穂乃果「とびっきりの笑顔で」【ラブライブss】 (37)

海未「おかえり、穂乃果」

穂乃果「うん、ただいまぁ」


夕暮れから少し経って、電車に揺られ、駅からはほんのり暗い道を歩いて。

ヘトヘトになりながら家の扉を開けると、恋人の海未ちゃんが、帰ってくるのを予言していたかのように、必ず玄関に立ってる。

まぁ、お仕事が終わったらちゃんと電話してるんだけどね。

で、穂乃果は穂乃果なりに頑張って、2人で暮らせる分は稼げるようになりました。

海未ちゃんや、他にも支えてくれた人たちには感謝しきれないなぁ。

それに、穂むらの方もたまにお手伝いはするよ。

海未ちゃんは、午前中からお昼過ぎくらいまで家のお手伝いをしてるんだ。


海未「もう7時になります。今日は少し遅かったんですね」

穂乃果「うん〜、先輩が厳しくてさぁ」

海未「そうですか....でも、厳しくしてくれるってことは、ちゃんと見てくれている証拠ですよ。もしかしてずっとお説教でもされていたのですか?」

穂乃果「ううん、その後は一緒にお話したよ!カラオケ行きたいねぇとか、今度何か食べに行こうって言ってくれた!」

海未「....仲いいんじゃないですか」

穂乃果「そうかな?」

海未「んー....ほら、お腹空いたでしょう?中に入ってください」

穂乃果「あれ、もしかして....嫉―

海未「きっ、きょ、今日はあなたの好きなハンバーグですよっ!」

穂乃果「もう....海未ちゃんが1番に決まってるのに」

海未「ぅぐ....」


顔を物凄い勢いで赤くして、動揺を隠しきれてない。

確かに先輩とは仲がいいけどさ、海未ちゃんは穂乃果のこと信じてくれてないのかな。

でも、照れてる顔を見ると、なんだか幸せな気分になってくる。


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穂乃果「よいしょ....いつもご飯作ってくれてありがとね」

海未「ど、どうしたんですか急に」

穂乃果「えっとね、ちょっと言ってみただけ〜」

海未「言ってみただけって....まったく、仕事終わりで疲れているなら、無理して元気に見せようとしなくていいんですよ?」

穂乃果「う....けどさ、穂乃果は海未ちゃんと沢山お話とかしたいしさ」

海未「それは私も同じです。ただ、なんといいますか、その....無理をして欲しくないというか」

穂乃果「おお、なんかお嫁さんみたい」

海未「っ、わっ、私達はそんなっ」

穂乃果「ひゃっ」


口が滑った。

そう、穂乃果達は同棲しててもただの恋人同士。

ちゅうとか、えっちな事(ベッドに横になりながらお互いがおっぱいを服の上から触り合って、恥ずかしくなって途中でやめちゃったんだけど)も全然したことがないような初々しいカップルなわけで....。

