俺ガイルss もっとも最低な解決方法 (86)

俺ガイルss 林間学校の話になります

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今回、俺たち奉仕部は千葉村へ来ている。


小学生の林間学校やってるんでそのボランティアをやらされているからだよ。


え?何でそんな面倒なことしてるのかだって…?


あの独身の陰謀に決まってるだろ。そうでなきゃ家でゴロゴロしてたわ。


まあそれは置いといて、


夕飯も食い終わり俺たちは葉山グループと共にある話し合いをしている。


それはこの合宿である小学生のイジメ問題が発覚したからだ。


イジメを受けている少女の名は鶴見留美。


そんなわけで俺たちは鶴見留美ことルミルミを救うべく話し合っているのだが…



平塚「それでキミたちはどうしたいのかね?」


葉山「俺は…可能な範囲で何とかしてあげたいです。」


雪乃「…あなたには無理よ。そうだったでしょう?」


三浦「ちょっと、雪ノ下さん。アンタ、何?」


ハァ、ダメだこりゃ。一向に話が進まん。

葉山はみんなで話し合えば解決するとか戯言を抜かしてるし、

雪ノ下は出た意見を尽く否定してばかりで自分ではまともな意見を一切言わない。

つーか雪ノ下は葉山のこと目の敵にしすぎだ。何があった…?

