穂乃果「女神黙示録ペルソナ」 (67)
青。
目を覚まし初めて目にした色だ。
私は私の部屋にいるはず。
なのにここは電話ボックスの中で、出ようとしてもでられない。
普通の電話ボックスはガラス板で仕切られており外が見える筈だが、ガラス板は全て青色に染められいるので外の様子も知り用がない。
だが、不思議と恐怖は無かった。
女の子が目を覚まし、いつの間にか電話ボックスにいるこの状況で恐怖を感じず。
しかも、心が安らいでいるような気分だ。
ジリリリ。ジリリリ。
受話器が鳴る。
壊れかけているのか、時折ジ・・・リリと途切れはするものの。
機械らしく寿命が尽きるまで使命を全うしようとしている。
受話器を手に取る。
特に躊躇はしなかった。
「はい。もしもし」
「ようこそベルベットルームへ」
【女神黙示録ペルソナ】
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4月12日。
音ノ木坂屋上。
1.2.3.4。
その後にまた1.2.3.4。
頬を伝う汗が落ちとアスファルトへと吸い込まれた。
1.2.3.4。
リズムよく手拍子に合わせあっちこっちに体を動かす。
1.2.3.4。
右足を軸にし華麗にターンを決めると手拍子も同時に終わり。
私達はその場に座った。
穂乃果「はぁ・・・疲れた~」
座ったまま大きく伸びをしてそのまま地面に倒れ込む。
海未「汚いですよ。穂乃果」
穂乃果「えーっ。だって疲れたんだもーん」
海未「全くもう・・・。女の子がはしたないですよ」
にこ「アイドルっぽくないわよ」
ただ休んでるだけなのに・・・。
はぁ、やれやれと体を起こす。
海未「ほら、後ろ汚れてるじゃないですか」
海未ちゃんがぱんぱんと後ろを叩いてくれる。
土煙が空に溶け込んで行くのが見えた。
穂乃果「あ、あ、あー」
海未「えっ!?発生練習ですか?」
穂乃果「ううん。背中叩かれながら声出すと途切れ途切れにならない?ほら、扇風機みたいに!」
海未「なりません!いや、なりますけど!急に大声出すからびっくりしました・・・」
普通に声を出していたと思ったが、結構大きめだったらしく。
みんなが驚いて私を見ていた。
絵里「ふふっ。穂乃果らしいわね」
穂乃果「えへへ」
希「それよりみんなどうする?今日はもう帰る?」
海未「まだ練習続けるつもりだったんですが」
凛「えーっ!もうお日様落ちかけてるよ!」
穂乃果「あっ、本当だ。半分も見えないね」
海未「凛!あなたも地べたに寝そべって・・・」
海未ちゃんは凛ちゃんを起こすと同じように背中を叩いた。
真姫「ちょっと!土煙がこっちに来るじゃないのよー」
海未「あ。す、すみません」
花陽「帰ってすぐ洗濯しないといけないね。凛ちゃん」
凛「うん!」
絵里「で、まだ練習はするの?」
海未「はいっ!」
穂乃果「じゃあ私手を叩く係!」
凛「凛は数数えるにゃー」
海未「ダメです!みんなで一回合わせましょう」
私と凛ちゃんは同時にえーっと言った。
海未ちゃんはえーもありませんって言って数分の休憩後。
みんなで練習をした。
これが私達の日常。
私達の世界。
4月13日
夜
【ニュース速報】
『全世界で無気力症が多発。
日本だけでおよそ2万人を超える無気力症を患う人がおり。
アメリカ、中国、イギリス、ロシアなどではそれ以上の患者がおり。
世界各国で対策を検討中。
北朝鮮、キューバは無気力症は空気感染を一時的に隔離しており国民からの非難はでてはいるものの無気力症患者は極端に減少した模様。
尚、中国アメリカも一時的な隔離を検討中で、日本も希望があれば隔離はするが強制的な物ではないとしている。
専門家によると無気力症は感染症などではなく。
世界各国でも感染症ではないと医学的にわかってはおり。
なぜ、北朝鮮やキューバが無気力症を抑えられているのかは今の所まだ不明』
穂乃果「うわぁ・・・相当流行ってるねこの病気」
雪穂「お姉ちゃんにはあまり関係なさそうだけどねー」
穂乃果「それどういう意味~?」
雪穂「うーん。なんでもなーい」
穂乃果「もうっ!」
4月14日
朝
【自宅】
お母さんのいってらしゃいの声を背に玄関を開けると何時ものように二人が待っていてくれていた。
穂乃果「あ、ことりちゃん海未ちゃんおっはよー!」
ことり「おはよう穂乃果ちゃん!」
海未「おはようございます。今日は早いですね」
穂乃果「昨日、30分早めに寝た!」
海未「なるほどー」
穂乃果「お目々ぱっちりだよ」
ことり「よかったねっ」
穂乃果「うん!よかったよかった。じゃ行こっか!」
二人は元気に頷き、今日も学校へと登校する。
登校の途中、同級生の会話が少し気になった。
どうやら、私達の学校にも無気力症の人が出たらしい。
家族が病院に申告し今は隔離されていると言っていた。
市内では無気力症患者は見たことはあり、私自身もああはなりたくないと思っていて、それにこんな身近で無気力症の人がいるのは始めてなので驚いた。
昼
【教室】
穂乃果「うん、今日もパンが美味しいけど。隣のクラスの子って本当に無気力症なのかな?」
海未「はい、今朝の登校中に友達らしき人が言っていましたね。無気力症。私、この呼び方あまり好きじゃないんです・・・失礼じゃないですか?」
ことり「ん?どうして?」
海未「だって無気力ですよ?病気の人を無気力呼ばわりだなんて、何だかちょっと・・・前の影人間の方がまだマシです!」
影人間。
無気力症と言う病名が出来る前に使われていた無気力患者の呼称。
一年前。
丁度、無気力症が世に知れ渡って来た時にこの呼称が使われていて。
今、無気力症の人に影人間と言うと蔑称になってしまう。
理由は影と言う言葉がどうも陰気臭さや暗いと言った印象を与えてしまうらしく、前に無気力症ではないけど暗い人を影人間と言って馬鹿にするイジメもあったらしい。
穂乃果「私はどっちでもいいけどなぁ」
海未「よくありません!」
ことり「まぁまぁ海未ちゃん・・・」
穂乃果「ごめんね海未ちゃんコーヒー牛乳飲む?」
海未「飲みます!」
夜
月明かりを浴びながらただひたすらに走る。
何かに追われてる訳でも追ってるいる訳でもない。
ただのトレーニングだ。
ルートはだいたい決まっていて、道筋は若干違うけど自宅から希ちゃんがアルバイトをしている神社まで走る。
その神社ももうあと少し走りあの長い石段を駆け上がればたどり着く。
穂乃果「はぁはぁはぁ・・・」
最近は夜もだんだんと暖かくなってきて走りやすい。
それに夜走ると夜風が火照った体を撫でていくのが最高に気持ちいい。
神社の前の石段の前にまで来た。
後はこれを登りきれば休める。
ふぅと鋭く息を吐き、一気に駆け上がる。
一段二段三段・・・。
真ん中まで来て、もう足も限界が近い。
それでも、私は足を止めない。
この後に飲むスポーツドリンクが最高に美味しいからだ。
あと二段で終わり。
私は一気にジャンプして二段を飛ばす。
そして着地・・・するはずが、足を踏み外した?