顔を赤くして、少しの沈黙の後、多分海未ちゃんも思い浮かべたと思う。

女の子同士の結婚、について。

まだたまに考えちゃうんだ。

どうすればそういう関係になれるのか。

穂乃果達にとっての結婚とは何なのか。

そもそも女の子同士でできるのか、って。

....まぁ、今はこの状況を変えなきゃ。


穂乃果「えっと....そ、そうだ」

海未「ん、な、なんです?」

穂乃果「今日はね、ちょっとしたプレゼントを買ってきたんだ!」

海未「えっ、プレゼントですかっ!?」

穂乃果「うんっ」


大人しくて、真面目なイメージの海未ちゃんだけど、やっぱり女の子だから。

プレゼントとか、そういう物は嬉しいみたい。

さっきまでの海未ちゃんとは別人のように目をキラキラさせて、穂乃果の顔を見ながら体を上下に振って。

穂乃果みたいに言葉で感情を表さないタイプだけど、まだ渡してないのにすごく喜んでくれてるのがわかる。



海未「何でしょう....穂乃果が私に....ふふ」

穂乃果「じゃぁね、ヒント!さっき穂乃果が言った言葉に関係してるかも」

海未「さっき、ですか?....えっと....お嫁―」

穂乃果「ちちち違うっ!そ、それじゃない!」

海未「わわ、ごめんなさい」


恥ずかしくてつい大きな声出しちゃった。

元はといえば穂乃果が口にしたからなんだけどね。


穂乃果「も、もうちょっと前に言ったことだよ」

海未「沢山お話がしたい....?」

穂乃果「惜しい!」

海未「あ、ご飯....料理に関係するものでしょうか?」

穂乃果「そうっ、正解!」

海未「ふぁあ、やりましたっ!」


ありきたりなクイズだけど、正解した海未ちゃんは大袈裟にリアクション。

多分こんなところ、穂乃果以外には見せないと思うんだ。

それは自信もって言えるし、独り占めしてるって思うと、すごく嬉しくなる。


穂乃果「正解したから....これ、あげる!」

海未「あっ、これっ」

穂乃果「欲しいって、言ってたよね?」

海未「はいっ!新しいエプロン....嬉しい....嬉しいですぅ」

穂乃果「今までのやつ、高校生くらいから使ってたんだもんね?」

海未「そうです。本当に、そろそろ新しいのが欲しいと思っていたところで....はぁ、嬉しいです」

穂乃果「ふふ、気に入ってくれたなら、頑張って選んだ甲斐があったなぁ」

海未「宝物にしますよ!今日はずっと着けていてもいいですか?」

穂乃果「え、エプロンは部屋着じゃないよ....?」

海未「ぁ....わ、私としたことが....少しテンションがおかしくなっているんですね。でも、今は着けてもいいですよね?」

穂乃果「うん、絶対似合うと思うけど、着けてるところは早く見たいな」

海未「〜♪」



水色と白のチェック柄で、女の子らしい可愛さがあるエプロン。

嬉しい嬉しいって、蕩けたような顔で言ってくれるから、エプロンより価値のあるものを見れた気がして、胸がぽかぽかします。

ずっと着けていたいって言ったり、何でもできる海未ちゃんでも、少し抜けてるところがあるんだ。

穂乃果は昔っからおバカのままだけど。

でも、恋人同士になった頃からか、高校を卒業したくらいの時か、あまり覚えてないけど、海未ちゃんは穂乃果を叱るより、褒める方が多くなったかな。

叱る時がないわけじゃないから、もしかしたら自覚がないだけで、穂乃果も少しずつ大人になれてるのかも。


海未「....嬉しい」

穂乃果「何回言ってるの〜」

海未「ですが本当に嬉しくて....似合ってますか?」

穂乃果「うん!....少なくとも、想像してた時よりも150倍くらい可愛いかな♪」

海未「なっ....あ、あなたは....ずるいです....」

穂乃果「お、照れてる」

海未「だって穂乃果は、当たり前だと言わんばかりの笑顔で言ってくるから....」

穂乃果「から?」

海未「私は今可愛くなれているんだって考えると....顔が熱くなってしまって」

穂乃果「そっか、えへへ....」

海未「....ふふ、穂乃果、ありがとうございます」

穂乃果「ううん、最近は一緒にお出かけとかもあまりしてないしさ」

海未「あれ、そういえば明日からお休みが続くのではありませんでしたか?」

穂乃果「そ。だから、たぁ〜っくさん遊べるの!」

海未「穂乃果....さぁ、まずはご飯を食べましょう!その後は、えっと....えっと―」


こうやってしたい事を考えてる時の横顔って、自然と笑顔になっててさ。

そんな海未ちゃんの横顔が眩しくて。

やっぱり穂乃果たち変わったなぁ。

いい方に、いい方に。

....観たいねって話してた映画とか、他にも行きたいところ、したい事、沢山あるみたいだから、ご飯を食べた後2人で話し合う少し先の未来でさえ楽しみで。

何度でも言えるよ、今が最高だ。

そんな秒単位で更新されていく今を全て最高だと思えるなんて、素敵だよね。