三浦に至っては、
『あの子結構可愛いんだから他の子と仲良くすればいいじゃん。』とか言い出す始末。

おまけに海老名さんは腐女子全開で趣味に生きろと。未来ある小学生を腐った道へ導くな。

そんな話し合いに飽きたのか、

平塚先生もあとは俺たちに任せると丸投げして自分はさっさと寝ちまった。

俺はそんなヤツらにうんざりしてこの話し合いの場からこっそり抜け出した。



八幡「まったく、葉山の世間知らずめ。」


八幡「今日会ったばかりの俺たちで解決できる訳ないだろうが…」


俺はそんな独り言を愚痴りながら夜道を歩いていた。

そう、俺たちは高校生でイジメに合っているルミルミは小学生だ。

俺たちの付き合いは今回限りのものに過ぎない。

葉山の言う通り、強制的にルミルミとイジメを行っているヤツらを話し合わせてみろ。

あとで必ずトラブルが起きる。何故ならやり方が中途半端だからだ。

高校生に頼るなんて生意気だ、またイジメてやるってな。

結局のところ、何もしないのが一番なのにあいつらはそれがわかっていない。

あ、ちなみにソースは勿論俺自身だけど…



八幡「そういえば…あいつらのグループといるといつも問題が起こるよな。」


俺は葉山たちとのこれまでのやりとりを思い出していた。

戸塚の依頼であったテニス部の強化。

その際にコートへ乱入してわけのわからない勝負を持ち込まれた。

それにこの前のチェーンメール事件。

結局犯人は明かさなかったが間違いなく噂になっている三人の中に犯人はいるはず。

それなのにあいつらは付き合いをやめない。

今後もあいつらのトラブルと関わるのかもしれないと思うと気が思いやられる。

どうしたもんだか…



留美「あ、え~と…」


八幡「八幡だ。比企谷八幡。さっき自己紹介したばかりなのにもう忘れんなよルミルミ。」


留美「ルミルミじゃない。留美。八幡こそルミルミ言わないで。」


八幡「それでこんなところで何してんだ?」


留美「散歩…他のみんなとは一緒に居られないから…」


ルミルミじゃなくて留美は俯いた顔をしてそう答えた。

それに留美の手元にはカメラが…

なんでも親が友達と居る証拠に写真を撮ってこいとか言われたらしい。

イジメられている娘に対して随分と酷なことを言う親もいるもんだ。

こんな状況で葉山たちは留美を無理やりみんなの輪に入れようとするんだからな。

所詮ぼっちの心はぼっちにしかわからんのだ。

あんなリア充どもに解決できるとは思えん。

まあこんなことを言ってもあいつらは聞く耳持っちゃくれないだろうがな…



留美「八幡も悩み事…?」


八幡「まあな。恐らく留美と同じ悩みだ。
リア充どもがお前を救いたいんだってさ。まったく笑えるだろ?」


留美「救うって…どうやって…?」


留美の問いに俺はさっきのやり取りをありのまま伝えた。

そのことを聞いた留美は青ざめた顔になり嫌悪感を顕にした。



留美「みんなと話し合うだなんて無理…
そんなことで解決したらこんなことにはならなかった…」


八幡「…だよな…あいつらにはそれがわからないんだろうが…」


留美「もう嫌だ…どうにもならないよ…」


葉山たちが留美のために起こす行動がまさか留美自身を苦しめているとは…

まさに皮肉だ。ありがた迷惑…いや…単なる迷惑でしかない。

それは留美の目から涙がこぼれ落ちるほどだ。

恐らく留美自身わかるんだろうな。

あの集団の前では自分の意見を通せるはずがない。ぼっちはどこまでも除け者だと…



八幡「なあ、本気で嫌なんだな?」


留美「嫌だよ…今のみんなと仲良くなるなんて絶対無理…」


八幡「それなら…俺に依頼してみないか。」


留美「依頼ってどういうこと…?」


八幡「言ってなかったが俺は奉仕部っていう変な部活をやっている。
そこではお前のような困っているヤツを手伝うことをしているんだ。」


それから俺は入部当初に雪ノ下が俺に説明していたことをまんま伝えた。

飢えた人間に魚を与えるのではなく魚の取り方を教えると。

留美は直接助けるのと手伝うのと何がちがうのかと聞いたがまあそれは置いておこう。

実のところ俺自身もそのちがいがわからんしな。



八幡「とにかくだ、お前が助けを求めるのなら俺は全力で応える。どうだ?」


留美「うん、八幡はあの人たちとはちがう。信じられる気がする。」


八幡「そうか。ならこの依頼は引き受けた。よろしくなルミルミ。」


留美「だからルミルミじゃなくて留美だから!」


こうして俺は留美の依頼を引き受けた。

だがこの時の留美はまだ気づいていなかった。

俺がこの依頼を引き受けたのは留美のためだけではないことを…

それはこの後に起きるある事件に繋がるとは俺以外の誰が予想しただろうか。


翌日―――


八幡「肝試ししかないな。」


結衣「肝試し…?」


雪乃「あなたいきなり何を言ってるの?」


葉山「ヒキタニくん、ちゃんと説明してくれないか。」


俺はみんなの前でこのイジメを根本から解決する方法を伝えた。

今夜行われる肝試し。

そこで俺たち高校生が留美たちのグループに対して脅しを仕掛ける。

それで留美をイジメているヤツらの仲に亀裂が生じるだろと説明してみせた。



結衣「うわ、ヒッキー最低だ。キモい!」


戸塚「そんなことしたら問題になるよ。」


八幡「それについては大丈夫だろ。
元々イジメをしていたヤツらだぞ。公になれば鶴見留美に対するイジメも発覚する。」


雪乃「なるほど、親に知られたらその子たちにも不都合だから。
さすがは悪谷くん。あくどい手を考えたら右に出る者はいないようね。」


雪ノ下が俺を褒めてんだか罵倒してんだかよくわからんことを言ってるが…

まあ気にせず聞き流そう。

さてと、問題はここからだ。



八幡「それじゃあ脅し役だがこれはそれなりに迫力が大事だ。
小町や戸塚のような天使のように純粋なヤツには務まることはできない。」


戸塚「そんな…純粋だなんて…」


小町「えへへ~♪お兄ちゃんポイント高いよ!」


八幡「それに由比ヶ浜のようなアホの子にも務まらない。」


結衣「アホって言うなし!」


八幡「そんなわけでこの役は俺が引き受けるんだが…」


さぁ、ここまで言えばそろそろ食いついてくるはずだ。



葉山「いや、この役は俺にやらせてくれないか。」


八幡「葉山か。いきなりどうしたんだ?」


葉山「キミにばかりカッコつけさせるわけにはいかないからね。
それにこれじゃあ俺たちが活躍できずに終わってしまう。
だから俺にも協力させてくれ。」


三浦「隼人がやるならあーしもやる!
調子に乗ってるガキんちょにお仕置きするの楽しそうだし!」


戸部「なら俺も!なんか面白そうじゃん!」


葉山に続いて三浦と戸部も参加した。

面白そうだとか言ってるようだが、

こいつらにはこの件が留美にとって死活問題だということをわかってんのかね?



