瑞鶴「戦車道?」 (15)

瑞鶴が目を覚ますとそこは海の上だった。しばらくぼうっとしていたが、沈んだ際に切れたはずの艦とのリンクを感じ取ると意識は一気に覚醒し、瞬時に戦闘態勢に入った。
しかしよくよく辺りを見回してみるとただただ穏やかな海が広がるばかりであり、敵艦隊どころか敵航空隊の影すら見えない。ひとまず警戒を解くと彼女は妙なことに気がついた。
艦とのリンクがあの頃と比べて微弱だというのもあるが、なによりも艦が巨大すぎるのである。以前の「自分」の優に数十倍はあろう。
この妙な事態に首を傾げていた瑞鶴であったが、なにはともあれ情報収集だと遠くに見える町へ向かうことにした。

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小一時間ほど町を歩いてみるとおおよその現状は把握できた。今自分がいるところは学園艦というかつての「自分」をモデルにした巨大な船であるということ、船の上に町があるということ、船は学生によって管理、操舵されているということなど様々な話を耳にした。一般人には認知されない「艦娘」という存在は立ち聞きをするにはもってこいであった。
そしてなによりも瑞鶴が嬉しかったのは、今があの戦いから数十年経った世界であり、平和な世の中であるということだった。最期は迷彩塗装に身をつつみ、敵機動部隊を引きつけるための囮として散っていったが、こうして太平の世が訪れた世界を目にすると、自分たちの戦いは無駄ではなかったと思えた。
囮となった自分に縋りついてきた後輩たちへ-決して表には出さなかったが、ずっと憧れていた先輩がそうしていたように-

瑞鶴「大丈夫、鎧袖一触よ。」

と言って出撃したのが昨日のことのように思えた。
よし、と何かを決意したように瑞鶴は座っていたベンチから立ち上がった。

瑞鶴「この町いいなあ。ゆったりと時間が流れててすごい落ち着く…。翔鶴姉こんな雰囲気好きだろうなあ。…よし、決めた!私しばらくこの町にいる!すっごい素敵なとこだし、なによりこのまま別のとこ行ったら加賀さんに『あなたは自分の艦の面倒も見られないの?これだから五航戦は…』なんて小言言われそうだし!」

再び「艦娘」として現界した以上、この艦から離れられないということを瑞鶴はすっかり失念していたというのはここだけの話である。こうして大洗女子学園の学園艦に「艦娘」たる瑞鶴が居座ることになった。桜の蕾が膨らみ始めた3月も半ばのことであった。


 桜も散ってすっかり暖かくなった頃、いつものように町をふらついていた瑞鶴は見慣れない音を耳にした。
何事かと音のした方へ足を向けてみると、なんと学校のグラウンドで戦車が走り回っていた。

瑞鶴「なんなのあれ…。あ、もしかして最近町のみんなが言ってた『戦車道』ってやつ?」

近頃耳に入ってきた「大洗女子学園が戦車道を復活させた」という噂は本当だったのかと瑞鶴は納得した。
戦車といえば陸の人たちが乗っていたイメージしかないだけに、「戦車道」などと聞いた時にはまた戦いが始まるのかと不安に駆られたが、
よくよく聞いてみれば「礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸であり、乙女の嗜み」であるというのだから拍子抜けしてしまった。

瑞鶴「にしても…乙女の嗜みっていうには物騒すぎない?礼節があって淑やかっていったら鳳翔さんだけど…鳳翔さんはあんなのに乗らないよねぇ。変なのー。」

変なの、と言った割に戦車道に興味を引かれた瑞鶴は、大洗女子学園の戦車道チームの練習を見にいくのが密かな楽しみになった。
練習試合をやるというから陸まで駆けつけたこともあった。大洗が全国大会に出場すると聞いたときには思わず小躍りしてしまったほどであった。

戦車道全国高校生大会1回戦、当然のごとく瑞鶴は応援席にいた。相手のサンダース大学付属高校は大洗よりも車輌が多く、強豪校であるというから不安でしかたなかったが、
あんこうの描かれた隊長車が相手のフラッグ車を撃破しなんとか勝利をもぎ取った。
続く2回戦も順調に突破し迎えた3回戦、プラウダ高校相手に劣勢に回ってしまった大洗の姿を見ている瑞鶴は気が気でなかった。
奥の建物に立て籠もってからもうかなりの時間が経っている。
それに加え天候の悪化により試合続行も危うくなってきた。いよいよ耐えきれなくなった瑞鶴は大洗が立て籠もる建物へ向かった。