― リビング ―


海未「ふぅ」

穂乃果「くしゅんっ」

海未「....」

穂乃果「....」


食後、何をしようかと張り切ってはいましたが、流石に少し休むので、自然と静かになる時間。

だからこそ、穂乃果の可愛いくしゃみにすら、ドキッとしてしまいます。

いつからでしょうか、こうも毎日が楽しいのは。

スクールアイドルをしていた頃よりも充実していて、私は死ぬまで幸せなのではないかと。

けど、私は日々の買い物や実家の手伝いで、身内やスーパーの店員さんなどとしか接することがありません。

いっぽう穂乃果は、仕事仲間がいて、電車を使い出かけるわけで....。

自分の知らないところでなにかしているのではないかと、そんなことがあるわけないのに、考えると私は穂乃果のことを信じていないのではないかと辛くなったり。

それなのに、穂乃果は昔から優しいから、そんな私を疑わないで。

帰ってくると、嘘偽りない宝石のような目を、もっともっと輝かせながら、1日にあったことを話してくれるんです。

先輩となになにをしたとか、ちょっとした失敗なのに気にしすぎて私に泣きついたり。

なんの記念日でもないのに、プレゼントを....買ってきたり。

穂乃果はずるいんです。

もうとっくに恋に落ちているのに、更に深いところへ私を連れて行ってしまう。

そうですね、私もずるいんです。

結局行き着く先は穂乃果が好きな、大好きな未来だから。


穂乃果「ん....海未ちゃん、また頭....痛いの?」

海未「えっ?あ、ただぼーっとしていただけですよ」

穂乃果「そっか。もし本当に痛くなったら、絶対言ってね?」

海未「はい....」


私がいろんなことを考えてるうちに、穂乃果はなにか心配をしていたみたいですね。

はい、私は偏頭痛持ちなんです。

そこまで頻繁に酷い頭痛が起こるわけではありませんが、歩くのが辛くて買い物に行けなくなったりするのは、たまにあります。

穂乃果は妙に人のほんの少しの変化に敏感で、頭痛で休んでいる時は、私の隣から離れず、ぎゅっと手を握っていてくれるんです。



海未「....そろそろ時間ではありませんか?」

穂乃果「何の?」

海未「ドラマですよ」

穂乃果「あっ、ああ!忘れてた!」


このドラマは、穂乃果が毎週楽しみに見ているんです。

原作が毒りんごと大図書館っていう少女漫画らしく、穂乃果自身もその漫画のファンなんです。

少しミステリー要素も入っているので、私も楽しんで見ています。

そんな休日前のゆったりした時間。

穂乃果のセンスでくつろぐために買った、いちご柄のもふもふしたソファに、2人で座り過ごします。


― その後 ―


シャー

穂乃果「....」

コンコン

海未「穂乃果」

穂乃果「あっ」

キュッ....ポタッ

穂乃果「なぁに?」

海未「パジャマ、忘れてましたよ」

穂乃果「あ、そうだった?」

海未「ええ、ここに置いておきますね」

穂乃果「うん、ありがとう」


かすかに足音が聞こえる。

もう行ったかな。

海未ちゃんは脱衣所に入ってくることはないから、多分ドアの下に置いていったんだと思う。

なんだか、姿は見えないのにドキドキするよね。

だって穂乃果今、すっぽんぽんだから。


穂乃果「はぁ....」



こんなんでドキドキしてるんだもんね。

えっちとか....できるわけないよね。

けど、1度だけそれっぽいことはして、その時の感触が手から、記憶から、離れない。

震える手で触った時の海未ちゃんの顔とか、出てるけど出てない声とか。

思い出せば思い出すほど鼓動も早くなって、どんだけピュアなんだって、自分でも馬鹿にできるほどだよ。

....結局穂乃果は海未ちゃんとの関係をどうしたいんだろう。

大好きで死んだ後も一緒にいたい人と、これから先どういうふうに生きていけばいいのか。

周りにパートナーとして認めてもらいたいのだろうか。

わからない。


ガラガラッ........チャポン

穂乃果「はふぅ....気持ちい」


このお風呂も含めて、穂乃果が家にいない時間は、ほとんどの家事を海未ちゃんがこなしてくれる。

その分、時間がある時に穂乃果の得意な揚げまんじゅうを作ると、ほっぺたを落としながら喜んでくれる。

同じような毎日だけど、1秒1秒が楽しく感じて。

大好きって抱きつくのとかはできるのに、やっぱりそれ以上のことができなくて、切り出せなくて、頭から離れない。

変な子って思われるのかな。

さっきだって、穂乃果の裸姿を海未ちゃんが見たら、どんな顔をするのか―


穂乃果「ふぁぁあああっっっぅぶくぶく」


穂乃果今何考えたの。

ダメダメダメっ、これじゃぁイヤラシイ人だよぅ。


ダッダッダッダッ

海未「穂乃果っ?」


へ、今、脱衣所に。

えっ、叫んだから、海未ちゃん来ちゃっ―


穂乃果「ちょ、まっ、あっ」

ガラッ!!