いや、真下に落ちている。
登って来た石段の方へとじゃなく真下に落ちている。
穂乃果「うわぁああああ!」
叫ぶ。目をつぶる。落下する。
私はもう死ぬ。
こんな誰が仕掛けたか分からない落とし穴で・・・。
穂乃果「誰か助けて!」
助けを求める声も誰かに聞こえた所ですでに遅い。
下を見るともう地は見えており、私はここでグチャグチャになると考えると恐ろしい。
【亜空間神社】
いや、足から行けば足の骨を折るだけで済むんじゃ無いだろうか?
そう考えた私は着地体制を何とか空中で歪ながらも整えると、案外上手くすんなり着地出来た。
と言うよりも着地する寸前で体がフワリと浮き何とか助かった。
穂乃果「今、ちょっと飛んだ・・・」
何をどういうふうに飛んだのか分からないけど、とにかく飛べた。
人間の脳は普段使っていない所があるらしく。
それを使えば超能力も使えるらしいとテレビで見た事がある。
穂乃果「使っちゃった?・・・超能力」
辺りを見渡せばそうでもない事に気付いた。
ここは神社。
どこでもない私がいつも通っていて希ちゃんがアルバイトをしている神社だ。
それも本来私が着地している石段を登りきった所に場所にいる。
さっきまでの出来事は夢?
穂乃果「なんだ夢か・・・ん?」
夢であってよかった。
もしそうじゃなかったら早く覚めて。
瞬間的に考えが変わった。
私の目の前には黒い目玉焼きに両手が生えたみたいなお化けが明らかな敵意を持って私に迫ってきていた。
足が動かない。
脳が体がこのお化けは危険だと感じ取ってくれているのに足がすくむ。
黒いお化けはもう目の前。
手を高く掲げたかと思うと大きな衝撃。
頬を殴られたのと知るのは気絶する前だった。
青。
目を覚まし初めて目にした色だ。
私は私の部屋にいるはず。
なのにここは電話ボックスの中で、出ようとしてもでられない。
普通の電話ボックスはガラス板で仕切られており外が見える筈だが、ガラス板は全て青色に染められいるので外の様子も知り用がない。
だが、不思議と恐怖は無かった。
女の子が目を覚まし、いつの間にか電話ボックスにいるこの状況で恐怖を感じず。
しかも、心が安らいでいるような気分だ。
ジリリリ。ジリリリ。
受話器が鳴る。
壊れかけているのか、時折ジ・・・リリと途切れはするものの。
機械らしく寿命が尽きるまで使命を全うしようとしている。
受話器を手に取る。
特に躊躇はしなかった。
穂乃果「はい。もしもし」
「ようこそベルベットルームへ」
穂乃果「ここは?」
「ここは精神と物質の狭間にある世界。はて、あなたのような方が来るのは初めてでございます」
「本来ならばここは何らかの契約を持った人間しか入れないはず。ですが、これも何かの因果。私はあなたを受け入れましょう」
穂乃果「言ってる事・・・わからないよ!」
「すみません。出来れば直接お会いしてお話がしたいのですが・・・どうやらあなたはこの世界では特別なご様子。まことに残念です」
穂乃果「ね、ねぇ!目が覚めたらここにいたの・・・。ここもしかして天国?あのお化けは何?」
「あれはシャドウと呼ばれております」
穂乃果「シャドウ・・・?」
「おや、もう時間がありません。いいですかな?対抗手段はペルソナと言う能力。大事なのは自分自身とな対話。さすればペルソナを召喚することが可能でしょう。それではごきげんよう」
目を覚ますと神社にいた。
体中のあちこちが痛いし熱い。
さっきのは夢だったのか、感覚的にそうは思えないけど。
穂乃果「お化けは・・・?」
お化け・・・あの電話の主はシャドウと言っていた。
そのシャドウとやらは突き飛ばした私のとどめを刺そうとゆっくりとこちらへ近づき。
恐怖でどうにかなりそうだ。
死を間近で感じるとこうも震え腰が引けて逃げる事も出来ないとは思わなかった。
私はここで殺されるのを待つだけ・・・。
嫌だ。そんなのは絶対嫌だ。
『大事なのは自分自身との対話』
『対抗手段はペルソナと言う能力』
全くピンと来ない。
自分自身との対話?鏡に写った自分に話しかければいいの?
