泉理「chaos;child after」 (68)







あの日から、9年。

そして、あの事件から、3年。

あなたはいかがお過ごしでしょうか。

短くも長い、三年という月日は、

あの期間に起きた凄惨な事件を、人々の記憶から奪い去ろうとしています。

でも、私たちは忘れません。

あの時に起きた悲劇を、そして、あなたの勇気を、覚悟を。

目まぐるしく、移り行き変わって行くこの世界の中でも、けして忘れない。

そう、心に誓いながら、生きています。




今回は、今日という特別な日の祝話として、今の皆について話そうと思います───

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460142693

雛絵「華と」華「…雛絵」





雛絵「…」

雛絵「お、チャオっす、華」

華「…ん、おはよう」

雛絵「…ノリ悪いなー、こういう時はチャオっすチャオっす!」

華「…」

雛絵「もー」

華「…前は、声が出せなかったけど…」

華「…その挨拶は…普通に、言いたくない」

雛絵「なんだとー!」

雛絵「…ふぃー、しかし華と学科違うなんてねー」

華「学科は…友達で決めるものじゃないもん」

雛絵「…もん?さては華、あざと可愛いキャラを狙ってるなー!?うりうり!」

華「…もー…熱い…」

雛絵「…あはは、華が勉強教えなかったら受験ヤバかったよー」

雛絵「ゲーム廃人なのに、勉強できるとか反則!」

華「…授業聞いてれば…大抵わかる」

雛絵「…くー、エリートは違うね」

雛絵「しかしさー、いくら震災孤児の為とはいえ、大学まで学費免除にするかねー」

華「…その為の…受験」

雛絵「…あー、ふるいにかけてるってこと?」

華「…いつまでも、震災を引きずってる人は…社会に馴染めない…かも」

雛絵「…華からそんなセリフが出るとはねー」

華「…雛絵も…もうすぐ社会人なんだから…きっちり…」

雛絵「…んー、日に日に泉理先輩に言うことが近づいてるなー」

華「…今度部屋掃除に行く…」

雛絵「ええ!?止めて!それくらい出来る!」

華「…ダメ…」

雛絵「…厳しいなー、華」

雛絵「あ、今日髪型いいね、可愛い」

華「…ダウト」

雛絵「ぐあー!」

華「昔の雛絵じゃなくても、それくらい…分かる」

雛絵「くー」

華「おだてても…ダメ…掃除しに行く」

雛絵「へいへい、分かり申したよ」

雛絵「んじゃ、放課後待ち合わせしよっか」

華「…ん」

雛絵「ほんじゃま、いつもの所で」

華「ん」

放課後



店員「ん?お主か、もう来ておるぞ」

雛絵「どもっすー」

店員「飲み物は?」

雛絵「いつものでオナシャス」

店員「うむ」

華「…」ジュルルル

雛絵「やー、メンゴメンゴ、講義長引いちゃって」

華「…」ジュルルル

雛絵「…って、エンスーしてるし」

雛絵「はーなー、はーなー!」

華「…ちっ…!」ガンッ!!

