一夏「みんな・・・・死んでる?」(52)

is学園 寮 夜

今日もお茶を飲みながらシャルと雑談をしていると。

突然シャルが背筋を伸ばして俺に言う。
シャル「あっ、そういえばおいしいお団子が手に入ったんだぁ♪」

お団子とは、シャルもすっかり日本に馴染んでいるみたいだな。

「へぇ、しかしこの時間に食べたら太っちまわねーか?」
俺は少しいじわるな言い方をしてシャルの反応をうかがう。

シャル「だ、大丈夫だよ!だって僕、全然太ってないし・・・・」
まるで取り繕う様に俺に言い訳をしながら棚を漁るシャル。

シャル「これこれ!京都の有名なお団子なんだって!」
得意げにシャルが机の上にもってきた『団子』

「なぁ・・・これ食べたことあるのか?」
俺はシャルに確認する。この時間にみたらし団子は無いだろう・・・。

シャル「無いよ!だって、一夏と一緒に食べたかったから大事に取っておいたんだもん。えへへ」
かわいい笑顔とは裏腹に机の上に置かれたみたらし団子。爆弾だ・・・しかし断るのもシャルに悪い。

「じゃ、じゃあ・・・・1つ貰うよ・・・・・。」
俺は観念して、1本だけ食べることにした。恐る恐る口の中へ持っていく。
シャルは俺の反応を伺う様にニコニコと俺を見つめていた。

口の中でねばねばとタレが粘つき、餅が口の中のありとあらゆる部分にくっつく。
奥歯は悲惨な状態だ。

シャル「じゃあ僕も食べるね!」
勢いよくシャルは小さな口でみたらし団子を咥える。
俺はシャルの反応を楽しみにするように上目遣いでシャルを見る。

シャル「うっ・・・・・・・。」
予想通りの反応。俺は笑いを堪えながら言う。

「シャ、シャル・・・・お前本当に分かりやすいな。」
そんな俺の反応に対して、シャルは怒っているような照れているような反応を返す。

シャル「もぉ・・・一夏のバカっ!」

「自業自得って奴だ。良かったな、いい勉強になったろ?」
俺は自信たっぷりに、諭すようにシャルに言った。

シャル「でも・・・一夏、文句も言わずに食べてくれたんだよね・・・・。ありがとう、一夏。」
少し体を前のめりにして、シャルは俺の目を覗き込みながら笑顔でお礼を言う。

「お、おう・・・気にするな!それより口の周りが大変なことになってるぞ?」
俺は照れ隠しをする様にシャルに言った。

シャル「えっ、あぁ・・・ほんとだ・・・・・・」
シャルは小さな指で口の周りを確認した。

ティッシュを探し始めるシャル。俺はそれを制止するように言う。

「ティッシュで拭くと更にひどいことになるから。濡れタオルがいい。ほら。」
シャルは濡れタオルで口を拭く。俺も拭かないと。
一通り拭きおわったシャルのタオルを受け取る。

シャル「えっ、それ僕が拭いたのだよ?いいの?」
何かに焦っているようにシャルは慌てて聞いてくる。

「だから気にして無いって・・・・」ふきふき
俺は口を拭いてタオルを洗濯籠に放り込んだ。

午後11時前
そろそろ寝よう。今日の放課後の訓練はいつもよりハードだったせいか疲労が睡魔を誘う。

シャル「うん、そろそろ寝ようか。お休み、一夏。」

明かりを消す。ベッドに入る。
胃に少し違和感を覚えながら俺は疲れをベッドに染み込ませるように眠った・・・・。



俺はいつも通り目を覚ます。
シャルはまだ眠っているようだ。昨日のみたらし団子が利いて寝不足なのだろうか?

俺は少し笑みを浮かべながらシャルを起こしに行く。
肩を揺さぶりながら声をかける・・・・・あれ、様子がおかしい・・・・・・・・。

呼吸をしていない!
急いで脈を取る・・・・脈も無い!