ペルソナ?そんなの初めて聞いた。
尚もシャドウは徐々にしかし着実に私の元へと来ており。
私はとりあえず。
穂乃果「ペルソナ!」
とだけ叫んで見たけど何も起こらない。
プルルルル。
着信音。
こんな時に誰?・・・と思ったけど、閃いた。
助けを呼べばいいんだと。
ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。
あり得ない。
穂乃果「何で私と同じ番号から掛かってくるの・・・?」
これじゃ警察も何も呼べない。
慌てて着信を拒否しようとして、さっきの言葉を思い出した。
穂乃果「自分自身との対話・・・」
何の確証もないしあってるのかすらわからない。
だけどこの電話番号は私の電話番号だ。
それはつまり私自身が出ると言う事。
シャドウはもう目の前だ。
赤い目を光らせて、私は殺される。
震える手で電話に出る。
穂乃果「も、もしもし」
「も、もしもし」
穂乃果「ペルソナさんですか?」
「ペルソナさんでスか?」
穂乃果「え?」
「え?」
ダメだ。
まるでオウム返し。
だけど自分との対話を続ける。
これしか縋る物がないからだ。
穂乃果「助けて下さい!」
「たすケて下さイ?」
返ってくる言葉がコンピュータ音声のように無機質になり不気味さを感じる。
穂乃果「ペルソナさん!!!」
「・・・・・・」
穂乃果「ペルソナ・・・さん」
「わ・・・汝・・・は・・・」
穂乃果「ペルソナッ!!!!」
「我は汝、汝は我。さぁ、よく呼び出してくれたわね」
スマホの画面が光出す。
「私の名はノルン。叫んで私の名を」
穂乃果「あなたが・・・ペルソナ?」
「早く私の名は叫んで!!!」
穂乃果「は、はいっ!ノルン!」
スマホがピキピキと音を立てて画面がひび割れ、徐々に大きくなり、粉々に砕ける。
光の粒子となり、私の頭上で形を作り始める。
光の粒子がまず最初に作ったのは大きな時計。
それから、女性三人だ。
三人はその大きな時計に張り付いている。
二人は時計の両側。
一人は大きな翼が生えていて、時計の上。12時の方向にお尻をついて座っている。
穂乃果「あ、あなたが・・・ペルソナ?」
一番上の女性がこくりと頷き、シャドウに手をかざす。
風が強くなり始めた。
それに、シャドウがいる所に集中している。
シャドウは手を振り上げ、私を殴ろうとするが風はやがて小さな竜巻となり、砂埃が舞った。
目を閉じて、突風と砂埃に耐える。
ギィィィと古ぼけたドアが開いていくかのような音が聞こえる。
きっとシャドウの悲鳴だろう。
風が止み、目を開けるとシャドウはいつの間にか消えていて私は人生最大のピンチを何とか凌いだ事に胸を撫で下ろす。
穂乃果「あ、ありがとうございます!」
頭上にいるノルンにお礼を言うと、一番上の女性はこくりと頷いて、また光の粒子になったかと思えば私の手元に集まり、また元のスマホへと形を変えた。
穂乃果「これが・・・ペルソナ」
さっきの電話ボックスの出来事を夢だと思ったけど、こっちの方が全然夢っぽい。
「きゃあああああ!誰か助けてー!」
悲鳴。
穂乃果「まさか・・・」
私と同じように襲われてる人がいる。
救えるのは私だけ・・・。
さっきまでの恐怖をすっかり忘れて、私は悲鳴の方へと駆け出す。
シャドウに対抗出来るのはペルソナ使いだけ、私はペルソナ使いだ。
同じ様な目に合ってる人を見逃せない。
【亜空間神社 花陽、希】
最初は何が起きたか分からなかった。
いきなり穴に落ちたと思えば、また同じ神社にいて、いきなり現れたお化けが私と希ちゃんを追いかけてくる。
怖くて動けなかった所を希ちゃんが手を引いて、一緒に逃げたけどまだお化けは私達を追っているみたいですあちこち動き回っている。
希ちゃんも私も息絶え絶えで、どうにかしてこの状況を凌ぐか色々話しあったけど何も解決策は思い浮かばなかった。
花陽「希ちゃんありがとう。私を助けてくれて」
希「ううん。ええよ。それより、ここでずっと隠れてても見つかるのは時間の問題やし、安全な場所に避難しないとあかんな。警察とか、とりあえず神社から出られればええんやけど・・・」
花陽「うん。電話も誰にも繋がらないもんね・・・でも逃げてる途中見つかったらどうしよう?」
希「全力で逃げればいいと思うで、お化けそんなに早くないし・・・」
花陽「で、でも怖いよ・・・」
希「うちだって怖い。でも、花陽ちゃんがいるから怖さは二人で半分こや!」
花陽「う、うん。そうだね・・・」
希ちゃんは私を元気付けてくれようと笑った。
希ちゃんも恐怖で震えているのに私ばっかり弱音吐いたら何だか申し訳なかった。
希「あのお化けが通り過ぎたらいくで・・・」
スライス状のお化けは私達が隠れている草むらに近付いて来る。
息を殺し、通り過ぎるのを待つ。
どこかでカラスがカアカアと鳴いた。
希「・・・今や」
シャドウが完全に向こうに行ったのを確認して私と希ちゃんはそっと草むらを出る。
手を繋いで目で合図し出来るだけ音を立てないように歩きなんとか本殿までたどり着く。
希「・・・!」
花陽「・・・?」
希ちゃんが手をぐいっと引っ張る。
花陽「・・・!」
本殿の床下は向こう側が見えるようになっていて希ちゃんは下を見るようにとジェスチャーし私は下を見る。
思わず声を出しそうになった。
神社の本殿の向こうにふよふよと浮いている球体が見える。