海未「穂乃果っ、どうしまし....た....」

穂乃果「は....はひ....ひぃ....」

海未「ああ....ぁ....」

穂乃果「きゃぁぁぁあっ!」



脱衣所の扉が開いた時点で焦った穂乃果は、何を思ったのか....いや、浴室の扉を抑えようとして、お風呂を出ちゃった。

そしたら案の定....。

こんな悲鳴を上げたのは初めてだから自分でも驚いたけど。

海未ちゃんの顔は、お湯を沸かせそうなくらい真っ赤っかで、目も、やりどころがわからないのかぐるぐる回っていました。


― 寝室 ―


穂乃果「....ぅ....ぅぅ....」


先程はびっくりしましたよ。

それも2回も。

いきなり大きな声で叫んだんですから、心配になるではありませんか。

それに、穂乃果の....その....裸―


海未「うっ、みっ、見てませんからぁっ!」

穂乃果「ひゃっ、いきなり何ぃ!」

海未「はっ....ご、ごめなしゃ....ごめ、ごめんなさ....い....」


はぁぁぁ....どうして私がこんなに動揺してるんです。

穂乃果が被害者で、その恋人が加害者で、えっと、私は....。

犯罪者....覗き魔....性犯罪者....。


海未「ひぃぃ、許してください!無罪ですっ!わざとじゃないんですよぅ!」

穂乃果「っ、無罪!?なな、何を言って....??」

海未「そのっ、きっ、綺麗でしたよ!?」

穂乃果「....ぁぁぁ....」

海未「あっ....違っ、今のはっ」

穂乃果「はぁ、はぁ、恥ずかしくて死んじゃうよぅ....ふぐぅ」



ダメです、自分でも私が何を言っているのかわかりません。

穂乃果は布団に入り、枕に顔を埋めています。

でも、いつも隣で寝てる穂乃果が先に布団に入ってしまったら、今の状況で私はどこへ行けばいいのでしょうか。

どうすればいいかわかりませんが....おそらく疲れが溜まっている穂乃果です。

このまま寝てしまうのではないでしょうか。

それなら寝てもらった方が私も恥ずかしくないのですが....。

いつからでしょうか、穂乃果がこんなにも女の子っぽくなったのは。

昔、おそらく中学生くらいまでは、私やことりなど、身内には恥ずかしさをあまり見せなかったんです。

μ’sで、更衣室で着替えたりする時も、そんなに気にしていなかった気がします。

ですが、高校3年生の春でした。

お互い様々な悩みを抱え、まぁ、結論から言うと、2人とも初の恋心を抱いたんです。

説明すると長くなるので詳しくは言いませんが、最初に告白したのは....私になりますね。

あの頃の穂乃果は体調を崩したり、大変でしたから。

おそらくその時くらいからなんです。

恋をすると可愛くなるってやつなのでしょうか。


海未「ふぁっ....あ、ぼーっとしていました....」

穂乃果「....」

海未「あら、穂乃果?」

穂乃果「....んっ....ぐっ....ぷはぁ」

海未「牛乳??」

穂乃果「寝る!海未ちゃん許す!おやすみ!」

海未「ふぇ....???」

穂乃果「....すぅ....」

海未「ええっ?あのっ、えっ?」


体を揺すっても起きません。

寝るのが早いなんて考える暇もなく、それより前の、海未ちゃん許す、という言葉が頭から離れません。

急なことで困惑していますが、もしかしたら、ぼーっとしていたのが落ち込んでいる様に見えて、気を使ってくれたのでしょうか。

結果許して....くれたんですよね。



海未「....ありがとう」

穂乃果「っ....すぅ」

海未「?」


一瞬ビクッとしました。

それに、顔は見えませんが、普通こんなに耳を赤くさせて寝るのでしょうか。

....体を丸めて、お気に入りのテディベアを抱きしめる姿がとても愛らしいです。

口を開くと、勝手に喉から可愛いと出てしまうような感覚。

....もう11時になりますね。

私も寝ましょう。

なんだか今日は、いい夢が見れそうです。



― 翌日 ―


海未「ホノカ....」

穂乃果「んぅ....ふぁあぁ」


朝。

カーテンからは日差しが漏れてて、今日は晴れたって一安心。

寝起きだけど、考えることは、お休みだから海未ちゃんと沢山遊びたいってこと。

お布団は相変わらず海未ちゃんに取られちゃうんだけど....。


穂乃果「海未ちゃーん」

海未「ホノカ」

穂乃果「うぉお!返事した!!!」

海未「ふっ....んんっ....はぁ....」

穂乃果「おはよ」

海未「ん....おはよう....ございます」

穂乃果「起こさなくてもよかったかなぁ?」

海未「いえ....ふぁぁ....ありがとうございます」


海未ちゃんは小さい頃から早起きだけど、最近は実家のお手伝いとかも多くなってきて、更に家事もしてるわけだから、疲れてるみたい。

でもやっぱり、時計を見ると8時だし、起こしてあげないと寝坊しちゃう。

今日は休日なんだけどね。


穂乃果「穂乃果の夢でも見てたの?」

海未「....思い出せませんが、ふわふわした夢を見た気がします」

穂乃果「へぇ。穂乃果はねっ、いちごのケーキの上で泳いだの〜♡」

海未「ふふ、穂乃果らしいです」


もうハタチ過ぎてるのに子供っぽい夢だよね。

でもケーキの海だなんて....えへへ、憧れちゃう。


海未「では....朝ごはんを作りますね」

穂乃果「うんっ。そうだ、穂乃果は―あっ」

海未「ん、どうしました?」

穂乃果「い、いや....海未ちゃんと一緒の時は、つい自分のこと穂乃果って言っちゃうなぁって....」

海未「ずっとそうだったではありませんか」

穂乃果「だけど....」



昔からの癖で、自分のことを名前で呼んじゃうんだ。

流石に今では、海未ちゃんの前以外じゃ私、なんだけど。

自分ではそう考えたことはないけど、海未ちゃんに可愛い子ぶってるって思われたら嫌だし....。


海未「....穂乃果、私はそういう所可愛いと思います」

穂乃果「うぅ、子供っぽいってからかえばいいじゃん」

海未「そうですね、子供っぽいかもしれません」

穂乃果「えっ....」

海未「で・も!いつも言っているではありませんか。私は穂乃果のすべてが好....あぁぁぁぁっ!何を言わせるんですかぁぁぁっ!!!」

穂乃果「....海未ちゃん....」


どうしよう、海未ちゃんにこういうこと言われて....。

お熱があるんじゃないかって思うほど顔が赤くなって、ドキドキが止まらない。

パタパタ恥ずかしがってる海未ちゃんを見る、今の穂乃果の顔はどんな感じなんだろう。

ずるいよ。


穂乃果「....えと....」

海未「ほ、穂乃果、何が食べたいですか?」

穂乃果「え?あ、パン....かな」

海未「で、では出来るまで待っていてくださいねっ」

穂乃果「ぇあっ?」

ガチャッ!