俺は急いで人工呼吸と心臓マッサージを行う。

帰って来い!帰って来るんだ、シャル!

俺は30秒ほどシャルの蘇生を試みるが・・・どうやら俺の手には負えないようだ・・・・・・。

周りの誰かに助けをもとめなければ、シャルが死んでしまう。
俺は箒の部屋へ向かう。鍵はかかっていない。ドアを弾き飛ばす様にして中に入る。

箒はまだ寝ていた。
俺は箒の体を揺らしながら、半狂乱になりながら大声を挙げる。

「箒、起きてくれ!シャルがまずい状態に・・・・・・・・」

俺は箒の体を揺らし続けるが、箒の体は力なく揺れるばかりだった・・・・。

「箒・・・・?」

急いで呼吸、脈の確認をする。
俺の行動が虚しいことであるかのように箒は何も応えてはくれなかった。

隣のベッドで寝ている同居人の女子も確認する。
シャル、箒とまったく同じ状態・・・・。

呼吸も脈も無い・・・・死んでいるのか?

なぜだ・・・ほ、他の生徒は!

俺はつまづきそうになりながらも急いで他の部屋も回る。

この階にいる人間は全員同じ状態だった。

携帯で千冬姉に連絡を・・・・・しかし、携帯からは無機質な声が聞こえてくる。

『現在、電波の状態が・・・・』

そんなバカな!

画面では、3本の柱が電波状況が良好であることを教えてくれている。

俺は自室に戻り、シャルの携帯を見てみる。電波状況に問題はない。

シャルの携帯へ電話をかけてみる・・・・結果は同じ。電波状態が悪い・・・・。


携帯の真っ暗な画面には、俺の絶望した顔が映りこんでいた・・・。

俺は寮の中を全て調べて回る。
鍵がかかった部屋は勢いをつけて蹴り飛ばし住人を確認して回る。全員同じ状態。

「これじゃあまるで死体安置所だな」

俺は空元気を搾り出し、ポツリとひとりごとを言う。


手がかりを求め、is学園校舎へ向かうことにした。

まだ千冬姉も教員も登校していないようだ。校内には誰も居ない。
俺が起きたのが午前5時、いつも箒との特訓の準備をする時間だ。

既にあの時間からこの状態になってしまっていたのだとしたら?

恐らくそんな時間に起きている人間はほとんどいないはずだ。
全員死んでいるのか?

この現象はなんだ?
一体この現象はいつ発生した?
そしてなぜ俺だけ生きている?

学園の外に出る。誰もいない・・・・。
静かだ・・・・静か過ぎる・・・・・。

てす

俺は無駄とは分かっていも民家のドアをノックする・・・・応答はない。

俺は家の周りを一周するように庭を歩く・・・。

大きめの窓ガラス・・・・あった!リビングのようだ。

カーテンの隙間から、窓の近くに人がいないことが確認できた。
俺は近くにある植木鉢で窓ガラスを叩き割り進入する。

なんとなく悪い気がして忍び足で歩きつつ

「お邪魔します。」

などと呑気な言葉が口をついて出る。
寝室を探す・・・。結果は想像通り・・・・。
いくつかの民家を手当たり次第に当たっては見たが、同じ結果だった。

少なくとも、もうこの島はダメだ。俺は脱出することを考える。
モノレールは運転の仕方が分からない。もし事故を起こせば瀕死は免れない。
船を使おう。確か船着場があったはずだ、そこの船で本州へ向かおう。

