客観的に見て (6)

<注意>
 今後の展開は一切考えておらず、全て成り行きです。ご了承下さい。
                            
 俺にはたった一人の、長い長い付き合いのある友達がいた。「ハルト」だ。
 ハルトは気遣いの出来る良い奴で、暗く捻くれた俺にも接してくれた。そんなハルトを、俺はあろうことか殺してしまったのだ。
 理由はとてつもなくしょーもないものだった。俺が好きだった女子とハルトが付き合いだしたのだ。
 そんなしょーもない理由からハルトを殺してしまった事に対する後悔に苛まれながら、俺の意識は途絶えた。そして、今に至る。
 現在俺は、幼少期のハルトになっている。いや、厳密にはハルトの体を通して、ハルトが見ていることや思っていることを覗き見していると言った方が正しいかな。

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 最初は何が起きたのかさっぱり分からなかった。どうやら他人の体に移り込んでしまったらしい事は確かだが、自分の意思で体を動かせないのだ。そのくせ、体は俺の意思に関係なく勝手に動く。操縦の出来ないガンダムに乗った気分だった。
『ハルト〜、ご飯よ』
 暫くして、この体の持ち主の母親らしき人物に呼ばれる。
『はーい』
 そして、またしても俺の意思に関係なく答える。声変わりしていないハルトの声で。前々から思っていたが、これではっきりした。俺はハルトの体に移り込んでしまったのだ。
 何故だろうか? これはハルトへの贖罪なのだろうか? 生前リア充だったハルトはきっと根暗ボッチで捻くれ者の俺と関わりたくなかったのだ。俺を嫌っていたのだ。いや、むしろ憎み恨んでいたかもしれない。
 これは贖罪だ。俺に、ハルトがどれだけ俺を嫌っていたかを見せつけるためだ。

 ハルトは幼稚園に行っていた。この頃から俺とハルトは友達だったが、今はまだ友達になっていない。思えばハルトとどうやって友達になったのだろうか? 全く思い出せない。まぁいいや。いずれその時が来る。っと、考え事をしてたら視界の端に俺がいた。教室内で相変わらず一人遊びをしている。あれは、あれか。画用紙に好きな歌の歌詞を書いてるのか。一度女子に音読されて恥ずかしかった。後ろからいきなりはやめてくれ。
 そうこうして数日、ずっと俺観察をしていたある日の放課後のことだった。俺の母とハルトの母が仲良く話し出したのだ。馬が合ったのだろうか、それから幼稚園がある日はずっと話し込んでいる。そして親同士が話している間、必然的に俺たちは話す事になった。(俺は親に半ば強制的に話させられたけどな)
 子は親に似るとはよく言ったもので、それから俺たちも次第に仲が良くなってきて、自然と友達になった。
 その頃のハルトの気持ちはまだ、『フーくんと一緒、楽しいな』という純粋なものだった。良かった。あ、ちなみに俺の名前、「フユキ」な。