海老名「私はパスするね。私じゃ脅し役は無理っぽいし…」


雪乃「私たちは普通に子供たちを脅かす役をしましょう。」


八幡「それじゃあこれで配役は決定したな。あとは頼んだぞ。」


こうして葉山たちは意気揚々と夜が来るのを待ち遠しくしている。

まるで楽しい遠足前の小学生みたくはしゃいでいる。

だがやはりこいつらにはわかっていない。

イジメの本質。それに無自覚なまでの無責任さが…



留美「八幡お待たせ。言われた通り誰にも言わないで来たよ。」


八幡「よし、ここまでは順調だな。」


あの話し合いから暫くして俺は誰にも告げずに留美と二人きりで落ち合っていた。

それにはある理由があるからだ。


八幡「いいか、これをお前に託すぞ。」


留美「これってもしかして…?」


八幡「これは小町から借りた物だがまあお前も同じ物を持ってるだろ。使い方はわかるな。」


俺は小町から借りたそれを密かに留美に渡した。

これこそが今回の依頼を成功させる鍵だ。



八幡「それと…実はだが…これをやる前に言っておかなきゃならないことがある。」


留美「言っておかなきゃならないことって何…?」


八幡「すまん、実はこの件を利用しようとしている。それについて謝らなきゃならん。」


俺は留美に対して頭を下げた。

昨夜、留美を助けたいという想いに嘘はない。

けど俺にはそれとは別にもうひとつ、ある思惑があることを留美に打ち明けた。



留美「でも八幡は私のことを助けてくれるんでしょ?」


八幡「ああ、それについては本当だ。嘘はつかない。」


留美「それなら私も八幡を信じる。だからお願い。必ず私を助けて。」


八幡「わかってる。必ず助けてやる!」


こうして俺たちは誰にも知られることもなくその誓いを立てた。

確かに俺は嘘をつく。

だが助けを求めてきた留美に対しては絶対に嘘はつきたくなかった。

そして夜になり肝試しが始まった。



「キャーッ!」


「怖いよー!?」


「助けてー!!」


俺たち高校生が扮するお化けの格好に誰もが怯えている。

ちなみに俺はノーメイクなのに怯えられているのは納得がいかない。

それにしても眠いな。

昨夜、戸部の恋バナを聞かされてまともに眠れなかったからか。

なんでも海老名さんに気があるだの葉山も気になるのはイニシャルYだとか、

そんなくだらない話のために俺の貴重な睡眠時間を削るなってんだ。

まあ戸塚の寝顔が可愛かったのだけが救いだけどね。

さて、そんなことをしているうちにようやく留美たちのグループがやってきた。



戸部「あー?な~にタメ口聞いてんだよ?」


三浦「別にあーしらアンタらの友達じゃないんだけど?」


葉山たちは予定通り留美たちのグループを脅している。

さっきまで優しく接していた高校生がいきなり態度を豹変させればそりゃ恐いだろうな。

つーかあいつら調子に乗ってやってるだろ。


葉山「半分は見逃してやる。あとの半分はここに残る。誰が残るか自分達で決めていいぞ。」


それから葉山は手筈通り生贄を差し出せと言った。



留美「私が…行く…」


葉山「よし、いいぞ。それじゃあ次は誰だ?」


由香「誰って…」


ヨッコ「仁美ちゃんが行きなよ!」


仁美「そんな…森ちゃんが…!」


森ちゃん「嫌だよ!?」


留美のグループは誰もがお前が生贄になれと言っている。

だが誰も率先してそれをやろうとはしない。

既に留美は生贄になっているんだ。

あとは醜い押し付け合いしか残らない。

これでイジメを行っていたお前らの仲はおしまいだ。



戸部「お前ら早く決めろよ!」


三浦「あーしらいつまでも待てないシ!」


葉山「それじゃあ秒読みしよう。10数えるまでに決めてくれ。」


それから葉山はわざとらしく秒読みを開始した。


葉山「5…4…3…」


さぁ、もうすぐ秒読みは終わる。

今だ!やれ!




((ビィィィィィィィ!!))