何か手がかりになるものがあるはずだ・・・・。

俺はコンビニで2・3日分の食料を調達し、船着場に向かう。

本州までは近い。4~5人が乗れる程度の小型船でいい。

・・・・・・見つけた。エンジンも付いている。非常用の浮き輪付き。
ガソリン切れを考慮してオールを探し船に積み込む。

俺は、この状況から湧き出している心の底の苛立ちを吐き出すように
エンジンのスタータハンドルを思い切り引っ張る。

ギンッ!・・・ギンッ!・・・・ドゥロロロロロロロロ・・・・・

なんとも頼りないエンジン音を響かせて、存在を主張するエンジン。

俺は船のロープを外し、出発する・・・・・。

微風

陽射しが少しまぶしい。

太陽の角度から見て、午前10時と言ったところか。


ブォオオオオ・・・・ざばぁん・・・・・ブォオオオオ・・・・・・・

陸地が近づいてくる。あと10分くらいで到着できるだろう。

俺は後ろに目をやる・・・・。

何か、大切なものがまだあそこには残っているような気がした。

そして顔を前に向けた瞬間、俺は目を疑った。


100mほど先、俺の進行方向に少女らしき人間がいる。

そして・・・・海の上に立っている・・・・・いや、浮いているのか?


俺の全身に鳥肌が立つ。少女の強い視線のせいだ。

見られている。

あんなに遠くにいるのに、ものすごい・・・殺気のような、哀れむような視線を感じる。

俺は船の舵を少女に向ける。

顔が確認できる距離・・・・俺は更に全身に鳥肌が立った。

目がない・・・・鼻もない・・・・あるのは口だけ・・・・そして、その口はニタニタと笑っている。

そして、顔が確認できたと同時に少女は姿を消した。

太陽に照らされ、綺麗な光の粒になって風に流されていくように・・・・・。

wktk

俺は少女が居たであろう場所で船を止め、海中を観察する。何も無い・・・・。
周囲を見渡す・・・・特に変化はない・・・・・・。

一体彼女は何だったのだろうか。だが、俺に興味を持っているような視線・・・。

恐らくまた出会える。

そして彼女がこの現象について何かを知っている・・・・。

俺はそんなことを藁にもすがるような思いで自分に言い聞かせる。
あの不気味な笑みを浮かべながら・・・・・。


本州に着く。分かりきっている。そんなこと。しかし焦りが俺を突き動かす。

俺はすぐに民家を当たる。何枚ガラスを割っただろうか・・・・みんな死んでいた。

俺は落胆しつつ、食料と寝床の確保のために大通りに出る・・・・。

見つけた!俺は道に立ち尽くす、数人の人間を!

俺は笑顔で走り寄る・・・・しかし、近づくに連れ俺の顔はどんどん硬直していく・・・・・・。

固まっている・・・・。
まるでマネキンのように・・・・。

何人も・・・何人も・・・・・皆、時が止ったように固まったまま死んでいた。

何気なくひとりのサラリーマンの左腕に目をやる・・・・・時計が午前5時で止っていた・・・・・。


時間が止っているのか?

だからみんな死んでいるように見える?

原因は・・・・・あの少女か?

何のために?
俺に向けていたあの視線、あの不気味な笑顔・・・・・・さっきの接触は、差し詰め顔合わせということか。

俺は思考をめぐらせる。あくまでも『もしも』の場合だ。

もしも、少女が時間を止めて、俺に「何か」をしようとしているとすれば?

しかし、時間を止められる程の力を持っている少女が、俺に「何か」をするためだけに、
なぜ俺だけが動ける状況を作った?

俺も動けない状態にしてしまえば、少女にとって有利だ。だがそれをしなかった・・・・。
そしてあの不気味な笑顔・・・・俺で遊んでいるのか・・・・・・・・?
俺を甚振って楽しんでいる・・・・?

そう結論付けた瞬間、俺の全身を鳥肌が走り抜ける。
急いで周りを見渡す・・・・。少女はいない・・・・。

安堵する・・・・疲れているのだろう・・・・・下を俯いて深呼吸をして、空を見上げた・・・・・ビルの上から少女が俺を見ていた。
ニヤニヤと、のっぺらぼうの様な顔で、まるで蟻を観察するかのように見てくる少女。

太陽の逆光により、その薄気味悪さは以前にも増して俺の恐怖心を煽る。

俺はすぐに背中を彼女に向けて逃げ出す!

