勇者「魔王城に乗り込んだ」(42)

魔王城
謁見の間

勇者(魔王討伐の王命を受けて魔王の城に乗り込んだはいいが……)

魔王「おぉ、やっと来たか……やっほー」

勇者(なんだこの幼女。黄金色瞳、青い肌に白っぽい銀髪、真っ黒の角からして魔族だろうが……こんな容姿の魔族が魔王、だなんて言わない……よな?)

魔王「ようこそ、魔王城へ……ふはははははははは!」








勇者「……ちっこいな」

魔王「ちっこい言うな!」



勇者「ところで……お前、何者だ?」

魔王「お主の考えてる通りの者じゃよ。
魔族と魔物の君主、と言えば分かりやすいかの?」

勇者「……そうか、なら」

魔王「んんぅ、つまらんのぅ。
……もう少し反応ぐらい欲しいものじゃが」

勇者「生憎と、敵に話す時間なんてないのでね。さっさと終わらせよう」チャキ

魔王「せっかちじゃのぅ。じゃが、ふふふふ……面白くなりそうじゃ」


距離感は埋まらないまま、互いに睨み合う。勇者の剣は僅かに震えているものの、その切先は魔王に向いていた。

「……震えてるのかえ?怖いかのぉ、勇者殿?」

嘲笑うように蔑視の混じった瞳が勇者を見下ろす。

「黙れ……」

苛立ちをそのまま吐き捨てると同時に竦む脚が恐怖を打ち払うように地面を蹴り始める。
数歩、進んだ瞬間、勇者の足が浮いた。

「だぁぁぁああ!」

振り上げた白銀に鈍く輝く刃は音速の域を超越した速さで空気を断ちつつ、確かに魔王の頭に向かって切り裂こうとしていたーーーー。

ロリババアktkr?

が、甲高い金属音と共に強い衝撃によって受け止められた。
彼は驚愕の色に染まった面持ちで彼女の手元に視線を向ける。
勇者の持っている剣とはまったく異なる黒い色合いに反り返った大きな刀身
肌からも感じられる纏わり付く粘着質のような、冷たく、おぞましい魔力が溢れ出している。
(……この魔力、魔剣か!)
勇者の国から伝承が残っていた。
今彼が持っている剣とは対を成す存在であり、その剣は魔力で満ち溢れ
あまりにも膨大な魔力で、柄を握っただけでも魔力に侵食され気が触れてしまうという、物騒な代物だった。
(……クソ、近距離は不利だったか)

らしくない失態に悔やんでいると、不意に彼女と視線を交える。
彼女はその思考を読み取れたのか、口元を一文字から三日月のように吊り上げ不敵に笑む。

「おやおや……冷静沈着な勇者殿が猪突猛進とはのぅ。焦っておるのかえ?」
くっくっく、と余裕の含んだ笑声が耳の中へ反響する。

「……黙れ!」
ただ、声を聞いているだけというのに冷静さは削がれ、淀んだ憎悪が噴き出てくる。
続いて焦燥感に駆られるが、ペースに乗せられてはならないと綱渡り状態の感情をなんとか保たせていた。

「っくく、それはそうと勇者殿……」
苛立ちと冷静を取り戻す為に僅かな時間を費やしていた時だった。

声に反応が遅れ、彼女の顔が視界に捉えたが既に間に合わなかった。

「…….脇腹がガラ空きじゃぞ?」
「っ!!」
彼女が口を開くよりも早く、脇腹から身体全体に駆け抜ける鈍痛が巡った。
彼女の視界には魔剣の峰が勇者に突き刺さるのを視認すると軽く振り抜いた。

「っ、ぐぁ!!」
投げ出された身体はあまりにも強い衝撃であったため勢いは殺せず、無様にも壁に叩きつけれれる。
あちこちに激痛がまだ残る身体は気付けば冷たい石造りの床に転がっていた。

「っ、つ……」
勇者を無表情で見下ろす彼女は特に追撃する訳もなく、つまらなそうに魔剣を振り回している。

「……勇者と謳われる者が床にひれ伏すとはのぅ……まだまだそんなものではないじゃろぅ?」
「ッ、クソ……がぁ!」
痛みに軋む身体を気力だけで立ち上げ、ブツブツと小さな声で言葉を紡ぎ始めた。
次いで剣を構え直し、駆け出し徐々に彼女との距離を詰める。