瑞鶴「みんな大丈夫かな…?私の声は誰にも聞こえないから何かできるわけじゃないけど…」

「-底抗戦だ!」
「-があるはずです!」
「-以外の何が大事なんだ!?」

瑞鶴「ん?どうしたんだろ?なんか喧嘩してる…?」

桃ちゃん「何を言っている…?負けたら我が校はなくなるんだぞ!」

片眼鏡をかけたメンバーの1人(瑞鶴の記憶によれば確かへっぽこ副隊長だ)の発言に瑞鶴は凍りついた。
生徒会長の説明によれば全国大会で優勝できなければ大洗女子学園は廃校になるのだという。

瑞鶴「なにそれ…?そんなのってないじゃん!また『私』に乗ってる人たちが犠牲になるなんて…そんなの許せない!!」

この時ほど「幸運艦」の呼び名を呪ったことはなかった。
あの時と違って瑞鶴にはもはや艦娘としての力は残っていなかったし、例えその力があったとしても大洗の現状をどうにかすることなどできるはずもなかった。

瑞鶴「私いつもこうだ…マリアナの時も…翔鶴姉が沈んだ時も何もできなかった…なにが『幸運艦』よ…!」

みほ「-しません。最後まで戦います。」

瑞鶴「え…?」

隊長である西住みほは諦めないことを決意した。
皆であんこう踊りを踊ったおかげか士気も戻った。
ここから大洗女子学園の反撃が始まった-瑞鶴はただただ祈るばかりであった。

瑞鶴(もしも私に幸運の女神なんてものがついてるならどうかお願い…翔鶴姉もお願い…大洗のみんなを勝たせてあげて…!)

果たして、瑞鶴の祈りは通じた。かもさん、うさぎさんチームが必死になってあひるさんチームを守って時間を稼ぎ、最後はすんでのところでカバさんチームがプラウダのフラッグ車を撃破した。幸運の女神は決勝戦でも大洗に味方した。相手は一昨年までに9連覇を達成し、西住みほの姉である西住まほ率いる黒森峰女学園であった。重戦車マウスやエレファントといった難敵を身を張って退けながら、最後はフラッグ車同士の一騎討ちを制し、ついに大洗女子学園が全国優勝の栄冠を手にした。

瑞鶴「やったよ…!今度は…誰も犠牲にならなかった…!」

しばらく時は流れ、現在は大洗・知波単連合vs聖グロリアーナ・プラウダ連合のエキシビジョンマッチの最中である。

瑞鶴「大洗がんばれー!あんこうチームいっけー!!」

すっかり大洗戦車道チームのファンになった瑞鶴は声を張り上げて応援していた。一般人には自分の声が聞こえないことをいいことに騒ぎ放題である。
試合は知波単学園が無謀な突撃を試みて撃破されるも、西住みほが残存車輌を率いて市街戦に持ち込むことで態勢を立て直したが、最後はあんこうチームのフラッグ車への一撃をカチューシャが防ぎ、ダージリンの狙い澄ました砲撃が大洗・知波単連合のフラッグ車であったあんこうチームを撃破し、聖グロリアーナ・プラウダ連合の勝利に終わった。

瑞鶴「あー、負けちゃったかー。まあでも良い試合だったなあ、みんなお疲れ様!」

試合を見終えた瑞鶴は学園艦へと戻り、応援の疲れもあったためしばしの間昼寝を決め込んだ。

目を覚ますと学園艦は海の上であった。

瑞鶴「ん?なんで出港してるの?しばらく陸にいるんじゃなかったっけ?」

妙だと思いながら町へ出るとますます妙であった。まだ夕方にもかかわらずどの店もシャッターを閉めているうえに、出歩いている人が1人もいない。このありえない事態に危機感を覚え町中を駆け回ってみたがどこも同じような状態であった。まるで全員が神隠しにでもあったかのように町から人が消えてしまったいた。ここで瑞鶴はあることに気づいた。学園艦が動いているということは操舵している人がいるはずである。そう考えた瑞鶴は艦橋へと急いだ。だがそこにいたのはいつものセーラー服に身をつつんだ大洗女子学園の船舶科の生徒たちではなく、スーツを着た見知らぬ大人たちであった。

瑞鶴「なに…?あんたたち誰よ!?」

「しかしここの子たちも可哀想だよな。せっかく全国大会で優勝したのに廃校になるなんてさ。」

「まあな。でもあの人は最初から廃校ありきで考えてたみたいだし仕方ないんじゃないか?」

瑞鶴「なにそれ…?大洗は戦車道の全国大会で優勝すれば廃校を免れるんじゃなかったの!?」

文部科学省の役人らしき2人の話を聞いていたところ、学園艦教育局長は当初から大洗を廃校にするつもりであり、全国大会で優勝すれば云々というのは口約束で、可能な限り考慮したが駄目だったと言って生徒会長の抗議も突っぱねたというのだ。大洗の皆は廃校がなくなると信じて戦ったが、そんな道は最初からなかったのであった。瑞鶴にはそれがエンガノ岬沖での自分と重なって見えた。