何度も後ろを振り返り、少女が追ってこないか確認する・・・。
彼女は目で追うように不気味な笑顔で俺を見つめていた・・・・・・。

どれくらい走っただろうか・・・・目視で彼女が確認できないほど遠くまで逃げた。路地に隠れる。
またどこかから俺を見ているのかもしれない。そんな恐怖心から俺は周囲への警戒を怠らざる負えない。

路地の壁から少し顔を出し安全を確認する。

・・・問題なさそうだ。俺は恐る恐る、近くのコンビニで食料の調達をする。
固まってはいるが、さすがに店員も客もいるようだ。

学園近くのコンビニでは誰もおらず、店員もオフィスで休憩していた為か、見かけなかったのだろう。

俺は携行しやすく、カロリーの摂取できるものを漁る。
カロリーメイト、ペットボトルの水・・・・・。

コンビニの奥から搬送用のカートを探し出し、ダンボールを載せ次々と放り込んでいく。

これで一週間は保つだろう。

寝床を探さなければ。
俺は周囲を見渡し、近くのビジネスホテルに入る。

恐らく全室オートロック。

特定の部屋のキーが無いとわかればすぐに居場所がばれる。
俺はマスターキーを探す・・・・・・・恐らくこれだ。キーの持ち手の部分が他とまったく違う。

俺は非常口近く、角部屋に入ることにする。
しかしエレベーターが動いていない。

俺は制服を風呂敷代わりにして2階まで荷物を運ぶ。
カートは部屋まで運ぶのは邪魔臭かったため、階段を上がってすぐの部屋に放り込んでおいた。

俺はアジトとして活用する部屋へ戻り、外の安全を壁際から確認する。

太陽は疲れたと言わんばかりに、世界をオレンジ色に染めながら沈みかけていた。

俺も今日の出来事で心も体も疲れきっていた。

カーテンを閉めれば他の部屋との違いですぐ感づかれる。
明かりもつけられない・・・。

カーテンが閉められない以上外からは丸見え。ベッドで寝ることはできない。

俺はロッカーにあった毛布を引きずり出し、食料をロッカーに詰め込む。
そして風呂で寝ることにした・・・・。

「こんな小手先だけの事をしてもすぐ見つかるぞ?」
「いつも先回りしてくるような奴なんだぜ?」

もうひとりの俺が言う。

しかし足掻かないでいては俺の気が納まらなかった。
それに、少しでも不安を減らしたかった・・・・。

風呂場は冷える・・・・。外はどうなっているだろうか・・・。
そんなことを考えながら俺は体を丸めて風呂桶で眠りについた。

まるで棺桶の中にいるような、落ち着かない気分のままで・・・・。

翌朝

目を覚ます・・・・。体の節々が痛い。

俺は音を立てないよう慎重に体を起こし、部屋への扉を開ける。

少し扉を開けて、部屋の状況を確認し、特に問題がないことを確認・・・。
朝飯を食う。

食料が尽きるまではここに立て篭もることにしよう。
しかし夜の寒さが堪える。俺は他の部屋の毛布をかき集めに行く。

廊下へのドアを開けた。

俺は硬直する。


目の前にあの少女が居た!


距離にして約1m、黒く長い髪。白い肌に白い患者衣。そして裸足・・・。

体を硬直させている俺の顔を見上げながら少女はニタニタと笑っている。

その口の中は歯こそあれど、真っ暗な闇のようだった。
白い歯とのコントラストで余計に暗く、ドス黒く見える・・・。

俺を吸い込んでしまう程に・・・・。



次の瞬間、我に帰った俺は絶叫しながら後ずさる。

彼女は動かない・・・まだニタニタと笑って俺を観察している。

「お前は一体何なんだ!」

「俺をどうしようっていうんだ!」

俺は半狂乱になりながら少女に今までの疑問を爆発させるようにぶつける!

俺の発言を聞いた途端、少女の笑みが・・・・・・・消えた。

俺はぞっとする。

笑みが消えた

たったそれだけのことだ。
だが今の俺にとって、混乱させるのには十分な行動だった。

俺の問いかけが引き金になって笑みが消えた?