穂乃果がドキドキした時は海未ちゃんもドキドキしてるのかな。

逃げるように部屋から出ていっちゃった。

それに、ドア閉め忘れてるし、なんだか焦ってたっぽい。

可愛いなぁ。

....何ヶ月もこんな感じ。

何も進展がなくて、初々しくて、ついこの間は真姫ちゃんにからかわれちゃったし。

進展ってなんだろう。

進行して、展開するって意味だよね。

ってことは、恋が進行して―。


穂乃果「ふぅぅ....」


必ずしもそこに行き着くのだろうか。

穂乃果は今が幸せなのが良くて、海未ちゃんの横で笑える今が好きで。

でも....でも。


穂乃果「欲求不満....なのかな」



― リビング ―


海未「ゆっくり食べてくださいね」

穂乃果「ん〜♪」


もっくもっく頬張って、喉につっかえてしまわないか心配になります。

朝ごはんは簡単です。

大体、パンを焼いて、目玉焼きだとか、味噌汁だとか、すぐ作れるものをいくつか。


穂乃果「ゴク....ねぇ海未ちゃん」

海未「はい?」

穂乃果「海未ちゃんは、今日行きたい所とかある?せっかくの休みだし」

海未「行きたい所....」


行きたい所、と言われると、正直沢山思い浮かべてしまいます。

カフェでゆっくりするのもいいですし、動物園や映画館にも行きたいです。

ですが、こういうふうに聞かれてしまうと、いつもこう答えてしまうんです。


海未「私はどこでも。穂乃果が行きたい所でいいですよ」


と。

穂乃果が行きたい所に私が行きたいのは本当ですが、沢山候補がある私はわがままなのでは、と考えてしまって。

すると今日は、穂乃果が私の顔をのぞき込んできて。


穂乃果「うっそだぁ」

海未「え?」

穂乃果「この間テレビで動物の特集やってたの見て、動物園に行きたいって言ってたじゃん。それに、海辺の街の占い喫茶っていう映画見たいとも言ってたなぁ」

海未「なっ....それは....」

穂乃果「もしかして遠慮とかしてるの?」

海未「う....」

穂乃果「もぅ....海未ちゃん昔と変わったよ」



穂乃果、あなたも変わりました。

元気なところや、幼さの残る可愛さは変わりませんが、あなたは大人になった。

私の心を読めるようになったのでしょうか。

昔から特殊な能力でもあるのでは、と疑うことが多々ある子でしたが、本当にそんな能力があるのでは。

....私が変わったって、どういうことですか。

いつも通り、穂乃果を一番に考えて、穂乃果に迷惑をかけないよ―....ぁ....。

あれ、私、あれ....。

穂乃果が....穂乃果のことが好きすぎて、好きでたまらなくて。

おかしくなっているのでしょうか。


穂乃果「っと....ごめん、何か気に障ったかな?」

海未「い、いえ....」

穂乃果「うん?」

海未「....」

穂乃果「急にどうし―ぇっ」

海未「穂....乃果ぁ」

穂乃果「海未ちゃん!?」


気づけば、熱いものがぽろりぽろりと、頬を流れていました。

わけがわからなくなって、つい。

今の私は本当の私なのか、とか、穂乃果を困らせているのではないか、とか、色んなことが頭の中でぐるぐる回り出して。

あぁ、こんなことでまた、穂乃果に心配をかけてしまう。

本当だ、私は変わった。

どこか弱くなった。

弱くなって....しまいました。


穂乃果「よ、よしよし....どこでもよかったんだよね?穂乃果、余計な事言っちゃったんだよね?ごめん!」

海未「っく....ぇく....いえ、違うんです....少し一人にさせてください」

穂乃果「そ、そう?」

海未「は....はい....」



嫌だ、昔の私はこんなにすぐ逃げなかった。

嫌だ、一人になりたくない、穂乃果と一緒にいたい。

これって、今私は嘘をついているってことになりますよね。

....穂乃果は優しいから、きっと嘘に気づいてそばにいてくれる。

違う。

優しいから....一人にしてくれるんです。


ガチャ....

穂乃果「何かあったら呼んでね?絶対だよ?」

海未「っ....」

バタン

海未「うっ....ううっ」


そうだ、私は変わってしまった。

穂乃果と過ごして。

恋を知って。

弱くなった。



― ??? ―


「みーつけたっ」

「あー、見つかっちゃったぁ」


穂乃果「みんな元気だねぇ」

海未「このあたりでは、公園はここしかありませんからね」

穂乃果「思いっきり遊べる所がここしかないんだね」

海未「はい」

穂乃果「....ふふっ」

海未「ん、どうしました?」

穂乃果「えっとね、こうして歩いてるとさ、時を巻き戻してるみたいだなぁって」

海未「時を巻き戻す?」

穂乃果「うん。小さい頃遊んでたこの公園は、大きくなった今見ると、なんだか小さく感じるし、あの子たち、昔の穂乃果たちと同じような遊びをしてるでしょ?」

海未「はぁ....?」

穂乃果「なんかさ、時を巻き戻してるって、感じしない?言葉間違ってるかなぁ....えへへ」

海未「....私には、よくわかりませんが、わかる気もします」

穂乃果「いいよ、ただ言ってみただけだから」

海未「ふむ....むぅ、なんだか穂乃果らしくないですよ?」

穂乃果「いいじゃん、中学校あと少しで終わっちゃうんだもん。寂しいからさ、いろんな事考えちゃうんだよ」

海未「....そう、ですね....」

穂乃果「って、しんみりした空気になっちゃった。楽しい話しよ!」

海未「というと、例えばどんな話ですか?」

穂乃果「んー....高校生になったらやりたいこととか!」

海未「あぁ、私はもちろん弓道部に入りますよ」

穂乃果「ブレないねぇ....穂乃果はね、漫画みたいなキラキラした恋をしたいな」


海未「女子高ですよ?」

穂乃果「うっ、海未ちゃんだって憧れるでしょ?いや、女の子だもん。憧れるはずだよぅ!」

海未「ええっ、私はそういうのはちょっと」

穂乃果「だーめっ!何かあるでしょ?好きな人とこんなことしたいとか」

海未「うぅ....では、後で穂乃果も言ってくれますか?」

穂乃果「うん」

海未「嘘ついたら針千本の刑ですからね」

穂乃果「大丈夫、言うから」

海未「....私は、好きな人と一緒にいるだけで幸せだと思いますよ」

穂乃果「ふむふむ....じゃあさ、ちゅうとかは?」

海未「ききき、キスですか!?....えっと....わ、私は絶対出来ません....恥ずかしいに決まってます!」

穂乃果「でも、好きな人とちゅうするのは普通だよ?」

海未「えぇ....な、なら、相手がとびっきりのキスを....してくれるのを....信じ待―破廉恥ですぅっ!!!」

穂乃果「あわわっ、怒らないでよっ!」

海未「だだっ、誰にも言わないでくださいねっ!」

........

....