「ほぅ、魔法かの」

特に驚くほどのリアクションはなく、勇者が近づこうとしているのに剣を構える事もなければ、詠唱を遮ることもしない。
しかし、余裕であることは見てとれる。

「『ーー幾千をも追い抜く韋駄天の守護を』」
「……む」
だが、詠唱の終盤が彼女の耳に届くと余裕を保っていた不動の彼女が僅かに反応した。
刹那、目の前まで迫っていた勇者が消えた。
そう、言葉通りに剣を構えて今まさに切りかかろうとしていた勇者が、消えた。

「ほぅ……筋力に魔力を流し込み、極限まで身体能力を引き延ばす補助呪文のようじゃな……しかし」

彼女は焦る様子もなく、寧ろ笑みを浮かべて勇者と同じように詠唱を紡ぎ始めた。


すると、彼女のくびれ、腕に足、背中に顔と、至るところから刻印されたかのような紋章が浮かぶ。
そして、手を重ね合わせ、合掌すると刻印が一層光が強くなった。
同時に彼女の中に秘められた膨大な魔力が目に見える濃度で彼女の周りに収束する。
通常では有り得ない量と遥かに凌駕する濃さーーーあまりの魔力からか、城内が揺れ動く。

「っくく、幾ら速く動こうと……」
詠唱が終わり、彼女の足元から光をも飲み込みそうな、底なしの黒がじんわりと床から湧き出る。

「足が封じられては動けまい?」
瞬間、足元の黒い何かが部屋を覆い尽くした。
暗闇に染められた空間の中で、勇者が現れた。

「クソ、離せ!」
先刻の彼女の言った通りか、勇者の足は黒い触手に取り付かれ身動き出来ずにいた。
彼女は闇色の中で悦の混じった笑みを浮かべて、勇者へと歩み寄る。

「まだ青いのぉ……何事においても……」

「……俺をどうする気だ」
「………くく、どうもせんよ。ただ、捕まえて話を聞かせたいだけだったのでな」

勇者の頭上にクエスチョンマークが浮かぶが、そんな彼に目もくれず、彼女は殺気を解いた。

「……殺さないのか、お前が優位だったのに」
「だから言うておろう何もする気はない、と」
話を聞かない子供に言うように呆れた表情で告げる。
しかし、その決して笑みは絶やさない。

(……可愛く笑うな、こいつ)
何処か愛らしい表情に見惚れる。
そんな勇者に気付いてない様子で、続いて、部屋中に侵食していた黒色が段々と壁や床の中に溶け込んでいく。
すると、勇者の足を拘束していた触手も無くなり、動きがとれるようになった。
ゆっくりと立ち上がると、埃を手で払うと、床に落ちた剣を鞘にしまった。

「……おや、何時もの人間なら此処で襲うんじゃが……襲わんのか?」
「……どっちにしてもお前には勝てなかった。
それに、この実力差で不意打ちなんて、お前は簡単に返り討ちにするだろ。
それに、お前に殺気がない。戦う気はないんだろ、話すなら話せ」
「……くく、よかろう」

魔王「勇者殿、貴殿は自分の国や王に疑いをもったことはないか?」

勇者「……?」

魔王「……儂はある。先代を見て、王位を引き継いだからこそ、疑問を持ったのじゃ。…………不毛な争いなぞ、もうやめにせんか?この戦いに意義はなかろう」

勇者「………何が言いたい?」

魔王「そのままの意味じゃよ。
人間と魔族、生き物というのに互いに争うことに疑問を持ったんじゃ。
それに主等人間は魔物が襲ってると主張しているが、儂や同族の皆かて、好きで人間と襲ってる訳じゃない。
人間から領土を侵しやってきたからの……儂等は単に降りかかる火の粉を払っただけじゃ」

勇者「それは貴様等が先に手を出したんだろう?」

魔王「……勇者殿は知らぬのか。
儂等の領土を侵し、侵略行為を働いたのは人間共じゃ。殺戮、強奪、捕縛……魔物達に数えきれない大罪を犯してなお否定出来るのか?
魔物だって家族がおるのだぞ。人間達は殺される魔族の立場で考えたことがあるのかえ?」