初めて見るけどあれもきっとスライス状のお化けと一緒の種類だ。
幸いにもお化けの方は見えないみたいで助かったけどあのまま誰も気付かず鳥居の方へと向かっていたら鉢合わせしていただろう。
想像するとゾッとする。
希ちゃんは本殿を回り裏からも出れると言った。
私も裏口があることは知っている。
だけど、ここからじゃ遠い。
早くこの恐怖から解放されたいけど、お化けにまた襲われたら・・・そう考えると遠くても安全性を選びたい。
私は頷いて、また元の草むらまで戻ろうとした時。
またカラスがカアカアと鳴く。
びっくりして上を向いた。
花陽「・・・ひっ」
いや、違う。
あれはカラスなんかじゃなかった。
大きな鳥。
私が両手を広げても横になってもまだ足りない。
大きな鳥は私達に向かって急降下する。
希「危ない!」
希ちゃんは私をどんっと突き飛ばし、希ちゃんもまた私とは反対方向に倒れる。
花陽「の、希ちゃん!」
希「に、逃げるで!」
花陽「うっ・・・うん!」
希ちゃんのおかげで避けれたみたいで、鳥は着地し私達をじっと見据えている。
私と希ちゃんは起き上がりと鳥とは逆の方へと全力疾走しようとしたけど、赤と白のストライプ模様の球体が私達の前に浮いている。
左は本殿、まだ逃げ道はある
右へと逃げようとするが、スライム状のお化けが獲物を狩るクモのように待ち構えている。
希「・・・っ!」
きっと鳥はこうなるように空から見て、私達を確実に殺せるように段取っていたんだろう。
まるで逃げ場がない。
花陽「ど、どうしよう・・・」
希「本殿の床下をくぐって逃げよ!」
花陽「で、でもあんな狭いところ・・・」
希「諦めたらだめ!花陽ちゃん何とか逃げきるんや!」
球体のお化けは大きな口を開かせる。
下がだらんと垂れていて、あんな大きな口で噛まれたら大怪我で済んだらいい方だ。
鳥の方は飛び上がり、いつでも私達をあの長い爪で引き裂ける。
花陽「も、もう帰りたいよ・・・死にたくないよ・・・誰か助けて」
希「・・・」
希ちゃんは私の手をギュッと握る。
何か生暖かい液体が私の手の甲に垂れる。
花陽「希ちゃんそれ・・・怪我してる」
希ちゃんは二の腕を抑えていて、今まで自分の事ばかりで気付かなかったけど希ちゃんの顔色は青ざめていて、とても苦しそうだ。
希「心配しなくてええよ・・・」
なんで。
なんで、希ちゃんは私の事ばかり考えるの・・・。
私は私の事ばかり考えていたのに・・・。
希「花陽ちゃん・・・うちがあのスライムみたいなの止める。花陽ちゃんはそのまま逃げて」
花陽「え・・・?そんな事出来ないよ!二人で逃げようよ!」
希「花陽ちゃん逃げて・・・」
花陽「なんで・・・なんで私の事そんなに助けてくれるの?」
希「うちが花陽ちゃんよりお姉さんやからや」
そう言って希ちゃんはにっこりと笑った。
穂乃果「み、見つけた!」
聞き覚えがある声にハッとする。
穂乃果「花陽ちゃん?希ちゃん!?その怪我・・・うわっ三匹もいる」
花陽「穂乃果ちゃん!?」
希「な、なんで・・・」
穂乃果「詳しい話は後にしよ!私なら二人を助けられる・・・」
穂乃果ちゃんはスマホを取り出して、何やら操作をする。
警察にでも電話するのだろうか?
今しても来た頃には私達はもうこの世にいないし、何よりここは電話が通じない。
穂乃果「ペルソナッ!」
スマホが急に光だして破裂する。
そして、大きな時計と三人の女の子が穂乃果ちゃんの頭上に現れた。
穂乃果「行って!ノルン!」
突如、小さな竜巻がスライム状のお化けを包む。
竜巻が消滅したと同時にスライム状のお化けもいなくなっていた。
花陽「す、すごい・・・」
穂乃果「あと二匹・・・襲われているのが花陽ちゃん達なら絶対助けなきゃ!」
また小さな竜巻が球体のお化けを包む。
今度は竜巻じゃ倒しきれなかったみたいで、お化けは消滅せずに生きている。
だけど、穂乃果ちゃんの攻撃はかなり効果があるみたいで、お化けは地面に沈みその長い舌を地面に垂らしている。
穂乃果「一発じゃ消えないか・・・ならもう一発。ノルン!」
三度目の竜巻。
今度はお化けも消滅し、残るは鳥一匹となった。
希「ほ、穂乃果ちゃん。何してるん?」
穂乃果「さっきも言ったでしょ?説明は後でするよ!ノルン!」
今度は鳥に攻撃する。
だけど、鳥にはまるできいていない。
穂乃果「あれ?な、何で!?」
もう一発。もう一発。もう一発。
竜巻を鳥に連発するが、鳥のその羽ばたきはずっと一定のリズムを刻んだままだ。
穂乃果「何で、何で・・・」
竜巻。
今度は穂乃果ちゃんが放ったのではない。
鳥が竜巻を放ち穂乃果ちゃんは吹き飛ばされる。
穂乃果「・・・うっ!」
花陽「穂乃果ちゃん!!!」
希「に、逃げるで!お化け二匹いなくなったし今なら逃げ道もある!穂乃果ちゃん連れて逃げよう!」
花陽「うん!」
私達は穂乃果ちゃんの元へ駆け寄る。
花陽「だ、大丈夫?」
穂乃果「う、うん。平気。ちょっとびっくりしただけ・・・」
花陽「へ、平気なの!?あんな竜巻直撃して」
希「それもあのノルンとか言う守護霊に関係ありそうやな」
穂乃果「背後霊・・・?まぁ、いいや。とにかく逃げよう!私の攻撃効かないみたいだし・・・それに私と同じ攻撃が出来てしかもあんな大きな鳥から走って逃げれるとは思わないよ」
手を引いて穂乃果ちゃんを起こす。
穂乃果「ちょっと待って・・・もしかしたら」
花陽「ど、どうしたの?」