葉山「な…何だ…?」


戸部「この音…何だよ…!」


三浦「これ…もしかして防犯ブザーの音!?」


そう、留美が押したのは防犯ブザーだ。

それはさっき俺が密かに留美へ渡した物だ。

それから留美は大声でこう叫んでみせた。



留美「助けてぇぇぇぇぇっ!!」


葉山「ちょっと…待ってくれ!」


仁美「そうだよ…私たちも…」


ヨッコ「うん!」


森ちゃん「早く!」


由香「せーのっ!」




「 「 「助けてぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 」 」




留美が叫ぶのを見て他の連中も必死になって叫んだ。

この事態に葉山たちは戸惑いを隠せずにいる。

そしてこの悲鳴を聞いて小学校側の教師がぞろぞろと集まってきた。

さぁ、ここからが本番だ。



「これは一体どういうことだ!」


「キミたちは何を考えている!?」


葉山「これは誤解なんです!」


戸部「俺らはその…」


三浦「あーしらはあの子を助けるために…」


葉山たちは小学校側の教師たちに取り押さえられていた。

さらに追い打ちをかけるように留美は警察へ連絡までしてしまった。

そしてパトカーまで現れ、もうどうにもならない事態にまで発展する。



海老名「ちょっと…これどうなってんの…?」


結衣「ゆきのん…どうしよう…」


雪乃「それは…」


小町「ねぇお兄ちゃん…どうするの…?」


戸塚「そうだよ八幡…このままじゃ葉山くんたちが…」


その光景を見て唖然とする雪ノ下たち。

だが俺は…


八幡「とにかく下手なことを言うな。お前らまで巻き込まれたいのか?」


それだけ言うと誰もが黙りこんだ。

未だに不安がっているが…

悪いがまだネタばらしできないんだよ。

なんせここからが肝心なんだからな。



八幡「まったくお前ら最悪だな。」


葉山「ヒキタニ!キミからも何か言ってくれ!」


戸部「そうだよヒキタニくん!助けてくれよ!」


三浦「そうだし!これはアンタが言ったことだし!?」


葉山たちは必死になって俺に助けを求めた。

だが俺は…



八幡「ああ、勿論言ったぞ。
あの小学生たちは留美をシカトしてるから懲らしめてやったらいいんじゃないかってな。
まあその意味じゃ俺も同罪か。ハハハ。」


葉山「おい…何を言ってるんだ…?」


三浦「ちょっと…やめろし…」


戸部「今…それ言うことねえじゃん…」


俺にあっさり否定されて愕然とする葉山たち。

そんな俺に対して警察や小学校側の教師が疑いの目を向けた。

まあこうなるのは仕方ないかと覚悟したのだが…



留美「待って、八幡は私の相談を聞いてくれただけなの!八幡は悪くない!」


葉山「そうだよ留美ちゃん!
キミにはわかるよね。昨日俺はキミを助けようとしたじゃないか!?」


留美「あの…あなたに助けを求めたことなんてありませんよ…?」


葉山「え…?」


留美「私が助けを求めたのは八幡だけです。
八幡は私の悩みをちゃんとわかってくれた。
そもそも迷惑でした。
勝手にみんなのグループに入れようとしたり一体何なんですか?」


葉山「いや…俺は良かれと思って…」


留美「大体私はあなたに留美ちゃんなんて呼ばれたくありません。
馴れ馴れしいです。
おまわりさん悪いのはこの人たちだけ。だから早くこの人たちを連れて行ってください!」


それから今の留美の発言を聞いた警察官や小学校側の教師も、

留美の言い分を信じてあいつらをそのまま連行していった。

残ったのは呆然と立ち尽くす俺たち総武高の学生たちだけだ。



海老名「ちょっとヒキタニくん!これはどういうことなの!?」


結衣「そうだよヒッキー!説明して!」


雪乃「比企谷くんなんとか言いなさい!」


葉山たちが連行された後、俺は雪ノ下たちからこのような詰問を受けた。

まあ当然か。

それに対して小町と戸塚は心配そうな目で俺を見ている。

やはりこの二人は天使やで。

俺は戸塚に小町をまかせると雪ノ下たちを連れてある連中のところへ向かった。

それは勿論、先ほど葉山たちが脅かしていた留美のグループだ。



八幡「よぅ、さっきは悪かったな。留美大丈夫か?」


留美「うん、八幡のおかげでうまくいったよ。」


海老名「うまくいったってまさか…」


雪乃「あなた…鶴見留美さんと共謀していたの!?」


そうだ。俺は留美と共謀して葉山たちを陥れた。

その事実を聞いた海老名や由比ヶ浜、

それに留美をイジメていたヤツらは俺と留美を睨みつけた。



八幡「お前らが言いたいこともわかる。
だがまずは俺たちから言わせてもらうぞ。留美、言ってみろ。」


留美「うん、私は今までイジメられるのがつらかった。
それは以前にも私がイジメに加わっていたのもあるけどでも今は私だけがイジメられてる。
こんなのはもう嫌…」


海老名「だからって何で隼人くんたちを貶めるの!筋違いでしょ!?」


留美「だってあの人たち…何かしようとしてたから…」


結衣「それは留美ちゃんを思って…」


由比ヶ浜は葉山たちが留美のことを思ってやったと言う。

だが俺はその言葉に疑問を持つ。

何故なら…



八幡「なあ、海老名さん。今回の件だがもし失敗していたらどうなっていたと思う?」


海老名「失敗していたらってそれは…」


八幡「勿論これはもしもの話だ。
葉山たちの方法が失敗して留美はさらにイジメを受けました。
…なんてことになったらどうしていた?」


海老名「それは…たぶん…それで諦めて帰っただけだよ…」


そうだ。海老名さんが言ったことは正解だ。

結局、俺たちの付き合いは今回限りにしか過ぎない。

葉山たちがやろうとしたことはこの問題を解決でも解消させることでもない。

悪化させようとしただけ。

しかも性質が悪いのはそれだけじゃない。



八幡「そしてあいつらは責任も負わずに留美の前から姿を消していただろうな。」


結衣「そんなはずないよ!?」


八幡「いいや、そうなるんだよ。
雪ノ下は奉仕部としての活動で留美を助けようとした。
けどあいつらはちがう。
気紛れ…いや…これをイベントの類だと思って面白半分で関わろうとしてただけだろ。
そうじゃないのか?」


