケルが一緒に戦ってくれたら……いえ、タケルに無理はさせられません。私が頑張らないと」

ヒミコ「頑張るためにはなんといっても十分な休息ですよね! この坂を登り着れば邪馬台が――」

「敵襲! 敵襲ー!」

ヒミコ「えっ!?」

ヒミコ「なな、何が起きたんですか!?」

兵「このあたりに巣食う山賊のようです! ヒミコ様、お下がりください!」


山賊「邪馬台の女王ヒミコ! こりゃとんだ獲物がかかったもんだ。今日はツイてるね」

ヒミコ(まずいです……兵士の皆さんの疲労は既に限界、おまけに盗賊の皆さんはかなりの手練に見えます)

ヒミコ(このままでは勝ち目は……!)

山賊「どうやら邪馬台の兵士は死に体みたいだね。弩弓隊、構え! 数を減らして一気に……」

ヒミコ「ま、待って下さい! 山賊さんが欲しいものは差し上げます。その代わり、ここを通していただけませんか」

兵「ヒミコ様!? 危険です!」

山賊「へえ、女王様直々に命乞いとはね。あたしたちが欲しいものをくれるって言ったね?」

ヒミコ「はい。お金でも食べ物でも、必ず用意します。ですから、今は見逃して頂けませんか」

山賊「……ああ、そうだ。ひとつ欲しいものが見つかったよ」

ヒミコ「それは一体……」

山賊「『邪馬台女王の座』これと引き換えなら手を打とうじゃないか」

ヒミコ「!」

ヒミコ「……」

山賊「さ、返事を聞かせてもらおうか。と言っても、生き延びたいなら首を縦に振る他は――」

ヒミコ「……」

ヒミコ「ごめんなさい。それは……出来ないんです」

山賊「……破談ってわけだ。ふん……弩弓隊!」

ヒミコ「!!」

兵「ヒミコ様!」

山賊「撃て!」

ヒュッ

ヒミコ(……まだ何も始まってないのに、こんなところで死ぬなんて)

ヒミコ(このままじゃあの『予知』が現実になってしまうのに、それだけは防がなきゃいけなかったのに……!)

ヒミコ(……まだ[ピーーー]ない、死にたくないです……! お願いします、誰でもいい、助けて下さい……!)

ヒミコ「……誰か!」


>undo

ヒミコ「……え?」

山賊「な、何が起きた!?」

手下1「わ、分かりません! 確かに放った矢が、まるで時間が逆戻りしたみたいに私たちの手の中に戻って……」

手下2「邪馬台の女王は巫女と聞いていたけど、まさかこんな奇妙な術を使うなんて」

ヒミコ(違う、今のは私じゃ……)

「Uターン通勤の途中で戦場に出くわすとは珍しい。Ψヶ原からショートカットを試みなくて正解だった。」

ヒミコ「!」

山賊「誰だっ!」

「アーシングで電荷を失った私をなおも引き寄せる『ノイズ』がここへ足を運ばせたということか。」

山賊「姿を見せろ!」

ガサッ

「私の足を自分で運ぶのはいいが、足を担ぎあげた私に一体どうやって歩けというんだ。」

山賊「……くく。なんだ、ただの白髪の爺さんじゃないか。運が悪かったねぇ、あたしらの前に出てきちまうなんて……やっちまいな!」

ヒミコ「いけません! お爺さん、逃げてください!」

「心配は無用。」

手下3「くたばれっ!」

ペシッ

「ひら、」

手下3「……」

ペシペシペシペシ

「甲、甲、甲、ひら。」

手下3「……ふ、ふふ……こんな爺さんの老いぼれた張り手で、私を止められるとでも思ってたの?」

「良心から警告する。刀を収めてとっととねぐらに帰りなさい。」

手下3「そう。じゃあ、死ねぇ!」

ズシャッ

手下3「あ……っ!?」

ドサッ

「だから言ったのに。」

手下3「お、お前……何をした……?」

「胸部脂肪の容量が大きいおかげで心臓には達していないでしょう。仲間に手当てして貰うといい。」

ヒミコ(今……山賊さんの刀がお爺さんを斬ったように見えたのに、お爺さんは無傷で山賊さんは胸が血だらけって、どういうことなんでしょう?)