勇者「……俺達も至らなかった部分はあるだろう、しかし、俺達だって生きるために……」

魔王「生きるために……なんじゃ?
生きるためだから仕方なく歴史を偽り魔物や魔族を殺した、と正当化するのか?
なら、儂等も同じ道理が通用するがの……なぁ勇者殿?」

勇者「……」

魔王「おや、だんまりか………まぁ話を戻そう。
先刻言った通り、儂等は争いを望んではいない」

勇者「…………それがどうした」

魔王「まぁそう結論を急くな。
詰まるところ、儂等と人間達、元はといえば互いに領土があるから争いが起きた、儂はそう考えておる」

勇者「………まるで統一するみたいな物言いだな」

魔王「そうじゃな、意味としてはその同義に近しい。人間と魔族、共生すれば争いはなくなる、という答えに辿り着いた。そしてーーー王国側に国の合併を求める」

勇者「……国の合併に共生、か
……仮に合併や共生したとしても文化の相違や偏見、蔑視の目で見られることが可能性として高い上に種族が異なる。
少なからず争い事は起こるぞ。その点はどうするつもりだ?」

魔王「……なに、簡単じゃ。儂とお主、生涯の伴侶なれば良かろう」

勇者「…………は?」

魔王「だから伴侶なるんじゃよ。
婚約を結び、初めての異種婚として種族の壁のないことを主張する。
さすれば、諍いも少なくなるだろう」

勇者「いや待て話が飛躍し過ぎて飲み込めん……つ、つまり、異種とはいえ、争う相手ではなく手を取り合うべき仲間……ということでいいのか?」

魔王「まぁそうとも言えるが
……明確に言うと共生によって無意味な戦いを無くし、互いに侵略行為そのものを無くそうと考えておる。
よーするに領土問題だのかんだのつまらないことは全部纏めちゃってお互いに生きれる環境を作ろう、という考えじゃの」

勇者「…………それなら国同士の条約を結めばいい話だろう。両国の異なる種族結婚、しかも魔族の王のお前と俺なんて………そんな大それたものを挙げなくてもいいと思えるが」

魔王「……何故儂とお主が伴侶になるか、理解しておらんのぅ」

勇者「……正直、話が早すぎて飲み込めてないのが本心だが」

魔王「これでも纏めてるつもりなんだがの……まぁ、ある一種の威嚇だと想像してくれれば早い。
人間の中である程度高い権力と全てにおいて優れる勇者、魔族で魔物の統べる力を持つ儂……悪くいえば権力の重圧じゃが
儂等の権力で相手方を蔑ませないようにするんじゃ。片一方差別をすれば……」

勇者「……ただではすまない、な。しかし、紛争が起きるかもしれないが」

魔王「それは儂とお主、おしどり夫婦のように振舞えばいい話じゃろ。子供も作れれば尚良いが。儂等が険悪な雰囲気を見せない限り、少なからず、種族間で戦う理由もない。
お互い下手に動けなくなる……後の差別や偏見は時間をかけて解けるのを待つ。膨大な時間がいるが条約みたく表面的なものよりも効果はあるじゃろう」

勇者「成る程……疑問なんだが、異種なのに子供作れるのか?」

魔王「さぁのぉ、儂には何とも言えんが、人間の男と人型の魔物が結ばれ、その間から子供が産まれるという話も文献として残されているし。マーメイドとか良く聞くじゃろ?」

勇者「あぁ、波打ち際の歌声で、だったか。有名な御伽話だろ。確か、夜中に海岸で歩いてた男が美しい歌声に引き寄せられて岩の上で歌っていたマーメイドに恋落ちる話だったな」

魔王「そう。そして、恋落ちた2人は一晩、身を寄り添い合う。
……ある日、男に子供を出来たことを告げられる。マーメイドは子供を産む為に海に帰り、男もマーメイドについていって行方知れずという……しかし御伽話ではないんじゃよ。
その証拠に其奴らからの手紙をたまに届くからのぅ。子供も立派に育って人間の恋人と暮らしておるそうじゃ」

勇者「可能性としては……低くとも無くはないわけか」

魔王「そうじゃな。妊娠するかは不確定要素ではあるが、産めれば万々歳、じゃ」

勇者「……ふむ」

魔王「先刻から頷くか納得しかしてないが……他は反対しないのかえ?」

勇者「……悪くない話だとは言える。寧ろ面白いとも思えるな。
その分の代償は小さくないだろうが。
だが、合併を断わられた場合は?」

魔王「その時は、勇者殿を人質として捕らえてる、とでも言うつもりじゃ。
何しろ、儂に唯一対抗出来る力の持ち主を手中に収めてるからの。
手出しは出来んじゃろう?」ニヤニヤ