海老名「ハハ…手厳しいことを言ってくれるね…」


俺の問いかけに海老名さんは思わず苦笑いを浮かべた。

恐らく海老名さん自身も思うところがあったのだろう。

俺の意見を否定しないのがなによりの証拠だ。



雪乃「言いたいことはわかったわ。
けれど何故この話をこの子たちの前で言う必要があるの。
こんな話は私たちだけで十分のはずだと思うのだけど…?」


八幡「勿論意味はあるぞ。
おいお前ら、まさかと思うがこれで全部チャラになったと思ってないよな!」


仁美「え…だって悪いのはあの人たちだよね…」


ヨッコ「そうだよ。私たちは関係ないよ!」


由香「私たちは被害者なんだから!」


森ちゃん「そうだよ!」


自分たちは関係ない。むしろ被害者だ。

確かにこいつらからしたらそうなのだろう。

だがそうは問屋が卸さないんだよな。



八幡「確かにそうかもしれないな。けど葉山たちはそう思わないんじゃないか?」


由香「何で…?」


八幡「当たり前だろ。
事情はどうあれお前らだって助けてって叫んでたよな。
つまり葉山たちにしてみればお前らも共犯扱いなんだよ。」


ヨッコ「それじゃあどうしたらいいの…!?」


どうしたらいいのか?

そこで俺はふたつの方法を提示した。

まずひとつはこの件を大事にしてこのまま刑事事件に発展させること。

だがこれには無理がある。

葉山たちはまだ未成年だ。

告訴したところで初犯扱いにより不起訴にされる可能性が高い。

そんなわけでもうひとつの方法を提示してやった。



八幡「雪ノ下、お前の出番だ。
確かお前の家は葉山の親父さんに顧問弁護士をやってもらってるはずだよな。」


雪乃「そうだけど…あなた…まさか…?」


八幡「よし、お前たち。このお姉さんにこう言え。

『お願いです。助けてください』ってな。

このお姉さんの親父さんはあの金髪(葉山)の父親の雇い主だ。
だからあいつらを遠いところへ行かせることができるぞ。」


その話を聞いた子供たちは我先にと雪ノ下に頼み込んだ。

『お願いします』

『復讐なんかされたくない』

『だから助けて』

そう何度も懇願した。中には土下座するヤツまで…



結衣「ちょっとヒッキー!こんなことしなくたって…」


海老名「そうだよ。隼人くんたちだってそんなことしなくたってわかるはずだよ。」


八幡「つーかお前らも雪ノ下にお願いしなくていいのか?
特に海老名さんはしておいた方がいいと思うぞ。」


結衣「何…言ってんの…?」


八幡「葉山たちが子供たちを恨む可能性があるのは勿論だが、
その矛先が俺や子供たちだけなわけがないだろ。お前らが狙われる可能性だってあるぞ。
お前らも葉山たちが捕まった時に何もせず見ていただけなんだからな。」


それを聞いた途端、由比ヶ浜は俯いてしまった。

まあ俺が黙っておけと言ったのもあるがそれ以上擁護しなかったよな。

さてと、もうひと押しか。



八幡「特に海老名さんが一番やばいだろうな。」


海老名「どうして…私が…」


八幡「俺がこの配役を決めた時、海老名さんは自分から脅し役を拒否してたろ。
あれじゃあ俺と手を組んであいつらを嵌めたと思われるぞ。
しかも海老名さんはここへどうやって来た?」


海老名「それは…」


八幡「確か葉山たちと一緒に来ていたはずだよな。
アンタ帰りもあいつらと一緒にいられるか?
一人だけ助かった卑怯者をあいつらは受け入れてくれると思うのか?
ありえないな。だから帰り道は地獄だぞ。まあその地獄が帰り道だけならいいが…」