「そういえばこの学園艦どこで解体するんだっけ?」

「確か横須賀じゃなかったか?」

「じゃああと2時間弱ってとこか。…そういえばこの学園艦には幽霊が出るのは知ってるか?」

「幽霊?事故で死んだ生徒のとか?」

「いや、黒っぽい弓道着みたいな服を着てでかい弓をもってるらしい。」

「弓道着?大洗女子学園に弓道部なんてなかったような…?」

「そこが妙なんだよな…。あとどうやらその幽霊はずっと姉を探しているらしい。」

「ふーん。まあまだ幽霊が出るような時間でもないし、早くこの学園艦を届けて飲みにでも行こうぜ。」

ここで瑞鶴は1つの決意をした。艦とのリンクを使って学園艦のコントロールを奪いとろうというものである。
しかし以前の「自分」とあまりにも異なるために艦とのリンクが弱く、成功する見込みはかなり低かった。それでも瑞鶴は学園艦を、大洗女子学園を守るために自分も戦おうと決め、艦の核へと意識を飛ばした。

瑞鶴(核はどこだろう?前の「私」とだいぶ違っているからわかりにくい……っ!見つけた!)

艦の核との接触は成功したものの、コントロールを奪い取るにはまだリンクの強度が足りなかった。

瑞鶴(やっぱり「瑞鶴」とは違うから制御しきれない…!)

いくら形状が「瑞鶴」そのものとはいえ艦の核が異なる以上、艦とのリンク強度には限界があったが、それでも瑞鶴はリンクを続けた。

瑞鶴(お願い、翔鶴姉…力を貸して!)

「瑞鶴さん、頑張って!」

「これだから五航戦は…もっと気合をいれなさい。…あなたならできるわ、大丈夫。」

「瑞鶴ー、そんなんじゃ多聞丸に怒られちゃうよー。ファイト!」

「大丈夫だよ、瑞鶴。もっと自信もっていこうよ!」

「落ち着いて、瑞鶴。私がついてるわ。私たち五航戦の力、先輩たちに見せあげましょう?」

瑞鶴「え…?」

ふと懐かしい声が聞こえてきた。ずっと憧れていた先輩たち、そして誰よりも大事な姉の声であった。周りを見回すが姿は見えない。しかし瑞鶴の中にどんどん力がみなぎってきた。

瑞鶴「よし、これならいける!見てなさい、これが五航戦の本当の力よ!」

艦のコントロールを完全に抑えた瑞鶴は、学園艦を再び大洗へと向かわせた。いきなり針路が変わり始めたことに役人たちは大慌てである。

「おい、舵がきかないぞ!どうなってるんだ!?」

「知るかよ!くそっ、なんだこれ!?」

瑞鶴「ごめんね。あんたたち少し眠ってて。」

「なんだお前!?いったいどこから…」

瑞鶴「お、おい!お前一体こいつになにを…その服、まさか本当に幽霊…」

艦と完全にリンクした瑞鶴は役人たちにも視認できるようになっていたが、なにかを悟らせる暇もなく彼らを弓で昏倒させた。

瑞鶴「もう『私』に乗ってる人たちを誰1人だって失わせはしないんだから。」

学園艦は無事に大洗へ着いたものの、自身の限界を超えてリンクを続けていた瑞鶴の体は消えかけていた。

瑞鶴「あーあ、やっぱり限界か…。でも今度は皆を守れたからいいかな…。翔鶴姉…私……頑張ったよ…。」


大学選抜チームとの試合後、大洗の戦車道チームは無事に学園艦へと帰還した。

沙織「やったね、みぽりん!帰ってこれたよ!」

みほ「うん!ほんとうに…よかった!」

瑞鶴「おかえり。」

みほ「え?」

西住みほは誰かの声を聞いたような気がした。

優花里「どうしたんですか?西住殿?」

みほ「ううん、なんでもない。」

優花里「??あ、今から生徒会長があんこう鍋作ってくれるみたいですよ!我々も早くいきましょう!」

みほ「うん…。そうだね!」

廃校回避と学園艦帰還を喜ぶ大洗女子学園戦車道チームを遠くから見つめる1つの影があった。

瑞鶴「みんな…おかえり。」

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