穂乃果「ふぁ....」

海未「....」


あれ、今穂乃果何してたんだっけ。

ぼーっとして....寝てたのかな。

なんだか昔のことを思い出した。

ちょうど桜の花が一生懸命咲き始めている季節。

夕暮れより少し前のことだったね。

よく遊んだ公園を歩いて、桜の木の下で話したんだ。

懐かしいなぁ....あの頃の自分が今の自分を見たら、お姉さんって思うのかな。


「次は〜上野〜」

海未「次ですね」

穂乃果「そうだね」



いろいろ考えたりしてるうちに、もう着きそう。

うん、結局電車でお出かけすることにしたの。

家を出る前に泣いてた海未ちゃんは、少し気まずそうだけど、ワクワクもしてるみたい。

ただ....。

さっき穂乃果は、何も力になれなかった。

海未ちゃんのことなら何でもわかるって過信しすぎてたのかもしれない。

好きな人が急に泣いて、穂乃果が泣かせちゃったのかな、なんて考えちゃってさ。

本当に海未ちゃんは何を考えてたんだろう。

穂乃果に言えないようなことなのかな....。


ップシュー

穂乃果「ん....」

海未「はい、行きましょう。やっぱり私、楽しみです」

穂乃果「....そう....よかった」


今は真実なんてどうでもいい。

楽しみだよって、この笑顔を見せてくれて、穂乃果は嬉しい。

けど何か....モヤモヤする。



― 動物園 ―


穂乃果「もふもふっ」

海未「白熊ですか?」

穂乃果「うん〜、可愛い♡」


動物園に来て、一通り動物を見たあと、売店を見ています。

穂乃果が見ているのは、寝そべりぬいぐるみとかいう、文字通り白熊が寝そべっているぬいぐるみです。

私も少し触ってみましたが、くせになる柔らかさで、抱きしめながら眠ったら心地よさそうです。


穂乃果「ふふふ....欲しいなぁ」

海未「....んっ....」

穂乃果「じーっ....」

海未「のわっ!?」


もふもふ触っている穂乃果のことを見ていたのですが、今度はこちらをじっと見つめてきます。

これは....そうですね、外食した時に、デザートのいちごパフェを頼んでもいいか聞いて来る時の顔と同じです。

こうなったら大変なんですよ。


海未「えっと、欲しいんですか?」

穂乃果「....」

海未「穂乃果?」

穂乃果「欲しいっ!!!」

海未「....ですが、この間新しい枕が欲しいと言って買ったばかりではありませんか」

穂乃果「そう....だよね....」

海未「うっ」



大変、というのは、穂乃果がワーワーわがままを言いまくるからとかではないんです。

理由は....。

まず第一攻撃。

この、明らかに欲しかったなぁと言わんばかりの顔、隠しきれない気持ちが、しゅんとした顔に表れてしまっているんです。

唇をちょこんと突き出しながら、商品を戻します。

ここで私は。


海未「ま、待ってください」

穂乃果「っ何っ?」


第二攻撃。

止めた時のキラキラした顔です。

これに関しては、私が止めたことで、もしかして、という希望を持たせてしまったからなのですが、私のハートにある何かのゲージがぐんぐん減っていくのを感じます。


穂乃果「ね、どうしたの?」

海未「えぁ、えっとですね、あの、その....」

穂乃果「もしかして―」

海未「あわわ、ま、また今度でいいのでは?」

穂乃果「でも、ここ滅多に来ないし....今日欲しかったなぁ」

海未「ああっ、ま、待ってください!」


うぅ、穂乃果も諦めようとしているのに、なぜ私は止めてしまうのでしょうか。

昔甘やかさなかった分、今になって甘やかしたいという気持ちがふつふつ湧いてきているんですかね。

もちろん私に買ってもらおうとしているわけではありませんし、でもこの間枕を....。

これは明らかに私が悪いです。

ここはひとつ心を鬼にし―。


穂乃果「けど....う、海未ちゃん、やっぱり欲しいなぁ。おねがぁい♡」

海未「ふぁぁぁ....♡」



トドメの第三攻撃。

もうさっきまで何を考えていたのかわからなくなりました。


海未「ずるいですよぅ....わかりました、いいです」

穂乃果「ほんとっ?わぁい!」

海未「ただ、私も色違いのを買いますよ?」

穂乃果「うんっ」

海未「あなたのおごりでです」

穂乃果「....ガビーン!!」


甘い声であんな事言われると、脳みそにピリッと電流が走って、一瞬思考のコントロールが効かなくなるんです。

誰に教わったんですかね、ほんと。

参ってしまいます。

けれど、子供のようにはしゃぐ穂乃果は久しぶりに感じます。

それはもちろん、お互い自分でも気づかないうちに成長していますから、子供すぎるのは逆におかしいのですが。

私がまだ完璧に家業を受け継いでいない今、穂乃果がせっせと働いてくれています。

働くことの大変さはもちろん知っていますし、穂乃果は私に合わせて色んなことをしてくれます。

してくれないことはないと思います。

私がお皿洗いやお洗濯を頼めば、嫌な顔一つしないでこなしてくれますし、ご飯も、ポピュラーな料理なら穂乃果も普通に作れますし、本当に、何でもやってくれると思うんです。