本当に海老名さんが脅し役に加わらなくて助かった。

まあ何かを察してこの役を辞退したんだろうが…

だが今回関わってみてわかったがこの人の本質は俺と同種だ。

つまりぼっちなんだ。

ああして葉山や三浦と仲良くしているが決して一線は踏み越えない。

だからアンタはこれ以上何も言えないはずだ。

それとダメ押しに言っておくか。



八幡「それとだが戸部が海老名さんのことを好きだって言ってたぞ。」


海老名「戸部っちが…私を…?」


八幡「本気かどうかは知らん。だがそれがどういう意味かわかるな。」


結衣「何言ってんの!好きになるのは普通じゃん!」


八幡「確かに普通ならそうだ。
けど仲のいいグループ内でのことだぞ。
海老名さんが戸部のことを好きかは知らん。もしかしたら戸部はフラれるだろう。
そうなったらどうなる?」


海老名「たぶん…私は…戸部っちをフッてそれであのグループは…」


八幡「ああ、亀裂が生じるだろうな。それでお前らのグループはどの道終わりだ。」


まあこの辺に関してはどうだかわからん。

だが思い当たる節はあったようだ。

海老名さんは俺の言葉に納得した素振りを見せている。

そして…



海老名「わかった…ヒキタニくんの言う通りにするよ…」


結衣「姫菜…でも…」


海老名「結衣わかって…私たちは共犯者なんだから…結衣だってどう思われてるか…」


結衣「そんな…」


よし、これで海老名さんはいい。

由比ヶ浜もこの様子なら周りに合わせるだろう。

こいつも葉山のグループだが何かできるような力はない。

黙って見ているしかないだろうな。

さてと、次は…



八幡「雪ノ下、お前はどうする?」


雪乃「私は…こんなこと…許されないと思うわ…」


八幡「認めたくないか。だがこうなる可能性をお前は考慮すべきだったぞ。
そもそも俺たちがしようしたことは危険性があるものだった。
なんせ子供を脅す真似をしなきゃいけない。
警察に通報されるのも覚悟しなきゃいけなかったんだからな。」


雪乃「けど…それでも…」


八幡「恐らく葉山たちがこの脅し役を引き受けたのも、
俺がこの悪ガキどもはイジメをしてるから、
こっちが脅しても何も言えないと教えたからいい気になって引き受けたんだろ。
そうじゃなかったらあいつらは絶対こんな悪役はやらなかったはずだ。
それはつまりこの件に関わる覚悟が足りなかった。そうじゃないのか?」


俺の意見に雪ノ下は何も反論できずにいる。

そりゃそうだろう。

俺がこの案を出した時、雪ノ下も乗っかったんだ。

つまり雪ノ下もどんなに反論しようと共犯になる。

それが今になってようやくわかったようだな。



雪乃「けどこれは明らかに卑劣な行いよ。悪いけど警察に行って事情を話すわ。」


八幡「事情を話すのは構わんがそうなると留美はやばいことになるぞ。」


雪乃「それは…どういうこと…?」


八幡「昨夜、お前らは留美を救うとか言って長いこと話し合っていたよな。
だがこのまま雪ノ下が警察に行って事情を説明したら、
葉山たちは解放されるかもしれんが留美のイジメは再発するぞ。