穂乃果「二人にもペルソナが使えるかもしれない・・・」
花陽「ペルソナ?」
穂乃果「うん、私の上に浮かんだでしょ?」
希「あれ誰でも使えるん!?」
穂乃果「わからない。でも試して見る価値はあると思う。ね、二人共スマホだして!」
言われた通りにスマホを出す。
希「これをどうするん?」
穂乃果「自分の番号に電話かけて!」
花陽「じ、自分の番号に?」
穂乃果「早く!」
言われた通りに自分の番号に電話をかける。
花陽「・・・・・・」
何か聞こえる。
ぼそぼそと何かを話す声。
車のクラクションの音。
チャイムの音。
『我は汝。汝は我。私はマーメイド』
希「だ、誰?」
『我汝。汝は我。私はアリス』
穂乃果「繋がった?」
花陽「う、うん!」
希「どうすればいいん!?」
穂乃果「叫んで!ペルソナって!」
花陽「ペルソナ!」
スマホが粉々に砕け、頭上に出て来たのは人魚だ。
希ちゃんの方は真っ白な肌をしていて青色の服を着ている少女。
穂乃果「で、出た!」
花陽「・・・感じる。あの鳥に竜巻は効かないよ!」
穂乃果「わかるの?あの鳥の事が?」
花陽「う、うん!あの鳥は竜巻効かないから別の攻撃じゃないと倒せない」
穂乃果「私、竜巻しか出せないよ!希ちゃんは?」
希「うちはあの鳥の事は全くわからへんけど・・・」
穂乃果「とりあえず何かやってみて!そのペルソナに命令するんだよ!攻撃してって!」
希「う、うん・・・アリス!あの鳥を攻撃して!」
希ちゃんのペルソナは鳥の元へと跳躍し、手を突き出す。
鳥の頭には真っ白な腕が突き刺さり、黒い煙となって消えた。
穂乃果「す、すごい・・・」
希「・・・ん?」
希ちゃんは怪我をした方の腕を見ていた。
希「治っていく・・・」
花陽「本当だ・・・なんで?」
希「なんでやろなぁ・・・アリスちゃんのおかげやろか」
穂乃果「多分そうだよ!怪我治せるんだね希治ってのペルソナ」
希「そのペルソナって・・・後でやったな。とりあえずお化けいなくなったしここから出よ?」
花陽「う、うん・・・待って出口の方分かるよ。お化けがまだ五体残ってるから安全な進路もマーメイドが案内してくれるって」
穂乃果「おー本当?すごいね花陽ちゃん!」
花陽「ついて来て」
【神社】
穂乃果「案外、すんなりでられたね!」
花陽「ねぇ、見て穴が消えていく」
穂乃果「本当だ・・・」
希「あの空間は一体なんなんやろうか?穂乃果ちゃん分かる?」
穂乃果「うーんそれはわからない。だけど、あのお化けの事やペルソナの事はちょっとだけ分かるよ?」
花陽「あのお化けは何?」
穂乃果「シャドウって呼ばれてるみたい。何で私達を襲うのかとか正体はわからない」
希「ペルソナ言うんは?」
穂乃果「あのシャドウに対抗出来る能力なんだって。自分に電話を掛ける事で召喚出来るみたい。それ以外は何もわからない」
希「そっかぁ。今時間は?」
花陽「21時前だよ」
希「1時間近くあっこにいたんやなぁ。もう遅いしそろそろ帰ろか?」
穂乃果「うん!そうだね!」
希「明日、またお昼この事について話そ。何かとんでも無いことに巻き込まれた気もするし・・・」
穂乃果「そうだね。じゃあ帰ろう!バイバイ希ちゃん花陽ちゃん!」
希「うん!気を付けてな!」
花陽「バイバイ穂乃果ちゃん!あの、それと助けてくれてありがとう!」
穂乃果「ううん!私も花陽ちゃんに助けてもらったよ!二人共気を付けてね!」
【コミュLV1 月 小泉花陽】
4月16日
朝
【学校】
昨晩から一夜明けた。
あんな怖い体験をしてたと言うのに不思議と夢には出ず、むしろぐっすり寝れた。
何だか昨日はどの普段していた練習よりも体が疲れていた気がする。
ことり「穂乃果ちゃん。何だか今日はぼーっとしてるね」
穂乃果「ふぇ?あ・・・そ、そうかなぁ?」
海未「何かあったのですか?」
穂乃果「あったと言えばあったけど・・・」
ことり「何があったの?」
穂乃果「ペルソナとかシャドウとか・・・」
ことり「・・・うん?」
海未「何ですかそれ?」
穂乃果「私もよくわかんない・・・でも、昨日神社行ったらお化け出たんだよ!」
海未「また私を驚かそうとして、もうその手には乗りませんからね!」
穂乃果「本当だもん!シャドウってお化けが出て私とか希ちゃんや花陽ちゃんもピンチだったんだから!」
ことり「希ちゃんと花陽ちゃんもお化け見たの?」
穂乃果「うん!それでお化け倒した!」
海未「漫画か映画の見過ぎですよ」
穂乃果「本当だもん!嘘じゃないもん!」
海未「お化け何ていません!」
ことり「まぁまぁ二人とも喧嘩はだめだよっ。あ、それより穂乃果ちゃん」
穂乃果「ん?」
ことり「ゲームとかってする?」
穂乃果「するけどどうして?」
ことり「このゲーム面白いよ~やってみて!」
穂乃果「ありがとう!それよりことりちゃんってゲームとかやるんだー」
ことり「あまりしないけど、このゲームにはハマったなぁ~。キャラクターの着せ替え出来て他の人の洋服とか見れるの」
穂乃果「そうなんだぁ~。面白そうだね!帰ったらやるよ!」
ことりちゃんからゲームを借りた。
ほのぼのライフゲームとパッケージ裏に書いてある。
どんなゲーム何だろうか・・・。
海未「あ、もうすぐホームルーム始まりますよ」
チャイムが鳴り、みんな着席する。
昼
【屋上】
急いで階段を駆け上がる。
購買部が思いの他、混んでおり待ち合わせの時間は五分すぎている。