店員「これお主!机を叩くでない!」

華「…ノーパソじゃ、スペックが足りない…!!」

雛絵「よっ」カポッ

華「…あ」

雛絵「どもどもー」

華「…遅い」

雛絵「あはは、講義長引いちゃって」

華「…」

雛絵「…」

華「…懐かしい、ね」

雛絵「…そうだね」

雛絵「…あの頃は、もっと賑やかだったね」

華「…」

店員「ほれ、待たせたの」

雛絵「あ、どもー」

店員「…」

店員「…ふむ」

華「…?」

雛絵「ん?なんすか?」

店員「…いやの、最近はお主らしか見ておらぬからの」

華「…」

雛絵「…」

店員「…変わっていくと言うのは、寂しいの」

雛絵「…あはは、店員さん、そんな突っ込んでくる人でしたっけ?」

店員「…常連とあれば、足が遠のくと気にかかる」

雛絵「…そっか」

店員「…ほれ」

華「…?」

華「…頼んでない」

店員「…ふん」スタスタ

華「…」

雛絵「…奢りってことかな?」

華「…ん」

雛絵「…」パクッ

雛絵「…あはは、しょっぱい」

雛絵「でも、懐かしい味だね」

華「…ん」パクッ

華「…そうだね」






雛絵「…ねぇ、ほんとにするの?」

華「…する」

雛絵「今からでも遅くはないよ、華」

華「…」

雛絵「あ、ごめんなさい」



ガチャッ

華「うわっ」

雛絵「ちょ、マジな声出さないでよ…」

華「…汚いとか…そういうレベルじゃない」

華「…まるでこの部屋自体が…ただのゴミ」

雛絵「女の子の部屋の評価としてはあんまりだよ!」

華「…要らない、要らない、…これも要らない」

雛絵「あー!それはいつか使えると思って…!」

華「…いつか使うは…使わない」

雛絵「ぐぬぬ」

華「…!」

華「…これ、は…」

雛絵「…あ」

華「…新聞部の…写真…」

雛絵「…」

華「…」

雛絵「…こんな所にあったんだ」

華「…大切な思い出を…こんなゴミ屋敷に…!」

雛絵「わぁぁ!メンゴメンゴー!」

雛絵「…ねー、華」ガサゴソ

華「…ん」ガサゴソ

雛絵「…そう言えば、例の件どうなったの?」

華「…ん」

華「…通りそう」

雛絵「うっそ!?ほんと!?」

華「…ん」

雛絵「…あはは、私たちが碧朋の新聞部って事を知られね、大反対されたもんね」

華「…教授たちの…気持ちもわかる」

雛絵「まぁね、あんだけ事件に首突っ込んだらね」

華「…ふふ」

雛絵「…あはは」

雛絵「ま、私は正確には文芸部だけど」

華「…出入りしてたから、同じ」

雛絵「…そっか、やっと出来るんだ」

華「…ん」

雛絵「…ねぇ、華」

華「…ん?」

雛絵「…私達、ちゃんとした大人に、なれるかな」

雛絵「…あんな事があって、いろいろ巻き込まれて、それでもちゃんとした大人になれるのかな」

華「…よゆー、かも」

華「…だって、私達は、元碧朋学園新聞部で…」

華「…そして、これからは」







コンコン




雛絵「!」

華「…ちっ!」ガンッ!!

雛絵「ちょ!華!エンスーしてる場合じゃないよ!」ユサユサ

華「…トレインとか…ナイトハルト敵に回すとすごくウザイ…!」

雛絵「来たって!華!部長!」

華「…!」

華「…」スゥゥゥゥ

華「…」ガチャッ

「…あ、あの、表の張り紙見て…来たんですけど」

「新入メンバー大歓迎って…」

華「…ん…!」

雛絵「君は晴れて、8人目のメンバーだ!」

「…?8人?…その、写真の人達もメンバーなんですか?」

雛絵「まーまー!こまけぇこたぁいいんだよ!」

雛絵「それでは改めまして!」









雛絵「碧朋大学新聞部へ、」

華「…ようこそ…!」


うき「結人と」結人「うき姉ちゃん」









結人「だからね、姉ちゃん、ここはこうじゃないってば」

うき「…うぅ」

結人「…」

うき「…ごめんなさい」

結人「…怒ってないよ、別に」

泉理「…あら?結人またうきに勉強教えてるの?」

泉理「ふふ、年下に教わるなんて、どこかの2人みたいね」

うき「…ごめんね、結人」

結人「…だから、怒ってないよ」

泉理「焦らなくてもいいのよ、うき」

泉理「しっかり確実に理解することが大事なんだから」

うき「…」

泉理「さ、そろそろご飯にしましょうか」

結人「…」

泉理「あら?結人、献立は聞かないの?」

結人「…いつまでも、子供扱いしないでよ」

泉理「あらあら」

うき「…あ、その…ごめんね、お姉ちゃんが…」

結人「だから違うってば!」

うき「…!」

結人「…姉ちゃんには、怒ってないって言ってるだろ!」

バタン!