奴は何か行動を起こすのか?!

最悪の予想が的中した。
彼女が俺に詰め寄ってきた。既にその顔に笑みは無い。悲しい顔。人を哀れむような顔。

俺は尻餅をつき、両手足をジタバタと暴れさせ、狭い部屋の中で、隅まで逃げる。

無駄な行為だとわかっていも・・・・・。

そして俺はハタと気付く。そういえば、ここは2階だ!窓から飛び出せば・・・・しかし、既に遅かった。

少女は俺を見下ろせる位置まで既に迫ってきていた。

俺は体を丸め、目を瞑り顔を埋める。ガタガタと震えながら・・・。

10秒だろうか20秒だろうか・・・・時間だけが過ぎていく。


腕の裾に違和感を感じた・・・引っ張られている・・・・?

俺は顔を上げる。少女は口を横一文字にし、真剣な表情で俺の袖をか弱い力で引っ張っている。

「付いて来いということなのか・・・・?」

俺が少女に問いかけると、少女は首をゆっくりと縦に振った。

その時の彼女は、悲しさの中に少し優しさの様なものを感じさせた・・・・。

俺はゆっくりと立ち上がる。少女は俺の顔を見上げた後、ゆっくりと部屋の出口へ向かう。

ぺた・・・ぺた・・・・ぺた・・・・・・

少女の足音が静かな部屋に・・廊下に・・・時の止まったこの世界に響き渡る・・・・。

気がつくとホテルの外・・・・。

どうやら俺に危害を加えるつもりは無いようだ。

俺は少女の後ろ姿を見ながら歩く。

華奢な体。太陽の陽射しに照らされて揺れる黒い髪。
昨日までは恐怖を煽るようなそれが、今となっては綺麗な・・・天使のように輝いて見えた。

少女は歩く・・・・船着場に向かっているようだ。

数十分ほど歩いただろうか、俺達は船着場に到着した。

少女が立ち止まる。俺もそれにつられて立ち止まった。

すると少女は俺の方を一度振り向き、少し笑みを浮かべる。
昨日までとは打って変わって普通の少女の笑みだった。

そしてある船を指差す。

「あれに乗ればいいのか?」

俺の問いかけに少女はこくりと頷く。
俺はその船に向かって歩き出す少女は俺の後ろを歩きついてくる・・・・。

大きい船、クルーザーだ。

俺は船の桟橋で船を見上げて立ち止まる。

少女はそんな俺を一瞥し、船の中に入っていく・・・・。

俺は焦るように彼女を駆け足で追いかけた・・・。

この船の中に何かあるのだろうか?