そういうところも含めて、昔の穂乃果と重なるような姿は、久しぶりに見た気がしたんです。


「4816円のお返しになります」

海未「....?もう一段階大きなサイズでも良かったのでは?」

穂乃果「むぅ、海未ちゃんの分も買うなんて思ってなかったもん」



― 帰宅 ―


穂乃果「ふにゃぁ」

海未「へにょっとしてますね。まぁ、確かに歩き疲れました」

穂乃果「でも、楽しかったよね?」

海未「もちろんです!」


よかった、これは本当の笑顔だ。

行く前はどうなるかと思ったけど、終わり良ければ全て良しってね。

....早めに晩御飯を食べて、夜のこの時間、することがない。

リビングで2人座りながら、自然に会話するけど、やっぱり静かだなぁ。

何か喋らないとって焦る空気でもなくて、不思議な気分。

ありきたりな言葉で何回も使うけど、幸せなんだよね。

なのに、胸に何かが引っかかってる。

それは....もう頭ではわかってるはずなのに。


海未「お風呂はまだいいですか?」

穂乃果「あ、うん....それよりさ、なんか暑い?」

海未「ん....そういえば顔が赤いですね....?」

穂乃果「えっ?」


海未ちゃんに言われて気づいた。

顔が熱くなって、どうしてこんなに胸の鼓動がうるさいのか、そんなことを考える余裕もなくて。

帰ってきてからこの時間で、少し脱力感に襲われて、そこで考えていたのは海未ちゃんのことで。

胸に引っかかってるものの正体は、いつからかとっくに気づいていたのに、気づきたくなかったのか。

こうしてお出かけしたり、毎日同じ家で過ごして、同じベッドで寝て、そんなんじゃ満たされない気持ちが、どんどん大きくなっちゃったの。

もっと、もっと恋人らしいこと。

恥ずかしくてできないこと、自分より少し高い所にある扉を。

開けられなくて。



海未「もしかして今日のお出かけで風邪でも引いてしまったんじゃ....」

穂乃果「....」


横になってみる。

熱かぁ....あながち間違いではないのかも。

胸の中に小人が入っていて叩いているんじゃないかって思うくらい、ドクンドクンって。

今はできるだけ冷静を装っていても、その裏では違うことを考えてる。

楽しかったねってお話して、その後いきなり、こんな気持ちになって。

我慢みたいなものを抑えるために結んでいた紐が、心臓の動きと共に、解けていくのがわかる。


海未「そうですね....とりあえずそのまま横になっていてください」

穂乃果「....ぅん....はぁ」

海未「....息が苦しいんですか?ち、ちょっと前髪をあげてください」


違うんだよ、海未ちゃん。

わからない、わからないけど....なんとかなるかもって、希望があるというか、なんというか。

これ、前も一度あるよね。

海未ちゃんも忘れないはずで、初々しい、少し恥ずかしい思い出。

疲れたとか、そんなんで息切れしてるわけじゃなくて。

ドキドキは収まる気配もなく、更に更に大きくなっていく。


海未「熱、計って―」


あぁ、海未ちゃんが近くに来た。

寝転がってる穂乃果からしたら、顔を見上げる感じになるけど。

穂乃果の脚にまたがるようにして、綺麗な、柔らかそうな手を、おでこの方へと近づけてくる。

....ごめんね、海未ちゃん。

穂乃果ね、熱なんてないんだよ。

ずるくて、ごめんね。



穂乃果「....っ」

海未「やっ....きゃっ!?」

穂乃果「海未....ちゃん」

海未「ほ、ほほ、穂乃果っ、ななななにをっ!?」


自分からいく勇気がなかったから。

海未ちゃんが近くに来てくれて、もうこんなチャンスないかもって思ったら。

焦っちゃって、後のこととか全然考えないまま、体が勝手に動いちゃった。

....ぎゅっと....抱きついてた。


海未「はっ、そ、そのっ、これっ」

穂乃果「海未ちゃん....穂乃果....」

海未「....へ?....震えて....」


急に抱きつかれたら、そりゃ赤くなるよね。

びっくりするよね。

けど、今度はどうして心配そうな目で見てくるの。

....あ....。

紐が全て解けちゃったみたい。

涙が止まらない。


穂乃果「穂乃果....穂乃果....」

海未「....どうしたのですか?」

穂乃果「もう....こんな気持ち我慢出来ないよぅ....」

海未「っ....」

穂乃果「もっと、海未ちゃんを近くで感じたいしっ、もっとも〜っとドキドキすることをしてみたいのっっ」

海未「穂....穂乃果....それは....私だって....」

穂乃果「ぇ、だって....穂乃果、えっちな子って思われるかもとか考えたり....ずっと....恥ずかしくて―」


うまく話せない。

ただ、いつも話す時の声じゃないのが自分でもわかる。

でも、ずっとひとりで抱えていた思いを話して、少し心が落ち着いた気がする。

自分を見失いかけてた。



穂乃果「はぁ....はぁ....」

海未「....私は、穂乃果がそう思ってくれていたことが、すごく嬉しいです」

穂乃果「うれし....い?」


海未ちゃんの目にも涙が浮かんでいた。

そっか、穂乃果だけじゃなかったんだ。

普通なんだ....。


穂乃果「....そっか....はぁ....ごめんね、ちょっと我を忘れてたというか....」

海未「い、いえ....」

穂乃果「....もう少し、ぎゅってしててもいいよね?」

海未「はい」

穂乃果「海未ちゃん....好き....」


スラッとした細い体を、ぎゅっと抱きしめて。

よく考えたら、穂乃果のおっぱいが海未ちゃんに当たってる。

いつもの穂乃果なら、恥ずかしくて突き放しちゃうかもしれないけど....離れたくない。


穂乃果「ふふ....♡」

海未「ん....穂乃果は.....その、キ、キス、とか、したいと思うんですか?」

穂乃果「ぅっ....」



したい。

今は自分の意思で、したいと思える。

初めてを、海未ちゃんとしたい。

....穂乃果の体に重なるようにして、海未ちゃんが乗っかっているけど、そのまま横に、顔の位置が同じ高さになるように持ってくる。


海未「ぁっ....穂乃果」

穂乃果「えへへ....緊張するなぁ」

海未「わ、私、こういうの初めて....」

穂乃果「穂乃果もだよ」

海未「そ、そうですよね。ごめんなさい」

穂乃果「いやぁ、謝らなくても....」


こんなに近くにいるのに、お互い目をそらさないで話せるのは初めてだと思う。

今日だからかな。

でもどうして今日ならできるの。

まだドキドキが収まるはずもないから、少し喋ると息がかかるくらい近くで....改めて、まじまじと見る海未ちゃんの顔は、初めて見たと錯覚するくらい真っ赤っかで別人みたい。