泉理「…」

うき「…」

うき「…ど、どうしましょう…泉理さん…!」

泉理「ふふ、良いのよ」

うき「え?」

泉理「あれくらい元気がある方が、男の子はいいの」

うき「そ、そういうものでしょうか…」

泉理「そういうものよ、ふふ」

うき「…」

うき「…やっぱり、私が、悪いんですよね…」

泉理「…」

うき「年上のくせに…結人よりお勉強ができないから…イライラして…!」

泉理「…そうねぇ」

泉理「確かにイライラはしてるわね」

うき「…!」

泉理「…だけど、それが本当にうきに対してなのかは分からないわね」

うき「…?どういう…」

泉理「…あなたのお兄ちゃんもね…」

泉理「…人と話すことがあんまり得意ではないから、誤解されがちだったけれど」

泉理「…それでも、家族に理不尽に怒鳴ることなんて無かったわ」

うき「…」

泉理「…人と話すことが少しだけ苦手だから」

泉理「…だから、素直な気持ちが言えなかった」

泉理「やっぱり兄弟ね、ふふ、似てる」

うき「…」

泉理「あなたは、どう思う?」

うき「…」

うき「…私は…」

うき「…結人や、泉理さん、そしてお兄ちゃんも…」

うき「…皆皆、違う所があるけれど」

うき「…でも、似てるなって…!家族だなって…思います!」

うき「…素敵だなって…思います…」

泉理「…」

泉理「…そ」ニコッ

泉理「じゃ、結人を連れ戻してきてくれないかしら、お姉ちゃん」

うき「…!」

泉理「ふふ、あなたも紛れもなく、家族よ」

うき「…はいっ…!」

バタン!

泉理「…」

泉理「…ふふ」

泉理「それにしても、あの結人が反抗期か…」

泉理「…顔も随分と整っちゃって」

泉理「…誰かを、思い出しちゃうわね」

泉理「…ね、自慢の弟さん?」

うき「…はぁ…はぁ…」

うき「…はぁっ…はぁっ…」タッタッタッ

うき「…どこに行ったの…結人…」

ガサゴソ

うき「…きゃっ!」

うき「…うぅ…猫か…」




「なーなー、こいつって男のくせに暗いところが怖いんだぜ!」

「あははは!女なんじゃないのー!?」



うき「…!」

「ほーら!もうすぐ暗くなるぞ!」

「お姉ちゃんに助けてもらわなくていいのかー?」

結人「…」

うき(…結人…!)

結人「…うるさい」

「こいつ足震えてるぞー!」

「だっさーい!」

うき「…!ちょっ…!」





「お前のあの、ちっさいお姉ちゃんによしよししてもらえよー!」

「あの女の子、学校行ってなくて全然勉強できないらしいよー!」


うき「…っ!」

「あははは!本当は妹なんじゃないの!」

「つーか似てないよな!お前ら本当に兄弟か?」

結人「…」

うき(…やっぱり…!)

うき(…やっぱり…私が原因だったんだ…!)

うき(…私のせいで…!結人が苛められて…そして…そして…!!)





結人「黙れ!」

うき「…っ…!?」

結人「うき姉ちゃんの事を何も知らないくせにお前達が好き勝手いうな!」

結人「上辺でしか人を判断出来ない奴らがうき姉ちゃんをバカにするな!」

「…はー?」

「うぜー、生意気」

結人「お前らなんか怖くない!」

結人「精精無価値で無意味な情報に一生囚われてろ!」

結人「この、情弱共!」

うき「…結…人…」

「ムカつくなあ!こいつ!」

「ボコボコにしちゃおうぜー!!」






うき「…待って…!」

「…あ、こいつ…」

「結人の姉ちゃん…?」

結人「…!ね、姉ちゃん…!?」

うき「…いま、警察を呼びました…」

「はー!?」

「ど、どうするの!?こんな事で、お母さんに怒られたくないよ!」

「く、クソ!おい!結人!学校で覚えとけよ!」




うき「…はぁ…はぁ…」

結人「…」

うき「…結人…大丈夫…?」

結人「…何で、来たの?」

結人「…僕、姉ちゃんに、怒鳴っちゃったのに」

うき「…」

うき「…だって、私は、結人のお姉ちゃんだもん…家族だもん…!」

うき「…どんな事があったって…大切なんだもん!」ギュッ!

結人「…」

結人「…熱いよ、姉ちゃん…」

結人「…ごめん、姉ちゃん」

結人「…本当は、勉強なんか、出来なくてもいいんだ」

結人「…姉ちゃんは、僕が病気の時に、看病してくれたり、毎日僕のために買い物に行ってくれたり…」

結人「そんな優しい姉ちゃんが、大好きなのに…それだけでいいのに…」

結人「…あいつらが…勉強が出来ない…姉ちゃんが小さいって理由だけで…!馬鹿にするから…許せなくて…!」

うき「…うん…うん…」

結人「…ごめん」

うき「…そんなこと無いよ…私のために怒ってくれて…ありがとう」

結人「…うん」







泉理「…」

泉理(誰かのために、怒ることが出来る)

泉理(それって、当たり前の事のようで、とっても難しいのよ、結人)

泉理(…ふふ、反抗期だけれど、やっぱり本質は変わらないわね)

泉理(結人もきっちりと、受け継いでるわ)

泉理(…)

泉理(…それにしても、情弱共、か)

泉理(…)

泉理(…受け継いじゃダメなものまで受け継いでるわね)

泉理(…フィルタリングとかかけた方がいいのかしら…?)