勇者「……脅しか」

魔王「失礼な。
れっきとした政略行為じゃよ、勇者殿。
駆け引きが大事なんじゃ、全てにおいて、な」

魔王「さて、大体説明したが……婚約に結ぶことに関しては何もないんじゃな?」

勇者「……ない、と言われればないな。大体のとこを説明してもらえたし。それにちっこいしなお前」ナデナデ

魔王「ちっこい言うな!それにちっこい関係ないじゃろ!そして撫でるな!」

勇者「そう怒るな、妻よ」ナデナデ

魔王「随分とノリノリじゃの……じゃのうて、時期尚早じゃわい!」

勇者「子供は何人作ろうか」ナデナデ

魔王「たた、たわけぇ!は、はは、話が早いわ!」カァァ

♦♦♦♦♦♦

魔王「……コホンさて、今日中にでも王国に通達を送るとするが勇者殿はどうするつもりじゃ?帰るかの?」

勇者「(タンコブ痛ぇ)……帰っても何もないしな……ただ、王様に報告するだけだろうし……そうなると暇人なんだよなぁ」

魔王「ん、では、通達が彼方に届き、返事が来るまでゆっくりしてるといい。やたら広い城内だが退屈せんと思うぞ」

勇者「お言葉に甘えてゆっくりさせて貰うが……いいのか?……それに返事を待つとなると何日か泊まることにもなるが」

魔王「折角のお客様、じゃからの。別に構わんわい。部屋は来客室を好きに使って構わん、何かあればそこら辺の同族に…」

勇者「いや、お前について行く」

魔王「………………ん?」

パンツ溶けたはよ

魔王「ついていく……とはなんじゃ?ちょっと話が読めんのぅ……」

勇者「そのままの意味だが。暇だから付き添う、ただそれだけ」

魔王「………いやいや、無理じゃて」

勇者「……なんで無理なんだ?」

魔王「し、仕事場だからに決まっておろう!国家機密やら他国の情報もあるんじゃぞ!そう簡単に見せるわけには…」

勇者「矛盾してるぞ。合併するというのに国家機密云々は無しだろう。それにだ、俺は情報なんてどうでもいいから気にしないぞ」

魔王「ど阿呆!儂が気にするんじゃい!
ち、散らかってるし、本が散乱してるし……」ブツブツ

勇者「あーはいはい。さっさと通達送ろう。俺はお前さんの横に座って何もしないから、な?」

魔王「ぅぅう………分かった分かった……
じゃが、笑うのは許さん!
部屋の惨状みても笑わんと誓え!」

勇者「笑わないから大丈夫だって(……なんだろ。笑うなとか言うなんて。……もしかして部屋がメルヘンチックとか?……いやねーだろ流石に)」

魔王「……ではついてこい。
あ、はぐれても儂は知らんからの?
主が魔物達に襲われても儂ぁなーんも知らんからの」

勇者「へいへい。じゃ、はぐれないように手繋いでいこうかー」ギュッ

魔王「………」ギュッ

勇者「(お、素直に握り返してきた。にしても……小さいな、掌。それに人間となんら変わらない温もり……しかも柔らかい)
……で、どう行くんだ?」

魔王「……ついてくれば分かる、だから主は気にせんとついてくればいいんじゃ」グイグイ

勇者「お、おい、引っ張らなくても」

魔王「うるさい、ぬ、主は儂を辱めたんじゃ!
儂の言うことを聞かんか!」カァァ

勇者「(顔が赤くなり易いな……可愛いけども)
取り敢えず辱めたっていう言い方はやめよう。深い意味がなくとも変な意味でしか捉えられないぞ」

魔王「なっ、ッ~~!!」ボフッ

勇者「(想像したな……こいつ)あーほら、仕事部屋はどこなんだ?
…………おーい、聞いてるか?」

魔王(辱められる辱められる……儂が?
この勇者殿に?
……ど、どんな感じなのじゃろうか
甘々?強引?それともあ、アブノーマル?)