もしかしたら穂乃果はそれ以上かもしれない。

自然と脚が絡み合う。

どこかモジモジしちゃって、気まずくなりそうで。

それでも今日は何故か、お嫁さんって言っちゃった時やお風呂を覗かれた時とかよりは、落ち着いた感じがある....穂乃果も、海未ちゃんも。

どこか吹っ切れたのかな。



穂乃果「....小学生とか中学生の時はさ、まだ共学だったから、恋バナとか流行ったよね」

海未「そうでしたね。私も好きな人は誰だと聞かれた覚えがあります」

穂乃果「ね、海未ちゃんはその時誰が好きだったの?」

海未「そんな人いませんでした。穂乃果は?」

穂乃果「穂乃果も。....海未ちゃんが初めて」

海未「ええ、私も穂乃果が初めてです」

穂乃果「初めてなことばかりだよね」

海未「はい....穂乃果のいう、ドキドキすることだって....昔は否定していても、本当は憧れていました」


抱きしめ合いながら、思い出話。

だんだんこの空気に慣れてきた。

それでもやっぱり、落ち着かなくて。


穂乃果「知ってるよ....海未ちゃんは、公園で話したこと覚えてる?」

海未「公園....えっと....」

穂乃果「ううん、忘れちゃったならいいんだ、別に」

海未「そうですか?」

穂乃果「けどね、海未ちゃんがどう思うかはわからない」

海未「え?....どういうことですか?」


電車に乗っている時、たまたま思い出した昔のこと。

さっきの思い出話も、ここから出た話題なのか、そもそもこの状況すら、その時のことが関係しているのかも。

....昔と変わったことがある。

穂乃果たちは大人になって、今は大好きな人がいる。


穂乃果「海未ちゃん、穂乃果のこと好き?」

海未「え、ええ、大好きですが?」



昔海未ちゃんが話したこと。

今、叶う時が来たんじゃないのかな。

穂乃果しか知らない秘密で、たった1人のための。

オーダーメイドの....。


穂乃果「海未ちゃん」

海未「は、はい」

穂乃果「....穂乃果の....穂乃果のとびっきり、受け取ってっ」

海未「とびっ―」

チュ



背中にある手を自分の方へ引いて、そのまま唇に伝わる柔らかい感触。

また初めての感じ。

穂乃果が目を瞑る前、海未ちゃんが何かを思い出していたと思う。

....あぁ、穂乃果....今海未ちゃんと。

ちゅう、してるんだ。

実感を持つまで、30秒くらいかかった。

海未ちゃんと、繋がってる。


穂乃果「ん....ふ....」

海未「んぅ....」


これがちゅうなんだ。

お互いが唇を啄んで、してる喜びと、したという事実が重なって、気持ちが良くて頭がトロトロする。

ずっと憧れて、今までしたかった恋人らしい、ドキドキすること。

想像していたよりもキュンキュンしすぎて、胸が痛いし、変に疲れちゃった。



穂乃果「....っはぁ....はぁ」

海未「はぁ....な....急にっ....ずるいですよぅ」

穂乃果「ご、ごめん....」

海未「私....おかしくなってしまいそうです。頭が....もう何も考えられなくて....穂乃果、離れないでくださいね??」

穂乃果「うん、今日はずっとぎゅってしていたいなぁ」

海未「はい....もっと強く....」

穂乃果「....」

海未「抱き―」

穂乃果「―ん」

海未「....?」

穂乃果「結婚....」

海未「....ぇ?」

穂乃果「海未ちゃんと、結婚がしたい」

海未「けっ、けけけっ....結婚....?」

穂乃果「うん、本気。穂乃果は難しいことわからないけど、女の子同士で結婚ができなくても、誓いたい....ううん、勝手に誓わせて」

海未「....は、はい....」


穂乃果『どんな時もずっと、海未ちゃんの隣にいたい。これから起こる楽しいことも辛いことも全部、一緒に経験したい。海未ちゃんと、海未ちゃんとこれからも生きていきたいの』

海未「は....はゎ....ぁ....」

穂乃果『絶対離したりしないから、って。....海未ちゃん、穂乃果と、結婚してください!』

海未『....ふぇぇ....そ、その....よ....よろしく、お願いします』



生きるってことは一秒一秒が選択で、どんなことも突然だ。

頭で考えていることが二つあって、一つの裏で動いてるもう一つで気持ちが揺れ動いたり。

何が起こるかなんて、自分でも予想ができない。

けど、こうしたい、こうなりたいって理想を忘れなければ叶うかもしれない、それも夢なんだよね。

....確実に変わらない、海未ちゃんが好きって気持ちは、これからも大きくなっていくと思う。

ただ、したことのないプロポーズを、自然とできたのはびっくりした。

これからの人生に期待を抱いて、お互い喜びを噛み締めてる。

ずっと一緒にいることを約束したから、明日は何をしようかな、とか、ドキドキがワクワクに変わってきた。

そうか....これからずっと一緒なんだね....。


穂乃果「ふふ....海未ちゃん、改めてよろしくね♡」


今度はとびっきりの笑顔で、そう言いました。


おしまい。

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