希「お、来た来た。待ってたでぇ~」
穂乃果「ごめんごめん。購買が混んでて大変だったよぉー」
花陽「ううん大丈夫だよ」
希「じゃあお昼食べながら昨日の話をしよか!」
花陽「うん!」
希ちゃんと私はパンの封を開け、花陽ちゃんはお弁当の箱を開ける。
三人同時にいただきますと言ってからお昼を食べ始める。
希「で、昨日のは結局なんやったん?」
穂乃果「わからない・・・でも危ない目にあったのは確かだよ」
花陽「うん、怖かったね・・・」
希「あのお化けはシャドウって言うんやろ?」
穂乃果「うん!昨日、私がシャドウに突き飛ばされて気絶してる時にね。夢を見たの。青い電話BOXにいる夢。そこで電話がかかってきてね。でたらあのお化けの事やペルソナの事ちょっとだけ教えてくれたんだよ」
花陽「それ夢・・・なのかな?」
穂乃果「わからない・・・でも凄いリアルだった」
希「夢か現実かはどうでもええ。その電話の人が言った通りの事をやったらペルソナ出たんやろ?」
穂乃果「うーん。ちょっと違うなぁ・・・ヒントをくれたって感じかなぁ」
花陽「ヒント?」
穂乃果「うん、自分との対話でペルソナが出せるとだけしか・・・」
希「それでよう自分に電話かけるなんて思い付いたなぁ~」
穂乃果「思い付いたって言われればそうだけど・・・私はちょっと違って電話がかかって来たんだ。ペルソナの方から」
花陽「私達とは逆だね」
希「何か関係あるかもしれんなぁ」
穂乃果「かなぁ?その後は普通に自分に電話かけてペルソナ出せたんだけど、あの時は自分から電話かけても呼び出せるかも?としか思ってなかったなぁ」
希「私達を助けてくれた時は『かも?』で助けてくれたん?」
穂乃果「うん!一か八かだったよ。でもペルソナ来てくれてよかった」
花陽「ねぇねぇ。私達のペルソナの事についてなんだけど・・・昨日ちょっと調べて分かった事があるよ」
穂乃果「お、何?」
花陽「ノルンは運命の女神って呼ばれていてアリスは不思議の国のアリス。私のマーメイドは人魚」
希「みんな神話や伝説に出てくるね」
花陽「うん!マーメイドはね。歌声で遭難してる人を助けるみたい。だからあの空間から脱出出来たんだよ」
希「私のペルソナは不思議の国のアリスのアリスやろ?穂乃果ちゃんや花陽ちゃんに比べて人間に近いけどちょっと怖かった・・・」
穂乃果「でも攻撃したら希ちゃんの怪我も治ったね。あれなんだろ?」
希「アリスちゃんが回復してくれた事は確かやけど・・・穂乃果ちゃんは小さな竜巻出してたね。これもペルソナのおかげなんやろうか?」
花陽「だと思うよ。私のマーメイドが導いてくれたように穂乃果ちゃんや希ちゃんのペルソナも魔法みたいなの使えるって思ってる」
穂乃果「魔法かぁ~言われてみれば魔法っぽいね」
希「でも一体ペルソナって何なんやろ?あとシャドウも」
穂乃果「うーん。考えば考える程、疑問が出て来るねぇー」
花陽「そうだね・・・あ、もうお昼も終わるし話はまた今度にしよっかっ!」
希「そやねぇ~」
穂乃果「うん、そうしよう!」
希「何も分からなかったけど、これからは下を向いて歩かなあかんね」
穂乃果「もう落っこちるのは嫌だもんね!」
【コミュLV1 死神 東條希】
夜。
【自宅】
結局、ペルソナやシャドウそれにあの空間については何も分からなかった。
穂乃果「そういえば・・・」
今日、ことりちゃんからゲームを貸してもらった事を思い出す。
あれこれ考えてもただ頭が混乱するだけだ。
気晴らしにとカセットを取り出しゲーム機に差し込み電源を入れる。
ゲームメーカーのロゴの後に画面が暗転ほのぼのとしたBGMが流れ始め、OPが始まる。
私はどちらかと言えばOPはいつも飛ばしているので、そのままゲームを始める。
主人公の名前を決めて下さいとお決まりのメッセージが出る。
いつも、『ほの』にしてるのでキャラクターの名前を付ける時は迷った事はあまりない。
名前を付けた後、世界観の説明とか壮大な物語が始まりそうなワクワクするムービーは無くいきなり村の中に放り込まれた。
穂乃果「何をすればいいんだろ?」
説明書を取り出そうとしたその時、画面にスーツを着た女性キャラが私にチャットを申し込んでいる事に気付く。
キャラクターの名前は親鳥。
変な名前だなと思った。
一人用のゲームだと思っていたけど、どうやらこれはオンラインゲームのようだ。
無視する訳にもいかないしとりあえずこの人とチャットをしてみよう。
ほの:こんばんは!
親鳥:ちゅんちゅん!
ほの:?
親鳥:私流の挨拶よ。これだと夜でも何だか朝みたいに感じるでしょ?
ほの:確かに・・・
親鳥:初心者?
ほの:はい、今始めたばっかりです。何で分かったんですか?
親鳥:だって初期のお洋服なんだもちゅん
ほの:なるほど、そのスーツは強いんですか?
親鳥:強い?このゲームは敵キャラクターはいないわよ?自由気ままに家を建ててそれからお仕事見つけて暮らすゲームよ
ほの:なるほどなー。なんだか現実みたいですね!
親鳥:私も最初はそう思ったわ。でも色んなお洋服着れるからとっても楽しい!私ぐらいの年に
ほの:?
親鳥:何でもないちゅん!とにかくよろしくね!分からない事があったら遠慮無く聞いてね大体この時間帯にいるから。あ、お仕事の時間だ。現実じゃなくてゲームだけどね。フレンド登録出したから登録しておいて!じゃあね!ばいちゅーん
ほの:ばいちゅーん!