結人「…大好きだよ、うき姉ちゃん」

うき「…え?」

結人「な、何でもない」

神成「久野里さんと」久野里「無能」







久野里「…」カタカタカタカタ

久野里「…ちっ」

久野里「…これもダメか」

神成「お、久野里さん、調子はどうだ?」

久野里「うるさい、今忙しい、話しかけるな」

神成「…」

久野里「…くそっ」

神成「…俺になにか出来ることがあるなら手伝うが…」

久野里「あんたに脳科学のノウハウがあるならそれもいいかもな、だが無いなら黙ってろ」

神成「…やれやれ」

神成「…はぁ」

久野里「あからさまにため息をつくな」

神成「…なぁ、久野里さん」

久野里「…何だ」

神成「…そんなに毎日カリカリして疲れないのか?」

久野里「ふん、休憩なら充分取っている」

神成「そういう事じゃなくてだな…あぁ、もういい」

神成「とにかく、明日にでもフリージアに来てくれ、百瀬さんから話があるらしい」

久野里「そんなものあんたが行けばいいだろう」

神成「…俺に、脳科学のノウハウがあるなら、な」

久野里「…!ギガロマニアックスに関してか?」

神成「あぁ、と、その先」

久野里「…委員会…!」








百瀬「…あら、いらっしゃい、澪ちゃん、神成ちゃん」

神成「どうも、これ、差し入れです」

百瀬「あらぁ、悪いわねぇ」

神成「いえ、お世話になってますから」

百瀬「ふふ、益々あの人に似ないわね」

神成「ははは、操作方法は真似ても、正確まで参考にするつもりは無いですよ」

久野里「そんな事はどうでもいい」

神成「…はぁ」

久野里「何だ?」

神成「…何も」

百瀬「あらあら」

久野里「…百瀬さん、要件について詳しく聞きたいんですが」

百瀬「ええ、良いわよ」

捜査方法
性格

百瀬「と言っても、何から話せばいいのやら」

久野里「…?」

百瀬「澪ちゃんを呼んだ理由はこれが、ギガロマニアックスに関係してると「思われる」からなのよ」

久野里「…」

百瀬「もうちょっと詳しく話すわね」

百瀬「…その、ええと、仮にその子をA君とするわ」

百瀬「A君はとある事情で生まれてからつい最近まで、昏睡状態だったらしいの」

百瀬「だけど不思議な事に、その子はまるで年相応の子供のように人と会話してるのよ」

久野里「…それは、睡眠学習とかと同じ分類だと思いますが」

百瀬「かもね、でもそれだけじゃない」

百瀬「どうやらその子は幽霊と話ができるらしいわね」

久野里「馬鹿馬鹿しい、そんな事なら私でなくても…」

百瀬「…えぇ、これだけだったら澪ちゃんを呼ばないわ」

久野里「…」

久野里「…最初からはっきり言ったらどうですか?」

百瀬「あらあら、ごめんなさい」

百瀬「その子の年は9歳、そして出身地は渋谷」

久野里「…!」

百瀬「どう?脳科学としても、ギガロマニアックス研究にしても、澪ちゃん的に興味深いと思わない?」

久野里「…そうですね、その子はどこに?」

百瀬「青森」

久野里「…」

百瀬「青森に越したのよ、その子」

百瀬「旅費はうちで持つから、行ってきなさいな」

久野里「…分かりました」

百瀬「神成ちゃんもね」

神成「はい!?」

神成「ちょ、ちょっと待ってください!なんで俺が…」

久野里「同感です、こんなのを連れて行ったところで役に立ちません」

神成「君なぁ…!」

百瀬「あらそう?私から見ればとてもいいコンビだと思うけれど」

久野里「冗談じゃない」

百瀬「まぁまぁ、決まったことだから」

百瀬「ほらほら、神成ちゃんもたまの旅行だと思って羽を伸ばして来なさいな」

神成「…いや、あの…」

久野里「…ちっ…!」








神成「…」

久野里「…何であんたと行かないとならないんだ」

神成「俺は有給取ってるんだぞ!感謝しろ!」

久野里「感謝?だったら少しは私の役に立ってみろ」

神成「…はぁ」

久野里「ふん」

神成「…」

久野里「…それにしても、青森か」

久野里「…先輩の故郷…」

神成「…先輩?」

久野里「あぁ、そうだ」

久野里「彼女の聡明さと言ったらな」

久野里「…私は秀才型だが、彼女は紛れもなく天才型だ」

久野里「それも確実に歴史に名を残す、な」

神成「…」

久野里「…!…ちっ…!」

神成「…君にも、そういうのがいるんだな」

久野里「…どういう意味だ…!」



久野里「さっさと付いてこい、あんたも来るんだろうが」

神成「…やれやれ」

神成(にしても、天才か)

神成(…俺から見れば久野里さんも充分天才肌だが…)

神成(…彼女が、いつもカリカリしてる理由は、復讐以外にもあるのか…?)