『お前のせいで警察沙汰になった。どうしてくれる!』

この悪ガキどもは間違いなくそう思い留美に復讐するぞ。

今度はシカトだけじゃすまされない。どんな目に合うか…」


雪乃「そんな…」


八幡「そしてこの依頼は成し遂げられずに終わる。奉仕部唯一の汚点になるな。」


そう言い切ると雪ノ下はそれ以上何も言わなかった。

もう自分が反論できる要素が何もないと悟ったのだろう。

さて、これでこの場にいるヤツらを全員言いくるめたぞ。

最後の締めをやるか。



八幡「それじゃあ全員で写真を撮ろうぜ。」


結衣「写真って…こんな時に何言ってんの…?」


八幡「実はな、留美が親に友達と写っている写真を撮ってこいって言われてるらしい。」


留美「うん、だからどうしても撮らなきゃいけないの。お願い、一緒に撮って。」


由香「ふざけないでよ!何でこんな時に!?」


ヨッコ「そうだよ!」


八幡「断るのは構わんがそれが何を意味するのかわかってるよな。
もうこの場にいる俺たち全員が共犯者だ。誰かを裏切るわけにはいかない。」


八幡「裏切ったら…どうなるか…わかるか…?」


俺の脅しに留美をイジメてたヤツらが全員ビビった。

あれ?ハチマンそんなに恐かったなんて心外…

まあそのおかげかみんな言うこと聞いてくれたんだけどね。

おいおい写真撮るんだからもっと笑顔になってくれよ。これじゃあ心霊写真になるぞ。


八幡「はい、チーズ!」


こうして留美を中央に囲い子供たちはひきつった笑顔で写真を撮った。

ちなみに写真には俺たち高校生も入っている。

この写真はこの場に写っている全員が共犯者である証だ。

誰か一人でも裏切ればどうなるか…

まさか留美の親は夢にも思わないだろうな。

自分たちが娘に命じて撮らせた写真が犯罪の証拠だなんて…



八幡「さてと、これで全部解決したな。」


そう呟くと俺は可愛い小町と戸塚が待つコテージへ急いだ。

ちなみに由比ヶ浜と海老名は何も話さずさっさと行ってしまった。

まあ今のあいつらの心情からすれば当然か。

しかし我ながら最悪な手を思いついたもんだ。

だがこれからのことを考えれば…

そんな俺の前に雪ノ下が強ばった顔をさせてやってきた。

要件はわかっている。



雪乃「ねえ、何でこんなことをしたの?」


八幡「それはどういう意味だ。」


雪乃「とぼけないで。
わざわざ葉山くんたちを貶める必要がどこにあったのか聞いてるの!」


何で葉山たちを貶める必要があったかだって…?

確かに今回の件で葉山たちを貶める必要は全くなかった。

だが何故そうしたのか?

それはいい機会だったからさ。



八幡「なあ雪ノ下、お前が初めて三浦とやりあった時のことを覚えてるか?」


雪乃「それは勿論よ。
彼女が由比ヶ浜さんをまるで奴隷のように言うことを聞かせていたのに腹が立って…」


八幡「そうだな。
それにテニス勝負の時もあいつらは俺たちが使っていたコートに我が物顔で荒らした。」


雪乃「まさかあの時の仕返しにこんなことをやったというの!馬鹿げてるわ!?」


いやいや、俺だってあんなことくらいで復讐したりしないよ。

本当だからね。ハチマン嘘つかないから!

そうじゃなくて…



八幡「それにこの前のチェーンメールの件。
あいつらはいつもトラブルを引き起こす元凶みたいなもんだろ。」


雪乃「確かにそうかもしれない。けど…だからと言って…」


八幡「恐らくだがあいつらはこの後も何かトラブルを起こしていただろうな。
俺たち奉仕部はこれから先ずっとあいつらの尻拭いをやっていかなきゃいけないのか?」


雪乃「それは…」


八幡「俺は御免だ。そんな面倒に巻き込まれてたまるか。」


そう、俺は今回の件を利用して葉山たちを貶めた。

勿論留美にはこのことを事前に説明した。

けれど俺は留美を利用してしまった。そのことに関しては罪悪感がある…

所詮俺は薄汚い人間だ。これだけ大勢の人間を巻き込んでるんだからな。



雪乃「正直…あなたのやったことは許されるべきではない…」


雪乃「こんな結末なんて…」


雪乃「あなたのやり方…嫌いだわ…」


雪ノ下は俺のことを真っ向から否定した。

当然だ。

こんな行いを許してもらおうなんて思っちゃいない。


雪乃「けど…それでも救われた人もいるようね…」


その言葉を聞いて俺はうしろを振り返った。

誰かが俺たちのところへやってきた。



留美「八幡…」


八幡「留美、どうしてここへ来た?先生に叱られだろ!」


留美「お礼が言いたくて…助けてくれて…ありがとう…」


八幡「馬鹿だなお前…こんな俺に礼なんかすんな…俺はだな…」


留美に礼を言われた時だ。

俺の腐った目から涙がこぼれ落ちた。

何で涙が…?