 そして時は過ぎ、俺たちは小学生になった。小学生になってからも俺の根暗ボッチ捻くれ者キャラは変わらず、相変わらず友達はハルト一人だけだった。それに反してハルトはますますリア充になり、早くもクラスのリーダー的存在になっていた。擬似的にだが、女子にキャーキャー言われたり、クラスのみんなに頼られたりするのは気持ちが良かった。
 その後もそんな関係が続き、俺たちの存在認識がいよいよ確立してきた小三の夏のある日のこと、遂に事件は起こった。俺の靴が隠されたのだ。前々からいじめられていたのだが、靴を隠されたのは今回が初めてだ。
 事件が発覚し、先生がその事をクラスのみんなに告げたがみんな興味なし。そりゃそうだろうな。さて、ハルトはその事についてどう思っていたのだろうか。きっと、「ザマァwwwww」くらい思ってたんじゃないだろうか。しかし、現実はこれとは全くと言っていいほど違った。ハルトはこう思っていたのだ。
『フーくんの靴を盗むなんて……うらやま、いや、許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない……俺がきっちり捕まえて、報復を』
 ヒッ! こ、怖い。ハ、ハルトくん? 君はいつからヤンデレになったのかな? いや、きっとこれは俺を友達として大切にするハルトの純粋な気持ちがそう思っているのだ。良かった良かった。俺は安堵したが、それは半分正解だった。
 靴を盗まれた日、俺は仕方なく帰ろうとしたが、ハルトは俺に走り寄ってきて靴を貸してくれたのだ。『僕のフーくんを、靴下だけで、帰らせるわけにはいかない』今、禍々しいものを見た気がする。とにかく、俺は多分その時『盗まれたのは俺のなのに悪い』みたいなことを思って丁重に断ったのだ。ハルトは渋々ながらも受け入れてくれた。そして次にハルトがでた行動は報復だった。
 ハルトは学校に残り、以下のように考えた。
『犯行時刻は昨日の午前八時から午後四時まで、その間生徒たちは、授業中。犯人を同級生に絞り、一番足が速い奴でも休み時間中に教室から下駄箱まで行き靴を盗むのは不可能。しかし、下駄箱の近くにある音楽室ならば足が遅くても十分可能。昨日音楽の授業があったのは二組だけ。よし、昨日の音楽の時間不審な動きをしたものがいないか調査だ』
 そして幸いにも、いやこの後の報復を考えると不幸にもか? リア充ハルトはすぐに犯人を見つけた。犯人の名をばササキノノハという。クラスでは準レギュラーのような存在で少し派手だ。
 犯人が見つかり、ハルトは放課後、男子トイレにノノハを呼びつけた。マジキチスマイルで。以下、二人のやり取りである。
『な〜に、ハルトくん♪』
『あぁ、ちょっとね。そこの壁に背中をつけてくれる』
 そして壁に背中をつけるノノハ。ハルトはおもむろにポケットに手を突っ込みハサミをとりだす。右手にハサミを持ったハルトは、空いた左手でノノハの頭を強引に押さえつける。そして右手に持ったハサミをノノハの首に当てた。
『ねぇ、ノノハ。君ってフーく、フユキくんの靴を隠したんだよね』
 ハルト、笑顔が怖いよ。
『え、なんのこと? 私、何もしてないよ。それよりハサミ、離して危ない』
『フフッ。次一文節以上喋ると殺すよ。君には「はい」か「YES」以外の選択肢はないんだよ』
『……ッ。う、ヒック、ヒック、ズズッ』
『泣いてたら分からないなー。それにせっかくの綺麗な顔が台無しだよ。でも、もっと泣いたら君の顔は最早人間のそれではなくなるけどね。僕の手によって。ハハッ。……フー、どうする。このまま黙って僕に殺されるか、自分から先生に報告するか。まぁ、報告しても君は転校になるんだけどね』
『え、転校?』
『うん、そうだよ。知らなかった? 僕のお父さん、教育委員なんだよ。しかも結構お偉いさん』
『そんな……。靴を隠した程度で?』
『靴を隠した程度? 笑わせるね。君のその行為でフユキくんがどれほど傷ついたのかわからないの?』
『じ、じゃあ直接フユキくんに謝らせてください。それでチャラに』
『ううん。そんなことはさせない。今フユキくんは甚大な被害を被ってるんだ。君の顔なんか見たら発狂して即廃人だ。おっと、そろそろタイムリミットだね。どうする? 二つに一つだよ』
『わ、私がやりました。先生に報告します』
『うん、よろしい。じゃあ、行こっか♪』

 ………………狂ってる。ハルト、お前。

 数日後、突然ノノハの転校が知らされた。ノノハは結構嫌われていたようでみんなは清々したと転校してからも陰口を叩いていた。それを終息させたのはなんとハルトだった。みんなの前で名演説を披露し、見事陰口は根絶された。お前が転校させたんだろ。

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