手下3「お、お頭……」

手下2「お頭! は、早く傷を塞がないと!」

手下1「姐さん! 麓の方から邪馬台の兵達が登って来ています! このままじゃ挟み撃ちにされちゃう!」

山賊「く、くそっ……! ええい、引き上げだ! 逃げるぞ!」

手下「撤収だー!」

兵「待て!」

ヒミコ「待ってください! 追撃は結構です、今は邪馬台に帰って体力を回復しましょう」

ヒミコ「それに……あのお爺さんにもお礼をしなければなりませんから」

ヒミコ「お爺様。危ないところを助けて頂き、感謝の言葉もございません」

「あんた誰。」

ヒミコ「失礼致しました。私は邪馬台女王、ヒミコと申します」

「邪馬台女王?」

ヒミコ「私達はこれより邪馬台に帰ります。私の館にて、是非とも今日のお礼をさせて頂けないでしょうか」

「あいにくモノやカネには困っていないので。」

ヒミコ「それではお食事だけでも。邪馬台随一の料理やお酒をご用意致します。どうか、私と来て頂けませんか」

「動物の死骸には無関心と知りなさい。アルコールも同様。」

ヒミコ「で、では、何かお望みは……」

「結構。あんたのような戦争屋に恵んで貰うほど、私は貧していない。」

ヒミコ「!」

「もっとも戦争屋に縋って生き延びるくらいなら、道端の草を食べて死ぬほうがよっぽどマシ。」

ヒミコ「せ、戦争屋……」

「数ヶ月前からジパングの方々で戦闘が繰り広げられている。そのほぼ全ては邪馬台、つまりあんたが仕掛けたものだ。」

ヒミコ「待ってください、それには理由が」

「大義名分を掲げて武力を正当化する古臭い宣伝方法はもう飽きた。それでもインフラの発達していない邪馬台では、王の威光だけで人々を操れるんでしょう。」

ヒミコ「人々を操るなんて、そんなことしてません!」

「いずれにせよ、邪馬台の王が暴力を用いて京都や江戸に侵攻しているのは事実。私はそんなクズから施しを受けるつもりは無い。あんたを助けたのは人としての良心からだ。」

ヒミコ「く、クズ!? 私がクズだって言うんですか!」

「そろそろUターンさせてもらう。おじゃまさま。」

ヒミコ「ま、待ちなさい! そこまで言うからには、私の抱える問題に答えを示してもらいます!」

「何故? 『戦争は悪』というのはヒトが人たる存在として共通の認識のはず。まして先制攻撃など許されるべきではない。戦争の末に得られる答えなど無い。」

ヒミコ「それならなおさらです、あなたには私の話を聞いてもらわなければなりません。その上でまだ私を戦争屋のクズだと仰るなら、反戦活動でもプロパン、プロガパンダ、プロなんとかでもお好きになさって結構です!」

「えー。」

ヒミコ「えー、じゃありません! さあ、着いてきて下さい!」

「言論統制、反乱分子の抑圧、憲兵による尋問、拷問、無実の死刑……」

ヒミコ「そんなことしませんから! 大体あなた、人に名乗らせておいて自分の名前も教えないなんて不躾です!」

「名前?」

ヒミコ「まだあなたの名前を聞いてません。言いたくないならいいですけどー、お爺さん」

「じゃ言わない。」

ヒミコ(この……)

「しかし仮にも呼び名が無いとコミュニケーション不全に陥るかもという不安は理解できるので、折衷案を用意した。私のことはこう呼ぶように。」

「――『過去向く士』と。」


今回は以上です。
一部sagaを忘れてました。

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