眠る前に考え事をしてしまう (11)

悪い癖だ。妄想から始まって、物心ついた頃から寝付きが悪い。

「仕事を辞めようかと思っている」

「またか」

帰ってくる返事は呆れ返った様子であった。

無理もない。これで何度目だ。

「俺には向いてない。会社に入って、仕事をするということが」

「そうしなければ生きていけないだろう?」

その通りだ。そうしなければ。

果たして本当にそうだろうか?

思わず湧いた疑問に眉間に皺を寄せる。

「本当にそうだろうか?」

返事は帰ってこなかった。

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ようやく仕事が終わった。

ため息混じりに俺はそう思った。頑張らなければ。

食事も喉を通らない。俺は目を瞑り、愚痴を零した。

「仮面が重いんだ」

「外せばいいだろう?」

俺は自嘲気味に笑う。

「外し方を忘れたよ」

「そんなものさ」

毒にも薬にもならない返事は俺にそれ以上考えるなと暗に言っているような気がした。

「皆もこんなに重いのか?」

再度問いかけてみるも、知らないよ。と返されるだけであった。

「疲れてるんだ」

誰に言うでも無く、俺は呟く。

疲れてる。

眠たいのに眠れない。

ようやくの休日だというのに、寝ることが出来ない。

勿体無い? そう思っているのだろうか。

「疲れてないんじゃない?」

「そんな訳はない。俺は疲れてるんだ」

だから眠たい。疲れてるから眠いんだ。

「でも寝れないんでしょう?」

「何が言いたい」

疲れからイライラしやすいのだろうか、俺はムッとして応える。

「疲れてなきゃ、って思ってるだけなんじゃない?」

考え事をしすぎた。

あまり睡眠時間を取ることが出来なかった。これでは仕事に支障を来してしまう。

「おい、ここミスしてるぞ」

やはりな。

「すみません、すぐに修正します」

「大丈夫か? 目の下のクマがひどいぞ」

「大丈夫です。たまたま昨日寝れなかっただけですので、ミスしてしまってすみません」

「休みだからって夜更かししたんだろ。ちゃんと寝るんだぞ。体調管理も仕事のうちだからな」

「はい」

「体調管理も仕事のうちだってさ。いつまで仕事をしてりゃいいんだろうな?」

「嫌なら[ピーーー]ばいい」

「それはあまりにも、暴論過ぎやしないか?」

「生きるってのはそういうことだ。嫌なら辞めろ」

……。

この事についてはもう思い出さないようにしよう。

「人生は楽しいなあ、おい」

「随分と上機嫌じゃないか。何かあったのか?」

「いいや? 別にいつもどおりだよ。でも人生は楽しい、そうだろう?」

「そうだな」

「冷めてるなあ。もっとテンション上げていこうぜ?」

「引き寄せの法則か」

「俺には向いてないみたいだ。テンションを上げるのが辛い」

「今日も怒られたよ。理不尽にね」

「そういう事もあるだろう。客観的に見てもあれは怒りすぎだ」

「説明不足だったよね、どう考えても」

「まあ、でも」

「ん?」

「いや、なんでもない。俺はお前の味方だよ」

「そう」

「何時だ?」

「3時くらいじゃないか?」

「聞いてない。答えるな」

「悪い悪い。聞かれてるのかと思ってな」

「くそ……全然眠れない」

「ストレスが溜まってるんじゃないか?」

「イライラするから喋るな」

「了解」

「最近ミスばっかりじゃないか。目の下のクマもどんどん酷くなってるし、本当に大丈夫か?」

「確かにな。病院に行ったほうがいいかもしれない。あまりにも眠れなさすぎだ」

「そうですね……。今度の休みにでも行ってみます」

「うん? 病院か?」

「はい」

「そんなにきついのか? どうしてもきついなら早退してもいいぞ」

「このまま仕事しても迷惑かけるばかりだしな。体調治して本調子で挽回しようぜ」

「分かりました」

「早退するってことか? こっちで届け出しておくから、もう帰っていいぞ」

「とりあえず寝とけよ。病院は明日行けばいい。起きてからでも休みの連絡すればいい」

「……」

「睡眠外来だっけ? そういうのあるらしいし、行ってみようぜ? 結構心配だよお前」

「お前じゃねえだろ」

「それ以外にどうやって呼ぶんだよ」

「呼ぶな。俺のことをお前って言うな」

「わけわかんないことになってきてるぞ。早く寝とけ」

もう嫌だ。

何が嫌なんだ?

全てが嫌だ。

ストレスで参ってるだけだ、気をしっかり保て。

ああ

疲れた。煩い。

なんで俺ばっかりこんな目に
眠たい 喋るな 

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