何だかとても親切な人と知り合った。
しばらく村を散歩した。
【コミュ LV1 隠者 ???】
4月17日。
昼
【学校 屋上】
紙パックのお茶を飲み干し、あんぱんを無理矢理胃に流し込む。
希「聞いて欲しい事があるんやけど・・・」
花陽「ん?どうしたの?」
穂乃果「何か分かった事あった?」
希「ううん。でも、試してみたんや」
穂乃果「試してみた?」
希「ペルソナが出るかどうか」
穂乃果「ほ、本当に?」
私も試してみたかったが中々怖くてできなかった。
自分を守ってはくれたけど、やっぱり少し気味が悪い。
それに、まだこの力を信用してる訳じゃない。
あのシャドウみたいに私の命を狙ってくるかもしれない。
花陽「どう・・・だった?」
希「出なかったで、何も起こらなかった」
穂乃果「そ、そっかぁ・・・と言う事はペルソナはあの空間でしか召喚出来ないって事になるね」
希「そうなるなぁ。私としては少し残念なんやけど・・・」
穂乃果「え、なんで?」
希「うーん。何となく・・・怖い感じはせえへんよ」
花陽「うん、私も・・・なんだか凄く安心した」
どうやら二人と私のペルソナの感じ方は
花陽「どう・・・だった?」
希「出なかったで、何も起こらなかった」
穂乃果「そ、そっかぁ・・・と言う事はペルソナはあの空間でしか召喚出来ないって事になるね」
希「そうなるなぁ。私としては少し残念なんやけど・・・」
穂乃果「え、なんで?」
希「うーん。何となく・・・怖い感じはせえへんよ。むしろ安心した」
花陽「うん、私も・・・なんだろう。凄く安心した」
どうやら二人と私のペルソナの感じ方は違うらしい。
安心する?と聞かれたらシャドウから守ってくれるから安心はしていたけど・・・。
4月18日。
昼
【自宅】
今日は土曜日。
学校は休み、なのに外は雨だ。
外に出ようにも濡れるのは嫌だし、他にやることもなく、家でゴロゴロしていると、ことりちゃんから電話が来た。
どうやらことりちゃんも暇らしく、私の家で遊ぶ事になった。
ことり「雨、やまないね」
穂乃果「だねー。せっかくのお休みだって言うのに!」
ことり「雨か・・・ねぇ、最近流行ってる都市伝説があるんだけど知ってる?」
穂乃果「流行ってる都市伝説?なになに?怖いやつ?」
ことり「ううん。怖いって言うより、試してみたくなるなぁって感じの都市伝説だよ」
穂乃果「おー。聞かせて聞かせて!」
ことり「あのね。今日みたいな雨の日の夜0時にテレビを見るとね。運命の人が映るんだって!」
穂乃果「今日、雨だよ!」
ことり「うん、雨だねっ!私、やってみたかったんだけどいつも寝ちゃうの」
穂乃果「じゃあ一緒にやろうよ。今日泊まってさ!あー運命の人ってどんなんだろうなぁ~」
ことり「楽しみだね~」
夜。
【自宅】
もうすぐ12時。
いつもなら寝てる時間だけど、真夜中テレビを見る為になんとか起きてる。
明日も休みなので多少の夜更かしは問題ない。
穂乃果「ことりちゃーんことりちゃーん」
真夜中テレビの都市伝説を聞かせてくれた本人は愛用の枕を抱いて寝ており。
声を掛けても起きてくれない。
雨の日の12時にテレビを見ると運命の人が映る。
ただそれだけの都市伝説。
普通こういう都市伝説は見たら死ぬとか幽霊が出てくるとか何かしらの怖い噂が付いてくるものだけど何もないよ。とことりちゃんは言っていたし、気になってネットで調べて見ても怖い噂の記事は無かった。
ただ運命の人が映るだけ。
本当にそれだけなのか?
恐れが消えそうな予感がない。
真夜中テレビと言う名称が恐怖を煽っているんだろう。
穂乃果「ことりちゃーん!」
あと一分で12時。
体を揺すって何とか起こそうとするが目を開ける気配が無い。
壁掛け時計の秒針は刻々と時間を刻み。
12時。
テレビには何も写っていない。
変わりに私のベッドには棺桶があった。
花陽『穂乃果ちゃん!』
穂乃果「花陽ちゃん!?」
花陽ちゃんの声が聞こえた。
近くにいるのかもと思い窓の外を見たけど花陽ちゃんの姿はどこにも無い。
穂乃果「どこにいるの?」
花陽『お家にいるよ。怖くてペルソナ呼び出したのそしたら穂乃果ちゃんの声や希ちゃんの声が聞こえて私から話かけれないかな?って思って試してみたら出来ちゃったの!』
穂乃果「そ、そうなんだ。シャドウには聞こえないの?」
花陽『大丈夫だよ。穂乃果ちゃんの耳に私の声を直接送ってるみたい。耳に付けなくていいイヤホンみたいな感じだよ』
穂乃果「花陽ちゃんのペルソナ凄いね!で、これは何なの?」
花陽『わかんない・・・それよりことりちゃんは大丈夫?』
穂乃果「わからない。急にいなくなっちゃったから・・・花陽ちゃんの方は?」
花陽『穂乃果ちゃんと一緒だよ』
穂乃果「花陽ちゃんのペルソナの能力で居場所とかわからないの?」
花陽『やってみたよ。居る場所はわかったけどその場所には棺桶があるの』
穂乃果「棺桶・・・私のベッドにもある」
花陽『ことりちゃんの居場所は穂乃果ちゃんの部屋にいるみたい』
穂乃果「ことりちゃん私の部屋に・・・ねぇもしかして・・・この棺桶の中に居るんじゃないかなぁ」
花陽『棺桶の中に・・・でもそれって・・・』
穂乃果「棺桶の中って言われたら・・・そう想像しちゃうよね。でも、違うと思う」
花陽『どうして?』
穂乃果「この棺桶黒いし冷たいし」
穂乃果「ことりちゃん私の部屋に・・・ねぇもしかして・・・この棺桶の中に居るんじゃないかなぁ」
花陽『棺桶の中に・・・でもそれって・・・』
穂乃果「棺桶の中って言われたら・・・そう想像しちゃうよね。でも、違うと思う」
花陽『どうして?』
穂乃果「この棺桶黒いし冷たいけど、何か嫌な感じって言うのかな?あまりしない・・・わからないけど。中に入ってる人を守ってるように見えるんだ」
花陽『中に入ってる人を守る?でも、何で?』
穂乃果「私もわからない・・・何かそんな気がするってだけだよ。だから花陽ちゃんのお母さんとお父さんもことりちゃんもこの棺桶の中にいてきっとぐっすり眠ってるよ!」
花陽『そうだよね・・・そうだよね!』
穂乃果「うん!だから大丈夫だよ!きっと・・・。ねぇ、希ちゃんは大丈夫なの?」
花陽『うん!だけど、外にシャドウがいるって言ってた。穂乃果ちゃんは?』
穂乃果「私も外にシャドウが見えるけどまだこっちには気付いてないみたい」
花陽『そっか、家にいた方が安全だね。ん?』
穂乃果「どうかしたの?」
花陽『マーメイドが何かを感じ取ったみたい・・・なんだろこれ。シャドウではなさそうだけど・・・』
穂乃果「じゃあ人?」
花陽『でもないみたい・・・姿はぼんやりとしかわからないけど』
穂乃果「あまり関係しない方がいいかもね」
花陽『うん、そうだね。あれ?また何か感じ取ってる・・・』
穂乃果「今度は何?」
花陽『人みたい。・・・え、これもしかして・・・』
穂乃果「ど、どうしたの?」
花陽『真姫ちゃんだよ!』
穂乃果「真姫ちゃん!?」
花陽『うん、間違いないよ!今は・・・寝てるみたいだけど棺桶にもなってないし何で何だろ?』
穂乃果「うーんわかんない・・・だけどシャドウに襲われたりしないかな?」
花陽『近くに反応はないから大丈夫だと思うんだけど・・・見張ってるね』
穂乃果「うん、お願い!何かあったら助けに行かなきゃね・・・怖いけど」
花陽『そうだね・・・私、他に何か反応が無いか調べて見るよ!』
穂乃果「うん!」
花陽『じゃあ通信切るね』
花陽ちゃんの通信が切れ、静寂が私を包んだ。
赤い空は以前として変わらず。
見る者を怯えさせているのだろう。
この時間はいつになったら終わるのだろう?