「…ちゅ、ぷ、んぅ……」
口付けを交えながら、勇者殿の隆起した筋肉質な腕が身体を覆う。
体温や心臓の確かな鼓動が聞こえるまでの密着、お互いの全てが隔たりなく伝わるかのような不思議な感覚。
甘い陶酔感に身体がだんだんと力が入らなくなる。
「ちゅ、くふ、……ぅん、ぷはぁ…はぁ…」

名残惜しく、唇が離れる。
単なる口付け、ただの接吻に過ぎないというのになんだろうか、この空虚感は。
勇者殿に近付けば虚しさは無くなるが、しかし、心が疼く。
逆に離れれば何か空いたような感覚を覚えてしまう。

……勇者殿が、欲しい。

「もっと、もっとしてほしい、のじゃ……儂を……」
「分かってる……大丈夫だ」

くすり、と優しげに微笑んだ。
ーーー勇者殿、

妄想モード入りましたー

ーーーーーーーー

魔王(みたいな感じなのじゃろうか!?
あぁ、何でじゃろう!何かムズムズする!)

勇者「……おーい?聞いてる~?」

魔王(い、いや、初めての時は痛いと聞くな……しかし、それを耐えてこそじゃ!痛みが何ぞ!魔の王としての名が廃る!
……い、一応にサキュバスに色仕掛けを聞くべきじゃろうか?)

勇者「魔王さーん?(というか、何を想像してるんだろう。顔真っ赤にしたり、恥ずかしがったり、落ち込んだり……)」

魔王「そ、そうと決まれば!」

勇者「なにが決まれば?」

魔王「急がば回れじゃて!」

勇者「えっ」

魔王「えっ」

えっ


勇者「で、何が急がば回れなの?」

魔王「い、いや、何でもない……筈じゃうん……」ブツブツ

勇者「……考え事はいいが、通達今日中に送るんだろ?いいのか?」

魔王「ブツブツ……ん?え、あ…………そ、そうじゃった!早く書かんと甘々が逃げてしまうぅ!」グイグイ

勇者「取り敢えず、甘々が気になるんだがそれは置いとこう。
それでだ、お前に引っ張られると力負けして引き摺られるんだが」ズルズル

魔王「婚約書に指輪、子作り予定日、挙式の場所決め、新しい法の考察に、別荘地の決定……あーもう!やる事尽くめじゃ!
主にも手伝ってもらうからの!」

勇者「いや、さ、それは構わんけど
引っ張るのやめてくれると有難いんだが。
まぁ抵抗しない俺も俺だけども」ズルズル

魔王「それに新婚旅行も決めなくてはならん!
やっぱり、リゾート地じゃな!
いや、敢えて静かな場所もいいのぅ…後は東方に伝わる温泉とやらも良いと聞いたぞ。何やら外に風呂があるろてんぶろ、とやらが実に極楽だとか!
あぁ………悩むのぅ……」ブツブツ

勇者「無視ですねそうですね」ズルズル

♦♦♦♦♦♦♦



ーーーー仕事部屋

勇者(まぁ、なんだ。メルヘンチックだとか、人形だらけとかそんな想像してたけども)

魔王「あ、あんまりジロジロ見ないでくれ……」

勇者(……意外にも本だらけだな。天井に届く高さまで積み上げられた本の数。本棚もあるが、きっちりと分厚い辞書みたいなもので覆い尽くされてる)

魔王「ほ、本当なら自室を見せたかったんじゃが……で、でもプライベートを見せると言うことは儂の全てを曝け出すということになるのぅ……」ブツブツ

勇者「……んー凄いな。これだけの量読破したんだろ?そりゃ彼処まで強いわけだな」

魔王「そ、そうかの?ま、まぁ殆ど魔法書と国の情報を纏めたものばかりだがの。
あ、でも読もうとしても無駄じゃからの?古代文字を使っておるからの」

勇者「へーそうなのか……お、これは……普通に読めるな…」ペラペラ

勇者「『……彼女は僅かに呼吸を止めて、猛々しい逸物を迎え入れた。
ゆっくりと掻き乱される甘美な感覚に彼女は酔いしれる。
しかし、彼女の粘着質で温もりのある中は心地よく、彼の興奮を誘い……』……なんだこれ」

魔王「っぶ!?」

勇者「タイトルは……『スライム娘との同棲性活』……題名からしても中身からしても官能小説、だな。まぁ、興味があるのは仕方ないよなっ、て……あ、勝手に読んだのは悪かった」