神成(…焦りとか、か?)

神成「…」

久野里「…こっちを見るな」

神成「…はぁ」

神成(だけど少しくらいは、年上を敬ってもいいだろうに)






神成(…彼女のイライラに付き合うこと数時間)

神成(…やっとついたか)

久野里「ふん、何も無い所だな」

神成「そりゃあここは都市部じゃないからな」

久野里「…」

神成「どうやらその子の両親は、その子のために空気が住んでいて自然の環境が整っている土地を選んだらしい」

久野里「下らないな」

神成「…」

久野里「患者に必要なのは、実験と、科学的根拠に基づく治療だけだ」

久野里「カオスチャイルド症候群者だったら尚更だ、あいつらに綺麗な空気を吸わせて何になる」

神成「…俺に言うなよ…」

久野里「…ここか」

コンコン




「…はい?」

久野里「話は聞いていると思うが、久野里澪だ」

神成「お、おい!いきなり…!」

「…久野里…さん…?」

久野里「信用会社フリージアから聞いていないのか?」

「…いえ、聞いてはいますけど…余りにも若かったもので…」

久野里「…知識に若さは関係ないだろう、あんたの子供の症状を見に来た」

「…」

神成(…この子はどうしていつも無駄に高圧的なんだ…!)

「…どうぞ」











久野里「…」ツカツカ

母「あ、あの…」

久野里「…どこだ?」

母「う、上の部屋に…」

久野里「…神成さん、行くぞ」

神成「え、ちょ、おい!」

久野里「…」ガチャッ

「…ひっ…!」

久野里「…神成さん、こいつか?」

神成「こいつとか言うんじゃない!…あぁ、確かに彼で合ってる」

久野里「…ふむん…」

久野里(…見たところ…老化は始まっていない、か)

久野里(だが顔つきは、とても昏睡から目が覚めたすぐ後とは考えにくい)

久野里(…さて)

久野里「おい、お前」

「…あ、ぅ…」

久野里「…一々吃るな、鬱陶しい」

久野里「…目が覚めたのはいつだ?どうしてお前は喋ることが出来る?寝ている間に何があった?」

「…あ、その…」

久野里「…」

「…わ、分かんない…です」

「…た、ただ…寝てる間に…ずっとお母さんの声が聞こえてて…」

「そ、それで、僕は…僕は…」

久野里「…ちっ、どこが9歳児の知能だ」

久野里「幼稚園児でももっとまともに話せるぞ…」

神成「…おい…!」

久野里「黙っていろ」

久野里「じゃあ質問を変えるぞ」

久野里「お前は、頭痛に悩まされる事があるか?」

「…!」

久野里「…どうなんだ?」

「…うん…夜…寝てる時に…頭が痛くなることは…あるよ…」

久野里「…それは毎晩か?」

「…うん…大体…毎日…」

久野里「…」

久野里(慢性的な頭痛…幽霊が見えるとかいう支離滅裂な証言…)

久野里(老化こそは始まってはいないが、症状はカオスチャイルド症候群と似ている)

久野里(なるほどな、不完全なギガロマニアックスの更に劣化版とでも言うべきか)

母「…あ、あの…」

久野里「…」

母「…うちの子は…病気なんでしょうか」

久野里「さぁな」

久野里「これだけじゃわからない」

母「…では…」

久野里「まぁ確かめる方法はあるがな」

久野里「…」スッスッ

「…?」

久野里「今からお前に一枚の画像を見せる、それを見て何を思ったか正直に言え」

「…う、うん…」

神成「…!!!」

神成「…おいっ!!!」




久野里「これを見て、どう思う?」









旅館






ガタァン!!