真夜中とはまた違った恐怖が纏わり付いて離れない。
しばらく経ち、私はこの雰囲気に少しは慣れ。
普段とは違う夜をカーテンの隙間から眺めていると。
空の赤は黒に侵食され所々、キラキラと星が光っていく。
月は黒に飲み込まれるように目に余る大きさを失い始め、やがていつもの大きさへと変わった。
元に戻った。
そう確信したのは私のベッドで寝息を立てていることりちゃんを見てからだった。
4月19日。
朝
【通学路】
登校中にある噂話を小耳に挟んだ。
昨日の晩に真夜中テレビを見た人がいるらしい。
耳を傾けると砂嵐の画面に何か人影のような物が映ったと言っていた。
私の時は何も映らなかったから運命の人はもしかしたらいないのかも・・・と嫌な想像をしてしまった。
今度の雨の日、また真夜中テレビを見てみよう。
今度はことりちゃんも起きたままで。
昼
【屋上】
真姫「で、話ってなに?新曲の事?」
昼休み。
私達、三人は真姫ちゃんを屋上へと呼び出した。
可能性は低いが、昨日の異様な時間の中で唯一棺桶にならなかったのは私と花陽ちゃん希ちゃんのペルソナを召喚出来る人。
それから・・・真姫ちゃん。
そう、真姫ちゃんだけがあの異様な時間の中で安らかに寝息を立てていた。
これは希ちゃんの推測だけど、あの時間の中で動けたのはペルソナを召喚出来る人達だけだった。
だとすれば、真姫ちゃんもペルソナを召喚出来るんじゃないか?
もしも、そうだとしたら何かペルソナの事について分かるかもしれない。
希「単刀直入に聞くで・・・真姫ちゃんペルソナって知ってる?」
真姫「ペルソナ・・・?」
穂乃果「自分に電話掛けたりとかしなかった?」
真姫「自分に電話?そんな事しないわよ」
私と希ちゃんは顔を合わせ、二人して首を傾げた。
穂乃果「ほら、ペルソナだよペルソナ!穴に落ちたりとかしなかった?」
真姫「してないわよ。穴って何よ」
希「夜12時に空が真っ赤になって棺桶見たとかあらへんの?」
真姫「言ってることわかんないわよ」
穂乃果「本当に知らないの?」
真姫「知らないわよ。って言うか二人とも大丈夫?突拍子なさすぎよ」
真姫ちゃんは本当に何も知らないらしく。
他に青い電話BOXやシャドウについても聞いてみたけど目をキョトンとさせていた。
最終的には私と希ちゃんが変な病気にでもなったんじゃないかって心配してきた。
あの時間の中で私達意外で唯一棺桶にならなかった真姫ちゃん。
一回でもあの異様な時間を見た事は無いかと聞いてもみたけど、12時って私もう寝てる時間じゃないみんな早く寝ないとダメっと怒られてしまった。
1日、1日過ぎる度に不思議な事が身の回りで起こり謎が深まる。
もし真姫ちゃんがペルソナを知っていて何か少しでも情報が得られればと思っていたけど、収穫は何も無いままお昼は過ぎて行った。
夕方
【商店街】
お母さんから商店街で牛肉を買うように連絡があり。
めんどくさいけど、お小遣いを貰えると聞いた私はすぐにお肉屋に向かって牛肉を買った。
あとは帰ってお小遣い貰うだけだったが、後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。
穂乃果「あっ・・・!」
あんじゅ「こんにちは。穂乃果ちゃん」
穂乃果「あんじゅさん!」
あんじゅ「さんだなんて。よそよそしいわね」
穂乃果「あ、ごめんなさい!」
あんじゅ「ふふ。嘘。こんな所で何してるの?」
穂乃果「お母さんから牛肉買ってって言われて」
あんじゅ「ああ、おつかいね。穂乃果ちゃん偉いわね」
穂乃果「それほどでも~。あんじゅさんは?」
あんじゅ「帰り道なのここ。ここを抜けてほらあのマンションあるでしょ?あそこの809号室が私のお家よ。来ない?」
穂乃果「え!?でも牛肉が・・・」
あんじゅ「ふふ。嘘よ。でも穂乃果ちゃんなら私の家に来てもいいわよ?」
穂乃果「あ、ありがとうございます!」
あんじゅ「かわいいわね穂乃果ちゃんって・・・じゃあまたね。いつでも待ってるから」
穂乃果「はい!・・・かわいいって言われちゃった」
家に向かって歩いて行くあんじゅさんを見送って私も帰ることにした。
【コミュ LV1 悪魔 優木あんじゅ】
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