少女が船の操縦席に立つ。俺は隣で見守ることしかできない。
こんな船、俺には操縦できない。

色々なメーター、書かれている単位の意味さえ分からない。

少女はそんな俺に気付いたのか、あるボタンを指差す。
俺にそれを押せ、ということだろうか。

俺はボタンを押す。
次はレバー・・・次々と少女は指をさし、俺はそれに従う。

気が付いた時には、俺は少女と運命共同体のような感覚を覚えていた・・・。

船のエンジンに火が入る。すると少女は俺を残して桟橋に向い、縄を外す。

船を出せ、ということだろう。

俺は少女が戻ってくるのを待つ。一体どこへ向かうのだろう。

俺は不気味な笑顔を浮かべていた時の少女の顔を思い出しながら、思考を巡らせるが結論は出ない。
今は従うしかない。少女が今の俺にとっての唯一の羅針盤・・・。

少女が操縦席に戻ってくる。指示を出してくる。

船がゆっくりと動き出す・・・・舵を取る。

少女は俯きながら少し悲しい表情をしてある方向を指差す。
俺はそれに従い船の舵をそちらに向ける・・・・・。

何時間経っただろうか・・・・。
彼女は俺の隣に立ち、『ある方向』に向かって指を差し続ける。
相変わらず俯き、悲しい表情をしている。

無人島ような小さな島が見えてくる・・・・・。船着場も見えてきた。
太陽は既に真上から少し傾き始めている・・・・。

俺は少女の指示で船を船着場に寄せて静止させた。それにしても小さな島だ。
方角から見て、小笠原諸島付近だろうか・・・・。

少女は何か、大事なことを決意したように歩き出す・・・・。その後姿に敵意は感じない。
しかし、先ほどとは打って変わって歩幅が小さい・・・・。

それから伝わってくるのは、悲しみを押し殺しているような、
まるで今から向かう先の事を考えて憂鬱な気分になっているような、そんな感覚・・・。

俺は少女に付いていく・・・・昼間だというのに薄暗い森の中を・・・・・・。

森の中を歩く・・・人が通った後が見て取れる。
誰かが、それも結構な頻度で通った後がある。

明らかに獣道ではない。

5分ほど歩いただろうか・・・。コンクリートで出来た倉庫の様なものが見えてきた。
ドアがある・・・・暗証番号のパネル・・・・・?

少女はパネルの番号を指差す。俺に押すべきボタンを教えてくれているようだ。
俺はそれに従いボタンを押す・・・・。気味が悪いとはこのことだ。
知らない、それも不気味な姿の少女に、不気味な島・・・・・・。

俺はそんな感情を押し殺しつつボタンを押し続ける。

ガチャッ

ドアの施錠が解かれる音・・・。

少女はドアの取っ手を見つめる・・・・入れ、ということだ。

ドアを開ける。とても重い。俺は両手で取っ手を掴み思い切りドアを引っ張る。

ギギギィィィイ・・・・・・

重厚な音を立てて扉が開く。なんて分厚さだ・・・30mmはある。
それに、恐らく鉄板・・・・まともな施設じゃないのは明らかだった。
中は地下へ続く階段が延々と続いている。蛍光灯が天井に並び、とても明るい。

少女はその階段を降りる・・・・。

ぺた・・・ぺた・・・ぺた・・・・・

小気味良い少女の足音が響く。
一体何が俺を待ち受けているのだろう・・・・。

俺は恐怖感から来る緊張を押し殺し、階段を降りる・・・奇心とも言えるような少し不思議な感覚が俺を突き動かしていた。

階段は続く・・・・・・。

途中、左手にドアを見つけた。
『s-4』と書かれていたが、少女は目もくれず階段を降りる・・・。

まるで、何か義務でも果たすかのように・・・・。

階段が・・・終わった。前方には壁。左手には・・・・『s-x』と書かれたドア。

『x』という文字にはいろんな意味がある。
明らかに他のドアとは違う・・・異彩を放つ重厚なドア。

一体何が俺達を待ち受けているのだろうか・・・・。

がんばれ

暗証パネル・・・少女の指示通り俺はボタンを押す。

ガチャ、ガチャ、ガチャ・・・・

3つの施錠が矢継ぎ早に解除される。
厳重すぎる・・・明らかにおかしい・・・・・。

俺の頭のなか中では恐怖心というものは薄れ、好奇心が渦巻いていた。
ドアを開ける・・・・・またも重たいドア・・・・・。

階段とは打って変わって中は暗い。

俺は目を凝らすが、瞳孔が慣れるまで視界が悪い・・・。

彼女がぺたぺたという音を立てながら、中に入っていく。
俺は目が慣れるまでその音を頼りに、彼女に付いて行くことにした・・・。

彼女の足音が止る。それと同時に俺は何かに躓いた。

目が慣れてくる・・・・その、『何か』が目に飛び込んできた。

束さんだ。

束さんが毛布に包まって倒れている。

俺はかがんで、束さんの脈を取る・・・・・・死んでいた。

俺は何かを確認するように少女の顔を見上げた。

少女は悲しい表情をしながらも、束さんに哀れむような、
殺気の様な感情を向けていた・・・・。


少しずつ目が慣れてくる。周りを見渡す・・・・・・なんて広さだ!