神成「いい加減にしろ!あんな小さな子にまであんな思いをさせていいと思ってるのか!!!」

久野里「ではあれ以外の方法であいつの病気を特定できるのか?」

神成「…!」

久野里「確かに今日1晩は悪夢にうなされるかもしれないが別に命の危険があるわけじゃない」

久野里「力士シールを見て、嘔吐したんだ、あいつはカオスチャイルド症候群者だよ」

神成「…お前っ…!!」

久野里「そもそも私はギガロマニアックスはみんな死ねばいいと思っているんだ」

久野里「だから、ギガロマニアックス研究の為の実験は、方法を問わない」

久野里「何も出来やしない、無能のあんたが口を挟むな…!!」

神成「…っ…!」

神成「…もういい」

久野里「…ふん」

神成「…」

久野里「…」

神成「…君の」

神成「…君の、そのギガロマニアックスに対する敵意と殺意は…あんな小さな子にまで及ぶのか」

久野里「…小さな子?山添うきを見ただろうが」

久野里「ギガロマニアックスに年齢は関係ない、奴らは危険なんだよ」

神成「…」

神成「…そうか」

神成「…だとしたら君は…」

神成「…佐久間と、何一つ変わらないな」

久野里「…何…!?」

バタン!

久野里(…ふん、私と佐久間が同じだと?)

久野里(あんな頭のおかしい二流科学者と一緒にするな)

久野里(…しかし、どうする)

久野里(…あいつの母親は、多分もうあいつに合わせてくれないな)

久野里(…ちっ、無知な人間はどうしてこうも思い通りに行かないんだ…)




プルルルルル

プルルルルル



久野里「…」

久野里「…はい」

「聞いたわよ、澪ちゃん」

久野里「…百瀬さん」

「あなたのやり方は充分分かっているつもりだけど…あまりやり過ぎないようにね」

久野里「…」

「神成ちゃん、もう帰ると言っていたわよ」

久野里「構いませんよ、あんな無能いた所で何一つ変わらない」

久野里「むしろイライラが増すだけだ」

「…」

「ねぇ、澪ちゃん」

久野里「…」

「…焦らないでね」

久野里「…」

ブツッ

久野里「…」






コンコン

コンコン

「…」

神成「あのー、すいません」

「…帰って下さい」

神成「…いやですね、その…」

「何を言われても、もうあの子には合わせません…!」

神成「…」

「…あの子は今も魘されてるんですよ…!!あの女の人のせいで…!」

「…どうしてあんな事が出来るの…?」

「…あんまりよ、うちの子が…何をしたって言うのよ…!」ブツッ

神成(…参ったな、インターホンの電源自体を切られた…)

神成(…せめて謝ろうと思ったけど、当然か…)

神成(…)

神成「…こんな時なら、先輩は、どうするかね…」





久野里「…」

久野里「…」

久野里「…」

久野里「…」

久野里「…体が、熱いな」

久野里「…これは、風邪か」

久野里「…んっ…!」ググッ

久野里「…ダメか」

久野里「…くそっ」

ヴーヴー

久野里「…?」

件名  元気?

内容  何となく気になっちゃってメールしちゃった
研究の調子はどう?上手くいってる?

久野里「…」

久野里「…ふふ、この人から…言われると…イヤミにしか…聞こえないな」

久野里「…はあ…はあ…」


件名  無し

内容  今青森に居ます


久野里「…はぁ…はぁ…」

久野里「…くそっ…体が…重い…」

プルルルルル

プルルルルル 

久野里「…!」

久野里「…はい」ピッ

「ハロー、澪」

久野里「…珍しいですね、あなたがこんな時間に電話するなんて…」

「そうね、そっちで言う「回転dead」以来かしら」

久野里「…です、ね」

「…?どうしたの?気分でも悪い?」

久野里「…いえ、少し…体調を崩したらしくて…」

「…澪は昔から無茶するタイプだからね」

久野里「…ふふ、助手さんに言われたく、無いですよ」

「助手じゃないと…!って、やめやめ…そんな話をしたいんじゃないのよ」

久野里「…?」

「青森に居るって本当なの?」

久野里「…えぇ」

「…そう」

久野里「…」

「あ、ううん、別に大したことじゃないんだけどね」

「…その、私の故郷はどうなのかなって」

久野里「…」

久野里「…何も、無いです」

久野里「…というか、来たのは初めてです」

「…そうだっけ」

久野里「…けほっ…けほっ」

「…!ちょっと!本当に大丈夫なの?何だったら私の実家に連絡して…!」

久野里「…大丈夫ですよ…でも、そろそろ切って良いですか?」

「…あ、うん…ごめんなさい…」

「…あんまり頑張りすぎないのよでも澪…」

久野里「…ええ」

ピッ

久野里(…くそっ…)

久野里(…何だって、こんな時に…)

久野里(…ま、ずい…意識が…)

久野里「…」

久野里「…」





(悔しかった)

(天才天才と、持て囃されて生きてきてけれど)

(初めて超えることが出来ない物を見た)

(脳の作りからして違うのではないのかという、天才的な閃き)

(思えばあの人は、いつだって違う着眼点から、全く新しい結果を生み出した)

(過去の結果をなぞるだけの私とは、まるで違う)

(思い知った、天才とは、ああいう人のことを言うんだと)





久野里「…」

久野里「…?」

久野里「…っ!!?」ガバッ!