俺は感謝されるようなことなんて何も…



八幡「つーかお礼を言うのは俺の方だ。
さっき俺は葉山たちと一緒に連行されようと思った。
けどそれを留美が阻んでくれたよな。」


留美「うん、だって八幡は私を助けてくれた。だから私も八幡を助けただけ。」


八幡「そっか…ありがとな…」


俺は留美の頭をそっと撫でた。

留美もそれを嫌がるでもなく受け入れてくれている。

どうやら俺がやったこともあながち無駄じゃなかったようだ。



留美「それと写真…撮りたくて…」


八幡「写真だと…?写真ならさっきあいつらと一緒に撮ったのがあるだろ。」


留美「ちがう。八幡と一緒に撮りたいの。一番仲のいい友達と撮りたいから…」


友達って…

俺はお前と友達になった覚えはないぞ。

だがそんなことを言おうと思ったら、

雪ノ下は留美が持っていたカメラを手にして写真を撮ろうとしていた。



雪乃「最低な方法だけどあなたはこうして鶴見留美さんを助けた。」


雪乃「それは誰からも褒められたことじゃないけれど…」


雪乃「ひとつくらいいいことがあっても許されると思うの。」


それから雪ノ下は俺と留美の写真を撮ってくれた。

それは先ほどのような上辺だけの付き合いを描いた醜いものじゃない。

心から笑顔になれた一枚の写真だ。

こうして俺たちの夏合宿は終わり、それから1ヶ月後の時が過ぎた。



<一ヶ月後>


八幡「今日も暇だな。」


雪乃「そうね、けどいいことじゃない。
私たちに依頼がないのはこの学校が平和だというなによりの証拠よ。」


八幡「まあそうだな…」


あの夏の合宿から早一ヶ月。

あのあとのことを説明しておこう。

葉山たちは小学生を脅したとして問答無用で退学処分を喰らった。

事件の詳細を知った被害者の親から刑事告訴されてしまったらそりゃさすがにな…

それにこの件には雪ノ下家にも知られたらしく、

葉山たちはその計らいで千葉から遠い地へ転校することになった。

ちなみに奉仕部の人間関係にも変化はあった。

由比ヶ浜が退部した。理由はわからなくもない。

今は海老名と二人で絡んでいるそうだ。

葉山の一件もあり他の取り巻き二人とはあまり話をしていないとか。

まあそのことについてはどうでもいいが…

戸塚は相変わらず俺に優しくしてくれる。まさに天使だ。

ちなみに平塚先生だが…

これは当然だがこの件で引率者としての監督不行が発覚して停職処分を受けたらしい。

どうやら俺らが3年になるまで復職するのは難しいとか…

まあこの件を俺たちに丸投げしたのは平塚先生自身だし、

これに懲りたら今度は責任を放棄しないで頂きたい。



八幡「それで…雪ノ下…何でお前は俺を追い出さないんだ…?」


雪乃「あら、いきなりどうしたのかしら?」


八幡「だってそうだろ。俺はお前が嫌うやり方をやったんだぞ。普通なら追い出すだろ?」


雪乃「追い出すことなんてできるはずがないわ。
まず私はあなたの共犯者。
いつあの事件の真相を誰かに告げ口されるかわかったものではないから…」


そんなことしねーよ。

少しは俺のこと信用しろっての。

まあ無理なのはわかるけどさ…



雪乃「それに…私も鶴見さんの気持ちがわかるから…」


八幡「それって以前言ってたイジメられてた時の話か?」


雪乃「そうよ。私も小学校の頃に鶴見さんと同じくイジメられていた。
勿論私はやり返したけど、それでも当時は誰か味方がほしかったと何度も願ったわ。」


八幡「確か葉山はお前と幼馴染だったろ。助けてもらえなかったのか?」


雪乃「無理、あの男は子供の頃からみんな仲良くを信条にしていたから…
だからみんなの中に入れなかった私は葉山くんに助けてもらうことはできなかった。」


なるほど、雪ノ下もぼっちだからな。

だから留美のことを救おうと躍起になってたわけか。



雪乃「ねえ…もしもの話だけど…
私があなたと同じ小学校にいたらあなたはどうしてくれたのかしら?」


八幡「さあな、もしもの話なんて今更したところで仕方ないだろ。」


雪乃「そうよね…」


八幡「けど…お前があの時の留美と同じく助けを求めたらきっと助けてたかもしれんな。」


勿論、雪ノ下が嫌う最低な方法でな。

そんなことを言うと雪ノ下は変な顔を浮かべた。

それは嬉しいような嫌そうななんとも読み取るのが難しいものだ。

まったくハチマンわけわかんない。

そんな時、俺の携帯にメールが入った。留美からだ。



八幡「あ、ルミルミだ。学校終わったから帰りに何か奢ってくれだと…?」


雪乃「あなた、彼女と連絡を取り合っていたの?」


八幡「メルアド教えてくれって言われてな。
それ以来いつも向こうから一方的に連絡してくんだよ。」


雪乃「それでは私も同伴するわね。
ロリコン谷くんが間違いを起こさないように監視してあげないと。」


ロリコン谷って俺は犯罪者じゃないから!

年下は可愛いと思うが恋愛対象にしたことは…

まあそんなことを思いつつ俺たちは部室をあとにした。

ちなみにその後のことだが…



この後、開催された文化祭は雪ノ下が実行委員長となり何事も問題なく開催した。

相模…知らない子ですね?

修学旅行も誰かが告白することもないので平穏に終わり、

生徒会選挙でもあざとい後輩が生徒会長になりたくないとか言ってたが、

なんとか言いくるめて生徒会長にさせた。

こうして俺たちはこの夏休み以降は何事もなく平穏無事に学校生活を過ごした。

やはりあの時の俺の行動はまちがっていなかったようだ。


おしまい。

これにておしまいです

本当に最低な解決方法でした。

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