体育館並みの広さ。天井までの高さは5~6mはある・・・・・。
数秒経ち、また少女は歩き出す。
部屋の内装は真っ黒。大小の機材が置かれている・・・・。
大きなものは一辺が5mほどある物もある・・・・。

少女はあるpcの前で立ち止まった。

俺はその椅子に座る。

3重のパスワード・・・・少女の指がキーボードのキーを指差す。
俺は言われた通りに指を動かす・・・・。

デスクトップ画面・・・・・少女は画面内のフォルダを指差す。
俺はそれに従いマウスでフォルダを開いていく・・・。

カチカチッ

まるで俺達を翻弄するかのような、大量のフォルダとファイルの数々。
そしてあるファイルに行き着いた・・・・・・・文章ファイル?

ファイル名は、『研究日誌』

ログイン画面からして、恐らく束さんの書いたもの・・・・。

俺は、確認を取るように少女に目をやる。

「見たくない」という意思表示だろうか。
少女は俯いて、座り込んでしまった。


俺はこの『研究日誌』を開く・・・・・なんだこれは。

1991年12月10日
タイトル:実験失敗

人工頭脳の起動実験はまた失敗。これで何度目だろう。
研究員と話し合うけど全然話が進まない。
このプロジェクトの落としどころが掴めなくなってきちゃった。

1991年12月20日
タイトル:実験失敗

研究員の士気に影響が出始めてる。どうしよう、何か対策を練らなきゃ。
プロジェクトを止めるわけにはいかないし。

その後も続く・・・・

大量の『実験失敗』の文字・・・・。

俺はそれを読み飛ばし、どんどんマウスでスクロールしていく・・・・・。

そして、『異物』を見つけてしまった・・・・・。

1999年2月4日
タイトル:打開策の提案
打開策を思いついた。この状況を一気に逆転させられるかもしれない。
人工頭脳を作れないなら、人間の脳を使えば良い。

研究員に反対されるけど、「私の妹のクローンを使う」
そう提案したところ渋々みんな納得してくれた。後は私の仕事だ。



この日記が束さんのものだとすれば・・・・妹は、箒?箒のクローン?
箒のクローンの脳を一体何に使うんだ・・・・?

俺はスクロールを下げ続ける。


2001年5月9日
タイトル:遂に実験に成功
箒ちゃんの脳の一部分を圧縮してコア内部に侵食させることに成功。

まるでコアが「待ってました」と言わんばかりに脳を食べているみたいだった。
これでコアは完成、isの完成までもう少し。

俺は絶句する。コアに人間の脳を使っている・・・それもクローンとは言え、箒のものを?
一体何を言っているんだ束さん・・・・

2002年1月20日
タイトル:コアの培養と分裂に成功
コアの量産に向けた実験が成功。これでオリジナルのコアも必要無い。
コピーのコアからも分裂が確認できた。一気にコアの量産が可能になる。
そろそろ学会に発表しよう。

クローンの箒ちゃんはもう用済み。安楽死させてあげよう。


2003年3月7日
タイトル:国連からの指摘
せっかくisを完成させたというのに、国連からisの量産停止を指示された。
長い間研究を続けて、やっと完成させたものをこんなに簡単に止めさせるなんてショック。
でも、コアの個数制限だけだから、質を上げればいいだけ。
古いコアから破棄して、更に能力を向上させたコアを作り続けよう。

俺の右下で三角座りをして俯いている少女に目をやる・・・もしかしてこの少女は・・・・・・・。
じっと少女を見つめていて、俺は気付く。幼い頃の箒にそっくりじゃないか。

もしかして、このことを俺に教えたかったのか?