神成「…」スースー

久野里「…何だ?」

久野里「…タオル…」

久野里「…」

久野里「…ふん」

ピシャッ

神成「…んおっ…!」

久野里「帰ったんじゃなかったのか?」

神成「…ん…あぁ、寝てたか」

久野里「…何でまだここにいるんだ?」

神成「…忘れ物を取りに来たんだ、そしたら君が寝込んでいたからな」

神成「君の事だ、理由も無しにあんな時間まで布団で寝ているわけが無い」

久野里「…」

神成「…」

神成「…余計な事をしたな、それじゃ」

久野里「…」

久野里「…なぁ、神成さん」

神成「ん?」

久野里「…あんた、何でこんな無駄な事を…するんだ」

神成「…無駄な事、か」

久野里「…」

神成「なぁ、久野里さん」

神成「君は何で、科学者になったんだ?」

久野里「…はあ?」

神成「…」

久野里「…そんな事…」

神成「…俺もな、何で警部になったのか、分からない」

神成「小さい頃からそれを思い描いてた訳じゃない」

神成「性質なんだ、俺の」

神成「…見て見ぬ振りはいけない、そう教えこまれて育ったからな」

神成「気付けばここにいた、それだけだ」

久野里「…」

神成「君がいかに1人で生きてきたとはいっても、不可能な事はある」

神成「そんな時に、頼る人が居るのといないとでは、違うと思うぞ」

神成「あー、まぁ、なんだその…俺じゃ頼りないかもしれんが…」

神成「…例えば、百瀬さんとかな」

久野里「何が言いたいのかさっぱりだな」

神成「…頑張りすぎてないか」

久野里「…っ」

神成「久野里さん、君が何を思って、どんな目的があって科学者になったとしても」

神成「…それを理由に、君自身を粗末に扱うな」

久野里「…」

神成「ははは、俺の先輩曰く、私生活は適当に、だ」

久野里「…」

久野里「…そう、か」

久野里「…私は、頑張りすぎてたのか」

神成「…あぁ、そうだと思うぞ」

久野里「…」

久野里「…済まなかった」

神成「…」

神成「…え?」

久野里「…悪かったと、言っている」

神成「…!?」

久野里「…何だ?その顔は」

神成「…いや、あの久野里さんがな」

久野里「…少しだけ、楽になった」

久野里「…私は、誰かを頼っていいんだな…」

久野里「…あの人と、並ぶ必要なんてないんだな」

神成「…あぁ」

神成「…もちろん君の目的を邪魔するわけじゃない」

神成「もし、俺に出来ることがあるなら、頼ってくれ」

久野里「…」

久野里「…」 

久野里「…ふふ」

久野里「誰があんたなんかに、頼るか」クスッ






飛行機



神成(あの後額が擦り切れる程2人で土下座して)

神成(いや、久野里さんは土下座しなかったが)

神成(ともかく、それでこの件は落ち着いた)

神成(結局、必要なデータは取ることが出来なかったが、まぁあの少年の病気を治す事が出来たのだから)

神成(久野里さん的にも、悪い気はしないだろう)



「…頭が痛くなくなった…」

久野里「…」

「…ごめんね、お姉さん…」

「…あの時、お姉さんなんか病気になっちゃえ!…って、思っちゃったの」…

久野里「…何?」

「だけど、お姉さん、悪い人じゃないんだね!」

「ありがとう!お姉さん!」  

久野里「…」

久野里「…あぁ、私も…悪かった」




神成(…それが悪い方に転ぶかは、まだわからないが)

神成(だが、それ自体は、久野里さんの変化自体は、きっといいものなんだろう)




久野里「…何だ?」

神成「何でもない」

久野里「…神成さん」

神成「…ん?」

久野里「…きっと私は、悔しいよりも、憧れてたんだ」

久野里「私も、その和に入りたかっただけなんだ」

神成「はぁ?」

神成「何を…」

久野里「何でもないよ」

久野里「ふふふ、あはは」

久野里「そうか、そうか」

神成「…」

久野里「神成さん、あんたの事を無能と呼んだこと、訂正するよ」

神成「…ん?」






久野里「あんたはただの、お人好しだ」ニコッ

泉理「…尾上さんと」世莉架「…南沢さん」








(夢を見る)