魔王「……ぁ、ぁ、ぁ、」プルプル

勇者「そ、そのなんだ、怒ってるのは重々承知だから、な。その本当に悪かった!
だから顔を上げて、な?」

魔王「……あ、あ、ああ、見ないでぇぇぇぇえええ!!」

勇者「ちょなんで、体当たりhっごふ!!」ドサ

魔王「わ、わわ、儂だってな、と、年頃じゃから、そう言うのが興味がないわけでもなくて、あ、いや興味ないとも言えんし……ぅぅう」

勇者「」ピクピク

魔王「あ、あのじゃからの、失望しないで………あれ?勇者殿?ゆ、勇者殿ー?」ユサユサ





魔王「…………気絶してもうた」

取り敢えず読んでいる人いるのか分からんけど、寝ます

パンツ焼けたはよ



♦♦♦♦♦♦



勇者「……う、………ん(あれ、俺寝てたんだっけ……ん?)」

?「では、夕食はここに置けば宜しいのですね?」カチャ

?「そうじゃ、まぁ、散らかってて運びにくいじゃろうが頼むぞ」

?「いえ、まだあの人の部屋よりか片付いてますし、大丈夫ですよ」ガチャガチャ

勇者(誰かの声……1人は確実に魔王だろうなぁ。もう1人は部下、か?)

?「というよりも、魔王様ドジですよね……男の人に官能小説読まれるなんて」
コト

魔王「だ、だって、仕方ないじゃろ!?まさか読まれるとは思わなかったんじゃし…ぅう、あれを思い出すだけで顔真っ赤になりそうじゃ……」

?「で、気付いたら勇者さんが倒れてた、と……まぁ、私の場合は気絶してる男性は格好の獲物なのですぐに拘束しちゃって食べちゃいますけどね」

魔王「む、やらんからな!?あやつは儂のものじゃからの!」

?「はいはい盗ったりはしませんから。あぁ、後、やり方は先刻前に伝えた通りですからね?決して自分からは手を出さない。視線をこちらへ向かせるために密着する。で、できる限り行動を共にして自分のことを知ってもらうこと……でも私としてはこんな面倒な手順を踏むよりか、襲うのが手っ取り早いと思うんですけどねぇ」

魔王「そんな意気が儂にあるとでも?」

?「ですよねー……まぁ、適当に頑張って下さい。私は応援してますからね!」

魔王「うむ!」

シエン

♦♦♦♦

勇者(………結局、あれが誰か分からず終いだった挙句……起きるタイミングが分からん)

勇者(魔王はというと、仕事らしきものをずっとしてて運ばれてきた夕食を食べてない)

魔王「…………」サラサラ

勇者(……あんな感情豊かなのに、仕事するときの顔は真面目そのもの)

魔王「…………」ペラペラ

勇者(……すぐ顔が真っ赤にするあの魔王とは思えない)

魔王「………ん、ふぁ」ウトウト

勇者(欠伸して船漕ぎ始めてるな。しかし、和むなあいつ見てると……それとなぜか無性に悪戯したくなる)

魔王「……むむ、睡魔なんかに負けるわけには……ん」ウトウト

勇者(眠気覚ましに驚かしてやるか………後ろから近付くには差し足引き足忍び足)ソー

魔王「…ぅん……」ウトウト

勇者(えーと……近づいたはいいが、こういう時はどうするんだっけか?……取り敢えず、撫でてみるか)ナデナデ

魔王「ん……にゅ、ぅ」ウトウト


勇者(うん、触り心地は最高。サラサラで柔らかい髪質でずっと撫でたくなる……けど、何か違う)ナデナデ

魔王「……くぅ……ん、ふ」コクリコクリ

勇者(……んー何か大きな反応が欲しいな、こう飛び起きるような……)

魔王「……すぅ…すぅ」

勇者「うむ……そうだな……抱きしめてみるか」

………ーーー

ーーー………

勇者「こいつを膝に乗っけってっと……さて……やるにはいいが、力加減はどうすればいいんだろ」

勇者「軽くで……いいんだよな、仮にも女の子だし、な?」ギュッ

魔王「……ん」

勇者(なんつーか、まぁ小さいな。うん、体の大きさからして予想出来たけど。しっくりくるぐらいに腕にすっぽりはまったな)

魔王「ん……くぅ」スヤスヤ

勇者「……幸せそうな顔されると頬っぺた突つきたくなる」プニプニ

勇者(餅肌だな、プニプニで弾力があってマシュマロみたいだ。つーか、こいつの身体全部が柔らかい)プニプニ



魔王「にゅ、ふ……んんぅ……ぅん?」

勇者「お、起きたか」

魔王「……ぅ……んぇ、勇者ど、の?あれ?」


魔王(うん?確か儂は書類片付けてた筈……じゃ。勇者殿は気絶してて寝かせておいて……え、では、何故に勇者殿の顔が目の前に?え?あれ?)