俺は一気に最新の研究日誌にスクロールする。

2010年2月3日
いっくんがis学園に入学するらしい。
嬉しいなぁ。手回しした甲斐があった。
いっくんには白式を回してあげよう。
コアは、取っておいたオリジナルのものを使ってあげることにした。


「俺の白式に使われているコアには箒のクローンの脳が使われているのか!?」

俺は椅子から立ち上がり、興奮してそう言った瞬間、少女がゆっくりと立ち上がる。

そして・・・話し始めた。

少女「そう。私は箒のクローン。あなたにこのことを知って欲しくてここに連れて来た。」

少女の声は、幼い頃の箒そっくりだった・・・・。

pc画面の明かりに照らされた少女の顔は、悲しみを無理やり押し殺したような、
何かを諦めたような作り笑顔をしていた。

少女「そしてここは、コアのコピーを作る施設。」

「からっぽの脳のはずのお前がなぜ俺のことを知っている?」
「それにこの施設のことも・・・・・・・・」

少女「コアに学習機能が付いていたり、搭乗者との相性の問題があるのは、からっぽの私の脳が使われているから。」

少女「私は、あなたのisのコア。少しずつ学習して、あなたのことを知った。パートナーとして使ってもらううちに・・・・」

少女「あなたに搭乗してもらううちに私に自我が芽生えた。そして少しずつ施設について情報を集めた。」

少女「コアはネットワークを持っていて、ネットワークを介してこの施設の内部に侵入することもできた。」

少女「そして情報が十分に揃ったからあなたにこのことを伝えることができると判断してこの行動に出た。」

少女「私のことを知って欲しくて・・・・。」

少女は全てを打ち明けた事で、引っかかった物が取れたような顔をして天井を見上げた。


「・・・・みんなを殺してまで、か?」
俺は少女に少し怒りを覚えつつ、問いかける。

少女「大丈夫。誰も死んでない・・・・・これはコアを通して見せているただの仮想現実。本来のあなたはまだ眠っている。」

少女「だから、そろそろ目を覚まして・・・・・そして忘れないで・・・・・私のことを・・・・・・・・。」

「ま、まだ聞きたいことが・・・・・・・」

俺の視力がどんどん低下し視界がぼやけていく。
平衡感覚も失ってしまい、椅子から地面に倒れこんでしまった。

そして瞼が俺の意思とは裏腹に、この世界と俺との間を引き裂くように降りてくる・・・・。

少女「見つめていて、怖がらせたのはごめんなさい。」
懇願するように俺に謝る少女。
そして、俺の意識が遠のく中で、ニコリと笑って少女は別れの言葉を言う・・・・。

少女「また・・・・・ね。」

少女の優しくも悲しい、別れの言葉を聴いた瞬間に俺は目を覚ました。

俺はすぐに周囲の状況を確認した。

いつもの寮の部屋。
いつものベッド・・・・。


俺は呆然としていた・・・・あれは夢だったのか?
それとも本当のことだったのだろうか・・・・。

俺は右腕のガントレットに目をやる。

窓から差し込む光で白く輝くガントレット。

少しだけ、優しい温もりを感じたような気がした・・・・・。

ガントレットを見つめながら、少女に語りかけるように言う。

「またね、じゃなくて。これからもよろしく、だろ?」


end





>>1です

ちょっと質問なんだけど、俺はシリアス系のssやbadエンドばっかり書いてるんだ
でもなんとなく受けが良くないように思うんだ。

別に好きに書いてるから書き続けるつもりだけど、ちょっと理由が分からなくてアドバイス欲しいなぁ、と。

なにが悪いのか、そもそも悪いのかも分からないがシリアスかどうかは関係なくないか?

>>45
そういうもんか、気にせず書き続けるわ
thx


俺はシリアス大好きだから嬉しい

終わったように見えるが特におわりとか書いてなかったので迷ってたんだけど
完結作をまとめるスレにさっき載ったので、完結してたのを理解。乙

>>48
一応、endとは書いたんだけども・・・・

ホントだ!なぜか見落としていた

乙。
受けが悪いというか、単純にシリアスはコメントしづらいだけかもしれんよ。
まぁisssはこういうの少ないからこういうのもっと書いてくれ

てすと

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