(記憶を無くして、まだほどない頃)

(私は、起きた時には覚えていないけれど、とてもとても、悲しい夢を見ていた)

(それは私が、親友を殺す夢)

(私が、大好きな人の、家族を殺す夢)

(…だけど、あんなことがあった今だからこそ、分かる)

(…きっとあれは、私なんだ)

(…確証はないけれど、あれはきっと、現実なんだ)

(そして、今は、起きた時も、その夢を断片的に覚えてる)

(暗い暗い、闇の中に自分が沈んでいて)

(そして、そこからすくい上げる為に、大好きな人が手を伸ばしてくれる)

(わたしはその手を振り払おうとするけれど、振り払えなくて)

(大嫌いな光の下に、引きずり出される)

(その夢を見る度に、思う)

(もしあれが、本当に現実に起こったことだとするなら)

(彼女達は、今の私を見てなんて言うだろう?)

(ふざけるな?)

(それとも、良かったね?)

(どちらにしても、もう)

(彼女達に、会うことは無いだろう)

(言葉を交わすことは無いだろう)

(それこそが、部外者へ成り下がった私への罰であり)

(嘘で塗り固めていた、私への、罰なのだから)






うき「横浜、ですか?」

雛絵「おーおー!いいっすねー、横浜」

結人「…姉ちゃん横浜行くの?」

華「…羨ましい、かも」

泉理「ちょ、ちょっとちょっと!何を勝手に盛り上がってるのよ」

泉理「行くなんて一言も言ってないでしょう?」

泉理「誘われたってだけよ」

雛絵「えー?誘われたってことは、行くってことじゃないんですかー?」

泉理「うちにはそんな金銭的、時間的な余裕はありません」

華「…もったいない」

泉理「そもそもあなた達には関係の無いことでしょう」

雛絵「もったいないっすよー、ね、結人きゅん」

結人「…まぁ、うん」

うき「せ、折角出来たお友達から初めて誘われたんですから…!」

華「行くべき…」

泉理「あ、あなた達ねぇ…」

雛絵「結人君とうっきーなら心配ないすよ!ね!華!」

うき「変な呼び方しないで下さい」

雛絵「手厳しいー!」

華「…ん…!」

泉理「…」

ドンッ!!


うき「ひゃっ…!」

雛絵「おー、相変わらず久野里さんはカリカリしてますなー」

華「…さっき神成さんが入っていったから…別の音かも…」

雛絵「何ぃー!?もしかしてあれの音なのかー!?」

雛絵「確かに最近、怪しいよねーあの2人!」

うき「…?あれって何ですか?」

結人「…」カァァァァッ

泉理「…あ、り、む、ら、さん?」

泉理「それ以上うちの兄弟に変なことを吹き込むと、分かってるわよね?」

雛絵「やだなー!分かってますよー!」

泉理「本、当、に、分かっていますか?」

雛絵「…はい」

華「…」カタカタカタカタカタカタ

泉理「…」

結人「…で、どうするの?」

泉理「…」

うき「隠し事は、無しですよ」

泉理「そ、そりゃあ…」

泉理「…行きたいわよ…行きたいけれど…」

雛絵「はい華ー!」

華「…じゃじゃーん…」

泉理「…な、何!?」

雛絵「こんな事もあろうかと、うきと結人君は毎月少しずつお小遣いを貯めていましたとさー!」

華「…私が預かってた…」

泉理「…!」

雛絵「小銭とお札合わせて、占めて一万三千円かー」

華「これだけあれば…遊ぶくらいは出来ると…思う」

結人「…」

うき「…」

結人(…僕らが貯めてたお金より明らかに多いよね)ヒソヒソ

うき(…二人共、素敵な、お友達ですね)ヒソヒソ

泉理「…あなた達…」

雛絵「さぁさぁ!据え膳食わぬは乙女の恥ですよー!泉理先輩!」

華「…お土産話、待ってる…」

泉理「…」

泉理「…分かったわ、ふふ、ありがとう、皆」

泉理「…うき、結人…お姉ちゃん、沢山楽しんでくるからね」

結人「…行ってらっしゃい…」

うき「行ってらっしゃい…です…!」

華「…ん」

雛絵「あでぃおすぐらっしあー!」

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