勇者「おはよう。まぁ、今の時間帯じゃ今晩は、だけどな」

魔王(えーっと、落ち着け儂。先ずは現状把握じゃ。何故勇者殿向かい合っているのか?……勇者殿の膝の上に座って、身体が密着、して、る……から……って)

魔王「」ボフッ

勇者(また赤くなった……直ぐに顔に出るし弄り甲斐あるし面白いなこいつ)

魔王「ん、な、ななな、な、にゆえに!貴殿が儂を抱擁しておる!?」

勇者「いや、寝てたからさ」

魔王「こ、答えになっとらん!」

勇者「まぁまぁ気にすんな」ギュッ

魔王「はぅ!?」

勇者「何か、お前さしっくりくるんだよな。大きさといい、柔らかさといい、弄りやすさといい」

魔王「ほ、褒められてる気がせんのじゃが……そ、そそれより離してくれんのかえ?」

勇者「んー嫌だ。抱き心地良いし、正直離したくない」

魔王「………ぅぅう」カァァ

勇者「まぁそれはさておき、そろそろご飯食べよう。運ばれてきてるだろ?」

魔王「ぅ、うむ……ま、まさかとは思うが、この体勢で食べるわけじゃ……?」


勇者「流石に向かい合ったままはキツい」

魔王「」ホッ

勇者「まぁそうは言っても向き変えるだけだ。結果的にお前の位置は俺の膝の上から動かないからな?」

魔王「」


勇者「口移しで食うよりか、マシだろ?」

魔王「そ、そういう問題では!……ないと言うに………」ブツブツ

勇者「これからを共にするんだからそれぐらいの妥協もしてくれよ、な?」ナデナデ

魔王「ぐっ!…ん…ぬぅぅ……し、仕方ある、まい。だ、だが、妥協したわけではないからの!?そこら辺勘違いしないで欲しいのじゃ!」

♦♦♦♦♦♦

寝ます
また明日書きます

攻撃力も魔力も判断力も指揮能力も深慮遠謀も勝ってるのに
形無しじゃないですか魔王様

期待

♦♦♦♦♦

魔王「何故か妙にソワソワするんじゃが……」

勇者「慣れてないからだろ。あ、もたれ掛かっても構わないからな」カチャカチャ

魔王「……ぅ……で、では、遠慮なく」ポフッ

勇者「そうそう、遠慮せずにカチャカチャ……ほい、アーン」

魔王「ん!い、いや、食うことぐらいは儂にも出来る!そこまで世話されると儂の気力がもたんわい!」

勇者「そうか?別に好きでやってるから気にしなくてもいいんだが」

魔王「たわけ、儂が気にするんじゃい!」

………ーーー

勇者(ひったくるようにフォークとナイフを取られたが、それでも俺の事は気にしてるようで)

魔王「勇者殿、ほい」

勇者「ん」モグモグ

勇者(時折、こうしてご飯を食べさせてくたり。逆の事と言うか、こんな感じなのもあったり)

勇者「あぁ待った、口が汚れてる。動くなよ……」フキフキ

魔王「ん、む」

勇者(世話をかけたりかかされたり、時間がかかる夕食だったが、決してつまならくもなかったし長くも感じなかった)
勇者(そして時間はそれなりにかかったとはいえ、夕食は食べ終わりを迎える)

……ーーー

勇者「ごちそうさま」

魔王「ごちそうさま、じゃ」

勇者「中々美味かったな。王国に出される料理より美味かったかもしれん」

魔王「当たり前じゃて、儂が誇る部下なんじゃからの。それに、美味い飯じゃないと同族達の士気が下がってしまうからの」

勇者「確かに腹が減っては戦は出来ぬって言うしな。それに腹減って不味い飯食わされて戦えって言われても戦いたくはないな」

魔王「じゃろ?だから飯に関しては惜しまないようにしておる」

勇者「へぇ、うちの国じゃ遠征があると予算ケチって安くて不味い食料しか渡さないから、そこら辺は羨ましいな」

魔王「上のものこそ部下の立場で考えるべきじゃからの……」ズズ

勇者「うちの王様とは大違いだな」ズズ

はやく

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